(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】患者の腫瘍の個別化された新生抗原を生成する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20240905BHJP
C40B 40/08 20060101ALI20240905BHJP
C40B 40/10 20060101ALI20240905BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C12Q1/68 ZNA
C40B40/08
C40B40/10
C07K14/47
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516454
(86)(22)【出願日】2022-09-13
(85)【翻訳文提出日】2024-04-30
(86)【国際出願番号】 EP2022075371
(87)【国際公開番号】W WO2023036997
(87)【国際公開日】2023-03-16
(32)【優先日】2021-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524095579
【氏名又は名称】オンコディーエヌエー
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【氏名又は名称】中島 彩夏
(74)【代理人】
【識別番号】100231647
【氏名又は名称】千種 美也子
(72)【発明者】
【氏名】デティッフ,ジャン-ポール
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン フッフェル,クリストフ
【テーマコード(参考)】
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
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4B063QX01
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA18
4H045CA40
4H045DA86
4H045EA20
(57)【要約】
以下の工程を含む患者から得られた試料から複数の新生抗原を生成するための方法:
- 試料からDNA及び/又はRNAを配列決定する工程;
- 配列決定されたデータから、多数のDNA及び/又はRNA変異体を同定する工程;
- 前記多数のDNA及び/又はRNA変異体から、対応するコードされたぺプチドにおいて質的差異を引き起こすもの、及び/又は、新規ペプチド配列の生成を引き起こすものを同定する工程;及び
前記複数の新生抗原を生成する工程、ここで、各新生抗原は、前記コードされたペプチドにおいて、前記同定された差異の一つを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む患者から得られた試料から複数の新生抗原を生成するための方法:
- 試料からのDNA及び/又はRNAを配列決定する工程;
- 該配列決定されたデータから、多数のDNA及び/又はRNA変異体を同定する工程;
- 前記多数のDNA及び/又はRNA変異体から、ペプチドレベルで質的差異を引き起こすものを同定する工程;及び
前記複数の新生抗原を生成する工程、ここで、各新生抗原は、新生抗原を形成するように、前記少なくとも1つの同定された差異の上流及び/又は下流に、コードされたペプチド及びアミノ酸(複数)における前記同定された差異のうちの少なくとも1つを含む。
【請求項2】
前記試料が、前記患者の少なくとも1個の腫瘍細胞に由来するDNA及び/又はRNAを含む第1の腫瘍試料、及び、前記患者の血液試料由来のDNA及び/又はRNA、及び/又は前記患者の適合した正常組織由来のDNA及び/又はRNA、を含む第2の正常試料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記DNA変異体が、前記第1の腫瘍試料からの前記配列決定されたデータを、前記第2の正常試料からの前記配列決定されたデータと、比較することによって同定される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記患者のDNAの20%より多く、30%より多く、40%より多く、50%より多く、60%より多く、70%より多く、80%より多く、若しくは90%より多くが配列決定される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記生成された新生抗原が、前記コードされたペプチドにおける全ての同定された差異の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、若しくは90%、又は実質的に全てを示す、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記同定された複数の前記新生抗原が、複数の異なるコンストラクト、又は好ましくは新生抗原あたり1つのコンストラクトに組み込まれる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記新生抗原は、前記同定された少なくとも1つの差異の上流及び/又は下流に、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、若しくは13個のアミノ酸(複数)を含み、前記上流のアミノ酸が、腫瘍細胞及び非腫瘍細胞において同一である可能性がある、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記コードされたペプチドにおける前記質的差異が、mRNAが前記第1の腫瘍試料から同定されるオープンリーディングフレームの同定によって決定され、ここで、mRNA(複数)は、(i)参照ペプチド配列と比較して少なくとも1つの異なるアミノ酸を有する予測ペプチド配列、及び/又は(ii)デノボ予測ペプチド配列を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記患者の全DNAが配列決定される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる、前記複数の新生抗原をコードする、DNA又はRNA配列のプール。
【請求項11】
前記複数の新生抗原が、少なくとも5種、好ましくは少なくとも10種、より好ましくは少なくとも40種、又は、さらにより好ましくは少なくとも100種の異なる新生抗原を含む、請求項10に記載のプール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は患者の個人化された新生抗原を同定するために、ゲノムに連結された分析に関する。特に、本発明は、患者の腫瘍の複数の新生抗原を生成するためのプロセスの発見に関する。より具体的には、本発明は、複数の新生抗原をコードするDNA配列のプールに関する。
【0002】
腫瘍学において、腫瘍を治療するための個別化ワクチン、例えば、患者の腫瘍の腫瘍特異的抗原(新生抗原:neoantigen)を含む個別化治療ワクチンは、次世代の個別化癌免疫療法として非常に有望である。
【背景技術】
【0003】
個別化された癌ワクチン接種の概念は、適切な免疫学的応答を誘発することができる新生抗原の同定に基づく。それは最適な個別化ワクチンを生成することを可能にし、腫瘍を攻撃する際に患者の免疫系を特異的に増強する。このような状況において、アルゴリズム予測に基づく複数の方法が、個別化された癌ワクチンのための最良の候補となる新生抗原を同定するために開発された。
【0004】
特許文献1は、個別化された癌ワクチン、T細胞療法、又はその両方のための新生抗原を同定及び選択するための最適化されたアプローチを提供する。次世代配列決定(NGS)を用いた新生抗原候補同定のための最適化された腫瘍エクソーム及びトランスクリプトーム分析アプローチが、取り扱われている。これらのアプローチは、実施形態に応じて、汎対立遺伝子ベースで複数の長さのペプチドの提示を予測するように構成された訓練された統計的回帰又は非線形深層学習モデルを含む。
【0005】
このモデルはペプチドの提示のより信頼できる予測を可能にし、限られた容量の患者末梢血を使用し、患者あたりわずかなペプチドをスクリーニングし、MHC多量体に必ずしも依存しない、臨床的に実用的なプロセスを使用する、個別化された治療のための新生抗原特異的又は腫瘍抗原特異的T細胞のより時間的及び費用効果的な同定を可能にする。
【0006】
しかしながら、この文献で開発された予測アルゴリズムは、依然として、患者内で適切な免疫学的応答を誘発しないかなりの数の偽陽性新生抗原を同定する。
【0007】
特許文献2は、所与の長さについて最大限の癌効力を有する核酸癌ワクチンを作製するためのコンピュータシステムを提供する。本文献は、所与の長さについて最大の抗癌効力を有し、体の細胞機構に、関心対象のほぼ任意の癌タンパク質又はそのフラグメントを産生させうることができる1つ又は複数の核酸を含む癌ワクチンを提供する。最大化された抗癌効力は、T細胞活性化値又は生存値を同定することによって決定され得る。
【0008】
特許文献3は、患者の腫瘍から新生抗原を同定及び選択するための方法を記載している。本明細書に記載される方法は、本明細書によれば、高い免疫原性力を示し得る複雑なゲノム再構成の同定を標的とする。
【0009】
特許文献4は、免疫原性である高い確率を有する新生抗原、すなわち、患者の腫瘍細胞の表面上の1つ以上のMHC対立遺伝子によって提示される高い確率を有する新生抗原を決定するための方法を記載する。この方法は、患者の免疫原性応答に最適であると予測される、ワクチンに含まれるべき新生抗原のインシリコ選択を記載する。
【0010】
現在、個別化ワクチンレストに組み込まれる複数の新生抗原を同定するための全ての方法は、少なくとも部分的に、患者において適切な免疫学的応答を誘発する最良の新生抗原候補を同定することを試みるアルゴリズムの予測からである。残念ながら、これらの文献はそれらの技術の利点を記載しているが、現在、高い成功レベルで適切な免疫学的応答を誘発する新生抗原の同定を可能にする方法は存在しない。実際に、予測アルゴリズムの使用にもかかわらず、同定された新生抗原のごく一部(4~20%)のみが、患者内の新生抗原に反応するT細胞のみかけ(apparition)によって検出可能な免疫学的応答を誘発する。
【0011】
本発明者らは、最良の新生抗原候補を同定するための技術水準において公知の方法は、少なくとも新生抗原ペプチドと特定の型のHLA受容体についてのみ利用可能なHLA受容体との間の親和性データに基づくため、偏っていると考える。したがって、最良の新生抗原候補を同定するための現在の方法は、前記特定のタイプのHLA受容体を有する患者についていくらかの有効性に達する可能性があり、一方、この方法は、異なる特定のタイプのHLA受容体を有する大部分の患者については非効率的である。一方、当技術分野の方法は、予測アルゴリズムの使用が応答の増加をもたらすと考えられるので、ある方法では、最適を表す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】EP3759131公開公報
【特許文献2】EP3813848公開公報
【特許文献3】WO2021/172990公開公報
【特許文献4】US2020/0105377公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、適切なT細胞応答を誘発するために、新生抗原が患者のHLA受容体型に対して親和性を有するように、腫瘍生検の試料から新生抗原を同定するためのプロセスを調整する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
これを達成するために、本発明者らは患者の複数の新生抗原を同定するためのプロセスを開発し、ここで、複数の新生抗原は患者のHLA受容体のタイプにかかわらず、患者への個別化ワクチンに組み込まれたときに、免疫学的応答を提供し、設計されたアルゴリズムに関連する落とし穴及び偏った結果を回避する。
本発明は、以下の工程を含む、患者において得られた試料から複数の新生抗原を生成するための方法(プロセス)を提供する:
- 該試料のDNA及び/又はRNAを配列決定する工程;
- 前記配列決定されたデータから、多数のDNA及び/又はRNA変異体を同定する工程;
- 前記多数のDNA及び/又はRNA変異体から、例えば、対応するコードされたペプチド(ミスマッチ変異、フレームシフト、染色体再編成、異なるRNAスプライシング)において、ペプチドレベルで少なくとも1つの質的差異を引き起こすもの、及び/又はオープンリーディングフレームからコードされる新規ペプチド配列の生成を引き起こすものであって、前記オープンリーディングフレームが腫瘍中にのみ存在するものを同定する工程;及び、前記複数の新生抗原を生成する工程であって、各新生抗原は、ペプチドレベルでの、同定された少なくとも一つの差異、例えば、(i)新生抗原を形成するように、前記同定された差異の上流及び/又は下流にある前記コードされたペプチド及びアミノ酸(複数)における前記同定された差異のうちの1つ、又は、(ii)新生抗原を形成するように、該新規ペプチド配列の少なくとも一部分を含む。
【0015】
実際、本発明による方法において、複数の新生抗原は、(i)対応するコードされたペプチドにおける質的差異、又は(ii)新規ペプチドの生成、を引き起こす複数のDNA変異体に対応し、又は複数の新生抗原は、患者において同定された全てではないとしても、患者のHLA受容体のタイプとは無関係な多くの(例えば、50を超える、60を超える、100を超える)腫瘍新生抗原の選択である。結果として、本発明による方法は個別化ワクチンに組み込まれたときに、患者における免疫学的応答を誘発することができる複数の新生抗原を提供する。
【0016】
本発明によれば、患者における免疫学的応答は、新生抗原を標的とする特異的T細胞の産生を指す。
【0017】
本発明はまた、本発明による方法によって得ることができる前記複数の新生抗原をコードするDNA及び/又はRNA配列のプールに関する。
【0018】
本発明の他の特徴及び利点は非限定的な以下の説明から、及び図面及び実施例を参照することによって導き出される。
【0019】
本発明者らは患者において得られた試料から複数の新生抗原を生成するための方法を開発し、この方法は以下の工程を含む:
- 試料からのDNAを配列決定する工程;
- 前記配列決定されたデータからの多数のDNA及び/又はRNA変異体を同定する工程;
- 前記多数のDNA及び/又はRNA変異体から、例えば、対応するコード化ペプチドにおいてペプチドレベルでの質的差異を引き起こすもの、及び/又は、オープンリーディングフレームからコードされる新規ペプチド配列の生成を引き起こし、ここで前記オープンリーディングフレームが腫瘍内にのみ存在するものを同定する工程;及び前記複数の新生抗原を生成する工程であって、各新生抗原は、(i)新生抗原を形成するように、前記同定された差異の上流及び/又は下流に、コードされるペプチド及びアミノ酸(複数)において、前記同定された差異の少なくとも1つを含み、又は(ii)新生抗原を形成するように、該新規ペプチド配列の少なくとも一部を含む。
【0020】
本発明によれば、複数の新生抗原は、(i)対応するコードされたペプチドに質的な差異を引き起こし、及び/又はオープンリーディングフレームからコードされる新規ペプチド配列の生成を引き起こす、複数のDNA変異体に対応し、ここで前記オープンリーディングフレームが腫瘍中にのみ存在するものであり、又は(ii)患者において同定された全ての腫瘍新生抗原からの選択に対応し、ここでこの選択は、好ましくは患者のHLA受容体のタイプとは独立している。
【0021】
本発明によれば、「新生抗原」という語は、患者の腫瘍特異的抗原を意味し、ここで、腫瘍特異的抗原は対応するコードされたペプチドのアミノ酸配列と比較して少なくとも質的差異を有するアミノ酸配列によって定義され、又は、ここで、腫瘍特異的抗原はオープンリーディングフレームからコードされた新規ペプチド配列に対応するアミノ酸配列によって定義され、ここで、前記オープンリーディングフレームは腫瘍中にのみ存在し、患者の正常細胞中には存在しない。
【0022】
好ましくは、複数の新生抗原の独立した選択は、患者において同定された全ての腫瘍新生抗原の少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%の(ランダムな)選択である。実際に、独立して選択されたそのような複数の新生抗原のうち、患者において同定された全ての新生抗原の選択に基づいて、いくつかの新生抗原は患者のHLA受容体のタイプに対して親和性を有し、新生抗原に応答するT細胞の外観によって定義される免疫学的応答を誘発する。
【0023】
本発明によれば、患者からの試料は、患者の固体及び/又は液体生検、好ましくは固体生検に由来し得る。
【0024】
本発明によれば、試料は、患者の少なくとも1個の腫瘍細胞に由来するDNA及び/又はRNAを含む。好ましくは、試料は、患者の血液試料(例えば、末梢血単核細胞(PBMC))由来のDNA及び/又はRNAをさらに含む。より好ましくは、試料は、患者の少なくとも1個の腫瘍細胞に由来するDNA及び/又はRNAを含む第1の腫瘍試料と、患者の血液試料由来のDNA及び/又はRNA及び/又は患者の適合した正常組織由来のDNA及び/又はRNAを含む第2の正常試料とを含む。
【0025】
好ましくは、第1の腫瘍試料は、患者の少なくとも1つの腫瘍細胞に由来するDNA及びRNAを含む。第1の腫瘍試料及び第2の正常試料は、別個の試料である。本発明によれば、患者の少なくとも1個の腫瘍細胞に由来するDNAを含む第1の腫瘍試料、及び患者の少なくとも1個の腫瘍細胞に由来するRNAを含む第1の腫瘍試料は、別個の試料であり得る。
【0026】
より好ましくは、患者の少なくとも1個の腫瘍細胞に由来するDNAを含む第1の腫瘍試料及び患者の少なくとも1個の腫瘍細胞に由来するRNAを含む第1の腫瘍試料は、同じ試料である。DNAの配列決定は、ハイスループットシーケンシング、パイロシーケンシング、合成によるシーケンシング、単一分子シーケンシング、ナノポアシーケンシング、半導体シーケンシング、ライゲーションによるシーケンシング、ハイブリダイゼーションによるシーケンシング、RNA-Seq(Illumina)、デジタル遺伝子発現(Helicos)、次世代シーケンシング、合成による単一分子シーケンシング(SMSS)(Helicos)、大規模並列シーケンシング、クローン単一分子アレイ(Solexa)、ショットガンシーケンシング、Maxam-Gilbert又はSangerシーケンシング、プライマーウォーキング、PacBio、SOLID、IonTorrent、又はNanoporeプラットフォームを使用するシーケンシング、及び当技術分野で公知の任意の他のシーケンシング方法などの任意の配列決定方法によって行うことができる。
【0027】
好ましくは、DNAの配列決定が次世代配列決定法によって行われる。次世代配列決定方法は、ハイスループット、超並列、DNA配列決定アプローチに対応する。DNAの配列決定は、NextSeq500/550又はNovaSeqシーケンサー又は任意のIllumina又はMGIシーケンサーで行うのが有利である。
【0028】
患者の全DNA、エクソーム又は特定標的DNAを配列決定することができる。好ましくは、患者の全DNAが配列決定される。好ましくは、第1の腫瘍試料及び第2の正常試料の全DNAが配列決定される。より好ましくは、第1の腫瘍試料及び第2の正常試料の全DNA及び第1の腫瘍試料のRNAが配列決定される。
【0029】
有利には、DNAの配列決定は、患者の少なくとも5種の異なる腫瘍細胞、好ましくは少なくとも20種の異なる腫瘍細胞、最も好ましくは少なくとも100種の異なる腫瘍細胞、好ましくは少なくとも1000種の異なる腫瘍細胞の単一細胞DNA配列決定である。
【0030】
実際に、腫瘍のタイプに応じて、及び/又は患者の腫瘍に応じて、腫瘍は腫瘍内不均一性の高レベルによって特徴付けられ得、腫瘍細胞における変異は、別の腫瘍細胞の変異と異なり得る。
【0031】
結果として、腫瘍の単一細胞DNA配列決定は、より多くの新生抗原の同定を可能にし、したがって、患者の複数の新生抗原をコードする個別化ワクチンに対するクローン耐性を防止するのに非常に有用であり得る。より好ましくは、同定された複数の新生抗原が2つ以上の腫瘍細胞に由来する。
【0032】
有利には、複数の新生抗原を同定する本発明による方法は、1回より多く、好ましくは腫瘍進展の異なる段階で、及び/又は腫瘍治療の前及び後に実施される。実際、腫瘍進展の間、腫瘍を定義する突然変異は、いくつかの突然変異が消失する一方で、他の突然変異が出現し得る場所に進展し得る。
【0033】
結果として、腫瘍は、新生抗原を標的とする特異的T細胞の攻撃から逃れることができる。好ましくは、本発明によるプロセスによって同定された複数の新生抗原は、患者から採取された最新の試料において同定された新生抗原に対応し、試料は患者の少なくとも1個の腫瘍細胞に由来するDNAを含む。
【0034】
本発明によれば、試料からのDNAの配列決定は、第1の腫瘍試料からのDNAの配列決定を含む。好ましくは、試料からのDNAの配列決定は、第1の腫瘍試料からのDNA及び第2の正常試料からのDNAの配列決定を含む。
【0035】
本発明によれば、DNA変異体は、第1の腫瘍試料からの配列決定されたデータを第2の正常試料からの配列決定されたデータと比較することによって同定される。
【0036】
別のバージョンによれば、本発明において、配列決定されたデータから多数のDNA変異体を同定することは、配列決定されたデータを参照ゲノムと比較することによって行われる。好ましくは、参照ゲノムはヒトゲノムである。より好ましくは、ヒトゲノムのヌクレオチド配列は、NCBIのhg19、すなわちgrch37などの公開データベースから得られる。
【0037】
しかしながら、患者の腫瘍の個別化されたDNA変異体を決定するために、腫瘍からの配列決定されたデータを、患者の正常組織及び/又は正常細胞、すなわちPBMCからの対応する配列決定されたデータと比較することが有利である。
【0038】
好ましくは、DNA変異体は、患者の特定の腫瘍型にしばしば存在することが知られているDNA変異体、及び/又は患者の腫瘍において同定された個別化されたDNA変異体であり得る。DNA変異体は、ドライバー変異又は「パッセンジャー変異」であり得る。
【0039】
ドライバー変異は、腫瘍の開始及び/又は発達を引き起こす突然変異であり、パッセンジャー変異は腫瘍進展の間に蓄積するが、腫瘍の進展過程において直接的な役割を示さない突然変異である。
【0040】
DNA変異体は、点突然変異及び/又は一塩基多型及び/又は転座及び/又はフレームシフト及び/又はインデル及び/又は欠失及び/又は融合(2つの異なるヌクレオチドセグメントの;すなわち転座事象)であり得る。
【0041】
DNA変異体は、配列決定されたDNAのエキソン領域及び/又はイントロン領域及び/又はサイレンシングされた部分に存在することができる。本発明によれば、DNA変異体は、オープンリーディングフレーム中に存在することができ、前記オープンリーディングフレームは、第1の腫瘍試料由来のDNA中及び第2の正常試料由来のDNA中に存在する。
【0042】
DNA変異体は、新たなオープンリーディングフレーム中に存在することもでき、ここで、前記新たなオープンリーディングフレームは第1の腫瘍試料中にのみ存在し、ここで、前記新たなオープンリーディングフレームはペプチドへの翻訳能力のない(プロモーター領域なし、開始コドンなし、未成熟終止コドン)第2の正常試料のDNAの領域に対応する。
【0043】
好ましくは、DNAの配列決定及びRNAの配列決定(第1の腫瘍試料中)は、同じ試料に由来するDNA及びRNAに対して行われる。
【0044】
好ましくは、コードされたペプチドにおける質的差異は、mRNAが腫瘍由来のRNA配列決定データから同定されるオープンリーディングフレームの同定によって決定され、ここで、mRNAは、(i)参照ペプチド配列と比較して少なくとも1つの異なるアミノ酸を有する予測ペプチド配列、及び/又は(ii)デノボ予測ペプチド配列を有する。
【0045】
好ましくは、〔上記の(i)での〕質的差異は、参照ペプチド配列と比較して、異なるアミノ酸を引き起こす点突然変異の結果、又は転座、欠失、インデル、及び/又は融合の結果であり得る。参照ペプチド配列は、好ましくは、患者の第2の正常試料からのDNA配列決定データからの予測ペプチド配列である。
【0046】
好ましくは、新生抗原は、同定された少なくとも1つの差異の上流及び/又は下流に2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13アミノ酸を含み、前記上流アミノ酸は、腫瘍細胞及び非腫瘍細胞において同一である可能性がある。
【0047】
新生抗原は、優先的には少なくとも7アミノ酸長、好ましくは10アミノ酸長より長く、より好ましくは15アミノ酸長より長く、さらにより好ましくは20アミノ酸長より長く、好ましくは200アミノ酸長未満、より好ましくは100アミノ酸長未満、さらにより好ましくは50アミノ酸長未満、好ましくは約27アミノ酸長の配列である。
【0048】
好ましくは、質的差異は、新生抗原の配列の実質的に中央に位置する。
【0049】
好ましくは、新生抗原はまた、オープンリーディングフレームからコードされる新規ペプチド配列の少なくとも一部を含んでもよく、ここで、前記オープンリーディングフレームは腫瘍中にのみ存在し、ここで、前記新規ペプチド配列の少なくとも一部は、優先的には少なくとも7アミノ酸長、好ましくは10アミノ酸長より長く、より好ましくは15アミノ酸長より長く、さらにより好ましくは20アミノ酸長より長く、好ましくは200アミノ酸長未満、より好ましくは100アミノ酸長未満、さらにより好ましくは50アミノ酸長未満、好ましくは約27アミノ酸長の配列である。
【0050】
好ましくは、新生抗原配列は、(i)ヒトにおける最適な抗原/新生抗原発現のためのコドンの使用を最適化する、及び/又は(ii)核酸配列の二次構造の生成を低減する、及び/又は(iii)望ましくない免疫応答に関連するRNAモチーフを回避する、及び/又は(iii)所望の免疫応答に関連するモチーフを好むツールによって、核酸配列に変換される。
【0051】
好ましくは、生成された新生抗原は、コードされたペプチドにおける全ての同定された差異の少なくとも10%(少なくとも20、30、40、50、60、70、80、90%、実質的に全て)を示す。
【0052】
実際に、生成された新生抗原が、コードされたペプチドにおける同定された差異の大部分を表す場合、新生抗原の中で、前記生成された新生抗原のいくつかが、個別化ワクチンに導入されたときに、患者におけるより強い免疫学的応答を誘発し、したがって個別化ワクチンの有効性を増加させる可能性がより高い。
【0053】
好ましくは、本発明による同定された複数の新生抗原は、複数の異なるコンストラクト、好ましくは新生抗原あたり1つのコンストラクトに組み込まれる。
【0054】
有利には、複数の異なるコンストラクトの各々のコンストラクトは、対応するRNA分子への転写のためのプロモーターの制御下にある腫瘍新生抗原をコードする1つのセグメントと、前記転写されたRNA分子のペプチドへの翻訳のためのセグメントとを含む合成DNA分子である。
【0055】
好ましくは、合成DNA分子は、細胞内及び/又は細胞表面の小胞領域において、細胞合成腫瘍新生抗原を安定化及び/又は標的化及び/又は輸送するための(ペプチド)配列をコードするセグメントをさらに含む。
【0056】
より好ましくは、合成DNA分子は、コードされた腫瘍新生抗原をMHC分子に接近(addressing)させるための(ペプチド)配列をコードするセグメント、及び/又は翻訳エンハンサー及び/又は3'-UTR及び/又は3'ポリAテールセグメント及び/又は5'-UTRをコードするセグメントを含む。
【0057】
好ましくは、前記コンストラクトは、インビトロ転写のためのDNA鋳型として機能し、患者の個別化RNAワクチンにおいて使用することができるRNA鋳型を生成する。
【0058】
好ましくは、患者のDNAの20%より多く、30%より多く、40%より多く、50%より多く、60%より多く、70%より多く、80%より多く、90%より多くが配列決定される。実際に、患者のDNAの配列決定割合を増加させることによって、同定された複数のDNA変異体が増加し、患者の腫瘍の個別化された変異体プロファイルに関する包括的及び/又はより完全な見解を可能にし、それによって、患者の腫瘍の新生抗原プロファイルに関するより完全な見解の生成が可能になる。
【0059】
本発明はまた、本発明による方法によって得ることができる、前記複数の新生抗原をコードするDNA配列のプールに関する。
【0060】
好ましくは、前記複数の新生抗原は、少なくとも5種、好ましくは少なくとも10種、より好ましくは少なくとも40種、さらにより好ましくは少なくとも100種の異なる新生抗原を含む。
【0061】
実際、患者の腫瘍の腫瘍新生抗原を含む個別化ワクチンで適切な免疫学的応答を誘発するためには、ワクチンが患者の腫瘍において同定された新生抗原の大部分を組み込んでいることが有利である。
【0062】
腫瘍新生抗原の数は、腫瘍のタイプとは著しく異なり得、いくつかの腫瘍は変異及び新生抗原が非常に少ない「冷たい腫瘍」として定義され、一方、他の腫瘍は非常に多くの、例えば、100より多くの異なる腫瘍新生抗原によって特徴付けられる「熱い腫瘍」として定義される。
【実施例】
【0063】
実施例1:腫瘍試料からのDNAの採取及び配列決定のためのDNAの調製
第1の工程において、本発明者らは、腫瘍試料からDNAを採取した。
そのために、以下の工程が実行された:
- 患者の腫瘍生検を含むパラフィン包埋ブロックから、ブロックを厚さ7μmのスライドに切り出し、
- ヘマトキシリンエオシンで最初及び最後のスライドを染色し(H&E スライド)、
- 目視検査により、良好な形状の十分な腫瘍細胞を含むスライドの領域を最初のスライドから同定し、
- この最初の着色化スライド上に、最も多くの腫瘍細胞を含む領域をマークし、
- 腫瘍の同じ領域をマークするために、染色されていないスライド上で、しかし、異なるスライス上で、最初のスライドのマーキングを移し、
- これらのマークされた領域から細胞を摘出し(マクロダイセクションステップ:macrodissection step)、
- これらのスライドからDNAを抽出し、配列決定のためのDNAを形成し、
- 並行して、DNAを定量し、
- 並行して、抽出されたDNAを定性する。
DNAは、配列決定に使用することができる。
【0064】
実施例2:腫瘍試料からのRNAの採取及び配列決定のためのRNAの調製
腫瘍試料からRNAを採取するために、本発明者らは実施例1に記載の工程と同じ工程を行ったが、DNAの代わりにRNAを採取した。次いで、RNAを配列決定に使用することができる。
【0065】
実施例3:腫瘍から単離された試料及び患者から得られた血液から単離されたPBMCからのDNAの配列決定
実施例1で採取されたDNA及び血液から単離されたPBMCから採取されたDNAから、全ゲノム配列決定が行われた;ここではNovaSeq S2フローセルを使用してNovaSeqシーケンサーが使用され、行われた配列決定は「ペアエンド配列決定」:2*150bpである。平均配列決定範囲は少なくとも50倍である。この配列決定により、総数に対して90%のクラスターの通過フィルターを得ることが可能になった。配列決定読み取り値は、約40億(40億/8試料)である。
【0066】
実施例4:患者から得られた腫瘍試料からのRNAの配列決定
実施例2で採取されたRNAから、本発明者らは、供給業者の推奨に従って、NEBNext(登録商標)Ultra(商標)II Directional RNA Library Prep Kit for Illumina(NEB)を用いて、ライブラリーを調製した。このプロトコールの重要な工程は、(i)QIAseq FastSelect -rRNA HMRキット(Qiagen)を用いた全RNAの80ngからのリボソームRNA画分の除去、(ii)約300bpの断片を得るための高温下での二価カチオンを用いた断片化、(iii)逆転写酵素及びランダムプライマーを用いた二本鎖cDNA合成、及び(iv)配列決定のためのPCRによるIlluminaアダプターライゲーション及びcDNAライブラリー増幅である。次いで、RNA配列決定は、ペアエンド100bモードで、llumina NovaSeq 6000を用いて行われた。
【0067】
実施例5:患者の腫瘍からのDNA変異体の同定
バイオインフォマティクス解析、例えばABRA(https://academic.oup.com/bioinformatics/article/30/l9/2813/2422200)、SAMTOOLS(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2723002/)、BEDTOOLS(https://academic.oup.com/bioinformatics/article/26/6/841Z244688)又はFASTP(https://academic.oup.com/bioinformatics/article/34/17/1884/5093234)を使い、全ゲノム配列決定によって得られた配列決定データ(実施例3参照)が、腫瘍の配列決定データとPBMCの配列決定データとを比較することによって、患者の腫瘍の複数のDNA変異体を同定することを可能にした。
【0068】
実施例6:患者の腫瘍の新生抗原の同定
RNA配列決定(実施例4参照)からmRNAが検出されるオープンリーディングフレームが同定された。次いで、PBMCからのDNA配列決定データに由来する予測ペプチド配列と比較して、少なくとも1つの異なるアミノ酸を有する予測ペプチド配列を有するmRNAが選択された。次いで、本発明者らは、選択されたmRNAが、実施例5において同定されたDNA変異体に由来するかどうかを調べた。次いで、本発明者らは、選択されたmRNAのペプチド配列を予測することによって腫瘍の新生抗原を同定した。
【0069】
実施例7:患者の腫瘍からの複数の新生抗原の生成
本発明者らは、選択されたmRNAの予測ペプチド配列(実施例6参照)と、PBMCからのDNA配列決定データに由来する対応する予測ペプチド配列との差異を同定した。これに基づいて、適合した正常組織の対応する配列と比較してそれぞれ異なるアミノ酸配列を有する27アミノ酸の20種の新生抗原が設計された。各新生抗原について、差異は、27アミノ酸のアミノ酸配列の実質的に中央に位置する。これら20種の新生抗原は、配列番号1~配列番号20に対応するアミノ酸配列を有する。さらに、40種のランダムエピトープ(抗原)が、配列番号21~配列番号60に対応するアミノ酸配列を有するインビトロ試験のための内部対照として設計された。
【0070】
本発明は、記載された実施形態に限定されず、特許請求の範囲から逸脱することなく変形が適用され得ることが理解されるべきである。
【配列表】
【国際調査報告】