(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】プラットフォーム宿主のIGF-培地への適応
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20240905BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240905BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240905BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240905BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C12P21/02 C
C12P21/08
C12N5/10
C07K19/00
C07K16/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515076
(86)(22)【出願日】2022-09-09
(85)【翻訳文提出日】2024-03-18
(86)【国際出願番号】 US2022076158
(87)【国際公開番号】W WO2023039502
(87)【国際公開日】2023-03-16
(32)【優先日】2021-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500049716
【氏名又は名称】アムジエン・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダリス,クリスティン・マリー
(72)【発明者】
【氏名】レ,フォン・ティ・ゴック
(72)【発明者】
【氏名】ジスラソン,エリック
(72)【発明者】
【氏名】マンロー,トレント・フィリップ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG26
4B064AG27
4B064CC24
4B064CD30
4B065AA90Y
4B065AA91X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BB19
4B065BB40
4B065CA43
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA37
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
IGF-1を欠く培地中の哺乳類細胞培養において目的の組換えタンパク質を生産する方法が提供される。IGF-1を欠く培地中で増殖することができる哺乳類細胞を作製する方法も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類細胞培養物から目的のタンパク質を生産する方法であって、
(a)0.05mg/L以下のインスリン様成長因子(IGF-1)を有する第2の細胞培養培地中で哺乳類細胞を培養して、前記目的のタンパク質を発現させる工程(ここで、前記哺乳類細胞はIGF-1含有量が0.03mg/L以下の第1の細胞培養培地中で増殖するように直接適合されており、且つ前記目的のタンパク質をコードする異種核酸を含んでいる);及び
(b)哺乳類細胞によって産生された目的のタンパク質を回収する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記第2の細胞培養培地はIGF-1含有量が0.03mg/L未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の細胞培養培地は、IGF-1を含有していない、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の細胞培養培地は、IGF-1を含有していない、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記哺乳類細胞は、IGF-1を欠く培地に直接適応されていない同じ系統の哺乳類細胞に匹敵する増殖速度を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記哺乳類細胞の倍加時間は30時間未満である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記発現された目的のタンパク質の力価は、前記培養の10日目で少なくとも50mg/Lである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記目的のタンパク質は、抗原結合タンパク質である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記目的のタンパク質は、モノクローナル抗体、二重特異性T細胞エンゲージャー、免疫グロブリン、Fc融合タンパク質及びペプチボディからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記哺乳類細胞培養プロセスは、流加培養プロセス、灌流培養プロセス、又はそれらの組み合わせを利用する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記哺乳類細胞培養は、IGF-1含有量が0.03mg/L以下の無血清培養培地中の少なくとも0.5×10
6~3.0x10
6細胞/mLを、少なくとも100Lのバイオリアクターに播種することによって構築される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
哺乳類細胞はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記CHO細胞は、ジヒドロ葉酸レダクターゼを欠損している(DHFR
-)か、又はグルタミンシンテターゼノックアウト(GSKO)である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記回収された目的のタンパク質は、精製され、薬学的に許容される製剤に製剤化される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
請求項14に記載の、精製され、製剤化された目的のタンパク質。
【請求項16】
哺乳類細胞をIGF
-培地に直接適応させる方法であって、
a)IGF-1含有量が0.03mg/L以下の細胞培養培地中で哺乳類細胞の集団を培養する工程、
b)単一細胞クローニングによって前記哺乳類細胞の集団から個々の細胞を得る工程、
c)90%以上の生存率及び30時間未満の倍加時間に回復するまで、前記個々の細胞を増殖し継代する工程
を含む方法。から選択されるCDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3を含むVH領域、並びにCDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3を含むVL領域を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のCD20及びCD22標的化抗原結合分子。
【請求項17】
前記細胞培養培地は、IGF-1を含んでいない、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記哺乳類細胞はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記CHO細胞は、ジヒドロ葉酸レダクターゼを欠損している(DHFR
-)か、又はグルタミンシンテターゼノックアウト(GSKO)である、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、インスリン様成長因子(IGF-1)の量が減少した細胞培養培地に哺乳類細胞株を適応させるための方法、及び組換えタンパク質を生産するためのこれらの細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
生物学的製剤は、その幅広い用途から、治療及び診断などの様々な用途で世界中で使用されている。主流の細胞工場であるチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を含む哺乳類細胞株が、これらの生物学的製剤の主流の発現系である。Lalonde et al.,2017,J Biotechnol 251:128-140を参照されたい。特にバイオシミラーの出現により、現在では、市場投入までのスピード及びコスト効率が以前にも増して重要なものとなっている。
【0003】
生物学的製剤の製造コストは、最適な細胞株の選択、大量の生産細胞の培養、細胞回収物からの所望の生物学的製剤の精製に関与する多段階のプロセスを利用する、それらの生産が複雑であることにより、高いものとなっている。これらのコストは、生産のあらゆる面を改善することによって低下してきてはいるが、それらが最先端の治療として広く採用されるには、依然としてコストが極めて高額である場合がある。
【0004】
生物学的治療薬を患者にとってより利用しやすいものにするために、製造プロセスのための商品コストを低減するという提案は魅力的な提案である。重要なコストの1つの領域は、原薬プロセスで使用される細胞培養培地である。IGF-1はインスリン様成長因子/インスリン受容体(IGFR/IR)経路のシグナル伝達によって細胞増殖を支援する重要なタンパク質サプリメントであるが、培地の原料コストのかなりの割合を占めている。
【0005】
そのため、宿主細胞からの組換えタンパク質の生産に関連するコストを削減する必要がある。この目的を達成するための1つの方法は、IGF-1などの特定の細胞培養培地サプリメントの必要性を低減又は排除することにより、商品コストを削減することである。細胞培養培地に血小板由来成長因子BBを補充することにより、間充織幹細胞でインスリン様成長因子-1受容体(IGF-1R)の発現が増強されたことが確認されている。米国特許出願公開第2020/0245388号明細書を参照されたい。発現ベクターを使用したIGF-1Rの構成的発現も使用されている。米国仮特許出願第63/108,084号明細書を参照されたい。宿主細胞株の段階的適応がタンパク質を含まない培地及び脂質を含まない培地に細胞を適応させるために使用されている。米国特許第9,340,814号明細書を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2020/0245388号明細書
【特許文献2】米国仮特許出願第63/108084号明細書
【特許文献3】米国特許第9340814号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Lalonde et al.,2017,J Biotechnol 251:128-140
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
成長及び生産性に及ぼす影響が最小限の組換えタンパク質を産生する、培地へIGF-1を補充する必要がないか又は低減された宿主細胞株が依然として求められている。このような細胞株は、生物学的製剤のプロセス開発に有益である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、哺乳類細胞培養物から目的のタンパク質を生産する方法であって、(a)インスリン様成長因子(IGF-1)含有量が0.05mg/L以下の第2の細胞培養培地中で哺乳類細胞を培養して、目的のタンパク質を発現させる工程(ここで、哺乳類細胞はIGF-1含有量が0.03mg/L以下の第1の細胞培養培地中で増殖するように直接適合されており、且つ目的のタンパク質をコードする異種核酸を含んでいる);及び(b)哺乳類細胞によって産生された目的のタンパク質を回収する工程を含む方法を提供する。
【0010】
特定の実施形態では、第2の細胞培養培地はIGF-1含有量が0.03mg/L以下である。特定の実施形態では、第1の細胞培養培地は、IGF-1を含有していない。特定の実施形態では、第2の細胞培養培地は、IGF-1を含有していない。
【0011】
特定の実施形態では、直接適応された哺乳類細胞は、直接適応されていない同じ系統の哺乳類細胞に匹敵する増殖速度を有する。例えば、直接適合された哺乳類細胞は、30時間未満、例えば20~30時間の倍加時間を有することができる。
【0012】
本明細書に記載される方法を使用する特定の実施形態では、発現された目的のタンパク質の力価は、培養の10日目で少なくとも50mg/Lである。
【0013】
特定の実施形態では、目的のタンパク質は、抗原結合タンパク質である。特定の実施形態では、目的のタンパク質は、モノクローナル抗体、二重特異性T細胞エンゲージャー、免疫グロブリン、Fc融合タンパク質及びペプチボディからなる群から選択される。
【0014】
特定の実施形態では、哺乳類細胞培養プロセスは、流加培養プロセス、灌流培養プロセス、又はそれらの組み合わせを利用する。
【0015】
特定の実施形態では、哺乳類細胞培養は、IGF-1含有量が0.03mg/L以下の無血清培養培地中の少なくとも0.5×106~3.0×106細胞/mLを、少なくとも100Lのバイオリアクターに播種することによって構築される。この実施形態の特定の態様では、バイオリアクターは少なくとも500L又は少なくとも2000Lである。
【0016】
特定の実施形態では、哺乳類細胞はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。特定の実施形態では、CHO細胞は、ジヒドロ葉酸レダクターゼを欠損している(DHFR-)か、又はグルタミンシンテターゼノックアウト(GSKO)である。
【0017】
特定の実施形態では、回収された目的タンパク質は精製され、薬学的に許容される製剤に製剤化される。
【0018】
本開示はまた、本明細書に記載の方法を用いて調製された、精製され、製剤化された目的タンパク質を提供する。
【0019】
本開示はまた、哺乳類細胞をIGF-培地に直接適応させる方法であって、a)IGF-1含有量が0.03mg/L以下の細胞培養培地中で哺乳類細胞の集団を培養する工程、b)単一細胞クローニングによって哺乳類細胞の集団から個々の細胞を得る工程、c)90%以上の生存率及び30時間未満の倍加時間に回復するまで、個々の細胞を増殖し継代する工程を含む方法を提供する。
【0020】
特定の実施形態では、細胞培養培地は、IGF-1を含有していない。
【0021】
特定の実施形態では、哺乳類細胞はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。特定の実施形態では、CHO細胞は、ジヒドロ葉酸レダクターゼを欠損している(DHFR-)か、又はグルタミンシンテターゼノックアウト(GSKO)である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A-B】A)110の集団倍加レベル(PDL)の長期間にわたる、Long R3 IGF-1を含まない独自の細胞培養培地へのGSKO宿主細胞株の段階的適応、及びB)1.5か月の期間にわたる、Long R3 IGF-1を含まない独自の細胞培養培地へのGSKO宿主細胞の直接適応を示す。
【
図2A-B】GSKO対照と比較したGSKO IGF
-適応単一細胞クローン化宿主の倍加時間を示す。GSKO単一細胞クローン化宿主細胞株を増殖させ、90%を超え、倍加時間が約24時間になるまで継代した。
【
図3】モノクローナル抗体によるトランスフェクション後の25μM MSX回復GSKO IGF
-適応単一細胞クローン化宿主の回復グラフを示す。灰色のIGF
-適応細胞株は、黒色の線によって指定された対照と同様の期間で回復する。
【
図4A-D-1】モノクローナル抗体でトランスフェクトした単一細胞クローン化GSKO宿主細胞株を1e6又は3e6細胞/mLで播種し、15D流加生産で評価した。灰色と黒色の異なる色合いは、単一細胞クローン化宿主が由来する親宿主プールを表す。形状は、個々の細胞株を区別する。トランスフェクトされた細胞株は、IGF-1を有するGSKO細胞株の範囲内のいくつかで、様々なレベルの増殖及び生産性を示した。A)15D流加(FB)生産におけるGSKO単一細胞クローン化トランスフェクト細胞株の生存細胞密度のグラフ。B)15D FB生産におけるGSKO単一細胞クローン化トランスフェクト細胞株の生存率のグラフ。C)15D FB生産におけるGSKO単一細胞クローン化トランスフェクト細胞株の力価のグラフ。D)15D FB生産におけるGSKO単一細胞クローン化トランスフェクト細胞株のQp(容積比生産性)のグラフ。
【
図4A-D-2】モノクローナル抗体でトランスフェクトした単一細胞クローン化GSKO宿主細胞株を1e6又は3e6細胞/mLで播種し、15D流加生産で評価した。灰色と黒色の異なる色合いは、単一細胞クローン化宿主が由来する親宿主プールを表す。形状は、個々の細胞株を区別する。トランスフェクトされた細胞株は、IGF-1を有するGSKO細胞株の範囲内のいくつかで、様々なレベルの増殖及び生産性を示した。A)15D流加(FB)生産におけるGSKO単一細胞クローン化トランスフェクト細胞株の生存細胞密度のグラフ。B)15D FB生産におけるGSKO単一細胞クローン化トランスフェクト細胞株の生存率のグラフ。C)15D FB生産におけるGSKO単一細胞クローン化トランスフェクト細胞株の力価のグラフ。D)15D FB生産におけるGSKO単一細胞クローン化トランスフェクト細胞株のQp(容積比生産性)のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、IGF-培地(IGF-1を欠く培地)で増殖するようにCHO宿主細胞を直接適合させることができ、それによって、培地に高レベルのインスリン様成長因子1(IGF-1)を補充する必要性をなくすことができるという発見に一部基づいている。GSKO CHO宿主を、IGF-1を含まないプラットフォーム培地に直接適合させ、単一細胞をクローニングして、IGF-1を含有する細胞培養培地で増殖させた親宿主細胞株の増殖及び生産性を保持するか又は超える堅牢な宿主細胞株を作製した。本発明は、一部には、IGF-1R経路のシグナル伝達によって細胞の増殖を支援するタンパク質サプリメントであるIGF-1が培地コストの最大約30%を占めることから、原薬1グラム当たりのコストを削減する取り組みから生じた。IGF-1を補充することなく生存し増殖することのできる直接適応CHO細胞により、組換えタンパク質の大規模生産におけるIGF-1の高コストを削減することができる。IGF-適応宿主細胞プール及びその後の単一細胞クローン化IGF-宿主は、追加のサプリメントを必要とせずに、プラットフォームCHO宿主と同様の性能を示した。
【0024】
本明細書に開示される直接適応細胞は、元のCHO細胞の増殖速度と同じか、又はそれを超える増殖速度を示す。また、直接適応細胞は、元のCHO細胞と同じか又はそれ以上の組換えタンパク質の産生効率を示す。本発明の直接適応細胞株を使用することにより、より安価でより安定した方法でバイオ医薬品を製造することができる。
【0025】
本発明は、IGF-1を欠く細胞培養培地で目的のタンパク質を商業的に生産するのに特に有用であることがわかった。本明細書に記載される方法は、同様の生産を維持しながら、より安価なIGF-1非含有培地を使用することができる。
【0026】
本発明において使用される細胞株(「宿主細胞」とも呼ばれる)は、IGF-1の非存在下で、又はIGF-1含有量が0.03mg/L以下の細胞培養培地で増殖するように直接適合され、所望の特性を有する単一クローンが増殖され、継代され、選択される。特定の実施形態では、細胞株はまた、商業的又は科学的な目的のタンパク質も発現する。細胞株は、典型的には時間が制限されずに培養で維持され得る初代培養から生じる系統に由来する。細胞株の遺伝子操作には、宿主細胞が目的タンパク質を発現するように、組換えポリヌクレオチド分子で細胞をトランスフェクト、形質転換又は形質導入することが含まれる。例えば目的ポリペプチドを発現するように細胞及び/又は細胞株を遺伝子操作するための方法及びベクターは当業者にはよく知られており、例えば、様々な技術が、Current Protocols in Molecular Biology,Ausubel et al.,eds.(Wiley & Sons,New York,1988及び年4回更新);Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Cold Spring Laboratory Press,1989);Kaufman,R.J.,Large Scale Mammalian Cell Culture,1990,pp.15-69で例示されている。
【0027】
定義
本願で使用する用語法は、当該技術分野で標準的であるが、特定の用語の定義は、特許請求の範囲の意味において明快さ及び明確さを保証するために本明細書において提供される。単位、接頭辞及び記号は、SI(国際単位系)で認められた形式で表記され得る。本明細書で列記される数値範囲は、範囲を定義する数を含み、定義された範囲内の各整数を含み、それを支持する。別段の指示がない限り、本明細書に記載される方法及び技術は、一般に、当該技術分野でよく知られた従来の方法に従って実施され、こうした方法及び技術は、本明細書を通して引用され且つ論じられている様々な一般の参考文献及び特定性の高い参考文献に記載されるものである。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(2001)及びAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates(1992)及びHarlow and Lane Antibodies:A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1990)を参照されたい。
【0028】
本明細書で使用される場合、「1つの(a)」及び「1つの(an)」という用語は、特に別段の指示がない限り、1つ以上を意味する。さらに、文脈上異なる解釈を要する場合を除き、単数形の用語は、複数形を含むものとし、複数形の用語は、単数形を含むものとする。一般に、細胞及び組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学並びに本明細書に記載のタンパク質及び核酸の化学及びハイブリダイゼーションに関連して使用される命名法及び技術は、当該技術分野でよく知られ、よく使用されているものである。
【0029】
特許、特許出願、論文、書籍及び学術論文が挙げられるが、これらに限定されない、本願で引用される全ての文書又は文書の一部は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。本発明の一実施形態に記載されているものは、本発明の他の実施形態と組み合わせることができる。
【0030】
本開示は、「目的のタンパク質」を発現する方法を提供する。「目的のタンパク質」には、天然に存在するタンパク質、組換えタンパク質、及び改変タンパク質(例えば、天然に存在せず、ヒトによって設計及び/又は作製されているタンパク質)が含まれる。目的のタンパク質は、治療に関連することが知られているか、又はそのように思われているタンパク質であり得るが、そうである必要はない。
【0031】
本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語(例えば、目的のタンパク質又は目的のポリペプチドの文脈で使用されるような)は、本明細書において互換的に用いられ、アミノ酸残基のポリマーを指す。これらの用語はまた、天然に存在するアミノ酸ポリマーだけでなく、1個以上のアミノ酸残基が、対応する天然に存在するアミノ酸の類似体又は模倣体であるアミノ酸ポリマーにも適用される。これらの用語はまた、例えば、糖タンパク質を形成するための炭水化物残基の付加、又はリン酸化によって修飾されているアミノ酸ポリマーも包含し得る。ポリペプチド及びタンパク質は、天然に存在する非組換え細胞によって産生され得るか、又はポリペプチド及びタンパク質は、遺伝子操作された細胞又は組換え細胞によって産生され得る。ポリペプチド及びタンパク質は、天然タンパク質のアミノ酸配列を有する分子、又は天然配列の1個以上のアミノ酸の欠失、付加及び/又は置換を有する分子を含み得る。
【0032】
「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、天然に存在するアミノ酸だけを含む分子も、天然に存在しないアミノ酸を含む分子も包含する。天然に存在しないアミノ酸の例(所望により、本明細書に開示される任意の配列に見られる任意の天然に存在するアミノ酸と置換することができる)としては、4-ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタメート、ε-N,N,N-トリメチルリシン、ε-N-アセチルリシン、O-ホスホセリン、N-アセチルセリン、N-ホルミルメチオニン、3-メチルヒスチジン、5-ヒドロキシリシン、σ-N-メチルアルギニン、並びに他の類似のアミノ酸及びイミノ酸(例えば、4-ヒドロキシプロリン)が挙げられる。本明細書で使用されるポリペプチド表記法では、標準的な使用法及び慣例に従って、左手方向がアミノ末端方向であり、右手方向がカルボキシル末端方向である。
【0033】
タンパク質若しくはポリペプチド配列に挿入され得る、又はタンパク質若しくはポリペプチド配列の野生型残基に対して置換され得る天然に存在しないアミノ酸の例の非限定リストには、β-アミノ酸、ホモアミノ酸、環状アミノ酸及び側鎖が誘導体化されたアミノ酸が含まれる。例としては、以下のものが挙げられる(L-型又はD-型;括弧内のように省略される):シトルリン(Cit)、ホモシトルリン(hCit)、Nα-メチルシトルリン(NMeCit)、Nα-メチルホモシトルリン(Nα-MeHoCit)、オルニチン(Orn)、Nα-メチルオルニチン(Nα-MeOrn又はNMeOrn)、サルコシン(Sar)、ホモリシン(hLys又はhK)、ホモアルギニン(hArg又はhR)、ホモグルタミン(hQ)、Nα-メチルアルギニン(NMeR)、Nα-メチルロイシン(Nα-MeL又はNMeL)、N-メチルホモリシン(NMeHoK)、Nα-メチルグルタミン(NMeQ)、ノルロイシン(Nle)、ノルバリンNva)、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン(Tic)、オクタヒドロインドール-2-カルボン酸(Oic)、3-(1-ナフチル)アラニン(1-Nal)、3-(2-ナフチル)アラニン(2-Nal)、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン(Tic)、2-インダニルグリシン(IgI)、パラ-ヨードフェニルアラニン(pI-Phe)、パラ-アミノフェニルアラニン(4AmP又は4-アミノ-Phe)、4-グアニジノフェニルアラニン(Guf)、グリシルリシン(「K(Nε-グリシル)」又は「K(グリシル)」又は「K(gly)」と省略)、ニトロフェニルアラニン(ニトロphe)、アミノフェニルアラニン(アミノphe又はアミノ-Phe)、ベンジルフェニルアラニン(ベンジルphe)、γ-カルボキシグルタミン酸(γ-カルボキシglu)、ヒドロキシプロリン(ヒドロキシpro)、p-カルボキシル-フェニルアラニン(Cpa)、α-アミノアジピン酸(Aad)、Nα-メチルバリン(NMeVal)、N-α-メチルロイシン(NMeLeu)、Nα-メチルノルロイシン(NMeNle)、シクロペンチルグリシン(Cpg)、シクロヘキシルグリシン(Chg)、アセチルアルギニン(アセチルarg)、α,β-ジアミノプロピオン酸(Dpr)、α,γ-ジアミノ酪酸(Dab)、ジアミノプロピオン酸(Dap)、シクロヘキシルアラニン(Cha)、4-メチル-フェニルアラニン(MePhe)、β,β-ジフェニル-アラニン(BiPhA)、アミノ酪酸(Abu)、4-フェニル-フェニルアラニン(又はビフェニルアラニン;4Bip)、α-アミノ-イソ酪酸(Aib)、ベータ-アラニン、ベータ-アミノプロピオン酸、ピぺリジン酸、アミノカプロン酸、アミノヘプタン酸、アミノピメリン酸、デスモシン、ジアミノピメリン酸、N-エチルグリシン、N-エチルアスパラギン(N-ethylaspargine)、ヒドロキシリシン、アロ-ヒドロキシリシン、イソデスモシン、アロ-イソロイシン、N-メチルグリシン、N-メチルイソロイシン、N-メチルバリン、4-ヒドロキシプロリン(Hyp)、γ-カルボキシグルタメート、ε-N,N,N-トリメチルリシン、ε-N-アセチルリシン、O-ホスホセリン、N-アセチルセリン、N-ホルミルメチオニン、3-メチルヒスチジン、5-ヒドロキシリシン、ω-メチルアルギニン、4-アミノ-O-フタル酸(4APA)及び他の類似のアミノ酸、並びに具体的に挙げられたもののいずれかの誘導体化形態。
【0034】
本明細書で使用される場合、核酸に関連して使用される「異種」という用語は、宿主細胞内に天然に存在しない核酸を有することを意味する。この用語には、変異配列、例えば、天然に存在する配列とは異なる配列が含まれ得る。この用語には、他種由来の配列が含まれ得る。また、これには、これには、宿主細胞内に天然に存在する配列とは異なるゲノム内の位置に配列を有することも含まれ得る。一般に、これには、宿主細胞で発生する可能性のある自然変異は含まれない。例えば、発現カセットを安定的に組み込むことによって目的のタンパク質をコードする異種核酸を既に含む細胞は、異種核酸配列を含むとみなされる。明確にするために、抗原結合タンパク質をコードする核酸を有するCHO細胞又はその誘導体(例えば、DHFR-又はGSノックアウト)は、異種核酸を有するとみなされる。
【0035】
本開示は、以下の両方を想定するものである:(1)例えば、マスターセルバンク又はワーキングセルバンクを作製するために、本明細書に記載されるようなIGF-培地に最初に直接適応され、次いで、例えば抗体をコードする核酸配列を組み込むようにさらに改変された宿主細胞(例えば、CHO細胞)、及び(2)目的の異種タンパク質、例えば抗体をコードする核酸を既に有しており、その後にIGF-培地に直接適応された細胞、例えばマスターセルバンク又はワーキングセルバンク。
【0036】
本明細書で使用される場合、「バイオリアクター」という用語は、細胞培養物の増殖に有用なあらゆる容器を意味する。本開示の細胞培養物は、バイオリアクター内で増殖させることができ、このバイオリアクターは、バイオリアクター内で増殖する細胞によって産生される目的のタンパク質の用途に基づいて選択することができる。バイオリアクターは、細胞の培養に有用である限り、いかなる大きさであってもよく、典型的には、その中で増殖させる細胞培養物の容積に適切な大きさである。典型的には、バイオリアクターは少なくとも1リットルであり、2、5、10、50、100、200、250、500、1000、1500、2000、2500、5000、8000、10000、12000リットル以上、又はその間の任意の容積であってよい。培養期間中に、pH及び温度を含むがこれらに限定されないバイオリアクターの内部条件を制御することができる。当業者であれば、関連する考慮事項に基づいて、本明細書で開示される方法を実施する際に使用するのに好適なバイオリアクターを認識し、選択することができる。
【0037】
本明細書で使用される場合、「細胞培養」又は「培養」は、多細胞生物又は組織の外部での細胞の増殖及び繁殖を意味する。哺乳類細胞に好適な培養条件は、当該技術分野において知られている。例えば、Animal cell culture:A Practical Approach,D.Rickwood,ed.,Oxford University Press,New York(1992)を参照されたい。哺乳類細胞は、懸濁液中で、又は固形培養基に付着させながら培養してもよい。流動床バイオリアクター、中空糸型バイオリアクター、ローラーボトル、振盪フラスコ、又は撹拌槽バイオリアクターを、マイクロキャリアの有無に関わらず使用することができる。一実施形態では、500L~2000Lのバイオリアクターが使用される。一実施形態では、1000L~2000Lのバイオリアクターが使用される。
【0038】
「細胞培養培地(cell culture medium)」(「培養培地」、「細胞培養培地(cell culture media)」、「組織培養培地」とも呼ばれる)という用語は、増殖細胞、例えば、動物又は哺乳類細胞に使用されるあらゆる栄養液を指し、一般に、以下に由来する少なくとも1つ以上の成分を提供するものである:エネルギー源(通常、グルコースなどの炭水化物の形態);全ての必須アミノ酸、及び一般に20種の基本的なアミノ酸とシステインのうちの1つ以上;典型的には低濃度で必要とされるビタミン及び/又は他の有機化合物;脂質又は遊離脂肪酸;並びに、典型的には非常に低濃度で、通常マイクロモル範囲で必要とされる微量元素、例えば無機化合物又は天然に存在する元素。
【0039】
栄養液には、培養される細胞の要件及び/又は所望の細胞培養パラメーターに応じて、細胞の増殖を最適化するための追加の任意選択的な成分、例えばホルモン及び他の増殖因子、例えばトランスフェリン、上皮増殖因子、血清など;塩、例えばカルシウム、マグネシウム及びリン酸塩、並びに緩衝液、例えばHEPES;ヌクレオシド及び塩基、例えばアデノシン、チミジン、ヒポキサンチン;並びにタンパク質及び組織加水分解物、例えば加水分解された動物性又は植物性タンパク質(動物由来成分から得られる可能性のあるペプトン又はペプトン混合物、精製ゼラチン又は植物材料);抗生物質、例えばゲンタマイシン;Pluronic(登録商標)F68(Lutrol(登録商標)F68及びKolliphor(登録商標)P188とも称される)などの細胞保護剤又は界面活性剤;ポリオキシエチレン(ポリ(エチレンオキシド))の2つの親水性鎖に挟まれたポリオキシプロピレン(ポリ(プロピレンオキシド))の中央の疎水性鎖からなる非イオン性トリブロックコポリマー;ポリアミン、例えばプトレシン、スペルミジン及びスペルミン(例えば、国際公開第2008/154014号パンフレットを参照されたい)、並びにピルベート(例えば、米国特許第8,053,238号明細書を参照されたい)で任意選択的に補充してもよい。
【0040】
細胞培養培地としては、以下に限定されないが、細胞の回分培養、拡張回分培養、流加培養及び/又は灌流培養若しくは連続培養などの任意の細胞培養プロセスにおいて典型的に利用され、且つ/又はそれとの使用に関して知られるものが挙げられる。
【0041】
「基礎」(又は回分)細胞培養培地は、典型的に、細胞培養を開始するのに使用され、細胞培養を補助するのに十分に完全である細胞培養培地を指す。
【0042】
「流加培養」とは、懸濁培養の一形態を指し、培養プロセスの開始時又はその後の時点で追加の成分が培養液に供給される細胞の培養方法を意味する。提供される成分は、典型的には、培養プロセス中に枯渇した細胞用栄養サプリメントを含む。加えて又は代替的に、追加の成分は、サプリメント成分(例えば、細胞周期阻害化合物)を含み得る。流加培養は、典型的には、ある時点で停止され、培地中の細胞及び/又は成分が回収され、任意選択により精製される。
【0043】
「増殖」細胞培養培地は、典型的には、指数増殖の期間である「増殖期」の間の細胞培養に使用され、この期の間の細胞培養を補助するのに十分に完全である細胞培養培地を指す。増殖細胞培養培地はまた、宿主細胞株に組み込まれた選択マーカーに耐性又は生存を付与する選択薬剤を含有してもよい。このような選択薬剤としては、ジェネテシン(G418)、ネオマイシン、ハイグロマイシンB、ピューロマイシン、ゼオシン、メチオニンスルホキシミン、メトトレキサート、グルタミンを含まない細胞培養培地、グリシン、ヒポキサンチン及びチミジンを欠くか、又はチミジンのみを欠く細胞培養培地が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
「灌流」細胞培養培地は、典型的に、灌流又は連続培養法によって維持され、このプロセスの間に細胞培養を補助するのに十分に完全である細胞培養に使用される細胞培養培地を指す。灌流細胞培養培地配合物は、使用済み培地を除去するために使用される方法に対応するために、基礎細胞培養培地配合物よりも濃いか、又はより濃縮されていてもよい。灌流細胞培養培地は、増殖期及び生産期の両方で使用することができる。
【0045】
「生産」細胞培養培地は、典型的には、指数増殖が終了し、タンパク質の生産に置き換わるときに移行する間の「移行」期及び/又は「生産」期の細胞培養に使用され、この期の間の所望の細胞密度、生存率及び/又は生産力価を維持するのに十分に完全である細胞培養培地を指す。
【0046】
濃縮細胞培養培地は、細胞培養を維持するために必要な栄養素の一部又は全てを含むことができ、特に、濃縮培地は、細胞培養の生産期の過程で消費されることが確認されているか又は知られている栄養素を含み得る。濃縮培地は、殆どのあらゆる細胞培養培地配合物を基準としてもよい。このような濃縮フィード培地は、細胞培養培地の一部又は全ての成分を、例えば、それらの通常の量の約2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、12倍、14倍、16倍、20倍、30倍、50倍、100倍、200倍、400倍、600倍、800倍又は約1000倍で含み得る。
【0047】
細胞培養培地を調製するために使用する成分は、完全に粉砕して粉末培地配合物にしてもよく、必要に応じて細胞培養培地に添加した液体サプリメントと共に部分的に粉砕してもよく、又は完全に液体の形態で細胞培養液に添加してもよい。
【0048】
細胞培養物にはまた、製剤化が困難であるか、又は細胞培養液中で速やかに枯渇する可能性のある特定の栄養素を個々の濃縮フィードで補充することができる。そのような栄養素は、チロシン、システイン及び/又はシスチンなどのアミノ酸であり得る(例えば、国際公開第2012/145682号パンフレットを参照されたい)。例えば、チロシンの濃縮溶液を、チロシンを含有する細胞培養培地中で増殖させた細胞培養液に、細胞培養液中のチロシンの濃度が8mMを超えないように個々にフィードすることができる。別の例では、チロシン及びシスチンの濃縮溶液を、チロシン、シスチン又はシステインを欠く細胞培養培地中で増殖させている細胞培養物に個々にフィードする。個々のフィードは、生産期の前又は生産期が始まった時点で開始することができる。個々のフィードは、濃縮フィード培地と同日又は異なる日に細胞培養培地に流加することによって達成することができる。個々のフィードはまた、灌流培地と同日又は異なる日に灌流することができる。
【0049】
「無血清」は、ウシ胎児血清などの動物血清を含まない細胞培養培地に適用される。定義された培養培地を含む様々な組織培養培地が市販されており、例えば、以下の細胞培養培地のいずれか1つ又はその組み合わせを使用することができる:特に、RPMI-1640培地、RPMI-1641培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、最小必須培地イーグル、F-12K培地、ハムF12培地、イスコフ改変ダルベッコ培地、マッコイ5A培地、ライボビッツL-15培地、及びEX-CELLTM300シリーズ(JRH Biosciences、Lenexa、Kansas)、MCDB 302(Sigma Aldrich Corp.、St.Louis、MO)などの無血清培地。このような培養培地の無血清バージョンも利用可能である。細胞培養培地には、培養される細胞の要件及び/又は所望の細胞培養パラメーターに応じて、アミノ酸、塩、糖、ビタミン、ホルモン、増殖因子、緩衝液、抗生物質、脂質、微量元素などの成分を追加して、又はこれらの濃度を上昇させて補充してもよい。カスタマイズされた細胞培養培地を使用することもできる。
【0050】
「細胞密度」とは、培養培地の所与の容積中の細胞の数を指す。「生存細胞密度」とは、標準的な生存アッセイ(トリパンブルー色素排除法など)によって測定したときの培養培地の所与の容積中の生細胞の数を指す。
【0051】
「細胞生存」とは、培養中の細胞が、所定の一連の培養条件又は実験変動下で生存する能力を意味する。この用語はまた、特定の時点における培養液中の生細胞及び死滅細胞を合計した数に対して、その時点で生存している細胞の部分を指す。
【0052】
「増殖停止」は、「細胞増殖停止」と称することもあるが、細胞の数の増加が止まる時点、又は細胞周期がもはや進行しなくなる時点のことである。増殖停止は、細胞培養物の生存細胞密度を測定することによって監視することができる。増殖停止状態の一部の細胞は、サイズが大きくなっても数が増えないことがあるため、増殖が停止した培養物の充填細胞容積が増大する場合がある。増殖停止は、細胞の健康が悪化していなければ、増殖停止をもたらす条件を逆転させることにより、ある程度逆転させることができる。
【0053】
「充填細胞容積」(PCV)は、「充填細胞容積率」(PCV%)とも称され、細胞培養物の全容積に対して細胞が占める容積の比率であり、百分率で表される(Stettler et al.,2006,Biotechnol Bioeng.Dec 20:95(6):1228-33を参照されたい)。充填細胞容積は、細胞密度と細胞径の関数であり、充填細胞容積の増大は、細胞密度若しくは細胞径又は両方が増大することによって生じ得る。充填細胞容積は、細胞培養物中の固形分の指標である。固形物は、回収及び下流の精製の間に取り除かれる。より多くの固形物があるほど、回収及び下流の精製工程中に所望の産物から固形材料を分離するためにより多くの労力が要求されることを意味する。また、所望の産物が固形物に捕捉され、回収プロセス中に失われる結果として、生産収量の低下がもたらされる可能性がある。宿主細胞のサイズにばらつきがあり、細胞培養物には死滅及び瀕死細胞、並びに他の細胞残屑も含まれているため、充填細胞容積は、細胞培養物内の固形分を表すのに細胞密度又は生存細胞密度よりも正確な方法である。例えば、50×106細胞/mlの細胞密度を有する2000Lの培養液は、細胞のサイズに応じて充填細胞容積が大きく異なることになる。加えて、増殖停止状態では、一部の細胞でサイズが大きくなるため、細胞のサイズが大きくなる結果としてバイオマスが増加することにより、増殖停止前と増殖停止後の充填細胞容積が異なる可能性がある。
【0054】
「力価」とは、所与の量の培地容積中で細胞培養によって生産される目的のポリペプチド又はタンパク質(天然に存在する又は組換え目的タンパク質であってもよい)の総量を意味する。力価は、培地1ミリリットル(又は他の容積の指標)当たりのポリペプチド又はタンパク質を、ミリグラム又はマイクログラムの単位で表すことができる。「累積力価」とは、培養の過程の間に細胞によって生産される力価のことであり、例えば、力価を毎日測定し、その値を用いて累積力価を算出することにより決定することができる。
【0055】
本明細書で使用される場合、「宿主細胞」という用語は、目的のポリペプチドを発現するように遺伝子操作された細胞を含むと理解される。細胞の遺伝子操作には、宿主細胞に所望の組換えポリペプチドを発現させるように、細胞を組換えポリヌクレオチド分子(「目的の遺伝子」)をコードする核酸でトランスフェクト、形質転換若しくは形質導入すること、及び/又は別の方法で(例えば、相同組換え及び遺伝子活性化、又は組換え細胞と非組換え細胞との融合によって)改変することを含む。目的のポリペプチドを発現するように細胞及び/又は細胞株を遺伝子操作するための方法及びベクターは当業者によく知られており、例えば、様々な技術が、Current Protocols in Molecular Biology.Ausubel et al.,eds.(Wiley & Sons,New York,1988及び年4回更新);Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Cold Spring Laboratory Press,1989);Kaufman,R.J.,Large Scale Mammalian Cell Culture,1990,pp.15-69に例示されている。この用語には、目的の遺伝子が存在する限り、元の親細胞と形態又は遺伝的構造が同一であるか否かに関わらず、親細胞の後代が含まれる。細胞培養物は、1つ以上の宿主細胞を含み得る。
【0056】
IGF-1は、インスリンと分子構造が類似したポリペプチドタンパク質ホルモンである。加えて、IGF-1は、成体哺乳類の成長及び同化に重要な役割を果たしている。
【0057】
IGF-1RはATP結合部位を有し、この部位は自己リン酸化のためのリン酸を供給するために用いられる。チロシン残基1165及び1166の自己リン酸化複合体の構造が、IGF1Rキナーゼドメインの結晶内で同定されている。Xu et al.,2015,Science Signaling 8(405):rs13を参照されたい。α鎖は、リガンドの結合に応答してβ鎖のチロシン自己リン酸化を誘導する。この事象は、細胞型に特異的ではあるが、細胞内シグナル伝達のカスケードを引き起こし、多くの場合細胞生存及び細胞増殖を促進する。Jones et al.,1995,Endocrine Reviews 16(1):3-34及びLeRoith et al.,1995,Endocrine Reviews 16(2):143-63を参照されたい。組換えタンパク質の大規模生産において、細胞培養培地にIGF-1を補充することが一般的になっているのは、細胞増殖におけるこの効果によるものである。
【0058】
IGF-1は市販されており、典型的には、約0.1mg/Lの濃度で細胞培養培地のサプリメントとして使用される。天然IGF-1(70アミノ酸、7.6kDa、例えばR&D Systemsから入手可能、)LongR3 IGF-1(83アミノ酸、9.1kDa、例えばMilliporeSigma and Repligenから入手可能)及びShortTMAE-IGF-1(72アミノ酸、7.9kDa、例えばCellRxから入手可能)を含む、細胞培養培地に含めることができるIGF-1の少なくとも3つの市販の形態がある。
【0059】
哺乳類細胞のIGF-培地への直接適応方法
IGF-培地(IGF-1を欠く培地)へ哺乳類細胞を直接適応させることによって、同様の増殖速度及び生産性を保持しながら、組換えタンパク質の大規模製造においてIGF-1を低減又は省き得ることが発見された。哺乳類細胞をIGF-培地に直接適応させるとは、IGF-1、例えば血清中で利用可能なIGF-1、を含有する細胞培養培地中で増殖させたか、又は予め増殖させ(続いて、凍結させ)た細胞培養物を使用し、これらの細胞をIGF-1を欠く細胞培養培地で直接培養することを意味する。直接適応では、細胞は、ある濃度のIGF-1を含む単一の細胞培養培地(IGF-1を含まない場合もあり得る)にのみ適応される。これは、細胞培養培地中に存在するIGF-1の量を順次減少させ、IGF-1濃度を減少させる各工程で細胞を回復させることを含む段階的適応と対照的である。
【0060】
本開示は、哺乳類細胞をIGF-培地に直接適応させる方法であって、a)IGF-1含有量が0.03mg/L以下の細胞培養培地中で哺乳類細胞の集団を培養する工程、b)単一細胞クローニングによって哺乳類細胞の集団から個々の細胞を得る工程、並びにc)90%以上の生存率及び30時間未満の倍加時間に回復するまで、個々の細胞を増殖し継代する工程を含む方法を提供する。最良のクローンは、生存率、増殖及びトランスフェクト能力などの特性に基づいて選択される。
【0061】
IGF-1を欠く細胞培養培地とは、一般に、細胞培養培地が標準的な細胞培養条件と比較して低レベルのIGF-1を含有することを意味する。例えば、直接適応のための細胞培養培地(本明細書では、第1の細胞培養培地と呼ばれることもある)は、IGF-1含有量が0.03mg/L以下、0.02mg/L以下、0.01mg/L以下であるか、又はIGF-1を全く含まないものとし得る。IGF-培地は、IGF-1を欠く細胞培養培地を指す。
【0062】
本明細書に開示の方法では、任意の哺乳類細胞株を使用することができる。培養での増殖に好適な多種多様な哺乳類細胞株が、American Type Culture Collection(Manassas、Va.)及び販売業者から入手可能である。この業界で一般的に使用されている細胞株の例としては、SV40により形質転換されたサル腎臓CVl株(COS-7、ATCC CRL 1651);ヒト胎児腎臓株(懸濁培養で増殖させるためにサブクローニングされた293又は293細胞、Graham et al.,1977,J.Gen Virol.36:59);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);マウスセルトリ細胞(TM4、Mather,1980,Biol.Reprod.23:243-251);サル腎臓細胞(CVl ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝細胞癌細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳癌(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Mather et al.,1982,Annals N.Y Acad.Sci.383:44-68);MRC5細胞又はFS4細胞;哺乳類骨髄腫細胞、及び多くの他の細胞株、並びにチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が挙げられる。
【0063】
商業用途のタンパク質の大規模生産は、典型的には懸濁培養で行われる。したがって、本明細書に記載の組換え哺乳類細胞を作製するために使用される哺乳類宿主細胞は、懸濁培養での増殖に適応させ得るが、そうである必要はない。懸濁培養での増殖に適応した様々な宿主細胞が知られており、マウス骨髄腫NS0細胞、並びにCHO-S、DG44及びDXB11細胞株由来のCHO細胞が挙げられる。他の好適な細胞株としては、マウス骨髄腫SP2/0細胞、ベビーハムスター腎臓BHK-21細胞、ヒトPER.C6(登録商標)細胞、ヒト胎児腎臓HEK-293細胞及び本明細書で開示される細胞株のいずれかに由来するか、又はそれらから改変された細胞株が挙げられる。
【0064】
CHO細胞は、複雑な組換えタンパク質を生産するために広く使用されており、CHOK1細胞(ATCC CCL61)が含まれる。ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)欠損変異細胞株(Urlaub et al.,1980,Proc Natl Acad Sci USA 77:4216-4220)、DXB11及びDG-44は、効率的なDHFR選択可能及び増幅可能遺伝子発現系により、これらの細胞において高レベルの組換えタンパク質を発現させることが可能になるので、望ましいCHO宿主細胞株である(Kaufman R.J.,1990,Meth Enzymol 185:537-566)。また、グルタミンシンターゼ(GS)をベースとしたメチオニンスルホキシミン(MSX)選択を利用した、グルタミンシンターゼ(GS)ノックアウトCHOK1SV細胞株も含まれる。他の好適なCHO宿主細胞としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない(括弧内はECACCアクセッション番号):CHO(85050302)、CHO(タンパク質フリー)(00102307)、CHO-K1(85051005)、CHO-K1/SF(93061607)、CHO/dhfr-(94060607)、CHO/dhFr-AC-フリー(05011002)、RR-CHOKI(92052129)。
【0065】
通常且つ好ましい成分を含有する細胞培養培地中の哺乳類細胞株の細胞培養物を、直接適応のために使用する。典型的には、この細胞培養培地にはIGF-1を含む血清が含まれる。細胞は、好ましくは指数増殖期にある間に培養され、任意選択により凍結される。
【0066】
哺乳類細胞は、IGF-1を欠く細胞培養培地で継代される。特定の実施形態では、IGF-1濃度は、0.03mg/L以下である。特定の実施形態では、IGF-1濃度は、0mg/Lである。好ましくは、単一細胞は、例えばBerkley Lights(BLI)Beacon装置でクローニングされる。細胞はIGF-培地に適応するまで、例えば、90%以上の生存率を有し、正常な増殖速度、例えば30時間以下の倍加時間で増殖することができるまで、増殖及び継代される。
【0067】
IGF-直接適応を用いる本明細書に記載の方法及び細胞株により、目的のタンパク質を製造するために使用される細胞培養培地中のIGF-1の量を減少させることができる。典型的には、細胞培養培地中のIGF-1の濃度は0.1mg/Lである。本明細書に開示の方法では、細胞培養培地中のIGF-1の濃度は、0.05、0.04、0.03、0.02、又は0.01mg/L未満まで低減させることができる。特定の実施形態では、IGF-1は細胞培養培地に必要とされず、すなわち細胞培養培地中のIGF-1の濃度は0mg/Lである。
【0068】
本明細書に記載の方法では、細胞は、IGF-適応なしの同じ系統の細胞に匹敵する増殖速度を有する。特定の実施形態では、増殖速度は、生産の最初の5日間で0.015~0.04 1/hである。特定の実施形態では、増殖速度は、シードトレインで0.022~0.025 1/hである。特定の実施形態では、細胞は、20~30時間又は23~35時間の倍加時間を有する。
【0069】
本明細書に記載される方法では、細胞は、IGF-1を含まない細胞培養培地に適応されていない同系統の細胞と同等の力価で目的の組換えタンパク質を産生する。特定の実施形態では、目的のタンパク質の力価は、培養の10日後において少なくとも50mg/L、100mg/L、150mg/L、200mg/L、250mg/L、300mg/L、350mg/L、400mg/L、450mg/L、500mg/L、550mg/L、又は600mg/Lである。
【0070】
目的のタンパク質を発現する哺乳類宿主細胞の作製
目的のタンパク質を発現は、一過性又は安定発現によるよく知られた方法によって達成することができる(Davis et al.,Basic Methods in Molecular Biology,2nd.,Appleton & Lange,Norwalk,Conn.,1994;Sambrook et al.,Molecular Cloning;A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,2001)。
【0071】
安定的に組み込むための方法は、当該技術分野においてよく知られている。簡潔に記載すると、安定的な組み込みは、異種ポリヌクレオチド又は異種ポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞に一過性に導入することによって一般に達成され、これによって前記異種ポリヌクレオチドの細胞ゲノムへの安定的な組み込みが促進される。典型的には、異種ポリヌクレオチドは、相同性アーム、すなわち、組み込み部位に対して上流及び下流領域に相同な配列と隣接している。それらを哺乳類宿主細胞に導入する前に、環状ベクターを線状にし、細胞ゲノムへの組み込みを容易にしてもよい。ベクターを細胞に導入するための方法は、当該技術分野においてよく知られており、ウイルス送達などの生物学的方法、カチオン性ポリマー、リン酸カルシウム、カチオン性脂質若しくはカチオン性アミノ酸を用いるなどの化学的方法;エレクトロポレーション若しくはマイクロインジェクションなどの物理的方法;又はプロトプラスト融合などの混合手法によるトランスフェクションが挙げられる。
【0072】
哺乳類細胞を安定的にトランスフェクトする場合、使用される発現ベクター及びトランスフェクション技法に応じて、ごくわずかな細胞のみで外来DNAをそのゲノムに組み込むことができることが知られている。こうした組み込み体を識別して選択するため、一般に、選択マーカー(例えば、抗生物質耐性のための)をコードする遺伝子が目的遺伝子と共に宿主細胞に導入される。好ましい選択マーカーとしては、G418、ハイグロマイシン及びメトトレキサートなどの薬物に対する耐性を付与するものが挙げられる。導入された核酸で安定的にトランスフェクトされた細胞は、他の方法の中でも特に、薬物選択によって識別することができる(例えば、選択マーカー遺伝子が組み込まれた細胞は生存することになるが、他の細胞は死滅する)。
【0073】
安定した組み込みの具体的な方法は、リコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE;Bode and Baer,2001,Curr Opin Biotechnol. 12:473-80、及びBode et al.,2000,Biol.Chem. 381:801-813)を、ゲノムにおける部位特異的組込み(「標的組込み」とも呼ばれる)のために使用する。Flp及びCreなどの部位特異的リコンビナーゼが、それぞれFRT及びloxPと呼ばれるそれらの標的配列の2つのコピー間の組換えを媒介する。2つの非適合性標的配列、例えば、F3と組み合わせたFRTの使用(Schlake and Bode,1994,Biochemistry,33:12746-51)及び逆位認識標的部位(Feng et al.,1999,J.Mol. Biol. 292:779-85)を使用することによって、DNAセグメントを、標的配列を有する所定の染色体遺伝子座に同様の配置で挿入することができる。欧州特許第1781796B1号明細書及び欧州特許出願公開第2789691A1号明細書も参照されたい。
【0074】
ゲノム中の特定の部位へのRMCEの挿入は、ゲノム中に一本鎖切断及び二本鎖切断(SSB/DSB)を作製するように操作され得るヌクレアーゼ(例えば、ジンクフィンガータンパク質(ZFP)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)/CRISPR関連タンパク質9(Cas9))によって媒介され得る。DSBを修復するための2つの主要且つ異なる経路-相同組換え及び非相同末端結合(NHEJ)がある。相同組換えは、細胞修復プロセスを導くために、鋳型としての相同配列(例えば、RMCEを含有する「ドナー」)の存在を必要とし、修復の結果はエラーがなく予測可能である。相同組換えのための鋳型(又は「ドナー」)配列が存在しない場合、細胞は、典型的には、非相同末端結合(NHEJ)の予測不能で且つエラーが起こりやすいプロセスを介してDSBを修復することを試みる。
【0075】
ベクターは、情報をコードするタンパク質を宿主細胞並びに/又は宿主細胞内の特定の位置及び/若しくは区画に移行させ且つ/又は輸送するために使用するのに好適な何らかの分子又は実体(例えば、核酸、プラスミド、バクテリオファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体、ウイルス、ウイルスカプシド、ビリオン、ネイキッドDNA、複合体を形成したDNAなど)であり得る。ベクターとしては、ウイルス及び非ウイルスベクター、非エピソーム哺乳類ベクターが挙げられる。ベクターは、発現ベクター、例えば組換え発現ベクター及びクローニングベクターと呼ばれることが多い。ベクターを宿主細胞に導入してベクター自体の複製を可能にし、それによってその中に含有されるポリヌクレオチドのコピーを増幅させ得る。クローニングベクターは、限定はされないが、一般に複製起点、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列及び選択マーカーが挙げられる配列成分を含有し得る。これらのエレメントは、当業者により必要に応じて選択され得る。
【0076】
ベクターは、宿主細胞の形質転換に有用であり、それに動作可能に連結された1つ以上の異種コード領域の発現を(宿主細胞と協働して)誘導及び/又は調節する核酸配列を含有する。発現コンストラクトは、以下に限定されないが、転写、翻訳に影響するか又はそれを制御し、イントロンが存在するなら、それに動作可能に連結されたコード領域のRNAスプライシングに影響する配列を含み得る。「動作可能に連結される」は、この用語が適用される構成要素が、それらの固有機能を果たすことができる関係にあることを意味する。例えば、タンパク質コード配列に「動作可能に連結される」ベクター中の制御配列、例えばプロモーターは、この制御配列が正常に活性化することによってタンパク質コード配列の転写がもたらされ、コードされたタンパク質の組換え発現が生じるように配置される。
【0077】
ベクターは、用いられる特定の宿主細胞内で機能的となるように選択され得る(すなわち、ベクターは、宿主の細胞機構と適合し、遺伝子の増幅及び/又は発現が起こり得ることを可能にする)。いくつかの実施形態では、ジヒドロ葉酸レダクターゼなどのタンパク質レポーターを使用するタンパク質断片相補アッセイを使用するベクターが使用される(例えば、米国特許第6,270,964号明細書を参照されたい)。好適な発現ベクターは、当該技術分野において知られており、また市販もされている。
【0078】
典型的には、宿主細胞において使用されるベクターは、プラスミドを維持するための配列と、外因性ヌクレオチド配列のクローニング及び発現のための配列と、を含有する。このような配列は、典型的には、以下のヌクレオチド配列の1つ以上を含む:プロモーター、1つ以上のエンハンサー配列、複製起点、転写及び翻訳制御配列、転写終結配列、ドナー及びアクセプタースプライス部位を含有する完全イントロン配列、グリコシル化又は収量を改善するための様々なプレ配列又はプロ配列、ポリペプチド分泌のための天然又は異種シグナル配列(リーダー配列又はシグナルペプチド)、リボソーム結合部位、ポリアデニル化配列、内部リボソーム進入部位(IRES)配列、発現増強配列エレメント(EASE)、アデノウイルス2型に由来する三部構成リーダー(TPA)及びVA遺伝子RNA、発現させようとするポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを挿入するためのポリリンカー領域、並びに選択マーカーエレメント。ベクターは、市販のベクターなどの出発ベクターから構築され得、追加のエレメントを個々に入手してベクターにライゲートし得る。成分の各々を得るために使用される方法は、当業者によく知られている。
【0079】
ベクター成分は、同種(すなわち宿主細胞と同じ種及び/又は株に由来)、異種(例えば宿主細胞種又は宿主細胞株以外の種に由来)、ハイブリッド(すなわち2つ以上の供給源に由来する隣接配列の組み合わせ)、合成又は天然であり得る。ベクターにおいて有用な成分の配列は、マッピング及び/又は制限エンドヌクレアーゼによってこれまでに確認されたものなど、当該技術分野でよく知られた方法によって得られ得る。さらに、それらは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、及び/又は好適なプローブでゲノムライブラリーをスクリーニングすることによって得られ得る。
【0080】
リボソーム結合部位は、通常、mRNAの翻訳開始に必要とされ、シャイン・ダルガノ配列(原核生物)又はコザック配列(真核生物)を特徴とするものである。このエレメントは、典型的には、プロモーターの3’側及び発現させようとするポリペプチドのコード配列の5’側に位置する。
【0081】
複製起点は、宿主細胞内のベクターの増幅を補助する。それらは、市販の原核生物ベクターの一部として含まれ得、また、知られている配列に基づいて化学的に合成してベクターに連結され得る。様々なウイルス起点(例えば、SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)又はHPV若しくはBPVなどのパピローマウイルス)が、哺乳類細胞でベクターをクローニングするのに有用である。
【0082】
哺乳類宿主細胞の発現ベクターのための転写及び翻訳制御配列は、ウイルスゲノムから切り出され得る。一般に使用されるプロモーター及びエンハンサー配列は、ポリオーマウイルス、アデノウイルス2型、シミアンウイルス40(SV40)及びヒトサイトメガロウイルス(CMV)に由来するものである。例えば、最初期遺伝子1のヒトCMVプロモーター/エンハンサーを使用し得る。例えば、Patterson et al.,1994,Applied Microbiol.Biotechnol.40:691-98を参照されたい。SV40ウイルスゲノム、例えば、SV40起点、初期及び後期プロモーター、エンハンサー、スプライス並びにポリアデニル化部位から誘導されるDNA配列を使用して、哺乳類宿主細胞に構造遺伝子配列を発現させるための他の遺伝エレメントを提供し得る。ウイルス初期及び後期プロモーターは、どちらもウイルスゲノムから断片として容易に得られるものであり、また、ウイルス複製起点を含有し得るため、特に有用である(Fiers et al.,1978,Nature 273:113;Kaufman,1990,Meth.in Enzymol.185:487-511)。Hind III部位からSV40ウイルス複製起点の部位に位置するBglI部位に向かって伸びるおよそ250bpの配列が含まれているのであれば、より小さな又はより大きなSV40断片も使用し得る。
【0083】
転写終結配列は、典型的には、ポリペプチドコード領域の末端に対して3’側に位置し、転写を終結させる役割を果たす。通常、原核細胞における転写終結配列は、G-Cリッチ断片とそれに続くポリT配列である。この配列は、ライブラリーから容易にクローニングされるか、又はベクターの一部として商業的に購入されるが、当業者に知られた核酸合成のための方法を使用して容易に合成することもできる。
【0084】
選択マーカー遺伝子は、選択培養培地中で増殖させた宿主細胞の生存及び増殖に必要なタンパク質をコードする。典型的な選択マーカー遺伝子は、(a)原核生物宿主細胞に、抗生物質若しくは他の毒素、例えば、アンピシリン、テトラサイクリン若しくはカナマイシンに対する耐性を付与する;(b)細胞の栄養要求性欠損を補完する;又は(c)複合培地若しくは規定培地から利用できない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする。特異的選択マーカーは、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子及びテトラサイクリン耐性遺伝子である。有利なことに、ネオマイシン耐性遺伝子もまた、原核生物宿主細胞及び真核生物宿主細胞の双方における選択で使用され得る。
【0085】
他の選択遺伝子を使用して、発現される遺伝子を増幅させ得る。増幅は、増殖又は細胞生存に重要なタンパク質の生成に必要とされる遺伝子が、組換え細胞の累代の染色体内でタンデムに反復される過程である。哺乳類細胞に好適な選択マーカーの例としては、グルタミン合成酵素(GS)、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)及びプロモータレスチミジンキナーゼの遺伝子が挙げられる。哺乳類細胞の形質転換体を、その形質転換体のみが唯一、ベクターに存在する選択遺伝子によって生存するように適合されている選択圧下に置く。培地中の選択薬剤濃度を連続的に上昇させる条件下で形質転換細胞を培養することによって選択圧をかけ、それによって選択遺伝子と目的のタンパク質をコードするDNAの両方が増幅される。その結果、増幅されたDNAから多量の目的のポリペプチドが合成される。
【0086】
真核生物の宿主細胞発現系においてグリコシル化が所望されるようないくつかの場合において、グリコシル化又は収量を向上させるために、様々なプレ配列又はプロ配列を操作し得る。例えば、特定のシグナルペプチドのペプチダーゼ切断部位を改変し得るか、又はプロ配列を付加し得るが、これらもグリコシル化に影響し得る。最終タンパク質産物は、発現に付随する1個以上のさらなるアミノ酸を-1位(成熟タンパク質の最初のアミノ酸に対して)に有し得るが、このアミノ酸は、完全に除去されていなくてもよい。例えば、最終タンパク質産物は、アミノ末端に結合した、ペプチダーゼ切断部位に見られる1個又は2個のアミノ酸残基を有し得る。或いは、いくつかの酵素切断部位を使用すると、成熟ポリペプチド内のそのような領域で酵素によって切断された場合、僅かに短縮された形態の所望のポリペプチドが生じ得る。
【0087】
発現及びクローニングは、典型的には、宿主生物によって認識され、目的のタンパク質をコードする分子に動作可能に連結されたプロモーターを含有する。プロモーターは、構造遺伝子(一般に、約100~1000bp以内)の開始コドンの上流(すなわち5’側)に位置し、構造遺伝子の転写を制御する非転写配列である。従来、プロモーターは、2つのクラス:誘導性プロモーター及び構成的プロモーターの一方に分類される。誘導性プロモーターは、栄養素の有無、又は温度の変化などの培養条件のいくつかの変化に応じて、その制御下でDNAからの転写レベルの上昇を引き起こす。一方、構成的プロモーターは、それらが動作可能に連結されている遺伝子を一律に、すなわち遺伝子発現に対する制御を殆ど又は全く行わずに転写する。様々な潜在的な宿主細胞によって認識される多数のプロモーターがよく知られている。
【0088】
哺乳類宿主細胞と共に使用するのに好適なプロモーターはよく知られており、以下に限定されないが、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(アデノウイルス2型など)、ウシパピローマウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、及びシミアンウイルス40(SV40)などのウイルスのゲノムから得られるものが挙げられる。他の好適な哺乳類プロモーターとしては、異種哺乳類プロモーター、例えば熱ショックプロモーター及びアクチンプロモーターが挙げられる。
【0089】
対象となり得るさらなるプロモーターとしては、下記のものが挙げられるがこれらに限定されない:SV40初期プロモーター(Benoist and Chambon,1981,Nature 290:304-310);CMVプロモーター(Thornsen et al.,1984,Proc.Natl.Acad.U.S.A.81:659-663);ラウス肉腫ウイルスの3’側の長い末端反復に含有されるプロモーター(Yamamoto et al.,1980,Cell 22:787-797)、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagner et al.,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.78:1444-1445);グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH);メタロチオニン遺伝子由来のプロモーター及び調節配列(Prinster et al.,1982,Nature 296:39-42);及びベータ-ラクタマーゼプロモーターなどの原核生物プロモーター(Villa-Kamaroff et al.,1978,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.75:3727-3731);又はtacプロモーター(DeBoer et al.,1983,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.80:21-25)。また、対象となるのは、組織特異性を示し、トランスジェニック動物に利用されている以下の動物転写制御領域である:膵腺房細胞において活性であるエラスターゼI遺伝子制御領域(Swift et al.,1984,Cell 38:639-646;Ornitz et al.,1986,Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.50:399-409;MacDonald,1987,Hepatology 7:425-515);膵ベータ細胞において活性なインスリン遺伝子制御領域(Hanahan,1985,Nature 315:115-122);リンパ球系細胞において活性な免疫グロブリン遺伝子制御領域(Grosschedl et al.,1984,Cell 38:647-658;Adames et al.,1985,Nature 318:533-538;Alexander et al.,1987,Mol.Cell.Biol.7:1436-1444);精巣、乳房、リンパ球及び肥満細胞において活性なマウス乳癌ウイルス制御領域(Leder et al.,1986,Cell 45:485-495);肝臓において活性なアルブミン遺伝子制御領域(Pinkert et al.,1987,Genes and Devel.1:268-276);肝臓において活性なアルファ-フェト-タンパク質遺伝子制御領域(Krumlauf et al.,1985,Mol.Cell.Biol.5:1639-1648;Hammer et al.,1987,Science 253:53-58);肝臓において活性なアルファ1-アンチトリプシン遺伝子制御領域(Kelsey et al.,1987,Genes and Devel.1:161-171);骨髄細胞において活性なベータ-グロビン遺伝子制御領域(Mogram et al.,1985,Nature 315:338-340;Kollias et al.,1986,Cell 46:89-94);脳内のオリゴデンドロサイト細胞において活性なミエリン塩基性タンパク質遺伝子制御領域(Readhead et al.,1987,Cell 48:703-712);骨格筋において活性なミオシン軽鎖-2遺伝子制御領域(Sani,1985,Nature 314:283-286);並びに視床下部において活性な性腺刺激放出ホルモン遺伝子制御領域(Mason et al.,1986,Science 234:1372-1378)。
【0090】
高等真核生物による転写を増大させるために、エンハンサー配列をベクターに挿入し得る。エンハンサーは、プロモーターに作用して転写を増大させる、通常約10~300bp長のDNAのシス作用性エレメントである。エンハンサーは、方向及び位置に比較的依存せず、転写単位に対して5’側及び3’側の両方の位置で見出されている。哺乳類遺伝子から入手可能ないくつかのエンハンサー配列が知られている(例えば、グロビン、エラスターゼ、アルブミン、アルファ-フェトプロテイン及びインスリン)。しかし、典型的には、ウイルス由来のエンハンサーが使用される。当該技術分野で知られているSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、ポリオーマエンハンサー及びアデノウイルスエンハンサーは、真核生物プロモーターの活性化のための例示的な増強エレメントである。エンハンサーは、ベクターにおいてコード配列の5’側又は3’側のいずれにも位置し得るが、典型的には、プロモーターからの5’側の部位に位置する。
【0091】
目的のタンパク質の細胞外分泌を促進するために、適切な天然又は異種シグナル配列(リーダー配列又はシグナルペプチド)をコードする配列を、発現ベクターに組み込むことができる。シグナルペプチド又はリーダーの選択は、目的のタンパク質を産生させようとする宿主細胞型に依存し、異種シグナル配列を天然のシグナル配列を置き換えることができる。哺乳類宿主細胞において機能するシグナルペプチドの例としては、以下のものが挙げられる:米国特許第4,965,195号明細書に記載のインターロイキン-7に対するシグナル配列;Cosman et al.,1984,Nature 312:768に記載されているインターロイキン-2受容体に対するシグナル配列;欧州特許第0367566号明細書に記載されているインターロイキン-4受容体シグナルペプチド;米国特許第4,968,607号明細書に記載されているI型インターロイキン-1受容体シグナルペプチド;欧州特許第0460846号明細書に記載されているII型インターロイキン-1受容体シグナルペプチド。
【0092】
哺乳類発現ベクターからの異種遺伝子の発現を改善することが示されているさらなる制御配列としては、CHO細胞に由来する発現増強配列エレメント(EASE)(Morris et al.,Animal Cell Technology,pp.529-534(1997);米国特許第6,312,951B1号明細書、同第6,027,915号明細書及び同第6,309,841B1号明細書)、並びにアデノウイルス2型に由来する三部構成リーダー(TPL)及びVA遺伝子RNA(Gingeras et al.,1982,J.Biol.Chem.257:13475-13491)などのエレメントが挙げられる。ウイルス起源の内部リボソーム進入部位(IRES)配列により、バイシストロン性mRNAを効率的に翻訳することが可能となる(Oh and Sarnow,1993,Current Opinion in Genetics and Development 3:295-300;Ramesh et al.,1996,Nucleic Acids Research 24:2697-2700)。
【0093】
構築後、1つ以上のベクターが増幅及び/又はポリペプチド発現に好適な細胞に挿入され得る。選択された細胞への発現ベクターの形質転換は、トランスフェクション、感染、リン酸カルシウムによる共沈、エレクトロポレーション、ヌクレオフェクション、マイクロインジェクション、DEAE-デキストラン介在性トランスフェクション、カチオン性脂質介在性送達、リポソーム介在性トランスフェクション、微粒子銃、受容体介在性遺伝子送達、ポリリシン、ヒストン、キトサン及びペプチドが介在する送達を含むよく知られた方法で行われ得る。選択される方法は、ある程度、使用される宿主細胞のタイプに依存する。これらの方法及び他の好適な方法は、当業者によく知られており、マニュアル及び他の技術出版物、例えばSambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(2001)に記載されている。
【0094】
「形質転換」という用語は、細胞の遺伝的特徴の変化を指し、細胞が新しいDNA又はRNAを含有するように改変された場合、細胞は形質転換されている。例えば、トランスフェクション、形質導入又は他の技術によって新しい遺伝物質を導入することにより、細胞がその天然状態から遺伝子改変された場合、細胞は形質転換されている。トランスフェクション又は形質導入の後、形質転換DNAは、細胞の染色体に物理的に組み込むことにより、その細胞のDNAと組換えられるか、又はエピソームエレメントとして複製されることなく一過性に維持されるか、又はプラスミドとして独立して複製され得る。形質転換DNAが細胞分裂と共に複製される場合、細胞は「安定的に形質転換」されたとみなされる。
【0095】
「トランスフェクション」という用語は、細胞による外来又は外因性のDNAの取り込みを指す。多くのトランスフェクション技術が当該技術分野でよく知られており、本明細書中で開示されている。例えば、Graham et al.,1973,Virology 52:456;Sambrook et al.,2001,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,前出;Davis et al.,1986,Basic Methods in Molecular Biology,Elsevier;Chu et al.,1981,Gene 13:197を参照されたい。
【0096】
「形質導入」という用語は、ウイルスベクターを介して外来DNAが細胞に導入されるプロセスを指す。Jones et al.,(1998).Genetics:principles and analysis.Boston:Jones & Bartlett Publを参照されたい。
【0097】
細胞培養プロセスの説明
本明細書に記載される方法では、低減した量のIGF-1を使用するか、又はIGF-1を全く使用しないことは、生産稼働の任意又は全ての段階で行うことができる。生産のために使用される細胞培養培地は、本明細書では第2の細胞培養培地と呼ばれることがある。この第2の細胞培養培地は、第1の細胞培養培地と同じ濃度のIGF-1を有する必要はない。第2の細胞培養培地は、IGF-1含有量が0.05mg/L以下、0.03mg/L以下、0.02mg/L以下、0.01mg/L以下であるか、又はIGF-1を全く含まないものとし得る。例えば、IGF-1は、種スケール、生産スケール(N)、又はその間のどの時点においても(例えば、N-1、N-2など)、0.03mg/L以下まで低減することができる。生産スケールでは、必要に応じて、初期細胞培養培地及び/又は灌流培地若しくは流加フィード培地中でIGF-1を低減させることができる。
【0098】
本開示の方法は、撹拌槽リアクター(スピンフィルターを含んでもよいが、含む必要はない、従来の回分及び流加細胞培養を含む)、灌流システム(交互タンジェンシャルフロー(「ATF」)培養、音響灌流システム、デプスフィルター灌流システム、及び他のシステムを含む)、中空糸型バイオリアクター(HFB、場合によっては灌流プロセスに用いてもよい)、並びに種々の他の細胞培養法(例えば、その全体が参考として本明細書に組み込まれる、Tao et al.,2003,Biotechnol.Bioeng.82:751-65;Kuystermans & Al-Rubeai,(2011)“Bioreactor Systems for Producing Antibody from Mammalian Cells” in Antibody Expression and Production,Cell Engineering 7:25-52,Al-Rubeai(ed)Springer;Catapano et al.,(2009)“Bioreactor Design and Scale-Up”in Cell and Tissue Reaction Engineering;Principles and Practice,Eibl et al.(eds)Springer-Verlagを参照されたい)において増殖させる付着培養又は懸濁培養に適用可能である。
【0099】
組換えタンパク質を生産する間、細胞を所望の密度まで増殖させ、次いで、細胞がより多くの細胞を作る代わりに目的の組換えタンパク質を生産するようにエネルギー及び培養基を使用する、増殖が停止した高生産状態に細胞の生理学的状態を切り替える制御されたシステムを有することが望ましい。この目的を達成するための様々な方法が存在しており、温度変化及びアミノ酸欠乏、並びに細胞死を引き起こさずに細胞の増殖を停止させることができる細胞周期阻害剤又は他の分子の使用が含まれる。
【0100】
組換えタンパク質の生産は、培養プレート、フラスコ、チューブ、バイオリアクター又は他の好適な容器内でタンパク質を発現する細胞の哺乳類細胞生産培養を確立することから始まる。典型的にはより小型の生産バイオリアクターが使用され、一実施形態では、バイオリアクターは500L~2000Lである。別の実施形態では、1000L~2000Lのバイオリアクターが使用される。バイオリアクターの播種に用いられる種細胞密度は、生産される組換えタンパク質のレベルに良い影響を及ぼし得る。一実施形態では、無血清培養培地中に少なくとも0.5×106以下且つ3.0×106生存細胞/mL超でバイオリアクターに播種する。別の実施形態では、播種は、1.0×106生存細胞/mLである。
【0101】
次いで、哺乳類細胞は指数増殖期を経る。細胞培養は、所望の細胞密度が達成されるまで、追加のフィードを行わずに維持され得る。一実施形態では、追加のフィードの有無に関わらず、細胞培養を最大で3日間維持する。別の実施形態では、短期間の増殖期を伴わずに生産期を開始させるように、所望の細胞密度で培養物を播種し得る。本明細書中の実施形態のいずれかでは、増殖期から生産期への切り替えは、前述の方法のいずれかにより開始させることもできる。
【0102】
増殖期から生産期の間の移行時、及び生産期の間、充填細胞容積率(PCV%)は35%以下である。例えば、生産期の間、維持される望ましい充填細胞容積は、35%以下、30%以下、20%以下、15%以下、又は10%以下である。
【0103】
増殖期から生産期の間の移行時、及び生産期の間に維持される望ましい生存細胞密度は、プロジェクトに応じて様々であり得る。この望ましい生存細胞密度は、履歴データの対応する充填細胞容積に基づいて決定することができる。例えば、生存細胞密度は、少なくとも約10×106生存細胞/mL~80×106生存細胞/mL、少なくとも約10×106生存細胞/mL~70×106生存細胞/mL、少なくとも約10×106生存細胞/mL~60×106生存細胞/mL、少なくとも約10×106生存細胞/mL~50×106生存細胞/mL、少なくとも約10×106生存細胞/mL~40×106生存細胞/mL、少なくとも約10×106生存細胞/mL~30×106生存細胞/mL、少なくとも約10×106生存細胞/mL~20×106生存細胞/mL、少なくとも約20×106生存細胞/mL~30×106生存細胞/mL、少なくとも約20×106生存細胞/mL~少なくとも約25×106生存細胞/mL又は少なくとも約20×106生存細胞/mLであり得る。
【0104】
生産期の間の充填細胞容積が少ないと、より高い細胞密度での灌流培養を妨げるおそれのある溶存酸素のスパージングの問題が軽減される。また、充填細胞容積が少ないと、培地容積を少なくすることができ、これによってより小型の培地保存容器を使用することが可能となり、より遅い流量と組み合わせることができる。また、充填細胞容積が少ないと、より多量の細胞のバイオマス培養と比較して、回収及び下流プロセスに及ぼす影響も少なくなる。これらの全てにより、組換えタンパク質治療薬の製造に関連するコストが削減される。
【0105】
哺乳類細胞培養によって組換えタンパク質を生産するために、回分培養、流加培養及び灌流培養という3つの方法が商業的なプロセスとして一般的に使用される。回分培養は、短期間で固定容積の培養培地中で細胞を増殖させた後に完全な回収を行う非連続的な方法である。回分法を用いて増殖させた培養物は、最大細胞密度に達するまで細胞密度の上昇を経験し、その後、培地成分が消費され、且つ代謝副産物(乳酸及びアンモニアなど)のレベルが蓄積されるにつれて生存細胞密度が低下する。回収は、典型的には、最大細胞密度に到達した時点で行われる(例えば、培地配合、細胞株などに応じて、5×106細胞/mL以上)。回分プロセスは最も簡単な培養法であるが、生存細胞密度が栄養素利用性によって制限され、細胞が最大密度となった時点で培養物が減少し、生産が低下する。老廃物が蓄積し、栄養素が枯渇することによって培養物が急速に減少するため、生産期を延長することはできない(典型的には3~7日前後)。
【0106】
流加培養は、消費された培地成分を補充するためにボーラス培地又は連続培地のフィードを提供することによって、回分プロセスを改善するものである。流加培養は、稼働全体を通して追加の栄養素を受けるため、回分法と比較した場合に、より高い細胞密度(培地配合、細胞株などに応じて>10~30×106細胞/ml)及び生産力価の上昇を達成する可能性がある。回分プロセスとは異なり、フィード方式及び培地配合を操作することによって二相培養を生成及び維持し、望ましい細胞密度を達成するための細胞増殖期間(増殖期)を細胞増殖の停止又は停滞期間(生産期)と区別することができる。そのため、回分培養と比較して、流加培養では、より高い生産力価を実現する可能性がある。典型的には、増殖期の間、回分法が用いられ、生産期の間、流加法が用いられるが、プロセス全体を通じて流加フィード方式を用いることができる。しかしながら、回分プロセスとは異なり、バイオリアクターの容積が制限因子となり、フィード量が制限される。また、回分法と同様に、代謝副産物の蓄積により培養物が減少し、これによって生産期の期間が約10~21日に制限される。流加培養は不連続的なものであり、典型的には代謝副産物のレベル又は培養物の生存率が所定のレベルに達したときに回収が行われる。フィードを行わない回分培養と比較した場合、流加培養では、より大量の組換えタンパク質を生産し得る。例えば、米国特許第5,672,502号明細書を参照されたい。
【0107】
灌流法は、新鮮な培地を添加し、それと同時に使用済み培地を除去することにより、回分法及び流加法と比較して改善の可能性を提供するものである。典型的な大規模の商業用細胞培養方式では、リアクター容積のほぼ3分の1から2分の1以上がバイオマスとなる60~90(+)×106細胞/mLという高い細胞密度を達成することを目指している。灌流培養によって、>1×108細胞/mLという非常に高い細胞密度が達成されており、さらにより高い密度が予測されている。典型的な灌流培養は、1日又は2日間続く回分培養を開始することから始まり、その後、培養物の増殖期及び生産期全体を通して、細胞及びさらなる高分子量化合物、例えばタンパク質(フィルターの分画分子量に基づく)を保持しながら、新鮮なフィード培地を培養物に連続的、段階的及び/又は間欠的に添加し、それと同時に使用済み培地を除去する。細胞密度を維持しながら使用済み培地を除去するために、沈降、遠心分離又は濾過などの様々な方法が使用され得る。1日当たり僅かな作業容積から1日当たり多くの複数の作業容積までの灌流流量が報告されている。
【0108】
灌流プロセスの利点は、回分培養法又は流加培養法よりも生産培養を長期間維持し得ることである。しかしながら、長期の灌流培養、特に高い細胞密度での培養を支えるためには、より多くの培地を調製し、使用し、保管し且つ廃棄する必要があり、またより多くの栄養素も必要ととなり、これら全てによって回分法及び流加法と比較して生産コストがさらに高くなる。加えて、細胞密度が高いと、溶存酸素レベルの維持などの生産期間中の問題、及びより多くの酸素を供給してより多くの二酸化炭素を除去することを含むガス処理の増加に伴う問題が引き起こされる可能性があり、これによってより多くの泡が生じ、消泡方式を変更する必要が生じ、同様に、回収及び下流プロセス中に、過剰な細胞物質を除去するために必要とされる労力によって生産物の損失がもたらされ、これによって細胞量の増加に起因して力価が上昇するという利点が打ち消され得る。
【0109】
また、増殖期の間の流加フィードの後に生産期の間の連続灌流を組み合わせる大規模細胞培養方式も提供される。本方法は、細胞培養物を35%以下の充填細胞容積で維持する生産期を目的とするものである。
【0110】
一実施形態では、増殖期の間の細胞培養を維持するために、ボーラスフィードによる流加培養を使用する。その後、生産期の間、灌流フィードを使用することができる。一実施形態では、細胞が生産期に達したときに灌流を開始する。別の実施形態では、細胞培養の約3日目~約9日目に灌流を開始する。別の実施形態では、細胞培養の約5日目~約7日目に灌流を開始する。
【0111】
増殖期の間、ボーラスフィードを使用すると、細胞を生産期に移行させることが可能となり、その結果、生産期を開始し制御する手段として温度変化に対する依存が減るが、増殖期から生産期の間に約36℃から約31℃の温度変化が起こり得る。一実施形態では、この変化は36℃から32℃への変化である。
【0112】
本明細書に記載されるように、無血清培養培地中に少なくとも0.5×106生存細胞/mLから3.0×106生存細胞/mL以上、例えば1.0×106生存細胞/mLでバイオリアクターに播種することができる。
【0113】
灌流培養では、細胞培養物に新鮮な灌流フィード培地が供給され、同時に使用済み培地が除去される。灌流は、連続的、段階的、断続的であるか、又はこれらのいずれか若しくは全ての組み合わせであり得る。灌流速度は、1日当たりの作業容積未満から多くの作業容積であり得る。細胞は培養物中に保持され、除去される使用済み培地には細胞が実質的に含まれないか、又は含まれる細胞は培養物に比べ極めて少ない。細胞培養により発現された組換えタンパク質もまた、培養物中に保持され得る。灌流は、遠心分離、沈降又は濾過を含む多くの手段によって達成することができる。例えば、Voisard et al.,2003,Biotechnology and Bioengineering 82:751-65を参照されたい。濾過方法の一例としては、交互タンジェンシャルフロー濾過がある。交互タンジェンシャルフローは、中空繊維フィルターモジュールを通して培地をポンプ注入することにより維持される。例えば、米国特許第6,544,424号明細書;Furey,2002,Gen.Eng.News.22(7):62-63を参照されたい。
【0114】
「灌流流量」とは、バイオリアクターを通過する(添加及び除去される)培地の量であり、典型的には、所定時間内の一部又は複数の作業容積で表される。「作業容積」とは、細胞培養に使用されるバイオリアクターの容積の量を指す。一実施形態では、灌流流量は1日当たり1作業容積以下である。灌流フィード培地は、灌流栄養素濃度を最大化して、灌流速度を最小化するように配合され得る。
【0115】
細胞培養物に、細胞培養物の生産期の過程で消費される栄養素及びアミノ酸などの成分を含む濃縮フィード培地を補充し得る。
【0116】
濃縮フィード培地は、殆どのあらゆる細胞培養培地処方物を基準にし得る。このような濃縮フィード培地は、細胞培養培地の成分の大部分を、例えば、それらの通常の量の約5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、12倍、14倍、16倍、20倍、30倍、50倍、100倍、200倍、400倍、600倍、800倍又は約1000倍で含有し得る。濃縮フィード培地は、多くの場合、流加培養プロセスで使用される。
【0117】
複数期培養プロセスにおける組換えタンパク質の生産を改善するために、本発明による方法を使用することができる。多段階プロセスでは、細胞は、2以上の異なる期で培養される。例えば、細胞は、最初に細胞の増殖及び生存率を最大化させる環境条件下、1つ以上の増殖期で培養され、次いで、タンパク質生産を最大化する条件下、生産期に移行され得る。哺乳類細胞によってタンパク質を生産するための商業的プロセスでは、最終的な生産培養に先行する異なる培養容器中で行われる、一般的に複数の、例えば少なくとも約2、3、4、5、6、7、8、9又は10の増殖期がある。
【0118】
増殖期及び生産期は、1つ以上の移行期が先行するか、又は1つ以上の移行期で隔てられ得る。複数基プロセスでは、本発明による方法は、少なくとも商業用細胞培養の最終生産期の増殖期及び生産期に使用され得るが、先行する増殖期に使用することもできる。生産期は大規模で行われ得る。大規模プロセスは、少なくとも約100、500、1000、2000、3000、5000、7000、8000、10,000、15,000、20,000リットルの容積で行われ得る。一実施形態では、生産は、500L、1000L及び/又は2000Lのバイオリアクター中で行われる。
【0119】
増殖期は、生産期よりも高温で起こり得る。例えば、増殖期は、約35℃~約38℃の第1の温度で起こり得、生産期は、約29℃~約37℃、任意選択により約30℃~約36℃、又は約30℃~約34℃の第2の温度で起こり得る。加えて、例えばカフェイン、酪酸塩及びヘキサメチレンビスアセトアミド(HMBA)などのタンパク質生産の化学的誘導物質を、温度変化と同時に、温度変化の前に且つ/又は温度変化の後に添加し得る。誘導物質が温度変化の後に添加される場合、温度変化の1時間~5日後、任意選択により温度変化の1~2日後に添加し得る。細胞培養は、細胞が所望のタンパク質を産生する間、数日又は数週間維持することができる。
【0120】
当該技術分野において知られた分析技術のいずれかを使用して、細胞培養物からの試料を監視し評価し得る。組換えタンパク質並びに培地の品質及び特性を含む様々なパラメーターを培養期間中、監視し得る。試料は、連続監視、リアルタイム又はほぼリアルタイムを含む所望の頻度で断続的に採取し監視し得る。
【0121】
典型的には、最終生産培養に先行する細胞培養(N-x~N-1)を用いて、生産バイオリアクターに播種するのに使用される種細胞、N-1培養を生成する。種細胞密度は、生産される組換えタンパク質のレベルに良い影響を及ぼし得る。生産レベルは、種密度が上昇するにつれて高くなる傾向がある。力価の向上は、より高い種密度と結び付けられるだけでなく、生産のために投入される細胞の代謝及び細胞周期の状態にも影響する可能性がある。
【0122】
種細胞は、任意の培養方法によって作製し得る。そのような方法の1つは、交互タンジェンシャルフロー濾過を用いた灌流培養である。交互タンジェンシャルフロー濾過を使用してN-1バイオリアクターを稼働させ、生産バイオリアクターに播種するための高密度の細胞を提供し得る。N-1段階を使用して、細胞を>90×106細胞/mLの密度まで増殖させ得る。N-1バイオリアクターは、ボーラス種培養物を生成させるために使用することができるか、又は複数の生産バイオリアクターに高い種細胞密度で播種するために維持され得る回転種ストック培養として使用することができる。生産物の増殖段階の期間は7日~14日の範囲であり得、生産バイオリアクターの播種前に細胞を指数増殖状態に維持するように設計され得る。細胞を増殖させるために、灌流速度、培地配合及びタイミングを最適化し、生産の最適化を最も促しやすい状態で細胞を生産バイオリアクターに送達する。種細胞密度を>15×106細胞/mLとすることによって、生産バイオリアクターへの播種を達成し得る。播種時の種細胞密度を高くすることで、所望の生産密度に到達するために必要とされる時間を短縮又は削減し得る。
【0123】
特定の実施形態では、本開示の哺乳類宿主細胞及び方法を、高収量の目的タンパク質を生成するために使用することができる。高収量又は高容積の生産性とは、目的のタンパク質を高レベルで生産する細胞の能力を指す。特定の収量は、目的のタンパク質に依存するものであり、哺乳類宿主細胞に好適なフィード培地を使用し、且つアミノ酸、ビタミン又は微量元素を含むが、IGF-1含有量を減少させるか又はIGF-1を欠いた流加又は灌流条件で増殖させた10日目の培養物中で、少なくとも0.05g/L、少なくとも0.1g/L、少なくとも0.15g/L、少なくとも0.2g/L、少なくとも0.25g/L、少なくとも0.3g/L、少なくとも0.35g/L、少なくとも0.4g/L、少なくとも0.45g/L、少なくとも0.5g/L、少なくとも0.6g/L、少なくとも0.7g/L、少なくとも0.8g/L、少なくとも0.9g/L、少なくとも1g/L、少なくとも1.5g/L、少なくとも2g/L、又はそれ以上であり得る。特定の実施形態では、本開示の宿主細胞及び方法は、目的のタンパク質を発現し、上記に記載した培養条件下で増殖させた場合に、少なくとも0.5g/L、少なくとも0.6g/L、少なくとも0.7g/L、少なくとも0.8g/L、少なくとも0.9g/L、少なくとも1g/L、少なくとも1.5g/L、少なくとも2g/L、又はそれ以上、好ましくは最大で約3g/L、4g/L、5g/L、又は10g/Lを生産することが可能である。
【0124】
収量はまた、細胞株の比生産性の観点から測定することができ、1細胞が1日に産生するタンパク質の量に基づいて決定される(pg/細胞/日で表される)。本開示の哺乳類宿主細胞は、哺乳類宿主細胞に好適なフィード培地を使用し、且つアミノ酸、ビタミン又は微量元素を含むが、IGF-1含有量を減少させるか又はIGF-1を欠いた流加又は灌流条件で増殖させた10日目の培養物中で、少なくとも1pg/細胞/日、少なくとも2pg/細胞/日、少なくとも3pg/細胞/日、少なくとも4pg/細胞/日、少なくとも5pg/細胞/日、少なくとも6pg/細胞/日、少なくとも7pg/細胞/日、少なくとも8pg/細胞/日、少なくとも9pg/細胞/日、少なくとも10pg/細胞/日、少なくとも11pg/細胞/日、少なくとも12pg/細胞/日、少なくとも13pg/細胞/日、少なくとも14pg/細胞/日、少なくとも15pg/細胞/日、少なくとも20pg/細胞/日、少なくとも25pg/細胞/日、又はそれ以上、好ましくは最大で50pg/細胞/日を生産することが可能である。特定の実施形態では、本開示の哺乳類宿主細胞は、目的のタンパク質を発現し、上記に記載される培養条件下で、少なくとも10pg/細胞/日、少なくとも11pg/細胞/日、少なくとも12pg/細胞/日、少なくとも13pg/細胞/日、少なくとも14pg/細胞/日、少なくとも15pg/細胞/日、少なくとも20pg/細胞/日、少なくとも25pg/細胞/日、又はそれ以上、好ましくは最大で50pg/細胞/日の比生産性を有する。
【0125】
本明細書に記載の方法は、目的のタンパク質を発現する細胞を培養するために使用することができる。発現タンパク質は、培養培地中に分泌されてもよく、そこから回収及び/又は収集することができる。さらに、タンパク質は、そのような培養物又は成分から(例えば、培養培地から)、既知のプロセス及び販売業者から入手可能な製品を用いて、精製又は部分的に精製され得る。精製されたタンパク質は、その後、「製剤化」することができ、これは、緩衝液交換、滅菌、バルク包装、及び/又は最終使用者のための包装を意味する。医薬組成物に好適な製剤としては、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th ed. 1995, Mack Publishing Company,Easton,Pa.に記載のものが挙げられる。
【0126】
目的のタンパク質
目的のポリペプチド及びタンパク質は、タンパク質ベースの治療薬を含む科学的又は商業的な目的のものであってもよい。目的のタンパク質として、特に、分泌タンパク質、非分泌タンパク質、細胞内タンパク質、又は膜結合型タンパク質が挙げられる。目的のポリペプチド及びタンパク質は、細胞培養法を用いる組換え動物細胞株によって産生することができ、「組換えタンパク質」と称され得る。発現タンパク質は、細胞内で産生されても、培養培地中に分泌されてもよく、そこから回収及び/又は収集することができる。「単離されたタンパク質」又は「単離された組換えタンパク質」という用語は、その治療的、診断的、予防的、研究又は他の使用を妨げるタンパク質若しくはポリペプチド又は他の汚染物質から精製される、目的のポリペプチド又はタンパク質を指す。目的のタンパク質として、標的、特に、そこから誘導される標的、それらに関連する標的、及びそれらの改変を含む、下記に列挙されるもののなかの標的に結合することによって治療効果を発揮するタンパク質が挙げられる。
【0127】
目的のタンパク質として、「抗原結合タンパク質」が挙げられる。抗原結合タンパク質は、結合する別の分子(抗原)に親和性を有する抗原結合領域又は抗原結合部分を含むタンパク質又はポリペプチドを指す。抗原結合タンパク質には、抗体、ペプチボディ、抗体断片、抗体誘導体、抗体アナログ、融合タンパク質(単鎖可変フラグメント(scFv)、二重鎖(二価)scFv、及びIgGscFv(例えば、Orcutt et al.,2010,Protein Eng Des Sel 23:221-228を参照されたい)を含む)、ヘテロIgG(例えば、Liu et al.,2015,J Biol Chem 290:7535-7562を参照されたい)、ムテイン、並びにXmAb(登録商標)(Xencor,Inc.、Monrovia、CA)が包含される。抗原結合タンパク質の例としては、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、組換え抗体、単鎖抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、IgD抗体、IgE抗体、IgM抗体、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、又はIgG4抗体、及びそのこれらの断片が挙げられる。また、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE(登録商標))、半減期延長などの延長を有する二重特異性T細胞エンゲージャー、例えばHLE BiTE、HeteroIg BITEなど、キメラ抗原受容体(CAR、CAR T)、及びT細胞受容体(TCR)も挙げられる。
【0128】
本明細書で使用される場合、「抗原結合タンパク質」という用語は、最も広い意味で用いられ、抗原又は標的に結合する部分と、任意選択により、抗原結合タンパク質の抗原への結合を促進する立体構造を抗原結合部分が取ることを可能にする足場又はフレームワーク部分とを含むタンパク質を意味する。抗原結合タンパク質は、例えば、グラフト化CDR又はCDR誘導体を有する代替のタンパク質足場又は人工の足場を含み得る。そのような足場としては、例えば、生体適合性ポリマーを含む完全な合成足場だけでなく、例えば、抗原結合タンパク質の三次元構造を安定化するために導入される変異を含む抗体に由来する足場が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、Korndorfer et al.,2003,Proteins:Structure,Function,and Bioinformatics,53(1):121-129;Roque et al.,2004,Biotechnol.Prog.20:639-654を参照されたい。加えて、ペプチド抗体模倣体(「PAM」)、並びに足場としてフィブロネクチン成分を用いる抗体模倣体に基づく足場も使用され得る。
【0129】
抗原結合タンパク質は、例えば、天然に存在する免疫グロブリンの構造を有し得る。「免疫グロブリン」は、四量体分子である。天然に存在する免疫グロブリンにおいて、各四量体は、各対が1つの「軽」鎖(約25kDa)及び1つの「重」鎖(約50~70kDa)を有する2つの同一の対のポリペプチド鎖から構成される。各鎖のアミノ末端部分は、抗原認識に主に関与する約100~110個以上のアミノ酸からなる可変領域を含む。各鎖のカルボキシ末端部分は、主にエフェクター機能に関与する定常領域を規定する。ヒト軽鎖は、カッパ軽鎖及びラムダ軽鎖に分類される。重鎖は、ミュー、デルタ、ガンマ、アルファ、又はイプシロンとして分類され、抗体のアイソタイプはIgM、IgD、IgG、IgA、及びIgEとそれぞれ定義される。
【0130】
天然に存在する免疫グロブリン鎖は、相補性決定領域又はCDRとも呼ばれる3つの超可変領域によって連結された比較的保存されたフレームワーク領域(FR)の同じ一般構造を示す。N末端からC末端まで、軽鎖及び重鎖の両方が、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3及びFR4を含む。各ドメインへのアミノ酸の割り当ては、Kabat et al.Sequences of Proteins of Immunological Interest,5thEd.,US Dept.of Health and Human Services,PHS,NIH,NIH Publication no.91-3242,(1991)の定義に従って行うことができる。必要に応じて、Chothiaのような代替の命名スキームに従ってCDRを再定義することもできる(Chothia and Lesk,1987,J.Mol.Biol.196:901-917;Chothia et al.,1989,Nature 342:878-883又はHonegger and Pluckthun,2001,J.Mol.Biol.309:657-670を参照されたい)。
【0131】
本開示の文脈では、抗原結合タンパク質は、解離定数(KD)が≦10-8Mである場合に、その標的抗原に「特異的に結合する」又は「選択的に結合する」と言われる。抗体は、KDが≦5×10-9Mである場合は「高い親和性」で抗原と特異的に結合し、KDが≦5×10-10Mの場合は「極めて高い親和性」で抗原と特異的に結合する。
【0132】
「抗体」という用語は、特に指定のない限り、任意のアイソタイプ若しくはサブクラスのグリコシル化及び非グリコシル化免疫グロブリンの両方、又は特異的結合についてインタクトな抗体と競合するその抗原結合領域への言及を含む。加えて、「抗体」という用語は、特に指定のない限り、インタクトな免疫グロブリン、又は特異的結合についてインタクトな抗体と競合するその抗原結合部分を指す。抗原結合部分は、組換えDNA技術、又はインタクト抗体の酵素的若しくは化学的切断によって生成することができ、目的のタンパク質のエレメントを形成することができる。特に指定のない限り、抗体は、ヒト、ヒト化、キメラ、多特異性、モノクローナル、ポリクローナル、ヘテロIgG、二重特異性、及びそれらのオリゴマー又は抗原結合フラグメントを含む。抗体は、lgG1、lgG2、lgG3又はlgG4型を含む。また、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、ダイアボディ、Fd、dAb、マキシボディ、単鎖抗体分子、単一ドメインVHH、相補性決定領域(CDR)フラグメント、scFv、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディなどの抗原結合フラグメント又は領域を有するタンパク質、及び標的ポリペプチドへの特異的抗原結合を付与するのに十分な免疫グロブリンの少なくとも一部を含むポリペプチドも含まれる。
【0133】
抗原結合タンパク質は、1つ以上の結合部位を有し得る。2つ以上の結合部位が存在する場合、結合部位は互いに同一であってもよく、又は異なっていてもよい。例えば、天然に存在するヒト免疫グロブリンは、典型的には2つの同一の結合部位を有するが、「二重特異性」又は「二機能性」抗体は、2つの異なる結合部位を有する。
【0134】
FabフラグメントはVL、VH、CL及びCH1ドメインを有する一価フラグメントであり、F(ab’)2フラグメントはヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結される2つのFabフラグメントを有する二価フラグメントであり、FdフラグメントはVH及びCH1ドメインを有し、Fvフラグメントは抗体のシングルアームのVL及びVHドメインを有し、dAbフラグメントは、VHドメイン、VLドメイン、又はVH若しくはVLドメインの抗原結合フラグメントを有する(米国特許第6,846,634号明細書、同第6,696,245号明細書、米国特許出願公開第2005/0202512号明細書、同第2004/0202995号明細書、同第2004/0038291号明細書、同第2004/0009507号明細書、同第2003/0039958号明細書、Ward et al.,1989,Nature 341:544-546)。
【0135】
単鎖抗体(scFv)は、VL及びVH領域がリンカー(例えば、アミノ酸残基の合成配列)を介して結合されて、連続的なタンパク質鎖を形成している抗体であり、リンカーは、タンパク質鎖がそれ自体折り畳まれ、一価の抗原結合部位を形成することを可能にするのに十分な長さである(例えば、Bird et al.,1988,Science 242:423-26及びHuston et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-83)、米国特許第7,741,465号明細書及び同第6,319,494号明細書、並びにEshhar et al.,1997,Cancer Immunol Immunotherapy 45:131-136を参照されたい。scFvは、標的抗原と特異的に相互作用する親抗体の能力を保持している。
【0136】
ダイアボディは、2つのポリペプチド鎖を含む二価抗体であり、各ポリペプチド鎖は、同じ鎖上の2つのドメイン間で対合することが可能となるには短すぎるリンカーによって結合されたVH及びVLドメインを含み、これによって各ドメインは別のポリペプチド鎖上の相補的なドメインと対合することが可能となる(例えば、Holliger et al.,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-48;及びPoljak et al.,1994,Structure 2:1121-23を参照されたい)。ダイアボディの2つのポリペプチド鎖が同一である場合、それらの対合によって得られるダイアボディは、同一の2つの抗原結合部位を有することになる。異なる配列を有するポリペプチド鎖を使用すると、2つの異なる抗原結合部位を有するダイアボディを作製することができる。同様に、トリアボディ及びテトラボディは、それぞれ3本及び4本のポリペプチド鎖から構成され、それぞれ3つ及び4つの抗原結合部位を形成している抗体であり、3つ及び4つの抗原結合部位は同じであっても異なっていてもよい。
【0137】
明確にするために、また、本明細書に記載するように、抗原結合タンパク質はヒト由来(例えば、ヒト抗体)であってよいが、そうである必要はなく、場合によっては非ヒトタンパク質、例えばラット又はマウスタンパク質を含み、他の場合では抗原結合タンパク質はヒトタンパク質と非ヒトタンパク質とのハイブリッド(例えば、ヒト化抗体)を含み得ることに留意する。
【0138】
目的のタンパク質は、ヒト抗体を含み得る。「ヒト抗体」という用語は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する1つ以上の可変領域及び定常領域を有する全ての抗体を含む。一実施形態では、可変ドメイン及び定常ドメインの全てが、ヒト免疫グロブリン配列に由来する(完全ヒト抗体)。このような抗体は、Xenomouse(登録商標)、UltiMab(商標)若しくはVelocimmune(登録商標)系に由来するマウス、又はUniRat(登録商標)に由来するラットなどの、ヒト重鎖及び/又は軽鎖をコードする遺伝子由来の抗体を発現するように遺伝子改変されたマウスの対象となる抗原で免疫化することによる方法を含む、様々な方法で調製することができる。ファージベースの手法を用いることもできる。
【0139】
或いは、目的のタンパク質は、ヒト化抗体を含み得る。「ヒト化抗体」は、1つ以上のアミノ酸置換、欠失、及び/又は付加により、非ヒト種由来の抗体の配列とは異なる配列を有する。そのため、ヒト化抗体は、ヒト対象に投与した場合、非ヒト種抗体と比較して免疫応答を誘導する可能性が低くなり、且つ/又はそれほど深刻ではない免疫応答を誘導する。一実施形態では、非ヒト種抗体の重鎖及び/又は軽鎖のフレームワークドメイン及び定常ドメイン内の特定のアミノ酸を変異させて、ヒト化抗体を生成する。別の実施形態では、ヒト抗体由来の定常ドメインを非ヒト種の可変ドメインに融合させる。ヒト化抗体を作製する方法の例は、米国特許第6,054,297号明細書、同第5,886,152号明細書及び同第5,877,293号明細書に見出され得る。
【0140】
また、非共有結合、共有結合、又は共有結合と非共有結合の両方によって化学的に修飾されたタンパク質などの修飾タンパク質も含まれる。また、細胞改変システムによってなされ得る1つ以上の翻訳後修飾、或いは酵素及び/若しくは化学的方法によってエクスビボで導入されるか又は他の方法で導入される修飾をさらに含むタンパク質も含まれる。
【0141】
目的のタンパク質はまた、例えば、ロイシンジッパー、コイルドコイル、免疫グロブリンのFc部分などの多量体化ドメインを含む組換え融合タンパク質を含み得る。また、分化抗原(CDタンパク質と呼ばれる)のアミノ酸配列の全て若しくは一部を含むタンパク質又はそれらのリガンド、或いはこれらのいずれかと実質的に同様なタンパク質も含まれる。
【0142】
いくつかの実施形態では、目的のタンパク質は、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)などのコロニー刺激因子を含み得る。このようなG-CSF剤としては、Neupogen(登録商標)(フィルグラスチム)及びNeulasta(登録商標)(ペグフィルグラスチム)が含まれるが、これらに限定されない。また、Epogen(登録商標)(エポエチンアルファ)、Aranesp(登録商標)(ダルベポエチンアルファ)、Dynepo(登録商標)(エポエチンデルタ)、Mircera(登録商標)(メトキシポリエチレングリコール-エポエチンベータ)、Hematide(登録商標)、MRK-2578、INS-22、Retacrit(登録商標)(エポエチンゼータ)、Neorecormon(登録商標)(エポエチンベータ)、Silapo(登録商標)(エポエチンゼータ)、Binocrit(登録商標)(エポエチンアルファ)、エポエチンアルファHexal、Abseamed(登録商標)(エポエチンアルファ)、Ratioepo(登録商標)(エポエチンシータ)、Eporatio(登録商標)(エポエチンシータ)、Biopoin(登録商標)(エポエチンシータ)、エポエチンアルファ、エポエチンベータ、エポエチンゼータ、エポエチンシータ、エポエチンデルタ、エポエチンオメガ、エポエチンイオタ、組織プラスミノーゲン活性化因子、GLP-1受容体アゴニスト、並びにそれらの分子又は変異体又はアナログ、及び前述のいずれかのバイオシミラーなどの赤血球造血刺激因子製剤(ESA)も含まれる。
【0143】
いくつかの実施形態では、目的のタンパク質は、1つ以上のCDタンパク質、HER受容体ファミリータンパク質、細胞接着分子、増殖因子、神経成長因子、線維芽細胞増殖因子、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、インスリン様成長因子、骨誘導性因子、インスリン及びインスリン関連タンパク質、凝固及び凝固関連タンパク質、コロニー刺激因子(CSF)、他の血液及び血清タンパク質、血液型抗原;受容体、受容体関連タンパク質、成長ホルモン、成長ホルモン受容体、T細胞受容体;神経栄養因子、ニューロトロフィン、リラキシン、インターフェロン、インターロイキン、ウイルス抗原、リポタンパク質、インテグリン、リウマチ因子、免疫毒素、表面膜タンパク質、輸送タンパク質、ホーミング受容体、アドレシン、調節タンパク質、並びにイムノアドヘシンに特異的に結合するタンパク質を含み得る。
【0144】
いくつかの実施形態では、目的のタンパク質は、単独で又は任意の組み合わせで、以下のうちの1つ以上に結合する:CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD19、CD20、CD22、CD25、CD30、CD33、CD34、CD38、CD40、CD70、CD123、CD133、CD138、CD171及びCD174を含むがこれらに限定されないCDタンパク質、例えばHER2、HER3、HER4を含むHER受容体ファミリータンパク質、及びEGF受容体であるEGFRvIII、細胞接着分子、例えばLFA-1、Mol、p150、95、VLA-4、ICAM-1、VCAM、及びアルファv/ベータ3インテグリン、例えば、血管内皮増殖因子(「VEGF」)を含むがこれらに限定されない増殖因子;VEGFR2、成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、成長ホルモン放出因子、副甲状腺ホルモン、ミュラー抑制物質、ヒトマクロファージ炎症性タンパク質(MIP-1-アルファ)、エリスロポエチン(EPO)、NGF-ベータなどの神経成長因子、血小板由来増殖因子(PDGF)、例えばaFGF及びbFGFを含む線維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子(EGF)、Cripto、とりわけ、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、TGF-β4又はTGF-β5を含むTGF-α及びTGF-βを含むトランスフォーミング増殖因子(TGF)、インスリン様成長因子-I及び-II(IGF-I及びIGF-II)、des(1-3)-IGF-I(脳内IGF-I)及び骨形成促進因子、インスリン、インスリンA鎖、インスリンB鎖、プロインスリン及びインスリン様成長因子結合タンパク質を含むがこれらに限定されないインスリン及びインスリン関連タンパク質;凝固及び凝固関連タンパク質、例えばとりわけ第VIII因子、組織因子、フォンウィルブランド因子、プロテインC、アルファ-1-アンチトリプシン、ウロキナーゼ及び組織プラスミノーゲン活性化因子(「t-PA」)などのプラスミノーゲン活性化因子、ボンバジン、トロンビン、トロンボポエチン、及びトロンボポエチン受容体、とりわけ、M-CSF、GM-CSF及びG-CSFを含むコロニー刺激因子(CSF)、アルブミン、IgE及び血液型抗原を含むがこれらに限定されない他の血液及び血清タンパク質、例えば、flk2/flt3受容体、肥満(OB)受容体、成長ホルモン受容体及びT細胞受容体を含む受容体及び受容体関連タンパク質;骨由来神経栄養因子(BDNF)及びニューロトロフィン-3、-4、-5又は-6(NT-3、NT-4、NT-5又はNT-6)を含むがこれらに限定されない神経栄養因子;リラキシンA鎖、リラキシンB鎖及びプロレラキシン、例えば、インターフェロン-アルファ、-ベータ及び-ガンマを含むインターフェロン、インターロイキン(IL)、例えば、IL-1~IL-10、IL-12、IL-15、IL-17、IL-23、IL-12/IL-23、IL-2Ra、IL1-R1、IL-6受容体、IL-4受容体及び/又はIL-13から受容体であるIL-13RA2又はIL-17受容体、IL-1RAP;AIDSエンベロープウイルス抗原を含むがこれらに限定されないウイルス抗原、リポタンパク質、カルシトニン、グルカゴン、心房性ナトリウム利尿因子、肺サーファクタント、腫瘍壊死因子-アルファ及び-ベータ、エンケファリナーゼ、BCMA、Igカッパ、ROR-1、ERBB2、メソセリン、RANTES(regulated on activation normally T-cell expressed and secreted)、マウスゴナドトロピン関連ペプチド、DNase、FR-アルファ、インヒビン及びアクチビン、インテグリン、プロテインA若しくはD、リウマチ因子、免疫毒素、骨形成タンパク質(BMP)、スーパーオキシドディスムターゼ、表面膜タンパク質、崩壊促進因子(DAF)、AIDSエンベロープ、輸送タンパク質、ホーミング受容体、MIC(MIC-a、MIC-B)、ULBP 1~6、EPCAM、アドレシン、制御タンパク質、イムノアドヘシン、抗原結合タンパク質、ソマトロピン、CTGF、CTLA4、エオタキシン-1、MUC1、CEA、c-MET、クローディン-18、GPC-3、EPHA2、FPA、LMP1、MG7、NY-ESO-1、PSCA、ガングリオシドGD2、ガングリオシドGM2、BAFF、OPGL(RANKL)、ミオスタチン、Dickkopf-1(DKK-1)、Ang2、NGF、IGF-1受容体、肝細胞増殖因子(HGF)、TRAIL-R2、c-Kit、B7RP-1、PSMA、NKG2D-1、プログラム細胞死タンパク質1及びリガンド、PD1及びPDL1、マンノース受容体/hCGβ、C型肝炎ウイルス、メソセリンdsFv[PE38]コンジュゲート、レジオネラニューモフィラ(Legionella pneumophila)(lly)、IFNγ、インターフェロンγ誘導タンパク質10(IP10)、IFNAR、TALL-1、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)、幹細胞因子、Flt-3、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、OX40L、α4β7、血小板特異的血小板糖タンパクIib/IIIb(PAC-1)、トランスフォーミング増殖因子β(TFGβ)、透明帯精子結合タンパク質3(ZP-3)、TWEAK、血小板由来増殖因子受容体α(PDGFRα)、スクレロスチン、並びに前述のいずれかの生物活性フラグメント又はバリアント。
【0145】
別の実施形態では、目的のタンパク質は、アブシキシマブ、アダリムマブ、アデカツムマブ、アフリベルセプト、アレムツズマブ、アリロクマブ、アナキンラ、アタシセプト、バシリキシマブ、ベリムマブ、ベバシズマブ、ビオソズマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブベドチン、ブロダルマブ、カンツズマブメルタンシン、カナキヌマブ、セツキシマブ、セルトリズマブペゴル、コナツムマブ、ダクリズマブ、デノスマブ、エクリズマブ、エドレコロマブ、エファリズマブ、エプラツズマブ、エタネルセプト、エボロクマブ、ガリキシマブ、ガニツマブ、ゲムツズマブ、ゴリムマブ、イブリツモマブチウキセタン、インフリキシマブ、イピリムマブ、レルデリムマブ、ルミリキシマブ、イキセキズマブ(lxdkizumab)、マパツムマブ、モテサニブ二リン酸、ムロモナブ-CD3、ナタリズマブ、ネシリチド、ニモツズマブ、ニボルマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オマリズマブ、オプレルベキン、パリビズマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、ペルツズマブ、パキセリズマブ、ラニビズマブ、リロツムマブ、リツキシマブ、ロミプロスチム、ロモソズマブ、サルグラモスチム、トシリズマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ、ウステキヌマブ、ベドリズマブ、ビジリズマブ、ボロシキシマブ、ザノリムマブ、ザルツムマブ、及び前述のいずれかのバイオシミラーを含む。
【0146】
本発明による目的のタンパク質は、前述の全てを包含し、上述の抗体のいずれかの相補性決定領域(CDR)の1、2、3、4、5又は6を含む抗体をさらに含む。1つ以上のCDRを共有結合的又は非共有結合的に分子に組み込み、これを抗原結合タンパク質としてもよい。抗原結合タンパク質は、より大きなポリペプチド鎖の一部としてCDRを組み込むことができ、そのCDRを別のポリペプチド鎖に共有結合させることができ、又はそのCDRを非共有結合により組み込むことができる。このCDRによって、抗原結合タンパク質を特定の目的の抗原に特異的に結合させることが可能となる。また、目的のタンパク質の参照アミノ酸配列に対して70%以上、特には80%以上、より特には90%以上、さらにより特には95%以上、特には97%以上、より特に98%以上、さらにより特には99%以上のアミノ酸配列が同一である領域を含むバリアントも含まれる。この点に関する同一性は、様々なよく知られ且つ容易に利用可能なアミノ酸配列分析ソフトウェアを使用して特定することができる。好ましいソフトウェアとしては、配列の検索及び整列に関する問題に対する満足な解決策と考えられている、スミス-ウォーターマンアルゴリズムを実装するものが挙げられる。特に速度が重要な考慮事項である場合は、他のアルゴリズムを用いてもよい。この点に関して用いることができる、DNA、RNA及びポリペプチドのアライメント及び相同性マッチングに一般に用いられるプログラムとしては、FASTA、TFASTA、BLASTN、BLASTP、BLASTX、TBLASTN、PROSRCH、BLAZE及びMPSRCHが挙げられ、後者は、MasParによって製造された超並列プロセッサ上で実行するためのスミス-ウォーターマンアルゴリズムが実装されている。
【0147】
目的のタンパク質にはまた、キメラ抗原受容体(CAR又はCAR-T)及びT細胞受容体(TCR)などの遺伝子操作された受容体、並びにその標的抗原と相互作用する抗原結合分子を含む他のタンパク質も含まれ得る。CARは、その標的抗原と相互作用する抗原結合分子を組み込むことにより、抗原(細胞表面抗原など)に結合するように操作することができる。CARは、典型的には、1つ以上の共刺激(「シグナル伝達」)ドメイン及び1つ以上の活性化ドメインとタンデムに抗原結合ドメイン(scFvなど)が組み込まれている。
【0148】
好ましくは、抗原結合分子は、その抗体フラグメントであり、より好ましくは1つ以上の単鎖抗体フラグメント(「scFv」)である。scFvは、他のCAR成分と共に単鎖の一部として発現するように操作することができるため、キメラ抗原受容体に使用することが好ましい。Krause et al.,1988,J.Exp.Med.,188(4);619-626;Finney et al.,1998,J Immunol 161;2791-2797を参照されたい。
【0149】
キメラ抗原受容体は、その効能を高めるために、1つ以上の共刺激(シグナル伝達)ドメインを組み込んでいる。米国特許第7,741,465号明細書及び同第6,319,494号明細書、並びにKrause et al.and Finney et al.(上記)、Song et al.,2012,Blood 119:696-706;Kalos et al.,2011,Sci Transl.Med.3:95;Porter et al.,2011,N.Engl.J.Med.365:725-33,及びGross et al.,2016,Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.56:59-83を参照されたい。好適な共刺激ドメインは、供給源の中でもとりわけ、CD28、CD28T、OX40、4-1BB/CD137、CD2、CD3(アルファ、ベータ、デルタ、イプシロン、ガンマ、ゼータ)、CD4、CD5、CD7、CD8、CD9、CD16、CD22、CD27、CD30、CD 33、CD37、CD40、CD 45、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1(CD1 1a/CD18))、CD247、CD276(B7-H3)、LIGHT(腫瘍壊死因子スーパーファミリーメンバー14;TNFSF14)、NKG2C、Igアルファ(CD79a)、DAP-10、Fcガンマ受容体、MHCクラスI分子、TNF、TNFr、インテグリン、シグナル伝達リンパ球活性化分子、BTLA、Tollリガンド受容体、ICAM-1、B7-H3、CDS、ICAM-1、GITR、BAFFR、LIGHT、HVEM(LIGHTR)、KIRDS2、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、NKp44、NKp30、NKp46、CD19、CD4、CD8アルファ、CD8ベータ、IL-2Rベータ、IL-2Rガンマ、IL-7Rアルファ、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CDl-ld、ITGAE、CD103、ITGAL、CDl-la、LFA-1、ITGAM、CDl-lb、ITGAX、CDl-lc、ITGBl、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、NKG2D、TNFR2、TRANCE/RANKL、DNAM1(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96(Tactile)、CEACAM1、CRT AM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、CD69、SLAMF6(NTB-A、Lyl08)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、LAT、41-BB、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、CD19a、CD83リガンド、又はこれらのフラグメント若しくは組み合わせに由来するものであり得る。共刺激ドメインは、細胞外部分、膜貫通部分及び細胞内部分の1つ以上を含み得る。
【0150】
また、CARには1つ以上の活性化ドメインが含まれる。CD3ゼータは、天然T細胞上のT細胞受容体のエレメントであり、CARにおいて重要な細胞内活性化エレメントであることが示されている。
【0151】
CARは、細胞外ドメインを含み、典型的には目的の抗原を認識して結合することができる抗原結合タンパク質を含み、「ヒンジ」領域も含む膜貫通タンパク質である。加えて、膜貫通ドメイン及び細胞内(細胞質)ドメインがある。
【0152】
細胞外ドメインは、シグナル伝達に有用なものであり、且つ本明細書に記載される任意のタンパク質又はそれらの任意の組み合わせに由来する抗原に対してリンパ球が効率的に応答するのに有益なものである。細胞外ドメインは、合成の供給源又は天然の供給源、例えば、本明細書に記載されるタンパク質に由来するものであってよい。細胞外ドメインは、ヒンジ部分を含むことが多い。ヒンジ部分は、細胞外ドメインの一部であり、「スペーサー」領域と称する場合がある。ヒンジは、標的細胞から所望の特定の距離を達成するような、本明細書に記載されるようなタンパク質、特に上記に記載した共刺激タンパク質、並びに免疫グロブリン(Ig)配列又は他の好適な分子に由来するものであってよい。
【0153】
膜貫通ドメインは、CARの細胞外ドメインに融合されていてもよい。同様に、CARの細胞内ドメインに融合されていてもよい。膜貫通ドメインは、合成の供給源又は天然の供給源、例えば、本明細書に記載されるタンパク質、特に上記に記載した共刺激タンパク質に由来するものであってよい。
【0154】
細胞内(細胞質)ドメインは、膜貫通ドメインに融合されていてもよく、免疫細胞の正常なエフェクター機能の少なくとも1つの活性化をもたらすことができる。T細胞のエフェクター機能は、例えば、細胞溶解活性又はサイトカインの分泌を含むヘルパー活性であり得る。細胞内ドメインは、本明細書に記載されるタンパク質、特にCD3に由来するものであってよい。
【0155】
「Fc」領域は、この用語が本明細書で使用される場合、抗体のCH2ドメイン及びCH3ドメインを含む2つの重鎖フラグメントから構成されている。2つの重鎖断片は、2個以上のジスルフィド結合及びCH3ドメインの疎水性相互作用によって結合されている。抗原結合タンパク質及びFc融合タンパク質を含む、Fc領域を含む目的のタンパク質は、本開示の別の態様を構成する。
【0156】
「ヘミボディ」とは、完全な重鎖と、完全な軽鎖と、完全な重鎖のFc領域と対合する第2の重鎖Fc領域とを含む免疫学的に機能的な免疫グロブリン構築物である。重鎖Fc領域と第2の重鎖Fc領域を結合するためにリンカーを使用することができるが、必ずしもそうである必要はない。特定の実施形態では、ヘミボディは、本明細書に開示される一価形態の抗原結合タンパク質である。他の実施形態では、荷電残基の対合を用いて一方のFc領域を第2のFc領域と結合させることができる。ヘミボディは、本開示の文脈における目的のタンパク質であり得る。
【0157】
本発明によるポリヌクレオチド、ポリペプチド、ベクター、宿主細胞、免疫細胞、組成物などを作製するために、様々な知られた技法を利用することができる。
【0158】
本発明は、本発明の個々の態様の単一の説明として意図されている本明細書に記載の特定の実施形態によって範囲が限定されるものではなく、機能的に同等の方法及び構成要素は本発明の範囲内である。実際、本明細書中に示され、記載されるものに加えて本発明の様々な変更形態は、上記及び添付の図面から当業者には明らかになろう。そのような変更形態は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
【実施例】
【0159】
実施例1
ルーチン培養のため、細胞を選択培地で懸濁培養した。培養は、125mL若しくは250mLのエルレンマイヤー振盪フラスコ(Corning Life Sciences、Lowell、MA)、50mLの通気スピンチューブ(TPP、Trasadingen、Switzerland)又はAxygen(登録商標)24ウェルのディープウェルプレート(Axygen、Union City、CA)において、36℃、5%のCO2及び相対湿度85%で維持した。エルレンマイヤーフラスコは大容量の自動CO2インキュベーター(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA)内で120rpm、軌道径25mmで振盪し、スピンチューブは大容量のISF4-Xインキュベーター(Kuhner AG、Basel、Switzerland)内で225rpm、軌道径50mmで振盪した。
【0160】
IGF-1を含まない培地へのCHO GSKO宿主細胞の適応
グルタミンシンテターゼノックアウト(GSKO)宿主細胞株を、IGF-1(Long R3 IGF-1)を含まない培地に適応させた。これらの宿主細胞を、2つの異なる方法を用いて適応させた。第1の方法は、IGF-1(Long R3 IGF-1)を含まない独自の培地への段階的適応であった。この培地は、GSKO宿主細胞のための標準的な非選択宿主細胞培地ではなく、したがって、細胞を、まず、100%IGF-1(Long R3 IGF-1)培地を含有する異なる独自の培地に適応させ、次いで、IGF-1を以下の増分で徐々に取り出した: 75%、50%、25%、10%、最終的にIGF-1を含まない。適応期間は110の集団倍加レベル(PDL)に及んだ。
図1Aを参照されたい。これらの適応細胞株は、おそらく独自の培地の浸透圧が異なるため、IGF-1を含む親宿主ほどよく機能しなかった(データは示さず)。したがって、これらの細胞を、IGF-1を含まないGSKO宿主用のプラットフォーム非選択培地に移した。これらの宿主を全てバンクし、Berkeley Lights(BLI)Beacon装置を用いて単一細胞をクローニングした。合計で158のクローンが得られた。
【0161】
第2の方法は直接適応であった。GSKO宿主細胞株を、IGF-1を含まない独自の培地に直接適応させた。これらの宿主を全てバンクし、Berkeley Lights(BLI)Beacon装置を用いて単一細胞をクローニングした。完全回復に、約1.5か月の期間がかかった。
図1Bを参照されたい。合計で44のクローンが得られた。
【0162】
Berkeley Lights法を用いた単一細胞クローニング:
クローン由来の細胞バンクを確保するために、IGF-適応細胞株を、特定の条件下でBeacon装置(Berkeley Lights、Emeryville、CA)を用いて単一細胞クローニングを行った。Long R3 IGF-1を含まない独自の培地を、単一細胞クローニングのために使用し、両方の宿主についてスケールアップした。ビーコン装置は、単一細胞操作、細胞培養、及び生産性分析を可能にする小型化された細胞培養プラットフォームである。この装置では、細胞は、制御された温度、無菌環境、及び増殖培地の連続潅流下で、「ナノペン」と呼ばれる1000個を超える個々の容器からなるナノ流体チップ上で単離して培養される。層流は、交差汚染がないことを確実にするために、培養期間を通して維持される。オプトエレクトロポジショニング(Opto-Electro Positioning)(OEP)技術は、光活性化表面トランジスタを使用して、細胞をはじくための局所的な電荷を生成することによって、細胞操作を可能にする。OEPは、個々の細胞をナノペンの内外に穏やかに案内するために使用される。統合された顕微鏡機能は、生細胞イメージング、単一細胞のローディング、イメージング、及び培養物のエクスポートを可能にし、ソフトウェアによって自動化及び制御され、トレーサビリティを確実にする。単一細胞クローンを、反復オンインスツルメント顕微鏡イメージングを用いて単一細胞起源について検証した。Le et al.,2020,Biotech J 15:1900247及びLe et al.,2018,Biotechnol Prog 34:1438-1446を参照されたい。
【0163】
GSKOバックグラウンドのIGF-細胞株について、非クローン細胞プールを新しいナノ流体チップ上に移入し、単一細胞をOEPを用いて個々のナノペンに単離した。統合顕微鏡イメージングを使用して、単一細胞起源の細胞を含有するナノペンを特定した。クローンを個々のナノペンで3日間培養した。次いで、ナノペンを増殖について分析した。細胞集団をクローン誘導について検証し、様々な増殖プロファイルを選択した。選択したクローンを、チップから独立して96ウェルマイクロタイタープレートの個々のウェルにエクスポートした。検出可能な交差汚染がないことを確実にするために、厳しい品質管理ステップがこのアプローチに組み込まれる。クローン由来の統計的決定は、クローン由来細胞株の単離の高い保証を実証する。Le et l.,2020,Biotech J 15:1900247を参照されたい。
【0164】
エクスポート後、単一細胞由来細胞株を、Long R3 IGF-1を含まない独自の(+gln)非選択増殖培地でスケールアップした。90%を超える生存率を達成し、増殖が安定化するまで、細胞株を継代した。次いで、細胞株を、Long R3 IGF-1及びDMSOを含まない非選択増殖培地にバンクし、-80℃未満で長期保存のために凍結した。
【0165】
GSKO-IGF適応単一細胞宿主は、24時間の倍加時間を有していた(
図3A-B)。さらなる評価のための単一細胞宿主をまず、ストリンジェントなトランスフェクション/流加評価における能力に基づいて絞り込み、次いで、10~15日の流加評価における評価として、良好に挙動するモノクローナル抗体を用いたトランスフェクションによってさらに評価した。
【0166】
実施例2
IGF-1の補充なしで増殖し治療薬を発現するこれらのIGF-適応宿主細胞の能力を、トランスフェクション及び10D~15D FB(10~15日間の流加)生産実験で試験した。
【0167】
CS9 GSKOバックグラウンドの単一細胞クローン化IGF-適応細胞株における試験モノクローナル抗体分子のトランスフェクション及び回復
GSKO IGF
-適応宿主を、トランスフェクション及び流加評価によって、単一細胞クローニングの前に好ましい結果を有する概念実験の証拠において試験した(データは示さず)。GSKOバックグラウンドのIGF
-単一細胞クローニング適合細胞株について、独自のILTトランスポザーゼを含有するプラスミドに加えて、良好に挙動するモノクローナル抗体のための環状pGS1.1PBプラスミドを、プラットフォーム長時間エレクトロポレーションプロトコールを用いてトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞株を、Long R3 IGF-1を含まない非選択培地で、36℃及び5%のCO
2で3日間回復させた。トランスフェクトした宿主細胞を、36℃及び5%のCO
2で、>90%に回復するまで、独自の培地+Long R3 IGF-1を含まない25μM MSX選択増殖培地(-グルタミン)で3~4日ごとに継代した。(
図3)。次いで、これらのGSKO IGF
-細胞株を、15D流加生産工程で評価した。
【0168】
流加生産細胞培養
GSKOバックグラウンドのLong R3 IGF-1を含まない培地に適合させたトランスフェクト細胞株の増殖及び生産性を評価するために、15日間の流加生産を行った。培養物を、Long R3 IGF-1を含まない基本生産培地に、3×10
6細胞/mL(GSKOベース)で播種し、GSKO培養物のための追加の栄養素を3、6、8、10及び13日目に供給した。GSKO培養物を、15日目、又は生存率が50~60%に低下したときに回収した(
図4A~D)。生産上清を力価について分析した(プロテインA HPLC)。
【0169】
トランスフェクトされた細胞株は、IGF-1を有するGSKO細胞株の範囲内のいくつかで、様々なレベルの増殖及び生産性を示した。
【0170】
実施例3
IGF-1の非補充下で増殖し、種々のモダリティの治療薬を発現するこれらのIGF-適応宿主細胞の能力を、トランスフェクション、及び異なる環状piggyBAC適合ITR含有ベクターを使用したことを除いて、実施例2の方法を使用した10D-15D FB(10~15日の流加)生産実験を行った。平均値は、2回実施した実験からのものである。NAは、培養物が既に回収されており、そのためデータが入手できないことを示している。
【0171】
BiTE-二重特異性T細胞エンゲージャー
融合-融合タンパク質
ヘテロIg-ヘテロIg二重特異性抗体
mAb-モノクローナル抗体
3本鎖Ab-3本鎖非対称抗体様分子
【0172】
表1~4は、それぞれIVCD、生存率%、力価及びQpを示す。
【0173】
【0174】
【0175】
【0176】
【0177】
IGF-適応細胞株は様々なレベルの増殖及び生産性を示したが、IGF-1を有するGSKO細胞株と同等であった。
【0178】
実施例4
IGF-適応トランスフェクト宿主細胞株を、実施例2に一般的に記載されているように、15D FB(15日の流加)生産実験において、モノクローナル抗体を発現するベクターを使用して、生産スケール200Lのバイオリアクターにおいて試験した。
【0179】
増殖及び力価は、IGF-条件に適応されていない細胞株を用いた同様の生産工程で見られるものと同等であった。
【国際調査報告】