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特表2024-533659ベーカリー食品の複合有害物質の生成を抑制する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】ベーカリー食品の複合有害物質の生成を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/20 20160101AFI20240905BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20240905BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20240905BHJP
   A21D 2/26 20060101ALI20240905BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20240905BHJP
   A21D 2/14 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A23L5/20
A21D13/80
A21D13/00
A21D2/26
A21D2/18
A21D2/14
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518296
(86)(22)【出願日】2021-11-24
(85)【翻訳文提出日】2024-05-22
(86)【国際出願番号】 CN2021132888
(87)【国際公開番号】W WO2023045060
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】202111113074.2
(32)【優先日】2021-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512000569
【氏名又は名称】華南理工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】李 暁璽
(72)【発明者】
【氏名】謝 雷
(72)【発明者】
【氏名】沈 少丹
(72)【発明者】
【氏名】陳 玲
(72)【発明者】
【氏名】李 冰
【テーマコード(参考)】
4B032
4B035
【Fターム(参考)】
4B032DB21
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK15
4B032DK18
4B032DK21
4B032DK42
4B032DL20
4B032DP08
4B032DP24
4B032DP40
4B035LC16
4B035LG01
4B035LG12
4B035LG15
4B035LG21
4B035LG34
4B035LP01
4B035LP02
4B035LP21
4B035LP31
(57)【要約】
本発明は、食品加工分野に属し、ベーカリー食品中の複合有害物質の生成を抑制する方法を開示している。この方法は、オボアルブミン溶液を熱変性処理し、撹拌しながらカルボキシメチルデンプンのNaCl水溶液を滴下し、撹拌を続けて複合ナノコロイド粒子分散液を得るステップ(1)と、複合ナノコロイド粒子分散液を食用油と混合して、高速せん断によって分散させ、高内相Pickeringエマルションを得るステップ(2)と、高内相Pickeringエマルションを小麦粉、食品助剤及び水と混合し、混練、圧延成形、ベーキングを行ってベーカリー食品を得るステップ(3)と、を含む。本発明は、高内相エマルションによってベーカリー食品マトリックスにおける油脂、塩イオンの分布を制御することで、メイラード反応及び油脂の酸化を効果的に制御し、ベーカリー食品中の複合有害物質の生成の抑制、減塩及び官能品質の維持という目的を同時に達成し、ベーカリー食品の安全性及び総合品質を大幅に向上させる。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベーカリー食品中の複合有害物質の生成を抑制する方法であって、
オボアルブミン溶液を熱変性処理し、撹拌しながらカルボキシメチルデンプンのNaCl水溶液を滴下し、撹拌を続けて複合ナノコロイド粒子分散液を得るステップ(1)と、
複合ナノコロイド粒子分散液を食用油と混合して、高速せん断によって分散させ、高内相Pickeringエマルションを得るステップ(2)と、
高内相Pickeringエマルションを小麦粉、食品助剤及び水と混合し、混練、圧延成形、ベーキングを行ってベーカリー食品を得るステップ(3)と、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
ステップ(1)において、前記オボアルブミン溶液の質量濃度が5%~10%であり、複合ナノコロイド粒子分散液のpHが3.2~3.8であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カルボキシメチルデンプンのNaCl水溶液において、カルボキシメチルデンプンの質量濃度が0.4%~0.6%であり、NaClの質量濃度が9.94%~24.85%であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記オボアルブミン溶液とカルボキシメチルデンプンのNaCl水溶液との混合質量比が3:1~1:3であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記オボアルブミンの熱変性処理温度が60℃~140℃であり、熱変性処理時間が10~15分間であることを特徴とする請求項1又は2又は3又は4に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(1)において、前記撹拌を続ける回転速度が400~600r/minであり、撹拌時間が0.5~0.8時間であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(2)において、前記複合ナノコロイド粒子分散液と食用油とを油水比(質量比)の(75~82):(25~18)で混合し、前記食用油がコーン油であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(2)において、前記高速せん断の速度が4000~10000r/minであり、せん断時間が1~5分間であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(3)において、前記高内相Pickeringエマルションと小麦粉との質量比が(0.73~0.80):2.5であり、前記ベーカリー食品中の食塩の含有量がビスケット質量の0.24%~0.35%であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(3)において、前記食品助剤が粉乳及び砂糖であり、前記ベーキングの条件は、150℃~180℃で10~15分間ベーキングすることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の加工過程における複合有害物質の制御分野に関し、具体的には、オボアルブミンとカルボキシメチルスターチナトリウムとの複合ナノコロイド粒子が安定した高内相Pickeringエマルションを使用して、ベーカリー食品の加工過程における5-ヒドロキシメチルフルフラール及び油脂酸化物の複合有害物質の生成を抑制する方法に関する。当該方法は、ベーカリー食品の安全性を向上させるとともに、食塩の使用量を大幅に低減させ、栄養健康機能を生かすことができる。
【背景技術】
【0002】
ベーカリー食品の高温加工時に生成される一連の派生的な有害物質は、人々の健康や安全に極めて深刻な影響をもたらしてしまう。現在の研究では、ベーカリー食品の加工過程における複合有害物質の生成を抑制する方法は主に、食品中の前駆物質の種類及び含有量の制御、食品加工方法の最適化、並びに食品加工過程における活性外因性物質の添加により有害物質の生成を抑制する。原料中の前駆物質の含有量を合理的に制御、改善して食品中の有害物質を抑制することに関しては、Shojaeeらの研究(非特許文献1)は、還元糖含有量の低いジャガイモ原料は、食品加工過程に生成されるアクリルアミドの有害物質が、還元糖含有量の高い品種よりもはるかに低いことを見出した。章宇(非特許文献2)は、アスパラギン及び還元糖含有量が低い原料を使用すること、原料の保管温度が低すぎないようにすること、原料の浸漬処理を行うこと、外因性前駆物質などの添加を避けることで、食品中の有害物質であるアクリルアミドの含有量を効果的に低減できることを見出した。しかし、原料の保管や栽培条件への要求が比較的厳しく、例えば原料の保管温度、カリウム肥料や窒素肥料の適切な施用は、食品加工過程における有害物質の生成に大きく影響を与えている。加工条件を最適化して有害物質の生成を抑制することに関しては、油揚げ、ベーキング及びローストなどの従来の熱加工処理と比べ、パルス電場、高周波加熱などの新規な食品加工技術は、食品中の有害物質の生成を効果的に軽減することができる。Mtaouaら(非特許文献3)は、低温殺菌法の代わりに高圧パルス電場処理を用いて滅菌することから、高圧パルス電場処理によりナツメジュース中の5-ヒドロキシメチルフルフラールの含有量が低下するとともに、ジュースの色を維持することができることを示した。李志剛ら(非特許文献4)は、電場強度の異なる高電圧電場(5、10、20、30kV・m-1)を使用して菜種油及び大豆油を処理し、高電圧電場で処理された2種類の油脂の過酸化物価及び酸化抑制率がいずれも対照群よりも低く、油脂の酸化過程を遅延させ、油脂の酸化安定性を向上させた。しかし、新規な食品加工技術の高コスト及び設備変更によるプロセス調整により、その産業化への応用が制限されている。外因性添加物を使用して有害物質の生成を抑制することに関しては、食品添加剤、食品助剤及びファイトケミカルなどの外因性物質の添加により有害物質の生成を効果的に抑制できることが国内外の多くの研究で示されている。ポリフェノール系物質は、カルボニル基を捕捉することにより5-ヒドロキシメチルフルフラールの生成を大幅に抑制することができ、ポテトチップス及びパンにフラバン-3-オール又はクエルセチンを添加すると、5-ヒドロキシメチルフルフラールを50%~86%低減することができる(非特許文献5)。スクロース・グルタミン酸シミュレーションシステムにガロカテキンガレートを2~10mg/mL添加すると、それぞれ5-ヒドロキシメチルフルフラールを31.93%減少させることができる(非特許文献6)。しかし、外因性添加物の使用は、食品本来の風味及び官能特性に影響を与えることなく、関連する国家規格や規制に準拠する必要があるため、その安全性、安定性及び食品本来の風味や官能品質への影響もその応用範囲を制限している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Shojaee-Aliabadi S, Nikoopour H, Kobarfard F, et al.Acrylamidereduction in potato chips by selection of potato variety grown in Iranand processing conditions[J].Journal of the Science of Food and A-griculture, 2013,93:2556-2561
【非特許文献2】章宇、食品中のアクリルアミドの生成を抑制するバイオフラボノイドのメカニズム及びその構造活性相関に関する研究[D].浙江大学博士論文、2008.
【非特許文献3】Mtaoua H, S▲アキュートアクセント付きA小文字▼nchez-Vega R, Ferchichi A, et al.Impact of High-Intensity Pulsed Electric Fields or Thermal Treatment on the Quality Attributes of Date Juice through Storage[J].Journal of Food Processing and Preservation. 2017,41:e13052.
【非特許文献4】李志剛、張薇薇、王愈ら、電場強度の異なる高電圧電場処理による油脂の抗酸化性への影響[J]、山西農業大学学報(自然科学版)、2016、36:745-750.
【非特許文献5】Ros-Polski V, Popovi▲アキュートアクセント付きC小文字▼ V, Koutchma T. Effect of ultraviolet-C light treatment on Hydroxymethylfurfural (5-HMF) content in high fructose corn syrup (HFCS) and model syrups[J].Journal of Food Engineering.2016,179:78-87.
【非特許文献6】李光磊、メイラード反応における健康有害物質の生成規律に関する研究[D]、天津科技大学、2016.
【0004】
したがって、食品の栄養機能特性に基づいて、加工生産過程において、食品中の複合有害物質の生成を効果的に低減できるとともに、食品の官能特性及びその栄養、健康、品質に悪影響を与えない方法を見つけることは、早急に解決しなければならない課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ベーカリー食品の加工過程における有害物質の生成を抑制する従来技術の不足に対して、高内相Pickeringエマルションを構築することによって、食品成分間の塩イオン、油の分布を合理的に制御して、メイラード反応及び油脂酸化有害物質の制御及び減塩の目的を達成することにある。これにより、ベーカリー食品系において食品本来の風味、官能及び栄養健康特性を確保しながら、加工過程における有害物質の生成を抑制することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の技術的手段により実現される。
【0007】
ベーカリー食品中の複合有害物質の生成を抑制する方法であって、
オボアルブミン溶液を熱変性処理し、撹拌しながらカルボキシメチルデンプンのNaCl水溶液を滴下し、撹拌を続けて複合ナノコロイド粒子分散液を得るステップ(1)と、
複合ナノコロイド粒子分散液を食用油と混合して、高速せん断によって分散させ、高内相Pickeringエマルションを得るステップ(2)と、
高内相Pickeringエマルションを小麦粉、食品助剤及び水と混合し、混練、圧延成形、ベーキングを行ってベーカリー食品を得るステップ(3)と、を含む。
【0008】
好ましくは、ステップ(1)において、前記オボアルブミン溶液の質量濃度が5%~10%であり、複合ナノコロイド粒子分散液のpHが3.2~3.8である。
【0009】
好ましくは、前記カルボキシメチルデンプンのNaCl水溶液において、カルボキシメチルデンプンの質量濃度が0.4%~0.6%であり、NaClの質量濃度が9.94%~24.85%である。
【0010】
好ましくは、前記オボアルブミン溶液とカルボキシメチルデンプンのNaCl水溶液との混合質量比が3:1~1:3である。
【0011】
好ましくは、前記オボアルブミンの熱変性処理温度が60℃~140℃であり、熱変性処理時間が10~15分間である。
【0012】
好ましくは、ステップ(1)において、前記撹拌を続ける回転速度が400~600r/minであり、撹拌時間が0.5~0.8時間である。
【0013】
好ましくは、ステップ(2)において、前記複合ナノコロイド粒子分散液と食用油とを油水比(質量比)の(75~82):(25~18)で混合し、前記食用油がコーン油である。
【0014】
好ましくは、ステップ(2)において、前記高速せん断の速度が4000~10000r/minであり、せん断時間が1~5分間である。
【0015】
好ましくは、ステップ(3)において、前記高内相Pickeringエマルションと小麦粉との質量比が(0.73~0.80):2.5であり、前記ベーカリー食品中の食塩の含有量がビスケット質量の0.24%~0.35%である。
【0016】
好ましくは、ステップ(3)において、前記食品助剤が粉乳及び砂糖であり、前記ベーキングの条件は、150℃~180℃で10~15分間ベーキングする。
【0017】
ベーカリー食品の加工過程において各原料が複数の複雑な成分の混合により水油混合系を形成するため、異なる食品成分間で相互反応の相乗効果又は抑制効果が発生する。本発明は、Pickeringエマルション技術を使用して、有害物質の前駆体又は促進因子又は栄養成分を内包し、食品成分の分布を調整する方法を提案することにより、有害物質の生成を抑制しながら、食品の良好な官能特性及び栄養品質を維持するという目的を達成する。製造された高内相Pickeringエマルションは、良好な熱安定性を有し、該エマルションによるNaの担持及び内包保護により、ベーカリー食品中の5-メチルフルフラールの有害物質の生成を抑制し、Naの味蕾への刺激を高め、塩味を増強して減塩の目的を達成することができる。そして、油脂の高温ベーキング過程における油脂酸化物などの生成を低減し、複合有害物質の生成を相乗的に抑制し、ベーカリー食品の食感、栄養健康及び安全性を確保することができる。
【発明の効果】
【0018】
従来技術に比べて、本発明の有益な効果は、以下の通りである。
(1)本発明に係る高内相Pickeringエマルションにより複合有害物質の生成を抑制する方法は、プロセスが簡単で、産業的生産に適し、ベーカリー食品の本来の風味や食感を変更せず、食塩の使用量を効果的に低減し(市販ビスケットと比べて30~52%の食塩含量を低減する)、栄養・健康機能特性を大幅に向上させることができる。
(2)本発明に係る変性デンプン-タンパク質複合微粒子に基づく高内相Pickeringエマルション系は、成分の内包保護及び食品マトリックスにおける分布制御を実現し、ベーカリー食品の加工過程における複合有害物質の生成を抑制し、ベーカリー食品の安全性を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1-a】図1-aは、油相率の異なる高内相エマルションビスケット中の5-ヒドロキシメチルフルフラールの含有量を示す図である。
図1-b】図1-bは、油相率の異なる高内相エマルションビスケット中のヒドロペルオキシドの含有量を示す図である。
図1-c】図1-cは、油相率の異なる高内相エマルションビスケット中のマロンジアルデヒドの含有量を示す図である。
図2図2は、油相率の異なる高内相エマルションビスケットの市販ビスケットに対する減塩量を示す図である。
図3図3は、油相率の異なる高内相エマルションビスケットの総合官能評点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の方法をよりよく理解するために、製造例及び実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明の方法の実施形態は、実施例に記載された範囲に限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
オボアルブミン溶液の調製:10kgのオボアルブミン粉末を100kgの脱イオン水に溶解し、25℃で2時間撹拌した後、タンパク質が完全に水和するように4℃で一晩放置して、質量濃度が9.09%のオボアルブミン溶液を調製した。
【0022】
カルボキシメチルデンプンのNaCl水溶液の調製:295.22kgの水に1.98kgのカルボキシメチルデンプンを加え、さらに32.80kgのNaClを加え、混合してカルボキシメチルデンプンのNaCl水溶液を調製し、カルボキシメチルデンプンの質量濃度が0.6%、NaClの質量濃度が9.94%であった。
【0023】
表1の処理条件に従い、1.1kgのオボアルブミン溶液をそれぞれ熱変性処理し、撹拌しながらカルボキシメチルデンプンのNaCl水溶液をオボアルブミン溶液に滴下し、磁気撹拌してオボアルブミン-カルボキシメチルデンプンナトリウム複合ナノコロイド粒子分散液を得た。
【0024】
【表1】
【0025】
得られた複合コロイド粒子の界面接触角及び熱安定性を、ビデオ光学接触角測定器及び示差走査熱量計により測定した結果を表2に示した。高内相エマルションの安定性要件及びベーキング系への使用を満たすように、適切な界面濡れ性及び熱安定性を有する複合コロイド粒子を選択して、後続の実施例に使用してさらに説明する。
【0026】
【表2】
【0027】
(実施例2)
オボアルブミン-カルボキシメチルデンプンナトリウム複合ナノコロイド粒子分散液を表2の条件7に従って調製した。1.1kgのオボアルブミン溶液を取り、100℃で15分間熱変性処理した。次いで、撹拌しながらカルボキシメチルデンプンナトリウム溶液3.3kgをオボアルブミン溶液に滴下し、600r/minで0.5時間磁気撹拌してオボアルブミン-カルボキシメチルデンプンナトリウム複合ナノコロイド粒子分散液を得た。その後、この分散液4.4kgをコーン油13.2kgと混合し、8000r/minで2分間高速せん断して、油水質量比が75%の高内相Pickeringエマルションを得た。
【0028】
上記で得られた17.6kgの高内相Pickeringエマルション(0.3280kgのNaCl、13.2kgのコーン油を含む)を、55kgの薄力小麦粉、0.77kgの粉乳、17.6kgの白砂糖、15.4kgの純水と十分に混合し、混練、成形した後、150℃で15分間ベーキングし、冷却してビスケット(得られたビスケットの含水量は6.41%で、計算により得られたビスケットの食塩含量は0.35%である)を得、エマルション群とした。
対照群:ビスケット中の食塩及び油は、それぞれ食塩0.3280kg及びコーン油13.2kgであり、その他の配合成分はエマルション群と同じであった。エマルション群と異なるのは、添加された食塩及びコーン油が高内相Pickeringエマルションに内包されておらず、ビスケット系に直接分散されていることである。
市販群:参考文献に記載されている製造プロセスに従って適切な調整を施すことで、ビスケットの食塩含量は0.5%であった(Hadnadev T D, Hadnadev M, Pojic M, et al.Functionality of OSA starch stabilized emulsions as fat replacers in cookies[J].Journal of Food Engineering,2015,167:133-138;Sanz T, Quiles A, Salvador A, et al.Structural changes in biscuits made with cellulose emulsions as fat replacers[J].Food Science and Technology International,2017,23:480-489;Taranc▲アキュートアクセント付きO小文字▼n P, Salvador A, Sanz T. Sunflower Oil-Water-Cellulose Ether Emulsions as Trans-Fatty Acid-Free Fat Replacers in Biscuits:Texture and Acceptability Study[J].Food&Bioprocess Technology,2013,6(9):2389-2398.)。
【0029】
製造されたビスケットの代表的な有害物質である5-ヒドロキシメチルフルフラール及び油脂酸化有害物質(ヒドロペルオキシド及びマロンジアルデヒド)の含有量を測定するとともに、味覚分析システムによりビスケットの塩味を測定し、また、ビスケットの全体的な官能品質(外観、色合い、組織、食感、風味)をファジィ論理により評価した。満点は4点とし、試験測定結果は以下のとおりである。
【0030】
表3は、本実施例で製造されたビスケット中の複合有害物質の含有量の測定結果であり、表4は、ビスケットのテクスチャー特性及び官能評点である。表3からわかるように、対照群と比べて、本実施例で製造された高内相エマルション群のビスケット中の有害物質の生成量が大幅に低下し、5-ヒドロキシメチルフルフラールの含有量が48.74%低下し、ヒドロペルオキシドの含有量が24.20%低下し、マロンジアルデヒドの含有量が3.65%低下し、そのテクスチャー特性に有意差がなく、塩味が23.29%増加し、官能評点が上昇した(表4に示すように、エマルション群は3.26点、対照群は3.22点である)。食塩及びコーン油の添加量が同じである場合に、本発明で製造された高内相エマルションを使用して食塩及び油脂成分を内包することによって、ビスケット系の高温ベーキング加工過程における複合有害物質の生成を抑制し、ビスケットの塩味の知覚を明らかに高めることができる。市販群と比べて、本実施例で製造された高内相エマルション群のビスケット中の有害物質の生成量がいずれも低下し、5-ヒドロキシメチルフルフラールの含有量が54.05%低下し、ヒドロペルオキシドの含有量が46.51%低下し、マロンジアルデヒドの含有量が17.69%低下し、そのテクスチャー特性に有意な差がなく、塩味が15.77%増加し(食塩含量が30%低下し)、官能評点が上昇した(表4に示すように、エマルション群は3.26点、市販群は3.24点である)。本発明によって製造された高内相Pickeringエマルションをビスケット系に適用することができ、該高内相エマルションを使用することで、ビスケットのベーキング加工過程におけるメイラード反応による有害物質及び油脂酸化による有害物質の含有量を低減し、ビスケットベーキング系における複合有害物質の生成を効果的に抑制することができる。また、有害物質の生成の抑制や減塩という目的を達成するとともに、そのテクスチャー特性に影響を与えることなく、ビスケットの官能品質をある程度改善することができる。
【0031】
【表3】
【0032】
【表4】
【0033】
(実施例3)
0.8250kgのオボアルブミン溶液(質量濃度が9.09%)を取り、100℃で15分間熱変性処理した。次いで、撹拌しながらカルボキシメチルデンプンナトリウム溶液2.4750kg(カルボキシメチルデンプンの質量濃度が0.6%、NaClの質量濃度が9.94%、pH=3.5)をオボアルブミン溶液に滴下し、600r/minで0.5時間磁気撹拌してオボアルブミン-カルボキシメチルデンプンナトリウム複合ナノコロイド粒子分散液を得た。その後、この分散液3.3kgをコーン油13.2kgと混合し、4000r/minで5分間高速せん断して、油水質量比が80%の高内相Pickeringエマルションを得た。
【0034】
上記で得られた16.5kgの高内相Pickeringエマルション(0.2460kgのNaCl、13.2kgのコーン油を含む)を、55kgの薄力小麦粉、0.77kgの粉乳、17.6kgの白砂糖、15.4kgの純水と十分に混合し、混練、成形した後、160℃で12分間ベーキングし、冷却してビスケット(得られたビスケットの含水量は6.47%で、計算により得られたビスケットの食塩含量は0.26%である)を得、エマルション群とした。
対照群:ビスケット中の食塩及び油は、それぞれ0.2460kgの食塩及び13.2kgのコーン油であり、その他の配合成分はエマルション群と同じであった。
【0035】
製造されたビスケットの5-ヒドロキシメチルフルフラール及び油脂酸化有害物質(ヒドロペルオキシド及びマロンジアルデヒド)の含有量を測定するとともに、味覚分析システムによりビスケットの塩味を測定し、また、ビスケットの全体的な官能品質(外観、色合い、組織、食感、風味)をファジィ論理により評価した。満点は4点とし、試験測定結果は以下のとおりである。
【0036】
表5は、本実施例で製造されたビスケット中の複合有害物質の含有量の測定結果であり、表6は、ビスケットのテクスチャー特性及び官能評点である。表5からわかるように、対照群と比べて、本実施例で製造された高内相エマルション群のビスケット中の有害物質の生成量が低下し、5-ヒドロキシメチルフルフラールの含有量が41.84%低下し、ヒドロペルオキシドの含有量が16.80%低下し、マロンジアルデヒドの含有量が7.70%低下し、そのテクスチャー特性に有意な差がなく、塩味が5.64%増加し、官能評点がわずかに低下したが、大きな差はなかった(表6に示すように、エマルション群は3.09点、対照群は3.38点である)。食塩及びコーン油の添加量が同じである場合に、本発明で製造された高内相エマルションを使用することにより、ビスケットのベーキング加工過程における複合有害物質の生成を抑制し、ビスケットの塩味の知覚を高めることができる。市販群と比べて、本実施例で製造された高内相エマルション群のビスケット中の有害物質の生成量がいずれも低下し、5-ヒドロキシメチルフルフラールの含有量が63.06%低下し、ヒドロペルオキシドの含有量が46.11%低下し、マロンジアルデヒドの含有量が16.11%低下し、そのテクスチャー特性に有意な差がなく、塩味がやや低下した(食塩含量が48%低下した)が、両者の間には有意な差がなく、官能評点が低下したが、大きな差はなかった。
【0037】
【表5】
【0038】
【表6】
【0039】
(実施例4)
0.7250kgのオボアルブミン溶液(質量濃度が9.09%)を取り、100℃で15分間熱変性処理した。次いで、撹拌しながらカルボキシメチルデンプンナトリウム溶液2.1750kg(カルボキシメチルデンプンの質量濃度が0.6%、NaClの質量濃度が9.94%、pH=3.5)をオボアルブミン溶液に滴下し、600r/minで0.5時間磁気撹拌してオボアルブミン-カルボキシメチルデンプンナトリウム複合ナノコロイド粒子分散液を得た。その後、この分散液2.9kgをコーン油13.2kgと混合し、10000r/minで1分間高速せん断して、油水質量比が82%の高内相Pickeringエマルションを得た。
【0040】
上記で得られた16.1kgの高内相Pickeringエマルション(0.2162kgのNaCl、13.2kgのコーン油を含む)を、55kgの薄力小麦粉、0.77kgの粉乳、17.6kgの白砂糖、15.4kgの純水と十分に混合し、混練、成形した後、180℃で10分間ベーキングし、冷却してビスケット(得られたビスケットの含水量は6.38%、得られたビスケットの食塩含量は0.24%と計算した)を得、エマルション群とした。
対照群:ビスケット中の食塩及び油は、それぞれ0.0984kgの食塩及び6kgのコーン油であり、薄力小麦粉が25kgであり、その他の配合成分はエマルション群と同じであった。
【0041】
製造されたビスケットの5-ヒドロキシメチルフルフラール及び油脂酸化有害物質(ヒドロペルオキシド及びマロンジアルデヒド)の含有量を測定するとともに、味覚分析システムによりビスケットの塩味を測定し、また、ビスケットの全体的な官能品質(外観、色合い、組織、食感、風味)をファジィ論理により評価した。満点は4点とし、試験測定結果は以下のとおりである。
【0042】
表7は、本実施例で製造されたビスケットベーキング系中の複合有害物質の含有量の測定結果であり、表8は、ビスケットのテクスチャー特性及び官能評点である。表7からわかるように、対照群と比べて、本実施例で製造された高内相エマルション群のビスケット中の有害物質の生成量が低下し、5-ヒドロキシメチルフルフラールの含有量が34.15%低下し、ヒドロペルオキシドの含有量が31.62%低下し、マロンジアルデヒドの含有量が13.13%低下し、そのテクスチャー特性に有意な差がなく、塩味が3.15%有意に増加し、官能評点が上昇した(表8に示すように、エマルション群は3.35点、対照群は3.30点である)。食塩及びコーン油の添加量が同じである場合に、本発明で製造された高内相エマルションを使用することにより、ビスケットのベーキング加工過程における複合有害物質の生成を抑制し、ビスケットの塩味の知覚を高めることができる。市販群と比べて、本実施例で製造された高内相エマルション群のビスケット中の有害物質の生成量がいずれも低下し、5-ヒドロキシメチルフルフラールの含有量が75.68%低下し、ヒドロペルオキシドの含有量が46.00%低下し、マロンジアルデヒドの含有量が27.42%低下し、そのテクスチャー特性に有意な差がなく、塩味がやや低下した(食塩含量が52%低下した)が、両者の間には有意な差がなく、官能評点が上昇した。
【0043】
【表7】
【0044】
【表8】
【0045】
上記実施例2、3、4からわかるように、本発明で製造された高内相Pickeringエマルションは、対照群及び市販群と比べて、ビスケットのベーキング加工過程における複合有害物質の生成を抑制するとともに、減塩及びビスケットのテクスチャー及び色あい、食感、風味等の官能品質の改善という効果を得ることができる。油相率が増加するにつれて、ビスケット中の5-ヒドロキシメチルフルフラールの含有量が徐々に低減し、ヒドロペルオキシドの含有量があまり変化せず、マロンジアルデヒドの含有量が低下し、総合官能評点がわずかに上昇し、市販ビスケットと比べて、その減塩量が上昇傾向を示した。結果からわるように、油相率が82%である場合に、高内相Pickeringエマルションは、ビスケット系中のメイラード反応及び油脂酸化による複合有害物質に対して最も優れた抑制効果を示し、高い減塩量及び官能品質の維持を実現でき、ビスケットの安全性及び栄養健康、官能品質特性を総合的に向上させることができる。
【0046】
以上の実施例は、本発明の技術的手段を説明するためのものに過ぎず、限定するためのものではないことは明らかである。上述した実施例を参照して本発明を詳細に説明したが、当業者であれば、上述した実施例に記載の技術的手段を修正するか、又はその一部の技術的特徴を同等に置換することができ、これらの修正又は置換は、対応する技術的手段の趣旨を本発明が保護を求める技術的手段の精神及び範囲から逸脱させないことを理解すべきである。
【0047】
(付記)
(付記1)
ベーカリー食品中の複合有害物質の生成を抑制する方法であって、
オボアルブミン溶液を熱変性処理し、撹拌しながらカルボキシメチルデンプンのNaCl水溶液を滴下し、撹拌を続けて複合ナノコロイド粒子分散液を得るステップ(1)と、
複合ナノコロイド粒子分散液を食用油と混合して、高速せん断によって分散させ、高内相Pickeringエマルションを得るステップ(2)と、
高内相Pickeringエマルションを小麦粉、食品助剤及び水と混合し、混練、圧延成形、ベーキングを行ってベーカリー食品を得るステップ(3)と、を含むことを特徴とする方法。
【0048】
(付記2)
ステップ(1)において、前記オボアルブミン溶液の質量濃度が5%~10%であり、複合ナノコロイド粒子分散液のpHが3.2~3.8であることを特徴とする付記1に記載の方法。
【0049】
(付記3)
前記カルボキシメチルデンプンのNaCl水溶液において、カルボキシメチルデンプンの質量濃度が0.4%~0.6%であり、NaClの質量濃度が9.94%~24.85%であることを特徴とする付記2に記載の方法。
【0050】
(付記4)
前記オボアルブミン溶液とカルボキシメチルデンプンのNaCl水溶液との混合質量比が3:1~1:3であることを特徴とする付記3に記載の方法。
【0051】
(付記5)
前記オボアルブミンの熱変性処理温度が60℃~140℃であり、熱変性処理時間が10~15分間であることを特徴とする付記1又は2又は3又は4に記載の方法。
【0052】
(付記6)
ステップ(1)において、前記撹拌を続ける回転速度が400~600r/minであり、撹拌時間が0.5~0.8時間であることを特徴とする付記5に記載の方法。
【0053】
(付記7)
ステップ(2)において、前記複合ナノコロイド粒子分散液と食用油とを油水比(質量比)の(75~82):(25~18)で混合し、前記食用油がコーン油であることを特徴とする付記6に記載の方法。
【0054】
(付記8)
ステップ(2)において、前記高速せん断の速度が4000~10000r/minであり、せん断時間が1~5分間であることを特徴とする付記7に記載の方法。
【0055】
(付記9)
ステップ(3)において、前記高内相Pickeringエマルションと小麦粉との質量比が(0.73~0.80):2.5であり、前記ベーカリー食品中の食塩の含有量がビスケット質量の0.24%~0.35%であることを特徴とする付記8に記載の方法。
【0056】
(付記10)
ステップ(3)において、前記食品助剤が粉乳及び砂糖であり、前記ベーキングの条件は、150℃~180℃で10~15分間ベーキングすることを特徴とする付記9に記載の方法。

図1-a】
図1-b】
図1-c】
図2
図3
【国際調査報告】