(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】注水式蒸気エンジン
(51)【国際特許分類】
F01B 21/04 20060101AFI20240905BHJP
F01C 1/34 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
F01B21/04
F01C1/34 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519472
(86)(22)【出願日】2021-10-06
(85)【翻訳文提出日】2024-03-28
(86)【国際出願番号】 CA2021051411
(87)【国際公開番号】W WO2023056542
(87)【国際公開日】2023-04-13
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523053875
【氏名又は名称】エネクシス リサーチ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ENEXSYS RESEARCH INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100207837
【氏名又は名称】小松原 寿美
(72)【発明者】
【氏名】ヘンケ、ジェームズ
(57)【要約】
蒸気エンジン(10)は、エンジンケース(14)と、複数の凹部(54)を有する半径方向内面(52)を備えたステータ(20)と、蒸気発生器(12)と、ロータ(22)と、を備える。ロータ(22)は、蒸気発生器から蒸気を受け入れるように配置された蒸気分配チャンバ(44)と、ステータ凹部(54)内への蒸気の流れのためのアウトレット(50)を有する複数の蒸気分配チャネル(46)とを有する。ロータは、凹部(54)からエンジンケース(14)内へ、次いで凝縮回路(66)への蒸気の流れのための圧力逃がしポート(60)を有する。エンジンはボイラなしで動作し、水を発生器(12)に注入することによってそこで水が急速に気化されて蒸気を生成する。ロータ(22)は唯一の可動部分であり、エンジンは広範囲の動力出力を生成することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気エンジン(10)であって、
(a)第1の部分(16)及び第2の部分(18)を備えるエンジンケース(14)と、
(b)前記エンジンケースの前記第1の部分(16)と前記第2の部分(18)との間で当該第1の部分(16)及び第2の部分(18)に固定されたステータ(20)であって、複数の凹部(54)を画定する半径方向内面(52)を有するステータ(20)と、
(c)中空の発生器本体(24)を備えた蒸気発生器(12)であって、前記発生器本体(24)は、前記発生器本体内への水の流入のための注水ポート(28)と、前記発生器本体からの蒸気の放出のための開いた出口端(30)とを有し、前記出口端(30)は、前記エンジンケースの前記第1の部分(16)に固定され、前記蒸気発生器は、前記発生器本体内の水から蒸気を発生させるための加熱手段(34,36)を有する、蒸気発生器(12)と、
(d)前記エンジンケース(14)によって回転可能に支持されたロータ(22)であって、
(i)内部に中空部を有するロータシャフト(38)であって、蒸気分配チャンバ(44)を備え、前記蒸気分配チャンバは、前記蒸気発生器(12)の前記出口端(30)から蒸気を受け入れるように配置される、ロータシャフト(38)、
(ii)前記蒸気分配チャンバ(44)から半径方向外向きに延在する複数の蒸気分配チャネル(46)であって、各チャネルは、前記蒸気分配チャンバから蒸気を受け入れるためのインレット(48)と、前記ステータ凹部(54)内への蒸気の流れのためのアウトレット(50)とを有し、前記チャネル(44)は、法線から角度をなして前記ステータ凹部内に蒸気を導くように配向されている、複数の蒸気分配チャネル(46)、及び
(iii)前記ステータ凹部(54)から前記エンジンケース(14)内への蒸気の流れのために配置された、前記ロータの半径方向外周(56)における複数の圧力逃がしポート(60)、
を備えたロータ(22)と、
(e)前記エンジンケースから蒸気凝縮回路(66)への蒸気の流れのための、前記エンジンケースにおける1つ以上の凝縮回路ポート(64)と、
を備えた蒸気エンジン(10)。
【請求項2】
前記蒸気分配チャネル(46)は、前記蒸気分配チャンバ(44)から前記ロータ(22)の前記半径方向外周(56)まで湾曲した経路を辿る、請求項1に記載の蒸気エンジン(10)。
【請求項3】
前記蒸気分配チャネル(46)は、前記ロータシャフトの長手方向軸線に対して垂直な平面内で半径方向外向きに延びる、請求項1又は2に記載の蒸気エンジン(10)。
【請求項4】
前記ステータ凹部(54)は、前記蒸気分配チャネル(46)から流れる蒸気が衝突するように配向された反応表面(56)を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の蒸気エンジン(10)。
【請求項5】
前記反応表面(56)は、約90度の角度で前記蒸気によって衝突されるように配向されている、請求項4記載の蒸気エンジン(10)。
【請求項6】
前記圧力逃がしポート(60)は、前記蒸気分配チャネル(46)の前記アウトレット(50)と交互に配置されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の蒸気エンジン(10)。
【請求項7】
前記蒸気発生器(12)は、円錐形状である、請求項1~6のいずれか1項に記載の蒸気エンジン(10)。
【請求項8】
前記注水ポート(28)に近接した手段(25)であって、注入された水の流れを前記発生器本体(24)の内壁に衝突するように方向付けられた複数の流れに分割するための手段(25)をさらに備える、請求項1~7のいずれか1項に記載の蒸気エンジン(10)。
【請求項9】
前記凝縮回路ポート(64)は、前記エンジンケースの前記第2の部分(18)にある、請求項1~8のいずれか一項に記載の蒸気エンジン(10)。
【請求項10】
前記蒸気発生器(12)は、前記出力端(30)よりも小さい直径を有する入力端(26)を有し、前記注水ポート(28)は、前記入力端(26)に配置されている、請求項7に記載の蒸気エンジン(10)。
【請求項11】
前記蒸気エンジンは、600~696°F(316~369℃)の範囲の動作温度を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の蒸気エンジン(10)。
【請求項12】
蒸気エンジン(10)であって、
(a)エンジンケース(14)と、
(b)前記エンジンケースに固定されたステータ(20)であって、複数の凹部(54)を画定する半径方向内面(52)を有するステータ(20)と、
(c)中空の発生器本体(24)を備えた蒸気発生器(12)であって、前記発生器本体(24)は、前記発生器本体内への水の流入のための注水ポート(28)と、前記発生器本体からの蒸気の放出のための開いた出口端(30)とを有し、前記出口端(30)は、前記エンジンケースに固定され、前記蒸気発生器は、前記発生器本体内の水から蒸気を発生させるための加熱手段(34,36)を有する、蒸気発生器(12)と、
(d)前記エンジンケース(14)によって回転可能に支持されたロータ(22)であって、
(i)前記蒸気発生器(12)の前記出口端(30)から蒸気を受け入れるように配置された蒸気分配チャンバ(44)、
(ii)前記蒸気分配チャンバ(44)から半径方向外向きに延在する複数の蒸気分配チャネル(46)であって、各チャネルは、前記蒸気分配チャンバから蒸気を受け入れるためのインレット(48)と、前記ステータ凹部(54)内への蒸気の流れのためのアウトレット(50)とを有する、複数の蒸気分配チャネル(46)、及び
(iii)前記ステータ凹部(54)から前記エンジンケース(14)内への蒸気の流れのために配置された、前記ロータの半径方向外周(56)における複数の圧力逃がしポート(60)、
を備えたロータ(22)と、
(e)前記エンジンケースからの蒸気の流れのための、前記エンジンケースにおける1つ以上の凝縮回路ポート(64)と、
を備えた蒸気エンジン(10)。
【請求項13】
装置(72)であって、
(a)請求項1~12のいずれか一項に記載の蒸気エンジン(10)と、
(b)前記蒸気エンジン(10)によって生成された蒸気を凝縮するために前記1つ以上の凝縮回路ポート(64)に動作可能に接続された凝縮回路と、
(c)前記凝縮回路から水を受け取るように動作可能に接続された水タンク(68)と、
(d)前記蒸気発生器本体(24)内に水を注入するために前記水タンク及び前記蒸気発生器(12)の前記注水ポート(28)に動作可能に接続された水ポンプ(70)と、
(e)前記装置の動作を制御するためのコントローラ(74)と、
を備えた装置(72)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気エンジンに関し、特に、ボイラなしで作動する蒸気エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気エンジンは、一般に、大量の水を加熱して蒸気を生成するボイラによって作動し、その蒸気は、次いで、ロータまたは他の機構に導かれて回転運動を生成する。
ボイラの使用は、フラッシュ蒸気発生によって回避することができることが知られている。フラッシュ蒸気発生では、水が高温の反応チャンバに注入されて、急速な気化によって蒸気を発生させる。このタイプの蒸気エンジンの例は、特許文献1及び特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第3720188号明細書
【特許文献2】中国特許第102392701号明細書
【発明の概要】
【0004】
本発明は、このカテゴリーの蒸気機関の改良に関する。
本発明の一態様によれば、(a)第1の部分及び第2の部分を備えるエンジンケースと、(b)エンジンケースの第1の部分と第2の部分との間で当該第1の部分及び第2の部分に固定されたステータであって、複数の凹部を画定する半径方向内面を有するステータと、(c)中空の発生器本体を備えた蒸気発生器であって、発生器本体は、発生器本体内への水の流入のための注水ポートと、発生器本体からの蒸気の放出のための開いた出口端とを有し、出口端は、エンジンケースの第1の部分に固定され、蒸気発生器は、発生器本体内の水から蒸気を発生させるための加熱手段を有する、蒸気発生器と、(d)エンジンケースによって回転可能に支持されたロータであって、(i)内部に中空部を有するロータシャフトであって、蒸気分配チャンバを備え、蒸気分配チャンバは、蒸気発生器の出口端から蒸気を受け入れるように配置される、ロータシャフト、(ii)蒸気分配チャンバから半径方向外向きに延在する複数の蒸気分配チャネルであって、各チャネルは、蒸気分配チャンバから蒸気を受け入れるためのインレットと、ステータ凹部内への蒸気の流れのためのアウトレットとを有し、チャネルは、法線から角度をなしてステータ凹部内に蒸気を導くように配向されている、複数の蒸気分配チャネル、及び(iii)ステータ凹部からエンジンケース内への蒸気の流れのために配置された、ロータの半径方向外周における複数の圧力逃がしポート、を備えたロータ(22)と、(e)エンジンケースから蒸気凝縮回路への蒸気の流れのための、エンジンケースにおける1つ以上の凝縮回路ポートと、を備えた蒸気エンジンが提供される。
【0005】
本発明の別の態様によれば、(a)エンジンケースと、(b)エンジンケースに固定されたステータであって、複数の凹部を画定する半径方向内面を有するステータと、(c)中空の発生器本体を備えた蒸気発生器であって、発生器本体は、発生器本体内への水の流入のための注水ポートと、発生器本体からの蒸気の放出のための開いた出口端とを有し、出口端は、エンジンケースに固定され、蒸気発生器は、発生器本体内の水から蒸気を発生させるための加熱手段を有する、蒸気発生器と、(d)エンジンケースによって回転可能に支持されたロータであって、(i)蒸気発生器(12)の出口端から蒸気を受け入れるように配置された蒸気分配チャンバ、(ii)蒸気分配チャンバから半径方向外向きに延在する複数の蒸気分配チャネルであって、各チャネルは、蒸気分配チャンバから蒸気を受け入れるためのインレットと、ステータ凹部内への蒸気の流れのためのアウトレットとを有する、複数の蒸気分配チャネル、及び(iii)ステータ凹部からエンジンケース内への蒸気の流れのために配置された、ロータの半径方向外周における複数の圧力逃がしポート、を備えたロータ(22)と、(e)エンジンケースからの蒸気の流れのための、エンジンケースにおける1つ以上の凝縮回路ポートと、を備えた蒸気エンジンが提供される。
【0006】
本発明のさらなる態様によれば、(a)上述の蒸気エンジンと、(b)蒸気エンジンによって生成された蒸気を凝縮するために1つ以上の凝縮回路ポートに動作可能に接続された凝縮回路と、(c)凝縮回路から水を受け取るように動作可能に接続された水タンクと、(d)蒸気発生器本体内に水を注入するために水タンク及び蒸気発生器の注水ポートに動作可能に接続された水ポンプと、(e)装置の動作を制御するためのコントローラと、を備えた装置が提供される。
【0007】
蒸気エンジンは、多くの既存のエンジン設計よりも実質的に改良されている。これは、単一の可動部、すなわちロータを有する。それは、広範囲の動力出力を生成することができる。この設計は、エンジンの特定の重要な寸法、特に蒸気分配チャンバの容積、反応表面の面積、および蒸気分配チャネルの断面積を変化させることによって、より低いまたはより高い動力出力を生成する、より小さいおよびより大きい実施形態に容易に適合させることができる。エンジンの回転速度および動力出力は、蒸気発生器に注入される水の量を単に調整することによって容易に制御することができる。
【0008】
本発明のこれらおよびさらなる態様、ならびに本発明の特定の実施形態の特徴を以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による蒸気エンジンの斜視図である。
【
図5】
図5は、注水及び蒸気凝縮装置を有する
図1の蒸気エンジンの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
注水式蒸気エンジン10は、その主要構成要素として、蒸気発生器12と、第1の又は前方部分16及び第2の又は後方部分18を有するエンジンケース14と、ステータ20と、ロータ22とを含む。
【0011】
蒸気発生器12は、円錐形状の中空の発生器本体24を有する。その前方または入力端26(
図1および
図3の左側)において、発生器本体は、発生器本体内への水の注入のための注水ポートまたは注入口28を有する。蒸気発生器本体は、その出口端30に、蒸気発生器をエンジンケースの前方部分16に固定するための円周フランジ32を有する。発生器本体は、蒸気発生器で生成された蒸気を放出するために、その出口端30で開いている。
【0012】
発生器本体24の注入口28にある水流分散プラグ25は、注入された水流を複数の流れに分割するように配置され、複数の流れは、発生器本体の長さおよび円周に沿った所定のポイントで発生器本体の内壁に衝突するように方向付けられる。これは、発生器本体内での急速な気化を容易にする。
【0013】
蒸気発生器12は、発生器本体に注入される水から蒸気を発生させるために発生器本体を加熱するための加熱手段を有する。一実施形態では、加熱手段は、発生器本体の外周の周りに半径方向に交互に配置された電気抵抗要素34及びガス燃焼ノズル36を含む。
【0014】
前方エンジンケース部分16及び後方エンジンケース部分18は、ステータ20に固定され、ステータ20は、リング形状であり、エンジンケース部分16,18の半径方向外側部分の間で当該半径方向外側部分に近接して配置されている。ステータは、ロータ22を取り囲み、前方エンジンケース部分16と後方エンジンケース部分18との間のスペーサとして機能する。
【0015】
蒸気エンジン10は、エンジンの外部への蒸気の漏れを防止するためのガスケットを含む。
図3に示すように、ガスケット23A及び23Bは、ステータ20と前方エンジンケース部分16及び後方エンジンケース部分18との間にそれぞれシールを提供する。第3のガスケット23Cは、蒸気発生器フランジ32と前方エンジンケース部分16との間のシールを提供する。ガスケットが必要なのはこの2つの領域のみである。なぜならば、これらの領域のみが、部品同士を適切にシールしなければ蒸気が逃げてしまう高圧蒸気の接触部分だからである。対照的に、エンジン内の蒸気の内部漏れは、エンジンケース14の内部に流れ、シールを必要としない。ロータの外周の周り(すなわち、ロータと前方及び後方エンジンケース部分との間)の漏洩は、エンジンケース部分同士の間でロータを安定させる。圧力はロータの両側で等しく、それによってロータと固定のエンジンケース部分16、18との間の接触が防止される。同様に、ロータと蒸気発生器との間の漏れは、ガスケットによってシールされる必要がない。蒸気のこのような内部漏れの全ては、最終的にエンジンケース14の内部空間に流入し、その後、以下に説明するように、凝縮回路で回収される。
【0016】
ロータ22は、エンジンケース14に回転可能に支持されている。ロータは、前方エンジンケース部分16によって支持された前方部分40と、後方エンジンケース部分18によって支持された後方部分42とを有するシャフト38を有する。ロータとエンジンケース部分とステータとの間のクリアランスは、ロータがその長手方向軸線を中心として自由に回転することを可能にする。ロータシャフトの前方部分40は中空であり、ロータ内に蒸気分配チャンバ44を形成する。蒸気分配チャンバ44は、蒸気発生器本体の開いた出口端30と位置合わせされ、それにより、蒸気発生器において生成された蒸気は、蒸気分配チャンバ44に流入する。
【0017】
ロータ22は、ロータシャフト38の周りに放射状に配置された複数の蒸気分配チャネル46を有する。図示の実施形態では、ロータシャフトの周りに均等に間隔を置いて配置されかつロータシャフトの長手方向軸線に対して垂直な平面内で半径方向外向きに延びる9つのチャネル46が存在する。各蒸気分配チャネル46は、蒸気分配チャンバ44からのインレット48と、その半径方向外側端におけるアウトレット50とを有する。ロータは、隣接する蒸気分配チャネルの間に内部空間51を有する。これらの空間51は、エンジンケースの内部62に開口している。
【0018】
ステータ20は、ステータの内面の周りに均等に間隔を置いて配置された複数の凹部54を画定する半径方向内面52を有する。各凹部54は、ステータの内面52における短い平坦部55によって隣接する凹部54から分離されている。各凹部54は、蒸気分配チャネル46のアウトレット50からの蒸気の流れの方向に対してほぼ垂直に配向された反応表面56をその中に有するように形成されている。蒸気分配チャネル46は、アウトレット50から流れる蒸気が法線から角度をなしてステータ20の内面52に向けられるように、湾曲した経路を画定する。
図2に見られるように、チャネル46の湾曲した経路、ならびにアウトレット50および反応表面56の配向は、動作時に、蒸気分配チャネルからステータ凹部内に流れる蒸気が、約90度の角度で反応表面56に衝突し、ロータの外周58を反応表面から離れるように押しやり、ロータを回転させるものである。
図2では、回転は反時計回り方向である。
【0019】
ロータの半径方向外周58は、複数の圧力逃がしポート60を有する。これらのポートは、ステータ凹部54とロータの内部空間51との間に開口部を提供し、これらの開口部は、エンジンケース14の内部空間62に開口しており、これにより、ステータ凹部54内の蒸気は、エンジンケースの内部に流入する。各蒸気分配チャネル46に対して1つの圧力逃がしポート60がある。各圧力逃がしポート60は、隣接する蒸気分配チャネルアウトレット50の後方に適切な距離を置いて配置される(すなわち、
図2では、隣接するアウトレット50に対して時計回りに配置される)。この間隔は、蒸気がチャネルアウトレット50から隣接する(すなわち、
図2で見て時計回りの)圧力逃がしポート60内に直接流れることができないように、また、蒸気が圧力逃がしポート60を通って排出される前にステータ凹部54内にあまり長く留まらないように選択される。一実施形態では、ロータ22の外周58における各蒸気分配チャネル46の後縁と、隣接する圧力逃がしポート60の前縁との間の距離は、1つの凹部54のスパンである。この寸法により、蒸気分配チャネルの後縁が凹部54の前縁を通過するとすぐに、凹部54内の圧力が解放される。
【0020】
後方エンジンケース部分18における複数の凝縮回路ポート64は、エンジンケースから蒸気凝縮回路への蒸気の流れを可能にする。エンジンケース内を実質的に加圧することなく、ステータ凹部54からエンジンケース内に放出される蒸気量を収容し、また蒸気冷却と凝縮のサイクルを迅速に行えるよう、十分なポート64が設けられている。例えば、図示の実施形態では、3つ以上の凝縮回路ポート64が、後部エンジンケース部分の周りに等間隔で、例えば、3つのポート64がある場合には120度間隔で、存在し得る。
【0021】
図5の概略図に示すように、蒸気エンジン10は、エンジンケースの凝縮回路ポート64から蒸気を受け取るための凝縮回路66と、水タンク68と、蒸気発生器12に水を注入するための容積式ポンプ70とを含む装置72の一部である。凝縮回路は、凝縮器と、蒸気及び水のための関連する導管とを備える。この装置は、エンジン、凝縮回路、およびポンプの動作を制御するためのコントローラ74を含む。例えば、プログラマブルロジックコンピュータ(PLC)でありうるコントローラは、エンジンの温度、圧力、速度、及び動力出力、並びにポンプによる水の注入を調整し得る。
【0022】
蒸気エンジン10は、以下の方法に従って動作される。加熱要素34,36は、蒸気発生器12の温度を所定のレベルまで上昇させるように作動される。水タンク68からの水は、ポンプ70により注入ポート28を介して蒸気発生器本体24内に注入され、水分散プラグ25により複数の流れに分割され、瞬時に気化して蒸気となる。蒸気発生器は、液体から蒸気への高い膨張比を生成するために高温で動作される。例えば、636°F(356℃)では、水対蒸気の膨張比は2000:1であり、絶対圧力は2002.8psi(13,809kPa)となる。蒸気エンジンの好適な動作温度の例は、500~700°F(260~371℃)、あるいは600~696°F(316~369℃)の範囲であるが、実質的により低い温度及びより高い温度で動作することができる。蒸気発生器12内で膨張する蒸気は、蒸気分配チャンバ44及び蒸気分配チャネル46に押し込まれ、ステータ凹部54に入り、そこで反応面56に衝突し、ロータ22の回転を引き起こす。ロータが回転すると、蒸気は、ステータ凹部54から圧力逃がしポート60を通ってロータ内の空間51及びエンジンケース14の内部空間62に流入し、次いで、凝縮回路ポート64を通ってエンジンケースから流出する。凝縮回路66において、蒸気は水に凝縮され、水タンクに戻される。蒸気をエンジンに強制的に通し、凝縮回路内の凝縮液を回収するサイクルが完了すると、エンジンの作動コンポーネントは、選択された動作温度まで加熱され、エンジンの動作中はその温度が維持される。
【0023】
蒸気エンジンの動作において、出力制御は、単に、スロットルによって設定された速度(rpm)に関連して蒸気発生器12に注入される水の量を調整することによって達成され得る。例えば、蒸気エンジン10が車両に動力を供給するために使用される場合、rpmが低下した場合(例えば、車両が坂を上っているとき)、より多くの水が蒸気発生器に注入され、rpmがスロットル設定値を超えて増加した場合(例えば、車両が平地を惰走しているとき、または下り坂を進んでいるとき)、蒸気発生器に注入される水の量は低減される。エンジンは、ピストンエンジンのような圧縮サイクルがないので、出力が低下したときに車両を減速させない。その状況では、ロータは単にホイールによって駆動される。
【0024】
実施例
実施例1
本発明の一実施形態による蒸気エンジン10は、約8インチ(20.3cm)の直径及び約6インチ(15.2cm)の長さ(蒸気発生器を含まない)を有する。蒸気発生器12は、約8インチ(20.3cm)の長さを有する円錐形である。ロータ22は、約6インチ(15.2cm)の直径と、9個の蒸気分配チャネル46とを有する。各反応表面56は0.25平方インチ(1.61cm2)であり、ロータが回転するときの総反応表面積は2.25平方インチ(14.5cm2)(9×0.25=2.25)である。ステータ20は、36個の凹部54を有し、各凹部54は、0.024インチ(0.061cm)幅の平坦部55によって分離されている。蒸気エンジンの重量は約60ポンド(27.2kg)である。それは、500~700°F(260~371℃)の範囲の蒸気温度、1543~3013psi(10,639~20,774kPa)の範囲の蒸気圧、および10~30,000rpmの範囲の動作速度で動作する。1000rpmにおいて、エンジンは、165~322馬力(123~240kW)の範囲の動力と、868~1695lb-ft(1180~2305Nm)の範囲のトルクとを生成する。3000psi(20,684kPa)の蒸気圧および10,000rpmの速度で、それは約5300馬力(4698kW)を生成する。蒸気エンジンは、300psi(2068kPa)程度の低い圧力で動作することができる。
【0025】
ステータ凹部54は、それぞれ約1/16立方インチ(1.02cm3)であり、その結果、1回転当たり324回(9個の蒸気分配チャネル×36個の凹部)加圧されかつ除荷される2.268立方インチ(37.16cm3)の凹部容積が得られ、これは、1000rpmで2268立方インチ(37,166cm3)の蒸気に相当する。1立方インチ(16.4cm3)の水は、700°F(371℃)で3000立方インチ(49,161cm3)の蒸気に相当するので、エンジンが1000rpmで動作するためには、毎分約1立方インチ(16.4cm3)の水、すなわち毎秒約0.017立方インチ(0.278cm3)の水が気化される必要がある。10,000rpmでは、体積は10倍大きく、毎秒約1.7立方インチ(27.8cm3)の水になる。
【0026】
実施例2
蒸気エンジン10の別の実施形態では、反応表面積56は、実施例1に対して50%増加して0.375平方インチ(2.42cm2)になり、総反応表面積は3.375平方インチ(21.77cm2)になる。ロータは、実施例1と同じ直径および数の蒸気分配チャネルを有する。エンジンの長さは、より広い反応表面積およびより広い蒸気分配チャネルに起因して、0.250インチ(0.64cm)だけ増加する。ロータシャフトの前方部分40の直径は、蒸気分配チャンバのサイズを増大させるために大きくされ、ロータシャフトの後方部分42は、拡大された反応表面積に起因するより高い出力のために大きくされる。エンジンは、500~700°F(260~371℃)の範囲の蒸気温度および1543~3013psi(10,639~20,774kPa)の範囲の蒸気圧力で動作する。1000rpmにおいて、エンジンは、248~538馬力(185~401kW)の範囲の動力と、1085~2825lb-ft(1476~3842Nm)の範囲のトルクとを生成する。
【0027】
前述の説明および図面の全体を通して、当業者により完全な理解を提供するために、具体的な詳細が記載されている。しかしながら、よく知られている要素は、本開示を不必要に不明瞭にすることを回避するために、詳細に示されていないか、または説明されていないことがある。したがって、説明および図面は、限定的な意味ではなく、例示的な意味で考えられるべきである。
【0028】
前述の開示に照らして当業者に明らかであるように、本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の実施において多くの変更および修正が可能である。したがって、本発明の範囲は、特許請求の範囲に従って解釈されるべきである。
【国際調査報告】