(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】同種異系ヒトT細胞の代替生成
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240905BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240905BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20240905BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240905BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240905BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240905BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240905BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240905BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240905BHJP
C12N 15/19 20060101ALN20240905BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240905BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240905BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20240905BHJP
C12N 15/86 20060101ALN20240905BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20240905BHJP
【FI】
C12N5/10
A61K35/17
A61K35/28
A61P37/02
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/06
C12N15/09 100
C12N15/09 110
C12N15/12
C12N15/19
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N5/0783
C12N15/86 Z
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515385
(86)(22)【出願日】2022-09-08
(85)【翻訳文提出日】2024-05-07
(86)【国際出願番号】 US2022042869
(87)【国際公開番号】W WO2023039041
(87)【国際公開日】2023-03-16
(32)【優先日】2021-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518431004
【氏名又は名称】カイト ファーマ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】ベドヤ、 フェリペ
(72)【発明者】
【氏名】バレ、 デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ペダレディガリ、 ヴィジャ ゴパル レディ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB44
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB07
4C087ZB08
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
本発明は、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖を下方制御することができる核酸を含み並びにキメラ抗原受容体(CAR)、組み換えT細胞受容体(TCR)、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)、ドミナントネガティブ受容体及び/又はスイッチ受容体をコードする外因性核酸をさらに含む、養子T細胞療法に適した遺伝子編集修飾免疫細胞を提供する。また、修飾免疫細胞を生成するための組成物及び方法、並びに養子療法及び疾患又は症状の治療に修飾免疫細胞を使用する方法も提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む修飾免疫細胞:
(a)CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖(Ii鎖)からなる群より選択される内因性免疫タンパク質をそれぞれコードする1つ又は複数の遺伝子座における挿入及び/又は欠失であって、該挿入及び/又は欠失は、1つ又は複数の内因性免疫遺伝子の遺伝子発現を下方制御することができる、挿入及び/又は欠失、及び
(b)キメラ抗原受容体(CAR)、組み換えT細胞受容体(TCR)、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)、抗原結合ポリペプチド、細胞表面受容体リガンド又は腫瘍抗原をコードする外因性核酸、及び、任意選択で、
(c)ドミナントネガティブ受容体、スイッチ受容体、ケモカイン、ケモカイン受容体、サイトカイン、サイトカイン受容体、IL-7、IL-7R、IL-15、IL-15R、IL-21、IL-18、CCL21、CCL19又はそれらの組み合わせをさらに含む。
【請求項2】
前記挿入及び/又は欠失は、以下の遺伝子発現を下方制御することができる、請求項1に記載の修飾免疫細胞:
(a)CD3δ、CD3ε及び/又はCD3γから選択されるT細胞受容体サブユニット、
(b)B2M、TAP1、TAP2、TAPBP及び/又はNLRC5から選択されるHLAクラスI分子、並びに、
(c)HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及び/又はインバリアント鎖(Ii鎖)から選択されるHLAクラスII分子。
【請求項3】
(a)前記挿入及び/又は欠失は、以下を下方制御することができる:
(i)CD3δの遺伝子発現、及び、
(ii)B2M、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖)及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるHLA分子の遺伝子発現、又は
(b)前記挿入及び/又は欠失は、以下を下方制御することができる:
(i)CD3εの遺伝子発現、及び、
(ii)B2M、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、CIITA、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖)及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるHLA分子の遺伝子発現、又は、
(c)前記挿入及び/又は欠失は、以下を下方制御することができる:
(i)CD3γの遺伝子発現、及び、
(ii)B2M、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、CIITA、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖)及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるHLA分子の遺伝子発現、
請求項2に記載の修飾免疫細胞。
【請求項4】
前記挿入及び/又は欠失は、以下の遺伝子発現を下方制御することができる、請求項1~3の何れか1項に記載の修飾免疫細胞:
(I)以下の何れか1つ:
(a)CD3ε、B2M及びCIITA、
(b)CD3ε、B2M及びRFX5、
(c)CD3ε、B2M及びRFXAP、
(d)CD3ε、B2M及びRFXANK、
(e)CD3ε、B2M及びHLA-DM、
(f)CD3ε、B2M及びIi鎖、
(g)CD3ε、TAP1及びCIITA、
(h)CD3ε、TAP1及びRFX5、
(i)CD3ε、TAP1及びRFXAP、
(j)CD3ε、TAP1及びRFXANK、
(k)CD3ε、TAP1及びHLA-DM、
(l)CD3ε、TAP1及びIi鎖、
(m)CD3ε、TAP2及びCIITA、
(n)CD3ε、TAP2及びRFX5、
(o)CD3ε、TAP2及びRFXAP、
(p)CD3ε、TAP2及びRFXANK、
(q)CD3ε、TAP2及びHLA-DM、
(r)CD3ε、TAP2及びIi鎖、
(s)CD3ε、NLRC5及びCIITA、
(t)CD3ε、NLRC5及びRFX5、
(u)CD3ε、NLRC5及びRFXAP、
(v)CD3ε、NLRC5及びRFXANK、
(w)CD3ε、NLRC5及びHLA-DM、
(x)CD3ε、NLRC5及びIi鎖、
(y)CD3ε、TAPBP及びCIITA、
(z)CD3ε、TAPBP及びRFX5、
(aa)CD3ε、TAPBP及びRFXAP、
(bb)CD3ε、TAPBP及びRFXANK、
(cc)CD3ε、TAPBP及びHLA-DM、又は
(dd)CD3ε、TAPBP及びIi鎖、又は
(II)以下の何れか1つ:
(a)CD3δ、B2M及びCIITA、
(b)CD3δ、B2M及びRFX5、
(c)CD3δ、B2M及びRFXAP、
(d)CD3δ、B2M及びRFXANK、
(e)CD3δ、B2M及びHLA-DM、
(f)CD3δ、B2M及びIi鎖、
(g)CD3δ、TAP1及びCIITA、
(h)CD3δ、TAP1及びRFX5、
(i)CD3δ、TAP1及びRFXAP、
(j)CD3δ、TAP1及びRFXANK、
(k)CD3δ、TAP1及びHLA-DM、
(l)CD3δ、TAP1及びIi鎖、
(m)CD3δ、TAP2及びCIITA、
(n)CD3δ、TAP2及びRFX5、
(o)CD3δ、TAP2及びRFXAP、
(p)CD3δ、TAP2及びRFXANK、
(q)CD3δ、TAP2及びHLA-DM、
(r)CD3δ、TAP2及びIi鎖、
(s)CD3δ、NLRC5及びCIITA、
(t)CD3δ、NLRC5及びRFX5、
(u)CD3δ、NLRC5及びRFXAP、
(v)CD3δ、NLRC5及びRFXANK、
(w)CD3δ、NLRC5及びHLA-DM、
(x)CD3δ、NLRC5及びIi鎖、
(y)CD3δ、TAPBP及びCIITA、
(z)CD3δ、TAPBP及びRFX5、
(aa)CD3δ、TAPBP及びRFXAP、
(bb)CD3δ、TAPBP及びRFXANK、
(cc)CD3δ、TAPBP及びHLA-DM、又は
(dd)CD3δ、TAPBP及びIi鎖、又は
(III)以下の何れか1つ:
(a)CD3γ、B2M及びCIITA、
(b)CD3γ、B2M及びRFX5、
(c)CD3γ、B2M及びRFXAP、
(d)CD3γ、B2M及びRFXANK、
(e)CD3γ、B2M及びHLA-DM、
(f)CD3γ、B2M及びIi鎖、
(g)CD3γ、TAP1及びCIITA、
(h)CD3γ、TAP1及びRFX5、
(i)CD3γ、TAP1及びRFXAP、
(j)CD3γ、TAP1及びRFXANK、
(k)CD3γ、TAP1及びHLA-DM、
(l)CD3γ、TAP1及びIi鎖、
(m)CD3γ、TAP2及びCIITA、
(n)CD3γ、TAP2及びRFX5、
(o)CD3γ、TAP2及びRFXAP、
(p)CD3γ、TAP2及びRFXANK、
(q)CD3γ、TAP2及びHLA-DM、
(r)CD3γ、TAP2及びIi鎖、
(s)CD3γ、NLRC5及びCIITA、
(t)CD3γ、NLRC5及びRFX5、
(u)CD3γ、NLRC5及びRFXAP、
(v)CD3γ、NLRC5及びRFXANK、
(w)CD3γ、NLRC5及びHLA-DM、
(x)CD3γ、NLRC5及びIi鎖、
(y)CD3γ、TAPBP及びCIITA、
(z)CD3γ、TAPBP及びRFX5、
(aa)CD3γ、TAPBP及びRFXAP、
(bb)CD3γ、TAPBP及びRFXANK、
(cc)CD3γ、TAPBP及びHLA-DM、又は
(dd)CD3γ、TAPBP及びIi鎖。
【請求項5】
(a)前記修飾修飾免疫細胞は、T細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、ナチュラルキラーT細胞、リンパ系前駆細胞、造血幹細胞、幹細胞、マクロファージ及び樹状細胞からなる群より選択される、及び/又は、
(b)前記修飾免疫細胞は、CD4陽性T細胞又はCD8陽性T細胞である、及び/又は
(c)前記修飾免疫細胞は、同種異形T細胞又は自己ヒトT細胞である、
請求項1~4の何れか1項に記載の修飾免疫細胞。
【請求項6】
前記挿入及び/又は欠失は、以下からなる群から選択される遺伝子編集の結果である、請求項1~5の何れか1項に記載の修飾免疫細胞:
(a)CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)エンドヌクレアーゼ系及びガイドRNA、
(b)TALEN遺伝子編集系、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)遺伝子編集系、メガヌクレアーゼ遺伝子編集系又はメガTALEN遺伝子編集系、及び、
(c)アンチセンスRNA、アンチゴマーRNA、RNAi、siRNA又はshRNAから選択される遺伝子サイレンシング系。
【請求項7】
(a)前記Casエンドヌクレアーゼは、Cas3、Cas4、Cas8a、Cas8b、Cas9、Cas10、Cas10d、Cas12a、Cas12b、Cas12d、Cas12e、Cas12f、Cas12g、Cas12h、Cas12i、Cas13、Cas14、CasX、Cse1、Csy1、Csn2、Cpf1、C2c1、Csm2、Cmr5、Fok1、S.pyogenes Cas9、Staphylococcus aureus Cas9、MAD7又はそれらの任意の組み合わせ、を含む、又は、
(b)前記CRISPR-Cas系は、pAd5/F35-CRISPRベクターを含む、又は、
(c)前記ガイドRNAは、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖(Ii鎖)からなる群から選択される免疫タンパク質をそれぞれコードする1つ又は複数の遺伝子座内の配列と相補的なガイド配列を含む、
請求項6に記載の修飾免疫細胞。
【請求項8】
(a)前記ガイドRNAは、(1)CD3δ、CD3ε又はCD3γの1つ又は複数のエクソン又は(2)CD3δ、CD3ε又はCD3γのエクソン1内の配列と相補的である、又は、
(b)前記配列は、CD3δ遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号53によってコードされる核酸配列を含む、又は、
(c)前記配列は、CD3ε遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号52によってコードされる核酸配列を含む。又は、
(d)前記配列は、CD3γ遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号54によってコードされる核酸配列を含む、又は、
(e)前記配列は、B2M遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号55によってコードされる核酸配列を含む、又は、
(f)前記配列は、CIITA遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号61によってコードされる核酸配列を含む、又は、
(g)前記配列は、TAP1遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号56によってコードされる核酸配列を含む、又は、
(h)前記配列は、TAP2遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号57によってコードされる核酸配列を含む、又は、
(i)前記配列は、TAPBP遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号58、配列番号59又はそれらの組み合わせによってコードされる核酸配列を含む、又は、
(j)前記配列は、NLRC5遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号60によってコードされる核酸配列を含む、又は、
(k)前記配列は、HLA-DM遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号62によってコードされる核酸配列を含む、又は、
(l)前記配列は、RFX5遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号63、配列番号64又はそれらの組み合わせによってコードされる核酸配列を含む、又は、
(m)前記配列は、RFXANK遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号65によってコードされる核酸配列を含む、又は、
(n)前記配列は、RFXAP遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号66によってコードされる核酸配列を含む、又は、
(o)前記配列は、Ii鎖遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号67、配列番号68又は組み合わせによってコードされる核酸配列を含む、
請求項7に記載の修飾免疫細胞。
【請求項9】
(a)前記免疫細胞は、該修飾免疫細胞が対象に投与された場合、同じ対象に投与された非修飾免疫細胞によって発揮される免疫応答と比較して、対象において低下した免疫応答を発揮する、
(b)前記免疫細胞は、該修飾免疫細胞が対象に投与された場合、TRAC、B2M及びCIITAの遺伝子発現を下方制御することができる挿入及び/又は欠失を含む免疫細胞によって発揮される免疫応答と比較して、対象において低下した免疫応答を発揮する、及び任意選択で、前記免疫応答は、移植片対宿主病(GvHD)応答であり、さらに任意選択で、GvHD応答の低下は、HLA-I不一致細胞又はHLA-II不一致細胞に対して誘発される、
請求項1~8の何れか1項に記載の修飾免疫細胞。
【請求項10】
(a)前記GvHD応答は、約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上又は約95%以上、低下する、又は、
(b)前記GvHD応答は、約1倍以上、約2倍以上、約3倍以上、約4倍以上、約5倍以上、約6倍以上、約7倍以上、約8倍以上、約9倍以上、約10倍以上、約20倍以上、約30倍以上、約50倍以上、約100倍以上、約150倍以上又は約200倍以上、低下する、及び/又は、
(c)前記修飾免疫細胞による前記GvHD応答の低下は、1つ又は複数の遺伝子座における欠失及び/又は挿入のない同等の免疫細胞、又は、TRAC、B2M及びCIITAにおける欠失及び/又は挿入を含む免疫細胞と比較される、
請求項9に記載の修飾免疫細胞。
【請求項11】
前記外因性核酸は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードし、該CARが、抗原結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む、請求項1~10の何れか1項に記載の修飾免疫細胞。
【請求項12】
(a)前記抗原結合ドメインは、全長抗体若しくはその抗原結合フラグメント、Fab、F(ab)
2、単一特異性Fab
2、二重特異性Fab
2、三重特異性Fab
2、単鎖可変フラグメント(scFv)、ダイアボディ、トリアボディ、ミニボディ、V-NAR又はVhHを含み、及び/又は、
(b)前記膜貫通ドメインは、人工疎水性配列、I型膜貫通タンパク質の膜貫通ドメイン、T細胞受容体のアルファー鎖、ベータ鎖若しくはゼータ鎖、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD2、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、OX40(CD134)、4-1BB(CD137)、ICOS(CD278)、CD154、CD357(GITR)、Toll様受容体1(TLR1)、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9及びキラー免疫グロブリン様受容体(KIR)由来の膜貫通ドメインから選択され、及び/又は、
(c)前記共刺激ドメインは、TNFRスーパーファミリーのタンパク質、CD28、4-1BB(CD137)、OX40(CD134)、PD-1、CD7、LIGHT、CD83L、DAP10、DAP12、CD27、CD2、CD5、ICAM-1、LFA-1、Lck、TNFR-I、TNFR-II、Fas、CD30、CD40、ICOS(CD278)、NKG2C、B7-H3(CD276)及びキラー免疫グロブリン様受容体(KIR)由来の細胞内ドメイン又はそれらのバリアントからなる群から選択されるタンパク質の1つ又は複数の共刺激ドメインを含み、及び/又は、
(d)前記細胞内シグナル伝達ドメインは、ヒトCD2の細胞質シグナル伝達ドメイン、CD3ゼータ鎖(CD3ζ)、FcγRIII、FcsRI、Fc受容体の細胞質テール、免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)を持つ細胞質受容体、TCRゼータ、FcRガンマ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD5、CD22、CD79a、CD79b及びCD66d又はそれらのバリアントからなる群から選択される細胞内ドメインを含む、及び/又は、
(e)前記腫瘍抗原を標的とする抗原結合ドメインは、以下のとおりある:
(i)血液悪性腫瘍に関連する、
(ii)固形腫瘍に関連する、及び/又は、
(iii)ROR1、メソテリン、c-Met、PSMA、PSCA、葉酸受容体アルファー、葉酸受容体ベータ、EGFR、EGFRvIII、GPC2、GPC2、ムチン1(MUC1)、Tn抗原((TnAg)又は(GalNAca-Ser/Thr))、TnMUC1、GDNFファミリー受容体アルファー4(GFRa4)、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)及びインターロイキン-13受容体サブユニットアルファー2(IL-13Ra2又はCD213A2)、及び/又は、
(f)前記細胞内シグナル伝達ドメインは、ヒトCD3ゼータ鎖(CD3ζ)を含む、及び/又は、
(g)前記CAR、は以下を含む:
(i)PSMA抗原結合ドメイン、CD2共刺激ドメイン及びCD3ゼータ細胞内シグナル伝達ドメイン、
(ii)メソセリン抗原結合ドメイン、4-1BB共刺激ドメイン及びCD3ゼータシグナル伝達ドメイン、又は、
(iii)TnMUC1抗原結合ドメイン、CD2共刺激ドメイン及びCD3ゼータシグナル伝達ドメイン、
請求項11に記載の修飾免疫細胞。
【請求項13】
(a)前記スイッチ受容体は、負のシグナルに関連するシグナル伝達タンパク質の細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン及び正のシグナルに関連するシグナル伝達タンパク質の細胞内ドメインを含む、及び/又は、
(b)前記ドミナントネガティブ受容体は、以下を含む:
(i)負のシグナルに関連する野生型タンパク質の切断型バリアント、
(ii)細胞外ドメイン、膜貫通ドメインを含み、細胞内シグナル伝達ドメインを実質的に欠く、負のシグナルに関連する野生型タンパク質のバリアント、又は、
(iii)負のシグナルに関連するシグナル伝達タンパク質の細胞外ドメイン及び膜貫通ドメイン、
請求項1~12の何れか1項に記載の修飾免疫細胞。
【請求項14】
(a)前記負のシグナルに関連するタンパク質は、CTLA4、PD-1、TGFβRII、BTLA、VSIG3、VSIG8及びTIM-3からなる群から選択される、及び/又は、
(b)前記正のシグナルに関連するタンパク質は、CD28、4-1BB、IL12Rβ1、IL12Rβ2、CD2、ICOS及びCD27からなる群から選択される、及び/又は、
(c)前記スイッチ受容体は、PD-1-CD28、PD-1
A132L-CD28、PD-1-CD27、PD-1
A132L-CD27、PD-1-4-1BB、PD-1
A132L-4-1BB、PD-1-ICOS、PD-1
A132L-ICOS、PD-1-IL12Rβ1、PD-1
A132L-IL12Rβ1、PD-1-IL12Rβ2、PD-1
A132L-IL12Rβ2、VSIG3-CD28、VSIG8-CD28、VSIG3-CD27、VSIG8-CD27、VSIG3-4-1BB、VSIG8-4-1BB、VSIG3-ICOS、VSIG8-ICOS、VSIG3-IL12Rβ1、VSIG8-IL12Rβ1、VSIG3-IL12Rβ2、VSIG8-IL12Rβ2、TGFβRII-CD27、TGFβRII-CD28、TGFβRII-4-1BB、TGFβRII-ICOS、TGFβRII-IL12Rβ1及びTGFβRII-IL12Rβ2からなる群から選択される、及び/又は、
(d)前記ドミナントネガティブ受容体は、PD1、VSIG3、VISG8又はTGFβRドミナントネガティブ受容体である、及び/又は、
(e)前記膜貫通ドメインは、以下のとおりである:
(i)CTLA4、PD-1、VSIG3、VSIG8、TGFβRII、BTLA、TIM-3、CD28、4-1BB、IL12Rβ1、IL12Rβ2、CD2、ICOS及びCD27からなる群から選択されるタンパク質の膜貫通ドメインから選択される、
(ii)前記負のシグナルに関連するタンパク質の膜貫通部又は前記負のシグナルに関連タンパク質の膜貫通ドメインから選択される、
請求項13に記載の修飾免疫細胞。
【請求項15】
CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖(li鎖)からなる群から選択される少なくとも1つの機能障害ポリペプチドを含む、単離修飾T細胞であって、
前記機能障害ポリペプチドを含む前記修飾T細胞は、以下の少なくとも1つを発揮する:
(i)非修飾のT細胞と比較してT細胞受容体の発現が減少する、
(ii)障害ポリペプチドの発現が減少する、
(iii)T細胞受容体複合体の表面発現が完全に欠如する、及び、
(iv)T細胞受容体の架橋結合が減少する又は不十分である。
【請求項16】
(a)前記修飾T細胞は、該修飾T細胞が対象に投与された場合、同じ対象に投与された非修飾T細胞によって発揮される免疫応答と比較して、対象において低下した免疫応答を発揮する、及び/又は、
(b)前記修飾T細胞は、2つ以上の機能障害ポリペプチドを含み、第2の障害ポリペプチドは、T細胞受容体鎖(TRAC)である、及び/又は、
(c)前記修飾T細胞は、以下を含む:
(i)TRAC、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される3つ以上の機能障害ポリペプチド、
(ii)CD3α、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される2つの機能障害ポリペプチド、
(iii)CD3α、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される3つの機能障害ポリペプチド、
(iv)CD3δ、CD3ε及びCD3γからなる群から選択される機能障害ポリペプチド並びにTRAC、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される少なくとも1つの機能障害ポリペプチド、又は、
(v)CD3δ、CD3ε及びCD3γからなる群から選択される機能障害ポリペプチド並びにTRAC、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される機能障害ポリペプチド、及び/又は、
(d)前記修飾T細胞は、以下を含む:
(i)機能障害CD3δ及びTRAC、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される少なくとも1つの機能障害ポリペプチド、
(ii)機能障害CD3ε及びTRAC、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される少なくとも1つの機能障害ポリペプチド、又は、
(iii)機能障害CD3γ及びTRAC、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される少なくとも1つの機能障害ポリペプチド、及び/又は、
(e)前記修飾T細胞は、TRAC、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される2つ以上の機能障害ポリペプチドを含み、及び/又は、
(f)前記修飾T細胞は、
(i)TRAC、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、Ii鎖又はそれらの任意の組み合わせの発現が低下している、又は、
(ii)CD3δ、CD3ε、CD3γ、TRAC、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、Ii鎖又はそれらの任意の組み合わせを発現しない、及び/又は、
(g)前記修飾T細胞は、TRAC、B2M及びC2TAから選択される機能障害ポリペプチドをさらに含む、及び/又は、
(h)前記修飾T細胞は、TRAC、B2M若しくはC2TAの発現が低下しているか、又はTRAC、B2M若しくはC2TAを発現しない、及び/又は、
(i)CD3δ、CD3ε及び/又はCD3γの修飾は、TCR/CD3複合体の機能障害につながる、及び/又は、
(j)CD3δ、CD3ε又はCD3γは、CD3δ、CD3ε又はCD3γの1つ又は複数のエクソン、任意選択で、CD3δ、CD3ε又はCD3γのエクソン1を標的とすることによって修飾される、
請求項15に記載の単離修飾T細胞。
【請求項17】
修飾免疫細胞を生成する方法であって、
(a)免疫細胞に、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖(Ii鎖)からなる群から選択される内因性免疫タンパク質をコードする1つ又は複数の内因性免疫遺伝子の遺伝子発現を下方制御することができる1つ又は複数の核酸を導入する工程、
(b)キメラ抗原受容体(CAR)、組み換えT細胞受容体(TCR)、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)、抗原結合ポリペプチド、細胞表面受容体リガンド又は腫瘍抗原をコードする外因性核酸を免疫細胞に導入する工程、及び、
(c)前記修飾免疫細胞を増殖させてT細胞の集団を生成する工程、及び任意選択で、
(d)ドミナントネガティブ受容体、スイッチ受容体又はそれらの組み合わせをコードする外因性核酸を前記免疫細胞に導入する工程をさらに含む。
【請求項18】
(a)1つ又は複数の核酸は、以下の遺伝子発現を下方制御することができる:
(i)CD3δ、CD3ε又はCD3γから選択されるT細胞受容体サブユニット、
(ii)B2M、TAP1、TAP2、TAPBP又はNLRC5から選択されるHLAクラスI分子、及び、
(iii)HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はインバリアント鎖(Ii鎖)から選択されるHLAクラスII分子、及び/又は、
(b)1つ又は複数の核酸は、CD3δの遺伝子発現並びにB2M、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖)及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるHLA分子の遺伝子発現を下方制御することができ、及び/又は、
(c)1つ又は複数の核酸は、CD3εの遺伝子発現並びにB2M、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、CIITA、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖)及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるHLA分子の遺伝子発現を下方制御することができ、及び/又は、
(d)1つ又は複数の核酸は、CD3γ並びにB2M、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、CIITA、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖)及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるHLA分子の遺伝子発現を下方制御することができる、
請求項17に記載の方法。
【請求項19】
1つ又は複数の核酸は、以下の遺伝子発現を下方制御することができる、請求項17又は18に記載の方法:
(I)以下の何れか1つ:
(a)CD3ε、B2M及びCIITA、
(b)CD3ε、B2M及びRFX5、
(c)CD3ε、B2M及びRFXAP、
(d)CD3ε、B2M及びRFXANK、
(e)CD3ε、B2M及びHLA-DM、
(f)CD3ε、B2M及びIi鎖、
(g)CD3ε、TAP1及びCIITA、
(h)CD3ε、TAP1及びRFX5、
(i)CD3ε、TAP1及びRFXAP、
(j)CD3ε、TAP1及びRFXANK、
(k)CD3ε、TAP1及びHLA-DM、
(l)CD3ε、TAP1及びIi鎖、
(m)CD3ε、TAP2及びCIITA、
(n)CD3ε、TAP2及びRFX5、
(o)CD3ε、TAP2及びRFXAP、
(p)CD3ε、TAP2及びRFXANK、
(q)CD3ε、TAP2及びHLA-DM、
(r)CD3ε、TAP2及びIi鎖、
(s)CD3ε、NLRC5及びCIITA、
(t)CD3ε、NLRC5及びRFX5、
(u)CD3ε、NLRC5及びRFXAP、
(v)CD3ε、NLRC5及びRFXANK、
(w)CD3ε、NLRC5及びHLA-DM、
(x)CD3ε、NLRC5及びIi鎖、
(y)CD3ε、TAPBP及びCIITA、
(z)CD3ε、TAPBP及びRFX5、
(aa)CD3ε、TAPBP及びRFXAP、
(bb)CD3ε、TAPBP及びRFXANK、
(cc)CD3ε、TAPBP及びHLA-DM、又は
(dd)CD3ε、TAPBP及びIi鎖、又は、
(II)以下の何れか1つ:
(a)CD3δ、B2M及びCIITA、
(b)CD3δ、B2M及びRFX5、
(c)CD3δ、B2M及びRFXAP、
(d)CD3δ、B2M及びRFXANK、
(e)CD3δ、B2M及びHLA-DM、
(f)CD3δ、B2M及びIi鎖、
(g)CD3δ、TAP1及びCIITA、
(h)CD3δ、TAP1及びRFX5、
(i)CD3δ、TAP1及びRFXAP、
(j)CD3δ、TAP1及びRFXANK、
(k)CD3δ、TAP1及びHLA-DM、
(l)CD3δ、TAP1及びIi鎖、
(m)CD3δ、TAP2及びCIITA、
(n)CD3δ、TAP2及びRFX5、
(o)CD3δ、TAP2及びRFXAP、
(p)CD3δ、TAP2及びRFXANK、
(q)CD3δ、TAP2及びHLA-DM、
(r)CD3δ、TAP2及びIi鎖、
(s)CD3δ、NLRC5及びCIITA、
(t)CD3δ、NLRC5及びRFX5、
(u)CD3δ、NLRC5及びRFXAP、
(v)CD3δ、NLRC5及びRFXANK、
(w)CD3δ、NLRC5及びHLA-DM、
(x)CD3δ、NLRC5及びIi鎖、
(y)CD3δ、TAPBP及びCIITA、
(z)CD3δ、TAPBP及びRFX5、
(aa)CD3δ、TAPBP及びRFXAP、
(bb)CD3δ、TAPBP及びRFXANK、
(cc)CD3δ、TAPBP及びHLA-DM、又は
(dd)CD3δ、TAPBP及びIi鎖、又は、
(III)以下の何れか1つ:
(a)CD3γ、B2M及びCIITA、
(b)CD3γ、B2M及びRFX5、
(c)CD3γ、B2M及びRFXAP、
(d)CD3γ、B2M及びRFXANK、
(e)CD3γ、B2M及びHLA-DM、
(f)CD3γ、B2M及びIi鎖、
(g)CD3γ、TAP1及びCIITA、
(h)CD3γ、TAP1及びRFX5、
(i)CD3γ、TAP1及びRFXAP、
(j)CD3γ、TAP1及びRFXANK、
(k)CD3γ、TAP1及びHLA-DM、
(l)CD3γ、TAP1及びIi鎖、
(m)CD3γ、TAP2及びCIITA、
(n)CD3γ、TAP2及びRFX5、
(o)CD3γ、TAP2及びRFXAP、
(p)CD3γ、TAP2及びRFXANK、
(q)CD3γ、TAP2及びHLA-DM、
(r)CD3γ、TAP2及びIi鎖、
(s)CD3γ、NLRC5及びCIITA、
(t)CD3γ、NLRC5及びRFX5、
(u)CD3γ、NLRC5及びRFXAP、
(v)CD3γ、NLRC5及びRFXANK、
(w)CD3γ、NLRC5及びHLA-DM、
(x)CD3γ、NLRC5及びIi鎖、
(y)CD3γ、TAPBP及びCIITA、
(z)CD3γ、TAPBP及びRFX5、
(aa)CD3γ、TAPBP及びRFXAP、
(bb)CD3γ、TAPBP及びRFXANK、
(cc)CD3γ、TAPBP及びHLA-DM、又は
(dd)CD3γ、TAPBP及びIi鎖。
【請求項20】
(a)前記免疫細胞は、T細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、ナチュラルキラーT細胞、リンパ前駆細胞、造血幹細胞、幹細胞、マクロファージ及び樹状細胞、及び/又は、
(b)前記免疫細胞は、CD4陽性T細胞又はCD8陽性T細胞、及び/又は、
(c)前記免疫細胞は、同種異系T細胞又は自己T細胞である、
請求項17~19の何れか1項に記載の方法。
【請求項21】
(a)前記核酸は、ウイルス形質導入によって免疫細胞に導入され、該ウイルス形質導入は、該免疫細胞を、1つ又は複数の核酸を含むウイルスベクターと接触させることを含む、及び/又は、
(b)前記核酸は、ウイルス形質導入によって免疫細胞に導入され、該ウイルス形質導入は、該免疫細胞を、1つ又は複数の核酸を含むウイルスベクターと接触させることを含み、さらに、該ウイルスベクターは、レトロウイルスベクター、センダイウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター及びレンチウイルスベクターからなる群から選択される、及び/又は、
(c)発現を下方制御することができる1つ又は複数の核酸のそれぞれは、以下の群から選択される遺伝子編集系を含む:
(i)CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)エンドヌクレアーゼ系及びガイドRNA、
(ii)TALEN遺伝子編集系、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)遺伝子編集系、メガヌクレアーゼ遺伝子編集系又はメガTALEN遺伝子編集系、及び、
(iii)アンチセンスRNA、アンチゴマーRNA、RNAi、siRNA又はshRNAから選択される遺伝子サイレンシング系、
請求項17~20の何れか1項に記載の方法。
【請求項22】
(a)前記Casエンドヌクレアーゼは、Cas3、Cas4、Cas8a、Cas8b、Cas9、Cas10、Cas10d、Cas12a、Cas12b、Cas12d、Cas12e、Cas12f、Cas12g、Cas12h、Cas12i、Cas13、Cas14、CasX、Cse1、Csy1、Csn2、Cpf1、C2c1、Csm2、Cmr5、Fok1、S.pyogenes Cas9、Staphylococcus aureus Cas9、MAD7又はそれらの任意の組み合わせ、を含む、及び/又は、
(b)前記CRISPR-Cas系は、pAd5/F35-CRISPRベクターを含む、及び/又は、
(c)前記ガイドRNAは、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖(Ii鎖)からなる群から選択される免疫タンパク質をそれぞれコードする1つ又は複数の遺伝子座内の配列と相補的なガイド配列を含む、及び/又は、
(d)前記ガイドRNAは、(1)CD3δ、CD3ε若しくはCD3γの1つ又は複数のエクソン又は(2)CD3δ、CD3ε若しくはCD3γのエクソン1内の配列と相補的である、又は、
(e)前記配列は、CD3δ遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは配列番号53によってコードされる核酸配列を含む、又は、
(f)前記配列は、CD3ε遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号52によってコードされる核酸配列を含む。又は、
(g)前記配列は、CD3γ遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号54によってコードされる核酸配列を含む、又は、
(h)前記配列は、B2M遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号55によってコードされる核酸配列を含む、又は、
(i)前記配列は、CIITA遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号61によってコードされる核酸配列を含む、又は、
(j)前記配列は、TAP1遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号56によってコードされる核酸配列を含む、又は、
(k)前記配列は、TAP2遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号57によってコードされる核酸配列を含む、又は、
(l)前記配列は、TAPBP遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号58、配列番号59又はそれらの組み合わせによってコードされる核酸配列を含む、又は、
(m)前記配列は、NLRC5遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号60によってコードされる核酸配列を含む、又は、
(n)前記配列は、HLA-DM遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号62によってコードされる核酸配列を含む、又は、
(o)前記配列は、RFX5遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号63、配列番号64又はそれらの組み合わせによってコードされる核酸配列を含む、又は、
(p)前記配列は、RFXANK遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号65によってコードされる核酸配列を含む、又は、
(q)前記配列は、RFXAP遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号66によってコードされる核酸配列を含む、又は、
(r)前記配列は、Ii鎖遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号67、配列番号68又はそれらの組み合わせによってコードされる核酸配列を含む、
請求項21に記載の方法。
【請求項23】
(a)前記免疫細胞は、該免疫細胞が対象に投与された場合、同じ対象に投与された非修飾免疫細胞によって発揮される免疫応答と比較して、対象において低下した免疫応答を発揮する、
(b)前記免疫細胞は、該免疫細胞が対象に投与された場合、TRAC、B2M及びCIITAの遺伝子発現を下方制御することができる1つ又は複数の核酸を含む免疫細胞によって発揮される免疫応答と比較して、対象において低下した免疫応答を発揮する、及び/又は、
(c)前記免疫細胞は、該免疫細胞が対象に投与された場合、対象において低下した免疫応答を発揮し、該免疫応答は、移植片対宿主病(GvHD)応答である、及び/又は、
(d)前記免疫細胞は、該免疫細胞が対象に投与された場合、対象において低下した免疫応答を発揮し、該免疫応答は、移植片対宿主病(GvHD)応答であり、さらに、該GvHD応答の低下は、HLA-I不一致細胞又はHLA-II不一致細胞に対して誘発される、
(e)前記免疫細胞は、該免疫細胞が対象に投与された場合、対象において低下した免疫応答を発揮し、該免疫応答は、移植片対宿主病(GvHD)応答であり、さらに、該GvHD応答は、以下のとおりである:
(i)約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上又は約95%以上、低下する、又は、
(ii)前記GvHD応答は、約1倍以上、約2倍以上、約3倍以上、約4倍以上、約5倍以上、約6倍以上、約7倍以上、約8倍以上、約9倍以上、約10倍以上、約20倍以上、約30倍以上、約50倍以上、約100倍以上、約150倍以上又は約200倍以上低下する、及び/又は、
(f)前記免疫細胞は、該免疫細胞が対象に投与された場合、対象において低下した免疫応答を発揮し、該免疫応答は、移植片対宿主病(GvHD)応答であり、さらに、前記修飾免疫細胞による低下したGvHD応答が、1つ又は複数の遺伝子座における欠失及び/又は挿入を含まない同等の免疫細胞、又は、TRAC、B2M及びCIITAにおける欠失及び/又は挿入を含む免疫細胞と比較される。
請求項17~22の何れか1項に記載の方法。
【請求項24】
(a)前記外因性核酸は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードし、該CARが、抗原結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む、及び/又は、
(b)前記外因性核酸は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードし、該CARが、抗原結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含み、さらに腫瘍抗原を標的とする該抗原結合ドメインは、以下のとおりある:
(i)血液悪性腫瘍に関連する、
(ii)固形腫瘍に関連する、及び/又は、
(iii)ROR1、メソテリン、c-Met、PSMA、PSCA、葉酸受容体アルファー、葉酸受容体ベータ、EGFR、EGFRvIII、GPC2、GPC2、ムチン1(MUC1)、Tn抗原((TnAg)又は(GalNAca-Ser/Thr))、TnMUC1、GDNFファミリー受容体アルファー4(GFRa4)、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)及びインターロイキン-13受容体サブユニットアルファー2(IL-13Ra2又はCD213A2)、及び/又は、
(c)前記外因性核酸は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードし、該CARが、抗原結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含み、さらに該CARは、以下を含む:
(i)PSMA抗原結合ドメイン、CD2共刺激ドメイン及びCD3ゼータ細胞内シグナル伝達ドメイン、
(ii)メソセリン抗原結合ドメイン、4-1BB共刺激ドメイン及びCD3ゼータシグナル伝達ドメイン、又は、
(iii)TnMUC1抗原結合ドメイン、CD2共刺激ドメイン及びCD3ゼータシグナル伝達ドメイン、及び/又は、
(d)前記スイッチ受容体は、以下を含み:
(i)CTLA4、PD-1、VISG3、VSIG8、TGFβRII、BTLA及びTIM-3からなる群より選択される、負のシグナルに関連するシグナル伝達タンパク質の細胞外ドメイン、
(ii)膜貫通ドメイン、及び、
(iii)CD28、4-1BB、IL12Rβ1、IL12Rβ2、CD2、ICOS及びCD27からなる群より選択される正のシグナルに関連するシグナル伝達タンパク質の細胞内ドメイン、及び/又は、
(e)前記ドミナントネガティブ受容体は、以下を含む:
(i)負のシグナルに関連する野生型タンパク質の切断型バリアント、
(ii)細胞外ドメイン、膜貫通ドメインを含み、細胞内シグナル伝達ドメインを実質的に欠く、負のシグナルに関連する野生型タンパク質のバリアント、又は、
(iii)負のシグナルに関連するシグナル伝達タンパク質の細胞外ドメイン及び膜貫通ドメイン、及び/又は、
(f)前記スイッチ受容体は、PD-1-CD28、PD-1
A132L-CD28、PD-1-CD27、PD-1
A132L-CD27、PD-1-4-1BB、PD-1
A132L-4-1BB、PD-1-ICOS、PD-1
A132L-ICOS、PD-1-IL12Rβ1、PD-1
A132L-IL12Rβ1、PD-1-IL12Rβ2、PD-1
A132L-IL12Rβ2、VSIG3-CD28、VSIG8-CD28、VSIG3-CD27、VSIG8-CD27、VSIG3-4-1BB、VSIG8-4-1BB、VSIG3-ICOS、VSIG8-ICOS、VSIG3-IL12Rβ1、VSIG8-IL12Rβ1、VSIG3-IL12Rβ2、VSIG8-IL12Rβ2、TGFβRII-CD27、TGFβRII-CD28、TGFβRII-4-1BB、TGFβRII-ICOS、TGFβRII-IL12Rβ1及びTGFβRII-IL12Rβ2からなる群から選択される、及び/又は、
(g)前記ドミナントネガティブ受容体は、PD1、VSIG3、VISG8又はTGFβRドミナントネガティブ受容体である、及び/又は、
(h)前記膜貫通ドメインは、以下のとおりである:
(i)CTLA4、PD-1、BTLA、TGFβRII、BTLA、TIM-3、CD28、4-1BB、IL12Rβ1、IL12Rβ2、CD2、ICOS及びCD27からなる群から選択されるタンパク質の膜貫通ドメインから選択される、
(ii)前記負のシグナルに関連するタンパク質の膜貫通部又は前記負のシグナルに関連タンパク質の膜貫通ドメインから選択される、
請求項17~23の何れか1項に記載の方法。
【請求項25】
(a)前記修飾免疫細胞の増殖は、flt3-L、IL-1、IL-3、IL-2、IL-7、IL-15、IL-18、IL-21、TGFベータ、IL-10及びc-kitリガンドからなる群より選択される因子でT細胞を培養する工程を含む、及び/又は
(b)前記免疫細胞の多能性を誘導するために、Klf4、Oct3/4及びSox2をコードするポリペプチド及び/又は核酸を免疫細胞に導入する工程をさらに含む、及び/又は、
(c)前記免疫細胞は、血液サンプル、全血サンプル、末梢血単核細胞(PBMC)サンプル又はアフェレーシスサンプルから得られる、及び/又は、
(d)前記免疫細胞は、アフェレーシスサンプルから得られ、さらに該アフェレーシスサンプルは、凍結保存サンプルである、及び/又は、
(e)前記免疫細胞は、アフェレーシスサンプルから得られ、さらに該アフェレーシスサンプルは、新鮮サンプルである、及び/又は、
(f)前記免疫細胞は、ヒト対象から得られる、
請求項17~24の何れか1項に記載の方法。
【請求項26】
請求項17~25の何れか1項に記載の方法から得られる修飾免疫細胞の集団。
【請求項27】
請求項1~16の何れか1項に記載の修飾免疫細胞若しくは修飾T細胞又は請求項26に記載の修飾免疫細胞の集団及び薬学的に許容される担体若しくは賦形剤を含む組成物。
【請求項28】
請求項27に記載の組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、対象における免疫増強に関連する疾患又は症状を治療する方法。
【請求項29】
(a)前記症状は、癌であり、及び/又は
(b)前記症状は、癌であり、さらに該癌は、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、皮膚癌、膵臓癌、結腸直腸癌、腎臓癌、肝臓癌、脳癌、リンパ腫、白血病、肺癌及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、及び/又は、
(c)前記症状は、癌であり、該癌は、固形腫瘍又は血液悪性腫瘍である、
請求項28に記載の方法。
【請求項30】
請求項1~16の何れか1項に記載の修飾免疫細胞若しくは修飾T細胞、請求項26に記載の修飾免疫細胞の集団又は請求項27に記載の組成物を対象に投与することを含む、癌を治療する方法。
【請求項31】
前記癌は、固形腫瘍又は血液悪性腫瘍である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
請求項1~16の何れか1項に記載の修飾免疫細胞若しくは修飾T細胞、請求項26に記載の修飾免疫細胞の集団又は請求項27に記載の組成物を含む有効量の医薬組成物を対象に投与することを含む、対象における標的細胞又は組織に対するT細胞媒介免疫応答を刺激する方法。
【請求項33】
請求項1~16の何れか1項に記載の修飾免疫細胞、請求項26に記載の修飾免疫細胞の集団又は請求項27に記載の組成物を含み、任意選択で使用説明書を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照:
本出願は、2021年9月10日に出願された米国仮出願第63/242,909号の優先権の利益を主張するものであり、その内容は参照により特に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
養子免疫療法(Adoptive immunotherapy)は、エクスビボ(ex vivo)で生成された自己抗原特異的T細胞(autologous antigen-specific T-cells)を患者に戻すものであり、癌、感染症、自己免疫疾患(auto-immune diseases)の治療に有望な戦略(strategy)であることが示されている。養子免疫療法に使用されるT細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)又は組み換えT細胞受容体(TCR)を発現(express)するように組み換えられた(engineered)一次細胞(primary cell)であり、エクスビボで増殖して一次免疫細胞を癌細胞等の病理学的細胞に誘導する。CARは、単一の融合分子(single fusion molecule)内の1つ又は複数のシグナル伝達ドメインに関連付けられた標的部分からなる合成抗体様分子であり、T細胞に抗原特異性を伝達するように設計されている。CARは、リンパ腫や固形腫瘍を含む様々な悪性腫瘍の腫瘍細胞表面に発現する抗原に対してT細胞をリダイレクト(redirect)させることに成功している。CARを発現するT細胞は、特定の種類の癌の治療において長期的な有効性も示す。
【0003】
しかしながら、養子免疫療法は現在、自己細胞移植(autologous cell transfer)に基づいている。自己免疫療法では、患者から単離され、エクスビボで遺伝子組換え又は選択され、インビトロ(in vitro)で培養され、患者に再び注入された患者自身のリンパ球に基づいて、患者は個別化された治療を受ける。自己養子免疫療法は承認され、一般的に成功しているにもかかわらず、そのような治療法の拡張性と実現可能性には大きな課題がある。自己養子免疫療法は依然としてかなり複雑であり、専門知識と臨床管理、そして高価な専用施設を必要とする。また、CAR製造中に病気が急速に進行したり、治療前に患者の免疫機能が低下したりするため、養子免疫療法を受けることができない患者も多く存在する。そのため、癌免疫療法の広範な臨床応用は、自己CAR T細胞の個別化調製によって課せられる相当な経済的制約によって制限されている。したがって、同種治療用細胞(allogeneic therapeutic cells)が事前に製造され、詳細に特徴付けられ、幅広い患者に即時に投与できる標準化された養子免疫療法が必要である。
【0004】
同種免疫療法(Allogeneic immunotherapy)は、同種T細胞反応(allogeneic T-cell responses)等の多くの合併症を引き起こす可能性のある危険な処置であり、同種T細胞反応は、臨床的には移植片対宿主病(graft-versus-host disease)(GVHD)及び/又は宿主対移植片病(Host-versus-Graft disease)(HvGD、移植片拒絶)として現れる。GvHDは、ドナーCAR細胞上のアロ反応性(alloreactive)TCRを介して注入された同種異形CAR-T細胞による受容体(recipient)組織の攻撃によって引き起こされる。特に、注入されたT細胞上の内因性(endogenous)T細胞受容体アルファー(TCRα;TRAC)及びベータ(TCRβ;TRBC)鎖は、受容体内の主要及びマイナー組織適合性抗原を認識し、GvHDを引き起こす可能性がある。逆に、注入された同種異形CAR T細胞は受容者のTリンパ球によって拒絶され、HvGDを引き起こす可能性がある。このように、同種固有の免疫応答を制御する標準的な解決策が特定されれば、同種異形CAR T細胞の使用により、養子免疫療法の適用性と汎用性が向上するであろう。GvHDを特異的に阻害することで、同種異形CAR T細胞の安全かつ効果的な使用が可能になる。
【発明の概要】
【発明が解決すべき課題】
【0005】
従って、宿主免疫応答を誘発しないCAR-T細胞の改良された方法に対する必要性が存在する。具体的には、改善された適合性を有する同種異形T細胞を生成するための新規な代替組成物及び方法が必要とされている。
【0006】
本発明は、これらのニーズに対処する方法及び組成物を提供する。
概要:
【課題を解決するための手段】
【0007】
一つの態様において、本開示は、以下を含む修飾(modified)免疫細胞:(a)CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖(Ii鎖)からなる群より選択される内因性免疫タンパク質をそれぞれコードする(encodeing)1つ又は複数の遺伝子座における挿入及び/又は欠失、を提供する。前記挿入及び/又は欠失は、1つ又は複数の内因性免疫遺伝子の遺伝子発現(gene expression)を下方制御する(downregulating)ことができる。さらに、前記修飾免疫細胞は、(b)キメラ抗原受容体(CAR)、組み換えT細胞受容体(TCR)、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)、抗原結合ポリペプチド、細胞表面受容体リガンド又は腫瘍抗原をコードする外因性(exogenous)核酸、を含む。いくつかの実施形態において、前記修飾免疫細胞は、ドミナントネガティブ受容体、スイッチ受容体、ケモカイン、ケモカイン受容体、サイトカイン、サイトカイン受容体、IL-7、IL-7R、IL-15、IL-15R、IL-21、IL-18、CCL21、CCL19又はそれらの任意の組み合わせをさらに含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、前記挿入及び/又は欠失は、以下の遺伝子発現を下方制御することができる:(a)CD3δ、CD3ε及び/又はCD3γから選択されるT細胞受容体サブユニッット、(b)B2M、TAP1、TAP2、TAPBP及び/又はNLRC5から選択されるHLAクラスI分子、並びに、(c)HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及び/又はインバリアント鎖(Ii鎖)から選択されるHLAクラスII分子。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記挿入及び/又は欠失は、以下を下方制御することができる:(a)CD3δの遺伝子発現、及び、(b)B2M、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖)及びそれらの任意の組み合わせからなる群より選択されるHLA分子の遺伝子発現。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記挿入及び/又は欠失は、以下を下方制御することができる:(a)CD3εの遺伝子発現、及び、(b)B2M、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、CIITA、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖)及びそれらの任意の組み合わせからなる群より選択されるHLA分子の遺伝子発現。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記挿入及び/又は欠失は、以下を下方制御することができる:(a)CD3γの遺伝子発現、及び、(b)B2M、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、CIITA、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖)及びそれらの任意の組み合わせからなる群より選択されるHLA分子の遺伝子発現。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記挿入及び/又は欠失は、以下の遺伝子発現を下方制御することができる:(a)CD3ε、B2M及びCIITA、(b)CD3ε、B2M及びRFX5、(c)CD3ε、B2M及びRFXAP、(d)CD3ε、B2M及びRFXANK、(e)CD3ε、B2M及びHLA-DM、(f)CD3ε、B2M及びIi鎖、(g)CD3ε、TAP1及びCIITA、(h)CD3ε、TAP1及びRFX5、(i)CD3ε、TAP1及びRFXAP、(j)CD3ε、TAP1及びRFXANK、(k)CD3ε、TAP1及びHLA-DM、(l)CD3ε、TAP1及びIi鎖、(m)CD3ε、TAP2及びCIITA、(n)CD3ε、TAP2及びRFX5、(o)CD3ε、TAP2及びRFXAP、(p)CD3ε、TAP2及びRFXANK、(q)CD3ε、TAP2及びHLA-DM、(r)CD3ε、TAP2及びIi鎖、(s)CD3ε、NLRC5及びCIITA、(t)CD3ε、NLRC5及びRFX5、(u)CD3ε、NLRC5及びRFXAP、(v)CD3ε、NLRC5及びRFXANK、(w)CD3ε、NLRC5及びHLA-DM、(x)CD3ε、NLRC5及びIi鎖、(y)CD3ε、TAPBP及びCIITA、(z)CD3ε、TAPBP及びRFX5、(aa)CD3ε、TAPBP及びRFXAP、(bb)CD3ε、TAPBP及びRFXANK、(cc)CD3ε、TAPBP及びHLA-DM又は(dd)CD3ε、TAPBP及びIi鎖。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記挿入及び/又は欠失は、以下の遺伝子発現を下方制御することができる:(a)CD3δ、B2M及びCIITA、(b)CD3δ、B2M及びRFX5、(c)CD3δ、B2M及びRFXAP、(d)CD3δ、B2M及びRFXANK、(e)CD3δ、B2M及びHLA-DM、(f)CD3δ、B2M及びIi鎖、(g)CD3δ、TAP1及びCIITA、(h)CD3δ、TAP1及びRFX5、(i)CD3δ、TAP1及びRFXAP、(j)CD3δ、TAP1及びRFXANK、(k)CD3δ、TAP1及びHLA-DM、(l)CD3δ、TAP1及びIi鎖、(m)CD3δ、TAP2及びCIITA、(n)CD3δ、TAP2及びRFX5、(o)CD3δ、TAP2及びRFXAP、CD3δ、TAP2及びRFXANK、CD3δ、TAP2及びHLA-DM、(r)CD3δ、TAP2及びIi鎖、(s)CD3δ、NLRC5及びCIITA、(t)CD3δ、NLRC5及びRFX5、(u)CD3δ、NLRC5及びRFXAP、(v)CD3δ、NLRC5及びRFXANK、(w)CD3δ、NLRC5及びHLA-DM、(x)CD3δ、NLRC5及びIi鎖、(y)CD3δ、TAPBP及びCIITA、(z)CD3δ、TAPBP及びRFX5、(aa)CD3δ、TAPBP及びRFXAP、(bb)CD3δ、TAPBP及びRFXANK、(cc)CD3δ、TAPBP及びHLA-DM又は(dd)CD3δ、TAPBP及びIi鎖。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記挿入及び/又は欠失は、以下の遺伝子発現を下方制御することができる:(a)CD3γ、B2M及びCIITA、(b)CD3γ、B2M及びRFX5、(c)CD3γ、B2M及びRFXAP、(d)CD3γ、B2M及びRFXANK、(e)CD3γ、B2M及びHLA-DM、(f)CD3γ、B2M及びIi鎖、(g)CD3γ、TAP1及びCIITA、(h)CD3γ、TAP1及びRFX5、(i)CD3γ、TAP1及びRFXAP、(j)CD3γ、TAP1及びRFXANK、(k)CD3γ、TAP1及びHLA-DM、(l)CD3γ、TAP1及びIi鎖、(m)CD3γ、TAP2及びCIITA、(n)CD3γ、TAP2及びRFX5、(o)CD3γ、TAP2及びRFXAP、(p)CD3γ、TAP2及びRFXANK、(q)CD3γ、TAP2及びHLA-DM、(r)CD3γ、TAP2及びIi鎖、(s)CD3γ、NLRC5及びCIITA、(t)CD3γ、NLRC5及びRFX5、(u)CD3γ、NLRC5及びRFXAP、(v)CD3γ、NLRC5及びRFXANK、(w)CD3γ、NLRC5及びHLA-DM、(x)CD3γ、NLRC5及びIi鎖、(y)CD3γ、TAPBP及びCIITA、(z)CD3γ、TAPBP及びRFX5、(aa)CD3γ、TAPBP及びRFXAP、(bb)CD3γ、TAPBP及びRFXANK、(cc)CD3γ、TAPBP及びHLA-DM又は(dd)CD3γ、TAPBP及びIi鎖。
【0015】
いくつかの実施形態において、前記修飾修飾免疫細胞は、T細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、ナチュラルキラーT細胞、リンパ系前駆細胞、造血幹細胞、幹細胞、マクロファージ、樹状細胞又はそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。いくつかの実施形態において、前記修飾免疫細胞は、CD4陽性T細胞又はCD8陽性T細胞である。いくつかの実施形態において、前記修飾免疫細胞は、同種異形T細胞又は自己ヒトT細胞である。
【0016】
いくつかの実施形態において、前記挿入及び/又は欠失は、以下からなる群から選択される遺伝子編集の結果である、(a)CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)エンドヌクレアーゼ系及びガイドRNA、(b)TALEN遺伝子編集系、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)遺伝子編集系、メガヌクレアーゼ遺伝子編集系又はメガTALEN遺伝子編集系、及び、(c)アンチセンスRNA、アンチゴマーRNA、RNAi、siRNA又はshRNAから選択される遺伝子サイレンシング系。いくつかの実施形態において、前記CRISPR-Cas系は、pAd5/F35-CRISPRベクターを含む。いくつかの実施形態において、前記Casエンドヌクレアーゼは、Cas3、Cas4、Cas8a、Cas8b、Cas9、Cas10、Cas10d、Cas12a、Cas12b、Cas12d、Cas12e、Cas12f、Cas12g、Cas12h、Cas12i、Cas13、Cas14、CasX、Cse1、Csy1、Csn2、Cpf1、C2c1、Csm2、Cmr5、Fok1、S.pyogenes Cas9、Staphylococcus aureus Cas9、MAD7ヌクレアーゼ(V型CRISPRヌクレアーゼ(a type V CRISPR nuclease))又はそれらの任意の組み合わせ、を含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、前記CRISPR-Casエンドヌクレアーゼ系は、ガイドRNAを含む。いくつかの実施形態において、前記ガイドRNAは、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖(Ii鎖)からなる群から選択される免疫タンパク質をそれぞれコードする1つ又は複数の遺伝子座内の配列と相補的なガイド配列を含む。いくつかの実施形態において、前記ガイドRNAは、CD3δ、CD3ε又はCD3γのエクソン内の配列と相補的である。
【0018】
いくつかの実施形態において、前記相補的配列は、CD3δ遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは配列番号53によってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記相補的配列は、CD3ε遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号52によってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記相補的配列は、
CD3γ遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号54によってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記相補的配列は、B2M遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号55によってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記相補的配列は、CIITA遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号61によってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記相補的配列は、TAP1遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号56によってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記相補的配列は、TAP2遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号57によってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記相補的配列は、TAPBP遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号58、配列番号59又はそれらの組み合わせによってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記相補的配列は、NLRC5遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号60によってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記相補的配列は、HLA-DM遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号62によってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記相補的配列は、RFX5遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号63、配列番号64又はそれらの組み合わせによってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記相補的配列は、RFXANK遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号65によってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記相補的配列は、RFXAP遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号66によってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記相補的配列は、Ii鎖遺伝子座内にあり、前記ガイドRNAは、配列番号67、配列番号68又はそれらの任意の組み合わせによってコードされる核酸配列を含む。
【0019】
本開示の一態様において、前記修飾免疫細胞は、該修飾免疫細胞が対象に投与された場合、同じ対象に投与された非修飾免疫細胞によって発揮される免疫応答と比較して、対象において低下した免疫応答を発揮する。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記修飾免疫細胞は、該修飾免疫細胞が対象に投与された場合、TRAC、TRBC、B2M及びCIITAの遺伝子発現を下方制御することができる挿入及び/又は欠失を含む免疫細胞によって発揮される免疫応答と比較して、対象において低下した免疫応答を発揮する。いくつかの実施形態において、前記免疫応答は、移植片対宿主病(GvHD)応答である。いくつかの実施形態において、前記修飾免疫細胞による前記GvHD応答の低下は、1つ又は複数の遺伝子座における欠失及び/又は挿入のない同等の免疫細胞、又はTRAC、TRBC、B2M及びCIITAにおける欠失及び/又は挿入を含む免疫細胞と比較される。いくつかの実施形態において、GvHD応答の低下は、HLA-I不一致細胞に対して又はHLA-II不一致細胞に対して誘発される。
【0021】
いくつかの実施形態において、前記GvHD応答は、約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上又は約95%以上、低下する。いくつかの実施形態において、前記GvHD応答は、約1倍以上、約2倍以上、約3倍以上、約4倍以上、約5倍以上、約6倍以上、約7倍以上、約8倍以上、約9倍以上、約10倍以上、約20倍以上、約30倍以上、約50倍以上、約100倍以上、約150倍以上又は約200倍以上低下する。
【0022】
本開示の一つの態様において、前記外因性核酸は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする。いくつかの実施形態において、前記CARは、抗原結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む。いくつかの実施形態において、前記抗原結合ドメインは、全長抗体若しくはその抗原結合フラグメント、Fab、F(ab)2、単一特異性Fab2、二重特異性Fab2、三重特異性Fab2、単鎖可変フラグメント(scFv)、ダイアボディ、トリアボディ、ミニボディ、V-NAR又はVhHを含む。
【0023】
前記修飾免疫細胞のいくつかの実施形態において、前記膜貫通ドメインは、人工疎水性配列、I型膜貫通タンパク質の膜貫通ドメイン、T細胞受容体のアルファー鎖、ベータ鎖若しくはゼータ鎖、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD2、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、OX40(CD134)、4-1BB(CD137)、ICOS(CD278)、CD154、CD357(GITR)、Toll様受容体1(TLR1)、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、及びキラー免疫グロブリン様受容体(KIR)由来の膜貫通ドメインから選択される。
【0024】
前記修飾免疫細胞のいくつかの実施形態において、前記共刺激ドメインは、TNFRスーパーファミリーのタンパク質、CD28、4-1BB(CD137)、OX40(CD134)、PD-1、CD7、LIGHT、CD83L、DAP10、DAP12、CD27、CD2、CD5、ICAM-1、LFA-1、Lck、TNFR-I、TNFR-II、Fas、CD30、CD40、ICOS(CD278)、NKG2C、B7-H3(CD276)及びキラー免疫グロブリン様受容体(KIR)由来の細胞内ドメイン又はそれらのバリアントからなる群から選択されるタンパク質の1つ又は複数の共刺激ドメインを含む。
【0025】
前記修飾免疫細胞のいくつかの実施形態において、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、ヒトCD2の細胞質シグナル伝達ドメイン、CD3ゼータ鎖(CD3ζ)、FcγRIII、FcsRI、Fc受容体の細胞質テール、免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)を持つ細胞質受容体、TCRゼータ、FcRガンマ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD5、CD22、CD79a、CD79b及びCD66d又はそれらのバリアントからなる群から選択される細胞内ドメインを含む。
【0026】
前記修飾免疫細胞のいくつかの実施形態において、前記腫瘍抗原を標的とする抗原結合ドメインは、血液悪性腫瘍に関連する及び/又は固形腫瘍に関連する。いくつかの実施形態において、前記抗原結合ドメインは、ROR1、メソテリン、c-Met、PSMA、PSCA、葉酸受容体アルファー、葉酸受容体ベータ、EGFR、EGFRvIII、GPC2、GPC2、ムチン1(MUC1)、Tn抗原((TnAg)又は(GalNAca-Ser/Thr))、TnMUC1、GDNFファミリー受容体アルファー4(GFRa4)、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、及びインターロイキン-13受容体サブユニットアルファー2(IL-13Ra2又はCD213A2)からなる群から選択される腫瘍抗原を標的とする。
【0027】
いくつかの実施形態において、前記CARは、(a)PSMA抗原結合ドメイン、CD2共刺激ドメイン及びCD3ゼータ細胞内シグナル伝達ドメイン又は(b)メソセリン抗原結合ドメイン、4-1BB共刺激ドメイン及びCD3ゼータシグナル伝達ドメイン又は(c)TnMUC1抗原結合ドメイン、CD2共刺激ドメイン及びCD3ゼータシグナル伝達ドメインを含む。
【0028】
本開示の一態様において、前記修飾免疫細胞は、さらにスイッチ受容体を含む。いくつかの実施形態において、前記スイッチ受容体は、負のシグナルに関連するシグナル伝達タンパク質の細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン及び正のシグナルに関連するシグナル伝達タンパク質の細胞内ドメインを含む。
【0029】
いくつかの実施形態において、前記修飾免疫細胞は、さらに前記ドミナントネガティブ受容体を含む。いくつかの実施形態において、前記ドミナントネガティブ受容体は、(a)負のシグナルに関連する野生型タンパク質の切断型バリアント又は(b)細胞外ドメイン、膜貫通ドメインを含み、細胞内シグナル伝達ドメインを実質的に欠く、負のシグナルに関連する野生型タンパク質のバリアント、又は、(c)負のシグナルに関連するシグナル伝達タンパク質の細胞外ドメイン及び膜貫通ドメイン、を含む。いくつかの実施形態において、前記ドミナントネガティブ受容体は、PD1、VSIG3、VISG8又はTGFβRドミナントネガティブ受容体である。
【0030】
いくつかの実施形態において、前記負のシグナルに関連するタンパク質は、CTLA4、PD-1、TGFβRII、BTLA、VSIG3、VSIG8及びTIM-3からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、前記正のシグナルに関連するタンパク質は、CD28、4-1BB、IL12Rβ1、IL12Rβ2、CD2、ICOS及びCD27からなる群から選択される。
【0031】
いくつかの実施形態において、前記スイッチ受容体は、PD-1-CD28、PD-1A132L-CD28、PD-1-CD27、PD-1A132L-CD27、PD-1-4-1BB、PD-1A132L-4-1BB、PD-1-ICOS、PD-1A132L-ICOS、PD-1-IL12Rβ1、PD-1A132L-IL12Rβ1、PD-1-IL12Rβ2、PD-1A132L-IL12Rβ2、VSIG3-CD28、VSIG8-CD28、VSIG3-CD27、VSIG8-CD27、VSIG3-4-1BB、VSIG8-4-1BB、VSIG3-ICOS、VSIG8-ICOS、VSIG3-IL12Rβ1、VSIG8-IL12Rβ1、VSIG3-IL12Rβ2、VSIG8-IL12Rβ2、TGFβRII-CD27、TGFβRII-CD28、TGFβRII-4-1BB、TGFβRII-ICOS、TGFβRII-IL12Rβ1及びTGFβRII-IL12Rβ2からなる群から選択される。
【0032】
前記修飾免疫細胞のいくつかの実施形態において、前記スイッチ受容体の膜貫通ドメインは、CTLA4、PD-1、VSIG3、VSIG8、TGFβRII、BTLA、TIM-3、CD28、4-1BB、IL12Rβ1、IL12Rβ2、CD2、ICOS及びCD27からなる群から選択されるタンパク質の膜貫通ドメインから選択される。いくつかの実施形態において、前記スイッチ受容体の膜貫通ドメインは、負のシグナルに関連するタンパク質の膜貫通部又は前記負のシグナルに関連タンパク質の膜貫通ドメインから選択される。
【0033】
いくつかの態様において、本開示は、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖(li鎖)からなる群から選択される少なくとも1つの機能障害ポリペプチドを含む、単離修飾T細胞が提供される。いくつかの実施形態において、前記機能障害ポリペプチドを含む前記修飾T細胞は、以下の少なくとも1つを発揮する:(i)非修飾のT細胞と比較してT細胞受容体の発現が減少する、(ii)障害ポリペプチドの発現が減少する、(iii)T細胞受容体複合体の表面発現が完全に欠如する、及び/又は、(iv)T細胞受容体の架橋結合が減少する又は不十分である。いくつかの実施形態において、前記T細胞は、該修飾T細胞が対象に投与された場合、同じ対象に投与された非修飾T細胞によって発揮される免疫応答と比較して、対象において低下した免疫応答を発揮する。
【0034】
いくつかの実施形態において、前記T細胞は、2つ以上の機能障害ポリペプチドを含み、第2の障害ポリペプチドは、T細胞受容体α鎖(TRAC)である及び/又はT細胞受容体β鎖(TRBC)である。
【0035】
いくつかの実施形態において、前記修飾T細胞は、以下を含む:(a)TRAC、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される3つ以上の機能障害ポリペプチド、又は、(b)CD3α、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される2つの機能障害ポリペプチド、又は(c)CD3α、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される3つの機能障害ポリペプチド、又は、(d)CD3δ、CD3ε及びCD3γからなる群から選択される機能障害ポリペプチド並びにTRAC、TRBC、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される少なくとも1つの機能障害ポリペプチド、又は、(e)CD3δ、CD3ε及びCD3γからなる群から選択される機能障害ポリペプチド並びにTRAC、TRBC、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される機能障害ポリペプチド。
【0036】
いくつかの実施形態において、前記修飾T細胞は、以下を含む:(a)機能障害CD3δ及びTRAC、TRBC、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される少なくとも1つの機能障害ポリペプチド、(b)機能障害CD3ε及びTRAC、TRBC、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される少なくとも1つの機能障害ポリペプチド、又は、(c)機能障害CD3γ及びTRAC、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される少なくとも1つの機能障害ポリペプチド。
【0037】
いくつかの実施形態において、前記修飾T細胞は、TRAC、TRBC、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される2つ以上の機能障害ポリペプチドを含む。いくつかの実施形態において、前記修飾T細胞は、TRAC、TRBC、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、Ii鎖又はそれらの任意の組み合わせの発現が低下している。いくつかの実施形態において、前記修飾T細胞は、CD3δ、CD3ε、CD3γ、TRAC、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、Ii鎖又はそれらの任意の組み合わせを発現しない。
【0038】
いくつかの実施形態において、前記修飾T細胞は、TRAC、TRBC、B2M及びC2TAから選択される機能障害ポリペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記修飾T細胞は、TRAC、TRBC、B2M若しくはC2TAの発現が低下しているか、又はTRAC、TRBC、B2M若しくはC2TAを発現しない。いくつかの実施形態において、CD3δ、CD3ε及び/又はCD3γの修飾は、TCR/CD3複合体の機能障害につながる。CD3δ、CD3ε又はCD3γの少なくとも一つは、CD3δ、CD3ε又はCD3γの1つ又は複数のエクソン、任意選択で、CD3δ、CD3ε又はCD3γのエクソン1を標的とすることによって修飾される。
【0039】
本開示の一つの態様は、(a)免疫細胞に、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖(Ii鎖)からなる群から選択される内因性免疫タンパク質をコードする1つ又は複数の内因性免疫遺伝子の遺伝子発現を下方制御することができる1つ又は複数の核酸を導入する工程、(b)キメラ抗原受容体(CAR)、組み換えT細胞受容体(TCR)、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)、抗原結合ポリペプチド、細胞表面受容体リガンド又は腫瘍抗原をコードする外因性核酸を免疫細胞に導入する工程、及び、(c)前記修飾免疫細胞を増殖させてT細胞の集団を生成する工程、を含む修飾免疫細胞を生成する方法、を提供する。いくつかの実施形態において、前記修飾免疫細胞を生成する方法は、ドミナントネガティブ受容体、スイッチ受容体、又はそれらの組み合わせをコードする外因性核酸を前記免疫細胞に導入する工程をさらに含む。
【0040】
いくつかの実施形態において、前記修飾免疫細胞に導入される1つ又は複数の核酸は、以下の遺伝子発現をダウンレギュレートすることができる:(a)CD3δ、CD3ε又はCD3γから選択されるT細胞受容体サブユニット、及び/又は、(b)B2M、TAP1、TAP2、TAPBP又はNLRC5から選択されるHLAクラスI分子、及び/又は、(c)HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はインバリアント鎖(Ii鎖)から選択されるHLAクラスII分子。
【0041】
いくつかの実施形態において、前記修飾免疫細胞に導入された1つ又は複数の核酸は、CD3δの遺伝子発現並びにB2M、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖)及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるHLA分子の遺伝子発現を下方制御することができる。いくつかの実施形態において、前記修飾免疫細胞に導入された1つ又は複数の核酸は、CD3εの遺伝子発現並びにB2M、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、CIITA、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖)及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるHLA分子の遺伝子発現を下方制御することができる。いくつかの実施形態において、前記修飾免疫細胞に導入された1つ又は複数の核酸は、CD3γ並びにB2M、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、CIITA、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖)及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるHLA分子の遺伝子発現を下方制御することができる。
【0042】
いくつかの実施形態では、修飾免疫細胞に導入された1つ又は複数の核酸は、以下の遺伝子発現を下方制御することができる:(a)CD3ε、B2M及びCIITA、(b)CD3ε、B2M及びRFX5、(c)CD3ε、B2M及びRFXAP、(d)CD3ε、B2M及びRFXANK、(e)CD3ε、B2M及びHLA-DM、(f)CD3ε、B2M及びIi鎖、(g)CD3ε、TAP1及びCIITA、(h)CD3ε、TAP1及びRFX5、(i)CD3ε、TAP1及びRFXAP、(j)CD3ε、TAP1及びRFXANK、(k)CD3ε、TAP1及びHLA-DM、(l)CD3ε、TAP1及びIi鎖、(m)CD3ε、TAP2及びCIITA、(n)CD3ε、TAP2及びRFX5、(o)CD3ε、TAP2及びRFXAP、(p)CD3ε、TAP2及びRFXANK、(q)CD3ε、TAP2及びHLA-DM、(r)CD3ε、TAP2及びIi鎖、(s)CD3ε、NLRC5及びCIITA、(t)CD3ε、NLRC5及びRFX5、(u)CD3ε、NLRC5及びRFXAP、(v)CD3ε、NLRC5及びRFXANK、(w)CD3ε、NLRC5及びHLA-DM、(x)CD3ε、NLRC5及びIi鎖、(y)CD3ε、TAPBP及びCIITA、(z)CD3ε、TAPBP及びRFX5、(aa)CD3ε、TAPBP及びRFXAP、(bb)CD3ε、TAPBP及びRFXANK、(cc)CD3ε、TAPBP及びHLA-DM又は(dd)CD3ε、TAPBP及びIi鎖。
【0043】
いくつかの実施形態では、修飾免疫細胞に導入された1つ又は複数の核酸は、以下の遺伝子発現を下方制御することができる:(a)CD3δ、B2M及びCIITA、(b)CD3δ、B2M及びRFX5、(c)CD3δ、B2M及びRFXAP、(d)CD3δ、B2M及びRFXANK、(e)CD3δ、B2M及びHLA-DM、(f)CD3δ、B2M及びIi鎖、(g)CD3δ、TAP1及びCIITA、(h)CD3δ、TAP1及びRFX5、(i)CD3δ、TAP1及びRFXAP、(j)CD3δ、TAP1及びRFXANK、(k)CD3δ、TAP1及びHLA-DM、(l)CD3δ、TAP1及びIi鎖、(m)CD3δ、TAP2及びCIITA、(n)CD3δ、TAP2及びRFX5、(o)CD3δ、TAP2及びRFXAP、CD3δ、TAP2及びRFXANK、CD3δ、TAP2及びHLA-DM、(r)CD3δ、TAP2及びIi鎖、(s)CD3δ、NLRC5及びCIITA、(t)CD3δ、NLRC5及びRFX5、(u)CD3δ、NLRC5及びRFXAP、(v)CD3δ、NLRC5及びRFXANK、(w)CD3δ、NLRC5及びHLA-DM、(x)CD3δ、NLRC5及びIi鎖、(y)CD3δ、TAPBP及びCIITA、(z)CD3δ、TAPBP及びRFX5、(aa)CD3δ、TAPBP及びRFXAP、(bb)CD3δ、TAPBP及びRFXANK、(cc)CD3δ、TAPBP及びHLA-DM又は(dd)CD3δ、TAPBP及びIi鎖。
【0044】
いくつかの実施形態では、修飾免疫細胞に導入された1つ又は複数の核酸は、以下の遺伝子発現を下方制御することができる:(a)CD3γ、B2M及びCIITA、(b)CD3γ、B2M及びRFX5、(c)CD3γ、B2M及びRFXAP、(d)CD3γ、B2M及びRFXANK、(e)CD3γ、B2M及びHLA-DM、(f)CD3γ、B2M及びIi鎖、(g)CD3γ、TAP1及びCIITA、(h)CD3γ、TAP1及びRFX5、(i)CD3γ、TAP1及びRFXAP、(j)CD3γ、TAP1及びRFXANK、(k)CD3γ、TAP1及びHLA-DM、(l)CD3γ、TAP1及びIi鎖、(m)CD3γ、TAP2及びCIITA、(n)CD3γ、TAP2及びRFX5、(o)CD3γ、TAP2及びRFXAP、(p)CD3γ、TAP2及びRFXANK、(q)CD3γ、TAP2及びHLA-DM、(r)CD3γ、TAP2及びIi鎖、(s)CD3γ、NLRC5及びCIITA、(t)CD3γ、NLRC5及びRFX5、(u)CD3γ、NLRC5及びRFXAP、(v)CD3γ、NLRC5及びRFXANK、(w)CD3γ、NLRC5及びHLA-DM、(x)CD3γ、NLRC5及びIi鎖、(y)CD3γ、TAPBP及びCIITA、(z)CD3γ、TAPBP及びRFX5、(aa)CD3γ、TAPBP及びRFXAP、(bb)CD3γ、TAPBP及びRFXANK、(cc)CD3γ、TAPBP及びHLA-DM又は(dd)CD3γ、TAPBP及びIi鎖。
【0045】
いくつかの実施形態では、修飾される前記免疫細胞は、T細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、ナチュラルキラーT細胞、リンパ前駆細胞、造血幹細胞、幹細胞、マクロファージ及び樹状細胞から選択される。いくつかの実施形態では、修飾される前記免疫細胞は、CD4陽性T細胞又はCD8陽性T細胞である。いくつかの実施形態では修飾される前記免疫細胞は、同種異系T細胞又は自己T細胞である。
【0046】
いくつかの実施形態では、前記核酸は、ウイルス形質導入(viral transduction)によって前記免疫細胞に導入される。いくつかの実施形態では、前記ウイルス形質導入は、前記免疫細胞を、前記1つ又は複数の核酸を含むウイルスベクターと接触させることを含む。いくつかの実施形態では、前記ウイルスベクターは、レトロウイルスベクター、センダイウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター及びレンチウイルスベクターからなる群から選択される。
【0047】
いくつかの実施形態では、1つ又は複数の内因性免疫遺伝子発現を下方制御することができる1つ又は複数の核酸のそれぞれは、以下の群から選択される遺伝子編集系を含む:(a)CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)エンドヌクレアーゼ系及びガイドRNA、(b)TALEN遺伝子編集系、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)遺伝子編集系、メガヌクレアーゼ遺伝子編集系又はメガTALEN遺伝子編集系、及び、(c)アンチセンスRNA、アンチゴマーRNA、RNAi、siRNA又はshRNAから選択される遺伝子サイレンシング系。
【0048】
いくつかの実施形態では、前記Casエンドヌクレアーゼは、Cas3、Cas4、Cas8a、Cas8b、Cas9、Cas10、Cas10d、Cas12a、Cas12b、Cas12d、Cas12e、Cas12f、Cas12g、Cas12h、Cas12i、Cas13、Cas14、CasX、Cse1、Csy1、Csn2、Cpf1、C2c1、Csm2、Cmr5、Fok1、S. pyogenes Cas9、Staphylococcus aureus Cas9、MAD7ヌクレア-ゼ(V型CRISPRヌクレアーゼ)又はそれらの任意の組み合わせ、を含む。いくつかの実施形態では、前記CRISPR-Cas系はpAd5/F35-CRISPRベクターを含む。
【0049】
いくつかの実施形態では、前記CRISPR-Cas系の前記ガイドRNAは、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖(Ii鎖)からなる群から選択される免疫タンパク質をそれぞれコードする1つ又は複数の遺伝子座内の配列と相補的なガイド配列を含む。
【0050】
いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞に導入される前記ガイドRNAは、CD3δ、CD3ε又はCD3γの1つ又は複数のエクソン内の配列と相補的である。いくつかの実施形態では、前記ガイドRNAは、CD3δ、CD3ε又はCD3γのエクソン1内の配列と相補的である。
【0051】
いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞に導入される前記ガイドRNAは、CD3δ遺伝子座内の配列と相補的であり、前記ガイドRNAは、配列番号53によってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞に導入される前記ガイドRNAは、CD3ε遺伝子座内の配列と相補的であり、前記ガイドRNAは、配列番号52によってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞に導入される前記ガイドRNAは、CD3γ遺伝子座内の配列と相補的であり、前記ガイドRNAは、配列番号54によってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞に導入される前記ガイドRNAは、B2M遺伝子座内の配列と相補的であり、前記ガイドRNAは、配列番号55によってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞に導入される前記ガイドRNAは、CIITA遺伝子座内の配列と相補的であり、前記ガイドRNAは、配列番号61によってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞に導入される前記ガイドRNAは、TAP1遺伝子座内の配列と相補的であり、前記ガイドRNAは、配列番号56によってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞に導入される前記ガイドRNAは、TAP2遺伝子座内の配列と相補的であり、前記ガイドRNAは、配列番号57によってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞に導入される前記ガイドRNAは、TAPBP遺伝子座内の配列と相補的であり、前記ガイドRNAは、配列番号58、配列番号59又はそれらの任意の組み合わせによってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞に導入される前記ガイドRNAは、NLRC5遺伝子座内の配列と相補的であり、前記ガイドRNAは、配列番号60によってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞に導入される前記ガイドRNAは、HLA-DM遺伝子座内の配列と相補的であり、前記ガイドRNAは、配列番号62によってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞に導入される前記ガイドRNAは、RFX5遺伝子座内の配列と相補的であり、前記ガイドRNAは、配列番号63、配列番号64又はそれらの任意の組み合わせによってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞に導入される前記ガイドRNAは、RFXANK遺伝子座内の配列と相補的であり、前記ガイドRNAは、配列番号65によってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞に導入される前記ガイドRNAは、RFXAP遺伝子座内の配列と相補的であり、前記ガイドRNAは、配列番号66によってコードされる核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞に導入される前記ガイドRNAは、Ii鎖遺伝子座内の配列と相補的であり、ガイドRNAは、配列番号67、配列番号68又は任意の組み合わせによってコードされる核酸配列を含む。
【0052】
いくつかの実施形態では、本開示の方法により生成される前記修飾免疫細胞は、該修飾免疫細胞が対象に投与された場合、同じ対象に投与された非修飾免疫細胞によって発揮される免疫応答と比較して、対象において低下した免疫応答を発揮する。
【0053】
いくつかの実施形態では、本開示の方法により生成される前記修飾免疫細胞は、該免疫細胞が対象に投与された場合、TRAC、TRBC、B2M及びCIITAの遺伝子発現を下方制御することができる1つ又は複数の核酸を含む免疫細胞によって発揮される免疫応答と比較して、対象において低下した免疫応答を発揮する。いくつかの実施形態では、本開示の方法により生成した前記修飾免疫細胞による低下したGvHD応答は、1つ又は複数の遺伝子座における欠失及び/又は挿入を含まない同等の免疫細胞、又はTRAC、TRBC、B2M及びCIITAにおける欠失及び/又は挿入を含む免疫細胞と比較される。
【0054】
いくつかの実施形態では、前記免疫応答は、移植片対宿主病(GvHD)応答である。いくつかの実施形態では、前記GvHD応答の低下は、HLA-I不一致細胞又はHLA-II不一致細胞に対して誘発される。いくつかの実施形態では、本開示の方法により生成された前記修飾免疫細胞により誘発される前記GvHD応答は、約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上又は約95%以上、低下する。いくつかの実施形態では、本開示の方法により生成された前記修飾免疫細胞により誘発される前記GvHD応答は、約1倍以上、約2倍以上、約3倍以上、約4倍以上、約5倍以上、約6倍以上、約7倍以上、約8倍以上、約9倍以上、約10倍以上、約20倍以上、約30倍以上、約50倍以上、約100倍以上、約150倍以上又は約200倍以上、低下する。
【0055】
いくつかの実施形態では、前記免疫細胞を導入された前記外因性核酸は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする。いくつかの実施形態では、前記CARは、抗原結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0056】
いくつかの実施形態では、腫瘍抗原を標的とする該抗原結合ドメインは、血液悪性腫瘍に関連する及び/又は固形腫瘍に関連する。いくつかの実施形態では、前記抗原結合ドメインは、ROR1、メソテリン、c-Met、PSMA、PSCA、葉酸受容体アルファー、葉酸受容体ベータ、EGFR、EGFRvIII、GPC2、GPC2、ムチン1(MUC1)、Tn抗原((TnAg)又は(GalNAca-Ser/Thr))、TnMUC1、GDNFファミリー受容体アルファー4(GFRa4)、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、及びインターロイキン-13受容体サブユニットアルファー2(IL-13Ra2又はCD213A2)からなる群から選択される腫瘍抗原を標的とする。
【0057】
いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞を導入された前記CARは、(a)PSMA抗原結合ドメイン(例えば、配列番号73又は74)、CD2共刺激ドメイン及びCD3ゼータ細胞内シグナル伝達ドメイン又は(b)メソセリン抗原結合ドメイン(例えば、配列番号75)、4-1BB共刺激ドメイン及びCD3ゼータシグナル伝達ドメイン(c)又は(c)TnMUC1抗原結合ドメイン、CD2共刺激ドメイン及びCD3ゼータシグナル伝達ドメイン、を含む。いくつかの実施形態では、前記TnMUC1 CARは、配列番号70に示されるアミノ酸配列を含み、メソテリンCARは、配列番号71又は配列番号72に示されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、TnMUC1 CARは、配列番号69に示される核酸配列によってコードされる。
【0058】
本開示の一つの態様では、前記修飾免疫細胞を導入された前記スイッチ受容体は、(a)CTLA4、PD-1、VISG3、VSIG8、TGFβRII、BTLA及びTIM-3からなる群より選択される、負のシグナルに関連するシグナル伝達タンパク質の細胞外ドメイン(b)膜貫通ドメイン、及び、(c)CD28、4-1BB、IL12Rβ1、IL12Rβ2、CD2、ICOS及びCD27からなる群より選択される正のシグナルに関連するシグナル伝達タンパク質の細胞内ドメイン、を含む。
【0059】
いくつかの実施形態では、前記スイッチ受容体は、PD-1-CD28、PD-1A132L-CD28、PD-1-CD27、PD-1A132L-CD27、PD-1-4-1BB、PD-1A132L-4-1BB、PD-1-ICOS、PD-1A132L-ICOS、PD-1-IL12Rβ1、PD-1A132L-IL12Rβ1、PD-1-IL12Rβ2、PD-1A132L-IL12Rβ2、VSIG3-CD28、VSIG8-CD28、VSIG3-CD27、VSIG8-CD27、VSIG3-4-1BB、VSIG8-4-1BB、VSIG3-ICOS、VSIG8-ICOS、VSIG3-IL12Rβ1、VSIG8-IL12Rβ1、VSIG3-IL12Rβ2、VSIG8-IL12Rβ2、TGFβRII-CD27、TGFβRII-CD28、TGFβRII-4-1BB、TGFβRII-ICOS、TGFβRII-IL12Rβ1及びTGFβRII-IL12Rβ2からなる群から選択される。
【0060】
いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞を導入された前記ドミナントネガティブ受容体は、(a)負のシグナルに関連する野生型タンパク質の切断型バリアント、又は(b)細胞外ドメイン、膜貫通ドメインを含み、細胞内シグナル伝達ドメインを実質的に欠く、負のシグナルに関連する野生型タンパク質のバリアント、又は、(c)負のシグナルに関連するシグナル伝達タンパク質の細胞外ドメイン及び膜貫通ドメイン、を含む。いくつかの実施形態では、前記ドミナントネガティブ受容体は、PD1、VSIG3、VISG8又はTGFβRドミナントネガティブ受容体である。
【0061】
いくつかの実施形態では、前記スイッチ受容体の前記膜貫通ドメインは、CTLA4、PD-1、BTLA、TGFβRII、BTLA、TIM-3、CD28、4-1BB、IL12Rβ1、IL12Rβ2、CD2、ICOS及びCD27からなる群から選択されるタンパク質の膜貫通ドメインから選択される。いくつかの実施形態では、前記スイッチ受容体の前記膜貫通ドメインは、負のシグナルに関連するタンパク質の膜貫通部又は前記負のシグナルに関連タンパク質の膜貫通ドメインから選択される。
【0062】
本開示の1つの態様では、前記修飾免疫細胞の増殖を提供する。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞の増殖は、flt3-L、IL-1、IL-3、IL-2、IL-7、IL-15、IL-18、IL-21、TGFベータ、IL-10及びc-kitリガンドからなる群より選択される因子でT細胞を培養する工程を含む。本開示の1つの態様では、前記免疫細胞の多能性を誘導するために、Klf4、Oct3/4及びSox2をコードするポリペプチド及び/又は核酸を免疫細胞に導入する工程をさらに含む。
【0063】
いくつかの実施形態では、前記免疫細胞は、血液サンプル、全血サンプル、末梢血単核細胞(PBMC)サンプル、又はアフェレーシスサンプルから得られる。いくつかの実施形態では、前記アフェレーシスサンプルは、凍結保存サンプルである。いくつかの実施形態では、前記アフェレーシスサンプルは、新鮮サンプルである。いくつかの実施形態では、前記免疫細胞は、ヒト対象から得られる。
【0064】
本開示の1つの態様では、先行する実施態様の何れか一つの方法から得られる修飾免疫細胞の集団を提供する。いくつかの実施形態では、前記組成物は、先行する実施態様の何れか一つの修飾免疫細胞を含む。いくつかの実施形態では、前記組成物は、先行する実施態様の何れか一つに開示される方法により生成される修飾免疫細胞の集団及び薬学的に許容される担体若しくは賦形剤を含む。
【0065】
本開示の1つの態様は、先行する実施態様の何れか一つに開示される組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、対象における免疫増強に関連する疾患又は症状を治療する方法を提供する。いくつかの実施形態では、前記症状は、癌である。いくつかの実施形態では、前記癌は、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、皮膚癌、膵臓癌、結腸直腸癌、腎臓癌、肝臓癌、脳癌、リンパ腫、白血病、肺癌及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、前記癌は、固形腫瘍又は血液悪性腫瘍である。いくつかの実施形態では、先行する実施態様の何れか一つの修飾免疫細胞、先行する実施態様の何れか一つの修飾T細胞の集団又は先行する実施態様の何れか一つの組成物を対象に投与することを含む癌を治療する方法を含む。
【0066】
本開示の1つの態様は、先行する実施態様の何れか一つの修飾免疫細胞、先行する実施態様の何れか一つの修飾免疫細胞の集団又は先行する実施態様の何れか一つの組成物を含む、有効量の医薬組成物を対象に投与することを含む、対象における標的細胞又は組織に対するT細胞を刺激する方法を提供する。
【0067】
本開示の1つの態様は、先行する実施態様の何れか一つの修飾免疫細胞、先行する実施態様の何れか一つの修飾T細胞の集団又は先行する実施態様の何れか一つの組成物を含み、任意選択で使用説明書を含むキットを提供する。
【0068】
前述の要約と、以下の図面及び詳細な説明の両方は、例示的かつ説明的なものである。これらは、本開示の更なる詳細を提供することを意図しているが、限定するものとして解釈されるものではない。他の目的、利点、及び新規な特徴は、本開示の以下の詳細な説明から当業者には容易に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1は、3つの二量体モジュールCD3δ/CD3ε、CD3γ/CD3ε及びCD3ζ/CD3ζに結合した可変TCRアルファー鎖(TCR-α、TRAC)及びTCRベータ鎖(TCR-β、TRBC)を含むヒトT細胞受容体(TCR)-CD3複合体の概略図を示す。CD3δ/CD3ε及びCD3γ/CD3εモジュールが本開示の主題である。
【0070】
図2A~2Cは、CRISPR/Cas系を用いたCD3δ(
図2A)、CD3ε(
図2B)及びCD3γ(
図2C)遺伝子の標的破壊後のフローサイトメトリーにより測定される、ヒトT細胞上のTCR-α及びTCR-β鎖の破壊効率を示す棒グラフである。
【0071】
図3は、
図1の戦略を使用して生成された同種異形CAR T細胞の増殖(expansion)を示すグラフであり、10日間の集団倍加数を示す。試験された前記同種異形CAR T細胞は、TRACノックアウト(knockout)(TRAC KO)、CD3δ、ノックアウト(D1 KO)、CD3γノックアウト(G4 KO)及びCD3εノックアウト(E4 KO)を含む組み換えT細胞である。
【0072】
図4A及び4Bは、TCR-α鎖(TRAC)ノックアウト、CD3δノックアウト(D1 KO)、CD3γノックアウト(G4 KO)及びCD3εノックアウト(E4 KO)のCRISPR媒介下方制御を比較したフローサイトメトリー結果を示す。
図4Aは、CD3εノックアウト(E4 KO)が、TCR-α/β鎖の表面発現によって測定されるように、T細胞受容体ノックアウトの標的としてより優れていることを示している。
図4Bは、CD3εノックアウト(E4 KO)を含む同種異形CAR T細胞が、例えばCD3γ又はCD3δノックアウトを含むCAR T細胞よりも高い形質導入効率を有し、機能的に優れていることを示す;PSMA CAR T細胞の実施形態が図示されている。
【0073】
図5は、TCR-α鎖(TRAC)ノックアウト、CD3δノックアウト(D1)、CD3εノックアウト(E4)及びCD3γノックアウト(G4)を含む同種異形PSMA CAR T細胞の腫瘍殺傷能力を示すグラフであり、PSMA E4同種異形CAR T細胞が最良の殺傷能力を有することを示す。標的細胞は、PC3細胞である。
【0074】
図6A~6Dは、T7エンドヌクレアーゼ不一致検出アッセイ(T7E1)を使用して図示したCRISPR-Cas活性を示す。
図6Aは、3つの異なるgRNAを使用して3つの異なるCRISPR-Cas C2TA(CIITA)遺伝子の部位から増幅されたT7E1処理PCR産物の代表的なゲル電気泳動像を示す。
図6B~6Dは、CRISPR-Cas編集効率を示すT7E1エンドヌクレアーゼアッセイのAgilent Bioanalyzerエレクトロフェログラムによって生成されたエレクトロフェログラムを示す。
【0075】
図7A~Dは、C2TA(CIITA)CRISPR編集効率の結果を示す、コントロール及びT7E1処理PCRのAgilent Bioanalyzerエレクトロフェログラム及びゲル電気泳動を示す。特に、
図7Aは、サンプルC2TA-1-PCRについての総合結果を示し、
図7Bは、サンプルC2TA-1-T7E1についての総合結果を示し、
図7Cは、サンプルC2TA-2-PCRについての総合結果を示し、
図7Dは、サンプルC2TA-2-T7E1についての総合結果を示す。
【0076】
図8は、混合リンパ球反応(MLR)アッセイの結果を示すグラフであり;コントロールT細胞(第2ドナー)、同種異形PSMA CAR T細胞単独又は共培養における生存性を示し;HLA不一致が存在するにもかかわらず、第2(無関係)ドナー由来のT細胞が、共培養において同種異形PSMA CAR T細胞に応答して増殖しないことを示す。同種異形CAR T細胞は、PSMA CAR及びCRISPRで編集されたTRAC/B2M/C2TA gRNAを含む。
【発明を実施するための形態】
【0077】
詳細な説明:
I. 概要:
T細胞受容体(TCR)複合体は、少なくとも8つのポリペプチドサブユニット(TCRαβ、CD3εγ、CD3εδ、CD3ζζ)からなる大きなマルチサブユニット複合体である。TCRαβヘテロ二量体は、主要組織適合性複合体クラスI及びクラスII分子(major histocompatibility complex class I and class II molecules)に結合した抗原の認識を担うリガンド結合サブユニットである。CD3ε、CD3γ、CD3δ及びCD3ζは二量体として組織化され、TCRαβヘテロ二量体によって生成されたシグナルを形質導入する(transduce)3つの二量体モジュールCD3δ/CD3ε、CD3γ/CD3ε及びCD3ζ/CD3ζを形成する。現在まで、GvHD及び/又はHvHD回避戦略は、TRAC遺伝子座の標的破壊によるTCRα鎖の下方制御を含む同種異系T細胞の生成であった。本開示以前には、CD3α/βの破壊が、同種異系T細胞の生成を成功させるために重要であると考えられていたため、GvHD及びHvHDの促進におけるCD3ε、CD3γ、CD3δ、及びCD3ζの調節的役割は研究されていなかった。本開示は、CD3ε、CD3γ、CD3δ及びCD3ζ遺伝子座の標的破壊(targeted disruption)により、TRAC遺伝子座の標的破壊を含むCAR T細胞と同等及び/又はそれよりも効率的な同種異形CAR T細胞が生成されたという驚くべき発見を詳述する。本開示では、CD3ε、CD3γ、CD3δ遺伝子の少なくとも1つの破壊が好ましい。
【0078】
本発明は、1つ又は複数の内因性T細胞受容体複合体遺伝子の発現をノックダウンし、キメラ抗原受容体(CAR)、組み換えT細胞受容体(TCR)、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)、抗原結合ポリペプチド、細胞表面受容体リガンド、腫瘍抗原、ドミナントネガティブ受容体、スイッチ受容体、ケモカイン、ケモカイン受容体、サイトカイン又はサイトカイン受容体の何れかを発現することにより、修飾T細胞を生成するための方法及び組成物を含む。
【0079】
したがって、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)及び/又はスイッチ受容体、及び/又は免疫増強因子と組み合わせた、T細胞受容体複合体の遺伝子編集されたCD3δ遺伝子、CD3ε遺伝子、CD3ζ遺伝子、及び/又はCD3γ遺伝子の少なくとも1つを含む修飾免疫細胞が、当該技術分野で知られている標準的な同種異形T細胞と比較した場合、インビトロで様々な癌細胞株に対して強力な細胞質活性を示し、またインビボ(in vivo)で有意な腫瘍根絶を示す、強化された適応性を有する改良された同種異形T細胞であるという観察に基づいている。
【0080】
養子免疫療法は癌患者にとって大きな期待をもたらす。しかし、CAR-T細胞及びTCR細胞の製造に関しては現在いくつかの課題が存在する。これらの課題は、養子免疫療法の成功の可能性に影響を与える。
【0081】
同種異形養子免疫療法は承認され、一般的に成功しているにもかかわらず、そのような療法の拡張性と実現可能性には大きな課題がある。特に、養子免疫療法の広範な臨床応用は、同種異形CAR T細胞の個別化調製によって課せられる相当な経済的制約によって制限されている。しかし、標準化された養子免疫療法は、同種異形細胞をあらかじめ製造し、詳細な特性を明らかにし、幅広い患者にすぐに投与できるようにするものであるが、同種異形T細胞反応等多くの合併症の可能性がある危険な方法であることに変わりはない。同種異形T細胞反応は、臨床的には、移植片対宿主病(GVHD)及び/又は宿主対移植片病(HvGD、移植片拒絶反応)として現れる。GvHDは、ドナーCAR細胞上のアロ反応性(alloreactive)TCRを介した同種異形CAR-T細胞注入によるレシピエント組織の攻撃によって引き起こされる。特に、注入されたT細胞上の内因性T細胞受容体アルファー(TCRα;TRAC)及びベータ(TCRβ;TRBC)鎖は、受容体内の主要及びマイナー組織適合性抗原を認識し、GvHDを引き起こす。逆に、注入された同種異形CAR T細胞は、レシピエントのTリンパ球によって拒絶され、HvGDを引き起こす可能性がある。特に、輸注T細胞上の内因性T細胞受容体α鎖(TCRα;TRAC)とβ鎖(TCRβ;TRBC)は、レシピエントの主要組織適合抗原とマイナー組織適合抗原を認識し、GvHDを引き起こす。逆に、注入された同種異形CAR T細胞は、レシピエントのTリンパ球によって拒絶され、HvGDに至ることがある。
【0082】
本開示以前は、同種異形T細胞応答に対処するための一つのアプローチは、ゲノム編集技術を使用して同種異形T細胞を組み換え、同種異形ドナーT細胞におけるTCRα、TCRβ及び/又は1つ又は複数の主要組織適合性(MHC)クラスI(MHC I)及び/又はMHCクラスII複合体の発現を消失させることであった。TCRαβヘテロ二量体は、TCR複合体全体の組み立て(assembly)と活性に必要であるため、TCRα又はβ鎖の何れかの発現をノックアウトすると、ドナーCAR T細胞が宿主のアロ抗原(alloantigens)を認識できなくなり、その結果GVHDが起こらなくなる。さらに、ドナーT細胞内のMHC Iを編集すると、逆に、レシピエントのT細胞によるこれらの同種異形T細胞が認識できなくなり、その結果、移植片の拒絶が起こらなくなる。現在までに、TRAC遺伝子座の標的破壊によるα鎖の削除は、主にβ鎖が2つのTRBC遺伝子(TRBC1とTRBC2)によってコードされているため、GVHD回避戦略として利用されてきた。そのため、TRBC遺伝子をノックアウトすることは、さらに複雑になる可能性がある。
【0083】
Cas9/sgRNAをT細胞に最小限の毒性で効率的に導入する最適なプロトコルは、依然として確立されていない。さらに、現在の技術では、CAR T細胞の100%においてTCRノックアウトは得られない。CAR T療法に有用な同種異形細胞の生成を成功させるためには、100%のTCRノックアウトが有益であるため、このことは重要である。
【0084】
この問題に対処するために、本開示は、以下の表1に詳述されているように、CD3ε遺伝子、CD3γ遺伝子及び/又はCD3δ遺伝子(
図1を参照のこと)の破壊を、個々に、並びに少なくとも1つの他の遺伝子ノックアウトと組み合わせて詳述する。(CD3ζ遺伝子も破壊することができる)。本開示はまた、CD3ε、CD3γ及び/又はCD3δ(及び任意選択でCD3ζ遺伝子)のうちの少なくとも1つが破壊された構造及びその使用を包含する。CD3ε、CD3γ及び/又はCD3δ(及び任意選択でCD3ζ遺伝子)のうちの少なくとも1つの破壊は、CD3α及びCD3βのうちの1つ又は複数の破壊と組み合わせることもできる(例えば、CD3ε遺伝子及びCD3γ遺伝子のノックアウト、CD3ε遺伝子及びCD3α遺伝子のノックアウト、CD3γ遺伝子及びCD3δ遺伝子のノックアウト等)。例えば、実施例2及び表1を参照されたい。これは、代替T細胞受容体サブユニット(CD3δ、CD3γ及びCD3ε)及び抗原処理及び提示経路における追加の重要な遺伝子のノックアウト(KO)を含む、本発明の新規な同種異形CAR T戦略を示している。
【表1】
【0085】
驚くべきことに、2つ又は3つ(又はそれ以上)の破壊がT細胞受容体の発現を妨害し、最小限の毒性でTCRの下方制御をもたらすことに成功したことが判明した。
【0086】
さらに、TRAC陰性T細胞は腫瘍内でより長く生存することが示されており(Stadtmauer et.al.,Science,367(6481):eaba7365(2020))、CD3ε遺伝子、CD3γ遺伝子、CD3ζ遺伝子、及び/又はCD3δ遺伝子の破壊に焦点を当てても、養子免疫療法に有効なT細胞が生成されることは驚くべきことであった(ただし、上記のように、本開示は、CD3α及び/又はCD3β遺伝子の破壊と組み合わせて、1つ又は複数のCD3ε遺伝子、CD3γ遺伝子、CD3ζ遺伝子、及び/又はCD3δ遺伝子を破壊することも包含する)。
【0087】
本開示は、同種異形T細胞応答に関連するTCRシグナル伝達を交互に調整及び調節することにより、T細胞の機能特性を調節するための新規かつ代替的なアプローチを提供する。特に、本開示は、CD3ε遺伝子、CD3γ遺伝子、CD3ζ遺伝子及び/又はCD3δ遺伝子の少なくとも1つを単独で、又は1つ若しくは複数の追加のTCR複合体成分と組み合わせて下方制御すると、CAR T細胞の有益な抗腫瘍特性を維持しながら、同種T細胞応答が大幅に減少し、それによって安全で効果的なCAR T細胞が生成されることを示す。これらの新規かつ代替アプローチの利点については、以下で詳しく説明する。
II.実験結果:
【0088】
CRISPR/Cas系を用いたCD3δ(
図2A)、CD3ε(
図2B)及びCD3γ(
図2C)遺伝子の標的破壊後のフローサイトメトリーにより、ヒトT細胞におけるTCR-α及びTCR-β鎖の破壊効率のパーセンテージを測定した(以下の実施例3も参照されたい)。
図2Aは、4つの異なるガイドRNA:gRNA1、gRNA2、gRNA3及びgRNA4を用いたCD3δの破壊後の結果を示す。CRISPR/Cas系におけるgRNA1及びgRNA3ガイドRNAを用いたCD3δの標的破壊は、TCRα/βの100%のKO効率をもたらしたが、CRISPR/Cas系においてgRNA2及びgRNA4を用いた場合は、TCRα/βの約90%以上のKO効率をもたらした。したがって、CD3δを破壊するためには、CRISPR/CasシステムにおいてgRNA1及びgRNA3を使用することが好ましい。
【0089】
図2Bは、5つの異なるガイドRNA(gRNA1、gRNA2、gRNA3、gRNA4及びgRNA5)を使用してCD3εを標的として破壊した後の結果を示している。CRISPR/Cas系において、gRNA4及びgRNA5ガイドRNAを使用してCD3εを破壊すると、TCR α/βの100%のKO効率が得られたが、gRNA1を使用すると、TCRα/βの約50%のKO効率しか得られず、最後に、CRISPR/Cas系においてガイドgRNA2及びgRNA3を使用すると、TCR α/βの約90%を超えるKO効率が得られた。したがって、CD3εを破壊するためのCRISPR/Cas系では、gRNA4及びgRNA5ガイドRNAの使用が好ましい。
【0090】
図2Cは、5つの異なるガイドRNA(gRNA1、gRNA2、gRNA3、gRNA4、gRNA5)を使用してCD3γを標的として破壊した後の結果を示している。CRISPR/Cas系においてgRNA4ガイドRNAを使用してCD3εを破壊すると、TCR α/βの100%のKO効率が得られたが、gRNA5を使用すると、TCRα/βの約95%を超えるKO効率が得られ、最後に、CRISPR/Cas系においてgRNA1、gRNA2及びgRNA3ガイドRNAを使用すると、TCR α/βのあまり好ましくないKO効率をもたらした。したがって、CD3γを破壊するためのCRISPR/Cas系では、gRNA4ガイドRNAの使用が好ましい。
【0091】
下記の実施例4に詳細を示す別の実験では、10日間にわたる同種異形CAR T細胞の異なる構成体の増殖を評価した。このデータは重要であり、ナーゼなら、修飾免疫細胞が増殖しなければ、治療を成功させるのに十分な数の細胞が生成されないからである。試験された異なる構成体には、(1)TRACノックアウト(
図3のアロ(ALLO)(TRAC KO))(例えば、本開示以前に使用されたノックアウト)、(2)CD3δノックアウト(
図3のアロ(D1 KO))、(3)CD3γノックアウト(
図3のアロ(G4 KO))及び(4)CD3εノックアウト(
図3のアロ(E4 KO))を含む同種異形CAR T細胞が含まれる。細胞集団の倍化率が Y軸に表示され、日数がX軸に表示される。
図3に詳述された結果は、全ての修飾細胞が9日間にわたって約4倍以上の増殖を示したことを示し、修飾細胞が免疫療法に有用な物質を有用な量生成することを実証している。
【0092】
実施例5では、TCR-α/β鎖の表面発現を評価するために、いくつかの異なるノックアウト構築物を評価した。特に、
図4A及び4Bは、CRISPRを介したTCR-α鎖(TRAC)ノックアウト(例えば、本開示の前に使用された構築物)、CD3δノックアウト(D1 KO)、CD3γノックアウト(G4 KO)及びCD3εノックアウト(E4 KO)の下方制御を比較したフローサイトメトリーの結果を示す。
図4Aは、TCR-α/β鎖の表面発現によって測定した場合、CD3εノックアウト(E4 KO)がT細胞受容体ノックアウトのより良い標的であったことを示す。
図4Bは、CD3εノックアウト(E4 KO)を含む同種異形CAR T細胞が、例えばCD3γ又はCD3δノックアウトを含むCAR T細胞よりも高い形質導入効率を有し、機能的に優れていることを示し、PSMA CAR T細胞の実施形態が示されている。さらに、
図4Bは、CAR T細胞の大部分が同種異系(CD3及びTCRネガティブ)であったことを示し、これは、本発明の CAR T細胞を投与された患者には、より多くのアロ CAR T細胞が注入されることを意味する。
【0093】
以下の実施例6に詳述するさらなる実験では、
図5に示すように、異なるPSMA CAR T細胞構築物の腫瘍殺傷能力を評価した。特に、
図5は、TCR-α鎖(TRAC)ノックアウト(例えば、本開示の前に使用された構築物)、CD3δノックアウト(D1)、CD3εノックアウト(E4)、及びCD3γノックアウト(G4)を含む同種異形PSMA CAR T細胞の腫瘍殺傷能力を示すグラフを示す。結果は、PSMA E4同種異形CAR T細胞が最高の殺傷能力を有していることを示す。標的細胞はヒト前立腺癌細胞株であるPC3細胞であった。予想外に、E4はD1及びG4よりも強力であることがわかった。CD3ε分子を標的として作られたアロCAR T細胞は、評価した他のアロCAR T細胞と比較して、より強力であった(例えば、腫瘍細胞をより速く殺す等)。CD3εノックアウト(E4)CAR T細胞の効力が高いということは、これらのCAR T細胞が標的とする腫瘍細胞が、TCR-α鎖(TRAC)ノックアウトCAR T細胞、CD3δノックアウト(D1)CAR T細胞及び/又はCD3γノックアウト(G4)CAR T細胞と比較して、はるかに速く根絶されることを意味する。そして、私たちの同種療法戦略を患者さんで成功させるためには、時間が最も重要である。
【0094】
実施例7は、標的遺伝子のノックアウトを効果的に行うCRISPR-Cas方法論の有効性の評価について記述している。特に、
図6A~6Dは、T7エンドヌクレアーゼ不一致検出アッセイ(T7E1)で示されたCRISPR-Cas活性を示す。
図6Aは、3つの異なるgRNAを使用して3つの異なるCRISPR-Cas C2TA(CIITA)遺伝子の部位から増幅されたT7E1処理PCR産物の代表的なゲル電気泳動画像を示す。
図6B-6Dは、CRISPR-Cas編集効率を示すT7E1エンドヌクレアーゼアッセイのAgilent Bioanalyzer電気泳動図によって生成された電気泳動図を示す。
【0095】
さらに、
図7A~Dは、C2TA(CIITA)CRISPR編集効率の結果を示す、コントロール及びT7E1処理PCRのAgilent Bioanalyzer電気泳動図及びゲル電気泳動を示す。
図7Aは、サンプルC2TA-1-PCRの全体結果を示し、
図7Bは、サンプルC2TA-1-T7E1の全体結果を示し、
図7CはサンプルC2TA-2-PCRの全体結果を示し、
図7Dは、サンプルC2TA-2-T7E1の全体結果を示す。
【0096】
最後に、混合リンパ球アッセイ(MLA)を実施した。
図8は、アロ細胞のみ、T細胞(第2ドナー、別のドナーからのT細胞)のみ、共培養のアロ細胞、共培養のT細胞(第2ドナー)を用いた混合リンパ球反応(MLR)アッセイの結果を示すグラフである。特に、レシピエントのT細胞(別のドナーからのT細胞)を同種異形CAR T細胞と14日間共培養し、T細胞の増殖を分析した。結果は、コントロールT細胞(2番目のドナー)、単独又は共培養された同種異形PSMA CAR T細胞の生存率を示し、「レシピエントの」T細胞は同種異形細胞の存在に反応しなかった(増殖しない)ことを示している。したがって、
図8は、HLA不一致が存在するにもかかわらず、共培養の同種PSMA CAR T細胞に反応して2番目の(無関係な)ドナーからのT細胞が増殖しなかったことを示している。同種異形CAR Tは、PSMA CAR T及びCRISPR編集されたTRAC/B2M/C2TA gRNAを含む。したがって、本発明の同種異形CAR T細胞は、レシピエントの免疫系(すなわち、T細胞)によって検出されずに腫瘍細胞を殺す機会を有するになる。
III. 同種異形T細胞:
A. 内因性免疫タンパク質の下方制御:
【0097】
本開示の一態様は、(1)内因性免疫タンパク質をそれぞれコードする1つ又は複数の遺伝子座における挿入及び/又は欠失、(2)キメラ抗原受容体(CAR)、組み換えT細胞受容体(TCR)、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)、抗原結合ポリペプチド、細胞表面受容体リガンド又は腫瘍抗原をコードする外因性核酸、を含む修飾免疫細胞を提供する。したがって、本発明の修飾細胞は、本明細書に記載される内因性遺伝子の任意の何れかの発現を破壊するように遺伝子編集される。いくつかの実施形態では、本発明の組み換えTCR又はCAR発現系を含む修飾細胞は、本明細書に記載される1つ又は複数の内因性遺伝子の発現を破壊するように遺伝子編集される。いくつかの実施形態では、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖(Ii鎖)のうちの1つ又は複数が破壊され、同種異形T細胞(すなわち、ユニバーサル免疫細胞(universal immune cell))が生成される。本明細書で使用される場合、用語「ユニバーサル免疫細胞(universal immune cell)」又は「ユニバーサルT細胞(universal Tcell)」は、任意の患者に投与するために事前に修飾(pre-modified)/事前に製造された(pre-manufactured)同種異形免疫細胞又はT細胞を指す。いくつかの実施形態では、本発明の修飾免疫細胞は、同種異形T細胞応答が低下又は抑制された同種異形T細胞製品である。いくつかの実施形態では、内因性免疫タンパク質の1つ又は複数の遺伝子座の下方制御により、GvHD及び/又はHvHDが低下及び/又は排除される。
【0098】
いくつかの実施形態では、修飾免疫細胞が対象に投与されると、免疫細胞は、同じ対象に投与された非修飾免疫細胞によって発揮される免疫応答と比較して、対象において低下した免疫応答を発揮する。いくつかの実施形態では、本開示の免疫細胞は、修飾免疫細胞が対象に投与された場合、TRAC、TRBC、B2M及びCIITAの遺伝子発現を下方制御することができる挿入及び/又は欠失を含む免疫細胞によって発揮される免疫応答と比較して、対象において低下した免疫応答を発揮する。いくつかの実施形態では、免疫応答は、移植片対宿主病(GvHD)又は宿主対移植片病(HvHD;移植片拒絶)応答である。いくつかの実施形態では、低下したGvHD応答は、HLA-I不一致細胞に対して又はHLA-II不一致細胞に対して誘発される。いくつかの実施形態では、GvHD応答は、約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上又は約95%以上低下する。いくつかの実施形態では、GvHD応答は、約1倍以上、約2倍以上、約3倍以上、約4倍以上、約5倍以上、約6倍以上、約7倍以上、約8倍以上、約9倍以上、約10倍以上、約20倍以上、約30倍以上、約50倍以上、約100倍以上、約150倍以上又は約200倍以上低下する。いくつかの実施形態では、修飾免疫細胞によるGvHD応答の低下は、1つ又は複数の遺伝子座の欠失及び/又は挿入のない同等の免疫細胞、又は、TRAC、TCRβ、B2M及びCIITAの欠失及び/又は挿入を含む免疫細胞と比較される。
【0099】
いくつかの実施形態では、1つ又は複数の遺伝子座における挿入及び/又は欠失は、1つ又は複数の内因性免疫タンパク質座の遺伝子発現を下方制御することができる。いくつかの実施形態では、内因性免疫タンパク質は、TCR複合体の構成要素の1つである。いくつかの実施形態では、内因性免疫タンパク質は、ヘテロ二量体として組織化され、TCRαβヘテロ二量体に結合するリガンドによって生成されたシグナルを伝達する3つの二量体モジュールCD3δ/CD3ε、CD3γ/CD3ε及びCD3ζ/CD3ζを形成するCD3ε、CD3γ、CD3δ及びCD3ζのうちの1つ又は複数である。いくつかの実施形態では、前記リガンドは、主要組織適合性複合体クラスI及びクラスII(MHC-I、MHC-II)分子に結合した抗原であり、これは、TCRαβヘテロ二量体によって認識される。
【0100】
いくつかの実施形態では、前記内因性免疫タンパク質は、MHCクラスI(MHC-I)及び/又はMHCクラスII(MHC-II)分子である。いくつかの実施形態では、前記内因性免疫タンパク質は、B2M(ベータ2-ミクログロブリン(Beta-2-microglobulin),)、CIITA(クラスIIトランス活性化因子(class II transactivator))、TAP1(抗原処理1に関連するABCトランスポーター、トランスポート1、ATP結合カセットサブファミリーBメンバー(ABC transporter associated with antigen processing 1;Transport1,ATP Binding Cassette Subfamily B Member))、TAP2(抗原処理2に関連するABCトランスポータ-、トランスポート2、ATP結合カセットサブファミリーB(ABC transporter associated with antigen processing 2;Transport2, ATP Binding Cassette Subfamily B Member))、TAPBP(TAP結合タンパク質、タパシン、TAP関連タンパク質(TAP binding protein;Tapasin;TAP associated protein))、NLRC5(NLRファミリーCARDドメイン含有5(NLR Family CARD Domain Containing 5))、HLA-DM、RFX5(調節因子X5(Regulatory Factor X5))、RFXANK(調節因子X関連アンキリン含有タンパク質(Regulatory Factor X Associated Ankyrin Containing Protein))、RFXAP(調節因子X関連タンパク質(Regulatory Factor X Associated Protein))及びインバリアント鎖(Ii鎖)である。
【0101】
TCRと同様に、MHC-I及びMHC-IIは、Tリンパ球に抗原を提示する(present)ことによって適応免疫応答(adaptive immune responses)の活性化に重要な役割を果たす。ヒトは、3つの主要なMHC-I遺伝子座 (HLA-A、HLA-B及びHLA-C)を有し、これらはウイルス、癌細胞、移植細胞の検出と排除に不可欠である。さらに、3つの非古典的な(non-classical)MHC-I分子(HLA-E、HLA-F及びHLA-G)が存在し、免疫調節機能を有する。ヒトのMHC-II分子も3つの遺伝子座(HLA-DP、HLA-DQ及びHLA-DR)を含む。MHCクラスI及びIIはそれぞれ、いくつかの調節タンパク質を含む。MHC-I調節タンパク質には、ベータ2-ミクログロブリン(B2M)、TAP1、TAP2、TAPBP等の抗原処理分子(antigen-processing molecules)及びNLRC5等の転写調節因子(transcriptional regulator)が含まれる。前記Tap1、Tap2及びTAPBPは、ペプチド抗原を前記クラスI HLA複合体にロード(load)するために不可欠なTAPトランスポーター複合体の一部である。B2M、NLRC5、Tap1、Tap2及びTAPBPの任意の何れかの発現が下方制御されると、MHCクラスIタンパク質の細胞表面発現が減少し、免疫応答が損なわれる。いくつかの実施形態では、本開示によって考慮される前記内因性免疫タンパク質は、B2M、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるMHC-I遺伝子である。
【0102】
MHC-II調節タンパク質には、転写調節因子CIITA、RFX5、RFXANK、RFXAP;及びMHCクラスIIペプチド、インバリアン鎖(Ii鎖)及びヒト白血球抗原DM(HLA-DM、HLA-DMA)、HLA-DOA及びHLA-DOBの形成及び輸送に関与するシャペロンタンパク質(chaperone proteins)が含まれる。RFX5、RFXANK、RFXAPは、全てのMHCクラスII遺伝子プロモーターと特異的に結合してその転写を制御する三量体RFX DNA結合複合体のサブユニットである。前記インバリアント鎖(Ii)は、ERでのペプチドのロードを防ぎ、ERからの放出(exit)を刺激し、抗原ペプチドのロードを調節するMHCクラスIIシャペロンとして機能する。TAPBPと同様に、HLA-DM(例えば、HLA-DMA)は、細胞内輸送中にMHC-II分子のペプチドのロードをアシストする。HLA-DMは、抗原の「免疫優勢(immunodominant)」領域に対するT細胞応答を誘導することにより、MHC-IIタンパク質への弱い結合ペプチドが出現する(display)を排除/防止する。いくつかの実施形態では、HLA-DM(例えば、HLA-DMA)は、自己タンパク質の処理において潜在的に自己反応性のT細胞の排除を促進する。いくつかの実施形態では、本開示によって考慮される前記内因性免疫タンパク質は、CIITA、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖)及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるMHC-II遺伝子である。
【0103】
したがって、HLAバリアの効率的な除去によるHvHD又はGvHDの低下は、以下の1つ又は複数を下方制御することによって達成できる:(1)多型MHC-I遺伝子(HLA-A、-B、-C)及び/又はMHC-II遺伝子(HLA-DP、-DQ、-DR)を標的とする;(2)B2M等の全てのMHC-I分子の細胞表面への輸送を調節する分子、又はTAP1、TAP2又はTAPBP等のMHC-I抗原処理分子を標的とする;(3)インバリアント鎖(Ii又はCD74))又はHLA-DM等のMHC-II分子の輸送を調節する分子を標的とする;及び/又は(4)MHC-I(NLRC5)又はMHC-II発現(CIITA、RFX-5、RFXANK、RFX-AP)の転写調節因子を標的とする。
【0104】
いくつかの実施形態では、挿入及び/又は欠失によって遺伝子発現が下方制御される前記内因性免疫タンパク質は、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖;CD74)、又はそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖、CD74)及びそれらの組み合わせから選択される内因性免疫タンパク質の遺伝子発現が下方制御された修飾免疫細胞(すなわち、T細胞)は、同種環境(allogeneic environment)において免疫原性が低下している。いくつかの実施形態では、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖;CD74)又はそれらの任意の組み合わせの前記遺伝子発現を下方制御することにより、HvHD及び/又はGvHDを引き起こす可能性のあるT細胞上の同アロ抗原の表面出現(surface presentation)が除去され及び/又はT細胞受容体の膜発現が防止される。
【0105】
いくつかの実施形態では、同種異形T細胞産物を生成するために使用される前記修飾免疫細胞は、1つのT細胞受容体サブユニット、1つのHLAクラスI分子及び1つのHLAクラスII分子の下方制御を含むトリプルノックアウトを含む。いくつかの実施形態では、前記T細胞受容体サブユニットは、CD3δ、CD3ε又はCD3γから選択され、前記HLAクラスI分子は、B2M、TAP1、TAP2、TAPBP又はNLRC5から選択され、前記HLAクラスII分子は、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はインバリアント鎖(Ii鎖)から選択される。いくつかの実施形態では、前記同種異形T細胞産物は、3つ以上の内因性免疫タンパク質ノックアウトを含む。このような実施形態では、前記T細胞受容体サブユニットは、CD3δ、CD3ε及び/又はCD3γから選択され、前記HLAクラスI分子は、B2M、TAP1、TAP2、TAPBP及び/又はNLRC5から選択され、HLAクラスII分子は、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、及び/又はインバリアント鎖(Ii鎖)から選択される。いくつかの実施形態では、同種異系T細胞産物を生成するための前記修飾免疫細胞は、少なくとも2つのT細胞受容体サブユニット、少なくとも2つのHLAクラスI分子及び少なくとも2つのHLAクラスII分子の下方制御を含む1つ又は複数の内因性免疫タンパク質ノックアウトを含む。いくつかの実施形態では、前記T細胞受容体サブユニットは、CD3δ、CD3ε及びCD3γのうちの少なくとも2つから選択され、前記HLAクラスI分子は、B2M、TAP1、TAP2、TAPBP及びNLRC5のうちの少なくとも2つから選択され及び前記HLAクラスII分子は、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖(Ii鎖)のうちの少なくとも2つから選択される。
【0106】
いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞は、CD3δ遺伝子発現及びB2M、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖)及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるHLA分子の遺伝子発現を下方制御する挿入及び/又は欠失を含む。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞は、CD3ε遺伝子発現及びB2M、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖)及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるHLA分子の遺伝子発現を下方制御する挿入及び/又は欠失を含む。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞は、CD3γ遺伝子発現及びB2M、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖)及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるHLA分子の遺伝子発現を下方制御する挿入及び/又は欠失を含む。
【0107】
いくつかの実施形態では、CD3δ、CD3ε及び/又はCD3γの遺伝子発現が下方制御されると、T細胞受容体アルファー及びベータの表面発現は、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%又は少なくとも約100%下方制御される。いくつかの実施形態では、CD3εの下方制御は、CD3γ及び/又はCD3δの下方制御と比較して、より高いT細胞受容体ノックアウト効率を生成する。いくつかの実施形態では、CD3εの下方制御によって誘導されるT細胞受容体ノックアウト効率は、TRACの下方制御より高いか同等である。
【0108】
いくつかの実施形態では、同種T細胞産物を生成するために使用される前記修飾免疫細胞は、トリプルノックアウトを含む。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫(the modified immune)は、以下の遺伝子発現の減少又は除去を含む:(1)CD3ε、B2M及びCIITA、(2)CD3ε、B2M及びRFX5、(3)CD3ε、B2M及びRFXAP、(4)CD3ε、B2M及びRFXANK、(5)CD3ε、B2M及びHLA-DM、(6)CD3ε、B2M及びIi鎖、(7)CD3ε、TAP1及びCIITA、(8)CD3ε、TAP1及びRFX5、(9)CD3ε、TAP1及びRFXAP、(10)CD3ε、TAP1及びRFXANK、(11)CD3ε、TAP1及びHLA-DM、(12)CD3ε、TAP1及びIi鎖、(13)CD3ε、TAP2及びCIITA、(14)CD3ε、TAP2及びRFX5、(15)CD3ε、TAP2及びRFXAP、(16) CD3ε、TAP2及びRFXANK、(17)CD3ε、TAP2及びHLA-DM、(18)CD3ε、TAP2及びIi鎖、(19)CD3ε、NLRC5及びCIITA、(20)CD3ε、NLRC5及びRFX5、(21)CD3ε、NLRC5及びRFXAP、(22)CD3ε、NLRC5及びRFXANK、(23)CD3ε、NLRC5及びHLA-DM、(24)CD3ε、NLRC5及びIi鎖、(25)CD3ε、TAPBP及びCIITA、(26)CD3ε、TAPBP及びRFX5、(27)CD3ε、TAPBP及びRFXAP、(28)CD3ε、TAPBP及びRFXANK、(29)CD3ε、TAPBP及びHLA-DM、又は、(30)CD3ε、TAPBP及びIi鎖。
【0109】
いくつかの実施形態では、前記修飾免疫は、以下の遺伝子発現の減少又は除去を含む:(1)CD3δ、B2M及びCIITA、(2)CD3δ、B2M及びRFX5、(3)CD3δ、B2M及びRFXAP、(4)CD3δ、B2M及びRFXANK、(5)CD3δ、B2M及びHLA-DM、(6)CD3δ、B2M及びIi鎖、(7)CD3δ、TAP1及びCIITA、(8)CD3δ、TAP1及びRFX5、(9)CD3δ、TAP1及びRFXAP、(10)CD3δ、TAP1及びRFXANK、(11)CD3δ、TAP1及びHLA-DM、(12)CD3δ、TAP1及びIi鎖、(13)CD3δ、TAP2及びCIITA、(14) CD3δ、TAP2及びRFX5、(15)CD3δ、TAP2及びRFXAP、(16) CD3δ、TAP2及びRFXANK、(17)CD3δ、TAP2及びHLA-DM、(18)CD3δ、TAP2及びIi鎖、(19)CD3δ、NLRC5及びCIITA、(20)CD3δ、NLRC5及びRFX5、(21)CD3δ、NLRC5及びRFXAP、(22)CD3δ、NLRC5及びRFXANK、(23)CD3δ、NLRC5及びHLA-DM、(24)CD3δ、NLRC5及びIi鎖、(25)CD3δ、TAPBP及びCIITA、(26)CD3δ、TAPBP及びRFX5、(27)CD3δ、TAPBP及びRFXAP、(28)CD3δ、TAPBP及びRFXANK、(29)CD3δ、TAPBP及びHLA-DM、又は、(30)CD3δ、TAPBP及びIi鎖。
【0110】
いくつかの実施形態では、前記修飾免疫は、以下の遺伝子発現の減少又は除去を含む:(1)CD3γ、B2M及びCIITA、(2)CD3γ、B2M及びRFX5、(3)CD3γ、B2M及びRFXAP、(4)CD3γ、B2M及びRFXANK、(5)CD3γ、B2M及びHLA-DM、(6)CD3γ、B2M及びIi鎖、(7)CD3γ、TAP1及びCIITA、(8)CD3γ、TAP1及びRFX5、(9)CD3γ、TAP1及びRFXAP、(10)CD3γ、TAP1及びRFXANK、(11)CD3γ、TAP1及びHLA-DM、(12)CD3γ、TAP1及びIi鎖、(13)CD3γ、TAP2及びCIITA、(14)CD3γ、TAP2及びRFX5、(15)CD3γ、TAP2及びRFXAP、(16)CD3γ、TAP2及びRFXANK、(17)CD3γ、TAP2及びHLA-DM、(18)CD3γ、TAP2及びIi鎖、(19)CD3γ、NLRC5及びCIITA、(20)CD3γ、NLRC5及びRFX5、(21)CD3γ、NLRC5及びRFXAP、(22)CD3γ、NLRC5及びRFXANK、(23)CD3γ、NLRC5及びHLA-DM、(24)CD3γ、NLRC5及びIi鎖、(25)CD3γ、TAPBP及びCIITA、(26)CD3γ、TAPBP及びRFX5、(27)CD3γ、TAPBP及びRFXAP、(28)CD3γ、TAPBP及びRFXANK、(29)CD3γ、TAPBP及びHLA-DM、又は、(30)CD3γ、TAPBP及びIi鎖。
【0111】
いくつかの実施形態では、本開示の修飾免疫細胞は、T細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、ナチュラルキラーT細胞(NKT)、リンパ系前駆細胞、造血幹細胞、幹細胞、マクロファージ又は樹状細胞である。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞は、修飾非刺激免疫細胞又はその前駆細胞である。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞は、修飾非刺激T細胞、修飾非刺激NK細胞又は修飾非刺激NKT細胞である。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞は、CD4陽性T細胞又はCD8陽性T細胞である。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞は、同種異形T細胞又は自己ヒトT細胞(autologous human T cell)である。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞は、ヒト細胞、又は哺乳動物細胞である。
B. 修飾免疫細胞:
【0112】
本発明の一態様は、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖(Ii鎖)からなる群から選択される少なくとも1つの機能障害ポリペプチドを含む単離修飾T細胞を提供する。本明細書で使用される場合、用語「機能障害ポリペプチド(functionally impaired polypeptide)」は、ポリペプチドが変異している(例えば、欠失、挿入を含む又は切断型バリアント(truncated variant)である)ため、TCR複合体の他の成分に容易に結合できない、又はTRC複合体に組み込まれないことを意味する。いくつかの実施形態では、前記機能障害ポリペプチドは、機能障害TCR(functionally impaired TCR)をもたらすか又は細胞表面上の機能的なTCR(functional TCR)の発現を抑制する。いくつかの実施形態では、障害ポリペプチド(impaired polypeptide)は、TCR複合体の活性を実質的に阻害するドミナントネガティブポリペプチドであり得る。前述の機能障害ポリペプチドを含む修飾T細胞は、機能的なTCRを産生しないか又は細胞表面で機能的なTCRをほとんど発現しないTCR欠損T細胞(TCR-deficient T cell)である。いくつかの実施形態では、前記障害ポリペプチドは、TCRシグナル伝達複合体の構成要素である。いくつかの実施形態では、前記障害ポリペプチドは、機能的なTCRの形成を調節する。いくつかの実施形態では、障害ポリペプチドは、機能的なタンパク質の機能又は発現に影響を及ぼす変異を含む。いくつかの実施形態では、前記変異は、欠失、挿入、置換又はそれらの組み合わせである。いくつかの実施形態では、障害ポリペプチドは、欠陥のある遺伝子産物の発現又は所望の遺伝子又は遺伝子産物の発現の欠如によって引き起こされる。
【0113】
TCRが適切に機能するには、TCR複合体を構成するタンパク質の適切な化学量論比が必要である。
図1に示すように、TCR複合体は、可変TCR-アルファー鎖(TCR-α、TRAC)及びTCR-ベータ鎖(TCR-β、TRBC)を含み、これらは、3つのモジュールCD3δ/CD3ε、CD3γ/CD3ε及びCD3ζ/CD3ζに結合している。3つの二量体モジュールは、TCRシグナル伝達の不可欠な部分である。各CD3受容体は、TCR-α/βヘテロ二量体がMHCペプチドリガンドと結合すると、TCR受容体の活性化を伝播及び増幅するシグナル伝達モチーフを含む。リガンドがTCRαβに結合すると、前記CD3サブユニットの構造変化が起こり、CD3細胞質テール内の前記シグナル伝達モチーフ(例えば、ITAM)が細胞内タンパク質チロシンキナーゼによってリン酸化される。その後、細胞内シグナル伝達及びアダプター分子を含むSH2ドメインが細胞膜にリクルートされ(recruited)、そこで前記CD3シグナル伝達モチーフと直接相互作用して前記TCR 活性化シグナルを増幅する。したがって、TCRαβヘテロ二量体は、前記抗原の結合を担い、前記CD3サブユニットはシグナル伝達要素として機能する。そのため、必要なCD3受容体の1つが欠損又は障害されている場合、前記TCR複合体は、機能的に不安定になるか又は少なくともTCRのシグナル伝達機能が弱まる。理論に縛られることは望まないが、前記TCR複合体及び/又は機能の表面発現には、6つのタンパク質全ての協調発現が必要である。
【0114】
前記TCR複合体の各成分は、細胞表面でのTCR複合体の組み立てに必要である。前記TCR複合体の1つの成分が失われると、細胞表面でのTCR発現が失われる可能性がある。いくつかの実施形態では、1つの成分が失われても、前記TCR複合体の表面発現が消失しない可能性がある。このような実施形態では、TCR発現のいくつか又は全てが残存する可能性があるが、前記TCR受容体が免疫応答を誘導するかどうかを決定するのは、前記TCR受容体の機能である。本発明は、細胞表面における完全なTCR複合体の不在ではなく、機能的欠陥を考慮している。理論に縛られることは望まないが、TCRの発現が低いほど、前記TCR複合体を介してT細胞の活性化につながる十分なTCR架橋が起こる可能性が低くなる。
【0115】
いくつかの実施形態では、前記単離修飾T細胞は、2つ以上の機能障害ポリペプチドを含む。このような実施形態では、1つの障害ポリペプチドは、T細胞受容体α鎖(TRAC)であり得る。前記TCR複合体は、細胞内に保持され、TRACが存在しない場合は細胞膜に移行しない。さらに、TRACを欠くTCR受容体は不安定になり、急速に分解されてもよい。いくつかの実施形態では、前記修飾T細胞は、TRAC、TRBC、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、又はインバリアント(Ii)鎖から選択される3つ以上の機能障害ポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、前記修飾T細胞は、CD3α、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される2つの機能障害ポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、前記修飾T細胞は、CD3α、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される3つの機能障害ポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、前記修飾T細胞は、CD3δ、CD3ε及びCD3γからなる群から選択される機能障害ポリペプチド、及び、TRAC、TRBC、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される少なくとも1つの機能障害ポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、前記修飾T細胞は、CD3δ、CD3ε及びCD3γからなる群から選択される少なくとも1つの機能障害ポリペプチド、及び、TRAC、TRBC、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される少なくとも1つの機能障害ポリペプチドを含む。
【0116】
いくつかの実施形態では、前記修飾T細胞は、(a)少なくとも1つの機能障害CD3δ、CD3ε及び/又はCD3γ並びに(b)TRAC、TRBC、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される少なくとも1つの機能障害ポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、前記修飾T細胞は、TRAC、TRBC、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖から選択される2つ以上の機能障害ポリペプチドを含む。
【0117】
いくつかの実施形態では、前記機能障害ポリペプチドは、タンパク質の発現を減少させる。このような実施形態では、前記修飾T細胞は、TRAC、TRBC、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、Ii鎖、又はそれらの任意の組み合わせの発現が減少している。いくつかの実施形態では、前記機能障害ポリペプチドは、コード化された遺伝子発現の欠如である。このような実施形態では、前記修飾T細胞は、CD3δ、CD3ε、CD3γ、TRAC、TRBC、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、Ii鎖、又はそれらの任意の組み合わせを発現しない。
【0118】
いくつかの実施形態では、CD3δ、CD3ε、CD3γ、TRAC、TRBC、B2M、C2TA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、Ii鎖からなる群から選択されるポリペプチドの発現が減少した又は発現が欠如した修飾T細胞は、さらに、TRAC、TRBC、B2M及びC2TAから選択される機能障害ポリペプチドを含む。このような実施形態では、前記修飾T細胞は、TRAC、TRBC、B2M又はC2TAの発現が減少しており及び/又はTRAC、TRBC、B2M又はC2TAを発現していない。
【0119】
いくつかの実施形態では、CD3δ、CD3ε、及び/又はCD3γの修飾により、TCR/CD3受容体複合体の機能障害がもたらされる。いくつかの実施形態では、本発明で想定される機能障害ポリペプチドは、遺伝子編集技術を使用して生成される。いくつかの実施形態では、遺伝子編集は、CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)エンドヌクレアーゼ系、TALEN遺伝子編集系、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)遺伝子編集系、メガヌクレアーゼ遺伝子編集系又はメガTALEN遺伝子編集系、アンチセンスRNA、アンチゴマーRNA、RNAi、siRNA及びshRNAからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、CD3δ、CD3ε又はCD3γは、CD3δ、CD3ε又はCD3γの1つ又は複数のエクソン、任意選択で、CD3δ、CD3ε又はCD3γのエクソン1を標的とすることによって修飾される。
【0120】
T細胞が機能的なTCRを発現しているかどうかは、当該技術分野で知られているか、又は本明細書に記載されているような既知のアッセイ方法を使用して決定することができる。いくつかの実施形態では、TCR αβ及びCD3の発現は、フローサイトメトリー及び定量的リアルタイムPCR(QRT-PCR)によって評価することができる。TCR-α、TCR-β、CD3ε、CD3δ、CD3γ及びCD3-ζ mRNAの発現は、Sentman et al.,J.Immunol.173:6760-6766(2004)で使用されている方法と同様の方法を使用して、ABI7300リアルタイムPCR装置と遺伝子特異的TAQMAN(登録商標)プライマーを使用したQRT-PCRによって分析できる。細胞表面発現の変化は、TCR-α、TCR-β、CD3ε、CD8、CD4、CD5及びCD45に特異的な抗体を使用して判定できる。フローサイトメトリーを使用してTCR/CD3発現をテストするには、TCR複合体の特定のサブユニットに対する蛍光色素標識抗体を使用する。いくつかの実施形態では、生細胞は、例えば、CD5、CD8及びCD4に対する抗体と、CD3ε、CD3δ、CD3γ、TCRα、TCRβ、TCRγ又はTCRδに対する抗体との組み合わせで染色される。CD3又はTCR遺伝子の何れかの発現が使用される場合、非修飾T細胞又はコントロールベクターを発現するT細胞と比較すると、前記修飾T細胞では、TCRタンパク質及びCD3タンパク質の両方の発現が大幅に減少するはずである。アイソタイプコントロール抗体は、バックグラウンド蛍光を制御するために使用される。
【0121】
前記修飾T細胞における機能障害ポリペプチドの発現が、TCR機能及び/又は修飾T細胞機能を変化させるのに十分であるかどうかを判断するために、前記修飾T細胞を、(1)インビトロでの細胞生存、(2)マイトマイシンC処理した同種異形PBMC(mitomycin C-treated allogeneic PBMCs)の存在下での増殖及び/又は(3)同種異形PBMC、抗CD3 mAbs、又は抗TCR mAbsに対するサイトカイン産生について試験する。
【0122】
前記TCR複合体の機能不全を試験するために、T細胞の増殖を促進する重要なエフェクターサイトカイン(key effector cytokines)の産生不足を判定することができる。例えば、修飾T細胞に対する抗CD3刺激の効果は、インターロイキン-2(IL-2)の産生及び/又はインターフェロン(IFN)-ガンマ産物の産生を決定するために使用できる。
【0123】
いくつかの実施形態では、機能障害ポリペプチドを含む前記修飾T細胞は、非修飾T細胞と比較して、T細胞受容体の発現の低下を示す。いくつかの実施形態では、機能障害ポリペプチドを含む前記修飾T細胞は、障害ポリペプチドの発現の減少を示す。いくつかの実施形態では、機能障害ポリペプチドを含む前記修飾T細胞は、T細胞受容体複合体の表面発現が完全に欠如していることを示す。いくつかの実施形態では、機能障害ポリペプチドを含む前記修飾T細胞は、T細胞受容体の架橋が減少しているか不十分である。いくつかの実施形態では、前記修飾T細胞は、細胞表面上に存在し得るTCRサブユニットのいくつか又は全てを発現する。表面に機能的なTCRがなければ、前記修飾T細胞は完全に活性化されない。したがって、本発明で想定される前記修飾T細胞は、宿主に導入されたときに望ましくない反応を起こすことはできない。その結果、前記修飾T細胞は、宿主のMHC分子からのシグナルを伝達できないため、GvHD又はHvHDを引き起こすことができない。
【0124】
いくつかの実施形態では、前記修飾T細胞が対象に投与されると、修飾T細胞は、同じ対象に投与された非修飾T細胞によって発揮される免疫応答と比較して、対象において低下した免疫応答を発揮する。本発明の修飾T細胞は、T細胞療法のあらゆる用途に使用することができる。いくつかの実施形態では、前記修飾T細胞は、T細胞療法が望ましい任意の方法又は組成物で使用される。いくつかの実施形態では、本発明の修飾T細胞は、癌、GVHD、移植拒絶反応、感染症、1つ若しくは複数の自己免疫障害(autoimmune disorders)、放射線病、又は、その他の疾患又は状態を、軽減、改善若しくは予防又は治療するために使用することができる。
IV. 遺伝子編集系:
A. CRISPR:
【0125】
いくつかの実施形態では、本開示の修飾免疫細胞は、遺伝子編集された修飾免疫細胞である。いくつかの実施形態では、本開示の内因性免疫タンパク質をそれぞれコードする1つ又は複数の遺伝子座における挿入及び/又は欠失は、遺伝子編集の結果である。ある実施形態では、CD3δ、CD3ε、CD3γ、TRAC、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はli鎖をコードする遺伝子は、遺伝子編集系によって修飾される。いくつかの例では、前記遺伝子編集系は、クラスター規則配列短回文核酸(clustered regularly interspersed short palindromic nucleic acid)(CRISPR)-Cas系等のRNAガイドヌクレアーゼを含む。前記CRISPR系(ここでは CRISPR-Cas系、Cas系又はCRISPR/Cas系とも呼ばれる)は、Casエンドヌクレアーゼ及び標的遺伝子に特異的なガイド核酸配列を含み、細胞に導入された後、細胞内に導入された後、Casエンドヌクレアーゼが標的遺伝子に切断(例えば、二本鎖切断)を導入することを可能にする複合体を形成する。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞は、CRISPR/Cas9を使用して編集され、1つ又は複数の内因性免疫タンパク質を破壊する。
【0126】
いくつかの実施形態では、前記CRISPR-Cas系は、1つ又は複数の内因性のCD3δ、CD3ε、CD3γ、TRAC、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖を破壊するために使用され、それによってCD3δ、CD3ε、CD3γ、TRAC、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖の遺伝子発現の下方制御をもたらす。いくつかの実施形態では、1つ又は複数の内因性免疫タンパク質の遺伝子発現を下方制御することができる挿入及び/又は欠失は、CD3δ、CD3ε、CD3γ、TRAC、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はIi鎖からなる群から選択される1つ又は複数の内因性タンパク質の発現を下方制御する。いくつかの実施形態では、遺伝子発現を下方制御することができる挿入及び/又は欠失のそれぞれは、CRISPR関連系を含む。いくつかの実施形態では、前記CRISPR関連系は、CRISPR関連Casエンドヌクレアーゼ及びガイドRNAである。
【0127】
いくつかの実施形態では、前記Casエンドヌクレアーゼは、Cas9エンドヌクレアーゼを含む。いくつかの例では、前記Cas9エンドヌクレアーゼは、例えば、S.pyogenes(例えば、SpCas9)、S.thermophiles、Staphylococcus aureus(例えば、SaCas9)又はNeisseria meningitidesのCas9分子に由来するか(is derived from)又はこれらに基づく(based on)。いくつかの例では、前記Cas9エンドヌクレアーゼは、例えば、Acidovorax avenae、Actinobacillus pleuropneumoniae、Actinobacillus succinogenes、Actinobacillus suis、Actinomyces sp.、cycliphilus denitrificans、Aminomonas paucivorans、Bacillus cereus、Bacillus smithii、Bacillus thuringiensis、Bacteroides sp.、Blastopirellula marina、Bradyrhiz obium sp.、Brevibacillus latemsporus、Campylobacter coli、Campylobacter jejuni、Campylobacter lad、Candidatus Puniceispirillum、Clostridiu cellulolyticum、Clostridium perfringens、Corynebacterium accolens、Corynebacterium diphtheria、Corynebacterium matruchotii、Dinoroseobacter sliibae、Eubacterium rectale、Eubacterium dolichum、gamma proteobacterium、Gluconacetobacler diazotrophicus、Haemophilus parainfluenzae、Haemophilus sputorum、Helicobacter canadensis、Helicobacter cinaedi、Helicobacter mustelae、Ilyobacler polytropus、Kingella kingae、Lactobacillus crispatus、Listeria ivanovii、Listeria monocytogenes、Listeriaceae bacterium、Methylocystis sp.、Methylosinus trichosporium、Mobiluncus mulieris、Neisseria bacilliformis、Neisseria cinerea、Neisseria flavescens、Neisseria lactamica. Neisseria sp.、Neisseria wadsworthii、Nitrosomonas sp.、Parvibaculum lavamentivorans、Pasteurella multocida、Phascolarctobacterium succinatutens、Ralstonia syzygii、Rhodopseudomonas palustris、Rhodovulum sp.、Simonsiella muelleri、Sphingomonas sp.、Sporolactobacillus vineae、Staphylococcus lugdunensis、Streptococcus sp.、Subdoligranulum sp.、Tislrella mobilis、Treponema sp.、又はVerminephrobacter eiseniaeのCas9分子に由来するか又はこれらに基づく。
【0128】
いくつかの実施形態では、前記Cas9エンドヌクレアーゼは、S.pyogenes(例えば、SF370、MGAS 10270、MGAS 10750、MGAS2096、MGAS315、MGAS5005、MGAS6180、MGAS9429、NZ131及びSSI-1株(strain))、S.thermophilus(例えば、LMD-9株)、S. pseudoporcinus(例えば、SPIN 20026株)、S.mutans(例えば、UA159、NN2025株)、S.macacae(例えば、NCTC1 1558株)、S.gallolylicus(例えば、UCN34、ATCC BAA-2069株)、S.equines(例えば、ATCC 9812、MGCS 124株)、S. dysdalactiae(例えば、GGS 124株)、S.bovis(例えば、ATCC 700338株)、S.cmginosus(例えば、F021 1株)、S.agalactia(例えば、NEM316、A909株)、Listeria monocytogenes(例えば、F6854株)、Listeria innocua(L.innocua、例えば、Clip 11262株)、Enterococcus italicus(例えば、DSM 15952株)又はEnterococcus faecium(例えば、1,23,408株)。
【0129】
いくつかの例では、前記エンドヌクレアーゼは、Cas3、Cas4、Cas8a、Cas8b、Cas9、Cas10、Cas10d、Cas12a、Cas12b、Cas12d、Cas12e、Cas12f、Cas12g、Cas12h、Cas12i、Cas13、Cas14、CasX、Cse1、Csy1、Csn2、Cpf1、C2c1、Csm2、Cmr5、Fok1、S.pyogenes Cas9、Staphylococcus aureus Cas9、MAD7ヌクレアーゼ(タイプV CRISPRヌクレアーゼ)又はそれらの任意の組み合わせを含む。
B. ガイドRNA:
【0130】
いくつかの実施形態では、前記ガイド核酸は、Cas-RNA複合体を標的配列に誘導する(direct)ガイドRNA(gRNA)分子である。いくつかの例では、前記誘導(directing)は、gRNAの一部とDNAのハイブリダイゼーション(例えば、gRNA標的ドメインを介して)及びgRNA分子の一部とRNAガイドヌクレアーゼ又はその他のエフェクター分子の結合(例えば、少なくともgRNA tracrを介して)によって達成される。いくつかの実施形態では、gRNA分子は、本明細書では「シングルガイドRNA(single guide RNA)」(「sgRNA」)と呼ばれる、単一の連続したポリヌクレオチド分子からなる。他の実施形態では、gRNA分子は、複数(通常は2つ)のポリヌクレオチド分子からなり、これらのポリヌクレオチド分子自体は、通常はハイブリダイゼーションを介して結合することができ、本明細書では「デュアルガイドRNA(dual guide RNA)」(「dgRNA」)と呼ばれる。
【0131】
いくつかの例では、前記gRNA分子は、crRNA及びtracrを含み、これらは任意で単一のポリヌクレオチド上又は別々のポリヌクレオチド上に存在することができる。いくつかの例では、前記crRNAは、標的ドメインと、tracrと相互作用して旗竿領域(flagpole region)を形成する領域とを含む。前記tracrは、ヌクレアーゼ又は他のエフェクター分子に結合するgRNA分子の部分を含む。いくつかの実施形態では、前記tracrは、Casエンドヌクレアーゼ(例えば、Cas9)に特異的に結合する核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記tracrは、旗竿の一部を形成する核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記標的ドメインは、標的DNA内のプロトスペーサー配列(protospacer sequence)を認識する、例えば、その配列と相補的なgRNA分子の部分である。
【0132】
プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)は、プロトスペーサーの3’末端に隣接して位置し、Casエンドヌクレアーゼによって認識される2~6塩基対のDNA配列である。いくつかの例では、各Casエンドヌクレアーゼは、特定のPAM配列を認識する。例示的なPAM配列には、S.pyogenes Cas9エンドヌクレアーゼによって認識されるNGG配列、又は、S.thermophilus Cas9エンドヌクレアーゼによって認識されるNGGNG又はNNAGAAW配列が含まれ、ここでNは任意のヌクレオチドである。当業者であれば、Casエンドヌクレアーゼが認識するPAM配列とともに使用される特定のCasエンドヌクレアーゼに基づいてgRNA分子を設計する方法を理解するであろう。
【0133】
いくつかの実施形態では、前記ガイドRNAは、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖(Ii鎖)からなる群から選択される内因性免疫タンパク質遺伝子座の標的配列と十分に相補的なガイド配列を含む。いくつかの実施形態では、前記ガイドRNAは、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖(Ii鎖)からなる群から選択される免疫タンパク質をそれぞれコードする1つ又は複数の遺伝子座内の配列と相補的なガイド配列を含む。いくつかの実施形態では、前記ガイドRNAは、1つ又は複数のCD3δ、CD3ε又はCD3γのエクソン内の配列と相補的である。いくつかの実施形態では、前記ガイドRNAは、CD3δ、CD3ε又はCD3γのエクソン1内の配列と相補的である。いくつかの実施形態では、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はインバリアント鎖(Ii鎖)のgRNA核酸配列は、表4に開示される核酸配列を有する。
【0134】
いくつかの実施形態では、前記ガイドRNAは、CD3δ遺伝子座内の配列と相補的なガイド配列を含み、該ガイドRNAは配列番号53で示される核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記ガイドRNAは、CD3ε遺伝子座内の配列と相補的なガイド配列を含み、該ガイドRNAは、配列番号52で示される核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記ガイドRNAは、CD3γ遺伝子座内の配列と相補的なガイド配列を含み、該ガイドRNAは、配列番号54で示される核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記ガイドRNAは、B2M遺伝子座内の配列と相補的なガイド配列を含み、該ガイドRNAは、配列番号55で示される核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記ガイドRNAは、CIITA(C2TA)遺伝子座内の配列と相補的なガイド配列を含み、該ガイドRNAは、配列番号61で示される核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記ガイドRNAは、TAP1遺伝子座内の配列と相補的なガイド配列を含み、該ガイドRNAは、配列番号56で示される核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記ガイドRNAは、TAP2遺伝子座内の配列と相補的なガイド配列を含み、該ガイドRNAは、配列番号57で示される核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記ガイドRNAは、TAPBP遺伝子座内の配列と相補的なガイド配列を含み、該ガイドRNAは、配列番号58、配列番号59又はそれらの任意の組み合わせで示される核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記ガイドRNAは、NLRC5 遺伝子座内の配列と相補的なガイド配列を含み、該ガイドRNAは、配列番号60で示される核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記ガイドRNAは、HLA-DM遺伝子座内の配列と相補的なガイド配列を含み、該ガイドRNAは、配列番号62で示される核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記ガイドRNAは、RFX5遺伝子座内の配列と相補的なガイド配列を含み、該ガイドRNAは、配列番号63、配列番号64又はそれらの組み合わせで示される核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記ガイドRNAは、RFXANK遺伝子座内の配列と相補的なガイド配列を含み、該ガイドRNAは、配列番号65で示される核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記ガイドRNAは、RFXAP遺伝子座内の配列と相補的なガイド配列を含み、該ガイドRNAは、配列番号66で示される核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記ガイドRNAは、Ii鎖遺伝子座内の配列と相補的なガイド配列を含み、前記ガイドRNAは、配列番号67、配列番号68又はそれらの任意の組み合わせで示される核酸配列を含む。
【0135】
いくつかの実施形態では、1つ以上、2つ以上、3つ以上又は4つ以上のガイド核酸(例えば、ガイドRNA分子)が、Casエンドヌクレアーゼを使用して免疫細胞にトランスフェクト(transfect)される。いくつかの例では、約1つ、2つ又は3つのガイド核酸(例えば、ガイドRNA分子)が、Casエンドヌクレアーゼを使用して免疫細胞にトランスフェクトされる。いくつかの例では、約3つのガイド核酸(例えば、ガイドRNA分子)が、Casエンドヌクレアーゼを使用して免疫細胞にトランスフェクトされる。いくつかの例では、約2つのガイド核酸(例えば、ガイドRNA分子)が、Casエンドヌクレアーゼを使用して免疫細胞にトランスフェクトされる。いくつかの例では、約1つのガイド核酸(例えば、ガイドRNA分子)が、Casエンドヌクレアーゼを使用して免疫細胞にトランスフェクトされる。
【0136】
いくつかの実施形態では、ベクターがCRISPR系の発現を駆動する。当該技術分野には、本発明に有用な適切なベクターが豊富に存在する。使用されるベクターは、複製、及び必要に応じて真核細胞への組み込み(integration)に適している。典型的なベクターには、目的の核酸配列の発現を制御するのに役立つ転写及び翻訳ターミネーター(terminators)、開始配列及びプロモーターが含まれている。本発明のベクターは、核酸標準遺伝子送達プロトコル(nucleic acid standard gene delivery protocols)にも使用することができる。遺伝子送達の方法は当該技術分野で既知である。さらに、前記ベクターは、ウイルスベクターの形態で細胞に提供されてもよい。ウイルスベクター技術は、当該技術分野で周知であり、例えば、Sambrook et al.,4th Edition,Molecular Cloning、A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York,2012、及び、その他のウイルス学及び分子生物学ノーマーニュアルに記載されている。ベクターとして有用なウイルスには、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、シンドビスウイルス、ガンマレトロウイルス、レンチウイルス等が含まれるが、これらに限定されない。理論に束縛されることを望むものではないが、好適なベクターは、少なくとも1つの生物で機能する複製起点、プロモーター配列、都合のよい制限エンドヌクレアーゼ部位及び1つ又は複数の選択可能マーカーを含む。いくつかの実施形態では、前記CRISPR/Cas系は、発現ベクターを含む。いくつかの実施形態では、CRISPR/Cas系は、pAd5/F35-CRISPRベクターを含む。
C. TALEN:
【0137】
いくつかの実施形態では、前記遺伝子編集系は、TALEN遺伝子編集系である。TALENは、TALエフェクターDNA結合ドメインをDNA切断ドメインに融合することによって人工的に生成される。転写活性化因子様効果(transcription activator-like effects)(TALE)は、標的DNAに結合するように組み換えられる。組み換えTALEとDNA切断ドメインを組み合わせることで、任意の標的DNA配列に固有の制限酵素を生成できる。
【0138】
TALEは、キサントモナス細菌(Xanthomonas bacteria)によって分泌されるタンパク質である。前記DNA結合ドメインには、12番目及び13番目のアミノ酸を除いて、繰り返しの高度に保存された33~34個のアミノ酸配列が含まれている。これら2つの位置は可変性が高く、特定のヌクレオチド認識と強い相関関係を示しているため、標的DNA配列に結合するように組み換えることができる。
【0139】
TALENを製造するために、TALEタンパク質は、例えば野生型又は変異型Fok1エンドヌクレアーゼを含むヌクレアーゼ(N)に融合される。前記Fok1ドメインは、二量体として機能し、適切な方向と間隔で標的ゲノム内の部位に固有のDNA結合ドメインを持つ2つの構築物を必要とする。特異性とオフターゲット効果(off-target effect)は、TALE DNA結合ドメインとFok1切断ドメイン間のアミノ酸残基の数と、2つの個別のTALEN結合部位間の塩基数を変更することによって調整できる。
D. ジンクフィンガーヌクレアーゼ:
【0140】
いくつかの実施形態では、前記遺伝子編集系ファージンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)遺伝子編集系である。前記ジンクフィンガーヌクレアーゼは、1つ又は複数の標的核酸配列の核酸部位を修飾するために使用できる人工ヌクレアーゼである。前記TALEN編集系と同様に、ZFNは、DNA結合ドメインに融合されたFok1ヌクレアーゼドメイン(又はその誘導体)を含む。ZFNの場合、DNA結合ドメインは、1つ又は複数のジンクフィンガーで構成される。ジンクフィンガーは、1つ又は複数の亜鉛イオンによって安定化された小さなタンパク質構造モチーフである。ジンクフィンガーは、例えば、Cys2His2を含み、約3bpの配列を認識することができる。特異性が知られているさまざまなジンクフィンガーを組み合わせて、約6、9、12、15又は18bpの配列を認識するマルチフィンガーポリペプチドを生成することができる。
【0141】
ZFNは、非回文DNA部位を認識する。標的部位を切断するために、一対のZFNが二量体化し、標的部位の反対側の鎖に組み立てられる。ファージディスプレイ(phage display)、酵母ワンハイブリッド系、細菌ワンハイブリッド及びツーハイブリッド系、哺乳類細胞を含む、特定の配列を認識するジンクフィンガー(及びそれらの組み合わせ)を生成するために、さまざまな選択及びモジュールアセンブリ技術が利用可能である。
E. メガヌクレアーゼ:
【0142】
いくつかの実施形態では、前記遺伝子編集系は、メガヌクレアーゼ遺伝子編集系である。メガヌクレアーゼは、15~40塩基対の切断部位を認識する人工ヌクレアーゼである。いくつかの例では、メガヌクレアーゼは、ヌクレアーゼ活性及びDNA認識に影響を与える構造モチーフに基づいてファミリーに分類される。LAGLIDADGファミリーのメンバーは、保存されたLAGLIDADGモチーフのコピーを1つ又は2つ有することが特徴である。いくつかの例では、LAGLIDADGモチーフのコピーが1つあるLAGLIDADGメガヌクレアーゼはホモ二量体を形成するが、LAGLIDADGモチーフのコピーが2つあるメンバーは単量体として見つかる。GIY-YIGファミリーのメンバーには、70~100残基の長さのGP-YIGモジュールがあり、4つ又は5つの保存された配列モチーフと4つのインバリアント残基が含まれており、そのうち2つは活性に必要である。His-Cysボックスメガヌクレアーゼは、数百のアミノ酸残基を含む領域にわたって高度に保存された一連のヒスチジンとシステインを特徴とする。NHNファミリーのメンバーは、アスパラギン残基に囲まれた2対の保存されたヒスチジンを含むモチーフによって定義される。DNA結合特異性を変更したメガヌクレアーゼを組み換える戦略(例えば、所定の核酸配列に結合する)は、当技術分野で既知である。
【0143】
いくつかの例では、前記メガヌクレアーゼは、メガヌクレアーゼのN末端に融合したTALEドメインを含むメガTALと呼ばれるハイブリッドヌクレアーゼである。いくつかの例では、前記メガヌクレアーゼはLAGLIDADGファミリーのメンバーである。
【0144】
いくつかの実施形態では、遺伝子編集系は、遺伝子サイレンシング系である。例示的な遺伝子サイレンシング系は、RNAi、siRNA、又はshRNAを介した遺伝子サイレンシング系を含む。
V. 外因性核酸:
【0145】
本発明は、内因性免疫タンパク質をコードする1つ又は複数の遺伝子座に挿入及び/又は欠失を含み、内因性免疫タンパク質及び外因性核酸の遺伝子発現を下方制御することができる修飾免疫細胞又はその前駆細胞を提供する。いくつかの実施形態では、前記外因性核酸は、キメラ抗原受容体(CAR)、修飾T細胞受容体(TCR)、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)、抗原結合ポリペプチド、細胞表面受容体リガンド又は腫瘍抗原をコードする。いくつかの実施形態では、外因性ポリペプチドを発現する修飾免疫細胞が本明細書に開示される。いくつかの例では、前記外因性核酸は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする。いくつかの例では、外因性核酸は抗原結合ポリペプチドをコードする。いくつかの例では、前記外因性核酸は、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)をコードする。追加の例では、前記外因性核酸は、細胞表面受容体リガンド又は腫瘍抗原をコードする。
A. キメラ抗原受容体:
【0146】
本発明には、本明細書に記載の遺伝子発現が下方制御された修飾T細胞及びキメラ抗原受容体(CAR)も含まれる。いくつかの実施形態では、本発明は、CAR又はCARをコードする核酸を含む修飾T細胞を包含し、該CARは、抗原結合ドメイン、ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む。本明細書に記載の任意の抗原結合ドメイン、任意のヒンジ、任意の膜貫通ドメイン、任意の共刺激ドメイン及び任意の細胞内シグナル伝達ドメインを含むCARを含む任意の修飾細胞が想定されており、本明細書の開示を考慮して、当業者によって容易に理解され、作製され得る。
【0147】
前記抗原結合ドメインは、免疫細胞内で発現するために、本明細書に記載の膜貫通ドメイン又は細胞内ドメイン等のCARの別のドメインに操作可能に連結され(operably linked)てもよい。一実施形態では、前記抗原結合ドメインをコードする第1の核酸配列は、膜貫通ドメインをコードする第2の核酸配列に操作可能に連結され、さらに、細胞内ドメインをコードする第3の核酸配列に操作可能に連結される。
【0148】
本明細書に記載の抗原結合ドメインは、本明細書に記載の膜貫通ドメインの何れか、本明細書に記載の細胞内ドメイン又は細胞質ドメインの何れか、又は本発明のCARに含まれ得る本明細書に記載の他のドメインの何れかと組み合わせることができる。本発明の対象CARには、本明細書に記載のスペーサードメイン(spacer domain)も含まれ得る。いくつかの実施形態では、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインのそれぞれは、リンカー(linker)によって分離されている。
1. 抗原結合ドメイン:
【0149】
CARの抗原結合ドメインは、タンパク質、炭水化物、糖脂質等の特定の標的抗原に結合するCARの細胞外領域である。いくつかの実施形態では、前記CARは、標的細胞(例えば、癌細胞)上の標的抗原(例えば、腫瘍関連抗原)に対する親和性を含む。前記標的抗原には、標的細胞に関連する任意のタイプのタンパク質又はそのエピトープ(epitope)が含まれてもよい。例えば、前記CARは、標的細胞の特定の状態を示す標的細胞上の標的抗原に対する親和性を備えていてもよい。
【0150】
本明細書に記載のように、標的細胞上の特定の標的抗原に対する親和性を有する本開示のCARは、標的特異的結合ドメインを含み得る。いくつかの実施形態では、前記標的特異的結合ドメインは、マウスの標的特異的結合ドメインであり、例えば、該標的特異的結合ドメインは、マウス由来である。いくつかの実施形態では、前記標的特異的結合ドメインは、ヒト標的特異的結合ドメインであり、例えば、該標的特異的結合ドメインは、ヒト由来である。
【0151】
前記抗原結合ドメインには、抗原に結合する任意のドメインが含まれ、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、非ヒト抗体及びそれらの任意のフラグメントが含まれるが、これらに限定されない。したがって、一実施形態では、前記抗原結合ドメイン部分は、哺乳動物抗体又はそのフラグメントを含む。いくつかの実施形態では、前記抗原結合ドメインは、全長抗体を含む。いくつかの実施形態では、前記抗原結合ドメインは、抗原結合フラグメント(Fab)、例えば、Fab、Fa’、F(ab’)2、単一特異性Fab2、二重特異性Fab2、三重特異性Fab2、単鎖可変フラグメント(scFv)、dAb、タンデムscFv、VhH、V-NAR、ラクダ科(camelid)、ダイアボディ、ミニボディ、トリアボディ又はテトラボディを含む。
【0152】
いくつかの実施形態では、本開示のCARは、1つ又は複数の標的細胞上の1つ又は複数の標的抗原に対する親和性を有し得る。いくつかの実施形態では、CARは、単一の標的細胞上の1つ又は複数の標的抗原に対する親和性を有し得る。このような実施形態では、前記CARは、二重特異性CAR又は多重特異性CARである。いくつかの実施形態では、前記CARは、1つ又は複数の標的抗原に対する親和性を付与する1つ又は複数の標的特異的結合ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記CARは、同じ標的抗原に対する親和性を付与する1つ又は複数の標的特異的結合ドメインを含む。例えば、同じ標的抗原に対して親和性を有する1つ又は複数の標的特異的結合ドメインを含むCARは、標的抗原の異なるエピトープに結合することができる。CAR内に複数の標的特異的結合ドメインが存在する場合、前記結合ドメインは、直列に配置され、リンカーペプチドによって分離され得る。例えば、2つの標的特異的結合ドメインを含むCARでは、前記結合ドメインは、ポリペプチドリンカー、Fcヒンジ領域又は膜ヒンジ領域を介して、単一のポリペプチド鎖上で互いに共有結合している。
【0153】
本明細書で使用される場合、用語「単鎖可変フラグメント(single-chain variable fragment)」又は「scFv」は、免疫グロブリン(例えば、マウス又はヒト)の重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の可変領域が共有結合してVH::VLヘテロ二量体を形成する融合タンパク質である。重鎖(heavy chains)(VH)と軽鎖(lighit chain)(VL)は直接結合するか、又はペプチドをコードするリンカー又はスペーサーによって結合され、VHのN末端とVLのC末端、又は、VHのC末端とVLのN末端が接続される。本明細書では、用語「リンカー(linker)」及び「スペーサー(spacer)」は、互換的に使用される。いくつかの実施形態では、前記抗原結合ドメイン(例えば、Tn-MUC1結合ドメイン、PSMA結合ドメイン又はメソテリン結合ドメイン)は、N末端からC末端、VH- リンカー -VLの構成を有するscFvを含む。いくつかの実施形態では、抗原結合ドメイン(例えば、Tn-MUC1結合ドメイン、PSMA結合ドメイン、又はメソテリン結合ドメイン)は、N末端からC末端、VH-リンカー-VHの構成を有するscFvを含む。当業者であれば、本発明で使用するための適切な構成を選択することができるであろう。
【0154】
前記リンカーは、通常、柔軟性のためにグリシンを多く含み、溶解性のためにセリン又はトレオニンを多く含む。前記リンカーは、細胞外抗原結合ドメインの重鎖可変領域と軽鎖可変領域を連結することができる。前記リンカーの非限定的な例は、Shen et al.,Anal.Chem.80(6):1910-1917(2008)及びWO2014/087010に開示されている。当該技術分野では、様々なリンカー配列が公知であり、これには、(GS)n、(GSGGS)n(配列番号47)、(GGGS)n(配列番号48)及び(GGGGS)n(配列番号49)等のグリシンセリン(GS)リンカーが含まれるが、これらに限定されない。ここで、nは少なくとも1の整数を表す。例示的なリンカー配列は、限定されないが、GGSG(配列番号29)、GGSGG(配列番号30)、GSGSG(配列番号31)、GSGGG(配列番号32)、GGGSG(配列番号33)、GSSSG(配列番号34)、GGGGS(配列番号49)又はGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号50)等を含むアミノ酸配列を含むことができる。当業者であれば、本発明で使用するための適切なリンカー配列を選択することができるであろう。一実施形態では、本発明の抗原結合ドメイン(例えば、Tn-MUC1結合ドメイン、PSMA結合ドメイン又はメソテリン結合ドメイン)は、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、VH及びVLは、アミノ酸配列GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号50)を有するリンカー配列によって分離されている。いくつかの実施形態では、前記リンカー核酸配列は、ヌクレオチド配列GGTGGCGGTGGCTCGGGCGGTGGTGGGTCGGGTGGCGGCGGATCT(配列番号51)を含む。
【0155】
定常領域の除去及びリンカーの導入にもかかわらず、scFvタンパク質は元の免疫グロブリンの特異性を保持している。単鎖Fvポリペプチド抗体は、Huston,et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.USA85:5879-5883(1988)に記載されているような配列をコードするVH及びVLを含む核酸から発現できる。阻害活性を有するアンタゴニスティク(antagonistic)scFvが開示されている。例えば、Zhao et al.,Hybridoma(Larchmt),27(6):455-51(2008)を参照されたい。刺激活性を有するアゴニスティク(agonistic)scFvが開示されている。例えば、Peter et al.,J.Biol. Chem.,25278(38):36740-7(2003)を参照されたい。
【0156】
本明細書において、「Fab」とは、抗原に結合するが一価であり、Fc部分を持たない抗体構造のフラグメントを指し、例えば、パパイン酵素によって消化された抗体は、2つのFabフラグメントと1つのFcフラグメント(例えば、重鎖(H)定常領域、抗原に結合しないFc領域)を生成する。
【0157】
いくつかの例では、前記抗原結合ドメインは、CARが最終的に使用されるのと同じ種に由来してもよい。例えば、ヒトに使用する場合、前記CARの抗原結合ドメインは、本明細書の他の箇所に記載されているようなヒト抗体又はそのフラグメントを含み得る。
【0158】
したがって、例えば、本明細書に記載の方法によって得られる免疫細胞は、以下の癌関連抗原(腫瘍抗原)のうちの1つを標的とするCARを発現するように組み換えることができる:CD19;CD20;CD22(シグレック2(Siglec 2));CD37;CD123;CD22;CD30;CD171;CS-1(CD2サブセット1、CRACC、SLAMF7、CD319及び19A24とも呼ばれる);C型レクチン様分子-1(CLL-1又はCLECL1);CD33;CD133;上皮成長因子受容体(EGFR);上皮成長因子受容体バリアントIII(EGFRvIII);ヒト上皮成長因子受容体(HER1);ガングリオシドG2(GD2);ガングリオシドGD3(aNeu5Ac(2-8)aNeu5Ac(2-3)bDGalp(1-4)bDGlcp(1-l)Cer);TNF受容体ファミリーメンバーB細胞成熟(BCMA);Tn抗原((Tn Ag)又は(GalNAca-Ser/Thr));前立腺特異膜抗原(PSMA);受容体チロシンキナーゼ様オ-ファン受容体1(ROR1);Fms様チロシンキナーゼ3(FLT3);腫瘍関連糖タンパク質72(TAG72);CD38;CD44v6;癌胎児性抗原(CEA);上皮細胞接着分子(EPCAM);B7H3(CD276);KIT(CD117);インターロイキン-13受容体サブユニットアルファー2(IL-13Ra2又はCD213A2);メソテリン;インターロイキン11受容体アルファー(IL-11Ra);前立腺幹細胞抗原(PSCA);プロテアーゼセリン21(テストシン又はPRSS21);血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2);ルイス(Y)抗原;CD24;血小板由来増殖因子受容体ベータ(PDGFR-ベータ);ステージ特異的胎児抗原-4(SSEA-4);葉酸受容体アルファー;受容体チロシン-タンパク質キナーゼERBB2(Her2/neu);ムチン1、細胞表面関連(MUC 1);GalNAca1-O-Ser/Thr(Tn)MUC 1(TnMUC1);神経細胞接着分子(NCAM);プロスターゼ;前立腺酸性ホスファターゼ(PAP);変異型伸長因子2(ELF2M);エフリンB2;線維芽細胞活性化タンパク質アルファー(FAP);インスリン様成長因子1受容体(IGF-I受容体)、炭酸脱水酵素IX(CAIX);プロテアソーム(プロソーム、マクロパイン)サブユニット、ベータ型、9(LMP2);糖タンパク質100(gp100);ブレークポイントクラスタ-領域(BCR)とアベルソンマウス白血病ウイルス癌遺伝子ホモログ1(Abl)からなる癌遺伝子融合タンパク質(bcr-abl);チロシナーゼ;エフリンA型受容体2(EphA2);フコシルGM1;シアリルルイス接着分子(sLe);ガングリオシドGM3(aNeu5Ac(2-3)bDGalp(1-4)bDGlcp(1-1)Cer);トランスグルタミナーゼ5(TGS5);高分子量-メラノーマー関連抗原(HMWMAA);o-アセチル-GD2ガングリオシド(OAcGD2);葉酸受容体ベータ;腫瘍内皮マーカー1(TEM1/CD248);腫瘍内皮マーカー7関連(TEM7R);クローディン6(CLDN6);甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR);Gタンパク質共役受容体クラスCグループ5、メンバーD(GPRC5D);染色体Xオープンリーディングフレーム61(CXORF61);CD97;CD179a;未分化リンパ腫キナーゼ(ALK);ポリシアル酸;胎盤特異性1(PLAC1);globoHグリコセラミドの六糖部分(GloboH);乳腺分化抗原(NY-BR-1);ウロプラキン2(UPK2);チロシンタンパク質キナーゼMet(c-Met);A型肝炎ウイルス細胞受容体1(HAVCR1);アドレナリン受容体ベータ3(ADRB3);パネキシン3(PANX3);Gタンパク質共役受容体20(GPR20);リンパ球抗原6複合体、遺伝子座K9(LY6K);嗅覚受容体51E2(OR51E2);TCRガンマ代替リーディングフレームタンパク質(TARP);ウィルムス腫瘍タンパク質(WT1);癌/精巣抗原1(NY-ESO-1);癌/精巣抗原2(LAGE-1a);悪性黒色腫関連抗原1(MAGE-A1);ETS転座変異遺伝子6、染色体12pに位置する(ETV6-AML);精子タンパク質17(SPA17);X抗原ファミリー、メンバー1A(XAGEl);アンジオポエチン結合細胞表面受容体2(Tie2);悪性黒色腫癌精巣抗原-1(MAD-CT-1);悪性黒色腫癌精巣抗原-2(MAD-CT-2);Fos関連抗原1;腫瘍タンパク質p53(p53);p53バリアント;プロステイン;サヴァイヴィング(surviving);テロメラーゼ;前立腺癌腫瘍抗原-1(PCTA-1又はガレクチン8)、T細胞によって認識される悪性黒色腫抗原1(MelanA又はMARTI);ラット肉腫(Ras)バリアント;ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT);肉腫転座切断点;悪性黒色腫アポトーシス抑制因子(ML-IAP);ERG(膜貫通プロテアーゼ、セリン2(TMPRSS2)ETS融合遺伝子);N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼV(NA17);ペアボックスタンパク質Pax-3(PAX3);アンドロゲン受容体;サイクリンB1;v-myc鳥類骨髄細胞腫症ウイルス癌遺伝子神経芽腫由来ホモログ(MYCN);RasホモログファミリーメンバーC(RhoC);チロシナーゼ関連タンパク質2(TRP-2);シトクロムP4501B1(CYP1B1);CCCTC-結合因子(ジンクフィンガータンパク質)様(BORIS又はインプリント部位の調節因子のブラザー(BORIS or Brother of the Regulator of Imprinted Sites))、T細胞によって認識される扁平上皮癌抗原3(Squamous Cell Carcinoma Antigen Recognized By T Cells 3)(SART3);ペアボックスタンパク質Pax-5(PAX5);プロアクロシン結合タンパク質sp32(OY-TESl);リンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ(LCK);Aキナーゼアンカータンパク質4(AKAP-4);滑膜肉腫、Xブレークポイント2(SSX2);終末糖化産物受容体(RAGE-1);腎臓ユビキタス1(RU1);腎臓ユビキタス2(RU2);レグマイン;ヒトパピローマウイルスE6(HPV E6);ヒトパピローマウイルスE7(HPV E7);腸カルボキシルエステラーゼ;熱ショックタンパク質70-2変異体(mut hsp70-2);CD79a;CD79b;CD72;白血球関連免疫グロブリン様受容体1(LAIR1);IgA 受容体のFcフラグメント(FCAR又はCD89);白血球免疫グロブリン様受容体サブファミリーAメンバー2(LILRA2);CD300分子様ファミリーメンバーf(CD300LF);C型レクチンドメインファミリー12メンバーA(CLEC12A);骨髄間質細胞抗原2(BST2);EGF様モジュール含有ムチン様ホルモン受容体様2(EMR2);リンパ球抗原75(LY75);グリピカン2(GPC2);グリピカン3(GPC3);NKG2D;KRAS;GDNFファミリー受容体アルファー4(GFRa4);IL13Ra2;Fc受容体様5(FCRL5);及び免疫グロブリンラムダ様ポリペプチド1(IGLL1)。
【0159】
いくつかの実施形態では、前記免疫細胞は、CD19、CD20、CD22、BCMA、CD37、メソテリン、PSMA、PSCA、Tn-MUC1、EGFR、EGFRvIII、c-Met、HER1、HER2、CD33、CD133、GD2、GPC2、GPC3、NKG2D、KRAS又はWT1を標的とするCARを発現するように組み換えられる。
2. 膜貫通ドメイン:
【0160】
膜貫通ドメインに関しては、前記CARは、該CARの抗原結合ドメインを細胞内ドメインに接続する膜貫通ドメインを含むように設計することができる。対象CARの膜貫通ドメインは、細胞(例えば、免疫細胞又はその前駆細胞)の細胞膜を貫通することができる領域である。前記膜貫通ドメインは、細胞膜、例えば、真核生物の細胞膜に挿入するためのものである。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、抗原結合ドメインとCARの細胞内ドメインとの間に介在する。
【0161】
一実施形態では、前記膜貫通ドメインは、CAR内の1つ又は複数のドメインと自然に関係する。いくつかの例において、前記膜貫通ドメインは、受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小にするために、同一又は異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインへのそのようなドメインの結合を避けるように、アミノ酸置換によって選択又は修飾され得る。
【0162】
いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、天然ソース又は合成ソースの何れかに由来し得る。前記ソースが天然である場合、前記ドメインは、任意の膜結合又は膜貫通タンパク質、例えば、I型膜貫通タンパク質に由来し得る。前記ソースが合成である場合、前記膜貫通ドメインは、前記CARの細胞膜への挿入を容易にする任意の人工配列、例えば人工疎水性配列であってもよい。いくつかの実施形態では、本発明で特に使用される膜貫通ドメインは、限定されないが、T細胞受容体のアルファー、ベータ又はゼータ鎖、CD28、CD2、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD7、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134(OX-40)、CD137(4-1BB)、CD154(CD40L)、CD278(ICOS)、CD357(GITR)、Toll様受容体1(TLR1)、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9及びキラー免疫グロブリン様受容体(KIR)に由来する膜貫通ドメインが含まれる。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、T細胞受容体のアルファー、ベータ又はゼータ鎖、CD28、CD2、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD7、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134(OX-40)、CD137(4-1BB)、CD154(CD40L)、CD278(ICOS)、CD357(GITR)、Toll様受容体1(TLR1)、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9及びキラー免疫グロブリン様受容体(KIR)からなる群から選択されるタンパク質の少なくとも1つの膜貫通領域を含む。いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは合成であってもよい。いくつかの実施形態では、前記合成膜貫通ドメインは、主にロイシン及びバリン等の疎水性残基を含む。ある例示的な実施形態では、合成膜貫通ドメインの各末端にフェニルアラニン、トリプトファン及びバリンのトリプレットが見られる。
【0163】
本明細書に記載の膜貫通ドメインは、本明細書に記載の抗原結合ドメインの何れか、本明細書に記載の共刺激シグナル伝達ドメインの何れか、本明細書に記載の細胞内シグナル伝達ドメインの何れか又は対象CARに含まれる可能性がある本明細書に記載の他のドメインの何れかと組み合わせることができる。
【0164】
一実施形態では、前記膜貫通ドメインは、CD8α膜貫通ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23で示されるアミノ酸配列を含むCD8α膜貫通ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号24で示されるヌクレオチド配列を含む。
【0165】
いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、CD28膜貫通ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記CARは、配列番号27で示されるアミノ酸配列を含むCD28膜貫通ドメインを含む。いくつかの実施形態では、CD28膜貫通ドメインは、配列番号28で示されるヌクレオチド配列を含む。
【0166】
意図された機能を維持しながら、前記膜貫通ドメイン及び/又はヒンジドメインの許容可能なバリエーションは、当業者には公知である。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23及び/又は配列番号27で示されるアミノ酸配列の任意の何れかと少なくとも約80%、少なくとも約81%、少なくとも約82%、少なくとも約83%、少なくとも約84%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%の配列同一性(sequence identity)を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号24及び/又は28で示されるヌクレオチド配列の任意の何れかと少なくとも約80%、少なくとも約81%、少なくとも約82%、少なくとも約83%、少なくとも約84%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸配列によってコードされる。前記膜貫通ドメインは、任意のヒンジドメインと組み合わせることができ、及び/又は本明細書に記載の1つ又は複数の膜貫通ドメインを含むことができる。
【0167】
いくつかの実施形態では、前記CARは、任意の抗原結合ドメイン、T細胞受容体のアルファー、ベータ又はゼータ鎖のT膜貫通ドメイン(the t transmembrane domain)、CD28、CD2、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD7、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134(OX-40)、CD137(4-1BB)、CD154(CD40L)、CD278(ICOS)、CD357(GITR)、Toll様受容体1(TLR1)、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9及びキラー免疫グロブリン様受容体(KIR)からなる群から選択される膜貫通ドメイン、任意の共刺激シグナル伝達ドメイン及び任意の細胞内ドメイン又は本明細書に記載される細胞質ドメイン、又はCARに含まれる可能性のある本明細書に記載される他のドメインの何れか、及び任意選択でヒンジドメイン、を含む。
【0168】
いくつかの実施形態では、前記CARは、CARの細胞外ドメインと膜貫通ドメインとの間、又は、CARの細胞内ドメインと膜貫通ドメインとの間にスペーサードメインをさらに含む。本明細書で使用される場合、用語「スペーサードメイン(spacer domain)」は、一般に、膜貫通ドメインをポリペプチド鎖内の細胞外ドメイン又は細胞内ドメインの何れかに連結する機能を果たす任意のオリゴ又はポリペプチドを意味する。スペーサードメインは、最大約300個のアミノ酸、例えば、約10個~約100個のアミノ酸又は約25個~約50個のアミノ酸を含み得る。いくつかの実施形態では、前記スペーサードメインは、例えば、長さが約2個~約10個のアミノ酸の短いオリゴ又はポリペプチドリンカーであってもよい。例えば、グリシン-セリンダブレット(glycine-serine doublet)は、対象CARの膜貫通ドメインと細胞内シグナル伝達ドメインとの間に特に適したリンカーを提供する。
【0169】
したがって、本開示のCARは、本明細書に記載の膜貫通ドメイン、ヒンジドメイン、又はスペーサードメインの任意の何れかを含み得る。
3. ヒンジドメイン:
【0170】
いくつかの実施形態では、本発明の対象CARは、ヒンジ領域を含む。前記CARのヒンジ領域は、前記抗原結合ドメイン及び前記膜貫通ドメインの間に位置する親水性領域である。いくつかの実施形態では、前記ヒンジドメインは、CARの適切なタンパク質折り畳みを促進する。いくつかの実施形態では、前記ヒンジドメインは、CARの任意選択の成分である。いくつかの実施形態では、前記ヒンジドメインは、抗体のFcフラグメント、抗体のヒンジ領域、抗体のCH2領域、抗体のCH3領域、人工ヒンジ配列又はそれらの組み合わせから選択されるドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記ヒンジドメインは、CD8aヒンジ、3つのグリシン(Gly)ほど小さくてもよいポリペプチドからなる人工ヒンジから選択されるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、前記ヒンジ領域は、受容体に由来するヒンジ領域ポリペプチドである。いくつかの実施形態では、前記ヒンジ領域は、CD8由来のヒンジ領域である。一実施形態では、前記ヒンジドメインは、ヒトCD8に由来するアミノ酸配列又はそのバリアントを含む。いくつかの実施形態では、対象CARは、CD8αヒンジドメイン及びCD8α膜貫通ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記CD8αヒンジドメインは、配列番号25で示されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記CD8αヒンジドメインは、配列番号26で示されるヌクレオチド配列を含む。
【0171】
いくつかの実施形態では、ヒンジドメインは、配列番号25で示されるアミノ酸配列の任意の何れかと少なくとも約80%、少なくとも約81%、少なくとも約82%、少なくとも約83%、少なくとも約84%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記ヒンジドメインは、配列番号26で示されるヌクレオチド配列の任意の何れかと少なくとも約80%、少なくとも約81%、少なくとも約82%、少なくとも約83%、少なくとも約84%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸配列によってコードされる。
【0172】
いくつかの実施形態では、前記ヒンジドメインは、前記抗原結合ドメインを、前記膜貫通ドメインに接続し、該膜貫通ドメインは、前記細胞内ドメインに連結される。例示的な実施形態では、前記ヒンジ領域は、前記抗原結合ドメインが標的細胞上の標的抗原を認識して結合することをサポートすることが可能である。例えば、Hudecek et al.,Cancer Immunol.Res.,3(2):125-135(2015)を参照されたい。いくつかの実施形態では、前記ヒンジ領域は、柔軟なドメインであり、これにより、前記抗原結合ドメインは、腫瘍細胞等の細胞上の標的抗原の特定の構造及び密度を最適に認識する構造を有することができる。前記ヒンジ領域の柔軟性により、該ヒンジ領域はさまざまな立体構造をとることができる。
【0173】
いくつかの実施形態では、前記ヒンジドメインの長さは、約4~約50、約4~約10、約10~約15、約15~約20、約20~約25、約25~約30、約30~約40又は約40~約50個のアミノ酸から選択される。
【0174】
適切なヒンジ領域は容易に選択することができ、約1個のアミノ酸(例えば、グリシン(Gly))~約20個のアミノ酸、約2~約15、約3~約12個のアミノ酸、約4~約10、約5~約9、約6~約8又は約7~約8個のアミノ酸を含む、任意の数の適切な長さとすることができ、約1、約2、約3、約4、約5、約6又は約7個のアミノ酸とすることができる。
【0175】
いくつかの実施形態では、前記アミノ酸は、グリシン(Gly)である。グリシン及びグリシン-セリンポリマーを使用でき、グリシンとセリンはどちらも比較的構造化されていないため、成分間の中立的な結合剤として機能する。グリシンポリマーも使用可能であり、グリシンは、アラニンよりもはるかに広いファイ-プサイ空間にアクセスし、長い側鎖を持つ残基よりもはるかに制限が少なくなっている(例えば、Scheraga,Rev.Computational.Chem.(1992)2:73-142を参照されたい)。いくつかの実施形態では、前記ヒンジ領域は、グリシンポリマー(G)n、グリシン-セリンポリマーを含む。いくつかの実施形態では、前記ヒンジ領域は、(GS)n、(GSGGS)n(配列番号47)及び(GGGS)n(配列番号48)からなる群から選択されるグリシン-セリンポリマーを含み、ここでnは少なくとも1の整数である。いくつかの実施形態では、前記ヒンジドメインは、これらに限定されないが、GGSG(配列番号29)、GGSGG(配列番号30)、GSGSG(配列番号31)、GSGGG(配列番号32)、GGGSG(配列番号33)、GSSSG(配列番号34)を含むアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記ヒンジ領域は、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー又は当技術分野で知られている他の柔軟なリンカーを含む。
【0176】
いくつかの実施形態では、前記ヒンジ領域は、免疫グロブリン重鎖ヒンジ領域である。免疫グロブリンヒンジ領域のアミノ酸配列は、当該技術分野で既知である。いくつかの実施形態では、免疫グロブリンヒンジドメインは、DKTHT(配列番号35)、CPPC(配列番号36)、CPEPKSCDTPPPCPR(配列番号37)(例えば、Glaser et al.,J.Biol.Chem.(2005)280:41494-41503を参照されたい)、ELKTPLGDTTHT(配列番号38);KSCDKTHTCP(配列番号39)、KCCVDCP(配列番号40)、KYGPPCP(配列番号41)、EPKSCDKTHTCPPCP(配列番号42)(ヒトIgG1ヒンジ)、ERKCCVECPPCP(配列番号43)(ヒトIgG2ヒンジ)、ELKTPLGDTTHTCPRCP(配列番号44)(ヒトIgG3ヒンジ);SPNMVPHAHHAQ(配列番号45)(ヒトIgG4ヒンジ)等からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0177】
いくつかの実施形態では、前記ヒンジ領域は、免疫グロブリン重鎖ヒンジ領域である。いくつかの実施形態では、前記ヒンジは、IgG(ヒトIgG4等)のCH1及びCH3ドメインから選択される。いくつかの実施形態では、前記ヒンジドメインは、ヒトIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4ヒンジドメインのアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記ヒンジ領域は、野生型(天然に存在する)ヒンジ領域と比較して、1つ又は複数のアミノ酸の置換及び/又は挿入及び/又は欠失を含み得る。いくつかの実施形態では、ヒトIgG1ヒンジの位置229のヒスチジン(His229)がチロシン(Tyr)に置換される。いくつかの実施形態では、前記ヒンジドメインは、アミノ酸配列EPKSCDKTYTCPPCP(配列番号46)を含む。
4. 共刺激ドメイン:
【0178】
本発明のCARは、細胞内ドメインも含む。CARの細胞内ドメイン又は細胞質ドメインは、CARが発現する細胞の活性化を担う。したがって、用語「細胞内ドメイン(intracellular domain)」は、活性化シグナルを伝達するのに十分な細胞内ドメインの任意の部分を含むことを意味する。一実施形態では、前記細胞内ドメインには、エフェクター機能を担うドメインが含まれる。用語「エフェクター機能(effector function)」は、細胞の特殊な機能を指する。例えば、T細胞のエフェクター機能は、細胞溶解活性又はサイトカインの分泌を含むヘルパー活性であり得る。一実施形態では、CARの細胞内ドメインには、シグナル活性化及び/又は伝達(transduction)を担うドメインが含まれる。前記細胞内ドメインは、タンパク質間相互作用、生化学的変化、又はその他の反応を介してシグナル活性化を伝達し、キメラ細胞内シグナル伝達分子の活性化に対する細胞の代謝、形状、遺伝子発現又はその他の細胞反応を変化させ得る。
【0179】
本発明で使用される細胞内ドメインの例には、T細胞受容体(TCR)の細胞質部分、任意の共刺激分子、又は抗原受容体の結合後にT細胞内でシグナル伝達を開始するためにTCRと協調して作用する任意の分子、並びにこれらの要素の任意の誘導体又はバリアント、及び同じ機能能力を有する任意の合成配列が含まれるが、これらに限定されない。
【0180】
いくつかの実施形態では、前記細胞内ドメインは、共刺激シグナル伝達ドメイン及び細胞内シグナル伝達を含む。ある実施形態では、前記細胞内ドメインは、共刺激シグナル伝達ドメインを含む。一実施形態では、CARの細胞内ドメインは、TNFRスーパーファミリーのタンパク質からのシグナル伝達ドメインの一部、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40(CD134)、PD-1、CD7、LIGHT、CD83L、DAP10、DAP12、CD27、CD2、CD5、ICAM-1、LFA-1、Lck、TNFR-I、TNFR-II、Fas、CD30、CD40、ICOS CD278)、NKG2C、B7-H3(CD276)及びキラー免疫グロブリン様受容体(KIR)に由来する細胞内ドメイン、それらの任意の誘導体又はバリアント、同じ機能能力を有するそれらの任意の合成配列、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される共刺激シグナル伝達ドメインを含む。
【0181】
いくつかの実施形態では、前記共刺激ドメインは、TNFRスーパーファミリーのタンパク質、CD28、4-1BB(CD137)、OX40(CD134)、PD-1、CD7、LIGHT、CD83L、DAP10、DAP12、CD27、CD2、CD5、ICAM-1、LFA-1、Lck、TNFR-I、TNFR-II、Fas、CD30、CD40、ICOS(CD278)、NKG2C、B7-H3(CD276)及びキラー免疫グロブリン様受容体(KIR)に由来する細胞内ドメイン、又はそれらのバリアントからなる群から選択されるタンパク質の共刺激ドメインの1つ又は複数を含む。いくつかの実施形態では、前記共刺激ドメインは、CD28、4-1BB(CD137)、OX40(CD134)、CD27、CD2又はそれらの組み合わせのタンパク質からなる群から選択されるタンパク質の共刺激ドメインの1つ又は複数を含む。いくつかの実施形態では、前記共刺激シグナル伝達ドメインは、4-1BB共刺激ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記共刺激シグナル伝達ドメインは、CD2共刺激ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記共刺激シグナル伝達ドメインは、CD28共刺激ドメインを含む。
【0182】
一実施形態では、CARの共刺激ドメインは、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む4-1BB共刺激ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記4-1BB共刺激ドメインは、配列番号2又は3で示されるヌクレオチド配列を含む核酸配列によってコードされる。いくつかの実施形態では、CARの共刺激ドメインは、配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むCD28共刺激ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記CD28共刺激ドメインは、配列番号5で示されるヌクレオチド配列を含む核酸配列によってコードされる。いくつかの実施形態では、CARの共刺激ドメインは、配列番号6で示されるアミノ酸配列を含むCD28(YMFM)共刺激ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記CD28(YMFM)共刺激ドメインは、配列番号7で示されるヌクレオチド配列を含む核酸配列によってコードされる。一実施形態では、CARの細胞内ドメインは、配列番号8で示されるアミノ酸配列を含むICOS共刺激ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記ICOS共刺激ドメインは、配列番号9又は配列番号10で示されるヌクレオチド配列を含む核酸配列によってコードされる。いくつかの実施形態では、CARの細胞内ドメインは、配列番号11で示されるアミノ酸配列を含むICOS(YMNM)共刺激ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記ICOS(YMNM)共刺激ドメインは、配列番号12で示されるヌクレオチド配列を含む核酸配列によってコードされる。いくつかの実施形態では、対象CARの細胞内ドメインは、配列番号13で示されるアミノ酸配列を含むCD2共刺激ドメインを含む。 。いくつかの実施形態では、前記CD2共刺激ドメインは、配列番号14で示されるヌクレオチド配列を含む核酸配列によってコードされる。一実施形態では、CARの細胞内ドメインは、配列番号15で示されるアミノ酸配列を含むCD27共刺激ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記CD27共刺激ドメインは、配列番号16で示されるヌクレオチド配列を含む核酸配列によってコードされる。一実施形態では、CARの細胞内ドメインは、配列番号17で示されるアミノ酸配列を含むOX40共刺激ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記OX40共刺激ドメインは、配列番号18で示されるヌクレオチド配列を含む核酸配列によってコードされる。
5. 細胞内ドメイン:
【0183】
ある実施形態では、前記細胞内ドメインは、細胞内シグナル伝達ドメインを含む。前記細胞内ドメインの例には、以下の1つ又は複数の分子又は受容体からのフラグメント又はドメインが含まれるが、これらに限定されるわけではない:TCR、CD3ゼータ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD86、共通FcRガンマ、FcRベータ(Fcイプシロンリブ)、CD79a、CD79b、FcガンマR11a、DAP10、DAP12、T細胞受容体(TCR)、CD2、CD8、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX9、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、KIRファミリータンパク質、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83と特異的に結合するリガンド、CD5、ICAM-1、GITR、BAFFR、HVEM(LIGHTR)、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、CD127、CD160、CD19、CD4、CD8アルファー、CD8ベータ、IL2Rベータ、IL2Rガンマ、IL7Rアルファー、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD1Id、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CDlib、ITGAX、CD11c、ITGBl、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、TRANCE/RANKL、DNAM1(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96(Tactile)、CEACAM1、CRTAM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、CD69、SLAMF6(NTB-A、Lyl08)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、LAT、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2D、Toll様受容体1(TLR1)、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、sykファミリーチロシンキナーゼ(Syk、ZAP70等)、srcファミリーチロシンキナーゼ(Lck、Fyn、Lyn等)、本明細書に記載のその他の共刺激分子、それらの誘導体、バリアント又はフラグメント、同じ機能能力を有する共刺激分子の合成配列、及びそれらの組み合わせ。
【0184】
いくつかの実施形態では、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、ヒトCD2の細胞質シグナル伝達ドメイン、CD3ゼータ鎖(CD3ζ)、FcγRIII、FcsRI、Fc受容体の細胞質テール、細胞質受容体を有する免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)、TCRゼータ、FcRガンマ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD5、CD22、CD79a、CD79b及びCD66d、又はそれらのバリアントからなる群から選択される細胞内ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ゼータ細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0185】
細胞内ドメインのさらなる例には、CD3、B7ファミリー共刺激因子、及び腫瘍壊死因子受容体(TNFR)スーパーファミリー受容体を含む第1、第2、及び第3世代のT細胞シグナル伝達タンパク質を含むがこれらに限定されない。いくつかの種類の様々な他の免疫シグナル伝達受容体の細胞内シグナル伝達ドメインが含まれるが、これらに限定されない。さらに、細胞内シグナル伝達ドメインには、NKp30(B7-H6)、DAP12、NKG2D、NKp44、NKp46、DAP10及びCD3zのシグナル伝達ドメインなど、NK及びNKT細胞によって使用されるシグナル伝達ドメインが含まれ得る。
【0186】
本発明のCARに使用するのに適した細胞内シグナル伝達ドメインには、CARの活性化(すなわち、抗原及び二量化剤による活性化)に応答してシグナルを伝達する任意の所望のシグナル伝達ドメインが含まれる。いくつかの実施形態では、明確かつ検出可能なシグナルには、例えば、細胞による1つ又は複数のサイトカインの産生の増加、標的遺伝子の転写の変化、タンパク質の活性の変化、細胞挙動の変化(例えば、細胞死)、細胞増殖、細胞分化、細胞生存、及び/又は細胞シグナル伝達応答の調節が含まれる。例えば、いくつかの実施形態では、前記細胞内シグナル伝達ドメインには、DAP10/CD28タイプのシグナル伝達鎖が含まれる。いくつかの実施形態では、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、膜結合型CARに共有結合されておらず、代わりに細胞質内に拡散している。
【0187】
本発明のCARに使用するのに適した細胞内シグナル伝達ドメインには、免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)含有細胞内シグナル伝達ポリペプチドが含まれる。いくつかの実施形態では、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、以下に記載されるように、少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、又は少なくとも6つのITAMモチーフを含む。いくつかの実施形態では、ITAMモチーフは、細胞内シグナル伝達ドメイン内で2回繰り返され、該ITAMモチーフの最初と2番目のインスタンス(instances)は、6~8個のアミノ酸によって互いに分離されている。一実施形態では、対象CARの細胞内シグナル伝達ドメインは、3個のITAMモチーフを含む。いくつかの実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインには、FcガンマRI、FcガンマRIIA、FcガンマRIIC、FcガンマRIIIA、FcRL5等の免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)を含むヒト免疫グロブリン受容体のシグナル伝達ドメインが含まれるが、これらに限定されない。
【0188】
適切な細胞内シグナル伝達ドメインは、ITAMモチーフを含むポリペプチド由来のITAMモチーフ含有部分であり得る。例えば、適切な細胞内シグナル伝達ドメインは、任意のITAMモチーフ含有タンパク質からのITAMモチーフ含有ドメインであり得る。したがって、適切な細胞内シグナル伝達ドメインには、それが由来するタンパク質全体の配列全体が含まれている必要はない。適切なITAMモチーフ含有ポリペプチドの例には、DAP12、FCER1G(Fcイプシロン受容体Iガンマ鎖)、CD3D(CD3デルタ)、CD3E(CD3イプシロン)、CD3G(CD3ガンマ)、CD3Z(CD3ゼータ)及びCD79A(抗原受容体複合体関連タンパク質アルファー鎖)が含まれるが、これらに限定されない。
【0189】
一実施形態では、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、DAP12(TYROBP、TYROタンパク質チロシンキナーゼ結合タンパク質、KARAP、PLOSL、DNAX活性化タンパク質12、KAR関連タンパク質、TYROタンパク質チロシンキナーゼ結合タンパク質、キラー活性化受容体関連タンパク質、キラー活性化受容体関連タンパク質等とも呼ばれる)に由来する。一実施形態では、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、FCER1G(FCRG、Fcイプシロン受容体Iガンマ鎖、Fc受容体ガンマ鎖、fc-イプシロンRI-ガンマ、fcRガンマ、fceR1ガンマ、高親和性免疫グロブリンイプシロン受容体サブユニットガンマ、免疫グロブリンE受容体、高親和性ガンマ鎖等とも呼ばれる)に由来する。一実施形態では、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、T細胞表面糖タンパク質CD3デルタ鎖(CD3D、CD3デルタ、T3D、CD3抗原、デルタサブユニット、CD3デルタ、CD3d抗原、デルタポリペプチド(TiT3複合体)、OKT3デルタ鎖、T細胞受容体T3デルタ鎖、T細胞表面糖タンパク質CD3デルタ鎖等とも呼ばれる)に由来する。一実施形態では、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、T細胞表面糖タンパク質CD3イプシロン鎖(CD3e、T細胞表面抗原T3/Leu-4イプシロン鎖、T細胞表面糖タンパク質CD3イプシロン鎖、AI504783、CD3、CD3イプシロン、T3e等とも呼ばれる)に由来する。一実施形態では、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、T細胞表面糖タンパク質CD3ガンマ鎖(CD3G、T細胞受容体T3ガンマ鎖、CD3ガンマ、T3G、ガンマポリペプチド(TiT3複合体)等とも呼ばれる)に由来する。一実施形態では、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、T細胞表面糖タンパク質CD3ゼータ鎖(CD3Z、T細胞受容体T3ゼータ鎖、CD247、CD3ゼータ、CD3H、CD3Q、T3Z、TCRZ等とも呼ばれる)に由来する。一実施形態では、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、CD79A(B細胞抗原受容体複合体関連タンパク質アルファー鎖、CD79a抗原(免疫グロブリン関連アルファー)、MB-1膜糖タンパク質、Ig-アルファー、膜結合免疫グロブリン関連タンパク質、表面IgM関連タンパク質等とも呼ばれる)に由来する。一実施形態では、本開示のCARに使用するのに適した細胞内シグナル伝達ドメインには、DAP10/CD28型シグナル伝達鎖が含まれる。一実施形態では、本開示の対象CARで使用するのに適した細胞内シグナル伝達ドメインには、ZAP70ポリペプチドが含まれる。いくつかの実施形態では、前記細胞内シグナル伝達ドメインには、TCRゼータ、FcRガンマ、FcRベータ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD5、CD22、CD79a、CD79b、又はCD66dの細胞質シグナル伝達ドメインが含まれる。一実施形態では、CAR内の細胞内シグナル伝達ドメインには、ヒトCD3ゼータの細胞質シグナル伝達ドメインが含まれる。
【0190】
通常は細胞内シグナル伝達ドメイン全体を使用することができるが、多くの場合、鎖全体を使用する必要はない。前記細胞内シグナル伝達ドメインの切断部分(truncated portion)が使用される限り、そのような切断部分は、エフェクター機能シグナルを伝達する限り、完全な鎖の代わりに使用することができる。前記細胞内シグナル伝達ドメインには、エフェクター機能シグナルを伝達するのに十分な細胞内シグナル伝達ドメインの任意の切断部分が含まれる。
【0191】
本明細書に記載の細胞内シグナル伝達ドメインは、本明細書に記載の共刺激シグナル伝達ドメインの何れか、本明細書に記載の抗原結合ドメインの何れか、本明細書に記載の膜貫通ドメインの何れか又はCARに含まれる可能性のある本明細書に記載の他のドメインの何れかと組み合わせることができる。いくつかの実施形態では、CARの細胞内ドメインは、二重シグナル伝達ドメイン(dual signaling domains)を含む。前記二重シグナル伝達ドメインには、本明細書に記載の分子の何れかからのフラグメント又はドメインが含まれ得る。いくつかの実施形態では、前記細胞内ドメインは、4-1BB共刺激ドメイン及びCD3ゼータシグナル伝達ドメイン、CD28共刺激ドメイン及びCD3ゼータシグナル伝達ドメイン、CD2共刺激ドメイン及びCD3ゼータシグナル伝達ドメインを含む。いくつかの実施形態では、CARの細胞内ドメインには、CD3、CD27、CD28、ICOS、4-1BB、PD-1、T細胞受容体(TCR)からの少なくとも1つのシグナル伝達ドメイン、それらの任意の誘導体又はバリアント、同じ機能能力を持つそれらの任意の合成配列及びそれらの任意の組み合わせ等の共刺激分子の任意の部分が含まれる。
【0192】
さらに、対象CARに使用するのに適したバリアント細胞内シグナル伝達ドメインは、当該技術分野で公知である。前記YMFMモチーフは、ICOSに存在し、PI3Kのp85サブユニットとp50アルファーサブユニットの両方をリクルートする(recruits)SH2結合モチーフであり、AKTシグナル伝達を増強する(enhanced)。一実施形態では、CD28細胞内ドメンバーリアントは、YMFMモチーフを含むように生成され得る。
【0193】
一実施形態では、対象CARの細胞内ドメインは、配列番号19又は配列番号21で示されるアミノ酸配列を含むCD3ゼータ細胞内シグナル伝達ドメインを含み、これは、それぞれ配列番号20又は配列番号22で示されるヌクレオチド配列を含む核酸配列によってコードされ得る。
【0194】
特定の活性を維持しながら細胞内ドメインを許容できる範囲で変化させることは、当業者には公知である。いくつかの実施形態では、細胞内ドメインは、配列番号19又は21で示されるアミノ酸配列の何れかと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記細胞内ドメインは、配列番号20又は22で示されるヌクレオチド配列の何れかと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸配列によってコードされる。
【0195】
一実施形態では、対象CARの細胞内ドメインは、ICOS共刺激ドメイン及びCD3ゼータ細胞内シグナル伝達ドメインを含む。一実施形態では、対象CARの細胞内ドメインは、CD28共刺激ドメイン及びCD3ゼータ細胞内シグナル伝達ドメインを含む。一実施形態では、対象CARの細胞内ドメインは、CD28YMFMバリアント共刺激ドメイン及びCD3ゼータ細胞内シグナル伝達ドメインを含む。一実施形態では、対象CARの細胞内ドメインは、CD27共刺激ドメイン及びCD3ゼータ細胞内シグナル伝達ドメインを含む。一実施形態では、対象CARの細胞内ドメインは、OX40共刺激ドメイン及びCD3ゼータ細胞内シグナル伝達ドメインを含む。一つの例示な実施形態では、対象CARの細胞内ドメインは、4-1BB共刺激ドメイン及びCD3ゼータ細胞内シグナル伝達ドメインを含む。一つの例示な実施形態では、対象CARの細胞内ドメインは、CD2共刺激ドメイン及びCD3ゼータ細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0196】
表2は、本明細書に記載のCARのドメインの例示的な配列を示す。
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【表2-6】
【表2-7】
【表2-8】
【表2-9】
【表2-10】
【表2-11】
【表2-12】
【表2-13】
【表2-14】
B. 追加の抗原結合ポリペプチド:
【0197】
いくつかの実施形態では、前記修飾T細胞は、抗原結合ポリペプチド、細胞表面受容体リガンド、又は腫瘍抗原に結合するポリペプチドを発現する。いくつかの例では、前記抗原結合ドメインは、細胞表面タンパク質又は腫瘍細胞上に発現する受容体を認識する抗体を含む。いくつかの例では、前記抗原結合ドメインは、腫瘍抗原を認識する抗体を含む。いくつかの例では、前記抗原結合ドメインは、全長抗体又はその抗原結合フラグメント、Fab、F(ab)2、単一特異性Fab2、二重特異性Fab2、三重特異性Fab2、単鎖可変フラグメント(scFv)、ダイアボディ、トリアボディ、ミニボディ、V-NAR又はVhHを含む。
C. 細胞表面受容体リガンド:
【0198】
いくつかの実施形態では、前記修飾T細胞は、細胞表面受容体リガンドを発現する。いくつかの例では、前記リガンドは、腫瘍細胞上に発現する細胞表面受容体に結合する。いくつかの例では、前記リガンドは、細胞表面受容体に結合する野生型タンパク質又はそのバリアントを含む。いくつかの例では、前記リガンドは、細胞表面受容体に結合する全長タンパク質又はその機能的フラグメントを含む。いくつかの例では、前記機能的フラグメントは、タンパク質の全長バ-ジョンと比較して、約90%、約80%、約70%、約60%、約50%又は約40%の長さを含むが、細胞表面受容体への結合は保持される。いくつかの例では、前記リガンドは細胞表面受容体に結合する新規な組み換えタンパク質である。例示的なリガンドには、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)又はWnt3Aが含まれるが、これらに限定されない。
D. 腫瘍抗原:
【0199】
いくつかの実施形態では、前記修飾T細胞は、腫瘍抗原に結合するポリペプチドを発現する。いくつかの例では、腫瘍抗原は血液悪性腫瘍と関連する。例示的な腫瘍抗原には、CD19、CD20、CD22、CD33/IL3Ra、ROR1、メソテリン、c-Met、PSMA、PSCA、葉酸受容体アルファー、葉酸受容体ベータ、EGFRvIII、GPC2、Tn-MUC1、GDNFファミリー受容体アルファー4(GFRa4)、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)及びIL13Ra2が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの例では、前記腫瘍抗原は、CD19、CD20、CD22、BCMA、CD37、メソテリン、PSMA、PSCA、Tn-MUC1、EGFR、EGFRvIII、c-Met、HER1、HER2、CD33、CD133、GD2、GPC2、GPC3、NKG2D、KRAS又はWT1を含む。いくつかの例では、前記ポリペプチドは、腫瘍抗原のリガンド、例えば、腫瘍抗原に結合する全長タンパク質、その機能的フラグメント、又は腫瘍抗原に結合する新規な組み換えリガンドである。いくつかの例では、前記ポリペプチドは、腫瘍抗原に結合する抗体である。
E. スイッチ受容体及びドミナントネガティブ受容体:
【0200】
一態様では、本開示には、本明細書に記載のように遺伝子発現が下方制御された修飾免疫細胞も含まれ、さらに、ドミナントネガティブ受容体、スイッチ受容体、又はそれらの組み合わせをコードする外因性核酸を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子発現が下方制御された修飾免疫細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)及び/又はドミナントネガティブ受容体をさらに含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子発現が下方制御された修飾免疫細胞は、さらに、CAR及びスイッチ受容体を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子発現が下方制御された修飾免疫細胞は、組み換えTCR及びスイッチ受容体をさらに含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子発現が下方制御された修飾免疫細胞は、組み換えTCR及びドミナントネガティブ受容体をさらに含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子発現が下方制御された修飾免疫細胞は、KIR及びスイッチ受容体をさらに含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の遺伝子発現が下方制御された修飾免疫細胞は、KIR及びドミナントネガティブ受容体をさらに含む。
1. スイッチ受容体:
【0201】
本発明は、CAR及びスイッチ受容体を含む、遺伝子発現が下方制御された修飾免疫細胞又はその前駆細胞のための組成物及び方法を提供する。腫瘍細胞は、免疫による認識や排除から保護するために免疫抑制性の微小環境を生成する。この免疫抑制性微小環境は、CAR-T又はTCR-T細胞療法等の免疫抑制療法の有効性を制限する可能性がある。例えば、分泌されたサイトカインであるトランスフォーミング増殖因子β(Transforming Growth Factor)(TGFβ)は、細胞傷害性T細胞の機能を直接阻害し、さらに制御性T細胞の形成を誘導して免疫反応をさらに抑制する。前立腺癌におけるTGFβによるT細胞免疫抑制は、以前にDonkor et al(2011)及びShalapour et al(2015)によって実証されている。免疫細胞上のTGFの免疫抑制効果を軽減するために、免疫細胞を修飾して、例えばインターロイキン12受容体(IL12R、TGFβR-IL12R)の細胞内シグナル伝達ドメインに融合したTGFβRの細胞外リガンド結合ドメインを含む組み換えTGFβRを発現させることができる。したがって、スイッチ受容体を含む修飾免疫細胞は、該修飾免疫細胞の微小環境内の負のシグナル伝達分子に結合し、該修飾免疫細胞に及ぼす阻害分子の負のシグナル伝達シグナルを、該修飾免疫細胞を刺激する正のシグナルに変換し得る。本発明のスイッチ受容体は、正のシグナルに関連する細胞内ドメインを含むことにより、負のシグナル伝達分子の影響を低減するか、又は負のシグナルを正のシグナルに変換するように設計され得る。
【0202】
したがって、。いくつかの実施形態では、内因性免疫タンパク質をコードする1つ又は複数の遺伝子座に挿入及び/又は欠失を含む修飾免疫細胞は、スイッチ受容体を発現するようにさらに遺伝子修飾されている。本明細書で使用される場合、用語「スイッチ受容体(switch receptor)」は、本発明の修飾免疫細胞に対する負のシグナル伝達分子の影響を低減するように設計された分子を指す。前記スイッチ受容体は、負のシグナル(細胞又はT細胞の活性化を抑制又は阻害するシグナル伝達)に関連する第1のポリペプチド由来の第1のドメインと、正のシグナル(細胞又はT細胞を刺激するシグナル伝達シグナル)に関連する第2のポリペプチド由来の第2のドメインとを含む。いくつかの実施形態では、前記負のシグナルに関連するタンパク質は、CTLA4、PD-1、TGFβRII、BTLA、VSIG3、VSIG8及びTIM-3からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、前記正のシグナルに関連するタンパク質は、CD28、4-1BB、IL12Rβ1、IL12Rβ2、CD2、ICOS及びCD27からなる群から選択される。
【0203】
一実施形態では、前記第1ドメインは、負のシグナルに関連する第1ポリペプチドの細胞外ドメインの少なくとも一部を含み、前記第2ドメインは、正のシグナルに関連する第2ポリペプチドの細胞内ドメインの少なくとも一部を含む。したがって、スイッチ受容体は、正のシグナルに関連する細胞内ドメインに融合された負のシグナルに関連する細胞外ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記スイッチ受容体は、負のシグナルに関連するシグナル伝達タンパク質の細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及び正のシグナルに関連するシグナル伝達タンパク質の細胞内ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記スイッチ受容体の膜貫通ドメインは、負のシグナルに関連するタンパク質の膜貫通ドメイン又は負のシグナルに関連するタンパク質の膜貫通ドメインから選択される。いくつかの実施形態では、前記スイッチ受容体の膜貫通ドメインは、CTLA4、PD-1、VSIG3、VSIG8、TGFβRII、BTLA、TIM-3、CD28、4-1BB、IL12Rβ1、IL12Rβ2、CD2、ICOS、及びCD27からなる群から選択されるタンパク質の膜貫通ドメインから選択される。
【0204】
いくつかの実施形態では、前記スイッチ受容体は、PD-1-CD28、PD-1A132L-CD28、PD-1-CD27、PD-1A132L-CD27、PD-1-4-1BB、PD-1A132L-4-1BB、PD-1-ICOS、PD-1A132L-ICOS、PD-1-IL12Rβ1、PD-1A132L-IL12Rβ1、PD-1-IL12Rβ2、PD-1A132L-IL12Rβ2、VSIG3-CD28、VSIG8-CD28、VSIG3-CD27、VSIG8-CD27、VSIG3-4-1BB、VSIG8-4-1BB、VSIG3-ICOS、VSIG8-ICOS、VSIG3-IL12Rβ1、VSIG8-IL12Rβ1、VSIG3-IL12Rβ2、VSIG8-IL12Rβ2、TGFβRII-CD27、TGFβRII-CD28、TGFβRII-4-1BB、TGFβRII-ICOS、TGFβRII-IL12Rβ1、及びTGFβRII-IL12Rβ2からなる群から選択される。
【0205】
いくつかの実施形態では、前記スイッチ受容体は、PD-1-CD28であり、配列番号78で示されるアミノ酸配列を含む。一実施形態では、前記スイッチ受容体は、PD-1A132L-CD28であり、配列番号82で示されるアミノ酸配列を含む。一実施形態では、前記スイッチ受容体は、PD-1-4-1BBであり、配列番号84で示されるアミノ酸配列を含む。一実施形態では、前記スイッチ受容体はPD-1A132L-4-1BBであり、配列番号86で示されるアミノ酸配列を含む。一実施形態では、前記スイッチ受容体は、TGFβRII-IL12Rβ1であり、配列番号88で示されるアミノ酸配列を含む。一実施形態では、前記スイッチ受容体は、TGFβRII-IL12Rβ2であり、配列番号90で示されるアミノ酸配列を含む。一実施形態では、前記スイッチ受容体は、配列番号79、81、83、85、87、89又は91で示される核酸配列でコードされる。
【0206】
意図された生物学的活性(例えば、細胞内で発現されたときに負のシグナルを正のシグナルに変換すること)を維持しながらの、前記スイッチ受容体の許容可能な変異は、当業者には公知である。したがって、。いくつかの実施形態では、本発明のスイッチ受容体は、配列番号79、81、83、85、87、89又は91で示される核酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされ得る。いくつかの実施形態では、本発明のスイッチ受容体は、配列番号78、80、82、84、86、88又は90に対して少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。
【0207】
いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞は、CD3、B2M及びCIITA、CAR、並びにPD-1-CD28、PD-1A132L-CD28、PD-1-CD27、PD-1A132L-CD27、PD-1-4-1BB、PD-1A132L-4-1BB、PD-1-ICOS、PD-1A132L-ICOS、PD-1-IL12Rβ1、PD-1A132L-IL12Rβ1、PD-1-IL12Rβ2、PD-1A132L-IL12Rβ2、VSIG3-CD28、VSIG8-CD28、VSIG3-CD27、VSIG8-CD27、VSIG3-4-1BB、VSIG8-4-1BB、VSIG3-ICOS、VSIG8-ICOS、VSIG3-IL12Rβ1、VSIG8-IL12Rβ1、VSIG3-IL12Rβ2、VSIG8-IL12Rβ2、TGFβRII-CD27、TGFβRII-CD28、TGFβRII-4-1BB、TGFβRII-ICOS、TGFβRII-IL12Rβ1及びTGFβRII-IL12Rβ2、からなる群から選択されるスイッチ受容体を下方制御することができる挿入及び/又は欠失を含む。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞は、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される内因性免疫タンパク質、CAR、及びPD-1-CD28、PD-1A132L-CD28、PD-1-CD27、PD-1A132L-CD27、PD-1-4-1BB、PD-1A132L-4-1BB、PD-1-ICOS、PD-1A132L-ICOS、PD-1-IL12Rβ1、PD-1A132L-IL12Rβ1、PD-1-IL12Rβ2、PD-1A132L-IL12Rβ2、VSIG3-CD28、VSIG8-CD28、VSIG3-CD27、VSIG8-CD27、VSIG3-4-1BB、VSIG8-4-1BB、VSIG3-ICOS、VSIG8-ICOS、VSIG3-IL12Rβ1、VSIG8-IL12Rβ1、VSIG3-IL12Rβ2、VSIG8-IL12Rβ2、TGFβRII-CD27、TGFβRII-CD28、TGFβRII-4-1BB、TGFβRII-ICOS、TGFβRII-IL12Rβ1及びTGFβRII-IL12Rβ2からなる群から選択されるスイッチ受容体をそれぞれコードする1つ又は複数の遺伝子座における挿入及び/又は欠失を含む。
2. ドミナントネガティブ受容体:
【0208】
本発明は、CAR及びドミナントネガティブ受容体を含む、遺伝子発現が下方制御された修飾免疫細胞又はその前駆細胞のための組成物及び方法を提供する。したがって、。いくつかの実施形態では、内因性免疫タンパク質をコードする1つ又は複数の遺伝子座に挿入及び/又は欠失を含む修飾免疫細胞は、ドミナントネガティブ受容体を発現するようにさらに遺伝子的に修飾されている。本明細書で使用される場合、用語「ドミナントネガティブ受容体(dominant negative receptor)」は、負のシグナル伝達分子の効果(例えば、本発明の修飾免疫細胞に対する負のシグナル伝達分子の効果)を低減するように設計された分子を指す。ドミナントネガティブ受容体は、負のシグナルに関連する野生型タンパク質の切断バリアント(truncated variant)である。いくつかの実施形態では、負のシグナルに関連するタンパク質は、CTLA4、PD-1、BTLA、TGFβRII、VSIG3、VSIG8、及びTIM-3からなる群から選択される。
【0209】
本発明のドミナントネガティブ受容体は、負のシグナル伝達分子(例えば、CTLA4、PD-1、BTLA、TGFβRII、VSIG3、VSIG8、及びTIM-3)に結合し、負のシグナル伝達分子に関連する細胞外ドメインによって負のシグナル伝達分子の効果を低減することができる。例えば、ドミナントネガティブ受容体を含む修飾免疫細胞は、該修飾免疫細胞の微小環境内の負のシグナル伝達分子に結合し得るが、この結合によって細胞内にこのシグナルが伝達され、修飾T細胞の活動が改変されることはない。むしろ、前記結合により負のシグナル伝達分子が隔離され、内因性受容体/リガンドへの結合が防止され、それによって負のシグナル伝達分子が修飾免疫細胞に及ぼす影響が低減される。そのため、ある分子の免疫抑制効果を低減するために、免疫細胞を修飾して、ドミナントネガティブ受容体であるドミナントネガティブ受容体を発現させることができる。
【0210】
いくつかの実施形態では、前記ドミナントネガティブ受容体は、負のシグナルに関連する野生型タンパク質の切断バリアントを含む。いくつかの実施形態では、ドミナントネガティブ受容体は、細胞外ドメイン、膜貫通ドメインを含み、細胞内シグナル伝達ドメインを実質的に欠く負のシグナルに関連する野生型タンパク質のバリアントを含む。いくつかの実施形態では、前記ドミナントネガティブ受容体は、負のシグナルに関連するシグナル伝達タンパク質の細胞外ドメインと、膜貫通ドメインとを含む。いくつかの実施形態では、前記ドミナントネガティブ受容体は、PD-1、CTLA4、BTLA、TGFβRII、VSIG3、VSIG8又はTIM-3ドミナントネガティブ受容体である。いくつかの実施形態では、前記ドミナントネガティブ受容体は、PD-1又はTGFβRIIである。いくつかの実施形態では、前記TGFβRIIは、配列番号76で示されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、TGFβRIIは、配列番号77で示される核酸配列によってコードされる。
【0211】
その意図された生物学的活性(例えば、負のシグナルを遮断すること及び/又は細胞内で発現されたときに負のシグナルを有する分子を隔離すること)を維持しながらの、ドミナントネガティブ受容体の許容可能な変異は、当業者には公知である。したがって、。いくつかの実施形態では、本発明のドミナントネガティブ受容体は、配列番号77で示される核酸配列と少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされ得る。いくつかの実施形態では、本発明のドミナントネガティブ受容体は、配列番号76に対して少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。
F. 健康増進のための免疫増強因子としてのケモカイン及びサイトカイン:
【0212】
本発明は、CARを含み、さらに、ドミナントネガティブ受容体、スイッチ受容体、ケモカイン、ケモカイン受容体、サイトカイン、サイトカイン受容体、インターロイキン-7(IL-7)、インターロイキン-7受容体(IL-7R)、インターロイキン-15(IL-15)、インターロイキン-15受容体(IL-15R)、インターロイキン-21(IL-21)、インターロイキン-18(IL-18)、CCL21、CCL19又はそれらの組み合わせを含む、免疫遺伝子発現が下方制御された修飾免疫細胞のための組成物及び方法を提供する。いくつかの実施形態では、ケモカイン、ケモカイン受容体、サイトカイン、サイトカイン受容体、IL-7、IL-7R、IL-15、IL-15R、IL-21、IL-18、CCモチーフ ケモカイン リガンド21(C-C Motif Chemokine Ligand 21)(CCL21)又はCCモチーフ ケモカイン リガンド 19 (CCL19)は、特許請求された修飾免疫細胞の適応性を向上させる免疫機能増強因子(immune function-enhancing factor)である。理論に縛られることを望まないが、修飾免疫細胞にケモカイン、ケモカイン受容体、サイトカイン、サイトカイン受容体、IL-7、IL-7R、IL-15、IL-15R、IL-21、IL-18、CCL21又はCCL19を添加すると、修飾免疫細胞の免疫誘導効果(immunity-inducing effect)及び抗腫瘍活性(antitumor activity)が増強される。
【0213】
理論に縛られることは望まないが、インターロイキン及びケモカインは、固形腫瘍におけるT細胞プライミング(priming)及び/又はT細胞浸潤(infiltration)の増加を促進し得る。例えば、T細胞浸潤が低いマイクロサテライト安定大腸がん(CRC)では、IL-15がT細胞のプライミングを促進する。いくつかの実施形態では、CARとケモカイン/インターロイキン受容体複合体の組み合わせが、T細胞のプライミングを促進する。さらに、IL-15は、NK細胞の浸潤を誘発し得る。いくつかの実施形態では、IL-15/IL-15RA複合体に対する応答により、NK細胞の浸潤が起こる可能性がある。ある実施形態では、本明細書に記載の修飾免疫細胞は、IL-15/IL-15Ra複合体をさらに含む。いくつかの実施形態では、IL-15/IL-15Ra複合体は、NIZ985(Novartis)、ATL-803(Altor)又はCYP0150(Cytune)から選択される。いくつかの実施形態では、前記IL-15/IL-15RA複合体は、NIZ985である。いくつかの実施形態では、IL-15は、ナチュラルキラー細胞を刺激して膵臓癌細胞を排除(例えば、殺す)する。いくつかの実施形態では、IL-15/IL15Raをさらに含む、本明細書に記載の修飾免疫細胞に対する治療反応は、大腸癌の動物モデルにおけるナチュラルキラー細胞浸潤と関連している。いくつかの実施形態では、前記IL-15/IL-15Ra複合体は、可溶性形態のヒトIL-15Raと複合体を形成したヒトIL-15を含む。前記複合体は、可溶性形態のIL-15Ra に共有結合又は非共有結合したIL-15を含み得る。特定の実施形態では、ヒトIL-15は、IL-15Raの可溶性形態に非共有結合している。
【0214】
固形腫瘍に対するCAR T細胞療法の無効性は、固形腫瘍における免疫細胞及びCAR T細胞のリクルート(recruitment)及び蓄積が限られていることに部分的に起因している。この問題を解決する1つの方法は、Tゾーン線維芽細胞網状細胞(FRC)の機能を模倣するCAR T細胞を設計することである。リンパ節は病原体や免疫原を検出する役割を担っている。Tゾーン(T-zone)には、(1)樹状細胞、単球、マクロファージ、顆粒球等の自然免疫細胞、(2)CD4及びCD8リンパ球等の適応免疫細胞、(3)間質細胞(FRC)の3種類の細胞が含まれている。これらの細胞は協力して、CD4 T細胞の活性化、分化、成熟を促進し、病原体に対する効果的な免疫反応を起こす。FRCは、樹状細胞とT細胞がリンパ節全体を移動し、B細胞を引き付けるネットワークを形成するため、特に重要である。特に、FRCは、(i)2つのケモカイン(CCL21及びCCL19)を放出してナイーブT細胞(naive T cells)、B細胞及び樹状細胞をリンパ節にリクルートすること、(ii)特にナイーブT細胞の生存因子であるIL-7を分泌してT細胞を生存させること、(iii)CD4 T細胞を胚中心(GC、リンパ節の別の部分)に向けて移動させること、のためのネットワークを提供する。したがって、外因性のCCL21又はCCL19とIL-7で補強された(armored with)CARは、固形腫瘍へのT細胞、B細胞及び樹状細胞のリクルートを増強する。いくつかの実施形態では、前記修飾T細胞は、免疫機能増強因子をコードする核酸を含み、免疫機能増強因子をコードする核酸は、インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19又はCCL21をコードする核酸である。
【0215】
いくつかの実施形態では、免疫機能増強因子(すなわち、ケモカイン、ケモカイン受容体、サイトカイン、サイトカイン受容体、IL-7、IL-7R、IL-15、IL-15R、IL-21、IL-18、CCL21又はCCL19)の核酸がCARに融合される。いくつかの実施形態では、前記ケモカイン、ケモカイン受容体、サイトカイン、サイトカイン受容体、IL-7、IL-7R、IL-15、IL-15R、IL-21、IL-18、CCL21又はCCL19は、P2A、T2A、E2A又はF2A等の自己切断ペプチド(self-cleaving peptide)を介してCARに融合される。
VI. 修飾T細胞の生成方法:
【0216】
本発明の一態様は、修飾免疫細胞(例えば、同種異形T細胞、NK細胞又はNKT細胞)を生成する方法を提供する。本発明の修飾免疫細胞は、一般的に、(1)内因性免疫タンパク質をコードする1つ又は複数の内因性免疫遺伝子の遺伝子発現を下方制御することができる1つ又は複数の核酸を免疫細胞に導入すること、(2)組み換え受容体をコードする外因性核酸を免疫細胞に導入すること、及び(3)修飾免疫細胞を増殖させて修飾免疫T細胞を生成することによって操作される。このような修飾免疫細胞は、治療用組成物に含められ、それを必要とする患者に投与され得る。
【0217】
いくつかの実施形態では、本発明の修飾免疫細胞を生成する方法は、1つ又は複数の内因性免疫遺伝子の遺伝子発現を下方制御することができる1つ又は複数の核酸を免疫細胞に導入することを含む。前記の1つ又は複数の免疫遺伝子は、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、及びインバリアント鎖(Ii鎖)からなる群から選択される内因性免疫タンパク質をコードする。さらに、キメラ抗原受容体(CAR)、組み換えT細胞受容体(TCR)、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)、抗原結合ポリペプチド、細胞表面受容体リガンド又は腫瘍抗原をコードする外因性核酸も免疫細胞に導入される。いくつかの実施形態では、前記方法は、ドミナントネガティブ受容体、スイッチ受容体又はそれらの組み合わせをコードする外因性核酸を免疫細胞に導入することをさらに含む。
A. 細胞への核酸導入方法:
【0218】
細胞内に核酸を導入する方法としては、物理的方法、生物学的方法、化学的方法等がある。RNA等のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入する物理的方法には、リン酸カルシウム沈殿法、リポフェクション法、粒子衝撃法、マイクロインジェクション法、電気穿孔法等がある。RNAは、電気穿孔法(Amaxa Nucleofector-II(Amaxa Biosystems、ドイツ、ケルン))、ECM830(BTX)(Harvard Instruments、マサチューセッツ州、ボストン)、又はGene Pulser II(BioRad、コロラド州、デンバー)、Multiporator(Eppendorf、ドイツ、ハンブルク)等の市販の方法を使用して標的細胞に導入できる。RNAは、リポフェクションを使用したカチオン性リポソーム媒介トランスフェクション、ポリマーカープセル化、ペプチド媒介トランスフェクション又は「遺伝子銃」等のバイオリスティック粒子送達システムを使用して細胞に導入することもできる。
1. 生物学的方法:
【0219】
目的のポリヌクレオチドを宿主細胞(例えば免疫細胞)に導入するための生物学的方法には、DNA及びRNAベクターの使用等がある。ウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターは、哺乳類(例えばヒトの細胞)に遺伝子を挿入するための最も広く使用されている方法となっている。他のウイルスベクターは、レンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルスI、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等から得ることができる。例えば、米国特許5,350,674号及び5,585,362号を参照されたい。
【0220】
いくつかの実施形態では、本発明の主題のCAR、主題の組み換えTCR、主題のKIR、主題の抗原結合ポリペプチド、主題の細胞表面受容体リガンド、主題の腫瘍抗原、主題のスイッチ受容体及び/又は主題のドミナントネガティブ受容体をコードする核酸が、発現ベクターによって細胞に導入される。本明細書では、主題のCAR、主題の組み換えTCR、主題のKIR、主題の抗原結合ポリペプチド、主題の細胞表面受容体リガンド、主題の腫瘍抗原、主題のスイッチ受容体及び/又は主題のドミナントネガティブ受容体をコードする核酸を含む発現ベクターが提供される。適切な発現ベクターには、レンチウイルスベクター、ガンマレトロウイルスベクター、フォーミーウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アデノウイルスベクター、組み換えハイブリッドウイルス、裸のDNA(naked DNA)が含まれ、これには、Sleeping Beauty、Piggyback等のトランスポゾン媒介ベクター及びPhi31等のインテグラーゼ(Integrases)が含まれるが、これらに限定されない。その他の適切な発現ベクターとしては、単純ヘルペスウイルス(HSV)及びレトロウイルス発現ベクター等がある。
【0221】
アデノウイルス発現ベクターは、ゲノムDNAへの組み込み(integration)能力は低いが、宿主細胞へのトランスフェクション効率は高いアデノウイルスをベースにしている。アデノウイルス発現ベクターには、(a)発現ベクターのパッケージングをサポートし、(b)宿主細胞内で主題のCAR、主題の組み換えTCR、主題のKIR、主題の抗原結合ポリペプチド、主題の細胞表面受容体リガンド、主題の腫瘍抗原、主題のスイッチ受容体及び/又は主題のドミナントネガティブ受容体を最終的に発現するのに十分なアデノウイルス配列が含まれている。いくつかの実施形態では、アデノウイルスゲノムは、外来DNA配列を含む36kbの線状二本鎖DNAである。例えば、本発明の発現ベクターを作成するために、主題のCAR、主題の組み換えTCR、主題のKIR、主題の抗原結合ポリペプチド、主題の細胞表面受容体リガンド、主題の腫瘍抗原、主題のスイッチ受容体及び/又は主題のドミナントネガティブ受容体をコードする核酸を挿入して、アデノウイルスDNAの大きな断片(pieces)を置換することができる。
【0222】
別の発現ベクターは、アデノ随伴ウイルスに基づいており、アデノウイルス結合系を利用している。このAAV発現ベクターは、宿主ゲノムへの高い組み込み頻度を有する。分裂していない細胞にも感染できるため、例えば、組織培養及びインビボで哺乳類細胞に遺伝子を送達するのに有用である。AAVベクターは、広い感染性の宿主範囲を有する。AAVベクターの生成及び使用に関する詳細は、米国特許第5,139,941号及び第4,797,368号に記載されている。
【0223】
レトロウイルス発現ベクターは、宿主ゲノムに組み込まれ、大量の外来遺伝物質を送達し、広範囲の種及び細胞タイプに感染し、特殊な細胞株にパッケージ化されることができる。レトロウイルスベクターは、核酸(例えば、主題のCAR、主題の組み換えTCR、主題のKIR、主題の抗原結合ポリペプチド、主題の細胞表面受容体リガンド、主題の腫瘍抗原、主題のスイッチ受容体及び/又は主題のドミナントネガティブ受容体をコードする核酸)をウイルスゲノムの特定の位置に挿入して、複製欠陥のあるウイルスを生成することによって構築される。レトロウイルスベクターは、多種多様な細胞タイプに感染することができるが、主題のCAR、主題の組み換えTCR、主題のKIR、主題の抗原結合ポリペプチド、主題の細胞表面受容体リガンド、主題の腫瘍抗原、主題のスイッチ受容体及び/又は主題のドミナントネガティブ受容体の統合及び安定した発現には、宿主細胞の分裂が必要である。
【0224】
レンチウイルスベクターは、レンチウイルスに由来する。レンチウイルスは、一般的なレトロウイルス遺伝子であるgag、pol、及びenvに加えて、制御又は構造機能を持つ他の遺伝子を含む複雑なレトロウイルスである。例えば、米国特許第6,013,516号及び第5,994,136号を参照されたい。レンチウイルスの例としては、ヒト免疫不全ウイルス(HTV-1、HTV-2)やサル免疫不全ウイルス(SIV)等がある。レンチウイルスベクターは、HIV毒性遺伝子を多重に弱毒化することによって生成されており、例えば、env、vif、vpr、vpu及びnef遺伝子が削除され、ベクターが生物学的に安全になる。レンチウイルスベクターは、非分裂細胞に感染することができ、対象のCAR、対象の組み換えTCR、対象のKIR、対象の抗原結合ポリペプチド、対象の細胞表面受容体リガンド、対象の腫瘍抗原、対象のスイッチ受容体及び/又は対象のドミナントネガティブ受容体をコードする核酸のインビボ及びエクスビボの両方での遺伝子移入及び発現に使用することができる。例えば、米国特許第5,994,136号を参照されたい。
【0225】
本開示の核酸を含む発現ベクターは、当業者に知られている任意の手段によって宿主細胞に導入することができる。必要に応じて、前記発現ベクターにトランスフェクション用のウイルス配列を含めることができる。あるいは、前記発現ベクターは、融合、電気穿孔法、バイオリスティックス、トランスフェクション、リポフェクション等によって導入されてもよい。発現ベクターを導入する前に、宿主細胞(免疫細胞等)を培養して増殖させ、その後、ベクターの導入及び組み込みのための適切な処理を施すことができる。その後、宿主細胞(例えば、免疫細胞)が増殖され、ベクター内に存在するマーカーによってスクリーニングされ得る。いくつかの実施形態では、対象のCAR、対象の組み換えTCR、対象のKIR、対象の抗原結合ポリペプチド、対象の細胞表面受容体リガンド、対象の腫瘍抗原、対象のスイッチ受容体及び/又は対象のドミナントネガティブ受容体をコードする核酸は、ウイルス形質導入(viral transduction)によって免疫細胞に導入される。いくつかの実施形態では、前記ウイルス形質導入は、免疫細胞を、1つ又は複数の核酸を含むウイルスベクターと接触させることを含む。いくつかの実施形態では、前記ウイルスベクターは、レトロウイルスベクター、センダイウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター及びレンチウイルスベクターからなる群から選択される。使用可能な様々なマーカーが当該技術分野で公知であり、hprt、ネオマイシン耐性、チミジンキナーゼ、ハイグロマイシン耐性等が含まれる。本明細書で使用される場合、「細胞(cell)」、「細胞株(cell line)」、及び「細胞培養(cell culture)」という用語は互換的に使用され得る。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、免疫細胞又はその前駆細胞である。いくつかの実施形態では、遺伝子組み換え細胞は、遺伝子組み換えTリンパ球(T細胞)、ナイーブT細胞(TN)、メモリーT細胞(例えば、セントラルメモリーT細胞(TCM)、エフェクターメモリー細胞(TEM))、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、及び治療上重要な子孫を生じ得るマクロファージである。いくつかの実施形態では、前記宿主細胞は、T細胞、NK細胞又はNKT細胞である。いくつかの実施形態では、免疫細胞は、T細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、ナチュラルキラーT細胞、リンパ系前駆細胞、造血幹細胞、幹細胞、マクロファージ及び樹状細胞からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、前記免疫細胞は、CD4陽性T細胞又はCD8陽性T細胞である。いくつかの実施形態では、免疫細胞は同種異形T細胞又は自己T細胞(autologous T cell)である。いくつかの実施形態では、同種異形T細胞又は自己T細胞はヒトのものである。
【0226】
本発明の修飾免疫細胞(例えば、遺伝子、CAR、KIR、TCR、ドミナントネガティブ受容体及び/又はスイッチ受容体を下方制御することができる核酸を含む)は、本開示の核酸を含む発現ベクターを宿主細胞(例えば、免疫細胞)に安定的にトランスフェクトすることによって生成することができる。本開示の修飾細胞を生成するための追加の方法には、限定されないが、化学的変換方法(例えば、リン酸カルシウム、デンドリマー、リポソーム及び/又はカチオン性ポリマーの使用)、非化学的変換方法(例えば、電気穿孔法、光学的変換、遺伝子電気伝達及び/又は流体力学的送達)、及び/又は粒子ベースの方法(例えば、インパレフェクション、遺伝子銃及び/又はマグネトフェクションの使用)が含まれる。本発明の遺伝子、CAR、KIR、TCR、ドミナントネガティブ受容体及び/又はスイッチ受容体を下方制御することができる核酸を発現するトランスフェクトされた細胞(すなわち、免疫細胞)は、エクスビボで増殖させることができる。
2. 物理的方法:
【0227】
発現ベクターを宿主細胞に導入するための物理的方法としては、リン酸カルシウム沈殿法、リポフェクション法、粒子衝撃法、マイクロインジェクション法、電気穿孔法等が挙げられる。ベクター及び/又は外因性核酸を含む細胞を産生する方法は、当該技術分野で周知である。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(2001)を参照されたい。
3. 化学的方法:
【0228】
発現ベクターを宿主細胞に導入するための化学的方法には、高分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズ等のコロイド分散系、及び水中油型エマルジョン、ミセル、混合ミセル、リポソーム等の脂質ベースの系が含まれる。ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための化学的手段には、高分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ等のコロイド分散系、及び水中油型エマルジョン、ミセル、混合ミセル及びリポソーム等の脂質ベースの系が含まれる。インビトロ及びインビボでの送達媒体として使用される例示的なコロイド系は、リポソーム(例えば、人工膜小胞)である。
【0229】
宿主細胞に外因性核酸を導入する方法、又は本発明の阻害剤に細胞をさらす方法にかかわらず、宿主細胞内の核酸の存在を確認するために、さまざまなアッセイを実施することができる。このようなアッセイには、例えば、サザン及びノーザンブロッティング、RT-PCR及びPCR等の当業者によく知られている分子生物学的アッセイ、特定のペプチドの有無を検出する等の生化学的アッセイ(例えば、免疫学的手段(ELISA及びウエスタンブロット)又は本発明の範囲内に含まれる因子を識別するための本明細書に記載のアッセイ)が含まれる。
【0230】
さらに、前記核酸は、増殖した宿主細胞(例えば、免疫細胞)の形質導入、増殖した宿主細胞(例えば、免疫細胞)のトランスフェクション、増殖した宿主細胞(例えば、免疫細胞)の電気穿孔等の任意の手段によって導入することができる。ある核酸は1つの方法で導入され、別の核酸は別の方法で宿主細胞(免疫細胞等)に導入され得る。
4. RNA:
【0231】
一実施形態では、前記宿主細胞(例えば、免疫細胞)に導入される前記核酸は、RNAである。別の実施形態では、前記RNAは、インビトロ転写されたRNA又は合成RNAを含むmRNAである。前記RNAは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で生成されたテンプレートを使用したインビトロ転写によって生成される。適切なプライマー及びRNAポリメラーゼを使用して、任意のソースからの目的のDNAをPCRによって直接インビトロmRNA合成のテンプレートに変換できる。前記DNAのソースとしては、ゲノムDNA、プラスミドDNA、ファージDNA、cDNA、合成DNA配列又はその他の適切なDNAソースが考えられる。
【0232】
PCRは、mRNAのインビトロ転写のためのテンプレートを生成するために使用することができ、その後、細胞に導入される。PCRを実行する方法は、当該技術分野でよく知られている。PCRで使用するプライマーは、PCRのテンプレートとして使用されるDNAの領域と実質的に相補的な領域を持つように設計されている。本明細書に使用される場合、「実質的に相補的(Substantially Complementary)」とは、プライマー配列中の塩基の大部分又は全てが相補的であるか又は1つ又は複数の塩基が非相補的であるか、又は不一致であるヌクレオチド配列を指す。実質的に相補的な配列は、PCRに使用されるアニーリング条件下で、意図した標的DNAとアニーリング又はハイブリダイズすることができる。前記プライマーは、DNAテンプレートの任意の部分と実質的に相補的になるように設計できる。例えば、前記プライマーは、5’UTR及び3’UTRを含む、細胞内で通常転写される遺伝子の一部(オープンリーディングフレーム)を増幅するように設計できる。前記プライマーは、特定の対象ドメインをコードする遺伝子の一部を増幅するように設計することもできる。一実施形態では、前記プライマーは、5’UTR及び3’UTRの全て又は一部を含む、ヒトcDNAのコード領域を増幅するように設計される。PCRに有用なプライマーは、当該技術分野で周知の合成方法によって生成される。「フォワ-ドプライマー(forward primers)」とは、増幅されるDNA配列の上流(upstream)にあるDNAテンプレート上のヌクレオチドと実質的に相補的なヌクレオチド領域を含むプライマーである。ここで、「上流(upstream)」とは、コード鎖を基準として増幅されるDNA配列の位置5を指すために使用される。「リバースプライマー(reverse primers)」とは、増幅されるDNA配列の下流(downstream)にある二本鎖DNAテンプレートに実質的に相補的なヌクレオチド領域を含むプライマーである。ここで使用される「下流(downstream)」は、コード鎖に対して増幅されるDNA配列の位置3’を指すために使用される。
【0233】
RNAの安定性及び/又は翻訳効率を促進する能力を有する化学構造も使用することができる。RNAは、好ましくは5’UTR及び3’UTRを有する。一実施形態では、5’UTRは、0~3000ヌクレオチドの長さを有する。コード領域に追加される5’及び3’UTR配列の長さは、限定されるわけではないが、UTRの異なる領域にアニールするPCR用プライマーの設計等、さまざまな方法によって変更できる。このアプローチを使用すると、当業者は、転写されたRNAのトランスフェクション後に最適な翻訳効率を達成するために必要な5’UTR及び3’UTRの長さを変更することができる。
【0234】
5’UTR及び3’UTRは、目的の遺伝子の自然に発生する内因性の5’UTR及び3’UTRであり得る。あるいは、目的の遺伝子に内因性ではないUTR配列は、UTR配列をフォワードプライマーとリバースプライマーに組み込むか、テンプレートをその他の方法で変更することによって追加できる。目的の遺伝子に内因性ではないUTR配列の使用は、RNAの安定性や翻訳効率を変更するのに役立つ。例えば、3’UTR配列内のAUに富む要素は、mRNAの安定性を低下させる可能性があることが知られている。したがって、3’UTRは、当技術分野でよく知られているUTRの特性に基づいて、転写されたRNAの安定性を高めるように選択又は設計することができる。
【0235】
一実施形態では、5’UTRは、内因性遺伝子のコザック配列を含むことができる。あるいは、上記のように、PCRによって目的の遺伝子に内因性ではない5’UTRが追加される場合は、5’UTR配列を追加することでコンセンサスコザック配列を再設計できる。コザック配列は、一部のRNA転写物の翻訳効率を高めることができるが、効率的な翻訳を可能にするために全てのRNAに必要なわけではないようである。多くのmRNAにコザック配列が必要であることは、当技術分野で知られている。他の実施形態では、5’UTRは、RNAゲノムが細胞内で安定しているRNAウイルスから得ることができる。他の実施形態では、mRNAのエキソヌクレアーゼ分解を阻害するために、3’又は5’UTRでさまざまなヌクレオチド類似体を使用することができる。
【0236】
遺伝子クローニングを必要とせずにDNAテンプレートからRNAを合成できるようにするには、転写される配列の上流のDNAテンプレートに転写プロモーターを付加する必要がある。RNAポリメラーゼのプロモーターとして機能する配列をフォワ-ドプライマーの5’末端に追加すると、RNAポリメラーゼのプロモーターは、転写されるオープンリーディングフレームの上流のPCR産物に組み込まれる。一実施形態では、前記プロモーターは、本明細書の他の箇所に記載されているように、T7ポリメラーゼプロである。その他の有用なプロモーターとしては、T3及びSP6RNAポリメラーゼプロモーター等が挙げられるが、これらに限定されない。T7、T3、及びSP6プロモーターのコンセンサスヌクレオチド配列は、当技術分野で既知である。
【0237】
一実施形態では、mRNAは、リボソーム結合、翻訳の開始、及び細胞内でのmRNAの安定性を決定する5’末端のキャップと3’ポリ(A)テールの両方を有する。環状DNAテンプレート(例えばプラスミドDNA)上では、RNAポリメラーゼは、真核細胞での発現には適さない長い連結生成物を生成する。3’UTRの末端で線状化されたプラスミドDNAの転写は、転写後にポリアデニル化されても真核生物のトランスフェクションには効果のない通常サイズのmRNAをもたらす。線状DNAテンプレート上では、ファージT7RNAポリメラーゼは、転写産物の3’末端をテンプレートの最後の塩基を超えて延長することができる(Schenborn and Mierendorf,Nuc Acids Res.,13:6223-36(1985);Nacheva and Berzal-Herranz,Eur.J.Biochem,270:1485-65(2003))。
【0238】
ポリA/Tストレッチ(stretches)をDNAテンプレートに組み込む従来の方法は分子クローニングである。しかし、プラスミドDNAに組み込まれたポリA/T配列は、プラスミドの不安定性を引き起こす可能性があるため、細菌細胞から得られたプラスミドDNAテンプレートには欠失やその他の異常が高度に混入していることがよくある。このため、クローン作製には手間と時間がかかるだけでなく、信頼性に欠けることが多い。そのため、クローニングせずにポリA/T3’ストレッチを持つDNAテンプレートを構築できる方法が非常に望ましい。転写DNAテンプレートのポリA/Tセグメント(segment)は、100Tテール(サイズは50~5000Tであり得る)等のポリTテ-ルを含むリバースプライマーを使用してPCR中に生成することも、PCR後にDNAライゲーションやインビトロ組換え等の他の方法(ただしこれらに限定されない)で生成することもできる。ポリ(A)テールは、RNAに安定性を与え、RNAの分解を低減する。一般的に、ポリ(A)テールの長さは、転写されたRNAの安定性と正の相関関係にある。一実施形態では、ポリ(A)テールは、100~5000個のアデノシンである。
【0239】
RNAのポリ(A)テールは、大腸菌ポリAポリメラーゼ(E-PAP)等のポリ(A)ポリメラーゼを使用したインビトロ転写後にさらに伸長することができる。一実施形態では、ポリ(A)テールの長さを100ヌクレオチドから300~400ヌクレオチドに増加させることにより、RNAの翻訳効率が約2倍に増加する。さらに、3’末端に異なる化学基を付加することで、mRNAの安定性を高めることができる。このような付加物(attachment)には、修飾された/人工のヌクレオチド、アプタマー(aptamers)及びその他の化合物が含まれ得る。例えば、ATP類似体(analogs)は、ポリ(A)ポリメラーゼを使用してポリ(A)テールに組み込むことができる。ATP類似体は、RNAの安定性をさらに高めることができる。5’キャップも、RNA分子に安定性をもたらす。好ましい実施形態では、本明細書に開示される方法によって産生されるRNAには、5’キャップが含まれる。前記5’キャップは、当技術分野で知られており、本明細書に記載されている技術を使用して提供される。Cougot, et al.,Trends in Biochem.Sci.29:436-444(2001);Stepinski,et al,RNA7:1468-95(2001);Elango,et al,Biochim.Biophys.Res.Commun.330:958-966(2005)。
【0240】
本明細書に開示された方法によって産生されるRNAは、内部リボソーム進入部位(internal ribosome entry site)(IRES)配列も含み得る。前記IRES配列は、キャップ非依存性リボソームのmRNAへの結合を開始し、翻訳の開始を促進する、任意のウイルス配列、染色体配列又は人工的に設計された配列である。糖、ペプチド、脂質、タンパク質、抗酸化剤、界面活性剤等、細胞の透過性及び生存性を促進する因子を含むことができる、細胞の電気穿孔に適した任意の溶質を含むことができる。いくつかの実施形態において、RNAは、インビトロ転写RNAのような細胞に電気穿孔される。
【0241】
開示された方法は、遺伝子修飾宿主細胞が標的癌細胞を殺す能力の評価を含む、癌、幹細胞、急性及び慢性感染症並びに自己免疫疾患(autoimmune diseases)の分野における基礎研究及び治療における宿主細胞活性の調節に適用することができる。
【0242】
また、本方法は、例えばプロモーターやインプットRNA(input RNA)の量を変えることによって、広い範囲にわたって発現レベルを制御する能力を提供し、発現レベルを個別に制御することを可能にする。さらに、PCRベースのmRNA産生技術により、さまざまな構造やドメインの組み合わせを持つmRNAの設計が大幅に容易になる。本発明のRNAトランスフェクション方法の利点の1つは、RNAトランスフェクションが、本質的に一過性でベクターフリーであることである。RNAトランス遺伝子は、リンパ球に送達され、短期間のインビトロ細胞活性化の後、最小限の発現カセット(expressing cassette)として、付加的なウイルス配列を必要とせずに、そこで発現させることができる。このような条件下では、トランス遺伝子が宿主細胞のゲノムに組み込まれる可能性は低い。RNAのトランスフェクションの効率とリンパ球集団全体を均一に修飾する能力により、細胞のクローニングは必要ない。
【0243】
したがって、本発明は、本明細書に記載の、又は当業者に知られている遺伝子編集技術の何れかを使用して、本明細書に記載の1つ又は複数の内因性免疫遺伝子の遺伝子発現を下方制御することができる1つ又は複数の核酸を免疫細胞に導入することを含む、修飾免疫細胞又はその前駆細胞を生成する方法を提供する。TCRα鎖、TCRβ鎖、CD3δ、CD3ε、CD3γ、HLA-I分子(例えば、ベータ2ミクログロブリン、TAP1、TAP2、TAPBP又はNLRC5)又はHLA-II分子(例えば、CIITA、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はインバリアント鎖)等、細胞に対する免疫応答の生成に関与する内因性遺伝子の発現を下方制御すると、修飾T細胞の免疫介在性拒絶が減少する。例えば、内因性TCR受容体成分、MHC-I又はMHC-II、ベータ2ミクログロブリン、CIITA遺伝子の発現を下方制御すると、宿主免疫系による拒絶反応を引き起こす可能性のあるT細胞上の同種抗原の表面提示(surface presentation)が除去される。いくつかの実施形態では、内因性遺伝子発現を下方制御することができる核酸が、電気穿孔法、トランスフェクション又はレンチウイルス若しくは他のウイルス形質導入等によって、T細胞に導入される。いくつかの実施形態では、本発明は、内因性遺伝子発現を下方制御することができる電気穿孔された核酸を含む修飾T細胞を含む。いくつかの実施形態では、前記核酸は、ウイルス形質導入によって免疫細胞に導入される。いくつかの実施形態では、前記ウイルス形質導入は、1つ又は複数の核酸を含むウイルスベクターと免疫細胞を接触させることを含む。一実施形態では、前記ウイルスベクターは、レトロウイルスベクター、センダイウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター及びレンチウイルスベクターからなる群から選択される。
B. 免疫細胞の遺伝子編集方法:
【0244】
一態様において、本開示は、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖(Ii鎖)からなる群から選択される内因性免疫タンパク質をコードする1つ又は複数の内因性免疫遺伝子の遺伝子発現を下方制御することができる1つ又は複数の核酸を免疫細胞に導入することを含む、免疫細胞の遺伝子編集方法を提供する。一実施形態では、修飾免疫細胞を遺伝子編集する方法は、CD3δ、CD3ε又はCD3γから選択されるT細胞受容体サブユニットの遺伝子発現を下方制御することができる核酸を免疫細胞に導入することを含む。一実施形態では、修飾免疫細胞を遺伝子編集する方法は、B2M、TAP1、TAP2、TAPBP又はNLRC5から選択されるHLAクラスI分子の遺伝子発現を下方制御することができる核酸を免疫細胞に導入することを含む。一実施形態では、修飾免疫細胞を遺伝子編集する方法は、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP又はインバリアント鎖(Ii鎖)から選択されるHLAクラスII分子の遺伝子発現を下方制御することができる核酸を免疫細胞に導入することを含む。
【0245】
いくつかの実施形態では、免疫細胞を遺伝子編集する方法は、CD3δの遺伝子発現並びにB2M、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖)及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるHLA分子の遺伝子発現を下方制御することができる核酸を免疫細胞に導入することを含む。いくつかの実施形態では、免疫細胞を遺伝子編集する方法は、CD3εの遺伝子発現並びにB2M、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖)及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるHLA分子の遺伝子発現を下方制御することができる核酸を免疫細胞に導入することを含む。いくつかの実施形態では、免疫細胞を遺伝子編集する方法は、CD3γの遺伝子発現並びにB2M、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP、インバリアント鎖(Ii鎖)及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるHLA分子の遺伝子発現を下方制御することができる核酸を免疫細胞に導入することを含む。いくつかの実施形態では、免疫細胞を遺伝子編集する方法は、CD3γの遺伝子発現並びにCD3ε、B2M及びCIITAの遺伝子発現を下方制御することができる核酸を免疫細胞に導入することを含む。
【0246】
いくつかの実施形態では、免疫細胞を遺伝子編集する方法は、以下の遺伝子発現を下方制御することができる核酸を免疫細胞に導入することを含む:(1)CD3ε、B2M及びRFX5;(2)CD3ε、B2M及びRFXAP;(3)CD3ε、B2M及びRFXANK;(4)CD3ε、B2M及びHLA-DM;(5)CD3ε、B2M及びIi鎖;(6)CD3ε、TAP1及びCIITA;(7)CD3ε、TAP1及びRFX5;(8)CD3ε、TAP1及びRFXAP;(9)CD3ε、TAP1及びRFXANK;(10)CD3ε、TAP1及びHLA-DM;(11)CD3ε、TAP1及びIi鎖;(12)CD3ε、TAP2及びCIITA;(13)CD3ε、TAP2及びRFX5;(14)CD3ε、TAP2及びRFXAP;(15)CD3ε、TAP2及びRFXANK;(16)CD3ε、TAP2及びHLA-DM;(17)CD3ε、TAP2及びIi鎖;(18)CD3ε、NLRC5及びCIITA;(19)CD3ε、NLRC5及びRFX5;(20)CD3ε、NLRC5及びRFXAP;(21)CD3ε、NLRC5及びRFXANK;(22)CD3ε、NLRC5及びHLA-DM;(23)CD3ε、NLRC5及びIi鎖;(24)CD3ε、TAPBP及びCIITA;(25)CD3ε、TAPBP及びRFX5;(26)CD3ε、TAPBP及びRFXAP;(27)CD3ε、TAPBP及びRFXANK;(28)CD3ε、TAPBP及びHLA-DM;又は(29)CD3ε、TAPBP及びIi鎖。
【0247】
いくつかの実施形態では、免疫細胞を遺伝子編集する方法は、以下の遺伝子発現を下方制御することができる核酸を免疫細胞に導入することを含む:(1)CD3δ、B2M及びRFX5;(2)CD3δ、B2M及びRFXAP;(3)CD3δ、B2M及びRFXANK;(4)CD3δ、B2M及びHLA-DM;(5)CD3δ、B2M及びIi鎖;(6)CD3δ、TAP1及びCIITA;(7)CD3δ、TAP1及びRFX5;(8)CD3δ、TAP1及びRFXAP;(9)CD3δ、TAP1及びRFXANK;(10)CD3δ、TAP1及びHLA-DM;(11)CD3δ、TAP1及びIi鎖;(12)CD3δ、TAP2及びCIITA;(13)CD3δ、TAP2及びRFX5;(14)CD3δ、TAP2及びRFXAP;(15)CD3δ、TAP2及びRFXANK;(16)CD3δ、TAP2及びHLA-DM;(17)CD3δ、TAP2及びIi鎖;(18)CD3δ、NLRC5及びCIITA;(19)CD3δ、NLRC5及びRFX5;(20)CD3δ、NLRC5及びRFXAP;(21)CD3δ、NLRC5及びRFXANK;(22)CD3δ、NLRC5及びHLA-DM;(23)CD3δ、NLRC5及びIi鎖;(24)CD3δ、TAPBP及びCIITA;(25)CD3δ、TAPBP及びRFX5;(26)CD3δ、TAPBP及びRFXAP;(27)CD3δ、TAPBP及びRFXANK;(28)CD3δ、TAPBP及びHLA-DM;又は(29)CD3δ、TAPBP及びIi鎖。
【0248】
いくつかの実施形態では、免疫細胞を遺伝子編集する方法は、以下の遺伝子発現を下方制御することができる核酸を免疫細胞に導入することを含む:(1)CD3γ、B2M及びRFX5;(2)CD3γ、B2M及びRFXAP;(3)CD3γ、B2M及びRFXANK;(4)CD3γ、B2M及びHLA-DM;(5)CD3γ、B2M及びIi鎖;(6)CD3γ、TAP1及びCIITA;(7)CD3γ、TAP1及びRFX5;(8)CD3γ、TAP1及びRFXAP;(9)CD3γ、TAP1及びRFXANK;(10)CD3γ、TAP1及びHLA-DM;(11)CD3γ、TAP1及びIi鎖;(12)CD3γ、TAP2及びCIITA;(13)CD3γ、TAP2及びRFX5;(14)CD3γ、TAP2及びRFXAP;(15)CD3γ、TAP2及びRFXANK;(16)CD3γ、TAP2及びHLA-DM;(17)CD3γ、TAP2及びIi鎖;(18)CD3γ、NLRC5及びCIITA;(19)CD3γ、NLRC5及びRFX5;(20)CD3γ、NLRC5及びRFXAP;(21)CD3γ、NLRC5及びRFXANK;(22)CD3γ、NLRC5及びHLA-DM;(23)CD3γ、NLRC5及びIi鎖;(24)CD3γ、TAPBP及びCIITA;(25)CD3γ、TAPBP及びRFX5;(26)CD3γ、TAPBP及びRFXAP;(27)CD3γ、TAPBP及びRFXANK;(28)CD3γ、TAPBP及びHLA-DM又は(29)CD3γ、TAPBP及びIi鎖。
【0249】
いくつかの実施形態では、免疫細胞を遺伝子編集する方法は、アンチセンスRNA、アンチゴマーRNA、siRNA、shRNA及びCRISPRシステムからなる群から選択される遺伝子編集系を含む、遺伝子発現を下方制御することができる核酸を免疫細胞に導入することを含む。内因性免疫遺伝子の発現は、例えば、アンチセンスRNA、アンチゴマーRNA、siRNA、shRNA、CRISPR系等によって下方制御、ノックダウン、低減及び/又は阻害され得る。一実施形態では、免疫細胞を遺伝子編集する方法は、CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)エンドヌクレアーゼ系及びガイドRNAを含む、遺伝子発現を下方制御できる核酸を免疫細胞に導入することを含む。いくつかの実施形態では、遺伝子発現を下方制御することができる核酸は、Cas3、Cas4、Cas8a、Cas8b、Cas9、Cas10、Cas10d、Cas12a、Cas12b、Cas12d、Cas12e、Cas12f、Cas12g、Cas12h、Cas12i、Cas13、Cas14、CasX、Cse1、Csy1、Csn2、Cpf1、C2c1、Csm2、Cmr5、Fok1、S.pyogenes Cas9(spCas9)、Staphylococcus aureus Cas9(saCas9)、MAD7ヌクレアーゼ(タイプV CRISPRヌクレアーゼ)及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるCasエンドヌクレアーゼを含む。細胞を遺伝子編集する方法は、当該技術分野でよく知られており、本明細書に記載されている。
【0250】
いくつかの実施形態では、免疫細胞を遺伝子編集する方法は、免疫細胞にCRISPR/Casを導入して、修飾細胞(例えば、修飾T細胞)内の1つ又は複数の内因性免疫遺伝子を破壊することを含む。いくつかの実施形態では、CRISPR/Cas9は、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖(Ii鎖)からなる群から選択される1つ又は複数の内因性免疫タンパク質を破壊するために使用される。ある例示的な実施形態では、CRISPR/Cas9を使用して、内因性のCD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖(Ii鎖)の1つ又は複数を破壊し、それによってCD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖(Ii鎖)の下方制御がもたらされる。内因性のTRAC、TRBC、B2M、CIITA、及び/又はPD1の1つ又は複数を破壊するのに使用するのに適したgRNAは、
図26及び27に記載されている。いくつかの実施形態では、免疫細胞を遺伝子編集する方法は、免疫細胞にCRISPR/Cas及びガイドRNAを導入して、修飾細胞(例えば、修飾T細胞)内の1つ又は複数の内因性免疫遺伝子を破壊することを含む。一実施形態では、免疫細胞を遺伝子編集する方法は、免疫細胞にCRISPR/Cas及びガイドRNAを導入することを含み、ガイドRNAは、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖(Ii鎖)からなる群から選択される1つ又は複数の遺伝子座内の配列と相補的なガイド配列を含む。内因性のCD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖(Ii鎖)の1つ又は複数を破壊するのに適したガイドRNA(gRNA)を表4に示す。
【0251】
一実施形態では、免疫細胞を遺伝子編集する方法は、TALEN遺伝子編集系を含む遺伝子発現を下方制御することができる核酸を免疫細胞に導入することを含む。一実施形態では、免疫細胞を遺伝子編集する方法は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)遺伝子編集系を含む遺伝子発現を下方制御することができる核酸を免疫細胞に導入することを含む。一実施形態では、免疫細胞を遺伝子編集する方法は、メガヌクレアーゼ遺伝子編集系を含む遺伝子発現を下方制御することができる核酸を免疫細胞に導入することを含む。一実施形態では、免疫細胞を遺伝子編集する方法は、メガTALEN遺伝子編集系を含む遺伝子発現を下方制御できる核酸を免疫細胞に導入することを含む。一実施形態では、修飾免疫細胞を遺伝子編集する方法は、アンチセンスRNA、アンチゴマーRNA、RNAi、siRNA又はshRNAから選択される遺伝子サイレンシング系を含む遺伝子発現を下方制御することができる核酸を免疫細胞に導入することを含む。
C. 修飾免疫細胞の増殖:
【0252】
さらに別の実施形態では、本明細書に記載の修飾T細胞を生成する方法は、修飾免疫細胞を増殖させて修飾T細胞の集団を生成することをさらに含む。CAR、TCR、ドミナントネガティブ受容体及び/又はスイッチ受容体を発現するように免疫細胞を修飾する前又は後のいずれであっても、修飾された細胞は、当該技術分野で既知の方法を使用して活性化され、その数を増やすことができる。例えば、本発明の免疫細胞は、CD3/TCR複合体関連シグナルを刺激する薬剤と、修飾免疫細胞の表面上の共刺激分子を刺激するリガンドとが付着した表面と接触させることによって増殖させることができる。特に、修飾免疫細胞集団は、抗CD3抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は表面に固定化された抗CD2抗体との接触によって、又は、カルシウムイオノフォア(ionophore)と組み合わせたタンパク質キナーゼC活性化因子(例えば、ブリオスタチン)との接触によって刺激され得る。修飾免疫細胞の表面上の補助分子(accessory molecule)の共刺激のために、補助分子に結合するリガンドが使用される。例えば、修飾免疫細胞は、免疫細胞の増殖を刺激するのに適した条件下で、抗CD3抗体及び抗CD28抗体と接触させることができる。抗CD28抗体の例としては、9.3、B-T3、XR-CD28(Diaclone、ブザンソン、フランス)が挙げられ、これらを本発明で使用することができるほか、当技術分野で知られている他の方法や試薬も使用することができる。
【0253】
本明細書に開示された方法による修飾免疫細胞の増殖は、約10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、200倍、300倍、400倍、500倍、600倍、700倍、800倍、900倍、1000倍、2000倍、3000倍、4000倍、5000倍、6000倍、7000倍、8000倍、9000倍、10,000倍、100,000倍、1,000,000倍、10,000,000倍又はそれ以上、及び、それらの間の任意の整数又は一部の整数に増加され得る。一実施形態では、修飾免疫細胞は約20倍から約50倍の範囲で増殖する。
【0254】
培養後、修飾免疫細胞は、培養装置内の細胞培地中で一定期間インキュベートするか、又は細胞が最適な継代のためにコンフルエンス(confluency)又は高い細胞密度に達するまでインキュベートし、その後、細胞を別の培養装置に移すことができる。前記培養装置は、インビトロで細胞を培養するために一般的に使用される任意の培養装置であり得る。細胞を別の培養装置に移す前に、コンフルエンスのレベルが70%以上であることが好ましい。より好ましくは、コンフルエンスのレベルは90%以上である。期間は、インビトロでの細胞の培養に適した任意の時間であり得る。免疫細胞培地は、免疫細胞の培養中にいつでも交換することができる。免疫細胞培地は、約2~3日ごとに交換することが望ましい。次に、免疫細胞を培養装置から採取し、修飾免疫細胞をすぐに使用することも、後で使用するために凍結保存することもできる。一実施形態では、本発明は、増殖した修飾免疫細胞を凍結保存することを含む。凍結保存された免疫細胞は、免疫細胞に核酸を導入する前に解凍される。
【0255】
別の実施形態では、この方法は、免疫細胞を単離し、免疫細胞を増殖させることを含む。別の実施形態では、本発明は、増殖前に免疫細胞を凍結保存することをさらに含む。さらに別の実施形態では、凍結保存された免疫細胞を解凍し、キメラ膜タンパク質をコードするRNAを用いて電気穿孔する。
【0256】
さらに別の実施形態では、本明細書に記載の修飾T細胞を生成する方法は、修飾免疫細胞をエクスビボで増殖させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、修飾免疫細胞のエクスビボ培養及び増殖は、細胞増殖因子の添加を含む。ただし、flt3-L、IL-1、IL-3、c-kitリガンド等の他の因子を追加することもできる。いくつかの実施形態では、修飾T細胞を増殖させることは、修飾T細胞を、flt3-L、IL-1、IL-3、IL-2、IL-7、IL-15、IL-18、IL-21、TGFベータ、IL-10及びc-kitリガンドからなる群から選択される因子と共に培養することを含む。本明細書に記載の培養ステップ(本明細書に記載の薬剤との接触又は電気穿孔後)は、非常に短く、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22又は23時間等、24時間未満であってもよい。培養ステップは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14日又はそれ以上と長くなり得る。
【0257】
培養中の細胞を説明するために様々な用語が使用されている。細胞培養(cell culture)とは、一般的に、生体から採取され、制御された条件下で培養された細胞を指す。一次細胞培養(primary cell culture)とは、生物から直接採取され、最初の継代培養の前に行われる細胞、組織、又は臓器の培養である。細胞は、細胞の成長や分裂を促進する条件下で成長培地に置かれると培養中に増殖し、結果として細胞集団が大きくなる。細胞が培養で増殖する場合、細胞増殖率は通常、細胞数が2倍になるまでの時間、つまり倍加時間によって測定される。
【0258】
免疫細胞培養に適した条件には、血清(例えば、ウシ胎児血清又はヒト血清)、インターロイキン-2(IL-2)、インスリン、IFN-ガンマ、IL-4、IL-7、GM-CSF、IL-10、IL-12、IL-15、TGF-ベータ、及びTNF-a、並びに、当業者に知られている細胞成長用のその他の添加剤、を含む成長及び生存に必要な因子を含む可能性のある適切な培地(例えば、最小必須培地又はRPMI培地1640又はX-vivo 15(Lonza))が含まれる。前記細胞成長用のその他の添加物には、界面活性剤、プラズマネート及びN-アセチルシステインや2-メルカプトエタノール等の還元剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0259】
培地には、RPMI1640、AIM-V、DMEM、MEM、a-MEM、F-12、X-Vivo 15、X-Vivo 20、Optimizer等があり、アミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、ビタミンが添加されており、無血清又は適切な量の血清(又は血漿)又は定義された一連のホルモン、及び/又は免疫細胞の成長及び増殖に十分な量のサイトカインが補充されている。ペニシリンやストレプトマイシン等の抗生物質は、実験培養にのみ含まれており、対象に注入される細胞の培養には含まれない。標的細胞は、適切な温度(例えば、37℃)や雰囲気(例えば、空気+5%CO2)等、成長をサポートするために必要な条件下で維持される。
【0260】
免疫細胞を培養するために使用される培地には、免疫細胞を共刺激することができる薬剤が含まれていてもよい。例えば、CD3を刺激できる薬剤は、CD3に対する抗体であり、CD28を刺激できる薬剤は、CD28に対する抗体である。これは、本明細書に開示されたによって実証されているように、本明細書に開示された方法によって単離された細胞は、約10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、200倍、300倍、400倍、500倍、600倍、700倍、800倍、900倍、1000倍、2000倍、3000倍、4000倍、5000倍、6000倍、7000倍、8000倍、9000倍、10,000倍、100,000倍、1,000,000倍、10,000,000倍又はそれ以上に増殖することができるためである。一実施形態では、電気穿孔された集団を培養することにより、免疫細胞は約20倍から約50倍又はそれ以上の範囲で増殖する。一実施形態では、抗CD3抗体でコーティングされたKT64.86人工抗原提示細胞(artificial antigen presenting cells)(aAPC)を介してヒトT制御細胞(human T regulatory cells)が増殖される。免疫細胞を増殖及び活性化する方法は、米国特許第7,754,482号、第8,722,400号、及び第9,555,105号に記載されており、その内容は本明細書に全体として組み込まれている。
D. 免疫細胞のソース:
【0261】
増殖の前に、エクスビボ操作のために対象から免疫細胞の供給源を得る。エクスビボ操作の対象となる細胞の供給源としては、例えば、自己又は異種ドナーの血液、臍帯血、骨髄等も挙げられる。例えば、免疫細胞の供給源は、本発明の修飾免疫細胞で治療される対象、例えば対象の血液、対象の臍帯血、又は対象の骨髄から採取され得る。対象の非限定的な例としては、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、及びそれらのトランスジェニック種が挙げられる。好ましくは、対象はヒトである。
【0262】
免疫細胞は、血液、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、脾臓組織、臍帯、リンパ又はリンパ器官を含む、いくつかの供給源から得ることができる。免疫細胞とは、免疫系の細胞であり、例えば自然又は適応免疫(adaptive immunity)の細胞、例えばリンパ球を含む骨髄系細胞やリンパ系細胞、典型的にはT細胞やNK細胞等である。他の例示的な細胞には、誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells)(iPSC)を含む多能性幹細胞(multipotent and pluripotent stem cells)等の幹細胞が含まれる。いくつかの側面では、細胞はヒト細胞である。治療対象となる対象に関して、細胞は、同種異形及び/又は自己細胞であってもよい。細胞は典型的には、対象から直接単離された細胞及び/又は対象から単離されて凍結された細胞等の一次細胞である。
【0263】
ある実施形態では、前記免疫細胞は、T細胞、例えば、CD8陽性T細胞(例えば、CD8陽性ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、又はエフェクターメモリーT細胞)、CD4陽性T細胞、ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)、制御性T細胞(Treg)、幹細胞メモリーT細胞、リンパ系前駆細胞、造血幹細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、又は樹状細胞である。いくつかの実施形態では、前記細胞は、単球又は顆粒球、例えば骨髄細胞、マクロファージ、好中球、樹状細胞、肥満細胞、好酸球及び/又は好塩基球である。一実施形態では、標的細胞は、人工多能性幹(iPS)細胞又はiPS細胞に由来する細胞であり、例えば、対象から生成され、変化するよう操作されるか(例えば、変異を誘導する)又は1つ又は複数の標的遺伝子の発現を操作され、例えば、T細胞、例えば、CD8陽性T細胞(例えば、CD8陽性ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞又はエフェクターメモリーT細胞)、CD4陽性T細胞、幹細胞メモリーT細胞、リンパ系前駆細胞又は造血幹細胞に分化されるiPS細胞である。
【0264】
いくつかの実施形態では、細胞には、機能、活性化状態、成熟度、分化の可能性、増殖、再循環(recirculation)、局在及び/又は持続能力(persistence capacities)、抗原特異性、抗原受容体のタイプ、特定の臓器又は区画(compartment)の存在、マーカー又はサイトカイン分泌プロファイル、及び/又は、分化の程度によって定義されるもの等、T細胞集団全体、CD4陽性細胞、CD8陽性細胞及びそれらのサブ集団等のT細胞又はその他の細胞タイプの1つ又は複数のサブセットが含まれる。
【0265】
T細胞及び/又はCD4陽性及び/又はCD8陽性T細胞のサブタイプ及びサブポピュレーション(subpopulations)には、ナイーブT(TN)細胞、エフェクターT細胞(TEFF)、メモリーT細胞及びそのサブタイプ(例えば、幹細胞メモリーT(TSCM)、セントラルメモリーT(TCM)、エフェクターメモリーT(TEM)又は終末分化エフェクターメモリー(terminally differentiated effector memory)T細胞等)、腫瘍浸潤リンパ球(tumor-infiltrating lymphocytes)(TIL)、未熟T細胞、成熟T細胞、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞、天然及び適応性制御性(naturally occurring and adaptive regulatory)T(Treg)細胞、ヘルパーT細胞(例えば、TH1細胞、TH2細胞、TH3細胞、TH17細胞、TH9細胞、TH22細胞、濾胞性(follicular)ヘルパーT細胞、アルファー/ベータT細胞及びデルタ/ガンマT細胞等)がある。ある実施形態では、当該技術分野で利用可能な任意の数のT細胞株を使用することができる。
【0266】
いくつかの実施形態では、前記方法は、対象から免疫細胞を単離し、それらを調製し、処理し、培養し及び/又は組み換えることを含む。いくつかの実施形態では、組み換え細胞の調製には、1つ又は複数の培養及び/又は調製ステップが含まれる。記載された組み換え用の細胞は、例えば、対象から得られた又は対象に由来する生物学的サンプル等のサンプルから単離され得る。いくつかの実施形態では、細胞が単離される対象は、疾患又は症状を有するか、細胞療法を必要とするか又は細胞療法が投与される対象である。いくつかの実施形態における対象は、細胞が単離、処理、及び/又は組み換えられる養子細胞療法等の特定の治療介入を必要とするヒトである。したがって、いくつかの実施形態における細胞は、一次細胞、例えば一次ヒト細胞である。前記サンプルには、対象から直接採取された組織、体液、その他のサンプルのほか、分離、遠心分離、遺伝子組み換え(ウイルスベクターによる形質導入等)、洗浄、インキュベーション等の1つ又は複数の処理ステップから得られたサンプルも含まれる。前記生物学的サンプルは、生物学的ソースから直接得られたサンプル又は処理されたサンプルであり得る。前記生物学的サンプルには、血液、血漿、血清、脳脊髄液、滑液、尿、汗等の体液、組織及び臓器サンプル(それらから得られた処理済みサンプルを含む)が含まれるが、これらに限定されない。
【0267】
ある態様では、免疫細胞が由来する又は単離されるサンプルは、血液若しくは血液由来のサンプルであるか、あるいは、アフェレーシス若しくは白血球生成物であるか又はそれらに由来する。例示的なサンプルには、全血、末梢血単核細胞(PBMC)、白血球、骨髄、胸腺、組織生検、腫瘍、白血病、リンパ腫、リンパ節、腸管関連リンパ組織、粘膜関連リンパ組織、脾臓、その他のリンパ組織、肝臓、肺、胃、腸、結腸、腎臓、膵臓、乳房、骨、前立腺、子宮頸部、精巣、卵巣、扁桃腺、又はその他の臓器、及び/又は、それらに由来する細胞が含まれる。前記サンプルには、細胞療法(例えば、養子細胞療法)の文脈では、自己及び同種異形ソースからのサンプルが含まれる。
【0268】
いくつかの実施形態では、前記細胞は、細胞株、例えばT細胞株に由来する。いくつかの実施形態における細胞は、例えば、マウス、ラット、非ヒト霊長類及びブタ等の異種起源から得られる。いくつかの実施形態では、前記細胞の単離には、1つ又は複数の準備及び/又は非親和性に基づく細胞分離ステップが含まれる。いくつかの例では、前記細胞は、例えば、不要な成分を除去したり、所望の成分を濃縮したり、特定の試薬に敏感な細胞を溶解又は除去したりするために、1つ又は複数の試薬の存在下で洗浄、遠心分離及び/又はインキュベートされる。いくつかの例では、細胞は、密度、接着特性、サイズ、感度及び/又は特定の成分に対する耐性等の1つ又は複数の特性に基づいて分離される。
【0269】
いくつかの例では、対象の循環血液からの細胞は、例えば、アフェレーシス又は白血球除去によって得られる。前記サンプルは、ある態様では、T細胞、単球、顆粒球、B細胞、その他の有核白血球、赤血球及び/又は血小板を含むリンパ球が含まれ、またある態様では、赤血球及び血小板以外の細胞が含まれる。いくつかの実施形態では、対象から採取された血液細胞は、例えば、血漿画分を除去し、その後の処理ステップのために適切な緩衝液又は培地に細胞を配置するために洗浄される。いくつかの実施形態では、前記細胞は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄される。ある場合には、製造元の指示に従ってタンジェンシャルフローろ過(TFF)によって洗浄ステップが実行される。ある実施形態では、前記細胞は、洗浄後に様々な生体適合性緩衝液に再懸濁される。ある実施形態では、血液細胞サンプルの成分が除去され、細胞が培養培地に直接再懸濁される。いくつかの実施形態では、前記方法には、赤血球を溶解し、パーコール又はフィコール勾配を通して遠心分離することによって末梢血から白血球を調製する等の密度ベースの細胞分離方法が含まれる。
【0270】
一実施形態では、前記免疫細胞は、個体の循環血液からアフェレーシス又は白血球除去によって得られる。アフェレーシス製品には、通常、T細胞、単球、顆粒球、B細胞、その他の有核白血球、赤血球、血小板等のリンパ球が含まれる。アフェレーシスによって回収された細胞は、血漿画分を除去するために洗浄され、その後の処理工程のために、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)又は洗浄液のような適切な緩衝液又は培地(カルシウムを欠き、マグネシウムを欠くか、すべての二価陽イオンでなくても多くの二価陽イオンを欠く可能性がある)に配置される。当業者であれば容易に理解できるように、洗浄ステップは、製造元の指示に従って、半自動「フロースルー」遠心分離機(例えば、Cobe 2991 セルプロセッサ、Baxter CytoMate又はHaemonetics Cell Saver5)を使用する等、当業者に既知の方法によって達成することができる。洗浄後、前記細胞は、例えば、Ca2+を含まない、Mg2+を含まないPBS、PlasmaLyte A又は緩衝液の有無にかかわらず他の生理食塩水等のさまざまな生体適合性緩衝液に再懸濁することができる。いくつかの実施形態では、アフェレーシスサンプルの望ましくない成分を除去し、前記細胞を培養培地に直接再懸濁することができる。
【0271】
いくつかの実施形態では、前記単離方法には、表面マーカー(例えば、表面タンパク質)、細胞内マーカー又は核酸等の1つ又は複数の特定の分子の細胞内における発現又は存在に基づいて、異なる細胞タイプを分離することが含まれる。いくつかの実施形態では、このようなマーカーに基づく任意の既知の分離方法を使用することができる。いくつかの実施形態では、前記分離は、親和性又は免疫親和性に基づく分離である。例えば、ある態様における単離には、1つ又は複数のマーカー、典型的には細胞表面マーカーの細胞の発現又は発現レベルに基づいて細胞及び細胞集団を分離すること、例えば、そのようなマーカーに特異的に結合する抗体又は結合パートナーとのインキュベーション、続いて一般に洗浄ステップ、及び抗体又は結合パートナーに結合した細胞と抗体又は結合パートナーに結合していない細胞の分離が含まれる。このような分離ステップは、試薬に結合した細胞がさらなる使用のために保持されるポジティブ選択(positive selection)及び/又は抗体又は結合パートナーに結合していない細胞が保持されるネガティブ選択(negative selection)に基づくことができる。いくつかの例では、両方のフラクションがさらに使用するために保持される。ネガティブ選択は、異種集団中の細胞タイプを特異的に同定する抗体が利用できない場合に特に有用であり、所望の集団以外の細胞によって発現されるマーカーに基づいて分離を行うのが最適である。前記分離によって、特定の細胞集団又は特定のマーカーを発現する細胞が100%濃縮又は除去される必要はない。例えば、マーカーを発現している細胞のような特定のタイプの細胞に対するポジティブ選択又は濃縮は、そのような細胞の数又は割合を増加させることを意味するが、マーカーを発現していない細胞を完全になくなる(complete absence)必要はない。同様に、マーカーを発現している細胞等、特定のタイプの細胞のネガティブ選択、除去、又は枯渇(depletion)は、そのような細胞の数又は割合を減少させることを意味するが、そのような細胞をすべて完全に除去する(complete removal)必要はない。ある例示的な実施形態では、分離工程を複数回実施し、あるステップからのポジティブ又はネガティブに選択されたフラクションは、後続のポジティブ又はネガティブ選択等の別の分離ステップに供する。ある例示的な実施形態では、ネガティブ選択の対象となるマーカーにそれぞれ特異的な複数の抗体又は結合パートナーと細胞をインキュベートすること等により、単一の分離ステップで複数のマーカーを同時に発現する細胞を枯渇させる(deplete)ことができる。同様に、様々な細胞タイプで発現する複数の抗体又は結合パートナーと細胞をインキュベートすることにより、複数の細胞タイプを同時にポジティブ選択することができる。
【0272】
いくつかの実施形態では、1つ又は複数のタイヤT細胞集団(tire T cell populations)は、表面マーカー等の1つ又は複数の特定のマーカーに対してポジティブ(マーカー陽性(markeri-))又は高レベル(マーカー高(markerhigh))に発現する細胞、又は1つ又は複数のマーカーに対してネガティブ(マーカー陰性(marker-))又は比較的低レベル(マーカー低(markerlow))に発現する細胞が濃縮されるか、又は枯渇される。例えば、ある特定の態様では、CD28陽性、CD62L陽性、CCR7陽性、CD27陽性、CD127陽性、CD4陽性、CD8陽性、CD45RA陽性及び/又はCD45RO陽性T細胞等の1つ又は複数の表面マーカーを陽性又は高レベルで発現する細胞等のT細胞の特定のサブ集団が、ポジティブ又はネガティブ選択技術によって単離される。いくつかの例では、このようなマーカーは、あるT細胞集団(非メモリー細胞等)では存在しないか、比較的低いレベルで発現しているが、他のあるT細胞集団(メモリー細胞等)では存在するか、比較的高いレベルで発現しているマーカーである。一実施形態では、前記細胞(例えば、CD8陽性細胞又はT細胞、例えば、CD3陽性細胞)は、CD45RO、CCR7、CD28、CD27、CD44、CD127、及び/又はCD62Lがポジティブであるか又は高い表面レベルを発現している細胞が濃縮され(すなわち、ポジティブ選択されている)、及び/又は、CD45RAがポジティブであるか又は高い表面レベルを発現している細胞が枯渇している(例えば、ネガティブ選択されいる)。いくつかの実施形態では、前記細胞は、CD122、CD95、CD25、CD27及び/又はIL7-Ra(CD127)のポジティブ細胞又は高表面レベルを発現する細胞が濃縮されるか、又は枯渇される。ある例示的な実施形態では、CD8陽性T細胞は、CD45ROポジティブ(又はCD45RAネガティブ)及びCD62Lポジティブ陽の細胞について濃縮される。例えば、CD3陽性、CD28陽性T細胞は、CD3/CD28結合磁気ビーズ(例えば、DYNABEADS(登録商標)M-450 CD3/CD28 T細胞エクスパンダー(Expander))を使用して確実に選択できる。
【0273】
いくつかの実施形態では、T細胞は、B細胞、単球又はCD14等の他の白血球等の非T細胞上に発現するマーカーのネガティブ選択によってPBMCサンプルから分離される。ある態様では、CD4陽性又はCD8陽性選択ステップを使用して、CD4陽性ヘルパーT細胞とCD8陽性細胞傷害性T細胞を分離する。このようなCD4陽性及びCD8陽性集団は、1つ又は複数のナイーブ、メモリー及び/又はエフェクターT細胞サブ集団で比較的高い程度に発現されているか又は発現しているマーカーに対するポジティブ選択又はネガティブ選択によって、サブ集団にさらに分類できる。いくつかの実施形態では、CD8陽性細胞は、それぞれのサブ集団に関連する表面抗原に基づくポジティブ選択又はネガティブ選択等によって、ナイーブ、セントラルメモリー、エフェクターメモリー及び/又はセントラルメモリー幹細胞がさらに濃縮されるか、又は枯渇される。いくつかの実施形態では、投与後の長期生存、増殖及び/又は移植を改善する等の有効性を高めるために、セントラルメモリーT(TCM)細胞の濃縮が行われ、これは特定の局面ではそのようなサブ集団において特に強力である。
【0274】
いくつかの実施形態では、TCMが豊富なCD8陽性T細胞とCD4陽性T細胞を組み合わせることで、有効性がさらに増強される。いくつかの実施形態では、メモリーT細胞は、CD8陽性末梢血リンパ球のCD62L陽性サブセットとCD62L陰性サブセットの両方に存在する。PBMCは、抗CD8抗体や抗CD62L抗体等を使用して、CD62L陰性CD8陽性及び/又はCD62L陽性CD8陽性画分を濃縮したり枯渇したりすることができる。いくつかの実施形態では、CD4陽性T細胞集団及び/又はCD8陽性T細胞集団は、セントラルメモリー(TCM)細胞について濃縮されている。いくつかの実施形態では、セントラルメモリーT(TCM)細胞の濃縮は、CD45RO、CD62L、CCR7、CD28、CDS及び/又はCD127のポジティブ選択又は高い表面発現に基づいており、ある態様では、CD45RA及び/又はグランザイムBを発現又は高度に発現する細胞のネガティブ選択に基づいている。ある態様では、TCM細胞が濃縮されたCD8陽性集団の単離は、CD4、CD14、CD45RAを発現する細胞の枯渇及びCD62Lを発現する細胞のポジティブ選択又は濃縮によって実行される。一態様では、セントラルメモリーT(TCM)細胞の濃縮は、CD4発現に基づいて選択された細胞のネガティブ画分から開始して行われ、CD14及びCD45RAの発現に基づくネガティブ選択と、CD62Lに基づくポジティブ選択に供される。ある態様では、このような選択は、同時に実行され、他の態様では、何れかの順序で順次実行される。ある特定の方法では、CD8陽性細胞集団又はサブ集団を調製する際に使用されるのと同じCD4発現ベースの選択ステップが、CD4陽性細胞集団又はサブ集団の生成にも使用され、CD4ベースの分離からのポジティブ及びネガティブ画分の両方が保持され、方法の後続のステップで、必要に応じて1つ又は複数のさらなるポジティブ又はネガティブ選択ステップに続いて使用される。
【0275】
CD4陽性Tヘルパー細胞は、細胞表面抗原を持つ細胞集団を識別して、ナイーブ、セントラルメモリー及びエフェクター細胞に分類される。CD4陽性リンパ球は標準的な方法で得ることができる。いくつかの実施形態では、ナイーブCD4陽性Tリンパ球は、CD45RO陰性、CD45RA陽性、CD62L陽性、CD4陽性T細胞である。いくつかの実施形態では、セントラルメモリーCD4陽性細胞は、CD62L陽性及びCD45RO陽性である。いくつかの実施形態では、エフェクターCD4陽性細胞は、CD62L及びCD45ROである。一例では、ネガティブ選択によってCD4陽性細胞を濃縮するために、モノクローナル抗体カクテルには通常、CD14、CD20、CD11b、CD16、HLA-DR及びCDSに対する抗体が含まれる。いくつかの実施形態では、抗体又は結合パートナーは、磁性ビーズ又は常磁性ビーズ等の固体支持体又はマトリックスに結合され、ポジティブ及び/又はネガティブ選択のための細胞の分離を可能にする。
【0276】
いくつかの実施形態では、細胞は遺伝子組み換えの前又は遺伝子組み換えに関連してインキュベート及び/又は培養される。インキュベーションのステップには、培養、栽培、刺激、活性化、及び/又は増殖が含まれる。いくつかの実施形態では、前記組成物又は細胞は、刺激条件又は刺激剤の存在下でインキュベートされる。このような条件には、集団内の細胞の増殖、拡大、活性化及び/又は生存を誘導し、抗原曝露を模倣し及び/又は組換え抗原受容体の導入等の遺伝子組み換えのために細胞を準備するように設計された条件が含まれる。前記条件には、特定の媒体、温度、酸素含有量、二酸化炭素含有量、時間、因子(栄養素、アミノ酸、抗生物質、イオン等)及び/又は刺激因子(サイトカイン、ケモカイン、抗原、結合パートナー、融合タンパク質、組換え可溶性受容体等)及び細胞を活性化するように設計されたその他の因子のうちの1つ又は複数が含まれる。いくつかの実施形態では、前記刺激条件又は刺激因子には、TCR複合体の細胞内シグナル伝達ドメインを活性化することができる1つ又は複数の因子、例えばリガンドが含まれる。ある態様では、前記薬剤は、T細胞内のTCR/CD3細胞内シグナル伝達カスケードをオン又は開始する。このような薬剤には、例えばビーズ等の固体支持体に結合した、TCR成分及び/又は共刺激受容体に特異的な抗体、例えば抗CD3、抗CD28及び/又は1つ又は複数のサイトカイン等の抗体が含まれる。必要に応じて、増殖方法は、抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体を培養培地に添加するステップをさらに含んでもよい(例えば、少なくとも約0.5ng/mlの濃度で)。いくつかの実施形態では、前記刺激剤としては、IL-2及び/又はIL-15が含まれ、例えば、IL-2濃度は少なくとも約10ユニット/mlである。
【0277】
別の実施形態では、例えばPERCOLL(登録商標)勾配による遠心分離によって赤血球を溶解し、単球を枯渇させることによって、T細胞を末梢血から単離する。あるいは、T細胞を臍帯から単離することもできる。いずれにしても、T細胞の特定のサブ集団は、ポジティブ又はネガティブ選択技術によってさらに単離することができる。
【0278】
このように単離された臍帯血単核細胞は、CD34、CDS、CD14、CD19及びCD56を含むがこれらに限定されないある抗原を発現する細胞を枯渇することができる。これらの細胞の枯渇は、単離された抗体、腹水等の抗体を含む生物学的サンプル、物理的支持体に結合した抗体、及び細胞に結合した抗体を使用して達成することができる。
【0279】
ネガティブ選択によるT細胞集団の濃縮は、ネガティブ選択された細胞に特有の表面マーカーを標的とする抗体の組み合わせを使用して達成することができる。例示的な方法としては、ネガティブ選択された細胞上に存在する細胞表面マーカーに対するモノクローナル抗体のカクテルを使用するネガティブ磁気免疫接着又はフローサイトメトリーによる細胞選別及び/又は選択がある。例えば、ネガティブ選択によって、CD4陽性細胞を濃縮するために、モノクローナル抗体カクテルには、通常、CD14、CD20、CD11b、CD16、HLA-DR及びCDSに対する抗体が含まれる。
【0280】
ポジティブ又はネガティブ選択によって所望の細胞集団を単離するために、細胞及び表面(例えば、ビーズ等の粒子)の濃度を変えることができる。ある実施形態では、細胞とビーズの接触を最大限にするために、ビーズと細胞が混合される体積を大幅に減らす(すなわち、細胞の濃度を高める)ことが望ましい場合がある。例えば、一実施形態では、20億細胞/mlの濃度が使用される。一実施形態では、10億細胞/mlの濃度が使用される。さらなる実施形態では、1億個/mlを超える細胞が使用される。さらなる実施形態では、1000万、1500万、2000万、2500万、3000万、3500万、4000万、4500万又は5000万細胞/mlの細胞濃度が使用される。さらに別の実施形態では、7500万個、8000万個、8500万個、9000万個、9500万個又は1億個/mlの細胞濃度が使用される。さらなる実施形態では、1億2500万個/ml又は1億5000万個/mlの濃度を使用することができる。高濃度を使用すると、細胞収量、細胞活性化、細胞増殖が増加する。
【0281】
T細胞は洗浄工程後に凍結することもでき、その場合には単球除去工程は不要である。理論に縛られることは望まないが、凍結とそれに続く解凍のステップにより、細胞集団内の顆粒球とある程度の単球が除去され、より均一な製品が提供される。血漿と血小板を除去する洗浄工程の後、細胞を凍結溶液に懸濁することができる。多くの凍結溶液及びパラメータは当該技術分野で知られており、この文脈で有用であるが、限定されない例として、1つの方法としては、20%のDMSO及び8%のヒト血清アルブミンを含むPBS又はその他の適切な細胞凍結媒体を使用することが挙げられる。その後、細胞は毎分1℃の速度で-80℃まで凍結され、液体窒素貯蔵タンクの気相で保存される。-20℃又は液体窒素で直ちに制御されていない凍結だけでなく、他の制御された凍結方法も使用できる。
【0282】
一実施形態では、T細胞集団は、末梢血単核細胞、臍帯血細胞、精製されたT細胞集団及びT細胞株等の細胞内に含まれる。別の実施形態では、末梢血単核細胞が、T細胞の集団を構成する。さらに別の実施形態では、精製されたT細胞が、T細胞集団を含む。
【0283】
いくつかの実施形態では、免疫細胞は、血液サンプル、全血サンプル、末梢血単核細胞(PBMC)サンプル又はアフェレーシスサンプルから得られる。いくつかの例では、対象の循環血液からの細胞は、例えば、アフェレーシス又は白血球除去によって得られる。一実施形態では、免疫細胞は、個体の循環血液から、アフェレーシス又は白血球除去によって得られる。アフェレーシス製品には通常、T細胞、単球、顆粒球、B細胞、その他の有核白血球、赤血球、血小板等のリンパ球が含まれる。いくつかの実施形態では、アフェレーシスサンプルは、凍結保存されたサンプルである。いくつかの実施形態では、アフェレーシスサンプルは新鮮なサンプルである。いくつかの実施形態では、免疫細胞はヒト対象から得られる。
V11. 組成物:
【0284】
一態様において、本発明は、本明細書に記載された修飾免疫細胞又は本明細書に記載された方法の何れかから得られた修飾免疫細胞の集団を含む組成物を提供する。いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、本明細書に記載の修飾非刺激T細胞又は修飾刺激T細胞を含み得る。いくつかの実施形態では、前記組成物は、医薬組成物を含み得る。いくつかの実施形態では、前記組成物は、医薬組成物を含み、さらに1つ又は複数の医薬的又は生理学的に許容される担体、希釈剤、補助剤又は賦形剤を含む。このような組成物には、中性緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水等の緩衝剤、グルコース、マンノース、スクロース、デキストラン、マンニトール等の炭水化物、タンパク質、グリシン等のポリペプチド又はアミノ酸、抗酸化剤、EDTA又はグルタチオン等のキレート剤、アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム)及び防腐剤が含まれ得る。本発明の組成物は、好ましくは、非経口投与(例えば、静脈内投与)用に製剤化される。いくつかの実施形態では、前記修飾T細胞を含む医薬組成物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することができる。
VIII. 治療方法:
【0285】
一態様において、本開示は、本発明の修飾免疫細胞を、それを必要とする対象に投与することを含む、養子細胞移植療法のための方法を提供する。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されているのは、対象における疾患又は症状を治療する方法であり、その方法は、本明細書に記載の修飾T細胞の集団、例えば、本明細書に記載の修飾非刺激T細胞の集団又は修飾刺激T細胞の集団を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態では、本発明は、本明細書に記載の修飾免疫細胞を含む組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、対象における疾患又は症状を治療する方法を含む。いくつかの実施形態では、対象における疾患又は症状を治療する方法は、それを必要とする対象に、CD3δ、CD3ε、CD3γ、B2M、CIITA、TAP1、TAP2、TAPBP、NLRC5、HLA-DM、RFX5、RFXANK、RFXAP及びインバリアント鎖(Ii鎖)からなる群から選択される内因性免疫タンパク質をそれぞれコードする1つ又は複数の遺伝子座位における挿入及び/又は欠失を含む修飾免疫細胞(例えば、T細胞)と、キメラ抗原受容体(CAR)、組み換えT細胞受容体(TCR)、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)、抗原結合ポリペプチド、細胞表面受容体リガンド又は腫瘍抗原をコードする外因性核酸とを投与することを含む。いくつかの実施形態では、前記挿入及び/又は欠失は、1つ又は複数の内因性免疫遺伝子の遺伝子発現を下方制御することができる。
【0286】
いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞は、ドミナントネガティブ受容体、スイッチ受容体、ケモカイン、ケモカイン受容体、サイトカイン、サイトカイン受容体、IL-7、IL-7R、IL-15、IL-15R、IL-21、IL-18、CCL21、CCL19又はそれらの組み合わせをさらに含む。いくつかの例では、前記疾患は、癌であり、いくつかの例では、固形腫瘍又は血液悪性腫瘍である。いくつかの例では、前記修飾非刺激T細胞又は修飾刺激T細胞は、それぞれ、癌によって発現される抗原に特異的な抗原結合ドメインを発現する。いくつかの実施形態では、前記方法は、本明細書の他の箇所に記載されているように、遺伝子発現を下方制御することができる核酸、TCR、KIR、CAR、ドミナントネガティブ受容体及び/又はスイッチ受容体を含む修飾免疫細胞(例えば、T細胞)を、それを必要とする対象に投与することを含む。いくつかの実施形態では、前記修飾免疫細胞は、普遍的なTCRリダイレクト(redirected)T細胞(例えば、同種異系T細胞)である。
【0287】
いくつかの実施形態では、前記癌は、固形腫瘍である。例示的な固形腫瘍には、膀胱癌、骨癌、脳癌(例えば、神経膠腫、神経膠芽腫、神経芽腫)、乳癌、大腸癌、食道癌、眼癌、頭頸部癌、腎臓癌、肺癌、黒色腫、中皮腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌又は胃癌が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの例では、前記固形腫瘍は、脳腫瘍(神経膠腫、膠芽腫、神経芽腫等)、乳がん、肺がん、黒色腫、中皮腫、卵巣がん、膵臓がん又は前立腺がんであり得る。いくつかの例では、前記固形腫瘍は、転移性癌であり得る。いくつかの例では、前記固形腫瘍は、再発性又は難治性の固形腫瘍である。
【0288】
いくつかの実施形態では、前記癌は、血液悪性腫瘍である。いくつかの実施形態では、前記血液悪性腫瘍は、B細胞悪性腫瘍又はT細胞悪性腫瘍である。いくつかの実施形態では、前記血液悪性腫瘍は、リンパ腫、白血病又は骨髄腫である。いくつかの実施形態では、前記血液悪性腫瘍は、ホジキンリンパ腫又は非ホジキンリンパ腫である。例示的な血液悪性腫瘍には、慢性リンパ性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、濾胞性リンパ腫(FL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、多発性骨髄腫、節外辺縁帯B細胞リンパ腫、節性辺縁帯B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、非バーキット高悪性度B細胞リンパ腫、原発性縦隔B細胞リンパ腫(PMBL)、免疫芽球性大細胞リンパ腫、前駆Bリンパ芽球性リンパ腫、B細胞前リンパ球性白血病、リンパ形質細胞性リンパ腫、脾臓辺縁帯リンパ腫、形質細胞骨髄腫、形質細胞腫、縦隔(胸腺)大細胞型B細胞リンパ腫、血管内大細胞型B細胞リンパ腫、原発性滲出液リンパ腫、又はリンパ腫様肉芽腫症が含まれるが、これらに限定されるわけではない。いくつかの例では、血液悪性腫瘍は転移性の血液悪性腫瘍である。いくつかの例では、血液悪性腫瘍は再発性又は難治性の血液悪性腫瘍である。
【0289】
いくつかの実施形態では、前記疾患を治療する方法は、対象に追加の治療剤又は追加の療法を投与することをさらに含む。いくつかの例では、本明細書に開示の追加の治療薬には、化学療法薬、免疫療法薬、標的療法、放射線療法又はそれらの組み合わせが含まれる。例示的な追加の治療薬には、アルトレタミン、ブスルファン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、ダカルバジン、ロムスチン、メルファラン、オキサラプラチン、テモゾロミド又はチオテパ等のアルキル化剤、5-フルオロウラシル(5-FU)、6-メルカプトプリン(6-MP)、カペシタビン、シタラビン、フロクスウリジン、フルダラビン、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、メトトレキサート又はペメトレキセド等の代謝拮抗薬、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン等のアントラサイクリン、トポテカン又はイリノテカン(CPT-11)等のトポイソメラーゼI阻害剤、エトポシド(VP-16)、テニポシド又はミトキサントロン等のトポイソメラーゼII阻害剤、ドセタキセル、エストラムスチン、イクサベピロン、パクリタキセル、ビンブラスチン、ビンクリスチン又はビノレルビン等の有糸分裂阻害剤、又は、プレドニゾン、メチルプレドニゾロン又はデキサメタゾン等のコルチコステロイド等が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの例では、追加の治療薬は、第一選択療法(first-line therapy)を含む。本明細書において、「第一選択療法(first-line therapy)」とは、癌患者に対する一次治療(primary treatment)を意味する。いくつかの例では、前記癌は、原発性癌である。他の場合には、前記癌は、転移性癌又は再発性癌である。いくつかの例では、第一選択療法として化学療法が行われる。その他の場合には、第一選択治療は、放射線療法となる。熟練した技術者であれば、異なる種類の癌には異なる第一選択治療が適用可能であることを容易に理解するであろう。いくつかの例では、前記追加の治療薬には、免疫チェックポイント阻害剤が含まれる。いくつかの例では、免疫チェックポイント阻害剤(immune checkpoint inhibitor)は、抗体又はそのフラグメント(例えば、モノクローナル抗体、ヒト、ヒト化又はキメラ抗体);RNAi分子;PD-1、PD-L1、CTLA4、PD-L2、LAG3、B7-H3、KIR、CD137、PS、TFM3、CD52、CD30、CD20、CD33、CD27、OX40、GITR、ICOS、BTLA(CD272)、CD160、2B4、LAIR1、TIGHT、LIGHT、DR3、CD226、CD2又はSLAMに対する小分子、等の阻害剤を含む。例示的なチェックポイント阻害剤には、ペンブロリズマブ、ニボルマブ、トレメリムマブ又はイピリムマブが含まれる。いくつかの実施形態では、前記追加の治療は、放射線療法を含む。
【0290】
いくつかの実施形態では、追加の治療は、手術を含む。
IX. キット及び製造品:
【0291】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のキット又は製造品(article of manufacture)には、修飾T細胞(例えば、修飾非刺激T細胞又は修飾刺激T細胞)の1つ又は複数の集団が含まれる。いくつかの例では、本明細書に記載のキット又は製造品には、バイアル、チューブ等の1つ又は複数の容器(containers)を収容するために区画化されたキャリア、パッケージ又は容器がさらに含まれ、各容器は、本明細書に記載の方法で使用される個別の要素の1つを含む。適切な容器としては、例えば、ボトル、バイアル、注射器及び試験管等が挙げられる。一実施形態では、前記容器は、ガラス及びプラスチック等のさまざまな材料から形成される。
【0292】
本明細書で提供される製造品にはパッケージ材料が含まれる。医薬品パッケージ材料の例には、ブリスターパック、ボトル、チューブ、バッグ、容器、ボトル及び選択された処方と意図されたモードでの投与及び治療方法に適したあらゆるパッケージ材料が含まれるが、これらに限定されない。
【0293】
キットには通常、内容物及び/又は使用説明書を記載したラベル、及び使用説明書を記載したパッケージ挿入物が含まれる。説明書一式も通常含まれる。
IX. 定義:
【0294】
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載されている方法及び材料と同様又は同等の方法及び材料を本開示の実施又は試験に使用することができるが、本明細書では適切な方法及び材料について説明する。
【0295】
また、本明細書で使用されている用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、限定するものではないことも理解されるべきである。
【0296】
本開示の実施(practice)では、特に断らない限り、組織培養、免疫学、分子生物学、微生物学、細胞生物学及び組換えDNAの従来技術を用いるが、これらは当業者の技術範囲内である。例えば、
Green and Sambrook eds.(2012)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,4th edition、
the series Ausubel et al.eds.(2015)Current Protocols in Molecular Biology、
the series Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.,N.Y.)、
MacPherson et al.(2015)PCR 1:A Practical Approach(IRL Press at Oxford University Press)、
MacPherson et al.(1995)PCR 2:A Practical Approach; McPherson et al.(2006)PCR:The Basics(Garland Science)、
Harlow and Lane eds.(1999)Antibodies, A Laboratory Manual、
Greenfield ed.(2014)Antibodies,A Laboratory Manual;Freshney(2010)Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique,6th edition、
Gait ed.(1984)Oligonucleotide Synthesis、
Hames and Higgins eds.(1984)Nucleic Acid Hybridization、
Anderson(1999)Nucleic Acid Hybridization、
Herdewijn ed.(2005)Oligonucleotide Synthesis:Methods and Applications、
Hames and Higgins eds.(1984)Transcription and Translation、
Buzdin and Lukyanov ed.(2007)Nucleic Acids Hybridization:Modern Applications、
Immobilized Cells and Enzymes(IRL Press (1986))、
Grandi ed.(2007) in vtro Transcription and Translation Protocols,2nd edition、
Guisan ed.(2006)Immobilization of Enzymes and Cells、
Perbal(1988)A Practical Guide to Molecular Cloning,2nd edition、
Miller and Calos eds,(1987)Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(Cold Spring Harbor Laboratory)、
Makrides ed.(2003)Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells、
Mayer and Walker eds.(1987)Immunochemical Methods in Cell and Molecular Biology(Academic Press, London)、
Lundblad and Macdonald eds.(2010)Handbook of Biochemistry and Molecular Biology, 4th edition、及び、
Herzenberg et al. eds(1996)Weir’s Handbook of Experimental Immunology,5th edition、が挙げられる。
【0297】
本明細書において、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明らかに別段の定めがない限り、複数の指示対象も含むものとする。例えば、「細胞」という用語には、複数の細胞(それらの混合物を含む)が含まれ、1つの細胞又は1つ又は複数の細胞を意味する。
【0298】
本明細書で使用される場合、用語「約」は、値を決定するために使用されているデバイス又は方法の標準偏差の誤差が値に含まれることを示すために使用される。温度、時間、量、濃度等の数値指定の前に使用される「約」という用語は、範囲を含め、(+)又は(-)(±)20%、15%、10%、5%、3%、2%又は1%変化する可能性がある近似値を示す。好ましくは、規定値から±5%、より好ましくは±1%、さらに好ましくは±0.1%であり、このような変動は開示された方法を実施するのに適切である。
【0299】
本明細書に使用される場合、用語「活性化」は、検出可能な細胞増殖を誘導するのに十分な刺激を受けたT細胞の状態を指す。活性化は、誘導されたサイトカイン産生や検出可能なエフェクター機能とも関連している可能性がある。「活性化T細胞」という用語は、とりわけ細胞分裂中のT細胞を指す。
【0300】
「同種異形(allogeneic)」とは、その物質が導入される個体と同じ種の異なる動物に由来する物質を指す。2つ以上の個体が、1つ又は複数の遺伝子座の遺伝子が同一でない場合、互いに同種異系であると言われる。いくつかの態様では、同じ種の個体からの同種異系物質は、抗原的に相互作用するほど遺伝的に異なっている可能性がある。
【0301】
本明細書で使用される場合、用語「同種異形T細胞標的(allogeneic T cell target)」又は「同種異形T細胞(allogeneic T cell」」は、宿主対移植片応答を媒介又は寄与する、移植片対宿主応答を媒介又は寄与する又は免疫抑制剤の標的であるタンパク質、並びに前記分子をコードする遺伝子及びそれに関連する調節要素(例えば、プロモーター)を指す。同種異形T細胞標的という用語は、標的配列又はgRNA分子に関連して使用される場合、同種異形T細胞標的タンパク質をコードする遺伝子(及びそれに関連する調節要素)を指すことが理解されるであろう。理論に拘束されるものではないが、1つ又は複数の同種異形T細胞標的の阻害又は除去(elimination)(例えば、本明細書に開示された方法及び組成物による)は、同種異形細胞の有効性、生存、機能及び/又は生存率を改善し得る。いくつかの実施形態では、望ましくない免疫原性(宿主対移植片反応又は移植片対宿主反応等)を低減又は排除することによって、同種異形細胞の有効性、生存、機能及び/又は生存率が改善される。いくつかの実施形態では、移植片対宿主応答又は宿主対移植片応答を媒介又は寄与するタンパク質は、T細胞受容体複合体の1つ又は複数の成分である。いくつかの実施形態では、T細胞受容体複合体の成分は、T細胞受容体アルファー、つまりTCRアルファーの定常ドメイン(TRAC;TCRα)である。いくつかの実施形態では、T細胞受容体の成分は、T細胞受容体ベータ鎖(TRBC;TCR-β)、例えばTCRベータの定常ドメイン1(TRBC1)又は定常ドメイン2(TRBC2)である。いくつかの実施形態では、T細胞受容体の成分は、T細胞受容体デルタ鎖(CD3δ)、T細胞受容体イプシロン鎖(CD3ε)、T細胞受容体ゼータ鎖(CD3ζ;CD247)及び/又はT細胞受容体ガンマ鎖(CD3γ)である。いくつかの実施形態では、同種異形T細胞標的によってコードされるタンパク質がTCRシグナル伝達複合体の成分である場合、同種異形T細胞標的をコードする遺伝子は、例えば、TRAC、TRBC1、TRBC2、CD3δ、CD3ε、CD3γ又はCD3ζ(CD247)、あるいはそれらの任意の組み合わせであり得る。
【0302】
本明細書で使用される場合、用語「抗体」は、抗原と特異的に結合する免疫グロブリン分子を指す。抗体は、天然ソース又は組み換えソースから得られた完全な免疫グロブリンである場合があり、また完全な免疫グロブリン(intact immunoglobulins)の免疫反応性部分である場合もある。抗体は通常、免疫グロブリン分子の四量体である。本発明における抗体は、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fv、Fab、F(ab)2並びに単鎖抗体(scFv)及びヒト化抗体を含む様々な形態で存在し得る。いくつかの実施形態では、抗体とは、関心のある対象の抗原(例えば、腫瘍関連抗原)に対して顕著な既知の特異的免疫反応活性を有するアセンブリ(assemblies)(例えば、完全な抗体分子、免疫接着分子(immunoadhesins)又はそれらのバリアント)を指す。抗体と免疫グロブリンは軽鎖と重鎖を含み、それらの間には鎖間共有結合がある場合とない場合がある。脊椎動物系における基本的な免疫グロブリンの構造は比較的よく理解されている。
【0303】
用語「抗体フラグメント」は、完全な抗体の一部を指し、完全な抗体の抗原決定可変領域を指す。抗体フラグメントの例には、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fvフラグメント、線状抗体、scFv抗体、抗体フラグメントから形成された多重特異性抗体等が含まれるが、これらに限定されない。
【0304】
本明細書で使用される場合、用語「抗体重鎖(antibody heavy chain)」は、全ての抗体分子に天然に存在する立体配座で存在する2種類のポリペプチド鎖のうち大きい方を指す。
【0305】
本明細書において、「抗体軽鎖(antibody light chain)」とは、全ての抗体分子に天然に存在する2種類のポリペプチド鎖のうち小さい方を指す。α及びβ軽鎖は、2つの主要な抗体軽鎖アイソタイプ(isotypes)を指す。
【0306】
本明細書で使用される場合、用語「合成抗体」は、組換えDNA技術を使用して生成される抗体、例えば本明細書に記載されるバクテリオファージによって発現される抗体を意味する。この用語は、抗体をコードするDNA分子の合成によって生成され、抗体タンパク質又は抗体を特定するアミノ酸配列を発現するDNA分子を意味するものとも解釈されるべきであり、当該DNA又はアミノ酸配列は、当該技術分野で利用可能かつ周知の合成DNA又はアミノ酸配列技術を使用して得られる。
【0307】
(例えば、キメラ抗原受容体)の抗原結合ドメインには、抗体バリアントが含まれる。本明細書で使用される場合、用語「抗体バリアント」には、少なくとも2つの重鎖部分を含むが2つの完全な重鎖を含まない抗体(ドメイン削除抗体(domain deleted antibodies)又はミニボディ等)、2つ以上の異なる抗原又は単一の抗原上の異なるエピトープに結合するように変更された抗体の多重特異性形態(二重特異性、三重特異性等)、scFv分子に結合された重鎖分子等、自然には存在しないように変更された合成及び組み換えられた抗体の形態が含まれる。さらに、「抗体バリアント」という用語には、抗体の多価形態(例えば、三価、四価等、同じ抗原の3つ、4つ又はそれ以上のコピーに結合する抗体)が含まれる。
【0308】
本明細書で使用される場合、用語「抗原」又は「Ag」は、免疫応答を誘発する分子として定義される。この免疫反応には、抗体産生か、特定の免疫担当細胞(immunologically-competent cells)の活性化あるいはその両方が関与する。熟練した技術者であれば、事実上全てのタンパク質又はペプチドを含むあらゆる高分子が抗原として機能できることを理解するであろう。さらに、抗原は、組み換えDNA又はゲノムDNA由来であり得る。当業者であれば、免疫反応を誘発する(elicits)タンパク質をコードするヌクレオチド配列又は部分的ヌクレオチド配列を含むDNAは、本明細書で使用される用語の意味で「抗原」をコードすることを理解するであろう。さらに、当業者であれば、抗原は、遺伝子の全長ヌクレオチド配列のみによってコード化される必要はないことを理解するであろう。本発明には、1つ以上の遺伝子の部分的なヌクレオチド配列の使用が含まれるが、これに限定されるものではなく、これらのヌクレオチド配列は、所望の免疫応答を誘発するために様々な組み合わせで配置されることは容易に明らかである。さらに、当業者は、抗原が「遺伝子」によってコード化される必要が全くないことを理解するであろう。抗原は合成して生成することも、生物学的サンプルから抽出することもできることは明らかである。このような生物学的サンプルには、組織サンプル、腫瘍サンプル、細胞又は生物学的液体が含まれるが、これらに限定されない。
【0309】
本明細書で使用される場合、用語「抗腫瘍効果(anti-tumor effect)」は、腫瘍容積の減少、腫瘍細胞数の減少、転移数の減少、平均余命の延長又は癌状態に関連する様々な生理学的症状の改善によって現れ得る生物学的効果を指す。いくつかの実施形態では、「抗腫瘍効果」は、本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、細胞及び抗体がそもそも腫瘍の発生を予防する能力によっても発現され得る。
【0310】
本明細書で使用される場合、用語「自己抗原(auto-antigen)」は、本発明によれば、免疫系によって異物として認識される任意の自己抗原(self-antigen)を意味する。いくつかの実施形態では、自己抗原は、細胞表面受容体を含む、細胞タンパク質、リン酸化タンパク質、細胞表面タンパク質、細胞脂質、核酸、糖タンパク質を含むが、これらに限定されない。
【0311】
本明細書で使用される場合、「自己免疫疾患(autoimmune disease)」という用語は、自己免疫反応に起因する疾患として定義される。自己免疫疾患は、自己抗原に対する不適切かつ過剰な反応の結果である。自己免疫疾患の例には、アジソン病、円形脱毛症、強直性脊椎炎、自己免疫性肝炎、自己免疫性耳下腺炎、癌、クローン病、糖尿病(I型)、栄養障害性表皮水疱症、精巣上体炎、糸球体腎炎、バセドウ病、ギラン・バレー症候群、橋本病、溶血性貧血、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、乾癬、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、脊椎関節症、甲状腺炎、血管炎、白斑、粘液水腫、悪性貧血、潰瘍性大腸炎等が含まれるが、これらに限定されない。
【0312】
本明細書で使用される場合、用語「自己(autologous)」は、後にその材料が再導入され(re-introduced)得る同じ個体に由来する任意の材料を指すものとする。
【0313】
本明細書で使用される場合、用語「癌」は、異常細胞の急速かつ制御不能な成長を特徴とする疾患を指す。癌細胞は局所的に広がることもあれば、血流やリンパ系を通じて体の他の部位に広がることもあり得る。各種癌の例には、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、皮膚癌、膵臓癌、大腸癌、腎臓癌、肝臓癌、脳腫瘍、リンパ腫、白血病、肺癌、転移性去勢抵抗性前立腺癌、黒色腫、滑膜肉腫、進行性TnMuc1陽性固形腫瘍、神経芽細胞腫、神経内分泌腫瘍等が含まれるが、これらに限定されない。ある実施形態では、前記癌は、甲状腺髄様癌(medullary thyroid carcinoma)である。ある実施形態では、前記癌は、前立腺癌である。ある実施形態では、癌は、中皮腫又はメソテリン発現癌(mesothelin expressing cancer)である。いくつかの実施形態では、前記癌は、転移性去勢抵抗性前立腺癌である。本明細書では、「癌」及び「腫瘍」という用語は互換的に使用され、両方の用語は、固形腫瘍及び液性腫瘍、拡散性腫瘍又は循環性腫瘍を包含する。いくつかの実施形態では、前記癌又は腫瘍には、前癌状態(premalignant)、並びに悪性の癌及び腫瘍が含まれる。
【0314】
本明細書で使用される場合、「癌関連抗原」又は「腫瘍抗原」という用語は、互換的に、癌細胞の表面に全体又はフラグメント(例えば、MHC/ペプチド)として発現し、癌細胞への薬理学的薬剤の優先的標的化に有用な分子(典型的にはタンパク質、炭水化物又は脂質)を互換的に指す。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原は、正常細胞と癌細胞の両方によって発現されるマーカー(例えば、B細胞上のCD19等の系統マーカー(lineage marker))である。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原は、正常細胞と比較して癌細胞で過剰発現される細胞表面分子であり、例えば、正常細胞と比較して1倍の過剰発現、2倍の過剰発現、3倍又はそれ以上の過剰発現である。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原は、癌細胞内で不適切に合成される細胞表面分子であり、例えば、正常細胞上で発現される分子と比較して、欠失、付加又は変異を含む分子である。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原は、癌細胞の細胞表面のみに、全体又はフラグメント(例えば、MHC/ペプチド)として発現され、正常細胞の表面では合成又は発現されない。いくつかの実施形態では、本発明のCARには、MHC提示ペプチド(MHC presented peptide)に結合する抗原結合ドメイン(例えば、抗体又は抗体フラグメント)を含むCARが含まれる。通常、内因性タンパク質に由来するペプチドは、主要組織適合性複合体(MHC)クラスI分子のポケット(pockets)を満たし、CD8陽性Tリンパ球上のT細胞受容体(TCR)によって認識される。MHCクラスI複合体は、全ての核細胞によって恒常的(constitutively)に発現される。前記癌においては、ウイルス特異的及び/又は腫瘍特異的ペプチド/MHC複合体は、免疫療法における細胞表面標的の独特なクラスを表す。ヒト白血球抗原(HLA)-A1又はHLA-A2のコンテキストでウイルス抗原又は腫瘍抗原に由来するペプチドを標的とするTCR様抗体が記載されている。例えば、TCR様抗体は、ヒトscFvファージディスプレイライブラリ等のライブラリをスクリーニングすることで特定できる。
【0315】
本明細書で使用される場合、用語「癌支持抗原(cancer-supporting antigen)」又は「腫瘍支持抗原(tumor-supporting antigen)」は、それ自体は癌性ではないが、癌細胞の成長又は生存を促進することによって癌細胞を支持する(例えば、免疫細胞に対する抵抗性)分子(典型的にはタンパク質、炭水化物又は脂質)を互換的に指す。このタイプの例示的な細胞には、間質細胞及び骨髄由来抑制細胞(MDSC)が含まれる。腫瘍支持抗原自体は、癌細胞を支持する細胞上に存在している限り、腫瘍細胞を支持する役割を果たす必要はない。
【0316】
本明細書で使用される場合、用語「Cas」、「Cas分子(Cas molecule)」、又は「Cas分子(Cas molecule)」は、DNA切断を担う細菌のII型CRISPR/Cas系(bacterial Type II CRISPR/Cas system)由来の酵素を指す。Casには、野生型タンパク質だけでなく、その機能的及び非機能的なバリアントも含まれる。
【0317】
本明細書で使用される場合、用語「キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor)」又は「CAR」は、免疫エフェクター細胞又はその前駆細胞上で発現され、抗原に特異的に結合するように組み換えられた人工T細胞受容体を指す。CARは、養子細胞移植による養子細胞療法に使用され得る。いくつかの実施形態では、養子細胞移植(又は治療)は、患者からT細胞を除去し、特定の抗原に特異的な受容体を発現するようにT細胞を修飾することを含む。いくつかの実施形態では、前記CARは、選択された標的、例えば、ROR1、メソテリン、c-Met、PSMA、PSCA、葉酸受容体アルファー、葉酸受容体ベータ、EGFR、EGFRvIII、GPC2、GPC2、ムチン1(MUC1)、Tn抗原((Tn Ag)又は(GalNAca-Ser/Thr))、TnMUC1、GDNFファミリー受容体アルファー4(GFRa4)、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)又はインターロイキン13受容体サブユニットアルファー2(IL-13Ra2又はCD213A2)に対して特異性を有する。いくつかの実施形態では、CARは、細胞内活性化ドメイン、膜貫通ドメイン、及び、腫瘍関連抗原結合領域を含む細胞外ドメインも含み得る。いくつかの態様では、CARは、CD3ゼータ膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインに融合された、単鎖可変フラグメント(scFv)由来のモノクローナル抗体の融合体を含む。CAR設計の特異性は、受容体のリガンド(例えば、ペプチド)に由来し得る。いくつかの実施形態では、CARは、腫瘍関連抗原に特異的なCARを発現するT細胞の特異性をリダイレクトすることによって癌を標的とすることができる。
【0318】
本明細書で使用される場合、用語「切断(cleavage)」は、核酸分子の骨格等の共有結合の切断(breakage)を指す。切断は、リン酸ジエステル結合の酵素的又は化学的加水分解を含むがこれに限定されない、さまざまな方法によって開始できる。一本鎖切断と二本鎖切断の両方が可能である。二本鎖切断は、2つの異なる一本鎖切断イベントの結果として発生し得る。DNA切断により、平滑末端又は交互末端が生成される。ある実施形態では、融合ポリペプチドは、切断された二本鎖DNAを標的とするために使用され得る。
【0319】
本明細書で使用される場合、核酸に関連して使用される「相補的(complementary)」という用語は、塩基の対、すなわち、AとT又はU及びGとCの対を指す。相補的という用語は、参照配列全体にわたってAとT又はUの対及びGとCの対を形成する、完全に相補的な核酸分子、並びに少なくとも80%、85%、90%、95%、99%相補的な分子を指す。
【0320】
本明細書で使用される場合、用語「保存的配列修飾(conservative sequence modifications)」は、アミノ酸配列を含む抗体の結合特性に重大な影響を及ぼさない、又は結合特性を変化させないアミノ酸修飾を指すものとする。このような保存的修飾には、アミノ酸の置換、追加及び削除が含まれる。本発明の抗体には、部位特異的変異誘発やPCR媒介変異誘発等の当技術分野で知られている標準的な技術によって修飾を導入することができる。保存的アミノ酸置換とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を持つアミノ酸残基に置き換えられる置換である。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野で定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖(リジン、アルギニン、ヒスチジン等)、酸性側鎖(アスパラギン酸、グルタミン酸等)、非荷電極性側鎖(グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン等)、非極性側鎖(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン等)、ベータ分岐側鎖(トレオニン、バリン、イソロイシン等)、芳香族側鎖(チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン等)を持つアミノ酸が含まれる。したがって、抗体のCDR領域内の1つ又は複数のアミノ酸残基を、同じ側鎖ファミリーの他のアミノ酸残基に置き換えることができ、変更された抗体は、本明細書に記載された機能アッセイを使用して抗原に結合する能力についてテストすることができる。
【0321】
本明細書で使用される場合、用語「共刺激リガンド(co-stimulatory ligand)」には、抗原提示細胞(antigen presenting cell)(例えば、aAPC、樹状細胞、B細胞等)上の分子が含まれ、T細胞上の同族共刺激分子(cognate co-stimulatory molecule)に特異的に結合し、それによって、例えば、ペプチドをロードしたMHC分子とTCR/CD3複合体の結合によって提供される一次シグナルに加えて、増殖、活性化、分化等を含むがこれらに限定されないT細胞応答を媒介するシグナルを提供する。本明細書で使用する場合、「共刺激リガンド」という用語には、抗原提示細胞(例えば、aAPC、樹状細胞、B細胞等)上の分子が含まれる、抗原提示細胞(例えば、aAPC、樹状細胞、B細胞等)上の分子で、T細胞上の同族共刺激性分子と特異的に結合し、それによって、例えば、ペプチドを負荷した(load)MHC分子とTCR/CD3複合体の結合によって提供される一次シグナルに加えて、増殖、活性化、分化等を含むがこれらに限定されないT細胞応答を媒介するシグナルを提供する。共刺激リガンドには、CD2、CD7、B7-1(CD80)、B7-2(CD86)、PD-L1、PD-L2、4-1BBL、OX40L、誘導性共刺激リガンド(ICOS-L)、細胞間接着分子(ICAM)、CD30L、CD40、CD70、CD83、HLA-G、MICA、MICB、HVEM、リンホトキシンベータ受容体、3/TR6、ILT3、ILT4、HVEM、Tollリガンド受容体に結合するアゴニスト又は抗体及びB7-H3と特異的に結合するリガンドが含まれるが、これらに限定されない。共刺激リガンドはまた、特に、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3等のT細胞上に存在する共刺激分子と特異的に結合する抗体、及びCD83と特異的に結合するリガンドを包含するが、これらに限定されない。
【0322】
本明細書において「共刺激分子(co-stimulatory molecule)」とは、共刺激リガンドと特異的に結合し、それによってT細胞による共刺激応答(増殖等)を媒介する、T細胞上の同族結合パートナー(cognate binding partner)を指す。共刺激分子は、抗原受容体又はそのリガンド以外の細胞表面分子であり、効率的な免疫反応に寄与する。共刺激分子には、MHCクラスI分子、BTLA、Tollリガンド受容体、CD28、4-1BB(CD137)、OX40(CD134)、PD-1、CD7、LIGHT、CD83L、DAP10、DAP12、CD27、CD2、CD5、ICAM-1、LFA-1、Lck、TNFR-I、TNFR-II、Fas、CD30、CD40、ICOS(CD278)、NKG2C、B7-H3(CD276)及びキラー免疫グロブリン様受容体(KIR)に由来する細胞内ドメインが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、共刺激分子には、OX40、CD27、CD2、CD28、ICOS(CD278)及び4-1BB(CD137)が含まれる。このような共刺激分子のさらなる例としては、CDS、ICAM-1、GITR、BAFFR、HVEM(LIGHTR)、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、NKp44、NKp30、NKp46、CD160、CD19、CD4、CD8アルファー、CD8ベータ、IL2Rベータ、IL2Rガンマ、IL7Rアルファー、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、NKG2D、NKG2C、TNFR2、TRANCE RANKL、DNAM1(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96(Tactile)、CEACAM1、CRTAM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、CD69、SLAMF6(NTB-A、Lyl08)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、LAT、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、CD19a、及び、CD83と特異的に結合するリガンドが含まれる。
【0323】
本明細書で使用される場合、用語「共刺激シグナル(co-stimulatory signal)」とは、TCR/CD3ライゲーション等の一次シグナル(primary signal)と組み合わされてT細胞の増殖及び/又は主要分子(key molecules)の上方制御又は下方制御につながるシグナルを指す。共刺激細胞内シグナル伝達ドメインは、共刺激分子の細胞内部分であり得る。共刺激分子は、TNF受容体タンパク質、免疫グロブリン様タンパク質、サイトカイン受容体、インテグリン、シグナル伝達リンパ球活性化分子(SLAMタンパク質)及び活性化NK細胞受容体等のタンパク質ファミリーで表すことができる。このような分子の例としては、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、GITR、CD30、CD40、ICOS、BAFFR、HVEM、ICAM-1、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CDS、CD7、CD287、LIGHT、NKG2C、NKG2D、SLAMF7、NKp80、NKp30、NKp44、NKp46、CD160、B7-H3、及び、CD83と特異的に結合するリガンド等が挙げられる。
【0324】
本明細書で使用される場合、用語「CRISPR」は、クラスター化された規則的に間隔を置いた短い回文反復システムを指す。「CRISPR系」、「CRISPR/Cas」、「CRISPR/Cas系」又は「CRISPR」という用語は、塩基配列の短い繰り返しを含むDNA遺伝子座を指す。各繰り返しの後には、以前のウイルスへの曝露からのスペーサーDNAの短いセグメントが続く。細菌と古細菌は、短いRNAを使用して外来核酸の分解を誘導するCRISPR-CRISPR関連(Cas)系と呼ばれる適応免疫防御を進化させてきた。細菌では、CRISPR系は、RNA誘導DNA切断を介して侵入する外来DNAに対する獲得免疫を提供する。タイプII CRISPR/Cas系では、「スペーサー」と呼ばれる外来DNAの短いセグメントがCRISPRゲノム遺伝子座内に組み込まれ、短いCRISPR RNA(crRNA)に転写及び処理される。これらのcrRNAは、トランス活性化crRNA(tracrRNA)にアニールし、Casタンパク質による病原性DNAの配列特異的切断とサイレンシング(silencing)を誘導する。最近の研究では、Cas9タンパク質による標的認識には、crRNA内の「シード」配列と、crRNA結合領域の上流にある保存されたジヌクレオチドを含むプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列が必要であることが示されている。
【0325】
いくつかの実施形態では、「CRISPR系」、「CRISPR/Cas」、「CRISPR/Cas系」、又は「CRISPR」という用語は、RNA誘導ヌクレアーゼ又は他のエフェクター分子とgRNA分子とを含む分子のセットを指し、これらは、RNA誘導ヌクレアーゼ又は他のエフェクター分子によって標的配列の核酸の修飾を誘導し、それを実行するのに必要かつ十分である。いくつかの実施形態では、CRISPR系は、gRNA及びCasタンパク質、例えば、Cas3、Cas4、Cas8a、Cas8b、Cas9、Cas10、Cas10d、Cas12a、Cas12b、Cas12d、Cas12e、Cas12f、Cas12g、Cas12h、Cas12i、Cas13、Cas14、CasX、Cse1、Csy1、Csn2、Cpf1、C2c1、Csm2、Cmr5、Fok1、S.pyogenes Cas9(spCas9)又はStaphylococcus aureus Cas9(saCas9)タンパク質を含む。Cas又は修飾Cas分子を含むこのような系は、本明細書では「Cas系」又は「CRISPR/Cas系」と呼ばれる。いくつかの実施形態では、gRNA分子とCas分子が複合化されて、リボ核タンパク質(RNP)複合体が形成され得る。
【0326】
Cas9に目的の配列を切断するように指示するために、ヒトU6ポリメラーゼIIIプロモーターから、crRNA-tracrRNA融合転写産物(以下、「ガイドRNA」又は「gRNA」と呼ぶ)を設計することができる。CRISPR/CASを介したゲノム編集と制御は、基礎科学、細胞工学及び治療に対する変革の可能性を強調した。
【0327】
本明細書で使用される場合、gRNA分子に関連して使用される用語「crRNA」は、標的ドメインと、tracrと相互作用して旗竿領域を形成する領域とを含むgRNA分子の一部である。
【0328】
本明細書で使用される場合、用語「CRISPRi」は、転写レベル等での配列特異的な遺伝子抑制又は遺伝子発現の阻害のためのCRISPRシステムを指す。
【0329】
本明細書において、「由来(derived from)」という用語は、第1の分子と第2の分子との関係を指す。これは、第1分子と第2分子間の構造的類似性を定義するものであり、第2分子から派生した第1分子に対するプロセス又はソースの制限を暗示したり含んだりするものではない。例えば、CD3ゼータ分子に由来する細胞内シグナル伝達ドメインの場合、細胞内シグナル伝達ドメインは、必要な機能、すなわち適切な条件下でシグナルを生成する能力を有するのに十分なCD3ゼータ構造を保持している。これは、細胞内シグナル伝達ドメインを生成する特定のプロセスに対する制限を暗示したり含んだりするものではない。細胞内シグナル伝達ドメインを提供するために、CD3ゼータ配列から始めて、不要な配列を削除したり、突然変異を課したりして、細胞内シグナル伝達ドメインに到達しなければならないことを意味するものではない。
【0330】
本明細書で使用される場合、用語「疾患(disease)」とは、動物が恒常性を維持できず、疾患が改善されない場合には動物の健康が悪化し続ける動物の健康状態を指す。対照的に、動物における「障害(disorder)」という用語は、動物が恒常性を維持できる健康状態を指すが、その動物の健康状態は障害がない場合よりも好ましくない。治療せずに放置しても、障害によって動物の健康状態が必ずしもさらに悪化するわけではない。
【0331】
本明細書において、「腫瘍抗原の発現に関連する疾患」には、限定はされないが、腫瘍抗原の発現に関連する疾患又は腫瘍抗原を発現する細胞に関連する状態が含まれるが、これらに限定されるものではなく、癌又は悪性腫瘍等の増殖性疾患、又は、骨髄異形成、骨髄異形成症候群、前白血病等の前癌状態、又は、腫瘍抗原を発現する細胞に関連する非癌関連適応症(noncancer related indication)が含まれる。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原の発現に関連する癌は、血液癌である。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原の発現に関連する癌は、固形癌(solid cancer)である。腫瘍抗原の発現に関連するさらなる疾患には、非定型及び/又は非典型的な癌、悪性腫瘍、前癌状態、又は腫瘍抗原の発現に関連する増殖性疾患が含まれるが、これらに限定されない。腫瘍抗原の発現に関連する非癌関連の適応症には、自己免疫疾患(例えば、狼瘡)、炎症性障害(inflammatory disorders)(アレルギー及び喘息)、移植等が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原発現細胞は、腫瘍抗原をコードするmRNAを発現するか、又は任意の時点で発現する。いくつかの実施形態では、前記腫瘍抗原発現細胞は、腫瘍抗原タンパク質(例えば、野生型又は変異体(mutant))を産生し、前記腫瘍抗原タンパク質は正常レベル又は低下したレベルで存在し得る。いくつかの実施形態では、前記腫瘍抗原発現細胞は、ある時点で検出可能なレベルの腫瘍抗原タンパク質を産生し、その後、検出可能な腫瘍抗原タンパク質を実質的に産生しなかった。
【0332】
本明細書で使用される場合、用語「下方制御(downregulation)」は、1つ又は複数の遺伝子の遺伝子発現の減少又は排除を指す。
【0333】
本明細書で使用される場合、用語「コードする(encoding)」とは、ポリヌクレオチド(遺伝子、cDNA又はmRNA等)内の特定のヌクレオチド配列の固有の特性を指し、定義されたヌクレオチド配列(rRNA、tRNA及びmRNA等)又は定義されたアミノ酸配列及びそれらから生じる生物学的特性の何れかを有する生物学的プロセスにおける他のポリマー及び高分子の合成のためのテンプレートとして機能する。したがって、遺伝子、cDNA又はRNAは、その遺伝子に対応するmRNAの転写と翻訳によって細胞又は他の生物系内でタンパク質が生成される場合に、タンパク質をコードする。コード鎖(そのヌクレオチド配列はmRNA配列と同一であり、通常配列表で提供される)と非コード鎖(遺伝子又はcDNAの転写の鋳型として使用される)の両方は、その遺伝子又はcDNAのタンパク質又は他の産物をコードすると呼ぶことができる。別段の定めがない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」には、互いの縮退(degenerate)バージョンであり、同じアミノ酸配列をコードするすべてのヌクレオチド配列が含まれる。タンパク質又はRNAをコードするヌクレオチド配列は、タンパク質をコードするヌクレオチド配列が何らかのバージョンでイントロンを含む可能性がある限り、イントロンを含むこともある。
【0334】
本明細書において互換的に使用される「有効量」又は「治療有効量」は、本明細書に記載の化合物、製剤、材料、医薬品、又は組成物の、それを必要とする対象において所望の生理学的、治療的又は予防的結果を達成するのに有効な量を指す。このような結果には、哺乳動物に投与されたときに、本発明の組成物が存在しない場合に検出される免疫応答と比較して、検出可能なレベルの免疫応答を引き起こす量が含まれるが、これに限定されない。免疫反応は、当技術分野で認められたさまざまな方法によって容易に評価できる。当業者は、本明細書において投与される組成物の量は、処置される疾患又は病状、処置される哺乳動物の年齢及び健康状態及び身体状態、疾患の重症度、投与される特定の化合物等のような多くの因子に基づいて変化し、容易に決定され得ることを理解するであろう。前記有効量は、処置される対象の健康及び身体状態、処置される対象の分類群、組成物の処方、被験体の病状の評価、及び他の関連因子に応じて、対象間で変化し得る。
【0335】
本明細書で使用される場合、用語「内因性(endogenous)」は、生物、細胞、組織又は系由来、又は、生物、細胞、組織又は系の内部で生成される物質を指す。
【0336】
本明細書で使用される場合、用語「拡大(expand)」は、免疫細胞(例えば、T細胞)の数の増加のように、数が増加することを意味する。いくつかの実施形態では、エクスビボで増殖される免疫細胞(例えば、T細胞)の数は、培養物中に元々存在していた数に比べて増加する。別の実施形態では、エクスビボで増殖される免疫細胞(例えば、T細胞)は、培養物中の他の細胞タイプと比較して数が増加する。
【0337】
本明細書で使用される場合、用語「発現(expression)」は、プロモーターによって駆動される特定のヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を指す。
【0338】
本明細書で使用される場合、用語「外因性(exogenous)」は、生物、細胞、組織又は系の外部から導入されるか、又は、外部で生成される任意の物質を指す。
【0339】
本明細書で使用される場合、用語「発現ベクター」は、発現されるヌクレオチド配列に作動的に連結された発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは、発現に十分なシス作用要素(cis-acting elements)を含み、発現のためのその他の要素は宿主細胞又はインビトロ発現系によって供給される。発現ベクターには、組換えポリヌクレオチドを組み込んだコスミド、プラスミド(例えば、裸の又はリポソームに含まれるもの)及びウイルス(例えば、センダイウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス)等、当該技術分野で既知のものが全て含まれる。
【0340】
本明細書で使用される場合、用語「エクスビボ(ex vivo)」は、生体(例えば、ヒト)から取り出され、生体外(例えば、培養皿、試験管又はバイオリアクター内)で増殖された細胞を指す。
【0341】
本明細書で使用される場合、gRNA分子に関連して使用される用語「旗竿(flagpole)」は、crRNAとtracrが互いに結合又はハイブリダイズするgRNAの部分を指す。
【0342】
本明細書で使用する場合、「ガイドRNA」、「ガイドRNA分子」、「gRNA分子」又は「gRNA」という用語は互換的に使用され、RNAガイドヌクレアーゼ又は他のエフェクター分子(典型的にはgRNA分子との複合体)の標的配列への特異的な誘導を促進する核酸分子のセットを指す。いくつかの実施形態では、前記誘導は、gRNAの一部とDNAとのハイブリダイゼーション(例えば、gRNA標的ドメインを介して)及びgRNA分子の一部とRNA誘導ヌクレアーゼ又はその他のエフェクター分子との結合(例えば、少なくともgRNA tracrを介して)によって達成される。いくつかの実施形態では、gRNA分子は、単一の連続したポリヌクレオチド分子からなり、本明細書では「シングルガイドRNA」又は「sgRNA」等と呼ばれる。いくつかの実施形態では、gRNA分子は、複数(通常は2つ)のポリヌクレオチド分子からなり、これらのポリヌクレオチド分子自体は、通常はハイブリダイゼーションを介して結合することができ、本明細書では「デュアルガイドRNA」又は「dgRNA」等と呼ばれる。gRNA分子については以下で詳しく説明するが、一般的には、標的ドメインとtracrが含まれる。いくつかの実施形態では、前記標的ドメイン及びtracrは、単一のポリヌクレオチド上に配置される。他の実施形態では、前記標的ドメイン及びtracrは、別々のポリヌクレオチド上に配置される。
【0343】
本明細書で使用される場合、用語「相同(homologous)」は、2つのポリマー分子間(例えば、2つの核酸分子間、例えば2つのDNA分子又は2つのRNA分子間)又は2つのポリペプチド分子間のサブユニット配列同一性を指す。2つの分子の両方のサブユニット位置が同じモノーマーサブユニットによって占有されている場合、それらはその位置で相同である。例えば、2つのDNA分子のそれぞれにアデニンの位置がある場合、2つのDNA分子は相同である。2つの配列間の相同性は、一致する位置又は相同位置の数に直接依存する。例えば、2つの配列の位置の半分(例えば、長さが10サブユニットのポリマーの5つの位置)が相同である場合、2つの配列は50%相同である。90%の位置(例えば、10個中9個)が一致又は相同である場合、2つの配列は90%相同である。
【0344】
本明細書で使用される場合、用語「ヒト化抗体(humanized antibodies)」という用語は、非ヒト(例えば、マウス)抗体のヒト形態を指し、非ヒト免疫グロブリン由来の最小限の配列を含むキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖又はそれらのフラグメント(例えば、Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2又は抗体の他の抗原結合サブ配列)である。ヒト化抗体は、ほとんどの場合、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、レシピエントの相補性決定領域(CDR)の残基が、望ましい特異性、親和性及び能力を持つマウス、ラット又はウサギ等の非ヒト種(ドナー抗体)のCDRの残基に置き換えられている。いくつかの例では、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基が、対応する非ヒト残基に置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、受容抗体にも、インポートされたCDR又はフレームワーク配列にも見られない残基を含む場合がある。これらの修飾は、抗体の性能をさらに改良し、最適化するために行われる。一般に、前記ヒト化抗体は、少なくとも1つ、通常は2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、CDR領域の全て又は実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、FR領域の全て又は実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のFR領域になる。前記ヒト化抗体は、最適には、典型的にはヒト免疫グロブリンの免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部も含む。詳細については、Jones et al.,Nature321:522-525(1986);Reichmann et al.,Nature332:323-329(1988);Presta,Curr.Op.Struct.Biol.2:593-596(1992)を参照されたい。
【0345】
本明細書で使用される場合、用語「完全ヒト(Fully human)」は、分子全体がヒト由来であるか又は抗体のヒト形態と同一のアミノ酸配列からなる抗体等の免疫グロブリンを指す。
【0346】
本明細書で使用される場合、用語「同一性(identity)」は、2つのポリマー分子間、特に2つのアミノ酸分子間、例えば2つのポリペプチド分子間のサブユニット配列同一性を指す。2つのアミノ酸配列が同じ位置に同じ残基を持つ場合、それらはその位置で同一である。例えば、2つのポリペプチド分子のそれぞれの位置がアルギニンで占められている場合、2つのポリペプチドは同一である。2つのアミノ酸配列がアラインメント内の同じ位置に同じ残基を持つ同一性又は程度は、多くの場合、パーセンテージで表される。2つのアミノ酸配列間の同一性は、一致する位置又は同一の位置の数に直接依存する。例えば、2つの配列の位置の半分(例えば、長さ10アミノ酸のポリマー内の5つの位置)が同一である場合、2つの配列は50%同一である。90%の位置(例えば、10個中9個)が一致又は同一である場合、2つのアミノ酸配列は90%同一である。
【0347】
本明細書で使用される場合、用語「免疫グロブリン」又は「Ig」は、抗体として機能するタンパク質のクラスを定義する。B細胞によって発現される抗体は、BCR(B細胞受容体)又は抗原受容体と呼ばれることもある。このクラスのタンパク質には、IgA、IgG、IgM、IgD、IgEの5つのメンバーが含まれる。IgAは、唾液、涙、母乳、胃腸分泌物、呼吸器や泌尿生殖器の粘液分泌物等の体分泌物に存在する主要な抗体である。IgGは、最も一般的な循環抗体である。IgMは、ほとんどの対象における一次免疫反応で産生される主要な免疫グロブリンである。凝集、補体結合、その他の抗体反応において最も効率的な免疫グロブリンであり、細菌やウイルスに対する防御に重要である。IgDは、抗体としての機能は知られていないが、抗原受容体として機能し得る免疫グロブリンである。IgEは、アレルゲンにさらされると肥満細胞と好塩基球からメディエーターが放出され、即時型過敏症を引き起こす免疫グロブリンである。
【0348】
本明細書で使用される場合、用語「免疫応答」は、リンパ球が抗原分子を異物として識別し、抗体の形成を誘導し、及び/又はリンパ球を活性化して抗原を除去するときに生じる、抗原に対する細胞応答として定義される。
【0349】
本明細書で使用される場合、用語「免疫エフェクター細胞」は、免疫応答、例えば、免疫エフェクター応答の促進に関与する細胞を指す。免疫エフェクター細胞の例としては、T細胞(例えば、アルファー/イータT細胞及びガンマ/デルタT細胞)、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、肥満細胞、骨髄由来食細胞等が挙げられる。
【0350】
本明細書で使用される場合、用語「免疫エフェクター機能又は免疫エフェクター応答」は、標的細胞に対する免疫攻撃を増強又は促進する機能又は応答を指す。いくつかの実施形態では、免疫エフェクター機能又は応答は、標的細胞の殺傷又は成長若しくは増殖の阻害を促進するT細胞又はNK細胞の特性を指す。T細胞の場合、一次刺激と共刺激は免疫エフェクター機能又は応答の例である。
【0351】
本明細書で使用される場合、用語「阻害分子(inhibitory molecule)」は、活性化されると、細胞の生存、活性化、増殖及び/又は機能の阻害を引き起こすか、又は阻害に寄与する分子、並びに前記分子をコードする遺伝子及びそれに関連する調節要素(例えば、プロモーター)を指す。いくつかの実施形態では、阻害分子は、免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞)上に発現される分子である。阻害分子の非限定的な例としては、PD-1、PD-L1、PD-L2、CTLA4、TIM3、LAG3、CEACAM(例えば、CEACAM-1、CEACAM-3及び/又はCEACAM-5)、VISTA、TGFβIIR、VSIG3、VSIG8、BTLA、TIGIT、LAIR1、CD160、2B4、CD80、CD86、B7-H3(CD276)、B7-H4(VTCN1)、HVEM(TNFRSF14又はCD107)、KIR、A2aR、MHCクラスI、MHCクラスII、GAL9、アデノシン及びTGFベータが挙げられる。阻害分子という用語は、標的配列又はgRNA分子に関連して使用される場合、阻害分子タンパク質をコードする遺伝子(及びそれに関連する調節要素)を指すことが理解されるであろう。いくつかの実施形態では、阻害分子をコードする遺伝子は、BTLA、PD-1、TIM-3、VSIG3、VSIG8、CTLA4又はTGFβIIRである。いくつかの実施形態では、阻害分子をコードする遺伝子は、VSIG3である。いくつかの実施形態では、阻害分子をコードする遺伝子は、PD-1である。いくつかの実施形態では、阻害分子をコードする遺伝子はTGFβIIRである。
【0352】
本明細書で使用される場合、「誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)」又は「iPS細胞」という用語は、成人細胞、例えば免疫細胞(すなわち、T細胞)から生成される。成人細胞におけるKlf4、Oct3/4及びSox2等の再プログラミング因子(reprogramming factors)の発現により、細胞は複数の細胞タイプへの増殖及び分化が可能な多能性細胞に変換される。
【0353】
本明細書で使用される場合、用語「説明書(instructional material)」には、本発明の組成物及び方法の有用性を伝えるために使用できる出版物、記録、図表又はその他の表現媒体が含まれる。本発明のキットの説明書は、例えば、本発明の核酸、ペプチド及び/又は組成物を含む容器に貼り付けられてもよいし、又は、核酸、ペプチド及び/又は組成物を含む容器と一緒に出荷されてもよい。あるいは、受取人が説明書と化合物を連携して使用することを目的として、説明書を容器とは別に発送することもできる。
【0354】
本明細書で使用される場合、用語「単離された(isolated)」は、自然の状態から変更又は除去されたことを意味する。例えば、生きた動物に自然に存在する核酸やペプチドは「単離」されていないが、同じ核酸やペプチドが自然状態で共存する物質から部分的又は完全に分離されたものは「単離」されている。単離された核酸又はタンパク質は、実質的に精製された形態で存在することも又は例えば、宿主細胞等の非ネイティブな環境に存在することもできる。
【0355】
本明細書で使用される場合、用語「ノックアウト(knockout)」は、1つ又は複数の遺伝子の遺伝子発現の除去(ablation)を指す。
【0356】
本明細書で使用される場合、用語「レンチウイルス」は、レトロウイルス科の属を指す。レンチウイルスは、非分裂細胞に感染できる点でレトロウイルスの中でも独特であり、宿主細胞のDNAに大量の遺伝情報を送達できるため、遺伝子送達ベクターの最も効率的な方法の1つである。HIV、SIV及びFIVは、全てレンチウイルスの例である。レンチウイルス由来のベクターは、インビボでの遺伝子導入を大幅に向上させる手段を提供する。
【0357】
本明細書において、scFvの文脈で使用される用語「フレキシブルポリペプチドリンカー(flexible polypeptide linker)」又は「リンカー(linker)」は、可変重鎖領域と可変軽鎖領域を連結するために、単独又は組み合わせて使用されるグリシン及び/又はセリン残基等のアミノ酸からなるペプチドリンカーを指す。一実施形態では、前記フレキシブルポリペプチドリンカーは、Gly/Serリンカーであり、アミノ酸配列(Gly-Gly-Gly-Ser)nを含み、ここでnは1以上の正の整数である。例えば、n=1、n=2、n=3、n=4、n=5、n=6、n=7、n=8、n=9及びn=10(配列番号6592)である。一実施形態では、前記フレキシブルポリペプチドリンカーには、(Gly4 Ser)4又は(Gly4 Ser)3が含まれるが、これらに限定されない。別の実施形態では、前記リンカーには、(Gly2 Ser)、(Gly Ser)又は(Gly3 Ser)の複数の繰り返しが含まれる。
【0358】
本明細書において、「修飾(modified)」という用語は、本発明の分子又は細胞の変化した状態又は構造を意味する。分子は、化学的、構造的、機能的等、多くの方法で修飾し得る。細胞は、核酸の導入によって修飾され得る。
【0359】
本明細書で使用される場合、用語「調節(modulating)」は、治療又は化合物がない場合の対象の反応レベルと比較して及び/又はそれ以外は同一であるが治療を受けていない対象の反応レベルと比較して、対象の反応レベルの検出可能な増加又は減少を媒介することを意味する。この用語には、本来のシグナル又は応答を混乱させ、及び/又は影響を与え、それによって対象、好ましくはヒトにおける有益な治療応答を媒介することが包含される。
【0360】
本発明の文脈において、一般的に存在する核酸塩基について以下の略語が使用される。「A」はアデノシン、「C」はシトシン、「G」はグアノシン、「T」はチミジン、「U」はウリジンを指す。
【0361】
別途規定がない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」には、互いに縮退したバージョンであり、同じアミノ酸配列をコードする全てのヌクレオチド配列が含まれる。タンパク質又はRNAをコードするヌクレオチド配列という語句には、タンパク質をコードするヌクレオチド配列が何らかの形でイントロンを含む可能性がある限り、イントロンも含まれ得る。
【0362】
本明細書で使用される場合、用語「操作可能に連結された(operably linked)」とは、調節配列と異種核酸配列との間の機能的連結を指し、その結果、後者の発現が生じる。例えば、第1の核酸配列が第2の核酸配列と機能的な関係に配置される場合、第1の核酸配列は第2の核酸配列と操作可能に連結される。例えば、プロモーターがコード配列の転写又は発現に影響を及ぼす場合、プロモーターは、コード配列に操作可能に連結される。一般的に、操作可能に連結されたDNA配列は連続しており、2つのタンパク質コード領域を結合する必要がある場合には、同じリーディングフレーム内にある。
【0363】
本明細書で使用される場合、用語「過剰発現した(overexpressed)」腫瘍抗原又は腫瘍抗原の「過剰発現(overexpression)」は、患者の特定の組織又は臓器内の固形腫瘍のような疾患領域の細胞における腫瘍抗原の発現レベルが、その組織又は臓器の正常細胞における発現レベルと比較して異常であることを示すことを意図している。腫瘍抗原の過剰発現を特徴とする固形腫瘍又は血液悪性腫瘍を有する患者は、当該技術分野で既知の標準的なアッセイによって判定することができる。
【0364】
本明細書で使用される場合、免疫原性組成物の「非経口(parenteral)」投与という用語には、例えば、皮下(s.c.)、静脈内(i.v.)、筋肉内(i.m.)又は胸骨内注射、又は、注入技術が含まれる。
【0365】
本明細書で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチドの鎖として定義される。さらに、核酸は、ヌクレオチドのポリマーである。したがって、本明細書で使用される核酸とポリヌクレオチドは互換性がある。当業者は、核酸がポリヌクレオチドであり、それがモノーマーの「ヌクレオチド」に加水分解される可能性があるという一般的な知識を有している。モノーマーヌクレオチドは、ヌクレオシドに加水分解される可能性がある。本明細書で使用される場合、ポリヌクレオチドには、当該技術分野で利用可能なあらゆる手段によって得られる全ての核酸配列が含まれるが、これらに限定されるものではなく、組み換え手段、すなわち、通常のクローニング技術及びPCR(登録商標)等を使用した組み換えライブラリー又は細胞ゲノムからの核酸配列のクローニング及び合成手段を含む。
【0366】
本明細書で使用される場合、「ペプチド」、「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は互換的に使用され、ペプチド結合によって共有結合したアミノ酸残基からなる化合物を指す。タンパク質又はペプチドには少なくとも2つのアミノ酸が含まれている必要があり、タンパク質又はペプチドの配列に含まれるアミノ酸の最大数に制限はない。ポリペプチドには、ペプチド結合によって互いに結合した2つ以上のアミノ酸を含むペプチド又はタンパク質が含まれる。本明細書で使用される場合、用語は、当該技術分野で一般的にペプチド、オリゴペプチド及びオリゴマーとも呼ばれる短い鎖と、当該技術分野で一般的にタンパク質と呼ばれ、多くの種類がある長い鎖の両方を指す。「ポリペプチド」には、例えば、生物学的に活性なフラグメント、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドのバリアント、修飾ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質等が含まれる。前記ポリペプチドには、天然ペプチド、組み換えペプチド、合成ペプチド又はそれらの組み合わせが含まれる。
【0367】
本明細書で使用される場合、用語「プロモーター(promoter)」は、細胞の合成機構によって認識される、又は導入された合成機構によって認識され、ポリヌクレオチド配列の特定の転写を開始するために必要なDNA配列として定義される。
【0368】
本明細書で使用される場合、用語「プロモーター/調節配列(promoter/regulatory sequence)」は、プロモーター/調節配列に操作可能に連結された遺伝子産物の発現に必要な核酸配列を意味する。いくつかの例では、この配列は、コアプロモーター配列(core promoter sequence)である可能性があり、他の例では、この配列には、遺伝子産物の発現に必要なエンハンサー配列及びその他の調節要素も含まれる可能性がある。前記プロモーター/調節配列は、例えば、遺伝子産物を組織特異的に発現するものであってもよい。
【0369】
本明細書で使用される場合、用語「構成的プロモーター(constitutive promoter)」とは、遺伝子産物をコード又は規定するポリヌクレオチドと操作可能に連結されると、細胞のほとんど又は全ての生理学的条件下で細胞内で遺伝子産物が生成されるヌクレオチド配列である。
【0370】
本明細書で使用される場合、用語「誘導性プロモーター(inducible promoter)」とは、遺伝子産物をコード又は規定するポリヌクレオチドと操作可能に連結されると、実質的にプロモーターに対応する誘導因子が細胞内に存在する場合にのみ、細胞内で遺伝子産物が生成されるヌクレオチド配列である。
【0371】
本明細書で使用される場合、用語「組織特異的プロモーター(tissue-specific promoter)」とは、遺伝子をコードする又は遺伝子によって特定されるポリヌクレオチドと操作可能に連結されると、実質的に細胞がプロモーターに対応する組織型の細胞である場合にのみ、細胞内で遺伝子産物が生成されるヌクレオチド配列である。
【0372】
本明細書で使用される場合、用語「センダイウイルス」は、パラミクソウイルス科の属を指す。センダイウイルスは、宿主ゲノムに組み込まれたり、宿主細胞の遺伝情報を変更したりしない、ネガティブ一本鎖RNAウイルスである。センダイウイルスは、宿主範囲が非常に広く、人間に対して病原性はない。組み換えウイルスベクターとして使用されるセンダイウイルスは、一時的だが強力な遺伝子発現が可能である。
【0373】
本明細書で使用される場合、用語「シグナル伝達経路(signal transduction pathway)」は、細胞のある部分から細胞の別の部分へのシグナルの伝達に役割を果たす様々なシグナル伝達分子間の生化学的関係を指す。「細胞表面受容体」という語句には、細胞の細胞膜を介してシグナルを受信し、シグナルを伝達することができる分子及び分子の複合体が含まれる。
【0374】
本明細書で使用される場合、用語「一本鎖抗体(Single chain antibodies)」は、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖フラグメントが、アミノ酸の組み換え範囲を介してFv領域に連結される組換えDNA技術によって形成された抗体を指す。単一鎖抗体を生成するための様々な方法が知られており、その中には、米国特許第4,694,778号;Bird,Science 242:423-442(1988);Huston et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA85:5879- 5883 (1988); Ward et al.,Nature 334:54454(1989);Skerra et al.,Science 242:1038-1041(1988).に記載されている方法も含まれる。
【0375】
本明細書で使用される場合、用語「特異性(specificity)」は、与えられた標的抗原(例えば、ヒト標的抗原)に特異的に結合する(例えば、免疫反応する)能力を指す。キメラ抗原受容体は、単一特異性であり、標的に特異的に結合する1つ又は複数の結合部位を含む場合があり、またキメラ抗原受容体は、多重特異性であり、同じ又は異なる標的に特異的に結合する2つ以上の結合部位を含む場合もある。ある実施形態では、キメラ抗原受容体は、同じ標的の2つの異なる(例えば、重複しない)部分に特異的である。ある実施形態では、キメラ抗原受容体は、1つ以上の標的に対して特異的である。
【0376】
本明細書で使用される場合、抗体に関して「特異的に結合する(specifically binds)」という用語は、特定の抗原を認識するが、サンプル中の他の分子を実質的に認識又は結合しない抗体又はその結合フラグメント(例えば、scFv)を意味する。例えば、ある種の抗原に特異的に結合する抗体は、1つ又は複数の種の抗原にも結合する場合がある。しかし、このような種間反応性自体は、抗体の特異的な分類を変更するものではない。別の例では、抗原に特異的に結合する抗体は、抗原の異なる対立遺伝子型に(allelic forms)も結合する場合がある。しかし、このような交差反応性自体は、抗体の特異的な分類を変更するものではない。いくつかの例では、「特異的結合」又は「特異的に結合する」という用語は、抗体、タンパク質、キメラ抗原受容体又はペプチドと第二の化学種との相互作用に関して使用され、相互作用が化学種上の特定の構造(抗原決定基又はエピトープ等)の存在に依存することを意味し、例えば、キメラ抗原受容体は、一般的なタンパク質ではなく、特定のタンパク質構造を認識して結合する。抗体がエピトープ「A」に特異的である場合、標識「A」と抗体を含む反応中にエピトープAを含む分子(又は遊離の標識されていないA)が存在すると、抗体に結合した標識Aの量が減少する。
【0377】
本明細書で使用される場合、用語「刺激」は、刺激分子(例えば、TCR/CD3複合体)とその同族リガンドとの結合によって誘導される一次反応を意味し、それによって、TCR/CD3複合体を介したシグナル伝達等のシグナル伝達イベントが媒介されるが、これに限定されるものではない。刺激は、TGF-ベータの下方制御、細胞骨格構造の再編成、クローンの増殖、異なるサブセットへの分化等、特定の分子の発現の変化を媒介する可能性がある。
【0378】
本明細書で使用される場合、用語「刺激分子」は、抗原提示細胞上に存在する同族刺激リガンドと特異的に結合するT細胞上の分子を意味する。
【0379】
本明細書で使用される場合、用語「刺激リガンド」は、抗原提示細胞(例えば、aAPC、樹状細胞、B細胞等)上に存在する場合、T細胞上の同族結合パートナー(本明細書では「刺激分子」と呼ぶ)と特異的に結合し、それによって活性化、免疫応答の開始、増殖等を含むがこれらに限定されない、T細胞による一次応答を媒介することができるリガンドを意味する。刺激リガンドは、当該技術分野で周知であり、特に、ペプチドをロードしたMHCクラスI分子、抗CD3抗体、スーパーゴニスト抗CD28抗体(superagonist anti-CD28 antibody)及びスーパーゴニスト抗CD2抗体を包含する。
【0380】
本明細書で使用される場合、「対象(subject)」及び「患者(patient)」という用語は互換的に使用される。本明細書で使用される場合、対象は、非霊長類(例えば、牛、豚、馬、猫、犬、ネズミ等)又は霊長類(例えば、サル及びヒト)等の哺乳動物であり得る。ある実施形態では、本明細書で使用される用語「対象」は、哺乳動物等の脊椎動物を指す。哺乳類には、人間、非人間霊長類、野生動物、野生化動物、家畜、スポーツ動物及びペット等が含まれるが、これらに限定されない。免疫反応を誘発できるあらゆる生物が対象又は患者となり得る。ある例示的な実施形態では、対象はヒトである。
【0381】
本明細書で使用される場合、「実質的に精製された」細胞という用語は、本質的に他の細胞タイプを含まない細胞を意味する。実質的に精製された細胞とは、自然発生状態では通常関連する他の細胞タイプから分離された細胞も指す。いくつかの例では、実質的に精製された細胞の集団は、均質な細胞集団を指す。他の例では、この用語は、自然な状態で自然に関連する細胞から分離された細胞を単に指す。いくつかの実施形態では、前記細胞は、インビトロで培養される。他の実施形態では、前記細胞は、インビトロで培養されない。
【0382】
本明細書で使用される場合、用語「標的部位」又は「標的配列」は、結合が起こるのに十分な条件下で結合分子が特異的に結合し得る核酸の部分を定義するゲノム核酸配列を指す。
【0383】
本明細書において、gRNAに関連して使用される用語「標的ドメイン」は、標的配列を認識するか、又は標的配列と相補的であるgRNA分子の部分を指す。例えば、細胞の核酸内(例えば、遺伝子内)の標的配列である。
【0384】
本明細書で使用される場合、用語「標的配列」は、gRNA標的ドメインに相補的な、例えば完全に相補的な核酸配列を指す。いくつかの実施形態では、標的配列はゲノムDNA上に配置される。いくつかの実施形態では、標的配列は、ヌクレアーゼ活性又はその他のエフェクター活性を有するタンパク質によって認識されるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列(例えば、Cas9によって認識されるPAM配列)に隣接する(DNAの同じ鎖上又は相補鎖上の何れか)。いくつかの実施形態では、前記標的配列は、同種異系T細胞標的の標的配列である。いくつかの実施形態では、前記標的配列は、阻害分子の標的配列である。いくつかの実施形態では、前記標的配列は、阻害分子の下流エフェクターの標的配列である。
【0385】
本明細書で使用される場合、用語「T細胞受容体」又は「TCR」は、抗原の提示に応答してT細胞の活性化に関与する膜タンパク質の複合体を指す。前記TCRは、主要組織適合性複合体分子に結合した抗原を認識する役割を担っている。TCRは、3つの二量体モジュールCD3δ/CD3ε、CD3γ/CD3ε及びCD3ζ/CD3ζに結合したアルファー(a)鎖とベータ(β)鎖のヘテロ二量体からなる。一部の細胞では、前記TCRは、ガンマ及びデルタ(γ/δ)鎖(CD3γ/CD3ε)からなる。いくつかの実施形態では、TCRは、構造的に類似しているが、解剖学的位置及び機能が異なるアルファー/ベータ及びガンマ/デルタの形態で存在する場合がある。各鎖は、可変ドメインと定常ドメインの2つの細胞外ドメインからなる。いくつかの実施形態では、前記TCRは、例えば、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、メモリーT細胞、制御性T細胞、ナチュラルキラーT細胞及びガンマデルタT細胞を含む、TCRを含む任意の細胞上で修飾され得る。
【0386】
本明細書で使用される用語「治療(therapeutic)」は、治療(treatment)及び/又は予防(prophylaxis)を意味する。治療効果は、病状の抑制、寛解(remission)又は根絶(eradication)によって得られる。
【0387】
本明細書で使用される場合、用語「治療」は、疾患又はそれに関連する症状の予防、管理、治療及び/又は改善に使用できる任意のプロトコル、方法及び/又は薬剤(例えば、CAR-T)を指す。いくつかの実施形態では、「療法(therapies)」及び「療法(therapy)」という用語は、生物学的療法(例えば、養子細胞療法)、支持療法(例えば、リンパ球除去療法)及び/又は医療従事者等の当業者に知られている、疾患又はそれに関連する症状の予防、管理、治療及び/又は改善に有用な他の療法を指す。
【0388】
本明細書において、gRNA分子に関連して使用される用語「tracr」は、ヌクレアーゼ又は他のエフェクター分子に結合するgRNAの部分を指す。いくつかの実施形態では、前記tracrは、Cas9に特異的に結合する核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記tracrは、旗竿の一部を形成する核酸配列を含む。本明細書で使用される場合、用語「トランスフェクトされた(transfected)」又は「形質転換された(transformed)」又は「形質導入された(transduced)」は、外因性の核酸が宿主細胞に移送又は導入されるプロセスを指す。「トランスフェクトされた」又は「形質転換された」又は「形質導入された」細胞とは、外因性の核酸でトランスフェクト、形質転換又は形質導入された細胞である。前記細胞には、主要な対象細胞とその子孫が含まれる。
【0389】
本明細書で使用される場合、用語「治療する(treat)」、「治療(treatment)」及び「治療(treating)」は、1つ又は複数の治療法(固形腫瘍の治療を目的としたCAR-T療法を含むがこれに限定されない)の投与の結果として生じる、疾患又はそれに関連する症状の進行、重症度、頻度及び/又は持続期間の低減又は改善を指す。本明細書で使用される用語「治療(treating)」は、治療される対象の疾患の経過を変えることも指す場合がある。治療の治療効果には、限定されないが、疾患の発生又は再発の予防、症状の緩和、疾患の直接的又は間接的な病理学的結果の軽減、疾患の進行速度の低下、疾患状態の改善又は緩和、寛解又は予後の改善が含まれる。
【0390】
本明細書で使用される場合、用語「転写制御下にある」又は「機能的に連結されている(Operatively linked)」という用語は、プロモーターがポリヌクレオチドに対して正しい位置及び方向にあり、RNAポリメラーゼによる転写の開始及びポリヌクレオチドの発現を制御することを意味する。
【0391】
本明細書で使用される場合、用語「ベクター」は、単離核酸(isolated nucleic)を含み、単離核酸を細胞の内部に送達するために使用できる物質の組成物である。当該技術分野では、線状ポリヌクレオチド、イオン性又は両親媒性化合物に関連するポリヌクレオチド、プラスミド、及びウイルスを含むがこれらに限定されない多数のベクターが知られている。したがって、用語「ベクター」は、自律複製するプラスミド又はウイルスが含まれる。この用語には、例えば、ポリリジン化合物、リポソーム等、核酸の細胞への移動を促進する非プラスミド及び非ウイルス化合物も含まれると解釈されるべきである。ウイルスベクターの例としては、センダイウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0392】
本明細書で使用される場合、用語「異種(Xenogeneic)」は、異なる種の動物に由来する移植片を指す。
【0393】
本明細書で使用される場合、用語「完全培地(complete media)」及び「完全培地(complete medium)」は、免疫細胞の成長(例えば、T細胞の成長)に最適化された細胞培養培地を指す。いくつかの例では、完全培地には、タンパク質、無機塩、微量元素、ビタミン、アミノ酸、脂質、炭水化物、サイトカイン及び/又は成長因子が含まれており、各成分の比率は細胞の成長に合わせて最適化されている。例示的なタンパク質としては、アルブミン、トランスフェリン、フィブロネクチン及びインスリン等が挙げられる。例示的な炭水化物としては、ブドウ糖が挙げられる。代表的な無機塩としては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン等が挙げられる。例示的な微量元素としては、亜鉛、銅、セレン、トリカルボン酸等が挙げられる。例示的なアミノ酸には、L-グルタミン(例えば、アラニル-L-グルタミン又はグリシル-L-グルタミン)等の必須アミノ酸、又はグリシン、L-アラニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-プロリン及び/又はL-セリン等の非必須アミノ酸(NEAA)が含まれる。いくつかの実施形態では、前記完全培地には、重炭酸ナトリウム(NaHCO3)、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)、フェノールレッド、抗生物質及び/又はβ-メルカプトエタノールの1つ又は複数も含まれる。いくつかの例では、前記完全培地は、無血清培地である。いくつかの例では、前記完全培地は、異種物質を含まない培地である。
【0394】
本明細書で使用される場合、用語「化学的に定義された培地」は、全ての成分の組成及び濃度が既知である細胞培養培地を指す。完全培地(complete media)と異なる点は、完全培地には、組成や濃度が不明な動物由来成分等の成分が含まれる場合があることである。
【0395】
いくつかの例では、「ゼノフリー(xeno-free)」培地には、動物由来(非ヒト)成分が一切含まれていない。いくつかの例では、ゼノフリー培地には、ヒト血清、成長因子及びインスリン等の1つ又は複数のヒト由来成分が含まれている。
【0396】
いくつかの実施形態では、「無血清(serum-free)」培地には、血清又は血漿は含まれないが、血清又は血漿に由来する成分は含まれていてもよい。いくつかの例では、「無血清」培地にウシ血清アルブミン(BSA)等の動物由来の成分が含まれる。
【0397】
いくつかの実施形態では、「最小(minimum)」培地は、標的細胞の成長に最低限必要なものを含む。いくつかの例では、最小培地には、無機塩、炭素源及び水が含まれる。いくつかの例では、サプリメント、サイトカイン及び/又はアルブミン等のタンパク質(HSA等)が最小培地に追加される。本明細書において、サプリメントは、微量元素、ビタミン、アミノ酸、脂質、炭水化物、サイトカイン、成長因子又はそれらの組み合わせを含む。
【0398】
範囲:本開示全体を通じて、本発明の様々な側面は範囲形式で提示することができる。範囲形式での説明は、単に便宜上及び簡潔にするためであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない制限として解釈されるべきではないことを理解されたい。したがって、範囲の説明は、その範囲内の個々の数値だけでなく、全ての可能なサブ範囲を具体的に開示したものとみなされるべきである。例えば、1~6等の範囲の説明は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等のサブ範囲、及びその範囲内の個々の数字、例えば1、2、2.7、3、4、5、5.3及び6等が具体的に開示されているとみなされる。これは範囲の広さに関係なく適用される。
【実施例】
【0399】
これらの例は、例示のみを目的として提供されるものであり、本明細書で提供される特許請求の範囲を限定するものではない。
実施例1:
【0400】
本実施例は、本開示の新規同種異系CAR T細胞を作製するために使用される材料及び方法を提供する。
【0401】
一次ヒトT細胞の増殖と細胞の凍結保存:
T細胞は、培地中1×106細胞/mLで培養し、培養開始時にDynabeads(登録商標)(ThermoFisher社製)を使用して活性化した。NC200(登録商標)Automated Cell Counter(Chemometec社製)を使用して、1日おきに細胞をカウントした。さらに、細胞生存率と細胞サイズを1日おきに測定した。細胞を新鮮なT細胞培地で培養し、5×105細胞/mLに再懸濁した。9~11日目に細胞を採取し、5%DMSOを含む凍結培地で凍結保存した。
【0402】
多色性フローサイトメトリー分析:
細胞を洗浄し、FACS緩衝液(5%子牛胎児血清を含むリン酸緩衝生理食塩水)に再懸濁した。特定の蛍光色素に結合した抗体のマスターミックス(master mix)を細胞に添加した。細胞を洗浄し、FACS緩衝液に再懸濁し、MACSQuant(登録商標)サイトメーター(Miltenyi社製)を使用して分析した。使用した抗体パネル(antibody panel)には、生存率評価用の、抗CD3-VioBlue、抗TCRab-APC、抗B2M-PE-Vio770、抗HLA-DR-VioGreen、抗HLAI-ABC-FITC、抗CAR-PE及び7AADが含まれる。データ解析にはFlowJo(登録商標)ソフトウェア(BD Biosciences社製)を使用した。
【0403】
一次ヒトT細胞の遺伝子編集:
各標的のそれぞれのガイドRNAと結合したヌクレアーゼの形態のリボ核タンパク質(RNP)をヒトT細胞にトランスフェクトした。細胞は、5%ヒト血清、IL-7、IL-15及びグルタミンを含む特別なT細胞培地で5~8日間培養された。培養終了後、多色性フローサイトメトリーを実施し、各遺伝子標的の遺伝子編集効率レベルを同時に測定した。
【0404】
リアルタイム腫瘍細胞毒性アッセイ:
CAR T細胞の細胞傷害能力は、xCelligence(登録商標)Real Time Cell Analysis装置(Agilent社製)を使用して評価した。簡単に説明すると、CAR T細胞をマイクロタイタープレートで腫瘍標的細胞と異なるエフェクター対標的比(例えば、1:10、1:5、1:2.5、1:1)で数日間共培養した。腫瘍細胞死は、各条件で測定された細胞インピーダンスの変化として連続的に決定された。データは、RTCA(登録商標)ソフトウェア(Agilent社製)を使用して取得した。
【0405】
T7E1エンドヌクレアーゼアッセイによる遺伝子編集効率:
遺伝子編集の効率を分子レベルで測定するために、それぞれの遺伝子標的に合わせたT7E1エンドヌクレアーゼアッセイを用いた。全ゲノムDNAをT細胞から単離し、マイナス80℃で保存するか、直接、評価に使用した。各標的の切断部位にまたがるプライマーを使用してPCR反応を行った。PCR産物をゲル電気泳動で分析し、アンプリコンのサイズ及び量を検証した。その後、PCRアンプリコンをT7E1ヌクレアーゼで消化し、2100 High-Resolution Automated Electrophoresis BioAnalyzer(登録商標)装置(Agilent社製)を使用して解析した。遺伝子編集効率の決定には2100 Expert(登録商標)ソフトウェアを使用した。
【0406】
混合白血球反応:
同種異形CAR T細胞及び非血縁ドナー由来のT細胞(「第2ドナー」と表示)の共培養を異なる比率で設定し、16日間追跡した。細胞死は、各特定の細胞タイプ(すなわち、同種異形CAR T細胞対「第2ドナー」のT細胞)を区別し追跡するために、特異的マーカーを用いたフローサイトメトリーによって決定された。フローサイトメトリーの前に123count(登録商標)eBeadsを加えて細胞の絶対数を測定し、7AAD色素を使用して細胞生存率を評価した。
実施例2:
【0407】
この実施例の目的は、トリプルノックアウト戦略を詳述することであった。
【0408】
以下の表3は、本開示のトリプルノックアウト戦略(3遺伝子ノックアウトの組合せ)を含む新規な同種異系CAR T細胞プラットフォーム(platform)を示す。独自のアプローチでは、TCRモジュール(CD3δ、CD3ε及びCD3γ)の1つ又は複数の遺伝子、HLA-Iの1つ又は複数の遺伝子、HLA-IIの1つ又は複数の遺伝子を標的とすることを含む。
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【0409】
複数の遺伝子をノックアウトする戦略は、修飾された同種異形T細胞産物を産生することが期待される。
実施例3:
【0410】
本実施例の目的は、少なくとも1つのノックアウト遺伝子を有する、本明細書に記載の様々な構築物を調製することであった。
【0411】
表1は、抗原プロセシング及び提示経路(antigen processing and presentation pathways)における代替T細胞受容体サブユニット(CD3δ、CD3γ、及びCD3ε)及び追加の重要な遺伝子のノックアウト(KO)を含む、本開示の新規同種異系CAR T戦略を示す。特に、15の遺伝子標的が選択され、それぞれがCRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)エンドヌクレアーゼ系を使用して複数のガイドRNA(gRNA)で試験された。15の遺伝子を標的とするために使用されたgRNAの例を表4に開示する。
【表4】
実施例4:
【0412】
この実施例の目的は、CD3δ(
図2A)、CD3ε(
図2B)及びCD3γ(
図2C)の標的破壊に焦点を当てた異なる構築物を使用して、TCRα/βのノックアウト効率を評価することであった。
【0413】
ヒトT細胞におけるTCR-α鎖及びTCR-β鎖の破壊効率のパーセンテージを、CRISPR/Cas系を用いたCD3δ(
図2A)、CD3ε(
図2B)及びCD3γ(
図2C)遺伝子の標的破壊後、フローサイトメトリーにより測定した。
図2Aは、4つの異なるガイドRNA:gRNA1、gRNA2、gRNA3及びgRNA4を用いたCD3δの破壊後の結果を示す。CRISPR/Cas系のgRNA1及びgRNA3ガイドRNAを用いたCD3δの破壊は、TCRα/βの100%のKO効率をもたらしたが、CRISPR/Cas系のgRNA2及びgRNA4の使用は、TCRα/βの約90%以上のKO効率をもたらした。したがって、CD3δを破壊するためのCRISPR/Cas系では、gRNA1とgRNA3を使用することが好ましい。
【0414】
図2Bは、5つの異なるガイドRNA:gRNA1、gRNA2、gRNA3、gRNA4及びgRNA5を用いたCD3εの標的破壊後の結果を示す。CRISPR/Cas系のgRNA4及びgRNA5ガイドRNAを用いたCD3εの破壊は、TCRα/βの100%のKO効率をもたらしたが、gRNA1の使用は、TCRα/βの約50%のKO効率しかもたらさず、最後に、CRISPR/Cas系のガイドgRNA2及びgRNA3を使用すると、TCRα/βの約90%以上のKO効率をもたらした。したがって、CD3εを破壊するCRISPR/Cas系では、gRNA4及びgRNA5ガイドRNAを使用することが好ましい。
【0415】
図2Cは、5つの異なるガイドRNA:gRNA1、gRNA2、gRNA3、gRNA4及びgRNA5を用いたCD3γの標的破壊後の結果を示す。CRISPR/Cas系のgRNA4ガイドRNAを用いたCD3εの破壊は、TCR α/βの100%のKO効率をもたらしたが、gRNA5を使用すると、TCR α/βの約95%以上のKO効率をもたらし、最後に、CRISPR/Cas系のgRNA1、gRNA2及びgRNA3ガイドRNAを使用すると、TCR α/βのKO効率は、あまり好ましくない結果となった。したがって、CD3γを破壊するCRISPR/Cas系では、gRNA4ガイドRNAの使用が好ましい。
実施例5:
【0416】
この実施例の目的は、10日間にわたる同種異系CAR T細胞の異なる構築物の増殖を評価することであった。
【0417】
試験した異なる構築物には、(1)TRACノックアウト(
図3のアロ(TRAC KO))(例えば、本開示の前に使用されたノックアウト)、(2)CD3δノックアウト(
図3のアロ(D1 KO))、(3)CD3γノックアウト(
図3のアロ(G4 KO))及び(4)CD3εノックアウト(
図3のアロ(E4 KO))を含む同種異形CAR T細胞が含まれた。細胞集団の倍加率をY軸に、日数をX軸に示す。
図3に詳細な結果を示す。
【0418】
図3は、
図1の戦略を使用して生成された同種異形CAR T細胞の増殖を示すグラフを示し、10日間にわたる集団倍化の数を示す。
実施例6:
【0419】
この実施例では、TCR-α/β鎖の表面発現を比較するために、。いくつかの異なるノックアウト構築物を評価した。
【0420】
図4A及び4Bは、TCR-α鎖(TRAC)ノックアウト(例えば、本開示の前に使用された構築物)、CD3δ、ノックアウト(D1 KO)、CD3γノックアウト(G4 KO)及びCD3εノックアウト(E4 KO)のCRISPR媒介下方制御を比較したフローサイトメトリー結果を示す。
図4Aは、CD3εノックアウト(E4 KO)が、TCR-α/β鎖の表面発現によって測定されるように、T細胞受容体ノックアウトの標的としてより優れていることを示す。
図4Bは、CD3εノックアウト(E4 KO)を含む同種異形CAR T細胞が、例えばCD3γ又はCD3δノックアウトを含むCAR T細胞よりも高い形質導入効率を有し、機能的に優れていることを示す;PSMA CAR T細胞の実施形態が図示されている。
実施例7:
【0421】
この実施例の目的は、異なるPSMA CAR T細胞構築物の腫瘍殺傷能力を評価することであった。
【0422】
図5は、TCR-α鎖(TRAC)ノックアウト(例えば、本開示の前に使用された構築物)、CD3δ、ノックアウト(D1)、CD3εノックアウト(E4)、及びCD3γノックアウト(G4)を含む同種異形PSMA CAR T細胞の腫瘍殺傷能力を示すグラフである。その結果、PSMA E4同種異形CAR T細胞が最も殺傷能力が高いことが示された。標的細胞は、ヒト前立腺癌細胞株であるPC3細胞であった。
【0423】
1つのCD3サブユニットの標的破壊が、他のCD3サブユニットの標的破壊と比較して、より強力な同種異系CAR T細胞をもたらすとは予想されていなかったので、これらの結果は意外であり、予想外であった。
図5は、アロTCR-α鎖(TRAC)ノックアウトCAR T細胞、アロCD3δ、ノックアウト(D1)CAR T細胞又はアロCD3γノックアウト(G4)CAR T細胞と比較した場合、CD3εを標的とするアロCAR T細胞(例えば、CD3εノックアウト(E4))がより強力である(すなわち、腫瘍細胞をより速く死滅させる)という予期せぬ発見を示している。
実施例8:
【0424】
この実施例の目的は、標的遺伝子のノックアウトを実現する際のCRISPR-Cas法の有効性を評価することであった。特に
【0425】
図6A~6Dは、T7エンドヌクレアーゼ不一致検出アッセイ(T7E1)を使用して図示したCRISPR-Cas活性を示す。
図6Aは、3つの異なるgRNAを使用して3つの異なるCRISPR-Cas C2TA(CIITA)遺伝子の部位から増幅されたT7E1処理PCR産物の代表的なゲル電気泳動像を示す。
図6B~7Dは、CRISPR-Cas編集効率を示すT7E1エンドヌクレアーゼアッセイのAgilent Bioanalyzerエレクトロフェログラムによって生成された電気泳動図を示す。
【0426】
さらに、
図7A~Dは、CRISPR-Cas編集効率を示すAgilent Bioanalyzerエレクトロフェログラムである。7A~Dは、C2TA(CIITA)CRISPR編集効率の結果を示す、コントロール及びT7E1処理PCRのAgilent Bioanalyzerエレクトロフェログラム及びゲル電気泳動を示す。
実施例9:
【0427】
この実施例の目的は、異なる細胞タイプの生存率を決定することであった。
【0428】
混合リンパ球アッセイ(MLA)を実施した。
図8は、アロ細胞単独、T細胞(第二のドナー)単独、共培養のアロ細胞及び共培養のT細胞(第二のドナー)を用いた混合リンパ球反応(MLR)アッセイの結果を示すグラフである。特に、レシピエントのT細胞(別のドナー由来のT細胞)を同種異形CAR T細胞と14日間共培養し、T細胞の増殖を解析した。
【0429】
この結果は、コントロールT細胞(2番目のドナー)、同種異形PSMA CAR T細胞単独又は共培養での生存性を示し、「レシピエントの」T細胞は同種異形細胞の存在に反応しなかった(増殖しなかった)ことを示している。したがって、
図8は、HLA不一致が存在するにもかかわらず、2番目の(無関係な)ドナー由来のT細胞が、共培養の同種異形PSMA CAR T細胞に反応して増殖しなかったことを示している。同種異形CAR Tは、PSMA CAR T及びCRISPRで編集されたTRAC/B2M/C2TA gRNAを含む。従って、本発明の同種異形CAR T細胞は、レシピエントの免疫系(すなわちT細胞)に検出されないまま、腫瘍細胞を死滅させる絶好の機会を有することになる。
【0430】
特定の実施形態が図示され、説明されているが、以下の特許請求の範囲に定義されるような、より広範な態様における技術から逸脱することなく、当業者の通常の技術に従って、変更及び修正がそこで行われ得ることが理解されるべきである。
【0431】
本明細書に例示的に記載された実施形態は、本明細書に具体的に開示されていないいかなる要素(element)又は要素(elements)、制限(limitation)又は制限(limitations)がない場合にも好適に実施することができる。従って、例えば、用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含む(containing)」等は、限定することなく拡大解釈されるものとする。さらに、「本質的にからなる(consisting essentially of)」という語句は、具体的に記載された要素、及びクレームされた技術の基本的かつ新規な特性に重大な影響を与えない追加的な要素を含むものと理解される。「からなる(consisting of)」という表現は、特定されていないいかなる要素も除外する。
【0432】
加えて、本開示の特徴又は態様が、マーカーッシュグループの観点から記載されている場合、当業者は、本開示がそれによってマーカーッシュグループの任意の個々のメンバー又はメンバーのサブグループの観点からも記載されていることを認識するであろう。
【0433】
当業者には理解されるであろうが、あらゆる目的、特に書面による説明を提供するという観点から、本明細書で開示される全ての範囲は、終点を含む、あらゆる可能な部分範囲及びそれらの部分範囲の組み合わせも包含する。どのような列挙された範囲も、同じ範囲が少なくとも等しい半分、3分の1、4分の1、5分の1、10分の1等に分解されることを十分に記述し、可能にするものとして容易に認識することができる。非限定的な例として、本明細書で議論される各範囲は、下位3分の1、中位3分の1及び上位3分の1等に容易に分解することができる。また、当業者には理解されるように、「~まで(up to)」、「少なくとも(at least)」、「~より大きい(greater than)」、「~より小さい(less than)」等の全ての表現は、言及された数を含み、上述したようにその後サブ範囲に分解できる範囲を指す。最後に、当業者には理解されるように、範囲は個々のメンバーを含む。
【0434】
本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、発行済み特許及びその他の一般に入手可能な文書は、個々の刊行物、特許出願、発行済み特許又はその他の文書が、参照によりその全体が組み込まれることが具体的かつ個別に示されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。参照により組み込まれるテキストに含まれる定義は、本開示における定義と矛盾する範囲において除外される。
【0435】
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲に記載されている。
【国際調査報告】