(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】チロシンキナーゼ2(TYK2)阻害剤による脱毛症の治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20240905BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240905BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20240905BHJP
A61K 31/501 20060101ALI20240905BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P37/06
A61P17/14
A61K31/501
A61K31/506
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518606
(86)(22)【出願日】2022-09-22
(85)【翻訳文提出日】2024-04-22
(86)【国際出願番号】 US2022044346
(87)【国際公開番号】W WO2023049241
(87)【国際公開日】2023-03-30
(32)【優先日】2021-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391015708
【氏名又は名称】ブリストル-マイヤーズ スクイブ カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BRISTOL-MYERS SQUIBB COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162695
【氏名又は名称】釜平 双美
(74)【代理人】
【識別番号】100156155
【氏名又は名称】水原 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【氏名又は名称】呉 英燦
(72)【発明者】
【氏名】キャトレット,イアン マッコーリー
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジン
(72)【発明者】
【氏名】ベルトリーニ,マルタ
(72)【発明者】
【氏名】エ-デルカンプ,ジャナン
(72)【発明者】
【氏名】ルイユ,トマ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084MA52
4C084MA63
4C084NA14
4C084ZA922
4C084ZB082
4C084ZC202
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC42
4C086BC60
4C086GA07
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA92
4C086ZB08
4C086ZC20
(57)【要約】
哺乳動物対象において円形脱毛症などの免疫介在性脱毛症を予防または治療する方法は、哺乳動物対象にTYK2阻害剤を投与することを包含する。前記方法における有用なTYK2阻害剤には、本明細書に記載した式(I)の構造を有する化合物および本明細書に記載した式(II)の構造を有する化合物が挙げられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物対象において脱毛症を治療する方法であって、前記哺乳動物対象にTYK2阻害剤を投与することを特徴とする、方法。
【請求項2】
脱毛症が円形脱毛症である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脱毛症が全頭型脱毛症である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
脱毛症が汎発型脱毛症である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
TYK2阻害剤が、デュークラバシチニブである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
TYK2阻害剤が、式(I):
【化1】
の構造を有する化合物の医薬的に許容される塩である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
TYK2阻害剤が、式(II):
【化2】
の構造を有する化合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
TYK2阻害剤が、式(II):
【化3】
の構造を有する化合物の医薬的に許容される塩である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
TYK2阻害剤が、経口投与される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
TYK2阻害剤が、局所的に投与される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
哺乳動物対象における脱毛を予防する方法であって、哺乳動物対象にTYK2阻害剤を投与することを特徴とし、前記哺乳動物対象が、過去に円形脱毛症に罹患したことがある、方法。
【請求項12】
哺乳動物対象における脱毛を予防する方法であって、哺乳動物対象にTYK2阻害剤を投与することを特徴とし、前記哺乳動物対象が、過去に全頭型脱毛症に罹患したことがある、方法。
【請求項13】
哺乳動物対象における脱毛を予防する方法であって、哺乳動物対象にTYK2阻害剤を投与することを特徴とし、前記哺乳動物対象が、過去に汎発型脱毛症に罹患したことがある、方法。
【請求項14】
TYK2阻害剤が、式(I):
【化4】
の構造を有する化合物またはその医薬的に許容される塩である、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
TYK2阻害剤が、式(II):
【化5】
の構造を有する化合物またはその医薬的に許容される塩である、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
TYK2阻害剤が、経口投与される、請求項11~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
TYK2阻害剤が、局所投与される、請求項11~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
哺乳動物対象へのTYK2阻害剤の投与が、少なくとも1週間に2回、TYK2阻害剤を投与することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
TYK2阻害剤が、1日1回哺乳動物対象に投与される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
哺乳動物対象における毛の再生を促進することをさらに特徴とする、請求項18~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
円形脱毛症に罹患しているヒト対象において毛を再生させる方法であって、ヒト対象にTYK2阻害剤を投与することを特徴とする、方法。
【請求項22】
TYK2阻害剤が、式(I):
【化6】
の構造を有する化合物またはその医薬的に許容される塩である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
TYK2阻害剤が、式(II):
【化7】
の構造を有する化合物またはその医薬的に許容される塩である、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、チロシンキナーゼ2(TYK2)阻害剤を用いて脱毛症を予防または治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円形脱毛症(AA)は、非瘢痕性脱毛をもたらす毛包の免疫介在性疾患である。円形脱毛症の患者は、慢性疾患または再発性疾患を経験することが多く、深刻な精神的影響を伴う。円形脱毛症の病態の理解が不完全であることもあり、治療に対する臨床的ニーズがあるにもかかわらず、円形脱毛症患者の治療の選択肢は限られている。本発明は、円形脱毛症を含む脱毛症の治療および管理のための新たなアプローチを提供することにより、この必要性を解決するものである。
【0003】
(発明の要約)
本明細書には、対象における脱毛障害を治療する方法が記載され、該方法は、対象にTYK2阻害剤を投与することを特徴とする。いくつかの実施形態において、TYK2阻害剤は、式(I):
【化1】
の構造を有する化合物である。
【0004】
この化合物は、デュークラバシチニブとしても知られている。特定の実施形態において、TYK2阻害剤は、式(II):
【化2】
の構造を有する化合物である。
【0005】
特定の実施形態において、TYK2阻害剤は、式(I)の構造を有する化合物の医薬的に許容される塩であるか、または式(II)の構造を有する化合物の医薬的に許容される塩である。
【0006】
特定の実施形態において、脱毛症は円形脱毛症(AA)である。例えば、いくつかの実施形態において、本方法は、円形脱毛症に罹患している対象にTYK2阻害剤を投与することを特徴とする。円形脱毛症には、斑状型円形脱毛症、全頭型脱毛症(alopecia totalis)および汎発型脱毛症(alopecia universalis)などの様々な表現型のサブタイプが含まれる。TYK2阻害剤は、経口投与または局所投与(例えば、患部の皮膚への局所投与または局所注射)で投与できるか、または経口投与および局所投与の両方で投与できる。
【0007】
いくつかの実施形態において、対象は、全頭型脱毛症または汎発型脱毛症に罹患している。例えば、本発明の特定の実施形態は、対象において全頭型脱毛症を治療する方法に関し、この方法は、対象にTYK2阻害剤を投与することを特徴とする。
【0008】
本明細書には、過去に脱毛症に罹患した対象(例えば、円形脱毛症)における脱毛を予防する方法も記載されており、この方法は、対象にTYK2阻害剤を投与することを特徴とする。いくつかの実施形態において、TYK2阻害剤は、式(I)の構造を有する化合物である。特定の実施形態において、TYK2阻害剤は、式(II)の構造を有する化合物である。TYK2阻害剤は、経口的または局所的に(例えば、過去に罹患した皮膚領域(1つまたは複数)への局所投与または局所注射により)投与されるか、あるいは経口的および局所的の両方で投与され得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、ビヒクル、IL-12およびIL-18、またはIFNγで処理した毛包の外毛根鞘近位におけるMHCクラスI(MHC-I)の相対発現を示すグラフである。
【
図2】
図2は、ビヒクル、IL-12およびIL-18、またはIFNγで処理した毛包の真皮カップにおけるMHC-Iの相対発現を示すグラフである。
【
図3】
図3は、ビヒクル、IL-12およびIL-18、またはIFNγで処理した毛包の外毛根鞘近位におけるMHCクラスII陽性(MHC-II+)細胞の相対数を示すグラフである。
【
図4】
図4は、ビヒクル、IL-12およびIL-18、またはIFNγで処理した毛包の毛球結合組織鞘におけるMHC-II+細胞の相対数を示すグラフである。
【
図5】
図5は、ビヒクル、IL-12およびIL-18、またはIFNγで処理した毛包の外毛根鞘近位におけるMICA/Bの相対発現を示すグラフである。
【
図6】
図6は、ビヒクル、IL-12およびIL-18、またはIFNγで処理した毛包の真皮カップにおけるMICA/Bの相対発現を示すグラフである。
【
図7】
図7は、MHC-Iに対する毛包の免疫染色の画像を示す。左の画像は、ビヒクルで処理した毛包を示しており;中央の画像は、IL-12およびIL-18で処理した毛包を示しており;右の画像は、IFNγで処理した毛包を示す。
【
図8】
図8は、MHC-IIに対する毛包の免疫染色の画像を示す。左の画像は、ビヒクルで処理した毛包を示し;中央の画像は、IL-12およびIL-18で処理した毛包を示し;右の画像は、IFNγで処理した毛包を示す。
【
図9】
図9は、MICA/Bに対する毛包の免疫染色の画像を示す。左の画像は、ビヒクルで処理した毛包を示し;中央の画像は、IL-12およびIL-18で処理した毛包を示し;右の画像は、IFNγで処理した毛包を示す。
【
図10】
図10は、ビヒクル、IL-12およびIL-18、またはIFNγで処理した毛包の間葉および上皮で測定した、毛包あたりのCD3+T細胞の相対数を示すグラフである。
【
図11】
図11は、ビヒクル、IL-12およびIL-18、またはIFNγで処理した毛包の間葉および上皮で測定した、毛包あたりのCD56+NK細胞の相対数を示すグラフである。
【
図12】
図12は、CD3およびCD56についての毛包の免疫染色の画像を示す。上段の画像は、ビヒクルで処理した毛包を示し;中央の画像は、IL-12およびIL-18で処理した毛包を示し;下段の画像は、IFNγで処理した毛包を示す。上段および中央の画像の明るい部分は、CD3またはCD56の染色領域である。下段の画像の明るい部分は、CD3染色の部分である。染色領域の一部は、矢印で示されている。
【
図13】
図13は、IL-12およびIL-18で処理した毛包における遺伝子発現を、ビヒクルで処理した毛包における遺伝子発現と比較した、発現変動遺伝子分析の結果を示す。
【
図14】
図14は、遺伝子を特定の経路または機能によりグループ化した場合に、ビヒクルで処理した毛包と比較して、IL-12およびIL-18で処理した毛包においてアップレギュレートされた遺伝子数を示すグラフである。例えば、IFNγ誘導性遺伝子については、前記遺伝子78個のうち35個が、ビヒクルで処理した毛包と比較して、IL-12およびIL-18で処理した毛包においてアップレギュレートされた;抗原提示機構に関連する遺伝子については、前記遺伝子123個のうち27個が、ビヒクルで処理した毛包と比較して、IL-12およびIL-18で処理した毛包においてアップレギュレートされた。
【
図15】
図15は、IFNγで処理した毛包における遺伝子発現を、ビヒクルで処理した毛包における遺伝子発現と比較した発現変動遺伝子分析の結果を示す。
【
図16】
図16は、IL-12およびIL-18で処理した毛包における遺伝子発現を、IFNγで処理した毛包における遺伝子発現と比較した発現変動遺伝子分析の結果を示す。
【
図17】
図17は、ビヒクル、式(II)の化合物(図中では「BMS」と示す)、またはトファシチニブで5~6日間処理した毛包の外毛根鞘近位におけるMHC-Iの相対発現を示すグラフである;培養2日目に、ビヒクルまたはサイトカインIL-12+IL-18のいずれかを添加した。
【
図18】
図18は、ビヒクル、式(II)の化合物またはトファシチニブで5~6日間処理した毛包の真皮カップにおけるMHC-Iの相対発現を示すグラフであり;培養2日目に、ビヒクルまたはサイトカインIL-12+IL-18のいずれかを添加した。
【
図19】
図19は、ビヒクル、式(II)の化合物、またはトファシチニブで5~6日間処理した毛包の外毛根鞘近位におけるMHC-II+細胞の相対数を示すグラフであり;培養2日目に、ビヒクルまたはサイトカインIL-12+IL-18のいずれかを添加した。
【
図20】
図20は、ビヒクル、式(II)の化合物、またはトファシチニブで5~6日間処理した毛包の毛球結合組織鞘におけるMHC-II+細胞の相対数を示すグラフであり;培養2日目に、ビヒクルまたはサイトカインIL-12+IL-18のいずれかを添加した。
【
図21】
図21は、MHC-Iについての毛包の免疫染色の画像を示す。左の画像は、ビヒクルで5~6日間処理した毛包を示し;中央の画像は、ビヒクルで5~6日間処理し、培養2日目にIL-12およびIL-18を添加して処理した毛包を示し;右の画像は、式(II)の化合物で5~6日間処理し、培養2日目にIL-12およびIL-18を添加して処理した毛包を示す。
【
図22】
図22は、MHC-IIについての毛包の免疫染色の画像である。左の画像は、ビヒクルで5~6日間処理した毛包を示し;中央の画像は、ビヒクルで5~6日間処理し、培養2日目にIL-12およびIL-18を添加して処理した毛包を示し;右の画像は、式(II)の化合物で5~6日間処理し、培養2日目にIL-12およびIL-18を添加して処理した毛包を示す。
【
図23】
図23は、以下の通りに処理した毛包の間葉において測定した、毛包あたりのCD3+T細胞の相対数を示すグラフである:ビヒクルで5~6日間処理した毛包;ビヒクルで5~6日間処理し、培養2日目にIL-12およびIL-18を添加して処理した毛包;式(II)の化合物で5~6日間処理し、培養2日目にIL-12およびIL-18を添加して処理した毛包;またはトファシチニブで5~6日間処理し、培養2日目にIL-12およびIL-18を添加して処理した毛包。
【
図24】
図24は、以下の通りに処理した毛包の上皮において測定した、毛包あたりのCD3+T細胞の相対数を示すグラフである:ビヒクルで5~6日間処理した毛包;ビヒクルで5~6日間処理し、培養2日目にIL-12およびIL-18を添加して処理した毛包;式(II)の化合物で5~6日間処理し、培養2日目にIL-12およびIL-18を添加して処理した毛包;またはトファシチニブで5~6日間処理し、培養2日目にIL-12およびIL-18を添加して処理した毛包。
【
図25】
図25は、以下の通りに処理した毛包の間葉で測定した、毛包あたりのCD56+NK細胞の相対数を示すグラフである:ビヒクルで5~6日間処理した毛包;ビヒクルで5~6日間処理し、培養2日目にIL-12およびIL-18を添加して処理した毛包;式(II)の化合物で5~6日間処理し、培養2日目にIL-12およびIL-18を添加して処理した毛包;またはトファシチニブで5~6日間処理し、培養2日目にIL-12およびIL-18を添加して処理した毛包。
【
図26】
図26は、以下の通りに処理した毛包の上皮で測定した、毛包あたりのCD56+NK細胞の相対数を示すグラフである:ビヒクルで5~6日間処理した毛包;ビヒクルで5~6日間処理し、培養2日目にIL-12およびIL-18を添加して処理した毛包;式(II)の化合物で5~6日間処理し、培養2日目にIL-12およびIL-18を添加して処理した毛包;またはトファシチニブで5~6日間処理し、培養2日目にIL-12およびIL-18を添加して処理した毛包。
【
図27】
図27は、CD3およびCD56についての毛包の免疫染色の画像を示す。左の画像は、ビヒクルで5~6日間処理した毛包を示し;中央の画像は、ビヒクルで5~6日間処理し、培養2日目にIL-12およびIL-18を添加して処理した毛包を示し;右の画像は、式(II)の化合物で5~6日間処理し、培養2日目にIL-12およびIL-18を添加して処理した毛包を示す。明るい部分は、CD3またはCD56の染色領域である。染色領域の一部は、矢印で示されている。
【
図28】
図28は、以下の通りに処理した毛包の外毛根鞘近位におけるMHC-Iの相対発現を示すグラフである:ビヒクルで5~6日間処理した毛包;IL-12およびIL-18で5~6日間処理した毛包;IL-12およびIL-18で5~6日間処理し、培養2日目に式(II)の化合物を添加して処理した毛包;またはIL-12およびIL-18で5~6日間処理し、培養2日目にトファシチニブを添加して処理した毛包。
【
図29】
図29は、以下の通りに処理した毛包の真皮カップにおけるMHC-Iの相対発現を示すグラフである:ビヒクルで5~6日間処理した毛包;IL-12およびIL-18で5~6日間処理した毛包;IL-12およびIL-18で5~6日間処理し、培養2日目に式(II)の化合物を添加して処理した毛包;またはIL-12およびIL-18で5~6日間処理し、培養2日目にトファシチニブを添加して処理した毛包。
【
図30】
図30は、以下の通りに処理した毛包の外毛根鞘近位におけるMHC-II+細胞の相対数を示すグラフである:ビヒクルで5~6日間処理した毛包;IL-12およびIL-18で5~6日間処理した毛包;IL-12およびIL-18で5~6日間処理し、培養2日目に式(II)の化合物を添加して処理した毛包;またはIL-12およびIL-18で5~6日間処理し、培養2日目にトファシチニブを添加して処理した毛包。
【
図31】
図31は、以下の通りに処理した毛包の毛球結合組織鞘におけるMHC-II+細胞の相対数を示すグラフである:ビヒクルで5~6日間処理した毛包;IL-12およびIL-18で5~6日間処理した毛包;IL-12およびIL-18で5~6日間処理し、培養2日目に式(II)の化合物を添加して処理した毛包;またはIL-12およびIL-18で5~6日間処理し、培養2日目にトファシチニブを添加して処理した毛包。
【
図32】
図32は、MHC-Iについての毛包の免疫染色の画像を示す。左の画像は、ビヒクルで5~6日間処理した毛包を示し;中央の画像は、IL-12およびIL-18で5~6日間処理した毛包を示し;右の画像は、IL-12およびIL-18で5~6日間処理し、培養2日目に式(II)の化合物を添加して処理した毛包を示す。
【
図33】
図33は、MHC-IIについての毛包の免疫染色の画像を示す。左の画像は、ビヒクルで5~6日間処理した毛包を示し;中央の画像は、IL-12およびIL-18で5~6日間処理した毛包を示し;右の画像は、IL-12およびIL-18で5~6日間処理し、培養2日目に式(II)の化合物を添加して処理した毛包を示す。
【
図34】
図34は、以下の通りに処理した毛包の間葉で測定した、毛包あたりのCD3+T細胞の相対数を示すグラフである:ビヒクルで5~6日間処理した毛包;IL-12およびIL-18で5~6日間処理した毛包;IL-12およびIL-18で5~6日間処理し、培養2日目に式(II)の化合物を添加して処理した毛包;またはIL-12およびIL-18で5~6日間処理し、培養2日目にトファシチニブを添加して処理した毛包。
【
図35】
図35は、以下の通りに処理した毛包の上皮で測定した、毛包あたりのCD3+T細胞の相対数を示すグラフである:ビヒクルで5~6日間処理した毛包;IL-12およびIL-18で5~6日間処理した毛包;IL-12およびIL-18で5~6日間処理し、培養2日目に式(II)の化合物を添加して処理した毛包;またはIL-12およびIL-18で5~6日間処理し、培養2日目にトファシチニブを添加して処理した毛包。
【
図36】
図36は、以下の通りに処理した毛包の間葉で測定した、毛包あたりのCD56+NK細胞の相対数を示すグラフである:ビヒクルで5~6日間処理した毛包;IL-12およびIL-18で5~6日間処理した毛包;IL-12およびIL-18で5~6日間処理し、培養2日目に式(II)の化合物を添加して処理した毛包;またはIL-12およびIL-18で5~6日間処理し、培養2日目にトファシチニブを添加して処理した毛包。
【
図37】
図37は、以下の通りに処理した毛包の上皮で測定した、毛包あたりのCD56+NK細胞の相対数を示すグラフである:ビヒクルで5~6日間処理した毛包;IL-12およびIL-18で5~6日間処理した毛包;IL-12およびIL-18で5~6日間処理し、培養2日目に式(II)の化合物を添加して処理した毛包;またはIL-12およびIL-18で5~6日間処理し、培養2日目にトファシチニブを添加して処理した毛包。
【
図38】
図38は、CD3およびCD56についての毛包の免疫染色の画像である。左の画像は、ビヒクルで5~6日間処理した毛包を示し;中央の画像は、IL-12およびIL-18で5~6日間処理した毛包を示し;右の画像は、IL-12およびIL-18で5~6日間処理し、培養2日目に式(II)の化合物を添加して処理した毛包を示す。明るい部分は、CD3またはCD56の染色領域である。染色領域の一部は、矢印で示されている。
【
図39】
図39は、以下の通りに処理した毛包から得られるIFNγの相対的産生を示すグラフである:ビヒクルで処理した毛包;ビヒクルで前処理した後、L-12およびIL-18を培養培地に添加して処理した毛包;式(II)の化合物で前処理した後、IL-12およびIL-18を培養培地に添加して処理した毛包;またはトファシチニブで前処理した後、IL-12およびIL-18を培養培地に添加して処理した毛包。
【
図40】
図40は、以下の通りに処理した毛包から得られるIFNγの相対的産生を示すグラフである:ビヒクルで処理した毛包;IL-12およびIL-18で前処理した毛包;IL-12およびIL-18で前処理した後、式(II)の化合物を培養培地に添加して処理した毛包;IL-12およびIL-18で前処理した後、トファシチニブを培養培地に添加して処理した毛包。
【
図41】
図41は、健康なドナー、急性AA患者および慢性AA患者から得られた毛包におけるIL-12RB2陽性細胞の相対数を示すグラフである。
【
図42】
図42は、IL-12RB2についての毛包の免疫染色の画像を示す。
【発明の詳細な説明】
【0010】
本開示は、局所IL-12が、AAの病因において重要であるという発見と一部関連している。実施例に示されるように、IL-12は、IL-18によってサポートされ、IFNγ分泌および毛包免疫特権の破綻を誘導するのに十分である。さらに、IL-12受容体陽性免疫細胞は、AA患者の罹患した毛球周辺に存在する。これらの知見に基づき、本開示はさらに、チロシンキナーゼ2(TYK2)を阻害することにより、IL-12誘導性の毛包免疫特権の破綻を防ぐことができるという発見にも関する。TYK2の阻害は、IL-12およびIL-18によって免疫特権の破壊が誘導された後に、毛包の免疫特権を回復させることもできる。TYK2の阻害によって毛包の免疫特権を回復させることができる能力は、AA患者におけるTYK2阻害が、実施可能な治療戦略であることを示している。
【0011】
TYK2は、非受容体型チロシンキナーゼであるヤヌスキナーゼ(JAK)ファミリーのメンバーであり、マウス(Ishizaki, M. et al., "Involvement of tyrosine kinase-2 in both the IL-12/Th1 and IL-23/Th17 axes in vivo," J. Immunol., 187:181-189 (2011);Prchal-Murphy, M. et al., "TYK2 kinase activity is required for functional type I interferon responses in vivo," PLoS One, 7:e39141 (2012))およびヒト(Minegishi, Y. et al., "Human tyrosine kinase 2 deficiency reveals its requisite roles in multiple cytokine signals involved in innate and acquired immunity," Immunity, 25:745-755 (2006))の両者において、IL-12、IL-23およびI型インターフェロンに対する受容体の下流におけるシグナル伝達カスケードの制御に重要であることが示された。TYK2は、転写因子STATファミリーメンバーの受容体誘導性のリン酸化を仲介し、このシグナルは、STATタンパク質の二量体化およびSTAT依存的な炎症誘導性遺伝子の転写をもたらす必須シグナルである。TYK2欠損マウスは、大腸炎、乾癬、多発性硬化症の実験モデルに対して抵抗性であり、自己免疫および関連疾患におけるTYK2を介したシグナル伝達の重要性を示している(Ishizaki, M. et al., "Involvement of tyrosine kinase-2 in both the IL-12/Th1 and IL-23/Th17 axes in vivo," J. Immunol., 187:181-189(2011);Oyamada, A. et al., "Tyrosine kinase 2 plays critical roles in the pathogenic CD4 T cell responses for the development of experimental autoimmune encephalomyelitis," J. Immunol., 183:7539-7546 (2009))。
【0012】
ヒトでは、TYK2の不活性変異体を発現する個体は、多発性硬化症およびおそらく他の自己免疫疾患から保護されている(Couturier, N. et al., "Tyrosine kinase 2 variant influences T lymphocyte polarization and multiple sclerosis susceptibility," Brain, 134:693-703 (2011))。ゲノムワイド関連研究では、TYK2の他の変異体がクローン病、乾癬、全身性エリテマトーデス、関節リウマチなどの自己免疫疾患と関連していることが示されており、自己免疫におけるTYK2の重要性がさらに実証されている(Ellinghaus, D. et al., "Combined Analysis of Genome-wide Association Studies for Crohn Disease and Psoriasis Identifies Seven Shared Susceptibility Loci," Am. J. Hum. Genet., 90:636-647 (2012);Graham, D. et al., "Association of polymorphisms across the tyrosine kinase gene, TYK2 in UK SLE families," Rheumatology (Oxford), 46:927-930 (2007);Eyre, S. et al., "High-density genetic mapping identifies new susceptibility loci for rheumatoid arthritis," Nat. Genet., 44:1336-1340 (2012))。
【0013】
本開示は、一般に、円形脱毛症などの免疫介在性脱毛症を治療するためにTYK2に対する阻害剤を使用することに関する。円形脱毛症は、炎症性T細胞およびNK細胞によって浸潤された病変性毛包を特徴とする疾患である。健康な毛包上皮は、免疫特権の領域であるので、毛包は自己炎症性免疫応答から保護されている;このような免疫特権は、例えば、MHCクラスIおよびMHCクラスIIの発現についてのダウンレギュレーションまたは不存在によって達成される相対的な免疫抑制環境に依るものである。健康な毛包とは対照的に、AAの毛包は、MHC-IおよびMHC-IIの発現が高い。このようなAAにおける毛包の免疫特権の破綻が、脱毛の原因であると考えられている;Bertolini et al., "Hair follicle immune privilege and its collapse in alopecia areata," Experimental Dermatology, 29:1-23 (2020)。IFNγは、AAを発症させる重要なサイトカインとみなされているが、発症の初期段階および発症イベントは、依然として完全に解明されていない。
【0014】
本明細書で提供される実施例は、TYK2阻害が、免疫特権の破綻を防ぎ、さらに毛包の免疫特権を回復できることも示している。本明細書で示されるように、局所IL-12シグナル伝達は、常在IL-12RB2+免疫細胞からのIFNγ産生を促進させて、毛包の免疫特権を破綻させることにより、AA発症の初期段階および維持の間で重要である可能性がある。TYK2依存性、IL-12介在性のシグナル伝達の阻害は、毛包免疫特権の破綻を防ぎ、選択的TYK2阻害剤による治療は、本明細書で実証されるように、免疫特権を(破綻後に)回復させることができる。これらの知見は、薬理学的AA療法のためにTYK2を標的とすることを支持している。
【0015】
本明細書に記載の方法に有用なTYK2阻害剤としては、米国特許第RE47,929E号に開示されている化合物が挙げられ、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。例えば、特定の実施形態において、TYK2阻害剤は、デュークラバシチニブである。デュークラバシチニブは、6-(シクロプロパンカルボキサミド)-4-((2-メトキシ-3-(1-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-3-イル)フェニル)アミノ)-N-(メチル-d
3)ピリダジン-3-カルボキサミドとしても知られており、式(I):
【化3】
の構造を有する。
【0016】
デュークラバシチニブは、酵素の触媒ドメインに結合するというよりも、むしろTYK2の調節ドメインに結合することにより、TYK2をアロステリックに阻害する。
【0017】
本明細書に記載の方法に使用できる他のTYK2阻害剤としては、米国特許第9,663,467号に開示されている化合物が挙げられ、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。例えば、特定の実施形態において、本明細書に記載の方法で使用されるTYK2阻害剤は、式(II):
【化4】
の構造を有する化合物である。
【0018】
TYK2阻害剤は、医薬的に許容される塩として、例えば、式(I)の構造を有する化合物の医薬的に許容される塩、または式(II)の構造を有する化合物の医薬的に許容される塩として投与または製剤化され得る。例えば、TYK2阻害剤は、式(I)の構造を有する化合物の塩酸塩、メタンスルホン酸塩または硫酸塩として製剤化されてもよい。例えば、国際出願番号PCT/US2019/034534およびPCT/US2020/036727(各々WO2019/232138およびWO2020/251911として公開)を参照されたい(各々全ての内容は、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0019】
本明細書に記載されるように、脱毛障害を治療するためにTYK2阻害剤を投与することは、TYK2阻害剤を全身的に(例えば、局所的に)、または皮膚の患部(複数可)に局所的に投与すること(例えば、局所投与または局所注射)を特徴とし得る。いくつかの実施形態において、TYK2阻害剤は、経口的、局所的、または経口および局所的の両方で投与される。経口剤形としては、例えば、国際出願第PCT/US2020/051342号(WO 2021/055652として公開された)に記載されている剤形が挙げられ、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。局所投与形態としては、例えば、ゲル、クリーム、軟膏、フォームおよび溶液が挙げられる。TYK2阻害剤の投与には、1日1回、1日2回または1日3回の投与が含まれ得る。さらに、TYK2阻害剤は、数週間(例えば、少なくとも2週間)または数ヶ月(例えば、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月またはそれ以上)にわたって投与されてもよい。
【0020】
本明細書に記載される実施形態のいずれかについて、対象に投与(例えば、経口)され得るTYK2阻害剤の用量は、1日当たり約1mg~約100mgまたは1日当たり約1mg~約40mgの範囲であり得る。例えば、いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法において、1日あたり3mg、6mg、12mg、15mgまたは36mgの用量のTYK2阻害剤が対象に投与される。このような1日あたりの用量は、1日1回投与してもよいし、2回以上に分割して投与してもよい(例えば、1日総用量12mgの場合、12mgを1日1回投与してもよいし、6mgを2回投与してもよいし、4mgを3回投与してもよい)。特定の実施形態において、TYK2阻害剤はデュークラバシチニブである。他の実施形態において、TYK2阻害剤は、式(II)の構造を有する化合物である。
【0021】
本発明のある実施形態は、脱毛の再発を予防する方法に関する。例えば、いくつかの実施形態において、方法は、過去に脱毛症に罹患したか、または脱毛症(例えば、円形脱毛症)と診断された対象にTYK2阻害剤を投与することを特徴とする。特定のそのような実施形態において、対象は、現在、脱毛を経験していなくてもよいが、過去に脱毛に罹患したことがある対象である。さらなる実施形態において、対象は、例えば、頭皮の特定の領域にTYK2阻害剤を局所投与される。
【0022】
さらに、本発明の実施形態は、対象の脱毛を治療する方法に関する。例えば、いくつかの実施形態において、方法は、脱毛に罹患している対象にTYK2阻害剤を投与することを特徴とする。このような対象は、円形脱毛症に関連した脱毛を経験している患者であってもよい。このような対象にTYK2阻害剤を投与することにより、患部の発毛が促進され得る。
【0023】
円形脱毛症として知られる自己免疫疾患にはいくつかの病型がある。円形脱毛症に罹患すると、通常、身体の毛が生えている場所(例えば、頭皮)に斑状の脱毛が生じる。脱毛が、頭皮全体(これは全頭型脱毛症として知られている)または全身(これは汎発型脱毛症として知られている)に進行する場合もある。全てのタイプの円形脱毛症が、本明細書に記載される実施形態の範囲内に入る。
【0024】
本明細書に記載される実施形態のいずれかにおいて、対象は、1つ以上の別の薬剤と組み合わせてTYK2阻害剤を投与されてもよい。
【0025】
本発明の文脈において、対象、特にヒト対象は、患者とも呼ばれ得る。
【実施例】
【0026】
本発明を、以下の実施例によってさらに説明する。実施例は、本発明およびその実施態様を説明するためにのみ役立つ。実施例は、本発明の精神および範囲を限定することを意図するものではない。
【0027】
円形脱毛症として知られる自己免疫疾患にはいくつかの病型がある。円形脱毛症に罹患すると、通常毛が生えている場所(例えば頭皮)に斑状の脱毛が生じる。脱毛が頭皮全体(これは全頭型脱毛症として知られている)または全身(これは汎発型脱毛症として知られている)に進行する場合もある。全てのタイプの円形脱毛症が、本明細書に記載される実施形態の範囲内に入る。
【0028】
以下の実施例および添付の図面において、以下の略号が適用される:AA=円形脱毛症;HF=毛包;IFNγ=インターフェロンγ;IL=インターロイキン;IR=免疫応答性;MHC=主要組織適合性複合体;NK=ナチュラルキラー;ORS=外毛根鞘;DC=真皮カップ;CTS=結合組織鞘;Tofa=;FC=倍率変化(Fold Change)。式(II)の構造を有する化合物は、添付の図面においては「BMS」として示される。
【0029】
AA病態におけるIL-12の役割および治療標的としての可能性を検討するため、ヒト頭皮から顕微解剖した毛包を、IL-12(3ng/mL)およびIL-18(20ng/mL)の存在下ならびに選択的アロステリックTYK2阻害剤である式(II)の化合物(300nM)の存在下または非存在下で培養した。IFNγ(75 UI/mL)を、免疫特権(IP)の破綻を誘導する陽性対照として用い、トファシチニブを、IFNγシグナル伝達を遮断する陽性対照として用いた。毛包の免疫特権(HF-IP)は、MHCクラスI、MHCクラスII、MHCクラス鎖関連タンパク質AおよびMHCクラス鎖関連タンパク質B(MICA/B)の定量的免疫組織形態測定により評価した。常在免疫細胞集団は、CD3陽性細胞およびCD56陽性細胞の定量化によって評価した。処理した毛包の遺伝子発現は、全トランスクリプトーム解析を用いて評価した。IFNγ産生は、酵素結合免疫吸着測定法(R&D systems)によって定量した。IL-12RB2発現細胞は、免疫組織形態測定を用いて、健康なドナー、急性AA患者および慢性AA患者で評価した。
【0030】
実施例1:AA発症におけるIL-12の役割ならびにAAにおける治療標的としてのIL-12の可能性の評価
毛包免疫特権破綻のex vivoモデルを確立した。ヒトの頭皮から顕微解剖した毛包を、ビヒクル;IL-12(3ng/mL)およびIL-18(20ng/mL);またはIFNγ(75UI/mL)の存在下で、5~6日間 ex vivoで培養した。各グループには、4~9人の独立した健康なドナーから得られた19~48個の毛包が含まれる。毛包の免疫特権の破綻を、MHCクラスI、MHCクラスIIおよびMICA/Bの定量的免疫組織形態測定によって評価した(
図1~9参照)。
図1~6のグラフは、平均±SEM(平均の標準誤差)およびダンの多重比較検定の結果を示す(* p<0.05;** p<0.01;*** p<0.001;**** p<0.0001)。
図7、
図8および
図9は、各々MHC-I、MHC-IIおよびMICA/Bの免疫染色を示す(スケールバー=100μm)。
【0031】
IL-12およびIL-18で処理すると、抗原提示分子が有意に増加した。IL-12およびIL-18を投与すると、ビヒクルと比較して、毛包外毛根鞘におけるMHCクラスIの発現が増加し、同様に真皮カップにおいても増加した。IL-12およびIL-18の投与は、ビヒクルと比較して、毛球結合組織鞘におけるMHCクラスII発現細胞数を増加させ、また外毛根鞘におけるMHCクラスIIの異所性発現を増加させた。このようなMHCクラスIIの異所性発現は、HF-IP破綻の主要な特徴である。
【0032】
T細胞およびNK細胞の増殖に対するIL-12およびIL-18処理の効果も試験した。顕微解剖した毛包を再度、ビヒクル;IL-12(3ng/mL)およびIL-18(20ng/mL);またはIFNγ(75UI/mL)を用いて5~6日間処理した。各グループには、2~6人の独立した健康なドナーから得られた9~29個の毛包が含まれる。CD3陽性細胞およびCD56陽性細胞の定量化により、常在免疫細胞集団を評価した(
図10~12を参照されたい)。
図10および11のグラフは、平均値±SEMおよびダンの多重比較検定の結果を示す(* p<0.05;*** p<0.001)。
図12は、毛包におけるCD3(T細胞)およびCD56(NK細胞)の免疫染色を示す(スケールバー=50μm)。
【0033】
IL-12+IL-18で毛包を処理すると、毛包の上皮および間葉においてCD3+T細胞およびCD56+NK細胞の数が増加した。ビヒクルで処理した毛包では、T細胞およびNK細胞の数は少なかった。しかし、IL-12+IL-18で毛包を処理すると、T細胞およびNK細胞の数が増加した。T細胞およびNK細胞は、AAにおける重要なエフェクター細胞であり、またこれらの結果から、IL-12およびIL-18による処理が健康な頭皮の毛包においてこれらの細胞数を増加させることが示された。
【0034】
処理した毛包の遺伝子発現は、全トランスクリプトーム解析を用いて評価した。この解析のために、2~3人の独立した健康なドナーから得られた6~15個の毛包を、ビヒクル、IL-12(3、4.5または6ng/mL)およびIL-18(20、30または40ng/mL)、またはIFNγ(75IU/mL)で24時間培養した後に、全トランスクリプトーム解析した。
図13は、ビヒクルで処理した毛包(3人のドナーから得た)に対して正規化したIL-12+IL-18で処理した毛包(3人のドナーから得た)における発現変動遺伝子を示す(破線の横線は、調整後p<0.05を示す)。
図14は、MetaCoreデータベースを参照して、有意に多い上位10のパスウェイ(
図14の縦線は調整後p<0.05を示す)を示す。
図15は、ビヒクル処理した毛包(破線の横線は、調整後のp<0.05を示す)に対して正規化したIFNγ処理した毛包(2人のドナーから)における発現変動遺伝子を示す。
図16は、IL-12+IL-18処理した毛包とIFNγ処理した毛包の発現変動遺伝子を示す(破線の横線は、調整後のp<0.05を示す)。
【0035】
上記の全トランスクリプトームおよびパスウェイ解析により、IL-12+IL-18処理毛包は、IFNγおよびIFNγ誘導性遺伝子、抗原提示経路に関連する遺伝子(例えば、MHC-II、上記のタンパク質発現結果と一致する)ならびにAAに関連する化学誘引物質(例えば、CXCL-10)の発現を、選択的に誘導することが明らかになった。IFNγで処理した毛包とビヒクルで処理した毛包で検出された示差的に調節される遺伝子は、類似していた。IL-12+IL-18で処理した毛包とIFNγで処理した毛包との間には、有意な遺伝子発現の差は見られなかった(
図16参照)。これらの結果から、IL-18に支持されたIL-12が、IFNγ発現を誘導することが示された。
【0036】
実施例2:TYK2の阻害により、IL-12+IL-18による毛包の免疫特権の破綻が阻止された
毛包を式(II)の構造を有する化合物(図中では「BMS」と表記)で前処理し、その後IL-12およびIL-18を添加して、予防的アッセイを行った。比較のために、トファシチニブを対照として用いた。このアッセイでは、各群に3~5人の独立した健康なドナーから得られた19~40個の毛包が含まれる。各群は、ビヒクル、式(II)の化合物(300nM)またはトファシチニブ(400nM)で5~6日間処理した;培養2日目に、ビヒクルまたはIL-12(3ng/mL)およびIL-18(20ng/mL)を添加した。MHCクラスIおよびMHCクラスIIのレベルは、上記のように評価され、
図17~22はその結果を示している。
図17~20のグラフは、平均±SEMおよびダンの多重比較検定(*p<0.05;** p<0.01;**** p<0.0001)の結果を示す。
図21および22は、各々毛包におけるMHC-IおよびMHC-IIの染色を示す(スケールバー=100μm)。
【0037】
式(II)の化合物によるTYK2の阻害により、外毛根鞘におけるIL-12+IL-18を介したMHCクラスIおよびIIのアップレギュレーションが阻止された。式(II)の化合物によるTYK2阻害の効果は、トファシチニブで観察された効果よりも高かった。この効果は、その他の毛包区分でも観察された。例えば、
図18を参照されたい。これらの結果は、式(II)の化合物による前処理が、IL-12およびIL-18によって誘導される毛包の免疫特権の破綻を防止したことを示している。これらの結果から、IL-12+IL-18を介する免疫特権の破綻の誘導にはIL-12シグナル伝達が必要であることも確認された。
【0038】
IL-12およびIL-18刺激後のT細胞およびNK細胞の増殖に対する式(II)の化合物による前処理の効果も試験した。4~5人の独立した健康なドナーから得られた22~40個の毛包を、ビヒクル、式(II)の化合物(300nM)またはトファシチニブ(400nM)と共に5~6日間培養した。培養2日目に、ビヒクル、またはIL-12(3ng/mL)およびIL-18(20ng/mL)を添加した。CD3陽性細胞およびCD56陽性細胞を定量して、常在免疫細胞集団を評価した。
図23~27に結果を示す。
図23~26のグラフは、平均値±SEMおよびダンの多重比較検定の結果を示す(* p<0.05;*** p<0.001)。
図27は、毛包におけるCD3およびCD56の染色を示す(スケールバー=50μm)。式(II)の化合物による前処理により、上記の結果と一致して、CD3+T細胞存在比およびCD56+NK細胞存在比の上昇が防止された。
【0039】
実施例3:式(II)の化合物によるTYK2の阻害による、IL-12およびIL-18により誘導された免疫特権破綻後の毛包の免疫特権回復
TYK2の阻害が、進行中のIL-12+IL-18を介した毛包の免疫特権破綻を阻害できるかどうか、即ち、TYK2阻害が円形脱毛症を治療するための実施可能な治療ストラテジーであるかどうかを調べるために、上記のアッセイを適用した。これらのアッセイでは、最初に、IL-12+IL-18による処理によって免疫特権の破綻を誘導した後、式(II)の化合物を添加した。
【0040】
TYK2阻害により毛包免疫特権を回復できるかどうかを評価するために、3~4人の独立した健康なドナーから得られた21~31個の毛包を、ビヒクル、またはIL-12(3ng/mL)およびIL-18(20ng/mL)で5~6日間培養した。培養2日目に、式(II)の化合物(300nM)またはトファシチニブ(400nM)を、5~6日目まで添加した。MHCクラスI発現およびMHCクラスII発現を、先に行ったように測定した。
図28~33を参照されたい。
図28~31のグラフは、平均値±SEMを示し、ダンの多重比較検定(* p<0.05;** p<0.01;*** p<0.001;**** p<0.0001)によるp値を示す。
図32および33は、各々毛包におけるMHC-IおよびMHC-IIの染色を示す(スケールバー=100μm)。式(II)の化合物およびトファシチニブは、各々IL-12+IL-18誘導性のMHCクラスIおよびMHCクラスIIの発現を有意に低下させた。これらの結果は、TYK2阻害により、MHCクラスIおよびMHCクラスIIのレベルを、ビヒクル処理した毛包(これは健康な毛包のレベルを示している)で観察されたレベルにまで回復させることができることを示している。上述したように、MHCクラスIおよびIIは、免疫特権破綻のマーカーである。
【0041】
TYK2阻害が、進行中のT細胞およびNK細胞の増殖を阻止できるかどうかを評価するために、毛包を、最初にビヒクル、またはIL-12+IL-18でインキュベートした後、式(II)の化合物またはトファシチニブを添加した。具体的には、3~4人の独立した健康なドナーから得た24~33個の毛包を、ビヒクル、またはIL-12(3ng/mL)およびIL-18(20ng/mL)により5~6日間処理した。培養2日目に、式(II)の化合物(300nM)またはトファシチニブ(400nM)を添加した。T細胞の増殖およびNK細胞の増殖を、CD3(T細胞)またはCD56(NK細胞)の免疫染色によって評価した。
図34~37のグラフは、平均値±SEMを示し、p値はダンの多重比較検定を用いた(* p<0.05;** p<0.01;*** p<0.001;**** p<0.0001)。
図38は、毛包におけるCD3およびCD56の染色画像を提供する(スケールバー=50μm)。
【0042】
式(II)の化合物の処理により、毛包はIL-12+IL-18刺激後の毛包上皮および間葉におけるT細胞およびNK細胞の増殖から免れた。
図34~37に示すように、式(II)の化合物を用いたTYK2阻害により、ビヒクル処理した毛包で観察された数と同様のT細胞およびNK細胞数となった;前記化合物は、IL-12およびIL-18によって誘導されるT細胞およびNK細胞の増殖を逆転させた。
【0043】
毛包によるIFNγ産生に対するTYK2阻害の効果も評価した。具体的には、IL-12+IL-18で処理されたex vivo培養された毛包の培養培地中へのIFNγ分泌に対して、TYK2阻害がどのように影響するのかを調べるために、2つのアッセイを実施した。予防的アッセイでは、毛包を式(II)の化合物またはトファシチニブで前処理した後、IL-12+IL-18の存在下で培養し、その後培地中のIFNγを測定した。
図39を参照されたい。治療アッセイでは、最初に毛包をIL-12+IL-18で処理した後、式(II)の化合物またはトファシチニブを添加して培養を続けて、その後培養培地中のIFNγを測定した。
図40を参照されたい。
図39および
図40のデータは、1~2人の健康なドナーから得た1群あたりn=8個の毛包からプールした培養培地中で測定したIFNγの量に基づいている。グラフは、2回の反復試験を行った平均±SEMを示す。
【0044】
IL-12+IL-18による局所刺激により、
図39および
図40に示されるように、ex vivoで毛包からIFNγが放出される。TYK2阻害は、培地中へのIFNγ分泌を阻止し、分泌をほぼベースラインレベルにまで回復させることができるが、このような回復はトファシチニブでは観察されなかった。
【0045】
上記した実施例は、IL-12が、IFNγの分泌、免疫細胞の増殖およびHF-IPの破綻を促進する重要なエフェクターサイトカインであることを示している。注目すべきことに、トファシチニブ処理では、培養培地中へのIFNγ放出を低下させなかった。トファシチニブとは対照的に、式(II)の化合物は、TYK2およびIL-12受容体シグナル伝達経路を直接かつ選択的に標的とすることでIFNγ放出を阻害するTYK2阻害剤である。
【0046】
実施例4:AAにおけるIL-12受容体発現
TYK2阻害が円形脱毛症の管理のための魅力的な新規標的であることを確認するため、急性および慢性AA患者の新たに採取した病変皮膚におけるIL-12受容体の発現を、健康人対照の皮膚におけるIL-12受容体の発現と比較した。IL-12RB2発現細胞を、免疫組織形態測定を用いて、健康なドナー、急性AA患者および慢性AA患者において評価した。
図41は、3~4人の独立したドナー(健康なドナー、急性AA患者および慢性AA患者のいずれかを示す)の頭皮生検から得られた1群あたり25~27個の毛包から得たデータである。
図42の免疫染色では、スケールバー=200μmである。
【0047】
図41に示すように、健康な対象から得た皮膚におけるIL-12RB2+細胞の数と比較して、急性AA患者から得た皮膚では、毛球周辺により多くのIL-12RB2+細胞が観察された。この結果は、AA発症におけるIL-12シグナル伝達の役割をさらに支持するものである。また、IL-12RB2+細胞は、慢性AA患者でも観察され、残存する常在免疫細胞が、IL-12刺激に応答する能力を保持していることが示唆された。
【0048】
本発明を、特にその好ましい実施形態を参照して示し、説明してきたが、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲から逸脱する事無くその形態および詳細において様々な変更がなされ得ることは、本開示に照らして当業者には理解されよう。
【国際調査報告】