(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】電気化学処理のためのシステム及び電極の劣化を防止するための方法
(51)【国際特許分類】
C25B 15/023 20210101AFI20240905BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240905BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240905BHJP
C25B 15/021 20210101ALI20240905BHJP
【FI】
C25B15/023
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B15/021
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521184
(86)(22)【出願日】2022-09-22
(85)【翻訳文提出日】2024-04-03
(86)【国際出願番号】 FI2022050636
(87)【国際公開番号】W WO2023057683
(87)【国際公開日】2023-04-13
(32)【優先日】2021-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524129128
【氏名又は名称】ネオボルト オサケユイチア
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(72)【発明者】
【氏名】ヨーナス コポネン
(72)【発明者】
【氏名】アントン クリメル
(72)【発明者】
【氏名】オッリ リウッコネン
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BB03
4K021BB05
4K021BC05
4K021BC09
4K021CA15
4K021DC01
4K021DC03
(57)【要約】
電気化学処理のためのシステムは、電気化学反応器101と、電気化学反応器の複数の電極に制御可能な直流電圧を供給するための電源104と、システムの生成ガスの形成を示す測定データを生成するための測定装置105と、システムをアイドル状態に設定するアイドル指令が受信され、測定データが生成ガスの形成を示しかつ直流電圧が電極の劣化のない安全電圧領域の下限を超えるときに直流電圧を低減するように構成されている制御部106とを備える。したがって、アイドル状態では、直流電圧は、生成ガスの形成を停止するために必要な量だけ低減されるが、それ以上は低減されない。したがって、アイドル状態において、電極の腐食などの劣化を回避又は少なくとも低減することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学処理のためのシステムであって、
前記システムは、
電解液を収容するための電気化学反応器(101)であって、電流を前記電解液に導くための複数の電極(102、103)を備える、電気化学反応器と、
前記電気化学反応器の前記複数の電極に制御可能な直流電圧を供給するように構成されている電源(104)とを備える、システムにおいて、
前記システムは、
前記システムの少なくとも1つの生成ガスの形成を示す測定データを生成するように構成されている測定装置(105)と、
前記電源及び前記測定装置に通信可能に接続された制御部(106)であって、i)前記制御部が、前記システムをアイドル状態に設定するアイドル指令を受信しかつii)前記測定データが前記生成ガスの形成を示しかつiii)前記直流電圧が前記複数の電極の劣化のない安全電圧領域の下限を超えるという状況に応答して前記直流電圧を低減するように構成されている制御部(106)とを備える、ことを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記制御部は、前記複数の電極の材料のプールベダイアグラムを示すデータを記憶するように構成されているメモリを備え、前記制御部は、前記プールベダイアグラムを示すデータから前記安全電圧領域の前記下限を読み出すように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記電気化学反応器が、前記電解液及び前記複数の電極の温度を調節するように構成されている温度制御装置(107)を備え、前記制御部が、前記直流電圧が最大でも前記安全電圧領域の前記下限であるにもかかわらず、前記測定データが前記生成ガスの形成を示す状況に応答して前記温度を変化させるように前記温度制御装置を制御するように構成されている、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記電気化学反応器が、前記電解液のpHを調節するように構成されているpH制御装置(108)を備え、前記制御部が、前記直流電圧が最大でも前記安全電圧領域の前記下限であるにもかかわらず、前記測定データが前記生成ガスの形成を示す状況に応答して前記電解液のpHを変化させるように前記pH制御装置を制御するように構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記測定装置(105)が、前記電気化学反応器のガス空間(110)に存在するガス圧力を検出するように構成されている少なくとも1つの圧力センサ(109)を備え、前記圧力センサの出力信号が、前記生成ガスの形成を示す前記測定データの少なくとも一部を表す、請求項1~4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記測定装置(105)が、前記電気化学反応器の1つ又は複数の電解セルからのガス質量流量を検出するように構成されている少なくとも1つのガス質量流量センサ(111)を備え、前記少なくとも1つの質量流量センサの出力信号が、前記生成ガスの形成を示す前記測定データの少なくとも一部を表す、請求項1~5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記ガス質量流量センサ(111)が、差圧流量計及び熱式質量流量計の内の少なくとも1つを備える、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記測定装置(105)が、前記電気化学反応器のガス空間から採取されたガスの試料内の前記生成ガスの相対含有量を検出するように構成されているガス成分センサ(112)を備え、前記ガス成分センサの出力信号が、前記生成ガスの形成を示す前記測定データの少なくとも一部を表す、請求項1~7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記ガス成分センサ(112)が、ガスクロマトグラフ及び質量分析計の内の少なくとも1つを備える、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
電気化学反応器のアイドル状態の間の電気化学反応器の電極の劣化を防止するための方法であって、制御可能な直流電圧を前記電気化学反応器の複数の電極に供給すること(301)を備える、方法において、
前記方法は、
電気化学反応器の少なくとも1つの生成ガスの形成を示す測定データを生成すること(302)と、
i)前記測定データが生成ガスの形成を示しかつii)前記直流電圧が前記複数の電極の劣化のない安全電圧領域の下限を超える状況に応答して前記直流電圧を低減すること(303)とを備える、方法。
【請求項11】
前記電気化学反応器が、アルカリ水電解用反応器、プロトン交換膜水電解用反応器、塩水電解用反応器の内の1つである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記方法は、前記複数の電極の材料のプールベダイアグラムを示すデータを記憶することと、前記プールベダイアグラムを示すデータから前記安全電圧領域の下限を読み取ることとを備える、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、前記直流電圧が最大でも前記安全電圧領域の前記下限であっても、測定信号が生成ガスの形成を示す状況に応答して前記電気化学反応器の前記複数の電極及び電解液の温度を変化させることを備える、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記方法は、前記直流電圧が最大でも前記安全電圧領域の前記下限であるにもかかわらず、測定信号が前記生成ガスの形成を示す状況に応答して前記電気化学反応器の電解液のpHを変化させることを備える、請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
電気化学反応器のアイドル状態の間の電気化学反応器の複数の電極の劣化を防止するためのコンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムは、制御可能な直流電圧を前記電気化学反応器の前記複数の電極に供給するように電源を制御するためにプログラム可能なプロセッサを制御するためのコンピュータ実行可能命令を備える、コンピュータプログラムにおいて、
前記コンピュータプログラムは、
前記電気化学反応器の少なくとも1つの生成ガスの形成を示す測定データを受信し、
i)前記測定データが前記少なくとも1つの生成ガスの形成を示しかつii)前記複数の電極の劣化のない安全電圧領域の下限を超えている状況に応答して前記直流電圧を低減させるように前記電源を制御するように、
前記プログラム可能なプロセッサを制御するためのコンピュータ実行可能命令を備える、ことを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項16】
請求項15に記載のコンピュータプログラムにより符号化された非一時的コンピュータ可読媒体を備えるコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば、アルカリ水電気分解、プロトン交換膜「PEM」水電気分解、又は、飽和食塩水の電気分解などの電気化学処理のためのシステムに関する。さらに、本開示は、電気化学反応器の電極の劣化、例えば腐食を防止するための方法に関する。さらに、本開示は、電気化学反応器の電極の劣化を防止するためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
物質が電極と相互作用する電気化学処理は、例えば、電気エネルギが水素ガスH2によって運ばれる化学エネルギに変換され、酸素ガスO2が副生成物として生成される、水電解などの電気分解処理とし得る。複数の電極間に直流電流が流れ、カソードすなわち負極で水素ガスが生成され、アノードすなわち正極で酸素ガスが生成される。ファラデーの電気分解の法則によれば、水素ガスの生成は、複数の電極で移動する電荷に正比例する。したがって、直流の平均値は、水素ガスの生成速度を決定する。
【0003】
アルカリ水電解は、広く使用されており、成熟した水電解技術である。アルカリ水電気分解反応器は、液体電解液溶液、例えば、水酸化カリウムKOH又は水酸化ナトリウムNaOH中で作動する複数の電極を備える。これら複数の電極は、非導電性多孔質ダイヤフラムによって分離される。このダイヤフラムによって、それぞれカソード及びアノード電極で生成される水素H2及び酸素O2ガスの混合を防止する。水酸化物イオンは、多孔質ダイヤフラムを貫通し、それによって、電気分解処理に必要とされるイオン伝導性を提供する。アルカリ水電解反応器のスタック構造は、電極としてのニッケル及びステンレス鋼などの比較的低コストの材料を備えうる。別の水電解技術は、プロトン交換膜「PEM」水電解である。アルカリ水電解とは対照的に、PEM水電解反応器は、固体及び酸性電解液を利用する。電解液は、アノードからカソードにプロトンを運び、ガスセパレータ膜として作用する。典型的には、スルホン化フルオロポリマーが固体電解液として使用される。このポリマーのスルホン酸側鎖HSO3はイオン結合しており、このイオン結合により、H+とSO3
-との間に強い引力があり、スルホン酸は水を引きつけ、そのプロトン伝導は水和に依存する。膜の酸性度に起因して、PEM水電解反応器のための触媒材料は、典型的には、白金族金属から選択され、最も多くの場合、アノードはイリジウムが選択され、カソードは白金から選択される。第三の例示的な電気分解技術は、塩素-アルカリ電気分解処理などの飽和食塩水の電気分解である。
【0004】
寿命は、上述の種類の電気分解反応器の本質的な要素である。典型的には、電気分解反応器のスタック構造の寿命は、約10年であり、スタック構造は、典型的には、工業用電気分解プラントの投資コストの約半分を表す。工業用電解反応器の寿命は、運転時間と最大起動停止サイクル数によって特徴付けられる。カソード劣化は、スタック構造の寿命を制限する要因である。電気分解反応器の動作が中断されて電極に供給される直流電圧がシステム固有の電圧限界を下回ると、カソード劣化はさらに強まる。この電圧限界は、各電極の材料、並びに、電解液の温度、圧力及びpHなどの動作条件によって定義される。
【0005】
特許文献1(台湾特許出願公開第201308741号明細書)には、水電解セルがアイドル状態にあり、それによって水素ガスの生成が停止した場合に、水電解セルにおける電圧反転を防止する方法が記載されている。特許文献1に提示される方法は、水電解セルの電極に、水電解セルにおける水電解処理を開始及び維持するために必要とされる事前に知られた電圧よりも低い保護電圧を供給することを備える。しかしながら、特許文献1に提示された方法は、課題がないわけではない。いくつかの課題の1つは、直列に接続された複数のセルと、場合によっては直列に接続されたセクションの並列接続とを備える、典型的な工業用電気化学反応器に関する。これらの電気化学反応器では、スタック電圧は個々のセル電圧がどのように分割されるかの情報が明らかではない。したがって、上述の種類の工業用電気化学反応器に適した保護電圧を決定することは困難になり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】台湾特許出願公開第201308741号明細書
【発明の概要】
【0007】
以下は、様々な実施形態のいくつかの態様の基本的な理解を提供するために、簡略化された発明の概要を提示する。この概要は、本発明の広範な概要ではない。それは、本発明の重要又は重大な要素を特定することも、本発明の範囲を画定することも意図されていない。以下の概要は、単に、例示的かつ非限定的な実施形態のより詳細な説明の前置きとして、いくつかの概念を簡略化された形態で提示する。
【0008】
本発明によれば、例えば、アルカリ水電気分解、プロトン交換膜「PEM」水電気分解、又は、塩素-アルカリ電気分解処理などの飽和食塩水の電気分解とし得るが、必ずしもそうである必要はない、新しい電気化学処理のためのシステムが提供される。
【0009】
本発明によるシステムは、
電解液を収容するための電気化学反応器であって、電流を電解液に導くための複数の電極を備える電気化学反応器と、
電気化学反応器の複数の電極に制御可能な直流電圧を供給するように構成されている電源と、
少なくとも1つの生成ガス、例えば、水素ガスH2の形成を示す測定データを生成するように構成されている測定装置と、
電源と測定装置とに通信可能に接続された制御部であって、i)制御部がシステムをアイドル状態に設定するアイドル指令を受信しかつii)測定データが生成ガスの形成を示しかつiii)直流電圧が電極の劣化のない安全電圧領域の下限を超えるという状況に応答して、直流電圧を低減するように構成されている制御部とを備える。
【0010】
したがって、アイドル状態では、直流電圧は、生成ガスの形成を停止するために必要な量だけ低減されるが、それ以上は低減されない。したがって、アイドル状態において、電極の腐食などの劣化を回避又は少なくとも低減することができる。これにより、電気化学反応器の寿命を延ばす。
【0011】
本発明によれば、電気化学反応器のアイドル状態中の電気化学反応器の電極の腐食などの劣化を防止するための新しい方法も提供される。
本発明による方法は、
電気化学反応器の電極に制御可能な直流電圧を供給することと、
電気化学反応器の少なくとも1つの生成ガスの形成を示す測定データを生成することと、
(i)測定データが生成ガスの形成を示しかつ(ii)直流電圧が電極の劣化のない安全電圧領域の下限を超える状況に応答して直流電圧を低減することとを備える。
【0012】
本発明によれば、電気化学反応器のアイドル状態中の電気化学反応器の電極の劣化を防止するための新しいコンピュータプログラムも提供される。
本発明によるコンピュータプログラムは、
電気化学反応器の電極に制御可能な直流電圧を供給するための電源を制御し、
電気化学反応器の少なくとも1つの生成ガスの形成を示す測定データを受信し、
i)測定データが生成ガスの形成を示しかつii)電極の劣化のない安全電圧領域の下限を超えている状況に応答して直流電圧を低減させるように電源を制御するように、プログラマブルプロセッサを制御するためのコンピュータ実行可能命令を備える。
【0013】
本発明によれば、新しいコンピュータプログラム製品も提供される。このコンピュータプログラム製品は、不揮発性コンピュータ可読媒体、例えば、本発明によるコンピュータプログラムで符号化されたコンパクトディスク「CD」を備える。
【0014】
例示的かつ非限定的な実施形態は、添付の従属請求項に記載されている。
【0015】
構造及び動作方法の両方に関する各種例示的かつ非限定的な実施形態は、その追加の目的及び利点と共に、添付の図面と併せて読まれるとき、特定の例示的かつ非限定的な実施形態の以下の説明から最も良く理解されるであろう。
【0016】
「備える(to comprise)」及び「有する(to include)」という動詞は、引用されていない特徴の存在を排除することも必要とすることもない、自由な制限として、本明細書で使用される。
【0017】
従属請求項に記載された特徴は、特に明記しない限り、相互に自由に組み合わせることができる。
【0018】
さらに、本明細書全体を通して、「a」又は「an」という冠詞、すなわち単数形の使用は、複数形を排除しないことを理解されたい。
【0019】
例示的かつ非限定的な実施形態及びそれらの利点を、実施例の意味で、及び添付の図面を参照して、以下でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、電気化学処理のための例示的かつ非限定的な実施形態によるシステムを示す。
【
図2】
図2は、従来技術による例示的かつ非限定的な実施形態によるプールベダイアグラムを示し、電気化学処理のための例示的かつ非限定的な実施形態によるシステムにおいて利用される。
【
図3】
図3は、電気化学反応器の電極の劣化を防止するための例示的かつ非限定的な実施形態による方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に記載する明細書において提供される具体的な実施例は、添付の特許請求の範囲の範囲及び/又は適用可能性を制限するものと解釈されるべきではない。以下に与えられる説明において提供される例のリスト及びグループは、特に明記しない限り、網羅的ではない。
【0022】
図1は、電気化学処理のための例示的かつ非限定的な実施形態によるシステムを示す。システムは、電解液を収容し、電解液に電流を導くための電極を備える電気化学反応器101を備える。
図1では、複数の電極の内の2つが参照番号102及び103で示されている。
図1に示される例示的なシステムでは、電気化学反応器101は、電解セルのスタックを備える。電解セルは、例えば、アルカリ水電解のためのアルカリ液体電解液を収容しうる。アルカリ性液体電解液は、例えば、水酸化カリウム水溶液「KOH」又は水酸化ナトリウム水溶液「NaOH」を備えうる。しかしながら、電解セルが他の電解液を収容することも可能である。この例示的なシステムでは、電解セルの各々は、アノードと、カソードと、電解セルをカソードを収容するカソード区画とアノードを収容するアノード区画とに分割する多孔質ダイヤフラムとを備える。このダイヤフラムによって、それぞれカソード及びアノード電極で生成される水素H
2及び酸素O
2ガスの混合を防止する。水酸化物イオンは、多孔質ダイヤフラムを貫通し、それによって、電気分解処理に必要とされるイオン伝導性を提供する。システムは、例えば、数十又は数百個の電解セルを備えうる。しかしながら、例示的かつ非限定的な実施形態によるシステムは、1~10個の電解セルを備えることも可能である。
図1に示す例示的なシステムでは、これらの電解セルは、電気的に直列に接続されている。しかしながら、例示的かつ非限定的な実施形態によるシステムの電解セルは、電気的に並列接続されるか、又は電解セルは、並列接続された電解セルの直列接続グループ、又は直列接続された電解セルの並列接続グループを構成するように配置されるか、又は電解セルは、何らかの形で互いに電気的に接続されることも可能である。
【0023】
図1に示される例示的なシステムにおいて、電気化学反応器101は、水素分離器タンク126と、電解セルのカソード区画から水素分離器タンク126への配管とを備える。電気化学反応器101は、酸素分離器タンク127と、電解セルのアノード区画から酸素分離器タンク127への配管とを備えている。電気化学反応器101は、液体電解液を水素分離器タンク126の下部から及び酸素分離器タンク127の下部から電気分解セルへと循環させるための循環配管をさらに備えうる。循環配管は
図1には示されていない。
【0024】
この装置は、制御可能な直流U
DCを電気化学反応器101の電極に供給するように構成されている電源104を備える。
図1に示される例示的なシステムにおいて、電源104は、交流電圧を受ける交流電圧端子と、電気化学反応器101の電極に直流を供給する直流電圧端子とを有する、変圧器ブリッジ113を備える。変圧器ブリッジ113は、変圧器脚部120、121及び122を備え、それぞれが交流電圧端子の1つを備え、複数の直流電圧端子の間に接続されている。変換器脚部の各々は、検討中の変換器脚部の交流電圧端子と直流電圧端子部の正のものとの間の双方向上側の分岐制御可能スイッチと、検討中の変換器脚部の交流電圧端子部と直流電圧端子部の負のものとの間の双方向下側分岐制御可能スイッチとを備える。
図1において、変圧器脚部121の双方向上側分岐制御可能スイッチは、参照番号123で示され、変圧器脚部121の双方向下側分岐制御可能スイッチは、参照番号124で示される。この例示的なケースでは、各双方向制御可能スイッチは、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ「IGBT」及び逆行性ダイオードを備える。しかし、各双方向制御可能スイッチが、例えば、ゲートターンオフサイリスタ「GTO」、又は金属酸化物電界効果トランジスタ「MOSFET」、又はIGBTの代わりにいくつかの他の適切な半導体スイッチを備えることも可能である。変圧器ブリッジ113の双方向スイッチの強制転流によって、電気化学反応器101の電極に供給される直流における電流の波を低減することが可能になる。さらに、双方向スイッチの強制転流によって、システムの交流電圧供給の力率を制御することが可能になる。
【0025】
図1に示される例示的なシステムにおいて、電源104は、インダクタ-コンデンサ-インダクタ「LCL」フィルタ114を介して交流電圧ネットワーク116から変圧器ブリッジ113に電力を伝達するための変圧器115を備える。また、LCLフィルタ114の代わりに、変圧器115と変圧器ブリッジ113との間に直列インダクタンスのみが存在することも可能である。変圧器の二次巻線115は、LCLフィルタを介して変圧器ブリッジ113の交流電圧端子に接続される。変圧器115の二次電圧は、有利には、直流電圧U
DCが電気化学反応器101に適した範囲にあるとき、変圧器ブリッジ113が制御可能なスイッチの適したデューティサイクル比で動作できるように低くなるように選択される。交流電圧から直流電圧U
DCへの変換は、単一ステップで行われ、これにより、典型的には、変圧器ブリッジ113のための電圧ブースト特性をもたらす。変圧器113には、変圧器の変圧比を変更するためのタップ切換器を設けることができる。タップ切換器は、
図1には示されていない。
【0026】
図1に示す例示的なシステムにおいて、電源104は、システムの開始段階中に、変圧器ブリッジ113の直流電圧端子に接続された直流電圧コンデンサ125を制御可能に充電するための充電式変換器117をさらに備える。充電式変換器117は、例えば、サイリスタブリッジ又は他の何らかの適切な制御可能な交流電圧-直流電圧「AC-DC」変換器を備えうる。さらに、電源104は、充電式抵抗器118及びバイパススイッチ119を備える。
【0027】
この装置は、電気化学反応器101内で水素ガスH
2が生成されるか否かを示す測定データMDを生成するように構成されている測定装置105を備える。例示的かつ非限定的な実施形態によるシステムでは、測定装置105は、電気化学反応器101のガス空間110に存在するガス圧力を検出するように構成されている少なくとも1つの圧力センサ109を備える。この例示的なケースでは、圧力センサ109の出力信号は、測定データMDの少なくとも一部を表す。例示的かつ非限定的な実施形態によるシステムでは、測定装置105は、電気化学反応器101の電解セルからのガス質量流量を検出するように構成されている少なくとも1つのガス質量流量センサ111を備える。この例示的なケースでは、質量流量センサの出力信号は、測定データMDの少なくとも一部を表す。ガス質量流量センサ111は、例えば差圧流量計及び/又は熱質量流量計を備えうる。例示的かつ非限定的な実施形態によるシステムでは、測定装置105は、電気化学反応器101のガス空間110から採取されたガスの試料内の水素ガスH
2の相対含有量を検出するように構成されているガス成分センサ112を備える。この例示的な場合において、ガス成分センサ112の出力信号は、測定データMDの少なくとも一部を表している。ガス成分センサ112は、例えば、ガスクロマトグラフ及び/又は質量分析計を備えうる。
図1に示す例示的なシステムでは、測定装置105は、測定データMDの信頼性を向上させるために、圧力センサ109と、ガス質量流量センサ111と、ガス成分センサ112とを備える。しかしながら、例示的かつ非限定的な実施形態による装置の測定装置は、水素ガスH
2が生成されるか否かを検出するための上述の装置の内の1つ又は2つのみを備えることもできる。
【0028】
システムは、電源104及び測定装置105に通信可能に接続された制御部106を備える。制御部106は、i)制御部106がアイドル状態に設定するアイドル指令を受信しかつii)測定データMDが水素ガスH2の形成を示しかつiii)直流電圧UDCが、電極の劣化が起こらない安全電圧領域の下限を超える状況に応答して、直流電圧UDCを低減するように構成されている。例示的かつ非限定的な実施形態によるシステムでは、制御部106は、電極の材料のプールベダイアグラムを示すデータを記憶するように構成されているメモリを備え、制御部106は、プールベダイアグラムを示すデータから安全電圧領域の下限を読み取るように構成されている。
【0029】
ニッケル電極のプールベダイアグラムの例を
図2に示す。通常の水素電極「NHE」に対する酸素発生反応「OER」及び水素発生反応「HER」電位を、ネルンストの式に基づいて決定することができる一点鎖線で示す。この反応は、電子移動とプロトン交換の両方を伴う。OERの線及びHERの線は、それぞれの半反応が起こり得る場合の特定のpHレベルの平衡点を表す。電気エネルギで水を分解するには、各電解セルのアノードとカソードの間の電位差が、OERの線とHERの線の間の差よりも大きくなければならない。標準的な周囲条件では、理論的な最小電圧、すなわち必要な電位差は、約1.23ボルトである。最小電圧は、普及している温度及び分圧に依存する熱力学的状態関数であり、その結果、温度の増大により電圧要件を低減させ、一方、圧力の増大により電圧要件を増す。実線は、異なる化学種の間の平衡に対応する。例えば、-0.39ボルトの水平線は、NiとNi
2+イオンとの間の平衡であり、したがって、電子移動のみが起こる。縦線は、酸塩基反応、すなわちプロトンの除去及び付加を示す。プールベダイアグラムは、劣化領域と、不動態化領域と、腐食などの劣化に対する耐性の領域とに分けることができる。
図1において、クロスハッチ領域は溶解によるニッケルの劣化を表し、斜線のハッチ領域は不動態化を表し、横線のハッチ領域は耐性を表す。酸性条件下、すなわちpHが7未満では、ニッケル電極は、特に広い電位領域にわたって、回避するべきである、Ni
2+への溶解が起こりうる。代わりに、
図1において2つの黒い点で示される条件は、セル電圧が上述の1.23ボルト未満である1.2ボルトであり、黒い点の下側の点が耐性領域にあるのに対し、上側の点は不動態化領域にあるので、電極は劣化しないので、水素ガスH
2は生成されないことを意味する。したがって、
図1の2つの黒い点で示された条件は、電気化学反応器101をアイドル状態に保つのに有利である。
【0030】
例示的かつ非限定的な実施形態によるシステムでは、電気化学反応器101は、電解液及び電極の温度を調節するように構成されている温度制御装置107を備える。制御部106は、直流電圧UDCが最大でも安全電圧領域の下限値以下であっても、測定データMDが水素ガスH2の形成を示す状況に応答して、温度を変化させるように温度制御装置107を制御するように構成されている。上記のように、温度の上昇により、電解処理に必要な最小セル電圧を低減させるであろう。これにより、低温化により、水素ガスH2が発生しない領域の上限を高くすることができる。このため、水素ガスH2の発生も電極劣化も起こらないアイドル状態の動作点を見つけるのに用いることができる。
【0031】
例示的かつ非限定的な実施形態によるシステムでは、電気化学反応器101は、電解液のpHを調節するように構成されているpH制御装置108を備える。pHは、例えば、pHを増加させるか又は低減させるかに応じて、電解液に酸又は塩基を添加することによって調節することができる。制御部106は、直流電圧UDCが最大でも安全電圧領域の下限以下であっても、測定データMDが水素ガスH2の形成を示す状態に応答して、電解液のpHを変化させるようにpH制御装置108を制御するように構成されている。水素ガスH2の発生も電極劣化も起こらないアイドル状態の動作点を見いだすためのpHの適切な変化をプールベダイアグラムから導くことができる。
【0032】
電気化学反応器101をアイドル状態に制御するための手順は、例えば、以下の行為、すなわち、
1)電気化学反応器101の直流をゼロに制御することによる電解処理の運転停止という行為と、
2)直流電流が0に達したときの直流電圧UDCの数値UDC1を保存するという行為と、
3)任意選択的に、安全目的でシステムの圧力を解放するという行為と、
4)任意選択的に、システムを安全目的で不活性ガス、例えば、窒素N2でパージするという行為と、
5)例えばH2などの生成ガスの圧力に基づいて安全なシステム圧力レベルを定義するという行為と、
6)プールベダイアグラムによって、安全電圧領域の下限UDCminを定義するという行為と、
7)生成ガス圧力が増大した場合に直流電圧UDCが低減するように、例えばH2などの生成ガスの圧力測定に基づいて上記の値UDC1から始まる直流電圧UDを制御するという行為と、
8)いずれかの生成ガス圧が上昇し続けて直流電圧UDCが上記下限UDCminを下回る場合、電気化学反応器101内のpH及び/又は電気化学反応器101内の温度を変化させるという行為とを備える。
【0033】
このシステムが、シャットダウン処理中に、窒素N2などの不活性ガスでパージされる場合、この不活性ガスの存在によって、ガス成分の変化に起因して、1つ又は複数の生成ガスの圧力測定を損なう可能性がある。このとき、ガス成分センサ112の出力信号及び/又はガス質量流量センサ111の出力信号に基づいて電圧UDCを制御することができる。
【0034】
図1に示す例示的な装置では、アイドル状態中の直流電圧U
DC、すなわち保護電圧は、充電式変換器117を用いて維持及び制御することができる。保護電圧の供給は、その主目的が電気化学セルにわたって分極及び十分な制御可能電位を提供することであるため、わずかな電気エネルギしか必要とせず、したがって、充電式変換器117の電力定格は低いままでよい。充電式変換器117が、開始段階中に直流電圧コンデンサ125を予備充電するために使用されるとき、充電式抵抗器118は、電流を制限するために有利に使用される。アイドル状態では、充電式抵抗器118はバイパスされることが有利であり、保護電圧供給動作における損失を最小限に抑える。電気化学反応器101の電極は、電気化学反応器101の生産使用から充電式変換器117が保護電圧を供給するために利用されるアイドル状態に切り替わるときに、電極の電位の点で腐食領域に一時的にあり得る。しかしながら、腐食領域で費やされる可能性のある時間は、アイドル状態で保護電圧が今まで使用されていなかった場合と比較して、無視することができる。さらに、安全目的のためにシステムシャットダウン時にシステム圧力の解放及び/又は不活性ガスパージが必要とされる場合、このような安全手順は、電気化学反応器101の電極が瞬間的に腐食領域にある状況につながり得る。また、これらのケースでは、アイドル状態で保護電圧が供給印加されていない場合と比較して、腐食領域で費やされる時間は無視できる。
【0035】
図1に示される制御部106は、1つ又は複数のアナログ回路、1つ又は複数のデジタル処理回路、又は、それらの組み合わせを備え得る。各デジタル処理回路は、適切なソフトウェアを備えたプログラマブルプロセッサ回路、例えば特定用途向け集積回路「ASIC」などの専用ハードウェアプロセッサ、又は、例えばフィールドプログラマブルゲートアレイ「FPGA」などの構成可能ハードウェアプロセッサとし得る。さらに、制御部106は、それぞれが例えばランダムアクセスメモリ「RAM」回路とし得る1つ又は複数のメモリ回路を備え得る。
【0036】
本発明は、いかなる特定の電気分解処理にも限定されないことに留意されたい。例えば、例示的かつ非限定的な実施形態によるシステムは、プロトン交換膜「PEM」水電解のための電気化学反応器、固体酸化物電解液細胞「SOEC」処理のための電気化学反応器、塩素-アルカリ電解処理などの飽和食塩水の電解のための電気化学反応器、又は、いくつかの他の電解処理のための電気化学反応器を備えうる。
【0037】
図3は、電気化学反応器のアイドル状態中の電気化学反応器の電極の腐食などの劣化を防止するための例示的かつ非限定的な実施形態による方法のフローチャートを示す。
この方法は、以下の行為、すなわち、
制御可能な直流電圧を電気化学反応器の電極に供給するという行為301と、
電気化学反応器の例えばH
2などの少なくとも1つの生成ガスの形成を示す測定データを生成するという行為302と、
i)測定データが生成ガスの形成を示しかつii)直流電圧が電極の劣化のない安全電圧領域の下限を超える状況に応答して直流電圧を低減するという行為303とを備える。
【0038】
例示的かつ非限定的な実施形態による方法では、電気化学反応器は、アルカリ水電気分解用反応器、プロトン交換膜「PEM」水電気分解用反応器、及び飽和食塩水の電気分解用反応器の内の1つである。
【0039】
例示的かつ非限定的な実施形態による方法は、電極の材料のプールベダイアグラムを示すデータを記憶することと、プールベダイアグラムを示すデータから安全電圧領域の下限を読み取ることとを備える。
【0040】
例示的かつ非限定的な実施形態による方法は、直流電圧が最大でも安全電圧領域の下限であるにもかかわらず、測定信号が生成ガスの形成を示す状況に応答して、電気化学反応器の電極及び電解液の温度を変化させることを備える。
【0041】
例示的かつ非限定的な実施形態による方法は、直流電圧が最大でも安全電圧領域の下限であっても、測定信号が生成ガスの形成を示す状況に応答して、電気化学反応器の電解液のpHを変化させることを備える。
【0042】
例示的かつ非限定的な実施形態による方法では、測定データを生成することは、電気化学反応器のガス空間内に存在するガス圧力を検出することを備える。この例示的な実施形態では、圧力センサの出力信号は、生成ガスの形成を示す測定データの少なくとも一部を表す。
【0043】
例示的かつ非限定的な実施形態による方法では、測定データを生成することは、電気化学反応器の1つ又は複数の電解セルからのガス質量流量を検出することを備える。この例示的な実施形態では、質量流量センサの出力信号は、生成ガスの形成を示す測定データの少なくとも一部を表す。ガス質量流量は、例えば、差圧流量計及び/又は熱質量流量計で検出することができる。
【0044】
例示的かつ非限定的な実施形態による方法では、測定データを生成することは、電気化学反応器のガス空間から採取されたガスの試料内の生成ガスの相対含有量を検出することを備える。この例示的な実施形態では、ガス成分センサの出力信号は、生成ガスの形成を示す測定データの少なくとも一部を表す。生成ガスの相対含有量は、例えば、ガスクロマトグラフ及び/又は質量分析計を用いて検出することができる。
【0045】
例示的かつ非限定的な実施形態によるコンピュータプログラムは、上述の例示的かつ非限定的な実施形態のいずれかによる方法に関連する動作を実行するようにプログラマブルプロセッサを制御するためのコンピュータ実行可能命令を備える。
【0046】
例示的かつ非限定的な実施形態によるコンピュータプログラムは、電気化学反応器のアイドル状態中の電気化学反応器の電極の劣化を防止するためのソフトウエアモジュールを備える。
このソフトウエアモジュールは、
電気化学反応器の電極に制御可能な直流電圧を供給するための電源を制御し、
電気化学反応器の少なくとも1つの生成ガスの形成を示す測定データを受信し、
i)測定データが生成ガスの形成を示しかつii)電極の劣化のない安全電圧領域の下限を超えている状況に応答して直流電圧を低減させるように電源を制御するように、プログラマブルプロセッサを制御するためのコンピュータ実行可能命令を備える。
【0047】
上記のソフトウエアモジュールは、例えば、適切なプログラミング言語で実現されたサブルーチン又は機能としうる。
【0048】
例示的かつ非限定的な実施形態によるコンピュータプログラム製品は、一実施形態の実施形態によるコンピュータプログラムで符号化されたコンピュータ可読媒体、例えば、コンパクトディスク「CD」を備える。
【0049】
例示的な非限定的な実施形態による信号は、一実施形態の発明によるコンピュータプログラムを規定する情報を伝えるために符号化される。この例示の場合には、コンピュータプログラムは、例えばクラウドサービスの一部を構成するサーバからダウンロード可能である。
【0050】
上記の説明において提供される具体的な例は、添付の特許請求の範囲の利用可能性及び/又は解釈を制限するものと解釈されるべきではない。上記の説明において提供される例のリスト及びグループは、特に明記しない限り、網羅的ではない。
【国際調査報告】