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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-12
(54)【発明の名称】糖化キトサンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/08 20060101AFI20240905BHJP
   C13K 13/00 20060101ALI20240905BHJP
   A61P 37/06 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
C08B37/08 A
C13K13/00
A61P37/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024541768
(86)(22)【出願日】2022-09-21
(85)【翻訳文提出日】2024-05-01
(86)【国際出願番号】 US2022044229
(87)【国際公開番号】W WO2023049167
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】63/246,417
(32)【優先日】2021-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524104918
【氏名又は名称】イミュノフォトニクス,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レイカー,ジョーセフ
(72)【発明者】
【氏名】ホード,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】デラウダー,アビゲイル
(72)【発明者】
【氏名】アッレルッツォ,ルチャーノ
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090BA47
4C090BB17
4C090BB33
4C090BB36
4C090BB77
4C090BD36
4C090BD42
4C090CA35
4C090DA23
(57)【要約】
本開示は、糖化キトサンの調製方法及び糖化キトサンを含有する組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(a)キトサンを単糖又は還元性オリゴ糖と反応させて第1の混合物を形成する工程;及び
(b)工程(a)からの前記第1の混合物に還元剤を添加して第2の混合物を形成する工程
を有する糖化キトサンを調製するための方法であって、前記還元剤を表面下で添加する方法。
【請求項2】
前記単糖又は還元性オリゴ糖が、グルコース、リボース及びガラクトースから選択される単糖である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記単糖がガラクトースである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記単糖又は還元性オリゴ糖が、2~10個の単糖単位を含む還元性オリゴ糖である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記還元性オリゴ糖がグルコース、リボース及びガラクトースから独立して選択される2~10個の単糖単位を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(a)がキトサンを溶媒と接触させて溶液を形成する工程を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒が水を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記溶媒が水である請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記キトサンを前記単糖又は前記還元性オリゴ糖と接触させる前に、前記溶液のpHを5.0未満に調節する工程を含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記キトサンを前記単糖又は前記還元性オリゴ糖と接触させる前に、前記溶液のpHを3.0未満に調節する工程を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記キトサンを前記単糖又は前記還元性オリゴ糖と接触させる前に、前記溶液のpHを1.0未満に調節する工程を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記pHが酸の添加によって調節される、請求項9~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記酸が酢酸である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記工程(a)が約1時間~約48時間に亘って行なわれる、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記工程(a)が約6時間~約24時間に亘って行なわれる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記工程(a)が約12時間に亘って実施される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記工程(a)が前記キトサンを溶媒中で前記単糖又は前記還元性オリゴ糖と接触させることを含み、前記溶媒が水を含み、前記工程(a)が約12時間に亘って行なわれる、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記還元剤がボラン又は水素化ホウ素である請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記還元剤が水素化ホウ素である請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記還元剤が水素化ホウ素ナトリウムである請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記還元剤が複数の表面下添加ポートを介して添加される、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記還元剤が2~6個の表面下添加ポートを介して添加される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記還元剤が4個の表面下添加ポートを介して添加される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記還元剤が約4時間~約10時間に亘って添加される、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記還元剤が約5時間~約8時間に亘って添加される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記還元剤を約6時間~約7時間に亘って添加する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記還元剤が投与ポンプを使用して添加される、請求項1~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記工程(b)が約0℃~約15℃の温度で行なわれる、請求項1~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記工程(b)が約3℃~約10℃の温度で行なわれる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記工程(b)が約6℃~約8℃の温度で行なわれる、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記工程(b)が約2.5~約5.5のpHで行なわれる、請求項1~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記工程(b)が約0.5~約5.5のpHで行なわれる、請求項1~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記工程(b)が約4.0~約4.5のpHで行なわれる、請求項1~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記工程(b)が、1.0g/L~約20.0g/Lのキトサン濃度で行なわれる、請求項1~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記工程(b)が、5.0g/L~約10.0g/Lのキトサン濃度で行なわれる、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記工程(b)が、7.0g/L~約8.0g/Lのキトサン濃度で行なわれる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記還元剤が水素化ホウ素であり、前記還元剤が複数の添加ポートを介して添加され、そして、前記工程(b)が約4.0~約4.5のpHで行なわれる、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記工程(b)が、更に、前記第2の混合物のpHを監視する工程を含む、請求項1~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記工程(b)が、更に、前記第2の混合物のpHを約0.5~約5.5のpHに維持するように調節する工程を含む、請求項1~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記工程(b)が、更に、前記第2の混合物のpHを約2.5~約5.5のpHに維持するように調節する工程を含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記工程(b)が、更に、前記第2の混合物のpHを約4.0~約4.5のpHに維持するように調節する工程を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記pHが酸の添加によって調整される、請求項38~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記酸が酢酸である請求項42に記載の方法。
【請求項44】
オーバーヘッド撹拌が使用される、請求項1~43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記工程(b)からの前記第2の混合物が透析濾過によって精製される、請求項1~44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記工程(b)からの前記第2の混合物が、30kDaカットオフ中空繊維フィルターを使用する透析濾過によって精製される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記工程(b)からの前記第2の混合物が限外濾過によって精製される、請求項1~44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記キトサン対前記単糖又は前記還元性オリゴ糖のモル比が約1:1~約1:20である請求項1~47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記キトサン対前記単糖又は前記還元性オリゴ糖のモル比が約1:3~約1:10である請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記キトサン対前記単糖又は前記還元性オリゴ糖のモル比が約1:5である請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記キトサン対前記水素化ホウ素ナトリウムのモル比が約1:1~約1:20である請求項1~50のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
前記キトサン対前記水素化ホウ素ナトリウムのモル比が約1:5~約1:10である請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記キトサン対前記水素化ホウ素ナトリウムのモル比が約1:7~約1:9である請求項51に記載の方法。
【請求項54】
前記工程(a)が約100ミリグラム~約10キログラムのキトサンスケールで行なわれる、請求項1~53のいずれか1項に記載の方法。
【請求項55】
前記工程(a)が約1.0グラム~約1.0キログラムのキトサンスケールで行なわれる、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記工程(a)が約20.0グラム~約100グラムのキトサンスケールで行なわれる、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記キトサンが約70~95%の脱アセチル化度を有する、請求項1~56のいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
前記キトサンが約80%の脱アセチル化度を有する、請求項1~57のいずれか1項に記載の方法。
【請求項59】
少なくとも約1重量/重量%の糖化キトサン、1.0mg/mL未満の糖及び20ppm未満の残留ホウ素を含有する水性組成物。
【請求項60】
少なくとも約1重量/重量%の糖化キトサン、1.0mg/mL未満の糖及び50ppm未満の残留ホウ素を含有する水性組成物。
【請求項61】
少なくとも約1重量/重量%の糖化キトサン、1.0mg/mL未満の糖及び150ppm未満の残留ホウ素を含有する水性組成物。
【請求項62】
少なくとも約1重量/重量%の糖化キトサン、1.0mg/mL未満の糖及び300ppm未満の残留ホウ素を含有する水性組成物。
【請求項63】
少なくとも約1重量/重量%の糖化キトサン、1.0mg/mL未満の残留する、単糖又は還元性オリゴ糖及び20ppm未満の残留ホウ素を含有する水性組成物であって、請求項1~56のいずれか1項に記載の方法によって得ることができる水性組成物。
【請求項64】
少なくとも約1重量/重量%の糖化キトサン、1.0mg/mL未満の残留する、単糖又は還元性オリゴ糖及び50ppm未満の残留ホウ素を含有する水性組成物であって、請求項1~56のいずれか1項に記載の方法によって得ることができる水性組成物。
【請求項65】
少なくとも約1重量/重量%の糖化キトサン、1.0mg/mL未満の残留する、単糖又は還元性オリゴ糖及び150ppm未満の残留ホウ素を含有する水性組成物であって、請求項1~56のいずれか1項に記載の方法によって得ることができる水性組成物。
【請求項66】
少なくとも約1重量/重量%の糖化キトサン、1.0mg/mL未満の残留する、単糖又は還元性オリゴ糖及び300ppm未満の残留ホウ素を含有する水性組成物であって、請求項1~56のいずれか1項に記載の方法によって得ることができる水性組成物。
【請求項67】
前記残留する、単糖又は還元性オリゴ糖が0.85mg/mL未満の濃度で存在する、請求項59~63のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項68】
前記残留する、単糖又は還元性オリゴ糖が、0.7mg/mL未満の濃度で存在する、請求項67に記載の水性組成物。
【請求項69】
前記残留する、単糖又は還元性オリゴ糖が、0.65mg/mLの濃度で存在する、請求項68に記載の水性組成物。
【請求項70】
前記糖化キトサンが約10kDa~約1000kDaの分子量を有する、請求項69に記載の水性組成物。
【請求項71】
前記糖化キトサンが約50kDa~約350kDaの分子量を有する、請求項59~70のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項72】
前記糖化キトサンが約80kDa~約200kDaの分子量を有する、請求項71に記載の水性組成物。
【請求項73】
前記糖化キトサンが約100kDa~約150kDaの分子量を有する、請求項72に記載の水性組成物。
【請求項74】
前記糖化キトサンが少なくとも約30%の糖化度を有する、請求項59~73のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項75】
前記糖化キトサンが約1%~約10%の糖化度を有する、請求項59~73のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項76】
前記糖化キトサンが約3%~約7%の糖化度を有する、請求項75に記載の水性組成物。
【請求項77】
前記糖化キトサンが約5%の糖化度を有する、請求項76に記載の水性組成物。
【請求項78】
前記糖化キトサンがガラクトースで糖化されている、請求項59~77のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項79】
前記水性組成物中に存在する前記残留ホウ素が15ppm未満である請求項59~78のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項80】
前記水性組成物中に存在する前記残留ホウ素が50ppm未満である請求項59~78のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項81】
前記水性組成物中に存在する前記残留ホウ素が150ppm未満である請求項59~78のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項82】
前記水性組成物中に存在する前記残留ホウ素が300ppm未満である請求項59~78のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項83】
少なくとも約1.2重量/重量%の糖化キトサンを含む、請求項59~82のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項84】
その細菌計数値が、10CFU/10mL未満である請求項59~83のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項85】
その細菌計数値が5CFU/10mL未満である請求項84に記載の水性組成物。
【請求項86】
その細菌計数値が1CFU/10mL未満である請求項85に記載の水性組成物。
【請求項87】
そのエンドトキシンレベルが7.5EU/mg未満である請求項59~86のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項88】
そのエンドトキシンレベルが5EU/mg未満である請求項59~86のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項89】
そのエンドトキシンレベルが1.5EU/mg未満である請求項59~87のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項90】
そのエンドトキシンレベルが1.0EU/mg未満である請求項89に記載の水性組成物。
【請求項91】
そのエンドトキシンレベルが0.5EU/mg未満である請求項90に記載の水性組成物。
【請求項92】
前記糖化キトサンが約70~95%の脱アセチル化度を有する、請求項59~91のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項93】
前記糖化キトサンが約80%の脱アセチル化度を有する、請求項92に記載の水性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年9月21日に出願された米国仮特許出願第63/246,417号の優先権の利益を主張し、その内容は、参照により本明細書に完全に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
免疫療法は、化学療法抵抗性がんの全身治療に使用され、ある程度の成功を収めている。がん免疫療法は、腫瘍に対する免疫応答を誘起し又は増強することに基づく。これを達成するための特定の方法論には、これまで、がんワクチン、サイトカイン又は抗体による免疫の調節、免疫細胞の養子移入などが含まれていた。
【0003】
強固で持続的な抗腫瘍応答(従って、有効な全体的な臨床転帰)を誘起するためのそのような方法論の1つは、腫瘍特異的抗原を、抗原送達を延長し(「デポー効果」)及び/又は適切な免疫刺激効果を誘起し、従って、がんに対する免疫学的応答を増強する補助剤と組み合わせることである。そのような補助剤の1つは、半合成カチオン性炭水化物バイオポリマー糖化キトサン(GC)である。GCの重要な有利な特性には、ベースキトサンよりも改善された水溶性及び免疫刺激、滅菌濾過性、生体適合性、並びに他の治療剤(例えば、ナノ材料)のための生理学的に適合する担体として働く能力が含まれる。
【0004】
GCは、糖分子をキトサンに結合させることによって調製される。キトサン自体は、例えば甲殻類や昆虫などの節足動物の外骨格に見出される、多くの生物の構造成分であるキチンから、また、真菌の細胞壁として、産生される。バイオポリマーキチンは、β1→4グリコシド結合によって結合されたN-アセチルグルコサミン単位から構成される線状ホモポリマーである。部分的に脱アセチル化されたキチンであるキトサンは、このクラスの生体高分子由来化合物のうち、最も研究されているメンバーである。キトサン中の第一級アミノ基の存在は、それらの可溶化を達成し、特定の用途のための特別な特性を付与するように設計された化学修飾のための多くのアプローチを容易にする。
【0005】
そのような化学的修飾の1つは、GCの合成及びGCの製造を介して実現され、ここで、キトサン及び還元糖は、例えば、非特許文献1に記載されているように、キトサンの遊離アミノ基と還元性単糖及び/又はオリゴ糖のカルボニル基とが関与する還元的アミノ化反応を介してGC化合物を製造するために使用される出発物質である。非特許文献1は、参照により本明細書に完全に組み込まれる。
【0006】
歴史的に、そして、一般的に言えば、糖化キトサンの製造には、還元性単糖(例えば、グルコース、ガラクトース、リボースなど)、又は、等量の還元性単糖及び/又はオリゴ糖が関与し、これらは、希酸性水溶液に溶解され、キトサンと混合され、これにより、糖とキトサンのアミノ基との間でイミンが形成された。その後、均質混合物は、撹拌下に、水酸化ナトリウム中の水素化ホウ素ナトリウムの水性混合物を使用して、還元された。
【0007】
この撹拌工程の後、更に撹拌しながら酢酸を滴下添加することにより、溶液をpH5.5に酸性化し、過剰の水素化ホウ素を分解した。特許文献1(「キトサン由来の生体材料」)に記載されているように、反応中に形成された微粒子状物質は、泡及びゲルと一緒になる。泡を破壊し、微粒子を糖化キトサンゲルから分離するために、溶液を遠心分離し、上澄みをデカントし、固体を再懸濁し、再度遠心分離した。この最終工程を数回繰り返し、続いて透析を行なってGCを精製した。
【0008】
例えば、特許文献1に記載されているように、GCの実験室規模の製造における全体的な収率を改善するために、いくつかの研究が行なわれているが、従来の調製方法は、従来の精製方法では追い払うことが困難なゲル化及び粒子状物質形成に悩まされ続けている。従って、GCは、大規模に製造し精製することが極めて困難である。更に、特許文献1に記載されているように、従来の方法によって調製されたGCは、ゲル化及び微粒子の形成の故に、滅菌フィルターの使用がほとんど不可能であり、このために、現在の適正製造基準(cGMP)に従った工業的製造は実行不可能であり、従って、人間の使用には不適切である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,747,475号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2018/312611号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Sashiwaら、Prog.Polym.Sci.29(2004),887-908
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
現在に至るまで、バッチ間の変動が殆ど又は全くない一貫した製造は、依然として、課題のままである。従って、特にcGMP条件下で、ゲル化及び微粒子形成を伴わずに糖化キトサンを製造し、それを人間の使用に適用することができる、改善されたプロセスに対する重要なニーズが満たされていない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、以下の工程:
(a)キトサンを単糖又は還元性オリゴ糖と反応させて第1の混合物を形成する工程;及び
(b)工程(a)からの前記第1の混合物に還元剤を添加して第2の混合物を形成する工程を有する、糖化キトサンを調製するための方法であって、前記還元剤を表面下で添加する方法を提供する。
【0013】
本開示は、また、少なくとも約1重量/重量%の糖化キトサン、1.0mg/mL未満の糖及び300ppm未満の残留ホウ素を含有する水性組成物を提供する。本開示は、また、少なくとも約1重量/重量%の糖化キトサン、1.0mg/mL未満の糖及び20ppm未満の残留ホウ素を含有する水性組成物を提供する。前記水性組成物は、本明細書に開示される方法によって得ることができる。
【0014】
本開示は、様々な態様において、驚くべきことに特にcGMP下での所望の生成物の一貫した製造を可能にする糖化キトサンの大規模合成のための方法を提供する。
【0015】
キトサンは、β-1-4グリコシド結合によって結合されたN-アセチルグルコサミン単位からなる線状ホモポリマーであるキチンから、これらに限定されないが、水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液への曝露を始めとする、様々なプロセスを用いて、キチンからアセチル基を除去することによって合成される。当技術分野で知られているように、脱アセチル化反応は必ずしも完了まで進行せず、元々存在するアセチル基の一部は反応後にキトサングルコサミン単位上に残存し得る。糖化キトサンを調製するための本開示の方法は、任意の適切な脱アセチル化度のキトサンを使用することができ、得られる糖化キトサンは、キチン出発材料からの或る量のアセチル基を保持する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述のように、糖化キトサンとは、キトサンの遊離アミノ基と還元性単糖及び/又はオリゴ糖のカルボニル基との間の反応で生じる生成物を指す。この反応の生成物(主にシッフ塩基、即ち、カルボニル基の炭素原子がアミノ基の窒素原子に二重結合している、とアマドリ生成物、即ち、前記カルボニル基の炭素原子が単結合によって前記アミノ基の窒素原子に結合し、他方、隣接する炭素原子が酸素原子に二重結合している、との混合物、)は、そのまま又は水素化ホウ素ナトリウムなどの水素化物による還元又は適切な触媒の存在下での水素への曝露による安定化の後に、使用することができる。これらの反応は、特許文献1及び特許文献2に更に記載されており、これらは、いずれも参照により本明細書に完全に組み込まれる。
【0017】
糖化キトサンは、下式の化合物からランダムに選択されるモノマーを含む。
【化1】

(式中、Rは、下表から選択される。)
【0018】
【表1】
【0019】
本明細書に記載されるプロセスは、また、糖化の程度などの生成物の或る特徴が、以前は可能でなかった方法で制御されることを可能にする。以下に提供される実施形態は、還元剤の選択、pH、温度、濃度及び撹拌などの条件の相互に関連する効果を説明する。具体的には、還元剤に関して、本明細書に記載される方法は、その選択、化学量論、溶液濃度、溶液添加速度及び溶液添加の物理的方法に対処するために開発された。多くの還元剤が還元的アミノ化反応に有効であることが知られているが、キトサン及び糖化キトサンの溶解性及び金属連結特性並びに糖化キトサンの薬学的最終用途は、使用され得る還元剤を制限する。
【0020】
還元反応のための最適pHは、驚くべきことに、中程度の酸性(例えば、5.5未満のpH)であることが見出された。より高いpH値は、一般に、イミンとの反応に先立つ還元剤の水性分解を回避するが、糖化キトサン溶液は、5.5~6及びこれ以上のpH値で非ニュートン挙動(例えば、ゲル化)を示す。更に、従来の方法は、反応を開始する前にのみpHを調整するが、本開示の或る実施形態では反応のpHを連続的に監視し、例えば酢酸を用いて調整する。これは、還元剤の反応性と分解との理想的なバランスと、反応が起こるための適切な非ゲル化環境との、両方を提供する。反応をより低いpHに維持することにより、特定の還元剤(例えば、NaBH)の半減期が短くなり得る。しかしながら、これは、ゲル化を回避するという利点によって相殺される。pHのこの理想的なバランスは、また、以前は不可能であった、置換率の注意深い制御を可能にする。この理想的なpH範囲に維持されたGC生成反応は、置換率を監視することができ、その後、還元剤の投与量を調節して、所望の置換率を有する生成物を提供することができる。
【0021】
還元剤溶液が反応に投入される方法も、反応の結果に影響を及ぼす。従来の、糖化キトサン反応混合物への還元剤溶液の滴下添加は、生成物の形成を低減し又は排除し、反応混合物中に固体を形成させる。理論によって制限されるものではないが、これは、おそらく、滴定溶液が粘稠な反応混合物の表面張力を効果的に破壊することができず、還元剤分解及び固体形成のための濃縮された微小環境を作り出すことに起因する。表面下で還元剤を添加することは、この問題を解消する。
【0022】
従って、或る局面では、本開示は、
(a)キトサンを単糖又は還元性オリゴ糖と反応させて第1の混合物を形成する工程;及び
(b)工程(a)からの第1の混合物に還元剤を添加して第2の混合物を形成する工程
を含む糖化キトサンを調製するためのプロセスであって、還元剤が表面下で添加されるプロセスを提供する。
【0023】
或る実施形態では、単糖は、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース及びヘプトースから選択される。或る実施形態では、単糖は、グルコース、グルクロン酸、ガラクトース、フルクトース、マンノース、アロース、アルトロース、イドース、タロース、フコース、アラビノース、グロース、ハンメロース、リキソース、リボース、ラムノース、トレオース、キシロース、プシコース、ソルボース、タガトース、グリセルアルデヒド、ジヒドロキシアセトン、エリトロース、トレオース、エリトルロース、マンノヘプツロース、及びセドヘプツロースから選択される。或る実施形態では、オリゴ糖は、フラクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖(GOS)及びマンナンオリゴ糖(MOS)から選択される。或る実施形態では、単糖は、グルコース、ガラクトース、マンノース、アロース、アルトロース、イドース、タロース、フコース、アラビノース、グロース、ハンメロース、リキソース、リボース、ラムノース、トレオース、キシロース、グリセルアルデヒド、エリトロース及びトレオースから選択される。或る実施形態では、単糖又は還元性オリゴ糖は、グルコース、リボース、及びガラクトースから選択される単糖である。
【0024】
或る実施形態では、単糖は、ガラクトースである。
【0025】
或る実施形態では、単糖又は還元性オリゴ糖は、2個の単糖単位を含む還元性オリゴ糖である。或る実施形態では、単糖又は還元性オリゴ糖は、5個の単糖単位を含む還元性オリゴ糖である。或る実施形態では、単糖又は還元性オリゴ糖は、2~10個の単糖単位を含む還元性オリゴ糖である。
【0026】
或る実施形態では、還元性オリゴ糖は、グルコース、リボース及びガラクトースから独立して選択される2個の単糖単位を含む。或る実施形態では、還元性オリゴ糖は、グルコース、リボース、及びガラクトースから独立して選択される5個の単糖単位を含む。或る実施形態では、還元性オリゴ糖は、グルコース、リボース及びガラクトースから独立して選択される少なくとも2個の単糖単位を含む。或る実施形態では、還元性オリゴ糖は、グルコース、リボース及びガラクトースから独立して選択される2~10個の単糖単位を含む。或る実施形態では、還元性オリゴ糖は、本質的に、グルコース、リボース及びガラクトースから独立して選択される2~10個の単糖単位からなる。
【0027】
いくつかの実施形態では、キトサンは、約70~95%の脱アセチル化度を有する。或る実施形態では、キトサンは、約80%の脱アセチル化度を有する。
【0028】
或る実施形態では、工程(a)は、キトサンを、例えば水のような、溶媒と接触させて溶液を形成する工程を含む。
【0029】
或る実施形態では、工程(a)は、更に、キトサンを単糖又は還元性オリゴ糖と接触させる前に、溶液のpHを5.0未満に調節する工程を含む。或る実施形態では、工程(a)は、更に、キトサンを単糖又は還元性オリゴ糖と接触させる前に、溶液のpHを3.0未満に調節する工程を含む。或る実施形態では、工程(a)は、更に、キトサンを単糖又は還元性オリゴ糖と接触させる前に、溶液のpHを1.0未満に調節する工程を含む。
【0030】
或る実施形態では、pHは、酸の添加によって調節される。或る好ましい実施形態では、酸は酢酸である。
【0031】
或る実施形態では、工程(a)は、少なくとも約3時間の期間に亘って行なわれる。或る実施形態では、工程(a)は、少なくとも約6時間の期間に亘って行なわれる。或る実施形態では、工程(a)は、少なくとも9時間の期間に亘って行なわれる。或る実施形態では、工程(a)は、少なくとも約12時間の期間に亘って行なわれる。或る実施形態では、工程(a)は、少なくとも約18時間の期間に亘って行なわれる。或る実施形態では、工程(a)は、少なくとも24時間の期間に亘って行なわれる。或る実施形態では、工程(a)は、約1時間~約48時間の期間に亘って行なわれる。或る実施形態では、工程(a)は、約6時間~約24時間の期間に亘って行なわれる。或る実施形態では、工程(a)は、約12時間の期間に亘って行なわれる。
【0032】
或る特に好ましい実施形態では、工程(a)は、キトサンを単糖又は還元性オリゴ糖と溶媒中で接触させることを含み、溶媒は水を含み、工程(a)は約12時間の期間に亘って行なわれる。
【0033】
或る実施形態では、還元剤はボラン又は水素化ホウ素である。或る実施形態では、還元剤は水素化ホウ素である。或る好ましい実施形態では、還元剤は水素化ホウ素ナトリウムである。
【0034】
或る実施形態では、還元剤は、複数の表面下添加ポートを介して添加される。或る実施形態では、還元剤は、2~6個の表面下添加ポートを介して添加される。或る実施形態では、還元剤は、4つの表面下添加ポートを介して添加される。
【0035】
或る実施形態では、還元剤は、約4時間~約10時間の期間に亘って添加される。或る実施形態では、還元剤は、約5時間~約8時間の期間に亘って添加される。或る実施形態では、還元剤は、約6時間~約7時間の期間に亘って添加される。
【0036】
或る好ましい実施形態では、還元剤が投与ポンプを使用して添加される。
【0037】
或る実施形態では、工程(b)は、0℃未満で実施される。或る実施形態では、工程(b)は、約0℃~約15℃で実施される。或る実施形態では、工程(b)は、約0℃~約10℃で実施される。或る実施形態では、工程(b)は、約3℃~約10℃で実施される。ある好ましい実施形態では、工程(b)は、約6℃~約8℃で実施される。
【0038】
或る実施形態では、工程(b)は、約0.5~約5.5のpHで行なわれる。或る実施形態では、工程(b)は、約2.5~約5.5のpHで行なわれる。或る実施形態では、工程(b)は、約4.0~約4.5のpHで行なわれる。或る実施形態では、工程(b)は、最大約6.0のpHで実施される。或る実施形態では、工程(b)は、最大約5.5のpHで実施される。或る実施形態では、工程(b)は、最大約5.0のpHで実施される。或る実施形態では、工程(b)は、少なくとも1.0のpHで実施される。或る実施形態では、工程(b)は、少なくとも約2.0のpHで実施される。或る実施形態では、工程(b)は、少なくとも約3.0のpHで実施される。
【0039】
或る実施形態では、工程(b)は、更に、第1の混合物のpHを約0.5~約5.5の還元pHに調節する工程を含む。或る実施形態では、工程(b)は、更に、第1の混合物のpHを約2.5~約5.5の還元pHに調節する工程を含む。或る実施形態では、工程(b)は、更に、第1の混合物のpHを約4.0~約4.5の還元pHに調節する工程を含む。或る実施形態では、工程(b)は、更に、第1の混合物のpHを6.0の還元pHに調節する工程を含む。或る実施形態では、工程(b)は、更に、第1の混合物のpHを約5.5の還元pHに調節する工程を含む。或る実施形態では、工程(b)は、更に、第1の混合物のpHを約5.5の還元pHに調節する工程を含む。或る実施形態では、工程(b)は、更に、第1の混合物のpHを少なくとも1.0の還元pHに調節する工程を含む。或る実施形態では、工程(b)は、更に、第1の混合物のpHを少なくとも2.0の還元pHに調節する工程を含む。或る実施形態では、工程(b)は、更に、第1の混合物のpHを少なくとも3.0の還元pHに調節する工程を含む。或る実施形態では、工程(b)は、1.0g/L未満のキトサン濃度で実施される。或る実施形態では、工程(b)は、1.0g/L~約20.0g/Lのキトサン濃度で実施される。或る実施形態では、工程(b)は、1.0g/L~約10.0g/Lのキトサン濃度で実施される。或る実施形態では、工程(b)は、5.0g/L~約10.0g/Lのキトサン濃度で実施される。或る実施形態では、工程(b)は、4.0g/L~約6.0g/Lのキトサン濃度で実施される。或る実施形態では、工程(b)は、6.0g/L~約7.0g/Lのキトサン濃度で実施される。或る実施形態では、工程(b)は、7.0g/L~約8.0g/Lのキトサン濃度で実施される。或る実施形態では、工程(b)は、8.0g/L~約9.0g/Lのキトサン濃度で実施される。或る実施形態では、工程(b)は、9.0g/L~約10.0g/Lのキトサン濃度で実施される。
【0040】
或る特に好ましい実施形態では、還元剤は水素化ホウ素であり、還元剤は複数の添加ポートを介して添加され、工程(b)は約4.0~約4.5のpHで実施される。
【0041】
或る実施形態では、工程(b)は、更に、第2の混合物のpHを監視する工程を含む。
【0042】
或る実施形態では、工程(b)は、更に、第2の混合物のpHを約0.5~約5.5のpHに維持するように調節する工程を含む。或る実施形態では、工程(b)は、更に、第2の混合物のpHを約2.5~約5.5のpHに維持するように調節する工程を含む。或る実施形態では、工程(b)は、更に、第2の混合物のpHを約4.0~約4.5のpHに維持するように調節する工程を含む。
【0043】
或る実施形態では、pHは、酸の添加によって調節される。或る好ましい実施形態では、酸は酢酸である。
【0044】
或る実施形態では、オーバーヘッド撹拌が使用される。
【0045】
或る実施形態では、工程(b)からの第2の混合物は、透析濾過によって精製される。或る実施形態では、工程(b)からの第2の混合物は、30kDaカットオフ中空繊維フィルターを使用する透析濾過によって精製される。
【0046】
或る実施形態では、工程(b)からの第2の混合物は、限外濾過によって精製される。
【0047】
或る実施形態では、キトサン対単糖又は還元性オリゴ糖のモル比が1:20より大きい。或る実施形態では、キトサン対単糖又は還元性オリゴ糖のモル比が約1:1~約1:20である。或る実施形態では、キトサン対単糖又は還元性オリゴ糖のモル比が約1:1~約1:15である。或る実施形態では、キトサン対単糖又は還元性オリゴ糖のモル比が約1:1~約1:10である。或る実施形態では、キトサン対単糖又は還元性オリゴ糖のモル比が約1:3~約1:10である。或る実施形態では、キトサン対単糖又は還元性オリゴ糖のモル比が約1:5である。
【0048】
或る実施形態では、キトサン対水素化ホウ素ナトリウムのモル比は、1:20より大きい。或る実施形態では、キトサン対水素化ホウ素ナトリウムのモル比は、約1:1~約1:20である。或る実施形態では、キトサン対水素化ホウ素ナトリウムのモル比は、約1:1~約1:15である。或る実施形態では、キトサン対水素化ホウ素ナトリウムのモル比は、約1:1~約1:10である。或る実施形態では、キトサンと水素化ホウ素ナトリウムとのモル比は、約1:5~約1:10である。或る実施形態では、キトサン対水素化ホウ素ナトリウムのモル比は、約1:7~約1:9である。或る実施形態では、キトサン対水素化ホウ素ナトリウムのモル比は約1:8である。或る実施形態では、工程(a)は、10グラムを超えるキトサンスケールで実施される。或る実施形態では、工程(a)は、1キログラムを超えるキトサンスケールで実施される。或る実施形態では、工程(a)は、10キログラムを超えるキトサンスケールで実施される。或る実施形態では、工程(a)は、約100ミリグラム~約10キログラムのキトサンスケールで行なわれる。或る実施形態では、工程(a)は、約1.0グラム~約1.0キログラムのキトサンスケールで実施される。或る実施形態では、工程(a)は、約20.0グラム~約100グラムのキトサンスケールで実施される。
【0049】
或る局面では、本開示は、少なくとも約1重量/重量%の糖化キトサン、1.0mg/mL未満の糖及び300ppm未満の残留ホウ素を含有する水性組成物を提供する。いくつかの実施形態では、水性組成物は、150ppm未満の残留ホウ素を含む。いくつかの実施形態では、水性組成物が50ppm未満の残留ホウ素を含む。或る局面では、本開示は、少なくとも約1重量/重量%の糖化キトサン、1.0mg/mL未満の糖及び20ppm未満の残留ホウ素を含有する水性組成物を提供する。水性組成物は、本明細書に開示される方法によって得ることができる。
【0050】
いくつかの実施形態では、糖化キトサンは、約70~95%の脱アセチル化度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約80%の脱アセチル化度を有する。
【0051】
或る実施形態では、残留する、単糖又は還元性オリゴ糖は、0.85mg/mL未満、0.7mg/mL未満、0.65mg/mL未満又は0.5mg/mL未満の濃度で存在する。或る実施形態では、残留する、単糖又は還元性オリゴ糖は、約0.65mg/mLである。
【0052】
或る実施形態では、糖化キトサンが少なくとも50kDaの分子量を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、少なくとも100kDaの分子量を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、少なくとも200kDaの分子量を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、少なくとも300kDaの分子量を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、少なくとも500kDaの分子量を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約10kDa~約1000kDaの分子量を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約50kDa~約350kDaの分子量を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約80kDa~約200kDaの分子量を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約100kDa~約150kDaの分子量を有する。
【0053】
或る実施形態では、例えばガラクトースによる、糖化の程度は、本明細書に記載のプロセスにおいてイミン混合物に添加される水素化ホウ素ナトリウム溶液の濃度を変化させることによって制御することができる。水素化ホウ素ナトリウム濃度を増加させると、一般に、糖化の程度がより高くなる。或る実施形態では、糖化キトサンは、1%未満の糖化度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、少なくとも1%の糖化度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約2%~約5%の糖化度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約1%~約20%の糖化度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約10%~約20%の糖化度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約1%~約10%の糖化度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、10%を超える糖化度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約1%~約5%の糖化度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約5%~約10%の糖化度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約2%~約8%の糖化度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約3%~約7%の糖化度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約3%の糖化度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約4%の糖化度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約5%の糖化度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約6%の糖化度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約7%の糖化度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約8%の糖化度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約9%の糖化度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約10%の糖化度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約15%の糖化度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約20%の糖化度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、少なくとも約30%の糖化度を有する。
【0054】
或る実施形態では、糖化キトサンは、約1%~約20%のN-ガラクトシル-D-グルコサミン;約1%~約30%のN-アセチル-グルコサミン;及び約50%~約98%のD-グルコサミンの組成を有する。
【0055】
或る実施形態では、糖化キトサンはガラクトースで糖化される。或る実施形態では、糖化キトサンは、約1%~約5%のガラクト化(galactation)度を有する。或る実施形態では、糖化キトサンは、約3%~約4%のガラクト化度を有する。
【0056】
或る実施形態では、水性組成物中に存在する残留ホウ素は、300ppm未満の残留ホウ素である。或る実施形態では、水性組成物中に存在する残留ホウ素は、150ppm未満の残留ホウ素である。或る実施形態では、水性組成物中に存在する残留ホウ素は、50ppm未満である。ある実施形態において、残留ホウ素は25ppm未満である。ある実施形態において、残留ホウ素は15ppm未満である。ある実施形態において、残留ホウ素は10ppm未満である。ある実施形態において、残留ホウ素は5ppm未満である。ある実施形態では、残留ホウ素は1ppm未満である。
【0057】
或る実施形態では、水性組成物は、少なくとも約1.2重量/重量%の糖化キトサンを含む。
【0058】
或る実施形態では、水性組成物中の細菌計数値は、10CFU/10mL未満である。或る実施形態では、細菌計数は、5CFU/10mL未満である。或る実施形態では、細菌計数は、1CFU/10mL未満である。
【0059】
或る実施形態では、水性組成物中のエンドトキシンレベルは、7.5EU/mg未満である。或る実施形態では、水性組成物中のエンドトキシンレベルは、5EU/mg未満である。或る実施形態では、水性組成物中のエンドトキシンレベルは、1.5EU/mg未満である。或る実施形態では、水性組成物中のエンドトキシンレベルは、1.0EU/mg未満である。或る実施形態では、水性組成物中のエンドトキシンレベルは、0.5EU/mg未満である。
【0060】
(定義)
「ボラン」は当技術分野で認知されている用語であり、一般式Bを有するホウ素の合成水素化物の群を指す。代表的なボランは、BH、B及びB10である。
【0061】
「水素化ホウ素」は当技術分野で認知されている用語であり、アニオンBH 及びその塩を指す。水素化ホウ素は、BH4-n を含む化合物、例えばシアノ水素化ホウ素(B(CN)H )、水素化トリアセトキシホウ素及び水素化トリエチルホウ素(B(C)にも使用される。代表的な水素化ホウ素は、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素亜鉛及び水素化ホウ素ナトリウムである。
【0062】
明細書では、「表面下添加」は、気相に接触することなく、液体を別の液体に直接添加することを指す。これは、例えば、1つ以上の表面下添加ポートを介して投与ポンプを使用して液体を添加することによって、達成され得る。
【0063】
本明細書では、「糖化度」は、糖化キトサン中の糖化アミノ基の数をポリマーサブユニットの総数で割ったものを指す。本明細書において糖化の程度がポリマー集合体(例えば、反応混合物又は生成物混合物中のポリマー混合物)に関して特定される場合、それは、単位の総数に対する集合体中の糖化単位の割合を指す。糖化の程度は例えば、高電界1HNMR分光法を用いて測定することができる。糖化残基並びにポリマー主鎖に特有の共鳴が統合され、共鳴の比がサンプルの糖化の程度を表わす。
【0064】
本明細書では、ポリマー鎖の特性の「数平均」は、ポリマー集合体に亘るその特性の加重されていない平均を指す。従って、例えば、ポリマー集合体の「数平均分子量」は、下式(式中、Nは分子量Mを有する分子の数である。)によって表わすことができる。
【数1】

重量平均量は、任意の適切な技術によって決定することができる。例えば、数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(サイズ排除クロマトグラフィーとしても知られている)又は粘度測定によって決定することができる。他の数平均量は、例えば、数平均分子量から誘導することができる。例えば、ポリマー集合体中の繰り返し単位の数の数平均(数平均重合度としても知られている)は、繰り返し単位の分子量に対する数平均分子量の比として計算され得る(必要に応じて適切に平均される)。ポリマー集合体の重合度の数平均は、例えば末端基分析によって直接測定することもできる。
【0065】
本明細書では、ポリマー鎖の特性の「重量平均」は、ポリマー鎖の分子量によって重み付けされた、ポリマー集合体に亘るその特性の平均を指す。従って、例えば、ポリマー集合体の「重量平均分子量」は、下式(式中、Nは分子量Mを有する分子の数である。)によって表わすことができる。
【数2】

重量平均量は、任意の適切な技術によって決定することができる。例えば、重量平均分子量は、光散乱、小角中性子散乱、X線散乱又は沈降速度によって決定され得る。他の重量平均量は、例えば、重量平均分子量から得ることができる。例えば、ポリマー集合体中の繰り返し単位の数の重量平均(重量平均重合度としても知られる)は、繰り返し単位の分子量に対する重量平均分子量の比として計算され得る(必要に応じて適切に平均される)。
【実施例
【0066】
ここで本発明を一般的に説明するが、以下の実施例を参照することによってより容易に理解されるであろう。これらの実施例は、単に本発明の或る局面及び実施形態の例証のためにのみ含まれるものであり、本発明を限定することを意図するものではない。
【0067】
[実施例1]
(スケールアップしたプロセス)
冷却ジャケット及びオーバーヘッド撹拌を備えた適切なサイズのガラスライニング容器に、8%酢酸水溶液(2L)を装入した。得られた溶液を撹拌し、キトサン(35.0g、206ミリモル)、続いてD-ガラクトース(188.0g、1044ミリモル)を加えた。得られた懸濁液に追加の8%酢酸水溶液(1.5L)を添加し、周囲温度で最低12時間激しく撹拌した。得られた溶液を、ジャケット冷却を用いて、6~8℃に冷却し、次いで水(2.5L)で希釈した。水酸化ナトリウムの2.0M水溶液を用いて(所望のpHが達成されるまで25mLアリコートで添加した。)、溶液のpHを4の値に調節した。次いで、得られた溶液に、較正された投与ポンプを用いて、4.38mM水酸化ナトリウム水溶液中の水素化ホウ素ナトリウムの0.87 M溶液を6.5~7時間かけて投与した。水素化ホウ素溶液を、4つの表面下添加ポートを介して、表面下で添加した。滴定の間中、気体の発生及び発泡が観察され、発泡が冷却ジャケットの高さを超えないことを確実にするように、攪拌速度が調整された。反応は、全ての水素化ホウ素を滴定する間、pH及び温度について監視し、pHが4.5に達したときにpHを(40mLアリコートで)氷酢酸で調節し、表面下のサーモウェルを介して読み取った温度に基づいて冷却を調節した。水素化ホウ素ナトリウム滴定が完了すると、得られた溶液を、撹拌を弱めながら一晩、周囲温度まで温まるに任せた。次いで、得られた溶液を、30kDaカットオフ中空糸フィルターを用いた透析濾過によって精製した。溶液を水で12Lに希釈し次いで6Lに限外濾過し、続いて水の添加及び限外濾過を16回(各2L、合計32L)行なった。システム圧力は、透析濾過及び限外濾過工程を通して監視され、プレフィルタ圧力が50psiに達した場合、システム流量を減少させた。得られた溶液を限外濾過して体積を約2.8Lとし、次いで0.22ミクロンのカートリッジフィルターに通して滅菌バイオバッグに入れ、3.5%の糖化度を有する糖化キトサンの最終溶液を得た。
【0068】
[実施例2]
(より小規模のスケールアップバッチ)
冷却ジャケット及びオーバーヘッド撹拌を備えた適切なサイズのガラスライニング容器に、8%酢酸水溶液(130g)を充填した。得られた溶液を撹拌し、キトサン(2.33g、13.71ミリモル)、続いてD-ガラクトース(12.53g、69.58ミリモル)を加えた。得られた懸濁液に追加の8%酢酸水溶液(100g)を加え、周囲温度で最低12時間激しく撹拌した。得られた溶液を、ジャケット冷却を用いて6~8℃に冷却し、次いで水(167g)で希釈した。溶液のpHを、水酸化ナトリウムの2.0M水溶液を使用(所望のpHが達成されるまで2.4mLアリコートで添加)して、4の値に調整した。次いで、得られた溶液に、較正された投与ポンプを用いて、4.72mM水酸化ナトリウム水溶液中の水素化ホウ素ナトリウムの0.91M溶液を6.5~7時間かけて投与した。水素化ホウ素溶液を、1つの表面下添加ポートを介して、表面下で添加した。滴定の間中、気体の発生及び発泡が観察され、発泡が冷却ジャケットの高さを超えないことを確実にするように、攪拌速度が調整された。反応は、全ての水素化ホウ素を滴定する間、pH及び温度について監視し、pHが4.5に達したときにpHを(40mLアリコートで)氷酢酸で調節し、表面下のサーモウェルを介して読み取った温度に基づいて冷却を調節した。水素化ホウ素ナトリウム滴定が完了すると、得られた溶液を、撹拌を弱めながら一晩、周囲温度まで温まるに任せた。次いで、得られた溶液を、30kDaカットオフ中空糸フィルターを用いた透析濾過によって精製した。溶液を水で0.8Lに希釈し、次いで0.4Lに限外濾過し、続いて水の添加及び限外濾過を16回(各0.135L、合計2.16L)行なった。システム圧力は、透析濾過及び限外濾過工程を通して監視され、プレフィルタ圧力が38psiに達した場合、システム流量を減少させた。得られた溶液を限外濾過して体積を約0.4Lとし、3.7%の糖化度を有する糖化キトサンの最終溶液を得た。
【0069】
(参照による組み込み)
本明細書で言及されるすべての刊行物及び特許は、あたかも個々の刊行物又は特許が具体的かつ個々に参照により組み込まれることが示されているかのように、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。矛盾する場合、本明細書における任意の定義を含む本出願が優先する。
【0070】
(等価物)
本発明の特定の実施形態について説明してきたが、上記の明細書は例示的なものであり、限定的なものではない。本発明の多くの変形が、本明細書及び以下の特許請求の範囲を検討することにより、当業者に明らかになるであろう。本発明の全範囲は、特許請求の範囲及びその均等物の全範囲並びに明細書及び上述のような変形を参照することによって決定されるべきである。
【国際調査報告】