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特表2024-533407無機ピロリン酸の濃度を決定するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】無機ピロリン酸の濃度を決定するための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20240905BHJP
   C12Q 1/66 20060101ALI20240905BHJP
   C12Q 1/48 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 9/12 20060101ALN20240905BHJP
   C12N 9/02 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
C12Q1/66
C12Q1/48 Z
C12N9/12
C12N9/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024515504
(86)(22)【出願日】2022-09-09
(85)【翻訳文提出日】2024-03-12
(86)【国際出願番号】 EP2022075142
(87)【国際公開番号】W WO2023036949
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】21306235.9
(32)【優先日】2021-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505351201
【氏名又は名称】セントレ ナシオナル デ ラ ルシェルシェ シエンティフィーク
(71)【出願人】
【識別番号】520100435
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・コート・ダジュール
【氏名又は名称原語表記】Universite Cote d’Azur
(71)【出願人】
【識別番号】517442373
【氏名又は名称】シュ デ ニース
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】デュラントン クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ルベラ イザベル
(72)【発明者】
【氏名】ファヴレ ギヨーム アレクサンドレ
(72)【発明者】
【氏名】ローレン オードリー
(72)【発明者】
【氏名】レフテリオティス ジョルジュ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA13
2G045AA16
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB03
2G045CB07
2G045DB04
2G045FB01
2G045FB06
2G045GC15
2G045JA01
4B063QA01
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4B063QS03
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4B063QS39
4B063QX02
(57)【要約】
生物学的試料中の無機ピロリン酸(PPi)のレベルを決定するための方法であって、a)酵素反応に基づくアッセイを使用した、生体試料の第1の画分におけるPPiの濃度の測定、b)イオンクロマトグラフィーに基づくアッセイを使用した、生体試料の第2の画分におけるPPiの濃度の測定、c)ステップa)で測定された値とステップb)で測定された値との比較、及び差が所定の閾値を上回るかを評価することを含む、方法。ステップa)及びステップb)でそれぞれ測定された値の間の差が、所定の閾値以下である場合、生体試料中のPPiの濃度は、ステップa)及びステップb)で測定された当該値の平均として決定される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中の無機ピロリン酸(PPi)のレベルを決定するための方法であって、
a)酵素反応に基づくアッセイを使用して、前記生体試料の第1の画分におけるPPiの濃度を測定すること
b)イオンクロマトグラフィーに基づくアッセイを使用して、前記生体試料の第2の画分におけるPPiの濃度を測定すること
c)ステップa)で測定された値とステップb)で測定された値とを比較して、差が所定の閾値を超えるかを評価すること
d)ステップa)及びステップb)でそれぞれ測定された前記値の間の前記差が前記所定の閾値以下である場合、前記生体試料中のPPiの前記濃度が、ステップa)及びステップb)で測定された前記値の平均として決定され、ステップa)及びステップb)でそれぞれ測定された前記値の間の前記差が前記所定の閾値を超える場合、ステップa)~c)が、前記生体試料の新たな画分に対して繰り返されること、を含む、方法。
【請求項2】
前記所定の閾値が、15%に等しい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記所定の閾値が、10%に等しい、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップa)の酵素アッセイが、
i)ATPスルフリラーゼによって触媒される反応によってPPiをATPに変換するステップ
ii)ルシフェリンの存在下でルシフェラーゼを使用してATPから光を生成するステップ
iii)前記試料中のPPiの尺度として生成された生物発光を検出するステップ、を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップa)において、増加していく濃度の外因性PPiを前記生体試料の画分に添加すること、及び外因性PPiを含有する前記画分に対して酵素反応に基づく前記アッセイを行うことによって、較正曲線が最初に確立される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップb)において、前記イオンクロマトグラフィーを行う前に、前記生体試料の前記画分にカルシウムキレート剤を添加する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記カルシウムキレート剤が、EGTAである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記生体試料が、血液、血漿、尿、唾液、滑液、CSF、及び細胞培養培地から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップa)を行う前に、タンパク質、脂質、細胞、及び細胞断片から選択される汚染物質の存在を除去又は低減するための前記生体試料の前処理を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
限外濾過及び遠心分離から選択される方法による前記生体試料の前記前処理を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ステップa)において、前記生体試料中の基礎ATPレベルによって生成される前記生物発光が、ATPスルフリラーゼを添加することによって測定される前記生物発光から減算される、請求項4~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ステップa)において、組換えルシフェラーゼを使用して生物発光を生成する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
個体における調節解除された無機ピロリン酸レベルに関連する状態を検出するためのインビトロ方法であって、前記個体由来の生体試料を、前記生体試料中の無機ピロリン酸(PPi)の前記レベルを決定するための請求項1~12のいずれか一項に記載の方法に供することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機ピロリン酸のレベルの決定、より具体的には、生体試料中の無機ピロリン酸のレベルを決定するための方法に関する。本発明はまた、異常なレベルの循環無機ピロリン酸に関連する状態のインビトロ検出のための方法に関する。
【0002】
無機ピロリン酸(inorganic pyrophosphate、PPi)は、ミネラル沈着及びいくつかの細胞内化合物の生合成を調節する重要な因子である。現在、循環PPiが、血管壁、腎臓、細胞周囲骨基質を含む様々な結合組織におけるヒドロキシアパタイトの望ましくない結晶化を防止することが実証されている(総説について、Terkeltaub,2001,Am.J.Physiol.,Cell Physiol.281,C1~C11を参照されたい)。インビトロ実験において、マイクロモルのPPiは、ミリモルのカルシウム及びリン酸溶液を阻害して不溶性ヒドロキシアパタイト結晶を形成する能力を有する。
【0003】
循環PPiのレベルは、いくつかのタンパク質の活性に関連している。これらのタンパク質のうちの1つの機能を変化させるいくつかの遺伝性変異は、異所性組織石灰化に関連するPPi欠損の中心的役割を強調している。
【0004】
生体液中のPPiレベルの測定は、現在、50年以上前から行われている。異なる技術的アプローチが、放射性、比色、酵素、及びクロマトグラフィー技法に及んで開発されている。しかしながら、ヒト血漿中に検出される正確な濃度のPPiは、異なる試験間で大きく変動している。
【0005】
生体試料中のPPi濃度は、最初にFiske及びSubbarowの方法(Fiske and Subbarow,1925 J.Biol.Chem.66,375-400)を使用して測定され、これは、PPiのリン酸への酸加水分解及び続いてその定量化を介して機能する。しかし、この方法は、その低い感度及びリン酸の内因的存在との相互作用によって強く制限された。
【0006】
32Pピロリン酸を使用する同位体希釈に基づく放射性方法を使用した健常なヒト血漿中のPPiレベルの定量化によって、血漿PPi濃度が1.2~最大5.6μMの範囲であり、3.50±0.11μMの平均を有することが報告された(Russell et al.,1971,American Society for Clinical Investigation)。試料からリン酸及びタンパク質を除去した後に酵母ピロホスファターゼによる、還元されたリンモリブデン酸の測定を通した分光定量化に基づく方法(Silcox and McCarty,1973 J.Clin.Invest.52,1863-1870)によって、健常な患者血漿中で1.80±0.06μMの値(0.16~3.4μMの範囲)が報告された。新たに形成されたNADPHの蛍光測定と結合させたUDPG-ピロホスホリラーゼ酵素方法を使用して、Lust et al.(Lust and Seegmiller,1976 Clin.Chim.Acta 66,241-249)は、2.72±0.14μMのPPi濃度を見出した。影響力のある試験において、Ryan et al.(Ryan et al.,1979 Arthritis & Rheumatism 22,886-891)は、いくつかの試験からのPPiの血漿濃度を再検討し、「平均正常血漿PPiが低い1.8μMから高い3.5μMまで変動するため、1つ以上の未制御変数の存在の可能性を推測することができる」という結論に至った。その後、Lomashvili et al.は、Lust and Seegmillerから改良した[14C]UDPグルコースを使用する方法を記載し、正常な対象におけるPPiの3.0μMの平均血漿レベルを示した(Lomashvili et al.,2005,J.Am.Soc.Nephrol.16,2495-2500)。
【0007】
Prosdocimo et al(2009,American Journal of Physiology-Cell Physiology 296,C828-C839.)は、生体液中のPPi濃度を定量化するために、PPiのATPへの変換に基づく酵素方法を使用し、著者らは、健常な患者における1.39±0.30μMのPPi濃度を報告した。より最近では、この方法を使用して、ヒト健常ボランティアで行われた試験は、約1.1μMのPPi濃度を示した(Jansen et al.,2014 Arterioscler Thromb Vasc Biol 34,1985-1989)が、第2の試験は、μM範囲未満の基礎PPi濃度を示した。
【0008】
異なる方法で得られた血漿PPi濃度の値の不一致は、異なる試験間のデータの比較を強く制限し、PPiを臨床バイオマーカーとして使用する可能性を排除する。
【0009】
したがって、正確で再現性がある、生体液中のPPiの濃度を決定するための方法が必要とされている。
【0010】
また、ミネラル及び骨障害並びに異所性石灰化などの、個体における調節解除されたPPiレベルに関連する状態を検出及び監視することを可能にするインビトロ方法が必要とされている。
【0011】
また、石灰化の障害に関連する状態の治療を、期間中に再現性がある生物学的マーカーを測定することによって監視するための信頼できる方法が必要とされている。
【0012】
これは、PPi濃度を定量化する2種類の技術、すなわち酵素方法及びイオンクロマトグラフィー方法を組み合わせた技術によって達成できることが、本発明の文脈において見出されている。
【0013】
これは、本発明が、生体試料中の無機ピロリン酸(PPi)のレベルを決定するための方法に関する理由であり、方法は、
a)酵素反応に基づくアッセイを使用して、生体試料の第1の画分におけるPPiの濃度を測定すること
b)イオンクロマトグラフィーに基づくアッセイを使用して、生体試料の第2の画分におけるPPiの濃度を測定すること
c)ステップa)で測定された値とステップb)で測定された値とを比較して、差が所定の閾値を超えるかを評価すること。
d)ステップa及びステップbでそれぞれ測定された値の間の差が所定の閾値以下である場合、生体試料中のPPiの濃度は、ステップa)及びステップb)で測定された当該値の平均として決定されること、を含む。
【0014】
ステップa)及びステップb)でそれぞれ測定された値の間の差が所定の閾値を超える場合、いずれの値も生体試料中のPPiの濃度に対応するとみなされず、試験は偽としてみなされる。
【0015】
有利には、ステップc)の後、ステップa)及びステップb)でそれぞれ測定された値の間の差が所定の閾値を超える場合、ステップa)~c)が、生体試料の新たな画分に対して繰り返される。
【0016】
驚くべきことに、いずれかの方法によって得られた結果に大きな変動性が存在するが、PPiについて測定された値のクロスコントロールを実現する2つの方法の使用により、生体試料中の実際の濃度に対応する正確なPPi濃度を計算することが可能となることが認められている。PPiは、各方法についてそれぞれ得られた値の平均値として計算される。
【0017】
2つの技術を用いてそれぞれ測定された値について許容可能な差における適切な所定の閾値の選択は、非常に良好な相関指標を与える。それにより、バイアス及び外れ値測定を排除することが可能となる。
【0018】
実施形態により、所定の閾値は、15%に等しい。
【0019】
本発明による方法は、次いで、以下のステップ:
a)酵素反応に基づくアッセイを使用して、生体試料の第1の画分におけるPPiの濃度を測定するステップ
b)イオンクロマトグラフィーに基づくアッセイを使用して、生体試料の第2の画分におけるPPiの濃度を測定するステップ
c)ステップaで測定された値とステップbで測定された値とを比較して、差が約15%を超えるかを評価するステップ
d)ステップa及びステップbでそれぞれ測定された値の間の差が15%以下である場合、生体試料中のPPiの濃度が、ステップa及びステップbで測定された当該値の平均として決定されるステップ、を含む。
【0020】
ステップa及びステップbでそれぞれ測定された値の間の差が15%を超える場合、ステップa~cが繰り返される。
【0021】
PPi濃度は、好ましくはモル濃度(マイクロモル/体積)として表される。
【0022】
所定の閾値は、当業者によって適用され、それは、例えば、14%、13%、12%、11%、又は特に10%に等しくあり得る。
【0023】
酵素アッセイによって測定された値(Venz)とイオンクロマトグラフィーに基づくアッセイによって測定された値(Vic)との差は、[Venz-Vic]/Venzとして計算することができる。
【0024】
15%の所定の閾値を用いて、アッセイされた試料の30%程度について、測定a)~c)を繰り返すことが必要であり得る。
【0025】
10%の所定の閾値では、アッセイされた試料の50%程度について、測定a~cを繰り返すことが必要であり得る。
【0026】
矛盾する結果のこれらのパーセンテージは変動し得、例示としてのみ与えられる。
【0027】
好ましくは、ステップa)の酵素アッセイは、酵素の存在下でのPPiのATPへの変換、続いて、光学シグナル、好ましくは化学発光シグナル又は蛍光シグナルの生成をもたらすATPの変換に基づいている。
【0028】
好ましくは、ステップa)の酵素アッセイは、PPiが、酵素スルフリラーゼによって、より具体的には酵素ATPスルフリラーゼによって触媒される反応によってATPに変換される、第1のステップi)を含む。このステップi)は、ヌクレオチドの存在下で、より具体的にはアデノシン5’ホスホ硫酸(APS)の存在下で行われる。
【0029】
ステップa)の酵素アッセイは、第2のステップを含み、新たに合成されたATPが、続いてルシフェリン/ルシフェラーゼ生物発光アッセイを使用して定量化される。システムは、ルシフェリン/ルシフェラーゼシステムによって光を生成するATPの分解、及び生成された光の測定を含む。当該反応は当技術分野で既知であり、例えば、Nyren et al(Anal.Biochem.151:504,1985)又はRonaghi et al(Science,281:363,1998)によって記載された。
【0030】
簡潔に述べると、ATPは、ルシフェリンのオキシルシフェリンへのルシフェラーゼ媒介性変換を駆動し、ATPの量に比例する量で可視光を生成する。ルシフェラーゼ触媒反応で生成された光は、例えば、電荷結合素子(charge coupled device、CCD)カメラ、フォトダイオード、及び/又は光電子増倍管(photomultiplier tube、PMT)によって検出され得る。光シグナルは、PPiの初期濃度に比例する。検出されたシグナルは、結果に対応するシステム出力に変換することができ、ユーザは見ることができる。
【0031】
典型的には、ステップa)の酵素アッセイは、
i)ATPスルフリラーゼによって触媒される反応によってPPiをATPに変換するステップ
ii)ルシフェリンの存在下でルシフェラーゼを使用してATPから光を生成するステップ
iii)試料中のPPiの尺度として生成された生物発光を検出するステップ、を含む。
【0032】
好ましい実施形態では、組換えルシフェラーゼタンパク質をステップii)で使用して、経時的に(少なくとも10分間)安定性及び信頼性のある発光を生成する。かかるタンパク質は、特にATP決定キット((ATPlite(登録商標)、PerkinElmer、Waltham,MA)で市販されており、これは製造業者の説明書に従って使用される。
【0033】
本発明の好ましい実施形態では、較正曲線は、標準外因性PPi溶液を生体試料の画分に添加すること、及び外因性PPiを含有する当該画分に対して、本明細書で上記に開示されるように、酵素反応に基づくアッセイを行うことによって実現される。標準曲線は、増加していく濃度の当該外因性PPiを含有する媒体中で生成された光学シグナル、より具体的には生物発光を測定することによって得られる。
【0034】
本発明において、媒体の組成が、反応に関与する酵素(例えば、ATP-スルフリラーゼ及び/又はルシフェラーゼ)の活性に影響を及ぼし、したがって、測定の再現性を変化させることができることが証明されている。本実験において示されるように、マトリックス(イオン、タンパク質、物質)は、酵素反応の測定を変化させ得る。結果として、水、HBSS、又は尿などの異なる媒体中で測定された生物発光は、同じPPi濃度について大きく変動する可能性があり、較正曲線はそのまま置き換え可能ではない。
【0035】
好ましい実施形態により、各試料について、酵素反応に基づくアッセイで生体試料中のPPiの濃度を測定する前に、較正曲線が確立される。各生体試料を、増加していく濃度の外因性PPiでスパイクし(新鮮なPPi溶液の添加)、各生体試料のPPi濃度は、それ自体の直線回帰方程式を使用して決定される。
【0036】
ステップb)において、PPiの検出は、イオンクロマトグラフィー(ionic chromatography、IC)方法を使用して行われる。IC方法による投与量は、HPLC方法をイオン伝導度の検出器(伝導度測定法)と組み合わせる。IC方法は、PPi濃度の増加に比例したそれらの表面の増加を示した有意なピーク(溶離プロトコル及びこのステップに使用されるカラムによる保持時間およそ23分、下記を参照されたい)を検出することを可能にする。
【0037】
異なる濃度のPPiについて測定されたピーク面積(μs・分-1)の計算は、水中又はHBSS+10%FBS溶液中の溶液間で有意には異ならず、マトリックスの組成がこのIC技術を使用するPPi濃度に対して影響を有しないことを示唆している。
【0038】
IC分析は、当技術分野で既知のクロマトグラフィーシステムを使用して行うことができ、例えば、イオンクロマトグラフィーDionex ICS-5000 plusシステム(Thermo Scientificによって市販されている)を使用することができる。システムは、オートサンプラー、ポンプ、溶離液発生器、及び導電率検出器を含む。システムは、溶離液発生器(KOH、500mM)、ガードプレカラム(AG11-HC、RFIC、2×50mm)、及びPPiの検出のための分析用アニオンカラム(IonPac AS-11-HC、2×250mm、RFIC)が装備される。
【0039】
PPi測定のため、試料が注入され、溶出プロトコルが、KOH続いて線形増加期間を用いて一般に行われ、戻り期間前に安定期間に達する。
【0040】
条件は、好ましい実施形態では、注入ループ:10μlであり得る。溶出時間27分は、7mMのKOHで0~2分、7mMから開始して45mMまで2~22分の勾配、50mMのKOHで22~25分、7mMで25分~27分を含む。
【0041】
PPiピークの定量化は、表面積を測定し、対応する標準曲線と比較することによって、適合したソフトウェアを使用して行うことができる。
【0042】
好ましくは、ステップb)において、イオンクロマトグラフィーに基づくアッセイによってPPi濃度を測定する前に、EGTA[エチレングリコールビス(2-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸]などのカルシウムキレート剤を生体試料に添加する。かかるカルシウムキレート剤は、カルシウムイオンと錯体を形成することができる。有利には、カルシウムキレート剤は、PPiの保持ピークとは異なるICにおける保持ピークを示す。本発明に適合したカルシウムキレート剤は、特に、EGTA及びEGTAの誘導体から選択される。
【0043】
PPiのレベルを決定するための方法は、ヒト又はげっ歯類(マウス、ラット、・・・)などの哺乳動物由来の生体試料に特に適合される。生体試料は、特に、血液、血漿、尿、唾液、滑液、CSF(脳脊髄液)、及び細胞培養培地から選択することができる。
【0044】
本発明の方法の特定の実施形態において、生体試料は、ステップa)~c)を行う前に、分析前処理に供される。
【0045】
特に、生体試料は、汚染物質の存在を除去又は低減するために前処理に供され、当該汚染物質は、例えば、タンパク質、脂質、細胞(血小板など)、及び細胞断片(赤血球、白血球、血小板・・・)から選択される。当該汚染物質は、試料中の低濃度のPPiの測定に干渉する可能性がある。かかる前処理は、特に、限外濾過である。
【0046】
本発明に適合される前処理としては、遠心分離、限外濾過、及び/又は凝固が挙げられるが、これらに限定されない。限外濾過のためのカットオフは、特に、血液及び血漿試料のために、血漿タンパク質(例えばアルブミン、・・・)及び細胞(血小板及び単球)又はこれら細胞の断片を排除するように選択される。
【0047】
例えば、イオンクロマトグラフィーアッセイの前に、試料はまた、アセトニトリルなどのタンパク質の沈殿を誘導する薬剤による処理に供される。
【0048】
有利には、ステップa)における酵素アッセイでは、生体試料中の基礎ATPレベルによって生成された生物発光は、ATPスルフリラーゼの添加によって得られた生物発光から減算され、生体試料にATPスルフリラーゼを添加した後に観察された全生物発光は、試料中に存在する基底ATP及びATPスルフリラーゼによるPPiの変換によって生成されたATPの両方のルシフェリン/ルシフェラーゼ反応に対応する。試料中のPPiのより正確な測定を得るために、ATPスルフリラーゼが不活性化されている、特に熱不活性化されている試料中で得られた生物発光が測定され、値は試料中のATPの基礎濃度に対応する。
【0049】
プロセスの概略図が図2に示される。
【0050】
2つの溶液が必要とされる。溶液Aは、ATPスルフリラーゼ及びAPSを含有する。ATPスルフリラーゼを含有する溶液Bを処理してATPスルフリラーゼを不活性化し、次いでAPSを添加する。各試料又は標準の小分けを2つの異なるウェルに加える。ウェルに溶液Aを添加する。第2のウェルに、同量の溶液Bを添加する。次いで、プレートを、例えば37℃で30分間、続いて90℃で10分間インキュベートして、ATPスルフリラーゼを不活性化する。生成したATPを、組換えルシフェラーゼタンパク質を使用して発光によって定量化する。発光(luminescence、LUM)を測定する。PPi値が、溶液Bで測定された基礎ATPレベルを減算することによって得られる。
【0051】
本発明はまた、個体における調節解除された無機ピロリン酸レベルに関連する状態を検出するためのインビトロ方法に関するものであり、方法は、当該個体由来の生体試料を、当該生体試料中の無機ピロリン酸(PPi)のレベルを決定するための上記に開示される方法に供することを含む。
【0052】
PPiは実際に、石灰化の生理学的阻害因子である。
【0053】
ABCC6変異は、いくつかの特定の組織における弾性線維の石灰化を特徴とする遺伝性疾患弾力線維性仮性黄色腫(pseudoxanthoma elasticum、PXE)を引き起こす。PXE表現型は、乳児の全身性動脈石灰化(generalized arterial calcification of infancy、GACI、OMIM208000)又は関節及び動脈の石灰化(ACDC、OMIM211800)などの他の遺伝性状態と重複する。対照的に、tnap遺伝子における機能喪失型変異は、低ホスファターゼ血症(hypophosphatasia、HPP)、くる病、及び軟骨石灰化症につながる上昇した循環レベルのPPiをもたらす。更に、細胞外PPiホメオスタシスは、CKD(慢性腎疾患)、肝疾患、並びに骨ジストロフィー性、リウマチ性、及び変性関節の疾患を含むいくつかの後天性疾患において遭遇する異所性石灰化プロセスのキーストーンであると思われる。
【0054】
したがって、本発明の方法は、特に、血管石灰化、弾力線維性仮性黄色腫(PXE)、低ホスファターゼ血症(HPP)、くる病、軟骨石灰化症、慢性腎疾患(chronic kidney disease、CKD)、肝疾患、骨ジストロフィー性疾患、リウマチ性疾患、変性関節病の中から選択される状態を検出又は監視するために使用することができる。それはまた、1つの当該状態を有する個体、並びに透析中及び他の未決定の石灰化促進性又は抗石灰化性の石灰化病状を有する患者の治療をモニタリングするために使用することができる。
【0055】
本発明の方法は、好ましくは、血漿試料に使用して、限外濾過した血漿中のPPi濃度を酵素方法及びIC方法を使用して定量化し、測定された値を持続的にクロスコントロールし、結果の信頼性を増加させる。それにより、可変的な石灰化促進性又は抗石灰化性表現型を有する遺伝子疾患及び代謝疾患を理解するために、PPiの再現性のある測定が可能となる。
【0056】
本発明はまた、上記の方法を行うためのキットに関する。本発明によるキットは、ATPスルフリラーゼ、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、及びPPi較正溶液、並びにアセトニトリル及びEGTAを含み、それはまた、血漿限外濾過フィルターを含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0057】
本発明は、以下の実施例によってより良く理解されるであろう。実施例は、図を参照する。
図1】酵素方法及びIC方法を使用したPPi濃度の測定に対するマトリックス組成の影響。a:酵素生物発光方法によって得られた、増加していく濃度のPPiについて測定された発光値(任意単位)測定は、2つの異なるマトリックス溶液(超純水及びHBSS+10%FBS)において行われた。PPi濃度は、ストック溶液(10mM)からの外因性PPiの添加によって、0.75、1.5、3、5、及び10μMに調整した。値は、4つの異なる測定の平均±SEMである(p****<0.005でのANOVA t検定)。b:2つの異なるマトリックス溶液(超純水又は10%FBSを補充したHBSS)において、増加していく濃度についてPPiをイオンクロマトグラフィー(IC)方法を使用して測定した用量反応曲線。PPi濃度は、各個々のpicの測定された表面にフィッティングさせた。値は、各実験条件における5つの異なる測定の平均±SEMである。c:酵素方法及びIC方法の両方を使用して測定されたヒト尿試料中のPPi濃度の比較。d:酵素方法及びIC方法の両方を使用して、WT HEK293細胞又はrABCC6トランスポーターを過剰発現するHEK293細胞の上清において測定されたPPi濃度の比較。値は、4つの異なる測定の平均±SEMである。
図2】ヒト血漿中のPPi濃度を定量化するために使用された酵素方法及びIC方法における異なるステップの説明。
図3】ヒト血漿中のPPi濃度の測定及び酵素方法とIC方法との間の比較。a.PPiスパイクした限外濾過血漿で測定された発光傾きの図。b.酵素方法及びIC方法の両方を使用して測定されたPPi血漿濃度(限外濾過血漿、80人の異なるドナー)の比較。c.42人のドナーから得られたPPiの酵素定量化を使用する、古典的に使用された方法(フィルターカットオフ300kDa+EDTA)及び改善された分析前方法(カットオフ50kDa、EDTAなし)の比較。d.血漿PPi濃度の減少又は増加を誘導することが知られている異なる疾患に罹患している異なる患者集団の血漿(限外濾過液)で測定されたPPi濃度。
【実施例
【0058】
PPi較正溶液
10mmol/Lピロリン酸ナトリウム二塩基性(PPi、sc-251047、Santa Cruz Technologies製)ストック溶液の独立した希釈物(0.5~10μmol/L)を、超純水(抵抗率≧18.2MΩ/cm、Millipore(登録商標)、France)又はハンクス平衡塩溶液(HBBS、H8264、Sigma-Aldrich)を用いて調製し、較正溶液として使用した。
【0059】
細胞培養及び細胞PPi放出プロトコル。
不死化したHEK-293野生型及びHEK-293 rABCC6細胞株(Pr.Van de Veteringによって厚意により提供された(Jansen et al.,2013)を使用した。これらの細胞は、ラット型のABCC6トランスポーターを構成的に発現する。両方の細胞株を、10%血清及びペニシリン/ストレプトマイシン(50U/mL)を含有するDMEM培地培養物で古典的に培養した。培養は使用前に、37℃で5%CO/95%空気の水飽和雰囲気中に維持した。細胞を15~25継代で使用した。rABCC6の発現によって媒介された細胞外PPiの測定を、プロマイシン(2μg/mL)の存在下でサブコンフルエンスまで2日間培養した細胞に対して行った。実験当日、培養した培地を、10%ウシ胎児血清、グルコース(最終4.5g/l)、10mM HEPES、及び2mMグルタミンを含有するHBSS培地(レッドフェノールフリー)と交換した。HBSS上清を0.5、1、3、及び6時間後に収集し、遠心分離(5分、2000g、4℃)して、PPi定量化を変化させ得る懸濁液中の推定細胞を除去した。試料を使用前に-80℃で凍結した。全ての実験について、各ウェルにおける正確なタンパク質含量を、Bio-Radタンパク質アッセイ(France)を使用して測定した。
【0060】
ヒト生体試料調製
PXE患者由来の生体試料は、フランス人PXEコホートを表現型決定するためのプロトコル(ClinicalTrials.gov Identifier:NCT01446380)の一部として、national PXE Reference Center(MAGEC Nord,Angers University Hospital、Angers,France)のバイオバンクから提供された。
【0061】
PPi尿定量化のために、一晩の絶食期間後に血液試料と同時に尿試料を朝に収集した。尿を尿モノベット収集チューブに収集した。酵素方法のために、尿試料を超純水で16×希釈した。IC測定のために、尿試料並びに較正溶液を蒸留水で4×希釈した。
【0062】
PPi血漿定量化のために、患者の血液試料を、一晩の絶食期間後の朝に、クエン酸ナトリウム収集チューブ(クエン酸3.2%(2.7mL、ref:363048)に直接収集した(静脈穿刺)。チューブは限度まで又はそのすぐ下まで満たした。
【0063】
ヒト血漿分析前試料調製
遠心分離(1000~1200g、15分、4℃)して全ての血液細胞(主に赤血球及び白血球)を積層するまで、クエン酸塩チューブを氷上で垂直に保った。血漿を収集し、溶血のレベルを測光測定(ヘモグロビンについて546nmでの吸収)によって定量的に評価した(Duranton et al.,2002 J.Physiol.539,847-855.)。0.2%未満のRBC溶血を最大レベルとして固定して、遊離ヘモグロビンが血漿限外濾過プロトコル及びPPi定量化方法に干渉しないとみなした。血漿を、Amicon 0.5mL ultracel(登録商標)50Kフィルター(50kDaカットオフ、UFC505096、14000gで20分間スピン)又はCentrisart濾過ユニット(300.kDaカットオフ、Sartorius 13279、2200gで30分間スピン)を使用して4℃で限外濾過した。Centrisartフィルターは、血小板及び分子量>300kDaのタンパク質を血漿から除去する。Amiconフィルターは、製造業者の説明書に示されるように、血小板だけでなくタンパク質(すなわち、アルブミン)の95%も除去することを可能にする。限外濾過液は透明及び無色であり、-80℃で保存した。限外濾過液中のPPiの測定値を変化させ得るPPiの分解又は血液細胞溶解を回避するために、分析前方法の全ての異なるステップを可能な限り迅速及び連続して行った。
【0064】
酵素方法を使用したPPi定量化:ルシフェリン/ルシフェラーゼアッセイ。
[PPi]は、過剰のAPS(アデノシン-5’-ホスホ硫酸)の存在下でPPiをATPに変換するATPスルフリラーゼを使用して酵素的に決定される。2つの溶液が必要とされる。溶液Aは、0.1U/mLのATPスルフリラーゼ(New England Biolabs,MO394)及び80μMのAPS(Sigma-Aldrich、A5508)を含有する。0.1U/mLのATPスルフリラーゼを含有する溶液Bを90℃で10分間処理してATPスルフリラーゼを不活性化し、次いでAPSを添加する。15μlの各試料又は標準を、2つの異なるウェルに加える。ウェルに5μlの溶液Aを添加する。第2のウェルに5μlの溶液Bを添加する。次いで、サーモサイクラー(Mastercycler Eppendorf)を使用して、プレートを37℃で30分間、次いで90℃で10分間インキュベートし、ATPスルフリラーゼを不活性化する。生成されたATPは、ATP決定キット((ATPlite;PerkinElmer、Waltham,MA)を製造業者の説明書に従って使用して定量化した。このATPキットは、組換えルシフェラーゼタンパク質を使用して経時的に(少なくとも10分間)安定的及び信頼性のある発光を生成するその能力のために選択された。発光(LUM)を、マイクロプレートリーダー(Synergy HT、BioTek、US)で白色マイクロプレートにおいて10分間にわたって3回測定する。PPi値が、溶液Bで測定された基礎ATPレベルを減算することによって得られる。
【0065】
特別な注意が、マトリックス(イオン、タンパク質、又は任意の物質)の任意の潜在的な影響に払われている。したがって、細胞培養培地中のPPi決定のために、PPiの標準曲線を同じ無色培地で実現した。尿試料中のPPi測定のために、試料を16倍希釈して、水中のPPiの較正曲線に基づいて試料濃度を計算しなければならなかった。各血漿試料(5μl)に10μlの増加していく濃度のPPi溶液をスパイクし、各血漿試料のPPi濃度を、それ自体の直線回帰方程式を使用して決定した。
【0066】
イオンクロマトグラフィー(IC)を使用したPPiの定量化
IC分析前に、40μlの全ての生体試料(細胞培養培地、尿試料、又は患者血漿限外濾過液)にEGTA(1mM最終濃度)を補充し、アセトニトリル(希釈1:1体積)の添加を使用して混合及び除タンパクした。試料を強く混合し、12000gで遠心分離した(4℃で10分間)。同じプロトコル(EGTA及びアセトニトリルの添加)を、較正試料(水又はHBSS中の0.75、1.5、3、5、10μMのPPi)の定量化にも使用して、最終的に同じ希釈係数及び同じマトリックス組成を有した。
【0067】
PPiの検出は、イオンクロマトグラフィーDionex ICS-5000 plusシステム(Thermo Scientific)を使用して行った。システムは、オートサンプラー、ポンプ、溶離液発生器、及び導電率検出器を含んだ。システムは、溶離液発生器(KOH、500mM)、ガードプレカラム(AG11-HC、RFIC、2×50mm)、及びPPiの検出のための分析用アニオンカラム(IonPac AS-11-HC、2×250mm、RFIC)が装備される。PPi測定プロトコル:0.25mL/分の水デビット、試料注入ループ:10μl、溶離プロトコル:7mMのKOH(2分)、続いて50mMに達するまでの直線増加期間(20分)、及び安定期間(50mM、4分)後に復帰期間(7mM、2分)。(合計時間=28分)。
【0068】
Chromaleonソフトウェア(Thermo Scientific)を使用して、表面積を測定することによってPPi pic定量化を行い、対応する標準曲線と比較した。
【0069】
データ分析
グラフィックス及びデータ分析は、Graphpad prism(Scientific Software)で行われている。ダンの多重比較検定事後検定を用いるANOVA t検定が、異なる患者群間の血漿PPi濃度について行われている。
【0070】
結果
酵素方法を使用するPPiの測定は、(Prosdocimo et al.,2009)から適合され、PPiをATPに変換し、続いてATPを加水分解して生物発光反応を使用して光を生成する2つのステップを必要とする。第1のステップにおいて、PPiは、アデノシン5’ホスホ硫酸(APS)及びATPスルフリラーゼの存在下でATPに変換される。第2のステップにおいて、新たに合成されたATPは、その後、ルシフェリン/ルシフェラーゼ生物発光アッセイを使用して定量化される。この酵素方法を使用して、一連の測定が行われ、外因性PPi(Na2PPi、最終濃度0.75、1.5、3、5、10μM)を超純水又はより生理学的な溶液(10%血清を補充したHBSS)に添加した。水又はHBSS+10%血清溶液中のPPiの量を増加させると、最大10μMの濃度で直線的に発光に増加をもたらした。媒体の組成は、用量反応曲線の傾きに影響を強く及ぼした(図1a)。
【0071】
したがって、媒体の組成は、ATP-スルフリラーゼ又はルシフェリン/ルシフェラーゼ反応を変化させることができ、そのため、PPi濃度の決定に誤差を生じ得る(マトリックス効果)。これは特に、異なるイオン組成又はタンパク質組成を示す生体試料(尿、培養培地、血漿・・・)を用いる場合である。
【0072】
次に、PPi濃度は、同じ試料でイオンクロマトグラフィー(IC)方法を使用して測定した。PPi濃度の測定は、酵素実験に以前使用したのと同じ溶液で行った。IC方法は、PPi濃度の増加に比例するそれらの表面の増加を示す、有意なピーク(およそ23分の保持時間)を検出することを可能にする。異なる濃度のPPiについて測定されたピーク面積(μs・分-1)の計算は、2つの溶液間で有意には異ならず(図1b)、マトリックスの組成がこのIC技術を使用するPPi濃度に対して影響を有しなかったことを示唆している。
【0073】
異なる生体液の状況において2つの方法(酵素的及びIC)で得られた値を比較するために、最初に、細胞外PPiのレベルを培養した細胞の上清(培養培地)中で定量化した。HEK293-ABCC6細胞は良好なモデルを代表するが、それは、ABCC6タンパク質の過剰発現が、数時間の培養後に上清中のPPiの顕著及び重要な増加を誘導することが以前に実証されているためである。上清を2つの異なる細胞株:WT HEK293細胞又は安定なラットABCC6トランスポーターを発現するHEK293細胞(Pr.Van de Wetering Kによって厚意で提供された)から得た。時間0で、培養培地を10%血清を含有するHBSS培地と交換し、上清を0.5、1、3及び6時間後に収集し、PPi濃度を酵素方法及びIC方法の両方を使用して同時に決定した。両方の方法で、較正PPi溶液を同じ培養培地(HBSS+10%血清)中に調製した。値を、各ウェルで測定されたタンパク質含量に対して正規化し、図1dに示される。WT HEK293細胞の上清において、PPi濃度に有意な増加が、両方の技術で、動態の全ての時点で検出されなかった。対照的に、PPi濃度は、HEK293-ABCC6細胞の上清で測定された場合、インキュベーションの時間とともに有意に増加し、両方の技術で得られたPPi値は、動態の各時点についてほとんど同様である。要するに、この実験は、細胞培養試料中のPPi濃度を定量化するために本発明者らが使用した方法が信頼でき、同等の結果を与えることを確証する。
【0074】
次に、両方法を、ヒト尿試料中のPPiを定量化するために使用した。PPi定量化は、25例の独立した尿試料から両方の方法を用いて行った。両方法について、増加していく濃度の外因性PPi(酵素方法では0~10μM、IC方法では最大50μMまで)を補充した超高純度蒸留水を使用して用量反応曲線を行った。尿試料を超純水で希釈して、酵素方法を使用して以前に観察された、推定マトリックス効果を制限した。結果として、両方法で測定された値を比較し、直線回帰でフィッティングさせた(図1c)。試料に、尿PPi濃度の広い分布が、<1μM~最大>30μMで観察された。両方法で測定されたPPi濃度をフィッティングさせると、r=0.88(p<0.0001)のスピアマン相関が明らかになる。2つの方法で得られた値の比較のためのブランド-アルトマン分析は、有意なバイアスを示さず、方法が、この試験において使用されたPPi範囲内及び実験条件内で信頼できることを示唆する。
【0075】
次いで、両技術を組み合わせて、ヒト血漿試料中のPPiを定量化する。ヒト血漿中のPPi濃度の決定前に、試料の特定の分析前調製を行った。
【0076】
新たに採取したヒト血漿を、50kDaカットオフフィルターを使用する限外濾過手順に供して、懸濁物中のタンパク質の95%及び全ての推定細胞を除去した(これらのフィルターを用いるこの遠心分離ステップは、従来のベンチ遠心分離機を用いて行われ得、試料が本発明者らの臨床施設において技術的に取り扱われる方法を強力に促進する)。次いで、限外濾過した血漿を、増加していく濃度の外因性PPi(0、0.5、1及び2μM)でスパイクして、異なるドナー間で変動し易い血漿組成の影響(マトリックス効果)を排除した。図3aは、この状況を示し、2つの異なるスパイクした限外濾過血漿及び較正PPi水溶液にフィッティングさせた直線回帰を示した。結果として、血漿2の傾き(直線回帰によって得られる)は水溶液の傾きと同じであるが、血漿1の傾きは異なることが観察された。
【0077】
これらの結果によって、古典的なPPi/水較正曲線を使用する代わりに酵素的アプローチを使用する血漿試料中のPPiの測定が、好ましくは、各スパイクした血漿の直線回帰の傾きを計算することによって行われるべきであることが確証された。次に、80例の血漿試料(80人の異なるドナー)から酵素方法及びIC方法の両方を用いて同じ限外濾過液中で同時に測定したPPiの値を比較した。同じ血漿試料中のPPi濃度を定量化する両方の方法の使用により、測定された値をクロスコントロールし、測定の精度を強化することが可能となる。両方法で得られたPPi値の間の15%を超える変動は許容できないとみなされ、測定がやり直されなければならない。最初に行われた80例の対測定のうち、10例は固定された標準に達しておらず、PPi定量化が各方法で2回行われた。この測定の追加実行後、PPiの値を80例の異なる試料についてフィッティング(直線回帰)させ(図3b)、r=0.964(p<0.0001)のスピアマン相関を得た。ブランド-アルトマン分析は、有意なバイアスを示さず(p=0.237)、この組み合わせた方法が、ヒト限外濾過血漿に見出されるPPi範囲内で信頼できることを示唆する。
【0078】
この組み合わせた方法を使用することにより、PPi定量化の精度を強く増強し、真の循環PPi濃度に非常に近いPPi濃度(両方法から得られた値を平均する)を計算することが可能となる。
【0079】
最初に、記載されているように(Jansen et al.,2014)、古典的な分析前処理を使用し、EDTA三ナトリウム(1mM)を血液試料に添加し、遠心分離して血漿を収集し、続いて300kD質量カットオフフィルターに通す濾過によって血小板を枯渇させた。しかしながら、EDTAは、PPiに非常に近い保持時間を示すため、EDTAの添加はIC方法の使用を強く制限し、PPi決定のためのIC方法の使用を排除する。
【0080】
この古典的に使用される分析前技術を、酵素方法を使用する技術(EDTA+300kDカットオフフィルター対EDTAなし+50kDカットオフフィルター)と比較した。
【0081】
同じ血液試料から、2つの分析前技術を使用して2つの異なる限外濾過液を調製し、PPi濃度を各限外濾過液中で測定した。42人の異なる患者から採取した42例の血漿試料を用いてこの手順を行い、PPi濃度を比較し、直線回帰にフィッティングさせた(図3c)。r=0.9476(p<0.0001)のスピアマン相関が、両方の分析前方法から得られた限外濾過液で測定されたPPi濃度間で観察された。ブランド-アルトマン分析は、有意なバイアスがないことを明らかにし(p=0.137)、両方の分析前方法が、本試験に使用されるPPi範囲内で信頼できることを示唆した。血液試料へのEDTAの前添加を伴わない50kD質量カットオフフィルタリング技法を、IC方法及び酵素方法でPPiを添加することができる参照分析前技術として選択した。
【0082】
最後に、新規分析前方法を用いたPPi定量化のための組み合わせた方法(酵素的及びIC))を、血漿PPiのレベルを変化させることが知られている遺伝性疾患又は後天性疾患に罹患している患者から得られた血漿試料に適用した(図3d)。これらの異なる群由来の血漿PPiレベルを検査し、健常な対象の群と比較した。患者は、異所性石灰化及び低PPi血漿レベルを特徴とする障害である弾力線維性仮性黄色腫(PXE)に罹患した群を含む。それらにはまた、永続的な腎置換療法下の慢性腎疾患を有する血液透析患者(hemodialyzed patient、HD)、並びに骨及び他の石灰化組織の発達に影響を及ぼす稀な遺伝性疾患である低ホスファターゼ血症(HPP)を有する患者が含まれる。
【0083】
PPi濃度は、健常群において1.64±0.37μM[1.07-2.65、n=34]であり、PXE患者において有意に低く(0.892±0.35μM[0.43~2.07、n=36])、HD患者では1.05±0.404μM[0.26~1.59、n=10]だった。対照的に、HPP遺伝性障害を有する4人の患者のPPi濃度は、4.48±1.31μM[2.58~5.59]の平均で予想通り高かった。要するに、PXE患者で測定されたPPiの平均値は、健常な患者における値よりも約50%低い。この結果は文献と一致する。
【0084】
2つの異なる技術的アプローチ(酵素的及びIC)を組み合わせることによる信頼性及び再現性のある方法は、様々な生体液のPPi濃度を正確に測定することを可能にする。血漿PPi定量化のために、この組み合わせた方法は、試料が技術的に取り扱われる手段を強力に促進する新規分析前方法に関連付けられる。
図1
図2
図3
【国際調査報告】