(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】抗血管新生活性を持つペプチド
(51)【国際特許分類】
C07K 7/00 20060101AFI20240905BHJP
A61K 38/07 20060101ALI20240905BHJP
A61K 38/06 20060101ALI20240905BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20240905BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20240905BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240905BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240905BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240905BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240905BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C07K7/00 ZNA
A61K38/07
A61K38/06
A61K47/54
A61K9/12
A61K9/14
A61K45/00
A61P29/00
A61P35/00
A61P43/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515157
(86)(22)【出願日】2022-09-08
(85)【翻訳文提出日】2024-05-07
(86)【国際出願番号】 EP2022074974
(87)【国際公開番号】W WO2023036867
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】102021000023357
(32)【優先日】2021-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523438647
【氏名又は名称】チェイロンテック エス.アール.エル.
【氏名又は名称原語表記】CHEIRONTECH S.R.L.
【住所又は居所原語表記】Via Agostino Depretis, 51 I-80133 NAPOLI, Italy
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カックリ, フランチェスカ
(72)【発明者】
【氏名】カルソ, アルナルド
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA24
4C076AA29
4C076BB01
4C076BB25
4C076BB27
4C076BB29
4C076BB30
4C076BB32
4C076CC04
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA15
4C084BA16
4C084BA31
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB11
4C084ZB26
4C084ZC54
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA13
4H045EA28
(57)【要約】
本発明は、薬物として使用するための、配列DKY、好ましくはXDKY(配列番号7)若しくはDKYX(配列番号8)、又は配列DRY、好ましくはXDRY(配列番号9)若しくはDRYX(配列番号10)(Xは任意のアミノ酸である)を含む、5アミノ酸以下の長さのペプチド、又はその誘導体に関し、特に病的な血管新生に起因する障害の治療において使用するための、少なくとも1つの薬学的に許容可能な添加剤とともにこれを含む医薬組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物として使用するための、配列DKY、好ましくはXDKY(配列番号7)若しくはDKYX(配列番号8)、又は配列DRY、好ましくはXDRY(配列番号9)若しくはDRYX(配列番号10)(Xは任意のアミノ酸である)を含む、5アミノ酸以下の長さのペプチド、又はその誘導体。
【請求項2】
病的な血管新生に起因する障害の治療に使用するための、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
病的な血管新生に起因する前記障害が、腫瘍、慢性炎症、及び血管新生障害からなる群から選択される、請求項2に記載の使用のためのペプチド。
【請求項4】
前記ペプチドが3又は4アミノ酸に等しい長さを有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の使用のためのペプチド。
【請求項5】
前記誘導体が、N末端及び/又はC末端が、ホスホリル(PO3
2-)、グリコシル、アシル、アルキル、カルボキシル、アミン、ビオチン、及びユビキチンからなる群から選択される有機化合物で化学的に修飾又は保護されたペプチドである、請求項1から3のいずれか1項に記載の使用のためのペプチド。
【請求項6】
(a)配列DKY、好ましくはXDKY(配列番号7)若しくはDKYX(配列番号8)、又は配列DRY、好ましくはXDRY(配列番号9)若しくはDRYX(配列番号10)(Xは任意のアミノ酸である)を含む、5アミノ酸以下の長さのペプチド、又はその誘導体と、(b)少なくとも1つの薬学的に許容可能な添加剤と、を含む医薬組成物。
【請求項7】
前記医薬組成物が、0.0001重量%から20重量%、好ましくは0.0001重量%から15重量%の量の前記ペプチド又はその誘導体を含む、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記組成物が、経口投与、非経口投与、吸入投与(スプレー、粉末又はエアロゾル)、局所投与、直腸投与、鼻腔投与、頬側投与、膣投与、又は埋め込みデバイスを介した投与のために製剤化されている、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記組成物が抗新生物剤、好ましくは(i)アルカロイド、(ii)アルキル化剤、(iii)抗生物質及びアナログ、(iv)代謝拮抗剤、(v)免疫調節剤、(vi)白金錯体、並びに(vii)抗新生物ホルモン若しくはアナログからなる群から選択される抗新生物剤、をさらに含む、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項10】
配列DKY、好ましくはXDKY(配列番号7)若しくはDKYX(配列番号8)、又は配列DRY、好ましくはXDRY(配列番号9)若しくはDRYX(配列番号10)(Xは任意のアミノ酸である)を含む、5アミノ酸以下の長さのペプチド、又はその誘導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば癌、慢性炎症、血管新生障害などの血管新生関連障害の治療に有用な、抗血管新生活性を有するペプチド、及びそれらを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血管新生は血管形成の複雑なプロセスである。このプロセスには、(i)血管新生刺激による内皮細胞(EC)の活性化、(ii)細胞外マトリックスの分解、活性化したECの周辺組織への浸潤、及び血管新生刺激源への移動、(iii)新しい血管を形成するためのECの増殖及び分化、などの生化学的及び細胞学的事象が含まれる。
【0003】
血管新生の制御は、血管新生刺激因子と阻害因子が関与する高度に制御されたプロセスである。ヒトや健康な動物では、血管新生は特定の限られた状況で起こる。例えば、血管新生は通常、胎児や胚の発生、正常な組織及び器官の発生及び成長、創傷治癒、並びに、黄体、子宮内膜、及び胎盤の形成において観察される。
【0004】
ある種の疾患では、血管新生の制御が障害され、いわゆる病的血管新生が起こる。すなわち、病的状態を支持し、多くの場合、これらの疾患に伴う細胞及び/又は組織の損傷の一因となる過剰又は不要な血管が形成される。
【0005】
病的血管新生は腫瘍形成に重要な役割を果たしている。腫瘍は栄養と酸素を供給し、細胞の老廃物を除去するために血管を必要とするからである。同時に、腫瘍に血管が形成されることで、癌細胞が血流に入り全身を循環することが可能になり、転移を引き起こす。
【0006】
血管新生が重要な腫瘍には、固形腫瘍のほか、音響神経腫、神経線維腫、トラコーマ、化膿性肉芽腫などの良性腫瘍がある。病理学的な血管新生はまた、白血病のような特定の血液がん、及び骨髄の種々の急性又は慢性の腫瘍性疾患と関連している。
【0007】
病的血管新生もまた、炎症性腸疾患、乾癬、サルコイドーシス、関節リウマチなどの種々の慢性炎症性疾患において重要な役割を果たしている。このような疾患で起こる慢性炎症は、炎症細胞の流入を維持するために、病変組織に毛細血管芽(sprout)が持続的に形成されることに依存している。炎症細胞の流入と存在は肉芽腫を作り、慢性炎症状態を維持する。
【0008】
血管新生には、正常及び病的の双方において、1つ以上の血管新生因子の作用が必要である。このような因子は、例えばアンジオジェニン(ANG)、血管内皮増殖因子(VEGF- vascular endothelial growth factor)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、上皮成長因子(EGF)、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、腫瘍増殖因子-α(TGF-α)、及び腫瘍増殖因子-β(TGF-β)を含む。
【0009】
無数の血管新生関連疾患における血管新生の重要性は、抗血管新生剤(すなわち、病的血管新生を抑制又は阻害する薬剤)の探索を動機づけた。
【0010】
多くの抗血管新生剤が単離され、あるいは開発されてきた。これらは、軟骨由来因子、抗血管新生ステロイド、抗血管新生性ビタミンDアナログ、アンジオスタチン、エンドスタチン、及びベロスタチンを含む。
【0011】
抗血管新生剤には多くの異なるカテゴリーがあり、例えば、成長因子の作用を阻害する薬剤、抗侵入剤、及び血管障害剤などを含む。
【0012】
成長因子の作用を阻害する薬剤には次のようなものを含む:
(i)受容体拮抗薬、例えば、カナダ国特許第2213833号に記載されているような抗VEGF受容体抗体);
(ii)プロテインキナーゼC阻害剤;
(iii)チロシンキナーゼ阻害剤、例えば国際公開第96/40116号に記載されているようなVEGF受容体チロシンキナーゼ阻害剤);
(iv)Tie-1及び/又はTie2受容体シグナル伝達のモジュレーター;並びに
(v)タンパク質発現阻害剤、例えば米国特許第4987071号に記載されているようなVEGF発現阻害剤)。
【0013】
抗侵入剤には次のようなものがある:
(i)マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤、例えば、プリノマスタット(米国特許第5753653号);イロマスタット(国際公開第92/9556号);マリマスタット(国際公開第94/2447号);及びバチマスタット(国際公開第90/5719号)、
(ii)ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化因子受容体拮抗薬、例えば、国際公開第96/40747号及び国際公開第2000/001802号に記載されている化合物、並びに
(iii)ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化因子阻害剤、例えば国際公開第2000/005245号に記載されている化合物。
【0014】
血管障害剤は、コンブレタスタチン(米国特許第4996237号)、並びに国際公開第99/02166号及び国際公開第00/40529号に記載されている化合物を含む。
【0015】
公知の抗血管新生剤は、欧州特許出願公開第1640382A1号、欧州特許出願公開第1668129A1号、欧州特許出願公開第1786451A2号、欧州特許出願公開第1799716A1号、欧州特許出願公開第1812030A2号、欧州特許出願公開第1951750A2号、欧州特許出願公開第3209683A1号、欧州特許出願公開第3621597A1号に記載されているような抗血管新生ペプチドを含む。
【0016】
国際公開第2004/031220号は、癌又は癌関連疾患、例えば癌腫、肉腫、メラノーマ又は転移巣からなる群から選択される固形腫瘍の治療のために、少なくとも1つのエフェクターユニットに直接又は間接的に結合した配列DRYYNLRSK(配列番号6)を有する腫瘍標的化ペプチドを開示している。
【0017】
国際公開第2008/085828号は、細胞、組織又は器官における血管形成を調節するのに有用なG-X(3)-CLである"CXC"モチーフを有する配列GDRYCLを有するペプチドを開示している。
【0018】
国際公開第00/63236号は、DRYLKFRPVの配列を有し、メラノーマの周囲にペプチドに関連する基質の物理的バリアを形成することにより、標的細胞の基質への接着を調節し、特にメラノーマ細胞の接着を阻害することができ、その転移を防止することができる、ペプチドを開示している。
【発明の開示】
【0019】
本出願人は、病的な血管新生に関連する疾患の治療のための新しいペプチドを見つけるという問題に直面した。
【0020】
ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)はβヘルペスウイルスの一種であり、ヒト集団の中で非常に流行している。HHV-6は2つの認識された種(HHV-6AとHHV-6B)で構成されている。HHV-6A/Bは高いゲノム相同性を示し、U94遺伝子を保有している。U94はウイルスのライフサイクル及び関連疾患において重要な機能を持ち、ウイルスの複製、統合、及び再活性化において証明された又は推定された役割を持つ。自然感染の際、U94は免疫応答を誘発し、抗U94応答の広がりと程度は特定の疾患と関連している。特に、U94は細胞遊走の阻害、サイトカイン、及びHLA-G発現の誘導、並びに血管新生の阻害のような、細胞レベルでのウイルスの作用を完全に模倣している可能性があり、HHV-6関連疾患の発症におけるU94の直接的な役割を裏付けている(Caselli E., et al., "The U94 Gene of Human Herpesvirus 6: A Narrative Review of Its Role and Potential Functions," Cells.2020 Dec; 9(12):2608).
【0021】
これらの観察に基づき、本出願人は、U94遺伝子によって発現されるウイルスタンパク質の中に、抗血管新生活性を有する部分があるに違いないとの仮説を立て、この部分を同定するための集中的な研究開発を開始した。
【0022】
U94遺伝子によって発現されるウイルスタンパク質は、
図6(配列番号1)に示す490アミノ酸の配列である。
【0023】
広範な実験の結果、本出願人は驚くべきことに、抗血管新生作用がウイルスタンパク質の14-17位の4アミノ酸配列、すなわちKDKY配列(配列番号2)に由来することを見出した。
【0024】
さらに実験を続けたところ、本出願人は、抗血管新生作用が、驚くべきことに、ウイルスタンパク質の15-17位のたった3個のアミノ酸の配列、すなわちDKY配列に由来すること、そしてこの効果はDRY配列でも維持されることを見出した。
【0025】
したがって、第1の態様において、本発明は、配列DKY、好ましくはXDKY(配列番号7)若しくはDKYX(配列番号8)、又は配列DRY、好ましくはXDRY(配列番号9)若しくはDRYX(配列番号10)(Xは任意のアミノ酸である)を含む、薬剤として使用するための、5アミノ酸に等しいか又はそれ未満の長さのペプチド、又はその誘導体に関する。
【0026】
有利には、本発明は、例えば腫瘍及び/又は慢性炎症及び/又は新生血管障害などの病的血管新生に起因する障害の治療における使用のための、本発明の第1の態様に従うペプチドに関する。
【0027】
第2の態様において、本発明は、(a)配列DKY、好ましくはXDKY(配列番号7)若しくはDKYX(配列番号8)、又は配列DRY、好ましくはXDRY(配列番号9)若しくはDRYX(配列番号10)(Xは任意のアミノ酸である)を含む、5アミノ酸に等しいか又はそれ未満の長さのペプチド、又はその誘導体、及び(b)少なくとも1つの薬学的に受容可能な添加剤を含む、医薬組成物に関する。
【0028】
第3の態様において、本発明は、それを必要とする患者における、例えば腫瘍及び/又は慢性炎症及び/又は血管新生障害などの病的血管新生に起因する障害の治療のための方法であって、5アミノ酸以下の長さのペプチド、又はその誘導体の有効量を投与することを含む方法に関し、ペプチドは、配列DKY、好ましくはXDKY(配列番号7)若しくはDKYX(配列番号8)、又は配列DRY、好ましくはXDRY(配列番号9)若しくはDRYX(配列番号10)を含み、ここでXは任意のアミノ酸である。
【0029】
第4の態様において、本発明は、配列DKY、好ましくはXDKY(配列番号7)若しくはDKYX(配列番号8)、又は配列DRY、好ましくはXDRY(配列番号9)若しくはDRYX(配列番号10)(Xは任意のアミノ酸である)を含み、5アミノ酸に等しいか又はそれ未満の長さのペプチド、又はその誘導体に関する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本明細書の実験部分の実施例1の結果を示す。
【
図2】本明細書の実験部分の実施例2の結果を示す。
【
図3】本明細書の実験部分の実施例3の結果を示す。
【
図4】本明細書の実験部分の実施例4の結果を示す。
【
図5】本明細書の実験部分の実施例5の結果を示す。
【
図6】ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)のU94遺伝子から発現されるタンパク質の490アミノ酸の配列(配列番号1)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
第1の態様において、本発明は、薬物として使用するための、配列DKY、好ましくはXDKY(配列番号7)若しくはDKYX(配列番号8)、又は配列DRY、好ましくはXDRY(配列番号9)若しくはDRYX(配列番号10)(ここで、Xは任意のアミノ酸である)を含む、5アミノ酸に等しいか又はそれ未満の長さのペプチド、又はその誘導体に関する。
【0032】
本発明に従うペプチドは、最小3アミノ酸から最大5アミノ酸を含むことができ、このとき3、4又は5アミノ酸のペプチドからなる。有利には、本発明に従うペプチドは、3、4又は5アミノ酸のペプチドからなる。
【0033】
本発明に従うペプチドは、以下の表Aに示す天然アミノ酸のいずれかを含むことができる。
【0034】
【0035】
本発明に従うペプチドはまた、例えば、2-アミノアジピン酸、3-アミノアジピン酸、β-アラニン、β-アミノプロピオン酸、2-アミノ酪酸、4-アミノ酪酸、ピペリジン酸、6-アミノカプロン酸、2-アミノヘプタン酸、2-アミノイソ酪酸、3-アミノイソ酪酸、2-アミノピメリン酸、2,4-ジアミノ酪酸、デスモシン、2,2'-ジアミノピメリン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸、N-エチルグリシン、N-エチルアスパラギン、ヒドロキシリジン、アロ-ヒドロキシリジン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン、イソデスモシン、アロイソロイシン、N-メチルグリシン、サルコシン、N-メチルイソロイシン、6-N-メチルリジン、N-メチルバリン、ノルバリン、ノルロイシン、及びオルニチンのような、当分野で知られている修飾アミノ酸又は非通常型アミノ酸のいずれかを含んでいてもよい。
【0036】
本発明の種々の態様に従うペプチドは、N末端及び/又はC末端が化学的に修飾されているか、又は有機化合物で保護されている修飾ペプチドの形態であり得る。
【0037】
本発明の種々の態様に従うペプチドに関連して、本明細書及び以下の特許請求の範囲で使用される「誘導体」又は「の誘導体」という用語は、N末端及び/又はC末端が、例えば、ホスホリル(-PO32-)、グリコシル、アシル、アルキル、カルボキシル、アミン、ビオチン、ユビキチンなどの有機化合物で化学的に修飾又は保護されたペプチドを意味する。
【0038】
修飾の例は、リン酸化、グリコシル化、アシル化(アセチル化、ラウロイル化、ミリストイル化、パルミトイル化を含む)、アルキル化、カルボキシル化、ヒドロキシル化、糖化、ビオチン化、ユビキチン化、及びアミド化を含む。
【0039】
好ましくは、本発明の種々の態様に従うペプチドは、そのN末端で修飾されることができ、最も好ましくは、例えばアセチル化、ラウロイル化、ミリストイル化、パルミトイル化を含むアシル化によって修飾されることができる。
【0040】
その長さに依存して、本発明の種々の態様に従うペプチドは、当分野で周知の方法、例えば自動ペプチド合成機によって合成することもできるし、遺伝子工学技術によって製造することもできる。例えば、融合パートナーとペプチドとを含む融合タンパク質をコードする融合遺伝子を遺伝子工学的に調製し、宿主細胞で形質転換して融合タンパク質を発現させる。次に、プロテアーゼや化合物を用いて融合タンパク質からペプチドを切断及び単離し、目的のペプチドを製造する。この目的のために、融合パートナーとペプチドをコードするポリヌクレオチドの間に、Xa因子若しくはエンテロキナーゼのようなプロテアーゼ、又はCNBr若しくはヒドロキシルアミンのような化合物で切断できるアミノ酸残基をコードするDNA配列を挿入することができる。
【0041】
本発明の種々の態様に従うペプチドは、立体異性体又は立体異性体の混合物として存在し得る;例えば、それらを構成するアミノ酸は、互いに独立して、L配置、D配置を有することができ、又はラセミ体であり得る。したがって、不斉炭素の数及びどの異性体又は異性体混合物が存在するかによって、ラセミ体若しくはジアステレオマー混合物、又は純粋なジアステレオマー又はエナンチオマーと同様に、異性体混合物を得ることが可能である。ペプチドの好ましい構造は純粋な異性体、すなわちエナンチオマー又はジアステレオマーである。ペプチドの好ましい構造は、L配置を有するアミノ酸を含む。特に断らない限り、アミノ酸がAlaであってもよいと示されている場合、それはL-Ala-、D-Ala-又は両者のラセミ若しくは非ラセミ混合物から選択されると理解される。
【0042】
第2の態様において、本発明は、(a)配列DKY、好ましくはXDKY(配列番号7)若しくはDKYX(配列番号8)、又は配列DRY、好ましくはXDRY(配列番号9)若しくはDRYX(配列番号10)(ここで、Xは任意のアミノ酸である)を含む、5アミノ酸に等しいか又はそれ未満の長さのペプチド、又はその誘導体、及び(b)少なくとも1つの薬学的に許容可能な添加剤を含む、医薬組成物に関する。
【0043】
本発明の医薬組成物は、組成物の総重量に対して0.0001重量%~20重量%、好ましくは0.0001重量%~15重量%、より好ましくは0.001重量%~10重量%、さらに好ましくは0.01重量%~5重量%の範囲の量のペプチド又はその誘導体を含み得る。
【0044】
好ましくは、本発明の医薬組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容可能な添加剤とともに、有効量の上記のペプチドの少なくとも1つを含む適切な剤形として調製される。
【0045】
適切な剤形の例は、経口投与のための錠剤、カプセル剤、コーティング錠剤、顆粒剤、溶液剤、及びシロップ剤;局所投与のための溶液剤、軟膏剤、及び軟膏剤;経皮投与のための薬用パッチ剤;直腸投与のための坐剤;並びに滅菌注射剤である。その他の適切な剤形は、経口、注射、又は経皮投与のための徐放性及びリポソームベースの剤形を含む。
【0046】
本明細書に記載されるように、本発明の医薬組成物は、上記のペプチドの少なくとも1つを、薬学的に許容可能な添加剤とともに含み、この添加剤は、本明細書で使用される場合、所望の特定の剤形に適した、任意の及び全ての溶媒、希釈剤、若しくは他の担体、分散助剤若しくは懸濁助剤、界面活性剤、等張化剤、増粘剤若しくは乳化剤、保存剤、固体結合剤、並びに滑沢剤などを含む。
【0047】
薬学的に許容可能な添加剤として機能しうる材料の例は、ラクトース、グルコース、及びスクロースなどの糖類;コーンスターチ及びポテトスターチなどのデンプン類;セルロース、及びカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、及び酢酸セルロースなどのセルロース誘導体;アドラゴスタ粉末;麦芽;ゼラチン;タルク;麦芽;ゼラチン;タルク;ココアバター及び坐剤ワックスなどの賦形剤;ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、及び大豆油などの油;プロピレングリコールなどのグリコール類;オレイン酸エチル及びラウリン酸エチルなどのエステル類;寒天;水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;アルギン酸;発熱物質不含有の水;等張塩溶液;リンゲル液;エチルアルコール、リン酸緩衝液;ラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウムのような他の適合性のある無毒の潤滑剤;着色剤;離型剤;コーティング剤;甘味剤;香料;保存料;並びに酸化防止剤を含むが、これらに限定されない。
【0048】
「薬学的に許容可能な」及び「生理学的に許容される」という用語は、特に限定することなく、生物に投与する医薬組成物を調製するのに適したあらゆる材料を定義することを意図している。
【0049】
剤形はまた、保存料、安定剤、界面活性剤、緩衝剤、浸透圧調節塩、乳化剤、甘味料、色素、及び香料などのような他の伝統的な成分を含むことができる。
【0050】
本発明の医薬組成物は、経口投与、非経口投与、吸入スプレーによる投与、局所投与、直腸投与、鼻腔投与、頬側投与、膣内投与、又は移植リザーバーを介した投与により投与することができる。本発明及び以下の特許請求の範囲で使用される非経口的という用語は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、滑膜内、胸骨内、髄腔内、及び頭蓋内への、注射又は注入技術を含む。
【0051】
本発明の医薬組成物はまた、吸入(スプレー、粉末、又はエアロゾル)によって投与することもでき、又は、(例えば外科的な)埋め込みによって、例えばステントのような埋め込み可能な装置によって、投与することもできる。
【0052】
本発明の医薬組成物剤形は、混合、造粒、圧縮、溶解、及び滅菌などを含む、医薬化学者になじみのある技術によって調製することができる。
【0053】
有利には、本発明は、Xが任意のアミノ酸である、配列DKY、好ましくはXDKY(配列番号7)若しくはDKYX(配列番号8)、又は配列DRY、好ましくはXDRY(配列番号9)若しくはDRYX(配列番号10)(Xは任意のアミノ酸)を含む、5アミノ酸に等しいか又はそれ未満の長さのペプチド、又はその誘導体の、病的な血管新生に起因する障害の治療における使用に関する。
【0054】
好ましくは、前述のペプチド及びそれを含む医薬組成物は、例えば癌及び/又は慢性炎症及び/又は新生血管障害などの、病的血管新生に起因する疾患の治療に使用される。
【0055】
本発明のペプチド及び医薬組成物で有用に治療できる腫瘍の例は、固形腫瘍及び血液癌である。
【0056】
本発明のペプチド及び医薬組成物で治療できる固形腫瘍は、肉腫及び癌腫、例えば、線維性星細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、音響神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽腫、及び網膜芽細胞腫、並びに良性固形腫瘍、例えば音響神経腫、神経線維腫、トラコーマ、及び化膿性肉芽腫、を含む。
【0057】
本発明のペプチド及び医薬組成物による治療を適用できる白血病などの血液癌は、例えば、急性リンパ性白血病及び急性骨髄球性白血病(骨髄芽球性白血病、前骨髄球性白血病、骨髄単球性白血病、単球性白血病、及び赤芽球性白血病);慢性白血病(慢性骨髄球性[顆粒球性]白血病及び慢性リンパ球性白血病);並びに真性多血症、リンパ腫(ホジキン病及び非ホジキン病)、多発性骨髄腫、ワルデンストレーム・マクログロブリン血症を含む。
【0058】
具体的には、本発明のペプチド及び医薬組成物は、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫滑膜腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸がん、膵臓がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、扁平上皮がん、基底細胞がん、腺がん、汗腺がん、脂腺がん、乳頭がん、乳頭腺がん、膀胱腺がん、髄様がん、気管支がん、腎細胞がん、肝がん、胆管がん、絨毛がん、精液がん、胚性がん、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、精巣がん、肺がん、小細胞肺がん、膀胱がん、上皮がん、神経膠腫、星細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、音響神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、音響神経腫、神経線維腫、トラコーマ、及び化膿性肉芽腫の治療に有用だろう。
【0059】
癌の治療に使用される本発明の医薬組成物は、任意に、1種以上の抗新生物剤、例えば、(i)ドセタキセル、エトポシド、トロンテカン、パクリタキセル、テニポシド、トポテカン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、及びビンデシンなどのアルカロイド;(ii)ブスルファン、インプロスルファン、ピポスルファン、アジリジン、ベンゾデパ、カルボコン、メツレデパ、ウレデパ、アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド、クロラムブシル、クロラファジン、シクロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベンビシン、ペルホスファミド、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、カルムスチン、クロロゾトシン、フォトムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン、ダカルバジン、マンノムスチン、ミトブロニトール、ミトラクトール、ピポブロマン、テモゾロミドなどのアルキル化剤;(iii)アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アントラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カルビシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、メノガリル、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ピラルビシン、プリカマイシン、ポルフィロマイシン、ピューロマイシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ジノスタチン、ゾルビシンなどの抗生物質及び.アナログ;(iv)デノプテリン、エダトレキセート、メトトレキセート、ピリトレキシムム、プテロプテリン、トリメトレキセート、クラドリビン、フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン、アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、シタラビン、ドキシフルリジン、エミテフール、エノシタブーン、フロクスウリジン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、テガフール、L-アスパラギナーゼなどの代謝拮抗薬;(v)インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、インターロイキン-2、レンチナン、プロパゲルマニウム、PSK、ロキニメックス、シゾフィカン、ウベニメックスなどの免疫調節剤;(vi)カルボプラチン、シスプラチン、ミボプラチン、オキサリプラチンなどの白金錯体;(vii)カルステロン、ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラコン、アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン、ビカルタミド、フルタミド、ニルタミド、ドロロキシフェン、タモキシフェン、トレミフェンアミノグルテチミド、アナストロゾール、ファドロゾール、ホルメスタン、レトロゾール、ホスフェストロール、ヘキセストロール、リン酸ポリエストラジオール、ブセレリン、ゴセレリン、リュープロリド、トリプトレリン、酢酸クロルマジノン、メドロキシプロゲステロン、酢酸メゲストロール、メレンゲストロール;ポルフィマーナトリウム;バチマスター;及びフォリン酸のような抗新生物ホルモン又はアナログ;を含むことができる。
【0060】
本発明のペプチド及び医薬組成物で有用に治療されうる慢性炎症性疾患の例は、クローン病及び潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患、乾癬、サルコイドーシス、及び関節リウマチである。
【0061】
本発明のペプチド及び医薬組成物で有用に治療できる血管新生障害の例は、(i)角膜障害、例えば、眼型酒さ、アトピー性角膜炎、細菌性潰瘍、化学熱傷、コンタクトレンズの過剰使用、角膜移植片拒絶反応、流行性角結膜炎、真菌性潰瘍、単純ヘルペス感染症帯状疱疹感染症、カポジ肉腫、脂質変性症、辺縁角膜融解症、マイコバクテリア感染症、ムーレン潰瘍、血管新生緑内障及び後根部線維増殖症、ペンフィゴイド放射状角膜切除術、フィレクテヌローシス、多発動脈炎、原虫感染症、未熟児網膜症、関節リウマチ、スティーブン・ジョンソン病、上辺縁角膜炎、梅毒、全身性狼瘡、テリエン辺縁変性症、ビタミンA欠乏症、及びウェゲナーサルコイドーシス、並びに(ii)網膜障害、例えば、動脈閉塞症、ベーチェット病、ベスト病、慢性網膜剥離、ぶどう膜炎/慢性神経炎、閉塞性頸動脈疾患、糖尿病性網膜症、イールズ病、高粘度症候群、網膜炎又は脈絡膜炎を引き起こす感染症、ライム病、黄斑変性症、マイコバクテリア感染症、視神経孔、パジェット病、レーザー照射後の合併症、推定眼ヒストプラズマ症、弾性線維性仮性黄色腫、未熟児網膜症、鎌状赤血球貧血、サルコイド、スターガルト病、トキソプラズマ症、ルベオーシスに関連する疾患、及び線維血管組織又は線維組織の異常増殖によって引き起こされる疾患(糖尿病に関連しているか否かを問わず、増殖性硝子体網膜症の全ての形態を含む)、である。
【0062】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するためのものであるが、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0063】
材料及び方法
細胞培養
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)は、Caruso A. et al. , "HHV-6 infects human aortic and heart microvascular endothelial cells, increasing their ability to secrete proinflammatory chemokines," J Med Virol.2002; 67: 528-533.に記載されているように単離され及び特徴が明らかにされた。
【0064】
細胞は、10%(vol/vol)のウシ胎児血清(FBS)を加えた添加した内皮細胞増殖培地(EGM MV; Promo cell, Heidelberg, Germany)中で、37℃、5%CO2を含む加湿雰囲気で培養した。
【0065】
ヒト肺微小血管内皮細胞(HL-mEC)は、Lonza Clonetics社(Walkersville, MD, USA)から購入し、10%FBSを含むEGM-2 MV増殖培地(Lonza, Basel, Switzerland)で培養した。接着細胞は80-90%コンフルエントになるまで増殖させた。
【0066】
全ての実験は、継代2-6の細胞で行った。
【0067】
U94遺伝子を発現するプラスミドのクローニング、生産、及びヌクレオフェクション
プラスミドU94 pSR2PHを鋳型としてU94由来遺伝子を増幅した。PCR産物をpVAX1発現ベクターに挿入した。細胞のヌクレオポレーションは、Amaxa Nucleofector technology(Lonza)を用いて、製造業者のプロトコールに従って行った。U94又はU94由来遺伝子を発現するエンドトキシンを含まないプラスミドを、100μlのヌクレオフェクションバッファーに懸濁した細胞(1x106)に加えた。実験はヌクレオフェクション後24時間において行った。
【0068】
管形成アッセイ
管形成アッセイは、Caccuri F. et al. , "Evolution towards the beta common chain receptor usage links the matrix proteins of HIV-1 and its ancestors to the human erythropoietin," Proc Natl Acad Sci USA.2021; 11810.に記載された方法により行った。
【0069】
簡単に説明すると、150μlのCultrex Basement Membrane Extract(マトリゲル;10mg/ml)(Trevigen Inc., Gaithersburg, MD, USA)又は還元成長因子マトリゲル(Trevigen Inc.)をあらかじめ冷やした48ウェル培養プレートに移した。その後、プレートを37℃で1時間インキュベートした。
【0070】
細胞を10%FBSを含むEGM増殖培地に再懸濁し、播種した(1ウェルあたり5x104)。血管の形成は、細胞を播種した後の異なる時間に観察した。毛細血管構造は日立KP-D50カメラで撮影し、管の数/ウェルとして定量化した。
【0071】
いくつかの実験では、HUVECを至適濃度の血管内皮増殖因子-A(VEGF-A)、線維芽細胞増殖因子-2(FGF-2)、又はインターロイキン-8(IL-8)などのヒト血管新生促進分子で刺激した。実験は、ヌクレオフェクトされた細胞又はU94由来ペプチドで刺激した細胞を用いて行った。
【0072】
スフェロイドアッセイ
アッセイは、ヌクレオフェクトされた細胞又はU94由来ペプチドで刺激した細胞を用いて行った。スフェロイドは、HUVEC(1.5x105cells/ml)と5mg/mlのメチルセルロース(Sigma-Aldrich)を、10%FBSを含むEGM増殖培地中で混合し、最終容量を10mlにして作製した。
【0073】
その後、細胞(100μl/ウェル)を96ウェルプレート(Greiner Bio-one, Kremsmuenster, Austria)に加え、37℃、5%CO2の雰囲気で24時間培養した。
【0074】
これとは別に、コラーゲンIゲル溶液(Rat Tail, Corning)を氷上に保ち、NaOH0.1MとPBS10Xを加えて中和し、最終pHを7.4にした。
【0075】
その後、24ウェルプレートに中和コラーゲン(200μl/ウェル)をコートし、加湿した5%CO2インキュベーター内で37℃、1時間インキュベートした。
【0076】
96ウェルプレートからのスフェロイドをエッペンドルフ管に集め、4000xrpmで5~10秒間遠心した。透明なペレットが確認されたら、上清を除去し、ペレットを約100μlのコラーゲンI中和溶液に入れた。
【0077】
各コラーゲン・スフェロイド混合物100μl/ウェルを、予めコートした24ウェルプレートに素早く加え、1時間インキュベートした。1時間後、表面を完全に覆うように500μlの異なる刺激をウェルに加えるか又は加えず、プレートをさらに24時間インキュベートした。
【0078】
スフェロイドのコアから芽(sprout)が発生し、これを日立KP-D50カメラで撮影し、プレートの3つの異なるウェルからの同程度の大きさのスフェロイドで芽の数をカウントした。
【0079】
HL-mECのSARS-CoV-2感染
感染実験は、Caccuri F. et al., "A persistently replicating SARS-CoV-2 variant derived from an asymptomatic individual," J Transl Med.2020; 18: 362.に以前に記載された、臨床的SARS-CoV-2単離体AP66を用いて行った。
【0080】
全ての実験は、バイオセーフティレベル3(BLS-3)の実験室で、MOI(感染多重度)を1として、単一のウイルス接種片を用いて行われた。
【0081】
統計分析
複数の独立した実験から得られたデータは、平均値±標準偏差(SD)で表した。データは一元配置分散分析を用いて統計的有意性を分析し、Bonferroni post-testを用いて比較した。差はP<0.05で有意とみなした。統計検定はGraphPad Prism 8ソフトウェアを用いて行った。
【0082】
実施例1
配列番号2の配列のペプチドが、異なる血管新生メディエーターによる刺激に反応するHUVECの能力に影響を及ぼす能力を評価するために、HUVECを、単独での又は対照ペプチド(CTRL)若しくは配列番号2の配列のペプチド(KDKY)の存在下における、異なる血管新生促進刺激(VEGF-A、FGF-2、若しくはIL-8)の非存在下(NT)、又は最適濃度での存在下で、増殖抑制マトリゲル上に播種した。
【0083】
図1に示すように、未処理のHUVEC(NT)はマトリゲル上に播種後8時間で単層を形成した。同時に、各血管新生促進分子(VEGF-A、FGF-2、又はIL-8)で処理したHUVECは移動し、整列して毛細血管網に組織化された管を形成した。この血管新生活性は対照ペプチド(CTRL)では変化せず、配列番号2の配列のペプチドで処理した細胞では有意に損なわれた。
【0084】
図1のグラフは、各ウェルで形成された管の数を示している。数値は、3重に行った、同様の結果を得た3つの実験のうち、代表的な1つの実験の平均を表す。統計解析は一元配置分散分析検定を用いて行い、データはBonferroni post-testを用いて比較した(**** p<0.0001)。
【0085】
実施例2
バイオポリマーゲルに埋め込んだHUVECスフェロイドは、血管新生因子で刺激すると内皮芽を形成するように誘導することができ、こうして、Laib AM, Bartol A, Alajati A, Korff T, Weber H, Augustin HG. Spheroid-based human endothelial cell microvessel formation in vivo. Nat Protoc. 2009; 4: 1202-1215.に記載されているように、インビボ血管新生を模倣する3D細胞モデルを表現する。
【0086】
これに基づいて、HUVEC由来のスフェロイドを、単独での、対照ペプチド(CTRL)若しくは配列番号2の配列のペプチド(KDKY)と組み合わせた、異なる血管新生刺激(VEGF-A、FGF-2、若しくはIL-8)の非存在下(NT)又は存在下で、I型コラーゲンゲルに組み込んだ。
【0087】
図2に示すように、血管新生促進刺激(VEGF-A、FGF-2、又はIL-8)はいずれも微小血管の伸長を強く促進したが、配列番号2の配列のペプチドは発芽反応の劇的な減少を誘導した。
【0088】
図2のグラフは、各スフェロイドについて形成された芽の数を示している。数値は、3重に行った、同様の結果を得た3つの実験のうちの代表的な1つの実験についての平均を表す。統計解析は一元配置分散分析検定を用いて行い、データはBonferroni post-testを用いて比較した(**** p<0.0001)。
【0089】
これらのデータは、配列番号2の配列のペプチドが、自発的な血管新生の基礎となるメカニズムを阻害し、いくつかの強力な血管新生促進分子の刺激に対する内皮細胞の応答を妨げることによって、血管抑制因子として作用するかもしれないことを強く示唆している。
【0090】
実施例3
SARS-CoV-2に感染したHL-mECは多くの血管新生促進分子を分泌し、この分子は成長因子を減少させたマトリゲル中でのHL-mECの血管新生促進能を維持している。
【0091】
実際、SARS-CoV-2に感染したHL-mECのセクレトーマは、VEGF-A及びFGF-2だけでなく、メタロプロテイナーゼ(MMP)、インスリン様成長因子結合タンパク質-1(IGFBP-1 insulin growth factor binding protein-1)、ヘパリン結合性EGF様成長因子(HB-EGF, heparin binding--epidermal growth factor)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、エンドグリン、アンジオジェニン、及びアルテミンのような、いくつかの血管新生誘導因子を分泌することができる。
【0092】
配列番号2の配列のペプチドが、SARS-CoV-2感染HL-mECによって分泌される多数の血管新生促進分子によって誘導される血管新生に対抗できるかどうかを理解するために、対照ペプチド(CTRL)若しくは配列番号2の配列のペプチド(KDKY)の非存在下又は存在下で、成長因子を減少させたマトリゲル上に感染細胞を播種する実験を行った。
【0093】
図3に示すように、配列番号2のペプチドの存在下では、SARS-CoV-2感染HL-mECは血管新生活性を示さなかった。一方、対照ペプチドCTRLは、SARS-CoV-2感染によって誘導される血管新生促進活性を阻害しなかった。
【0094】
図3のグラフは、各ウェルで形成された管の数を示している。数値は、3重で行った、同様の結果を得た3つの実験のうちの代表的な1つの実験での平均を表す。統計解析は一元配置分散分析検定を用いて行い、データはBonferroni post-testを用いて比較した(**** p<0.0001)。NTは感染していないHL-mECを示す。
【0095】
実施例4
配列番号2の配列のペプチドの抗血管新生作用は、スフェロイドアッセイでも観察された。
【0096】
実際、
図4に示すように、対照ペプチドCTRLで処理した又は処理しなかったSARS-CoV-2感染スフェロイドでは、芽の劇的な伸長が観察されたが、配列番号2の配列のペプチド(KDKY)はSARS-CoV-2誘導血管新生を強力に阻害した。
【0097】
図4のグラフは、各スフェロイドに形成された芽の数を示している。数値は、3重に行った、同様の結果を得た3つの実験のうちの代表的な1つの実験についての平均を表す。統計解析は一元配置分散分析検定を用いて行い、データはBonferroni post-testを用いて比較した(**** p<0.0001)。NTは感染していないHL-mECを示す。
【0098】
これらのデータは、配列番号2の配列のペプチドの強力で広範な抗血管新生活性を確認するものである。
【0099】
実施例5
どのアミノ酸が抗血管新生活性を達成するのに必要かを正確に理解するために、元のペプチドKDKY(配列番号2)の各単一アミノ酸をアラニン(A)に置換した、すなわちADKY(配列番号3)、KAKY(配列番号4)、KDAY(配列番号5)及びKDKA(配列番号6)の、D配置の4つのテトラペプチドを合成した。
【0100】
HUVECを、50ng/mlのVEGF-A又はFGF-2を単独で、又は10ng/mlの対照ペプチド(CTRL)、KDKY、AKDY、KAKY、KDAY、若しくはKDKAと組み合わせて含む完全培地中で、増殖因子を減少させたマトリゲルコートウェルに播種した。
【0101】
図5のA-Bに示すように、配列ADKY(配列番号3)のペプチドだけが、VEGF-A又はFGF-2で処理したHUVECに対して強力な抗血管新生活性を維持した。
【0102】
その後、DKY配列ペプチドとDRY配列ペプチドを合成し、これらの抗血管新生活性を上記のように検証した。
【0103】
HUVECを、50ng/mlのVEGF-A又はFGF-2を単独で、又は10ng/mlのCTRL、KDKY、DKY、若しくはDRYと組み合わせて含む完全培地中で、増殖因子を減少させたマトリゲルコートウェルに播種した。
【0104】
図5のC-Dに示すように、DKY配列ペプチド及びDRY配列ペプチドは、KDKY配列(配列番号2)のペプチドと同様に、VEGF-A又はFGF-2によって促進される血管新生活性を遮断することができた。
【0105】
この結果から、抗血管新生活性におけるDKY配列の重要性が確認され、生物学的に活性なエピトープにおけるLys(K)のArg(R)への置換の通例の許容性が確認された。
【0106】
図5のグラフは、各ウェルで形成された管の数を示している。数値は、3重に行った、同様の結果を得た3つの実験のうちの代表的な1つの実験についての平均を表す。統計解析は一元配置分散分析検定を用いて行い、データはBonferroni post-testを用いて比較した(**** p<0.0001)。NTは未処理の細胞を示す。
【0107】
配列表
配列番号1
MFSIINPSDDFWTKDKYIMLTIKGPVEWEAEIPGISTDFFCKFSNVPVPHFRDMHSPGAPDIKWITACTKMIDVILNYWNNKTAVPTPAKWYAQAENKAGRPSLTLLIALDGIPTATIGKHTTEIRGVLIKDFFDGNAPKIDDWCTYAKTKKNGGGTQVFSLSYIPFALLQIIRPQFQWAWTNINELGDVCDEIHRKHIISHFNKKPNVKLMLFPKDGTNRISLKSKFLGTIEWLSDLGIVTEDAWIRRDVRSYMQLLTLTHGDVLIHRALSISKKRIRATRKAIDFIAHIDTDFEIYENPVYQLFCLQSFDPILAGTILYQWLSHRRGKKNTVSFIGPPGCGKSMLTGAILENIPLHGILHGSLNTKNLRAYGQVLVLWWKDISINFENFNIIKSLLGGQKIIFPINENDHVQIGPCPIIATSCVDIRSMVHSNIHKINLSQRVYNFTFDKVIPRNFPVIQKDDINQFLFWARNRSINCFIDYTVPKIL
配列番号2
KDKY
配列番号3
ADKY
配列番号4
KAKY
配列番号5
KDAY
配列番号6
KDKA
配列番号7
XDKY
配列番号8
DKYX
配列番号9
XDRY
配列番号10
DRYX
【配列表】
【国際調査報告】