(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】耐酸化特性を高めた被覆物品
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20240905BHJP
C23C 14/32 20060101ALI20240905BHJP
C23C 14/35 20060101ALI20240905BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20240905BHJP
C23C 16/38 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C23C14/06 C
C23C14/06 E
C23C14/32 Z
C23C14/35 Z
C23C16/42
C23C16/38
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518509
(86)(22)【出願日】2022-09-22
(85)【翻訳文提出日】2024-04-26
(86)【国際出願番号】 EP2022076328
(87)【国際公開番号】W WO2023046820
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】102021004792.3
(32)【優先日】2021-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598051691
【氏名又は名称】エリコン・サーフェス・ソリューションズ・アクチェンゲゼルシャフト,プフェフィコーン
【氏名又は名称原語表記】OERLIKON SURFACE SOLUTIONS AG, PFAEFFIKON
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グレヒナー,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ラム,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】エマー,ハンス-ゲオルク
(72)【発明者】
【氏名】リードル-トラゲンライフ,ヘルムート
(72)【発明者】
【氏名】フーノルト,オリバー
(72)【発明者】
【氏名】アルント,ミリヤム
(72)【発明者】
【氏名】ポルチク,ペーター
【テーマコード(参考)】
4K029
4K030
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029AA04
4K029BA52
4K029BA53
4K029CA03
4K029CA05
4K029DC02
4K029DC39
4K029DD06
4K029GA00
4K029GA01
4K030BA06
4K030BA10
4K030BA26
4K030BA29
4K030CA02
4K030CA05
4K030DA08
4K030DA09
(57)【要約】
本発明は、被覆表面を備える被覆物品であって、前記被覆表面が、基材およびコーティング系からなり、前記コーティング系が、1つ以上の遷移金属ホウ化物および1つのドーパント元素からなる少なくとも1つの保護層を備え、
-保護層が、式TMxBySiq(式中、TMは、クロム、Cr、およびハフニウム、Hfによって形成される群から選択される1つ以上の遷移金属元素であり、Siはケイ素であって、ドーパント元素として保護層中に存在し、Bはホウ素であり、xは保護層中のTMの原子百分率による濃度であり、yは保護層中のBの原子百分率による濃度であり、qは保護層中のSiの原子百分率による濃度であり、x+y+q=1、0.15≦x≦0.33、0.40≦y≦0.67、かつ0.1≦q≦0.40である)によって定義される化学元素組成を有し、
-保護層中の遷移金属に対するホウ素の原子濃度比は、2以上、すなわちy/x≧2であり、
-保護層は、AlB2結晶構造を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆表面を備える被覆物品であって、前記被覆表面が、基材およびコーティング系からなり、前記コーティング系が、1つ以上の遷移金属ホウ化物および1つのドーパント元素からなる少なくとも1つの保護層を備え、
-前記保護層が、式TM
xB
ySi
q(式中、TMは、クロム、Cr、およびハフニウム、Hfによって形成される群から選択される1つ以上の遷移金属元素であり、Siはケイ素であって、前記ドーパント元素として前記保護層中に存在し、Bはホウ素であり、xは前記保護層中のTMの原子百分率による濃度であり、yは前記保護層中のBの原子百分率による濃度であり、qは前記保護層中のSiの原子百分率による濃度であり、x+y+q=1、0.15≦x≦0.33、0.40≦y≦0.67、かつ0.1≦q≦0.40である)によって定義される化学元素組成を有し、
-前記保護層中の前記遷移金属に対するホウ素の原子濃度比が、2以上、すなわちy/x≧2であり、
-前記保護層が、AlB
2結晶構造を示す、
ことを特徴とする、被覆表面を備える被覆物品。
【請求項2】
qが0.1より大きいことを特徴とする、請求項1に記載の被覆物品。
【請求項3】
qが0.2より大きいことを特徴とする、請求項2に記載の被覆物品。
【請求項4】
qが0.3より大きいことを特徴とする、請求項3に記載の被覆物品。
【請求項5】
前記保護層が、前記コーティング系の最外層として配置されることを特徴とする、先行する請求項1~4のいずれかに記載の被覆物品。
【請求項6】
前記コーティング系が、前記コーティング系の最外層として形成された酸化物層を備え、前記酸化物層が、ケイ素および酸素を含むか、またはケイ素および酸素からなり、好ましくは二酸化ケイ素、SiO
2を含むことを特徴とする、先行する請求項1~4のいずれかに記載の被覆物品。
【請求項7】
前記保護層が、前記酸化物層の直下に配置されていることを特徴とする、請求項6に記載の被覆物品。
【請求項8】
前記酸化物層の厚さが、50nm~5000nmの範囲であることを特徴とする、先行する請求項6~7のいずれかに記載の被覆物品。
【請求項9】
前記保護層が、28.44°および/または47.3°の2θ角度で前記保護層のXRDスペクトルにおいて可視である別個の結晶Si相を示すことを特徴とする、先行する請求項6~8のいずれかの請求項に記載の被覆物品。
【請求項10】
前記保護層の酸化速度が、1100℃の温度で10
-9kg
2m
-4s
-1から10
-13kg
2m
-4s
-1までの範囲であることを特徴とする、先行する請求項1~9のいずれかに記載の被覆物品。
【請求項11】
前記基材が、鋼、超硬合金、インコネル、ハステロイ、ワスパロイ、超合金、Ti含有材料、酸化物、酸化物-酸化物セラミック、SiC含有材料、炭素系材料、イットリア安定化ジルコニアによって形成される群から選択される1つ以上の材料を含むか、またはそれからなることを特徴とする、先行する請求項1~10のいずれかに記載の被覆物品。
【請求項12】
-前記少なくとも1つの保護層が、コーティングプロセスを使用することによって形成される、
ことを特徴とする、先行する請求項1~11のいずれかに記載の被覆物品を製造する方法。
【請求項13】
-前記少なくとも1つの保護層が、コーティングプロセスを使用することによって形成され、
-前記保護層内の前記酸化物層および/または前記別個の結晶Si相が、前記コーティングプロセス後に行われる熱処理によって製造され、前記AlB
2結晶構造が、コーティングプロセス中に既に製造されており、前記熱処理中および前記熱処理後に維持され、前記熱処理が、800℃~1500℃の範囲、好ましくは1100℃~1300℃の範囲のプロセス温度で行われるアニーリングプロセスを含む、
ことを特徴とする、先行する請求項6~12のいずれかに記載の被覆物品を製造する方法。
【請求項14】
前記コーティングプロセスが、
-物理気相成長(PVD)技術、および/または
-化学気相成長(CVD)技術、および/または
-熱またはプラズマ支援化学気相成長(TA-CVDまたはPA-CVD)
を使用することによって行われる、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記コーティングプロセスが、ケイ素を含む1つ以上のターゲットが、コーティングプロセス中に酸化バリアコーティング層において所望のケイ素濃度を提供するためのコーティング原材料として使用されるように行われ、これが、物理気相成長(PVD)技術、好ましくはタイプアークPVD技術またはスパッタリングPVD技術、例えばマグネトロンスパッタリングまたは大電力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)を使用することによって行われる、ことを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記コーティングプロセスが、ケイ素を含む1つ以上のガス流がコーティングプロセス中に酸化バリアコーティング層において所望のケイ素濃度を提供するためのコーティング原材料として使用されるように行われ、これが、物理気相成長(PVD)技術、好ましくはアークPVD技術またはスパッタリングPVD技術、例えばマグネトロンスパッタリングまたは大電力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)を用いて行われる、ことを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆物品および本発明の被覆物品を製造する方法に関する。基材とコーティング系とを含み、コーティング系が、酸化バリアコーティング層を形成する能力を有する遷移金属ホウ化物コーティング層を備えるか、またはコーティング系が、酸化バリアコーティング層および酸化バリアコーティング層を形成する能力を有する遷移金属ホウ化物層を備える、耐酸化特性の向上を示す本発明の被覆物品。1つ以上の遷移金属の1つ以上のホウ化物からなる酸化バリアコーティング層を形成する能力を有する遷移金属ホウ化物コーティング層であって、遷移金属がクロムおよび/またはハフニウムであり、この層がドーパントとしてケイ素を含む、遷移金属ホウ化物コーティング層。
【0002】
発明の分野
遷移金属(TM:transition metal)ホウ化物は、3000℃を超える溶融温度、広い相安定性、または高い熱伝導率ならびに強い耐熱衝撃性を伴うそれらの耐熱特性で知られている。材料の持続可能な使用ならびに高性能部品、例えば航空エンジンの機械要素の寿命への関心の高まりから、TMホウ化物系材料が新たな種類の保護薄膜として提案されている。したがって、特に、高温でのこのようなコーティングの安定性が望ましく、このようなコーティングの不十分な耐酸化性を改善するための戦略が開発されている。
【背景技術】
【0003】
二ホウ化物系バルクセラミックを酸化する場合、典型的には、TiB2、ZrB2、およびHfB2から知られているように、ガラス質頂部B2O3(ボリア)層を有する酸化物スケールが形成される。詳細には、3つの異なるレジーム、(i)頂部に多かれ少なかれ高密度ボリア層を有する結晶性金属酸化物層を得る、典型的には900℃未満~1000℃未満の低温レジーム、(ii)頂部B2O3の最初の蒸発を伴う1600℃~1800℃までの第2のレジーム、および(iii)多孔質金属酸化物に隣接するボリアの揮発性蒸発が支配的である、1800℃を超える最後のレジーム、を区別することができる。しかしながら、大気湿度または流動条件等の環境条件もまた、TMホウ化物の酸化物スケール形成に影響を及ぼし得る。水蒸気の存在は、揮発性ホウ酸(HBO2)の形成を早め、ボリアの揮発性を促進し、したがって耐酸化性を低下させることが知られている。
【0004】
これまで、高温(>1000℃)で長期酸化を維持するために、アルミナ系およびシリカ系の酸化物スケールのみが、1100℃で約10-10kg2m-4s-1の大きさで十分に低い放物型速度定数を提供することが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の主な目的は、遷移金属ホウ化物の非常に有利な特性を示すが、同時に高温、特に800℃~1500℃の範囲の温度でより高い耐酸化性を示す被覆表面を有する被覆物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の説明
上記課題は、被覆物品および本発明の被覆物品を製造する方法、特に請求項1~10に記載の被覆物品および特に請求項11~16に記載の方法を提供することによって解決される。
【0007】
本発明の被覆物品は被覆表面を備え、被覆表面は、基材およびコーティング系からなり、前記コーティング系が、1つ以上の遷移金属ホウ化物および1つのドーパント元素からなる少なくとも1つの保護層を備え、
-保護層は、式TMxBySiq(式中、
・TMは、クロム、Crおよびハフニウム、Hfによって形成される群から選択される1つ以上の遷移金属元素であり、
・Siは、ケイ素であって、ドーパント元素として保護層中に存在し、
・Bは、ホウ素であり、
・xは、保護層中のTMの原子百分率による濃度であり、
・yは、保護層中のBの原子百分率による濃度であり、
・qは、保護層中のSiの原子百分率による濃度であり、
・x+y+q=1、0.15≦x≦0.33、0.40≦y≦0.67、かつ0.1≦q≦0.40である)
によって定義される化学元素組成を有し、
・保護層中の遷移金属に対するホウ素の原子濃度比は、2以上、すなわちy/x≧2であり、
-保護層は、AlB2結晶構造を示す。
【0008】
意図せずに酸素または酸素および炭素および/または他の元素(例えばアルゴン)が微量元素として保護層中に存在する可能性があることに留意することが重要である。
【0009】
本発明による被覆物品の好ましい実施形態によれば、qで示されるSiの含有量は0.1よりも高く、これは、高密度Si富化スケールの形成を促進することによって、驚くほどかなりの耐酸化性の更なる増加を達成することを可能にする。より好ましくは、qは0.2より大きい。更に好ましくは、qは0.3より大きい。
【0010】
本発明による被覆物品の更に好ましい実施形態によれば、保護層は、高密度Si富化スケールの形成を促進するために、コーティング系の最外層として、または可能な限り最外層に近接して(例えば、最外層のすぐ隣に)配置される。
【0011】
本発明による被覆物品の更に好ましい実施形態によれば、コーティング系は、コーティング系の最外層として形成された酸化物層を備え、酸化物層は、ケイ素および酸素を含むか、またはケイ素および酸素からなり、好ましくは二酸化ケイ素、SiO2を含む。
【0012】
本発明と関連して、酸化物層は、1つの好ましい実施形態では、保護層に含まれるSiによって促進されるSi富化スケール(本明細書との関連では、高密度Si富化スケールとも呼ばれる)を含むかまたはそれからなる酸化物層であり、コーティング系の最外面の方向に拡散し、コーティング系の最外面で利用可能な酸素と反応してSi富化スケールを形成する。
【0013】
本発明の被覆物品が上記の好ましい実施形態の1つに記載されるような酸化物層を備える場合、保護層は、好ましくは酸化物層の直下に配置される。
【0014】
酸化物層の厚さは、50nm以上5000nm以下であることが好ましい。
保護層は、好ましくは、28.44°および/または47.3°の2θ角度で前記保護層のXRDスペクトルにおいて可視である別個の結晶Si相を示す。この別個の結晶Si相は、例えば、別個の結晶Si相が保護層内に形成され、酸化後に検出することができるように、保護層を酸化させるプロセス、例えばアニーリング工程または酸化をもたらす任意の工程に保護層を供することによって製造することができる。本発明者らは、この別個の結晶Si相の形成が、上述のようにSi富化スケールの形成を促進すると考えている。本発明と関連して、Si富化スケールは、特にSi-O含有酸化物層として理解されるべきである。
【0015】
好ましくは、保護層の酸化速度論は、1100℃の温度で10-9kg2m-4s-1から10-13kg2m-4s-1までの範囲である。
【0016】
本発明と関連して、好ましい基材は、鋼、超硬合金、インコネル、ハステロイ、ワスパロイ、超合金、Ti含有材料、酸化物、酸化物-酸化物セラミック、SiC含有材料、炭素系材料、イットリア安定化ジルコニアによって形成される群から選択される1つ以上の材料を含むか、またはそれからなる。
【0017】
上述の実施形態のいずれかによる本発明の被覆物品を製造する方法は、好ましくは、保護層がコーティングプロセスを使用することによって形成される1つ以上の工程を含む。
【0018】
本発明による被覆物品を製造する方法の好ましい実施形態によれば、該方法は、少なくとも以下の工程を含む:
-少なくとも1つの保護層は、コーティングプロセスを使用することによって形成される、
-保護層内の酸化物層および/または別個の結晶Si相が、コーティングプロセス後に行われる熱処理によって製造され、AlB2結晶構造が、コーティングプロセス中に既に製造されており、熱処理中および熱処理後に維持され、熱処理が、800℃~1500℃の範囲、好ましくは1100℃~1300℃の範囲のプロセス温度で行われるアニーリングプロセスを含む。
【0019】
好ましくは、本発明による被覆物品を製造するための保護層を形成する方法のいずれかで使用されるコーティングプロセスは、
-物理気相成長(PVD:physical vapor deposition)技術、および/または
-化学気相成長(CVD:chemical vapor deposition)技術、および/または
-熱またはプラズマ支援化学気相成長(TA-CVDまたはPA-CVD:thermal or plasma assisted chemical vapor deposition)
を使用することによって行われる。
【0020】
好ましい実施形態によれば、保護層を製造するためのコーティングプロセスは、ケイ素を含む1つ以上のターゲットが、コーティングプロセス中に酸化バリアコーティング層において所望のケイ素濃度を提供するためのコーティング原材料として使用されるように行われ、これは、物理気相成長(PVD)技術、好ましくはタイプアークPVD技術またはスパッタリングPVD技術、例えばマグネトロンスパッタリングまたは大電力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS:high power impulse magnetron sputtering)を使用することによって行われる。
【0021】
別の好ましい実施形態によれば、保護層を製造するためのコーティングプロセスは、ケイ素を含む1つ以上のガス流が、コーティングプロセス中に酸化バリアコーティング層において所望のケイ素濃度を提供するためのコーティング原材料として使用されるように行われ、これは、物理気相成長(PVD)技術、好ましくはタイプアークPVD技術またはスパッタリングPVD技術、例えばマグネトロンスパッタリングまたは大電力インパルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMS)を使用することによって行われる。
【0022】
本発明のいくつかの具体例の説明
本発明をより詳細に説明するために、コーティング系および本発明による被覆物品を製造するためのおよびコーティング系を製造する方法のいくつかの例を、
図1~
図7の助けを借りて以下に説明する。これらの実施例および図の内容は、本発明の限定としてではなく、本発明の実施形態または実例として理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】(a)ICP-OESによって決定された全ての堆積コーティング化学組成。破線は、化学量論的なTMB
2コーティング材料のB/TM比を表す。数字は、組成物を得るために使用されるSiプレートレットの量を示す。(b)堆積されたままの状態の全てのコーティングについてナノインデンテーションを使用して決定された硬度。
【
図2】合成空気および10K/分の加熱速度を使用してTG系で行われた動的酸化中の質量変化。破線は2成分コーティング、CrB
2.27(a)およびHfB
2.36(b)を表す。破線および点線は、様々なSi含有量を有するTM-Si-B
2±zコーティングを表す。実線は、より詳細に調査したTM-Si-B
2±zコーティング、Cr
0.26Si
0.16B
0.58(a)およびHf
0.21Si
0.18B
0.61(b)を表す。
【
図3】900℃(a)および1100℃(b)での等温酸化中の質量増加。
【
図4】Cr
0.26Si
0.16B
0.58(a)およびHf
0.21Si
0.18B
0.61(b)のXRD分析。上側のスペクトルは、各々の系について、900℃での等温酸化後の中央および1100℃での酸化後の下部の堆積状態を表す。加えて、堆積したままの状態の破線は、2成分コーティングのスペクトルを表す。上に六角形を有する実線の参照線は、各々の二ホウ化物のAlB
2プロトタイプ構造を表す。
【
図5】900℃(左側)および1100℃(右側)での等温酸化後のCr
0.26Si
0.16B
0.58(a)およびHf
0.21Si
0.18B
0.61(b)のSEM破断断面図。白い破線は、異なる界面を表す。
【
図6】1200℃の周囲空気中で3時間酸化されたHf
0.21Si
0.18B
0.61のTEM調査。(a)コーティング全体および上部に形成された酸化物スケールを含むBF画像。(b)(a)において矢印で示すように、全厚みにわたるEDXラインスキャン。(c)酸化物スケールのSAED画像、および(d)残りのコーティングと酸化物スケールとの間の拡大された界面。
【
図7】周囲空気中1200℃で3時間酸化されたCr
0.26Si
0.16B
0.58。底部の基材および上部の酸化物スケールを含む残りのコーティング全体の高角度環状暗視野(HAADF:high angle annular dark field)画像(a)およびBF画像(b)。(c)(a)において矢印で示すように、全コーティング厚にわたるEDXラインスキャン(a)および(b)の破線によって示される領域と、対応するBF画像(e)のSTEM画像および元素EDXマップ(d)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に関連して、Cr-BおよびHf-B系コーティングを酸化環境における熱安定性に関して調査した。
【0025】
HfB2コーティングの調査中に、層状スケールを形成するそのバルクセラミック対応物と比較して、調査したHfB2コーティングについて同様の酸化挙動が観察され、900℃で高密度スケールを示し、速度定数kpが1.39・10-9kg2m-4s-1の放物型速度則を追跡した。
【0026】
TM-Si-B2±z(TM:Crおよび/またはHf)系薄膜を、CrB2およびHfB2ターゲット(Plansee Composite Materials GmbH)を利用するPVDマグネトロンスパッタリングによって堆積させた。ターゲットのスパッタレーストラック上に単結晶Si小板を添加することによって、ケイ素を堆積に添加した。ピースの数を変えることにより、TM-Si-B2±zコーティング内でSi含有量を調整した。ターゲットは、0.56Paの作動圧力で純アルゴン雰囲気中、0.5A(CrB2については0.4A)の電流でDCモードで動作した。薄膜は、多結晶Al2O3(20×7×0.38mm3)およびサファイア(10×10×0.53mm3)基材上に、基材距離90mmに対するターゲットで堆積された。全ての堆積について、基材温度は550℃、ならびにバイアス電位は-40Vを使用した。
【0027】
化学量論的決定のために、酸消化後に液体誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)によって試料を分析した。基材からのケイ素汚染を排除するために、Al2O3ウェハ上のサンプルのみを調査した。全ての化学物質は入手可能な最高純度のものであり、抵抗率18.2MΩの超純水をBarnstead EASYPURE II水系(Thermo Fisher Scientific、米国)によって得て、単元素ICP標準および濃縮酸をMerck(ドイツ国)から購入した。サンプルを5×5mm片に分割し、ファルコンチューブ内の0.5mLのHNO3と0.5mLのHFの混合物を用いて、80℃に10分間加熱することによって三連で消化した。その後、試料をH2Oで20mLの体積に希釈し、ユウロピウムを内部として添加し、1μg/gユウロピウムの最終濃度を得た。Miramistネブライザー(Burger Research、米国)、アルミナ注入管およびPTFEスプレーチャンバーからなるHF耐性試料導入キットを使用して、ASX-520オートサンプラー(CETAC Technologies、米国)を用いて、iCAP 6500 RAD(Thermo Fisher、米国)で試料を測定した。マトリックス調整外部較正標準を使用して、バックグラウンド補正発光シグナルを定量化した。
【0028】
機械的特性は、Berkovichダイヤモンドチップを備えたUltra Micro Indentation System(UMIS)を使用したナノインデンテーションによって評定した(全ての測定をサファイア基材上で行った)。各試料について、異なる負荷荷重(3~45mN)を有する30個のアイドルを実施し、OliverおよびPharrの後にそれらの荷重変位曲線を分析した。ヤング率を計算するためのポアソン比は、参照文献:V.Moraes,H.Riedl,C.Fuger,P.Polcik,H.Bolvardi,D.Holec,P.H.Mayrhofer,Ab initio inspired design of ternary boride thin films,Sci.Rep.8(2018)9288から取得された。
【0029】
堆積コーティングの酸化挙動を研究するために、ロジウムオーブン(Netzsch STA 449 F1)を備えた熱重量分析(TGA:Thermo-Gravimetric Analysis)システムを使用した。TGA系は0.1μgの分解能を有し、有意な効果を検出するために約10μgの限界を得る。多結晶Al2O3基材を堆積の前後に秤量してコーティングの重量を決定し、続いてカスタマイズされたるつぼに入れた。動的酸化処理(RTと1400℃との間の定常温度上昇)を、スケール(10K/分の加熱速度)を保護するために必要な合成空気(50ml/分)およびヘリウム(20ml/分)の流動流の下で行った。等温酸化のために、合成空気は、等温ステップ中に炉を通ってのみ流れていた。空のるつぼを用いたベースライン測定を各々の実行について実施した。さらに、1200℃の周囲空気中での酸化処理は、標準化されたチャンバーボックス炉内で行われ、被覆基材を耐火粘土タイル上に配置した。
【0030】
X線回折(XRD)分析は、Cu-Kα放射線源(波長λ=1.5418Å)を備えたPanalytical Empyrean回折計を使用して、Bragg Brentano配置で行った。走査型電子顕微鏡(SEM、5keVで操作したFEI Quanta 250 FEGSEM)を使用して、形態および酸化物スケールの厚さを研究した。さらに、酸化サンプルのより詳細な調査のために、透過型電子顕微鏡法(TEM、FEI TECNAI F20、電界放出銃を装備し、加速電圧200kVで動作)を行った。
【0031】
ICP-OESによって得られた合成コーティングの化学組成を
図1aに示し、ケイ素含有量の関数としてのB/TM比を示す(記号の隣の数字はSiプレートレットの数を指す)。化学量論は、合成されたTMB
2+zコーティング(CrB
2.27およびHfB
2.36)の金属不足を示す。ケイ素含有量は、レーストラック上に配置されたSiプレートレットの数が増加するにつれて増加する。B/TM比は、Crについてはほぼ一定のままであったが、Hf系コーティングについては、B/TM比が最低量のSiプレートレットについて最も高いため、明確な傾向は見られない。
【0032】
図1bでは、TM-Si-B
2±zの機械的特性(硬度およびヤング率)に対するSiの影響が要約されている。2成分コーティングは、CrB
2.27に対して25.1±2.1GPa、HfB
2.36に対して48.7±2.7GPaの高い硬度値を示す。Si合金化膜は、硬度の低下を示す。約15原子%Siの場合、硬度は、Cr系およびHf系のコーティングについてそれぞれ22GPaおよび32GPaの範囲内である。以下でより詳細に調査されるコーティングの硬度およびヤング率は、Cr
0.26Si
0.16B
0.58についてはH=22±2.1GPaおよびE=410±31GPaであり、Hf
0.21Si
0.18B
0.61についてはH=32±2.2GPaおよびE=468±34GPaである。
【0033】
図2では、動的酸化中の温度の関数における質量変化(初期質量のパーセント)がプロットされている。破線は、二元TM-B
2±zコーティングに対応し、実線は、本明細書でより詳細に調査されるSi合金化コーティングを示す。さらに、一点鎖線は、他のSi含有量を有するTM-Si-B
2±zコーティングを表す。質量シグナルは、一定の温度(酸化開始温度)まで一定であり、酸化が進行するために、酸化物スケールが形成されず、続いて質量が増加することを示す。酸化開始温度は、CrB
2.27では610℃、HfB
2.36では800℃である。この開始温度を超えると、質量は、コーティングが完全に酸化されるまで増加し、その後、B
2O
3の揮発(典型的には1100℃を超える)により減少する。
【0034】
動的酸化中に測定された質量増加のこれらの傾向を更に評価および理解するために、900℃および1100℃の2つの温度で1時間の等温酸化処理を行った。900℃での等温酸化は、Hf
0.21Si
0.18B
0.61の放物型速度則に従って質量増加をもたらす(
図3a)。
図2aに示す結果によって既に示唆されているように、Cr
0.26Si
0.16B
0.58は、TG系の分解能限界を下回る質量増加を示し、したがって成長速度論が強く遅延する。コーティング材料を1100℃で酸化するために、TM-Si-B
2±zコーティングの質量の増加は非常に低く(やはりTGシステムの分解能限界の範囲内)、したがって非常に遅い酸化物成長速度を示唆している。目視検査は、接着性がよく高密度酸化物スケールを示す。TG系の分解能限界により、1・10
-11kg
2m
-4s
-1の放物型速度定数(k
p)の上限のみを決定することができた。
【0035】
温度に対する酸化物スケール形成の依存性を更に理解するために、XRDによる比較構造分析を、900℃および1100℃での等温処理のための堆積状態および酸化状態について行った(
図4)。全ての2成分TM-B
2±zコーティングは、AlB
2プロトタイプで結晶化し、破線で示されている。AlB
2構造タイプは、B/TM=2の比率で金属層間に共有結合したホウ素シート(原子の配列)を得るSG191構造(P6/mmm、ピアソン記号hP3)によって定義される。TM-Si-B
2±zコーティングは、堆積されたままの状態で上から下に、それぞれ900および1100℃で酸化された黒実線としてプロットされている。Siの添加により、主要なピークは徐々に広がる。Cr
0.26Si
0.16B
0.58では、より高い2シータ回折角へのピークシフトが見られる(
図4a)。Cr
0.26Si
0.16B
0.58の場合、900℃および1100℃での酸化は、元素Siの相分離をもたらす(
図4a中のSiピーク)。さらに、CrB
2ピークはそれらの基準位置にシフトして戻り、再結晶を示すFWHMの減少も示す。Hf
0.21Si
0.18B
0.61の場合、酸化状態での構造分析は、分解または再結晶プロセスを示唆しない。しかし、強い単斜晶HfO
2ピークは900℃で視認可能であるが、1100℃ではほとんど消失する。
【0036】
形成された酸化物スケール、Cr
0.26Si
0.16B
0.58(a)およびHf
0.21Si
0.18B
0.61(b)のSEM断面に関する更なる洞察を得るために、等温酸化されたコーティングを
図5に示す。全ての左側の顕微鏡写真は900℃で酸化されたコーティングを示し、一方、右側の断面は1100℃で酸化されている(持続時間は
図3を参照)。破線は、基材とコーティングとの間の界面を強調し、点線は、スケールとコーティングとの間、または異なる種類の酸化物スケール間の界面を示す。全てのコーティングについて、残りの未酸化領域を特定することができる。
【0037】
追加の等温酸化処理は、従来の炉内で周囲空気中、より高い温度およびより長い持続時間で行われている。
図6は、サファイア基材上で1200℃で3時間酸化されたHf
0.21Si
0.18B
0.61のTEM分析を示す。明視視野(BF)は、下から上に残っているコーティングを明確に示し、上に明るいが非常に薄い酸化物スケールが続く。堆積コーティングとしての厚さは、酸化後に2.4μmから2.3μmに100nm減少したが、酸化物スケール自体は400nmの厚さを得る。酸化物スケールは、制限視野電子回折(SAED)分析(
図6c
I)において非晶質に見え、AlB
2構造を有し、上から下に向かってカラムサイズが減少しているHfB
2(
図6c
IIを参照)を見ることができる。EDXラインスキャンは、サファイア基材に向かう非常に鋭い界面と、残りのコーティング厚全体にわたってHf、BおよびSiの等しい分布とを示す。さらに、ラインスキャンは、コーティング酸化物界面におけるホウ素富化、ならびに酸化物スケールがホウ素のいくらかの添加を伴うケイ素によって支配されていることを示唆している。しかしながら、ホウ素を定量するためのEDXの精度は非常に低いため、得られた組成を慎重に解釈する必要がある。SiおよびHfもEDXスペクトル内で重なり合い、Siのコストに対するHfの追加の過大評価を引き起こす。追加のEELS分析は、酸化物スケール中のホウ素含有量がEDXによって評価されるよりも有意に低いことを示唆している。EELSを用いて決定されたHf
0.21Si
0.18B
0.61上の酸化物スケールの化学組成は、約Si
0.46B
0.03O
0.51である。
【0038】
対照的に、1200℃で3時間酸化されたCr
0.26Si
0.16B
0.58は、TEM分析中にかなり異なる外観を有する(
図7)。第一に、高角度環状暗視野(HAADF、
図7aを参照)ならびに明視野画像(
図7bを参照)は、残りのコーティングが完全に再結晶化され、間にいくらかの空隙を有する大きな球状粒子を示すことを示す。さらに、HAADF像は、原子番号が大きい(明るい)領域と原子番号の小さい(暗い)領域とを表す明暗の粒子が現れる。EDXラインスキャン(
図7c)と共に、Cr富化粒子およびSi富化粒子を識別することができる。さらに、更なるXRD分析は、
図4に提示された結果と同様の元素Siピークに隣接するCrB
2を明確に証明している。したがって、明るい領域はCrB
2を表し、暗い領域はSi富化粒子である。さらに、CrおよびOはEDXスペクトル内で重なり合い、CrB
2におけるOの過大評価を引き起こす。それにもかかわらず、分解された微細構造の上に、非常に薄く高密度酸化物スケールも見出すことができる。EDXマップ(それぞれCr、O、B、およびSiのそれぞれの元素マップを有する
図7dおよび
図7eの対応するSTEMおよびBF画像)は、酸化物スケールが、外側にCr
2O
3結晶を有し、コーティングと酸化物スケールとの界面にシリカを有する2つの層からなることをうまく示している(Siマップの明るいオレンジ色の領域を参照されたい)。再結晶された残りのコーティングのために、表面はかなり粗く、酸化物スケールの厚さは180nm~750nmの間で変化し、400±137nmの平均厚さを示す。残りのコーティング厚は、約2.6μmの元の厚さに近かったが、粗さのためにはるかに高い標準偏差を示した。
【0039】
結果は、耐酸化性を高めるためにTMホウ化物ベースのコーティングに合金化(ドープ)した場合のケイ素のプラスの効果を明確に証明しているが、この効果は、コーティング(本発明との関連では、保護層)が上記で説明したように本発明による高密度Si富化スケールの形成を可能にするために一定量のSiを含有する場合にのみ達成される。
【国際調査報告】