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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】エネルギー貯蔵装置用の電極の製造
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20240905BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240905BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240905BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20240905BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240905BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240905BHJP
   H01G 11/24 20130101ALI20240905BHJP
   H01G 11/70 20130101ALI20240905BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/485
H01M4/58
H01M4/62 Z
H01G11/24
H01G11/70
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515701
(86)(22)【出願日】2022-09-09
(85)【翻訳文提出日】2024-04-12
(86)【国際出願番号】 US2022043016
(87)【国際公開番号】W WO2023064054
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】63/242,322
(32)【優先日】2021-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513295777
【氏名又は名称】ファーストキャップ・システムズ・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】FastCAP SYSTEMS Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ジィ
(72)【発明者】
【氏名】ツァオ,ワンジュン ベン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ギテ
(72)【発明者】
【氏名】ブランビッラ,ニコロ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ジン
【テーマコード(参考)】
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AB01
5E078BB33
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA09
5H050DA18
5H050EA08
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA07
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA05
(57)【要約】
エネルギー貯蔵装置用の電極を製造するための方法が提供される。本方法は、エネルギー貯蔵媒体として使用するための溶媒及び材料の混合物を加熱することと、混合物に活物質を添加することと、分散剤を混合物に添加してスラリーを得ることと、スラリーを集電体にコーティングすることと、集電体上のスラリーのコーティングをカレンダ加工して、電極を提供することと、を含む。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー貯蔵装置用の電極を製造するための方法であって、
エネルギー貯蔵媒体として使用するための溶媒及び材料の混合物を加熱することと、
前記混合物に活物質を添加することと、
分散剤を前記混合物に添加してスラリーを得ることと、
前記スラリーを集電体にコーティングすることと、
前記集電体上の前記スラリーのコーティングをカレンダ加工して、前記電極を提供することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記エネルギー貯蔵媒体が、ナノカーボンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エネルギー貯蔵媒体が、高アスペクト比炭素要素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記高アスペクト比炭素要素の長寸法の長さが、その短寸法の5倍、10倍、100倍、500倍、1,000倍、5,000倍、及び10,000倍のうちの少なくとも1つである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記エネルギー貯蔵媒体が、その表面処理を含むナノカーボンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記表面処理が、前記ナノカーボンへの前記活物質の接着を促進する材料の添加を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記表面処理が、カルボキシル基、ヒドロキシ基、アミン基、及びシラン基の少なくとも1つを含む官能基の少なくとも1つの添加を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記表面処理が、前記ナノカーボン上に配置されたポリマー層と、ナノカーボン及び官能化材料を含む凍結乾燥水性分散液とのうちの少なくとも1つから形成される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記官能化材料が界面活性剤を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリマー層の熱分解形態を更に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記活物質が、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物、チタン酸リチウム酸化物、リン酸鉄リチウム酸化物、及びリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記活物質の粒子が、0.1マイクロメートル~50マイクロメートルの範囲又はその任意の部分範囲のメジアン粒径を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記活物質の質量の質量負荷が、少なくとも20mg/cm、30mg/cm、40mg/cm 50mg/cm 60mg/cm 70mg/cm 80mg/cm 90mg/cm 100mg/cm以上である請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記分散剤がポリビニルピロリドン(PVP)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記分散剤が、水性バインダー、ポリアクリル酸、及びポリアクリル酸ナトリウムのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記スラリーのコーティングを焼結することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
エネルギー貯蔵装置用の電極であって、
集電体上に配置されたエネルギー貯蔵材料のコーティングであって、分散剤を含む溶媒中のカーボンナノフォーム材料及び活物質の懸濁液を含む、コーティング、を備える、電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年9月9日に出願され、シリアル番号63/242,322を割り当てられた仮出願に対する優先権の利益を主張するものである。前述の仮出願の内容全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
1.技術分野
本明細書に開示される発明は、エネルギー貯蔵装置に関し、特に、電池及びウルトラキャパシタ用の電極の製造に関する。
【0003】
2.関連技術の説明
再生可能エネルギーの使用の増加は、多くの利益及び課題をもたらしている。おそらく最も重要な課題は、効率的なエネルギー貯蔵の開発である。再生可能エネルギー源を真に活用するためには、安価で高出力のエネルギー貯蔵が必要である。実際に、無数の他の産業がエネルギー貯蔵の改善から恩恵を受けるであろう。一例は、電気自動車及びハイブリッド自動車への駆動が増加している自動車産業である。
【0004】
おそらく、エネルギー貯蔵の最も広く便利な形態は、電池の形態である。電池は、電解二重層コンデンサ(EDLC)と様々な特徴を共有している。例えば、そのような装置は、典型的には、セパレータによってカソード材料の層から分離されたアノード材料の層を含む。電解質は、これらの電極間のイオン輸送を提供してエネルギーを提供する。
【0005】
従来技術では、エネルギー貯蔵装置の電極は、典型的には、エネルギー貯蔵材料に混合された何らかの形態のバインダーを含む。すなわち、バインダーは、本質的に接着剤の形態であり、集電体への接着を確実にする。残念なことに、電極の物理的完全性を提供するバインダー材料は、典型的には非導電性であり、性能が低下し、経時的に動作が低下する。多くの場合、バインダー材料は、有毒であり、高価であり得る。
【0006】
多くの現代の用途は、エネルギー密度、使用可能寿命(すなわち、サイクル性)、安全性、等価直列抵抗(ESR)、製造コスト、物理的強度、及び他のそのような態様のうちの少なくとも1つの性能の改善を必要としている。更に、改善された装置は、広い温度範囲にわたって確実に動作することが好ましい。バインダー材料の使用は、これらの性能要件を損なう。したがって、電極(例えば、アノード及びカソード)の製造に使用される技術を改善することは、電極が使用されるエネルギー貯蔵装置の性能を改善する最大の機会を提供する。
【0007】
想像できるように、エネルギー貯蔵装置内の空間は貴重である。すなわち、空隙は、単にエネルギー貯蔵材料を組み込む機会を失わせる。したがって、効率的な製造技術は、高性能エネルギー貯蔵装置の開発に不可欠である。一例として、集電体へのエネルギー貯蔵媒体の適用は、粗い表面を有する電極をもたらし得ることが多く、本質的にエネルギー貯蔵装置内に空隙を作り出す。
【0008】
したがって、必要とされるのは、エネルギー貯蔵装置を製造するときに、集電体上へのスラリーの均一な分散を確実にする方法及び装置である。
【発明の概要】
【0009】
一実施形態では、エネルギー貯蔵装置用の電極を製造するための方法が提供される。方法は、エネルギー貯蔵媒体として使用するための溶媒及び材料の混合物を加熱することと、混合物に活物質を添加することと、分散剤を混合物に添加してスラリーを得ることと、スラリーを集電体にコーティングすることと、集電体上のスラリーのコーティングをカレンダ加工して、電極を提供することと、を含む。
【0010】
別の実施形態では、電極を組み込んだエネルギー貯蔵装置が提供される。
【0011】
本発明の特徴及び利点は、添付の図面と併せて以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】従来技術のエネルギー貯蔵装置(ESD)の態様を示す概略切欠図である。
図2図1のエネルギー貯蔵装置(ESD)の従来技術の貯蔵セルの態様を示す概略切欠図である。
図3A】完全に充電されたエネルギー貯蔵装置(ESD)の態様を示す。また、図2の貯蔵セル内の電極間のイオン輸送の態様を示す。
図3B】部分的に充電されたエネルギー貯蔵装置(ESD)の態様を示す。
図3C】ほぼ完全に放電されたエネルギー貯蔵装置(ESD)の態様を示す。
図4】本明細書の教示による電極の製造のためのプロセスの一例を示すフローチャートである。
図5図4に見られる開示されたプロセス中に組み立てられた材料の態様を示す概略図である。
図6図4に見られる開示されたプロセス中に組み立てられた材料の態様を示す概略図である。
図7図4に見られる開示されたプロセス中に組み立てられた材料の態様を示す概略図である。
図8図4に見られる開示されたプロセス中に組み立てられた材料の態様を示す概略図である。
図9A図4に示されるプロセスで組み立てられた材料の顕微鏡写真である。
図9B図4に示されるプロセスで組み立てられた材料の顕微鏡写真である。
図10A図4に示されるプロセスで組み立てられた材料の顕微鏡写真である。
図10B図4に示されるプロセスで組み立てられた材料の顕微鏡写真である。
図11A図4に示されるプロセスで組み立てられた材料の顕微鏡写真である。
図11B図4に示されるプロセスで組み立てられた材料の顕微鏡写真である。
図12A図4に示されるプロセスで組み立てられた材料の顕微鏡写真である。
図12B図4に示されるプロセスで組み立てられた材料の顕微鏡写真である。
図13A図4に示されるプロセスで組み立てられた材料の顕微鏡写真である。
図13B図4に示されるプロセスで組み立てられた材料の顕微鏡写真である。
図14図4に示されるプロセスで組み立てられた材料の顕微鏡写真である。
図15A図4に示されるプロセスで組み立てられた材料の顕微鏡写真である。
図15B図4に示されるプロセスで組み立てられた材料の顕微鏡写真である。
図16図4に示されるプロセスで組み立てられた材料の顕微鏡写真である。
図17】本明細書に開示される材料を用いて組み立てられたエネルギー貯蔵セルの電気的性能の態様を示すグラフである。
図18】本明細書に開示される材料を用いて組み立てられたエネルギー貯蔵セルの電気的性能の態様を示すグラフである。
図19】本明細書に開示される材料を用いて組み立てられたエネルギー貯蔵セルの電気的性能の態様を示すグラフである。
図20】本明細書に開示される材料を用いて組み立てられたエネルギー貯蔵セルの電気的性能の態様を示すグラフである。
図21】本明細書に開示される材料を用いて組み立てられたエネルギー貯蔵セルの態様を示す概略図である。
図22】本明細書に開示される材料を用いて組み立てられたエネルギー貯蔵セルの電気的性能の態様を示すグラフである。
図23】本明細書に開示される材料を用いて組み立てられたエネルギー貯蔵セルの電気的性能の態様を示すグラフである。
図24】本明細書に開示される材料を用いて組み立てられたエネルギー貯蔵セルの電気的性能の態様を示すグラフである。
図25】本明細書に開示される材料を用いて組み立てられたエネルギー貯蔵セルの電気的性能の態様を示すグラフである。
図26】本明細書に開示される材料を用いて組み立てられたエネルギー貯蔵セルの電気的性能の態様を示すグラフである。
図27】本明細書に開示される材料を用いて組み立てられた電極材料を示す一連の写真である。
図28】従来の電極(ポリフッ化ビニリデン(PVDF))を含む貯蔵装置及びポリビニルピロリドン(PVP)を有する電極を含む貯蔵装置の放電容量対放電Cレートを示すグラフである。
図29A】PVPを含有する電極の比容量に対する電位対Li/Li+を示すプロットである。
図29B】PVDFを含有する従来の電極の比容量に対する電位対Li/Li+を示すプロットである。
図30】サイクル数に対する放電エネルギー(パーセンテージで表される)のプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書では、エネルギー貯蔵装置に有用な電極を提供するための方法及び装置が開示される。一般に、開示された技術の適用は、高出力、高エネルギーを供給することができ、長い寿命を示し、広範囲の環境条件にわたって動作することができるエネルギー貯蔵装置をもたらすことができる。開示された技術は、様々なエネルギー貯蔵装置の大量生産及び様々な形態で展開可能である。有利には、本技術は、エネルギー貯蔵装置のより低減した製造コストをもたらす。電極は、ポリフッ化ビニリデンを含まず、N-メチルピロリドンなどの溶媒は、電極の調製には使用されていない。
【0014】
本技術は、電池、ウルトラキャパシタ、又はエネルギー貯蔵のために電極を利用する任意の他の同様のタイプの装置であるエネルギー貯蔵装置に使用され得る。本技術を導入する前に、エネルギー貯蔵技術の定義及び概要によっていくつかの文脈が提供される。
【0015】
本明細書で論じられるように、「エネルギー貯蔵装置」(「ESD」とも呼ばれる)という用語は、一般に、電気化学セルを指す。電気化学セルは、化学反応から電気エネルギーを生成するか、又は電気エネルギーを使用して化学反応を引き起こすことができる装置である。電流を発生させる電気化学セルは、「ボルタ電池」又は「ガルバニ電池」と呼ばれ、例えば電気分解を介して、化学反応を発生させるものは、電解セルと呼ばれる。ガルバニ電池の一般的な例は、消費者使用に指定された標準的な1.5ボルト電池である。電池は、並列、直列又は直列及び並列パターンで接続された1つ以上のセルからなる。一般に充電式電池と呼ばれる二次電池は、ガルバニ電池及び電解電池の双方として動作することができる電気化学電池である。これは、電気を貯蔵するための便利な方法として使用され、電流が一方向に流れると、1つ以上の化学物質のレベルが蓄積する(すなわち、充電中)。逆に、セルが放電している間に化学物質が減少し、結果として生じる起電力が使用されて仕事を行い得る。充電式電池の一例はリチウムイオン電池であり、そのいくつかの実施形態が本明細書で論じられる。
【0016】
慣例として、電気化学セル内の電極は、「アノード」又は「カソード」のいずれかと呼ばれる。アノードは、電子が電気化学セルを出て、酸化が起こる電極(マイナス記号「-」によって示される)であり、カソードは、電子がセルに入り、還元が起こる電極(プラス記号「+」によって示される)である。各電極は、セルを通る電流の方向に応じてアノード又はカソードのいずれかになり得る。一般に、エネルギー貯蔵装置(ESD)の様々な構成及び状態を考えると、この慣例は、本明細書の教示を限定するものではなく、そのような用語の使用は、単に技術を導入するためのものである。したがって、「カソード」、「アノード」、及び「電極」という用語は、少なくともいくつかの例では交換可能であることを認識されたい。例えば、電極内に活性層を製造するための技術の態様は、アノード及びカソードに等しく適用され得る。より具体的には、任意の特定の例で説明した化学的及び/又は電気的構成は、アノード又はカソードの1つとして特定の電極の使用を知らせ得る。
【0017】
一般に、本明細書に開示されるエネルギー貯蔵装置(ESD)の例は例示である。すなわち、エネルギー貯蔵装置(ESD)は、本開示の実施形態に限定されない。
【0018】
エネルギー貯蔵装置(ESD)のより具体的な例は、二重層キャパシタ(静電的に電荷を蓄積する装置)、擬似キャパシタ(電気化学的に電荷を蓄積する装置)、及びハイブリッドキャパシタ(静電的及び電気化学的に電荷を蓄積する装置)などのスーパーキャパシタを含む。一般に、静電二重層キャパシタ(EDLC)は、電気化学的な擬似静電容量よりもはるかに大きい静電二重層容量を有する炭素電極又は誘導体を使用し、導電性電極の表面と電解質との間の界面でヘルムホルツ二重層における電荷の分離を達成する。一般に、電気化学擬似キャパシタは、二重層容量に加えて大量の電気化学擬似容量を有する金属酸化物又は導電性ポリマー電極を使用する。擬似容量は、酸化還元反応、インターカレーション又は電気吸着によるファラデー電子電荷移動によって達成される。リチウムイオンキャパシタなどのハイブリッドキャパシタは、以下の異なる特性を有する電極を使用する:一方は主に静電容量を示し、他方は主に電気化学容量を示す。
【0019】
エネルギー貯蔵装置(ESD)の他の例は、充電、負荷への放電、及び多数回の再充電が可能な電気電池のタイプである充電池、蓄電池、又は二次電池を含む。充電中、正極活物質は酸化されて電子を生成し、負極材料は還元されて電子を消費する。これらの電子は、外部回路からの電流の流れを構成する。一般に、電解質は、電極(例えば、アノード及びカソード)間の内部イオン流のためのバッファとして機能する。電池の充放電速度は、電流の「C」レートを参照することによって論じられることが多い。Cレートは、理論的に1時間で電池を完全に充電又は放電するレートである。「放電深さ」(DOD)は、通常、公称アンペア時容量のパーセンテージとして表される。例えば、ゼロパーセント(0%)DODは、放電がないことを意味する。
【0020】
エネルギー貯蔵装置(ESD)10の態様の概要を提供する図1図3に関して、更なる文脈が、提供される。
【0021】
図1には、エネルギー貯蔵装置(ESD)10の断面が、示されている。エネルギー貯蔵装置(ESD)10は、ハウジング11を備える。ハウジング11は、その外部に配置された2つの端子8を有する。端子8は、ハウジング11内に収容された貯蔵セル12への内部電気接続、及び負荷又は充電装置などの外部装置(図示せず)への外部電気接続を提供する。
【0022】
貯蔵セル12の切欠部分が、図2に示されている。この図に示すように、貯蔵セル12は、エネルギー貯蔵材料の多層ロールを含む。すなわち、エネルギー貯蔵材料のシート又はストリップは、ロール形式に一緒に巻かれる。エネルギー貯蔵材料のロールは、「アノード3」及び「カソード4」と呼ばれる対向する電極を含む。アノード3とカソード4とは、セパレータ5によって分離されている。図示されていないが、貯蔵セル12の一部として含まれているのは電解質である。一般に、電解質は、カソード4及びアノード3を透過又は湿潤させ、貯蔵セル12内のイオンの移動を促進する。イオン輸送が、図3に概念的に示されている。
【0023】
本明細書では総称して図3と呼ばれる図3A図3B、及び図3Cは、エネルギー貯蔵装置(ESD)10の充電状態の関数としてのセル化学の態様を示す概念図である。具体的には、図3には、エネルギー貯蔵装置(ESD)10が示されているので、放電シーケンスが、示されている。このシリーズにおいて、エネルギー貯蔵装置(ESD)10は、リチウムイオン電池である。電池は、アノード3、カソード4、セパレータ5、及び電解質6を含む(これらの各要素についてより詳しくは以下に示す)。概して、アノード3及びカソード4は、リチウムを格納する。
【0024】
図3Aには、完全に充電されたエネルギー貯蔵装置(ESD)10の態様が、示されている。この図では、アノード3は、集電体2上に配置されたエネルギー貯蔵媒体1を含む。完全に充電されたエネルギー貯蔵装置(ESD)10のアノード3のエネルギー貯蔵媒体1は、貯蔵セル12内のイオンの全てを実質的に含む。構造において同様に、カソード4は、集電体2上に配置されたエネルギー貯蔵媒体1を含む。
【0025】
エネルギー貯蔵装置(ESD)10には負荷(例えば、図示されていないが、携帯電話、コンピュータ、工具、又は自動車などの電子機器)が接続されてエネルギーを引き出し、アノード3から電子(e-)が引き出される。正に帯電したリチウムイオンは、貯蔵セル12内をカソード4に移動する。これは、図3Bに示される電荷計に示されるように、電荷の空乏化を引き起こす。エネルギー貯蔵装置(ESD)10が完全に空乏化すると、図3Cに示されるように、実質的に全てのリチウムイオンが、カソード4に移動している。
【0026】
充電装置を負荷と交換し、充電装置に通電すると、アノード3への電子(e-)の流れを引き起こし、それに伴って、カソード4からアノード3にリチウムイオンが移動する。セパレータ5は、放電時でも充電時でも、エネルギー貯蔵装置(ESD)10内の電子の流れを遮断する。
【0027】
典型的なリチウムイオン電池では、アノード3は、炭素系マトリックス中にインターカレートされたリチウムを有する炭素系マトリックスから実質的に作製され得る。従来技術では、炭素系マトリックスは、多くの場合、グラファイトとバインダー材料との混合物を含む。従来技術では、カソード4は、バインダー材料とともにリチウム金属酸化物系材料を含むことが多い。電極を製造するための従来のプロセスは、次いでエネルギー貯蔵媒体1として集電体2に適用される材料の混合物の開発を必要とする。かなり多くの場合、スラリー内の凝集及び不整合は、粗くなるか、又は山及び谷を含む電極の表面をもたらす。従来技術において見出され、エネルギー貯蔵媒体1のスラリーの開発によって生じる問題は、本明細書の教示にかかるスラリーの製造によって改善されることができる。スラリーを混合するためのプロセスの例が、図4に提供されている。
【0028】
図4では、概要として、本明細書の教示による電極40の製造のためのプロセスの例が、提供される。第1のステップ41では、基材が、混合及び加熱される。第2のステップ42では、加熱及び混合が進行している間に、活物質の添加が、行われる。第3のステップ43では、加熱及び混合が進行している間に、分散剤の添加が、行われる。第4のステップ44では、得られた混合物が、調製された集電体に塗布される。第5のステップ45では、コーティングされた集電体が、カレンダ加工に供される。
【0029】
図5を参照すると、第1のステップ41に関する更なる詳細が、紹介されている。第1のステップ41で、炭素分散体が、調製される。カーボン分散体は、プロセスによって官能化され得るか、又は官能化された材料として提供され得る高アスペクト比ナノカーボン材料(又は「ナノカーボン」)を含む。この例では、第1のステップ41は、摂氏約35度~摂氏70度の温度に加熱することを含む。
【0030】
本明細書で使用される場合、「高アスペクト比炭素要素」という用語及び他の同様の用語は、横寸法(「短寸法」)の元素のサイズよりも有意に大きい1つ以上の寸法(「長寸法(複数可)」)のサイズを有する炭素質元素を指す。
【0031】
例えば、いくつかの実施形態では、高アスペクト比炭素要素は、2つの長寸法及び1つの短寸法を有するフレーク又はプレート形状要素を含んでもよい。例えば、いくつかのそのような実施形態では、長寸法の各々の長さの比は、短寸法の長さの少なくとも5倍、10倍、100倍、500倍、1,000倍、5,000倍、10,000倍又はそれ以上であってもよい。このタイプの例示的な要素は、グラフェンシート又はフレークを含む。
【0032】
いくつかの実施形態では、高アスペクト比炭素要素は、1つの長寸法及び2つの短寸法を有する細長ロッド又は繊維形状要素を含み得る。例えば、いくつかのそのような実施形態では、長寸法の長さの比は、短寸法の各々の長さの少なくとも5倍、10倍、100倍、500倍、1,000倍、5,000倍、10,000倍又はそれ以上であり得る。このタイプの例示的な要素は、カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブの束、カーボンナノロッド、及び炭素繊維を含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、高アスペクト比炭素要素は、単層ナノチューブ(SWNT)、二層ナノチューブ(DWNT)又は多層ナノチューブ(MWNT)、カーボンナノロッド、炭素繊維又はそれらの混合物を含み得る。高アスペクト比炭素要素は、ナノサイズの伝導性充填剤又は電気伝導性充填剤とも呼ばれる。いくつかの実施形態では、高アスペクト比炭素要素は、CNT又は他の高アスペクト比炭素材料の相互接続された束、クラスタ、又は凝集体から形成されてもよい。いくつかの実施形態では、高アスペクト比炭素要素は、シート、フレーク、又は湾曲したフレークの形態で、及び/又は高アスペクト比の円錐、ロッドなどに形成されたグラフェンを含み得る。
【0034】
組成物中で使用されるSWNTは、グラファイトのレーザー蒸発、カーボンアーク合成、又は高圧一酸化炭素変換プロセス(HIPCO)プロセスによって生成され得る。これらのSWNTは、一般に、約0.7~約2.4ナノメートル(nm)の外径を有するグラフェンシートを含む単一の壁を有する。約5以上、好ましくは約100以上、より好ましくは約1000以上のアスペクト比を有するSWNTが、一般に、高アスペクト比炭素要素中に利用される。SWNTは、それぞれのチューブの各端部に半球キャップを有する概して閉じた構造であるが、単一の開放端又は両方の開放端を有するSWNTも使用され得ることが想定される。SWNTは、一般に、中空であるが、非晶質炭素で充填されてもよい中央部分を備える。
【0035】
例示的な実施形態では、有機ポリマー中にSWNTを分散させる目的は、SWNTのアスペクト比にできるだけ近い有効アスペクト比を得るために、SWNTを解きほぐすことである。アスペクト比に対する有効アスペクト比の割合は、分散の有効性の尺度である。有効アスペクト比は、単一のSWNTの回転半径の2倍をそれぞれの個々のナノチューブの外径で割った値である。アスペクト比に対する有効アスペクト比の割合の平均値が、約10,000以上の倍率で、電子顕微鏡写真で測定されたときに、約0.5以上、好ましくは約0.75以上、より好ましくは約0.90以上であることが、一般的に望ましい。
【0036】
一実施形態では、SWNTは、ロープ状凝集体の形態で存在し得る。これらの凝集体は、一般に「ロープ」と呼ばれ、個々のSWNT間のファンデルワール力の結果として形成される。ロープ内の個々のナノチューブは、自由エネルギーを最小限にするために、相互に対してスライドし、ロープ内でそれら自体を再配置し得る。一般に10~10個のナノチューブを有するロープが、組成物中で使用され得る。この範囲内で、約100個以上、好ましくは約500個以上のナノチューブを有するロープを有することが、一般的に望ましい。また、約104個以下のナノチューブ、好ましくは約5,000個以下のナノチューブを有するロープが、望ましい。
【0037】
更に別の実施形態では、SWNTロープは、分散後に分岐の形態で互いに接続することが、望ましい。これにより、SWNTネットワーク(又はカーボンナノチューブネットワーク)の分岐間でロープの共有が生じ、有機ポリマーマトリックス中に3次元ネットワークを形成する。約10nm~約10マイクロメートルの距離が、このタイプのネットワーク内の分岐点を分離し得る。一般に、SWNTが、少なくとも2000ワット毎メートルケルビン(W/m-K)の固有熱伝導率を有し、かつSWNTロープが、10ジーメンス毎センチメートル(S/cm)の固有電気伝導率を有することが、望ましい。また、SWNTが、少なくとも80ギガパスカル(GPa)の引張強度及び少なくとも約0.5タラパスカル(TPa)の剛性を有することが、一般的に望ましい。
【0038】
別の実施形態では、SWNTは、金属ナノチューブ及び半導体ナノチューブの混合物を含んでもよい。金属ナノチューブは、金属と同様の電気的特性を示すものである一方、半導体ナノチューブは、電気的に半導体であるものである。概して、グラフェンシートが巻かれる方法は、様々な螺旋構造のナノチューブを生成する。ジグザグナノチューブ及びアームチェアナノチューブが、2つの可能な確認になる。貯蔵装置に利用されるSWNTの量を最小限に抑えるために、大きな割合の金属SWNTを組成物に含ませることが、一般的に望ましい。組成物中に使用されるSWNTが、SWNTの総重量の約1重量%以上、好ましくは約20重量%以上、より好ましくは約30重量%以上、更により好ましくは約50重量%以上、最も好ましくは約99.9重量%以上の量で金属ナノチューブを含むことが、一般的に望ましい。特定の状況では、組成物中に使用されるSWNTが、SWNTの総重量の約1重量%以上、好ましくは約20重量%以上、より好ましくは約30重量%以上、更により好ましくは約50重量%以上、最も好ましくは約99.9重量%以上の量で半導体ナノチューブを含むことが、一般的に望ましい。
【0039】
SWNTは、望ましい場合、スラリーの総重量の約0.001~約80重量%の量で、一般に使用される。スラリーは、高アスペクト比炭素要素、(スラリーがアノード活性層を製造するために使用されるか、それともカソード活性層を製造するために使用されるかに応じて)アノード活物質又はカソード活物質、表面処理組成物、いずれかの任意選択の結合剤、及び溶媒(典型的には水及び/又はアルコール)を含む。この範囲内で、SWNTは、一般に、スラリーの総重量の約0.25重量%以上、好ましくは約0.5重量%以上、より好ましくは約1重量%以上の量で使用される。更に、SWNTは、一般に、スラリーの総重量の約30重量%以下、好ましくは約10重量%以下、より好ましくは約5重量%以下の量で使用される。
【0040】
一実施形態では、SWNTは、製造関連不純物を含有し得る。本明細書に定義されるSWNT中に存在する製造関連不純物は、SWNTの製造に実質的に関連する、プロセス中に生成される不純物である。上記のように、SWNTは、例えば、レーザーアブレーション、化学気相堆積、炭素アーク、高圧一酸化炭素変換プロセスなどのプロセスで生成される。製造関連不純物は、前述のプロセス又は同様の製造プロセスにおけるSWNTの生成中に自然に形成されるか、又は意図的に形成されるか、いずれかの不純物である。自然に形成される製造関連不純物の好適な例は、SWNTの生成に使用される触媒粒子である。意図的に形成される製造関連不純物の好適な例は、製造プロセス中に少量の酸化剤を意図的に添加することによって、SWNTの表面上に形成されたダングリングボンドである。
【0041】
ナノサイズ導電性充填剤は、約1,000nm以下の少なくとも1つの寸法を有するものである。ナノサイズ導電性充填剤は、1、2、又は3次元であってもよく、粉末、伸線、ストランド、繊維、チューブ、ナノチューブ、ロッド、ウィスカ、フレーク、ラミネート、プレートレット、楕円体、円盤、回転楕円体など、又は前述の形態のうちの少なくとも1つを含む組み合わせの形態で存在してもよい。それらはまた、分数次元を有してもよく、質量フラクタル又は表面フラクタルの形態で存在してもよい。
【0042】
ナノサイズ導電性充填剤(本明細書では高アスペクト比炭素要素とも呼ばれる)の好適な例は、多層カーボンナノチューブ(MWNT)、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンブラック、グラファイト、導電性金属粒子、導電性金属酸化物、金属被覆充填剤、ナノサイズ導電性有機/有機金属充填剤、導電性ポリマーなど、及び前述のナノサイズ導電性充填剤のうちの少なくとも1つを含む組み合わせである。
【0043】
SWNTの製造に向けられていないレーザーアブレーション及びカーボンアーク合成などのプロセスに由来するMWNTも、組成物中に使用されてもよい。MWNTは、内側の中空コアの周りに結合された少なくとも2つのグラフェン層を有する。半球キャップは、概して、MWNTの両端を閉じるが、1つの半球キャップのみを有するMWNT、又は両方のキャップを欠くMWNTを使用することが望ましい場合がある。MWNTは、一般に、約2~約50nmの直径を有する。この範囲内で、約40以下、好ましくは約30以下、より好ましくは約20nm以下の直径を有するMWNTを使用することが、一般的に望ましい。MWNTが使用される場合、約5以上、好ましくは約100以上、より好ましくは約1000以上の平均アスペクト比を有することが、好ましい。
【0044】
MWNTは、望ましい場合、スラリーの総重量の約0.001~約50重量%の量で、一般に使用される。この範囲内で、MWNTは、一般に、スラリーの総重量の約0.25重量%以上、好ましくは約0.5重量%以上、より好ましくは約1重量%以上の量で使用される。更に、MWNTは、一般に、スラリーの総重量の約30重量%以下、好ましくは約10重量%以下、より好ましくは約5重量%以下の量で使用される。
【0045】
約3.5~約100ナノメートル(nm)の直径及び約5以上のアスペクト比を有する、気相成長炭素繊維又は、同様に気相成長炭素繊維(VGCF)と呼ばれる小さな黒鉛炭素繊維若しくは部分黒鉛炭素繊維を使用してもよい。これらの気相成長炭素繊維は、典型的には、黒鉛炭素繊維表面の外面に非晶質コーティングを含む。VGCFが使用される場合、約3.5~約70nmの直径が好ましく、約3.5~約50nmの直径がより好ましく、約3.5~約25nmの直径が最も好ましい。また、約100以上、より好ましくは約1000以上の平均アスペクト比を有することが、好ましい。
【0046】
VGCFは、望ましい場合、スラリーの総重量の約0.001~約50重量%の量で、一般に使用される。この範囲内で、VGCFは、一般に、スラリーの総重量の約0.25重量%以上、好ましくは約0.5重量%以上、より好ましくは約1重量%以上の量で使用される。更に、VGCFは、一般に、高アスペクト比導電性要素の総重量の約30重量%以下、好ましくは約10重量%以下、より好ましくは約5重量%以下の量で使用される。
【0047】
また、高アスペクト比炭素要素として利用されるSWNT及び他のカーボンナノチューブ(すなわち、MWNT及びVGCF)の両方が、有機ポリマーとの相溶性を改善し、それらとの混合を容易にするために、官能基で誘導体化されてもよい。SWNT及び他のカーボンナノチューブは、側壁を構成するグラフェンシート、半球キャップのいずれか上、又は側壁並びに半球エンドキャップの両方上で、官能化されてもよい。官能化されたSWNT及び他のカーボンナノチューブは、式[C]Rを有するものであり、式中、nは、整数であり、Lは、0.1n未満の数であり、mは、0.5n未満の数であり、Rの各々は、同じであり、-SOH、-NH、-OH、-C(OH)R′、-CHO、-CN、-C(O)Cl、-C(O)SH、-C(O)OR′、-SR′、-SiR′、-Si(OR′)R′(3-y)、-R″、-AlR′、ハロゲン化物、エチレン系不飽和官能基、エポキシド官能基などから選択され、式中、yは、3以下の整数であり、R′は、水素、アルキル、アリール、シクロアルキル、アルカリル、アラルキル、シクロアリール、ポリ(アルキルエーテル)、ブロモ、クロロ、ヨード、フルオロ、アミノ、ヒドロキシル、チオ、ホスフィノ、アルキルチオ、シアノ、ニトロ、アミド、カルボキシル、ヘテロシクリル、フェロセニル、ヘテロアリール、フルオロ置換アルキル、エステル、ケトン、カルボン酸、アルコール、フルオロ置換カルボン酸、フルオロアルキルトリフレートなどであり、R″は、フルオロアルキル、フルオロアリール、フルオロシクロアルキル、フルオロアラルキル、シクロアリールなどである。炭素原子Cは、カーボンナノチューブの表面炭素である。均一に及び非均一に置換されたSWNT及び他のカーボンナノチューブの両方において、表面原子Cが反応する。
【0048】
非均一に置換されたSWNT及び他のカーボンナノチューブも、導電性前駆体組成物及び/又は導電性組成物中に使用され得る。これらは、上記に示される式(I)の組成物を含み、n、L、m、R、及びSWNT自体は、Rの各々が酸素を含有しないこと、又は、Rの各々が酸素含有基である場合、COOHが存在しないことを条件として、上記で定義された通りである。
【0049】

【化1】
を有する官能化されたSWNT及び他のカーボンナノチューブも含まれ、式中、n、L、m、R″、及びRは、上記と同じ意味を有する。カーボンナノチューブの表面層中のほとんどの炭素原子は、基底面炭素である。基底面炭素は、化学攻撃に対して比較的不活性である。例えば、黒鉛平面がカーボンナノチューブの周りに完全に延在することができない欠陥部位では、黒鉛平面のエッジ炭素原子に類似した炭素原子が、存在する。エッジ炭素は、反応性であり、炭素原子価を満たすために、何らかのヘテロ原子又は基を含有しなければならない。
【0050】
上述の置換されたSWNT及び他のカーボンナノチューブは、有利には、更に官能化され得る。そのようなSWNT組成物は、式
【化2】
の組成物を含み、式中、n、L、及びmは、上述の通りであり、Aは、-OY、-NHY、-CR′-OY、-C(O)OY、-C(O)NR′Y、-C(O)SY、又は-C(O)Yから選択され、式中、Yは、タンパク質、ペプチド、酵素、抗体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、抗原、又は酵素基質、酵素阻害剤、若しくは酵素基質の遷移状態類似体の適切な官能基であるか、又は-R′OH、-R′NH、-R′SH、-R′CHO、-R′CN、-R′X、-R′SiR′、-RSi-(OR′)-R′(3-y)、-R′Si-(O-SiR′)-OR′、-R′-R″、-R′-NCO、(CO)Y、-(CO)H、-(CO)R′、-(CO)R′若しくは-(CO)R″から選択され、式中、wは、1より大きく200未満の整数である。R′及びR″は、上記で定義されている。
【0051】
直上に示された構造の官能性されたSWNT及び他のカーボンナノチューブはまた、式
【化3】
を有するSWNT組成物を生成するように官能化されてもよく、式中、n、L、m、R′、及びAは、上記で定義された通りである。
【0052】
導電性前駆体組成物及び/又は導電性組成物はまた、特定の環式化合物が吸着されるSWNT及び他のカーボンナノチューブを含んでもよい。これらは、式
【化4】
の物質のSWNT組成物を含み、式中、nは、整数であり、Lは、0.1n未満の数であり、mは、0.5n未満の数であり、aは、0又は10未満の数であり、Xは、多核芳香族又はポリヘテロ核芳香族部分であり、Rは、上述の通りである。好ましい環式化合物は、リポルフィリン(re porphyrin)及びフタロシアニンなどの平面大環式である。
【0053】
吸着された環式化合物は、官能化されてもよい。そのようなSWNT組成物は、式
【化5】
の化合物を含み、式中、m、n、L、a、X、及びAは、上記で定義された通りであり、炭素は、SWNT上又はMWNT、VGCFなどの他のナノチューブ上にある。
【0054】
特定の理論に拘束されることなく、改質された表面特性が、カーボンナノチューブを有機ポリマーとの相溶性がより高いものにし得るため、又は改質された官能基(特に、ヒドロキシル基又はアミン基)が、末端基として有機ポリマーに直接結合するため、官能化されたSWNT及び他のカーボンナノチューブは、有機ポリマー中により良好に分散される。このようにして、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテルイミドなどの有機ポリマーが、カーボンナノチューブに直接結合し、それにより、カーボンナノチューブを、有機ポリマーへの接着性が向上した状態でより容易に分散させる。
【0055】
官能基は、一般に、SWNT及び他のカーボンナノチューブの表面を酸化するのに十分な期間、それぞれの外面を強酸化剤と接触させること、及びそれぞれの外面を、酸化された表面に官能基を添加するのに好適な反応物質と更に接触させることによって、SWNT及び他のカーボンナノチューブの外面に導入され得る。好ましい酸化剤は、強酸中のアルカリ金属塩素酸塩の溶液から構成される。好ましいアルカリ金属塩素酸塩は、塩素酸ナトリウム又は塩素酸カリウムである。使用される好ましい強酸は、硫酸である。酸化に十分な期間は、約0.5時間~約24時間である。
【0056】
カーボンブラックも、導電性前駆体組成物及び/又は導電性組成物中で使用されてもよい。好ましいカーボンブラックは、約100nm未満、好ましくは約70nm未満、より好ましくは約50nm未満の平均粒径を有するものである。好ましい導電性カーボンブラックはまた、約200平方メートル毎グラム(m2/g)超、好ましくは約400m2/g超、更により好ましくは約1000m2/g超の表面積を有し得る。好ましい導電性カーボンブラックは、約40立方センチメートル毎100グラム(cm/100g)超、好ましくは約100cm/100g超、より好ましくは約150cm/100g超の細孔容積(フタル酸ジブチル吸収)を有し得る。例示的なカーボンブラックとしては、Columbian ChemicalsからConductex(登録商標)の商品名で市販されているカーボンブラック、Chevron ChemicalからS.C.F.(Super Conductive Furnace)及びE.C.F.(Electric Conductive Furnace)の商品名で市販されているアセチレンブラック、Cabot Corp.からVulcan XC72及びBlack Pearlsの商品名で入手可能なカーボンブラック、並びにAkzo Co.LtdからKetjen Black EC300及びEC600の商品名で市販されているカーボンブラックが、挙げられる。好ましい導電性カーボンブラックは、導電性前駆体組成物及び/又は導電性組成物の総重量に基づいて、約0.1重量%~約25重量%の量で使用され得る。
【0057】
固体導電性金属充填剤も、任意選択で、導電性前駆体組成物及び/又は導電性組成物中に使用されてもよい。固体導電性金属充填剤は、それらを有機ポリマー中に組み込み、そこから完成品を製造する際に使用される条件下で溶融しない導電性金属又は合金であり得る。アルミニウム、銅、マグネシウム、クロム、スズ、ニッケル、銀、鉄、チタン、及び前述の金属のうちのいずれか1つを含む混合物などの金属を、導電性充填剤として有機ポリマー中に組み込むことができる。物理的混合物及び真の合金、例えば、ステンレス鋼、青銅なども、導電性充填剤粒子として機能することができる。加えて、これらの金属のホウ化物、炭化物などのいくつかの金属間化合物(例えば、二ホウ化チタン)も、導電性充填剤粒子として機能することができる。酸化スズ、酸化インジウムスズなどの固体非金属導電性充填剤粒子も、任意選択で添加して、有機ポリマーを導電性にすることができる。
【0058】
いくつかの実施形態では、1つ又は2つの長寸法に沿った高アスペクト比炭素要素のサイズ(例えば、平均サイズ、中央サイズ、又は最小サイズ)は、少なくとも0.1μm、0.5μm、1μm、5μm、10μm、50μm、100μm、200μm、300、μm、400μm、500μm、600μm、7000μm、800μm、900μm、1,000μm以上であってもよい。例えば、いくつかの実施形態では、要素のサイズ(例えば、平均サイズ、中央サイズ、若しくは最小サイズ)は、1μm~1,000μmの範囲、又は1μm~600μmなどのその任意の部分範囲であってもよい。
【0059】
いくつかの実施形態では、要素のサイズは、比較的均一とすることができる。例えば、いくつかの実施形態では、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%又はそれ以上の要素は、要素の平均サイズの10%以内の1つ又は2つの長寸法に沿ったサイズを有し得る。
【0060】
ナノカーボンの官能化は、一般に、ナノカーボンの表面処理を含む。表面処理は、本明細書に記載されているもの又は当該技術分野において公知のものなどの任意の適切な技術によって実行され得る。ナノカーボンに適用される官能基は、活物質粒子とナノカーボンとの間の接着を促進するように選択され得る。例えば、様々な実施形態では、官能基としては、カルボキシル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシル基、アミン基、シラン基、チオール基、リン酸基、又はそれらの組み合わせが、挙げられ得る。
【0061】
いくつかの実施形態では、官能化炭素要素は、ナノフォーム炭素及び界面活性剤などの官能化材料を含む乾燥(例えば、凍結乾燥)水性分散液から形成される。いくつかのこのような実施形態では、水性分散液は、酸などの炭素要素を損傷する材料を実質的に含まない。
【0062】
いくつかの実施形態では、高アスペクト比炭素要素の表面処理は、ネットワークへの活物質の接着を促進する炭素要素上に配置された薄いポリマー層を含む。いくつかのこのような実施形態では、薄いポリマー層は、自己組織化及び/又は自己制限ポリマー層を含む。いくつかの実施形態では、薄いポリマー層は、例えば水素結合を介して活物質に結合する。
【0063】
いくつかの実施形態では、薄いポリマー層は、あれ、要素の短寸法の3倍、2倍、1倍、0.5倍、0.1倍だけ足りない(又はそれ以下の)、炭素要素の外面に垂直な方向の厚さを有してもよい。
【0064】
いくつかの実施形態では、薄いポリマー層は、例えばπ-π結合などの非共有結合を介して活物質に結合する官能基(例えば、側官能基)を含む。いくつかのそのような実施形態では、薄いポリマー層は、要素の少なくとも一部の上に安定した被覆層を形成し得る。
【0065】
いくつかの実施形態では、要素のいくつかの上の薄いポリマー層は、エネルギー貯蔵(すなわち、活性)材料を含む活性層の上及び下に配置された集電体又は接着層と結合し得る。例えば、いくつかの実施形態では、薄いポリマー層は、例えばπ-π結合などの非共有結合を介して、集電体又は接着層の表面に結合する側官能基を含む。いくつかのそのような実施形態では、薄いポリマー層は、要素の少なくとも一部の上に安定した被覆層を形成し得る。いくつかの実施形態では、この配置は、電極の優れた機械的安定性を提供する。
【0066】
いくつかの実施形態では、ポリマー材料は、上記の例に記載のタイプの溶媒に混和性である。例えば、いくつかの実施形態では、ポリマー材料は、メタノール、エタノール若しくは2-プロパノール(IPAと呼ばれることもあるイソプロピルアルコール)又はそれらの組み合わせなどのアルコールを含む溶媒に混和性である。いくつかの実施形態では、溶媒は、溶媒の特性を更に改善するために使用される1つ以上の添加剤、例えば、アセトニトリル(ACN)、脱イオン水、及びテトラヒドロフランなどの低沸点添加剤を含み得る。この例では、混合物は、NMPを含まない溶媒中で形成される。
【0067】
ポリマー層を形成するために使用され得る材料の適切な例は、ポリビニルピロリドンなどの水溶性ポリマーを含む。いくつかの実施形態では、ポリマー材料は、例えば、1,000,000g/mol、500,000g/mol、100,000g/mol、50,000g/mol、10,000g/mol、5,000g/mol、2,500g/mol以下又はそれ未満の低分子質量を有する。
【0068】
上述した薄いポリマー層は、従来の電極において使用されるバルクポリマーバインダーとは質的に異なることに留意されたい。薄いポリマー層は、活性層の体積のかなりの部分を充填するのではなく、高アスペクト比炭素要素の表面上に存在し、活物質粒子を保持するために利用可能な空隙空間の大部分を残す。
【0069】
例えば、いくつかの実施形態では、薄いポリマー層は、炭素要素201の短寸法に沿った炭素要素201のサイズの1倍以下、0.5倍、0.25倍、又はそれ未満の、ネットワークの外面に垂直な方向の最大厚さを有する。例えば、いくつかの実施形態では、薄いポリマー層は、僅か数分子の厚さ(例えば、100、50、10、5、4、3、2、又は更には1分子以下の厚さ)であってもよい。したがって、いくつかの実施形態では、活性層100の体積の10%、5%、1%、0.1%、0.01%、0.001%未満又はそれ未満が、薄いポリマー層によって充填される。
【0070】
なお更なる例示的な実施形態では、表面処理は、高アスペクト比炭素要素上に配置されたポリマー材料の熱分解から生じる炭素質材料の層を形成され得る。この炭素質材料の層(例えば、黒鉛状又は非晶質炭素)は、活物質粒子に付着(例えば、共有結合を介して)するか、そうでなければ活物質粒子との接着を促進し得る。好適な熱分解技術の例が、2020年5月22日に出願された米国特許出願第63/028,982号に記載されている。この技術における使用に適したポリマー材料の1つは、ポリアクリロニトリル(PAN)である。
【表1】
【0071】
図6を参照すると、第2のステップ42において、活物質が、第1のステップ41で形成された炭素分散体に添加される。活物質は、粒子として、又は他の好適な形態で提供され得る。
【0072】
様々な実施形態では、活物質は、リチウム金属酸化物などの金属酸化物など、エネルギー貯蔵装置での使用に適した任意の活物質を含んでもよい。例えば、活物質としては、リチウムコバルト酸化物(LCO、「コバルト酸リチウム(lithium cobaltate)」又は「コバルト酸リチウム(lithium cobaltite)」と呼ばれることもあり、可能な公式化がLiCoOである1つの変異体を有する化合物)、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC、LiNiMnCoの変形式を有する)、リチウムマンガン酸化物(LMO、LiMn、LiMnOなどの変形式を有する)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(LiNiCoAlO及びNCAとしてのその変異体)及びチタン酸リチウム酸化物(LTO、LiTi12である1つの変形式を有する)、リン酸鉄リチウム酸化物(LFP、LiFePOである1つの変形式を有する)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(及びNCAとしてその変異体)、並びに他の同様の他の材料が、挙げられ得る。前述の他の変異体が含まれてもよい。
【0073】
NMCが活物質として使用されるいくつかの実施形態では、ニッケルリッチNMCが使用され得る。例えば、いくつかの実施形態では、NMCの変異体は、LiNiMnCo1-x-yであってもよく、式中、xは、約0.7、0.75、0.80、0.85以上である。いくつかの実施形態では、いわゆるNMC811が、使用されてもよく、前述の式で、xは、約0.8であり、yは、約0.1である。
【0074】
いくつかの実施形態では、活物質は、他の形態のリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(LiNiMnCo)を含む。例えば、限定するものではないが、NMC111(LiNi0.33Mn0.33Co0.33)、NMC532(LiNi0.5Mn0.3Co0.2)、NMC622(LiNi0.6Mn0.2Co0.2)などの一般的な変異体を使用することができる。
【0075】
いくつかの実施形態では、例えば、電極がアノードとして使用される場合、活物質は、グラファイト、ハードカーボン、活性炭、ナノフォーム炭素、シリコン、酸化シリコン、炭素カプセル化シリコンナノ粒子を含み得る。いくつかのそのような実施形態では、電極の活性層は、例えば、当該技術分野において公知のプレリチウム化方法を使用して、リチウムによってインターカレートされ得る。
【0076】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の技術は、優れた機械的特性(例えば、本明細書に記載のタイプのエネルギー貯蔵装置における動作中の層間剥離がないこと)を依然として示しながら、活性層が、例えば、75重量%、80重量%、85重量%、90重量%、95重量%、99重量%、99.5重量%、99.8重量%又はそれ以上を超える、活性層中の材料の大きな割合で作製されることを可能にし得る。例えば、いくつかの実施形態では、活性層は、優れた機械的特性(例えば、本明細書に記載のタイプのエネルギー貯蔵装置における動作中の層間剥離がないこと)を依然として示しながら、そのような前述の大量の活物質及び大きな厚さ(例えば、50μm、100μm、150μm、200μm又はそれ以上を超える)を有することができる。
【0077】
活物質の粒子は、例えば、0.1μm~50マイクロメートルμmの範囲、又はその任意の部分範囲にサイズ決めされたメジアン粒子によって特徴付けられ得る。活物質の粒子は、単峰性、二峰性又は多峰性の粒径分布である粒径分布によって特徴付けられ得る。活物質の粒子は、0.1平方メートル/グラム(m/g)及び100メートル平方/グラム(m/g)の範囲、又はその任意の部分範囲の比表面積を有し得る。いくつかの実施形態では、活性層は、例えば、少なくとも20mg/cm 30mg/cm 40mg/cm 50mg/cm 60mg/cm 70mg/cm 80mg/cm 90mg/cm 100mg/cm 又はそれ以上の活物質の粒子の質量負荷を有してもよい。
【表2】
【0078】
第3のステップ43では、分散剤及び添加剤が、混合物に添加される。分散剤の例は、PVPである。ポリビニルピロリドン(PVP)は、一般に「ポリビドン」又は「ポビドン」とも呼ばれ、モノマーN-ビニルピロリドンから作製される水溶性ポリマーである。一般に、分散剤は、溶液重合のための乳化剤及び崩壊剤として、並びにナノ粒子合成及びそれらの自己集合における界面活性剤、還元剤、形状制御剤及び分散剤として機能する。分散剤の別の例は、水溶性樹脂技術を応用して開発された電極用水性バインダーの商品名であるAQUACHARGEを含む。AQUACHARGEは、日本の兵庫県の住友精化株式会社製である。同様の例が、「Binder for electrode formation, slurry for electrode formation using the binder,electrode using the slurry, rechargeable battery using the electrode, and capacitor using the electrode」と題する米国特許第8,124,277号に提供されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。更なる例は、アクリル酸の合成高分子量体であるポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸のナトリウム塩であるポリアクリル酸ナトリウムなどを含む。
【表3】

【表4】
【0079】
第4のステップ44では、集電体へのスラリーのコーティング、次いでコーティングされた集合体の乾燥が行われる。いくつかの実施形態では、最終スラリーがシートに形成され、必要に応じて集電体又は接着層などの中間層に直接コーティングされ得る。いくつかの実施形態では、最終スラリーがスロットダイを通して塗布され、塗布層の厚さを制御し得る。他の実施形態では、スラリーが塗布され、次いで、例えばドクターブレードを使用して所望の厚さに均され得る。スラリーを塗布するために、様々な他の技術が使用され得る。例えば、コーティング技術は、限定されないが、コンマコーティング;コンマリバースコーティング;ドクターブレードコーティング;スロットダイコーティング;直接グラビアコーティング;エアドクターコーティング(エアナイフ);チャンバドクターコーティング;オフセットグラビアコーティング;ワンロールキスコーティング;小径グラビアロールによるリバースキスコーティング;バーコーティング;3リバースロールコーティング(トップフィード);3リバースロールコーティング(注入ダイ);リバースロールコーティングなどを含み得る。
【0080】
最終スラリーの粘度は、適用技術に応じて変化し得る。例えば、コンマコーティングの場合、粘度は、約1,000cpsから約200,000cpsの範囲であり得る。リップダイコーティングは、約500cpsから約300,000cpsの粘度を示すスラリーによるコーティングを提供する。リバースキスコーティングは、約5cpsから1,000cpsの粘度を示すスラリーによるコーティングを提供する。いくつかの用途では、それぞれの層が複数パスによって形成され得る。
【表5】
【0081】
第5のステップ45において、カレンダ加工が実行される。いくつかの実施形態では、最終スラリーから形成された層は、集電体に適用される前又は後に(直接又は中間層上で)圧縮されてもよい(例えば、カレンダ加工装置を使用して)。いくつかの実施形態では、スラリーは、カレンダ加工(すなわち、圧縮)プロセスの前又は間に部分的又は完全に乾燥され得る(例えば、熱、真空又はそれらの組み合わせを適用することによって)。例えば、いくつかの実施形態では、層は、圧縮前の厚さの90%、80%、70%、50%、40%、30%、20%、10%未満又はそれ未満の(例えば、集電体層101の法線方向における)最終厚さに圧縮されてもよい。
【0082】
様々な実施形態では、コーティング又は圧縮プロセス中に部分的に乾燥した層が形成される場合、層は、その後完全に乾燥され得る(例えば、熱、真空又はそれらの組み合わせを適用することによって)。いくつかの実施形態では、実質的に全ての溶媒が活性層100から除去される。
【0083】
いくつかの実施形態では、スラリーの形成に使用される溶媒は回収され、スラリー製造プロセスにリサイクルされる。
【0084】
いくつかの実施形態では、層は、例えば、構成する高アスペクト比炭素要素又は他の炭素質材料の一部を破壊してそれぞれの層の表面積を増加させるために圧縮されてもよい。いくつかの実施形態では、この圧縮処理は、接着、イオン輸送速度、及び表面積のうちの1つ以上を増加させ得る。様々な実施形態では、層が電極に適用されるか又は電極上に形成される前又は後に圧縮が適用されることができる。
【0085】
カレンダ加工が、層を圧縮するために使用されるいくつかの実施形態では、カレンダ加工装置は、層の圧縮前の厚さの90%、80%、70%、50%、40%、30%、20%、10%未満又はそれ未満に等しいギャップ間隔で設定されてもよい(例えば、層の圧縮前厚さの約33%に設定される)。カレンダロールは、例えば、ロール長さ1cm当たり1トン超、ロール長さ1cm当たり1.5トン超、ロール長さ1cm当たり2.0トン超、ロール長さ1cm当たり2.5トン超、又はそれ以上の適切な圧力を提供するように構成されることができる。いくつかの実施形態では、後圧縮層は、1g/ccから10g/ccの範囲、又は2.5g/ccから4.0g/ccなどのその任意の部分範囲の密度を有する。いくつかの実施形態では、カレンダ加工プロセスは、20℃から140℃の範囲又はその任意の部分範囲の温度で実行され得る。いくつかの実施形態では、層は、カレンダ加工の前に、例えば、20℃から100℃の範囲又はその任意の部分範囲の温度で予熱されてもよい。
【0086】
集電体上の層の製造の態様が、図7及び図8に示されている。図7では、活物質が官能化炭素のネットワーク内に分散していることが分かり得る。官能化炭素と活物質とのネットワークが、集電体上に配置される。図8も参照すると、カレンダ加工プロセス後、活物質と官能化カーボンナノ材料との組み合わせにより、集電体上に配置された密な層がもたらされることが分かり得る。
【表6】
【0087】
図9図15は、本明細書の教示に従って製造された活物質の態様及び活物質の層の断面を示す顕微鏡写真である。本明細書でまとめて図9と称される図9A及び図9Bは、ニッケルが豊富で、活物質に有用な粉末を示す。本明細書でまとめて図10と称される図10A及び図10Bは、ニッケルが豊富であったNMC材料で製造された電極の表面形態を示す。これらの実施例では、電極は、コーティング及び乾燥プロセスの後に見たものである。材料を、1%の界面活性剤(CTAPF6)、0.25%の分散剤(PVP)、及び3%の3Dナノ炭素材料を用いて製造した。活物質を、集電体としてのアルミ箔の片面にコーティングした。本明細書でまとめて図11と称される図11A及び図11Bは、側断面図からの図10の電極を示す。本明細書でまとめて図12と称される図12A及び図12Bは、中央断面の断面図からの図10及び図11の電極を示す。
【0088】
本明細書でまとめて図13と称される図13A及び図13Bは、ニッケルが豊富であったNMC材料で製造された電極の断面側面図を示す。これらの実施例では、電極は、コーティング及び乾燥プロセスの後に見たものである。材料を、1%の界面活性剤(CTAPF6)、0.25%の分散剤(PVP)、及び3%の3Dナノ炭素材料を用いて製造した。活物質を、集電体としてのアルミ箔シートの両面にコーティングした。活物質の質量負荷は、約15mg/cmであり、押圧密度は、約3.5gm/cmであった。図14は、図13の電極の上面断面図を示す。本明細書でまとめて図15と称される図15A及び図15Bは、図13及び図14の電極の別の上面断面図を示す。図16は、活物質の2つの別個のバッチの機械的試験の態様を示す図である。
【0089】
図17は、グラフであり、示すことは、本明細書の教示に従って構築された半セルのCレートである。半セルは、22.5mg/cmであったNCM活物質の面負荷を含んだ。この例では、「最良のプロセス」曲線は、本明細書の教示に従って製造されたバインダーフリー電極を表す。「旧のプロセス」曲線は、本明細書に開示されるこれらの界面活性剤及び分散剤なしで製造されたバインダーフリー電極を表す。「PVDF」曲線は、従来技術で製造された電極を使用したセルの性能を表す。この例では、半セルは、パウチセル構造であった。以下の表に提供されているにおける初期比及びCレート(initial specific and C-Rate)の試験結果。作用電極サイズは、45x45mm、Li対電極は、46x46mmであった。電解質は、EC/DMC(体積比1/1)中1M LiPF6+1%VCであった。
【表7】
【0090】
図18に、フルパウチセルの試験結果を示す。この例では、カソードは、45×45mmのNiリッチNMCであり、アノードは、46×46mmのグラファイト電極であった。電解質は、EC/DMC(体積比1/1)中1M LiPF6+1%VCであった。N/P比=約1.1。HPPC抵抗は、従来のPVDFプロセスと比較して、はるかに低いことが分かり得る。図19に示されるように、本明細書の教示によるカソードにおけるより低い充電抵抗は、10パーセントの充電状態での改善された性能をもたらす。図20は、本明細書の教示に従って製造されたカソードによって、サイクル安定性が改善されることを示す。
【0091】
別のパウチセルを、試験のために構築した。パウチセルの構造が、図21に示されている。この第2の実施形態では、カソードは、45×45mm、28~30mg/cmの質量負荷を有するNiリッチNMCであり、アノードは、46×46mm、8~9mg/cmの質量負荷を有するグラファイト/SiO(45%SiO)電極の組み合わせであった。電解質は、PC:FEC:EMC:DEC=20:10:50:20中1.1M LiPF6であった。N/P比=約1.04~1.10。NMCカソード及び45%SiOxアノード両方の電極製造プロセスが、本明細書に記載のプロセスとともに使用され、3Dナノカーボンマトリックスと組み合わせたハイブリッド界面活性剤及び分散剤を使用する。リチウムイオン電池のフルセル比エネルギーは、90%のパウチセルパッケージ効率で約332Wh/kgであり、パッケージ効率が95%に増加した場合は、351Wh/kgであった。エネルギー密度は、90%のパウチセルパッケージ効率及び10%のパウチセル体積膨張の場合、約808Wh/Lであり、エネルギー密度は、95%のパウチセルパッケージ効率及び10%のパウチセル体積膨張の場合、約853Wh/Lであった。特許請求された電極製造プロセスに基づくカソード及びアノードの初期第1のサイクルの充電比容量は、約228mAh/g及び852mAh/gであり、特許請求された電極製造プロセスに基づくカソード及びアノードの初期第1サイクルの放電比容量は、約210mAh/g及び750mAh/gであった。この例では、LiBフルセル容量は、0.1Cレートの定電流充放電下で、初回充電容量240mAh、及び4.2Vから2.5Vまでの初回放電容量216mAhである。初期クーロン効率は、約90%である。このセルのこのデータ及び電気的性能の態様が、図22図26に記載されている。
【0092】
図27は、一連の写真を含むグラフである。図27で分かり得るように、得られた電極は、いくつかの物理的試験で一般的に生じ得るようなひび割れ又は応力を示さなかった。試験セルの更なる態様が、以下の表に記載されている。
【表8】
【0093】
上記の表から、90%のパッケージング効率でのエネルギー密度は、325ワット時毎キログラム(Wh/kg)超、好ましくは330Wh/kg超であることが分かり得る。95%のパッケージング効率では、エネルギー密度は340Wh/kgを超え、好ましくは350Wh/kgを超える。パッケージングなしでのエネルギー密度は、360Wh/kgを超え、好ましくは365Wh/kgを超える。
【0094】
実施例1
この実施例は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含有する従来の電極と、水溶性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン(PVP))を含む本開示の電極との間の違いを実証するために実施された。カソードは、式LiNiMnCo1-x-y(式中、xは約0.8であり、yは約0.1である)を有するNMC811活物質を含有した。導電性ネットワークは、カーボンナノチューブを含む。
【0095】
図28は、従来の電極(ポリフッ化ビニリデン(PVDF))を含む貯蔵装置及びポリビニルピロリドン(PVP)を有する電極を含む貯蔵装置の放電容量対放電Cレートを示すグラフである。4.5レートの放電下では、PVP電極を含む貯蔵装置は、30%の電荷保持容量(約59mAh/g)を示すPVDF対照試料と比較して、69%の電荷保持容量(145mAh/g超)を示す。NMC811活物質でのPVP表面処理を含む貯蔵装置は、PVDF対照装置と比較して、性能を少なくとも2倍向上させる。
【0096】
図29A及び図29Bは、それぞれ、本開示の電極(PVPを含有する)対従来の電極(PVDFを含有する)のグラフプロットを示す。図29Aは、PVPを含有する電極の比容量に対する電位対Li/Li+を示すプロットである一方、図29Bは、PVDFを含有する電極の比容量に対する電位対Li/Li+を示すプロットである。(対電極としてLiを使用する)半セルでの3.4C/分高速充電下で、本開示の電極(PVPを含有する)は、PVDFを含有する従来の電極よりも少なくとも2倍大きい高速充電容量を示す。
【0097】
5.6mAh/cmの高負荷下であっても、PVPを含有する電極は、162mAh/gの比充電容量を示す一方、PVDF対照は、70mAh/gの比充電容量しか示さない。
【0098】
実施例2
この実施例は、PVPを含有する水溶性表面処理のアノードでの使用を実証する。導電性ネットワークは、カーボンナノチューブを含む。アノード活物質は、シリコン炭素(Si-C)含有材料である。アノードを機械的特性について試験した。2ミリメートルマンドレルテストでは、(PVP及びシリコン炭素(Si-C)含有材料を含有するアノード活性層は、235ニュートン毎メートルの平均強度を示し、255ニュートン毎メートルの最大値を伴った。活性層は、1234mAh/グラムの初期Li充電比容量及び1116mAh/グラムの初期Li放電比容量を示した。初期クーロン効率(ICE)値は、約90%である。
【0099】
実施例3
一実施形態では、セルサイズ46mm(L)×46mm(W)×3.4mm(T)の貯蔵装置を使用して、スタック厚さに基づいて、放電容量及びエネルギー密度を決定した。セルは、1.5Ahセルである。以下の表に結果を示す。
【表9】
【0100】
パウチセルパッケージ効率は、9層のNMC811カソード及び10層のSi-Cアノードに対して(例えば、1.5Ahセルに対して)約86%である。しかしながら、それは、より多くのスタック層を有する5Ah超である大型パウチセルにおいて、95%の効率まで増加させることができる。表中の前述のデータから、シリコン含有アノード(5.3mg/cm2)は、同じ小さなパウチセルフォーマット及び層数を有するグラファイトアノード(16mg/cm)(24mg/cmのNMC811カソードに匹敵する)と比較して、30%超だけ比エネルギー及びエネルギー密度を改善し得ることが分かり得る。
【0101】
図30は、放電エネルギー(パーセンテージで表される)対サイクル数のプロットを示す。カーボンナノチューブをPVPで処理した。アノード活性層はS-Cを含有した一方、カソードは、NMC811を含有した。多層セルを1.5Ahで動作させた。図から、3V及び500サイクルでの放電エネルギーは約90%である一方、2.8V及び500サイクルでは約80%であることが分かり得る。
【0102】
本明細書の教示の態様を提供するために、様々な他の構成要素が含まれ、必要とされてもよい。例えば、本明細書の教示の範囲内にある追加の実施形態を提供するために、追加の材料、材料の組み合わせ、及び/又は材料の省略が使用されてもよい。本明細書の教示の様々な変更が実現され得る。一般に、変更は、ユーザ、設計者、製造者、又は他の同様の関係者のニーズに従って設計され得る。変更は、その当事者が重要と考える特定の性能基準を満たすことを意図し得る。
【0103】
添付の特許請求の範囲又は請求項の要素は、「のための手段」又は「のためのステップ」という単語が特定の請求項において明示的に使用されない限り、米国特許法第112条(f)を発動すると解釈されるべきではない。
【0104】
本発明又はその実施形態の要素を導入する場合、冠詞「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、1つ以上の要素があることを意味することを意図している。同様に、形容詞「別の(another)」は、要素を導入するために使用される場合、1つ以上の要素を意味することを意図している。「含む(including)」及び「有する(having)」という用語は、列挙された要素以外の追加の要素が存在し得るように包括的であることを意図している。本明細書で使用される場合、「例示的」という用語は、上位の例を意味することを意図しない。むしろ、「例示的」は、多くの可能な実施形態のうちの1つである実施形態の例を指す。
【0105】
例示的な実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行い得て、その要素を均等物で置き換え得ることが当業者には理解されよう。更に、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の器具、状況又は材料を本発明の教示に適合させるために、多くの変更が当業者によって理解されるであろう。したがって、本発明は、本発明を実施するために企図された最良のモードとして開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、添付の特許請求の範囲内に入る全ての実施形態を含むことが意図される。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図14
図15A
図15B
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29A
図29B
図30
【国際調査報告】