(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】ヒトの老化および老化の疾患に対する有効な介入ならびにそれらの結果
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240905BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240905BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240905BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240905BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240905BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
C12N5/10
A61P35/00
A61P43/00 111
A61K35/12
A61L27/38 300
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516426
(86)(22)【出願日】2021-09-13
(85)【翻訳文提出日】2024-05-10
(86)【国際出願番号】 TR2021000001
(87)【国際公開番号】W WO2023027648
(87)【国際公開日】2023-03-02
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524095421
【氏名又は名称】タス,スィナーン
【氏名又は名称原語表記】TAS, Sinan
【住所又は居所原語表記】Republic of Turkey, S. Hasan Tuncel Caddesi No36, 51700 Bor/Nigde
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】タス,スィナーン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA44
4C081BA12
4C081CD34
4C081EA02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087BB65
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZC02
4C087ZC52
(57)【要約】
老化に関連する疾患および能力障害は、ヒト社会において世界的に次第に大きくなる未解決の問題の根本にあり、基本的な問題は、ヒトのゲノムおよび生物学において固有のものである。老化の速度の低下を伴わないヒトの平均寿命の延長は、老化の疾患の頻度の増大を引き起こし、その対症療法的処置は、限定された利益しか有さない。ここで、生物学的な老化および加齢性疾患の決定的な上流の機構の同定およびターゲティングは、問題の有効な解決策を提供することができることが、例証と共に示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子操作された細胞であって、
ここで細胞は、ヒト対象から単離された細胞に由来し、ならびに細胞のゲノムは、細胞が、ヒトゲノムにおいて存在する長鎖散在反復配列1およびヒト内在性レトロウイルス綱の転位因子によりコードされる逆転写酵素タンパク質により提供される逆転写酵素活性を欠き、かつこれを有することができなくなるように、操作されている、前記遺伝子操作された細胞。
【請求項2】
ヒトゲノムにおいて存在する長鎖散在反復配列1およびヒト内在性レトロウイルスのコピーが、機能的なタンパク質の生合成を妨げる中途での停止コドンを引き起こすそれらのヌクレオチド配列の変更により、またはそれらの逆転写酵素をコードする配列の一部もしくは全体の欠失により、または逆転写酵素活性の喪失を引き起こすアミノ酸配列の変更を引き起こすそれらのヌクレオチド配列の変更により、機能的な逆転写酵素タンパク質をコードすることができないようになっている、請求項1に記載の遺伝子操作された細胞。
【請求項3】
細胞が、ヒト移植抗原をコードするゲノム配列の欠失を有し、かかる細胞の使用が、かかる細胞におけるある人の自身の組織適合性抗原の発現の提供の後で、かかる細胞のうちの1つ以上がその人に移植される場合に、移植抗原障壁の回避を提供する、請求項1に記載の遺伝子操作された細胞。
【請求項4】
細胞が、加えて、短鎖散在反復配列および/または長鎖散在反復配列および/またはSVAおよび/またはヒト内在性レトロウイルス綱に属する転位因子の1つ以上のコピーの欠失を有する、請求項1に記載の遺伝子操作された細胞。
【請求項5】
細胞が、除核された卵母細胞の細胞質中へのin vitroでの細胞の核の導入を含むプロセスにおいて用いられ、かつ前記の除核された卵母細胞-遺伝子操作された細胞の核の構築物の使用により、2つ以上の細胞がin vitroで産生される、請求項1、3および4のいずれか一項に記載の遺伝子操作された細胞。
【請求項6】
前記の構築物の使用により産生された細胞が、新たな除核された卵母細胞の細胞質中への細胞の核の導入を含むプロセスにおいて用いられ、かつ前記の新たな除核された卵母細胞-遺伝子操作された細胞の核の構築物の使用により、2つ以上の細胞がin vitroで産生される、請求項5に記載の遺伝子操作された細胞。
【請求項7】
ヒトの処置における使用のための治療用生成物であって、請求項1~6のいずれか一項において特定されるとおりの遺伝子操作された細胞を含み、ここで前記細胞のうちの1つ以上が、処置されるヒトの組織または器官中に組み込まれる、前記治療用生成物。
【請求項8】
二倍体正常ヒト細胞の産生のプロセスであって、
ここで(i)ヒトの正常体細胞は、細胞が、ヒトゲノムにおいて存在する長鎖散在反復配列1およびヒト内在性レトロウイルス綱の転位因子によりコードされる逆転写酵素タンパク質により提供される逆転写酵素活性を欠き、かつこれを有することができなくなるように、遺伝子操作されており、(ii)細胞の核が、卵母細胞の紡錘体および関連する卵母細胞の染色体が取り除かれている卵母細胞中に導入され、(iii)結果として生じる除核された卵母細胞-操作された体細胞の核の構築物は、培養されて2細胞期の細胞を生じ、胚盤胞-内部細胞塊期を含み得るその後のステージの細胞およびプロセスにより産生された二倍体細胞は、治療的使用のために生きた状態で貯蔵され、ここで治療的使用は、処置されるヒトの組織中への産生された細胞のうちの1つ以上の組み込みを含む、
前記プロセス。
【請求項9】
2細胞期またはその後のステージにおいて産生された細胞が採取され、その核が新たな除核された卵母細胞中に導入され、プロセスの反復が行われ、これが、前記使用のための減数分裂による若返りに供された二倍体正常ヒト細胞の数の増大を提供する、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
ステップ(i)において、前記正常体細胞のゲノムからの、短鎖散在反復配列および/または長鎖散在反復配列および/またはSVAおよび/またはヒト内在性レトロウイルス綱に属する転位因子の1つ以上のコピーの欠失を含む、請求項8に記載のプロセス。
【請求項11】
ステップ(i)において細胞が組織適合性抗原を欠くようにすること、およびステップ(iii)における細胞の産生の完了の後で、産生された細胞の使用により処置されるべきであるヒトの組織適合性抗原をコードする遺伝子の組み込みを含む、請求項8~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
処置の方法であって、
ここでヒトは、請求項1~11のいずれか一項において特定されるとおり産生された1つ以上の細胞の、彼または彼女の組織または器官中への、直接的におよび/または前処置ステップの後に移植することによる組み込みにより処置され、前処置ステップは、産生された細胞の、所望される組織または器官部位中への組み込みのための、所望される細胞型への分化の誘導を含んでもよい、
前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ヒトの老化に関連する以前には未解決であった問題の解決策に関する、生物医学の科学および技術における発明および以前には記載されていない知見が提示される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ヒトの平均寿命は、細菌感染のような以前の一般的な殺傷因子(killer)の有効な処置および予防と並行して、工業化された社会においては、歴史的な高さに達している。これらのヒトの平均寿命の増大は、生物学的な老化の速度の低下を通して起こったものではなく、このことは、主に遺伝的に影響を受ける形質であるヒトの最長寿命可能性(maximum lifespan potential:MLP)における検出可能な変化の不在により証明されるとおりである。したがって、ある特徴的なグループの加齢性疾患は、今や世界的に、先進国においては特に、頻繁なものとなっている。これらの典型的に慢性の疾患により、患者に対して、彼らの家族に対して、および社会に対して引き起こされる問題は、現在行われている処置がほとんど対症療法であり、持続性または再発性の症状の緩和以上のものを提供しないという事実によって、さらに複雑化される。いくつかの頻繁な加齢性疾患については、寛解すら得られず、罹患した患者は、一般的に、作業能力の低下/喪失、および彼らの状態の管理の高いコストを経験し、加齢性疾患は、直接的および間接的な影響により、ヒト社会において次第に大きな負担となっている(1~3)(本明細書において参照される文献は、括弧内の番号で同定され、引用の番号順に説明の末尾に列記される)。
【0003】
予防可能な死因が効果的に対処されておらず、高い出生率を有する貧困国は、老化の疾患によってはまだほとんど影響を受けていないかもしれないが、それらにおける現在の状況は、解決策を表すものではない。それらの経済発展は、予防可能な死因の消失および平均寿命の増大をもたらすであろうが、それのみならず、高い出生率および人口数の増大は、やがて世界が限界を超えたヒト人口を維持できないという現実、現在の人口の一部の影響ですら国境内に収容可能ではないという現実、およびそれらの工業化に伴って地球環境への影響が増大する可能性が高いという現実と衝突するであろう。したがって、人口数を拡大することは、生物学的な老化を遅らせることなしに、ヒトの寿命の増大から生じる問題を解決することはできない。よって、人類は、歴史上初めて世界的に社会に対して顕著な影響を及ぼし始めた未解決の問題に直面する。
【0004】
したがって、ヒトにおける生物学的老化の速度を低下させることができるか否かという問題は、回答されなければならない。最初期のヒト科動物が出現してから現生人類が出現するまでの約600万年の間にMLPが著しく増大したことを示す化石記録、ゲノム解析、および他の知見(4、5)は、肯定的な回答と考えられ得る。しかし、現在直面している問題の解決策のために、かかる進化を当てにすることはできない。世界により持続可能なヒトの人口の上限は、はるかにより小さなタイムスケール内に到達されるであろうが、それのみならず、MLPの延長をもたらしたより容易な遺伝的変化が、既にヒトゲノムにおいて起こっている。さらにこの点において、実験動物のゲノムにおいて所望される変化を可能にする分子遺伝学的方法は、少なからぬ遺伝子の無作為な変化が、同時にしばしば致死的であることを証明することを示し、このことは、現在のゲノムが何億年もかけて進化したという事実を思い起こさせる。より根本的には、なぜ古典的な進化の力が老化および加齢性疾患から生じる前述の問題に対して有効な解決策を提供することができないかという、基本的な生物学的理由が存在する(6)。一方、老化の機構に関する研究は、実験動物において老化の速度低下を引き起こす例を明らかにした。よって、老化の各々の疾患を分離して処置しようと試みる通常の治療的アプローチは、ほとんどの場合においては、対症療法を越える利益を提供していないが、一方で、実験動物においてMLPを中程度(~20%)ではあるが延長させることができる少数の環境的および遺伝的改変は、ほとんどの加齢性疾患の全面的な軽減および遅延の提供を示し、高齢の動物が、介入されていないカウンターパートが老化の疾患で死亡したかまたは瀕死であった場合に、より健康であることを示した(例えば、参考文献7~9およびそれらにおける参考文献)。
【発明の概要】
【0005】
発明の要旨
本発明は、ヒトの老化の速度を低下させること、ならびにヒトの老化に関連する疾患の予防および処置に関する。
【0006】
一側面において、本発明は、機能的に適格(competent)な、正常な体性組織の細胞の寿命の増大、ならびに組織および器官における細胞の老化の発生の減少を提供する、ヒトゲノムにおけるヌクレオチド配列の変更に関する。
【0007】
さらなる側面において、ヒト対象の老化の速度を低下させるため、ならびに老化の障害の予防および処置のための、対象における所望される組織部位への移植のための、普遍的に組織適合性である遺伝子操作されたヒトの正常細胞の生成が記載され、移植された人のナチュラルキラー細胞による、工業的に産生されたかかる細胞の破壊の回避が記載される。
【0008】
本発明の、ならびに本明細書において提示される関係する新規の知見の、他の特色および態様は、以下に続く詳細な説明から、本発明の分野において習熟した科学者には明らかである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の詳細な記載
本明細書において記載される発明に関する以前には記載されていない知見は、学際的なものを含む。加えて、ヒトの老化および加齢性疾患への有効な介入は、社会的、国際的、経済的な影響を有し、それらの実施は、かかる要因により影響を受ける。したがって、多様な背景を持つ読者に対するプレゼンテーションを容易にするために、以下の説明において含まれる言及は、生物学-医学の学問分野における専門家の一般的知識であるが、別の学問分野における専門家にとっては一般的ではない場合もある。特定の主題に属する科学刊行物への参照は、一般的に、包括的なものではなくむしろ代表的なものである刊行物に対するものであり、技術マニュアルおよび教科書の知識は、かかる知識は、提示された発明の技術分野における当業者の共通の一般的な知識の一部であると考えられるため、一般的に引用されない。
【0010】
ヒトの老化および加齢性疾患は、分子細胞レベルから組織および器官のレベルまでの、および生体全体のレベルにおける、複雑なプロセスを表す。本発明者は、これらを分析し、本明細書において、老化の、およびヒトの加齢性疾患の、決定的な上流の機構を指摘し、それらへの介入を指摘した。
【0011】
関連するヒトの生物学および従来の医療行為の基礎
ヒト生体の特色は、大部分はヒトゲノムによって決定される。胚-胎児の発生の間、小児期および以後に経験される環境変数は、その遺伝情報の発現に影響を及ぼし、各々の人の表現型に寄与する。ヒトゲノムは、世界中の異なる国において生きる任意の2人の男性または女性の間で、ゲノムの大部分について(ヌクレオチド配列の約99.9%において)、広く類似するか、同一であり、これは、現代人の共通の祖先と一致している(10)。一方、母親から受け継いだ約30億ヌクレオチドおよび父親からの約30億ヌクレオチドの遺伝情報の約0.1%は、大きな数に相当し、すべての人は、遺伝的にユニークである。染色体は、生殖細胞の形成の間に、組み換えによる、およびさらなる機構による、ヌクレオチド配列の変化を経験し得るため、ならびに、所与の卵母細胞または精子により2つの相同な染色体のうちのどの特定のコピーが獲得されるか(および次いでどの2つが融合するか)は本質的に無作為な出来事であるため、同じ両親の複数の子が、異なる遺伝子型を有する。加えて、体細胞は、ヌクレオチド配列の、および遺伝子発現のさまざまな変化を引き起こし得る、さまざまな環境因子や内因性の損傷因子に曝される。よって、基本的なヒト生物学は、各々の人を遺伝的に、かつ表現型的に、ユニークな存在とする。
【0012】
ヒトの老化の、および加齢性疾患の研究は、複雑なプロセスを示している。実質的に全ての細胞型、組織、器官および系の構造および機能における、無数の年齢に関連する変化が、分子レベルにおけるものに加えて、記載されている。生理学的能力の低下は、成人の生活年齢(chronological age)が増大するにつれて、異なる個人において様々な速度において見出されるが、年齢に関連する低下は、いくつかの生理学的機能において見られ、これは、小児期の間に既に開始している。ヒトの加齢の間に、1つ以上の器官に影響を及ぼす特徴的な加齢性疾患が検出可能になる。現在、多くのものの処置は対症療法的であり、症状の緩和または一時的な消失は役立ち得るが、一方で、高齢の患者における症状の再発およびさらなる加齢性疾患の典型的な追加は、無力感および寛解に対する妥結の結論をもたらしてきた(例えば、参考文献11)。
【0013】
老化の複雑なプロセスを駆動する上流のメカニズム
老化は、細胞より上のレベルの(supracellular)相互作用に影響される複雑なプロセスであるが、一方、いくつかの系統の証拠は、生物の老化が、主に細胞の内在的な加齢に関連する不全から生じることを示す(12)。実験的知見および比較分析により、種を超えて細胞の老化および生物の老化の手段となる、特定の上流のイベントが明らかとなってきた。老化を示さない生命体が存在するか否かという疑問に対する回答は肯定的であり、本発明者は、老化を示さないものおよび老化を経験するものの統一的な特色を指摘した(12)。第一に、原核生物は、真核生物の細胞により示される老化および限定されたクローン寿命を示さない。単細胞の真核生物ですら、クローン寿命の限定を示し、寿命の末期には、老齢期のヒトの体細胞において見られるものと類似する特徴的な形態学的および分子的変化を示す。さもなくば起こるであろう絶滅を回避するために、単細胞真核生物は、多細胞真核生物の減数分裂による若返りと同様の減数分裂を通した周期的な若返りを行っており、減数分裂による若返りの基本的な機構は、真核生物間でほぼ保存されている(12)。ヒトの減数分裂による若返りは、卵母細胞および精子が、それらが閉経が近い女性からのものおよびヒトの平均寿命を超えた男性からのものであっても、若い子どもを生じることを考慮することにより、認識することができる。
【0014】
原核生物および真核生物は、それらの分子の構成物質、生化学的反応およびゲノムの配列の広範な類似性を示し、このことは、前者からの後者の進化と一致している。地質学的記録および化石による記録ならびにゲノム分析により、約20億年前の太古の共生のイベントからの真核生物の発生、および地球の大気が今日のように酸化的になった頃のミトコンドリアの誕生が明らかとなる(13)。ミトコンドリアの酸化的エネルギー代謝は、エネルギーを要求する生命プロセスに対して、他の手段により利用可能であるよりもはるかに多くのATPを提供し、酸化的大気を有する世界において、利点を与えた。一方、酸化的代謝によって生成されるラジカルおよびプロオキシダント分子は、核酸、タンパク質および他の細胞構成物質の損傷を引き起こし、酸化により損傷を受けた高分子は、生体の年齢が高くなるにつれて、様々な体細胞において、より多くの量で見出される。これらの損傷の有効な予防および修復は、種特異的MLPと正に相関する。しかし、酸化的代謝およびプロオキシダントは、老化を説明するためには十分ではない。例えば、強酸化性の培地中でクローン寿命の限定なく繁栄する原核生物が存在し、それらは、かかる培地において真核生物にとって致死的な最少用量をはるかに越える量において起こるDNA二本鎖切断および他の損傷の、効率的な修復を示す(14)。本発明者は、この点について、真核生物の遺伝物質の構造において特有であり、老化プロセスの上流にある、根本的な問題を指摘した(12)。DNAの一次構造は原核生物および真核生物において同様であるが、一方で、真核生物のDNAは、ヒストンおよびさらなる特定のタンパク質と複合体化してクロマチン複合体を作り出し、ここにおいては、原核生物における状況とは異なり、DNAへのアクセス性が高度に制限されている。原核生物のゲノムは、加えて、直鎖状DNA分子の末端の複製の難しさを引き起こす真核生物の直鎖状の染色体DNAとは異なり、典型的には環状のDNAであるが、それは、以下に指摘されるとおり、老化の主な要因または決定的な要因ではない。クロマチン構造によって可能となるDNAへのアクセスの制御された限定は、同じゲノムを有する表現型が異なる細胞型の遺伝性の生成を可能にし、それは、細胞分化のための重要な要件である。細胞分化は、高等な多細胞真核生物の進化への道を開いたが、細胞分化の間に起こるクロマチンのコンパクトな構造(ヘテロクロマチン)へのパッケージングによる、DNAの特定の領域のアクセス性の制限は、遺伝材料の損傷の修復に関して、および老化に関して、コストがかかる(12)。
【0015】
がんは老化に関連する疾患である。腫瘍における腫瘍原性細胞は、一般的に、それらが見出される組織におけるそれらの正常なカウンターパートと比較して、より少ない分化、または分化の遮断を示す。それらはまた、in vivoで(組織適合性の同系交配された動物における連続移植により証明可能)、およびin vitroで、限定されない寿命の可能性を有するが、一方で、それらの正常なカウンターパートは、同じ条件下において限定されたクローン寿命を示し、寿命の末期には、典型的な老化の分子的および形態学的兆候を示す。老化の間の腫瘍形成の機構、および腫瘍細胞による無限の寿命の可能性の獲得の機構の決定に向けて、高齢のヒトおよび他の種において、正常な組織細胞において、およびそれらの腫瘍性のカウンターパートにおいて、細胞核において存在する、ヌクレオソームから完全な複合体のレベルまでのレベルで、クロマチン複合体の分析が行われてきた。知見は、がん細胞は、ヒトおよびマウスの両方において、老化の間に正常な体細胞において起こるクロマチンの構造の改変の特定のサブセットを、一貫して回避することを明らかにした(6、12、15)。具体的には、脱膜された細胞核の、または核のマトリックス-ラミナにアンカリングされた核DNAループの複合体の、ジスルフィド還元剤による処置は、より高齢のマウスおよびヒトの正常な体細胞から調製された場合に、若年の成体のものと比較して、より大きな程度までの脱凝縮(decondensation)を引き起こした(6、12、16~18)が、一方で、研究された正常細胞の腫瘍性のカウンターパートは、一貫して、より少ないか、検出不可能な脱凝縮を示した(6、12、19)。生きた組織細胞から開始する組織の処理の間のアーチファクトによるスルフヒドリル-ジスルフィド基の酸化-還元反応に対する制御および対策は、観察される老化および腫瘍性形質転換の影響が、生体内の状況を反映していることを示している。
【0016】
一方、腫瘍細胞は、構成的ヘテロクロマチン濃縮画分(ジスルフィドにより媒介されるクロマチンの凝縮の年齢に伴う増大を示した同じ細胞における核DNAの約70%以上を含む)において添加されたエンドヌクレアーゼに対するDNAのアクセス性の年齢に伴う増大により明らかとなった、別の加齢性のクロマチンの修飾の回避または逆転を示さなかった(6、16、17)。このことは、腫瘍性形質転換が、減数分裂による若返りによる状況とは異なり、若い細胞の表現型への真の逆転を提供しないことを強調している。したがって、腫瘍性細胞における遺伝子の安定性の維持は、高齢の動物における正常細胞におけるものよりもさらに悪く、このことは、腫瘍を有するヒト安全かつ有効な処置について関連性を有する(以下に指摘される)。
【0017】
幹細胞から高分化型子孫への細胞の分化の間の、DNAの選択領域のヘテロクロマチン化(条件的ヘテロクロマチン化)は、選択された領域における遺伝情報の発現の抑制を提供し、転位因子(TE)の発現を抑制するために役立つ構成的ヘテロクロマチン化と、特色および機構を共有する。構成的ヘテロクロマチンは、多細胞真核生物の様々な細胞型において、ゲノムの同一またはほぼ同一の領域において、概ねTEおよび他の関連する配列の周辺に生じ、これらの配列の周囲のクロマチンのコンパクション(compaction)は、胚発生の最初期のイベントのうちの一つである(20~22)。ヒトの進化の間に、より短命な哺乳動物と比較して、多様なTEのうちの比較的より多くが失活性変異を起こしたと考えられる(23)。短縮型TEおよび別段に不活化されたTEならびにそれらに由来する配列は、一方、ヒトゲノムにおいて存在し続け、タンパク質をコードする配列よりも、はるかにより大きなその部分を作っている。TE由来の配列のうちの一部は、宿主遺伝子の調節のために利用されており、現在活性なTEとして、初期の発生に対して効果を有するものが挙げられる(20、24)が、ヒトゲノム中の構成的にヘテロクロマチン化された配列のうちの大部分が、必ずしも必要ではなく、必須の機能を欠き、以下に指摘するとおり、健康な寿命に対して、むしろ負の効果を有する。
【0018】
ゲノムのヘテロクロマチン化された領域における遺伝物質に対する損傷は、老化に直接的に関連する問題を提起する。損傷の部位に対する修復酵素および他の修復タンパク質のアクセスを提供するために、損傷を受けた領域におけるヘテロクロマチンは開かれなければならない(このことは、また望まれない酵素によるアクセスおよび望まれない修飾のリスクを作り出す)が、それのみならず、その中のクロマチンの構造は、DNA修復が成功した場合であってすら、損傷を受ける前の状態に戻されなければならない。以前の知見は、老化の間のこの点に関する失敗を明らかにしている(12)。
【0019】
減数分裂による若返りの重要な機構
生殖系列の細胞株が、生物の平均寿命を超えた年齢において若い生物を生じることができる機構の詳細は、老化の障害への有効な介入を促進するであろう。これらは、多様な目的のために研究された多様な真核生物種において明らかとなってきた。卵母細胞および精子を生じる始原生殖細胞(PGC)は、胚発生の間の初期に特定され、現在活性化可能なTEのサブセットのDNAを除いて、活性なDNAの修復と関連した、大規模なクロマチンの脱凝縮およびほぼ完全なDNAの脱メチル化を示すことが見出される(25~27)。これらの細胞はまた、DNA修復酵素および多様な形態のDNA修復に関与する他の因子の上方調節された発現を有し、それらにおけるクロマチンの脱凝縮は、DNAの効率的な修復のために役立つ。卵母細胞および精母細胞は、減数分裂の間に、DNA損傷の修復のために、さらなる利点をも有する。減数分裂の前期I(接合期における「ブーケ」)の間の核ラミナ-エンベロープへの隣り合わせの相同染色体の結合は、相同組み換え(HR)を介する修復を促進する。通常強調される遺伝的多様性を生じることへのクロスオーバーの寄与を別として、それは、相同体のうちの一方のDNAの両方の鎖が、相補鎖からの遺伝情報の回復を妨げる損傷を受けた場合には、遺伝情報の提供の唯一の手段であり得る。卵母細胞はまた、卵母細胞が精子により受精した場合の母方および父方の両方のゲノムにおける損傷の修復のためのものの他にも、遺伝物質に対する損傷の予防の効率的な手段を有する。遺伝物質に対する損傷の修復の効率的な手段のうち最上のものとして、生殖細胞が、重大な損傷をなお保持しているか、および/またはこれを獲得したものの除去のための品質管理機構を有することが見出される(28)。かかる品質管理の結果として、減数分裂の前期Iを通って進行し、その最後において停止した卵母細胞は、通常、アポトーシスにより高い比率において除去されることが見出される(28)。
【0020】
ゲノムの修復および維持に向けられた類似の戦略および機構を有する一方で、男性および女性の生殖系列細胞はまた、相違を示すが、これはしかし、精子による卵母細胞の授精の後の若い生物の提供に適合可能であるか、またはこれを行うことができる。XおよびY染色体は、男性の細胞において相同体を有さない。したがって、精母細胞は、それらのXおよびYクロマチンにおいて、これらが、同じ細胞における常染色体の高度に脱凝縮したクロマチンとは対照的に、凝縮したクロマチン塊(XY体)が形成される減数分裂の太糸期-細糸期において常染色体から消失した場合に、持続的なDNA損傷マーカーyH2AXを示す(29)。男性の生殖系列細胞は、思春期まで減数分裂に入らない。それらは、子宮における発生の間に、前精原細胞(prespermatogonia)期において停止し、思春期において減数分裂に入り始め、成人において生涯にわたり精子を産生することができる。減数分裂前期Iの間の修復イベントの後で、減数分裂の細胞分裂の完了により形成する円形精子細胞におけるクロマチンは、顕著な凝縮を示し、それらに由来する精子は、ゲノムのほとんどの(しかし全てではない)領域において、さらなる凝縮、および大規模な分子間ジスルフィド結合を行うプロタミンによるヌクレオソームのヒストンの置き換えによるクロマチンのリモデリングを示す。一方、ヒトおよび他の哺乳動物における女性の生殖系列細胞は、既に子宮における発達の間に、減数分裂に入ってその前期Iを完了し、次いで、思春期の付近までに停止する。第一減数分裂は、性的に成熟した女性における排卵の直前に起こり、1つの二倍体卵母細胞、および1つの排出された二倍体核(第1の極体)を生じ、第二減数分裂は、成熟卵母細胞において起こり、1つの保持された単数体核および1つの排出されたもの(第2の極体)を生じる。出生後に、子宮における発生の間に生成されたものに対して、新たな未成熟卵母細胞は追加されない。卵母細胞は、したがって、ヒトにおいては数十年までにもなり得る卵巣におけるそれらの長い休止の間のゲノムの統合性の保存の強力な手段を付与されており、卵母細胞は、かかる支援をまた、精子による受精の後、男性のゲノムに対しても提供する。
【0021】
成熟卵母細胞の細胞質中への精子核の侵入は、卵母細胞および精子の両方のクロマチンの脱凝縮およびリモデリングを引き起こす一連の反応を引き起こす。卵母細胞により供給される、クロマチンのリモデラー(remodeler)、還元およびタンパク質分解酵素、還元型グルタチオン(GSH)、DNAの他の還元因子および脱メチル化剤(demethylater)は、父方のゲノムからのプロタミンの除去、その5-メチルシトシン(5mC)修飾のほとんどの末梢、ヌクレオソームのde novo形成、ならびに受精の直後の父方および母方の両方のゲノム活発な修復をもたらす(30、31)。受精により、塩基除去修復(BER)酵素の活性化、ならびに父方および母方の前核へのそれらの局在が観察され、酸化的DNA損傷の主要な生成物である8-ヒドロキシ-2’-デオキシグアノシン(OxoG)の除去が刺激される(31)。よって、酸化的エネルギー代謝を最少化または回避すること、および、未成熟卵母細胞の長い停止の間(ヒトにおいては数十年)、比較的還元された酸化還元環境を遺伝物質に提供することの他にも、卵母細胞は、BER、およびやはり受精の後にさらなる修復を起こすと考えられ、父方のゲノムに対してもまたかかるものを提供すると考えられる。PGCにおいておよび減数分裂前期Iにおいて修復を有するにもかかわらず、父方のゲノムは、精子の高度に凝縮したクロマチン、および精子が卵母細胞の細胞質中への精子核の到達のために呼吸するミトコンドリアに頼っていることに起因して、酸化的損傷を受けやすい。精子ミトコンドリアは、通常は卵母細胞中には侵入せず、胚のミトコンドリアのソースである卵母細胞は、受精の後で増大したGSHの還元力の使用を示す(31)。それは、組織幹細胞、およびひいては組織および器官の分化細胞が由来する、胚の初期多能性細胞における、核およびミトコンドリアのDNAにおける酸化的損傷および変異に対抗して作用することができる。
【0022】
一方、生殖系列細胞におけるクロマチンの脱凝縮はまた、現在活性化可能なTEの活性化のリスクを生む。それらは、したがって、生殖系列における、および初期胚細胞における複数の生体防御により標的とされ、これもまた大規模なクロマチンの脱凝縮を示す(20、22、30)。特定のTEの、それらを選択的ヘテロクロマチン化のためにタグ付けすることができる、選択的なde novoでのDNAメチル化、および他のTEの、それらのDNAのメチル化の不在下における、クロマチンの選択的コンパクションに加えて、RNAに基づく機構によるTEトランスクリプトのターゲティングもまた、精母細胞および卵母細胞において用いられる(28、32)。選択された配列のクロマチンの物理的コンパクションは、DNAメチル化の不在下において、ヌクレオソームのヒストンの翻訳後修飾により、特に、H3K9me3、ならびにHP1αおよび他のヘテロクロマチンタンパク質により認識されて結合されるH3のさらなる修飾により、リンカーヒストンH1により、およびさらなる手段により、達成することができ、生殖系列および体細胞の両方において観察される(21、29)。大規模なゲノム全体のDNA脱メチル化が進行している間の、ゲノムが体細胞について最も低い5mC含有量を示す桑実胚-胚盤胞への初期発生の間のTEのクロマチンのH3K9me3修飾によるそれらの抑止(21)、および8細胞期胚の発生の間のクロマチンの顕著なコンパクション(22)は、5mCに非依存的なクロマチンコンパクションの手段の例である。後期の発生の間に、HP1αおよび他のヘテロクロマチンタンパク質による、クロマチンのH3K9me3修飾領域へのDNAメチルトランスフェラーゼの動員は、その場所におけるより安定なヘテロクロマチン化のためのDNAのメチル化を促進する。
【0023】
体細胞のための最も凝縮していないクロマチン構造の発生を伴う、最初期胚細胞による全能性の獲得(22)、ならびにゲノムの修復および耐容可能なレベルまでのレトロトランスポゾンの抑止を有する胚の本来の細胞からの胎盤系統の分離により、哺乳動物胚において、次第に制限されてゆく幹細胞への分化のための段階が着手され、これらのさらに分化した子孫は、多様な組織および器官の形成に寄与するであろう。これらの細胞の分化は、必ず、様々な細胞型におけるゲノムの様々な領域のヘテロクロマチン化により、起こる。ヘテロクロマチン化は、構成的および条件的のいずれも、一方で、遺伝物質の修復および維持のために、核酸についてのみならず、タンパク質構成成分についてもまた制約を投げかけ、これらは、老化の上流のイベントにおける手段となる。ヘテロクロマチン化された配列は、ほとんど核の周辺に存在し、ここで、核マトリックス-ラミナ-エンベロープの特定の要素を有するDNAに結合したタンパク質のテザー(tether)が、それらをそこに会合させ、それらの抑止に寄与する。ヘテロクロマチンに会合したタンパク質のサブセットは、低いターンオーバーを示すか、またはターンオーバーを示さず、特定の核孔複合体タンパク質を含むことが見出されている(33、34)。増殖中のS. cerevisiae(単細胞真核生物)において、これらは、子孫のうちの1つに分離すると考えられる(「母細胞」)が、一方で、他のものは、新たに合成されたカウンターパートを受け取り、比較的より長い複製寿命を示し、減数分裂中の酵母細胞は、酸化された、および別段に損傷を受けたタンパク質を、それらの加水分解により特異的に除去しつつ(33)、また、ミトコンドリアの酸化的代謝の抑制および酸化的損傷からの保護のさらなる手段を示す(35)ことが見出されている。
【0024】
多細胞真核生物はまた、同様に、減数分裂による若返りの間に、酸化された、および他の損傷を受けたタンパク質の除去を示し、かつ、酸化的損傷からのそれらの保護に寄与する卵母細胞内部の還元型の酸化還元状態の促進の他にも、ミトコンドリアによる反応性酸素種の産生を最少化するものと決定される(36、37)。ヒト卵母細胞は、この点において、それらが第1の減数分裂に進むにつれて核ラミナ-エンベロープの崩壊を示し(「胚胞崩壊」として)、母方および父方の両方の前核の核ラミナ-エンベロープが、異型配偶子融合の前に完全に崩壊する。よって、第1の胚性期細胞分裂による胚形成の初期細胞は、新たに合成されたタンパク質を用いることにより、核ラミナ-エンベロープ-孔複合体の関連するエレメントによるヘテロクロマチンのde novo形成に着手する。休止中の卵母細胞、および特に排卵に近いものは、胚体細胞におけるものよりも何倍も高い、増強された還元力およびGSH/GSSG比を示し、それ自体の特定のクロマチンタンパク質のスルフヒドリル基の維持のためのものを別として、GSHおよび精子クロマチンの脱凝縮のための他の分子により提供される還元能力を使用すると考えられる(37)。これらの知見は、より初期の同様の証拠、および単細胞真核生物から哺乳動物への、減数分裂による若返りの基本的な機構の保存と一致する(12)。
【0025】
高齢のヒトの多様な組織における幹細胞における変異のゲノム全体での分布パターン(38)はまた、真核生物において組み込まれた矛盾からの、特に、酸化による、および他の型の損傷の修復についてヘテロクロマチン化が提起するものからの、それらの始まりと、ならびに減数分裂による若返りの間のそれらの取り組みと一致する。体細胞変異は、幹細胞において、それらが比較的高率の増殖を示す組織(腸)およびあまり増殖を示さない組織(肝臓)、ならびに、年齢に関連する変異が、ヘテロクロマチンにおいて、ユークロマチンにおけるものよりもはるかに高頻度である組織の両方において、ヒトがより高齢になるにつれてより高い頻度において見出される(38)。CpGジヌクレオチド位置(ここで、シトシンが一般的にメチル化され、自然発生的およびオキシダントにより誘発される脱アミノ化を起こし得る)における酸化による損傷の修復の失敗およびエラーに由来することが知られている変異は、特に、ヘテロクロマチンにおいて濃縮された(38)。このことは、真核生物においてはある程度はTEに対するその有用性のために進化したDNAのメチル化がまた、老化に関するコストを有し得ることを示している。
【0026】
DNAのメチル化および老化の間のその変化(これは、様々な細胞におけるゲノムの様々な領域における減少および増大、ならびにほとんどの組織における5mCのゲノム全体の平均の減少を含む)は、しかし、老化の第1のイベントとはみなされない場合がある。なぜならば、少なくとも、5mCを欠失する真核生物種(例えば、S. cerevisiae、C. elegans、ショウジョウバエ)もまた、他の真核生物におけるもののような特性を伴う老化を示すからである。老化の間のDNAのメチル化の変化は、むしろ、老化の因果関係においてさらに上流のイベントの結果およびこれに対する適応応答を反映すると考えられる。よって、老化の間の組織におけるDNA脱メチル化の程度は、経験されるDNA損傷の程度と相関し(39、40)、ゲノムの核ラミナに関連するヘテロクロマチン化された領域は、そこにおけるDNA損傷の修復の失敗およびエラーにより引き起こされ得る、老化の間のDNA脱メチル化の発生(40)ならびに年齢に関連する体細胞変異(38)の主な領域であることが見出される。
【0027】
嫌気的環境および実質的に嫌気的な環境において生存および複製する真核生物は、酸素を使用しないエネルギー代謝を示し、さらにそれらのゲノムは、嫌気性菌からヒトまでの真核生物にわたり減数分裂のために必須であるタンパク質をコードし、それらは、減数分裂の複数の徴候を示す(41、42)。ヒトおよび他の好気性真核生物においてもまた減数分裂のために使用されるものと類似のセットのタンパク質の、嫌気性真核生物における保存および使用は、非酸化的損傷の除去および修復のための、ならびに真核生物遺伝物質からの、減数分裂の有用性と一致する。さらにしたがって、閾値を超えた酸化的損傷が分裂酵母が減数分裂に入ることを引き起こすことが見出される場合、通性嫌気性または好気性であり得るこの単細胞真核生物は、嫌気的条件下においてもまた減数分裂に入ることが見出されるが、その頻度は好気的条件下におけるよりもはるかに低い(43)。
【0028】
直鎖状DNAの末端複製の困難は、老化の主な原因を構成しない
真核生物染色体の直鎖状DNA分子の末端であるテロメアは、ヒトおよび他の種における多様な組織において、細胞分裂の回数が増加するにつれて、および年齢が増加するにつれて、漸進的な短縮および損傷の増加を示す。正常細胞により老化する前に経験される細胞分裂の回数は、哺乳動物の間で種特異的な寿命と正に相関し(44)、老化細胞の比率は、生物の年齢が高くなるにつれて、組織において増大する。腫瘍性細胞は、一方、テロメアの短縮なしで無制限の回数の細胞分裂を起こすことができ、老化を回避することができる。これらの知見は、直鎖状DNA分子の末端の複製は困難を提起し、特別な手段を要求するが、一方で、原核生物の環状DNAゲノムは末端複製の問題を提起せず、原核生物は増殖の限定または老化を示さない、という知識と一緒に考えると、真核生物の老化における直鎖状DNA分子の末端複製問題の重要性の仮説をもたらした。真核生物ゲノムの直鎖状DNAの性質に関係する末端複製問題は、しかし、老化を引き起こすことにおける主な、または上流の要因とみなされない場合がある。他の理由を別として、テロメラーゼの触媒サブユニットを欠失し、テロメアの配列を欠失しているが、全ての染色体の環状化により安定株として生存し続けているS. pombe株を用いる実験による知見は、これに関連性がある(45)。これらの単細胞真核生物は、老化および胞子形成を促進する条件下において減数分裂に入ることができ、それらは、交差の間の環状染色体を解くことの難しさにもかかわらず、それらの何年にもわたる増殖のための減数分裂による若返りを達成するために、首尾よい減数分裂の完了を示した(45)。さらに関連性があるのは、自然選択された有性生殖の機構が、実験の内部標準を提供するという知見である。哺乳動物の雌は、2つのX染色体を有し、そのうちの一方は、多能性胚性幹細胞からの分化の間に、遺伝子量補償のための条件的ヘテロクロマチン化を起こす。ヘテロクロマチン化されたX染色体は、女性の生涯の間、活性なXと同じ細胞核において存在する。新生女児から得られたリンパ球における染色体は、X染色体において、および常染色体において、同様に長いテロメアを有することが見出され、次いで、女性の年齢が高くなるにつれて、X染色体において、ならびに常染色体において、漸進的な短縮を示したが、ヘテロクロマチン化されたXのテロメアにおいては、著しくより大きな程度までの漸進的な短縮を示した(不活性/活性なX染色体のテロメアの長さの比は、新生児において約0.97、29~40歳の女性において約0.71、60~70歳の女性において約0.55)(46)。活性なX染色体のテロメアと、ヘテロクロマチン化されたX染色体のテロメアとは、同じ細胞により同じ核において供給されたテロメラーゼおよび因子により役立てられ、同等の回数の細胞増殖を通って進行し、女性の生涯の間に同様の量の酸化剤および他の損傷を与える剤に暴露されるであろうが、1つの重要な相違を有し、これは、クロマチンの構造におけるものである。
【0029】
また、高齢の女性の同じ細胞において存在する活性なXと比較して、ヘテロクロマチン化されたXは、著しく多い頻度の修復の失敗およびその非テロメア配列における体細胞変異をも示すことが見出される(47)。したがって、クロマチンの構造、および単細胞真核生物に由来し、多細胞真核生物の進化の間に使用された、ヘテロクロマチン化のためのその修飾は、ヒトにおいて様々な表現型および機能を有する様々な細胞型の産生のために必要でありつつ、生物学的老化の根本にあり、生物の年齢の増大に伴う修復の失敗およびテロメアにおいて観察される短縮は、結果の一部である。
【0030】
細胞の分化の調節において使用される核DNAのルーピングおよびクロマチンの修飾は、腫瘍において迂回されるゲノム完全性の維持における制約を提起する
先の研究は、ヒストンを解離させる高いイオン強度において核DNAと会合し続ける核ラミナ-マトリックスタンパク質、ならびに非ヒストンのほとんどが、SDS-PAGEにより約220kDの見かけの分子量のタンパク質を含み、これは、正常細胞において、DNAに共有結合するペプチドまたはタンパク質との分子間ジスルフィド結合を示すことを明らかにした(12、15)。この約220kDのタンパク質の亜集団は、一貫して、ヒトおよびマウスの正常組織細胞において、年齢が高くなるにつれて量の増大を示したが、一方、腫瘍性細胞は、それらの正常なカウンターパートと比較して、検出可能な約220kDのタンパク質の分子間ジスルフィド結合を示さず、また、中性のスクロース密度勾配を通した超遠心により精製された完全な核DNA-ラミナ-マトリックス複合体においても、より低い量のそれを有した(12、15)。共有結合または共有結合様の結合によりDNAに結合し、核DNAの大きなループへのフォールディングに関与する約220kDのタンパク質の亜集団が、正常細胞において、それに対してジスルフィド結合を示す、ペプチド/タンパク質種についての証拠は、前者の、1.2%以上のSDSにより100℃において10分間以上にわたる、DNAからの解離に対する耐性(12、15)、およびプロテイナーゼKによりDNAからかかる分子の消失を引き起こすこと(48)を含んだ。さらにしたがって、非還元性SDS-PAGEに先立つ、精製された正常細胞の完全な核DNA-ラミナ-マトリックス複合体のDNAの物理的剪断により、同じゲルにおいて分離された他のタンパク質のシャープなバンドと比較して、約220kDのタンパク質によるほぼ拡散したバンド形成が明らかとなり、加えて、タンパク質およびDNA構成成分の両方を同時に検出する方法により可視化された場合に、約220kDのタンパク質のすぐ下で始まり下向きに続いて次第に強度が低下する、スメア状(smeared)染色を提示するDNAフラグメントが示され、SDS-PAGEに先立つジスルフィド還元剤および/またはDNAseIによる複合体の処置は、約220kDのタンパク質のよりシャープなバンドと同時に、DNAフラグメントの消失を引き起こした(12、15、49)。DNAは、SDSの存在下において顕著に増大した電気泳動移動度を示すので(49)、非還元性SDS-PAGEの間は約220kDのタンパク質に結合したままの物理的にスメア状のDNAフラグメントは、還元性SDS-PAGE条件下においては見かけ上ゲルから溶出して、約220kDのタンパク質を分離する(12、15、49)。
【0031】
正常細胞は、加えて、非還元性条件下において4%ポリアクリルアミドゲルへの侵入を拒む、分子間でジスルフィド結合したより大きな種の約220kDのタンパク質を示し、この画分は、ヒトおよびマウスにおいて年齢が高くなるにつれて著しい増大を示した(12、15)。約220kDのタンパク質は、ヒトおよび他の哺乳動物細胞において、主に60~110kbの範囲において、核DNAのループへのフォールディングに関与すると考えられ(48)、正常組織細胞は、その酸化により修飾された形態の、およびDNAに共有結合しているペプチドまたはタンパク質に対するジスルフィド結合を示す亜集団の、年齢に伴う増大を有すると考えられる(12、15)。以下の知見は、このタンパク質の、および他の核ラミナ-マトリックスタンパク質のサブセットの、老化の間のin vivoでの、酸化による修飾の発生を指摘する:(i)人為的スルフヒドリル酸化およびスルフヒドリル-ジスルフィド交換反応を防止するバッファー中での密度勾配の上での生細胞の溶解による、完全な核DNA-ラミナ-マトリックス複合体の精製(12、18)、(ii)低温での短時間の細胞溶解とその後の遠心分離による複合体の分離による、かかるアーチファクトのさらなる除外(12、18)、ならびに、(iii)DNA-タンパク質複合体のジスルフィド結合の還元の、それらの立体構造、沈降速度、形態学および光散乱の特徴に対する、再現性の高い効果(6、12、18、19)。正常細胞においてDNAに共有結合しているペプチド/タンパク質に対するジスルフィド結合を示すことが見出される約220kDのタンパク質の亜集団が、腫瘍性細胞において一貫して検出不能であることは、したがって、腫瘍性細胞の老化からの回避と関係する。
【0032】
より早期の研究において、正常組織細胞において核タンパク質の亜集団とのジスルフィド結合において存在することが明らかとなった、かかる老化の間の増大を示した、共有結合によりDNAに結合しているペプチド/タンパク質種とは、何であり得るのか(12、15)?無作為に生じる共有結合によるタンパク質-DNA架橋について予測されるものとは異なり、より早期の実験による知見は、むしろ、S-S結合の還元により、ループがより大きなものへとアンフォールディングされることを考慮すると、核DNAに沿ってDNAループの塩基上にまたはこれに隣接して、無作為ではない位置においてジスルフィド(S-S)結合しているタンパク質が検出されること(12、18、19)、および、核ラミナ-マトリックスに関連して高次コイルのループにフォールディングされることが見出されている完全な核DNAに、限定された無作為ではない制限酵素によるヌクレオチド鎖切断が導入された場合に、S-Sの還元による主に60~110kbのDNAフラグメントが放出されること(S-Sの還元なしではこれは起こらない)で一致した(48)。高次コイル状DNAループの評価への他の実験的アプローチは、ジスルフィド還元剤による処置と共にまたはこれを伴わず顕微鏡下において可視化された個々の細胞核におけるin situでのそれらの検出を含んだ(19)。それらの研究の結果はまた、クロマチンループの塩基におけるジスルフィド結合の発生とも一致し、γ線により誘導されるDNA鎖の切断の用量応答曲線を考慮すると、数百kbの範囲におけるループのサイズを示唆した(19)。それ以来決定された核DNAの高次コイル化の調節因子は、真核生物DNAのトポイソメラーゼを、DNAループの塩基において、ヒトにおいてゲノム全体にわたり繰り返されて核DNAのループへのフォールディングに寄与するCTCF標的配列を認識するCTCFタンパク質を含む、特定のクロマチンタンパク質との相互作用において顕著に存在する主要なプレイヤーとして示してきた(参考文献50およびそれにおける参考文献)。I型およびII型の両方のトポイソメラーゼが、この点において、トポイソメラーゼ機能のために一過性にDNAに共有結合すること、および、触媒の間に酵素が不足した場合には安定な共有結合による酵素-DNA複合体を形成することが知られている。有益なこととして、それらの除去のため、および結果として生じるDNAの損傷の修復のための分子経路は、単細胞真核生物からヒトまで保存されており、機能喪失型変異により損なわれた場合、老化の加速の原因となることが見出されている(51)。CTCFの、および他のDNAループ形成タンパク質の、それらの標的配列への差次的な結合は、ループ状ドメインのクロマチン構造の、および核におけるそれらの位置の調節のために使用され、それらは、ループのアンカーにおけるポイソメラーゼIIの戦略的な位置決めによってもまた、DNAの修復に影響を及ぼし得る(50)。正常組織細胞においては、老化の間に次第に増加する量において、DNAに共有結合しているペプチド/タンパク質に対してS-S結合を示すことが見出されている、約220kDのタンパク質の亜集団が、腫瘍性細胞において検出不能であること(12、15)は、したがって、腫瘍性細胞におけるゲノムの完全性の維持の欠損に関係し得る。
【0033】
ヒト脳によりヒトの老化への介入に対して提起される限定要因は、絶対的ではない場合がある
ヒトの知能の部位であるヒト脳は、老化に対する介入に対してさらなる困難を提起する。上で指摘された老化の重要な機構は、中枢神経系(CNS)においてもまた作動可能であるのみならず、学習のような一般的な機能およびユニークなヒトのCNSの機能(例えば抽象的思考)もまた、それらのために形成され、修飾され、および使用される神経回路の細胞における、クロマチンの修飾に依存する。ヒト脳の進化の間で確立されたものの中でもとりわけ、脳の老化に対する介入において生じる制約はまた、各々の人において作動しており、その人の記憶および知的機能を提供している特定の神経回路および細胞-組織の構造が、子宮内での発生により開始する過去のイベントを通して形成されたものであるという事実に起因して生じる。進化の間に確立した制約の証拠として、薬理学的、分子遺伝学的、および細胞-組織工学的手段による標的となり得る、神経回路の細胞におけるクロマチンのリモデリングのイベントが、単一の構成成分の約50%の量の変化に対してすら感受性であることは、特定のリモデラーのハプロ不全により引き起こされる知的障害および精神医学的問題により示されるとおりである(52)。成人のCNSの機能について高分化型ニューロンに頼っていることは、平均的なヒトの寿命を超えた年齢におけるCNSの機能の維持の困難を増す。ニューロンは、遺伝物質に対する損傷の最少化および修復の手段を授けられているが、幹細胞から前駆細胞への、および次いで高分化型ニューロンへの分化は、損傷の修復能力に対して、および他の高分化型細胞におけるものと類似のクロマチン構成要素の置き換えに対して、制限を課す(34、53、54)。加えて、成人のCNSにおいて新たなニューロンを供給することができる多能性幹細胞におけるクロマチン構造(53)は、胚性幹細胞およびそれらの前駆体が有するクロマチン構造の利点を有さない(22、30)。ヒトCNSの分析は、ニューロンにおけるゲノムのヘテロクロマチン化された領域が、遺伝物質に対する損傷の修復の失敗に対して特に感受性であることを確認し、かかる失敗が、年齢に関係するCNSの機能低下および神経変性への主要な誘因であるという証拠を提供する(54~56)。一方、年齢に関連するCNSの機能性の喪失は、今日適切な解決策がない、患者に対するおよび社会に対する老化のコストの中の最も高いものである(1~3)が、老化の基本的な上流の機構は、CNSおよびヒトの体内の別の場所において同様に存在し、CNSの老化に対する有効な介入は、本発明者が以下に指摘するとおり行うことができる。
【0034】
体細胞において多能性付与する転写因子の強制発現の短所
多能性幹細胞の遺伝子発現プロフィールの、それらの制限された、およびさらに分化した子孫との比較により、多能性を付与する遺伝子生成物が明らかとなり、それらの発現が下方調節されている体細胞におけるそれらの強制発現の研究により、細胞の分化のためにクロマチンの修飾により課された制約が、生物の老化において重要であることが確認された。よって、成人の体細胞における多能性を付与するタンパク質の強制発現は、それらの高い割合の老化またはアポトーシスを引き起こすことが見出され、老化およびアポトーシスに抵抗する細胞の亜集団が腫瘍をもたらすことが見出される(57)。生体内で腫瘍を引き起こすことは、短期間にわたり多能性因子の強制発現と共に見出され、未分化の侵襲性-転移性の腫瘍は、より長い発現と共に見出される(57)。さらに、動物の年齢が高くなるにつれて、より多くの割合の体細胞が、それらにおける、それらからの「誘導性多能性幹細胞」(iPSC)の産生のための、多能性を付与するタンパク質の強制発現により、老化またはアポトーシスを起こすことが見出され(58)、老化の間に体細胞により獲得された体細胞変異の補正なしで産生されたiPSCは、腫瘍を生じる高いリスクを担持する(57、58)。かかるiPSCは、腫瘍性または他の老化の疾患に対する解決策を提供しないであろう。iPSCを、修復およびエピブラスト由来の生殖系列細胞が通過するさらなるプロセスに供することと、その後の誘導された卵母細胞の体外受精、および得られた胚を偽妊娠のメスに移すことは、一方、見かけ上正常な、低い成功率ではあるが稔性のオスおよびメスの産生を示した(59)。
【0035】
加齢性疾患の処置
満足できる処置がない老化の疾患は、頻繁であり、処置を開発するために世界中で研究されてきた。新たな薬物処置の開発のための従来のアプローチは、有用であると仮定されたin vitroアッセイによる分子のライブラリーのスクリーニングを使用し、正の結果により単純な実験動物を用いるin vivo試験に進み、正の結果の場合、より高等な種により試験を行い、それらによる正の結果の場合、臨床研究においてさらなる試験を行う。臨床研究において許容し得る治療効力を示したと考えられる新たな薬物処置は、次いで、規制当局に承認のために提出される。これは、長いプロセスであり、現在における歴史的な高値におけるコストにもかかわらず、提供する利益が次第に減少することが報告されている。
【0036】
老化の疾患が複雑なプロセスを通して起こり、典型的には天文学的な数の演繹的可能性を生む多くの分子イベント、組織、器官および系に影響を及ぼすという事実は、新たな薬物処置の開発への従来のアプローチによる成功の可能性を低下させる。複雑な加齢性疾患の病態形成の決定的な上流の機構を正確に決定することは、一般に、有効な処置の開発の前条件付けである。なぜならば、上流のイベントは、疾患の診断が一般的に行われる罹患した患者において、多くの結果を有し得るからである。
【0037】
がんは、強力に老化と関連する。がんのための処置の中で、外科的切除は、広く実施されており、正しく行われた場合、治癒をもたらし得るが、それは、器官および患者の機能の喪失を引き起こし得、患者の大きな割合について、治癒または患者の利益のために外科的切除を除外する、好適でない場所または疾患の後期であることに起因して、実現不可能であることが判明する。従来のがんの化学療法-放射線療法は、一般に、これらの患者のために用いられてきた。彼らによる経験は、一部の患者は治療され得るが、一方で、大部分は、一部の初期の応答(腫瘍の増殖が遅くなること、サイズの減少、または検出が不可能となること)が観察される場合ですら、しばしばさらなる処置に対して非応答性の再発性または持続性の疾患により、最終的にがんにより死亡することを示す。従来の化学療法-放射線療法を経験している患者は、一般に、正常細胞が害されることから生じる重篤な望ましくない効果を経験し、これは、処置による患者の死亡の原因を含み得る。これらのがんの非外科的処置は、一般に、遺伝物質に対する損傷を引き起こすことにより作用し、過剰である場合、腫瘍細胞の死を引き起こすことができる。
【0038】
(i)遺伝毒性剤により変異およびがんを引き起こすこと、(ii)老化の間の体細胞変異およびがんの発生、(iii)老化の間の体細胞における修復されない/誤って修復された損傷の頻度の増大、(iv)遺伝物質の傷害の結果に対するクロマチンの構造の効果、(v)ゲノムの特定の領域におけるヘテロクロマチンの形成に対する細胞の分化の依存、(vi)対応する正常組織における細胞と比較した、腫瘍におけるより多くの割合の細胞における細胞の分化の防止、(vii)正常体細胞における老化の発生、および生物の老化に対するその因果関係、(viii)頻繁な癌細胞の老化からの回避、ならびに(ix)別の場所において議論される老化および腫瘍発生についてのさらなる観察(12)を考慮して、本発明者の研究は、老化および老化の間の腫瘍発生の機構に対して、ならびにクロマチンの構造とのそれらの関係に対して、焦点を当てた。正常組織における細胞は、幹細胞から高分化型への分化の多様な状態において、自身の細胞系譜の細胞と、および他の細胞系譜の細胞と比較して、空間的に区別し得る位置において生じ、これは、分化の調節のために分泌される分子による特異的相互作用を促進する。高分化型細胞は、典型的には、他の細胞におけるものよりも、より多くの条件的ヘテロクロマチンおよび遺伝物質における損傷を示し、損傷が閾値を超える場合、増殖および前駆体の分化による置き換えのために、プログラム細胞死により除去される。この階層において、幹細胞は、最上位を有し、特別な組織位置(ニッチ)において生じ、ここで、それらは他の細胞により支持され、それらの細胞系譜のうちの最も分化していない細胞として維持され、このことは、ヒトの生涯の間に子孫を分化させるソースとして役立つために、遺伝物質における損傷が比較的低い状態でそれらを長期生存するために役立つ。それらは、組織の恒常性のために、必要とならない限りはめったに増殖せず、非対象に分裂して、幹細胞、および分化が決定した細胞(これは典型的にはニッチから排出される)を生じることができる。特権を与えられているにもかかわらず、幹細胞はまた、年齢が高くなるにつれて、変異および誤って修復された/未修復の損傷の増大を示す。本発明者らの研究は、腫瘍細胞が、それらの正常なカウンターパートと比較して、クロマチンの構造の、および核-細胞骨格の、それらの老化からの回避に、ならびにそれらの最初の発生から離れた組織位置におけるそれらの未分化細胞としての生存および増殖に関係する、一貫した修飾を示すことを示した。このことは、それらが獲得した変異およびエピジェネティックな修飾が、解剖学的に定義された自己再生のためのニッチに対する、腫瘍原性細胞の非依存性を提供することを示している(参考文献6、12、15、19、60およびこれらにおける参考文献)。未処置の患者における正常細胞に対する腫瘍細胞のこれらの利点は、正常細胞からの腫瘍原性細胞の定義された差異を標的とするように設計された医薬の投与により、それらの欠点に変わる(6、60)。腫瘍を有するヒトによる研究は、腫瘍を有するヒトの以前の処置によっては未記載の、かつ腫瘍を有するヒトの以前の処置において固有ではない、有益な治療的結果の提供を示した(60)。これらの有益な治療的結果は、腫瘍の組織病理学的クラスにかかわらない、再発を伴わない腫瘍の迅速な消失、および望ましい安全性の知見を含む(60)。
【0039】
多様なレベルにおける加齢性障害の機構の決定は、一方、病態形成の重要なイベントが正確に理解されていない場合、または意図される介入が重要な生理学的機能に対する望ましくない効果に起因して不可能であることが判明した場合、有効な介入のためには十分でない場合がある。有効な介入が市場において利用不可能であることは、今日の世界においてはまた、非科学的-非医学的理由に起因する場合があり、これは、ヒトにおいて望ましい安全性を示した有効な新たな処置の客観的証拠を有する科学者を排除し得る(以下を参照)。標的とし得る一般的な健康問題の一例は、ヒトの眼の遠近調節の幅の年齢に関連する低下であり、これは、経済的な観点から、世界的に主要な市場を表す。この年齢に関連する眼の水晶体の変化は、遠近調節力の低下、光の通過を妨げるそれらの架橋/凝集を引き起こす水晶体タンパク質の酸化による修飾、水晶体タンパク質の非酵素的グリケーションによる寄与をもたらし、種特異的MLPに相関する眼の水晶体の変化すら記載されている(61~63)。しかし、限定およびリスクを有する合成水晶体の装着または角膜/水晶体の手術を除いて、目の水晶体の加齢性障害に対する満足な介入は、利用可能ではなく、病態形成の上流のイベントを標的とすることを考えた処置の臨床試験は、これまでのところ、わずかな利益しか示さないか、または顕著な利益を示さない(64)。
【0040】
科学および技術における進歩のための未活用の世界的な潜在能力:証拠および関連性
科学および技術における進歩は、人類の進歩のために不可欠であった。これらは、通常、既存の知識への増加的な追加により行われるが、時折、典型的には支配的な仮説から逸脱して新たな仮説を開き、既存の技術を時代遅れにし得る人による、科学および技術のある分野におけるブレークスルーによっても行われる。本物の科学的-科学技術的進歩は、人類のイネーブルメント(enablement)において決定的であったが、それらのほとんどは、世界の比較的わずかな先進国においてもたらされてきたことを考えると、ヒトの生物学の事実と一緒に考慮された場合に、深刻な未解決の問題が認識され得る。科学および技術に対する寄与のうちのほとんどを提供する初期の先進国(65)は、世界の人口の小さな割合を含み、世界の諸国による科学および技術への寄与の分配における歪みは、一人当たりの寄与のためのデータの正規化により悪化している。より早期に指摘されてきたヒトの生物学および遺伝学の基本的事実と共に考えると、この歪みは、人類の進歩のための科学的-科学技術的進歩の達成のための、大いに未活用の世界的な潜在能力を示す。全ての国における人々は、異質(heterogeneous)であり、生命の様々な領域(sphere)においてある範囲の能力をもたらし、したがって、高等教育に沿った能力に基づく科学的-科学技術的研究に対する資源の割り当ての改善は、そのような人々が貧困であった国における科学的-科学技術的適格性の著しい改善を提供することが見出される(66)。
【0041】
学術書により普及された、確立した科学的-技術的知識は、科学の学生およびある分野への新参者にとって有益であった。一方、科学および技術における新たな知見の普及は、スムースではなかった。科学における新たな知見を主張するコミュニケーションの品質管理は、「ピアレビュー(peer review)」により誤ったものおよび無用なものをフィルターを通して取り除くために役立ち、それが記載された科学的様式の正確な客観的評価により行われた場合は、科学の進歩に寄与する。しかし、信頼の裏切り、自己の利益のための価値あるものの故意の妨害、レビュアーの不適格および詐欺(cheating)は、全て知られており、公共の研究基金への申請のレビューにおいてもまた観察されてきた(66~68)。事実は長期的には整理されるが、かかる欠陥に起因する著しい時間および資源の喪失は、問題として残る。その点における改良の手段を、以下に指摘する。ヒトの老化の速度を遅らせることの達成、および主要な加齢性疾患の有効な処置は、老化の速度が以前と同じであり続け、主な老化の疾患の処置が対症療法であり続ける科学的-科学技術的レベルに残ることに対して、必然的に社会的および経済的結果を有し、それらは、最終的には、世界的なものとなることは、以下に指摘するとおりである。
【0042】
ヒト社会における老化に関連する問題の有効な取り組みは、基本的な生物学のターゲティングの他に、社会的、国際的、経済的な見直しを要求する
加齢性障害により、個人に、および社会に対して引き起こされる問題は、これらの障害の対症療法的処置によっては(患者は症状の緩和により助けられ得るが)有効に解決することができない。高齢群の頻度を低下させ、それにより加齢性障害の頻度を低下させる、世界中での人口の増加は、ヒト社会のレベルにおける問題を、基本的な問題のための実際の解決策なしで回避する手段であった。一方、未解決の基本的な問題を残す人口拡大は、限定されたサイズおよび資源を有する惑星においては長期的には持続することは不可能であり、ここで、かかる問題の影響はもはや国境の内側に収容可能ではなく、およびここで、基本的な問題のための有効な解決策の不在は、次第に大きくなるコストを有する(1~3)。これゆえに、ヒトにおける生物学的老化の速度を低下させる介入、老化の影響を修復/逆転する方法、および一般的な加齢性疾患の有効な処置の開発は、長期にわたり唯一の実行可能かつ人道的な選択肢であると考えられる。
【0043】
経済の発達についてヒトの人口の拡大をあてにした経済の実践は、したがって、老化から生じる問題の解決策について再評価を必要とする。主要な加齢性障害の有効な処置の不在下において、経済の発展および成長について持続的な人口増加に依存する経済の実践は、予想通り、これらの障害および能力障害の頻度が増大することから生じる、次第に大きくなる社会的および経済的コストに直面し(1~3)、限定されたサイズおよび資源の惑星は、持続的な人口増加の維持には適していない。一般的な加齢性疾患の有効な処置、およびヒトの老化を遅らせることは、利益を提供し始め、問題に立ち向かうために役立つであろうが、それらを実現および実施することは、今日の世界においては不十分にしか満たされない要件を有すると考えられるのは、例3において記載される新たな薬物処置の場合により明らかとなるとおりである。
【0044】
ヒトの老化および加齢性疾患に対する有効な介入は、医学を超える結果を有することから、および本明細書において提示される発明および知見は、非医学的領域におけるものの特定の短所を明らかにしたことから、本明細書における提示は、本発明の一次分野に関係する程度までのそれらの記載を含む。記載は、加えて、生物学的-医学的解決策の実施を促進することができる非医学的領域における改善についての情報を与える。
【0045】
大量市場のための大量生産が経済および付随する社会階層の駆動体となってきた工業化された社会は、ヒト種の歴史において比較的最近、現在から数百年以内に出現した。数百年は、世界の人口の急速な増加、および今日経験されている社会的-人口統計学的-医学的問題のためには十分であるが、一方、それは、ヒト種のために最適な社会的、経済的、国際的なシステムの事実に基づく決定のためには十分ではなかったかもしれない。IyengardおよびMassey(69)は、この点において、過去から来た社会的な基盤および制度が、数十年のうちに社会的および経済的領域における著しい変化を生み出してきた(不測のものを含み、一部はポジティブなものではない)電子およびコミュニケーション技術における急速な発達に対して準備ができていなかったことを記載し、ヒトCNSの欠点が、社会的流動性(social dynamics)における多様性に対して、多くの余地を生み出すことが指摘される(70)。新たな技術は、さらなる科学的-科学技術的進歩を促進し得るが、不正な目的のためにもまた用いられ得ることに注意すると、電子的監視、私的なコミュニケーションおよび個人の活動に侵入するための壁を通過するレーダー(through-walls-radar)および関係する技術、ならびに金銭および政治的報酬のための個人および大衆に対する仕立て上げられた偽情報の自動化可能なインターネットベースの拡散の使用は、社会組織に対するそれらのネガティブな効果と共に記載されてきた。これらは、特に、ヒト社会において老化から生じる、増大中の未解決の問題のために有害であり得る。なぜならば、科学は、真実および立証し得る事実の上にしか築くことができないが、一方で、欺瞞および窃盗を許容するか、これに味方すらする状態(69)は、実際の解決策への進歩を密かに害するであろうからである。さらに関連するのは、インターネット、電子的コミュニケーションデバイスおよび電子的ソーシャルメディアは、一般に、背後の技術に関して、ユーザーの大多数にとってブラックボックスであり(これは、必要な手段を有する少数の管理者および技術的専門家により、選択的に可能にするか、不可能にするか、または調節することができる)、彼らの手段による人々の搾取の相対的な容易性(69)は、そのために大金が費やされた彼らの収益を問題の解決のために適したものとしないであろうし、従来のアプローチは、緩和(palliation)を超える結果をもたらさなかったという事実である(1~3、11)。ある人またはグループによる科学的-科学技術的なプロジェクトの実行は、本質的なレベルの経済的資源を必要とするが、顕著な科学的-科学技術的問題の解決策は、いかなる量の金銭によっても保証されないことを考慮して、特許のシステムおよびそれに対する改善に基づいて、包括的に適用可能な改善を以下に指摘する。
【0046】
特許システムは、能力に基づく評価および研究の提案の支持における既存の困難を回避する、科学および技術の進歩の促進の手段である。なぜならば、特許は、通常、ある科学的-科学技術的問題の解決策を既に示した者に対して発行されるからであり、ここで、解決策は、非自明であり、産業上利用可能である。それは、特許権所有者に対して限定された権利を付与し、それが導入される国における科学的-科学技術的研究および進歩を刺激することが見出されている。特許は、新規かつ非自明な科学技術的解決策の事実に基づく証拠を示した者に対してのみ発行されるはずであり、したがって、特許システムの正しい機能は、出願の審査の質に決定的に依存している。ますますグローバルとなってゆく貿易および国際協力についての必要性を考慮して、1つの参加調印国において、全ての参加調印国において有効な日付により、新たな技術の国際特許出願および記載を出願することを可能にする、特許協力条約(PCT)が作られた。PCTは、しかし、一旦実現すれば科学および技術における進歩のための世界的な潜在能力の利用における改善をもたらすことができる世界特許システムには進歩していない。当面の理由は、全ての参加調印国について有効な日付による出願は、なおそれらにおいて別々に、関与する全てのコストおよび形式的手続きにより、出願しなければならず、より重要なことには、出願の明細書において示されている技術が、効力があり(operative)新規かつ非自明であるか否かの決定は、各々の参加調印国に任されており、能力に基づく決定のための条約における保護が存在しないことである。参加調印国が、正しく審査され得るべきである技術の全ての分野における必要なインフラストラクチャーおよび有資格の審査官を有するであろうという保証も存在せず、他国においてなされ、その領域における主要な産業活動および強さにとって破壊的であると予測される科学的-科学技術的ブレークスルー認識する政府が、その領域におけるその技術の審査および特許取得においてなお公平であるべきであろうという保護も存在しない。
【0047】
全ての参加調印国において(理想的には、そしておそらくはやがて、世界の全てにおいて)有効な特許についての国際出願を審査する権限を有する国際特許の機関は、国内官庁による国際出願の審査において固有の問題および矛盾を取り除くであろう。世界中からの管理官および審査官が能力に基づいて配置されている、かかる国際機関は、国内官庁にとっては実現可能ではない、より大きな能力を有するであろう。主張される科学技術的進歩が真実であり、以前には知られていなかったものであるか否かは、確実に、その分野における当業者により客観的に決定され得、非自明性の合理的に客観的な決定のための公知の基準が存在する。国際特許出願について、貢献に応じて客観的に決定するよう、権限を与えられ、命じられた国際機関は、国内官庁において固有の矛盾を回避し、典型的には様々な能力、形式的手続きおよび責任を有する個々の国内官庁における別々の審査から生じる品質、コストおよび非効率の懸念を軽減するであろう。それは、科学および技術の進歩のための、世界的な潜在能力の効率的な利用のために役立つであろう。例えば科学者を貧困国から誘引することなどによる、その潜在能力の現在の利用は、ポジティブな効果を有していた可能性はあるが、不備および問題を有する。貧困国において生まれ、知的な業績についての有利な生得的な特性を有する個人は、かかる国々は貧しい基盤を有する傾向があり、それらを能力に基づいて利用可能にする可能性が低いことを考慮すると、世俗的な理由のためにすら、および貧しい研究設備に起因して、それを表現し損ねる場合がある(71)。世界の開発が遅れている部分における科学者は、彼または彼女が、最適以下の条件にもかかわらず、重要な科学的-科学技術的問題を解決した場合、当該知見を、正しい客観的審査のために、かかる国際特許機関に提示することができるであろう。記載している科学者がその時間を彼/彼女が専門技術を有さない事柄のために費やすことを必要とせず、貢献のみに基づいて特許を許可し、可能であればそれらを上市するための支援を提供する機関は、科学者が、世界のあらゆる場所において生まれることを可能にし、さらなる進歩のために働き続けるための資源の獲得を可能にする。
【0048】
欧州特許庁(EPO)は、この点において、単一の国際組織体が、多数の国々における特許の出願の審査において、個々の国内官庁において可能であったものよりもはるかにより高い能力により機能的であり得ることを示す。EPOは、改善を必要とし得るが、一方で、世界中からの特許出願のグローバルな機関の確立は、科学的-科学技術的進歩のための世界的な潜在能力の利用に決定的な改善をもたらすことができると考えられる。
【0049】
人の老化から生じる問題に対するグローバルな対策におけるヒトの生物学の事実への依拠
ヒトの老化に由来する今までのところ未解決の問題は、国籍にかかわりなく全ての人々に影響を及ぼし、ヒト社会におけるこれらの問題の大きさは、世界中で増大してきている。グローバルレベルにおける対策が、かかる問題のためには最良であろう。しかし、グローバルレベルの行動の達成における欠点および失敗は、共通してきている。主要な原因およびそれらの克服の手段の分析が、よって、適切であろう。
【0050】
適切な国際的行動が必要とされる場合のその失敗は、部分的に、大多数の人々が、根拠のない憶説および感情により導かれやすいことに起源を有し得る(70)。感情は、社会的一体性において役立ち得ることから、それらは、一般的に政治家によりあてにされており(69)、一般に、人々を国境に沿って分割することは、国家を超えた-グローバルな関心事のためにまとめることよりも容易である。しかし、数千年に広がる期間にわたり分析した場合、国家を定義する特徴のいずれも一定ではなく、様々な大陸および国からの人々のゲノムのシーケンシング(10)は、彼らの共通の起源、および国境に沿った人々の分割についての本質的な理由または基礎の不在を示す。国家という用語は、特定の領域において言語および歴史を共有する人々を指し、これは、今度は、共有された文化をもたらす。国境に沿った人々の分割の必要性の不在は、さらに、国籍を定義するものである原語および文化は、学習される特性であることを考慮することにより立証され、共通の問題の解決に向けた国家の協力は、国家における人々の祖先により築かれた価値の放棄を必要とするものではないであろう。
【0051】
世界的な協力を妨げるさらなる分割は、宗教的信仰(religious affiliation)の違いに関係することが観察される。宗教(religion)は、大多数の人々の感情および理想の強力なエフェクターであり、また、諸国の経済生産高の顕著なエフェクターであることが記載されてきた(71、72)。宗教的信仰の一人当たりの経済生産高との相関、および科学に対する寄与についての説明は多様であるが、教会と国家との分離の強さは、顕著な要因であると言われている(71、72)。宗教は、国家の社会的一体性および文化のエフェクター、ならびに政府の活動の促進因子であると認識される。しかしながら、国際的な視点から考慮した場合は、政治的目的のための宗教に対する信頼は、以下の事実を考慮することを必要とする場合がある:(i)主要な宗教は、古い経典を有し、ある事柄について宗教に依存することを意図している政治家は、それらに束縛されること、(ii)あるヒトの集団において宗教により影響を及ぼされる世界観は、別の集団においてはほとんど受容性を有しない場合があり、不一致ですらあり得ること、ならびに(iii)一部の宗教は、他のものを劣ったものとして教示すること。また、一部の世界観および宗教は、世界を、正と負との闘争により駆動されており、ここで、その2つの衝突が、真実を明らかにすることおよび適者の選択のために役立つと認識する。しかし、今日存在する社会的および国際的な状態下において、ならびに、遠隔地から害するために個人および人々のグループのターゲティングを可能にする衛星ネットワーク、電子工学およびさらなる技術の利用可能性により、選択条件は、人類の、およびまた科学の進歩をひそかに害することに適するものに有利であり得る(69)。これらの条件に対してそのように準備ができていない、宗教に依存して不適切に評価される国際的なシステムを考えることは、したがって、グローバルな問題の解決策のために必要とされるグローバルに協調されている行動のために修正することが難しいことを見出し得る位置に、政治家および政府を敢えて入らせることになり得る。
【0052】
一般的には約15~30%の範囲、および他の宗教的信仰については10%未満~1%未満の範囲の頻度における、特定の宗教を有するまたは宗教を有しない世界の人口の集団(affiliation)(73)は、したがって、政治的グループおよび政府のリーダーたちが、政策の基礎を、彼らを彼らが出ることができない位置にもたらす様式において宗教的信仰に置くことを回避する場合(または、彼らの失敗が無視される場合)には、グローバルな問題により要求されるグローバルに協調された行動の妨害を生まない。特定の宗教を有するまたは宗教を有しない集団はまた、学習される特性であるという現実、および大多数の人々は、生来、彼らの宗教的信仰にかかわりなく、社会関係において正義を尊重するという現実(74、75)は、さらに、人々の宗教的信仰の既存の違いにより、世界的に統一された行動の前に、打ち勝ち難い妨害は存在しないことを示す。
【0053】
偏見および矛盾を残し得た過去の戦争を通しての既存の主要な国家の確立はまた、グローバルな問題の解決のための国際的協力を妨害する因子であり得る。その上、不正な利益のために大衆の行動に影響を及ぼすために用いられた過去から最近までの技術の社会的および国際的な制度の不備が、負の社会的効果を有することが認識され(69)、各国における社会環境は、それらの国際関係に影響を及ぼす。ヒト生物学の事実に対する依拠はまた、この点においても役立ち得る。社会科学がヒトCNSが機能する機構への洞察を通して次第に生物科学となってゆく一方で、法律を含む、かつ国内のみならず最終的にはグローバルな、社会的および国際的制度の調整は、現在において時宜を得た様式における解決策のために最も実現可能であると考えられ、それらはまた、その後の改善のための道をも開くであろう。複雑な多成分の問題の解決は、全ての構成成分の解決なしでは起こらず、しかし、任意の構成成分の妨害は、遅延から利益を得る一派には十分であるという事実は、また、今日の社会的および国際的な状態下において次第に関連性があるものとなり得、かかる場合における遡及的な計算のための国内-国際的な法規が、したがって、有用となり得る。世界中の人々が、彼らの出身国および宗教的信仰にかかわりなく、社会のシステムおよび関係における正義を求めるであろうという知見(74、75)は、基本的なヒトの生物学における根本を暗示する。そのことを支持することは、よって、国際関係においてもまた、老化の障害の有効な処置の不在下におけるヒトの平均寿命の増大の結果として、世界的に悪化しつつあるものを含む、複雑な問題の解決における原則となり得る。
【0054】
ヒトの老化の速度およびMLPに影響を及ぼす重要なプロセス、ならびにヒト細胞におけるゲノムおよび代謝プロセスのテイラーメイドの修飾
生物学的老化は、真核生物の最初の発生以来約20億年の間に自然選択により取り除かれることができなかった、真核生物において固有の矛盾および欠点から生じ(12)、さらに、達成することがより容易な修飾がヒトゲノムにおいて既に置き換わっており、これが一方で、ヒトの現在のMLPを提供している。しかし、老化が無敵であるという幻想についての基礎は存在しない。なぜならば、少なくとも、本発明において記載されるとおり、決定的な老化の上流の原因の正体は、自然選択によっては可能ではない様式における有効な介入の手段を指摘するからである。
【0055】
老化の速度の顕著な低下およびMLPの延長が引き起こされている非ヒト種によるデータの分析は、ヒトにおけるそれらの限定された適用性を示唆する。例えば、実験動物の食餌におけるカロリーの制限の研究は、一般に、比較的短いMLPを有する種において、より大きな程度の最大寿命の延長を示す(例えば、参考文献7~9)。それは、マウスと比較して約30倍またはそれより長いMLP、および研究された霊長類よりもはるかにより長いMLPを有するヒトにおけるカロリー制限による、比較的少ないMLPの延長の潜在能力を暗示し得る。望むままに給餌を可能にされた実験動物は、一般に、野生において入手可能であるよりも多くを消費することができ、したがって、制限された動物と比較して老化の加速を示すとみなされ得るが、結論は同じままである:最大寿命は、多様な種において、野生においても研究室においても、ある種において達成可能なカロリー制限により延長され、カロリー制限による寿命の延長は、種のMLPに逆に関係する。カロリー制限に供された動物の分析はまた、全ての研究された種において一般的な効果を示す:制限されていないものと比較した、制限された動物の細胞における遺伝物質における酸化的損傷の減少を引き起こすこと。他の細胞構成要素における、例えば多様な膜脂質における、酸化的損傷の低下もまた、カロリー制限により見出されている。しかしながら、遺伝物質における決定的な損傷とは異なり、これらの他の細胞構成要素における損傷は、一般に、不可逆的な結果をもたらさずに治癒することができる。
【0056】
前述の、およびより以前に提示された決定は、真核生物種の進化の間に、自然選択されたそれらのゲノムにおける変化により、遺伝物質の酸化による損傷が低下し、種特異的MLPが延長したことと一致する。また、遺伝子の発現の調節に関与する、およびそれらが影響を及ぼし、約20億年の自然選択により提供されて現在のヒトのゲノムおよびMLPをもたらした代謝経路に関与するゲノム配列における、遺伝子の組み合わせにおける、タンパク質のアミノ酸配列における最適は、ヒトの老化に付随する問題の予防のために十分ではないことも明らかである。一方で、ヒトは、もはや、自然選択により媒介されるゲノムの修飾によって限定されない。
分子遺伝学における進歩は、ゲノムの所望される位置におけるヌクレオチドの挿入、欠失または変更のための方法を提供し、それらは、本明細書において記載されるとおり、ヒトにおける老化の速度の減少およびMLPの延長を引き起こすために、細胞における、および生物全体のレベルにおける代謝およびさらなるプロセスの、テイラーメイドの修飾のために用いることができる。ゲノム配列の決定は、個人の間で共通するもの、および特定の位置において多相性であるものの両方に関して、ヒトゲノムのヌクレオチド配列を示した(www.ensembl.org/Homo_sapiensおよびwww.ncbi.nlm.nih.gov/grc/humanは、インターネットを介するかかる情報の資源の中のものであり、他の媒体における配列のプリントおよびデータもまた、利用可能である)。DNA配列決定および所望される配列および長さのDNA分子の合成のための方法は、公知となっている。
【0057】
ヒトゲノム配列の修飾は、部分的に、試験管において、ゲノムの意図されるセグメントに対応するDNAフラグメントにより行うことができ、プラスミドまたはウイルスベクターDNAにライゲーションされた修飾されたDNAフラグメントは、組織培養において、ヒトゲノムへの組み込みのために、ヒト細胞に導入することができる。ヒト細胞のゲノムから配列を切除するための方法もまた、公知である。CRISPR/Cas(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats(CRISPR);CRISPR関連タンパク質9(Cas9))法は、細胞におけるゲノムの標的位置に、その中の配列を変更するために、その中のDNAに鎖切断を導入するために、操作されたCas9タンパク質をターゲティングするために、ガイドRNA分子を使用する。ヒト細胞からの所望されるゲノムのセグメントの切除のためのCRISPR/Cas法の使用の一例は、参考文献76において記載され、これは、ヒト細胞からの移植抗原の除去のためのそれの使用を記載する。CRISPR/Cas法は、細胞において相同組み換え(HR)により修復され得るDNAに対する二本鎖(ds)切断を引き起こすことに依存することから、および、HRは、望まれないヌクレオチドの欠失または挿入を導入して、望まれない変異を引き起こし得ることから、および、dsDNA切断を引き起こすことは、影響を受けた細胞においてまた、他の所望されない結果を有し得ることから、より安全かつより正確なヒト細胞におけるゲノム配列の修飾の方法が研究されてきた。参考文献77は、ゲノムにdsDNA切断を導入することなくヒトゲノムの配列を修飾するためにMMLV RTから改変された、逆転写酵素(RT)タンパク質に融合した操作されたCas9タンパク質の使用を記載する。ガイドRNA分子の使用によるゲノムの所望される位置への融合タンパク質のターゲティングが記載され、標的位置における意図されるヌクレオチドの変更を示す細胞が検出可能な意図されない欠失または挿入を有しないものを含む、当該方法の特定のバージョンが記載される(77)。
【0058】
原核生物および真核生物において核酸分子に対して作用する酵素は、分子遺伝学において用いられるツールに寄与する。参考文献78は、ゲノムの所望される位置におけるアデニン(A)ヌクレオチドの、グアニン(G)ヌクレオチドへの変更を可能にする方法における使用のための、E. coliのTadAタンパク質の操作を記載する。それは、より以前に記載されたかかる方法、および、細胞のトランスクリプトームにおけるRNA分子においても起こるAの脱アミノ化を引き起こすことに起因するその短所に言及し、DNAに対するA脱アミノ化活性を保持したままでの、RNAのAの脱アミノ化の実質的な減少を記載する。ゲノムの所望される部位におけるシチジン(C)を変更するための、Cの脱アミノ化のために他の操作されたデアミナーゼと融合したCas9を用いる類似の方法もまた、公知である。自然発生的な酸化ストレスにより誘発する5-メチルシトシン(5mC)の脱アミノ化は、それをTに変換し、それによりdsDNA中にミスマッチを生じ(元の5mC:Gマッチの場所におけるT:Gミスマッチ)、これは、影響を受けたゲノムの領域における変異の発生のリスクである。変異は、ミスマッチの修復の前にDNAが複製される場合に、およびまた、ゲノムのヘテロクロマチン化された領域におけるDNAのミスマッチの修復のエラーおよび失敗に起因して起こり得る。加えて、Cの5mC修飾はヘテロクロマチン化に寄与することから、ゲノムのヘテロクロマチン化された領域は、この型のDNA損傷により悩まされる。T:Gミスマッチに変換された5mC:Gマッチ部位は、よって、T:Aマッチに変換することができるが、これはしかし、変異である。このことに関して、CからTへの転移は、エネルギー代謝のために酸素を使用する生物において検出される最も頻繁な型の変異である。したがって、以下に記載される老化に対するより有効な上流の介入の他にも、上で言及されるCas9融合タンパク質(および他の類似の融合タンパク質)を、老化の効果に対抗するために用いることができる。ゲノムにおいて所望されるヌクレオチドの変更を生じさせるための、操作されたCas9-アデニンデアミナーゼおよびCas9-シチジンデアミナーゼ融合タンパク質の使用は、多くの種において記載されてきた。参考文献79は、反復配列における所望される位置においてヌクレオチド配列を変更するための、ヒト細胞の使用を記載し、反復配列の何万ものコピーにおいて意図されたヌクレオチド変更が引き起こされた、安定に維持されたヒト細胞クローンを記載する。
【0059】
真核生物のゲノムにおいて存在する全てのヌクレオチド配列が、生物にとって有用な機能を提供するわけではなく、過去において、および異なる環境条件下において、有用な効果を有したかもしれない配列および遺伝子の一部は、今日では有用なまたは必須の機能を有さない場合がある。単細胞真核生物を用いて、それらのゲノムにおけるどの遺伝子がそれらの生存および複製のために必須ではない可能性があるかを決定するために用いられるスクリーニング方法は、個々に、通常の培養においては遺伝子の20%より多くが不要であることを示し、また、野生型の生物においては必須の機能を提供することが見出されている遺伝子のうちの25%より多くが、生物の他の遺伝子の変異を引き起こすことにより、必須ではないものとなることを示した(80)。野生型染色体において存在する非必須のヌクレオチド配列が取り除かれた合成染色体の構築もまた、操作された染色体により野生型染色体が置き換えられた単細胞真核生物の特色と共に記載されている(例えば、参考文献81)。
遺伝子の下流に対称なloxP部位を有する合成染色体の構築、およびかかる染色体を有する単細胞真核生物を、条件的に活性化可能なCreリコンビナーゼに晒して、複数の遺伝子の組み換えおよび欠失を引き起こし、同時の欠失および不活化が生物の生存および複製を損なわないであろう特定のサブセットを決定することもまた、記載されている。Saccharomyces cerevisiaeの染色体XIIの左腕の場合、それにおける配列の半分より多くの欠失は、生物の生存および複製の持続と両立することが記載されている(81)。上で言及されるとおりの組み換えおよび欠失を引き起こすことにより、および当該分野において公知の他のかかる方法により、単細胞真核生物を進化させることは、原理的には、培養における多細胞真核生物の細胞に拡張可能である。例えば、胚性幹細胞(ESC)によりこれを行うことにより、所望される特定のin vitroでの進化条件を生き延びた細胞を提供することができ、これを次いで、in vitroスクリーニング試験に供して、残りの細胞を動物の組織における機能について試験する前に、in vitro進化の間は生き延びたが、in vitroスクリーニングにより、in vivoで機能するには適さないと決定されたものを処分することができる。動物におけるそれらの機能の追跡調査のために、例えばサルの胚への細胞の組み込みを可能にする方法は、公知となっている。
【0060】
上で言及および記載される、ヒト細胞のゲノムにおける所望されるヌクレオチド配列の変更を引き起こす方法は、ヒトの老化の速度の低下を引き起こすため、および老化に伴う障害に対する有効な介入のための、ヒト細胞における代謝およびさらなるプロセスのテイラーメイド修飾のために用いることができる。一方、前進することを意図する当業者にとって基本的な課題が存在する:天文学的な数の潜在的な組み合わせの中からの標的とされるべき特定のヌクレオチドおよび遺伝子の決定。単数体ヒトゲノムにおける30億より多いヌクレオチドの存在は、個々に30億より多い候補に対するガイドの不在に相当し、それらの組み合わせは速やかに天文学的となる。
【0061】
本発明において提示されるヒトの老化を引き起こすことにおいて決定的である上流の機構および分子イベントの決定により、記載される分子イベントならびにヒトの老化および老化の疾患に対する介入のためのプロセス特定の修飾のためにヒトゲノム配列において引き起こすことができる特定の修飾が、本発明の領域における当業者に明らかとなる。例証およびさらなる指示もまた、本発明の実施におけるさらなるガイダンスのために、以下に提示される。
【0062】
以下の知見の要旨は、ヒトにおける老化および老化に伴う障害に対する有効な介入のために、老化の上流の機構および主な原因を標的とするために、老化の上流の機構および主な原因を下流の結果と識別するために役立つ。
(i)損傷の修復をそれに制限する真核生物遺伝物質の構造は、老化の主な原因である。細胞の分化のために必須であり、ヒトゲノムの一部となっている転位因子(TE)の抑止のためにもまた利用される、ゲノムの特定の領域におけるクロマチンのヘテロクロマチン化は、DNAに対する損傷の修復の、ならびにクロマチン-核ラミナ-エンベロープタンパク質のサブセットに対する修復の、効率および正確性を限定する。
【0063】
(ii)主として高分化型細胞、および増殖することができる細胞(成体組織における幹細胞を含む)をも含んでなる器官における、高分化型細胞は、未修復のDNA損傷および体細胞変異の増大を示し、また、ヒトの年齢が高くなるにつれて、遺伝物質における損傷の修復の試みの失敗を示すクロマチン構造の特色および分子マーカーを示す。年齢に関連する体細胞変異および未修復の損傷の増大は、主としてヘテロクロマチンにおいて見いだされ、このことは、ヘテロクロマチン構造が遺伝物質に対する損傷の修復の効率および正確性に対してかける制約と一致する。
【0064】
(iii)遺伝物質に対する損傷は、複数のソースに由来し得、一部は現実的に不可避であるが、例えば、クローン寿命の限定なしに単細胞真核生物よりも非常に多くの量のDNA傷害剤に暴露され得る原核生物により立証されるとおり、必ずしも老化をもたらすとは限らない。既存の酸化的エネルギー代謝は、遺伝物質に対する酸化的損傷の一定のソースを生み出し、酸化により損傷を受けたDNAおよびタンパク質分子は、高齢のヒトの多様な組織および器官における細胞において、量が増大する。
【0065】
(iv)同定および指摘されてきた減数分裂による若返りの機構は、減数分裂に向けて進んでいる、および減数分裂を起こしている生殖系列細胞、ならびに受精した卵母細胞から生じる初期の胚細胞は、クロマチンの脱凝縮およびリモデリングを示し、これが遺伝物質における損傷の効率的な修復を可能にし、これらが、減数分裂による若返りのために決定的であることを示す。卵母細胞は、加えて、修復のためのものの他にも、遺伝物質に対する酸化的損傷の予防の強力な手段を有し、受精した卵母細胞は、呼吸性ミトコンドリアによりエネルギーを与えられる精子の移動の間に酸化的損傷を受け得る、父方の遺伝物質のリモデリングおよび修復を可能にする。始原生殖細胞(PGC)は、発生の間の初期に特定され、後期の漸次分化する体細胞が有し得る損傷の回避を可能にし、DNAメチル化もまた、PGCの減数分裂への進行の間に、クロマチンの脱凝縮およびDNAの修復に伴って消去される。現在活性化可能なTEのDNAは、例外的に、メチル化されたままであり得、TEが生殖系列におけるクロマチンの脱凝縮の間に転写のために有し得る機会は、転写後の防御によってもまた無効化される。よって、指摘された減数分裂による若返りの重要な機構は、さらに、説明において証明される老化の決定的な上流の機構と一致する。
【0066】
(v)説明は、ヒトおよび他の生物において観察され、当該分野において老化の主な原因として提案されるが、そうではない場合もある、年齢に関連するイベントに関してもまた案内する。真核生物染色体の直鎖状DNA分子は、それらの末端(テロメア)の複製の、DNAの各複製ごとの短縮化に対する、特化された手段を必要とする。正常な増殖性組織細胞は、一般に、ヒトの年齢が高くなるにつれて、テロメアの短縮化を示すことが観察されており、テロメアが徐々に短くなってゆくことは、in vitroでの細胞の老化の間にもまた観察されるが、一方、環状染色体DNAを有する原核生物は、DNAの末端の複製の問題を有さず、クローン寿命の限定を示さない。老化の間の染色体の末端の短縮化は、むしろ、説明において証明される老化の上流のイベントの結果であることが指摘される。
【0067】
(vi)嫌気性環境において生存し、残りの真核生物において保存されている酵素および他のタンパク質の使用により減数分裂を起こす単細胞真核生物は、また遺伝物質に対する非酸化的損傷の修復の達成においても、減数分裂の有用性を示す。TEは、嫌気性、ならびに好気性真核生物において、遺伝物質の損傷を引き起こすことができ、TE配列のクロマチンのヘテロクロマチン化は、TEに対する防御として役立つ。しかし、TE配列の、および宿主遺伝子のヘテロクロマチン化に影響を及ぼすために使用されるシトシンの5mC修飾、ならびにヘテロクロマチンにおけるDNAのアクセシビリティの限定は、いずれも、説明において指摘される未修復の損傷および変異のソースとして作用し得る。一方、TEは、古く、今日の原核生物において多数のファミリーを有し、原核生物においてもまた起こり得るDNAのTEまたは5mC修飾のいずれも、原核生物のクローン寿命に対して限定を引き起こさず、このことは、本明細書において記載される上流の機構による老化における決定的な役割とさらに一致する。
【0068】
本明細書において提示される発明のある側面および態様を説明する例を、以下に含める。当業者は、慣用的な実験のみにより、それらに対する均等物を認識し、これを確認することができる。
【0069】
例1.ヒトの老化および老化の障害のための介入のために操作されたヒト細胞
科学および技術の分野において以前には知られていなかった事実は、一般に、試験のために適切な実験資源およびさらなる資源が存在する場所における、仮説の実験による試験により決定される。試験および結果として生じるデータの分析は、仮説が立証されるか否かを示す場合もあり、または、データに従って見直される場合もあり、複雑な問題についての実際の仮説は、科学者により、その異なる予測の試験を通して展開される場合もある。本発明者の自身の資金および資源は、例3において記載および言及される本発明者の臨床および実験研究のために十分であったが、後に、不可抗力な状況に起因して、老化および老化の疾患に対する具体的な介入に関する本発明者の仮説の実験による試験のためには資金が不十分となった(下の例3に関して指摘される)。一方、科学論文および公共のデータベースが十分な関連するデータを有する場合は、仮説の試験は、意図された実験について、実験施設の不在下においてもまた行うことができる。かかるデータは、様々な刊行物およびデータベースから組み合わせてもよく、異なる目的のために行われた研究において他の科学者により作成されたものを含んでもよい。例1~2において記載された解決策は、この後者のアプローチを用いる分析および試験によりまとめられた。
【0070】
減数分裂中の細胞における、および卵母細胞の受精の後の初期胚細胞における、PGCにおけるクロマチンの脱凝縮は、上記のとおり、減数分裂による若返りに寄与する。この脱凝縮は、ヒトゲノムにおいて存在し、レトロ転位のための完全な配列を有するTEの転写のリスクを引き起こす(TEという用語は、ここで用いられる場合、加えて特定されない限り、一般に、レトロ転位因子(レトロ転位可能なエレメント)を指す)。かかるTEの転写は、それにより、生殖系列における転写後の防御の上方調節にもかかわらず、翻訳およびレトロ転位のリスクを生む。例えば、今日の顕著な割合の個人における生殖系列におけるAluにより誘導されるde novo変異の発生は、この点において、ヒトにおけるTEに対する既存の対抗手段がフェイルセーフ(fail-safe)ではないことを示す。一方、初期胚細胞において大量に見出されるTEのトランスクリプトは、正常な胚発生のために必要とされるものとして広く報告されており、宿主の機能における使用のためのTE由来の配列の適応は、長年知られている。多様な種の進化の間のTEの転写の抑制のための多様なジンクフィンガータンパク質の使用が知られており、今日のヒトにおいて生理学的機能に対する効果を有する、古いTE由来配列へのCTCFタンパク質の結合は、かかる適応の既知の例である。
【0071】
本発明者は、それらに影響を及ぼすことが記載されている特定の発生イベントおよび特定のTEを分析し、ヒトの組織において正常な機能を行うことができる正常なヒト細胞を有しつつ、現在活性化可能なTEをヒトゲノムから取り除くことができることを決定した。かかる細胞は、それらの操作されていないカウンターパートと比較して、下に記載されるとおり、ヒトの加齢性障害の処置において、有利に用いることができる。
【0072】
長鎖散在反復配列(Long Interspersed Element)1(本明細書において以下、LINE1と略される)、短鎖散在反復配列(Short Interspersed Element)1(本明細書において以下、SINE1/7SLと略される;Aluを含む)およびSVA複合(SVA composite)レトロ転位因子(SINE-VNTR-Alu複合体)は、ヒトゲノムにおいて現在活性化可能な非LTR(non-long terminal repeat)TEであり、現在、ヒトゲノムはまた、機能的なレトロウイルスタンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を有するLTR含有内在性レトロウイルス配列(ヒトERV;本明細書において以下HERVと略される)を有する。ヒトゲノムにおける非LTR TEの中で、LINE1は、唯一の自律的な現在活性化可能な非LTR TEである;SINE1/7SL(Alu)およびSVAは、レトロ転位のために、他のTEによりコードされるタンパク質に依存し、それらは、それらのレトロ転位のために、LINE1の活性から利益を得る。今日のヒトゲノムにおいて存在するHERVの遺伝子座は、ウイルス粒子のアセンブリのための機能的なウイルスタンパク質をコードするものを含むが、ほとんどが失活性変異を有し、HERVのLTRに隣接する内部配列の欠失を通して形成された唯一のLTR配列もまた、ヒトゲノムにおいて見出される。正常体細胞組織の細胞におけるHERV配列のヘテロクロマチン化は、それらの活性化に対抗して働き、多様な腫瘍細胞がHERVの発現を有することが決定されている。正常体細胞組織の細胞による、およびそれらの腫瘍性カウンターパートによる本発明者の研究は、構成的ヘテロクロマチンについて濃縮されたクロマチンの特定の画分が、老化の間に、正常組織細胞において、脱凝縮およびDNAのDNAseIのアクセシビリティの増大を示すこと、ならびに、それらに由来する腫瘍細胞が、この年齢に関連するクロマチンの修飾を示し続けること(説明において以前に指摘されているとおり、同じ腫瘍細胞が、ヒトの、およびマウスの老化の間に正常組織細胞において起こることが見出されている、ジスルフィドにより媒介されるクロマチン構造の凝縮を示さないにもかかわらず)を示した。それ以来の多くの研究が、多様な腫瘍細胞における非LTR TEの、およびHERVの活性化を、それらのヘテロクロマチン構造の維持の失敗と、ならびに老化の間の、正常体細胞組織の細胞におけるこれらのTEの抑止の失敗と関連して、記述している。TEの抑止のために、および細胞の分化のために使用されるヘテロクロマチン化が、ゲノムの完全性の維持との矛盾を生じること、ならびに現在活性化可能なTEの発現およびそれらのレトロ転位が、体細胞における遺伝物質のさらなる損傷を引き起こし、それらのアポトーシスまたは老化または腫瘍性形質転換を誘発し得ることを示す、本発明者が指摘してきた決定をさらに考慮することにより、本発明者は、本明細書において、前記の望ましくない効果が無効化される手段を記載する。
【0073】
一態様において、ヒト細胞の分子遺伝子操作により、ヒトゲノムにおいて存在して機能的なRTタンパク質を生じるために完全な配列を有するLINE1およびHERVのコピーの、逆転写酵素(RT)をコードする配列を、かかるRTを生じることができないものにする。機能的なRTをコードする配列は、RTコード配列において比較的少ないヌクレオチド配列の変更を行うことにより、例えば、コドンを中途での停止コドン(premature stop codon)に変更することにより、またはRT活性のために必須のRTのアミノ酸を変更して不活性変異体RTをもたらすことにより、それを行うことができないものにすることができる。LINE1またはHERVのコピーのRTコード配列の一部または全体の欠失もまた、行うことができ、機能的なRTの除去を提供することができる。ヒトゲノム配列の参照アセンブリの分析は、今日のヒトゲノムにおいて存在する数万のLINE1のコピーの中から、200未満が、完全な機能的なオープンリーディングフレーム2タンパク質(Orf2p)およびオープンリーディングフレーム1タンパク質(Orf1p)をコードする配列を有することを示す。LINE1のOrf2pは、RTおよびエンドヌクレアーゼドメインおよびCCHC型ジンクフィンガーDNA結合ドメインを有する。HERVのRTは、HERVのpol遺伝子(これはまた、HERVのインテグラーゼタンパク質をコードする)によりコードされる。また、ヒトゲノムにおける機能的なRTをコードする完全な配列を有するHERVのコピーのうち、LINE1のコピーによる状況と類似するのは、ヒトゲノムにおいて存在するHERVの小さな割合である。LINE1の、およびHERVのRTのアミノ酸配列、ならびにそれらのうちRT活性のために重要な配列は、公知であり、RT活性を検出および定量するための高感度な方法は、ウイルス学において、および生命科学の他の分野において、慣用的に実施される。今日のヒトゲノムにおいて存在するLINE1およびHERVのコピーに由来するRT活性のソース全体の除去は、よって、当業者に利用可能な方法により、容易に行うことができ、検証することができる。以前に言及されたゲノム編集法を、ヒトゲノムにおいて存在するLINE1およびHERVのコピーに由来するRTタンパク質の除去のために、特に適応させることができる。上記の自律的なレトロトランスポゾンに由来する機能的なRTタンパク質の完全な除去は、ヒトゲノムにおいて存在する現在活性化可能なTEの残りの無能力化というさらなる利点を有する。なぜならば、SINE1/7SL(Alu)およびSVAはいずれも、非自律的であり、自律的レトロトランスポゾンのコピーにより供給されるRTは、それらのレトロ転位のために必須であるからである。上記のとおり、ヒト細胞からの遺伝物質の損傷の重要なソースを、それらにおいて有害効果を引き起こすことなく除去することは、かかる操作されたヒト細胞に対して複数の利点を提供し、かかる利点として、下において記載されるとおり、ヒト組織にin vivoで組み込まれた場合のより長い健康寿命、および、操作されていない(野生型)ヒト細胞と比較した場合に、腫瘍性形質転換を起こすリスクの顕著な低下が挙げられる。
【0074】
LINE1およびHERVおよびテロメラーゼ逆転写酵素の、RTのコードヌクレオチド配列およびアミノ酸配列のアベイラビリティーは、多様な既知のRT活性のアッセイと共に、テロメラーゼRTを残している可能性があるLINE1およびHERVRTの選択的小分子インヒビターの同定のためのスクリーニングのセッティングを可能にする。かかるインヒビターを含む医薬処方物の使用による、特定の年齢に関連する病理学的状態の有益な処置の開発が、それらについての知見により示唆される。
【0075】
別の態様において、全ての現在活性化可能なLINE1およびHERVのコピーの配列全体が、ヒト細胞のゲノムの編集のためにdsDNA切断を引き起こさないゲノム編集法により、ヒトゲノムから欠失させられる。段階的欠失、ならびに同時の欠失のための多重化を行うことができる。治療目的のためのヒト細胞の遺伝子操作において、編集のために用いられるタンパク質およびガイドRNA分子は、好ましくはマイクロインジェクションにより、および/または最適化された量のタンパク質およびガイドRNA分子を含むリポソームの使用により、細胞中に導入される。ヒトゲノムにおいて存在する現在活性化可能なLINE1およびHERVのコピーの長さは、平均でそれぞれ約6kbおよび9kbであり、それらは、上で示された欠失を簡単にするために、集合的にわずか数百となる。
【0076】
ヒトゲノムからのLINE1、HERV、SINE1/7SL(Alu)およびSVAのコピーの全体の欠失は、現在活性化不可能なコピーもまた欠失させられる場合は特に、ヒトゲノムのサイズの実質的な減少をもたらす。かかるヒトゲノムの操作は、ステップの最適化のために正常ヒト胚性幹細胞(ESC)株を用いることにより行うことができ、治療的使用のために、下に記載される他の細胞型により繰り返すことができる。既存のヒトESC株の他に、例えば体外受精の施術が通常生じる重複する初期胚/胚盤胞の使用による、新たなヒトESC株を産生するための方法が、公知となっている。標準化された培養条件下において維持されるヒトESC株は、特定のTEに属する配列の欠失の効果の検出を可能にする。所望されない効果を引き起こさない欠失を行うことができ、所望されない効果を有することが観察された特定の欠失の目録作成は、さらなる遺伝子操作による、それらの安全な欠失を容易にする。特定のTEの欠失の所望されない効果は、例えば、そのTEが遺伝子(単数または複数)と同じDNA/クロマチンループ中にある場合、当該遺伝子(単数または複数)についてのプロモーターまたはエンハンサー機能の変更を通して起こり得る。かかる効果に取り組むための方法は、利用可能である;例えば、ループ立体構造の変更のための、CTCF標的配列の付加もしくは欠失、および/またはこれの位置の変更。タンパク質をコードする配列の欠失を伴う、ならびに言及された単細胞真核生物からの、はるかにより要求が厳しいゲノム縮小プロセスによる経験は、より単純にヒトゲノムからの上で示されるTE配列の欠失の達成と一致する。
【0077】
上記のヒトゲノムからの現在活性化可能および不活性なTE配列の欠失を通して実質的なゲノムのサイズの減少を有するヒト細胞は、高齢のヒトの処置において有利に用いることができる。実質的なヒトゲノムのサイズの、および構成的ヘテロクロマチンの負荷の減少は、下記のとおり、かかる細胞が組織および器官中に組み込まれるように処置されたヒトにおいて、別段にin vivoで利用可能であるよりも、はるかに有効なゲノム完全性の維持をもたらすことができる。下の例2は、かかる細胞の、およびさらに修飾された体細胞の、ヒトの老化の障害に対する介入における使用を記載する。
【0078】
上で示されるヒトゲノムの特異的遺伝子操作は、特定の個人または患者の正常体性組織幹細胞により、彼または彼女の処置における細胞の使用のために、行うことができる。加えて、かかるヒト細胞は、移植抗原を有しないように操作することができ、所望されない遺伝子型/表現型を示すクローンの発生に対抗する手段および品質管理により、工業スケールにおいて増殖させることができる。産生された男性および女性の性別の細胞を、任意の個人の処置における特定の治療的使用のために好適な数で、生きた状態でバイアルまたはパッケージ中で(例えば、液体窒素中で)貯蔵することができる。細胞のゲノムの所望される位置への所望される遺伝子の組み込みを可能にする遺伝子操作方法は、公知であり、かかる工業的に製造されたヒト細胞への個人に特異的な移植抗原の導入のために、用いることができる。宿主の免疫系による細胞の殺傷(組織適合性抗原ヌル細胞を殺傷することができる宿主のナチュラルキラー(NK)細胞によるものを含む)を回避しつつ、処置されるべき個人との組織適合性を提供する。
【0079】
例2.老化の障害に対する介入のための、ゲノム完全性の維持が改善した全能性および多能性ヒト細胞の生成
ヒトの組織を構成する細胞は、同じ系譜の他の、および他の系譜の細胞と比較して区別し得る位置において、様々な分化の状態において存在する。成人の体性組織の幹細胞は、一般に、それらの系譜のうちで最も分化しておらず、解剖学的同定可能な位置(ニッチ)において、一般的な特定のタンパク質の発現により同定され、ここで、それらは、複数の方法において他の細胞型により支持され、それらの系譜の細胞への置き換えを例外として、通常は増殖しない。正常体性組織幹細胞の比較的頻繁でない増殖および低い分化状態は、それらの遺伝物質における修復されていない/誤って修復された損傷を和らげることにおいて、それらに利点を提供するが、それらもまた、ヒトの老化の間に、かかる損傷および体細胞変異の頻度の漸増を示し、これらは、常染色体におけるものと比較して、ゲノムのヘテロクロマチン領域において顕著に濃縮される。それらの分化した子孫よりも少ない遺伝子の損傷および体細胞変異を有する幹細胞は、一般に、老化および加齢性障害に対する介入のための下記の改変のために好ましい。EpCAMは、成人における上皮幹細胞の分子マーカーの一例であり(これはまた、精原幹細胞により、およびESCにより発現される)、多様な細胞系譜の正常幹細胞の多様な他のマーカー、ならびに人からそれらを得るための方法は、公知である。幹細胞は、in situでの人の処置のためにin vivoで遺伝子改変することができ、また、ex vivoで、その後の人の組織への組み込みのために改変することもできる。in vitroで下記の特定の分子遺伝学的改変を経験した正常幹細胞およびそれらに由来する細胞は、いくつかの方法により、処置されるべき人の所望される組織および器官に組み込むことができる。特定の組織部位へのかかる細胞のインジェクションは、鏡検査デバイスまたは手術用顕微鏡の使用により、組織を拡大して見ることにより行うことができる。かかる細胞は、また、in vitroで特定のニッチ支持細胞と機能的な三次元関係において組み合わせた後に、所望される組織位置に導入することができる。人の所望される組織位置への移植片の組み込みのために、直視下手術ならびに非観血的手術の方法が公知である。
【0080】
ヒトの、および多くの他の哺乳動物種の胚盤胞の内部細胞塊(ICM)細胞から生成された胚性幹細胞(ESC)系譜が、利用可能となっている。所望される分化細胞型へのESCの分化の誘導の方法、ならびにESCの未分化増殖をもたらす培養条件もまた、公知となっている。一方、ICM細胞は、2細胞期の細胞と比較してクロマチンの顕著な凝縮が起こり染色体中心粒が検出可能となった、8細胞期の細胞の形成の後で形成される。治療目的のための慣用的に産生されたESCの使用の限定または妨害が知られており、これは、ESCの増殖の間の望ましくない変異を有する細胞クローンの発生に起因するもの、腫瘍を生じ得る遺伝子のまたはエピジェネティックな修飾を有するサブクローンによりESC集団が追い越されること、ヒトの場合、外来ESCまたはそれらの分化した子孫が人に導入された場合に起こり得る宿主体移植片反応および移植片対宿主反応を含む。組織不適合性の障壁を回避する細胞を供給することができる、人の体細胞における多能性を付与する転写因子の強制発現によるiPSCの生成もまた、患者の処置における使用のためには、顕著な短所を有することが決定されている。例えば、老化の間にヒトの細胞において頻度の増大を示す体細胞変異およびヘテロクロマチンの濃縮は、それらから生成されたiPSCにおいて持続する。本発明者は、本明細書において、既存の問題および短所に対する解決策を記載し、ヒトの老化および加齢性障害に対する介入において有利に用いることができる正常ヒト細胞の生成の方法を記載する。
【0081】
卵母細胞(臨床施術において、男性の精子による体外受精(IVF)のために、および精子または円形精子細胞の細胞質内注射のために用いられるヒト卵母細胞を含む)は、減数分裂による若返りを提供する能力を有する。卵母細胞の細胞質において遺伝物質に対する酸化的損傷の防止のために、およびこれの修復のために利用可能な小分子(GSH、システインその他)および酵素の他に、卵母細胞はまた、さらなるソースによる(例えば、TEによる)損傷の回避および修復のために役立つ、プロテアーゼ、クロマチンリモデラーならびに他のタンパク質およびRNA分子を有し、入ってくる男性の遺伝物質に対してもまた、かかる支持を提供する。ゴナドトロピンを投与することにより女性において卵胞の形成を刺激するための方法、経膣吸入による成長した卵胞の回収、顕微鏡下において可視化しながらの、男性の精子によるIVFのため、または精子による、もしくは別の細胞型による細胞質内注射のための、卵母細胞のin vitroでの成熟および調製は、公知となっており、広く実施されている。卵母細胞の吸入のためのマイクロマニピュレーターおよび加温されたステージを備えた顕微鏡の使用もまた、公知である。マイクロピペットの使用により、分裂中期II期の卵母細胞から、関連する卵母細胞の染色体と一緒に減数分裂の紡錘体を吸入すること、および、多様な方法により(例えば、細胞膜が融合性にされている囲卵腔中への細胞の配置により)、除核された卵母細胞中に生きた生殖系列細胞または生きた体細胞を導入することもまた、公知となっており、ヒトを含む多様な種の卵母細胞および細胞により実施されている。正しく除核された卵母細胞中への正常体細胞の導入の場合、卵母細胞の細胞質中に存在する酵素、他のタンパク質および小分子を使用するプロセスにより、導入された体細胞の核の核エンベロープ-ラミナの速やかな破壊を引き起こすことは、本発明者が以前に指摘した減数分裂による若返りの重要な機構の証明において決定される。卵母細胞の細胞質における体細胞のクロマチンのリモデリング、および除核された卵母細胞-体細胞の核の組み合わせが正常な細胞分裂に進行して、除核されていない卵母細胞の精子によるIVFにより形成される2細胞期胚に類似する細胞を生じることは、多様な哺乳動物種により記載されている。それらの正常胚盤胞様構造へのさらなる発生(体細胞核移植、SCNT、胚と称される)もまた、決定されている。SCNT胚の里親女性の子宮への移植、それらの一部が発生して、そのゲノムが移植された体細胞の核に由来する生殖可能な成人の男性および女性を生じることもまた、非常に低い成功率ではあるものの、多様な哺乳動物種により記載されている。ヒトSCNT胚盤胞の形成率を増大させ、慣用的に作製されたヒトECSの遺伝子発現パターンを有するそれらのICMからの細胞株の作製を可能にする実験条件は、公知となっている。ヒトSCNT胚盤胞由来のかかるヒトESC様細胞は、慣用的に作製されたヒトESCにより提起される組織不適合性の問題を回避するが、従来のヒトESCの前述の短所に悩み続ける。
【0082】
SCNT胚盤胞の産生プロセスの特定の改変およびさらなる方法は、本明細書において記載され、これは、正常二倍体の万能性および多能性のヒト細胞を提供し、これは、減数分裂による若返りの特色を示し、除核された卵母細胞の導入のために体細胞が得られた元の人の組織に組み込むことができる。以前に記載されたSCNT由来の胚細胞の作製の方法との相違は、以下を含む。(1)活性化ステップ(例えば直流のパルスによる活性化)の前の除核された卵母細胞-体細胞の核の組み合わせのインキュベーションの期間が、典型的には体細胞が高齢者からのものである組み合わせの場合は延長により、最適化される。高齢者の体細胞組織の細胞は、DNAにおける、および遺伝物質のタンパク質構成成分における、未修復の損傷の増加を有することが見出されることは、上で指摘したとおりである。卵母細胞除核ステップの間の紡錘体および関連する卵母細胞の染色体の除去は、体細胞核における損傷の修復のために使用される卵母細胞分子の減少を引き起こすことを回避するために、紡錘体除去の間に吸引する卵母細胞の細胞質を最少量にするように注意して行う。高齢者の場合、体細胞の核において、例えば核エンベロープラミナ-ヘテロクロマチン構成成分において存在する損傷は、酵素および他の卵母細胞の因子がそれに対して作用するために、より長い時間を要する。別の卵母細胞から所望される卵母細胞に細胞質を移植するための方法は、公知であり、それが必要とされる場合、行うことができる。当業者は、上記の特定の効果を考慮して、高齢者の体細胞のための前記の期間の最適化を、容易に行うことができる。(2)除核された卵母細胞-体細胞の核の、およびそれらに由来する細胞の培養条件が、特に、培養条件により、ならびにクロマチンのリモデリングおよび時宜を得た体細胞のDNAの脱メチル化に対して支持的な培養条件を提供することにより、細胞に対して酸化的損傷を引き起こすことを最少化するために、最適化される。組織培養インキュベーターにおけるO2濃度を、通常の約20%大気圧O2から、生理学的レベルまで低くすることの他に、培養培地において、DNAの脱メチル化のエフェクターおよびメチル化酵素の、ならびにヒストン修飾酵素(例えば、アセチル化および脱アセチル化酵素)の還元剤の最適濃度を有することは、他の分子のために一般的に用いられる濃度最適化方法により行うことができる。DNAのバイサルファイトシーケンシングは、インプリント遺伝子の配列を含む特定のゲノム配列のDNAメチル化状態をモニタリングするために用いることができる。(3)除核されたヒト卵母細胞に導入されるべき人の正常体細胞は、その人の体性組織幹細胞から選択される。人の寿命の間に、比較的少ない遺伝物質に対する損傷を経験し、比較的少ない増殖を起こす組織部位に位置する正常体細胞性幹細胞が好ましい。精原幹細胞(男性の場合)は、除核された卵母細胞への導入のために、特定の利益を提供することができる。それらは、発生の間の初期に特定されるPGCに由来し、ゲノムの完全性の維持のためのさらなる有利な特色を有することは、上で指摘したとおりである。
【0083】
特定の態様において、除核されたヒト卵母細胞への体性組織幹細胞の導入を使用する上記のプロセスにより産生される2細胞期または4細胞期の細胞は、それらが形成された場合、培養ディッシュから採取され、2細胞期および4細胞期の各々の細胞は、新たな除核されたヒト卵母細胞に導入される。上記の2細胞および4細胞期の細胞の産生のプロセスの後に、次いで、これらの新たに作製された除核された卵母細胞-2細胞期の細胞の核および除核された卵母細胞-4細胞期の細胞の核の組み合わせを用いる。新たな除核された卵母細胞への各々の核の導入のための、2細胞期および4細胞期の細胞の使用の反復は、体性組織幹細胞が得られた元の人の組織中への組み込みのために有利な減数分裂による若返りを有する体細胞の数の増加をもたらし得る。産生された若返った細胞の、処置されるべき人の既存の組織細胞との完全組織適合性、および記載される反復により産生され得る多数のかかる正常細胞は、ヒトの老化および加齢性障害に対する介入において利点を提供する。
【0084】
別の態様において、上記のプロセスの反復は、発生の8細胞期から胚盤胞期に得られた細胞により行われる。顕微鏡下において可視化された胚盤胞のICM細胞は、分離して、除核されたヒト卵母細胞中に、遅滞なく導入することができる(例えば、ICM細胞の細胞膜を膜融合性にした後で、除核された卵母細胞の囲卵腔中にICM細胞を配置することにより)。
【0085】
本明細書において記載されるとおり、自分自身の減数分裂により若返った多能性正常二倍体細胞(ならびに、所望される体細胞組織および器官のために得ることができる、それらの分化した子孫)を繰り返し作成する能力は、ヒトの老化および加齢性障害に対する介入の有効な手段を提供する。加えて、以前に指摘されている上流の基本的な老化の原因およびイベントもまた、下記の態様により取り組まれる。
【0086】
特定の態様において、例1において記載されたヒトゲノムからの現在活性化可能なTEの除去が、処置されるべき人の正常体細胞について行われ、かかる遺伝子操作された細胞が、除核されたヒト卵母細胞中に導入される。上記の培養およびプロセスを、次いで、かかる除核された卵母細胞-操作された体細胞の核の組み合わせにより行う。上記の2細胞期および4細胞期の細胞を用いる、および8細胞期~ICM期の細胞を用いる反復もまた、行うことができ、それらは、TEの機能的なRTを欠いているという利点をも有する、多数の有利に若返った細胞を提供することができる。本明細書において記載されるとおりに産生された減数分裂により若返った操作されたヒト細胞は、ヒトの老化および加齢性障害に対する介入において、明確な利点を提供し、これは、処置された人の組織においてより長い健康寿命を有することに起因するもの、および野生型ヒト細胞と比較して著しく低下した腫瘍性形質転換のリスクを有することを含む。それらは、ヒトのCNSの老化に対する介入において、特に有利に用いることができる。
【0087】
さらなる態様において、ヒトゲノムからの現在活性化可能なTEを除去するため、および、ある人の組織適合性抗原をコードする遺伝子の、かかる細胞のゲノムへの組み込みによる、任意の人の処置における使用のために好適であるために、組織適合性抗原を欠くようにするために、例1において記載される、工業的に産生されたヒト細胞が、除核された卵母細胞中への導入のために用いられ、上記の減数分裂による若返りプロセスが、かかる細胞により行われる。前記の現在活性化可能なTEおよび組織適合性抗原をコードする遺伝子が取り除かれている遺伝子操作されたヒト細胞の工業的産生は、工業的産生プロセスにおける、産生された細胞のための上記の減数分裂による若返りプロセスを含むステップの包含により、行うことができる。これらの工業的に産生された細胞を、次いで、かかる細胞のゲノムへの、患者組織適合性抗原をコードする遺伝子の組み込みにより、患者の処置のために用いることができる。
【0088】
PGCから、およびPGC様細胞からの、卵母細胞のin vitro作製のために知られている方法は、ヒトにおける治療的使用のための、上記の減数分裂により若返ったヒト細胞の作製の方法における使用のための、除核のために好適な卵母細胞の大規模産生のために、適応させることができる。
【0089】
野生型ゲノムを有するヒト細胞におけるものと比較して、遺伝物質の損傷の速度の低下を引き起こし、かかる損傷の修復の改善を引き起こす、ヒト遺伝子のタンパク質をコードする配列のテイラーメイドの修飾を含むための、より要求の厳しいヒトゲノムの操作もまた、行うことができ、このことは、より要求の少ない顕著なヒトゲノムのサイズの縮小もまた引き起こされた細胞において以前に指摘されるとおりである。また、かかる細胞を上記の減数分裂による若返りのプロセスに供して、ヒトの老化から生じる障害に対する介入のための、さらに有利なヒト細胞を提供することができる。
【0090】
例3.高頻度の加齢性疾患のための有効な処置の開発は、必要としている患者にもたらすために適切ではない可能性がある:治療について有益な例
以前に知られている十分な処置を欠く高頻度の老化の疾患のための有効な新たな処置は、現状に対して破壊的な開発であり、有効な処置および望ましい安全性の科学的証拠は、現在の状況下においてはそれが患者に到達するために十分ではないことは、本明細書において指摘される。実施されているものに対して、すぐれた治療的有効性および安全性を有することが記述されている新たな薬物処置は、それを市場に導入することができるようになる前に、なお、費用が掛かる規制審査プロセスを通過しなければならない。一方、それは資金が潤沢な科学者により示されている必要はない。かかる処置は、通常、規制審査に対するプレゼンテーションにより、公衆衛生および科学を促進するために免許を受けた公的機関に支持される資格を得ることが期待されるであろう。民間の企業または資本もまた、進歩の分け前にあずかる代償として、そのようにすることが期待される。しかし、このことは、下で言及される新たな薬物処置の場合には起こっていない。言及される新たな薬物処置は、主要な研究の関心事および本発明者の専門的技術の領域におけるものであり、本発明者が設計し、参加した研究を通して開発されたものであるので、処置についての情報および記録は、本明細書において、適切な詳細および参考文献と共に、独立した検証のため、およびバイアスの可能性に対してチェックするために提示される。
【0091】
世界知的所有権機構公開WO2018/048367は、外科的切除による処置のために好適ではない腫瘍を有する患者のための、上述の処置を記載する。腫瘍を有する患者の新たな薬物処置は、それに関係する分野における専門偽的技術を有する科学者に対して記載される。本明細書においては、その発明の分野における専門家のために複雑な科学的-科学技術的事項が提示され、本明細書において参照される科学刊行物における情報は、何千頁にもわたるので、主な専門的知識がその発明の分野におけるものではない場合がある科学者のことを考慮して、処置の突出した特色について、およびその開発について、ここで要旨が提供される。新たな薬物処置は、腫瘍発生老化の間の機構、腫瘍細胞による分化および老化の回避の機構について、および腫瘍原性細胞がそれらの起源である場所から離れた組織において生存することを可能にする機構に関する以前の知見に続いて、腫瘍を有するヒト対象において評価された。処置は、臨床研究において、組織適合性のクラス、研究された症例における腫瘍の解剖学的位置および浸潤にかかわらず、再発を伴わない、腫瘍の迅速な消失を提供することが決定された。Hedgehog/Smoothened(Hh/Smo)シグナル伝達の選択的インヒビターを含んでなる医薬処方物を、この処置のために患者に投与する。多様な皮膚の腫瘍を有する患者により評価された、関係するより狭い範囲の処置の方法が、以前に報告されていた(Tas(sはセディーユ付き)S, Avci O. Induction of the differentiation and apoptosis of tumor cells with efficiency and selectivity. Eur J Dermatol 2004;14:96-102)。WO2018/048367における上述の処置の報告の前に、いくつかの他の臨床治験もまた、2004年以降に、様々なチームにより、Hh/Smoシグナル伝達の多様な選択的インヒビターを含んでなる医薬処方物を投与された多様な器官の腫瘍を有する患者により報告された。以前に臨床治験報告は、WO2018/048367において言及され、WO2018/048367において記載される腫瘍処置のそれらとの相違が指摘される。
【0092】
Hh/Smoシグナル伝達は、転写因子Gli1、2、3のプロセッシングおよび細胞での局在に影響を及ぼす。Gliタンパク質により認識され、これに結合されるヌクレオチド配列は、ヒトゲノムにおいて数千の位置において存在する。Gli結合部位におけるクロマチンの構造はGliの結合のためのそのアベイラビリティーに影響を及ぼすため、および、Hh標的遺伝子の発現は他の転写因子によって、および組み合わせの効果によってもまた影響を及ぼされ得るため、受容する細胞において、受容する細胞の型および生活史に依存して、Hhに対する莫大な数の異なる応答の可能性が存在する。加えて、Hhの濃度およびHhへの暴露の期間もまた、Hhに対する応答に影響を及ぼし、これはさらに、組織における異なる応答の数を増大させる。Hh/Smoシグナル伝達は、全ての人において、生命維持のために重要な正常な機能のために必要であり、成体実験動物におけるHh/Smoシグナル伝達の条件的な遺伝子の不活化は、Hh/Smoシグナル伝達の不在下においては成体を生存し続けさせることができないことが示された。腫瘍細胞は、正常組織細胞と比較して、Hh/Smoシグナル伝達活性が増大していることが報告されている。WO2018/048367は、ヒトにおけるin vivoでのそれらの天然の環境において同時に、持続的に変化する濃度のHh/Smoシグナル伝達の選択的インヒビターの、様々な細胞型および組織構造に対する効果の決定を可能にする、実験デザインおよび方法を記載する。多様な用量のHh/Smoシグナル伝達の選択的インヒビターの、正常細胞型に対する、および同時に腫瘍細胞に対する、効果の決定が記載される。候補薬物分子についての用量の知見についての、従来の薬理学的方法によっては、および従来の臨床試験によっては、得ることができない、試験結果の詳細およびそれらにより提供される洞察が、腫瘍を有するヒトの処置についての知見の使用と共に記載される。
【0093】
臨床研究の結果が記載され、これは、Hh/Smoシグナル伝達の選択的インヒビターは、正常細胞において、および腫瘍細胞において、異なる用量依存的効果を発揮することを示す。腫瘍細胞の場合、用量の漸増により増殖の阻害が観察され、増殖の阻害を示す腫瘍細胞は、さらなる用量依存的効果を示すことが見出される:かかる腫瘍細胞は、未分化でい続けることができ、後で増殖を再開することができるが、医薬への暴露のさらなる増大により、in vivoでの効果のために、腫瘍細胞は、異常に高い頻度において分化するように誘導される。また、腫瘍細胞は、同じ腫瘍細胞の分化の誘導のために十分な暴露のウィンドウ内で、高効率における、それらのアポトーシスの誘導により、迅速に除去することができることが示される。WO2018/048367は、腫瘍細胞が暴露されるHh/Smoシグナル伝達の選択的インヒビターの量のみならず、暴露の時間枠および速度もまた、患者からの腫瘍細胞の除去に関連すること、および、これらの変数は、患者における正常な細胞および正常な機能に対する効果にも関連することを記載する。正常細胞に対する望ましくない効果を軽減するために1日において投与されるHh/Smoシグナル伝達インヒビターの量を少なくすること、および治療有効性を増大させるために日数を増やすことは逆効果であることが記載され、このことは、同時に決定される多様な用量の、正常組織細胞に対する、および腫瘍細胞に対する効果により、明らかにされるとおりである。正常な機能のためにHh/Smoシグナル伝達に依存し、Hh/Smoシグナル伝達の選択的阻害によるその傷害が致死的であり得る、正常幹細胞および子孫細胞は、形態学的および分子マーカーの基準により、および機能的な基準により、狭いが達成可能な用量ウィンドウ内で温存されることが示される。機能的な基準は、数年間にわたり経過観察された場合において、幹細胞に依存することが知られている機能の長期保存を含む。WO2018/048367は、これらの例を記載する。
【0094】
処置は、患者において遺伝毒性効果を及ぼさないことが決定されている。遺伝毒性がないこと、高い効率、および腫瘍細胞のアポトーシスの誘導の迅速性、および患者の正常細胞の温存を可能にする耐容し得る用量によるこれらの達成は、腫瘍を有する患者に対して以前にはもたらされなかった有利な治療的結果および安全性に寄与する。不可視にされた腫瘍が完全に取り除かれたか否か、および腫瘍が再発を示さないこともまた、がんのために処置される患者にとって重要である。Hh/Smoシグナル伝達の選択的インヒビターを含んでなる多様な医薬処方物を投与された腫瘍を有する男性および女性による以前の臨床治験は、一般に、少数の患者において使用が検出不可能になったことを記載し、腫瘍の再発、および再発腫瘍のさらなる処置の試みに対する典型的な耐性を記載してきた。WO2018/048367において記載される処置は、長期の経過観察(7年を超える経過観察を含む)にわたる再発の不在の厳密な判断基準により、再発を伴わない腫瘍の消失を提供することが決定されている。統計学的分析は、再発を伴わない腫瘍の消失の決定的な原因は、これまでのところ、一連の偶発的な出来事に起因するものではあり得ず(p<0.002)、科学文献において再検討されている、処置されていない、および別段に処置された患者についての結果との比較を行った場合、確率は実質的にゼロになることを示す。
【0095】
WO2018/048367において記載される処置の本発明者の研究は、1976~1982年の間に米国のカリフォルニア大学およびテキサス大学において、および1985~1990年の間にクウェート大学において行われた、老化の機構、老化に関連する腫瘍発生について、および腫瘍性細胞の正常細胞との相違についての以前の研究を例外として、ほとんど本発明者自身の資金によりトルコにおいて行われた。研究のための自身の資金の使用が必要であったのは、1990年代に本発明者が教授であり、大学本部に批判的であった大学からの、資金および実験施設の利用が不可能であったためである(Tas S. Biyokimya Dergisi-Turkish Journal of Biochemistry 1998;23:42-47は、関係する情報を有する刊行物である)。自身の資金により科学研究を行わねばならなかったことが、科学者を過度に制限したことから、および有資格の自発的な科学者および機関との共同研究は、WO02/078703(PCT/TR01/00027)において腫瘍を有するヒトのより狭い範囲の処置について報告される知見を考慮すれば、相互に有益であろうことから、本発明者は、本発明者が知っていた以前の同僚および科学者との共同研究を調査するために、2001年に米国に旅行したが、米国への到着の数日以内に深刻な犯罪的暴行に直面し、このため、計画された調査が開始するよりも前に、その中断が必要となった。暴行の急性効果からの回復後、本発明者はトルコに戻り、そこで、本発明者は、自身の資金によりその科学研究を続けなければならなかった。PCT/TR01/00027の優先権による米国特許出願に基づいて発行された本発明者の米国特許7893078に関するインターフェアレンス(interference)105926および105949に関して米国特許商標局に提出された供述書/宣誓供述書(証拠物件2098)は、本明細書において記載される処置をもたらす本発明者の研究の状況を記載する。インターフェアレンスの控訴における連邦CAFC(2015-1175)の先例としての価値のない(non-precedential)判決の後で、問題は、連邦最高裁判所に移された。連邦最高裁判所は、事件を見直すことを断ることにより、問題において決定を行わないことを選択した(2015-1089)。WO2018/048367において初めて公開された研究および知見もまた、接触した公共および民間の機関からの支援を得ることができなかったことにより、本発明者の自身の資金により行われた。PCT/TR2017/000043に関してWIPOによりウェブサイトにおいて公開された、共同研究および使用許可契約における本発明者の関心を示すレターは、本発明者が、記載された新たな薬物処置を、規制当局に認可させて、それにより患者にあまねく届けることにおいて、支援および共同研究を得ようと試みたことの一例である。上で要約される、新たに開発された腫瘍を有する患者の処置の特色は、独立して、その分野における科学者により検証可能であり、大衆の大多数に影響を及ぼす深刻な健康問題に以前には利用可能ではなかった解決策をもたらす、上で言及される新たな薬物処置の開発に関係する記録および応答は、公共の検証に対してオープンである。本発明者が上で記載し、言及したことが提供するのは、ヒトの老化に関連する頻繁な問題の解決において重要であり、それらが明らかにしたものは、科学的-科学技術的進歩の業績についての現在の経済的および国際的なシステムにおける短所について、説明するものであり得る。それらは、加えて、改善のための機会を提供するものとみなされ得る。
【0096】
参照された刊行物
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
ここでの刊行物に対する参照は、その記載を、本明細書における記載のための先行技術として援用することを意図される。
【国際調査報告】