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特表2024-533461シス作用性調節エレメントによるプライム編集システム効率の改善
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】シス作用性調節エレメントによるプライム編集システム効率の改善
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20240905BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/54 ZNA
C12N15/55
C12N15/63 Z
C12N15/86 Z
C12N9/10
C12N9/16 Z
C12N5/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515892
(86)(22)【出願日】2022-09-09
(85)【翻訳文提出日】2024-05-10
(86)【国際出願番号】 US2022076175
(87)【国際公開番号】W WO2023039508
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】63/243,423
(32)【優先日】2021-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/363,247
(32)【優先日】2022-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】311016949
【氏名又は名称】シグマ-アルドリッチ・カンパニー・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Sigma-Aldrich Co. LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】カン,チャオホア
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、i)CRISPR-Casタンパク質をコードする配列、ii)逆転写酵素をコードする配列、およびiii)シス作用性調節エレメントをコードする配列を含む合成核酸組成物、および、その使用の方法である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)CRISPR-Casタンパク質をコードする配列、ii)逆転写酵素をコードする配列、およびiii)シス作用性調節エレメントをコードする配列を含む、合成核酸組成物。
【請求項2】
前記CRISPR-Casタンパク質がnCas9-H840Aである、請求項1に記載の合成核酸組成物。
【請求項3】
前記逆転写酵素がM-MLV-RTである、請求項1または2のいずれかに記載の合成核酸組成物。
【請求項4】
前記シス作用性調節エレメントがdENEまたはENEである、請求項1-3のいずれかに記載の合成核酸組成物。
【請求項5】
前記シス作用性調節エレメントがsRSM1である、請求項1-3のいずれかに記載の合成核酸組成物。
【請求項6】
前記核酸がDNAである、請求項1-5のいずれかに記載の合成核酸組成物。
【請求項7】
前記核酸がRNAである、請求項1-5のいずれかに記載の合成核酸組成物。
【請求項8】
前記組成物がさらに発現プロモーターを含む、請求項1-7のいずれかに記載の合成核酸組成物。
【請求項9】
前記組成物が発現ベクターに含まれる、請求項8に記載の合成核酸組成物。
【請求項10】
前記組成物がトランスフェクションウイルスに組み込まれている、請求項8に記載の合成核酸組成物。
【請求項11】
前記シス作用性調節エレメントがCRISPR-Cas9配列の終止コドンの後かつmRNAターミネーターの前に位置する、請求項1-10のいずれかに記載の合成核酸組成物。
【請求項12】
さらにプライム編集ガイドRNA(pegRNA)を含み、前記pegRNAがPE1、PE2、およびPE2のうち1つに由来する、請求項1-11のいずれかに記載の合成核酸組成物。
【請求項13】
請求項1-11のいずれかに記載の合成核酸組成物によってコードされる、アミノ酸配列。
【請求項14】
内因性DNA配列を改変する方法であって、
a)i)1)CRISPR-Casタイプ2システムタンパク質をコードする配列、2)逆転写酵素をコードする配列、および3)シス作用性調節エレメントを含む配列、を含む合成核酸組成物を含む、動作可能な発現ベクター;ii)プライム結合部位(PBS)を含むプライム編集ガイドRNA(pegRNA);およびiii)PBSと少なくとも50%相補的である標的内因性DNA配列を含む細胞、を提供すること;
b)対象の内因性DNA配列を含む細胞を、本発明の合成核酸組成物およびpegRNAでトランスフェクトすること;および
c)前記トランスフェクトされた細胞を、内因性DNA配列に所望の改変が為されるように培養すること
を含む、方法。
【請求項15】
前記CRISPR-Casタイプ2システムタンパク質がCas9タンパク質である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記内因性DNA配列がPBSと少なくとも75%相補的である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記内因性DNA配列がPBSと少なくとも90%相補的である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記内因性DNA配列がPBSと少なくとも95%相補的である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記内因性DNA配列がPBSと少なくとも98%相補的である、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記内因性DNA配列がPBSと100%相補的である、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記CRISPR-Casタンパク質がnCas9-H840Aである、請求項14-20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記逆転写酵素がM-MLV-RTである、請求項14-21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記シス作用性調節エレメントがDeneまたはENEである、請求項14-22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記シス作用性調節エレメントがsRSM1である、請求項14-22のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記動作可能な発現ベクターがDNAである、請求項14-24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記動作可能な発現ベクターがRNAである、請求項14-24のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記組成物がトランスフェクションウイルスに組み込まれている、請求項14-26のいずれかに記載の合成核酸組成物。
【請求項28】
前記シス作用性調節エレメントがCRISPR-Cas9配列の終止コドンの後かつmRNAターミネーターの前に位置する、請求項14-27のいずれかに記載の合成核酸組成物。
【請求項29】
前記pegRNAがPE1、PE2、およびPE3のうち1つに由来する、請求項14-28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記CRISPR/Casタイプ2システムタンパク質が、動作可能な発現ベクターにおいてコードされて細胞に導入される、請求項14-29のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本願は、2021年9月13日に出願の米国仮出願第63/243,423号、および2022年4月20日に出願の米国仮出願第63/363,247号を基礎とする優先権の効果を主張する。両出願の内容すべてが、参照によって本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
標的化ゲノム改変は、真核生物の細胞、胚および動物の操作を含む、DNAの遺伝子操作のための強力なツールである。例えば、外因性の配列をゲノムの標的部位へと統合することができ、および/または、特定の内因性DNA(例えば染色体DNA)配列を除去、不活性化あるいは改変することができる。CRISPR/Cas9方法論(Perez-Pinera P, Ousterout DG, Gersbach CA, Advances in targeted genome editing, Curr Opin Chem Biol., 2012, 16(3-4):268-77; Hsu PD, Lander ES, Zhang F, Development and Applications of CRISPR-Cas9 for Genome Engineering, Cell, 2014, 157(6): 1262-1278)以前は、本方法は例えばジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)または転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)などの合成ヌクレアーゼ酵素の使用に依存していた。これらのキメラヌクレアーゼは、非特異的DNA切断ドメインと連結された、プログラム可能な配列特異的DNA結合モジュールを含む。しかしながら、新たなゲノム標的ごとに、新たな配列特異的DNA結合モジュールを含むZFNまたはTALENを新たに設計することが求められる。したがって、このようなカスタム設計されたヌクレアーゼは調製するのに費用および時間を要する傾向にある。さらに、ZFNおよびTALENの特異性は、オフターゲット切断を引き起こし得るものである。
【0003】
CRISPR/Cas9テクノロジーは、DNA配列、特にインビボにおける真核生物の配列を標的とし、操作する技術者の能力を大きく高めた。しかしながら、CRISPRシステムそのものに制限が無いわけではない。例えば、CRISPR/Cas9システムは二重鎖切断(DSB)を生成することで作用し、このDSBは、切断部位における挿入、欠失または塩基置換を可能にする。しかしながら、DSBは、例えば転座などの望まない結果にも関連する。さらに、不幸なことではあるが、病的アレルは非常に正確な挿入、欠失または塩基置換に起因するため、これを修正するためには正確な遺伝子編集が求められる。現存のテクノロジーは、必要とされる精度および/または効率を欠いているか、または許容できない結果をもたらすことが多い。
【0004】
最近、Anzaloneらは、CRISPRをベースとした、プライム編集と呼ばれるシステムを開発した(Anzalone, et al., Nature, 05 Dec. 2019. 576:149-157)。プライム編集システムは二重鎖切断またはドナーDNAを伴わずに“探索および置換”ゲノム編集を行うことを可能にする。著者によって、このシステムは“標的化した、挿入、欠失およびあり得る塩基-塩基置換12通りの全て、およびそれらの組み合わせを、ヒトの細胞において媒介する、遺伝子編集”を可能にすると説明されている(同上, p 149)。しかしながら、プライム編集については“......効率に影響する因子は未だ幅広く調べられていない”ことが、当技術において知られている(Kim, et al., Nature Biotechnology, Feb. 2021, Vol 39, 198 - 206)。必要なのは、プライム編集システムの効率を向上させる組成物および方法である。
【発明の概要】
【0005】
本発明の様々な態様には、プライム編集システムの効率を実質的に向上させる組成物および方法がある。
【0006】
非限定的な例示において、本発明のプライム編集システム(Prime Editing System:PES)は、Cas9(H840A)ニッカーゼ-逆転写酵素(RT)融合タンパク質およびプライム編集ガイドRNA(pegRNA)を含む。PE:pegRNA複合体は標的DNAに結合し、PAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)を含む鎖に切れ目を入れる。これによって生じた3’末端はプライマー結合部位とハイブリダイズし、また次に、pegRNAの転写酵素テンプレートを用いて、所望の編集を含む新たなDNAの逆転写を促す。そして、編集された3’フラップと未編集の5’フラップとの間の平衡、細胞による5’フラップ切断および接合、およびDNA修復によって、安定な編集済DNAをもたらす(Anzalone, et al., 2019)(図1:先行技術を参照)。図1において表されたシステムに代表されるような現存のプライムエディターは、所望の高い効率を示さず、そのせいで、研究または医療の分野のいずれにおいてもそれらのさらなる使用が制限されている。
【0007】
現存のプライム編集テクノロジーは、例えばCas9(H840A)ニッカーゼ-逆転写酵素(RT)融合タンパク質と、それに組み合わされたプライム編集ガイドRNA(pegRNA)を採用している。プライム編集テクノロジーによる所望の編集は、編集された3’フラップと未編集の5’フラップとの間の平衡に依存している。Cas9(H840A)ニッカーゼ-RT融合タンパク質の大きなサイズのせいで、前記Cas9(H840)ニッカーゼ-RT融合タンパク質を標的細胞に安定的かつ効率的に発現させるのは一貫して達成困難であり、また、このことは、PESによって所望の編集を得ることに影響する。
【0008】
この問題に対処するため、発明者らは、シス作用性調節エレメント(cis-acting regulatory element)(例えばdENEまたはsRSM1)をCas9(H840A)ニッカーゼ-RT融合タンパク質発現カセットに組み込むことで(図2)、そのmRNAの安定性およびタンパク質発現を向上させた。発明者らは、これによって、プライム編集だけでなく、CRISPR-Cas9、CRISPR-Cas9ニッカーゼ、CRISPRi、CRISPRaなどを含む、エフェクタータンパク質の発現を含むその他任意の遺伝子編集テクノロジーの効率が大きく向上し得ると考える。下記の実施例のセクションで示されるように、本発明は、所望の編集の特徴を変更することなく、また、プライム編集複合体にいかなる追加の構成要素も加えることなく、現存のプライム編集システムの効率を大きく向上させる。
【0009】
したがって、本発明は、プライム編集の効率を実質的に向上させる組成物および方法を目指すものである。
【0010】
ある態様において、本発明は、i)CRISPR-Casタンパク質をコードする配列、ii)逆転写酵素をコードする配列、およびiii)シス作用性調節エレメントをコードする配列を含む、合成核酸組成物を企図する。
【0011】
本発明の合成核酸組成物によってコードされるCRISPR-Casタンパク質は、当業者に知られるいずれのCRISPR-Casタンパク質であってもよい。本発明のある態様において、CRISPR-Casタンパク質はnCas9-H840Aである。
【0012】
合成核酸組成物によってコードされる逆転写酵素は、当業者に知られるいずれの逆転写酵素であってもよい。本発明のある態様において、逆転写酵素はM-MLV-RTである。
【0013】
本発明の合成核酸組成物によってコードされるシス作用性調節エレメントは、当業者に知られるいずれのシス作用性調節エレメントであってもよい。本発明のある態様において、シス作用性調節エレメントはdENE、ENEまたはsRSM1である。
【0014】
本発明のある態様において、本発明の合成核酸組成物はDNAである。
【0015】
本発明のある態様において、本発明の合成核酸組成物はRNAである。
【0016】
本発明は、本発明の合成核酸組成物がさらに発現プロモーターを含むことを企図する。
【0017】
本発明はさらに、本発明の合成核酸組成物が発現ベクターに含まれることを企図する。
【0018】
本発明はさらに、本発明の合成核酸組成物がトランスフェクションウイルスに組み込まれていることを企図する。
【0019】
本発明はさらに、本発明の合成核酸組成物のシス作用性調節エレメントが、CRISPR-Cas9配列の終止コドンの後かつmRNAのターミネーターの前に位置することを企図する。
【0020】
本発明はさらに、本発明の合成核酸組成物がさらにプライム編集ガイドRNA(pegRNA)を含み、このpegRNAがPE1、PE2およびPE2のうちの1つに由来することを企図する。
【0021】
本発明はさらに、本発明の合成核酸組成物によってコードされるアミノ酸配列も企図する。
【0022】
本発明は、使用方法も対象とする。ある態様において、本発明は内因性DNA配列を改変する方法を企図し、この方法は、i)1)CRISPR-Casタイプ2システムタンパク質をコードする配列、2)逆転写酵素をコードする配列、および3)シス作用性調節エレメントを含む配列、を含む合成核酸組成物を含む、動作可能な発現ベクター、ii)プライム結合部位(PBS)を含むプライム編集ガイドRNA(pegRNA)、およびiii)PBSに対して少なくとも50%相補的な標的内因性DNA配列を含む細胞を提供すること、対象の内因性DNA配列を含む細胞を、本発明の合成核酸組成物およびpegRNAでトランスフェクトすること、および、内因性DNA配列に所望の改変が為されるように前記トランスフェクトされた細胞を培養すること、を含む。
【0023】
本発明はさらに、本発明の方法において使用する合成核酸組成物が、当業者に知られるいずれのCRISPR-Casタンパク質であってもよいことを企図する。本発明のある態様において、CRISPR-Casタイプ2システムタンパク質はCas9タンパク質である。
【0024】
本発明の方法はさらに、内因性DNA配列がPBSと少なくとも75%相補的であることを企図する。
【0025】
本発明の方法はさらに、内因性DNA配列がPBSと少なくとも90%相補的であることを企図する。
【0026】
本発明の方法はさらに、内因性DNA配列がPBSと少なくとも95%相補的であることを企図する。
【0027】
本発明の方法はさらに、内因性DNA配列がPBSと少なくとも98%相補的であることを企図する。
【0028】
本発明の方法はさらに、内因性DNA配列がPBSと100%相補的であることを企図する。
【0029】
本発明の方法はさらに、CRISPR-Casタンパク質が当業者に知られるいずれのCRISPR-Casタンパク質であってもよいことを企図する。本発明のある態様において、CRISPR-Casタンパク質はnCas9-H840Aである。
【0030】
本発明の方法はさらに、逆転写酵素が当業者に知られるいずれの逆転写酵素であってもよいことを企図する。本発明のある態様において、逆転写酵素はM-MLV-RTである。
【0031】
本発明の方法はさらに、シス作用性調節エレメントが当業者に知られるいずれのシス作用性調節エレメントであってもよいことを企図する。本発明のある態様において、シス作用性調節エレメントはdENE、ENEおよびsRSM1から選択される。
【0032】
本発明の方法はさらに、本発明の合成核酸をコードする動作可能な発現ベクターがDNAであることを企図する。
【0033】
本発明の方法はさらに、本発明の合成核酸をコードする動作可能な発現ベクターがRNAであることを企図する。
【0034】
本発明の方法はさらに、本発明の合成核酸組成物がトランスフェクションウイルスに組み込まれていることを企図する。
【0035】
本発明の方法はさらに、本発明の合成核酸組成物のシス作用性調節エレメントが、CRISPR-Cas9配列の終止コドンの後かつmRNAのターミネーターの前に位置することを企図する。
【0036】
本発明の方法はさらに、pegRNAがPE1、PE2およびPE3のうちの1つに由来することを企図する
【0037】
本発明の方法はさらに、CRISPR/Casタイプ2システムが、動作可能な発現ベクターにおいてコードされ、細胞に導入されることを企図する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】先行技術で説明されるような、プライム編集テクノロジーの図解を示す。nCas9(H840A)=Cas9(H840A)ニッカーゼ、RT=逆転写酵素、PBS=プライム結合部位。
図2】プライム編集発現カセットに対するシス作用性調節エレメントの導入の図解を示す。
図3】PE2-dENEがPE2の編集効率を高めることを示す。
図4】PE3-dENEがPE3の編集効率を高めることを示す。
図5】3’-UTR dENEが、K562細胞において、HEK3標的におけるPEの編集効率を向上させることを示す。
図6】3’-UTR dENEが、HEK293細胞において、HEK3標的におけるPEの編集効率を向上させないことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
定義
他に定義されない限り、本明細書で用いられる全ての技術的用語および科学的用語は、本発明の属する技術分野における当業者によって一般的に理解される意味を有する。以下の参考文献は、本発明において用いられる多くの用語の一般的な定義を当業者に提供する:(Singleton, et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology (2nd ed. 1994); The Cambridge Dictionary of Science and Technology (Walker ed., 1988); The Glossary of Genetics, 5th Ed., R. Rieger, et al. (eds.), Springer Verlag (1991); and Hale & Marham, The Harper Collins Dictionary of Biology (1991))。他に述べられない限り、本明細書で用いられる以下の用語は、これらの技術文献に則った意味を有する。
【0040】
本開示の要素またはその好ましい実施形態について述べるとき、冠詞“a”、“an”、“the”、および“前記”は、1つまたはそれ以上の要素が存在することを意味すると意図される。“含む”および“有する”という用語は、包含的であると意図され、列挙した要素以外にも追加の要素が存在し得ることを意味する。
【0041】
“~を含む”、“本質的に~からなる”および“~からなる”という移行句は、MPEP2111.03(特許審査手続便覧;米国特許商標庁)に示される意味を有する。移行句“本質的に~からなる”を用いるあらゆる請求項は、本発明の本質的な要素のみを記載していると理解され、従属する請求項に記載される他のいかなる要素も、従属の基礎となる請求項に記載される発明にとって本質的ではないと理解される。
【0042】
本明細書で用いる“内因性配列”という用語は、その細胞にとって天然の染色体配列のことを表す。
【0043】
本明細書で用いる“外因性”という言葉は、その細胞にとって天然ではない配列、または、染色体配列であって、細胞のゲノムにおけるその天然の位置が、異なる染色体上の位置にある配列のことを表す。
【0044】
本明細書で用いる“遺伝子”は、遺伝子産物をコードする(エキソンおよびイントロンを含む)DNA領域だけでなく、遺伝子産物の産生を調節する全てのDNA領域のことを、コードする配列および/または転写される配列にそのようなDNA領域が隣接しているかどうかに関わりなく、表す。したがって、遺伝子は、プロモーター配列、ターミネーター、リボソーム結合部位および内部リボソーム進入部位(internal ribosome entry site)などの翻訳調節配列、エンハンサー、サイレンサー、インスレーター、境界エレメント(boundary elements)、複製起点、マトリックス付着領域、および遺伝子座制御領域(locus control region)を含むが、必ずしもこれらに限定されない。
【0045】
“異種性の”という用語は、対象の細胞において内因性ではない、または天然のものではない物質を指す。例えば、異種性のタンパク質とは、外因性の供給源に由来するか、または本来由来していたタンパク質のことを表す。場合によっては、異種性のタンパク質は、通常は対象の細胞によって産生されない。
【0046】
“核酸”または“ポリヌクレオチド”という用語は、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドのポリマーであって、直鎖状あるいは環状の構造をとり、一本鎖あるいは二重鎖のいずれかの形態であるポリマーを表す。本開示の目的のため、これらの用語は、ポリマーの長さに関する限定としては解釈されない。これらの用語は天然ヌクレオチドの既知のアナログだけでなく、塩基、糖および/またはリン酸部分(例えばホスホロチオエート骨格)において修飾を受けたヌクレオチドを含む。一般的には、特定のヌクレオチドのアナログは、それと同様の塩基対形成の特異性を有する。すなわち、AのアナログはTと塩基対を形成する。
【0047】
“合成核酸”という用語は、インビトロで(例えば研究室で、かつ手動あるいは核酸合成機で)合成されたヌクレオチド配列であって、かつその配列が天然に存在しないものを表す。合成核酸の配列は、例えばDNAまたはRNA、またはそれらが下記のような修飾を受けたものであってよく、その配列が天然産生のものでない限りは、いかなる長さであってもよく、かつ、いかなるヌクレオチド配列であってもよい。
【0048】
“ヌクレオチド”という用語はデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドを表す。ヌクレオチドは、標準的なヌクレオチド(すなわち、アデノシン、グアノシン、シチジン、チミジン、およびウリジン)であってもよく、またはヌクレオチドアナログであってもよい。ヌクレオチドアナログとは、修飾プリンまたは修飾ピリミジン塩基、または修飾リボース部分を有するヌクレオチドのことを表す。ヌクレオチドアナログは天然のヌクレオチド(例えばイノシン)、または天然のものでないヌクレオチドであってもよい。糖部分または塩基部分における非限定的な修飾の例は、アセチル基、アミノ基、カルボキシ基、カルボキシメチル基、ヒドロキシ基、メチル基、ホスホリル基、およびチオール基の追加または除去、および、塩基の炭素原子および窒素原子を別の原子で置換すること(例えば7-デアザプリン)を含む。ヌクレオチドアナログはジデオキシヌクレオチド、2’-O-メチルヌクレオチド、ロック核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)、およびモルフォリノも含む。
【0049】
“ポリペプチド”および“タンパク質”という用語は、アミノ酸残基のポリマーを表すために、互換的に用いられる。
【0050】
核酸およびアミノ酸配列の同一性を決定するための手法が、当技術で知られている。典型的には、そのような手法は、ある遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列を決定することおよび/またはそれによってコードされるアミノ酸配列を決定することを含み、また、これらの配列を、第2のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列と比較することを含む。ゲノムの配列もまた、この方法で決定および比較され得る。一般的には、同一性とは、2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチドの、それぞれヌクレオチド-ヌクレオチド間またはアミノ酸-アミノ酸間の正確な対応を表す。2つ以上の配列(ポリペプチドまたはアミノ酸)が、それらの同一性パーセントを決定することで比較され得る。2つの配列の同一性パーセントは、ヌクレオチド配列であれアミノ酸配列であれ、整列された2つの配列の正確な一致の数を、短い方の配列の長さで割り、100をかけた値である。核酸配列の近似的アラインメントが、SmithおよびWatermanの局所的相同性アルゴリズム(local homology algorithm)(Advances in Applied Mathematics 2:482-489 (1981))によって提供される。このアルゴリズムは、Dayhoffのスコアマトリックス(Atlas of Protein Sequences and Structure, M. O. Dayhoff ed., 5 suppl. 3:353-358, National Biomedical Research Foundation, Washington, D.C., USA)を用いることでアミノ酸配列に適用することができ、また、Gribskov(Nucl. Acids Res. 14(6):6745-6763 (1986))によって正規化することができる。配列の同一性パーセントを決定するためのこのアルゴリズムの例示的な実装は、Genetics Computer Group (Madison, Wis.)によって、“BestFit”というユーティリティアプリケーションにおいて提供される。配列の同一性パーセントまたは類似性パーセントを計算するその他の適切なプログラムが、当技術で一般的に知られている。例えば、別のアラインメントプログラムにはBLASTがあり、既定のパラメーターで用いられる。例えば、BLASTNおよびBLASTPが、以下の既定のパラメーター:genetic code=standard;filter=none;strand=both;cutoff=60;expect=10;Matrix=BLOSUM62;Descriptions=50 sequences;sort by=HIGH SCORE;Databases=non-redundant;GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS translations+Swiss protein+Spupdate+PIR、を用いて使用され得る。これらのプログラムの詳細は、GenBankのウェブサイトで見ることができる。
【0051】
上記の細胞および方法には、本発明の範囲から外れることなく様々な改変を加えることが可能であるため、上記の説明および下記の実施例に含まれる全ての事項は、例示的であって、限定的な意味ではないと解釈されることが意図される。
【0052】
プライム編集システム
プライム編集システム(PES)は、CRISPR/Cas9テクノロジーの改良版である。Anzaloneらによって最初に説明されたように、PESは、CRISPR/Cas9複合体をゲノムの所望の標的部位に導くため、プライム編集ガイドRNA(pegRNA)を用いる。PEGは、標的DNA鎖に対して相補的なスペーサーのみでなく、プライマー結合部位(PBS)領域および標的DNA領域に導入される配列も含むと説明される(Marzec, et al., Trends in Cell Biology, April 2020, 33:4, 257 - 259)。PBSは第2のDNA鎖に対して相補的であり、かつ、Cas9ニッカーゼに連結された逆転写酵素(RT)のプライマーを形成する。RTは、pegRNAの配列を鋳型として用いるRNA依存性ポリメラーゼである。配列はpegDNAから標的DNA配列へと直接複製される。すなわち、標的配列が、所望のように変更される。
【0053】
非限定的な例示において、プライム編集(PE)は、Cas9(H840A)ニッカーゼ-逆転写酵素(RT)融合タンパク質およびプライム編集ガイドRNA(pegRNA)を含み、PE:pegRNA複合体は標的DNAに結合して、PAMを含む鎖に切れ目を入れる。これによって生じた3’末端はプライマー結合部位とハイブリダイズし、また次に、pegRNAの転写酵素テンプレートを用いて、所望の編集が加わった新たなDNAの逆転写を促す。そして、編集された3’フラップと未編集の5’フラップとの間の平衡、内因性の細胞による5’フラップ切断および接合、およびDNA修復は、安定な編集済DNAをもたらす(Anzalone, et al., 2019、図1参照)。現在に至るまで、プライムエディター(PE)の複数のバージョンが開発されてきた。PE1[配列番号1]は、Cas9(H840A)ニッカーゼのC末端に融合された野生型のモロニーマウス白血病ウイルスの逆転写酵素(M-MLV-RT)を用いることによって指定される。PE2[配列番号2]は合成M-MLV-RTを用いる。PE3[配列番号3]は、編集されない方の鎖に切れ目を入れるための追加のガイドRNAを導入することによって定義され、このガイドRNAの導入により、インデル頻度にも拘わらず、編集効率が向上する。PE3b(Anzalone, et al.,)では、この切れ目を入れるシングルガイドRNA(sgRNA)は、編集済の配列を標的とし、それによって、編集が起こるまで、編集されない方の配列に切れ目が入れられることが防がれ、結果として、哺乳類の細胞において、インデルが少なくなる。
【0054】
シス調節エレメント
本発明は、1つ以上のシス調節エレメント(CRE)をプライム編集システムに組み込むことで、システムの効率を実質的に向上させる。当業者には、本明細書の開示を以てすれば、本明細書で特に例示したもの以外のシス調節エレメントも本発明において適切に使用され得ることが理解され、また、本明細書の説明に従い、過度の実験を行うことなく前記シス調節エレメントをスクリーニングすることは、当業者の技術および知識の範囲内であることが理解されるであろう。
【0055】
WittappおよびKalayが述べるように(Nature Reviews Genetics, Jan. 2012, vol. 13, pp. 59 - 69)、シス調節エレメントとは、定められた空間的および/または時間的発現ドメインにおいて転写を活性化(または阻害)するために十分な、転写因子結合部位およびその他のノンコーディングDNAの集合体を表す用語である。シス調節エレメントは、転写を活性化し、かつ維持するために必要なシス調節配列のタイプの1つである。シス調節エレメントは、転写因子および他の調節性分子の結合部位を含むDNA(典型的にはノンコーディングDNA)で構成される。プロモーター、エンハンサーおよびサイレンサーは最も一般的に知られているCRE(シス調節エレメント)のタイプである。
【0056】
プロモーターは真核生物において転写のために要求されるが、典型的には、基礎レベルのmRNAのみしか産生しない。エンハンサーはプロモーターよりも多様であり、発現および転写のアップレギュレーションに寄与する。
【0057】
シス調節エレメントおよびトランス調節エレメントによる遺伝子発現の調節について、別の視点から見ると、シス調節エレメントは、しばしば1つ以上のトランス作用性因子の結合部位となっている。シス調節エレメントは、シス調節エレメントが調節する遺伝子が存在しているのと同じDNA分子に存在しているが、一方トランス調節エレメントは、トランス調節エレメントが転写される遺伝子から離れた遺伝子を調節することができる。転写因子はトランス作用性因子の1例である。
【0058】
エンハンサーは、同じDNA分子上の遺伝子の転写に影響する(転写を向上させる)CREであり、かつ、イントロンの上流、下流、内部、またはエンハンサーが調節する遺伝子から比較的離れた位置に見られ得る。複数のエンハンサーが、1つの遺伝子の転写を調節するため連携して働き得る(Ibid., Wittkapp and Kalay.)。数々のゲノムワイドシークエンシングプロジェクトによって、エンハンサーはしばしば長いノンコーディングRNA(lncRNA)またはエンハンサーRNA(eRNA)へと転写され、これらRNAのレベルの変化は、標的遺伝子mRNAのレベルの変化と相関することが多いことが明らかになった(Melamed P., Yosefzun Y., et al., Transcription, 2 March 2016, 7 (1): 26-31.)。
【0059】
発明者は、任意のシス作用性調節エレメントがCRISPRベースの核酸改変テクノロジーに有利な効果をもたらすことを意図しているが、好ましい適切なシス作用性調節エレメントの非限定的な例は、以下である:
【0060】
核内発現エレメント(Element for Nuclear Expression: ENE):RNAの安定化をもたらす短い二重らせんに隣接する、Uリッチな内部ループ(URIL)を含む。例にはカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)のENE、ヒト転移関連肺腺癌転写物1(metastasis-associated lung adenocarcinoma transcript 1: MALAT1)のENE、多発性内分泌腫瘍症β(MENβ)のENE、などが含まれる。
【0061】
核発現二重エレメント(Double Element for Nuclear Expression: dENE):推定される(predicated)二重らせん領域によって分割された2つのURILを含む。例にはイネTWIFB1のdENE、およびその20種の変異体(M1からM20)が含まれ、これらは当技術で知られており、また、Torabiらの("RNA stabilization by a poly(A) tail 3'-end binding pocket and other modes of poly(A)-RNA interaction", Science, 2021, 371(6529))のFigure 5に記載されている。
【0062】
KSHVのENEの配列:
UGUUUUGGCUGGGUUUUUCCUUGUUCGCACCGGACACCUCCAGUGACCAGACGGCAAGGUUUUUAUCCCAGUGUAUAUU [配列番号4]
【0063】
アカゲザルラジノウイルス(PRV)のENEの配列:
CGUUUGUGUUGGUUUUUAUGACCAGCUUGGUACAAAACCUGCUGGUGAUUUUUUACCCAACAAAUAAUAAAUAAAA [配列番号5]
【0064】
MALAT1のENEの配列:
UAGGGUCAUGAAGGUUUUUCUUUUCCUGAGAAAACAACACGUAUUGUUUUCUCAGGUUUUGCUUUUUGGCCUUUUUCUAGCUU [配列番号6]
【0065】
MALAT1のENE+Aリッチなトラクト(A-rich tract)の配列:
UAGGGUCAUGAAGGUUUUUCUUUUCCUGAGAAAACAACACGUAUUGUUUUCUCAGGUUUUGCUUUUUGGCCUUUUUCUAGCUUAAAAAAAAAAAAAGCAAAA [配列番号7]
【0066】
MALAT1のENE+Aリッチなトラクト+mascRNAの配列:
UAGGGUCAUGAAGGUUUUUCUUUUCCUGAGAAAACAACACGUAUUGUUUUCUCAGGUUUUGCUUUUUGGCCUUUUUCUAGCUUAAAAAAAAAAAAAGCAAAAGAUGCUGGUGGUUGGCACUCCUGGUUUCCAGGACGGGGUUCAAAUCCCUGCGGCGUCUUUGCUUUGACU[配列番号8]
【0067】
MALAT1のENE+Aリッチなトラクトのバリアントの配列:
GAAGGUUUUUCUUUUCCUGAGAAAACAACACGUAUUGUUUUCUCAGGUUUUGCUUUUUGGCCUUUUUCUAGCUUAAAAAAAAAAAAAGCAAAA[配列番号9]
【0068】
MENβのENEの配列:
GCCGCCGCAGGUGUUUCUUUUACUGAGUGCAGCCCAUGGCCGCACUCAGGUUUUGCUUUUCACCUUCCCAUCUG[配列番号10]
【0069】
MENβのENE+Aリッチなトラクトの配列:
GCCGCCGCAGGUGUUUCUUUUACUGAGUGCAGCCCAUGGCCGCACUCAGGUUUUGCUUUUCACCUUCCCAUCUGUGAAAGAGUGAGCAGGAAAAAGCAAAA[配列番号11]
【0070】
MENβのENE+Aリッチなトラクトのバリアントの配列:
AGGUGUUUCUUUUACUGAGUGCAGCCCAUGGCCGCACUCAGGUUUUGCUUUUCACCUUCCCAUCUGUGAAAGAGUGAGCAGGAAAAAGCAAAA [配列番号12]
【0071】
イネTWIFB1のdENEの配列:
UGUUGGCUGUACUCUUUUCUUUGUCAUGGUUUUCUCAAAUAUGAGUUUUUACAUGACAAAGUUUUUAACGAGGCAGCAUGUA [配列番号13]
【0072】
MCDiVのENEの配列:
GAGUGUAACUCAACAGUUUUUCCUAACCACGCGUCGCGUGGCAGGUUUUUUAAUCUGAGAGUUACAUUC[配列番号14]
【0073】
ATCOPIA27_ATh-IのENEの配列:
GUGCUGUACUCUUUUUCCUCACUAUGGUUUUGUCCCGAAAGGGUUUUCCUAGUAAGGUUUUAAUGAGGCAGCAU[配列番号15]
【0074】
TUCP_ZMaのENEの配列:
GGCUGUACUCUUUUUUCCUGUCUAGGGUUUCUCACAAGGGUGAGUUUUACCUAGACAGGUUUUUAACGAGGCAACC[配列番号16]
【0075】
他のENEまたはdENEおよびそれらのバリアントまたは変異体が当技術で知られており、Tycowskiらの("Conservation of a Triple-Helix-Forming RNA Stability Element in Noncoding and Genomic RNAs of Diverse Viruses", Cell Rep., 2012, 2: 26-32)およびTycowskiらの("Myriad Triple-Helix-Forming Structures in the Transposable Element RNAs of Plants and Fungi", Cell Rep., 2016, 15: 1266-1276)に記載されている。
【0076】
いくつかの計算フレームワーク(例えばTool for Eliciting Informative Structural Elements in RNA: TEISER)が、RNAを安定化させる統計的に最も顕著な3’UTRエレメントである、構造的RNA安定化モチーフ1(structural RNA stability motif: sRSM1)を同定するために用いられた。sRSM1はGoodarziらの("Systematic discovery of structural elements governing stability of mammalian messenger RNAs", Nature, 2012, 485(264))に記載されている。
【0077】
構造的RNA安定化モチーフ1(sRSM1)の配列セット1:
AAAACUAUUUUGAAGAUGGUGGUGAGCUGCAAAAUAGCUGGAUGGAUUUGAAUGAUUGGGAUGAUACAUCAUUGAACUGCACUUUAUAUAACCAAAGCUUAGCAGUUUGUUAGAUAAGAGUCUAUGUAUGUCUCUGGUUAGGAUGAAGUUAAUUUUAUGUUUUUAACAUGGUAUUUUUGAAGGAGCUAAUGAAACACUGG [配列番号17]
【0078】
構造的RNA安定化モチーフ1(sRSM1)の配列セット2:
AUUGUUUCUGGAAACUGCUUGCCAAGACAACAUUUAUUAACUGUUAGAACACUUGCUUUAUGUUUGUGUGUACAUAUUUUCCACAAAUGUUAUAAUUUAUAUAGUGUGGUUGAACAGGAUGCAAUCUUUUGUUGUCUAAAGGUGCUGCAGUUAAAAAAAAAACAACCUUUUCUUUCAAUAUGGCAUGUAGUGGAGUUUUU [配列番号18]
【0079】
他のsRSMの配列が当業者に知られており、その例はGoodarziらの("Systematic discovery of structural elements governing stability of mammalian messenger RNAs", Nature, 2012, 485: 264)において見られる。
【0080】
他の適切な3’UTR配列が当業者に知られており、また、c-fos遺伝子およびv-fos遺伝子の3’UTR、CD47の3’UTR、BIRC3の3’UTR、βアクチンの3’UTR、βグロブリンの3’UTR、Hmga2の3’UTR、Camk2aの3’UTR、CyclinB1の3’UTR、およびmRNAの安定性増加に関連するUリッチモチーフを含むが、これらに限定されることはない。
【0081】
他のシス作用性調節エレメントが当業者に知られており、本明細書に組み込まれる。当業者は、本明細書の開示を以てすれば、過度な実験を行うことなく適切なシス作用性調節エレメントを同定および最適化することができるだろう。
【0082】
CRISPR/Cas9タンパク質およびシステム
一般的なCRISPR/Cas9タンパク質システムおよび本発明の文脈におけるCRISPR/Cas9タンパク質システムを理解することによって、本発明の理解が助けられるだろう。
【0083】
プライム編集ガイドRNA
上記のように、プライムエディター(PE)の複数のバリエーションが開発されてきた。PEは、RNAをプログラム可能なニッカーゼと融合した逆転写酵素およびプライム編集ガイドRNAを含み、pegRNAの突出部分から標的遺伝子座へ、遺伝子情報を直接コピーする。すなわち、pegRNAはPE編集装置を特定の部位、標的DNAへ“操縦”し、ここで二重鎖DNAのうち1本の鎖がCas9酵素によって切られる。pegRNAは、標的DNAに対する所望の編集をコードする配列も含む。pegRNAの設計に依存して、PEは、正確かつ効率的に、DNAのあらゆる1塩基を別のいかなる塩基にも置換することができ、また、欠失および挿入の両方を生成することができる。当業者には、特定の標的部位に対する適切なpegRNAをどのように構築するか理解される。
【0084】
RNA誘導型エンドヌクレアーゼ
Cas9などのRNA誘導型エンドヌクレアーゼは、少なくとも1つの核局在化シグナル、少なくとも1つのヌクレアーゼドメイン、および少なくとも1つの、pegRNAと相互作用してエンドヌクレアーゼを特定のヌクレオチド配列に標的化し切断するドメインを含み得る。また、RNA誘導型ヌクレアーゼをコードする核酸、および真核生物の細胞または胚の染色体配列を改変するためにRNA誘導型エンドヌクレアーゼを使用する方法も知られている。RNA誘導型エンドヌクレアーゼは特異的pegRNAと相互作用し、各pegRNAが、エンドヌクレアーゼを特定の標的部位に導く。この部位では、RNA誘導型エンドヌクレアーゼが鎖の切断を引き起こし、これは染色体配列が改変されるようにDNA修復プロセスによって修復され得る。特異性はpegRNAによってもたらされるため、RNAベースのエンドヌクレアーゼは普遍的であり、様々なpegRNAと共に用いて様々なゲノム配列を標的とすることができる。本明細書で開示される方法は、特定の染色体配列を標的とし、改変するため、および/または、細胞または胚のゲノムの標的部位に外因性配列を導入するため(または内因性配列を欠失させるため)に用いることができる。さらに、標的化は特異的であり、オフターゲット効果は限られている。
【0085】
本開示は、融合タンパク質を提供し、ここで融合タンパク質はCRISPR/Cas様タンパク質またはそのフラグメント、およびエフェクタードメインを含む。適切なエフェクタードメインは、切断ドメイン、エピジェネティック修飾ドメイン、転写活性化ドメイン、および転写抑制ドメインを含むが、これらに限定されることはない。各融合タンパク質は、特異的pegRNAによって特定の染色体配列へと誘導され、ここでエフェクタードメインは標的ゲノムの改変または遺伝子調節を媒介する。ある態様において、融合タンパク質はダイマーとして機能して、それによって標的部位の長さが増大し、また、ゲノムにおいて標的部位がユニークである可能性が増大する(すなわち、オフターゲット効果が減少する)。例えば、内因性CRISPRシステムは、DNA結合ワード長およそ13-20bpに基づいたゲノム部位を改変する(Cong, et al., Science, 339:819-823)。このワードサイズでは、ゲノム中でユニークな標的部位は、5-7%のみである(Iseli, et al., PLos One 2(6):e579)。対照的に、ジンクフィンガーヌクレアーゼのDNA結合ワードサイズは、典型的には30-36bpにおよび、結果として、およそ85-87%の標的部位がヒトゲノム中でユニークである。CRISPRベースのシステムによって利用される、短いサイズのDNA結合部位は、所望の部位、例えば疾患SNP、スモールエキソン(small exon)、開始コドン、および終止コドンなど、および複雑なゲノム中のその他の部位、の近くに標的化したCRISPRベースのヌクレアーゼの設計を制限し、かつ複雑化させる。本開示はCRISPRのDNA結合ワード長を(オフターゲット活性を制限するため)増大させる手段を提供するのみでなく、さらに、改変された機能性を有するCRISPR融合タンパク質も提供する。従って、開示されるCRISPR融合タンパク質は、向上した標的特異性およびユニークな機能性を有する。また、本明細書では、標的染色体配列の発現を改変または調節するために、前記融合タンパク質を使用する方法も提供する。
【0086】
RNA誘導型エンドヌクレアーゼは、真核生物の細胞および胚、例えば非ヒト1細胞胚などの核へとエンドヌクレアーゼが進入するのを可能にする、少なくとも1つの核局在化シグナルを含んでもよい。また、RNA誘導型エンドヌクレアーゼは、少なくとも1つのヌクレアーゼドメイン、および少なくとも1つの、pegRNAと相互作用するドメインも含む。RNA誘導型エンドヌクレアーゼは、pegRNAによって特定の核酸配列(または標的部位)に導かれる。pegRNAはRNA誘導型ヌクレアーゼだけでなく標的部位とも相互作用し、これによって、いったん標的部位に導かれると、RNA誘導型エンドヌクレアーゼは標的部位の核酸配列に鎖の切断を導入することができるようになる。標的化された切断の特異性はpegRNAがもたらすため、RNA誘導型エンドヌクレアーゼのエンドヌクレアーゼは普遍的であり、また、様々なpegRNAと共に用いて様々な標的核酸配列を切断することができる。RNA誘導型エンドヌクレアーゼはタンパク質であってもよく、単離された核酸(すなわちRNAまたはDNA)によってコードされてもよく、RNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードする核酸を含むベクターによってコードされてもよく、また、RNA誘導型エンドヌクレアーゼに加えpegRNAを含む、タンパク質-RNA複合体であってもよい。
【0087】
RNA誘導型エンドヌクレアーゼは、クラスター化された規則的に間隔を空けた短いパリンドロームリピート(clustered regularly interspersed short palindromic repeats: CRISPR)/CRISPR関連(CRISPR-associated: Cas)システムに由来し得る。CRISPR/Casシステムはタイプ1、タイプ2、またはタイプ3システムであり得る。適切なCRISPR/Casタンパク質の非限定的な例は、Cas3、Cas4、Cas5、Cas5e(またはCasD)、Cas6、Cas6e、Cas6f、Cas7、Cas8a1、Cas8a2、Cas8b、Cas8c、Cas9、Cas10、Cas10d、CasF、CasG、CasH、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1(またはCasA)、Cse2(またはCasB)、Cse3(またはCasE)、Cse4(またはCasC)、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csz1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、およびCu1966を含む。
【0088】
ある実施形態において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼはタイプ2CRISPR/Cas9システムに由来する。特定の実施形態において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼはCas9タンパク質に由来する。Cas9タンパク質は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus sp.)、ノカルジオプシス・ダソンヴィレイ(Nocardiopsis dassonvillei)、ストレプトマイセス・プリスチナエスピラリス(Streptomyces pristinaespiralis)、ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネス(Streptomyces viridochromogenes)、ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネス(Streptomyces viridochromogenes)、ストレプトポランギウム・ロゼウム(Streptosporangium roseum)、ストレプトポランギウム・ロゼウム(Streptosporangium roseum)、アリシクロバシラス・アシドカルダリウス(Alicyclobacillus acidocaldarius)、バシラス・シュードマイコイデス(Bacillus pseudomycoides)、バシラス・セレニティレデュセンス(Bacillus selenitireducens)、エグジゴバクテリウム・シビリカム(Exiguobacterium sibiricum)、ラクトバシラス・デルブルエッキイー(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバシラス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、マイクロスシーラ・マリナ(Microscilla marina)、バークホルデリア・バクテリウム(Burkholderiales bacterium)、ポラロモナス・ナフタレニボランス(Polaromonas naphthalenivorans)、ポラロモナス属(Polaromonas sp.)、クロコスファエラ・ワトソニ(Crocosphaera watsonii)、シアノセイス属(Cyanothece sp.)、ミクロキスチス・エルギノーザ(Microcystis aeruginosa)、シネココッカス属(Synechococcus sp.)、アセトハロビウム・アラバチクム(Acetohalobium arabaticum)、アンモニフェクス・デゲンジイ(Ammonifex degensii)、カルジセルロシラプター・ベシイ(Caldicelulosiruptor becscii)、カンジダタス・デスルフォルディス(Candidatus Desulforudis)、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、フィネゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)、ナトラナエロビウス・サーモフィルス(Natranaerobius thermophilus)、ペロトマクラム・サーモプロピオニカム(Pelotomaculum thermopropionicum)、アシドチオバシラス・カルダス(Acidithiobacillus caldus)、アシドチオバシラス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)、アロクロマチウム・ビノサム(Allochromatium vinosum)、マリノバクター属(Marinobacter sp.)、ニトロソコッカス・ハロフィルス(Nitrosococcus halophilus)、ニトロソコッカス・ワトソニ(Nitrosococcus watsoni)、シュードアルテロモナス・ハロプランクティス(Pseudoalteromonas haloplanktis)、クテドノバクター・ラセミファー(Ktedonobacter racemifer)、メタノハロビウム・エベスチガータム(Methanohalobium evestigatum)、アナベナ・バリアビリス(Anabaena variabilis)、ノデゥラリア・スプミゲナ(Nodularia spumigena)、ノストク属(Nostoc sp.)、アロスロスピラ・マキシマ(Arthrospira maxima)、アロスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)、アロスロスピラ属(Arthrospira sp.)、リングビア属(Lyngbya sp.)、ミクロコレウス・クソノプラステス(Microcoleus chthonoplastes)、オスキラトリア属(Oscillatoria sp.)、ペトロトガ・モビリス(Petrotoga mobilis)、サーモシフォ・アフリカヌス(Thermosipho africanus)、またはアカリオクロリス・マリーナ(Acaryochloris marina)に由来し得る。
【0089】
一般的には、CRISPR/Casタンパク質は少なくとも1つのRNA認識ドメインおよび/またはRNA結合ドメインを含む。RNA認識ドメインおよび/またはRNA結合ドメインは、ガイドRNAと相互作用する。CRISPR/Casタンパク質はヌクレアーゼドメイン(すなわちDNaseまたはRNaseドメイン)、DNA結合ドメイン、ヘリカーゼドメイン、RNaseドメイン、タンパク質-タンパク質相互作用ドメイン、ダイマー形成ドメイン、およびその他のドメインも含み得る。
【0090】
CRISPR/Casタンパク質は、野生型CRISPR/Casタンパク質、改変CRISPR/Cas9タンパク質、または野生型または改変CRISPR/Casタンパク質のフラグメントであり得る。CRISPR/Cas様タンパク質は核酸結合の親和性および/または特異性を高めるため、酵素活性を変更するため、および/またはタンパク質のその他の性質を変化させるために、改変され得る。例えば、CRISPR/Cas様タンパク質のヌクレアーゼ(すなわちDNase、RNase)ドメインは、改変、除去、または不活性化され得る。代わりに、CRISPR/Cas様タンパク質は、融合タンパク質の機能に必要でないドメインを除くために、切断され得る。CRISPR/Cas様タンパク質は、融合タンパク質のエフェクタードメインの活性を最適化するために、切断または改変され得る。
【0091】
ある実施形態において、CRISPR/Cas様タンパク質は野生型Cas9タンパク質またはそのフラグメントに由来し得る。他の実施形態において、CRISPR/Cas様タンパク質は改変Cas9タンパク質に由来し得る。例えば、Cas9タンパク質のアミノ酸配列が、1つ以上の性質(例えばヌクレアーゼ活性、親和性、安定性など)を変更するために改変され得る。代わりに、改変Cas9タンパク質が野生型Cas9タンパク質よりも小さくなるように、Cas9タンパク質のRNA誘導性の切断に関わらないドメインがCas9タンパク質から除かれ得る。
【0092】
一般的には、Cas9タンパク質は少なくとも2つのヌクレアーゼ(すなわちDNase)ドメインを含む。例えば、Cas9タンパク質はRuvC様ヌクレアーゼドメインおよびHNH様ヌクレアーゼドメインを含み得る。RuvCドメインおよびHNHドメインは、共に作用してそれぞれ一本鎖を切断し、DNAの二重鎖切断を引き起こす(Jinek et al., Science, 337: 816-821)。ある実施形態において、Cas9由来のタンパク質は、機能性のヌクレアーゼドメインを1つだけ(RuvC様ヌクレアーゼドメインまたはHNH様ヌクレアーゼドメインのいずれか)含むように改変され得る。例えば、Cas9由来のタンパク質は、ヌクレアーゼドメインのうち1つが除去されるように、または機能しない(すなわち、ヌクレアーゼ活性が無くなる)ように変異するように改変され得る。ヌクレアーゼドメインのうち1つが不活性である実施形態のいくつかにおいて、Cas9由来のタンパク質は二重鎖核酸に切れ目を入れることができる(このようなタンパク質は“ニッカーゼ”と呼ばれる)が、二重鎖DNAを切断はしない。例えば、RuvC様ドメインにおけるアスパラギン酸からアラニンへの置換(D10A)は、Cas9由来のタンパク質をニッカーゼへと変換する。同様に、HNH様ドメインにおけるヒスチジンからアラニンへの置換(H840AまたはH839A)は、Cas9由来のタンパク質をニッカーゼへと変換する。各ヌクレアーゼドメインは、部位特異的変異導入、PCRを介した変異導入、および遺伝子全合成などの当技術でよく知られる方法、および当技術で知られる他の方法を用いて改変され得る。
【0093】
RNA誘導性エンドヌクレアーゼは少なくとも1つの核局在化シグナルを含んでもよい。一般的には、NLSは塩基性アミノ酸が連なったものを含む。核局在化シグナルは当技術で知られている(例えばLange et al., J. Biol. Chem., 2007, 282:5101-5105を参照)。例えば、ある実施形態において、NLSは、PKKKRKV(配列番号19)またはPKKKRRV(配列番号8)などの単節型(monopartite)配列であり得る。別の実施形態において、NLSは双節型(bipartite)配列であり得る。さらに別の実施形態においては、NLSはKRPAATKKAGQAKKKK(配列番号20)であり得る。NLSはRNA誘導型エンドヌクレアーゼのN末端、C末端、または内部に位置し得る。
【0094】
ある実施形態において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼはさらに、少なくとも1つの細胞膜透過ドメインを含み得る。ある実施形態において、細胞膜透過ドメインはHIV-1のTATタンパク質に由来する細胞膜透過ペプチド配列であり得る。例として、TATの細胞膜透過配列はGRKKRRQRRRPPQPKKKRKV(配列番号21)である。別の実施形態において、細胞膜透過ドメインは、ヒトB型肝炎ウイルス由来の細胞膜透過ペプチド配列である、TLM(PLSSIFSRIGDPPKKKRKV;配列番号22)であり得る。さらに別の実施形態において、細胞膜透過ドメインはMPG(GALFLGWLGAAGSTMGAPKKKRKV;配列番号23、またはGALFLGFLGAAGSTMGAWSQPKKKRKV;配列番号24)であり得る。追加の実施形態において、細胞膜透過ドメインは、Pep-1(KETWWETWWTEWSQPKKKRKV;配列番号25)、単純ヘルペスウイルスの細胞膜透過ペプチドであるVP22、またはポリアルギニンペプチド配列であり得る。細胞膜透過ドメインは、タンパク質のN末端、C末端または内部に位置し得る。
【0095】
さらに別の実施形態において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼは少なくとも1つのマーカードメインを含む。マーカードメインの非限定的な例は、蛍光タンパク質、精製タグ、およびエピトープタグを含む。ある実施形態において、マーカードメインは蛍光タンパク質であり得る。適切な蛍光タンパク質の非限定的な例は、緑色蛍光タンパク質(例えば、GFP、GFP-2、tagGFP、turboGFP、EGFP、Emerald、Azami Green、Azami Greenモノマー、CopGFP、AceGFP、ZsGreen1)、黄色蛍光タンパク質(例えば、YFP、EYFP、Citrine、Venus、YPet、PhiYFP、ZsYellow1)、青色蛍光タンパク質(例えば、EBFP、EBFP2、Azurite、mKalama1、GFPuv、Sapphire、T-sapphire)、シアン蛍光タンパク質(例えば、ECFP、Cerulean、CyPet、AmCyan1、Midoriishi-Cyan)、赤色蛍光タンパク質(mKate、mKate2、mPlum、DsRed monomer、mCherry、mRFP1、DsRed-Express、DsRed2、DsRed-Monomer、HcRed-Tandem、HcRed1、AsRed2、eqFP611、mRasberry、mStrawberry、Jred)およびオレンジ色蛍光タンパク質(mOrange、mKO、Kusabira-Orange、Kusabira-Orangeモノマー、mTangerine、tdTomato)、またはその他任意の適切な蛍光タンパク質を含む。他の実施形態において、マーカードメインは精製タグおよび/またはエピトープタグであり得る。例示的なタグは、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、キチン結合タンパク質(CBP)、マルトース結合タンパク質、チオレドキシン(TRX)、ポリNANP、タンデムアフィニティ精製(TAP)タグ、myc、AcV5、AU1、AU5、E、ECS、E2、FLAG、HA、nus、Softag 1、Softag 3、Strep、SBP、Glu-Glu、HSV、KT3、S、S1、T7、V5、VSV-G、6×His、ビオチンカルボキシルキャリアータンパク質(BCCP)、およびカルモジュリンを含むが、これらに限定されることはない。
【0096】
特定の実施形態において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼはpegRNAを含むタンパク質-RNA複合体の一部であってもよい。pegRNAはRNA誘導型エンドヌクレアーゼと相互作用し、エンドヌクレアーゼを特定の標的部位へと導き、ここでガイドRNAの5’末端が、特定のプロトスペーサー配列と塩基対を形成する。
【0097】
(II)融合タンパク質
本開示の別の態様は、CRISPR/Cas様タンパク質またはそのフラグメントおよびエフェクタードメインを、pegRNAおよびシス作用性調節エレメントと組み合わせて含む、融合タンパク質を提供する。CRISPR/Cas様タンパク質はpegRNAによって標的部位に導かれ、この部位でエフェクタードメインが標的核酸配列を改変するか、または影響を与える。エフェクタードメインは、切断ドメイン、エピジェネティック修飾ドメイン、転写活性化ドメイン、または転写抑制ドメインであり得る。融合タンパク質はさらに、核局在化シグナル、細胞膜透過ドメイン、またはマーカードメインから選択される少なくとも1つの追加ドメインを含み得る。
【0098】
(a)CRISPR/Cas様タンパク質
融合タンパク質は、CRISPR/Cas様タンパク質またはそのフラグメントを含む。CRISPR/Cas様タンパク質は上記セクション(I)で詳しく述べた。CRISPR/Cas様タンパク質は、融合タンパク質のN末端、C末端、または内部に位置し得る。
【0099】
ある実施形態において、融合タンパク質のCRISPR/Cas様タンパク質はCas9タンパク質に由来し得る。Cas9由来のタンパク質は野生型、改変型、またはそれらのフラグメントであり得る。ある実施形態において、Cas9由来のタンパク質は、機能性のヌクレアーゼドメインを1つだけ(RuvC様ヌクレアーゼドメインまたはHNH様ヌクレアーゼドメインのいずれか)含むように改変され得る。例えば、Cas9由来のタンパク質は、ヌクレアーゼドメインのうち1つが除去される、または機能しない(すなわち、ヌクレアーゼ活性が無くなる)ように変異するように改変され得る。ヌクレアーゼドメインのうち1つが不活性化される実施形態のいくつかにおいて、Cas9由来のタンパク質は二重鎖核酸に切れ目を入れることができる(このようなタンパク質は“ニッカーゼ”と呼ばれる)が、二重鎖DNAを切断はしない。例えば、RuvC様ドメインにおけるアスパラギン酸からアラニンへの置換(D10A)は、Cas9由来のタンパク質をニッカーゼへと変換する。同様に、HNH様ドメインにおけるヒスチジンからアラニンへの置換(H840AまたはH839A)は、Cas9由来のタンパク質をニッカーゼへと変換する。他の実施形態において、Cas9由来タンパク質が二重鎖核酸に切れ目を入れることも切断することもできないように、RuvC様ヌクレアーゼドメインおよびHNH様ヌクレアーゼドメインの両方が改変または除去され得る。さらに他の実施形態においては、Cas9由来タンパク質が全てのヌクレアーゼ活性を失うように、Cas9由来タンパク質の全てのヌクレアーゼドメインが改変または除去されてもよい。
【0100】
上記の実施形態のいずれにおいても、ヌクレアーゼドメインのいずれかまたは全てが、1つ以上の欠失変異、挿入変異、および/または置換変異によって、部位特異的変異導入、PCRを介した変異導入、および遺伝子全合成などの当技術でよく知られる方法、および当技術で知られるその他の方法を用いて、不活性化され得る。例示的な実施形態において、CRISPR/Cas様タンパク質はCas9タンパク質に由来し、ここでは全てのヌクレアーゼドメインが不活性化または除去されている。
【0101】
(b)エフェクタードメイン
融合タンパク質はエフェクタードメインも含む。エフェクタードメインは、切断ドメイン、エピジェネティック修飾ドメイン、転写活性化ドメイン、または転写抑制ドメインであり得る。エフェクタードメインは、融合タンパク質のN末端、C末端、または内部に位置し得る。
【0102】
(i)切断ドメイン
ある実施形態において、エフェクタードメインは切断ドメインである。本明細書で用いる“切断ドメイン”は、DNAを切断するドメインのことを表す。切断ドメインは任意のエンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼから得ることができる。切断ドメインの由来となり得るエンドヌクレアーゼの非限定的な例は、制限エンドヌクレアーゼおよびホーミングエンドヌクレアーゼ(homing endonuclease)を含むが、これらに限定されることはない。(例えば、New England Biolabs Catalog or Belfort, et al., (1997) Nucleic Acids Res. 25:3379-3388を参照)。DNAを切断するさらなる酵素が知られている(例えば、S1ヌクレアーゼ、リョクトウヌクレアーゼ、膵臓DNase I、ミクロコッカスヌクレアーゼ(micrococcal nuclease)、酵母菌HOエンドヌクレアーゼ(yeast HO endonuclease))。(Linn, et al., (eds.) Nucleases, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1993)も参照。これらの1つ以上の酵素(またはその機能性フラグメント)が、切断ドメインの供給源として用いられ得る。
【0103】
ある実施形態において、切断ドメインは、タイプ2Sエンドヌクレアーゼに由来し得る。タイプ2Sエンドヌクレアーゼは、典型的には認識部位から数塩基対離れた部位でDNAを切断し、また、そのため、分離可能な認識ドメインおよび切断ドメインを有する。これらの酵素は、一般的には、一過性に会合してダイマーを形成し、ねじれの位置にあるDNAのそれぞれの鎖を切断するモノマーである。適切なタイプ2Sエンドヌクレアーゼの非限定的な例は、BfiI、BpmI、BsaI、BsgI、BsmBI、BsmI、BspMI、FokI、MbolI、およびSapIを含む。例示的な実施形態において、融合タンパク質の切断ドメインは、FokI切断ドメインまたはその誘導体である。
【0104】
特定の実施形態において、タイプ2Sエンドヌクレアーゼは異なる2つの切断ドメイン(それぞれがCRISPR/Cas様タンパク質またはそのフラグメントに取り付けられる)のダイマー形成を促進するために改変され得る。例えば、FokIの切断ドメインは、特定のアミノ酸残基を変異させることで改変され得る。非限定的な例として、FokI切断ドメインの446、447、479、483、484、486、487、490、491、496、498、499、500、531、534、537、および538番目のアミノ酸残基が、改変の標的となる。例えば、偏性ヘテロダイマー(obligate heterodimer)を形成する改変されたFokIの切断ドメインは、第1の改変切断ドメインが490番目および538番目のアミノ酸残基の変異を含み、第2の改変切断ドメインが486番目および499番目のアミノ酸残基の変異を含む、ペアを含む(Miller et al., 2007, Nat. Biotechnol, 25:778-785; Szczpek et al., 2007, Nat. Biotechnol, 25:786-793)。例えば、一方のドメインの490番目のGlu(E)がLys(K)に、かつ538番目のIle(I)がKに置換され得(E490K、I538K)、また、もう一方の切断ドメインの486番目のGln(Q)がEに、かつ499番目のIがLeu(L)に置換され得る(Q486E、I499L)。他の実施形態において、改変FokI切断ドメインは3つのアミノ酸置換を含み得る(Doyon et al., 2011, Nat. Methods, 8:74-81)。例えば、一方の改変FokIドメイン(ELDと呼ばれる)がQ486E、I499L、N496D変異を含み得、またもう一方の改変FokIドメイン(KKRと呼ばれる)がE490K、I538K、H537R変異を含み得る。
【0105】
例示的な実施形態において、エフェクタードメインはFokI切断ドメインまたは改変FokI切断ドメインである。
【0106】
エフェクタードメインが切断ドメインであり、かつCRISPR/Cas様タンパク質がCas9タンパク質由来である実施形態において、Cas9由来タンパク質は、本明細書に記載されるように、そのエンドヌクレアーゼ活性が消失するように改変され得る。例えば、Cas9由来のタンパク質は、RuvCドメインおよびHNHドメインを、ヌクレアーゼ活性を持たないように変異させることで、改変され得る。
【0107】
(ii)エピジェネティック修飾ドメイン
他の実施形態において、融合タンパク質のエフェクタードメインはエピジェネティック修飾ドメインであり得る。一般的には、エピジェネティック修飾ドメインは、DNAの配列を変更することなく、ヒストンの構造および/または染色体の構造を変更する。ヒストンの構造および/または染色体の構造の変化は、遺伝子発現の変化をもたらし得る。エピジェネティック修飾の例は、ヒストンタンパク質のリシン残基のアセチル化またはメチル化、およびDNAのシトシン残基のメチル化を含むが、これらに限定されることはない。適切なエピジェネティック修飾ドメインの非限定的な例は、ヒストンアセチルトランスフェラーゼドメイン、ヒストン脱アセチル化酵素ドメイン、ヒストンメチルトランスフェラーゼドメイン、ヒストン脱メチル化酵素ドメイン、DNAメチルトランスフェラーゼドメイン、DNA脱メチル化酵素ドメインを含む。
【0108】
エフェクタードメインがヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)ドメインである実施形態において、HATドメインは、EP300(すなわちE1A結合タンパク質p300)、CREBBP(すなわちCREB結合タンパク質)、CDY1、CDY2、CDYL1、CLOCK、ELP3、ESA1、GCN5(KAT2A)、HAT1,KAT2B、KAT5、MYST1、MYST2、MYST3、MYST4、NCOA1、NCOA2、NCOA3、NCOAT、P/CAF、Tip60、TAFII250、またはTF3C4に由来し得る。このような実施形態の1つにおいて、HATドメインはp300である。
【0109】
エフェクタードメインがエピジェネティック修飾ドメインであり、かつCRISPR/Cas様タンパク質がCas9タンパク質由来である実施形態において、Cas9由来タンパク質は、本明細書に記載されるように、そのエンドヌクレアーゼ活性が消失するように改変され得る。例えば、Cas9由来のタンパク質は、RuvCドメインおよびHNHドメインを、ヌクレアーゼ活性を持たないように変異させることで、改変され得る。
【0110】
(iii)転写活性化ドメイン
他の実施形態において、融合タンパク質のエフェクタードメインは、転写活性化ドメインである。一般的には、転写活性化ドメインは転写制御エレメント(transcriptional control element)および/または転写調節タンパク質(例えば転写因子、RNAポリメラーゼなど)と相互作用し、遺伝子の転写を増加および/または活性化する。ある実施形態において、転写活性化ドメインは単純ヘルペスウイルスV16活性化ドメイン、VP64(VP16のテトラマー型誘導体)、NF-kB p65活性化ドメイン、p53活性化ドメイン1および2、CREB(cAMP応答エレメント結合タンパク質)活性化ドメイン、E2A活性化ドメイン、およびNFAT(活性化T細胞の核内因子)活性化ドメインであり得るが、これらに限定されることはない。他の実施形態において、転写活性化ドメインはGal4、Gcn4、MLL、Rtg3、GIn3、Oaf1、Pip2、Pdr1、Pdr3、Pho4、およびLeu3であり得る。転写活性化ドメインは野生型であってもよく、または、天然の転写活性化ドメインの改変バージョンであってもよい。ある実施形態において、融合タンパク質のエフェクタードメインはVP16またはVP64転写活性化ドメインである。
【0111】
エフェクタードメインが転写活性化ドメインであり、かつCRISPR/Cas様タンパク質がCas9タンパク質由来である実施形態において、Cas9由来タンパク質は、本明細書に記載されるように、そのエンドヌクレアーゼ活性が消失するように改変され得る。例えば、Cas9由来のタンパク質は、RuvCドメインおよびHNHドメインを、ヌクレアーゼ活性を持たないように変異させることで、改変され得る。
【0112】
(iv)転写抑制ドメイン
さらに他の実施形態において、融合タンパク質のエフェクタードメインは転写抑制ドメインであり得る。一般的には、転写抑制ドメインは、転写制御エレメントおよび/または転写調節タンパク質(例えば転写因子、RNAポリメラーゼなど)と相互作用し、遺伝子の転写を減少および/または終了させる。適切な転写抑制ドメインの非限定的な例は、誘導型cAMP早期リプレッサー(inducible cAMP early repressor: ICER)ドメイン、Kruppei会合ボックスA(Kruppei-associated box A: KRAB-A)リプレッサードメイン、YY1グリシンリッチリプレッサードメイン、Sp-1様リプレッサー、E(spl)リプレッサー、IBリプレッサー、およびMeCP2を含む。
【0113】
エフェクタードメインが転写抑制ドメインであり、かつCRISPR/Cas様タンパク質がCas9タンパク質由来である実施形態において、Cas9由来タンパク質は、本明細書に記載されるように、そのエンドヌクレアーゼ活性が消失するように改変され得る。例えば、Cas9由来のタンパク質は、RuvCドメインおよびHNHドメインを、ヌクレアーゼ活性を持たないように変異させることで、改変され得る。
【0114】
(c)追加ドメイン
ある実施形態において、融合タンパク質はさらに、少なくとも1つの追加ドメインを含む。適切な追加ドメインの非限定的な例は、核局在化シグナル、細胞膜透過または転座ドメイン、およびマーカードメインを含む。適切な核局在化シグナル、細胞膜透過ドメイン、およびマーカードメインの非限定的な例は、セクション(I)に示される。
【0115】
(d)融合タンパク質ダイマー
融合タンパク質のエフェクタードメインが切断ドメインである実施形態において、少なくとも1つの融合タンパク質を含むダイマーが形成され得る。ダイマーはホモダイマーまたはヘテロダイマーであり得る。ある実施形態において、ヘテロダイマーは2つの異なる融合タンパク質を含む。他の実施形態において、ヘテロダイマーは1つの融合タンパク質および追加のタンパク質を含む。
【0116】
ある実施形態において、ダイマーは、2つの融合タンパク質モノマーが一次アミノ酸配列に関して同一であるホモダイマーである。ダイマーがホモダイマーである実施形態の1つにおいて、Cas9由来タンパク質は、それらのエンドヌクレアーゼ活性が消失するように、すなわち、それらが機能性のヌクレアーゼドメインを有さないように改変される。Cas9由来タンパク質が、それらのエンドヌクレアーゼ活性が消失するように改変される、特定の実施形態において、各融合タンパク質モノマーは同一のCas9様タンパク質および同一の切断ドメインを含む。切断ドメインは、本明細書で提供される例示的な切断ドメインのいずれかなどの、いかなる切断ドメインであってもよい。ある特定の実施形態において、切断ドメインはFokI切断ドメインまたは改変FokI切断ドメインである。このような実施形態において、特異的pegRNAは、融合タンパク質モノマーを、ダイマーを形成すると2つのモノマーのヌクレアーゼドメインが標的DNAに二重鎖切断を生成するように、異なるが近接した部位に導く。
【0117】
他の実施形態において、ダイマーは2つの異なる融合ドメインのヘテロダイマーである。例えば、各融合タンパク質のCRISPR/Cas様タンパク質は異なるCRISPR/Casタンパク質、または異なる細菌種のCRISPR/Casタンパク質オルソログに由来し得る。例えば、各融合タンパク質は、異なる細菌種に由来するCas9様タンパク質を含み得る。これらの実施形態において、各融合タンパク質は異なる標的部位(すなわち、プロトスペーサーおよび/またはPAM配列によって特定される標的部位)を認識する。例えば、pegRNAは、ヘテロダイマーのヌクレアーゼドメインが標的DNAに効果的な二重鎖切断をもたらすように、異なるが近接した部位にヘテロダイマーを位置取らせ得る。ヘテロダイマーは、切れ目を入れる部位が異なるような切れ目生成活性を持つ改変Cas9タンパク質を有することもできる。
【0118】
代わりに、ヘテロダイマーの2つの融合タンパク質は、異なるエフェクタードメインを有し得る。エフェクタードメインが切断ドメインである実施形態において、各融合タンパク質は異なる改変切断ドメインを含み得る。例えば、各融合タンパク質は、セクション(II)(b)(i)で詳しく述べたように、異なる改変FokI切断ドメインを含み得る。これらの実施形態において、Cas9タンパク質は、それらのエンドヌクレアーゼ活性が消失するように改変され得る。
【0119】
当業者に理解できるように、ヘテロダイマーを形成する2つの融合タンパク質は、CRISPR/Cas様タンパク質ドメインおよびエフェクタードメインの両方において異なり得る。
【0120】
上記の実施形態のいずれにおいても、ホモダイマーまたはヘテロダイマーは、上で詳しく述べたような、核局在化シグナル(NLS)、細胞膜透過ドメイン、転座ドメイン、およびマーカードメインから選択される、少なくとも1つの追加ドメインを含み得る。
【0121】
上記の実施形態のいずれにおいても、Cas9由来タンパク質の1つまたは両方が、そのエンドヌクレアーゼ活性が消失するか、または改変されるように改変され得る。
【0122】
さらに別の実施形態において、ヘテロダイマーは1つの融合タンパク質および追加のタンパク質を含む。例えば、追加のタンパク質はヌクレアーゼであり得る。ある実施形態において、ヌクレアーゼはジンクフィンガーヌクレアーゼである。ジンクフィンガーヌクレアーゼはジンクフィンガーDNA結合ドメインおよび切断ドメインを含む。ジンクフィンガーは、3つのヌクレオチドを認識し、結合する。ジンクフィンガーDNA結合ドメインは約3つから約7つのジンクフィンガーを含み得る。ジンクフィンガーDNA結合ドメインは天然のタンパク質に由来し得、あるいは合成され得る。(例えば、Beerli, et al., (2002) Nat. Biotechnol. 20:135-141; Pabo, et al., (2001) Ann. Rev. Biochem. 70:313-340; Isalan, et al., (2001) Nat. Biotechnol. 19:656-660; Segal et al. (2001) Curr. Opin. Biotechnol. 12:632-637; Choo, et al., (2000) Curr. Opin. Struct. Biol. 10:411-416; Zhang, et al., (2000) J. Biol. Chem. 275(43):33850-33860; Doyon, et al., (2008) Nat. Biotechnol. 26:702-708;および Santiago, et al., (2008) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 105:5809-5814を参照)。ジンクフィンガーヌクレアーゼの切断ドメインは、上記セクション(II)(b)(i)で詳しく述べたいずれの切断ドメインであってもよい。例示的な実施形態において、ジンクフィンガーヌクレアーゼの切断ドメインは、FokI切断ドメインまたは改変FokI切断ドメインである。このようなジンクフィンガーヌクレアーゼは、FokI切断ドメインまたは改変FokI切断ドメインを含む融合タンパク質とダイマーを形成する。
【0123】
ある実施形態において、ジンクフィンガーヌクレアーゼは、上で詳しく述べた、核局在化シグナル、細胞膜透過または転座ドメインから選択される、少なくとも1つの追加ドメインを含み得る。
【0124】
特定の実施形態において、上で詳しく述べた融合タンパク質のいずれか、または少なくとも1つの融合タンパク質を含むダイマーが、少なくとも1つのpegRNAを含むタンパク質-RNA複合体の一部となり得る。pegRNAは融合タンパク質のCRISPR/Cas様タンパク質と相互作用し、融合タンパク質を特定の標的部位へ導き、ここでpegRNAの5’末端が、特定のプロトスペーサー配列と塩基対を形成する。
【0125】
(III)RNA誘導型エンドヌクレアーゼまたは融合タンパク質をコードする核酸
本開示の別の態様は、上のセクション(I)および(II)にそれぞれ記載される、いずれかのRNA誘導型エンドヌクレアーゼまたはいずれかの融合タンパク質をコードする核酸を提供する。核酸はRNAまたはDNAであり得る。ある実施形態において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼまたは融合タンパク質をコードする核酸は、mRNAである。mRNAは5’キャップ修飾および/または3’ポリアデニル化修飾を施されたものであり得る。別の実施形態において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼまたは融合タンパク質をコードする核酸はDNAである。DNAはベクター中に含まれ得る(下記を参照)。
【0126】
RNA誘導型エンドヌクレアーゼまたは融合タンパク質をコードする核酸は、真核生物の細胞または対象の動物において、タンパク質への効率的な翻訳のために、コドン最適化され得る。例えば、コドンはヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウシ、ブタ、ネコ、イヌ、魚類、両生類、植物、酵母、昆虫、などにおける発現のため、最適化され得る。コドン最適化のためのプログラムが、フリーソフトとして利用可能である。市販のコドン最適化プログラムも利用可能である。
【0127】
ある実施形態において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼまたは融合タンパク質をコードするDNAは、少なくとも1つのプロモーター制御配列に、動作可能に連結され得る。いくつかの反復において、前記DNAコード配列は、真核生物の細胞または対象の動物における発現のため、プロモーター制御配列に、動作可能に連結され得る。プロモーター配列は、恒常的、調節性または組織特異的であり得る。適切な恒常的プロモーター配列は、サイトメガロウイルス最初期プロモーター(CMV)、シミアンウイルス(SV40)プロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、マウス乳癌ウイルス(MMTV)プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、伸長因子(ED1)αプロモーター、ユビキチンプロモーター、アクチンプロモーター、チューブリンプロモーター、免疫グロブリンプロモーター、それらのフラグメント、または前記のいずれかの組み合わせを含むが、これらに限定されることはない。適切な調節性プロモーター制御配列(regulated promoter control sequence)の例は、ヒートショック、金属、ステロイド、抗生物質、またはアルコールによって調節される配列を含むが、これらに限定されることはない。組織特異的プロモーターの非限定的な例は、B29プロモーター、CD14プロモーター、CD43プロモーター、CD45プロモーター、CD68プロモーター、デスミンプロモーター、エラスターゼ1プロモーター、エンドグリンプロモーター、フィブロネクチンプロモーター、Flt-1プロモーター、GFAPプロモーター、GPIIbプロモーター、ICAM-2プロモーター、INF-βプロモーター、Mbプロモーター、Nphslプロモーター、OG-2プロモーター、SP-Bプロモーター、SYN1プロモーター、およびWASPプロモーターを含む。プロモーター配列は野生型であり得、または、効率的な、あるいは効果的な発現のため改変され得る。ある例示的な実施形態において、コードするDNAは、哺乳類の細胞における恒常的な発現のため、CMVプロモーターに、動作可能に連結され得る。
【0128】
特定の実施形態において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼまたは融合タンパク質をコードする配列は、インビトロにおけるRNA合成のため、ファージRNAポリメラーゼに認識されるプロモーター配列に、動作可能に連結され得る。このような実施形態において、インビトロで転写されたRNAは、下記セクション(IV)および(V)において詳しく述べられる方法において使用するため、精製され得る。例えば、プロモーター配列はT7、T3、またはSP6プロモーター配列またはT7、T3、またはSP6プロモーターの変異型であってもよい。例示的な実施形態において、融合タンパク質をコードするDNAは、T7RNAポリメラーゼを用いたインビトロmRNA合成のため、T7プロモーターと、動作可能に連結される。
【0129】
異なる実施形態において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼまたは融合タンパク質をコードする配列は、細菌または真核生物の細胞におけるRNA誘導型エンドヌクレアーゼまたは融合タンパク質のインビトロにおける発現のため、プロモーター配列と、動作可能に連結され得る。このような実施形態において、発現したタンパク質は、下記セクション(IV)および(V)において詳しく述べられる方法において使用するために、精製されうる。適切な細菌プロモーターは、T7プロモーター、lacオペロンプロモーター、trpプロモーター、それらの変異型、およびそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されることはない。例示的な細菌プロモーターは、trpプロモーターおよびlacプロモーターのハイブリッドであるtacプロモーターである。適切な真核生物プロモーターの非限定的な例は、上に列挙される。
【0130】
追加の態様において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼまたは融合タンパク質をコードするDNAは、ポリアデニル化シグナル(例えばSV40ポリAシグナル、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリAシグナルなど)および/または少なくとも1つの転写終結配列と連結され得る。加えて、RNA誘導型エンドヌクレアーゼまたは融合タンパク質をコードする配列は、上記セクション(I)で詳しく述べたような、少なくとも1つの核局在化シグナル、少なくとも1つの細胞膜透過ドメイン、および/または少なくとも1つのマーカードメインをコードする配列と連結され得る。
【0131】
様々な態様において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼまたは融合タンパク質をコードするDNAは、ベクターに含まれ得る。適切なベクターは、プラスミドベクター、ファージミド、コスミド、人工/ミニ染色体、トランスポゾン、およびウイルスベクター(例えばレンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなど)を含む。ある実施形態において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼまたは融合タンパク質をコードするDNAは、プラスミドベクターに含まれる。適切なプラスミドベクターの非限定的な例は、pUC、pBR322、pET、pBluescript、およびそれらの変異型を含む。ベクターは追加の発現制御配列(例えばエンハンサー配列、コザック配列、ポリアデニル化配列、転写終結配列など)、選択可能なマーカー配列(例えば抗生物質耐性遺伝子)、複製起点、などを含み得る。追加の情報は、("Current Protocols in Molecular Biology" Ausubel, et al., John Wiley & Sons, New York, 2003)または("Molecular Cloning: A Laboratory Manual" Sambrook & Russell, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 3rd edition, 2001)において見られる。
【0132】
ある実施形態において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼまたは融合タンパク質をコードする配列を含む発現ベクターは、さらにpegRNAをコードする配列を含む。pegRNAをコードする配列は、一般的には、対象の細胞または胚におけるpegRNA発現のための少なくとも1つの転写制御配列と、動作可能に連結される。例えば、pegRNAをコードするDNAは、RNAポリメラーゼIII(Pol III)によって認識されるプロモーター配列と、動作可能に連結され得る。適切なPol IIIプロモーターの例は、哺乳類のU6、U3、H1、および7SL RNAプロモーターを含むが、これらに限定されることはない。
【0133】
(IV)RNA誘導型エンドヌクレアーゼを使用して染色体配列を改変する方法
本開示の別の態様は、真核生物の細胞または胚において染色体配列を改変する方法を含む。本方法は、真核生物の細胞または胚に、(i)少なくとも1つの核局在化シグナルを含む少なくとも1つのRNA誘導型エンドヌクレアーゼ、または少なくとも1つの核局在化シグナルを含む少なくとも1つのRNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードする核酸、(ii)少なくとも1つのpegRNAまたは少なくとも1つのpegRNAをコードするDNA、および、場合により、(iii)ドナー配列を含む少なくとも1つのドナーポリヌクレオチド、を導入することを含む。本方法はさらに、各pegRNAがRNA誘導型エンドヌクレアーゼを染色体配列の標的部位へ導き、ここでRNA誘導型エンドヌクレアーゼが標的部位に二重鎖切断を引き起こし、また、染色体配列が改変されるようなDNA修復プロセスによって二重鎖切断が修復されるように、細胞または胚を培養することを含む。
【0134】
ある実施形態において、本方法は、1つのRNA誘導型エンドヌクレアーゼ(またはそれをコードする核酸)およびpegRNA(またはそれをコードするDNA)を細胞または胚へと導入することを含み得、ここでRNA誘導型エンドヌクレアーゼが標的染色体配列に1つの二重鎖切断を引き起こす。オプションのドナーポリヌクレオチドが含まれない実施形態において、染色体配列における二重鎖切断は、非相同性末端結合(NHEJ)修復プロセスによって修復され得る。NHEJはエラーを起こしやすいため、二重鎖切断の修復の過程で、少なくとも1つの塩基の欠失、少なくとも1つの塩基の挿入、少なくとも1つの塩基の置換、またはそれらの組み合わせが起こり得る。したがって、標的染色体配列が改変または不活性化され得る。例えば、一塩基変異(SNP)が変異したタンパク質産物をもたらし得、または、コーディング配列のリーディングフレームのシフト変異が、配列を不活性化またはタンパク質産物が作られないように“ノックアウト”し得る。オプションのドナーポリペプチドが含まれる実施形態においては、二重鎖切断の修復の過程で、ドナーポリペプチド中のドナー配列が標的部位の染色体配列と交換または統合され得る。例えば、ドナー配列が、染色体配列の標的部位の上流および下流の配列とそれぞれ実質的に同一な配列を持つ上流配列および下流配列に挟まれている実施形態においては、相同組換え修復プロセスを介した修復の過程で、ドナー配列は、標的部位の染色体配列と交換または統合され得る。代わりに、ドナー配列が適合性のあるオーバーハング(compatible overhangs)に挟まれている(または適合性のあるオーバーハングがRNA誘導型エンドヌクレアーゼによってインサイチュで生成される)実施形態においては、二重鎖切断の修復の過程における非相同性修復プロセスによって、ドナー配列は切断された染色体配列に直接接合され得る。ドナー配列の、染色体配列との交換または統合は、標的染色体配列を改変するか、または外因性配列を細胞または胚の染色体配列へと導入する。
【0135】
他の実施形態において、本方法はRNA誘導型エンドヌクレアーゼ(またはそれをコードする核酸)および2つのpegRNA(またはそれらをコードするDNA)を、細胞又は胚へと導入することを含み得、ここでRNA誘導型エンドヌクレアーゼは標的染色体配列に2つの二重鎖切断を引き起こす。図3Bを参照。2つの二重鎖切断は数塩基対内、数十塩基対内で起こり得、または数千塩基対離れて起こり得る。オプションのドナーポリヌクレオチドが含まれない実施形態において、結果として起こる二重鎖切断は、二重鎖切断の修復の過程で、2つの切断部位の間の配列が失われるような、および/または少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、少なくとも1つのヌクレオチドの置換、またはそれらの組み合わせが起こり得るような、非相同性修復プロセスによって修復され得る。オプションのドナーポリヌクレオチドが含まれる実施形態において、ドナーポリペプチドのドナー配列は、二重鎖切断の修復の過程で、相同性ベースの修復プロセス(例えば、ドナー配列が染色体配列の標的部位の上流配列および下流配列と実質的に同一な配列を持つ上流配列および下流配列に挟まれている実施形態において)、または非相同性修復プロセス(例えばドナー配列が適合性のあるオーバーハングに挟まれている実施形態において)のいずれかによって、染色体配列と交換または染色体配列へと統合され得る。
【0136】
さらに別の実施形態において、本方法は、二重鎖配列の一方の鎖を切断するように改変されたRNA誘導型エンドヌクレアーゼ(またはそれをコードする核酸)および2つのpegRNA(またはそれらをコードするDNA)を細胞もしくは胚に導入することを含み、ここで各pegRNAはRNA誘導型エンドヌクレアーゼを特定の標的部位へ導き、この部位で、改変エンドヌクレアーゼは二重鎖染色体配列の一方の鎖を切断し(すなわち切れ目を入れ)、またここで2つの切れ目は反対の鎖にあり、かつ二重鎖切断を構成するのに十分近接している。図3Aを参照。オプションのドナーポリヌクレオチドが含まれない実施形態において、結果として生じる二重鎖切断は、二重鎖切断の修復の過程で、少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、少なくとも1つのヌクレオチドの置換、またはそれらの組み合わせが起こり得るような、非相同性修復によって修復され得る。オプションのドナーポリヌクレオチドが含まれる実施形態において、ドナーポリペプチドのドナー配列は、二重鎖切断の修復の過程で、相同性ベースの修復プロセス(例えば、ドナー配列が染色体配列の標的部位の上流配列および下流配列と実質的に同一な配列を持つ上流配列および下流配列に挟まれている実施形態において)、または非相同性修復プロセス(例えばドナー配列が適合性のあるオーバーハングに挟まれている実施形態において)のいずれかによって、染色体配列と交換または統合され得る。
【0137】
(a)RNA誘導型エンドヌクレアーゼ
本方法は、細胞または胚に、少なくとも1つの核局在化シグナルを含む少なくとも1つのRNA誘導型エンドヌクレアーゼ、または少なくとも1つの核局在化シグナルを含む少なくとも1つのRNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードする核酸を導入することを含む。このようなRNA誘導型エンドヌクレアーゼおよびRNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードする核酸は、それぞれ上記セクション(I)および(III)において詳しく述べた。このようなRNA誘導はpegRNAであってもよい。
【0138】
ある実施形態において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼは、細胞もしくは胚に、単離されたタンパク質として導入され得る。このような実施形態において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼはさらに、タンパク質の細胞内取込を促進する少なくとも1つの細胞膜透過ドメインを含み得る。他の実施形態において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼは、細胞または胚に、mRNA分子として導入され得る。さらに他の実施形態において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼは、細胞または胚に、DNA分子として導入され得る。一般的には、融合タンパク質をコードするDNA配列は、対象の細胞または胚において機能するプロモーター配列と、動作可能に連結されている。DNA配列は直鎖状であり得、あるいは、DNA配列はベクターの一部であり得る。さらに他の実施形態において、融合タンパク質は、細胞もしくは胚に、融合タンパク質およびpegRNAを含むRNA-タンパク質複合体として導入され得る。
【0139】
異なる実施形態において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードするDNAはさらに、pegRNAをコードする配列を含み得る。一般的には、RNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードする配列およびpegRNAをコードする配列のそれぞれが、RNA誘導型エンドヌクレアーゼおよびpegRNAの細胞または胚における発現を可能にする適切なプロモーター制御配列と、動作可能に連結されている。RNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードするDNA配列はさらに、追加の発現制御、調節、および/またはプロセッシング配列を含み得る。RNA誘導型エンドヌクレアーゼおよびpegRNAをコードするDNA配列は、直鎖状であり得、またはベクターの一部であり得る。
【0140】
(b)プライム編集ガイドRNA(pegRNA)
本方法は、細胞または胚に、少なくとも1つのpegRNAまたは少なくとも1つのpegRNAをコードするDNAを導入することも含む。pegRNAはRNA誘導型エンドヌクレアーゼと相互作用し、エンドヌクレアーゼを特定の標的部位へ導き、この部位で、ガイドRNAの5’末端が染色体配列の特定のプロトスペーサー配列と塩基対を形成する。
【0141】
各pegRNAは3つの領域:染色体配列の標的部位と相補的な5’末端の第1の領域、ステムループ構造を形成する内部の第2の領域、基本的に単鎖の状態を維持する3’末端の第3の領域、を含む。各pegRNAが融合タンパク質を特定の標的部位へ誘導するように、各pegRNAの第1の領域は異なっている。pegRNAの第2の領域および第3の領域は、全てのpegRNAで同一であり得る。
【0142】
pegRNAの第1の領域は染色体配列の標的部位の配列(すなわちプロトスペーサー配列)と相補的であり、pegRNAの第1の領域が標的部位と塩基対を形成できるようになっている。様々な実施形態において、pegRNAの第1の領域は、約10ヌクレオチドから、約25ヌクレオチドより多くを含み得る。例えば、pegRNAの第1の領域と染色体配列の標的部位との間の塩基対形成の領域は、長さ約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、または25より多くのヌクレオチドであり得る。例示的な実施形態において、pegRNAの第1の領域は、長さ約19、20、または21ヌクレオチドである。
【0143】
また、pegRNAは、二次構造を形成する第2の領域も含む。ある実施形態においては、二次構造はステム(またはヘアピン)およびループも含む。ループおよびステムの長さは様々であり得る。例えば、ループは長さ約3から約10ヌクレオチドの範囲であり得、ステムは長さ約6から約20塩基対の範囲であり得る。ステムは1から約10ヌクレオチドのバルジ(bulge)を1つ以上含み得る。したがって、第2の領域の全長は、長さ約16から約60ヌクレオチドの範囲であり得る。例示的な実施形態において、ループは長さ約4ヌクレオチドであり、また、ステムは約12塩基対を含む。
【0144】
また、pegRNAは、基本的に単鎖の状態を維持する第3の領域も含む。すなわち、第3の領域は対象の細胞の染色体配列のいずれに対しても相補性を有さず、また、pegRNAの残りの部分に対しても相補性を有さない。第3の領域の長さは様々であり得る。一般的には、第3の領域は約4ヌクレオチドよりも長い。例えば、第3の領域の長さは、長さ約5から約60ヌクレオチドの範囲であり得る。
【0145】
pegRNAの第2の領域と第3の領域を組み合わせた長さ(普遍領域(universal region)または足場領域(scaffold region)とも呼ばれる)は、長さ約30から約120ヌクレオチドの範囲であり得る。ある態様において、pegRNAの第2の領域と第3の領域を組み合わせた長さは、長さ約70から約100ヌクレオチドの範囲である。
【0146】
ある実施形態において、pegRNAは3つ全ての領域を含む1つの分子を含む。他の実施形態において、pegRNAは2つの分割された分子を含み得る。第1のRNA分子は、pegRNAの第1の領域、およびpegRNAの第2の領域の“ステム”の半分を含み得る。第2のRNA分子は、pegRNAの第2の領域の“ステム”のもう半分およびpegRNAの第3の領域を含み得る。すなわち、この実施形態においては、第1および第2のRNA分子それぞれが、他方と相補的なヌクレオチドの配列を含む。例えば、ある実施形態において、第1および第2のRNA分子はそれぞれ、他方の配列と塩基対を形成して機能性のpegRNAを形成する(約6から約20ヌクレオチドの)配列を含む。
【0147】
ある実施形態において、pegRNAは、細胞または胚に、RNA分子として導入され得る。RNA分子はインビトロで転写され得る。代わりに、RNA分子は化学合成され得る。
【0148】
他の実施形態において、pegRNAは、細胞または胚に、DNA分子として導入され得る。このような場合において、pegRNAをコードするDNAは、対象の細胞または胚におけるpegRNAの発現のためのプロモーター制御配列と、動作可能に連結され得る。例えば、RNAをコードする配列は、RNAポリメラーゼIII(Pol III)によって認識されるプロモーター配列と、動作可能に連結され得る。適切なPol IIIプロモーターの例は、哺乳類のU6またはH1プロモーターを含むが、これに限定されることはない。例示的な実施形態において、RNAをコードする配列は、マウスまたはヒトのU6プロモーターと連結されている。他の例示的な実施形態において、RNAをコードする配列は、マウスまたはヒトのH1プロモーターと連結されている。
【0149】
pegRNAをコードするDNA分子は直鎖状または環状であり得る。ある実施形態において、pegRNAをコードするDNAはベクターの一部であり得る。適切なベクターは、プラスミドベクター、ファージミド、コスミド、人工/ミニ染色体、トランスポゾン、およびウイルスベクターを含む。適切なプラスミドベクターの非限定的な例はpUC、pBR322、pET、pBluescript、およびそれらのバリアントを含む。ベクターは追加の発現制御配列(例えばエンハンサー配列、コザック配列、ポリアデニル化配列、転写終結配列、など)、選択可能なマーカー配列(例えば抗生物質耐性遺伝子)、複製起点、などを含み得る。
【0150】
RNA誘導型エンドヌクレアーゼおよびpegRNAの両方が、細胞または胚に、DNA分子として導入される実施形態において、それぞれは別々の分子の一部であり得(例えば、融合タンパク質をコードする配列を含むベクターおよびpegRNAをコードする配列を含む第2のベクター)、あるいは両方が同じ分子の一部であり得る(例えば、融合タンパク質およびpegRNAの両方のコーディング配列(および調節配列)を含むベクター)。
【0151】
(c)標的部位
pegRNAと組み合わされたRNA誘導型エンドヌクレアーゼは染色体配列の標的部位へ導かれ、ここでRNA誘導型エンドヌクレアーゼは染色体配列の切断を引き起こす。標的部位には、コンセンサス配列がすぐ先に(下流に)あるということを除いて、配列の制限はない。このコンセンサス配列は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)としても知られる。PAMの例は、NGG、NGGNG、およびNNAGAAW(ここでNは任意のヌクレオチドと定義され、また、WはAまたはTのいずれかと定義される)を含むが、これらに限定されることはない。上記セクション(IV)(b)で詳しく述べたように、pegRNAの第1の領域(5’末端)は、標的配列のプロトスペーサーと相補的である。典型的には、pegRNAの第1の領域は長さ約19-21ヌクレオチドである。したがって、特定の態様において、染色体配列の標的部位の配列は、5’-N19-21-NGG-3’である。PAMはイタリック表記である。
【0152】
標的部位は遺伝子のコーディング領域の中、遺伝子のイントロンの中、遺伝子の制御領域の中、遺伝子間のノンコーディング領域の中、などであり得る。遺伝子はタンパク質をコードする配列またはRNAをコードする配列であり得る。遺伝子は、対象のいかなる遺伝子であってもよい。
【0153】
(d)オプションのドナーポリヌクレオチド
ある実施形態において、本方法はさらに、少なくとも1つのドナーポリヌクレオチドを標的部位に導入することを含む。ドナーポリヌクレオチドは少なくとも1つのドナー配列を含む。ある態様において、ドナーポリヌクレオチドのドナー配列は、内因性または天然の染色体配列に対応する。例えば、ドナー配列は、標的部位またはその近くの染色体配列の一部と実質的に同一であり得るが、少なくとも1つのヌクレオチドの変化を含む。すなわち、ドナー配列は、天然の配列と統合または交換されるに際して、標的の染色体上の位置の配列が少なくとも1つのヌクレオチドの変化を含むように、標的部位の野生型配列の改変バージョンを含み得る。例えば、変化は1つ以上のヌクレオチドの挿入、1つ以上のヌクレオチドの欠失、1つ以上のヌクレオチドの置換、またはそれらの組み合わせであり得る。改変された配列の統合の結果として、細胞または胚/動物は、標的の染色体配列から改変された遺伝子産物を産生できる。
【0154】
他の態様において、ドナーポリヌクレオチドのドナー配列は、外因性配列に対応する。本明細書で用いる“外因性”配列は、胚または細胞天然のものではない配列、あるいは、細胞または胚のゲノムにおける天然の位置が異なる位置である配列を表す。例えば、外因性配列は、タンパク質をコードする配列を含み、この配列は、ゲノムへの統合に際して、細胞または胚/動物が、統合された配列にコードされるタンパク質を発現できるように、外因性のプロモーター制御配列と動作可能に連結され得る。代わりに、外因性配列は、その発現が外因性プロモーター制御配列によって調節されるように、染色体配列へと統合され得る。他の反復において、外因性配列は、転写制御配列、別の発現制御配列、RNAをコードする配列、などであり得る。外因性配列の染色体配列への統合は、“ノックイン”と呼ばれる。
【0155】
当業者には理解できるように、ドナー配列の長さは様々であり得るし、また、様々であろう。例えば、ドナー配列は長さ数ヌクレオチドから数百ヌクレオチド、数十万ヌクレオチドまで様々であり得る。
【0156】
上流配列および下流配列を含むドナーポリヌクレオチド。ある実施形態において、ドナーポリヌクレオチドのドナー配列は上流配列および下流配列に挟まれており、これらの配列は、染色体配列の標的部位のそれぞれ上流および下流に位置する配列との実質的な配列同一性を有している。これらの配列の類似性から、ドナーポリヌクレオチドの上流配列および下流配列は、ドナー配列が染色体配列と統合される(または交換される)ような、ドナーポリヌクレオチドと標的の染色体配列との間の相同組み換えを可能にする。
【0157】
本明細書で用いる上流配列とは、標的部位の上流の染色体配列と実質的な配列同一性を共有する核酸配列のことを表す。同様に、下流配列は、標的部位の下流の染色体配列と実質的な配列同一性を共有する核酸配列のことを表す。本明細書で用いる“実質的な配列同一性”というフレーズは、少なくとも75%の配列同一性を有することを表す。すなわち、ドナーポリヌクレオチドの上流配列および下流配列は、標的部位の上流または下流の配列と、約75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有し得る。例示的な実施形態において、ドナーポリヌクレオチドの上流配列および下流配列は、標的部位の上流または下流の染色体配列と、約95%から100%の配列同一性を有し得る。ある実施形態において、上流配列は、標的部位のすぐ上流に位置する(すなわち標的部位に隣接している)染色体配列と実質的な配列同一性を共有する。他の実施形態において、上流配列は、標的部位から約百(100)ヌクレオチド以内の上流に位置する染色体配列と実質的な配列同一性を共有する。すなわち、例えば上流配列は、標的部位から、約1から約20、約21から約40、約41から約60、約61から約80、または約81から約100ヌクレオチド上流に位置する染色体配列と実質的な配列同一性を共有し得る。ある実施形態において、下流配列は、標的部位のすぐ下流に位置する(すなわち標的部位に隣接している)染色体配列と実質的な配列同一性を共有する。他の実施形態において、下流配列は、標的部位から約百(100)ヌクレオチド以内の下流に位置する染色体配列と実質的な配列同一性を共有する。すなわち、例えば下流配列は、標的部位から、約1から約20、約21から約40、約41から約60、約61から約80、または約81から約100ヌクレオチド下流に位置する染色体配列と実質的な配列同一性を共有し得る。
【0158】
各上流配列または下流配列は、長さ約20ヌクレオチドから約5000ヌクレオチドまでの範囲であり得る。ある実施形態において、上流配列および下流配列は、約50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2800、3000、3200、3400、3600、3800、4000、4200、4400、4600、4800、または5000ヌクレオチドを含み得る。例示的な実施形態において、上流配列および下流配列は、長さ約50から約1500ヌクレオチドの範囲であり得る。
【0159】
標的の染色体配列と配列の類似性を有する上流配列および下流配列を含むドナーポリヌクレオチドは、直鎖状または環状であり得る。ドナーポリペプチドが環状である実施形態において、ドナーポリペプチドはベクターの一部であり得る。例えば、ベクターはプラスミドベクターであり得る。
【0160】
標的化切断部位を含むドナーポリペプチド。他の実施形態において、ドナーポリペプチドは追加で、少なくとも1つの、RNA誘導型エンドヌクレアーゼによって認識される標的化切断部位を含み得る。ドナーポリヌクレオチドに加えられた標的化切断部位は、ドナー配列の上流または下流、あるいは上流および下流の両方に位置し得る。例えば、ドナー配列は標的化切断部位に挟まれ得、これにより、RNA誘導型エンドヌクレアーゼによる切断に際して、ドナー配列は、RNA誘導型エンドヌクレアーゼによる切断に際して生成された染色体配列のオーバーハングと適合性のあるオーバーハングによって挟まれる。したがって、非相同性修復プロセスによる二重鎖切断の修復の過程で、ドナー配列は、切断された染色体配列と接合され得る。一般的には、標的化切断部位を含むドナーポリヌクレオチドは、環状である(例えばプラスミドベクターの一部であり得る)。
【0161】
オプションのオーバーハングを有する短いドナー配列を含むドナーポリヌクレオチド。さらに別の実施形態において、ドナーポリヌクレオチドは、RNA誘導型エンドヌクレアーゼによって生成されたオーバーハングと適合性のある、オプションの短いオーバーハングを有する短いドナー配列を含む、直鎖状の分子であり得る。このような実施形態において、ドナー配列は、二重鎖切断の修復の過程で、切断された染色体配列と直接接合され得る。ある場合において、ドナー配列は約1000未満、約500未満、約250未満、または約100未満のヌクレオチドであり得る。特定のケースにおいて、ドナーポリヌクレオチドは、平滑末端を有する短いドナー配列を含む、直鎖状の分子であり得る。他の場合において、ドナーポリヌクレオチドは、5’および/または3’オーバーハングを有する短いドナー配列を含む、直鎖状の分子であり得る。オーバーハングは1,2、3、4、または5ヌクレオチドを含み得る。
【0162】
典型的には、ドナーポリヌクレオチドはDNAである。DNAは単鎖または二重鎖、かつ/または、直鎖状または環状であってもよい。ドナーポリヌクレオチドは、DNAプラスミド、細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、ウイルスベクター、DNAの直鎖状の断片、PCR断片、遊離核酸、またはリポソームまたはポロキサマー(poloxamer)のようなデリバリー用の媒体であってもよい。特定の実施形態において、ドナー配列を含むドナーポリヌクレオチドはプラスミドベクターの一部であり得る。これらの状況のいずれにおいても、ドナー配列を含むドナーヌクレオチドは、さらに少なくとも1つの追加配列を含み得る。
【0163】
(e)細胞または胚への導入
RNA誘導型エンドヌクレアーゼ(またはそれをコードする核酸)、pegRNA(またはそれをコードするDNA)、およびオプションのドナーポリヌクレオチドは、細胞または胚に、様々な手段で導入され得る。ある実施形態において、細胞または胚は、トランスフェクトされる。適切なトランスフェクションの方法は、リン酸カルシウムを介したトランスフェクション、ヌクレオフェクション(nucleofection)(またはエレクトロポレーション)、カチオン性ポリマートランスフェクション(例えばDEAE-デキストランまたはポリエチレンイミン)、ウイルス形質導入、バイロソーム(virosome)トランスフェクション、ビリオン(virion)トランスフェクション、リポソームトランスフェクション、カチオン性リポソームトランスフェクション、免疫リポソーム(immunoliposome)トランスフェクション、非リポソーム脂質トランスフェクション、デンドリマー(dendrimer)トランスフェクション、ヒートショックトランスフェクション、マグネトフェクション(magnetofection)、リポフェクション、遺伝子銃(gene gun)デリバリー、インペイルフェクション(impalefection)、ソノポレーション(sonoporation)、光トランスフェクション、および商品の試薬(proprietary agent)による核酸取込の促進を含む。トランスフェクションの方法は当技術でよく知られている(例えば"Current Protocols in Molecular Biology" Ausubel, et al., John Wiley & Sons, New York, 2003 or "Molecular Cloning: A Laboratory Manual" Sambrook & Russell, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 3rd edition, 2001を参照)。他の実施形態において、分子は細胞または胚にマイクロインジェクションによって導入される。典型的には、胚は、対象の生物種の、受精した1細胞期の胚である。例えば、分子は1細胞の胚の前核に注射される。
【0164】
RNA誘導型エンドヌクレアーゼ(またはそれをコードする核酸)、pegRNA(またはそれをコードするDNA)、およびオプションのドナーポリヌクレオチドは、細胞または胚に、同時に、または逐次導入され得る。pegRNA(またはそれをコードするDNA)に対するRNA誘導型エンドヌクレアーゼ(またはそれをコードする核酸)の比は、一般的には、これらがRNA-タンパク質複合体を形成し得るように、化学量論的である。ある実施形態においては、RNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードするDNAおよびpegRNAをコードするDNAは、共にプラスミドベクターで送達される。
【0165】
(f)細胞または胚の培養
本方法はさらに、pegRNAがRNA誘導型エンドヌクレアーゼを染色体配列の標的部位へ導き、RNA誘導型エンドヌクレアーゼが染色体配列に少なくとも1つの二重鎖切断を引き起こすように、細胞または胚を適切な条件下で維持することを含む。二重鎖切断は、染色体配列が、少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、少なくとも1つのヌクレオチドの置換、またはそれらの組み合わせによって改変されるようなDNA修復プロセスによって、修復され得る。
【0166】
ドナーポリヌクレオチドが細胞または胚に導入されない実施形態において、二重鎖切断は非相同性末端結合(NHEJ)修復プロセスによって修復され得る。NHEJはエラーを起こしやすいため、少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、少なくとも1つのヌクレオチドの置換、またはそれらの組み合わせが、二重鎖切断の修復の過程で起こり得る。したがって、染色体配列上のその配列は、コーディング領域のリーディングフレームがシフトし得、染色体配列が不活性化または“ノックアウト”されるように、改変され得る。不活性化された、タンパク質をコードする染色体配列は、野生型の染色体配列によってコードされるタンパク質を生み出さない。
【0167】
上流配列および下流配列を含むドナーポリヌクレオチドが細胞または胚に導入される実施形態において、二重鎖切断は、相同組換え修復(HDR)プロセスによって、ドナー配列が染色体配列に統合されるように修復され得る。したがって、外因性配列が細胞または胚のゲノムに統合され得、あるいは標的の染色体配列が、野生型染色体配列の改変配列との交換によって改変され得る。
【0168】
標的化切断部位を含むドナーポリペプチドが細胞または胚に導入される実施形態において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼは、標的の染色体配列およびドナーポリヌクレオチドの両方を切断し得る。直鎖状になったドナーポリヌクレオチドは、二重鎖切断の部位で、ドナーポリヌクレオチドと切断された染色体配列との間の接合によって、NHEJプロセスを介して、染色体配列へと統合され得る。
【0169】
短いドナー配列を含むドナーポリペプチドが細胞または胚に導入される実施形態において、短いドナー配列は、二重鎖切断の部位で、NHEJプロセスを介して、染色体配列へと統合され得る。統合は、短いドナー配列と二重鎖切断の位置の染色体配列との間の平滑末端の接合を介して進行し得る。代わりに、統合は、切断された染色体配列においてRNA誘導型エンドヌクレアーゼによって生成されたオーバーハングと適合性のあるオーバーハングによって挟まれた短いドナー配列と染色体配列の間の、粘着末端(すなわち5’または3’オーバーハングを有する末端)の接合を介して進行し得る。
【0170】
一般的には、細胞は、細胞の成長および/または維持に適した条件下で維持される。適切な細胞培養条件は当技術でよく知られており、例えば(Santiago, et al., (2008) PNAS 105:5809-5814; Moehle, et al., (2007) PNAS 104:3055-3060; Urnov, et al., (2005) Nature 435:646-651; and Lombardo et al (2007) Nat. Biotechnology 25:1298-1306)において記載されている。当業者には、細胞を培養する方法が当技術で知られており、細胞のタイプに依存して異なり得、また、異なるであろうことが、理解されるだろう。日常的な最適化が、全てのケースにおいて、特定の細胞タイプに最適な手法を決定するために用いられてもよい。
【0171】
胚はインビトロで培養され得る(例えば細胞培地において)。典型的には、胚は、適した温度で、かつ必要であれば、RNAエンドヌクレアーゼおよびpegRNAの発現を可能にするために必要なO/CO比を有する、適した培地において培養される。適した培地の非限定的な例は、M2、M16、KSOM、BMOC、およびHTF培地を含む。当業者には、培養条件が胚の生物種に依存して異なり得、また、異なるであろうことが理解されるだろう。日常的な最適化が、全てのケースにおいて、胚の特定の種に最適な培養条件を決定するために用いられてもよい。ある実施形態において、細胞株はインビトロで培養した胚(例えば胚性幹細胞株)に由来し得る。
【0172】
代わりに、胚は、インビボで、胚を雌の宿主の子宮に移植することによって培養されてもよい。一般的には、雌の宿主は、胚の生物種と同じまたは類似の生物種である。好ましくは、雌の宿主は偽妊娠である。偽妊娠の雌の宿主を調製する方法は当技術で知られている。加えて、胚を雌の宿主へ移植する方法が知られている。インビボにおける胚の培養は、胚が発生することを可能にし、結果として胚に由来する動物が誕生し得る。このような動物は、全ての体細胞において改変された染色体配列を含む。
【0173】
(g)細胞および胚のタイプ
様々な真核生物の細胞および胚が、本方法における使用に適切である。例えば、細胞は、ヒトの細胞、非ヒト哺乳類の細胞、非哺乳類脊椎動物の細胞、無脊椎動物の細胞、昆虫の細胞、植物の細胞、酵母の細胞、または単細胞の真核生物であり得る。一般的には、胚は非ヒト哺乳類の細胞である。特定の実施形態において、胚は1細胞の非ヒト哺乳類の胚である。例示的な哺乳類の胚は、1細胞胚を含み、マウス、ラット、ハムスター、げっ歯類、ウサギ、 ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、および霊長類の胚を含むが、これらに限定されることはない。さらに他の実施形態において、細胞は幹細胞であり得る。適切な幹細胞は、胚性幹細胞、ES様幹細胞、胎児性幹細胞、成体幹細胞、多能性幹細胞、人工多能性幹細胞、多能性幹細胞、乏性幹細胞、単能性幹細胞およびその他を含むが、これらに限定されることはない。例示的な実施形態において、細胞は哺乳類の細胞である。
【0174】
適切な哺乳類の細胞の非限定的な例は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、マウス骨髄腫NSO細胞、マウス胚性線維芽細胞3T3細胞(NIH3T3)、マウスBリンパ腫A20細胞、マウス黒色腫B16細胞、マウス筋芽細胞C2C12細胞、マウス骨髄腫SP2/0細胞、マウス胚性間葉系C3H-10T1/2細胞;マウス癌CT26細胞、マウス前立腺DuCuP細胞、マウス乳房EMT6細胞、マウス肝癌Hepa1c1c7細胞、マウス骨髄腫J5582細胞、マウス上皮MTD-1A細胞、マウス心筋MyEnd細胞、マウス腎臓RenCa細胞、マウス膵臓RIN-5F細胞、マウス黒色腫X64細胞、マウスリンパ腫YAC-1細胞;ラット膠芽腫9L細胞;ラットBリンパ腫RBL細胞;ラット神経芽腫B35細胞;ラット肝腫細胞(HTC);バッファローラット肝臓BRL 3A細胞;イヌ腎臓細胞(MDCK);イヌ乳腺(CMT)細胞;ラット骨肉腫D17細胞;ラット単球/マクロファージDH82細胞;サル腎臓SV-40形質転換線維芽細胞(COS7)細胞;サル腎臓CVI-76細胞;アフリカミドリザル腎臓(VERO-76)細胞;ヒト胚性腎臓細胞(HEK293、HEK293T);ヒト子宮頸癌細胞(HELA);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝細胞(Hep G2);ヒトU2-OS骨肉腫細胞、ヒトA549細胞、ヒトA-431細胞、およびヒトK562細胞を含む。哺乳類細胞株の広範なリストは、American Type Culture Collection catalog (ATCC, Mamassas, Va.)で見られる。
【0175】
(V)染色体配列の改変、または染色体配列の発現調節のため融合タンパク質を使用する方法
本開示の別の態様は、細胞または胚における、染色体配列の改変または染色体配列の発現調節のための方法を含む。本方法は、細胞または胚に、(a)少なくとも1つの融合タンパク質または少なくとも1つの融合タンパク質をコードする核酸、ここで融合タンパク質はCRISPR/Cas様タンパク質またはそのフラグメントおよびエフェクタードメインを含む、および(b)少なくとも1つのpegRNAまたはpegRNAをコードするDNA、ここでpegRNAは融合タンパク質のCRISPR/Cas様タンパク質を染色体配列の標的部位へと誘導し、融合タンパク質のエフェクタードメインが染色体配列を改変または染色体配列の発現を調節する、を導入することを含む。
【0176】
CRIPSR/Cas様タンパク質またはそのフラグメントおよびエフェクタードメインを含む融合タンパク質は、上記セクション(II)で詳しく述べた。一般的には、本明細書で開示される融合タンパク質は、さらに少なくとも1つの核局在化シグナルを含む。融合タンパク質をコードする核酸は上記セクション(III)で詳しく述べた。ある実施形態において、融合タンパク質は、細胞または胚に、単離されたタンパク質(さらに細胞膜透過ドメインを含み得る)として導入され得る。さらに、単離された融合タンパク質は、pegRNAを含むRNA-タンパク質複合体の一部であり得る。他の実施形態において、融合タンパク質は、細胞または胚に、RNA分子(キャップ修飾および/またはポリアデニル化修飾を施され得る)として導入され得る。さらに他の実施形態において、融合タンパク質は、細胞または胚に、DNA分子として導入され得る。例えば、融合タンパク質およびpegRNAは、細胞または胚に、別々のDNA分子として、または同じDNA分子の一部として導入され得る。このようなDNA分子は、プラスミドベクターであり得る。
【0177】
ある実施形態において、本方法はさらに、細胞または胚に、少なくとも1つのジンクフィンガーヌクレアーゼを導入することを含む。ジンクフィンガーヌクレアーゼは上記セクション(II)(d)で記載した。さらに他の実施形態において、本方法はさらに、細胞または胚に、少なくとも1つのドナーポリヌクレオチドを導入することを含む。ドナーポリヌクレオチドは上記セクション(IV)(d)で詳しく述べた。分子を細胞または胚に導入する手段、および細胞または胚の培養の手段は、それぞれ上記セクション(IV)(e)および(IV)(f)で詳しく述べた。適切な細胞および胚は、上記セクション(IV)(g)で記載した。
【0178】
融合タンパク質のエフェクタードメインが切断ドメイン(例えばFokI切断ドメインまたは改変FokI切断ドメイン)である特定の実施形態において、本方法は、細胞または胚に、1つの融合タンパク質(または1つの融合タンパク質をコードする核酸)および2つのpegRNA(または2つのpegRNAをコードするDNA)を導入することを含む。2つのpegRNAは融合タンパク質を染色体配列の2つの異なる標的部位へ導き、ここで融合タンパク質は、2つの切断ドメインが染色体配列に二重鎖切断を引き起こし得るように、ダイマーを形成(例えばホモダイマーを形成)する。オプションのドナーポリヌクレオチドが含まれない実施形態において、染色体配列の二重鎖切断は、非相同性末端結合(NHEJ)修復プロセスによって修復され得る。NHEJはエラーを起こしやすいため、少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、少なくとも1つのヌクレオチドの置換、またはそれらの組み合わせが、切断の修復の過程で起こり得る。したがって、標的の染色体配列は改変または不活性化され得る。例えば、一塩基変異(SNP)が変更されたタンパク質産物を生じ得、または、コーディング配列のリーディングフレームのシフトが、タンパク質産物が作られないように、配列を不活性化または“ノックアウト”し得る。オプションのドナーポリヌクレオチドが含まれる実施形態において、ドナーポリヌクレオチドのドナー配列は、二重鎖切断の修復の過程で、標的部位の染色体配列と交換または統合され得る。例えば、ドナー配列が、染色体配列の標的部位の上流および下流の配列とそれぞれ実質的な配列同一性を有する上流配列および下流配列に挟まれている実施形態において、ドナー配列は、相同組換え修復プロセスを介した修復の過程で、標的部位の染色体配列と交換または統合され得る。代わりに、ドナー配列が適合性のあるオーバーハングに挟まれる(または適合性のあるオーバーハングがRNA誘導型エンドヌクレアーゼによって細胞内で生成される)実施形態において、ドナー配列は、二重鎖切断の修復の過程で、非相同性修復プロセスによって、切断された染色体配列と直接接合され得る。ドナー配列の、染色体配列との交換または統合は、標的の染色体配列を改変するか、あるいは細胞または胚の染色体配列に外因性配列を導入する。
【0179】
融合タンパク質のエフェクタードメインが切断ドメイン(FokI切断ドメインまたは改変FokI切断ドメイン)である他の実施形態において、本方法は、細胞または胚に、2つの異なる融合タンパク質(または2つの異なる融合タンパク質をコードする核酸)および2つのpegRNA(または2つのpegRNAをコードするDNA)を導入することを含み得る。融合タンパク質は、上記セクション(II)で詳しく述べたように、様々であり得る。各pegRNAは融合タンパク質を染色体配列の標的部位へと導き、ここで融合タンパク質は、2つの切断ドメインが染色体配列に二重鎖切断を引き起こし得るように、ダイマーを形成(例えばヘテロダイマーを形成)する。オプションのドナーポリヌクレオチドが含まれない実施形態において、結果として生じる二重鎖切断は、二重鎖切断の修復の過程で少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、少なくとも1つのヌクレオチドの置換、またはそれらの組み合わせが起こり得るような、非相同性修復プロセスによって修復され得る。オプションのドナーポリヌクレオチドが含まれる実施形態において、ドナーポリヌクレオチドのドナー配列は、二重鎖切断の修復の過程で、相同性ベースの修復プロセス(例えばドナー配列が染色体配列の標的部位の上流および下流の配列とそれぞれ実質的な配列同一性を有する上流配列および下流配列に挟まれている実施形態において)、または非相同性修復プロセス(例えばドナー配列が適合性のあるオーバーハングに挟まれている実施形態において)のいずれかによって、染色体配列と交換または統合され得る。
【0180】
融合タンパク質のエフェクタードメインが切断ドメイン(例えばFokI切断ドメインまたは改変FokI切断ドメイン)であるさらに他の実施形態において、本方法は、細胞または胚に、1つの融合タンパク質(または1つの融合タンパク質をコードする核酸)、1つのpegRNA(または1つのpegRNAをコードするDNA)、および1つのジンクフィンガーヌクレアーゼ(またはジンクフィンガーヌクレアーゼをコードする核酸)を導入することを含み得、ここでジンクフィンガーヌクレアーゼはFokI切断ドメインまたは改変FokI切断ドメインを含む。pegRNAは融合タンパク質を特定の染色体配列へ導き、また、ジンクフィンガーヌクレアーゼは別の染色体配列へ導かれ、ここで、融合タンパク質およびジンクフィンガーヌクレアーゼは、融合タンパク質の切断ドメインおよびジンクフィンガーヌクレアーゼの切断ドメインが染色体配列に二重鎖切断を引き起こし得るように、ダイマーを形成する。図1Bを参照。オプションのドナーポリペプチドが含まれない実施形態において、結果として生じる二重鎖切断は、二重鎖切断の修復の過程で少なくとも1つのヌクレオチドの欠失、少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、少なくとも1つのヌクレオチドの置換、またはそれらの組み合わせが起こり得るような非相同性修復プロセスによって修復され得る。オプションのドナー配列が含まれる実施形態において、ドナーポリヌクレオチドのドナー配列は、二重鎖切断の修復の過程で、相同性ベースの修復プロセス(例えばドナー配列が染色体配列の標的部位の上流および下流の配列とそれぞれ実質的な配列同一性を有する上流配列および下流配列に挟まれている実施形態において)、または非相同性修復プロセス(例えばドナー配列が適合性のあるオーバーハングに挟まれている実施形態において)のいずれかによって、染色体配列と交換または統合され得る。
【0181】
融合タンパク質のエフェクタードメインが転写活性化ドメインまたは転写抑制ドメインであるさらに他の実施形態において、本方法は、細胞または胚に、1つの融合タンパク質(または1つの融合タンパク質をコードする核酸)および1つのpegRNA(または1つのpegRNAをコードするDNA)を導入することを含み得る。pegRNAは融合タンパク質を特定の染色体配列へと導き、ここで転写活性化ドメインまたは転写抑制ドメインが、標的の染色体配列の発現を、それぞれ活性化または抑制する。図2Aを参照。
【0182】
融合タンパク質のエフェクタードメインがエピジェネティック修飾ドメインである別の実施形態において、本方法は、細胞または胚に、1つの融合タンパク質(または1つの融合タンパク質をコードする核酸)および1つのpegRNA(または1つのpegRNAをコードするDNA)を導入することを含み得る。pegRNAは融合タンパク質を特定の染色体配列へ導き、ここでエピジェネティック修飾ドメインが標的の染色体配列の構造を変化させる。図2Bを参照。エピジェネティック修飾は、ヒストンタンパク質のアセチル化、メチル化、および/またはヌクレオチドのメチル化を含む。ある場合において、染色体配列の構造変化は、染色体配列の発現の変化をもたらす。
【0183】
(VI)遺伝子改変細胞および遺伝子改変動物
本開示は、RNA誘導型エンドヌクレアーゼまたは融合タンパク質を介したプロセスを用いて、例えば本明細書に記載された方法を用いて改変された少なくとも1つの染色体を含む、遺伝子改変を受けた細胞、非ヒト胚、および非ヒト動物を含む。本開示は、対象の染色体配列に標的化されたRNA誘導型エンドヌクレアーゼまたは融合タンパク質をコードする少なくとも1つのDNAまたはRNA分子、または融合タンパク質、少なくとも1つのpegRNA、および場合により1つ以上のドナーポリヌクレオチド、を含む細胞を提供する。本開示はまた、対象の染色体配列に標的化されたRNA誘導型エンドヌクレアーゼまたは融合タンパク質をコードする少なくとも1つのDNAまたはRNA分子、少なくとも1つのpegRNA、および場合により1つ以上のドナーポリヌクレオチド、を含む非ヒト胚も提供する。
【0184】
本開示は、改変された少なくとも1つの染色体配列を含む、遺伝子改変を受けた非ヒト動物、非ヒト胚、または動物細胞を提供する。改変された染色体配列は、(1)不活性化されるように、(2)変更された発現を有し、または変更されたタンパク質産物を産生するように、または(3)統合された配列を含むように、改変されてもよい。染色体配列は、RNA誘導型エンドヌクレアーゼを介したプロセス、または融合タンパク質を介したプロセスで、本明細書に記載した方法を用いて、改変される。
【0185】
上記のように、本開示のある態様は、少なくとも1つの染色体配列が改変された、遺伝子改変動物を提供する。ある実施形態において、遺伝子改変動物は、少なくとも1つの不活性化された染色体配列を含む。改変された染色体配列は、配列が転写されないように、および/または、機能性タンパク質が産生されないように、不活性化されてもよい。すなわち、不活性化された染色体配列を含む遺伝子改変動物は、“ノックアウト”または“コンディショナルノックアウト”と呼ばれ得る。不活性化された染色体配列は、欠失変異(すなわち1つ以上のヌクレオチドの欠失)、挿入変異(すなわち1つ以上のヌクレオチドの挿入)、ナンセンス変異(すなわち、終止コドンが導入されるような、1つのヌクレオチドの、別のヌクレオチドへの置換)を含み得る。変異の結果として、標的の染色体配列は不活性化され、機能性のタンパク質は生産されない。不活性化された染色体配列は、外因性に導入された配列を含まない。また、本開示には、2、3、4、5、6、7、8、9、または10以上の染色体配列が不活性化された遺伝子改変動物も含まれる。
【0186】
別の実施形態において、改変された染色体配列は、バリアントタンパク質産物をコードするように変更され得る。例えば、改変された染色体配列を含む遺伝子改変動物は、変更されたタンパク質が産生されるような、標的化点変異またはその他の改変を含み得る。ある実施形態において、染色体配列は、少なくとも1つのヌクレオチドが変化し、かつ、発現するタンパク質が1つの変化したアミノ酸残基を含むように、改変され得る(ミスセンス変異)。別の実施形態において、染色体配列は、1つより多くのアミノ酸が変化するように、1つより多くのミスセンス変異を含むよう改変され得る。加えて、染色体配列は、発現するタンパク質が1アミノ酸の欠失または挿入を含むように、3つのヌクレオチドの欠失または挿入を有するよう改変され得る。変更されたタンパク質、またはバリアントタンパク質は、野生型タンパク質と比較して変更された性質または活性、例えば変更された基質特異性、変更された酵素活性、変更された動態速度(kinetic rate)、などを有し得る。
【0187】
別の実施形態において、遺伝子改変動物は、少なくとも1つの、染色体に統合された配列を含み得る。統合された配列を含む遺伝子改変動物は、“ノックイン”または“コンディショナルノックイン”と呼ばれ得る。染色体に統合された配列は、例えば、オルソログタンパク質、内因性タンパク質、またはその両方の組み合わせをコードし得る。ある実施形態において、オルソログタンパク質または内因性タンパク質をコードする配列が、染色体配列が不活性化される一方で外因性配列が発現するように、タンパク質をコードする染色体配列へと統合され得る。このようなケースにおいて、オルソログタンパク質または内因性タンパク質をコードする配列は、プロモーター制御配列と、動作可能に連結されてもよい。代わりに、オルソログタンパク質または内因性タンパク質をコードする配列は、染色体配列の発現に影響を与えることなく、染色体配列へと統合されてもよい。例えば、タンパク質をコードする配列が、Rosa26遺伝子座、HPRT遺伝子座、またはAAV遺伝子座などの、“セーフハーバー(safe harbor)”遺伝子座へと統合され得る。本開示はまた、2、3、4、5、6、7、8、9、または10以上の、タンパク質をコードする配列を含む配列が、ゲノムへと統合される、遺伝子改変動物も含む。
【0188】
染色体に統合されたタンパク質をコードする配列は、対象のタンパク質の野生型をコードし得、または、タンパク質の変更されたバージョンが産生されるように、少なくとも1つの改変を含むタンパク質をコードし得る。例えば、染色体に統合された、疾患または障害に関連するタンパク質をコードする配列は、産生されたタンパク質の変更されたバージョンが、関連する障害を引き起こすか、または増強するような、少なくとも1つの改変を含み得る。代わりに、染色体に統合された、疾患または障害に関連するタンパク質をコードする配列は、タンパク質の変更されたバージョンが、関連する障害の発症を防ぐような、少なくとも1つの改変を含み得る。
【0189】
追加の実施形態において、遺伝子改変動物は、機能性のヒトタンパク質をコードする、少なくとも1つの染色体に統合された配列を含む、“ヒト化”動物であり得る。機能性のヒトタンパク質は、遺伝子改変動物において対応するオルソログを有さないこともある。代わりに、遺伝子改変動物の由来となる野生型動物は、機能性のヒトタンパク質と対応するオルソログを含んでもよい。この場合、“ヒト化”動物におけるオルソログの配列は、機能性のタンパク質が作られないように不活性化され、また、“ヒト化”動物は、ヒトタンパク質をコードする少なくとも1つの染色体に統合された配列を含む。
【0190】
さらに別の実施形態において、遺伝子改変動物は、タンパク質の発現パターンが変更されるように改変された、タンパク質をコードする少なくとも1つの染色体配列を含み得る。例えば、プロモーターまたは転写因子結合部位のようなタンパク質の発現を制御する調節性領域が、タンパク質が過剰に産生されるように、または、タンパク質の組織特異的または経時的な発現が変化するように、あるいはそれらの組み合わせが起こるように、変更され得る。代わりに、タンパク質の発現パターンは、コンディショナルノックアウトシステムを用いて変更され得る。コンディショナルノックアウトシステムの非限定的な例は、Cre-lox組み換えシステムを含む。Cre-lox組み換えシステムは、Creリコンビナーゼ酵素という、核酸分子の特定の部位(lox部位)間の核酸配列の組み換えを触媒する部位特異的DNAリコンビナーゼを含む。経時的発現および組織特異的発現を実現するためにこのシステムを用いる方法は、当技術で知られている。一般的には、遺伝子改変動物は、染色体配列を挟むlox部位とともに生成される。loxに挟まれた染色体配列を含む遺伝子改変動物は、次に、Creリコンビナーゼを発現する別の遺伝子改変動物と掛け合わせられ得る。次に、loxに挟まれた染色体配列およびCreリコンビナーゼを含む子孫マウスが生産され、loxに挟まれた染色体配列が組み替えられて、タンパク質をコードする染色体配列の欠失または反転をもたらす。Creリコンビナーゼの発現は、経時的および条件的に調節された染色体配列の組み換えを引き起こすために、経時的および条件的に調節され得る。
【0191】
これらの実施形態のいずれにおいても、本明細書で開示された遺伝子改変動物は、改変された染色体配列についてヘテロ接合体であり得る。代わりに、遺伝子改変動物は、改変された染色体配列についてホモ接合体であり得る。
【0192】
本明細書で開示された遺伝子改変動物は、1つより多くの改変された染色体配列を含む動物を作製するため、あるいは1つ以上の改変された染色体配列についてホモ接合体である動物を作製するため、交配され得る。例えば、同じ改変された染色体配列を含む2匹の動物が交配され、改変された染色体配列についてホモ接合体である動物を作製し得る。代わりに、異なる改変された染色体配列を持つ動物が交配され、両方の改変された染色体配列を含む動物を作製し得る。
【0193】
例えば、不活性化された染色体配列遺伝子“x”を含む第1の動物を、染色体に統合されたヒト遺伝子“X”タンパク質をコードする配列を含む第2の動物と掛け合わせて、不活性化された染色体配列遺伝子“x”および染色体に統合されたヒト遺伝子“X”配列の両方を含む“ヒト化”遺伝子“X”子孫を生じ得る。また、ヒト化遺伝子“X”動物を、ヒト化遺伝子“Y”動物と掛け合わせて、ヒト化遺伝子X/遺伝子Y子孫を作製し得る。当業者には、多くの組み合わせが可能であることが理解されるだろう。
【0194】
他の実施形態において、改変された染色体配列を含む動物は、改変された染色体配列を他の遺伝的バックグラウンドと組み合わせるために、交配され得る。非限定的な例として、他の遺伝的バックグラウンドは、野生型遺伝的バックグラウンド、欠失変異を有する遺伝的バックグラウンド、別の標的化統合を有する遺伝的バックグラウンド、非標的化統合を有する遺伝的バックグラウンドを含み得る。
【0195】
本明細書で用いる“動物”という用語は、非ヒト動物のことを表す。動物は、胚、幼体、または成体であってもよい。適切な動物は、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、貝類、および魚類などの脊椎動物を含む。適切な哺乳類の例は、げっ歯類、コンパニオンアニマル(companion animal)、家畜、および霊長類を含むが、これらに限定されることはない。げっ歯類の非限定的な例は、マウス、ラット、ハムスター、スナネズミ、およびモルモットを含む。適切なコンパニオンアニマルの例は、ネコ、イヌ、ウサギ、ハリネズミ、およびフェレットを含むが、これらに限定されることはない。家畜の非限定的な例は、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ラマ、およびアルパカを含む。適切な霊長類は、オマキザル、チンパンジー、キツネザル、マカク、マーモセット、タマリン、クモザル、リスザル、およびベルベットモンキーを含むが、これらに限定されることはない。鳥類の非限定的な例は、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、およびガチョウを含む。代わりに、動物は、昆虫、線形動物などの非脊椎動物であってもよい。昆虫の非限定的な例は、ショウジョウバエおよび蚊を含む。例示的な動物はラットである。適切なラットの系統の非限定的な例は、ダール食塩感受性(Dahl Salt-Sensitive)ラット、フィッシャー344(Fischer 344)ラット、ルイス(Lewis)ラット、ロングエバンスフーデッド(Long Evans Hooded)ラット、スプラグ・ドーリー(Sprague-Dawley)ラット、およびウィスター(Wistar)ラットを含む。ある実施形態において、動物は遺伝子改変マウスではない。本発明のための適切な動物の前記反復のそれぞれにおいて、動物は、外因性に導入された、ランダムに統合されたトランスポゾン配列を含まない。
【0196】
本開示のさらなる態様は、少なくとも1つの改変された染色体配列を含む、遺伝子改変細胞または細胞株を提供する。遺伝子改変細胞または細胞株は、本明細書で開示された遺伝子改変動物のいずれかに由来し得る。代わりに、染色体配列は、細胞において、本明細書で上に(動物の染色体配列の改変を記載する段落において)記載されるように、本明細書に記載した方法を用いて、改変され得る。本開示は、前記細胞または細胞株の溶解液も含む。
【0197】
一般的には、細胞は真核生物の細胞である。適切な宿主細胞は、ピキア(Pichia)、サッカロマイセス(Saccharomyces)、またはシゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)などの真菌または酵母、ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)のSF9細胞またはキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)のS2細胞などの昆虫の細胞、および、マウス、ラット、ハムスター、非ヒト霊長類などの動物の細胞、またはヒトの細胞を含む。例示的な細胞は哺乳類の細胞である。哺乳類の細胞は、霊長類の細胞であり得る。一般的には、二重鎖切断に感受性のある任意の霊長類の細胞を用いてもよい。細胞は、様々な細胞タイプの細胞、例えば、線維芽細胞、筋芽細胞、TまたはB細胞、マクロファージ、上皮細胞、などであってもよい。
【0198】
哺乳類の細胞株が用いられる場合、細胞株は、任意の樹立細胞株、または、まだ記載されていない、初代培養細胞株であり得る。細胞株は、接着性または非接着性であり得、あるいは、細胞株は、接着性、非接着性または器官型の成長を促進する条件下で、当業者に知られる標準的な手法を用いて、生育させられ得る。適切な哺乳類の細胞および細胞株の非限定的な例は、本明細書セクション(IV)(g)において提供される。さらに他の実施形態において、細胞は幹細胞であり得る。適切な幹細胞の非限定的な例は、セクション(IV)(g)において提供される。
【0199】
本開示は、少なくとも1つの改変された染色体配列を含む、遺伝子改変された非ヒト胚も提供する。染色体配列は、胚において、本明細書において上に(動物の染色体配列の改変を記載する段落において)記載されるように、本明細書に記載した方法を用いて、改変され得る。ある実施形態において、胚は、非ヒトの、受精した、1細胞期の、対象の動物種の胚である。例示的な哺乳類の胚は、1細胞期の胚を含み、マウス、ラット、ハムスター、げっ歯類、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ブタ、ウマ、および霊長類の胚を含むが、これらに限定されることはない。
【実施例
【0200】
シス作用性調節エレメントは、PE2およびPE3の効率を大きく向上させる
概念実証(proof-of-concept)実験において、イネTWIFB1の野生型のヌクレアーゼ発現二重エレメント(dENE)を、プライムエディター発現カセットの3’末端に直接、終止コドンの後かつmRNAターミネーター、例えば図2に示されるようなBGHの前に、加えた。ここで、dENEはプライムエディターのmRNAに含まれるRNA配列へと逆転写される。K562細胞を、dENE配列がコンストラクトに含まれる、もしくは含まれないプライムエディター(PE2)発現コンストラクトで、HEK3部位を標的とする、図3および図4に示されるような異なるタイプの編集のためのpegRNAと共に、ヌクレオフェクト(nucleofect)した。PE3のケースにおいては、追加の切れ目生成ガイドRNA発現コンストラクト1つをヌクレオフェクション混合試薬(nucleofection mix)に加えた。ヌクレオフェクションの3日後、プライム編集効率の次世代シークエンシング(NGS)解析のため、細胞を収集した。示されるように、3’-UTR dENEをプライムエディター(PE2)発現カセットに含めることで、HEK3標的における+1CTT挿入および+5G欠失編集について8倍まで(図3)、また、HEK3標的における+1TからAへの置換編集、およびPE3のケースにおける+1T欠失および+5GからCへの置換編集については2倍まで(図4)、編集効率が大きく向上した。
【0201】
シス作用性調節エレメントは、細胞タイプ依存的にプライム編集効率を向上させる
2つの別々の実験において、K562またはHEK293を、dENE配列がコンストラクトに含まれる、もしくは含まれないプライムエディター(PE2)発現コンストラクトで、HEK3部位を標的とする、図5および図6に示されるような異なるタイプの編集のためのpegRNA(GGCCCAGACTGAGCACGTGATGG[配列番号26]、下線の塩基はPAMを示す)と共に、ヌクレオフェクトした。PE3のケースにおいては、1つの追加の切れ目生成ガイドRNA発現コンストラクト1つをヌクレオフェクション混合試薬に加えた。ヌクレオフェクションの3日後、プライム編集効率の次世代シークエンシング解析のため、細胞を収集した。図5に示されるように、K562細胞において、3’-UTR dENEをプライムエディター(PE2)発現カセットに含めることで、HEK3標的における+1CTT挿入編集および+5G欠失編集についてはおよそ50%編集効率が向上し、また同様に、HEK3標的における+1T>A置換、+1CTT挿入および+5G欠失編集、PE3のケースにおける+1T欠失および+5G>C編集についてもおよそ50%、編集効率が向上した。一方で、図6に示されるように、HEK293細胞においては、3’-UTR dENEをプライムエディター(PE2)発現カセットに含めることによる、同じHEK3標的の同じタイプの編集、およびPE3のケースにおける、編集効率の向上は実証されなかった。この結果は、試験した特定の細胞タイプの標的において、3’-UTRエレメントのdENEが、細胞タイプ依存的にプライム編集効率を向上させるよう働くことを示唆する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
2024533461000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-05-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)CRISPR-Casタンパク質をコードする配列、ii)逆転写酵素をコードする配列、およびiii)シス作用性調節エレメントをコードする配列を含む、合成核酸組成物。
【請求項2】
前記CRISPR-Casタンパク質がnCas9-H840Aである、請求項1に記載の合成核酸組成物。
【請求項3】
前記逆転写酵素がM-MLV-RTである、請求項1に記載の合成核酸組成物。
【請求項4】
前記シス作用性調節エレメントがdENEまたはENEである、請求項1に記載の合成核酸組成物。
【請求項5】
前記シス作用性調節エレメントがsRSM1である、請求項1に記載の合成核酸組成物。
【請求項6】
前記核酸がDNAである、請求項1に記載の合成核酸組成物。
【請求項7】
前記核酸がRNAである、請求項1に記載の合成核酸組成物。
【請求項8】
前記組成物がさらに発現プロモーターを含む、請求項1に記載の合成核酸組成物。
【請求項9】
前記組成物が発現ベクターに含まれる、請求項8に記載の合成核酸組成物。
【請求項10】
前記組成物がトランスフェクションウイルスに組み込まれている、請求項8に記載の合成核酸組成物。
【請求項11】
前記シス作用性調節エレメントがCRISPR-Cas配列の終止コドンの後かつmRNAターミネーターの前に位置する、請求項1に記載の合成核酸組成物。
【請求項12】
さらにプライム編集ガイドRNA(pegRNA)を含み、前記pegRNAがPE1、PE2、およびPE3のうち1つに由来する、請求項1に記載の合成核酸組成物。
【請求項13】
請求項1に記載の合成核酸組成物によってコードされる、アミノ酸配列。
【請求項14】
内因性DNA配列を改変する方法であって、
a)i)1)CRISPR-Casタイプ2システムタンパク質をコードする配列、2)逆転写酵素をコードする配列、および3)シス作用性調節エレメントを含む配列、を含む合成核酸組成物を含む、動作可能な発現ベクター;ii)プライマー結合部位(PBS)を含むプライム編集ガイドRNA(pegRNA);およびiii)PBSと少なくとも50%相補的である標的内因性DNA配列を含む細胞、を提供すること;
b)前記細胞を、前記合成核酸組成物および前記pegRNAでトランスフェクトすること;および
c)前記トランスフェクトされた細胞を、内因性DNA配列に所望の改変が為されるように培養すること
を含む、方法。
【請求項15】
前記CRISPR-Casタイプ2システムタンパク質がCas9タンパク質である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記内因性DNA配列がPBSと少なくとも75%相補的である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記内因性DNA配列がPBSと少なくとも90%相補的である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記内因性DNA配列がPBSと少なくとも95%相補的である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記内因性DNA配列がPBSと少なくとも98%相補的である、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記内因性DNA配列がPBSと100%相補的である、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記CRISPR-Casタイプ2システムタンパク質がnCas9-H840Aである、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記逆転写酵素がM-MLV-RTである、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
前記シス作用性調節エレメントがdENEまたはENEである、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
前記シス作用性調節エレメントがsRSM1である、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
前記動作可能な発現ベクターがDNAである、請求項14に記載の方法。
【請求項26】
前記動作可能な発現ベクターがRNAである、請求項14に記載の方法。
【請求項27】
前記組成物がトランスフェクションウイルスに組み込まれている、請求項14に記載の方法
【請求項28】
前記シス作用性調節エレメントがCRISPR-Cas配列の終止コドンの後かつmRNAターミネーターの前に位置する、請求項14に記載の方法
【請求項29】
前記pegRNAがPE1、PE2、およびPE3のうち1つに由来する、請求項14に記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0037
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0037】
本発明の方法はさらに、CRISPR/Casタイプ2システムが、動作可能な発現ベクターにおいてコードされ、細胞に導入されることを企図する。
例えば、本開示は下記の実施態様を提供する。
[1]
i)CRISPR-Casタンパク質をコードする配列、ii)逆転写酵素をコードする配列、およびiii)シス作用性調節エレメントをコードする配列を含む、合成核酸組成物。
[2]
前記CRISPR-Casタンパク質がnCas9-H840Aである、前記1に記載の合成核酸組成物。
[3]
前記逆転写酵素がM-MLV-RTである、前記1または2のいずれかに記載の合成核酸組成物。
[4]
前記シス作用性調節エレメントがdENEまたはENEである、前記1-3のいずれかに記載の合成核酸組成物。
[5]
前記シス作用性調節エレメントがsRSM1である、前記1-3のいずれかに記載の合成核酸組成物。
[6]
前記核酸がDNAである、前記1-5のいずれかに記載の合成核酸組成物。
[7]
前記核酸がRNAである、前記1-5のいずれかに記載の合成核酸組成物。
[8]
前記組成物がさらに発現プロモーターを含む、前記1-7のいずれかに記載の合成核酸組成物。
[9]
前記組成物が発現ベクターに含まれる、前記8に記載の合成核酸組成物。
[10]
前記組成物がトランスフェクションウイルスに組み込まれている、前記8に記載の合成核酸組成物。
[11]
前記シス作用性調節エレメントがCRISPR-Cas9配列の終止コドンの後かつmRNAターミネーターの前に位置する、前記1-10のいずれかに記載の合成核酸組成物。
[12]
さらにプライム編集ガイドRNA(pegRNA)を含み、前記pegRNAがPE1、PE2、およびPE2のうち1つに由来する、前記1-11のいずれかに記載の合成核酸組成物。
[13]
前記1-11のいずれかに記載の合成核酸組成物によってコードされる、アミノ酸配列。
[14]
内因性DNA配列を改変する方法であって、
a)i)1)CRISPR-Casタイプ2システムタンパク質をコードする配列、2)逆転写酵素をコードする配列、および3)シス作用性調節エレメントを含む配列、を含む合成核酸組成物を含む、動作可能な発現ベクター;ii)プライム結合部位(PBS)を含むプライム編集ガイドRNA(pegRNA);およびiii)PBSと少なくとも50%相補的である標的内因性DNA配列を含む細胞、を提供すること;
b)対象の内因性DNA配列を含む細胞を、本発明の合成核酸組成物およびpegRNAでトランスフェクトすること;および
c)前記トランスフェクトされた細胞を、内因性DNA配列に所望の改変が為されるように培養すること
を含む、方法。
[15]
前記CRISPR-Casタイプ2システムタンパク質がCas9タンパク質である、前記14に記載の方法。
[16]
前記内因性DNA配列がPBSと少なくとも75%相補的である、前記14に記載の方法。
[17]
前記内因性DNA配列がPBSと少なくとも90%相補的である、前記14に記載の方法。
[18]
前記内因性DNA配列がPBSと少なくとも95%相補的である、前記14に記載の方法。
[19]
前記内因性DNA配列がPBSと少なくとも98%相補的である、前記14に記載の方法。
[20]
前記内因性DNA配列がPBSと100%相補的である、前記14に記載の方法。
[21]
前記CRISPR-Casタンパク質がnCas9-H840Aである、前記14-20のいずれかに記載の方法。
[22]
前記逆転写酵素がM-MLV-RTである、前記14-21のいずれかに記載の方法。
[23]
前記シス作用性調節エレメントがDeneまたはENEである、前記14-22のいずれかに記載の方法。
[24]
前記シス作用性調節エレメントがsRSM1である、前記14-22のいずれかに記載の方法。
[25]
前記動作可能な発現ベクターがDNAである、前記14-24のいずれかに記載の方法。
[26]
前記動作可能な発現ベクターがRNAである、前記14-24のいずれかに記載の方法。
[27]
前記組成物がトランスフェクションウイルスに組み込まれている、前記14-26のいずれかに記載の合成核酸組成物。
[28]
前記シス作用性調節エレメントがCRISPR-Cas9配列の終止コドンの後かつmRNAターミネーターの前に位置する、前記14-27のいずれかに記載の合成核酸組成物。
[29]
前記pegRNAがPE1、PE2、およびPE3のうち1つに由来する、前記14-28のいずれかに記載の方法。
[30]
前記CRISPR/Casタイプ2システムタンパク質が、動作可能な発現ベクターにおいてコードされて細胞に導入される、前記14-29のいずれかに記載の方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0038
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0038】
図1】先行技術で説明されるような、プライム編集テクノロジーの図解を示す。nCas9(H840A)=Cas9(H840A)ニッカーゼ、RT=逆転写酵素、PBS=プライム結合部位。
図2】プライム編集発現カセットに対するシス作用性調節エレメントの導入の図解を示す。
図3】PE2-dENEがPE2の編集効率を高めることを示す。図は配列番号26を開示する。
図4】PE3-dENEがPE3の編集効率を高めることを示す。図は配列番号26を開示する。
図5】3’-UTR dENEが、K562細胞において、HEK3標的におけるPEの編集効率を向上させることを示す。
図6】3’-UTR dENEが、HEK293細胞において、HEK3標的におけるPEの編集効率を向上させないことを示す。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0053
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0053】
非限定的な例示において、プライム編集(PE)は、Cas9(H840A)ニッカーゼ-逆転写酵素(RT)融合タンパク質およびプライム編集ガイドRNA(pegRNA)を含み、PE:pegRNA複合体は標的DNAに結合して、PAMを含む鎖に切れ目を入れる。これによって生じた3’末端はプライマー結合部位とハイブリダイズし、また次に、pegRNAの転写酵素テンプレートを用いて、所望の編集が加わった新たなDNAの逆転写を促す。そして、編集された3’フラップと未編集の5’フラップとの間の平衡、内因性の細胞による5’フラップ切断および接合、およびDNA修復は、安定な編集済DNAをもたらす(Anzalone, et al., 2019、図1参照)。現在に至るまで、プライムエディター(PE)の複数のバージョンが開発されてきた。PE1[配列番号1]は、Cas9(H840A)ニッカーゼのC末端に融合された野生型のモロニーマウス白血病ウイルスの逆転写酵素(M-MLV-RT)を用いることによって指定される。PE2[配列番号2]は合成M-MLV-RTを用いる。PE3は、編集されない方の鎖に切れ目を入れるための追加のガイドRNAを導入することによって定義され、このガイドRNAの導入により、インデル頻度にも拘わらず、編集効率が向上する。PE3b(Anzalone, et al.,)では、この切れ目を入れるシングルガイドRNA(sgRNA)は、編集済の配列を標的とし、それによって、編集が起こるまで、編集されない方の配列に切れ目が入れられることが防がれ、結果として、哺乳類の細胞において、インデルが少なくなる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0093
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0093】
RNA誘導性エンドヌクレアーゼは少なくとも1つの核局在化シグナルを含んでもよい。一般的には、NLSは塩基性アミノ酸が連なったものを含む。核局在化シグナルは当技術で知られている(例えばLange et al., J. Biol. Chem., 2007, 282:5101-5105を参照)。例えば、ある実施形態において、NLSは、PKKKRKV(配列番号19)またはPKKKRRV(配列番号3)などの単節型(monopartite)配列であり得る。別の実施形態において、NLSは双節型(bipartite)配列であり得る。さらに別の実施形態においては、NLSはKRPAATKKAGQAKKKK(配列番号20)であり得る。NLSはRNA誘導型エンドヌクレアーゼのN末端、C末端、または内部に位置し得る。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0095
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0095】
さらに別の実施形態において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼは少なくとも1つのマーカードメインを含む。マーカードメインの非限定的な例は、蛍光タンパク質、精製タグ、およびエピトープタグを含む。ある実施形態において、マーカードメインは蛍光タンパク質であり得る。適切な蛍光タンパク質の非限定的な例は、緑色蛍光タンパク質(例えば、GFP、GFP-2、tagGFP、turboGFP、EGFP、Emerald、Azami Green、Azami Greenモノマー、CopGFP、AceGFP、ZsGreen1)、黄色蛍光タンパク質(例えば、YFP、EYFP、Citrine、Venus、YPet、PhiYFP、ZsYellow1)、青色蛍光タンパク質(例えば、EBFP、EBFP2、Azurite、mKalama1、GFPuv、Sapphire、T-sapphire)、シアン蛍光タンパク質(例えば、ECFP、Cerulean、CyPet、AmCyan1、Midoriishi-Cyan)、赤色蛍光タンパク質(mKate、mKate2、mPlum、DsRed monomer、mCherry、mRFP1、DsRed-Express、DsRed2、DsRed-Monomer、HcRed-Tandem、HcRed1、AsRed2、eqFP611、mRasberry、mStrawberry、Jred)およびオレンジ色蛍光タンパク質(mOrange、mKO、Kusabira-Orange、Kusabira-Orangeモノマー、mTangerine、tdTomato)、またはその他任意の適切な蛍光タンパク質を含む。他の実施形態において、マーカードメインは精製タグおよび/またはエピトープタグであり得る。例示的なタグは、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、キチン結合タンパク質(CBP)、マルトース結合タンパク質、チオレドキシン(TRX)、ポリNANP、タンデムアフィニティ精製(TAP)タグ、myc、AcV5、AU1、AU5、E、ECS、E2、FLAG、HA、nus、Softag 1、Softag 3、Strep、SBP、Glu-Glu、HSV、KT3、S、S1、T7、V5、VSV-G、6×His(配列番号29)、ビオチンカルボキシルキャリアータンパク質(BCCP)、およびカルモジュリンを含むが、これらに限定されることはない。
【国際調査報告】