(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】プロテアーゼと組合せた溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(LPMO)を使用することによる穀物プロセスにおける加水分解効率の向上
(51)【国際特許分類】
C12P 21/06 20060101AFI20240905BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20240905BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C12P21/06
A23L2/38 K
A23L2/00 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024517079
(86)(22)【出願日】2022-09-22
(85)【翻訳文提出日】2024-05-16
(86)【国際出願番号】 EP2022076394
(87)【国際公開番号】W WO2023046843
(87)【国際公開日】2023-03-30
(32)【優先日】2021-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】ゴー, ファリシア
(72)【発明者】
【氏名】オルデン, アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ジェイン, ヴィシスト クマール
(72)【発明者】
【氏名】ヴァフェイアディ, クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】フロムハーゲン, マティアス
【テーマコード(参考)】
4B064
4B117
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA21
4B064CB06
4B064CB07
4B064CD22
4B064CE03
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4B117LC04
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4B117LK24
4B117LP01
4B117LP06
4B117LP20
(57)【要約】
本発明は、穀物ベースの抽出物を調製するプロセスであって、プロセスは、(i)全粒穀物を用意する工程、(ii)全粒穀物を単回の磨砕に供し、その後、全粒穀物と水とを合わせる工程、(iii)磨砕された全粒穀物と水とのスラリーを酵素加水分解工程に供する工程、(iv)濾過、デカンテーション又は遠心分離によって全粒穀物の可溶性画分を不溶性画分から分離する工程、を含み、酵素加水分解工程は、炭水化物加水分解酵素と少なくとも1つのプロテアーゼとを組合せた溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(LPMO)を使用する、プロセスに関する。本発明はまた、乾燥物基準で、40~90%(w/w)の炭水化物、5~20%(w/w)のタンパク質、0.5~20%(w/w)の総食物繊維、任意選択で、1~4%(w/w)の灰分及び0~10%(w/w)の脂肪を含む、濃縮穀物ベースの抽出材料、並びに本プロセスで得られたこのような抽出物に関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物ベースの抽出物を調製するプロセスであって、前記プロセスは、
(i)全粒穀物を用意する工程、
(ii)前記全粒穀物を単回の磨砕に供し、その後、前記全粒穀物と水とを合わせる工程、
(iii)磨砕された全粒穀物と水とのスラリーを酵素加水分解工程に供する工程、
(iv)濾過、デカンテーション、又は遠心分離によって、前記全粒穀物の可溶性画分を不溶性画分から分離する工程、
を含み、
前記酵素加水分解工程は、少なくとも1つのプロテアーゼと組合せた溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(LPMO)を利用する、
プロセス。
【請求項2】
前記全粒穀物が、オオムギ又はオートムギに由来する、麦芽化されていない全粒穀物である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
工程(iv)における前記分離から得られた前記可溶性画分が濃縮される、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記濃縮物が、濃縮後に少なくとも30%から最大97.5%(w/w)までの前記可溶性画分を含む、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
工程(ii)の全粒穀物の前記スラリーが加熱され、デンプンをゼラチン化する、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記加水分解が、αアミラーゼ、他のファイバラーゼ及びリパーゼなどの、異なる機能を有する追加の酵素を用いて行われる、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記酵素が、少なくとも1つのエンドプロテアーゼと2つのエキソペプチダーゼとを含有するプロテアーゼを含む、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
エキソペプチダーゼが、カルボキシペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ又はそれらの組合せからなる群から選択され得る、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
ファイバラーゼが少なくともセルラーゼを含有する、請求項6~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
セルラーゼが、エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ及びベータグルコシダーゼからなる群から選択された追加の活性を有する、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
濃縮穀物ベースの抽出材料であって、乾燥物基準に基づいて、
40~90%(w/w)の炭水化物、
5~20%(w/w)のタンパク質、
0.5~20%(w/w)の総食物繊維、
任意選択で、1~4%(w/w)の灰分、及び
0~10%(w/w)の脂肪画分
を含む、濃縮穀物ベースの抽出材料。
【請求項12】
請求項3~10のいずれか一項に記載のプロセスによって得られた、請求項11に記載の濃縮穀物ベースの抽出材料。
【請求項13】
前記材料が、乾燥物基準で、25~40%(w/w)の濃縮穀物ベースの抽出物、20~40%(w/w)の脱脂粉乳、10~20%(w/w)のスクロース、5~20%(w/w)のココア粉末、及び0~5%(w/w)の脂肪を含む、請求項11又は12に記載の濃縮穀物ベースの抽出材料。
【請求項14】
改善された感覚受容性及び/又は改善された栄養価を有する飲料を調製するプロセスであって、前記プロセスは、
(a)請求項11~13のいずれか一項に記載の濃縮穀物ベースの抽出材料を用意する工程、
(b)工程(a)の前記材料を液体と混合し、前記飲料を得る工程、
を含む、プロセス。
【請求項15】
前記液体成分が、水、乳、果汁、野菜汁又はそれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
(1)液体成分;及び
(2)請求項11~13のいずれか一項に記載の材料
からなる、飲料。
【請求項17】
前記飲料の総エネルギーの少なくとも14%がタンパク質によってもたらされ、前記飲料の総エネルギーの21%未満が脂肪によってもたらされ、前記飲料の総エネルギーの少なくとも62が炭水化物によってもたらされ、前記飲料の総エネルギーの少なくとも2%が総食物繊維によってもたらされる、請求項16に記載の飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された酵素加水分解を使用して穀物ベースの抽出物を調製するプロセスに関する。特に、本発明は、全粒穀物抽出物が改善された栄養プロファイルを有する全粒穀物ベースの抽出物を含む飲料材料を有する飲料の調製に関する。
【0002】
[背景技術]
麦芽抽出物などの穀物の抽出物は、ココア麦芽飲料などの飲料の材料として使用されてきた。麦芽抽出物を製造する醸造プロセスは、当該技術分野において周知である。麦芽は、ビールを製造するために醸造所によって使用されている昔ながらのプロセスに基づいて製造される。このプロセスでは、オオムギなどの穀物を収穫し、乾燥させ、それによって使用に必要となるまで保存することができる。オオムギを、(麦芽化されていないオオムギを)直接使用するか、又は穀粒を水に浸漬し、穀粒を数日間発芽させ、典型的には約5%の水分の低含水量まで注意深く乾燥させることによって穀粒を安定化させることを伴う従来の麦芽経由のプロセスを使用するかのいずれであってもよい。麦芽製造プロセス中に、デンプン質胚乳を可溶性成分に変換するための酵素が生成される。α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、β-グルカナーゼ、プロテアーゼ、アラビノキシラナーゼなどの酵素は、発芽中の穀粒で合成される。麦芽製造中、これらの酵素はまた、細胞壁の構造を改変し、プロセスにおける後の工程中に穀物の可溶性画分のより容易かつより完全な抽出を可能にする。
【0003】
麦芽化されている/麦芽化されていない全粒穀物は、典型的には、製粉によって不均一な粉末に磨砕され、これは、水2~10部(又は場合によっては更にそれを超える)の、穀物1部に対する比率で水と混合される。水の初期温度は、プロテアーゼ及び細胞壁加水分解酵素による加水分解を可能にするために、約50℃~60℃であり得る。この加水分解が十分に完了してから、温度を60℃~70℃に上昇させて、α-及びβ-アミラーゼによるデンプンの加水分解を可能にする。加水分解が完了してから、スラリーの温度を約80℃に上昇させて酵素を不活性化する。スラリーは、ロータータン、デカンタ、プレートアンドフレームフィルタなどの分離装置に通されるか、又は遠心分離される。液体部分は、濾過及び浸出のプロセスによって不溶性/部分的可溶性の材料から分離される。浸出は、易溶性材料の全てが除去されるまで不溶性穀粒を洗浄することを伴う。乾燥させて粉末にすることによって、又は蒸発させて典型的な乾燥物含有量が78%(w/w)を超えるペーストにすることによって、液体部分が安定化される。
【0004】
得られた粉末又はペーストは、飲料中の材料として使用することができ、一方、濾過後にマッシュから分離された全粒オオムギからのオオムギの穀粒粕(Barley Spent Grain:BSG)などの処理された全粒穀物の不溶性画分は、主に動物飼料として販売され、又は埋立て処分される。
【0005】
代替のアプローチは、酵素加水分解を使用して、BSGなどの処理された全粒穀物の不溶性画分の生成を減少させることであり得る。
【0006】
BSGなどの処理された全粒穀物の不溶性画分を新たな用途又は他の使用のために利用するのではなく、全粒穀物からの直接的な最適な収率生産が、コストの利益的にも環境的にも持続可能である。一例として、麦芽化されていない生オオムギの不溶性物質を、オオムギの酵素加水分解の増強によって可溶性物質に変換することによって、BSGの生成量の減少をもたらすことができる。
【0007】
[発明の概要]
本発明は、酵素加水分解を介して麦芽化されていない生オオムギ中の不溶性物質を可溶性物質に変換することによって、BSGのような処理された全粒穀物の不溶性画分の生成を減少させる。
【0008】
第1の態様において、本発明は、全粒穀物ベースの抽出物を調製するプロセスであって、当該プロセスは、
(i)全粒穀物を用意する工程、
(ii)全粒穀物を単回の磨砕に供し、その後、全粒穀物と水とを合わせる工程、
(iii)磨砕された全粒穀物と水とのスラリーを酵素加水分解工程に供する工程、
(iv)濾過、デカンテーション又は遠心分離によって、全粒穀物の可溶性画分を不溶性画分から分離する工程、
を含み、
酵素加水分解工程は、炭水化物加水分解酵素と少なくとも1つのプロテアーゼとを組合せた溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(LPMO)を利用する、プロセスに関する。
【0009】
第2の態様では、本発明は、濃縮全粒穀物ベースの抽出材料であって、乾燥物基準に基づいて、
40~90%(w/w)の炭水化物、
5~20%(w/w)のタンパク質、
0.5~20%(w/w)の総食物繊維、
任意選択で、1~4%(w/w)の灰分、及び
0~10%(w/w)の脂肪
を含む、濃縮全粒穀物ベースの抽出材料に関する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】炭水化物加水分解酵素と異なるプロテアーゼとを組合せたLMPOによる酵素加水分解後の強麦汁(strong wort)の収率を示す実験結果を示す。
【
図2】他の市販のファイバラーゼ(fiberase)と比較した、アルカラーゼ及びエキソペプチダーゼ(Flavourzyme及びProtana prime)と組合せたLMPO酵素(Cellic CTEC2)による酵素加水分解後の抽出収率(%)を示す実験結果を示す。
【0011】
以下に本発明をより詳細に説明する。
[発明を実施するための形態]
驚くべきことに、全粒穀物を特定の方法で処理することによって、参照と比較して収率の改善と共に穀物抽出物の栄養特性を改善することが可能になることが見出された。
【0012】
本発明によれば、プロセスは、
(i)全粒穀物を用意する工程、
(ii)全粒穀物を単回の磨砕に供し、その後、全粒穀物と水とを合わせる工程、
(iii)磨砕された全粒穀物と水とのスラリーを酵素加水分解工程に供して、全粒中の、タンパク質、多糖及び脂質である高分子要素をより小さい単位に分解する工程、
(iv)濾過によって、全粒穀物の可溶性画分を不溶性画分から分離する工程、
を含み、
酵素加水分解工程は、少なくとも1つのプロテアーゼと組合せて溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(LPMO)を利用する。
【0013】
例えば、プロセスは、
(i)全粒穀物を用意する工程、
(ii)全粒穀物を単回の磨砕に供し、その後、全粒穀物と水とを合わせる工程、
(iii)磨砕された全粒穀物と水とのスラリーを酵素加水分解工程に供する工程、
(iv)濾過、デカンテーション又は遠心分離によって、全粒穀物の可溶性画分を不溶性画分から分離する工程、
を含み、
酵素加水分解工程は、炭水化物加水分解酵素と少なくとも1つのプロテアーゼとを組合せた溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(LPMO)を利用する。
【0014】
本発明によるプロセスは、
図3のフローチャートに概説された通りであり得る。
【0015】
本文脈において、「磨砕」という用語は、全粒の高分子構造を、例えば水及び/又は酵素に対してより利用可能にする目的での、全粒のあらゆる物理的破壊を意味する。
【0016】
次いで、磨砕された全粒穀物を水及び酵素と混合して、全粒穀物を改変することができる。全粒穀物が十分に改変されると、酵素は不活性化され、全粒穀物の不溶性画分は、全粒穀物の可溶性画分から分離され得る。次いで、可溶性画分を、高い総固形分(60%~90%)まで蒸発させて飲料材料を用意するか、又は直接混合して飲料にする。
【0017】
本発明において、「全粒穀物ベースの抽出物」という用語は、本発明によるプロセスによって穀物を処理することから得られた抽出物に関する。好ましくは、全粒穀物ベースの抽出物は、全粒穀物の不溶性画分の少なくとも一部を含む。
【0018】
本文脈において、炭水化物、タンパク質、及び食物繊維は、それらの断片も含む。
【0019】
本文脈において、「不溶性画分」という用語は、不溶性繊維、すなわち、大腸で発酵されないか、又は腸内微生物叢によってゆっくりと消化されるだけの不溶性食物繊維を含む、全粒穀物から得られた画分に関する。不溶性繊維の例としては、セルロース、ヘミセルロース、難消化性デンプン1型及びリグニンが挙げられる。保健機関は、体重、性別、年齢及びエネルギー摂取に応じて、1日当たり20~35gの繊維の摂取を推奨している。
【0020】
本発明は、炭水化物加水分解酵素と少なくとも1つのプロテアーゼとを組合せた溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(LPMO)を利用する酵素加水分解工程の使用に関する。
【0021】
改善された収率及び栄養プロファイルを有する可溶性画分を得るために、本発明によるLPMO酵素を使用するいくつかの利点が存在する。
【0022】
I.改善された酵素処理で得られた可溶性画分の量は、参照プロセスと比較して多い。
図2に基づいて、100kgの乾燥穀物当たりわずか71kgの可溶性乾燥物と比較して、100kgの乾燥穀物当たり約90kgの可溶性乾燥物を得ることができる。これは、全粒穀物中に存在するより多くの不溶性画分が、改善された酵素プロセスを通して可溶化され得、産物中に現れ得ることを示す。
【0023】
II.タンパク質含有量の増加及び総炭水化物含有量の減少が、最終産物においてもたらされ得る。
【0024】
本発明では、麦芽化されていないオオムギのような全粒穀物の抽出収率を高めるために、ファイバラーゼ及びプロテアーゼを含む酵素の組合せが使用される。キシラナーゼ、セルラーゼ及びグルカナーゼなどのファイバラーゼ酵素と市販のプロテアーゼ(エンドプロテアーゼ及び/又はエキソプロテアーゼ)との組合せは、全粒穀物の植物細胞壁に存在する難分解性繊維及びタンパク質を可溶化する。セルロースは、キシランなどの他の繊維と比較して、その結晶性により、加水分解的切断に対してより耐性である。生オオムギのような全粒穀物の加水分解に使用された酵素中に存在する従来のセルラーゼは、現在のところ非効率的である。代替として、セルラーゼと組合せた溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(LPMO)を使用して、分解セルロースを改善し、それによって全粒穀物の抽出収率を改善した。
【0025】
本発明において、LMPO単独を他のセルラーゼと共に使用することによっては、現在の麦芽化されていないオオムギのような全粒穀物の抽出収率の有意な改善がもたらされないことが見出された。しかしながら、本発明において、抽出収率の有意な増加のために、プロテアーゼ(エンドペプチダーゼ及びエキソペプチダーゼ)とLPMO(例えば、Cellic CTEC 2の一部として用意される)とを組合せた加水分解酵素を添加することが必須であることが見出された。LPMO(例えば、Cellic CTEC 2の形態で用意される)は、参照収率と比較して抽出収率のわずかな増加をもたらしたが、プロテアーゼの完全なセットの包含は、約10%の収率改善をもたらすことが示された。
【0026】
図1は、235gの強麦汁の回収に基づく参照との比較を示す。本文脈において、収率は、235gの加水分解物中の総乾燥物を計算し、これを総初期乾燥物で割ることによって決定される。これは、LPMOと加水分解酵素及びプロテアーゼの完全なセットとの相乗作用によって達成可能であり、これは次に、最終的なココア及び麦芽飲料の栄養プロファイルに影響を与えることができる。
【0027】
以下の表1は、参照の組成と麦芽抽出物の改善バージョンの組成とを比較する。改善された麦芽抽出物は、現在の麦芽抽出物と比較して、総炭水化物が8.2%減少し、タンパク質含有量が2倍に増加した。ファイバラーゼの添加は、高分子量食物繊維の組成に有意な影響を及ぼさないことが見出されているが、これは、プロテアーゼの利用可能性をその活性のために可能にする。したがって、収率の増加は穀粒粕生成の減少をもたらすだけでなく、麦芽抽出物の全体的な栄養価も改善することが見出された。組合せによる収率のパーセンテージはまた、Food pro CBL及びCelluclast 1.5Lなどの他の市販のファイバラーゼをプロテアーゼと組合せて使用した場合よりも高いか、又はそれに等しい(
図2参照)。
【0028】
表1
乾燥物に基づく現在の麦芽抽出物の栄養組成と改善された麦芽抽出物との栄養組成。改善された麦芽抽出物は、現在の麦芽抽出物と比較して、総炭水化物が8.2%減少し、タンパク質含有量は2倍であった。
【0029】
【0030】
図2は、他の市販のファイバラーゼと比較した、アルカラーゼ及びエキソペプチダーゼ(Flavourzyme及びProtana prime)と組合せたLMPO酵素(Cellic CTEC2)による本発明による酵素加水分解後の抽出収率(%)を示す実験結果を示す。
【0031】
本発明の一実施形態では、可溶性画分は麦芽抽出物であり得る。
【0032】
本プロセスにおける出発材料は、全粒穀物であり得る。全粒穀物は、穀物の食用部分全体、すなわち胚芽、胚乳及びふすまを含む穀物粒から作製された製品である。
【0033】
本文脈において、「穀物」という用語は、食用のデンプン質穀粒のために栽培されたイネ科(Poaceae family)(イネ草科(grass family))の単子葉植物に関する。
【0034】
本発明の一実施形態では、全粒穀物は、オオムギ、オートムギ、玄米、ワイルドライス、ブルグル、トウモロコシ、キビ、モロコシ、スペルト、ライコムギ、ライムギ、コムギ、コムギ粒、テフ、カナリーグラス、はと麦、フォニオ及び擬穀類からなる群から選択される。草科に属していないが、穀物粒と同じように使用され得るデンプン質の種子又は果実も産生する、植物種は、擬穀類と呼ばれる。擬穀類の例としては、アマランス、ソバ、ダッタンソバ、及びキノアが挙げられる。
【0035】
本発明の別の実施形態では、「穀物」及び/又は「全粒穀物」という用語は、穀物及び擬穀類の両方を含む。好ましくは、「穀物」及び/又は「全粒穀物」という用語は、擬穀類を含まない。
【0036】
本発明の好ましい実施形態では、全粒穀物は、発芽していない/麦芽化されていない全粒穀物である。一実施形態では、麦芽化されていない全粒穀物は、オオムギ又はオートムギに由来する。
【0037】
好ましくは、本発明によるプロセスは、工程(iv)における分離から得られた可溶性画分が濃縮される工程を含む。濃縮物は、濃縮後に少なくとも30%から最大97.5%(w/w)までの可溶性画分を含むことが好ましい。
【0038】
本発明のプロセスの一実施形態では、工程(ii)における全粒穀物のスラリーは加熱され、デンプンをゼラチン化する。好ましくは、全粒穀物のスラリーは、50~70℃の範囲の温度に加熱される。これは、酵素加水分解に対して基質をより利用可能にするという利点を有する。
【0039】
本発明に記載されたプロセスによってもたらされた不溶性画分の1つの利点は、不溶性画分の懸濁特性が改善されることであり得る。この改善は、例えば100μmを超える主粒径を有する未処理の不溶性画分の懸濁特性と比較して考慮される。
【0040】
磨砕プロセスに続いて、磨砕された全粒穀物は、全粒穀物の高分子要素の加水分解に供される。例えば、磨砕された全粒穀物は、炭水化物及び/又はタンパク質、及び/又は脂質、及び/又は他の有機成分(例えば、ポリフェノール)の加水分解に供されてもよい。
【0041】
本発明の一実施形態では、例えば炭水化物及び/又はタンパク質の加水分解(工程(iii)における)は、酵素改変である。一実施形態では、改変は酵素分解によるものである。好ましくは、酵素改変は、10℃~122℃の範囲、好ましくは20~100℃の範囲、例えば20~40℃の範囲又は40℃~65℃の範囲の温度で実施され得る。
【0042】
本発明の別の実施形態では、例えば炭水化物及び/又はタンパク質の加水分解(工程(iii)における)は、デンプンの実質的に完全な改変が起こるまで行われ得る。「実質的に完全な改変」という用語は、元のデンプン含有量の多くとも10%が改変後に残存し得ること、例えば、元のデンプン含有量の多くとも5%、好ましくは多くても2%、より好ましくは多くとも1%、例えば多くとも0.5%が改変後に残存し得ることに関する。
【0043】
例えば、工程(iii)における炭水化物及び/又はタンパク質の加水分解は、1つ以上の内因性酵素によって、及び/若しくは1つ以上の外因性酵素の添加によって、又はそれらの組合せによって、行われ得る。
【0044】
好ましくは、本発明によるプロセスでは、加水分解は、αアミラーゼ、他のファイバラーゼ及びリパーゼなどの異なる機能を有する追加の酵素を用いて行われる。
【0045】
1つ以上の外因性酵素に関して、そのような外因性酵素は、プロテアーゼ(エンドプロテアーゼ及びエキソプロテアーゼ)、デキストリナーゼ、細胞壁加水分解酵素、例えばLPMO、アミラーゼ及びアミログルコシダーゼ、それらの断片、並びにそれらの任意の組合せからなる群から選択され得る。好ましくは、上記酵素のいくつかの混合物を使用することができる。
【0046】
有利には、ファイバラーゼは少なくともセルラーゼを含有する。好ましくは、セルラーゼは、エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ及びβ-グルコシダーゼからなる群から選択される追加の活性を有する。
【0047】
本発明の別の実施形態では、内因性酵素及び/又は外因性酵素の少なくとも1つは、プロテアーゼ及び/又はアミラーゼである。プロテアーゼは、アルカリ性、中性及び/又は酸性pH条件で活性であり得る。
【0048】
本発明の更なる実施形態では、プロテアーゼは、少なくとも1つのエンドプロテアーゼと、2つのエキソペプチダーゼと、を含有する。
【0049】
エキソペプチダーゼは、カルボキシペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ又はそれらの組合せからなる群から選択されることが好ましい。
【0050】
アミラーゼは、好ましくは、1,4-α-D-グルカングルカノヒドロラーゼ若しくはグリコゲナーゼなどのα-アミラーゼ、1,4-α-D-グルカンマルトヒドロラーゼ若しくはサッカロゲンアミラーゼなどのβ-アミラーゼ、アミログルコシダーゼ若しくはエクソ-1,4-α-グルコシダーゼなどのグルコアミラーゼ又はこれらの任意の組合せであり得る。
【0051】
例えば炭水化物及び/又はタンパク質の加水分解が実質的に完全な改変に達した場合、プロセスは、酵素活性を不活性化する工程を更に含んでもよい。この不活性化は、温度を40~130℃の範囲、好ましくは75~85℃の範囲の温度に変化させることによって行うことができる。好ましくは、不活性化は、少なくとも15秒間、例えば少なくとも30秒間、例えば少なくとも1分間、例えば少なくとも5分間、例えば少なくとも10分間、例えば少なくとも20分間、例えば少なくとも30分間行われてもよい。
【0052】
全粒穀物の異なる高分子要素の加水分解は、化学改変、例えば、酸又は熱誘導加水分解などの当技術分野で公知の任意の他の手段によっても達成することができる。
【0053】
加水分解が終了し、全粒穀物の可溶性部分が不溶性部分から遊離した時、可溶性画分と不溶性画分とを分離することができる。したがって、本発明の一実施形態では、不溶性画分からの可溶性画分の分離(工程(iv)における)は、濾過、遠心分離、デカンテーション及びそれらの組合せからなる群から選択され得る。
【0054】
可溶性画分の用途に応じて、可溶性画分を更に処理して、特定の成分を含む異なる画分を用意してもよく、又は可溶性画分を濃縮してもよい。好ましくは、分離(工程(iv)における)から得られた可溶性画分は濃縮される。濃縮物は、濃縮前に少なくとも10%から最大97.5%(w/w)までの可溶性画分を含み得る。最終濃縮物は、液体、ゲル又は粉末の形態であり得る。
【0055】
任意選択で、本発明によるプロセスにおいて濾過を使用することができる。処理助剤は、珪藻土、パーライト、セライト、セルロース又は穀物殻であってもよい。
【0056】
LPMO酵素処理全粒穀物ベースの画分の更に別の実施形態は、8%(w/w)のタンパク質及び67%(w/w)の炭水化物を含む。
【0057】
本発明の別の実施形態では、飲料材料は、多くとも70%(w/w)のタンパク質、例えば多くとも50%(w/w)のタンパク質、例えば多くとも20%(w/w)のタンパク質、例えば多くとも2%(w/w)のタンパク質、例えば多くとも1%(w/w)のタンパク質を含む。
【0058】
本発明の別の実施形態では、飲料材料は、少なくとも5%(w/w)のタンパク質、例えば少なくとも10%(w/w)のタンパク質、例えば少なくとも25%(w/w)のタンパク質、例えば少なくとも50%(w/w)のタンパク質、例えば少なくとも60%(w/w)のタンパク質を含む。
【0059】
本飲料材料は、高糖飲料材料又は低糖飲料材料であり得ることが有利であり得る。飲料が高糖飲料材料である場合、飲料材料は、50%(w/w)超から最大95%(w/w)までのスクロース、例えば最大85%(w/w)までのスクロース、例えば最大75%(w/w)までのスクロース、例えば最大65%(w/w)までのスクロースを含む。飲料材料が低糖飲料材料である場合、飲料材料は、多くとも50%(w/w)のスクロース、例えば多くとも40%のスクロース、例えば多くとも25%のスクロース、例えば多くとも15%のスクロース、例えば多くとも10%のスクロース、例えば多くとも5%のスクロース、例えば0%のスクロースを含む。
【0060】
飲料及び飲料材料の感覚的印象を制御及び/又は改善するために、飲料材料は風味成分を含む。本発明の一実施形態では、風味成分は、ココア、コーヒー、果実、麦芽、大豆、茶、野菜、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択され得る。
【0061】
飲料材料はまた、脂肪成分を含んでもよい。本発明の一実施形態では、脂肪成分は、植物性脂肪成分、魚油成分又はそれらの組合せであってもよい。
【0062】
飲料材料は、脱脂乳成分及び/又は乳成分などの乳成分を更に含んでもよい。
【0063】
飲料材料の用途及び製造条件に応じて、飲料材料は、液体、濃縮物、ピューレ又は粉末の形態であってもよい。
【0064】
本発明の一実施形態は、乾燥物基準で、60~90%(w/w)の炭水化物、5~15%(w/w)のタンパク質、0.5~5%(w/w)の総食物繊維画分、任意選択で1~4%(w/w)の灰分及び0~1%(w/w)の脂肪画分を含む、濃縮穀物ベースの抽出材料に関する。
【0065】
本発明の一実施形態は、乾燥物基準で、40~90%(w/w)の炭水化物、5~20%(w/w)のタンパク質、0.5~20%(w/w)の総食物繊維画分、任意選択で1~4%(w/w)の灰分及び0~10%(w/w)の脂肪画分を含む、濃縮穀物ベースの抽出材料に関する。
【0066】
本発明の一実施形態は、乾燥物基準で、55~70%(w/w)の炭水化物、5~15%(w/w)のタンパク質、0.5~5%(w/w)の総食物繊維画分、任意選択で1~4%(w/w)の灰分及び0~1%(w/w)の脂肪を含む、濃縮穀物ベースの抽出材料に関する。
【0067】
好ましくは、本発明による濃縮穀物ベースの抽出材料は、乾燥物基準で、25~40%(w/w)の濃縮穀物ベースの抽出物、20~40%(w/w)の脱脂粉乳、10~20%(w/w)のスクロース、5~20%(w/w)のココア粉末及び0~5%(w/w)の脂肪を含む。
【0068】
本発明の好ましい実施形態では、飲料材料は、25~45%(w/w)、好ましくは34~38%(w/w)の麦芽抽出物、15~25%(w/w)、好ましくは18~22%(w/w)の脱脂粉乳、10~20%(w/w)、好ましくは14~18%(w/w)の炭水化物、10~20%(w/w)、好ましくは12~15%(w/w)のココア、及び5~15%(w/w)、好ましくは8~12%(w/w)の脂肪成分の混合物を含む。炭水化物は、好ましくはスクロースである。
【0069】
本発明の場合、麦芽抽出物は、改変全粒穀物の可溶性画分とみなすことができる。
【0070】
飲料材料は、好ましくは、飲料の調製のために使用され得る。特に、飲料材料は、栄養価を有する飲料及び/又は改善された栄養価を有する飲料の調製のために使用されてもよい。
【0071】
更なる態様において、本発明は、改善された感覚受容性を有する飲料及び/又は改善された栄養価を有する飲料を調製するプロセスであって、当該プロセスは、
(a)請求項10~14のいずれか一項に記載の濃縮穀物ベースの抽出材料を用意する工程、
(b)工程(a)の材料を液体成分と混合し、飲料を得る工程、
を含む、プロセスに関する。液体成分は、水、乳、果汁、野菜汁又はそれらの任意の組合せからなる群から選択され得る。
【0072】
更なる態様では、本発明は、
(1)上述の液体成分及び材料成分
からなる飲料に関する。好ましい実施形態では、飲料は、飲料の総エネルギーの少なくとも14%がタンパク質によってもたらされ、飲料の総エネルギーの21%未満が脂肪によってもたらされ、飲料の総エネルギーの少なくとも62%が炭水化物によってもたらされ、飲料の総エネルギーの少なくとも2%が総食物繊維によってもたらされる。
【0073】
乳成分は、全乳、乳清画分、カゼイン、これらの任意の組合せからなる群から選択され得る。
【0074】
したがって、
(1)液体成分;及び
(2)本発明に記載の飲料材料
からなる飲料が用意され得る。
【0075】
本文脈において、「飲料」という用語は、乾燥粉末、スラリー又は液体の形態の組成物を指す。乾燥粉末は、摂取に適した任意の適用可能な液体中で再構成され得ることが理解されるべきである。スラリー又は液体は、摂取に適した任意の適用可能な液体を使用して更に希釈されてもよい。
【0076】
本文脈において、「(w/w)」という用語は、別段の記載がない限り、乾燥物基準での化合物又は産物の重量対重量比に関する。
【0077】
本発明の一態様の文脈で記載されている実施形態及び特徴は、本発明の他の態様にも当てはまることに注意が必要である。
【0078】
本出願に引用されている全ての特許文献及び非特許文献に関して、文献全体を本明細書に組み込む。
【0079】
本発明を、以下の非限定的な実施例により更に詳細に記載する。
【0080】
[実施例]
実施例1-抽出物の栄養特性を改善するためのバイオ燃料産業からの酵素を使用した穀物の酵素加水分解
単回の製粉工程後に得られた穀物グリストを水と混合し、酵素加水分解工程に供する。酵素、主にバイオ燃料産業からのセルラーゼは、従来のセルラーゼを使用して分解することが通常困難である結晶セルロースを加水分解するのに役立つ。更に、これらのセルラーゼはプロテアーゼと相乗的に作用して、プロセスの収率を改善する。加水分解後、スラリーを濾過工程に通して抽出物を得、これを蒸発工程にかけて総固形分含有量を増加させる。この麦芽抽出物は、タンパク質含有量が高くなり、炭水化物含有量が低くなる。
【0081】
実施例2-麦芽抽出物中のタンパク質が改善されたカカオ飲料
水100ml当たり15gで投入され、1回分が28~30グラムとして画定された粉末。30~40%の改変全粒及びふすま麦芽抽出物、好ましくは約38%、15%から40%の脱脂粉乳、好ましくは約21%まで)、10~20%の砂糖(理想的には15%)、10~20%のココア(好ましくは12%)及び5~15%の脂肪(10%)を含有する粉末であり、これらの全粒及びふすま麦芽抽出物は、約1~5%の、利用済み穀粒粕を含有し、これは約50%の不溶性繊維、約25%のタンパク質及び約25%の炭水化物からなる。飲料は、1回分当たり255kcal未満のカロリー値を有し、食事(例えば朝食)の大部分として摂取されることが意図される。
【国際調査報告】