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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】電気化学装置及び電子装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20240905BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240905BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20240905BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240905BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240905BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M4/525
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M10/052
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516343
(86)(22)【出願日】2022-09-28
(85)【翻訳文提出日】2024-03-12
(86)【国際出願番号】 CN2022122164
(87)【国際公開番号】W WO2023087937
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】202111372370.4
(32)【優先日】2021-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】徐 春瑞
(72)【発明者】
【氏名】許 艶艶
(72)【発明者】
【氏名】周 邵雲
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ04
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ01
5H050AA07
5H050AA10
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050HA01
(57)【要約】
本発明は、電気化学装置及び電子装置を提供する。電気化学装置は、正極片、負極片、セパレータ及び電解液を含み、正極片は正極活物質を含み、正極活物質はCo元素を含み、電解液はポリニトリル化合物を含む。正極活物質中のCo元素の含有量に応じて、ポリニトリル化合物の含有量を調整し、さらにポリニトリル化合物とCoとの配位作用及びその他の添加剤との併用により、リチウムが高度に放出された後の正極材料の構造安定性を著しく向上させ、Coの溶出を抑制し、正極活物質の電解液に対する酸化を低減させ、関連する副反応を抑制し、それによって、電気化学装置の高温下での特性を効果的に改善する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学装置であって、
正極片、負極片、セパレータ、及び電解液を含み、
前記正極片は正極活物質を含み、前記正極活物質はCo元素を含み、
前記電解液はポリニトリル化合物を含み、
前記正極活物質の総質量に対して、前記Co元素の質量分率をaとし、前記電解液の総質量に対して、前記ポリニトリル化合物の質量分率をb%としたとき、前記ポリニトリル化合物の質量分率b%と前記Co元素の質量分率aとは、b=9.7a-0.07+C、-1.5<C≦1.5、0<a≦0.65を満たす、電気化学装置。
【請求項2】
前記電解液の総質量に対して、前記ポリニトリル化合物の質量分率b%は、0<b≦7を満たす、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項3】
前記ポリニトリル化合物はジニトリル化合物及び/又はトリニトリル化合物を含み、前記電解液の総質量に対して、前記ジニトリル化合物の質量分率とb1%とし、前記トリニトリル化合物の質量分率をb2%としたとき、b1とb2は、0≦b1/b2≦4を満たす、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項4】
前記ジニトリル化合物は、ブタンジニトリル、ヘキサンジニトリル、1,2-ビス(シアノエトキシ)エタン、及び1,4-ジシアノ-2-ブテンのうちの少なくとも1つを含み、
前記トリニトリル化合物は、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル、及び1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパンのうちの少なくとも1つを含む、請求項3に記載の電気化学装置。
【請求項5】
前記電解液は、
(1)前記電解液はさらにエチレンカーボネートを含み、前記電解液の総質量に対して、前記エチレンカーボネートの質量分率をc%としたとき、cは、0.5≦c/b≦20、3≦c≦30を満たすことと、
(2)前記電解液はジフルオロリン酸リチウムを含み、前記電解液の総質量に対して、前記ジフルオロリン酸リチウムの質量分率をd%としたとき、dは、0.01≦d≦1を満たすことと、
(3)前記電解液はジフルオロリン酸リチウムを含み、前記電解液の総質量に対して、前記ジフルオロリン酸リチウムの質量分率をd%としたとき、dは、0.015≦d/aを満たすことと、
(4)前記電解液は、フルオロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、亜硫酸1,3-プロピレン、エチレンスルファート、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、及びリチウムビス(オキサレート)ボレートのうちの少なくとも1つを含むこと、
のうちの少なくとも1つを満たす、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項6】
前記電解液はリチウム塩を含み、前記リチウム塩は無機リチウム塩及び有機リチウム塩のうちの少なくとも1つを含み、前記電解液の総質量に対して、前記リチウム塩の質量分率は7.5%~25%である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項7】
前記リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、ヘキサフルオロヒ酸リチウム、過塩素酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、及びリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのうちの少なくとも1つを含む、請求項6に記載の電気化学装置。
【請求項8】
前記電解液は、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、及びプロピオン酸プロピルのうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項9】
前記正極片の示差走査熱量曲線は少なくとも1つのメイン発熱ピークを含む、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項10】
前記示差走査熱量曲線において、前記メイン発熱ピークの温度をT℃としたとき、Tは、T=10b+267+X、-20≦X≦20、0<b≦7、200≦T≦360を満たす、請求項9に記載の電気化学装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の電気化学装置を含む、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年11月18日に中国特許庁に出願した、出願番号が202111372370.4であり、発明の名称が「電気化学装置及び電子装置」である中国特許出願に基づく優先権を主張し、その全内容は参照を以て、本出願に援用される。
【0002】
本発明は、エネルギー蓄積分野に関し、特に電気化学装置及び電子装置に関するものである。
【背景技術】
【0003】
現在、リチウムイオン電池は電気自動車、消費電子製品、エネルギー貯蔵装置などの分野に広く使用されており、その高エネルギー密度、メモリー効果がないなどのメリットにより、上記分野の主流の電池となりつつある。現在、十分に発展された多くの正極材料の中で、Coを含むコバルト酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムなどの材料は、比較的に高い体積エネルギー密度を持ち、高エネルギー密度材料の必然的な選択となっている。エネルギー密度をさらに向上させるために、充電終止電圧を上昇させ続けるにつれて、電池の高温特性は厳しい挑戦に直面している。
【0004】
上記課題に鑑みて、エネルギー貯蔵技術分野において、リチウムイオン電池の高温特性をさらに向上させることが、各リチウムイオン電池メーカーとその関係者にとって最重要な課題となっている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、電気化学装置の高温下での特性を向上させるための電気化学装置及び電子装置を提供する。
【0006】
本発明の第1の態様は、電気化学装置を提供し、前記電気化学装置は正極片、負極片、セパレータ、及び電解液を含み、前記正極片は正極活物質を含み、前記正極活物質はCo元素を含み、前記電解液はポリニトリル化合物を含み、前記正極活物質の総質量に対して、前記Co元素の質量分率をaとし、前記電解質の総質量に対して、前記ポリニトリル化合物の質量分率をb%としたとき、前記ポリニトリル化合物の質量分率b%と前記Co元素の質量分率aとは、b=9.7a-0.07+C、-1.5<C≦1.5、0<a≦0.65を満たし、例えば、Cは、-1.4、-1.0、-0.5、0、0.5、1.0、1.5、又はそれらの間の任意の範囲であってもよく、aは、0.001、0.25、0.30、0.35、0.40、0.45、0.50、0.55、0.60、0.65、又はそれらの間の任意の範囲であってもよい。深く研究したことにより、本発明の発明者らは、正極活物質中のCo元素の質量分率とポリニトリル化合物の質量分率をともに上記範囲内に制御することにより、ポリニトリル化合物の正極活物質に対する保護を有効に発揮することができるとともに、ポリニトリル化合物の負極界面に対する破壊を回避し、電気化学装置の高温下での特性を著しく改善することができることを見出した。
【0007】
本発明の一つの実施形態において、前記電解質の総質量に対して、前記ポリニトリル化合物の質量分率b%は、0<b≦7を満たし、例えば、bは、0.01、0.5、1、2、3、4、5、6、7、又はそれらの間の任意の範囲であってもよい。ポリニトリル化合物の質量分率を上記範囲内に制御することにより、正極構造の安定性を強化することができ、それによって、電気化学装置の高温下での特性を改善することができる。
【0008】
本発明の一つの実施形態において、前記ポリニトリル化合物はジニトリル化合物及び/又はトリニトリル化合物を含み、前記電解液の総質量に対して、前記ジニトリル化合物の質量分率をb1%とし、前記トリニトリル化合物の質量分率をb2%としたとき、b1とb2は、0≦b1/b2≦4を満たし、例えば、b1/b2は、0、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、又はそれらの間の任意の範囲であってもよい。いかなる理論にも限定されないが、本発明者らは、ジカルボニトリル化合物及びトリカルボニトリル化合物の質量分率が上記関係式を満たすようにともに制御することにより、電気化学装置の高温下での特性をさらに改善することができることを見出した。
【0009】
本発明の一つの実施形態において、前記ジニトリル化合物は、ブタンジニトリル(SN)、ヘキサンジニトリル(AND)、1,2-ビス(シアノエトキシ)エタン(DENE)、及び1,4-ジシアノ-2-ブテン(HEDN)のうちの少なくとも1つを含み、前記トリニトリル化合物は、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル(HTCN)、及び1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパン(TCEP)のうちの少なくとも1つを含む。いかなる理論にも限定されないが、本発明者らは、上記ジカルボニトリル化合物及びトリカルボニトリル化合物を選択することにより、電気化学装置の高温下での特性をさらに改善することができることを見出した。
【0010】
本発明の一つの実施形態において、前記電解液は、以下条件のうちの少なくとも1つを満たす。
(1)前記電解液はさらにエチレンカーボネート(EC)を含み、前記電解液の総質量に対して、前記エチレンカーボネートの質量分率をc%としたとき、cは、0.5≦c/b≦20、3≦c≦30を満たし、例えば、c/bは、0.5、1.5、3.5、5.5、7.5、9.5、11.5、13.5、15.5、17.5、19.5、20、又はそれらの間の任意の範囲であってもよく、cは、3、5、7、9、12、15、18、21、24、27、30、又はそれらの間の任意の範囲であってもよい。EC質量分率が低すぎると、ECは負極に良好な固体電解質界面(SEI)膜を形成することができず、ポリニトリル化合物のSEI膜に対する破壊を阻止することができず、EC質量分率が高すぎると、ポリニトリル化合物の質量分率が低すぎ、正極活物質の活性部位を効果的に配位することができず、電解液中のエチレンカーボネートの質量分率を上記範囲内に制御することにより、電気化学装置の高温下での特性を向上させることができる。
(2)前記電解液はジフルオロリン酸リチウムを含み、前記電解液の総質量に対して、前記ジフルオロリン酸リチウムの質量分率をd%としたとき、dは、0.01≦d≦1を満たし、例えば、dは、0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.6、0.8、1.0、又はそれらの間の任意の範囲であってもよい。電解液中のジフルオロリン酸リチウムの質量分率を上記範囲内に制御することにより、負極表面に安定なSEI膜を形成し、正極から溶出したCoのSEI膜に対する破壊を阻止し、電気化学装置の高温下での特性を向上させることができる。
(3)前記電解液はジフルオロリン酸リチウムを含み、前記電解液の総質量に対して、前記ジフルオロリン酸リチウムの質量分率をd%としたとき、dは、0.015≦d/aを満たす。ジフルオロリン酸リチウムと正極活物質中のCo元素の質量分率が上記関係式を満たすようにともに制御することにより、負極表面に安定なSEI膜を形成し、正極から溶出したCoのSEI膜に対する破壊を阻止し、電気化学装置の高温下での特性を向上させることができる。
(4)前記電解液は、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニレンカーボネート(VC)、亜硫酸1,3-プロピレン(PS)、エチレンスルファート(DTD)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiDFOB)、及びリチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)のうちの少なくとも1つを含む。上記添加剤を選択することにより、正極と負極の表面に安定な正極電解質界面(CEI)とSEI膜を形成し、正極と負極を安定させ、正極及び負極と電解液との間の副反応を抑制することで、電気化学装置の高温下での特性を向上させることができる。
【0011】
いかなる理論にも限定されないが、本発明者らは、電解液を上記条件のうちの1種、2種、又は2種以上の組み合わせを満たすように制御することにより、電気化学装置の高温下での特性をさらに向上させることができることを見出した。
【0012】
本発明の一つの実施形態において、前記電解液はリチウム塩を含み、前記リチウム塩は無機リチウム塩及び有機リチウム塩のうちの少なくとも1つを含み、前記電解液の総質量に対して、前記リチウム塩の質量分率は7.5%~25%であり、例えば、リチウム塩の質量分率は、7.5%、10.0%、12.5%、15.0%、17.5%、20.0%、22.5%、25%、又はそれらの間の任意の範囲であってもよい。上記リチウム塩を選択し、且つリチウム塩の質量分率を上記範囲内に制御することにより、電解液のイオン伝導率を向上させることができ、それによって、電気化学装置の高温下での特性を改善することができる。
【0013】
本発明の一つの実施形態において、前記リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、ヘキサフルオロヒ酸リチウム、過塩素酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、及びリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのうちの少なくとも1つを含む。いかなる理論にも限定されないが、本発明者は、上記リチウム塩を選択することにより、電気化学装置の高温下での特性をさらに改善することができることを見出した。
【0014】
本発明の一つの実施形態において、前記電解液は、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、及びプロピオン酸プロピルのうちの少なくとも1つをさらに含む。本発明において、電解液の総質量に対して、上記非水溶媒の質量分率は10%~70%であり、例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、又はそれらの間の任意の範囲であってもよい。いかなる理論にも限定されないが、本発明者らは、上記溶媒を選択することにより、電気化学装置の高温下での特性をさらに改善することができることを見出した。
【0015】
本発明の一つの実施形態において、正極片の示差走査熱量(DSC)曲線は少なくとも1つのメイン発熱ピークを含み、正極片のDSC試験に少なくとも1つの上記メイン発熱ピークが現れた場合、電解液成分の調整によって高い分解温度(高い安定性)を得ることができ、前記メイン発熱ピークはDSC試験中の発熱量>2mW/mgの発熱ピークである。
【0016】
本発明の一つの実施形態において、DSC曲線で、前記メイン発熱ピークの温度をT℃としたとき、Tは、T=10b+267+X、-20≦X≦20、0<b≦7、200≦T≦360を満たし、例えば、Tは200、220、240、260、280、300、320、340、360、又はそれらの間の任意の範囲であってもよい。メイン発熱ピーク温度とポリニトリル化合物の質量分率が上記関係式を満たす場合、ポリニトリル化合物はCo含有正極材料と良好な配位を実現できるため、正極材料の表面構造安定性を向上させることができ、さらに電気化学装置の高温下での特性を改善することができる。
【0017】
本発明において、正極集電体は特に限定されず、本発明の目的を達成できればよく、例えば、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔又は複合集電体などを含んでもよいが、これらに限定されない。本発明において、正極の集電体の厚さは、特に限定されず、本発明の目的を達成できればよく、例えば、厚さが4μm~12μmである。本発明において、正極材料層は、正極集電体の厚さ方向における一方の表面に設けてもよいし、正極集電体の厚さ方向における両方の表面に設けてもよい。なお、ここでの「表面」は、正極集電体の全領域であってもよく、正極集電体の一部の領域であってもよく、本発明では特に限定されず、本発明の目的を達成できればよい。
【0018】
本発明において、正極材料層は本発明の上記いずれかの実施形態における正極活物質を含み、正極活物質は複合酸化物を含んでもよく、当該複合酸化物は、リチウムと、コバルト、マンガン、及びニッケルのうちから選択される少なくとも1つの元素と、を含む。正極活物質の具体的な種類は、特に限定されず、本発明の目的を達成できればよい。具体的に、前記正極活物質は、コバルト酸リチウム(LiCoO)、リチウムニッケルマンガンコバルト三元系材料、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケルマンガン酸リチウム(LiNi0.5Mn1.5)、及びリン酸鉄リチウム(LiFePO)から選択される少なくとも1つである。本発明において、正極活物質層の厚さは、特に限定されず、本発明の目的を達成できればよく、例えば、厚さが30μm~120μmである。
【0019】
正極材料層は、バインダーをさらに含んでもよい。本発明では、バインダーは特に制限されず、本発明の目的を達成できればよく、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリアクリル酸リチウム、ポリイミド、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリイミド、ポリアミドイミド、スチレンブタジエンゴム、及びポリフッ化ビニリデンのうちの少なくとも1つを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0020】
本発明において、正極材料層は導電剤をさらに含んでもよい。本発明では、導電剤は特に制限されず、本発明の目的を達成できればよく、例えば、導電性カーボンブラック(Super P)、カーボンナノチューブ(CNTs)、炭素繊維、鱗片状黒鉛、ケッチェンブラック、グラフェン、金属材料、及び導電性ポリマーのうちの少なくとも1つを含んでもよいが、これらに限定されない。上記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ及び/又は多層カーボンナノチューブを含んでもよいが、これらに限定されない。上記炭素繊維は、気相成長炭素繊維(VGCF)及び/又はナノ炭素繊維を含んでもよいが、これらに限定されない。上記金属材料は、金属粉及び/又は金属繊維を含んでもよいが、これらに限定されなく、具体的に、金属は、銅、ニッケル、アルミニウム、及び銀のうちの少なくとも1つを含んでもよいが、これらに限定されない。上記導電性ポリマーは、ポリフェニレン誘導体、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、及びポリピロールのうちの少なくとも1つを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0021】
任意に、正極は、正極集電体と正極材料層との間に位置する導電層をさらに含んでもよい。本発明では、導電層の組成は特に制限されず、当技術分野で一般的に用いられる導電層であってもよく、例えば、上記導電剤及び上記バインダーを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0022】
本発明における負極片は、特に限定されず、本発明の目的を達成できればよく、例えば、負極片は、通常、負極集電体と負極材料層を含む。本発明において、負極材料層は、負極集電体の厚さ方向における一方の表面に設けてもよく、負極集電体の厚さ方向における両方の表面に設けてもよい。なお、ここでの「表面」は、負極集電体の全領域であってもよく、負極集電体の一部の領域であってもよく、本発明では特に限定されず、本発明の目的を達成できればよい。
【0023】
本発明において、負極集電体は特に限定されず、本発明の目的を達成できればよく、例えば、銅箔、銅合金箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、発泡ニッケル、発泡銅、又は複合集電体などを含んでもよいが、これらに限定されない。本発明において、負極の集電体の厚さは、特に限定されず、本発明の目的を達成できればよく、例えば、厚さが4μm~12μmである。
【0024】
本発明において、負極材料層は負極活物質を含み、負極活物質は特に限定されず、本発明の目的を達成できればよく、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ハードカーボン、ソフトカーボン、シリコン、シリコン-炭素複合体、Li-Sn合金、Li-Sn-O合金、Sn、SnO、SnO、スピネル構造のリチウム化TiO-LiTi12、及びLi-Al合金のうちの少なくとも1つを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0025】
本発明において、負極材料層は導電剤をさらに含んでもよい。本発明では、導電剤は、特に制限されず、本発明の目的を達成できればよく、例えば、上記導電剤のうちの少なくとも1つを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0026】
本発明において、負極材料層はバインダーをさらに含んでもよい。本発明では、バインダーは、特に制限されず、本発明の目的を達成できればよく、例えば、上記バインダーのうちの少なくとも1つを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0027】
任意に、負極は、負極集電体と負極材料層との間に位置する導電層をさらに含んでもよい。本発明では、導電層の組成は、特に制限されず、当技術分野で一般的に用いられる導電層であってもよく、導電層は上記導電剤及び上記バインダーを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0028】
本発明では、セパレータは、特に制限されず、本発明の目的を達成できればよく、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレンを主とするポリオレフィン(PO)系セパレータ、ポリエステルフィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム)、セルロースフィルム、ポリイミドフィルム(PI)、ポリアミドフィルム(PA)、スパンデックス、アラミドフィルム、織布フィルム、不織布フィルム(不織布)、微多孔膜、複合膜、セパレータ紙、ラミネートフィルム、及び紡糸フィルムのうちの少なくとも1つを含んでもよいが、これらに限定されなく、好ましくはPPである。本発明のセパレータは多孔質構造を有してもよく、孔径の寸法は特に限定されず、本発明の目的を達成できればよく、例えば、孔径の寸法は0.01μm~1μmとすることができる。本発明において、セパレータの厚さは、特に限定されず、本発明の目的を達成できればよく、例えば、厚さは5μm~500μmとすることができる。
【0029】
例えば、セパレータは、基材層と表面処理層を含んでもよい。基材層は、多孔質構造を有する不織布、膜、又は複合膜であってもよい。基材層の材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、及びポリイミドのうちの少なくとも1つを含んでもよいが、これらに限定されない。任意に、ポリプロピレン多孔質フィルム、ポリエチレン多孔質フィルム、ポリプロピレン不織布、ポリエチレン不織布、又はポリプロピレン-ポリエチレン-ポリプロピレン多孔質複合フィルムを使用してもよい。任意に、基材層の少なくとも1つの表面に表面処理層が設けられる。表面処理層は、ポリマー層又は無機物層であってもよく、ポリマーと無機物を混合して形成される層であってもよい。
【0030】
無機物層は、無機粒子と無機物層バインダーを含んでもよいが、これらに限定されない。本発明では、無機粒子は、特に制限されず、例えば、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、酸化チタン、二酸化ハフニウム、酸化スズ、酸化セリウム、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、炭化ケイ素、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、及び硫酸バリウムのうちの少なくとも1つを含んでもよいが、これらに限定されない。本発明では、無機物層バインダーは、特に制限されず、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリメタクリル酸メチル、ポリテトラフルオロエチレン、及びポリヘキサフルオロプロピレンのうちの少なくとも1つを含んでもよいが、これらに限定されない。ポリマー層はポリマーを含み、ポリマーの材料は、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、アクリル酸エステルの重合体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリフッ化ビニリデン、及びポリ(フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン)のうちの少なくとも1つを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0031】
本発明の電気化学装置は、特に限定されず、電気化学反応が起こる任意の装置を含んでもよい。いくつかの実施形態において、電気化学装置は、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池(リチウムイオン電池)、リチウムポリマー二次電池、又はリチウムイオンポリマー二次電池などを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0032】
電気化学装置の製造プロセスは、当業者によく知られているものであり、本発明では特に制限されず、例えば、正極片、セパレータ、負極片を順に積層し、必要に応じて巻き取り、折り畳みなどの操作を行い、巻き取り構造の電極組立体を得、電極組立体を包装袋に入れ、電解液を包装袋に注入して密封し、電気化学装置を得るステップ、あるいは、正極、セパレータ及び負極を順に積層した後、積層構造全体の4つの角をテープで固定して積層構造の電極組立体を得、電極組立体を包装袋内に入れ、電解液を包装袋に注入して密封し、電気化学装置を得るステップを含んでもよいが、これらに限定されない。また、必要に応じて過電流防止素子、リード板などを包装袋に入れることで、電気化学装置内部の圧力上昇、過充放電を防止してもよい。
【0033】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様による電気化学装置を含む電子装置を提供する。本発明に提供される電気化学装置は良好な高温特性を有するため、本発明に提供される電子装置は長い寿命と良好な特性を有する。
【0034】
本発明の電子装置は、特に限定されず、先行技術における既知の任意の電子装置に用いられてもよい。いくつかの実施例において、電子装置は、ノートパソコン、ペン入力型コンピューター、モバイルコンピューター、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯型ファクシミリ、携帯型コピー機、携帯型プリンター、ステレオヘッドセット、ビデオレコーダー、液晶テレビ、ポータブルクリーナー、携帯型CDプレーヤー、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯型テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、オートバイ、アシスト自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機、時計、電動工具、閃光灯、カメラ、家庭用大型蓄電池、及びリチウムイオンキャパシタなどを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0035】
本発明が提供する電気化学装置及び電子装置は、正極活物質中のCo元素の質量分率に応じて、ポリニトリル化合物の質量分率を調整し、さらにポリニトリル化合物とCoとの配位作用及びその他の添加剤との併用により、リチウムが高度に放出された後の正極材料の構造安定性を著しく向上させ、Coの溶出を抑制し、活物質の電解液に対する酸化を低減させ、関連する副反応を抑制し、それによって、電気化学装置の高温下での特性を効果的に改善する。
【0036】
もちろん、本発明を実施する任意の製品又は方法は、必ずしも上記のすべての利点を同時に達成する必要はない。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の目的、技術案、及び利点をより明確にするために、以下、実施例を参照しながら、本発明をさらに詳しく説明する。明らかに、説明された実施例は本発明の実施例の一部にすぎず、全部の実施例ではない。本発明の実施例に基づいて、当業者が得られた他のすべての技術案は、本発明の保護範囲に属する。
【0038】
なお、本発明の具体的な実施形態において、リチウムイオン電池を電気化学装置の例として本発明を説明するが、本発明の電気化学装置はリチウムイオン電池に限定されるものではない。
【0039】
試験方法と装置:
高温サイクル特性試験:
リチウムイオン電池を45℃の恒温器に入れ、30min静置し、リチウムイオン電池を恒温にした。恒温に達したリチウムイオン電池を、1Cの定電流で、電圧が4.45Vになるまで充電し、その後4.45Vの定電圧で、電流が0.05Cになるまで充電し、次いで1Cの定電流で、電圧が2.8Vになるまで放電することを、一つの充放電サイクルとした。初回放電容量を100%として、充放電を繰り返し、放電容量が80%に減衰した時点で試験を停止し、サイクル回数とリチウムイオン電池の厚さ膨張率を記録し、リチウムイオン電池のサイクル特性を評価する指標とした。
厚さ膨張率=(サイクル終了後厚さ-初期厚さ)/初期厚さ×100%。
【0040】
高温保存特性試験:
リチウムイオン電池を25℃の恒温器に入れ、30min静置し、リチウムイオン電池を恒温にした。1Cの定電流で4.45Vまで充電し、定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、その後1Cの定電流で2.8Vまで放電し、放電容量を記録し、リチウムイオン電池の初期容量とした。その後、0.5Cの定電流で4.45Vまで充電し、定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、マイクロメーターで電池の厚さを測定して記録した。試験用リチウムイオン電池を60℃の恒温器に移し、90日間保存し、その間に3日おきに電池の厚さを測定して記録し、90日間の保存が終わった後に電池を25℃の恒温器に移し、1h静置し、1Cの定電流で2.8Vまで放電し、放電容量を記録してリチウムイオン電池の残存容量とした。1Cの定電流で4.45Vまで充電し、定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、その後1Cの定電流で2.8Vまで放電し、放電容量を記録してリチウムイオン電池の回復可能容量とした。電池の厚さ(THK)を測定し、リチウムイオン電池の保存厚さ膨張率を計算し、リチウムイオン電池の高温保存ガス発生量を評価する指標とした。
厚さ膨張率=[(24時間保存厚さ-初期厚さ)/初期厚さ]×100%。
【0041】
0℃直流抵抗(DCR)試験:
リチウムイオン電池を0℃の低温恒温器に入れ、4h静置し、リチウムイオン電池を恒温にした。0.1Cの定電流で電圧が4.45Vになるまで充電し、定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、10分間静置した。その後、0.1Cの定電流で3.4Vまで放電し、この容量を実際の放電容量Dとして記録した。その後、5min静置し、0.1Cの定電流で4.45Vまで充電し、定電圧で電流が0.05Cになるまで充電した(電流はDに対応する容量で計算される)。10min静置し、0.1Cの定電流で3h放電し(電流はDに対応する容量で計算される)、この時の電圧V1を記録した。次に、1Cの定電流で1s放電し(10msごとに点を取り、電流はセルの表示容量に対応して計算される)、このときの電圧V2を記録した。次に、セルの70%充電状態(SOC)状態に対応する直流抵抗を計算し、計算式は以下の通りである。
70%SOC DCR=(V2-V1)/1C。
【0042】
過充電試験:
リチウムイオン電池を25℃、0.5Cで2.8Vまで放電し、さらに2Cの定電流で5Vまで充電し、さらに定電圧で3h充電し、セルの表面温度の変化をモニタリングし、合格基準は、セルが発火せず、燃焼せず、爆発しないことである。
【0043】
カレンダー寿命(ITC)試験:
リチウムイオン電池を45℃の恒温器に入れ、30min静置し、リチウムイオン電池を恒温にした。恒温に達したリチウムイオン電池を、1Cの定電流で、電圧が4.45Vになるまで充電し、4.45Vの定電圧で、電流が0.05Cになるまで充電し、マイクロメーターで電池の初期厚さを測定して記録し、45℃で24h静置し、次いで1Cの定電流で、電圧が2.8Vになるまで放電することを、一つの充放電サイクルとした。初回放電容量を100%として、充放電を繰り返し、放電容量が80%に減衰した時点で試験を停止した。試験を停止する前に、リチウムイオン電池を25℃の恒温器に入れ、30min静置し、リチウムイオン電池を恒温にした。恒温に達したリチウムイオン電池を、1Cの定電流で、電圧が4.45Vになるまで充電し、4.45Vの定電圧で、電流が0.05Cになるまで充電し(マイクロメーターで電池のサイクル終了後の厚さを測定して記録する)、サイクル回数を記録し、リチウムイオン電池のカレンダー寿命を評価する指標とした。
厚さ膨張率=[(サイクル終了後厚さ-初期厚さ)/初期厚さ]×100%。
【0044】
浮動充電特性試験(CV試験):
リチウムイオン電池を25℃の恒温器に入れ、30min静置し、リチウムイオン電池を恒温にした。1Cの定電流で、電圧が4.45Vになるまで充電し、定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、マイクロメーターで電池の初期厚さを測定して記録した。試験リチウムイオン電池を45℃恒温器に移し、1Cの電流で60日間充電し続け、終了後、電池を25℃恒温器に移し、60日間浮動充電厚さとして電池の厚さを測定して記録した。リチウムイオン電池の浮動充電試験中の厚さ膨張率を計算し、リチウムイオン電池の浮動充電特性を評価する指標とした。
厚さ膨張率=[(60日間浮動充電厚さ-初期厚さ)/初期厚さ]×100%。
【0045】
正極片熱安定性試験(DSC試験):
リチウムイオン電池を25℃の恒温器に入れ、30min静置し、リチウムイオン電池を恒温にした。1Cの定電流で4.45Vまで充電し、定電圧で電流が0.05Cになるまで充電した。電池正極片を取り外した後、ジメチルカーボネート(DMC)に24h浸漬した後、示差走査熱量計を用いてDSC試験を行い、2℃/minの速度で400℃まで加熱し、正極片の主な熱反応ピーク及び対応する温度Tを記録した。
【0046】
実施例1-1
(1)正極片の調製
正極活物質であるリチウムニッケルマンガンコバルト三元系材料(NCM613)、導電剤であるSuper P、バインダーであるポリフッ化ビニリデンを重量比97:1.4:1.6で混合し、N-メチルピロリドン(NMP)を加え、真空攪拌機により系が均一な透明状になるまで攪拌し、固形分含有量72wt%の正極スラリーとした。正極スラリーを厚さ12μmの正極集電体のアルミニウム箔に均一に塗工し、アルミニウム箔を85℃で乾燥し、冷間圧延して、正極活物質材料層の厚さが100μmである正極片を得た後、この正極片の他方の表面に上記塗布工程を繰り返し、正極活物質層が両面に塗布された正極片を得た。正極片を74mm×867mmのサイズに切断し、タブを溶接し、次に備えた。
【0047】
(2)負極片の調製
負極活物質である人造黒鉛、導電剤であるSuper P、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)を質量比96.4:1.5:0.5:1.6で混合し、次いで溶媒として脱イオン水を加え、固形分含有量54wt%のスラリーを調合し、均一に攪拌した。スラリーを厚さ8μmの銅箔の一方の表面に均一に塗布し、110℃の条件下で乾燥し、冷間圧延して、負極活物質材料層の厚さが150μmである片面に負極活物質層が塗布された負極片を得た後、この負極片の他方の表面に上記塗布工程を繰り返し、負極活物質層が両面に塗布された負極片を得た。負極片を(74mm×867mm)のサイズに切断し、タブを溶接し、次に備えた。
【0048】
(3)電解液の調製
含水量<10ppmのアルゴン雰囲気のグローブボックスに、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、メチルエチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)を質量比EC:PC:EMC:DEC=10:30:30で均一に混合し、基礎溶媒を形成した後、表1に従ってポリニトリル化合物とリチウム塩LiPFを加え、溶解して均一に攪拌し、電解液を得、ポリニトリル化合物はヘキサンジニトリル(AND)、1,2-ビス(シアノエトキシ)エタン(DENE)及び1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル(HTCN)を含み、前記ポリニトリル化合物の質量比はAND:DENE:HTCN=1:1:1であり、LiPFの質量分率は12.5%である。
【0049】
(4)セパレータ
厚さ7μmのポリエチレン多孔質ポリマーフィルムをセパレータとした。
【0050】
(5)リチウムイオン電池の調製
正極片、セパレータ、負極片を順に積み重ね、隔離の役割を果たすようにセパレータを正極片と負極片の間に介在させ、そして巻き取り、ベアセルを得た。タブを溶接した後、ベアセルを外装箔アルミニウムプラスチックフィルム中に入れ、アルミニウム箔袋の縁を密封し、その後85℃の真空オーブン中に置いて12h乾燥し、乾燥したコア中の水分を除去し、最後に上記で調製した電解液を乾燥後のベアセル中に注入し、真空パッケージ、静置、フォーメーション、成形などの工程を経て、リチウムイオン電池の調製(厚さ3.3mm、幅39mm、長さ96mm)を完了した。
【0051】
実施例1-2~実施例1-13
関連する調製パラメータと特性パラメータを表1に示されたとおりにしたこと以外は、実施例1-1と同様であった。
【0052】
比較例1-1~比較例1-7
関連する調製パラメータと特性パラメータを表1に示されたとおりにしたこと以外は、実施例1-1と同様であった。
【0053】
【表1】
実施例1-1~実施例1-13及び比較例1-1~比較例1-7から、正極活物質中のCo元素及びポリニトリル化合物は通常リチウムイオン電池の高温サイクル特性及び高温保存特性に影響を与え、正極活物質中のCo元素の質量分率a及びポリニトリル化合物の質量分率b%が本発明の範囲内にあり、且つbとaが本発明の請求項1の関係式を満たすリチウムイオン電池を選択する場合、ポリニトリル化合物中のシアノ基とCoとの配位作用により、構造の安定性が強化され、調製されたリチウムイオン電池は良好なITC、高温サイクル、高温保存特性を有することが分かった。
【0054】
実施例2-1~実施例2-10
関連する調製パラメータと特性パラメータを表2に示されたとおりにしたこと以外は、実施例1-5と同様であった。
【0055】
【表2】
表2において、「/」は対応する調製パラメータが存在しないことを示す。
実施例2-1~実施例2-10から、ポリニトリル化合物の種類及び質量分率も通常リチウムイオン電池の高温特性に影響を与えることが分かった。ポリニトリル化合物の質量分率、及びジニトリル化合物の質量分率とトリニトリル化合物の質量分率の比(b1/b2)は、リチウムイオン電池の高温サイクル特性と高温保存特性に影響を与え、実施例2-1~実施例2-5から、ポリニトリル化合物中におけるトリニトリル化合物の割合の増加に伴い、リチウムイオン電池の高温サイクル特性と高温保存特性はより良く改善されることが分かった。
【0056】
実施例3-1~実施例3-8
関連する調製パラメータ及び特性パラメータを表3に示されたとおりにした以外は、実施例1-3と同様であり、ECの質量分率を変化させる過程で、ECの質量分率とPCの質量分率の和を40%に維持した。
【0057】
比較例3-1
関連する調製パラメータと特性パラメータを表3に示されたとおりにした以外は、実施例1-3と同様であった。
【0058】
【表3】
実施例3-1~実施例3-8及び比較例3-1から、ポリニトリル化合物及びECも通常リチウムイオン電池の高温サイクル特性及び高温保存特性に影響を与え、ポリニトリル化合物及びECを含有し、かつポリニトリル化合物の質量分率とECの質量分率の比(c/b)が本発明の範囲内にあるリチウムイオン電池を選択すると、より良い高温サイクル特性と高温保存特性を有することが分かった。
【0059】
実施例4-1~実施例4-5
LiPOの質量分率を表4に従って調整した以外は、実施例1-4と同様であった。
【0060】
【表4】
実施例4-1~実施例4-5から、LiPOも通常リチウムイオン電池の高温サイクル特性と高温保存特性に影響を与え、LiPOの質量分率の向上に伴い、LiPOは正極表面に低抵抗の正極-電解質界面(CEI)を形成し、Coの溶出を抑制するとともに、負極に安定なSEI膜を形成するため、リチウムイオン電池の高温サイクルとITC特性を効果的に改善し、そしてLiPOの強い吸水性により、ポリニトリル化合物と併用することで、ポリニトリル化合物の作用をより良く発揮し、リチウムイオン電池の高温保存と高温サイクル特性を改善することができることが分かった。
【0061】
さらに、実施例1-4~実施例1-7で調製したリチウムイオン電池を満充電して分解し、正極片を得、正極片に対してDSC試験を行い、得られた特性試験結果を表5に示す。
【0062】
【表5】
実施例1-4~実施例1-7の正極片のDSC試験結果から、ポリニトリル化合物のCoへの配位作用により、正極活物質の安定性が向上し、正極のリチウム放出の熱による破損の温度はポリニトリル化合物の添加に伴って著しく上昇することが分かった。
【0063】
実施例5-1~実施例5-7
表6に従ってフルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニレンカーボネート(VC)、亜硫酸1,3-プロピレン(PS)、エチレンスルファート(DTD)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiDFOB)、又はリチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)を添加し、対応する物質の質量分率を調整した以外は、実施例1-4と同様であった。
【0064】
【表6】
表6において、「/」は対応する調製パラメータが存在しないことを示す。
実施例5-1~実施例5-7から、添加剤としてFEC、VC、PS、DTD、LiDFOB、LiBOBを同時に含むリチウムイオン電池を選択すると、正極と負極の表面に安定なCEIとSEI膜を形成し、正極、負極と電解液との副反応を抑制することができるとともに、添加剤とポリニトリル化合物との相乗効果により、ポリニトリル化合物の負極界面での還元分解によるSEI膜に対する破壊を効果的に抑制することができ、リチウムイオン電池の高温サイクル特性、浮動充電特性、安全特性と高温保存特性をより良く向上させることができるとともに、リチウムイオン電池の直流抵抗を下げることができることが分かった。
【0065】
上記は本発明の好適な実施例にすぎず、本発明の保護範囲を限定するためのものではない。本発明の主旨と原則の範囲内で行われた変更、同等の代替、改善等は、本発明の保護の範囲に含まれる。
【国際調査報告】