(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】ヒドロホルミル化における異性体比の改善された調整のための方法
(51)【国際特許分類】
C07C 45/50 20060101AFI20240905BHJP
C07C 47/02 20060101ALI20240905BHJP
B01J 31/24 20060101ALI20240905BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
C07C45/50
C07C47/02
B01J31/24 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518398
(86)(22)【出願日】2022-09-20
(85)【翻訳文提出日】2024-05-14
(86)【国際出願番号】 EP2022076089
(87)【国際公開番号】W WO2023046677
(87)【国際公開日】2023-03-30
(32)【優先日】2021-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507254975
【氏名又は名称】オーキュー・ケミカルズ・ゲゼルシャフト・ミト・べシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】バルツァレク・クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ヒュッターマン・ラース
(72)【発明者】
【氏名】ヨーネン・ライフ
(72)【発明者】
【氏名】マイアー・グレーゴル
(72)【発明者】
【氏名】ムーゼンブロック・マルセル
(72)【発明者】
【氏名】エーリイェクラウス・ユリアン
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】フォーゲルザング・デニス
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169AA15
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC71A
4G169BC71B
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4G169BE27A
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4G169FC08
4H006AA02
4H006AC21
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4H006BB14
4H006BC10
4H006BC31
4H006BC33
4H006BC36
4H006BD60
4H006BE20
4H006BE40
4H039CA62
4H039CF10
4H039CL45
(57)【要約】
本発明は、水素および一酸化炭素の存在下での、リン含有有機錯体配位子の混合物を含むロジウム含有錯体触媒における、1-オレフィンのヒドロホルミル化のための方法に関し、ここで、反応は、180℃以上かつ250℃以下の沸点を有する溶媒の群から選択される溶媒中で、アリールホスフィン類およびシクロアルキルホスフィン類からなる群から選択される少なくとも2つの異なる錯体配位子を有する触媒錯体における50ppm以上かつ250ppm以下のロジウム濃度で行われる。本発明はさらに、2段階のヒドロホルミル化-反応カスケードの枠内における本発明による方法の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-オレフィンを、水素および一酸化炭素の存在下で、リン含有有機錯体配位子の混合物を含むロジウム含有錯体触媒において反応させることによる、1-オレフィンのヒドロホルミル化のための方法であって、前記反応は、0.5MPa以上かつ5MPa以下の圧力範囲において、および180℃以上かつ250℃以下の沸点を有する溶媒の群から選択される溶媒中で、アリールホスフィンおよびジ-もしくはトリ-シクロアルキルホスフィンからなる群から選択される少なくとも2つの異なる錯体配位子を有する触媒錯体における50ppm以上かつ250ppm以下のロジウム濃度で行われ、有機リン配位子全量におけるシクロアルキルホスフィンの割合は、1モル%以上かつ67モル%以下であり、ロジウムのモル量によって除した有機リン配位子のモル量として表される、ロジウムに対する有機リン配位子のモル比が85以下であることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
ヒドロホルミル化が、80℃以上かつ140℃以下の温度範囲において行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
シクロアルキルホスフィン配位子のモル量によって除したアリールホスフィン配位子のモル量として表される、シクロアルキルホスフィン配位子に対するアリールホスフィン配位子のモル比が、0.5以上かつ75以下である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ロジウムに対するアリールホスフィン配位子のモル比が、5以上かつ75以下である、請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
ロジウムに対するシクロアルキルホスフィン配位子のモル比が、1以上かつ10以下である、請求項1~4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
アリールホスフィンがトリフェニルホスフィンである、請求項1~5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
シクロアルキルホスフィンがトリシクロヘキシルホスフィンである、請求項1~6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
1-オレフィンが、C3~C8オレフィンまたはそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
1-オレフィンのモル量によって除した(H
2モル量+COモル量)として表される、合成ガスと1-オレフィンのモル比が、1:1以上かつ5:1以下である、請求項1~8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
錯体触媒における1-オレフィンのヒドロホルミル化のための、請求項1~9のいずれか1つに記載の方法の使用であって、ヒドロホルミル化が2つのステップで実施され、第1のプロセスステップ内において、反応は、アリールホスフィン配位子を含みシクロアルキルホスフィン配位子を含まないロジウム含有錯体触媒の存在下で、C10以上の鎖長を有するアルコール、アセタールまたはアルカンあるいはそれらの混合物からなる群から選択される溶媒において実施され、第2のプロセスステップ内において、180℃以上かつ250℃以下の沸点を有するさらに別の溶媒、および追加的にシクロアルキルホスフィン配位子が、第1のプロセスステップの反応混合物に添加される、前記使用。
【請求項11】
第2のプロセスステップにおける溶媒が、C8以上の鎖長を有するアルコール、C13以上の鎖長を有するアセタール、C10以上の鎖長を有するアルカン、またはこの群からの少なくとも2種の成分の混合物からなる群から選択される、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
第1のプロセスステップの溶媒量に対する、第2のプロセスステップにおいて添加される溶媒の重量比が、4以上かつ20以下である、請求項10または11に記載の使用。
【請求項13】
第1のプロセスステップにおけるアリールホスフィン配位子の濃度が、プロセス溶液の全重量を基準として、10重量%以上かつ30重量%以下である、請求項10~12のいずれか1つに記載の使用。
【請求項14】
第2のプロセスステップにおいて添加されるシクロアルキルホスフィンの濃度が、プロセス溶液の全重量を基準として、0.01重量%以上かつ1重量%以下である、請求項10~13のいずれか1つに記載の使用。
【請求項15】
ロジウムの全量が、第1のプロセスステップにおいて添加される、請求項10~14のいずれか1つに記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素および一酸化炭素の存在下における、リン含有有機錯体配位子の混合物を含むロジウム含有錯体触媒での、1-オレフィンのヒドロホルミル化のための方法に関し、ここで、反応は、180℃以上かつ250℃以下の沸点を有する溶媒の群から選択される溶媒中で、アリールホスフィン類およびジ-もしくはトリ-シクロアルキルホスフィン類からなる群から選択される少なくとも2つの異なる錯体配位子を有する触媒錯体における50ppm以上かつ250ppm以下のロジウム濃度で行われる。本発明はさらに、2段階のヒドロホルミル化-反応カスケードの枠内における本発明による方法の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロホルミル化反応において、オレフィンは、一酸化炭素と水素の合成ガス混合物により、有機配位子で錯化された金属の存在下で、オレフィンと比較して追加的な炭素を有するアルデヒドに転化される。この反応原理は、前世紀にドイツのOtto Roelenによって開発され、均一触媒の分野で基本的な反応をなす。得られるアルデヒドは、さらなる処理工程において、例えば、カルボン酸に酸化されるか、またはアルコールに水素化されるか、または他の方法で転化され得る。アルデヒド自体および他の反応生成物は、重要な工業用の出発物質を形成し、大規模に、例えば、溶媒、添加剤、軟化剤および潤滑剤のための原料として使用される。
【0003】
ヒドロホルミル化プロセスは、位置選択性自体に関しては非特異的であり、1-またはα-オレフィンに関しては、直鎖状(n-)および分岐状(イソ)-生成物アルデヒドの混合物をもたらす。イソ選択的反応のための工業的に適した代替の合成経路がないため、この大規模な反応では、異性体混合物を原則的に維持することが受け入れられた。この妥協は、非置換の直鎖状1-オレフィンが電子的または立体的に有利な特徴を有していないため、化学的観点から、C2炭素位置での立体選択的ヒドロホルミル化が困難であることが原因であり得る。得られる異性体比は、使用される触媒に関して、優勢な反応条件の複雑な関数であり、およびここでは特に触媒の配位子圏(Ligandensphaere)の形成が、異性体生成物組成に大きな影響を及ぼす。近年、工業的関心の大部分は、n-アルデヒドの収率の増加に向けたプロセス最適化にある。最近になって初めて、対応する分岐状アルデヒドに対する必要性が高まってきており、そこでは純粋な立体選択性に加えて、高い選択性および十分な転化率という意味での反応全体の経済性も当然に、境界条件として考慮されなければならない。
【0004】
特許文献にも、ヒドロホルミル化反応に関して異性体比に特定の影響を及ぼせることを意図した多くの方法手順が見出される。
【0005】
例えば、WO2013 181188A1(特許文献1)には、以下を含む、アルデヒドの製造のための方法が開示されている:a)触媒組成物と第1のオレフィンとをヒドロホルミル化条件下で接触させて触媒配位子組成物を製造すること;およびb)前記触媒配位子組成物の存在下で第2のオレフィン、水素および一酸化炭素を接触させてアルデヒドを生成すること、ここで、第2のオレフィンはプロピレンであり、第1のオレフィンは第2のオレフィンより長い炭素鎖を有し、触媒配位子組成物はトリス(3-ピリジル)ホスフィン、マグネシウム中心テトラフェニルポルフィリン配位錯体および配位子を含み、前記配位子は、ロジウムカルボニル結合への第1のオレフィンの挿入によってin situで形成される。
【0006】
別の特許文献であるEP3156127A1(特許文献2)には、触媒組成物が記載されている。前記触媒組成物は以下を含む:特定の単座ホスファイト配位子;特定の単座ホスフィン配位子;および下記式3で表される遷移金属触媒:
【0007】
【化1】
ここで、単座ホスファイト配位子および単座ホスフィン配位子を含めた配位子全体の含有率は、遷移金属触媒1モルを基準として1~33モルであり、触媒の配位子R1、R2、R3、R’1、R’2およびR’3はそれぞれ独立して以下:5~20個の炭素原子を有する置換されたまたは置換されていないシクロアルキル-またはシクロアルケニル基;または6~36個の炭素原子を有する置換されたまたは置換されていないアリール基を表し;R1、R2、R3、R’1、R’2およびR’3が置換基によって置換されている場合、置換基は、ニトロ(-NO
2)、フッ素(-F)、塩素(-Cl)、臭素(-Br)、または1~20個の炭素原子を有するアルキル基であり;Mは、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)およびオスミウム(Os)からなる群から選択され;L
1、L
2およびL
3は、それぞれ独立して、水素、カルボニル(CO)、シクロオクタジエン、ノルボルネン、塩素、トリフェニルホスフィン(TPP)およびアセチルアセトナト(AcAc)からなる群から選択される1種を表し、x、yおよびzは、それぞれ独立して、0~5を表し、ただし、x、yおよびzは全てがゼロではなく、単座ホスファイト配位子および単座ホスフィン配位子の各々の含有率は、遷移金属触媒1モルを基準として0.5~32.5モルであり、単座ホスファイト配位子および単座ホスフィン配位子の混合比は、重量基準で5:1~1:5である。
【0008】
WO2009/035204A1(特許文献3)には、トリフェニルホスフィン配位子、単座ホスフィン配位子、単座ホスフィンオキシド配位子および遷移金属触媒を含む触媒組成物、ならびにそれを使用するヒドロホルミル化方法が記載されている。当該発明に従う触媒組成物を使用するヒドロホルミル化方法では、高い触媒活性を得ることができ、ノルマル-またはイソアルデヒドに関する選択性(n/iso-選択性)を所望のように制御することができる。
【0009】
従来技術から知られているこのような解決策はなおも、さらなる改善の可能性を呈し得る。これは、特に、高い転化率および高い収率の境界条件を維持しながら、所望の異性体比を制御することに関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2013 181188A1
【特許文献2】EP3156127A1
【特許文献3】WO2009/035204A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の課題は、従来技術から知られている欠点を少なくとも部分的に克服することである。特に、本発明の課題は、高い転化率および収率で、異性体比の制御、特に高い割合のイソアルデヒドの製造を可能にする方法を提供することである。さらに、本発明の課題は、前記方法の効率的な使用であって、本発明による方法を上流のプロセスステップと連結することにより、様々な量のアルデヒド異性体を柔軟に製造するための改善された全体的な方法手順が可能となる前記使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題は、本発明に従う方法および多段階製造の枠内における前記方法の本発明に従う使用に向けられた、独立請求項の特徴によって解決される。本発明の好ましい実施態様は、従属請求項、明細書または図面において示され、ここで、従属請求項、明細書もしくは図において記載されるもしくは示されるさらなる特徴は、文脈が明らかに反対を示さない限り、個々に、または任意の組み合わせで、本発明の対象をなすことができる。
【0013】
本発明によれば、上記課題は、1-オレフィンを、水素および一酸化炭素の存在下で、リン含有有機錯体配位子の混合物を含むロジウム含有錯体触媒において反応させることによる、1-オレフィンのヒドロホルミル化のための方法であって、前記反応は、0.5MPa以上かつ5MPa以下の圧力範囲において、および180℃以上かつ250℃以下の沸点を有する溶媒の群から選択される溶媒中で、アリールホスフィン類およびジ-もしくはトリ-シクロアルキルホスフィン類からなる群から選択される少なくとも2つの異なる配位子を有する触媒錯体における50ppm以上かつ250ppm以下のロジウム濃度で行われ、有機リン配位子全量におけるシクロアルキルホスフィン類の割合は、1モル%以上かつ67モル%以下であり、ロジウムのモル量によって除した有機リン配位子のモル量として表される、ロジウムに対する有機リン配位子のモル比が85以下である前記方法によって、解決される。
【0014】
驚くべきことに、本発明による方法手順により、従来技術において通常利用可能な方法の特徴と比較して、特に多量の分岐状アルデヒドを1-オレフィンから製造できることが見出されたが、イソアルデヒドの高い割合は、オレフィン転化率の低下や、全体としてアルデヒドに向けた選択性の低下によらずに、得られなければならない。従って、反応は、有利には、高い速度、高い転化率、および非常に少量の望ましくない副生成物で行うことができ、これはもちろん、プロセス全体の経済性に影響を及ぼす。理論に束縛されるものではないが、これは特に、溶媒選択と組み合わされた、触媒の特定の配位子環境、全体として使用される触媒量の有利な組み合わせに起因すると考えられ、これは、一方では合成ガスの妨げなれないアクセスを可能にし、他方では、触媒環境の立体的な形成により、生産性を失うことなく、高量のイソアルデヒドをもたらす。異性体比に対する個々の配位子の基本的な効果は知られているが、イソ異性体へのシフトは、生産性の著しい損失という犠牲を払うものであった。これまでのところ、同時に高いイソ割合をもたらしながら、効率的な生産に適したプロセス条件を創出することは不可能であった。さらに、本発明による方法は、改善された方法手順が、低圧力範囲で、かつ比較的少ない触媒量で達成することができ、このことはさらに、投資コストおよびランニングコストに関して、プロセス全体の経済性の改善に寄与するので、有利である。
【0015】
本発明による方法は、1-オレフィンのヒドロホルミル化のための方法である。1-またはα-オレフィンは、炭化水素の1位に少なくとも1つの末端二重結合を有する置換されたまたは置換されていない脂肪族または芳香族炭化水素である。前記二重結合は、芳香族系に組み入れられていない。1-オレフィンの可能な炭素数は、例えば、15まで、好ましくは10まで、さらに好ましくは8までであり得る。異なる1-オレフィンの混合物も反応させることができ、その場合、オレフィンの各々が相応に末端二重結合を有する。この群の可能な代表例は、例えば、エテン、プロペン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンまたはスチレンであることができる。適切なオレフィン出発物質は、オレフィン骨格の別の位置において、さらに別の官能基を、これらが本発明のヒドロホルミル化を妨げない限り、有することができる。
【0016】
ヒドロホルミル化は、水素および一酸化炭素の存在下での、リン含有有機錯体配位子の混合物を含むロジウム含有錯体触媒による1ーオレフィンの転化によって、行われる。オレフィンがヒドロホルミル化され、すなわち、オレフィンが、本質的に水素および一酸化炭素からなる合成ガスの存在下での反応ゾーン中で、触媒において、オレフィン基をアルデヒド基に転化されながら、反応させられる。得られるアルデヒドは、出発オレフィンよりも1個多いC原子を有する。本発明による方法は、任意の適切な反応容器中で実施することができる。好適な反応容器としては、例えば、ガススパージャー反応器(Gas-Sparged-Reaktoren)、液体排出口を有する反応器、撹拌器を有するタンク反応器、いわゆるトリクルベッド反応器などが挙げられる。供給される合成ガスの量およびその組成は、広い範囲内で変動し得る。典型的には、水素と一酸化炭素の比は、0.5:1~10:1、より好ましくは1:1~6:1の範囲であり得る。
【0017】
オレフィンのアルデヒドへの反応は、ロジウム金属触媒によって行われ、ロジウムは、そのままではなく、有機配位子ならびに一酸化炭素および水素で錯化されて存在し、従ってそれは触媒活性中心を表す。錯体の正確な組成、ここでは特に合成ガス成分を含めた配位子の化学量論は、優勢な反応条件の関数である。活性触媒を製造するために、通常ロジウム塩は、反応ゾーンに導入され、そこで実際に活性な触媒錯体への転化を受ける。しかしながら、触媒を、反応ゾーンの外側の別の位置で同様の反応条件下で予備形成すること、すなわち活性種に変換することも可能である。予備形成されていないロジウム成分としては、例えば、ロジウム(I)ジカルボニルアセトニルアセトネート、ロジウム(II)2-エチルヘキサノエート、ロジウム(II)アセテート、ロジウム(0)カルボニル(例えば、Rh6(CO)l6、Rh4(CO)l2)、HRh(CO)(Ph3P)3(式中、Phはフェニル基を表す)からなる群から選択されるロジウム化合物を使用することができる。これらのロジウム塩の2種以上の混合物も使用することができる。好ましくはロジウム2-エチルヘキサノエートを使用できることが見出された。
【0018】
活性触媒錯体は、反応ゾーンにおいて、いずれの場合でも、その配位圏にリン含有有機錯体配位子を有する。ここで、リン含有錯体配位子は、炭化水素骨格全体に少なくとも1個のリン原子を有する、好ましくは環状基を有する、炭化水素であり、リン原子は環状基の1つに組み込まれる必要はない。リン含有有機錯体配位子は、例えば、以下の式に合致し得る:
【0019】
【化2】
式中、R
1、R
2およびR
3は、それぞれ互いに独立して、1~20個の炭素原子を有する置換されたまたは置換されていないアルキル基;5~20個の炭素原子を有する置換されたまたは置換されていないシクロアルキル基またはシクロアルケニル基;6~36個の炭素原子を有する置換されたまたは置換されていないアリール基;1~20個の炭素原子を有する置換されたまたは置換されていないヘテロアルキル基;4~36個の炭素原子を有する置換されたまたは置換されていないヘテロアリール基からなる群から選択することができ、前記基のうちの1つの置換の場合、この置換は、N、OおよびSからなる群からの1つまたは複数の原子を有することができる。これらの基の可能な代表例は、例えば、トリ有機ホスフィン類、例えばトリアリールホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、ジシクロアルキルアリールホスフィンおよびトリシクロアルキルホスフィンである。
【0020】
反応は、0.5MPa以上かつ5MPa以下の圧力範囲で行われる。上記の範囲の圧力は、イソ選択性を増加させながら経済的に魅力的な反応速度に寄与することができ、これらの比較的低い反応圧力では、反応器設備に関するコストは比較的抑えられ、なぜなら、設計されるべき反応器は相応に、より少ない手間・コストによるものであり、追加的な圧縮機容量の必要性が低下するからである。
【0021】
反応は、180℃以上かつ250℃以下の沸点を有する溶媒の群から選択される溶媒中で行われる。オレフィンのアルデヒドへの転化は、反応の間に上述のロジウム錯体触媒を溶媒として溶解する不活性溶媒中で行われ、標準圧力下での前記溶媒の沸点は、上述の範囲内である。可能な溶媒は、C8以上の鎖長を有するアルコール、アセタールまたはアルカン、またはそれらの混合物の群から選択することができる。本発明による沸点基準を満たす可能な溶媒は、例えば、2-エチルヘキサノール、1-オクタノール、1-デカノール、ヒドロホルミル化またはこの特定のヒドロホルミル化の高級アルデヒド縮合生成物、またはこのリストからの少なくとも2つの成分の混合物からなる群から選択することができる。ここで、ヒドロホルミル化の高級アルデヒド縮合生成物は、反応の過程で反応器中に形成されるヒドロホルミル化の底部生成物として理解される。これらの高級縮合生成物は、様々な成分の複雑な混合物を含有し、濃厚油(Dickoele)とも称される。アルデヒド生成物は、それら自体が反応性であり、ゆっくりと縮合反応を受ける。この反応は、触媒の非存在下でさえも起こり、プロセスの実施によって引き起こされる。液体の縮合生成物は、当然に、出発アルデヒドよりも高い沸点を有する。縮合生成物は、例えば、アルドール縮合によって形成し得る。さらに別の反応経路には、ティシチェンコ(Tischshenko)反応、エステル交換、および不均化反応が含まれる。縮合生成物は、アルデヒドのオリゴマーであり、アルコール-またはエステル基などの他の官能基を有することもできる。
【0022】
ヒドロホルミル化は、50ppm以上かつ250ppm以下のロジウム濃度で行われる。反応ゾーン中に存在するロジウムの濃度は、反応ゾーン中の溶液の全重量に対するロジウムの重量比によって表される。ここで、この濃度の記述は、任意のさらなる成分(例えば溶解した配位子等)を含めた溶液の全重量に対する純粋な金属重量(配位子なし)の比に向けられるものである。より低い濃度は、その場合には反応速度が遅すぎるため、不利であり得る。より高い濃度は、生成物中のイソアルデヒドの割合の減少をもたらし得、および、触媒の使用コストを基準として、つり合いの取れない低い割合の反応速度の増加だけをもたらし得る。
【0023】
触媒錯体は、アリールホスフィン類およびジ-もしくはトリシクロアルキルホスフィン類からなる群から選択される少なくとも2つの異なる錯体配位子を有する。できるだけ大きい反応速度を維持しながらn/iso-アルデヒド比を制御するために、配位子の組成が特に重要であることが見出された。特に、アリールホスフィン類およびジ-もしくはトリシクロアルキルホスフィン類の所定の混合比において、高い転化率および選択性が生じ得る。アリールホスフィン類は、例えば、次式の化合物である:
【0024】
【化3】
式中、個々のアリール基はさらに、それぞれ互いに独立して、置換されていてもよい。ジ-またはトリ-シクロアルキルホスフィン類の基としては、例えば、以下のC6-シクロアルキル化合物が挙げられる:
【0025】
【化4】
式中、個々のシクロアルキル-および/またはアリール基は、それぞれ互いに独立して、さらに別の上記のような官能基を有することもできる。シクロアルキル基は、例えば、C3~C8シクロアルカン、好ましくはC4~C7シクロアルカンであり得る。
【0026】
有機リン配位子の全量中のシクロアルキルホスフィンの割合は、1モル%以上かつ67モル%以下である。高い転化率を維持しながらの、改善された異性体比の本発明による制御のために、シクロアルキルホスフィン比のこの狭い範囲が特に適していることが見出された。シクロアルキルホスフィンのモル割合は、シクロアルキルホスフィンのモル量を、有機リン化合物の全量、例えば、アリール-およびシクロアルキルホスフィン類の群からの上記の式を有する化合物の合計で除した商として得られる。シクロアルキルホスフィンの量は、例えば31P法によって定量的に決定することができる。ここで、配位子は、純粋に反応ゾーンに導入することができ、または予備形成された金属錯体を添加することによって反応溶液に導入することもできる。明確にするために、例えば触媒塩成分であるアセテート、エチルヘキサノエート、COなどによって導入される、反応ゾーン中のロジウムの非有機リン配位子の量は、シクロアルキルホスフィン類のモル割合の計算には含まれない。
【0027】
ロジウムに対する配位子のモル比は、ロジウムのモル量で除した有機リン配位子のモル量として表され、85以下である。シクロアルキルホスフィン類の低下した熱安定性にもかかわらず、ロジウムのモル量を基準として、有機リン配位子の比較的少ない過剰だけを用いて操作することが有利であることが実証された。この配位子の割合は、必要とされるn/iso比を提供して、高い転化率をもたらすことができ、そして驚くべきことに、上述の溶媒中で長い製造期間にわたって安定である。
【0028】
前記方法の好ましい実施態様において、ヒドロホルミル化は、80℃以上かつ140℃以下の温度範囲で実施することができる。反応ゾーンのこの温度範囲内において十分な反応速度を提供することができ、特にまたこれらの反応では、好ましい異性体比が得られ、これは、通常の従来技術の方法と比較して、より高い割合のイソ異性体を特徴とする。
【0029】
前記方法のさらなる好ましい実施態様内において、シクロアルキルホスフィン配位子に対するアリールホスフィン配位子のモル比は、シクロアルキルホスフィン配位子のモル量で除したアリールホスフィン配位子のモル量として表され、0.5以上かつ75以下であり得る。アリールホスフィン配位子とシクロアルキルホスフィン配位子との間のこの比は、転化率の非常にわずかな減少のみで、著しく増加したイソ異性体比を提供することができる。さらなる好ましい実施態様において、前記比は、15以上かつ70以下であることができ、さらに好ましくは20以上かつ60以下であることができる。
【0030】
前記方法のさらなる好ましい態様内において、ロジウムに対するアリールホスフィン配位子のモル比は、5以上かつ75以下であり得る。アリールホスフィン配位子の量は、異性体比に加えて、反応全体の生産性に対しても著しい影響を有し得る。このモル比内では、十分に高いイソ異性体量を高い転化率で提供することができる。前記モル比は、さらに好ましくは35以上かつ65以下であることができ、さらに好ましくは45以上かつ55以下であることができる。
【0031】
前記方法のさらなる好ましい態様において、ロジウムに対するシクロアルキルホスフィン配位子のモル比は、1以上かつ10以下であり得る。シクロアルキルホスフィン配位子の量は、特に、異性体比に、特に、形成されるアルデヒドのイソの割合に著しい影響を及ぼし得る。より小さい比の場合には、イソアルデヒドの割合の上昇に対するシクロアルキルホスフィン配位子の影響が少なすぎる。より高い比は、これらの場合にはオレフィン転化率を著しく低下し得るので、不利であり得る。前記モル比は、さらに好ましくは2以上かつ8以下であることができ、さらに好ましくは4以上かつ6以下であることができる。
【0032】
前記方法の好ましい態様内において、アリールホスフィンはトリフェニルホスフィンであることができる。アリールホスフィンとしてのトリアリールホスフィン(TPP)の使用は特に、高い収率に、および触媒溶液の特に長い耐用年数に寄与し得る。ここで、TPPが過剰であると、特に、溶液中のロジウムを安定化させることができる。さらに、TPPはまた、シクロアルキルホスフィン配位子が損なわれた場合の配位子リザーバとしても作用することができる。
【0033】
前記方法の好ましい態様において、シクロアルキルホスフィンは、トリシクロヘキシルホスフィンであることができる。特に、トリシクロヘキシルホスフィンの使用は、イソ異性体の方向へのアルデヒド異性体比の特に効率的なシフトに寄与し得る。これは、配位子の空間要件の高まりによって達成される可能性が高い。イソアルデヒドへの異性体比のシフトは、上記の溶媒において、可能な達成し得る反応速度に不利に作用しない濃度でさえも生じる。この点において、この配位子は、2つのシクロアルキル基のみを有するシクロアルキルホスフィン類よりも特に効率的に寄与することができる。
【0034】
前記方法のさらなる好ましい実施態様において、1-オレフィンは、C3~C8オレフィンまたはそれらの混合物からなる群から選択することができる。特に、平均的なオレフィンは、本発明による方法によって、転化率を大きく失うことなく、イソアルデヒド異性体の方向に増加して転化され得る。理論に束縛されるものではないが、この効果は、「平均的な」オレフィンにおいて、触媒錯体でのオレフィンの特別な配向性(これは配位子組成および溶媒によって決まる)によって生じる。
【0035】
本発明の好ましい実施態様において、1-オレフィンのモル量によって除した(H2モル量+COモル量)として表される、合成ガスと1-オレフィンのモル比が、1:1以上かつ5:1以下であることができる。オレフィンと合成ガスの間のこの関係の範囲の中で、特許請求される溶媒群に、十分に高い濃度の反応物を提供することができ、これらは一緒になって、高い転化率と、ほんの少数の望ましくない副反応とをもたらす。
【0036】
さらに、本発明は、錯体触媒における1-オレフィンのヒドロホルミル化のための本発明による方法の使用であって、ヒドロホルミル化が2つのステップで行われ、第1のプロセスステップ内において、反応が、アリールホスフィン配位子を含みシクロアルキルホスフィン配位子を含まないロジウム含有錯体触媒の存在下で、C10以上の鎖長を有するアルコール、アセタールもしくはアルカンまたはそれらの混合物の群から選択される溶媒中で行われ、第2のプロセスステップ内において、180℃以上かつ250℃以下の沸点を有するさらに別の溶媒、および追加的にシクロアルキルホスフィン配位子が、第1のプロセスステップの反応混合物に添加される、前記使用である。
【0037】
驚くべきことに、本発明による方法は、2ステップのヒドロホルミル化カスケードの枠内において、非常に有利に使用できることが示された。この2ステッププロセスでは、第2ステップにおいてのみ本発明に従って反応条件を調整することにより、いくつかの利点を達成することができる。第2ステップを設けることにより、基本的に、第1ステップの反応ゾーンにおける反応溶液も使用することができ、本発明による条件の調整は、配位子と溶媒を添加するだけで達成することができる。コストや手間のかかる分離操作や、ましてや反応溶液全体の交換も省くことができる。2つのプロセスステップを結びつけることによってさらに、2つのプロセスステップにわたって全体で、所望の異性体比を調整することができ、前記比の状況は第2ステップの調整および状況にも従う。さらに、有利には、第1ステップで形成した濃厚油も使用することができ、非常に高い沸点を有する溶媒の添加の一部は、これらは少なくとも部分的に反応ゾーンに既に存在するので、省略することができる。
【0038】
本発明による使用において、ヒドロホルミル化は、2つのステップで実施され、第1のプロセスステップ内では、反応は、アリールホスフィン配位子を含みシクロアルキルホスフィン配位子を有さないロジウム含有錯体触媒の存在下で、C10以上の鎖長を有するアルコール、アセタールまたはアルカンあるいはそれらの混合物の群から選択される溶媒において、実施される。従って、当該カスケードの第1のプロセスステップは、シクロアルキル配位子を排除して、本発明に従わずに行われる。このプロセスステップでは、増加してn-アルデヒドが形成される。このステップ内では当然に、生成したアルデヒドの自己縮合に由来する濃厚油が生成する。このステップ内のプロセス条件は、本発明に従う方法の条件に相当し得ず、すなわち、反応ゾーン中のロジウム濃度は例えば、本発明に従う方法において要求されるより高くすることができる。
【0039】
第2のプロセスステップ内では、180℃以上かつ250℃以下の沸点を有するさらに別の溶媒、および追加的にシクロアルキルホスフィン配位子が、第1のプロセスステップの反応混合物に添加される。高沸点のさらに別の溶媒の添加により、第1のプロセスステップの反応溶液が、本発明に従う方法の本発明に従う組成に調整される。さらに別の配位子種の希釈および添加によって、転化率および生産性を大きく損なうことなく、より高い割合のイソ異性体を生成する反応条件が得られる。有利にはこのことが可能であり、第1ステップの反応環境の一部の使用によって、反応溶液の効率的な利用がもたらされる。さらに、異性体の必要性に応じて、得られる異性体の割合を、有利には、個々のプロセスステップの長さによって制御することができる。全体として、互いに相乗的に作用する全体的プロセスが得られる。
【0040】
前記使用のさらなる好ましい態様内において、第2のプロセスステップにおける溶媒は、C8以上の鎖長を有するアルコール、C13以上の鎖長を有するアセタール、C10以上の鎖長を有するアルカン、またはこの群からの少なくとも2種の成分の混合物からなる群から選択することができる。第2のプロセスステップにおいて追加的に使用される溶媒に関するこの群は、特に第2のプロセスステップに関して改善された触媒耐用年数を、高い転化率で得られることに寄与し得る。
【0041】
前記使用の好ましい特徴によれば、第1のプロセスステップの溶媒量に対する、第2のプロセスステップにおいて添加される溶媒の重量比は、4以上かつ20以下であることができる。第1のプロセスステップで形成される高沸点溶媒および第2のプロセスステップで添加される高沸点溶媒からなる、できる限り最も効率的な溶媒混合物を得るためには、2つの溶媒の上記の混合比が特に適していることが見出された。第2のプロセスステップにおいて、長い触媒耐用年数、アルデヒドに関して高い転化率および高いイソ異性体割合が得られる。
【0042】
前記使用のさらなる好ましい実施態様において、第1のプロセスステップにおけるアリールホスフィン配位子の濃度は、プロセス溶液の全重量を基準として、10重量%以上かつ30重量%以下であることができる。第2プロセスステップにおいて本発明に従って配位子比を特に効率的に調整するために、第1プロセスステップにおけるアリールホスフィン配位子のこの濃度が特に適していることが見出された。この濃度は、第1プロセスステップにおいて比較的少ない触媒失活で安定な転化をもたらすが、同時にまた、第2プロセスステップにおいてあまりにも多くの触媒が添加されて浪費されることを防ぐには十分に低い。n/イソ比の適切な制御に加えて、全体的に高い転化率も示す、全体として2つのプロセスステップにわたって効率的な全体的なプロセスが得られる。
【0043】
前記使用の好ましい態様内において、第2のプロセスステップにおいて添加されるシクロアルキルホスフィン類の濃度は、プロセス溶液の全重量を基準として、0.01重量%以上かつ1重量%以下であり得る。プロセスの経済性および生成物中のイソ割合の効率的な増加のために、比較的少量のシクロアルキルホスフィンだけを第2プロセスステップの反応溶液に添加する必要があることが示された。特に、シクロアルキルホスフィンの添加により、イソアルデヒドの形成が増加し、選択された反応条件によって、第2のプロセスステップにおいて、第1のプロセスステップと比較して転化率が大きく減少することを回避することができる。
【0044】
前記使用の好ましい態様内では、ロジウムの全量を、第1のプロセスステップにおいて添加することができる。方法手順を単純化するために、形成するアルデヒドの好ましい高いイソ比を得るために、および高い転化率のために、金属錯体触媒の全添加が第1プロセスステップの範囲で行われることが適していることが見出された。これは驚くべきことであり、なぜならば、第2プロセスステップでは、変化した配位子供給のために、まず平衡が調整されなければならず、これは予想では、フレッシュな触媒の添加の際に、変化した平衡位置のため、より迅速に起こるはずだからである。驚くべきことに、これは当てはまらない。
【0045】
本発明の対象のさらなる詳細、特徴および利点は、従属請求項、ならびに以下の図面の説明、および関連の実施例から明らかとなる。図面は以下を示す。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1は、溶媒として2-エチルヘキサノールを用いた反応溶液のイソ-アルデヒドの割合および1-ブテンの消費(1-Butenaufnahme)を、トリシクロヘキシルホスフィン/ロジウムモル比の関数として示す。
【0047】
図2は、溶媒として2-エチルヘキサノールを用いた反応溶液のイソ-アルデヒドの割合および1-ブテンの消費を、有機リン配位子のトリシクロヘキシルホスフィンの割合の関数として示す。
【0048】
図3は、トリシクロヘキシルホスフィンの非存在下で、溶媒としての2-エチルヘキサノールで希釈した後の、Rh-トリフェニルホスフィン触媒を用いた反応溶液のイソ-アルデヒドの割合および1-ブテンの消費を、ロジウム濃度の関数として示す。
【0049】
図4は、溶媒としての2-エチルヘキサノールで希釈した後の、Rh-トリフェニルホスフィン触媒を用いた、およびトリシクロヘキシルホスフィンを用いた、反応溶液のイソ-アルデヒドの割合および1-ブテンの消費を、ロジウム濃度の関数として示す。
【実施例】
【0050】
例
全ての実験は、予備形成された触媒相(9バール合成ガス圧(SynGas)、温度120℃、30分間)を用いてバッチモードで反応器中で実施した。1-ブテン/SynGas 1:1を120℃で13バールで連続的に添加し、25gの1-ブテンの転化まで、20分から2時間まで様々な反応時間で反応を行った。全ての実験において、触媒溶液を不活性条件下で真空反応器に移し、1-ブテンおよび合成ガスを連続的に計量添加して反応を開始した。得られる経時的な1-ブテン消費(系の生産性)およびC5アルデヒドのiso/n比を特性値として使用して、2-メチルブタナール(2-MB)の割合を決定した。
【0051】
第1の実験シリーズにおいて、様々なTCHP/Rh比を用いた場合の、形成されるC5アルデヒドのiso/n比および1-ブテン消費に対する、トリシクロヘキシルホスフィン(TCHP)の影響を調べた。結果を表1及び
図1に示す:
【0052】
【表1】
表1および
図1から、TCHPは、TPPと比較して、生成物中の2-MBの割合を増加させ、従ってiso/n比の上昇をもたらすことが分かる。TCHP/Rh比が低い場合であっても、前記配位子は、分岐状アルデヒドの形成にポジティブな効果を有する。TCHP配位子の高い空間要件、および得られるRh錯体の幾何学的形状およびその特性の変化が、1-ブテン-ヒドロホルミル化の選択性の変化をもたらすと考えられる。しかしながら、より高いTCHP/Rh比では、1-ブテンの消費、ひいては系全体の反応速度も低下する。減少したオレフィン消費は、おそらく、ロジウムに対するTCHP配位子の高い結合親和性に起因し得る。
【0053】
さらなる実験シリーズにおいて、TCHPとトリフェニルホスフィン(TPP)との配位子混合物を本発明に従う方法のために使用した。存在する場合、TCHP-Rh比は50に設定し、反応溶液中のTPPの量を変化させた。さらなる具体的な実験条件は、上記のとおりである。結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
図2は、配位子によってもたらされたリン(III)全体におけるTCHP割合の関数としての、得られるイソ割合およびブテンの消費の依存性を示す。TCHP/Rh比と同等に、TCHP割合が増加するにつれて、より高いイソ割合が生成物中に見出されるが、ブテンの消費、従ってまた反応速度も著しく減少する。TPPおよびTCHP配位子を一緒に使用することによって、配位子と触媒の間および各配位子の間の特定の濃度および割合の関係のもとで、反応を、高い転化率および高いイソ比で行うことができる。TPPの使用はより高い生産性をもたらし、これはより高いTPP/Rh比でもさらに維持される。同時に、より過剰のTPPは、触媒系を不活性化に対して安定化させ、その結果、触媒溶液の長いプロセス実行時間が可能である。ここで、ロジウムのモル量と比較してわずかに過剰のTCHPの添加は、反応溶液中の2-MB割合を、変わらぬ触媒活性で、増加させることができる。
【0055】
図3は、トリシクロヘキシルホスフィンの非存在下で、溶媒としての2-エチルヘキサノールで希釈した後の、Rh-トリフェニルホスフィン触媒を用いた反応溶液のイソ-アルデヒドの割合および1-ブテンの消費を、ロジウム濃度の関数として示す。TPP-Rh比は全ての実験において66であった。触媒溶液を2-エチルヘキサノールで希釈することにより、触媒濃度が低くなり、従って1-ブテンの転化率の低下をもたらす。2つのパラメーターにわたる線形回帰は、純粋なTPP配位子系を使用した場合の触媒濃度のブテン消費とイソ割合との間の予想される線形関係をもたらす。Rh濃度は増加するが、TPP/Rh比は同一のままのため、触媒系の生産性は増加し、生成物中のイソ割合は、純粋なTPP配位子系の使用により減少する。イソ割合の低下に反するように作用し、それによって2-MBの形成を増加させるために、本発明による方法では、Rh-TPP触媒系にTCHP配位子を加える。
【0056】
図4は、溶媒しての2-エチルヘキサノールでの希釈系列における、混合Rh-TPP-TCHP触媒を用いた反応溶液のイソアルデヒド割合および1-ブテンの消費を、ロジウム濃度の関数として示す。従って、実験は基本的に、
図4に関して記載された実施に対応するが、この系列においてのみ、TPPおよびTCHPの混合配位子系が使用される。驚くべきことに、配位子混合物(TPP/Rh69およびTCHP/Rh2)を使用すると、希釈と共に低下する触媒金属濃度とともに、ブテン消費の増加も、イソアルデヒドの割合の増加も見られる。従って、この過程は驚くべきことに、
図4に関して説明するように、純粋なTPP触媒系での過程とは根本的に異なる。この関係は明確に、2種の配位子(TPP/TCHP)から構成される本発明の配位子系を溶媒中で、比較的低い触媒濃度および前記2種の配位子の互いの間の特定の量比で使用すると、驚くべきことに、高い転化率も高いイソアルデヒド割合も実現できることを示している。本発明による方法の格別な利点は、2つの配位子の特定の量比に基づく。一方では、ロジウム金属を基準とするTCHP配位子の低いモル量だけで、空間要件の厳しい配位子によって生成物におけるイソの割合を高めるためには十分である。また触媒活性は、この配位子比および低いTCHP/Rh比で、非常に高い。他方、ロジウム金属を基準とするTPP配位子のモル量は、ロジウム-配位子-触媒系が安定化され、触媒活性が保持されるように選択された。
【国際調査報告】