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特表2024-533829イオン収集のための繊維格子を備えたイオン生成システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】イオン収集のための繊維格子を備えたイオン生成システム
(51)【国際特許分類】
   G21G 1/10 20060101AFI20240905BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20240905BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
G21G1/10
H01J37/317 Z
H01J37/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519922
(86)(22)【出願日】2022-09-30
(85)【翻訳文提出日】2024-03-29
(86)【国際出願番号】 US2022045398
(87)【国際公開番号】W WO2023056025
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】63/251,397
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522192229
【氏名又は名称】シャイン テクノロジーズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】SHINE TECHNOLOGIES,LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】チェレクジアン, サルコー
(72)【発明者】
【氏名】シッソン, リッチ
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA39
5C101DD33
5C101EE25
5C101EE35
5C101FF01
5C101FF56
5C101FF59
(57)【要約】
炭素繊維の格子に向かってイオンを加速させることと、炭素繊維の格子でイオンを捕捉することと、を含む方法が提供される。一実施形態では、方法は、イオンを含む残留物を得るために、炭素繊維の格子を燃焼させることをさらに含む。一実施形態では、イオンは、イッテルビウムイオンである。一実施形態では、イッテルビウムイオンの少なくとも一部は、イッテルビウム‐176イオンであり、方法はさらに、炭素繊維の格子でイッテルビウム‐176イオンを捕捉する前に、他のイッテルビウムイオンからイッテルビウム‐176イオンを単離させることを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維の格子に向かってイオンを加速させることと、
前記炭素繊維の格子で前記イオンを捕捉することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記イオンを含む残留物を得るために、前記炭素繊維の格子を燃焼させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イオンは、イッテルビウムイオンである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記イッテルビウムイオンの少なくとも一部は、イッテルビウム‐176イオンであり、前記方法はさらに、前記炭素繊維の格子で前記イッテルビウム‐176イオンを捕捉する前に、他のイッテルビウムイオンから前記イッテルビウム‐176イオンを単離させることを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記イッテルビウム‐176イオンを単離させることは、
磁気分析器を使用して前記イッテルビウムイオンに磁界を印加することにより、前記イッテルビウムイオンを前記他のイッテルビウムイオンから質量分離させることと、
前記磁気分析器と前記炭素繊維の格子との間に配置された質量分解開口を使用して、前記他のイッテルビウムイオンを遮断することであって、前記イッテルビウム‐176イオンは、前記質量分解開口を通過する、前記遮断することと、
を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記炭素繊維の格子に向かって前記イオンを加速させることは、前記イオンに100Vを超えるエネルギーを与えることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記炭素繊維の格子で前記イオンを捕捉することは、前記炭素繊維の格子の複数の炭素繊維で前記イオンを偏向させることにより、前記イオンを減速させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記炭素繊維の格子を回転または平行移動させるようにアクチュエータを作動させることにより、前記イオンを捕捉する前記炭素繊維の格子の面積を増加させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記炭素繊維の格子は、繊維状炭素材料の複数の層を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記炭素繊維の格子は、複数の方向に配列された炭素繊維を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
イオンを生成するように構成されたイオン源と、
繊維格子を備えたターゲットと、
前記イオン源と前記ターゲット基板との間に配置された電極であって、前記繊維格子に前記イオンが入射するように、前記ターゲット基板に向かって前記イオンを加速させるように構成された前記電極と、
を備えた、イオン生成システムであって、
前記繊維格子は、前記イオンを捕捉するように構成される、
前記イオン生成システム。
【請求項12】
前記イオンは、イッテルビウム‐176イオンである、請求項11に記載のイオン生成システム。
【請求項13】
前記繊維格子は、複数の方向に配列された複数の炭素繊維を含む、請求項11に記載のイオン生成システム。
【請求項14】
前記ターゲットは、前記繊維格子の複数の層を備える、請求項11に記載のイオン生成システム。
【請求項15】
前記繊維格子は、黒鉛を含む、請求項11に記載のイオン生成システム。
【請求項16】
前記繊維格子は、燃焼するように構成される、請求項11に記載のイオン生成システム。
【請求項17】
前記繊維格子は、前記繊維格子が燃焼した後に、前記イオンを含む残留物を残すように構成される、請求項11に記載のイオン生成システム。
【請求項18】
前記電極は、100Vを超えるエネルギーを前記イオンに与える、請求項11に記載のイオン生成システム。
【請求項19】
前記ターゲットは、マウントを備え、前記マウントは、前記繊維格子を前記マウントに対して所定の位置に解放可能に固定するように構成される、請求項11に記載のイオン生成システム。
【請求項20】
前記ターゲットを回転させるように動作可能なアクチュエータをさらに備える、請求項11に記載のイオン生成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年10月1日に出願された米国仮特許出願第63/251,397号の利益を主張し、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるものとする。
【0002】
本開示は、概して、重金属イオンの生成、例えば、医療用途で使用される重金属イオンの生成の分野に関する。より具体的には、本開示は、高い引き出しエネルギーでイオン源から出るように加速されたイオンを収集及び構成する効率を、向上させることに関する。
【背景技術】
【0003】
イオンビームを伴う従来の技術では、通常、基板材料に変化を生じるように、イオンビームと基板材料との間に高エネルギーの衝突をもたらすことが目的とされる。このようなシステムにおけるイオン自体は、基板材料に効率的に保持されず、スパッタされ、昇華され、または散り去り得る。このようなシステム及び方法は、イオン自体の収集効率を高めてはいない。対照的に、本出願の1つの目標は、例えば医療用途で、収集、保管、輸送、使用などができる構成された物質として、イオンビームのイオンを収集することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の一実施態様は、方法である。方法は、炭素繊維の格子を設けること、炭素繊維の格子に向かってイオンを加速させること、及び炭素繊維の格子でイオンを捕捉することを含む。方法はまた、イオンを含む残留物を得るために、炭素繊維の格子を燃焼させることを含み得る。
【0005】
イオンは、イッテルビウムイオンであり得る。いくつかの実施形態では、イオンはイッテルビウム‐176イオンを含み、方法はまた、炭素繊維の格子でイオンを捕捉する前に、イッテルビウム‐176イオンを他の同位体から単離させることを含む。
【0006】
いくつかの実施形態では、炭素繊維の格子に向かってイオンを加速させることは、100Vを超えるエネルギーをイオンに与えることを含む。炭素繊維の格子でイオンを捕捉することは、炭素繊維の格子の複数の炭素繊維でイオンを偏向させることにより、イオンを減速させることを含み得る。
【0007】
いくつかの実施形態では、方法は、炭素繊維の格子を回転または平行移動させるようにアクチュエータを作動させることにより、イオンを捕捉する炭素繊維の格子の面積を増加させることを含む。方法はまた、繊維状炭素材料の複数の層を設けることを含み得る。炭素繊維の格子を設けることは、炭素繊維を複数の方向に配列することを含み得る。
【0008】
本開示の別の実施態様は、イオン生成システムである。イオン生成システムは、イオンを生成するように構成されたイオン源と、繊維格子を備えたターゲットと、イオン源とターゲット基板との間に配置された電極とを含み得、電極は、繊維格子にイオンが入射するように、ターゲット基板に向かってイオンを加速させるように構成される。繊維格子は、イオンを捕捉するように構成される。イオンは、例えばイッテルビウム‐176イオンを含むイッテルビウムイオンであり得る。
【0009】
繊維格子は、複数の方向に配列された複数の炭素繊維を含み得る。ターゲットは、繊維格子の複数の層を含み得る。繊維格子は、黒鉛または炭素を含み得、燃焼するように構成され得る。繊維格子の燃焼後、繊維格子は、イオンを含む残留物を残し得る。
【0010】
いくつかの実施形態では、電極は、100Vを超えるエネルギーをイオンに与える。いくつかの実施形態では、ターゲットは、マウントを含み、マウントは、繊維格子をマウントに対して所定の位置に解放可能に固定するように構成される。イオン生成システムは、ターゲットを回転させるように動作可能なアクチュエータを含み得る。
【0011】
本開示は、添付図面と併せて、下記の発明を実施するための形態からより完全に理解されるようになり、添付図面では、同様の参照番号は同様の要素を指す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】例示的な実施形態による、イオン生成システムの概略図である。
図2】例示的な実施形態による、陽イオンを伴う実施形態におけるイオン生成システムのターゲット及び電圧源の概略図である。
図3】例示的な実施形態による、陰イオンを伴う実施形態におけるイオン生成システムのターゲット及び電圧源の概略図である。
図4】いくつかの実施形態による、磁気回転デバイスを有するイオン生成システムのブロック図である。
図5】いくつかの実施形態による、イオン生成システムのターゲットの繊維格子の分解図である。
図6】いくつかの実施形態による、イオン生成システムのターゲットの繊維格子の透視図である。
図7】いくつかの実施形態による、イオン生成システムのターゲットの上面図である。
図8】いくつかの実験結果による、イオン生成システムのターゲットの繊維格子の上面図である。
図9】いくつかの実験結果による、イオン生成システムのターゲットの繊維格子の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
特定の実施形態を詳細に示す図に進む前に、本開示は、説明に記載される、または図に示される詳細または方法論に限定されないことを理解されたい。本明細書に使用される用語は、説明のみを目的としており、限定するものとしてみなされるべきではないことも、理解されたい。
【0014】
全体的に図面を参照すると、様々な例示的な実施形態による、イオン生成システム、例えば重金属イオン生成システムに関連するシステム及び方法が示される。具体的には、様々な用途のために収集、保管、輸送、使用などができる物質として(例えば高濃度のイッテルビウム‐176または他の所望の同位体を有する物質として)イオンが再構成されるように、イオン生成システムのターゲットでイオン(例えばイッテルビウム‐176を含むイッテルビウムイオンなどの重金属イオン)を効率高く収集することに関連するシステム及び方法を、全体的に図面は示す。
【0015】
下記で詳述されるように、イオンは、イオン源で生成され、例えば20kV~80kV(例えば40kV~60kV)の高い引き出しエネルギーを有するイオンビームとして、イオン源から引き出される(本文では多くの場合、イオン運動エネルギーはボルトで表され、1ボルトは1クーロンあたり1ジュールに相当し、他の慣例ではこれらの値はkeVで表され得ることに、留意されたい)。イオンビームは、磁気分析器と、質量分解開口とを通過し得、磁気分析器は、磁界を使用してイオンを運動量により(すなわち、生成されたすべてのイオンの電荷が同じである場合は原子質量により)分類し、質量分解開口は、他のイオンが開口を通過するのを阻止しながら、所望のイオン(例えば所望の同位体のイオン)を主に通過させるように、ビーム及び磁気分析器に対して配置される。よって、所望のイオンのみ、または高い割合の所望のイオンを含むイオンビームが開口を通過する。したがって、質量分解開口は、所望のイオンまたは高い割合の所望のイオンを単離する。ターゲット(ターゲット基板、基板など)は、所望のイオンのビームがターゲットに入射するように配置される。
【0016】
本明細書で説明される手法は、ターゲットに対するイオン付着率を高め、ターゲットでのスパッタリング率を低め、よって、イオンが中性物質(例えば所望の同位体の中性物質)として構成される割合を増加させ、イオンを損失する割合を減少させる。したがって、全イオン生成システムの全体効率(例えば生成される物質の単位あたりの電力及びリソースの消費量)が改善される。イオン生成システムの他の望ましくない表面へのイオンの蓄積(イオンの散乱により別様に生じ得る)も最小限に抑えられる、または防止されることから、イオン生成システムのダウンタイム及びメンテナンスが削減される。さらに、本明細書の手法は、ターゲット基板への熱伝達(ターゲットへの熱負荷、ターゲットへの熱エネルギー負荷)を低減させ、よって、ターゲットでの高エネルギー衝突により引き起こされるであろう温度管理問題を、本手法は削減または排除し得る。
【0017】
下記に詳述されるように、イオンと同じ極性を有し、イオンビームの電位よりわずかに低い大きさを有する電圧に、ターゲットを保持することにより、本明細書の利点のうちのいくつかが、部分的に及び/またはいくつかの実施形態において達成される。イオンビームがターゲットに近づくと、ターゲットの電圧(及びその電圧により生成される電界)により、イオンビームのエネルギーは減少する。例えば、引き出し電極が供給する、イオンビームに加えられるエネルギーを(少なくとも部分的に)相殺するように、ターゲットの電圧は選択され得、これにより、イオンがターゲットに到達すると、イオンのエネルギーは熱エネルギーに変わる。このような事例では、ターゲットにおいてイオンの電子阻止能(すなわち、イオンとターゲットとの相互作用、イオンの電子とターゲット基板の電子との相互作用)、及びイオンの核阻止能(すなわち、イオンの原子核とターゲット基板の原子核との相互作用)の両方が、ゼロレベル、またはゼロ付近レベルに削減される。ターゲットの電位を介してこれらの相互作用を削減することにより、イオンは、高エネルギーでターゲットに衝突してスパッタリングまたは散り去るのではなく、ターゲットに付着して膜を形成する。
【0018】
本明細書で説明されるシステム及び方法はまた、ターゲットに入射するイオンを効率的に捕捉し、(すなわちイオンビームからの)所望の同位体/原子を高濃度に含む残留物に容易に還元されるのに好適なターゲットの材料を設ける。具体的には、下記に詳細に説明されるように、繊維格子、例えば炭素繊維(例えば黒鉛繊維)の格子、フェルト、メッシュなどが、イオンビームがこれらに入射するように配置され得る。繊維格子は、イオンを捕捉し、酸素の存在下で容易に燃焼して(または何らかの他の反応を受けて)、例えば高濃度の所望の同位体を有する残留物を残し得る。ターゲットから所望の同位体を採取するために動作を中断する必要がある前に、ターゲットの収集能力を高めるために、イオン生成システムの動作中に、ビームに対して繊維格子が回転または平行移動され得る。したがって、下記に説明される様々な概念は、個別に及び集合的に、所望の同位体の収集効率を高める。
【0019】
ここで図1を参照すると、例示的な実施形態によるイオン生成システム100のブロック図が示される。イオン生成システム100は、イオン源102、引き出し電極(複数可)104、磁気分析器106、質量分解開口108、ターゲット110、及び接地114及びターゲット110に接続された電圧源112を含む。イオン源102、引き出し電極(複数可)104、磁気分析器106、質量分解開口108、及びターゲット110は、イオンがイオン源102で生成され、ターゲット110に到達する前に、引き出し電極(複数可)104、磁気分析器106、及び質量分解開口108を順次通過するように、順次配置される。下記で詳述されるように、摘出、保管、輸送などができ、最終的に何らかの用途、例えば医療用途に使用できる構成された中性物質として、所望のイオンをターゲット110で効率的に収集するように、イオン生成システム100は構成される。
【0020】
イオン源102は、イオンを生成するように構成される。例えば、イオン源102は、イオン源102内に供給されるガス、例えばイッテルビウム蒸気などの重金属ガスをイオン化する電子を放出するように動作可能なフィラメントを含むバーナス(Bernas)イオン源またはフリーマン(Freeman)イオン源として、構成され得る。他の金属(Lu、Tcなど)も使用され得る。電子とガスとの相互作用によりガスがイオン化され、イオンが生成される。いくつかの実施形態では、イオン源102は、陽イオン(すなわち、正の極性を有するイオン、「カチオン」)を生成する。他の実施形態では、イオン源は、陰イオン(すなわち、負の極性を有するイオン、「アニオン」)を生成する。イオン源102からイオンを引き出すことができるように、イオン源102は出口スリットまたは開口を含む。いくつかの実施形態では、イオン源102は、イオン源102の要素を保護するため、及びイオン源102から引き出されるイオンの均一性を向上させるために、補助ヒータを含み、これは、例えば2020年12月8日に出願された米国仮特許出願第63/122,699号に詳しく説明され、その開示全体は、参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0021】
引き出し電極(複数可)104は、イオン源102からイオンを引き出す電界を供給するように構成され動作する1つ以上の電極を含む。イオンは第1の極性(様々な実施形態で正または負)の電荷を有することから、引き出し電極(複数可)104における反対極性の電圧は、イオン源からイオンをイオンビームとして引き出す。引き出し電極(複数可)104は、イオンビームの加速、イオンビームの減速、ビームの成形、ビームの照準合わせなどを行うための1つ以上の電極を含み得る。引き出し電極(複数可)104は、イオン源102から出るイオンビームを加速させる電界を供給することにより、引き出し電極(複数可)104の電圧と同じまたは同様の大きさの引き出しエネルギーを、イオンビームに与える。例えば、イオンビームが引き出し電極(複数可)104を通るとき、55kVの電圧の電極は、55kVの引き出しエネルギーをイオンビームに与え得る(本文では多くの場合、イオン運動エネルギーはボルトで表され、1ボルトは1クーロンあたり1ジュールに相当することに、留意されたい)。
【0022】
よって、引き出し電極(複数可)104の出力として、高い引き出しエネルギーを有するイオンビームが供給される。様々な実施形態では、高い引き出しエネルギーは、20kV~80kVの範囲内、例えば40kV~60kV(例えば55kV)であり得る。このような実施形態では、特定のシナリオで所望の引き出しエネルギーをイオンビームに与えるように、引き出し電極(複数可)104に印加される電圧は、選択され得る。
【0023】
図1の実施例では、イオンビームは引き出し電極104から磁気分析器106まで通る。他の実施形態では、磁気分析器106は省略される。磁気分析器106は、イオンビームに対して磁力を生成する磁界を供給するように構成される。各イオンに対する磁力はほぼ等しくあり得るが、イオンビームは異なる同位体のイオンを含み得、よって、イオンの質量は異なる。磁気分析器106が与える磁力は、質量によるイオンの分離を生じ得る。よって、磁気分析器106を通過した後、イオンビームの横断面の異なる領域には、異なる同位体、すなわち異なる質量のイオンが含まれ得る。
【0024】
図1において、イオンビームは、磁気分析器106から質量分解開口108へ通ることが示され、質量分解開口108は、所望のイオンが質量分解開口108を通過することを可能にしながら、イオンの望ましくない部分集合が質量分解開口108を通過することを阻止するように構成される。よって、質量分解開口108は、所望のイオンまたは高い割合の所望のイオンを単離する。具体的には、質量分解開口108を通過できるイオンは、主に所望の同位体(または2つの所望の同位体)のイオンであるが、他の1つ以上の同位体のイオンは、質量分解開口108により遮断される。これは、磁気分析器106に対して質量分解開口108を配置して、磁気分析器106がもたらす質量による同位体の分離を利用することにより、達成される。様々な実施形態において、様々な幾何学的配置が可能である。したがって、磁気分析器106及び質量分解開口108を含む実施例では、ターゲット110に到達するイオンビームは、高い割合の所望の同位体(複数可)を含み、異なる同位体のイオンの混入割合は低い。
【0025】
質量分解開口108からのイオンビームは、ターゲット110に入射する。ターゲット110は、イオンビームのイオンを受け取って収集するように構成される。ターゲット110は、イオンを受け取って保持するのに適した基板材料を含み得、これは、ターゲット110の表面上の膜として含まれ、及び/またはターゲット110の格子構造に埋め込まれる。例えば、ターゲット110の基板材料は、結晶構造を有し得る。別の例として、ターゲット110の基板材料は、炭素繊維材料(例えば炭素繊維布)を含み得る。また、イオンがターゲット110上で収集される、ターゲット110に埋め込まれる、またはターゲット110で別様に受け取られるときに、ターゲット110をほぼ一定の電圧に保持可能なように、ターゲット110の材料(複数可)は選択される。ターゲット110の材料(複数可)は、ターゲット110に、またはターゲット110内に、イオンを付着させることを促進するように、選択され得る。イオン源102の動作中にターゲット110上に蓄積するイオン性物質の採取を容易にするために、ターゲット110は、イオン生成システム100内で取り外し可能及び交換可能であり得る。
【0026】
ターゲット110は、電圧源112に連結されていることが示され、電圧源112は、ターゲット110と接地114との間に接続されている。イオン生成システム100の他の要素には、イオン生成システム100の動作を可能にする適切な電子要素、電源なども含まれる。電圧源112は、ターゲット110を、イオンビームと同じ極性を有する電圧(本明細書ではターゲット電圧と称される)に保持する(留める、確立する、維持するなど)ように構成される。例えば、図2図3に示され、下記で論述されるように、イオン源により陽イオンが生成されるシナリオでは、電圧源112により正電圧がターゲット110に与えられ、一方、イオン源により陰イオンが生成されるシナリオでは、電圧源112により負電圧がターゲット110に与えられる。別の実施形態では、図2図3の実施例のようにターゲット110がバイアスされないように、ターゲット110は、接地に直接接続される。
【0027】
イオンビームが、ターゲット電圧により反対方向に強制されることなくターゲットに到達することができるように、ターゲット電圧は、イオンビームの引き出しエネルギーより小さいことが好ましく、同時に、ターゲット電圧は、イオンビームのエネルギーを低減させるのに十分な高さ、ターゲット110におけるイオンビームの電子阻止能及び核阻止能の両方を最小限に抑えるのに十分な大きさを有することが好ましい(これにより、イオンとターゲット110との高エネルギー衝突により引き起こされるであろう散乱またはスパッタリングが最小限に抑えられる)。例えば、イオンがターゲット110に到達すると同時に、イオンのエネルギーが熱エネルギーに変わるように、ターゲット電圧は、イオンの熱エネルギーに対応する量だけ、引き出しエネルギーより低くあり得る。様々な実施形態では、ターゲット電圧は、引き出しエネルギーより小さく、かつ引き出しエネルギーの95%より大きく、例えば引き出しエネルギーの99%より大きい(同時に引き出しエネルギーよりも小さい)。いくつかの実施例では、イオンビームがターゲットに到達したとき、イオンビームが約100Vのエネルギーを有するように、ターゲット電圧は、引き出しエネルギーより約100V小さい(例えば引き出しエネルギーからターゲット電圧を減算すると約100Vに等しい)。一実施例では、引き出しエネルギーは55kVであり、ターゲット電圧は54.9kVである。
【0028】
いくつかの実施形態では、イオン生成システム100の動作を通して、イオンがターゲット110上に集まり(例えばターゲット110上の膜として、ターゲット110に埋め込まれて)、イオンが(例えば所望の同位体(複数可)の)中性物質に構成されるとき、ターゲット110の電圧がほぼ一定に保たれるように、電圧源112及びターゲット110は構成される。いくつかの事例では、構成されたイオン化物質をターゲット110から摘出することを容易にするために、ターゲット110は、イオン生成システム100から取り外し可能であり得る。いくつかのこのような事例では、電圧源112は、ターゲット電圧をゼロへと徐々に下げるように制御され、これにより、ターゲット110上に収集されたイオン化物質を破壊することなく、ターゲット110を電圧源112から切り離すことが可能となる。いくつかの実施形態では、ターゲット110(またはその一部)は、イオン化物質の輸送及びさらなる処理に使用するために取り外され、イオン生成システム100のその後の動作に使用する新しいターゲット110(または新しいその部分)と置き換えられる。別の実施形態では、イオン生成システム100のその後の動作でターゲット110が再利用され、さらなるイオンを収集できるように、ターゲット110からイオン化物質が摘出され、容器(または他の収集及び保持デバイス)に収集され得る。
【0029】
ここで図2を参照すると、例示的な実施形態による、陽イオンビーム150を伴う実施形態におけるイオン生成システム100のターゲット110及び電圧源112の概略図が示される。図2は、ターゲット110に照準を合わせてターゲット110に入射する陽イオンビーム150(すなわち、正電荷イオンのビーム)を示す。
【0030】
陽イオンビーム150は正の極性を有することから、ターゲット110の電圧にも正の極性が与えられる。図2は、ターゲット110が電圧源112の正端子に接続され、電圧源112の負端子が接地114に接続されていることを示す。電圧源112は、ターゲット110を陽電位に、すなわち、陽イオンビーム150と同じ極性の電位に保持する。
【0031】
ターゲット110の陽電位は、ターゲット110に向かうイオンビーム150の動きに抵抗する電界を供給する。イオンビーム150は、ターゲット110に到達するために、この電界を横切って移動する必要がある。このようにすることで、イオンビーム150の運動エネルギーは、ターゲット110の陽電位により生成される電界内のイオンの電位に変換される。これは、イオンが「上り坂」を転がってターゲット110に到達することに似ていると考えられ得る。上記で論述されたように、陽イオンがターゲット110に到達すると同時に、陽イオンビーム150が低エネルギー、例えば熱エネルギーになるように、ターゲット電圧は選択され、維持される。熱エネルギーに変わると、陽イオンビーム150は、ターゲット110から離れる、またはスパッタリングもしくは散乱を引き起こす余分な運動エネルギーを有さなくなるため、陽イオンビーム150のイオンはターゲット110に付着し、例えば図2に示されるように陽イオン膜151を形成する。
【0032】
ここで図3を参照すると、例示的な実施形態による、陰イオンビーム152を伴う実施形態におけるイオン生成システム100のターゲット110及び電圧源112の概略図が示される。図2は、ターゲット110に照準を合わせてターゲット110に入射する陰イオンビーム152(すなわち、負電荷イオンのビーム)を示す。
【0033】
陰イオンビーム152は負の極性を有することから、ターゲット110の電圧にも負の極性が与えられる。図3は、ターゲット110が電圧源112の負端子に接続され、電圧源112の正端子が接地114に接続されていることを示す。電圧源112は、ターゲット110を陰電位に、すなわち、陰イオンビーム152と同じ極性の電位に保持する。
【0034】
ターゲット110の陰電位は、ターゲット110に向かうイオンビーム152の動きに抵抗する電界を供給する。イオンビーム152は、ターゲット110に到達するために、この電界を横切って移動する必要がある。このようにすることで、イオンビーム152の運動エネルギーは、ターゲット110の陰電位により生成される電界内のイオンの電位に変換される。これは、イオンが「上り坂」を転がってターゲット110に到達することに似ていると考えられ得る。上記で論述されたように、陰イオンがターゲット110に到達すると同時に、陰イオンビーム152が低エネルギー、例えば熱エネルギーになるように、ターゲット電圧は選択され、維持される。熱エネルギーに変わると、陰イオンビーム152は、ターゲット110から離れる、またはスパッタリングもしくは散乱を引き起こす余分な運動エネルギーを有さなくなるため、陰イオンビーム152のイオンはターゲット110に付着し、例えば図3に示されるように陰イオン膜153を形成する。
【0035】
よって、イオン生成システム100は、構成されたイオン化物質としてイオンを効率高く生成及び収集するように構成される。上述のようにターゲット110をターゲット電圧に設定することにより、ターゲット110に入射するイオンの高い割合がターゲット110に付着し、例えばターゲット110に膜を形成する。よって、イオン生成システム100の効率は、イオン源102により生成される望ましいイオンを高い割合で収集することにより向上する。さらに、物質がスパッタリングまたは散り去る率は低いまたはゼロであることから、イオン生成システム100内の他の望ましくない表面上に物質が蓄積することも実質的に防止され、よって、イオン生成システム100のダウンタイム、クリーニング、メンテナンスなどが削減される。さらに、ターゲットにおける高エネルギーイオンの電子阻止能または核阻止能(すなわち、原子間の衝突)は、ターゲットの熱エネルギーを大幅に増加させるが、本明細書の実施形態は、電圧源112がもたらす電位を使用してイオンのエネルギーを低減させ、よって、ターゲットにおける熱エネルギーの蓄積を回避する。
【0036】
ここで図4を参照すると、いくつかの実施形態による、真空チャンバ202と、イオン生成システム204と、磁気回転デバイス206とを含む装置200の概略図が示される。
【0037】
イオン生成システム204は、イオンビーム発生器208及びターゲット210を含むことが示される。イオンビーム発生器208は、イオンビームを生成し、イオンビームがターゲット210に入射するように、イオンビームをターゲット210に向けるように構成される。イオンビーム発生器208は、例えば、図1のイオン源102、引き出し電極104、磁気分析器106、及び/または質量分解開口108を含み得る。ターゲット210は、例えば図1のターゲット110と同じに構成され得る。
【0038】
図4に示されるように、ターゲット210は、磁気回転デバイス206に連結される。磁気回転デバイス206は、内部プレート(第1のプレート)212、外部プレート(第2のプレート)214、及びモータ216を含む。内部プレート212は、真空チャンバ202の内側にあり(真空チャンバ202の内部にあり、真空チャンバ202の中にあり、真空チャンバ202内に含まれ)、真空チャンバ202の壁220の内側218に配置される。外部プレート214は、真空チャンバ202の外側にあり(真空チャンバ202の外部にあり、真空チャンバ202の外にあり、真空チャンバ202内に含まれておらず)、壁220の外側222に配置される。モータ216は、外部プレート214に機械的に連結される。ターゲット210は、内部プレート212に機械的に連結される。
【0039】
モータ216は、外部プレート214の回転を駆動するように動作可能である。モータ216は、電気を回転運動に変換する電気モータ、例えばステッピングモータであり得る。モータ216の動作が外部プレート214にトルクをかけて、外部プレート214の軸を中心に外部プレート214の回転を引き起こすように、モータ216は外部プレート214に連結される。モータ216の回転駆動シャフトは、外部プレート214の軸と位置が合わせられ、外部プレート214に直接トルクを伝達して、外部プレート214の回転を引き起し得る。外部プレート214を様々な速度で回転させるように、モータ216は制御可能であり得る。いくつかの実施形態では、モータ216は、毎分約1回転のペースで外部プレート214を回転させるように動作する。
【0040】
外部プレート214は、1つ以上の磁石(例えば永久磁石)を含み、内部プレート212も、外部プレート214の1つ以上の磁石に対応する1つ以上の磁石(例えば永久磁石)を含む。内部プレート212及び外部プレート214内の磁石の例示的な配置が、図3図6に示され、これらを参照して説明される。外部プレート214により内部プレート212に対して引力がかかり、その逆も同様となるように、外部プレート214及び内部プレート212の磁石は配置される。例えば、外部プレート214の1つ以上の磁石は、壁220の方向に正の磁極性を有するように配置され得る一方、内部プレート212の1つ以上の磁石は、壁220の方向に負の磁極性を有するように配置され(またはその逆も同様)、これにより、磁石が互いに引き寄せられ、磁力により内部プレート212と外部プレート214が引き合わせられる。磁石は、真空チャンバ202の壁220を横断して引力を発揮するのに十分に強い磁界を供給する。いくつかの実施形態では、壁220の厚さは約0.5インチであり得る。
【0041】
外部プレート214の磁石と内部プレート212の磁石との間の磁気引力に起因して、モータ216による外部プレート214の回転は、内部プレート212の回転を引き起こす。示される実施例では、内部プレート212は、外部プレート214との磁気結合により、外部プレート214の回転と一致するように回転する。これにより、真空チャンバ202の気密封止の完全性を損なうことなく(例えば気密封止が困難であり得る内部プレート212と外部プレート214との機械的係合を要することなく)、回転運動及びトルク(例えば角運動エネルギー)は、真空チャンバ202の壁220を横断して伝達される。図4に示されるように、ターゲット210は内部プレート212上に取り付けられていることから、内部プレート212の回転により、ターゲット210が回転する。本明細書の実施例は回転に言及しているが、別の実施形態では、外部プレート214を(例えば一次元または二次元で)平行移動させることで、内部プレート212及びターゲット210の対応する平行移動を引き起こすように、モータ216は配置される。モータ216の動作により、ターゲット210の運動、例えばターゲット210の回転が引き起こされる。
【0042】
図4に示されるように、イオンビーム発生器208は、ターゲット210の回転軸に対してイオンビームの位置がずれる(オフセットなどされる)ように、ターゲット210にイオンビームを向ける。したがって、磁気回転デバイス206の動作によりターゲット210が回転すると、イオンビームがターゲット210に入射する点または領域が変化する。ターゲット210が経時的に回転すると、イオンビームは経時的にターゲット210の異なる部分に入射し、これによりイオンビームにさらされるターゲット210の総面積が増加する。ターゲット210が動くことにより、ターゲット210のより広い領域がイオンビームにさらされ、イオンビームからイオン及び/または同位体を捕捉することが可能となる。よって、ターゲット210は、静的なターゲット210を有する実施形態と比較して、より多くの物質を捕捉することができ、これにより、ターゲットが満杯(飽和、一杯など)になるまで、装置200をより長く連続動作させることが可能となる。ターゲットを回転させることは、望ましくない場合があるターゲットにわたる温度勾配を減らすことにも役立ち得る。
【0043】
磁気回転デバイス206はまた、例えばターゲット210から熱を除去して、ターゲット210の温度を管理するために、真空チャンバへの、または真空チャンバからの熱伝達を行うように構成される。示されるように、内部プレート212及び外部プレート214は両方とも、真空チャンバ202の壁220と接触して配置される。内部プレート212及び外部プレート214は、高い熱伝導率(例えば通過する熱流に対する低い抵抗)を有する材料、例えば鋼などの金属を含み得る。壁220は、同様の材料で作られ得る。内部プレート212及び外部プレート214は、壁220を介して互いに熱接触している。このような熱接触は、内部プレート212と外部プレート214を互いに向かって引き寄せて壁220に接触させることができる内部プレート212と外部プレート214の磁石間の引力により、維持される。ターゲット210は、内部プレート212上に配置されていることが示される。これにより、ターゲット210から外部プレート214までの熱伝達経路が形成される。
【0044】
示される実施形態では、装置200は、外部プレート214と熱的に連通している冷却システム224も含む。冷却システム224は、外部プレート214から熱を除去するように構成された冷凍サイクル(例えば圧縮器、凝縮器、膨張弁、及び蒸発器を含む)を含み得る。例えば、冷却システム224は、外部プレート214と熱的に連通している1つ以上のコイルまたは他の熱交換器を介して、冷却した流体を供給し得る。外部プレート214の冷却により、ターゲット210から離れる熱流が増加し、これは、イオンビームとターゲット210との衝突がターゲット210に熱エネルギーを与える実施形態では、望ましくあり得る。別のシナリオ(例えば磁気回転デバイス206の別の使用例)では、冷却システム224は、内部プレート212を介して真空チャンバ202内に熱エネルギー(熱)を伝達するために、外部プレート214に熱エネルギーを与えるように構成された加熱システムを含み得る、または加熱システムと置き換えられ得る。
【0045】
ここで図5を参照すると、いくつかの実施形態による、ターゲット110(もしくはターゲット210)またはその一部(例えばその繊維格子)の分解図が示される。図5の実施例では、ターゲット110は、第1の格子400及び第2の格子402を含み、これらは、ターゲット110を繊維格子として形成する。第1の格子400及び第2の格子402は、層として積層され、ターゲット110が形成され得る。別の実施形態では、別の数(例えば、1枚、3枚、4枚、5枚など)の格子(層)がターゲット110に含まれる。繊維格子は、様々な実施形態において、炭素フェルトまたは泡状炭素として形成され得る。
【0046】
第1の格子400は、複数の方向(2つの直交する方向として示される)に配列された複数の繊維を含む。複数の繊維は、一緒に織られて、または他の方法で結合されて、第1の格子400が形成され得る。第2の格子402も、複数の方向(2つの直交する方向として示される)に配列された複数の繊維を含み、これらの繊維は、一緒に織られて、または他の方法で結合されて、第2の格子402が形成される。第1の格子400及び第2の格子402は、第1の格子400の繊維が第2の格子402の繊維と平行になるように、互いに対して配置されてもよく、または第1の格子400の繊維が第2の格子402の繊維に対して非直交の角度を成すように、別様に配向されてもよい。いくつかの実施形態では、第1の格子400及び第2の格子402は、人間の裸眼には実質的に固体に見えるが、顕微鏡レベル以下の繊維で構成されている。
【0047】
例えば図5が示す炭素繊維の第1の格子400及び炭素繊維の第2の格子402など、第1の格子400の繊維及び第2の格子402の繊維は、炭素でできたものであり得る。いくつかの実施形態では、例えば第1の格子400の繊維及び第2の格子402の繊維の一部またはすべてが黒鉛繊維であるように、繊維は黒鉛でできている。繊維の材料は、(酸素の存在下で)燃焼したときに炭素繊維自体が固体残留物をほとんどまたはまったく残さないように、高純度(例えば95%以上が炭素)であることが好ましい。真空状態で(例えば装置200の動作中に、真空チャンバ202の内側で、酸素が実質的に存在しない状態で)、炭素繊維は、実質的に変形、溶融などを起こすことなく、高温(例えば200℃を超える、300℃を超える、800℃を超える温度)に耐えるように構成される。
【0048】
第1の格子400及び第2の格子402は、これらに入射するイオン(例えば図4のイオンビーム発生器208が供給するイオンビームからのイオン)を捕捉するように構成される。複数の繊維の配列により、イオンは、ターゲット110に一度衝突した後、ターゲット110から散り去ることなく、イオンがターゲット110に留まる(例えば熱エネルギーに変わる)まで、イオンの運動エネルギーが低減されるように、複数の繊維で偏向(散乱、衝突など)する。繊維の配列は、一部のイオンが第1の格子400の外表面を通り抜けることができるように、部分的に多孔質であり、よって、第1の格子400の表面に蓄積されるエネルギー量が減少し、イオンがターゲット110から逃げることなく(例えばターゲット110から蒸発し消え去ることなく)複数回散乱することが可能となる。したがって、材料の平らなプレートまたはブロックと比較して、格子構造は、増加した表面積及び重なった幾何学構造を提供し、これにより、ターゲット110に入射するイオンを高い割合(例えば40%を超える割合、いくつかの配列では90%を超える割合)で捕捉することが促進され得る。よって、第1の格子400及び第2の格子402により、ターゲット110にて所望の同位体が効率的に収集される。
【0049】
第1の格子400及び第2の格子402はまた、(酸素の存在下で)燃焼して、または別様に反応して、高濃度の所望の同位体を含む残留物を残す(例えば残留物に還元される)ように構成される。例えば、図5の繊維格子構造では、炭素または黒鉛の固体のブロックまたはプレートと比較して、ターゲット110の表面積対質量比が増加し、これにより、第1の格子400及び第2の格子402の比較的容易な燃焼が可能となる(例えば、通常は燃えない黒鉛の固体ブロックと比較した場合)。例えば、イオン生成システム100の動作中、実質的な酸素量が存在しない真空内にターゲット110が保持されている間(これによりターゲット110の完全燃焼が阻止される)、ターゲット110は、所望の同位体を捕捉する(図5の実施例における第1の格子400及び第2の格子402で)。次に、繊維格子から同位体を抽出する処理のために、真空からターゲット110が取り外され得る(例えば、図4の実施例では真空チャンバ202からターゲット210が取り外され得る)。真空の外側には、酸素が存在し、これにより炭素繊維の燃焼が可能となる。次に、繊維格子(例えば第1の格子400及び第2の格子402)を燃焼させて、高濃度の所望の同位体を有する残留物に繊維格子は還元され得る。炭素は燃焼後にガスとして消散し、よって、残りの物質は所望の同位体から成り、所望の同位体は、抽出プロセス中に酸化し得る。例えば、いくつかの実施形態では、ターゲットの燃焼後に、粉末(例えば白色粉末)として、酸化イッテルビウムの粉末(例えば酸化イッテルビウム‐176)が残る。
【0050】
ここで図6を参照すると、いくつかの実施形態による、ターゲット110(またはターゲット210)の繊維格子500の斜視図が示される。様々な実施形態では、繊維格子500は、図5の第1の格子400及び第2の格子402の代替として使用することができ、あるいは図5の第1の格子400及び/または第2の格子402と組み合わせて使用され得る。
【0051】
図6に示されるように、繊維格子500は、絡み合った網状に配列された複数の繊維を含み、よって、繊維格子500は、連続気泡フォームを特徴とし得る。図5の実施例のように、複数の繊維は、炭素繊維及び/または黒鉛繊維であり得る。所望の同位体が繊維格子500に収集されるように、繊維格子500は、(例えば図4の実施例のイオンビーム発生器208が生成したイオンビームから)イオンを捕捉するように構成される。繊維格子500の繊維構造により、イオンは、繊維格子500に一度衝突した後、繊維格子500から散り去ることなく、繊維格子500に静止するようになるまで、複数の繊維で偏向し得る。繊維格子500も表面積対質量比が高く、これにより、繊維格子500を容易に燃焼して、高濃度の所望の同位体を有する残留物に繊維格子500を還元することが促進される。
【0052】
ここで図7を参照すると、いくつかの実施形態による、ターゲット210(またはターゲット110)の上面図が示される。示される実施例では、ターゲット210は、第1の格子400(第2の格子402がいくつかの実施形態に含まれ得るが、例えば図7の観点からは第1の格子400の背後に隠れてみえない)と、バッキングプレート600と、マウント602と、ボルト(または他の連結部材、例えばネジ、クリップ、コネクタなど)604と、を含むことが示され、マウント602は、リング状に形成され、第1の格子400がマウント602とバッキングプレート600との間に存在するように配置され、ボルト604は、マウント602をバッキングプレート600に連結する。
【0053】
ボルト604が締められると、マウント602は、バッキングプレート600に対して第1の格子400(または他の繊維格子、例えば繊維格子500)を保持し、よって、第1の格子400は、バッキングプレート600に対して所定の位置に固定される。ボルト604を緩めると、第1の格子400はマウント602から解放され得、よって、収集された同位体を第1の格子400から採取するために、第1の格子400は取り外され得る。
【0054】
いくつかの実施形態では、バッキングプレート600は、図4の磁気回転デバイス206(アクチュエータ)の内部プレート212に連結される、またはその一部である。このような実施形態では、外部プレート214を駆動するモータ216の動作により、内部プレート212、バッキングプレート600、マウント602、及び繊維格子(例えば第1の格子400)が回転する。これにより、繊維格子は、軸の周りを回転可能となり、例えば、イオンビームが入射する繊維格子(例えば第1の格子400)の表面積が増加する。
【0055】
図7は、60kVのエネルギーを有するイッテルビウムイオンのビームが生成され、第1の格子400に送られることにより、第1の格子400がイッテルビウムイオン/原子を捕捉する実施例を示す。図7は、第1の格子400によりイッテルビウムが捕捉された燃焼領域606を示す。示される実施例では、イオン捕捉中に、イオンビームは、第1の格子400の部分的な燃焼を引き起こす。図7はまた、イオンビームが第1の格子400に入射している間に、(例えば前述の回転により)第1の格子400を動かすことで、第1の格子400のより多くの部分を使用してイオンを捕捉することが可能となり得、よって、所望の同位体/原子の総収集量が増加することを示す。
【0056】
ここで図8を参照すると、実験結果による、第1の格子400及び第2の格子402(第1の格子400により部分的に隠れている)の上部が示される。図8の実施例では、約5kVのエネルギーを有するイッテルビウムのイオンビームが、第1の格子400及び第2の格子402に入射した(一部のイオンは第1の格子400を通過して第2の格子402に到達した)。燃焼領域700は、第1の格子400及び第2の格子402でイオンが収集された場所を示す。図8の実験は、第1の格子400及び第2の格子402によりイッテルビウムが捕捉され得ることを示す。図8はまた、第1の格子400及び第2の格子402を回転させると、繊維格子材料のより多くの部分がイオンビームにさらされて、繊維格子による所望の同位体の総収集量が増加することを示す。
【0057】
ここで図9を参照すると、別の実験結果による、第1の格子400及び第2の格子402(第1の格子400により部分的に隠れている)の上部が示される。図9の実施例では、約0.3kVのエネルギーを有するイッテルビウムのイオンビームが、第1の格子400及び第2の格子402に入射した(一部のイオンは第1の格子400を通過して第2の格子402に到達した)。燃焼領域800は、第1の格子400及び第2の格子402でイオンが収集された場所を示す。図8図9の実験を比較すると、約0.3kVのエネルギーを有するビームは、約5kVのビームよりも捕捉量が増加した(燃焼領域700と比較して燃焼領域800がより大きいことにより証明される)。よって、図1図3を参照して前述されたように、ターゲット110と衝突する前にイオンエネルギーを低減させることの利点を、図8図9は示す。図9はまた、第1の格子400及び第2の格子402を回転させると、繊維格子材料のより多くの部分がイオンビームにさらされて、繊維格子による所望の同位体の総収集量が増加することを示す。よって、本明細書で説明される様々な特徴は、繊維格子材料で所望の同位体(複数可)/原子(複数可)を効率高く捕捉することに寄与し、繊維格子材料から、所望の粒子を豊富に含む残留物を容易に得ることができる。
【0058】
上記の論述により、イオン生成システム100の動作、イオンビームに対するターゲット電圧の効果などに関連する物理原理の一般的概要が示されたが、イオンビームの挙動は複雑であること、ならびに、付加的または代替的な理論または実験結果を使用して、本明細書に記載されるシステム及び方法の様々な利点のさらなる説明または代替説明がもたらされ得ることを、理解されたい。例えば、実験結果により、前述のようにイオンビームと同じ極性のターゲット電圧をターゲット110に与えることにより、本明細書で説明される利点が得られること、ならびに、本明細書で説明される繊維格子材料により、イッテルビウム‐176などの所望の同位体が効率的に捕捉されることが示された。
【0059】
本明細書で使用される用語「約/ほぼ(approximately)」、「約(about)」、「実質的に/ほぼ(substantially)」、及び同様の用語は、本開示の主題が属する当業者による一般的かつ受け入れられた用法と調和した、広い意味を有することが意図される。これらの用語は、記載及び特許請求される特定の特徴の説明を可能にし、これらの特徴の範囲を、提供された正確な数値または理想的な幾何学的形状に制限しないことが意図されることを、本開示を検討する当業者には理解されたい。したがって、記載及び特許請求される主題の実質性または重要性のない修正または変更も、添付の特許請求の範囲に記載される開示の範囲内に入るとみなされることを示すものとして、これらの用語は解釈されるべきである。
【0060】
本明細書で使用される用語「連結された/結合された/接続された(coupled)」及びその変形は、2つの部材を直接的または間接的に相互に接合することを意味する。このような接合は、静的(例えば永続的または固定的)、または可動的(例えば取り外し可能または解放可能)であり得る。このような接合は、2つの部材が互いに直接連結されることにより、または別個の介在部材と任意の追加中間部材とを互いに連結した状態で使用して、2つの部材が互いに連結されることにより、または2つの部材のうちの一方と1つの単体構造として一体的に形成された介在部材を使用して、2つの部材が互いに連結されることにより、達成され得る。「連結された/結合された/接続された(coupled)」またはその変形が追加の用語で修飾される場合(例えば直接連結された)、上記に示された「連結された/結合された/接続された(coupled)」の一般的な定義は、追加用語の平易な言語の意味により変更され(例えば「直接連結された」とは、いずれの別個の介在部材も介さずに2つの部材を接合することを意味する)、その結果、上記に示された「連結された/結合された/接続された(coupled)」の一般的な定義よりも、狭い定義となる。このような連結は、機械的、電気的、または流体的であってもよい。
【0061】
本明細書における要素の位置(例えば「上部(top)」、「底部(bottom)」、「~の上(above)」、「~の下(below)」)への言及は、単に図面における様々な要素の配向を説明するために使用される。様々な要素の配向は、別の例示的な実施形態により異なり得ること、ならびに、そのような変形も本開示に包含されることが意図されることに、留意されたい。
【0062】
図面及び説明は、方法ステップの特定の順序を示し得るが、上記で別段の指定がない限り、このようなステップの順序は、図示及び説明される順序と異なってもよい。また、上記で別段の指定がない限り、2つ以上のステップは、同時に実行されてもよく、または部分的に同時に実行されてもよい。このような変形形態は、例えば、選ばれたソフトウェア及びハードウェアシステム、及び設計者の選択に依存し得る。すべてのこのような変形形態が、本開示の範囲内に含まれる。同様に、説明された方法のソフトウェア実施態様は、様々な接続ステップ、処理ステップ、比較ステップ、及び決定ステップを遂行するためのルールベースロジック及び他のロジックを備えた標準的なプログラミング技術により、実現され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】