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特表2024-533704イオンビーム強度変調のための偏向器ゲート
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】イオンビーム強度変調のための偏向器ゲート
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/02 20060101AFI20240905BHJP
   H01J 49/24 20060101ALI20240905BHJP
   H01J 49/06 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
H01J49/02 200
H01J49/24
H01J49/06 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518644
(86)(22)【出願日】2022-09-28
(85)【翻訳文提出日】2024-04-11
(86)【国際出願番号】 IB2022059261
(87)【国際公開番号】W WO2023053041
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】63/249,944
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ハウフラー, ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ロイド, ウィリアム
(57)【要約】
一側面において、質量分析計が開示され、質量分析計は、イオンビームが伝播できるイオン経路と、イオン経路内に位置付けられ、イオン経路の上流セクションから受けた取ったイオンビームの下流セクションへの移動を変調するように構成されたイオンビーム偏向器とを含み、前記イオンビーム偏向器は、イオンビームが通過できる開口を提供するように互いに対して位置付けられた少なくとも1つの導電性電極を備え、2つの電極は、他の電極が維持されるDC電位とは独立したDC電位に各電極を維持することを可能にするために互いに対して電気的に絶縁されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析計であって、前記質量分析計は、
イオンビームが伝播できるイオン経路と、
前記イオン経路内に位置付けられたイオンビーム偏向器であって、前記イオンビーム偏向器は、前記イオン経路の上流セクションから受けた取ったイオンビームの下流セクションへの移動を変調するように構成され、前記イオンビーム偏向器は、少なくとも1つの導電性電極を備えている、イオンビーム偏向器と、
前記少なくとも1つの導電性電極へのDCの印加のために前記少なくとも1つの導電性電極に動作可能に結合された少なくとも1つのDC電圧源と、
前記少なくとも1つのDC電圧源と通信するコントローラと
を備え、
前記少なくとも1つのDC電圧源は、前記少なくとも1つの導電性電極に印加されるDC電圧を変調することによって、前記少なくとも1つの電極に印加される前記DC電圧を前記イオンビームが実質的に偏向されずに前記イオン偏向器を通過する第1のレベルと、前記イオンビームが前記イオン経路から偏向される第2のレベルとの間で、前記少なくとも1つの導電性電極に印加される前記DC電圧を移行させる、質量分析計。
【請求項2】
前記偏向されたイオンビームを収集するために前記イオンビーム偏向器の下流側に配置された少なくとも1つのビーム収集電極をさらに備えている、請求項1に記載の質量分析計。
【請求項3】
前記イオン経路の少なくとも一部が内部に配置された少なくとも1つの真空チャンバをさらに備えている、請求項1または2に記載の質量分析計。
【請求項4】
前記少なくとも1つの真空チャンバは、第1の真空チャンバと、前記第1の真空チャンバの下流側に位置付けられた第2の真空チャンバとを備え、前記第1の真空チャンバおよび前記第2の真空チャンバは、異なる圧力に維持されるように差動式にポンプ圧送される、請求項3に記載の質量分析計。
【請求項5】
前記ビーム偏向器は、前記2つの真空チャンバ間に位置付けられている、請求項4に記載の質量分析計。
【請求項6】
前記イオン偏向器の上流側に配置されたイオンレンズをさらに備えている、先行する請求項のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項7】
前記イオンレンズは、前記イオンビームが通過できる開口を備えている、請求項6に記載の質量分析計。
【請求項8】
前記コントローラは、前記少なくとも1つの導電性電極および前記イオンレンズが同じ電位に維持され、前記イオンビームが前記イオンビーム偏向器を偏向されずに通過することを可能にする第1のレベルと、前記少なくとも1つの導電性電極および前記イオンレンズが異なる電位に維持され、前記イオンビームが前記イオンビーム偏向器を通過するときに前記イオンビームに偏向させる第2のレベルとの間で、前記少なくとも1つの導電性電極に印加されるDC電圧を前記少なくとも1つのDC電圧源に調整させるように構成されている、請求項6または7に記載の質量分析計。
【請求項9】
前記第2のレベルの前記DC電位は、前記イオン経路に対して約5度~約60度の範囲の角度で前記イオンビームの偏向を引き起こすように選択される、請求項8に記載の質量分析計。
【請求項10】
前記少なくとも1つの導電性電極は、前記イオンビームが通過できる開口を提供するように互いに対して位置付けられた少なくとも2つの導電性電極を含み、随意に、前記2つの導電性電極は、間隙を形成するように互いに分離されたイオンレンズの2つの導電性電極を備え、前記イオンビームは、前記2つの導電性電極間の前記間隙を通過できる、請求項1に記載の質量分析計。
【請求項11】
前記コントローラは、前記イオンビームが前記イオンビーム偏向器を実質的に偏向されずに通過することを可能にするために、前記2つの電極に対して実質的に同様のDC電圧を前記少なくとも1つのDC電圧源に印加させるように構成されている、請求項10に記載の質量分析計。
【請求項12】
前記コントローラは、、前記イオン経路に対して約5度~約60度の範囲の角度で前記イオンビームの偏向を引き起こすために、前記2つの電極間にDC電位差を前記少なくとも1つのDC電圧源に印加させるように構成されている、請求項10に記載の質量分析計。
【請求項13】
前記第1のチャンバは、0.1Torr~約10Torrの範囲の圧力に維持されている、請求項4に記載の質量分析計。
【請求項14】
前記第2のチャンバは、約0.001Torr~約0.1Torrの範囲の圧力に維持されている、請求項12に記載の質量分析計。
【請求項15】
前記コントローラは、約0.1~約1の範囲のデューティサイクルで前記イオンビーム偏向器を通した前記イオンビームの通過を変調するように、前記イオンビーム偏向器に印加される前記電圧を変調するように維持されている、先行する請求項のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項16】
前記DC電圧の前記第2のレベルは、前記イオンビームを偏向させ、前記第2のチャンバ内への前記イオンビームの通過を実質的に阻止するように構成されている、請求項4から7のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項17】
前記少なくとも1つの導電性電極は、半球形状を有し、前記少なくとも1つの導電性電極は、導電性プレートを備えている、請求項1に記載の質量分析計。
【請求項18】
前記真空チャンバ内に配置されたイオンガイドをさらに備えている、請求項3から17のいずれか一項に記載の質量分析計。
【請求項19】
前記イオンガイドは、前記真空チャンバ内に配置された複数のロッドを備え、前記ロッドは、通路を提供する多重極形態で配置され、前記通路は、前記イオンビームの通過のためである、請求項18に記載の質量分析計。
【請求項20】
電磁場を発生させるために前記ロッドにRF電圧を印加するためのRF電圧源をさらに備え、前記電磁場は、前記イオンが前記通路を通過するときの前記イオンビームにおけるイオンの径方向閉じ込めのために構成されている、請求項19に記載の質量分析計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2021年9月29日に出願された米国仮出願第63/249,944号の優先権を主張し、該仮出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(技術分野)
本開示は、一般に、質量分析に関し、特に、質量分析計で使用されるイオンビームの強度を変調するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
本教示は、一般に、質量分析計においてイオンビーム強度を調節するためのシステムおよび方法に関する。
【0004】
質量分析(MS)は、定性的および定量的な用途の両方で試験化学物質の構造を決定するための分析技術である。MSは、未知の化合物を識別すること、分子中の原子元素の組成を決定すること、化合物の断片化の観察によって化合物の構造を決定すること、および混合試料中の特定の化合物の量を定量化することに有用であり得る。質量分析計は、化学物質をイオンとして検出し、その結果、分析物の荷電イオンへの変換が、サンプリングプロセス中に起こらなければならない。
【0005】
多くの質量分析計では、試料のイオン化により発生したイオンビームが質量分析計を通して伝播するとき、そのイオンビームの強度を変調する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一側面において、質量分析計が開示され、質量分析計は、イオンビームが伝播できるイオン経路と、イオン経路内に位置付けられ、イオン経路の上流セクションから受けた取ったイオンビームの下流セクションへの移動を変調するように構成されたイオンビーム偏向器とを含み、前記イオンビーム偏向器は、イオンビームが通過できる開口を提供するように互いに対して位置付けられた少なくとも2つの導電性電極を備え、2つの電極は、他の電極が維持されるDC電位とは独立したDC電位に各電極を維持することを可能にするために互いに対して電気的に絶縁される。
【0007】
幾つかの実施形態において、イオン偏向器は、少なくとも2つの可能な方向のうちの1つに沿って所与の電荷極性を伴うイオンビームを偏向することを可能にするように互いに対して位置付けられる複数の導電性電極として実装され得る。コントローラは、イオンビームが偏向される方向を調整するために、それらの電極に印加される電圧のパターン、例えば、それらの電極に印加される電圧の極性を調整するように、イオン偏向器の導電性電極に電圧を供給する少なくとも1つの電圧源に動作可能に結合され得る。例として、以下でより詳細に説明されるように、幾つかの実施形態において、イオン偏向器は、イオンが通過できる2つの交差するスリットを提供するように互いに対して成形され、位置付けられる4つの導電性電極を含むことができる。導電性電極に印加される電圧(例えば、電圧の極性)を調整することによって、所与の電荷極性のイオンビームが、2つの方向に沿って偏向されることができ、一方は、スリットのうちの1つ内にあり、他方は、他のスリット内にある。
【0008】
少なくとも1つのDC電圧源は、2つの導電性電極に動作可能に結合され、導電性電極にDC電圧を印加する。質量分析計は、イオンビームが実質的に偏向されずに前記イオン偏向器を通過する第1のレベルと、イオンビームが前記イオン経路から偏向される第2のレベルとの間で、2つの電極にわたるDC電位差を移行させるように、前記2つの導電性電極に印加されるDC電圧を変調するための前記少なくとも1つのDC電圧源と通信するコントローラをさらに含む。
【0009】
例として、2つの導電性電極は、イオンビームが通過できる間隙によって分離される2つの導電性プレートであることができる。プレート間にわたってDC電圧差を印加することは、間隙を通過するイオンビームの偏向を引き起こし得る電界を発生させることができる。他の実施形態において、導電性電極は、それらの間のイオンビームの通過を可能にするために互いに分離された2つのロッドの形態であることができる。2つのロッド間にわたって印加される電圧差は、ロッド間を通過するイオンビームを対象の方向に沿って操向するように変調され得る。さらに他の実施形態において、導電性電極は、イオンビームが通過することができる通路を提供するように互いに分離された2つの導電性プレートの形態であることができる。プレート間にわたって印加される電圧差は、例えばイオンビームを電極の一方に向かって偏向させることによって、イオンビームの伝播経路に影響を及ぼすように調整され得る。
【0010】
幾つかの実施形態において、偏向されたイオンビームを収集するために、少なくとも1つのビーム収集電極は、イオンビーム偏向器の下流側に配置されることができる。
【0011】
幾つかの実施形態において、質量分析計は、イオン経路の少なくとも一部が内部に配置された少なくとも1つの真空チャンバを含むことができる。例えば、質量分析計は、流体連通して異なる圧力に維持されるように差動的にポンプ圧送される2つの真空チャンバを含むことができる。そのような実施形態において、イオン偏向器は、2つのチャンバ間に位置付けられ、それらの2つのチャンバ間で移動するイオンビームの強度を変調することを可能にし得る。
【0012】
イオンビーム偏向器は、2つの真空チャンバ間に位置付けられることができる。幾つかのそのような実施形態において、イオンレンズは、イオン偏向器の上流側に位置付けられることができる。そのような実施形態において、DC電圧源は、イオンビームがイオン偏向器を通過するときにイオンビームを偏向させるための電界を上流イオンレンズとイオン偏向器との間に発生させるために上流イオンレンズとイオン偏向器との間に電圧差を印加するように構成され得る。
【0013】
質量分析計は、イオン偏向器を通るイオンビームの透過を変調するためにイオン偏向器の導電性電極に印加される電圧を調整するために電圧源を制御するように構成されるコントローラをさらに含むことができる。例として、コントローラは、イオンビームが実質的に偏向されずにイオンビーム偏向器を通過することを可能にするために、またはイオンビームがイオン偏向器を通過するときにイオンビームの偏向を引き起こすために、電圧源に、イオン偏向器の2つの導電性電極に実質的に同様の電圧または異なる電圧を印加させることができる。幾つかの実施形態において、導電性電極は、ステンレス鋼、銅、銅合金、金メッキされたセラミック、金メッキされたPCB、およびモリブデン合金などの適切な金属で形成されることができる。
【0014】
例として、コントローラは、電圧源に、イオンビームをある偏向角だけ、例えば約5~約60度の範囲の偏向角だけ偏向させるようにイオン偏向器の2つの電極間にわたって電圧差を印加させることができるが、他の偏向角も利用されることができる。幾つかの実施形態において、コントローラは、2つの電極間にわたって電圧差を印加するように電圧源を制御して、一方の真空チャンバから他方の真空チャンバへのイオンビームの通過を実質的に阻止することができ、これらの真空チャンバ間にイオン偏向器が位置付けられる。
【0015】
幾つかの実施形態において、イオンビーム偏向器は、イオンが通過できる開口を有するイオンレンズの形態であることができる。幾つかのそのような実施形態において、イオンレンズは、互いに絶縁され、イオンビームが通過するための少なくとも1つの開口を提供するように分離される2つの導電性電極(例えば、2つの半円形電極)として形成され得る。一例として、2つの導電性電極は、イオンビームが通過できるスリットによって分離され得る。
【0016】
幾つかの実施形態において、第1のチャンバは、約0.1Torr~約10Torrの範囲の圧力に維持されることができ、第2のチャンバは、約0.001Torr~約0.1Torrの範囲の圧力に維持されることができる。
【0017】
幾つかの実施形態において、イオンが通過できる通路を提供する多重極形態に配置されるロッドの組は、真空チャンバのいずれかに配置され得る。幾つかの実施形態において、DCおよび/またはRF電圧が、ロッド組がイオンガイドおよび/または質量分析器として機能するように、例えば1つ以上のDCおよび/またはRF電圧源を介して、多重極ロッドに印加されることができる。
【0018】
幾つかの実施形態において、コントローラは、イオンビームを対象の方向で操向するように本教示に従ってイオン偏向器の導電性電極に印加されるDC電圧を制御することができる。例えば、コントローラは、イオンが偏向される方向を変えるためにイオンが通過するスリットを提供するために互いに分離された2つの導電性電極に印加される電圧の極性を切り替える。例として、幾つかの実施形態において、本教示によるイオン偏向器は、交差スリットを提供するように互いに対して位置付けられる4つの導電性電極、例えば4つのくさび形導電性電極を含むことができる。導電性電極に印加される電圧を調整することによって、イオンビームを異なる方向、例えば、右、左、上または下に沿って操向することができる。
【0019】
関連する側面において、イオンビームが伝播できるイオン経路と、前記イオン経路内に位置付けられ、イオン経路の上流セクションから受けた取ったイオンビームの下流セクションへの移動を変調するように構成されたイオンビーム偏向器であって、イオンビーム偏向器は、少なくとも1つの導電性電極を備えている、イオンビーム偏向器と、前記少なくとも1つの導電性電極にDC電圧を印加するために前記少なくとも1つの導電性電極に動作可能に結合された少なくとも1つのDC電圧源と、前記少なくとも1つの導電性電極に印加されるDC電圧を変調するために前記少なくとも1つのDC電圧源と通信し、前記少なくとも1つの電極に印加されるDC電圧をイオンビームが実質的に偏向されずに前記イオン偏向器を通過する第1のレベルと、イオンビームが前記イオン経路から偏向される第2のレベルとの間で移行させるコントローラとを備えている質量分析計が開示される。幾つかの実施形態において、少なくとも1つの導電性電極は、イオン経路の上方または下方のいずれかに位置付けられる単一の電極を含む。幾つかの実施形態において、第2のレベルのDC電圧は、イオン経路に対して約5~約60度の範囲の角度でイオンビームの偏向を引き起こすように構成される。
【0020】
幾つかの実施形態において、イオンレンズがイオンビーム偏向器の上流側に位置付けられ、コントローラは、前記少なくとも1つのDC電圧源に、少なくとも1つの導電性電極およびイオンレンズが同じ電位に維持され、イオンビームが偏向されずにイオンビーム偏向器を通過することを可能にする第1のレベルと、少なくとも1つの導電性電極およびイオンレンズが異なる電位に維持され、イオンビームがイオンビーム偏向器を通過するときにイオンビームに偏向させる第2のレベルとの間で、前記少なくとも1つの導電性電極に印加されるDC電圧を調整させるように構成される。
【0021】
一側面において、イオン経路に沿って伝播するイオンビームの強度を変調するための方法が開示され、方法は、DC電圧が印加される導電性電極に対してイオンビームを通過させることと、イオンビームがその伝播経路に沿って実質的に偏向されずに伝播し続ける第1のレベルと、イオンビームがその伝播経路から偏向される第2のレベルとの間で、例えば約0.001~約1の範囲のデューティサイクルで、印加されたDC電圧を変調することとを含む。
【0022】
関連する側面において、イオン経路に沿って伝播するイオンビームの強度を変調するための方法が開示され、方法は、イオンビームを互いに絶縁された2つの電極間に通過させ、それらの電極間でDC電位差を維持することを可能にすることと、DC電位差が前記第1のレベルにあるときにイオンビームがその経路に沿って実質的に偏向されずに伝播し続け、DC電位差が前記第2のレベルにあるときにイオンビームがその伝播経路から偏向されるように、少なくとも第1のレベルと第2のレベルとの間で2つの電極間にわたるDC電位差を変調することとを含む。
【0023】
上記方法の幾つかの実施形態において、イオン偏向器の電極間にわたって印加されるDC電圧差は、デューティサイクルで、例えば約0.001~約1の範囲で変調され得る。
【0024】
本教示の様々な側面の更なる理解は、以下で簡単に説明される関連する図面と併せて以下の詳細な説明を参照することによって得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A図1Aは、質量分析計に使用されることができる従来のイオン偏向システムを示し、イオン偏向システムは2つのイオンレンズを含み、これらのイオンレンズは、軸方向で分離されるとともに、イオンビームがイオンレンズを通過するときにイオンビームの偏向を引き起こすために電圧差が印加され得る。
図1B図1Bは、質量分析計に使用されることができる従来のイオン偏向システムを示し、イオン偏向システムは2つのイオンレンズを含み、これらのイオンレンズは、軸方向で分離されるとともに、イオンビームがイオンレンズを通過するときにイオンビームの偏向を引き起こすために電圧差が印加され得る。
図2図2は、2つのレンズ間の電圧差が0であるときに図1および図2に示されるイオン偏向システムをイオンが通過し、2つのイオンレンズ間に電圧差を印加する際にイオンがイオン偏向システムを通過することを阻止されることを示すグラフである。
図3図3Bおよび図3Bは、質量分析計の2つの真空チャンバの間に位置付けられる本教示の一実施形態によるイオン偏向器アセンブリを概略的に示す。
図4A図4Aは、質量分析計で使用するための本教示の一実施形態によるイオン偏向器を概略的に示し、イオンが実質的に偏向されずに偏向器を通過できる状態のイオン偏向器アセンブリを示す。
図4B図4Bは、質量分析計で使用するための本教示の一実施形態によるイオン偏向器を概略的に示し、イオンがイオン偏向器を通過することを阻止される状態のイオン偏向器アセンブリを示す。
図4C図4Cは、互いに電気的に絶縁される2つの導電性電極を有するイオン偏向器の上面概略図である。
図5A図5Aは、一実施形態によるイオン偏向器の部分図である(図には1つの導電性電極のみが示される)。
図5B図5Bは、イオン偏向器によるイオンビームの変調を示す、図4Aおよび図4Bに示されるイオン偏向器に印加される電圧差を時間の関数として概略的に示す。
図6A図6Aは、本教示の一実施形態によるイオン偏向器が組み込まれる本教示の一実施形態による質量分析計を概略的に示す。
図6B図6Bは、各イオンガイドが質量分析計の真空チャンバ内に位置付けられる、2つのイオンガイド間に位置付けられる一実施形態によるイオン偏向器を概略的に示す。
図6C図6Cは、2つのプレート間の中心線上を通過するイオンビームの上方および下方に位置付けられる2つのプレートを含む本教示によるイオン偏向器の一実施形態を概略的に示す。
図6D図6Dは、イオンビームの経路を操向するための本教示の一実施形態によるイオン偏向器を概略的に示す。
図6E図6Eは、本教示の他の実施形態によるイオン偏向器を概略的に示す。
図7図7は、本教示の一実施形態によるコントローラの実装形態の一例を概略的に示す。
図8図8は、本教示の様々な実施形態における使用に適したコントローラの実装形態の一例を概略的に示す。
図9A図9Aは、イオンビームを偏向させるために本教示の幾つかの実施形態で利用され得る単一の電極を概略的に示す。
図9B図9Bは、適切なDCバイアス電圧が電極に印加されるときの電極を介したイオンビームの偏向をさらに示す、図9Aに示される電極の概略側面図である。
図9C図9Cは、イオンビームを偏向させるために本教示の幾つかの実施形態で使用され得るバーの形態を成す単一の導電性電極を概略的に示す。
図9D図9Dは、イオンビームを偏向させるために幾つかの実施形態において導電性電極として使用され得るワイヤを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
明確にするために、以下の説明は、本開示の実施形態の様々な側面を詳しく説明するが、そうするのに都合がよい場合、または適切である場合、ある特定の詳細を省略することが理解され得る。例えば、代替的な実施形態における類似または類似の特徴の説明は、幾分省略され得る。周知の概念または概念は、簡潔にするために、詳細に説明されないこともある。当業者は、本開示の幾つかの実施形態が実施形態の完全な理解を提供するためにのみ本明細書に記載されている全ての実装において特定の具体的に記載された詳細を必要としないこともあることを認めるであろう。同様に、記載された実施形態は、本開示の範囲から逸脱することなく、共通の一般知識に従って変更または変形を受けやすいことが明らかであろう。以下の実施形態の詳細な説明は、いかなる方法でも本出願人の教示の範囲を限定すると見なされるべきではない。
【0027】
本明細書で使用される場合、「約(about)」および「実質的に等しい(substantially equal)」という用語は、例えば、現実世界における測定または取り扱い手順によって、これらの手順における不注意な誤りによって、組成物または試薬の製造、供給源または純度の違いによって起こり得る数値量の変動を指す。典型的に、本明細書で使用される「約」および「実質的に」という用語は、記載された値または値の範囲、または完全な状態または状態より10%大きいことまたは小さいことを意味する。例えば、約30%または実質的に30%に等しい濃度値は、27%~33%の濃度を意味し得る。この用語は、変形形態が従来技術によって実施される既知の値を包含しないかぎり、当業者によって同等であると認識されるであろうそのような変形形態も指す。
【0028】
本明細書で使用される場合、「および/または」という用語は、関連するリストアップされた項目のうちの1つ以上の任意またはすべての組み合わせを含み、「/」と省略され得る。
【0029】
図1Aおよび図1Bを参照すると、従来の質量分析計では、異なる圧力に維持され、2つのデバイス13および15(例えば、2つのイオンガイド)が配置された2つの差動的にポンプ圧送されたチャンバ10および12間を通過するイオンビーム1の強度は、2つのイオンレンズ14および16を使用して変調されることができ、2つのイオンレンズ14および16は、互いに軸方向に離れ、イオンビームが通過できる開口を含む。イオンレンズ14は、上流面14aと下流面14bとを含み、イオンレンズ16は、上流面16aと下流面16bとを有する。
【0030】
図1Bに示されるように、イオンレンズ14、16に同じDC電圧を印加することは、その伝播方向における変化なしで、イオンビームがレンズを通過ですることを可能にする。典型的に、イオンレンズは、例えば上流および/または下流の多重極ロッドのいずれかに対する電圧オフセットを介して、チャンバ10からチャンバ12へのイオンビームの通過を容易にするDC電位に維持される。
【0031】
チャンバ10からチャンバ12へのイオンビームの通過を止めるために、図1に示すように、差電圧が、2つのイオンレンズ14および16にわたって印加されることによって、イオンが2つのレンズ間を通過するとき、イオンを減速させ、イオンがレンズ16の下流面16bに衝突するように、それらの伝播方向における反転を引き起こすことができる。レンズ16の下流面16bへのイオンの衝突は、そのレンズ表面の汚染を引き起こし得、それは、次に、2つのチャンバおよびイオンレンズが組み込まれている質量分析計の性能の低下を引き起こし得る。
【0032】
2つのイオンレンズ間に印加される電圧差を変調することによって、2つのチャンバ10、12間のイオンビームの通過は、変調されることができる。例として、図2は、仮想例を示し、2つのチャンバ間のイオンビームの移動は、2つのイオンレンズ間に印加される電圧差の周期的変化を介して周期的に変調される。実線のトレースは、イオン偏向器の一方の導電性電極に印加される電圧を示し、破線のトレースは、イオン偏向器の他方の導電性電極に印加される電圧を示す。特に、この例は、2つのイオンレンズ間の電圧差がゼロであるとき、イオンビームがチャンバ10からチャンバ12内に通過すること、および、2つのチャンバ間のその通過が、2つのイオンレンズ間の消滅しない電圧差の印加によってチャンバ10からチャンバ12内への通過が阻止されることができることを示している。
【0033】
以下でより詳細に説明されるように、実施形態において、イオンビームの反転およびレンズ表面への衝突を引き起こすのではなく、複数の導電性電極(本明細書ではイオン偏向電極とも呼ばれる)が、使用されることができ、それによって、イオンビームは、イオンビームが2つの電極間に提供された間隙を通過するとき、それらの電極に適切な電圧を印加することによって偏向される。
【0034】
幾つかの実施形態において、イオンビームの偏向角は、イオンビームが第2のチャンバに入ることを阻止されるようなものである。偏向電極間に印加される電圧差を変調することによって、第1のチャンバから第2のチャンバへのイオンビームの通過は、制御することができる。以下でさらに説明されるように、イオン偏向電極は、異なる形状および構成を有し得る。例として、幾つかの実施形態において、イオン偏向電極は、イオンビームが通過できる間隙によって互いに分離された2つのプレートの形態であることができる。他の実施形態において、導電性電極は、イオンレンズの2つの部分の形態であることができ、イオンレンズの2つの部分は、互いに対して絶縁され、イオンビームが通過できるそれらの間の開口を含む。導電性電極の他の適切な形状および/または配置も、使用されることができる。
【0035】
図3Aおよび図3Bは、2つのイオンガイド1,2間に位置付けられる一実施形態によるイオン偏向器アセンブリ300を概略的に示しており、イオンガイド1は真空ゾーン1(例えば、一方の真空チャンバ内)に配置され、イオンガイド2は真空ゾーン2(例えば、他方の真空チャンバ内)に配置される。真空ゾーン1および2は、異なる圧力に維持されるように差動的にポンプ圧送される。
【0036】
イオン偏向器アセンブリ300は、イオンが通過できる開口302aを有するイオンレンズ302と、イオンレンズ302の下流側に配置される本教示の一実施形態によるイオン偏向器304とを含む。本実施形態において、イオン偏向器304は、2つの半円形の導電性電極304a/304bを含み、2つの半円形の導電性電極304a/304bは、互い分離され、それらの間にイオンが通過できるスリット304cを形成している。さらに、半円形部分は、スリット内の電界を変調し、それによってスリットを通過するイオンの伝播経路に影響を及ぼすために、互いに電気的に絶縁され、導電性部分への独立した電圧の印加を可能にする。例えば、図3Aに示されるように、イオンレンズ302と2つの導電性電極304a/304bとが同じ電圧に維持される場合、イオンは偏向されることなくイオン偏向器304を通過し、下流側のイオンガイド2に到達する。
【0037】
対照的に、図3Bは、イオンガイド1を介してイオン偏向器により受けられたイオンビームがイオンガイド2の入口から離れるように偏向させられ、それによって、イオンガイド1からイオンガイド2へのイオンの通過を阻止するために、イオンレンズ302およびイオン偏向器304の導電性電極に印加されることができる電圧の一例を示す。この例では、DC電圧1および2は同じ極性であるが異なる大きさを有し、一方、DC電圧2および3は同じ大きさであるが反対の極性を有する。この方法において、イオンは、イオンレンズ302とイオン偏向器304との間の空間に誘導され、初期伝播方向から離れるように偏向されることができ、それによって、イオンは、イオンガイド2に入ることを阻止される。
【0038】
幾つかの実施形態において、イオン偏向アセンブリは、イオン偏向アセンブリを通る通路を介して偏向されたイオンを収集するためのイオン収集電極を含むことができる。例えば、図4Aおよび図4Bは、タンデムに配置されて互いに流体連通する2つの差動的にポンプ圧送されるチャンバ400および402を概略的に示す。チャンバ400および402は、互いに対して差圧に維持されるように、1つ以上のポンプを介して排気される。差動的にポンプ圧送されるチャンバ400、402は、質量分析計に組み込まれることができる。この実施形態において、チャンバ400および402は、それぞれ、
それらの各々が四重極形態に配置された4つのロッドを含む2つのロッド組401および403を収容するが、他の多重極形態も、使用されることができる。ロッド組のロッドは、ロッド組を通過するイオンのためのイオン伝播経路IPP1およびIPP2を提供するように配置される。
【0039】
1つ以上のDCおよび/またはRF電圧源(図示せず)は、DCおよび/またはRF電圧を2つのロッド組に印加することができ、それによって、2つのロッド組は、例えばイオンガイドおよび/または質量分析器として、それぞれの機能を提供することができる。この実施形態ではチャンバ400および402がロッド組を収容するが、他の実施形態において、他のデバイスが、これらのチャンバのいずれかに配置されることができる。言い換えれば、本教示は、多重極ロッド組を通過するイオンビームを変調することに限定されず、イオンビームをその伝播経路に沿って偏向するためにより一般的に適用すされることができる。
【0040】
チャンバ400は、入口400aから出口400bまで延び、チャンバ402は、入口402aから出口402bまで延びている。チャンバ400の出口400bは、チャンバ400からチャンバ402へのイオンの通過を可能にするために、チャンバ402の入口402aと流体連通している。この実施形態において、イオン偏向器アセンブリ404は、チャンバ400の出口400bとチャンバ402の入口402aとの間に位置付けられている。イオン偏向器アセンブリ404は、通過するイオンの集束を提供することができるイオンレンズ405と、チャンバ400からチャンバ402へのイオンビームの移動を変調することができるイオン偏向器407とを含む。イオン偏向器407によって偏向されたイオンを捕捉するために、イオン収集電極409がイオン偏向器407の下流側に位置付けられる。
【0041】
特に図4Cおよび図5Aを参照すると、この実施形態において、イオン偏向器407は、互いに電気的に絶縁され、それらの間にスリット407cを形成するために分離された2つの導電性電極407aおよび407bを含み、イオンは、スリット407cを通過できる。例として、図5Aに示すように、電気絶縁ガスケットが、質量分析計の2つのチャンバ間にイオン偏向器407の2つの導電性電極を維持するのを助けることができる一方、これらのチャンバ間の真空シールのみならず、導電性電極間の電気絶縁も提供する。イオンレンズ405と、イオン偏向器407およびイオン収集電極409の組み合わせとの間に印加される電圧差は、イオン偏向器407を通過するイオンの移動を変調するために使用されることができる。
【0042】
再び図4Aを参照すると、電圧源410aがイオンレンズ405にDC電圧1を印加することができ、DC電圧源410bはイオン偏向器407とイオン収集電極409との組み合わせに対してDC電圧2を印加することができる。この実施形態では2つの別個の電圧源が示されるが、イオンレンズ405とイオン偏向器407およびイオン収集電極409の組み合わせとへのDC電圧の印加は、単一の電圧源、例えば、2つのDC電源を有する単一の電圧源を介して達成されることができる。
【0043】
電圧源410a/410bと通信するコントローラ412は、電圧1および電圧2を調整するようにそれらの電圧源を制御することができる。例えば、コントローラは、チャンバ401からチャンバ402へのイオンビームIBの伝送を制御するための電圧1および2の調整をもたらすことができる。
【0044】
例えば、図4Aに示すように、コントローラ410は、イオンレンズ405と、イオン偏向器407およびイオン収集電極409の組み合わせとに同じDC電圧を電圧源410a/410bに印加させることができる(すなわち、電圧1=電圧2)。この状態では、イオンビームIBは偏向されずにイオン偏向器アセンブリ404を通過し、チャンバ402に到達する。
【0045】
対照的に、図4Bに示すように、コントローラ410は、イオンレンズ405と、イオン偏向器407とイオン収集電極409との組み合わせとに異なる電圧を印加し、チャンバ402への通過を実質的に阻止するのに十分なイオンビームの偏向を引き起こすための制御信号を電圧源410aおよび410bに送信することができる。チャンバ402へのイオンビームの通過を実質的に阻止するために必要な偏向角は、とりわけ、チャンバ400の出口とチャンバ402の入口との間の軸方向の分離を含むがこれに限定されない幾何学的要因などのシステム特有の要因に応じて変化し得る。一般に、実施形態において、イオン偏向器アセンブリは、約5~約60度の範囲の偏向角でのイオンビームの偏向を引きおこるために使用されることができるが、他の偏向角も、使用され得る。
【0046】
さらに、2つのチャンバ間のイオンビームの移動を抑制するのではなく、イオンレンズ405と、イオン偏向器407とイオン収集電極409との組み合わせとにわたって印加される電圧差は、イオンビーム中の他のイオンが実質的に偏向されていないチャンバ402に到達することを可能にしながらイオンの一部のチャンバ402の中への通過を抑制し、それによってイオンビームがチャンバ400からチャンバ402に入るときのイオンビームの強度を変調するために、調整されることができる。一例として、イオンレンズ405とイオン偏向器407の組み合わせとの間の偏向電圧差は、ビーム中の他のイオンが下流チャンバ402に到達し続ける間にイオンの一部がチャンバ402に入ることを阻止されるように、偏向角が十分に小さいように、例えば1度などの約5度未満の角度であるように選択されることができる。
【0047】
図5Bは、レンズ405と、イオン偏向器407とイオン収集電極409との組み合わせとの間の電圧差を周期的に変化させることによって、イオン偏向器アセンブリ404を使用してチャンバ400と402との間のイオンの透過を変調する例を示す。幾つかの実施形態において、変調は、あるデューティサイクルで、例えば約0.1~約1の範囲で実行されることができる。他の実施形態において、イオン偏向器407は、他の形状を有し得る。
【0048】
例として、図6Aは、イオンが通過することができる通路1001をそれらの間に提供するために互いに分離された2つの板1000a/1000bを含むそのようなイオン偏向器1000を概略的に示す。これらのプレートにわたるDC電圧の印加は、イオンが通路1001を通過するとき、イオンの偏向を引き起こすことができる電界を発生させることができる。
【0049】
幾つかの実施形態において、板1000a/1000bの長さおよび印加電圧が、偏向されたイオンが通路を出て、例えば前述のようにイオン収集電極によって必要に応じて捕捉されることを可能にするように選択されることができる。他の実施形態において、偏向されたイオン(またはその少なくとも一部)がプレートの1つに衝突し、したがってイオン偏向器を出ないように、プレートの長さおよび印加される電界を選択されることができる。
【0050】
図6Bは、前述の偏向器1000を組み込む偏向ゲート1002が、イオンガイド1からイオンガイド2へのイオンビーム1005の通過を調節できるようにするために、真空ゾーン1に配置された上流イオンガイド1と真空ゾーン2に配置された下流イオンガイド2との間に位置付けられた本教示の一実施形態による質量分析計の部分概略図である。この実施形態において、開口レンズ1005は、イオン偏向器1000のイオン偏向板1000a/1000bの上流側に位置付けられる。イオンレンズ1005に提供された開口1005aは、イオンがイオンレンズを通過することを可能にすることができる。本明細書で説明されるように、コントローラ(この図には示されていない)の制御下で動作する電圧源は、偏向板1000a/1000bにわたって印加されるDC電圧差を変調することができ、それによってイオンガイド1からイオンガイド2へのイオンビームの通過を変調する。例えば、イオン偏向板にわたって印加されるDC電圧差は、特定の時間期間中、イオンガイド2へのその通過を阻止するようにイオンを偏向させることができる。
【0051】
幾つかの実装では、プレート間に印加されるDC電圧差の周期的変調は、イオンガイド1とイオンガイド2との間を通過するイオンビームの強度の周期的変調を提供することができる。
【0052】
図6Cは、2つのイオン偏向板2000aおよび2000bを含む、本教示の別の実施形態によるイオン偏向器2000を概略的に示す。この実施形態は、偏向板(2000aおよび2000b)が開口/レンズ(2001)に隣接して配置された端面図を示す。偏向板(2000aと2000b)間に電位差が印加されると、イオンはこのデバイスを超えて移されないであろう。共通電位を有すると、イオンはイオン経路の次の段階に移されるであろう。
【0053】
図6Dは、本教示による一実施形態によるイオン偏向器2000を概略的に示しており、イオン偏向器2000は、真空ゾーン1,2にそれぞれ位置付けられた2つのイオンガイド1,2間のイオンビームの伝播方向を変更するために、2つの真空ゾーン1,2(それらの各々は、真空チャンバの形態であり得る)間に位置付けられている。イオン偏向器2000は、イオンが通過することができる2つの直交スリット2000a/2000bを提供するように互いに分離された4つの導電性電極2001/2002/2003/2004を含む。イオン偏向器の各導電性電極は、他の導電性電極と(例えば、導電性電極を囲む溝内に配置された誘電ガスケット2005を介して)電気的に絶縁されている。この実施形態において、導電性電極は同じサイズおよび形状を有し(それらは、くさび形である)、それらの上面が単一の平面内にあり、イオン偏向器が、その中心を通過し、前述の単一の平面に垂直な推定軸まわりの90度の回転に関して対称であるように、互いに対して位置付けられている。
【0054】
イオン偏向器2000の導電性電極に印加されるDC電圧は、例えば、イオンがスリット2000a/2000bを通過するときにイオンビームを所望の方向(例えば、上、下、右または左)に偏向するように、本明細書に開示されているものなどのコントローラの制御下で調整されることができる。
【0055】
例えば、イオン偏向器の導電性電極2001/2002/2003/2004に印加される電圧1、2、3および4が等しい場合、イオンビームは偏向することなくイオン偏向器を通過する。典型的に、イオンガイド2は、イオン偏向器の導電性電極に印加される電圧が等しいときにイオンビームがイオンビーム偏向器の中心(すなわち、2つのスリットの交差部)を通過するようにイオン偏向器に対して位置合わせされている。例として、イオンガイド1を通ってイオンガイド2ビームに向かって伝播する正イオンビームを右に操向するために、イオン偏向器の導電性電極に印加される電圧の大きさは、正極性を有する電圧V1およびV2、および負極性を有する電圧V3およびV4と同じであり得る。
【0056】
対照的に、イオンビームを左に操向するために、電圧V1、V2、V3およびV4は、正極性を有する電圧V3およびV4、および負極性を有する電圧V1およびV2と同じ大きさを有し得る。イオンビームを上方向に操向するために、電圧V1、V2、V3、およびV4の大きさは、正極性の電圧V2およびV3、および負極性の電圧V1およびV4と同じであり得、イオンビームを下方向に操向するために、電圧V1、V2、V3、およびV4の大きさは、正極性の電圧V1およびV4、および負極性の電圧V2およびV3と同じであり得る。
【0057】
上記のイオン偏向器2000は、イオン偏向の方向を時々変えることを可能にする。より具体的に、上記イオン偏向器は、イオンビームを左、右、上、および下の4方向の各々に沿って偏向させることを可能にする。幾つかの実施形態において、イオン偏向の方向を時々変更することによって、偏向されたイオンによって引き起こされる潜在的な汚染およびそれらの悪影響は、最小限にされ、好ましくは排除されることができる。一例として、イオン偏向器2000に動作可能なコントローラは、例えば、所定の時間スケジュールに基づいて、イオン偏向器の4つの導電性電極に印加される電圧のパターンを変更するために、イオンビームの偏向を上記の4つの方向の間で修正するようにプログラムされることができる。
【0058】
更なる例示として、図6Eは、イオンガイド1とイオンガイド2との間に位置付けられたイオン偏向器3000を概略的に示す。前述の実施形態と同様、イオンガイド1および2は、典型的に、異なる圧力に維持された真空ゾーン1および2内に配置されている。この実施形態において、イオン偏向器3000は、独立した電圧の印加を可能にするために互いに分離され、電気的に絶縁された2つのロッド3001/3002を含む。この実施形態において、イオン偏向器3000の2つのロッド3001/3002の間の通路を介したイオンガイド1からイオンガイド2へのイオンビームの伝播を容易にするために、イオンレンズ3003が、イオン偏向器3000の上流側に位置付けられている。
【0059】
2つのロッド3001/3002の間に印加される電圧差は、イオンビームの伝播経路を変調するために調整されることができる。一例として、ロッド3001および3002にそれぞれ印加される電圧V1およびV2が等しいとき(すなわち、2つのロッド間の電圧差が0である場合)、イオンビームは、偏向されずにイオン偏向器を通過する。正極性のイオンビームがイオンガイド1を通過してイオン偏向器に到達するようにイオンビームを上方に偏向するために、電圧V1およびV2は、それぞれ、正極性および負極性で同じ大きさを有し得る。対照的に、イオンビームを下方に偏向させるために、電圧V1およびV2は、それぞれ、負極性および正極性で同じ大きさを有し得る。イオンビームの所望の偏向(操向)を達成するために、電圧の他の構成も利用されることができることを理解すべきである。例えば、印加電圧の大きさは、異なり得る。
【0060】
本教示によるイオン偏向器は、様々な質量分析計に組み込まれることができる。一例として、図7を参照すると、本教示の一実施形態による質量分析計100は、イオン源104を含み、イオン源104は、試料源102から試料を受け取り、複数のイオンを発生させ、複数のイオンは、ポート15を介して排気されるチャンバ14に導入される。
【0061】
イオンの少なくとも一部は、オリフィス板30のオリフィス31を通過し、イオンガイド140(本明細書ではQJet(登録商標)イオンガイドとも呼ばれる)が配置されているチャンバ121に入る。
【0062】
チャンバ121は、例えば、約1Torr~約3Torrの範囲の圧力に維持されることができる。QJet(登録商標)イオンガイドは、イオンが通過することができる通路をそれらの間に提供するために四重極形態に従って配置される4つのロッド(図ではそのうちの2つ130が見える)を含む。RF電圧が、イオンを径方向に閉じ込めるために、かつ本教示の一実施形態によるイオンフィルタ108が配置される下流チャンバ122に伝送するためにイオンを集束させるために、例えば、以下でさらに説明する下流イオンガイドQ0への容量結合を介して、または、独立したRF電圧源を介して、QJet(登録商標)イオンガイドのロッドに印加されることができる。
【0063】
この実施形態において、イオンレンズ、イオン偏向器およびイオン収集電極を含む、図4Aおよび図4Bに関連して前述したようなイオン偏向器アセンブリ107が、真空チャンバ122と真空チャンバ121との間に位置付けられ、真空チャンバ121と真空チャンバ122との間のイオンの移動を調整するのに役立つ。特に、前述したように、イオン偏向器と上流レンズとの間に印加される電圧差が、真空チャンバ121から真空チャンバ122へのイオンの通過を可能にするために、またはそれを阻止するために、使用されることができる。
【0064】
チャンバ122は、チャンバ121が維持される圧力より低い圧力に維持されることができる。例として、チャンバ122は、約2mTorr~約15mTorrの範囲の圧力に維持されることができる。この実施形態において、イオンガイドQ0がチャンバ122内に位置付けられている。イオンガイドQ0は、多重極形態で配置された複数のロッド(図示せず)を含む。RF電圧源197は、通過するイオンの径方向の閉じ込めを提供するために、Q0イオンガイドのロッドにRF電圧を印加する。
【0065】
この実施形態において、DC電圧源193aは、イオン偏向器アセンブリ107のイオンレンズ(前述のイオンレンズ405を参照されたい)にDC電圧を印加し、DC電圧源193bは、イオン偏向器とイオン偏向器アセンブリのイオン収集電極との組み合わせ(イオン偏向器407およびイオン収集電極409を参照されたい)にDC電圧を印加する。幾つかの実施形態において、DC電圧源も、Q0イオンガイドのロッドにDC電圧を印加し、例えば、QJETイオンガイドを出るイオンをQ0イオンガイドに向かって加速するために、QJETイオンガイドとQ0イオンガイドとの間に電圧差を発生させるために、使用されることができる。
【0066】
コントローラ3000は、RF電圧源197、およびDC電圧源193aおよび193bの動作を制御する。特に、コントローラは、例えば本明細書で説明されるように、真空チャンバ121と122との間のイオンの伝達を変調するようにDC電圧源193aおよび193bの動作を制御することができる。
【0067】
質量分析器Q1 110は、イオンガイドQ0を通過したイオンをイオンレンズIQ1および1つの短く太いレンズST1を介して受け取る。この実施形態において、質量分析器Q1 110は、四重極構成に配置され、目標範囲内のm/z比を有するイオンを選択するためにRFおよび/またはDC電圧を印加することができる4つのロッドを含む。質量分析器Q1 110を伝播するイオン(ここでは前駆イオンと称する)は、スタブレンズST2およびイオンレンズIQ2を通過して衝突セル112(q2)に到達する。
【0068】
前駆イオンの少なくとも一部は衝突セル112内で断片化され、複数の生成イオンを発生させる。生成イオンは、イオンレンズIQ3および短く太いレンズST3を通過して下流側の他の質量分析器Q3に到達する。この実施形態において、質量分析器Q3は、四重極形態に配置され、対象のm/z比を有する生成イオンの通過を可能にするためにRFおよび/またはDC電圧を印加されることができる4つのロッドを含む。質量分析器Q3を通過した生成イオンは、出口レンズ115を通過してイオン検出器118で検出される。幾つかの実施形態において、四重極質量分析器Q3は、飛行時間型(ToF)質量分析器または任意の他の適切な質量分析器と置き換えられることができる。分析モジュール119は、イオン検出器118によって生成された検出信号を受信し、それらの信号を処理し、検出されたイオンのマススペクトルを発生させることができる。
【0069】
電圧源193aおよび193bと通信するコントローラ3000は、イオンレンズと、イオン偏向器とイオン収集電極との組み合わせとに印加される電圧を調整し、前述のように、QJETとQ0イオンガイドとの間のイオンビームの通過を変調するように、これらの電圧源を制御することができる。コントローラ3000は、RF電圧源の動作を制御することもできる。さらに、電圧源193aおよび/または193bが質量分析計のイオンガイドおよび/または質量分析器のロッドにDC電圧を印加するために使用される実施形態において、コントローラ3000は、それらのデバイスに印加される電圧を調整するように電圧源を制御することもできる。
【0070】
図9Aおよび図9Bを参照すると、幾つかの実施形態において、イオン偏向器900が、利用されることができ、イオン偏向器900は、イオンビーム903が通過することができる切り欠き902を有する単一の導電性電極901、例えば上記に開示されたものなどの金属電極を含む。以下でより詳細に説明されるように、単一の導電性電極901は、イオンレンズの下流側に位置付けられることができ、例えばコントローラの制御下で動作するDC電圧源を介して単一の導電性電極901に印加される電圧は、イオンビームが偏向されていない状態で通過することを可能にするように、またはイオンビームの偏向を引き起こすように調整されることができる。導電性電極901は、イオンビームの下方または上方に位置付けられることができるとともに、それにDC電圧を印加することによってバイアスがかけられ、イオンビームを電極から離れるように、例えば上方または下方に偏向させることができる。
【0071】
導電性電極901は、図9Bに概略的に示すように、イオンが通過するときにビーム中のイオンをはじくためのDCバイアス電圧を印加することによってバイアスされ、それによって、イオンビームを電極から偏向させることができる。そのような実施形態の1つの利点は、偏向されたイオンによるイオン偏向電極の汚染を減らし、好ましくは排除することである。言い換えれば、この実施形態において、イオンビームの偏向を引き起こすために「プッシュ」電極と「プル」電極の両方を利用するのではなく、「プッシュ」電極のみが利用される。これは、イオン衝撃による「プル」電極の潜在的な汚染を排除することができる。
【0072】
例として、図4Aに示す実施形態は、図4Cに示すような導電性電極407aおよび407bを有するイオン偏向器407をそれらの導電性電極のうちの1つ(例えば、図9Aおよび図9Bに概略的に示すような、例えば、導電性電極407aまたは導電性電極407b)のみと置き換えるように修正されることができる。そのような修正された実施形態において、コントローラ412の制御下で動作するDC電圧源、例えばDC電圧源410aは、導電性電極901に印加されるバイアスDC電圧を調整することができる。例えば、イオンビームが偏向されずに導電性電極の上または下を通過することを可能にするために、導電性電極は、上流イオンレンズ405と同じDC電圧に維持されることができる。DCバイアス電圧は、イオンビーム偏向が望まれるときに導電性電極から離れるようにイオンビームの偏向を引き起こすように変更されることができる。
【0073】
図9Cおよび図9Dを参照すると、幾つかの実施形態において、単一の導電性電極は、導電性バー910または導電性ワイヤ912の形態であり得る。本明細書で説明されるように、導電性バー910または導電性ワイヤ912にDCバイアス電圧を印加すると、導電性バーまたはワイヤの上または下を通過するイオンビーム903の偏向を引き起こすことができる。例として、導電性バー910は、約1mm~約50mmの範囲の長さおよび約0.1mm~約10mmの範囲の幅/厚さを有する正方形の断面プロファイルを有し得る。幾つかの実施形態において、導電性ワイヤ912は、例として、約0.5mmの直径を有し得る。導電性電極がDCバイアス電圧を電極に印加することによってイオンビームの偏向を引き起こすことができる限り、他の形状も利用されることができる。
【0074】
コントローラ3000は、本教示によって知らされるように、当技術分野における既知の技術を使用してハードウェア、ファームウェア、および/またはソフトウェアで実装されることができる。
【0075】
例として、図8は、当技術分野で一般的に知られている他の要素の中でも、プロセッサ500a(例えば、マイクロプロセッサ)、少なくとも1つの永続メモリモジュール500b(例えば、ROM)、少なくとも1つの過渡メモリモジュール(例えば、RAM)500c、およびバス500dを含むそのようなコントローラ500の実装形態の一例を概略的に示す。
【0076】
バス500dは、プロセッサとコントローラの様々な他の構成要素との間の通信を可能にする。この例では、コントローラ500は、信号の送受信を可能にするように構成された通信モジュール500eをさらに含むことができる。
【0077】
例えば補助電極に印加されるDC電圧を調整するためのコントローラ500によって使用される命令は、永続メモリモジュール500bに記憶されることができ、実行のためのランタイム中に過渡メモリモジュール500cに転送されることができる。コントローラ500は、とりわけ、イオンガイドおよび質量分析器などの質量分析計の他の構成要素の動作を制御するように構成されることもできる。
【0078】
本教示は、イオンビームの強度を調整するための従来技術と比較して利点を提供することができる。例えば、本教示を使用するイオンビームの変調は、例えば、イオンビームが1つのイオンチャンバから下流チャンバに通過するとき、イオンビームの強度を減らすために使用される従来のパルス化技術より均一なイオンビームを提供することができ、一方で、2つのチャンバ間に配置されたイオン光学系の汚染を減らし、好ましくは排除する。
【0079】
当業者であれば分かるように、上記の実施形態は、本教示の範囲から逸脱することなく、様々な変更を加えられることができる。
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
【国際調査報告】