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特表2024-533676脱落膜胎盤間葉系幹細胞及び血管新生促進医薬組成物の製造におけるその用途
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  • 特表-脱落膜胎盤間葉系幹細胞及び血管新生促進医薬組成物の製造におけるその用途 図1A
  • 特表-脱落膜胎盤間葉系幹細胞及び血管新生促進医薬組成物の製造におけるその用途 図1B
  • 特表-脱落膜胎盤間葉系幹細胞及び血管新生促進医薬組成物の製造におけるその用途 図1C
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  • 特表-脱落膜胎盤間葉系幹細胞及び血管新生促進医薬組成物の製造におけるその用途 図9
  • 特表-脱落膜胎盤間葉系幹細胞及び血管新生促進医薬組成物の製造におけるその用途 図10A
  • 特表-脱落膜胎盤間葉系幹細胞及び血管新生促進医薬組成物の製造におけるその用途 図10B
  • 特表-脱落膜胎盤間葉系幹細胞及び血管新生促進医薬組成物の製造におけるその用途 図10C
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】脱落膜胎盤間葉系幹細胞及び血管新生促進医薬組成物の製造におけるその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20240905BHJP
   A61K 35/50 20150101ALI20240905BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C12N5/0775
A61K35/50
A61P9/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518405
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(85)【翻訳文提出日】2024-04-12
(86)【国際出願番号】 CN2021120946
(87)【国際公開番号】W WO2023044902
(87)【国際公開日】2023-03-30
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521047672
【氏名又は名称】金湧長生醫學生物科技股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】VitaSpring Biomedical Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】10F.-11, No. 93, Sec. 1, Xintai 5th Rd., Xizhi Dist., New Taipei City, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】朱莉莉
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC14
4B065AC20
4B065BB19
4B065BB32
4B065BC50
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB58
4C087BB64
4C087NA14
4C087ZA36
(57)【要約】
本発明は、脱落膜胎盤間葉系幹細胞及びその培養方法を提供する。当該方法は、従来の間葉系幹細胞の培養方法に誘導ステップを導入して、前記脱落膜胎盤間葉系幹細胞にデコイ受容体3(Decoy receptor 3,DcR3)を高発現させることを含む。更に、本発明は、血管新生を促進する薬物の製造における脱落膜胎盤間葉系幹細胞の用途を提供する。
【選択図】図10A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱落膜胎盤間葉系幹細胞を培養する方法であって、
無血清培地の組成に誘導ステップを導入することを含み、前記誘導ステップは、培養過程で、細胞培地に少なくとも1種類のサイトカインを加えて刺激することで、前記脱落膜胎盤間葉系幹細胞にデコイ受容体3を高発現させるものであり、前記無血清培地の組成には、MCDB201培地、上皮成長因子及びITS細胞培養添加物が含まれていることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種類のサイトカインは、腫瘍壊死因子-α、インターフェロン-γ又はそれらの組み合わせから選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記誘導ステップは、前記脱落膜胎盤間葉系幹細胞が容器に接着したあとに、前記少なくとも1種類のサイトカインを加えるものであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記腫瘍壊死因子-αの有効量は15~20ng/mlであり、且つ、前記インターフェロン-γの有効量は10~20ng/mlであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記腫瘍壊死因子-α及び前記インターフェロン-γは、48時間の刺激を行うものであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記腫瘍壊死因子-α及び前記インターフェロン-γは、一緒に前記細胞培地に加えられることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法で培養される脱落膜胎盤間葉系幹細胞であって、
デコイ受容体3を高発現させることを特徴とする脱落膜胎盤間葉系幹細胞。
【請求項8】
前記脱落膜胎盤間葉系幹細胞は、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体及びデコイ受容体3を発現することを特徴とする請求項7に記載の脱落膜胎盤間葉系幹細胞。
【請求項9】
血管新生を促進する薬物の製造における医薬組成物の用途であって、
前記医薬組成物は、有効量の請求項7に記載の脱落膜胎盤間葉系幹細胞を含むことを特徴とする用途。
【請求項10】
前記脱落膜胎盤間葉系幹細胞は、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体及びデコイ受容体3を発現することを特徴とする請求項9に記載の用途。
【請求項11】
前記有効量の脱落膜胎盤間葉系幹細胞は、1×10~2×10個の細胞であることを特徴とする請求項9に記載の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱落膜胎盤間葉系幹細胞(decidual placental mesenchymal stem cell)及びその培養方法に関し、特に、従来の間葉系幹細胞の培養方法に誘導ステップを導入して、前記脱落膜胎盤間葉系幹細胞にデコイ受容体3(Decoy receptor 3,DcR3)を高発現させるものに関する。更に、本発明は、血管新生を促進する薬物の製造における脱落膜胎盤間葉系幹細胞の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、間葉系幹細胞の同定に使用されるバイオマーカーについては、CD73、CD90、CD105を発現し、且つ、CD14、CD34、CD45及びHLA-DRは発現しないという国際細胞・遺伝子治療学会(ISCT)が公表している基準を参照することが多い。しかし、このバイオマーカーの組み合わせは骨髄間葉系幹細胞を基本としており、組織の特異性を欠いているため、異なる組織に由来する間葉系幹細胞同士を区別することが難しい。一方、間葉系幹細胞は、由来の違いによって異なる挙動を示すことが多数報告されている。よって、特定組織に由来する間葉系幹細胞を区別する特異性を備えた生体分子マーカーを開発する必要がある。
【0003】
間葉系幹細胞は多種類の血管新生因子を発現可能なことから、虚血性疾患を治療するための血管新生の促進に応用可能であると考えられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、間葉系幹細胞は、由来の違いによって主要因子の発現が異なるため、血管新生促進のメカニズムが異なる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、デコイ受容体3(DcR3)を高発現させる脱落膜(decidual)胎盤間葉系幹細胞(pcMSCs)を培養する方法を提供する。当該方法では、無血清培地の組成(MCDB201培地+EGF(上皮成長因子)+ITS細胞培養添加物(ITSとは、インスリン(Insulin)、トランスフェリン(Transferrin)、セレン(Selenium)である))に誘導ステップを導入する。前記誘導ステップは、培養過程で、細胞培地に少なくとも1種類のサイトカインを加えて刺激することで、前記脱落膜胎盤間葉系幹細胞にデコイ受容体3(Decoy receptor 3,DcR3)を高発現させるものである。
【0006】
本発明における前記「高発現」とは、従来の間葉系幹細胞の培養方法で培養される脱落膜胎盤間葉系幹細胞(decidual placental mesenchymal stem cell)におけるデコイ受容体3(Decoy receptor 3,DcR3)の発現量と比べて、本発明の培養方法で培養される脱落膜胎盤間葉系幹細胞におけるDcR3の発現量が統計学的に有意に高いことを言う。
【0007】
本発明の方法において、好ましくは、前記少なくとも1種類のサイトカインは、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、インターフェロン-γ(IFN-γ)又はそれらの組み合わせから選択される。
【0008】
本発明の方法において、好ましくは、前記誘導ステップは、前記脱落膜胎盤間葉系幹細胞が容器に接着したあとに誘導を行うものである。
【0009】
本発明の方法において、より好ましくは、前記TNF-αの有効量は15~20ng/mlであり、且つ、前記IFN-γの有効量は10~20ng/mlである。
【0010】
本発明の方法において、より好ましくは、前記TNF-α及び前記IFN-γは48時間の刺激を行うものである。
【0011】
本発明の方法において、より好ましくは、前記TNF-α及び前記IFN-γは一緒に前記細胞培地に加えられる。
【0012】
本発明は、更に、前述の方法で培養される脱落膜胎盤間葉系幹細胞を提供する。前記脱落膜胎盤間葉系幹細胞は、デコイ受容体3(Decoy receptor 3,DcR3)を高発現させる。
【0013】
好ましくは、本発明における脱落膜胎盤間葉系幹細胞は、エストロゲン受容体(Estrogen receptor,ER)、プロゲステロン受容体(Progesterone receptor,PR)及びデコイ受容体3(Decoy receptor 3,DcR3)を発現する。
【0014】
更に、脱落膜間葉系幹細胞におけるDcR3の応用可能性を探求すべく、本発明は、更に、所望の個体の血管新生を促進する薬物の製造における医薬組成物の用途を含む。前記医薬組成物は、デコイ受容体3を高発現させる有効量の脱落膜胎盤間葉系幹細胞を含む。
【0015】
好ましくは、本発明の用途において、前記個体はヒト又は哺乳動物である。
【0016】
好ましくは、本発明の用途において、前記有効量の脱落膜胎盤間葉系幹細胞は、1×10~2×10cellsである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A図1Aは、脱落膜胎盤間葉系幹細胞(pcMSCs)が無血清培養条件で形態学的に紡錘形の接着細胞となったことを示している。なお、縮尺は100μmである。
図1B図1Bは、脱落膜胎盤間葉系幹細胞(pcMSCs)の免疫表現型解析において、CD29、CD44、CD73、CD90、CD105等のバイオマーカーが陽性となり、CD14、CD34、CD45及びHLA-DR等のバイオマーカーが陰性となったことを示している。
図1C図1Cは、骨生成(C2)、軟骨生成(C4)及び脂肪生成(C6)それぞれにおける脱落膜胎盤間葉系幹細胞(pcMSCs)の生体外での分化能を示している。また、C1、C3、C5は、それぞれ、各生体外誘導条件における対照群を示しており、骨生成、軟骨生成及び脂肪生成にそれぞれ属している。なお、縮尺は200μmである。
図2図2は、新生男児の胎盤から分離したpcMSCsの核型特性を示す。図中のAは、20世代目のpcMSCs(N100)の染色体分析における代表的な画像を示している。また、前記分析の結果として、N98(B)、N99(C)及びN100(D)を含む3つの個体における46本の独立した染色体を示す。新生男児の胎盤から分離したpcMSCsは、蛍光 in situ ハイブリダイゼーションの結果、X染色体(赤色蛍光で示す)が陽性となり、Y染色体(緑色蛍光で示す)が陰性となった(F)。これは、新生男児のヒト臍帯静脈内皮細胞(Human umbilical vein endothelial cell,HUVEC)由来の場合にはX染色体及びY染色体の双方が陽性を示すとの結果(E)に反していた。なお、左下隅は、各パネルにおける白枠内の画像を拡大したものである。また、縮尺は50μmである。
図3図3は、骨髄間葉系幹細胞(BMMSC)と比較した場合のpcMSCsの遺伝子発現解析を示す。なお、略語については、pcMSCs:脱落膜胎盤間葉系幹細胞、BMMSC:骨髄間葉系幹細胞、Adsv:脂肪間葉系幹細胞、hES:ヒト胚性幹細胞、UniRef:遺伝子ファミリーデータベースである。
図4図4は、pcMSCsのホルモン受容体とBMMSCのホルモン受容体との比較結果を示す。なお、略語については、PRA:プロゲステロン受容体A、PRB:プロゲステロン受容体B、ER:エストロゲン受容体のαサブユニットである。
図5図5は、pcMSCsが生体外でプロゲステロン受容体(PR)及びエストロゲン受容体(ER)により誘導されて脱落膜化可能なことを示している。図中のAはPCR定量分析の結果、Bはウエスタンブロット(Western Blot)定量分析の結果、CはELISA定量分析の結果である。また、*は0.01<P≦0.05を意味し、**は0.005<P≦0.01を意味し、***はP≦0.005を意味し、N.D.は未検出を意味する。
図6図6は、pcMSCs及びBMMSCsにおける腫瘍壊死因子(TNF)受容体スーパーファミリー関連遺伝子の発現量の比較を示す。
図7図7は、pcMSCs及びBMMSCsにおけるDcR3タンパク質の発現量の結果を示す。
図8図8は、DcR3の発現量がTNF-α及びIFN-γの誘導により増大したことを示している。
図9図9は、pcMSCsがDcR3により血管生成を促進することを生体外管形成アッセイ(in vitro tube formation assay)で証明する際の実験フローを示す。
図10A図10Aは、pcMSCsがDcR3により血管生成を促進することを生体外管形成アッセイで証明した結果の一部であり、ELISA測定の結果を示している。また、***はP<0.005を意味する。
図10B図10Bは、pcMSCsがDcR3により血管生成を促進することを生体外管形成アッセイで証明した結果の一部であり、蛍光顕微鏡の撮影画像を示している。
図10C図10Cは、pcMSCsがDcR3により血管生成を促進することを生体外管形成アッセイで証明した結果の一部であり、蛍光顕微鏡の撮影画像の統計結果を示している。なお、結果は平均値±SD(n=3)で表した。また、*は0.01<P≦0.05を意味し、**は0.005<P≦0.01を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
理解すべき点として、実施例の詳細な記載は本発明の好ましい実施例を説明するためのものであり、本発明をいずれかの実施例に制限しようとするものではない。注意すべき点として、本発明は、本発明と同じ精神及び範囲におけるあらゆる代替的な実施例を網羅することを意図している。よって、他人が本発明の理念に基づき実施する何らかの本質的でない修正及び調整もまた本発明の保護の範囲に属する。
【実施例1】
【0019】
脱落膜胎盤間葉系幹細胞(pcMSCs)の同定
【0020】
本発明の研究において、我々は、ヒト胎盤脱落膜から間葉系幹細胞を分離することに成功し、これを胎盤絨毛膜・脱落膜間葉系幹細胞(placenta choriodecidual-derived mesenchymal stromal cells,pcMSCs)と命名した。
【0021】
我々は、胎盤の絨毛膜及び脱落膜部位から、国際的な間葉系幹細胞の基本定義を満たす間葉系幹細胞を分離した(図1参照)。その後、染色体同定及び蛍光 in situ ハイブリダイゼーション染色分析において、この細胞が母体部位由来であること、即ち、脱落膜部位由来であることを特定した(図2参照)。
【0022】
間葉系幹細胞の基本定義では、異なる組織から分離された細胞を区別できないため、脱落膜間葉系幹細胞を十分に同定可能なバイオマーカーを見つけるべく、本発明では、骨髄間葉系幹細胞と脱落膜間葉系幹細胞の遺伝子発現を分析した。
【0023】
本発明では、骨髄間葉系幹細胞(BMMSCs)とpcMSCsとの違いを証明するために、いくつかの受容体遺伝子を収集した。図3に示すように、pcMSCsは、BMMSCsには発現しないエストロゲン受容体(ESR)及びプロゲステロン受容体(PGR)を発現した。また、BMMSCsとpcMSCsは、いずれもIFN-γ受容体(IFNGR)及びTNF-α受容体(TNFRSF1A)を発現した。この結果より、エストロゲン受容体及びプロゲステロン受容体が脱落膜間葉系幹細胞に特有のものであることが実証された。
【0024】
更に、pcMSCsのホルモン受容体とBMMSCのホルモン受容体を比較した。タンパク質の発現について、異なる受容体特異性抗体をそれぞれ用いてウエスタンブロット(Western Blot)を行い、実証するとともに、乳癌細胞株MDA-MB-231及びT47Dをプロゲステロン受容体(PR)及びエストロゲン受容体(ER)の陰性対照及び陽性対照としてそれぞれ用いた。その結果、BMMSCs(BM)及び脂肪間葉系幹細胞(AdMSC)と比較して、pcMSCsのみがプロゲステロン受容体(PR)及びエストロゲン受容体(ER)を発現することが示された(図4参照)。
【0025】
エストロゲン受容体及びプロゲステロン受容体が脱落膜間葉系幹細胞に特有のものであることを特定するために、本発明では、更に、10nMのエストロゲン及び1μMのプロゲステロン(E/P)で脱落膜間葉系幹細胞(pcMSCs)及び骨髄間葉系幹細胞(BMMSCs)を刺激した。そして、3日目、6日目及び9日目に培地と細胞を採取して、その後のqPCR、ウエスタンブロット(Western Blot)及び酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)による定量分析に用いることで、プロラクチン(prolactin,PRL)の発現を評価した。ウエスタンブロット(Western Blot)ではβ-アクチン(β-actin)を定量標準とした。また、全ての実験は3回繰り返した。
【0026】
その結果、図5に示すように、qPCR(A)、ウエスタンブロット(Western Blot)(B)、或いはELISA(C)定量分析のいずれかに関わらず、脱落膜間葉系幹細胞のみが脱落膜分化を生じ、指標遺伝子PRLが顕著に上昇することが示された。一方、骨髄間葉系幹細胞はホルモンの制御を受けなかった。これにより、脱落膜間葉系幹細胞が脱落膜部位に由来する特異的挙動を示し得ることが再び実証された。
【0027】
そのほか、我々は、pcMSCs及びBMMSCsにおける腫瘍壊死因子(TNF)受容体スーパーファミリー関連遺伝子の発現量も比較した。我々は、TNF受容体スーパーファミリー関連遺伝子を採取して分析することで、pcMSCs及びBMMSCsにおける特定の表現形式を評価した。
【0028】
いくつかの遺伝子がpcMSCsにおいて区別可能な形式を示したが(図6参照)、我々は、特にデコイ受容体3(DcR3又はTNFRSF6B)に注目し、DcR3がpcMSCsにのみ発現し、BMMSCsには発現しないことを確認するために、更なる分析を行った。その結果、図7に示すように、脱落膜間葉系幹細胞はDcR3を発現するが、異なる性別から分離されたBMMSCsには発現しないことが見出だされた。従って、我々は、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)、デコイ受容体3(DcR3)が、異なる組織由来の間葉系幹細胞を区別するための生理学的意味を持つ脱落膜間葉系幹細胞のバイオマーカーになり得ると考えた。
【実施例2】
【0029】
デコイ受容体3(DcR3)を高発現させる脱落膜胎盤間葉系幹細胞(pcMSCs)の培養方法
【0030】
本発明は、脱落膜胎盤間葉系幹細胞の新たな培養方法を提供する。前記方法は、従来の間葉系幹細胞の培養方法に炎症に関連するサイトカインTNF-α及びIFN-γを加えて刺激するものである。
【0031】
具体的に、脱落膜胎盤間葉系幹細胞については、従来の無菌操作による細胞増殖及び培養方式を用い、無血清の幹細胞培地を使用して細胞の継代培養を行った。培養期間中は、3日ごとに新鮮な幹細胞培養液に交換した。当該培地には、MCDB201組成培地、濃度1%のインスリン-トランスフェリン-セレン(insulin transferrin selenium,ITS)、及び、濃度10ng/mlの上皮成長因子(epidermal growth factor,EGF)が含まれていた。
【0032】
従来の培養方式とは異なり、本発明では、前記脱落膜胎盤間葉系幹細胞が容器に接着したあと、誘導ステップを導入した。
【0033】
本発明では、細胞を(1)陰性対照群、(2)20ng/mLサイトカインTNF-α誘導群、(3)20ng/mLサイトカインIFN-γ誘導群、及び、(4)20ng/mLサイトカインTNF-α及び20ng/mLサイトカインIFN-γ同時添加誘導群の4群に分けた。
【0034】
まず、1×10個の脱落膜胎盤間葉系幹細胞を6穴培養プレートで培養した。次に、インキュベーター内で一晩培養したあと培地を除去し、各群の条件に応じて、(1)刺激因子を加えない完全培地、(2)20ng/mLのサイトカインTNF-αを含有する完全培地、(3)20ng/mLのサイトカインIFN-γを含有する完全培地、及び、(4)20ng/mLのサイトカインTNF-α及び20ng/mLのサイトカインIFN-γを同時に含有する完全培地をそれぞれ加え、48時間培養した。そして、誘導後の脱落膜胎盤間葉系幹細胞をウエスタンブロット(Western Blot)で同定した結果、全ての誘導群で脱落膜間葉系幹細胞におけるDcR3の発現量を増大させられることが示された(図8参照)。
【0035】
本発明は、更に、脱落膜胎盤間葉系幹細胞においてDcR3の発現量の増大を誘導するサイトカインの適切な投与量をテストした。その結果、15ng/mLのサイトカインTNF-αを使用して脱落膜胎盤間葉系幹細胞におけるDcR3の発現量を増大させることもできるが、10ng/mLのサイトカインIFN-γを使用すれば脱落膜胎盤間葉系幹細胞におけるDcR3の発現量を増大させられることが分かった。また、同様に、これらを一緒に加えて誘導した場合にも、脱落膜胎盤間葉系幹細胞におけるDcR3の発現量が増大するとの結果が見られた。
【実施例3】
【0036】
脱落膜胎盤間葉系幹細胞(pcMSCs)が有する血管新生促進の可能性
【0037】
更に、脱落膜間葉系幹細胞におけるDcR3の応用可能性を探求すべく、本発明では、前記脱落膜胎盤間葉系幹細胞(pcMSCs)を用いて研究を行った。
【0038】
本発明は、更に、血管新生試験において、サイトカインで処理していない脱落膜胎盤間葉系幹細胞と、サイトカインTNF-α及びIFN-γで刺激した脱落膜胎盤間葉系幹細胞との違いについてテストした。
【0039】
前述の培養方法に基づき、本発明における脱落膜間葉系幹細胞を吊り下げ式薄膜細胞培養シャーレ(Transwell)で培養した。実験のフローは図9に示す通りとした。また、吊り下げ式薄膜細胞培養シャーレの穴径の違いに応じて使用する細胞の数を調整した。
【0040】
本発明では、まず、24穴細胞培養プレート用の吊り下げ式薄膜細胞培養シャーレ(Transwell)において本発明の脱落膜間葉系幹細胞を1×10個培養した。次に、15ng/mLのTNF-α及び10ng/mLのIFN-γで48時間誘導したあと、前記吊り下げ式薄膜細胞培養シャーレ(Transwell)を内皮細胞株(SVEC)のシャーレに移して、管形成測定のために、誘導後の本発明における脱落膜間葉系幹細胞とSVECを共培養した。SVEC細胞株は、細胞培養用マトリゲル(matrigel)で培養した。そして、6時間共培養したあと、蛍光顕微鏡で撮影した画像から総分岐点数を計算した。
【0041】
本発明における脱落膜間葉系幹細胞をサイトカインで48時間誘導したあと、培地中のDcR3濃度をELISA測定したところ、対照群と比較して、誘導群ではpcMSCsのDcR3発現量を著しく増加させられることが分かった(図10A参照)。
【0042】
本発明における脱落膜間葉系幹細胞とSVECを6時間共培養したあと、蛍光顕微鏡で撮影した画像から総分岐点数を計算した。図10Bに各群の代表的な画像を示す。
【0043】
本発明では、6穴細胞培養プレート用の吊り下げ式薄膜細胞培養シャーレ(Transwell)において本発明の脱落膜間葉系幹細胞を2×10個培養し、同様の実験を行った場合でも、同じ結果が得られた(結果は示していない)。
【0044】
統計の結果、通常培養条件群(Normal control)と比較して、TNF-α及びIFN-γで誘導したpcMSCsはより多くの分岐点の生成を顕著に誘導することが示された。且つ、このような現象は、抗DcR3抗体(0.5μg/mL)を使用した場合と反対であった(図10C参照)。抗DcR3抗体(DcR3 antibody)中和群の分岐点数は最も少なく、通常培養条件群よりも更に低かった。これは、DcR3の定常的な発現が血管生成に影響を及ぼすことを反映していた。よって、脱落膜間葉系幹細胞は、DcR3の発現によって血管新生を促進可能であった。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
【国際調査報告】