(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】抗ヒトCD3抗体及びその応用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240905BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240905BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240905BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20240905BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240905BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240905BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240905BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240905BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240905BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240905BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240905BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240905BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240905BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240905BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240905BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240905BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240905BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240905BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240905BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240905BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20240905BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
C07K16/46
C07K16/30
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N5/0783
C12P21/08
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/04
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 U
A61K31/7088
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/12
A61K35/17
A61K35/15
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516404
(86)(22)【出願日】2022-09-13
(85)【翻訳文提出日】2024-03-15
(86)【国際出願番号】 CN2022118334
(87)【国際公開番号】W WO2023036326
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】202111069892.7
(32)【優先日】2021-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524094963
【氏名又は名称】シャンドン シムセレ バイオファーマシューティカル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHANDONG SIMCERE BIOPHARMACEUTICAL CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100230891
【氏名又は名称】里見 紗弥子
(72)【発明者】
【氏名】ワン チョン
(72)【発明者】
【氏名】フー ヤーユエン
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ ペイペイ
(72)【発明者】
【氏名】ツァオ ジュオシャオ
(72)【発明者】
【氏名】タン レンホン
(72)【発明者】
【氏名】レン ジンション
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG20
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4B064CC24
4B064DA05
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4C084AA13
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4C086NA13
4C086ZB09
4C086ZB26
4C086ZB27
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4C087BB37
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4C087BC83
4C087CA12
4C087NA05
4C087NA13
4C087ZB09
4C087ZB26
4C087ZB27
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA70
4H045BA71
4H045BA72
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
抗ヒトCD3抗体及びその用途が提供され、具体的には、ヒトCD3に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片、多重特異性抗原結合分子、単離された核酸分子、ベクター、細胞、免疫エフェクター細胞、前記抗体又はその抗原結合断片、前記多重特異性抗原結合分子及び前記免疫エフェクター細胞の製造方法、医薬組成物、製薬用途並びに疾患の治療方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトCD3に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域はHCDR1-3を含み、前記軽鎖可変領域はLCDR1-3を含み、前記HCDR1-3及び/又は前記LCDR1-3は表10又は表18から選択され、
好ましくは、前記HCDR1は、SEQ ID NO:31~33、44~46、57~59、70~72、83~85、96~98及び109~111のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも3つのアミノ酸突然変異を有する配列を含み、及び
前記HCDR2は、SEQ ID NO:34~36、137、47~49、60~62、73~75、86~88、99~101及び112~114のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも3つのアミノ酸突然変異を有する配列を含み、及び
前記HCDR3は、SEQ ID NO:37~38、138~139、50~51、142~143、63~64、76~77、89~90、102~103及び115~116のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも3つのアミノ酸突然変異を有する配列を含み、及び/又は
前記LCDR1は、SEQ ID NO:39~40、140~141、52~53、65~66、78~79、91~92、104~105及び117~118のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも3つのアミノ酸突然変異を有する配列を含み、及び
前記LCDR2は、SEQ ID NO:41~42、54~55、67~68、80~81、93~94、106~107及び119~120のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも3つのアミノ酸突然変異を有する配列を含み、及び
前記LCDR3は、SEQ ID NO:43、56、69、82、95、108及び121のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも3つのアミノ酸突然変異を有する配列を含み、
さらに好ましくは、前記HCDR1-3及び/又は前記LCDR1-3は、Kabat、Chothia又はIMGT方法に従って確定される、抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
前記重鎖可変領域は、SEQ ID NO: 17、19、21、23、25、27、29、124、126、128、130、132、134及び136のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも15個のアミノ酸突然変異を有する配列を含み、及び/又は
前記軽鎖可変領域は、SEQ ID NO: 18、20、22、24、26、28、30、123、125、127、129、131、133及び135のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも15個のアミノ酸突然変異を有する配列を含む、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
前記少なくとも70%の同一性は、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%の同一性であり、及び/又は前記多くとも3つの突然変異は、多くとも3、2、1又は0個の突然変異であり、及び/又は前記多くとも15個の突然変異は、多くとも15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1又は0個の突然変異であり、好ましくは、前記突然変異は、挿入、欠失又は置換であり、さらに好ましくは、前記置換は、保存的アミノ酸置換であり、最も好ましくは、前記突然変異は、復帰突然変異又はホットスポット突然変異である、請求項1又は2に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 17に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 18に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 19に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 20に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 21に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 22に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 23に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 24に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 25に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 26に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 27に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 28に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 29に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 30に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 124に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 123に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 126に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 125に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 128に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 127に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 130に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 129に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 132に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 131に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 134に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 133に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 136に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 135に示すとおりである、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項5】
前記抗体又はその抗原結合断片は、重鎖定常領域及び/又は軽鎖定常領域をさらに含み、
任意選択的に、前記重鎖定常領域は、IgG、例えば、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4から選択され、好ましくは、前記重鎖定常領域は、ヒトIgG、例えば、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3又はヒトIgG4から選択され、さらに好ましくは、前記重鎖定常領域は、SEQ ID NO:13から選択され、及び/又は
前記軽鎖定常領域は、κ鎖又はλ鎖から選択され、
好ましくは、前記軽鎖定常領域は、SEQ ID NO:14及びSEQ ID NO:122から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項6】
前記抗体又はその抗原結合断片は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、天然抗体、操作された抗体、単一特異性抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、一価抗体、多価抗体、インタクトな抗体、インタクトな抗体の断片、裸抗体、抱合抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)
2、Fd、Fv、scFv、ダイアボディ及び単一ドメイン抗体から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項7】
前記抗体又はその抗原結合断片は、治療剤又はトレーサーとコンジュゲートし、好ましくは、前記治療剤は、放射性同位体、化学療法薬及び免疫調節剤から選択され、及び/又は前記トレーサーは、放射線造影剤、常磁性イオン、金属、蛍光標識、化学発光標識、超音波造影剤及び光増感剤から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項8】
前記抗体又はその抗原結合断片は、さらにサルCD3に結合する、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項9】
前記CD3は、CD3εサブユニット、及びCD3εサブユニットを含む二量体、例えば、CD3ε/δ二量体から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項10】
多重特異性抗原結合分子であって、前記多重特異性抗原結合分子は、少なくとも第1の抗原結合部分と第2の抗原結合部分とを含み、前記第1の抗原結合部分は、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片を含み、及び/又は前記第2の抗原結合部分は、前記第1の抗原結合部分と異なる他の標的に結合するか又は同じ標的の異なるエピトープに結合し、好ましくは、前記他の標的は、腫瘍特異的抗原(TSA)及び腫瘍関連抗原(TAA)から選択され、任意選択的に、前記多重特異性抗原結合分子は、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)である、多重特異性抗原結合分子。
【請求項11】
単離された核酸分子であって、前記核酸分子は、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、又は請求項10に記載の多重特異性抗原結合分子をコードし、任意選択的に、前記核酸分子は、さらにキメラ抗原受容体をコードする、核酸分子。
【請求項12】
請求項11に記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項13】
請求項12に記載のベクターを含む、細胞。
【請求項14】
免疫エフェクター細胞であって、キメラ抗原受容体を発現し、及び/又は請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片又は請求項10に記載の多重特異性抗原結合分子を発現し、
好ましくは、前記免疫エフェクター細胞は、T細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)、単球、マクロファージ、樹状細胞及び肥満細胞から選択され、さらに好ましくは、前記T細胞は、細胞傷害性T細胞、制御性T細胞及びヘルパーT細胞から選択され、及び/又は
好ましくは、前記免疫エフェクター細胞は、自家免疫エフェクター細胞又は同種異体免疫エフェクター細胞である、免疫エフェクター細胞。
【請求項15】
請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、又は請求項10に記載の多重特異性抗原結合分子を製造する方法であって、前記方法は、(1)請求項13に記載の細胞を培養すること、及び/又は(2)前記細胞により発現される抗体もしくはその抗原結合断片、又は多重特異性抗原結合分子を単離することを含む、方法。
【請求項16】
請求項14に記載の免疫エフェクター細胞を製造する方法であって、前記方法は、(1)a.前記キメラ抗原受容体をコードする核酸分子及びb.請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片又は請求項10に記載の多重特異性抗原結合分子をコードする核酸分子を初期免疫エフェクター細胞に導入すること、及び/又は(2)上記核酸分子が導入された免疫エフェクター細胞に、キメラ抗原受容体及び請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片又は請求項10に記載の多重特異性抗原結合分子を発現させることを含む、方法。
【請求項17】
医薬組成物であって、前記医薬組成物は、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、請求項10に記載の多重特異性抗原結合分子、請求項11に記載の核酸分子、請求項12に記載のベクター、請求項13に記載の細胞、請求項14に記載の免疫エフェクター細胞又は請求項15又は16に記載の方法で製造された生成物を含み、好ましくは、前記組成物は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤又は助剤をさらに含む、医薬組成物。
【請求項18】
請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片、請求項10に記載の多重特異性抗原結合分子、請求項11に記載の核酸分子、請求項12に記載のベクター、請求項13に記載の細胞、請求項14に記載の免疫エフェクター細胞、請求項15又は16に記載の方法で製造された生成物、又は請求項17に記載の医薬組成物の、腫瘍又は癌を治療する医薬品の製造における用途であって、
好ましくは、前記腫瘍又は癌は、血液腫瘍及び固形腫瘍から選択され、さらに好ましくは、前記血液腫瘍は、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性期CML、骨髄異形成症候群(MDS)、急性Bリンパ球性白血病(B-ALL)、急性Tリンパ球性白血病(TALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、Richter症候群、ヘアリー細胞白血病(HCL)、芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)、マントル細胞リンパ腫(MCL)と小リンパ球性リンパ腫(SLL)とを含む非ホジキンリンパ腫(NHL)、ホジキンリンパ腫、全身性肥満細胞症及びバーキットリンパ腫から選択され、及び/又は前記固形腫瘍は、卵巣癌、膵臓癌、肺癌、胃癌、食道癌、胃食道癌、結腸直腸癌、前立腺癌、腎癌、膀胱癌、神経膠腫、乳癌及び肝臓癌から選択される、用途。
【請求項19】
腫瘍又は癌を治療する方法であって、前記方法は、被験体に有効量の医薬品を投与することを含み、前記医薬品は、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、請求項10に記載の多重特異性抗原結合分子、請求項11に記載の核酸分子、請求項12に記載のベクター、請求項13に記載の細胞、請求項14に記載の免疫エフェクター細胞、請求項15又は16に記載の方法で製造された生成物又は請求項17に記載の医薬組成物を含み、
好ましくは、前記腫瘍又は癌は、血液腫瘍及び固形腫瘍から選択され、さらに好ましくは、前記血液腫瘍は、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性期CML、骨髄異形成症候群(MDS)、急性Bリンパ球性白血病(B-ALL)、急性Tリンパ球性白血病(TALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、Richter症候群、ヘアリー細胞白血病(HCL)、芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)、マントル細胞リンパ腫(MCL)と小リンパ球性リンパ腫(SLL)とを含む非ホジキンリンパ腫(NHL)、ホジキンリンパ腫、全身性肥満細胞症及びバーキットリンパ腫から選択され、及び/又は前記固形腫瘍は、卵巣癌、膵臓癌、肺癌、胃癌、食道癌、胃食道癌、結腸直腸癌、前立腺癌、腎癌、膀胱癌、神経膠腫、乳癌及び肝臓癌から選択される、方法。
【請求項20】
請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、請求項10に記載の多重特異性抗原結合分子、請求項11に記載の核酸分子、請求項12に記載のベクター、請求項13に記載の細胞、請求項14に記載の免疫エフェクター細胞、請求項15又は16に記載の方法で製造された生成物又は請求項17に記載の医薬組成物であって、腫瘍又は癌を治療するためのものであり、
好ましくは、前記腫瘍又は癌は、血液腫瘍及び固形腫瘍から選択され、さらに好ましくは、前記血液腫瘍は、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性期CML、骨髄異形成症候群(MDS)、急性Bリンパ球性白血病(B-ALL)、急性Tリンパ球性白血病(TALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、Richter症候群、ヘアリー細胞白血病(HCL)、芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)、マントル細胞リンパ腫(MCL)と小リンパ球性リンパ腫(SLL)とを含む非ホジキンリンパ腫(NHL)、ホジキンリンパ腫、全身性肥満細胞症及びバーキットリンパ腫から選択され、及び/又は前記固形腫瘍は、卵巣癌、膵臓癌、肺癌、胃癌、食道癌、胃食道癌、結腸直腸癌、前立腺癌、腎癌、膀胱癌、神経膠腫、乳癌及び肝臓癌から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、請求項10に記載の多重特異性抗原結合分子、請求項11に記載の核酸分子、請求項12に記載のベクター、請求項13に記載の細胞、請求項14に記載の免疫エフェクター細胞、請求項15又は16に記載の方法で製造された生成物又は請求項17に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2021年9月13日に中国国家知的財産局に出願された、発明名称が『抗ヒトCD3抗体及びその応用』であり、出願番号がCN202111069892.7である発明特許出願の優先権を主張し、その内容の全ては、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本出願は、バイオ医薬分野に関し、具体的には、抗ヒトCD3抗体及びその応用に関する。
【背景技術】
【0003】
T細胞(抗原)受容体(T cell receptor、TCR)は、T細胞表面の特異的受容体であり、TCRαβ及びTCRγδという二つのサブユニットがあり、主な機能が、MHC分子によって提示される抗原を認識しそれに結合することであり、TCRの細胞質ドメインが非常に短く、単独のTCRでシグナルを伝達することができず、CD3分子の助けを借りる必要がある。CD3分子は、T細胞膜上の重要な分化抗原であり、主にε、δ、γ及びζの四種類の鎖からなる。CD3-TCR複合体では、CD3γ、δ及びεは、非共有結合形態の二種類のγε及びδεヘテロ二量体で存在し、大多数のζ鎖は、ホモ二量体、即ちζ-ζの形態で存在する。CD3ε、CD3δ、CD3γ及びCD3ζの細胞質ドメインのいずれかにも、保存的な免疫受容体活性化チロシンモチーフ(immune receptor tyrosine-based activation motif、ITAM)が含まれている。ここで、CD3ζは三つのITAMを有するが、他のCD3鎖はそれぞれ一つのITAMを含み、異なる抗原刺激は、TCRの10個のITAMの異なるリン酸化を誘導し、最終的に異なる下流シグナル経路を誘発することができる。CD3εの細胞質ドメインは、膜近傍領域に塩基性アミノ酸に富む配列(basic residue-rich sequence、BRS)があり、続いてプロリン残基に富む非冗長配列(proline residue-rich sequence、PRS)及びITAMがある。そのため、CD3εサブユニットにおけるBRSは、イオン間相互作用によってLckを効果的に動員して、TCRリン酸化を開始することができる。CD3εに対するいくつかの抗体はTCRシグナル伝達を誘導することができるが、他の抗体はできないことが既に証明された。CD3のTCRシグナル伝達及び免疫応答における重要な作用に基づいて、CD3に対する抗体を開発することは重要な意義がある。
【0004】
また、多重特異性抗体は、腫瘍細胞上の標的抗原及びT細胞上のCD3に結合することによって、TCRに依存しない人為的免疫シナプスを形成し、HLAの制限を回避する。しかし、CD3抗体は、サイトカインストームが発生するリスクがある。Faroudiらは、標的細胞溶解の活性化閾値が、サイトカイン放出の活性化閾値よりも1000倍高い感度を有することを観察し、このような差異は、主に標的細胞の表面抗原濃度及びpMHC:TCR複合体の数の違いによるものである。低い親和性は、いくつかのペプチド-MHC複合体が、連続的で迅速な結合及び解離により、多くのTCRを連続的に誘発することに役立ち、このような連続的な誘発は、T細胞が最終的に活性化閾値に達することを可能にする一定期間にわたるシグナル伝達の維持に非常に重要である。一方、親和性の高い抗CD3抗体は、解離しにくく、TCRを連続的に誘発することができず、それによりT細胞を効果的に刺激することができない可能性があり、これは、適切な親和性範囲の抗体が、TCRシグナル伝達によってT細胞をより効果的に刺激し得ることを示唆している。
【0005】
そのため、新規な抗CD3抗体の開発に対する大きなニーズが依然として存在する。
【発明の概要】
【0006】
本出願は、ヒトCD3に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片、多重特異性抗原結合分子、単離された核酸分子、ベクター、細胞、免疫エフェクター細胞、前記抗体又はその抗原結合断片、前記多重特異性抗原結合分子及び前記免疫エフェクター細胞の製造方法、医薬組成物、製薬用途並びに疾患の治療方法を提供する。
【0007】
第1の態様では、本出願は、ヒトCD3に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片を提供し、ここで、前記抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域はHCDR1-3を含み、前記軽鎖可変領域はLCDR1-3を含み、前記HCDR1-3及び/又は前記LCDR1-3は表10又は表18から選択される。
【0008】
第1の態様のいくつかの実施形態において、前記HCDR1は、SEQ ID NO:31~33、44~46、57~59、70~72、83~85、96~98及び109~111のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも3つのアミノ酸突然変異又は差異を有する配列を含み、及び
前記HCDR2は、SEQ ID NO:34~36、137、47~49、60~62、73~75、86~88、99~101及び112~114のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも3つのアミノ酸突然変異又は差異を有する配列を含み、及び
前記HCDR3は、SEQ ID NO:37~38、138~139、50~51、142~143、63~64、76~77、89~90、102~103及び115~116のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも3つのアミノ酸突然変異又は差異を有する配列を含み、及び/又は
前記LCDR1は、SEQ ID NO:39~40、140~141、52~53、65~66、78~79、91~92、104~105及び117~118のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも3つのアミノ酸突然変異又は差異を有する配列を含み、及び
前記LCDR2は、SEQ ID NO:41~42、54~55、67~68、80~81、93~94、106~107及び119~120のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも3つのアミノ酸突然変異又は差異を有する配列を含み、及び
前記LCDR3は、SEQ ID NO:43、56、69、82、95、108及び121のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも3つのアミノ酸突然変異又は差異を有する配列を含む。
【0009】
第1の態様のいくつかの実施形態において、前記HCDR1-3及び/又は前記LCDR1-3は、Kabat、Chothia又はIMGT方法に従って確定される。
【0010】
第1の態様のいくつかの実施形態において、前記重鎖可変領域は、SEQ ID NO: 17、19、21、23、25、27、29、124、126、128、130、132、134及び136のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも15個のアミノ酸突然変異又は差異を有する配列を含む。
【0011】
第1の態様のいくつかの実施形態において、前記軽鎖可変領域は、SEQ ID NO: 18、20、22、24、26、28、30、123、125、127、129、131、133及び135のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも15個のアミノ酸突然変異又は差異を有する配列を含む。
【0012】
第1の態様のいくつかの実施形態において、前記少なくとも70%の同一性は、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%の同一性である。
【0013】
第1の態様のいくつかの実施形態において、前記多くとも3つの突然変異又は差異は、多くとも3、2、1又は0個の突然変異又は差異である。
【0014】
第1の態様のいくつかの実施形態において、前記多くとも15個の突然変異又は差異は、多くとも15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1又は0個の突然変異又は差異である。
【0015】
第1の態様のいくつかの実施形態において、前記突然変異は、挿入、欠失又は置換である。いくつかの実施形態において、前記置換は、保存的アミノ酸置換である。
【0016】
第1の態様のいくつかの実施形態において、前記突然変異は、復帰突然変異又はホットスポット突然変異である。
【0017】
第1の態様のいくつかの実施形態において、前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は
SEQ ID NO: 17に示すとおりであり、前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 18に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 19に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 20に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 21に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 22に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 23に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 24に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 25に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 26に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 27に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 28に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 29に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 30に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 124に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 123に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 126に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 125に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 128に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 127に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 130に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 129に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 132に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 131に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 134に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 133に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 136に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 135に示すとおりである。
【0018】
第1の態様のいくつかの実施形態において、前記抗体又はその抗原結合断片は、重鎖定常領域及び/又は軽鎖定常領域をさらに含む。
【0019】
第1の態様のいくつかの実施形態において、前記重鎖定常領域は、IgG、例えば、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4から選択される。
【0020】
第1の態様のいくつかの実施形態において、前記重鎖定常領域は、ヒトIgG、例えば、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3又はヒトIgG4から選択されてもよい。
【0021】
第1の態様のいくつかの具体的な実施形態において、前記重鎖定常領域は、SEQ ID NO:13から選択されてもよい。
【0022】
第1の態様のいくつかの実施形態において、前記軽鎖定常領域は、κ鎖又はλ鎖から選択される。
【0023】
第1の態様のいくつかの具体的な実施形態において、前記軽鎖定常領域は、SEQ ID NO:14及びSEQ ID NO:122から選択されてもよい。
【0024】
第1の態様のいくつかの実施形態において、前記抗体又はその抗原結合断片は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、天然抗体、操作された抗体、単一特異性抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、一価抗体、多価抗体、インタクトな抗体、インタクトな抗体の断片、裸抗体、抱合抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、Fd、Fv、scFv、ダイアボディ(diabody)及び単一ドメイン抗体から選択される。
【0025】
第1の態様のいくつかの実施形態において、前記抗体又はその抗原結合断片は、治療剤又はトレーサーとコンジュゲートする。
【0026】
第1の態様のいくつかの実施形態において、前記治療剤は、放射性同位体、化学療法薬及び免疫調節剤から選択されてもよい。
【0027】
第1の態様のいくつかの実施形態において、前記トレーサーは、放射線造影剤、常磁性イオン、金属、蛍光標識、化学発光標識、超音波造影剤及び光増感剤から選択されてもよい。
【0028】
第1の態様のいくつかの実施形態において、前記抗体又はその抗原結合断片は、さらにサルCD3に結合する。
【0029】
第1の態様のいくつかの実施形態において、前記CD3は、CD3εサブユニット、及びCD3εサブユニットを含む二量体、例えば、CD3ε/δ二量体から選択される。
【0030】
第2の態様では、本出願は、多重特異性抗原結合分子を提供し、ここで、前記多重特異性抗原結合分子は、少なくとも第1の抗原結合部分と第2の抗原結合部分とを含み、前記第1の抗原結合部分は、第1の態様に記載の抗体又はその抗原結合断片を含み、及び/又は前記第2の抗原結合部分は、前記第1の抗原結合部分と異なる他の標的に結合するか又は同じ標的の異なるエピトープに結合する。
【0031】
第2の態様のいくつかの実施形態において、前記他の標的は、腫瘍特異的抗原(TSA)及び腫瘍関連抗原(TAA)から選択される。
【0032】
第2の態様のいくつかの実施形態において、前記多重特異性抗原結合分子は、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)である。
【0033】
第3の態様では、本出願は、単離された核酸分子を提供し、ここで、前記核酸分子は、第1の態様に記載の抗体又はその抗原結合断片、又は第2の態様に記載の多重特異性抗原結合分子をコードする。
【0034】
第3の態様のいくつかの実施形態において、前記核酸分子は、さらにキメラ抗原受容体をコードする。
【0035】
第3の態様のいくつかの実施形態において、第1の態様に記載の抗体又はその抗原結合断片、又は第2の態様に記載の多重特異性抗原結合分子をコードする核酸は、自己切断ペプチドをコードする核酸配列又はIRES核酸配列を介して、前記キメラ抗原受容体をコードする核酸に連結される。
【0036】
第4の態様では、本出願は、ベクターを提供し、それは、第3の態様に記載の核酸分子を含む。
【0037】
第5の態様では、本出願は、細胞を提供し、それは、第4の態様に記載のベクターを含む。
【0038】
第6の態様では、本出願は、免疫エフェクター細胞を提供し、それは、キメラ抗原受容体を発現し、及び/又は第1の態様に記載の抗体もしくはその抗原結合断片又は第2の態様に記載の多重特異性抗原結合分子を発現する。
【0039】
第6の態様のいくつかの実施形態において、前記免疫エフェクター細胞は、T細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞、natural killer cell)、ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞、natural killer T cell)、単球、マクロファージ、樹状細胞及び肥満細胞から選択される。
【0040】
第6の態様のいくつかの実施形態において、前記T細胞は、細胞傷害性T細胞、制御性T細胞及びヘルパーT細胞から選択される。
【0041】
第6の態様のいくつかの実施形態において、前記免疫エフェクター細胞は、自家免疫エフェクター細胞又は同種異体免疫エフェクター細胞である。
【0042】
第7の態様では、本出願は、第1の態様に記載の抗体もしくはその抗原結合断片又は第2の態様に記載の多重特異性抗原結合分子を製造する方法を提供し、ここで、前記方法は、(1)第5の態様に記載の細胞を培養すること、及び/又は(2)前記細胞により発現される抗体もしくはその抗原結合断片、又は多重特異性抗原結合分子を単離することを含む。
【0043】
第8の態様では、本出願は、第6の態様に記載の免疫エフェクター細胞を製造する方法を提供し、ここで、前記方法は、(1)a.前記キメラ抗原受容体をコードする核酸分子及びb.第1の態様に記載の抗体もしくはその抗原結合断片又は第2の態様に記載の多重特異性抗原結合分子をコードする核酸分子を初期免疫エフェクター細胞に導入すること、及び/又は(2)上記核酸分子が導入された免疫エフェクター細胞に、前記キメラ抗原受容体及び第1の態様に記載の抗体もしくはその抗原結合断片又は第2の態様に記載の多重特異性抗原結合分子を発現させることを含む。
【0044】
第9の態様では、本出願は、医薬組成物を提供し、ここで、前記医薬組成物は、第1の態様に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、第2の態様に記載の多重特異性抗原結合分子、第3の態様に記載の核酸分子、第4の態様に記載のベクター、第5の態様に記載の細胞、第6の態様に記載の免疫エフェクター細胞又は第7もしくは第8の態様に記載の方法で製造された生成物を含む。
【0045】
第9の態様のいくつかの実施形態において、前記組成物は、薬学的に許容可能な担体(carrier)、希釈剤又は助剤をさらに含む。
【0046】
第10の態様では、本出願は、第1の態様に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、第2の態様に記載の多重特異性抗原結合分子、第3の態様に記載の核酸分子、第4の態様に記載のベクター、第5の態様に記載の細胞、第6の態様に記載の免疫エフェクター細胞、第7もしくは第8の態様に記載の方法で製造された生成物、又は第9の態様に記載の医薬組成物の、腫瘍又は癌を治療する医薬品の製造における用途を提供する。
【0047】
第10の態様のいくつかの実施形態において、前記腫瘍又は癌は、血液腫瘍又は固形腫瘍から選択される。
【0048】
第10の態様のいくつかの実施形態において、前記血液腫瘍は、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性期CML、骨髄異形成症候群(MDS)、急性Bリンパ球性白血病(B-ALL)、急性Tリンパ球性白血病(TALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、Richter症候群、ヘアリー細胞白血病(HCL)、芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)、マントル細胞リンパ腫(MCL)と小リンパ球性リンパ腫(SLL)とを含む非ホジキンリンパ腫(NHL)、ホジキンリンパ腫、全身性肥満細胞症及びバーキットリンパ腫から選択されてもよい。
【0049】
第10の態様のいくつかの実施形態において、前記固形腫瘍は、卵巣癌、膵臓癌、肺癌、胃癌、食道癌、胃食道癌、結腸直腸癌、前立腺癌、腎癌、膀胱癌、神経膠腫、乳癌及び肝臓癌から選択されてもよい。
【0050】
第11の態様では、本出願は、腫瘍又は癌を治療する方法を提供し、ここで、前記方法は、被験体に有効量の医薬品を投与することを含み、前記医薬品は、第1の態様に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、第2の態様に記載の多重特異性抗原結合分子、第3の態様に記載の核酸分子、第4の態様に記載のベクター、第5の態様に記載の細胞、第6の態様に記載の免疫エフェクター細胞、第7もしくは第8の態様に記載の方法で製造された生成物又は第9の態様に記載の医薬組成物を含む。
【0051】
第11の態様のいくつかの実施形態において、前記腫瘍又は癌は、血液腫瘍又は固形腫瘍から選択される。
【0052】
第11の態様のいくつかの実施形態において、前記血液腫瘍は、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性期CML、骨髄異形成症候群(MDS)、急性Bリンパ球性白血病(B-ALL)、急性Tリンパ球性白血病(TALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、Richter症候群、ヘアリー細胞白血病(HCL)、芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)、マントル細胞リンパ腫(MCL)と小リンパ球性リンパ腫(SLL)とを含む非ホジキンリンパ腫(NHL)、ホジキンリンパ腫、全身性肥満細胞症及びバーキットリンパ腫から選択されてもよい。
【0053】
第11の態様のいくつかの実施形態において、前記固形腫瘍は、卵巣癌、膵臓癌、肺癌、胃癌、食道癌、胃食道癌、結腸直腸癌、前立腺癌、腎癌、膀胱癌、神経膠腫、乳癌及び肝臓癌から選択されてもよい。
【0054】
第12の態様では、本出願は、第1の態様に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、第2の態様に記載の多重特異性抗原結合分子、第3の態様に記載の核酸分子、第4の態様に記載のベクター、第5の態様に記載の細胞、第6の態様に記載の免疫エフェクター細胞、第7もしくは第8の態様に記載の方法で製造された生成物又は第9の態様に記載の医薬組成物を提供し、それは、腫瘍又は癌を治療するためのものである。
【0055】
第12の態様のいくつかの実施形態において、前記腫瘍又は癌は、血液腫瘍又は固形腫瘍から選択される。
【0056】
第12の態様のいくつかの実施形態において、前記血液腫瘍は、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性期CML、骨髄異形成症候群(MDS)、急性Bリンパ球性白血病(B-ALL)、急性Tリンパ球性白血病(TALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、Richter症候群、ヘアリー細胞白血病(HCL)、芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)、マントル細胞リンパ腫(MCL)と小リンパ球性リンパ腫(SLL)とを含む非ホジキンリンパ腫(NHL)、ホジキンリンパ腫、全身性肥満細胞症及びバーキットリンパ腫から選択されてもよい。
【0057】
第12の態様のいくつかの実施形態において、前記固形腫瘍は、卵巣癌、膵臓癌、肺癌、胃癌、食道癌、胃食道癌、結腸直腸癌、前立腺癌、腎癌、膀胱癌、神経膠腫、乳癌又は肝臓癌から選択されてもよい。
【0058】
本出願の第1の態様から第12の態様のうちのいずれか一つの態様に記載の実施形態は、少なくとも以下の一つ又は複数の有益な効果を有し、
(1)本出願に記載の方法でスクリーニングして、従来の抗体とは異なる新規なCD3抗体を得て、それは、CD3εサブユニットもしくはその複合体に特異的に結合し、又は前記CD3εサブユニットもしくはその複合体を発現する細胞、特にT細胞に特異的に結合し、
(2)本開示に記載の抗体は、CD3に対して適切な親和性を有し、TCRシグナル伝達によってT細胞を効果的に刺激し、好ましくは、T細胞を効率的に活性化する抗体を得ることができる。
【0059】
用語の定義及び説明
本出願において特に定義しない限り、本出願に関連する科学用語及び技術用語は、当業者に理解されている意味を有する。
【0060】
また、本明細書において特に説明されていない限り、本明細書における単数形の用語は、複数形を含むべきであり、複数形の用語は、単数形を含むべきである。より具体的には、別途明らかに指摘されていない限り、本明細書及び添付される特許請求の範囲において使用される単数形「1つ」及び「このような」は、複数の指示対象を含む。
【0061】
本明細書における「含む」、「包含する」及び「有する」という用語は、同義的に使用され、スキームの包括性を示すことが意図され、前記スキームには、列挙された要素以外の他の要素が存在し得ることを意味する。同時に、本明細書で使用される「含む」、「包含する」及び「有する」という記述はまた、「……からなる」というスキームを提供することを理解すべきである。例示的に、「AとBとを含む組成物」は、以下の技術案として理解されるべきである:A及びBからなる組成物、及びA及びBに加えて、他の成分をさらに含む組成物は、いずれも前述の「組成物」の範囲内に入る。
【0062】
「及び/又は」という用語は、本明細書で使用される場合、「及び」、「又は」及び「属する用語によってリンクされる要素の全て又は任意の他の組み合わせ」の意味を含む。
【0063】
本明細書において、「特異的結合」という用語は、抗原結合分子(例えば、抗体)が、通常、抗原及び実質的に同じ抗原に高親和性で特異的に結合するが、関連性のない抗原に高親和性で結合しないことを指す。親和性は、通常、平衡解離定数(equilibrium dissociation constant、KD)によって反映され、ここで、低いKDは、高い親和性を表す。抗体を例として、高親和性は、通常、約10-6M又はそれ以下、約10-7M又はそれ以下、約10-8M又はそれ以下、約1×10-9M又はそれ以下、約1×10-10M又はそれ以下、約1×10-11M又はそれ以下、又は約1×10-12M又はそれ以下のKDを有することを指す。KDの計算方式は以下のとおりである:KD=Kd/Ka、ここで、Kdは解離速度を表し、Kaは結合速度を表す。平衡解離定数KDは、表面プラズモン共鳴法(例えば、Biacore)又は平衡透析アッセイのような当分野で周知の方法を用いて測定することができ、例示的に、本明細書の実施例8に示すKD値取得方法を参照することができる。
【0064】
本明細書において、「抗原結合分子」という用語は、最も広い意味で使用され、抗原に特異的に結合する分子を指す。例示的に、抗原結合分子は、抗体又は抗体模倣体を含むが、それらに限らない。「抗体模倣体」は、抗原に特異的に結合することができるが、抗体構造とは無関係である有機化合物又は結合ドメインを指し、例示的に、抗体模倣体は、affibody、affitin、affilin、設計アンキリン反復タンパク質(DARPin)、核酸アプタマー又はKunitz型ドメインペプチドを含むが、それらに限らない。
【0065】
本明細書において、「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、免疫グロブリン重鎖可変領域からの十分な配列及び/又は免疫グロブリン軽鎖可変領域からの十分な配列を含み、それによって抗原に特異的に結合することができるポリペプチド又はポリペプチドの組み合わせを指す。本明細書において、「抗体」は、所望の抗原結合活性を示す限り、様々な形態及び様々な構造を包含する。本明細書において、「抗体」は、移植された相補性決定領域(CDR)又はCDR誘導体を有する代替タンパク質足場又は人工足場を含む。このような足場は、抗体由来の足場(それは、例えば、抗体の三次元構造を安定化するために導入された突然変異を含む)と、例えば、生体適合性ポリマーを含む全合成足場とを含む。例えば、Korndorferら,2003,Proteins:Structure,Function,and Bioinformatics,53(1):121-129(2003)、Roqueら,Biotechnol.Prog.20:639-654(2004)を参照されたい。このような足場は、非抗体由来の足場、例えば、当分野に既知の、CDR移植に用いられ得る足場タンパク質をさらに含んでもよく、テネイシン、フィブロネクチン、ペプチドアプタマーなどを含むが、それらに限らない。
【0066】
本明細書において、「抗体」は、典型的な「四鎖抗体」を含み、それは、二本の重鎖(HC)及び二本の軽鎖(LC)からなる免疫グロブリンに属し、重鎖は、N末端からC末端への方向で重鎖可変領域(VH)、重鎖定常領域CH1ドメイン、ヒンジ領域(HR)、重鎖定常領域CH2ドメイン、重鎖定常領域CH3ドメインからなり、且つ、前記全長抗体がIgEアイソタイプである場合、任意選択的に、重鎖定常領域CH4ドメインをさらに含むポリペプチド鎖を指し、軽鎖は、N末端からC末端への方向で軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域(CL)からなるポリペプチド鎖であり、重鎖と重鎖、重鎖と軽鎖は、ジスルフィド結合によって連結され、形成「Y」字型構造を形成する。免疫グロブリン重鎖定常領域は、アミノ酸の組成及び配列順序が異なるため、その抗原性も異なる。これにより、本明細書の「免疫グロブリン」を五つのクラスに分けることができ、又は免疫グロブリンのアイソタイプ、即ちIgM、IgD、IgG、IgA及びIgEと呼ばれてもよく、その該当する重鎖は、それぞれμ鎖、δ鎖、γ鎖、α鎖とε鎖である。同じクラスIgは、そのヒンジ領域のアミノ酸組成並びに重鎖ジスルフィド結合の数及び位置の違いにより、様々なサブクラスに分けられ得、例えば、IgGはIgG1、IgG2、IgG3、IgG4に分けられ得、IgAはIgA1及びIgA2に分けられ得る。軽鎖は、定常領域により、κ鎖又はλ鎖に分けられる。五つのクラスのIgのうちの各クラスのIgは、いずれもκ鎖又はλ鎖を有し得る。
【0067】
本明細書において、「抗体」は、軽鎖を含まない抗体、例えば、ヒトコブラクダ(Camelus dromedarius)、フタコブラクダ(Camelus bactrianus)、ラマ(Lama glama)、グアナコ(Lama guanicoe)及びアルパカ(Vicugna pacos)などから産生された重鎖抗体(heavy-chain antibodies,HCAbs)、並びにサメなどの軟骨魚綱に見られる免疫グロブリン新抗原受容体(Ig new antigen receptor,IgNAR)をさらに含む。
【0068】
本明細書において、「抗体」は、任意の動物に由来してもよく、ヒト及び非ヒト動物を含むが、それらに限らず、前記非ヒト動物は、霊長類動物、哺乳動物、齧歯動物及び脊椎動物、例えば、ラクダ科動物、ラマ、グアナコ、アルパカ、ヒツジ、ウサギ、マウス、ラット又は軟骨魚綱(例えば、サメ)から選択され得る。
【0069】
本明細書において、「抗体」は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単一特異性抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、一価抗体、多価抗体、インタクトな抗体、インタクトな抗体の断片、裸抗体、抱合抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体又は完全ヒト抗体を含むが、それらに限らない。
【0070】
本明細書において、「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から入手された抗体を指し、即ち、可能な変異体(例えば、天然に存在する突然変異を含むか、又は製剤製造中に産生され、このような変異体は、通常、少量で存在する)を除いて、前記集団に含まれる各抗体は、同じであり、及び/又は同じエピトープに結合する。通常、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体製剤とは異なり、モノクローナル抗体製剤における各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。本明細書において、「モノクローナル」という修飾語は、前記抗体又はその抗原結合分子を産生するには何らかの特定の方法を必要とすると解釈すべきではない。例えば、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技術、組換えDNA方法、ファージライブラリーディスプレイ技術、及び全て又は一部のヒト免疫グロブリン遺伝子座を含有するトランスジェニック動物を利用する方法及び当分野で既知の他の方法を含む(それらに限らない)様々な技術で製造され得る。
【0071】
本明細書において、「天然抗体」という用語は、多細胞生物の免疫系によって製造され、ペアリングされた抗体を指す。本明細書において、「操作された抗体」という用語の抗体は、遺伝子工学、抗体工学などの技術によって得られた非天然抗体を指し、例示的に、「操作された抗体」は、ヒト化抗体、低分子抗体(例えば、scFvなど)、二重特異性抗体などを含む。
【0072】
本明細書において、「単一特異性」という用語は、一つ又は複数の結合部位を有することを指し、ここで、各結合部位は、同じ抗原の同じエピトープに結合する。
【0073】
本明細書において、「多重特異性抗体」という用語は、少なくとも二つの抗原結合部位を有することを指し、前記少なくとも二つの抗原結合部位のうちの各抗原結合部位は、同じ抗原の異なるエピトープ又は異なる抗原の異なるエピトープに結合する。そのため、「二重特異性」、「三重特異性」、「四重特異性」などのような用語は、抗体/抗原結合分子が結合できる異なるエピトープの数を指す。
【0074】
本明細書において、「価」という用語は、抗体/抗原結合分子における所定の数の結合部位の存在を示す。そのため、「一価」、「二価」、「四価」及び「六価」という用語は、それぞれ抗体/抗原結合分子における一つの結合部位、二つの結合部位、四つの結合部位及び六つの結合部位の存在を示す。
【0075】
本明細書において、「完全長抗体」、「インタクトな抗体」及び「全抗体」は、本明細書において、同義的に使用され、天然抗体の構造と実質的に似ている構造を有することを指す。
【0076】
本明細書において、「抗原結合断片」及び「抗体断片」という用語は、本明細書において、同義的に使用され、それは、全抗体の全ての構造を有さず、全抗体の局所又は局所的変異体のみを含み、前記局所又は局所的変異体は抗原に結合する能力を有する。本明細書において、「抗原結合断片」又は「抗体断片」は、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、Fd、Fv、scFv、ダイアボディ(diabody)及び単一ドメイン抗体を含むが、それらに限らない。
【0077】
インタクトな抗体のパパイン消化は、二つの同一の抗原結合断片を生成し、「Fab」断片と呼ばれ、各々は、重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメイン、並びに軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)を含有する。このように、本明細書において、「Fab断片」は、軽鎖のVLドメインと定常ドメイン(CL)とを含む軽鎖断片、及び重鎖のVHドメインと第1の定常ドメイン(CH1)とを含む抗体断片を指す。Fab’断片は、重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に少数の残基が増加するためFab断片とは異なり、抗体ヒンジ領域からの一つ又は複数のシステインを含む。Fab’-SHは、その定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を担持するFab’断片である。ペプシン処理は、二つの抗原結合部位(二つのFab断片)及びFc領域の一部を有するF(ab’)2断片を産生する。
【0078】
本明細書において、「Fd」は、VH及びCH1ドメインからなる抗体を指す。本明細書において、「Fv」は、単一アームのVL及びVHドメインからなる抗体断片を指す。Fv断片は、通常、完全な抗原結合部位を形成できる最小の抗体断片であると考えられる。一般的には、六つのCDRは、抗体の抗原結合特異性を付与すると考えられる。しかしながら、一つの可変領域(例えば、抗原に特異的な三つのCDRのみを含有するFd断片)であっても、その親和性が完全な結合部位より低いかもしれないが、抗原に認識し結合することができる。
【0079】
本明細書において、「scFv」(single-chain variable fragment)は、VL及びVHドメインを含む単一のポリペプチド鎖を指し、ここで、前記VL及びVHは、リンカー(linker)を介して連結される(例えば、Birdら,Science 242:423-426(1988)、Hustonら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883(1988)、及びPluckthun,The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,第113巻,Roseburg及びMooreによる編集,Springer-Verlag,ニューヨーク,ページ269~315(1994)を参照されたい)。このようなscFv分子は、NH2-VL-リンカー-VH-COOH又はNH2-VH-リンカー-VL-COOHという一般的な構造を有してもよい。適切な従来技術のリンカーは、反復GGGGSアミノ酸配列又はその変異体からなる。例えば、アミノ酸配列(GGGGS)4を有するリンカーを使用してもよいが、その変異体を使用してもよい(Holligerら(1993),Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-6448)。本出願に用いられ得る他のリンカーは、Alfthanら(1995),Protein Eng.8:725-731,Choiら(2001),Eur.J.Immunol.31:94-106,Huら(1996),Cancer Res.56:3055-3061,Kipriyanovら(1999),J.Mol.Biol.293:41-56及びRooversら(2001),Cancer Immunol.に記述されている。いくつかの場合に、さらにscFvのVHとVLとの間にジスルフィド結合が存在して、ジスルフィド結合を介して連結されるFv(dsFv)を形成してもよい。
【0080】
本明細書において、「ダイアボディ(diabody)」という用語は、そのVH及びVLドメインが単一のポリペプチド鎖上で発現するが、短すぎる連結体を使用するため同じ鎖の二つのドメインの間でのペアリングが許容されず、それによりドメインを別の鎖の互補的ドメインとペアリングさせ、且つ二つの抗原結合部位を産生する(例えば、Holliger P.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-6448(1993)、及びPoljak R.J.ら,Structure 2:1121-1123(1994)を参照されたい)。
【0081】
本明細書において、「単一ドメイン抗体」(single domain antibody、sdAb)、「VHH」及び「ナノボディ(nanobody)」という用語は、同じ意味を有し、同義的に使用され、抗体重鎖の可変領域をクローニングして、一つの重鎖可変領域のみからなる単一ドメイン抗体を構築することを指し、それは、完全な機能を有する最小の抗原結合断片である。通常、軽鎖及び重鎖定常領域1(CH1)が天然に欠失している抗体を得てから、抗体重鎖の可変領域をクローニングすることで、一つの重鎖可変領域のみからなる単一ドメイン抗体を構築する。単一ドメイン抗体は、ラクダ科重鎖抗体又は軟骨魚綱IgNARに由来してもよい。
【0082】
本明細書において、「裸抗体」という用語は、治療剤又はトレーサーとコンジュゲートしない抗体を指し、「抱合抗体」という用語は、治療剤又はトレーサーとコンジュゲートする抗体を指す。
【0083】
本明細書において、「キメラ抗体(chimeric antibody)」という用語は、その軽鎖又は/及び重鎖の一部が一つの抗体(それは、ある特定の種に由来するか又はある特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属してもよい)に由来し、軽鎖又は/及び重鎖の別の部分が別の抗体(それは、同じもしくは異なる種に由来するか又は同じもしくは異なる抗体クラスもしくはサブクラスに属してもよい)に由来が、それでもなお、目的抗原に対する結合活性を保持している抗体を指す(U.S.P 4,816,567,Cabillyら,Morrisonら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851-6855(1984))。例えば、「キメラ抗体」という用語は、抗体の重鎖及び軽鎖可変領域が第1の抗体(例えば、マウス抗体)に由来するが、抗体の重鎖及び軽鎖の定常領域が第2の抗体(例えば、ヒト抗体)に由来する抗体(例えば、ヒト/マウスキメラ抗体)を含んでもよい。
【0084】
本明細書において、「ヒト化抗体」という用語は、遺伝子操作された非ヒト抗体を指し、そのアミノ酸配列が、ヒト抗体の配列との相同性を向上させるように修飾される。通常、ヒト化抗体の全て又は一部のCDR領域は、非ヒト抗体(ドナー抗体)に由来し、全て又は一部の非CDR領域(例えば、可変領域FR及び/又は定常領域)は、ヒト免疫グロブリン(受容体抗体)に由来する。ヒト化抗体は、通常、ドナー抗体の所望の特性を保持するか又は部分的に保持し、抗原特異性、親和性、反応性、免疫細胞の活性を向上させる能力、免疫応答を増強する能力などを含むがそれらに限らない。
【0085】
本明細書において、「完全ヒト抗体」は、FR及びCDRの両方がいずれもヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域を有する抗体を指す。また、抗体が定常領域を含む場合、定常領域もヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する。本明細書において、完全ヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロのランダムもしくは部位特異的誘発又はインビボの体細胞突然変異によって導入された突然変異)を含んでもよい。しかしながら、本明細書において、「完全ヒト抗体」は、別の哺乳動物種(例えば、マウス)の生殖細胞系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列に移植された抗体を含まない。
【0086】
本明細書において、「可変領域」は、抗体の重鎖又は軽鎖において、抗体を抗原に結合させることに関与する領域を指し、「重鎖可変領域」は、「VH」、「HCVR」と同義的に使用され、「軽鎖可変領域」は、「VL」、「LCVR」と同義的に使用される。天然抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれVH及びVLである)は、一般的には、似ている構造を有し、各ドメインは、四つの保存的フレームワーク領域(FR)及び三つの超可変領域(HVR)を含む。例えば、Kindtら、Kuby Immunology,6th ed.、W.H.Freeman and Co.,p.91(2007)を参照されたい。単一のVH又はVLドメインは、抗原結合特異性を付与するために十分である。本明細書において、「相補性決定領域」及び「CDR」は、同義的に使用され、通常、重鎖可変領域(VH)又は軽鎖可変領域(VL)の超可変領域(HVR)を指し、該部位は、立体構造的に抗原エピトープと精密な相補性を形成できるため、相補性決定領域とも呼ばれ、ここで、重鎖可変領域CDRは、HCDRと略されてもよく、軽鎖可変領域CDRは、LCDRと略されてもよい。本用語「フレームワーク領域」又は「FR領域」は、交換可能であり、抗体の重鎖可変領域又は軽鎖可変領域におけるCDR以外のアミノ酸残基を指す。通常、典型的な抗体可変領域は、4つのFR領域及び3つのCDR領域により、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の順序で構成される。
【0087】
CDRに対するさらなる記述は、Kabatら,J.Biol.Chem.,252:6609-6616(1977)、Kabatら,米国保健社会福祉省、「Sequences of proteins of immunological interest」(1991)、Chothiaら,J.Mol.Biol.196:901-917(1987)、Al-Lazikani B.ら,J.Mol.Biol.,273:927-948(1997)、MacCallumら,J.Mol.Biol.262:732-745(1996)、AbhinandanとMartin,Mol.Immunol.,45:3832-3839(2008)、Lefranc M.P.ら,Dev.Comp.Immunol.,27:55-77(2003)、及びHoneggerとPluckthun,J.Mol.Biol.,309:657-670(2001)を参照されたい。「CDR」は、Kabat番号付けシステムにより定義されてもよく、ツールサイトは、abYsisウェブサイト(www.abysis.org/abysis/sequence_input/key_annotation/key_annotation.cgi)を含む
【0088】
本明細書において、「Kabat番号付けシステム」という用語は、通常、Elvin A.Kabatにより提案された免疫グロブリンアラインメント及び番号付けシステムを指す(例えば、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.,1991を参照されたい)。
【0089】
本明細書において、「重鎖定常領域」は、抗体重鎖のカルボキシル末端部分を指し、それは、抗体と抗原との結合に直接関与しないが、Fc受容体との相互作用のようなエフェクター子機能を表し、抗体の可変ドメインに対してより保存的なアミノ酸配列を有する。「重鎖定常領域」は、少なくとも、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、CH3ドメイン、又はその変異体もしくは断片を含む。「重鎖定常領域」は、「完全長重鎖定常領域」と「重鎖定常領域断片」とを含み、前者は天然抗体の定常領域と実質的に似ている構造を有する一方、後者は「完全長重鎖定常領域の一部」のみを含む。例示的に、典型的な「完全長抗体重鎖定常領域」は、CH1ドメイン-ヒンジ領域-CH2ドメイン-CH3ドメインからなり、抗体がIgEである場合、それはCH4ドメインをさらに含み、抗体が重鎖抗体である場合、それはCH1ドメインを含まない。例示的に、典型的な「重鎖定常領域断片」は、CH1、Fc又はCH3ドメインから選択されてもよい。
【0090】
本明細書において、「軽鎖定常領域」という用語は、抗体軽鎖のカルボキシル末端部分を指し、それは、抗体と抗原との結合に直接関与せず、前記軽鎖定常領域は、定常κドメイン又は定常λドメインから選択されてもよい。
【0091】
本明細書において、「Fc」という用語は、インタクトな抗体をパパインによって加水分解して生成された抗体カルボキシ末端部分を指し、典型的に、それは、抗体のCH3及びCH2ドメインを含む。Fc領域は、例えば、天然配列Fc領域、組換えFc領域及び変異体Fc領域を含む。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界がわずかに変化可能であるが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、通常、Cys226位置のアミノ酸残基又はPro230からそのカルボキシ末端まで延びると定義される。Fc領域のC末端リジン(Kabat番号付けシステムによる残基447)が、例えば、抗体の産生もしくは精製中、又は抗体の重鎖をコードする核酸に対する組換え及び操作によって除去され得るため、Fc領域は、Lys447を含むか又は含まなくてもよい。
【0092】
本明細書において、「保存的アミノ酸」という用語は、通常、同一のクラスに属するか又は類似している特徴(例えば、電荷、側鎖の大きさ、疎水性、親水性、主鎖のコンホメーション及び剛性)を有するアミノ酸を指す。例示的に、下記各群のアミノ酸は、互いの保存的アミノ酸残基に属し、群内のアミノ酸残基の置換は保存的アミノ酸の置換に属する:
例示的に、以下の6つの群は、互いの保存的置換であると考えられるアミノ酸の例であり、
1)アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T)、
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、
4)アルギニン(R)、リジン(K)、ヒスチジン(H)、
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V)、及び
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
【0093】
本明細書において、「同一性」は以下の方式によって計算して得られる:二つのアミノ酸配列又は二つの核酸配列の「同一性」の割合を確定するために、最適な比較を目的として前記配列をアラインメントする(例えば、最適なアラインメントのために第1及び第2のアミノ酸配列又は核酸配列の一方又は両方にギャップを導入するか又は比較するために非相同配列を棄却してもよい)。その後に、対応するアミノ酸位置又はヌクレオチド位置におけるアミノ酸残基又はヌクレオチドを比較する。第1の配列における位置が、第2の配列中の対応する位置における同じアミノ酸残基又はヌクレオチドに占められている場合、前記分子はこの位置において同じである。
【0094】
この二つの配列を最適にアラインメントするために導入する必要があるギャップの数及び各ギャップの長さを考慮して、二つの配列の間の同一性の割合は、前記配列に共通する同じ位置の変化に従って変化する。
【0095】
二つの配列の間の配列比較及び同一性割合の計算は、数学的アルゴリズムを利用して実現され得る。例えば、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムに組み込まれたNeedlema及びWunsch((1970)J.Mol.Biol.48:444-453)アルゴリズム(www.gcg.comから入手可能)、Blossum 62マトリックス又はPAM250マトリックス並びにギャップ重み16、14、12、10、8、6又は4及び長さ重み1、2、3、4、5又は6を使用して、二つのアミノ酸配列の間の同一性割合を確定する。さらに例えば、GCGソフトウェアパッケージにおけるGAPプログラム(www.gcg.comから入手可能)、NWSgapdna.CMPマトリックス並びにギャップ重み40、50、60、70又は80及び長さ重み1、2、3、4、5又は6を使用して、二つのヌクレオチド配列の間の同一性割合を確定する。特に好ましいパラメータセット(及び別段の説明がない限り使用されるべきパラメータセット)は、ギャップペナルティ12、ギャップ延長ペナルティ4、フレームシフトギャップペナルティ5を用いるBlossum62スコアマトリックスである。
【0096】
さらに、PAM120重み付け余数表、ギャップ長さペナルティ12、ギャップペナルティ4を用い、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組込まれたE.Meyers及びW.Millerアルゴリズム、((1989)CABIOS,4:11-17)を利用して、二つのアミノ酸配列又はヌクレオチド配列の間の同一性割合を確定することができる。
【0097】
任意選択的に、本出願に記載の核酸配列及びタンパク質配列は、共通データベースに対して検索を実施して、例えば、他のファミリーメンバー配列又は関連する配列を同定するために、「照会配列」としてさらに使用されてもよい。例えば、このような検索は、Altschulら、(1990)J.Mol.Biol.215:403-10のNBLAST及びXBLASTプログラム(バージョン2.0)により実行することができる。本出願の核酸(SEQ ID NO:1)分子に相同なヌクレオチド配列を得るために、スコア=100、ワード長さ=12であるNBLASTプログラムを用いてBLASTヌクレオチド検索を実施してもよい。本出願のタンパク質分子と相同なアミノ酸配列を得るために、スコア=50、ワード長さ=3であるXBLASTプログラムを用いてBLASTタンパク質検索を実施してもよい。比較目的のためにギャップありアライメントを得るために、ギャップBLASTをAltschulら、(1997)Nucleic Acids Res.25:3389-3402に記載のように使用してもよい。BLAST及びギャップBLASTプログラムを使用する場合、対応するプログラム(例えば、XBLAST及びNBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。
【0098】
本明細書において、「キメラ抗原受容体(CAR)」という用語は、免疫エフェクター細胞で発現し、且つ抗原に特異的に結合するように改造された人工細胞表面受容体を指し、それは、少なくとも(1)細胞外抗原結合ドメイン、例えば、抗体の可変重鎖又は軽鎖、(2)CARを免疫エフェクター細胞に進入するようにアンカリングする膜貫通ドメイン、及び(3)細胞内シグナル伝達ドメインを含む。CARは、細胞外抗原結合ドメインを利用して、選択された標的、例えば、癌細胞にT細胞及び他の免疫エフェクター細胞を非MHC拘束的にリダイレクトすることができる。
【0099】
本明細書において、「核酸」という用語は、ヌクレオチドを含むポリマーの任意の化合物及び/又は物質を含む。各ヌクレオチドは、塩基、特にプリン又はピリミジン塩基(即ちシトシン(C)、グアニン(G)、アデニン(A)、チミン(T)又はウラシル(U))、糖(即ちデオキシリボース又はリーボス)及びリン酸基からなる。通常、核酸分子は、塩基の配列により説明され、これにより前記塩基は、核酸分子の一次構造(線状構造)を表す。塩基の配列は、通常、5’~3’で表される。本明細書において、核酸分子という用語は、例えば、相補的DNA(cDNA)とゲノムDNAとを含むデオキシリボース核酸(DNA)、リーボス核酸(RNA)、特にメッセンジャーRNA(mRNA)、DNA又はRNAの合成形態、及び二つ又はそれ以上のこれらの分子の混合を含むポリマーを包含する。核酸分子は、線状又は環状であってもよい。また、核酸分子という用語は、センス鎖とアンチセンス鎖の両方、及び一本鎖と二本鎖の形態を含む。そして、本文に記載の核酸分子は、天然に存在するか又は非天然に存在するヌクレオチドを含んでもよい。非天然に存在するヌクレオチドの例としては、誘導体化された糖又はリン酸骨格結合又は化学的に修飾された残基を有する、修飾されたヌクレオチド塩基が挙げられる。核酸分子は、DNA及びRNA分子をさらに包含し、ベクターとして本出願の抗体をインビトロ及び/又はインビボで、例えば、宿主又は患者において直接発現することに適する。このようなDNA(例えば、cDNA)又はRNA(例えば、mRNA)ベクターは、修飾されていなくても又は修飾されていてもよい。例えば、RNAベクターの安定性及び/又はコードされた分子の発現を増強するようにmRNAを化学的に修飾してもよく、それによってmRNAを被験体に注入して体内で抗体を産生することができる(例えば、Stadlerら、Nature Medicine 2017、published online 2017年6月12日、doi:10.1038/nm.4356又はEP 2 101 823 B1を参照されたい)。本明細書において、「単離された」核酸は、その天然環境の成分から分離された核酸分子を指す。単離された核酸は、下記細胞に含有される核酸分子を含み、前記細胞は、通常、該核酸分子を含有するが、該核酸分子は、染色体外に存在するか又はその天然染色体位置と異なる染色体位置に存在する。
【0100】
本明細書において、「ベクター」という用語は、それに連結される別の核酸を増幅させることができる核酸分子を指す。該用語は、自己複製核酸構造としてのベクター、及び該ベクターが導入された宿主細胞のゲノムに統合されるベクターを含む。いくつかのベクターは、それらに操作可能に連結される核酸の発現を指導することができ、このようなベクターは、本明細書において「発現ベクター」と呼ばれる。
【0101】
本明細書において、「宿主細胞」は、細胞に外因性核酸が導入された細胞を指し、このような細胞の子孫を含む。宿主細胞は、「形質転換体」及び「形質転換された細胞」を含み、それは、継代数を考慮せず、初代の形質転換された細胞及びそれに由来する子孫を含む。子孫は、核酸物質について親細胞と完全に同じではない場合があり、突然変異を含んでもよい。本明細書において、初期に形質転換された細胞からスクリーニング又は選択されたものと同じ機能又は生物学的活性を有する変異体子孫を含む。
【0102】
本明細書において、「薬物組成物」は、それに含まれる活性成分の生物学的活性が有効であることを許容する形態で存在し、且つ前記薬物組成物が投与される被験体に対して許容されない毒性を有する他の成分を含有しない製剤を指す。
【0103】
本明細書において、「治療」という用語は、外科手術又は薬物処置(surgical or therapeutic treatment)を指し、その目的は、治療対象における望ましくない生理的変化又は病変、例えば、癌の進行を予防、減速(減少)させることである。有益な又は望ましい臨床結果は、検出可能であるか検出不可能であるかを問わず、症状の軽減、疾患程度の低下、疾患状態の安定化(即ち、悪化していない)、疾患進行の遅延又は減速、疾患状態の改善又は緩和、及び寛解(部分的寛解又は完全な寛解を問わず)を含むが、それらに限らない。治療を必要とする対象は、障害又は疾患に罹患している対象、及び障害又は疾患に罹患しやすい対象、又は障害又は疾患を予防しようとする対象を含む。減速、軽減、低下、緩和、寛解などの用語が言及されている場合、その意味には、除去、消失、発生しないなどの場合も含まれている。
【0104】
本明細書において、「被験体」という用語は、本出願に記載の特定の疾患又は障害に対する治療を受ける生体を指す。対照及び患者の例は、疾患又は障害の治療を受ける哺乳動物、例えば、ヒト、霊長類動物(例えば、サル)又は非霊長類哺乳動物を含む。
【0105】
本明細書において、「有効量」という用語は、細胞、組織又は対象に単独で又は別の治療剤と組み合わせて投与された場合、疾患障害又は該疾患の進行を有効に防止又は寛解することができる治療剤用量を指す。「有効量」はさらに、症状を寛解し、例えば、関連する医学的障害を治療、治癒、防止もしくは寛解するか、又はこれらの障害を治療、治癒、防止もしくは寛解する速度を増加させるのに十分な化合物の用量を指す。活性成分を個体に単独で投与する場合、治療有効用量は該成分のみを指す。ある組み合わせを適用する場合、治療有効用量は、組み合わせ、連続投与又は同時投与のいずれであっても、治療効果を導く活性成分の組み合わせ用量を指す。
【0106】
本明細書において、「癌」という用語は、哺乳動物で典型的に、無秩序な細胞成長を特徴とする生理的状態を指すか又は説明する。この定義には、良性及び悪性の癌が含まれる。本明細書において、「腫瘍」又は「腫」は、悪性又は良性を問わず、全ての腫瘍性(neoplastic)細胞成長及び増殖、並びに全ての前がん(pre-cancerous)及び癌性細胞及び組織を指す。「癌」及び「腫瘍」という用語は、本明細書で言及される場合、互いに排他的というわけではない。
【0107】
本明細書において、「EC50」という用語は、半最大有効濃度を指し、それは、特定の曝露時間後にベースラインと最大値との間の途中応答を誘導する抗体濃度を含む。EC50は、本質的に、その最大作用が観察される抗体濃度の50%を表し、当分野に既知の方法によって測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【
図1】Jurkat細胞とSP34、OKT3抗体とのFACS検出結果である。
【
図2】SP34抗体によるヒトT細胞表面におけるCD3の発現の検出を示した図である。
【
図3】SP34抗体によるサルT細胞表面におけるCD3の発現の検出を示した図である。
【
図4】FACSによるヒト/マウスキメラ抗体とヒトT細胞との結合の検出を示した図である。
【
図5】FACSによるヒト/マウスキメラ抗体とJurkat細胞との結合の検出を示した図である。
【
図6】FACSによるヒト/マウスキメラ抗体とサルT細胞との結合の検出を示した図である。
【
図7】ルシフェラーゼレポーター遺伝子により検出された、ヒト/マウスキメラ抗体によるJurkat細胞のシグナル経路の活性化を示した図である。
【
図8】ELISAによるヒト化抗体とヒトCD3ε/δタンパク質との結合反応の検出を示した図である。
【
図9】ELISAによるヒト化抗体とヒトCD3εタンパク質との結合反応の検出を示した図である。
【
図10】FACSによるヒト化抗体とヒトT細胞との結合反応の検出を示した図である。
【
図11】ELISAによるヒト化抗体とサルCD3ε/δとの結合反応の検出を示した図である。
【
図12】ELISAによるヒト化抗体とサルCD3εとの結合反応の検出を示した図である。
【
図13】FACSによるヒト化抗体とサルT細胞との結合反応の検出を示した図である。
【
図14】FACSにより検出された、ヒト化抗体によるT細胞の活性化の反応を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0109】
以下では、具体的な実施例を参照しながら本出願をさらに説明し、本出願の利点及び特徴は説明により明らかになるであろう。実施例に具体的な条件が明記されていない場合、従来の条件又はメーカーが提案した条件に従って実施する。使用される試薬又は機器はメーカーが明記されていない場合、いずれも市販で購入することができる一般的な製品である。
【0110】
本出願の実施例は、例示に過ぎず、本出願の範囲を制限するものではない。当業者であれば、本出願の精神及び範囲を逸脱することなく本出願の技術案の詳細及び形態に対して修正又は置換を行うことができるが、これらの修正及び置換がいずれも本出願の保護範囲内に含まれることを理解するであろう。
【0111】
実施例1 対照抗体の製造
陽性対照抗体(VH、VL配列の詳細は表1を参照):SP34、OKT3、I2C、40G5c、F2B及び7221G20は、いずれもヒトCD3の抗体を認識し、ここで、SP34、I2C及び40G5cクローンは、ヒトCD3εタンパク質、CD3ε/δヘテロ二量体及びCD3γ/δヘテロ二量体を認識し、OKT3、F2B及び7221G20クローンは、ヒトCD3ε/δヘテロ二量体のみを認識する。
【0112】
陽性対照抗体の製造方法は以下のとおりであり、陽性対照抗体の軽鎖可変領域配列をそれぞれ、シグナルペプチドとヒト抗体IgG1の軽鎖定常領域とを含む発現ベクターpcDNA3.4-B1HLKクローニングし、重鎖可変領域配列をそれぞれ、シグナルペプチドとヒト抗体IgG1の重鎖定常領域とを含む発現ベクターpcDNA3.4-B1HH1にクローニングして、SP34-hIgG1、OKT3-hIgG1、I2C-hIgG1、40G5c-hIgG1、7221G20-hIgG1及びF2B-hIgG1を得て、以下では、それぞれSP34、OKT3、I2C、40G5c、7221G20及びF2Bと略称される。確立された標準的な分子生物学的方法に従ってプラスミドを製造し、具体的な方法は、Sambrook,J.,Fritsch,E.F.及びManiatis,T.(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition(Plainview,New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press)を参照されたい。また、同じ方法に従って抗体軽鎖可変領域及び重鎖可変領域をそれぞれ、シグナルペプチドとマウスIgG1軽鎖定常領域とを含む発現ベクターpcDNA3.4-B1MLK、及びシグナルペプチドとマウスIgG1重鎖定常領域とを含む発現ベクターpcDNA3.4-B1MH1にクローニングした。具体的な配列情報は表1を参照されたい。
【0113】
PEI(Polysciencesから購入、カタログ番号:24765-1)の取扱説明書に従って、発現ベクターをHEK293E細胞(中国科学院典型的培養物寄託委員会細胞バンクから購入)に一過的にトランスフェクトし、FreeStyle TM 293(Thermofisher scientific、カタログ番号:12338018)を用いて、37℃で5日間連続的に培養し、遠心分離して細胞成分を除去して、抗体を含有する培養上清を得た。培養上清をプロテインAクロマトグラフィー用カラム(プロテインAフィーラーAT Protein A Diamond及びクロマトグラフィー用カラムBXK16/26はいずれも博格隆から購入、カタログ番号:AA0273及びB-1620)にサンプリングし、PBSリン酸塩緩衝液(pH7.4)で洗浄した後に20mM PB、1M NaCl(pH 7.2)で洗浄し、最後にpH3.4のクエン酸緩衝液で溶出させ、プロテインAクロマトグラフィー用カラムから溶出した抗体を収集し、1/10体積のpH8.0の1M Trisで中和し、PBSにより4℃の条件で一晩透析し、透析されたタンパク質を0.22マイクロメートルの濾過膜で無菌濾過した後に-80℃で分注して保存した。
【0114】
陰性対照抗体hIgG1は、鶏卵リゾチームに対する抗体抗hel-hIgG1(百英から購入、カタログ番号:B117901)であり、以下ではhIgG1と略称される。
【0115】
陰性対照抗体mIgG1は、鶏卵リゾチームに対する抗体抗hel-mIgG1(百英から購入、カタログ番号:B118301)であり、mIgG1と略称される。
【0116】
【0117】
実施例2 CD3を発現する細胞の同定
2.1 CD3を内因的に発現する細胞株の同定
浮遊細胞のJurkat細胞(中国科学院細胞バンクから購入)をT-175細胞培養フラスコ中で対数増殖期まで拡大培養、遠心分離して培地上清を捨て、細胞ペレットをPBSで2回洗浄した。前のステップの細胞に対して細胞カウントを行った後、細胞ペレットを[PBS+2%(w/v)FBS]封入液で4×10
6個の細胞/ミリリットルまで再懸濁させ、50μl/ウェルで96ウェルのFACS反応プレートに加え、遠心分離して上清を除去し、開始濃度が100nMであり、1:5の勾配で希釈された検出抗体及びIgG陰性対照をウェルあたり100μlで加え、細胞を均一に混合し、氷上で1時間インキュベートした。PBS緩衝液で3回遠心分離し洗浄し、50μl/ウェルのAlexa647標識二次抗体(Jacksonから購入、カタログ番号:109-605-088)を加え、氷上で1時間インキュベートした。PBS緩衝液で5回遠心分離し洗浄し、FACS(FACS CantoII、BD社から購入)により検出し、結果を分析した。ソフトウェア(CellQuest)によってデータを分析して、細胞の平均蛍光強度(MFI)を得た。次にソフトウェア(GraphPad Prism8)によって分析し、データフィッティングを行い、EC50値を計算した。ここで、検出抗体はSP34、OKT3抗体であり、対照はhIgG1である。分析結果は、表2及び
図1に示すとおりである。その結果、Jurkat細胞は、SP34及びOKT3に結合することができ、hIgG1に結合せず、Jurkat細胞は、CD3抗体スクリーニングの陽性細胞とすることができる。
【0118】
【0119】
2.2 CD3を発現しない細胞株の同定
MOLT4細胞(中国科学院細胞バンクから購入、TCHU224)をT-175細胞培養フラスコ中で対数増殖期まで拡大培養し、遠心分離して培地上清を捨て、細胞ペレットをPBSで2回洗浄した。実施例2.1の方法に従ってFACS検出及びデータ分析を行った。ここで、検出抗体はSP34及びOKT3抗体であり、対照はhIgG1である。分析結果は、表3に示すとおりである。その結果、MOLT4細胞は、SP34及びOKT3に結合せず、MOLT4細胞は、CD3抗体スクリーニングの陰性細胞とすることができる。
【0120】
【0121】
2.3 ヒトT細胞の増幅
ヒトPBMC細胞(澳賽爾斯生物技術(上海)有限公司から購入)に対して、T細胞活性化/増幅キット(T Cell Activation/Expansion Kit(ヒト、ミルテニーから購入、カタログ番号:130-091-441))の取扱説明書の記述に従ってT細胞の増幅実験を完了した。細胞を14日間培養した後、遠心分離して培地上清を捨て、細胞ペレットをPBSで2回洗浄した。一次抗体としてSP34抗体、Alexa647標識二次抗体(Jackson Immunoから購入、カタログ番号:109-605-098)を用い、実施例2.1の方法に従ってFACS検出及びデータ分析を行った。分析結果は、表4及び
図2に示すとおりである。その結果、ヒトPBMCを増幅することによりCD3陽性T細胞を得た。
【0122】
【0123】
2.4 カニクイザルT細胞の増幅
カニクイザルPBMC(以下ではサルPBMCと略称され、上海メディシロン生物医薬株式会社から購入)に対して、T細胞活性化/増幅キット(T Cell Activation/Expansion Kit(非ヒト霊長目動物、ミルテニーから購入、カタログ番号:130-092-919))の取扱説明書の記述に従ってカニクイザル(以下は、サルと略称)T細胞の増幅実験を完了した。細胞を14日間培養した後、遠心分離して培地上清を捨て、細胞ペレットをPBSで2回洗浄した。一次抗体としてSP34抗体、Alexa647標識二次抗体(Jackson Immunoから購入、カタログ番号:109-605-098)を用い、実施例2.1の方法に従ってFACS検出及びデータ分析を行った。分析結果は、表5及び
図3に示すとおりである。その結果、サルPBMCを増幅することによりCD3陽性T細胞を得た。
【0124】
【0125】
実施例3 抗ヒトCD3ハイブリドーマモノクローナル抗体の製造
3.1 マウス免疫及びハイブリドーマ融合
免疫原として、ヒトCD3ε-ECDを含有するタンパク質(Sino biologicalから購入、10977-H02H)を用い、6~8週齢の雌性BALB/c AnNCrlマウス、SJL/JorllcoCrlマウス、MRL/lprマウス又はC57マウス(いずれも上海斯莱克社から購入)を免疫した。初回免疫の際、免疫原をTiterMax(Sigmaから購入、カタログ番号T2684)で乳化した後に皮下及び腹腔内にそれぞれ0.1ミリリットル注射し、即ち各マウスに50マイクログラムの免疫原タンパク質を注射した。強化免疫の際、Imject Alumアジュバント(Thermofisher scientificから購入、カタログ番号:77161)を用いて、免疫原を皮下及び腹腔内にそれぞれ0.1ミリリットル注射し、即ち各マウスに25マイクログラムの免疫原を注射した。
【0126】
脾細胞融合の3日前に、生理食塩水で調製した抗原溶液を50μg/匹で皮下及び腹膜内に注射して、最後の強化免疫を行った。脾臓を分離した後、ACK溶解緩衝液(Gibcoから購入、カタログ番号:A1049201)を加え、脾細胞中にドープした赤血球を溶解し、脾細胞懸濁液を得た。DMEM(Gibcoから購入、カタログ番号10569-010)基礎培地を用いて、1分間あたり1000回転で細胞を3回遠心分離し洗浄し、そして生細胞数2:1の比率でマウス骨髄腫細胞SP2/0(ATCCから購入、CRL-1581)と混合し、BTX ECM2001+高効率電気融合法(METHODS IN ENZYMOLOGY,VOL.220を参照)を用いて細胞融合を行った。融合後の細胞を、10%ウシ胎仔血清(ExCell Bio、カタログ番号FSD500)、1×HAT(Sigmaから購入、カタログ番号:H0262)を含有するDMEM培地(Gibcoから購入、カタログ番号:10569-010)中に希釈し、前記パーセントは体積パーセントである。そして、ウェルあたり2×104/200マイクロリットルで96ウェルの細胞培養プレートに加え、5% CO2、37℃のインキュベーターに入れて培養し、ハイブリドーマが抗体を分泌した後の培地上清をハイブリドーマ上清として、陽性クローンスクリーニングを行った。
【0127】
3.2マウスハイブリドーマのスクリーニング
ハイブリドーマ上清とヒトCD3ε/δ-His(北京義翹神州科技有限公司から購入、カタログ番号:CT038-H2508H)及びサルCD3ε/δ-His(Acrobiosystemsから購入、CDD-C52W4)との結合をELISAにより検出し、ハイブリドーマ上清をスクリーニングした(以下の実施例10.1を参照されたい)。ELISA陽性クローンのハイブリドーマ上清とJurkat細胞、サルT細胞との結合をフローサイトメトリーにより検出し、レポーター遺伝子システム(方法は、実施例2.1、実施例2.4及び以下の実施例7.1を参照)により、ハイブリドーマ上清がJurkat-Lucia NFAT(InvivoGenから購入、カタログ番号jktl-nfat)細胞を活性化する状況を検出した。ハイブリドーマ上清の検出結果に基づいて、優れたクローン(詳細は表6~8を参照)を選択し、拡大培養し、液体窒素で凍結保存すれば、本出願のハイブリドーマ細胞を得た。
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
実施例4 ハイブリドーマ陽性クローンの軽鎖重鎖可変領域のアミノ酸配列決定及びヒト/マウスキメラ抗体の産生
4.1ハイブリドーマ陽性クローンの軽鎖重鎖可変領域のアミノ酸配列決定
対数増殖期にある陽性ハイブリドーマ細胞を収集し、Trizol(Invitrogen,Cat No.15596-018)で十分に溶解した後に-80℃で保存してアッセイに待った。試料は、蘇州金唯智生物科技有限公司に委託して、ハイブリドーマ陽性クローンの軽鎖重鎖可変領域のアミノ酸配列を決定し、抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域は表9に示すとおりであり、対応するCDRは表10に示すとおりである。
【0132】
【0133】
【0134】
4.2 ヒト/マウスキメラ抗体の産生
泰州市百英生物科技有限公司に委託して、表9にリストされている重鎖可変領域配列をそれぞれ、シグナルペプチドとヒト抗体IgG1の重鎖定常領域とを含む発現ベクターpcDNA3.4-B1HH1(重鎖定常領域アミノ酸配列は、SEQ ID NO:13に示すとおりである)にクローニング、軽鎖可変領域配列をそれぞれ、シグナルペプチドと対応するヒト抗体IgG1 κ軽鎖定常領域とを含む発現ベクターpcDNA3.4-B1HLK(軽鎖定常領域アミノ酸配列は、SEQ ID NO:14に示すとおりである)又はシグナルペプチドとヒト抗体IgG1のλ軽鎖定常領域とを含む発現ベクターpcDNA3.4-BIHL5(軽鎖定常領域アミノ酸配列は、SEQ ID NO:122に示すとおりである)にクローニングして、ヒト/マウスキメラ抗体の発現ベクターを得て、実施例1に示す方法を参照して、キメラ抗体を発現し精製した。
【0135】
【0136】
実施例5 CD3ヒト/マウスキメラ抗体の同定
5.1 フローサイトメトリー(FACS)によるキメラ抗体と異なるCD3発現細胞との結合の検出
キメラ抗体と細胞表面CD3との結合を、検出抗体とJurkat細胞及びヒトT細胞との結合によって分析した。浮遊細胞のJurkat細胞をT-75細胞培養フラスコ中で対数増殖期まで拡大培養し、遠心分離して培地上清を捨て、細胞ペレットをPBSで2回洗浄し、待機した。増幅されたヒトT細胞を、PBSで2回洗浄し、待機した。前のステップの細胞に対して細胞カウントを行った後、細胞ペレットを[PBS+2%(w/w)BSA]封入液で4×10
6個の細胞/ミリリットルまで再懸濁させ、50μl/ウェルで96ウェルのFACS反応プレートに加え、50μl/ウェルで測定対象のキメラ抗体を加え、4℃で1hインキュベートした。PBS緩衝液で3回遠心分離し洗浄し、50μl/ウェルのAlexa Flour 647標識二次抗体(Jackson Immunoから購入、カタログ番号:109-605-098)を加え、氷上で1時間インキュベートした。PBS緩衝液で5回遠心分離し洗浄し、FACS(FACS CantoTM、BD社から購入)により検出し、結果を分析した。ソフトウェア(CellQuest)によってデータを分析し、細胞の平均蛍光強度(MFI)を得た。次にソフトウェア(GraphPad Prism8)によって分析し、データフィッティングを行い、EC50値を計算した。それとともにキメラ抗体と内因性CD3陰性細胞であるMOLT4細胞との結合を同じ方法で検出した。分析結果は、表11-1~11-4並びに
図4A~4D及び
図5A~5Cに示すとおりであり、キメラ抗体は、Jurkat細胞及びヒトT細胞に結合することができるが、MOLT4細胞に結合せず、良好な特異性を有する。また、キメラ抗体とヒトT細胞との結合は、Jurkat細胞株よりも抗体と免疫細胞上のCD3との結合をより良く反映することができるため、8-18.1キメラ抗体とJurkat細胞との結合が検出されなかった。
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
実施例6 キメラ抗体の種間交差結合活性の検出
6.1 FACSによるキメラ抗体とサルCD3発現細胞との結合の検出
実施例2.4で凍結保存したサルT細胞に対して、実施例5.1の方法に従ってFACS検出及びデータ分析を行った。分析結果は、表12-1~12-3及び
図6A~6Dに示すとおりであり、全てのキメラ抗体は、いずれもサルT細胞との結合活性を有する。
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
実施例7 CD3キメラ抗体の機能同定
7.1 ルシフェラーゼレポーター遺伝子(レポーターアッセイ)によるキメラ抗体機能の検出
キメラ抗体によるCD3細胞内のシグナル経路の活性化を検出するために、検出対象の抗体をPBSで希釈し、開始濃度が133nMであり、1:2の勾配で希釈した後、100μl/ウェルで96ウェルプレートに加えた。蓋を閉め、37℃で3時間インキュベートした後、PBSでプレートを3回洗浄した。対数増殖期にあるJurkat-Lucia NFAT(InvivoGenから購入、カタログ番号jktl-nfat)を収集し、2% FBSを含有する培地(RPMI 1640、Gibcoから購入、カタログ番号12633012)で細胞濃度を2e6/mLに調節し、洗浄された96ウェルプレートに細胞を200μL/ウェルで入れた。37℃で24時間インキュベートした後に400gを5分間遠心分離し、上清20μLを黒色の不透明な96ウェル検出プレートに入れ、50μLの検出試薬(QUANTI-Lucから購入、ブランド:Invivogen、カタログ番号:rep-qlc2)を加え、PerkiElmer Ensightマイクロプレートリーダーによって応答値を読み取り、次にソフトウェア(GraphPad Prism8)によって分析し、データフィッティングを行い、EC50値を計算した。結果は、表13-1~13-4及び
図7A~7Dに示すとおりであり、レポーターアッセイにおいて、全ての抗体は、いずれもJurkat-Lucia NFAT細胞の下流シグナル経路を活性化することができる。
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
実施例8 CD3抗体の親和性アッセイ
8.1 キメラ抗体とヒトCD3ε-Hisプロテインとの親和性アッセイ
Protein Aチップ(GE Helthcare;29-127-558)を用いて抗ヒトCD3キメラ抗体を捕捉した。試料及びランニング緩衝液はHBS-EP+(10mM HEPES、150mM NaCl、3mM EDTA、0.05%界面活性剤P20)(GE Healthcare;BR-1006-69)である。フローセルを25℃に設定した。試料ブロックを16℃に設定した。両方はいずれもランニング緩衝液で予め処理された。各サイクルにおいて、まずProtein Aチップで検出対象抗体を捕捉し、そして単一濃度のCD3ε抗原タンパク質(北京義翹神州科技有限公司から購入、カタログ番号:10977-H08H)を注入し、抗体と抗原タンパク質との結合及び解離過程を記録し、最後にグリシン溶液(pH1.5、GE Helthcare;BR-1003-54)でチップの再生を完了した。溶液における異なる組換えヒトCD3ε-ECD Hisを240秒間注射し続けることによって結合を測定し、ここで、流速は30μL/分間であり、200nMから開始し(試験の実際の濃度は詳細な結果を参照)、1:1で希釈し、合計5個の濃度があった。解離相を600秒間までモニタリングし、試料溶液からランニング緩衝液への切り替えによって誘発された。10mMのグリシン溶液(pH1.5)を用いて30μL/分間の流速で30秒間洗浄することによって、表面を再生させた。ヤギ抗ヒトFc表面から得られた応答を減算することによってバルク屈折率(Bulk refractive index)の差異を補正した。ブランク注射(=二重参照)をも減算した。見かけのKD及び他の動態学的パラメータを計算するために、Langmuir 1:1モデルを用いた。キメラ抗体とヒトCD3ε-Hisプロテインとの結合速度(Ka)、解離速度(Kd)及び結合親和性(KD)は、表14に示すとおりである。キメラ抗体とヒトCD3との親和性は、0.1nM~10nMである。
【0152】
【0153】
実施例9 抗体のヒト化デザイン
マウス抗体6-44.5、6-35.22、7-35.6、8-18.1、5-7.13、5-40.21及び1-22.6のヒト化デザイン:IMGT(http://imgt.cines.fr)ヒト抗体重鎖軽鎖可変領域の生殖細胞系列遺伝子データバンクをアラインメントすることによって、適切な配列をマウス抗体のヒト化軽鎖テンプレート及びヒト化重鎖テンプレートとして選んだ。まず、マウス抗体のCDRをそれぞれそのヒト由来テンプレートのFRに移植し、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の順序の可変領域配列を形成した。抗体の三次元構造シミュレーションに基づいて、元の親和性を保証するように、ヒト化抗体のFR領域配列における鍵となるアミノ酸に対して復帰突然変異を行ってマウス抗体に対応するアミノ酸を形成した。また、具体的なニーズに応じて、ヒト化抗体のCDR領域配列における一部のアミノ酸を、突然変異させてヒト由来テンプレートに対応する相同のアミノ酸を形成することにより、ヒト化程度を向上させるか、又は突然変異させて他のアミノ酸を形成することにより、分子の物理化学的特性を最適化し(例えば、脱アミド修飾、グリコシル化修飾及び異性化が発生しやすい部位に対してhot spot突然変異を行い)、ヒト化抗体を得た。本実施例の抗体のCDR領域は、Kabat番号付けシステムより確定され、注釈される(http://www.abysis.org/abysis/sequence_input/key_annotation/key_annotation.cgi)。ここで、マウス抗体に対応するヒト化テンプレートは表15を参照されたく、最終的なヒト化抗体に対応するVL及びVHは表16を参照されたく、具体的な配列は表17を参照されたく、一部のヒト化抗体配列のCDR(hot spot突然変異が発生)は表18を参照されたく、他のCDR配列は、ヒト化の前後に変化がなく、ここでは再度列挙しなかった。実施例4.2を参照してヒト化抗体を産生した。
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
実施例10 ヒト化抗体とヒトCD3εとの結合能の同定
10.1 酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)による抗体とCD3タンパク質との結合の検出
ヒト化抗体とCD3タンパク質との結合活性を検出するために、CD3タンパク質をPBSで最終濃度の1μg/mLに希釈し、そして50μL/ウェルで96ウェルのELISAプレートに加え、プラスチックフィルムで封止して4℃で一晩インキュベートし、翌日、PBSでプレートを2回洗浄し、封入液[PBS+2%(v/v)BSA]を加え、室温で2時間ブロッキングした。封入液を捨て、開始濃度が100nMであり、1:10の勾配で希釈された抗体又は陰性対照抗体を50μL/ウェルで加えた。37℃で2時間インキュベートした後、PBSでプレートを3回洗浄した。HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)標識二次抗体(Jacksonから購入、カタログ番号:309-035-088)を加え、37℃で半時間インキュベートした後、PBSでプレートを5回洗浄した。TMB基質を50μl/ウェルで加え、室温で10分間インキュベートした後、停止液(1.0N HCl)を50μL/ウェルで加えた。ELISAプレートリーダー(Multimode Plate Reader、EnSight、Perkin Elmerから購入)によりOD450nmの数値を読み取った。実験結果は、
図8A~8G、
図9A~9G及び表19に示すとおりである。ここで、IgG対照はhIgG1であり、40G5c、7221G20及びF2Bは陽性対照である。表中のデータは、OD450nm値である。結果により、ELISA実験において、全てのヒト化抗体は、いずれもCD3εタンパク質又はCD3ε/δタンパク質との結合活性を有することが示された。
【0159】
【0160】
【0161】
【0162】
10.2 フローサイトメトリー(FACS)による抗体とCD3発現細胞との結合の検出
増幅されたヒトPBMC細胞を収集し、実施例5.1の方法に従ってFACS検出及びデータ分析を行った。分析結果は、
図10A~10G及び表20に示すとおりであり、ここで、IgG対照はhIgG1であり、40G5c、I2C、7221G20及びF2Bは陽性対照である。結果により、ヒト化抗体は、ヒトT細胞表面のCD3と特異的に結合することが示された。
【0163】
【0164】
10.3 表面プラズモン共鳴(SPR)による抗体とヒトCD3εタンパク質との親和性の検出
表面プラズモン共鳴(SPR)方法を用いて、ヒト化抗体とCD3εタンパク質との親和性を測定し、実験方法は以下のとおりであり、Protein Aチップ(GE Helthcare;29-127-558)を用いて抗ヒトCD3抗体を捕捉し、ランニング緩衝液はHBS-EP+(10mM HEPES、150mM NaCl、3mM EDTA、0.05%界面活性剤P20)(GE Healthcare;BR-1006-69)である。フローセルを25℃に設定した。試料ブロックを16℃に設定した。両方はいずれもランニング緩衝液で予め処理された。各サイクルにおいて、まずProtein Aチップで検出対象抗体を捕捉し、そして単一濃度のCD3ε抗原タンパク質を注入し、抗体と抗原タンパク質との結合及び解離過程を記録し、最後にGlycine pH1.5(GE Helthcare;BR-1003-54)でチップの再生を完了した。溶液における異なる組換えヒトCD3εを240秒間注射し続けることによって結合を測定し、ここで、流速は30μL/分間であり、200nMから開始し(試験の実際の濃度は詳細な結果を参照)、1:1で希釈し、合計5個の濃度があった。解離相を600秒間までモニタリングし、試料溶液からランニング緩衝液への切り替えによって誘発された。10mMのグリシン溶液(pH 1.5)を用いて30μL/分間の流速で30秒間洗浄することによって、表面を再生させた。ヤギ抗ヒトFc表面から得られた応答を減算することによってバルク屈折率(Bulk refractive index)の差異を補正し、それとともにブランク注射(=二重参照)をも減算した。見かけのKD値及び他の動態学的パラメータを計算するために、Langmuir 1:1モデルを用いた。ヒト化抗体とヒトCD3εタンパク質との結合速度(Ka)、解離速度(Kd)及び結合親和性(KD)は表21~22に示すとおりであり、検出された全てのヒト化抗体とヒトCD3εとの親和性は約1nMであり、ヒトCD3ε/δとの親和性は10~200nMである。
【0165】
【0166】
【0167】
実施例11 ヒト化抗体の交差結合活性の同定
11.1 酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)による、抗体とサルCD3タンパク質との結合の検出
ヒト化抗体とサルCD3タンパク質との結合活性を検出するために、CD3タンパク質をPBSで最終濃度の1μg/mLに希釈し、そして50μl/ウェルで96ウェルのELISAプレートに加え、10.1のELISA検出方法に従ってヒト化抗体とサルCD3タンパク質との結合反応を検出し、ここで、IgG対照はhIgG1であり、40G5c、I2C、7221G20及びF2Bは陽性対照である。分析結果は
図11A~11G、
図12A~12G及び表23に示すとおりであり、表中のデータはOD450nm値である。結果により、ELISA実験において、全てのヒト化抗体は、サルCD3タンパク質との結合活性を有することが示された。
【0168】
【0169】
11.2 フローサイトメトリー(FACS)による抗体とサルT細胞との結合の検出
増幅されたサルT細胞を収集し、実施例5.1の方法に従ってFACS検出及びデータ分析を行った。分析結果は、
図13A~13G及び表24に示すとおりであり、ここで、IgG対照はhIgG1であり、40G5c、I2C、7221G20及びF2Bは陽性対照である。結果により、全てのヒト化抗体は、サルT細胞表面のCD3との特異的結合反応を有することが示された。
【0170】
【0171】
実施例12 ヒト化抗体の機能同定
ヒト化抗体によるCD3細胞内のシグナル経路の活性化を検出するために、検出対象の抗体を10% FBS含有RPMI 1640で希釈し、開始濃度が1*2μg/mLであり、1:5の勾配で希釈し、そして100μl/ウェルで96ウェルの丸底細胞培養プレートに加えた。凍結保存されたPBMC(奥賽爾斯から購入)を蘇生し、細胞濃度を1e6/mLに調節し、抗体が入れた細胞培養プレートに細胞をウェルあたり100μLで加えた。37℃のインキュベーター中で24時間インキュベートした後、PBS緩衝液で1回遠心分離し洗浄した。調製されたFACS染色試薬(抗-CD25-PEは、Biolegendから購入され、カタログ番号が302602であり、抗-CD69-FITCは、BDから購入され、カタログ番号が555530である)をウェルあたり50μLで加え、4℃で45分間インキュベートし、PBS緩衝液で3回遠心分離し洗浄し、FACS(FACS Canto、BD社から購入)で検出し結果を分析した。ソフトウェア(CellQuest)によってデータを分析し、細胞の平均蛍光強度(MFI)を得た。次にソフトウェア(GraphPad Prism8)によって分析した。分析結果は、
図14A~14Eに示すとおりであり、全てのヒト化抗体は、ヒトPBMCに対して異なる程度の活性化作用を有した。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-05-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトCD3に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域はHCDR1-3を含み、前記軽鎖可変領域はLCDR1-3を含み、前記HCDR1-3及び/又は前記LCDR1-3は表10又は表18から選択され、
好ましくは、前記HCDR1は、SEQ ID NO:
70~72、31~33、44~46、57~59
、83~85、96~98及び109~111のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも3つのアミノ酸突然変異を有する配列を含み、及び
前記HCDR2は、SEQ ID NO:
73~75、34~36、137、47~49、60~62
、86~88、99~101及び112~114のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも3つのアミノ酸突然変異を有する配列を含み、及び
前記HCDR3は、SEQ ID NO:
76~77、37~38、138~139、50~51、142~143、63~64
、89~90、102~103及び115~116のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも3つのアミノ酸突然変異を有する配列を含み、及び/又は
前記LCDR1は、SEQ ID NO:
78~79、39~40、140~141、52~53、65~66
、91~92、104~105及び117~118のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも3つのアミノ酸突然変異を有する配列を含み、及び
前記LCDR2は、SEQ ID NO:
80~81、41~42、54~55、67~68
、93~94、106~107及び119~120のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも3つのアミノ酸突然変異を有する配列を含み、及び
前記LCDR3は、SEQ ID NO:
82、43、56、69
、95、108及び121のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも3つのアミノ酸突然変異を有する配列を含み、
さらに好ましくは、前記HCDR1-3及び/又は前記LCDR1-3は、Kabat、Chothia又はIMGT方法に従って確定される、抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
前記重鎖可変領域は、SEQ ID NO:
126、23、17、19、21
、25、27、29、124
、128、130、132、134及び136のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも15個のアミノ酸突然変異を有する配列を含み、及び/又は
前記軽鎖可変領域は、SEQ ID NO:
125、24、18、20、22
、26、28、30、123
、127、129、131、133及び135のうちのいずれか一つに示される配列、又はそれに比べて少なくとも70%の同一性もしくは多くとも15個のアミノ酸突然変異を有する配列を含む、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
前記少なくとも70%の同一性は、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%の同一性であり、及び/又は前記多くとも3つの突然変異は、多くとも3、2、1又は0個の突然変異であり、及び/又は前記多くとも15個の突然変異は、多くとも15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1又は0個の突然変異であり、好ましくは、前記突然変異は、挿入、欠失又は置換であり、さらに好ましくは、前記置換は、保存的アミノ酸置換であり、最も好ましくは、前記突然変異は、復帰突然変異又はホットスポット突然変異である、請求項
1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 126に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 125に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 23に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 24に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 17に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 18に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 19に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 20に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 21に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 22に示すとおりであり、又は
、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 25に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 26に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 27に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 28に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 29に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 30に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 124に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 123に示すとおりであり、又は
、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 128に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 127に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 130に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 129に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 132に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 131に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 134に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 133に示すとおりであり、又は、
前記抗体又はその抗原結合断片の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 136に示すとおりであり、
前記抗体又はその抗原結合断片の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 135に示すとおりである、請求項
1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項5】
前記抗体又はその抗原結合断片は、重鎖定常領域及び/又は軽鎖定常領域をさらに含み、
任意選択的に、前記重鎖定常領域は、IgG、例えば、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4から選択され、好ましくは、前記重鎖定常領域は、ヒトIgG、例えば、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3又はヒトIgG4から選択され、さらに好ましくは、前記重鎖定常領域は、SEQ ID NO:13から選択され、及び/又は
前記軽鎖定常領域は、κ鎖又はλ鎖から選択され、
好ましくは、前記軽鎖定常領域は、SEQ ID NO:14及びSEQ ID NO:122から選択される、請求項
1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項6】
前記抗体又はその抗原結合断片は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、天然抗体、操作された抗体、単一特異性抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、一価抗体、多価抗体、インタクトな抗体、インタクトな抗体の断片、裸抗体、抱合抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)
2、Fd、Fv、scFv、ダイアボディ及び単一ドメイン抗体から選択される、請求項
1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項7】
前記抗体又はその抗原結合断片は、治療剤又はトレーサーとコンジュゲートし、好ましくは、前記治療剤は、放射性同位体、化学療法薬及び免疫調節剤から選択され、及び/又は前記トレーサーは、放射線造影剤、常磁性イオン、金属、蛍光標識、化学発光標識、超音波造影剤及び光増感剤から選択される、請求項
1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項8】
前記抗体又はその抗原結合断片は、さらにサルCD3に結合する、請求項
1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項9】
前記CD3は、CD3εサブユニット、及びCD3εサブユニットを含む二量体、例えば、CD3ε/δ二量体から選択される、請求項
1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項10】
多重特異性抗原結合分子であって、前記多重特異性抗原結合分子は、少なくとも第1の抗原結合部分と第2の抗原結合部分とを含み、前記第1の抗原結合部分は、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片を含み、及び/又は前記第2の抗原結合部分は、前記第1の抗原結合部分と異なる他の標的に結合するか又は同じ標的の異なるエピトープに結合し、好ましくは、前記他の標的は、腫瘍特異的抗原(TSA)及び腫瘍関連抗原(TAA)から選択され、任意選択的に、前記多重特異性抗原結合分子は、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)である、多重特異性抗原結合分子。
【請求項11】
単離された核酸分子であって、前記核酸分子は、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体
又はその抗原結合断
片をコードし、任意選択的に、前記核酸分子は、さらにキメラ抗原受容体をコードする、核酸分子。
【請求項12】
請求項11に記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項13】
請求項12に記載のベクターを含む、細胞。
【請求項14】
免疫エフェクター細胞であって、キメラ抗原受容体を発現し、及び/又は請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体
又はその抗原結合断
片を発現し、
好ましくは、前記免疫エフェクター細胞は、T細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)、単球、マクロファージ、樹状細胞及び肥満細胞から選択され、さらに好ましくは、前記T細胞は、細胞傷害性T細胞、制御性T細胞及びヘルパーT細胞から選択され、及び/又は
好ましくは、前記免疫エフェクター細胞は、自家免疫エフェクター細胞又は同種異体免疫エフェクター細胞である、免疫エフェクター細胞。
【請求項15】
請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体
又はその抗原結合断
片を製造する方法であって、前記方法は、(1)
所定のベクターを含む細胞を培養すること、及び/又は(2)前記細胞により発現される抗体もしくはその抗原結合断片、又は多重特異性抗原結合分子を単離することを含
み、前記所定のベクターは、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片をコードし、かつ、任意選択的に、さらにキメラ抗原受容体をコードする、単離された核酸分子を含む、方法。
【請求項16】
免疫エフェクター細胞を製造する方法であって、前記方法は、(1)a
.キメラ抗原受容体をコードする核酸分子及びb.請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合断
片をコードする核酸分子を初期免疫エフェクター細胞に導入すること、及び/又は(2)上記核酸分子が導入された免疫エフェクター細胞に、キメラ抗原受容体及び請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合断
片を発現させることを含む、方法。
【請求項17】
医薬組成物であって、前記医薬組成物は、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体
又はその抗原結合断
片を含み、好ましくは、前記組成物は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤又は助剤をさらに含む、医薬組成物。
【請求項18】
請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断
片の、腫瘍又は癌を治療する医薬品の製造における用途であって、
好ましくは、前記腫瘍又は癌は、血液腫瘍及び固形腫瘍から選択され、さらに好ましくは、前記血液腫瘍は、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性期CML、骨髄異形成症候群(MDS)、急性Bリンパ球性白血病(B-ALL)、急性Tリンパ球性白血病(TALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、Richter症候群、ヘアリー細胞白血病(HCL)、芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)、マントル細胞リンパ腫(MCL)と小リンパ球性リンパ腫(SLL)とを含む非ホジキンリンパ腫(NHL)、ホジキンリンパ腫、全身性肥満細胞症及びバーキットリンパ腫から選択され、及び/又は前記固形腫瘍は、卵巣癌、膵臓癌、肺癌、胃癌、食道癌、胃食道癌、結腸直腸癌、前立腺癌、腎癌、膀胱癌、神経膠腫、乳癌及び肝臓癌から選択される、用途。
【国際調査報告】