(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】アセチル化シアル酸グリコクラスターおよび感染性疾患を治療するためのその使用
(51)【国際特許分類】
C07H 15/04 20060101AFI20240905BHJP
A61K 31/7056 20060101ALI20240905BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240905BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20240905BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240905BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240905BHJP
C07K 16/40 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
C07H15/04 C CSP
A61K31/7056
A61K45/00
A61K38/02
A61K39/395 N
A61P31/14
C07K16/40 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515553
(86)(22)【出願日】2022-09-09
(85)【翻訳文提出日】2024-05-07
(86)【国際出願番号】 EP2022075109
(87)【国際公開番号】W WO2023036932
(87)【国際公開日】2023-03-16
(32)【優先日】2021-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522411315
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ カソリーク デ ルーヴァン
(71)【出願人】
【識別番号】524090079
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ デ ナミュール
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】アルスティーンス,デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンセント,ステファン
【テーマコード(参考)】
4C057
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C057AA18
4C057BB02
4C057CC03
4C057DD03
4C057JJ55
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA44
4C084DC40
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB33
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB31
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086AA04
4C086EA07
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB33
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA53
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA29
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、大環状分子に共有結合した少なくとも2つのアセチル化シアル酸を含むグリコクラスターに関し、前述の大環状分子は、ポルフィリン、ピラーアレーン、カリックスアレーン、およびフラーレンから選択される。一実施形態によれば、各アセチル化シアル酸は、4-O-アセチル化シアル酸、7-O-アセチル化シアル酸、8-O-アセチル化シアル酸、および9-O-アセチル化シアル酸から独立して選択される。本発明はまた、コロナウイルス感染症などの感染性疾患の治療および/または予防に使用するためのグリコクラスターに関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大環状分子に共有結合した少なくとも2つのアセチル化シアル酸を含むグリコクラスターであって、
前記大環状分子は、ポルフィリン、ピラーアレーン、カリックスアレーン、およびフラーレンから選択され、
各アセチル化シアル酸は、4-O-アセチル化シアル酸、7-O-アセチル化シアル酸、8-O-アセチル化シアル酸、および9-O-アセチル化シアル酸から独立して選択される、
グリコクラスター。
【請求項2】
前記グリコクラスターは、前記大環状分子に共有結合した少なくとも4つのアセチル化シアル酸を含む、請求項1に記載のグリコクラスター。
【請求項3】
各アセチル化シアル酸は、7-O-アセチル化シアル酸および9-O-アセチル化シアル酸から独立して選択される、請求項1または請求項2に記載のグリコクラスター。
【請求項4】
各アセチル化シアル酸は、9-O-アセチル化シアル酸である、請求項3に記載のグリコクラスター。
【請求項5】
前記大環状分子は、ポルフィリンから選択され、好ましくは[Zn(テトラフェニルポルフィリン)]およびテトラフェニルポルフィリンから選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載のグリコクラスター。
【請求項6】
前記グリコクラスターは、少なくとも1つのアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)結合阻害剤をさらに含み、好ましくは、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)結合阻害剤は、ACE2結合阻害ペプチド、ACE2結合阻害タンパク質、および抗ACE2抗体またはその抗原結合性フラグメントから選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載のグリコクラスター。
【請求項7】
前記グリコクラスターは、式(I)、(Ia)、(II)、(III)または(IV)
【化1】
の化合物、またはその医薬的に許容される塩および/もしくは溶媒和物であり、
式中、
各L
1は、独立して、
-単結合、または
-アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル、およびアルキルヘテロアリールから選択されるリンカー
であり、
前記アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル、またはアルキルヘテロアリールは、任意で少なくとも1つのカップリング生成物を含み、
各R
1は、アセチル化シアル酸およびACE2結合阻害剤から独立して選択され、ただし、少なくとも2つのR
1はアセチル化シアル酸であり、
Mは、金属カチオンである、
請求項1~6のいずれか一項に記載のグリコクラスター。
【請求項8】
各L
1は、アルキル、ヘテロアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル、およびアルキルヘテロアリールから選択されるリンカーであり、前記アルキル、ヘテロアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル、またはアルキルヘテロアリールは、1つまたは2つのカップリング生成物を含み、好ましくは、前記カップリング生成物の少なくとも1つはトリアゾリルである、請求項7に記載のグリコクラスター。
【請求項9】
各L
1-R
1は、-(CH
2)
m-R
C-(CH
2)
n-R
1、-O-(CH
2)
m-R
C-(CH
2)
n-R
1、-C(O)-(CH
2)
m-R
C-(CH
2)
n-R
1、-C(O)O-(CH
2)
m-R
C-(CH
2)
n-R
1、-フェニル-(CH
2)
m-R
C-(CH
2)
n-R
1、および-フェニル-O-(CH
2)
m-R
C-(CH
2)
n-R
1から選択され、
式中、R
Cは、カップリング生成物、好ましくはトリアゾリルであり、mおよびnは、独立して1~8の範囲の整数、好ましくは1~4の範囲の整数であり、各R
1は、請求項7に定義されるとおりである、
請求項7または請求項8に記載のグリコクラスター。
【請求項10】
各R
1は、9-O-アセチル化シアル酸である、請求項7~9のいずれか一項に記載のグリコクラスター。
【請求項11】
前記グリコクラスターは、式(011)、(005)、(008)または(014)
【化2】
の化合物、またはその医薬的に許容される塩および/もしくは溶媒和物であり、
式中、各R
1は、式(9-AcSA)
【化3】
のものであり、
式中、波線は、前記グリコクラスターへのR
1の結合点を表す、
請求項10に記載のグリコクラスター。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のグリコクラスター、および少なくとも1つの医薬的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項13】
薬剤として使用するための、請求項1~11のいずれか一項に記載のグリコクラスター、または請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
感染性疾患、好ましくはコロナウイルスまたはピコルナウイルス感染症、より好ましくはSARS-CoV-2感染症の治療および/または予防に使用するための、請求項1~11のいずれか一項に記載のグリコクラスター、または請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記アセチル化シアル酸の各々と前記大環状分子のカップリング、好ましくは、末端アルキンとアジドとの間の反応がトリアゾリル基の形成をもたらすカップリングのステップを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載のグリコクラスターを製造するためのプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染性疾患の治療の分野に属し、感染性疾患、特にSARS-CoV-2感染症の治療に使用するための、複数のアセチル化シアル酸を含む新規グリコクラスターに関する。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルス(CoVs)は、Coronaviridae科、Orthocoronavirinae亜科のウイルスである。それらは、プラス鎖一本鎖リボ核酸(RNA)ゲノムおよびらせん状ヌクレオカプシドを有するエンベロープウイルスである。それらの名前は、独特の形態、すなわち、王冠様の外観を与える、それらのエンベロープの表面から突出する一連のこん棒状スパイクによるものである。コロナウイルスはまた、異常に大きいRNAゲノムおよび特異的な複製戦略を特徴とする。RNAウイルス、特にコロナウイルスは、哺乳類および鳥類の広範な呼吸器、全身、胃腸、および神経疾患の原因である。
【0003】
コロナウイルスは、最初に、英国および米国で、約50年前にヒトで特定された。それ以来、それらは概して、軽度の感染性呼吸器疾患、例えば感冒を引き起こすのみと見なされた。20世紀の初めに、2つの高病原性コロナウイルスが最初に特定された:重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)および中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)。以前のコロナウイルス感染症とは対照的に、SARSおよびMERSは、重度の呼吸器疾患であり、何百人もの死者を出した。2019年の終わりに、新型の感染性呼吸器疾患が、武漢(中国)で発生し、原因は、最終的に、新型ヒトコロナウイルスSARS-CoV-2と特定された。SARS-CoV-2のゲノムは、SARS-CoVのものと約80%同一であり、コウモリコロナウイルスBatCoV RaTG13のものと約96%同一である。SARS-CoV-2感染によって引き起こされる疾患は、「コロナウイルス感染症2019」(「COVID-19」)と名付けられている。COVID-19は、2020年に深刻な世界規模のパンデミックとして急速に現れた。
【0004】
SARS-CoV-2感染症は、かなりの数の感染者が無症状のままであると考えられる。症状のある患者の場合、COVID-19は、一般に(約80%)、軽度の重症度の呼吸器疾患として現れ、その症状には、発熱、咳または他の呼吸器症状(軽い息切れもしくは胸部圧迫感など)、頭痛、疲労または筋肉痛、ならびに嗅覚および味覚の喪失が含まれる。しかしながら、一部の患者(約15%)には、呼吸困難、低酸素症、または肺炎(「COVID-19肺炎」)を含む重度の症状が現れる。少数のケース(約5%)では、呼吸不全、ショック、または多臓器不全などの重篤な症状が観察される。COVID-19患者の約20%は、入院を必要とし、その一部(約5%)は、集中治療室(ICU)に入らなければならないと推定された。臓器への永久的な損傷が、いくつかのケースで観察され、一部の患者は、回復後数か月経っても様々な影響を受け続ける(「COVID後遺症(long COVID)」)したがって、COVID-19は、かなりの苦痛および死を引き起こし、世界中の多くの医療システムも危険にさらす。
【0005】
SARS-CoV-2に対するいくつかのワクチンが承認され、様々な国に分配された。対照的に、予防および/または治療の目的でウイルスを阻害する薬物を開発するための研究が進行中であるが、COVID-19の一次治療は、対症療法、ならびに支持療法および隔離などの補助的措置のままである。さらに、一部の大規模ワクチン接種キャンペーンは、多くの国で重大な欠点に直面しており、多くの人々が、近い将来、COVID-19にかかる可能性がある。
【0006】
したがって、
コロナウイルス感染症、特に、SARS、MERS、またはCOVID-19などの疾患を引き起こすコロナウイルス呼吸器感染症の有効な治療および/または予防が依然として必要である。具体的には、重大な有害作用がほとんどまたは全くなく、良好な化学的安定性および/または低コストの、コロナウイルス複製に対して効率の高い治療剤が必要である
【0007】
宿主細胞へのSARS-CoVの侵入は、ウイルス表面から突出するホモ三量体を形成するその膜貫通スパイク(S)糖タンパク質によって媒介される。S糖タンパク質は、宿主細胞受容体への結合を担う(受容体結合ドメイン(RBD)を含むS1サブユニット)か、またはウイルスと細胞膜との融合を担う(S2サブユニット)、2つの機能的サブユニットを含む。SARS-CoVへの細胞受容体として以前に特定されたアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の受容体としても作用する。SARS-CoV-2の場合、ビリオン表面上のS糖タンパク質が、受容体認識および膜融合を媒介する。近年、SARS-CoV-2のS糖タンパク質のRBDの存在下、ヒトACE2全長について得られた高分解能クライオ電子顕微鏡構造は、ACE2二量体への2つのS糖タンパク質三量体の同時結合を示唆した。S2サブユニットは、融合ペプチドのすぐ上流に位置する宿主プロテアーゼによってさらに切断され、大規模な不可逆の構造変化を受ける糖タンパク質の活性化をもたらし、これは、膜融合プロセスを容易にする。
【0008】
ACE2へのSタンパク質の結合は、すでに広く研究されており、感染におけるその中心的役割についてはコンセンサスが得られており、いくつかの研究は、他の細胞表面分子の共受容体/付着因子の重要な役割を示唆している。特に、9-O-アセチルシアログリカンは、ACE2に加えて、細胞へのSARS-CoV-2の結合の初期段階に関与している可能性があることが、近年示唆された(Yang, J.ら、Nature Communications, 2020, Vol. 11, 論文番号: 4541)。アセチル化シアル酸と、コロナウイルスS糖タンパク質およびコロナウイルスヘマグルチニンエステラーゼとの結合も報告されている(Tortorici, M. A.ら、Nature Structural Molecular Biology, 2019, Vol. 26, pp. 481-489)。したがって、この予備情報に基づいて、シアル酸誘導体は、SARS-CoV-2スパイクタンパク質Sと宿主細胞との間の相互作用を遮断する競合阻害剤として作用する可能性があると考えられ、その相互作用は、通常、感染の第一段階を媒介する(Tortorici, M. A.ら、Nature Structural Molecular Biology, 2019, Vol. 26, pp. 481-489)。
【0009】
しかしながら、
シアル酸およびそのアセチル化誘導体は、少なくとも弱く、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に結合する可能性があること示唆されているが、これら2つの炭水化物のどちらが最適なパートナーであるかを定義する直接的な定量的証拠は存在しない(Yang, J.ら、Nature Communications, 2020, Vol. 11, 論文番号: 4541; Nguyen, K.ら、Viruses, May 2021, Vol. 13, No. 5, p. 927)。
【0010】
さらに、シアル酸またはその誘導体などの個々のグリカンは、一般に、それらのタンパク質標的に対して比較的低い親和性を有し、典型的にはせいぜい中程度であることが当該技術分野で知られている(Sauter, N. K.ら、Biochemistry 1989, Vol. 28, p. 8388; Dormitzer, P. R.ら、Journal of Virology, October 2002, Volume 76, No. 20, pp. 10512-10517)。これは、本出願の実施例でさらに証明される。個々のシアル酸およびその誘導体の限られた親和性は、そのようなグリカンを、ウイルス感染の実際の治療および/または予防への直接の使用に適さないものにする。
【0011】
驚くべきことに、出願人は、少なくとも2つのシアル酸またはその誘導体が、特定の大環状分子(ポルフィリン、ピラーアレーン、カリックスアレーン、およびフラーレンなど)に結合されると、シアル酸の低い親和性にもかかわらず、得られたグリコクラスターが、宿主細胞へのSARS-CoV-2の初期付着の強力な競合相手であることを証明した。したがって、大環状分子に結合していないシアル酸(「遊離」シアル酸)とははっきりと対照的に、本発明のグリコクラスターは、COVID-19などの感染性疾患の治療および/または予防への使用に適している。したがって、本発明は、COVID-19などのウイルス感染症に対する新規薬剤への道を開くものである。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、大環状分子に共有結合した少なくとも2つのアセチル化シアル酸を含むグリコクラスターであって、前述の大環状分子は、ポルフィリン、ピラーアレーン、カリックスアレーン、およびフラーレンから選択され、各アセチル化シアル酸は、4-O-アセチル化シアル酸、7-O-アセチル化シアル酸、8-O-アセチル化シアル酸、および9-O-アセチル化シアル酸から独立して選択される、グリコクラスターに関する。
【0013】
一実施形態によれば、グリコクラスターは、前述の大環状分子に共有結合した少なくとも4つのアセチル化シアル酸を含む。一実施形態によれば、各アセチル化シアル酸は、7-O-アセチル化シアル酸および9-O-アセチル化シアル酸から独立して選択される。一実施形態では、各アセチル化シアル酸は、9-O-アセチル化シアル酸である。
【0014】
一実施形態によれば、大環状分子は、ポルフィリンから選択され、好ましくは[Zn(テトラフェニルポルフィリン)]およびテトラフェニルポルフィリンから選択される。一実施形態によれば、グリコクラスターは、少なくとも1つのアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)結合阻害剤をさらに含み、好ましくは、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)結合阻害剤は、ACE2結合阻害ペプチド、ACE2結合阻害タンパク質、および抗ACE2抗体またはその抗原結合性フラグメントから選択される。
【0015】
一実施形態によれば、グリコクラスターは、式(I)、(Ia)、(II)、(III)または(IV)
【化1】
の化合物、またはその医薬的に許容される塩および/もしくは溶媒和物であり、
式中、各L
1は、独立して、-単結合、または-アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル、およびアルキルヘテロアリールから選択されるリンカーであり、前記アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル、またはアルキルヘテロアリールは、任意で少なくとも1つのカップリング生成物を含み、各R
1は、アセチル化シアル酸およびACE2結合阻害剤から独立して選択され、ただし、少なくとも2つのR
1はアセチル化シアル酸であり、Mは、金属カチオンである。
【0016】
一実施形態によれば、各L1は、アルキル、ヘテロアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル、およびアルキルヘテロアリールから選択されるリンカーであり、前述のアルキル、ヘテロアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル、またはアルキルヘテロアリールは、1つまたは2つのカップリング生成物を含み、好ましくは、前述のカップリング生成物の少なくとも1つはトリアゾリルである。
【0017】
一実施形態によれば、各L1-R1は、-(CH2)m-RC-(CH2)n-R1、-O-(CH2)m-RC-(CH2)n-R1、-C(O)-(CH2)m-RC-(CH2)n-R1、-C(O)O-(CH2)m-RC-(CH2)n-R1、-フェニル-(CH2)m-RC-(CH2)n-R1、および-フェニル-O-(CH2)m-RC-(CH2)n-R1から選択され、式中、RCは、カップリング生成物、好ましくはトリアゾリルであり、mおよびnは、独立して1~8の範囲の整数、好ましくは1~4の範囲の整数であり、各R1は、上で定義されるとおりである。一実施形態によれば、各R1は、9-O-アセチル化シアル酸である。
【0018】
一実施形態によれば、グリコクラスターは、式(011)、(005)、(008)または(014)
【化2】
の化合物、またはその医薬的に許容される塩もしくは溶媒和物であり、
式中、各R
1は、式(9-AcSA)
【化3】
のものであり、式中、波線は、グリコクラスターへのR
1の結合点を表す。
【0019】
本発明はまた、本発明によるグリコクラスター、および少なくとも1つの医薬的に許容される担体を含む医薬組成物に関する。本発明はまた、薬剤として使用するための、本発明によるグリコクラスター、または本発明による医薬組成物に関する。本発明はまた、感染性疾患、好ましくはコロナウイルスまたはピコルナウイルス感染症、より好ましくはSARS-CoV-2感染症の治療および/または予防に使用するための、本発明によるグリコクラスター、または本発明による医薬組成物に関する。
【0020】
本発明はまた、アセチル化シアル酸の各々と大環状分子のカップリング、好ましくは、末端アルキンとアジドとの間の反応がトリアゾリル基の形成をもたらすカップリングのステップを含む、本発明によるグリコクラスターを製造するためのプロセスに関する。
【0021】
定義
本発明では、以下の用語は以下の意味を有する。
【0022】
化学的定義
本発明の化合物を記載するとき、使用される用語は、別段の指示がない限り、以下の定義に従って解釈されるべきである。化学的置換基が化学基の組み合わせである場合、分子への置換基の結合点は、列挙された最後の化学基によるものである。例えば、アリールアルキル置換基は、アルキル部分を通して分子の残りの部分に結合し、次のように表され得る:「アリール-アルキル-」。
【0023】
記号「Ac」によって表される「アセチル」または「エタノイル」は、式CH3-C(O)-のメチルアシル部分を指す。
【0024】
「アルケン」または「アルケニル」は、少なくとも1つの二重結合、および典型的には2~12個の炭素原子、好ましくは3~6個の炭素原子を含む直鎖または分岐炭化水素鎖を指す。アルケニル基の非限定的な例としては、エテニル、2-プロペニル、2-ブテニル、3-ブテニル、2-ペンテニルおよびその異性体、2-ヘキシルおよびその異性体、ならびに2,4-ペンタジエニルが挙げられる。
【0025】
「アルキル」は、典型的には1~12個の炭素原子、好ましくは1~6個の炭素原子、より好ましくは1~3個の炭素原子を含む、飽和直鎖または分岐炭化水素鎖を指す。本発明では、アルキル基は、1価または2価であり得る(すなわち、「アルキレン」基は「アルキル」の定義に包含される)。アルキル基の非限定的な例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチルおよびt-ブチル、ペンチルおよびその異性体(例えば、n-ペンチル、イソペンチル)、ならびにヘキシルおよびその異性体(例えば、n-ヘキシル、イソヘキシル)が挙げられる。好ましいアルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチルおよびt-ブチルが挙げられる。
【0026】
「アルキルアリール」は、アルキル基によって置換されたアリール基:アルキル-アリール-を指す。
【0027】
「アルキルヘテロアリール」は、アルキル基によって置換されたヘテロアリール基:アルキル-ヘテロアリール-を指す。
【0028】
「アルキン」または「アルキニル」は、少なくとも1つの三重結合、および典型的には2~12個の炭素原子、好ましくは3~6個の炭素原子を含む、直鎖または分岐炭化水素鎖を指す。
アルキニル基の例としては、エチニル、2-プロピニル、2-ブチニル、3-ブチニル、2-ペンチニルおよびその異性体、ならびに2-ヘキシニルおよびその異性体が挙げられる。
【0029】
「アミド(amide)」は、-(C=O)-NH-の接続性を有する官能基を指す。
【0030】
「アミド(amido)」は、-(C=O)-NH2基を指す。
【0031】
「アミン」は、-NH2基および二級アミン-NHRを指し、式中、Rは水素と異なり、好ましくは、Rはアルキル基である。
【0032】
「アミノ」は、-NH2基を指す。
【0033】
「アミノオキシ」は、-O-NH2基を指す。
【0034】
「アリール」は、少なくとも1つの芳香環を含む、環状の多価不飽和芳香族ヒドロカルビル基を指す。アリール基は、単一の環(すなわち、フェニル)、またはともに縮合した(例えば、ナフチル)もしくは共有結合した複数の芳香環を有し得る。典型的には、アリール基は、5~12個の炭素原子、好ましくは6~10個の炭素原子を有する。芳香環は、任意選択で、それに縮合した1~2つの追加の環(シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、またはヘテロアリールのいずれか)を含み得る。アリールはまた、少なくとも1つの環が芳香族である限り、本明細書に列挙される炭素環系の部分的に水素化された誘導体を含むように意図される。アリール基の非限定的な例としては、フェニル、ビフェニル、ビフェニレニル、5-または6-テトラリニル、ナフタレン-1-または-2-イル、4-、5-、6-または7-インデニル、1-、2-、3-、4-または5-アセナフチレニル、3-、4-または5-アセナフテニル、1-または2-ペンタレニル、4-または5-インダニル、5-、6-、7-または8-テトラヒドロナフチル、1,2,3,4-テトラヒドロナフチル、1,4-ジヒドロナフチル、1-、2-、3-、4-または5-ピレニルが挙げられる。好ましいアリール基は、フェニルである。
【0035】
「アリールアルキル」は、アリール基によって置換されたアルキル基:アリール-アルキル-を指す。
【0036】
「アジド」は、式-N3の基を指す。
【0037】
基に先行する「(Cx~Cy)」は、化学分野の一般的な用語法に従って、基が、x~y個の炭素原子を含むことを意味する。
【0038】
「カルボン酸」は、式-COOHの基を指す。
【0039】
「カップリング官能基」は、別の官能基と反応して、結合または線状の原子団などの共有結合を形成することができる官能基を指す。好適な反応条件下で反応性であるカップリング官能基は、したがって、異なる分子上の別のカップリング官能基と化学的に反応して、新しい共有結合を形成することができる。カップリング官能基は、概して、別の分子への結合点を表す。カップリング官能基は、概して、求核剤、求電子剤、および/または光活性化可能な基を含む。カップリング官能基の非限定的な例としては、アルコール;アルケン;アルキン(例えば-C≡CH);アミン;アミド;アミノオキシ;無水グルタル酸、無水コハク酸、または無水マレイン酸などの無水物;アジド;カルボン酸;酸無水物または酸ハロゲン化物などの活性化カルボン酸;クロロギ酸;N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、N-ヒドロキシグルタルイミドエステル、またはマレイミドエステルなどの活性化エステル;グルタミン酸;ハロゲン化物(ハロゲン原子);クロロアセトアミド、ブロモアセトアミドまたはヨードアセトアミドなどのハロアセトアミド(すなわち、Xがハロゲン原子である-NH-C(O)CH2X部分);ヒドラジド;イソシアネート;イソチオシアネート;ケトン;マレイミド;ノルボルネン;ホスホン酸;シロキシ;テトラジン、およびチオールが挙げられる。2つのカップリング官能基間の反応は、本明細書で定義されるような「カップリング生成物」をもたらすことができる。
【0040】
「カップリング生成物」は、異なる分子中の2つのカップリング官能基間の反応から生じるカップリング官能基の残基を指し、例えば、機能的に関連した原子団(アミド-C(O)-NH-基もしくは二重結合など)、またはヘテロ環(2価のトリアゾリル基など)である。言い換えれば、カップリング生成物は、2つのカップリング官能基間のカップリング反応後の、1つまたは2つのカップリング官能基の残っている部分である。例えば、2つのカップリング官能基AおよびBの間のカップリング反応は、以下の表1に示すような、以下のカップリング生成物をもたらすことができ、式中、Xは、ハロゲン原子(例えば、BrまたはCl)を表す。カップリング生成物は、本明細書で定義されるような「リンカー」に含まれてよい。
【0041】
【0042】
「共有結合した」は、2つの部分が、直接的に、すなわち、単結合、二重結合、もしくは三重結合の共有結合(典型的には単結合)によって、または間接的に、すなわち、複数の共有結合を含む、本明細書に記載されるような「リンカー」によって、ともに共有結合していることを意味する。
【0043】
「グリコクラスター」は、グリカンのクラスター、すなわち、複数のグリカンユニットを含む分子または分子のアンサンブルを指す。したがって、グリコクラスターは、少なくとも2つの多糖、オリゴ糖、および/または単糖部分、典型的には少なくとも2つの単糖を含む。グリコクラスター中、グリカンユニットは、共通の足場(例えば、大環状分子、ポリマー、または金属ナノ粒子)へのそれらの結合によって集団化し、互いに比較的近接している。グリコクラスターは、しばしば薬物送達に使用されるが、本発明では、感染性疾患の治療に使用するための、細胞結合および/または感染性の阻害剤として使用され得る。
【0044】
「ハロゲン化物」、「ハロ」、または「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素原子、好ましくは塩素または臭素原子を指す。
【0045】
「ヘテロアルキル」は、1つ以上の炭素原子が、酸素、窒素、および硫黄から選択されるヘテロ原子によって置き換えられている、上で定義されたようなアルキル基を指す。ヘテロアルキル基中、ヘテロ原子は、アルキル鎖に沿って炭素原子にのみ結合し、すなわち、各ヘテロ原子は、少なくとも1つの炭素原子によって他のヘテロ原子から隔てられている。窒素および硫黄ヘテロ原子は、任意選択で酸化され得、窒素ヘテロ原子は、任意選択で四級化され得る。ヘテロアルキルは、炭素原子を通してのみ、別の基または分子に結合しており、すなわち、隣接する原子は、ヘテロアルキル基に含まれるヘテロ原子の中から選択されない。ヘテロアルキルの非限定的な例としては、アルコキシ、エーテルおよびポリエーテル、二級アミン、三級アミン、ならびにチオエーテルが挙げられる。
【0046】
「ヘテロアリール」は、5~12個の炭素原子、好ましくは6~10個の炭素原子を含み、ともに縮合もしくは共有結合した1つまたは2つの環を有する、芳香環または芳香環系を指し、少なくとも1つの環は、芳香族であり、これらの環の1つ以上の中の1つ以上の炭素原子が、酸素、窒素、および/または硫黄原子によって置き換えられている。「ヘテロアリール」はまた、本明細書で定義されるような「アリール」基と見なされてもよく、アリール基中の少なくとも1つの炭素原子が、ヘテロ原子で置き換えられ、結果として生じる分子は、化学的に安定である。窒素および硫黄ヘテロ原子は、任意選択で酸化され得、窒素ヘテロ原子は、任意選択で四級化され得る。ヘテロアリール基の非限定的な例としては、フラニル、チオフェニル、ピラゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、トリアゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、テトラゾリル、オキサトリアゾリル、チアトリアゾリル、ピリジニル、ピリミジル、ピラジニル、ピリダジニル、オキサジニル、ジオキシニル、チアジニル、トリアジニル、イミダゾ[2,1-b][1,3]チアゾリル、チエノ[3,2-b]フラニル、チエノ[3,2-b]チオフェニル、チエノ[2,3-d][1,3]チアゾリル、チエノ[2,3-d]イミダゾリル、テトラゾロ[1,5-a]ピリジニル、インドリル、インドリジニル、イソインドリル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、ベンゾチオフェニル、イソベンゾチオフェニル、インダゾリル、ベンズイミダゾリル、1,3-ベンズオキサゾリル、1,2-ベンズイソオキサゾリル、2,1-ベンズイソオキサゾリル、1,3-ベンゾチアゾリル、1,2-ベンゾイソチアゾリル、2,1-ベンゾイソチアゾリル、ベンゾトリアゾリル、1,2,3-ベンズオキサジアゾリル、2,1,3-ベンズオキサジアゾリル、1,2,3-ベンゾチアジアゾリル、2,1,3-ベンゾチアジアゾリル、チエノピリジニル、プリニル、イミダゾ[1,2-a]ピリジニル、6-オキソ-ピリダジン-1(6H)-イル、2-オキソピリジン-1(2H)-イル、6-オキソ-ピリダジン-1(6H)-イル、2-オキソピリジン-1(2H)-イル、1,3-ベンゾジオキソリル、キノリニル、イソキノリニル、シンノリニル、キナゾリニル、およびキノキサリニルが挙げられる。
【0047】
「ヘテロアリールアルキル」は、ヘテロアリール基によって置換されたアルキル基:ヘテロアリール-アルキル-を指す。
【0048】
「ヒドロキシル」は、-OH基を指す。
【0049】
「ケトン」は、C-(C=O)-Cの接続性を有する官能基を指す。
【0050】
「リンカー」は、2つの分子を互いに共有結合し、安定な共有結合によってともに結合したC、N、O、SおよびPから選択される一連の多価原子を含む部分を指す。その部分は、典型的には、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、または30個などの、1~30個の原子を組み込む。リンカーは、線状または非線状であり得、いくつかのリンカーは、ペンダント側鎖、またはペンダント官能基、または両方を有する。一実施形態では、リンカーは、単結合、二重結合、三重結合、または芳香族の炭素-炭素結合、炭素-窒素結合、窒素-窒素結合、炭素-酸素結合、および炭素-硫黄結合の任意の組み合わせで構成される。一実施形態では、リンカーは、アルキル、-C(O)NH-、-C(O)O-、-NH-、-S-、-O-、-C(O)-、-S(O)-、-S(O)2、および5または6員環の単環式アリールまたはヘテロアリールから選択される部分の組み合わせからなる。一実施形態では、リンカーは、本明細書で定義されるような少なくとも1つの「カップリング生成物」、典型的には1つまたは2つのカップリング生成物を含む。この文脈では、「含む(comprise)」は、リンカーが、少なくとも1つのカップリング生成物によって中断され得る(すなわち、カップリング生成物が、リンカーの原子鎖に組み込まれる)こと、および/またはリンカーが、少なくとも1つのカップリング生成物で終わる(すなわち、カップリング生成物が、リンカーを終端させる)ことを意味する。この実施形態では、カップリング生成物は、リンカーの一部と見なされ、これは、具体的には、カップリング生成物の原子が、リンカーの全原子数にカウントされることを意味する。
【0051】
「大環状分子」は、ピラーアレーン、カリックスアレーン、ポルフィリン、フラーレン、クラウンエーテル、およびシクロデキストリンなどの12員環以上を含有する分子またはイオンを指す。簡潔かつ明確にするために、本出願では、「大環状分子」という用語およびその具体的な種類(例えば、ピラーアレーン、カリックスアレーン、ポルフィリン、およびフラーレン)は、大環状分子それ自体、ならびに単結合による直接の、または本明細書で定義されるような「リンカー」を通した、大環状分子と別の分子のカップリングから生じる任意の大環状分子ベースの部分の両方を指す。必要に応じて、後者は、「大環状分子の残基」または「大環状分子残基」と具体的に呼ばれることになる。
【0052】
「ペプチド」は、ペプチド結合によってともに結合された50アミノ酸未満のアミノ酸の線状ポリマーを指す。
【0053】
「シアル酸」または「SA」は、当該技術分野の一般的な知識のとおり、9炭素の骨格を有するアルファ-ケト酸糖の分類に属する単糖を指す。具体的には、シアル酸は、以下の式のアセチルノイラミン酸(Neu5Ac)を指す。
【化4】
【0054】
カルボン酸がアキシャル位にある立体配置がα-アノマーである一方で、カルボン酸がエカトリアル位にある立体配置はβ-アノマーである。別の分子に結合するとき、シアル酸は、主にα-アノマーである。シアル酸の炭素番号の付け方は、上の式に示されるとおりである(左:α-アノマー、右:β-アノマー)。
【0055】
シアル酸は、当該技術分野における一般的な意味のとおりに「アセチル化」され得、すなわち、シアル酸中の基(典型的には水素原子)は、アセチル基によって置き換えられ得る。Neu5Acは、アセチル化アミン(AcHN)を含むが、本出願では、アセチル化がヒドロキシル(OH)基およびアミンの両方に起こっているシアル酸のみが、本発明の意味において「アセチル化された」と見なす。具体的には、「アセチル化シアル酸」は、4、7、8および9位の少なくとも1つのヒドロキシル(-OH)がアセチル基によって置換されており、それにより、酢酸部分(-OC(O)CH
3)をもたらす、シアル酸である。酢酸とのエステル化反応を含む、シアル酸中の1つ以上の位置のアセチル化のための合成方法は、当該技術分野でよく知られている。具体的には、アセチル化シアル酸は、以下の式の9-O-アセチル-シアル酸(9-AcSA)を指し得る(左:α-アノマー、右:β-アノマー)。
【化5】
【0056】
シアル酸またはアセチル化シアル酸は、それが天然のものであれ、人工的なものであれ、単一の共有結合によって直接、またはリンカーを通して、別の化合物に結合され得る。例えば、本発明では、シアル酸および/またはアセチル化シアル酸は、グリコクラスターを形成するために、大環状分子に結合される。非アセチル化ヒドロキシルは、特に、共有結合を得るためのカップリング官能基として使用され得る。簡潔かつ明確にするために、本出願では、「シアル酸」という用語およびその具体的な種類(例えば、アセチル化シアル酸)は、シアル酸単糖それ自体、ならびに単結合による直接の、または本明細書で定義されるような「リンカー」を通した、シアル酸と別の分子のカップリングから生じる任意のシアル酸ベースの部分の両方を指す。必要に応じて、後者は、「シアル酸の残基」または「シアル酸残基」と具体的に呼ばれることになる。シアル酸が、非アセチル化ヒドロキシル(例えば、2位のヒドロキシル)によって別の分子に結合しているとき、残っている酸素は、定義および表現のために、シアル酸残基の一部と見なされる。
【0057】
「シロキシ」は、官能基-O-Si(R)3を指し、式中、Rは、例えばアルキルまたはアリールを表す。
【0058】
「トリアゾリル」は、一般式
【化6】
のヘテロアリール(すなわち、トリアゾール)の1価、2価、または3価の誘導体を指し、例えば以下の基などである。
【化7】
【0059】
一般的定義
「約(about)」は、本明細書では、約(approximately)、およそ(roughly)、およそ(around)、またはその辺り(in the region of)を意味するのに使用される。数字に先行する用語「約(about)」は、数字の値の±10%を意味する。用語「約(about)」が、数値範囲とともに使用される場合、それは、記載された数値の上下の境界を10%拡張することによって、その範囲を修飾する。
【0060】
「投与(administration)」またはその変形(例えば、「投与する(administering)」)は、治療剤(例えば、本発明の化合物)を、単独で、または医薬的に許容される組成物の一部として、その状態、症状、または疾患が治療および/または予防される患者に提供することを意味する。
【0061】
「ヒト」は、新生児、幼児、少年、青年、および成人を含む任意の発達段階にある男性または女性の被験者を指す。
【0062】
「患者」は、医療ケアを受けるのを待っているか、または医療ケアを受けているか、または医療処置の対象である/となる、動物、典型的には温血動物、好ましくはヒトを指す。患者は、予防ケアまたは治療の被験者でもあり得る。
【0063】
「医薬的に許容される」は、組成物の成分が、互いに適合し、それが投与される患者に有害ではないことを意味する。
【0064】
「医薬的に許容される担体」は、動物、好ましくはヒトに投与されたときに、有害反応、アレルギー反応、または他の都合の悪い反応を生じない賦形剤を指す。それは、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含む。ヒト投与のために、調製は、例えばFDA当局またはEMAなどの規制当局によって要求されるような、無菌性、発熱性、一般的安全性、および純度の基準を満たすべきである。
【0065】
「予防する(prevent)」、「予防する(preventing)」、および「予防」は、状態および/もしくは疾患および/もしくはその随伴症状のいずれか1つの開始を遅らせるかもしくは妨げること、患者が状態もしくは疾患に罹患するのを妨げること、または患者が状態および/もしくは疾患および/もしくはその随伴症状のいずれか1つに罹患するリスクを低減することを指す。
【0066】
「プロドラッグ」は、そのインビボ生体内変換生成物が治療剤(活性薬物)である、治療剤(例えば、本発明の化合物)の薬理学的に許容される誘導体を指す。プロドラッグは、典型的には増大したバイオアベイラビリティを特徴とし、生体内で容易に代謝されて活性化合物になる。プロドラッグの非限定的な例としては、アミドプロドラッグおよびカルボン酸エステルプロドラッグ、特にアルキルエステル、シクロアルキルエステル、およびアリールエステルが挙げられる。
【0067】
「溶媒和物」は、化合物とともに化学量論的または準化学量論的な量の1種以上の溶媒の1つ以上の分子を含む分子複合体を指し、典型的には、溶媒は、例えばエタノールなどの医薬的に許容される溶媒である。用語「水和物」は、溶媒が水(H2O)である場合を指す。
【0068】
「治療剤」、「医薬品有効成分」、および「活性成分」は、治療に使用するための、健康に関連する化合物を指す。特に、治療剤(例えば、本発明の化合物)は、疾患、好ましくは感染性疾患を治療および/または予防するために示され得る。活性成分はまた、別の治療剤の治療活性を改善するために示され得る。
【0069】
「治療上有効な量」(手短に言えば「有効量」)は、それが投与される患者における所望の治療効果または予防効果を達成するのに十分な治療剤(例えば、本発明の化合物)の量を指す。
【0070】
「治療する(treat)」、「治療する(treating)」、および「治療」は、状態および/または疾患および/またはその随伴症状のいずれか1つ、例えば感染性疾患を、軽減、減弱、または抑制することを指す。
【発明を実施するための形態】
【0071】
グリコクラスター
本発明は、大環状分子に共有結合した少なくとも2つのアセチル化シアル酸を含むグリコクラスターに関する。本出願では、「グリコクラスター」および「本発明の化合物」および類似の文言は、同義語である。
【0072】
一実施形態によれば、グリコクラスターは、大環状分子に共有結合した少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、または16個のアセチル化シアル酸を含む。一実施形態では、グリコクラスターは、大環状分子に共有結合した少なくとも4個のアセチル化シアル酸を含む。一実施形態によれば、グリコクラスターは、大環状分子に共有結合した4個のアセチル化シアル酸を含む(四量体)。一実施形態によれば、グリコクラスターは、大環状分子に共有結合した10個のアセチル化シアル酸を含む(十量体)。一実施形態によれば、グリコクラスターは、大環状分子に共有結合した12個のアセチル化シアル酸を含む(十二量体)。
【0073】
一実施形態によれば、各アセチル化シアル酸は、完全にアセチル化されておらず、すなわち、4位、7位、8位、および9位の少なくとも1つOH基は、アセチルによって置換されていない。一実施形態では、各アセチル化シアル酸は、4位、7位、8位、および9位の中の1つ、2つ、3つ、または4つの位置でアセチル化される。一実施形態では、各アセチル化シアル酸は、1つ、2つ、または3つの位置でアセチル化される。一実施形態では、各アセチル化シアル酸は、1つまたは2つの位置でアセチル化される。一実施形態では、各アセチル化シアル酸は、7位および9位でアセチル化される。
【0074】
一実施形態によれば、各アセチル化シアル酸は、少なくとも1つOH基を含む。一実施形態では、各アセチル化シアル酸は、1つOH基を含む。一実施形態では、各アセチル化シアル酸は、2つOH基を含む。一実施形態では、各アセチル化シアル酸は、3つOH基を含む。一実施形態では、各アセチル化シアル酸は、4つOH基を含む。
【0075】
一実施形態によれば、各アセチル化シアル酸は、1つの位置のみでアセチル化され、すなわち、各アセチル化シアル酸は、4-O-アセチル化シアル酸、7-O-アセチル化シアル酸、8-O-アセチル化シアル酸、および9-O-アセチル化シアル酸から独立して選択される。一実施形態によれば、各アセチル化シアル酸は、7-O-アセチル化シアル酸、8-O-アセチル化シアル酸、および9-O-アセチル化シアル酸から独立して選択される。一実施形態によれば、各アセチル化シアル酸は、7-O-アセチル化シアル酸および9-O-アセチル化シアル酸から独立して選択される。一実施形態では、各アセチル化シアル酸は、4-O-アセチル化シアル酸である。一実施形態では、各アセチル化シアル酸は、7-O-アセチル化シアル酸である。一実施形態では、各アセチル化シアル酸は、8-O-アセチル化シアル酸である。一実施形態では、各アセチル化シアル酸は、9-O-アセチル化シアル酸である。
【0076】
いかなる理論にも拘束されるものではないが、出願人は、完全にアセチル化されていないシアル酸、特に、1つのOHのみがアセチル化されているシアル酸が、特にSARS-CoV-2に対するウイルス親和性または阻害の点で有利であると考える。
【0077】
典型的には、大環状分子は、ポルフィリン、ピラーアレーン、カリックスアレーン、およびフラーレンから選択される。
【0078】
一実施形態によれば、大環状分子は、ポルフィリンから選択される。一実施形態では、ポルフィリンは、ポルフィンまたはテトラフェニルポルフィリンから選択される。一実施形態では、ポルフィリンは、4つの窒素原子が配位した金属カチオンを有し、窒素原子に結合した水素を有しない(「ポルフィリンキレート」)。非限定的な例としては、[Zn(ポルフィン)]および[Zn(テトラフェニルポルフィリン)]が挙げられる。別の実施形態では、ポルフィリンは、4つの窒素原子が配位したカチオンを有さず、2つの水素が窒素原子に結合している(「ポルフィリン遊離塩基」)。
【0079】
一実施形態によれば、大環状分子は、ピラーアレーンから選択される。一実施形態では、ピラーアレーンは、ピラー[5]アレーンから選択される。
【0080】
一実施形態によれば、大環状分子は、カリックスアレーンから選択される。一実施形態では、カリックスアレーンは、カリックス[4]アレーンから選択される。
【0081】
一実施形態によれば、大環状分子は、フラーレンから選択される。一実施形態では、大環状分子は、バックミンスターフラーレンとも呼ばれるC60-フラーレンから選択される。
【0082】
本発明では、大環状分子は、アセチル化シアル酸置換基を除いて無置換(非置換)であり得る。本発明では、大環状分子は、さらなる置換基、例えば、水可溶化置換基、またはウイルスと相互作用しやすい置換基を含み得る。
【0083】
一実施形態によれば、グリコクラスターは、少なくとも1つのアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)結合阻害剤を含む。一実施形態では、ACE2結合阻害剤は、ACE2結合阻害ペプチドまたはタンパク質である。一実施形態では、ACE2結合阻害剤は、ACE2結合阻害ペプチドである。一実施形態では、ACE2結合阻害剤は、ACE2結合阻害タンパク質である。一実施形態では、ACE2結合阻害剤は、抗ACE2モノクローナル抗体などの、抗ACE2抗体またはその抗原結合性フラグメントである。一実施形態では、ACE2結合阻害ペプチドは、S1糖タンパク質のRBDドメインと複合体を形成するACE2受容体の配列に従って設計される。一実施形態では、ACE2結合阻害ペプチドは、参考文献:Yang, J.ら, Nature Communications, 2020, Vol. 11, 論文番号: 4541に記載されているような、アミノ酸配列EEQAKTFLDKFNHEAEDLFYQSS(配列番号1)からなるペプチド[22-44]、アミノ酸配列LGKGDFR(配列番号2)からなるペプチド[351-357]、アミノ酸配列EEQAKTFLDKFNHEAEDLFYQSSLASWNYNTNITEE(配列番号3)からなるペプチド[22-57]、およびアミノ酸配列EEQAKTFLDKFNHEAEDLFYQSSGLGKGDFR(配列番号4)からなるペプチド[22-44-g-351-357]から選択される。
【0084】
一実施形態によれば、グリコクラスターは、抗体、抗体フラグメント、ナノボディ、またはレクチンなどの、Sタンパク質と結合しやすい少なくとも1つの他の置換基を含む。
【0085】
一実施形態によれば、グリコクラスターは、式(I)の化合物である。
【化8】
【0086】
式(I)において、Mは、亜鉛、鉄、銅、マンガン、銀、金、コバルト、ニッケル、スズ、カドミウム、鉛、バナジウムカチオンなどの金属カチオンである。一実施形態では、金属カチオンは、2または3の正電荷、好ましくは2の正電荷を有する。一実施形態では、Mは、亜鉛(II)、鉄(II)、鉄(III)、銅(II)、銅(III)、マンガン(II)、マンガン(III)、銀(II)、銀(III)、金(III)、コバルト(II)、コバルト(III)、ニッケル(II)、ニッケル(III)、スズ(II)、カドミウム(II)、鉛(II)、バナジウム(II)、およびバナジウム(III)から選択される金属カチオンである。
【0087】
一実施形態によれば、グリコクラスターは、式(Ia)の化合物である。
【化9】
【0088】
式(I)および(Ia)において、各L1は、独立して、単結合、またはアルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル、およびアルキルヘテロアリールから選択されるリンカーであり、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル、またはアルキルヘテロアリールは、任意選択で少なくとも1つのカップリング生成物を含む。一実施形態では、各L1は、アルキル、ヘテロアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル、およびアルキルヘテロアリールから選択されるリンカーであり、アルキル、ヘテロアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、ヘテロアリールアルキル、またはアルキルヘテロアリールは、少なくとも1つのカップリング生成物を含む。一実施形態では、リンカーは、1つまたは2つのカップリング生成物を含む。一実施形態では、リンカーは、1つのカップリング生成物(すなわち、ただ1つのカップリング生成物)を含む。一実施形態では、カップリング生成物の少なくとも1つは、トリアゾリルである。
【0089】
式(I)および(Ia)において、各R1は、アセチル化シアル酸およびACE2結合阻害剤から独立して選択され、ただし、少なくとも2つのR1はアセチル化シアル酸である。
【0090】
一実施形態では、各L1-R1は、-(CH2)m-RC-(CH2)n-R1、-O-(CH2)m-RC-(CH2)n-R1、-C(O)-(CH2)m-RC-(CH2)n-R1、-C(O)O-(CH2)m-RC-(CH2)n-R1、-フェニル-(CH2)m-RC-(CH2)n-R1、および-フェニル-O-(CH2)m-RC-(CH2)n-R1から選択され、式中、RCは、カップリング生成物であり、mおよびnは、独立して1~8の範囲の整数である。一実施形態では、RCは、トリアゾリルである。一実施形態では、mは、1~6の範囲、好ましくは1~4の範囲、より好ましくは2~4の範囲、より好ましくは2または3の整数である。一実施形態では、nは、1~4の範囲、好ましくは1~3の範囲、より好ましくは1または2、より好ましくは1の整数である。
【0091】
一実施形態では、各L1-R1は、-フェニル-O-(CH2)m-RC-(CH2)n-R1であり、式中、RCは、カップリング生成物であり、mおよびnは、独立して1~8の範囲の整数である。
【0092】
一実施形態では、各R1は、7-O-アセチル化シアル酸および9-O-アセチル化シアル酸から選択される。一実施形態では、各R1は、7-O-アセチル化シアル酸である。一実施形態では、各R1は、9-O-アセチル化シアル酸である。
【0093】
一実施形態によれば、グリコクラスターは、式(II)
【化10】
の化合物であり、式中、L
1およびR
1は、式(I)および(Ia)において上で定義されたとおりである。
【0094】
一実施形態では、各L1-R1は、-O-(CH2)m-RC-(CH2)n-R1であり、式中、RCは、カップリング生成物であり、mおよびnは、独立して1~8の範囲の整数である。一実施形態では、RCは、トリアゾリルである。一実施形態では、mは、1~6の範囲、好ましくは1~4の範囲、より好ましくは2~4の範囲、より好ましくは2または3の整数である。一実施形態では、nは、1~4の範囲、好ましくは1~3の範囲、より好ましくは1または2、より好ましくは1の整数である。
【0095】
一実施形態によれば、グリコクラスターは、式(III)
【化11】
の化合物であり、式中、L
1およびR
1は、式(I)および(Ia)において上で定義されたとおりである。
【0096】
一実施形態では、各L1-R1は、-O-(CH2)m-RC-(CH2)n-R1であり、式中、RCは、カップリング生成物であり、mおよびnは、独立して1~8の範囲の整数である。一実施形態では、RCは、トリアゾリルである。一実施形態では、mは、1~6の範囲、好ましくは1~4の範囲、より好ましくは2~4の範囲、より好ましくは2または3の整数である。一実施形態では、nは、1~4の範囲、好ましくは1~3の範囲、より好ましくは1または2、より好ましくは1の整数である。
【0097】
一実施形態によれば、グリコクラスターは、式(IV)
【化12】
の化合物であり、式中、L
1およびR
1は、式(I)および(Ia)において上で定義されたとおりである。
【0098】
一実施形態では、各L1-R1は、-C(O)O-(CH2)m-RC-(CH2)n-R1であり、式中、RCは、カップリング生成物であり、mおよびnは、独立して1~8の範囲の整数である。一実施形態では、RCは、トリアゾリルである。一実施形態では、mは、1~6の範囲、好ましくは1~4の範囲、より好ましくは2~4の範囲、より好ましくは2または3の整数である。一実施形態では、nは、1~4の範囲、好ましくは1~3の範囲、より好ましくは1または2、より好ましくは1の整数である。
【0099】
一実施形態によれば、グリコクラスターは、式(011)
【化13】
の化合物、またはその医薬的に許容される塩もしくは溶媒和物である。
【0100】
一実施形態によれば、グリコクラスターは、式(005)
【化14】
の化合物、またはその医薬的に許容される塩もしくは溶媒和物である。
【0101】
一実施形態によれば、グリコクラスターは、式(008)
【化15】
の化合物、またはその医薬的に許容される塩もしくは溶媒和物である。
【0102】
一実施形態によれば、グリコクラスターは、式(014)
【化16】
の化合物、またはその医薬的に許容される塩もしくは溶媒和物である。
【0103】
上の式(011)、(005)、(008)、および(014)において、各R1は、式(I)および(Ia)において記載されたとおりである。
【0104】
一実施形態では、上の式(011)、(005)、(008)、および(014)において、各R
1は、式(9AcSA)
【化17】
のものであり、式中、波線は、グリコクラスターへのR
1の結合点を表す。
【0105】
一実施形態では、グリコクラスターは、上の式(011)、(005)、(008)、および(014)の化合物から選択され、式中、各R1は、式(9AcSA)のもの、またはその医薬的に許容される塩もしくは溶媒和物、すなわち、本明細書の実施例1に表されるような化合物011、005、008、および014、またはその医薬的に許容される塩もしくは溶媒和物である。
【0106】
本発明の化合物(例えば、「グリコクラスター」または「式(I)」)への本明細書におけるすべての言及は、塩、好ましくはその医薬的に許容される塩、溶媒和物、多成分錯体、および/または液晶への言及を含む。本発明の化合物への本明細書におけるすべての言及は、その多形および/または晶癖への言及を含む。本発明の化合物へのすべての言及は、その医薬的に許容されるプロドラッグへの言及を含む。本発明の化合物へのすべての言及は、重水素化化合物を含む、同位体標識化合物への言及を含む。
【0107】
本発明の化合物(例えば、「グリコクラスター」または「式(I)」)およびその部分式(subformula)は、少なくとも1つの不斉中心(単数または複数)を含有し、したがって、異なる立体異性形態として存在し得る。したがって、本発明の化合物へのすべての言及は、全ての可能な立体異性体への言及を含み、ラセミ化合物だけでなく、個々の鏡像異性体およびそれらの非ラセミ混合物も含む。化合物が単一の鏡像異性体として望まれる場合、そのような単一の鏡像異性体は、立体特異的合成、最終生成物または任意の好都合な中間体の分割、またはキラルクロマトグラフ法によって得られてよく、各々、当該技術分野で知られている。最終生成物、中間体、または出発物質の分割は、当該技術分野で知られている任意の好適な方法によって行われ得る。
【0108】
本発明の化合物は、医薬的に許容される塩の形態であり得る。医薬的に許容される塩は、その酸付加塩および塩基塩を含む。好適な酸付加塩は、無毒な塩を形成する酸から形成される。例としては、酢酸塩、アジピン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベシル酸塩、重炭酸塩/炭酸塩、重硫酸塩/硫酸塩、ホウ酸塩、カンシル酸塩、クエン酸塩、シクラミン酸塩、エジシル酸塩、エシル酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヒベンズ酸塩、塩酸塩/塩化物、臭化水素酸塩/臭化物、ヨウ化水素酸塩/ヨウ化物、イセチオン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メシル酸塩、メチル硫酸塩、ナフチル酸塩、2-ナプシル酸塩、ニコチン酸、硝酸塩、オロチン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、リン酸塩/リン酸水素塩/リン酸二水素塩、ピログルタミン酸塩、糖酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、タンニン酸塩、酒石酸、トシル酸塩、トリフルオロ酢酸塩、およびキシナホ酸塩が挙げられる。好適な塩基塩は、無毒な塩を形成する塩基から形成される。例としては、アルミニウム、アルギニン、ベンザチン、カルシウム、コリン、ジエチルアミン、2-(ジエチルアミノ)エタノール、ジオラミン、エタノールアミン、グリシン、4-(2-ヒドロキシエチル)-モルホリン、リジン、マグネシウム、メグルミン、モルホリン、オラミン、カリウム、ナトリウム、トロメタミン、および亜鉛の塩が挙げられる。酸および塩基のヘミ塩(hemisalt)、例えば、ヘミ硫酸塩(hemisulphate)およびヘミカルシウム(hemicalcium)塩も形成され得る。化合物が酸性基および塩基性基を含有する場合、化合物は、分子内塩も形成し得、そのような化合物は、本発明の範囲内である。化合物が水素供与性ヘテロ原子(例えば、NH)を含有する場合、本発明は、分子内の塩基性基または原子への前述の水素原子の移動によって形成される塩および/または異性体もカバーする。
【0109】
本発明の化合物の医薬的に許容される塩は、これらの方法:(i)化合物を所望の酸と反応させること、(ii)化合物を所望の塩基と反応させること、(iii)化合物の好適な前駆体から酸もしくは塩基に不安定な保護基を除去すること、もしくは好適な環状前駆体、例えばラクトンもしくはラクタムを、所望の酸を使用して開環させること、および/または(iv)適切な酸との反応もしくは好適なイオン交換カラムによって、化合物のある塩を別のものに変換すること、の1つ以上によって調製され得る。これらすべての反応は、典型的には溶液中で行われる。塩は、溶液から沈殿し、濾過によって収集され得るか、または溶媒の留去によって回収され得る。塩の電離度は、完全な電離からほぼ非電離まで変動し得る。
【0110】
医薬組成物
本発明はまた、本明細書に記載されるような本発明の化合物、および少なくとも1つの医薬的に許容される担体を含む医薬組成物に関する。
【0111】
一実施形態によれば、医薬組成物は、少なくとももう1つの治療剤をさらに含む。一実施形態では、治療剤は、抗ウイルス剤である。一実施形態では、少なくとももう1つの治療剤は、本明細書に記載されるようなアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)結合阻害剤である。1つの特定の実施形態では、酵素2(ACE2)結合阻害剤は、グリコクラスターによってベクター化される。
【0112】
本発明の化合物は、単独で、または各投与経路に適した従来の無毒な医薬的に許容される担体、アジュバント、およびビヒクルを含有する好適な投与単位製剤中にともに製剤化され得る。
【0113】
医学的使用および治療の方法
本発明はまた、薬剤として使用するための、本明細書に記載されるような本発明の化合物、または本明細書に記載されるような本発明の医薬組成物に関する。
【0114】
本発明はまた、感染性疾患の治療および/または予防に使用するための、本明細書に記載されるような本発明の化合物、または本明細書に記載されるような本発明の医薬組成物に関する。
【0115】
一実施形態によれば、感染性疾患は、コロナウイルス感染症またはピコルナウイルス感染症である。一実施形態では、感染性疾患は、コロナウイルス感染症である。
【0116】
一実施形態では、コロナウイルスは、アルファコロナウイルスまたはベータコロナウイルス、好ましくはベータコロナウイルスである。アルファコロナウイルスの非限定的な例としては、ヒトコロナウイルス229E(HCoV-229E)、およびしばしばHcoV-NHまたはNew Havenコロナウイルスとしても知られるヒトコロナウイルスNL63(HcoV-NL63)が挙げられる。ベータコロナウイルスの非限定的な例としては、ヒトコロナウイルスOC43(HcoV-OC43)、ヒトコロナウイルスHKU1(HcoV-HKU1)、新型コロナウイルス2012またはHcoV-EMCとして以前から知られている中東呼吸器症候群関連コロナウイルス(MERS-CoV)、SARS-CoV-1またはSARS-classicとしても知られる重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、および2019-nCoVまたは新型コロナウイルス2019としても知られる重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-2)が挙げられる。一実施形態では、コロナウイルスは、HcoV-229E、HcoV-NL63、HcoV-OC43、HcoV-HKU1、MERS-CoV、SARS-CoV-1、およびSARS-CoV-2から選択される。一実施形態では、コロナウイルスは、MERS-CoV、SARS-CoV-1、およびSARS-CoV-2から選択される。
【0117】
一実施形態によれば、コロナウイルスは、SARSコロナウイルスである。一実施形態では、コロナウイルスは、SARS-CoV-1またはSARS-CoV-2である。一実施形態では、コロナウイルスは、重症急性呼吸器症候群(SARS)を引き起こすSARS-CoV(SARS CoV-1とも呼ばれる)である。一実施形態では、コロナウイルスは、COVID-19を引き起こすSARS-CoV-2である。
【0118】
本出願では、「コロナウイルス」または「SARS-CoV-2」への言及は、その現在特定されている変異体を包含する。一実施形態によれば、コロナウイルスは、SARS-CoV-2パンデミックの元のハプロタイプ(系統AもしくはB)またはその変異体である。一実施形態では、コロナウイルスは、SARS-CoV-2アルファ(系統B.1.1.7、およびそのサブ系統)である。一実施形態では、コロナウイルスは、SARS-CoV-2ベータ(系統B.1.351、およびそのサブ系統)である。一実施形態では、コロナウイルスは、SARS-CoV-2ガンマ(系統P.1、およびそのサブ系統)である。一実施形態では、コロナウイルスは、SARS-CoV-2デルタ(系統B.1.617.2、XD、XF、XS、およびそれらのサブ系統)である。一実施形態では、コロナウイルスは、SARS-CoV-2イプシロン(系統B.1.427、B1.429、およびそれらのサブ系統)である。一実施形態では、コロナウイルスは、SARS-CoV-2ゼータ(系統P.2、およびそのサブ系統)である。一実施形態では、コロナウイルスは、SARS-CoV-2イータ(系統B.1.525、およびそのサブ系統)である。一実施形態では、コロナウイルスは、SARS-CoV-2シータ(系統P.3、およびそのサブ系統)である。一実施形態では、コロナウイルスは、SARS-CoV-2イオタ(系統B.1.526、およびそのサブ系統)である。一実施形態では、コロナウイルスは、SARS-CoV-2カッパ(系統B.1.617.1、およびそのサブ系統)である。一実施形態では、コロナウイルスは、SARS-CoV-2ラムダ(系統C.37、およびそのサブ系統)である。一実施形態では、コロナウイルスは、SARS-CoV-2ミュー(系統B.1.621、およびそのサブ系統)である。一実施形態では、コロナウイルスは、SARS-CoV-2オミクロン(系統B.1.1.529、BA.1、BA.2、BA.3、BA.4、BA.5、XE、およびそれらのサブ系統)である。
すべてのSARS-CoV-2変異体のリストは、cov-lineagesのウェブサイトhttps://cov lineages.org/lineage_list.htmlで見つけることができる。
【0119】
一実施形態では、COVID-19は、中等症のCOVID-19である。一実施形態では、COVID-19は、軽症~中等症のCOVID-19である。一実施形態では、COVID-19は、軽症のCOVID-19である。一実施形態では、COVID-19は、軽症~重症のCOVID-19である。一実施形態では、COVID-19は、重症のCOVID-19である。COVID-19に罹患した被験者は、入院してもよく、または入院しなくてもよい。
【0120】
一実施形態では、COVID-19重症度は、世界保健機関(WHO)の重症度基準に従って評価され、以下のとおりである:
-軽症:画像診断で肺炎の徴候のない、軽症の臨床症状を示す場合。
-中等症:発熱、および肺炎の放射線学的所見を有し、(O
2):3L/分<酸素<5L/分を必要とする呼吸器症状を示す場合。
-重症:以下の基準のいずれかを満たす場合:呼吸促迫(呼吸数(RR)≧30呼吸/分);周囲空気中での安静時に酸素飽和度(SpO
2)≦93%;もしくはO
2>5L/分でSpO
2≦97%;動脈血酸素分圧/吸入気酸素濃度の比率(PaO
2/FiO
2)≦300mmHg(lmmHg=0.133kPa)、高高度領域(海抜1,000メートル超の高度)におけるPaO
2/FiO
2は、以下の式によって補正されるものとする:PaO
2/FiO
2[掛ける][大気圧(mmHg)/760];および/または24~48時間以内に>50%の明らかな病変の進行を示した胸部イメージング。
-重篤:以下の基準のいずれかを満たす場合:呼吸不全および機械的人工呼吸を必要とする;ショック;および/またはICUケアを必要とする他の臓器不全。一実施形態では、COVID-19の重症度および/または進行は、以下の表2に示されるようなWHO 10ポイント進行尺度によって評価される。
【表2】
【0121】
一実施形態では、本発明に従って治療される被験者は、COVID-19に罹患しており、COVID-19のWHO 10ポイント進行尺度(表2に記載)で1~5の範囲、好ましくは2~4の範囲、3~6の範囲、好ましくは4~5の範囲、または5~9の範囲、好ましくは6~8の範囲のスコアを有する。
【0122】
本発明の化合物または医薬組成物は、経口、非経口(例えば、筋肉内、腹腔内、静脈内、ICV、大槽内注射もしくは注入、皮下注射、またはインプラント)によって、吸入噴霧、経鼻、経腟、経直腸、舌下、または局所的投与経路によって、投与され得る。感染性疾患の治療および/または予防では、適切な投与量レベルは、約0.01~500mg/kg患者体重/日(mg/kg/日)であり得、単回または複数回投与で投与され得る。典型的には、投与量レベルは、約0.1~約250mg/kg/日、好ましくは約0.5~約100mg/kg/日、より好ましくは約2.5~約20mg/kg/日であろう。化合物は、1日当たり1~4回、好ましくは1日当たり1回または2回のレジメンで投与され得る。しかしながら、任意の特定の患者のための特定の用量レベルおよび投与頻度は変動し得、採用される特定の化合物の活性、その化合物の代謝安定性および作用の長さ、年齢、体重、全体的な健康、性別、食事、投与のモードおよび時間、排泄率、薬物の組み合わせ、特定の疾患の重症度、ならびに治療を受けているホストを含む、様々な要素に依存することになることが理解されるであろう。
【0123】
本発明はまた、感染性疾患の治療および/または予防のための薬剤の製造における、本明細書に記載されるような本発明の化合物または本明細書に記載されるような本発明の医薬組成物の使用に関する。本発明はまた、本明細書に記載されるような本発明の化合物または本明細書に記載されるような本発明の医薬組成物の治療上有効な量を被験者に投与するステップを含む、それを必要とする被験者における感染性疾患の治療および/または予防のための方法に関する。本発明はまた、感染性疾患の治療および/または予防における、本明細書に記載されるような本発明の化合物または本明細書に記載されるような本発明の医薬組成物の使用に関する。
【0124】
グリコクラスター合成
本発明では、グリコクラスターは、当該技術分野で知られている任意の合成法によって調製され得る。具体的には、アセチル化シアル酸と大環状分子との間に共有結合を作り出すための適切な合成法は、有機化学の当業者の一般的な知識の一部である。
【0125】
一実施形態によれば、アセチル化シアル酸は、2位、4位、7位、8位、または9位の少なくとも1つの非アセチル化ヒドロキシル基によって大環状分子に結合され得る。一実施形態では、アセチル化シアル酸は、2位または4位のヒドロキシルによって大環状分子に結合される。一実施形態では、アセチル化シアル酸は、2位のヒドロキシルによって大環状分子に結合される。2位のヒドロキシルは、アセチル化シアル酸の反対側に関連する生物活性を損なうことなく、アセチル化シアル酸を大環状分子に結合するのに特に有利である。
【0126】
一実施形態によれば、非アセチル化ヒドロキシル基は、カップリング官能基として使用され、大環状分子の対応するカップリング官能基(例えば、ハロカーボン、カルボン酸、またはアミン)と反応して、アセチル化シアル酸と大環状分子との間に結合を形成する(例えば、エーテル、エステル、またはアミド結合)。別の実施形態によれば、ヒドロキシル基は、まず、ヒドロキシル以外のカップリング官能基を含む基によって置換され、かつ/またはヒドロキシル以外のカップリング官能基に変換され、次いで、他のカップリング官能基が、大環状分子の対応するカップリング官能基と反応して、アセチル化シアル酸と大環状分子との間に結合を形成する。
【0127】
一実施形態によれば、グリコクラスターは、銅(I)触媒によるアジド-アルキン環化付加(CuAAC)によって調製される。一実施形態では、グリコクラスターは、銅(I)塩(例えば、臭化銅もしくはヨウ化銅)などの銅(I)触媒、または銅(II)塩(例えば、硫酸銅)と還元剤(例えば、アスコルビン酸ナトリウム)との混合物の存在下で調製される。
【0128】
一実施形態によれば、グリコクラスターは、アジド(-N3)を含む少なくとも2当量のアセチル化シアル酸と、少なくとも2つの末端アルキン(-C≡CH)を含む大環状分子との反応によって調製される。一実施形態では、アセチル化シアル酸は、-O-(CH2)n-N3基を含み、式中、nは1~8の範囲の整数である。一実施形態では、大環状分子は、少なくとも2つの-O-(CH2)m-C≡CH基を含み、式中、mは1~8の範囲の整数である。
【0129】
別の実施形態によれば、グリコクラスターは、末端アルキン(-C≡CH)を含む少なくとも2当量のアセチル化シアル酸と、少なくとも2つのアジド(-N3)を含む大環状分子との反応によって調製される。一実施形態では、アセチル化シアル酸は、-O-(CH2)n-C≡CH基を含み、式中、nは1~8の範囲の整数である。一実施形態では、大環状分子は、少なくとも2つの-O-(CH2)m-N3基を含み、式中、mは1~8の範囲の整数である。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【
図1】α-プロパルギルシアル酸(α-p-SA)001またはα-プロパルギルアセチル化シアル酸(α-p-9-AcSA)002、ならびにアジド化合物003、006、009および012(実施例1-dのスキーム3に示す)からの、SAまたは9-AcSA誘導グリコクラスター004~014の調製の方法を示すスキームである。
【
図2】実施例2.1に記載されるように、遊離の1mM 9-AcSAによる遮断の前後に、S1官能化チップと、9-AcSA、SA、またはストレプトアビジンでコーティングされた表面との間で測定された特異的結合確率(BP)を示す箱ひげ図である。1つのデータ点は、1024 FD曲線で得られた結合頻度(BF)を表す。箱の中の正方形は平均を示し、色の付いた箱は25パーセンタイルおよび75パーセンタイルを示し、ひげは最高値および最低値を示す。箱の中の線は、中央値を示す。N=9のマップが、3つの独立した実験に対して調べられた。P値は、Originで2標本t検定によって決定された。
【
図3】実施例2.2に記載されるように、保持時間の関数としてS1と9-AcSAとの間でプロットされた結合頻度(BF)を示すグラフである。単一指数減衰曲線(直線)へのデータの最小二乗フィッティングは、調査される相互作用の平均速度論的オンレート(k
on)を提供する。さらなる計算(k
off/k
on)は、K
Dをもたらす。1つのデータ点は、1024 FD曲線で得られたBFを表す。
【
図4-9】実施例2.5に記載されるように、SAまたは9-AcSA誘導グリコクラスターの抗結合特性のスクリーニングの結果を示す。
【
図4-8】試験された分子の阻害効率を示すヒストグラムであり、これは、濃度を増加させた(1~100μM)試験された分子とのインキュベーションの前後に、9-AcSAとSARS-CoV-2との間の相互作用の結合確率(BP)を測定することによって評価される。正規化されたヒストグラムは、1、10、または100μMの、遊離アセチル化シアル酸(9-AcSA)(
図4)、SA-および9-AcSA-ピラー[5]アレーン004および005(
図5)、SA-および9-AcSA-フラーレン013および014(
図6)、SA-および9-AcSA-ポルフィリン010および011(
図7)、またはSA-および9-AcSA-カリックス[4]アレーン007および008(
図8)とのインキュベーションの前後の、9-AcSAとSARS-CoV-2との間の相互作用の相対BPを示す。
【
図9】実施例2.5に記載されるように、濃度を増加させた(1~100μM)アセチル化試験分子9-AcSA-α-p、005、008、011および014とのインキュベーション後の結合確率(BP)の低下を示すグラフである。データは、SAデンドリマー濃度につき少なくともN=3の独立した実験(チップおよび試料)の代表である。P値は、originで2標本t検定によって決定された。エラーバーは、平均値の標準偏差(s.d.)を示す。
【
図10-11】実施例2.6に記載されるように、低濃度で、モデル表面(9-O-アセチル化SA)および生細胞(CHO細胞)上のアセチル化SAへのSARS-CoV-2の結合を阻害する、9-AcSA-ポルフィリングリコクラスター011の効率の調査の結果を示す。
【
図10】濃度を増加させた(0.001~100μM)9-AcSA-ポルフィリングリコクラスター011とのインキュベーションの前後の、SARS-CoV-2と9-O-アセチル化SAモデル表面との間の相互作用の相対結合値を示す箱ひげ図である。
【
図11】濃度を増加させた(0.1~10μM)9-AcSA-ポルフィリングリコクラスター011とのインキュベーションの前後の、SARS-CoV-2とCHO細胞との間の相互作用の相対結合値を示す箱ひげ図である。
【
図12】実施例2.7に記載されるように、感染性アッセイ、すなわち、遊離SA、遊離9-AcSA、SA-ポルフィリン010、および9-AcSAポルフィリン011の存在下で測定された感染性の結果を示すヒストグラムである。各ドットは、ウェルからの感染性を示す。色の付いた箱は平均を示し、ひげは平均値のs.d.を示す。箱の中の線は、中央値を示す。P値は、Originで2標本t検定によって決定された。
【
図13A-B】S1とLec2細胞もしくはCHO細胞との間の(
図13A)、またはSARS-CoV-2とLec2細胞もしくはCHO細胞との間の(
図13B)、結合確率(BP、%)の2つの箱ひげ図である。n=10(
図13A)または12(
図13B)のマップが、3つの独立した実験に対して調べられた。P値は、Originで2標本t検定によって決定された。
【実施例】
【0131】
本発明を、以下の実施例によってさらに説明する。
【0132】
実施例1:材料、方法、ならびに合成および特性評価の結果
実施例1-a:一般的な材料および方法
クロマトグラフィーに使用された溶媒は、工業グレードで購入され、それらの使用前にさらに蒸留された。試薬および化学薬品は、Sigma AldrichまたはAcrosからACSグレードで購入され、精製せずに使用された。
【0133】
すべての反応は、KMnO4およびリンモリブデン酸溶液を展開液として使用して、Merckアルミニウムロールシリカゲル60-F254で行われた薄層クロマトグラフィー(TLC)によって監視された。Merckシリカゲル(60、粒子径40~63μm)が、フラッシュカラムクロマトグラフィーに採用された。NMRスペクトルは、溶媒ピークを基準として用いて、JEOL ECX 400または500で記録された。化合物は、1Hおよび13C NMR、ならびに1H-1Hおよび1H-13C相関実験によって特性評価された。多重度を規定するのに使用された略語は次のとおりである:s=一重線、d=二重線、t=三重線、q=四重線、m=多重線、およびbr=ブロード。化学シフト(δ)は、ppmで報告され、残留溶媒シグナルを間接的に参照した。高分解能質量スペクトル(HRMS)は、Bruker maXis Impact QTOF質量分析計およびBruker MicroTOF-Q II XL分析計で行われた。
【0134】
実施例1-b:ビオチン化シアル酸の合成および特性評価
化合物B4およびB5は、スキーム1に示されるように調製された。
【化18】
【0135】
中間化合物B1は、既知の手順(Jung, D.ら、Chemical Communications, 2014, Vol. 50, pp. 3044-3047)に従って調製された。中間化合物B2は、既知の手順(Gan, Z. & Roy, R., Canadian Journal of Chemistry, 2002, Vol. 80, pp. 908-916)に従って調製された。化合物B5は、以前に記載された方法に従ってアセチル化された(Ogura, H.ら、Carbohydrate Research, 1987, Vol. 167, pp. 77-86)。
【0136】
中間化合物(B3):乾燥ジメチルホルムアミド(DMF)(20mL)中の化合物B1(401mg、1.0mmol、1当量)、化合物B2(636mg、1.2mmol、1.2当量)、およびEt3N(0.278mL、2.0mmol、2当量)の溶液に、アルゴン雰囲気下でCuI(38mg、0.2mmol、0.2等量)を加えた。溶液を、12時間、室温で撹拌した。溶媒を真空下で留去した後、EtOAc(30mL)および飽和塩化アンモニウム(30mL)を加え、相が分離した。有機層を、ブライン(30mL)で洗浄し、MgSO4で乾燥し、濾過し、濾液を減圧下で濃縮した。残渣を、溶離液としてジクロロメタン(DCM)/MeOH(20:1)を使用したシリカゲルでのカラムクロマトグラフィーによって精製して、白色固体(975mg、1.15mmol、収率96%)を得た。1H NMR (500 MHz, CDCl3) 7.79 (s, 1H, H-12), 6.68 (br, 1H, NH), 6.43 (br, 1H, NH), 5.47 (d, J = 46.4 Hz, 1H, 10a), 5.45-5.42 (m, H-8), 5.35-5.32 (m, 1H, H-7), 4.92-4.87 (m, 2H, H-4, H-10b), 4.60-4.53 (m, 4H, H-13, H-17), 4.38-4.33 (m, 2H, H-9a, H-25), 4.16-4.05 (m, 3H, H-5, H-6, H-9b), 3.91 (t, J = 5.1 Hz, 2H, H-14), 3.80 (s, 3H, COCH3), 3.61 (dd, J = 6.0, 2.7 Hz, 2H, H-15), 3.56 (dd, J = 5.9, 2.7 Hz, 2H, H-15), 3.50 (t, J = 5.2 Hz, 2H, H-17), 3.41-3.40 (m, 2H, H-18), 3.17 (dd, J = 11.8, 7.3 Hz, 1H, H-24), 2.95-2.88 (m, 1H, H-28a), 2.77 (d, J = 12.9 Hz, 1H, H-3a), 2.62 (dd, J = 12.8, 4.6 Hz, 1H, H-28b), 2.24 (t, J = 7.5 Hz, 2H, H-20), 2.16 (s, 3H, OCOCH3), 2.15 (s, 3H, OCOCH3), 2.03 (s, 3H, OCOCH3), 2.02 (s, 3H, OCOCH3), 1.97 (t, J = 12.5 Hz, 1H, H-3b), 1.88 (s, 3H, NCOCH3), 1.77-1.63 (m, 4H, H-21, H-23), 1.48-1.42 (m, 2H, H-22). 13C NMR (126 MHz, CDCl3) δ 173.5 (C-19), 171.0, 170.80, 170.5, 170.3, 170.2 (C=O, NCOCH3, OAc), 168.2 (C-1), 164.0 (Cq, C-26), 143.8 (C-11), 124.4 (C-12), 98.6 (C-2), 72.8 (C-6), 70.4 (C-16), 70.1 (C-17), 69.9 (C-15), 69.4 (C-14), 69.2 (C-4), 68.5 (C-8), 67.5 (C-7), 62.6 (C-9), 61.9 (C-25), 60.3 (C-27), 58.4 (C-10), 55.7 (C-24), 53.0 (OCH3), 50.2 (C-13), 49.2 (C-5), 40.5 (C-28), 39.1 (C-18), 37.9 (C-3), 35.9 (C-20), 28.3 (C-22), 28.1 (C-23), 25.6 (C-21), 23.2 (NCOCH3), 21.2, 21.0, 2 x 20.9 (OCOCH3). HRMS (TOF-MS-ESI+, m/z): C39H60N7O17S [M+H]+に対する計算値930.3761; 実測値930.3750。
【0137】
化合物(B4)(「biot-SA」):乾燥MeOH(20mL)中の化合物B3(345mg、0.371mmol、1当量)およびNaOMe(40mg、0.742mmol、2当量)の溶液を、0℃で30分間撹拌し、次いで、室温まで温め、さらに1.5時間撹拌した。その後、Amberlyst(登録商標)15イオン交換樹脂を加えて、塩基を中和した。樹脂を濾過し、水(2×5mL)で洗浄した。濾液を減圧下で留去して、白色固体を得た。さらなる精製なしで、白色固体を水(15mL)に溶解し、LiOH・H2O(35mg、0.831mmol、3等量)を加えた。溶液を室温で1時間撹拌し、その後Amberlyst(登録商標)15イオン交換を加えた。その後、反応混合物を濾過し、樹脂を水(2×5mL)で洗浄し、濾液を凍結乾燥して白色固体(186mg、0.249mmol、収率90%)を得た。1H NMR (500 MHz, D2O) δ 8.06 (s, 1H, H-12), 4.92-4.89 (m, 1H, H-10a), 4.68-4.66 (m, 1H, H-10b), 4.62-4.60 (m, 2H, H-13), 4.57-4.53 (m, 1H, H-27), 4.38-4.34 (m, 1H, H-25), 3.95-3.93 (m, 2H, H-14), 3.88-3.79 (m, 4H, H-5, H-8, H-6, H-9a), 3.76-3.71 (m, 1H, H-4), 3.65-3.55 (m, 6H, H-15, H-16, H-9b, H-7), 3.52-3.49 (m, 2H, H-17), 3.32-3.30 (m, 2H, H-18), 3.27-3.24 (m, 1H, H-24), 2.95-2.90 (m, 1H, H-28a), 2.74-2.68 (m, 2H, H-3a, H-28b), 2.21 (dd, J = 13.2, 6.5 Hz, 2H, H-20), 2.01-2.00 (m, 3H, NAc), 1.74 (t, J = 12.2 Hz, 1H, H-3b), 1.61-1.48 (m, 4H, H-21, H-23), 1.36-1.33 (m, 2H, H-22). 13C NMR (126 MHz, D2O) δ 176.8 (C=O, NCOCH3), 175.0 (C-1), 171.8 (C=O, C-19), 165.3 (C=O, C-26), 143.6 (C-11), 125.7 (C-12), 99.5 (C-2), 72.9 (C-6), 71.1 (C-8), 69.7 (C-16), 69.3 (C-17), 68.9 (C-15), 68.7 (C-14), 68.3 (C-7), 67.7 (C-4), 62.9 (C-9), 62.1 (C-25), 60.3 (C-27), 57.2 (C-10), 55.4 (C-24), 51.8 (C-5), 50.1 (C-13), 2 x 39.7 (C-28, C-3), 38.9 (C-18), 35.5 (C-20), 27.9 (C-22), 27.7 (C-23), 25.2 (C-21), 22.1 (NCOCH3). HRMS (TOF-MS-ESI+, m/z): C30H50N7O13S [M+H]+ に対する計算値748.3182; 実測値748.3173。
【0138】
化合物(B5)(「biot-9-AcSA」):乾燥ジメチルスルホキシド(DMSO)(1.2mL)中の化合物B4(200mg、0.267mmol、1当量)およびオルト酢酸トリメチル(0.34mL、2.67mmol、10等量)の溶液に、p-トルエンスルホン酸一水和物(5.0mg、0.027mmol、0.1等量)を加えた。溶液を、室温で12時間撹拌した。次いで、DCM(50mL)を加えて、粗生成物を沈殿させた。粗生成物を、H2O/MeOH(0~1/3、グラジエント)を溶離液として使用して、C18シリカゲルフラッシュクロマトグラフィーによって精製した。化合物B5を含有するフラクションを集め、減圧下で濃縮した。濃縮溶液を凍結乾燥して、所望の化合物を白色固体(25mg、0.0316mmol、12%)として得た。1H NMR (500 MHz, CD3OD) δ 8.02 (s, 1H, H-12), 4.94 (d, J = 12.1 Hz, 1H, H-10a), 4.67 (d, J = 12.1 Hz, 1H, H-10b), 4.55-4.55 (m, 2H, H-13), 4.49 (dd, J = 7.8, 4.7 Hz, 1H, H-27), 4.38 (dd, J = 11.2, 1.8 Hz, 1H, H-25), 4.31 (dd, J = 7.9, 4.5 Hz, 1H, H-9a), 4.14-4.06 (m, 2H, H-8, H-9b), 3.90 (t, J = 5.1 Hz, 2H, H-14), 3.74-3.71 (m, 2H, H-5, H-4), 3.64-3.60 (m, 3H, H-6, H-16), 3.58-3.56 (m, 2H, H-17), 3.51-3.48 (m, 3H, H-7, H-15), 3.35-3.33 (m, 2H, H-18), 3.20-3.17 (m, 1H, H-24), 2.94-2.84 (m, 2H, H-3a, H-28a), 2.69 (d, J = 12.7 Hz, 1H, H-28b), 2.21 (t, J = 7.4 Hz, 2H, H-20), 2.05 (s, OCOCH3), 2.02 (s, NCOCH3), 1.74-1.71 (m, 1H, H-3b), 1.66-1.5 (m, 4H, H-21, H-23), 1.45-1.41 (m, 2H, H-22). 13C NMR (126 MHz, CD3OD) δ 176.2 (C=O, NCOCH3), 175.5 (C-1), 174.0 (C=O, 9-O-Ac), 173.1 (C=O, C-19), 166.1 (C=O, C-26), 146.5 (C-11), 125.9 (C-12), 101.9 (C-2), 74.2 (C-6), 71.4 (C-16), 71.2 (C-17), 70.7 (C-8), 2 x 70.6 (C-7, C-15), 70.3 (C-14), 69.6 (C-4), 67.3 (C-9), 63.3 (C-25), 61.6 (C-27), 58.9 (C-10), 57.0 (C-24), 54.1 (C-5), 51.3 (C-13), 42.6 (C-3), 41.1 (C-28), 40.3 (C-18), 36.7 (C-20), 29.7 (C-22), 29.5 (C-23), 26.8 (C-21), 22.6 (NCOCH3), 20.8 (OCOCH3). HRMS (TOF-MS-ESI+, m/z): C32H52N7O14S [M+H]+に対する計算値790.3287; 実測値790.3287。
【0139】
実施例1-c:シアル酸誘導体の合成および特性評価
中間化合物001は、既知の手順(Daskhan, G.ら、ChemistryOpen, 2016, Vol. 5, pp. 477-484)に従って調製された。中間化合物002は、スキーム2に示されるように、既知の手順(Ogura, H.ら、Carbohydrate Research, 1987, Vol. 167, pp. 77-86)に従って調製された。
【化19】
【0140】
プロプ-2-イニル 5-アセトアミド-9-O-アセチル-3,5-ジデオキシ-D-グリセロ-α-D-ガラクト-2-オヌロピラノース(002):乾燥DMSO(4mL)中の化合物001(380mg、1.1mmol、1当量)およびオルト酢酸トリメチル(1.4mL、11mmol、10等量)の溶液に、p-トルエンスルホン酸一水和物(10mg、0.05mmol、0.05等量)を加えた。溶液を、室温で12時間撹拌した。次いで、DCM(20mL)を加えて、粗生成物を沈殿させた。低速コットン濾過後、フィルタ上の固体をメタノールに再溶解し、移して、溶媒を留去した。残渣を、DCM/MeOH(20:3)を使用してシリカゲルクロマトグラフィーによって精製し、所望の化合物(2)を白色固体(167mg、0.429mmol、収率39%)として得た。
【化20】
1H NMR (500 MHz, CD
3OD) δ: 4.42-4.35 (m, 2H, H-9a, H-10a), 4.17-4.03 (m, 3H, H-10b, H-9b, H-8), 3.74-3.65 (m, 2H, H-4, H-5), 3.57-3.54 (m, 1H, H-6), 3.49 (dd, J = 9.2, 1.9 Hz, 1H, H-7), 2.83 (dd, J = 12.3, 4.4 Hz, 1H, H-3a), 2.75 (t, J = 2.4 Hz, 1H, H-13), 2.06 (s, 3H, OCOCH
3), 2.03 (s, 3H, NHCOCH
3), 1.60 (t, J = 11.7 Hz, 1H, H-3b).
13C NMR (126 MHz, CD
3OD) δ 175.6 (C=O, NAc), 173.5 (C-1), 173.1 (C=O, 9-O-Ac), 101.6 (C-2), 80.6 (C-11), 75.0 (C-12), 74.1 (C-6), 70.6 (C-8), 70.5 (C-7), 69.2 (C-4), 67.2 (C-9), 54.0 (C-5), 53.1 (C-10), 42.2 (C-3), 22.7 (NCOCH
3), 20.8 (OCOCH
3). HRMS (TOF-MS-ESI
+, m/z): C
16H
24NO
10 [M+H]
+に対する計算値390.1395; 実測値390.1395。
【0141】
実施例1-d:グリコクラスターの合成および特性評価
【化21】
【0142】
中間化合物003は、既知の手順(Nierengarten, I.ら、Chemical Communications, 2012, Vol. 48, pp. 8072-8074)に従って調製された。中間化合物006は、既知の手順(Tikad, A.ら、Chemistry: A European Journal, 2016, Vol. 22, pp. 13147-13155)に従って調製された。中間化合物009は、既知の手順(Tikad, A.ら、Chemistry: A European Journal, 2016, Vol. 22, pp. 13147-13155;およびLiu, Y.ら、Angewandte Chemie (International Edition English), 2016, Vol. 55, pp. 7952-7957)に従って調製された。中間化合物012は、既知の手順(Nierengarten, J. F.ら、Chemical Communications, 2010, Vol. 46, pp. 3860-3862)に従って調製された。
【0143】
化合物004、007、010および013(「SA-グリコクラスター」)ならびに005、008、011および014(「9-As-SA-グリコクラスター」)は、
図1に示すように、硫酸銅(II)とL-アスコルビン酸ナトリウムとの組み合わせ、または臭化銅(I)ジメチルスルフィドのいずれかを使用して、クリック可能なα-プロパルギルシアル酸001および002を多量体アジド003、006、009および0012にグラフトすることによって調製された。
【0144】
より具体的には、過剰量の001または002を、テトラアジドピラー[5]アレーン003に、触媒量の硫酸銅(II)およびL-アスコルビン酸ナトリウム用いて、混合溶媒系(1,4-ジオキサン/H2O、2:1)中で、室温で一晩カップリングさせた。次いで、004および005を、アセトンで沈殿させ、銅捕捉剤(Quadrasil MP)およびサイズ排除Sephadex(登録商標)G-25クロマトグラフィーによって精製した。精製した10価のピラー[5]アレーン004および005を、それぞれ74%および62%の収率で得た。具体的な方法を、銅と亜鉛との間のイオン交換を避けるため、および009の溶解特性に対処するために、ポルフィリン四量体010および011に最適化した。したがって、より少ない触媒量および三元溶媒系(THF/DMSO/H2O、3:3:1)が採用された。4価のポルフィリンコンジュゲート010および011を、それぞれ61%および87%の収率で得た。カリックス[4]アレーン007および008ならびにフラーレン013および014も、同様のカップリングおよび精製プロトコルを使用して高収率で得られた。すべての多量体種を、1H NMR、13C NMR、および質量分析によって特性評価して、すべての反応の完了を確認した。
【0145】
化合物(004):1,4-ジオキサン(2mL)中の化合物003(21mg、0.01mmol、1当量)および化合物001(70mg、0.20mmol、12等量)の溶液に、H
2O(1mL)中のCuSO
4(3.2mg、0.02mmol、2当量)およびNaAsc(13mg、0.066mmol、6.6等量)の新しく調製した溶液を、アルゴン雰囲気下で加えた。反応混合物を、一晩、室温で激しく撹拌した。次いで、アセトン(40mL)を加えて、粗生成物を沈殿させた。遠心分離後、粗生成物を水(2mL)に溶解し、Quadrasil MP(40mg)で処理して残留銅イオンを除去した。45μmの無菌フィルタによる濾過後、濾液を、Sephadex(登録商標)G-25カラムに通し、水で溶離した。DCM/MeOH(1:0.3、KMnO
4染色)でのTLC溶離によって移動できなかったフラクションを収集した。集めたフラクションを凍結乾燥して、白色固体(59mg、0.0124mmol、収率74%)を得た。
【化22】
1H NMR (500 MHz, DMSO-d
6) δ 8.17-8.06 (m, 10H, 10 x H-12), 6.57 (s, 10H, 10 x H-16), 4.77-4.13 (m, 60H, 10 x H-10, 10 x H-13, 10 x H-14), 3.61-3.31 (m, 80H, 10 x H-4, 10 x H-5, 10 x H-6, 10 x H-7, 10 x H-8, 10 x H-9, 10 x H-18), 2.63 (s, 10H, 10 x H-3a), 1.87 (s, 30H, 10 x NCOCH
3), 1.43 (s, 10H, 10 x H-3b).
13C NMR (126 MHz DMSO-d
6) δ 173.9 (C=O, NCOCH
3), 172.0 (C-1), 149.7 (Cq, C-15), 145.2 (Cq, C-11), 129.6 (Cq, C-17), 125.2 (C-12), 116.1 (C-16), 100.5 (C-2), 73.5 (C-6), 72.1 (C-8), 69.3 (C-7), 68.1 (C-4, C-14), 63.6 (C-9), 57.8 (C-10), 53.2 (C-5), 50.8 (C-13), 41.6 (C-3), 29.0 (C-18), 23.2 (NCOCH
3). HRMS (TOF-MS-ESI
-, m/z): C
195H
267N
40O
100 [M-3H]
3-に対する計算値1590.2365; 実測値1590.2262。
【0146】
化合物(005):1,4-ジオキサン(1.2mL)中の化合物003(13mg、0.01mmol、1当量)および化合物002(47mg、0.12mmol、12等量)の溶液に、H
2O(0.6mL)中のCuSO
4(3.2mg、0.02mmol、2当量)およびNaAsc(13mg、0.066mmol、6.6等量)の新しく調製した溶液を、アルゴン雰囲気下で加えた。反応混合物を、一晩、室温で激しく撹拌した。次いで、アセトン(20mL)を加えて、粗生成物を沈殿させた。遠心分離後、粗生成物を水(2mL)に溶解し、Quadrasil MP(40mg)で処理して残留銅イオンを除去した。45μmの無菌フィルタによる濾過後、濾液を、Sephadex(登録商標)G-25カラムに通し、水で溶離した。DCM/MeOH(1:0.3)およびKMnO
4染色でのTLC溶離によって移動できなかったフラクションを収集した。集めたフラクションを凍結乾燥して、白色固体(32mg、0.0062mmol、収率62%)を得た。
【化23】
1H NMR (500 MHz, CD
3OD) δ 8.16 (br, 10H, 10 x H-12), 6.62 (br, 10H, 10 x H-16), 4.69 (br, 30H, 10 x H-10b, 10 x H-13), 4.37 (br, 20H, 10 x H-9), 4.09 (br, 30H, 10 x H-8, 10 x H-14), 3.76 (br, 40H, 10 x H-4, 10 x H-5, 10 x H-6, 10 x H-18), 3.53 (br, 10H, 10 x H-7), 2.83 (br, 10H, 10 x H-3a), 2.03 (br, 60H, 10 x OCOCH
3, 10 x NCOCH
3), 1.65 (br, 10H, 10 x H-13b).
13C NMR (126 MHz, CD
3OD) δ 175.3 (C=O, NCOCH
3), 173.9 (C-1), 173.3 (C=O, 9-O-Ac), 151.0 (Cq, C-15), 146.3 (Cq, C-11), 130.1 (Cq, C-17), 126.0 (C-12), 117.1 (C-16), 101.7 (C-2), 74.3 (C-6), 70.6 (C-8), 69.3 (C-7), 68.6 (C-4, C-14), 67.3 (C-9), 58.9 (C-10), 54.0 (C-5), 51.4 (C-13), 42.1 (C-3), 31.0 (C-18), 22.9 (NCOCH
3), 21.0 (OCOCH
3). HRMS (TOF-MS-ESI
+, m/z): C
215H
293N
40O
110 [M+3H]
3+に対する計算値1732.2869; 実測値1732.2863。
【0147】
化合物(007):乾燥DMSO(1mL)中の化合物006(36mg、0.03mmol、1当量)および化合物001(46mg、0.132mmol、4.4等量)の溶液に、CuBr・CH
3SCH
3(3.7mg、0.018mmol、0.6等量)を、アルゴン雰囲気下で加えた。マイクロ波照射下、80℃で4時間後、粗生成物を、冷却し、DCM(30mL)を加えることによって沈殿させた。次いで、沈殿物を水(2mL)に溶解し、Quadrasil(登録商標)MP(70mg)で処理して残留銅イオンを除去した。45μmの無菌フィルタによる濾過後、濾液を、Sephadex(登録商標)G-15カラムに通し、水で溶離した。DCM/MeOH(1:0.3)およびKMnO
4染色でのTLC溶離によって移動できなかったフラクションを収集した。集めたフラクションを凍結乾燥して、白色固体(70mg、0.0276mmol、収率92%)を得た。
【化24】
1H NMR (500 MHz, CD
3OD) δ 8.03 (s, 4H, 4 x H-12), 6.82 (s, 8H, 8 x H-18), 4.62 (br, 8H, 8 x H-13), 4.35 (br, 4H, 4 x H-22a), 3.89-3.58 (m, 52H, 4 x H-4, 4 x H-5, 4 x H-6, 4 x H-7, 4 x H-8, 4 x H-9, 4 x H-15, 16 x OH), 3.13 (br, 4H, 4 x H-22b), 2.82 (br, 4H, 4 x H-3a), 2.52 (br, 8H, 4 x H-14), 2.02 (s, 12H, 4 x NCOCH
3), 1.66 (br, 4H, 4 x H-3b), 1.08 (s, 36H, 12 x H-21).
13C NMR (126 MHz, CD
3OD) δ 175.3 (C=O, NCOCH
3), 173.9 (C-1), 154.2 (Cq, C-16), 146.1 (Cq, C-11, C-19), 134.9 (Cq, C-17), 126.4 (C-18), 125.6 (C-12), 101.3 (C-2), 74.50 (C-6), 73.0 (C-15), 70.1 (C-7, C-8), 69.2 (C-4), 64.3 (C-9), 58.4 (C-10), 53.9 (C-5), 48.5 (C-13), 41.9 (C-3), 34.7 (Cq, C-20), 32.0 (C-14, C-21, C-22), 22.9 (NCOCH
3). HRMS (TOF-MS-ESI
+, m/z): デコンボリューション後のC
120H
170N
16O
44 [M]に対する計算値2369.0978; 実測値2369.0877。
【0148】
化合物(008):乾燥DMSO(1mL)中の化合物006(37mg、0.03mmol、1当量)および化合物002(51mg、0.132mmol、4.4等量)の溶液に、CuBr・CH
3SCH
3(3.7mg、0.018mmol、0.6等量)を、アルゴン雰囲気下で加えた。マイクロ波照射下、80℃で4時間後、粗生成物を、DCM(30mL)を加えることによって沈殿させた。次いで、沈殿物を水(2mL)に溶解し、Quadrasil(登録商標)MP(70mg)で処理して残留銅イオンを除去した。45μmの無菌フィルタによる濾過後、濾液を、Sephadex(登録商標)G-15カラムに通し、水で溶離した。DCM/MeOH(1:0.3、KMnO
4染色)でのTLC溶離によって移動できなかったフラクションを収集した。集めたフラクションを凍結乾燥して、白色固体(62mg、0.0244mmol、収率81%)を得た。
【化25】
1H NMR (500 MHz, CD
3OD) δ 8.21-8.06 (m, 4H, 4 x H-12), 6.82 (s, 8H, 8 x H-18), 4.63 (br, 8H, 4 x H-13), 4.37 (s, 8H, 4 x H-9a, 4 x H-22a), 4.13 (br, 8H, 4 x H-8, 4 x H-9b), 3.88-3.52 (m, 24H, 4 x H-4, 4 x H-5, 4 x H-6, 4 x H-7, 4 x H-15), 3.13 (s, 4H, 4 x H-22b), 2.79 (br, 4H, 4 x H-3a), 2.53 (br, 8H, 4 x H-14), 2.02 (br, 24H, 4 x NCOCH
3,
4 x OCOCH
3), 1.70 (br, 4H, 4 x H-3b), 1.33 (s, 6H, 2 x H-21), 1.08 (s, 24H, 8 x H-21), 0.85 (s, 6H, 2 x H-21).
13C NMR (126 MHz, CD
3OD) δ 175.3 (C=O, NCOCH
3), 173.1 (C=O, C-1, 9-O-Ac), 154.2 (Cq, C-16), 146.4 (Cq, C-11), 146.0 (Cq, C-19), 134.9 (Cq, C-17), 126.4 (Cq, C-12, C-18), 100.8 (C-2), 74.4 (C-6), 72.9 (C-15), 70.5 (C-8), 70.4 (C-7), 69.1 (C-4), 67.4 (C-9), 58.7 (C-10), 53.8 (C-5), 42.0 (C-3), 34.7 (Cq, C-20), 32.0 (C-14, C-21, C-22), 22.75 (OCOCH
3), 20.9 (OCOCH
3). HRMS (TOF-MS-ESI
+, m/z): デコンボリューション後のC
120H
170N
16O
44 [M]に対する計算値2537.1400; 実測値2537.1298。
【0149】
化合物(010):THF/DMSO(1.5mL、2:3)中の化合物009(40mg、0.037mmol、1当量)および化合物001(57mg、0.164mmol、4.4等量)の溶液に、H
2O(0.3mL)中のCuSO
4(2.36mg、0.0148mmol、0.4当量)およびNaAsc(8.7mg、0.0439mmol、1.2等量)の新しく調製した溶液を、アルゴン雰囲気下で加えた。反応混合物を、一晩、室温で激しく撹拌した。次いで、アセトン(30mL)を加えて、粗生成物を沈殿させた。次いで、粗生成物を水(2mL)に溶解し、Quadrasil(登録商標)MP(80mg)で処理して残留銅イオンを除去した。45μmの無菌フィルタによる濾過後、濾液を、Sephadex(登録商標)G-15カラムに通し、水で溶離した。DCM/MeOH(1:0.3、KMnO
4染色)でのTLC溶離によって移動できなかったフラクションを収集した。集めたフラクションを凍結乾燥して、暗緑色固体(56mg、0.0227mmol、収率61%)を得た。
【化26】
1H NMR (400 MHz, D
2O/DMSO-d
6) δ 9.07 (br, 8H, 8 x H-
Porph), 8.32 (br, 12H, 4 x H-12,
8 x H-18), 7.51 (br, 8H, 8 x H-17), 3.74 (br, 28H, 4 x H-4, 4 x H-5, 4 x H-6, 4 x H-7, 4 x H-8, 4 x H-9), 2.78 (br, 12H, 4 x H-14, 4 x H-3a), 2.05 (br, 16H, 4 x H-3b, 4 x NCOCH
3).
13C NMR (101 MHz, D
2O/DMSO-d
6) δ 176.3 (C=O, NCOCH
3), 173.9 (C-1), 159.5 (C-16), 151.3 (Cq, C-19), 146.6 (Cq, C-11), 137.2 (C-18), 135.5 (Cq, C-
Porph), 133.3 (C-
Porph), 127.0 (C-12), 121.5 (Cq, C-
Porph), 114.5 (C-17), 101.9 (C-2), 74.3 (C-6), 73.1 (C-8), 69.7 (C-4, C-7), 67.0 (C-15), 64.1 (C-9), 59.1 (C-10), 53.4 (C-5), 49.4 (C-13), 41.8 (C-3), 30.9 (C-14), 23.6 (NCOCH
3). HRMS (TOF-MS-ESI
+, m/z): C
112H
134N
20O
40Zn [M+2H]
2+に対する計算値1232.4186; 実測値1232.4390。
【0150】
化合物(011):THF/DMSO(1.8mL、1:1)中の化合物009(40mg、0.037mmol、1当量)および化合物002(63mg、0.162mmol、4.4等量)の溶液に、H
2O(0.3mL)中のCuSO
4(2.36mg、0.0148mmol、0.4当量)およびNaAsc(8.7mg、0.0439mmol、1.2等量)の新しく調製した溶液を、アルゴン雰囲気下で加えた。反応混合物を、一晩、室温で激しく撹拌した。次いで、アセトン(30mL)を加えて、粗生成物を沈殿させた。次いで、粗生成物を水(2mL)に溶解し、Quadrasil(登録商標)MP(80mg)で処理して残留銅イオンを除去した。45μmの無菌フィルタによる濾過後、濾液を、Sephadex(登録商標)G-15カラムに通し、水で溶離した。DCM/MeOH(1:0.3)でのTLC溶離によって移動できなかったフラクションを収集した。集めたフラクションを凍結乾燥して、暗緑色固体(82mg、0.0323mmol、収率87%)を得た。
【化27】
1H NMR (500 MHz, DMSO-d
6) δ 8.60 (br, 8H, 8 x H-
Porph), 8.11 (br, 4 x H-12), 7.72 (br, 8H, 8 x H-18), 6.89 (br, 8H, 8 x H-17), 4.18-4.04 (m, 56H, 4 x H-4, 4 x H-5, 4 x H-8, 4 x H-9, 4 x H-10, 4 x H-13, 4 x H-15, 12 x OH, 4 x NH), 3.46-3.33 (m, 8H, 4 x H-6, 4 x H-7), 2.26 (8H, 4 x H-14), 1.88 (br, 28H, 4 x NCOCH
3, 4 x OCOCH
3, 4 x H-3b).
13C NMR (126 MHz, DMSO-d
6) δ 174.0 (C=O, NCOCH
3), 172.3 (C=O, C-1, 9-O-Ac), 158.3 (Cq, C-16), 150.3 (Cq, C-19), 135.7 (C-18), 132.2 (C-
Porph), 120.7 (Cq, C-
Porph), 113.2 (C-17), 73.1 (C-6), 69.6 (C-8), 68.0 (C-4, C-7), 67.0 (C-9), 65.2 (C-15), 58.1 (C-10), 53.1 (C-5), 47.8 (C-13), 41.8 (C-3), 30.1 (C-14), 23.1 (NCOCH
3), 21.3 (OCOCH
3). HRMS (TOF-MS-ESI
+, m/z): C
120H
140N
20O
44Zn [M+2H]
2+に対する計算値1313.4228; 実測値1313.3966。
【0151】
化合物(013):DMSO(1.4mL)中の化合物012(40mg、0.0172mmol、1当量)および化合物001(95mg、0.274mmol、16等量)の溶液に、CuBr・CH
3SCH
3(3.5mg、0.017mmol、1等量)を、アルゴン雰囲気下で加えた。マイクロ波照射下、80℃で4時間後、溶液を、冷却し、DCM(30mL)で沈殿させ、遠心分離した。粗生成物を水(2mL)に再溶解し、Quadrasil(登録商標)MP(80mg)で処理して残留銅イオンを除去した。45μmの無菌フィルタによる濾過後、濾液を、Sephadex(商標)G-25カラムに通し、水で溶離した。DCM/MeOHでのTLC溶離によって移動できなかったフラクションを収集した。集めたフラクションを凍結乾燥して、橙色固体(89mg、0.0137mmol、収率80%)を得た。
【化28】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d
6) δ 8.07-7.97 (m, 12H, 12 x H-12), 4.67 (s, 12H, 12 x H-10a), 4.40 (s, 36H, 12 x H-10b, 12 x H-15), 4.15 (br, 84H, 12 x H-12, 48 x OH, 12 x NH), 3.69-3.29 (m, 84H, 12 x H-4, 12 x H-5, 12 x H-6, 12 x H-7, 12 x H-8, 12 x H-9), 2.67 (s, 12H, 12 x H-3a), 2.15 (s, 24H, 12 x H-14), 1.86 (s, 36H, 12 x NAc), 1.36 (m, 12H, 12 x H-3b).
13C NMR (101 MHz, DMSO-d
6) δ 174.0 (C=O, NCOCH
3), 171.9 (C=O, C-1), 164.0 (Cq, C-16), 145.6, 141.5 (C-11, C
sp2), 125.2 (C-12), 100.7 (C-2), 73.4 (C-6), 72.1, 69.4, 68.2 (C-18, C-8, C-7, C-4), 65.1 (C-15), 63.6 (C-9), 57.8 (C-10), 53.3 (C-5), 47.2 (C-17, C-13), 41.9 (C-3), 29.4 (C-14), 23.2 (NCOCH
3). HRMS (ESI+-MS, m/z): C
282H
328N
48O
132 [M+4H]
4+に対する計算値1623.2468; 実測値1623.2138。
【0152】
化合物(014):DMSO(0.8mL)中の化合物012(22mg、0.0096mmol、1当量)および化合物002(60mg、0.154mmol、16等量)の溶液に、CuBr・CH
3SCH
3(2mg、0.0096mmol、1等量)を、アルゴン雰囲気下で加えた。マイクロ波照射下、80℃で4時間後、溶液を、冷却し、DCM(30mL)で沈殿させ、遠心分離した。粗生成物を水(2mL)に再溶解し、Quadrasil(登録商標)MP(60mg)で処理して残留銅イオンを除去した。45μmの無菌フィルタによる濾過後、濾液を、Sephadex(商標)G-25カラムに通し、水で溶離した。DCM/MeOH(1:0.3、KMnO
4染色)でのTLC溶離によって移動できなかったフラクションを収集した。集めたフラクションを凍結乾燥して、橙色固体(55mg、0.00785mmol、収率82%)を得た。
【化29】
1H NMR (500 MHz, DMSO-d
6) δ 8.24-8.01 (m, 12H, 12 x H-12), 4.94-3.25 (m, 192H, 12 x H-4, 12 x H-5, 12 x H-6, 12 x H-7, 12 x H-8, 12 x H-9, 12 x H-10, 12 x H-13, 12 x H-15), 2.68 (br, 12H, H-3a), 2.16-1.15 (m, 80H, 12 x H-3b, 12 x H-14, 12 x NCOCH
3, 12 x OCOCH
3).
13C NMR (101 MHz, DMSO-d
6) δ 173.5 (C=O, NCOCH
3), 171.5 (C=O, C-1, 9-O-Ac), 163.57 (Cq, C-16), 145.7, 145.2 (C-11, C
sp2), 124.5 (C-12), 100.4 (C-2), 72.9 (C-6), 69.4 (C-18, C-8, C-7), 67.8 (C-4), 66.5 (C-9), 64.5 (C-15), 57.64 (C-10), 53.1 (C-5), 46.7 (C-17, C-13), 41.6 (C-3), 29.2 (C-14), 22.9 (NCOCH
3), 21.2 (OCOCH
3). HRMS (ESI+-MS, m/z): C
306H
348N
48O
144 [M+5H]
5+に対する計算値1400.6350; 実測値1400.6368。
【0153】
実施例2:AcSA誘導グリコクラスターは、SARS-CoV-2細胞結合および感染性の強力阻害剤である
材料および方法
UV不活化SARS-CoV-2の発生
SARS-CoV-2(BavPat1株、European Virology Archives)をVero E6で増殖させ、継代数3で使用した。500μLの継代数3のストック(感染細胞の上清)を6ウェルディッシュに加えた。6ウェルディッシュを、蓋なしでUV Stratalinker 1800(Stratagene)に入れ、ウイルス含有上清を、5000JのUV照射に曝露した。ウイルス不活化を、50000のナイーブVero E6細胞を含有する48ウェルプレートに10μLのUV処理上清を加え、48時間後の感染を間接蛍光抗体法により監視することによって確認した。
【0154】
シアル酸コーティング表面
金コーティングされたシリコン基板を、まずエタノールで洗浄し、15分間のUV-O処理(Jetlight)によってクリーニングした。次いで、表面を、ビオチン化ウシ血清アルブミン(BBSA)溶液(PBS中25μg・mL-1、Sigma)中で、一晩、4℃でインキュベートした。PBSですすいだ後、1滴のストレプトアビジン(PBS中10μg・mL-1、Sigma)を、BBSA表面上にピペットで移して4℃で1時間おき、続いてPBSですすいだ。最後に、BBSA-ストレプトアビジン表面を、ビオチン化biot-SA(B4)またはbiot-9-AcSA(B5)溶液(PBS中10μg・mL-1)に1時間浸漬し、続いて最後にPBSですすいだ。表面は、反復走査下で均一で安定なモルフォロジーを示し、1.1±0.1nmの厚さを示した。堆積層の厚さは、表面の狭い領域(1μm×1μm)を高い力で走査して、結合した生体分子を除去し、続いて、同じ領域のより広い正方形(5μm×5μm)をより低い力でイメージングすることによって推定された。
【0155】
ウイルス粒子イメージング
ウイルス溶液の80μLの液滴(~107粒子・mL-1)を、新しく切断したマイカ基板上に堆積させ、+4℃で1時間インキュベートした。MilliQ水で10回すすいだ後、試料を、37℃で1時間乾燥した。AFMイメージングを、空気中でPeakForce-Hirs-F-Aチップ(公称ばね定数0.4N・m-1、Bruker)を使用して、PeakForce Tappingモードで行った。使用されたイメージングパラメータは次のとおりである:チップ振動周波数1kHz、最大ピークフォース250pN、走査速度0.25kHz、および表示256ピクセル/ライン。
【0156】
AFMチップ官能化
AFMチップ官能化のために、NHS-PEG24-Ph-アルデヒドリンカー(Broadpharm)を使用した。AFMチップ(MSCT-Dプローブ、Bruker)を、クロロホルムに10分間浸漬し、エタノールですすぎ、穏やかな濾過窒素流中で乾燥し、紫外線およびオゾンクリーナー(JetLight)で15分間クリーニングし、エタノールアミン溶液[6.6mLのジメチルスルホキシド(DMSO)中の3.3gのエタノールアミン塩酸塩]に一晩浸漬した。次いで、カンチレバーを、DMSOで3回およびエタノールで3回洗浄し、窒素で乾燥した。その一方で、3.3mgのNHS-PEG24-Ph-アルデヒドリンカーを、0.5mLのクロロホルムに溶解した。エタノールアミンコーティングされたカンチレバーを、30μLのトリエチルアミンとともにこの溶液に浸漬した。2時間のインキュベーション時間後、クロロホルムで3回洗浄し、窒素で乾燥し、パラフィルム(Bemis NA)上に星形の配置(チップが向かい合った状態)で置いた。50μLのS1サブユニットタンパク質溶液(0.1mg・mL-1、Genscript Z03501)またはUV不活化SARS-CoV-2ビリオン(108粒子・mL-1)、および2μLの新しく調製したNaCNBH3溶液(6wt%vol-1、0.1M NaOH(aq)中)を、それらの上にピペットで移し、4℃で1時間インキュベートした。最後に、5μLの1Mエタノールアミン(pH=8)を液滴に加えて10分間おき、反応をクエンチした。PBSで洗浄した後、チップを、実験までPBS中に貯蔵した。
【0157】
結合確率(BP)アッセイ
Nanoscope Multimode 8(Bruker)を、フォースボリューム(コンタクト)モードで操作して、モデル表面に対して力分光法実験を行った(Nanoscopeソフトウェアv9.1)。MSCT-Dプローブ(公称ばね定数0.03N・m-1)を使用して、ランプサイズ200nm、最大の力500pN、および表面遅延なしで5μm×5μmのマップを記録した。試料を、ライン周波数1Hzおよび32ピクセル/ライン(32ライン)を使用して走査した。接近速度および後退速度の両方を、1μm・s-1で一定に維持した。
【0158】
阻害能のスクリーニング
宿主細胞表面へのSARS-CoV-2結合の第1のステップ中のシアル酸の役割を研究するために、FD曲線ベースのAFMを使用して、SA(Neu5Ac)および9-AcSAへのSARS-CoV-2結合を比較し、9-AcSAへの相互作用の結合自由エネルギー地形を特性評価した。細胞表面グリカンの露出をインビトロで模倣するために、biot-9-AcSA(B5)またはbiot-SA(B4)のいずれかのビオチン化SAを、ストレプトアビジンコーティング表面上に固定化し、AFMイメージングおよび引っかき実験によって検証し、1.1±0.1nmの厚さの堆積層を明らかにした。スパイクS1サブユニットとSAコーティング表面との間の相互作用を、FDベースのAFMによって監視した。
【0159】
SARS-CoV-2と9-AcSAとの間の結合親和性への、合成された(9-Ac)-SA誘導グリコクラスター(実施例1-dを参照)の阻害能を研究するために、結合確率(BP)(結合イベントを示す曲線の割合)を、異なる濃度(それぞれ0、1、10および100μM)のSA-グリコクラスター(004、007、010および/または013)ならびに4つの9-AsSA-グリコクラスター(005、008、011および/または014)を用いて、インキュベーション前後で測定した。3つのフォースボリュームマップを、グリコクラスターの非存在下で、前に述べたように、3つの異なる領域について記録した。その後、試験されたグリコクラスターを流体セルに加え、3つのマップを各濃度について記録した。
【0160】
動的力分光法
動的力分光法実験を、ForceRobot 300(JPK)を使用して行った。同じパラメータを結合確率(BP)アッセイに関して使用し、0.1、0.2、1、5、10および20μm・s-1の様々な後退速度を用いた。Originソフトウェア(OriginLab)を使用して、結果をDFSプロットで表示し、別個のLR範囲について破断力ヒストグラムを生成し、以前に記載されたように、様々な力分光法モデルを適用した(Alsteens, D.ら、Nature Nanotechnology, 2017, Vol. 12, pp. 177 183)。これらのモデルを使用して、この相互作用のエネルギー地形を定量化し、速度論的オフレートkoffおよび遷移状態までの距離xuを抽出する。速度論的オンレート分析では、BPは、特定の接触時間(t)で決定され、接触時間は、チップが表面と接触している時間である。
【0161】
それらのデータはフィッティングされ、以前に記載されたように、K
Dが計算された(Rankl, C.ら、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2008, Vol. 105, pp. 17778-17783)。手短に言えば、相互作用時間(τ)とBPとの間の関係は、以下の方程式:
【数1】
によって記述され、式中、Aは最大BPであり、t
0は遅延時間である。Originソフトウェアを使用して、データをフィッティングし、τを抽出した。次のステップで、k
onを、以下の方程式:
【数2】
によって計算し、式中、r
effは球の半径であり、n
bは結合パートナーの数であり、N
Aはアボガドロ定数である。有効体積V
eff(4πr
eff
3)は、相互作用が起こることができる体積を表す。これは、S1分子の半分のみが、基板上のその対応する受容体と相互作用することができるため、結果として半球となる。
【0162】
細胞株の培養
CHO細胞を、10%FBS(ウシ胎児血清)、ペニシリン(100U・mL-1)、ストレプトマイシン(100μg・mL-1)(Invitrogen)、および2mM L-グルタミン(Sigma)を補充したハムF12培地(Sigma)で培養した。
【0163】
Lec2細胞の形質導入
Lec2細胞は、H2BeGFPおよびアクチン-mCherry発現レンチウイルスを使用して、核eGFPおよび細胞質mCherryを発現するように形質導入された。
【0164】
Atto488 NHSエステル色素によるUV不活化SARS-CoV-2ビリオンの標識化
UV不活化SARS-CoV-2ビリオンの108粒子・mL―1溶液200μLを、10μLのAtto488 NHSエステル色素(Atto-Tec)(乾燥DMSO中10mM)と、500μLのアセトン緩衝液(pH4.5)中で2時間、穏やかな撹拌下で混合した。次いで、遊離色素を排除し、蛍光標識ビリオンをAmicon Ultra-0.5遠心式フィルタユニット、MWCO 10kDa(Sigma)を用いた濾過により初期濃度まで濃縮した(精製のために10000gで10分間、および生成物の回収のために1000gで2分間の遠心分離)。
【0165】
ウイルス結合アッセイ
CHOおよびLec2(アクチン-mCherryで蛍光標識された)の共培養物を、Atto488 NHSエステル色素と結合したUV不活化SARS-CoV-2ビリオンの108粒子・mL―1溶液とともに、(インターナリゼーションを防ぐために)氷上で1時間インキュベートした。次いで、細胞を、PBSで3回すすぎ、ホルムアルデヒド(PBS中4%、15分間)(Invitrogen、Thermo Fisher Scientific)で固定した。PBSでの最後の洗浄の後、細胞を、40倍の水浸対物レンズを使用して、レーザー走査型共焦点顕微鏡(Zeiss LSM 980)でイメージングした。画像を、Zen blue 2.3ソフトウェア(Zeiss)で分析した。最大強度投影を行って、zスタックから単一の画像を得た。
【0166】
生細胞へのFDベースのAFMおよび蛍光顕微鏡
CHO細胞のAFM相関画像は、倒立落射蛍光顕微鏡(Zeiss Observer Z.1)または共焦点レーザー走査型顕微鏡(Zeiss LSM 900)に接続されたBioscope Resolve AFM(Bruker)を、PeakForce QNMモード(Nanoscope software v9.2)で使用して取得された。すべての実験は、40倍の油浸対物レンズ(NA=0.95)を使用して行われた。細胞画像(30~50μm2)は、チップ長さ17μm、チップ半径65nm、および開放角15°を有するPFQNM-LCプローブ(Bruker)を使用して、500pNの力で記録された。すべての蛍光およびAFM実験は、細胞培養条件下で、統合されたAFMおよび蛍光顕微鏡チャンバを使用して、37℃で、細胞型に応じてMem α(ヌクレオシド含有)培地またはハムF12培地のいずれかで、実現された(Alsteens, D.ら、Nature Nanotechnology, 2017, Vol. 12, pp. 177 183)。カンチレバーは、熱雑音法(Hutter, J. L. & Bechhoefer, J., Review of Scientific Instruments, 1993, Vol. 64, pp. 1868-1873)を使用して較正され、0.08~0.14N/mの範囲の値を得た。AFMチップは、750nmの振幅で、0.25kHzで正弦波状に振動した。試料は、0.125Hzの周波数および128または256ピクセル/ラインを使用して走査された。AFM画像およびFD曲線は、Nanoscope解析ソフトウェア(v1.9、Bruker)、Origin、およびImageJ (v1.52e)を使用して分析された。細胞表面とS1またはSARS-CoV-2との間の解離イベントを検出する個々のFD曲線は、Nanoscope解析およびOriginソフトウェアを使用して分析された。後退曲線のベースラインは、後退曲線の最後の30%に線形フィッティングを使用して補正された。力-時間曲線を使用して、各破断イベントの負荷速度(勾配)が決定された。光学画像は、Zen Blueソフトウェア(Zeiss)を使用して分析された。
【0167】
9-AcSAポルフィリン添加の効果の監視
生細胞実験は、細胞のコンフルエント層の好適な領域を走査し、続いて10nM、100nM、1μM、または10μMの9-AcSAポルフィリン011を培地に加えることによって、上記と同じ方法で行われた。次いで、同じ領域を再び走査して、9-AcSAオリゴマーの添加後の潜在的変化を監視した。
【0168】
SARS-CoV-2スパイクシュードタイプ化VSVウイルスの産生
18アミノ酸残基プラスミドのC末端トランケーションを有するpCG1 SARS-CoV-2スパイクタンパク質を、HEK-293細胞にトランスフェクトした。その翌日、VSV-deltaGビリオンを、5FFU/細胞のMOIで細胞に形質導入した。37℃で5%のCO2を含む飽和湿度の環境中で1時間のインキュベーション後、培地を除去し、細胞をPBSで洗浄した。形質導入細胞を、5%FBS、1%ペニシリン、1%ストレプトマイシン、2mM L-グルタミン、1mMピルビン酸Na、およびNEAA、ならびに抗VSV-G抗体(1:1000)を補充したDMEMで培養した。産生された細胞を、形質導入の翌日に培地から収集した。細胞残屑を、遠心分離(1250×g、10分間)および0.22μmフィルタによって除去した。
【0169】
感染性アッセイ
A549またはA549 ACE2安定細胞(1×104)を、96ウェルプレートに播種した。MOI 5のシュードタイプ化ウイルスと、濃度を増加させた(0.001μM、0.01μM、0.1μM、1μM、10μM)SA(Neu5Ac)、9-AcSA、SA-ポルフィリングリコクラスター010、または9-AcSA-ポルフィリングリコクラスター011(実施例1-dに示す)との混合物を、室温で15分間インキュベートした。混合物を培地に加え、細胞を1時間インキュベートした。細胞をPBSで洗浄し、新しい細胞培地で24時間インキュベートした。感染性を、蛍光によって監視し、画像を、バイオイメージャー装置(Amersham Typhoon)で取得した。感染細胞の数を、Fijiによってカウントした。
【0170】
結果、
1. 9-O-アセチル化シアル酸(9-O-AcSA)へのS1サブユニットの結合
際だったことに、アセチル化(B5)と非アセチル化SA(B4)との間に約3倍の有意差が観察され、SAに比べて9-AcSAへのS1サブユニットの結合活性が有意に高いことを証明した。
【0171】
さらに、相互作用の特異性が、追加の独立した対照実験を行うことによって確認された。遊離の9-AcSA(
図2)またはストレプトアビジンのみ(SAなし)でコーティングされた表面を用いた競合アッセイの両方は、有意に低い結合確率(BP)をもたらし、SARS-CoV-2 S1ドメインとの9-AcSAの相互作用の特異性を確認した。
【0172】
2. S1サブユニットと9-O-AcSAとの間の相互作用の動力学
S1と9-AcSAとの間の相互作用の結合自由エネルギー地形を、単一分子動的力分光法(DFS)を使用して特性評価した。接触時間のBPへの影響を監視することによって(
図3)、結合速度(k
on)は、受容体結合複合体が擬一次速度式によって近似され得ると仮定することによって推定される。単一指数増殖でデータをフィッティングすることによって、(4.2±0.2)×10
4M
-1s
-1のk
onが抽出され、親和定数(K
D)はk
offとk
onとの比として計算され、5.7±5μMの値をもたらした。
【0173】
μM範囲の値は、中程度の親和性に相当し、SARS-CoV-2が、宿主細胞表面上の最初の中程度の親和性の足がかりとして9-AcSAなどのグリカンを使用し、その後のACE2受容体への強い結合を容易にするという仮定を支持する。
【0174】
3. SARS-CoV-2ビリオンレベルでの結合
非複製SARS-CoV-2粒子(すなわち、UV放射線によって不活化された天然のSARS-CoV-2ビリオン)を使用して、調査される相互作用の生理学的妥当性を評価した。9-AcSAへのこれらの非複製SARS-CoV-2粒子の結合を、ビリオン全体をAFMチップにグラフトすることによって評価した。相互作用を、中速(1μm・s-1)および高速(20μm・s-1)の引っ張り速度で調査し、DFSプロットを再構築し、精製S1ドメインで得られたデータを重ねた。
【0175】
精製S1ドメインのみまたはフルビリオンで収集されたデータ間で、良好な一致が観察された。単一分子レベルでの異なる破断力は両方とも非常に近かったが、速度論的パラメータも同様であった。ビリオンレベルでは、複数の接触と一致するより高い力も記録された。
【0176】
4.生細胞での相互作用の検証
次に、相互作用は、精製S1または非複製フルビリオンのいずれかと、シアル酸(SA)を天然に発現する非標識CHO細胞、およびLec2細胞(核タンパク質H2B-GFPおよびアクチン-mCherryで蛍光標識された)の共培養物との間の相互作用を調査することによって、直接生細胞に対して検証された。表面受容体としてのSAの役割を証明するために、発明者らは、レーザー走査型共焦点顕微鏡をCHO細胞およびLec2細胞の共培養物に対して行い、UV不活化SARS-CoV-2ビリオン(Atto488-NHS色素で蛍光標識された)が、SA発現CHO細胞に優先的に結合することを観察した。次いで、S1糖タンパク質またはフルビリオンのいずれかで官能化されたAFMチップを使用して、共培養されたCHO細胞およびLec2細胞のコンフルエントな単層を、両方の細胞型が増殖する条件を使用してAFMによって走査した。
【0177】
CHO細胞が、有意に高い密度の付着イベント(S1に対して~9%、SARS-CoV-2に対して~13%、
図13a、S1についてn=10の細胞、およびSARS-CoV-2についてn=12の細胞)を示した一方で、Lec2細胞は、これらのイベントのまばらな分布のみ(S1に対して~3%、SARS-CoV-2に対して~5%、
図13b、S1についてn=10の細胞、およびSARS-CoV-2についてn=12の細胞)を示し、生細胞上のSAへの特異的SARS-CoV-2結合の確立を確認した。
【0178】
5. SA-およびAcSA-グリコクラスターを使用したSARS-CoV-2結合の阻害
SAまたは9-AcSAのいずれかで装飾された8つのグリコクラスターを、発明者らのSMFS手法および非複製SARS-CoV-2フル粒子を使用して、それらの遮断性について試験した。まず、1価の市販の9-アセチル化シアル酸(9-AcSA)(Carbosynth)の阻害能を、0、1、10、および100μMで評価した(
図4)。調査された濃度範囲にわたって、結合頻度(BF)の20~30%のわずかな低下のみが観察された。(SAと比較して)活性なAcSAは、実施例2.2でも明らかなように、SARS-CoV-2スパイクへの中程度の親和性のみを示すことが先に決定されたため、この結果は予想されたものであった。
【0179】
SAまたは9-AcSAのいずれかで官能化された4つのグリコクラスターを比較した(
図5~8)。相対結合頻度(BF)プロットは、SA-グリコクラスターでは阻害がないかまたはわずかであることを示す一方で、9-AcSA-グリコクラスターでは、漸進的かつ有効なBFの低下が観察された。さらに、10μMあたりで50%の低下が、すべての9-AcSA-クラスターで観察された。9-AcSA誘導ポルフィリン011が、最も効率的な阻害剤であるように思われ、1μMですでに約50%の低下に達している(
図7および9)。
【0180】
したがって、出願人は、驚くべきことに、ポルフィリン、ピラーアレーン、カリックスアレーン、およびフラーレンに共有結合した複数のAcSAが、遊離AcSAの低い親和性にもかかわらず、SARS-CoV-2の強力阻害をもたらすことを証明した。したがって、本発明のグリコクラスターは、COVID-19などの感染性疾患の治療および/または予防に使用され得る。
【0181】
6. AcSA誘導ポルフィリンの阻害の特性評価
第1のスクリーニング(本明細書の実施例2.5)が、SARS-CoV-2抗結合に最も効率的な9-AcSA誘導グリコクラスターとして、ポルフィリンベースのグリコクラスター(化合物011)を指摘したので、その結合能を、より詳細に評価した。
【0182】
驚くべきことに、9-AcSA-ポルフィリン011は、10nMですでに、SARS-CoV-2と9-AcSAとの間の調査された相互作用の50%超の低下をもたらし、濃度の関数として指数関数的減衰をたどることが見出された(
図10)。
【0183】
生細胞への阻害能が調査され、この傾向が、生理学的に妥当な条件下でも確認された(
図11)。
【0184】
したがって、出願人は、予想外に、ポルフィリンに共有結合した複数のAcSAが、遊離AcSAの低い親和性にもかかわらず、低濃度でもSARS-CoV-2の特に顕著な阻害をもたらすことを証明した。したがって、本発明のAcSA-ポルフィリンベースのグリコクラスターは、COVID-19などの感染性疾患の治療および/または予防に使用され得る。
【0185】
7. AcSA誘導ポルフィリンの中和特性の特性評価
抗付着能(実施例2.5および2.6)を評価した後、AcSA-ポルフィリングリコクラスター011の中和特性、すなわち、ウイルスの侵入、したがって感染を防ぐその能力を評価することに着目した。低バイオセイフティー条件で行うことができる、ロバストなウイルス感染性アッセイが使用された。手短に言えば、SARS-CoV-2スパイクタンパク質をトランス補足(trans-complemented)され、GFPレポータータンパク質をコードする、増殖能力のないG欠損水疱性口内炎ウイルス(VSV)(VSV-SARS-CoV-2)が、A549細胞、およびACE2受容体を形質導入されたA549細胞に対して、様々な濃度の妨害分子ありまたはなしで使用された。A549-ACE2は、MOI 5のVSV-SARS-CoV-2に感染した。感染性は、感染後24時間の細胞でGFP蛍光を測定することによって監視された。A549細胞は、VSV-SARS-CoV-2によって感染していないが、ACE2の過剰発現は、感染を強く促進した。次に、感染性アッセイが、VSV-SARS-CoV-2をSA、9-AcSA、SA-ポルフィリン10、およびAcSA-ポルフィリン11とともにインキュベートしながら行われた。
【0186】
予想どおり、SAおよび9-SAの両方は、VSV-SARS-CoV-2感染性を有意に低下させなかった(
図12)。さらに、SA-ポルフィリン010は、VSV-SARS-CoV-2感染性の有意な低下を提供しなかった一方で、発明者らは、9-AcSA-ポルフィリン011がVSV-SARS-CoV-2感染性を有意に低下させ、0.1~1μMの範囲の推定IC
50を有することを観察した(
図12)。
【0187】
この細胞ベースのアッセイは、SARS-CoV-2結合へのシアル酸の効果に関する先の結果を確認し、さらに、本発明のグリコクラスターによる、ウイルスのその受容体への結合の有効な阻害は、感染性の大幅な低下をもたらすことを証明する。
【0188】
8. 異なるSARS-CoV-2系統への9-AcSAポルフィリン結合の比較
最近広まっている変異体で観察されたSARS-CoV-2の変異が、その受容体へのウイルス結合の阻害の有効性に影響を及ぼすかを評価するために、最初の武漢株または最新のオミクロン株のいずれかからのS1ドメインへの9-AcSAポルフィリン011の親和性測定が行われた。手短に言えば、どちらかの株からのスパイクタンパク質のS1ドメインが、バイオレイヤー干渉センサに共有結合され、9-AcSAポルフィリン011の結合が評価された。
【0189】
親和性の低下は観察されず、分析は、武漢株について141±4nM、およびオミクロン株について100±3nMのオーダーの親和定数を与えた。
【0190】
これらの結果は、元のハプロタイプの2年近く後に出現し、多くの変異を含むにもかかわらず、SARS-CoV-2の原株に対してだけでなくオミクロン株に対しても、アセチル化シアル酸グリコクラスターの有効性を確認する。
【配列表】
【国際調査報告】