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  • 特表-船舶用燃料ブレンド 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】船舶用燃料ブレンド
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/02 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
C10L1/02
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024515124
(86)(22)【出願日】2022-09-06
(85)【翻訳文提出日】2024-05-07
(86)【国際出願番号】 FI2022050590
(87)【国際公開番号】W WO2023037050
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】20215938
(32)【優先日】2021-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505081261
【氏名又は名称】ネステ オサケ ユキチュア ユルキネン
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハーラ、リーッカ-マリ
(72)【発明者】
【氏名】カルビネン、エスコ
(72)【発明者】
【氏名】キースキ、ウッラ
(72)【発明者】
【氏名】コウバ、メルヤ
【テーマコード(参考)】
4H013
【Fターム(参考)】
4H013BA00
(57)【要約】
本発明は、EN ISO 3104:2020にしたがって50℃で測定される動粘度が2~30mm2/sであり、および、0.5~50vol-%のパーム油廃液スラッジボトムを含む船舶用燃料ブレンドに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EN ISO 3104:2020にしたがって50℃で測定される動粘度が2~30mm2/sであり、および、0.5~50vol-%のパーム油廃液スラッジボトムを含む船舶用燃料ブレンドであって、前記船舶用燃料ブレンドが、船舶用燃料に関するISO 8217:2017(E)のカテゴリーの少なくとも1つを満たしている船舶用燃料ブレンド。
【請求項2】
EN ISO 3104:2020にしたがって50℃で測定される動粘度が5~15mm2/sである請求項1記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項3】
ASTM D5950-14(2020)によって測定されて、最も高くて30℃の流動点を有する請求項1または2記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項4】
ASTM D5950-14(2020)によって測定されて、15~30℃の流動点を有する請求項3記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項5】
ASTM D5950-14(2020)によって測定されて、20~30℃の流動点を有する請求項4記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項6】
ISO 10307-2:2009によって測定される経年沈殿物の量が0.05wt-%未満である請求項1~5のいずれか1項に記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項7】
ISO 6245:2002によって測定されて、0.04wt-%未満の灰分含有率を有する請求項1~6のいずれか1項に記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項8】
ISO 8754:2003によって測定されて、最大で0.1wt-%である硫黄含有量有する請求項1~7のいずれか1項に記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項9】
10~30vol-%のパーム油廃液スラッジボトムを含む請求項1~8のいずれか1項に記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項10】
脂肪酸メチルエステルをさらに含む請求項1~9のいずれか1項に記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項11】
前記脂肪酸メチルエステルの量が、最大で10vol-%である請求項10記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項12】
蒸留物船舶用燃料、残渣船舶用燃料、またはそれらの混合物を含む請求項1~11のいずれか1項に記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項13】
欧州議会および理事会の指令2018/2001にしたがって計算されたCO2eq/MJとして少なくとも9%の温室効果ガス排出量を削減するための請求項1~12のいずれか1項に記載の船舶用燃料ブレンドの使用。
【請求項14】
EN ISO 3104:2020にしたがって50℃で測定される動粘度が2~30mm2/sである船舶用燃料ブレンドを製造するための方法であって、化石ベースの成分を0.5~50vol-%のパーム油廃液スラッジボトムと混合する工程を含み、結果として得られる船舶用燃料ブレンドは、船舶用燃料に関するISO 8217:2017(E)のカテゴリーの少なくとも1つを満たしている、船舶用燃料ブレンドを製造するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用燃料ブレンド、および船舶用燃料ブレンドの使用に関する。
【0002】
船舶用燃料は伝統的に化石オイルをベースとしており、通常、陸上車両に使用されるガソリンおよびディーゼルなどよりも粘度が高い。しかしながら、公害および気候変動に関連する問題のため、例えばより低い硫黄含有量を有する船舶用燃料も提供する必要がある。もうひとつの必要性は、温室効果ガス(GHG)の排出を削減することである。国際海事機関IMOの目標は、実際に、2050年までに国際海運からのGHG年間総排出量を2008年のレベルと比較して少なくとも50%削減することである。この目標は、例えばモーターおよびオペレーションの効率を改善することで達成され得るかもしれないが、代替燃料も必要である。
【0003】
パーム油スラッジ、いわゆるパーム油工場廃油(POME油)またはパーム油廃液スラッジ(PES)は、パーム油製造の副産物であるスラリーである。現在では価値の低い廃棄物と見なされているが、さらに処理することで他の最終用途を見出すことができ、処理製品の価値を高めることができる。
【0004】
PESの処理のひとつに蒸留があり、通常その前に1または複数回の精製処理が行われる。遊離脂肪酸の除去を目的とする場合、蒸留の最高温度は通常260℃である。このような蒸留は当然、揮発性有機化合物の除去にもつながる。蒸留は通常、加圧下(3~5mbar(絶対圧)など)で行われる。遊離脂肪酸の除去を促進するために、スチームストリッピングがしばしば使用される。得られた製品には、したがって、PES原油直留の蒸留塔底留分であるパーム油廃液スラッジボトムが含まれる。これは精製パーム油工場廃液(精製POME)とも称される。蒸留により遊離脂肪酸が除去され、より低い全酸価(TAN)がもたらされる。
【0005】
特許文献1には、硫黄含有量の低い環境に優しいバイオバンカーCオイルの製造方法が開示されている。この方法では、まずパーム果実を温度処理し、圧搾および精製してパーム原料油を得る。このパーム原料油はさらに精製され、精製、漂白、および脱臭されたパーム油とパーム油副産物を与える。このパーム油副生液をろ過し、そして有機溶媒を加えて完全に溶解させる。その後、溶解したパーム油副生成物に水分除去剤を接触させて水分を除去し、水分が除去されたパーム油副生成物から遠心分離により不純物を除去され、そして有機溶媒を除去して精製パーム油副生成物の製造が完了する。最後に、精製パーム油副生成物とバンカーC油とが混合され、バイオバンカーC油の製造が完了される。
【0006】
パーム油廃液スラッジボトムのための使用を提供することが目的である。別の目的は、代替的な船舶用燃料および船舶用燃料ブレンドを提供することである。さらに別の目的は、従来の船舶用燃料よりも化石由来成分が少ない船舶用燃料ブレンドを提供すること、すなわち、その中に再生可能成分を有する船舶用燃料ブレンドを提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2012/108584号
【発明の概要】
【0008】
本発明は、独立請求項の特徴によって定義される。いくつかの具体的な実施形態は従属請求項に定義される。一態様において、EN ISO 3104:2020にしたがって50℃で測定された動粘度が2~30mm2/sであり、および、0.5~50vol-%パーム油廃液スラッジボトムを含む船舶用燃料ブレンドが提供され、ここで、船舶用燃料ブレンドは、船舶用燃料に関するISO 8217:2017(E)のカテゴリーの少なくとも1つを満たしている。別の態様において、温室効果ガスの排出を削減するための海洋燃料ブレンドの使用が提供される。成分の体積%に依存するブレンド成分について、GHG排出の削減は、欧州議会および理事会の指令2018/2001にしたがって計算されたCO2eq/MJとして少なくとも9%である。さらなる態様において、少なくとも50wt-%のカルダノールを含む精製カシューナッツ殻液の、EN ISO 3104:2020にしたがって50℃で測定された動粘度が2~30mm2/sであり、化石ベースの成分を0.5~50vol-%のパーム油廃液スラッジボトムと混合することを含み、結果として得られる船舶用燃料ブレンドが、船舶用燃料に関するISO 8217:2017(E)のカテゴリーの少なくとも1つを満たす船舶用燃料ブレンドを製造するための方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態におけるいくつかのブレンドの算出された流動点に対する測定された流動点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、重量%(wt-%)はブレンドの総計の重量に基づいて算出される。体積%(vol-%)もまた、ブレンドの総計の体積に基づいて計算される。
【0011】
再生可能燃料成分の文脈における「再生可能(renewable)」との用語は、任意の再生可能な供給源に由来する(すなわち、いかなる化石ベースの供給源にも由来しない)1つまたはそれ以上の有機化合物を指す。したがって、再生可能燃料成分は、再生可能な供給源に基づくものであり、および、その結果、いかなる化石ベースの材料にも起源をもたず、また、由来もしない。このような成分は、化石源に由来する同様の成分と比較してより高い14C同位体含有量を必然的に有していることによって特徴づけられる。前記より高い14C同位体含有量は、再生可能燃料成分を特徴付け、およびそれを化石燃料から区別する固有の特徴である。したがって、ブレンドの一部が部分的に化石ベースの材料、および部分的に再生可能燃料成分に基づいている燃料ブレンドにおいて、再生可能成分は、14C活性を測定することによって決定され得る。14C分析(炭素年代測定または放射性炭素分析とも称される)は、12Cと比較した同位体14Cの崩壊速度に基づいて人工物の年代を決定する確立されたアプローチである。再生可能材料は、化石材料ほど古くなく、そのため、材料の種類は14C:14Cの非常に異なる比率を含んでいるため、この方法は、バイオ/化石混合物中の再生可能材料の物理的な割合留分を決定するために使用され得る。したがって、前記同位体の特定の比率は、再生可能炭素化合物を同定し、およびそれを非再生可能炭素化合物から区別するための「タグ(tag)」として使用され得る。再生可能成分は現代の大気中の14C活性を反映する一方、化石燃料(石油、石炭)中には、14Cはほとんど存在しない。したがって、対象とする任意の物質の再生可能な留分は、その14C含有量に比例している。燃料ブレンドのサンプルは、燃料中の再生可能源由来炭素の量を決定するために反応後分析されてもよい。このアプローチは、コプロセスされる燃料または混合されたフィードストックから製造される燃料のどちらにも等しく機能するであろう。燃料ブレンドの再生可能性は直接測定され得るため、この方法を使用する場合、必ずしも投入原料を試験する必要がないことに留意すべきである。同位体比は化学反応中に変化しない。したがって、同位体比は、再生可能な異性体パラフィン組成物、再生可能な炭化水素、再生可能なモノマー、再生可能なポリマー、ならびに前記ポリマーに由来する材料および製品を同定するために、および、非再生可能な材料からそれらを区別するために使用することができる。生物起源の原料のフィードストックとは、ASTM D6866(2018)に記載されるように、14C、13Cおよび/または12Cを含む同位体分布による放射性炭素分析を用いて決定され得る、再生可能な(すなわち、現代またはバイオベースまたはバイオ起源の)炭素、14C含有成分のみを有する材料を意味する。生物学的または再生可能な供給源からの炭素の含有量を分析するための適切な方法の他の例は、DIN 51637(2014)またはEN 16640(2017)である。
【0012】
本発明では目的に関し、ASTM D6866で測定されて現代炭素(pMC)が90%以上含まれる、例えば100%現代炭素である場合に、例えばフィードストックまたは生成物などの炭素含有材料が生物学的、すなわち再生可能な起源であるとみなされる。
【0013】
本明細書において、「船舶用燃料に関するISO 8217:2017(E)のカテゴリー(category of ISO 8217:2017(E))」とは、同規格の表1および2に「カテゴリーISO-F-」として記載されている様々なカテゴリー(DMX、DMA、DFA、DMZ、RMA、RMG、RMD、RMGなど)を意味する。船舶用燃料に関するISO 8217:2017(E)のカテゴリーの少なくとも1つを満たす船舶用燃料ブレンドは、したがって、例えばRMGなどの単一のカテゴリーの全ての要件を満たす船舶用燃料ブレンドであり、すなわち、これはRMGとして分類される船舶用燃料が必要とされる用途に使用され得る。
【0014】
本発明の一態様において、EN ISO 3104:2020にしたがって50℃で測定した動粘度が2~30mm2/sであり、および、0.5~50vol-%のパーム油廃液スラッジボトムを含む船舶用燃料ブレンドが提供され、ここで、船舶用燃料ブレンドは船舶用燃料に関するISO 8217:2017(E)のカテゴリーの少なくとも1つを満たしている。
【0015】
したがって、船舶用燃料ブレンドは、本明細書においてはPESボトムとも称される、パーム油廃液スラッジボトムをある特定の量で含む。船舶用燃料ブレンドはまた、船舶用燃料に関するISO 8217:2017(E)のカテゴリーの少なくとも1つを満たし、この規格にはいくつかの異なる船舶用燃料カテゴリーが記載されている。したがって、本発明の船舶用燃料ブレンドは、より厳しい環境要件を満たすための脱炭素船舶用燃料ブレンドを提供することを可能にする。それはまた、食品産業には使用できない成分を含む船舶用燃料ブレンドも提供する。本発明の船舶用燃料ブレンドに使用される再生可能成分は、スケーラブルであり、および経済的である。
【0016】
本発明の船舶用燃料ブレンドは、混合(ブレンド)温度または混合(ミキシング)温度で液体であるPESボトムを使用する。実際、PESボトムを溶解する必要はなく、他の成分と混合され得る段階にするために加熱が十分であるため、したがってPESボトムに特定の溶媒を使用する必要もない。したがって、このプロセスおよび結果として得られる船舶用燃料ブレンドには溶媒がない、すなわち溶媒が存在していない。
【0017】
本発明の船舶用燃料ブレンドに使用されるPESボトムは、好ましくは以下のように製造される。パーム油工場からの製品、すなわち粗パーム油工場排水(POME)油が最初に前処理される、すなわち、沈降、脱ガム、および漂白またはこれらの任意の組み合わせによって精製される。この前処理により、原料中の水分、不溶性および可溶性の不純物の量が減少する。その後、前処理した原料を蒸留し、POME油から遊離脂肪酸を分離する。本発明の船舶用燃料ブレンドに使用されるPESボトムは、この蒸留工程の塔底(ボトム)留分として得られ、最大260℃のカットポイントを有する。本発明の船舶用燃料ブレンドの特に有利な特性は、特定のブレンドについて、予想される計算値よりも良好な(すなわち低い)流動点を有することである。
【0018】
したがって、本発明のPESボトムの製造に使用される「粗POME(crude POME)」は、上述特許文献1で使用される「パーム原料油(palm raw oil)」のストリーム(精製パーム油およびパーム油副産物へのフィードのさらなる精製および分離後)とは異なる、パーム油製造プロセスのより早い段階で得られる廃液のストリームである。したがって、本発明の「PESボトム」は、特許文献1で使用された「パーム油副産物」とは異なる、パーム油製造プロセスの副産物である。
【0019】
船舶用燃料ブレンドの動粘度は、EN ISO 3104:2020にしたがって50℃で測定されて、2~30mm2/s、好ましくは、5~15mm2/sである。動粘度は、例えば、EN ISO 3104:2020にしたがって50℃で測定されて、2、3、4、5、7、10、12、13、15、18、20、22または25mm2/sから、5、7、10、12、13、15、18、20、22、25、27または30mm2/sまでなどであり得る。
【0020】
一実施形態において、船舶用燃料ブレンドは、ASTM D5950-14(2020)によって測定されて、最も高くて30℃の流動点を有する。流動点は、実際に0℃より低くてもよく、および、30℃である上限は、船舶用燃料の要件を満たす。好ましい実施形態において、ASTM D5950-14(2020)によって測定されて、流動点は15~30℃、より好ましくは、20~30℃である。したがって、流動点は、例えば、ASTM D5950-14(2020)によって測定されて、1、5、10、15または20℃から、5、10、15、20、25または30℃までであってよい。上述したように、いくつかの成分の組み合わせにおいて、流動点は計算値よりも低く、これは以下の実験の部において示される。
【0021】
別の実施形態において、船舶用燃料ブレンドは、ISO 10307-2:2009で測定される経年沈殿物の量が0.05wt-%未満である。この量は、船舶用燃料に関する規格で言及されている最大0.1wt-%の要件を満たす。経年沈殿物の量は、0.04、0.03、0.02、0.01wt-%未満でさえあり得る。
【0022】
船舶用燃料ブレンドはまた、ISO 6245:2002で測定されて、0.04wt-%未満の灰分含有率を有し得る。この灰分含有量は、船舶用燃料の規格の要件を満たす。配分含有量は、0.03、0.02、または0.01wt-%未満でさえあり得る。
【0023】
船舶用燃料ブレンドの硫黄含有量は、ISO 8754:2003で測定されて、好ましくは最大で0.1wt-%である。この硫黄含有量は、Sulphur Emission Control Area(SECAエリア)のための要件を満たす。硫黄含有量は、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04もしくは0.03wt-%未満、またはさらに低くさえあり得る。
【0024】
本発明の船舶用燃料ブレンドは、0.5~50vol-%のパーム油廃液スラッジボトム、好ましくは10~30vol-%のパーム油廃液スラッジボトムを含む。したがって、ブレンド中のPESボトムの量は、船舶用燃料ブレンドの総量から計算して、0.5、1、3、5、7、10、12、15、18、20、25、30、35または40vol-%から1、3、5、7、10、12、15、18、20、25、30、35、40、45または50vol-%までとすることができる。いくつかの実施形態において、ブレンド中のPESボトムの量は12vol-%~50vol-%、または18vol-%~46vol-%である。
【0025】
船舶用燃料ブレンドは、再生可能由来の他の燃料成分を含んでもよい。例えば、脂肪酸メチルエステル(FAME)を含んでいてもよい。FAMEは、脂肪とメタノールとのトランスエステル化によって得られる脂肪酸エステルの一種であり、通常、植物油からトランスエステル化によって得られる。FAMEの量は、多くて10vol-%である。例えば、FAMEの量は、船舶用燃料ブレンドの総量を基準として、多くても9、8、7、6、5、4、3、2または1vol-%とすることができる。
【0026】
船舶用燃料ブレンドの化石部分は、蒸留物船舶用燃料または複数の燃料、残渣船舶用燃料または複数の燃料、またはそれらの混合物を含み得る。例えば、船舶用燃料ブレンドは、10vol-%での残渣船舶用燃料、最大で50vol-%でのPESボトム、蒸留物船舶用燃料の残余物を含み得る。
【0027】
船舶用燃料ブレンドの組成は、例えば、残渣船舶用燃料90vol-%およびPESボトム10vol-%であってもよい。代替的には、残渣船舶用燃料80vol-%およびPESボトム20vol-%、または残渣船舶用燃料83vol-%およびPESボトム10vol-%およびFAME7vol-%の組成であってもよい。
【0028】
船舶用燃料ブレンドはまた、コプロセッシング成分、すなわち化石由来の油が従来の化石燃料加工システムで再生可能由来のフィールドとコプロセッシングされた成分を含んでいてもよい。
【0029】
本発明の船舶用燃料ブレンドは、任意の公知の船舶用燃料またはそれらの混合物を含み得る。例えば、それは、ISO 8217:2017(E)におけるそれらの特性によって定義される船舶用燃料、すなわちDMX、DMA、DFA、DMZ、DFZ、DMB、DFB、RMA、RMB、RMD、RME、RMGまたはRMK、例えばRMG180、RMG380、RMG500またはRMG700またはRMK380、RMK500またはRMK700などを含んでいてもよい。
【0030】
例えば、船舶用燃料は、残渣の燃料であり、水素化分解された残渣油であるLCO(Light Cycle Oil、流動接触分解装置からのディーゼル沸点範囲生成物)および/または水素化分解された蒸留物を含むRMGであってもよい。燃料は、典型的には、最大で700mm2/sである50℃動粘度、および、991kg/m3である密度を有する。水素化分解された残渣油の含有量は、典型的には、0~70wt-%の範囲である。水素化分解された残渣油はまた、0~100wt-%の水素化分解された脱アスファルト油を含んでいてもよい。別の実施例において、船舶用燃料は、同様に残渣の燃料であり、(水素化分解された)減圧蒸留物を含む蒸留ガスオイルを含み得るRMBであってもよい。これは典型的には、50℃で30cStの動粘度、最大で960kg/m3である密度、30℃以下の流動点、およびC6~C43の沸点範囲を有する。
【0031】
別の態様において、再生可能な供給源からのエネルギーの使用の促進に関する2018年12月11日の欧州議会および理事会の指令2018/2001にしたがって計算されたCO2eq/MJとして少なくとも4%の温室効果ガス排出量を削減するための船舶用燃料ブレンドの使用が提供される。実際に、GHG排出量の少なくとも9%の削減が、10vol-%のパーム油廃液スラッジボトムを含むブレンドにおいて得られる。20vol-%のこのボトムが使用される場合、GHG排出量の削減は、EU指令2018/2001にしたがって計算されて45%CO2eq/MJである。本発明の船舶用燃料ブレンドの使用は、再生可能な材料を含むため、GHG排出量を削減することを実際に可能にする。したがって、本発明の船舶用燃料ブレンドは、上述したように、温室効果ガスの排出削減に関して、IMOの要求事項を少なくとも部分的に満たしている。
【0032】
さらに別の態様において、EN ISO 3104:2020にしたがって50℃で測定した動粘度が2~30mm2/sである船舶用燃料を製造するための方法であって、該方法は、化石ベース成分を0.5~50vol-%のパーム油廃液スラッジボトムと混合する工程を含み、結果として得られる船舶用燃料は、船舶用燃料に関するISO 8217:2017(E)のカテゴリーの少なくとも1つを満たす、船舶用燃料を製造するための方法が提供される。パーム油廃液スラッジボトムは、上述のものである。
【0033】
開示される本発明の実施形態は、本明細書に開示される特定の構造、プロセス工程、または材料に限定されるものではなく、関連技術分野における通常の当業者によって認識されるであろうそれらの等価物に拡張されることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明する目的のみに使用され、限定を意図するものではないことを理解されたい。
【0034】
さらに、記載された特徴、構造、または特性は、1つまたは複数の実施形態において任意の適切な方法で組み合わせることができる。本明細書では、本発明の実施形態の完全な理解を提供するために、多数の具体的な詳細を提供する。
【0035】
本明細書においては、「含む(to comprise)」および「含む(to include)」という動詞は、参照されていない特徴の存在を排除するものでも、要求するものでもない、開放的な限定として使用されている。従属請求項に記載された特徴は、特に明示しない限り、相互に自由に組み合わせることができる。さらに、本書を通じて「1つ(a)」または「1つ(an)」、すなわち単数形の使用は、複数形を排除するものではないことを理解されたい。
【0036】
実験の部
本発明の船舶用燃料ブレンドは、様々な組成で試験され、および、得られたブレンドが試験された。試験結果を表1および表2に示す。
【0037】
燃料ブレンドに使用したRMBは、重質留分から構成され、および、粘度から残渣の船舶用グレード仕様ISO 8217:2020(E)規格に適合している。
【0038】
使用されたPESボトムは、最大カットポイント260℃の粗PESからの直留ボトム留分であった。
【0039】
使用されたFAMEはEN 14214:2012+A2:2019規格を満たしていた。
【0040】
測定方法は以下の通りであった:
15℃における密度:ISO 12185:1996
流動点:ASTM D5950-14(2020)
50℃における動粘度:EN ISO 3104:2020、方法B
船舶用燃料ブレンドおよびRMBの硫黄含有量:ISO 8754:2003
FAMEの硫黄含有量:分析は蛍光X線分析法に基づいている。
PESボトムの硫黄含有量:ASTMD 7039-15(2013)
引火点:ISO 2719:2016、方法A
FAMEの引火点:ASTMD 7236-16a (2016)
灰分:ISO 6245:2002
炭素残渣:ISO 10370:2014
船舶用燃料ブレンドおよびRMBの全酸価(TAN):ISO 6619:1988
PESボトムおよびRMGの全酸価(TAN):ASTM D664-2018
RMBおよびFAMEの全酸価(TAN):ISO660:2020
総計の沈殿物量:ISO 10307-1:2009
総計の経年沈殿物量:ISO 10307-2A:2009
【0041】
さらに、表1は、以下の式を用いて算出した炭素芳香族度指数(CCAI)を示している:
【数1】
ここで、
D=15℃における密度(kg/m3
V=動粘度(mm2/s)
t=粘度温度(℃)
である。
【0042】
表1において、ISO 8217:2017と題された欄には、船舶用燃料に関する前記規格(ISO 8217:2017(E))の要件が記載されているが、流動点は例外であり、最大は30.0℃として示されている(*印が付されている)。流動点に関する30.0℃という最大の制限値は、特定のRグレードの船舶用燃料の要件である。
【0043】
表2は、計算された流動点(算術平均として)に対する測定された流動点対を示している。このことから、少なくとも80vol-%のRMBと20vol-%のPESの組み合わせは、計算値より4℃低い流動点を有していることがわかる。同じことが 図1に示されている。
【0044】
図1には、横軸にPES含有量がvol-%dで、および、縦軸に流動点(℃)が示されている。点線は計算値を示し、一方、実線は測定の結果、すなわち測定された流動点を示している。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
PESボトムが、RMBと共に10vol-%または20vol-%使用された場合の実験によれば、製造されたブレンドは、最も厳しい流動点の制限を除いて、船舶用燃料規格の要件を満たしている。さらに、20vol-%のPESボトムと80vol-%のRMBを有するブレンドでは、予想よりも良好な流動点の値が測定された。予想より低い流動点は、製品がより低温の条件下で取り扱われることを可能とし、これは例えば加熱のためのエネルギー消費を削減する。
図1
【手続補正書】
【提出日】2023-03-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EN ISO 3104:2020にしたがって50℃で測定される動粘度が2~30mm2/sであり、ならびに
0.5~50vol-%のパーム油廃液スラッジボトム、および
化石ベース成分および/または化石起源のオイルが再生可能起源のフィードとコプロセスされている成分
を含む船舶用燃料ブレンドであって、前記船舶用燃料ブレンドが、船舶用燃料に関するISO 8217:2017(E)のカテゴリーの少なくとも1つを満たしている船舶用燃料ブレンド。
【請求項2】
EN ISO 3104:2020にしたがって50℃で測定される動粘度が5~15mm2/sである請求項1記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項3】
ASTM D5950-14(2020)によって測定されて、最も高くて30℃の流動点を有する請求項1または2記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項4】
ASTM D5950-14(2020)によって測定されて、15~30℃の流動点を有する請求項3記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項5】
ASTM D5950-14(2020)によって測定されて、20~30℃の流動点を有する請求項4記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項6】
ISO 10307-2:2009によって測定される経年沈殿物の量が0.05wt-%未満である請求項1~5のいずれか1項に記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項7】
ISO 6245:2002によって測定されて、0.04wt-%未満の灰分含有率を有する請求項1~6のいずれか1項に記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項8】
ISO 8754:2003によって測定されて、最大で0.1wt-%である硫黄含有量有する請求項1~7のいずれか1項に記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項9】
10~30vol-%のパーム油廃液スラッジボトムを含む請求項1~8のいずれか1項に記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項10】
脂肪酸メチルエステルをさらに含む請求項1~9のいずれか1項に記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項11】
前記脂肪酸メチルエステルの量が、最大で10vol-%である請求項10記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項12】
蒸留物船舶用燃料、残渣船舶用燃料、またはそれらの混合物を含む請求項1~11のいずれか1項に記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項13】
EN ISO 3104:2020にしたがって50℃で測定される動粘度が2~30mm2/sである船舶用燃料ブレンドを製造するための方法であって、化石ベースの成分および/または化石起源のオイルが再生可能起源のフィードとコプロセスされている成分を0.5~50vol-%のパーム油廃液スラッジボトムと混合する工程を含み、結果として得られる船舶用燃料ブレンドは、船舶用燃料に関するISO 8217:2017(E)のカテゴリーの少なくとも1つを満たしている、船舶用燃料ブレンドを製造するための方法。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EN ISO 3104:2020にしたがって50℃で測定される動粘度が2~30mm2/sであり、ならびに
0.5~50vol-%のパーム油廃液スラッジボトム、および
化石ベース成分および/または化石起源のオイルが再生可能起源のフィードとコプロセスされている成分
を含む船舶用燃料ブレンドであって、前記船舶用燃料ブレンドが、船舶用燃料に関するISO 8217:2017(E)のカテゴリーの少なくとも1つを満たしている船舶用燃料ブレンド。
【請求項2】
EN ISO 3104:2020にしたがって50℃で測定される動粘度が5~15mm2/sである請求項1記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項3】
ASTM D5950-14(2020)によって測定されて、最も高くて30℃の流動点を有する請求項記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項4】
ASTM D5950-14(2020)によって測定されて、15~30℃の流動点を有する請求項3記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項5】
ASTM D5950-14(2020)によって測定されて、20~30℃の流動点を有する請求項4記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項6】
ISO 10307-2:2009によって測定される経年沈殿物の量が0.05wt-%未満である請求項記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項7】
ISO 6245:2002によって測定されて、0.04wt-%未満の灰分含有率を有する請求項記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項8】
ISO 8754:2003によって測定されて、最大で0.1wt-%である硫黄含有量有する請求項記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項9】
10~30vol-%のパーム油廃液スラッジボトムを含む請求項記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項10】
脂肪酸メチルエステルをさらに含む請求項記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項11】
前記脂肪酸メチルエステルの量が、最大で10vol-%である請求項10記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項12】
蒸留物船舶用燃料、残渣船舶用燃料、またはそれらの混合物を含む請求項記載の船舶用燃料ブレンド。
【請求項13】
EN ISO 3104:2020にしたがって50℃で測定される動粘度が2~30mm2/sである船舶用燃料ブレンドを製造するための方法であって、化石ベースの成分および/または化石起源のオイルが再生可能起源のフィードとコプロセスされている成分を0.5~50vol-%のパーム油廃液スラッジボトムと混合する工程を含み、結果として得られる船舶用燃料ブレンドは、船舶用燃料に関するISO 8217:2017(E)のカテゴリーの少なくとも1つを満たしている、船舶用燃料ブレンドを製造するための方法。
【国際調査報告】