(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】水性コーティング組成物及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
C09D 125/00 20060101AFI20240905BHJP
C08F 212/06 20060101ALI20240905BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240905BHJP
C09D 5/08 20060101ALI20240905BHJP
C09D 125/08 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C09D125/00
C08F212/06
C09D5/02
C09D5/08
C09D125/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515674
(86)(22)【出願日】2021-09-22
(85)【翻訳文提出日】2024-03-11
(86)【国際出願番号】 CN2021119683
(87)【国際公開番号】W WO2023044613
(87)【国際公開日】2023-03-30
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】リー、フー
(72)【発明者】
【氏名】タン、ジア
(72)【発明者】
【氏名】チェン、バオチン
(72)【発明者】
【氏名】ウー、ヤン
【テーマコード(参考)】
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4J038CC001
4J038CC021
4J038GA06
4J038GA09
4J038GA14
4J038KA05
4J038KA08
4J038KA10
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4J038MA13
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4J100AB01P
4J100AB02P
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4J100AB10P
4J100AE18R
4J100AL08R
4J100AM21Q
4J100BA02R
4J100BA05P
4J100BA14Q
4J100BA64R
4J100BA66R
4J100CA03
4J100DA01
4J100DA25
4J100JA01
(57)【要約】
水性コーティング組成物は:(A)エマルジョンポリマーであって、エマルジョンポリマーの重量に基づいて、0.48重量%~1.20重量%の亜リン酸モノマー、その塩、又はそれらの混合物の構造単位と、0.5重量%~3重量%のジアセトン(メタ)アクリルアミドの構造単位と、10重量%~80重量%のビニル芳香族モノマーの構造単位と、(メタ)アクリル酸のC1~C24-アルキルエステルの構造単位と、任意選択的にα,β-エチレン性不飽和カルボン酸の構造単位と、を含むエマルジョンポリマー;(B)特定量の、式(I)HOOC-R-COOHのジカルボン酸、その塩、又はそれらの混合物;及び(C)水性コーティング組成物の重量に対して0.05重量%~5重量%のフラッシュ錆防止剤を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性コーティング組成物であって:
(A)エマルジョンポリマーであって、前記エマルジョンポリマーの重量に基づいて:
0.48重量%~1.20重量%の亜リン酸モノマー、その塩、又はその混合物の構造単位、
0.5重量%~3重量%のジアセトン(メタ)アクリルアミドの構造単位、
10重量%~80重量%のビニル芳香族モノマーの構造単位、
(メタ)アクリル酸のC
1~C
24-アルキルエステルの構造単位、及び
任意選択的に、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸、その塩、又はそれらの混合物の構造単位、
を含むエマルジョンポリマーと;
(B)ジカルボン酸、その塩、又はそれらの混合物であって、ジカルボン酸は、式(I):
HOOC-R-COOH(I)
(式中、Rは、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、シクロアルキレン、シクロアルケニレン、シクロアルキニレン、アリーレン、又は複素環式アリーレンであり;6~18個の炭素原子を含む)の構造を有し、
前記ジカルボン酸、前記その塩、又はそれらの混合物は、前記水性コーティング組成物の前記重量に基づいて、0.28重量%~1.0重量%の濃度で、-OOC-R-COO-セグメントを提供する量で存在する、ジカルボン酸、その塩、又はそれらの混合物と;
(C)前記水性コーティング組成物の前記重量に基づいて、0.05~5重量%のフラッシュ錆防止剤と、
を含む、水性コーティング組成物。
【請求項2】
前記ジカルボン酸が、セバシン酸、ドデカン二酸、スベリン酸、アンコイン酸、ウンデカン二酸、エイコサン二酸、又はそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の水性コーティング組成物。
【請求項3】
前記ジカルボン酸の前記塩が、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アミン塩、又はそれらの混合物である、請求項1又は2に記載の水性コーティング組成物。
【請求項4】
前記亜リン酸モノマーが、ホスホエチルメタクリレート、ホスホエチルアクリレート、アリルエーテルホスフェート、ホスホプロピルメタクリレート、ホスホブチルメタクリレート、又はこれらの混合物から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項5】
前記ビニル芳香族モノマーがスチレンである、請求項1~4のいずれか一項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項6】
前記エマルジョンポリマーが、前記エマルジョンポリマーの前記重量に基づいて、0.3重量%~5重量%の前記α,β-エチレン性不飽和カルボン酸、前記その塩、及びそれらの混合物の構造単位を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項7】
前記エマルジョンポリマーが、Fox式によって計算される、-10℃~40℃のガラス転移温度を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項8】
前記エマルジョンポリマーが、0重量%~5重量%未満のシクロアルキル(メタ)アクリレートの構造単位を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項9】
前記エマルジョンポリマーが、前記エマルジョンポリマーの重量に基づいて、0.8重量%~1.2重量%のホスホエチルメタクリレートの構造単位と;1.1重量%~2.1重量%のジアセトンアクリルアミドの構造単位と;0.3重量%~4重量%のアクリル酸、メタクリル酸、又はそれらの混合物の構造単位と;40重量%~70重量%のスチレンの構造単位;及び20重量%~50重量%のブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ブチルメタクリレート、又はこれらの混合物の構造単位と、
を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項10】
前記エマルジョンポリマーが、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定された10,000~60,000g/モルの数平均分子量を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項11】
前記エマルジョンポリマーが、多段エマルジョンポリマーであって、前記多段エマルジョンポリマーの重量に基づいて、50重量%~80重量%のポリマーA及び20重量%~50重量%のポリマーBを含む多段エマルジョンポリマーであり、
前記ポリマーAは、前記ポリマーAの重量に基づいて、0.3重量%~2.4重量%の前記亜リン酸モノマー、前記その塩、又はそれらの混合物の構造単位と;0.5重量%~6重量%の前記ジアセトン(メタ)アクリルアミドの構造単位と;10重量%~75重量%の前記ビニル芳香族モノマーの構造単位と、を含み、
前記ポリマーBは、前記ポリマーBの重量に基づいて、0重量%~2.5重量%の前記亜リン酸モノマー、前記その塩、又はそれらの混合物の構造単位と;0重量%~2.5重量%の前記ジアセトン(メタ)アクリルアミドの構造単位と;10重量%~100重量%の前記ビニル芳香族モノマーの構造単位と、を含み、
前記ポリマーA及び前記ポリマーBの少なくとも1つは、(メタ)アクリル酸のC
1~C
24-アルキルエステルの構造単位を更に含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項12】
1分子当たり少なくとも2つのヒドラジド基を含有する多官能性カルボン酸ヒドラジドを更に含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の水性コーティング組成物。
【請求項13】
前記多官能性カルボン酸ヒドラジドが、アジピン酸ジヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸ポリヒドラジド、又はそれらの混合物から選択される、請求項12に記載の水性コーティング組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の水性コーティング組成物を調製する方法であって、前記エマルジョンポリマー、及び前記ジカルボン酸、その塩、又はそれらの混合物を、前記フラッシュ錆阻害剤と混合することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ポリマー組成物及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
序論
エポキシ樹脂、ポリウレタン、又はアルキド樹脂を含む溶媒含有コーティング組成物は、それらの耐食性能、機械的特性、及び外観のために、金属保護コーティングに広く使用されている。水性アクリルポリマー分散液は、溶媒含有分散液よりもはるかに環境的に懸念が少なく、通常、軽~中程度の金属保護のために使用される。炭素鋼、鋳鉄などの鉄金属、及び溶接シームを有する金属部品は、「フラッシュ錆」として知られる急速な腐食を受けやすい。従来の水性コーティング組成物がそのような金属表面に塗布されたすぐ後又は直後であって、得られたコーティングフィルムが完全に乾燥する前に、フラッシュ錆が、肉眼で見える離散した錆スポットとして形成される傾向がある。フラッシュ錆が形成されるので、水性コーティング組成物を高温(例えば、40℃以上)又は高湿度(例えば、相対湿度90%以上)の環境で使用するのは、より困難となる。
【0003】
初期の耐水性及び長期的耐食性も、金属保護コーティングの重要な特性である。フラッシュ錆とは異なり、長期的腐食は、コーティングフィルムが完全に乾燥した後に生じる金属基材の腐食を指す。長期的耐食性は、通常、塩水噴霧試験によって評価される。水性コーティング組成物中に亜硝酸ナトリウムなどのフラッシュ錆防止剤を十分な量添加すれば、フラッシュ錆の形成を低減又は排除し得るが、その一方で、典型的には、初期の耐水性及び/又は長期的耐食性を損なってしまう。水性組成物が、所望の初期の耐水性及び長期的耐食性を達成しながら、良好なフラッシュ錆耐性を与えるということは困難である。
【0004】
したがって、フラッシュ錆耐性、長期的耐食性、及び初期の耐水性を含む、上記のバランスのとれた特性を有する水性コーティング組成物の提供に対するニーズが依然として存在している。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、上記の問題のない新規の水性コーティング組成物を提供する。その水性コーティング組成物は、特定のエマルジョンポリマーと、特定のジカルボン酸、その塩、又はそれらの混合物との、新規な組み合わせを含む。その水性コーティング組成物は、高温高湿条件(例えば、40℃の温度及び90%の相対湿度)下であっても、「0」等級の優れたフラッシュ錆耐性と;少なくとも「6F」又は「8M」のブリスター等級及び少なくとも「9P」又は「9S」の錆等級によって特徴付けられる、塩水噴霧試験への150時間の曝露後の良好な長期的耐食性と;少なくとも「8M」のブリスター等級として評価される良好な初期の耐水性と;少なくとも「9P」又は「9S」の錆等級と、を提供することができる。これらの特性は、以下の実施例のセクションに記載される試験法に従って測定することができる。
【0006】
第1の態様では、本発明は、水性コーティング組成物であり:
(A)エマルジョンポリマーであって、エマルジョンポリマーの重量に基づいて:
0.48重量%~1.20重量%の亜リン酸モノマー、その塩、又はそれらの混合物の構造単位、0.5重量%~3重量%のジアセトン(メタ)アクリルアミドの構造単位、10重量%~80重量%のビニル芳香族モノマーの構造単位、(メタ)アクリル酸のC1~C24-アルキルエステルの構造単位、及び任意選択的に、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸、その塩、又はそれらの混合物の構造単位、を含むエマルジョンポリマーと;
(B)ジカルボン酸、その塩、又はそれらの混合物であって、ジカルボン酸は、式(I):
HOOC-R-COOH(I)
(式中、Rは、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、シクロアルキレン、シクロアルケニレン、シクロアルキニレン、アリーレン、又は複素環式アリーレンであり;6~18個の炭素原子を含む)の構造を有し、
ジカルボン酸、その塩、又はそれらの混合物は、水性コーティング組成物の重量に基づいて、0.28重量%~1.0重量%の濃度で、-OOC-R-COO-セグメントを提供する量で存在する、ジカルボン酸、その塩、又はそれらの混合物と;
(C)水性コーティング組成物の重量に基づいて、0.05重量%~5重量%のフラッシュ錆防止剤と、を含む、水性コーティング組成物である。
【0007】
第2の態様では、本発明は、第1の態様の水性コーティング組成物を調製する方法であって、エマルジョンポリマーと、ジカルボン酸、その塩、又はそれらの混合物とを、フラッシュ錆防止剤と混合することを含む方法である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
試験方法は、日付が試験方法の番号とともに示されていない場合、本文書の優先日に直近の試験方法を指す。試験方法への言及は、試験の協会及び試験方法番号への参照の両方を含有する。本明細書では、次の試験方法の略語及び識別子が適用され、ASTMは、ASTMインターナショナル法を指し、ISOは、国際標準化機構規格を指し、GB/Tは中国国家規格を指す。
【0009】
商品名で識別される製品は、本文書の優先日において、それらの商品名で入手可能な組成物を指す。「及び/又は」とは、「及び、又は代替として」を意味する。全ての範囲は、特に指示がない限り、終点を含む。
【0010】
本明細書における「水性」組成物又は分散液は、粒子が水性媒体中に分散していることを意味する。本明細書において「水性媒体」とは、水、及び媒体の重量に基づく重量基準で、0重量%~30重量%の、例えば、アルコール、グリコール、グリコールエーテル、グリコールエステル、又はそれらの混合物などの水混和性化合物を意味する。
【0011】
「(メタ)アクリル)」という語の断片は、「メタクリル」及び「アクリル」の両方を指す。例えば、(メタ)アクリル酸とは、メタクリル酸及びアクリル酸の両方を指し、メチル(メタ)アクリレートとは、メチルメタクリレート及びメチルアクリレートの両方を指す。
【0012】
指定されたモノマーの「重合単位」としても知られる「構造単位」は、重合後のモノマーの残部、すなわち、重合したモノマー又は重合した形態のモノマーを指す。例えば、メチルメタクリレートの構造単位は:
【0013】
【化1】
(点線は、構造単位のポリマー骨格への結合点を表す)のように示される。
【0014】
「アルキレン」は、分岐状又は非分岐状の、飽和二価炭化水素基を意味する。例示的なアルキレン基としては、メチレン(-CH2-)、エチレン(-CH2CH-)、-CH2CH(CH3)CH2-、又はこれらの組み合わせが挙げられる。「シクロアルキレン」は、1つ以上のシクロアルキル基と結合している、分岐又は非分岐の二価炭化水素基を意味する。例示的なシクロアルキレン基としては、シクロヘキシレン、メチルシクロヘキシレン、又はこれらの組み合わせが挙げられる。「アルケニレン」とは、1つ以上の炭素-炭素二重結合を有する、分岐又は非分岐の二価炭化水素基を意味する。例示的なアルケニレン基としては、エテニレン(-CH=CH-)、-CH=CH-CH2-、-CH=C(CH3)-、又はこれらの組み合わせが挙げられる。「シクロアルケニレン」は、1つ以上のシクロアルキル基を連結するか、又はその中に1つ以上の炭素-炭素二重結合を有する、分岐又は非分岐の二価炭化水素基を意味する。例示的なシクロアルケニレン基としては、シクロヘキセニレン、-CH=CH-C6H10-、又はこれらの組み合わせが挙げられる。「アルキニレン」は、1つ以上の炭素-炭素三重結合を有する分岐又は非分岐の二価炭化水素基を意味する。例示的なアルキニレン基としては、エチニレン、-C≡C-、-C≡C-CH2-、又はこれらの組み合わせが挙げられる。「シクロアルキニレン」は、1つ以上のシクロアルキル基を連結するか、又はその中に1つ以上の炭素-炭素三重結合を有する、分岐又は非分岐の二価炭化水素基を意味する。例示的なシクロアルキニレン基としては、-C≡C-C6H10-、又はその組み合わせが挙げられる。「アリーレン」は、1つ以上のアリール基と結合している、分岐又は非分岐の二価炭化水素基を意味する。例示的なアリーレン基としては、フェニレン、-C6H4-、-CH2-C6H4-、-CH2-C6H3(CH3)-、又はこれらの組み合わせが挙げられる。「複素環式アリーレン」は、1つ以上の複素環式アリール基と結合している、分岐又は非分岐の二価炭化水素基を意味する。例示的な複素環式アリーレン基としては、ピリジレン、チアジレン、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0015】
本明細書で報告される「ガラス転移温度」又は「Tg」は、下記のFox式 (T.G.Fox,Bull.Am.Physics Soc.,Volume 1,Issue No.3,page 123(1956))を用いて計算され得る。例えば、モノマーM1及びM2のコポリマーのTgを計算するために、
【0016】
【数1】
(式中、T
g(計算値)は、コポリマーについて計算されたガラス転移温度であり、w(M
1)は、コポリマー中のモノマーM
1の重量分率であり、w(M
2)は、コポリマー中のモノマーM
2の重量分率であり、T
g(M
1)は、モノマーM
1のホモポリマーのガラス転移温度であり、T
g(M
2)は、モノマーM
2のホモポリマーのガラス転移温度であり、全ての温度の単位は、Kである)が用いられる。ホモポリマーのガラス転移温度は、例えば、「Polymer Handbook」,edited by J.Brandrup and E.H.Immergut,Interscience Publishersにおいて見出され得る。
【0017】
「エマルジョンポリマーの重量」は、エマルジョンポリマーの乾燥重量を指す。
【0018】
本発明の水性コーティング組成物は、典型的には水性分散液中に、1種以上のエマルジョンポリマーを含む。エマルジョンポリマーは、1つ以上の亜リン酸モノマー、その塩、又はそれらの混合物の構造単位を含み得る。亜リン酸モノマーはエチレン性不飽和を有してもよい。亜リン酸モノマーは、アルコールの二水素ホスフェートエステルであって、アルコールが重合可能なビニル又はオレフィン基を含有するか、又はそれらで置換されているものであり得る。亜リン酸モノマー及びその塩としては、例えばホスホエチル(メタ)アクリレート、ホスホプロピル(メタ)アクリレート、ホスホブチル(メタ)アクリレートなどのホスホアルキル(メタ)アクリレート、それらの塩、又はそれらの混合物;CH2=C(Rp1)-C(O)-O-(Rp2O)q-P(O)(OH)2(式中、Rp1は、H又はCH3であり、Rp2は、例えばエチレン基、プロピレン基、又はそれらの組み合わせなどのアルキレンであり、qは、1~20である)(例えば、SIPOMER PAM-100、SIPOMER PAM-200、SIPOMER PAM-300、及びSIPOMER PAM-600(全てSolvayから入手可能)である);ホスホエチレングリコール(メタ)アクリレート、ホスホジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ホスホトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ホスホプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ホスホジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ホスホトリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどのホスホアルコキシ(メタ)アクリレート、それらの塩、又はそれらの混合物が挙げられる。望ましくは、亜リン酸モノマーは、ホスホエチルメタクリレート(PEM)、ホスホエチルアクリレート、アリルエーテルホスフェート、ホスホプロピルメタクリレート、ホスホブチルメタクリレート、又はそれらの混合物から選択され、より好ましくはホスホエチルメタクリレートである。エマルジョンポリマーは、亜リン酸モノマー、その塩、又はそれらの混合物の構造単位を、エマルジョンポリマーの重量に基づいて、0.48重量%以上含み得るが、その濃度は、0.50重量%以上、0.52重量%以上、0.55重量%以上、0.58重量%以上、0.60重量%以上、0.62重量%以上、0.65重量%以上、0.68重量%以上、0.70重量%以上、0.72重量%以上、0.75重量%以上、0.78重量%以上、0.80重量%以上、0.82重量%以上、0.85重量%以上、0.88重量%以上、又は更に0.90重量%以上であってもよく、同時に、一般に1.20重量%以下で含み得るが、その濃度は、1.19重量%以下、1.18重量%以下、1.17重量%以下、1.16重量%以下、1.15重量%以下、1.12重量%以下、1.10重量%以下、1.08重量%以下、1.05重量%以下、1.02重量%以下、1.00重量%以下、0.98重量%以下、0.95重量%以下、又は更に0.92重量%以下であってもよい。
【0019】
本発明において有用なエマルジョンポリマーは、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、好ましくはジアセトンアクリルアミド(DAAM)の構造単位を含んでもよい。エマルジョンポリマーは、ジアセトン(メタ)アクリルアミドの構造単位を、エマルジョンポリマーの重量に基づいて、0.5重量%~3重量%の濃度で含み得るが、その濃度は、0.5重量%以上、0.6重量%以上、0.7重量%以上、0.8重量%以上、0.9重量%以上、1.0重量%以上、1.1重量%以上、1.2重量%以上、1.3重量%以上、1.4重量%以上、1.5重量%以上、1.6重量%以上、1.7重量%以上、又は更に1.75重量%以上であってもよく、同時に一般に、その濃度は、3重量%以下であり、かつ3重量%以下、2.9重量%以下、2.8重量%以下、2.7重量%以下、2.6重量%以下、2.5重量%以下、2.45重量%以下、2.3重量%以下、2.2重量%以下、2.1重量%以下、2.0重量%以下、1.9重量%以下、1.8重量%以下、又は更に1.75重量%以下であってもよい。
【0020】
本発明において有用なエマルジョンポリマーは、1つ以上のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸、それらの塩、又はそれらの混合物の構造単位を含み得る。好適なα,β-エチレン性不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、2-カルボキシエチルアクリレート、又はそれらの混合物が挙げられ得る。α,β-エチレン性不飽和カルボン酸としてはまた、上記のような(例えば、無水物、(メタ)アクリル酸無水物、又は無水マレイン酸など)の酸基を生成するか、又はその後上記のような酸基に変換可能な酸形成基を有するモノマー;又はそれらの混合物が挙げられる。望ましくは、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、2-カルボキシエチルアクリレート、又はそれらの混合物から選択される。エマルジョンポリマーは、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸及びその塩の構造単位を、エマルジョンポリマーの重量に基づく重量基準で、0重量%~5重量%の濃度で含んでいてもよいが、その濃度は0以上、0.3重量%以上、0.5重量%以上、0.8重量%以上、1.0重量%以上、1.2重量%以上、1.5重量%以上、1.8重量%以上、又は更に2重量%以上であってもよく、同時に、一般に、5重量%以下の濃度で含んでいてもよく、かつその濃度は、4.5重量%以下、4重量%以下、3.5重量%以下、3.2重量%以下、2.8重量%以下、3.0重量%以下、2.8重量%以下、2.5重量%以下、2.2重量%以下、又は更に2.0重量%以下であってもよい。
【0021】
本発明において有用なエマルジョンポリマーは、1つ以上のビニル芳香族モノマーの構造単位を含み得る。好適なビニル芳香族モノマーとしては、例えば、スチレン及び置換スチレン、例えばα-メチルスチレン、p-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、トランス-β-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、o-、m-及びp-メトキシスチレン;p-トリフルオロメチルスチレン、又はそれらの混合物が挙げられる。好ましくは、ビニル芳香族モノマーは、スチレンである。エマルジョンポリマーは、ビニル芳香族モノマーの構造単位を、エマルジョンポリマーの重量に基づいて、10重量%~80重量%の濃度で含むことができ、その濃度は、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、35重量%以上、40重量%以上、45重量%以上、50重量%以上、又は更に55重量%以上であってもよいが、同時に、一般に80重量%以下の濃度であり、その濃度は、75重量%以下、70重量%以下、65重量%以下、又は更に60重量%以下であってもよい。
【0022】
本発明において有用なエマルジョンポリマーは、1~24個の炭素原子を有するアルキルを含有する1つ以上のC1~C24-アルキル(メタ)アクリレートの構造単位を含んでもよく、かつ炭素原子の数は、1~20個、4~10個、又は4~8個であってもよい。アルキル基は、直鎖、分岐鎖、又は環状アルキルであってよく、好ましくは、直鎖又は分岐鎖アルキルである。好適なC1~C24-アルキル(メタ)アクリレートの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イタコン酸ジブチル、イタコン酸ジエチル、シクロアルキル(メタ)アクリレート、例えばシクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、ジヒドロジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)シクロヘキシルアクリレート、若しくはこれらの混合物;又はこれらの組み合わせが挙げられる。好ましくは、C1~C24-アルキル(メタ)アクリレートは、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、又はそれらの混合物から選択される。C1~C24-アルキル(メタ)アクリレートの構造単位の総濃度は、エマルジョンポリマーの重量に基づいて、10重量%~70重量%の範囲内であり得るが、10重量%以上、15重量%以上、20重量%以上、25重量%以上、30重量%以上、35重量%以上、又は更に40重量%以上であってもよく、同時に、一般に70重量%以下の濃度であり、65重量%以下、60重量%以下、55重量%以下、50重量%以下、45重量%以下、又は更に40重量%以下であってもよい。望ましくは、エマルジョンポリマーは、シクロアルキル(メタ)アクリレートの構造単位を含んでもよく、又は含まなくてもよい。エマルジョンポリマー中のシクロアルキル(メタ)アクリレートの構造単位の濃度は、エマルジョンポリマーの重量に基づいて、0重量%~5重量%の範囲内であり得るが、5重量%未満、4重量%未満、3重量%未満、2重量%未満、1重量%未満、又は更に0重量%であってもよい。
【0023】
本発明において有用なエマルジョンポリマーは、1つ以上のモノエチレン性不飽和官能性モノマーの構造単位を含んでもよく、又は含まなくてもよいが、そのモノエチレン性不飽和官能性モノマーは、アセトアセテート、アセトアセトキシ又はアセトアセトアミド、アミド、シラン、ヒドロキシル、ウレイド、イミド、グリシジル、アミノ、及びスルホン酸;それらの塩;又はこれらの組み合わせから選択される1つ以上の官能基を有するもの以外である。これらのモノエチレン性不飽和官能性モノマーとしては、例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、又はそれらの混合物などのアミノ官能性モノマー;アクリルアミド及びメタクリルアミドなどのアミド官能基を有するモノマー;例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、又はそれらの混合物などのグリシジル官能基を有するモノマー;例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、又はそれらの混合物などのビニルトリアルコキシシラン;例えば、(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、又はこれらの混合物などの(メタ)アクリロキシアルキルトリアルコキシシラン;ウレイド官能性モノマー;例えば2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-ヒドロキシブチルメタクリレート、又はそれらの混合物などのヒドロキシル官能性モノマー;例えば、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシブチル(メタ)アクリレート、2,3-ジ(アセトアセトキシ)プロピル(メタ)アクリレート、アリルアセトアセテート、ビニルアセトアセテート、アセトアセトアミド、又はこれらの混合物などのアセトアセテート官能性モノマー;又はこれらの組み合わせが挙げられる。本明細書で使用される場合、「ウレイド官能性モノマー」という用語は、環状ウレイド基(すなわち、イミダゾリジン-2-オン基)を含むエチレン性不飽和化合物を指す。ウレイド官能性モノマーは、(メタ)アクリル酸の環状ウレイド基含有アルキルエステルを含み得る。好適なウレイド官能性モノマーの例としては、N-(2-メタクリルアミドエチル)エチレン尿素、N-(2-メタクリロイルオキシエチル)エチレン尿素、N-(マレイン酸ジエチル)エチレン尿素、又はそれらの混合物が挙げられ、好ましくは、N-(2-メタクリロイルオキシエチル)エチレン尿素である。スルホン酸モノマーとしては、ビニルスルホン酸ナトリウム(SVS)、スチレンスルホン酸ナトリウム(SSS)、及びアクリルアミド-メチル-プロパンスルホネート(AMPS)、その塩;又はこれらの混合物が挙げられ得る。エマルジョンポリマーは、モノエチレン性不飽和官能性モノマーの構造単位を、エマルジョンポリマーの重量に基づいて、0重量%以上、0.05重量%以上、0.1重量%以上、0.2重量%以上、0.3重量%以上、0.4重量%以上、又は更に0.5重量%以上の濃度で含み得るが、同時に、一般的に5重量%以下の濃度であり、かつその濃度は、4重量%以下、3.5重量%以下、3重量%以下、2.5重量%以下、2重量%以下、1.5重量%以下、1重量%以下、0.8重量%以下、又は更に0.6重量%以下であり得る。
【0024】
本発明において有用なエマルジョンポリマーは、1つ以上の多エチレン性不飽和モノマーの構造単位を含んでいてもよく、又は含んでいなくてもよい。好適な多エチレン性不飽和モノマーの例としては、アルキレングリコールジアクリレート及びジメタクリレート、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート;1,1,1-トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールトリメタクリレート;ビニル(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼン;アリル(メタ)アクリレート;アリル(メタ)アクリルアミド;アリルオキシエチル(メタ)アクリレート、クロチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルエチル(メタ)アクリレート;ジアリルマレエート;又はこれらの混合物が挙げられる。エマルジョンポリマーは、多エチレン性不飽和モノマーの構造単位を、エマルジョンポリマーの重量に基づいて、0重量%~1重量%の濃度で含み得るが、その濃度は、0.05重量%以上、0.1重量%以上、又は更に0.15重量%以上であってもよく、同時に、一般に1重量%以下の濃度であり、かつその濃度は、1重量%未満、0.8重量%以下、0.5重量%以下、0.4重量%以下、又は更に0.3重量%以下であってもよい。
【0025】
本発明において有用なエマルジョンポリマーは、1つ以上のモノエチレン性不飽和ベンゾフェノン、モノエチレン性不飽和アセトフェノン、又はそれらの混合物の構造単位を含んでいてもよく、又は含んでいなくてもよい。好適なモノエチレン性不飽和ベンゾフェノンとしては、例えば、ビニルベンゾフェノン、(2-ヒドロキシ-3-メタクリルオキシ)プロピルオルト-ベンゾイル-ベンゾエート、(2-ヒドロキシ-3-アクリルオキシ)プロピルオルト-ベンゾイル-ベンゾエート、又はこれらの混合物を挙げることができる。モノエチレン性不飽和ベンソフェノン及び/又はアセトフェノンの構造ユニットは、エマルジョンポリマーの重量に基づいて、0重量%~3重量%の総濃度で存在し得るが、かつその濃度は、0重量%以上、0.1重量%以上、0.3重量%以上、0.5重量%以上、更に0.7重量%以上であってもよく、同時に、一般に3.0重量%以下の濃度であるが、その濃度は、2.0重量%以下、1.5重量%以下、1.2重量%以下、1.0重量%以下、又は更に0.9重量%以下であってもよい。
【0026】
本発明において有用なエマルジョンポリマーは、エマルジョンポリマーの重量に基づいて、0.8重量%~1.2重量%のホスホエチルメタクリレートの構造単位と;1.1重量%~2.1重量%のジアセトンアクリルアミドの構造単位と;40重量%~70重量%のスチレンの構造単位と;20重量%~50重量%のブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ブチルメタクリレート、又はこれらの混合物の構造単位と;0.3重量%~4重量%のアクリル酸、メタクリル酸、又はこれらの混合物の構造単位と、を含んでもよい。
【0027】
エマルジョンポリマー中の上記モノマーの構造単位の全重量濃度は、エマルジョンポリマーの重量に基づいて、100重量%に等しい場合がある。エマルジョンポリマーを調製するための上記のモノマーのタイプ及び濃度は、様々な用途に好適なガラス転移温度(Tg)をエマルジョンポリマーに提供するように選択され得る。エマルジョンポリマーのTgは、Fox式によって計算されるように、摂氏-10度(℃)以上であり得るが、-5℃以上、0℃以上、5℃以上、10℃以上、又は更に15℃以上であってもよいが、同時に、一般的に40℃以下であり、35℃以下、30℃以下、25℃以下、又は更に20℃以下であってもよい。
【0028】
望ましくは、エマルジョンポリマーは、ポリマーA及びポリマーBを含む多段エマルジョンポリマーである。本明細書における「多段エマルジョンポリマー」は、ポリマーA及びポリマーBを含む2つ以上の異なるモノマー組成物の逐次添加によって調製されるエマルジョンポリマーを意味する。「ポリマーA」及び「ポリマーB」とは、異なる組成を有し、多段エマルジョンポリマーを調製する際の多段エマルジョン重合の異なる段階で形成されるこれらのポリマーを意味する。各段階は、逐次的に重合され、モノマー組成の違いという点で、直前の段階及び/又は直後の段階とは異なる。理論に束縛されるものではないが、多段エマルジョンポリマーは、複数の異なる相又は層を含んでもよく、これは、走査透過電子顕微鏡(STEM)によって、又は示差走査熱量測定(DSC)によって測定される少なくとも2つのTgによって実証することができる。望ましくは、ポリマーAは多段エマルジョンポリマーの外層であり、ポリマーBは内層である。多段エマルジョンポリマーは、ポリマーA及びポリマーBからなってもよい。上述のモノマーの構造単位の種類及び濃度は、多段エマルジョンポリマーのポリマーA及び/又はポリマーBにおいて、得られたエマルジョンポリマーにちょうど記載されたTgの値をもたらすように選択されてもよい。望ましくは、ポリマーAは、20℃未満のTgを有し、そのTgは、17℃以下、14℃以下、11℃以下、又は更に8℃以下であってよいが、同時に、Tgは、一般的に-20℃以上であり、-15℃以上、-10℃以上、-5℃以上、0℃以上、4℃以上、又は更に6℃以上であってよい。ポリマーBは、30℃超のTgを有し得るが、そのTgは、35℃以上、40℃以上、45℃以上、49℃以上、又は更に52℃以上であってもよく、同時に、Tgは、一般に70℃未満であり得るが、65℃以下、60℃以下、57℃以下、又は更に54℃以下であってもよい。Tgの値は、Fox式によって計算される。
【0029】
エマルジョンポリマーが多段エマルジョンポリマーである場合、エマルジョンポリマーセクションにおける上述のモノマーの構造単位は、ある濃度でポリマーA及びポリマーBの一方又は両方に存在することができるが、その濃度は、多段エマルジョンポリマーの重量に対する各モノマーの構造単位の総濃度が、上述のエマルジョンポリマーに対する同じモノマーの構造単位の濃度と同じになる濃度である。例えば、多段エマルジョンポリマー中のポリマーA及びポリマーBの一方又は両方は、(メタ)アクリル酸のC1~C24-アルキルエステルの構造単位を含む。多段エマルジョンポリマー中のポリマーA及び/又はポリマーB、好ましくはポリマーAは、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸の構造単位を含んでいてもよく、又は含んでいなくてもよい。
【0030】
多段エマルジョンポリマー中のポリマーA及びポリマーBの一方又は両方、好ましくはポリマーAは、亜リン酸モノマー、その塩、又はその混合物の構造単位を含んでいてもよい。ポリマーAは、亜リン酸モノマー、その塩、又はそれらの混合物の構造単位を、ポリマーAの重量に基づいて、0.3重量%~2.4重量%の濃度で含み得るが、その濃度は、0.3重量%以上、0.5重量%以上、0.6重量%以上、0.7重量%以上、0.8重量%以上、0.9重量%以上、1.0重量%以上、1.1重量%以上、1.2重量%以上、1.3重量%以上、1.4重量%以上、1.5重量%以上、又は更に1.6重量%以上であってもよく、同時に、その濃度は、一般に2.4重量%以下の濃度であり、かつその濃度は、2.3重量%以下、2.2重量%以下、2.1重量%以下、2.0重量%以下、1.9重量%以下、1.8重量%以下、又は更に1.7重量%以下であってもよい。ポリマーBは、亜リン酸モノマー、その塩、又はそれらの混合物の構造単位を、ポリマーBの重量に基づいて、0重量%~2.5重量%の濃度で含み得るが、その濃度は、0重量%以上、0.1重量%以上、0.2重量%以上、0.3重量%以上、0.4重量%以上、又は更に0.5重量%以上であってもよく、同時に、その濃度は、一般的に2.5重量%以下であり、かつその濃度は、2.2重量%以下、2.0重量%以下、1.8重量%以下、1.5重量%以下、1.2重量%以下、1.0重量%以下、0.9重量%以下、又は更に0.6重量%以下であってもよい。
【0031】
多段エマルジョンポリマー中のポリマーA及びポリマーBの一方又は両方、好ましくはポリマーAは、上述のジアセトン(メタ)アクリルアミドの構造単位を含んでいてもよい。ポリマーAは、ジアセトン(メタ)アクリルアミドの構造単位を、ポリマーAの重量に基づいて、0.5重量%~6重量%の濃度で含み得るが、その濃度は、0.5重量%以上、0.8重量%以上、1.0重量%以上、1.2重量%以上、1.5重量%以上、1.8重量%以上、2.0重量%以上、2.2重量%以上、2.5重量%以上、2.8重量%以上、又は更に3重量%以上であってもよく、同時に、その濃度は、一般に6重量%以下であり、かつその濃度は、6重量%以下、5.5重量%以下、5.2重量%以下、5重量%以下、4.8重量%以下、4.5重量%以下、4.2重量%以下、4重量%以下、3.8重量%以下、3.6重量%以下、3.5重量%以下、又は更に3.2重量%以下であってもよい。ポリマーBは、ジアセトン(メタ)アクリルアミドの構造単位を、ポリマーBの重量に基づいて、0重量%~2.5重量%の濃度で含み得るが、その濃度は、0.1重量%以上、0.2重量%以上、0.3重量%以上、0.4重量%以上、又は更に0.5重量%以上であってもよく、同時に、その濃度は、一般に、2.5重量%以下であり、2.2重量%以下、2.0重量%以下、1.5重量%以下、1.0重量%以下、又は更に0.6重量%以下であってもよい。
【0032】
多段エマルジョンポリマー中のポリマーA及びポリマーBの一方又は両方は、ビニル芳香族モノマーの構造単位を含んでいてもよい。ポリマーAは、ビニル芳香族モノマーの構造単位を、ポリマーAの重量に基づいて、10重量%~75重量%の濃度で含み得るが、その濃度は、10重量%以上、15重量%以上、20重量%以上、25重量%以上、30重量%以上、35重量%以上、40重量%以上、45重量%以上、又は更に50重量%以上であってもよく、同時に、その濃度は、一般に75重量%以下であり、かつその濃度は、70重量%以下、65重量%以下、60重量%以下、又は更に55重量%以下であってもよい。ポリマーBは、ビニル芳香族モノマーの構造単位を、ポリマーBの重量に基づいて、10重量%~100重量%の濃度で含み得るが、その濃度は、10重量%以上、25重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、又は更に70重量%以上であってもよく、同時に、その濃度は、一般に100重量%以下であり、95重量%以下、90重量%以下、85重量%以下、又は更に80重量%以下であってもよい。
【0033】
ポリマーAは、多段エマルジョンポリマー中に、多段エマルジョンポリマーの重量に基づいて、50重量%~80重量%、52重量%~78重量%、55重量%~75重量%、58重量%~74重量%、60重量%~72重量%、62重量%~71重量%、又は65重量%~70重量%の濃度で存在し得る。ポリマーBは、多段エマルジョンポリマー中に、多段エマルジョンポリマーの重量に基づいて、20重量%~50重量%、22重量%~48重量%、25重量%~45重量%、26重量%~42重量%、28重量%~40重量%、29重量%~38重量%、又は30重量%~35重量%の濃度で存在し得る。好ましくは、多段エマルジョンポリマーは、多段エマルジョンポリマーの重量に基づいて、55重量%~75重量%のポリマーA及び25重量%~45重量%のポリマーBを含む。
【0034】
望ましくは、多段エマルジョンポリマーは、多段エマルジョンポリマーの重量に基づいて、50重量%~80重量%のポリマーA及び20重量%~50重量%のポリマーBを含み、
ポリマーAは、ポリマーAの重量に基づいて、0.3重量%~2.4重量%の亜リン酸モノマー、その塩、又はそれらの混合物の構造単位と、0.5重量%~6重量%のジアセトン(メタ)アクリルアミドの構造単位と、10重量%~75重量%のビニル芳香族モノマーの構造単位とを含み;
ポリマーBは、ポリマーBの重量に基づいて、0重量%~2.5重量%の亜リン酸モノマー、その塩、又はそれらの混合物の構造単位と、0重量%~2.5重量%のジアセトン(メタ)アクリルアミドの構造単位と、10重量%~100重量%のビニル芳香族モノマーの構造単位を含み;
ポリマーA及びポリマーBの少なくとも1つは、(メタ)アクリル酸のC1~C24-アルキルエステルの構造単位を更に含む。
【0035】
本発明において有用なエマルジョンポリマーは、5,000グラム/モル(g/モル)以上、8,000g/モル以上、10,000g/モル以上、11,000g/モル以上、12,000g/モル以上、14,000g/モル以上、15,000g/モル以上、17,000g/モル以上、18,000g/モル以上、20,000g/モル以上、22,000g/モル以上、24,000g/モル以上、又は更に26,000g/モル以上の平均分子量(Mn)であって、同時に、一般に、100,000g/モル以下であり、かつ80,000g/モル以下、70,000g/モル以下、60,000g/モル以下、55,000g/モル以下、50,000g/モル以下、45,000g/モル以下、40,000g/モル以下、38,000g/モル以下、35,000g/モル以下、32,000g/モル以下、30,000g/モル以下、29,000g/モル以下、28,000g/モル以下、27,000g/モル以下、又は更に26,000g/モル以下であり得る数平均分子量を有し得る。エマルジョンポリマーの分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定され得る(更なる詳細は、以下のGPC分析の項で提供される)。
【0036】
本発明で有用なエマルジョンポリマーは、上述のモノマーを含むモノマー混合物のエマルジョン重合によって調製され得る。エマルジョンポリマーを調製するためのモノマー混合物中のモノマーの総濃度は、モノマー混合物の総重量に基づき、100重量%に等しい。各モノマーについて、モノマー混合物の総重量に対する、モノマー混合物中のモノマーの重量濃度は、上述の、エマルジョンポリマーの重量に対する、エマルジョンポリマー中のそのようなモノマーの構造単位の重量濃度と同じである。モノマー混合物は、そのまま単独で添加してもよく、若しくは水中のエマルジョンとして添加してもよく;又はエマルジョンポリマーを調製する反応期間にわたって、1回以上に分けて若しくは連続的に、線形的に若しくは非線形的に添加してもよい。モノマー混合物は、そのまま単独で添加してもよく、若しくは水中のエマルジョンとして添加してもよく;又はポリマーを調製する反応期間にわたって、1回以上に分けて若しくは連続的に、線形的に若しくは非線形的に添加してもよい。エマルジョン重合プロセスに好適な温度は、100度(℃)未満であり得るが、その温度は、10℃~99℃の範囲内、又は50℃~90℃の範囲内であってもよい。エマルジョンポリマーの調製には、1つ以上の界面活性剤を使用してもよい。エマルジョンポリマーは、一段エマルジョン重合によって、又は多段エマルジョンポリマーを形成する多段エマルジョン重合プロセスによって調製することができる。多段エマルジョン重合プロセスは、連続して形成される少なくとも2つの段階を含み、これは、通常、少なくともポリマーA及びポリマーBを含む多段エマルジョンポリマーの形成をもたらし、任意選択的に、異なる段階は、異なる反応器内において形成され得る。望ましくは、多段エマルジョン重合プロセスは、水性媒体中でポリマーAを調製する段階と、ポリマーBを調製する段階とを含み;両方ともエマルジョン重合によって調整される。このプロセスは、モノマー混合物Aを重合してポリマーAを形成する段階と、モノマー混合物Bを重合してポリマーBを形成する段階とを含み得る。望ましくは、多段エマルジョンポリマーを調製するためのプロセスは、最初にポリマーAを形成する重合段階、任意選択的に、ポリマーAを中和する段階、その後にポリマーAの存在下でポリマーBを形成する重合段階を含む。モノマー混合物A及びBは、それぞれ独立して、それぞれポリマーA及びBの構造単位を形成するための上述のモノマーを含み得る。多段エマルジョンポリマーを調製するためのモノマーの総重量に対するポリマーA及びポリマーBを調製するためのモノマー混合物の総濃度は、多段エマルジョンポリマーの重量(例えば、ポリマーA及びポリマーBの総重量)に対して100重量%に等しくなり得る。各モノマーについて、ポリマー(例えば、ポリマーA)を調製する際に使用されるモノマーの総重量に対するモノマーの濃度は、そのようなポリマー(例えば、ポリマーA)の総重量に対するそのようなモノマーの構造単位の濃度と実質的に同じである。
【0037】
1つ以上のラジカル開始剤を、重合プロセスにおいて使用してもよい。重合プロセスは、熱的に開始されるか、又はレドックスにより開始されるエマルジョン重合であってもよい。好適なフリーラジカル開始剤の例としては、過酸化水素、t-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、過硫酸アンモニウム及び/又は過硫酸アルカリ金属、過ホウ酸ナトリウム、過リン酸、及びこれらの塩;過マンガン酸カリウム、及びペルオキシ二硫酸のアンモニウム塩又はアルカリ金属塩が挙げられる。フリーラジカル開始剤は、典型的には、モノマーの総重量に基づいて、0.01重量%~3.0重量%の濃度で使用され得る。適切な還元剤と結合した上記の開始剤を含むレドックス系を重合プロセスで使用することができる。好適な還元剤の例としては、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、イオウ含有酸のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩、例えば、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸、チオ硫酸、ヒドロ亜硫酸、硫化物、硫化水素、又は亜ジチオン酸、ホルムアミジンスルフィン酸、重亜硫酸アセトン、グリコール酸、ヒドロキシメタンスルホン酸、グリオキシル酸水和物、乳酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、及び前述の酸の塩が挙げられる。鉄、銅、マンガン、銀、白金、バナジウム、ニッケル、クロム、パラジウム、又はコバルトの金属塩を使用してレドックス反応を触媒してもよい。金属用のキレート剤を任意選択で使用することができる。
【0038】
1つ以上の界面活性剤が、エマルジョンポリマーを調製するための重合プロセスにおいて使用され得る。界面活性剤は、モノマー又はその組み合わせの重合前若しくは重合中に添加してよい。界面活性剤の一部分はまた、重合後に添加されてもよい。界面活性剤は、多段エマルジョンポリマーを調製する少なくとも1つの段階又は全ての段階に使用されてもよい。界面活性剤は、アニオン性及び/又は非イオン性乳化剤を含み得る。界面活性剤は、反応性界面活性剤、例えば、重合性界面活性剤であり得る。好適な界面活性剤の例としては、アルキル、アリール、又はアルキルアリールのスルフェート、スルホネート、又はホスフェートのアルカリ金属又はアンモニウム塩;アルキルスルホン酸;スルホコハク酸塩;脂肪酸;及びエトキシル化アルコール又はフェノールを挙げることができる。好ましくは、アルキル、アリール、又はアルキルアリールスルフェート界面活性剤のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩が使用される。使用される界面活性剤を合わせた量は、エマルジョンポリマーを調製するために使用される全モノマー(すなわち、モノマー混合物)の重量に基づいて、通常、0重量%~10重量%、又は0.5重量%~3重量%である。
【0039】
エマルジョンポリマーの分子量を制御するために、1つ以上の連鎖移動剤を重合プロセスで使用してもよい。好適な連鎖移動剤の例としては、3-メルカプトプロピオン酸、メチル3-メルカプトプロピオネート、ブチル3-メルカプトプロピオネート、n-ドデシルメルカプタン、n-ヘキサデカンチオール、tert-ドデシルメルカプタン、n-オクタデカンチオール、ベンゼンチオール、アゼラ酸アルキルメルカプタン、例えば、ヒドロキシエチルメルカプタンなどのヒドロキシ基含有メルカプタン、メルカプトプロピオン酸、及びそれらの混合物が挙げられる。連鎖移動剤は、エマルジョンポリマーを調製するために使用されるモノマーの総重量に基づいて、0重量%~2重量%の濃度で使用され得るが、その濃度は、0.05重量%以上、0.1重量%以上、又は更に0.15重量%以上であってもよく、同時に、その濃度は、一般に2重量%以下、1.5重量%以下、1.0重量%以下、0.5重量%以下、0.3重量%以下、0.25重量%以下、又は更に0.20重量%以下である。
【0040】
重合が完了した後、得られた水性分散液(すなわち、ポリマーエマルジョン)は、中和剤としての1つ以上の塩基によって、例えば、少なくとも5、6~12、7~10、又は8~9のpH値に中和され得る。塩基は、エマルジョンポリマーのイオン性基又は潜在的なイオン性基の、部分的又は完全な中和をもたらし得る。好適な塩基の例としては、アンモニア;例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウムなどの、アルカリ金属化合物若しくはアルカリ土類金属化合物;例えば、トリエチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、モノイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ヘキシルアミン、エタノールアミン、ジエチルアミン、ジメチルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、ジメトキシエチルアミン、2-エトキシエチルアミン、3-エトキシプロピルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、モルホリン、エチレンジアミン、2-ジエチルアミノエチルアミン、2,3-ジアミノプロパン、1,2-プロピレンジアミン、ネオペンタンジアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ヘキサメチレンジアミン、4,9-ジオキサドデカン-1,12-ジアミン、ポリエチレンイミン、若しくはポリビニルアミンなどの、一級、二級、及び三級アミン;水酸化アルミニウム;又はこれらの混合物が挙げられる。
【0041】
水性分散液中のエマルジョンポリマー粒子は、50ナノメートル(nm)以上、80nm以上、又は更に90nm以上、同時に、500nm以下、200nm以下、又は更に150nm以下の粒径を有し得る。本明細書の粒径は、Z平均サイズを指し、Brookhaven BI-90 Plus Particle Size Analyzerによって測定することができる。
【0042】
本発明の水性コーティング組成物は、エマルジョンポリマーを、水性コーティング組成物の重量に基づいて、10重量%以上、15重量%以上、20重量%以上、又は更に25重量%以上の濃度で含み得るが、同時に、その濃度は、一般に80重量%以下、70重量%以下、60重量%以下、50重量%以下である。
【0043】
本発明の水性コーティング組成物は、1分子当たり少なくとも2つのヒドラジド基を含有する1つ以上の多官能性カルボン酸ヒドラジドを更に含んでもよい。多官能性カルボン酸ヒドラジドは、アジピン酸ジヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸ポリヒドラジド、又はそれらの混合物から選択され得る。多官能性カルボン酸ヒドラジドは、エマルジョンポリマーの重量に基づいて、0重量%以上の濃度で存在し得るが、その濃度は、0.05重量%以上、0.1重量%以上、0.2重量%以上、0.4重量%以上、更には0.6重量%以上であってもよく、同時に、その濃度は、典型的には3重量%以下であり、かつその濃度は、2重量%以下、1.5重量%以下、又は更に1重量%以下であってもよい。
【0044】
本発明の水性コーティング組成物はまた、1種以上のジカルボン酸、その塩、又はそれらの混合物を、典型的には水溶液の形態で含む。「ジカルボン酸」は、2個のカルボキシル官能基(-COOH)を含有する化合物を指す。本発明において有用なジカルボン酸は、式(I):
HOOC-R-COOH(I)
(式中、Rはアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、シクロアルキレン基、シクロアルケニレン基、シクロアルキニレン基、アリーレン基又は複素環アリーレン基であり;6~18個の炭素原子を含有する(C6~C18))の構造を有し得る。Rは、6~18個の炭素原子を含有することができるが、Rは、7個以上の炭素原子、8個以上の炭素原子、9個以上の炭素原子、又は更に10個以上の炭素原子を有することができ、同時に、Rは、一般に18個以下の炭素原子を有し、かつ炭素原子数は、17個以下、16個以下、15個以下、又は更に14個以下であり得る。望ましくは、ジカルボン酸は、直鎖(すなわち、非分岐鎖)又は分岐鎖脂肪族ジカルボン酸である。望ましくは、RはC6~C18アルキレン基(すなわち、-(CH2)n-、ここでnは6~18である)であり、より好ましくはC6~C14アルキレン基である。望ましくは、ジカルボン酸は、飽和ジカルボン酸である。水性コーティング組成物は、2つ以上のジカルボン酸の混合物、2つ以上のジカルボン酸の塩の混合物、又はそれらの組み合わせを含んでもよい。
【0045】
好適なジカルボン酸としては、例えば、セバシン酸(HOOC(CH2)8COOH)、ドデカン二酸(HOOC(CH2)10COOH)、スベリン酸(HOOC(CH2)6COOH)、アンコイン酸(HOOC(CH2)7COOH)、ウンデカン二酸(HOOC(CH2)9COOH)、エイコサン二酸(HOOC(CH2)18COOH)、又はこれらの混合物が挙げられ得るが、好ましくはセバシン酸である。
【0046】
水性コーティング組成物は、典型的には、少なくとも1種のジカルボン酸(好ましくはセバシン酸)と少なくとも1種の塩基との反応混合物を含む。ジカルボン酸を中和する(すなわち、ジカルボン酸と反応させる)のに有用な塩基としては、エマルジョンポリマーセクションの水性分散液を中和するための上記の塩基、特に、アンモニア、N,N-ジメチルエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、又はそれらの混合物が挙げられ得る。ジカルボン酸を中和してジカルボン酸の塩(「ジカルボン酸塩」としても)を形成するために使用される塩基は、30:70~70:30、35:65~65:35、40:60~60:40、又は45:55~55:45の範囲内の中和剤対ジカルボン酸の乾燥重量比をもたらす量であってもよい。水性コーティング組成物は、典型的には、ジカルボン酸の1つ以上の塩を含む。使用される塩基の種類に応じて、得られるジカルボン酸の塩は、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アミン塩、又はそれらの混合物であり得る。これらの塩は、ジカルボン酸のモノ中和塩、ジカルボン酸のビス中和塩、又はそれらの混合物であってよい。
【0047】
ジカルボン酸及び/又はその塩は、水性コーティング組成物中に-OOC-R-COO-セグメントを、水性コーティング組成物の重量に基づいて、0.28重量%~1.0重量%の濃度で提供し得る量で存在し得るが、その濃度は、0.28重量%以上、0.29重量%以上、0.30重量%以上、0.35重量%以上、0.40重量%以上、0.45重量%以上、0.50重量%以上、0.60重量%以上、又は更に0.70重量%以上であってもよく、同時に、その濃度は、一般に1.0重量%以下であり、かつその濃度は、0.9重量%以下、0.85重量%以下、0.80重量%以下、又は更に0.75重量%以下であってもよい。-OOC-R-COO-セグメントは、ジカルボキシル酸及び/又はジカルボキシル酸の塩から生じ得る。-OOC-R-COO-セグメントの濃度は、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)、核磁気共鳴(NMR)分析、及び/又は抽出分析によって決定することができる。あるいは、-OOC-R-COO-セグメントの濃度は、水性コーティング組成物の重量に対する、元の添加された、中和されていないジカルボキシル酸の重量によって計算することができる。ジカルボン酸の塩を含む水性コーティング組成物の場合、塩の重量の代わりに、そのような塩を形成するために使用されるジカルボン酸の重量が、-OOC-R-COO-セグメントの濃度を計算するために使用される。
【0048】
-OOC-R-COO-セグメントのエマルジョンポリマーに対する重量比は、0.008~0.08の範囲内であり得るが、かつその重量比は、0.008以上、0.01以上、0.011以上、0.012以上、0.015以上、又は更に0.017以上であってよく、同時に、その重量比は、一般に0.08以下であり、かつその重量比は、0.06以下、0.05以下、0.04以下、0.03以下、又は更に0.02以下であってよい。
【0049】
本発明の水性コーティング組成物は、1種以上のフラッシュ錆防止剤を含み得る。フラッシュ錆防止剤は、(i)金属表面への化学的吸着(化学吸着)によって抑制効果を有する保護薄膜を形成し、(ii)金属の酸化物保護によって膜を形成し、(iii)水性媒体中に存在する潜在的な腐食性成分と反応して錯体生成物を形成し、又は(iv)表面吸着プロセスによって疎水性膜として作用して、腐食反応における金属の溶解に対するバリアを提供することができる、一酸、アルカリ、及び/又はそれらの塩を指す。フラッシュ錆防止剤としては、無機フラッシュ錆防止剤、有機フラッシュ錆防止剤、又はこれらの混合物を挙げることができる。好適なフラッシュ錆防止剤としては、例えば、亜硝酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、クロム酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、リン酸、亜リン酸が挙げられ、かつマグネシウム、亜鉛、又はニッケルのイオン(典型的には、マグネシウム、亜鉛、又はニッケルの可溶性塩の形態)が挙げられるが、これらは水のヒドロキシル(-OH)基と反応して、金属表面のカソード部位に堆積した不溶性水酸化物(例えば、Mg(OH)2、Zn(OH)2、又はNi(OH)2)を形成することができるものであり;尿素、メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ベンゾトリアゾール、アルデヒド、複素環式窒素化合物、硫黄含有化合物、アセチレン系化合物、アスコルビン酸、安息香酸、ベンゾエート、カフェイン、及び天然物質の抽出物、又はそれらの混合物も挙げられ得る。フラッシュ錆防止剤の濃度は、水性コーティング組成物の重量に基づく乾燥重量で、0.05重量%~5重量%の範囲内であり得るが、かつその濃度は、0.05重量%以上、0.06重量%以上、0.08重量%以上、0.10重量%以上、0.12重量%以上、又は更に0.13重量%以上であってもよく、同時に、その濃度は、一般に5.0重量%以下であり、かつその濃度は、4.5重量%以下、4.0重量%以下、3.5重量%以下、3.0重量%以下、2.5重量%以下、2.0重量%以下、1.0重量%以下、0.9重量%以下、0.8重量%以下、0.7重量%以下、0.6重量%以下、0.5重量%以下、0.4重量%以下、0.3重量%以下、0.2重量%以下、0.18重量%以下、又は更に0.15重量%以下であってもよい。
【0050】
本発明の水性コーティング組成物は、1種以上の顔料を含んでいてもよく、又は含んでいなくてもよい。本明細書において「顔料」は、組成物の不透明度又は隠蔽能力に実質的に寄与することができる材料を指す。このような材料は、典型的には、1.8を超える屈折率を有する。無機顔料は、典型的には金属酸化物を含む。好適な無機顔料の例としては、二酸化チタン(TiO2)、硫化亜鉛、リトポン、カーボンブラック、酸化鉄レッド、酸化鉄ブラック、レモンクロムイエロー、又はこれらの混合物が挙げられる。有機顔料としては、典型的には、プルシアンブルー、有機顔料イエロー、有機顔料レッド、防食顔料、又はこれらの混合物が挙げられる。好ましくは、顔料は、TiO2、カーボンブラック、又はそれらの混合物から選択される。顔料は、水性コーティング組成物の重量に基づいて、0重量%~60重量%、10重量%~50重量%、15重量%~40重量%、又は20重量%~35重量%の合計濃度で存在し得る。顔料は、防食顔料を含んでもよく、又は含まなくてもよい。「防食顔料」とは、化学反応又はキレートによって、鋼の腐食を防止又は遅延させることができる顔料を指す。好適な防食顔料としては、例えば、リン酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、リン酸亜鉛モリブデン、カルシウム変性リン酸亜鉛、有機分子変性リン酸亜鉛、又はこれらの混合物を挙げることができる。防食顔料は、水性コーティング組成物の重量に基づいて、0重量%~10重量%の濃度で存在してもよく、かつその濃度は、0重量%以上、0.5重量%以上、1重量%以上、2重量%以上、3重量%以上、又は更に4重量%以上であってもよく、同時に、その濃度は、一般に10重量%以下の濃度であり、かつその濃度は、9重量%以下、8重量%以下、7重量%以下、又は更に6重量%以下であってもよく、かつその濃度は、5.5重量%以下、5重量%以下、4.5重量%以下、4重量%以下、3.5重量%以下、3重量%以下、2.5重量%以下、2重量%以下、1.5重量%以下、1重量%以下、又は更に0.5重量%以下であってもよい。
【0051】
本発明の水性コーティング組成物は、1種以上の増量剤を含んでいてもよく、又は含んでいなくてもよい。本明細書における「増量剤」は、1.8以下かつ1.3を超える屈折率を有する粒子状無機材料を指す。好適な増量剤の例としては、硫酸バリウム、タルク、炭酸カルシウム、粘土、硫酸カルシウム、アルミノケイ酸塩、ケイ酸塩、ゼオライト、雲母、ケイソウ土、固形又は中空ガラス、セラミックビーズ、霞石閃長岩、長石、ケイソウ土、焼成ケイソウ土、タルク(水和ケイ酸マグネシウム)、シリカ、アルミナ、カオリン、パイロフィライト、パーライト、バライト、ウォラストナイト、The Dow Chemical Companyから入手可能なROPAQUE(商標)Ultra E(ROPAQUEは、The Dow Chemical Companyの商標である)などの不透明なポリマー、又はそれらの混合物が挙げられる。水性コーティング組成物は、増量剤を、水性コーティング組成物の重量に基づいて、0重量%~60重量%の濃度で含み得るが、その濃度は、10重量%~50重量%、15重量%~40重量%、又は20重量%~35重量%であってもよい。
【0052】
本発明の水性コーティング組成物は、1種以上の消泡剤を含んでいてもよく、又は含んでいなくてもよい。「消泡剤」は、本明細書では、泡の形成を減少させ、妨げる化学添加剤を指す。消泡剤は、シリコーン系消泡剤、鉱油系消泡剤、エチレンオキシド/プロピレンオキシド系消泡剤、アルキルポリアクリレート、及びそれらの混合物であってもよい。好適な市販の消泡剤として、例えば、いずれもTEGOから入手可能なTEGO Airex901W、TEGO Airex902W、及びTEGO Foamex1488ポリエーテルシロキサンコポリマーエマルジョン、BYKから入手可能なBYK-022及びBYK-024シリコーン消泡剤、及びそれらの混合物が挙げられる。これらの消泡剤は、一般に、水性コーティング組成物の重量に基づいて、0重量%~0.5重量%、0.02重量%~0.4重量%、又は0.04重量%~0.2重量%の濃度で存在し得る。
【0053】
本発明の水性コーティング組成物は、1種以上の増粘剤(「レオロジー改質剤」としても知られる)を含んでいてもよく、又は含んでいなくてもよい。増粘剤としては、ポリビニルアルコール(PVA)、粘土材料、酸誘導体、酸コポリマー、ウレタン会合型増粘剤(UAT)、ポリエーテル尿素ポリウレタン(PEUPU)、ポリエーテルポリウレタン(PEPU)、又はそれらの混合物を挙げることができる。好適な増粘剤の例としては、例えば、ナトリウム又はアンモニウム中和アクリル酸ポリマーなどの、アルカリ膨潤性エマルジョン(ASE);例えば、疎水変性アクリル酸コポリマーなどの、疎水変性アルカリ膨潤性エマルジョン(HASE);例えば、疎水性変性エトキシル化ウレタン(HEUR)などの、会合性増粘剤;並びに、例えば、メチルセルロースエーテル、ヒドロキシメチルセルロース(HMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、疎水性変性ヒドロキシエチルセルロース(HMHEC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(SCMC)、カルボキシメチル2-ヒドロキシエチルセルロースナトリウム、2-ヒドロキシプロピルメチルセルロース、2-ヒドロキシエチルメチルセルロース、2-ヒドロキシブチルメチルセルロース、2-ヒドロキシエチルエチルセルロース、及び2-ヒドロキシプロピルセルロースなどの、セルロース増粘剤が挙げられる。好ましくは、増粘剤はHEURである。これらの増粘剤は、水性コーティング組成物の重量に基づいて、0重量%~1.0重量%、0.05重量%~0.6重量%、又は0.1重量%~0.4重量%の濃度で存在し得る。
【0054】
本発明の水性コーティング組成物は、1種以上の湿潤剤を含んでいてもよく、又は含んでいなくてもよい。本明細書における「湿潤剤」は、組成物の表面張力を低下させ、組成物を基材の表面上により容易に広げたり浸透させたりする化学添加剤を指す。湿潤剤は、ポリカルボキシレート、アニオン性、両性イオン性、又は非イオン性であり得る。好適な市販の湿潤剤としては、例えば、Evonikから入手可能な、アセチレンジオール系の、SURFYNOL 104及びSURFYNOL TG非イオン性湿潤剤、それぞれBYK及びEvonikから入手可能な、顔料親和性基を有する高分子量ブロックポリマーのBYK-190、TEGO-750W、及びTEGO-755W溶液、ともにBYKから入手可能なBYK-346及びBYK-349ポリエーテル変性シロキサン、又はこれらの混合物を挙げることができる。これらの湿潤剤は、水性コーティング組成物の重量に基づいて、0重量%~0.6重量%、0.1重量%~0.5重量%、又は0.2重量%~0.4重量%の濃度で存在し得る。
【0055】
本発明の水性コーティング組成物は、1種以上の造膜助剤を含んでいてもよく、又は含んでいなくてもよい。本明細書における「造膜助剤」は、周囲条件下でポリマー粒子を融着させて、連続フィルム状にする遅蒸発性溶媒を指す。好適な造膜助剤の例としては、2-n-ブトキシエタノール、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル、プロピレングリコールn-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールn-プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールn-プロピルエーテル、n-ブチルエーテル、又はそれらの混合物が挙げられる。好ましい造膜助剤としては、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、n-ブチルエーテル、又はそれらの混合物が挙げられる。これらの造膜助剤は、水性コーティング組成物の重量に基づいて、0重量%~10重量%、0.2重量%~8重量%、又は1重量%~6重量%の濃度で存在し得る。
【0056】
本発明の水性コーティング組成物は、1種以上の分散剤を含んでいてもよく、又は含んでいなくてもよい。分散剤は、例えば、スチレン、アクリレート又はメタクリレートエステル、ジイソブチレン、及び他の親水性若しくは疎水性コモノマーなどの、様々なモノマーを有する、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、若しくは無水マレイン酸;それらの塩;又はそれらの混合物であり得る。分散剤は、水性コーティング組成物の重量に基づいて、0重量%~2重量%、0.1重量%~1.5重量%、又は0.2重量%~1重量%の濃度で存在し得る。
【0057】
上述の成分に加えて、本発明の水性コーティング組成物は、以下の添加剤:緩衝剤、中和剤、湿潤剤、防カビ剤、殺生物剤、皮張り防止剤、着色剤、酸化防止剤、可塑剤、均染剤、接着促進剤、及び展色剤(grind vehicles)のうちのいずれか1つ又は組み合わせを含み得る。これらの添加剤は、水性コーティング組成物の重量に基づいて、0重量%~10重量%、0.1重量%~5重量%、又は0.2重量%~1重量%の合計濃度で存在し得る。水性コーティング組成物はまた、水を、水性コーティング組成物の30重量%~90重量%、40重量%~80重量%、又は50重量%~70重量%の濃度で含み得る。
【0058】
本発明の水性コーティング組成物は、典型的には水性分散体中のエマルジョンポリマー、及び典型的には水溶液中のジカルボン酸及び/又はその塩を、フラッシュ錆防止剤と、かつ任意選択的に、多官能性カルボン酸ヒドラジド、顔料、及び上記の他の成分と混合することによって調製することができる。上述の任意選択的成分のいずれも、混合中又は混合前に添加して、水性コーティング組成物を形成することもできる。水性コーティング組成物中の成分は、任意の順序で混合することができる。例えば、エマルジョンポリマー及びジカルボン酸及び/又はその塩(好ましくは水溶液中)を最初に混合してから、フラッシュ錆防止剤及び他の成分(もし存在する場合)と混合することができる。あるいは、ジカルボン酸及び/又はその塩は、エマルジョンポリマーが、フラッシュ錆防止剤及び他の成分(もし存在する場合)と混合された後に添加されてもよい。好ましくは、顔料及び/又は増量剤を分散剤と混合して、顔料及び/又は増量剤のスラリーを形成する。
【0059】
本発明の水性コーティング組成物は、海洋保護コーティング、一般工業用仕上げ、金属保護コーティング、自動車用コーティング、交通塗料、外断熱仕上げシステム(EIFS)、木材コーティング、コイルコーティング、プラスチックコーティング、缶コーティング、建築コーティング、及び土木工学コーティングなどのコーティング用途に好適である。水性コーティング組成物は、金属保護コーティングに特に好適である。水性コーティング組成物は、プライマー、トップコートとして、ワンコート直接金属コーティングとして、又は他のコーティングと組み合わせて使用して、多層コーティングを形成することができる。
【0060】
本発明の水性コーティング組成物は、木材、金属、特に鋳鉄、溶接継ぎ目、及び炭素鋼などの鉄金属、プラスチック、発泡体、石、エラストマー基材、ガラス、織物、コンクリート、又はセメント質基材などの様々な基材に塗布及び接着することができる。水性コーティング組成物は、ブラッシング、浸漬、圧延、及び噴霧を含む、従来使用されている手段によって、基材に適用され得る。水性コーティング組成物は、好ましくは噴霧によって適用される。空気霧化噴霧、空気噴霧、無気噴霧、大容量低圧噴霧、及び静電ベル塗布などの静電噴霧などの噴霧のための標準的な噴霧技術及び設備、並びに手動又は自動のいずれかの方法を使用することができる。水性コーティング組成物が基材に塗布された後、ポリマー組成物は、0℃~35℃の範囲の温度で、又は例えば、35℃~60℃の高温で乾燥されて、被膜(すなわち、コーティング)を形成することができる。
【0061】
本発明の水性コーティング組成物は、防食顔料が存在しなくても、改善されたフラッシュ錆耐性、初期の耐水性、並びに良好な長期的耐食性を示すことができる。本発明はまた、金属、特に鉄金属などのフラッシュ錆及び腐食を受けやすい基材の、フラッシュ錆耐性及び長期的耐食性を改善する方法を提供する。この方法は、基材を提供することと、水性コーティング組成物を基材に塗布すること(すなわち、コーティング組成物を基材上にコーティングすること)と、水性コーティング組成物を乾燥させてコーティングされた基材を形成することとを含む。例えば、水性コーティング組成物は、温度40℃及び相対湿度(R.H.)90%で測定した場合に、等級「0」のフラッシュ錆耐性を達成することができる。この方法はまた、「8M」、好ましくは、「8F」又は「10」のブリスター等級;及び「9P」又は「9S」、好ましくは「10」の錆等級によって示されるような、良好な初期の耐水性を有するコーティングを提供することができる。コーティング組成物を完全に乾燥させてコーティングされた基材を形成した後、例えば、室温(20℃~25℃)で7日間乾燥させた後に、長期的耐食性を試験する。良好な長期的耐食性は、「6F」又は「8M」、好ましくは「8F」又は「10」のブリスター等級;及び、ASTMのB117-2011に従う塩水噴霧試験に少なくとも150時間暴露した後の錆等級、「9P」又は「9S」、好ましくは「10」によって特徴付けられる。フラッシュ錆耐性、初期の耐水性、及び長期的耐食性は、以下の実施例の項に記載される試験方法に従って測定することができる。本発明はまた、本方法により製造される物品に関する。本発明はまた、コーティングを調製するプロセスに関する。本プロセスは、水性コーティング組成物を基材に塗布することと、塗布したコーティング組成物を乾燥させてコーティングを形成することと、を含み得る。
【実施例】
【0062】
ここで、本発明のいくつかの実施形態は、以下の実施例において記載され、ここで、全ての部及び百分率は、重量によるもの(つまり%ならば重量%)であり、ここで、構造単位の重量%は、エマルジョンポリマー重量に対するものであり、ジカルボン酸(例えば、セバシン酸又はアジピン酸)の重量%は、他に特にことわらない限り、水性コーティング組成物の重量に対するものである。試料に使用するための材料は、本明細書において以下に記載されるものである。OROTAN、RETAN、及びACRYSOLは、The Dow Chemical Companyの商標である。
【0063】
スチレン(ST)は、Langyuan Chemical Co.,Ltd.から入手可能である。
【0064】
ホスホエチルメタクリレート(PEM)はSolvayから入手可能である。
【0065】
2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)、ブチルアクリレート(BA)、ACRYSOL(商標)RM-8W増粘剤(非イオン性ウレタンレオロジー改質剤)、及びOROTAN(商標)681分散剤(疎水性コモノマーを有するポリメタクリル酸)は、全てThe Dow Chemical Companyから入手可能である。
【0066】
メタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)、n-ドデシルメルカプタン(n-DDM)、アンモニア水(25%)、亜硝酸ナトリウム(NaNO2)抗フラッシュ錆添加剤、セバシン酸、及びアジピン酸は全て、Sinopharm Chemical Reagent Co.,Ltdから入手可能である。
【0067】
シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)及びDISPONIL(商標)FES32界面活性剤(「Fes-32」、アルコールエトキシレートサルフェート界面活性剤)は、ともにBASFから入手可能である。
【0068】
ジアセトンアクリルアミド(DAAM)及びアジピン酸ジヒドラジド(ADH)は、ともにKyowa Hakko Chemical Co.,Ltd.から入手可能である。
【0069】
N-(2-メタクリロイルオキシエチル)エチレン尿素(MEUR)、SURFYNOL(商標)TG(アセチレンジオール系非イオン性界面活性剤)、及びTEGO(商標)Airex 902W消泡剤(ポリエーテルシロキサンコポリマーエマルジョン)は、全てEvonik Industriesから入手可能である。
【0070】
STEPANから入手可能なPOLYSTEP(商標)B-11界面活性剤(B-11)は、アルコールエトキシレートサルフェート界面活性剤である。
【0071】
DKS Co.,Ltd.から入手可能なHITENOL(商標)AR-1025界面活性剤(「AR-1025」)は、トリスチリルフェノールエトキシレートサルフェート界面活性剤である。
【0072】
Ti-PURE(商標)R-706二酸化チタンは、DuPontから入手可能である。
【0073】
Eastman Chemical Companyから入手可能なTEXANOL(商標)エステルアルコールは、造膜助剤として使用される。
【0074】
コーティング組成物試料中にバインダーとして使用するためのポリマーエマルジョンを、以下に記載の合成プロセスに従って調製した。
【0075】
ポリマーエマルジョン11(「E-11」)の合成
脱イオン(DI)水(518グラム(g))、Fes-32界面活性剤(31%、71g)、ST(1016g)、BA(694g)、AA(39g)、PEM(6g)、MEUR(50%、7g)、及びn-DDM(5g)を一緒に混合して、安定したモノマーエマルジョンを生成した。90℃の窒素(N2)雰囲気下、DI水(896g)に、DI水(20g)中のFes-32界面活性剤(31%、10g)、上記で調製したモノマーエマルジョン(59g)、及びAPS(9g)を添加し、続いてDI水(20g)を添加して、反応混合物を形成した。次に、残りのモノマーエマルジョン、DI水(78g)中の過硫酸アンモニウム(APS、4g)、及びDI水(78g)中のアンモニア(25%、9g)を、86℃で、240分にわたって添加し、続いてDI水(30g)を添加した。重合の終わりに、DI水(4g)中のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)ナトリウム塩(0.02g)と混合した、DI水(4g)中のFeSO4(0.01g)、DI水(35g)中に溶解させたt-ブチルヒドロペルオキシド(t-BHP、5.4g)の溶液、及びDI水(35g)中のイソアスコルビン酸(IAA、2.0g)の溶液を、全て60℃で添加した。次に、DI水(17g)中のアンモニア(17g)を、50℃で添加して、水性分散液を得た。
【0076】
ポリマーエマルジョン05(「E-05」)の合成
DI水(363g)、Fes-32界面活性剤(31%、49.1g)、ST(711g)、BA(481g)、AA(14.8g)、PEM(22g)、MEUR(50%、4.9g)、及びn-DDM(3.0g)を一緒に混合して、安定したモノマーエマルジョンを生成した。90℃のN2下、DI水(628g)に、DI水(20g)中の、Fes-32界面活性剤(31%、6.8g)、上記で調製したモノマーエマルジョン(41g)及びAPS(6g)を添加し、続いてDI水(20g)を添加して反応混合物を形成した。次に、残りのモノマーエマルジョン、DI水(54g)中のAPS(3g)、及びDI水(54g)中のアンモニア(25%、6g)を、86℃で240分にわたって添加し、続いてDI水(30g)を添加した。重合の終わりに、DI水(4g)中のEDTAナトリウム塩(0.02g)と混合したDI水(4g)中のFeSO4(0.01g)、DI水(35g)中に溶解させたt-BHP(3.8g)の溶液、及びDI水(35g)中のIAA(1.4g)の溶液を、全て60℃で添加した。次に、DI水(17g)中のアンモニア(17g)を、50℃で添加して、水性分散液を得た。
【0077】
ポリマーエマルジョン61(「E-61」)の合成
DI水(273g)、AR-1025界面活性剤(25%、22g)、ST(372g)、2-EHA(315g)、CHMA(225g)、MAA(28g)、PEM(21g)、DAAM(24.8g)、MEUR(50%、14g)、及びn-DDM(1.5g)を一緒に混合して、安定したモノマーエマルジョンを生成した。90℃のN2下、DI水(674g)に、AR-1025界面活性剤(25%、23g)、DI水(20g)中の上記で調製されたモノマーエマルジョン(60g)及びAPS(1.9g)、並びにDI水(4g)中のアンモニア(0.6g)を添加し、続いてDI水(20g)を添加して、反応混合物を形成した。次に、残りのモノマーエマルジョン、DI水(64g)中のAPS(1.2g)、及びDI水(64g)中のアンモニア(25%、4g)を、88℃で120分にわたって添加し、続いてDI水(30g)を添加した。重合の終わりに、DI水(4g)中のEDTAナトリウム塩(0.02g)と混合したDI水(4g)中のFeSO4(0.01g)、DI水(45g)中に溶解させたt-BHP(3.5g)の溶液、及びDI水(45g)中のIAA(1.4g)の溶液を、全て60℃で添加し、次いでDI水(17g)中のアンモニア(30g)を55℃で添加した。次に、DI水(25g)中のADH(15g)を50℃で添加して、水性分散液を得た。
【0078】
ポリマーエマルジョン66(「E-66」)の合成
DI水(332g)、B-11界面活性剤(54%、18g)、BA(520g)、ST(777g)、PEM(29)、MAA(33.5g)、MEUR(50%、4.8g)及びn-DDM(2.7g)を一緒に混合して安定なモノマーエマルジョンを生成することによって、第1段階モノマーエマルジョン(ME1)を調製した。DI水(142g)、B-11界面活性剤(54%、8g)、BA(223g)、ST(363g)、MEUR(50%、3g)及びn-DDM(1.2g)を一緒に混合して安定なモノマーエマルジョンを生成することによって、第2段階モノマーエマルジョン(ME2)を調製した。
【0079】
パドル撹拌機、熱電対、窒素入口、及び還流式冷却器を備えた5リットルの4つ口丸底フラスコに、DI水(953g)を加え、撹拌を開始した。フラスコの内容物をN2下で、90℃まで加熱した。B-11界面活性剤(54%、4g)、MAA(3g)、ME1(98g)、及びDI水(49g)中のAPS(5.5g)を、フラスコに添加し、続いてDI水(25g)ですすいだ。次いで、残りのME1、DI水(48g)中のAPS(1.6g)及びDI水(45g)中のアンモニア(25%、16g)を、87分間にわたって添加した。ME1の供給が完了した後、DI水(22g)をすすぎとして添加した。次いで、ME2及びDI水(21g)中のAPS(0.7g)を33分かけて添加した。ME2の供給が完了した後、DI水(30g)をすすぎとして添加した。添加中、フラスコの内容物の温度を87℃~89℃に維持した。重合の終わりに、DI水(5g)中のFeSO4・7H2O(0.016g)及びDI水(5g)中のEDTAナトリウム塩(0.016g)の混合物、t-BHPの溶液(70%、39gのDI水に溶解させた3.7gのt-BHP)、及びIAAの溶液(41gのDI水に溶解させた2.6gのIAA)を、全て60℃で、フラスコに添加した。次いで、DI水(28g)中のアンモニア(25%、28g)を、50℃でフラスコに添加して、水性分散液を得た。
【0080】
ポリマーエマルジョン12(「E-12」)の合成
DI水(313g)、B-11界面活性剤(54%、17g)、BA(478g)、ST(714g)、PEM(28)、MAA(32g)、DAAM(32g)、MEUR(50%、4.5g)及びn-DDM(2.6g)を一緒に混合して、安定なモノマーエマルジョンを生成することによって、第1段階モノマーエマルジョン(ME1)を調製した。DI水(134g)、B-11界面活性剤(54%、7g)、BA(210g)、ST(342g)、MEUR(50%、2g)、及びn-DDM(1.0g)を一緒に混合して安定なモノマーエマルジョンを生成することによって、第2段階モノマーエマルジョン(ME2)を調製した。
【0081】
パドル撹拌機、熱電対、窒素入口、及び還流式冷却器を備えた5リットルの4つ口丸底フラスコに、DI水(889g)を加え、撹拌を開始した。フラスコの内容物をN2下で、90℃まで加熱した。B-11界面活性剤(54%、4g)、MAA(5.6g)、ME1(93g)、及びDI水(46g)中のAPS(5.2g)を、フラスコに添加し、続いてDI水(30g)ですすいだ。次いで、残りのME1、DI水(45g)中のAPS(1.6g)及びDI水(43g)中のアンモニア(25%、15g)を、87分間にわたって添加した。ME1の供給が完了した後、DI水(30g)をすすぎとして添加した。次いで、ME2及びDI水(20g)中のAPS(0.7g)を33分かけて添加した。ME2の供給が完了した後、DI水(30g)をすすぎとして添加した。添加中、フラスコの内容物の温度を87℃~89℃に維持した。重合の終わりに、DI水(5g)中のFeSO4・7H2O(0.008g)及びDI水(5g)中のEDTAナトリウム塩(0.016g)の混合物、t-BHPの溶液(70%、36gのDI水に溶解させた3.5gのt-BHP)、及びIAAの溶液(38gのDI水に溶解させた2.4gのIAA)を、全て60℃で、フラスコに添加した。次いで、DI水(26g)中のアンモニア(25%、26g)及びDI水(67g)中のADH(19g)を、50℃でフラスコに添加して、水性分散液を得た。
【0082】
ポリマーエマルジョン29(「E-29」)の合成
DI水(301g)、B-11界面活性剤(54%、15g)、BA(560g)、ST(572g)、PEM(26)、MAA(30g)、DAAM(43g)、MEUR(50%、4.3g)及びn-DDM(5g)を一緒に混合して、安定なモノマーエマルジョンを生成することによって、第1段階モノマーエマルジョン(ME1)を調製した。DI水(130g)、B-11界面活性剤(54%、7.6g)、BA(105g)、ST(425g)、MEUR(50%、2g)、及びn-DDM(1.0g)を一緒に混合して安定なモノマーエマルジョンを生成することによって、第2段階モノマーエマルジョン(ME2)を調製した。
【0083】
パドル撹拌機、熱電対、窒素入口、及び還流式冷却器を備えた5リットルの4つ口丸底フラスコに、DI水(780g)を加え、撹拌を開始した。フラスコの内容物をN2下で、90℃まで加熱した。B-11界面活性剤(54%、4.7g)、MAA(5.3g)、ME1(89g)、及びDI水(44g)中のAPS(5g)を、フラスコに添加し、続いてDI水(45g)ですすいだ。次いで、残りのME1、DI水(71g)中のAPS(1.5g)及びDI水(52g)中のアンモニア(25%、15g)を、87分間にわたって添加した。ME1の供給が完了した後、DI水(30g)をすすぎとして添加した。次いで、ME2及びDI水(30g)中のAPS(0.7g)を33分かけて添加した。ME2の供給が完了した後、DI水(30g)をすすぎとして添加した。添加中、フラスコの内容物の温度を87℃~89℃に維持した。重合の終わりに、DI水(5g)中のFeSO4・7H2O(0.008g)及びDI水(5g)中のEDTAナトリウム塩(0.016g)の混合物、t-BHPの溶液(70%、43gのDI水に溶解させた3.4gのt-BHP)、及びIAAの溶液(78gのDI水に溶解させた2.3gのIAA)を、全て60℃で、フラスコに添加した。次いで、DI水(26g)中のアンモニア(25%、26g)及びDI水(67g)中のADH(26g)を、50℃でフラスコに添加して、水性分散液を得た。
【0084】
ポリマーエマルジョン30(「E-30」)の合成
DI水(301g)、B-11界面活性剤(54%、15g)、BA(547g)、ST(554g)、PEM(26)、MAA(30g)、DAAM(74g)、MEUR(50%、4.3g)及びn-DDM(5g)を一緒に混合して、安定なモノマーエマルジョンを生成することによって、第1段階モノマーエマルジョン(ME1)を調製した。DI水(130g)、B-11界面活性剤(54%、7.6g)、BA(105g)、ST(425g)、MEUR(50%、2g)、及びn-DDM(1.0g)を一緒に混合して安定なモノマーエマルジョンを生成することによって、第2段階モノマーエマルジョン(ME2)を調製した。
【0085】
パドル撹拌機、熱電対、窒素入口、及び還流式冷却器を備えた5リットルの4つ口丸底フラスコに、DI水(780g)を加え、撹拌を開始した。フラスコの内容物をN2下で、90℃まで加熱した。B-11界面活性剤(54%、4.7g)、MAA(5.3g)、ME1(89g)、及びDI水(44g)中のAPS(5g)を、フラスコに添加し、続いてDI水(45g)ですすいだ。次いで、残りのME1、DI水(71g)中のAPS(1.5g)及びDI水(52g)中のアンモニア(25%、15g)を87分間にわたって添加した。ME1の供給が完了した後、DI水(30g)をすすぎとして添加した。次いで、ME2及びDI水(30g)中のAPS(0.7g)を33分かけて添加した。ME2の供給が完了した後、DI水(30g)をすすぎとして添加した。添加中、フラスコの内容物の温度を87℃~89℃に維持した。重合の終わりに、DI水(5g)中のFeSO4・7H2O(0.008g)及びDI水(5g)中のEDTAナトリウム塩(0.016g)の混合物、t-BHPの溶液(70%、43gのDI水に溶解させた3.4gのt-BHP)、及びIAAの溶液(78gのDI水に溶解させた2.3gのIAA)を、全て60℃で、フラスコに添加した。次いで、DI水(26g)中のアンモニア(25%、26g)及びDI水(115g)中のADH(45g)を50℃でフラスコに添加して、水性分散液を得た。
【0086】
ポリマーエマルジョン31(「E-31」)の合成
DI水(301g)、B-11界面活性剤(54%、15g)、BA(570g)、ST(597g)、PEM(26)、MAA(30g)、DAAM(9g)、MEUR(50%、4.3g)及びn-DDM(5g)を一緒に混合して、安定なモノマーエマルジョンを生成することによって、第1段階モノマーエマルジョン(ME1)を調製した。DI水(130g)、B-11界面活性剤(54%、7.6g)、BA(105g)、ST(425g)、MEUR(50%、2g)、及びn-DDM(1.0g)を一緒に混合して安定なモノマーエマルジョンを生成することによって、第2段階モノマーエマルジョン(ME2)を調製した。
【0087】
パドル撹拌機、熱電対、窒素入口、及び還流式冷却器を備えた5リットルの4つ口丸底フラスコに、DI水(780g)を加え、撹拌を開始した。フラスコの内容物をN2下で、90℃まで加熱した。B-11界面活性剤(54%、4.7g)、MAA(5.3g)、ME1(89g)、及びDI水(44g)中のAPS(5g)を、フラスコに添加し、続いてDI水(45g)ですすいだ。次いで、残りのME1、DI水(71g)中のAPS(1.5g)及びDI水(52g)中のアンモニア(25%、15g)を87分間にわたって添加した。ME1の供給が完了した後、DI水(30g)をすすぎとして添加した。次いで、ME2及びDI水(30g)中のAPS(0.7g)を33分かけて添加した。ME2の供給が完了した後、DI水(30g)をすすぎとして添加した。添加中、フラスコの内容物の温度を87℃~89℃に維持した。重合の終わりに、DI水(5g)中のFeSO4・7H2O(0.008g)及びDI水(5g)中のEDTAナトリウム塩(0.016g)の混合物、t-BHPの溶液(70%、43gのDI水に溶解させた3.4gのt-BHP)、及びIAAの溶液(78gのDI水に溶解させた2.3gのIAA)を、全て60℃でフラスコに添加した。次いで、DI水(26g)中のアンモニア(25%、26g)及びDI水(14g)中のADH(5.3g)を、50℃でフラスコに添加して、水性分散液を得た。
【0088】
ポリマーエマルジョン32(「E-32」)の合成
DI水(301g)、B-11界面活性剤(54%、15g)、BA(548g)、ST(601g)、PEM(44)、MAA(22g)、DAAM(44g)、MEUR(50%、4.3g)及びn-DDM(5g)を一緒に混合して、安定なモノマーエマルジョンを生成することによって、第1段階モノマーエマルジョン(ME1)を調製した。DI水(130g)、B-11界面活性剤(54%、7.6g)、BA(105g)、ST(425g)、MEUR(50%、2g)、及びn-DDM(1.0g)を一緒に混合して安定なモノマーエマルジョンを生成することによって、第2段階モノマーエマルジョン(ME2)を調製した。
【0089】
パドル撹拌機、熱電対、窒素入口、及び還流式冷却器を備えた5リットルの4つ口丸底フラスコに、DI水(780g)を加え、撹拌を開始した。フラスコの内容物をN2下で、90℃まで加熱した。B-11界面活性剤(54%、4.7g)、MAA(5.3g)、ME1(89g)、及びDI水(44g)中のAPS(5g)を、フラスコに添加し、続いてDI水(45g)ですすいだ。次いで、残りのME1、DI水(71g)中のAPS(1.5g)及びDI水(52g)中のアンモニア(25%、15g)を87分間にわたって添加した。ME1の供給が完了した後、DI水(30g)をすすぎとして添加した。次いで、ME2及びDI水(30g)中のAPS(0.7g)を33分かけて添加した。ME2の供給が完了した後、DI水(30g)をすすぎとして添加した。添加中、フラスコの内容物の温度を87℃~89℃に維持した。重合の終わりに、DI水(5g)中のFeSO4・7H2O(0.008g)及びDI水(5g)中のEDTAナトリウム塩(0.016g)の混合物、t-BHPの溶液(70%、43gのDI水に溶解させた3.4gのt-BHP)、及びIAAの溶液(78gのDI水に溶解させた2.3gのIAA)を、全て60℃でフラスコに添加した。次いで、DI水(26g)中のアンモニア(25%、26g)及びDI水(28g)中のADH(11g)を、50℃でフラスコに添加して、水性分散液を得た。
【0090】
ポリマーエマルジョン41(「E-41」)の合成
DI水(301g)、B-11界面活性剤(54%、15g)、BA(560g)、ST(580g)、PEM(35g)、MAA(26g)、DAAM(31g)、MEUR(50%、4.3g)及びn-DDM(5g)を一緒に混合して、安定なモノマーエマルジョンを生成することによって、第1段階モノマーエマルジョン(ME1)を調製した。DI水(130g)、B-11界面活性剤(54%、7.6g)、BA(105g)、ST(425g)、MEUR(50%、2g)、及びn-DDM(1.0g)を一緒に混合して安定なモノマーエマルジョンを生成することによって、第2段階モノマーエマルジョン(ME2)を調製した。
【0091】
パドル撹拌機、熱電対、窒素入口、及び還流式冷却器を備えた5リットルの4つ口丸底フラスコに、DI水(780g)を加え、撹拌を開始した。フラスコの内容物をN2下で、90℃まで加熱した。B-11界面活性剤(54%、4.7g)、MAA(5.3g)、ME1(89g)、及びDI水(44g)中のAPS(5g)を、フラスコに添加し、続いてDI水(45g)ですすいだ。次いで、残りのME1、DI水(71g)中のAPS(1.5g)及びDI水(52g)中のアンモニア(25%、15g)を87分間にわたって添加した。ME1の供給が完了した後、DI水(30g)をすすぎとして添加した。次いで、ME2及びDI水(30g)中のAPS(0.7g)を33分かけて添加した。ME2の供給が完了した後、DI水(30g)をすすぎとして添加した。添加中、フラスコの内容物の温度を87℃~89℃に維持した。重合の終わりに、DI水(5g)中のFeSO4・7H2O(0.008g)及びDI水(5g)中のEDTAナトリウム塩(0.016g)の混合物、t-BHPの溶液(70%、43gのDI水に溶解させた3.4gのt-BHP)、及びIAAの溶液(78gのDI水に溶解させた2.3gのIAA)を、全て60℃でフラスコに添加した。次いで、DI水(26g)中のアンモニア(25%、26g)及びDI水(48g)中のADH(18.5g)を、50℃でフラスコに添加して、水性分散液を得た。
【0092】
ポリマーエマルジョン42(「E-42」)の合成
DI水(301g)、B-11界面活性剤(54%、15g)、BA(564g)、ST(585g)、PEM(18g)、MAA(35g)、DAAM(31g)、MEUR(50%、4.3g)及びn-DDM(5g)を一緒に混合して、安定なモノマーエマルジョンを生成することによって、第1段階モノマーエマルジョン(ME1)を調製した。DI水(130g)、B-11界面活性剤(54%、7.6g)、BA(105g)、ST(425g)、MEUR(50%、2g)、及びn-DDM(1.0g)を一緒に混合して安定なモノマーエマルジョンを生成することによって、第2段階モノマーエマルジョン(ME2)を調製した。
【0093】
パドル撹拌機、熱電対、窒素入口、及び還流式冷却器を備えた5リットルの4つ口丸底フラスコに、DI水(780g)を加え、撹拌を開始した。フラスコの内容物をN2下で、90℃まで加熱した。B-11界面活性剤(54%、4.7g)、MAA(5.3g)、ME1(89g)、及びDI水(44g)中のAPS(5g)を、フラスコに添加し、続いてDI水(45g)ですすいだ。次いで、残りのME1、DI水(71g)中のAPS(1.5g)及びDI水(52g)中のアンモニア(25%、15g)を87分間にわたって添加した。ME1の供給が完了した後、DI水(30g)をすすぎとして添加した。次いで、ME2及びDI水(30g)中のAPS(0.7g)を33分かけて添加した。ME2の供給が完了した後、DI水(30g)をすすぎとして添加した。添加中、フラスコの内容物の温度を87℃~89℃に維持した。重合の終わりに、DI水(5g)中のFeSO4・7H2O(0.008g)及びDI水(5g)中のEDTAナトリウム塩(0.016g)の混合物、t-BHPの溶液(70%、43gのDI水に溶解させた3.4gのt-BHP)、及びIAAの溶液(78gのDI水に溶解させた2.3gのIAA)を、全て60℃でフラスコに添加した。次いで、DI水(26g)中のアンモニア(25%、26g)及びDI水(48g)中のADH(18.5g)を、50℃でフラスコに添加して、水性分散液を得た。
【0094】
調製されたままのポリマーエマルジョンを以下の試験方法に従って特徴付け、これらの水性ポリマー分散液の特性を表1に示す。
【0095】
固形分含有量
水性分散液試料の固形分含有量は、0.7±0.1gの試料(試料の湿重量を「W1」と表記する)を量り、150℃のオーブン内のアルミニウムパン(アルミニウムパンの重さを「W2」と表記する)に試料を25分間入れ、次いで、室温まで冷却して、乾燥した試料が入っているアルミニウムパンの重さ(総重量を「W3」と表記する)を量ることによって測定した。「W3-W2」は、試料の乾燥重量又は固形分重量を指す。固形分含有量は、(W3-W2)/W1*100%によって計算される。
【0096】
GPC分析
一般にAgilent 1200によって実施されるGPC分析によって、エマルジョンポリマーの数平均分子量(Mn)を決定する。試料を、1ミリリットルあたり2ミリグラム(mg/mL)の濃度のテトラヒドロフラン(THF)/ギ酸(FA)(5%)中に溶解させ、1時間を超えて撹拌し、室温で一晩保管し、次に、GPC分析の前に0.45マイクロメートル(μm)のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターで濾過した。GPC分析は、次の条件を使用して実行された。
【0097】
カラム:タンデムでの1本のPLゲルGUARDカラム(10μm、50ミリメートル(mm)×7.5mm)、2本のMixed Bカラム(7.8mm×300mm);カラム温度:40℃;移動相:THF/FA(5%);流速:1.0mL/分;注入体積:100μL;検出器:Agilent屈折率検出器、40℃;及び較正曲線:2329000~580g/モルの範囲の分子量を有するPL Polystyrene I Narrow標準、polynom 3 fitnessを使用。
【0098】
【表1】
*Fox Tgは、Fox式によって計算した。乾燥重量
(エマルジョンポリマー)=重量
(ポリマーエマルジョン)*固形分含有量
(ポリマーエマルジョン)。N.A.=データなし。
【0099】
中和されたセバシン酸の水溶液(「セバシン酸溶液」)の調製
セバシン酸(6.00g)、アンモニア水溶液(25%、19.53g)及び水(1.74g)を混合し、撹拌して、セバシン酸、セバシン酸モノアンモニウム、セバシン酸ビスアンモニウム、又はそれらの混合物を含む透明な溶液を得た。
【0100】
中和されたアジピン酸の水溶液(「アジピン酸溶液」)の調製
アジピン酸(6.00g)、アンモニア水溶液(25%、19.53g)及び水(1.74g)を混合し、撹拌して、アジピン酸、アジピン酸モノアンモニウム、アジピン酸ビスアンモニウム、又はそれらの混合物を含む透明な溶液を得た。
【0101】
コーティング組成物試料
直接金属に(DTM)コーティングする試料の配合を、各成分の量をグラム(g)で表して、表2及び表3に報告する。上記の調製したままのポリマーエマルジョンを試料中のバインダーとして使用し、各試料中で使用した具体的なバインダーを、表4に示す。1500回転/分(RPM)で20分間、高速粉砕機を使用して、粉砕段階で成分を混合することによって、顔料粉砕物を調製した。バインダーを水及びアンモニア水溶液と予め混合して、pH値を8.5超に調整して、プレミックスを得た。次いで顔料粉砕物をプレミックスに添加し、続いてTEXANOLエステルアルコールを添加した。得られた混合物に、NaNO2の水溶液、及び上で調製したセバシン酸溶液又はアジピン酸溶液を更に添加した。最後に、ACRYSOL RM-8Wレオロジー調整剤及び水を添加して、得られた試料のKU粘度を、BROOKFIELD(商標)KU-3粘度計を用いて室温で測定した場合に、80~90kreb単位(KU)になるように調整した。得られたコーティング組成物を、以下の試験方法に従って評価し、特性及び特徴付けの結果を表4に与えた。
【0102】
フラッシュ錆耐性試験
鋳鉄パネル(GB/Tの1348-2009によるモデルQT500-7)を、240グリットの研磨紙で磨いて、パネルの表面上の遊離錆を除去した。パネルの表面をアルコールで更に処理して、抗フラッシュ油を除去した。その後、コーティング組成物試料(1.5g)を、アートブラシ(Shanghai Oil Paint Brush ManufactoryからのModel 6713)によって、パネルの4cm×8cmセクション上にハケ塗りして、60μm~80μmの最終乾燥フィルム厚を得た。コーティングされたパネルを直ちに、温度40℃及び相対湿度90%の条件下の環境チャンバー(LabEvent LC/100/40/5)に24時間入れた。次いで、パネルを取り出して、以下の表Aに示すように、ISO8501-4:2006に従って、フラッシュ錆等級を評価した。「0」のフラッシュ錆等級は、許容可能である。
【0103】
【0104】
初期の耐水性試験
コーティング組成物試料を、150μmのアプリケーターによって冷間圧延鋼パネル(Q-lab,IncからのR46)上に塗布し、次いで、温度23℃及び相対湿度50%で120分間乾燥させた。得られたコーティングされたパネルを、23℃で12日間、DI水中に部分的に浸漬した。次に、浸漬後のパネルの表面を、錆スポット及びブリスターについて観察した。
【0105】
ブリスターの評価は、ASTMのD714-02(2009)に従って実施され、表Bに示されるように、数字及び/又は1つ以上の文字を含む。文字F、M、MD、又はDは、ブリスターの密度を定性的に表したものである。数字は、ブリスターのサイズを指し、2は最大サイズ、8は最小サイズ、10はブリスターなしである。数が大きいほど、ブリスターのサイズは小さくなる。錆の等級は、表C及び表Dに示すように、ASTMのD610-2001によって決定される。ブリスター等級が「8M」、好ましくは「8F」又は「10」のパネルであって;錆等級が「9P」又は「9S」、好ましくは「10」であるパネルは、許容可能であり、良好な初期の耐水性を示す。
【0106】
長期的耐食性試験
ASTMのB117-2011試験方法(Q-Fog周期的腐食試験機、モデル番号Q-FOG/CCT1100)に従って、塩水噴霧環境(5%塩化ナトリウム霧)へのパネルの曝露によって、長期的耐食性を決定する。
【0107】
パネルは、150μmのアプリケーターによって冷間圧延鋼(Q-lab,IncからのR46)上に、コーティング組成物試料をドローダウンし、温度23℃及び相対湿度50%で7日間乾燥させて、40μm~60μmの最終乾燥フィルム厚を得ることによって調製した。曝露前に、露出している冷間圧延鋼をテープ(3M社製プラスチックテープ#471)で被覆した。カミソリ刃で作製されたスクライブマークは、曝露の直前にパネルの下半分に刻まれた。パネルを塩水噴霧環境に150時間曝露し、次いで取り出してDI水で洗浄して、錆及びブリスターを評価した。ブリスター等級が「6F」又は「8M」、好ましくは「8F」又は「10」であるパネルであって;錆等級が「9P」又は「9S」、好ましくは「10」のパネルは許容可能であり、良好な長期的耐食性を示す。
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
コーティング組成物試料の特性及び特徴付けを表4に示す。表4に示すように、CE1~3の試料は、バインダーとして従来のエマルジョンポリマー(E-11)を使用した。それぞれ0.2重量%及び0.3重量%のセバシン酸を更に含むCE1及びCE2のコーティング組成物試料はともに、良好なフラッシュ錆耐性を提供することができなかった。セバシン酸の添加量を0.5重量%に更に増加させると、フラッシュ錆耐性を改善することができたが、長期的耐食性が劣る結果となった(CE3)。DAAMの構造単位を含まないE-05バインダーを使用したCE4~7の試料は、0.5重量%のセバシン酸を添加しても、フラッシュ錆耐性が劣っていた。DAAMの構造単位を有するE-61バインダーを含むが、セバシン酸を含まないか、又は0.05重量%のセバシン酸を含むCE8及び9の試料はともに、フラッシュ錆耐性及び長期的耐食性が劣るものとなった。CE10及び11の試料は、セバシン酸の添加量がどのようなものであっても、DAAM含有バインダーが存在しない場合には、フラッシュ錆耐性が劣り、又は初期の耐水性が更に劣っていたことを示している。DAAM及びPEMの両方の構造単位を有するE-12バインダーを含むCE12~14試料では、セバシン酸を含有しないCE12試料は、フラッシュ錆耐性及び初期の耐水性が劣っており、0.25重量%のセバシン酸を含有するCE13試料は、フラッシュ錆耐性が劣り、1.5重量%のセバシン酸を含むCE14試料は、長期的耐食性及び初期の耐水性が劣っていた。1.5重量%のPEMの構造単位を有するE-32バインダーを含むCE15試料は、初期の耐水性が劣っていることを示した。4.2重量%のDAAMの構造単位を含むE-30バインダーを含むCE16は、初期の耐水性及び長期的耐食性が劣っていることを示した。ある特定量のアジピン酸を含むCE17試料は、フラッシュ錆等級が「L」であり、フラッシュ錆耐性が劣っていることを示した。
【0112】
対照的に、IE1~12試料は全て、ある特定の濃度のPEM及びDAAMの構造単位を含有するエマルジョンポリマーと、ある特定の重量%のセバシン酸との新規な組み合わせを使用することによって、優れたフラッシュ錆耐性並びに良好な初期の耐水性及び長期的耐食性を達成した。このような新規な組み合わせにおいて、セバシン酸は、CE12試料と比較して、フラッシュ錆耐性の改善に寄与しただけでなく、初期の耐水性に関する利益も示した。それは、PEM及びDAAMの両方の構造単位を含むエマルジョンポリマーとセバシン酸との間の相乗効果が、上記の特性を改善することを示している。
【0113】
【表6】
「ジカルボン酸の重量%」は、コーティング組成物試料重量に対する、試料の調製に使用されるセバシン酸溶液を形成する際に最初に添加されたセバシン酸(原材料)の重量によって計算される、IE1~12及びCE1~16についての「セバシン酸の重量%」を指すか;又は、コーティング組成物試料重量に対する、試料の調製に使用されるアジピン酸溶液を形成する際に最初に添加されたアジピン酸(原材料)の重量によって計算される、CE17についての「アジピン酸の重量%」を指す。
【0114】
【0115】
【表8】
*セバシン酸溶液の代わりに、調製したままのアジピン酸溶液を、CE17において使用した。
【国際調査報告】