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特表2024-533631コアでのエネルギー吸収構造および軸方向鋼製ダンパー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】コアでのエネルギー吸収構造および軸方向鋼製ダンパー
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20240905BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20240905BHJP
   F16F 7/12 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
F16F15/02 Z
E04H9/02 321F
F16F7/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024517564
(86)(22)【出願日】2022-12-16
(85)【翻訳文提出日】2024-03-19
(86)【国際出願番号】 CN2022139505
(87)【国際公開番号】W WO2023125063
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】202111619219.6
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524104653
【氏名又は名称】上海材料研究所有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI RESEARCH INSTITUTE OF MATERIALS CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No. 99, Handan Road, Hongkou District Shanghai 200437 CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100205936
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 海龍
(74)【代理人】
【識別番号】100132805
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 貴之
(72)【発明者】
【氏名】楊 旗
(72)【発明者】
【氏名】丁 孫▲い▼
(72)【発明者】
【氏名】王 敏
(72)【発明者】
【氏名】楊 凱
(72)【発明者】
【氏名】塗 田剛
(72)【発明者】
【氏名】洪 彦昆
(72)【発明者】
【氏名】徐 斌
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139BA06
2E139BD13
3J048AB01
3J048AC06
3J048BC09
3J048BE10
3J048EA38
3J066AA26
3J066BA03
3J066BB01
3J066BC03
3J066BD07
3J066BF01
(57)【要約】
本発明は、コアでのエネルギー吸収構造および軸方向鋼製ダンパーに関する。軸方向鋼製ダンパーは、コアでのエネルギー吸収構造および周囲拘束コンポーネントを含み、コアでのエネルギー吸収構造が、少なくとも1枚のオーステナイト相の鋼板と1枚のフェライト構造鋼板を含み、フェライト構造鋼板がオーステナイト相の鋼板に隣接しなければならず、溶接によってのみ接続できる。オーステナイト相の鋼板のミクロ組織は、主に準安定オーステナイトであり、引張と圧縮塑性変形を周期的に交互に受ける場合、オーステナイト相の鋼板の内部に、オーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトの間の可逆的な相変態が発生する。本発明による軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比が10以上であり、かつ限界許容変位が軸方向鋼製ダンパーの長さの1/60以上であり、この限界許容変位の条件では、軸方向鋼製ダンパーは、少なくとも30サイクルの周期的な引張と圧縮の交互塑性変形を完了することができる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向鋼製ダンパーが引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受ける際に、外部振動エネルギーを吸収する、軸方向鋼製ダンパー用のコアでのエネルギー吸収構造であって、
前記コアでのエネルギー吸収構造は、少なくとも1枚のオーステナイト相の鋼板と1枚のフェライト相の鋼板を含み、前記フェライト相の鋼板がオーステナイト相の鋼板に隣接しなければならず、溶接によってのみ接続でき、オーステナイト相の鋼板とフェライト鋼板との間の接続用溶接継目が、コアでのエネルギー吸収構造の軸方向と平行であり、
前記オーステナイト相の鋼板のミクロ組織は、準安定オーステナイトと体積率10%以下の熱誘起εマルテンサイトから構成され、平均オーステナイト結晶粒径平均準安定オーステナイト結晶粒径が400μm以下であり、引張または圧縮塑性変形時、前記オーステナイト相の鋼板の準安定オーステナイトは、ひずみの作用によりεマルテンサイト相変態が誘起され、かつα′マルテンサイト相変態が抑制され、周期的に交互に引張と圧縮の塑性変形が加えられると、前記オーステナイト相の鋼板の内部でオーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトとの間の可逆的な相変態が発生し、
前記フェライト相の鋼板のミクロ組織は主にフェライトであり、平均フェライト結晶粒径が200μm以下であり、
前記オーステナイト相の鋼板の降伏強度は、220MPa以上であり、伸び率は40%以上であり、前記フェライト相の鋼板の降伏強度は180MPa未満であり、伸び率が30%以上であり、
前記オーステナイト相の鋼板の厚さは、前記フェライト相の鋼板の厚さの0.4倍以上であり、
すべてのフェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積の合計と、すべてのオーステナイト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積の合計との比は、0.6以上である、ことを特徴とするコアでのエネルギー吸収構造。
【請求項2】
前記フェライト相の鋼板の両側が同時にオーステナイト相の鋼板に隣接して接続されない場合、前記フェライト相の鋼板と隣接するオーステナイト相の鋼板との間の接続用溶接継目から、前記フェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の任意の非溶接側までの距離と、前記フェライト相の鋼板の厚さとの比は、25以下である、ことを特徴とする請求項1に記載のコアでのエネルギー吸収構造。
【請求項3】
前記フェライト相の鋼板またはオーステナイト相の鋼板の断面の幾何学的形状が長手方向に沿って変化しない場合、前記フェライト相の鋼板またはオーステナイト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分が即ち、前記フェライト相の鋼板またはオーステナイト相の鋼板の全長であり、
前記フェライト相の鋼板またはオーステナイト相の鋼板の断面の幾何学的形状が長手方向に沿って、両端が広く、中央が狭いという特徴を持つ場合、前記フェライト相の鋼板またはオーステナイト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分は、前記フェライト相の鋼板またはオーステナイト相の鋼板の中央の狭い部分である、ことを特徴とする請求項1または2に記載のコアでのエネルギー吸収構造。
【請求項4】
前記オーステナイト相の鋼板の化学成分の質量分率は、C≦0.15%、22.0%≦Mn≦34.0%、3.5%≦Si≦5.5%、Al≦2.5%、Ni≦5.0%、Cu≦2.0%、P≦0.03%、S≦0.03%、N≦0.02%であり、残部がFeおよび不可避的不純物元素であり、Al、NiおよびCuの質量分率は、Ni/Cu≧0.25およびAl+0.4Ni+0.25Cu≦3.5%を満たす、ことを特徴とする請求項1に記載のコアでのエネルギー吸収構造。
【請求項5】
前記フェライト相の鋼板の化学成分の質量分率は、C≦0.1%、Mn≦1.0%、Si≦0.8%、Ti≦0.15%、Nb≦0.1%、V≦0.2%、P≦0.03%、S≦0.03%、N≦0.02%であり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である、ことを特徴とする請求項1に記載のコアでのエネルギー吸収構造。
【請求項6】
前記コアでのエネルギー吸収構造の断面は、軸対称の幾何学的形状として選択される、ことを特徴とする請求項1に記載のコアでのエネルギー吸収構造。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のコアでのエネルギー吸収構造および周囲拘束コンポーネントを含み、前記周囲拘束コンポーネントがコアでのエネルギー吸収構造のの横方向の変位を抑制し、コアでのエネルギー吸収構造が座屈して不安定になることを防止する、ことを特徴とする軸方向鋼製ダンパー。
【請求項8】
前記周囲拘束コンポーネントは、鋼管と内部充填コンクリートの組み合わせで形成された拘束ケーシング、または鉄筋コンクリート拘束ケーシング、または純鋼構造拘束部材として選択される、ことを特徴とする請求項7に記載の軸方向鋼製ダンパー。
【請求項9】
前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比が10以上であり、かつ限界許容変位が前記軸方向鋼製ダンパーの長さの1/60以上であり、この限界許容変位の条件では、前記軸方向鋼製ダンパーは、少なくとも30サイクルの周期的な引張と圧縮の交互塑性変形を完了でき、載荷能力の低下が15%未満である、ことを特徴とする請求項7に記載の軸方向鋼製ダンパー。
【請求項10】
前記軸方向鋼製ダンパーが単独で使用されるか、または他の鋼製ブレースと組み合わせて軸方向エネルギー吸収ブレースを形成して建物または構造物に設置され、建物または構造物の柱梁主要構造と接続されて全体を形成し、外部振動エネルギーを吸収させる役割を果たす、ことを特徴とする請求項7に記載の軸方向鋼製ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造工学の技術分野に属し、コアでのエネルギー吸収構造および軸方向鋼製ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
高震度の地震と長時間にわたる外部振動はいずれも、高層の建物や構造物に大きな被害をもたらす。エネルギー吸収および衝撃吸収装置および技術を使用すると、外部の振動エネルギーを効果的に吸収し、建物や構造物への損傷を最小限に抑えることができる。座屈拘束ブレースは、一般的な軸方向エネルギー吸収衝撃吸収要素であり、力の直接伝達経路と優れた経済性により、土木構造物に広く使用されている。小さな振動の下では、座屈拘束ブレースは、梁と柱の構造にさらなる剛性を与え、構造の変形を軽減でき、大きな振動の下では、座屈拘束ブレースは、引張と圧縮の両方で降伏することができ、優れた変形回復特性およびエネルギー吸収能力を示す。
【0003】
現在、座屈拘束ブレースは、主にLY225低降伏点鋼およびQ235鋼などの鋼材をエネルギー吸収コア材として使用する(上記鋼種はいずれも、低炭素フェライト鋼である)。上記の種類の鋼で製造された座屈拘束ブレースは、頻繁に発生する地震(「小規模地震」)または475年に1度の地震(「中程度の地震」)が発生した場合に、多くの場合、一定の剛性しか確保できないが、地震エネルギーを吸収するための実質的な降伏変形がない。さらに重要なことは、鋼種のより低い延性と低サイクル疲労変形能力により制約され、上記の鋼種の繰り返し変形による累積塑性変形と累積塑性エネルギー吸収効果が制限されることである。したがって、まれな地震(「大地震」)が発生した場合、上記の種類の鋼で製造された座屈拘束ブレースは、比較的少数のサイクルの引張圧縮繰り返し荷重の後に疲労破壊を起こす。また、まれな地震の場合、または非常にまれな地震では、座屈拘束ブレースは、建物の主要構造と同じ冗長性を持つことを達成できない(つまり、座屈拘束ブレースが建物の主要構造よりも早く破壊し、それにより、建物の主要構造は、座屈拘束ブレースからさらに保護することができない)。以上、低炭素フェライト鋼で製造された座屈拘束ブレースは、異なる震度の地震の下で制震保護の役割を果たすことができない。
【0004】
特定の成分範囲の積層欠陥エネルギーが低いFe-Mn-Siオーステナイト系合金は、優れた低サイクル疲労特性と溶接性能を有し、座屈拘束ブレースを製造するために弾塑性低下鋼材として使用される可能性がある。したがって、このタイプの座屈拘束ブレースは、優れた累積塑性変形能力を持つことができる(つまり、コアプレートは、座屈拘束ブレースが疲労破壊の前に、大きな累積引張と圧縮変位に耐えることができる)。積層欠陥エネルギーの低いFe-Mn-Si系合金が優れた低サイクル疲労特性を持つ根本的な原因は、繰り返し変形中に材料内部に転位平面すべりと可逆的なマルテンサイト相変態が発生することである。ただし、LY225低降伏点鋼およびQ235鋼に対して、上記Fe-Mn-Si系合金は、高い降伏強度を持ち、それにより、座屈拘束ブレースの降伏荷重および降伏変位が大きくなり、延性はまだ低い場合がある(ここで、「延性」は、座屈拘束ブレースまたは軸方向エネルギー吸収要素の限界許容変位と降伏変位との比によって表される)。これに対応して、小規模および中程度の地震では、エネルギー吸収ブレースは、エネルギー吸収および衝撃吸収の役割を果たすことは困難であり、大地震では、エネルギー吸収ブレースは、接合部によって建物の主要構造に加わる力は、非常に大きくなる。したがって、積層欠陥エネルギーの低いFe-Mn-Si系合金鋼で製造された座屈拘束ブレースでは、建物の主要構造に対する保護が限られている。さらに、1回の変形サイクル内でのFe-Mn-Si系合金の加工硬化の度合いは比較的高く、これも座屈拘束ブレースのエネルギー吸収効果を弱めることになる。上記の原因により、実際の工学におけるエネルギー吸収および衝撃吸収材料としての低積層欠陥エネルギーFe-Mn-Si系合金の広範な応用は制限されている。
【発明の概要】
【0005】
上記の技術的状況に基づいて、降伏変位が小さく、延性と累積塑性変形能力に優れ、建物の主要構造と同じ冗長性を持つ軸方向鋼製ダンパーの開発が急務となっている。したがって、本発明は、コアでのエネルギー吸収構造および軸方向鋼製ダンパーを提供する。本発明によって提供される軸方向鋼製ダンパーは、異なる震度の地震の下で、エネルギー吸収および衝撃吸収の役割を果たし、建物に耐震保護を提供することができ、従来の座屈拘束ブレースの代わりに、建物の耐震保護性能を大幅に向上させることができる。
【0006】
従来の座屈拘束ブレースと比較して、本発明による軸方向鋼製ダンパーおよびコアでのエネルギー吸収構造は、優れた延性および累積塑性変形能力を有し、建物の主要構造と同じ冗長性を持つことを達成することができる。使用される可能性がある積層欠陥エネルギーが低いFe-Mn-Siオーステナイト系合金鋼で製造された座屈拘束ブレースと比較して、本発明による軸方向鋼製ダンパーおよびコアでのエネルギー吸収構造は、降伏変位が小さく、延性に優れ、低コストである。
【0007】
本発明の目的は、以下の技術的解決手段によって達成することができる。
【0008】
本発明はまず、軸方向鋼製ダンパーが周期的に交互に引張と圧縮の塑性変形を受けるときに外部振動エネルギーを吸収する、軸方向鋼製ダンパー用のコアでのエネルギー吸収構造を提供し、
前記コアでのエネルギー吸収構造は、少なくとも1枚のオーステナイト相の鋼板と1枚のフェライト相の鋼板を含み、前記フェライト相の鋼板が前記オーステナイト相の鋼板に隣接しなければならず、溶接によってのみ接続でき、オーステナイト相の鋼板とフェライト鋼板との間の接続用溶接継目は、鋼製ダンパーとコアでのエネルギー吸収構造の軸方向と平行であり、
前記オーステナイト相の鋼板のミクロ組織は、準安定オーステナイトと体積率10%以下の熱誘起εマルテンサイトから構成され、平均準安定オーステナイト結晶粒径が400μm以下であり、引張または圧縮塑性変形時、前記オーステナイト相の鋼板の準安定オーステナイトは、ひずみの作用によりεマルテンサイト相変態が誘起され、かつα′マルテンサイト相変態が抑制される。周期的に交互に引張圧縮塑性変形が加えられると、前記オーステナイト相の鋼板の内部にオーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイト間の可逆的な相変態が発生し、
前記フェライト相の鋼板のミクロ組織は主にフェライトであり、平均フェライト結晶粒径が200μm以下であり、
前記オーステナイト相の鋼板の降伏強度は、220MPa以上であり、伸び率は40%以上であり、前記フェライト相の鋼板の降伏強度は180MPaよりも小さく、伸び率は30%以上であり、
前記オーステナイト相の鋼板の厚さは、前記フェライト相の鋼板の厚さの0.4倍以上であり、
コアでのエネルギー吸収構造において、すべてのフェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積の合計と、すべてのオーステナイト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積の合計との比は、0.6以上である。
【0009】
コアでのエネルギー吸収構造において、前記フェライト相の鋼板の両側が同時にオーステナイト相の鋼板に隣接して接続されない場合、前記フェライト相の鋼板と隣接するオーステナイト相の鋼板との間の接続用溶接継目から、前記フェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の任意の非溶接側までの距離と、前記フェライト相の鋼板の厚さとの比は、25以下である。
【0010】
本発明は、コアでのエネルギー吸収構造において、前記フェライト相の鋼板またはオーステナイト相の鋼板の断面の幾何学的形状が長手方向に沿って変化しない場合、前記フェライト相の鋼板またはオーステナイト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分が即ち、前記フェライト相の鋼板またはオーステナイト相の鋼板の全長であり、この場合、前記フェライト相の鋼板またはオーステナイト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面が即ち、前記フェライト相の鋼板またはオーステナイト相の鋼板の断面であり、前記フェライト相の鋼板またはオーステナイト相の鋼板の断面の幾何学的形状が長手方向に沿って、両端が広く、中央が狭いという特徴を有する場合、前記フェライト相の鋼板またはオーステナイト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分は、前記フェライト相の鋼板またはオーステナイト相の鋼板の中央部の狭い部分であり、この場合、前記フェライト相の鋼板またはオーステナイト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面は即ち、前記フェライト相の鋼板またはオーステナイト相の鋼板の中央部の狭い部分の断面であることを規定する。
【0011】
本発明は、コアでのエネルギー吸収構造が少なくとも1枚のオーステナイト相の鋼板および1枚のフェライト相の鋼板を含むように制限する。オーステナイト相の鋼板のミクロ組織は、準安定オーステナイトおよび体積率が10%以下の熱誘起εマルテンサイトであり、その目的は、引張と圧縮の荷重を交互に加えることで、鋼板の内部に結晶学的特徴を持つひずみ誘起εマルテンサイトの薄片状単一バリアントの生成を促進し、元のマトリックス組織内の熱誘起εマルテンサイトとの影響を避け、オーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトとの間の可逆的な相変態を促進し、組織内のオーステナイト鋼板のマトリックス結晶欠陥の発生を低減し、および疲労き裂の進展を抑制し、それにより、オーステナイト鋼板が優れた低サイクル疲労性能と累積塑性変形能力を発揮できるようになり、その結果、コアでのエネルギー吸収構造全体(コアでのエネルギー吸収構造が軸方向鋼製ダンパーに使用される場合、即ち軸方向鋼製ダンパー)の低サイクル疲労性能と累積塑性変形能力を向上させることである。
【0012】
さらに、本発明は、オーステナイト相の鋼板内部の準安定オーステナイトが引張または圧縮の塑性変形時にα′マルテンサイト相変態を抑制するように制限する。これは、準安定オーステナイトが塑性ひずみの作用により過剰なα′マルテンサイト相変態を起こすと、鋼板内部に局所的な変形が発生しやすくなり、オーステナイト相の鋼板の低サイクル疲労性能が急激に低下するためである。本発明は、平均準安定オーステナイト結晶粒径が400μmを超えないように制限する。これは、オーステナイト結晶粒が粗大すぎると、オーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトとの間の可逆的な相変態が著しく抑制され、オーステナイト相の鋼板の耐疲労性能が著しく低下するためである。本発明は、オーステナイト相の鋼板のミクロ組織を厳密に制限し、その目的は、オーステナイト相の鋼板が大きなひずみ疲労変形に耐えられることを保証し、中強度および高強度の地震下でも軸方向鋼製ダンパーが早期疲労破壊を起こすことなく、機能できることを保証することである。
【0013】
フェライト相の鋼板は、降伏強度が低く、ヤング率が高く、繰返し変形サイクル中の加工硬化の度合いが低いため、コアでのエネルギー吸収構造全体(即ち軸方向鋼製ダンパー)の降伏荷重、降伏変位および繰返し変形サイクル中の加工硬化の度合いを低減することに寄与し、それにより、鋼製ダンパーが中小規模の地震でも降伏とエネルギー吸収を実現できる。本発明は、平均フェライト結晶粒径が200μmを超えないように制限する。これは、フェライト結晶粒が粗大すぎると粒界から疲労き裂が発生および進展しやすくなり、フェライト相の鋼板の耐疲労性が著しく低下するためである。したがって、フェライトの粒径(および伸び率)についての制限は、フェライト相の鋼板の適切な耐疲労性を確保することを目的とする。
【0014】
コアでのエネルギー吸収構造において、フェライト相の鋼板とオーステナイト相の鋼板は、溶接によって密着に接続される必要があり、そうしないと、上記オーステナイト相の鋼板とフェライト相の鋼板のコアでのエネルギー吸収構造全体に対する特別な役割は、存在しないかまたは十分に発揮することが困難となる。これは、オーステナイト相の鋼板とフェライト相の鋼板は密着に接続される場合、オーステナイト相の鋼板がフェライト相の鋼板の変形を拘束するためであり、この拘束された内部応力によりフェライト相の鋼板の耐疲労性が向上され(即ち、特別な役割)、エネルギー吸収のコア部分の疲労破壊が発生すると、2種類の鋼板が同じ部分で破断することがよくある。同じ種類の鋼板が接続される場合、このような拘束メカニズムがなくなり、即ち、フェライト相の鋼板と別のフェライト相の鋼板が隣接して溶接される場合、2つのフェライト相の鋼板の耐疲労性を向上させることができない。2種類の鋼板が接続されない場合、まず、フェライト相の鋼板の変形に対するオーステナイト相の鋼板の拘束メカニズムが存在せず、コアでのエネルギー吸収構造全体の耐疲労性を向上させることができず、さらに、オーステナイト相の鋼板がフェライト相の鋼板に比べて、耐疲労性が著しく優れているため、引張と圧縮を交互に加える塑性変形過程において、フェライト相の鋼板が先に破断し、軸方向鋼製ダンパーの載荷能力が低下する。したがって、本発明は、コアでのエネルギー吸収構造におけるフェライト相の鋼板が溶接によってオーステナイト相の鋼板に密着に接続されなければならないと制限する。
【0015】
本発明は、コアでのエネルギー吸収構造を構成するオーステナイト相の鋼板の降伏強度が220MPa以上、伸び率が40%以上、フェライト相の鋼板の降伏強度が180MPa未満、伸び率が30%以上になるように制限する。2種類の鋼板の機械的特性を制限する主な目的は、2種類の鋼板材料が良好な塑性変形能力と疲労特性を持つことを確保し、軸方向鋼製ダンパーが次のような延性と累積変形特性を有するようにすることであり、限界許容変位と降伏変位との比が10以上であり、かつ限界許容変位がコアでのエネルギー吸収構造(または軸方向鋼製ダンパー)の長さの1/60以上であり、この限界許容変位の条件では、前記軸方向鋼製ダンパーは、少なくとも30サイクルの引張と圧縮の交互塑性変形を完了でき、載荷能力の低下が15%未満である。
【0016】
本発明は、オーステナイト相の鋼板の厚さを前記フェライト相の鋼板の厚さの0.4倍以上に限定する。これは、オーステナイト相の鋼板の厚さがフェライト相の鋼板の厚さの0.4倍未満であると、引張と圧縮の交互塑性変形中に、オーステナイト相の鋼板が接続用溶接継目を通じてフェライト相の鋼板の変形を十分に拘束することが困難である。
【0017】
本発明において、すべてのフェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積の合計と、すべてのオーステナイト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積の合計との比が小さすぎる場合(0.6未満)、コアでのエネルギー吸収構造の変形と載荷は主にオーステナイト相の鋼板によって支配され、それにより、コアでのエネルギー吸収構造の降伏荷重と降伏変位が大幅に増加し、コアでのエネルギー吸収構造および軸方向鋼製ダンパーの延性が大幅に低下する(鋼製ダンパーの延性が10未満である)。したがって、本発明は、すべてのフェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積の合計と、すべてのオーステナイト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積の合計との比を0.6未満に制限し、さらに、コアでのエネルギー吸収構造の降伏変位を低減する観点から考えると、すべてのフェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積の合計と、すべてのオーステナイト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積の合計との比が、0.8以上であることは好ましい。
【0018】
本発明の一実施形態において、前記フェライト相の鋼板の両側が同時にオーステナイト相の鋼板に隣接して接続されない場合、前記フェライト相の鋼板と隣接するオーステナイト相の鋼板との間の接続用溶接継目から、前記フェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の任意の非溶接側までの距離と、前記フェライト相の鋼板の厚さとの比は、25以下である。ここで、フェライト相の鋼板と隣接するオーステナイト相の鋼板との接続方法としては、以下の2種類が考えられる。
【0019】
1つ目は、フェライト相の鋼板は、片側のみでオーステナイト相の鋼板と隣接し、即ち、2種類の鋼板の接続用溶接継目が前記フェライト相の鋼板の片側に位置されることであり、この場合、フェライト相の鋼板には非溶接側が1つだけある。一般的な接続方法は、2枚のフェライト相の鋼板をそれぞれオーステナイト相の鋼板の上方と下方に垂直に配置するように、2枚のフェライト相の鋼板と1枚のオーステナイト相の鋼板とを接続して十字型構造を形成し、フェライト相の鋼板をオーステナイト相の鋼板と垂直に配置し、2種類の鋼板の接続用溶接継目がオーステナイト相の鋼板に位置される(即ち、接続用溶接継目がオーステナイト相の鋼板の両側の間に位置される)ように、1枚のフェライト相の鋼板と1枚のオーステナイト相の鋼板とを接続してT字型構造を形成することを含む。
【0020】
2つ目は、2種類の鋼板の接続用溶接継目がフェライト相の鋼板に位置され、即ち接続用溶接継目が前記フェライト相の鋼板の両側の間(接続用溶接継目が前記フェライト相の鋼板のいずれか一側に位置されない)に位置されることであり、この場合、フェライト相の鋼板には2つの非溶接側がある。一般的な接続方法は、オーステナイト相の鋼板を2枚のフェライト相の鋼板同士間に垂直に配置するように、2枚のフェライト相の鋼板と1枚のオーステナイト相の鋼板とを接続して工字型構造を形成し、フェライト相の鋼板をオーステナイト相の鋼板に垂直に配置し、2種類の鋼板の接続用溶接継目がフェライト相の鋼板に位置される(即ち、接続用溶接継目がフェライト相の鋼板の両側の間に位置される)ように、1枚のフェライト相の鋼板と1枚のオーステナイト相の鋼板とを接続してT字型構造を形成することを含む。
【0021】
上記2つの場合について、拘束のための接続用溶接継目から前記フェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の任意の非溶接側までの距離と、前記フェライト相の鋼板の厚さとの比が大きすぎる(25よりも大きい)場合、フェライト相の鋼板の溶接継目から離れた一部の材料が受けた拘束効果はほとんど失われ、この一部の材料は、拘束のための溶接継目付近の材料よりも疲労破壊が発生しやすく、その結果、フェライト相の鋼板全体およびコアでのエネルギー吸収構造の無効と破壊につながる。したがって、本発明は、拘束のための接続用溶接継目からフェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の任意の非溶接側までの距離と、前記フェライト相の鋼板の厚さとの比を25以下に制限する。
【0022】
フェライト相の鋼板の両側がいずれも、隣接するオーステナイト相の鋼板と接続される場合、フェライト相の鋼板が両側から拘束および保護されるため、2つの側面から疲労き裂が発生せず、フェライト相の鋼板の耐疲労性が大幅に向上される。本発明において、前記フェライト相の鋼板の両側がいずれも、オーステナイト相の鋼板と接続される場合、前記フェライト相の鋼板の両側にある溶接継目間の距離は原則として制限されないが、「すべてのフェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積の合計と、すべてのオーステナイト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積の合計との比が、0.6以上である」という条件を満たす必要がある。コアでのエネルギー吸収構造の安定性の観点から、前記フェライト相の鋼板の両側の溶接継目間の距離は、前記フェライト相の鋼板の厚さの80倍を超えないことが推奨される。フェライト相の鋼板の両側がいずれも、オーステナイト相の鋼板と接続される場合、フェライト相の鋼板を2枚のオーステナイト相の鋼板同士間に垂直に配置するように、1枚のフェライト相の鋼板と2枚のオーステナイト相の鋼板とを接続して工字型構造を形成する。
【0023】
本発明は、軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位を定義する。限界許容変位は、引張と圧縮の塑性変形が周期的に交互に加えられる際に軸方向鋼製ダンパーの許容される最大変位であり、この最大変位では、軸方向鋼製ダンパーは、少なくとも30サイクルの引張と圧縮の繰返し塑性変形に耐えることができる。繰り返し変形変位がこの最大許容変位を超えると、軸方向鋼製ダンパーは、30サイクルの繰り返し変形を完了できず、破壊して無効になる。降伏変位は、軸方向鋼製ダンパーが限界許容変位で引張と圧縮を周期的に交互に受ける際に、発生した降伏変形に相当する変位を表す。図1は、軸方向鋼製ダンパーが許容限界変位で周期的に交互に引張と圧縮の塑性変形を受ける際に形成される繰り返し応力ーひずみ曲線を示す。繰り返し応力ーひずみ曲線の除荷部から軸方向鋼製ダンパーの弾性剛性を求める。繰り返し応力ーひずみ曲線の中心が座標軸の原点にない場合、繰り返し応力ーひずみ曲線の引張部分の最大変位はud,max (t)であり、繰り返し応力ーひずみ曲線の圧縮部分の最大変位はud,max (c)であり、限界許容変位ud,maxは、1/2(ud,max (t)+ud,max (c))で計算され、繰り返し応力ーひずみ曲線の中心が座標軸原点にある場合、繰り返し応力ーひずみ曲線の引張部分の最大変位が圧縮部分の最大変位と同じになり、この場合、ud,max=ud,max (t)=ud,max (c)になる。繰り返し応力ーひずみ曲線の引張部分の除荷部に対応する弾性剛性はK (t)であり、繰り返し応力ーひずみ曲線圧縮部分の除荷部に対応する弾性剛性はK (c)である。K (t)≠K (c)である場合、軸方向鋼製ダンパーの弾性剛性Kは、1/2(K (t)+K (c))で計算され、K (t)=K (c)である場合、軸方向鋼製ダンパーの弾性剛性はK=K (t)=K (c)となる。座標原点を通り弾性剛性Kの傾きを持つ直線を引き、当該直線と繰り返し応力ーひずみ曲線引張部分との交点が繰り返し変形引張時の降伏変位udy (t)となり、当該直線と繰り返し応力ーひずみ曲線の圧縮部分との交点が繰り返し変形引張時の降伏変位udy (c)となる。軸方向鋼製ダンパーの降伏変位udyは1/2(udy (t)+udy (c))で計算される。限界許容変位ud,maxおよび降伏変位udyから、軸方向鋼製ダンパーのud,maxとudyとの比、即ち、鋼製ダンパーの延性を求めることができる。
【0024】
本発明の一実施形態において、前記オーステナイト相の鋼板の化学成分の質量分率を、C≦0.15%、22.0%≦Mn≦34.0%、3.5%≦Si≦5.5%、Al≦2.5%、Ni≦5.0%、Cu≦2.0%、P≦0.03%、S≦0.03%、N≦0.02%に制限し、残部はFeおよび不可避的不純物元素であり、ここで、Al、NiおよびCuの質量含有率は、Ni/Cu≧0.25およびAl+0.4Ni+0.25Cu≦3.5%を満たす。
【0025】
上記の成分要求を満たす材料のミクロ組織は、準安定オーステナイトおよび体積分率が10%以下の熱誘起εマルテンサイトであり、準安定オーステナイトは、引張と圧縮の繰り返し荷重下では、可逆的なεマルテンサイト相変態が発生し、(即ち、準安定オーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトは、繰り返し荷重下でオーステナイト⇔εマルテンサイト変態が発生する)、かつα′マルテンサイト相変態が抑制され、それにより、鋼板材料は、優れた低サイクル疲労性能を有する。
【0026】
上記の基本的なミクロ組織特性を変えることなく、オーステナイト相の鋼板の化学成分は少量のCr元素を含むことができ、本発明は、Cr元素の質量分率をCr≦2%に制限する。
【0027】
上記の合金成分を有し、かつ平均準安定オーステナイト結晶粒径が400μm以下である場合、オーステナイト相の鋼板の降伏強度は220MPa以上であり、伸び率は40%以上である。
【0028】
本発明の一実施形態において、フェライト相の鋼板の化学成分の質量分率をC≦0.1%、Mn≦1.0%、Si≦0.8%、Ti≦0.15%、Nb≦0.1%、V≦0.2%、P≦0.03%、S≦0.03%、N≦0.02%に制限し、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。
【0029】
上記の成分要求を満たす材料のミクロ組織は主にフェライトである。上記の基本的なミクロ組織特性を変えることなく、フェライト相の鋼板の化学成分は、少量のCu、CrおよびNi元素を含むことができ、本発明は、Cu、CrおよびNi元素の質量分率をCu≦0.5%、Cr≦1%、Ni≦1%に制限する。
【0030】
上記の合金成分を有し、かつ平均フェライト結晶粒径が200μm以下の場合、フェライト相の鋼板の降伏強度は180MPa未満であり、伸び率は30%以上となる。
【0031】
本発明の一実施形態において、前記コアでのエネルギー吸収構造の断面は、任意の種類の軸対称の幾何学的形状を有することができる。前記任意の種類の軸対称の幾何学的形状を有する断面形状としては、主に十字型、工字型などが挙げられる。
【0032】
本発明の一実施形態において、前記軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造は、中央が狭く、両端が広い断面形状を採用できる。図2および図3に示すように、図2は、コアでのエネルギー吸収構造を構成するフェライト相の鋼板およびオーステナイト相の鋼板の幾何学的形状とその相対位置を示す。図3は、溶接および組み立てによって形成された、対応するコアでのエネルギー吸収構造の概略図である。
【0033】
本発明において、2種類の鋼板は、両端が広く、中央が狭い幾何学的形状を有する場合(鋼板の中央の狭い部分がエネルギー吸収のコア部分と呼ばれる)、2種類の鋼板から構成されるコアでのエネルギー吸収構造の中央の狭い部分が前記コアでのエネルギー吸収構造のエネルギー吸収のコア部分と呼ばれる。前記軸方向鋼製ダンパーが、接合部やその他の接続コンポーネントを介して建物の柱梁主要構造やその他の鋼製ブレースと接続されるため、コアでのエネルギー吸収構造の前述の断面の幾何学的設計は、鋼製ダンパーの塑性変形がコアでのエネルギー吸収構造のエネルギー吸収のコア部分にのみ集中するようにし、軸方向鋼製ダンパーの使用中に、接合部または他の接続コンポーネントは、重大な降伏変形乃至破壊が発生することを回避する。
【0034】
前記コアでのエネルギー吸収構造のエネルギー吸収のコア部分と両端の断面積との比についての合理的な選択は、主にコアでのエネルギー吸収構造と接合部または他の接続コンポーネントの材料強度、および両者の間の接続強度によって決まれる。原則として、降伏が発生する時、接合部または他の接続コンポーネントの降伏荷重は、コアでのエネルギー吸収構造の降伏荷重よりも大きくする必要がある。
【0035】
本発明は、上記のコアでのエネルギー吸収構造およびその周囲拘束コンポーネントを含む軸方向鋼製ダンパーをさらに提供し、前記コアでのエネルギー吸収構造は、軸方向鋼製ダンパーが伸縮と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受ける場合、外部の振動エネルギーを吸収する役割を果たし、前記周囲拘束コンポーネントがコアでのエネルギー吸収構造の横方向の変位を抑制し、コアでのエネルギー吸収構造が座屈して不安定になることを防止する。
【0036】
本発明の一実施形態において、前記軸方向鋼製ダンパーの周囲拘束コンポーネントは、鋼管と内部充填コンクリートの組み合わせによって形成された拘束ケーシング、または鉄筋コンクリート拘束ケーシング、または純鋼構造拘束部材として選択される。
【0037】
本発明は、前記軸方向鋼製ダンパーの用途をさらに提供し、前記軸方向鋼製ダンパーが単独で使用されるか、または他の鋼製ブレースと組み合わせて軸方向エネルギー吸収ブレースを形成して建物または構造物に設置され、建物または構造物の柱梁主要構造および接合部と接続されて全体を形成し、外部振動エネルギーを吸収させる役割を果たす。
【0038】
本発明の一実施形態において、前記軸方向鋼製ダンパーは、フランジまたは中間接続板を介して他の鋼製ブレースと接続し、組み合わせて軸方向エネルギー吸収ブレースを形成することができ、プレハブ建物の要件や地震後の迅速な交換の要件を満たす。組み合わせられた軸方向エネルギー吸収ブレースは、建物や構造物に設置され、建物や構造物の柱梁主要構造および接合部と接続されて全体を形成し、外部振動エネルギーを吸収し、建物や構造物の耐震性能を大幅に向上することができる。
【0039】
本発明の一実施形態において、前記軸方向鋼製ダンパーは、建物や構造物に単独で直接設置され、建物や構造物の柱梁主要構造および接合部と接続されて全体を形成し、外部振動エネルギーを吸収し、建物や構造物の耐震性能を大幅に向上することができる。
【0040】
本発明による軸方向鋼製ダンパーの構造サイズは一般に、従来の座屈拘束ブレースの構造サイズよりも小さく、自重はより軽い。図4は、交換可能な軸方向鋼製ダンパーと他の鋼製ブレースを組み合わせて形成された軸方向エネルギー吸収ブレースの概略図であり、その三次元図を図5に示す。前記軸方向鋼製ダンパーの一端は、中間接続板と球面ヒンジを介して建物ガセットプレートと接続され、前記軸方向鋼製ダンパーの他端は、中間接続板(またはフランジ)を介して他の鋼製ブレースと接続して組み合わせて軸方向エネルギー吸収ブレースを形成する。
【0041】
本願の研究によると、低炭素フェライト鋼の低サイクル疲労性能が低い根本的な理由は、次の通りであることがわかる。繰り返し変形中に、交差すべりが頻繁に発生し、微視的な塑性変形が不可逆的であるため、材料の組織安定性の低下と塑性ひずみの局所的な集中につながり、サイクルの累積ひずみの増加とともに、疲労き裂は、材料の表面組織の界面(例えば、結晶粒界、フェライト/セメンタイト相境界)またはすべり領域で核生成し、材料の粒界破壊または粒内破壊が発生するまで、結晶粒界に沿って成長するかまたは粒内に成長する。したがって、低炭素フェライト鋼(例えば、LY225およびQ235)で製造された鋼製ダンパーの延性と累積塑性変形能力は低い。積層欠陥エネルギーの低いFe-Mn-Si系合金鋼で製造された座屈拘束ブレースは、建物の主要構造に対する保護には限界がある。本発明は、降伏変位が小さく、優れた延性と累積塑性変形能力を有し、建物の主要構造と同じ冗長性で無効になる軸方向鋼製ダンパーを開発する。
【0042】
従来の技術と比較して、本発明の有益な効果は次のとおりである。
【0043】
1)従来の座屈拘束ブレース(コアでのエネルギー吸収構造は通常、LY225またはQ235鋼板で製造される)と比較して、本発明の軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造は、優れた延性および累積塑性変形能力を持ち、その限界許容変位と降伏変位との比が10以上であり、限界許容変位が鋼製ダンパーの軸方向長さの1/60以上であり、この限界許容変位の条件では、前記軸方向鋼製ダンパーは、少なくとも30サイクルの引張と圧縮の交互塑性変形を完了でき、載荷能力の低下が15%未満である。従来の座屈拘束ブレースは、上記のインデックス性能を達成できない。
2)使用される可能性がある積層欠陥エネルギーの低いFe-Mn-Siオーステナイト系合金鋼で製造された座屈拘束ブレースと比較して、本発明による軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造は、降伏変位および降伏荷重が小さく、加工硬化度合いが低く、延性に優れ、コストが低い。出願人の研究によると、積層欠陥エネルギーが低いFe-Mn-Siオーステナイト系合金鋼で製造された座屈拘束ブレースは、降伏荷重および降伏変位が大きいため、多くの場合その限界許容変位と降伏変位との比が7未満であり、当該ブレースのエネルギー吸収効果が著しくないことがわかる。さらに、積層欠陥エネルギーが低いFe-Mn-Siオーステナイト系合金鋼のコストは、比較的に高く、当該種類の材料のみで製造された座屈拘束ブレースのコストも高くなる。
3)従来の座屈拘束ブレースおよび使用される可能性がある積層欠陥エネルギーの低いFe-Mn-Siオーステナイト系合金鋼で製造された座屈拘束ブレースと比較して、本発明による軸方向鋼製ダンパーは、延性が大幅に向上され、異なる震度の地震で降伏とエネルギー吸収を達成でき、建物の主要構造と同じ冗長性で無効になり、優れた累積塑性変形能力を有する。
4)本発明による軸方向鋼製ダンパーは、他の鋼製ブレースと接続して組み合わせて軸方向エネルギー吸収ブレースを形成し、プレハブ建物および地震後の迅速な交換の要件を満たす。本発明による軸方向鋼製ダンパーの構造サイズおよび自重は、従来の座屈拘束ブレースの構造サイズおよび自重よりも小さくすることができる。
5)従来の座屈拘束ブレースは、主要構造フレームの対角寸法に合わせて設計および製造する必要があるが、エネルギー吸収ブレースコンポーネントのサイズが一般に大きく、現場での設置および地震後の交換に適していない。本発明による軸方向鋼製ダンパーの構造サイズは一般に、従来の座屈拘束ブレースの構造サイズよりも小さく、自重が軽く、現場での設置および地震後の交換が容易である。
【0044】
本発明において、前記軸方向鋼製ダンパーにおける、コアでのエネルギー吸収構造を構成するオーステナイト相の鋼板は、引張と圧縮の交互塑性変形中に、オーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトとの間で可逆的な相変態が発生するため、前記オーステナイト相の鋼板が優れた疲労変形性能を有し、それにより、前記軸方向鋼製ダンパーが非常に高い限界許容変位を持つことができる。軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造で使用されるオーステナイト相の鋼板は、繰り返し荷重下で転位面すべりの変形のみが発生する場合、対応するオーステナイト相の鋼板の化学成分の質量分率は、0.4%≦C≦0.7%、16.0%≦Mn≦26.0%、Si≦2.0%、P≦0.02%、S≦0.03%、N≦0.03%であってもよく、残部がFeおよび不可避的不純物元素であり、当該軸方向鋼製ダンパーの延性および累積塑性変形能力は、従来の座屈拘束ブレースよりも優れることが可能であるが、本発明の軸方向鋼製ダンパーよりも著しく低い。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1図1は、軸方向鋼製ダンパーが限界許容変位で引張と圧縮の塑性変形が周期的に交互に加えられる際に形成される繰り返し応力ーひずみ曲線を示す。限界許容変位および降伏変位から、軸方向鋼製ダンパーの延性を求める。
図2図2は、コアでのエネルギー吸収構造を構成するフェライト相の鋼板とオーステナイト相の鋼板の幾何学的形状と相対位置を示す。
図3図3は、軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造の概略図である。
図4図4は、軸方向鋼製ダンパーと他の鋼製ブレースの組み合わせによって形成された軸方向エネルギー吸収ブレースの概略図である。
図5図5は、軸方向鋼製ダンパーと他の鋼製ブレースの組み合わせによって形成された軸方向エネルギー吸収ブレースの三次元図である。
図6図6は、実施例1における、軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造を構成するオーステナイト相の鋼板の幾何学的形状を示す。
図7図7は、実施例1における、軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造を構成するフェライト相の鋼板の幾何学的形状を示す。
図8図8は、実施例1における軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造の正面図である。
図9図9は、実施例1における軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造の上面図である。
図10図10は、実施例1における軸方向鋼製ダンパーのコアでのエネルギー吸収構造の側面図である。
図11図11は、実施例1における軸方向鋼製ダンパーの正面図である。
図12図12は、実施例1における軸方向鋼製ダンパーの上面図である。
図13図13は、実施例1における軸方向鋼製ダンパーのA-A断面図である。
図14図14は、実施例1における軸方向鋼製ダンパーが引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受ける時の繰り返し応力ーひずみ曲線である。
図15図15は、実施例2における軸方向鋼製ダンパーが引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受ける時の繰り返し応力ーひずみ曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、添付の図面および具体的な実施例を参照して本発明を詳細に説明する。
【0047】
(実施例1)
軸方向鋼製ダンパーであって、コアでのエネルギー吸収構造および周囲拘束コンポーネントから構成される。
【0048】
前記コアでのエネルギー吸収構造の断面は、鋼製ダンパーの軸方向を対称軸とする十字型の軸対称幾何学的形状を有し、軸方向に沿って中央が狭く、両端が広い。図2および図3に示すように、コアでのエネルギー吸収構造は、1枚のオーステナイト相の鋼板2および2枚のフェライト相の鋼板1から構成され、オーステナイト相の鋼板2とフェライト相の鋼板1は長手方向に沿って長さが同じであり、オーステナイト相の鋼板2の長手方向の中心線を対称軸として、2枚のフェライト相の鋼板1がそれぞれ、オーステナイト相の鋼板2の上方および下方に配置され、2枚のフェライト相の鋼板1がそれぞれ、オーステナイト相の鋼板2と溶接により密着に接続され、溶接継目3がコアでのエネルギー吸収構造および鋼製ダンパーの軸方向と平行であり、図2において、フェライト相の鋼板1の2つの側面がそれぞれ、溶接側11および非溶接側12である。
【0049】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するオーステナイト相の鋼板の幾何学的形状を図6に示す。オーステナイト相の鋼板の全長はL=2000mmであり、鋼板の中央部(エネルギー吸収のコア部分)の長さはL=1530mmであり、幅はW=160mmであり、鋼板の厚さはT=16mmである。
【0050】
前記オーステナイト相の鋼板の化学成分およびその質量分率は、29.4%Mn、4.3%Si、1.4%Al、0.049%C、0.009%P、0.008%S、0.005%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記オーステナイト相の鋼板の降伏強度は304MPaであり、伸び率は52%である。前記オーステナイト相の鋼板のミクロ組織は、単一のオーステナイト組織であり、平均オーステナイト結晶粒径は76μmであり、降伏段階に入ると、準安定オーステナイトはひずみの作用によりεマルテンサイト相変態が発生し、かつα′マルテンサイト相変態が抑制され、引張と圧縮の繰り返し荷重の作用下では、準安定オーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトの間の可逆的な相変態が発生する。
【0051】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するフェライト相の鋼板の幾何学的形状を図7に示す。フェライト相の鋼板の全長はl=2000mmであり、鋼板の中央部(エネルギー吸収のコア部分)の長さは、l=1530mmであり、幅はw/2=80mmであり、鋼板の厚さはt=16mmでる。
【0052】
前記フェライト相の鋼板の化学成分およびその質量分率は、0.30%Mn、0.05%Si、0.015%C、0.05%Ti、0.012%P、0.006%S、0.006%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記フェライト相の鋼板の降伏強度は157MPaであり、伸び率は47%である。前記フェライト相の鋼板のミクロ組織は主にフェライト組織であり、平均フェライト結晶粒径は50μmである。
【0053】
前記オーステナイト相の鋼板の厚さは、前記フェライト相の鋼板の厚さと同じである。2枚のフェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積の合計と、1枚のオーステナイト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積との比は、1.0(0.6よりも大きい)である。溶接して組み立てられた後、前記フェライト相の鋼板とオーステナイト相の鋼板との間の接続用溶接継目から、前記2枚のフェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の非溶接側までの距離(即ち、フェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の幅w/2)とフェライト相の鋼板の厚さ(t)との比はいずれも、5.0である。
【0054】
溶接して組み立てられた後のコアでのエネルギー吸収構造の正面図、上面図および側面図をそれぞれ、図8図9図10に示す。
【0055】
前記周囲拘束コンポーネントは、周囲拘束鋼管4と内部充填コンクリート9とを組み合わせて形成された拘束ケーシングであり、コアでのエネルギー吸収構造の横方向の変位を拘束し、コアでのエネルギー吸収構造の座屈を防止する役割を果たす。周囲拘束コンポーネントとコアでのエネルギー吸収構造との間の摩擦を除去するために、前記周囲拘束コンポーネントと前記コアでのエネルギー吸収構造との間には、非結合材料層が設けられる。
【0056】
組み立てられた後の、軸方向鋼製ダンパーの正面図、上面図、および平面A-Aに沿った断面図をそれぞれ図11図12、および図13に示す。
【0057】
図14は、前記軸方向鋼製ダンパーが引張と圧縮変形を交互に受ける時の繰り返し応力ーひずみ曲線を示す。軸方向鋼製ダンパーは、40mmの変位で引張と圧縮が周期的に交互に33サイクル加えられた後、疲労破壊が発生せず、最大載荷能力がほとんど変化しない。。40mmの作動変位は、鋼製ダンパーの軸方向の長さの1/50に相当する。図14から、前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位は、40mmよりも大きいとわかる。40mm変位の繰り返し応力ーひずみ曲線の除荷部から弾性剛性を求め、降伏変位を求めて約3.1mmとなる。その後、43mmの変位で繰り返し変形を2サイクル続け、変形繰り返し応力ーひずみ曲線から、引張圧縮サイクルに伴って変形変位は増加するが、降伏変位はあまり変化しないことがわかる。計算された軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比(即ち延性)は、12.9よりも大きい。
【0058】
したがって、本実施例による前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比は10よりも大きく、かつ限界許容変位が鋼製ダンパーの軸方向の長さの1/60よりも大きく、この限界許容変位の条件では、前記軸方向鋼製ダンパーは、少なくとも30サイクルの引張と圧縮の交互塑性変形を完了でき、載荷能力の低下が15%未満である。本実施例における軸方向鋼製ダンパーは、建物の主要構造と同じ冗長性で無効になることを達成することができる。
【0059】
図4および図5は、本実施例における軸方向鋼製ダンパーと他の鋼製ブレースの組み合わせによって形成された軸方向エネルギー吸収ブレースの概略図である。前記軸方向鋼製ダンパー5の一端は、中間接続板6と球面ヒンジ8を介して建物ガセットプレートと接続され、前記軸方向鋼製ダンパー5の他端は、中間接続板6を介して他の鋼製ブレース7と接続して組み合わせて軸方向エネルギー吸収ブレースを形成する。
【0060】
(実施例2)
軸方向鋼製ダンパーであって、コアでのエネルギー吸収構造および周囲拘束コンポーネントから構成される。
【0061】
前記コアでのエネルギー吸収構造の断面は、鋼製ダンパーの軸方向を対称軸とする十字型の軸対称幾何学的形状を有し、軸方向に沿って中央が狭く、両端が広い。具体的には、コアでのエネルギー吸収構造は、1枚のオーステナイト相の鋼板および2枚のフェライト相の鋼板から構成され、オーステナイト相の鋼板およびフェライト相の鋼板は、長手方向の長さが同じであり、2種類の鋼板の相対位置と接続方法を図2および図3に示す。
【0062】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するオーステナイト相の鋼板の幾何学的形状を図6に示す。オーステナイト相の鋼板の全長は、L=2000mmであり、鋼板の中央部(エネルギー吸収のコア部分)の長さは、L=1530mmであり、幅はW=50mmであり、鋼板の厚さはT=16mmである。
【0063】
前記オーステナイト相の鋼板の化学成分およびその質量分率は、29.4%Mn、4.3%Si、1.4%Al、0.049%C、0.009%P、0.008%S、0.005%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記オーステナイト相の鋼板の降伏強度は304MPaであり、伸び率は52%である。前記オーステナイト相の鋼板のミクロ組織は、単一のオーステナイト組織であり、平均オーステナイト結晶粒径は76μmであり、降伏段階に入ると、準安定オーステナイトはひずみの作用によりεマルテンサイト相変態が発生し、引張と圧縮の繰り返し荷重の作用下では、準安定オーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトの間の可逆的な相変態が発生する。
【0064】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するフェライト相の鋼板の幾何学的形状を図7に示す。フェライト相の鋼板の全長はl=2000mmであり、鋼板の中央部(エネルギー吸収のコア部分)の長さはl=1530mmであり、幅はw/2=80mmであり、鋼板の厚さはt=16mmである。
【0065】
前記フェライト相の鋼板の化学成分およびその質量分率は、0.30%Mn、0.05%Si、0.015%C、0.05%Ti、0.012%P、0.006%S、0.006%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記フェライト相の鋼板の降伏強度は157MPaであり、伸び率は47%である。前記フェライト相の鋼板のミクロ組織は主にフェライトであり、平均フェライト結晶粒径は50μmである。
【0066】
前記オーステナイト相の鋼板の厚さは、前記フェライト相の鋼板の厚さと同じである。2枚のフェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積の合計と、1枚のオーステナイト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積との比は3.2(0.6よりも大きい)である。溶接して組み立てられた後、前記フェライト相の鋼板とオーステナイト相の鋼板との間の接続用溶接継目から、前記2枚のフェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の非溶接側までの距離(即ち、フェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の幅w/2)と、フェライト相の鋼板の厚さ(t)との比はいずれも、5.0である。
【0067】
前記周囲拘束コンポーネントは、鋼管と内部充填コンクリートとを組み合わせて形成された拘束ケーシングである。前記周囲拘束コンポーネントと前記コアでのエネルギー吸収構造との間には非結合材料層が設けられる。
【0068】
図15は、前記軸方向鋼製ダンパーが引張と圧縮の塑性変形を周期的に交互に受ける時の繰り返し応力ーひずみ曲線である。軸方向鋼製ダンパーは、40mmの変位で引張と圧縮が周期的に交互に30サイクル加えられた後、45mmの変位で引張と圧縮が交互に4サイクル加えられて、疲労破壊が発生せず、載荷能力も低下しない。40mmの作動変位は、鋼製ダンパーの軸方向の長さの1/50に相当する。前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位は40mmよりも大きい。40mm変位の繰り返し応力ーひずみ曲線の除荷部から弾性剛性を求め、そして降伏変位を求めて約3.1mmとなる(40mmの変形変位および45mmの変形変位の繰り返し応力ーひずみ曲線を比較すると、40mmの変形変位後、引張圧縮サイクルに伴って変形変位は増加し、降伏変位はあまり変化しないことがわかる)。計算された軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比(即ち、延性)は12.9よりも大きい。
【0069】
したがって、本実施例による前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比は10よりも大きく、限界許容変位は鋼製ダンパーの軸方向の長さの1/60よりも大きく、この限界許容変位の条件では、前記軸方向鋼製ダンパーは、少なくとも30サイクルの周期的な引張と圧縮の交互塑性変形を完了でき、載荷能力の低下が15%未満である。本実施例における軸方向鋼製ダンパーは、建物の主要構造と同じ冗長性で無効になることを達成することができる。
【0070】
(実施例3)
軸方向鋼製ダンパーであって、コアでのエネルギー吸収構造および周囲拘束コンポーネントから構成される。
【0071】
前記コアでのエネルギー吸収構造の断面は、鋼製ダンパーの軸方向を対称軸とする十字型の軸対称幾何学的形状を有し、軸方向に沿って中央が狭く、両端が広い。具体的には、コアでのエネルギー吸収構造は、1枚のオーステナイト相の鋼板および2枚のフェライト相の鋼板から構成され、オーステナイト相の鋼板およびフェライト相の鋼板は、長手方向の長さが同じであり、2種類の鋼板の相対位置と接続方法を図2および図3に示す。
【0072】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するオーステナイト相の鋼板の幾何学的形状を図6に示す。オーステナイト相の鋼板の全長はL=2000mmであり、鋼板の中央部(エネルギー吸収のコア部分)の長さはL=1530mm、幅はW=160mmであり、鋼板の厚さはT=14mmである。
【0073】
前記オーステナイト相の鋼板の化学成分およびその質量分率は、27.5%Mn、4.0%Si、0.6%Al、0.002%C、2.0%Ni、0.7%Cu、0.007%P、0.006%S、0.005%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記オーステナイト相の鋼板の降伏強度は229MPaであり、伸び率は58%である。前記オーステナイト相の鋼板のミクロ組織は、単一のオーステナイト組織であり、平均オーステナイト結晶粒径は126μmである。降伏段階に入ると、準安定オーステナイトはひずみの作用によりεマルテンサイト相変態が発生し、引張と圧縮の繰り返し荷重の作用下では、準安定オーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトの間の可逆的な相変態が発生する。
【0074】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するフェライト相の鋼板の幾何学的形状を図7に示す。フェライト相の鋼板の全長はl=2000mmであり、鋼板の中央部(エネルギー吸収のコア部分)の長さはl=1530mmであり、幅はw/2=200mmであり、鋼板の厚さt=16mmである。
【0075】
前記フェライト相の鋼板の化学成分およびその質量分率は、0.18%Mn、0.05%Si、0.01%C、0.04%Ti、0.01%P、0.006%S、0.006%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記フェライト相の鋼板の降伏強度は122MPaであり、伸び率は50%である。前記フェライト相の鋼板のミクロ組織は主にフェライトであり、平均フェライト結晶粒径は86μmである。
【0076】
前記オーステナイト相の鋼板の厚さは、前記フェライト相の鋼板の厚さの0.875倍である。2枚のフェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積の合計と、1枚のオーステナイト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積との比は2.86(0.6よりも大きい)である。溶接して組み立てられた後、前記フェライト相の鋼板とオーステナイト相の鋼板との間の接続用溶接継目から、前記2枚のフェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の非溶接側までの距離(即ち、フェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の幅w/2)とフェライト相の鋼板の厚さ(t)との比はいずれも12.5である。
【0077】
前記周囲拘束コンポーネントは、鋼管と内部充填コンクリートとを組み合わせて形成された拘束ケーシングである。前記周囲拘束コンポーネントと前記コアでのエネルギー吸収構造との間には非結合材料層が設けられる。
【0078】
軸方向鋼製ダンパーは、40.4mmの変位で引張と圧縮が周期的に交互に30サイクル加えられた後、疲労破壊が発生せず、載荷能力も低下しない。40.4mmの作動変位は、鋼製ダンパーの軸方向の長さの1/50に相当する。前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位は40.4mmよりも大きい。繰り返し応力ーひずみ曲線から降伏変位を求めて約3.1mmとなる。計算された軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比(即ち、延性)は13よりも大きい。
【0079】
したがって、本実施例における前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比は10よりも大きく、かつ限界許容変位が鋼製ダンパーの軸方向の長さの1/60よりも大きく、この限界許容変位の条件では、前記軸方向鋼製ダンパーは、少なくとも30サイクルの周期的な引張と圧縮の交互塑性変形を完了でき、載荷能力の低下が15%未満である。
【0080】
(実施例4)
軸方向鋼製ダンパーであって、コアでのエネルギー吸収構造および周囲拘束コンポーネントから構成される。
【0081】
前記コアでのエネルギー吸収構造の断面は、鋼製ダンパーの軸方向を対称軸とする十字型の軸対称幾何学的形状を有し、軸方向に沿って中央が狭く、両端が広い。具体的には、コアでのエネルギー吸収構造は、1枚のオーステナイト相の鋼板および2枚のフェライト相の鋼板から構成され、オーステナイト相の鋼板およびフェライト相の鋼板は、長手方向の長さが同じであり、2種類の鋼板の相対位置と接続方法を図2および図3に示す。
【0082】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するオーステナイト相の鋼板の幾何学的形状を図6に示す。オーステナイト相の鋼板の全長はL=2000mmであり、鋼板の中央部(エネルギー吸収のコア部分)の長さはL=1530mmであり、幅はW=160mmであり、鋼板の厚さはT=5mmである。
【0083】
前記オーステナイト相の鋼板の化学成分およびその質量分率は、26.3%Mn、4.1%Si、1.0%Al、1.1%Ni、0.02%C、0.009%P、0.008%S、0.005%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記オーステナイト相の鋼板の降伏強度は288MPaであり、伸び率は50%である。前記オーステナイト相の鋼板のミクロ組織は単一のオーステナイト組織であり、平均オーステナイト結晶粒径は102μmである。降伏段階に入ると、準安定オーステナイトはひずみの作用によりεマルテンサイト相変態が発生し、引張と圧縮の繰り返し荷重の作用下では、準安定オーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトの間の可逆的な相変態が発生する。
【0084】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するフェライト相の鋼板の幾何学的形状を図7に示す。フェライト相の鋼板の全長はl=2000mmであり、鋼板の中央部(エネルギー吸収のコア部分)の長さはl=1530mmであり、幅はw/2=290mmであり、鋼板の厚さはt=12mmである。
【0085】
前記フェライト相の鋼板の化学成分およびその質量分率は、0.50%Mn、0.3%Si、0.095%C、0.1%Ti、0.06%Nb、0.01%P、0.006%S、0.005%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記フェライト相の鋼板の降伏強度は175MPaであり、伸び率は31.5%である。前記フェライト相の鋼板のミクロ組織は主にフェライトであり、平均フェライト結晶粒径は192μmである。
【0086】
前記オーステナイト相の鋼板の厚さは、前記フェライト相の鋼板の厚さの0.416倍である。2枚のフェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積の合計と、1枚のオーステナイト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積との比は8.7(0.6よりも大きい)である。溶接して組み立てられた後、前記フェライト相の鋼板とオーステナイト相の鋼板との間の接続用溶接継目から、前記2枚のフェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の非溶接側までの距離(即ち、フェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の幅w/2)と、フェライト相の鋼板の厚さ(t)との比はいずれも、24.2である。
【0087】
前記周囲拘束コンポーネントは、鋼管と内部充填コンクリートとを組み合わせて形成された拘束ケーシングである。前記周囲拘束コンポーネントと前記コアでのエネルギー吸収構造との間には非結合材料層が設けられる。
【0088】
軸方向鋼製ダンパーは、33.8mmの変位で引張と圧縮が周期的に交互に30サイクル加えられた後、疲労破壊が発生せず、載荷能力も低下しない。33.8mmの作動変位は、鋼製ダンパーの軸方向の長さの1/60に相当する。前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位は33.8mmよりも大きい。繰り返し応力ーひずみ曲線の除荷部から弾性剛性を求め、そして降伏変位を取得して約3.0mmとなる。計算された軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比(即ち、延性)は、11.2よりも大きい。
【0089】
したがって、本実施例における前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比は10よりも大きく、かつ限界許容変位は、鋼製ダンパーの軸方向の長さの1/60よりも大きく、この限界許容変位の条件では、前記軸方向鋼製ダンパーは、少なくとも30サイクルの周期的な引張と圧縮の交互塑性変形を完了でき、載荷能力の低下が15%未満である。
【0090】
(実施例5~8)
軸方向鋼製ダンパーであって、コアでのエネルギー吸収構造および周囲拘束コンポーネントから構成される。
【0091】
前記コアでのエネルギー吸収構造は1枚のオーステナイト相の鋼板および1枚のフェライト相の鋼板から構成され、オーステナイト相の鋼板およびフェライト相の鋼板は、長手方向の長さが同じであり、フェライト相の鋼板がオーステナイト相の鋼板に垂直に配置され、フェライト相の鋼板とオーステナイト相の鋼板とが溶接により密着に接続され、溶接継目が軸方向鋼製ダンパーの軸方向と平行であり、接続用溶接継目がオーステナイト相の鋼板に位置される。
【0092】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するオーステナイト相の鋼板の幾何学的形状を図6に示す。オーステナイト相の鋼板の全長はL=2000mmであり、鋼板の中央部(エネルギー吸収のコア部分)の長さはL=1530mmであり、幅はW=80mmであり、鋼板の厚さはT=16mmである。
【0093】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するフェライト相の鋼板の幾何学的形状を図7に示す。フェライト相の鋼板の全長はl=2000mmであり、鋼板の中央部(エネルギー吸収のコア部分)の長さはl=1530mmであり、幅はw/2=80mmであり、鋼板の厚さはt=16mmである。
【0094】
前記オーステナイト相の鋼板の厚さは、前記フェライト相の鋼板の厚さと同じである。フェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積と、オーステナイト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積との比は、1.0(0.6よりも大きい)である。溶接して組み立てられた後、前記フェライト相の鋼板とオーステナイト相の鋼板との間の接続用溶接継目から、前記フェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の非溶接側までの距離(即ち、フェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の幅w/2)とフェライト相の鋼板の厚さ(t)との比はいずれも、5.0である。
【0095】
前記オーステナイト相の鋼板の主な化学成分(鋼には微量のP、S、Nおよび他の不純物元素が不可避的に含まれている)および機械的特性を表1に示す。前記オーステナイト相の鋼板のミクロ組織は、単一のオーステナイト組織である。降伏段階に入ると、準安定オーステナイトはひずみの作用によりεマルテンサイト相変態が発生し、引張と圧縮の繰り返し荷重の作用下では、準安定オーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトの間の可逆的な相変態が発生する。前記オーステナイト相の鋼板の平均オーステナイト結晶粒径を表1に示す。
【0096】
前記フェライト相の鋼板の主な化学成分(鋼には微量のP、S、Nおよび他の不純物元素が不可避的に含まれている)および機械的特性を表1に示す。前記フェライト相の鋼板のミクロ組織は主にフェライト組織である。前記フェライト相の鋼板の平均フェライト結晶粒径を表1に示す。
【表1】
【0097】
前記周囲拘束コンポーネントは、鋼管と内部充填コンクリートとを組み合わせて形成された拘束ケーシングである。前記周囲拘束コンポーネントと前記コアでのエネルギー吸収構造との間には非結合材料層が設けられる。
【0098】
上記の実施例において、前記軸方向鋼製ダンパーの降伏変位、限界許容変位、および、限界許容変位と降伏変位との比を表2に示す。この限界許容変位の条件では、前記軸方向鋼製ダンパーはいずれも、少なくとも30サイクルの引張と圧縮の繰り返し塑性変形を完了し、疲労破壊が発生せず、鋼製ダンパーの載荷能力が低下しない。
【表2】
【0099】
したがって、上記の実施例において、前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比はいずれも、10よりも大きく、限界許容変位は、鋼製ダンパーの軸方向の長さの1/60よりも大きく、この限界許容変位の条件では、前記軸方向鋼製ダンパーは、少なくとも30サイクルの周期的な引張と圧縮の交互塑性変形を完了でき、載荷能力の低下が15%未満である。
【0100】
(実施例9)
軸方向鋼製ダンパーであって、コアでのエネルギー吸収構造および周囲拘束コンポーネントから構成される。
【0101】
前記コアでのエネルギー吸収構造は、1枚のオーステナイト相の鋼板および1枚のフェライト相の鋼板から構成され、オーステナイト相の鋼板およびフェライト相の鋼板は、長手方向の長さが同じであり、フェライト相の鋼板がオーステナイト相の鋼板に垂直に配置され、フェライト相の鋼板とオーステナイト相の鋼板とが溶接により密着に接続され、溶接継目が軸方向鋼製ダンパーの軸方向と平行であり、接続用溶接継目がオーステナイト相の鋼板に位置される。
【0102】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するオーステナイト相の鋼板の幾何学的形状を図6に示す。オーステナイト相の鋼板の全長はL=2000mmであり、鋼板の中央部(即ち、エネルギー吸収のコア部分)の長さはL=1530mmであり、幅はW=100mmであり、鋼板の厚さはT=16mmである。
【0103】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するフェライト相の鋼板の幾何学的形状を図7に示す。フェライト相の鋼板の全長はl=2000mmであり、鋼板の中央部(即ち、エネルギー吸収のコア部分)の長さはl=1530mmであり、幅はw/2=65mmであり、鋼板の厚さはt=16mmである。
【0104】
前記オーステナイト相の鋼板の厚さは、前記フェライト相の鋼板の厚さと同じである。フェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積と、オーステナイト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積との比は、0.65(0.6よりも大きい)である。溶接して組み立てられた後、前記フェライト相の鋼板とオーステナイト相の鋼板との間の接続用溶接継目から、前記フェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の非溶接側までの距離(即ち、フェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の幅w/2)と、フェライト相の鋼板の厚さ(t)との比は約4.1である。
【0105】
前記オーステナイト相の鋼板の化学成分およびその質量分率は、29.4%Mn、4.3%Si、1.4%Al、0.049%C、0.009%P、0.008%S、0.005%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記オーステナイト相の鋼板の平均オーステナイト結晶粒径は76μmである。前記オーステナイト相の鋼板の降伏強度は304MPaであり、伸び率は52%である。前記オーステナイト相の鋼板のミクロ組織は、単一のオーステナイト組織であり、降伏段階に入ると、準安定オーステナイトはひずみの作用によりεマルテンサイト相変態が発生し、かつα′マルテンサイト相変態が抑制され、引張と圧縮の繰り返し荷重の作用下では、準安定オーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトの間の可逆的な相変態が発生する。
【0106】
前記フェライト相の鋼板の化学成分およびその質量分率は、0.30%Mn、0.05%Si、0.015%C、0.05%Ti、0.012%P、0.006%S、0.006%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記フェライト相の鋼板の降伏強度は157MPaであり、伸び率は47%である。前記フェライト相の鋼板のミクロ組織は主に、フェライト、平均フェライト結晶粒径は50μmである。
【0107】
前記周囲拘束コンポーネントは、鋼管と内部充填コンクリートとを組み合わせて形成された拘束ケーシングであり、周囲拘束コンポーネントとコアでのエネルギー吸収構造との間の摩擦を除去するために、前記周囲拘束コンポーネントと前記コアでのエネルギー吸収構造との間には、非結合材料層が設けられる。
【0108】
軸方向鋼製ダンパーは、40mmの変位で引張と圧縮が周期的に交互に30サイクル加えられた後、疲労破壊が発生せず、載荷能力も低下しない。40mmの作動変位は、鋼製ダンパーの全長の1/50に相当する。前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位は40mmよりも大きい。40mm変位の繰り返し応力ーひずみ曲線から、降伏変位を求めて約3.8mmとなる。計算された軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比(即ち、延性)は、10.5よりも大きい。
【0109】
したがって、本実施例において、前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比は10よりも大きく、かつ限界許容変位は、鋼製ダンパーの軸方向の長さの1/60よりも大きく、この限界許容変位の条件では、前記軸方向鋼製ダンパーは、少なくとも30サイクルの引張と圧縮の交互塑性変形を完了でき、載荷能力の低下が15%未満である。
【0110】
(比較例1)
座屈拘束ブレースであって、コアでのエネルギー吸収構造および周囲拘束コンポーネントから構成される。
【0111】
前記コアでのエネルギー吸収構造の断面は、エネルギー吸収ブレースの軸方向を対称軸とする十字型の軸対称幾何学的形状を有し、軸方向に沿って中央が狭く、両端が広い。具体的には、コアでのエネルギー吸収構造は、1枚の幅広いオーステナイト相の鋼板および2枚の幅狭いオーステナイト相の鋼板から構成され、3枚のオーステナイト相の鋼板は、長手方向の長さが同じであり、幅広いオーステナイト相の鋼板の長手方向の中心線を対称軸として、2枚の幅狭いオーステナイト相の鋼板はそれぞれ、幅広いオーステナイト相の鋼板の上方および下方に設けられ、3枚のオーステナイト相の鋼板が溶接により密着に接続され、溶接継目が座屈拘束ブレースの軸方向と平行である。
【0112】
前記幅広いオーステナイト相の鋼板の幾何学的形状を図6に示す。幅広いオーステナイト相の鋼板の全長はL=2000mmであり、鋼板の中央部の長さはL=1530mmであり、幅はW=160mmであり、鋼板の厚さはT=16mmである。
【0113】
前記幅狭いオーステナイト相の鋼板の幾何学的形状を図7に示す。幅狭いオーステナイト相の鋼板の全長はl=2000mmであり、鋼板の中央部の長さはl=1530mmであり、幅はw/2=80mmであり、鋼板の厚さはt=16mmである。
【0114】
前記幅広い、幅狭いオーステナイト相の鋼板の化学成分は全く同じであり、その化学成分の質量分率は29.4%Mn、4.3%Si、1.4%Al、0.049%C、0.009%P、0.008%S、0.005%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記オーステナイト相の鋼板の降伏強度は304MPaであり、伸び率は52%である。前記オーステナイト相の鋼板のミクロ組織は、単一のオーステナイト組織であり、平均オーステナイト結晶粒径は76μmであり、降伏段階に入ると、準安定オーステナイトはひずみの作用によりεマルテンサイト相変態が発生し、引張と圧縮の繰り返し荷重の作用下では、準安定オーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトの間の可逆的な相変態が発生する。
【0115】
前記周囲拘束コンポーネントは、鋼管と内部充填コンクリートとを組み合わせて形成された拘束ケーシングである。前記周囲拘束コンポーネントと前記コアでのエネルギー吸収構造との間には非結合材料層が設けられる。
【0116】
座屈拘束ブレースは、51.4mmの変位で引張と圧縮が周期的に交互に約30サイクル加えられて疲労破壊が発生する(疲労変形中に、最大載荷能力は基本的に変化しない)。51.4mmの作動変位は、ブレースの全長の1/39に相当する。前記座屈拘束ブレースの限界許容変位は、約51.4mmである。繰り返し応力ーひずみ曲線から降伏変位を求めて約7.8mmとなる。座屈拘束ブレースの限界許容変位と降伏変位との比(即ち延性)を計算して約6.6となる。
【0117】
したがって、本比較例に記載の座屈拘束ブレースは、限界許容変位がより大きいものの、降伏変位も大きいため、限界許容変位と降伏変位との比は10を大きく下回っている。
【0118】
(比較例2)
座屈拘束ブレースであって、コアでのエネルギー吸収構造および周囲拘束コンポーネントから構成される。
【0119】
前記コアでのエネルギー吸収構造の断面は、鋼製ダンパーの軸方向を対称軸とする十字型の軸対称幾何学的形状を有し、軸方向に沿って中央が狭く、両端が広い。具体的には、コアでのエネルギー吸収構造は、1枚の幅広いフェライト相の鋼板および2枚の幅狭いフェライト相の鋼板から構成され、3枚のフェライト相の鋼板は、長手方向の長さが同じであり、幅広いフェライト相の鋼板の長手方向の中心線を対称軸として、2枚の幅狭いフェライト相の鋼板はそれぞれ、幅広いフェライト相の鋼板の上方および下方に配置され、3枚のフェライト相の鋼板は溶接により密着に接続され、溶接継目が座屈拘束ブレースの軸方向と平行である。
【0120】
前記幅広いフェライト相の鋼板の幾何学的形状を図6に示す。幅広いフェライト相の鋼板の全長は、L=2000mmであり、鋼板の中央部の長さはL=1530mmであり、幅はW=160mmであり、鋼板の厚さはT=16mmである。
【0121】
前記幅狭いフェライト相の鋼板の幾何学的形状を図7に示す。幅狭いフェライト相の鋼板の全長はl=2000mmであり、鋼板の中央部の長さはl=1530mmであり、幅はw/2=80mmであり、鋼板の厚さはt=16mmである。
【0122】
前記幅広い、幅狭いフェライト相の鋼板の化学成分はまったく同じであり、その化学成分の質量分率は、0.30%Mn、0.05%Si、0.015%C、0.05%Ti、0.012%P、0.006%S、0.006%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記フェライト相の鋼板の降伏強度は157MPaであり、伸び率は47%である。前記フェライト相の鋼板のミクロ組織は主にフェライト組織であり、平均フェライト結晶粒径は50μmである。
【0123】
前記周囲拘束コンポーネントは、鋼管と内部充填コンクリートとを組み合わせて形成された拘束ケーシングである。前記周囲拘束コンポーネントと前記コアでのエネルギー吸収構造との間には非結合材料層が設けられる。
【0124】
前記座屈拘束ブレースは、33mmの変位で伸縮と圧縮が交互に加えられて、30サイクル未満で疲労破壊が発生する。33mmの作動変位は、ブレースの全長の約1/60に相当する。したがって、本比較例における前記座屈拘束ブレースの限界許容変位は33mm未満であり、即ち、コアでのエネルギー吸収構造の軸方向の長さの1/60未満である。
【0125】
(比較例3)
軸方向鋼製ダンパーであって、コアでのエネルギー吸収構造および周囲拘束コンポーネントから構成される。
【0126】
前記コアでのエネルギー吸収構造は、1枚のオーステナイト相の鋼板および1枚のフェライト相の鋼板から構成され、オーステナイト相の鋼板およびフェライト相の鋼板は、長手方向の長さが同じであり、フェライト相の鋼板がオーステナイト相の鋼板に垂直に配置され、フェライト相の鋼板とオーステナイト相の鋼板とが溶接により密着に接続され、溶接継目が軸方向鋼製ダンパーの軸方向と平行であり、接続用溶接継目がオーステナイト相の鋼板に位置される。
【0127】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するオーステナイト相の鋼板の幾何学的形状を図6に示す。オーステナイト相の鋼板の全長はL=2000mmであり、鋼板の中央部(即ち、エネルギー吸収のコア部分)の長さはL=1530mmであり、幅はW=100mmであり、鋼板の厚さはT=16mmである。
【0128】
コアでのエネルギー吸収構造を構成するフェライト相の鋼板の幾何学的形状を図7に示す。フェライト相の鋼板の全長はl=2000mmであり、鋼板の中央部(即ちエネルギー吸収のコア部分)の長さはl=1530mmであり、幅はw/2=54mmであり、鋼板の厚さはt=16mmである。
【0129】
前記オーステナイト相の鋼板の厚さは、前記フェライト相の鋼板の厚さと同じである。フェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積と、オーステナイト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の断面積との比は、0.54(0.6未満)である。溶接して組み立てられた後、前記フェライト相の鋼板とオーステナイト相の鋼板との間の接続用溶接継目から、前記フェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の非溶接側までの距離(即ち、フェライト相の鋼板のエネルギー吸収のコア部分の幅w/2)とフェライト相の鋼板の厚さ(t)との比は、約3.4である。
【0130】
前記オーステナイト相の鋼板の化学成分およびその質量分率は、29.4%Mn、4.3%Si、1.4%Al、0.049%C、0.009%P、0.008%S、0.005%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記オーステナイト相の鋼板の平均オーステナイト結晶粒径は76μmである。前記オーステナイト相の鋼板の降伏強度は304MPaであり、伸び率は52%である。前記オーステナイト相の鋼板のミクロ組織は、単一のオーステナイト組織であり、降伏段階に入ると、準安定オーステナイトはひずみの作用によりεマルテンサイト相変態が発生し、かつα′マルテンサイト相変態が抑制され、引張と圧縮の繰り返し荷重の作用下では、準安定オーステナイトとひずみ誘起εマルテンサイトの間の可逆的な相変態が発生する。
【0131】
前記フェライト相の鋼板の化学成分およびその質量分率は、0.30%Mn、0.05%Si、0.015%C、0.05%Ti、0.012%P、0.006%S、0.006%Nであり、残部がFeおよび不可避的不純物元素である。前記フェライト相の鋼板の降伏強度は157MPaであり、伸び率は47%である。前記フェライト相の鋼板のミクロ組織は主にフェライトであり、平均フェライト結晶粒径は50μmである。
【0132】
前記周囲拘束コンポーネントは、鋼管と内部充填コンクリートとを組み合わせて形成された拘束ケーシングである。周囲拘束コンポーネントとコアでのエネルギー吸収構造との間の摩擦を除去するために、前記周囲拘束コンポーネントと前記コアでのエネルギー吸収構造との間には、非結合材料層が設けられる。
【0133】
軸方向鋼製ダンパーは、42mmの変位で引張と圧縮が周期的に交互にほぼ30サイクル加えられると、疲労破壊が発生する。前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位は約42mmである。42mm変位の繰り返し応力ーひずみ曲線から降伏変位を求めて約4.5mmとなる。軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比(即ち、延性)を計算して約9.3となる。したがって、本比較例において、前記軸方向鋼製ダンパーの限界許容変位と降伏変位との比は10未満である。
【0134】
実施例の上記の説明は、当業者が本発明を理解し、使用できるようにするためのものである。当業者であれば、創意工夫をすることなく、これらの実施例に様々な変更を容易に加え、本明細書に記載の一般原理を他の実施例に適用できることは明らかである。したがって、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、本発明の開示に基づいて、本発明の範囲を逸脱しない範囲で当業者が行う改良や修正は本発明の保護範囲内にあるものとする。
【符号の説明】
【0135】
1、フェライト相の鋼板、
11、溶接側、
12、非溶接側、
2、オーステナイト相の鋼板、
3、溶接継目、
4、周囲拘束鋼管、
5、軸方向鋼製ダンパー、
6、中間接続板、
7、鋼製ブレース、
8、球面ヒンジ、
9、コンクリート。
図1
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【国際調査報告】