IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イムノカン バイオテック カンパニー リミテッドの特許一覧

特表2024-533683大型染色体の導入方法と改変染色体およびそれを用いた生物
<>
  • 特表-大型染色体の導入方法と改変染色体およびそれを用いた生物 図1
  • 特表-大型染色体の導入方法と改変染色体およびそれを用いた生物 図2
  • 特表-大型染色体の導入方法と改変染色体およびそれを用いた生物 図3
  • 特表-大型染色体の導入方法と改変染色体およびそれを用いた生物 図4A
  • 特表-大型染色体の導入方法と改変染色体およびそれを用いた生物 図4B
  • 特表-大型染色体の導入方法と改変染色体およびそれを用いた生物 図5
  • 特表-大型染色体の導入方法と改変染色体およびそれを用いた生物 図6
  • 特表-大型染色体の導入方法と改変染色体およびそれを用いた生物 図7
  • 特表-大型染色体の導入方法と改変染色体およびそれを用いた生物 図8A
  • 特表-大型染色体の導入方法と改変染色体およびそれを用いた生物 図8B
  • 特表-大型染色体の導入方法と改変染色体およびそれを用いた生物 図9A
  • 特表-大型染色体の導入方法と改変染色体およびそれを用いた生物 図9B
  • 特表-大型染色体の導入方法と改変染色体およびそれを用いた生物 図10
  • 特表-大型染色体の導入方法と改変染色体およびそれを用いた生物 図11
  • 特表-大型染色体の導入方法と改変染色体およびそれを用いた生物 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】大型染色体の導入方法と改変染色体およびそれを用いた生物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20240905BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 5/12 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 5/073 20100101ALI20240905BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240905BHJP
   A01K 67/0275 20240101ALI20240905BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20240905BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20240905BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20240905BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240905BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240905BHJP
   C12Q 1/48 20060101ALI20240905BHJP
   C12Q 1/32 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N5/10 ZNA
C12N5/12
C12N5/073
C12P21/08
A01K67/0275
C07K16/00
C12Q1/68
C12N15/113 Z
C12N15/12
C12N15/53
C12N15/54
C12N15/10 100Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N15/09 100
C12Q1/02
C12Q1/48
C12Q1/32
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518502
(86)(22)【出願日】2022-09-23
(85)【翻訳文提出日】2024-03-21
(86)【国際出願番号】 CN2022120692
(87)【国際公開番号】W WO2023046038
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/120126
(32)【優先日】2021-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524108639
【氏名又は名称】イムノカン バイオテック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ジーウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ ユー
【テーマコード(参考)】
4B063
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR04
4B063QR06
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR66
4B063QS34
4B063QX02
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA44
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、二本鎖切断修復経路および相同指向性修復を用いて、染色体間に大きな配列フラグメントを導入する方法ならびに染色体再配列を生成する方法に関する。本開示はさらに、これらの方法によって産生される染色体、ならびにこれらの染色体を含む細胞およびトランスジェニック動物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え染色体を作製する方法であって、以下を含む:
a. 標的配列を含む標的染色体と、鋳型配列を含む鋳型染色体とを含む細胞を提供する;
b. 前記細胞を以下と接触させる
i. 5' から3'まで、標的配列の5'末端の上流のヌクレオチド配列を含む5'相同性アーム、少なくとも第1のマーカー、および鋳型配列の5'末端の上流のヌクレオチド配列を含む3'相同性アームを含む第1の核酸分子;ならびに
ii. 5'から3'まで、鋳型配列の3'末端の下流のヌクレオチド配列を含む5'相同性アーム、少なくとも第2のマーカー、および標的配列の3'末端の下流のヌクレオチド配列を含む3'相同性アームを含む第2の核酸分子、
c. 標的配列の両側で、および鋳型配列の5'末端と3'末端で、二本鎖切断を生成させる、それによって鋳型配列と第1および第2のマーカーとが標的染色体に挿入される;ならびに
d. 第1および第2のマーカーを発現する1つまたは複数の細胞を選択する。
【請求項2】
鋳型配列の挿入後、第1のマーカーが鋳型配列の5'末端に位置し、第2のマーカーが鋳型配列の3'末端に位置する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1および第2の核酸分子の5'および3'相同性アームの長さが、約20bpと2,000bpの間、約50bpと1,500bpの間、約100bpと1,400bpの間、約150bpと1,300bpの間、約200bpと1,200bpの間、約300bpと1,100bpの間、約400bpと1,000bpの間、または約500bpと900bpの間、または約600bpと800bpの間である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
第1および第2の核酸分子の5'および3'相同性アームの長さが、約400bpと1,500bpの間、約500bpと1,300bpの間、または約600bpと1,000bpの間である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
第1および第2の核酸分子の5'相同性アームおよび3'相同性アームの長さが、約600~1,000bpである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
鋳型配列の長さが、少なくとも25キロベースペア(KB)、少なくとも50KB、少なくとも100KB、少なくとも200KB、少なくとも400KB、少なくとも500KB、少なくとも600KB、少なくとも700KB、少なくとも800KB、少なくとも900KB、少なくとも1メガバソースペア(MB)、少なくとも2MB、少なくとも3MB、少なくとも4MB、少なくとも5MB、少なくとも6MB、少なくとも7MB、少なくとも8MB、少なくとも9MB、少なくとも10MB、少なくとも15MB、少なくとも20MB、少なくとも25MB、少なくとも30MB、少なくとも40MB、少なくとも50MB、少なくとも60MB、少なくとも70MB、少なくとも80MB、少なくとも90MB、少なくとも100MB、少なくとも120MB、少なくとも140MB、少なくとも160MB、少なくとも180MB、少なくとも200MB、少なくとも220MB、または少なくとも250MBである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
鋳型配列の長さが、50KBと250MB、50KBと100MB、50KBと50MB、50KBと20MB、50KBと10MB、50KBと5MB、50KBと3MB、50KBと2MB、50KBと1MB、100KBと200MB、100KBと100MB、100KBと50MB、100KBと20MB、100KBと10MB、100KBと5MB、100KBと3MB、100KBと2MB、100KBと1MB、100KBと500KB、200KBと100MB、200KBと50MB、200KBと20MB、200KBと10MB、200KBと5MB、200KBと3MB、200KBと2MB、200KBと1MB、200KBと500KB、500KBと100MB、500KBと50MB、500KBと20MB、500KBと10MB、500KBと5MB、500KBと3MB、500KBと2MB、500KBと1MB、1MBと100MB、1MBと50MB、1MBと20MB、1MBと10MB、1MBと5MB、1MBと3MB、1MBと2MB、3MBと100MB、3MBと50MB、3MBと20MB、3MBと10MB、3MBと5MB、5MBと100MB、5MBと50MB、5MBと20MB、5MBと10MB、10MBと100MB、10MBと50MB、または10MBと20MBの間である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法
【請求項8】
鋳型配列の長さが、200KBと50MBの間、1MBと20MBの間、1MBと10MBの間、1MBと5MBの間、1MBと3MBの間、3MBと20MBの間、3MBと10MBの間、3MBと7MBの間、または3MBと5MBの間である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
(c)で二本鎖切断を生成させることが、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼおよび1つもしくは複数のガイド核酸(gNA)、1つもしくは複数のジンクフィンガーヌクレアーゼ、1つもしくは複数の転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、または1つもしくは複数のCREリコンビナーゼを使用して二本鎖切断を誘導することを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
CRISPR/Casエンドヌクレアーゼが、CasI、CasIB、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9、Cas10、CasX、CasY、Cas12a(Cpf1)、Cas12b、Cas13a、CsyI、Csy2、Csy3、CseI、Cse2、CscI、Csc2、Csa5、Csn2、 Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、CmrI、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、CsbI、Csb2、Csb3、Csx17、CsxI4、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、 Csx1、Csx15、CsfI、Csf2、Csf3、Csf4、Cms1、C2c1、C2c2、もしくはC2c3、またはそれらのホモログ、オルソログ、もしくは改変型を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
CRISPR/Casエンドヌクレアーゼが、Cas9、Cpf1、CasX、CasY、C2c1、C2c3、またはそれらのホモログ、オルソログもしくは改変型を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
CRISPR/CasエンドヌクレアーゼがCas9を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
gNAが単一ガイドRNA(sgRNA)を含む、請求項10~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
標的染色体が、5'から3'まで、第1の核酸分子の5'相同性アームの配列、標的配列、および第2の核酸分子の3'相同性アームの配列を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
鋳型染色体が、5'から3'まで、第1の核酸分子の3'相同性アームの配列、鋳型配列、および第2の核酸分子の5'相同性アームの配列を含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
標的配列が、少なくとも1個の遺伝子、少なくとも2個の遺伝子、少なくとも3個の遺伝子、少なくとも5個の遺伝子、少なくとも10個の遺伝子、少なくとも20個の遺伝子、少なくとも30個の遺伝子、少なくとも40個の遺伝子、少なくとも50個の遺伝子、少なくとも100個の遺伝子、または少なくとも200個の遺伝子を含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
標的化配列が、鋳型配列の1つまたは複数の遺伝子と相同である1つまたは複数の遺伝子を含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
鋳型配列が天然に存在する配列を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
鋳型配列が天然に存在する配列に対する1つまたは複数の改変を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
鋳型配列が、少なくとも1個の遺伝子、少なくとも2個の遺伝子、少なくとも3個の遺伝子、少なくとも5個の遺伝子、少なくとも10個の遺伝子、少なくとも20個の遺伝子、少なくとも30個の遺伝子、少なくとも40個の遺伝子、少なくとも50個の遺伝子、少なくとも100個の遺伝子、または少なくとも200個の遺伝子を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
鋳型配列が人工配列を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
人工配列が、1つまたは複数の抗体またはその抗原結合フラグメントをコードする配列を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
1つまたは複数の抗体またはその抗原結合フラグメントが、scFv、二重特異性抗体、または多重特異性抗体を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
鋳型配列の挿入により標的配列が欠失される、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法であって、ここで:
a. 標的染色体が、5'から3'まで、第1の核酸分子の5'相同性アームの配列、第1のsgRNA標的配列、標的配列、第2のsgRNA標的配列、および第2の核酸分子の3'相同性アームの配列を含み;ならびに
b. 鋳型染色体は、5'から3'まで、第3のsgRNA標的配列、第1の核酸分子の3'相同性アームの配列、鋳型配列、第2の核酸分子の5'相同性アームの配列、および第4のsgRNA標的配列を含む。
【請求項26】
二本鎖切断の生成が、細胞を、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼと、第1、第2、第3および第4のsgRNAとに接触させることを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
第1、第2、第3および第4のsgRNAが、第1、第2、第3および第4のsgRNA標的配列に特異的な標的化配列を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
CRISPR/CasエンドヌクレアーゼおよびsgRNAと細胞とを接触させることが、CRISPR/CasエンドヌクレアーゼおよびsgRNAをコードする1つまたは複数の核酸分子で細胞をトランスフェクションすることを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
鋳型配列の挿入が、標的配列の配列のほとんどまたは全く欠失を含まない、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
鋳型配列の挿入が、標的配列の1つまたは複数の機能を破壊する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
鋳型配列の挿入が、標的配列の遺伝子を破壊する、請求項29または30に記載の方法。
【請求項32】
請求項29~31のいずれか1項に記載の方法であって、ここで
a. 標的染色体が、5'から3'まで、第1の核酸分子の5'相同性アームの配列、第1のsgRNA標的配列、および第2の核酸分子の3'相同性アームの配列を含み;ならびに
b. 鋳型染色体は、5'から3'まで、第2のsgRNA標的配列、第1の核酸分子の3' 相同性アームの配列、鋳型配列、第2の核酸分子の5' 相同性アームの配列、および第3のsgRNA標的配列を含む。
【請求項33】
二本鎖切断の生成が、細胞を、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼと、第1、第2および第3のsgRNAとに接触させることを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
第1、第2および第3のsgRNAが、第1、第2および第3のsgRNA標的配列に特異的な標的化配列を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
CRISPR/CasエンドヌクレアーゼおよびsgRNAと細胞とを接触させることが、CRISPR/CasエンドヌクレアーゼおよびsgRNAをコードする1つまたは複数の核酸分子で細胞をトランスフェクションすることを含む、請求項34または35に記載の方法。
【請求項36】
第1または第2のマーカーが、細胞内で蛍光タンパク質を発現することができるプロモーターに作動可能に連結された蛍光タンパク質を含む、請求項1~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
蛍光タンパク質が、緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)、dsRed、mCherry、またはtdTomatoを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
蛍光タンパク質がGFPを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
第1マーカーが選択可能なマーカーをさらに含む、請求項1~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
第2マーカーが選択可能なマーカーをさらに含む、請求項1~39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
選択可能なマーカーが、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、グルタミン合成酵素(GS)、ピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼ、ブラスチジンデアミナーゼ、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(hph)、ブレオマイシン耐性遺伝子およびアミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(ネオマイシン耐性)からなる群より選択される、請求項39または40に記載の方法。
【請求項42】
第1および第2のマーカーが同一の選択可能なマーカーではない、請求項39~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
第1マーカーが、細胞内でGFPを発現可能なプロモーターに作動可能に連結されたGFPおよびピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼを含み、第2マーカーが、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼを含む、請求項1~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
ステップ(d)の後、(e)第1または第2マーカーの全部または一部を欠失させることをさらに含む、請求項1~43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
第1または第2マーカーを欠失させることが、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼおよびマーカーをコードする配列に特異的な標的化配列を含むgNAを用いて欠失を誘導することを含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
細胞が、ハイブリッド細胞、胚性ハイブリッド幹(EHS)細胞または接合体を含む、請求項1~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
EHS細胞が、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ラクダ、ニワトリおよびサルからなる群より選択される任意の2種のES細胞を融合することによって生成される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
EHS細胞が、ヒト胚性幹細胞と非ヒト種由来の胚性幹細胞とを融合することによって生成される、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
非ヒト種がマウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ラクダ、ニワトリまたはサルである、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
EHS細胞が、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ラクダ、ニワトリおよびサルからなる群より選択される任意の2つの異なる種からのES細胞を融合することによって生成される、請求項46に記載の方法。
【請求項51】
ハイブリッド細胞を生成することを含む、請求項46に記載の方法、ここで当該方法は以下を含む:
a. 小核化ヒト細胞を生成する;および
b. 小核化ヒト細胞を非ヒト種由来の細胞と融合させ、それによってハイブリッド細胞を生成する。
【請求項52】
小核化ヒト細胞が、小核形成を誘導するのに十分な条件下でヒト細胞をコルセミドに暴露し、遠心分離を用いて小核化細胞を回収することによって生成される、請求項51記載の方法。
【請求項53】
非ヒト種が、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ラクダ、ニワトリまたはサルである、請求項51または52に記載の方法。
【請求項54】
非ヒト種由来の細胞がES細胞であり、ハイブリッド細胞がEHS細胞である、請求項51~53のいずれか1項に記載の方法。
【請求項55】
融合が、電気融合、ウイルス誘導融合、または化学誘導融合を含む、請求項47~50のいずれか1項に記載の方法。
【請求項56】
標的配列が、免疫グロブリンまたはT細胞受容体サブユニットをコードする遺伝子を含む、請求項1~55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
標的染色体がマウス12番染色体を含み、鋳型染色体がヒト14番染色体を含むか、または標的染色体がマウス6番染色体を含み、鋳型染色体がヒト2番染色体を含む、請求項1~56のいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
標的配列が、マウスIgh可変領域配列、マウスIgk可変領域配列、および/またはマウスIgl可変領域配列を含む、請求項57記載の方法。
【請求項59】
マウスIgh可変領域配列が、マウスVH、DHおよびJH1-6遺伝子セグメントをコードする配列ならびに介在する非コード配列を含む、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
鋳型配列がヒトIGH可変領域配列、ヒトIGK可変領域配列、および/またはヒトIGL可変領域配列を含む、請求項57~59のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
ヒトIGH可変領域配列が、ヒトVH、DHおよびJH1~6遺伝子セグメントをコードする配列ならびに介在する非コード配列を含む、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
ステップ(d)で選択された細胞から組換え染色体の回収をさらに含む、請求項1~61のいずれか1項に記載の方法。
【請求項63】
組換え染色体の回収が、小核形成を誘導するのに十分な条件下で細胞をコルセミドに暴露すること、および遠心分離を用いて小核化細胞を回収することを含む、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
第1および第2の核酸分子がプラスミドである、請求項1~63のいずれか1項に記載の方法。
【請求項65】
請求項1~64のいずれか1項に記載の方法によって作製された組換え染色体。
【請求項66】
組換え染色体が、マウスIgh可変領域の代わりにヒトIGH可変領域の配列を含むマウス12番染色体、またはマウスIgk可変領域の代わりにヒトIGK可変領域の配列を含むマウス6番染色体である、請求項65記載の組換え染色体。
【請求項67】
マウスIgh可変領域が、VH、DHおよびJH1-6遺伝子セグメントと、介在する非コード配列とを含む、請求項66に記載の組換え染色体。
【請求項68】
ヒトIGH可変領域が、VH、DHおよびJH1-6遺伝子セグメントと、介在する非コード配列とを含む、請求項66または67に記載の組換え染色体。
【請求項69】
請求項64~68のいずれか1項に記載の組換え染色体を含む細胞。
【請求項70】
細胞がマウスES細胞とハイブリダイズ可能である、請求項69に記載の細胞。
【請求項71】
細胞が胚性幹(ES)細胞、胚性ハイブリッド幹(EHS)細胞、または接合体である、請求項69に記載の細胞。
【請求項72】
細胞が小核化細胞である、請求項68記載の方法。
【請求項73】
EHS細胞がヒトES細胞とマウスES細胞とのハイブリッドである、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
ES細胞がマウスES細胞である、請求項72記載の細胞。
【請求項75】
マウス胚性幹細胞を生成する方法であって、以下を含む:
a. 請求項1~64のいずれか1項に記載の方法によって、組換え染色体を含む小核化細胞をマウスES細胞に融合する、ここで:
i. マウスES細胞は、前記組換え染色体に相同な染色体を含み、前記相同染色体は、ES細胞内で蛍光タンパク質を発現させることができるプロモーターに作動可能に連結された第一の蛍光タンパク質を含み、および
ii. 小核化細胞の少なくともサブセットが、前記組換え染色体を含み、前記組換え染色体が第1蛍光タンパク質とは異なる第2蛍光タンパク質を含み、第2蛍光タンパク質がES細胞内で蛍光タンパク質を発現させることができるプロモーターに作動可能に連結されている;
b. 第1および第2蛍光タンパク質の両方を発現するES細胞を選択する;
c. ステップ(c)で選択されたES細胞を、相同染色体が少なくともES細胞のサブセットで消失するまで培養する;ならびに
d. 第2蛍光タンパク質を発現し、第1蛍光タンパク質を発現しないES細胞を選択する。
【請求項76】
ステップ(c)における細胞の培養が、少なくとも5日間、少なくとも7日間、少なくとも10日間、または少なくとも14日間細胞を培養することを含む、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
ステップ(b)および(d)で細胞を選択することが、蛍光活性化細胞選別(FACS)を含む、請求項75または76に記載の方法。
【請求項78】
請求項75~77のいずれか1項に記載の方法により作製されたマウスES細胞。
【請求項79】
請求項75~78のいずれか1項に記載の方法により作製されたマウスES細胞から作製された、トランスジェニックマウス。
【請求項80】
トランスジェニックマウスの作製が、ES細胞を二倍体胚盤胞に注入すること、ES細胞から脱核マウス胚に核移植すること、または四倍体胚相補を含む、請求項79に記載のトランスジェニックマウス。
【請求項81】
マウス12番染色体がマウスIgh可変領域の代わりにヒトIGH可変領域の配列を含むか、またはマウス6番染色体がマウスIgk可変領域の代わりにヒトIGK可変領域の配列を含む、請求項79または80に記載のトランスジェニックマウス。
【請求項82】
マウスIgh可変領域が、VH、DHおよびJH1-6遺伝子セグメントと、介在する非コード配列とを含む、請求項81記載のトランスジェニックマウス。
【請求項83】
ヒトIGH可変領域が、VH、DHおよびJH1-6遺伝子セグメントと、介在する非コード配列とを含む、請求項81または82記載のトランスジェニックマウス。
【請求項84】
以下を含む、抗体を生成する方法:
a. 請求項80~83のいずれか1項に記載のトランスジェニックマウスに抗原を作用させ、それによって当該トランスジェニックマウスがヒトIGH可変領域からヒトV、DおよびJセグメントを含む複数の抗体を生成させること;ならびに
b. 抗原に特異的な抗体を単離すること。
【請求項85】
請求項84記載の方法により作製された抗体由来の抗体。
【請求項86】
単鎖可変フラグメント(scFv)、二重特異性抗体または多重特異性抗体を含む、請求項85に記載の抗体。
【請求項87】
染色体再配列を生成する方法であって、以下を含む:
a. 標的位置を含む標的染色体および鋳型配列を含む鋳型染色体を含む細胞を提供する;
b. 当該細胞を、5'から3'まで、標的位置の5'末端の上流のヌクレオチド配列を含む5'相同性アーム、マーカー、および鋳型配列の5'末端の上流のヌクレオチド配列を含む3'相同性アームを含む核酸分子と接触させる;
c. 標的位置および鋳型配列の5'末端で二本鎖切断を生成し、それによりマーカーが5'相同性アームの配列の3'標的染色体中に挿入され、続いて鋳型配列が挿入され、それにより染色体再配列が生じる;ならびに
d. マーカーを発現する1つまたは複数の細胞を選択する。
【請求項88】
核酸分子の5'相同性アームと3'相同性アームの長さが、約20bpと2,000bpの間、約50bpと1,500bpの間、約100bpと1,400bpの間、約150bpと1,300bpの間、約200bpと1,200bpの間、約300bpと1,100bpの間、約400bpと1,000bpの間、または約500bpと900bpの間、または約600bpと800bpの間である、請求項87に記載の方法。
【請求項89】
核酸分子の5'および3'相同性アームの長さが、約400bpと1,500bpの間、長さ約500bpと1,300bpの間、または長さ約600bpと1,000bpの間である、請求項87に記載の方法。
【請求項90】
核酸分子の5'および3'相同性アームが、長さが約600bpと1,000bpの間である、請求項87に記載の方法。
【請求項91】
(c)で二本鎖切断を生成させることが、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼおよび少なくとも1つのsgRNA、1つまたは複数のジンクフィンガーヌクレアーゼ、1つまたは複数の転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、または1つまたは複数のCREリコンビナーゼを使用して二本鎖切断を誘導することを含む、請求項87~90のいずれか1項に記載の方法。
【請求項92】
CRISPR/Casエンドヌクレアーゼが、CasI、CasIB、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9、Cas10、CasX、CasY、Cas12a(Cpf1)、Cas12b、Cas13a、CsyI、Csy2、Csy3、CseI、Cse2、CscI、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、CmrI、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、CsbI、Csb2、Csb3、Csx17、CsxI4、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、CsfI、Csf2、Csf3、Csf4、Cms1、C2c1、C2c2、もしくはC2c3、またはそれらのホモログ、オルソログ、もしくは改変型を含む、請求項91に記載の方法
【請求項93】
CRISPR/Casエンドヌクレアーゼが、Cas9、Cpf1、CasX、CasY、C2c1、C2c3、またはそれらのホモログ、オルソログもしくは改変型を含む、請求項91に記載の方法。
【請求項94】
CRISPR/CasエンドヌクレアーゼがCas9を含む、請求項91に記載の方法。
【請求項95】
請求項91~93のいずれか1項に記載の方法であって、二本鎖切断の生成が、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼ、少なくとも、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼが標的位置を切断するような、標的位置に特異的な標的化配列を含む第1のgNA、および鋳型配列の5'末端に特異的な標的化配列を含む第2のgNAと細胞とを接触させることを含む、方法。
【請求項96】
CRISPR/CasエンドヌクレアーゼおよびsgRNAと細胞とを接触させることが、CRISPR/CasエンドヌクレアーゼおよびsgRNAをコードする1つまたは複数の核酸分子で細胞をトランスフェクションすることを含む、請求項95に記載の方法。
【請求項97】
マーカーが、細胞内で蛍光タンパク質を発現可能なプロモーターに作動可能に連結された蛍光タンパク質を含む、請求項87~96のいずれか1項に記載の方法。
【請求項98】
蛍光タンパク質が、GFP、YFP、RFP、CFP、BFP、dsRed、mCherry、またはtdTomatoを含む、請求項97に記載の方法。
【請求項99】
マーカーが選択可能なマーカーをさらに含む、請求項87~98のいずれか1項に記載の方法。
【請求項100】
選択可能なマーカーが、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、グルタミン合成酵素(GS)、ピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼ、ブラスチシジンデアミナーゼ、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(hph)、ブレオマイシン耐性遺伝子、およびアミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(ネオマイシン耐性)からなる群より選択される、請求項99に記載の方法。
【請求項101】
細胞が胚性幹(ES)細胞を含む、請求項87~100のいずれか1項に記載の方法。
【請求項102】
核酸分子がプラスミドである、請求項87~101のいずれか1項に記載の方法。
【請求項103】
請求項87~101のいずれか1項に記載の染色体再配列を含む細胞。
【請求項104】
細胞がマウスES細胞である、請求項103に記載の細胞。
【請求項105】
請求項103または104に記載の細胞から作製されたマウスES細胞からの、トランスジェニックマウス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
大型染色体の導入方法と改変染色体およびそれを用いた生物に関する。
【0002】
配列リストの引用による組み込み
本出願は、EFS-WEBを介してASCIIフォーマットで提出された配列リストを含み、ここにその全体が参考として援用される。
【0003】
背景
遺伝子や染色体の大きなフラグメントの操作は、基礎研究やトランスレーショナルリサーチ、さらには治療法の開発にとって強力なツールである。ヒトの遺伝子の大きさは数百塩基から少なくとも2,300キロベース(KB)であり、ヒト染色体の大きさは38メガベースペア(MB)から250MB近くである。したがって、大きな遺伝子、複数の遺伝子にまたがる領域、および染色体の一部を効果的に研究するには、大きな配列フラグメントを操作する必要がある。しかしながら、大きなフラグメントの操作は、遺伝子編集分野における最も重要な課題の1つである。本開示は、大きな配列を操作するための方法を提供する。
【発明の概要】
【0004】
概要
本開示は、以下を含む、組換え染色体(engineered chromosome)を生成する方法を提供する:(a)標的配列を含む標的染色体および鋳型配列を含む鋳型染色体を含む細胞を提供する;(b)(i)5'から3'まで、標的配列の5'末端の上流のヌクレオチド配列を含む5'相同性アーム、少なくとも第1のマーカー、および鋳型配列の5'末端の上流のヌクレオチド配列を含む3'相同性アームを含む第1の核酸分子ならびに(ii)5'から3'まで、鋳型配列の3'末端の下流のヌクレオチド配列を含む5'相同性アーム、少なくとも第2のマーカー、および標的配列の3'末端の下流のヌクレオチド配列を含む3'相同性アームを含む第2の核酸分子を細胞に接触させる;(c)標的配列の両側、ならびに鋳型配列の5'末端および3'末端で二本鎖切断を生成する、これにより、鋳型配列ならびに第1および第2のマーカーが標的染色体に挿入される;ならびに(d)第1および第2のマーカーを発現する細胞または複数の細胞を選択する。
【0005】
いくつかの実施形態では、第1のマーカーは、鋳型配列の5'末端に位置し、第2のマーカーは、鋳型配列の挿入後の鋳型配列の3'末端に位置する。
【0006】
いくつかの実施形態では、第1および第2の核酸分子の5'および3'相同性アームの長さは、約20塩基対(bp)と2,000塩基対(bp)の間、約50bpと1,500bpの間、約100bpと1,400bpの間、約150bpと1,300bpの間、約200bpと1,200bpの間、約300bpと1,100bpの間、約400bpと1,000bpの間、または約500bpと900bpの間、または約600bpと800bpの間である。いくつかの実施形態では、第1および第2の核酸分子の5'および3'相同性アームの長さは、約400bpと1,500bpの間、約500bpと1,300bpの間、または約600bpと1,000bpの間である。いくつかの実施形態では、第1および第2の核酸分子の5'および3'相同性アームの長さは、約600bpと1,000bpの間である。
【0007】
いくつかの実施形態では、鋳型配列の長さは、少なくとも25キロベースペア(KB)、少なくとも50KB、少なくとも100KB、少なくとも200KB、少なくとも400KB、少なくとも500KB、少なくとも600KB、少なくとも700KB、少なくとも800KB、少なくとも900KB、少なくとも1メガべースペア(MB)、少なくとも2MB、少なくとも3MB、少なくとも4MB、少なくとも5MB、少なくとも6MB、少なくとも7MB、少なくとも8MB、少なくとも9MB、少なくとも10MB、少なくとも15MB、少なくとも20MB、少なくとも25MB、少なくとも30MB、少なくとも40MB、少なくとも50MB、少なくとも60MB、少なくとも70MB、少なくとも80MB、少なくとも90MB、少なくとも100MB、少なくとも120MB、少なくとも140MB、少なくとも160MB、少なくとも180MB、少なくとも200MB、少なくとも220MB、または少なくとも250MBである。いくつの実施形態では、鋳型配列の長さは、50KBと250MB、50KBと100MB、50KBと50MB、50KBと20MB、50KBと10MB、50KBと5MB、50KBと3MB、50KBと2MB、50KBと1MB、100KBと200MB、100KBと100MB、100KBと50MB、100KBと20MB、100KBと10MB、100KBと5MB、100KBと3MB、100KBと2MB、100KBと1MB、100KBと500KB、200KBと100MB、200KBと50MB、200KBと20MB、200KBと10MB、200KBと5MB、200KBと3MB、 200KBと2MB、200KBと1MB、200KBと500KB、500KBと100MB、500KBと50MB、500KBと20MB、500KBと10MB、500KBと5MB、500KBと3MB、500KBと2MB、500KBと1MB、1MBと100MB、1MBと50MB、1MBと20MB、1MBと10MB、1MBと5MB、1MBと3MB、1MBと2MB、3MBと100MB、3MBと50MB、3MBと20MB、3MBと10MB、3 MBと5MB、5MBと100MB、5MBと50MB、5MBと20MB、5MBと10MB、10MBと100MB、10MBと50MB、または10MBと20MBの間である。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、200KBと50MBの間、1MBと20MBの間、1MBと10MBの間、1MBと5MBの間、1MBと3MBの間、3MBと20MBの間、3MBと10MBの間、3MBと7MBの間、または3MBと5MBの間の長さである。
【0008】
いくつかの実施形態では、(c)における二本鎖切断の生成は、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼと、1つまたは複数のガイド核酸(gNA)、1つまたは複数のジンクフィンガーヌクレアーゼ、1つまたは複数の転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、または1つまたは複数のCREリコンビナーゼとを使用して、二本鎖切断を誘導することを含む。いくつかの実施形態では、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼが、CasI、CasIB、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9、Cas10、CasX、CasY、Cas12a(Cpf1)、Cas12b、Cas13a、CsyI、Csy2、Csy3、CseI、Cse2、CscI、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、CmrI、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、CsbI、Csb2、Csb3、Csx17、CsxI4、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、 Csx1、Csx15、CsfI、Csf2、Csf3、Csf4、Cms1、C2c1、C2c2、もしくはC2c3、またはそれらのホモログ、オルソログ、もしくは改変型を含む。いくつかの実施形態では、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼは、Cas9、Cpf1(Cas12a)、Cas12b、CasX、CasY、C2c1、もしくはC2c3、またはそれらのホモログ、オルソログ、もしくは改変型を含む。いくつかの実施形態では、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼは、Cas9を含む。いくつかの実施形態では、gNAは、単一ガイドRNA(sgRNA)を含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、標的染色体は、5'から3'まで、第1の核酸分子の5'相同性アームの配列、標的配列、および第2の核酸分子の3'相同性アームの配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型染色体は、5'から3'まで、第1の核酸分子の3'相同性アームの配列、鋳型配列、および第2の核酸分子の5'相同性アームの配列を含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、標的配列は、少なくとも1個の遺伝子、少なくとも2個の遺伝子、少なくとも3個の遺伝子、少なくとも5個の遺伝子、少なくとも10個の遺伝子、少なくとも20個の遺伝子、少なくとも30個の遺伝子、少なくとも40個の遺伝子、少なくとも50個の遺伝子、少なくとも100個の遺伝子、または少なくとも200個の遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、標的配列は、鋳型配列の1つまたは複数の遺伝子と相同である1つまたは複数の遺伝子を含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、鋳型配列は、天然に存在する配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、少なくとも1個の遺伝子、少なくとも2個の遺伝子、少なくとも3個の遺伝子、少なくとも5個の遺伝子、少なくとも10個の遺伝子、少なくとも20個の遺伝子、少なくとも30個の遺伝子、少なくとも40個の遺伝子、少なくとも50個の遺伝子、少なくとも100個の遺伝子、または少なくとも200個の遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、天然に存在する配列に対する1つまたは複数の改変を含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列は人工配列を含む。いくつかの実施形態では、人工配列は、1つまたは複数の抗体またはその抗原結合フラグメントをコードする配列を含む。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の抗体またはその抗原結合フラグメントは、scFv、二特異性抗体、または多重特異性抗体を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、鋳型配列の挿入によって標的配列が欠失される。いくつかの実施形態では、(a)標的染色体は、5'から3'まで、第1の核酸分子の5'相同性アームの配列、第1のsgRNA標的配列、標的配列、第2のsgRNA標的配列、および第2の核酸分子の3'相同性アームの配列を含み; ならびに(b)鋳型染色体は、5'から3'まで、第3のsgRNA標的配列、第1の核酸分子の3'相同性アームの配列、鋳型配列、第2の核酸分子の5'相同性アームの配列および第4のsgRNA標的配列を含む。いくつかの実施形態では、二本鎖切断の生成は、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼ、ならびに第1、第2、第3および第4のsgRNAと細胞とを接触させることを含む。いくつかの実施形態では、第1、第2、第3、および第4のsgRNAは、第1、第2、第3、および第4のsgRNA標的配列に特異的な標的化配列を含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、CRISPR/CasエンドヌクレアーゼおよびsgRNAと細胞を接触させることは、CRISPR/CasエンドヌクレアーゼおよびsgRNAをコードする1つまたは複数の核酸分子で細胞をトランスフェクションすることを含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、鋳型配列の挿入は、標的配列の配列をほとんどまたは全く欠失させないことを含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列の挿入は、標的配列の1つまたは複数の機能を破壊する。いくつかの実施形態では、鋳型配列の挿入は、標的配列の遺伝子を破壊する。いくつかの実施形態では、(a)標的染色体は、5'から3'まで、第1の核酸分子の5'相同性アームの配列、第1のsgRNA標的配列、および第2の核酸分子の3'相同性アームの配列を含み; ならびに(b)鋳型染色体は、5'から3'まで、第2のsgRNA標的配列、第1の核酸分子の3'相同性アームの配列、鋳型配列、第2の核酸分子の5'相同性アームの配列、および第3のsgRNA標的配列を含む。いくつかの実施形態では、二本鎖切断の生成は、細胞をCRISPR/Casエンドヌクレアーゼ、ならびに第1、第2および第3のsgRNAと接触させることを含む。いくつかの実施形態では、第1、第2、および第3のsgRNAは、第1、第2、および第3のsgRNA標的配列に特異的な標的化配列を含む。いくつかの実施形態では、CRISPR/CasエンドヌクレアーゼおよびsgRNAと細胞とを接触させることは、CRISPR/CasエンドヌクレアーゼおよびsgRNAをコードする1つまたは複数の核酸分子で細胞をトランスフェクションすることを含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、第1または第2のマーカーは、細胞内で蛍光タンパク質を発現可能なプロモーターに作動可能に連結された蛍光タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、蛍光タンパク質が、緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)、dsRed、mCherry、またはtdTomatoを含む。いくつかの実施形態では、蛍光タンパク質はGFPを含む。いくつかの実施形態では、第1のマーカーは選択可能なマーカーをさらに含む。いくつかの実施形態では、第2のマーカーは選択可能なマーカーをさらに含む。いくつかの実施形態では、選択可能なマーカーが、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、グルタミン合成酵素(GS)、ピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼ、ブラスチシジン(Blasticidin)デアミナーゼ、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(hph)、ブレオマイシン耐性遺伝子、およびアミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(ネオマイシン耐性)からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、第1のマーカーおよび第2のマーカーは、同じ選択可能なマーカーではない。いくつかの実施形態では、第1のマーカーは、細胞内でGFPを発現可能なプロモーターに作動可能に連結されたGFPおよびピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼを含み、第2のマーカーはハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼを含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、方法はさらに、(e)ステップ(d)の後に、第1または第2のマーカーの全部または一部を欠失させることを含む。いくつかの実施形態では、第1または第2マーカーを欠失させることが、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼおよびマーカーをコードする配列に特異的な標的化配列を含むgNAを用いて、欠失を誘導することを含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、細胞はハイブリッド細胞、胚性ハイブリッド幹(EHS)細胞または接合体を含む。いくつかの実施形態では、EHS細胞は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ラクダ、ニワトリおよびサルからなる群より選択される任意の2種のES細胞を融合することによって生成される。いくつかの実施形態では、EHS細胞は、ヒト胚性幹細胞と非ヒト種由来の胚性幹細胞とを融合することによって生成される。いくつかの実施形態では、非ヒト種は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ラクダ、ニワトリまたはサルである。いくつかの実施形態では、EHS細胞は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ラクダ、ニワトリおよびサルからなる群より選択される任意の2つの異なる種からのES細胞を融合することによって生成される。いくつかの実施形態では、融合は電気融合、ウイルス誘導融合、または化学的誘導融合を含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、細胞はハイブリット細胞を含む。いくつかの実施形態では、ハイブリッド細胞を生成することは、以下を含む:(a)小核化ヒト細胞を生成させること;および(b)小核化ヒト細胞を非ヒト種由来の細胞と融合させ、それによってハイブリッド細胞を生成すること。いくつかの実施形態では、小核化ヒト細胞は、小核化を誘導するのに十分な条件下でヒト細胞をコルセミドに暴露し、遠心分離を用いて小核化細胞(micronucleated cell)を回収することによって生成される。いくつかの実施形態では、非ヒト種は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ラクダ、ニワトリまたはサルである。いくつかの実施形態では、非ヒト種由来の細胞はES細胞であり、ハイブリッド細胞はEHS細胞である。
【0019】
いくつかの実施形態では、標的配列は、免疫グロブリンまたはT細胞受容体サブユニットをコードする遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、標的染色体はマウス12番染色体を含み、鋳型染色体はヒト14番染色体を含む。いくつかの実施形態では、標的配列はマウスIgh可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、マウスIgh可変領域配列は、マウスVH、DHおよびJH1-6遺伝子セグメントをコードする配列と、介在する非コード配列とを含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、ヒトIGH可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、ヒトIGH可変領域配列は、ヒトVH、DHおよびJH1-6遺伝子セグメントをコードする配列ならびに介在する非コード配列を含む。いくつかの実施形態では、標的配列は、マウスIgl可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、標的配列は、マウスIgk可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、ヒトIGL可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、ヒトIGK可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、マウスIgk可変領域配列は、マウスVk,およびJk1-5遺伝子セグメントをコードする配列、ならびに介在する非コード配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、ヒトIGK可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、ヒトIGK可変領域配列は、ヒトVk,およびJk1-5遺伝子セグメントをコードする配列、ならびに介在する非コード配列を含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、方法はさらに、ステップ(d)で選択された細胞から組換え染色体を回収することを含む。いくつかの実施形態では、組換え染色体の回収は、小核形成を誘導するのに十分な条件下で細胞をコルセミドに暴露すること、および遠心分離を用いて小核化細胞を回収することを含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、第1および第2の核酸分子はプラスミドである。
【0022】
本開示は、本開示の方法によって作製された組換え染色体を提供する。
【0023】
いくつかの実施形態では、組換え染色体は、マウスIgh可変領域の代わりにヒトIGH可変領域の配列を含むマウス12番染色体である。いくつかの実施形態では、マウスIgh可変領域は、VH、DHおよびJH1-6遺伝子セグメントと、介在する非コード配列とを含む。いくつかの実施形態では、ヒトIGH可変領域は、VH、DHおよびJH1-6遺伝子セグメントと、介在する非コード配列とを含む。いくつかの実施形態では、組換え染色体は、マウスIgk可変領域の代わりにヒトIGK可変領域の配列を含むマウス6番染色体である。いくつかの実施形態では、マウスIgk可変領域配列は、マウスVk,およびJk1-5遺伝子セグメントをコードする配列、ならびに介在する非コード配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、ヒトIGK可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、ヒトIGK可変領域配列は、ヒトVk,およびJk1-5遺伝子セグメントをコードする配列、ならびに介在する非コード配列を含む。
【0024】
本開示は、本開示の組換え染色体を含む細胞を提供する。
【0025】
いくつかの実施形態では、細胞はマウスES細胞とハイブリダイズ可能である。いくつかの実施形態では、細胞は、胚性幹(ES)細胞、胚性ハイブリッド幹(EHS)細胞、または接合細胞である。いくつかの実施形態では、EHS細胞はヒトES細胞とマウスES細胞のハイブリッドである。いくつかの実施形態では、ES細胞はマウスES細胞である。いくつかの実施形態では、細胞は小核化細胞である。
【0026】
本開示は、以下を含む、マウス胚性幹細胞を生成することを含む方法を提供する:(a)本開示の方法のいずれか1つに記載の方法によって作製された組換え染色体を含む小核化細胞をマウスES細胞に融合する、ここで、(i)マウスES細胞が、組換え染色体と相同な染色体を含み、その相同染色体が、ES細胞において蛍光タンパク質を発現させることができるプロモーターに作動可能に連結された第1の蛍光タンパク質を含み、(ii)小核化細胞の少なくともサブセットが、組換え染色体を含み、ここで、組換え染色体が、第一の蛍光タンパク質とは異なる第二の蛍光タンパク質を含み、第二の蛍光タンパク質が、ES細胞において蛍光タンパク質を発現可能なプロモーターに作動可能に連結されている;(b)第1および第2の蛍光タンパク質の両方を発現するES細胞を選択する;(c)ステップ(c)で選択されたES細胞を、相同染色体がES細胞の少なくともサブセットによって失われるまで培養する;ならびに(d)第2の蛍光タンパク質を発現し、第1の蛍光タンパク質を発現しないES細胞を選択する。
【0027】
いくつかの実施形態では、ステップ(c)における細胞の培養は、細胞を少なくとも5日間、少なくとも7日間、少なくとも10日間、または少なくとも14日間培養することを含む。いくつかの実施形態では、ステップ(b)および(d)における細胞の選択は、蛍光活性化細胞選別(fluorescence activated cell sorting ; FACS)を含む。
【0028】
本開示は、本開示の方法によって作製されたマウスES細胞を提供する。
【0029】
本開示は、本開示のマウスES細胞から作製されたトランスジェニックマウスを提供する。
【0030】
いくつかの実施形態では、トランスジェニックマウスの作製は、二倍体胚盤胞へのES細胞の注入、ES細胞から脱核マウス胚への核移植、または四倍体胚相補性(四倍体胚補完(tetraploid embryo complementation))を含む。いくつかの実施形態では、マウス12番染色体は、マウスIgh可変領域の代わりにヒトIGH可変領域の配列を含む。いくつかの実施形態では、マウスIgh可変領域は、VH、DHおよびJH1-6遺伝子セグメントと、介在する非コード配列とを含む。いくつかの実施形態では、ヒトIGH可変領域は、VH、DHおよびJH1-6遺伝子セグメントと、介在する非コード配列とを含む。いくつかの実施形態では、マウス6番染色体は、マウスIgk可変領域の代わりにヒトIGK可変領域の配列を含む。いくつかの実施形態では、マウスIgk可変領域配列は、マウスVk,およびJ k1-5遺伝子セグメントをコードする配列、ならびに介在する非コード配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、ヒトIGK可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、ヒトIGK可変領域配列は、ヒトVk,およびJk1-5遺伝子セグメントをコードする配列、および介在する非コード配列を含む。
【0031】
本開示は、以下を含む、抗体を生成する方法を提供する:(a)本開示のトランスジェニックマウスに抗原を作用させ(challenging)、これにより該トランスジェニックマウスがヒトIGH可変領域からのヒトV、D、およびJセグメントを含む複数の抗体を生成する;ならびに(b)該抗原に特異的な抗体を単離する。
【0032】
本開示は、以下を含む、抗体を生成する方法を提供する:(a)本開示のトランスジェニックマウスに抗原を作用させ、これにより該トランスジェニックマウスがヒトIGKまたはIGL可変領域からのヒトV、およびJセグメントを含む複数の抗体を生成する;ならびに(b)該抗原に特異的な抗体を単離する。
【0033】
本開示は、本開示の当該トランスジェニックマウスによって、作製された抗体由来の抗体を提供する。いくつかの実施形態では、抗体は、単鎖可変フラグメント(scFv)、二重特異性抗体または多重特異性抗体を含む。
【0034】
本開示は、以下を含む、染色体再配列(chromosomal rearrangement)を生成する方法を提供する:(a)標的位置を含む標的染色体および鋳型配列を含む鋳型染色体を含む細胞を提供する;(b)5'から3'まで、標的位置の5'末端の上流のヌクレオチド配列を含む5'相同性アーム、マーカー、および鋳型配列の5'末端の上流のヌクレオチド配列を含む3'相同性アームを含む核酸分子を細胞に接触させる; (c)標的位置と鋳型配列の5'末端とにおいて二本鎖切断を生成させ、これにより、マーカーを5'相同性アームの配列の3'標的染色体中に挿入し、続いて鋳型配列を挿入し、これにより染色体再配列を生成させる;ならびに(d)マーカーを発現する細胞1つまたは複数の細胞を選択する。
【0035】
いくつかの実施形態では、核酸分子の5'および3'相同性アームの長さは、約20塩基対(bp)と2,000塩基対(bp)の間、約50bpと1,500bpの間、約100bpと1,400bpの間、約150bpと1,300bpの間、約200bpと1,200bpの間、約300bpと1,100bpの間、約400bpと1,000bpの間、または約500bpと900bpの間、または約600bpと800bpの間である。いくつかの実施形態では、核酸分子の5'および3'相同性アームの長さは、約400bpと1,500bpの間、約500bpと1,300bpの間、または約600bpと1,000bpの間である。いくつかの実施形態では、核酸分子の5'および3'相同性アームは、約600bpと1,000bpとの間の長さである。
【0036】
いくつかの実施形態では、(c)における二本鎖切断の生成は、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼと、少なくとも1つのsgRNA、1つまたは複数のジンクフィンガーヌクレアーゼ、1つまたは複数の転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、または1つまたは複数のCREリコンビナーゼとを使用して、二本鎖切断を誘導することを含む。いくつかの実施形態では、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼが、CasI、CasIB、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9、Cas10、CasX、CasY、Cas12a(Cpf1)、Cas12b、Cas13a、CsyI、Csy2、Csy3、CseI、Cse2、CscI、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、CmrI、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、CsbI、Csb2、Csb3、Csx17、CsxI4、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、 Csx1、Csx15、CsfI、Csf2、Csf3、Csf4、Cms1、C2c1、C2c2、もしくはC2c3、またはそれらのホモログ、オルソログ、もしくは改変型を含む。いくつかの実施形態では、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼは、Cas9、Cpf1、CasX、CasY、C2c1、もしくはC2c3、またはそれらのホモログ、オルソログ、もしくは改変型を含む。いくつかの実施形態では、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼは、Cas9を含む。いくつかの実施形態では、二本鎖切断の生成は、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼ、少なくとも、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼが標的位置を切断するような、標的位置に特異的な標的化配列を含む第1のgNA、および鋳型配列の5'末端に特異的な標的化配列を含む第2のgNAと細胞とを接触させることを含む。いくつかの実施形態では、CRISPR/CasエンドヌクレアーゼおよびsgRNAと細胞を接触させることは、CRISPR/CasエンドヌクレアーゼおよびsgRNAをコードする1つまたは複数の核酸分子で細胞をトランスフェクションすることを含む。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の核酸分子はプラスミドである。
【0037】
いくつかの実施形態では、マーカーは、細胞内で蛍光タンパク質を発現可能なプロモーターに作動可能に連結された蛍光タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、蛍光タンパク質は、GFP、YFP、RFP、CFP、BFP、dsRed、mCherry、またはtdTomatoを含む。いくつかの実施形態では、マーカーは選択可能なマーカーをさらに含む。いくつかの実施形態では、選択可能なマーカーが、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、グルタミン合成酵素(GS)、ピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼ、ブラスチシジンデアミナーゼ、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(hph)、ブレオマイシン耐性遺伝子、およびアミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(ネオマイシン耐性)からなる群より選択される。
【0038】
いくつかの実施形態では、細胞は胚性幹(ES)細胞を含む。
【0039】
いくつかの実施形態では、核酸分子はプラスミドである。
【0040】
本開示は、本開示の方法によって、作製された染色体再配列を含む細胞を提供する。いくつかの実施形態では、細胞はマウスES細胞である。
【0041】
本開示は、本開示の方法によって作製されたマウスES細胞からのトランスジェニックマウスを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
本開示の特徴及び利点のより良い理解は、例示的な実施形態を示す以下の詳細な説明、及び添付の図面を参照することによって得られる。
【0043】
図1は、上から順に、マウス免疫グロブリン重鎖複合体(Igh)、ヒトIgh、および可変ドメイン(VH、DHおよびJH1-6)がヒト化されたマウスIghを示す図である。Chro:染色体。
【0044】
図2は、組換えマウスとヒト胚性幹(ES)細胞の電気融合によるハイブリダイズを示す図である。マウスES細胞はマーカーであるネオマイシンを発現し、ヒトES細胞はmCherryを発現する。胚性ハイブリッド幹細胞(ハイブリドーマ細胞)はG418に耐性で、Cherryに陽性である。
【0045】
図3Aは、胚性ハイブリッド幹(EHS)細胞の遺伝子型決定に用いたヒトIgh遺伝子VH、DH、JH1-6領域における3対のPCRプライマー(矢印で示す)の配置を示す図である。
【0046】
図3Bは、図3Aに示したプライマーを用いて遺伝子型を決定した12個の胚性ハイブリッド幹(EHS)細胞クローンのPCR結果を示す例示的なゲルである。
4A-4Bは、HDRを介した染色体再配列(HDR-mediated chromosomal rearrangement(HCMR))HDR:相同性指向性修復(homology directed repair)を介して、EHS細胞(図4A)に組換えヒト化染色体を樹立するためのパイプラインを示す図である。EHS細胞に、マウスIgh遺伝子の5'に相同な5'アーム、ヒトIgh遺伝子の5'に相同な3'アーム、およびpCMV-EGFP-PolyA-PGK-Puromycin-PolyAカセットを含む5'HMCRプラスミドを共トランスフェクション(共導入)した;
に示されるように、 ヒトIgh可変遺伝子座の3'末端と相同性のある5'アーム、マウスIgh可変遺伝子座の3'と相同性のある3'アーム、およびPGK-Hygromycin-polyAカセットを含む3'HMCRプラスミド、ならびにマウスIghとヒトIghの5'および3'可変ドメインを標的とするCas9およびsgRNAを含む4つのプラスミドである。または、(図4B)CRE-Loxpを介した染色体再配列(CMCR)を介して:CMCRプロセスを媒介するために4つのプラスミドを設計した。マウスIgh 5' (pCMV-GFP-BGH PolyA-Loxp)および3' (BGH polyA-Loxp-511-Hygromycin-BGH polyA-PGK-BSD-BGH PolyA)プラスミドは、それぞれマウスIgh可変遺伝子座の5'および3'末端に挿入するように設計された。同時に、ヒトIGH可変遺伝子座の5'末端と3'末端にそれぞれヒトIGH 5' (BGH polyA-Loxp-Puro-BGH PolyA-PGK-Neomycin-BGH PolyA)と3' (pCMV-BGP-BGH PolyA-PGK-Loxp-511) プラスミドを挿入するように設計した。CMCRのために、正常に統合されたEHS細胞にCreをトランスフェクションした。
【0047】
図5Aは、組換えヒト染色体を検証するために用いたPCRプライマー(矢印で示す)の配置を示す図である。
図5Bは、図5Aに示した4組のプライマーを用いたPCR結果を示している。192個の単一クローンの結果が示されている。
【0048】
図6は、マウスES細胞におけるマウス染色体と遺伝子組換えヒト染色体との置換を示す図である。GFPで標識した組換えヒト染色体を持つEHS細胞をコルセミドに暴露して微小化し、微小核細胞(microcell)を遠心分離で回収し、対応するマウス染色体をmCherryで標識したマウスES細胞に電気融合する。GFP+ mCherry+細胞を蛍光活性化細胞選別(FACS)により単離する。次に細胞を培養し、マウス染色体を失ったGFP+ mCherry-細胞をFACSにより単離する。
【0049】
図7Aは、Ighヒト化マウスの検証に用いたPCRプライマー(矢印で示す)の配置を示している。
【0050】
図7Bは、図に示した7組のプライマーを用いた例示的なIghヒト化マウスのPCR結果を示している。
【0051】
図8Aは、Ighヒト化マウスの蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)の結果を示している。
【0052】
図8Bは、Ighヒト化マウスのG-バンディング核型分析(G-banding karyotype analysis)を示している。
【0053】
図9Aは、Ighヒト化マウスのIGH-Vの全ゲノム配列(WGS)解析結果を示している。ヒトIghのVH領域に位置する各可変(V)遺伝子セグメントのWGS配列のコピー数を示している。
【0054】
図9Bは、Ighヒト化マウスのIGH-DとIGH-JのWGS解析を示している。ヒトIghのDHおよびJH1-6領域に位置する各Diversity(D)遺伝子セグメントおよび6つの接合(J)セグメントのWGS配列のコピー数を示している。
【0055】
図10は、マウスIgk遺伝子の可変ドメインのヒト化を示している。
【0056】
11A-11BはIgkヒト化マウスのPCRバリデーション結果を示している。図11A, PCR実験に用いたデザインプライマーの位置。図11B, パネルAに示した5組のプライマーを用いたIgkヒト化マウスのPCR結果である。
【0057】
図12は、Igkヒト化マウスのWGS解析結果を示している。ヒトIGK遺伝子のVKおよびJkセグメント上に位置する各抗体遺伝子のWGS配列からのコピー数である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
詳細な説明
本開示は、大きな配列フラグメントを染色体間に導入(transferring)することを含む染色体組換え方法を提供する。本明細書に開示する方法を用いると、少なくとも5メガベースペア(MB)の配列を、染色体鋳型から標的染色体に導入することができる。本明細書で開示する方法は、逆位や転座などの染色体再配列を生成させるためにも使用できる。また、本明細書には、本開示の方法によって作製された組換え染色体、ならびに該染色体を含む細胞および動物、さらにこれらの使用方法も提供される。
【0059】
遺伝子や染色体の大きなフラグメントを操作することは、基礎研究、トランスレーショナルリサーチ、および治療法の開発のいずれにおいても大きな可能性を秘めている。遺伝的ヒト化は、マウスのようなモデル生物の遺伝子をヒトの対応するものに置き換える最も一般的な応用の1つである。例えば、ヒト化Ig遺伝子を持つマウスは、マウスバックグラウンドでヒト抗体を産生するための強力なプラットフォームとなる。しかしながら、100万ベースペア(MBs)までの染色体の大きな断片を運ぶことができるデリバリーベクターが利用できないため、大きなフラグメントの操作は遺伝子編集分野における最も重要な課題のひとつである。アデノ随伴ウイルスベクターや他のウイルスベクターなどの従来のデリバリーベクターのペイロードは、ベクターが由来するウイルスゲノムのサイズによって制限される。
【0060】
本明細書で開示する方法は、染色体間の大きな配列をin situで効率的に置換することを可能にする。大規模フラグメント種間in situ置換技術(Massive fragment Across Species In situ Replacement Technology, MASIRT)と呼ばれるこれらの方法は、染色体の大部分を1回の編集で置換することができ、場合によってはメガベースペア(MB)の配列まで置換することができる。これらの方法は、生物種間、あるいは1つの生物種内の染色体間で、大きな配列を効率的に導入するために使用できる。ある例では、マウスIgh遺伝子の可変ドメインをヒト化したマウスを得るためにMASIRTが使われた。ヒトとマウスは抗体遺伝子の配列と発現に高い類似性を示し、重鎖のゲノム構成もこれらの種間で類似している。そこで、MASIRTを用いて、VH、DH、JH遺伝子の全セグメントを含む約3MBのマウスゲノム配列を、同等のヒト遺伝子フラグメントを含む約1MBの連続したヒトゲノム配列に置換し、ヒト化マウスIgh遺伝子を得た。
【0061】
胚性幹細胞にのみ作用する他の方法とは異なり、本開示の方法は接合体の大きな配列の置換に有利に用いることができる。胚性幹細胞株はマウス以外の種では一般に入手できない。対照的に、接合体は多くの哺乳類で入手可能であるため、本開示の方法を用いて、遺伝子または遺伝子フラグメントをヒト化したウサギやウシなどの動物を得るために使用することができる。さらに、本明細書に開示された方法は、大きな配列フラグメント、例えば、当技術分野で知られている他の方法によって使用される方法の約5倍である、少なくとも5MBまでの配列を一度に置換するために使用することができる。これによって効率が向上し、ヒト化遺伝子を持つ動物の作製に必要な時間とコストが削減される。例えば、Ighヒト化マウスはわずか3回の置換で作製できる。さらなる利点は、マウスに使用した場合、1回の置換にかかる時間がたった1~3ヶ月で、当技術分野で知られている他の方法に必要な時間の2分の1か3分の1しかかからないことである。
【0062】
定義
染色体とは、生物の遺伝物質の全部または一部を含む長いDNA分子のことである。ほとんどの真核生物の染色体には、ヒストンと呼ばれるパッケージング・タンパク質が含まれており、シャペロンタンパク質の助けを借りてDNA分子に結合し、その完全性を維持するために凝縮する。真核生物の染色体は、タンパク質と結合した長い直鎖DNA分子からなり、クロマチンと呼ばれるタンパク質とDNAとのコンパクトな複合体を形成している。各染色体には1つのセントロメアがあり、セントロメアから1本または2本の腕が伸びている。染色体の腕は染色体の末端であり、テロメアは、特殊なタンパク質と結合した反復ヌクレオチド配列の領域であり、染色体DNAの末端領域を進行性の分解から保護し、DNA修復システムがDNA鎖の末端を二本鎖切断と誤認するのを防ぐことによって、線状染色体の完全性を確保する。
【0063】
「遺伝子」には、遺伝子産物(例えば、タンパク質、非コードRNA)をコードするDNA領域、および遺伝子産物の産生を制御するすべてのDNA領域が含まれ、そのような制御配列がコード配列および/または転写配列に隣接しているかどうかは問わない。したがって、遺伝子は、プロモーター配列、ターミネーター、リボソーム結合部位や内部リボソーム進入部位などの翻訳調節配列、エンハンサー、サイレンサー、インシュレーター、境界要素、複製起点、マトリックス付着部位、遺伝子座制御領域などの調節要素配列を含むが、必ずしもこれらに限定されない。コード配列は、転写または転写および翻訳の際に遺伝子産物をコードする。本開示のコード配列はフラグメントを含み得、全長のオープンリーディングフレーム(ORF)を含む必要はない。遺伝子は、転写される鎖とアンチコドンを含む相補鎖の両方を含むことができる。遺伝子には、タンパク質をコードする配列や翻訳されていない領域を含むエキソンや、スプライシングによって最終的なRNA産物から除去されるイントロンも含まれ得る。
【0064】
本明細書で使用される「プロモーター」という用語は、組換え産物をコードするDNA配列に隣接して位置するDNA配列を指すことができる。プロモーターは、好ましくは、隣接するDNA配列に作動可能に連結される。プロモーターは、典型的には、プロモーターが存在しない場合に発現される量と比較して、DNA配列から発現されるタンパク質またはRNA産物の量を増加させる。ある生物に由来するプロモーターは、別の生物に由来するDNA配列からのタンパク質発現を増強するために利用することができる。例えば、脊椎動物におけるクラゲGFPの発現には、脊椎動物のプロモーターを用いることができる。さらに、1つのプロモーター要素で、タンデムに結合した複数のDNA配列に対して発現される組換え産物の量を増加させることができる。したがって、1つのプロモーター要素で1つまたは複数の組換え産物の発現を高めることができる。複数のプロモーター要素は当業者によく知られている。
【0065】
本明細書で使用される「エンハンサー」という用語は、タンパク質またはRNA産物をコードするDNA配列に隣接して位置するDNA配列、またはタンパク質またはRNA産物をコードするDNA配列から遠位に位置するDNA配列を指すことができる。エンハンサー要素は通常、プロモーター要素の上流に位置するが、イントロン内など、コーディングDNA配列の下流または配列内に位置することもある。場合によっては、エンハンサーは、それが発現を制御する遺伝子からキロベース、あるいは数十から数百キロベース離れた場所に存在することもある。エンハンサー要素は、DNA配列から発現されるタンパク質またはRNA産物の量を、プロモーター要素による発現の増加よりも増加させることができる。複数のエンハンサー要素は、当業者に容易に利用可能である。
【0066】
本明細書において、「外来染色体」または「外来配列」という用語は、動物のゲノムに関する外来染色体または外来配列を指す。例えば、1本のヒト染色体を除くすべての染色体がマウス染色体であるマウス細胞では、ヒト染色体は外来染色体である。同様に、マウスの配列の一部がヒトの配列に置換されたマウスの染色体では、ヒトの配列は外来配列と呼ばれる。同様に、「内因性」とは、前述のマウス染色体や配列のように、その生物に由来する染色体や配列を指す。
【0067】
本明細書において、「相同組換え」という用語は、相同配列または相同性アームとして知られる2つの類似または同一のDNA分子間でヌクレオチド配列が交換される遺伝的組換えの一種を指す。相同組換えは多くの場合、次のような基本的なステップを経る。DNAの両鎖に二本鎖切断(DSB)が生じた後、DSBの5′末端周辺のDNA部分が切除と呼ばれるプロセスで切り取られる。その後に続く鎖侵入のステップでは、切断されたDNA分子のはみ出した(overhanging)3′末端が、切断されていない類似または同一の(あるいは相同性の)DNA分子、例えば相同性アームに「侵入」する。鎖侵入後、さらなる配列はDSBR(二本鎖切断修復)経路またはSDSA(合成依存性鎖アニーリング)経路の2つの経路のいずれかに従う。
【0068】
本明細書において、「DNA修復経路」とは、DNAの一本鎖または二本鎖切断などのDNA損傷の検出に応答して、細胞がゲノムの完全性機能を維持することを可能にする細胞機構を指す。DNA損傷の種類と程度、および細胞周期のフェーズに応じて、DNA修復経路には、切除、カノニカル相同性指向性修復(canonical HDR)、相同組換え(HR)、代替相同性指向性修復(alt-HDR)、二本鎖切断修復(DSBR)、一本鎖アニーリング(SSA)、合成依存性鎖アニーリング(SDSA)、切断誘導複製(BIR)、代替末端接合(alt-EJ)、マイクロホモロジー媒介末端接合(MMEJ)、DNA合成依存性微小相同性介在末端接合(SD-MMEJ)、カノニカル非相同末端結合(C-NHEJ)修復などの非相同末端結合(NHEJ)経路、代替非相同末端結合(A-NHEJ)経路、トランスレシオンDNA合成(TLS)修復、 塩基除去修復(BER)、ヌクレオチド除去修復(NER)、ミスマッチ修復(MMR)、DNA損傷応答性(DDR)、ブラントエンド接合、一本鎖切断修復(SSBR)、鎖間架橋修復(ICL)、ファンコニー貧血経路(FA)などの経路が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
本明細書において、相同性指向性修復(HDR)とは、相同な核酸(例えば、姉妹染色分体や外来性核酸)を用いてDNA損傷を修復するプロセスを指す。正常細胞では、HDRは通常、切断の認識、切断の安定化、切除、一本鎖DNAの安定化、DNAクロスオーバー中間体の形成、クロスオーバー中間体の分解、ライゲーションなどの一連のステップを含む。
【0070】
本明細書において、「ホモログ」とは、同じ生物学的機能を果たすタンパク質群におけるタンパク質を示し、例えば、同じタンパク質ファミリーに属し、共通の形質を提供するか、同じまたは類似の生物学的機能を果たすタンパク質を指す。ホモログは相同遺伝子によって発現される。相同遺伝子とは、第二の遺伝子によってコードされるタンパク質と同一または類似の生物学的機能を有するタンパク質をコードする遺伝子のことである。相同遺伝子は、種分化(オルソログ)または遺伝子重複(パラログ)によって生成される。「オルソログ」とは、種分化によって共通の祖先遺伝子から進化した、異なる種における相同遺伝子のセットを指す。通常、オルソログは進化の過程で同じ機能を保持する。「パラログ」とは、遺伝子の重複の結果として互いに分岐した、同じ種における相同伝子の集合を指す。従って、相同遺伝子には同じ生物由来のものと異なる生物由来のものがある。相同遺伝子には天然に存在する対立遺伝子と人工的に作られた変異体がある。相同タンパク質間の同一性パーセントは、タンパク質の起源と、タンパク質が由来する生物種がどの程度分岐したかによって決まる。より近縁の種(例えば、ヒトとマウスのような2つの哺乳類)からの相同タンパク質は、一般に、より遠縁の種(例えば、ニワトリとマウス)からのタンパク質よりも類似している。最適にアライメントされた場合、相同タンパク質は、タンパク質の全長にわたって、通常、少なくとも約40%の同一性、約50%の同一性、約60%の同一性、場合によっては少なくとも約70%、例えば約80%、さらには少なくとも約90%の同一性を有する。他の場合、例えば、分岐の激しい種由来のタンパク質を比較する場合、相同タンパク質は、DNA結合ドメインなどの保存されたタンパク質ドメインの長さにわたって、少なくとも約40%の同一性、約50%の同一性、約60%の同一性、約70%、約80%の同一性、または約90%の同一性を有する。
【0071】
相同遺伝子またはタンパク質は、DNA配列またはアミノ酸配列の比較によって、例えば、手作業で、またはBLAST、FASTA、Smith-Watermanと一般に呼ばれるような既知の相同性ベースの検索アルゴリズムを使用するコンピュータベースのツールの使用によって同定される。ローカル配列アライメントプログラム、例えばBLASTを使用して配列データベースを検索し、類似配列を見つけ、配列塩基の類似性を測定するために要約期待値(E値)を使用することができる。特定の生物で最高のE値を持つタンパク質が必ずしもオルソログ、すなわち同じ機能を持つとは限らないし、唯一のオルソログとも限らないので、オルソログ同定のために有意なE値を持つヒット配列をフィルターするために相互クエリーを使用することができる。相互クエリーは、問い合わせタンパク質の配列と類似しているベース生物からのアミノ酸配列のデータベースに対して、有意なヒットを検索する。相互クエリーの最良のヒットが問い合わせタンパク質そのものであるか、または種分化後に重複した遺伝子によってコードされるタンパク質である場合、ヒットはオルソログとして同定され得る。
【0072】
本明細書において、「同一性パーセント」とは、最適に配列された2つのDNAまたはタンパク質セグメントが、例えばヌクレオチド配列またはアミノ酸配列のような構成要素の配列のウィンドウを通して不変である程度を指す。試験配列と参照配列のアライメントされたセグメントの 「同一性率」とは、アライメントされた2つのセグメントの配列が共有する同一成分の数を、試験配列全体または参照配列全体のいずれか小さい方のアライメントウィンドウにわたる参照セグメントの配列成分の総数で除したものである。「同一性パーセント」(「%同一性」)は、同一性率を100倍したものである。このような最適アライメントは、DNA配列のローカルアライメントとみなされると理解される。タンパク質配列のアライメントでは、最適なアライメントを達成するために、タンパク質配列のローカルアライメントに、ギャップの導入を許容すべきである。同一性パーセントは、アライメント自体によって導入されたギャップを含まない、アライメントされた長さにわたって計算することができる。
【0073】
本明細書において、「~に特異的」とは、ガイドRNAの相同性アームまたは標的化配列などのヌクレオチド配列に関して使用される場合、他のヌクレオチド配列または他のヌクレオチド配列の逆相補体と同一であるか、実質的に同一である配列を指す。他の配列に「特異的」な配列は、ワトソン-クリック塩基対形成によって他の配列またはその逆相補体にハイブリダイズすることができる。したがって、当業者は、他の配列に特異的な配列は、他の配列またはその逆相補体に非常に類似しているが、完全に同一である必要はないことを理解するであろう。例えば、他の配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%または少なくとも99%同一である配列は、他の配列とハイブリダイズすることができれば、その配列に依然として特異的である。さらなる例として、ガイド核酸標的化配列は、標的化配列中のミスマッチの位置に応じて、標的配列に対して1つ、2つ、3つまたは複数のミスマッチを含むことができるが、それでも、gNAとエンドヌクレアーゼを含むリボ核タンパク質複合体を標的配列に標的化することができれば、標的配列に対して特異的である。
【0074】
本明細書において、「選択」とは、当該技術分野において既知のいずれか1項に記載の方法を用いて、異なる産物の2つの集団を分離することを指す。1つまたは複数の細胞、染色体または配列に適用される選択とは、選択可能なマーカーなどのマーカーに基づいて行うことができる。選択可能なマーカーを発現する細胞を選択するには、マーカーを発現する細胞と発現しない細胞を含む混合細胞集団を選択培地で培養し、マーカーを発現しない細胞が死滅または増殖が阻害されるようにする。マーカーを含む配列または染色体も同様に、細胞内に配置し、選択的レジメンを適用することによって選択することができる。同様に、蛍光タンパク質のような検出可能なマーカーに基づいて選択することもできる。検出可能なマーカーを発現する細胞は、蛍光活性化細胞選別(FACS)のような当分野で公知の方法を用いて、検出可能なマーカーに基づいて混合細胞集団から物理的に除去することができる。あるいは、あるいはそれに加えて、単一細胞を単離 して培養し、単離した細胞に由来するクローンを、マーカー など1つまたは複数の形質の存在についてアッセイできるように、混 合した細胞集団を希釈することもできる。
【0075】
本明細書において、「由来」とは、分子実体(molecular entity)、例えば核酸またはタンパク質の出所または起源を指す。分子実体の供給源は、天然に存在するもの、組換え体、未精製のもの、精製された分子実体のいずれでもよい。例えば、第二のポリペプチドに由来するポリペプチドは、第二のタンパク質のアミノ酸配列と同一または実質的に類似した、例えば50%以上相同なアミノ酸配列を含む。誘導された分子実体、例えば核酸またはタンパク質は、1つまたは複数の修飾、例えば1つまたは複数のアミノ酸またはヌクレオチドの変化を含むことができる。
【0076】
「単離物」とは、その供給源または起源から精製され、除去され、または単離された分子実体を指す。
【0077】
「天然に存在する」配列とは、自然界に存在する少なくとも一つの種に見出される配列を指す。
【0078】
「人工配列」とは、自然界に存在しない配列を指す。人工配列は、天然に存在する配列と類似していてもよいが、 天然に存在する配列と比較して1つまたは複数の改変を含んでいる。あるいは、人工 配列は、天然に存在する配列とほとんど、あるいは全く類似していないこともある。キメラ配列または組換え配列は、異なる供給源に由来する、あるいは互いに隣接して見出されることのない2つの配列が作動可能に連結されたものであり、人工配列の一種である。
【0079】
「作動可能に連結された」とは、遺伝的要素の並置を意味し、そこでは要素は、それらが期待される様式で作動することを可能にする関係にある。例えば、プロモーターがコード配列の転写開始を助ける場合、プロモーターはコード領域と作動可能に連結している。この機能的関係が維持される限り、プロモーターとコード領域の間に介在する残基があってもよい。
【0080】
本明細書では幹細胞を以下のように分類する。最も多能性が高く、発生段階が最も早いのは、「胚性幹(ES)細胞」または「ES細胞」である。ES細胞は、新鮮な初代細胞であってもよいし、 ES細胞株から得られたものであってもよい。体細胞組織(生殖細胞組織を除いたすべての組織)に由来する他のすべての幹細胞は、一般的に「体性幹細胞」と定義されるが、一般的には以下のいずれかまたは複数の細胞として知られていよう:「成体幹細胞」、「成熟幹細胞」、「前駆細胞」(progenitor cells)、「前駆幹細胞」、「前駆細胞」(precursor cells)、「前駆幹細胞」。非ES細胞の他のクラスは「生殖細胞系幹細胞」と定義される。最後に、非幹細胞は本明細書において、「成熟細胞」と表現されるが、「分化細胞」、「成熟分化細胞」、「終末分化細胞」、「体細胞」としても知られている。成熟細胞はまた、組織由来の一次単離細胞、または不死細胞株または腫瘍由来細胞株であってもよい。本開示はさらに「成熟細胞の前駆形態」を包含し、成熟細胞の前駆形態は、幹細胞または成熟細胞の一般的に使用される科学的定義を満たさないすべての細胞を含む。ES細胞は、in vitroで長期間培養することができ、正常な胚盤胞の腔に挿入/注入される前に、胚発生の正常なプログラムを再開させて、生殖細胞を含む成体動物のすべての細胞型に分化するように誘導することができる。
【0081】
本明細書において、「ハイブリッド細胞」とは、2つのゲノムの 要素を含む細胞を指す。当業者であれば、ハイブリッド細胞は2つの完全な、またはほぼ完全なゲノムを別々の供給源から含むことができることを理解するであろう。あるいは、ハイブリッ ド細胞は、1つの供給源からの完全なゲノムと、2つ目の供給源からの数本の染色体、1本の染色体、または1本の染色体の一部のみとを含むこともできる。上述した両極端の間の2つのゲノムの要素の混合物を含む細胞は、依然としてハイブリッド細胞とみなされる。ハイブリッドに含まれる2つのゲノムは、異なる個体、同 種の異なる系統、または異なる種に由来する。ハイブリッド細胞を生成することは、当分野で知られている方法であればどのような方法でも可能である。これには、細胞融合、1つの細胞から別の細胞へ少数の染色体を転移する微小核細胞融合法(MMCT)などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0082】
本明細書において、「ハイブリッド胚性幹(EHS)」細胞とは、胚性幹細胞の性質を持つハイブリッド細胞を指す。EHS細胞は、2つの異なる種由来のES細胞の融合によって、または1つの種の細胞から別の種の幹細胞へのMMCTを介した染色体転移によって生成されうる。
【0083】
本明細書において、「がん」とは、当該技術分野で知られているように、調節されない細胞増殖または複製を特徴とする疾患、状態、形質、遺伝子型または複数の表現型を指す。がんには、固形腫瘍と液状腫瘍の両方が含まれる。例示的ながんには、白血病、乳がん、骨がん、脳腫瘍、頭頸部がん、網膜がん、食道がん、胃がん、多発性骨髄腫、卵巣がん、子宮がん、甲状腺がん、精巣がん、子宮内膜がん、メラノーマ、大腸がん、肺がん、膀胱がん、前立腺がん、肺がん(小細胞肺がんおよび非小細胞肺がんを含む)、膵臓がん、肉腫、子宮頸がん、頭頸部がん、皮膚がんが含まれるが、これらに限定されない。
【0084】
本明細書に記載されているすべての刊行物、特許、及び特許出願は、それぞれの個々の刊行物、特許、又は特許出願が、参照によって組み込まれるように具体的かつ個別に指示された場合と同じ程度に、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0085】
染色体の組換え方法
本開示は、鋳型染色体、標的染色体、ベクターやプラスミドなどの1つまたは複数の核酸分子、相同性指向性修復を用いた染色体の組換え方法を提供する。ヌクレアーゼは、鋳型染色体中の鋳型配列を挟む(flanking)二本鎖切断、および標的染色体中の標的配列を挟む(flanking)二本鎖切断、または標的染色体中の標的位置に二本鎖切断を生成させるために使用される。標的染色体および鋳型染色体の配列を含むマーカーおよび相同性アームを含む1つまたは複数の核酸分子を用いて、標的配列と鋳型配列の置換、標的位置への鋳型配列の挿入、または二本鎖切断部位での標的配列と鋳型配列の結合による染色体再配列を誘導する。
【0086】
いくつかの実施形態では、方法は標的配列を鋳型配列で置換すること、すなわち標的配列を鋳型配列の挿入によって欠失させることを含む。
【0087】
いくつかの実施形態では、方法は標的配列を鋳型配列で置換することを含む。任意の適切な鋳型配列、および任意の適切な標的配列が、本明細書に記載の方法において使用され得る。例えば、本方法は、モデル生物の染色体の一部を相同なヒトの配列で置換し、それによってモデル生物のゲノムのその部分をヒト化するために用いることができる。あるいは、標的配列をほとんどあるいは全く欠失させずに、大きな配列を標的位置に挿入することもできる。
【0088】
いくつかの実施形態では、本開示は、以下を含む、組換え染色体を生成する方法を提供する:(a)標的配列を含む標的染色体および鋳型配列を含む鋳型染色体を含む細胞を提供する;(b)(i)5'から3'まで、標的配列の5'末端の上流のヌクレオチド配列を含む5'相同性アーム、少なくとも第1のマーカー、および鋳型配列の5'末端の上流のヌクレオチド配列を含む3'相同性アームを含む第1の核酸分子;および(ii)5'から3'まで、鋳型配列の3'末端の下流のヌクレオチド配列を含む5'相同性アーム、少なくとも第2のマーカー、および標的配列の3'末端の下流のヌクレオチド配列を含む3'相同性アームを含む第2の核酸分子を、細胞に接触させる; (c)標的配列の両側、ならびに鋳型配列の5'末端および3'末端で二本鎖切断を生成し、これにより、鋳型配列ならびに第1および第2のマーカーが標的染色体に挿入される;ならびに(d)第1および第2のマーカーを発現する細胞または複数の細胞を選択する。いくつかの実施形態では、第1および/または第2の核酸分子はプラスミドである。本明細書に記載の方法のいくつかの実施形態では、鋳型配列、標的配列、ならびに第1および第2の核酸分子の相同性アームの配置を図4A-4Bに示す。いくつかの実施形態では、第1のマーカーは、鋳型配列の5'末端に位置し、第2のマーカーは、鋳型配列の挿入後の鋳型配列の3'末端に位置する。例えば、本明細書に記載の方法によって作製された組換え染色体は、鋳型配列の挿入および標的配列の欠失後、5'から3'まで、標的配列の上流の標的染色体配列、第1のマーカー、鋳型配列、第2のマーカー、および標的配列の下流の標的染色体配列を含む。
【0089】
当業者は、多くの長さの鋳型配列が本明細書に記載の方法に適していることを理解するであろう。適切な鋳型配列は、数百塩基対という小さなものから、染色体の大部分を含む、数百メガ塩基対の長さのものまである。本明細書に記載の方法のいくつかの実施形態では、鋳型配列の長さは、少なくとも25KB、少なくとも50KB、少なくとも100KB、少なくとも200KB、少なくとも400KB、少なくとも500KB、少なくとも600KB、少なくとも700KB、少なくとも800KB、少なくとも900KB、少なくとも1MB、少なくとも2MB、少なくとも3MB、少なくとも4MB、少なくとも5MB、少なくとも10MB、少なくとも15MB、少なくとも20MB、少なくとも50MB、少なくとも100MB、少なくとも150MB、少なくとも200MB、または少なくとも250MBである。いくつかの実施形態では、鋳型配列の長さは、50KBと250MBの間、100KBと200MBの間、200KBと50MBの間、500KBと50MBの間、1MBと100MBの間、1MBと10MBの間、1MBと5MBの間、1MBと3MBの間、5MBと50MBの間、5MBと10MBの間、3MBと10MBの間、または5MBと50MBの間である。
【0090】
本明細書に記載の方法のいくつかの実施形態では、鋳型染色体は、5'から3'まで、第1の核酸分子の3'相同性アームの配列、鋳型配列、および第2の核酸分子の5'相同性アームの配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型染色体は、5'から3'まで、第1の核酸分子の3'相同性アームの配列、第3のエンドヌクレアーゼ部位、鋳型配列、第4のエンドヌクレアーゼ部位、および第2の核酸分子の5'相同性アームの配列を含む。
【0091】
当業者は、多くの長さの標的配列が本明細書に記載の方法に適していることを理解するであろう。適切な標的配列は、二本鎖切断(標的位置)を生成させるために使用されるエンドヌクレアーゼ部位と同じくらい小さくてもよいし、染色体の大部分を含んでいてもよく、したがって数百メガ塩基対までの長さであってもよい。本明細書に記載の方法のいくつかの実施形態では、標的配列の長さは、少なくとも25KB、少なくとも50KB、少なくとも100KB、少なくとも200KB、少なくとも400KB、少なくとも500KB、少なくとも600KB、少なくとも700KB、少なくとも800KB、少なくとも900KB、少なくとも1MB、少なくとも2MB、少なくとも3MB、少なくとも4MB、少なくとも5MB、少なくとも10MB、少なくとも15MB、少なくとも20MB、少なくとも50MB、少なくとも100MB、少なくとも150MB、少なくとも200MB、または少なくとも250MBである。いくつかの実施形態では、標的配列の長さは、50KBと250MBの間、100KBと200MBの間、200KBと50MBの間、500KBと50MBの間、1MBと100MBの間、1MBと10MBの間、1MBと5MBの間、1MBと3MBの間、5MBと50MBの間、5MBと10MBの間、3MBと10MBの間、または5MBと50MBの間である。
【0092】
本明細書に記載の方法のいくつかの実施形態では、標的染色体は、5'から3'まで、第1の核酸分子の5'相同性アームの配列、標的配列、および第2の核酸分子の3'相同性アームの配列を含む。いくつかの実施形態では、標的染色体は、5'から3'まで、第1の核酸分子の5'相同性アームの配列、第1のエンドヌクレアーゼ部位、標的配列、第2のエンドヌクレアーゼ部位、および第2の核酸分子の3'相同性アームの配列を含む。
【0093】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法で使用される核酸分子はDNA分子である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法で使用される核酸分子は、例えばプラスミドなどの環状である。あるいは、追加のエンドヌクレアーゼ部位が、本開示の核酸分子を直鎖化するために使用され得る。例示的なエンドヌクレアーゼ部位としては、制限エンドヌクレアーゼ、ならびに本明細書に記載のCRISPR/Casエンドヌクレアーゼ、ZFNおよびTALENが挙げられるが、これらに限定されない。当業者は、適切なエンドヌクレアーゼ部位を核酸分子に組み込むことができ、例えば、核酸分子のどちらか一方または両方の相同性アームに隣接または近接して組み込むことができる。当業者は、適切なCREリコンビナーゼ部位を核酸分子に組み込むことができるであろう。
【0094】
いくつかの実施形態では、鋳型配列の挿入によって標的配列が欠失され、CRISPR/Casリボヌクレオタンパク質によって鋳型配列および標的配列の両側で鋳型染色体および標的染色体が切断される。いくつかの実施形態では、(a)標的染色体は、5'から3'まで、第1の核酸分子の5'相同性アームの配列、第1のsgRNA標的配列、標的配列、第2のsgRNA標的配列、および第2の核酸分子の3'相同性アームの配列を含み;ならびに(b)鋳型染色体は、5'から3'まで、第3のsgRNA標的配列、第1の核酸分子の3'相同性アームの配列、鋳型配列、第2の核酸分子の5'相同性アームの配列および第4のsgRNA標的配列を含む。いくつかの実施形態では、第1、第2、第3および第4のsgRNAは異なる標的化配列を含む。例えば、第1のsgRNAは標的染色体上の第1のsgRNA標的配列に特異的な標的化配列を含み、第2のsgRNAは標的染色体上の第2のsgRNA標的配列に特異的な標的化配列を含み、第3のsgRNAは鋳型染色体上の第3のsgRNA標的配列に特異的な標的化配列を含み、第4のsgRNAは標的染色体上の第4のsgRNA標的配列に特異的な標的化配列を含む。あるいは、1つまたは複数のsgRNA標的配列、および対応するsgRNA標的化配列は、同じ配列であってもよい。
【0095】
いくつかの実施形態では、鋳型配列の挿入は、標的配列の配列をほとんどまたは全く欠失させないことを含む。当業者であれば、二本鎖切断修復の多くのメカニズムが切断末端の切除を伴うため、本明細書に記載のエンドヌクレアーゼ部位の周囲に欠失が生成されることを理解するであろう。例えば、標的位置のあたり、または標的配列を挟む(flanking)エンドヌクレアーゼ部位のあたりに、約5bp、10bp、15bp、20bp、25bp、30bp、35bp、40bp、45bp、または50bpの欠失を、本明細書に記載された方法によって生成することができる。
【0096】
いくつかの実施形態では、例えば、本明細書に記載の方法によって標的配列がほとんどまたは全く欠失されない実施形態では、(a)標的染色体は、5'から3'まで、第1の核酸分子の5'相同性アームの配列、第1のsgRNA標的配列、および第2の核酸分子の3'相同性アームの配列を含み; ならびに(b)鋳型染色体は、5'から3'まで、第2のsgRNA標的配列、第1の核酸分子の3'相同性アームの配列、鋳型配列、第2の核酸分子の5'相同性アームの配列、および第3のsgRNA標的配列を含む。いくつかの実施形態では、第1、第2および第3のsgRNAは異なる標的配列を含む。例えば、第1のsgRNAは、標的染色体上の第1のsgRNA標的配列に特異的な標的化配列を含み、第2のsgRNAは、標的染色体上の第2のsgRNA標的配列に特異的な標的化配列を含み、第3のsgRNAは、鋳型染色体上の第3のsgRNA標的配列に特異的な標的化配列を含む。
【0097】
いくつかの実施形態では、鋳型配列の挿入は、標的配列の1つまたは複数の機能を破壊する。例えば、鋳型配列が遺伝子のコード配列に挿入されると、未成熟停止コドン(premature stop codon)、タンパク質コード配列の変異、異常なスプライス産物などの生成により、適切な遺伝子産物の発現を妨げることができる。同様に、エンハンサーまたはプロモーターなどの遺伝子の調節配列への鋳型配列の挿入は、遺伝子の発現を妨げることができる。
【0098】
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、標的配列の挿入後に第1および/または第2のマーカーを欠失させることを含む。マーカーは、当技術分野で公知のいずれか適切な方法によって欠失させることができる。例えば、組換え染色体を含む細胞を、マーカーをコードする配列に特異的なgNA標的化配列を含むCRISPR/Casリボヌクレオタンパク質と接触させ、それによってマーカー配列の全部または一部の欠失を誘導することができる。
【0099】
本開示の方法は、逆位や転座などの染色体再配列を生成させるためにも使用できる。染色体再配列の多くは、がんなどヒトの疾患や障害に関与している。このような染色体再配列をマウスのようなモデル生物で再現すれば、これらの疾患や障害の研究が容易になる。関与する染色体異常は当業者には既知であり、mitelmandatabase.isb-cgc.org/で入手可能なMitelmanデータベースに記載されている。ヒト化疾患に関与する染色体異常に関するさらなる情報は、rarediseases.info.nih.gov/diseases/diseases-by-category/36/chromosome-disordersでも入手できる。
【0100】
本開示は、以下を含む、染色体再配列を生成する方法を提供する:(a)標的位置を含む標的染色体および鋳型配列を含む鋳型染色体を含む細胞を提供する;(b)5'から3'まで、標的位置の5'末端の上流のヌクレオチド配列を含む5'相同性アーム、マーカー、および鋳型配列の5'末端の上流のヌクレオチド配列を含む3'相同性アームを含む核酸分子を細胞に接触させる;(c)標的位置および鋳型配列の5'末端において二本鎖切断を生成させ、これにより、マーカーを5'相同性アームの配列の3'標的染色体中に挿入し、続いて鋳型配列を挿入し、これにより染色体再配列を生成させる;ならびに(c)マーカーを発現する細胞1つまたは複数の細胞を選択する。あるいは、この方法は、(a)標的位置を含む標的染色体および鋳型配列を含む鋳型染色体を含む細胞を提供する;(b)5'から3'まで、鋳型配列の3'末端の下流のヌクレオチド配列を含む5'相同性アーム、マーカー、および標的配列の3'末端の下流のヌクレオチド配列を含む3'相同性アームを含む核酸分子を細胞に接触させる; (c)標的位置および鋳型配列の3'末端において二本鎖切断を生成させ、これにより、マーカーを5'相同性アームの配列の3'標的染色体中に挿入し、続いて鋳型配列を挿入し、これにより染色体再配列を生成させる;ならびに(c)マーカーを発現する細胞1つまたは複数の細胞を選択する。いくつかの実施形態では、二本鎖切断の生成は、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼ、少なくとも、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼが標的位置を切断するような、標的位置に特異的な標的化配列を含む第1のgNA、および鋳型配列の5'末端に特異的な標的化配列を含む第2のgNAと細胞とを接触させることを含む。いくつかの実施形態では、二本鎖切断の生成は、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼ、少なくとも、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼが標的位置を切断するような、標的位置に特異的な標的化配列を含む第1のgNA、および鋳型配列の3'末端に特異的な標的化配列を含む第2のgNAと細胞とを接触させることを含む。いくつかの実施形態では、核酸分子はDNAを含む。いくつかの実施形態では、核酸分子はプラスミドを含む。
【0101】
標的染色体および鋳型染色体に二本鎖切断を生成させるために、当該技術分野で知られている適切な方法を使用することができる。これは、特に、HDRを介する染色体再配列のガイドとして用いる核酸分子(例えば、プラスミド)について、標的染色体および鋳型染色体上のエンドヌクレアーゼ部位に重なるか、またはエンドヌクレアーゼ部位を含む相同性アーム配列を選択することによって達成することができる。いくつかの実施形態では、(c)における二本鎖切断の生成は、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼと、1つまたは複数のガイド核酸(gNA)、1つまたは複数のジンクフィンガーヌクレアーゼ、1つまたは複数の転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、または1つまたは複数のCREリコンビナーゼとを使用して、二本鎖切断を誘導することを含む。例えば、Creリコンビナーゼは、2つのLoxP部位間の染色体領域の逆位を誘導し、これにより、鋳型配列と第1および第2のマーカーとが標的染色体に挿入される。いくつかの実施形態では、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼが、CasI、CasIB、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9、Cas10、CasX、CasY、Cas12a(Cpf1)、Cas13a、CsyI、Csy2、Csy3、CseI、Cse2、CscI、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、CmrI、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、CsbI、Csb2、Csb3、Csx17、CsxI4、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、 Csx1、Csx15、CsfI、Csf2、Csf3、Csf4、Cms1、C2c1、C2c2、もしくはC2c3、またはそれらのホモログ、オルソログ、もしくは改変型を含む。いくつかの実施形態では、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼは、Cas9、Cas12a(Cpf1)、Cas13a、CasX、CasY、C2c1、またはC2c3を含む。いくつかの実施形態では、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼは、Cas9を含む。いくつかの実施形態では、gNAは、単一ガイドRNA(sgRNA)を含む。
【0102】
本明細書に記載のエンドヌクレアーゼと細胞を接触させるために、当技術分野で公知の任意の適切な方法を使用することができる。例えば、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼの場合、エンドヌクレアーゼ、およびgNAをコードする配列を含む核酸分子(例えば、プラスミドなど)が、細胞をトランスフェクションするために使用され得る。あるいは、エンドヌクレアーゼ、またはエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子を、エレクトロポレーション、リポフェクション、形質導入などによって細胞に導入してもよい。
【0103】
本明細書に記載の方法を実施するために使用される細胞は、当技術分野で知られている任意の適切な細胞であり得る。いくつかの実施形態では、細胞は胚性幹(ES)細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞は胚性ハイブリッド幹(EHS)幹細胞を含む。EHS細胞は、2つの異なる種、例えばヒトとマウス、ヒトとラット、またはマウスとサルのES細胞を融合することによって作製することができる。電気融合、ウイルス誘導融合、化学的誘導融合などを含むが、これらに限定されない、当技術分野で知られているすべての融合方法が、本開示の範囲内として想定される。いくつかの実施形態では、方法は、ヒトEH細胞を、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ラクダ、ニワトリおよびサルからなる群より選択されるEH細胞と融合させることを含む。いくつかの実施形態では、方法は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ラクダ、ニワトリおよびサルからなる群より選択される任意の2つの異なる種由来のEH細胞を融合することを含む。
【0104】
いくつかの実施形態では、細胞は接合体を含む。本明細書において、「接合体」という用語は、2つの配偶子、例えば哺乳動物の卵子と精子との間の受精現象によって形成される真核細胞を指す。単細胞、2細胞、4細胞、8細胞またはそれ以上の段階の接合体は、本明細書に記載の方法に適している。
【0105】
本明細書に記載の組換え染色体を生成された後、組換え染色体を回収するために、いずれか適切な方法を使用することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組換え染色体の回収は、微小核細胞融合法(MMCT)を含む。組換え染色体を含む小核化細胞とES細胞などの標的細胞との融合により、回収した染色体を、下流の用途に適した細胞型に導入する。これらの方法を以下に詳述する。
【0106】
鋳型染色体
本開示は、本明細書に記載の方法で使用するための、鋳型配列を含む鋳型染色体を提供する。
【0107】
本明細書において、「鋳型染色体」とは、「鋳型配列」を含む染色体を指す。鋳型配列とは、本開示の方法を用いて、標的染色体、または標的位置に導入する配列を指す。
【0108】
鋳型染色体は、任意の適切な供給源から単離または誘導することができる。いくつかの実施形態では、鋳型染色体は真核生物由来である。いくつかの実施形態では、真核生物は鳥類、爬虫類、哺乳類などの脊椎動物である。いくつかの実施形態では、鋳型染色体はマウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ラクダ、サルまたはニワトリ由来である。いくつかの実施形態では、鋳型染色体はヒト由来である。
【0109】
いくつかの実施形態では、鋳型染色体は外来染色体であり、鋳型配列は外来配列である。例えば、標的染色体はマウス染色体であり、鋳型染色体および対応する鋳型配列はヒトのような非マウス種由来である。
【0110】
いくつかの実施形態では、鋳型染色体は内在性染色体であり、鋳型配列は内在性配列である。例えば、鋳型染色体はマウス染色体であり、標的染色体は異なる第2のマウス染色体である。
【0111】
いくつかの実施形態では、鋳型染色体は人工染色体である。
【0112】
いくつかの実施形態では、鋳型染色体は天然に存在する染色体である。
【0113】
いくつかの実施形態では、鋳型染色体は、天然に存在する染色体の1つまたは複数の改変を含む。改変には特に、配列の挿入、欠失、再配列が含まれる。鋳型染色体に挿入される配列の例としては、特に、マーカー、プロモーター、cDNA配列、非コード配列などが挙げられる。
【0114】
いくつかの実施形態では、鋳型染色体は、鋳型配列の5'に位置するエンドヌクレアーゼ部位を含む。いくつかの実施形態では、鋳型染色体は、鋳型配列の3'に位置するエンドヌクレアーゼ部位を含む。いくつかの実施形態では、エンドヌクレアーゼ部位は鋳型配列のすぐ隣に位置する。いくつかの実施形態では、エンドヌクレアーゼ部位は鋳型配列の近傍に位置する。
【0115】
いくつかの実施形態では、鋳型染色体は鋳型配列の両側にエンドヌクレアーゼ部位を含む。例えば、鋳型染色体は、鋳型配列の5'に位置する第一のエンドヌクレアーゼ部位と、鋳型配列の3'に位置する第二のエンドヌクレアーゼ部位を含む。いくつかの実施形態では、第1エンドヌクレアーゼ部位と第2エンドヌクレアーゼ部位の両方が、同じエンドヌクレアーゼによって認識され切断される。例えば、第1エンドヌクレアーゼ部位と第2エンドヌクレアーゼ部位の両方は、同じエンドヌクレアーゼによって認識される同じDNA配列を含む。いくつかの実施形態では、第1のエンドヌクレアーゼ部位は第1のエンドヌクレアーゼによって切断され、第2のエンドヌクレアーゼ部位は第2のエンドヌクレアーゼによって切断される。例えば、第1および第2のエンドヌクレアーゼ部位は、2つの異なるジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)によって認識される異なるDNA配列を含むか、または異なる標的化配列を含むガイド核酸(gNA)を含むCRISPR/Casリボヌクレオタンパク質複合体によって認識される2つの異なるCRISPR/Cas標的配列を含む。いくつかの実施形態では、第1および/または第2のエンドヌクレアーゼ部位は、鋳型配列のすぐ隣に位置する。いくつかの実施形態では、第1および/または第2のエンドヌクレアーゼ部位は、鋳型配列の近傍に位置する。
【0116】
鋳型配列から5塩基対(bp)以内、10bp以内、15bp以内、20bp以内、30bp以内、40bp以内、50bp以内、70bp以内、80bp以内、90bp以内、100bp以内、120bp以内、140bp以内、160bp以内、180bp以内、200bp以内、250bp以内、300bp以内、400bp以内、または500bp以内の配列は、鋳型配列の近くにあるとみなされ得る。
【0117】
いくつかの実施形態では、鋳型染色体は、相同性指向性修復を促進するために使用される核酸分子の相同性アームの1つまたは複数の配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型染色体は、鋳型配列の5'末端またはその近傍に位置する相同性アームの配列を含む。いくつかの実施形態では、相同性アームは鋳型配列の上流、すなわち5'に位置する。いくつかの実施形態では、鋳型染色体は、5'から3'まで、エンドヌクレアーゼ部位、相同性アーム配列および鋳型配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型染色体は、鋳型配列の3'末端またはその近傍に位置する相同性アームの配列を含む。いくつかの実施形態では、相同性アームは鋳型配列の下流、すなわち3'に位置する。いくつかの実施形態では、鋳型染色体は、5'から3'まで、鋳型配列、相同性アーム配列、およびエンドヌクレアーゼ部位を含む。いくつかの実施形態では、相同性アーム配列は、エンドヌクレアーゼ部位と鋳型配列との間に位置する。
【0118】
いくつかの実施形態では、鋳型染色体は、鋳型配列の5'またはその近傍に位置する第1の相同性アーム配列、および鋳型配列の3'またはその近傍に位置する第2の相同性アーム配列を含む。すなわち、鋳型染色体は鋳型配列の上流と下流に相同性アームを含む。いくつかの実施形態では、第1の相同性アームは、5'から3'まで、標的配列の5'末端の上流のヌクレオチド配列を含む5'相同性アーム、少なくとも第1のマーカーの配列、および第1の相同性アーム配列を含む、第 1の核酸分子の3'相同性アームである。いくつかの実施態様では、第2の相同性アームは、5'から3'まで第2の相同性アーム配列、少なくとも第2のマーカーの配列、鋳型配列の3’末端の下流のヌクレオチド配列を含む3'相同性アームを含む、第2の核酸分子の5’相同性アームである。いくつかの実施形態では、鋳型染色体は、5'から3' まで、第1のエンドヌクレアーゼ部位、第1の相同性アーム配列、鋳型配列、第2の相同性アーム配列、および第2のエンドヌクレアーゼ部位を含む。
【0119】
いくつかの実施形態では、第1および/または第2の相同性アーム配列は、第1および/または第2のエンドヌクレアーゼ部位のすぐ隣に位置する。いくつかの実施形態では、第1の相同性アーム配列は、第1のエンドヌクレアーゼ部位のすぐ隣に位置し、第2の相同性アーム配列は、第2のエンドヌクレアーゼ部位のすぐ隣に位置し、ここで、第1の相同性アームは、第1のエンドヌクレアーゼ部位と鋳型配列との間にあり、第2の相同性アームは、鋳型配列と第2の鋳型配列との間にある。いくつかの実施形態では、第1の相同性アームは、第1のエンドヌクレアーゼ部位と鋳型配列との間にあり、第2の相同性アームは、鋳型配列と第2の鋳型配列との間にある。
【0120】
いくつかの実施形態では、第1および/または第2の相同性アーム配列は鋳型配列の近傍に位置する。鋳型配列から0bp以内、5塩基対(bp)以内、10bp以内、15bp以内、20bp以内、30bp以内、40bp以内、50bp以内、70bp以内、80bp以内、90bp以内、100bp以内、120bp以内、140bp以内、160bp以内、180bp以内、200bp以内または250bp以内にある相同性アームは、鋳型配列の近くにあるとみなされ得る。
【0121】
いくつかの実施形態では、鋳型染色体は、5'から3' まで、第1のエンドヌクレアーゼ部位、第1の相同性アーム、鋳型配列、第2の相同性アーム、および第2のエンドヌクレアーゼ部位を含む。
【0122】
いくつかの実施形態では、鋳型染色体の第1および/または第2の相同性配列の長さは、約20~2,000bpの間、約50~1,500bpの間、約100~1,400bpの間、約150~1,300bpの間、約200~1,200bpの間、約300~1,100bpの間、約400~1,000bpの間、または約500~900bpの間、または約600bp~800bpの間である。いくらかの実施形態では、鋳型染色体の相同性配列の長さは、約400bp~1,500bpの間である。いくつかの実施形態では、鋳型染色体の相同性配列の長さは、約500~1,300bpの間である。いくつかの実施形態では、鋳型染色体の相同性配列の長さは、約600~1,000bpの間である。
【0123】
鋳型配列
鋳型染色体は鋳型配列を含み、組換え染色体および本明細書に記載の方法における鋳型配列の供給源となる。鋳型配列は、鋳型染色体上の任意の適切な位置に配置することができる。例えば、理論に束縛されることを望むものではないが、鋳型配列は染色体上のユークロマチン領域に存在することがある。
【0124】
鋳型配列は、任意の適切な供給源から単離または誘導することができる。いくつかの実施形態では、鋳型配列は内因性配列、例えば鋳型染色体に内因性の配列、または標的染色体を生じた生物種に内因性の配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列は外来配列である。例えば、鋳型配列は標的染色体を生み出した生物種に外来する配列のものである。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、天然に存在する配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、天然に存在する配列の1つまたは複数の改変を含む。改変には、特に、人工配列またはマーカーのような配列の挿入、欠失、および再配列が含まれる。いくつかの実施形態では、鋳型配列は人工配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、天然に存在する配列および人工配列の両方を含む。例示的な人工配列としては、特に、マーカー、cDNA配列、プロモーター、および組換え配列が挙げられる。例示的なマーカーとしては、以下の表3に開示されている選択可能なマーカー、ならびに緑色蛍光タンパク質(GFP)、mCherryなどの検出可能なマーカーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0125】
いくつかの実施形態では、鋳型配列は真核生物由来である。いくつかの実施形態では、真核生物は鳥類、爬虫類、哺乳類などの脊椎動物である。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ラクダ、サルまたはニワトリ配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列はヒト配列を含む。
【0126】
いくつかの実施形態では、鋳型配列の長さは、少なくとも25KB、少なくとも50KB、少なくとも100KB、少なくとも200KB、少なくとも400KB、少なくとも500KB、少なくとも600KB、少なくとも700KB、少なくとも800KB、少なくとも900KB、少なくとも1MB、少なくとも2MB、少なくとも3MB、少なくとも4MB、少なくとも5MB、少なくとも6MB、少なくとも7MB、少なくとも8MB、少なくとも9MB、少なくとも10MB、少なくとも15MB、少なくとも20MB、少なくとも25MB、少なくとも30MB、少なくとも40MB、少なくとも50MB、少なくとも60MB、少なくとも70MB、少なくとも80MB、少なくとも90MB、少なくとも100MB、少なくとも120MB、少なくとも140MB、少なくとも160MB、少なくとも180MB、少なくとも200MB、少なくとも220MB、または少なくとも250MBである。いくつかの実施形態では、鋳型配列の長さは、少なくとも50KB、少なくとも100KB、少なくとも200KB、少なくとも500KB、少なくとも700KB、少なくとも1MB、少なくとも2MB、少なくとも3MB、少なくとも4MB、少なくとも5MB、少なくとも6MB、少なくとも7MB、少なくとも8MB、少なくとも9MB、少なくとも10MB、少なくとも20MB、少なくとも30MB、少なくとも40MB、または少なくとも50MBである。いくつかの実施形態では、鋳型配列の長さは少なくとも1MBである。いくつかの実施形態では、鋳型配列の長さは少なくとも2MBである。いくつかの実施形態では、鋳型配列の長さは少なくとも3MBである。いくつかの実施形態では、鋳型配列の長さは少なくとも4MBである。いくつかの実施形態では、鋳型配列の長さは少なくとも5MBである。いくつかの実施形態では、鋳型配列の長さは少なくとも10MBである。いくつかの実施形態では、鋳型配列の長さは少なくとも20MBである。
【0127】
いくつの実施形態では、鋳型配列の長さは、50KBと250MB、50KBと100MB、50KBと50MB、50KBと20MB、50KBと10MB、50KBと5MB、50KBと3MB、50KBと2MB、50KBと1MB、100KBと200MB、100KBと100MB、100KBと50MB、100KBと20MB、100KBと10MB、100KBと5MB、100KBと3MB、100KBと2MB、100KBと1MB、100KBと500KB、200KBと100MB、200KBと50MB、200KBと20MB、200KBと10MB、200KBと5MB、200KBと3MB、 200KBと2MB、200KBと1MB、200KBと500KB、500KBと100MB、500KBと50MB、500KBと20MB、500KBと10MB、500KBと5MB、500KBと3MB、500KBと2MB、500KBと1MB、1MBと100MB、1MBと50MB、1MBと20MB、1MBと10MB、1MBと5MB、1MBと3MB、1MBと2MB、3MBと100MB、3MBと50MB、3MBと20MB、3MBと10MB、3 MBと5MB、5MBと100MB、5MBと50MB、5MBと20MB、5MBと10MB、10MBと100MB、10MBと50MB、または10MBと20MBの間である。いくつかの実施形態では、鋳型配列の長さは50KB~250MBである。いくつかの実施形態では、鋳型配列の長さは500KB~200MBである。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、200KBと50MBの間、1MBと20MBの間、1MBと10MBの間、1MBと5MBの間、1MBと3MBの間、3MBと20MBの間、3MBと10MBの間、3MBと7MBの間、または3MBと5MBの間の長さである。いくつかの実施形態では、鋳型配列の長さは1MB~10MBである。いくつかの実施形態では、鋳型配列の長さは1 MB~5 MBである。いくつかの実施形態では、鋳型配列の長さは3 MB~5 MBである。
【0128】
いくつかの実施形態では、鋳型配列は、1つまたは複数の遺伝子の配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、複数の遺伝子の配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1000、1500または2000個の遺伝子の配列を含む。
【0129】
いくつかの実施形態では、鋳型配列は、1つまたは複数のヒト遺伝子の配列などのヒト配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列はヒト遺伝子の部分配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、ヒト遺伝子の部分配列と、マーカーまたは融合タンパク質などの人工配列とを含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、1つまたは複数のヒト遺伝子の配列および人工配列を含む。
【0130】
いくつかの実施形態では、鋳型配列はヒト遺伝子の配列を含む。すべてのヒト遺伝子が、本開示の範囲内で想定される。理論に束縛されることを望むものではないが、疾患発症に関与するヒト遺伝子、または潜在的な治療標的であるヒト遺伝子をマウスのようなモデル生物に導入することにより、疾患の研究および適切な治療法の開発を促進することができる。
【0131】
鋳型配列に含めるための例示的な遺伝子としては、免疫グロブリン遺伝子、T細胞受容体(TCR)遺伝子、免疫チェックポイント遺伝子、サイトカイン、ケモカイン、受容体、転写因子、細胞骨格遺伝子、細胞周期チェック遺伝子、癌遺伝子、および発生、免疫学または神経生物学に関与する遺伝子が挙げられるが、これらに限定されるものではない。例示的な免疫チェックポイント遺伝子には、BTLA、CTLA-4、TIM-3、PD-1およびPD-L1が含まれる。例示的なサイトカインとしては、インターロイキン(CTNF、IL-16、IL-1B、IL-6、IL-12、IL-17F、IL-2、IL-3、IL-9、IL-12B、IL18BP、IL-21、IL33、レプチン、IL-13、IL1A、 IL-23、IL-4)、インターフェロン(IFN10、IFNα7、IFNa4Fc、IFNβ、IFNα4、IFNγ、IFNα5、IFNω)、腫瘍壊死因子(TNFs、例えばBAFF、TNFβ、CD30リガンド、TNFα、CD40リガンド、TNFSF10、CD27リガンド)である。例示的なケモカインには、CXC、CC CX3CおよびCファミリーケモカインが含まれる。例示的な受容体には、Gタンパク質結合受容体、リガンドゲートイオンチャネル(イオンノトロピック受容体)、キナーゼ結合受容体および関連受容体、ならびに核内受容体が含まれる。例示的な転写因子には、限定されないが、ヘリックスターンヘリックス転写因子(例えば、Oct-1)、ヘリックスループヘリックス転写因子(例えば、E2A)、ジンクフィンガー転写因子(例えば、グルココルチコイド受容体、GATAタンパク質)、塩基性タンパク質ロイシンジッパー転写因子(例えば、サイクリックAMP応答エレメント結合因子 (CREB) 、アクティベータタンパク-1 (AP-1))、およびβシートモチーフ転写因子(例えば、核内因子-κB (NF-κB))が含まれる。例示的な細胞周期制御遺伝子としては、サイクリン、サイクリン依存性キナーゼ、細胞周期チェックポイント遺伝子などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0132】
いくつかの実施形態では、鋳型配列はがん遺伝子またはがん抑制遺伝子を含む。鋳型配列に含めるのに適した例示的ながん遺伝子とがん抑制遺伝子を以下の表1に示す。
【0133】
【0134】
いくつかの実施形態では、鋳型配列は、遺伝性疾患または障害に関連するヒト遺伝子の配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、遺伝性疾患または障害に関連するヒト染色体領域の配列を含む。疾患や障害に関連する遺伝子や染色体領域の非限定的な例を以下の表2に示す。
【0135】
【0136】
いくつかの実施形態では、鋳型配列は免疫グロブリン配列を含む。表面免疫グロブリンおよび分泌型免疫グロブリンの両方が、本開示の範囲内として想定される。免疫グロブリンは外来抗原を認識し、免疫応答を開始する。ヒトでは、各免疫グロブリン分子は、14番染色体上のIGH遺伝子座によってコードされる2本の同一の重鎖と、2番染色体上の免疫グロブリンκ遺伝子座(IGK)および22番染色体上の免疫グロブリンλ遺伝子座(IGL)によってコードされる2本の同一の軽鎖から構成される。IGH遺伝子座には、V(可変領域)、D(多様領域)、J(結合領域)、C(定常領域)がある。V、DおよびJ領域はそれぞれ複数の異なる遺伝子セグメントを含んでおり、本明細書ではIGH可変領域と総称する。B細胞の発生過程で、DNAレベルでの組換え現象が起こり、1つのDセグメントとJセグメントが結合する。この部分的に再配列されたD-J領域の融合D-Jエクソンは、次にVセグメントに結合する。融合したV-D-Jエキソンを含む再配列されたV-D-J領域は、次に転写され、RNAスプライシングによって定常領域に融合する。この転写産物はmu重鎖をコードする。発生後期のB細胞はV-D-J-Cmu-CdeltaプレメッセンジャーRNAを生成し、これはmuまたはdelta重鎖をコードするように交互にスプライシングされる。リンパ節の成熟B細胞はスイッチ組換えを起こし、融合したV-D-J遺伝子セグメントはIGHG、IGHA、IGHEのいずれかの遺伝子セグメントに近接し、各細胞はガンマ、アルファ、またはイプシロン重鎖のいずれかを発現するようになる。多くの異なるVセグメントといくつかのJセグメントとの潜在的な組み換えにより、抗原認識の幅が広がる。さらなる多様性は、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼによるランダムなヌクレオチドの付加や体細胞超変異によって生じる接合部の多様性によって達成される。各軽鎖は2つのタンデム免疫グロブリンドメインと定常ドメイン(CL)と可変ドメイン(VL)から構成されている。軽鎖の場合、Vドメインは2つの別々のDNAセグメントによってコードされている。1番目のセグメントはVドメインの大部分をコードしていることから、V遺伝子セグメントと呼ばれている。2番目のセグメントはVドメインの残りをコードしており、結合遺伝子セグメントまたはJ遺伝子セグメントと呼ばれている。重鎖と同様に、軽鎖も再配列を受けてVセグメントをJ遺伝子セグメントに結合し、V遺伝子をイントロンのみで区切られた定常領域配列に近づける。IGHV、IGHD、IGHJ、IGHG、IGHAのいずれかのIGH配列、またはそれらの組み合わせは、本開示の鋳型配列の範囲内として想定される。IGKもしくはIGLのいずれかの軽鎖配列、またはそれらの組み合わせは、本開示の鋳型配列の範囲内として想定される。
【0137】
いくつかの実施形態では、組換え染色体は、1つまたは複数の非コード配列が前記染色体に導入されたマウス染色体を含む。例えば、抗体の生成、成熟および/または多様化を制御可能な1つまたは複数の非コード配列が前記染色体に導入されていてもよい。例えば、抗体の多様化を制御可能な1つまたは複数の非コード配列が前記染色体に導入されていてもよい。例えば、抗体のクラススイッチを制御可能な1つまたは複数の非コード配列が前記染色体に導入されていてもよい。例えば、スイッチ領域内の1つまたは複数の非コード配列が前記染色体に導入されていてもよい。例えば、1つまたは複数の非コード配列が前記染色体に導入された場合、クラススイッチ組換え、体細胞超変異および/または活性化誘導型シチジンデアミナーゼが制御され得る。例えば、1つまたは複数の非コード配列が前記染色体に導入された場合、Ig配列のレパートリーの多様性が制御され得る。例えば、重鎖、κ軽鎖及びλ軽鎖遺伝子座上の再配列遺伝子を含む約2kbの可変領域、及び/又は重鎖遺伝子座上のG:CリッチDNAの広範なストレッチを含む約4kbのスイッチ領域が、前記染色体に導入されていてもよい。
【0138】
いくつかの実施形態では、鋳型配列はヒトIGH配列を含む。ヒトIGHは、ヒトゲノムのGRCh38.p13集合体の14番染色体のヌクレオチド位置105,586,437~106,879,844にまたがる。当業者は、例えば少なくとも100bp、500bp、1,000bp、2,000bp、5,000bp、10,000bpまたは複数の、上述したものから逸脱した5'および3'境界を有するヒトIGH配列が好適な鋳型配列であることを理解するであろう。
【0139】
いくつかの実施形態では、鋳型配列はヒトIGH可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、ヒトIGH可変領域配列は、ヒトVH、DHおよびJH1-6遺伝子セグメントならびに介在する非コード配列をコードする配列を含む。いくつかの実施形態では、ヒトIGH可変領域配列は、ヒトゲノムのGRCh38.p13集合体の14番染色体のヌクレオチド位置105,862,994~106,811,028を含む。いくつかの実施形態では、ヒトIGH可変領域配列は、ヒトゲノムのGRCh38.p13集合体の14番染色体の105,862,994から106,811,028までのヌクレオチド位置から、少なくとも約50bp、100bp、500bp、1,000bp、2,000bp、5,000bp、7,000bp、10,000bp、15,000bp、20,000bpもしくは50,000bpを、5'末端もしくは3'末端からまたはその両方から差し引いた位置を含む。いくつかの実施態様では、ヒトIGH可変領域配列は、ヒトゲノムのGRCh38.p13集合体の14番染色体のヌクレオチド位置105,862,994~106,811,028と、少なくとも約50bp、100bp、500bp、1,000bp、2,000bp、5,000bp、7,000bp、10,000bp、15,000bp、20,000bpまたは50,000bpの付加的フランキング配列を5'末端もしくは3'末端にまたはその両方に含む。いくつかの実施形態では、ヒトIGH可変領域配列は、ヒトゲノムのGRCh38.p13集合体の14番染色体のヌクレオチド位置105,862,994~106,811,028、およびそれに対する1つまたは複数の改変を含む。例示的な改変としては、1つまたは複数のV、DまたはJセグメントの欠失などの欠失、マーカーの挿入などの挿入、再配列、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0140】
いくつかの実施形態では、鋳型配列はT細胞受容体サブユニット(TCR)の配列を含む。T細胞受容体(TCR)は、T細胞またはTリンパ球[1]の表面に見出されるタンパク質複合体であり、主要組織適合複合体(MHC)分子に結合したペプチドとして抗原フラグメントを認識する役割を担っている。TCRはジスルフィド結合した膜結合型ヘテロ二量体タンパク質を含み、ほとんどの場合、不変のCD3鎖分子(CD3δ、CD3ε、CD3γ、CD3ζ)との複合体の一部として発現する可変性の高いα鎖とβ鎖から構成されている。これら2つの鎖を発現するT細胞はα:β(またはαβ)T細胞と呼ばれる。少数のT細胞は、γσT細胞と呼ばれる、可変γ鎖及びσ鎖により形成された別の受容体を発現している。TCRの発生は、リンパ球に特異的な遺伝子組み換えの過程を通して起こる。この遺伝子組み換えは、胸腺のT細胞におけるTCR遺伝子セグメントの組み換えを通して起こる、多数の潜在的なセグメントから最終的な配列が形成される。TCRα遺伝子座は可変(V)および結合(J)遺伝子セグメント(VβおよびJβ)を含むが、TCRβ遺伝子座はVαおよびJαセグメントに加えてD遺伝子セグメントを含む。従って、α鎖はVJ組み換えから生成され、β鎖はVDJ組み換えに関与する。これはγδTCRの発生についても同様で、TCRγ鎖はVJ組み換えに関与し、TCRδ遺伝子はVDJ組み換えから生成される。TCRα鎖遺伝子座は46個の可変セグメント、8個の結合セグメント、および定常領域からなる。TCRβ鎖遺伝子座は、48個の可変セグメントと、それに続く2個の多様性セグメント、12個の結合セグメント、および2個の定常領域からなる。本明細書に記載のTCRサブユニットのいずれかの配列、その部分配列、またはそれらの組合せを含む鋳型配列は、本開示の範囲内として想定される。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、TCRα鎖可変領域配列(T細胞受容体α遺伝子座、またはTRAによってコードされる)、TCRβ鎖可変領域配列(T細胞受容体β遺伝子座、またはTRBによってコードされる)、TCRγ可変領域配列(T細胞受容体γ遺伝子座、またはTRGによってコードされる)、またはTCRδ可変領域配列(T細胞受容体δ遺伝子座、またはTRDによってコードされる)を含む。
【0141】
いくつかの実施形態では、鋳型配列は、抗体、または抗原結合フラグメントをコードする配列を含む。
【0142】
本明細書において、「抗体」という用語は、特定の抗原に特異的に結合するか、または特定の抗原と免疫学的に反応する免疫グロブリン分子を指し、ポリクローナル、モノクローナル、遺伝子操作、または他の方法で修飾された形態の抗体 (キメラ抗体、ヒト化抗体、ヘテロ結合抗体、例えば、2-, 3-および4-特異性抗体、二重特異性抗体、三重特異性抗体、四重特異性抗体を含むが、これに限定されない)、および抗原結合フラグメント(例えば、Fab′、F(ab′)2、Fab、Fv、rlgG、scFvフラグメントなど)を含む。特に断りのない限り、「モノクローナル抗体」(mAb)という用語は、インタクトな分子と、標的タンパク質に特異的に結合できる抗体フラグメント(例えば、FabおよびF(ab’)2フラグメントを含む)の両方を含むことを意味する。本明細書において、FabおよびF(ab’)2フラグメントは、インタクトな抗体のFcフラグメントを欠く抗体フラグメントを指す。これらの抗体フラグメントの例は本明細書に記載されている。
【0143】
本明細書において、「抗原結合フラグメント」という用語は、標的抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つまたは複数のフラグメントを指す。抗体の抗原結合機能は、全長抗体のフラグメントによって果たすことができる。抗体フラグメントは、例えば、Fab、F(ab’)2、scFv、二重抗体、三重抗体、アフィボディ、ナノボディ、アプタマー、またはドメイン抗体であり得る。抗体の「抗原結合フラグメント」という用語に包含される結合フラグメントの例としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない:(i)VL、VH、CL、CH1ドメインからなる1価のフラグメントであるFabフラグメント;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド結合した2つのFabフラグメントを含む2価のフラグメントであるF(ab′)2フラグメント;(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント;(iv)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント;(v)VHおよびVLドメインを含むdAb;(vi)VHドメインからなるdAbフラグメント(例えば、Wardら、Nature 341:544-546、1989を参照);(vii)VHまたはVLドメインからなるdAb;(viii)単離された相補性決定領域(CDR);ならびに(ix)任意に合成リンカーによって結合され得る2つまたは複数の(例えば、2つ、3つ、4つ、5つまたは6つの)単離CDRの組み合わせ。さらに、Fvフラグメントの2つのドメイン、VLおよびVHは別々の遺伝子によってコードされているが、それらは、組換え法を用いて、VLおよびVH領域が対になって一価分子を形成する単一のタンパク質鎖としてそれらを作ることができるリンカーによって結合することができる (単一鎖Fv (scFv) として知られている);例えば、Birdら、Science 242:423-426、1988およびHustonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883、1988を参照) 。これらの抗体フラグメントは、当業者に知られている従来の技術を用いて得ることができ、フラグメントはインタクト抗体と同様の方法で有用性をスクリーニングすることができる。抗原結合フラグメントは、組換えDNA技術、インタクトな免疫グロブリンの酵素的もしくは化学的切断、または場合によっては当技術分野で公知の化学的ペプチド合成手順によって作製され得る。
【0144】
本明細書において、「相補性決定領域」(CDR)という用語は、抗体の軽鎖および重鎖可変ドメインの両方に見出される超可変領域を指す。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。抗体の超可変領域を画定するアミノ酸位置は、文脈や当技術分野で知られている様々な定義によって変わりうる。可変ドメイン内のいくつかの位置は、ある基準の下では超可変領域内とみなされる一方で、異なる基準の下では超可変領域外とみなされるという点でハイブリッド超可変位置とみなすことができる。これらの位置の1つまたは複数が拡張超可変領域に存在することもある。本明細書に記載の抗体は、これらのハイブリッド超可変位置に改変を含むことがある。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインはそれぞれ4つのFR領域を含み、大部分はβシート構造をとり、三つのCDRによって連結され、βシート構造を連結し、場合によってはβシート構造の一部を形成する、ループを形成する。各鎖のCDRは、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4の順序でフレームワーク領域によって近接して保持されており、他の抗体鎖のCDRとともに抗体の標的結合部位の形成に寄与している(Kabatら, Sequences of Proteins of Immunological Interest, National Institute of Health, Bethesda, Md., 1987を参照)。本明細書において、免疫グロブリンアミノ酸残基の番号付けは、特に指示がない限り、Kabatらの免疫グロブリンアミノ酸残基番号付けシステムに従って行われる。
【0145】
いくつかの実施形態では、抗体、または抗原結合フラグメントは、ヒト抗体または抗原結合フラグメントを含む。いくつかの実施形態では、抗体または抗原結合フラグメントはヒト化されている。
【0146】
当業者であれば、鋳型配列は、特定の組織、1つもしくは複数の細胞または生物における抗体などの遺伝子の発現に必要な配列も含み得ることを理解するであろう。このような配列には、プロモーター、エンハンサー、メッセンジャーRNA(mRNA)の5'および3'非翻訳領域などの非翻訳配列、ポリアデニル化(polyA)配列、イントロン、内部リボソーム進入部位(IRES)などが含まれるが、これらに限定されるものではない。適切な配列の選択は当業者には明らかであろう。
【0147】
いくつかの実施形態では、鋳型配列はプロモーターを含む。いくつかの実施形態では、プロモーターは内因性プロモーターを含む、すなわち、プロモーターは鋳型配列内に含まれる遺伝子に通常関連するプロモーターである。いくつかの実施形態では、プロモーターは内因性プロモーターではなく、例えば、プロモーターが作動可能に連結される鋳型配列中の遺伝子とは別の遺伝子または生物から単離または誘導されたプロモーターである。例えば、鋳型配列は、免疫グロブリンプロモーターではないプロモーターに作動可能に連結された抗体または抗原結合フラグメントをコードする配列を含む。いくつかの実施形態では、プロモーターは構成的プロモーター、誘導性プロモーター、または組織特異的プロモーターである。いくつかの実施形態では、プロモーターは、哺乳動物遺伝子、例えばリンパ球で発現される遺伝子から単離するか、またはそれに由来する。
【0148】
鋳型配列の遺伝子を発現させるために使用できる例示的なプロモーターとしては、SV40初期プロモーター領域、Rous肉腫ウイルスの3'長末端反復に含まれるプロモーター、メタロチオネイン遺伝子の制御配列、テトラサイクリン(Tet)プロモーター、Gal4プロモーター、ADC(アルコールデヒドロゲナーゼ)プロモーター、PGK(ホスホグリセロールキナーゼ)プロモーター、アルカリホスファターゼプロモーターなどの酵母やその他の真菌由来のプロモーター要素、および組織特異性を示し、トランスジェニック動物に利用されている以下の動物転写制御領域が挙げられるが、これらに限定されない: 膵臓の腺房細胞で活性を示すエラスターゼI遺伝子制御領域; 膵臓のβ細胞で活性を示すインスリン遺伝子制御領域、リンパ系細胞で活性を示す免疫グロブリン遺伝子制御領域、精巣、乳房、リンパ系および肥満細胞で活性を示すマウス乳腺腫瘍ウイルス制御領域、肝臓で活性を示すアルブミン遺伝子制御領域、肝臓で活性を示すα-フェトプロテイン遺伝子制御領域、肝臓で活性を示すα1-アンチトリプシン遺伝子制御領域、骨髄系細胞で活性を示すβ-グロビン遺伝子制御領域、 脳のオリゴデンドロサイト細胞で活性を示すミエリン塩基性タンパク質遺伝子制御領域、骨格筋で活性を示すミオシン軽鎖-2遺伝子制御領域、神経細胞で活性を示す神経特異的エノラーゼ(NSE)、 神経細胞で活性を示す脳由来神経栄養因子(BDNF)遺伝子制御領域、アストロサイトで活性を示すグリア線維酸性タンパク質(GFAP)プロモーター、視床下部で活性を示す性腺刺激ホルモン放出ホルモン遺伝子制御領域。
【0149】
標的染色体
本開示は、本明細書に記載の方法で使用するための、標的配列を含む標的染色体を提供する。
【0150】
本明細書において、「標的染色体」とは、「標的配列」を含む染色体、または鋳型配列の挿入による標的配列の顕著な欠失がない場合には「標的位置」を指す。標的配列とは、本明細書に記載の方法を用いて、鋳型配列を挿入することにより欠失される標的染色体の配列を指す。標的位置とは、標的染色体において、鋳型配列が挿入される(挿入の場合)または結合される(染色体転座または染色体再配列の場合)位置を指す。
【0151】
標的染色体は、任意の適切な供給源から単離または誘導することができる。いくつかの実施形態では、標的染色体は真核生物由来である。いくつかの実施形態では、真核生物は鳥類、爬虫類、哺乳類などの脊椎動物である。いくつかの実施形態では、標的染色体はマウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ラクダ、サルまたはニワトリ由来である。いくつかの実施形態では、標的染色体はマウス由来である。いくつかの実施形態では、標的染色体はラット由来である。いくつかの実施形態では、標的染色体はサル由来である。
【0152】
いくつかの実施形態では、鋳型染色体と標的染色体は異なる種由来である。例えば、鋳型染色体はヒト由来であり、標的染色体はマウス由来である。いくつかの実施形態では、鋳型染色体と標的染色体は同じ種のものである。
【0153】
いくつかの実施形態では、標的染色体は人工染色体である。
【0154】
いくつかの実施形態では、標的染色体は天然に存在する染色体である。
【0155】
いくつかの実施形態では、標的染色体は天然に存在する染色体の1つまたは複数の改変を含む。改変には特に、配列の挿入、欠失、再配列が含まれる。標的染色体に挿入される配列の例としては、特に、マーカー、プロモーター、cDNA配列、非コード配列などが挙げられる。適切なマーカーとしては、表3に開示されているような選択可能なマーカーや、GFP、mCherryなどの検出可能なマーカーが挙げられる。
【0156】
いくつかの実施形態では、標的染色体は、鋳型配列の5'に位置するエンドヌクレアーゼ部位を含む。いくつかの実施形態では、標的染色体は、鋳型配列の3'に位置するエンドヌクレアーゼ部位を含む。いくつかの実施形態では、エンドヌクレアーゼ部位は標的配列のすぐ隣に位置する。いくつかの実施形態では、エンドヌクレアーゼ部位は標的配列の近傍に位置する。
【0157】
いくつかの実施形態では、標的染色体は標的配列の両側にエンドヌクレアーゼ部位を含む。例えば、標的染色体は、標的配列の5'に位置する第一のエンドヌクレアーゼ部位と、標的配列の3'に位置する第二のエンドヌクレアーゼ部位を含む。いくつかの実施形態では、第1エンドヌクレアーゼ部位と第2エンドヌクレアーゼ部位の両方が、同じエンドヌクレアーゼによって認識され切断される。例えば、第1エンドヌクレアーゼ部位と第2エンドヌクレアーゼ部位の両方は、同じエンドヌクレアーゼによって認識される同じDNA配列を含む。いくつかの実施形態では、第1のエンドヌクレアーゼ部位は第1のエンドヌクレアーゼによって切断され、第2のエンドヌクレアーゼ部位は第2のエンドヌクレアーゼによって切断される。例えば、第1および第2のエンドヌクレアーゼ部位は、2つの異なるジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)によって認識される異なるDNA配列を含むか、または異なる標的化配列を含むガイド核酸(gNA)を含むCRISPR/Casリボヌクレオタンパク質複合体によって認識される2つの異なるCRISPR/Cas標的配列を含む。いくつかの実施形態では、第1および/または第2のエンドヌクレアーゼ部位は、鋳型配列のすぐ隣に位置する。いくつかの実施形態では、第1および/または第2のエンドヌクレアーゼ部位は、標的配列の近傍に位置する。
【0158】
鋳型配列から5塩基対(bp)以内、10bp以内、15bp以内、20bp以内、30bp以内、40bp以内、50bp以内、70bp以内、80bp以内、90bp以内、100bp以内、120bp以内、140bp以内、160bp以内、180bp以内、200bp以内、250bp以内、300bp以内、400bp以内、または500bp以内のエンドヌクレアーゼ部位は、標的配列の近くにあるとみなされ得る。
【0159】
いくつかの実施形態では、標的染色体は、相同性指向性修復を促進するために使用される核酸分子の相同性アームの1つまたは複数の配列を含む。いくつかの実施形態では、標的染色体は、標的配列の5'に位置する相同性アームの配列を含む。いくつかの実施形態では、標的染色体は、5'から3'まで、相同性アーム配列、エンドヌクレアーゼ部位、および標的配列を含む。いくつかの実施形態では、標的染色体は、標的配列の3'に位置する相同性アームの配列を含む。いくつかの実施形態では、標的染色体は、5'から3'まで、標的配列、エンドヌクレアーゼ部位、および相同性アーム配列を含む。いくつかの実施形態では、エンドヌクレアーゼ部位は相同性アーム配列と標的配列との間に位置する。
【0160】
いくつかの実施形態では、標的染色体は、標的配列の5'に位置する第1の相同性アーム配列、および標的配列の3'に位置する第2の相同性アーム配列を含む。すなわち、標的染色体は標的配列の上流と下流の両方に相同性アームを含む。いくつかの実施態様では、第1の相同性アームは、5’から3’まで、第1の相同性アーム、少なくとも第1のマーカーの配列、および鋳型配列の5’末端の上流のヌクレオチド配列を含む3’相同性アームを含む第1の核酸分子の5’相同性アームである。いくつかの実施態様では、第2の相同性アームは、5’から3’まで、鋳型配列の3’末端の下流のヌクレオチド配列を含む5’相同性アーム、少なくとも第2のマーカーの配列、および第2の相同性アームを含む第2の核酸分子の3’相同性アームである。いくつかの実施形態では、標的染色体は、5'から3'まで、第1相同性アーム配列、第1エンドヌクレアーゼ部位、標的配列、第2エンドヌクレアーゼ部位、および第2相同性アーム配列を含む。
【0161】
いくつかの実施形態では、標的染色体の第1および/または第2の相同性アーム配列は、第1および/または第2のエンドヌクレアーゼ部位のすぐ隣に位置する。いくつかの実施形態では、第1の相同性アーム配列は第1のエンドヌクレアーゼ部位のすぐ隣に位置し、第2の相同性アーム配列は第2のエンドヌクレアーゼ部位のすぐ隣に位置し、ここで、第1のエンドヌクレアーゼ部位は第1の相同性アームと標的配列との間にあり、第2のエンドヌクレアーゼ部位は標的配列と第2の相同性アームとの間にある。
【0162】
いくつかの実施形態では、第1および/または第2の相同性アーム配列は標的配列の近傍に位置する。標的配列から5bp以内、10bp以内、15bp以内、20bp以内、30bp以内、40bp以内、50bp以内、70bp以内、80bp以内、90bp以内、100bp以内、120bp以内、140bp以内、160bp以内、180bp以内、200bp以内または250bp以内にあるエンドヌクレアーゼ部位は、標的配列の近くにあるとみなされ得る。
【0163】
いくつかの実施形態では、標的染色体は、5'から3'まで、第1相同性アーム、第1エンドヌクレアーゼ部位、標的配列、第2エンドヌクレアーゼ部位、および第2相同性アームを含む。
【0164】
いくつかの実施形態では、鋳型配列が挿入される際に標的染色体の配列はほとんどまたは全く欠失されず、標的配列は本明細書では互換的に「標的部位」または「標的位置」と呼ばれる。当業者は、これらの場合、相同性アームおよびエンドヌクレアーゼ部位の配置は、相同性アームが、エンドヌクレアーゼ部位に挟まれた(flanked)標的配列自体ではなく、標的位置のエンドヌクレアーゼ部位を挟むこと(flank)を除いて、上述したものと同様であることを理解するであろう。いくつかの実施形態では、標的染色体は、5'から3'まで、第1の相同性アームの配列、エンドヌクレアーゼ部位、および第2の相同性アームの配列を含む。いくつかの実施態様では、第1の相同性アームは、5’から3’まで、第1の相同性アーム、少なくとも第1のマーカーの配列、および鋳型配列の5’末端の上流のヌクレオチド配列を含む3’相同性アームを含む第1の核酸分子の5’相同性アームである。いくつかの実施態様では、第2の相同性アームは、5’から3’まで、鋳型配列の3’末端の下流のヌクレオチド配列を含む5’相同性アーム、少なくとも第2のマーカーの配列、および第2の相同性アームを含む第2の核酸分子の3’相同性アームである。
【0165】
いくつかの実施形態では、鋳型配列は標的配列に結合され、染色体再配列または転座を生成する。いくつかの実施形態では、標的染色体は、5'から3'まで、標的染色体相同性アーム配列およびエンドヌクレアーゼ部位を含む。いくつかの実施形態では、標的染色体相同性アームは、5'から3'まで、標的配列相同性アーム、少なくとも1つのマーカー、および鋳型配列の5'末端の上流のヌクレオチド配列を含む3'相同性アームを含む核酸分子の5'相同性アームを含む。いくつかの実施形態では、標的染色体は、5'から3'まで、エンドヌクレアーゼ部位および標的染色体相同性アーム配列を含む。いくつかの実施形態では、標的染色体相同性アームは、5'から3'まで、鋳型配列の3'末端の下流のヌクレオチド配列を含む5'相同性アーム、少なくとも第1のマーカー、および標的配列相同性アームを含む核酸分子の3'相同性アームを含む。
【0166】
いくつかの実施形態では、標的染色体の第1および/または第2の相同性アーム配列の長さは、約20~2,000bpの間、約50~1,500bpの間、約100~1,400bpの間、約150~1,300bpの間、約200~1,200bpの間、約300~1,100bpの間、約400~1,000bpの間、または約500~900bpの間、または約600bp~800bpの間である。いくらかの実施形態では、標的染色体の相同性配列の長さは、約400~1,500bpの間である。いくつかの実施形態では、標的染色体の相同性配列の長さは、約500~1,300bpの間である。いくらかの実施形態では、標的染色体の相同性配列の長さは、約600~1,000bpの間である。
【0167】
標的配列または標的位置
【0168】
標的染色体は、本明細書に記載の方法によって鋳型配列が挿入される、または鋳型配列が結合される標的配列または標的位置を含む。標的配列は、標的染色体上の任意の適切な位置に配置することができる。
【0169】
標的配列は、任意の適切な供給源から単離または誘導することができる。いくつかの実施形態では、標的配列および鋳型配列は異なる種由来である。例えば、鋳型配列はヒト由来であり、標的配列はマウス由来である。いくつかの実施形態では、標的配列および鋳型配列は同じ種由来である。
【0170】
いくつかの実施形態では、標的配列は、天然に存在する配列を含む。いくつかの実施形態では、標的配列は、天然に存在する配列の1つまたは複数の改変を含む。改変には、特に、人工配列またはマーカーのような配列の挿入、欠失、および再配列が含まれる。いくつかの実施形態では、標的配列は人工配列を含む。いくつかの実施形態では、標的配列は、天然に存在する配列および人工配列の両方を含む。例示的な人工配列としては、特に、マーカー、cDNA配列、プロモーター、および組換え配列が挙げられる。例示的なマーカーとしては、以下の表3に開示されている選択可能なマーカー、ならびに緑色蛍光タンパク質(GFP)、mCherryなどの検出可能なマーカーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0171】
いくつかの実施形態では、標的配列は真核生物由来である。いくつかの実施形態では、真核生物は鳥類、爬虫類、哺乳類などの脊椎動物である。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ラクダ、サルまたはニワトリ配列を含む。いくつかの実施形態では、標的配列はマウス配列を含む。いくつかの実施形態では、標的配列はラット配列を含む。いくつかの実施形態では、標的配列は猿配列を含む。
【0172】
いくつかの実施形態では、標的配列の長さは、少なくとも25KB、少なくとも50KB、少なくとも100KB、少なくとも200KB、少なくとも400KB、少なくとも500KB、少なくとも600KB、少なくとも700KB、少なくとも800KB、少なくとも900KB、少なくとも1MB、少なくとも2MB、少なくとも3MB、少なくとも4MB、少なくとも5MB、少なくとも6MB、少なくとも7MB、少なくとも8MB、少なくとも9MB、少なくとも10MB、少なくとも15MB、少なくとも20MB、少なくとも25MB、少なくとも30MB、少なくとも40MB、少なくとも50MB、少なくとも60MB、少なくとも70MB、少なくとも80MB、少なくとも90MB、少なくとも100MB、少なくとも120MB、少なくとも140MB、少なくとも160MB、少なくとも180MB、少なくとも200MB、少なくとも220MB、または少なくとも250MBである。いくつかの実施形態では、標的配列の長さは、少なくとも50KB、少なくとも100KB、少なくとも200KB、少なくとも500KB、少なくとも700KB、少なくとも1 MB、少なくとも2 MB、少なくとも3 MB、少なくとも4 MB、少なくとも5 MB、少なくとも6 MB、少なくとも7 MB、少なくとも8 MB、少なくとも9 MB、少なくとも10 MB、少なくとも20 MB、少なくとも30 MB、少なくとも40 MB、または少なくとも50 MBである。いくつかの実施形態では、標的配列の長さは少なくとも1MBである。いくつかの実施形態では、標的配列の長さは少なくとも2MBである。いくつかの実施形態では、標的配列の長さは少なくとも3MBである。いくつかの実施形態では、標的配列の長さは少なくとも4MBである。いくつかの実施形態では、標的配列の長さは少なくとも5MBである。いくつかの実施形態では、標的配列の長さは少なくとも10MBである。いくつかの実施形態では、標的配列の長さは少なくとも20MBである。
【0173】
いくつの実施形態では、標的配列の長さは、50KBと250MB、50KBと100MB、50KBと50MB、50KBと20MB、50KBと10MB、50KBと5MB、50KBと3MB、50KBと2MB、50KBと1MB、100KBと200MB、100KBと100MB、100KBと50MB、100KBと20MB、100KBと10MB、100KBと5MB、100KBと3MB、100KBと2MB、100KBと1MB、100KBと500KB、200KBと100MB、200KBと50MB、200KBと20MB、200KBと10MB、200KBと5MB、200KBと3MB、 200KBと2MB、200KBと1MB、200KBと500KB、500KBと100MB、500KBと50MB、500KBと20MB、500KBと10MB、500KBと5MB、500KBと3MB、500KBと2MB、500KBと1MB、1MBと100MB、1MBと50MB、1MBと20MB、1MBと10MB、1MBと5MB、1MBと3MB、1MBと2MB、3MBと100MB、3MBと50MB、3MBと20MB、3MBと10MB、3 MBと5MB、5MBと100MB、5MBと50MB、5MBと20MB、5MBと10MB、10MBと100MB、10MBと50MB、または10MBと20MBの間である。いくつかの実施形態では、標的配列は、200KBと50MBの間、1MBと20MBの間、1MBと10MBの間、1MBと5MBの間、1MBと3MBの間、3MBと20MBの間、3MBと10MBの間、3MBと7MBの間、または3MBと5MBの間の長さである。いくつかの実施形態では、標的配列の長さは1 MB~10 MBである。いくつかの実施形態では、標的配列の長さは1 MB~5 MBである。いくつかの実施形態では、標的配列の長さは3 MB~5 MBである。
【0174】
いくつかの実施形態では、標的配列は、1つまたは複数の遺伝子の配列を含む。いくつかの実施形態では、標的配列は、複数の遺伝子の配列を含む。いくつかの実施形態では、標的配列は、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1000、1500または2000個の遺伝子の配列を含む。
【0175】
いくつかの実施形態では、標的配列は、鋳型配列と相同な配列を含む。例えば、鋳型染色体は、前述の表1および表2に記載された遺伝子の1つまたは複数の遺伝子を含むヒト鋳型配列を含むヒト染色体であり、標的染色体は、マウス標的配列を含むマウス染色体であり、マウス標的配列は、ヒト鋳型配列に相同なマウス配列を含む。さらなる例として、鋳型染色体はヒトIGH配列を含むヒト染色体であり、標的染色体はマウス染色体であり、標的配列は相同マウスIgh配列を含む。さらなる例として、鋳型染色体はヒトTCR配列含むヒト染色体であり、標的染色体はマウス染色体であり、標的配列は相同マウスTCR配列を含む。
【0176】
いくつかの実施形態では、標的染色体は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ラクダ、サルまたはニワトリ由来であり、標的配列は、鋳型配列のマウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ラクダ、サルまたはニワトリホモログを含む。
【0177】
いくつかの実施形態では、標的配列は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ラクダ、サルまたはニワトリ遺伝子の配列を含む。マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ラクダ、サルまたはニワトリの遺伝子はすべて、本開示の範囲内として想定される。理論に束縛されることを望むものではないが、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ラクダ、サル、ニワトリなどのモデル生物に、疾患発症に関与する、あるいは治療標的となりうるヒト遺伝子を導入することで、疾患の研究や適切な治療法の開発を促進することができる。いくつかの実施形態では、標的配列は、ヒト鋳型配列に相同なマウス配列を含む。いくつかの実施形態では、標的配列は、ヒト鋳型配列に相同なラット配列を含む。いくつかの実施形態では、標的配列は、ヒト鋳型配列に相同なサル配列を含む。
【0178】
いくつかの実施形態では、標的配列は、マウス免疫グロブリン配列などの免疫グロビン配列を含む。いくつかの実施形態では、標的配列はマウスIgh配列を含む。マウスIghは、マウスゲノムのGRCm39集合体の12番染色体のヌクレオチド位置1112,947,269から116,248,693にまたがっている。当業者は、例えば少なくとも100bp、500bp、1,000bp、2,000bp、5,000bp、10,000bpまたは複数の、上述したものから逸脱した5'および3'境界を有するマウスIgh配列が好適な鋳型配列であることを理解するであろう。
【0179】
いくつかの実施形態では、標的配列はマウスIgh可変領域配列を含む。いくつかの実施態様において、マウスIgh可変領域配列は、VH、DHおよびJH1-6遺伝子セグメントのマウスホモログをコードする配列と、介在する非コード配列を含む。いくつかの実施形態では、マウスIgh可変領域配列は、マウスゲノムのGRCm39集合体の12番染色体のヌクレオチド位置113,391,842~115,973,952を含む。いくつかの実施形態では、マウスIgh可変領域配列は、マウスゲノムのGRCm39集合体の12番染色体の113,391,842から115,973,952までのヌクレオチド位置から、少なくとも約50bp、100bp、500bp、1,000bp、2,000bp、5,000bp、7,000bp、10,000bp、15,000bp、20,000bpもしくは50,000bpを、5'末端もしくは3'末端からまたはその両方から差し引いた位置を含む。いくつかの実施態様では、ヒトIGH可変領域配列は、マウスゲノムのGRCm39集合体の12番染色体のヌクレオチド位置113,391,842~115,973,952と、少なくとも約50bp、100bp、500bp、1,000bp、2,000bp、5,000bp、7,000bp、10,000bp、15,000bp、20,000bpまたは50,000bpの付加的フランキング配列を5'末端もしくは3'末端に、またはその両方にを含む。いくつかの実施形態では、マウスIgh可変領域配列は、マウスゲノムのGRCm39集合体の12番染色体のヌクレオチド位置113,391,842~115,973,952、およびそれに対する1つまたは複数の改変を含む。例示的な改変としては、1つまたは複数のV、DまたはJセグメントの欠失などの欠失、マーカーの挿入などの挿入、再配列、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、標的配列は、マウスIgl可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、標的配列は、マウスIgk可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、ヒトIGL可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、ヒトIGK可変領域配列を含む。
【0180】
いくつかの実施形態では、例えば、本明細書に記載の方法によって標的染色体配列がほとんどまたは全く欠失されない実施形態では、標的染色体は標的部位を含む。標的配列の位置とは、鋳型配列が挿入される位置、または鋳型配列が結合される位置のことである。標的染色体上の任意の場所が適切な場所となりうる。いくつかの実施形態では、標的位置は、標的位置に二本鎖切断を生成させるためのエンドヌクレアーゼ部位を含む。
【0181】
組換え染色体
本開示は、本明細書に記載の方法によって作製された組換え染色体を提供する。
【0182】
いくつかの実施形態では、組換え染色体は、1つまたは複数のヒト化配列を含むマウス染色体を含む。いくつかの実施形態では、ヒト化配列は、遺伝性疾患または障害に関連する遺伝子、または癌遺伝子など、ヒトの疾患または障害に関連する1つまたは複数の遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、組換え染色体は、1つまたは複数のヒト化配列を含むラット染色体を含む。いくつかの実施形態では、組換え染色体は、1つまたは複数のヒト化配列を含むサル染色体を含む。
【0183】
いくつかの実施形態では、組換え染色体は、1つまたは複数の免疫グロブリン配列がヒト化されたマウス染色体を含む。いくつかの実施形態では、免疫グロブリン配列は、IGH可変領域などのIGH配列を含む。いくつかの実施形態では、組換え染色体はマウス12番染色体を含み、マウスIgh可変領域は14番染色体からのヒトIGH可変領域と置換されている。いくつかの実施形態では、マウスIgh可変領域は、VH、DHおよびJH1-6遺伝子セグメントと、介在する非コード配列とを含む。いくつかの実施形態では、ヒトIGH可変領域は、VH、DHおよびJH1-6遺伝子セグメントと、介在する非コード配列とを含む。いくつかの実施態様では、組換え染色体はマウス染色体12b番を含み、ここで、マウスゲノムのGRCm39集合体の染色体12番の約113,391,842~115,973,952のヌクレオチド配列を含むマウスIGh可変領域は、ヒトゲノムのGRCh38.p13集合体の染色体14の約105,862,994~106,811,028のヌクレオチド配列を含むヒトIGH可変領域と置換されている。いくつかの実施形態では、組換え染色体は、マウスIgk可変領域の代わりにヒトIGK可変領域の配列を含むマウス6番染色体である。いくつかの実施形態では、マウスIgk可変領域配列は、マウスVk,およびJ k1-5遺伝子セグメント、および介在する非コード配列をコードする配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、ヒトIGK可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、ヒトIGK可変領域配列は、ヒトVk,およびJk1-5遺伝子セグメント、および介在する非コード配列をコードする配列を含む。
【0184】
核酸分子、プラスミドおよびベクター
本開示は、本明細書に記載の方法で使用するための核酸分子を提供する。ポリヌクレオチドと呼ばれることもある核酸分子は、単一分子を構成する連結したヌクレオチドの鎖を指す。本開示の核酸分子は、デオキシリボ核酸(DNA)、またはリボ核酸(RNA)であり得る。本開示の例示的な核酸分子は、標的配列への鋳型配列の挿入、または二本鎖切断修復による鋳型配列と標的配列との結合を容易にするために、標的配列および鋳型配列の両方に特異的な、または両方に隣接する相同性アームを含む。
【0185】
本開示は、本明細書に記載のHDR媒介染色体再配列を促進する、標的染色体および鋳型染色体に特異的な相同性アームを含む核酸分子を提供する。いくつかの実施形態では、核酸分子は、5'から3'まで、標的配列の5'末端の上流のヌクレオチド配列を含む5'相同性アーム、少なくとも第1のマーカー、および鋳型配列の5'末端の上流のヌクレオチド配列を含む3'相同性アームを含む。いくつかの実施形態では、核酸分子は、5'から3'まで、鋳型配列の3'末端の下流のヌクレオチド配列を含む5'相同性アーム、少なくとも第2のマーカー、および標的配列の3'末端の下流のヌクレオチド配列を含む3'相同性アームを含む。
【0186】
本開示は、本明細書に記載の核酸分子を含むベクターを提供する。本開示によれば、ベクターは、それが連結された他の核酸を輸送することができる核酸分子である。プラスミドは、例えば、ベクターの一種である。ベクター配列は、特に細菌などの宿主細胞からのベクターの産生に必要な配列、例えば起点または複製、および選択可能なマーカーを含む。
【0187】
いくつかの実施形態では、ベクターはプラスミドである。いくつかの実施形態では、プラスミドは、5'から3'まで、標的配列の5'末端の上流のヌクレオチド配列を含む5'相同性アーム、少なくとも第1のマーカー、および鋳型配列の5'末端の上流のヌクレオチド配列を含む3'相同性アームを含む。いくつかの実施形態では、プラスミドは、5'から3'まで、鋳型配列の3'末端の下流のヌクレオチド配列を含む5'相同性アーム、少なくとも第2のマーカー、および標的配列の3'末端の下流のヌクレオチド配列を含む3'相同性アームを含む。
【0188】
いくつかの実施形態では、ベクターは、鋳型配列の5'末端またはその近傍に位置する相同性アームの配列を含む。いくつかの実施形態では、相同性アームは鋳型配列の上流、すなわち5'に位置する。いくつかの実施形態では、ベクターは、鋳型配列の3'末端またはその近傍に位置する相同性アームの配列を含む。いくつかの実施形態では、相同性アームは鋳型配列の下流、すなわち3'に位置する。いくつかの実施形態では、ベクター中の鋳型相同性アームの配列は、鋳型配列中の相同性アームの配列と同一であるか、または実質的に同一である。
【0189】
いくつかの実施形態では、ベクターは、標的配列または位置の5'、すなわち標的配列または位置の上流に位置する相同性アームの配列を含む。いくつかの実施形態では、ベクターは、標的配列または位置の3'、すなわち標的配列または位置の下流に位置する相同性アームの配列を含む。
【0190】
当業者であれば、ベクターの相同性アーム配列と鋳型染色体または標的染色体の等価(相当する)配列との間にある程度の不一致があっても、ベクターは、ベクターから鋳型染色体または標的染色体の二本鎖切断の修復を促進することを理解するであろう。例えば、鋳型染色体の等価配列と少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一、または少なくとも99%同一であるか、または同一であるベクターの相同性アーム配列は、本開示の方法に適する。
【0191】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の核酸分子、プラスミド、またはベクターは、1つまたは複数のエンドヌクレアーゼ部位を含む。
【0192】
いくつかの実施形態では、本開示は、(i)5'から3'まで、標的配列の5'末端の上流のヌクレオチド配列を含む5'相同性アーム、少なくとも第1のマーカー、および鋳型配列の5'末端の上流のヌクレオチド配列を含む3'相同性アームを含む第1の核酸分子を提供する; ならびに(ii)5'から3'、鋳型配列の3'末端の下流のヌクレオチド配列を含む5'相同性アーム、少なくとも第2のマーカー、および標的配列の3'末端の下流のヌクレオチド配列を含む3'相同性アームを含む第2の核酸分子を提供する。いくつかの実施形態では、第1および第2の核酸分子はプラスミドである。いくつかの実施形態では、第1の核酸分子は、5’から3’まで、標的配列の5’末端の上流のヌクレオチド配列を含む5’相同性アーム、第1のエンドヌクレアーゼ部位、少なくとも第1のマーカー、第2のエンドヌクレアーゼ部位、および鋳型配列の5’末端の上流のヌクレオチド配列を含む3’相同アームを含み、ここで、第1および第2のエンドヌクレアーゼ部位は、核酸分子上の第1および第2のエンドヌクレアーゼ部位、ならびに鋳型および標的染色体上の対応するエンドヌクレアーゼ部位が同じエンドヌクレアーゼによって切断されるように相同性アームに重なる。いくつかの実施形態では、第2の核酸分子は、5’から3’まで、鋳型配列の3’末端の下流のヌクレオチド配列を含む5’相同性アーム、第3のエンドヌクレアーゼ部位、少なくとも第2のマーカー、第4のエンドヌクレアーゼ部位、および標的配列の3’末端の下流のヌクレオチド配列を含む3’相同アームを含み、ここで、第2および第3のエンドヌクレアーゼ部位は、核酸分子上の第3および第4のエンドヌクレアーゼ部位、ならびに鋳型および標的染色体上の対応するエンドヌクレアーゼ部位が同じエンドヌクレアーゼによって切断されるように相同性アームに重なる。いくつかの実施形態では、第1のマーカーおよび第2のマーカーは同じマーカーではない。いくつかの実施形態では、第1の核酸分子上の第1のマーカーは、選択可能なマーカーと検出可能なマーカーとの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、第1のマーカーは、eGFPおよびピューロマイシン耐性を含む。いくつかの実施形態では、第2のマーカーは、選択可能なマーカーを含む。いくつかの実施形態では、第2のマーカーは、ハイグロマイシン耐性を含む。
【0193】
いくつかの実施形態では、核酸分子上の相同性アーム配列は、鋳型配列、標的配列または標的位置の近傍に位置する配列に対応する。鋳型配列、標的配列、または標的位置から0bp以内、5塩基対(bp)以内、10bp以内、15bp以内、20bp以内、30bp以内、40bp以内、50bp以内、70bp以内、80bp以内、90bp以内、100bp以内、120bp以内、140bp以内、160bp以内、180bp以内、200bp以内、または250bp以内にある相同性アームは、前記配列の近くにあるとみなされ得る。
【0194】
いくつかの実施形態では、鋳型配列または標的染色体配列に対応する核酸分子相同性配列の長さは、約20bpと2,000bpの間、約50bpと1,500bpの間、約100bpと1,400bpの間、約150bpと1,300bpの間、約200bpと1,200bpの間、約300bpと1,100bpの間、約400bpと1,000bpの間、または約500bpと900bpの間、または約600bpと800bpの間である。いくつかの実施形態では、核酸分子の相同性配列の長さは、約400~1,500bpの間である。いくつかの実施形態では、核酸分子の相同性配列の長さは、約500~1,300bpの間である。いくつかの実施形態では、核酸分子の相同性配列の長さは、約600~1,000bpの間である。
【0195】
いくつかの実施形態では、核酸分子は、哺乳動物細胞における発現に適したマーカーを含む。いくつかの実施形態では、マーカーは、核酸分子中の相同性アームの間にあり、それによって、マーカーは標的配列に挿入される。いくつかの実施形態では、マーカーは、選択可能なマーカーである。適切な選択可能なマーカーとしては、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、グルタミン合成酵素(GS)、ピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼ、ブラスチシジンデアミナーゼ、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(hph)、ブレオマイシン耐性遺伝子、アミノグリコシダーゼホスホトランスフェラーゼ(ネオマイシン耐性遺伝子)が挙げられ、以下の表3にさらに詳細に記載されている。
【0196】
いくつかの実施形態では、マーカーは検出可能なマーカー(またはレポーター)を含む。検出可能なマーカーとしては、発光反応を媒介する酵素(luxA、luxB、luxAB、luc、rue、nluc)、比色反応を媒介する酵素(lacZ、HRP)、および緑色蛍光タンパク質(GFP)、eGFP、黄色蛍光タンパク質(YFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)、dsRed、mCherry、tdTomato、近赤外蛍光タンパク質などの蛍光タンパク質などが挙げられるが、これらに限定されない。適切な検出可能なマーカーの選択は、当業者には既知であろう。
【0197】
マーカーは、サイトメガロウイルス初期(CMV)プロモーター、PGKプロモーター、およびEF1aプロモーターを含むがこれらに限定されない、当技術分野で公知の任意の適切なプロモーターを用いて発現され得る。
【0198】
【0199】
いくつかの実施形態では、例えば、2つの核酸分子が使用される方法のそれらの実施形態、第1のマーカーを有する第1の核酸分子および第2のマーカーを有する第2の核酸分子では、第1のマーカーまたは第2のマーカーは、細胞内で蛍光タンパク質を発現可能なプロモーターに作動可能に連結された蛍光タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、蛍光タンパク質は緑色蛍光タンパク質(GFP)を含む。 いくつかの実施形態では、第1のマーカーは選択可能なマーカーをさらに含む。いくつかの実施形態では、第2のマーカーは選択可能なマーカーをさらに含む。 いくつかの実施形態では、選択可能なマーカーは、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、グルタミン合成酵素(GS)、ピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼ、ブラスチシジンデアミナーゼ、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(hph)、ブレオマイシン耐性遺伝子およびアミノグリコシドホスホトランスフェラーゼからなる群より選択される。いくつかの実施形態では、第1のマーカーおよび第2のマーカーは、同じ選択可能なマーカーではない。いくつかの実施形態では、第1のマーカーは、細胞内でGFPを発現可能なプロモーターに作動可能に連結されたGFPおよびピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼを含み、第2のマーカーはハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼを含む。
【0200】
二本鎖切断の生成方法
本明細書で提供されるのは、鋳型と標的染色体に二本鎖切断を生成する方法である。本明細書で提供される方法は、染色体間の大きな配列の移動を促進するために、細胞環境における二本鎖切断修復のための修復経路を使用する。
【0201】
当該技術分野で知られているDNA配列の二本鎖切断を生成させる任意の方法、およびそれらの二本鎖切断を修復する修復経路は、本開示の範囲内として想定される。
【0202】
いくつかの実施形態では、鋳型染色体および標的染色体の二本鎖切断は、1つまたは複数のエンドヌクレアーゼを用いて生成される。いくつかの実施形態では、エンドヌクレアーゼはまた、本明細書に記載の方法で使用される相同性アームを含む1つまたは複数の核酸分子を切断する。いくつかの実施形態では、1つまたは複数のエンドヌクレアーゼは、CRISPR/Casエンドヌクレアーゼおよび1つまたは複数のガイド核酸(gNA)、1つまたは複数のジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、または1つまたは複数の転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)からなる群より選択される。いくつかの実施形態では、染色体再配列を生成するために、1つまたは複数のCREリコンビナーゼを用いて、鋳型染色体および標的染色体の二本鎖切断が生成される。
【0203】
異なる分子は、ゲノム核酸に二本鎖切断および/または一本鎖切断を導入することができる。本開示のヌクレアーゼには、ホーミングエンドヌクレアーゼ、制限酵素、ジンクフィンガーヌクレアーゼまたはジンクフィンガーニッカーゼ、メガヌクレアーゼまたはメガニッカーゼ、転写アクチベーター様エフェクター(TALE)ヌクレアーゼ(カイド)、特に核酸ガイドヌクレアーゼまたはニッカーゼ、例えばRNAガイドヌクレアーゼ、DNAガイドヌクレアーゼ、メガTALヌクレアーゼ、BurrHヌクレアーゼ、それらの改変型またはキメラ型または変異体、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。RNAガイドヌクレアーゼまたはRNAガイドニッカーゼは、任意でCRISPRベースのシステムの一部である。
【0204】
ヌクレアーゼは、核酸のモノマー間のホスホジエステル結合を切断できる。多くのヌクレアーゼは損傷部位を認識し、周囲のDNAから切断することでDNA修復に関与する。これらの酵素は複合体の一部であることもある。エンドヌクレアーゼは標的分子の中心領域に作用するヌクレアーゼである。デオキシリボヌクレアーゼはDNAに作用する。DNA修復に関与する多くのヌクレアーゼは配列特異的ではない。しかし、本願の文脈では、配列特異的ヌクレアーゼが好ましい。いくつかの実施形態では、配列特異的ヌクレアーゼは、標的ゲノム中のかなり大きなヌクレオチド列(strings)、例えば10個以上のヌクレオチド、または15個、20個、25個、30個、35個、40個、45個、あるいは50個以上のヌクレオチドに特異的であり、標的ゲノム中の標的配列として5~50個、10~50個、15~50個、15~40個、15~30個の範囲が好ましい。このような「認識配列」が大きければ大きいほど、ゲノム中の標的化配列は少なくなり、ヌクレアーゼがゲノムに入れる切り口はより特異的になり、つまり切り口は部位特異的になる。部位特異的ヌクレアーゼは一般的に、ゲノム中の標的部位を10個、5個、4個、3個、2個より少なく、あるいはたった1個(1)しか持たない。特定のゲノム標的配列を切断するなど、ゲノム核酸を改変するために改変されたヌクレアーゼを、本明細書では改変型ヌクレアーゼと呼ぶ。CRISPRに基づくシステムは、改変型ヌクレアーゼの一種である。しかしながら、このような改変型ヌクレアーゼは、本明細書に記載される任意のヌクレアーゼをベースとすることができる。
【0205】
12塩基対より大きな配列を認識するエンドヌクレアーゼはメガヌクレアーゼと呼ばれる。メガヌクレアーゼ/ニッカーゼは、大きな認識部位(例えば、20~40または30~40塩基対のような12~40塩基対の二本鎖DNA配列)を特徴とするエンドデオキシリボヌクレアーゼである。
【0206】
「ホーミングエンドヌクレアーゼ」はメガヌクレアーゼの一種であり、大きな非対称認識部位とコード配列を持つ二本鎖DNアーゼで、通常イントロンかインテインに組み込まれている。ホーミングエンドヌクレアーゼの認識部位は、ゲノム内では極めてまれであるため、ごくわずかな位置、場合によってはゲノム内の特異的な(singular)位置で切断する(WO2004067736、米国特許第8,697,395 B2号も参照)。
【0207】
ジンクフィンガーヌクレアーゼ/ニッカーゼ(ZFN)は、ジンクフィンガーDNA結合ドメインをDNA切断ドメインに融合することによって生成される人工制限酵素である。ジンクフィンガードメインは、特定の目的のDNA配列を標的化するように設計することができる。
【0208】
RNAガイドヌクレアーゼ/ニッカーゼ、特にエンドヌクレアーゼには、例えばCas9やCpf1がある。CRISPRシステムについてはすでに詳述してきた。CRISPRに基づくシステムは、いずれも本開示の一部である。別のRNAガイドエンドヌクレアーゼ(複数可)が使用される場合、RNAガイドエンドヌクレアーゼと相互作用し、ゲノム核酸中のゲノム標的部位に標的化する適切なガイドRNA、sgRNAもしくはcrRNAまたは他の適切なRNA配列を使用することができる。
【0209】
本明細書において、「CRISPR関連タンパク質」または「CRISPR/Cas」タンパク質という用語は、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)などの特定の細菌に見られるCRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)II型適応免疫系に関連する核酸ガイド(誘導)DNAエンドヌクレアーゼを指す。Cas9などのCRISPR/Casタンパク質は、細菌に見られる野生型(wt)タンパク質に限定されない。野生型CRISPR/Cas配列に対する変異またはその誘導体を包含するCRISPR/Casタンパク質は、本開示の範囲内として想定される。化膿レンサ球菌由来のオリジナルのII型CRISPRシステムは、Cas9タンパク質と、成熟CRISPR RNA(crRNA)と部分的に相補的なトランス作用RNA(tracrRNA)の2つのRNAからなるガイドRNAとを含む。Cas9は外来DNAをほどき、ガイドRNAの20塩基対のスペーサー領域と相補的な部位をチェックする。Cas9のターゲティングは単純化され、ほとんどのCasベースのシステムは、crRNAとtracrRNAの融合から生じる1つまたは2つのキメラガイドRNA、またはシングルガイドRNA(chiRNA、しばしば単にガイドRNA、gRNA、sgRNAとも呼ばれる)のみを必要とするように設計されている。スペーサー領域は、必要に応じて操作され得る。
【0210】
本明細書において、「Cas9コード配列」という用語は、宿主細胞/宿主哺乳動物において機能する遺伝暗号に従って転写および/または翻訳され、Cas9タンパク質を産生することができるポリヌクレオチドを指す。Cas9コード配列は、DNA(プラスミドなど)またはRNA(mRNAなど)であり得る。
【0211】
本明細書において、CRISPR/Casリボ核タンパク質という用語は、CRISPR/Casタンパク質および関連するガイド核酸からなるタンパク質/核酸複合体を指す。例えば、Cas9リボ核タンパク質は、関連するガイドRNAとの複合体中のCas9を指す。
【0212】
いくつかの実施形態では、ヌクレアーゼはRNAガイドヌクレアーゼである。本開示において使用するための、核酸ガイドヌクレアーゼを含むRNAガイドヌクレアーゼの非限定的な例としては、CasI、CasIB、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9、Cas10、CasX、CasY、Cas12a(Cpf1)、Cas12b、Cas13a、CsyI、Csy2、Csy3、CseI、Cse2、CscI、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、 Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、CmrI、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、CsbI、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、CsfI、Csf2、Csf3、Csf4、Cms1、C2c1、C2c2、C2c3、またはそれらのホモログ、オルソログ、改変型が挙げられるが、これらに限定されない。
【0213】
「megaTALヌクレアーゼ/ニッカーゼ」とは、操作されたTALE DNA結合ドメインと操作されたメガヌクレアーゼまたは操作されたホーミングエンドヌクレアーゼを含む操作されたヌクレアーゼを指す。TALE DNA結合ドメインは、ゲノム中の核酸配列のほぼ全ての座位でDNAに結合するように設計することができ、そのようなDNA結合ドメインが設計されたメガヌクレアーゼと融合している場合、標的配列を切断することができる。メガTALヌクレアーゼとTALE DNA結合ドメインの設計の例示は、例えばBoisselら、(MegaTALs: a rare-cleaving nuclease architecture for therapeutic genome engineering (2013), Nucleic Acids Research 42 (4):2591-2601)、およびそこで引用されている文献に開示されており、これらはすべて、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。メガTALヌクレアーゼは、任意に、1つまたは複数のリンカーおよび/または追加の機能的ドメイン、例えば、C末端ドメイン(CTD)ポリペプチド、N末端ドメイン(NTD)ポリペプチド、5-3′エキソヌクレアーゼまたは3-5′エキソヌクレアーゼを示す末端処理酵素の末端処理酵素ドメイン、または他の非ヌクレアーゼドメイン、例えばヘリカーゼドメインを含む。
【0214】
転写アクチベーター様エフェクター(TALE)ヌクレアーゼ/ニッカーゼは、DNAの特定の配列を切断するように操作できる制限酵素である。転写アクチベーター様エフェクター(TALE)は、実質的に任意の望ましいDNA配列に結合するように設計することができるので、DNA切断ドメインと組み合わせると、DNAを特定の位置で切断することができる。
【0215】
「TALE DNA結合ドメイン」とは、転写活アクチベーター様エフェクター(TALEまたはTALエフェクター)のDNA結合部分であり、植物の転写活性化因子を模倣して植物のトランスクリプトームを操作する。いくつかの実施形態では企図されるTALE DNA結合ドメインは、de novoまたは天然に存在するTALEから設計され、キサントモナス カンペストリ pv ベシカトリア(Xanthomonas campestris pv vesicatoria)、キサントモナス ガルドネリ(Xanthomonas gardneri)、キサントモナス トランスルーセンス(Xanthomonas translucens)、キサントモナス アクソノポディス(Xanthomonas axonopodis)、 キサントモナス パーフォランス(Xanthomonas perforans)、キサントモナス アルファルファエ(Xanthomonas alfalfa)、キサントモナス シトリ(Xanthomonas citri)、キサントモナス オイベシカトリア(Xanthomonas euvesicatoria)、およびキサントモナス オリゼ(Xanthomonas oryzae)由来のAvrBs3、ならびにラルストニア ソラナケアルム(Ralstonia solanacearum)由来のbrg11およびhpx17が挙げられるが、これらに限定されない。DNA結合ドメインを導出・設計するためのTALEタンパク質の例示は、米国特許第9,017,967号およびそこに引用された文献に開示されており、これらの文献はすべて、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0216】
「BurrH-ヌクレアーゼ」とは、ヌクレアーゼ活性を有する融合タンパク質であり、モジュラー塩基特異的核酸結合ドメイン(modular base-per-base specific nucleic acid binding domains(MBBBD))を含む。これらのドメインは、バクテリアの細胞内共生生物であるバークホルデリア リゾキシニカ(Burkholderia Rhizoxinica)由来のタンパク質、または海洋生物から同定された他の類似タンパク質に由来する。これらの結合ドメインの異なるモジュールを組み合わせることで、DNA結合ドメインのような特定の核酸配列に対する結合特性を持つ、塩基ごとのモジュラー結合ドメインを設計することができる。このように設計されたMBBBDは、ヌクレアーゼ触媒ドメインと融合することによって、ゲノム中の核酸配列のほぼすべての遺伝子座でDNAを切断することができる。BurrH-ヌクレアーゼおよびMBBBDの設計の例示は、WO2014/018601およびUS2015225465 A1、ならびにそこで引用された文献に開示されており、これらはすべて、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0217】
本開示の関連する態様は、細胞内でCRISPR/Cas媒介二本鎖切断(DSB)を生成するのに適した、ベクターなどの核酸分子を提供する。いくつかの実施形態では、ベクターは、CRISPR/Casタンパク質、例えばCas9、およびガイド核酸(Cas9シングルガイドRNA、またはsgRNA)をコードする配列を含み、細胞内での発現のために適切なプロモーターに作動可能に連結され、さらに、起点または複製および選択可能なマーカーなどの他のベクター構成要素も含む。いくつかの実施形態では、細胞は、本明細書に記載の胚性幹細胞または胚性ハイブリッド幹細胞である。
【0218】
本開示に従って、相同組換えは、エンドヌクレアーゼによって生じる二本鎖切断(DSB)によって促進される。いくつかの実施形態では、エンドヌクレアーゼは、CRISPR/Cas9および1つまたは複数の単一ガイドRNA(略して「sgRNA」または「gRNA」)を含む。当業者であれば、上記のエンドヌクレアーゼ部位について記載したように、鋳型配列および標的配列のフランキング配列、または標的位置に標的化配列を有するガイドRNAを選択することができるであろう。
【0219】
いくつかの実施形態では、酵素は、CRISPR/Casタンパク質をコードするベクター(複数可)またはコード配列などの核酸分子、および1つまたは複数のsgRNA(複数可)を導入することによって導入することができる。いくつかの実施形態では、CRISPR/Casタンパク質をコードするベクターまたはコード配列は、CRISPR/Cas mRNAである。いくつかの実施形態では、CRISPR/Casタンパク質をコードするベクターまたはコード配列は、CRISPR/Casタンパク質およびgRNAをコードするDNA配列を含む、プラスミドなどのベクターである。いくつかの実施形態では、CRISPR/Casタンパク質はCas9である。
【0220】
特定の実施形態において、単離するCRISPR/Casタンパク質は、細胞(例えば、マイクロインジェクションまたはエレクトロポレーションによる接合体またはES細胞)に直接導入することができる。CRISPR/Casタンパク質は、CRISPR/Casタンパク質/gNA(ガイド核酸)複合体であるCRISPR/Casリボ核タンパク質の形態であってもよい。あるいは、CRISPR/Casタンパク質は、gNAを含まないものであってもよく、そのような場合、CRISPR/Casタンパク質および1つまたは複数のgNAは、接合体またはES細胞に共導入され、細胞内のin situでのCRISPR/Casタンパク質/gNA複合体の形成を可能にする。いくつかの実施形態では、CRISPR/Casタンパク質およびgNAは、ベクターによってコードされ、トランスフェクション、エレクトロポレーションまたは形質導入によって細胞に導入される。いくつかの実施形態では、CRISPR/Casタンパク質はCas9である。
【0221】
本開示の方法において使用するエンドヌクレアーゼとして機能するためには、CRISPR/Casタンパク質がgRNAと機能的複合体を形成することが必要である。
【0222】
いくつかの実施形態では、複数のgNAが使用され、それぞれが特定のCRISPR/Cas切断部位を標的とする。例えば、鋳型配列の両側のgNA標的配列に特異的な標的化配列を有する2つ、および標的配列の両側のgNA標的配列に特異的な標的化配列を有する2つの、合計4つのgNAが使用され得る。あるいは、3つのgNAを使用してもよく、1つは標的位置のgNA標的配列に特異的な標的化配列を有し、2つは鋳型配列の両側にあるgNA標的配列に特異的な標的化配列を有する。さらに別の例として、鋳型配列に隣接するgNA標的配列に特異的な標的化配列を有する1つと、標的配列に隣接するgNA標的配列に特異的な標的化配列を有する1つの、2つのgNAを使用することができる。
【0223】
好ましくは、DSBを作製するために使用されるgNAの数とは無関係に、ある実施形態では、gNAの各々は、鋳型配列および標的配列の5'末端および3'末端、または標的位置に近接することに基づいて独立して選択される。
【0224】
gNAの選択および設計は、標的ゲノムおよび配列タイプなどのユーザー入力に基づいて、周知の原理またはオンラインツールを用いて行うことができる。一般に、Cas9の場合、gRNAは、Cas9結合に必要な「スキャフォールド」配列と、標的化配列によって結合または修飾されるゲノム標的を定義する、ユーザー定義の~20ヌクレオチド「スペーサー」または「標的化」配列とから構成される短い合成RNAである。簡単にするために、「gRNAがCas9切断部位を標的とする」とは、gRNAのスペーサーまたは標的化配列がゲノム標的配列に結合し、切断部位で切断するように設計されていることを指す。
【0225】
本開示によるgRNAsおよびgDNAsを含むガイド核酸は、長さ10ヌクレオチドから任意のものであり、これには、10-50ヌクレオチド、10-40、10-30、10-20、15-25、16-24、17-23、18-22、19-21および20ヌクレオチドが含まれる。
【0226】
好ましくは、標的化配列は、理論的にはユニークな(ゲノムの残りの部分と比較して)ゲノム標的配列に結合するように十分にユニークである。標的配列は、プロトスペーサー隣接モチーフ(または「PAM」配列)のすぐ上流(または5′)に存在すべきである。PAM配列は標的結合に絶対必要であり、正確な配列はCas9の種類によって異なる。最も広く使用されているStreptococcus pyogenes Cas9では、PAM配列は5′-NGG-3′である(「N」は4つの標準ヌクレオチドのいずれかを示す)。異なる種における追加のCas9のための他のPAM配列は当技術分野で知られている。以下の表4に列挙された例示的なPAM配列を参照されたい。
【0227】
【0228】
Cas9-gRNA複合体はPAMを持つ標的ゲノム配列に結合するが、Cas9はgRNAスペーサーと標的ゲノム配列の間に十分な相同性が存在する場合にのみ標的ゲノム配列を切断する。Cas9が介在するDNA切断の最終結果は、標的ゲノム配列内の二本鎖切断(DSB)であり、PAM配列の約3-4ヌクレオチド上流の切断部位である。
【0229】
いくつかの実施形態では、二本鎖切断は標的配列の両側で、または両側で生成される。例えば、標的染色体が、標的染色体をほとんど又は全く欠失させずに鋳型配列が挿入される位置などの標的位置を含む実施形態では、二本鎖切断は標的位置で生成される。例示的な標的位置は、本明細書に記載のヌクレアーゼのいずれかの切断部位を含む。さらなる例として、標的染色体が鋳型配列の挿入によって置換または欠失される配列などの標的配列を含む実施形態では、二本鎖切断が標的配列の両側(すなわち、標的配列の5'と3'の両方)に生成される。
【0230】
特定の実施形態では、任意の選択されたエンドヌクレアーゼ、例えばgNA標的化配列の切断部位は、標的配列または位置の約10bp、約20bp、約30bp、約50bp、約70、約100bp、約200bp、約300bp、約400bp、または約500の範囲内にある。
【0231】
特定の実施形態では、選択されたエンドヌクレアーゼ、例えばgNA標的化配列の切断部位は、約100bp、約200bp、約300bp、約400bp、約500bp、約600bp、約700bp、 約800bp、約900bp、約1,000bp、約1,100bp、約1,200bp、約1,300bp、約1,400bp、約1,500bp、約1,600bp、約1,700bp、約1,800bp、約1,900bp、または約2,000bpの鋳型配列の範囲内にある。
【0232】
いくつかの実施形態では、二本鎖切断は、切除、ミスマッチ修復(MMR)、ヌクレオチド切除修復(NER)、塩基切除修復(BER)、カノニカル非相同末端結合(カノニカルNHEJ)、代替非相同末端結合(ALT-NHEJ)、カノニカル相同性指向性修復(カノニカルHDR)、 代替相同性指向性修復(ALT-HDR)、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)、ブラント末端結合、合成依存性マイクロホモロジー媒介末端結合、一本鎖アニーリング(SSA)、ホリデイジャンクションモデルまたは二本鎖切断修復(DSBR)、合成依存性鎖アニーリング(SDSA)、一本鎖切断修復(SSBR)、トランスレシオン合成修復(TLS)、鎖間架橋修復(ICL)およびDNA/RNAプロセッシングからなる群より選択される少なくとも1つのDNA修復経路によって修復される。
【0233】
組換え染色体の回収
本開示は、本明細書に記載の組換え染色体を回収する方法、および前記組換え染色体を下流の用途に適した細胞環境に導入する方法を提供する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組換え染色体の回収は、微小核細胞融合法(MMCT)を含む。
【0234】
微小核細胞融合法(MMCT)は、ドナー細胞から調製した微小核細胞をレシピエント細胞と融合させる技術である。この技術により、ドナー細胞中の特定の(外来)DNA(例えば染色体)をレシピエント細胞に導入することができる。微小核細胞は通常、ドナー細胞をコルセミドで処理することによって調製されるが、他の方法を用いてもよく、本開示の範囲内で想定される。
【0235】
例示的なMMCTプロトコールは、組換え染色体を含む細胞を、少なくとも1つの小核誘導剤を含む細胞培養培地中で、小核形成を誘導するのに十分な条件下で培養して小核化細胞を作製し、小核化細胞を回収することを含む。例示的な小核誘導剤としては、微小管重合阻害剤、微小管脱重合阻害剤および紡錘体チェックポイント阻害剤が挙げられるが、これらに限定されない。当技術分野で知られている例示的な小核誘導剤としては、コルセミド、コルヒチン、ビンクリスチン、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、細胞を0.05μg/mLから0.25μg/mLで処理して、小核形成を誘導することができる。
【0236】
小核化した細胞は、遠心分離や濾過など、当分野で知られている適切な方法を用いて回収することができる。
【0237】
従って、本開示は、小核形成を誘導するのに十分な条件下で細胞をコルセミドに暴露すること、および遠心分離を用いて小核化細胞を回収することを含む、組換え染色体を回収する方法を提供する。
【0238】
いくつかの実施形態では、組換え染色体は、1つまたは複数のマーカー、例えば、染色体を鋳型配列で組換える際に導入された選択可能なマーカーまたは検出可能なマーカーを含む。これらのマーカーを用いて、組換え染色体を追跡し、前述の小核化細胞との融合後に組換え染色体を含む細胞を選択することができる。
【0239】
従って、本開示は、以下を含む、胚性幹細胞を生成する方法を提供する:(a)本開示の方法によって作製された組換え染色体を含む小核化細胞をES細胞に融合することを含む。ここで、 (i)ES細胞が、組換え染色体と相同な染色体を含み、その相同染色体が、ES細胞において蛍光タンパク質を発現させることができるプロモーターに作動可能に連結された第1の蛍光タンパク質を含み、(ii)小核化細胞の少なくともサブセットが、組換え染色体を含み、組換え染色体が、第1の蛍光タンパク質とは異なる第2の蛍光タンパク質を含み、第2の蛍光タンパク質が、ES細胞において蛍光タンパク質を発現可能なプロモーターに作動可能に連結されている;(b)第1および第2の蛍光タンパク質の両方を発現するES細胞を選択する;(c)ステップ(c)で選択されたES細胞を、相同染色体がES細胞の少なくともサブセットによって失われるまで培養する;ならびに(d)第2の蛍光タンパク質を発現し、第1の蛍光タンパク質を発現しないES細胞を選択する。いくつかの実施形態では、ES細胞は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ラクダ、ニワトリまたはサルのES細胞である。いくつかの実施形態では、ES細胞はマウスES細胞である。いくつかの実施形態では、ES細胞はラットES細胞である。いくつかの実施形態では、ES細胞はサルES細胞である。
【0240】
上述した胚性幹細胞を生成させる方法では、マーカーとして2つの異なる蛍光タンパク質を用いているが、組換え染色体上のマーカーと相同染色体上のマーカーが異なる限り、他のマーカーが適していることを当業者は理解するであろう。例えば、本明細書に記載したような2つの異なる選択可能なマーカーを使用することができる。また、標識抗体で認識できる2つの異なる表面分子を使用したり、遠心分離による選択を可能にする金粒子のような選択マーカーに結合させたりすることもできる。さらなる例として、マーカーとしての蛍光タンパク質に加えて、ピューロマイシンやハイグロマイシン/チミジンキナーゼ(TK)マーカーを、このステップでの陽性-陰性選択に用いることができる。チミジンキナーゼが特定のチミジンアナログの存在下で発現されると、これらのアナログは細胞を死滅させる毒性化合物に変換される。例えば、ピューロマイシン耐性マーカーとハイグロマイシン/TKマーカーを同じ位置の2つの染色体にノックインし、ピューロマイシンとハイグロマイシン中で培養して二重陽性単一クローンを選択する。数日間培養した後、ピューロマイシンとチミジンキナーゼを用いて、ハイグロマイシン/TKマーカーを持つ染色体の1コピーを失ったクローンを選択する。
【0241】
いくつかの実施形態では、胚性幹細胞を作製する方法は、(a)本開示の方法によって作製された組換え染色体を含む小核化細胞をES細胞に融合することを含む。ここで、(i)ES細胞は、組換え染色体に相同な染色体を含み、相同染色体は第1のマーカーを含み、(ii)小核化細胞の少なくともサブセットが組換え染色体を含み、組換え染色体が第1のマーカーとは異なる第2のマーカーを含む;(b)第1および第2のマーカーの両方を発現するES細胞を選択する;(c)ステップ(c)で選択されたES細胞を、相同染色体がES細胞の少なくともサブセットによって失われるまで培養する;ならびに(d)第2のマーカーを発現し、第1のマーカーを発現しないES細胞を選択する。
【0242】
小核化細胞は、適切な方法を用いてES細胞と融合させることができる。融合法には、特に電気融合、ウイルス誘導融合、および例えばPEG1000の細胞への添加による化学的誘導融合が含まれる。
【0243】
上述の組換え染色体の回収方法によって生成されるトリソミーの固有の不安定性を考慮すると、小核化細胞との融合によって生成される細胞を、少なくとも5日間、少なくとも7日間、少なくとも10日間、または少なくとも14日間培養すれば、組換え染色体に対応する相同染色体を失った細胞を得るのに十分であろう。あるいは、負に選択可能なマーカー、例えば、その発現が選択的レジメンに曝露されたときに細胞を殺す相同染色体上に位置するマーカーを用いる選択スキームを採用してもよい。いくつかの実施形態では、ステップ(b)および(d)における細胞の選択は、蛍光活性化細胞選別(FACS)を含む。例えば、細胞は、組換え染色体を標識するために使用される第2の蛍光タンパク質を発現するFAC選別細胞であり得るが、相同染色体を標識するために使用される第1の蛍光タンパク質は発現しない。
【0244】
細胞
本開示は、本開示の方法で使用するための細胞を提供する。いくつかの実施形態では、細胞は、胚性幹(ES)細胞、ハイブリッド胚性幹(EHS)細胞、または接合細胞を含む。本開示はまた、本開示の方法によって作製された組換え染色体を含む細胞を提供する。本開示は、本明細書に記載の細胞を単離、融合、培養する方法を提供する。
【0245】
従って、本開示は、本明細書に記載のEHS細胞を生成するために、細胞を融合させる方法を提供する。細胞融合は、化学的、生物学的、物理的手段によって可能になった。これらの技術の例には、それぞれポリエチレングリコール(PEG)融合、fusogenicウイルス融合、電気融合が含まれる。
【0246】
本開示の方法において使用するES細胞は、様々な供給源から得ることができ、一次単離したES細胞であっても、人工的にまたは天然に生じたES細胞株であってもよい。ES細胞はまた、本開示のEHS細胞を作製するための細胞融合の前または後に、あるいは本明細書に記載の方法の前または後に、1つまたは複数のマーカーの発現などの有用な形質を導入するために最初に遺伝子改変されてもよい。
【0247】
一般的に用いられる技術の一つは、例えばPEGを用いた化学融合である。この技術はハイブリドーマの生成に特に成功している。融合確率は、細胞を非常に短時間の強電界に曝露することによって改善される。化学薬剤は、電界曝露前の懸濁液中 で、所望のタイプの細胞対(すなわち、2種類のEH細胞)の連結お よび近接を効果的に行うために使用できる。
【0248】
細胞の電気融合は、細胞を近接させ、交互電場に暴露することを含む。適切な条件下で細胞同士は押し付けられ、細胞膜の融合が起こり、その後、融合細胞またはハイブリッド細胞が形成される。細胞の電気融合とそのための装置は、例えば米国特許第4,441,972号、同第4,578,168号、同第5,283,194号、国際特許出願第PCT/AU92/00473号に記載されている。一般的に、この方法は細胞を選択し、細胞融合チャンバーとし て採用された流体充填チャンバー内に配置することを含む。個々の細胞対が融合プロセスに関与してもよく、すなわち、単一細胞融合、または、それぞれが2つ以上の細胞を含む2つの集団でバルク融合が起こり得る。バルク融合は、約2個から約1000個の細胞が関与するミニバルク融合、または約1000個を超える細胞が関与するマクロバルク融合である。融合は、PEGの存在下などの化学的手段、融合原性(fusagenic)ウイルスの存在下などの生物学的手段、または電気融合などの電気的手段によって促進される。融合は、これらの技術を組み合わせてもよい。細胞は、融合を促進するためにインターロイキン3(IL-3)などのサイトカインで処理することもできる。
【0249】
細胞融合に続いて、融合に関与した細胞からの、融合脂質二重層に包まれた少なくとも2つの細胞の核を含む融合細胞(fusate cell)またはハイブリッド細胞として知られるものが得られる。細胞の核は融合し、その結果、染色体の数が異常なハイブリッド細胞(4倍体であったり、染色体の数が少なかったり多かったりする)が得られる。ハイブリッド細胞は、適切な培養条件下で分裂および増殖する能力を有する。
【0250】
いくつかの実施形態では、EHS細胞は電気融合によって生成される。例えば、ヒトとマウス、ヒトとラット、またはヒトとサルのES細胞を電気融合によって融合させることができる。いくつかの実施形態では、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ラクダ、ニワトリおよびサルからなる群より選択される2種由来の2つのEHS細胞が電気融合を受け、EHS細胞が生成される。
【0251】
一般に、融合が起こると、得られたハイブリッド細胞は、本開示の方法で使用するために培養で拡大される前に、適切なリッチ培地で回収される。回収培地は、融合ストレス後の細胞融合物の回収を可能にする因子を含むべきである。このような補充液は、例えば20%という高い割合の仔牛胎児血清を含み得る。
【0252】
細胞融合により生成されるハイブリッド細胞は、これらの細胞を選択し、融合事象をモニターするのに有用なユニークな細胞表面マーカーを含むことができる。
【0253】
いくつかの実施形態では、本開示の細胞は、本明細書に記載のマーカーの導入などの1つまたは複数の遺伝子改変を含む。遺伝子改変は、当技術分野で公知のいずれか適切な手段によって行うことができる。例えば、トランスフェクション、形質導入、エレクトロポレーション、リポフェクションなどによって細胞を改変することができる。
【0254】
本明細書において、トランスフェクションとは、裸のまたは精製された核酸、または特定の核酸を有するベクターを含む核酸を、細胞、特に哺乳動物細胞を含む真核細胞に導入することを指す。本開示の文脈では、公知のトランスフェクション方法を採用することができる。これらの方法のいくつかは、核酸を細胞内に取り込むために生体膜の透過性を高めることを含む。顕著な例は、エレクトロポレーション、マイクロポレーションおよびリポフェクションである。これらの方法はそれ自体で用いられてもよいし、音波、電磁波、熱エネルギー、化学的透過促進剤、圧力などを用いて、宿主細胞への核酸の流速を選択的に高めることもできる。他のトランスフェクション法も本開示の範囲内であり、例えば、リポフェクションまたはウイルスを含む担体ベースのトランスフェクション(形質導入とも呼ばれる)および化学ベースのトランスフェクションが挙げられる。しかし、細胞内に核酸を導入する方法であれば、いずれでも用いることができる。一過性にトランスフェクトされた細胞は、トランスフェクションされたRNA/DNAを短期間保持/発現し、それを受け継がない。安定的にトランスフェクトされた細胞は、トランスフェクションされたDNAを継続的に発現し、それを受け継ぐ:外来性核酸は細胞のゲノムに組み込まれた。
【0255】
パポーバウイルス.、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、シンドビスウイルス、セムリキ森林ウイルス、鳥類およびヒト由来のレトロウイルスなど、多くのウイルスが遺伝子導入ベクターとして、あるいは遺伝子導入ベクター調製の基礎として使用されてきた。
【0256】
リン酸カルシウム共沈法、機械的手法、例えばマイクロインジェクション、リポソームを介した膜融合を介した導入、DNAの直接取り込みや受容体を介したDNA導入など、遺伝子導入の化学的手法がある。ウイルス媒介遺伝子導入は、リポソーム送達を用いた直接in vivo遺伝子導入と組み合わせることができ、ウイルスベクターを特定の細胞に向けることができる。あるいは、レトロウイルスベクター生産細胞株を特定の組織に注入することもできる。生産細胞を注入すれば、ベクター粒子の継続的供給源となる。
【0257】
本開示は、本開示の細胞を培養する方法を提供する。本明細書に記載される実施形態では、規定培地、調整培地、フィーダーフリー培地、無血清培地など、多くの幹細胞培地培養環境または増殖環境が想定される。本明細書において、「増殖環境」という用語は、未分化または分化した幹細胞(例えば、胚性幹細胞)がin vitroで増殖する環境を指す。環境の特徴としては、細胞が培養される培地や、存在する場合には支持構造(固体表面上の基質など)が挙げられる。細胞を培養または維持する方法は、PCT/US2007/062755、米国出願番号11/993,399、および米国出願番号11/875,057にも記載されている。
【0258】
基礎細胞培養培地は当技術分野で知られており、市販されている。例示的な基礎細胞培養培地には、DMEM、CMRLまたは RPMIベースの培地が含まれるが、これらに限定されない。
【0259】
本開示の細胞培養方法において使用される細胞培養培地は、血清を含み得るか、または無血清であり得る。細胞培養培地はまた、B27サプリメント、インスリン、グルコース、EGFおよびFGFなどの成長因子、サイトカインなど、当技術分野で公知の1つまたは複数のサプリメントまたは他の培地成分を含むことができる。
【0260】
「フィーダー細胞」という用語は、in vitroで増殖し、培地中に少なくとも1つの因子を分泌する細胞の培養物を指し、培養中の別の目的の細胞の増殖を支持するために使用することができる。本明細書において、「フィーダー細胞層」は、「フィーダー細胞」という用語と互換的に用いることができる。フィーダー細胞は単層を含むことができ、そこではフィーダー 細胞は培養皿の表面を完全な層で覆ってから互いの上に増殖す るか、または複数の細胞のクラスターを含むことができる。好ましい実施形態では、フィーダー細胞は接着性の単層を含む。
【0261】
同様に、ES細胞またはEHS細胞培養物または凝集体懸濁培養物が、フィーダー細胞を使用することなく、規定された条件または培養系で培養される実施形態は、「フィーダーフリー」である。なお、フィーダーフリーの方法は、米国特許第6,800,480号にも記載されている。いくつかの実施形態では、ESまたはEHS細胞を2次元または3次元環境で培養することができる。米国特許第6,800,480号では、細胞外マトリックスは、線維芽細胞を培養し、その場で線維芽細胞を溶解し、溶解後に残ったものを洗浄することによって調製される。あるいは、米国特許第6,800,480号では、細胞外マトリックスは単離されたマトリックス成分、またはコラーゲン、胎盤マトリックス、フィブロネクチン、ラミニン、メロシン、テナシン、ヘパリン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、アグリカン、ビグリカン、トロンボスポンジン、ビトロネクチンおよびデコリンから選択される成分の組み合わせから調製することもできる。
【0262】
いくつかの実施形態では、培養方法または培養系は、動物供給源を含まない。他の実施形態では、培養方法はゼノフリーである。
【0263】
本開示は、本明細書に記載の組換え染色体を含むES細胞を、様々な下流の用途に使用するために、様々な細胞型に分化させることを含む。ES細胞は、通常、内因性発生細胞シグナルを直接再現し、細胞特異的分化を誘導する外因性生化学組成物を細胞培養培地に補充することを含む、様々な戦略を用いて、in vitroで様々な細胞型に分化誘導することができる。ES細胞を分化させるための戦略は、Vazin and Freed, Restor Neurol Neurosci (2010) 28(4):589-603で議論されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0264】
例えば、ES細胞またはEHS細胞の集団は、特定の補足的成長因子の存在下でさらに培養して、異なる細胞系譜に発生する、または発生する予定の細胞集団を得ることができ、あるいは、異なる細胞系譜に発生できるように選択的に逆転させることができる。「補足的成長因子」という用語は、最も広い意味で用いられ、ES細胞の成長を促進し、細胞の生存を維持し、細胞の分化を刺激し、および/または細胞の分化の逆転を刺激するのに有効な物質を指す。さらに、補助的成長因子は、フィーダー細胞から培地中に分泌される物質であってもよい。このような物質としては、サイトカイン、ケモカイン、低分子、中和抗体、タンパク質などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。成長因子には細胞間シグナル伝達ポリペプチドも含まれ、細胞の発生と維持、組織の形態と機能を制御する。好ましい実施形態では、補足的成長因子は、可溶性インターロイキン-6受容体 (IL-6 R) 、線維芽細胞成長因子 (FGF) 、骨形成タンパク質 (BMP) 、腫瘍壊死因子 (TNF) 、および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子 (GM-CSF) と組み合わせた、幹細胞因子 (SCF) 、オンコスタチンM (OSM) 、毛様体神経栄養因子 (CNTF) およびインターロイキン-6 (IL-6) からなる群より選択される。
【0265】
幹細胞から様々な多能性細胞および/または分化細胞への進行は、特定の細胞型に特徴的な遺伝子、または遺伝子マーカーの相対的発現を、第2のまたは対照遺伝子、例えばハウスキーピング遺伝子の発現と比較して決定することによってモニターすることができる。いくつかのプロセスでは、特定のマーカーの発現は、マーカーの有無を検出することによって決定される。あるいは、特定のマーカーの発現は、そのマーカーが1つまたは複数の細胞培養の細胞中に存在するレベルを測定することによって決定することができる。このような工程では、マーカー発現の測定は定性的にも定量 的にもなりうる。マーカー遺伝子によって生成されたマーカーの発現を定量する方法の1つは、定量的PCR(Q-PCR)を用いる方法である。Q-PCRを行う方法は当技術分野でよく知られている。マーカー遺伝子の発現を定量するために、当技術分野で知られている他の方法を使用することもできる。例えば、マーカー遺伝子産物の発現は、目的のマーカー遺伝子産物に特異的な抗体を用いて検出することができる。
【0266】
トランスジェニック動物
本開示は、本開示の組換え染色体を含むトランスジェニック動物、例えばトランスジェニックマウス、およびその作製方法を提供する。
【0267】
本明細書に記載の組換え染色体を含むES細胞または接合細胞からトランスジェニック動物を作製するための適切な方法の選択は、動物によって異なり、当業者には公知であろう。
【0268】
例示的な方法では、組換え染色体を含むES細胞を胚盤胞の段階で胚に組み込み、これを妊娠中または偽妊娠中の雌に移植(導入)し、成熟させる。その結果、キメラ動物が生まれる。ES細胞から生殖細胞が生まれれば、その動物の子孫は完全なトランスジェニックとなり、組換え染色体を受け継ぐことになる。
【0269】
いくつかの実施形態では、トランスジェニック動物は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ラクダ、ニワトリまたはサルである。
【0270】
いくつかの実施形態では、トランスジェニック動物はマウスである。いくつかの実施形態では、トランスジェニックマウスの作製は、二倍体胚盤胞へのES細胞の注入、ES細胞から脱核マウス胚への核移植、または四倍体胚相補性を含む。
【0271】
いくつかの実施形態では、本方法は、ES細胞または接合体を偽妊娠雌に移植することをさらに含む。マウスでは、自然発情期の6~8週齢の雌マウスと精管切除した雄マウスを交配させることにより、偽妊娠雌を準備する。偽妊娠雌への同日移植用に処理した接合体を培養から取り出し、予め加温した適切な培地(M2培地など)に入れ、卵管を通じて、交配0.5日の偽妊娠雌(例えば9~11週齢)に移植することができる。
【0272】
本開示の方法を用いて宿主哺乳動物に組換え染色体を挿入したら、得られたトランスジェニック動物(例えば、マウス)またはその子孫において、当該染色体の存在を検証することができる。このような検証は、典型的には、潜在的に組換え染色体を有する動物の遺伝子型決定、接合配列のポリメラーゼ連鎖反応増幅、特定のDNAストレッチの直接配列決定(例えば、鋳型配列)、および遺伝子マッピングの1つまたは複数を含む。このような技術は当技術分野でよく知られている。
【0273】
本開示は、本開示の組換え染色体を含むトランスジェニックマウスを提供する。いくつかの実施形態では、トランスジェニックマウスは、ヒト化された1つまたは複数の遺伝子、例えば表1および2に記載される遺伝子のいずれか1つを含む。いくつかの実施形態では、動物モデルは、1つまたは複数のヒト化遺伝子(例えば、1、2、5、10、20、50、100またはより多くの遺伝子)を含む。いくつかの実施形態では、トランスジェニックマウスは、ヒト化された免疫グロブリン遺伝子の全部または一部を含む。いくつかの実施形態では、トランスジェニックマウスは、ヒト化されたTCRサブユニット遺伝子の全部または一部を含む。
【0274】
本開示のトランスジェニックマウスのいくつかの実施形態では、マウス12番染色体は、マウスIgh可変領域の代わりにヒトIGH可変領域の配列を含む。いくつかの実施形態では、マウスIgh可変領域は、VH、DHおよびJH1-6遺伝子セグメントと、介在する非コード配列とを含む。いくつかの実施形態では、ヒトIGH可変領域は、VH、DHおよびJH1-6遺伝子セグメントと、介在する非コード配列とを含む。いくつかの実施形態では、組換え染色体は、マウスIgk可変領域の代わりにヒトIGK可変領域の配列を含むマウス6番染色体である。いくつかの実施形態では、マウスIgk可変領域配列は、マウスVk,およびJk1-5遺伝子セグメント、および介在する非コード配列をコードする配列を含む。いくつかの実施形態では、鋳型配列は、ヒトIGK可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、ヒトIGK可変領域配列は、ヒトVk,およびJk1-5遺伝子セグメント、および介在する非コード配列をコードする配列を含む。
【0275】
用途
本明細書に記載の組換え染色体を含む細胞およびトランスジェニック動物の下流への応用は、本開示の範囲内として企図されている。
【0276】
例示的な下流用途には、1つまたは複数のヒト遺伝子をヒト化した動物モデル(例えば、マウス、ラットまたはサル)を用いたヒト疾患および障害の動物モデルに関する基礎研究および応用研究が含まれる。モデル動物の相同遺伝子をヒトの相同遺伝子と置き換えることでヒト化できる、例示的であるが非限定的な遺伝子を表1および表2に記載する。染色体異常(転座、逆位など)に関連するヒト疾患のモデル動物も、本明細書に記載の方法を用いて作製することができる。例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)ヒト化マウス疾患モデルなど、300kBを超えるフラグメントの大規模染色体再配列を必要とする動物モデルや、最大数百の遺伝子のアレイの大規模挿入または置換を必要とする動物モデルは、本開示の範囲内として想定される。
【0277】
いくつかの実施形態では、例えば動物のIgh可変領域がヒト化されている実施形態では、本開示のトランスジェニック動物を用いてヒト化抗体を作製することができる。例えば、このような動物は、ヒトまたはヒト化抗体を持つ特異性B細胞を作製させることができる。いくつかの実施形態では、例えば動物のIgkまたはIgl可変領域がヒト化されている実施形態では、本開示のトランスジェニック動物を使用してヒト化抗体を産生することができる。
【0278】
いくつかの実施形態では、例えば、抗体またはその抗原結合フラグメントを含む鋳型配列が標的染色体に挿入されている実施形態では、本開示のトランスジェニック動物を使用して、抗体または抗原結合フラグメントを生成することができる。例えば、トランスジェニック動物を用いて、単鎖可変フラグメント(scFv)、ナノボディ、二重特異性抗体、多重特異性抗体などを生成することができる。このような抗体は、研究または治療目的で使用することができる。
【0279】
例示的な下流用途としては、組換え染色体をトランスジェニック動物に組み込まない用途がある。その代わりに、一例として、組換え染色体を含むES細胞を別の細胞型に分化させ、研究または治療目的に使用することができる。
【0280】
キット
本開示は、本明細書に記載の核酸分子を含むキットを提供する。いくつかの実施形態では、核酸分子はプラスミドなどのベクターである。
【0281】
本開示のキットのいくつかの実施形態では、キットは、本明細書に記載の方法で使用するための細胞、例えば凍結保存されたEHS細胞を含む。いくつかの実施形態では、キットは、核酸分子、および任意選択で細胞の使用説明書を含む。
【実施例
【0282】
実施例
実施例1:胚性ハイブリッド幹細胞(EHS)の樹立
この研究の全体的な目標は、IghとIgk遺伝子の可変ドメインをヒト化したマウスを得ることであった。ヒトとマウスは抗体遺伝子の配列と発現に高い類似性を示し、重鎖のゲノム組織もヒトとマウスで類似している。したがって、VH、DH、JH遺伝子の全セグメントを含む約3MBのマウスゲノム配列を、同等のヒト遺伝子フラグメントを含む約1MBの連続したヒトゲノム配列に置き換えることで、マウスIghまたはIgk遺伝子可変ドメインのヒト化バージョンが得られる(図1)。
【0283】
ヒト化マウスIgh遺伝子を作製するための最初のステップは、マウス胚性幹(ES)細胞とヒトES細胞を融合することによってマウス胚ハイブリッド幹(EHS)細胞を作製し、マウスとヒトの両方のIgh遺伝子を持つ細胞を作製することであった。
【0284】
PGKプロモーターの制御下でネオマイシン耐性遺伝子を発現する組換えマウス細胞と、CAGプロモーターの制御下でmCherryマーカーを発現する組換えヒトES細胞とを、電気融合装置のメーカーが提供する標準的な方法に従って、電気融合によって融合した。ハイブリッドEHS細胞をG418を含むマウスES細胞培地で7日間培養し、生存細胞をmCherryの発現レベルに応じて蛍光活性化細胞選別(FACS)で選別した(図2)。陽性細胞をG418を含むマウスES細胞培地で連続培養し、増殖のために単一細胞クローンを別々のウェルに単離した。次に、各単一細胞クローンについてゲノムDNAを抽出し、遺伝子型解析を行った。具体的には、ヒト免疫グロブリン重鎖(IGH)のV、D、J領域(図3A)に対する3組のプライマーを用いてPCRを行い、EHSクローンにおける標的配列(図3B)の存在を確認した。3つの所望領域をすべて有するクローンのみをさらなる実験のために保持した。
【0285】
実施例2:ヒト化染色体工学
2.1.HDRによる染色体再配列(HMCR)によるEHCの樹立
Igh遺伝子の可変ドメインをヒト化したマウス胚性ハイブリッド幹(EHS)細胞を得るために、HDR-Mediated Chromosome Rearrangement(HMCR;図4A)により、マウス第12染色体上のIgh遺伝子の可変ドメイン~3MBを、ヒト第14染色体上のヒトIGH遺伝子の可変ドメイン~1MBに置換した。
【0286】
HMCRプロセスを仲介するために2種類のプラスミドを設計し、図4Aに示した。5’HMCRプラスミドはマウスIgh遺伝子の5’末端をヒトのそれと置換するように設計され、3’HMCRプラスミドはマウスIgh遺伝子の3’末端をヒトのそれと置換するように設計された。5’HMCRプラスミドは、マウスIgh遺伝子の5’末端に相同性のある5’アーム、ヒトIGH遺伝子の5’に相同性のある3’アーム、および2つの相同性アームの間に挿入されたCMV-EGFP-polyA-PGK-Puromycin-polyのカセットを含んでいた。同様に、3’HMCRプラスミドは、ヒトIGH可変遺伝子座の3’に相同性のある5’アーム、マウスIGH可変遺伝子座の3’に相同性のある3’アーム、および2つの相同性アームの間に挿入されたPGK-Hygromycin-polyAカセットを含んでいた (図4 A参照) 。相同性アームの長さは600bpから1000bpであった。同時に、マウスとヒトのIgh可変ドメインの5'末端と3'末端を標的化するCas9とsgRNAを含む4つのプラスミドも設計した(図4Aのジグザグマークを参照、sgRNA標的化配列は表7に記載)。これら6つのプラスミドを、標準的な方法で実施例1で得られたEHS細胞に環状プラスミドとして共トランスフェクションし、得られた細胞をピューロマイシンとハイグロマイシンを含むマウスES細胞培地で7日間培養した。生き残ったGFP陽性シングルクローンを摘出し、さらに培養した。
【0287】
HMCRに成功した所望のシングルクローンを同定するために遺伝子型解析を行った。ジェノタイピングのために、4組のPCRプライマーを図5Aに示すように設計した。最初のプライマー対では、フォワードプライマーはマウスIgh 5'HMCRプラスミドの5'相同性アームの上流に、リバースプライマーはCMVプロモーター領域内に設計した(図5A)。第2のプライマー対については、フォワードプライマーは5'HMCRプラスミドのピューロマイシン遺伝子内にあり、リバースプライマーはヒトIGHの5'相同性アームの下流、ヒトIGH配列内にあった(図5A)。第3のプライマー対では、フォワードプライマーはヒトIGH可変領域の3'相同性アームの上流にあり、リバースプライマーは3'HMCRプラスミドのPGKプロモーター領域にあった(図5A)。最後の1対のプライマーでは、フォワードプライマーは3'HMCRプラスミドのハイグロマイシン遺伝子にあり、リバースプライマーは3'HMCRプラスミドの3'相同の下流、マウスIgh可変ドメイン内にあった(図5A)。各クローンに対して各プライマー対でPCR増幅を行い、4つの遺伝子型判定試験すべてでPCR産物が陽性であったクローンのみをさらなる実験に残した。このステップで単離した196クローンのうち、6クローンが4つのPCRアンプリコンすべてに対して陽性と同定された(図5B)。
【0288】
HMCRが成功したEHS細胞におけるヒトIGH遺伝子の発現を促進するために、非相同末端結合(NHEJ)、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)、相同性媒介末端結合(HMEJ)法も使用できるが、相同性指向修復(HDR)(図4A)により陽性クローンのゲノムから3'選択マーカーを欠失させた。上述したプロセスにより、EHS細胞において、マウス12番染色体上のマウスIgh遺伝子のVH、DH、JH1-6遺伝子セグメントを包含する可変ドメインを、HMCRにより同等のヒト領域と置換した組換えヒト化染色体(EHC)を樹立することに成功した。
【0289】
HMCRプロセスを仲介するために用いたプラスミドの配列は以下の表5と表6に示す。
【0290】
【0291】
【0292】
【0293】
表7に、sgRNA標的化配列の非標的鎖3'上に位置するPAM配列(NGG)を有するsgRNA配列が提供される。PAMを含まない対応するsgRNA標的化配列は、配列番号:14-17として提供される。
【0294】
2.2.CRE-Loxpを介した染色体再配列(CMCR)によるEHC樹立
Igh遺伝子の可変ドメインをヒト化したマウスEHS細胞を得るために、CRE-Loxpを介した染色体再配列(CMCR;図4B)によって、マウス第12染色体上のIgh遺伝子の可変ドメイン約3MBを、ヒト第14染色体上のIGH遺伝子の可変ドメイン約1MBに置換した。CMCRプロセスを媒介するために4つのプラスミドを設計した。マウスIgh 5' (pCMV-GFP-BGH PolyA-Loxp)および3' (BGH polyA-Loxp-511-Hygromycin-BGH polyA-PGK-BSD-BGH PolyA)プラスミドは、それぞれマウスIgh可変遺伝子座の5'および3'末端に挿入するように設計された。同時に、ヒトIGH可変遺伝子座の5'末端と3'末端にそれぞれヒトIGH 5' (BGH polyA-Loxp-Puro-BGH PolyA-PGK-Neomycin-BGH PolyA)と3' (pCMV-BGP-BGH PolyA-PGK-Loxp-511) プラスミドを挿入するように設計した(図5)。トランスフェクション後のEHS細胞を、BSDとネオマイシンを含むマウスES細胞培地で7日間培養した。生き残ったGFP-およびBFP-二重陽性細胞を摘出し、さらに培養した。ジェノタイピングを行い、上記プラスミドの導入に成功した所望の単一クローンを同定した。CreをトランスフェクションしてCMCRに成功したEHS細胞に導入し、再配列に成功した細胞はピューロマイシンとハイグロマイシンを含む培地で生存できた。生存した細胞は遺伝子型分類のためにポックされた(pocked)。CMCRに成功したEHS細胞におけるヒトIGH遺伝子の発現を促進するために、次に3'選択可能なマーカーをゲノムから欠失させた(図5)。以上の工程を経て、EHS細胞のCMCRにより、組換えヒト化染色体(EHC;マウス12番染色体のIgh遺伝子の可変ドメインをヒト化したもの)の樹立に成功した。
【0295】
実施例3:微小核細胞融合法によるマウス胚性幹細胞の染色体置換
実施例1および2に記載のように組換えヒト化染色体(EHC)を有するEHS細胞を得た後、次に微小核細胞融合法(MMCT)によりEHCをマウスES細胞に導入し、Igh遺伝子の可変ドメインをヒト化したマウスES細胞を樹立した。
【0296】
EHCを導入したEHS細胞を0.2μg/mlのコルセミドで37℃、48時間処理した。長時間の有糸分裂停止により微小核細胞が形成され、遠心分離により回収した(図6)。同時に、12番染色体上にmCherry蛍光マーカーを発現するマウスES細胞が得られた(図6)。これらの細胞は、CMV-mCherry-polyAのカセットをマウス12番染色体の1コピーに挿入することによって得られた。
【0297】
次に、この微小核細胞を電気融合によりマウスES細胞とハイブリダイズさせ、得られた細胞をFACSによりGFP+およびmCherry+マーカーを用いて選別し、GFP+およびmCherry+であるマウスES細胞を得た。GFP+はEHCがマウスES細胞に正常に導入されたことを示し、mCherry+マーカーはその細胞がmCherry+の12番染色体も保有していることを示した。陽性細胞をマウスES細胞培地で2週間連続培養し、mCherry-およびGFP+マウスES細胞、すなわちmCherry+で示される余分な12番染色体を失った細胞をFACSで選別し、7日間培養した。増殖と核型解析のため、単一クローンを別々のウェルに単離し、正しい核型を持つクローンを保持した。その結果、Igh遺伝子の可変領域をヒト化したマウスES細胞が得られた。
【0298】
実施例4:Ighヒト化マウスの作製
実施例3で得られたIgh遺伝子の可変領域をヒト化したマウスES細胞を、標準的な手順に従って、B6D2F1(C57BL/6 X DBA2)系統のマウスの胚盤胞に注入した。あるいは、ヒト化マウスを作製するために、核移植または四倍体胚相補を用いることもできた。
【0299】
注射した胚盤胞を、人工授精後2.5日目(dpc)の偽妊娠ICR雌の子宮に移植した。Ighヒト化マウスは蛍光実体顕微鏡下でのGFPの発現レベルによって同定され、GFP+マウスはさらに解析された。
【0300】
次に、Ighヒト化マウスを検証するために一連のPCR実験を計画した。最初の一連のPCR実験は、ヒトIGH可変領域の完全性を検証するために設計された。ヒトIGH可変領域の異なる領域に対する5組のプライマーが設計された(図7A、PCRプライマー1~10を示す矢印参照)。Ighヒト化マウスでは、5組のPCRプライマー対すべてでPCR産物が陽性であった(図7B)。ヒトIGH可変領域の上流と下流にもプライマーを設計したが(図7A)、Ighヒト化マウスではいずれのPCR実験でも産物は観察されなかったが、HEK293TではPCR産物の右バンドが観察された(図7B)。
【0301】
Ighヒト化マウスの尻尾から線維芽細胞を単離し、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を行った。FISHの結果、Ighヒト化マウスの12番染色体にはヒト14番染色体のフラグメントが含まれており(図8A)、ヒトIGH遺伝子の可変ドメインがin situでマウスの12番染色体に挿入されたことが示された。
【0302】
異常染色体を除外するために、G-バンディング核型分析も行った(図8B)。
【0303】
Ighヒト化マウスのゲノムDNAも抽出し、全ゲノム配列(WGS)解析を行った。WGS配列は、マウスの全染色体とヒトの14番染色体を含む参照ゲノムにマッピングされた。ヒトIGH遺伝子の可変ドメイン(VH、DH、JH遺伝子セグメント)はすべて全ゲノム配列リードでカバーされていた。さらに、他のゲノム領域ではオフターゲット編集は見られなかった(図9A-9B)。
【0304】
実施例5:Igkヒト化マウスの作製
MASIRTを用いて、Igk遺伝子の可変ドメインをヒト化したマウスを得た(図10)。上述のIgh遺伝子と同様のアプローチで、Igkヒト化マウスも得た。Igkヒト化マウスを検証するために、まずPCR実験を行い、ヒトIGK可変領域の完全性を検証した。ヒトIGK可変領域の異なる遺伝子座に5対のプライマーを設計し(図11A)、得られたIgkヒト化マウスは5回の実験すべてでPCR産物が陽性であった(図11B)。ヒトIGK可変領域の上流および下流のプライマーも設計した(図11A)が、得られたIgkヒト化マウスでは、いずれのPCR実験でも産物は観察されなかったが、HEK293TではPCR産物の右バンドが観察された(図11B)。最後に、Igkヒト化マウスのゲノムDNAも抽出し、全ゲノム配列(WGS)解析を行った。
【0305】
【0306】
【0307】
【0308】
表10に、sgRNA標的化配列の非標的鎖3'上に位置するPAM配列(NGG)を有するsgRNA配列が提供される。PAMを含まない対応するsgRNA標的化配列は、配列番号:28-31として提供される。
【0309】
全ゲノム配列を、マウスの全染色体とヒトの2番染色体を含む参照ゲノムにマッピングした。その結果、ヒトIGK遺伝子の可変ドメイン(VHおよびJH遺伝子セグメント)は、全ゲノム配列ですべてカバーされていた。また、他のゲノム領域ではオフターゲット編集は見られなかった(図12)。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11
図12
【配列表】
2024533683000001.xml
【国際調査報告】