(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】炎症組織へのターゲティング特異性を備えるインターロイキン2キメラコンストラクト
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20240905BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240905BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240905BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240905BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240905BHJP
A61K 38/20 20060101ALI20240905BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240905BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240905BHJP
C07K 14/55 20060101ALN20240905BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20240905BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240905BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240905BHJP
C12N 15/26 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N5/10
A61K47/68
A61K38/20
A61P37/02
A61P29/00
C07K14/55
C07K16/00
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024520962
(86)(22)【出願日】2022-10-06
(85)【翻訳文提出日】2024-05-22
(86)【国際出願番号】 EP2022077847
(87)【国際公開番号】W WO2023057588
(87)【国際公開日】2023-04-13
(32)【優先日】2021-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518083571
【氏名又は名称】イルトゥー・ファルマ
【氏名又は名称原語表記】ILTOO PHARMA
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(71)【出願人】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク-オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE - HOPITAUX DE PARIS
(71)【出願人】
【識別番号】592236234
【氏名又は名称】アンスティテュー・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル・(イ・エヌ・エス・ウ・エール・エム)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE (I.N.S.E.R.M.)
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】クラッツマン,ダヴィド
(72)【発明者】
【氏名】テドギ,アラン
(72)【発明者】
【氏名】バスケス,トマ
(72)【発明者】
【氏名】ビリアル,ニコラ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC04
4C076CC07
4C076CC41
4C076EE59
4C084AA02
4C084BA44
4C084DA14
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZB071
4C084ZB111
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA04
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、i)インターロイキン2(IL2)部分と、ii)酸化タンパク質または酸化脂質に結合するターゲティング部分とを含む、標的に向けられたキメラコンストラクトに関する。ターゲティング部分は、特定の酸化タンパク質または酸化脂質を結合する抗体またはscFvであるのが好ましく、融合タンパク質を標的である炎症性組織に向かわせる。キメラコンストラクトは、好ましくは、二量体タンパク質を形成することができるC4b結合タンパク質(C4BP)のベータ鎖をさらに含む。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)少なくとも1つのインターロイキン2(IL2)部分と;
ii)酸化タンパク質または酸化脂質に結合する少なくとも1つのターゲティング部分と
を含む、キメラコンストラクト。
【請求項2】
ターゲティング部分が、炎症誘発性の酸化タンパク質または酸化脂質に結合する、請求項1に記載のキメラコンストラクト。
【請求項3】
ターゲティング部分が、酸化特異的エピトープ(OSE)に結合する、請求項1または2に記載のキメラコンストラクト。
【請求項4】
ターゲティング部分が、(i)マロンジアルデヒド(MDA)エピトープに、(ii)2-(ω-カルボキシエチル)ピロール(CEP)エピトープに、(iii)4-ヒドロキシノネナール(4-HNE)エピトープに、または(iv)ホスホコリン含有酸化リン脂質(PC-OxPL)、酸化ホスファチジルエタノールアミン(OxPE)、酸化ホスファチジルセリン(OxPS)もしくは酸化カルジオリピン(OxCL)などの酸化リン脂質(OxPL)に、好ましくはホスホコリン含有酸化リン脂質(PC-OxPL)に、結合する、前記請求項のいずれか一項に記載のキメラコンストラクト。
【請求項5】
ターゲティング部分が、抗体または単鎖可変断片(scFv)などの抗体断片であり、好ましくは、ターゲティング部分が、E06抗体またはE06 scFvなどのE06抗体断片;LR04抗体またはLR04 scFvなどのLR04抗体断片;NA17抗体またはNA17 scFvなどのNA17抗体断片;E014抗体またはE014 scFvなどのE014抗体断片;MDA2抗体またはMDA2 scFvなどのMDA2抗体断片;IK17抗体またはIK17 scFvなどのIK17抗体断片;LR01抗体またはLR01 scFvなどのLR01抗体断片、およびそれらの機能性変異体からなる群から選択される、前記請求項のいずれか一項に記載のキメラコンストラクト。
【請求項6】
ターゲティング部分が、
- 配列番号12に示されるアミノ酸配列、または配列番号12と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む可変重鎖(VH)ドメイン;および
- 配列番号11に示されるアミノ酸配列、または配列番号11と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む可変軽鎖(VL)ドメイン
を含む、E06 scFvまたはその変異体である、請求項5に記載のキメラコンストラクト。
【請求項7】
前記IL-2部分が、ヒトIL-2またはその相同性変異体であり、該変異体は、ヒト野生型IL-2と少なくとも85%のアミノ酸同一性を有し、好ましくは、該変異体は、ヒト野生型IL-2と少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するヒトIL-2の活性型アナログであり、前記IL-2部分が、配列番号2のN88位に置換を含むIL2ムテインであることが好ましく、置換N88RまたはN88Dであることがさらに好ましい、前記請求項のいずれか一項に記載のキメラコンストラクト。
【請求項8】
IL2部分とターゲティング部分とが、インフレームで、またはアミノ酸リンカー、好ましくはポリGリンカーを介して融合されている、前記請求項のいずれか一項に記載のキメラコンストラクト。
【請求項9】
前記キメラコンストラクトが、二量体タンパク質を形成することができるC4b結合タンパク質のベータ鎖(C4BPβ)または少なくとも1つのその断片もしくはその機能性変異体をさらに含み、好ましくは、C4BPβの断片が、C4BPβのアミノ酸残基194~252、またはN末端で最大アミノ酸135まで及ぶC4BPβのより長い断片を含むかまたはそれらからなる、前記請求項のいずれか一項に記載のキメラコンストラクト。
【請求項10】
C4BPβの機能性変異体を含み、C4BPβの機能性変異体は、
a)C4BPβの断片のアミノ酸の25パーセント未満、好ましくは10パーセント未満が切除されてあるかまたは置き換えられてあり、202位および216位に位置するシステインならびに各システインの上流および下流で少なくとも3個のアミノ酸が保存されてある、C4BPβの断片の改変配列;または
b)二量体化を担うシステインが、好ましくはアラニン、バリン、フェニルアラニン、プロリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシンおよびトリプトファンから選択されるアミノ酸で置換されており、C4BPβの断片の別のアミノ酸がシステインで置換されている、C4BPβの断片の改変配列;または
c)二量体化を担うシステインの間へのベータ鎖に対して異種性である配列の挿入によって改変されたC4BPβの断片の配列;または
d)二量体化を担うシステインの間のアミノ酸を切除することによって改変されたC4BPβの断片の配列
を含む、請求項9に記載のキメラコンストラクト。
【請求項11】
IL-2部分が、C4BPβまたはその前記断片のN末端で融合されており、C4BPβまたはその前記断片のC末端は、ターゲティング部分に連結されていることが好ましい、請求項9または10に記載のキメラコンストラクト。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載のキメラコンストラクトをコードする核酸。
【請求項13】
請求項12に記載の核酸を含むベクター。
【請求項14】
請求項12に記載の核酸または請求項13に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項15】
自己免疫性疾患および/または炎症性疾患の治療に使用するための、請求項1~11のいずれかに記載のキメラコンストラクト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IL2と炎症組織への特異性をもたらすターゲティング部分とを含むキメラコンストラクトに関する。
【背景技術】
【0002】
インターロイキン-2(IL2またはIL-2)は、免疫系のキーとなる側面を調節するサイトカインである。IL2は、がんならびに自己免疫性疾患および/または炎症性疾患の患者において免疫応答をブーストする試みで使用されてきた。IL2は強力なT細胞増殖因子であり、これは、抗原活性化T細胞のクローン性増殖を含めて免疫応答を促進し、CD4+ Tヘルパー(Th)1[(Th)1]細胞およびTh2細胞の発達を駆動し、CD8+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を終末的に分化させ、かつCD4+ Th17(Th17)細胞およびT濾胞性ヘルパー(Tfh)細胞の発達に対抗する。IL2はまたT細胞記憶リコール応答を形づくる。
【0003】
低用量のIL2を使用して寛容を選択的にブーストし、その結果、自己組織の自己免疫様攻撃と関連する望ましくない免疫応答を抑制してきた。今日までの経験とは、この療法が安全であり、自己攻撃的T細胞の再活性化の徴候はないが、一方、制御T細胞(Treg)が患者ほぼ全員において増加し、このことは臨床的改善を伴うこと、であった。
【0004】
それにもかかわらず、療法としてのIL2については改善の余地がある、特に、IL2を目的の標的組織に送り込み、それによって目的の組織にて局所的に濃度を上昇させることによって、治療の有効性を改善することが望ましい。また、IL-2に応答して活性化することができるリンパ球集団の遍在的存在に関連する潜在的な「オフターゲット」効果を制限するために、ターゲティング特異性を備えるIL2コンストラクトを提供する必要もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、炎症性組織にターゲティング特異性を備えるIL2キメラコンストラクトを提供する。
【0006】
本発明者らは、驚くべきことに、そのような標的に向けられたキメラコンストラクトがIL2治療の有効性を著しく改善することを示してきた。特に、本発明者らは、本発明の標的に向けられたキメラコンストラクトの使用が、炎症部位に動員されるTreg数の増加、およびTregの増殖の増加につながることを示してきた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
具体的には、本発明のキメラコンストラクトは、(i)少なくとも1つのインターロイキン2部分と;ii)炎症誘発性の酸化タンパク質または酸化脂質などの酸化タンパク質または酸化脂質に結合する少なくとも1つのターゲティング部分とを含む。
【0008】
好ましい実施形態では、ターゲティング部分は、酸化特異的エピトープ(OSE)に結合する。特定の実施形態では、ターゲティング部分は、(i)マロンジアルデヒド(MDA)エピトープに、(ii)2-(ω-カルボキシエチル)ピロール(CEP)エピトープに、(iii)4-ヒドロキシノネナール(4-HNE)エピトープに、または(iv)ホスホコリン含有酸化リン脂質(PC-OxPL)、酸化ホスファチジルエタノールアミン(OxPE)、酸化ホスファチジルセリン(OxPS)もしくは酸化カルジオリピン(OxCL)などの酸化リン脂質(OxPL)に、好ましくはホスホコリン含有酸化リン脂質(PC-OxPL)に、結合する。
【0009】
特定の実施形態では、ターゲティング部分は、抗体または単鎖可変断片(scFv)などの抗体断片である。
【0010】
特定の実施形態では、ターゲティング部分は、E06抗体またはE06 scFvなどのE06抗体断片;LR04抗体またはLR04 scFvなどのLR04抗体断片;NA17抗体またはNA17 scFvなどのNA17抗体断片;E014抗体またはE014 scFvなどのE014抗体断片;MDA2抗体またはMDA2 scFvなどのMDA2抗体断片;IK17抗体またはIK17 scFvなどのIK17抗体断片;LR01抗体またはLR01 scFvなどのLR01抗体断片、およびそれらの機能性変異体、からなる群から選択される。
【0011】
好ましい実施形態では、ターゲティング部分は、E06抗体もしくはE06 scFvなどのE06抗体断片、またはそれらの機能性変異体である。
特定の実施形態では、E06 scFvは、
- 配列番号12に示されるアミノ酸配列、または配列番号12と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む可変重鎖(VH)ドメイン;および
- 配列番号11に示されるアミノ酸配列、または配列番号11と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む可変軽鎖(VL)ドメイン
を含む。
【0012】
特定の実施形態では、IL-2部分は、ヒトIL-2またはその相同性変異体であり、該変異体は、ヒト野生型IL-2と少なくとも85%のアミノ酸同一性を有し、好ましくは、該変異体は、ヒト野生型IL-2と少なくとも90%のアミノ酸同一性を有するヒトIL-2の活性型アナログであり、前記IL-2部分は、配列番号2のN88位に置換を含むIL2ムテインであることが好ましく、置換N88RまたはN88Dであることがさらに好ましい。
【0013】
特定の実施形態では、IL2部分とターゲティング部分とは、インフレームで、またはアミノ酸リンカー、好ましくはポリGリンカーを介して融合されている。
【0014】
特定の実施形態では、前記キメラコンストラクトは、二量体タンパク質を形成することができるC4b結合タンパク質のベータ鎖(C4BPβ)または少なくとも1つのその断片もしくはその機能性変異体をさらに含む。
【0015】
特定の実施形態では、C4BPβの断片は、C4BPβのアミノ酸残基194~252、またはN末端で最大アミノ酸135まで及ぶC4BPβのより長い断片を含むかまたはそれらからなる。
【0016】
特定の実施形態では、キメラコンストラクトは、C4BPβの機能性変異体を含み、C4BPβの機能性変異体は、
a)C4BPβの断片のアミノ酸の25パーセント未満、好ましくは10パーセント未満が切除されてあるかまたは置き換えられてあり、202位および216位に位置するシステインならびに各システインの上流および下流で少なくとも3個のアミノ酸が保存されてある、C4BPβの断片の改変配列;または
b)二量体化を担うシステインが、好ましくはアラニン、バリン、フェニルアラニン、プロリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシンおよびトリプトファンから選択されるアミノ酸で置換されており、C4BPβの断片の別のアミノ酸がシステインで置換されている、C4BPβの断片の改変配列;または
c)二量体化を担うシステインの間へのベータ鎖に対して異種性である配列の挿入によって改変されたC4BPβの断片の配列;または
d)二量体化を担うシステインの間のアミノ酸を切除することによって改変されたC4BPβの断片の配列
を含む。
【0017】
特定の実施形態では、IL-2部分は、C4BPβまたはその前記断片のN末端で融合されており、C4BPβまたはその前記断片のC末端はターゲティング部分に融合されていることが好ましい。
【0018】
特定の実施形態では、キメラコンストラクトは、二量体形態であり、単量体は、C4BPβの2個のシステイン同士の間の共有結合によって会合している。ホモ二量体およびヘテロ二量体については、下でさらに詳しく説明する。
【0019】
本発明の別の態様は、本発明のキメラコンストラクトをコードする核酸に関する。本発明はまた、前記核酸を含むベクターに、および前記核酸または前記ベクターを含む宿主細胞にも関する。
【0020】
本発明はまた、自己免疫性疾患および/または炎症性疾患の治療に使用するための、本発明のキメラコンストラクトにも関する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1:標的に向けられた融合タンパク質の機能設計のインビトロ(In vitro)評価。標的に向けられた融合タンパク質のそれぞれをコードする導入遺伝子を含有するレンチウイルスベクターを形質導入した安定なHEK 293T細胞株を、無血清培地中で48時間培養した。A)標的に向けられた融合タンパク質の設計B)酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)による、安定したHEK 293T細胞上清中の標的に向けられた融合タンパク質の検出。C)次いで、濃縮および濾過した上清を使用して、IL2-C4bpβ-scFvおよびIL2N88R-C4bpβ-scFvを、一次ポリクローナル抗ヒトIL-2抗体または一次モノクローナル抗ヒスチジン抗体のいずれかを使用するウェスタンブロットによって特徴付けた。D)標的に向けられた融合タンパク質の機能活性を、フローサイトメトリーを使用したヒトCD4+制御性T細胞、CD4+通常型T細胞、CD8+T細胞およびNK細胞におけるSTAT5リン酸化(pSTAT5)応答の評価によって評価した。
【
図2】
図2:大腸炎炎症実験モデルにおける標的に向けられた融合タンパク質の治療効果。A)6~8週齢のC57BL/6(Jrj)雌性マウス(n=6)を、IL2、scFvE06、IL2-C4bpβ-scFvE06またはIL2
N88R-C4bpβ-scFvE06をコードするAAV 5.10
10~5.10
11vg(ウイルスゲノム)で腹腔内経路により注射するかまたは治療せずに放置しておき、その7日後、水で希釈したデキストラン硫酸ナトリウム(2%)を6日間経口投与することにより免疫を行った。AAV注射の7日後の末梢血中のCD4+ TregおよびCD25 MFI、CD4+ Tconv CD25+およびNK細胞の免疫モニタリング解析を実施した(B)。 臨床疾患の評価は、体重減少(C)、便形(D)、出血(E)、および疾患活動性指数(F)に基づいている。上腕リンパ節および大動脈周囲リンパ節におけるインテグリンα4β7(G)およびKi67(H)を発現するTregの免疫モニタリング解析。統計学的有意性については、GraphPad Prismバージョン6.00を使用してAUCの算出の後に治療に関して異なる群間で評価し、Mann-Whitney検定(平均値の比較、対応のない検定、ノンパラメトリック検定、両側P値)を使用して算出したが、この場合、P<0.05(*)を統計学的有意性と解釈した(**P<0.01、***P<0.001)。すべてのグラフで、誤差バーは平均値の標準誤差(SEM)を表す。
【
図3】
図3は、IL2またはIL2-C4bpβ-scFvE06の単回注射後のマウスにおける薬物動態を報告するグラフである。
【
図4】
図4は、DSS誘導性大腸炎マウスモデルにおける免疫化学染色の写真のグループである。IL-2-C4bpβ-scFvE06で治療したマウスのみが、結腸おいてIL2と6X-HisTagの両方の検出を示した。
【発明を実施するための形態】
【0022】
定義
治療する「対象」または「患者」は、あらゆる哺乳動物、好ましくはヒトとすることができる。ヒト対象は小児であっても成人であっても高齢者であってもよい。
【0023】
「治療する」または「治療」という用語は、疾患における任意の改善を意味する。本用語には、少なくとも1つの症状の緩和することまたは疾患の重症度もしくは発達を減少させることが含まれる。疾患が炎症性障害および/または自己免疫性障害である場合、本用語にはより詳しくは、急性エピソード(フレア)のリスク、発生または重症度を減少させることが含まれる。「治療する」または「治療」という用語は、疾患の進行を減少させることを包含する。特に本発明は、疾患進行を予防することまたは減速させることを包含する。「治療する」または「治療」という用語は、とりわけ、無症候性であるが「リスクがある」と診断された対象において、リスクを減少させることまたは疾患の発症を遅延させることによる、予防的治療をさらに包含する。
【0024】
「制御T細胞」または「Treg」とは、免疫抑制性活性を有するTリンパ球である。天然Tregは、CD4+CD25+Foxp3+細胞として特徴付けられる。Tregは炎症性疾患の制御に主要な役割を演ずるが、このような疾患におけるその作用様式は十分には理解されていない。実際、大部分の炎症性疾患において、Treg除去は疾患を悪化させ、一方、Treg付加は疾患を縮小させる。大部分のTregはCD4+細胞であるが、抑制活性を有するCD8+Foxp3+Tリンパ球の稀な集団も存在する。
【0025】
本出願の文脈において、「エフェクターT細胞」(または「Teff」)とは、1つ以上のT細胞受容体(TCR)を発現し、エフェクター機能(例えば、細胞傷害性活性、サイトカイン分泌等)を果たす、Treg以外の通常型Tリンパ球(文献ではTconvと称されることもある)を示す。本発明によるヒトTeffの主要集団には、CD4+ Tヘルパーリンパ球(例えば、Th0、Th1、Th2、Th9、Th17、Tfh)およびCD4+またはCD8+細胞傷害性Tリンパ球が含まれ、その集団は自己抗原に特異的である場合がありまたは非自己抗原に特異的である場合もある。TeffはFoxp3+制御性CD8+T細胞を含まない。
【0026】
本出願の文脈において、「T濾胞性ヘルパー細胞」(または「Tfh」)とは、BcL6、CXCR5およびPD1を発現し、Foxp3-であり、B細胞ヘルプを供給するT CD4+リンパ球を示す。
【0027】
本出願の文脈において、「T濾胞性制御性細胞」(または「Tfr」)とは、CD4+CXCR5+PD-1+Bcl6+Foxp3+CD25-Tリンパ球を示す。
【0028】
抗体は、他の物質に結合するよりも、大きい親和性で、大きい結合活性で、いっそう容易におよび/または大きい持続期間で結合する場合、標的抗原に「特異的に結合する」。「特異的な結合」または「優先的な結合」は、必ずしも排他的な結合であることを要さない(含むことはできるが)。一般に、必ずしもではないが、結合への言及は、優先的な結合を意味する。結合親和性を測定する様々な方法が当技術分野で知られており、そのいずれも本開示の目的のために使用することができる。
【0029】
「抗体断片」とは、抗体の部分のみを含み、この場合、当該部分は、インタクトな抗体に存在する場合、その部分に通常関連する機能のうちの少なくとも1つ、より普通にはほとんどまたはすべてを通常には保持する。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、およびFv断片;ダイアボディ;直鎖状抗体;単鎖抗体分子;ならびに抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられる。一実施形態では、抗体断片は、元来の抗体の抗原結合部位を含み、したがって、抗原を結合する能力を保持する。別の実施形態では、抗体断片、例えば、Fc領域を含むものは、元来の抗体に存在する場合にはFc領域に通常関連する生物学的機能のうちの少なくとも1つ、例えば、FcRn結合、抗体半減期モジュレーション、ADCC機能および補体結合、を保持する。
【0030】
抗原結合性領域または抗原結合断片は、抗体のY字状構造のアームに相当し、このアームはそれぞれ、重鎖のVHドメインおよびCH1ドメインと対合した完全な軽鎖から構成され、「Fab断片」(抗原結合性断片に対して)と呼ばれる。Fab断片は、天然免疫グロブリン分子からパパイン消化により最初に生成されたが、パパイン消化は、抗体分子をヒンジ領域において鎖間ジスルフィド結合のアミノ末端側で切断し、よって同一の2つの抗原結合性アームを放出する。ペプシンなどの他のプロテアーゼもまた抗体分子をヒンジ領域において、しかし鎖間ジスルフィド結合のカルボキシ末端側で切断し、その結果、同一の2つのFab断片から構成され、ジスルフィド結合を介して連結されたままである断片を放出する;F(ab’)2断片のジスルフィド結合を還元するとFab’断片が生成される。
【0031】
VHドメインおよびVLドメインに相当する抗原結合領域の部分は、Fv断片(可変性の断片に対して)と呼ばれる;上記部分は、抗原結合部位(パラトープとも呼ばれる)を形成するCDR(相補性決定領域)を含有する。
【0032】
エフェクター分子または細胞へのその結合を担う抗体のエフェクター領域は、Y字状構造の本幹に相当し、重鎖の対合したCH2ドメインおよびCH3ドメイン(または抗体のクラスに応じて、CH2、CH3およびCH4の各ドメイン)を含有し、Fc領域(結晶性領域の断片に対して)と呼ばれる。
【0033】
「単鎖Fv」または「scFv」抗体断片は、抗体のVHドメインおよびVLドメインを含み、この場合、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖中に存在する。一般に、scFvポリペプチドは、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーをさらに含み、これによりscFvが抗原結合に望ましい構造を形成することが可能になる。リンカーは通常、柔軟性のためのグリシンならびに溶解性のためのセリンまたはスレオニンに富んでおり、VHのN末端をVLのC末端と接続するか、またはその逆に接続することができる。こういったscFv断片は、定常領域の除去およびリンカーの導入にもかかわらず、元来の抗体の特異性を保持する。
【0034】
配列表に以下の配列を示す:
配列番号1は野生型ヒトIL2(253個のアミノ酸、シグナルペプチドを含む)である
配列番号2は成熟野生型ヒトIL2(233個のアミノ酸、シグナルペプチド無し)である
配列番号3は、C4BPベータ鎖(1~252)である
配列番号4は、C4BPベータ鎖の断片194~252である
配列番号5は、C4BPベータ鎖の断片137~252である
配列番号6は、シグナルペプチドを含むC4BPβCの末端領域に融合されたヒトIL-2(Hi2cb)のアミノ酸配列である
配列番号7は、C4BPβのC末端領域に融合された突然変異型IL-2(N88R)(Hi2mcb)のアミノ酸配列であり、シグナルペプチドを含む
配列番号8は、GGGGSパターン(リンカー)である
配列番号9は、シグナルペプチド無しのC4BPβのC末端領域に融合されたヒトIL-2(Hi2cb)のアミノ酸配列である
配列番号10は、シグナルペプチド無しのC4BPβのC末端領域に融合された突然変異型IL-2(N88R)(Hi2mcb)のアミノ酸配列である
配列番号11は、E06 scFv VLドメインの配列である
配列番号12は、E06 scFv VHドメインの配列である
配列番号13は、E06 scFv(HISタグ無し)の配列である
配列番号14は、リンカーGGGGSGGGGSGGGGSである
配列番号15は、標的に向けられた融合タンパク質IL-2-C4bpβ-scFvE06(ペプチドシグナル無し、およびHISタグ無し)の配列である
配列番号16は、標的に向けられた融合タンパク質IL-2-C4bpβ-scFvE06(ペプチドシグナル有り、しかしHISタグ無し)の配列である
配列番号17は、標的に向けられた融合タンパク質IL-2N88R-C4bpβ-scFvE06(ペプチドシグナル無し、およびHISタグ無し)の配列である
配列番号18は、標的に向けられた融合タンパク質IL-2N88R-C4bpβ-scFvE06(ペプチドシグナル有り、しかしHISタグ無し)の配列である
配列番号19は、標的に向けられた融合タンパク質IL-2-C4bpβ-scFvE06(ペプチドシグナル有り、およびHISタグ有り)の配列である
配列番号20は、標的に向けられた融合タンパク質IL-2N88R-C4bpβ-scFvE06(ペプチドシグナル有り、およびHISタグ有り)の配列である
【0035】
本発明のキメラコンストラクトは、(i)少なくとも1つのインターロイキン2部分と、ii)少なくとも1つのターゲティング部分とを含む。
【0036】
IL-2部分
本明細書で使用される場合、インターロイキン-2(IL-2)は、哺乳動物の野生型インターロイキン-2およびその変異体を包含する。好ましくは、IL-2はヒトIL-2、またはその変異体である。
【0037】
IL-2の活性型変異体は文献に開示されてきた。天然のIL-2の変異体は、その断片、そのアナログおよびその誘導体とすることができる。「断片」により、ポリペプチド配列の一部のみを含むポリペプチドが意図される。「アナログ」とは、1つ以上のアミノ酸置換、挿入または欠失を有する天然ポリペプチド配列を含むポリペプチドを示す。ムテインおよびシュードペプチドはアナログの具体的な例である。「誘導体」には、IL-2の特性(例えば安定性、特異性等)を改善するために、グリコシル化された、リン酸化された、別のポリペプチドもしくは分子へ融合された、重合化された等、または化学的もしくは酵素的改変もしくは付加を通すなどの、改変された任意の天然IL-2ポリペプチドまたはその断片もしくはそのアナログが含まれる。活性型変異体のIL-2部分は、全体として、参照IL-2ポリペプチドの、例を挙げると成熟野生型ヒトIL2のアミノ酸配列に対して少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、85%、より好ましくは少なくとも90%、または少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0038】
本明細書で使用される場合、「野生型IL-2」とは、天然であるか組換えであるかにかかわらず、天然ヒトIL-2の通常に存在する133個のアミノ酸配列を含むIL-2を意味し、これのアミノ酸配列はFujita, et. al., PNAS USA, 80,7437-7441 (1983)に記載されている。配列番号2(133個のアミノ酸)は、付加的な20個のN末端アミノ酸から構成されるシグナルペプチドを減じた、ヒトIL-2配列である。配列番号1(153個のアミノ酸)は、シグナルペプチドを含むヒトIL-2配列である。
【0039】
本明細書で使用される場合、「IL-2ムテイン」とは、ヒト成熟インターロイキン-2タンパク質に対して特定のアミノ酸置換が為されてあるポリペプチドを意味する。アミノ酸のすべての付番は、別段の指示がない限り、配列番号2のヒト成熟インターロイキン-2タンパク質に対して行われる。
【0040】
一部の実施形態では、125位のシステインを、セリン(C125S)、アラニン(C125A)、スレオニン(C125T)またはバリン(C125V)などの中性アミノ酸で置き換える。
【0041】
例えば、活性型変異体をCHO細胞またはHEK細胞などの哺乳動物細胞で発現させる場合、O-グリコシル化部位を除去することでより均質な生成物がもたらされる。
【0042】
ある特定の実施形態では、活性型変異体は、ヒトIL-2の残基3に対応する位置にてのIL-2のO-グリコシル化部位を除去するさらなるアミノ酸突然変異を含む。一実施形態では、ヒトIL-2の残基3に対応する位置にてのIL-2のO-グリコシル化部位を除去する前記さらなるアミノ酸突然変異は、アミノ酸置換である。例示的なアミノ酸置換としては、T3A、T3G、T3Q、T3E、T3N、T3D、T3R、T3K、およびT3Pが挙げられる。特定の実施形態では、前記さらなるアミノ酸突然変異はアミノ酸置換T3Aである。
・ T-reg細胞の増殖、生存、活性化および/または機能を選択的に促進する活性型IL-2変異体は、炎症性障害および/または自己免疫性障害の治療に特に有用である。
【0043】
「選択的に促進する」というのは、活性型変異体は、T-reg細胞において活性を促進するが、非制御性T細胞においては活性を促進する能力を制限していたかそれを欠く、ということである。本明細書ではさらに、T-reg細胞の増殖、生存、活性化および/または機能を選択的に促進する活性型変異体をスクリーニングするアッセイについて記載する。変異体IL-2ポリペプチドが活性であるかどうかを判定するための方法は、当技術分野で利用可能である。例えばWO2016/014428を参照されたい。活性型変異体は、Tregを刺激する能力を示す変異体として定義され、この変異体には、当該変異体はTregを刺激することを超えてTeffを刺激しない限りにおいて、野生型IL-2またはアルデスロイキン(下に定義の)と比較した場合に、Tregを刺激する能力が改善されているか、能力が同様であるかまたはさらには能力が減少している状態の変異体が含まれる。候補分子がT細胞、特にTreg、またはNK細胞を刺激するかどうかを試験する方法はよく知られている。変異体は、エフェクターT細胞(CD8+T細胞などの)、CD4+Foxp3+Treg、またはNK細胞を刺激するその能力について試験することができる。好ましい実施形態では、活性型変異体は、野生型IL2またはアルデスロイキンと比較して、NK細胞を刺激する能力の減少を示す。STAT5リン酸化をモニタリングすることとは、Yu et al, Diabetes 2015;64:2172-2183に記載のように、Teffを超えてTregを優先的に刺激する能力について変異体を評価する簡単な方法である。特定の実施形態では、用量がTeffを含めて他の免疫細胞よりもTregに対しては10分の1以下低いという条件で、STAT5リン酸化に関する所定レベルが得られる場合に、変異体が特に有用である。
【0044】
前記活性型変異体は、Treg細胞の生存、増殖、活性化および/または機能を優先的に誘導するシグナル伝達事象を誘導する。ある特定の実施形態では、IL-2変異体は、Treg細胞において、STAT5リン酸化および/またはIL-2Rの下流のシグナル伝達分子、例えば、p38、ERK、SYKおよびLCKのうちの1つ以上のリン酸化を刺激する能力を保持する。他の実施形態では、IL-2変異体は、T-reg細胞において、T-reg細胞の生存、増殖、活性化および/または機能にとって重要である、FOXP3、Bcl-2、CD25またはIL-10などの、遺伝子もしくはタンパク質の転写またはタンパク質発現を刺激する能力を保持する。他の実施形態では、IL-2変異体は、CD25+T細胞の表面上のIL-2/IL-2R複合体のエンドサイトーシスを刺激する能力の減少を呈する。他の実施形態では、IL-2変異体によって実証されるところは、PI3-キナーゼシグナル伝達に関する刺激が非効率的であるか減少または欠如していること、例えば、AKTおよび/またはmTOR(ラパマイシンの哺乳類標的)に関するリン酸化が非効率的であるか減少または欠如していること、である。さらに他の実施形態では、IL-2変異体は、T-reg細胞において、STAT5リン酸化および/またはIL-2Rの下流のシグナル伝達分子のうちの1つ以上のリン酸化を刺激する野生型IL-2の能力を保持し、さらに、IL-2変異体によって実証されるところは、FOXP3-CD4+T細胞もしくはFOXP3-CD8+T細胞またはNK細胞において、STAT5、AKT、および/もしくはmTORまたはIL-2Rの下流の他のシグナル伝達分子に関するリン酸化が非効率的であるか減少または欠如していること、である。他の実施形態では、IL-2変異体は、FOXP3-CD4+T細胞もしくはFOXP3-CD8+T細胞またはNK細胞の生存、成長、活性化および/または機能を刺激することが非効率的であるかまたはそれらを刺激することができない。
【0045】
いずれの場合も、こういった変異体は、その生物活性を決定するために広く使用できるCTLL-2またはHT-2などの細胞株を刺激する能力を有する。例を挙げると、IL-2の生物活性は、それらの増殖がIL-2に依存するHT-2細胞株(クローンA5E、ATCC(登録商標)CRL-1841(商標))に対して実施される細胞ベースのアッセイによって決定することができる。多種多様な試験インターロイキン2生成物の存在下での細胞増殖を、IL-2国際標準[第2次WHO INTERLEUKIN 2国際標品(ヒト、rDNA由来)NIBSCコード:86/500]で記録された増殖と比較する。[3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム(分子内塩、MTS)を添加し、活性の高い生細胞によりホルマザンへと変換した後に、細胞増殖を測定する。次いで、ホルマザン濃度を分光測光法により490nmで測定する。
【0046】
IL-2変異体の例は、例を挙げると、EP109748、EP136489、US4,752,585;EP200280、EP118617、WO99/60128、EP2288372、US9,616,105、US9,580,486、WO2010/085495、WO2016/164937に開示されている。
【0047】
例を挙げると、ある特定の突然変異が、IL-2受容体(IL-2Rβ/CD122および/またはIL-2Rγ/CD132)のシグナル伝達鎖に対する親和性の減少および/またはIL-2受容体の一方もしくは両サブユニットからのシグナル伝達事象を誘導する能力の減少をもたらす場合がある。他の突然変異が、CD25(IL-2Rα)に対してより高い親和性を与える場合もある。いずれの場合も、これらの突然変異は、Tregの生存、増殖、活性化および/または機能を優先的に誘導する活性型変異体を定義する。この特性は、表面プラズモン共鳴を使用してモニタリングすることができる。
【0048】
有用な変異体の特定の例としては、野生型IL-2に従って付番された、D20、N30、Y31、K35、V69、Q74、N88、V91またはQ126の各位置に少なくとも1つのアミノ酸置換を示すIL-2ムテインが挙げられ、このことは、選択されたアミノ酸は、配列番号2の野生型IL-2の成熟配列において当該アミノ酸が通常存在する位置を参照して特定されること、を意味する。
【0049】
好ましいIL-2ムテインは、D20H、D20I、D20Y、N30S、Y31H、K35R、V69AP、Q74、N88R、N88D、N88G、N88I、V91K、またはQ126Lの各位置に少なくとも1つの置換を含む。
【0050】
一部の実施形態では、IL-2ムテイン分子はV91K置換を含む。一部の実施形態では、IL-2ムテイン分子はN88D置換を含む。一部の実施形態では、IL-2ムテイン分子はN88R置換を含む。一部の実施形態では、IL-2ムテイン分子は、H16E、D84K、V91N、N88D、V91K、またはV91Rの置換、それらの任意の組合せを含む。一部の実施形態では、これらのIL-2ムテイン分子はまた、本明細書に記載のように125位にも置換を含む。一部の実施形態では、IL-2ムテイン分子は:T3N、T3A、L12G、L12K、L12Q、L 12S、Q13G、E15A、E15G、E15S、H16A、H16D、H16G、H16K、H16M、H16N、H16R、H16S、H16T、H16V、H16Y、L19A、L19D、L19E、L19G、L19N、L19R、L19S、L19T、L19V、D20A、D20E、D20H、D20I、D20Y、D20F、D20G、D20T、D20W、M23R、R81A、R81G、R81 S、R81T、D84A、D84E、D84G、D84I、D84M、D84Q D84R、D84S、D84T、S87R、N88A、N88D、N88E、N88I、N88F、N88G、N88M、N88R、N88S、N88V、N88W、V91D、V91E、V91G、V91S、I92K、I92R、E95G、およびQ126からなる群から選択される、1つ以上の置換を含む。一部の実施形態では、IL-2ムテイン分子のアミノ酸配列は、成熟IL-2配列に記載のアミノ酸配列とは異なり、C125A置換またはC125S置換を有しならびにT3N、T3A、L12G、L12K、L12Q L12S、Q13G、E15A、E15G、E15S、H16A、H16D、H16G、H16K、H16M、H16N、H16R、H16S、H16T、H16V、H16Y、L19A、L19D、L19E、L19G、L19N、L19R、L19S、L19T、L19V、D20A、D20E、D20F、D20G、D20T、D20W、M23R、R81A、R81G、R81 S、R81T、D84A、D84E、D84G、D84I、D84M、D84Q、D84R、D84S、D84T、S87R、N88A、N88D、N88E、N88F、N88I、N88G、N88M、N88R、N88S、N88V、N88W、V91D、V91E、V91G、V91 S、I92K、I92R、E95G、Q126I、Q126L、およびQ126Fから選択される1つの置換を有する。一部の実施形態では、IL-2ムテイン分子は、成熟IL-2配列に記載のアミノ酸配列とは異なり、C125A置換またはC125S置換を有しならびにD20H、D20I、D20Y、D20E、D20G、D20W、D84A、D84S、H16D、H16G、H16K、H16R、H16T、H16V、I92K、I92R、L12K、L19D、L19N、L19T、N88D、N88R、N88S、V91D、V91G、V91K、およびV91Sから選択される1つの置換を有する。一部の実施形態では、IL-2ムテインはN88Rおよび/またはD20Hの突然変異を含む。
【0051】
これらの置換は、単独で使用しても、お互いに組み合わせて使用してもよい。一部の実施形態では、ムテインはこれらの置換のそれぞれを含む。一部の実施形態では、ムテインは、これらの突然変異のうちの1、2、3、4、5、6、7、または8つを含む。
【0052】
一部の実施形態では、IL-2ムテインは、N88R突然変異またはN88D突然変異、好ましくはN88Rを含む。一部の実施形態では、IL-2ムテインはC125A突然変異またはC125S突然変異を含む。これらの置換は、単独で使用しても、お互いに組み合わせて使用してもよい。一部の実施形態では、ムテインは、これらの突然変異のうちの1、2、3、4、5、6、7、または8つを含む。一部の実施形態では、ムテインはこれらの置換のそれぞれを含む。
【0053】
特定の実施形態では、IL-2部分はアルデスロイキンである。アルデスロイキンはProleukin(登録商標)の有効成分である。アルデスロイキンは、成熟ヒトIL-2(配列番号2)の配列と比較して2つのアミノ酸改変:第1のアミノ酸(アラニン)の欠失およびセリンによる125位にてのシステインの置換を含む、成熟ヒトIL-2の変異体である。IL-2の他の位置にての保存的改変および置換(すなわち、ムテインの二次または三次構造に最小限の影響を与えるもの)が包含される。このような保存的置換には、Dayhoff in The Atlas of Protein Sequence and Structure 5 (1978)により、およびArgos in EMBO J., 8: 779-785 (1989)により記載されるものが含まれる。例えば、以下のグループの一つに属するアミノ酸は保存的変化を表す:-ala、pro、gly、gln、asn、ser、thr;-cys、ser、tyr、thr;-val、ile、leu、met、ala、phe;-lys、arg、his;-phe、tyr、trp、his;および-asp、glu。
【0054】
IL-2Rのαサブユニットへの結合を破壊する突然変異を有する変異体は、こういった突然変異型はTregを刺激する能力が減少している場合があるので、好ましくない。
・ Teff細胞の増殖、生存、活性化および/または機能を促進する活性型IL-2変異体は、がんを治療する上で有用とすることができる。
【0055】
IL-2のこのような活性型変異体は、それぞれ野生型IL-2ポリペプチドと比較して、IL-2受容体(CD25)のα-サブユニットへの突然変異型IL-2ポリペプチドの親和性を消失させるかまたは減少させ、かつ、中親和性IL-2受容体への突然変異型IL-2ポリペプチドの親和性を保つ、少なくとも1つのアミノ酸突然変異を含む。この特性は、表面プラズモン共鳴を使用してモニタリングすることができる。
【0056】
好ましい活性型変異体には、F42A、K43N、Y45A、および/またはE62Aの各置換を含むIL-2ムテインが含まれる。
【0057】
CD25への親和性が低下したヒトIL-2(hIL-2)の突然変異型などの活性型変異体は、例えば、アミノ酸35、38、42、43、45、62もしくは72の各位置にてのアミノ酸置換またはそれらの組合せ(ヒトIL-2配列番号2に対しての付番)によって生成することができる。例示的なアミノ酸置換としては、K35E、K35A、R38A、R38E、R38N、R38F、R38S、R38L、R38G、R38Y、R38W、F42L、F42A、F42G、F42S、F42T、F42Q、F42E、F42N、F42D、F42R、F42K、K43E、Y45A、Y45G、Y45S、Y45T、Y45Q、Y45E、Y45N、Y45D、Y45R、Y45K、E62G、E62A、E62S、E62T、E62Q、E62E、E62N、E62D、E62R、E62K、L72G、L72A、L72S、L72T、L72Q、L72E、L72N、L72D、L72R、およびL72Kが挙げられる。本発明のキメラコンストラクトにおいて有用な特定の活性型変異体は、ヒトIL-2の残基42、45もしくは72に対応するアミノ酸位置にまたはそれらの組合せにアミノ酸突然変異を含む。一実施形態では、前記アミノ酸突然変異は、F42A、F42G、F42S、F42T、F42Q、F42E、F42N、F42D、F42R、F42K、Y45A、Y45G、Y45S、Y45T、Y45Q、Y45E、Y45N、Y45D、Y45R、Y45K、L72G、L72A、L72S、L72T、L72Q、L72E、L72N、L72D、L72RおよびL72Kの群から選択されるアミノ酸置換、より具体的には、F42A、Y45AおよびL72Gの群から選択されるアミノ酸置換である。これらの活性型変異体は、IL-2突然変異型の野生型と比較して、中親和性IL-2受容体に対して実質的に同様の結合親和性を呈し、かつ、IL-2受容体のαサブユニットおよび高親和性IL-2受容体(IL2Rαβγ)に対して実質的に減少した親和性を有する。
【0058】
有用な活性型変異体の他の特徴としては以下が挙げられる:IL-2受容体担持のT細胞および/またはNK細胞の増殖を誘導する能力、IL-2受容体担持のT細胞および/またはNK細胞においてIL-2シグナル伝達を誘導する能力、NK細胞による二次サイトカインとしてのインターフェロン(IFN)-yを産生する能力、末梢血単核球(PBMC)による二次サイトカイン、特にIL-10およびTNF-aの合成を誘導する能力の減少、制御性T細胞を活性化する能力の減少、T細胞においてアポトーシスを誘導する能力の減少、およびインビボ(in vivo)での毒性プロファイルの減少。
【0059】
特定の活性型変異体は、IL-2受容体のα-サブユニットへの活性型変異体の親和性を消失させるかまたは減少させるが、中親和性IL-2受容体への活性型変異体の親和性を保つ3つのアミノ酸突然変異、を含む。一実施形態では、前記3つのアミノ酸突然変異は、ヒトIL-2の残基42、45および72に対応する位置にある。一実施形態では、前記3つのアミノ酸突然変異はアミノ酸置換である。一実施形態では、前記3つのアミノ酸突然変異は、F42A、F42G、F42S、F42T、F42Q、F42E、F42N、F42D、F42R、F42K、Y45A、Y45G、Y45S、Y45T、Y45Q、Y45E、Y45N、Y45D、Y45R、Y45K、L72G、L72A、L72S、L72T、L72Q、L72E、L72N、L72D、L72RおよびL72Kの群から選択されるアミノ酸置換である。特定の実施形態では、前記3つのアミノ酸突然変異は、アミノ酸置換F42A、Y45AおよびL72Gである(配列番号2のヒトIL-2配列に対しての付番)。
【0060】
特定の実施形態では、前記アミノ酸突然変異は、IL-2受容体のαサブユニットへの突然変異型IL-2ポリペプチドの親和性を少なくとも1/5、具体的には少なくとも1/10、より具体的には少なくとも1/25減少させる。IL-2受容体のαサブユニットへの活性型変異体の親和性を減少させる2つ以上のアミノ酸突然変異が存在する実施形態では、これらのアミノ酸突然変異の組合せにより、IL-2受容体のαサブユニットへの活性型変異体の親和性を、少なくとも1/30、少なくとも1/50、またはさらに少なくとも1/100減少させることができる。一実施形態では、前記アミノ酸突然変異またはアミノ酸突然変異の組合せは、IL-2受容体のαサブユニットへの活性型変異体の親和性を消失させ、その結果、表面プラズモン共鳴によって結合が検出不可である。
【0061】
中親和性受容体への実質的に同様の結合、すなわち前記受容体への突然変異型IL-2ポリペプチドの親和性の維持は、活性型変異体が、中親和性IL-2受容体に対するIL-2突然変異型の野生型が有する親和性の約70パーセント超を呈する場合に、得られる。本発明において有用な活性型変異体は、そのような親和性の約80パーセント超、さらには約90パーセント超を呈することができる。
【0062】
IL-2のO-グリコシル化の脱離と組み合わせたIL-2受容体のα-サブユニットに対するIL-2の親和性の減少により、改善した特性を備えるIL-2タンパク質がもたらされる。特定の実施形態では、活性型変異体は、以下からなる群から選択される1つ以上の細胞性応答を誘発することができる:活性化Tリンパ球細胞における増殖、活性化Tリンパ球細胞における分化、細胞傷害性T細胞(CTL)活性、活性化B細胞における増殖、活性化B細胞における分化、ナチュラルキラー(NK)細胞における増殖、NK細胞における細胞傷害性活性、NK細胞における分化、活性化T細胞またはNK細胞によるサイトカイン分泌、およびNK/リンパ球活性化キラー(LAK)抗腫瘍細胞傷害性。
【0063】
一部の実施形態では、これらの活性型変異体は、本明細書に記載されるように125位に置換を同様に含む。
【0064】
ターゲティング部分
キメラコンストラクトは、IL-2を標的である炎症性組織に向かわせることができるターゲティング部分をさらに含む。
【0065】
特に、ターゲティング部分は酸化タンパク質または酸化脂質に結合する。本発明の文脈において、酸化タンパク質または酸化脂質は炎症性組織で見出される。特定の実施形態では、ターゲティング部分は、炎症の一因となるかまたは炎症応答に関与する、酸化タンパク質または酸化脂質に結合する。特定の実施形態では、ターゲティング部分は、酸化損傷および炎症によって誘導されるおよび/またはそれらの一因となる、酸化タンパク質または酸化脂質に結合する。
【0066】
特定の実施形態では、ターゲティング部分は、炎症誘発性の酸化タンパク質または酸化脂質に結合する。「炎症誘発性」というのは、炎症の積極的なメディエーターである酸化タンパク質または酸化脂質のことである。例えば、炎症誘発性のタンパク質または脂質は、炎症性サイトカインの分泌および/または単球もしくはマクロファージなどのエフェクター細胞の動員を誘導することができる。炎症性サイトカインとは、ヘルパーT細胞(Th)およびマクロファージのような免疫細胞、ならびに炎症を促進するある特定の他の細胞タイプから分泌されるシグナル伝達分子の一タイプである。これらには、インターロイキン-1(IL-1)、IL-12、IL-18、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)、インターフェロンガンマ(IFNγ)、または顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)が含まれる。
【0067】
特定の実施形態では、酸化タンパク質または酸化脂質は無菌性炎症に関与するかまたはこれのトリガーを引く。「無菌性炎症」とは、いっさい微生物が存在しない状態で発生する炎症であり、組織損傷に応答して局所的に放出されるダメージ関連分子パターン(DAMP)に応答して誘発される。DAMPは細胞内および細胞外の宿主由来分子であり、これらの分子は、免疫系によって普通には感知されないが、組織損傷時に放出されるかまたは変性自己分子へと改変されることになる。病原体誘導性炎症に類似して、無菌性炎症は、パターン認識受容体(PRR)によるDAMPの認識をとおした自然免疫応答の活性化によってトリガーを引かれ、その結果、サイトカインとケモカインの分泌亢進がもたらされる。トール様受容体(TLR)などの膜結合型PRR、およびインフラマソームなどの細胞内PRRは、無菌性炎症のキーとなるメディエーターである。インターロイキン-1(IL-1)ファミリーに属するサイトカインは、無菌性炎症の重要なドライバーであると提唱されてきた。初期損傷の部位にてのサイトカインおよびケモカインの分泌増加は、好中球およびマクロファージなどの免疫細胞の動員亢進を最終的にもたらす。無菌性炎症の消散によって、組織の修復および恒常性の再確立がもたらされるはずである。未消散の無菌性炎症は、自己免疫性疾患、痛風、アルツハイマー病およびアテローム性動脈硬化症など、いくつかの病状の発生に関係づけられる。
【0068】
特定の実施形態では、ターゲティング部分は「酸化特異的エピトープ」(OSE)に結合する。前記酸化特異的エピトープ(OSE)は、上で定義のように、酸化タンパク質または酸化脂質上に存在する。
【0069】
細胞は反応性酸素種(ROS)を生成するが、これの生物学的影響は生成量に左右される。低濃度では、ROSは、増殖、分化および細胞代謝に関与するが、一方、高濃度では、微生物除去を促進する好中球細胞外トラップ(NET)の形成に関与する。炎症などのある特定の外因性および内因性刺激に応答して、このバランスが崩壊する可能性があり、このバランスによって、DNA、RNA、タンパク質および脂質の不可逆的な変化を引き起こす酸化ストレスに関与するROSの蓄積がもたらされる可能性がある。酸化ストレスの主たる帰結は脂質過酸化であり、これによりいくつかの高度に反応性である分解生成物が生成され、この分解生成物が脂質、アポタンパク質およびタンパク質と反応し、それによって、安定した共有結合付加体が形成されかつ「酸化特異的エピトープ」(OSE)が創り出される。OSEは、単離された脂質として認めることができる場合もあり、またはタンパク質と共有結合で会合している場合もある。OSEの例としては、酸化リン脂質(OxPL)が挙げられる。レビューおよび例については、例えば、Binder et al, (2016) Nat Rev Immunol,16(8):485-97を参照されたい。OSEは、酸化ホスファチジルコリン、酸化カルジオリピン(OxCL)、酸化ホスファチジルセリン(OxPS)および酸化ホスファチジルエタノールアミン(OxPE)などの切断型リン脂質によるタンパク質の改変によって生成される場合がある。OSEの他の例としては、マロンジアルデヒド(MDA)エピトープ、2-(ω-カルボキシエチル)ピロール(CEP)エピトープおよび4-ヒドロキシノネナール(4-HNE)エピトープが挙げられる。
【0070】
OSEは、酸化リポタンパク質内でおよび瀕死の細胞の表面上でおよび循環微粒子上で記録され、強固な炎症誘発性応答のトリガーを引くその能力が実証されてきた[Tsiantoulas et al. (2015). Circulating microparticles carry oxidation-specific epitopes and are recognized by natural IgM antibodies1. J. Lipid Res. 56, 440-448]。特に、PAMP(「病原体関連分子パターン」)とされるOSEのPRR(「パターン認識受容体」)による認識は、炎症誘発性サイトカインの発現および、単球およびマクロファージなどの細胞エフェクターの活性化を誘導することになる[Miller et al. (2011). Oxidation-Specific Epitopes are Danger Associated Molecular Patterns Recognized by Pattern Recognition Receptors of Innate Immunity. Circ. Res. 108, 235-248.]。
【0071】
炎症状態ではOSE改変タンパク質または脂質が蓄積するので、これらを、IL-2部分を標的である炎症性組織に向かわせるための、標的として使用することができる。
【0072】
特定の実施形態では、ターゲティング部分はOSEに結合するが、この場合、OSEは以下のものである:マロンジアルデヒド(MDA)エピトープ;2-(ω-カルボキシエチル)ピロール(CEP)エピトープ;4-ヒドロキシノネナール(4-HNE)エピトープ、酸化リン脂質(OxPL)、ホスホコリン含有酸化リン脂質(PC-OxPL)、酸化ホスファチジルエタノールアミン(OxPE)、酸化ホスファチジルセリン(OxPS)または酸化カルジオリピン(OxCL)。
【0073】
好ましい実施形態では、ターゲティング部分は酸化リン脂質(OxPL)に結合する。
【0074】
好ましくは、ターゲティング部分は、ホスホコリン含有酸化リン脂質(PC-OxPL)に結合する。ホスホコリン頭部基を含む酸化リン脂質は、高度に炎症誘発性およびアテローム生成促進性であることが示されていたが、酸化損傷および炎症によって誘導されるとともにそれらを伝播する。上記酸化リン脂質は、アテローム性動脈硬化症、関節リウマチ、糖尿病性腎症、多発性硬化症を始めとするCNS疾患、ならびに一連の急性および慢性肺疾患を含めて、広範囲の炎症性疾患において存在する。
【0075】
特定の実施形態では、ターゲティング部分は、抗体または抗体断片、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、FvまたはscFvの各断片である。
【0076】
好ましい実施形態では、ターゲティング部分はscFv断片である。実際、scFv断片はFcドメインを欠如しており、したがって沈黙したエフェクター機能を有する。
【0077】
特定の実施形態では、ターゲティング部分は:E06抗体またはE06 scFvなどのE06抗体断片;LR04抗体またはLR04 scFvなどのLR04抗体断片;NA17抗体またはNA17 scFvなどのNA17抗体断片;E014抗体またはE014 scFvなどのE014抗体断片;MDA2抗体またはMDA2 scFvなどのMDA2抗体断片;IK17抗体またはIK17 scFvなどのIK17抗体断片;LR01抗体またはLR01 scFvなどのLR01抗体断片、からなる群から選択される。
【0078】
好ましい実施形態では、ターゲティング部分は、E06抗体もしくはE06抗体断片、例えばE06抗体のFab、Fab’、F(ab’)2、FvもしくはscFvの各断片、またはそれらの機能性変異体である。E06は、アポリポタンパク質E欠損マウス(apoE-/-)からクローニングされた天然IgM自己抗体であり、これは、酸化リン脂質のホスホコリン(PC)頭部基に結合するが正常リン脂質のホスホコリン(PC)頭部基に結合しない[Friedman et al. (2001) Correlation of antiphospholipid antibody recognition with the structure of synthetic oxidized phospholipids: Importance of Schiff base formation and Aldol condensation. J Biol Chem.;277:7010-7020]。興味深いことに、E06は、古典的な「天然」のマウスT15抗PC抗体と構造的かつ機能的に同一であり、この抗体はB1細胞起源のものであるとともに病原性肺炎球菌感染からの最適な保護をもたらすと報告されている。
【0079】
特定の実施形態では、ターゲティング部分はE06 scFvまたはその機能性変異体である。
【0080】
「機能性変異体」または「誘導体」という用語は、抗体またはその断片の機能に実質的に影響を与えることなく、1個または数個のアミノ酸の欠失、置換または挿入によってそれが指す親配列とは異なる配列を表す。好ましくは、機能性変異体は、天然配列と75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または少なくとも99%の同一性を示す。抗体またはその断片の機能性変異体は、参照抗体と比べて同様の抗原結合親和性を保有する(例えば、1×10-7M、10-8M未満の、好ましくは1×10-9M未満もしくは1×10-10M未満のKDを有する)。結合の親和性は、ka(会合速度定数)、kd(解離速度定数)、またはKD(平衡解離)という用語によって定義される。通常には、抗体に対して使用される場合、特異的に結合することとは、10-7M未満、好ましくは10-8M未満、例えば10-9M未満もしくは10-10M未満の親和性(KD)値でその標的に特異的に結合する(「認識する」)抗体を指す。より低いKD値は、より高い結合親和性(すなわち、より強い結合)を表し、その結果、10-9のKD値は、10-8のKD値よりも高い結合親和性を示す。
【0081】
特定の実施形態では、E06 scFvは:
- 配列番号12に示されるアミノ酸配列、または配列番号12と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれらからなる可変重鎖(VH)ドメイン;および
- 配列番号11に示されるアミノ酸配列、または配列番号11と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれらからなる可変軽鎖(VL)ドメイン
を含む。
【0082】
特定の実施形態では、E06 scFvのVHドメインとVLドメインは、アミノ酸リンカーを介して融合されている。「リンカー」という用語は、5~80個のアミノ酸、好ましくは5~30個、さらに好ましくは10~20個のアミノ酸を含む(ポリ)ペプチドを指す。適切なリンカーは当技術分野で知られている。一部の実施形態では、リンカーはGGGGS(配列番号8)反復配列を含む。小型非極性(例えばGly)アミノ酸または極性(例えばSerまたはThr)アミノ酸から構成されるリンカーは柔軟性をもたらし、接続する機能ドメインの易動性を可能にする。好ましい実施形態では、リンカーは、配列番号14のリンカーであるか、または配列番号14と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を有するリンカーである。
【0083】
特定の実施形態では、E06 scFv断片は、配列番号13に示されるアミノ酸配列または配列番号13と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれらからなる。
【0084】
別の特定の実施形態では、ターゲティング部分は、LR04抗体もしくはLR04抗体断片、例えばLR04抗体のFab、Fab’、F(ab’)2、FvもしくはscFvの各断片、またはそれらの機能性変異体である。LR04とは、アテローム性食習慣を受けているマウスLdlr-/-脾臓からクローニングされたMDAエピトープに対するモノクローナルIgM抗体である(Amir et al. Peptide mimotopes of malondialdehyde epitopes for clinical applications in cardiovascular disease. J Lipid Res. 2012;53:1316-1326)。
【0085】
別の特定の実施形態では、ターゲティング部分は、NA17抗体もしくはNA17抗体断片、例えばNA17抗体のFab、Fab’、F(ab’)2、FvもしくはscFvの各断片、またはそれらの機能性変異体である。NA17とは、B1細胞再構成Rag1-/-マウスの脾臓からクローニングされたMDA-特異的天然mAbである[Chou et al. Oxidation-specific epitopes are dominant targets of innate natural antibodies in mice and humans. J Clin Invest. 2009;119(5):1335-1349]。
【0086】
別の特定の実施形態では、ターゲティング部分は、E014抗体もしくはE014抗体断片、例えばE014抗体のFab、Fab’、F(ab’)2、FvもしくはscFvの各断片、またはそれらの機能性変異体である。E014とは、アテローム性動脈硬化症Apoe-/-マウスの脾臓からクローニングされたモノクローナルIgM NAbであり、これはMDAエピトープに結合することが示されてきた[Palinski et al. (1996). Cloning of monoclonal autoantibodies to epitopes of oxidized lipoproteins from apolipoprotein E-deficient mice. Demonstration of epitopes of oxidized low density lipoprotein in human plasma. J. Clin. Invest. 98, 800-814]。
【0087】
別の特定の実施形態では、ターゲティング部分は、MDA2抗体もしくはMDA2抗体断片、例えばMDA2抗体のFab、Fab’、F(ab’)2、FvもしくはscFvの各断片、またはそれらの機能性変異体である。MDA2とは、MDA-リジンエピトープに特異的なマウスモノクローナルIgG型抗体である。MDA2は、MDA-LDLおよびその他のMDA改変タンパク質を特異的に結合する[Rosenfeld et al (1990). Distribution of oxidation specific lipid-protein adducts and apolipoprotein B in atherosclerotic lesions of varying severity from WHHL rabbits. Arteriosclerosis.;10:336-349]。
【0088】
別の特定の実施形態では、ターゲティング部分は、IK17抗体もしくはIK17抗体断片、例えばIK17抗体のFab、Fab’、F(ab’)2、FvもしくはscFvの各断片、またはそれらの機能性変異体である。IK17とは、MDA-LDLおよび銅OxLDLに結合するヒトモノクローナルIgG抗体断片である[Shaw et al. (2001) Human-derived anti-oxidized LDL autoantibody blocks uptake of oxidized LDL by macrophages and localizes to atherosclerotic lesions in vivo. Arterioscler Thromb Vasc Biol.;21:1333-1339]。IK17とは、MDA-LDLに対する血漿自己抗体力価が高い冠動脈疾患の患者由来のファージディスプレイライブラリーから単離されたものである。IK17は、ヒト自己抗体であるので、薬物動態の改善および免疫反応の減少を含めて、ネズミ抗体に勝って潜在的な利点を有する。
【0089】
別の特定の実施形態では、ターゲティング部分は、LR01抗体もしくはLR01抗体断片、例えばLR01抗体のFab、Fab’、F(ab’)2、FvもしくはscFvの各断片、またはそれらの機能性変異体である。LR01とは、アテローム性動脈硬化症Ldlr-/-マウスの脾臓から単離された生殖細胞系列にコードされたNAbである。LR01は、酸化されているカルジオリピンに対して向けられているが、天然のカルジオリピンに対して向けられてはいないことが見出された[Tuominen et al. (2006). A natural antibody to oxidized cardiolipin binds to oxidized low-density lipoprotein, apoptotic cells, and atherosclerotic lesions. Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 26, 2096-210]。
【0090】
二量体化特性を有する適宜の部分
IL-2部分とターゲティング部分とを含む本発明のキメラコンストラクトは、多量体化特性を有する部分、すなわち多量体タンパク質を形成することができる断片または部分を適宜含むことができる。
【0091】
好ましくは、IL-2部分とターゲティング部分とを含む本発明のキメラコンストラクトは、二量体化特性を有する部分、すなわち二量体タンパク質を形成できる断片または部分を適宜含むことができる。
【0092】
例えば、キメラコンストラクトは、IgGのFc断片またはそれの機能性変異体をさらに含むことができるが、これは、少なくとも1つの二量体、例えばホモ二量体もしくはヘテロ二量体、三量体、四量体もしくは異なる数のキメラコンストラクトを含有する任意の多量体を形成する能力を有する。
【0093】
特定の実施形態では、IL-2部分とターゲティング部分とを含む本発明のキメラコンストラクトは、二量体タンパク質を形成することができるC4b結合タンパク質のベータ鎖(C4BPβ)、または少なくとも1つのその断片もしくはその機能性変異体を適宜含むことができる。
【0094】
C4BPβまたはC4BPβ断片
C4BPタンパク質は、凝固および補体系に関与する。C4BPの主たる形態は、同一の7つの75kDアルファ鎖と1つの45kDベータ鎖から構成される。アルファ鎖およびベータ鎖はそれぞれ8つおよび3つのSCR(ショートコンセンサス反復配列)ドメインを含有し、これらのモチーフは多くの補体制御タンパク質に見出され、ベータシートに組織化された50~70個のアミノ酸によって構成される。ヒトC4BPのベータ鎖のアミノ酸配列を配列番号3として示す。
【0095】
このポリペプチド配列に対応する核酸配列はまた、Hillarp and Dahlback (1990, PNAS, vol 87, pp 1183-1187)によっても記載されている。C4BPタンパク質を重合する際のアルファ鎖の役割については、Kask et al (Biochemistry 2002, 41, 9349-9357)によって研究されている。これら著者らが示したところは、アルファ鎖が異種系で発現される場合、アルファ鎖のC末端部分が、特にそのらせん構造および2個のシステインの存在が、C4BPタンパク質の重合にとって必要であること、である。
【0096】
欧州特許出願第2227030号には、目的のポリペプチドとの融合の際にC4BPタンパク質のアルファ鎖およびベータ鎖のC末端断片を使用することによるヘテロ多量体組換えタンパク質の生成が記載されている。米国特許第7,884,190号には、二量体タンパク質の生成に向けてC4BPタンパク質のアルファ鎖と共同でC4BPタンパク質のベータ鎖を使用することに依存せずに、C4BPタンパク質のベータ鎖を使用することが記載されている。
【0097】
本発明を実施するのに使用されるC4BPタンパク質は、有利にはヒトC4BPタンパク質である。好ましい実施形態では、キメラコンストラクトは、少なくともアミノ酸194~252(配列番号4)を含むかまたはそれからなるC4BPβ鎖の断片を含む。
【0098】
ベータ鎖のより長い断片、またはベータ鎖全体をコードする配列も使用することができる。ある特定の適用では、凝固に関与するSタンパク質を結合することができるベータ鎖をコードする配列を使用することを避けることが好ましい。選択された配列がベータ鎖の最初の2つのSCRモチーフを含有する断片をコードする場合、これらは、Sタンパク質との相互作用の可能性を切り出すようにアミノ酸の付加、欠失または置換によって突然変異されたバージョンであることが好ましいであろう。SCRモチーフおよび/または[GS]ドメインを、得られる融合ポリペプチドの柔軟性を改変する、例えば向上させる目的で、またはキメラタンパク質が多量体、特に二量体を形成するのに適した立体構造を取ることを可能とする目的で、付加することができる。
【0099】
N末端で最大アミノ酸135まで及ぶC4BPβのより長い断片を使用することができる。
【0100】
特定の実施形態では、C4BPβ鎖の断片は、少なくともアミノ酸185~252、180~252、175~252、170~252、165~252、160~252、155~252、150~252、145~252、140~252、または135~252(配列番号3に対して)を含むかまたはそれらからなることができる。
【0101】
特定の実施形態では、C4BPβ鎖の断片は、少なくともアミノ酸137~252(配列番号5)を含むかまたはそれらからなる。
【0102】
C4BPβの機能性変異体を使用することができる。上記機能性変異体は、少なくとも1つの二量体、例えばホモ二量体もしくはヘテロ二量体、三量体、四量体もしくは異なる数のキメラコンストラクトを含有する任意の多量体を形成する能力が維持されてある。
【0103】
本発明の文脈内では、「C4BPβ鎖の断片の機能性変異体」という用語は、1つ以上のアミノ酸の欠失、置換または付加によってベータ鎖の断片の配列に対して改変されたポリペプチド配列を意味するが、前記改変された配列は本発明の方法を使用して少なくとも二量体タンパク質を形成する能力を保持する。より正確には、断片の機能性変異体をコードする配列を使用した二量体タンパク質の生成は、同一の発現系において、断片(配列番号3またはその断片)をコードする天然配列を用いて得られるものと少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは95%均等とすることができる。好ましくは、変異体は、これが含有する融合ポリペプチドの80%超が、本発明による真核生物発現系において二量体の形態で生成されるものである。
【0104】
特定の実施形態では、ベータ鎖の断片の変異体は、Hillarp and Dahlback (1990, PNAS, Vol. 87, pp 1183-1187)により記載の、断片をコードする野生型配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる核酸によってコードされる。「ストリンジェントな条件」という用語は、約65℃で、例えば、6*SSC、0.5%SDS、5*デンハルト溶液および非特異的DNA 100μgの溶液中でまたは均等のイオン強度を有する他の任意の溶液中で、そして、例えば、最高で0.2*SSCおよび0.1%のSDS溶液もしくは均等なイオン強度を有する他の任意の溶液中で、65℃で洗浄した後に、2つの単鎖DNA配列の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。
【0105】
好ましくは、前記野生型断片の機能性変異体をコードし、ストリンジェントな条件下で前記断片をコードする配列とハイブリダイズするヌクレオチド配列は、そのハイブリダイゼーション部分において、断片をコードする配列の長さの少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%の長さを有する。特定の実装形態では、前記断片の機能性変異体をコードし、ストリンジェントな条件下で前記断片をコードする配列とハイブリダイズするヌクレオチド配列は、そのハイブリダイゼーション部分において、前記断片をコードする配列と実質的に同じ長さを有する。
【0106】
さらなる実装形態では、機能性変異体は、二量体化機能に必須ではない1個以上のアミノ酸が除去されてあるかもしくは置換されてある野生型断片の改変配列、および/または、二量体化に必須の1個以上のアミノ酸が均等の官能基を持つアミノ酸により置き換えられてある(保存的置換)野生型断片の改変配列である。201位および215位に位置する2個のシステインならびにこれらのシステインの周囲のペプチド構造を保存して、例えば、それぞれのシステインの上流および下流で少なくとも3個のアミノ酸の保存によって、二量体化に必要であるジスルフィド架橋の形成を可能にすることが、特に推奨される。特に、機能性変異体はまた、ベータ鎖の異種性配列、特にC4BPのアルファ鎖のドメインを二量体化を担うシステインの間に挿入することによっても、または対照的に、当該の同じシステインの間に存在するある特定のアミノ酸を排除することによっても、得ることができる。代替的に、機能性変異体はある特定のアミノ酸の点改変によって生成することができ、特に、二量体化プロセスにおける関与に関して中性アミノ酸による二量体化を担うシステインの置換(例えば、アミノ酸A、V、F、P、M、I、LおよびW)によって、ならびに、システインの間に鎖内および/または鎖間ジスルフィド架橋を形成する能力を同時に保存するように別のアミノ酸をシステインにより置換することによって、生成することができる。したがって、こういった改変によって、多量体化プロセス、特に二量体化に関与する様々なシステイン同士の間に距離の変化がもたらされる。
【0107】
好ましくは、194~252の断片のアミノ酸の50%未満が、好ましくは25%未満またはさらに10%未満(例えば5個以下のアミノ酸)または5%未満(例えば1または2個のアミノ酸)が排除されるかまたは置き換えられる。
【0108】
特定の実施形態では、機能性変異体は、以下を含むかまたはそれらからなる:
a)C4BPβの断片(好ましくは194~252の断片)のアミノ酸の25パーセント未満、好ましくは10パーセント未満が切除されてあるかまたは置き換えられてあり、202位および216位(配列番号3に対して付番)に位置するシステインならびに各システインの上流および下流で少なくとも3個のアミノ酸が保存されてある、C4BPβの断片(好ましくは194~252の断片)の改変配列;または
b)二量体化を担うシステインが、好ましくはアラニン、バリン、フェニルアラニン、プロリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシンおよびトリプトファンから選択されるアミノ酸で置換されており、C4BPβの断片の別のアミノ酸がシステインで置換されている、C4BPβの断片(好ましくは194~252の断片)の改変配列;または
c)二量体化を担うシステインの間へのベータ鎖に対して異種性である配列の挿入によって改変されたC4BPβの断片(好ましくは194~252の断片)の配列;または
d)二量体化を担うシステインの間のアミノ酸を切除することによって改変されたC4BPβの断片(好ましくは194~252の断片)の配列。
【0109】
キメラコンストラクト
好ましくは、キメラコンストラクトのIL2部分とターゲティング部分とは互いに融合されている。IL2部分は、ターゲティング部分のN末端に融合されてもC末端に融合されてもよい。好ましい実施形態では、IL-2部分はターゲティング部分のN末端に融合されている。好ましくは、IL-2部分のC末端はターゲティング部分のN末端に融合されている。
【0110】
IL2部分とターゲティング部分とは、インフレームで(直接に)、またはアミノ酸リンカー、好ましくはポリGリンカーを介して融合されている。本発明の文脈において、「リンカー」という用語は、5~80個のアミノ酸、好ましくは5~30個、さらに好ましくは10~20個のアミノ酸を含む(ポリ)ペプチドを指す。適切なリンカーは当技術分野で知られている。一部の実施形態では、リンカーはGGGGS(配列番号8)反復配列を含むが、当業者であれば、一般推奨事項[Argos, 1990, J Mol Biol. 20;211(4):943-58; George R, Heringa J. An analysis of protein domain linkers: their classification and role in protein folding. Protein Eng. 2002;15:871-879]に従って他の配列も使用することができることを理解するであろう。小型非極性(例えばGly)アミノ酸または極性(例えばSerまたはThr)アミノ酸から構成されるリンカーは柔軟性をもたらし、接続する機能ドメインの易動性を可能にする。好ましい実施形態では、IL2部分とターゲティング部分とは、配列番号14のリンカー、または配列番号14と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を有するリンカーを介して連結される。
【0111】
特定の実施形態では、キメラコンストラクトは、上記のように、C4BPβまたはその機能性断片などの二量体化特性を有する部分をさらに含む。このようなキメラコンストラクトは、ホモ二量体を形成することが好ましいが、または、下記のようにヘテロ二量体を生成するために使用してもよい。特定の実施形態では、(i)IL2部分と、(ii)ターゲティング部分と(iii)二量体化特性を有する部分とは、フレーム内で(直接に)またはアミノ酸リンカーを介して互いに融合されている。
【0112】
好ましい実施形態では、IL-2部分は、C4BPβまたはその前記機能性断片のN末端で融合されている。好ましくは、IL-2部分は、アミノ酸リンカー、好ましくはポリGリンカーを介して、C4BPβまたはその前記機能性断片のN末端で融合されている。一部の実施形態では、IL-2部分は、GGGGS(配列番号8)反復配列を含むリンカーを介して、好ましくは、配列番号14のリンカー、または配列番号14と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を有するリンカーを介して、C4BPβ部分に融合されている。
【0113】
特定の実施形態では、C4BPβ部分に融合されたIL-2部分(「IL2-C4BPβ」)に相当するアミノ酸配列は、配列番号9または配列番号10を含むかまたはそれらからなる。
【0114】
好ましい実施形態では、IL-2部分のC末端は、C4BPβまたはその前記機能性断片のN末端で融合されており、この場合、C4BPβまたはその前記断片のC末端は、ターゲティング部分のN末端に連結されている。
【0115】
特定の実施形態では、キメラコンストラクトは、N末端からC末端にかけて、
- IL-2部分と、
- 適宜リンカーと、
- ターゲティング部分と
を含む。
【0116】
好ましい実施形態では、キメラコンストラクトは、N末端からC末端にかけて、
- IL-2部分と、
- 適宜リンカーと、
- C4BPβまたはその機能性断片などの二量体化特性を有する部分と、
- 適宜リンカーと、
- ターゲティング部分と
を含む。
【0117】
好ましい実施形態では、キメラコンストラクトは、配列番号15~20のアミノ酸配列を含むかもしくはそれらからなるか、または、配列番号15~20と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むかもしくはそれらからなる。好ましい実施形態では、キメラコンストラクトは、配列番号15もしくは配列番号17のアミノ酸配列を含むかもしくはそれらからなるか、または、配列番号15もしくは配列番号17と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むかもしくはそれらからなる。
【0118】
別の特定の実施形態では、キメラコンストラクトは、N末端からC末端にかけて、
- ターゲティング部分と、
- 適宜リンカーと、
- IL-2部分と
を含む。
【0119】
好ましい実施形態では、キメラコンストラクトは、N末端からC末端にかけて、
- ターゲティング部分と、
- 適宜リンカーと、
- C4BPβまたはその機能性断片などの二量体化特性を有する部分と、
- 適宜リンカーと、
- IL-2部分と
を含む。
【0120】
ホモ二量体およびヘテロ二量体のコンストラクト
本明細書では、組換え二量体タンパク質を生成する方法であって:
a)宿主細胞を、i)少なくとも1つのインターロイキン2(IL2)部分、ii)二量体タンパク質、例えばC4b結合タンパク質のベータ鎖(C4BPβ)、または少なくとも1つのその断片もしくはその機能性変異体を形成することができる部分、および
iii)上記の少なくとも1つのターゲティング部分を含む融合ポリペプチドであるキメラコンストラクトをコードするヌクレオチド配列の発現を可能にするベクターでトランスフェクトすること;
b)インビボで融合ポリペプチドおよび2つの融合ポリペプチドの共有結合による会合をコードするヌクレオチド配列を発現させるのに適切である条件下でトランスフェクトされた細胞を培養して、二量体タンパク質を形成させること;
c)形成された二量体タンパク質を回収すること、および好ましくは精製すること、
を含む方法が記載される。
【0121】
トランスフェクトされた細胞は、C4BPタンパク質の重合に関与するC4BPタンパク質のアルファ鎖のC末端断片をコードするヌクレオチド配列の発現を可能にする核酸をまったく含有しないことが好ましい。
【0122】
特定の実施形態では、ヘテロ二量体を生成する方法が本明細書に記載されており、前記方法は:
a.宿主細胞を1つ以上のベクターでトランスフェクトして:
i.第1の融合ポリペプチドであって、i)少なくとも1つのインターロイキン2(IL2)部分、およびii)二量体タンパク質、例えばC4b結合タンパク質のベータ鎖(C4BPβ)、または少なくとも1つのその断片もしくはその機能性変異体を形成することができる部分を含む第1の融合ポリペプチドと;
ii.第2の融合ポリペプチドであって、i)E06 scFvまたはその機能性変異体などの上記の少なくとも1つのターゲティング部分、およびii)二量体タンパク質、例えばC4b結合タンパク質のベータ鎖(C4BPβ)、または少なくとも1つのその断片もしくはその機能性変異体を形成することができる部分を含む第2の融合ポリペプチドと
をコードする1つ以上のヌクレオチド配列の発現を可能にすること:
b.インビボで、第1および第2の融合ポリペプチドならびに2つの融合ポリペプチドの会合をコードするヌクレオチドの配列もしくは複数の配列を発現させるのに適度である条件下でトランスフェクトされた細胞を培養して、ヘテロ二量体タンパク質を形成させること;
c.形成されたヘテロ二量体タンパク質を回収すること、および好ましくは精製すること、
を含む。
【0123】
特定の実施形態では、ヘテロ二量体を生成する方法が本明細書に記載されており、前記方法は:
a.宿主細胞を1つ以上のベクターでトランスフェクトして:
i.第1の融合ポリペプチドであって、i)少なくとも1つのインターロイキン2(IL2)部分、ii)二量体タンパク質、例えばC4b結合タンパク質のベータ鎖(C4BPβ)、または少なくとも1つのその断片もしくはその機能性変異体を形成することができる部分、およびiii)E06 scFvまたはその機能性変異体などの上記の少なくとも1つのターゲティング部分を含む第1の融合ポリペプチドと;
ii.第2の融合ポリペプチドであって、i)第1の融合ポリペプチドのインターロイキン2(部分)とは異なると定義される少なくとも1つの異種性ポリペプチド、ii)二量体タンパク質、例えばC4b結合タンパク質のベータ鎖(C4BPβ)、または少なくとも1つのその断片もしくはその機能性変異体を形成することができる部分、およびiii)適宜、E06 scFvまたはそれらの機能性変異体などの上記の少なくとも1つのターゲティング部分を含む第2の融合ポリペプチドと
をコードする1つ以上のヌクレオチドの発現を可能にすること;
b.インビボで、第1および第2の融合ポリペプチドならびに2つの融合ポリペプチドの会合をコードするヌクレオチドの配列もしくは複数の配列を発現させるのに適度である条件下でトランスフェクトされた細胞を培養して、ヘテロ二量体タンパク質を形成させること;
c.形成されたヘテロ二量体タンパク質を回収すること、および好ましくは精製すること、
を含む。
【0124】
好ましくは、第2の融合ポリペプチドにおいて、C4BPβまたは前記断片は、上記異種性ポリペプチドのC末端に融合されている。
【0125】
異種性ポリペプチドに言及する場合に、「異なる」という用語は、第1の融合ポリペプチドのインターロイキン2(部分)の一次配列とは少なくとも1個のアミノ酸異なる当該一次アミノ酸配列を有するポリペプチドを意味する。代替的に、「異なる」という用語はまた、同じ一次配列を有するが、例えば、アセチル化、アミド化、ビオチン化、カルボキシル化、ヒドロキシル化、メチル化、リン酸化もしくは硫酸化の観点で、または脂質(イソプレニル化、パルミトイル化およびミリストイル化)、糖質(グリコシル化)もしくはポリペプチド(ユビキチン化)を付加することによる、様々な翻訳後修飾を有する異種性ポリペプチドもカバーする。
【0126】
好ましい実施形態では、上記異種性ポリペプチドはIL2ではない。
【0127】
このようなヘテロ二量体タンパク質も本発明の一部である。
【0128】
特定の実施形態では、宿主細胞は、2つの融合ポリペプチド、すなわち、第1の融合ポリペプチドAであって、i)少なくとも1つのインターロイキン2(IL2)部分、ii)二量体タンパク質を形成することができるC4b結合タンパク質のベータ鎖(C4BPβ)または少なくとも1つのその断片もしくはその機能性変異体、およびiii)E06 scFvまたはその機能性変異体などの上記の少なくとも1つのターゲティング部分を含む第1の融合ポリペプチドAと;第2の融合ポリペプチドAであって、i)少なくとも1つのインターロイキン2(IL2)部分、ii)二量体タンパク質を形成することができるC4b結合タンパク質のベータ鎖(C4BPβ)または少なくとも1つのその断片もしくはその機能性変異体、およびiii)E06 scFvまたはその機能性変異体などの上記の少なくとも1つのターゲティング部分、を含む第2の融合ポリペプチドAとの共発現を可能にする。本特定の実施形態では、2つの融合ポリペプチドの共発現により、ホモ二量体A-Aの生成も可能とすることができる。
【0129】
特定の実施形態では、宿主細胞は、2つの融合ポリペプチド、すなわち、第1の融合ポリペプチドAであって、i)少なくとも1つのインターロイキン2(IL2)部分、ii)二量体タンパク質を形成することができるC4b結合タンパク質のベータ鎖(C4BPβ)または少なくとも1つのその断片もしくはその機能性変異体、およびiii)E06 scFvまたはその機能性変異体などの上記の少なくとも1つのターゲティング部分、を含む第1の融合ポリペプチドAと;第2の融合ポリペプチドBであって、i)少なくとも1つの異種性ポリペプチド、ii)二量体タンパク質を形成することができるC4b結合タンパク質のベータ鎖(C4BPβ)または少なくとも1つのその断片もしくはその機能性変異体、およびiii)E06 scFvまたはそれらの機能性変異体などの上記の少なくとも1つのターゲティング部分を含み;ここで、上記異種性ポリペプチドは第1の融合ポリペプチドのインターロイキン2(部分)とは異なると定義される、第2の融合ポリペプチドBとの共発現を可能にする。本特定の実施形態では、2つの融合ポリペプチドの共発現により、ホモ二量体A-AおよびB-Bの生成ならびにヘテロ二量体A-Bの生成も可能とすることができる。
【0130】
また、上で定義の二量体タンパク質またはヘテロ二量体タンパク質の合成を可能にし、上で定義の生成方法の工程a)を実施することによって取得可能な組換え真核細胞も提供される。宿主細胞における生成について詳細を下に記載する。
【0131】
生成方法
融合タンパク質の形態にあるキメラコンストラクト、およびそのホモ二量体またはヘテロ二量体は、適切な発現ベクターにおけるDNA組換え技法によって、またはRNA分子によって生成することができる。
【0132】
発現ベクターは、コンストラクトが導入される宿主細胞に応じて選択される。好ましくは、発現ベクターは、真核細胞における発現を可能にするベクターから、とりわけ染色体ベクターまたはエピソームベクターまたはウイルス派生物から、特にプラスミド、酵母染色体に由来するベクターから、もしくはバキュロウイルス、パポウイルスもしくはSV40、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスなどのウイルスから、もしくはそれらの組合せに由来するベクター、特にファージミドおよびコスミドから、選択される。特定の実施形態では、発現ベクターは、昆虫細胞に感染することができるバキュロウイルスの発現を可能にするベクターである。
【0133】
必要に応じて、融合ポリペプチドをコードする配列はまた、好ましくはその5’部分に、融合ポリペプチドの分泌のためのシグナルペプチドをコードする配列も含む。従来、シグナルペプチドの配列は、疎水性アミノ酸(Phe、Leu、Ile、MetおよびVal)に富んだ15~20個のアミノ酸の配列である。
【0134】
ベクターは、融合ポリペプチドをコードする配列の発現に必要な配列のすべてを含む。特に、ベクターは、コンストラクトが導入される宿主細胞に応じて選択される適切なプロモーターを含む。
【0135】
本発明の文脈において、「宿主細胞」という用語は、細胞にとって異種であるとともにトランスフェクション法によって当該細胞のゲノムに導入されてある核酸によって担持される遺伝子を発現することができる細胞を意味する。
【0136】
好ましくは、宿主細胞は真核細胞である。真核宿主細胞は、S.セレビシエ(S cerevisiae)などの酵母細胞、アスペルギルス種(Aspergillus sp)などの糸状菌細胞、ショウジョウバエ属(Drosophila)のS2細胞またはスポドプテラ属(Spodoptera)のsf9などの昆虫細胞、哺乳動物細胞および植物細胞から特に選択される。特に引用することができる哺乳動物細胞は、CHO、COS、HeLa、C127、3T3、HepG2またはL(TK-)の各細胞などの哺乳動物細胞株である。好ましい実装形態では、前記宿主細胞は、真核細胞株、好ましくはSf9昆虫細胞から選択される。sf9昆虫細胞において組換え二量体タンパク質を調製する方法は、米国特許第7,884,190号に記載されている。異種核酸を発現する細胞の作出については当業者であれば既知である任意のトランスフェクション方法を使用して、本発明の方法の工程a)を実施することができる。トランスフェクション方法は、例えば、Sambrook et al, 2001, "Molecular Cloning: A Laboratory Manual", 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.に記載されている。
【0137】
代替的に、キメラコンストラクトは、化学ペプチド合成によって生成することもできる。例を挙げると、本発明のタンパク質はより短いペプチドの並行合成によって生成することができるが、このより短いペプチドは次いで、正確なジスルフィド架橋を備えるタンパク質の完全な配列が得られるように組み立てられる。IL-2の合成については、例を挙げると、その開示が参照により本明細書に組み込まれる、Asahina et al., Angewandte Chemie International Edition, 2015, Vol.54, Issue 28, 8226-8230に例示されている。
【0138】
別の実施形態では、キメラタンパク質は、前記キメラタンパク質をコードする核酸を対象に投与した後に、インビボで発現させることができる。好ましい実施形態では、核酸は、RNAまたはアデノウイルス関連ウイルス(AAV)などのウイルスベクターによって担持される。
【0139】
製剤および投与経路
また、本明細書に記載のキメラコンストラクト、核酸、ベクターまたはタンパク質を、好ましくは薬学的に許容される媒体、担体または賦形剤を伴って(例えば、溶液、懸濁液または混合物中で)含む医薬組成物も提供される。
【0140】
適切な賦形剤には、任意の等張溶液、生理食塩水、緩衝溶液、徐放性製剤等が含まれる。液体、凍結乾燥または噴霧乾燥の組成物は当技術分野で知られており、水性または非水性の溶液または懸濁液として調製することができる。好ましくは、医薬組成物は、適正な安定化剤、緩衝剤、増量剤、または組合せを含む。
【0141】
医薬組成物は、別の有効成分をさらに含有してもよく、または他の有効成分と組み合わせて投与してもよい。
【0142】
医薬組成物は、非経口経路、例えば皮内経路、皮下経路または鼻腔内経路を含めて、好都合な任意の経路を使用して投与することができる。皮下経路が好ましい。経口、舌下または口腔の各投与も包含される。
【0143】
皮下注射に適した製剤の例は、国際特許出願WO2017/068031に記載されている。
【0144】
自己免疫性障害および/または炎症性障害の治療
本明細書に記載の医薬組成物は、以下のような、自己免疫性障害および/または炎症性障害を治療するための方法において有用である:全身性エリトマトーデス、I型糖尿病、HCV関連性血管炎、ブドウ膜炎、筋炎、全身性血管炎、乾癬、アレルギー、喘息、クローン病、多発性硬化症、関節リウマチ、アテローム性動脈硬化症、自己免疫性甲状腺疾患、自己炎症性疾患、アルツハイマー病および筋萎縮性側索硬化症を含めて神経変性疾患、急性および慢性対宿主移植片疾患、自然流産および同種移植拒絶反応;固形臓器移植の拒絶反応、血管炎、炎症性腸疾患(IBD)、およびアレルギー性喘息;脊椎関節炎または強直性脊椎炎;シェーグレン症候群、全身性硬化症、気性脱毛症、または潰瘍性大腸炎。
【0145】
本明細書に記載の医薬組成物はまた、筋肉疾患、神経変性、心臓または他の組織の梗塞などの、Treg組織再生特性の活性化が望まれる状態においても適している。
【0146】
好ましい実施形態では、本明細書では、自己免疫性障害および/または炎症性障害の治療方法が記載されており、方法は、組成物を週に1回もしくは2回、またはさらには月に1回もしくは2回、好ましくは皮下経路によって投与することを含む。一実施形態では、30MIU/日未満、好ましくは20MIU/日未満の投薬量が好ましく、有利には10MIU/日未満、または1MIU/日から8MIU/日の間である。別の特定の実施形態では、1から5MIU/日の間の、好ましくは0.1から3.5MIU/日までの用量が使用される。
【0147】
一般的に言えば、Treg数の1.2、1.5、2、3、4または5倍の向上を可能にする用量が好ましい。IL-2の量の標準測定単位は国際単位(IU)であるが、これは、技術的には不定重量であるが、世界保健機関(WHO)によって決定されたように、特定の細胞増殖アッセイにおいて一定の生物学的効果を生み出す量である。その理由とは、i)重量は分子の正確な配列およびそのグリコシル化プロファイルに応じて変動すること、およびii)重要なのは分子の重量ではなく活性であること、である。
【0148】
国際単位の原則は、任意のIL-2分子を比較することができる標準を精密に提供することである(IL-2のソース、または野生型配列もしくは活性変異体配列を含めてIL-2の配列には関係なく)。
【0149】
実際には、WHOは、IL-2分子を含有するアンプルを提供しており、このIL-2分子は較正されてあり、かつ、その効力によって定義されるIL-2(ここでも、前記IL-2のソースまたは配列には関係なく)の所与の調製物の投薬量を決定するための基準として利用する。例を挙げると、IL-2の所与の調製物の投薬量を決定するために、CTLL-2などのIL-2依存性細胞株を使用した標準細胞増殖アッセイにおいて候補IL-2調製物の生物活性を測定し、標品の生物活性と比較する。細胞を、様々な用量の標品の存在下で増殖させる。IL-2の用量反応効果が確立されており、この場合、IL-2の用量をIUとしてX軸上にプロットし、増殖(pr)の測定値をY軸上にプロットする。活性が未知の任意のIL-2生成物の活性を決定したい場合、当該生成物を使用してIL-2依存性細胞を増殖させ、増殖を測定する。次いで、pr値をY軸上にプロットして、その値からX軸に平行な線を引く。用量反応線とのこの線の交点から、次いで、Y軸に平行な線を引く。X軸とのその交差によって、IU表示での候補IL-2生成物の活性が得られる。
【0150】
WHOの標品アンプルのいかなる変更も、IL-2調製物の国際単位にもそれの投薬量の決定にも両方にまったく影響を与えない。
【0151】
第1の標品(WHO国際標準コード86/504、1987年の日付)は、ジャーカット細胞に由来する精製グリコシル化IL-2を含有し、それに100IU/アンプルの効力を任意に割り当てた。第1の国際標品(IS)の在庫が残り少なくなってきたので、WHOはこれを補充する必要があった。WHOは、このときには大腸菌(E. coli)を使用して作製された別の較正済みIL-2アンプルを提供した。第2の標品アンプルは、アンプルあたり210IUの生物活性を含有した。標品アンプルの変化は、IUが変化することを意味するものではない。したがって、試験IL-2調製物の投薬量を決定することは、基準として第1の標品アンプルを使用するか、第2の標品アンプルを使用するか、その後の標品アンプルを使用するかにかかわらず、変化することはない。
【0152】
一実施形態では、長期投与が実装されるが、これは、例えば3日毎に1回~3か月毎に1回で投与することを含む。このような投与の連続を、必要に応じて繰り返すことができる。
【0153】
別の実施形態では、IL-2は、3日から3か月まで、好ましくは1から4週間まで続けてもよい投与の中断の後に、繰り返すことができるサイクルで、1~2週間隔日で与えられる。
【0154】
別の実施形態では、治療は、導入コースとも呼ばれる第1のコース、および、維持コースである第2のコースを含むことができる。
【0155】
特定の実施形態では、治療は、医薬組成物が少なくとも連続約2または3日の間、好ましくは3~7日の間、さらに好ましくは連続4~5日の間1日1回投与される少なくとも第1のコースを含み、好ましくはこれに続いて、例えば約6日後、または約1~約4週間後に維持用量を含むのがよい。
【0156】
維持用量は典型的には、少なくとも1か月、好ましくは少なくとも約3か月、さらに好ましくは少なくとも約6か月の間投与するのがよい。好ましい実施形態では、維持用量は約3か月から約12か月の間、好ましくは約6か月から約12か月の間投与される。
【0157】
好ましい実施形態では、維持治療は、週に、もしくは毎週もしくは毎2週に1回または2回、または月に1回の医薬組成物の投与からなる。
【0158】
好ましい実施形態では、維持治療は、少なくとも1か月、好ましくは約3か月から約12か月までの期間の間、週に、毎週もしくは毎2週に1回または2回、または月に1回のインターロイキン-2の投与からなる。
【0159】
好ましくは、維持投薬量は、第1のコースの投薬量と実質的に同じであるか、またはより低い用量であってもより高い用量であってもよい。
【0160】
がんの治療
本明細書に記載の医薬組成物は、がんを治療する方法において有用である。一部の実施形態では、対象は局所進行性または転移性がんに罹患している。一部の実施形態では、がんは固形腫瘍である。一部の実施形態では、がんは、結腸がん、肺がん、卵巣がん、胃がん、膀胱がん、膵臓がん、子宮内膜がん、乳がん、腎臓がん、食道がん、または前立腺がんである。一実施形態では、30MIU/日未満、好ましくは20MIU/日未満の投薬量が好ましく、有利には10MIU/日未満、または3MIU/日から5MIU/日の間である。他の実施形態では、400,000~750,000IU/kgまたは550,000~750,000IU/kg、好ましくは600,000~700,000IU/kgのIL2が投与される。投薬量は、PROLEUKIN(登録商標)に処方される投薬量と同様であってもよいが、それよりも少ないことが予想される。
【0161】
組成物は、1日あたり1回以上から1週間あたり1回以上まで、1回で投与してもよい;隔日に1回を含む。当業者であれば、それらに限定されないが、疾患の重症度、以前の治療、対象の全体的な健康状態および/または年齢、ならびに存在する他の疾患を含めて、ある特定の要因が、対象を効果的に治療するのに必要な投薬量およびタイミングに影響を及ぼし得ることを理解するであろう。さらに、対象の治療には、単一の治療が含まれてもよく、一連の治療が含まれてもよい。
【0162】
自己免疫性障害および/または炎症性障害に関連した上記のプロトコルの例は、がんを治療する上で使用するために同一または同様に適用することができる。代替的に、別の例では、組成物を5日間8時間毎に投与し、これに続いて2~14日、例えば9日間の休止期間、これに続いてさらなる5日間の8時間毎投与を行うことができる。一部の実施形態では、投与は、4日毎に3用量投与される。
【実施例】
【0163】
[実施例1]インビトロおよびインビボのターゲティング
材料および方法
融合タンパク質
レンチウイルスベクターを、IL-2融合タンパク質および標的に向けられたタンパク質の生成に使用した。簡潔に説明すると、ホスホコリン酸化脂質に結合することができるscFvE06に融合されたヒトIL-2-C4bpβ(IL-2-C4bpβ-E06またはIL-2N88R-C4bpβ-E06)を、脾限局巣形成ウイルス(SFFV)プロモーター下のレンチウイルスプラスミドに統合した。「IL-2-C4bpβ-E06」(配列番号19)は、C4BPβのN末端に融合されたヒトIL-2であり、C4BPβはscFVE06のN末端に融合されている。「IL-2N88R-C4bpβ-E06」(配列番号20)は、C4BPβのN末端に融合された突然変異型IL-2であり、C4BPβはscFVE06のN末端領域に融合されている。
【0164】
HEK 293T細胞に、ポリエチレンイミン(PEI)を使用してレンチウイルスプラスミドを70%コンフルエンスでトランスフェクトし、無血清培地で24~30時間培養した。次いで、上清を濾過し、超遠心分離によって濃縮し、適正な緩衝剤に再懸濁し、その後に-80℃で保存した。安定したトランスフェクト細胞を得るために、HEK 293T細胞に様々な感染多重度(MOI)でレンチウイルスを感染させ、その後にGFP+細胞の細胞をソーティングして、100%の細胞がIL-2融合タンパク質を産生することを確実にした。安定した細胞株を無血清培地で48時間培養し、上清を収集し、効果的な固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)精製を可能にするHisPur Ni-NTA Resin(Thermofisher)を使用して精製し、その後に濃縮、緩衝剤交換およびSDS-PAGEによる検証を行った。
【0165】
ヒトのpSTAT5解析
健康なボランティア由来のヒト血液試料を、フランス、パリのSaint Antoine HospitalのEtablissement Francais du Sang(EFS)から得た。各ボランティアからインフォームドコンセントを得た。STAT5リン酸化(pSTAT5)の誘導に対するヒトIL-2、融合タンパク質および標的に向けられたタンパク質の効果を、フローサイトメトリーを使用して、ヒトCD4+制御性T細胞(Treg;CD4+Foxp3+CD127lo/-)、CD4+通常型T細胞(Tconv;CD4+Foxp3-)、CD8+T細胞およびナチュラルキラー細胞(CD3-CD56+)において評価した。全血100μlと37℃で15分間混合したヒトIL-2、融合タンパク質および標的に向けられたタンパク質の10倍希釈を、Phospho-Epitopes exposureキット(PERFIX EXPOSEキット、Beckman Coulter)を使用してpSTAT5染色の前に行った。細胞内pSTAT5シグナルと併せて、表面マーカによって、異なるリンパ球細胞集団に対する活性の比較および半数効果濃度(EC50)値の算出が可能になった。
【0166】
ELISA
標的に向けられたタンパク質の検出の場合、捕捉抗IL-2モノクローナル抗体(MQ1-17h12)またはホスホコリン-BSA(LGC Biosearch technology)を1μg/mLでコーティングしたことおよび1μg/mLで抗His抗体(1:1000;Thermofisher)を使用して検出を実施したこと、その後に超高感度ストレプトアビジン-HRP(1:2000;Sigma Aldrich)を用いて顕色させたことを別にすれば、血漿レベルおよびタンパク質レベルは上に本明細書に記載のものと同じプロトコルに従って測定した。
【0167】
フローサイトメトリーおよび抗体
全血:
マウスの血液溶血の後、単離した免疫細胞を、所定の最適希釈率にての以下の抗体で4℃で20分間染色した:CD3-PEfluor610(Invitrogen)、CD4V500(BD Bioscience)、CD8AF700(BD Pharmingen)、CD25PeCy7(Invitrogen)、NKp46eF660(eBioscience)、およびCD19eF780(eBioscience)。Foxp3-FITC(eBioscience)の細胞内検出を、FoxP3染色緩衝剤キット(eBioscience FoxP3/Transcription)を使用して、固定および透過処理された細胞に対して実施した。細胞をcytoflex S(Beckman Coulter)で取得し、FlowJoソフトウェアで解析した。死細胞は前方/側方散乱ゲーティングによって除外した。CD4+ TregをCD4+CD25+Foxp3+細胞として、CD4+ TeffをTconv CD4+CD25+とも呼ばれるCD4+CD25+Foxp3-細胞として定義し、CD8+ TregをCD8+CD25+Foxp3+細胞として、Tconv CD8+CD25+とも呼ばれるCD8+ TeffをCD8+CD25+Foxp3+細胞として、ナチュラルキラー細胞をNkp46+細胞としておよびB細胞をCD19+細胞として定義した。
【0168】
STAT5アッセイの場合、ヒト全血を膜タンパク質に対する以下の抗体とともに15分間インキュベートした:CD3-FITC、CD127-PC7、CD4-PBおよびCD8-KO、CD45RA-AF700およびCD56-APC-eFluor780。固定および透過処理の後、細胞を細胞内p-STAT5-PE抗体およびFoxp3-APC抗体で染色した。
【0169】
大腸炎炎症実験モデル
C57BL/6マウスを、飲料水に含まれる2.5%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS;Sigma)を6日間経口投与することによって免疫した。マウスを体重、硬さ、およびその便中の血液の存在について10日間毎日モニタリングした。重症度を評価するために以下のスコアリングシステムを使用してきた:
- 体重減少 0~5%の間:1 / 5~10%の間:2 / 10~15%の間:3 /および15%超:4。
- 便形:正常便:0 / 有形であるが柔らかい便:1 / 軟便:2 / 軽度の下痢:3 / 水様下痢:4。
- 肉眼的出血:なし:0 / 存在:2 / 肉眼的出血:4。
【0170】
結果
標的に向けられた融合タンパク質がその標的を認識し、二量体化し、インビトロでのその生物活性を維持する能力
IL-2コンストラクトを、その機能を変更することなく炎症性組織を標的とするように組織選択的部分と結合させた。詳細には、IL-2-C4bpβまたはIL-2
N88R-C4bpβを、C4bpβのC末端部分で、ホスホコリン(PC)などの酸化リン脂質に特異的であることが知られているscFvE06に融合させた(
図1.A)。
【0171】
標的に向けられたタンパク質のインビトロ結合を決定するために、PC-BSA、抗hIL-2抗体またはBSAをコーティングし、その後に、標的に向けられたタンパク質またはscFvE06上清のいずれかを添加し、抗His-タグ抗体を使用して顕色行った(
図1B)。PC-BSAコーティングの後、3つのコンストラクトが検出されたが、このことは、タンパク質がPC-BSAに結合することができることを意味する。加えて、hIL-2コーティングの後、標的に向けられた融合タンパク質のみが検出され、このことにより、抗IL-2および抗His抗体によって認識される標的に向けられたタンパク質の良好な立体構造が強調された。最終的に、BSAコーティング後に標的に向けられたタンパク質の検出は観察されず、このことにより、非特異的結合がないことおよびscFvE06がPCに特異的であること、が確認された。
【0172】
濾過、精製および濃縮の後、SDS-PAGEこれに続くクマシーブルー染色およびウェスタンブロットを行った後に、組換え標的に向けられたタンパク質を同様に特徴付けした(
図1C)。98kDa周辺の各タンパク質についてのクマシー染色後にユニークなシグナルが検出されるが、このことは、非還元条件下で試料中に主要なタンパク質が1つだけ存在することを意味する(
図1C)。組換え標的に向けられたタンパク質が一次抗ヒトIL-2抗体または一次抗ヒスチジン抗体によって明らかとされるかどうかに関わりなく、加熱および還元の条件下では、その単量体(50kDa)および二量体(100kDa)の形態にあるタンパク質に特徴的なIL-2-C4bpβ-E06およびIL-2
N88R-C4bpβ-E06についてバンドが観察される。加えて、条件とは別に、scFvE06に特徴的な一次抗ヒスチジン抗体顕色後に各タンパク質について25kDaに単一のバンドが同様に観察される。比較すると、天然ヒトIL-2は、一次抗ヒトIL-2抗体のみを使用して明らかとなるが、この場合、17kDaでバンドが観察される。
【0173】
再び、STAT5リン酸化を測定するヒト全血アッセイを実施して、IL-2受容体を発現する様々な細胞タイプに対する標的に向けられた融合タンパク質の効果を決定した。制御性T細胞EC
50は、天然hIL-2については約5ng/mL、IL-2-C4bpβ-E06については13ng/mLおよびIL-2
N88R-C4bpβ-E06については650ng/mLであったが、このことは、3倍超のIL-2-C4bpβ-E06および130倍超のIL-2
N88R-C4bpβ-E06がTreg細胞上で均等のpSTAT5応答を得るのに必要であったことを意味する(
図1D)。pSTAT5プロファイルの違いが、Tconv、CD8+細胞およびNK細胞の各集団でも観察された。
【0174】
実際、少なくとも1000ng/mLまでの用量にての標的に向けられた融合タンパク質を用いてpSTAT5応答の減少が観察されるが、一方、これらのエフェクターコンパートメント上の天然hIL-2を用いて用量100ng/mLから応答が得られる。例えば、Tconv細胞、CD8+細胞およびNK細胞の20%未満が、IL-2N88R-C4bpβ-E06の概10000ng/mLに応答して活性化される。このような結果によって強調されるところは、二量体受容体への結合親和性の減少に起因する、標的に向けられた融合タンパク質のTreg選択性、である。
【0175】
大腸炎炎症実験モデルにおける標的に向けられた融合タンパク質の有効性の証明
標的に向けられた融合タンパク質を、大腸炎炎症実験モデルにおいて疾患の重症度を制御するそれらの能力について評価した(
図2.A)。Tregの同様の増殖を得るために、rAAV用量を、IL-2治療群の5.10
10rAAV vgから、scFvE06、IL-2-C4bpβ-scFvE06およびIL-2
N88R-C4bpβ-scFvE06治療群に対する5.10
11 rAAV vgまで適用した。
【0176】
注射の7日後、Treg細胞は、CD25 MFIに関しては3~4倍の上昇であったことから見て、rhIL-2または標的に向けられた融合タンパク質で治療した群では倍率2.5~3倍だけ増殖し活性化された(
図2.B)。突然変異タンパク質はエフェクター集団を増殖させることはなかったが、一方、hIL-2およびIL-2-C4bpβ-scFvE06治療によって倍率3倍だけエフェクター集団の増殖がもたらされる。加えて、たとえ用量が10分の1であったとしても、NK細胞はhIL-2で治療されたマウスにおいてのみ増殖した。
【0177】
予想通り、5.1011 rAAV vg scFvE06注射の後、これら4つのパラメーターに対して有意な変化はまったく観察されなかった。
【0178】
DSS投与の6日間後、未治療のマウスは重要な臨床症状を発生したが、この場合、軽度の下痢(便スコア3.5)に伴うその初期体重のおよそ10%の有意な減少および重度の結腸炎症によって説明される便中の血液の存在という状態であった(
図2C、D、E)。
【0179】
こういった症状の付加に対応する疾患活動性指数(DAI)は、3日目から10日目まで上昇し、12のうち8のスコアに到達し、その後に、14日目まで低下した(
図2.F)。比較すると、scFvE06で治療したマウスは同様の体重減少および便形を有したが、出血はほとんどなく、このことによって、未治療マウスと比較して経時的DAIの軽微な低下が説明された。hIL-2による治療は臨床症状を部分的に制御し、体重減少、非常に柔らかいが水っぽくなく、出血がほとんどないという状態であることから、最初のDSS投与の10日後に最大DAIスコアが5であることが説明される。興味深いことに、標的に向けられた融合タンパク質で治療したマウスは、有形であり部分的に柔らかい便(最大スコア2)かつ出血はほとんどないという状態をもってして、腸の臨床症状が著しく減少していた。最終的に、DAIは、標的に向けられた融合群それぞれにおいてスコア4を超えることはなく、このことにより、大腸炎の治療におけるこれら2つのタンパク質の治療効果が確認された。
【0180】
興味深いことに、上腕リンパ節および大動脈傍リンパ節では、腸関門を通過するのに必要なインテグリンα4β7を発現するTregが、天然のIL-2よりも、標的に向けられた融合タンパク質を用いる治療後に良好な割合で存在する。こういった観察によって、炎症部位に動員されるTregの数が標的に向けられたタンパク質群において向上していること、および間接的には、これらの標的に向けられたタンパク質で治療されたマウスの腸内のIL-2の量がより高いことが示唆されており、したがって、IL-2-C4bpβ-scFvE06およびIL-2N88R-C4bpβ-scFvE06の標的能力が強調されている。同様に、これらの2つの群では、天然のIL-2と比較して、より多くのTregがKi67を発現しており、このことは、これらTregがこれら2つの群においてより多く増殖することを意味する。
【0181】
[実施例2]インビボでの薬物動態
方法
PK解析
7週齢の雌性C57B1/6マウスに、ヒトIL-2またはIL-2-C4bpβ-scFvE06 50KIUの100μlを皮下注射した。血液100μlを、ELISAによるhIL-2投薬量について様々な時点:ベースライン、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、10時間、24時間および48時間で採取した。血漿試料を適正な緩衝剤で1/1000まで10倍連続希釈した。Elisaを供給業者の推奨を使用して実施し、プレートを450nmで読み取った。両群のhIL-2濃度を、適正な標準曲線を使用して算出した。
【0182】
IL-2-C4bpβ-scFvE06のインビボでの結合
乾癬モデル
マウスの乾癬モデルを、マウスの耳に5%イミキモドクリームを6日間毎日適用することによって誘導した。内部対照として、各マウスの反対側の耳に、同じスケジュールに従ってワセリンを適用した。乾癬誘導の10日前に、8週齢の雌性Balb/cマウスに、IL-2-C4bpβ-scFvE06をコードする5.1011 vg AAVをIP注射した。乾癬の対照マウスについては治療しなかった。最初の適用から6日後、実験終了時に、マウスを安楽死させ、耳を取り出し、即座にOCTで凍結した。次いで、クライオスタットを使用して耳の8μmの横断切片を作製し、その後に、IL-2-C4bpβ-scFvE06検出に向けて固定、透過処理およびDAPI(核染色)および抗6X-HisTag-Cy5を用いる染色を行った。切片は蛍光顕微鏡を使用して解析した。
【0183】
DSS誘導性大腸炎モデル
マウスにおけるDSS誘導性大腸炎モデルを、飲料水に含まれる3%デキストラン硫酸ナトリウムを6日間添加することによって誘導した。大腸炎誘導の10日前に、8週齢の雌性C57B1/6マウスに、IL2またはIL-2-C4bpβ-scFvE06のいずれかをコードする5.1011 vgのAAVをIP注射した。対照マウスの群については添加したが、治療しなかった。誘導から10日後、実験終了時に、炎症の最大に、マウスを安楽死させ、結腸を取り出し、即座にOCTで凍結した。次いで、クライオスタットを使用して耳の8μmの横断切片を作製し、その後に、IL-2-C4bpβ-scFvE06検出に向けて固定、透過処理および抗IL2-HRPまたは抗6X-HisTag-HRPを用いる染色を行った。組織化学的な茶色/黒色の着色が、Metal enhanced DAB substrateとのインキュベーション後に、得られた。
【0184】
結果
薬物動態
本発明者らが分子の半減期を延長したか判定するために、50kIU SC注射でのIL2またはIL-2-C4bpβ-scFvE06の単回注射後に、マウスにおいて薬物動態実験を実施した(
図3)。IL2は、1時間後にTmaxに達するという状況で急速に増加し、その後、10時間まで非常に急激に低下し、この場合、IL2はほとんど検出されなかった。他方で、IL-2-C4bpβ-scFvE06はより緩徐に増加し、注射後1時間から4時間の間でTmaxに達した。血漿の濃度の低下もまたより緩徐であり、24時間目でも分子はなおも検出可であった。この結果が実証するところは、IL-2-C4bpβ-scFvE06は半減期の延長を有し、本設定では約3倍の延長と算出されること、である。このことにより、Tregに対するIL-2の効果持続期間が延長し、Tregの増加をより長期にわたり維持できる可能性がある。
【0185】
IL-2-C4bpβ-scFvE06のインビボでのターゲティングの概念実証
本発明者らは、炎症性疾患、乾癬および大腸炎に関する2つのモデルを開発した。
【0186】
乾癬を、一方の耳に5%イミキモドクリームの局所適用によって誘導し、この場合、反対側の耳を炎症の内部対照として使用し、ワセリンを適用した。これらの条件では、一方の耳は炎症を発生し、この炎症はIL-2-C4bpβ-scFvE06によって標的とされるはずであるが、これに対して、もう一方の耳は炎症を発生せず、特に標的とされないはずである。簡潔に説明すると、イミキモドおよびワセリンの日毎の適用から6日後にマウスを安楽死させ、耳を取り出し、凍結し、横断切片を行い、蛍光顕微鏡法用にDAPIおよびCyanine 5 Fluorochromeと結合させた抗6X-HisTagで染色した。治療されていない対照マウスは、ワセリン治療耳においてもイミキモド治療耳においてもどちらも6X-HisTag染色をまったく示さなかったが、本発明者らは、IL-2-C4bpβ-scFvE06をコードするAAVを注射したマウスにおいて、炎症が発生した耳の周囲全体で、本発明者らによる分子の染色を観察した。同じマウスの対照として、ワセリン治療耳ではIL-2-C4bpβ-scFvE06は検出されなかったが、このことにより、本発明者らによる標的に向けられた分子の炎症組織のインビボでの特異的結合が実証されている。
【0187】
本発明者らはさらに、DSS誘導性大腸炎モデルを開発して、様々な条件で本発明者らによる分子について試験した(
図4)。大腸炎を誘導するために、3%DSSを飲料水に6日間添加した。炎症が最大であるとき10日目に、マウスを安楽死させ、結腸を取り出し、凍結し、横断切片を行い、両方ともHRPに結合させた抗hIL2または抗6X-HisTagで染色した。免疫組織化学染色を、Metal enhance DAB substrateを使用して実施したが、この場合、分子が見出された場所で黒または暗褐色が発色した。結果として、未治療対照群もIL2治療群もどちらも結腸においてIL2または6X-HisTagの検出を実証することはなかった。しかし、IL-2-C4bpβ-scFvE06で治療したマウスが、結腸おいてIL2と6X-HisTagの両方の検出を示したが、このことにより、ここでも、炎症状態におけるIL-2-C4bpβ-scFvE06のインビボでの特異的結合が実証されている。
【配列表】
【国際調査報告】