(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】アトゲパントを含む片頭痛の併用療法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4545 20060101AFI20240905BHJP
A61P 25/06 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
A61K31/4545
A61P25/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519064
(86)(22)【出願日】2022-09-27
(85)【翻訳文提出日】2024-05-24
(86)【国際出願番号】 US2022077061
(87)【国際公開番号】W WO2023049920
(87)【国際公開日】2023-03-30
(32)【優先日】2021-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520330593
【氏名又は名称】アラガン ファーマスーティカルズ インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボインパリー,ラメッシ
(72)【発明者】
【氏名】トルーグマン,ジョエル
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB05
4C086GA16
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA05
4C086NA06
4C086ZA02
4C086ZC41
4C086ZC75
(57)【要約】
本開示は、アトゲパント又は薬学的に許容されるその塩を投与することにより片頭痛を治療するための方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強いCYP3A4阻害薬による並行治療を受けている患者における反復性片頭痛の予防的治療方法であって、前記方法が、アトゲパント10mgを1日1回投与することを含む、方法。
【請求項2】
アトゲパント及び前記強いCYP3A4阻害薬を併用投与する結果として、アトゲパントのC
maxがアトゲパントの単独投与に比較して2.15倍未満に増加する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アトゲパント及び前記強いCYP3A4阻害薬を併用投与する結果として、アトゲパントのAUCがアトゲパントの単独投与に比較して約5.5倍に増加する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記CYP3A4阻害薬が、ケトコナゾール、イトラコナゾール、又はクラリスロマイシンから構成される群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記CYP3A4阻害薬が、イトラコナゾールである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
中程度CYP3A4阻害薬による並行治療を受けている患者における反復性片頭痛の予防的治療方法であって、前記方法が、アトゲパント10mg又は30mg又は60mgを1日1回投与することを含む、方法。
【請求項7】
前記中程度CYP3A4阻害薬が、シクロスポリン、シプロフロキサシン、フルコナゾール、フルボキサミン、及びグレープフルーツジュースから構成される群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
アトゲパント及び前記中程度CYP3A4阻害薬を併用投与する結果として、アトゲパントのAUCがアトゲパントの単独投与に比較して約1.7倍に増加する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
弱いCYP3A4阻害薬による並行治療を受けている患者における反復性片頭痛の予防的治療方法であって、前記方法が、アトゲパント10mg又は30mg又は60mgを1日1回投与することを含む、方法。
【請求項10】
前記弱いCYP3A4阻害薬が、シメチジン又はエソメプラゾールである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
アトゲパント10mg又は30mg又は60mgと前記CYP3A4阻害薬とを併用投与する結果として、アトゲパントのAUCがアトゲパントの単独投与に比較して約1.1倍に増加する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
強い又は中程度CYP3A4誘導薬による治療を受けている患者における反復性片頭痛の予防的治療方法であって、前記方法が、アトゲパント30mg又は60mgを投与することを含む、方法。
【請求項13】
前記CYP3A4誘導薬が、リファンピン、カルバマゼピン、フェニトイン、セントジョーンズワート、エファビレンツ、又はエトラビリンから構成される群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記CYP3A4誘導薬が定常状態に達しているときにアトゲパントを投与する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
アトゲパントを前記中程度又は強いCYP3A4誘導薬と併用投与する場合に、アトゲパントのAUCが、アトゲパントの単独投与に比較して約60%減少する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
OATP阻害薬による治療を受けている患者における反復性片頭痛の予防的治療方法であって、前記方法が、アトゲパント10mg又は30mgを1日1回投与することを含む、方法。
【請求項17】
アトゲパントを前記OATP阻害薬と併用投与する結果として、アトゲパントのCmaxがアトゲパントの単独投与に比較して約2.2倍に増加する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
患者における片頭痛の予防的治療方法であって、前記方法が、アトゲパント10mg又は30mg又は60mgを1日1回投与することを含み、
前記患者にリファンピンを反復投与する場合には、アトゲパントの用量を1日1回30mg又は60mgに調節する、方法。
【請求項19】
リファンピンの反復投与と併用してアトゲパントを投与する結果として、アトゲパントのCmaxがアトゲパントの単独投与に比較して約30%減少する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
重度腎障害(CLcr15~29mL/分)又は末期腎不全(CLcr<30mL/分)を有する患者における片頭痛の予防的治療方法であって、前記方法が、アトゲパント10mgを1日1回投与することを含む、方法。
【請求項21】
軽度又は中等度肝障害を有する患者における片頭痛の予防的治療方法であって、前記方法が、アトゲパント10mg又は30mg又は60mgを1日1回投与することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、片頭痛を治療するための医薬及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
片頭痛は、有病率が高く、重症度と生活支障度の高い神経系病態であり、有効な治療法に対するアンメットニーズが大きい(Holland,P.R.& Goadsby,P.J.Neurotherapeutics(2018))。片頭痛は、全世界で患者数が10億人を上回り、2016年版「世界の疾病負荷研究」(2016 Global Burden of Disease study)で日常生活の支障の原因の第2位として報告されている。GBD 2019 Diseases and Injuries Collaborators.Global Burden of 369 diseases and injuries in 204 countries and territories,1990-2019:a systemic analysis for the Global Burden of Disease Study 2019,Lancet 2020;396:1204-22参照。
【0003】
発作が頻発する場合や、日常生活の支障となる場合には、予防が片頭痛治療の焦点となる。片頭痛の現行の予防的治療法としては、バルプロ酸、フルナリジン、トピラマート、及びプロプラノロール等の経口薬、並びにカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)を標的としたモノクローナル抗体等の注射治療が挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Holland,P.R.& Goadsby,P.J.Neurotherapeutics(2018)
【非特許文献2】2016 Global Burden of Disease study
【非特許文献3】GBD 2019 Diseases and Injuries Collaborators.Global Burden of 369 diseases and injuries in 204 countries and territories,1990-2019:a systemic analysis for the Global Burden of Disease Study 2019,Lancet 2020;396:1204-22
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
片頭痛を予防的に治療する目的で経口CGRP治療薬を使用するための標的法及び投与レジメンが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態において、本開示は、患者における片頭痛の予防的治療方法を提供し、上記患者が、強いCYP3A4阻害薬による並行治療を受けており、上記方法は、アトゲパント(atogepant)10mgを1日1回投与することを含む。
【0007】
実施形態において、本開示は、患者における片頭痛の予防的治療方法を提供し、上記患者が、中程度又は強いCYP3A4誘導薬による並行治療を受けており、上記方法は、アトゲパント30mg又は60mgを1日1回投与することを含む。
【0008】
実施形態において、本開示は、患者における片頭痛の予防的治療方法を提供し、上記患者が、OATP阻害薬による並行治療を受けており、上記方法は、アトゲパント10mg又は30mgを1日1回投与することを含む。
【0009】
実施形態において、本開示は、患者における片頭痛の予防的治療方法を提供し、上記患者が、重度腎障害又は末期腎不全(CLcr<30mL/分)を有しており、上記方法は、アトゲパント10mgを1日1回投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】絶食下の健康な参加者にアトゲパントを単独で投与した後又はリファンピンの単回投与と併用して投与した後における、平均血漿中アトゲパント濃度-時間プロファイルを示す。
【
図2】絶食下の健康な参加者にアトゲパントを単独で経口投与した後又はリファンピンの反復投与と併用して投与した後における、平均血漿中アトゲパント濃度-時間プロファイルを示す。
【
図3】アトゲパント60mgを単独で投与した後又は強いCYP3A4阻害薬であるイトラコナゾールの定常状態共存下で投与した後における、平均血漿中アトゲパント濃度を示す。
【
図4】アトゲパント60mgを単独で投与した後又は定常状態イトラコナゾールの共存下で投与した後における、平均血漿中アトゲパント濃度の片対数プロットを示す。
【
図5】
図5Aは、軽度、中等度、又は重度肝障害を有する参加者、及び肝機能が正常な参加者(各群N=8)に、アトゲパント60mgを単回経口投与後の平均血漿中アトゲパント濃度-時間プロファイル(線形目盛)を示す。
図5Bは、対応する片対数プロットを示す。
図5Aは、72時間までの完全プロファイルを示し、
図5Bは、8時間までの部分プロファイルを示す。
【
図6】試験1(NCT03777059)における月間片頭痛日数のベースラインからの平均変化量を示す。
【
図7】試験1における12週間の治療期間を通しての平均月間片頭痛日数(MMD)のベースラインからの変化量の分布を投与群毎に2日刻みで示す。
【
図8】試験2(NCT02848326)におけるMMDのベースラインからの平均変化量を示す。
【
図9】試験2における12週間の治療期間を通しての平均MMDのベースラインからの変化量の分布を投与群毎に2日刻みで示す。MMDのベースラインからの平均変化量の所定範囲において、全ての用量のアトゲパントでプラセボに勝る治療効果が認められる。
【
図10】摂食条件下及び絶食条件下でアトゲパント60mgIR錠製剤1錠を単回投与後の、平均血漿中アトゲパント濃度-時間プロファイルを示す(線形目盛±SD、挿入図は片対数目盛)。
【
図11】摂食条件下及び絶食条件下でアトゲパント60mgIR錠製剤1錠を単回投与後の、AUC
0-tとAUC
0-infの箱ひげ図を示す。
【
図12】摂食条件下及び絶食条件下でアトゲパント60mgIR錠製剤1錠を単回投与後の、C
maxの箱ひげ図を示す。
【
図13】健康な成人参加者におけるアトゲパント及びトピラマートの潜在的DDIを評価するための非盲検、単施設、反復投与、2コホート、第1相試験の試験デザイン並びに投与スケジュールを示す。
【
図14】単独投与後及びトピラマートとの併用投与後における、平均定常状態血漿中アトゲパント濃度を線形目盛と片対数目盛で示す。
【
図15】単独投与時及びトピラマートとの併用投与時における、平均(±SD)定常状態血漿中アトゲパント濃度を線形目盛と片対数目盛で示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、治療を必要とする患者における片頭痛の治療方法を提供する。実施形態において、本開示は、片頭痛患者の予防的治療方法を提供する。実施形態において、本開示は、反復性片頭痛の予防的治療方法を提供する。実施形態において、本開示は、片頭痛の治療(例えば、反復性片頭痛の予防的治療)方法として、予防上有効な量のアトゲパント又は薬学的に許容されるその塩を投与することを含む方法を提供する。アトゲパントの化学名は、(3’S)-N-[(3S,5S,6R)-6-メチル-2-オキソ-1-(2,2,2-トリフルオロエチル)-5-(2,3,6-トリフルオロフェニル)ピペリジン-3-イル]-2’-オキソ-1’,2’,5,7-テトラヒドロスピロ[シクロペンタ[b]ピリジン-6,3’-ピロロ[2,3-b]ピリジン]-3-カルボキサミドであり、以下の構造式を有する。
【0012】
【0013】
アトゲパントは、低分子カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体拮抗薬であり、例えば、錠剤として経口投与することができる。実施形態では、反復性片頭痛等の片頭痛の予防的治療用にアトゲパントを投与する。実施形態では、反復性片頭痛の予防的治療用に、アトゲパントを10mg、30mg、又は60mgの1日1回用量で投与する。
【0014】
経口投与後に、アトゲパントは吸収され、約1~2時間でピーク血漿中濃度に達する。1日1回投与後に、アトゲパントは、170mgまで用量比例的薬物動態を示し、蓄積しない。
【0015】
アトゲパントを高脂肪食と共に投与する場合に、食物作用は有意ではなかった(AUCとCmaxは、夫々約18%と22%減少し、最高血漿中アトゲパント濃度到達時間の中央値には影響がなかった)。実施形態では、食物に関係なくアトゲパントを投与することができる。
【0016】
アトゲパントの血漿タンパク質結合は、0.1~10μMの範囲で濃度非依存性であり、アトゲパントの非結合型分率は、ヒト血漿中で約4.7%であった。経口投与後のアトゲパントの見かけの分布容積(Vz/F)の平均値は、約282Lである。
【0017】
アトゲパントは、主にCYP3A4を主経路とする代謝により消失する。親化合物(アトゲパント)とグルクロン酸抱合体代謝物(M23)が、ヒト血漿中における最も主要な循環成分であった。アトゲパントの消失半減期は、約11時間である。アトゲパントの見かけの経口クリアランス(CL/F)の平均値は、約19L/hrである。健康な男性被験者に14C-アトゲパント50mgを単回経口投与後に、投与量の42%及び5%が、未変化体のアトゲパントとして夫々糞中及び尿中に回収される。
【0018】
インビトロにおいて、アトゲパントは、臨床的に意味のある濃度でCYP3A4、1A2、2B6、2C8、2C9、2C19、又は2D6の阻害薬ではない。アトゲパントは、臨床的に意味のある濃度でMAO-A又はUGT1A1を阻害しない。アトゲパントは、臨床的に意味のある濃度でCYP1A2、CYP2B6、又はCYP3A4の誘導薬ではない。
【0019】
アトゲパントは、P-gp、BCRP、OATP1B1、OATP1B3、及びOAT1の基質である。アトゲパントは、臨床的に意味のある濃度でP-gp、BCRP、OAT1、OAT3、NTCP、BSEP、MRP3、又はMRP4の阻害薬ではない。アトゲパントは、OATP1B1、OATP1B3、OCT1、及びMATE1の弱い阻害薬である。
【0020】
「並行」/「並行して」又は「併用」/「併用して」なる用語は、いずれも(1)時間的に同時であること(例えば、同一時点)と、(2)共通の治療スケジュールの過程内の異なる時点をその意味に含む。
【0021】
アトゲパントとCYP3A4阻害薬の併用投与
アトゲパントを強いCYP3A4阻害薬であるイトラコナゾールと併用投与した結果、健康な被験者において、アトゲパントの曝露量が有意に増加した。アトゲパントをイトラコナゾールと併用投与した結果、健康な被験者において、アトゲパントの曝露量が臨床的に有意に増加した(Cmaxが2.15倍及びAUCが5.5倍)。母集団薬物動態モデリングによると、アトゲパントを中程度CYP3A4阻害薬(例えば、シクロスポリン、シプロフロキサシン、フルコナゾール、フルボキサミン、グレープフルーツジュース)又は弱いCYP3A4阻害薬(例えば、シメチジン、エソメプラゾール)と併用投与すると、アトゲパントAUCが夫々1.7倍と1.1倍に増加することが示唆された。弱い又は中程度CYP3A4阻害薬と併用投与した場合のアトゲパント曝露量の変化は、臨床的に有意であると予想されない。
【0022】
実施形態において、本開示は、アトゲパントを強いCYP3A4阻害薬(例えば、ケトコナゾール、イトラコナゾール、クラリスロマイシン)と併用する場合の片頭痛の予防的治療(例えば、反復性片頭痛の予防的治療)方法を提供する。
【0023】
実施形態において、本開示は、強いCYP3A4阻害薬による並行治療を受けている患者における片頭痛の予防的治療(例えば、反復性片頭痛の予防的治療)方法を提供し、上記方法は、アトゲパント10mgを1日1回投与することを含む。実施形態において、上記CYP3A4阻害薬は、ケトコナゾール、イトラコナゾール、又はクラリスロマイシンである。実施形態では、アトゲパント10mgと上記強いCYP3A4阻害薬を併用投与する結果として、アトゲパントCmaxがアトゲパントの単独投与に比較して2.15倍未満に増加する。実施形態では、アトゲパント10mgと上記強いCYP3A4阻害薬(例えば、イトラコナゾール)と併用投与する結果として、アトゲパントAUCがアトゲパントの単独投与に比較して5.5倍以下に増加する。実施形態では、食物の有無に拘わらずアトゲパントを投与する。実施形態では、アトゲパントを投与する前、それと同時、又はその後に、上記CYP3A4阻害薬を投与することができる。
【0024】
実施形態において、本開示は、患者における片頭痛の予防的治療(例えば、反復性片頭痛の予防的治療)方法を提供し、上記方法は、アトゲパント10mg又は30mg又は60mgを1日1回投与することを含み、上記患者が強いCYP3A4阻害薬による並行治療を開始する場合には、アトゲパントの用量を1日1回10mgに調節する。実施形態では、アトゲパントを投与する前、それと同時、又はその後に、上記CYP3A4阻害薬を投与することができる。
【0025】
実施形態において、本開示は、中程度CYP3A4阻害薬による並行治療を受けている患者における片頭痛の予防的治療(例えば、反復性片頭痛の予防的治療)方法を提供し、上記方法は、アトゲパント10mg、30mg、又は60mgを1日1回投与することを含む。実施形態において、上記中程度CYP3A4阻害薬は、シクロスポリン、シプロフロキサシン、フルコナゾール、フルボキサミン、及びグレープフルーツジュースである。実施形態では、アトゲパントと上記中程度CYP3A4阻害薬を併用投与する結果として、アトゲパントAUCがアトゲパントの単独投与に比較して約1.7倍以下に増加する。実施形態では、食物の有無に拘わらずアトゲパントを経口投与する。実施形態では、アトゲパントを投与する前、それと同時、又はその後に、上記CYP3A4阻害薬を投与することができる。
【0026】
実施形態において、本開示は、弱いCYP3A4阻害薬による並行治療を受けている患者における片頭痛の予防的治療(例えば、反復性片頭痛の予防的治療)方法を提供し、上記方法は、アトゲパント10mg、30mg、又は60mgを投与することを含む。実施形態において、上記弱いCYP3A4阻害薬は、シメチジン又はエソメプラゾールである。実施形態では、アトゲパント10mg、30mg、又は60mgと上記弱いCYP3A4阻害薬を併用投与する結果として、AUCがアトゲパントの単独投与に比較して約1.1倍以下に増加する。実施形態では、食物の有無に拘わらずアトゲパントを経口投与する。実施形態では、アトゲパントを投与する前、それと同時、又はその後に、上記CYP3A4阻害薬を投与することができる。
【0027】
アトゲパントとCYP3A4誘導薬の併用投与
アトゲパントを強いCYP3A4誘導薬であるリファンピンと併用投与した処、健康な被験者において、アトゲパントのAUCが60%、Cmaxが30%減少した。CYP3A4の中程度誘導薬は、アトゲパント曝露量を減少させることができる。
【0028】
実施形態において、本開示は、強い又は中程度CYP3A4誘導薬による並行治療を受けている患者における片頭痛の予防的治療(例えば、反復性片頭痛の予防的治療)方法を提供し、上記方法は、アトゲパント30mg又は60mgを投与することを含む。実施形態において、上記強いCYP3A4誘導薬は、リファンピン、カルバマゼピン、フェニトイン、セントジョーンズワート(St.John’s Wort(セイヨウオトギリソウ))、エファビレンツ、又はエトラビリンである。実施形態では、上記CYP3A4誘導薬が定常状態に達するまで、アトゲパントを上記CYP3A4誘導薬と併用投与する。実施形態では、アトゲパント30mg又は60mgを上記中程度又は強いCYP3A4誘導薬と併用投与すると、アトゲパントAUCがアトゲパントの単独投与に比較して約60%未満減少する。実施形態では、上記中程度又は強いCYP3A4誘導薬と併用投与すると、アトゲパントCmaxがアトゲパントの単独投与に比較して約30%未満減少する。実施形態では、食物の有無に拘わらずアトゲパントを経口投与する。実施形態では、アトゲパントを投与する前、それと同時、又はその後に、上記CYP3A4誘導薬を投与することができる。
【0029】
実施形態において、本開示は、弱いCYP3A4誘導薬による並行治療を受けている患者における片頭痛の予防的治療(例えば、反復性片頭痛の予防的治療)方法を提供し、上記方法は、アトゲパント10mg又は30mg又は60mgを投与することを含む。実施形態では、食物の有無に拘わらずアトゲパントを経口投与する。実施形態では、アトゲパントを投与する前、それと同時、又はその後に、上記CYP3A4誘導薬を投与することができる。
【0030】
例えば、実施形態において、本開示は、弱いCYP3A4誘導薬であるトピラマートによる並行治療を受けている患者における片頭痛の予防的治療(例えば、反復性片頭痛の予防的治療)方法を提供する。トピラマートは、12歳以上の個体における片頭痛の予防的治療用(1日100mgを2回に分けて投与)としてFDAと欧州医薬品庁(European Medicines Agency:EMA)により承認され、広く処方されている経口抗てんかん薬である。トピラマートは、電位依存性ナトリウムチャネルを抑制し、炭酸脱水酵素を阻害し、α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチルイソオキサゾール-4-プロピオン酸を抑制し、γ-アミノ酪酸による阻害を増強する。トピラマートは、CYP3A4活性の弱い誘導薬であり、消失半減期が約21時間と長いが、アトゲパントは、CYP3A4を主経路とし、CYP2D6を副経路として広範に代謝され、消失半減期は約11時間である。
【0031】
実施形態において、本開示は、片頭痛の治療方法、特に、片頭痛の予防的治療(例えば、反復性片頭痛の予防的治療)方法を提供し、上記方法は、トピラマートとアトゲパントを投与することを含む。実施形態では、食物の有無に拘わらずアトゲパントを投与する。所定の実施形態では、アトゲパントを投与する前、それと同時、又はその後に、トピラマートを投与する。実施形態では、アトゲパントを10mg又は30mg又は60mgの用量で1日1回投与する。所定の実施形態では、トピラマートを約1~約300mg、例えば、約25mg~約200mgの用量で投与する。実施形態では、トピラマートを約25mg、又は約50mg、又は約100mg、又は約200mgの用量で投与する。実施形態では、トピラマートを約100mg/日の用量で投与する。実施形態では、トピラマートを2回に分けて投与する。実施形態では、トピラマートを25mgの用量で1日2回(例えば、朝夕)、又は朝25mgと夕50mg、又は朝50mgと夕25mg、又は50mgの用量で1日2回(例えば、朝夕)投与する。実施形態では、トピラマートとアトゲパントを併用投与すると、アトゲパントAUC0-tau,ssが約25%減少し、アトゲパントCmax,ssが約24%減少する。
【0032】
アトゲパントとOATP阻害薬の併用投与
OATP阻害薬であるリファンピンの単回投与とアトゲパントを併用投与すると、健康な被験者において、アトゲパントのAUCが2.85倍、Cmaxが2.23倍に増加した。
【0033】
実施形態において、本開示は、OATP阻害薬による並行治療を受けている患者における片頭痛の予防的治療(例えば、反復性片頭痛の予防的治療)方法を提供し、上記方法は、アトゲパント10mg又は30mgを1日1回投与することを含む。実施形態では、アトゲパント10mg又は30mgをOATP阻害薬と併用投与する結果として、アトゲパントAUCがアトゲパントの単独投与に比較して約2.8倍以下に増加する。実施形態では、アトゲパント10mg又は30mgをOATP阻害薬と併用投与する結果として、アトゲパントCmaxがアトゲパントの単独投与に比較して約2.2倍以下に増加する。実施形態では、食物の有無に拘わらずアトゲパントを経口投与する。実施形態では、アトゲパントを投与する前、それと同時、又はその後に、上記OATP阻害薬を投与することができる。
【0034】
アトゲパントとリファンピンの併用投与
上述したように、アトゲパントはCYP3A4を主経路とし、CYP2D6を副経路として代謝され、P-gpとOATP1B1を含む数種の膜トランスポーターの基質でもある。リファンピンは、CYP3A4とP-gpの両方の誘導薬でありながら、OATPのインビトロ阻害薬でもある。
【0035】
本発明者らは、アトゲパント60mgの単回投与をリファンピン600mgの単回投与と併用すると、アトゲパントの単独投与に比較してアトゲパントのAUC0-24とCmaxが夫々2.85倍と2.23倍に増加することを確定した。アトゲパントのCmaxとAUCのこれらの増加は、臨床的に有意であると考えられる。特定の理論に拘泥するものではないが、リファンピンの単回投与との併用投与後のアトゲパントのCmaxとAUC0-24の増加は、リファンピンによる肝取り込みトランスポーターOATPの阻害を意味し、その結果、アトゲパントの肝細胞代謝利用率が低下し、血漿中のアトゲパント濃度の上昇に繋がると考えられる。
【0036】
本発明者らは更に、アトゲパント60mgの単回投与をリファンピン600mgの反復投与と併用すると、アトゲパントの単独投与に比較してアトゲパントのAUC0-infとAUC0-tが夫々61%と60%減少し、Cmaxが30%減少することを確定した。特定の理論に拘泥するものではないが、リファンピンの反復投与との併用投与後のアトゲパントのCmaxとAUCの減少は、P-gpとCYP3A4の誘導を意味し、その結果、夫々アトゲパントの吸収速度の低下と代謝速度の上昇をもたらすと考えられる。全身クリアランスは、アトゲパントの単独投与後では22.8L/hであったが、リファンピンの反復投与下でアトゲパントを投与後には58.3L/hまで上昇した。特定の理論に拘泥するものではないが、T1/2の短縮は、リファンピンによるCYP3A4の誘導を意味し、血漿中アトゲパントの消失速度の上昇と、終末消失相の傾きの増加に繋がると考えられる。リファンピン投与から5日後にリファンピンはまだOATPを阻害している傾向があるが、全体としては、CYP3A4とP-gpに及ぼす誘導作用がOATPの阻害を上回るので、リファンピンの反復投与下ではアトゲパント曝露量が減少する。
【0037】
本開示は、患者における片頭痛の予防方法を提供し、上記方法は、アトゲパント10mg、30mg、又は60mgを1日1回投与することを含み、上記患者にリファンピンの反復投与を併用投与する場合には、上記患者にアトゲパント30mg又は60mgを1日1回投与する。リファンピンの単回投与と併用してアトゲパントを投与する場合には、アトゲパントのAUC0-24とCmaxが夫々2.85倍と2.23倍に増加するが、実施形態では、上記患者にリファンピンを反復投与する場合に、アトゲパント30mg又は60mgを1日1回投与する。実施形態では、リファンピンの反復投与と併用してアトゲパント30mg又は60mgを1日1回投与する結果として、アトゲパントの単独投与に比較してアトゲパントAUCが約60%以下減少する。実施形態では、リファンピンの反復投与と併用してアトゲパント30mg又はアトゲパント60mgを1日1回投与する結果として、アトゲパントの単独投与に比較してアトゲパントCmaxが約30%減少する。実施形態では、食物の有無に拘わらずアトゲパントを経口投与する。実施形態では、アトゲパントを投与する前、それと同時、又はその後に、リファンピンを投与することができる。
【0038】
実施形態において、本開示は、CYP3A4の強い誘導薬であり且つOATPの阻害薬である薬物による並行治療を受けている患者における片頭痛の予防方法を提供し、上記方法は、アトゲパント30mg又は60mgを1日1回投与することを含む。実施形態では、CYP3A4誘導薬/OATP阻害薬の反復投与と併用してアトゲパント30mg又は60mgを1日1回投与する結果として、アトゲパントの単独投与に比較してアトゲパントAUCが約60%以下減少する。実施形態では、CYP3A4誘導薬/OATP阻害薬の反復投与と併用してアトゲパント30mg又は60mgを1日1回投与する結果として、アトゲパントの単独投与に比較してアトゲパントCmaxが約30%以下減少する。実施形態では、食物の有無に拘わらずアトゲパントを経口投与する。
【0039】
腎障害を有する患者における片頭痛の予防的治療方法
腎消失経路は、アトゲパントのクリアランスに副次的な役割を果たす。推算クレアチニンクリアランス(CLcr)に基づく母集団薬物動態解析を使用し、本発明者らは、軽度又は中等度腎障害を有する患者(CLcr30~89mL/分)と、腎機能が正常な患者(CLcr>90mL/分)とでアトゲパントの薬物動態に有意差がないことを確定した。
【0040】
実施形態において、本開示は、軽度腎障害を有する患者(糸球体濾過量[GFR]60~90mL/分)における片頭痛の予防的治療方法を提供し、上記方法は、アトゲパント10mg又は30mg又は60mgを1日1回投与することを含む。実施形態では、食物の有無に拘わらずアトゲパントを経口投与する。実施形態では、軽度腎障害を有する患者にアトゲパント10mg又は30mg又は60mgを1日1回投与する結果として、腎機能が正常な患者に比較してアトゲパントCmaxが約20%未満、例えば、約15%未満、又は約13%未満増加する。実施形態では、軽度腎障害を有する患者にアトゲパント10mg又は30mg又は60mgを1日1回投与する結果として、アトゲパント24時間AUCが約30%未満、例えば、約25%未満、又は約20%未満増加する。
【0041】
実施形態において、本開示は、中等度腎障害を有する患者(GFR30~60mL/分)における片頭痛の予防的治療方法を提供し、上記方法は、アトゲパント10mg又は30mg又は60mgを1日1回投与することを含む。実施形態では、食物の有無に拘わらずアトゲパントを経口投与する。実施形態では、中等度腎障害を有する患者にアトゲパント10mg又は30mg又は60mgを1日1回投与する結果として、腎機能が正常な患者に比較してアトゲパントCmaxが約20%未満、例えば、約15%未満、又は約13%未満増加する。実施形態では、アトゲパント10mg又は30mg又は60mgを投与する結果として、腎機能が正常な患者に比較してアトゲパント24時間AUCが約50%未満、又は約45%未満増加する。
【0042】
実施形態において、重度腎障害(CLcr15~29mL/分)又は末期腎不全(CLcr<30mL/分)を有する患者では、アトゲパント用量調節が必要な場合がある。実施形態において、本開示は、重度腎障害を有する患者における片頭痛の予防的治療方法を提供し、上記方法は、重度腎障害を有する患者(CLcr15~29mL/分)に、アトゲパント10mgを1日1回投与することを含む。実施形態において、本開示は、末期腎不全を有する患者(CLcr<30mL/分)における片頭痛の予防的治療方法を提供し、上記方法は、末期腎不全を有する患者に、アトゲパント10mgを1日1回投与することを含む。実施形態では、食物の有無に拘わらずアトゲパントを経口投与する。
【0043】
肝障害を有する患者における片頭痛の予防的治療方法
実施形態において、本開示は、反復性片頭痛等の片頭痛の予防的治療の目的で、軽度又は中等度肝障害を有する患者にアトゲパントを安全に投与する方法を提供する。実施形態において、上記肝障害は、既存である。
【0044】
「肝障害」なる用語は、チャイルド・ピュー(Child-Pugh)スコアA、B、及びCに基づくスコアリングを意味する。実施形態において、軽度肝障害とは、チャイルド・ピュー分類Aを意味し、中等度肝障害とは、チャイルド・ピュー分類Bを意味し、重度肝障害とは、チャイルド・ピュー分類Cを意味する。
【0045】
既存の軽度(チャイルド・ピュー分類A)、中等度(チャイルド・ピュー分類B)、又は重度(チャイルド・ピュー分類C)肝障害を有する患者では、総アトゲパント曝露量が夫々24%、15%、及び38%増加することが分かった。
【0046】
実施形態において、本開示は、軽度又は中等度肝障害を有する患者における片頭痛の予防的治療方法を提供し、上記方法は、アトゲパント10mg又は30mg又は60mgを1日1回投与することを含む。実施形態では、食物の有無に拘わらずアトゲパントを投与する。
【0047】
実施形態において、本開示は、肝障害を有する患者における片頭痛の予防的治療方法を提供し、上記方法は、10mg又は30mg又は60mgを1日1回投与することを含み、上記患者が重度肝障害(チャイルド・ピュー分類C)を発症する場合には、アトゲパント投与を中止する。
【0048】
プラセボに比較してアトゲパントを投与した患者におけるトランスアミナーゼ上昇
実施形態において、本開示は、片頭痛の予防的治療(例えば、反復性片頭痛の予防的治療)方法を提供し、上記方法は、アトゲパントを投与することを含み、アトゲパント投与は、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)やアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)等の肝酵素値に有意に影響を与えない。
【0049】
実施形態において、本開示は、患者集団における片頭痛の予防的治療方法を提供し、上記方法は、上記患者集団にアトゲパント10mg又は30mg又は60mgを1日1回投与することを含み、上記患者集団における基準値上限(ULN)の3倍を超えるトランスアミナーゼ上昇率が、プラセボを投与した患者集団における基準値上限の3倍を超えるトランスアミナーゼ上昇率よりも低くなる。実施形態では、アトゲパントを上記患者集団に少なくとも3週間、又は少なくとも約6週間、又は少なくとも約9週間、又は少なくとも約12週間、又は少なくとも約16週間、又は少なくとも約20週間、又は少なくとも約24週間、又は少なくとも約52週間投与し、上記患者集団における基準値上限(ULN)の3倍を超えるトランスアミナーゼ上昇率が、プラセボを投与した患者集団における基準値上限の3倍を超えるトランスアミナーゼ上昇率よりも低くなる。
【0050】
食物作用
上述したように、本開示は、片頭痛の予防的治療が必要な患者に、アトゲパント10mg又は30mg又は60mgを1日1回投与することによる、片頭痛の予防的治療(例えば、反復性片頭痛の予防的治療)方法を提供する。実施形態では、患者が摂食しているか否かに関係なく、アトゲパントを投与することができ、これを、「食事に関係なく」、「食物の有無に拘わらず摂取できる」、「食物作用がない」等の文言で表す場合もある。
【0051】
より具体的には、本開示の発明者らは、アトゲパントの薬物動態に統計的に有意な食物作用が実証されるが、この食物作用は、臨床的に意味のあるものではなく、患者は、食物の有無に拘わらずアトゲパントを摂取できることを確定した。したがって、患者が近時に摂食しているか否かに関係なく、いつでもアトゲパントを投与できるという利点がある。
【0052】
一般に、絶食状態とは、患者が服薬前に所定時間摂食していないと共に、服薬後に所定時間摂食しないという事実を意味する。服薬前後のこれらの時間は、例えば、2時間~24時間とすることができる。摂食状態とは、一般に、患者が特定の薬物の服薬から所定時間以内に摂食してしているという事実を意味する。上記時間は変動可能であるが、例えば、服薬直前、服薬中、又は服薬直後、例えば、服薬から約1時間以内の食事とすることができる。摂食状態に該当する食物摂取量も変動可能であるが、一般に約500~約1500kcalの食物を含むことができる。
【実施例】
【0053】
[実施例1]
年齢18歳以上45歳以下の健康な成人の男性又は女性参加者32人において、アトゲパントとリファンピン間の、単施設、第1相、非盲検、2投与群、2投与期、シングルシーケンス、非ランダム化クロスオーバー相互作用試験を実施した。
【0054】
試験は、スクリーニング来院、2期間の試験期間、投与終了時(EOT)来院、及びフォローアップ来院から構成した。表1に記載するように、第1期及び第2期の試験期間中に、2回のアトゲパント休薬期間を挟んで合計3回の投与を参加者に行った。
【0055】
【0056】
試験評価項目としては、アトゲパントの血漿中PKとリファンピンの血漿中トラフ濃度を評価するための血液検体採取を行った。更に、全試験期間を通して、AEの臨床評価と、バイタルサイン測定、理学的検査、12誘導ECG、臨床検査(血液学的検査、血清化学検査、及び尿検査)とにより、単独投与時及びリファンピンとの併用投与時におけるアトゲパントの安全性と忍容性をモニターした。
【0057】
スクリーニングを除いて、試験参加予想期間は、最長46日間(-1日目から43日(±2日)目のフォローアップ来院まで)であった。
【0058】
選択基準としては、BMIが18kg/m2以上30kg/m2以下である年齢18~45歳の健康な男性又は女性参加者とした。参加者は、非喫煙者及びニコチン含有製品の非使用者とし、尿中薬物スクリーニング陰性者とした。
【0059】
治験責任医師若しくはその指名者の意見において、身体に臨床的に有意な疾患状態を有する参加者又はアトゲパント若しくはリファンピンの吸収、分布、生体内変換、若しくは排泄に影響を与えている可能性のある既往歴若しくは手術歴を有する参加者は、試験から除外した。参加者は、過去5年以内にアルコール又は他の物質乱用歴もない者とした。
【0060】
投与した被験薬(アトゲパント及びリファンピン)と、投与レジメン(投与A、投与B1、及び投与B2)は、以下の通りである。
・投与A:1日目にアトゲパント60mg(60mg錠1錠)を単回投与。
・投与B1:7日目にアトゲパント60mgとリファンピン600mg(300mgカプセル2カプセル)を併用投与し、8日目、9日目、10日目、及び11日目にリファンピン600mgを1日1回単独投与。
・投与B2:12日目にアトゲパント60mgとリファンピン600mgを併用投与し、13日目にリファンピン600mgを単独投与。
【0061】
アトゲパント休薬期間は、投与Aと投与B1の間で6日間とし、投与B1と投与B2の間で5日間とした。
【0062】
本試験からのデータの解析に使用した解析集団は、以下の3集団とした。
・安全性集団は、被験薬を少なくとも1回投与した全参加者から構成した。
・アトゲパントのPK集団は、全投与(投与A、B1、及びB2)後にアトゲパントのPKパラメータを評価可能であった全参加者から構成した。
・リファンピンのPK集団は、リファンピンの血漿中濃度を測定可能であった全参加者から構成した。
【0063】
安全性集団の参加者の平均年齢は、31.3歳であった。男性参加者の割合よりも女性参加者の割合が高かった(40.6%に対して59.4%)。白人及び黒人又はアフリカ系アメリカ人参加者が、安全性集団の夫々50.0%及び46.9%を占め、1人(3.1%)がアジア人であった。参加者19人(59.4%)が非ヒスパニック系であり、13人(40.6%)がヒスパニック系であった。安全性集団の平均BMIは、25.67kg/m2であった。
【0064】
アトゲパントの単独投与時又はリファンピンとの併用投与時に、参加者は、投与前に(-1日目に開始し、6日目、及び11日目に)10時間の終夜絶食が必要であり、(1日目、7日目、及び12日目に)投与後に更に4時間絶食を継続する必要があった。
【0065】
(8日目、9日目、10日目、11日目、及び13日目の)リファンピンの単独投与時に、投与前1時間と投与後1時間は食物を摂取しないようにした。
【0066】
全被験薬は水約240mLと共に投与し、投与前後1時間を除き、他の全時点で所望に応じて参加者に水分を補給した。
【0067】
アトゲパントを投与した時点から起算して以下の時点でアトゲパントの血漿中PK用血液検体を採取した。
・1日目及び12日目:0時間(投与前)並びに、投与後0.5時間、1時間、1.5時間、2時間、3時間、4時間、6時間、8時間、12時間、16時間、24時間、36時間、及び48時間。
・7日目:0時間(投与前)並びに、投与後0.5時間、1時間、1.5時間、2時間、3時間、4時間、6時間、8時間、12時間、16時間、及び24時間。
【0068】
以下の時点でリファンピンの血漿中トラフ濃度用血液検体を採取した。
・11日目及び12日目:リファンピン投与前0時間(投与前)。
【0069】
平均血漿中アトゲパント濃度-時間プロファイルを
図1及び2に示す。特に、
図1は、絶食下の健康な参加者にアトゲパントを単独で投与した後(対照、投与A)又はリファンピンの単回投与と併用して投与した後(試験、投与B1)における、平均血漿中アトゲパント濃度-時間プロファイルを示す。
図2は、絶食下の健康な参加者にアトゲパントを単独で経口投与した後(対照、投与A)又はリファンピンの反復投与と併用して投与した後(試験、投与B2)における、平均血漿中アトゲパント濃度-時間プロファイルを示す。
【0070】
単独投与時又はリファンピンとの併用投与時における、アトゲパントの平均PKパラメータを表2にまとめる。
【0071】
【0072】
アトゲパントの単独投与後と、リファンピンの単回投与又は反復投与との併用後(夫々投与B1及びB2)とを比較すると、アトゲパントのTmax中央値は、同様であった。アトゲパントの単独投与後と、リファンピンの反復投与との併用後とを比較すると、アトゲパントの見かけのT1/2の平均値は、約9時間短縮した(11.4時間に対して2.39時間)。
【0073】
投与B1/投与A:アトゲパント60mgの単回投与とリファンピン600mgの単回投与の併用投与(試験)を、アトゲパント60mgの単回投与(対照)と比較すると、アトゲパントのAUC0-24とCmaxは、夫々2.85倍と2.23倍になった。アトゲパントのCmaxとAUCのこれらの増加は、臨床的に有意であると考えられる。
【0074】
投与B2/投与A:アトゲパント60mgの単回投与とリファンピン600mgの反復投与の併用投与(試験)を、アトゲパント60mgの単独投与(対照)と比較すると、アトゲパントのAUC0-∞とAUC0-tは夫々61%と60%減少し、Cmaxは30%減少した。アトゲパントのCmaxとAUCのこれらの減少は、臨床的に有意であると考えられる。
【0075】
【0076】
【0077】
アトゲパント60mgの単回投与とリファンピン600mgの単回投与の併用投与後には、アトゲパント60mgの単独単回投与後に比較して、アトゲパント全身曝露量の統計的に有意な増加(AUC0-24が2.85倍、Cmaxが2.23倍)が認められた。リファンピンは、OATP1B1阻害薬であり、アトゲパント代謝は、OATP1B1トランスポーターによるアトゲパントの肝細胞取り込みに依存する。OATP1B1阻害薬と併用した場合のアトゲパントのCmaxとAUCの増加は、臨床的に有意であると考えられるので、アトゲパント用量調節が必要な場合がある。
【0078】
アトゲパント60mgの単回投与とリファンピン600mgの反復投与の併用投与後には、アトゲパント60mgの単独単回投与後に比較して、アトゲパント全身曝露量の統計的に有意な減少(AUC0-∞が61%、AUC0-tが60%、Cmaxが30%)が認められた。リファンピンは、強いCYP3A4誘導薬であると共にP-gp誘導薬であり、アトゲパントは、CYP3A4により広範に代謝され、P-gpの基質でもある。強いCYP3A4誘導薬及びP-gp誘導薬と併用投与した場合のアトゲパントのCmaxとAUCの減少は、臨床的に有意であると考えられるので、アトゲパント用量調節が必要な場合がある。
【0079】
安全性集団(即ち、被験薬を1回以上投与した全患者)に基づいて安全性解析を実施した。安全性測定としては、TEAE記録、臨床検査測定、バイタルサインパラメータ、ECG結果、及び理学的検査所見を評価した。
【0080】
全参加者32人に1日目にアトゲパント60mgを単回投与し(投与A)、参加者31人に7日目にアトゲパント60mgとリファンピン600mgを併用投与した後、8~11日目にリファンピン600mgを単独で1日1回投与し(投与B1)、12日目にアトゲパント60mgとリファンピン600mgを併用投与した後、13日目にリファンピン600mgを単独で投与した(投与B2)。全参加者の平均治療期間は、12.6日間であった。
【0081】
全体として、アトゲパントとリファンピンは、試験中に忍容性が良好であった。表5は、安全性集団のAEを投与レジメン別にまとめたものである。試験中に死亡又はSAEは生じず、中止に繋がるTEAEを生じた参加者はいなかった。合計11人(34.4%)の参加者が試験中にTEAEを生じ、投与B1の投与後に生じた者が8人(25.8%)であり、投与B2の投与後に生じた者が5人(16.1%)であった。投与Aを受けた後にTEAEを報告した参加者はいなかった。
【0082】
【0083】
B1の投与後に報告されたTEAEで最も多かったもの(特定の投与を受けた少なくとも2人の参加者で生じたもの)は、頭痛であり、2人(6.5%)の参加者で生じた。投与B2の投与後に報告された全TEAEは、各々1人(3.2%)の参加者で生じた。
【0084】
合計5人(15.6%)の参加者が試験中に少なくとも1件の治療関連TEAEを生じ、投与B1の投与後に生じた者が4人(12.9%)であり、投与B2の投与後に生じた者が2人(6.5%)であった。治療関連TEAEで最も多かったのは、悪心であった(参加者2人[6.3%]で発生し、そのうち、1人は投与B1後に発生し、もう1人は投与B2後に発生した)。他の全治療関連TEAEは、各々1人の参加者で生じ、腹部不快感、下痢、嘔吐、腹痛、関節痛、めまい、頭痛、及び着色尿であった。
【0085】
全EAEは、軽度(10人[31.3%])又は中等度(1人[3.1%])であり、重度TEAEは報告されなかった。中等度TEAEは、悪心と嘔吐であり、投与B1の投与後に参加者1人で報告された。
【0086】
臨床検査結果、バイタルサインパラメータ、及びECG所見のベースラインからの変化量に顕著な変化はなかった。臨床検査値がハイの法則(Hy’s Law)基準を満たした参加者はいなかった。
【0087】
被験薬は、アトゲパントの単独単回投与、又はアトゲパントの単回投与及びリファンピンの単回若しくは反復投与の併用投与とした。
【0088】
[実施例2]
健康な被験者において経口イトラコナゾール(1日200mg)によるCYP3A4阻害がアトゲパント(60mg)の単回経口投与の薬物動態に及ぼす影響を評価するために、非盲検シングルシーケンス薬物間相互作用試験を実施した。
【0089】
本試験の主要な目的は、イトラコナゾールの反復投与がアトゲパントの単回投与の薬物動態に及ぼす影響を評価することであった。一次エンドポイントは、血漿中濃度から算出したアトゲパントのPKパラメータとした。本試験の副次的な目的は、単独投与時及び併用投与時におけるアトゲパント並びにイトラコナゾールの安全性並びに忍容性を評価し、(フィンガースティック法により採取した)乾燥血液検体(DBS)中及び血漿中のアトゲパント濃度の相関を確認することであった。二次エンドポイントとしては、AE、臨床検査パラメータ、バイタルサイン、ECG、及び理学的検査に加え、DBS中及び血漿中のアトゲパント濃度の相関を評価した。
【0090】
本試験は、18~45歳の健康な男性及び女性被験者40人における、単施設、シングルシーケンス、非盲検、2投与期PK薬物間相互作用試験であった。
【0091】
本試験に登録するために、各被験者は、以下の全ての選択基準を満たし且つ以下の全ての除外基準に該当しないことが必要であった。
【0092】
選択基準
・年齢18歳以上45歳以下の健康な男性又は女性である。
・女性の場合には、スクリーニング時に血清妊娠検査結果が陰性であり、-1日目に血清又は尿妊娠検査結果が陰性であった。
・男性の場合には、全試験期間を通して有効な避妊法を使用し、そのパートナーを妊娠させないことに同意している、又は少なくとも1年以上前に不妊化処置を受けている。
・妊娠する可能性がある女性の場合には、全試験期間を通して有効な避妊法を使用し、妊娠しないことに同意している。
・非喫煙者である(喫煙したことがない、又は過去2年以内に喫煙していない)。
・ボディマス指数(BMI)が18kg/m2以上30kg/m2以下であった。
・スクリーニング時のバイタルサイン評価中に座位脈拍数が60回/分(bpm)以上100bpm以下であった。
【0093】
除外基準
・アトゲパント若しくは他のCGRP受容体拮抗薬又はイトラコナゾールに対して過敏症であることが分かっている。
・治験責任医師の意見で身体に臨床的に有意な疾患状態がある。
・スクリーニング時に座位収縮期血圧(SBP)が140mmHg以上若しくは90mmHg以下、又は座位拡張期血圧(DBP)が90mmHg以上若しくは60mmHg以下である。
・潜在的に臨床的に有意である(PCS)と考えられる異常なECG結果又は治験責任医師の診断によるQT延長(QTcF≧450msec又は補正前QT≧500msec)。
・スクリーニング時に抗1型若しくは2型ヒト免疫不全ウイルス薬、B型肝炎表面抗原、又は抗C型肝炎ウイルス薬の試験結果が陽性である。
・理学的検査、既往歴、血清化学検査、血液学的検査、凝固検査、又は尿検査の結果が異常で臨床的に有意である。
・過去5年以内にアルコール又は他の物質乱用歴がある。
・スクリーニング時又は-1日目にベンゾイルエクゴニン(コカイン)、メサドン、バルビツール酸系、アンフェタミン、ベンゾジアゼピン、アルコール、カンナビノイド、オピエート、フェンサイクリジン、又はコチニンの検査結果が陽性である。
・IP投与の60日以内に血液又は血漿の繰り返し採取を必要とする実験薬を使用した他の治験に参加している。
・IP投与の夫々60日以内又は30日以内に血液又は血漿供与プログラムに参加している。
・IP投与前48時間以内にカフェインを摂取している、14日以内にグレープフルーツ含有製品若しくはアブラナ科の野菜(例えば、ケール、ブロッコリー、クレソン、カラードグリーン、コールラビ、芽キャベツ、マスタード)を摂取している、又は72時間以内にアルコールを摂取している。
・アトゲパント若しくはイトラコナゾールの吸収、分布、生体内変換、又は排泄に影響を与える可能性のある、既往歴又は手術歴がある。
・IP投与前14日以内に何らかの併用薬(一般用医薬品を含む)を摂取している、又は30日以内にホルモン製剤を摂取している。
・過去にアトゲパントを摂取している、又は過去にアトゲパント若しくはMK-8031の治験に参加している。
・授乳中である。
【0094】
選択基準と除外基準を満たした被験者を単一の固定投与順序に割り付け、投与Aの後に投与Bを行い、投与間に7日間の休薬期間を設けた。
・投与A:1日目に絶食条件下でアトゲパント60mg(錠)を単回経口投与。
・投与B
・・8日目~14日目:摂食条件下でイトラコナゾール200mg(錠)を1日1回経口投与。
・・15日目:絶食条件下でイトラコナゾール200mgをアトゲパント60mg(錠)と併用投与。
・・16日目~17日目:摂食条件下でイトラコナゾール200mg(錠)を1日1回投与。
【0095】
本試験では、絶食状態でアトゲパントを投与した。イトラコナゾールを食物と共に投与すると、その生体利用性が高まる。そこで、CYP3A4阻害効果を最大にするために、15日目を除く全イトラコナゾール投与日では、イトラコナゾールを食物と共に投与した。15日目は、絶食状態でイトラコナゾールとアトゲパントの両方を投与した。反復投与後に(CYP3A4活性が)定常状態に達することと、イトラコナゾールのT1/2が長い(34~42時間)ことにより、15日目に絶食状態でイトラコナゾールを投与しても、CYP3A4阻害作用に影響を与える可能性は低いと思われた。
【0096】
各被験者の総試験参加期間は、スクリーニング来院を除いて約48日間(-1日目~47日目)であった。試験は、8泊の入院を含めた。
【0097】
参加者の平均年齢は、34.8歳であり、19~45歳の範囲であった。被験者18人(45%)が男性であり、22人(55%)が女性であった。合計33人(82.5%)の被験者が白人であり、7人(17.5%)が黒人又はアフリカ系アメリカ人であった。全体で37人(92.5%)がヒスパニック系又はラテン系であり、3人(7.5%)が非ヒスパニック系又は非ラテン系であった。平均(SD)BMIは、27.41(2.47)kg/m2であった。
【0098】
アトゲパント60mgを単独で投与した後又は定常状態イトラコナゾールの共存下で投与した後における平均血漿中アトゲパント濃度を
図3に示す。平均血漿中アトゲパント濃度の片対数プロットを
図4に示す。平均(SD)PKパラメータと、統計解析の結果を表6に示す。
【0099】
【0100】
アトゲパントのCmaxとAUCは、イトラコナゾールによるCYP3A4の阻害により、夫々2.15倍と5.5倍に増加した。CYP3A4阻害によるアトゲパントの曝露量のこのような増加は、臨床的に有意であると考えられるので、強いCYP3A4阻害薬と併用投与する場合には、アトゲパント用量調節が必要な場合がある。
【0101】
アトゲパントの全身クリアランスは、単独投与後では19.2L/hであったが、定常状態イトラコナゾールの共存下で投与後には3.46L/hまで低下した。したがって、アトゲパントのT1/2は、単独投与後では11.2時間であったが、イトラコナゾールによるCYP3A4阻害により14.9時間まで延長した。
【0102】
全体として、各投与は忍容性が良好であった。5件のTEAEが報告された(被験者2人[アトゲパント単独]がめまいを生じ、被験者2人[イトラコナゾール単独]が頭痛を生じ、被験者1人[イトラコナゾール単独]が便秘を生じた)。これらのTEAEのうちでSAEとして報告されたものはなく、全TEAEは、強度が軽度であった。被験薬服薬の永久中止に繋がるTEAEはなかった。試験中に死亡は生じなかった。試験中にPCSであったベースライン後臨床検査所見、バイタルサイン、又はECGはなかった。
【0103】
全体として、定常状態のイトラコナゾールは、アトゲパントの薬物動態に臨床的に有意な影響があった。これらの結果は、イトラコナゾール又は他の強いCYP3A4阻害薬によるCYP3A4阻害が、アトゲパントの曝露量の臨床的に有意な増加をもたらすことを示唆している。強いCYP3A4阻害薬と併用投与する場合には、アトゲパント用量低減が必要な場合がある。各投与レジメンは、健康な被験者で忍容性が良好であった。
【0104】
[実施例3]
肝機能障害を有する参加者と、条件を一致させた肝機能が正常な健康な参加者にアトゲパント60mgを単回経口投与後のアトゲパントのPK、安全性及び忍容性プロファイルを評価するために、多施設、非ランダム化、非盲検、並行群間、単回投与試験を実施した。一次アウトカム尺度は、血漿中濃度から算出したアトゲパントのPKパラメータとした。安全性尺度は、AE、臨床検査測定、バイタルサインパラメータ、心電図結果、及び理学的検査所見とした。
【0105】
本試験では、肝機能が正常な参加者と、肝障害(チャイルド・ピュー分類による軽度、中等度、又は重度)を有する参加者に、1日目に試験実施施設で絶食条件下に水240mLと共にアトゲパント60mg錠を単回経口投与した。投与後72時間までPK血液検体を採取した。各参加者の総試験参加期間は、スクリーニング来院を除いて5日間(-1日目~4日目)であった。参加者は-1日目に入院し、4日目まで入院を続けるようにした。軽度肝障害を有する参加者4人が試験を完了した後に、中等度肝障害を有する参加者を登録し、中等度肝障害を有する参加者4人が試験を完了した後に、重度肝障害を有する参加者を登録した。肝障害を有する患者全員を試験に登録した後に、肝機能が正常な参加者を募集した。次の群を登録する前に、各群でアトゲパントの安全性と忍容性を確認した。
【0106】
参加者は、4日目の最終PK検体採取時又はその7日以内にEOS来院を行った。参加者は、30日目に安全性評価のために安全性フォローアップ来院も行った。
【0107】
登録計画は参加者32人であり、肝障害を有する参加者24人(軽度8人、中等度8人及び重度8人)と、肝機能が正常な参加者8人であった。全参加者は、年齢18~80歳であり、BMI18kg/m2以上42kg/m2以下、座位脈拍数50bpm以上100bpm以下、QTcF<470msecであった。肝障害を有する参加者は、チャイルド・ピュースコアが12点以下でなければならず、スクリーニング時に座位収縮期血圧が165mmHg以上若しくは95mmHg以下の場合、又は座位拡張期血圧が100mmHg以上若しくは50mmHg以下の場合には、除外した。スクリーニング時に座位収縮期血圧が140mmHg以上若しくは90mmHg以下の場合、又は座位拡張期血圧が90mmHg以上若しくは50mmHg以下の場合には、肝機能が正常な参加者から除外した。
【0108】
参加者をグループI(軽度肝障害)、グループII(中等度肝障害)、グループIII(重度肝障害)、及びグループIV(正常肝機能)の4群に分けて登録した。年齢範囲、体重範囲、及び性別により参加者を群間で可能な限り厳密に一致できるように、肝障害を有する参加者を試験に登録した後に、肝機能が正常な参加者を募集した。特に年齢範囲(正常群と全3群の肝機能障害群の平均の差が5歳以下)、体重範囲(正常群と全3群の肝機能障害群の平均の偏差が20%未満)、及び性別(正常群と全3群の肝機能障害群の比を最大限に一致させる)に従って参加者を一致させた。
【0109】
肝機能が正常な参加者8人、軽度肝障害を有する参加者8人、中等度肝障害を有する参加者8人、及び重度肝障害を有する参加者8人から成る合計32人の参加者を登録した。全参加者は、安全性フォローアップ期間まで試験を完了した。早期中止した参加者はいなかった。
【0110】
安全性集団の平均年齢は、58.8歳(範囲45~72歳)であり、集団の3分の2が男性であり、参加者の大多数(87.5%)が白人であり、平均BMIは30.72kg/m2であった。人口統計特徴は、人種以外は4群の肝機能群間で同様であり、中等度肝障害群では、参加者の4分の3が非ヒスパニック系/非ラテン系であったが、他の肝機能群では、非ヒスパニック系/非ラテン系参加者が各群で参加者の4分の1~半数であった。群間で認められた人種分布の相違は、試験の結果に影響を与える可能性が低い。
【0111】
正常肝機能群の参加者で肝胆道系障害既往歴のある者はいなかったが、これに対して、軽度肝障害コホートでは参加者8人中6人、中等度肝障害コホートでは8人中8人、重度肝障害コホートでは8人中8人に肝胆道系障害既往歴があった。
【0112】
参加者にアトゲパント60mg錠を単回経口投与した。各参加者に1回投与のみの試験介入を行った。参加者に試験実施施設で絶食条件下にアトゲパント錠を水240mLと共に投与した。投与後、参加者は4時間絶食を続け、覚醒直立座位を保つようにした。
【0113】
1日目の14日前から全試験手順が完了するまで、参加者は、グレープフルーツ、グレープフルーツジュース、及びアブラナ科の野菜(例えば、ケール、ブロッコリー、クレソン、カラードグリーン、コールラビ、芽キャベツ、マスタード)を摂取しないようにした。試験介入の投与の48時間前から全試験手順が完了するまで、参加者は、キサンチン含有化合物(カフェイン含有製品であり、限定されるものではないが、コーヒー、紅茶、ソフトドリンク、エナジースポーツドリンク、及びチョコレートが挙げられる)を摂取しないようにした。投与の72時間前からPK血液検体採取の完了までアルコール飲料を許可せず、更に、アルコール性肝硬変を有する参加者は、試験介入の投与前少なくとも1週間と全試験期間を通してアルコールを控えるようにした。参加者は、試験期間中の全時点で激しい活動を控えるようにした。
【0114】
1日目に開始し、0時間(投与前)並びに、投与後0.5時間、1時間、1.5時間、2時間、3時間、4時間、6時間、8時間、12時間、16時間、24時間、36時間、48時間、及び72時間の時点で血漿中アトゲパント濃度用検体採取を行った。
【0115】
各種程度の肝障害を有する参加者及び肝機能が正常な参加者における、平均血漿中アトゲパント濃度-時間プロファイルを
図5Aに線形目盛で示す。対応する片対数プロットを
図5Bに示す。各種程度の肝障害を有する参加者及び肝機能が正常な参加者に投与した場合の、アトゲパントの平均PKパラメータを表7にまとめる。
【0116】
【0117】
軽度、中等度、又は重度肝障害を有する参加者と、肝機能が正常な参加者とのTmax中央値の差は、夫々0時間、0.25時間、及び0.75時間であった。アトゲパントの平均終末相消失半減期は、肝障害を有する参加者と、肝機能が正常な参加者とでほぼ同様であった。
【0118】
表8は、各種程度の肝障害を有する参加者と、肝機能が正常な参加者とのPKパラメータの統計比較(幾何平均の比と90%CIを含む)を示す。
【0119】
【0120】
肝機能が正常な参加者に比較すると、軽度肝障害を有する参加者は、アトゲパント60mgの単回経口投与後に、Cmaxが9%高く、AUCが24%高かった。肝機能が正常な参加者に比較すると、中等度肝障害を有する参加者は、Cmaxが12%低かったが、AUCは14%~15%高く、重度肝障害を有する参加者は、アトゲパントCmaxの4%減少と、アトゲパントAUCの38%増加を示した。
【0121】
1日目に開始し、0時間(投与前)と、投与後2時間との時点で、タンパク質結合用血液検体を全参加者から採取した。各参加者で投与前に採取した投与前検体に、既知量のアトゲパントを外部からスパイクした。血液検体中のアトゲパント濃度の直接測定を使用し、2時間後に採取した検体中で結合したアトゲパントの百分率を求めた。結合したアトゲパントの百分率を表9にまとめる。
【0122】
【0123】
血漿タンパク質結合は、肝機能障害を有する参加者と、肝機能が正常な参加者とで実質的に変わらなかった。軽度、中等度、又は重度肝障害を有する参加者にアトゲパント60mgを単回経口投与した場合、血漿タンパク質と結合したアトゲパントの百分率は、夫々97.4%、97.1%、及び95.3%であり、肝機能が正常な参加者では98.2%であった。血漿タンパク質結合は、全肝障害群間でも、肝機能が正常な参加者でもほぼ同様であった。
【0124】
全体として、軽度、中等度、又は重度肝障害を有する参加者では、アトゲパントのPKに臨床的に意味のある変化は認められなかった。肝機能が正常な参加者と比較して、軽度、中等度、又は重度肝障害を有する参加者における最高血漿中アトゲパント濃度は、ほぼ変わらなかった(夫々+9%、-12%、及び-4%)。アトゲパント全身曝露量の総合程度(AUC)は、肝機能が正常な参加者に比較して肝障害を有する参加者のほうが若干(14%~38%)高かったが、これらの変化は、臨床的に意味のある可能性が低い。
【0125】
アトゲパントは、全肝機能群の参加者で忍容性が良好であった。本試験中に1件のAEが報告されたが、軽度で一過性であった。早期中止に繋がるSAE又はAEは報告されず、死亡した参加者もいなかった。臨床検査パラメータ、バイタルサイン、又はECG値に臨床的に意味のある変化は、どの肝機能群でも認められなかった。潜在的なハイの法則の基準を満たす参加者はいなかった。肝障害を有する参加者にアトゲパント60mgを単回投与した場合、安全性の問題は認められなかった。
【0126】
[実施例4]
アトゲパントと中程度CYP3A4阻害薬(例えば、シクロスポリン、シプロフロキサシン、フルコナゾール、フルボキサミン、グレープフルーツジュース)又は弱いCYP3A4阻害薬(例えば、シメチジン、エソメプラゾール)との併用投与を評価するために、母集団薬物動態モデリングを実施した。モデリングによると、中程度CYP3A4阻害薬は、アトゲパントAUCを1.7倍に増加し、弱いCYP3A4阻害薬は、アトゲパントAUCを1.1倍に増加することが示唆された。弱い又は中程度CYP3A4阻害薬と併用投与した場合のアトゲパント曝露量の変化は、臨床的に有意であると予想されない。
【0127】
[実施例5]
健康な成人において、エソメプラゾールマグネシウム40mgの反復投与が、併用投与したアトゲパント60mgの単回投与の薬物動態(PK)と安全性に及ぼす影響を評価するために、第1相、非盲検、2介入群、シングルシーケンス、非ランダム化、クロスオーバー、薬物間相互作用試験を実施した。
【0128】
本試験では、健康な成人の参加者に、1日目にアトゲパント60mgを単回経口投与した後、7~13日目にエソメプラゾール40mgを1日1回投与し、12日目にはアトゲパントの単回投与と併用投与した。1日目と12日目にアトゲパントPK解析用検体を採取した。血漿中アトゲパント濃度から算出したPKパラメータは、ピーク血漿中濃度(Cmax)、Cmax到達時間(tmax)、0時間から5時間まで(AUC0-t)と0時間から無限大時間まで(AUC0-∞)の血漿中濃度-時間曲線下面積であった。混合効果モデルを使用し、単独投与時及びエソメプラゾールとの併用投与時における、アトゲパントのPKパラメータを比較した。アトゲパントの単独投与に対してエソメプラゾールとの併用投与時におけるアトゲパントのPKパラメータ値の幾何最小二乗平均比(GMR)の90%信頼区間(CI)が80%~125%の範囲であったならば、統計的有意が達せられた。
【0129】
参加者32人(平均年齢30.8歳、男性50%)を登録し、29人(90.6%)が試験を完了した。血漿中アトゲパントtmax中央値は、アトゲパント単独では1.51時間であったが、エソメプラゾールと併用投与した場合には、3.00時間となり、1.5時間遅延した。GMR(90%CI)は、Cmaxが76.63(69.19~86.11)であり、AUC0-tが91.61(93.67~100.29)であり、AUC0-∞が92.04(94.12~100.71)であり、Cmaxの変化量のみが統計的に有意であった。試験治療下で発現した有害事象は、一般に低頻度であり、失神寸前の状態(presyncope)(中等度)と選択的人工妊娠中絶(重度)が各々1件報告されたことを除き、強度は軽度であった。
【0130】
エソメプラゾールと併用投与すると、アトゲパント吸収速度は低下した(Cmaxが23%低下し、tmaxが増加した)が、吸収の程度は低下せず、この相互作用は、臨床的に有意である可能性が低い。アトゲパント60mgの単独投与又はエソメプラゾールマグネシウム40mgとの併用投与は、健康な参加者において安全であり、忍容性であった。
【0131】
[実施例6]
グルコン酸キニジンによるP糖タンパク質(P-gp)阻害がアトゲパントの薬物動態(PK)と安全性に及ぼす影響を評価するために、第1相、単施設、シングルシーケンス、非盲検、2介入群、薬物間相互作用試験を実施した。本試験では、健康な成人に、1日目にアトゲパント60mgを投与し、8日目にグルコン酸キニジン324mgを1日2回投与し、9~12日目にグルコン酸キニジン648mgを1日2回投与し、11日目にはアトゲパント60mgを併用投与した。1日目と11日目に血漿検体を採取した。
【0132】
算出したアトゲパントPKパラメータは、ピーク血漿中濃度(Cmax)、Cmax到達時間(tmax)、及び0時間からt時間まで(AUC0-t)と無限大時間まで(AUC0-∞)の血漿中濃度-時間曲線下面積であった。混合効果モデルを使用し、アトゲパントの単独投与に対してグルコン酸キニジンとの併用投与時におけるアトゲパントのPKパラメータを比較した。アトゲパントの単独投与に対してグルコン酸キニジンとの併用投与時におけるアトゲパントのPKパラメータ値の幾何最小二乗平均比(GMR)の90%信頼区間(Ci)が80%~125%の範囲であったならば、統計的有意が達せられた。安全性評価としては、臨床検査値、バイタルサイン、心電図、及び治療関連有害事象(TEAE)を評価した。
【0133】
登録した参加者33人(平均年齢30.3歳、男性72.7%)のうち、23人(69.7%)が試験を完了した。10人は、試験治療下で発現した有害事象(TEAE、いずれもグルコン酸キニジン投与中の心電
図QT延長)により中止した。アトゲパントt
max中央値は、グルコン酸キニジン投与の有無に拘わらず1.50時間であった。GMR(90%CI)は、C
maxが104.41(89.17~122.25)であり、AUC
0-tが120.49(110.21~142.88)であり、AUC
0-∞が125.91(110.56~143.40)であり、AUCの変化量は統計的に有意であった。TEAEは、大半がグルコン酸キニジン投与に関連するものであった。
【0134】
グルコン酸キニジンと併用投与した場合には、アトゲパントのCmaxが4.4%増加し、AUCが約25%増加した。しかし、これらの変化量は、臨床的に有意であると予想されない。アトゲパント60mgは、健康な参加者に単独投与した場合もグルコン酸キニジンと併用投与した場合も安全であり、忍容性が良好であった。
【0135】
[実施例7]
成人における反復性片頭痛の予防的治療用としてのアトゲパントの有効性を、2種類のランダム化多施設二重盲検プラセボ対照試験(試験1及び試験2)で実証した。国際頭痛分類第3版(International Classification of Headache Disorders:ICHD-3)診断基準に従って、前兆の有無に拘わらず少なくとも1年の片頭痛歴を有する患者を試験に登録した。
【0136】
試験1(NCT03777059)では、アトゲパント10mg(N=222)、アトゲパント30mg(N=230)、アトゲパント60mg(N=235)、又はプラセボ(N=223)を1日1回12週間投与するように、患者910人を1:1:1:1で無作為に割り付けた。試験2(NCT02848326)では、アトゲパント10mg(N=94)、アトゲパント30mg(N=185)、アトゲパント60mg(N=187)、又はプラセボ(N=186)を1日1回12週間投与するように、患者652人を1:2:2:2で無作為に割り付けた。どちらの試験でも、患者が必要に応じて急性期頭痛治療薬(即ち、トリプタン、エルゴタミン誘導体、NSAID、アセトアミノフェン、及びオピオイド)を使用することを許可した。CGRP経路に作用する併用薬の使用は、片頭痛の急性期治療にも予防的治療にも許可しなかった。スクリーニング前の6カ月以内に心筋梗塞、卒中、又は一過性脳虚血発作を起こした患者は試験から除外した。
【0137】
試験1
一次有効性エンドポイントは、12週間の治療期間を通しての平均月間片頭痛日数(MMD)のベースラインからの変化量とした。二次エンドポイントとしては、12週間の治療期間を通して、平均月間頭痛日数のベースラインからの変化量、平均月間急性期治療薬使用日数のベースラインからの変化量、平均MMD(3カ月平均)のベースラインから少なくとも50%の低下を達成する患者の割合、片頭痛による活動障害-ダイアリー(Activity Impairment in Migraine-Diary:AIM-D)の日常活動実施能力(Performance of Daily Activities:PDA)ドメインの平均月間スコアのベースラインからの変化量、AIM-Dの身体障害(Physical Impairment:PI)ドメインの平均月間スコアのベースラインからの変化量、及び12週時の片頭痛特有の生活の質に関する質問票第2.1版(Migraine Specific Quality of Life Questionnaire version 2.1:MSQv2.1)の役割機能制限(Role Function-Restrictive:RFR)ドメインのスコアのベースラインからの変化量を評価した。
【0138】
AIM-Dは、片頭痛による日常活動実施能力(PDAドメイン)と身体障害(PIドメイン)の困難度を0~100のスコアで評価するものである。スコアが高いほど片頭痛の影響が大きく、ベースラインからの低下が改善を示す。MSQv2.1の役割機能制限(RFR)ドメインのスコアは、片頭痛が過去4週間を通して日常の社会的活動と職業関連活動に関連する機能に影響を与える頻度を0~100のスコアで評価するものである。スコアが高いほど日常活動に与える片頭痛の影響が少なく、ベースラインからの増加が改善を示す。
【0139】
患者は、平均年齢42歳(範囲18~73歳)であり、89%が女性であり、83%が白人であり、14%が黒人であり、9%がヒスパニック系又はラテン系であった。ベースラインにおける平均片頭痛頻度は、月間片頭痛日数が約8日であり、投与群間で同様であった。合計805人(88%)の患者が12週間の二重盲検試験期間を完了した。試験1の主要な有効性結果を表10にまとめる。
【0140】
【0141】
試験1におけるMMDのベースラインからの平均変化量を
図6に示す。
図7は、12週間の治療期間を通しての平均月間片頭痛日数(MMD)のベースラインからの変化量の分布を投与群毎に2日刻みで示す。MMDのベースラインからの平均変化量の所定範囲において、全ての用量のアトゲパントでプラセボに勝る治療効果が認められる。
【0142】
試験2
一次有効性エンドポイントは、12週間の治療期間を通しての平均月間片頭痛日数のベースラインからの変化量とした。
【0143】
患者は、平均年齢40歳(範囲:18~74歳)であり、87%が女性であり、76%が白人であり、20%が黒人であり、15%がヒスパニック系又はラテン系であった。ベースラインにおける平均片頭痛頻度は、月間片頭痛日数が約8日であった。合計541人(83%)の患者が12週間の二重盲検試験期間を完了した。
【0144】
試験2では、表11にまとめるように、全3群のアトゲパント投与群で12週間の治療期間を通しての平均月間片頭痛日数がプラセボに比較して有意に減少した。
【0145】
【0146】
図8は、試験2におけるMMDのベースラインからの平均変化量を示す。アトゲパントを投与した患者は、プラセボを投与した患者に比較して、12週間の治療期間を通してのMMDのベースラインからの平均減少量が大きかった。
図9は、12週間の治療期間を通しての平均MMDのベースラインからの変化量の分布を、投与群毎に2日刻みで示す。MMDのベースラインからの変化量の所定範囲において、全ての用量のアトゲパントでプラセボに勝る治療効果が認められる。
【0147】
[実施例8]
少なくとも1用量のアトゲパントを投与した片頭痛患者1958人でアトゲパントの安全性を評価した。このうち、839人は少なくとも6ヵ月間、487人は12ヵ月間アトゲパントに1日1回曝露した。12週間のプラセボ対照臨床試験(実施例7で上述した試験1及び試験2)で、患者314人に少なくとも1用量のアトゲパント10mgを1日1回投与し、411人に少なくとも1用量のアトゲパント30mgを1日1回投与し、417人に少なくとも1用量のアトゲパント60mgを1日1回投与し、408人にプラセボを投与した。概数で88%が女性であり、80%が白人であり、17%が黒人であり、12%がヒスパニック系又はラテン系であった。試験参加時の平均年齢は、41歳(範囲18~74歳)であった。
【0148】
最も多かった有害反応(発生率がプラセボよりも高く且つ少なくとも4%)は、悪心、便秘、及び倦怠感である。
【0149】
試験1及び試験2中に生じた有害事象を表12にまとめる。
【0150】
【0151】
試験1及び2で中止に繋がることが最も多かった有害反応は、便秘(0.5%)、悪心(0.5%)、及び倦怠感/傾眠(0.5%)であった。
【0152】
肝酵素上昇
試験1及び試験2において、基準値上限の3倍を超えるトランスアミナーゼ上昇率は、アトゲパントを投与した患者(1.0%)とプラセボを投与した患者(1.8%)で同様であった。なお、基準値上限の3倍を超えるトランスアミナーゼ上昇がアトゲパント投与に一時的に付随して生じた症例もあったが、これらは無症候性であり、中止から8週間以内に解消した。重症肝損傷又は黄疸の症例はなかった。
【0153】
体重減少
試験1及び2において、いずれかの時点で体重が少なくとも7%減少した患者の割合は、プラセボで2.8%、アトゲパント10mgで3.8%、アトゲパント30mgで3.2%、アトゲパント60mgで4.9%であった。
【0154】
[実施例9]
健康な成人参加者において速放性(IR)錠の単回投与後のアトゲパントの全身曝露量に及ぼす高脂肪食の影響を評価するために、単施設、ランダム化、非盲検、単回投与、2投与期クロスオーバー試験を実施した。副次的な目的は、絶食条件下と摂食条件下で健康な参加者におけるIR錠製剤の単回投与後のアトゲパントの二次PKパラメータを評価することと、摂食条件下と絶食条件下で健康な成人参加者におけるアトゲパントの単回投与後の安全性及び忍容性プロファイルを評価することであった。
【0155】
年齢18~45歳の健康な成人男性及び女性参加者20人に、終夜絶食後又は(投与の30分前に提供した)高脂肪食の摂取後にアトゲパント60mgを単回投与し、介入間に7日間の休薬期間を設けた。投与前と投与後48時間まで所定時間間隔で血漿検体を採取した。バリデーション済みのLC-MS/MSアッセイを使用して血漿中アトゲパント濃度を測定し、WinNonlinを使用して薬物動態(PK)パラメータを計算した。シーケンス、試験介入、及び投与期を固定効果とし、シーケンス内にネスト化した参加者をランダム効果とした線形混合効果モデルを使用し、アトゲパントPKパラメータであるAUC0-t、AUC0-inf、及びCmaxの自然対数変換値を比較した。ECG、バイタルサイン、臨床検査値、及び有害事象により安全性をモニターした。
【0156】
試験介入A(アトゲパント60mgの単回投与、IR製剤、アトゲパント60mg錠1錠、摂食条件下)又は試験介入B(アトゲパント60mgの単回投与、IR製剤、アトゲパント60mg錠1錠、絶食条件下)を受けるように参加者を無作為に割り付けた。
【0157】
投与前21日以内(-21日目~-1日目)にスクリーニングを行った。試験介入期間を合計11日間(-1日目~10日目)にスケジュールし、38(±3)日目(8日目の最終投与から30[±3]日後)にフォローアップ来院を行い、血清化学検査を実施した。1日目(第1期)と8日目(第2期)に開始し、0時間(投与前)と、投与後0.5時間、1時間、1.5時間、2時間、3時間、4時間、6時間、8時間、12時間、16時間、24時間、36時間、及び48時間の時点で血漿中アトゲパント濃度の解析用PK血液検体を採取した。
【0158】
全体として、表13に示すように、2シーケンスのうちの一方で試験介入A及びBを受けるように、参加者20人を無作為に割り付け、各試験介入間に少なくとも7日間の休薬期間を設けた。参加者19人(95.0%)が試験を完了し、1人(5.0%)が重大なプロトコル逸脱により7日目(第2期)に試験を中止した。
【0159】
【0160】
参加者は、年齢18歳以上45歳以下の健康な男性又は女性であり、ボディマス指数が18kg/m2以上30kg/m2以下であり、スクリーニング来院時のバイタルサイン評価中に座位脈拍数が40bpm以上100bpm以下であった。参加者は、更に非喫煙者であり、ニコチン含有製品の非使用者とした(喫煙したことがないか若しくはニコチン含有製品を使用したことがない、又は試験介入前の過去6ヵ月以内に喫煙していないか若しくは電子タバコを含むニコチン含有製品を使用していない)。平均年齢31.9歳(範囲23~44歳)の健康な参加者20人を登録した。参加者の過半数は、男性であった(参加者20人中13人、65.0%)。参加者は、黒人又はアフリカ系アメリカ人(参加者20人中11人、55.0%)、白人(参加者20人中8人、40.0%)、及び多人種(参加者20人中1人、5.0%)であった。平均(SD)体重は、72.95(9.264)kgであり、平均(SD)ボディマス指数は、24.15(2.368)kg/m2であった。人口統計特徴とベースライン特徴は、シーケンス間で同等であり、PK集団と安全性集団で同一であった。
【0161】
摂食条件下及び絶食条件下の試験介入について、夫々19人及び20人の参加者で血漿中アトゲパント濃度データを解析した。
【0162】
摂食条件下(試験介入A)及び絶食条件下(試験介入B)で、アトゲパント60mgIR製剤1錠の単回投与後の平均血漿中アトゲパント濃度-時間プロファイルを
図10に示す(線形目盛±SD、挿入図は片対数目盛)。血漿中アトゲパントPKパラメータを表14にまとめる。C
max及びAUCの平均値は、絶食条件下よりも摂食条件下でアトゲパントを投与したほうが低かったが、2種類の試験介入でT
max及びT
lag値の中央値は同一であり、t
t1/2、CL/F、及びV
z/Fの平均値は同様であった。血漿中アトゲパントPKパラメータの箱ひげ図を
図11(AUC
0-t及びAUC
0-inf)と
図12(C
max)に示す。
【0163】
【0164】
【0165】
アトゲパント60mgIR錠製剤の薬物動態で食物作用が実証された。食物作用は、統計的に有意であったが、軽度であった。摂食条件下でアトゲパント60mgIR錠製剤を投与すると、絶食条件下での投与に比較してAUCが約18%減少し、Cmaxが約22%減少し、対応ペア間の差の中央値によると、Tmaxが0.5時間遅延した。アトゲパントPKに及ぼす軽度の食物作用は、臨床的に意味があるとみなされない。
【0166】
アトゲパント60mgIR製剤の単回投与は、本試験では摂食条件下と絶食条件下のどちらで投与した場合も健康な参加者で安全であり、忍容性が良好であった。摂食条件下でアトゲパント60mgIR製剤の単回投与後に、絶食条件下に比較して安全性又は忍容性の臨床的に意味のある差は認められなかった。
【0167】
全体で7人(35.0%)の参加者が、試験治療下で発現したAE(TEAE)を生じた。このうち、3人(15%)は、試験介入に関連するみなされた4件のTEAEを生じた。最高頻度で報告されたTEAEは、関節痛と背部痛(各々2人、10.0%)であった。TEAEを報告した7人の参加者のうち、6人のTEAEは、重症度が軽度であるとみなされ、1人は、フォローアップ中にアラニンアミノトランスフェラーゼ上昇とアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ上昇のTEAEを生じ、これらは、重症度が中等度であるとみなされ、特に注目すべき有害事象として記録され、試験介入に関連しないとみなされた。死亡又は重度若しくは重篤なTEAEは報告されなかった。試験中止に繋がるTEAEを生じた参加者はいなかった。全TEAEは、フォローアップ来院により回復/解消した。
【0168】
平均臨床検査、バイタルサイン、及び安全性12誘導心電図(ECG)パラメータのベースラインからの変化量は、臨床的に意味のないものであった。全体で8人の参加者が投与終了時(EOD)に潜在的に臨床的に有意な臨床検査値を示し、肝機能試験結果が潜在的なハイの法則例の基準を満たした参加者はいなかった。試験期間中にバイタルサイン又は12誘導ECG結果が潜在的に臨床的に有意な基準を満たした参加者はいなかった。
【0169】
[実施例10]
健康な成人参加者におけるアトゲパントとトピラマートのPKDDIの可能性を評価するために、非盲検、単施設、反復投与、2コホート、第1相試験を実施した。コホート1では、トピラマート100mgの1日2回投与が、アトゲパント650mgを1日1回投与した場合のPKに及ぼす影響を評価することを目的とし、コホート2では、アトゲパント60mgの1日1回投与が、トピラマート100mgを1日2回投与した場合のPKに及ぼす影響を評価することを目的として、夫々適格参加者を登録した。コホート1の参加者には、1日目~7日目にアトゲパントを単独投与し、8日目~17日目にアトゲパントとトピラマートを投与した。コホート2の参加者には、1日目~10日目にトピラマートを単独投与し、11日目~17日目にトピラマートとアトゲパントを投与した。試験デザインを
図13に示す。
【0170】
試験の期間は、スクリーニング期間を除いて、-1日目からフォローアップ来院までの25日(±2日)間であった。スクリーニング期間は、1日目より前の21日間までとし、介入期間は、合計19日間とし、最終日に投与終了時来院を実施した。コホート1のうちで同意を得た参加者のサブセットにおいて、腰椎穿刺によりアトゲパント濃度測定用の脳脊髄液(CSF)検体を採取した。コホート1で6日目の朝投与から2又は6時間後に、CSF採取サブセットの個々の参加者からCSF検体を1回採取した。24日目(被験薬の最終投与から7[±2]日後)にフォローアップ来院を行い、臨床検査を実施した。
【0171】
適格参加者は、年齢18~45歳の健康な成人であり、非喫煙者であり、ボディマス指数が18kg/m2以上30kg/m2以下であり、座位脈拍数が45回/分(beats per minute)以上100回/分以下であった。参加者に臨床的に有意な異常心電図(ECG)結果若しくはQT延長(QTcFが男性で450msec以上、女性で470msec以上)が認められた場合、又はアトゲパント若しくはトピラマートの吸収、分布、生体内変換、若しくは排泄に影響を与える可能性のある既往歴若しくは手術歴がある場合には、除外した。
【0172】
一次エンドポイントは、併用投与時及び単独投与時のアトゲパント並びにトピラマートの定常状態における投与間隔中の血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC0-tau,ss)と、定常状態における最高血漿中薬物濃度(Cmax,ss)とした。その他のPKパラメータとしては、併用投与時及び単独投与時のトピラマート並びにアトゲパントの定常状態における最高血漿中薬物濃度到達時間(Tmax,ss)、定常状態における平均血漿中薬物濃度(Cavg,ss)、並びに定常状態における最低血漿中薬物濃度(Cmin,ss)を評価した。特定時点における有害事象(AE)の臨床評価、バイタルサインの測定、12誘導ECGの評価、及び臨床検査(血液学的検査、臨床化学検査、凝固検査、及び尿検査)により、試験期間を通してアトゲパント、トピラマート、及びその併用の安全性と忍容性をモニターした。
【0173】
安全性集団は、コホート1の参加者28人(28人にアトゲパントを単独投与し、26人にアトゲパントとトピラマートを併用投与し、24人をCSF採取サブセットに加えた)と、コホート2の参加者25人(25人にトピラマートを単独投与し、24人にトピラマートとアトゲパントとを併用投与した)とした。アトゲパント単独と、アトゲパント+トピラマートのPK解析集団は、夫々参加者25人と21人とした。トピラマート単独と、トピラマート+アトゲパントのPK解析集団は、夫々参加者24人と22人とした。合計でコホート1の参加者21人とコホート2の参加者22人が試験を完了した。参加者10人が試験を中止し、その理由は、8人がAEであり、1人が被験薬服薬不遵守であり、1人が他の理由(治験責任医師の指示に対する不遵守)であった、表16に示すように、ベースライン人口統計は、2コホート間で同様であった。
【0174】
【0175】
単独投与後及びトピラマートとの併用投与後における、アトゲパントの平均(標準偏差[SD])定常状態血漿中濃度を
図14に示す。これらのデータに実証されるように、アトゲパントをトピラマートと併用投与すると、アトゲパントの単独投与に比較して血漿中アトゲパント濃度が若干低下する。単独投与時と及びトピラマートとの併用投与時における、アトゲパントのPKパラメータを表17にまとめる。アトゲパントとトピラマートを併用投与すると、アトゲパントの単独投与に比較して、アトゲパントのC
max,ssは低下したが、T
max,ssの中央値に変化はなかった。
【0176】
【0177】
GMRの解析の結果、表18に示すように、アトゲパントをトピラマートと併用投与すると、アトゲパントのAUC0-tau,ssとCmax,ssは、夫々25%と24%減少することが分かった。AUC0-tau,ssとCmax,ssのGMRと90%CI下限は、いずれも0.80未満であり、トピラマートと併用投与した場合にアトゲパント曝露量が統計的に有意に減少することを示唆している。
【0178】
【0179】
単独投与後及びアトゲパントとの併用投与後における、トピラマートの平均(SD)定常状態血漿中濃度を
図15に示す。アトゲパントと併用投与すると、血漿中トピラマート濃度は、トピラマートの単独投与に比較して若干低下した。トピラマートPKパラメータを表19にまとめる。全体として、トピラマートPKパラメータは、アトゲパントの併用投与の有無に拘わらず、ほぼ同様であったが、アトゲパントと併用投与すると、トピラマートのT
max,ss中央値は、0.5時間遅延した。GMRの解析の結果、表20に示すように、アトゲパントと併用投与すると、トピラマートのAUC
0-tau,ssとC
max,ssは、夫々5%と6%減少することが分かった。C
max値とAUC値のGMRとその90%CIは、0.80~1.25に範囲に含まれ、DDIは生じないと判断された。
【0180】
【0181】
【0182】
トピラマートのAUC0-tau,ss及びCmax,ssは、アトゲパントと併用投与しても、トピラマートの単独投与と比較して同様であったが、アトゲパントのAUC0-tau,ss及びCmax,ssは、トピラマートによるCYP3A4の弱い誘導により、夫々25%及び24%減少した。しかし、これらの変化は、臨床有意性が最小であると予想されるので、アトゲパントと弱いCYP3A4誘導薬の併用投与に用量調節は必要ないと思われる。
【0183】
コホート1参加者では、平均(SD)曝露期間は、アトゲパント単独で7.9(0.42)日間、アトゲパント及びトピラマートの併用投与で8.8(2.79)日間、全体で15.1(3.62)日間であった。コホート2参加者では、平均(SD)曝露期間は、トピラマート単独で10.0(0.20)日間、トピラマート及びアトゲパントの併用投与で6.7(1.23)日間、全体で16.4(1.96)日間であった。合計でコホート1の参加者24人(85.7%)と、コホート2の参加者19人(76.0%)が、少なくとも1件の試験治療下で発現した有害事象(TEAE)を報告した。安全性集団におけるTEAEを表6にまとめる。
【0184】
【0185】
最も多く報告された有害事象は、悪心と便秘であった。コホート1では、アトゲパントを単独投与した参加者6人と、アトゲパント及びトピラマートの併用投与中に参加者2人により悪心が報告された。コホート2では、トピラマートを単独投与した参加者3人により悪心が報告されたが、トピラマート及びアトゲパントの併用投与中では0人であった。コホート1では、アトゲパントを単独投与した参加者3人により便秘が報告され、アトゲパント及びトピラマートの併用投与中では0人であった。コホート2では、トピラマートを単独投与した参加者2人と、トピラマート及びアトゲパントの併用投与中に参加者2人により便秘が報告された。
【0186】
参加者5人が、アトゲパントの単独投与中に中止に繋がるTEAEを生じた。アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ/アラニンアミノトランスフェラーゼ上昇を報告した参加者1人と、錯乱状態と不眠症を報告した参加者1人は、アトゲパントの単独試験期間中に中止した。アトゲパントの単独投与中にTEAEを生じた参加者2人(悪心と処置痛[腰椎穿刺後頚部痛]を生じた者と、腰椎穿刺後症候群を生じた者)は、アトゲパント投与を完了することができず、アトゲパント及びトピラマートの併用投与期間中に試験を中止した。更に参加者1人は、アトゲパントの単独投与中に悪心のTEAEを生じ、アトゲパント及びトピラマートの併用投与期間中に筋力低下のTEAEを生じたので、この参加者は、併用投与期間中に中止した。
【0187】
治療関連TEAEの発生率は、治療介入間で同様であり、試験中に重篤なAE又は死亡は生じなかった。臨床検査、バイタルサイン、及びECG評価によると、臨床的に意味のある所見は認められず、潜在的なハイの法則例の基準(アミノトランスフェラーゼが基準値上限[ULN]の3倍超、総ビリルビンがULNの2倍以上、及びアルカリホスファターゼがULNの2倍未満)を満たした参加者はいないことが判明した。
【0188】
アトゲパント及びトピラマートの投与は、単独でも併用しても健康な成人において安全であり、忍容性が良好である。
【国際調査報告】