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特表2024-533859構造色フィルム及び構造色顔料を調製するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】構造色フィルム及び構造色顔料を調製するための方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/24 20060101AFI20240905BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240905BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20240905BHJP
   C09D 5/20 20060101ALI20240905BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240905BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240905BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20240905BHJP
【FI】
B05D7/24 302C
C08J5/18 CEP
C08J3/12 A
C09D5/20
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/65
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536354
(86)(22)【出願日】2022-08-24
(85)【翻訳文提出日】2024-04-15
(86)【国際出願番号】 EP2022073629
(87)【国際公開番号】W WO2023025863
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】2112102.5
(32)【優先日】2021-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524070990
【氏名又は名称】スパークセル・ユーケー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィア・ヴィノリーニ
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン・イー・ドロゲット
(72)【発明者】
【氏名】シン-リン・リアン
(72)【発明者】
【氏名】ブルーノ・フルカ-ペテシック
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・デ・ヴォルダー
(72)【発明者】
【氏名】ジェレミー・ジェイ・バウムバーグ
(72)【発明者】
【氏名】リチャード・パーカー
【テーマコード(参考)】
4D075
4F070
4F071
4J038
【Fターム(参考)】
4D075BB24Z
4D075BB44X
4D075BB49X
4D075BB60Z
4D075CA38
4D075CB04
4D075DA04
4D075DB48
4D075EB07
4D075EB57
4F070AA02
4F070DA43
4F070DA46
4F070DA48
4F071AA09
4F071AB17
4F071AE19
4F071AF29Y
4F071AG28
4F071AG34
4F071BA06
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
4J038BA022
4J038EA011
4J038KA08
4J038NA10
4J038PA19
4J038PB14
4J038PC08
(57)【要約】
本発明は、セルロースナノクリスタル、例えば中和セルロースナノクリスタルを含む、構造色フィルム、構造色粒子及び構造色干渉顔料を生成するための方法に関する。フィルム及び粒子は、干渉顔料又は着色粒子、例えば光沢剤として、様々な用途に使用することができる。この方法は、セルロースナノクリスタルを含むナノクリスタル懸濁液を、基材上に堆積させる工程、ナノクリスタル懸濁液を、延展器を使用して基材全体に塗り拡げる工程、堆積中及び塗り拡げる工程中に失われたコレステリック構造を、部分的に又は完全に回復するように、ナノクリスタル懸濁液をエージングする工程、ナノクリスタルが自己集合して構造色フィルムを形成するように、堆積したナノクリスタル懸濁液を乾燥させる工程、並びに構造色フィルムをアニーリングして、フィルムの耐水性を上昇させる工程を含む。構造色フィルムは、キラルネマティック構造に組織化されたナノクリスタルを含み、構造色を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)セルロースナノクリスタルを含むナノクリスタル懸濁液を、基材上に堆積させる工程、
b)ナノクリスタル懸濁液を、延展器を使用して基材全体に塗り拡げる工程、
c)、堆積中及び塗り拡げる工程中に失われたコレステリック構造を、部分的に又は完全に回復するように、ナノクリスタル懸濁液をエージングする工程、
d)ナノクリスタルが自己集合して構造色フィルムを形成するように、堆積したナノクリスタル懸濁液を乾燥させる工程、
e)構造色フィルムをアニーリングして、フィルムの耐水性を上昇させる工程
を含む、構造色フィルムを生成するための方法。
【請求項2】
ナノクリスタル懸濁液が、中和された、部分的に中和された、又は酸性形態のセルロースナノクリスタルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ナノクリスタル懸濁液が二相性又は異方性である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
コーティングプロセスがロールツーロール印刷プロセスである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
乾燥させる工程が、10~250℃、好ましくは10~70℃で行われる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
堆積させる工程の前に、基材の少なくとも一部を改質して、表面エネルギーを上昇させる、処理する工程を更に含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
処理する工程の処理が、プラズマエッチング又はコロナ放電である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
処理する工程が、基材の中央部を処理することを含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
堆積させる工程の前に、ナノクリスタル懸濁液を超音波処理する工程を更に含み、任意選択で、処理が0.1~45s/mL、例えば2.2s/mL前後である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
セルロースナノクリスタル懸濁液が、少なくとも1種の添加物、例えば、酸若しくは塩基、充填材、ポリマー、塩又は機能性分子を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
構造色フィルムを基材から剥離する工程を更に含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
アニーリングする工程の温度が100~250℃である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
アニーリングする工程が、1分~120分にわたって行われる、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
構造色フィルムを分割して、構造色粒子を生成する工程を更に含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
分解する工程が、構造色フィルムを破壊及び/又は粉砕することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
任意選択で、フィルムが1.0~50.0μmの厚さを有する、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法によって得られる構造色フィルム。
【請求項17】
セルロースナノクリスタル、好ましくは中和セルロースナノクリスタルを含む構造色フィルムであって、ナノクリスタルがキラルネマティック構造に組織化されており、好ましくは、キラルネマティック構造の配向子がフィルム内で少なくとも1回転する厚さを、フィルムが有し、フィルムが20μm以下の厚さを有する、構造色フィルム。
【請求項18】
フィルムが、200~1300nmの範囲内の波長において、入射光の5%以上を反射する、請求項16又は17に記載の構造色フィルム。
【請求項19】
反射光が150nm以下の半値全幅を有する、請求項16から18のいずれか一項に記載の構造色フィルム。
【請求項20】
請求項14又は15に記載の方法によって得た、又は得られる、構造色粒子。
【請求項21】
セルロースナノクリスタル、好ましくは中和セルロースナノクリスタルを含む構造色粒子であって、ナノクリスタルがキラルネマティック構造に組織化されており、好ましくは、粒子が、少なくとも1つのキラルネマティックドメインに対応するファセット状外形を有する、構造色粒子。
【請求項22】
メジアン平均粒子直径が2μm以上である、請求項20又は21に記載の構造色粒子。
【請求項23】
粒子が、200~1300nmの範囲内の波長において、入射光の5%以上を反射する、請求項20から22のいずれか一項に記載の構造色粒子。
【請求項24】
粒子が、水への浸漬に対して1時間以上にわたって安定である、請求項20から23のいずれか一項に記載の構造色粒子。
【請求項25】
反射光が、水に浸漬させた際に5nm以上レッドシフトする、請求項20から24のいずれか一項に記載の構造色粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本件は、2021年8月24日(2021.08.24)に出願された、GB 2112102.5号の優先権及びその利益を主張し、その内容は、参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、コロイド状ナノ粒子、例えばセルロースナノクリスタルから、着色フィルムを調製するための方法を提供する。特に、本発明は、このようなフィルムを生成するための、産業的に拡張性のある方法を提供する。フィルムは、干渉顔料又は着色粒子、例えば光沢剤として使用することができる粒子を形成するために使用することができる。
【背景技術】
【0003】
セルロースナノクリスタルは、様々な天然供給源、例えば、綿、木材又は木材パルプから抽出することができるロッド形状のコロイド状粒子であり、例えば溶媒が蒸発した際に達することがある特定の濃度を上回ると、コレステリック(キラルネマティックとも呼ばれる)液晶挙動を呈しうる、安定な水性懸濁液を生成する。
【0004】
平らな基材上でセルロースナノクリスタル懸濁液が蒸発すると、可視光を反射することができる周期的なキラル構造を有する、固体フィルムの形成をもたらす。例えば、Revolら(J. Pulp Paper Science、1998、24、146)は、テフロン(登録商標)表面に堆積したセルロースナノクリスタルの懸濁液から調製される、反射性フィルムの調製を記載した。フィルムは、赤外(IR)、紫外(UV)及び可視範囲における構造色を有することが示された。
【0005】
Parkら(Chem. Phys. Chem.、2014、15、1477)は、大きな(25mm幅)ガラススライド上に堆積したセルロースナノクリスタルの懸濁液から調製されるフィルムの形成を研究している。著者らは、フィルム内での螺旋構造の形成における剪断流の効果も調べており、軌道震盪下で懸濁液が乾燥する間のフィルム形成が研究されている。ここで、この構築における剪断流によって、試料の中央部に限定された、一様に配列された垂直なコレステリック構造が確保されると言われる。しかしながら、剪断流は、螺旋のピッチのばらつきを防止しない。
【0006】
機能性材料を生成するより持続的なアプローチが強く必要とされているため、植物由来のセルロースナノクリスタル(CNC)の自己集合から得た構造色材料は、科学界の中に留まらず、大きな関心を寄せられている。上に述べた通り、コロイド状セルロースナノクリスタルは、懸濁液中で、溶媒が蒸発すると自己集合して、周期的なキラルネマティック構造となることができ、この構造は、鮮明で耐久性のあるフォトニック色を反射することができる。ピッチとして知られるセルロースナノクリスタルの周期的配列の特徴的サイズが、干渉光の波長と同じサイズ範囲である場合、干渉色はBraggの法則に従って、例えば、可視光、近IR光又は近UV光となりうる(Parkerら、Adv. Mater.、2018、30、1704477参照)。
【0007】
セルロースナノクリスタルの自己集合を調節する方法は、今や十分に理解され、センサから偽造防止及び装飾目的まで、幅広い用途が考えられている。しかしながら、大規模な着色セルロースナノクリスタルフィルムを生成する、拡張性のある方法論には、依然として不足がある。
【0008】
ロールツーロール(R2R)印刷又はコーティングアプローチを使用して、セルロースナノクリスタル懸濁液を連続的に堆積させて透明フィルムを生成することが報告されている。これらの透明フィルムの場合、セルロースナノクリスタルは、典型的には、R2R堆積プロセスの間に適用される高い剪断の結果として、コーティング方向に沿って基材に対して平行に配列され、このコーティング方向に沿った異方性は、最終的なセルロースフィルムに残り、色の欠損をもたらす。キラルネマティック規則性を有する構造色セルロースナノクリスタルフィルムは、比較的小さな領域にわたってのみ実証されている。このような構造色フィルムを生成するための大部分の既存の方法では、浅いペトリ皿内でドロップキャスティングを用いる10~12。ドロップキャスティングはバッチ法であるため、連続的には製造できず、産業的に拡張可能ではない。
【0009】
連続製造法、例えば、ロールツーロール又は他の同様の印刷若しくはコーティング技法では、堆積させる材料のレオロジー特性に制限が課される。堆積させる材料は、良好に被覆し、乾燥時の割れ及び収縮を回避するために、十分に粘性であり、凝集力がある必要があるだけでなく、連続プロセス中の溶媒蒸発に利用可能な、限定された時間窓も満足する必要がある。
【0010】
良好な光学品質(例えば鮮やかな着色のフィルム)のセルロースナノクリスタルフォトニック材料を提供するためには、最適な自己集合が起こるように、長い蒸発時間及び当初は低いセルロースナノクリスタル含有量(低粘度を与える)を要することが知られている。
【0011】
しかしながら、セルロースナノクリスタルの自己集合から良好な光学品質の構造色粒子を生成することは、困難なままであり、拡張性のある方法の使用は実証されていない。
【0012】
WO2018/033584は、マイクロ流体力学を通じて、自己集合したセルロースのナノクリスタルを有する粒子を生成する方法を記載している。球状粒子内のキラルネマティック配列が放射状であることで、従来報告されている平皿キャストフィルムと比較して、反射がより角度依存的でなくなり、溶媒乾燥時に粒子の球状界面が屈折した結果として、粒子の構造から入射光の反射が弱く、顔料としての使用が妨げられている。WO2018/033584に記載されているマイクロ流体プロセスは、個々の粒子を形成するものであり、フィルムを調製する方法は記載されていない。
【0013】
WO2014/118466は、タバコ紙をマーキングする方法に関し、真珠光沢セルロースナノクリスタルフィルムから粒子を生成するバッチ法を記載している。しかしながら、この文献における粒子は肉眼では見えず、粒子及びフィルムの真珠光沢及び光学的反応は開示されていない。加えて、粒子は水に浸漬させた後、数時間以内に崩壊し、大幅に粒子質量が減少すると言われ、顔料としての使用が妨げられている。2つの後処理を使用しても(1つは硫黄基を除去することを狙いとし、1つは塩によって電荷を遮蔽することを狙いとする)、粒子の構造の保持における有意な改善を一切もたらさなかった。この方法によって生成されたフィルムは、少なくとも20μmの厚さを有すると言われる。
【0014】
Zhaoら(Adv. Funct. Mater.、2019、29、1804531)は、ガラス上及びシラン処理可能な他の基材、例えばPDMS上に、サブミリメートル規模のマイクロフィルムを生成するオフセット印刷技法を使用して、600μmよりも大きな直径を有するセルロース粒子を含む構造色マイクロフィルムを調製した。マイクロ液滴の境界で起こる「コーヒーステイン」効果を制限するために、印刷フィルムを油下に保ち、最大2日間乾燥させることによって、非常に規則的なキラルネマティック構造が得られる。しかしながら、この乾燥法では、プロセスの拡張性が大きく限定される。加えて、セルロースインクのマイクロ液滴が犠牲層上に堆積し、マイクロ液滴は基材にしっかりと結合した。結果として、マイクロフィルムは個々の粒子として回収されず、顔料としての使用は実証されていない。重要なことに、フィルムは周囲湿度に非常に敏感であり、水に浸漬させた際に、構造が崩壊しうることが示唆される。
【0015】
WO2017/091893は、吸光メカニズムを通じて色を生じる化学物質で染色したセルロース凝結体のコアに依拠した、セルロース系顔料を調製するための方法を記載している。
【0016】
Nanら(ACS Sustain. Chem. Eng.、2017、5、8951~8958)は、セルロースナノクリスタルフィルムを、強水酸化ナトリウムで3時間~最大12時間処理することで、アルカリ性水中で水のフィルムへの浸透がわずかに増加することを示した。しかしながら、最長の処理時間を用いてさえ、水に浸漬させた場合、フィルムが崩壊し、構成ナノクリスタルが再分散することがあり、このような液体中での一切の使用が妨げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】WO2018/033584
【特許文献2】WO2014/118466
【特許文献3】WO2017/091893
【特許文献4】CN113061274
【特許文献5】米国特許出願公開第2010/151159号
【特許文献6】KR20210062268
【特許文献7】WO95/21901
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Revolら(J. Pulp Paper Science、1998、24、146)
【非特許文献2】Parkら(Chem. Phys. Chem.、2014、15、1477)
【非特許文献3】Parkerら、Adv. Mater.、2018、30、1704477
【非特許文献4】Zhaoら(Adv. Funct. Mater.、2019、29、1804531)
【非特許文献5】Nanら(ACS Sustain. Chem. Eng.、2017、5、8951~8958)
【非特許文献6】Lagerwallら(NPG Asia Materials、2014、6、e80)
【非特許文献7】Parker, R. M.ら、Adv. Mater.、30、1704477 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、構造色を有するセルロースナノクリスタル系フィルム及び粒子を生成するための公知の方法に対する、代替選択肢を提供する。好ましくは、本発明は、先行技術の方法に関係する問題の1つ又は複数を解決する。
【0020】
本発明は、セルロースナノクリスタル、例えば中和セルロースナノクリスタルを含む、構造色フィルム、構造色粒子及び構造色干渉顔料を生成するための方法に関する。
【0021】
フィルムは構造色を有し、その色は、可視色、赤外色又は紫外色でありうる。構造色は、特定の波長で強い反射を生じる、キラルネマティック構造の存在に由来する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
一般に、本発明は、
a)セルロースナノクリスタルを含むナノクリスタル懸濁液を、コーティング塗布器を使用して基材上に堆積させる工程、
b)ナノクリスタル懸濁液を、延展器を使用して基材全体に塗り拡げる工程、及び
c)ナノクリスタルが自己集合して構造色フィルムを形成するように、堆積したナノクリスタル懸濁液を乾燥させる工程
を含む、構造色フィルムを生成するための方法を提供する。
【0023】
好ましくは、この方法は、塗り拡げる工程と乾燥させる工程との間に、エージングする工程を含む。エージングする工程によって、ナノクリスタル懸濁液は、堆積中及び塗り拡げる工程中に失われた任意のコレステリック構造を、部分的に又は完全に回復する。
【0024】
このようにして、高い反射性及び彩度を有する構造色フィルムを、産業上実行可能な方法を使用して、信頼性及び再現性をもって、大規模に調製することができる。
【0025】
本発明の第1の態様では、
a)セルロースナノクリスタルを含むナノクリスタル懸濁液を、基材上に堆積させる工程、
b)ナノクリスタル懸濁液を、延展器を使用して基材全体に塗り拡げる工程、
c)、堆積中及び塗り拡げる工程中に失われたコレステリック構造を、部分的に又は完全に回復するように、ナノクリスタル懸濁液をエージングする工程、
d)ナノクリスタルが自己集合して構造色フィルムを形成するように、堆積したナノクリスタル懸濁液を乾燥させる工程、
e)構造色フィルムをアニーリングして、フィルムの耐水性を上昇させる工程
を含む、構造色フィルムを生成するための方法を提供する。
【0026】
この方法は、高い反射性及び彩度を有し、耐溶媒性が上昇した、特に耐水性が上昇した構造色フィルムを提供する。
【0027】
本発明の第2の態様では、第1の態様の方法によって得られる構造色フィルムを提供する。
【0028】
本発明の第3の態様では、セルロースナノクリスタル、好ましくは中和セルロースナノクリスタルを含む構造色フィルムであって、ナノクリスタルがキラルネマティック構造に組織化されており、好ましくは、キラルネマティック構造の配向子がフィルム内で少なくとも1回転する厚さを、フィルムが有し、フィルムが20μm以下の厚さを有する、構造色フィルムを提供する。
【0029】
第2及び第3の態様の構造色フィルムにおける、非常に規則的なキラルネマティック構造は、非常に反射性であり、非常に鮮やかな色を高強度で反射する。
【0030】
本発明の第4の態様では、第1の態様の方法によって得た、又は得られる構造色フィルムを分割することによって得た、又は得られる構造色粒子を提供する。
【0031】
本発明の第5の態様では、セルロースナノクリスタル、好ましくは中和セルロースナノクリスタルを含む構造色粒子であって、ナノクリスタルがキラルネマティック構造に組織化されており、好ましくは、粒子が、少なくとも1つのキラルネマティックドメインに対応するファセット状外形を有する、構造色粒子を提供する。
【0032】
第4及び第5の構造色粒子における非常に規則的なキラルネマティック構造は、高い反射性をもたらし、構造色粒子は、水等の溶液中に懸濁している場合、長期間にわたって発色を維持する。
【0033】
本発明の第6の態様では、化粧料における、包装における、又は塗料における、第4又は第5の態様の構造色粒子の使用を提供する。
【0034】
本発明の、これらの及び他の態様及び実施形態を、以下に、更に詳細に記載する。
【0035】
以下に列挙する図を参照しながら、本発明を記載する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】CNCコーティングのフォトニック微粒子へのR2R加工の概略を示す図である。A)ロールツーロールコーティングを使用した本発明の方法の模式図であり、潜在的なウェブの再使用プロセス及び顔料生成を示している。B)黒色PETウェブ上に堆積した、赤色、緑色及び青色のR2RコーティングCNCフィルム(それぞれ、6.44s/mL(21.5kJ/g)、4.36s/mL(14.5kJ/g)、及び2.24s/mL(7.5kJ/g)で先端超音波処理)。C)本発明の方法によって生成した、巻きを解いた長さ1メートルの、セルロースナノクリスタルのロールツーロールコーティング(4.36s/mL(14.5kJ/g)で先端超音波処理)。D)透明ワニス中に埋設された、破壊する工程を含む本発明の方法によって生成した、初期状態の(左)及び加熱処理をした(右)フォトニックCNC粒子(サイズ選別前)。E)サイズ選別後、且つ左から右へ、エタノール、50%水性エタノール、及び水に浸漬させた加熱処理フォトニックCNC粒子。
図2】コーティング厚さ及び光学特性対コーティングパラメータを示す図である。A)2.2s-1の一定の剪断速度を用いて、異なるコーティングギャップ並びに速度で調製した(濃度は6質量%に等しく、56秒(2.24s/mL又は7.5kJ/g)にわたる超音波処理)、CNCコーティングの巨視的写真(上段)及び左円偏光光学顕微鏡画像(中段)、並びに自立型CNCフィルムの走査型電子顕微鏡(SEM)断面(下段)。B)15個超の箇所で平均した、対応するCNCコーティングの左円偏光(LCP)反射率スペクトル。C)Aにおける試料の湿式コーティングギャップと乾燥フィルム厚さとの間の関係。ピンクの点線は、従前の研究に見られるように、Berreman 4×4マトリックス法を用い、屈折率n及びnを1.514及び1.590として計算される、CNCフィルムが極大反射率に達するのに要する理論上の最小厚さを強調している(例えば、Zhaoら、Adv. Funct. Mater.、2019、29、1804531参照)。
図3】CNCコーティングの視覚的外観に対する、超音波処理及び乾燥条件の効果を示す図である。A)それぞれ、左は56秒(2.24s/mL又は7.5kJ/g)、中央は109秒(4.36s/mL又は14.5kJ/g)、及び右は161秒(6.44s/mL又は21.5kJ/g)超音波処理した、6質量%のCNC懸濁液から、18℃又は60℃のいずれかで乾燥させ、1.5mm.s-1の速度で、700μmに等しいコーティングギャップを使用した、本発明の方法を使用して調製したCNCコーティングの巨視的写真(第1段及び第3段)並びに左円偏光(LCP)光学顕微鏡画像(第2段及び第4段)。B)15個超の位置で平均した、室温(上)及びホットプレート上(下)における、対応する試料キャストのLCP反射率スペクトル。
図4】CNCフォトニック微粒子を示す図である。A)6質量%のR2Rコーティングから調製した、サイズ選別及び加熱処理をしたCNCフォトニック微粒子の顕微鏡写真。空気中、エタノール中、1:1(質量比)のエタノールと水との混合物中、及び水中で観察した、196秒(4.36s/mL又は14.5kJ/g)にわたって超音波処理し、本発明の方法によってコーティングした、CNC懸濁液。最大サイズについての顕微鏡画像は、同じ粒子を示している。B)10個超の位置で平均した、同じ4種の媒体中における、対応するサイズ選別した粒子の全反射率スペクトル。C)各サイズ群について、破壊する工程後のCNCフォトニック粒子モルフォロジーを例示するSEM上面図。D)(A)におけるロールツーロール印刷フィルムの破壊後に典型的に得られ、CNCキラルネマティック規則性の特徴である、典型的なBouligandアーチを示すCNC粒子のSEM断面。
図5】6質量%二相懸濁液から調製したCNCフィルムの視覚的外観に対する、先端超音波処理の効果を示す図である。A)巨視的写真。B)左円偏光(LCP)フィルタを通した、対応する顕微鏡写真。C)10個超の位置で平均した、LCP(左)及びRCP(右)フィルタを通した、対応する反射スペクトル。D)PythonのColourパッケージから計算した、対応するCIE 1931色空間色度図。CIE座標は、青色対赤色で、[0.20 ; 0.13]、[0.32 ; 0.30]、[0.40 ; 0.31]、[0.50 ; 0.34]、[0.42 ; 0.47]及び[0.23 ; 0.44]である。
図6】使用したCNC懸濁液の相図を示す図である。A)濃度を上昇させ、クロスポラライザーの間で見た、出発CNC懸濁液で充填したガラスキャピラリの写真。B)A)から抽出した、異方性相の体積比対CNC濃度。
図7】アニーリングプロセスの効果を示す図である。A)ロールツーロールコーティングを使用する本発明の方法によって生成したCNCフィルムから切り出した、自立型CNC試料の巨視的及び微視的な視覚的外観に対する、加熱処理(30分間適用)の温度の効果。B)反射及び透過における、対応するスペクトル(平滑化し、最大3つの位置で平均した)。測定値は、20倍対物レンズ(Nikon T plan SLWD、NA = 0.3)とともにコア径200μmの光ファイバ(Thorlabs FC-UV200-2-SR)を使用して取得した。
図8】本発明の方法を使用して生成したフィルムの一様性に対する、フィルムの乾燥中の流動の発生の効果を示す図である。A~C)ウェブの片側における材料の蓄積を示し(C、先頭)、フィルムの一様性に関する厚さのばらつきの効果を示す、位置合わせ不良のウェブ上に生成した、同じR2Rフィルムの3つの異なる部分。
図9】穿孔ホットプレートの上で乾燥させたCNCフィルムを示す図である。A~E)60℃に設定したホットプレートの上に載置した穿孔アルミニウムボードの上で、完全に乾燥する前に、及び維持して撮影した湿潤CNCフィルムの写真。フィルムは、700μmのコーティングギャップを通じ、1.5mm/sのコーティング速度で、本発明の方法を使用して調製した。アルミニウムボードと円形孔との間の温度勾配が、懸濁液の間に空間的な乾燥速度差を生じた。B)依然として湿潤なCNCフィルム中に、真珠光沢の自己組織化ドメインが明らかに視認される、A)を接写した図。F)得られた乾燥及びパターニングされたCNCコーティング。G)異なる速度で乾燥させた、2つの領域のLCP顕微鏡写真。H)2つの領域に対応するLCP反射率スペクトルであり、各スペクトルは3つ超の位置で平均した。
図10】本発明に開示する方法を記載したフローチャートである。
図11】セルロースナノクリスタルフォトニック粒子の可逆的な色変化を示す図である。水とエタノールとの混合物中に入れた、単一のセルロースナノクリスタルフォトニック粒子の顕微鏡スナップ写真(左から右):空気中の粒子、エタノールと水との蒸発中の混合物中の粒子、水中の粒子(エタノールが蒸発し、水の濃縮が起こる)、及び空気中に戻した粒子(水が蒸発した)。
図12】分散したフォトニックCNC微粒子の真珠光沢を示す図である。A)照明角度を増加させながら撮影した、グリセロール中に分散した緑色フォトニックCNC粒子(サイズ:150 > X > 75μm)のスナップ写真(粒子は、196秒(4.36s/mL又は14.5kJ/g)にわたって先端超音波処理したCNC懸濁液から調製し、バイアル中の粒子の装填量はおよそ5.5mg/mL)。左から右に照明の角度が増加し、緑色から青色へ、強い見掛けのブルーシフトをもたらし、最終的に可視スペクトルを越える。B)(a)に表示した試料から得られる反射の模式図。寄与する粒子の配向を黒色で図示している。C)ガラススライドを被覆し、直接照明下にある、透明エポキシ樹脂中に埋設したフォトニックCNC粒子(サイズ:75 > X > 25μm)。左から右に照明の角度が増加し、緑色から紺色へ、見掛けのブルーシフトの低減をもたらす。D)(c)に表示した試料から得られる反射の模式図であり、Snellの法則に従って、ブルーシフトを低減する空気/コーティング界面の主要な役割を強調している。E)(c)と同じ試料であるが、拡散照明下である。F)(e)に表示した試料から得られる反射の模式図。拡散照明と、空気/コーティング界面の屈折率コントラストとの組み合わせによって、ブルーシフトの大部分が抑制され、真珠光沢がほとんどないコーティングとなる。
図13】透明エポキシ樹脂中に埋設されたCNCフォトニック粒子の巨視的視覚的外観を示す図である。拡散照明下の写真(上段)は、大きな粒子はモザイク状の外観をコーティングに与える一方で、小さな粒子は遥かに一様に見えることを示している。明視野及び暗視野(BF及びDF、それぞれ第2段及び第3段)において、5倍対物レンズ(Zeiss社、EC Epiplan Neofluar、NA = 0.13)を装着した顕微鏡下で観察すると、大きな粒子はガラス基材に配列したままの傾向がある一方で、小さな粒子はよりランダムに配向するようである。CNCフォトニック粒子の装填量は、150mgの樹脂(Norland Optical Adhesive 81)につきおよそ15mgであり、およそ3.1mg/cmであった。混合物をガラススライド上に塗布し、カバースリップで被覆した。
図14】透明エポキシ樹脂中に埋設した、フォトニックCNC微粒子の散乱測定を示す図である(図13と同じ試料)。θin = 0°(直角の入射角、上段)又はθin = 30°(下段)において、試料を照らした。粒子のサイズが減少するにつれて、同一ピッチの回折ドメインをランダムに分布させた信号(白色曲線)に適合する点まで、散乱信号はより平滑で連続的となった。この散乱信号は、典型的なCNCフィルムの同等の散乱信号よりも真珠光沢ではない。
図15A】屈折率n = 1.514及びn = 1.590と仮定して算出された反射率対フィルム厚さを示すグラフである。数値モデル(Berreman 4×4マトリックス法)を使用して、ピッチ(ピッチp = 318nmとする)の数を増加させたコレステリック構造の算出スペクトル。右のプロットは反射ピークの拡大であり、フィルム厚さ7.6μmに対応する、螺旋の数N = 24以降の飽和を示している。
図15B】屈折率n = 1.514及びn = 1.590と仮定して算出された反射率対フィルム厚さを示すグラフである。分析モデル(De Vries式)を使用した、ピッチp = 318、370及び429nm(図3に表示した青色、緑色及び赤色フィルムのピーク波長に対応する)をなす3種のコレステリック構造から算出した極大反射率ピーク対フィルム厚さ。反射率>99.5%は、p = 318、370及び429nmについて、それぞれ、フィルム厚さ6.9μm、8.1μm及び9.3μm超で達する。
図16】R2RキャストCNCフィルムのCNCフォトニック微粒子への加工(図の上部に示す、R2R機において乾燥後に実施される工程)について、より詳細に示す図である。A)プラスチックブレード(125μm厚)を使用した、PETウェブからの乾燥CNCフィルム先頭の取り外し。CNCフィルムを可動ウェブによって搬送し(片面で依然として付着していた)、破壊することなく取り外し、収集のための別の不動ウェブの上に滑らせた。B)R2Rキャストフィルムを乾燥させ、加熱処理及び破壊する工程後に得たCNCフォトニック微粒子。C)様々な質量比(左から右へ、1:0、95:5、85:15、70:30、1:1、0:1)の水:エタノール混合物に浸漬させたCNC粒子。D)10か月後に撮影した、(C)と同じ試料。E)発泡性飲料中のCNCフォトニック微粒子の1つの可能な用途の例。F)様々な極性及びイオン強度の広範囲の溶媒中のCNCフォトニック微粒子(左から右に、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン、1滴の工業用界面活性剤(Premiere Products社、Savona D2)を含む水、1mMのNaClを含有する水)。
図17】市販のエフェクト顔料(i)、光沢剤(iii、v及びvii)、並びにフォトニックCNC屈折微小球(viii)に対する、フォトニックCNC微粒子(ii、iv及びvi)のベンチマーク試験を示す図である。A)定方向照明下で、光源から約45°において撮影した写真。B)フォトニックCNC微粒子の特有の角度に依存した視覚的応答が目立つ、定方向照明下で、光源から約110°において撮影した写真。試料一覧:i. Merck社Xirona(登録商標) (Moonlight Sparks、サイズ:20~150μm)。ii. フォトニックCNC微粒子(サイズ:150 > X > 75μm)。iii. Bio-glitter(登録商標) Pure (Sea green、サイズ:40ミル≒1mm及びLight gold、サイズ:15ミル≒380μm)。iv. フォトニックCNC微粒子(サイズ:X < 25μm)。v. Bio-glitter(登録商標) Sparkle (Spring green、サイズ:8ミル≒200μm)。vi. フォトニックCNC微粒子(サイズ:X > 150μm)。vii. Bio-glitter(登録商標)Pure(Sea green、サイズ:94ミル≒2.4mm)。viii. フォトニックCNC微小球。装填量を1質量%に低減した試料(i)を除いて、エフェクト粒子の装填量はおよそ10質量%であった。
図18】CNCフィルムの親水性に対する、加熱処理の温度及び継続期間の効果を示す図である。A)継続期間を増加させながら150℃で加熱処理し、水中に入れた、R2RキャストCNCフィルム小片の写真(上段)。水への浸漬後に回収し、完全に乾燥させた、R2RキャストCNCフィルム小片の写真(第2段)。B)継続期間を増加させながら190℃で加熱処理した後、水中に入れている、R2RキャストCNCフィルム小片の写真(上段)。すべてのフィルムが構造色を示している。水への浸漬中のR2RキャストCNCフィルム小片の写真(第2段)。スケールバー:皿の直径は3.5cmに等しい。
図19】R2Rによってキャストし、静的か、インライン熱風乾燥機を通じて段階的に連続並進させながらかのいずれかで乾燥させた、CNCフィルムの光学特性を示す図である。A)長さに沿った異なる地点の光学的外観を示す挿入図を有する(Pは、コーティング先頭からの地点を示す)、長さ4.2mの青色R2Rキャストフィルム(粗動段階法によって乾燥、T = 60℃)の画像。ここで、地点は、堆積の始点に対して規定される。B)LCP及びRCPフィルタを通して記録した、2.24s/mL(7.5kJ/g)で超音波処理したR2RキャストCNCフィルムの写真(第1、2及び4段)並びに光学顕微鏡写真(第3及び5段)。C)(b)に報告した自立型フィルムに対応する、LCP及びRCP反射率スペクトル。LCP反射率スペクトルは、フィルムに沿って80個超の箇所で平均している。D)異なる堆積法及び乾燥条件についてのフィルムの乾燥時間及び厚さ。E)290秒(6.44s/mL又は21.5kJ/g)にわたって超音波処理し、20℃(左)又は60℃(右)のいずれかで乾燥させた、CNC懸濁液から調製したフィルムのLCP光学顕微鏡写真。上段は、ブレードキャストフィルム(g = 700μm、v = 1.5mm.s-1)を示し、下段は、R2Rキャストフィルム(静的はT = 20℃、粗動工程はT = 60℃)を示す。F)15個超の位置で平均した、対応するLCP反射率スペクトル。G)(a)に提示した異なるフィルムの厚さ測定値。
図20】本発明の構造色フィルム及び構造色粒子の用途を示す図である。A)四角形状に分割し、紙の上に提示した粒子。B)布の小片の上に貼り付けた粒子。C)食用ホストマトリックス中に埋設し、チョコレートの小片の上に塗布した粒子。D)指の爪を塗装するコーティングに使用した粒子。E)木材の小片を塗装する、粒子を含有するホストポリマーマトリックス。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、コロイド状ナノ粒子、例えばセルロースナノクリスタルから調製した着色フィルムに関する。
【0038】
コロイド状セルロースナノ粒子は自己集合して、螺旋構造(ヘリコイド)を含むキラルネマティック(コレステリック)相を形成する。各ヘリコイドは、螺旋長軸に沿って定義されるランダム空間配向を有しうる。キラルネマティックヘリコイドは、擬似積層として記述することができ、これは、長軸に沿って仮想的に螺旋を切断して、互いに対して平行に薄く積み重ねられた、無限大の数の個別の平面とすることによって理解することができる。各擬似層は、平均的に同じ方向を指すナノクリスタルを含有する。この方向に沿って外向きに定義すると、配向子は、螺旋長軸の周りを、一方の擬似層から他方へ連続的に回転するベクトルである。配向子の完全な回転は1つの螺旋ピッチで完了し、これによって螺旋状積層の周期性が記述される。メソゲンが螺旋を回って回転することで、螺旋を半回転する毎に、特性を回復することができる。メソゲンが複屈折分子構成要素である場合、屈折率が周期的に調節されて光の反射を生じるため、キラルネマティック相は独特の光学特性を呈する。
【0039】
CN113061274は、セルロースナノクリスタル懸濁液をガラス基材にドロップキャスティングし、乾燥させて自己集合フィルムを得る工程、有機非晶質ポリマーでコーティングし、次いで硬化させる工程を含む、多形多構造色フィルム及びこれを調製する方法に関する。しかしながら、CN113061274は、ナノクリスタル懸濁液を、延展器を使用して基材全体に塗り拡げる工程、又は堆積中及び塗り拡げる工程中に失われたコレステリック構造を、部分的に又は完全に回復するように、ナノクリスタル懸濁液をエージングする工程を記載していない。CN113061274は、20μm以下の厚さを有するフィルムを記載しておらず、また、構造色粒子を記載していない。
【0040】
米国特許出願公開第2010/151159号は、不均一構造を有するセルロースナノクリスタルフィルムに関する。フィルムは、温度の変動を使用して4~6時間にわたって、セルロースナノクリスタル懸濁液から水を蒸発させることによって形成される。米国特許出願公開第2010/151159号は、フィルムの調製中に、フィルムを塗り拡げる工程又はエージングする工程を記載していない。米国特許出願公開第2010/151159号はまた、粒子を記載しておらず、フィルムを分割して粒子を形成する工程に言及していない。
【0041】
KR20210062268は、着色セルロースナノクリスタルフィルムを記載している。フィルムを調製する方法は、懸濁液を塗り拡げる工程若しくはエージングする工程、又はフィルムをアニーリングする工程を含まない。KR20210062268はまた、粒子を記載しておらず、フィルムを分割して粒子を形成する工程を記載していない。
【0042】
WO95/21901は、セルロースナノクリスタル懸濁液から調製される固体液晶セルロースフィルムを記載している。この文献は、懸濁液を塗り拡げる工程若しくはエージングする工程、又はフィルムをアニーリングする工程を含む、フィルムを調製する方法を記載していない。WO95/21901はまた、フィルム又は個々のセルロースナノ粒子を参照しているに過ぎない。この文献は、キラルネマティック相を有する粒子、又はフィルムを分割することから形成される粒子を記載していない。
【0043】
方法
本発明は、高い反射率を有するセルロースナノクリスタルの構造色フィルムを生成するための、高スループットの方法を提供する。一般に、本発明は、
a)セルロースナノクリスタルを含むナノクリスタル懸濁液を、コーティング塗布器を使用して基材上に堆積させる工程、
b)ナノクリスタル懸濁液を、延展器を使用して基材全体に塗り拡げる工程、及び
c)ナノクリスタルが自己集合して構造色フィルムを形成するように、堆積したナノクリスタル懸濁液を乾燥させる工程
を含む、構造色フィルムを生成するための方法を提供する。
【0044】
本発明の第1の態様では、
a)セルロースナノクリスタルを含むナノクリスタル懸濁液を、基材上に堆積させる工程、
b)ナノクリスタル懸濁液を、延展器を使用して基材全体に塗り拡げる工程、
c)、堆積中及び塗り拡げる工程中に失われたコレステリック構造を、部分的に又は完全に回復するように、ナノクリスタル懸濁液をエージングする工程、
d)ナノクリスタルが自己集合して構造色フィルムを形成するように、堆積したナノクリスタル懸濁液を乾燥させる工程、
e)構造色フィルムをアニーリングして、フィルムの耐水性を上昇させる工程
を含む、構造色フィルムを生成するための方法を提供する。
【0045】
フィルムの最終的な色は、例えば、ナノクリスタル懸濁液の特性を調節すること、堆積速度を調節すること、塗り拡げる(コーティング)条件を調節すること、及び乾燥条件を調節することによって、調整することができる。
【0046】
コーティングプロセスにおいて、ナノクリスタル懸濁液は、コーティング塗布器又は延展器を使用して基材全体に塗り拡げることができる。コーティング塗布器/延展器と基材との間のギャップは固定であり、5μm~5mm、好ましくは300~1500μm、より好ましくは300~1100μmである。ここでの「固定」という用語は、使用者の干渉によるものを除いて、コーティング中にギャップが変化しないことを意味するために使用される。すなわち、ギャップは、独自に非制御的には変動しない。
【0047】
コーティング塗布器/延展器と基材との間のギャップは、当技術分野において、コーティングギャップと呼ばれることもある。より大きなギャップでは、基材上に堆積させ、塗り拡げるナノクリスタル懸濁液の層がより厚くなる。ナノクリスタル懸濁液層の厚さは、乾燥時間に影響を及ぼすため、自己集合及び乾燥フィルムの最終的な発色に影響を及ぼす。薄いナノクリスタル懸濁液層は、厚いナノクリスタル懸濁液層よりも迅速に乾燥する。より薄い層におけるナノクリスタルは、より短い自己集合時間を有し、より鮮やかでない発色を有しやすい。
【0048】
コーティングプロセスにおいて、コーティング速度は少なくとも0.6mm/sである。コーティング速度とは、少なくとも塗り拡げる工程の間に、基材が延展器に対して動く速度を指す。
【0049】
コーティングプロセスにおいて、堆積させる工程、塗り拡げる工程及び乾燥させる工程の間、基材は水平に保たれる。水平に保たれるという用語は、ここでは、堆積させる工程、塗り拡げる工程及び乾燥させる工程の間、実質的に基材の表面全体が、実質的に水平な平面を保持することを指すために使用される。
【0050】
このようにして、堆積させる工程、塗り拡げる工程及び乾燥させる工程の間、ナノクリスタル懸濁液の望ましくない流動が防止される。ナノクリスタル懸濁液の望ましくない流動は、自己集合プロセスの擾乱をもたらすことがあり、そのため、ナノクリスタルが、最適な構造発色に要するキラルネマティック規則性を形成する能力が低減することがある。図8は、望ましくない流動が起こった場合のコーティングフィルムの巨視的外観の例を示す。
【0051】
基材は、剛性基材を使用することによって、基材に張力をかけることによって、基材を支持することによって、又はこれらの任意の組み合わせによって水平に保つことができる。
【0052】
例えば、剛性基材は、堆積及び塗り拡げる工程の間に反らないのに十分な厚さでありうる。好ましくは、剛性基材は、ロールツーロール印刷機のドラムで搬送されるのに十分に可撓性でもある。
【0053】
例えば、基材は、10~250N、より好ましくは25~125N、よりいっそう好ましくは40~90Nの張力を有してもよい。ウェブの両端間の張力差は、20N、より好ましくは40N、よりいっそう好ましくは60Nを超えるようなものであった。フィルム張力は、ロードセルセンサによって決定することができる。
【0054】
このようにして、構造色フィルムを、産業上実行可能な方法を使用して、信頼性及び再現性をもって、大規模に調製することができる。
【0055】
コーティングプロセス
本発明の方法は、ナノクリスタル懸濁液を堆積させる工程、及び基材全体に塗り拡げる工程を含む。好ましくは、ナノクリスタル懸濁液は中和セルロースナノクリスタルを含む。
【0056】
ナノクリスタル懸濁液は、コーティング塗布器を使用して、基材上に堆積させてもよい。任意の好適なコーティング塗布器が使用されうる。好適な堆積法としては、印刷ノズル、スプレーヘッド又はスロットダイを使用することが挙げられ、これらを通じて、制御的にセルロース懸濁液を流動させることができる。
【0057】
ナノクリスタル懸濁液は、延展器を使用して、基材の上に塗り拡げてもよい。任意の好適な延展器が使用されうる。好適な延展器としては、ナイフ、ドクターブレード又はスロットダイが挙げられる。
【0058】
コーティング塗布器及び延展器は、同じ機械を指すこともある。例えば、コーティング塗布器が、可動ベルトとともに使用されるスロットダイである場合、堆積させる工程及び塗り拡げる工程は、いずれもスロットダイによって達成される。スロットダイコーティングは周知であり、特に、スロットダイコーティングはロールツーロール印刷プロセスにおいて周知である。好ましくは、スロットダイは、コーティング塗布器且つ延展器として使用される。
【0059】
塗り拡げる工程の間、ナノクリスタル懸濁液は剪断を受ける。
【0060】
剪断速度は、以下の等式によって計算される。
剪断速度=コーティング速度/コーティングギャップ
【0061】
いくつかの事例では、塗り拡げる工程の間の剪断速度は、30.0s-1以下、20.0s-1以下、10.0s-1以下、8.0s-1以下、4.0s-1以下、3.0s-1以下、好ましくは2.8s-1以下、より好ましくは2.5s-1以下である。
【0062】
いくつかの事例では、塗り拡げる工程の間の剪断速度は、0.5s-1以上、好ましくは1.0s-1以上、より好ましくは2.0s-1以上である。
【0063】
塗り拡げる工程の間の剪断速度は、上限及び下限が上に与えた値から選択される範囲から選択されうる。例えば、塗り拡げる工程の間の剪断速度は、2.0s-1~20.0s-1、好ましくは2.0s-1~2.5s-1、例えば2.2s-1前後であってもよい。
【0064】
ナノクリスタル懸濁液は、別個のバッチで堆積させてもよい。この事例では、各別個のバッチは、塗り拡げる工程の間に基材全体に塗り拡げられる。
【0065】
代替的には、ナノクリスタル懸濁液を、連続的に堆積させてもよい。この事例では、ナノクリスタル懸濁液は、連続的に基材全体に塗り拡げられる。
【0066】
基材の単位面積当たりに堆積させるナノクリスタル懸濁液の量(面積塗布量)は、100μL/cm以下、90μL/cm以下、好ましくは80μL/cm以下、より好ましくは60μL/cm以下でありうる。
【0067】
面積塗布量は、10μL/cm以上、20μL/cm以上、好ましくは30μL/cm以上、よりいっそう好ましくは40μL/cm以上でありうる。
【0068】
面積塗布量は、上限及び下限が上に与えた値から選択される範囲から選択されうる。例えば、堆積は、40μL/cm~60μL/cm、例えば50μL/cm前後の割合であってもよい。
【0069】
単位時間当たりに堆積させる材料の量(堆積速度)は、12,000μL/min以下、10,000μL/min以下、好ましくは8,000μL/min以下、より好ましくは6,000μL/min以下でありうる。
【0070】
堆積速度は、800μL/min以上、1,200μL/min以上、1,600μL/min以上、好ましくは2,000μL/min以上、よりいっそう好ましくは2,400μL/min以上でありうる。
【0071】
堆積速度は、上限及び下限が上に与えた値から選択される範囲から選択されうる。例えば、堆積は、2,000μL/min~8,000μL/min、例えば6,000μL/min前後の割合であってもよい。
【0072】
典型的には、基材は、コーティング塗布器及び延展器に対して動かす。このようにして、延展器と基材の動きとの組み合わせによって、ナノクリスタル懸濁液を基材に沿って塗り拡げることができる。
【0073】
コーティング速度とは、少なくとも塗り拡げる工程の間に、基材がコーティング塗布器又は延展器に対して動く速度を指す。
【0074】
コーティング速度は、少なくとも1.0mm/s、少なくとも1.5mm/s、少なくとも2.0mm/s、少なくとも4.0mm/s、好ましくは少なくとも1.0mm/s、より好ましくは少なくとも1.5mm/sでありうる。
【0075】
コーティング速度は、60.0mm/s以下、30.0mm/s以下、15.0mm/s以下、3.0mm/s以下、好ましくは2.7mm/s以下、より好ましくは2.4mm/s以下でありうる。
【0076】
コーティング速度は、上限及び下限が上に与えた値から選択される範囲から選択されうる。例えば、コーティング速度は、1.0mm/s~2.4mm/s、例えば1.5mm/s前後であってもよい。
【0077】
好ましくは、コーティングプロセスはロールツーロール印刷プロセスである。ロールツーロール印刷は、周知の印刷技法である。ロールツーロール印刷は、固定印刷ヘッドから、動く基材上への物質の堆積を伴う。典型的には、動く基材はロールの形態で提供され、しばしばウェブと呼ばれる。ウェブという用語は、巻くこと及び巻き直すことができる、平らな延ばされた(ときとして連続的な)基材を指す。印刷の間、基材又はウェブはロールから巻きを解かれ、ウェブの巻きを解かれた部分に物質を堆積させ、更なる加工、例えば乾燥させる工程のために、堆積した物質を基材又はウェブの表面に搬送する。ウェブ又は基材は、ウェブの表面に堆積した物質を有するか有しないかのいずれかで、第2のロールを形成するように巻き直されてもよい。代替的には、堆積した物質が除去されてもよく、ウェブ又は基材は、更なる加工工程において連続的に再利用される(ここでは、ウェブ又は基材は閉ループの形態である)。
【0078】
いくつかの事例では、堆積は、基材又はウェブの1つ又は複数の別個の領域の上で行うことができる。
【0079】
本事例では、ウェブ又は基材上にナノクリスタル懸濁液を堆積させた後、更なる加工工程が、塗り拡げる工程、乾燥させる工程、及び任意選択で、ウェブ又は基材の表面からの構造色フィルムの除去(剥離する工程)を含む。ナノクリスタル懸濁液の堆積の前に、ウェブ又は基材に対して追加の前処理工程も行ってもよい。追加の前処理及び後の加工工程は、以下により詳細に論じる。
【0080】
基材
基材とは、その上にナノクリスタル懸濁液を堆積させ、塗り拡げ、乾燥させることができる、好適な表面である。
【0081】
いくつかの事例では、基材は、10,000μm以下、1,000μm以下、好ましくは800μm以下、よりいっそう好ましくは500μm以下の厚さを有する。
【0082】
いくつかの事例では、基材は、50μm以上、100μm以上、好ましくは300μm以上、よりいっそう好ましくは400μm以上の厚さを有する。
【0083】
基材の厚さは、上限及び下限が上に与えた値から選択される範囲から選択されうる。例えば、基材の厚さは、300~500μm、例えば400μm前後であってもよい。
【0084】
このようにして、基材は、比較的剛性であり、堆積及び乾燥させる工程の間、基材を一様且つ水平に保つことを支援する。
【0085】
基材は、任意の好適な材料であってもよく、任意の好適な材料を含んでもよい。好適な基材材料としては、ポリビニルアルコール、セロファン、ポリスチレン、アセタール、エチレン-酢酸ビニル、ポリエチレン、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、フルオロポリマー; ポリイミド、ナイロン、ポリエステル、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル及びポリエステルが挙げられる。好ましくは、ウェブはポリエチレンテレフタレート(PET)である。
【0086】
基材は、実質的に1種の好適な材料を含んでもよい。
【0087】
代替的には、基材は、2種以上の好適な材料を含んでもよい。このような事例では、材料同士は一緒に混合(ブレンド)されてもよく、各材料の別々のドメインを形成するように組み合わせてもよい。
【0088】
基材は、予備構造化、例えば、ミクロ構造化又はナノ構造化させてもよい。このような事例では、基材は、「パターニングされた」と呼ばれることもある。この先在するパターニングは、堆積物質と基材との相互作用に影響を及ぼすことがある。例えば、基材は、堆積したナノクリスタル懸濁液が基材とより良好に相互作用する、又はより大きな基材の濡れを有することができる領域を呈してもよい。同様に、パターニングは、堆積したナノクリスタル懸濁液が基材とより不良に相互作用する、又はより不良な基材の濡れを有する領域をもたらし、懸濁液がこのような領域を優先的に回避することもある。
【0089】
パターニングの結果として、コレステリックドメインの配向が変化しうる。例えば、配向は、基材の地形に追従することがあり、より広い範囲の角度にわたって、コレステリックドメインからの反射が起こる。これによって、このような先在パターンのない平らな基材を使用した場合よりも複雑な視覚的効果を生じることができる。
【0090】
構造色ナノクリスタルフィルムの形成後、基材をフィルムから分離してもよい。この工程は、剥離する工程と呼ばれることもあり、以下に更に詳細に論じる。
【0091】
いくつかの事例では、基材は、閉ループ様式で複数回、再使用することができる。
【0092】
加えて、いくつかの事例では、基材は金属製等の可動ベルト、例えば耐熱可動ベルトの形態である。
【0093】
ナノクリスタル懸濁液
本発明の方法は、ナノクリスタル懸濁液、例えばセルロースナノクリスタル懸濁液を、基材上に堆積させる工程を含む。
【0094】
セルロースナノクリスタル(CNC)は、当技術分野において周知である。セルロースナノクリスタルを調製するための方法も、当技術分野において周知である。多くのタイプのセルロースナノクリスタルが公知であり、例としては、種々の生物学的供給源から得たセルロースナノクリスタル、及び同供給源から種々の方法で調製したナノクリスタルが挙げられる。
【0095】
この発明に使用されるセルロースナノクリスタルは、任意の好適なセルロースナノクリスタルとすることができる。セルロースナノクリスタルは、自己集合してコレステリック構造となることができる、任意のセルロースナノクリスタルとすることができる。
【0096】
セルロースナノクリスタルは、植物系供給源及びバイオマス供給源、例えば、綿及び木材、並びにこれらから生じ、続いて加工された任意の要素、例えば、紙、濾紙、コットンリンター及び木材パルプを含む、細菌性、植物性及び動物性供給源(例えばキチン)から調製されうる。
【0097】
セルロースナノクリスタルを生成するための供給源材料に対して行う加工手順には、典型的には、加水分解、加水分解化合物の分離及び精製を伴う。分離は、遠心分離を通じて行うことができる。精製は、透析及び膜限外濾過によって行うことができる。セルロースナノクリスタルを生成するための公知の方法は、Lagerwallら(NPG Asia Materials、2014、6、e80)によって記載されており、その内容は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0098】
典型的には、セルロース供給源は、調製プロセスにおいて、例えば、硫酸若しくは塩酸、又は他の酸、又はアルカリ媒体によって加水分解され、或いは、例えばTEMPO-酸化セルロースナノクリスタルの調製の事例では、セルロース供給源は酸化される。好ましくは、ナノクリスタル溶液は、pHが中和されたセルロースナノクリスタルを含む。より好ましくは、ナノクリスタル溶液は、ナトリウム形態のセルロースナノクリスタルを含む。
【0099】
加水分解の間、セルロースナノクリスタルのセルロース鎖骨格が分子レベルで修飾されて、コロイド状安定性をナノクリスタルにもたらすことが提案されている。例えば、硫酸加水分解はセルロース鎖を、硫酸ハーフエステル基で修飾すると考えられる。変化の別の例は、過酸化水素を用いた抽出の間に起こり、セルロース鎖がカルボキシル基で修飾され、カルボキシレートセルロースナノクリスタルを提供すると考えられる。セルロース鎖が荷電基で修飾された結果として、電荷を平衡させるために、いくつかの対イオンを使用することができる。最も一般的には、H+(酸性形態セルロースナノクリスタルを与えるため)及びNa(中和(例えばナトリウム形態)セルロースナノクリスタルを与えるため)。対イオン(例えばH)は、懸濁液中で、例えば、濃厚NaOH又はNaCl溶液を使用することによって交換することができ、完全に又は部分的に中和されたセルロースナノクリスタルを与える。Na+は、懸濁液中で、例えば、濃厚HCl又はHSOを使用することによって、同様に交換することができる。
【0100】
好ましくは、ナノクリスタル懸濁液は、pH中和セルロースナノクリスタル、部分pH中和セルロースナノクリスタル又は酸性形態セルロースナノクリスタルを含む。より好ましくは、ナノクリスタル懸濁液は、ナトリウム形態のセルロースナノクリスタルを含む。
【0101】
本事例では、セルロースナノクリスタル懸濁液の調製は、セルロースナノクリスタル懸濁液の超音波処理を含んでもよい。
【0102】
セルロースナノクリスタルは、典型的には、ロッド形状である。したがって、クリスタルは、幅寸法よりもかなり大きな長さ寸法に延びていることもある。
【0103】
本事例で使用するためのセルロースナノクリスタルは、最大200、最大500、最大1,000、又は最大1,500nmの長さを有しうる。
【0104】
本事例で使用するためのセルロースナノクリスタルは、少なくとも50、少なくとも70、又は少なくとも100nmの長さを有しうる。
【0105】
本事例で使用するためのセルロースナノクリスタルは、最大20、最大30、最大50nmの幅を有しうる。
【0106】
本事例で使用するためのセルロースナノクリスタルは、少なくとも1、少なくとも3、少なくとも5、又は少なくとも10nmの幅を有しうる。
【0107】
セルロースナノクリスタルについてのアスペクト比は、少なくとも5、7、10、15又は20でありうる。
【0108】
セルロースナノクリスタルについてのアスペクト比は、最大40、50、100、150又は200でありうる。
【0109】
セルロースナノクリスタルは、例えば溶媒中の懸濁液として、又は粉末、例えば、噴霧乾燥若しくは凍結乾燥粉末として提供することもできる。このような粉末を再分散させて、本発明に使用するセルロースナノクリスタル懸濁液が提供される。
【0110】
任意の好適な溶媒を使用することができ、例えば、界面活性剤等の添加物の使用があってもなくても、セルロースナノクリスタルが、コロイド状に安定した懸濁液を形成することができる、任意の溶媒を使用することができる。好適な溶媒としては、水、酢酸、アセトン、アセトニトリル、ベンゼン、1-ブタノール、2-ブタノール、2-ブタノン、t-ブチルアルコール、四塩化炭素、クロロベンゼン、クロロホルム、シクロヘキサン、1,2-ジクロロエタン、ジエチレングリコール、ジエチルエーテル、ジグリム(ジエチレングリコール、ジメチルエーテル)、1,2-ジメトキシエタン(グリム、DME)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、1,4-ジオキサン、エタノール、酢酸エチル、エチレングリコール、グリセリン、ヘプタン、ヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)、ヘキサメチルホスホラストリアミド(HMPT)、ヘキサン、メタノール、メチルt-ブチルエーテル(MTBE)、塩化メチレン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ニトロメタン、ペンタン、石油エーテル(リグロイン)、1-プロパノール、2-プロパノール、ピリジン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、トリエチルアミン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン又はイオン液体が挙げられる。
【0111】
好ましくは、溶媒は水である。
【0112】
懸濁液中のセルロースナノクリスタルの濃度の上昇は、懸濁液の異方性の上昇と関係しうる。反対に、溶媒中のセルロースナノクリスタルの濃度の低下は、懸濁液の異方性の低下と関係しうる。例えば、実践例に使用したセルロースナノクリスタル懸濁液は、7質量%前後又はそれを上回ると、水中で完全な異方性を示す(図6)。3.5質量%前後又はそれを下回ると、異方性の完全な消失が見られる。
【0113】
好ましくは、懸濁液中のセルロースナノクリスタルの濃度は、例えばキラルネマティック構造の形態で、少なくともいくらかの異方性を有する混合物を提供するように選択される。本発明者らは、ナノクリスタル混合物、例えば水性懸濁液の使用は、懸濁液が、異方性がない、非常に低い、又は部分的な液晶状態(例えば二相状態)であると、高品質の最適な発色を有するフィルムを提供しないことを見出した。このようなフィルムは、より不良な発色特性の観測をもたらす、不均一性を有することが提案されている。
【0114】
典型的には、ナノクリスタル懸濁液はセルロースナノクリスタル(例えば中和セルロースナノクリスタル)を、最大12質量%、好ましくは最大11質量%、より好ましくは最大10質量%、よりいっそう好ましくは最大9質量%、最も好ましくは最大8質量%の濃度で含む。
【0115】
典型的には、ナノクリスタル懸濁液はセルロースナノクリスタル(例えば中和セルロースナノクリスタル)を、少なくとも1.5質量%、好ましくは少なくとも2質量%、より好ましくは少なくとも3質量%、よりいっそう好ましくは少なくとも4質量%、最も好ましくは少なくとも5質量%の濃度で含む。
【0116】
ナノクリスタル懸濁液は、上限及び下限が上に与えた値から選択される範囲で、セルロースナノクリスタルを含みうる。典型的には、ナノクリスタルは、4~12質量%、好ましくは4~8質量%、より好ましくは6~8質量%から選択される量で、混合物中に存在する。
【0117】
選択される質量%値は、所与のセルロースナノクリスタルの使用から生じる異方性のレベルに依存し、適宜選択することができる。
【0118】
加えて、又は代替的には、使用するナノクリスタルの量は、ナノクリスタル懸濁液の異方性のレベルの観点で表すことができる。
【0119】
ナノクリスタルは、異方性のレベルが少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65又は70%である混合物中に存在しうる。加えて、又は代替的には、ナノクリスタルは、異方性のレベルが最大65、70、75、80、85、90又は95%である混合物中に存在しうる。ナノクリスタルは、混合物が実質的にすべて異方性(実質的に100%異方性)であるところに存在しうる。
【0120】
ナノクリスタルは、上限及び下限が上に与えた値から選択される範囲から選択される異方性のレベルである混合物中に存在しうる。例えば、ナノクリスタルは、異方性のレベルが25~100%から選択される混合物中に存在しうる。
【0121】
堆積工程の前に超音波処理工程が行われる事例では、異方性は、超音波処理前のセルロースナノクリスタル懸濁液の異方性を指す。
【0122】
超音波処理は、懸濁液における異方性のレベルを変更することができる。いくつかの事例では、懸濁液の非異方性部分を廃棄することが好ましい場合がある。
【0123】
セルロースナノクリスタルの自己集合特性、並びに/又はセルロースナノクリスタル、ナノクリスタル懸濁液及び/若しくは構造色フィルムの物理的及び化学的特性を変更するために、他の成分がセルロースナノクリスタルとともに存在してもよく、他の成分をセルロースナノクリスタル懸濁液に加えてもよい。必要な場合、例えば、添加物、特にポリマー、機能性分子及び充填材が含まれてもよく、これらは、レオロジー調整剤、可塑剤、増粘剤又は強化剤として作用して、更なる機能性、例えば可撓性の上昇又は強度を、構造色フィルムにもたらすことができる。好適な添加物の例を下に列挙する。
【0124】
好適な酸としては、有機酸と鉱酸との両方、及び対応する塩形態が挙げられる。好適な有機酸としては、カルボン酸、対応する酸無水物、例えば、非フェノール系有機酸、2,5-フランジカルボン酸、酢酸、アジピン酸、アスコルビン酸、安息香酸、ホウ酸、炭酸、クエン酸、ギ酸、フマル酸、乳酸、イタコン酸、レブリン酸、リンゴ酸、シュウ酸、プロピオン酸、コハク酸、及びフェノール系有機酸、安息香酸、コーヒー酸、フェルラ酸、没食子酸、ゲンチジン酸、パラヒドロキシ安息香酸、パラクマル酸、プロトカテク酸、バニリン酸、サリチル酸、シナピン酸、シリンガ酸、フェノール酸が挙げられる。加えて、尿酸も使用されうる。好適な鉱酸としては、塩酸、クロロ酢酸、臭化水素酸、ブロモ酢酸、塩酸、フッ化水素酸、次亜臭素酸、次亜塩素酸、次亜ヨウ素酸、ヨウ素酸、ヨード酢酸、硝酸、過塩素酸、リン酸、亜リン酸、セレン酸、亜硫酸、硫酸、テルル酸、トリブロモ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸が挙げられる。以下に列挙する塩基に対応する酸形態も使用されうる。酸の混合物も使用されうる。
【0125】
好適な塩基としては、アミン、アミド、アルカリ塩、例えば、酢酸ナトリウム、ナトリウムアミド、3-アミノ-3-メチルペンタン、アンモニアク、アニリン、アゼチジン、ブロモピリジン、ブチルリチウム、カダベリン、2-クロロフェノール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール、コリン、シクロヘキシルアミン、リチウムジエチルアミド、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジメチルアミン、2,4-ジメチルイミダゾール、1,2-ジメチルアミノエタン、1,2-ジメチルピロリジン、エチルアミン、エタンジアミン、エタノールアミン、エタン酸ナトリウム、エタン酸カリウム、水酸化第一鉄及び第二鉄、ヘキサメチレンジアミン、ヘキシルアミン、ヒドラジン、水素化ナトリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、水酸化鉄、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ヒドロキシルアミン、メチルアミン、2-メチル-2-ブタンアミン、3-メチル-1-ブタンアミン、メチルグリシン、1-メチルピペリジン、モノエタノールアミン、n-ブチルアミン、ニトロフェノール、N-メチルピロリジン、N-メチルピリジンアミン、3-ペンタンアミン、ペンチルアミン、ピペリジン、プロピルアミン、1,3-プロパンジアミン、4-ピリジンアミン、ピリジン、ピロリジン、sec-ブチルアミン及びtert-ブチルアミン、並びにトリエチルアミンが挙げられる。以前に列挙した酸に対応するアルカリ形態も使用されうる。塩基の混合物も使用されうる。
【0126】
好適な塩としては、中性塩、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化第一鉄及び第二鉄が挙げられる。ナノクリスタルを懸濁させることができるイオン液体も使用されうる。塩の混合物を使用してもよい。
【0127】
好適なポリマーとしては、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、第四級ポリアミン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸及びそのコポリマー、ポリアクリル酸ナトリウムを含むポリアクリレート、ジシアンジアミド樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルスルホン酸ナトリウム、ポリアミドアミン、カルボキシポリメチレン、ポリビニルメチルエーテル-無水マレイン酸; ポリオール、例えば、ポリエーテルポリオール及びポリエステルポリオール; セルロース誘導体、例えば、セルロースナノファイバ、マイクロフィブリル化セルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースアセテートブチレート、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、セルロース、酢酸セルロース、酪酸酢酸セルロース、セルロースガム、酢酸プロピオン酸セルロース、セルロースアセテートプロピオネートカルボキシレート、コハク酸セルロース、セチルヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、加水分解セルロースガム、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテート/サクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、結晶セルロース、コハク酸セルロースカリウム、セルロース硫酸ナトリウム、ニトロセルロース、酢酸セルロース、レーヨン、再生セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、三酢酸セルロース、ビスコース; 他の多糖、グルコース及び多糖誘導体、例えば、アラビノキシラン、カラギーナン、キチン、キトサン、フコイダン、ガラクトゲン、ガラクトマンナン、グルカン、グリコーゲン、イヌリン、リグニン、マンナン、ペクチン、デンプン並びにキシランが挙げられる。上に列挙した多糖に加えて、硫酸化又は酸化多糖も使用されうる。上に列挙したセルロース誘導体に加えて、ヘミセルロースも使用されうる。ポリマーの混合物を使用してもよい。
【0128】
好適な機能性分子としては、単糖、例えば、アラビノース、デオキシリボース、エリトロース、フルクトース、ガラクトース、グルコース及びソルボース; 糖アルコール及びポリオール、例えば、アラビトール、シクリトール、例えばピニトール、エチレングリコール、エリスリトール、ガラクチトール、グリセロール、イソマルト、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ペンタエリスリトール、ソルビトール及びキシリトール; タンパク質、例えば、コラーゲン(collaged)、ゼラチン及びセリシン; 並びにアミノ酸が挙げられる。小分子としては、染料、例えば、酸染料、塩基染料、直接染料、硫化染料、バット染料、反応性染料及びアゾ色素も挙げられる。加えて、染料は、黒色染料であってもよく、黒色の外観をもたらしてもよい。機能性分子の混合物を使用してもよい。
【0129】
好適な充填材としては、水溶性無機材料及びナノ物質、例えば、ヘクトライト、カオリン、マイカ、モンモリロナイト、ラポナイト、cloisiteを含むクレイ; 炭素材料、例えば、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン、カーボンブラック; 並びに水溶性タンパク質、例えば、アルブミン、ホエイ、植物由来タンパク質及びゼインが挙げられる。機能性充填材の混合物を使用してもよい。
【0130】
加えて、典型的な充填材としては、水溶性無機材料、ミクロ材料及びナノ物質、例えば、ヘクトライト、カオリン、マイカ、鉱物、酸化物、モンモリロナイト、ラポナイト、cloisiteを含むクレイ; 炭素材料、例えば、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン、カーボンブラック; 並びに水溶性タンパク質、例えば、アルブミン、ホエイ、植物由来タンパク質及びゼインが挙げられる。加えて、典型的な充填材としては、有機及び無機顔料、例えば、アルミニウム系、銅系、コバルト系、金系、鉄系、マンガン系、カドミウム系、クロム系、ヒ素系、ビスマス系、クロム系、鉛系、チタン系、バリウム系、スズ系、亜鉛系、セリウム系、水銀系、炭素質、アンチモン系顔料; 蛍光顔料が挙げられる。
【0131】
セルロースナノクリスタルへの、及びセルロースナノクリスタルの調製に使用される化合物への更なる改質は、当技術分野において記載されている。このような改質は、典型的には、セルロースナノクリスタルがキラルネマティック相を形成する能力を維持することを目的としてなされる。
【0132】
エージング
本発明の方法は、エージングする工程を含む。エージングする工程の間、ナノクリスタル懸濁液は、堆積中及び塗り拡げる工程中に失われた任意のコレステリック構造を、部分的に又は完全に回復する。
【0133】
このようにして、得られるフィルムの光学特性を最適化することができる。理論によって束縛されることを望むものではないが、塗り拡げる工程の間の高剪断は、先在するキラルネマティック規則性を破壊し、より不良な光学特性をもたらしうることが提案されている。過剰な剪断速度から生じる、ナノクリスタル懸濁液における任意の異方性の任意の破壊が起こる場合、配列のエネルギー放散は熱力学的に好ましいプロセスであるため、エージング時間を延長することによって、任意の先在するキラルネマティック規則性を、部分的に又は完全に回復することができる。加えて、ナノクリスタル懸濁液が低い粘度を有すると、短い緩和時間で平衡に戻る。以上のように、30分以下の緩和時間を有するナノクリスタル懸濁液が好ましい。
【0134】
典型的には、堆積したナノクリスタル懸濁液は、360分以下にわたってエージングする。好ましくは、ナノクリスタル懸濁液は、120分以下、より好ましくは60分以下、よりいっそう好ましくは45分以下、最も好ましくは30分以下にわたってエージングする。
【0135】
典型的には、堆積したナノクリスタル懸濁液は、1分以上、5分以上にわたってエージングする。好ましくは、ナノクリスタル懸濁液は、10分以上、より好ましくは15分以上、よりいっそう好ましくは20分以上にわたってエージングする。
【0136】
エージングする工程の時間は、上限及び下限が上に与えた値から選択される範囲から選択されうる。例えば、堆積したナノクリスタル懸濁液は、5~120分、好ましくは5~30分にわたってエージングしてもよい。
【0137】
エージングする工程は、任意の更なる加工工程の前に、休止として行われうる。代替的には、エージングする工程は、例えば乾燥時間を延長することによって、乾燥させる工程と同時に行ってもよい。
【0138】
エージングする工程の間、塗布したナノクリスタル懸濁液におけるキラルネマティック規則性の部分的な又は完全な回復は、外部電磁場によって、堆積したナノクリスタル懸濁液全体で又は局所的に、促進することができる。
【0139】
乾燥
本発明の方法は、堆積したナノクリスタル懸濁液を乾燥させて、構造色フィルムを形成するための、乾燥させる工程を含む。
【0140】
乾燥させる工程は、以前に記載したエージングする工程と同時であってもよい。
【0141】
乾燥させる工程は、外部加熱を伴わず、室温で行われることもある。
【0142】
しかしながら、典型的には、乾燥させる工程は高温で行われる。
【0143】
乾燥させる工程は、250℃以下、150℃以下、100℃以下、好ましくは80℃以下、よりいっそう好ましくは70℃以下の温度で行われうる。
【0144】
乾燥させる工程は、10℃以上、20℃以上、30℃以上、好ましくは40℃以上、よりいっそう好ましくは50℃以上の温度で行われうる。
【0145】
乾燥させる工程の温度は、上限及び下限が上に与えた値から選択される範囲から選択されうる。例えば、乾燥させる工程の温度は、10~70℃、例えば60℃前後でありうる。
【0146】
乾燥させる工程の温度は、ナノクリスタル懸濁液に使用する溶媒混合物に基づいて選択されうる。好ましくは、溶媒混合物が沸騰しない、又は沸騰に近くない温度が使用される。
【0147】
このようにして、生成するフィルムは、所望の発色特性を有しうる。溶媒混合物が沸騰している、又は沸騰に近い場合、溶媒の動き及び気泡形成が増加し、キラルネマティック構造が乱れることがあり、最終的な乾燥フィルムに不均一性が生じうることが提案されている。
【0148】
乾燥させる工程は、720分以下、360分以下、120分以下、60分以下、好ましくは45分以下、よりいっそう好ましくは30分以下で、乾燥フィルムが形成されるように行われうる。
【0149】
乾燥させる工程は、10分以上、好ましくは15分以上、よりいっそう好ましくは20分以上で、乾燥フィルムが形成されるように行われうる。
【0150】
乾燥させる工程の時間は、上限及び下限が上に与えた値から選択される範囲から選択されうる。例えば、乾燥させる工程は、10~60分、例えば30分前後で、乾燥フィルムが形成されるように行われうる。
【0151】
乾燥時間と温度との組み合わせは、コーティングギャップ、コーティングの速度及び幅、並びに堆積した懸濁液の厚さに依存する。堆積した懸濁液が厚い場合(すなわちより大きなギャップ)、同じ温度において、堆積した懸濁液が薄い場合(すなわちより小さなギャップ)よりも、長い乾燥時間が観測される。
【0152】
時間が制約された乾燥、例えば、堆積したセルロースナノクリスタル懸濁液の量に対して短い乾燥時間は、得られるフィルムの発色、特にフィルムの反射率に影響を及ぼす。理論によって束縛されることを望むものではないが、加熱中等、時間が制約された蒸発は、より均一でなく、より不規則なフィルムを誘導することが提案されている。文献に記載されている通り、不規則性は、ランダム配向で動力学的に拘束されるようになったキラルネマティックドメイン、及び乾燥時の最適でないドメインの圧縮から生じることがある(例えば、Parker, R. M.ら、Adv. Mater.、30、1704477 (2018)参照)。加熱は、例えば、セルロースナノクリスタル懸濁液を擾乱する温度又は濃度勾配に起因して、セルロースナノクリスタル懸濁液中の溶媒及び化合物のより大幅な流動を生じることも提案されている。概して、このような効果は、反射率ピークが減少し、ピークのレッドシフトを観測できることを意味する(図9参照)。
【0153】
いくつかの事例では、乾燥フィルムは、少なくとも1.0μm、2.0μm、少なくとも3.0μm、少なくとも4.0μm、少なくとも5.0μm、少なくとも6.0μm、少なくとも7.0μm、少なくとも8.0μm、又は少なくとも9.0μmの厚さを有する。
【0154】
いくつかの事例では、乾燥フィルムは、50.0μm以下、30.0以下、20.0以下、17.0以下、15.0以下、12.0μm以下、10.0μm以下の厚さを有する。
【0155】
フィルム厚さは、上限及び下限が上に与えた値から選択される範囲から選択されうる。例えば、フィルム厚さは、1.0~50.0μm、例えば6.0μm~12.0μm、例えば9.0μm前後でありうる。
【0156】
乾燥させる工程は、フィルムの幅の両端間で一様に行われうる。代替的には、乾燥条件を局所的に変化させてもよい(図9)。
【0157】
乾燥は、任意の好適な乾燥機械によって行われる。好適な乾燥機械としては、IR又はUV照射ランプ、熱風乾燥機、オーブン、対流式オーブン、炉、真空オーブン及びホットプレートが挙げられる。異なる機械を使用した乾燥させる工程の組み合わせを、連続的か又は同時かのいずれかで使用してもよい。
【0158】
処理
いくつかの事例では、この方法は、堆積させる工程の前に、基材の少なくとも一部を処理して、基材の物理的及び/又は化学的特性を改質する、処理する工程を更に含む。
【0159】
処理工程は、有益な特性を基材に付与することがあり、例えば、ナノクリスタル懸濁液をより容易により一様に堆積させ、基材の上に塗り拡げることができ、構造色フィルムの光学特性が改善すること、フィルムの収率が上昇することがあり、そのため、対応して、使用した基材の面積当たりの構造色粒子の収率が上昇する。
【0160】
典型的には、処理する工程は、例えばコロナ放電又はプラズマエッチングによって、基材の表面エネルギーを変化させる。好ましくは、処理工程は、基材をコロナ放電又はプラズマエッチングに、より好ましくはコロナ放電に供することを含む。
【0161】
好ましくは、低表面エネルギーを有する基材を処理して、表面エネルギーを上昇させることができる。低表面エネルギー基材としては、ポリビニルアルコール、セロファン、ポリスチレン、アセタール、エチレン-酢酸ビニル、ポリエチレン、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、フルオロポリマー、ポリイミド、ナイロン、ポリエステル、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエステルが挙げられる。
【0162】
低表面エネルギーを有する材料の処理の事例では、基材の表面エネルギーを上昇させることで、ナノクリスタル懸濁液を堆積させる場合の表面張力が低減することが提案されている。処理は、堆積したナノクリスタル懸濁液が、処理した領域で基材を優先的に覆うものである。例えば、基材がPETである場合、コロナ放電による処理は、ウェブの処理領域がより親水性であり、水性懸濁液がこの親水性表面を優先的に覆うことを意味する。
【0163】
このようにして、処理する工程は、特異的で局所的な表面活性化をもたらし、これによって、異なる濡れ特性を有する領域が与えられ、基材の処理部分又は非処理部分のいずれかに対する、懸濁液の堆積を制御できるようになる。
【0164】
いくつかの事例では、この方法は、堆積させる工程の前に、基材の少なくとも一部を処理して、表面エネルギーを低下させる、処理する工程を含んでもよい。表面の化学的性質を改質させることができ、基材の表面エネルギーを低下させることができる好適な方法としては、化学的及び酸化処理、又は例えばサンディング若しくはレーザーアブレーションを通じた、表面粗さの変更が挙げられる。
【0165】
好ましくは、高表面エネルギーを有する基材を処理して、表面エネルギーを低下させることができる。高表面エネルギー材料としては、金属、例えば、銅、アルミニウム、亜鉛、スズ、ステンレス鋼及びこれらの合金、並びにガラスが挙げられる。
【0166】
いくつかの事例では、処理は、基材の表面エネルギーが局所的に変化するように行うことができる。表面エネルギーの局所的なばらつきは、パターンの形態でありうる。
【0167】
典型的には、処理する工程は基材の中央部に行われる。好ましくは、好ましい領域のみに、最も好ましくはウェブ又は基材の中央部のみに処理が適用されるように、処理前にウェブ表面の辺縁を遮蔽してもよい。遮蔽は、典型的には、ナノクリスタル懸濁液の堆積前に除去される。このようにして、堆積した懸濁液は基材の中央部を優先的に覆い、非処理の(すなわち、以前に遮蔽した)辺縁部によって、ウェブから流出するのが防止される。
【0168】
いくつかの事例では、処理工程は初期状態の基材に対して行われる。代替的には、特に基材を閉ループ様式で使用する事例では、基材の先在する表面エネルギー特性を強化するために、処理工程を行ってもよい。
【0169】
処理する工程は、減圧下又は周囲圧力下で、空気中、酸素又はアルゴンリッチ雰囲気において行ってもよい。好ましくは、このような処理は、空気中且つ周囲圧力下で行う。
【0170】
超音波処理
本発明の方法は、堆積させる工程の前に、ナノクリスタル懸濁液を超音波処理する工程を更に含んでもよい。
【0171】
堆積前のナノクリスタル懸濁液の超音波処理、例えば先端超音波処理は、乾燥ナノクリスタルフィルムの最終的な色を変更するため、例えばレッドシフトさせるために使用されうる。超音波処理は、キラルネマティック相のピッチを広げる作用があり、レッドシフトをもたらすことが提案されているが、これについての正確なメカニズムは明確に特定されてはおらず、ナノクリスタルのサイズの低減、及び場合により捕捉されたイオンの放出を伴いうる。
【0172】
供給される超音波処理のエネルギーは、使用する装置、供給される出力及び振幅、並びにセルロースナノクリスタル懸濁液の体積、並びに懸濁液中のナノクリスタルの濃度に依存しうる。好適な超音波処理装置は、当技術分野で公知であり、出力、振幅及び時間は、適宜調節することができる。
【0173】
超音波処理を行う時間の長さは変更することができ、大量の材料の超音波処理の場合、より長い時間を使用してもよい。超音波処理する材料の量に関係なく、試料間の超音波処理を比較する目的上、超音波処理は一般に、質量当たりのジュール(J/g)、例えば、セルロースナノクリスタル懸濁液中のセルロースナノクリスタルの質量当たりのジュール(J/gCNC)において表現する。超音波処理は、1ミリリットルのセルロースナノクリスタル懸濁液当たりの処理の秒数(s/mL)において表現することもできる。両方の単位が使用されるが、入力されたパラメータから直接計算することができるため、秒単位が好ましい場合がある。
【0174】
超音波処理工程は、45s/mL以下、例えば22.5s/mL以下、好ましくは11.2s/mL以下、又はより好ましくは6.7s/mL以下にわたって行われうる。
【0175】
超音波処理工程は、少なくとも0.1s/mL、少なくとも0.5s/mL、少なくとも1s/mL、少なくとも2.2s/mL、少なくとも22.5s/mL、好ましくは少なくとも0.2s/mL、又はより好ましくは少なくとも1s/mLにわたって行われうる。
【0176】
超音波処理工程は、上限及び下限が上に与えた値から選択される範囲から選択された、1ミリリットルの懸濁液当たりの時間にわたって行われうる。例えば、超音波処理工程は、0.1~45s/mL、例えば2.2s/mL前後にわたって行われうる。
【0177】
超音波処理工程はナノクリスタル懸濁液に、200kJ/g以下、100kJ/g以下、好ましくは50kJ/g以下、又はより好ましくは30kJ/g以下のエネルギーを供給しうる。
【0178】
超音波処理工程はナノクリスタル懸濁液に、少なくとも3J/g、少なくとも5kJ/g、少なくとも10kJ/g、少なくとも100kJ/g、好ましくは少なくとも3kJ/g、より好ましくは少なくとも5kJ/gのエネルギーを供給しうる。
【0179】
超音波処理工程はナノクリスタル懸濁液に、上限及び下限が上に与えた値から選択される範囲から選択されたエネルギーを供給しうる。例えば、超音波処理工程はナノクリスタル懸濁液に、1~100kJ/g、例えば10kJ/g前後でありうるエネルギーを供給しうる。
【0180】
超音波処理工程は、2,000秒以下、1,000秒以下、500秒以下、400秒以下、好ましくは300秒以下、より好ましくは200秒以下にわたって行われうる。
【0181】
超音波処理工程は、20秒以上、30秒以上、好ましくは40秒以上、より好ましくは50秒以上にわたって行われうる。
【0182】
超音波処理工程は、上限及び下限が上に与えた値から選択される範囲の継続期間にわたって行われうる。例えば、超音波処理工程は、20~2,000秒、例えば200秒前後にわたって行われうる。
【0183】
超音波処理は、超音波処理されたナノクリスタル懸濁液から調製されるフィルムの色のシフトをもたらす。超音波処理のエネルギーが上昇すると、着色フィルムのレッドシフトが増大する。
【0184】
先行技術における超音波処理は、通常、2質量%前後のナノクリスタルの等方性懸濁液に対して行われる。本事例では、好ましいナノクリスタル懸濁液は、少なくとも4質量%のナノクリスタルを含有し、いくらかの異方性を有する。
【0185】
剥離
本発明の方法は、構造色フィルムを基材から剥離する工程を更に含んでもよい。剥離する工程は、乾燥させる工程の後に行う。好ましくは、剥離するステップは乾燥基材上で行われる。剥離されたフィルムは、異なる基材に移してもよく、自立型フィルムとして使用することもできる。
【0186】
このようにして、連続印刷を可能にするために、剥離する工程の後、例えば、巻き直す代わりに閉ループ様式において基材を再使用することができる。
【0187】
いくつかの事例では、基材は金属製等の可動ベルト、例えば耐熱可動ベルトの形態であってもよい。ベルトという用語は、ここでは、基材の閉ループ形態を指す。
【0188】
いくつかの事例では、構造色フィルムの辺縁は、剥離する工程の後に除去される。
【0189】
分割
本発明の方法は、構造色フィルムを分割して、構造色粒子を生成する工程を更に含んでもよい。分割する工程において、構造色フィルムの寸法を低減して、顔料又は光沢剤として使用できる粒子を提供する。本発明はまた、本発明の方法によって得た、又は得られる構造色粒子を提供する。
【0190】
着色粒子は、フィルムからの色を維持し、光沢剤、例えばマイクロプラスチック光沢剤、並びにエフェクト顔料、例えばマイカ系及びチタニア系エフェクト顔料に類似した外観を有する。市場で入手可能な大部分の光沢剤は、金属系反射性基材の上への染料含有合成ポリマーマトリックスのロールツーロール堆積によって得られ、したがって、生分解性ではない。このようにして、本発明は、生分解性の光沢剤及びフォトニックエフェクト顔料を提供する。
【0191】
分割する工程は、任意の好適な破壊又は裁断機械、例えば、回転ブレードを使用した装置、並びに任意の好適な粉砕機械、例えば、粉砕要素及び高強度の衝撃を使用した装置(例えば、ボールミル等のミル、ラッシャー、微粉機又は凍結粉砕機)を使用して行うことができる。フィルムの寸法を低減して、規定の形状を有する粒子を得るために、ダイカッター又はレーザーカッターも使用されうる。
【0192】
好ましくは、破壊機械が使用される。このような事例では、分割する工程は、破壊する工程と呼ばれることもある。
【0193】
代替的には、粉砕機械が使用される。このような事例では、分割する工程は、粉砕する工程と呼ばれることもある。
【0194】
いくつかの事例では、破壊装置と粉砕装置とが連続的に使用される。このような事例では、破壊する工程は、特定のサイズを有する粒子の生成のための別の粉砕を通じてより小さな粒子に分解することができる、大きな粒子を特定の収率で提供する。
【0195】
分割する工程は、好ましくは、剥離する工程の後に行う。このようにして、分割する工程の間に基材は損傷を受けず、着色粒子中に組み込まれないため、粒子の厚さの一因とならない。
【0196】
理論によって束縛されることを望むものではないが、ナノクリスタルは、ドメイン同士の境界が、コレステリックドメイン内と比較してより規則的でないことが予想されるため、構造色フィルムは、コレステリックドメインの境界で破断することが理解される。しかしながら、破壊及び割れは、高強度の分割の際には、コレステリックドメインを通じて伝播しうる。
【0197】
分割後、構造色フィルムの光学特性は保持される(図4)。
【0198】
構造色粒子は、所望の直径又は表面積の粒子を得るために、サイズによって選別してもよい。サイズ選別は、例えば、超遠心分離ミルを用いて分割を行う場合、破壊及び/又は粉砕する工程中に行うことができる。サイズ選別は、例えばふるい分けによって、破壊及び/又は粉砕する工程後に行うことができる。大きなサイズを有する粒子(例えば、大きなメジアン平均直径又は平均表面積)は、小さなサイズを有する粒子と比較して、改善した光学特性を有する(図4)。すなわち、大きなサイズを有する粒子は、より狭い及び/又はより高い反射ピークを有する。
【0199】
構造色粒子は、光を反射し、可視色、赤外色及び紫外色を含む構造色を提供する能力に起因して、エフェクト顔料、例えば、干渉顔料、金属顔料及び真珠箔顔料、並びに光沢剤としての使用に好適である。
【0200】
構造色粒子は、意図する使用に応じて、このような顔料及び光沢剤として使用してもよく、溶媒又は他の配合物に分散させてもよい。例えば、粒子は、化粧品、食品、包装又は塗料に使用されうる。好ましくは、選択された用途についての溶媒は、水、グリセロール、エタノール又はこれらの混合物である。これらの成分と油との混合物を使用してもよく、このような混合物がまた、界面活性剤を含有してもよい。
【0201】
アニーリング
本発明の方法は、構造色フィルム又は構造色粒子をアニーリングする工程を更に含んでもよい。典型的には、アニーリング工程は構造色フィルムに対して行われる。ここで、アニーリングする工程は、乾燥させる工程の後、且つ存在する場合、分割する工程の前に行われる。
【0202】
アニーリングする工程とは、構造色フィルムを加熱する工程を指す。理論によって束縛されることを望むものではないが、アニーリングは、しっかりと結合した水分子を除去し、セルロースナノクリスタルの表面を被覆する硫酸ハーフエステル基の不安定化を促進し、そのため、反応性となることが提案されている。水の除去及び脱硫酸化は、隣接するナノクリスタル同士の間の新たな分子結合の形成を促進することが提案されている。結果として、水分子は、鎖と相互作用せず、ナノ構造に浸透しない傾向となり、水中での粒子の膨潤及び崩壊の発生が妨げられる。
【0203】
アニーリングする工程は、酸化、重合、及びセルロースナノクリスタルと、乾燥させる工程後のフィルムに残存する任意の追加の化合物又は添加物との間の架橋をもたらすことがある。
【0204】
アニーリングする工程は、加熱すること、酸化すること、重合すること、セルロースナノクリスタルと、フィルムに残存する任意の追加の化合物又は添加物との間で架橋すること、並びにしっかりと結合した水分子を除去すること、及びセルロースナノクリスタルの表面を被覆する硫酸ハーフエステル基を不安定化することができる、任意の好適な機械によって行われる。好適な乾燥機械としては、IR又はUV照射ランプ、炉、熱風乾燥機、オーブン、対流式オーブン、真空オーブン及びホットプレートが挙げられる。異なる機械を使用した乾燥させる工程の組み合わせを、連続的か又は同時かのいずれかで使用してもよい。
【0205】
アニーリングする工程の温度は、250℃以下、230℃以下、好ましくは220℃以下、より好ましくは190℃以下でありうる。
【0206】
アニーリングする工程の温度は、100℃以上、110℃以上、好ましくは140℃以上、より好ましくは170℃以上でありうる。
【0207】
アニーリングする工程の温度は、上限及び下限が上に与えた値から選択される範囲から選択されうる。例えば、アニーリングする工程の温度は、100~250℃、好ましくは140~220℃でありうる。
【0208】
アニーリングする工程は、120分以下、60分以下、好ましくは40分以下、より好ましくは30分以下にわたって行われうる。
【0209】
アニーリングする工程は、2分以上、5分以上、10分以上、好ましくは15分以上、より好ましくは20分以上にわたって行われうる。
【0210】
アニーリングする工程は、上限及び下限が上に与えた値から選択される範囲から選択される時間にわたって行われうる。例えば、アニーリングする工程は、10分~120分、好ましくは20分~40分、例えば30分前後にわたって行われうる。
【0211】
アニーリングする工程は、アニーリングされたフィルムから調製される構造色粒子を、様々な溶媒、特に水性溶媒に入れた場合に、「色彩堅牢性」にする効果を有する。「色彩堅牢性」という用語は、ここでは、粒子が、溶液に懸濁させた場合、又はポリマー等のマトリックス中に埋設された場合に、いくらかの色を維持する能力を指す。したがって、アニーリングする工程は、ナノクリスタルの物理的及び/又は化学的特性を改質することによって、構造色フィルム又は構造色粒子を膨潤又は崩壊させる等のプロセスを、低減及び/又は抑止する。
【0212】
アニーリングする工程は、後続の分割する工程の間に、例えば物理的摩耗を通じて、フィルム表面が劣化することを妨げることも提案されており、図4は、アニーリング及び粉砕したフィルムから生成した粒子の、走査型電子顕微鏡(SEM)法の上面図及び断面図を示している。これらのSEM画像は、粒子表面もコレステリック構造も有意に損傷していないことを示しており、分割する工程の間に、フィルム構造が望ましくない劣化をしていないことを示唆している。この劣化がないことは、粒子が由来するフィルムに類似した粒子の光学性能によって、更に支持される。加えて、粒子は独特の辺縁が鋭いファセットを有し、これらの複数のファセットは、フィルム内の欠陥に沿って、非常にありそうなことには隣接するキラルネマティックドメイン同士の間で、フィルムが優先的に破断することを示唆する。
【0213】
好ましくは、アニーリングする工程が行われる場合、ナノクリスタルは、セルロースナノクリスタル、例えばナトリウム形態のセルロースナノクリスタルである。
【0214】
このようにして、アニーリングするプロセスは、アニーリングされたフィルム、及びフィルムから結果として生成する任意の粒子に、改善した光学特性をもたらす。セルロースナノクリスタルにおけるNa対イオンは、H対イオンの事例ほどには、加熱時に硫酸ハーフエステルの不安定化を触媒しないことが提案されている。硫酸ハーフエステルの過剰な不安定化は、フィルムの強い暗色化の形態で、H+対イオンの事例に典型的に観測されるように、セルロースナノクリスタル構造の光学品質を低減することが提案されている。
【0215】
加えて、図7が示す通り、アニーリングする工程はフィルムの透過率を減少させることがあり、そのため、フィルムの不透明度が上昇することがある。不透明度の上昇は、フィルム及び粒子の色のコントラストを改善しうる。以上のように、加熱処理工程の温度及び継続期間を注意深く制御することによって、粒子の透過率の減少及び暗色化の程度を、更に制御することができる。
【0216】
アニーリングする工程は、非処理フィルムと比較して、フィルムの透過率を少なくとも1%、少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%減少させうる。
【0217】
アニーリングする工程は、非処理フィルムと比較して、フィルムの透過率を90%以下、好ましくは75%以下、減少させうる。
【0218】
アニーリングする工程のパラメータは、非処理フィルムと比較したフィルムの透過率の減少が、上限及び下限が上に与えた値から選択される範囲内に入るように取り込まれうる。例えば、フィルムの透過率の減少は、33%でありうる。
【0219】
フィルムの透過率は、標準的な技法を使用して決定することができる。例えば、明視野画像構成に使用される、分光計と連結した光学顕微鏡を使用すること。透過率値は、全光線透過率に対して測定される。バックグラウンドノイズは減算される。反射率値は、可視光範囲(300nm~800nm)で測定される。典型的には、光線が試料の表面に対して垂直に進み、直角の入射角における反射が測定されると考えることができるように、顕微鏡のステージに試料を平らに載せ、光は、対物レンズの円錐内(開口数)で集められる(極大反射率)。典型的には、反射率値は空気中で測定される。
【0220】
アニーリングする工程の結果として、フィルム及び粒子は、1年超にわたって水及び他の溶媒に入れた場合に、崩壊することなく完全性を保持することができ(図16)、水性溶媒において、構造色フィルム及び構造色粒子の色の限定的なレッドシフトのみが観測されうる。
【0221】
コレステリック構造及び構造色
更なる態様では、本発明は、ナノクリスタル、好ましくはセルロースナノクリスタルを含む、構造色フィルム及び構造色粒子を提供する。典型的には、構造色フィルム又は構造色粒子は、中和セルロースナノクリスタル、例えばナトリウム形態のセルロースナノクリスタルから構成される。
【0222】
本発明の構造色フィルム又は構造色粒子はコレステリック構造を有し、これはキラルネマティック規則性と呼ばれることもある。したがって、フィルムは、非螺旋状キラルネマティックではない自己集合構造を有する。
【0223】
フィルム又は粒子中のナノクリスタルは、ヘリコイド状集合である。ヘリコイド状集合は、フィルム又は粒子中に規定のピッチを有する。
【0224】
コレステリックピッチpは、最大2.0、最大3.0、最大4.0、最大5.0、最大6.0、最大7.0、最大8.0、最大9.0又は最大10μmでありうる。
【0225】
コレステリックピッチpは、少なくとも0.05、少なくとも0.1、少なくとも0.2、少なくとも0.4、少なくとも0.5、少なくとも0.6、少なくとも0.7、少なくとも0.8、少なくとも0.9、少なくとも1.0、又は少なくとも2.0μmでありうる。
【0226】
コレステリックピッチpは、上に与えた上限及び下限から選択される範囲内でありうる。例えば、コレステリックピッチpは、0.05~10μm、例えば0.4~4.0μm、例えば0.4~2.0μmの範囲内でありうる。
【0227】
コレステリックピッチpは、可視光範囲の構造色を有するフィルム又は粒子と関係しうる。
【0228】
コレステリックピッチは、ナノクリスタル懸濁液の調製中、適当な条件の選択によって制御することができる。例えば、フィルム形成の前に、ナノクリスタル懸濁液を超音波処理することによって、コレステリックピッチを増大することができる(図3)。同様に、フィルムをアニーリングする工程は、水分子の除去の結果として、コレステリックピッチの小幅な圧縮をもたらしうる(図7)。コレステリックピッチは、堆積の前に、ナノクリスタル懸濁液の特性を調節することによって変更することもできる。
【0229】
コレステリックピッチは、例えば、乾燥粒子において、ナノクリスタルのヘリコイド状集合がBouligandアーチの形態で視認される、粒子のSEM画像から測定することができ、その周期性を測定することができる。
【0230】
本発明のフィルム及び粒子は、構造色を有する。したがって、コレステリック規則性は、スペクトルの可視、赤外又は紫外領域において、入射電磁放射のBragg反射を可能にする。反射される波長はBraggの法則:λ = n×p×cosθ[式中、nは平均屈折率を記載し、pはヘリコイドのピッチであり、θはコレステリック構造の配向子mに対する入射光の角度である]に従う。
【0231】
観測される(反射される)色は、紫外色、可視色又は赤外色であることもあり、好ましくは可視色である。可視色とは、約400~約800nmの範囲内の波長を有する色を指す。赤外色とは、約700nm~約1mm、最も一般的には約700nm~約5μmの範囲内の波長を有する色を指す。紫外色とは、約100nm~約400nm、一般に約200nm~約400nm、例えば約300nm~約400nmの範囲内の波長を有する色を指す。
【0232】
フィルム又は粒子の色は、標準的な技法を使用して、例えば、ポラライザーを伴う又は伴わない明視野画像構成に使用される、分光計と連結した光学顕微鏡を使用して測定することができる。反射率値は、鏡、典型的には銀鏡の反射率(極大反射率)に対して測定され、試料の正規化反射率を得るために使用される。バックグラウンドノイズは減算される。反射率値は、可視光範囲(300nm~800nm)で測定される。典型的には、光線が試料の表面に対して垂直に進み、直角の入射角における反射が測定されると考えることができるように、顕微鏡のステージに試料を平らに載せ、光は、対物レンズの円錐内(開口数)で集められる(極大反射率)。典型的には、反射率値は空気中で測定される。
【0233】
フィルム
更なる態様では、本発明は、ナノクリスタル、好ましくはセルロースナノクリスタルを含む、又はこれらからなる構造色フィルムを提供する。フィルム中のナノクリスタルは、キラルネマティック相である。典型的には、構造色フィルムは、中和セルロースナノクリスタル、例えばナトリウム形態のセルロースナノクリスタルから構成される。
【0234】
構造色フィルムは、上記の方法によって生成されうる。したがって、本発明は、本発明の方法によって得た、又は得られる構造色フィルムを提供する。
【0235】
好ましくは、フィルムは、フィルム内の1つのキラルネマティック構造の配向子が完全な回転を行うのに、より好ましくは、完全な4回転を行うのに十分に大きな厚さ(例えば乾燥厚さ)を有し、このことは、優れた光学特性をフィルムに付与する。したがって、構造色フィルムは、1.0μm~50μm、好ましくは2.0μm~20μm、より好ましくは6.0~12.0μm、例えば9.0μm前後の厚さを有する。
【0236】
フィルム又は粒子の厚さは、標準的な技法を使用して、例えばSEMを使用してフィルムの断面の厚さを測定することで、測定することができる。
【0237】
フィルムにおける非常に規則的なキラルネマティック構造は、非常に反射性であり、非常に鮮やかな色を高強度で反射する。
【0238】
構造色フィルムは、可視範囲内の所与の波長において、入射光の50%以下を反射する(300nm~800nm:図3図19)。好ましくは、フィルムは、入射光の30%以上、より好ましくは40%以上、よりいっそう好ましくは45%以上、最も好ましくは49%以上を反射する。
【0239】
フィルムの反射率は、標準的な技法、例えば分光計と連結した光学顕微鏡を使用して、測定することができる。反射率値は、鏡、典型的には銀鏡の反射率(極大反射率)に対して測定され、試料の正規化反射率を得るために使用される。バックグラウンドノイズは減算される。反射率値は、可視光範囲(300nm~800nm)で測定される。典型的には、光線が試料の表面に対して垂直に進み、直角の入射角における反射が測定されると考えることができるように、顕微鏡のステージに試料を平らに載せ、光は、対物レンズの円錐内(開口数)で集められる(極大反射率)。典型的には、反射率値は空気中で測定される。
【0240】
フィルムは、異なる波長の光を異なる反射率で反射することもある(バンドギャップ)。
【0241】
500nmでは、フィルムは、典型的には70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは99%以上の反射率を呈する(図3)。
【0242】
600nmでは、フィルムは、典型的には65%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは85%以上、最も好ましくは95%以上の反射率を呈する(図3)。
【0243】
700nmでは、フィルムは、典型的には60%以上、好ましくは70%以上、好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上の反射率を呈する(図3)。
【0244】
高い絶対反射率値に加えて、構造色フィルムによって反射される光は、非常に鮮やかでもある。したがって、キラルネマティック構造は、所与の波長範囲の光を選択的に反射する。したがって、材料の反射率スペクトルは、鋭いピークを有する。
【0245】
反射光の半値全幅は、典型的には150nm以下、100nm以下、好ましくは75nm以下、より好ましくは50nm以下である(図3)。
【0246】
400nm~550nmの範囲では、フィルムは、典型的には、50nm以下の半値全幅を呈する(図3)。
【0247】
450nm~800nmの範囲では、フィルムは、典型的には、100nm以下の半値全幅を呈する(図3)。
【0248】
高い反射率を有する構造色フィルムの例は、図5に示されており、CIEプロットは、このようなフィルムからの色の全域の広がりを示す。
【0249】
反射した構造色は真珠光沢であり、そのため、角度に依存する。真珠光沢のレベルは、フィルム中のキラルネマティック構造の不規則性の程度を通じて制御することができる。
【0250】
キラルネマティック構造を形成する構造色フィルムの辺縁は、「コーヒーステイン」効果を生じる傾向があり、これによって、辺縁では、辺縁を離れたところよりも均一ではなくなり、より最適な視覚的外観ではなくなる。フィルムのこれらの部分は、乾燥させる工程の完了後に除去して、光学特性を更に改善することができる。
【0251】
いくつかの事例では、構造色フィルムは、例えばアニーリングによって処理されており、硫酸基及びしっかりと結合した水分子が除去されている。
【0252】
硫酸ハーフエステル基は、例えば硫酸加水分解によって、一般にセルロースナノクリスタルの抽出の間にグラフトされる。硫酸ハーフエステル基は、典型的には、繰り返しグルコース単位のC6位に位置する。除去される硫酸ハーフエステル基の量は、加熱処理を行うために使用する温度及び条件、並びにナノクリスタル表面を被覆する硫酸ハーフエステル基の含有量に依存する。
【0253】
典型的には、硫酸エステル含有量の減少は、15%以上、30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、よりいっそう好ましくは90%以上、最も好ましくは98%以上である。
【0254】
このようにして、フィルムは、溶媒中、例えば水中に入れられた場合であっても、崩壊することなく色を維持する。短い又は低温のアニーリングの結果としての、硫酸エステル含有量の小幅な減少は、水中及び他の水系溶液中での低い/短い安定性に結びついている。
【0255】
粒子
別の態様では、本発明は、ナノクリスタル、好ましくはセルロースナノクリスタルを含む、又はこれらからなる構造色粒子を提供する。粒子中のナノクリスタルは、キラルネマティック相である。典型的には、構造色粒子は、セルロースナノクリスタル、例えば、中和又はナトリウム形態のセルロースナノクリスタルを含む。
【0256】
構造色粒子は、上記の方法、例えば、上記の構造色フィルムを分割することによって、生成することができる。したがって、本発明は、本発明の方法によって得た、又は得られる構造色粒子を提供する。
【0257】
フィルムを粒子に加工する工程は、ナノクリスタルのキラルネマティック構造を、有意に変化させることなく保存する。上の方法によって生成する粒子は、高強度及び鮮やかさ等の並外れた光学品質を有する。
【0258】
一般に、構造色粒子は、5000μm以下、1000μm以下、500μm以下、好ましくは300μm以下のメジアン平均粒子直径を有する。
【0259】
一般に、構造色粒子は、2μm以上、5μm以上、好ましくは15μm以上、より好ましくは25μm以上のメジアン平均粒子直径を有する。
【0260】
一般に、構造色粒子のメジアン平均粒子直径は、上限及び下限が上に与えた値から選択される範囲から選択されうる。例えば、構造色粒子のメジアン平均粒子直径は、15μm~300μm、好ましくは25μm~300μmでありうる。
【0261】
一実施形態では、構造色粒子は、14μm~127μm、好ましくは28μm~113μm、より好ましくは35μm~106μmのメジアン平均粒子直径を有する。
【0262】
別の実施形態では、構造色粒子は、84μm~254μm、好ましくは99μm~226μm、より好ましくは106μm~212μmのメジアン平均粒子直径を有する。
【0263】
構造色粒子のメジアン平均粒子直径は、上限及び下限が上に与えた値から選択される範囲から選択されうる。例えば、構造色粒子のメジアン平均粒子直径は、170μm~495μm、好ましくは198μm~453μm、より好ましくは212μm~424μmでありうる。
【0264】
構造色粒子のサイズは、標準的な技法を使用して決定することができる。例えば、構造色粒子のメジアン平均粒子直径は、SEM又は光学顕微鏡法によって測定することができる。好ましくは、各粒子の表面積を測定し、次いで、同じ表面積を有する球状粒子の直径を計算して、直径を取得する。この直径を粒子の直径として記録し、測定したすべての粒子のメジアン平均を、個々の粒子直径から計算する。
【0265】
構造色粒子は、典型的には、78,500,000μm以下の平均表面積を有する。好ましくは、構造色粒子は、3,140,000μm以下、より好ましくは785,000μm以下、よりいっそう好ましくは282,000μm以下、最も好ましくは100,000μm以下の平均表面積を有する。
【0266】
構造色粒子は、典型的には、80μm以上の平均表面積を有する。好ましくは、構造色粒子は、700μm以上、より好ましくは1,960μm以上、よりいっそう好ましくは4,000μm以上、最も好ましくは6,000μm以上の平均表面積を有する。
【0267】
構造色粒子の平均表面積は、上限及び下限が上に与えた値から選択される範囲から選択されうる。例えば、着色粒子の平均表面積は、4,000μm~100,000μm、好ましくは6,000μm~40,000μmでありうる。
【0268】
構造色粒子の平均表面積は、SEM又は光学顕微鏡法によって測定することができる。好ましくは、各粒子の表面積を測定し、すべての粒子の算術平均(mean average)を計算して、平均表面積を得る。
【0269】
いくつかの事例では、構造色粒子は、岩状形状を有する(図4)。いくつかの事例では、構造色粒子は、キラルネマティック相が現れたファセットを有しうる。
【0270】
典型的には、粒子は、自己集合したコレステリックドメインの核形成及び成長から発生する、少なくとも4つの区別可能なファセットを有する。粒子は、1つ又は複数のコレステリックドメイン、好ましくは1つのコレステリックドメインを含みうる。
【0271】
粒子中の非常に規則的なキラルネマティック構造は、高い反射性をもたらす。これは、WO2018/033584に記載されている粒子とははっきりと対照的であり、図17viiiにおける本研究に対して隣に並べた比較によって実証される。
【0272】
構造色粒子は、可視範囲内の所与の波長において、入射光の25%以上を反射する(300nm~700nm; 図4図14)。好ましくは、粒子は、入射光の30%以上、より好ましくは35%以上、よりいっそう好ましくは40%以上を反射する。
【0273】
粒子の反射率は、標準的な技法を使用して、例えば、ポラライザーを伴う又は伴わない明視野画像構成に使用される、分光計と連結した光学顕微鏡を使用して測定することができる。反射率値は、鏡、典型的には銀鏡の反射率(極大反射率)に対して測定され、試料の正規化反射率を得るために使用される。バックグラウンドノイズは減算される。反射率値は、可視光範囲(300nm~800nm)で測定される。典型的には、光線が試料の表面に対して垂直に進み、直角の入射角における反射が測定されると考えることができるように、顕微鏡のステージに試料を平らに載せ、光は、対物レンズの円錐内(開口数)で集められる(極大反射率)。典型的には、反射率値は空気中で測定される。
【0274】
粒子は、異なる波長の光を異なる反射率で反射することもある。
【0275】
500nmでは、粒子は、典型的には入射光の30%以上、より好ましくは35%以上、よりいっそう好ましくは40%以上の反射率を呈する(図4)。
【0276】
分割後、構造色フィルムの光学特性は一般に、粒子において保持され、観測される(図4)。しかしながら、分解する工程の間に、構造色フィルムがミクロンサイズの物体に分裂する点まで、構造色フィルムの寸法が減少するにつれて、粒子の界面で光がより散乱し、このことは、空気中で、構造色フィルムよりも白色の外観を、構造色粒子にもたらす。しかしながら、散乱は、粒子からの構造色に重なるため、キラルネマティック構造由来の光学的反応は、最も小さな粒子の場合であっても、依然として測定することができる。実際に、図13に示されるように、屈折率が一致する媒体中、例えばポリマー樹脂中に、構造色粒子がひとたび埋設されれば、粒子の界面における散乱が抑制されるため、色が得られる。
【0277】
反射光の半値全幅は、典型的には150nm以下、好ましくは125nm以下である(図4)。
【0278】
400nm~650nmの範囲では、フィルムは、典型的には150nm以下、好ましくは125nm以下の半値全幅を呈する(図4)。
【0279】
高い反射率を有する構造色粒子の例を、図4に示す。
【0280】
反射した構造色は真珠光沢であり、そのため、角度に依存する(図12)。真珠光沢のレベルは、粒子中のキラルネマティック構造の不規則性の程度を通じて制御することができる。
【0281】
重要なことに、溶液中又はマトリックス中、例えばポリマーマトリックス中に入れた場合に、構造色粒子は発色を維持する(図12)。
【0282】
溶液中又はマトリックス中での粒子の色は、空気中での色と同一であることもある。これは、例えば、エタノール等の乾燥溶媒に浸漬させた事例である(図4)。
【0283】
構造色粒子の色は、粒子が入っている媒体に応じて変化しうる(図11)。
【0284】
この色変化のばらつきは、異なる媒体中では膨潤の量が異なることに起因することが提案されており、膨潤の量は、水の事例では大きいことがあり、媒体のイオン強度に比例することがある。
【0285】
例えば、空気中の緑色粒子から出発して、水とエタノールとの混合物中での膨潤によって、一部の粒子は赤色に見え、他の粒子は赤外線を反射する。
【0286】
水等の液体溶媒の事例では、膨潤は可逆的であり、構造色粒子の色は、乾燥によって当初の色(すなわち、空気単体中での色)に戻すことができる。
【0287】
粒子の膨潤は瞬時に、少なくとも2nm、少なくとも5nm、少なくとも10nm、又は少なくとも50nmの反射光のレッドシフトをもたらしうる。
【0288】
粒子の膨潤は瞬時に、最大100nm、最大150nm、最大175nm、又は最大200nmの反射光のレッドシフトをもたらしうる。
【0289】
粒子の膨潤は瞬時に、上に与えた上限及び下限から選択される反射光のレッドシフトをもたらしうる。例えば、粒子の波長シフトは、2~150nm、例えば10nm~100nmの範囲内でありうる。
【0290】
膨潤は有限であり、長期間にわたるナノクリスタルの再分散をもたらさない。典型的には、粒子は水への浸漬状態で、30分以上にわたって安定である。好ましくは、粒子は水への浸漬状態で、1時間以上、より好ましくは2時間以上、よりいっそう好ましくは4時間以上、最も好ましくは8時間以上にわたって安定である。
【0291】
粒子の安定性は、粒子の質量保持を検討することによって、評価することもできる。典型的には、水中に、例えば1時間以上にわたって浸漬した後、粒子は完全性を保持し、質量の15%未満、好ましくは10%未満、よりいっそう好ましくは質量の5%未満を失う。
【0292】
粒子の安定性は、水への浸漬状態の粒子の反射率を検討することによって、評価することもできる。典型的には、粒子は、空気中での反射率と同等の反射率を有し、上に論じた通り、反射ピークがレッドシフトしうるという違いがある。
【0293】
使用及び用途
本発明のフィルム又は粒子は、公知の着色剤、例えば、染料、顔料及び光沢剤を置き換えるために、多様な種々の方法に使用されうる(図17)。
【0294】
分解する工程の前のフィルムは、所与の形状を有する要素、例えば、そのままで適用すること、若しくは積層させることができるストリップを得るために、並びに例えば、食品安全用途のための水分センサとして、織物繊維として、及び安全性ラベリングに使用するために、特定のサイズに切断してもよい。したがって、本発明は、本発明の構造色フィルム又は構造色粒子を含む、偽造対策用途又は水分センサ等のための安全性ラベルを提供する。
【0295】
粒子は、可視色、赤外色及び紫外色を含む、構造色を提供する能力のため、顔料としての使用に特に好適である。以下の例は網羅的なものではなく、粒子を使用するいくつかの可能な方法に光を当てているに過ぎない。
【0296】
粒子は、皮膚に塗布するための化粧用粉末、例えば、限定するものではないが、頬紅、ボディパウダー、ブロンジングパウダー、アイシャドウ、フェイスパウダー、リップパウダー、粉末メイクアップ、並びに例えば流体、油又はワックスベース系の中に粒子が配合された他の化粧品、例えば、限定するものではないが、ブロンジング製品、アイペンシル、アイライナー、フェイスメイクアップ、顔面用ファンデーション、毛髪用ジェル、毛髪用ペースト、毛髪用スプレー、リップグロス、口紅、マスカラ、爪用ワニス(図20D参照)、ボディウォッシュ、シャンプー、シャワージェル、スキンクリーム、サンクリーム及びタンニング製品等の化粧品に使用してもよい。したがって、本発明は、本発明の構造色粒子を含む化粧品を提供する。
【0297】
粒子は、インクに、塗料に、コーティングに、包装に、音響装置に、加熱及び波長管理用途、例えば放射冷却のために、電気泳動ディスプレイ及び装置に、季節製品に、装飾的使用のために、衣服用に使用してもよい。化粧料における用途に関しては、これらの用途には、粒子をホスト配合物に加えることを要しうる。
【0298】
粒子は、追加の機能性をもたらし、ホスト配合物の非光学的特性、例えば、ホスト配合物のレオロジー、テクスチャ又は機械的特性、熱、音響及びエネルギー伝達能力、電気化学的、電磁的又は電気泳動的特性を変化させる。例えば、粒子は、化粧品用途においてホスト配合物に着色効果を提供することがあり、洗浄用組成物及び化粧用組成物を含む消費者製品及びヘルスケア製品において、充填材、増粘剤又は剥落微粒子として作用する。
【0299】
食品及び飲料添加物として、粒子は着色剤であってもよく、ホスト配合物は、食品又は飲料の調製に使用するための摂取可能な成分を更に含んでもよい。加えて、粒子は、飲み物(図16E)又はチョコレート等の糖菓(図20C)に使用してもよい。
【0300】
装飾、包装及び安全用途の場合、粒子及びホスト配合物を、紙、ポリマー、厚紙、成形繊維、スタンプ及びラベル、単板、什器及びリグニン含有材料の上に塗布することができる。加えて、粒子及びホスト配合物は、木材(図20E)、金属セラミック、ガラス、衣類、布(図20B)の上に塗布することができる。粒子及びホスト配合物を有する基材は、物品、例えば、スタンプ、ラベル又は箔の一部又は全体を被覆するように適用することができる。衣類の場合、粒子をシークインとして使用することができる。加えて、粒子を紙吹雪として使用してもよい(図20A)。粒子は、所望の用途のための基材に、噴霧しても、縫い付けても、貼り付けてもよい。
【0301】
ホスト配合物は、好ましくは透明であるが、より複雑な着色効果を生じるために、本発明の粒子の添加とともに、他の着色剤、例えば、染料又は顔料を含有してもよい。
【0302】
ホスト配合物は、粒子を所定位置に保つのに十分に粘性であってもよく、粒子が自由に動くのに十分に低い粘性を有してもよい。低粘度液体(図12-A)の事例では、媒体中の粒子の配向のランダムな変化から、光沢のある外観が生じ、「煌めき」効果を得るために、試料を異なる視角から観察する必要がない。粘性のホスト配合物(図12-C)の事例では、粒子は、異なる角度で観察した場合に、ホスト懸濁液に光沢のある外観を与えうる。更に、見掛けの真珠光沢は、照明条件に依存する(図12-E)。
【0303】
粒子のサイズ及びサイズ分布、並びに使用する粒子の量、及びホスト媒体中での配向は、ホスト配合物中に粒子を組み込むことから生じる、総体的な視覚的外観を決定する。
【0304】
しかしながら、図13に示される通り、粘性のホスト配合物中に埋設した、ある特定のサイズを下回る粒子は、総体的に、ある特定のサイズを上回る粒子よりも角度に依存しない光学的反応を、粒子が入っている透明コーティングに与える。ある特定のサイズを下回る粒子の場合、粒子を含有するホスト配合物の巨視的な視覚的応答は、複数のランダムに配向した粒子について平均され、より均一且つ連続的な視覚的外観をもたらす。図14は、透明ポリマー樹脂中に埋設された、いくつかの小さな分散粒子の散乱応答が、平らで連続したセルロースナノクリスタルフィルムの応答と同様であることを示している。
【0305】
粒子は、意図する使用に応じて、溶媒又は他の配合物に分散させてもよい。溶媒は、2-プロパノール、1,2-ジクロロエタン、1,4-ジオキサン、18-クラウン-6,2-プロパノール、2-エトキシエタノール、酢酸、アセトン、アセトニトリル、アンモニア、ベンゼン、n-ブタノール、酢酸n-ブチル、クロロホルム、シクロヘキサン、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、ジグリム、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、DME、エタン、エタノール、酢酸エチル、エチレン、エチレングリコール、ギ酸、グリセリン、ヘプタン、ヘキサン、ヘキサメチルベンゼン、HMDSO、HMPA、水素、イミダゾール、イソブタノール、イソプロピルアルコール、メタン、メタノール、n-ヘキサン、ニトロメタン、n-ペンタン、プロパン、プロピレン、炭酸プロピレン、ピリジン、ピロール、ピロリジン、シリコーングリス、tert-ブチルアルコール、テトラヒドロフラン、トルエン、トリエチルアミン、水、ホワイトスピリット及びキシレン、又はこれらの混合物であってもよい。
【0306】
好ましくは、溶媒は、水系の溶液又は配合物である。
【0307】
配合物はまた、意図する用途及び使用に好適な、エマルション、例えば、油中水型エマルション、水中油型エマルション、ダブルエマルション、例えば、水中油中水型エマルション若しくは油中水中油型エマルション、ゲル、ラテックス、樹脂又は粘弾性ポリマーマトリックス、又はいくつかの材料が関与する別のタイプの先進配合物、例えば、皮膚軟化剤、油、ポリマー、界面活性剤及びワックスであってもよい。
【0308】
好適な皮膚軟化剤としては、乳酸アンモニウム、ペトロラタム、サリチル酸、尿素が挙げられる。
【0309】
好適なポリマーとしては、アクリレーツ/ステアレス-20メタクリレートコポリマー、芳香族ポリマー(例えば、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスチレン)、Carbopol(登録商標)、ジメチルヒダントイン-ホルムアルデヒド、水素化ポリマー、水素化ポリデセン、ケラチン、パラ-アラミド、ポロキサマー、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアミノ酸、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン12)、ポリエーテル、ポリオレフィン(例えば、限定するものではないが、ポリエチレン、ポリイソプレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリエチレングリコール)、ポリペプチド、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレートクロスポリマー、ポリメチルシルセスキオキサン、ポリクオタニウム、シリコーン、絹フィブロイン、絹セルシン、ウルバン(ulvan)、酢酸ビニル、酢酸ビニル/クロトン酸コポリマー、メチルビニルエーテル及びマレイン酸セメスター(maleic semester)コポリマー、ビニルピロリドンが挙げられる。ポリマーは、セルロース誘導体又はリグニン誘導体、例えば、酢酸セルロース、硝酸セルロース、セロファン、ニトロセルロース及びセルロイドであってもよい。ポリマーは、デンプン誘導体であってもよい。ポリマーは、キチン誘導体、キトサン誘導体又はセリシン誘導体であってもよい。ポリマーは、アルギネート誘導体、カラギーナン誘導体、コラーゲン誘導体、ゼラチン誘導体、ヒアルロン酸誘導体又はペクチン誘導体であってもよい。優先的には、ポリマーは、天然の供給原料、並びに/又はバイオベース及び/若しくは再生可能モノマーから合成され、得られるモノマーは、好ましくは生分解性であり、例えば、脂肪族ポリエステル、例えば、ポリ(乳酸)ポリ(ε-カプロラクトン)、及びポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3ヒドロキシバレレート)である。好適なポリマーとしては、上記のナノクリスタル懸濁液の可能な添加物として列挙したポリマーも挙げられる。
【0310】
好適な油としては、藻類油、アナトー油、アルガン油、アーモンド油、杏仁油、アボカド油、ババス油、ブラジルナッツバター、バター、カシューバター、ヒマシ油、ツバキ油、チェリーカーネル油、カカオバター、ココナッツ油、コーン油、綿実油、魚油、ブドウ種子油、クチナシ油、牛酪油、ヘーゼルナッツ油、ジャトロファ油、ホホバ油、コクム(kokum)油、アマニ油、マカダミア油、メイズ油、マンゴー種子油、マンゴーバター、鉱物油、ミンク油、オリーブ油、ヤシ油、ヤシ核油、桃仁油、ピーナッツバター、ピーナッツ油、プラム核油、ザクロ油、ナタネ油、米糠油、ローズヒップ油、サル(sal)油、ゴマ油、シアバター、ダイズ油、スクアレン、ヒマワリ油、ティーズ(teas)種子油、クルミ油が挙げられる。前述の油から得た油誘導体、例えば、エステル化油、脂肪酸、脂肪族アルコール、水素化油及びトリグリセリドは、前記配合物に好適な成分として使用することができる。精油も好適な油である。
【0311】
好適な樹脂としては、トシルアミドホルムアルデヒド樹脂及びトルエン-スルホンアミド-ホルムアルデヒド樹脂が挙げられる。
【0312】
好適なワックスとしては、ビーズワックス、カンデリラワックス、カルナウバワックス、木蝋、ラノリン、パームワックス、パラフィンが挙げられる。
【0313】
好適なゲルとしては、増粘剤、例えば、セルロース誘導体増粘剤、並びにアカシアガム、アガー、アロエゲル、ゼラチン、グアーガム、アラビアガム、トラガカントガム、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、デンプン及びキサンタンガムの使用から得た任意の化学及び/又は物理ゲルが挙げられる。加えて、ゲルは、セルロース繊維の混合物であってもよい。
【0314】
他の優先事項
上記の実施形態のあらゆる両立できる組み合わせは、あらゆる組み合わせが個々に明示的に列挙されたかのように、ここに明示的に開示される。
【0315】
本発明の様々な更なる態様及び実施形態は、本開示を鑑みれば当業者には明らかとなろう。
【0316】
ここで使用される「及び/又は」は、他方を伴う又は伴わない、2つの特定の特徴又は成分の各々の具体的な開示として受け取られたい。例えば、「A及び/又はB」は、(i)A、(ii)B、並びに(iii)A及びBの各々の具体的な開示として、各々がここでまさに個別に述べられたかのように受け取られたい。
【0317】
文脈が別段の規定をしない限り、上に述べた特徴の記載及び定義は、本発明のいずれかの特定の態様又は実施形態に限定されるものではなく、記載されているすべての態様及び実施形態に等しく適用される。
【0318】
本発明のある特定の態様及び実施形態を、実施例によって、上記の図面を参照しながら、ここに説明する。
【実施例
【0319】
実験及び結果
材料
University of Maine、Process Development Centerから購入した水性CNC懸濁液(バッチ番号2015-FPL-077、(CNC) = 11.8質量%、中和形態、1.2質量%の硫黄含有量)。
【0320】
ロールツーロールコーティングのためのPETリールは、Mitsubishi Polyester Film社からHostaphan RN 500 (厚さ = 500μm、幅 = 140mm)を入手した。
【0321】
研究室規模及びスロットダイコーティング実験のためのPETは、実験室規模実験用のHIFI Film PMX727から入手した。
【0322】
機器
偏光光学顕微鏡法は、ハロゲンランプ(HAL100 Zeiss、公称範囲:350~1100nm)を装備したZeiss社、Axio.Scope光学顕微鏡を使用して行い、20倍対物レンズ(Zeiss社、EC Epiplan APOCHROMAT、NA = 0.3)を使用してCNCフィルムを画像化し、10倍対物レンズ(Zeiss社、EC Epiplan APOCHROMAT、NA = 0.6)を用いてCNCフォトニック粒子を画像化した。
【0323】
基材に付着したCNCフィルムによって反射される光は、1/4波長板及び切り替え可能な偏光フィルタを通過するが、偏光フィルタを使用する場合、左巻き又は右巻き円偏光(それぞれLCP及びRCP)のいずれかのみを通過させることができる。ビームスプリッタを使用して光をCCDカメラ(Thorlabs社 - DCC3240C)に誘導し、光ファイバを通じて分光計(Avantes社、AvaSpec HS2048)に送った。
【0324】
20倍対物レンズを用いてCNCコーティングを測定する場合、600μmコアの光ファイバ(Thorlabs社、FC-UV600-2-SR)を使用し、一方で、10倍対物レンズを用いてCNCフォトニック微粒子を測定する場合、200μmコアの光ファイバ(Thorlabs社、FC-UV200-2-SR)を使用した。結果として、それぞれ約100μm幅スポット及び約66μm幅スポットにわたるスペクトルを取得した。
【0325】
別段の指定がない限り、スペクトルはすべて、1つの偏光チャネル(左円偏光、LPC)における銀鏡(Thorlabs社、PF10-03-P01)の反射に対して正規化し、完全に配列されたコレステリック試料は、LCPチャネルにおいて100%反射することになる。
【0326】
PET基材に付着したCNCフィルムから、CNCフィルムの写真を取得し、固定の作動距離及び黒色背景の上部のライティングにおいて、20MPデジタルカメラ(Huawei P10)を使用して撮影した。研究室規模のPETフィルムの周囲に遮蔽材を配置し、CNCフィルムの辺縁を被覆することなく、平らに置いた。他の画像は、40MPデジタルカメラ(Huawei P30 Pro)を使用して撮影した。
【0327】
堆積したCNCフィルムの厚さは、SEM(Tescan MIRA3 FEG-SEM)を使用し、高真空モードにおいて、4kV加速電圧及び3~4mmの作動距離で動作させて測定した。導電性炭素テープを用いて試料をアルミニウムスタブに載せ、パラジウムターゲットを使用してスパッタコーティング(Emitech K550)を行った。結果を、例えば図2-Aに示す。
【0328】
特注の実験室用角度計を使用して、角度分解光学分光測定を行った。光源としてランプ(Thorlabs社、SLS201L/M)を使用し、分光計(AvaSpec-HS2048XL、Avantes社)を使用して散乱光信号を分析した。角度計の中央の回転ステージに試料を載せ、コリメート入射ビームによって試料表面(光スポットサイズΦ≒6mm)を照らした(光ファイバΦ = 1000μmを通じて)。電動回転ステージに取り付けられたアームに検出器を装着し、分光計に接続された光ファイバ(Φ = 600μm)に散乱光を連結した。記録される光強度を、白色ランバート拡散板(Labsphere社、USRS-99-010)に対して正規化し、露光時間を、自動ハイダイナミックレンジ法44を使用して調節した。測定は、固定入射光角度(試料界面の法線から規定して、θin = 0°又は30°のいずれかとして撮影)において、様々な出射角度θoutで回転検出器によって収集される散乱スペクトル強度をスキャンすることによって記録した。
【0329】
40mm平行ペルチェ鉄製プレートの外形を装備した回転式レオメーター(TA Instruments社、DHR-2)を使用して、およそ900μmのギャップを使用し、温度調節ステージ(20℃)にCNC懸濁液(1mL)を塗布して、掃引レオロジー測定を行った。
【0330】
セルロースナノクリスタル懸濁液
水性CNC懸濁液(材料参照)を、氷浴中のCorning Falcon(登録商標)管(50mL)の中で、25mLのバッチによって、超純水で6質量%に希釈し、超音波砕解機(Fisherbrand 505 Sonic Dismembrator、500 W、 振幅 = 40%、先端直径 = 12.7mm)を使用して超音波処理した。
【0331】
研究室規模のブレードキャストCNCフィルム用懸濁液を、25mLのバッチによって調製し、キャスティング時にそれぞれ青色、緑色及び赤色フィルムを生成するために、56、109及び161秒にわたって超音波処理した。大規模R2R堆積用懸濁液を45mLのバッチによって調製し、この事例では、超音波処理時間を、それぞれ101、196及び290秒にスケールアップした。これによって、先端超音波処理装置によってCNC懸濁液の体積当たりに供給されるエネルギーを一定に保ち、2.24、4.36及び6.44s/mL(又は7.5、14.5及び21.5kJ/g)の処理に対応させることができる。
【0332】
懸濁液を室温で1~3日にわたって平衡させた後、更なる使用のために、より密な異方性相を分離し、収集した。
【0333】
先端超音波処理プロセスの継続期間を増加させることによって、乾燥CNCフィルムの色をレッドシフトさせることができ(図3及び図5参照)、6.44、4.36及び2.24s/mL(又は21.5、14.5及び7.5kJ/g)の先端超音波処理から、赤色、緑色及び青色フィルムを生成することができた。
【0334】
基材の調製及び処理
CNCフィルム堆積用の基材として、ポリエチレンテレフタレート(PET)を使用し、濡れを制御するために、表面を選択的に活性化させた。
【0335】
PETシート(厚さ = 125μm、長さ = 120mm、幅 = 80mm、60mmのコーティング可能な幅を有する)を、研究室規模実験用のコーティングステージに固定した。プラズマエッチング装置を使用して、表面を活性化させた(EMITECH K1050Xプラズマエッチング装置、50W、5分)。
【0336】
対照的に、ロールツーロール堆積には、PETリール(厚さ = 500μm、幅 = 140mm)の使用を要した。コロナ放電(Corona Supplies社、出力 = 0.3kW)を使用して、連続的に動く基材を活性化させた(速度 = 0.1mm.s-1 = 1.7mm.s-1)。これらの実施例では、手作業でPETリールをテープで遮蔽(図1A参照)したが、これは、図1Aに提案されるように、連続的に堆積させることができた。
【0337】
フォトニックセルロースナノクリスタルコーティングの堆積
約30cmの最大コーティング長さを有する特注のフィルムコーターを使用して、研究室規模のCNCコーティングを調製した。このコーターは、平らなステージをトラックに沿って動かすことができるモータ(Reliance Cool Motion Stage)を含んでおり、この上に、コーティング塗布器(BEVS 1806/A50)を固定位置で装着した。
【0338】
CNCコーティングを調製するために、PET基材をステージに3辺で取り付け、過剰なCNC懸濁液をコーターによって除去できるように、後端を自由にした。ブレードを、基材よりも上の所望の高さに設定し、コーティング塗布器を、長方形PETシートの先端付近に配置した。CNC懸濁液(3.5mL)をブレードの前に堆積させ、6×10cmの面積が一様にコーティングされるように、ステージを動かした(図2に示される実施例の事例に示した試料の場合、0.65~2.4mm/sの速度及び300~1100μmのコーティングギャップ)。
【0339】
ロールツーロールコーティングを使用して、CNC懸濁液の連続堆積を達成し、この方法の拡張性が実証された。ロールツーロール印刷は、カスタムメイドスロットダイ(コーティング幅 = 10cm、内部リザーバ22mL)を装備した、修正ロールツーロールコーティングシステム(Coatema Coating Machinery社、Smartcoater 28)を使用して達成された。スロットダイは、125μm厚のスペーサシムによって隔て、ネジで接合した2枚のアルミニウムプレートで作製されており、ウェブに対して垂直に配置された100mmスロットの隙間を構成した。
【0340】
シリンジポンプ(New Era社)を使用して、CNC懸濁液をスロットダイに連続的に供給し、所望のフィルム厚さ及び被覆幅に応じて、供給速度(約6000μL/分)を調節した。
【0341】
スロット口と基材との間の距離は、厚さ隙間ゲージを用いて制御した。
【0342】
ウェブホルダーを、各ホルダーの間の平均距離が30cmに低減するように配置した。コーティングする前に、複数の位置において、ウェブの経路に沿って幅の中央で、ブルズアイ水準器(Thorlabs LVL01)を使用して基材を水平にした。ロールツーロールシステムを通じて、利用可能な最低速度(速度 = 0.1mm.s-1 = 1.7mm.s-1)で、ウェブを並進させた。ウェブの並進速度とコーティングギャップの厚さとから、剪断速度を計算した。
【0343】
更に、閉ループ様式でウェブを複数回再使用できるように、ウェブからのCNFフィルムの除去が適切である。
【0344】
「静的乾燥」の場合、R2Rシステムを通じて、利用可能な最低速度(vc = 0.1m.min-1≒1.67mm.s-1)でウェブを並進させたが、最大キャスティング長さは約3mであり、ウェブ経路の制限に対応するものであった。次いで、ウェブの並進を停止させ、堆積した懸濁液を周囲条件下で乾燥させた。代替的には、より高速な乾燥を調査するため、送風加熱チャンバ(長さ≒40cm、= 20~60℃)を、コーティングする工程後のR2R経路の間に載置した。これによって、ウェブの並進が、定置的な静止期間によって中断された複数の工程に分割される、段階的な堆積及び乾燥プロセスを、連続して行うことができた。2種のステップサイズが実証されており(「粗動」及び「細動」と示す)、「粗動」プロセスの場合、ウェブをvc = 1.67mm.s-1において、15分毎に20cmのステップで並進させ、「細動」プロセスの場合、ウェブを同じ速度であるが、3.75分毎に5cmのステップで並進させた。両方の事例において、これは、veff≒0.2mm.s-1の有効並進速度に対応する(図19)。
【0345】
ロールツーロール印刷フィルムを、図1B及び図1C、並びに図19に示す。これらは、連続ロールツーロール法を使用して生成したフィルムの発色が維持され、図1Cの事例では、本発明の方法の拡張性が実証されることを示している。
【0346】
色に対するコーティングギャップ及び速度の効果を研究した。コーティングギャップ及び速度を変化させて、上の通りに実験を行った。結果を図2に示す。結果は、g = 300μmの低いコーティングギャップの場合、順当な発色(ピーク高さは、極大LCP反射の55%に対応する)を達成することができ、コーティングギャップ及び速度が増大すると、光学特性が改善することを示している。図2はまた、コーティングギャップと得られる乾燥フィルムの厚さとの関係を示している。
【0347】
乾燥
皿キャストフィルム、研究室規模コーティング及び大規模R2Rコーティングについて、フィルム形成が完了するまで動かさずに、CNC懸濁液を周囲条件で乾燥させた(数時間、典型的には1日未満にわたり、この継続期間は、堆積した材料の量、被覆領域の長さ及び厚さに依存する)。加えて、研究室ブレードコーティングフィルムは、60℃に設定したホットプレートを使用して、より迅速な乾燥も行った。R2R機において利用可能な最低速度(v = 0.1m.min-1)を使用したにもかかわらず、周囲条件における大規模CNC懸濁液の乾燥に要した時間は、パイロット規模R2R機の利用可能な長さを超過した。以上のように、乾燥は、(i)フィルムが形成するまで数時間にわたって動かさずに行い、議論において「静的に乾燥させた」と表すか、又は(ii)上記の「段階的連続」並進プロセスを使用して、堆積したCNC懸濁液を、インライン熱風乾燥機(T = 20~60℃)を通じてゆっくりと並進させて、乾燥プロセスを加速させ、その結果、ウェブ経路の終点に達する前にフィルムが乾燥したかのいずれかである。
【0348】
発色に対する乾燥速度の効果を研究した。加熱した研究室ブレードコーティングフィルムを、40℃又は60℃のいずれかに設定したホットプレートの上で乾燥させた(図3-A下段)。得られたフィルムは発色を維持し、乾燥を加速するために加熱を使用することができ、産業的に有利であることを実証している。
【0349】
加えて、CNCフィルムを、60℃のホットプレートの上に載置した穿孔アルミニウムグリッドの上で乾燥させた。結果を図9に示す。アルミニウムボードの上の領域と、空気孔の上の領域との間の温度差によって、色のシフトに差が生じる。
【0350】
破壊、アニーリング及びサイズ選別
ロールツーロールフィルムのCNCフォトニック粒子への変換は、使用したシステムの制約のため、オフラインで行った。アニーリングする工程を含めたこの変換は、図1Aに示すような耐熱コンベアベルトであるならば、インラインで行うことができた。
【0351】
基材と、数センチメートルにわたって事前に手作業で剥離したCNCフィルムとの間に、ある角度で(図1及び図16Aに図示したように)上部収集ウェブに取り付けた薄いプラスチック刃を載置し、ウェブを一定速度で動かすことによって、R2R CNCフィルムを基材から取り外した。
【0352】
CNCフィルムを、180℃で30分にわたって、オーブン(Nabertherm社、P330)中でアニーリング(加熱処理)した。
【0353】
コーヒー粉砕機を使用して、CNCフィルムを裁断した。メッシュサイズを150、75及び25μmと減少させながら、ふるいを使用して、CNC光沢剤粒子を順次サイズ選別した。結果を図4に示す。個々の粒子の輪郭を強調し、imageJにおけるFeret領域機能を用いてフィッティングすることによって、各サイズカテゴリについて、粒子のメジアンサイズをSEM画像から取得した。
【0354】
結果は、すべての粒径について、空気中及び複数の溶媒中で、良好な発色を示している。大きな粒子は、最良の光学特性を呈する。
【0355】
アニーリング温度の効果を研究した。アニーリング温度を変化させて、上の通りに実験を行った。結果を図7に示す。結果は、フィルムのアニーリングが、最高220℃までは光学特性を保持することを示している。したがって、アニーリングする工程は光学特性を維持することができ、破壊する工程のために安定なフィルムを提供することができる。高温はフィルムの炭化をもたらし、完全に発色を失った。
【0356】
図3における赤色フィルムからのピーク反射性の減少は、光を反射する繰り返しキラルネマティック単位の数のために与えられるフィルム厚さに帰することができる。図15-Aは、キラルネマティック繰り返し単位の数が大きいと、キラルネマティック構造からより多くの光が反射されることを明確に示している。以上のように、フィルムがより大きな波長、例えば、赤色又は赤外波長を反射するためには、コレステリック構造由来の極大反射率に達するより厚いフィルムが必要である。フィルムから反射される波長に従って、フィルム厚さを調整してもよいという帰結になる。
【0357】
解析的計算が示す通り(図15-B)、p = 318nmに集中するキラルネマティックピッチを有するフィルム(青色波長を反射する)は、フィルムが1.8μm厚である場合、キラルネマティック構造が可能とする最大量の光のおよそ50%を反射することになるが、フィルムが4.5μm厚である場合はこの最大値の95%を反射することができ、厚さが6.2μm超である場合は最大値の99%超を反射することができる。429nmに集中するキラルネマティックピッチを有するフィルム(赤色波長を反射する)は、フィルムが2.3μm厚である場合、キラルネマティック構造が可能とする最大量の光のおよそ50%を反射することになるが、フィルムが6.1μm厚である場合はこの最大値の95%を反射することができ、厚さが8.4μm超である場合は最大値の99%超を反射することができる。
【0358】
構造色フィルム及び構造色粒子の追加の用途
上に記載するように調製したフィルム及び粒子を、様々な用途において試験した。これらを図20に示す。
【0359】
A)構造色フィルムを四角形状の構造色粒子に分割した。粒子をばらばらにし、紙の上に提示した。
【0360】
B)構造色フィルムを粒子に分割し、接着剤を使用して布の小片に塗布した。
【0361】
C)構造色粒子を食用ホストマトリックス中に埋設し、チョコレートの小片の上に塗布した。
【0362】
D)構造色粒子を化粧用爪用ワニス組成物に分散させ、指の爪を塗装した。
【0363】
E)構造色粒子をホストポリマーマトリックスに分散させ、木材の小片を塗装した。
【0364】
参考文献
この明細書内で言及したすべての文書は、参照によって全体が本明細書に組み込まれる。
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図1
図2
図3
図4
図5
図6
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【国際調査報告】