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特表2024-533595シリカエアロゲルの調製方法およびそれによって調製されたエアロゲル
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  • 特表-シリカエアロゲルの調製方法およびそれによって調製されたエアロゲル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】シリカエアロゲルの調製方法およびそれによって調製されたエアロゲル
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/16 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
C01B33/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024517050
(86)(22)【出願日】2022-09-12
(85)【翻訳文提出日】2024-03-28
(86)【国際出願番号】 GB2022052302
(87)【国際公開番号】W WO2023041896
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】2113333.5
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524101102
【氏名又は名称】ドラゴンフライ・インシュレーション・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Dragonfly Insulation Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】ハン,シャオ
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072BB05
4G072CC08
4G072GG01
4G072HH21
4G072HH30
4G072JJ08
4G072RR12
4G072UU15
(57)【要約】
本発明はエアロゲルに関し、より詳細には、シリカエアロゲルの合成のための周囲圧力方法に関する。態様では、本発明は、制御された形状化繊維強化シリカエアロゲル複合体を調製する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカエアロゲルを調製する方法であって、
ケイ酸塩の、オプションとして炭酸塩の溶液を含む前駆体溶液を提供すること;および
前駆体溶液を重炭酸塩と反応させること;
および、シリル化剤と反応させること;
を含み、重炭酸塩が固体の形態である、方法。
【請求項2】
前駆体溶液を重炭酸塩と反応させることが、繊維の存在下にて実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
繊維が、セラミック繊維、有機繊維、またはカーボン繊維である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
繊維が、セラミック繊維である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
方法が、前駆体溶液を重炭酸塩と反応させる前に、形状化構造体を形成するように、重炭酸塩のコアを取り囲む繊維を提供することを更に含む、請求項2~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前駆体溶液を重炭酸塩と反応させることが、形状化構造体を前駆体溶液に浸漬することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ケイ酸塩が、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムまたはケイ酸カルシウムから選択される、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ケイ酸塩が、ケイ酸ナトリウムである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
炭酸塩が、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸鉄、および炭酸アンモニウムから選択される、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
炭酸塩が、炭酸ナトリウムである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
重炭酸塩が、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、重炭酸カルシウム、重炭酸マグネシウム、重炭酸鉄、および重炭酸アンモニウムから選択される、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
重炭酸塩が、重炭酸ナトリウムである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
シリル化剤が、一般式RSiX(式中、RはC~Cアルキルまたはハライドであり、Xはハライド、サルフェートまたはスルホネート基である)を有する、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
シリル化剤が、トリメチルクロロシラン(TMCS)、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、またはビス(トリメチルシリル)サルフェートである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
シリル化剤が、トリメチルクロロシラン(TMCS)である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
乾燥工程を更に含む、請求項1~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
乾燥工程が、周囲圧力条件下での加熱を含む、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、本発明はエアロゲルの調製方法、ならびにそれによって調製されたエアロゲルに関する。より詳細には、本発明は、急速周囲圧力乾燥を用いる、シリカエアロゲル調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアロゲルは、高い比表面積を有する多孔性材料であり、建築、断熱(insulating)、触媒、およびドラッグデリバリーなどの多様なセクターにおいてさまざまな商業的用途を有する。特に、エアロゲルは、軽量および断熱特性を提供するために、セメント用途において骨材として使用され得る。
【0003】
エアロゲルは、典型的には、ゾル-ゲルプロセスにより製造され、これにおいて、多孔性エアロゲル構造体を得るために溶媒交換および/または乾燥を実施する前に、三次元の「ウェットゲル」骨格が得られる。
【0004】
エアロゲルの大規模商業化の主要な障害は、乾燥工程である。
【0005】
エアロゲルの製造のために凍結乾燥プロセスが知られている(Klvanaら、「A New Method of Preparation of Aerogel-like Materials using a Freeze-Drying Process」、Journal De Physique (1989): 50; C429-432)。しかしながら、凍結乾燥方法は、真空下での凍結乾燥溶媒の昇華によっており、エネルギーを大量に消費する。超臨界乾燥は、もう1つの既知の技術であり、乾燥溶媒の超臨界点に達するために高い圧力を用い、高圧かつ高温を必要とする(Andersonら、「Hydrophobic silica aerogels prepared via rapid supercritical extraction」、Journal of Sol-Gel Science and Technology (2010); 53; 199-207)。これらプロセスの高エネルギー要件は、その商業的実現可能性を制限する。
【0006】
よって、周囲圧力乾燥(APD:ambient pressure drying)方法は、エアロゲルに到達する低エネルギー消費のルートを提供する。従来のAPD方法は、ウェットゲル調製に使用したオリジナルの溶媒を、表面張力がより低い有機溶媒、例えばヘキサン、ヘプタンまたはオクタンなどと交換することによっている。またこの方法は、しばしば、シリカサルフェート上の-OH基を、より脂肪親和性の基で置換して、乾燥を容易にするように、追加の表面修飾を含む。トリメチルクロロシラン(TMCS)が、シリカゲルの表面修飾に使用されてきたが、これはHClの生成をもたらし、HClは典型的には除去しなければならない。WO2016/132117には、TMCSによる表面修飾の間に生成したHClと、シリカウェットゲルにおける炭酸塩または重炭酸塩イオンとの反応が、ウェットゲルの孔の内部にて内側からCOガスを発生させることが記載されている。これにより、周囲圧力乾燥で、ウェットゲルのより急速な乾燥が可能になる。しかしながら、経済的、効率的、および製造されるエアロゲルの形態の点で、依然として改善が必要とされる。
【0007】
本発明の目的は、先行技術に関する不都合の1つ以上を除去または緩和することにある。シリカエアロゲルを調製する拡張可能な方法が好都合である。エネルギー消費の少なくい方法が有用であり、これは溶媒の使用を低減し得る方法であり得る。低減された処理/乾燥時間を有するシリカエアロゲルの調製方法が特に好都合であり、これは、これを製造するためのコスト効率的な方法であり得る。制御された形状化(controlled-shaped)エアロゲルを形成するために使用され得る方法が特に有用であり得る。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、例えばシリカエアロゲルなどのエアロゲルを調製する方法に関し、この方法では、製造の間に内側および外側の両方で起こる化学的に駆動された自己加圧反応により、周囲圧力条件下での急速乾燥を容易にする。実施態様では、制御された形状化製品の調製を可能にするために、エアロゲルは、繊維を用いて調製され得る。有利には、エアロゲルは、周囲圧力条件下にて急速に調製され得、タイムコストおよびエネルギー消費における低減をもたらし、よって、プロセスのスケールアップを容易にする。
【0009】
従って、本発明の第1の要旨において、シリカエアロゲルを調製する方法であって、該方法が、ケイ酸塩およびオプションとして炭酸塩の溶液を含む前駆体溶液を提供すること;前駆体溶液を重炭酸塩と、およびシリル化剤と反応させることを含み、重炭酸塩が固体の形態である方法が提供される。
【0010】
このプロセスでは、ケイ酸塩と重炭酸塩との反応により初期ゲル化が達成され、シリカウェットゲルシェル、炭酸塩および水が得られ、また、シリル化剤はケイ酸塩と反応して、更なるゲル化およびウェットゲルシェル表面の修飾がもたらされ、HClが得られる。
【0011】
また、シリル化剤は、生成したHClと、副生成物として形成されたかまたはオプションとして前駆体溶液に存在していたかによらない炭酸塩と反応して、COを形成する。このようにして、外部からの、すなわち、ウェットゲルシェルの外表面での加圧が生じ、これは急速乾燥を容易にする。
【0012】
加えて、ウェットゲルの孔内にある未反応のシリル化剤および生成したHClが、ウェットゲルシェルコアへと拡散し、重炭酸塩と反応して、COを生成し、これにより、これを内部から加圧して、乾燥工程を更に容易にする。
【0013】
前駆体溶液を重炭酸塩およびシリル化剤と反応させる工程は、連続的(または逐次的)に実施されてよく、すなわち、前駆体溶液を、まず重炭酸塩と反応させ、そして次にシリル化剤と反応させてよく、あるいは、これら工程を同時に実施してもよい。
【0014】
従って、本発明の実施態様は、シリカエアロゲルを調製する方法に関し、該方法は、ケイ酸塩およびオプションとして炭酸塩の溶液を含む前駆体溶液を提供すること、前駆体溶液を重炭酸塩と、およびシリル化剤と反応させることであって、重炭酸塩は固体の形態であることによって、ウェットゲルを調製すること;およびシリカエアロゲルを形成するためにウェットゲルを乾燥させることを含む。
【0015】
本発明のある態様では、前駆体溶液を重炭酸塩と反応させる工程を繊維の存在下にて実施する。繊維は、反応が起こる前に、前駆体溶液に添加されてよく、あるいは、重炭酸塩に添加されてよい。このことは、エアロゲルが、制御された形状を有することが必要な場合に有用である。しかしながら、ある態様では、繊維は存在せず、エアロゲルが、制御されていない固体として生成される。このことは、意図される使用に応じて、粉末または顆粒を形成するように、その後に粉砕またはすりつぶされてよい。
【0016】
ある態様では、繊維は、セラミック繊維、有機繊維またはカーボン繊維である。
【0017】
ある態様では、繊維は、セラミック繊維である。Triton(商標)セラミック短繊維が、使用可能な繊維の例示的な例であるが、当業者は別の繊維を使用し得ることを十分理解するであろう。
【0018】
好都合には、繊維を使用する場合、前記方法は、制御された形状化強化エアロゲル複合体の急速製造を可能にする。
【0019】
用語複合体は、エアロゲル構造体に導入され得る例えば繊維などの1つ以上の追加の成分を有するエアロゲルを記載するために使用される。
【0020】
ある態様では、繊維は、重炭酸塩粉末を取り囲む。繊維は、重炭酸塩粉末の周りに形状を形成し得る。例えば、繊維は、重炭酸塩粉末を取り囲む球またはボールの形状をとり得る。この態様では、球は、前駆体溶液に浸漬され得る。繊維は、得られるエアロゲルに構造的一体性を付与し、制御可能な中空のエアロゲル複合体、この例では、繊維強化中空エアロゲル複合体(FRHAC:fibre-reinforced hollow aerogel composite)の調製を可能にする。
【0021】
加えて、この態様では、ウェットゲルシェルの外表面にて生成したCOは、シリカウェットゲルの孔を介して放出されるまで、形状化(shaped)構造体の内部に保持される。ガスは、ゲルの液体成分を置換し得、低い温度および圧力での乾燥を達成でき、プロセスをエネルギー効率的にする。
【0022】
従って、本発明は、シリカエアロゲルの製造方法であって、該方法が、ケイ酸塩およびオプションとして炭酸塩の溶液を含む前駆体溶液を提供すること、前駆体溶液を重炭酸塩およびシリル化剤と反応させることを含み、重炭酸塩が固体の形態であり、前駆体溶液を重炭酸塩と反応させることが、繊維の存在下にて実施される方法に関する。
【0023】
ある態様では、本発明は、シリカエアロゲルの製法方法であって、該方法が、ケイ酸塩およびオプションとして炭酸塩の溶液を含む前駆体溶液を提供すること;形状化構造体を形成するために重炭酸塩コアを取り囲む繊維を提供すること;前駆体溶液を重炭酸塩およびシリル化剤と反応させることを含み、重炭酸塩が固体の形態である方法に関する。
【0024】
ある態様では、前駆体溶液を重炭酸塩と反応させる工程において、形状化構造体が前駆体溶液に浸漬される。このようにして、前駆体溶液は、繊維を通って染み込み、重炭酸塩粉末コアと反応する。
【0025】
繊維は、生成したCOがウェットゲルの孔を通じて拡散されるまでCOを保持する形状化構造体を好都合に形成し、同様の効果は、基材上にウェットゲルを調製することによって、繊維なしで達成できる。前駆体が、重炭酸塩粉末と反応するとき、ウェットゲルは層として形成される。この態様では、COがウェットゲルの孔を介して放出されるまで、COは、基材とウェットゲル層の外表面との間に保持される。適切な基材は、当業者に既知であり、例えば、ガラス、セラミック、およびポリマー基材を含む。
【0026】
ある態様では、ケイ酸塩は、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムまたはケイ酸カリウムから選択される。
【0027】
ある態様では、ケイ酸塩は、ケイ酸ナトリウムである。
【0028】
ケイ酸ナトリウムは、「水ガラス」としても知られ、本発明に使用するのに特に適する。
【0029】
ある態様では、炭酸塩は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸鉄、および炭酸アンモニウムから選択される。
【0030】
ある態様では、炭酸塩は、炭酸ナトリウムである。
【0031】
ある態様では、重炭酸塩は、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、重炭酸カルシウム、重炭酸マグネシウム、重炭酸鉄、および重炭酸アンモニウムから選択される。
【0032】
ある態様では、重炭酸塩は、重炭酸ナトリウムである。
【0033】
ある態様では、シリル化剤は、一般式RSiX(式中、RはC~Cアルキルまたはハライドであり、Xはハライド、サルフェートまたはスルホネート基である)を有する。
【0034】
ハライドは、塩素、臭素またはヨウ素であってよい。
【0035】
スルホネートは、メチルスルホネート、トリフルオロメチルスルホネート、ベンジルスルホネート、またはトルエンスルホネートであってよい。
【0036】
サルフェートは、-O-S(O)-SiRであってよい。
【0037】
ある態様では、シリル化剤は、トリメチルクロロシラン(TMCS)、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、およびビス(トリメチルシリル)サルフェートである。
【0038】
ある態様では、シリル化剤は、トリメチルクロロシラン(TMCS)である。
【0039】
本発明の方法は、部分的に乾燥したエアロゲルを製造し、これは、最終製品であり得る。しかしながら、ある態様では、1つ以上の洗浄および/または乾燥工程を実施して、最終エアロゲル製品を得てよい。
【0040】
ある態様では、方法は、1つ以上の洗浄工程を含む。
【0041】
ある態様では、方法は、1つ以上の乾燥工程を含む。乾燥工程は、常套的な手段によって、例えばオーブンまたはヒートプレートにて、実施してよい。適切な加熱手段は、当業者に明らかであろう。
【0042】
乾燥工程は、周囲圧力下での加熱を含む。
【0043】
加熱は、60℃~500℃の温度で実施してよい。ある態様では、加熱は、60℃~150℃で実施される。
【0044】
100℃前後の温度(例えば80℃~120℃)が好ましくあり得る。液相が100℃以下の沸点を有するからである。
【0045】
乾燥工程は、15分間~24時間実施され得る。当業者には理解されるように、乾燥工程の長さは、加熱温度に依存し、より低い温度はより長い乾燥時間を要する。ある態様では、乾燥工程は、15分間~12時間、または15分間~6時間実施される。ある態様では、乾燥工程は、20分間~3時間、または30分間~2時間実施される。乾燥温度が60℃~150℃の範囲にあるとき、乾燥時間は、30分間~12時間、30分間~8時間、30分間~6時間、または30分間~2時間であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1図1は、本発明の実施態様による方法の模式図を示す。
図2図2は、本発明の実施態様により調製されたFRHACのX線断層撮影画像を示す。
図3図3は、本発明の実施態様により調製された繊維強化エアロゲル複合体の質量変化を示す。
図4図4は、本発明により調製された(a)および(b)繊維強化エアロゲル複合体の、ならびに(c)および(d)エアロゲルのSEM像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明を、添付の図面を参照しつつ、例示の目的のみで記載する。
【0048】
本発明の実態態様を、図1を参照しつつ、および後述の反応を参照しつつ記載する。図1(a)にて、セラミックの短繊維のボールが、重炭酸塩粉末のコアを取り囲むように形状化される。調製された複合体エアロゲルの寸法は、使用する短繊維の量を変更することによって調整できる。
【0049】
図1(b)に示すように、ケイ酸ナトリウムと重炭酸ナトリウムコアとの反応を通じてゲル化が起こり、シリカゲルシェルの形成をもたらす。
【0050】
図面では、示した炭酸ナトリウムが前駆体に含まれているが、当業者は、ケイ酸ナトリウムと重炭酸ナトリウムとの間の反応の生成物として炭酸ナトリウムが形成され、炭酸ナトリウムは前駆体溶液に必要でないこと、すなわち、オプションの成分であることを認識できるであろう。
【0051】
そして、シリル化剤をシリカゲルの表面に滴下し(図1(c))、HClを形成する間に、表面修飾および更なるゲル形成をもたらす。シリル化剤および生成したHClも炭酸塩と反応してCOを形成する。加えて、ゲルの孔の内部にある未反応のシリル化剤および生成したHClは、コアへ拡散し(図1(d))、固体の重炭酸塩と反応してCOを生成する。シリカゲルシェルは、短繊維によって機械的に強化され、シリカゲルシェルは、急速ガス生成工程の間に膨張せず(図1(e))、COがシェルの孔を通って放出されるまで、ガス生成によって生じた増加した圧力を保持する。
【0052】
このプロセスの間に起こる反応は以下の通りである;
【0053】
プロセスの最初では、ケイ酸ナトリウム(NaSiO)溶液を短繊維と混合し、(反応1)により重炭酸ナトリウム(NaHCO)粉末コアと反応させて、シリカゲルシェルを形成する。
【0054】
シリル化剤、この態様ではトリメチルクロロシラン(TMCS)のシリカゲルシェルへの添加後、TMCSと残存するケイ酸ナトリウムとの間の反応(反応2)により更にシリカゲルが形成され、シリカゲルの表面がTMCSで修飾される。TMCSによる表面修飾の結果、FRHACが疎水特性を有する。反応は、(反応3)の結果として塩化水素(HCl)も生成する。TMCSおよび生成したHClは炭酸ナトリウム(NaCO)と反応して二酸化炭素(CO)ガスを生成する(反応4および5)
【0055】
生成したシリカゲルシェルの孔にある未反応のTMCSおよび生成したHClは、重炭酸ナトリウムのコアへと拡散する。COガスが生成し、シリカゲルシェルに対して突然の圧力上昇が起こる(反応6および7)。シリカゲルは非ニュートン性の挙動をし、シリカゲルシェルは短繊維によって機械的に強化され、シリカゲルシェルは、急速ガス生成ステージの間に膨張せず、生成したCOガスがシリカゲルシェルの孔を通じてゆっくりと放出されるまで、突然の圧力上昇を保持する。よって、X線断層撮影画像(図2)に示すように中空構造体が得られる。
【0056】
反応7は、TMCSと重炭酸ナトリウム溶液との間の全体反応である。よって、この化学プロセスは、COガスを形成するだけでなく、水を消費し、このことはウェットゲルの熱乾燥について大いなる利点をもたらす。
【実施例
【0057】
本発明を以下の例示的な実施例を参照しつつ完全に記載する。
【0058】
(実施例1)
材料および方法
炭酸ナトリウム(≧99%)、重炭酸ナトリウム(≧99.7%)およびトリメチルクロロシリケート(TMCS、≧97%)をSigma-Aldrich(商標)から購入し、更なる精製なしに使用した。セラミック短繊維Triton(商標)およびケイ酸ナトリウム(水ガラス)をFisher Scientific(商標)から購入した。
【0059】
ニューキャッスル大学にあるFEI XL30 ESEM-FEG(環境走査電子顕微鏡-電界放出ガン)を使用して、10keV加速電圧による高真空モードでサンプルを撮像した。SEM撮像の前に、全てのサンプルを金で被覆して電気伝導性を増した。サンプルの比表面積および多孔度を、ニューキャッスル大学にあるThermo Scientific(商標)SURFERで窒素吸着-脱着法により特性評価した。ダラム大学にあるμCT、Xradia 410 Versa(4μm等方性ボクセルサイズ)を、X線マイクロ断層撮影走査に使用した。ソフトウェアAvizo9を使用して、得られた断層撮影データセットを処理した。
【0060】
1.1繊維強化中空エアロゲル複合体(FRHAC)
繊維強化中空エアロゲル複合体(FRHAC)を調製するために、最初に前駆体を、水ガラス、脱イオン水および炭酸ナトリウム溶液の混合物(モル比 Si:HO:NaCO=5:167:1)により調製した。0.1gの重炭酸ナトリウムのコアを被覆する0.03gのセラミック短繊維の形状化ボールを、繊維を手で形作ることにより調製した。そして、形状化ボールを1mlの前駆体に漬け、その後、1mlのトリメチルクロロシランをその表面に滴下した。10分後、これを脱イオン水で3回洗浄した。最後に、FRHACサンプルを100℃で24時間乾燥させた。
【0061】
1.2非強化エアロゲル(NRA)
1gの重炭酸ナトリウム粉末に1mlの前駆体を直接、撹拌なしに添加し、その後、1mlのTMCSをその表面に添加することによって、セラミック短繊維なしのエアロゲルサンプルを調製した。ウェットゲルの孔を通じてガスが放出される間、液体が置換されることで、表面にバブリングが観測された。バブリングが停止した後、ゲルを脱イオン水で3回洗浄し、そして最後に100℃のホットプレート上で24時間乾燥させた。
【0062】
1.3特性評価
ブロック化した孔を機械的に開けて、真の表面積を測定しようとして、NRAサンプルをすりつぶして粉末にした。すりつぶした粉末を、最初に脱イオン水で2回洗浄し、乾燥させ、特性評価した。加えて、すりつぶした粉末をエタノールで3回洗浄して、合成の副生成物をすべて除去し、そして繰り返して特性評価した。
【0063】
1.3.1最小加熱乾燥
実施例1.1にて合成されたFRHACについて最小加熱乾燥時間を、乾燥の最初からの質量損失をモニタリングすることによって測定した。各実験を3回繰り返した。結果を図3に示す。これは、100℃での加熱乾燥の30分後に、質量損失が停止し、ゲルが完全に乾燥したことを示す。
【0064】
1.3.2SEM
FRHACのSEM像(図4(a)および(b))にて、マイクロ孔からマクロ孔までのさまざまな寸法の孔を観察した。繊維強化なしのエアロゲルサンプル(NRA)の多孔性表面を図4(c)および(d)にて観察できる。
【0065】
FRHACおよびNRAのバルク密度を、重量および体積から求め、以下の表1に示す。FRHACおよびNRAサンプルの孔を、窒素吸着-脱着等温法により分析したところ、FRHACの比表面積は約36m/gを示した。小さい比表面積(6m/g)を有する短繊維は、FRHACに対して、短繊維のないNRAより小さい比表面積をもたらし得るが、NRA比表面積は顕著な増加を示さず、39m/gしかなかった。FRHACにおけるエアロゲル成分の特性を更に研究するために、NRAを粉末にすりつぶしたところ、比表面積は約128m/gに増加し、これは、オリジナルのNRAにおいてマクロ孔が支配的であったことを示す。最後に、すりつぶしたNRA粉末を追加的に水で洗浄した。洗浄したNRA粉末の比表面積は、オリジナルのNRAの10倍より大きく、これは、窒素吸着による分析では、反応2、4、5、6および7から生成した副生成物塩が、オリジナルのNRAの比表面積を低下させていたことを示唆している。すりつぶしおよび洗浄手順は、孔体積も0.55cm/gから4.33cm/gに増加させ(表1)、このことは、オリジナルのFRHACサンプルに、同定されていないマイクロ孔およびメソ孔があることを示している。
【0066】
【表1】
【0067】
表1:繊維強化中空エアロゲル複合体(FRHAC)、非強化エアロゲルサンプル(NRA)、および短繊維のバルク密度、BET表面積および孔分析
【0068】
結果は、本発明の方法が、著しく低減された時間およびエネルギー消費にて、エアロゲルを急速に調製するために使用できることを示す。特に、結果は、エアロゲルを調製して、および30分のオーダーの乾燥時間で完全に乾燥できることを示している。態様では、短繊維による強化により、制御された形状化エアロゲル製品の製造が、可能性のある商業的用途の幅広い範囲にて可能になる。
【0069】
本明細書(添付の特許請求の範囲、要約および図面を含む)に開示される特徴の全ておよび/または開示される方法もしくはプロセスの工程の全ては、それら特徴および/または工程の少なくともいくつかが相互に排他的である組み合わせを除いて、任意の組み合わせで組み合わせられ得る。本明細書(添付の特許請求の範囲、要約および図面を含む)に開示される各特徴は、明示的に格別断りのない限り、同じ、均等なまたは類似の目的で機能する別の特徴で置換されてよい。よって、明示的に格別断りのない限り、開示される各特徴は、均等なまたは類似の特徴の包括的シリーズの一例でしかない。本発明は、上述の実施形態の細部に限定されない。本発明は、本明細書(添付の特許請求の範囲、要約および図面を含む)に開示される特徴の任意の新規な1つまたは任意の新規な組み合わせに及び、開示の方法もしくはプロセスの工程の任意の新規な1つまたは任意の新規な組み合わせに及ぶ。
【0070】
本明細書において実質的に任意の複数および/または単数の用語の使用に関し、当業者は、複数から単数へ、および/または単数から複数へと、文脈および/または用途に対して適切なように読み替え得る。さまざまな単数/複数の置換は、本明細書にて明確にする目的で明示的に述べ得る。
【0071】
一般的に、本明細書および特に添付の特許請求の範囲で使用される用語は「オープン」な用語(例えば、用語「including(含む)」は「including but not limited to(含むが、これ(ら)に限定されない)」として解釈されるべきであり、用語「having(有する)」は「having at least(少なくとも~を有する)」として解釈されるべきであり、用語「includes(含む/含有する)」は「includes but is not limited to(含む/含有するが、これ(ら)に限定されない)」として解釈されるべき等)として一般的に意図されることが、当業者には理解されるであろう。更に、もし導入された請求項規定の特定の数が意図される場合、そのような意図は請求項中に明示的に規定され、そしてそのような規定がない場合、そのような意図が存在しないことが当業者には理解されるであろう。例えば、理解を助けるものとして、添付の特許請求の範囲は、請求項規定を導入するために「at least one(少なくとも1つ)」および「one or more(1つ以上)」という導入的フレーズの使用を含み得る。しかしながら、そのようなフレーズの使用は、同一の請求項が、導入フレーズ「one or more」および「at least one」と例えば「a」または「an」などの不定冠詞とを含んでいる場合であっても、不定冠詞「a」または「an」による請求項規定の導入が、そのような導入された請求項規定を含む特定の請求項を、そのような規定を1つしか含まない態様に限定することを意図したものとして解釈されるべきでない(例えば、「a」および/または「an」は、「at least one」または「one or more」を意味すると解釈されるべきである);同様のことが、請求項規定を導入するために使用される定冠詞の使用についても当てはまる。加えて、導入された請求項規定の特定の数は明示的に規定される場合であっても、そのような規定が、少なくとも規定された数を意味すると解釈されるべきであると当業者は認識するであろう(例えば、「2つの規定」のあからさまな規定は、他の修飾なしに、少なくとも2つの規定または2つ以上の規定を意味する)。
【0072】
本発明の開示のさまざまな態様が例示の目的で本明細書に記載されること、および、さまざまな改変が本発明の開示の範囲から逸脱することなくなされ得ることが十分に理解されるであろう。従って、本明細書に開示されさまざまな態様は、添付の特許請求の範囲により示される真の範囲を限定する目的でない。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図4d
【国際調査報告】