(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】β-D-N-アセチルグルコサミニダーゼを標的とするベクター
(51)【国際特許分類】
C07K 5/10 20060101AFI20240905BHJP
A61K 47/62 20170101ALI20240905BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240905BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240905BHJP
C07K 14/76 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C07K5/10
A61K47/62
A61P35/00
A61P43/00 123
C07K14/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516583
(86)(22)【出願日】2022-09-13
(85)【翻訳文提出日】2024-04-23
(86)【国際出願番号】 EP2022075426
(87)【国際公開番号】W WO2023041531
(87)【国際公開日】2023-03-23
(32)【優先日】2021-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504007888
【氏名又は名称】センター ナショナル デ ラ レシェルシェ サイエンティフィーク
(71)【出願人】
【識別番号】510256920
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ドゥ ポワティエ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE POITIERS
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パポー,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ルヌー,ブリジット
(72)【発明者】
【氏名】シャトレ,レミ
【テーマコード(参考)】
4C076
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF68
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA13
4H045CA40
4H045DA70
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA10
4H045FA71
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、式(I)の化合物であって、
式中、
Aは、抗癌剤であり、
Yは、電子求引基又は電子供与基であり、
Lは、リンカー-A
1-A
2-A
3-A
4-A
5-A
6-を表し、
A
1、A
3、及びA
5は、(C
1~C
6)アルキレン基を表し、
A
2は、クリックケミストリーによって得られる基を表し、
A
4は、少なくとも1個の酸素原子によって中断された(C
1~C
32)アルキレン基であり、
A
6は、-NR
c-、-O-、及び-S-からなる群から選択される基であり、R
cは、H又は(C
1~C
12)アルキル基を表し、
L’は、アミノ、ヒドロキシ、又はチオール官能基と反応することができる基である、化合物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I)の化合物であって、
【化1】
式中、
Aは、抗癌剤であり、
Yは、電子求引基又は電子供与基であり、
Lは、以下の式(II)に対応するリンカーを表し、
-A
1-A
2-A
3-A
4-A
5-A
6- (II)
式中、
A
1は、(C
1~C
6)アルキレン基を表し、
A
2は、クリックケミストリーによって得られる基を表し、
A
3は、(C
1~C
6)アルキレン基を表し、
A
4は、少なくとも1個の酸素原子によって中断された(C
1~C
32)アルキレン基を表し、好ましくはポリオキシアルキレン基であり、
A
5は、(C
1~C
6)アルキレン基を表し、
A
6は、-NR
c-、-O-、及び-S-からなる群から選択される基であり、R
cは、H又は(C
1~C
12)アルキル基を表し、
L’は、アミノ官能基、ヒドロキシ官能基、又はチオール官能基、好ましくはチオール官能基と反応することができる基を表す、化合物、
及びその薬学的に許容される塩、又はそのラセミジアステレオマー若しくはエナンチオマー混合物。
【請求項2】
A
2は、トリアゾール基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
以下の式(III)を有する、
【化2】
式中、A、A
1、A
3、A
4、A
5、A
6、及びL’は請求項1で定義した通りである、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
A
4は、式-(CH
2-O-CH
2)
n-の基であり、nは、1~12からなる整数である、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
以下の式(IV)に一致する、
【化3】
式中、iは、1~6の整数であり、
jは、1~6の整数であり、
nは、1~12の整数であり、
A及びL’は、請求項1で定義した通りである、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
L’は、マレイミドカプロイル基である、請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
Aは、モノメチルアウリスタチンE、ドキソルビシン、又はその誘導体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
以下の式に一致する、請求項1~7のいずれか一項に記載の化合物。
【化4】
【請求項9】
アルブミン分子又はその断片若しくは誘導体に共有結合によって結合した、請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物を含むプロドラッグ。
【請求項10】
医薬品として使用するための、請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物又は請求項9に記載のプロドラッグ。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物若しくは請求項9に記載のプロドラッグ、又は薬学的に許容される塩、並びに少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項12】
癌の治療及び/又は予防に使用するための、請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物又は請求項9に記載のプロドラッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β-D-N-アセチルグルコサミニダーゼを標的とする新規ベクター、及び対応するプロドラッグに関する。本発明はまた、癌の治療に使用するための当該ベクター及びプロドラッグに関する。
【背景技術】
【0002】
癌及び炎症性疾患は、現時点で最も一般的な病理学的状態の1つである。様々な可能な治療様式の中で、化学療法は、リンパ腫及び白血病などの循環腫瘍、並びに転移に対してのみ使用可能である。化学療法において想定することができる活性成分の中には、特定の天然ペプチド化合物、例えば、特に、4つのアミノ酸からなり、そのうちの3つが特異的である、海洋界に由来する直鎖状天然化合物であるドラスタチン10がある。ドラスタチン10の合成誘導体も現在入手可能であり、好ましい。それらは、より具体的には、アウリスタチンPE、アウリスタチンE、及びモノメチルアウリスタチンE(MMAE)を含む。ドラスタチン、アウリスタチンE、及びそれらの誘導体は、チューブリンの重合を阻害し、したがって細胞分裂を防止する(抗有糸分裂)特性を有する。しかしながら、ドラスタチンファミリーのこれらの活性成分は、残念ながら、臨床的に使用される他の抗癌活性薬剤が行うように、腫瘍細胞に関して満足な選択性を欠いている。実際、それらは健康な組織も標的とする。この非選択的破壊は、重篤な副作用を引き起こし、ほとんどの場合、治療の早期停止につながる。したがって、健康な器官に影響を及ぼすことなく腫瘍を選択的に破壊することができる新規な抗癌剤の開発は、癌に対抗することにおいて大きな関心が寄せられている。
【0003】
アルブミンにインビボで結合することができるグルクロン酸化ベクターでβ-グルクロニダーゼを標的化することは、多種多様な悪性病変を治療するための非常に有効な戦略である。腫瘍微小環境におけるその発現は、この酵素を種々の活性成分の選択的放出のための選択の標的にする。一方、ベクター化されたポリ化学療法を開発する目的で、固形腫瘍の細胞外マトリックス中に高濃度で存在する他の酵素の発見は非常に興味深い。β-グルクロニダーゼの活性は、それが作用するのに最適ではないpH(6~6.5)のために、腫瘍微小環境において実際に低下する。したがって、悪性組織への大量のベクターの流入によって引き起こされるこの酵素の飽和は、この標的化戦略の限界を構成し得る。これに関連して、β-グルクロニダーゼ以外の酵素を標的とする新しいグリコシル化トリガーの開発は、この問題を克服するための興味深い代替法である。実際、異なる酵素の基質ベクターのカクテルの使用は、単一の酵素の活性の飽和を制限することを可能にし、したがって、より高濃度の抗癌剤の腫瘍への選択的放出をもたらすはずである。更に、このアプローチは、ベクター化されたポリ化学療法の間に、その放出が特異的グリコシダーゼによって制御される異なる活性分子を標的化するために適切であり得、この戦略は、現在までまだ使用されていない。
【0004】
β-D-N-アセチルグルコサミニダーゼは、大多数の細胞に存在するリソソームグリコシダーゼである。それは、糖タンパク質上に存在するN-アセチルグルコサミン残基の選択的加水分解活性を有し、その特性の活性化又は不活性化に寄与する。この設計の存在は、N-アセチルグルコサミン残基を固定するD-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼの活性とβ-D-N-アセチルグルコサミニダーゼの活性との間の平衡に由来する。この平衡から、細胞増殖にとって重要である多数のシグナル伝達プロセスが生じる。この恒常性の不均衡は、癌の特定の症例において観察され、タンパク質における発癌特性の出現をもたらした(A.Peixoto,M.Relvas-Santos,R.Azevedo,L.L.Santos,J.A.Ferreira,Front.Oncol.,2019,9,380;H.Nie,H.Ju,J.Fan,X.Shi,Y.Cheng,X.Cang,Z.Zheng,X.Duan,W.Yi,Nat.Commun.2020,11,36R.Muniz de Queiroz,R.Madan,J.Chien,W.B.Dias,C.Slawson,JBC,2016,291,18897-18914;Z.Ma,K.Vosseller,JBC,2014,289,34457-34465 and J.A.Hanover,W.Chen,M.R.Bond,J.Bioenerg.Biomembr.,2018,50,155-173)。
【0005】
β-N-アセチルグルコサミニダーゼの濃度を高めることは、活性成分の選択的放出のための興味深い特徴であるが、この酵素の基質化合物は治療目的のためにほとんど開発されていない。
【発明の概要】
【0006】
したがって、本発明の目的は、酵素β-N-アセチルグルコサミニダーゼの新規ベクターを提供することである。
【0007】
したがって、本発明は、以下の式(I)の化合物であって、
【0008】
【化1】
式中、
Aは、抗癌剤であり、
Yは、電子求引基又は電子供与基であり、
Lは、以下の式(II)に対応するリンカーを表し、
-A
1-A
2-A
3-A
4-A
5-A
6- (II)
式中、
A
1は、(C
1~C
6)アルキレン基、特に-CH
2-を表し、
A
2は、クリックケミストリーによって得られる基、特にトリアゾールを表し、
A
3は、(C
1~C
6)アルキレン基、特に-CH
2-を表し、
A
4は、少なくとも1個の酸素原子によって中断された(C
1~C
32)アルキレン基を表し、好ましくはポリオキシアルキレン基であり、特に
-(CH
2-O-CH
2)
10-、
A
5は、(C
1~C
6)アルキレン基、特に-CH
2-を表し、
A
6は、-NR
c-、-O-及び-S-からなる群から選択される基であり、R
cは、H又は(C
1~C
12)アルキル基、特に-NH-を表し、
L’は、アミノ、ヒドロキシ又はチオール官能基、好ましくはチオール官能基と反応することができる基を表す、化合物、
及びその薬学的に許容される塩、又はそのラセミジアステレオマー若しくはエナンチオ
マー混合物に関する。
【0009】
本発明による式(I)の化合物は、抗癌剤A及びβ-N-アセチルグルコサミニダーゼの基質のベクターである。
【0010】
式(I)の化合物は、不斉中心を有することができる。非対称に置換された原子を含む本発明の化合物は、光学活性形態又はラセミ形態で単離することができる。ラセミ形態の分割又は光学活性出発物質からの合成などによって、光学活性形態を調製する方法は、本発明の分野において周知である。立体化学又は異性体形態が具体的に示されない限り、化合物の全てのキラル、ジアステレオ異性体、ラセミ形態、及び全ての幾何異性体形態が対象とされる。
【0011】
「薬学的に許容される塩」という用語は、本発明の化合物の生物学的有効性及び特性を保持し、生物学的に又は他の点で望ましくないものではない塩を指す。多くの場合、本発明の化合物は、アミノ基及び/若しくはカルボキシル基又はこれらに類似の基の存在によって、酸塩及び/又は塩基塩を形成することができる。薬学的に許容される酸付加塩は、無機酸及び有機酸から調製することができ、薬学的に許容される塩基付加塩は、無機塩基及び有機塩基から調製することができる。薬学的に許容される塩の概説については、Berge et al.((1977)J.Pharm.Sd,vol.66,1)を参照されたい。「薬学的に許容される塩」という表現は、非毒性の薬学的に許容される無機酸若しくは有機酸又は無機塩基若しくは有機塩基を用いて形成される非毒性の塩を指す。例えば、塩は、無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸及び類似の酸から誘導される塩、並びに有機酸、例えば、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、フマル酸、メタンスルホン酸、及びトルエンスルホン酸及び類似の酸から調製される塩を含む。
【0012】
上述したように、Aは抗癌剤である。
【0013】
一実施形態によれば、抗癌剤は、細胞増殖抑制剤、代謝拮抗剤、DNAインターカレーター、トポイソメラーゼI及びII阻害剤、チューブリン阻害剤、アルキル化剤、ネオカルチノスタチン、カリチアマイシン、ダイネマイシン又はスピラマイシンA、リボソーム阻害剤、チロシンホスホキナーゼ阻害剤、分化誘導化合物、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、低分子量免疫調節剤、又は癌性幹細胞を標的とする低分子量から選択される。
【0014】
更により具体的には、本発明による抗癌剤は、細胞増殖抑制剤及び代謝拮抗剤、例えば、5-フルオロウラシル、5-フルオロシチジン、5-フルオロウリジン、シトシンアラビノシド、若しくはメトトレキサートから、DNAインターカレーター、例えば、ドキソルビシン、ダウノマイシン、イダルビシン、エピルビシン、若しくはミトキサントロンから、トポイソメラーゼI及びII阻害剤、例えば、カンプトテシン、エトポシド、又はm-AMSAから、チューブリン阻害剤、例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、タキソール、ノコダゾール、若しくはコルチシンから、アルキル化剤、例えば、シクロホスファミド、ミトマイシンC、アクルマイシン、シスプラチン、マスタードガスホスホアミド、メルファラン、ブレオマイシン、N-ビス(2-クロロエチル)-4-ヒドロキシアニリン、ネオカルチノスタチン、カリケアマイシン、ダイネマイシン、若しくはスピラマイシンAから、又はリボソーム阻害剤、例えば、ベルカリンAから、チロシンホスホキナーゼ阻害剤、例えば、ケルセチン、ゲニスタイン、エルブスタチン、チルホスチン、若しくはチロホスチン及びそれらの誘導体から、分化を誘導する化合物、例えば、レチノイン酸、酪酸、ホルボールエステル、若しくはアクラシノマイシンから、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、例えば、CI-994又はMS275から、免疫調節剤、例えば、イミキモドから、並びに癌性幹細胞を標的とする小分子、例えば、ヘッジホッグ阻害剤様シクロパミン誘導体からのものである。
【0015】
一実施形態によれば、本発明による抗癌剤は、コンポスタチンAに類似した血管形成阻害剤、シクロパミンなどのヘッジホッグ経路阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、又は免疫賦活剤から選択される。
【0016】
ドラスタチンのファミリーは、少なくとも4種のアミノ酸の構造を有する化合物のクラスを表し、その少なくとも3種は特異的であり、すなわち、天然に最も一般的に見出される20種のアミノ酸とは異なる。
【0017】
特に、本発明に適したものによる化合物を記載している文献の国際公開第2004/010957号が参照され得る。
【0018】
本発明の特に好ましい実施形態では、Aは、ドラスタチン10、アウリスタチンPE、アウリスタチンE、モノメチルアウリスタチンE、及びそれらの誘導体に由来する基、好ましくはモノメチルアウリスタチンE又はその誘導体に由来する基を表す。
【0019】
ドラスタチン10とアウリスタチンサブファミリーの合成化合物との間の構造的な差異は、特に、アウリスタチンPE、アウリスタチンE、又はモノメチルアウリスタチンの場合、ノルエフェドリン単位による、ドラスタチン10のC末端位置におけるアミノチアゾールフェネチル基の置換にある。
【0020】
本発明の文脈において、特に好ましい一実施形態では、ドラスタチンファミリーの基は、有利にはモノメチルアウリスタチンE(MMAE)及びその誘導体から選択される。
【0021】
本発明の目的のために、ドラスタチン10、アウリスタチンPE、アウリスタチンE、又はモノメチルアウリスタチンEの誘導体は、その活性薬剤の少なくとも1つに非常に関連した化学構造を有し、ドラスタチンファミリーの化合物に起因する抗有糸分裂特性を有する。
【0022】
その構造的差異は、特に、例えば、それを構成する4種のアミノ酸のうちの少なくとも1つの少なくとも1つの側鎖上の置換であり得る。この置換は、直鎖、環状、及び/又は分岐アルキル基、アリール基、複素環、又は炭素環を含む、又は表すように行われ得る。
【0023】
この構造的差異はまた、この機能を考慮中のリンカーアームとの共有結合の確立と適合させるように、例えば、N末端位置におけるその第三級アミンのレベルでの、ドロスタチン10(dolostatine 10)、アウリスタチンPE、又はアウリスタチンE分子の改変からなり得る。
【0024】
これらの目的に最も適した改変を選択することは、当業者の一般知識の一部である。
【0025】
好ましい実施形態によれば、Aは、モノメチルアウリスタチンE、ドキソルビシン、又はその誘導体である。
【0026】
好ましくは、Aは、以下の式(A-1)で表される。
【0027】
【0028】
本発明の文脈において、「電子求引基」は、電子を引き付ける原子又は原子群の特性を指す。
【0029】
例えば、基NO2、エステル、CN基、ハロゲン原子、及びアルコキシ基からなる群から選択される基を挙げることができる。好ましくは、当該基は、NO2基、CO2Me基、CN基、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子、塩素原子、及びメトキシ基からなる群から選択される。
【0030】
本発明の文脈において、「電子供与基」は、電子を供与する原子又は原子群の特性を指す。
【0031】
電子供与性基は、フェニル基、ヒドロキシ基(OH)、C1~C10、好ましくはC1~C6の直鎖又は分岐アルキル、ハロゲン原子、水素原子、及びアルコキシ基からなる群から選択される基を指す。
【0032】
好ましくは、Yは、電子求引基であり、特にハロゲン原子、NO2原子、及びCF3原子からなる群から選択される。好ましくは、Yは、NO2である。
【0033】
本発明による式(I)の化合物において、上で示したように、リンカーLは、基A6が基L’に結合し、基A1が基-O-C(=O)-A及び上記フェニルを有する炭素原子に結合するようなものである。
【0034】
本出願によれば、「アルキル」という用語は、特に明記しない限り、鎖中に1~12個の炭素原子を有する、直鎖又は分岐鎖であり得る飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基を意味する。好ましいアルキル基は、鎖中に1~6個の炭素原子を有する。「分岐」は、メチル、エチル、又はプロピルなどの1つ以上の低級アルキル基が直鎖アルキル鎖に結合されていることを意味する。「低級アルキル」は、直鎖又は分岐であり得る鎖中の約1~約4個の炭素原子を意味する。
【0035】
本明細書で使用される「アルキレン」という用語は、別段の記載がない限り、1~6個の炭素原子を含む二価基を指す。アルキレン基は、水素原子が1個少ないアルキル基に相当する。当該基は、それが直鎖状である場合、特に、式(CH2)nで表すことができ、式中、nは1~6の整数である。
【0036】
好ましくは、式(I)において、A1は、-CH2-基を表す。
【0037】
本発明によれば、式(I)において、A2は、クリックケミストリーによって得られる
基である。したがって、この基は、クリックケミストリー反応によって得られる。
【0038】
これらのクリックケミストリー反応としては、特に、不飽和化合物の付加環化が挙げられ、中でも、ジエノフィルとジエンとの間のディールス-アルダー反応、特にアジド-アルキン1,3-双極性付加環化、好ましくは銅触媒アジド-アルキン付加環化(CuAAC)が挙げられる。
【0039】
他のクリックケミストリー反応は、アルケン及び混合ジスルフィドからのチオエーテルの形成などのチオール官能基を伴う反応、並びに非アルドール型の求電子性カルボニル基を伴う反応、例えば、オキシアミンからのオキシムエーテルの形成、ヒドラジンからのヒドラゾンの形成、又はチオセミカルバジドからのチオセミカルバゾンの形成を含む。
【0040】
クリックケミストリー反応として、チオエステル及びアミドの形成をもたらすチオカルボン酸又はチオエステルが関与する反応、並びにアジドとホスフィンとの間の反応(シュタウディンガーライゲーションなど)も挙げることができる。
【0041】
好ましくは、基A2は、2つの反応性官能基間の反応によって得られ、当該反応は、
アジドとアルキンとの反応、
アルデヒド又はケトンとヒドラジドとの反応、
アルデヒド又はケトンとオキシアミンとの反応、
アジドとホスフィンとの反応、
アルケンとテトラジンとの反応、
イソニトリルとテトラジンとの反応、及び
チオールとアルケンとの反応(チオール-エン反応)からなる群から選択される。
【0042】
好ましい一実施形態によれば、A2は、トリアゾール基である。
【0043】
好ましくは、A2はトリアゾール基、好ましくは以下の式(II-1)に対応する基である。
【0044】
【0045】
一実施形態によれば、前述の式(II)において、A3は、-CH2-基を表す。
【0046】
一実施形態によれば、前述の式(II)において、A4は、ポリオキシアルキレン基を表す。
【0047】
好ましくは、A4は、式-(CH2-O-CH2)n-の基であり、nは、1~12の整数である。特に、A4は、-(CH2-O-CH2)10-基である。
【0048】
一実施形態によれば、前述の式(II)において、A5は、-CH2-基を表す。
【0049】
一実施形態によれば、前述の式(II)において、A6は、-NH-基である。
【0050】
式(I)において、上記のように、L’は、アミノ官能基、ヒドロキシル官能基、又はチオール官能基と反応することができる基である。
【0051】
本発明の文脈において、「アミノ官能基、ヒドロキシル官能基、又はチオール官能基と反応することができる基」は、第二級アミノ官能基、ヒドロキシル官能基、又はチオール官能基と相互作用することができ、したがって、共役分子と、この共有結合官能基の生成に適合するこの官能基を有する別個の化学物質との間に共有結合を確立することができる官能基又は化学単位を有する基、一般に炭化水素基を示す。本発明の文脈において、この別個の化学物質は、より具体的には、生体に天然に存在する高分子であり、有利には、ヒト血清アルブミンなどの内因性アルブミンの分子である。
【0052】
一実施形態によれば、L’は、マレイミド基を含む。
【0053】
一実施形態によれば、L’は、以下の式に一致する。
【0054】
【化4】
式中、L’’は、電子求引基、特にCF
3などのハロ(C
1~C
6)アルキル基によって任意に置換された(C
1~C
12)アルキレン基、又は電子求引基、特にハロゲンによって任意に置換されたフェニレン基を表す。
【0055】
好ましい実施形態によれば、L’は、マレイミドカプロイル基である。
【0056】
一実施形態によれば、本発明の化合物は、以下の式(III)に一致し、
【0057】
【化5】
式中、A、A
1、A
3、A
4、A
5、A
6、及びL’は上で定義した通りである。
【0058】
好ましい一実施形態によれば、本発明の化合物は、以下の式(IV)に一致し、
【0059】
【化6】
式中、iは、1~6の整数であり、
jは、1~6の整数であり、
nは、1~12の整数であり、
A及びL’は、上で定義した通りである。
【0060】
本発明による好ましい化合物は、以下の式に一致する。
【0061】
【0062】
本発明はまた、アルブミン分子、又はその断片若しくは誘導体に共有結合によって連結された、上で定義したような式(I)の化合物を含むプロドラッグに関する。
【0063】
本発明の意味の範囲内で、「プロドラッグ」という用語は、生物内で抗癌剤、特にドラスタチンファミリーの化合物を不活性化形態で運搬することができ、かつβ-N-アセチルグルコサミニダーゼの作用下でその化合物を特異的に標的化された器官、組織又は細胞内に放出することができる分子を指す。
【0064】
このようなプロドラッグは、特に、以下の式(V)に一致し、
【0065】
【化8】
式中、A、L、及びYは、式(I)において上で定義した通りである。
【0066】
単位L’1は、一方では、遊離アミノ官能基、ヒドロキシル官能基、又はチオール官能基、特に高分子、有利にはアルブミン分子、更により有利には血清アルブミンが有する遊離チオール官能基と反応することができる単位を含む基L’の間の反応から誘導される。
【0067】
本出願において、プロドラッグは、高分子、好ましくはアルブミン分子を用いてインビボ又はインビトロで形成され得る。
【0068】
したがって、内因性又は外因性アルブミン、特にヒト血清アルブミン、組換えアルブミン又はアルブミン断片が想定され得る。
【0069】
一実施形態によれば、本発明によって記載されるコンジュゲートの分子と、内因性アルブミンの分子、特にヒト血清アルブミン分子又はその誘導体との間の共有結合は、インビボで実行される。
【0070】
一実施形態では、本発明によるプロドラッグは、内因性アルブミンの分子のシステイン-34位の硫黄チオエーテル結合によって連結された式(I)を有する本発明による少なくとも1つのコンジュゲート分子を含む。
【0071】
実際に、共有結合が、例えば、一方では、チオール官能基と反応することができる基を有する化合物と、ヒトアルブミンのシステイン-34位のチオール官能基との間でインビボで自発的に確立されることが示されている(Kratz et al.2002,J.Med.Chem.)。
【0072】
本発明はまた、基-L’1-アルブミンが以下の式(VI)に相当する、前述の式(V)のプロドラッグに関する。
【0073】
【化9】
式中、L’は上記で定義した通りであり、pは1~6の整数であり、好ましくは5である。
【0074】
別の特定の実施形態によれば、本発明によるプロドラッグは、アルブミン分子、組換えアルブミン分子、又はアルブミン分子の断片若しくはその誘導体に共有結合によって連結されたコンジュゲートの少なくとも1つの分子によってインビトロで形成され得る。
【0075】
本発明の意味の範囲内で、「アルブミン分子の断片」は、このようにして生成されたプロドラッグの満足のいく生物学的利用能、腫瘍組織への透過性、及び健常組織の内皮バリアへの不透過性を保証するのに十分なサイズを有するアルブミン分子の断片を指すことが重要である。
【0076】
この特定の実施形態では、その基L’による一般式(I)のコンジュゲートとアルブミン分子、組換えアルブミン分子又はアルブミン分子の断片との間のインビトロ結合は、アルブミン分子、組換えアルブミン分子又はアルブミン分子の断片に存在する遊離及び相補的反応性官能基を用いて生成することができる。
【0077】
特定の実施形態では、アルブミン分子の断片は、内因性アルブミン配列のシステイン-34位に対応するシステインを含み得る。
【0078】
いずれの予想にも反して、一般式(I)のコンジュゲートとアルブミン分子との結合は、そのように形成されたプロドラッグの以下の能力に全く影響を及ぼさない。
-処置される組織の微小環境において運搬され、特異的に標的化される、
-β-グルクロニダーゼによって処置される組織の微小環境と切断される、
-基N-アセチルグルコサミニルの切断後に、ドラスタチンファミリーの化合物を表すラジカルを放出するようにリンカーアームの再配列を受ける。
【0079】
更に、基L’による一般式(I)のコンジュゲートと、アルブミン分子、特に内因性アルブミン分子のアミノ官能基、ヒドロキシ官能基、又はチオール官能基との間の結合は、こうして放出されたドラスタチン系化合物がその生物学的活性、すなわちその抗有糸分裂活性を発揮する能力に全く影響を及ぼさない。
【0080】
最後に、基L’による一般式(I)のコンジュゲートと、アルブミン分子、特に内因性アルブミン分子のアミノ官能基、ヒドロキシ官能基、又はチオール官能基との間の結合は、腎臓によるプロドラッグの除去を制限する。したがって、本発明によるプロドラッグの血中半減期は、N-アセチルグルコサミニルラジカルによって官能化されたドラスタチンファミリー化合物によって表されるプロドラッグの血中半減期と比較して増加している。
【0081】
本発明の別の実施形態では、プロドラッグのアルブミン分子又はアルブミン断片は、特にグリコシル化又はPEG化によって改変され得る。
【0082】
本発明はまた、医薬品として使用するための、式(I)を有する上で定義したような化合物若しくはコンジュゲート、又は上で定義したようなプロドラッグに関する。
【0083】
本発明はまた、特に、上で定義したような化合物又は上で定義したようなプロドラッグ又は薬学的に許容される塩と、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物に関する。
【0084】
式(I)の本発明の化合物を単独で投与することは可能であるが、それらを医薬組成物の形態で提供することが好ましい。本発明に従って有用な、獣医学的使用及びヒト使用の両方のための医薬組成物は、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤又は担体及び任意で他の治療成分とともに、上で定義したような式(I)に一致する少なくとも1つの化合物を含む。
【0085】
いくつかの好ましい実施形態では、併用療法に必要な活性成分は、同時投与のために単一の医薬組成物中で組み合わせることができる。
【0086】
本明細書中で使用される場合、「薬学的に許容される」という用語及びその文法上の変形は、組成物、支持体、希釈剤、及び試薬に言及する場合、互換可能に使用され、そしてこの物質が、望ましくない生理学的効果、例えば、悪心、眩暈、胃障害などを生じることなく、哺乳動物に投与され得ることを意味する。
【0087】
その中に溶解又は分散された活性成分を含有する医薬組成物の調製は、当技術分野においてよく理解されており、配合物に基づいて限定される必要はない。典型的には、これらの組成物は、液体溶液又は懸濁液のいずれかの形態の注射可能な製品の形態で調製される。しかしながら、使用前の液体中の溶液又は懸濁液に適した固体形態も調製することができる。調製物は乳化することもできる。特に、医薬組成物は、固体剤形、例えば、ゲルカプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、錠剤、又は顆粒剤に製剤化することができる。
【0088】
ビヒクルの選択及びビヒクル中の活性物質の含有量は、一般に、活性化合物の溶解度及び化学特性、特定の投与様式、並びに製薬実務において観察される規定に応じて決定される。例えば、ラクトース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸二カルシウムなどの賦形剤、並びにデンプン、アルギン酸、及びステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、及びタルクなどの滑沢剤と結合した特定の複合ケイ酸塩などの崩壊剤を、錠剤の調製に使用することができる。カプセルを調製するために、ラクトース及び高分子量ポリエチレングリコールを使用することが有利である。水性懸濁液が使用される場合、それらは、乳化剤又は懸濁を容易にする薬剤を含有し得る。スクロース、エタノール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、及びクロロホルム又はそれらの混合物などの希釈剤も使用することができる。
【0089】
本発明による式(I)の化合物若しくはコンジュゲート、プロドラッグ又は医薬組成物は、経口、非経口(皮下、静脈内又は筋肉内)又は皮膚及び粘膜への局所適用によって局所的に投与することができる。
【0090】
本発明によるコンジュゲート、プロドラッグ、又は医薬組成物は、特に、単独で、又は化学療法若しくは放射線療法と組み合わせて、又は例えば他の治療剤、特に抗癌剤及び抗有糸分裂剤と組み合わせて、また抗炎症剤と組み合わせて投与することができる。
【0091】
本発明に適した投与量は、本発明の分野で通常使用される日常的なアプローチに従って決定することができる。当該投与量の調整は、明らかに当業者の一般的能力の一部である。
【0092】
実際、投与量は、特に、治療される個体の体重、年齢及び性別、並びに治療される疾患の進行に依存する。
【0093】
本発明はまた、癌の治療及び/又は予防のために使用するための、本発明による式(I)の化合物、又は上で定義したようなプロドラッグに関する。
【0094】
本発明はまた、本発明による、一般式(I)のコンジュゲート、上で定義したようなプロドラッグ、特に一般式(V)のプロドラッグ、又は医薬組成物の投与を含む、癌を治療するための方法に関する。
【0095】
本発明はまた、式(I)のコンジュゲート、上で定義したようなプロドラッグ、特に一般式(V)のプロドラッグ、又は本発明による医薬組成物を、化学療法、放射線療法、少なくとも1種の抗炎症剤による治療、及びそれらの組み合わせを含む群から選択される別の治療と組み合わせて投与することを含む、癌を治療する方法に関する。
【0096】
一般式(I)のコンジュゲート若しくは化合物、本発明によるプロドラッグ、特に一般式(V)のプロドラッグ、又は本発明による医薬組成物は、優先的には神経芽細胞種、膠芽腫、骨肉種、網膜芽腫、軟部組織肉腫、中枢神経系癌、腎芽細胞腫、肺癌、乳癌、前立腺癌、結腸直腸癌、甲状腺癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、卵巣癌、腎臓癌、肝臓癌、脳癌、精巣癌、膵臓癌、骨癌、皮膚癌、小腸癌、胃癌、胸膜癌、食道癌、喉頭癌を含む群から選
択される固形癌の予防及び/又は治療における使用のために使用され得る。
【0097】
特定の実施形態では、固形癌は、膵臓癌、肺癌、及び乳癌からなる群から選択される。
【0098】
特定の実施形態では、一般式(I)のコンジュゲート、本発明によるプロドラッグ、特に一般式(V)のプロドラッグ、又は本発明による医薬組成物は、転移の予防及び/又は治療における使用のために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【
図1】72時間のインキュベーション後に測定された、細胞株KB及びMBA-MB-231に対するβ-N-アセチルグルコサミニダーゼ(GlcNase)の存在又は非存在下でのMMAE及びベクター80(本発明による化合物)の抗増殖活性を示す。丸印付きの曲線はMMAEに対応し、四角印付きの曲線はベクター80に対応し、三角印付きの曲線はGlcNaseが存在する場合のベクター80に対応する。
【
図2】マウスにおけるMDA-MB-231同所性腫瘍の処置のためのベクター80の治療有効性を示す(初期体積58mm
3)。ベクターを21、35、及び49日目に投与した。各点は、腫瘍体積の平均±SEMに対応する。三角形の曲線はビヒクルに対応し、四角形の曲線はベクトル80に対応する。
【実施例】
【0100】
試薬及び溶媒
全ての反応はアルゴン雰囲気下で行った。別段の指示がない限り、使用した溶媒はHPLCグレードであった。化学製品は商業的供給源からの分析品質のものであり、更に精製することなく使用した。
【0101】
反応モニタリング、精製、及び分析
反応の進行は、液体クロマトグラフィー、質量分析と組み合わせた液体クロマトグラフィー、又は予めコーティングされたMACHEREY-NAGEL ALUGRAM(登録商標)SIL G/UV254シリカゲルTLCシート(0.2mmのシリカゲル60)のいずれかによってモニターした。スポットを、254nmのUV光下で、及び/又はTLCシートをエタノール(100mL)中のリンモリブデン酸(3g)の溶液に浸漬し、続いてサーマルガンで加熱することによって可視化した。
【0102】
自動クロマトグラフィーは、UV検出器及びELSDを備えたCOMBIFLASH(登録商標)RF 200I TELEDYNE ISCO instrumentを用いて、及び順相クロマトグラフィー用のInterchim(登録商標)15又は50μmシリカフラッシュカートリッジと逆相クロマトグラフィー用のHP C18 RediSep(登録商標)GOLD 4g又は15.5gを使用して行った。
【0103】
NMR1H及び13Cスペクトルは、ウルトラシールド磁石及びBBFO 5mm広帯域プローブを備えたBruker 400 Avance III機器で、それぞれ400MHz及び100MHzで記録した。選択された化合物について、NMR1H及び13Cを、University of RennesからのPrismプラットフォームにおいてTXI1H-13C-15Nクライオプローブ(5mm)を備えたBruker分光計で、それぞれ500MHz及び126MHzで記録した。化学シフト(δ)は、低磁場から高磁場への百万分率(ppm)で報告され、残留溶媒を基準とする。結合定数(J)はヘルツ(Hz)で表される。
【0104】
全ての誘導体について、オルレアン大学のCBM/ICA FR2708及びポアティエ大学のIC2MPのOrganic Analysis Centerにおいて高分解
能ESI質量分析計への注入によって正確な質量を決定した。
【0105】
分析用RP-HPLCは、MACHEREY-NAGEL NUCLEOSHELL(登録商標)逆相クロマトグラフィーカラム(150/4.6、RP18、5μm)を有する可変波長UV/可視検出器を備えたDionex Ultimate 3000システム上で、30℃及び1mL.min-1で行った。方法1は、20%Bで開始し、30分で100%Bに達する、A(水中0.2%TFA)及びB(CH3CN)から構成される線形勾配を使用した。全てのクロマトグラムを254nmで記録した。
【0106】
分析用LC-MSは、Shimadzu LCMS-2020装置で行った。40℃のMACHEREY-NAGEL NUCLEOSHELL(登録商標)逆相クロマトグラフィーカラム(150/4.6、RP18、5μm)を、1mL.min-1の流速でクロマトグラフィー分離に使用した。カラムからの溶出液を質量分析計のエレクトロスプレーイオン化(ESI)源に導入した。分析は、陽イオンモード及び陰イオンモードで行った。エレクトロスプレー電圧を4.5kVに設定した。キャピラリー及びヒーター温度は、それぞれ250℃及び400℃であった。乾燥ガス(窒素)及び噴霧ガス(窒素)の流量をそれぞれ15L.min-1及び1.5L.min-1に設定した。ソフトウェアLabSolutionsを用いてデータ分析を行った。LC/MS実験は、A(水中0.1%ギ酸)及びB(CH3CN中0.1%ギ酸)からなる直線勾配を使用して、20%Bで開始し、15分で100%Bに到達させて実施した(方法2)。
【0107】
手順:
化合物83の合成
【0108】
【0109】
N-アセチルグルコサミン(3.0g、13.5mmol、1当量)を塩化アセチル(13.5mL、190mmol、14当量)に溶解し、溶液を室温で72時間撹拌した。完了後、氷水(150mL)を添加することによって溶液を加水分解し、5分間撹拌し、CH2Cl2(60mL)を添加した。有機相を分離し、飽和NaHCO3(2×60mL)及びブライン(60mL)で洗浄した。合わせた有機相をMgSO4上で乾燥させ、濾過し、真空下で濃縮した。粗残留物をシリカゲルカラム上でのクロマトグラフィー(20分間でEP/EtOAc 50/50~0/100)によって精製して、化合物83(3.0g、61%)を白色固体の形態で得た。
【0110】
Rf:0.37(EP/EtOAc40/60)
NMR1H(400MHz,CDCl3,298K):δ ppm=6.19(d,J=3.7Hz,1H,H1a),5.77(d,J=9.0Hz,1H,HNH),5.
32(dd,J=14.6,5.5Hz,1H),5.22(t,J=9.7Hz,1H),4.53(ddd,J=10.6,8.8,3.8Hz,1H,H2a),4.37-4.23(m,2H),4.14(dd,J=13.1,2.7Hz,1H),2.11(s,3H),2.06(s,3H),2.06(s,3H),1.99(s,3H)。
【0111】
化合物84の合成
【0112】
【0113】
CH2Cl2(2mL)及びNaHCO3水溶液(1M、1.4mL)の混合物中に可溶化されたフェノール55(国際公開第2011/145068号を参照)(169mg、0.82mmol、1.5当量)の溶液に、ヨウ化テトラブチルアンモニウム(176mg、0.54mmol、1当量)を添加した。混合物を室温で15日分間撹拌した。次に、化合物83(200mg、0.54mmol、1当量)のCH2Cl2(1mL)溶液を添加し、塩素化化合物83が完全に消費されるまで混合物を撹拌した。5時間30分後、有機相を分離し、水(5mL)、ブライン(5mL)で洗浄し、MgSO4上で乾燥させ、濾過し、真空下で濃縮した。粗残渣をシリカゲルカラム上でのクロマトグラフィー(20分間でEP/EtOAc 100/0~0/100)により精製して、化合物84を2つのジアステレオ異性体の混合物の形態で得た(200mg、白色固体、68%)。
【0114】
Rf:0.31(CH2Cl2/MeOH95/5)
NMR1H(500MHz,CDCl3,298K):δ ppm=7.85(2d,J=2.1Hz,1H,H3b)、7.62-7.43(m,1H,H5b)、7.36(d,J=8.6Hz,1H,H6b)、5.77(d,J=8.2Hz,1H,HNH)、5.59(dd,J=10.4、9.1Hz、1H、H3a)、5.50(dd,J=8.2、1.1Hz、1H、H1a)、5.13(t,J=9.5Hz,1H,H4a),4.97-4.84(m,1H,Hb)、4.34-4.15(m,2H,H6a),3.97-3.81(m,2H,H2a及びH5a),2.73-2.57(m,2H,Hc),2.11(t,J=2.6Hz,1H,Hd)2.09(s,3H,Hacetate),2.06(s,3H,Hacetate),2.05(s,3H,Hacetate),1.99(s,3H,Hacetamide)。
【0115】
NMR13C(126MHz,CDCl3,298K):δ ppm=171.28,170.71,170.61,169.63,148.86,138.91,131.29,122.65,121.20,121.14,99.71,79.53,77.41,77.16,76.91,72.37,72.20,71.28,70.83,68.59,62.04,55.48,29.62,23.50,20.91,20.85,2
0.81。
【0116】
HRMS(ESI):[M+Na]+のC24H28N2NaO12に対する計算値:559.1534;実測値559.1521。
【0117】
化合物85の合成
【0118】
【0119】
CH2Cl2(4mL)中に可溶化されたフェノール溶液84(200mg、0.37mmol、1当量)に、クロロギ酸ニトロフェニル(150mg、0.75mmol、2当量)を室温で添加した。混合物を0℃に冷却し、ピリジン(75.2μl、0.93mmol、2.5当量)を添加した。混合物を0℃で20分間撹拌し、3時間かけて室温に加温した。完了後、混合物を飽和NaHCO3(4mL)で加水分解し、5分間撹拌した。次いで、有機相を分離し、水相をCH2Cl2(4mL)で抽出した。合わせた有機相をブライン(5mL)で洗浄し、MgSO4上で乾燥させ、濾過し、真空下で濃縮した。粗残渣をシリカゲルカラム上でのクロマトグラフィー(CH2Cl2/MeOH 100/0~95/5、30分)により精製して、化合物85を2つのジアステレオ異性体の混合物の形態で得た(188mg、白色固体、72%)。
【0120】
Rf:0.17(CH2Cl2/MeOH 98/2)
NMR1H(500MHz,CDCl3,298K):δ ppm=8.28(d,J=9.2Hz,2H,H3c),7.91(t,J=2.2Hz,1H,H3b),7.62(dt,J=8.6、2.1Hz,1H,H5b)7.43-7.30(m,3H,H6b及びH2c),5.91-5.72(m,2H,Hb及びHNH),5.72-5.54(m,2H,H3a及びH1a),5.13(tJ=9.5Hz,1H,H4a),4.35-4.17(m,2H,H6a),3.99-3.88(m,1H,H5a),3.88-3.79(m,1H,H2a),3.01-2.78(m,2H,Hc),2.12-2.08(m,4H,Hd及びHacetate),2.07(s,3H,Hacetate),2.05(s,3H,Hacetate),1.98(s,3H,Hacetamide)。
【0121】
NMR13C(126MHz,CDCl3,298K):δ ppm=171.35,171.31,170.66,170.52,169.61,155.27,151.6
2,149.92,145.70,141.44,141.30,133.46,133.41,132.46,132.26,125.52,123.76,123.57,121.85,121.83,120.79,120.65,99.31,99.18,72.61,72.41,71.02,70.98,68.54,61.99,60.56,55.69,55.62,26.37,23.50,21.22,20.89,20.83,20.80,14.33。
【0122】
HRMS(ESI):[M+Na]+のC31H31N3O16+に対する計算値724.1597;実測値724.1604。
【0123】
化合物86の合成
【0124】
【0125】
無水DMF(3mL)中に可溶化された炭酸塩溶液85(98mg、0.139mmol、1当量)に、MMAE(100mg、0.139mmol、1当量)及びHOBt(19mg、0.139mmol、1当量)を添加した。混合物を室温で撹拌し、ピリジン(0.7mL)を添加した。混合物を室温で24時間撹拌した。完了後、溶媒を減圧下で蒸発させ、粗残渣をシリカゲルカラム上でのクロマトグラフィー(CH2Cl2/MeOH 100/0~90/10、30分間)により精製して、化合物86を2つのジアステレオ異性体の混合物の形態で得た(166mg、白色固体、93%)。
【0126】
Rt=10.20分(方法2)
MS(ESI):[M+H]+のC64H94N7O20に対する計算値1280.6;実測値1280.9。[M+2H]2+のC64H95N7O20に対する計算値:640.8;実測値641.3。
【0127】
化合物63の合成
【0128】
【0129】
無水マレイン酸(800mg、8.16mmol、1当量)を、DMF(10mL)中の6-アミノヘキサン酸(1.07g、8.16mmol、1当量)の溶液に添加し、室温で撹拌した。2時間後、混合物を0℃に冷却し、N-ヒドロキシスクシンイミド(1.13g、9.79mmol、1.2当量)及びEDC.HCl(3.91g、20.4mmol、2.5当量)を添加し、次いで35℃に12時間加熱した。室温に冷却した後、混合物をCH2Cl2(200mL)で希釈し、飽和NaHCO3、水、及びブラインで洗浄した。有機相をMgSO4上で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラム上でのクロマトグラフィー(EtOAc/EP 60/40)により精製して、化合物63(1.53mg、63%)を白色固体の形態で得た。
【0130】
Rf:0.41(EtOAc/EP 60/40)
NMR1H(400MHz,CDCl3,δ ppm):6.67(s,2H,H10),3.50(t,2H,J=7.17Hz,H8),2.81(sl,4H,H1),2.58(t,2H,J=7.40Hz,H4),1.75(m,2H,H7),1.61(m,2H,H5),1.39(m,2H,H6)。
【0131】
NMR13C(75MHz,CDCl3,δ ppm):170.8(C9),169.1(C2),168.3(C3),134.0(C10),37.4(C8),30.8(C4),28.0(C7),25.8(C6),25.6(C1),24.1(C5)。
【0132】
化合物80の合成
【0133】
【0134】
ベクター80を化合物86から中間精製なしに3工程で調製した。
【0135】
最初に、アルゴン雰囲気中の脱気したCH2Cl2(2mL)中のアルキン86(70mg、0.055mmol、1当量)及びアジド-PEG 10-アミン46(32mg、0.060mmol、1.1当量)溶液に、Cu(MeCN)4PF6(20mg、0.055mmol、1当量)を添加した。混合物を完了するまで室温で撹拌した。3時間後、樹脂QuadraPure(登録商標)IDA(300mg)を混合物に添加して、銅を捕捉した。溶液を更に3時間撹拌し、樹脂を濾過により除去した。溶媒を減圧下で蒸発させ、粗製物を更に精製することなく次の工程に直ちに使用した。
【0136】
第2に、粗化合物87をMeOH(2mL)に可溶化した。次に、ナトリウムメタノレート(0.44mg、0.008mmol、0.15当量)を添加し、混合物を室温で5時間撹拌した。完了後、樹脂IR-120(300mg)を、中性pHに達するまで添加した。溶媒を減圧下で蒸発させた。粗製物を更に精製することなく次の工程に直ちに使用した。
【0137】
最後に、トリエチルアミン(23μL、0.164mmol、3当量)を、粗アミン88及びエステルNHS63(18.5mg、0.060mmol、1.1当量)の無水DMSO(2mL)溶液に添加した。混合物を室温で1時間撹拌した。完了後、LC-MS(方法2により制御して、溶媒を減圧下で蒸発させ、粗残留物をC18グラフト化シリカ上での逆相クロマトグラフィーにより精製して(溶出勾配MeCN/H2O(0.05%TFA)20/80~80/20、30分間)、ベクター80を2つのジアステレオ異性体の混合物の形態で得た(25mg、白色固体、3工程で24%)。
【0138】
Rt=7.33分(方法2)
HRMS(ESI):[M+Na]+のC90H144N12NaO30に対する計算
値1896.0004;実測値1895.9952。
【0139】
ベクター80の生物学的評価
ベクター80の抗増殖活性の評価
ベクター80の抗増殖活性を、ヒトKB及びMDA-MB-231腫瘍株で評価し、MMAEの抗増殖活性と比較した。これを行うために、化合物80を、β-N-アセチルグルコサミニダーゼの非存在下又は存在下で培養培地に置き、細胞生存率をインキュベーションの72時間後に測定した(
図1)。
【0140】
ベクター80は、MMAEと同様の抗増殖活性を有することに留意されたい。実際に、β-N-アセチルグルコサミニダーゼの非存在下又は存在下でのインキュベーションは、両方の細胞株に対して同一の細胞毒性をもたらす。
【0141】
この驚くべき結果が示すように、ベクター80は、そのグルクロン酸化類似体24とは対照的に、MMAEの毒性をマスクすることを可能にしない。この結果は、グルクロニドとイオン化可能な化学官能基を有さないN-アセチルグルコサミニド(カルボン酸)との間の極性の差異によって説明され得る。したがって、化合物80は、細胞膜を受動的に透過し、次いで、リソソームβ-N-アセチルグルコサミニダーゼによって活性化されて、MMAEの放出をもたらし得る。第2の仮説は、これらの癌細胞によるβ-N-アセチルグルコサミニダーゼの放出に基づく。実際、これらの癌細胞は、培養培地中にこの酵素を分泌し得ることが実証されている。次いで、この現象は、培養培地へのβ-N-アセチルグルコサミニダーゼの添加とは無関係に、ベクター80の活性化の原因であり得る。
【0142】
インビボでのプロドラッグ80の治療効果の評価
ベクター80の治療有効性を、マウスにおいて、MDA-MB-231型のトリプルネガティブ乳房腫瘍モデルで評価した(
図2)。化合物80を4mg.kg
-1の用量で尾静脈内に14日間の期間で3回投与した。
【0143】
ベクター80は、対照群と比較して有意な治療活性を有することが分かる。実際に、最初の投与で早くも、腫瘍量の減少が得られる。更に、最初の注射の最後に、ベクター80で処置された4/6マウスは、35日目からもはや検出可能な腫瘍を有さなかった。
【0144】
ベクター80はまた、プロトコルの最後(63日目)まで死亡が観察されなかったので、動物によって十分に許容された。56日目に、ベクター80による処置は、対照群と比較して腫瘍増殖の強い阻害(99%)をもたらした。実験終了時(63日目)に、3/6匹のマウスについて、腫瘍の全体的かつ持続的な退縮が得られた。一方、腫瘍形成の再開が、35日目にもはや検出可能な腫瘍を有さなかったマウスの1匹で観察された。
【0145】
80での処置に対する初期応答も非常に重要であり、初期腫瘍サイズの90%の減少をもたらす。しかしながら、プロトコルの42日目に、腫瘍増殖の再開が観察された。また、その後の投与(49日目)はほとんど効果がないと思われる。
【0146】
結論
目標は、腫瘍において細胞毒性剤を選択的に放出するためのβ-D-N-アセチルグルコサミニダーゼの標的化を研究することであった。これに関連して、MMAE80のN-アセチルグルコサミニル化ベクターの合成及び生物学的評価を行った。後者は、自壊性スペーサによってMMAEに連結されたN-アセチルグルコサミンを含む。癌組織の標的化は、マイケル付加反応によって血漿アルブミンのチオール官能基とインビボで反応することができる80のマレイミド基の存在によって可能になる。
【0147】
【0148】
次いで、形成された高分子ベクター81は、悪性腫瘍におけるアルブミンの生理病理学的向性並びにEPR効果による腫瘍新生血管形成に関連する血管新生の欠損のおかげで、腫瘍上に蓄積することができる。
【0149】
この新しいベクターの治療有効性を、マウスに移植したトリプルネガティブ乳房腫瘍モデルMBA-MB-231で評価した。これらの試験は、ベクター80が非常に有意な抗癌活性を有することを示した。したがって、N-アセチルグルコサミニル化ベクターの開発は、悪性病変の新規の選択的かつ有効な処置の開発のための非常に有望なアプローチである。
【国際調査報告】