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特表2024-533749艶消し剤を含むリヨセル繊維および織物生地の製造のためのその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】艶消し剤を含むリヨセル繊維および織物生地の製造のためのその使用
(51)【国際特許分類】
   D01F 1/10 20060101AFI20240905BHJP
   D03D 15/225 20210101ALI20240905BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20240905BHJP
【FI】
D01F1/10
D03D15/225
D03D15/20 100
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518998
(86)(22)【出願日】2022-09-28
(85)【翻訳文提出日】2024-05-24
(86)【国際出願番号】 EP2022076890
(87)【国際公開番号】W WO2023052380
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】21199580.8
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507127314
【氏名又は名称】レンチング アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(72)【発明者】
【氏名】オズテュルク,ヘイル バハール
(72)【発明者】
【氏名】ウルリッヒ,ジュリア
(72)【発明者】
【氏名】メイヤー,ラモナ アンニャ
【テーマコード(参考)】
4L035
4L048
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035JJ05
4L035JJ07
4L035JJ10
4L035KK01
4L048AA13
4L048AA33
4L048AA34
4L048AA56
4L048CA15
4L048DA01
4L048EB00
(57)【要約】
本発明は、艶消し剤を含有するリヨセル繊維であって、前記艶消し剤は、繊維重量に対して、2重量%~5重量%のBaSOおよび1重量%未満のTiOを含み、前記艶消し剤は、微粒子の形態で繊維マトリックス内に組み込まれている、リヨセル繊維を示す。
本発明はさらに、織物生地の製造のための前記繊維の使用および前記繊維を含有する織物生地に関する。
【選択図】図1a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
艶消し剤を含むリヨセル繊維であって、前記艶消し剤は、繊維重量に対して、2重量%~5重量%のBaSOおよび1重量%未満のTiOを含み、前記艶消し剤は、微粒子の形態で繊維マトリックス内に組み込まれていることを特徴とするリヨセル繊維。
【請求項2】
前記艶消し剤が、繊維重量に対して、3重量%~5重量%のBaSOおよび0.5重量%~0.9重量%のTiOを含むことを特徴とする、請求項1に記載のリヨセル繊維。
【請求項3】
前記BaSO微粒子が、1.5μm未満のx50および4μm未満のx99によって定義される粒径分布を有することを特徴とする、請求項1または2に記載のリヨセル繊維。
【請求項4】
前記TiO微粒子が、1μm未満のx50および2μm未満のx99によって定義される粒径分布を有することを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のリヨセル繊維。
【請求項5】
前記繊維が、1.1dtex~2.5dtex、好ましくは1.3dtex~2.0dtexの繊度を示すことを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載のリヨセル繊維。
【請求項6】
織物生地の製造のための、請求項1~5のいずれかに記載のリヨセル繊維の使用。
【請求項7】
前記生地の前記製造が、前記リヨセル繊維を使用して糸を紡糸すること、および前記糸の少なくとも一部を染色すること、より具体的にはインジゴ染料で染色することを含むことを特徴とする、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載のリヨセル繊維を含む少なくとも第1の糸と、第2の糸とを有する織物生地であって、前記第1および前記第2の糸が織り混ぜられて前記織物生地を形成する、織物生地。
【請求項9】
前記第2の糸が、請求項1~5のいずれかに記載のリヨセル繊維を含むことを特徴とする、請求項8に記載の織物生地。
【請求項10】
前記生地が、60%以上のしわ回復率を有することを特徴とする、請求項8または9に記載の織物生地。
【請求項11】
前記生地が、0.75以上、より好ましくは0.8以上の不透明度を有することを特徴とする、請求項8~10のいずれかに記載の織物生地。
【請求項12】
前記生地がデニム生地であり、および前記第1の糸がその表面にインジゴ染料を含むことを特徴とする、請求項8~11のいずれかに記載の織物生地。
【請求項13】
前記第1および/または第2の糸が、反応染色、直接染色または建染染色されていることを特徴とする、請求項8~11のいずれか一項に記載の織物生地。
【請求項14】
請求項8~12のいずれかに記載の織物生地を含む織物物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、艶消し剤を含むリヨセル繊維、織物生地の製造のための前記リヨセル繊維の使用および前記リヨセル繊維を含む織物生地に関する。
【背景技術】
【0002】
綿は、織物生地の製造のために最も広く使用されている天然セルロース系繊維である。綿は極めて耐久性のある繊維であり、激しく過酷な処理(例えば、デニムランドリーなど)に供することができるが、その機械的および触覚的特性(例えば、手触り、柔らかさなど)は、一部の用途では必ずしも理想的ではない。
【0003】
セルロース系人工繊維は、多くの用途において綿繊維を完全にまたは部分的に置き換えることができる。この点に関して適切なセルロース系人工繊維には、ビスコースなどの再生セルロース繊維およびリヨセルなどのモダールまたは溶剤紡糸セルロース系繊維が含まれる。リヨセル繊維は、その機械的特性(高い強度など)および他の特性(例えば、湿気管理、グリップなど)のために、綿の代替品として特に適している。特に、手触りおよび柔らかさの点で、リヨセル繊維は綿よりも優れていると考えられている。しかしながら、リヨセル繊維は、ある種の用途またはファッション上の理由にとって望ましくない高い光沢を有する。
【0004】
リヨセル紡糸塊中に艶消し剤としてTiOを組み込むことによって、リヨセル繊維の光沢または艶を低減させることができることが従来技術(国際公開第2010/144925号)から公知である。しかしながら、TiO2は非常に硬く、研磨性であり、紡糸装置の部品に対して大きな摩耗をもたらす。強い艶消し効果を達成するためには、大量のTiO2を繊維に組み込む必要があり、これにより、摩耗を増加させ、高価な機器の寿命をさらに短縮させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/144925号
【発明の概要】
【0006】
したがって、本発明は、その機械的強度および手触り、柔らかさなどの他の特性を維持しながら、コスト効率よく製造することができる、綿と同様の外観を有するリヨセル繊維を提供するという目的を有する。
【0007】
本発明は、艶消し剤が繊維重量に対して2重量%~5重量%のBaSOおよび1重量%未満のTiOを含有し得、艶消し剤は微粒子の形態で繊維マトリックス内に組み込まれるという点において、上述の目的を達成する。
【0008】
繊維マトリックス中に2~5重量%のBaSO微粒子を組み込むことによって、従来技術の欠点を克服することができる。
【0009】
さらに、本発明はまた、請求項6に記載の織物生地の製造のために本発明の繊維を使用することによって、上述の目的を解決する。
【0010】
さらに、本発明は、請求項8に記載の織物生地および請求項14に記載の織物物品(textile artic)を提供することによって、上述の目的を解決する。
【0011】
本発明の好ましい態様は、従属請求項に記載されている。
【0012】
図面を参照しながら、本発明の態様の変形例を以下により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1a】実施例1に係る生地の艶消し特性の目視評価の結果を示す。
図1b】実施例2に係る生地の艶消し特性の目視評価の結果を示す。
図2a】赤色反応染料で染色された実施例1に係る生地の艶消し特性の目視評価の結果のCIE LChプロットを示す。
図2b】黒色反応染料で染色された実施例1に係る生地の艶消し特性の目視評価の結果のCIE LChプロットを示す。
図2c】青色反応染料で染色された実施例1に係る生地の艶消し特性の目視評価の結果のCIE LChプロットを示す。
図2d】青色染料で直接染色された実施例1に係る生地の艶消し特性の目視評価の結果のCIE LChプロットを示す。
図2e】緑色染料で直接染色された実施例1に係る生地の艶消し特性の目視評価の結果のCIE LChプロットを示す。
図2f】橙色染料で直接染色された実施例1に係る生地の艶消し特性の目視評価の結果のCIE LChプロットを示す。
図2g】黄色建染染料で染色された実施例1に係る生地の艶消し特性の目視評価の結果のCIE LChプロットを示す。
図2h】赤色建染染料で染色された実施例1に係る生地の艶消し特性の目視評価の結果のCIE LChプロットを示す。
図3a】60°の角度での、実施例1に係る生地の反射測定の結果を示す。
図3b】85°の角度での、実施例1に係る生地の反射測定の結果を示す。
図3c】60°の角度での、実施例2に係る生地の反射測定の結果を示す。
図3d】85°の角度での、実施例2に係る生地の反射測定の結果を示す。
図4a】本発明に係る艶消しされたリヨセル繊維の繊維表面を示すSEM画像を示す。
図4b】本発明に係る艶消しされたリヨセル繊維の繊維表面を示すSEM画像を示す。
図4c】本発明に係る単一の艶消しされたリヨセル繊維の繊維断面を示すSEM画像を示す。
図4d】本発明に係る複数の艶消しされたリヨセル繊維の繊維断面を示すSEM画像を示す。
図4e】標準的なリヨセル繊維の繊維表面を示すSEM画像を示す。
図4f】綿繊維の繊維断面を示すSEM画像を示す。
図5】本発明に係る艶消しされたリヨセル繊維ならびに比較用の標準的なリヨセル繊維および綿繊維の非染色ツイル生地に対するTSAスペクトルの比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第1の態様によれば、艶消し剤は、2重量%~5重量%のBaSOおよび1重量%未満のTiOを含み、艶消し剤は微粒子の形態で繊維マトリックス内に組み込まれる。BaSOおよびTiOの重量%値は、繊維重量に対して特定されている。
【0015】
BaSOの柔らかく、非研磨性の機械的特性により、紡糸装置のすべての部品の摩耗を低減することができ、したがって紡糸装置の耐用年数を延ばすことができる。さらに、少量のTiO(1重量%未満)と2~5重量%のBaSOの組み合わせは、繊維に強い艶消し効果をもたらし、綿に似た外観をもたらすことが見出された。繊維を染色した後でさえ、艶消し効果は依然として残存し、本発明の繊維は、デニム生地などのあらゆる種類の織物用途に適したものとなる。本発明の繊維によって所望の艶消し効果を達成することができるが、リヨセル繊維から作られた布地から知られている柔らかさおよび手触り、ならびに機械的特性は本質的に不変のままである。したがって、機械的繊維特性を犠牲にすることなく、艶消し外観を有するリヨセル繊維を提供することができ、これはコスト効率よく製造することもできる。
【0016】
本発明の好ましい態様において、艶消し剤は、繊維重量に対して、3重量%~5重量%のBaSOおよび0.5重量%~0.9重量%の%TiOを含む。TiOの量を0.9重量%未満に低下させることによって、3~5重量%のBaSOと組み合わせて強力な艶消し効果を提供しながら、紡績機器部品に対する研磨作用を最小限に抑えることができる。
【0017】
なおさらなる好ましい態様において、艶消し剤は、繊維重量に対して、3.5重量%~4.5重量%のBaSO、より好ましくは3.8重量%~4.2重量%のBaSOおよび0.6重量%~0.8重量%TiOを含む。
【0018】
さらなる態様において、BaSO4微粒子は、1.5μm未満のx50および4μm未満のx99によって定義される粒径分布を有し得る。
【0019】
さらなる態様において、TiO2微粒子は、1μm未満のx50および2μm未満のx99によって定義される粒径分布を有し得る。
【0020】
本発明の文脈において、x50値は粒径分布の平均粒径を表し、x99値は、全粒子の99%がx99より小さい粒径を表す。
【0021】
粒径分布は、デジタル画像分析と組み合わせた顕微鏡写真法によって繊維上に対して測定することができる。
【0022】
艶消し剤は、繊維の紡糸の前に、セルロース溶液(すなわち、リヨセル紡糸塊)に添加される。したがって、艶消し剤は、好ましくは、分散装置の助けを借りてBaSO微粒子および任意でTiO微粒子があらかじめ水中に分散されている懸濁液の形態で紡糸塊に添加される。上述の粒径分布の形態で微粒子を供給することにより、紡糸塊中での、その後に繊維中での微粒子の極めて均一な分布が可能である。
【0023】
上記のようなBaSO微粒子を紡糸塊に添加することによって、繊維中での微粒子の均一な分布がもたらされ、強い機械的特性(例えば、高い引張強度)を有するリヨセル繊維が得られることが見出された。これにより、微粒子は主に繊維コアの中心に配置されることが見出された。繊維構造の弱化、繊維表面での増加したフィブリル化または研磨特性は観察することができなかった。したがって、高い機械的強度を有する改善された艶消しされたリヨセル繊維が提供され得る。
【0024】
有利には、本発明のリヨセル繊維は、1.1dtex~2.5dtex、好ましくは1.3dtex~2.0dtexの繊度(titre)を示す。
【0025】
さらに、上述の本発明のリヨセル繊維は、織物生地の製造のために有利に使用され得る。
【0026】
本発明の一態様によれば、生地の製造は、リヨセル繊維を使用して糸を紡糸すること、および糸の少なくとも一部を染色すること、より具体的にはインジゴ染料で染色することを含む。
【0027】
リヨセル繊維またはリヨセル繊維から作られた生地を特にインジゴ染料(dyes)(インジゴ染料(dyestuff))で染色すると、繊維の自然な光沢がさらに増加する。リヨセル繊維は、固有の繊維特性(例えば、滑らかな断面)のために自然な光沢を有する。リヨセル繊維と鮮やかな顔料(例えば、インジゴ、反応性、直接または他のダイカラー)の組み合わせは、光沢のある生地表面をもたらす。インジゴリヨセル生地はインジゴ綿生地よりも光沢があるので、このようなリヨセルのデニム生地の艶消しバージョンがファッション業界で求められている。
【0028】
本発明において、「デニム」という用語は、織り方または縁取り(binding)の種類によって特徴付けられるだけでなく、特性の特徴的な組み合わせを示す生地のカテゴリを指す。伝統的なデニム生地には綾織が使用されていたが、現代の織物産業においては、他の種類の織物縁取り(帆布または朱子織など)も確立されている。しかしながら、すべてのデニム生地は、染色された経糸および染色されていない緯糸を有する丈夫な織布を特徴とし、経糸は表面染色されているが、経糸の芯は染色されないままであり、これがデニムに典型的な色褪せ特性(fading characteristics)をもたらす。経浮きの(warp-faced)織り方のために、デニムは外側が着色され、内側が白色(すなわち、染色されていない)である。これにより、好ましくは、経糸を染色するためにインジゴ染料が使用される。
【0029】
極めて一般的なデニム生地は、経糸がインジゴ染色された綿糸を含み、緯糸が染色されていない綿糸を含む織布である。しかしながら、デニム生地の変型は無限であり、例えば、緯糸は染色された繊維(例えば、原液着色された)を含有してもよく、インジゴ染色された経糸には硫化染料などで別の色を着けることができる。
インジゴ染色された綿糸を含有するニット生地(例えば、円形の、平坦なまたは継ぎ目のないニット)など、他のデニム生地も無限である。綿の代わりに、他のセルロース系の糸(リヨセル、モダール、ビスコースなど)をインジゴ染色のために使用することもできる。インジゴおよびその他の抜染可能な染料のおかげで、デニム生地は、衣類の洗濯中に(オゾン、レーザ等)洗い落された/使用された外観を呈する能力を有する。
【0030】
糸を紡糸し、その後、糸の少なくとも一部を染色するために本発明の繊維を使用することにより、本発明の繊維の利点が十分に利用され得る。特に、本発明の繊維は、染色後でさえも、綿と同様の艶消し外観を提供することが見出された。これは、以下のいくつかの実施例を代表してさらに実証される。
【0031】
本発明の一態様において、第1および第2の糸は織り合わされて織布を形成し得、第1の糸は経糸であり、第2の糸は緯糸であり、またはその逆である。
【0032】
特に、織布は、ツイル生地、帆布生地、スタチン(statin)生地などであってもよい。
【0033】
さらなる態様において、織布は、100g/m~300g/m、好ましくは150g/m~250g/m、より好ましくは175g/m~225g/mの坪量(basis weight)を有する2/1ツイル生地であり得る。経糸は、20~60エンド/cm、好ましくは30~50エンド/cm、より好ましくは32~48エンド/cmを有する。緯糸は、10~35ピック/cm、好ましくは15~30ピック/cm、より好ましくは18~28ピック/cmを有する。このようなツイル生地は、非染色状態および(多様な異なる染料を使用した)染色状態のいずれにおいても、優れた不透明度および艶消し特性を示し得る。さらに、このような生地は、標準的なリヨセル繊維と同等の高い滑らかさおよび柔らかさを示す。
【0034】
さらなる態様において、第2の糸は、請求項1~5のいずれかに記載のリヨセル繊維も含む。代替の態様において、第2の糸は、綿繊維または人工セルロース系繊維などの他のセルロース系繊維、またはポリエステルなどの合成繊維も含むことができる。
【0035】
さらなる態様において、生地は、60%以上のしわ回復率を有する。しわ回復率は、Phabrometerを使用して、標準的なAATCC 202-2020(American Association of Textile Chemists and Colorists)に従って測定される。
【0036】
さらなる態様において、織物生地は、0.75以上、より好ましくは0.8以上の不透明度を有する。
【0037】
好ましい態様において、生地はデニム生地であり、第1の糸はその表面にインジゴ染料を含む。本発明の繊維の艶消し効果により、前記繊維で作られたデニム生地は、生地をインジゴ染料で染色した後でさえ残存し得るしっかりした艶消し効果を有する。したがって、本発明の繊維は、デニムなどのインジゴ織物における用途に完全に適している。
【0038】
別の好ましい態様では、第1および/または第2の糸は、反応染色、直接染色または建染染色される。インジゴ染料による染色に加えて、本発明の繊維の利点は、反応染料による染色、直接染色または建染染料による染色の場合にも得られる。
【0039】
上述のような生地は、有利には、ジーパン、シャツ、Tシャツ、ドレス、ズボン、ジャケットなどの織物製品において使用され得る。
【実施例
【0040】
以下では、本発明のリヨセル繊維から作られた織物の実施例について本発明をさらに実証する。
【0041】
繊維特性の評価のために、織物生地は、標準的な(艶消しされていない)リヨセル繊維および綿繊維から作られた同等の生地と比較される。
【0042】
実施例1
第1の実施例では、艶消し剤として、約4重量%のBaSOおよび約0.75重量%のTiOを含有する本発明のリヨセル(CLY)繊維から、白色の染色されていないツイル織布を製造した(さらに、「CLY艶消しツイル生地」と呼ばれる)。
【0043】
BaSO微粒子は、x10=0.42μm、x16=0.56μm、x50=1.09μm、x84=1.78μm、x90=2.05μmおよびx99=3.46μmを特徴とする粒径分布を示した。TiO微粒子は、x10=0.15μm、x16=0.18μm、x50=0.44μm、x84=0.93μm、x90=1.08μmおよびx99=1.49μmを特徴とする粒径分布を示した。
【0044】
それにより、リヨセル繊維は、1.7dtexの繊度および38mmのステープル長を有していた。
【0045】
生地組織は、約200g/m2の坪量、経糸:38エンド/cm、緯糸:20ピック/cmを有する2/1ツイルであった。糸特性は、経糸については約Ne20、緯糸についてはNe24であった。
【0046】
比較のために、1.3dtexの繊度および38mmのステープル長を有する標準的なリヨセル繊維を使用して、上で定義した特性を有する2/1ツイル生地を製造した(「CLY標準ツイル生地」と称する。)。
【0047】
さらに、比較のために、上で定義した特性を有する綿2/1ツイル生地を製造した(「綿ツイル生地」と呼ばれる)。
【0048】
実施例2
第2の実施例では、実施例1で指定されたのと同じ量および特性の艶消し剤を含有するリヨセル繊維からデニムツイル織布を製造した(「CLY艶消しデニム生地」と呼ばれる)。
【0049】
リヨセル繊維はまた、1.7dtexの繊度および38mmのステープル長を有していた。
【0050】
生地組織は、約200g/m2の坪量、経糸:42エンド/cm、緯糸:25ピック/cmを有する2/1ツイルであった。経糸はインジゴ染色されており、緯糸は未染色のままである。
【0051】
同じく、比較のために、1.3dtexの繊度および38mmのステープル長を有する標準的なリヨセル繊維ならびに綿繊維の両方を使用して、上で定義した特性を有するデニム生地を製造した(「CLY標準デニム生地」および「綿デニム生地」と呼ばれる)。
【0052】
艶消し特性-目視評価
第1に、内部調査を実施することによって、実施例1および2の生地の艶消し特性を視覚的に評価し、第2に、CIELCh色空間を分析することによって評価した(CIELCh色空間は、国際照明委員会によって定義されている)。
【0053】
図1aには、実施例1に係る生地の目視評価の結果が示されている。左側には、白色綿ツイル生地の調査が示されており、中央には、艶消し剤を含む本発明の白色リヨセルツイル生地の調査が示されており、右側には、標準的なリヨセルツイル生地の調査が示されている。
【0054】
白色綿ツイル生地は、43%の人によって光沢がない(1)と認識され、41%の人によって多少光沢がない(2)と認識される。0%の人が綿ツイル生地を光沢があると認識した(5)。
【0055】
実施例1に係る本発明の艶消しされたリヨセルツイル生地は、43%の人によって光沢なしでも光沢ありでもないと認識され(3)、22%の人によって多少光沢がない(3)と認識される。7%が実施例1に係る本発明の艶消しされたリヨセルツイル生地を光沢がない(1)と認識した一方、10%が光沢がある(5)と認識した。
【0056】
標準的なリヨセルツイル生地は、47%の人によって多少光沢がある(4)と認識され、さらに12%によって光沢がある(5)と認識される。0%が、標準的なリヨセル生地を光沢がない(1)と考えた。
【0057】
この調査は、ツイル生地を製造するために使用されたときに、本発明の繊維がしっかりした艶消し効果を生じることを明確に示している。綿はさらにいっそう光沢がないものとして認識されるが、標準的なリヨセル生地を上回る著しい改善を認めることができる。
【0058】
図1bには、実施例2に係る生地の目視評価の結果が示されている。左側には、綿デニム生地の調査が示されており、中央には、艶消し剤を含む本発明のリヨセルデニム生地の調査が示されており、右側には、標準的なリヨセルデニム生地の調査が示されている。
【0059】
上記と同様に、調査結果から、本発明の繊維の艶消し効果の著しい改善を認めることができる。実施例2に係るデニム生地では、その効果は、実施例1に係る白色ツイル生地よりさらにいっそう顕著である。標準的なリヨセルデニム生地では、染色により光沢が増加するが、本発明の艶消しされたリヨセル繊維は、インジゴで染色した後さえ、その無光沢または艶消し効果を保持し、外観を全体的に綿により似たものとする。
【0060】
艶消し特性-CieLCh色空間
以下では、CieLCh色空間によって、実施例1および実施例2の生地の艶消し特性を分析する。すべての測定は、10°の角度下でD 65光源を使用して行われる。
【0061】
L*C*h色空間は、そのシステムが人間の目が色を知覚する方法とよく相関するので、一部の業界専門家に好まれている。L*C*h色空間は、L*a*b*色空間と同じ図式を有するが、直交座標の代わりに円筒座標を使用する。
【0062】
この色空間において、Lは明度を示し、Cは彩度を表し、hは色相角である。彩度Cの値は、明度軸Lからの距離であり、中心にある0から始まる。色相角は+a軸から始まり、度で表される(例えば、0°は+aまたは赤色であり、90°は+bまたは黄色である。)。
【0063】
L軸は、色の明度(輝度)を記載する。正のLは、製品がより明るい色を有することを意味する。負のLは、製品がより暗い色を有することを意味する。
【0064】
C軸は、色の彩度を記載する。より高い値はより鮮やかな色を意味し、より低い値はより光沢のない色を意味する。
【0065】
h軸は、しわの色相を記載する。
【0066】
表1には、実施例2に係る本発明のリヨセル艶消し、リヨセル標準および綿デニム生地のCieLCh値が示されている。これらの値は、基準としてのリヨセル標準の値に対するΔ値として表されている。前記Δ値から、パラメータの変化を容易に識別することができる。
【0067】
【表1】
【0068】
表1から、本発明に係るリヨセル艶消しデニム生地は、標準的なリヨセル繊維からのデニム生地より低い彩度(ΔC=-0.53)を有し、したがってより光沢がないことが明らかになる。
【0069】
さらなる評価のために、繊維特性が唯一の異なるパラメータであるように、同じ染色条件であるが別々の染浴で、実施例1に係る白色ツイル生地を赤色、黒色および青色の反応染料、青色、緑色および橙色の直接染料または黄色および赤色建染染料のいずれかで染色した。表2は、それぞれ異なる染料についての、リヨセル艶消し、リヨセル標準および綿生地のCieLCh値を示す。ほとんどすべての染料/顔料についてリヨセル標準生地より本発明のリヨセル艶消し生地のL値がより高いことは、標準的なリヨセルと比較して艶消しリヨセルの明度/光沢度がより低いことを証明する。染色された綿生地は、艶消しリヨセルおよび標準的なリヨセルと比較して、最も低い明度/光沢度を有することが明らかとなった。
【0070】
それぞれ、図2a~図2cは、反応染色された織物のCIE LChプロットを示し、図2d~図2fは、直接染色された織物のCIE LChプロットを示し、図2g~図2hは、建染染色された織物のCIE LChプロットを示す。
【0071】
【表2】
【0072】
反射測定
図3a~図3dは、それぞれ60°および85°での実施例1および2に係る生地の光沢値の決定を示す。光沢値は、Dr.Lange社の反射計REFO 3-Dによって、DIN EN ISO 2813:2015-02に従って決定した。
【0073】
試験は、(織り手によって印がつけられた)物品の右側のサンプルに対して行われた。非反射性の背景(黒色の分光計紙)上のサンプル材料に対して、角度設定当たり10回の測定を行った。材料の経糸/緯糸方向に対して縦方向、斜め方向および横方向に測定を行った。測定前に、20℃、65%の相対湿度で少なくとも24時間、サンプルの温度および湿度を調整した。
【0074】
図3a~図3dに示されている値が高いほど、光沢はより強くなる。
【0075】
図3aおよび図3bから明らかなように、本発明のリヨセル艶消し繊維からおよび綿繊維から作製された実施例1に係る白色ツイル生地は極めて類似した反射値を示すのに対して、リヨセル標準繊維から作製された織物の値は著しくより高く、したがって、リヨセル標準繊維から作製された織物はより強い光沢を有する。
【0076】
図3cおよび図3dに図示されているように、実施例2に係るデニム生地に対しても同様の観察を行うことができる。すべての場合において、本発明のリヨセル艶消し繊維および綿繊維から作製された生地の反射値は、リヨセル標準繊維から作製された生地より低く、同様により強い光沢を示す。
【0077】
本発明の不透明度特性
さらに、本発明に係る艶消し剤を含有するリヨセル繊維を使用した生地の不透明度を分析する。
【0078】
本発明の文脈における不透明度は、調査された織物の不透明度(opacity)または不透明性(opaqueness)を指す。不透明度は、0と1(または0%と100%)の間の無単位の数として示され、0で完全な透明度が存在し、値が増加するにつれて透明度が減少する。1では、それぞれの材料は完全に不透明である。
【0079】
すべての測定において、不透明度は、較正用の付属品セットを含むKonica Minolta CM600d分光光度計(Q425F168、Inv.No.71559)を用いて570nmの波長で測定された。SpectramagicNXソフトウェアを備えた同梱のコンピュータ(ラップトップ)を評価のために使用した。TQC-Test(Chart Art.番号VF2345バッチ番号227270)およびGreenタイルCM-A101GNを使用して、測定を較正した。
【0080】
NWSP060.4.R0.20(不織布の不透明度の測定に関して定義されている)に従って、上記の設定で不透明度値を決定した。
【0081】
表3には、上記のような実施例1に係る染色されていないツイル生地の測定された不透明度値が示されている。表3では、本発明のリヨセル艶消し繊維から作製されたツイル生地が、綿から作製されたツイル生地と同様に、最も高い不透明度を有することを認めることができる。いずれも、リヨセル標準繊維から作製された生地より著しく高い不透明度を有する。
【0082】
【表3】
【0083】
さらに、表4には、本発明に係るリヨセル艶消し繊維からおよびリヨセル標準繊維から作製された単一のニットジャージー生地(Ne20/1リング精紡機で作製、110gsm)の測定された不透明度値が示されており、生地は異なる染料で染色された。
【0084】
染料の取り込みに関して繊維間で差が存在しないように、同じレシピを使用して異なる染料浴で生地の染色を行った。
【0085】
表4から分かるように、リヨセル艶消し繊維からの着色されたジャージーニット生地は、リヨセル標準繊維から作製された同様のジャージーニット生地より一貫してより高い不透明度値を示す。
【0086】
【表4】
【0087】
繊維の滑らかさ
図4a~図4dには、本発明に係るリヨセル艶消し繊維の表面(図4a、図4b)および断面(図4c、図4d)のSEM(走査型電子顕微鏡法)画像が示されている。
【0088】
図4eには、リヨセル標準繊維の表面のSEM画像が示されており、図4eには、綿繊維の断面が示されている。
【0089】
SEM画像は、繊維表面が滑らかであり、艶消し剤の組み込みによって引き起こされる目に見える欠陥がないことを明確に示している。これは、リヨセル繊維から予想されるように、滑らかな規則的形状および目に見える欠陥のない断面を示す断面画像からも認めることができる。したがって、艶消し剤は、繊維マトリックス中に微細に分散されており、凝集などを形成しない。
【0090】
機械的特性(強度、伸び)
さらに、BISFA標準(「ビスコースステープル繊維の試験方法」)に従って、本発明に係るリヨセル艶消し繊維および比較用リヨセル標準繊維の引張強度および伸びを試験した。
【0091】
繊維の強度および伸びの値を表5に示す。それにより、リヨセル艶消し繊維が、艶消し剤を含まないリヨセル標準繊維と同様の繊維強度および伸びを有することを認めることができる。わずか6%の繊維強度の減少を観察することができる。
【0092】
【表5】
【0093】
さらに、本発明に係るリヨセル艶消し繊維ならびに比較用のリヨセル標準および綿繊維から作製された糸の強度および伸びを評価する。すべての繊維の糸構成は、Ne20(Nm 34,300dtex)、661T/mであった。強度および伸びの値が、それぞれ表6に示されている。
【0094】
【表6】
【0095】
これらの値から、艶消し剤を含有するリヨセル繊維の糸強度および伸びは依然として高く、綿の糸強度および伸びを超えることを明らかに認めることができる。生地の柔らかさ
【0096】
本発明に係るリヨセル艶消し繊維(CLY艶消し)を使用した染色されていないツイル織布(Ne20/1、110gsm)ならびに標準的なリヨセル繊維(CLY標準)および綿繊維を使用した比較用生地の柔らかさおよび表面特性(粗さ/滑らかさ)を、Emtec Electronic(ドイツ)製のTissue Softness Analyzer(TSAB0458型)装置によって測定した。TSAの使用による生地の分析は、当業者に周知である(例えば、Abu-Rous et al.,J Fashion Technol Textile Eng 2018,S4を参照)。
【0097】
TSAの回転部分は、生地表面上を移動する間にノイズを生成し、マイクロフォンによってノイズが捕捉され、その振幅信号に分析される。得られた音波スペクトルにおいては、(dB Vrmsでの)750Hzの信号ピーク(TS750)は回転部分下での生地振動の尺度であり、生地の滑らかさと相関するはずであるのに対して、6500Hzのピーク(TS7)は、生地の表面の上を移動している間に回転部分自体の上での振動を介して発生し、表面繊維の柔らかさの尺度と考えられる。発生したノイズが低いほど、生地はより滑らかであるか、またはより柔らかい(より高いTS750ピークはより高い粗さを意味し、より低いTS7ピークはより高い柔らかさを意味する)。
【0098】
図5は、綿、CLY標準および本発明のCLY艶消し繊維についての、染色されていないツイル織布の測定されたTSAスペクトルを示す。スペクトルから抽出された結果も表8に要約されている。より高いTS750およびTS7ピークは、それぞれ、より低い滑らかさおよびより低い柔らかさに対応する。図5および表8の両方から、本発明に係る艶消しリヨセル繊維で作られたツイル生地は、艶消し剤を含まない標準的なリヨセル繊維と極めて類似した(高い)滑らかさおよび柔らかさを示すことを明らかに認めることができる。他方で、綿繊維から作られたツイル生地は、増加した粗さおよび低下した柔らかさを示す。
【0099】
したがって、請求項に記載されている艶消し剤を含む本発明のリヨセル繊維は、リヨセル繊維に対して通常期待される高い柔らかさと滑らかさを維持することができることが実証される。
【0100】
【表7】

図1a
図1b
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図2f
図2g
図2h
図3a
図3b
図3c
図3d
図4a
図4b
図4c
図4d
図4e
図4f
図5
【国際調査報告】