(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】結合水素の海上輸送システム
(51)【国際特許分類】
B63B 27/24 20060101AFI20240905BHJP
F17C 7/00 20060101ALI20240905BHJP
F17C 13/00 20060101ALI20240905BHJP
B63B 25/16 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B63B27/24 B
F17C7/00 A
F17C13/00 301Z
B63B25/16 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024540836
(86)(22)【出願日】2022-09-13
(85)【翻訳文提出日】2024-04-23
(86)【国際出願番号】 RU2022000277
(87)【国際公開番号】W WO2023043330
(87)【国際公開日】2023-03-23
(32)【優先日】2021-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524097045
【氏名又は名称】オブシチェストボ エス オグラニチェノージェ オトベトヴェノステュ ナウチノ イスレドヴァテルスカイジェ プロエクトニージェ インスティテュート ネフティ アイ ガザ “ペトン”
【氏名又は名称原語表記】OBSHCHESTVO S OGRANICHENNOJ OTVETSTVENNOST’YU NAUCHNO ISSLEDOVATEL’SKIJ PROEKTNYJ INSTITUT NEFTI I GAZA PETON
【住所又は居所原語表記】ul. Salavata Yulaeva, d. 58 Respublika Bashkortostan, g. Ufa, 450071 Russian Federation
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ムヌシキン イゴール’ アナトリエヴィチ
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172BD01
3E172BD05
3E172DA90
3E172EB02
3E172KA03
(57)【要約】
本発明は、エネルギー及び化学分野、並びに輸送システムに関するものであり、水素を中間化合物に変換して戻すことによって水素を得るために、とりわけ、化学、石油精製及び石油化学産業で使用することができ、これにより、水素を長距離にわたって輸送する、簡単で安全かつ効果的な方法を実行することが可能になる。特許請求の範囲に記載されている結合水素の海上輸送システムは、芳香族炭化水素及びナフテン系炭化水素を貯蔵するためのタンクを伴う石油化学会社に属する貯蔵施設と、タンカーへのナフテン系炭化水素の個別分配及びタンカーからの芳香族炭化水素の受け入れのための配送及び取り込みターミナルと、ナフテン系炭化水素及び/又は芳香族炭化水素の輸送用タンクを備えるタンカーと、水素貯蔵タンクと、芳香族炭化水素及び水素を製造するためのナフテン系炭化水素の脱水素化のためのオンデッキ設備と、タンカーから水素消費会社に水素を供給するためのパイプとを含む。特許請求の範囲に記載された発明は、水素を中間化合物に変換して戻すことによって、長距離にわたる水素輸送の経済効率、環境への配慮、及び安全性を同時に高める、結合水素の海上輸送システムを作成するという問題を解決する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族炭化水素及びナフテン系炭化水素を貯蔵するためのタンクを伴う石油化学施設のタンクファームと、輸送タンカーへのナフテン系炭化水素の個別供給及び輸送タンカーからの芳香族炭化水素の受け入れを伴う配送及び取り込みターミナルと、ナフテン系炭化水素及び/又は芳香族炭化水素の輸送用タンクを備える輸送タンカーと、水素貯蔵タンクと、芳香族炭化水素及び水素の製造を伴うナフテン系炭化水素の脱水のためのオンデッキユニットと、前記輸送タンカーから水素消費施設に水素を供給するためのパイプラインと、を含む結合水素輸送海洋システム。
【請求項2】
前記ナフテン系炭化水素の脱水のためのオンデッキユニットは、耐火壁によって分離される、多層デッキハウスの後方の前記輸送タンカー内に配置されることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
水素に関する前記ナフテン系炭化水素の脱水のためのオンデッキユニットの能力は、前記水素消費施設の需要と同等か又は前記需要を上回ることを特徴とする、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
1台の輸送タンカーが複数の水素消費施設に水素を順次供給することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
1台の輸送タンカーが複数の水素消費施設に水素を並行して供給することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記ナフテン系炭化水素の輸送用タンクは、それらが完全に空になるまで、前記ナフテン系炭化水素の脱水のためのオンデッキユニットで製造される前記芳香族炭化水素で満たされることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記ナフテン系炭化水素の脱水のためのオンデッキユニットで製造される前記芳香族炭化水素は、化学薬品として更に使用される及び/又は商品として販売されることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
ナフテン系炭化水素は、任意の既知の方法によって石油化学施設で製造されることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
シクロヘキサン又はメチルシクロヘキサン、及びそれに応じてベンゼン又はトルエンがナフテン系炭化水素及び芳香族炭化水素として使用されることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
水素消費施設の途切れのない供給のために使用される輸送タンカーの数Nは、以下の式、すなわち、
N=(τ1+τ2+τ3+2τ4+τ5)/τ5
によって決定可能であり、
ここで、
τ1及びτ2はそれぞれ、輸送タンカーのタンクから芳香族炭化水素を排出し、前記石油化学施設の港でナフテン系炭化水素を充填する継続時間hであり、
τ3は、前記石油化学施設の前記港と前記水素消費施設の港での輸送タンカーの係留時間の合計hであり、
τ4は、前記石油化学施設の前記港から前記水素消費施設の前記港までの輸送タンカーの移動時間hであり、
τ5は、ナフテン系炭化水素の脱水素化のための前記オンデッキユニットの稼働時間hである、
ことを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記石油化学施設の港から前記水素消費施設の港までの輸送タンカーの移動中に、前記ナフテン系炭化水素の脱水のためのオンデッキユニットで製造された前記水素が、前記輸送タンカーのための燃料として使用されることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
結合水素の海上輸送システムは、エネルギー及び化学複合体並びに輸送システムに属しており、中間化合物への直接及び逆変換を通じて水素を製造するために化学、石油精製、石油化学、及びその他の産業で使用でき、それにより、水素を長距離にわたって輸送する、簡素化された、安全かつ効率的な方法が可能となる。
【0002】
燃料・エネルギー複合施設は、一次エネルギー資源の採掘と生産、それらの輸送と他の種類の燃料やエネルギーへの加工という最も重要なタスクとともに、環境問題、特に炭素排出量の削減-温室効果の創出に寄与する大気中へのガスの排出、つまり、まず第一に二酸化炭素-を解決する方法を模索している。自動車エンジン用の炭素ベース燃料の代替手段は、電気及び水素である。更に、水素は、化学、石油精製、石油化学産業の大規模プロセスにおいて最も重要な試薬の1つである。新しい天然ガス田の開発や、インフラが十分に発達していない状況での新しいガス化学産業企業の設立により、急速に発展している国内の極地や北極地域にとって特に重要なのは、この地域全体-北極海航路-の統合輸送システムを使用して水素を輸送する問題の解決策である。
【背景技術】
【0003】
現在、ロシア連邦の2035年までの期間にわたるエネルギー戦略によれば、2024年までに20万トン、2035年までに200万トンの水素の輸出を確保することが計画されている(ロシア連邦の2035年までの期間にわたるエネルギー戦略[電子リソース]URL:http://static.govenment.ru/media/files/w4sigFOiDjGVDYT4IgsApssm6mZRb7wx.pdf、2021年8月9日にアクセス)。専門家によると、2050年までに世界のエネルギーバランスにおける水素の割合は大幅に増加する可能性があり、そのため、ロシア連邦は2050年までに790万~3,340万トンの水素を輸出できるようになると予想されている(当局は「ガスプロム」パイプを通じた水素輸送を提案//Prime Agency of Economic Information、ロシアトゥデイ、[電子リソース]URL:https://lprime.ru/energy/20210414/833459139.html、2021年8月9日にアクセス)。しかし、これらの計画を実行するには、水素製造能力を増強するだけでは十分ではない。最も重要な問題の1つは依然として輸送の問題である。
【0004】
既知の方法の1つは、トレーラー又は鉄道プラットフォーム上の円筒型コンテナ内の気相の水素を、最大35MPaの圧力及び90Kの温度で輸送することである(Alekseeva O.K.、Kozlov S.I.、Fateyev V.N.Transportation of hydrogen//Alternative fuel transport.-2011.-No.3(21).-P.18-24)。この輸送方法は海上輸送に使用できるが、コンテナ船で水素を輸送する場合、圧縮水素の密度が低い(35MPa、90Kで66kg/m3)ため、この方法の効率は低下する。例えば、容積77立方メートルの標準的な2TEU海上コンテナに水素を充填した円筒型コンテナを使用し、0.5のコンテナ容積を有効利用した場合、水素積載量はわずか2541kgとなる。更に、液体窒素を使用すると達成できる90Kの低温を維持する必要があることから、更なる困難が生じる。
【0005】
別の既知の方法は、液化ガスを輸送するための容器であり、その船体の貨物室には、発泡コンクリート製の断熱角柱状液化ガスタンクが配置されており、その壁の内面は金属製のシール薄壁コーティングで裏打ちされ、それにより、極低温での液化ガスの輸送が確保される(発明特許RU2429156、IPCВ63В25/08、В63В25/16、2010年6月11日に出願、2011年9月20日に公開)。この発明の欠点は次のとおりである。
・発泡コンクリート壁によるタンク容積の減少;
・液化水素密度0.07t/m3では喫水が7分の1に減少するため、船舶の安定性が危険に低下する;
・発泡コンクリートタンクの壁にシール用の薄壁金属コーティングを使用しているため、水素輸送には不向きである。これは、水素腐食により金属コーティングのシールが破損した場合、透過性の発泡コンクリートを通じて水素が大量に失われるためである。
【0006】
極低温ガスを輸送及び貯蔵する方法としては、極低温ガスを液体の状態まで冷却し、液体を少なくとも1つのタンクに注ぎ、断熱材によって環境から隔離し、流入熱の除去に起因して設計温度及び圧力に維持する方法があるが、極低温液体の入った少なくとも1つのタンクは、壁に断熱材を備えた冷蔵室によって環境から隔離されており、冷蔵室の空洞は、中性ガスで満たされてその過剰な圧力に維持され、これは極低温液体の温度では凝縮しない(発明特許RU2334646、IPCB63B25/16、B63J2/14、2007年3月27日に出願、2008年9月27日に公開)。この発明の欠点は次のとおりである。
・極低温条件下での水素輸送には、輸送ネットワークの近くに深冷却システムを構築する必要がある;
・冷蔵室内で不活性剤として高価なネオンを使用する必要があり、冷蔵室の壁と水素が充填されたタンクの間の層であるネオンは、タンクの冷たい壁と環境に開放されている冷蔵室の温かい壁の間の空間内で発生する対流の熱伝達による水素の加熱に寄与する;
・タンクが水素腐食から保護されていないため、タンクが減圧されるリスクがある。
【0007】
北極盆地には炭化水素の配送システムがある。この配送システムは、炭化水素貯蔵用の弾性容器を伴うタンカーモジュール、原子力発電所と推進器とを伴う水中タグボート、並びに水中タグボートの前方に移動できるパイロットグライダーから成り、北極盆地における炭化水素配送システムのタンカーモジュールは、外部格子で閉じられた縦方向の隔壁を伴う中央チューブを収容し、この場合、形成された貨物室に全長に沿って弾性容器が配置され、この弾性容器は、互いに囲まれた断熱材の外殻と内殻とから成り、全て弾性容器の両側には、給油施設に接続するためのフランジ付きのロック装置があり、タンカーモジュール本体の側面には、スクリュープロペラを伴うトルク可逆電気モータが本体の長さに沿って間隔を置いて配置されており、下部の貨物室は、アクチュエーター用の電力を生成する燃料電池を収容するように設計され、上部と下部の貨物室の空きスペースには、水ポンプと空気ポンプとを伴う密閉バラスト室が収容され、タンカーモジュールには石油製品が積み込まれ、目的地への配送後に水中給油ステーションを使用して水没位置で降ろされる(発明特許RU2700518、IPCB63B25/08、B63G8/42、2018年4月17日に出願、2019年9月17日に公開)。この発明の欠点は次のとおりである。
・対応する水中給油ステーションに係留する際に、タンカーモジュールの積み下ろし作業を水中で行い、これはダイバーのみが実行する;
・減価償却費の増加により製品輸送コストの大幅な増加につながる、モジュール輸送の低速化を推奨;
・原子力発電所を備えた潜水艦の形で推進することを推奨し、メンテナンス要員なしで自動的に機能し、輸送システムの破壊や北極地域の重要な部分の放射能汚染に至るまでの緊急事態のリスクを高める;
・危険な航路条件(浅瀬、氷のハンモックなど)において、長さ数百メートルのグライダー-潜水艦-輸送モジュールシステムを伴うパイロットグライダーから輸送モジュールの回転可逆電気モータ及びファンを非効率的に制御し、これが輸送モジュールの損傷や輸送製品の流出のリスクと関連する;
・化合物の高い透過性により、貨物室の弾性殻を通した輸送中に水素の一部が失われる。
【0008】
考慮されている全ての輸送システムに共通する欠点は、貨物の目的地から輸送された媒体の給油地点まで空で戻ることであり、これにより、輸送システム全体のコストが大幅に増加する。水素を気体又は液化した状態で輸送する場合、水素の透過性、水素腐食、又はシステムの密閉が不十分なためにタンクから水素が漏洩するリスクもあり、これにより、爆発限界が4~75体積%の空気と水素の爆発性混合物が形成される。
【0009】
また、(貯蔵及び輸送を目的とした)水素の製造方法も知られており、水素化芳香族化合物は、水素化触媒の存在下での芳香族化合物の水素化、反応混合物からの水素化芳香族化合物の分離及び処理、得られた水素化芳香族化合物の貯蔵及び輸送用の水素キャリアとしての貯蔵及び/又は輸送、脱水素化触媒の存在下での水素化芳香族化合物の脱水素化によって得られ、これにより、水素が製造され、芳香族化合物の水素化には、水素濃度を30~70体積%に調整する、改質反応と変換反応により得られる反応ガスを用い、水素化プロセスでは、芳香族化合物の水素化反応と同時に、反応ガス中に残存する一酸化炭素のメタン化反応が行われる。トルエンは芳香族化合物として使用でき、メチルシクロヘキサンは水素化芳香族化合物として使用できる(発明特許RU2532196、IPCC01B3/22、C01B3/38、2011年3月24日に出願、2014年10月27日に公開)。この発明の欠点は次のとおりである。
・方法の説明の深さが浅く、これは、芳香族化合物(トルエン)が水素化フローに入り、かなり過剰な水素(表1、フロー5及び表2、フロー6)により、水と二酸化炭素のバラスト蒸気が過剰な水素とほとんど同じ量で存在し、これにより、触媒反応ゾーンの反応容積のほぼ3分の2を占める多数のバラスト成分が存在し、その結果、水素化反応器の動作が不満足なものになり、そのサイズが大きく、触媒の消費量が多くなるからである。
・製造される水素のほぼ20%に相当する、排出される二酸化炭素による水素の損失(表1、フロー7)。
【発明の概要】
【0010】
発明を成すプロセスでは、経済効率の向上、環境への配慮、消費者への水素の安全な長距離輸送を同時に提供する結合水素の海上輸送システムを開発することが目標に設定された。
【0011】
結合水素海上輸送システムは、芳香族炭化水素及びナフテン系炭化水素のための貯蔵タンクを伴う石油化学施設のタンクファームと、輸送タンカーへのナフテン系炭化水素の個別供給及び輸送タンカーからの芳香族炭化水素の取入れを伴う配送及び積み込みターミナルと、ナフテン系炭化水素及び/又は芳香族炭化水素の輸送用タンクを備える輸送タンカーと、水素貯蔵タンクと、芳香族炭化水素及び水素製造を伴うナフテン系炭化水素の脱水素化のためのオンデッキユニットと、輸送タンカーから水素消費施設に水素を供給するためのパイプラインとを含むため、目的は達成される。
【0012】
水素と比較すると、石油化学施設のタンクファームで製造された高純度ナフテン系炭化水素を貯蔵し、それらを、軽質石油製品を輸送するように設計され、炭化水素を輸送し水素を貯蔵するためのタンクを備え、それとは別に、ナフテン系炭化水素の脱水素化用のオンデッキユニットを備えた、あらゆる種類の輸送タンカーのタンクにポンプで汲み上げることが(プロセスの点で)簡単で安価である。このユニットが機能することを可能にするには2つのケースがある。第1のケースでは、輸送タンカーを水素消費施設の港に係留し、輸送タンカーから水素消費施設に水素を供給するパイプラインを接続する際に、定期的にメンテナンスを行って、芳香族炭化水素及び水素の製造を伴うナフテン系炭化水素の輸送用タンクから送られるナフテン系炭化水素の脱水素化を行うためのオンデッキユニットを起動する。結果として得られた芳香族炭化水素は輸送タンカーの空の予備タンクにポンプで送られ、水素は、リザーバとしての機能を果たす意図される水素貯蔵タンクに入り、更に水素消費施設まで進む。第2のケースでは、ナフテン系炭化水素の脱水素化のためのオンデッキユニットが、輸送タンカーが水素消費施設の港に到着する前の航海の最終段階で早くも起動され、製造された水素が水素貯蔵タンクに入る。
【0013】
輸送タンカーのレイアウトの観点から、ナフテン系炭化水素の脱水素化を行うためのオンデッキユニットを、防火壁で分離された多層デッキハウスの後ろの輸送タンカーの後部に配置することが可能である。ナフテン系炭化水素の脱水素化のためのオンデッキユニットは、少なくとも、ナフテン系炭化水素を輸送するためのタンクからナフテン系炭化水素を供給するポンプと、高温の反応生成物(芳香族炭化水素及び水素)から低温のナフテン系炭化水素に熱を伝達するための廃熱交換器と、ナフテン系炭化水素を加熱する炉と、ナフテン系炭化水素が芳香族炭化水素と水素とに分解されて廃熱交換器で更に冷却される脱水素化触媒反応器と、反応生成物を更に冷却するための水又は空冷器と、それらを分離するための分離器-芳香族炭化水素は空の予備タンクに入り、水素は水素貯蔵タンクに入る-とを含む。直火がないにもかかわらず、ナフテン系炭化水素の脱水素化のためのオンデッキユニットは爆発と火災の危険性があるため、防火壁で多層デッキハウスから分離される。
【0014】
ナフテン系炭化水素の脱水素化のためのオンデッキユニットの水素収量が、水素消費会社のニーズと同等かそれを上回ることが合理的であり、そうすれば、水素を製造しながら、輸送タンカーが水素消費会社の港で係留されている間、輸送タンカーの通常の動作が確保されることになる。更に、水素消費会社で水素を備蓄することが可能となり、この備蓄水素は、港で排出しつくした輸送タンカーを新たに到着した輸送タンカーと交換する間に処理のために供給されることになる。
【0015】
水素消費地域における水素消費施設の数とニーズに応じて、1台の輸送タンカーで水素需要の少ない複数の水素消費施設に水素を順次又は並行して供給できる。
【0016】
ナフテン系炭化水素の輸送タンクは完全に空になるため、輸送タンクには、ナフテン系炭化水素の脱水素化のためのオンデッキユニットで製造した芳香族炭化水素が取り込まれ、これは、タンカーの喫水をほとんど変化させず、バラストタンクの容積を削減することができる(通常、空で戻ってくるタンカーには水が満たされている。そのため、船のバラストの載貨重量Dは、満載時の載貨重量の約30%であり、バラストの変位(Voll約(0,5-0,55)D)であり、又はバラストタンクの一部に輸送可能な炭化水素を充填でき、これにより、輸送タンカーの載貨重量の有効部分が最小で10~15%増大する。
【0017】
ナフテン系炭化水素の脱水素化のためのオンデッキユニットで製造した芳香族炭化水素を試薬として更に使用すること、及び/又は、石油化学施設の港と消費施設の港との間の輸送タンカーのルート上にある石油化学施設、水素消費施設、若しくはその他の施設で商品として販売することは有用である。
【0018】
石油化学施設におけるナフテン系炭化水素は任意の既知の方法で製造することができるため、結合水素の海上輸送システムは水素製造方法に依存しない。費用対効果の観点から、ナフテン系炭化水素としてはシクロヘキサン又はメチルシクロヘキサンを、芳香族炭化水素としてはベンゼン又はトルエンをそれぞれ使用することが推奨される。ベンゼン又はトルエンの水素化により、シクロヘキサン又はメチルシクロヘキサンの一部としての水素輸送の最大効率が保証され、純粋な水素輸送の効率に匹敵するが、パイプラインを通じた又は容器での水素輸送の欠点がほとんどない。
【0019】
消費施設への水素の途切れのない供給のために使用される輸送タンカーの数Nは、次の式で計算できる。
【0020】
N=(τ1+τ2+τ3+2τ4+τ5)/τ5
ここで、
τ1及びτ2はそれぞれ、輸送タンカーのタンクから芳香族炭化水素を排出し、石油化学施設の港でナフテン系炭化水素を充填する継続時間hであり、
τ3は、石油化学施設の港と水素消費施設の港での輸送タンカーの係留時間の合計hであり、
τ4は、石油化学施設の港から水素消費施設の港までの輸送タンカーの移動時間hであり、
τ5は、ナフテン系炭化水素の脱水素化のためのオンデッキユニットの稼働時間hである。
【0021】
石油化学施設の港から水素消費施設の港までの輸送タンカーの航海中に、ナフテン系炭化水素の脱水素化のためのオンデッキユニットで製造された水素を、輸送タンカーのための燃料として使用するのが好都合であり、それにより、炭素排出量が削減される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】結合水素の海上輸送システムの運用オプションの1つを示す。
【
図2】符号の説明における表記を使用した輸送タンカーの図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1の図に係る結合水素輸送用の海洋システムは以下のように動作する。ナフテン系炭化水素は、とりわけ、石油化学施設100の一部であるナフテン系炭化水素製造プラント101で製造され、パイプライン1を通ってタンクファーム200のナフテン系炭化水素貯蔵タンク201に入る。芳香族炭化水素400(d)を移動させる輸送タンカー400の石油化学施設100の港に係留された後、芳香族炭化水素は、配送及び取り込みターミナル300を通じてそこからパイプライン4を介してポンプで汲み出され、パイプライン5を通じてタンクファーム200の芳香族炭化水素貯蔵タンク202に入る。次いで、芳香族炭化水素は、パイプライン6を介して、石油化学施設100のユニットに試薬として使用するために、及び/又は商品として販売するために送ることができる。芳香族炭化水素が輸送タンカー400の次のタンクからポンプで汲み出されるとき、ナフテン系炭化水素400(a)が積み込まれる。この場合、ナフテン系炭化水素は、タンクファーム200のナフテン系炭化水素貯蔵タンク201から配送及び取り込みターミナル300のポンプによってパイプライン2を介して汲み出され、その後、パイプライン3を介して輸送タンカー400の空のナフテン系炭化水素輸送用タンク409に供給される。
【0024】
ナフテン系炭化水素400(a)を輸送タンカー400に完全に積み込んだ後、ナフテン系炭化水素400(b)は石油化学施設100から水素消費施設500に移動される。水素消費施設500の港に到着して、輸送タンカー400が係留されると、芳香族炭化水素及び水素へのナフテン系炭化水素の変換400(c)が始まる。その後、パイプライン7を通過した水素は、水素消費施設500の水素貯蔵タンク501に入った後、パイプライン8、9を通って、製品Aの合成に水素を使用するプロセスユニット502に、及び製品Bの合成に水素を使用するプロセスユニット503にそれぞれ試薬として送られる。
【0025】
輸送タンカー400の設計が
図2に概略的に示される。タンカー船体401内に伝統的に配置されるデッキ配管システム402、多層デッキハウス403、及びエンジンルーム405に加えて、ナフテン系炭化水素の脱水素化のためのオンデッキユニット404が設けられ、このオンデッキユニットは、ナフテン系炭化水素を芳香族炭化水素及び水素に変換するようにする。輸送タンカー400では、殆どのタンクがナフテン系炭化水素の輸送用タンク409として機能し、更に、オンデッキナフテン系炭化水素の脱水素化ユニット404の動作の最初の数時間中に、水素貯蔵タンク407に加えて、得られた芳香族炭化水素を取り込むための空の予備タンク406も、水素消費施設500の港に設けられる。更なる設計上の特徴は、バラスト水タンク408の容積を削減することである。これは、大量のバラスト水を伴う典型的なタンカーとは対照的に、輸送タンカー400内で空の(戻りの)航海を行う際に容器の安定性を確保するために、バラストの一部の役割が、タンカーのペイロード容量を増大させるナフテン系炭化水素に取って代わるオンデッキナフテン系炭化水素の脱水素化ユニット404で製造された芳香族炭化水素によって果たされるからである。
【0026】
したがって、出願されている発明は、中間化合物への水素の直接変換及び逆変換により消費者までの水素長距離輸送の経済性、環境性能及び安全性の向上を同時に確保する結合水素輸送海洋システムの開発の問題を解決する。
【符号の説明】
【0027】
1-9 パイプライン
100 石油化学施設
101 ナフテン系炭化水素製造プラント
200 タンクファーム
201 ナフテン系炭化水素貯蔵タンク
202 芳香族炭化水素貯蔵タンク
300 配送及び取り込みターミナル
400 所定位置の輸送タンカー
400(a) ナフテン系炭化水素の積み込み
400(b) ナフテン系炭化水素の移動
400(c) 芳香族炭化水素及び水素へのナフテン系炭化水素の変換
400(d) 芳香族炭化水素の移動
401 タンカー船体
402 デッキ配管システム
403 多層デッキハウス
404 ナフテン系炭化水素の脱水素化のためのオンデッキユニット
405 エンジンルーム
406 製造された芳香族炭化水素を取り込むための予備タンク
407 水素貯蔵タンク
408 バラスト水貯蔵タンク
409 ナフテン系炭化水素の輸送用タンク
500 水素消費施設
501 水素貯蔵タンク
502 製品Aの合成に水素を使用するユニット
503 製品Bの合成に水素を使用するユニット
【国際調査報告】