(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】アスファルテンから炭素繊維を製造するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
D01F 9/155 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
D01F9/155
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516959
(86)(22)【出願日】2022-09-19
(85)【翻訳文提出日】2024-04-19
(86)【国際出願番号】 IB2022058838
(87)【国際公開番号】W WO2023042175
(87)【国際公開日】2023-03-23
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518230452
【氏名又は名称】エンライテン イノベーションズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ゼナイティス マイケル
【テーマコード(参考)】
4L037
【Fターム(参考)】
4L037CS03
4L037CS04
4L037FA01
4L037PA46
4L037PS02
4L037PS12
(57)【要約】
本技術は、有意なレベルの硫黄及び全金属を有する高アスファルテン供給物から出発して、アスファルテンは高レベルだが硫黄及び全金属は低レベルで含有する繊維を提供する。したがって、本技術は、繊維の重量に基づいて少なくとも30重量%のアスファルテンと、1重量%未満の硫黄と、0.1%未満の全金属とを含む繊維を提供する。更に、このようなアスファルテン繊維を製造する方法、並びにアスファルテン繊維から炭素繊維を調製する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維であって、前記繊維の重量に基づいて、少なくとも30重量%のアスファルテンと、1重量%未満の硫黄と、0.1%未満の全金属とを含む、繊維。
【請求項2】
30~100重量%のアスファルテンを含む、請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
少なくとも60%のアスファルテンを含む、請求項1又は2に記載の繊維。
【請求項4】
0.01重量%の硫黄~1重量%未満の硫黄を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項5】
0.75重量%未満の硫黄を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項6】
0.00001重量%~0.1重量%未満の全金属を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項7】
0.001重量%~0.05重量%未満の全金属を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項8】
前記全金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、ポスト遷移金属、及び82以下の原子量を有する半金属からなる群から選択される少なくとも1つの金属を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項9】
前記全金属は、バナジウム、ニッケル、鉄、ヒ素、鉛、カドミウム、銅、亜鉛、クロム、モリブデン、ケイ素、カルシウム、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、マグネシウム、マンガン、チタン、又は水銀のうちの少なくとも1つを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項10】
1um~20umの直径を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項11】
2um~16umの直径を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項12】
5um~15umの直径を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項13】
繊維原料を請求項1~12のいずれか一項に記載の繊維に溶融紡糸することを含む、繊維を製造する方法であって、前記繊維原料は、少なくとも30重量%のアスファルテンと、1重量%未満の硫黄含量と、0.1重量%未満の全金属含量とを含む、方法。
【請求項14】
炭化水素原料を有効量の金属ナトリウム及び有効量の外因性キャッピング剤と250~500℃の温度で接触させて、ナトリウム塩と転化原料との混合物を生成すること
を更に含み、
前記炭化水素原料は、少なくとも1重量%のアスファルテンと、少なくとも1重量%の硫黄含量と、少なくとも0.1重量%の全金属含量とを含み、
前記転化原料は、少なくとも30重量%のアスファルテンと、任意で軽質炭化水素と、1重量%未満の硫黄含量と、0.1重量%未満の全金属含量とを含む、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ナトリウム塩を前記転化原料から分離することを更に含む、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記転化原料は、未反応の金属ナトリウムを含み、前記方法は、前記転化原料から前記未反応の金属ナトリウムを実質的に除去することを更に含む、請求項14~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記繊維原料を前記転化原料から単離することを更に含む、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記軽質炭化水素の少なくとも一部分を除去して前記転化原料の軟化点を少なくとも200℃に上昇させて、前記繊維原料を提供することを更に含む、請求項15~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記軽質炭化水素の少なくとも一部分を除去して前記転化原料の軟化点を少なくとも250℃に上昇させて、前記繊維原料を提供することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記炭化水素原料は、芳香族溶媒で希釈される、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記芳香族溶媒は、1-メチルナフタレン、トリメチルベンゼン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、ナフタレン、芳香族精製所中間体、及びそれらのいずれか2つ以上の混合物からなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記繊維原料を単離することは、前記転化原料から前記芳香族溶媒を蒸留して前記繊維原料を提供することを含む、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
前記単離する工程は、前記転化原料をC
3-8炭化水素又はそれらのいずれか2つ以上の混合物で希釈してアスファルテンを沈降させることと、沈降させた前記アスファルテンを回収して前記繊維原料を提供することとを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記炭化水素原料の前記硫黄含量は、1重量%~15重量%の範囲にある、請求項13~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記炭化水素原料は、30~100重量%のアスファルテンを含む、請求項13~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記炭化水素原料の前記全金属含量は、0.05重量%~1重量%である、請求項13~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記外因性キャッピング剤は、水素、硫化水素、天然ガス、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、エテン、プロペン、ブテン、ペンテン、ジエン、前述のものの異性体、又はそれらのいずれか2つ以上の混合物である、請求項14~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記炭化水素原料は、約500psig~約3000psigの圧力で金属ナトリウムと化合される、請求項14~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
炭化水素原料と金属ナトリウムとの反応は、1分~120分の時間にわたって起こる、請求項14~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記軽質炭化水素を除去することは、前記転化原料から軽質留分を蒸留することを含む、請求項15~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記軽質炭化水素を蒸留することは、大気圧蒸留、真空蒸留、又はそれらの組み合わせによって実施される、請求項15~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記溶融紡糸することは、単孔溶融紡糸である、請求項13~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記繊維を酸化して酸化繊維を生成することを更に含む、請求項13~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記繊維は、前記繊維を大気中で200~400℃に加熱することによって酸化される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記酸化繊維を炭化して炭素繊維を生成することを更に含む、請求項33又は34に記載の方法。
【請求項36】
前記炭化することは、不活性の酸素不含雰囲気中で前記酸化繊維を1000°~2000℃に加熱することを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記炭素繊維を2000℃超~最高3000℃の酸素不含雰囲気中で加熱することによって、前記炭素繊維を黒鉛化することを更に含む、請求項35又は36に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年9月17日に出願された米国仮出願第63/245,513号の優先権を主張し、その全体が参照により組み込まれる。
【0002】
技術の分野
本技術は、アスファルテンから炭素繊維を製造するための組成物及び方法に関する。特に本技術は、多量のアスファルテンを含有するが硫黄及び金属不純物は少量である繊維中間体に関する。本技術は更に、有意な硫黄及び金属不純物を有する高アスファルテン原料からこのような繊維中間体を製造する方法、並びに繊維中間体から炭素繊維を製造する方法に関する。
【発明の概要】
【0003】
技術の簡単な概要
本技術は、アスファルテンは高レベルだが硫黄及び全金属は低レベルで含有する繊維を提供する。したがって本技術は、繊維の重量に基づいて、少なくとも30重量%(本明細書では「重量%」は「重量パーセント」を意味する)のアスファルテン、1重量%未満の硫黄、及び0.1重量%未満又は0.05重量%未満の全金属を含む繊維を提供する。これらのアスファルテン繊維を使用して、高価なポリアクリロニトリルから製造された炭素繊維に匹敵するが、ピッチ系繊維においてしばしば見られるような欠陥が少ない高品質の炭素繊維を生成することができる。
【0004】
本技術はまた、このようなアスファルテン繊維を製造する方法、並びにこのアスファルテン繊維から炭素繊維を調製する方法を提供した。これらの方法は、本明細書のいずれかの実施形態に開示のように、繊維原料を繊維に溶融紡糸することを含み、この繊維原料は、少なくとも30重量%のアスファルテン、1重量%未満の硫黄含量、及び0.1重量%未満又は0.05重量%未満の全金属含量を含む。これらの方法は、炭化水素原料を有効量の金属ナトリウム及び有効量の外因性キャッピング剤に、250~500℃の温度で接触させて、ナトリウム塩と転化原料との混合物を生成することを更に含んでもよく、この炭化水素原料は、少なくとも1重量%のアスファルテン、少なくとも1重量%の硫黄含量、及び少なくとも0.1重量%又は少なくとも0.05重量%の全金属含量を含み、この転化原料は、少なくとも30重量%のアスファルテン、軽質炭化水素、1重量%未満の硫黄含量、及び0.1重量%未満又は0.05重量%未満の全金属含量を含む。これらの方法は、繊維を酸化して酸化繊維を生成することによる安定化を更に含んでもよい。次いで酸化繊維を、例えば、酸化繊維を不活性の酸素不含雰囲気中で1000℃~2000℃に加熱して炭化できる。
【0005】
上述は本開示の概要であり、よって、必要に応じて細部の簡略化、一般化、及び省略を含む。したがって当業者は、概要は例示にすぎず、決して限定することを意図するものではないことを理解している。特許請求の範囲によって定義されるように、本明細書に説明されるプロセスの他の態様、特徴、及び利点は、本明細書に記載されかつ付属の図面と併せて得られる詳細説明によって明白になる。
【発明を実施するための形態】
【0006】
技術の詳細な説明
以下の用語は、下記の定義のように、全体を通して使用される。
【0007】
本明細書で使用される「a」及び「an」及び「the」などの単数の冠詞及び類似の指示対象は、要素を説明する文脈では(特に以下の特許請求の範囲の文脈では)、本明細書で別段に指示のない限り又は文脈として明らかに矛盾のない限り、単数及び複数の両者を包含すると解釈されるべきである。本明細書での数値の範囲の列挙は、本明細書に別段の指示のない限り、その範囲内にあるそれぞれ個別の数値を個々に参照する簡略法として機能することを単に意図しており、かつそれぞれの個別の数値は、本明細書に個々に列挙されたかのように本明細書内に組み込まれる。本明細書に説明される全ての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、又は文脈によって明らかに矛盾のない限り、任意の好適な順序で実行することができる。本明細書に提供されるいずれかの例及び全ての例、又は例示的な文言(例えば、「など」)の使用は、単に実施形態をより好適に明示することを意図しており、別段の明記のない限り、特許請求の範囲を限定するものではない。明細書内のいかなる文言も、いずれの特許請求されていない要素も必須であると示すようには解釈されるべきではない。
【0008】
本明細書で使用される「約」は、当業者には理解されるものであり、それが使用される文脈に応じてある程度まで変化する。当業者に明らかではないその用語の使用がある場合には、その用語が使用される文脈を考慮すると、「約」は、特定の値の最大±10%を意味する。
【0009】
本明細書で使用される「アスファルテン」は、n-ペンタン又は指示される別の炭化水素に不溶性である油成分を指す。アスファルテンは、S、N、及びOから選択される1つ以上のヘテロ原子を含む多環芳香族分子を含んでもよい。アスファルテンはまた、他の硫黄種、例えば、チオール、硫酸塩、ベンゾチオフェンなどのチオフェン、硫化水素、及び他の硫化物を含んでもよい。
【0010】
本技術の繊維及び方法では、「アスファルテン含量」は、原料のn-ペンタン不溶性留分として測定される、原料中のアスファルテンの総量を指す。しかしながら、本プロセスのいくつかの態様及び実施形態では、アスファルテン含量は、十分な量の1種以上のC3-8アルカンと混合した後に、沈降させたあるいは別の方法で原料から分離させた炭化水素原料の不溶性留分として測定できる。C3-8アルカンは、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、それらの異性体、又はそれらのいずれか2つ以上の混合物であってもよい。したがって、いくつかの実施形態では、繊維又は供給物のアスファルテン含量は、ヘプタンに不溶性の成分として定義できる。「十分な量」とは、炭化水素原料から不溶性留分の更なる沈降/分離が観察されない量を超える量を意味する。アスファルテンの物理的特性及び構造並びに特定のアスファルテンを生成するのに必要なプロセス条件(温度、圧力、溶媒/油比)の詳細な考察は、J.G.Speight,“Petroleum Asphaltenes Part 1:Asphaltenes,Resins and the Structure of Petroleum”,Oil & Gas Science and Technology-Rev IFP,Vol 59(2004)pp.467-477に説明されている(その全体が、参照によりかつ全ての目的のために本明細書に組み込まれる)。ヘプタン(C7)不溶性アスファルテン含量を決定する標準的な試験方法は、ASTM規格D6560-17によって説明されており、ペンタンなどのいずれかのアルカンにも拡張することができる。
【0011】
本明細書で使用される「炭化水素原料」は、精製、転化、又はその他の工業プロセスのための投入物となり得る、炭化水素が主要成分である任意の材料を指す。炭化水素原料は、室温では固体又は液体であってもよく、ヘテロ原子(例えば、S、N、O、P、金属)を含有する有機材料及び無機材料などの非炭化水素成分を含んでもよい。粗製油、精製所流、化学プラント流(例えば、水蒸気分解されたタール)、及びリサイクルプラント流(例えば、タイヤ又は都市固形廃棄物からの潤滑油及び熱分解油)は、炭化水素原料の非限定的な例である。
【0012】
本技術は、中間体を介してアスファルテンから炭素繊維を調製するための炭素繊維の生成及びプロセスにおいて、(例えば、安定化及び/又は炭化の前の)そのような中間体として機能する費用対効果の高い繊維組成物を提供する。これらの繊維組成物ではアスファルテンが多量ではあるが、これらの繊維組成物は、現行のアスファルテン含有繊維よりも低濃度の有害な不純物、例えば硫黄及び金属などを含有する。したがって、第1の態様では、本技術は、繊維の重量に基づいて、少なくとも30重量%のアスファルテン、1重量%未満の硫黄、及び0.1重量%未満又は0.05%未満の全金属を含む繊維を提供する。例えば、この繊維は、30重量%~100重量%のアスファルテン、例えば、30重量%、35重量%、40重量%、45重量%、50重量%、55重量%、60重量%、65重量%、70重量%、75重量%、80重量%、85重量%、90重量%、95重量%、97重量%、99重量%、若しくは100重量%のアスファルテン、又は前述の数値のうちのいずれか2つの間の量及びそれらの数値を含む量を含んでもよい。いずれかの実施形態では、繊維は、少なくとも60重量%のアスファルテン、例えば、60重量%~100重量%、又は60重量%~95重量%を含んでもよい。
【0013】
本技術の繊維は、本質的に任意の長さを有してもよく、かつ1μm~20μmの直径を有してもよい。したがって繊維は、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、若しくは20μm、又は前述の数値のうちのいずれか2つの間の範囲及びそれらの数値を含む範囲の直径、例えば、2μm~16μm、又は5μm~15μm、又は10μm~20μmの直径を有してもよい。
【0014】
本技術の繊維は、重度に汚染されたアスファルテンから典型的に製造される繊維よりも低い重要不純物の濃度を有する。したがって、アスファルテンが1重量%超、2重量%超又はそれ以上の硫黄の濃度を有する場合でも、本繊維は、繊維の重量に基づいて、1重量%未満の硫黄、例えば0.75重量%未満の硫黄、又は0.5重量%未満の硫黄を有する。(繊維中の硫黄の量は、存在する元素状硫黄の重量パーセントとして計算される。)いずれかの実施形態では、繊維は、0.01重量%の硫黄~1重量%未満の硫黄、0.01重量%の硫黄~0.75重量%未満の硫黄、0.01重量%の硫黄~0.5重量%未満の硫黄、又は更には0.01重量%の硫黄~0.3重量%未満の硫黄を有してもよい。例えば繊維は、0.01重量%、0.02重量%、0.03重量%、0.04重量%、0.05重量%、0.075重量%、0.1重量%、0.15重量%、0.2重量%、0.25重量%、0.3重量%、0.4重量%、0.5重量%、0.6重量%、0.7重量%、0.75重量%、0.8重量%、0.9重量%、若しくは1重量%未満の硫黄、又は前述の数値のうちのいずれか2つの間の範囲及びそれらの数値を含む範囲、例えば、0.05重量%~1重量%未満の硫黄、又は0.1重量%~1重量%未満、又は0.2重量%~0.8重量%を有してもよい。
【0015】
同様に、本繊維は低濃度の全金属を有する。本繊維を製造するのに使用されるアスファルテンが、0.05重量%超の全金属、0.055重量%超の全金属、又は0.1重量%超の全金属を有する場合でも、繊維は、0.1重量%未満、0.09重量%未満、0.08重量%未満、0.07重量%未満、0.6重量%未満、0.05%未満の全金属、又は更には0.04重量%未満、0.03重量%未満、0.02重量%未満、若しくは0.01重量%未満の全金属を有してもよい。いずれかの実施形態では、本繊維は、0.00001重量%~0.1重量%未満、又は0.00001重量%~0.05重量%未満の全金属、例えば0.00001重量%、0.0001重量%、0.001重量%、0.01重量%、0.015重量%、0.02重量%、0.025重量%、0.03重量%、0.04重量%、0.05重量%、0.06重量%、0.07重量%、0.08重量%、0.09重量%、若しくは0.1重量%未満、又は前述の数値のうちのいずれか2つの間の範囲及びそれらの数値を含む範囲の全金属を有してもよい。例えば繊維は、0.001重量%~0.09重量%未満、又は0.001重量%~0.025重量%、又は0.01重量%~0.05重量%の全金属を含んでもよい。
【0016】
本繊維中の全金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、ポスト遷移金属、及び半金属からなる群から選択される少なくとも1つの金属を含んでもよい。半金属は、82以下の原子量を有してもよい。例えば全金属は、バナジウム、ニッケル、鉄、ヒ素、鉛、カドミウム、銅、亜鉛、クロム、モリブデン、ケイ素、カルシウム、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、マグネシウム、マンガン、チタン、又は水銀のうちの少なくとも1つを含んでもよい。いずれかの実施形態では、繊維中の全金属は、少なくともバナジウム及び/又は少なくともニッケルを含む。
【0017】
別の態様では、本技術は、本繊維を製造する方法を提供する。この方法は、繊維原料を本明細書に説明される繊維のうちのいずれかに溶融紡糸することを含み、繊維原料は、少なくとも30重量%のアスファルテン、1重量%未満の硫黄含量、及び0.1重量%未満又は0.05重量%未満の全金属含量を含む。繊維原料は、30重量%~100重量%のアスファルテン、例えば、30重量%、35重量%、40重量%、45重量%、50重量%、55重量%、60重量%、65重量%、70重量%、75重量%、80重量%、85重量%、90重量%、95重量%、97重量%、99重量%、若しくは100重量%のアスファルテン、又は前述の数値のうちのいずれか2つの間の量及びそれらの数値を含む量を含んでもよい。いずれかの実施形態では、繊維原料は、少なくとも60重量%のアスファルテン、例えば、60重量%~100重量%、又は60重量%~95重量%のアスファルテンを含んでもよい。
【0018】
繊維原料は、紡糸口金を通過させて、溶融形態すなわち液状形態で溶融紡糸を受ける。本発明の実施形態は、炭素単繊維及び/又は炭素繊維を形成するために、当該技術分野で一般的に知られておりかつ使用される任意の型式の紡糸口金の使用を想定している。一般的に、紡糸口金は、液相繊維原料を受け入れるノズルヘッドと、押出プレートとを含む。ノズルヘッドは、貯蔵部、空洞部、複数の穴部、又はポンプ及び/又は押出機から液相アスファルテン流を受け入れるための類似の保持領域(複数可)を含んでもよい。押出プレートは、通常は、繊維原料流を受け入れる場所とは反対の紡糸口金の端部に配置される。押出プレートは、一般的に、生成される炭素系単繊維の意図された寸法及び形状に対応する様々な寸法及び形状の複数の開口部を含む。あるいは、押出プレートは、単一の開口部を有してもよい。紡糸口金のノズルヘッドから、繊維原料流は、押出プレートの複数の開口部を通過して炭素系単繊維を形成する。特定の実施形態では、押出プレートは、複数の開口部から突出する炭素系単繊維がそれら自体の周囲に巻き付くようにノズルヘッドに対して回転して、複数の個々の炭素系単繊維を含む巻き付けられた炭素系単繊維を作成する。本技術の更なる実施形態では、液相繊維原料流は、紡糸されなくてもよいが、ノズルヘッド及び押出プレートの1つ以上の開口部を通して単に押出されてもよい。したがって、非回転の押出プレートは、1つ以上の個々の単繊維を含む炭素系単繊維を生成できる。
【0019】
溶融紡糸は、高温で実施できる。いずれかの実施形態では、繊維原料は、メトラー法(例えば、ISO5409-2:2007)によって決定されるような繊維原料の軟化点よりも40℃を超えない高い温度で紡糸されてもよい。あるいは繊維原料は、得られた炭素繊維中の中間相領域の配向度が高くなるように、繊維原料のメトラー軟化点よりも少なくとも40℃、少なくとも45℃、少なくとも50℃、又は少なくとも55℃高い範囲の温度で紡糸されてもよい。更に中間相領域の配向度は、炭素繊維の繊維直径の増大により増大させることができる。炭素繊維の繊維直径は、通常は、10~20μm以下であるが、中間相領域の配向度の増大が望まれる場合には、13~18μmが好ましい場合がある。紡糸のための温度に到達すると、炭素は、例えば0.1mmの開口直径を有するノズルを通して押出され、延伸されて炭素繊維を形成する。中間相は、延伸によって繊維軸の方向に配向され、炭素が固化するまで繊維軸の方向に配向する傾向がある。したがって、紡糸温度が低い場合には、又は繊維直径が小さい場合には、ノズル開口部を通して押出された炭素は直ちに固化され、繊維軸方向の配向の時間は短くなる。すなわち、紡糸された炭素繊維の繊維軸方向への配向度は低くなる。更に繊維直径が過度に大きい場合には、不十分に延伸された炭素繊維が形成され、それによって繊維軸の方向への配向度は低くなる。いずれかの実施形態では、繊維原料は、メトラー軟化点よりも少なくとも40℃高い温度、かつ通常よりも最大20%大きい炭素繊維の直径で紡糸されてもよい。したがって、繊維軸の方向に高い配向度を有する炭素繊維を得ることができる。
【0020】
液相繊維原料流は、約200℃~約550℃の温度に加熱されもよいが、当然のことであるが、繊維原料流は、ポンプ、フィルタ、及び紡糸口金を通過して移動するので、ある程度の冷却を受けることがある。プロセス要件に応じて、液相繊維原料流の粘度が紡糸口金を通過するには高過ぎる場合には、紡糸口金による適切な加工のために、繊維原料流を液相に維持するようにポンプ、フィルタ、及び紡糸口金に熱を加える必要が生じる場合がある。
【0021】
本方法の実施形態は、繊維単繊維が紡糸口金から形成されると直ぐに、単繊維を不活性ガスの交差流に曝すことを含んでもよい。交差流に使用される不活性ガスは、窒素、アルゴンなどを含んでもよく、約200℃~約400℃の温度で炭素系単繊維に当てられる。不活性ガスの交差流は、炭素系単繊維が紡糸口金から出るときに炭素系単繊維の蒸発乾固及び冷却を支援し、それにより単繊維を固化させてアスファルテン含有繊維が得られる。その後に炭素系繊維は、ドローダウン装置で回収され、かつ/あるいは巻き取られる。ドローダウン装置は、当該技術分野で通常知られている任意の型式の単繊維及び/又は繊維回収機器を含んでもよいが、特定の実施形態では、ドローダウン装置は、巻き上げスプールであってもよく、このスプールは一般的に、炭素系繊維を回収しかつ巻き上げるように回転する円筒形状体である。炭素系繊維を回収することに加えて、ドローダウン装置は、繊維を回収しかつ巻き付ける際に炭素系繊維に張力を加えることができる。張力は、ドローダウン装置が炭素系単繊維を回収する又は巻き付ける速度を変更して変化させることができる。張力は、炭素繊維の引張強度の増大をもたらすように、繊維内の炭素原子の整列を促進できる。
【0022】
本発明の実施形態は、炭素系繊維を巻き付けると直ぐに、炭素系繊維を約200℃~約400℃の大気雰囲気中で数時間安定化させる工程を含む。安定化プロセスは、炭素系繊維内の化合物を酸化して、炭化中の単繊維内の弛緩及び鎖切断を防止する。本発明の実施形態は、安定化炭素系繊維を窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気中で約1000℃~約1500℃の温度に加熱することにより、安定化アスファルテン系繊維を炭化する工程を含む。あるいは、炭化工程は、酸化繊維を不活性の酸素不含雰囲気中で約1000℃~約2000℃に加熱することを含んでもよい。いずれかの実施形態では、この方法は、炭素繊維を酸素不含雰囲気中で2000℃超~最高約3000℃に加熱することによって炭素繊維を黒鉛化することを更に含んでもよい。炭化は、アスファルテン系繊維をほぼ所望の温度まで徐々に(典型的には炉内で)加熱することを含む。1つ以上の実施形態では、炭化は、約24時間未満で完了できる。しかしながら、本方法の実施形態で使用される液相繊維原料流は、高い炭素含量を有するので、炭化は、約12時間未満、より好ましくは3時間未満で完了できる。炭化は、典型的には、従来からの炭素繊維製造では最も時間を要しかつ速度制限のある工程ではあるが、本発明の実施形態の本方法は、炭化滞留期間をより短くできることにより、遥かに迅速に実施できる。炭化中に、水素、酸素、窒素、及び硫黄などの非炭素元素(「不純物」)は、H2、O2、N2、気相のHCN、HN、HS化合物などの形態で繊維原料から排出され、本質的な炭素繊維を産出する。しかしながら、本技術の繊維原料は、遥かに低い濃度のそれらの不純物、特に硫黄及び金属を含むので、以前のアスファルテン原料からの炭素繊維よりも高品質の炭素繊維が得られる。炭素-炭素結合が繊維原料構造と炭素繊維との間に形成して、均質で高強度のモノリシック構造が形成される。更に、繊維原料流は好ましいことに低いH/C比を有するので、排気ガスが低減されて、液相繊維原料流からの炭素繊維の(重量基準の)収率が高くなる。
【0023】
これらの方法は、高いアスファルテン含量並びに高濃度の硫黄及び/又は全金属を有する炭化水素から繊維原料を調製することを更に含んでもよい。したがって、方法は、炭化水素原料を有効量の金属ナトリウム及び有効量の外因性キャッピング剤と250~500℃の温度で接触させて、(好ましい場合には繊維原料として使用できる)ナトリウム塩と転化原料との混合物を生成することを更に含んでもよく、炭化水素原料は、少なくとも10重量%のアスファルテン(又は少なくとも20重量%のアスファルテン又は少なくとも30重量%のアスファルテン)、少なくとも1重量%の硫黄含量、及び少なくとも0.1重量%又は少なくとも0.05重量%の全金属含量を含み、転化原料は、少なくとも30重量%のアスファルテン、1重量%未満の硫黄含量、及び0.1重量%未満又は0.05重量%未満の全金属含量を含む。
【0024】
本方法で使用される炭化水素原料は、(例えば1~100重量%の)アスファルテンを含有し、通常はアスファルテンが高く、かつ硫黄含量及び全金属が高い。例えば、炭化水素原料は、10~100重量%のアスファルテン、例えば、10重量%、15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、35重量%、40重量%、45重量%、50重量%、55重量%、60重量%、65重量%、70重量%、75重量%、80重量%、85重量%、90重量%、95重量%、97重量%、99重量%、若しくは100重量%のアスファルテン、又は前述の数値のうちのいずれか2つの間の量及びそれらの数値を含む量を含んでもよい。したがって、いずれかの実施形態では、炭化水素原料は、少なくとも30重量%のアスファルテン、例えば30重量%~99重量%、若しくは100重量%のアスファルテンを含んでもよい。いずれかの実施形態では、炭化水素原料は、少なくとも60重量%のアスファルテン、例えば、60重量%~100重量%、又は60重量%~95重量%、若しくは99重量%のアスファルテンを含んでもよい。炭化水素原料の硫黄含量は、0.5重量%~10重量%、又は0.75重量%~10重量%、又は1重量%~10重量%の範囲であってもよく、例えば、0.5重量%、0.75重量%、1重量%、1.5重量%、2重量%、3、重量%、4重量%、5、重量%、6重量%、7重量%、8重量%、9重量%、10重量%であってもよく、又は前述の数値のうちのいずれか2つの間の範囲及びそれらの数値を含む範囲であってもよい。例えば、炭化水素原料の硫黄含量は、1w%~10重量%、又は4重量%~9重量%であってもよい。これらの方法のいずれかの実施形態では、炭化水素原料の全金属含量は、0.015重量%~1重量%、又は0.02重量%~1重量%、あるいは0.05重量%~1重量%であってもよい。例えば、全金属は、0.015重量%、0.02重量%。0.03重量%、0.04重量%、0.05重量%、0.06重量%、0.07重量%、0.08重量%、0.09重量%、0.1重量%、0.2重量%、0.3重量%、0.4重量%、0.5重量%、0.6重量%、0.7重量%、0.8重量%、0.9重量%、1重量%、又は前述の数値のうちのいずれか2つの間の範囲及びそれらの数値を含む範囲であってもよい。いずれかの実施形態では、炭化水素原料の全金属含量は、0.015重量%~0.5重量%、又は0.02重量%~0.5重量%、又は0.02重量%~0.6重量%、又は0.05重量%~0.4重量%、又は0.04重量%~0.3重量%であってもよい。
【0025】
本プロセスのための炭化水素原料は、本明細書に記載されるアスファルテン及び不純物の特徴を有する。これら原料は、未加工粗製油(例えば、石油、重油、瀝青、シェール油、及びオイルシェール)に由来するか、又は由来してもよい。炭化水素原料はまた、未加工粗製油の蒸留後に残留する非蒸留残渣(「真空残渣(vacuum residue)」若しくは「真空残渣(vac.resid.)」としても知られる)、又は溶媒-脱アスファルト化プロセスから得られるアスファルテン含有留分であってもよい。
【0026】
炭化水素原料は、15.6℃又は60°Fで800~1200kg/m3の密度を有してもよい。例えば密度は、800、825、850、875、900、925、975、1000、1050、1100、1150、若しくは1200kg/m3、又は前述の数値のうちのいずれか2つの間の範囲及びそれらの数値を含む範囲であってもよい。したがって、いずれかの実施形態では、密度は、例えば、850~1200kg/m3、900~1200kg/m3、950~1200kg/m3、又は925~1100kg/m3であってもよい。
【0027】
本技術の方法では、炭化水素原料を、有効量の金属ナトリウム及び有効量の外因性キャッピング剤と接触させる。例えば、限定はされないが、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるUS8,088,270に説明されるような電気化学的に生成された金属ナトリウムを含む、任意の好適な金属ナトリウム源を使用してもよい。金属状態にあり、かつ接触工程で使用されるナトリウムの有効量は、ヘテロ原子、金属、及びアスファルテンの濃度、炭化水素原料及び残留原料の不純物、所望する不純物の転化又は除去の程度、使用される温度、及び他の条件によって変化する。いずれかの実施形態では、化学量論量又は化学量論量を超える量の金属ナトリウム、例えば、硫黄含量に対して1~3モル当量の金属ナトリウムを使用して、全て又はほぼ全ての硫黄含量を除去できる。いずれかの実施形態では、炭化水素原料又は残留原料を、それら原料中の硫黄含量に対して1モル当量超の金属ナトリウム、例えば、1.1、1.15、1.2、1.25、1.3、1.4、1.5、2、2.5、又は3モル当量の金属ナトリウムと接触させる。
【0028】
本プロセスで使用される外因性キャッピング剤は、典型的には、接触工程中に硫黄及び他のヘテロ原子が金属ナトリウムによって取り出される場合に形成されるラジカルをキャッピングするために使用される。いくつかの原料は、少量の天然起源のキャッピング剤(「内因性キャッピング剤」)を本来的に含有する場合があるが、そのような量は、本プロセスによって生成される全てのフリーラジカルを実質的にキャッピングするには不十分である。有効量の外因性(すなわち、添加された)キャッピング剤を本プロセスで使用するが、例えば、存在する硫黄、窒素、又は酸素の1モル当たりに1~1.5モルのキャッピング剤(例えば水素)を使用してもよい。本明細書の開示に基づいて使用される特定の炭化水素原料のために、本プロセスを実行するのに必要な有効量の外因性キャッピング剤を決定することは、当該技術の範囲内にある。外因性キャッピング剤は、水素、硫化水素、天然ガス、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、エテン、プロペン、ブテン、ペンテン、ジエン、前述のものの異性体、又はそれらのいずれか2つ以上の混合物を含んでもよい。いずれかの実施形態では、外因性キャッピング剤は、水素及び/又はC1-6非環式アルカン及び/又はC2-6非環式アルケン又はそれらのいずれか2つ以上の混合物であってもよい。
【0029】
接触工程は、約250℃~約500℃の温度で行われるので、金属ナトリウムは、溶融(すなわち液体)状態となる。例えば、接触工程は、約250℃、約275℃、約300℃、約325℃、約350℃、約375℃、約400℃、約425℃、約450℃、約500℃、又は前述の温度のうちのいずれか2つの間の範囲及びそれらの温度を含む範囲で実施されてもよい。したがって、いずれかの実施形態では、接触は、約275℃~約425℃、又は約300℃~約400℃(例えば約350℃)で行われてもよい。
【0030】
いずれかの実施形態では、接触工程は、約400~約3000psiの圧力、例えば、約400psi、約500psi、約600psi、約750psi、約1000psi、約1250psi、約1500psi、約2000psi、約2500psi、約3000psi、又は前述の数値のうちのいずれか2つの間の範囲及びそれらの数値を含む範囲、例えば、約500psi~約3000psiの圧力で行われてもよい。
【0031】
炭化水素原料/残留原料中のヘテロ原子汚染物質との金属ナトリウムの反応は、比較的速くて数分以内に完了する。原料と金属ナトリウムとの組み合わせの混合は、反応を更に加速させ、この反応においては工業規模で一般的に使用されている。しかしながら、特定の実施形態では、転化の程度を向上させるように長い滞留時間を必要とする場合があるか、又は運転条件を調整して特定のヘテロ原子不純物の除去を目指すこともある。したがって、いずれかの実施形態では、接触工程は、約1分間~約120分間、例えば、約1分間、約5分間、約7分間、約9分間、約10分間、約15分間、約30分間、約45分間、約60分間、約75分間、約90分間、約105分間、若しくは約120分間実施され、又は前述の数値のうちのいずれか2つの間の範囲及びそれらの数値を含む範囲の時間実施される。したがって、いずれかの実施形態では、この時間は、約1分間~約60分間、約5分間~約60分間、約1分間~約15分間、約60分間~120分間などの範囲であってもよい。
【0032】
本プロセスのいずれかの実施形態では、炭化水素原料中のアスファルテン含量の増大が、ナトリウム処理プロセスには高過ぎる粘度をもたらすのなら、炭化水素原料を希釈剤で希釈することが必要な場合がある。アスファルテンは芳香族性であるため、希釈剤は典型的には芳香族を含む。この希釈剤は、単一の化合物、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン(例えば、1,2,3-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼンなど)、エチルベンゼン、クメン、ナフタレン、メチルナフタレン(例えば、1-メチルナフタレン、又はそれらの他の異性体)、それらのいずれか2つ以上の混合物、又は芳香族である精製所中間体(例えば、軽質循環油、重質循環油、改質油)であってもよい。必要とされる希釈剤の量は、原料のアスファルテン含量及び加工に必要な粘度によって変更される。原料中のより高いアスファルテン含量は、より低いアスファルテン含量を有する原料よりも多くの希釈剤を必要とすることがある。本プロセスでのアスファルテンの加工を可能とするように適切な量の希釈剤を選択することは、当該技術の範囲内にある。
【0033】
転化原料に対する炭化水素原料からの硫黄含量の除去効率(別称として転化効率)は、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも96重量%、少なくとも97重量%、少なくとも98重量%、少なくとも99重量%、若しくは100重量%、又は前述の数値のうちのいずれか2つの間の範囲及びそれらの数値を含む範囲、例えば40%~99%、又は40%~95%であってもよい。金属ナトリウムの有効量が化学量論量よりも多い場合には、硫黄含量の転化効率を、非常に高くでき、例えば少なくとも90%にできる。
【0034】
本技術の繊維原料は、典型的には、1重量%未満の硫黄、例えば、0.75重量%未満の硫黄、又は更には0.5重量%未満の硫黄を含有する。いずれかの実施形態では、繊維原料は、0.01重量%の硫黄~1重量%未満の硫黄、又は0.75重量%未満の硫黄、0.5重量%未満の硫黄、又は更には0.3重量%未満の硫黄を有してもよい。例えば、繊維は、0.01重量%、0.02重量%、0.03重量%、0.04重量%、0.05重量%、0.075重量%、0.1重量%、0.15重量%、0.2重量%、0.25重量%、0.3重量%、0.4重量%、0.5重量%、0.75重量%、若しくは1重量%未満の硫黄、又は前述の数値のうちのいずれか2つの間の範囲及びそれらの数値を含む範囲を有してもよい。
【0035】
本技術の繊維原料は、炭化水素原料に比較して低い金属濃度を有する。繊維原料の金属含量は、炭化水素原料と比較して少なくとも20%、例えば20%~100%低くてもよい。炭化水素原料と比較して転化原料中の金属の(総合的な又は個々の)低下パーセントの例として、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%、100%、又は前述の数値のうちのいずれか2つ以上の数値の間の範囲及びそれらの数値を含む範囲が含まれる。したがって、いずれかの実施形態では、低下パーセントは、20%~99%、20%~95%、70%~99%、又は70%~100%であってもよい。金属は、本明細書に開示される金属のうちのいずれであってもよい。いくつかの実施形態では、金属は、鉄、バナジウム、ニッケル、又はそれらのいずれか2つ以上の組み合わせから選択される。例えば、転化原料のバナジウム含量は、炭化水素原料又は残留原料と比較して少なくとも20%低下している。同様に、いずれかの実施形態では、転化原料のニッケル含量は、炭化水素原料又は残留原料と比較して少なくとも20%低下している。
【0036】
本方法はまた、金属ナトリウムと接触する前に、不純物を含有する炭化水素原料を前処理することを含んでもよい。場合によっては、炭化水素原料を前処理して残留原料中の不純物を濃縮してもよく、次いでこの炭化水素原料を使用して本技術の繊維を調製する。例えば、未加工粗製油を蒸留して、精製された原料及び未加工粗製物(すなわち炭化水素原料)の両方よりも高い硫黄含量及び高いアスファルテン含量を有する1つ以上の軽質留出分(例えば、他の目的に使用されてもよい精製原料)及び大気中残渣分(残留原料)を生成してもよい。あるいは、炭化水素原料を前処理して望ましくない不純物の一部分を除去してより低濃度の不純物を有する精製炭化水素原料を提供してもよいが、この精製炭化水素原料は、本プロセスに従ってナトリウム又はナトリウム合金で処理されることになる本明細書の炭化水素原料のためのアスファルテン仕様並びに硫黄仕様及び金属仕様のうちの少なくとも1つを満たしている。前処理プロセスは、分離プロセス、又は処理プロセス、又はそれらのいずれか2つ以上の組み合わせを含んでもよい。
【0037】
いずれかの実施形態では、前処理プロセスは、残留原料中の不純物を濃縮するために、エネルギー(熱)、相添加(溶媒又は吸収剤)、圧力変化、又は外部場若しくは勾配の適用を使用する物理的分離のうちの1つ以上を含む分離プロセスを含んでもよい。分離プロセスは、重力分離、フラッシュ気化、蒸留、縮合、乾燥、液-液抽出、逆抽出、吸収、遠心分離、静電分離、及びそれらの変形を含んでもよい。分離プロセスは、残渣油超臨界抽出(ROSE(登録商標))などの溶媒脱アスファルト化プロセスを含む溶媒抽出プロセスを更に含んでもよい。例えば、炭化水素原料を脱塩して塩及び水を除去してもよく、APIセパレータを使用して油から水及び固形物を分離してもよく、あるいは蒸留カラムを使用して粗製油中の高硫黄高沸点生成物と低硫黄低沸点生成物とを分離してもよい。吸着、濾過、浸透、又はそれらの変形などの分離プロセスはまた、固形剤又は隔壁を必要とする場合がある。開示された分離プロセスのそれぞれは、炭化水素原料よりも低濃度の不純物を有する精製原料、及び精製原料よりも高濃度の不純物を有する残留原料をもたらす。いずれかの実施形態では、残留原料は、炭化水素原料よりも高濃度の不純物を含む。いずれかの実施形態では、前処理プロセスは、気相不純物流(例えば、H2S、水、NH3、並びにメタン、エタン、及びプロパンなどの軽質炭化水素ガス)を更に提供する。このような気相不純物は、吸収プロセス、硫黄回収プロセス、又は当該技術分野で既知の他のプロセスを使用して除去できる。
【0038】
本技術のプロセスは、転化原料(又は繊維原料)及びナトリウム塩を含む混合物を生成する。本プロセスは、ナトリウム塩を、転化/繊維原料から分離することを更に含んでもよい。ナトリウム塩は粒子で構成されていて、これら粒子は極めて微細(例えば<10μm)であり、標準的な分離技術(濾過又は遠心分離など)によって完全に除去することができない。いずれかの実施形態では、この分離は、ナトリウム塩と元素状硫黄を有する転化/繊維原料との混合物を約150℃~500℃の温度に加熱して、凝集ナトリウム塩を含む硫黄処理混合物を提供することと、凝集ナトリウム塩を硫黄処理混合物から分離して、脱硫された転化/繊維原料及び分離されたナトリウム塩を提供することとを含んでもよい。この分離は、その内容全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第10,435,631号に説明されるような任意の好適な方法(例えば、遠心分離、濾過)によって実施されてもよい。
【0039】
脱硫された転化/繊維原料の性質に応じて、相当量のアルカリ金属含量が残留している可能性があり、例えば、場合によっては最大1重量%を超える。いくつかの実施形態では、そのような残留アルカリ金属は、約400ppm~約10,000ppm、例えば、約400、約600、約800、約1,000、約1,200、約1,400、約1,600、約2,000、約2,500、約3,000、約4,000、約5,000,約7,500、若しくは更には約10,000ppmの濃度、又は前述の数値のうちのいずれか2つの間の範囲及びそれらの数値を含む範囲で存在する。一部のアルカリ金属含量は、重金属が元々保持されていた位置でイオン的に、若しくはナフテン酸塩とイオン的に会合していてもよく、又は金属状態で微細に分散していてもよく、又は油の有機分子に結合したままである硫黄、酸素、若しくは窒素とイオン的に会合していてもよい。
【0040】
アルカリ金属含量は、最終的に高品質の炭素繊維を提供するために低くする必要があるので、転化/繊維原料からの残留アルカリ金属の除去が必要となる。また、相当量のアルカリ金属がシステムから脱離されるのなら、プロセスを維持するために多量の補填原料が必要となる。したがって、転化原料が未反応の金属ナトリウムを含む場合には、この方法は、転化原料から未反応の金属ナトリウムを実質的に除去することを更に含んでもよい。「実質的に除去する」とは、ナトリウムの大部分、例えば、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも98重量%、又は少なくとも99重量%のナトリウムを除去することを意味する。
【0041】
したがって、別の態様では、本技術は、第2の混合物を形成するために脱硫された転化/繊維原料に塩形成物質を添加することを含む脱金属プロセスを提供し、この塩形成物質は、残留アルカリ金属をアルカリ金属塩に転化する。得られる塩が転化/繊維原料から容易に除去される限り、任意の好適な塩形成物質を使用してもよい。いくつかの実施形態では、塩形成物質は、元素状硫黄、硫化水素、ギ酸、酢酸、プロパン酸、及び水からなる群から選択されてもよい。いくつかの実施形態では、酢酸を使用して、固形形態で比較的容易に除去される酢酸ナトリウム塩を形成する。典型的には、添加される塩形成物質の量は、残留アルカリ金属のモル量の約1倍~約4倍、例えば、1、1.25、1.5、2、2.5、3、3.5モル当量、又は前述の数値のうちのいずれか2つの間の範囲及びそれらの数値を含む範囲に等しい。例えば、いくつかの実施形態では、その量は、約1~約2モル当量に等しい。
【0042】
いくつかの実施形態では、塩形成物質の添加は、少なくとも150℃の温度、例えば、約150℃、約200℃、約250℃、約300℃、約350℃、約400℃、約450℃、又は前述の数値のうちのいずれか2つの間の範囲内及びそれらの数値を含む範囲内の温度で実施されてもよい。いくつかの実施形態では、塩形成物質の添加は、約150℃~約450℃の温度で実施されてもよい。
【0043】
特定の実施形態では、塩形成物質の添加は、少なくとも約15psiの圧力で実施される。いくつかの実施形態では、塩形成物質の添加は、約15psi、約25psi、約50psi、約100psi、約150psi、約200psi、約250psi、約300psi、約400psi、約500psi、約1,000psi、約1,500psi、約2,000psi、約2,500psiの圧力、又は前述の数値のうちのいずれか2つの間の範囲内及びそれらの数値を含む範囲内の圧力で実施される。例えば、いくつかの実施形態では、添加は、約50psi~約2,500psiで実施される。
【0044】
脱金属プロセスは、第2の混合物からアルカリ金属塩を分離して脱硫かつ脱金属された転化/繊維原料を提供することを含んでもよい。例えば、第2の混合物からアルカリ金属塩を分離することは、第2の混合物を濾過、沈着、又は遠心分離してアルカリ金属塩を除去し、脱硫された転化/繊維原料を提供することを含んでもよい。
【0045】
転化原料はまた、軽質炭化水素、すなわち、転化原料の軟化点を200℃未満にする任意の低分子量炭化水素を含んでもよい。例えば、軽質炭化水素は、軽質軽油及び軽質炭化水素を含んでもよい。いくつかの実施形態では、軽質炭化水素は、いくつかの重質軽油、並びに軽質軽油及びより軽質の炭化水素を更に含んでもよい。転化原料が軽質炭化水素を含む場合に、この方法は、転化原料から繊維原料を単離することを更に含んでもよい。いくつかの実施形態では、方法は、軽質炭化水素の少なくとも一部分を除去して、転化原料の軟化点を少なくとも200℃、少なくとも225℃、少なくとも250℃、又は少なくとも275℃に上昇させて繊維原料を提供することを含む。方法のいずれかの実施形態では、繊維原料を提供するために軽質炭化水素を除去することは、転化原料から軽質留分を蒸留することを含んでもよい。軽質炭化水素の蒸留は、例えば、大気圧蒸留、真空蒸留、又はそれらの組み合わせによって実施されてもよい。いずれかの実施形態では、軽質軽油に相当するかつそれを含む軽質炭化水素、例えば沸点が最高343℃の炭化水素を除去する。
【0046】
同様に、転化原料が本明細書に説明されるアスファルテンを希釈するのに使用される芳香族溶媒を含む場合に、転化原料から芳香族溶媒を蒸留することによって繊維原料を単離して、繊維原料を提供してもよい。あるいは、芳香族溶媒及び軽質炭化水素の少なくとも一部分を、転化原料から蒸留して繊維原料を提供してもよい。
【0047】
繊維原料はまた、転化原料をC3-8炭化水素又はその炭化水素のいずれか2つ以上の混合物で希釈してアスファルテンを沈降させることと、沈降させたアスファルテンを回収して繊維原料を提供することとによって、転化原料から単離されてもよい。
【0048】
本プロセスは、分離されたナトリウム塩から金属ナトリウムを回収することを更に含んでもよい。いずれかの実施形態では、本プロセスは、分離されたナトリウム塩を電気分解して、金属ナトリウムを提供することを更に含んでもよい。分離されたナトリウム塩は、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム、又は多硫化ナトリウムのうちの1つ以上を含んでもよい。電気分解は、例えば、それぞれの内容全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第8,088,270号又は米国仮特許出願第62/985,287号に従って、電気化学セル内で実施されてもよい。電気化学セルは、陽極液区画と、陰極液区画と、陽極液区画を陰極液区画から分離するNaSICON膜とを含んでもよい。金属ナトリウムを含む陰極は、陰極液区画内の陰極液中に配置される。ナトリウム塩を含む陽極は、陽極液区画内の陽極液中に配置される。電源は、陽極及び陰極に電気的に接続される。いずれかの実施形態では、分離されたナトリウム塩は、塩を電気分解して金属ナトリウムを提供する前に、有機溶媒中に溶解される。
【0049】
ここで、本技術のプロセスの例示的な実施形態を説明する。本技術の例示的な一実施形態では、典型的には、少なくとも30重量%のアスファルテン含量を有し、かつ本明細書に説明される硫黄及び全金属の不純物(例えば、少なくとも1又は少なくとも0.75重量%などの硫黄含量、及び少なくとも0.02重量%、少なくとも0.05重量%などの全金属)を含有する炭化水素原料は、本明細書に説明される有効量の金属ナトリウム及び外因性キャッピング剤と共に(連続式又はバッチ式の)反応器に投入される。任意で、芳香族溶媒などの溶媒を、炭化水素原料が使用される温度で好都合に流動するには粘性があり過ぎる場合には、炭化水素原料と混合してもよい。本プロセスのいくつかの実施形態では、炭化水素原料は残留原料である。すなわち、第1の炭化水素供給物を加工してより軽質の炭化水素を除去し、少なくとも30重量%までアスファルテン含量を濃縮させた残留原料を結果として残留させる。第1の炭化水素供給物に対して精製されるより軽質の炭化水素は、燃料などの他の製品に加工されてもよい。
【0050】
ナトリウムの反応は、本明細書に説明されるように、高温及び高圧で実施されてもよく、典型的には、数分以内に完了してナトリウム塩と転化原料との混合物(「第1の混合物」)を得る。転化原料は、炭化水素原料中の硫黄含量よりも少ない硫黄含量を有する炭化水素油を含む。転化原料が30重量%未満のアスファルテン含量を有する限りは、例えば、その原料は出発時からそうであったか、又は溶媒と混合されていたので、転化原料は、繊維原料が少なくとも30%のアスファルテンの最小量を含むことを確実にするために更なる加工を必要とする。
【0051】
任意で、(ナトリウム塩と転化原料との)第1の混合物は、反応器から第2の容器に輸送され、この容器で、ナトリウム塩は、転化原料から容易に分離されるのに十分な大きさの粒子に凝集される。任意の好適な凝集法を使用してもよいが、本明細書に説明されるような高温での元素状硫黄による凝集を使用してもよい。次いで、凝集されたナトリウム塩、金属、及び転化原料の結果として得られる混合物(「第2の混合物」)を、遠心分離機などの任意の好適なプロセス及び装置によって分離して、沈降した金属及びナトリウム塩を含まない転化原料を得ることができる。転化原料が30重量%未満のアスファルテンを含む場合に、又は200℃未満の軟化点を有する場合に、プロセスは、転化原料から軽質炭化水素を分離して、軟化点を200℃超(又は更にはそれ以上)に上昇させて繊維原料を提供することを含む。任意で、本明細書に説明されるように、ナトリウム塩を、NaSiCON膜などのナトリウムイオン選択性セラミック膜を用いて電解槽内で電気分解し、金属ナトリウム及び元素状硫黄を提供できる。金属ナトリウム及び元素状硫黄は、本プロセスで再利用されてもよい。
【実施例】
【0052】
実施例1-高アスファルテン原料(真空残渣)からの繊維の調製
それぞれ500gの真空残渣を、52.7gの元素状ナトリウムと370℃かつ750psigの水素下で60分間反応させる、一連の6回の脱硫操作を実施した。過剰なナトリウムを除去するために、8.4gの硫黄を添加し、この混合物を350℃かつ300psigで120分間攪拌しながら保持した。反応器の内容物を遠心分離して、上清層を回収した。これらの複数対の層を回収して、残留ナトリウム含量について分析した。これらは、それぞれ3640ppm、4267ppm、及び4000ppmであった。次いで、試料を300℃かつ300psigで15%過剰の酢酸と反応させて、ナトリウムを除去した。試料を遠心分離して、反応中に形成された酢酸ナトリウムを除去した。
【0053】
次いで、脱硫された真空底部の試料を10:1w/w比のn-ペンタンで処理したところ、溶液から沈降した混合物中に有意な比率のアスファルテンが得られた。混合物を遠心分離し、回収したアスファルテンを約1:1w/w比のn-ペンタンで洗浄し、再遠心分離してアスファルテンを回収した。合計133gのアスファルテンを回収した。真空残渣供給物と比較してアスファルテン中の硫黄及び金属の量を表1に示す。
【0054】
【0055】
次いで、これらのアスファルテンを溶融紡糸し、直径10ミクロンの繊維の形成に成功した。最高1000℃の温度で繊維の(酸素の存在下での)安定化及び(酸素の不在下での)炭化を行った。繊維の引張強度は0.8GPaと測定され、弾性率は33GPaと測定された。
【0056】
実施例2A-高アスファルテン原料からの繊維の調製
89.7%のアスファルテンを有する300gの試料からなるそれぞれを、200gの1-メチルナフタレンと混合してアスファルテンを溶解した、一連の6回の脱硫操作を実施した。35.5gのナトリウムをこの混合物に添加し、攪拌しながら750psigの圧力の水素下で350℃に加熱した。混合物を60分間反応させた。過剰なナトリウムを除去するために、8.9gの硫黄を添加して、混合物を350℃かつ300psigで120分間攪拌しながら保持した。硫化ナトリウム結晶を除去する遠心分離後の生成物の主要な結果を表1に示す。
【0057】
【0058】
得られた転化原料を、250℃の大気等価温度まで真空蒸留して、1-メチルナフタレン留分を除去した。
【0059】
次いで、蒸留された転化原料を溶融紡糸し、78.6%のアスファルテンを有する直径12ミクロンの繊維の形成に成功した。最高1000℃までの繊維の安定化及び炭化(すなわち黒鉛化)を行った。繊維の引張強度は1.0GPaと測定され、弾性率は32GPaと測定された。
【0060】
実施例2B-高アスファルテン原料からの繊維の調製
375gのアスファルテン試料(66.42%のC7A、82.66%のC5A)を、125gの1,2,4-トリメチルベンゼンと混合して、アスファルテンを溶解させた。ナトリウム(51.1g)を混合物に添加し、攪拌しながら750psigの圧力の水素下で370℃に加熱した。混合物を30分間反応させた。過剰なナトリウムを除去するために、8.5gの硫黄を添加し、混合物を350℃かつ300psigで120分間攪拌しながら保持した。硫化ナトリウム結晶を除去する遠心分離後の転化原料生成物の主要な結果を表1に示す。
【0061】
【0062】
得られた転化原料を蒸留して、524℃-留分を除去する。残留する524℃+留分(繊維原料)は、200℃超の軟化点を有する。(アスファルテン含有繊維を提供するための)溶融紡糸、安定化、及び黒鉛化を実施例1と同様に実施して、炭素繊維を提供する
【0063】
実施例3-(瀝青由来の)高アスファルテン原料からの繊維の調製
固形アスファルテン原料を、十分な量のn-ペンタンで瀝青を処理して生成した。次いで、350gのアスファルテンを350gの鉱油と混合して、350℃かつ1500psigでナトリウムにより処理した。主要な結果を表3に要約する。表4の結果は、溶融金属ナトリウムが不純物を効率的に除去し、アスファルテンの物理的特性を改善することを明確に示している。硫黄含量は97.4%減少し、524℃残油分は48%超減少し、金属は>97%減少した。
【0064】
(表3)ナトリウムによるアスファルテンの脱硫の主要な結果
【0065】
得られた転化原料を蒸留して、524℃-留分を除去する。残留する524℃+留分(繊維原料)は、200℃超の軟化点を有する。(アスファルテン含有繊維を提供するための)溶融紡糸、安定化、及び黒鉛化を実施例1と同様に実施して、炭素繊維を提供する。
【0066】
均等物
特定の実施形態が例示かつ説明されているが、当業者なら、前述の明細書を解釈した後に、本明細書に記載の本技術のプロセス及びその生成物に対して変更、均等物の置換、及び他種の改変を好んで用いることができる。それぞれの態様及び上記の実施形態はまた、他の態様及び実施形態のうちのいずれか又は全てについて開示されるような変形又は態様を共に含んでいるか、又は組み込んでいる可能性がある。
【0067】
本技術はまた、本明細書に説明される本技術の個々の態様の単一の例示として意図される特定の態様に限定されるものではない。当業者には明白であるように、本技術の多くの修正及び変形は、その趣旨及び範囲から逸脱することなく実施可能である。本明細書に列記される方法に加えて、本技術の範囲内の機能的に均等な方法は、前述の説明から当業者には明白である。そのような修正及び変形は、添付の特許請求の範囲内に属することが意図される。当然のことであるが、本発明の技術は、特定の方法、原料、組成物、又は条件に限定されず、もちろん変更が可能である。更に当然のことであるが、本明細書で使用される専門用語は、特定の態様を説明することのみを目的とし、限定することを意図するものではない。したがって、本明細書は、添付の特許請求の範囲、その中での定義、及びそれらの任意の均等物だけによって指示される本技術の幅、範囲、及び趣旨のみについて例示的であると見なされることが意図される。
【0068】
本明細書に例示的に説明される実施形態は、本明細書に明確に開示されていない任意の1つの要素又は複数の要素、任意の1つの限定又は複数の限定が存在しなくとも適切に実施できる。したがって、例えば、用語「含むこと(comprising)」、「含むこと(including)」、「含有すること(containing)」などは、限定はされずに拡張的に解釈されるべきである。更に、本明細書で用いられる用語及び表現は、限定ではなく説明の用語として使用されており、そのような用語及び表現の使用では、提示されかつ説明される特徴又はその特徴の一部分の任意の均等物を除外する意図はないが、当然のことであるが、特許請求される技術の範囲内で種々の修正は可能である。同様に、「含むこと」、「含むこと」、「含有すること」などの用語の使用は、「から本質的になる(consisting essentially of)」及び「からなる(consisting of)」という用語を使用する実施形態を開示するものと理解されるべきである。「から本質的になる」という句では、特許請求される技術の基本的かつ新規の特徴に実質的に影響を及ぼさない明確に記載される要素及びこれらの追加の要素を含むと理解される。「からなる」という句は、特定されていないいずれの要素も除外する。
【0069】
更に、本開示の特徴又は態様がマーカッシュ群の観点で記載される場合に、当業者なら、本開示がそれにより、マーカッシュ群の任意の個々の構成要素又は構成要素の下位の群に関しても記載されることを認識するであろう。包括的な開示に該当するより狭い種別及び下位の包括的な群化のそれぞれはまた、本発明の一部を形成する。これには、切り取った材料が本明細書に明確に記載されているかどうかに拘わらず、その属から任意の主題を削除する但し書き又は否定的な限定を伴う本発明の包括的な説明が含まれる。
【0070】
当業者には理解されるように、特に書面による説明を提供する観点では、いずれかの及び全ての目的のために、本明細書に開示される全ての範囲はまた、いずれかの及び全ての可能性のある下位の範囲及びそれら下位の範囲の組み合わせを包含する。任意の列挙された範囲について、この範囲が少なくとも等しい2分の1、3分の1、4分の1、5分の1、10分の1などに分解されることが十分に説明されかつ可能であると容易に認識できる。非限定的な例として、本明細書で考察されるそれぞれの範囲は、下部の三分の一、中央部の三分の一、及び上部の三分の一などに容易に分解できる。また当業者には理解されるように、「最大」、「少なくとも」、「を超える」、「未満」などの全ての文言は、列記された数字を含み、上記の考察のように引き続いて下位の範囲に分解できる範囲を指す。最後に当業者には理解されるように、範囲は、それぞれ個々の構成要素を含む。
【0071】
本明細書内で参考にされる全ての刊行物、特許出願、交付済み特許、及び他の文書(例えば、雑誌、記事、及び/又は教科書)は、それぞれ個々の刊行物、特許出願、交付済み特許、又は他の文書が、参照によりその全体が組み込まれることが明確にかつ個別に指示されたかのように、参照により本明細書に組み込まれる。参照により組み込まれる文書に含まれる定義は、それら定義が本開示での定義と矛盾する場合は排除される。
【0072】
特許請求の範囲が権利を有する均等物の全範囲に伴う他の実施形態は、以下の特許請求の範囲内にあると定められる。
【国際調査報告】