(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】顔の皮膚反応を軽減するためのポリグリコシル化されたルチン誘導体
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7048 20060101AFI20240905BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240905BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20240905BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A61K31/7048
A61P17/00
A61K8/60
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518826
(86)(22)【出願日】2022-09-26
(85)【翻訳文提出日】2024-05-22
(86)【国際出願番号】 EP2022076705
(87)【国際公開番号】W WO2023046961
(87)【国際公開日】2023-03-30
(32)【優先日】2021-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501105842
【氏名又は名称】ジボダン エス エー
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ランバート,カロル
(72)【発明者】
【氏名】オリオール,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ド トレネレ,モルガーヌ
(72)【発明者】
【氏名】スカンドレラ,アマディン
(72)【発明者】
【氏名】レノー,ロマン
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C083AC072
4C083AC112
4C083AC122
4C083AC172
4C083AC182
4C083AC352
4C083AC402
4C083AC422
4C083AD152
4C083AD391
4C083AD392
4C083BB51
4C083CC02
4C083DD31
4C083EE06
4C083EE07
4C083EE12
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA11
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA89
(57)【要約】
長時間のフェイスマスク着用にさらされる皮膚への有害な影響を軽減する方法であって、マスク着用の前に、潜在的に影響を受ける皮膚へ、式(I)
(I)
を有するポリグリコシル化されたルチンを含む調製物を塗布することを含み、50%モル濃度を超えるグリコシル化されたルチンが2より大きいnを有する前記方法。
長時間のマスク着用の既知の影響(赤斑、血管新生、高色素沈着)は大幅に軽減され、完全に予防されることさえある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長時間のフェイスマスク着用にさらされる皮膚への有害な影響を軽減する方法であって、マスク着用の前に、潜在的に影響を受ける皮膚へ、式
【化1】
を有するポリグリコシル化されたルチンを含む調製物を塗布することを含み、50%モル濃度を超えるグリコシル化されたルチンが2より大きいnを有する、
前記方法。
【請求項2】
60%モル濃度を超えるグリコシル化されたルチンが、少なくとも2のnを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
nが2~11、具体的には少なくとも3、より具体的には3~4である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
式
【化2】
のポリグリコシル化されたルチンの使用であって、長時間のマスク着用の有害な影響を防止するための皮膚への塗布用生成物の調製において、50%モル濃度を超えるグリコシル化されたルチンが2より大きいnを有する、
前記使用。
【請求項5】
nが2~11、具体的には少なくとも3、より具体的には3~4である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
長時間のマスク着用の有害な影響を防止するために皮膚に塗布されるために適合される組成物であって、組成物は、式、
【化3】
のポリグリコシル化されたルチンを含み、50%モル濃度を超えるグリコシル化されたルチンが2より大きいnを有する、
前記組成物。
【請求項7】
nが2~11、具体的には少なくとも3、より具体的には3~4である、請求項6に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、長時間のマスク着用にさらされる皮膚に対する保護を提供する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「マスクネ」は、特に医療従事者における長時間の、または微細な粉塵にさらされる労働者の呼吸保護のために、マスクを着用する必要がある人々に日常的に生じる現象である。マスク着用者が話したり、または呼吸をするとき、マスクは熱い空気、および吐き出された水蒸気を閉じ込める傾向にある。これは、真菌種などの、細菌および他の植物相、加えて皮膚ダニの類の繁殖に理想的な、暖かく湿度の高い環境を作り出す。これが、にきび、酒さの目に見える色素の変化だけでなく、口囲皮膚炎および炎症性浮腫へつながり得て、見苦しい皮膚の状態および不快感の両方、ならびに疼痛さえ与える。
例えば、店舗内または公共交通機関における旅行での長時間のマスク着用が一般大衆に広まったことを伴った最近のSARS-Cov-2ウィルスのパンデミックが、これらの問題が今やより幅広いものとなったことを意味している。特に暑い気候において、これが誘起する行き詰まり感だけでなく、前述の皮膚の問題、特にマスクが正しくフィットしていない場合、かなりの割合の人が不快に感じている。
【発明の概要】
【0003】
ここに、長時間のフェイスマスク着用に関連する問題を、かなり、あるいは完全に軽減させることが可能であることが見出された。したがって、長時間のフェイスマスク着用にさらされる皮膚への有害な影響を軽減する方法であって、マスク着用の前に、潜在的に影響を受ける皮膚に、式
【化1】
を有するポリグリコシル化されたルチンを含む調製物を塗布することを含み、50%モル濃度を超えるグリコシル化されたルチンが2より大きいnを有する、前記方法を提供する。
【0004】
長時間のマスク着用の有害な影響を防止するための皮膚への塗布用生成物の調製において、上文に定義したポリグリコシル化されたルチンの使用を、さらに提供する。
【0005】
ポリフェノールフラボノイドであるルチンのグリコシル化は、例えば、Journal of Microbiology and Biotechnology Volume 26 Issue 11, pp.1845-1854 (2016)、および米国特許5145781から、当技術分野においてよく知られている。グリコシル化されたルチンは、ルチンのそれよりも優れている、その水溶性で知られており、それによってルチンを容易に利用可能としている。それが、有用な生理学的特性、ならびに抗老化特性をも有することが知られている。しかしながら、長時間のマスク着用の問題に対する解決策として機能するであろうことは知られていなかった。
【0006】
ルチンのグリコシル化は、グルコース単位の4番目の炭素で起こる。このプロセスによって、常にnの値は1から上の範囲に広がる結果となる。この開示において、n>2であるグリコシル化されたルチンは、グリコシル化されたルチンの大部分、50%より高い、より具体的には60%より高いモル濃度を含む。具体的な態様において、nの平均値は2~11、具体的に少なくとも3、より具体的には3~4である。
上述の水溶性の向上は、特にnが3~4である場合に、上文に記載したポリグリコシル化されたルチンの注目に値する利点である。ルチン自体は比較的不溶性(0.125g/L)であるが、n=3~4では、水溶性は約1830g/L、すなわちルチンの14,000倍、まで上昇する。これにより、ルチンがかなり富化された生成物を調製することができるようになる。
【0007】
上文に言及した通り、ルチンのグリコシル化はよく知られており、当技術分野で知られている任意の方法で調製してよい。
ポリグリコシル化されたルチンは、皮膚に塗布される生成物(例えばローションのクリーム)に組み込まれることがある。かかる生成物中のポリグリコシル化されたルチンの割合は、生成物の性質に依存して大きく変動することがあるが、典型的な割合は、組成物の0.5重量%~4重量%、具体的には1~2重量%である。
【0008】
したがって、長時間のマスク着用の有害な影響を防止するために皮膚に塗布されるのに適応した組成物も提供され、その組成物は、本明細書に上述のとおりのポリグリコシル化されたルチンを含む。
かかる生成物は、技術的に認められた割合で、顔に塗布される生成物中に使用される通例の原料を含有してもよい。代表的な非限定的原料は、水、キレート剤、紫外線吸収剤、保湿剤、防腐剤、増粘剤、シリコーン、精油、フレグランス、レオロジー改質剤、ビタミン、医薬成分、抗酸化剤、保湿剤、および乳化剤を包含する。
長時間のマスク着用に先立ち、かかる生成物を皮膚へ塗布することが、かかる状況において一般的に体験される有害な影響を大幅に軽減することが見出された。
【実施例】
【0009】
本開示は、具体的な態様を記載する以下の実施例を参照してさらに記載されるが、これらはいずれにしても限定することを意味するものではない。
【0010】
例1
ポリグリコシル化されたルチンの調製
以下の原料を使用した:
・反応媒体組成物:
- ルチン 131.5g
- アルファ-シクロデキストリン 658g
- 酢酸ナトリウム緩衝剤 pH5.7 4500g
- シクロデキストリン-グルカノトランスフェラーゼ* 6.57g(,22.3kNU)
※Toruzyme(商標)3.0Lを使用した。
原料を混ぜ合わせ、70℃にて16時間攪拌した。pH2.5以上の硫酸を加えて反応を停止させ、混合物をろ過した。濾液を吸着樹脂で精製し、望ましくない副生成物を除去し、エタノールと水(>60%)との混合物を用いて樹脂を溶離することによってルチン誘導体を回収した。
【0011】
生成物の分析は以下の結果を示した-G1=1グルコシド単位、G2=2グルコシド単位、G3=3グルコシド単位等々。
G1
1H NMR (DMSO-d6):0.95, 3.06, 3.11, 3.24, 3.26, 3.29, 3.31, 3.34, 3.37, 3.4, 3.42, 3.43, 3.43,3.48 3.49, 3.57, 3.74, 4.44, 4.98, 5.37, 6.2, 6.39, 6.86, 7.53, 7.53 ppm.
13C NMR (DMSO-d6): δ = 18.1, 60.9, 67.3, 68.7, 69.9, 70.8, 70.9, 72.2, 72.8, 73.6, 73.9, 74.4, 76.6, 80.5, 94, 99.1, 101.2, 101.4, 101.7, 104.3, 115.6, 116.6, 121.5, 122, 133.6, 145.1, 148.8, 156.7, 157.1, 161.6, 164.4, 177.7 ppm.MS: m/z (%) 609 (100) [M+].
【0012】
G2
1H NMR (DMSO-d6):0.95, 3.06, 3.07, 3.23, 3.26, 3.3, 3.3, 3.3, 3.36, 3.36, 3.37, 3.42, 3.42, 3.45, 3.51, 3.53, 3.61, 3.63, 4.42, 4.99, 4.99, 5.38, 6.19, 6.39, 6.85, 7.53, 7.53 ppm.
13C NMR (DMSO-d6): δ = 18.1, 60.4, 61.1, 66.8, 68.7, 70.2, 70.8, 70.9, 72.2, 72.2, 72.3, 73, 73.5, 73.6, 73.9, 74, 74.3, 76.4, 79.7, 80.6, 94.1, 99.1, 101, 101.3, 101.4, 101.4, 104.2, 115.7, 116.6, 121.4, 121.9, 133.5, 145.1, 148.9, 156.8, 157, 161.3, 164.7, 177.6 ppm.MS: m/z (%) 934 (100) [M+].
【0013】
G3
1H NMR (DMSO-d6):0.95, 3.06, 3.07, 3.22, 3.26, 3.3, 3.3, 3.3, 3.3, 3.37, 3.37, 3.37, 3.38, 3.42, 3.42, 3.47, 3.5, 3.55, 3.55, 3.6, 3.63, 3.63, 4.42, 4.98, 4.99, 5, 5.37, 6.18, 6.37, 6.85, 7.52, 7.54.
13C NMR (DMSO-d6): δ = 18.1, 60.4, 61.1, 66.8, 68.6, 70.2, 70.8, 70.9, 72.1, 72.1, 72.2, 72.3, 72.3, 72.9, 73.4, 73.4, 73.6, 73.8, 74, 74.3, 76.3, 79.7, 79.8, 80.6, 94, 99.2, 101, 101, 101.4, 101.4, 104.1, 115.7, 116.5, 121.4, 121.9, 133.5, 145.1, 148.9, 156.8, 156.9, 161.5, 165, 177.6 ppm.MS: m/z (%) 934 (100) [M+].
G4 MS: m/z (%) 1259 (100) [M+].
G5 MS: m/z (%) 1421 (100) [M+].
G6 MS: m/z (%) 1583 (100) [M+].
G7 MS: m/z (%) 1745 (100) [M+].
G8 MS: m/z (%) 1907 (100) [M+].
G9 MS: m/z (%) 1035 (100) [M+].
G10 MS: m/z (%) 1116 (100) [M+].
G11 MS: m/z (%) 1197 (100) [M+].
上の式中、nの平均値は4であった。
【0014】
例2
スキンクリームの製剤。
以下の原料(全て重量部)を混合することによってスキンクリームを調製した:
【0015】
【0016】
比較のため、上に示した処方に従ってプラセボのスキンクリームを調製したが、例1の生成物をさらに水で置き換えた。以下、このクリームを「プラセボ」と呼ぶ。
【0017】
例3
クリームの試験
被験者は、18歳以上であり、口の周りに敏感肌を有することがわかっている女性20人であった。
被験者は、朝に1回および夕方に1回、毎日2回クリームを顔に塗布した。彼女らはクリームの素性を知らずに、顔の各半分に1種ずつ、顔の両側に一貫して同じクリームを使用して、両方のクリームを塗布した。彼女らは2時間、サージカルマスクを着用した。
【0018】
(a)赤斑および血管新生試験。
長時間のマスク着用の問題のひとつは、皮膚上に小さな赤斑が発生することである。もうひとつは血管新生であって、皮膚の表面近くの毛細血管の伸長の結果として、顔の赤みが増大することである。
斑点は、単純に数を数えることによって査定し得る。血管新生は、VISA(登録商標)2.3の偏光を使用して査定し得る。
顔のデジタル写真を、Canfield(登録商標)イメージングシステムのVisia(登録商標)CR2.3を用いて、異なる時に撮った。リポジショニングの制御は、各データ取得時での画像のオーバーレイ視覚化法を使用して、データ処理画面上で直接行われる。Visia(登録商標)CR2.3は、さまざまなタイプの照明で撮影すること、ならびに極めて迅速な画像取り込みを可能にする。マルチスペクトル撮影で一連の写真を撮影し、分析によって、皮膚の外観に影響を及ぼす視覚情報をとらえられるようになる。写真は顔半分ごとに作成した。
【0019】
分析は、RBX写真にMaestro(登録商標)ソフトウェアを使用して行い、赤斑および形体(血管新生)を測定した。RBX写真は、赤斑および皮膚の血管新生を強調し、ソフトウェアは赤斑および赤い形体(赤斑+血管新生を意味する)の数を数値化する。鎮静効果が、赤斑および血管新生の低減によって実証される。
24時間後、プラセボを用いて処置した範囲においては、赤斑の数が平均15.3%増大したのに対し、本例を用いて処置した範囲においては、斑点の数が23.1%減少し、これは24時間にわたる赤斑の総合差が38.4%であったことを意味する。
全体的な赤い形体(プラセボ+血管新生)の査定は、6.1%の全体での低減(プラセボに対しては4.5%の増大、見本に対しては1.6%の減少)を示した。
【0020】
(b)高色素沈着試験
長時間のマスク着用でのもうひとつの共通の問題は、マスクの範囲に茶色の斑点が出現する高色素沈着である。これらを、24時間後および4日後に数えることによって査定した。この査定は、上述の方法、Visia(登録商標)CR2.3機器、およびMaestro(登録商標)ソフトウェアを使用して実行した。
【0021】
茶色の斑点測定用の標準化された写真を使用して分析を行った。
24時間後、被験者は、3.4%の全体的な改善(プラセボに対しては1.3%多く、本例に対しては2.1%少ない茶色の斑点)を示し、4日後には全体的な改善は、3.5%(プラセボに対しては1.1%多く、本例に対しては2.4%少ない)であった。
【0022】
被験者の自己査定
被験者に、24時間後に個々のクリームを査定するように求めた。結果を以下に示す。
【0023】
【国際調査報告】