(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】高いレベルのアポカロテノイド化合物を生産するトランスジェニック植物およびそれらの使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/82 20060101AFI20240905BHJP
C12N 15/29 20060101ALI20240905BHJP
A01H 6/82 20180101ALI20240905BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20240905BHJP
A01H 5/04 20180101ALI20240905BHJP
A01H 5/08 20180101ALI20240905BHJP
A01H 5/10 20180101ALI20240905BHJP
A23L 27/60 20160101ALI20240905BHJP
A23L 23/00 20160101ALI20240905BHJP
A23L 2/02 20060101ALI20240905BHJP
A23L 19/18 20160101ALI20240905BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20240905BHJP
A61K 36/81 20060101ALI20240905BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240905BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240905BHJP
A23L 33/105 20160101ALN20240905BHJP
A61K 131/00 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
C12N15/82 124Z
C12N15/29 ZNA
A01H6/82
A01H5/00 A
A01H5/04
A01H5/08
A01H5/10
A23L27/60 B
A23L23/00
A23L2/02 F
A23L19/18
A23L19/00 Z
A61K36/81
A61P25/16
A61P25/28
A23L33/105
A61K131:00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516659
(86)(22)【出願日】2022-09-15
(85)【翻訳文提出日】2024-04-24
(86)【国際出願番号】 EP2022075670
(87)【国際公開番号】W WO2023041661
(87)【国際公開日】2023-03-23
(32)【優先日】2021-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507383714
【氏名又は名称】ユニバーシダ デ カスティーリャ ラマンチャ
(71)【出願人】
【識別番号】593005895
【氏名又は名称】コンセホ・スペリオル・デ・インベスティガシオネス・シエンティフィカス(セエセイセ)
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO SUPERIOR DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS(CSIC)
(71)【出願人】
【識別番号】507299334
【氏名又は名称】ウニベルシタット ポリテクニカ デ バレンシア
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス ゴメス マリア ルルド
(72)【発明者】
【氏名】アフラゼム エル カディリ ウサマ
(72)【発明者】
【氏名】グラネル リヒャルト アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ルビオ モラガ アンジェラ
(72)【発明者】
【氏名】アルガンドーニャ ピカソ ハビエル
(72)【発明者】
【氏名】プレサ シルビア
(72)【発明者】
【氏名】ランブラ ホセ ルイス
【テーマコード(参考)】
4B016
4B018
4B036
4B047
4B117
4C088
【Fターム(参考)】
4B016LE01
4B016LE05
4B016LG06
4B016LG11
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB03
4B018LB08
4B018MD48
4B018ME06
4B018ME10
4B018MF01
4B036LF03
4B036LH29
4B036LP05
4B047LB09
4B047LG39
4B047LG66
4B117LG09
4C088AB48
4C088AC04
4C088NA14
4C088ZA15
4C088ZA16
(57)【要約】
本発明は、特異的なプロモーターのコントロール下においてサフラン植物クロッカス・サティバスからの異種遺伝子を発現するトランスジェニック植物、より具体的にはトマトおよびジャガイモ植物からアポカロテノイドを組み換え生産するための方法および材料を提供する。その上、本開示は、異種遺伝子を含む遺伝子コンストラクト、および植物における発現のためのそれらの使用、ならびに上述の遺伝子コンストラクトを発現しかつ高濃度のアポカロテノイド産物、具体的にはクロシンおよびピクロクロシンを有するトランスジェニック植物を得るための方法にもまた関する。さらにその上、本開示は、かかるトランスジェニック植物から得られる食品産物、それらを含むニュートラシューティカルズ的および薬学的組成物、ならびに好ましくはアルツハイマー病などの神経変性疾患の処置のための薬としてのかかる組成物の使用にもまた関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アポカロテノイド化合物生合成、好ましくはクロシン、クロセチン、ピクロクロシン、HTTC、およびサフラナールのための3つの蛋白質の組み合わせをコードするヌクレオチド配列を含むDNAコンストラクトであって、
ここで、前記蛋白質はUGT2、UGT709G1、およびCCD2L、またはその機能的に同等の配列から選択され、ここで、好ましくは、これらの蛋白質は、好ましくはC.サティバスからのクロッカス属に属し、
ここで、UGT2、UGT709G1、およびCCD2Lのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号4、配列番号6、および配列番号2からなるリストから選択される配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一のアミノ酸配列から選択され、
ここで、各ヌクレオチド配列は、果実特異的プロモーター、塊茎特異的プロモーター、および/または恒常的プロモーターから選択されるプロモーターに作動可能に連結され、
ここで、CCD2Lをコードする前記ヌクレオチド配列は、果実特異的プロモーターまたは塊茎特異的プロモーターに作動可能に連結される、DNAコンストラクト。
【請求項2】
前記UGT2蛋白質が、配列番号3に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するヌクレオチド配列によってコードされ、前記UGT709G1蛋白質が、配列番号5に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するヌクレオチド配列によってコードされ、前記CCD2L蛋白質が、配列番号1に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するヌクレオチド配列によってコードされる、請求項1に記載のDNAコンストラクト。
【請求項3】
前記果実特異的プロモーターがトマトE8プロモーター(配列番号7)およびp2A11プロモーター(配列番号8)からなるリストから選択され、前記恒常的プロモーターがカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(配列番号9)であり、前記塊茎特異的プロモーターがパタチンプロモーターpPat(配列番号33)である、請求項1または2のいずれか1項に記載のDNAコンストラクト。
【請求項4】
前記コンストラクトが、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、および配列番号34からなるリストから選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載のDNAコンストラクト。
【請求項5】
ナス科植物におけるアポカロテノイド化合物、好ましくはクロシン、ピクロクロシン、HTTC、およびサフラナールのレベルを増大させるための方法であって、前記方法が、請求項1~4に記載のDNAコンストラクトを前記ナス科植物に導入および発現することを含む、方法。
【請求項6】
対応する野生型ナス科植物と比較して増大したレベルのアポカロテノイド化合物、好ましくはクロシン、ピクロクロシン、HTTC、およびサフラナールを有するトランスジェニックナス科植物を生産するための方法であって、前記方法が、請求項1~4に記載のDNAコンストラクトを前記ナス科植物に導入および発現することを含む、方法。
【請求項7】
前記ナス科植物がソラヌム・ツベロスム(ジャガイモ植物)およびソラヌム・リコペルシカム(トマト植物)種から選択される、請求項5または6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載のDNAコンストラクトをそのゲノム上に含むトランスジェニックナス科植物であって、ここで、前記ナス科植物が、対応する野生型ナス科植物と比較して増大したレベルのアポカロテノイド化合物、好ましくはクロシン、ピクロクロシン、HTTC、およびサフラナールを蓄積する、トランスジェニックナス科植物。
【請求項9】
請求項8に記載のトランスジェニックナス科植物であって、ここで、それが、ソラヌム・ツベロスム(ジャガイモ植物)およびソラヌム・リコペルシカム(トマト植物)からなるリストから選択される、トランスジェニックナス科植物。
【請求項10】
前記増大したレベルのアポカロテノイド化合物、好ましくはクロシン、ピクロクロシン、HTTC、およびサフラナールが、好ましくは前記植物の収穫可能部分において、好ましくは塊茎、果実組織、または種子において増大する、請求項8または9のいずれか1項に記載のトランスジェニックナス科植物。
【請求項11】
塊茎、種子、および果実から選択される、請求項8~10のいずれか1項に記載のナス科植物の収穫可能部分。
【請求項12】
請求項11に記載のナス科植物の収穫可能部分を含む食品産物であって、前記食品産物が、増強されたアポカロテノイド化合物、好ましくはクロシン、ピクロクロシン、HTTC、およびサフラナールレベルを有する、食品産物。
【請求項13】
前記食品産物が、トマト、トマトに基づく産物、ジャガイモ、およびジャガイモに基づく産物からなるリストから選択され、好ましくは、ここで、前記トマトに基づく産物は、ケチャップ、トマトに基づくソース、ピザソース、トマトスープ、またはトマトジュースからなるリストから選択され、ここで、好ましくは、前記ジャガイモに基づく産物は、ジャガイモフレーク、ポテトチップス、または馬鈴薯粉からなるリストから選択される、請求項12に記載の食品産物。
【請求項14】
請求項11に記載のナス科植物の収穫可能部分、または請求項12または13のいずれか1項に記載の食品産物、その断片または抽出物と、薬学的またはニュートラシューティカルズ的な許容される担体とを含む薬学的またはニュートラシューティカルズ的組成物。
【請求項15】
医薬としての使用のための、好ましくは、アルツハイマー病およびパーキンソン病からなるリストから好ましくは選択される神経変性疾患の防止および/または処置における使用のための、請求項11に記載のナス科植物の収穫可能部分、請求項12または13のいずれか1項に記載の食品産物、請求項14に記載のニュートラシューティカルズ的な組成物または薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書において開示される発明は一般的に遺伝子工学の分野に関する。具体的には、本明細書において開示される発明は、塊茎、果実、および/または恒常的プロモーターのコントロール下においてサフラン植物クロッカス・サティバス(Crocus sativus)からの異種遺伝子を発現するトランスジェニック植物、好ましくはソラヌム属からの植物、より好ましくはトマトおよびジャガイモ植物から、アポカロテノイドを組み換え生産するための方法および材料を提供する。その上、本開示は、異種遺伝子を含む遺伝子コンストラクト、それらを含むプラスミドまたはベクター、植物、好ましくはナス科植物、より好ましくはトマトおよびジャガイモにおける発現のためのそれらの使用、ならびに上述の遺伝子コンストラクトを発現しかつ高濃度のアポカロテノイド産物、具体的にはクロシンおよびピクロクロシンを有するかかる遺伝子改変された植物を得るための方法にもまた関する。さらにその上、本開示は、トランスジェニック植物から得られる食品産物、好ましくはジャガイモ、ジャガイモに基づく産物、トマト、および/またはトマトに基づく産物、ならびに好ましくはアルツハイマー病などの神経変性疾患の処置のためのニュートラシューティカルズ的および薬学的組成物としてのそれらの使用にもまた関する。
【背景技術】
【0002】
植物におけるカロテノイド生合成は、プラスチドに搬入される、核にコードされる酵素によって触媒される。カロテノイドは5炭素イソプレノイド、イソペンテニル二リン酸(IPP)、およびジメチルアリル二リン酸(DMAPP)から作出される。全トランスリコペンは熟したトマトにおいて生産される主要なカロテノイドである。さらなる全トランスリコペン環化およびヒドロキシル化反応はルテインおよびゼアキサンチン化合物をもたらす。植物において、ゼアキサンチンおよびルテインは、光防御、活性酸素種および他のラジカルの解毒、ならびに生体膜の機能的および構造的インテグリティ維持を包含するいくつかの機能を有する。さらにその上、ゼアキサンチンは、全ての植物におけるアブシジン酸(ABA)、ならびにサフラン、ブッドレア、およびガーデニアにおけるクロシンおよびピクロクロシンのようなアポカロテノイドの前駆体として作用する。よって、アポカロテノイド化合物は、カロテノイド開裂ジオキシゲナーゼ(CCD)によって触媒される反応におけるカロテノイドの酸化開裂に由来する。もたらされる産物は異なる修飾を経過して、全ての生きている生物において幅広い範囲の生物学的な機能を有する活性な最終化合物を与える。植物において、アポカロテノイドは植物の体力維持におよび発生の種々の側面に関わり、動物において類似の役割が果たされる。
【0003】
クロシンおよびピクロクロシンは水溶性アポカロテノイドであり、サフラン(クロッカス・サティバス)の主要な構成成分である。これらのアポカロテノイドはサフランの柱頭に大量に蓄積し、それらは、これらの特徴的なアポカロテノイドが部分的に担う治療上の特性、例えば抗酸化、抗痙攣、神経保護、抗炎症、抗鬱、および抗増殖活性をもまた呈する。サフランからのアポカロテノイドの抗酸化および抗炎症特性は心血管系、消化系、および眼系疾患、ならびに白血病において実証されている。さらにその上、アルツハイマー病におけるクロシン-1の効果もまた、インビトロおよびインビボ研究において、ならびに軽症から中等症のアルツハイマーを患う患者による人間の治験において実証されており、ここで、15mgのサフランを1日2回16週間受けた患者はプラセボを受けた患者よりも良い認知機能を示した。サフランはスパイスとしてもまた使用され、その高い経済的価値を原因として赤い金と言われる。これはその栽培および管理の特定の特徴の直接的帰結である。クロシンはサフランの強い赤色を担い、ピクロクロシンはその苦い味に関連し、独特な芳香および香味を担う化合物のサフラナールの前駆体である。
【0004】
これらのサフランアポカロテノイドは、特異的なカロテノイド開裂ジオキシゲナーゼ酵素(CsCCD2L、GenBankアクセッションALM23547.1)によって触媒される反応における7,8:7’,8’位置でのゼアキサンチンの開裂に由来する。それらの水溶性は、グルコシルトランスフェラーゼCsUGT2(GenBankアクセッション番号AAP94878.1)およびCsUGT709G1(GenBankアクセッション番号APU54677.1)の作用によってそれらの骨格に追加されるグルコース分子によって提供される。
【0005】
1kgの乾燥されたサフラン柱頭スレッドを生産するためには、120,000から200,000の間の花が必要とされ、これは370~470時間の作業に等しい。帰結として、プロセスは非常に労働集約的でありかつリスクを伴う。なぜなら、それは環境条件に高度に依存的であり、高いコストに至り、他の産業セクターによるサフランの利用を制限するからである。サフランアポカロテノイドは、2019年に8.817億米ドルと見積もられる世界的市場規模を有する。
【0006】
サフランアポカロテノイドを得ることならびに代謝工学の進歩および合成生物学へのその発展を考慮に入れることについて存在する制限を克服するために、科学コミュニティはサフランからのアポカロテノイドの合成を他のホストに敷衍し、サフランアポカロテノイドなどのこれらの希少な代謝物の低コスト生産を探している。
【0007】
サフランCsCCD2L酵素の使用は、サッカロマイセス・セレビシエ(非特許文献1、非特許文献2)および大腸菌(非特許文献3)においてそれぞれ1.22mg/L、15.70mg/L、および4.42mg/Lのクロセチンという最大の蓄積をもたらしたということが公知である。ピクロクロシン生合成における新規UGTの役割を植物界において確認することを狙ったその後の研究では(非特許文献4)、ニコチアナ・ベンサミアナの葉が、アグロバクテリウム・ツメファシエンスによって、単独のまたはUGT709G1との組み合わせのCsCCD2Lによって一過的に形質転換され、これは1から4の範囲であるグリコシル化度を有する30.5μg/g乾燥重量のクロシンの生産に至った(クロシン1~4)。加えて、M.マルティらは、成体N.ベンサミアナ植物においてCsCCD2Lのウイルスによって駆動される発現を使用して、CsCCD2L発現単独が、一過的に形質転換されたタバコにおける有意なクロシン蓄積のために十分であるということを実証した(最高で2mg/g乾燥重量(DW))(非特許文献5)。CsCCD2L単独を発現するニコチアナ・グラウカおよびN.タバカムにおける安定な形質転換は、それぞれ400μg/gDWおよび36μg/gDWの蓄積を可能にした(非特許文献6)。これらの結果は、有望だが、サフランの高価値アポカロテノイドの生産のための産業システムの開発という面においては、効率的かつ持続可能とは見なされ得ない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chai et al., Microb. Cell Factories, 2017; 16; pp: 54
【非特許文献2】Tan et al., J. Exp. Bot., 2019; 70, pp: 4819-4834
【非特許文献3】Wang et al., Microb. Cell Factories, 2019;18
【非特許文献4】Diretto et al., New Phytol., 2019; 224; pp: 725-740
【非特許文献5】Marti, M. et al. Metabolic Engineering. 2020; 61: 238-250
【非特許文献6】Ahrazem et al. Frontiers in Plant Science. 2022; 13:861140
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
代替の異種システムにおいて、サフランアポカロテノイド、具体的にはクロシンおよびピクロクロシンの生産を増大させるためのさらなる改善された方法を利用可能にする定常的な必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、植物、好ましくはソラヌム属に属する植物、より好ましくはトマトおよびジャガイモ植物を操作することによって、ジャガイモのケースではそれらの果実および塊茎、このケースではトマト果実において、クロッカス柱頭におけるアポカロテノイドの生合成に関わる3つのサフラン特異的な遺伝子が発現され、それゆえに、上記の果実および塊茎における高いレベルのクロシン、ピクロクロシン、HTTC、およびサフラナールの生合成および蓄積を達成するということを実証する。
【0011】
クロシンおよびピクロクロシン生合成のための経路が、塊茎、果実特異的、および恒常的プロモーターを使用してトマトおよびジャガイモに導入された。具体的には、果実特異的であるプロモーターpE8およびp2A11ならびに恒常的プロモーターであるCaMVp35Sプロモーターは、トマトDW中に12.48mg/gのクロシンおよび2.92mg/gのピクロクロシンをもたらした。これは、植物の生育を落とすことなしに一過的なまたは安定した代謝工学の結果として異種システムにおいてサフランアポカロテノイドについて報告された最も高いレベルであった(例4、表8参照)。加えて、ジャガイモにおいては、使用されたプロモーターはパタチン(patatin)プロモーター(pPat)であり、クロシンおよびピクロクロシンの蓄積をもたらし、それぞれ、コンストラクトO6(配列番号34)を発現するcv.デジレにおける360μg/gおよび800μg/gDWならびにcv.OIH15WTにおける3.02mg/gDWおよび5.90mg/gに達した(例7、表11参照)。戦略には、クロセチンジアルデヒドおよび2,6,6-トリメチル-4-ヒドロキシ-1-カルボキシアルデヒド-1-シクロヘキセンを生産するための配列番号2(GenBankアクセッション番号ALM23547.1)で定められるCsCCD2L蛋白質をコードする果実特異的プロモーターのコントロール下の配列番号1(GenBankアクセッション番号KP887110.1)で定められるCsCCD2L遺伝子配列を含む第1のプラスミドによる、ならびにピクロクロシンおよびクロシンを生産するためのそれぞれ配列番号6(GenBankアクセッション番号APU54677.1)で定められる配列を含むグリコシルトランスフェラーゼUGT709G1と配列番号4(GenBankアクセッション番号AAP94878.1)で定められる配列を含むCsUGT2とをコードする果実特異的プロモーターおよび/または恒常的プロモーターのコントロール下の、それらの1つである配列番号5(GenBankアクセッション番号KX385186.1)で定められるCsUGT709G1遺伝子配列と、別の1つである配列番号3(GenBankアクセッション番号AY262037.1)で定められるCsUGT2遺伝子配列とを含む2つの追加のプラスミドによるトマト植物の形質転換が関わった。ジャガイモでは、pPatプロモーターのコントロール下の3つの遺伝子を含むユニークなコンストラクトが使用され、2つの異なる変種デジレおよびOIH15WTを使用した。最後の1つは高い含量のゼアキサンチンを蓄積する。加えて、記載されるアプローチは、他のホスト、例えば繰り返し一過的に形質転換されなければならないN.ベンサミアナの葉ではなく安定して形質転換されたトマトおよびジャガイモを使用するという利点を有し(Marti, M. et al. Metabolic Engineering. 2020, 61, 238-250)、それゆえに、価値あるアポカロテノイドの容易なかつ定常的に利用可能な発生源を提供する。
【0012】
よって、本開示は、3つの遺伝子CsCCD2L(配列番号1)、CsUGT709G1(配列番号5)、およびCsUGT2(配列番号3)を本明細書において述べられる特定のプロモーター、好ましくは果実、塊茎、および/または恒常的プロモーターのコントロール下で発現することによって、高いレベルのこれらの価値あるサフランアポカロテノイド代謝物が特にトマト果実においておよびジャガイモ塊茎においてもまた得られるということを実証し、これらの遺伝子が、トマトおよびジャガイモにそれらを生産するそれらの能力を授けるために十分であったということを示している。この戦略は、減少したトマト果実のリコペンレベル(例3および表7)、ならびにcv.デジレのビオラキサンチンレベル、ならびにOIH15WTのゼアキサンチンおよびビオラキサンチン(例8および表13)をもたらした。これにもかかわらず、ゼアキサンチンは依然としてトマト果実においてもcv.デジレにおいても主要なカロテノイドではなかった。これは、CsCCD2Lが、リコペン、β-カロテン、およびα-カロテン(表7)、ならびにcv.デジレのルテイン、ビオラキサンチン、およびアンテラキサンチン、ならびにOIH15WTのゼアキサンチン(表13)のレベルの著しい縮減によって、果実の代謝フラックスを遮ってそれをアポカロテノイドの生産の方に押しやることができるということを示した。
【0013】
縮減された脂溶性カロテノイドおよび高い水溶性アポカロテノイドを有するトランスジェニックトマトおよびジャガイモ塊茎系統のトータルの抗酸化活性は、野生型植物(WT)よりもずっと高かった。サフランはトマトまたはジャガイモと比較してより高い抗酸化活性レベルを有するということが報告されており、それゆえに、クロシンおよびピクロクロシン生産のための操作された作物はそれらの親水性抗酸化剤レベルを実質的に増大させ得る。加えて、慢性ストレスによって誘導される酸化ダメージに対するクロシンの保護効果およびそれらの抗炎症効果が広く報告されており、それらの存在はこれらのトマトの健康特性を増強することを助けるであろう。これらは生鮮または加工産物どちらか、例えばジュース、スープ、およびソースとして消費され得る。加えて、クロシンおよびピクロクロシンは、また、トマトの圧搾ジュースからまたはジャガイモ塊茎から単純に抽出され、医薬品としてのまたは飼料、食品、および飲料品産業の着色料としてのこれらの化合物の手頃な生産のために使用され得る。
【0014】
トマト(ソラヌム・リコペルシカム)は世界的にポピュラーなかつ高度に消費される食品であり、これはモデル作物としてバイオテクノロジー用途に使用される。この研究では、トマトがサフラン経路の導入のために選択された。なぜなら、この果実は高いレベルのカロテノイドを基質として蓄積し、人間の消費のための濃縮物、ジュースを包含する良く確立された下流のプロセスがあるからである。加えて、多くの商業生産されるトマトは不良な味を有すると広く考えられ、それらの香味は消費者の不満足の主要な発生源である。サフランのアポカロテノイドはサフランスパイスの特徴的な香味および芳香を提供し、それらの可溶性はトマトジュースのニュートラシューティカルズ的な特性を増強するであろう。他方で、ジャガイモ(ソラヌム・ツベロスムL.)は生鮮および加工食品産業両方にとって世界中で商業的に重要な作物である。世界的に最も大きい栄養繁殖作物であることに加えて、ジャガイモ塊茎は、限定された土地に対する増大する圧力および食品の増大する需要がある世界の地域において主要産物になって来ている。なぜなら、この植物は短期栽培作物であり、長い期間貯蔵され得、最小限の投入を必要とするからである。それは広範囲の気候において生育するので、塊茎ジャガイモは、天然の代謝物を生産するための貯蔵庫として使用されるべき優良な植物候補を代表する。それゆえに、クロシンを有するジャガイモ塊茎は強度の黄色を呈し、抗酸化活性を増大させる。
【0015】
本開示において示される通り、トマト果実およびジャガイモ塊茎は、サフランの特徴的なアポカロテノイドの生産のための良いプラットフォームであることが明らかにされている。成熟するトマト果実では、カロテノイド経路は高度に活性であり、この理由から、トマト果実は、以前より、異なる外来のカロテノイド化合物、例えばケトカロテノイドを生産するために使用されている。ケトカロテノイドの生合成には細胞の単一の細胞内の場所のプラスチドが関わったが、クロシンおよびピクロクロシンの経路はより難題である。なぜなら、それはクロシンが蓄積する2つの主な区画のプラスチド(発生源)および液胞(吸い込み口)の関与を必要とするからである。中心液胞は親水性の二次代謝物の貯蔵区画として機能し、莫大な量の代謝物の蓄積を可能にし、それゆえに、対象の極性の二次代謝物の蓄積のための魅力的な区画を提供する。トマトにおける他の代謝物、例えばケトカロテノイド(3mg/gDW)(Nogueira, M. et al. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America. 2017, 114, 10876-10881)、アントシアニン(5mg/gDW)(Butelli, E. et al. Nature Biotechnology. 2008, 26, 1301-1308)、レスベラトロール(5~6mg/gDW)(Zhang, Y. et al. Nature Communications. 2015, 6, 8635)、およびベタシアニン(50mg/L)(Polturak, G. et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2017, 114, 9062-9067)のトマトジュースにおける生産との我々のデータの比較は、対象の化合物について良い収量を有するトマト果実の経済的に重要な代謝経路を操作することのフィジビリティを実証している。これらのトマト果実において生産されるサフランアポカロテノイドは、概算の150倍のコスト節約を提供し得るということが推算された。なぜなら、32米ドル前後という1キログラムのサフランアポカロテノイドを含有するトマト材料の生産コストを前提とすると、現在、サフランスパイスの生産コストはキログラムあたり3,000~6,000米ドルの範囲であるからである。
【0016】
ジャガイモ塊茎における対象の他の代謝物の生産と、本文書において示されるデータの比較は、このアポカロテノイド代謝工学の首尾良い成果を明らかにした。実際に、β-ケトラーゼをコードする藻類bkt1遺伝子を発現するケトカロテノイドを蓄積するジャガイモ系統は、14μg/gDWという量を示し(Morris et al. Metabolic engineering (2006) 8(3):253-63.)、トランスジェニックcrtBおよびcrtB+crtI+crtYデジレ系統の発育中のおよび成熟した塊茎は、それぞれ約11および47μg/gDWのβ-カロテンに達した(Ducreux et al. Journal of experimental botany (2005) 56(409):81-9、Diretto G et al. PLoS One (2007) 2(4):e350.、Diretto et al. Plant physiology (2010) 154(2):899-912.)。一方で、クロモプラスト分化に関わるオレンジ(Or)遺伝子を過剰発現する塊茎は、コールドルームにおける5ヶ月の貯蔵後に最高で30μg/gDWのβ-カロテンを蓄積する(Li et al. Molecular Plant (2012) 5(2):339-52)。より最近では、トランスジェニック系統におけるCrtRb2およびPSY2の安定した発現はトータルのカロテノイドを増大させ、約25μg/gDWに達した(Pasare et al. Protoplasma (2013) 250(6):1381-92)。
【0017】
総体的に、この研究は、コンビナトリアルアプローチによる、栄養促進性の親油性のかつ希少な高価値の親水性アポカロテノイド化合物、例えばクロシン、ピコクロシン、HTTC、およびサフラナールの同時生産のためのバイオテクノロジーツールとして、ソラヌム属、特にトマト(ソラヌム・リコペルシカム)およびジャガイモ(ソラヌム・ツベロスム)からの異なる種を使用することの潜在力およびフィジビリティを実証する。これにおいては、特定のプロモーターのコントロール下でサフラン(C.サティバス)からの3つの遺伝子CsCCD2L(配列番号1)、CsUGT2(配列番号3)、およびUGT709G1(配列番号5)を発現することによって、高いレベルのこれらの価値ある代謝物が異種システムにおいて得られ、これらの3つの遺伝子が、トマトおよびジャガイモにそれらを生産するその能力を授けるのに十分であるということを示す。それゆえに、トマト、ジャガイモ、ならびにトマトに基づく産物、例えばケチャップ、トマトに基づくソース、ピザソース、トマトスープ、またはトマトジュース、およびジャガイモに基づく産物、例えばジャガイモフレーク、ポテトチップス、または馬鈴薯粉は従って、ニュートラシューティカルズおよび医薬として有用である。好ましくは、医薬は、医薬としての使用のための、より好ましくはアルツハイマー病などの神経変性疾患の防止および/または処置における使用のための薬学的組成物である。
【0018】
それゆえに、第1の態様において、本開示は、UGT2、UGT709G1、およびCCD2L、またはその機能的に同等の配列から選択されるアポカロテノイド化合物生合成、好ましくはクロシン、クロセチン、ピクロクロシン、HTTC、およびサフラナールのための3つの蛋白質の組み合わせをコードするヌクレオチド配列を含むDNAコンストラクト、以下では本発明のDNAコンストラクトを提供し、これらは、好ましくはクロッカス属に、好ましくはクロッカス・サティバス、クロッカス・アンガスティフォリウス、クロッカス・アンシレンシス、クロッカス・クリサントゥス、クロッカス・プルケルス、クロッカス・シーベリイ、およびクロッカス・スペシオサスからなるリストから選択される種に、より好ましくはC.サティバスに属し、ここで、UGT2、UGT709G1、およびCCD2Lのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号4、配列番号6、および配列番号2からなるリストから選択される配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一のアミノ酸配列から選択され、各ヌクレオチド配列は、塊茎特異的プロモーター、果実特異的プロモーター、または恒常的プロモーターから選択されるプロモーターに作動可能に連結され、ここで、CCD2Lをコードするヌクレオチド配列は果実または塊茎特異的プロモーターに作動可能に連結される。
【0019】
第2の態様において、本開示は、植物のアポカロテノイド化合物のレベルを増大させるための方法、以下では本発明のアポカロテノイド化合物のレベルを増大させるための方法を提供し、ここで、アポカロテノイド化合物は好ましくは植物のクロシン、ピクロクロシン、HTTC、およびサフラナールであり、方法は、本明細書に記載されるDNAコンストラクトを植物に導入および発現することを含む。
【0020】
第3の態様において、本開示は、対応する野生型植物と比較して、増大したレベルのアポカロテノイド化合物を有するトランスジェニック植物を生産するための方法、以下では本発明のトランスジェニック植物を生産するための方法を提供し、ここで、アポカロテノイド化合物は好ましくはクロシン、ピクロクロシン、HTTC、およびサフラナールであり、方法は、本明細書において開示されるDNAコンストラクトを植物に導入および発現することを含む。
【0021】
第4の態様において、本開示は、本明細書において開示されるDNAコンストラクトをそれらのゲノム上に含むトランスジェニック植物、以下では本発明のトランスジェニック植物を提供し、ここで、植物は、対応する野生型植物と比較して、増大したレベルのアポカロテノイド化合物、好ましくはクロシン、ピクロクロシン、HTTC、およびサフラナールを蓄積する。
【0022】
第5の態様において、本開示は、本発明のトランスジェニック植物の種子、果実、塊茎、子孫、および交配種、以下では本発明の種子、果実、塊茎、子孫、および交配種を提供する。
【0023】
第6の態様において、本開示は、本発明のアポカロテノイドのレベルを増大させるための方法によって調製される食品産物を提供し、食品産物は、増強されたアポカロテノイド化合物、好ましくはクロシン、ピクロクロシン、HTTC、およびサフラナールレベルを有する。
【0024】
第7の態様において、本開示は、本発明の食品産物、その断片または抽出物と、薬学的なまたはニュートラシューティカルズ的な許容される担体とを含む薬学的またはニュートラシューティカルズ的組成物を提供する。
【0025】
第8の態様において、本開示は、薬としての使用のための本発明の薬学的組成物を提供する。
【0026】
第9の態様において、本開示は、神経変性疾患、好ましくはアルツハイマー病の防止および/または処置のための薬としての使用のための本発明の薬学的組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
本明細書を完結させるために、かつ本発明のより良い理解を可能にするために、図面のセットが提供される。上記の図面は本明細書の不可欠な部分を形成し、本明細書において開示される態様および実施形態を例示する。これらは本発明の範囲を制限するのではなく、単にいかに本発明が実施され得るかの例として解釈されるべきである。図面は次の図を含む。
【
図1A】トマト植物を形質転換するために使用された4つのコンストラクト A)O1(pDGB3α1[p35SUGT2T35S-p35SUGT709T35S-pE8CCD2LT35S-pNos-Hyg-T35S])(配列番号21)の模式図である。
【
図1B】トマト植物を形質転換するために使用された4つのコンストラクト B)O2(pDGB3α1[p2A11SUGT2T35S-p35SUGT709T35S-pE8CCD2LT35S-pNos-Hyg-T35S])(配列番号22)の模式図である。
【
図1C】トマト植物を形質転換するために使用された4つのコンストラクト C)O3(pDGB3α1:[p35SUGT2T35S-p35SUGT709T35S-p35SCCD2LT35S-pNos-Hyg-T35S])(配列番号23)の模式図である。
【
図1D】トマト植物を形質転換するために使用された4つのコンストラクト D)O4(pDGB3α1[pE8UGT2T35S-p35SUGT709T35S-p2A11CCD2LT35S-pNos-Hyg-T35S])(配列番号24)の模式図である。
【
図1E】ジャガイモ植物を形質転換するために使用された1つのコンストラクト E)O6(pDGB3α2[pPatatinGT2T35S-pPatatinUGT709T35S-pPatatinCCD2LT35S-pNos-Hyg-T35S])(配列番号34)の模式図である。
【
図2】CsCCD2L、CsUGT2、およびCsUGT709G1遺伝子の相対的な発現レベルを示す棒グラフである。A)野生型(WT)およびトランスジェニックトマトの熟した果実(O3-2B、O1-11A、O4-12、およびO2-2B)におけるトランスジーン、ならびにB)野生型(WT-cv.デジレおよびOIH15WT)およびジャガイモ塊茎(O6-5CおよびOIH15WT-O6)におけるトランスジーン。RT-qPCRによって得られた。これのB部分では、元のデータの拡大を示す挿入図が包含されている。
【
図3A】O3プラスミドによって操作されたトランスジェニック系統の熟した果実および花の表現型を示す写真である。(A)および(B)それぞれ外側および内側の、O3プラスミドを有する果実の見た目。(C)それぞれO3およびO1プラスミドによって形質転換されたトランスジェニック系統の花。(D)O3およびO1トランスジェニック系統の解剖された葯。O1プラスミド:35SUGT2-35SUGT709G1-E8CCD2L(配列番号21)およびO3プラスミド:35SUGT2-35SUGT709G1-35SCCD2L(配列番号23)。WTおよびO1果実の表現型は
図4に示されている。
【
図3B】O3プラスミドによって操作されたトランスジェニック系統の熟した果実および花の表現型を示す写真である。(E)O6プラスミドによって操作されたジャガイモWTおよびトランスジェニック系統。
【
図4】O1(配列番号21)、O2(配列番号22)、およびO4(配列番号24)コンストラクトを持つWTおよびトランスジェニックの熟したトマトの表現型を示す写真である。
【
図5】フリーラジカルスカベンジング(FRS)活性のパーセンテージとして測定された果実の抗酸化活性が分析された棒グラフである。1.1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(DPPH)のスカベンジングによるWTおよびトマトトランスジェニック系統からの熟したトマト果実の親油性の抗酸化活性の分析。結果はWTおよびトランスジェニックトマト系統の抽出物についてラジカルスカベンジング能のパーセンテージとして提示されている。値は3つのレプリケートの平均である。
【
図6】WTおよびトランスジェニック果実(O2-2、O1-11A、O3-2、およびO4-12)におけるアブシジン酸(ABA)代謝物の相対的なレベルを示す棒グラフである。
【
図7】WTおよび選択されたトランスジェニック系統(O2-B、O4-12、およびO1-11A)の果実および漿液ジュースのクロシンおよびピクロクロシン分析。WTおよびトランスジェニック系統からの漿液ジュースの440nmにおける代表的なクロマトグラムである。挿入図:WTおよびO1-11Aトランスジェニック漿液ジュースの2Dクロマトグラムプロット。
【
図8A】熟したWTおよびトランスジェニックトマト系統の漿液ジュースの分析。A.トランスジェニック果実におけるクロシン蓄積は橙色の着色をトマト果実の内側に授けるということを示す写真である。
【
図8B】熟したWTおよびトランスジェニックトマト系統の漿液ジュースの分析。B.フラボノイドの検出のための254nmにおける漿液ジュースの代表的なHPLC-DADクロマトグラムである。
【
図8C】熟したWTおよびトランスジェニックトマト系統の漿液ジュースの分析。C.フェノール系化合物の検出のための330nmにおける漿液ジュースの代表的なHPLC-DADクロマトグラムである。
【
図9】インタクトな乾燥または粉末トマトの熟した果実およびサフラン柱頭を使用する色素拡散実験。A、B、およびC.異なる時点の水中のクロシン検出のための440nmにおいて示されたHPLC-DADクロマトグラムである。
【
図10】野生型(対照)およびトランスジェニックトマトの異なる抽出物によるC.エレガンスCL4176において誘導された麻痺に対する効果を示す棒グラフである。*p<0.05。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次の定義および方法は、本発明をより良く定義するためにかつ本発明の実施において当業者を案内するために提供される。別様に注記されない限り、用語は当業者による従来の使用法に従って理解されるべきである。そのように定義された各態様は、明確に反対に示されない限り、いずれかの他の態様(単数または複数)と組み合わせられ得る。具体的には、好ましいまたは有利として示されるいずれかの特徴は、好ましいまたは有利であるとして示されるいずれかの他の特徴(単数または複数)と組み合わせられ得る。
【0029】
本発明の実施は、別様に示されない限り、植物学、微生物学、組織培養、分子生物学、化学、生化学、および組み換えDNAテクノロジー、バイオインフォマティクスの従来の技術を採用するであろう。これらは当分野の技術水準の内である。かかる技術は文献中に詳しく説明されている。
【0030】
本明細書において使用される言葉「核酸」、「核酸配列」、「ヌクレオチド」、「核酸分子」、または「ポリヌクレオチド」は、DNA分子(例えばcDNAまたはゲノムDNA)、RNA分子(例えばmRNA)、天然に存在する、変異した、合成のDNAまたはRNA分子、およびヌクレオチドアナログを使用して作出されたDNAまたはRNAのアナログを包含するように意図される。それは一本鎖または二本鎖であり得る。かかる核酸またはポリヌクレオチドは、構造遺伝子のコード配列、アンチセンス配列、およびmRNAまたは蛋白質産物をコードしない非コード制御配列を包含するが、これらに限定されない。これらの用語は遺伝子をもまた包摂する。用語「遺伝子」または「遺伝子配列」は、生物学的機能に関連するDNA核酸を言うために幅広く使用される。それゆえに、遺伝子は、ゲノム配列のようにイントロンおよびエキソンを包含し得るか、またはcDNAのようにコード配列のみを含み得、および/または制御配列との組み合わせでcDNAを包含し得る。1つの実施形態においては、cDNAが好ましい。それゆえに、核酸を使用する本明細書に記載される態様の全てにおいては、別様に規定されない限り、cDNAが使用され得る。
【0031】
用語「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「蛋白質」は、本明細書においては交換可能に使用され、ペプチド結合によって一緒に連結されたいずれかの長さのポリマー形態のアミノ酸を言う。
【0032】
用語「DNAコンストラクト」は、周知の組み換えDNA技術を使用して機能的に作動的な様式で連結されている1つ以上のトランスジーンDNA配列を含む、植物ゲノムインテグレーションができる天然においては正常では関連しないDNA分子(単数または複数)を言う。「複数」のDNAコンストラクトは2つ以上を言う。本発明は、色々なレベルのアポカロテノイド、好ましくはクロシン、ピクロクロシン、HTCC、およびサフラナールが本発明のトランスジェニック植物において発見されるという予期せぬ発見に基づく。
【0033】
「プロモーター」は、遺伝子のオープンリーディングフレーム(または蛋白質コード領域)の翻訳開始コドンの上流にまたは5’に所在し、転写を開始するためのRNAポリメラーゼIIおよび他の蛋白質(トランス作用転写因子)の認識および結合に関わる核酸配列を言う。「恒常的プロモーター」は、植物発生の間に植物のほとんどのまたは全ての組織において機能的である。組織、器官、または細胞特異的なプロモーターは、それぞれ特定の組織、器官、または細胞型においてのみまたは優位に発現される。それゆえに、「果実プロモーター」は果実細胞において機能的である自然のまたは非自然のプロモーターであり、「塊茎プロモーター」は塊茎細胞において機能的である自然のまたは非自然のプロモーターである。所与の組織、器官、または細胞型において「特異的に」発現されるよりもむしろ、プロモーターは、植物の他の部分と比較して、植物の1つの部分(例えば細胞型、組織、または器官)において「増強された」発現、すなわちより高いレベルの発現を呈し得る。
【0034】
「1つ以上のプロモーターに作動可能に連結される」は、遺伝子またはDNA配列が、その機能を保証するようなやり方でプロモーターに対して位置付けられるかまたは接続されるということを意味する。プロモーターはDNAが転写されることを可能にするのに十分ないずれかの配列である。遺伝子およびプロモーター配列が繋がれた後に、プロモーターの活性化によって、遺伝子は発現されるであろう。
【0035】
「異種」配列は、外来性の発生源もしくは種に起源を発するか、または同じ発生源からである場合にはその元の形態から改変されている配列を言う。
【0036】
「組み換え」核酸は、2つ以上のさもなければ分離された配列セグメントの人工的組み合わせによって、例えば、化学合成によってまたは遺伝子工学技術による単離された核酸セグメントの操作によって作られる。核酸操作のための技術は当分野において周知である。
【0037】
用語「形質転換された」、「トランスフェクションされた」、または「トランスジェニック」は、組み換えコンストラクトなどの外来性の核酸が導入された細胞、組織、器官、または生物を言う。好ましくは、導入された核酸はレシピエント細胞、組織、器官、または生物のゲノムDNA上にインテグレーションされ、その結果、導入された核酸はその後の子孫に受け継がれる。「トランスジェニック」または「形質転換された」細胞または生物は、細胞または生物の子孫、および交配における親としてかかる「トランスジェニック」植物を採用する育種プログラムから生じ、かつ組み換えコンストラクトまたはコンストラクトの存在からもたらされる変調した表現型を見せる子孫をもまた包含する。
【0038】
ある種の実施形態において、本発明の目的のためのトランスジェニック植物は、それゆえに、上の通り、本発明の方法に使用される核酸は上記の植物のゲノム上のそれらの天然の座位にはなく、核酸は同種的にまたは異種的に発現されることが可能であるということを意味すると理解される。それゆえに、植物はトランスジーンを発現する。トランスジェニックは、好ましくは、ゲノム上の非天然の座位における本発明に従う核酸の発現、すなわち核酸の同種または好ましくは異種発現が生起するということを意味すると理解される。本発明に従うと、トランスジーンは植物に安定してインテグレーションされ、植物は好ましくはトランスジーンについてホモ接合である。
【0039】
本発明のトランスジェニック植物は天然に存在しない。本明細書において使用される用語「天然に存在しない」は、植物を参照して使用されるときには、人によって遺伝子改変された種子植物を意味する。本発明のトランスジェニック植物は、例えば、外因性の核酸分子、例えば異種UGT2、UGT709G1、およびCCD2L遺伝子産物をコードする核酸分子を含み、従って、人によって遺伝子改変された天然に存在しない植物である。
【0040】
本発明の態様には組み換えDNAテクノロジーが関わり、好ましい実施形態においては、従来の育種方法によって植物を作出することに専ら基づく実施形態を除外する。
【0041】
驚くべきことに、本発明者は、ナス科植物、好ましくはトマトおよびジャガイモ植物におけるクロッカスのファミリーに属する、好ましくはC.サティバスからのUGT2、UGT709G1、およびCCD2L蛋白質の異種発現が、上記のトランスジェニック植物の果実および塊茎における高いレベルのクロシン、ピクロクロシン、HTTC、およびサフラナールの増大した生合成および蓄積に至るということを実証した。
【0042】
それゆえに、第1の態様において、本開示は、アポカロテノイド化合物生合成のための3つの蛋白質の組み合わせをコードするヌクレオチド配列を含む核酸またはDNAコンストラクトに関し、ここで、蛋白質はUGT2、UGT709G1、およびCCD2L、またはその機能的に同等の配列であり、これらは好ましくはクロッカスL属に属し、
ここで、UGT2、UGT709G1、およびCCD2Lのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号4、配列番号6、および配列番号2からなるリストから選択される配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一のアミノ酸配列から選択され、
各ヌクレオチド配列は、果実もしくは塊茎特異的プロモーターおよび/または恒常的プロモーターから選択されるプロモーターに作動可能に連結される。
【0043】
本発明のDNAコンストラクトの好ましい実施形態において、CCD2Lをコードするヌクレオチド配列は果実または塊茎特異的プロモーターに作動可能に連結される。
【0044】
クロッカスL.属(アヤメ科)は、中欧および南東欧に、中欧からトルコ、北アフリカまで、および南西アジアから中国西部まで分布する多年生草本および地中植物の88よりも多くの異なる種を含む。「クロッカスL.」によって、それは、アヤメ科に属し、かつ球茎と呼ばれる地下貯留器官を提示することを特徴とする草本の多年生および地中植物の属と理解される。限定ではなく例示として、本発明の範囲内で使用されるクロッカスL.の種、亜種、および/または変種の例は、C.サティバス、C.アンシレンシス、C.キャンセラタス、C.カルペタヌス、C.クリサントゥス、C.ネバデンシス、C.セロティヌス、C.セロティヌスssp.サルツマニイ、C.バーナスvar.「フラワーレコード」、C.バーナスvar.「ギールイエロー」、C.バーナス「ジャンヌダルク」、C.ベルシコロール、C.スペシオサス、C.スペシオサス「アルブス」、C.スペシオサス「アイチンソニイ」、C.アンガスティフォリウス、C.ダルマティカス、C.プルケルス、C.コルシカス、C.コツキアヌス、C.コツキアヌス「アルブス」、C.カートライティアヌス、C.ラエヴィガトゥス「フォンテナイイ」、およびC.リグスティカスである。
【0045】
好ましい実施形態において、UGT2、CCD2L、およびUGT709G1蛋白質をコードするヌクレオチド配列はC.サティバスに属する。
【0046】
カロテノイド開裂ジオキシゲナーゼ2Lとしてもまた公知の「CCD2Lポリペプチド」は、配列番号1(GenBank、KP887110.1)のヌクレオチド配列によってコードされる配列番号2(GenBank、ALM23547.1)のアミノ酸配列を有し、クロッカス・サティバスに属する。好ましい実施形態において、CCD2Lポリペプチドは、配列番号2の配列との少なくとも50%、より好ましくは60%、70%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、さらにより好ましくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する。同じ意味で、CCD2Lヌクレオチド配列は、配列番号1の配列と少なくとも50%、より好ましくは60%、70%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、さらにより好ましくは99%の同一性を有するヌクレオチド配列を有する。
【0047】
クロセチングルコシルトランスフェラーゼ2としてもまた公知の「UGT2ポリペプチド」は、配列番号3(GenBank、AY262037.1)のヌクレオチド配列によってコードされる配列番号4(GenBank、AAP94878.1)のアミノ酸配列を有し、クロッカス・サティバスに属する。好ましい実施形態において、UGT2ポリペプチドは、配列番号4の配列との少なくとも50%、より好ましくは60%、70%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、さらにより好ましくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する。同じ意味で、UGT2ヌクレオチド配列は、配列番号3の配列と少なくとも50%、より好ましくは60%、70%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、さらにより好ましくは99%の同一性を有するヌクレオチド配列を有する。
【0048】
「UGT709G1ポリペプチド」は、配列番号5(GenBank、KX385186.1)のヌクレオチド配列によってコードされる配列番号6(GenBank、APU54677.1)のアミノ酸配列を有し、クロッカス・サティバスに属する。好ましい実施形態において、UGT709G1ポリペプチドは、配列番号6の配列との少なくとも50%、より好ましくは60%、70%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、さらにより好ましくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する。同じ意味で、UGT709G1ヌクレオチド配列は、配列番号5の配列との少なくとも50%、より好ましくは60%、70%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、さらにより好ましくは99%の同一性を有するヌクレオチド配列を有する。
【0049】
推定上の配列(単数または複数)のヌクレオチド配列(単数または複数)と配列番号1から6で定められる配列との間の対応は、当分野において公知の方法によって決定され得る。配列比較方法は従来技術において公知であり、BLASTまたはBLASTNプログラムおよびFASTAを包含するが、これらに限定されない(Altschul et al., J. Mol. Biol. 215: 403-410 (1999))。
【0050】
本明細書において使用される用語「相同性」は、共通の進化上の祖先を原因とする2つの構造間の類似性を、より具体的には、それぞれパーセントのヌクレオチドまたはアミノ酸の位置の同一性、すなわち配列類似性または同一性に換算した2つ以上のヌクレオチドまたはアミノ酸配列間の類似性を言う。相同性は、異なる核酸または蛋白質間の類似の機能的特性の概念をもまた言う。
【0051】
本明細書において使用される用語「同一性」は、比較される2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列の間の同一のヌクレオチドまたはアミノ酸の割合を言う。配列比較方法は従来技術において公知であり、GAPを包含するGAGプログラム(Devereux et al., Nucleic Acids Research 12: 287 (1984))、遺伝学コンピュータグループ(Genetics Computer Group)、ウィスコンシン大学、マディソン(WI)、BLAST、BLASTP、またはBLASTN、およびFASTA(Altschul et al., J. Mol. Biol. 215: 403-410 (1999))を包含するが、これらに限定されない。
【0052】
本明細書において使用される用語「機能的な同等の配列」は、例えば配列番号1から6または本明細書において述べられるいずれかの配列を参照して、全長の非バリアント配列の生物学的な機能を保持するバリアント遺伝子もしくはペプチド/蛋白質配列または遺伝子もしくはペプチド/蛋白質配列の部分を言う。機能的な同等の配列は、例えば保存されていない残基における、もたらされる蛋白質の機能に影響しない配列の変調を有するペプチドをコードする対象の遺伝子のバリアントをもまた含む。また、本明細書において示される野生型配列と実質的に同一であり、すなわち例えば保存されていない残基におけるいくつかの配列変動のみを有し、かつ生物学的に活性であるバリアントが包摂される。この意味で、配列番号1から6を参照して機能的な同等の配列は、アポカロテノイド化合物生合成をコードし、かつ本発明の配列番号1から6から選択される配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、さらにより好ましくは99%同一であるヌクレオチド配列を含む、C.サティバスとは異なる種、例えば、例えばC.アンガスティフォリウス、C.アンシレンシス、C.クリサントゥス、C.プルケルス、C.シーベリイ、およびC.スペシオサスに属するバリアント遺伝子を言う。
【0053】
それゆえに、当業者が了解するように、方法および使用を包含する本発明の態様は、本明細書に記載される核酸またはペプチドのみならず、もたらされる蛋白質の生物学的な活性および機能に影響しないそれらの機能的なバリアントまたはホモログをもまた包摂するということが理解される。所与の部位における異なるアミノ酸の生産をもたらし、しかしながらコードされるポリペプチドの機能的特性には影響しない核酸配列の変調は、当分野において周知である。例えば、疎水性アミノ酸のアミノ酸アラニンのコドンが、グリシンなどの別のより疎水性でない残基、またはバリン、ロイシン、もしくはイソロイシンなどのより疎水性の残基をコードするコドンによって置換され得る。同様に、1つの負荷電残基と別のもの、例えばアスパラギン酸とグルタミン酸、または1つの正荷電残基と別のもの、例えばリジンとアルギニンの置換をもたらす変化もまた、機能的に同等の産物を生じ得る。提案される改変のそれぞれは、コードされる産物の生物学的な活性の保持の決定のように、十分に当分野の定型的な技術水準内である。
【0054】
本発明のDNAコンストラクトの別の好ましい実施形態において、好ましくは合成されるアポカロテノイド化合物は、とりわけクロシン、クロセチン、ピクロクロシン、HTTC、およびサフラナールからなるリストから選択される。
【0055】
本発明のDNAコンストラクトの他の好ましい実施形態において、CCD2Lポリペプチド(配列番号2)は、配列番号1の配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、さらにより好ましくは99%を有するヌクレオチド配列によってコードされる。
【0056】
本発明のDNAコンストラクトの他の好ましい実施形態において、UGT2ポリペプチド(配列番号4)は、配列番号3の配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、さらにより好ましくは99%を有するヌクレオチド配列によってコードされる。
【0057】
本発明のDNAコンストラクトの他の好ましい実施形態において、UGT709G1ポリペプチド(配列番号6)は、配列番号5の配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、さらにより好ましくは99%を有するヌクレオチド配列によってコードされる。
【0058】
本発明のDNAコンストラクトの他の好ましい実施形態において、果実特異的プロモーターは、トマトE8プロモーター(配列番号7)およびp2A11(配列番号8)ならびにそれらの組み合わせからなるリストから選択される。本発明のDNAコンストラクトの別の好ましい実施形態において、塊茎特異的プロモーターはパタチンプロモーターpPat(配列番号33)である。本発明のDNAコンストラクトの別の好ましい実施形態において、恒常的プロモーターはカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(配列番号9)である。
【0059】
好ましくは、本発明に従うDNAコンストラクトは、ベクター、最も好適には、適当なホスト(植物)細胞における発現に適合した発現ベクター上に含まれる。導入されたDNA配列を含む植物を生産することができるいずれかのベクターが十分であろうということは了解されるであろう。好適なベクターは当業者に周知であり、一般的な技術リファレンス、例えばPouwels et al, Cloning Vectors. A laboratory manual, Elsevier, Amsterdam (1986)に記載されている。
【0060】
本発明のDNAコンストラクトの別の好ましい実施形態において、コンストラクトは、好ましくはpE8である果実プロモーターに作動可能に連結されたCCD2Lヌクレオチド配列、好ましくはp35である恒常的プロモーターに作動可能に連結されたUGT2ヌクレオチド配列、および好ましくはp35Sである恒常的プロモーターに作動可能に連結されたUGT7091ヌクレオチド配列を含む。本発明のDNAコンストラクトのより好ましい実施形態において、コンストラクトは配列番号21を含み、本開示ではO1と名付けられる。
【0061】
本発明のDNAコンストラクトの別の好ましい実施形態において、コンストラクトは、好ましくはpE8である果実プロモーターに作動可能に連結されたCCD2Lヌクレオチド配列、好ましくはp2A11である果実プロモーターに作動可能に連結されたUGT2ヌクレオチド配列、および好ましくはp35Sである恒常的プロモーターに作動可能に連結されたUGT7091ヌクレオチド配列を含む。本発明のDNAコンストラクトのより好ましい実施形態において、コンストラクトは配列番号22を含み、本開示ではO2と名付けられる。
【0062】
本発明のDNAコンストラクトの別の好ましい実施形態において、コンストラクトは、好ましくはp35Sである恒常的プロモーターに作動可能に連結されたCCD2Lヌクレオチド配列、好ましくはp35Sである恒常的プロモーターに作動可能に連結されたUGT2ヌクレオチド配列を含み、UGT7091ヌクレオチド配列もまた好ましくはp35Sである恒常的プロモーターに作動可能に連結される。本発明のDNAコンストラクトのより好ましい実施形態において、コンストラクトは配列番号23を含み、本開示ではO3と名付けられる。
【0063】
本発明のDNAコンストラクトの別の好ましい実施形態において、コンストラクトは、好ましくはpE8である果実プロモーターに作動可能に連結されたCCD2Lヌクレオチド配列、好ましくはpE8である果実プロモーターに作動可能に連結されたUGT2ヌクレオチド配列を含み、UGT7091ヌクレオチド配列は好ましくはp35Sである恒常的プロモーターに作動可能に連結される。本発明のDNAコンストラクトのより好ましい実施形態において、コンストラクトは配列番号24を含み、本開示ではO4と名付けられる。
【0064】
本発明のDNAコンストラクトの別の好ましい実施形態において、コンストラクトは、好ましくはpPatである塊茎特異的プロモーターに作動可能に連結されたCCD2Lヌクレオチド配列、好ましくはpPatである塊茎特異的プロモーターに作動可能に連結されたUGT2ヌクレオチド配列を含み、UGT7091ヌクレオチド配列もまた好ましくはpPatである塊茎特異的プロモーターに作動可能に連結される。本発明のDNAコンストラクトのより好ましい実施形態において、コンストラクトは配列番号34を含み、本開示ではO6と名付けられる。
【0065】
別の態様において、本開示は、本発明のDNAコンストラクトを含まない野生型植物に対して、植物におけるアポカロテノイド化合物のレベルを増大させるための上に記載されたDNAコンストラクトの使用にもまた関する。
【0066】
用語「増大させる」、「改善する」、または「増強する」は本明細書においては交換可能に使用され、それらは、例えば、対照または野生型植物と比較して、少なくとも2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、またはこれより多く、例えば少なくとも15%もしくは20%、または25%、30%、35%、40%、もしくは50%の増大を言う。
【0067】
別の態様において、本開示は、植物においてアポカロテノイド化合物のレベルを増大させるための方法にもまた関し、方法は、本発明のDNAコンストラクトを植物に導入および発現することを含む。
【0068】
本発明のアポカロテノイドのレベルを増大させるための方法の好ましい実施形態において、それは、アポカロテノイドはクロシン、ピクロクロシン、HTTC、およびサフラナールからなるリストから選択されるということを特徴とする。
【0069】
本発明のアポカロテノイドのレベルを増大させるための方法の別の好ましい実施形態において、それは、植物がソラヌム属に属し、好ましくは、トマト、ジャガイモ、ペチュニア、ナス、タバコ、および胡椒、より好ましくはトマト、ジャガイモ、およびペチュニア、さらにより好ましくはトマト(ソラヌム・リコペルシカム)およびジャガイモ(ソラヌム・ツベロスム)からなる群から選択されるということを特徴とする。
【0070】
本発明のアポカロテノイドのレベルを増大させるための方法のより好ましい実施形態において、それは、上記の植物のアポカロテノイド化合物、好ましくはクロシン、ピクロクロシン、HTTC、およびサフラナールが、トランスジェニック植物の収穫可能部分において、好ましくはそれらの塊茎、果実、および種子において増大するということを特徴とする。
【0071】
別の態様において、本開示は、対応する野生型植物と比較して増大したレベルのアポカロテノイド化合物を有するトランスジェニック植物を生産するための方法にもまた関し、方法は、本発明のDNAコンストラクトを導入および発現することを含む。
【0072】
本発明のトランスジェニック植物を生産するための方法の1つの実施形態において、上記の植物は、上述の通り、ソラヌム属に属し、好ましくはトマト、ジャガイモ、ペチュニア、ナス、タバコ、および胡椒、より好ましくはトマト、ジャガイモ、およびペチュニア、さらにより好ましくはトマト(ソラヌム・リコペルシカム)およびジャガイモ(ソラヌム・ツベロスム)からなる群から選択される。
【0073】
本発明のトランスジェニック植物を生産するための方法の別の好ましい実施形態において、アポカロテノイドはクロシン、ピクロクロシン、HTTC、およびサフラナールからなるリストから選択される。より好ましい実施形態において、上記のアポカロテノイドは、トランスジェニック植物の収穫可能部分において、好ましくはそれらの果実、塊茎、および種子において増大する。
【0074】
本発明に従うDNAコンストラクトをホスト細胞に導入するための形質転換技術は当分野において周知であり、マイクロインジェクション、ポリエチレングリコールを使用すること、エレクトロポレーション、または高速度弾道学的透過などの方法を包含する。本発明に従う使用のための好ましい方法は、アグロバクテリウムによって媒介される形質転換に依拠する。
【0075】
本発明の方法は、任意に、上の通りDNAコンストラクトを含み、対照または野生型植物と比較して増大したアポカロテノイド化合物を有するものを、植物からスクリーニングおよび選択するステップをもまた含み得る。好ましくは、本明細書に記載される方法に従うと、子孫の植物は安定して形質転換され、植物細胞中に維持されるDNAの断片として遺伝可能である外因性のポリヌクレオチドを含み、方法は、コンストラクトが安定してインテグレーションされているということを検証するためのステップを包含し得る。方法は、植物からまたはそれらの選択された子孫から収穫可能部分を収集する追加のステップをもまた含み得る。
【0076】
別の態様において、本開示は、本明細書に記載される方法によって得られるかまたは得られ得る植物にもまた関した。
【0077】
別の態様において、本開示は、トランスジェニック植物にもまた関し、これは本明細書において開示されるDNAコンストラクトをそのゲノム上に含み、ここで、上記の植物は、対応する野生型植物と比較して増大したレベルのアポカロテノイド化合物、好ましくはクロシン、ピクロクロシン、HTTC、およびサフラナールを蓄積する。
【0078】
好ましい実施形態において、ソラヌム属に属する本発明のトランスジェニック植物は、好ましくはトマト、ジャガイモ、ペチュニア、ナス、タバコ、および胡椒、より好ましくはトマト、ジャガイモ、およびペチュニア、より好ましくはトマト(ソラヌム・リコペルシカム)およびジャガイモ(ソラヌム・ツベロスム)からなる群から選択される。
【0079】
好ましい実施形態において、本発明のトランスジェニック植物、それは、増大したレベルのアポカロテノイドがトランスジェニック植物の収穫可能部分に、好ましくは果実、塊茎、および種子にあるということを特徴とする。
【0080】
本明細書に記載される本発明の種々の態様は、別様に規定されない限り、本明細書に記載される方法のいずれかによって生産されるか、得られるか、または得られ得るいずれかの植物細胞またはいずれかの植物に、ならびにそれらの全ての植物部分および散布体に明確に拡張される。本発明は、前述の方法のいずれかによって生産された一次形質転換またはトランスフェクション細胞、組織、器官、または全植物体の子孫を包摂するようにさらに拡張され、唯一の要件は、子孫が、本発明に従う方法において親によって生ずるものと同じ遺伝子型および/または表現型特徴(単数または複数)を見せるということである。
【0081】
本開示は、食品産物または薬学的組成物の調製における本発明に従うトランスジェニック植物またはそれらの所望の部分の使用にもまた関する。
【0082】
別の態様において、本開示は、上に記載されたトランスジェニック植物の収穫可能部分、またはそれらに由来する産物にもまた関した。
【0083】
好ましい実施形態において、トランスジェニック植物の収穫可能部分は種子、葉、果実、花、茎、根、根茎、塊茎、および球根から選択される。より好ましくは、収穫可能部分は種子、塊茎、および果実から選択され、それらは、野生型植物の収穫可能部分と比較して増大したレベルの、本明細書において開示されるアポカロテノイドを有することを特徴とする。
【0084】
本開示は、本発明のトランスジェニック植物の収穫可能部分に由来する、好ましくはかかる植物の収穫可能部分に直接的に由来する産物、例えば乾燥ペレットまたは粉末、油、脂肪および脂肪酸、ファイバーまたは蛋白質にもまた関する。
【0085】
本開示は、好ましくは本発明のトランスジェニック植物の収穫可能部分、より好ましくは塊茎、果実、および/または種子を含む食品産物および食品サプリメントにもまた関する。食品産物および食品サプリメントは、対照または野生型植物の収穫可能部分を含む食品産物または食品サプリメントと比較して、本明細書において開示される増大したアポカロテノイド化合物を有する。
【0086】
好ましい実施形態において、食品産物または食品サプリメントは好ましくはトマト、ジャガイモ、トマトに基づく産物、およびジャガイモに基づく産物である。より好ましい実施形態において、トマトに基づく産物はとりわけケチャップ、トマトに基づくソース、ピザソース、トマトスープ、またはトマトジュースからなるリストから選択され、ジャガイモに基づく産物はとりわけポテトチップス、ジャガイモフレーク、または馬鈴薯粉からなるリストから選択される。
【0087】
別の態様において、本開示は、本明細書において開示される食品産物、その断片または抽出物と、ニュートラシューティカルズ的な許容される担体とを含むニュートラシューティカルズ的組成物にもまた関する。
【0088】
本明細書において使用される「ニュートラシューティカルズ的組成物」は、植物材料から単離または精製され、かつ通常は食品に関連しないフォーマットで一般的に提供される産物を言う。ニュートラシューティカルズ的組成物は、アルツハイマー病などの神経変性疾患に対する保護のための実証可能な生理学的なベネフィットを有する。
【0089】
本明細書において使用される「ニュートラシューティカルズ的な担体」は、生体適合性でありかつニュートラシューティカルズ的に許容される好適な基剤を言い、消費に好適である1つ以上の固体、半固体、または液体の希釈剤、賦形剤、香味料、またはカプセル化物質を含み得る。
【0090】
別の態様において、本開示は、有効量の本明細書において開示される食品産物、その断片または抽出物と、薬学的な許容される担体および/または賦形剤とを含む薬学的組成物にもまた関する。
【0091】
本明細書において使用される「有効量」は、哺乳動物、好ましくは人間に投与されるときに、哺乳動物、好ましくは人間における対象の疾患または病理学的状態の下で定義される防止および/または処置を生ずるのに十分である所与の化合物の量を言う。治療上有効量は、例えば、患者の年齢、体重、全般的な健康状態、性別、および食生活、投与のモードおよび時間、排泄速度、薬物の組み合わせ、具体的な障害または病理学的状態の重症度、ならびに治療を経過する対象者に従って変動するであろうが、当業者によって当業者自身の知識に従って決定され得る。
【0092】
用語「賦形剤」は、本発明の産物の構成成分のいずれかの吸収を助けるか、これらの構成成分を安定化するか、またはそれにコンシステンシーを与えるかもしくはそれをより快適にする香味を提供するという意味で薬学的組成物の調製を助ける物質を言う。それゆえに、この段落で述べられない他の型の賦形剤を除外することなしに、賦形剤は、澱粉、糖、またはセルロースなどの構成成分を一緒に保つ機能、甘味料機能、染料機能、例えば薬物を空気および/または湿気から隔離するための薬物保護機能、錠剤、カプセル、またはいずれかの他の剤形を充填する機能、構成成分の溶解および腸におけるそれらの吸収を容易にするための崩壊機能を有し得る。
【0093】
用語「基剤」または「担体」は好ましくは不活性の物質である。基剤の機能は、他の化合物の組み込みを容易にすること、より良い用量および投与を可能にすること、または薬学的組成物にコンシステンシーおよび形態を与えることである。よって、担体は、本発明の薬学的組成物の構成成分のいずれかを所与の体積もしくは重量まで希釈するために使用されるか、または上記の構成成分を希釈することさえなしに、より良い用量および投与を可能にすることもしくは薬にコンシステンシーおよび形態を与えることができる物質である。その基剤は薬学的に許容される。剤形が液体であるときには、薬学的に許容される担体は希釈剤である。
【0094】
加えて、賦形剤および基剤は薬理学的に許容されなければならない。つまり、賦形剤および基剤は、それが投与される生物にダメージを引き起こさないように許容され、評価される。
【0095】
本発明の薬学的組成物は別の有効物質を含み得る。治療上の効能の要件に加えて、上記の薬学的組成物が他の治療薬剤の使用を要求し得る場合、本発明の化合物と別の治療薬剤の組み合わせの使用を強制または強く推奨する追加の根本的理由があり得る。用語「有効成分」は、人間、動物、植物、化学物質、または他のその起源にかかわらず、薬を構成するための適当な活性が帰せられるいずれかの物質である。
【0096】
各ケースにおいて、医薬の剤形は使用される投与の型に適合するであろう。よって、本発明の組成物は、溶液の形態または臨床的に許可される投与のいずれかの他の形態で、かつ治療上有効量で提示され得る。本発明の薬学的組成物は、固体、半固体、液体、または気体形態、例えば錠剤、カプセル、粉末、顆粒、軟膏、溶液、座薬、注射剤、吸入剤、ゲル、シロップ、ネブライザー、マイクロスフェア、またはエアロゾルに、好ましくは錠剤、カプセル、粉末、顆粒、溶液、座薬、またはシロップの形態に製剤され得る。
【0097】
上述の組成物は、従来の方法、例えば異なる国の薬局方および他の参照テキストに記載されているものを使用して調製され得る。
【0098】
本発明の化合物および組成物は、組み合わせ治療において他の医薬と一緒に使用され得る。他の薬物は、同じまたは異なる時間における投与のための同じ組成物のまたは異なる組成物の一部であり得る。
【0099】
別の態様において、本開示は、薬または医薬としての使用のための本発明の薬学的組成物にもまた関する。
【0100】
別の態様において、本開示は、神経変性疾患、例えばアルツハイマー病、または他の形態の認知症、例えばパーキンソン病の防止および/または処置における使用のための本発明の薬学的組成物にもまた関する。
【実施例】
【0101】
次に示すものは、本発明者によって実施されたアッセイによる本発明の例であり、これらは本発明の産物の有効性を証明する。次の例は本発明を例示する役割を果たし、その範囲を限定すると見なされてはならない。
【0102】
<材料および方法>
[植物材料および生育条件]
トマト(S.リコペルシカムcv.マネーメーカー(MM))を野生型(WT)および全てのトマト植物形質転換の遺伝学的バックグラウンドとして使用した。トマト果実を熟した段階において収集し、果皮組織を種子および胎座から分離したら、細切りにし、さらなる分析まで液体窒素中で直ちに凍結した。
【0103】
ジャガイモ植物(ソラヌム・ツベロスムcv.デジレおよびcv.OIH15WT)を、コンポストを含有する10cm径ポットで種塊茎またはインビトロ繁殖した組織培養植物から生育させた。ジャガイモ植物を20/15℃の昼/夜温度に維持された温室で育てた。最大照度はおよそ10500μmol・m-2s-1であり、平均日長は16時間であった。塊茎を、開花後だが老化前の植物から収穫した。
【0104】
[プラスミド構築]
異なるプロモーター組み合わせを有する一連のプラスミドを作製して、異種遺伝子の配列番号1(GenBankアクセッション番号KP887110.1)で定められるCsCCD2L遺伝子配列、配列番号5(GenBankアクセッション番号KX385186)で定められるCsUGT709G1遺伝子配列、および配列番号3(GenBankアクセッション番号AY262037.1)で定められるCsUGT2遺伝子配列を発現するトマトおよびジャガイモにおけるサフランアポカロテノイド経路を操作するそれらの能力を評価した。3つのプロモーターpE8(配列番号7)、p2A11(配列番号8)、およびp35S(配列番号9)を、トマトにおいてサフラン遺伝子の発現を駆動するために、1つのプロモーターpPat(配列番号33)を、ジャガイモにおいてサフラン遺伝子の発現を駆動するために選択した(
図1)。Goldenbraid戦略に従ってプラスミドを構築した(Sarrion-Perdigones, A., et al. Methods Mol Biol. 2014, 1116, 133-151)。下の表1に列記されているプライマーを使用した。
【0105】
【0106】
産物を、(https://gbcloning.upv.es、バレンシア、スペイン)から得られたレベル0ベクターpUPD2にクローニングした。それから、もたらされたプラスミドpUPD2-CsCCD2L(配列番号18)、pUPD2-CsUGT2(配列番号19)、およびpUPD-CsUGT709G1(配列番号20)を使用して、次の通り、Goldenbraidモジュラークローニングシステムに従って、4つの組み換えバイナリプラスミドを構築した:
・O1(配列番号21)=pDGB3α1[p35S:UGT2:T35S-p35S:UGT709G1:T35S-pE8:CCD2L:T35S-pNos:Hyg:T35S](
図1A)、
・O2(配列番号22)=pDGB3α1[p2A11:UGT2:T35S-p35S:UGT709G1:T35S-pE8:CCD2L:T35S-pNos:Hyg:T35S](
図1B)、
・O3(配列番号23)=pDGB3α1[p35S:UGT2:T35S-p35S:UGT709G1:T35S-p35S:CCD2L:T35S-pNos:Hyg:T35S](
図1C)、および
・O4(配列番号24)=pDGB3α1[pE8:UGT2:T35S-p35S:UGT709G1:T35S-p2A11:CCD2L:T35S-pNos:Hyg:T35S](
図1D)。
・O6(配列番号34)=pDGB3α2[pPatGT2T35S-pPatUGT709T35S-pPatCCD2LT35S-pNos-Hyg-T35S](
図1E)
【0107】
[トマト形質転換]
バイナリプラスミド(O1からO4、それぞれ配列番号21から24)をエレクトロポレーションによってアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404株に移入し、それから、先に記載された通りS.リコペルシカム(var.マネーメーカー)へのトマトの安定した形質転換に使用した(Ellul, P. et al. Theor Appl Genet. 2003, 106, 231-238)。トランスジェニック植物を、ハイグロマイシン選択培地上で発根するそれらの能力について選択し、ゲノムDNAを、PCRを使用してさらに検証して、対応する遺伝子の存在についてチェックした(下記参照)。全てのインビトロステップは長日生育チャンバーで実施した(16時間明/8時間暗、24℃、60~70%湿度、250μmol/m2/s)。当たりのトランスジェニックトマト植物を土壌に移入し、温室で14/10時間の昼/夜光周期によって22℃で生育させた。
【0108】
[ジャガイモ形質転換]
バイナリプラスミドO6(配列番号34)をエレクトロポレーションによってアグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4404株に移入し、先に記載された通りS.ツベロスムへの安定したジャガイモcv.デジレおよびcv.OIH15Wt形質転換に使用した(Tavazza et al. Plant Science 59(2): 175-181. 1989)。トランスジェニック植物を、ハイグロマイシン選択培地上で発根するそれらの能力について選択し、ゲノムDNAを、PCRを使用してさらに検証して、対応する遺伝子の存在についてチェックした(下記参照)。全てのインビトロステップは長日生育チャンバーで実施した(16時間明/8時間暗、24℃、60~70%湿度、250μmol/m2/s)。当たりのトランスジェニックジャガイモ植物を土壌に移入し、温室で14/10時間の昼/夜光周期によって22℃で生育させた。
【0109】
[アポカロテノイドおよびカロテノイド分析]
代謝物抽出および分析は代謝物の性質に依存して異なった。極性および非極性代謝物を、それぞれ50mgおよび5mgの凍結乾燥された果実/塊茎組織から抽出した。極性代謝物分析(クロシンおよびピクロクロシン)のために、組織を冷75%メタノールによって抽出した。可溶性画分を、高速液体クロマトグラフィー-ダイオードアレイ検出器-高分解能質量分析(HPLC-DAD-HRMS)およびHPLC-DADを使用して先に記載された通り分析した(Diretto, G. et al. New Phytol. 2019; 16079)。無極性画分(クロセチン、HTCC(4-ヒドロキシ-2,6,6-トリメチル-1-シクロヘキセン-1-カルボキシアルデヒド)、およびカロテノイド)を1:2の冷抽出溶媒(50:50メタノール:CHCl3)によって抽出し、先に記載された通りHPLC-DAD-HRMSおよびHPLC-DADによって分析した(Diretto, G. et al. New Phytol. 2019; 16079)。
【0110】
代謝物を、標準との同時移動を使用して、利用可能なときには標準のものに対して各ピークのUVスペクトルをマッチングすることによって、モノアイソトピック質量同定のためのPubchemデータベース(http://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/)に報告されたm/z精密質量および文献データに基づいて、またはアダクト検出のケースではメタボロミクス・フィーン(Fiehn)ラボ質量分析アダクトカリキュレータ(http://fiehnlab.ucdavis.edu/staff/kind/Metabolomics/MS-Adduct-Calculator/)を使用して、同定した。色素を、ピーク面積を積分することによって定量し、これを、標準との比較によって、かつ先に報告された通り濃度に変換した(Marti, M. et al. Metabolic Engineering. 2020, 61, 238-250)。
【0111】
[揮発成分分析]
揮発性化合物をヘッドスペース固相マイクロ抽出(HS-SPME)によって捕捉し、質量分析とカップリングされたガスクロマトグラフィー(GC/MS)によって分析した。トマト果実を赤熟段階において収集し、果皮の切片を切り出し、直ちに液体窒素中で凍結した。代謝物抽出のために、形質転換イベントを代表する3~5つの果実からの凍結されたトマト果皮切片をクライオミルで粉砕し、分析まで-80℃で貯蔵した。一方、植物の葉群が枯れ込んだ3週後に、成熟したジャガイモを収穫し、3~5つのジャガイモからの凍結された塊茎ジャガイモ切片をクライオミルで粉砕した。揮発性化合物の分析は先に記載されたプロセスに類似して行った(Raines, C., et al. Journal of experimental botany. 2017, 68, 347-349)。大体500mgのもたらされた粉末を15mLガラスバイアルに導入し、37℃において水浴上で10分間インキュベーションした。それから、500μLの100mMのEDTA,pH7.5溶液および1.1gのCaCl2.2H2Oを追加し、穏やかに混合し、5分間ソニケーションした。これの後に、1mLのもたらされたペーストをシリコン/PTFEセプタムを有する10mLスクリューキャップヘッドスペースバイアルに移入し、12時間以内に分析した。揮発性化合物を65μmのPDMS/DVB固相マイクロ抽出ファイバー(SUPELCO)によってヘッドスペースから抽出した。揮発成分抽出をCombiPALオートサンプラー(CTCアナリティクス)によって自動で行った。バイアルを、まず、500rpmにおける攪拌をしながら50℃で10分間インキュベーションした。それから、ファイバーを同じ温度および攪拌条件においてバイアルのヘッドスペースに20分間露出した。脱着を、6890Nガスクロマトグラフ(アジレント・テクノロジー)のインジェクションポートにおいてスプリットレスモードを使用して、250℃で1分間行った。脱着後に、ファイバーを、SPMEファイバーコンディショニングステーション(CTCアナリティクス)によって250℃で5分間、ヘリウム流下においてクリーニングした。クロマトグラフィーをDB-5ms(60m、0.25mm、1.00μm)キャピラリーカラム(J&W)によってヘリウムをキャリアガスとして1.2mL/分の定常流で行った。GCインターフェースおよびMSソース温度はそれぞれ260℃および230℃であった。オーブンプログラム条件は2分間の40℃、250℃まで5℃/分のramp、および5分間の250℃における最後のホールドであった。データは、5975B質量分析計(アジレント・テクノロジー)によって、35~250m/z範囲において、70eVでの電子衝撃イオン化による6.2スキャン/sで記録した。クロマトグラムを拡張版ケミステーションE.02.02ソフトウェア(アジレント・テクノロジー)を使用して処理した。
【0112】
化合物の同定を、保持時間および質量スペクトルデータ両方を純粋な標準のものと比較することによって行った。標準が利用可能ではなかったときには、暫定的な同定をNIST05質量スペクトルライブラリの質量スペクトル類似性に基づいて行った。
【0113】
定量化のために、1つの特定のイオンを各化合物について選択し、抽出されたイオンクロマトグラムからの対応するピークを積分した。イオン選択の基準は、最も高いシグナル対ノイズ比を有すること、およびクロマトグラムの特定の領域における良いピーク積分を提供するのに十分に特異的であることであった。混合物参照サンプルを、等量の各サンプルを一様に混合することによって各時期について調製した。混合物の500mgアリコートを、インジェクションシリーズの一部として必ず分析し(毎6から7サンプルについて1つの混合物サンプル)、正式なサンプルとして処理した。この混合物は、中間濃度で個々のサンプル中に同定された全ての化合物を含有し、時間的変動およびファイバー経時変化について正規化するための参照として使用された。最後に、サンプルについての正規化された結果(時間的変動およびファイバー経時変化について補正された)を、参照混合物中に存在するものに対する特定のサンプル中の各化合物の存在量の比として表現した。
【0114】
[高分解能質量分析(LC-HRMS)によるノンターゲットメタボローム分析]
2つの生物学的レプリケートおよび2つの技術的レプリケートを独立して処理および分析した。極性の代謝物では、10mgのフリーズドライされた果実粉末を、0.5mg/Lホルモノネチンを内部標準として0.75mLの冷75%(v/v)メタノールによって抽出し、非極性の分析では、3mgの粉末を、0.25mLの冷100%(v/v)メタノール、10mg/Lの酢酸α-トコフェロールを内部標準として1mLのCHCl3、および0.25mLの50mMトリス緩衝液(1MのNaClによってpH7.5)によって抽出した。高分解能質量分析とカップリングされた液体クロマトグラフィー(LC-HRMS)条件は先に報告された通りであった(Dono, G. et al. Metabolites. 2020, 10)。
【0115】
[mRNA発現研究]
RNAを、製造者の説明書に従ってDirect-Zol RNAマイクロプレップキット(Zymo Research)によって100mgの生鮮果実/塊茎から抽出した。各トランスジェニック系統および野生型からのcDNAの合成を行った。オリゴdTおよびReady-To-Go You-Primeファーストストランドビーズ(Geヘルスケア)を使用し、製造者の説明書に従った。それから、qPCRを実施した。表2に列記されているプライマーおよびGoTaq(登録商標)qPCRマスターミックス(プロメガ、マディソン、WI、米国)を使用し、製造者の説明書に従った。恒常発現されるアクチン-2遺伝子転写物を参照遺伝子として使用した。方法は次の通りであった:5分間の94℃における初期変性;30サイクルの20秒間の94℃における変性、20秒間の60℃におけるアニーリング、および20秒間の72℃における伸長;ならびに5分間の72℃における最後の伸長。アッセイはStepOne(商標)サーマルサイクラー(アプライドバイオシステムズ)でされ、StepOneソフトウェアv2.0(アプライドバイオシステムズ)を使用して分析された。
【0116】
【0117】
[2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル(DPPH)ラジカルスカベンジング活性]
フリーラジカルスカベンジング(FRS)活性を、果実/塊茎サンプル(50mgの凍結乾燥された果実/塊茎)を使用して分析した。これらはアセトンによって抽出され、0.2mMメタノール性DPPHラジカル溶液(0.5mL)と混合された。等体積(1mL)のトマト果実または塊茎抽出物およびDPPH溶液(エタノール中に0.2mM)を混合し、暗所に室温で30分間保った。溶液の吸光度を517nmで測定した。FRSは%=(A0-A1/A0)×100によって計算した。
【0118】
[統計]
植物材料の研究のために、3から5つの生物学的レプリケートを生物学的レプリケートあたり3つの技術的レプリケートで毎実験について分析した。得られたデータは、SPSSソフトウェアを使用して一元配置分散分析およびダンカンの有意性検定によって統計分析した。有意性のレベルはt検定によって決定した。
【0119】
<実施例1.トマトトランスジェニック系統におけるサフランアポカロテノイド経路の異所発現のためのプラスミドの作出>
初めに、3つの異なるプロモーターを選択し、トマトにおいてサフラン遺伝子発現について評価した(S.リコペルシカムcv.マネーメーカー(MM))。pE8(配列番号7)およびp2A11(配列番号8)はトマトからの果実特異的プロモーターであり、これらの活性は収量の犠牲なしに所望の代謝物の高いレベルの蓄積をもたらし得る。なぜなら、それらの活性化の時に、果実の結実、発育、および成熟はほとんど完結するからである。これらのプロモーターを、CsCCD2L遺伝子発現ではコンストラクトO1(配列番号21)(pE8)、O2(配列番号22)(pE8)、およびO4(配列番号24)(p2A11)に、CsUGT2発現ではコンストラクトO2(配列番号22)(p2A11)およびO4(配列番号24)(pE8)に使用した。恒常的CaMV35Sプロモーター(配列番号9)を使用して、コンストラクトO3(配列番号23)の全ての遺伝子の、コンストラクトO1(配列番号21)のCsUGT2およびUGT709G1の、コンストラクトO2(配列番号22)のUGT709G1の、ならびにコンストラクトO4(配列番号24)のUGT709G1の発現を駆動した。4つの異なるバイナリプラスミドO1(配列番号21)、O2(配列番号22)、O3(配列番号23)、およびO4(配列番号24)を作製し、トマト形質転換に使用した(
図1A~D)。
【0120】
トマト変種MMをアグロバクテリウムによって媒介される形質転換のために選択した。なぜなら、それはトマトの遺伝学研究に広く使用されるからである。トマトトランスジェニック系統が全てのコンストラクトO1(20系統)、O2(3系統)、O3(5系統)、およびO4(12系統)について得られた。果実を生産することができる10個の系統を選択し、導入されたトランスジーンの発現レベルをqRT-PCR分析によって確認した(
図2A)。種子を一次トランスジェニック系統の果実から収集した。コンストラクトO3を持つ一次形質転換体はいずれかの生存可能な種子を生ずることをしなかったが(
図3B)、これらの果実は際立った橙色の色を示し、その花部分の着色の違いが観察された(
図3A~D)。その他の一次トランスジェニック系統は全て、花および果実を付け、野生型(WT)と比較して自明な表現型の違いを有さなかった。興味深いことに、これら後者の系統は生存可能な種子を有する果実を生産し(
図4)、これらは次の世代において果実の呈色の違いを示した。
【0121】
加えて、全てのトランスジェニック系統は、そのラジカルスカベンジング活性に基づいて、対照として使用された未形質転換のWT植物よりも高い抗酸化活性を示した(
図5)。野生型MMの果実と比較して、トランスジェニック系統の抗酸化能は約3から7倍高かった。加えて、表3は、HPLC-DAD-HRMSによって決定されたトマトおよびトマト副産物抽出物中の個々のフェノール酸およびフラボノイドのプロファイルを示す。結果はトランスジェニック系統対WTの比として提示されている。*はp値<0.05で統計的に有意な違いを示す。
【0122】
【0123】
<実施例2.トマトトランスジェニック植物からの果実のアポカロテノイド評価>
トランスジェニック系統O1、O2、およびO4の果実をサフランアポカロテノイドの存在について評価した(表4、5、および6)。分析された系統は、選好的に蓄積されたクロシン3[(クロセチン-(β-D-ゲンチオビオシル)-(β-D-グルコシル)-エステル)]を包含するサフランに特徴的である全てのアポカロテノイドの存在を様々なレベルで示した(表4)。果実が解剖され、異なる組織がクロシンについて分析され、クロシンが選好的に胎座組織に、次に果皮に蓄積するということを示した(表5)。HTCCおよびサフラナールレベルをもまたこれらの果実で分析した(表6)。3つ全ては、分析された全ての系統で検出され、予期された通りWT植物の果実には存在しなかった。
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
ABAおよびその貯蔵形態(7ABA-グルコースエステル)のレベルをもまたこれらの系統で分析した。総体的に、これらの代謝物のレベルはトランスジェニック果実では縮減され(
図6)、35Sプロモーター下のCsCCD2Lが種子を生ずることができなかったO3系統を例外として、種子の発生または生存能力に影響することなしに、クロセチンジアルデヒドへのゼアキサンチン変換がABA生合成を損なうということを示唆した。これは、恒常的なCsCCD2L発現が種子発生の間の有害な影響を伴うということを示唆した(
図4)。
【0128】
<実施例3.WTおよびトランスジェニックトマト果実におけるカロテノイドおよび関係する化合物のレベル>
トランスジェニックおよび対照(WT)果実をカロテノイド抽出およびHPLC-APCI-HRMS分析に付して、それらのカロテノイドプロファイルを決定した(表7)。一般的に、全てのトランスジェニック果実のカロテノイド含量レベルはWTのものと比較して顕著に縮減された。最も際立った違いはリコペン、β-カロテン、およびルテイン含量レベルに関係した。実際、ルテインおよびα-カロテンレベルはトランスジェニック系統では縮減されたかまたは検出不可能であった(表7)。
【0129】
【0130】
<実施例4.T2果実におけるクロシンの評価>
T2植物からの果実を、それらのトータルのクロシンおよびピクロクロシン含量について分析した(
図7)。果実はそれらの皮の変色を示さなかった。しかしながら、半分にカットしたときには、橙色の着色がそれらの内部部分に観察され得た(
図8)。これらの選択された系統の完全な果実およびトマトジュース漿液におけるトータルのクロシン含量の評価を行った(
図7)。
【0131】
トマトを圧潰し、遠心後に漿液ジュースを得た(
図7)。トランスジェニック系統からのこの漿液はWT果実からのほぼ無色の抽出物と比較して黄色から橙色の色を示した(
図7)。クロシンは全ての黄色~橙色の漿液ジュースで440nmにおいて検出されたが、対照トマト漿液ジュースでは検出されなかった(
図7)。トランスジェニックおよびWT漿液ジュースの間でトータルのフェノール系成分およびフラボノイドの違いは発見されなかった(
図8)。最高で12.48mg/gの乾燥重量のクロシンを有する果実が系統O1-11から得られた(表8)。この系統は漿液ジュース中の最も高いレベルのクロシンを示した(表8)。
【0132】
【0133】
追加の実験を行って、乾燥トマトの染色力を模擬的な調理プロセスにおいてサフランスレッドのものと比較した。この実験のために、2つの手続きに従った。第1では、乾燥トランスジェニックトマト(0.622g)、同じ数量のトマトWT、およびサフランの1つの花からのスレッド(0.002g)を、それぞれ90℃で50mLの水に浸漬した。第2の手続きでは、0.02gの粉末化乾燥トランスジェニックトマト、WTトマト、およびサフランを5mLの水と組み合わせた。水中のクロシンの拡散を、溶液中のサンプルの導入の10、30、および60分後においてHPLC-DADによって分析した(
図9)。スライスされた乾燥トマトはサフラン柱頭と比較してクロシンの急速な放出を示した。しかしながら、60分後に、サフランの着色力はずっと高かった。トランスジェニック乾燥トマトの粉末を使用したときには、クロシンの放出および着色力は、カットトマトを使用したときより多大であった。
【0134】
結果は、使用された材料およびサンプル調製の方法に依存して溶液中の異なるクロシン蓄積速度論が観察されたが、操作されたトマトの明確な着色力を示した。トマト果実では、乾燥粉末の均一混合物はスライスされたものよりも効率的であり、これは溶液中のクロシンの拡散に明確に影響した(
図9)。かかる違いは、内側からのクロシンの広がりを防止するトマトの皮の存在を原因とし得、これらの高クロシントマトの潜在的な産業的活用についての興味深いヒントを提供する。水中のクロシン蓄積は表9に示されている。
【0135】
【0136】
それゆえに、本明細書において示されるデータは、通常のトマトカロテノイドを代償にして、優位なクロシン分子としてのピクロクロシンおよびクロセチン-(β-D-ゲンチオビオシル)-(β-D-グルコシル)-エステル、ならびにサフラナールを明らかにした。結果は、異種システムにおいて代謝工学によってこれまでに得られた最も高いクロシン含量を示し、経済的に競争力のあるサフランアポカロテノイドを生産するための新たなプラットフォームを提供する。
【0137】
概要として、本明細書において提供されるデータは、産業および人間の健康両方にとって有益である栄養促進性の親油性のかつ希少な高価値の親水性アポカロテノイド化合物の同時生産のためのバイオテクノロジーツールとしてトマトを使用することの潜在力およびフィジビリティを実証する。結果は、異種システムにおいて代謝工学によってこれまでに得られた最も高いクロシン含量を示し、経済的に競争力のあるサフランアポカロテノイドを生産するための新たなプラットフォームを提供する。
【0138】
<実施例5.動物モデルとしてC.エレガンスを使用するアルツハイマーの処置におけるトランスジェニックトマトによって生産されたクロシンおよびピクロクロシンの効果の研究>
サフランの抗酸化および抗炎症特性は心血管系、消化系、および眼系疾患、ならびに白血病において実証されている。さらにその上、アルツハイマー病におけるクロシン-1の効果もまた、マウス海馬ニューロン細胞株(HT22)において、ならびにマウスやラットモデルなどのアルツハイマー病動物モデルにおいて実証されている。その上、軽症から中等症のアルツハイマーを患う患者での人間の治験において、15mgのサフランを1日2回16週間受けた患者は、プラセボを受けた患者よりも良い認知機能を示した(Akhondzadeh et al., J. Clin. Pharm. Ther., 2010; 35, 581-588)。
【0139】
この例の狙いは、C.エレガンスのアルツハイマーモデルにおいてトマトによって生産されたクロシンおよびピクロクロシンの効果を試験することであった。
【0140】
(材料および方法)
[植物材料]
本発明のトランスジェニック植物から得られた野生型およびトランスジェニックトマト(ソラヌム・リコペルシカムcv.マネーメーカー)をブレンダーによって独立して圧潰し、得られたジュースを9,000gで15分間遠心した。液相を収集し、2日間凍結乾燥した。野生型およびトランスジェニック抽出物の凍結乾燥されたものを秤量し、蒸留水に再懸濁し、6つの異なる濃度に希釈した(0.04、0.2、0.4、4、10、および20mgの抽出物/mL)。トランスジェニック抽出物は抽出物のグラムあたり2.54mgのクロシンを含有した。各希釈のクロシン力価は下の表10に列記されている。
【0141】
【0142】
[アルツハイマー病のためのC.エレガンス株]
トランスジェニックC.エレガンスCL4176株を使用して実験を実施した。この株は25℃で人間のアミロイドβペプチド1-42(Aβ1-42)ペプチドを発現する。虫を16℃においてNGM培地(負の対照)または異なる希釈の非トランスジェニックもしくはトランスジェニックトマト抽出物で同調させた(表10)。温度を25℃まで上げてAβ1-42発現を活性化し、麻痺した虫のパーセンテージを異なる時間(20、24、26、28、30、および32時間)においてスコア付けした。誘導なしの対照を包含した(誘導なしのNGM)。トータルで2つのレプリカが各抽出物および用量について行われた。
【0143】
(結果)
野生型およびトランスジェニックトマトからの抽出物両方は、異なる分析時間において負の対照と比較して全ての分析された濃度で、虫の麻痺に対する保護効果を示した。両方の抽出物における最も有効な濃度は4mg/mLであり、トランスジェニックトマト抽出物中の10μg/mLのクロシンに対応した。同じ効果がより高濃度(10および20mg/mLの抽出物)で観察された。Aβ
1-42発現による32時間の麻痺誘導後に、4mg/mLの野生型抽出物は、4mg/mLのトランスジェニック抽出物と比較して有意なより低い効果を示した(
図10)。
【0144】
従って、結果は、トランスジェニックトマト抽出物が、対照トマト抽出物よりも有意なより低い、誘導されたAβ1-42発現によるC.エレガンスCL4176の麻痺を示したということを示す。トランスジェニックトマト抽出物の効果は、試験された3つの最も高いクロシン濃度(10、25、および50μg/mL)において同じであった。よって、トランスジェニックトマトによって生産されるクロシンはアルツハイマー病の処置に有用である。
【0145】
<実施例6.ジャガイモトランスジェニック系統におけるサフランアポカロテノイド経路の異所発現のためのプラスミドの作出>
サフランアポカロテノイド経路に関わる本発明の3つの遺伝子UGT2、UGT709G1、およびCCD2Lを過剰発現するために恒常的プロモーターを使用することによるジャガイモ植物発生に対する可能な多面的な影響を回避するために、コンストラクトを操作し、塊茎特異的パタチンプロモーターpPat(配列番号33)を含有することを選択し、パタチンプロモーターpPat(配列番号33)によって駆動されるCsCCD2L、UGT74AD1、およびUGT709G1コード配列を持つバイナリコンストラクトを、Goldenbraid戦略を使用して組み立てた。それゆえに、バイナリコンストラクトO6(配列番号XX)を作製し、ジャガイモ形質転換に使用した(
図1E)。
【0146】
それから、A.ツメファシエンスによって媒介される形質転換を使用して、トランスジーンをS.ツベロスムcv.デジレおよびcv.OIH15WTに導入した。各変種のおよそ10個の独立したトランスジェニック系統が作出された。導入されたトランスジーンの発現レベルをqRT-PCR分析によって確認した(
図2B)。塊茎の色の目視評価に基づいて、2つの系統を詳細な分析のために選択した(
図3E)。
【0147】
加えて、全てのトランスジェニック系統は、そのラジカルスカベンジング活性に基づいて、対照として使用された未形質転換のWT植物よりも高い抗酸化活性を示した(データは示さない)。WTと比較して、トランスジェニック系統の抗酸化能は約2から7倍高かった。
【0148】
<実施例7.ジャガイモトランスジェニック植物からの塊茎のアポカロテノイド評価>
WTおよびトランスジェニックの全てのジャガイモ系統は、サフランに特徴的な全てのアポカロテノイドの存在を、ただし様々なレベルで示した(表11および12)。分析された系統は、クロシン3[(クロセチン-(β-D-ゲンチオビオシル)-(β-D-グルコシル)-エステル)]を包含するサフランに特徴的である全てのアポカロテノイドの存在を様々なレベルで示した(表11)。HTCCおよびサフラナールレベルもまたこれらの系統で分析された(表12)。3つ全ては、分析された全ての系統で検出され、予期された通りWT植物の塊茎には存在しなかった。
【0149】
【0150】
【0151】
<実施例8.WTおよびトランスジェニックジャガイモ塊茎におけるカロテノイドおよび関係する化合物のレベル>
トランスジェニックおよび対照(WT)ジャガイモ塊茎をカロテノイド抽出およびHPLC-APCI-HRMS分析に付して、それらのカロテノイドプロファイルを決定した(表13)。一般的に、全てのトランスジェニック果実のカロテノイド含量レベルはWTのものと比較して顕著に縮減された。
【0152】
【配列表】
【国際調査報告】