(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】常温保存向けの発酵乳製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 9/12 20060101AFI20240905BHJP
A23C 9/123 20060101ALI20240905BHJP
A23C 9/13 20060101ALI20240905BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
A23C9/12
A23C9/123
A23C9/13
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024520029
(86)(22)【出願日】2022-10-03
(85)【翻訳文提出日】2024-05-14
(86)【国際出願番号】 EP2022077441
(87)【国際公開番号】W WO2023057370
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/122506
(32)【優先日】2021-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503260310
【氏名又は名称】セーホーエル.ハンセン アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】ハン ホイ
(72)【発明者】
【氏名】メデ ウーアストローム
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA30X
4B065AA49X
4B065BB16
4B065BB24
4B065BC02
4B065BC03
4B065CA42
(57)【要約】
本発明は、乳業技術の分野にある。生細菌を含んでいる発酵乳製品を生産する方法であって、該製品が常温にて保存されたときに後酸性化がないか又は後酸性化が少ない/低減された、前記方法に関する。更に、本発明は、その方法によって作り出された発酵乳製品に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生細菌を用いて発酵乳製品を生産する方法であって、以下のステップ:
(a) 少なくとも1種類の炭水化物を含む乳ベースと、前記炭水化物を代謝でき、かつ、少なくとも1種類の単糖を産生できる1若しくは複数の乳酸菌株を含んでいる第一の培養物とを準備し;
(b) pH4.7以下の第一の目標pHに達するまでの期間にわたり、45℃以下の第一の温度にて乳ベースを発酵させて、少なくとも1種類の単糖を含んでいる第一の発酵乳ベースを得;
(c) 第一の発酵乳ベースを処理し、それによって、第一の培養物中に含まれる菌株を不活性化するか又は除去し;
(d) 処理した第一の発酵乳ベースに、1若しくは複数の乳酸菌株を含んでいる第二の培養物を加え、ここで、前記菌株は、ラクトース欠損性であり、かつ、第一の発酵中に産生された少なくとも1種類の単糖を代謝でき;
(e) 処理した第一の発酵乳ベースを、pH4.4以下の第二の目標pHに達するまでの期間にわたり、45℃以下の第二の温度にて発酵させて、発酵乳製品を得ること、ここで、該第二の目標pHは、少なくとも1種類の単糖の枯渇によって決定され、及びここで、該第二の目標pHは第一の目標pHより低い、
を含む前記方法。
【請求項2】
前記乳ベース中の少なくとも1種類の炭水化物が、ラクトース、スクロース、マルトース、又はトレハロースから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記乳ベース中の少なくとも1種類の炭水化物が、該乳ベースに添加される、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種類の炭水化物の量が、第一の発酵中に使い果たされる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第一の培養物の1若しくは複数の乳酸菌株が、S.サーモフィルスなどのストレプトコッカス属、又はL. デルブルエッキ亜種ブルガリクスなどのラクトバチルス属から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第一の培養物の1若しくは複数の乳酸菌株がラクトース欠損性である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第一の培養物のラクトース欠損性菌株が、以下の:DSM28952、DSM28953、DSM28910、DSM32600、DSM32599、から成る群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第一の目標pHが、pH4.70:4.65;4.60;4.55;4.50;4.45;4.40以下であるか;又はpH4.70~4.00;4.70~4.10;4.70~4.20;4.70~4.30;4.70~4.40;4.70~4.45;4.65~4.50;4.60~4.55の範囲内であるか;又は約4.70:4.65;4.60、4.55;4.50;4.45;若しくは4.40である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第一の温度が、25;30;35;36;37;38;39;40;41;42;43;44;45℃未満であるか;又は20~45;25~45;30~45;40~45;25~40;30~40;35~40℃の範囲内であるか;又は約20;25;30;35;36;37;38;39;40;41;42;43;44;45℃である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第一の発酵乳ベースの処理が、熱を用いた処理であり、ここで、該熱処理が、65~75℃の範囲内にて、少なくとも1~30分間にわたり、少なくとも60;65;70;若しくは75℃にて、1;5;10;15;20;25;若しくは30分間にわたり;又は70~90の範囲内にて10~50秒間にわたり;又は少なくとも70;75;80;85;若しくは90℃にて、少なくとも10;15;20;25;30;35;40;45;若しくは50秒にわたり;又は65~90℃;70~85℃;75~80の範囲内にて、10~50秒間にわたり;又は75℃にて25秒間にわたり;75℃にて50秒間にわたり実施される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第二の目標pHが、pH4.5;4.4;4.3;4.2;4.1;4.0;3.9;3.8;3.7;3.6;3.5以下であるか;又はpH4.50~3.50;4.50~4.05;4.45~4.10;4.45~4.15;4.40~4.20;4.40~4.25;4.35~4.30;4.00~3.50;3.95~3.50;3.90~3.55;3.85~3.60;3.80~3.65;3.75~3.60の範囲内にあるか;又は約pH4.40;4.35;4.30;4.25;4.20;4.15;4.10;4.05;4.00;3.90;3.80;3.70;3.60;3.50である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第二の培養物の1若しくは複数の乳酸菌が、ラクトバチルス属の細菌、例えば、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ、ラクチカゼイバチルス・ラムノサス、ラクチカゼイバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・デルブルエッキ、ラクチプランチバチルス・プランタルム、リモシラクトバチルス・ファーメンタム、リモシラクトバチルス・ロイテリ、及びラクトバチルス・ジョンソニイなど;並びにビフィドバクテリウム属、例えばビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・アドレスセンティス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス、ビフィドバクテリウム・デンティウム、ビフィドバクテリウム・カテヌラツム、ビフィドバクテリウム・アングラツム、ビフィドバクテリウム・マグヌム、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラツム、及びビフィドバクテリウム・インファンティスなど;又はストレプトコッカス属、例えばS.サーモフィルスなど、から成る群から選択される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記第二の培養物の1若しくは複数の乳酸菌が、プロバイオティクス細菌である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記細菌がATCC53103、CNCM I-2116、及び/又はDSM16572である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記発酵乳製品のpHが、25℃にて6カ月にわたる保存後に0.80;0.70;0.60;0.50;0.40;0.35;0.30、0.25、0.20、0.18、0.16、0.14、0.12、0.10、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03、0.02又は0.01pHユニット未満しか変化しない、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記発酵乳製品が、25℃にて6カ月にわたる保存後に、少なくとも1.0E+03;1.0E+04;1.0E+05;1.0E+06;1.0E+07;1.0E+08;1.0E+09;又は少なくとも1.0E+10 cfu/gの生細菌を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記第二の培養物の1若しくは複数の乳酸菌が、第二の発酵中、又は第二の発酵中及び発酵後に、細胞を増殖させ、及び細胞数を増加させることができる、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞数が0.5;1.0;1.5;2.0;2.5;又は3.0 log増強される、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか一項に記載の方法によって製造された発酵乳製品。
【請求項20】
前記発酵乳製品が、少なくとも1.0E+05;1.0E+06;1.0E+07;1.0E+08;1.0E+09;1.0E+10;1.0E+11;1.0E+12 cfu/一人分のプロバイオティクス細菌を含む、請求項19に記載の製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、発酵乳製品の生産方法に関する。特に、後酸性化が少ない常温保存向けの生細菌を含んでいる発酵乳製品に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
発酵乳製品とその生産方法は当該技術分野で知られている。一般に、発酵乳製品は、製造完了後のスターター培養物に含まれている菌株による更なる発酵及び酸性化、すなわち、後酸性化、を予防するために、並びに該製品の腐敗を引き起こすであろう任意の好ましくない微生物の活性を低減するように、冷温での保存と流通を必要とする。低温保存及び流通が難しいか又は存在しない地域では、常温でも多少安定している発酵乳製品を生産するための、所望の方法が開発された。特に、後酸性化を制御する方法に取り組まれた。
【0003】
スターター培養物の菌株と好ましくない微生物を不活化するステップを含む方法が説明されており、そして、加熱処理が、不活性化ステップとして伝統的に適用されている。しかしながら、熱は、例えば、外観、食感、風味などの製品特質に影響を与える可能性がある。
【0004】
いくつかの国では、「ヨーグルト」とラベル表示するためには製品中の生きた細菌の存在が、法律で必要とされる。更に、例えば、製品中のプロバイオティクス細菌などの特定の生菌の存在は、健康上の利益を主張するための所望の選択肢を生産業者に提供し得る。しかしながら、生細菌の存在は、特に後酸性化に起因する、特に常温での課題をもたらす。
【0005】
ラクトース欠損性菌株の使用は、作り出された製品中における後酸性化の低減を目的とする、例えば、以下のいくつかの方法で適用されている:
US10072310(Ling)では、ラクトース欠損性菌株ATCC53103の使用を含む、常温にて高い生菌数を保つ発酵乳飲料を調製するプロセスに関する。
WO2005/089560(Nestec S.A.)では、栄養としてラクトースを使用できない生きた微生物を含んでいる常温保存可能な乳製品、及び斯かる製品を製造する方法を説明する。しかしながら、単一株CNCM I-2116を用いたワンステップ発酵のみが実証されただけであった。
WO2019/092064(Tetra Laval Holdings&Finance S.A)では、ラクトースを消費できない細菌を含まない生きた専用培養物を含んでいる常温流通向けの発酵乳製品を含有するパッケージを生産する方法を説明する。
WO2019/206754(Chr. Hansen)では、ラクトース欠損性菌株を用いて乳ベースを発酵させ、それに続いて、プロバイオティック株を加えることによって乳製品を生産するプロセスを説明する。
【0006】
しかしながら、生細菌を含んでいる発酵乳製品であって、常温で保存したときに、後酸性化しないか、或いは低い/低減された後酸性化しかしない該製品、を生産するための改良された方法の必要性が未だに存在する。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、発酵乳製品を調製する方法を提供する。
第一の態様において、本発明は、生細菌を用いて発酵乳製品を生産する方法であって、以下のステップ:
(a) 少なくとも1種類の炭水化物を含む乳ベースと、前記炭水化物を代謝でき、かつ、少なくとも1種類の単糖を産生できる1若しくは複数の乳酸菌株を含んでいる第一の培養物とを準備し;
(b) pH4.7以下の第一の目標pHに達するまでの期間にわたり、45℃以下の第一の温度にて乳ベースを発酵させて、少なくとも1種類の単糖を含んでいる第一の発酵乳ベースを得;
(c) 第一の発酵乳ベースを処理し、それによって、第一の培養物中に含まれる菌株を不活性化するか又は除去し;
(d) 処理した第一の発酵乳ベースに1若しくは複数の乳酸菌株を含んでいる第二の培養物を加え、ここで、前記菌株は、ラクトース欠損性であり、かつ、第一の発酵中に産生された少なくとも1種類の単糖を代謝でき;
(e) pH4.4以下の第二の目標pHに達するまでの期間にわたり、45℃以下の第二の温度にて処理した第一の発酵乳ベースを発酵させて、発酵乳製品を得ること、ここで、該第二の目標pHは、少なくとも1種類の単糖の枯渇によって決定され、及びここで、該第二の目標pHは第一の目標pHより低い、
を含む前記方法を提供する。
【0008】
第二の態様において、本発明は、その方法によって製造された発酵乳製品を提供する。
【0009】
定義
本発明をより詳細に説明する前に、一連の用語及び一般的な慣習を定義する:
「乳」という用語は、これだけに限定されるものではないが、ウシ、ヒツジ、ヤギ、バッファロー、ラクダ、ラマ、雌ウマ、及びシカなどを含めたいずれかの哺乳動物を搾乳することによって得られる乳汁分泌物として理解されるべきである。好ましい実施形態において、乳は牛乳である。
【0010】
本明細書で使用される「均質化」とは、可溶性懸濁液又は乳濁液を得るための強力な混合を意味する。発酵前に均質化をおこなう場合、乳脂肪が乳から分離しないように、乳脂肪をより小さなサイズに分散させるために実施することができる。これは、乳を、高圧にて小さなオリフィスを強制的に通過させることによって達成することができる。
【0011】
本明細書で使用される「殺菌」とは、微生物などの生存している有機体の存在を低減又は排除するための乳ベースの処理を意味する。好ましくは、殺菌は、特定の温度を特定の時間維持することによって達成される。通常、特定の温度は加熱によって達成される。有害菌などの一定の細菌を殺菌又は不活化するために、温度及び持続時間を選択することができる。その後、急冷工程が続く場合がある。
【0012】
本文脈において、「スターター培養物」という用語は、様々な食品、飼料及び飲料などの発酵製品の調製における、発酵工程の開始を支援するための1種以上の細菌株(乳酸菌株など)の調製物(組成物)である培養物を意味する。
本文脈において、「ヨーグルトのスターター培養物」は、1若しくは複数のラクトバチルス・ブルガリカス株と、1若しくは複数のストレプトコッカス・サーモフィルス株とを含んでいる細菌培養物である。本明細書によれば、「ヨーグルト」とは、乳ベースに、ラクトバチルス・ブルガリカス株とストレプトコッカス・サーモフィルス株とを含んでいる組成物を植菌してそれを発酵させることにより得られる発酵乳製品を指す。
【0013】
本明細書の文脈中での「常温」又は「室温」という用語は、10℃より高い温度;15℃;20℃;25℃、又は10~50℃;10~40℃;10~30℃;15~45℃;15~35℃;15~25℃;20~40℃;20~30℃の温度を意味する。
【0014】
乳酸菌株に関して、「CFU」又は「cfu」という用語は、嫌気性条件下、37℃にて3日間インキュベートしたMRS寒天プレート上での増殖(コロニー形成)によって決定されるコロニー形成単位を意味する。本発明に関して使用される詳細については、実施例を参照のこと。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の詳細な説明
ヨーグルトなどの発酵乳製品は、脂質及びタンパク質含有量に関して標準化され、均質化され、そして低温殺菌された乳ベースから生産され得る。一般的な方法では、乳ベースには乳酸菌(LAB)などの選択された微生物を含めたスターター培養物が植菌される。発酵は、所望の目標pHに達するまで特定条件(時間、温度、酸素など)にておこなわれ、そしてその後、典型的には、温度を下げることによって、発酵を終わらせる。発酵乳製品は、好ましくは、冷温、多くの場合4℃にて、保存される。発酵乳製品は、発酵に使用された特定のスターター培養物によって特徴づけられる。
【0016】
発酵乳製品の低温輸送及び/又は低温保存の不存在下、又はコールドチェインが不完全な場面では、好ましくない酸性化が発酵後にも続いて、低いpH、すなわち、乳製品の後酸性化、をもたらす。後酸性化は、とりわけ、例えば、外観、味及び食感などの製品の特性における好ましくない変化をもたらし得る。更に、後酸性化の程度に依存して、製品中に存在するあらゆる菌の生存率が影響を受けて、低い生存率又は更には細菌の死滅につながることもある。
【0017】
スターター培養物によって引き起こされた後酸性化は、スターター培養物に含まれる微生物を不活性化することによって予防されてもよい。しかしながら、例えば、プロバイオティクス細菌などの生細菌を伴った製品を生産することへの要望は、不活性化ステップ後の生細菌の添加を必要とする。加えられた生細菌は、室温又は常温にて乳製品の酸性化を続け、前記乳製品の変化をもたらし得る。
【0018】
本発明は、常温での保存に好適な発酵乳製品を生産するためのツーステップの発酵方法に関する。例えば、後低温殺菌(post-pasturization)ヨーグルト(PPY)などの発酵乳製品を調製するための現行方法は、最終製品中に存在する生菌によって引き起こされた後酸性化を低減するのに苦労している。驚いたことに、本発明によって実証されたように、後低温殺菌の後に加えられた生細菌による酸性化は、有利なことに、乳製品を生産するための発酵工程で利用されることができる。
【0019】
よって、一実施形態において、本発明は、生細菌を用いて発酵乳製品を生産する方法であって、以下のステップ:
(a) 少なくとも1種類の炭水化物を含む乳ベースと、前記炭水化物を代謝でき、かつ、少なくとも1種類の単糖を産生できる1若しくは複数の乳酸菌株を含んでいる第一の培養物とを準備し;
(b) pH4.7以下の第一の目標pHに達するまでの期間にわたり、45℃以下の第一の温度にて乳ベースを発酵させて、少なくとも1種類の単糖を含んでいる第一の発酵乳ベースを得;
(c) 第一の発酵乳ベースを処理し、それによって、第一の培養物中に含まれる菌株を不活性化するか又は除去し;
(d) 処理した第一の発酵乳ベースに1若しくは複数の乳酸菌株を含んでいる第二の培養物を加え、ここで、前記菌株は、ラクトース欠損性であり、かつ、第一の発酵中に産生された少なくとも1種類の単糖を代謝でき;
(e) pH4.4以下の第二の目標pHに達するまでの期間にわたり、45℃以下の第二の温度にて処理した第一の発酵乳ベースを発酵させて、発酵乳製品を得ること、ここで、該第二の目標pHは、少なくとも1種類の単糖の枯渇によって決定され、及びここで、該第二の目標pHは第一の目標pHより低い、
を含む前記方法に関する。
【0020】
乳ベースは、本発明の方法に従って発酵させることができる、任意の生乳及び/又は加工乳である乳由来の未加工材料又は他の材料であり得る。従って、有用な乳ベースとしては、これだけに限定されるものではないが、全乳、全脂乳、無脂肪乳、低脂肪乳、脱脂乳、バターミルク、低乳糖ミルク、濃縮乳、還元粉乳、練乳、粉乳、ホエー、ホエーパーミエート、ラクトース、ラクトース結晶化からの母液、ホエータンパク質濃縮物、又はクリームなどのタンパク質を含む任意の乳製品又は乳様製品の溶液又は懸濁液が挙げられる。明らかに、乳ベースは、任意の哺乳動物に由来し、例えば、実質的に純粋な哺乳動物の乳、又は還元粉乳であってもよい。好ましくは、乳ベース中のタンパク質の少なくとも一部は、カゼイン又はホエータンパク質などの哺乳動物乳中に天然に存在するタンパク質である。
【0021】
一実施形態において、本発明は、乳ベースが、例えば哺乳動物などの動物に由来する、方法に関する。一実施形態において、本発明は、哺乳動物がウシ、ヒツジ、ヤギ、バッファロー、ラクダ、ラマ、雌ウマ、及びシカから成る群から選択される、方法に関する。好ましい実施形態において、哺乳動物はウシである。
【0022】
発酵前に、乳ベースは、当該技術分野で知られている方法に従って均質化及び低温殺菌されてもよい。
【0023】
哺乳動物由来の乳ベースは、主な炭水化物としてラクトースを含む。ラクトースは、発酵中に乳酸菌によって単糖であるグルコースとガラクトースに加水分解される。乳酸菌がラクトースを代謝できない、すなわち、ラクトース欠損性である場合、第二の発酵の乳酸菌が利用可能な少なくとも1種類の単糖を産生するための、少なくとも1種類の炭水化物を得るために、好適な炭水化物を乳ベースに加える必要があり得る。
【0024】
「ラクトース欠損性」という用語は、本発明との関連において、細胞生存又は細胞増殖を維持するための供給源としてラクトースを使用する能力を部分的に又は完全に失った乳酸菌を特徴づけるために使用される。ラクトース欠損性細菌は、スクロース、ガラクトース、グルコース、及び/又は他の発酵性炭水化物から選択される1若しくは複数の炭水化物を代謝できる。これらの炭水化物はラクトース欠損性菌による発酵を補助するのに十分な量で乳中に天然に存在しないので、それらを乳ベースに添加される必要がある。
【0025】
添加されるのに好適な炭水化物は、第一の培養物の1若しくは複数の乳酸菌と、第二の培養物の1若しくは複数の乳酸菌が利用可能である必要がある単糖とによって決定される。好適な炭水化物の例は、ラクトース、スクロース、マルトース、又はトレハロースである。スクロースは、単糖であるグルコースとフルクトースに、マルトースはグルコースに、及びトレハロースはグルコースに加水分解される。一実施形態において、本発明は、乳ベース中の少なくとも1種類の炭水化物が、ラクトース、スクロース、マルトース、又はトレハロースから選択される、方法に関する。一実施形態において、本発明は、乳ベース中の少なくとも1種類の炭水化物が、該乳ベースに添加される、方法に関する。
【0026】
乳ベース中に存在する炭水化物の量は、第二の発酵に利用可能である必要がある少なくとも1種類の単糖を産生する第一の発酵が起こるのに十分な量である必要がある。しかしながら、炭水化物の量は、第二の培養物の1若しくは複数の乳酸菌が炭水化物を代謝できる場合には、過剰である必要はない。第一及び第二の培養物の両方の乳酸菌が炭水化物を代謝できる状況では、前記炭水化物の量は、選択される必要がある、すなわち、第一の発酵後に使い果たされるべき、又はその代わりに、第二の発酵が第二の目標pHに達したときに、使い果たされるべき、炭水化物を限定する必要がある。一実施形態において、本発明は、少なくとも1種類の炭水化物の量が、第一の発酵中に使い果たされる、方法に関する。一実施形態において、本発明は、第二の発酵が第二の目標pHに達したときに、少なくとも1種類の炭水化物の量が使い果たされる、方法に関する。
【0027】
第一の発酵は、第一の培養物が乳ベースに添加されたときに始まる。第一の培養物は、例えば、ヨーグルトスターター培養物などの任意のスターター培養物であってもよい。
「スターター」又は「スターター培養物」という用語は、本明細書の文脈中で使用される場合、1若しくは複数の食品グレード微生物、特に、乳酸菌、の培養物を指し、そしてそれは、乳ベースの酸性化に関与する。スターター培養物は、新鮮であっても、冷凍であっても又は凍結乾燥されていてもよい。一実施形態において、本発明は、第一の培養物の1若しくは複数の乳酸菌株が、S.サーモフィルス(S. thermophilus)などのストレプトコッカス属(genus Streptococcus)、又はL. デルブルエッキ亜種ブルガリクス(L. delbrueckii subsp. bulgaricus)などのラクトバチルス属(genus Lactobacillus)から選択される、方法に関する。
【0028】
第一の培養物の1若しくは複数の乳酸菌株は、ラクトース欠損性であってもよい。好適なラクトース欠損性菌株の例は、WO2015/193459で見ることもできる。一実施形態において、本発明は、第一の培養物の1若しくは複数の乳酸菌株がラクトース欠損性である、方法に関する。一実施形態において、本発明は、第一の培養物のラクトース欠損性菌株が、以下の:DSM28952、DSM28953、DSM28910、DSM32600、DSM32599、から成る群から選択される、方法に関する。
【0029】
第一の発酵は、十分な量の少なくとも1種類の単糖が産生されたときに終了する。第一の発酵は、第一の目標pHに達したときに終了する。第一の目標pHは、第二の目標pHより高くなければならず、かつ、第二の発酵中の更なる酸性化を可能にするpH範囲を提供するように選択される必要がある。一実施形態において、本発明は、第一の目標pHが、pH4.70:4.65;4.60;4.55;4.50;4.45;4.40以下であるか;又はpH4.70~4.00;4.70~4.10;4.70~4.20;4.70~4.30;4.70~4.40;4.70~4.45;4.65~4.50;4.60~4.55の範囲内であるか;又は約4.70:4.65;4.60、4.55;4.50;4.45;若しくは4.40である、方法に関する。
【0030】
温度は、発酵スピードに影響するので、好ましくは、第一の発酵中は、規定された温度にて安定に又は一定に保たれるべきである。一実施形態において、本発明は、第一の温度が、25;30;35;36;37;38;39;40;41;42;43;44;45℃未満であるか;又は20~45;25~45;30~45;40~45;25~40;30~40;35~40℃の範囲内であるか;又は約20;25;30;35;36;37;38;39;40;41;42;43;44;45℃である、方法に関する。
【0031】
第一の培養物による更なる発酵を終了及び予防するために、それは不活性又は取り除かれる必要がある。第一の発酵乳ベースは、いくつかの方法で不活化され得る。一実施形態において、本発明は、第一の発酵乳ベースの処理が、例えば、UV照射、遠心除菌、又は精密濾過など、熱、超音波、放射線を用いた処理である、方法に関する。熱を用いた処理又は熱処理はまた、後低温殺菌とも呼ばれ得る。一実施形態において、本発明は、熱処理が、65~75℃の範囲内にて、少なくとも1~30分間にわたり、少なくとも60;65;70;若しくは75℃にて、1;5;10;15;20;25;若しくは30分間にわたり;又は70~90の範囲内にて10~50秒間にわたり;又は少なくとも70;75;80;85;若しくは90℃にて、少なくとも10;15;20;25;30;35;40;45;若しくは50秒にわたり;又は65~90℃;70~85℃;75~80℃の範囲内にて、10~50秒間にわたり;又は75℃にて25秒間にわたり;75℃にて50秒間にわたり実施される、方法に関する。
【0032】
一実施形態において、本発明は、第一の発酵を冷却ステップによって終了させる、方法に関する。好ましくは、冷却ステップに使用される温度は、約4℃、例えば2℃、3℃、4℃、5℃、又は6℃などである。
【0033】
好ましくは、第二の培養物は、無菌状態にて、すなわち、第二の培養物の1若しくは複数の乳酸菌以外のあらゆる微生物の導入がなく又は最小限の導入しか伴わずに、添加される。第二の培養物は、1若しくは複数のバルクとして添加されても、又は生産ラインへの連続的な供給として添加されてもよい。第二の培養物は、液体培養物、冷凍培養物、又は凍結乾燥培養物の形態で添加されてもよい。好ましくは、培養物は、濃縮培養物である。
【0034】
第二の培養物の1若しくは複数の乳酸菌株は、ラクトース欠損性であり、かつ、第一の発酵中に産生された少なくとも1種類の単糖を代謝する。よって、第二の発酵は、少なくとも1種類の単糖が第一の発酵乳ベースから枯渇し、かつ、第二の目標pHに達したときに終了する。一実施形態において、本発明は、第二の目標pHが、pH4.5;4.4;4.3;4.2;4.1;4.0;3.9;3.8;3.7;3.6;3.5以下であるか;又はpH4.50~3.50;4.50~4.05;4.45~4.10;4.45~4.15;4.40~4.20;4.40~4.25;4.35~4.30;4.00~3.50;3.95~3.50;3.90~3.55;3.85~3.60;3.80~3.65;3.75~3.60の範囲内にあるか;又は約pH4.40;4.35;4.30;4.25;4.20;4.15;4.10;4.05;4.00;3.90;3.80;3.70;3.60;3.50である、方法に関する。
【0035】
一実施形態において、本発明は、第二の培養物の1若しくは複数の乳酸菌が、ラクトバチルス属の細菌、例えば、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ(Lacticaseibacillus paracasei)、ラクチカゼイバチルス・ラムノサス(Lacticaseibacillus rhamnosus)、ラクチカゼイバチルス・カゼイ(Lacticaseibacillus casei)、ラクトバチルス・デルブルエッキ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクチプランチバチルス・プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum)、リモシラクトバチルス・ファーメンタム(Limosilactobacillus fermentum)、リモシラクトバチルス・ロイテリ(Limosilactobacillus reuteri)、及びラクトバチルス・ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)など;並びにビフィドバクテリウム属(genus Bifidobacterium)、例えばビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・アドレスセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス(Bifidobacterium animalis subsp. lactis)、ビフィドバクテリウム・デンティウム(Bifidobacterium dentium)、ビフィドバクテリウム・カテヌラツム(Bifidobacterium catenulatum)、ビフィドバクテリウム・アングラツム(Bifidobacterium angulatum)、ビフィドバクテリウム・マグヌム(Bifidobacterium magnum)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラツム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)、及びビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)など;又はストレプトコッカス属、例えばS.サーモフィルスなど、から成る群から選択される、方法に関する。
【0036】
プロバイオティクス細菌の消費は、個体の健康に有益であると考えられる。よって、発酵乳製品中の特定の量の生きたプロバイオティクス細菌は望ましい。一実施形態において、本発明は、第二の培養物の1若しくは複数の乳酸菌がプロバイオティクス細菌である、方法に関する。
【0037】
第二の培養物の1若しくは複数の乳酸菌株は、ラクトース欠損性であり、かつ、以下の:ATCC53103、CNCM I-2116、及びDSM16572、から成る群から選択されてもよい。一実施形態において、本発明は、細菌がATCC53103、CNCM I-2116、及び/又はDSM16572である、方法に関する。
【0038】
本発明の方法は、酸性化がないか、又は酸性化が少ない/低減された発酵乳製品をもたらすことが示された。実施例では、これは、t1時間目以降の保存期間中の酸性化における変化として示される。これは、製品中で計測されるpHにおける変化をもたらし得る。pHにおける変化は、pHの上昇であっても、又はpHの低下であってもよい。後酸性化は、pHの低下として常に示される。
【0039】
一実施形態において、本発明は、発酵乳製品のpHが、25℃にて6カ月にわたる保存後に0.80;0.70;0.60;0.50;0.40;0.35;0.30、0.25、0.20、0.18、0.16、0.14、0.12、0.10、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03、0.02又は0.01pHユニット未満しか変化しない、方法に関する。一実施形態において、本発明は、発酵乳製品のpHが、37℃にて2カ月にわたる保存後に又は42℃にて1カ月にわたる保存後に、0.80;0.70;0.60;0.50;0.40;0.35;0.30、0.25、0.20、0.18、0.16、0.14、0.12、0.10、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03、0.02又は0.01pHユニット未満しか変化しない、方法に関する。
【0040】
一実施形態において、本発明は、発酵乳製品が、25℃にて6カ月にわたる保存後に、少なくとも1.0E+03;1.0E+04;1.0E+05;1.0E+06;1.0E+07;1.0E+08;1.0E+09;1.0E+10 cfu/gの生細菌を含む、方法に関する。一実施形態において、本発明は、発酵乳製品が、37℃にて2カ月にわたる保存後に又は42℃にて1カ月にわたる保存後に少なくとも1.0E+06 cfu/gの生細菌を含む、方法に関する。一実施形態において、本発明は、発酵乳製品が、45℃にて2、3、4、又は5週間にわたる保存後に、少なくとも1.0E+07 cfu/gの生細菌を含む、方法に関する。一実施形態において、本発明は、生細菌がプロバイオティクス細菌を含むか又は含有する、方法に関する。
【0041】
一実施形態において、本発明は、第二の培養物の1若しくは複数の乳酸菌が、第二の発酵中、又は第二の発酵中及び発酵後に、細胞を増殖させ、及び細胞数を増加させることができる、方法に関する。一実施形態において、本発明は、細胞数が0.5;1.0;1.5;2.0;2.5;又は3.0 log増強される、方法に関する。
【0042】
一実施形態において、本発明は、着香料、増粘剤、乳化剤、及び/又は安定化剤、例えば、ペクチン(例えば、HMペクチン、LMペクチン)、ゼラチン、CMC、ダイズファイバー/ダイズポリマー、デンプン、加工デンプン、カラゲナン、アルギン酸塩、寒天、グアーガムなどの添加を更に含む方法に関する。一実施形態において、本発明は、甘味料、例えば、化学的/人工甘味料(スクラロース、イソマルツロース、アセスルファムカリウムなど)、糖アルコール(マルチトール又はイソマルチトール(12炭素)、エリスリトール(4炭素)、キシリトール(5炭素)、ソルビトール(6炭素)などの添加を更に含む方法に関する。糖アルコールは、炭素の数が異なるので、一実施形態において、本発明は、糖アルコールが、4炭、5炭、6炭、又は12炭糖アルコールから成る群から選択される、方法に関する。一実施形態において、本発明は、糖アルコールエリスリトール及び/又はマルチトールを更に含む方法に関する。一実施形態において、エリスリトール:マルチトールの質量比は(0.5~4.0):(0~4.0)である。糖アルコールは、発酵乳製品の全重に基づいて0.5~8.0、2.5~6.0、又は4.5 w/w%の総量で使用され得る。
【0043】
一実施形態において、本発明は、本方法で製造された発酵乳製品に関する。「発酵乳製品」という用語は、本明細書で使用される場合、食品又は飼料製品の調製が本発明による乳酸菌を用いた乳ベースの発酵を伴っている、食品又は飼料製品を指す。本明細書で使用される「発酵乳製品」としては、これだけに限定されるものではないが、ヨーグルトなどの乳製品が挙げられる。一実施形態において、本発明は、食品又は飼料製品である発酵乳製品に関する。一実施形態において、本発明は、ヨーグルト(固形又は撹拌型);ギリシャヨーグルト;フルーツヨーグルトなどヨーグルトベースの製品、ヨーグルトベースの飲料;バターミルク;ケフィア;ラブネ(Labneh)、クアーク(Quark)などの乳製品である発酵乳製品に関する。好ましくは、発酵乳製品はヨーグルトである。
【0044】
一実施形態において、本発明は、前記製品が常温保存発酵乳製品である、発酵乳製品に関する。「常温保存発酵乳製品」という用語は、発酵乳製品を意味し、そしてそれは、一定期間にわたる常温保存に好適である。保存期間は、1~12カ月、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12カ月などであってもよい。
【0045】
発酵乳製品は、典型的には、2.0~3.5% w/wのレベルでタンパク質を含有する。発酵乳製品は、1.0~2.0% w/wのタンパク質レベルを有する低タンパク質製品であり得る。或いは、発酵乳製品は、3.5超、又は5.1% w/w、例えば、3.5~5.1%、3.5~10.5%又は5.1~10.5% w/wのタンパク質レベルを有する高タンパク質製品であってもよい。タンパク質は、例えば、ホエー又はカゼインなど、乳由来であってもよい。
【0046】
健康上の利益を得るために特定の量のプロバイオティクス細菌を摂取することが推薦される。よって、発酵乳製品が特定のレベルのプロバイオティクス細菌を含むことが所望される。一実施形態において、本発明は、発酵乳製品であって、前記製品が、少なくとも1.0E+05;1.0E+06;1.0E+07;1.0E+08;1.0E+09;1.0E+10;1.0E+11;1.0E+12 cfu/一人分のプロバイオティクス細菌を含む、前記発酵乳製品に関する。
【0047】
分類法
2020年にラクトバチルス属の分類法が更新されたことは理解される。新しい分類法は、Zheng et al. 2020 Int. J. Syst. Evol. Microbiol. DOI 10.1099/ijsem.0.004107で開示されており、別段の指示がない限り、本明細書にまとめられる。本発明の目的のために、以下の表は、本発明に関連するいくつかのラクトバチルス種の新旧名称のリストを示す。
【0048】
表1.本発明に関連するラクトバチルス種の新旧名称
【表1】
【0049】
【実施例】
【0050】
実施例1‐YF-L904&LGG
生細菌を伴ったツーステップ発酵常温ヨーグルト向けの規定の乳ベースを調製する。規定の乳ベースは、第一の発酵培養物として通常のヨーグルト培養物を使用するのに好適である。この規定の乳ベース発酵では、通常のヨーグルト培養物は、ラクトースを使用して、乳酸を生産し、その間、ガラクトースがヨーグルト中に残される。異なったpHで発酵を止めると、ガラクトースの量は異なる。第一の培養物を不活化するのに熱処理を適用し、第二のラクトース陰性培養物LGGを熱処理ヨーグルトに無菌的に注入すると、LGGは、第一の発酵で残ったガラクトースを使用してpHを下げ続け、ガラクトースを使い切ったときに、最終的なヨーグルトのpHが安定域に入り、その間、LGGが高い細胞数まで増殖し、常温保存で安定したままになる。
【0051】
【0052】
培養物
F-DVS YF-L904(バッチ3551191Chr Hansen)
F-DVS LGG(登録商標)(バッチ3584797Chr Hansen)
【0053】
方法:
乳ベースを、上記の表に従って調製し、そして、134℃にて4秒間殺菌(pasteurized)した。
第一の発酵‐YF-L904 100u/T(ユニット/トン)を乳ベースに植菌し、第一の目標pH4.7、4.6、又は4.5に達するまで43℃にて発酵させる。
カードを破砕し、そして、3種類の異なったpHのヨーグルトベースを75℃にて25秒間熱処理する。
【0054】
第二の発酵‐F-DVS LGGを、3種類の異なったpHの殺菌ヨーグルトに無菌的に植菌する、用量100u/T(時間t0)。第二の発酵を、25℃、30℃、又は35℃にて安定したpHに達するまで実施する。
保存‐25℃の常温にて。
L.ラムノサスLGG(登録商標)の細胞数を、37℃にて3日間の嫌気的インキュベーションを用いたDifco MRS寒天、混釈平板法を使用することによって測定した。
【0055】
結果:
表4.35℃での第二の発酵に関する後酸性化
【表4】
【0056】
表5.30℃での第二の発酵に関する後酸性化
【表5】
【0057】
表6.25℃での第二の発酵に関する後酸性化
【表6】
【0058】
【0059】
YF-L904は、乳中に天然に存在するラクトースをグルコースとガラクトースに加水分解する。グルコースは代謝され、及びガラクトースは乳ベース中に残される。LGGはガラクトースを代謝できる。
【0060】
異なる第一の目標pHは、異なる第二の目標pHにつながる。より高いpHでは、第一の発酵が終了し、より高いpHでは、第二の発酵が安定したpHに達する。よって、第一の目標pHは、最終製品の要件に従って決定されるべきである。LGGは、より低い温度と比較して(35℃対30℃及び25℃)、第二の発酵中に高熱にてより速く安定したpHに達する。LGGは、すべての第二の発酵温度にて>1.0E+08 cfu/gの細胞数のレベルに達する。
【0061】
実施例2‐ACIDIFIX&LGG、2.発酵中の温度の効果
限定された量の糖(0.75%)を有する乳ベースをこの実験で調製した。第一の発酵を、安定したpHまでAcidifix1.0を用いて実施した。第二の発酵を、LGGによって実施した。第二の発酵培養物は、安定したpHに達するまで、第一の発酵中に産生された単糖を代謝する。第二の発酵を、安定したpHまで25℃、33℃、及び40℃にて実施した。次に、製品を、25℃にて保存して、様々な間隔にて、細胞数及び後酸性化について確認した。
【0062】
【0063】
培養物:
F-DVS YoFlex(登録商標)Acidifix(商標)1.0(バッチ3586293、Chr. Hansen A/S)
F-DVS LGG(登録商標)(バッチ3584797、Chr. Hansen A/S)
【0064】
方法:
乳ベースを、上記の表に従って調製し、そして、134℃にて4秒間殺菌(pasteurized)した。
第一の発酵‐限定された量、すなわち、0.75 w/w%、のスクロースを含む乳ベースを、糖が枯渇し、及び安定したpH、すなわち、4.50の第一の目標pHに達するまで、43℃にてAcidifix 1.0 100u/t乳ベースを用いて発酵させた。
熱処理‐75℃にて49.2秒間。
【0065】
第二の発酵‐濃度3.5E+06 cfu/gのLGG(1)又は9.0E+06 cfu/gのLGG(2)のラクトース欠損性LGGを、第一の発酵(時間t0)の間に産生された単糖フルクトースを含む発酵乳ベースに添加し、そして、約pH4.3の第二の目標pHにて安定したpHに達するまで(時間t1)、25℃、30℃、又は40℃にて発酵させた。
保存‐25℃の常温にて。
【0066】
結果:
表9.第二の発酵が25℃、33℃又は40℃の温度にて実施される、本発明による方法の経時的なpH
【表9】
【0067】
表10.第二の発酵が25℃、33℃又は40℃の温度にて実施される、本発明による方法の経時的な細胞数
【表10】
【0068】
第二の培養物による発酵/酸性化は、本発明の方法の一部である。LGGは、pH t0~pH t1のpHの差から明らかなように、熱処理した発酵乳ベースを発酵/酸性化させる。pH t1とpH 7週目を比較することによって観察できるので、更なる発酵(後酸性化)は、保存中におこなわれない。安定したpHが、試験したすべての温度にわたり観察された。安定したpHは、保存期間中の製品の味を維持するために重要である。
【0069】
t0及びt1にて細胞数を比較することによって観察できるので、両方のLGG植菌用量で増殖したLGGを、第二の発酵中に試験した。常温(25℃)にて7週間にわたる保存は、製品の細胞数が安定したままであることを示す。安定した細胞数は、最終消費者に適当量の生細菌を提供する。
【0070】
実施例3‐常温(25℃)での保存安定性
材料:
表11.乳ベース
【表11】
【0071】
培養物
F-DVS YoFlex(登録商標)Acidifix(商標)1.0(バッチ3586293Chr Hansen A/S)
F-DVS LGG(登録商標)(バッチ3584797Chr Hansen A/S)
方法:
乳ベースを、上記の表に従って調製し、そして、134℃にて4秒間殺菌(pasteurized)した。
第一の発酵‐Acidifix 100u/T(ユニット/トン)を乳ベースに植菌し、第一の目標pH4.50に達するまで43℃にて発酵させる。
カードを破砕し、そして、ヨーグルトベースを75℃にて25秒間熱処理する。
【0072】
第二の発酵‐F-DVS LGGを、2つの用量で無菌的に植菌する。用量(1)100u/T、7.0E+06 cfu/g。用量(2)200u/T、1.2E+07 cfu/gを、第一の発酵(時間t0)によって調製された熱処理ヨーグルトベースに添加した。第二の発酵を、約pH4.3の第二の目標pHにて安定したpHに達するまで(時間t1)、25℃、33℃、40℃にて実施する。
保存‐25℃の常温にて。
【0073】
結果:
同じ細胞数を、試験した3つの温度について得た。よって、1つの温度(25℃)からの保存安定性データを、以下の表に示す。
【0074】
表12.常温(25℃)での保存中のpHと細胞数
【表12】
【0075】
試験したすべての温度にて、安定したpHに達した。両方のLGG植菌用量において、t1にて植菌用量より高い細胞数(>1.0E+8 cfu/g)に達した。2カ月の常温保存(25℃)後にも、製品のpH及び細胞数は安定していた。
【0076】
実施例4‐6種類の異なる発酵乳製品の保存期間
第一の発酵を、2種類の異なるタイプの培養物(Acidifix1.0とYF-L904)を用いて実施した。第二の発酵を、LGG又はFresh Q2によって実施した。第二の発酵培養物は、安定したpHに達するまで、第一の発酵中に産生された単糖を代謝する。第二の発酵を、3日間又は安定したpHまで25℃にて実施した。次に、製品を、25℃にて保存して、様々な間隔にて、細胞数及び後酸性化について確認した。
【0077】
材料:
異なる量のスクロースを伴った3種類の異なる乳ベースを使用し、以下の表に従って調製した。スクロースなし、制限された量(0.75%)のスクロース及び過剰量(7.00%)のスクロース。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
以下の培養物を、発酵に使用し、かつ、100u/tの濃度にて添加した。
F-DVS YF-L904(バッチ3551191、Chr. Hansen A/S)
F-DVS YoFlex(登録商標)Acidifix(商標)1.0(バッチ3586293、Chr. Hansen A/S)
F-DVS LGG(登録商標)(バッチ3584797、Chr. Hansen A/S)
F-DVS FQ(登録商標)2(バッチ3589655、Chr. Hansen A/S)
【0082】
方法:
上記の表に従って調製した乳ベースを、134℃にて4秒間殺菌(pasteurized)した。発酵を、スクロースなし(S1)、制限された量のスクロース(S2~S3)又は過剰量のスクロース(S4~S6)を用いて、以下の表に従って設定した。YF-L904とFQ2は、乳ベース中に存在するラクトースをグルコースとガラクトースへと加水分解し、ここで、グルコースは消費され、及びガラクトースは乳ベース中に残される。AcidifixとLGGは、ラクトース欠損性なので、乳ベースに添加したスクロースをグルコースとフルクトースへと加水分解し、ここで、グルコースは消費され、及びフルクトースは乳ベース中に残される。LGGは、フルクトースにおいて増殖し得るが、ガラクトースにおいて非常に遅かった。
【0083】
第一の発酵‐100ユニット/トンの1.培養物を、以下の表に従って乳ベースに植菌した。発酵を、第一の目標pH4.50に達するまで43℃にて実施した。
カードを破砕し、そして、ヨーグルトベースを75℃にて49.2秒間熱処理した。
【0084】
第二の発酵‐5.0E+06 cfu/gの2.培養物を、第一の発酵(時間t0)によって調製された熱処理ヨーグルトベースに植菌した。第二の発酵を、約pH4.3の第二の目標pHにて安定したpHに達するまで(時間t1)、25℃にて実施した。
保存‐25℃の常温にて。
【0085】
【0086】
結果:
表17.発酵設定1~6に関するpHと細胞数
【表17】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
本発明による方法をS1及びS2に例示するが、ここで、保存中の後酸性化は、非常に少ないか又は存在しなかった。対照S3及びS5は、ラクトース発酵培養物を第二の培養物として使用した場合に後酸性化が起こることを示す。対照S4、S5、及びS6では、スクロースは、過剰量で添加され、これにより、第二の培養物にとって後酸性化のために利用可能である。
【0094】
実施例5‐甘味料の存在下での後酸性化
製品を、様々な甘味料の存在下、本発明に従って調製し、そして、25℃にて保存し、そして、その間に様々な時点で酸性化を測定した。
材料:
様々な甘味料(マルチトール、イソマルツロース、及びエリスリトール)をそれぞれ含む3種類の異なる乳ベースを、以下の表に従って調製した。
【0095】
表21.マルチトールを用いた乳ベース(MB-M)
【表24】
【0096】
表22.イソマルツロースを用いた乳ベース(MB-I)
【表25】
【0097】
表23.エリスリトールを用いた乳ベース(MB-E)
【表26】
【0098】
以下の培養物を、100u/tの濃度にて発酵に使用した:
F-DVS YoFlex(登録商標)Acidifix(商標)1.0(バッチ3586293、Chr. Hansen A/S)
F-DVS LGG(登録商標)(バッチ3584797、Chr. Hansen A/S)
【0099】
方法:
乳ベースを、上記の表に従って調製し、そして、134℃にて4秒間殺菌(pasteurized)した。
第一の発酵のために、100ユニット/トンのYoFlex(登録商標)Acidifix(登録商標)培養物を乳ベースに植菌し、そして、発酵を、第一の目標pH4.50に達するまで43℃にて実施した。
カードを破砕し、そして、ヨーグルトベースを75℃にて49.2秒間熱処理した。
【0100】
第二の発酵を、第一の発酵によって調製された熱処理ヨーグルトベースにおいて5.0E+06 cfu/gのLGG(登録商標)の植菌を用いて実施した。第二の発酵を、25℃にて実施し、72時間後に終了させた(0日目)。
製品を、25℃、37℃及び42℃の温度にて保存し、そして、滴定可能な酸度、TA(°T)を、中国国家標準化法(GB5009.239-236中国食品安全基準、食品における酸性の測定)に従って保存中に計測した。
【0101】
結果:
表24.常温、25℃での保存中のTA
【表27】
【0102】
【0103】
【0104】
ツーステップ発酵方法によって作製された製品は、使用した様々な甘味料で異なる後酸性化をもたらした。
【0105】
実施例6‐第二の発酵のための代替ラクトース欠損性菌株の使用
本発明の方法を、第二の発酵のためのラクトース欠損性菌株L.カゼイ02を使用して実施した。
【0106】
材料:
異なる量のスクロースを伴った2種類の異なる乳ベースを、実施例1の表3(スクロースを含まないMB1)及び実施例3の表11(0.75%のスクロースを含むMB2)に従って調製した。
以下の培養物を、100u/tの濃度にて発酵に使用した:
F-DVS YoFlex(登録商標)Acidifix(商標)1.0(バッチ3586293、Chr Hansen A/S)
F-DVS YF-L904(バッチ3551191、Chr Hansen A/S)
F-DVS L.casei 02(バッチ3565988、Chr Hansen A/S)
【0107】
【0108】
方法:
乳ベースを、表に従って調製し、そして、134℃にて4秒間殺菌(pasteurized)した。
第一の発酵‐MB1ではYF-L904 100u/T(ユニット/トン)、MB2ではAcidifix 100u/T(ユニット/トン)を乳ベースに植菌し、第一の目標pH4.50に達するまで43℃にて発酵させる。
カードを破砕し、そして、ヨーグルトベースを75℃にて25秒間熱処理する。
【0109】
第二の発酵‐F-DVS L.casei 02を、5.5E+6 cfu/gに相当する0.00663%の用量で、第一の発酵(時間t0)によって調製された熱処理ヨーグルトベースに無菌的に植菌する。第二の発酵を、約pH4.2~4.3の第二の目標pHにて安定したpHに達するまで(時間t1)、25℃にて実施する。
25℃、37℃、及び42℃の温度にて保存した。
細胞数を、実施例1に記載のとおり測定した。
【0110】
結果:
表28.25℃で保存したサンプルについてpHとして計測した後酸性化
【表31】
【0111】
表29.25℃で保存したサンプルの細胞数
【表32】
【0112】
表30.37℃で保存したサンプルについてpHとして計測した後酸性化
【表33】
【0113】
表31.37℃で保存したサンプルの細胞数
【表34】
【0114】
表32.42℃で保存したサンプルについてpHとして計測した後酸性化
【表35】
【0115】
表33.42℃で保存したサンプルの細胞数
【表36】
【0116】
S7とS8の両方は、25℃、37℃、42℃での保存中に安定したレベルのpHに達した。かしながら、S7は、斯かるレベルのpHに達するまでより長い時間がかかり、かつ、該pHレベルはS8のそれより低い。これは、第一の発酵においてスターター培養物によって残された単糖のタイプと量が、S8と比較して、S7において異なっていることの現れである。L.カゼイ02は、LGG(登録商標)に関して観察されたものと類似の効果を示す。
S7とS8の両方で、L.casei 02は、植菌レベルよりも高い細胞数まで増殖したが、しかしながら、様々な温度にて安定性は変化した。最も安定した細胞数は、25℃にてS8に関して観察され、ここで、細胞数は、3カ月にわたり1.0E+8 cfu/gを上回った。
【国際調査報告】