(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-18
(54)【発明の名称】点眼投与により白内障を予防および/または治療するための眼科用製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/575 20060101AFI20240910BHJP
A61P 27/12 20060101ALI20240910BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240910BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240910BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240910BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240910BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240910BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240910BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240910BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20240910BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240910BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240910BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240910BHJP
【FI】
A61K31/575
A61P27/12
A61K9/08
A61K47/26
A61K47/10
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/32
A61P27/02
A61K47/04
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565316
(86)(22)【出願日】2022-09-01
(85)【翻訳文提出日】2023-10-23
(86)【国際出願番号】 CN2022116432
(87)【国際公開番号】W WO2023030430
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】202111033229.1
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523277390
【氏名又は名称】チョンドゥー ルイムー バイオファーマスーティカルズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドン チン
(72)【発明者】
【氏名】シュエ ルービン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB24
4C076CC10
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4C086AA01
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4C086NA02
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA33
(57)【要約】
点眼投与により白内障を予防・治療するための眼科用製剤であって、眼疾患を治療するための活性物質と、薬学的に許容可能な担体または補助材料とで構成され、眼疾患を治療するための活性物質が、ラノステロールまたは25-ヒドロキシコレステロールを含むオキシステロールであり、前記薬学的に許容可能な担体または補助材料は、界面活性剤、増粘剤、共溶媒および溶媒を含有し、前記製剤におけるオキシステロールの含有量は0.01~5mg/mLであり、界面活性剤、増粘剤、共溶媒およびオキシステロールの質量比は(1~300):(1~100):(100~3000):1であり、残りは溶媒である。前記製剤は、点眼投与した後に、活性物質を選択的に実験動物の水晶体に濃縮させ、白内障の治療効果を的確に発揮させることができ、さらに、活性物質は房水や硝子体内に分布しないため、他の眼組織および全身に対する毒性副作用を回避することができる。眼科用薬物送達の分野において予てより解決が望まれていた技術的難題を解決し、非常に高い臨床応用の価値と社会的価値を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
点眼投与のための眼科用製剤であって、眼疾患を治療するための活性物質と、薬学的に許容可能な担体または補助材料とで構成され、
前記眼疾患を治療するための活性物質が、ラノステロールまたは25-ヒドロキシコレステロールを含むオキシステロールであり、
前記薬学的に許容可能な担体または補助材料が、界面活性剤、増粘剤、共溶媒および溶媒を成分として含有し、
前記製剤におけるオキシステロールの含有量は0.01~5mg/mLであり、界面活性剤、増粘剤、共溶媒およびオキシステロールの質量比は(1~300):(1~100):(100~3000):1であり、残りは溶媒である
ことを特徴とする、製剤。
【請求項2】
前記製剤におけるオキシステロールの含有量は0.01~2mg/mLであることを特徴とする、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記オキシステロールの含有量は0.05~0.5mg/mLまたは0.01~0.2mg/mLであることを特徴とする、請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
前記製剤におけるオキシステロールの含有量は、0.01mg/mL、0.05mg/mL、0.1mg/mL、0.15mg/mL、0.2mg/mL、0.25mg/mL、0.3mg/mL、0.35mg/mL、0.4mg/mL、0.45mg/mL、0.5mg/mL、0.55mg/mL、0.6mg/mL、0.65mg/mL、0.7mg/mL、0.75mg/mL、0.8mg/mL、0.85mg/mL、0.9mg/mL、0.95mg/mL、1mg/mL、1.5mg/mLまたは2mg/mL、2.5mg/mL、3mg/mL、3.5mg/mL、4mg/mL、4.5mg/mLまたは5mg/mLであることを特徴とする、請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
前記界面活性剤、増粘剤、共溶媒およびオキシステロールの質量比は、(6.7~250):(11~50):(100~2500):1であり、好ましくは(25~200):(11~48):(200~2500):1であり、さらに好ましくは25:12:(200~600):1であることを特徴とする、請求項1に記載の眼科用製剤。
【請求項6】
前記界面活性剤が非イオン性界面活性剤であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1つに記載の製剤。
【請求項7】
前記非イオン性界面活性剤がポリソルベート、ポロキサマーまたはアルキルグルコシドであることを特徴とする、請求項6に記載の製剤。
【請求項8】
前記増粘剤が、高分子化合物であるヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポビドン、カルボマー、ポリエチレングリコール、ポロキサマー、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、ヒアルロン酸またはその塩、アルギン酸またはその塩、カルボキシメチルセルロースまたはその塩のうちの少なくとも2種の組み合わせであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1つに記載の製剤。
【請求項9】
前記オキシステロールが25-ヒドロキシコレステロールであり、前記増粘剤が、高分子化合物であるヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポビドン、カルボマー、ポリエチレングリコール、ポロキサマー、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、ヒアルロン酸またはその塩、アルギン酸またはその塩、カルボキシメチルセルロースまたはその塩のうちの少なくとも2種の組み合わせであることを特徴とする、請求項8に記載の製剤。
【請求項10】
前記オキシステロールがラノステロールであり、前記増粘剤が、高分子化合物であるヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポビドン、カルボマー、ポリエチレングリコール、ポロキサマー、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロースのうちの少なくとも2種の組み合わせであることを特徴とする、請求項8に記載の製剤。
【請求項11】
前記増粘剤が前記高分子化合物のうちの2種の組み合わせであり、2種の高分子化合物の重量比が1:(0.1~10)であり、好ましくは1:(0.6~5)であり、より好ましくは1:1であることを特徴とする、請求項8~10のいずれか1つに記載の製剤。
【請求項12】
前記薬学的に許容可能な担体または補助材料中の溶媒が極性溶媒であり、好ましくは水であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1つに記載の製剤。
【請求項13】
前記薬学的に許容可能な担体または補助材料中の共溶媒が、液状ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン水素添加ひまし油、ひまし油ポリオキシエチレンエーテルから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1つに記載の製剤。
【請求項14】
眼疾患を治療するための活性物質と、界面活性剤と、増粘剤と、共溶媒とを成分として含み、
前記眼疾患を治療するための活性物質がラノステロールであって、その含有量は0.01~0.2mg/mLであり、
前記界面活性剤がポリソルベートまたはポロキサマーであって、その含有量はラノステロールの6.7~250倍であり、
前記増粘剤の含有量はラノステロールの11~50倍であり、前記増粘剤がポビドンとヒドロキシプロピルセルロースの組み合わせであって、ヒドロキシプロピルセルロースとポビドンの重量比が1:(1~1.2)である、または、前記増粘剤がポビドンとヒドロキシプロピルメチルセルロースの組み合わせであって、ポビドンとヒドロキシプロピルメチルセルロースの重量比が1:(1~1.5)である、または、前記増粘剤がポビドンとカルボマーの組み合わせであって、ポビドンとカルボマーの重量比が1:1である、または、前記増粘剤がポビドンとポリエチレングリコールの組み合わせであって、ポリエチレングリコールとポビドンの重量比が1:5であり、
前記共溶媒が液状ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ポリオキシエチレン水素添加ひまし油またはひまし油ポリオキシエチレンエーテルであって、その含有量はラノステロールの100~2500倍であり、溶媒は水である
ことを特徴とする、請求項1~13のいずれか1つに記載の製剤。
【請求項15】
前記界面活性剤の含有量はラノステロールの25~200倍であり、前記増粘剤の含有量はラノステロールの11~48倍であり、前記共溶媒の含有量はラノステロールの200~2500倍であることを特徴とする、請求項14に記載の製剤。
【請求項16】
眼疾患を治療するための活性物質と、界面活性剤と、増粘剤と、共溶媒とを成分として含み、
前記眼疾患を治療するための活性物質が25-ヒドロキシコレステロールであって、その含有量は0.1mg/mLであり、
前記界面活性剤がポリソルベートであって、その含有量は25-ヒドロキシコレステロールの25~250倍であり、
前記増粘剤の含有量は25-ヒドロキシコレステロールの12倍であり、前記増粘剤がポビドンとヒドロキシプロピルセルロースの組み合わせであって、ヒドロキシプロピルセルロースとポビドンの重量比が1:1である、または、前記増粘剤がポビドンとヒドロキシプロピルメチルセルロースの組み合わせであって、ポビドンとヒドロキシプロピルメチルセルロースの重量比が1:1であり、
前記共溶媒が液状ポリエチレングリコールまたはグリセロールであって、その含有量は25-ヒドロキシコレステロールの100~1750倍であり、溶媒は水である
ことを特徴とする、請求項1~13のいずれか1つに記載の製剤。
【請求項17】
前記界面活性剤の含有量は25-ヒドロキシコレステロールの25倍であり、前記増粘剤の含有量はラノステロールの12倍であり、前記共溶媒の含有量はラノステロールの300倍であることを特徴とする、請求項16に記載の製剤。
【請求項18】
前記製剤中の薬学的に許容可能な担体または補助材料は、浸透圧調節剤、pH調整剤、防腐剤のうちの任意の1種または複数種をさらに含み、
前記浸透圧調節剤が、グルコース、塩化ナトリウム、塩化カリウム、マンニトール、ソルビトール、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウムおよびグリセリンのうちの任意の1種または複数種であり、
前記pH調整剤が、塩酸、水酸化ナトリウム、酢酸またはその塩、クエン酸またはその塩、フマル酸、コハク酸、ソルビン酸、リン酸、リン酸二水素二ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂、酒石酸またはその塩のうちの任意の1種または複数種であり、
前記防腐剤が、ソルビン酸、クロロブタノール、亜塩素酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、第四級アンモニウム塩類(塩化ベンザルコニウム、臭化ベンザルコニウム、ポリクオタニウム-1、臭化セチルトリメチルアンモニウムを含む)、ヒドロキシベンゼンエステル類(メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベンを含む)、硝酸フェニル水銀のうちの任意の1種または複数種であり、好ましくは、前記第四級アンモニウム塩類が塩化ベンザルコニウム、臭化ベンザルコニウム、ポリクオタニウム-1および/または臭化セチルトリメチルアンモニウムを含み、前記ヒドロキシベンゼンエステル類がメチルパラベン、エチルパラベンおよび/またはプロピルパラベンを含む
ことを特徴とする、請求項1~17のいずれか1つに記載の製剤。
【請求項19】
前記眼科用製剤は、眼科用製剤の担体または補助材料の成分が自己組織化して形成されたナノ粒子の構造を含み、前記ナノ粒子は、眼疾患を治療するための活性物質を含んでいることを特徴とする、請求項1~18のいずれか1つに記載の製剤。
【請求項20】
前記ナノ粒子は球形であり、その粒径は5~900nmであり、好ましくは5~50nmおよび/または200~700nmであることを特徴とする、請求項19に記載の製剤。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか1つに記載の製剤を調製する方法であって、該方法は、
溶媒に界面活性剤、増粘剤を加え、混合して混合液を得るステップ(1)と、
ステップ(1)で得られた混合液に、眼疾患を治療するための活性物質を加え、共溶媒を加えまたは加えずに、分散させ混合して初期懸濁液を得るステップ(2)と、
ステップ(2)で得られた初期懸濁液を撹拌して分散させる、および/またはホモジナイズして分散させるステップ(3)と、を含む
ことを特徴とする、方法。
【請求項22】
ステップ(2)における前記分散が、機械撹拌による分散、磁気撹拌による分散、ボルテックス振とうによる分散、剪断による分散、ホモジナイズによる分散、粉砕による分散、超音波による分散から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項1~20のいずれか1つに記載の製剤の、ヒトまたは動物の水晶体疾患を予防・治療するための薬物の調製における使用。
【請求項24】
前記薬物が白内障を予防・治療するための薬物であり、好ましくは、水晶体タンパク質の凝集を減少させ、水晶体の混濁を減少させるための薬物であることを特徴とする、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
前記薬物が眼部投与用の薬物製剤であり、好ましくは眼部局所投与用の薬物であることを特徴とする、請求項23に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼科用薬物の分野に属し、具体的には、点眼投与により白内障を予防および/または治療するための眼科用製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
白内障は、加齢等の原因により水晶体が徐々に老化して混濁し、光の眼への進入を妨げることで視力に影響を与えるもので、失明する場合もある。白内障は、現在世界で最も一般的な失明に至る病であり、世界保健機関(WHO)の報告によれば、白内障による失明率は40%以上を占め、50歳以上で白内障により失明する人の割合は約47.8%であり、先進国においては失明率の90%を占めている。白内障患者は多く、現在は、手術に代わって白内障を予防または治療するための信頼できる薬物治療法がなく、目下のところ、手術が白内障を効果的に治療する唯一の方法である(Jingjie Xu et al: Advances in pharmacotherapy of cataracts, Ann Transl Med 2020; 8(22): 1552)。
【0003】
白内障の発症と進行を調査する過程で、研究者らは、25-ヒドロキシコレステロール(25-hydroxycholesterol、25-HC、CAS#:2140-46-7)およびラノステロール(Lanosterol、LAN、CAS#:79-63-0)を含むオキシステロール類分子(oxysterols)が、すでに発症した白内障を逆転させ、水晶体の透明度を回復させる効果を有することを見出した(Ling Zhao et. al., Lanosterol reverses protein aggregation in cataracts, Nature 523, 607-611,2015; Makley et. al., Pharmacological chaperone for α-crystallin partially restores transparency in cataract models, Science 350 (6261), 674-677, 2015)。
【0004】
水晶体の機能は光を伝達して網膜に集めることであり、眼球の屈折媒体のひとつである。水晶体内のクリスタリンは、規則的に配列されたα-、β-およびγ-の3種類のクリスタリン(α-、β-、γ-クリスタリン)を含み、クリスタリン分子間の交互構造は、水晶体の透明度および屈折率を決定する基礎である。白内障の病理の基本は、クリスタリンの異常な折り畳みや凝集であり、これらによりクリスタリン間の相互作用が変化し、クリスタリンの流動性と安定度が低下して、凝集したタンパク質が水晶体を混濁させ、不透明にするため、光が眼に進入できず、白内障が発症する。
【0005】
ラノステロールと25-ヒドロキシコレステロールは、クリスタリンの重合を阻害し、水晶体の形態を改善し、透明度を回復させることができる。Gestwickiらは、25-ヒドロキシコレステロール等を含むオキシステロールが、α-クリスタリンの保護活性を強めて、白内障を除去し得ると報告している。また、Kang Zhangのチームは、ラノステロールがβ-およびγ-クリスタリンに結合して、クリスタリンの重合を阻害し、白内障を除去し得ると報告している(Ling Zhao et. al., Nature 2015; Makley et. al., Science 2015)。
【0006】
LANは、体内のコレステロール生合成経路における重要な環化反応中間体であり、ラノステロール酵素(Lanosterol synthase、LSS)が触媒することで合成される。また、25-ヒドロキシコレステロールは、体内の25-ヒドロキシコレステロール酵素が触媒することでコレステロール合成されて得られる。病的な状態では、水晶体におけるこれら体内代謝中間体の濃度は、白内障を効果的に逆転させるのに十分なレベルではなく、活性物質の補充が必要である。補充方式は、経口等が最も一般的な方法であるが、これらの活性物質は、全身に補充されることによってそのほとんどが全身の生化学的プロセスに関与するため、水晶体に到達する中間体は、有効濃度に達するには依然不十分である。また、コレステロール類の生理活性は幅広いため、全身投与の方式で外因性のオキシステロールを導入した場合、予測できない病態生理学的な反応が起こる可能性がある。例えば、ラノステロールは、コレステロールの体内での生合成における重要な中間体であり、25-ヒドロキシコレステロールは、コレステロールの酸化生成物であって、炎症または感染と密接に関連しているが、肝臓X受容体(LXR)アゴニストでもあり、LXRアゴニストの摂取は、肝臓の脂肪合成および高トリグリセリド血症を引き起こす可能性がある(Willinger, et al., Oxysterols in intestinal immunity and inflammation, Journal of Internal Medicine, 2019, 285; 367-380; Donovan Duc, et al., Oxysterols in Autoimmunity, Int. J. Mol. Sci. 2019, 20, 4522, 1-16; Cystger, et al. Nat. Rev. Immunol. 14(11), 731-743 (2014); 呉桐、杜紅俊、眼科疾患における肝臓X受容体の研究と進歩、眼科新進歩、39(9), 886-897, 2019)。
【0007】
従って、このような活性物質を用いて白内障を予防・治療するには、眼部の局所への送達が最適である。
【0008】
しかし、眼球前部の角膜の表面は涙液膜で覆われ、角膜自体は脂質層、水層およびムチン層からなるため、薬物分子が前眼房に進入し、瞳孔を経て水晶体に到達するためには、外から内に、角膜の水性基質層に浸透し、さらに脂質層を通り抜けなければならない。薬物が組織の解剖学的、生理学的および生化学的な天然のバリアを透過して、白内障を予防・治療するという目的を達成するためには、従来の点眼剤の技術的難題を克服しなければならない(Thrimawithana, T. R. et al., Drug delivery to the lens for the management of cataracts, Advanced Drug Delivery Reviews(2018), 126, 185-194)。
【0009】
これまで、角膜のバリアを越えてオキシステロール類を水晶体に送達するためには、一般に眼球注射が用いられてきた。例えば、研究者らが、ラノステロール、ポリカプロラクトン、レシチンおよびリン脂質ポリエチレングリコールカルボキシル(DSPE-PEG-COOH)により調製したナノ粒子を、白内障モデル動物の硝子体腔内に注射し(3日に1回注射)、濃度25mMのラノステロール溶液(15%シクロデキストリンおよび18%エタノール)を併用して週6回、6週間続けて点眼投与したところ、白内障が消失した。しかし、単独で実験動物に点眼投与した場合は、白内障を治療することはできなかった(Ling Zhao et al., Nature, 2015; Kang Zhang and Shenyang Hou, US2017/0065617 A1)。このことは、従来技術において、眼のバリアを越えるためには注射等の侵襲的な方式で投与を行わなければならず、また、ラノステロール溶液を直接点眼投与しても、薬物が角膜や水晶体のバリアをスムーズに通過して水晶体に進入し治療効果を発揮することはできない、ということを示している。
【0010】
しかし、房水および/または硝子体内の活性物質は、水晶体嚢を通り抜けなければ、やはり水晶体に進入して作用することはできない。従来の数多くの研究では、オキシステロール活性物質を硝子体内に直接注射しても、水晶体嚢のバリア効果によって、水晶体に進入して治療効果を発揮することは依然困難であることがわかっている。
【0011】
例えば、研究者らがポリ(乳酸-co-グリコール酸)-ポリ(エチレングリコール)-ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA-PEG-PLGA)で調製したラノステロールサーモゲル(Thermogel)を実験ウサギの硝子体腔に注射(濃度400mg/g)したところ、硝子体内のLAN濃度が3週間にわたって>50ng/mLに維持された(Lei Lv et al., Quantitation of lanosterol in the vitreous humor of rabbits after ocular administration of lanosterol/thermogel formulation by ultra high performance liquid chromatography-tandem mass spectrometry with the electrospray ionization mode, J Chromatogr. A, 2017; 1519: 83-90)。Nagaiらが、実験ラットの硝子体腔にラノステロールナノ粒子注射液(濃度2mg/mL、2日毎に1回)を6週間続けて注射したところ、水晶体の混濁化の進行を止めることはできなかった(Noriaki Nagai, et al: The Intravitreal Injection of Lanosterol Nanoparticles Rescues Lens Structure Collapse at an Early Stage in Shumiya Cataract Rats, Int. J. Mol. Sci. 2020, 21, 1048)。
【0012】
また、インビトロ実験によって、オキシステロールが水晶体のバリアを突破し水晶体に進入して治療効果を発揮することは困難であることがさらに実証されている。例えばShanmugamらは、白内障摘出手術後に得た白内障の核を、濃度が25mMのラノステロール溶液に6日間浸漬したが、白内障の透明度に有意な改善はみられなかった(Shanmugam et al., Effect of lanosterol on human cataract nucleus, Indian J Ophthalmol. 63(12): 888-8902015)。また、Daszynskiらは、ラット水晶体を15mMのLANリポソーム溶液に48時間浸漬し、あるいは白内障患者の水晶体片をラノステロール(0.20mMラノステロール)または25-ヒドロキシコレステロール緩衝液(濃度:0.25mMおよび0.50mM、37℃、72時間)に浸漬したが、いずれも、ラノステロールまたは25-ヒドロキシコレステロールがクリスタリンと結合して白内障を解消するという状況は確認できなかった(Daszynski, et. al., Failure of oxysterols such as Lanosterol to Restore Lens Clarity from Cataracts, Scientific Reports (2019) 9: 8459, 14 pages)。
【0013】
このことから分かるように、硝子体注射という侵襲的な方式によって角膜バリアを透過しても、網膜、脈絡膜および硝子体等の眼底組織において薬物の濃度を高めるだけであり、依然として、水晶体に効果的に進入して作用することはできない。水晶体注射を直接使用した場合、外傷性または後発性の白内障を誘発する恐れがあり、臨床で実施することはできない。
【0014】
以上のように、オキシステロールは水晶体内で白内障を効果的に予防・治療することができるが、現在のところ、眼科の臨床において実施可能な、薬物を安全に水晶体に送達する投与方法はない。しかも、オキシステロールの生理活性は広範であるため、外因性のオキシステロールが体内に入ることは避けなければならず、従来の経口、注射、インプラント等のシステムで投与した場合、これら薬物の安全性を確保することはできない。理想的な投与方式は、非侵襲的な点眼投与によって、従来の点眼投与の送達メカニズムとは異なるメカニズムで、薬物を水晶体において治療濃度に到達させることである。従って、点眼投与の方式で薬物を安全かつ効果的に水晶体に送達することができる眼科用製剤を発明することは、眼科用製剤の分野において早急に解決するべき難題である。
【0015】
しかしながら、上記のような薬物送達の部分にのみ難しさがあるわけではなく、オキシステロールを活性物質とする製剤を調製する場合には、さらに溶解性の問題が存在する。オキシステロール等の潜在的な活性物質(例えばラノステロール等)は、四環性トリテルペノイドに属し、クロロホルム、エタノール、エーテル、n-プロパノール、イソプロパノール、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)およびジメチルスルホキシド(DMSO)等に溶解するが、水への溶解度は低い(Li and Forciniti, J. Chem. Eng. Data, 2020, 65, 2,. 436-445)。そのため、溶解度を高めるために有機溶媒を使用するのが一般的であるが、有機溶媒の過剰使用は眼を刺激し、安全面でのリスクとなる可能性がある。有機溶媒以外に、研究者は、シクロデキストリンまたはその誘導体を補助材料(cyclo-dextrins、CYD、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを含む)とし、包接技術を用いてオキシステロール類分子をシクロデキストリンの空洞に取り込み、調製して溶液にし、動物での研究に用いた(グエン, CN108472303 A, 2016; J. D. Sciamanna, US2020/0360403A1)。しかし、CYD包接化合物は生体膜を透過することができず、さらにβ-シクロデキストリンはコレステロールと複合体を形成して体内で溶解しないため、腎臓に蓄積して、深刻な腎毒性を引き起こす可能性もある(R. C. Rowe, P. J. Sheskey, P. J. Weller, 『薬用補助材料ハンドブック』[M]. 北京: 化学工業出版社, 2005)ことから、その更なる開発と応用は制限され、現在では犬用製品がインターネットで販売されているのみである(商品名:Lanomax(登録商標))。
【0016】
従って、薬物溶解性の問題を解決し、且つ角膜や水晶体のバリアを突破することができる眼科用製剤を研究して、点眼投与による白内障の治療を実現することは、非常に重要な臨床的価値および社会的意義を有する。
【発明の概要】
【0017】
本発明の目的は、点眼投与方式により、眼疾患を治療するための活性物質、例えばオキシステロール類物質を水晶体に送達することができ、白内障の治療や予防に用いられる眼科用製剤を提供することである。
【0018】
本発明は、点眼投与のための眼科用製剤を提供し、該製剤は、眼疾患を治療するための活性物質と、薬学的に許容可能な担体または補助材料とで構成され、
前記眼疾患を治療するための活性物質が、ラノステロールまたは25-ヒドロキシコレステロールを含むオキシステロールであり、
前記薬学的に許容可能な担体または補助材料が、界面活性剤、増粘剤、共溶媒および溶媒を成分として含有し、
前記製剤におけるオキシステロールの含有量は0.01~5mg/mLであり、界面活性剤、増粘剤、共溶媒およびオキシステロールの質量比は(1~300):(1~100):(10~3000):1であり、残りは溶媒である。
【0019】
さらに、前記製剤におけるオキシステロールの含有量は0.01~2mg/mLである。
【0020】
さらに、前記製剤におけるオキシステロールの含有量は0.05~0.5mg/mLである。
【0021】
さらに、前記製剤におけるオキシステロールの含有量は、0.01mg/mL、0.05mg/mL、0.1mg/mL、0.15mg/mL、0.2mg/mL、0.25mg/mL、0.3mg/mL、0.35mg/mL、0.4mg/mL、0.45mg/mL、0.5mg/mL、0.55mg/mL、0.6mg/mL、0.65mg/mL、0.7mg/mL、0.75mg/mL、0.8mg/mL、0.85mg/mL、0.9mg/mL、0.95mg/mL、1mg/mL、1.5mg/mLまたは2mg/mL、2.5mg/mL、3mg/mL、3.5mg/mL、4mg/mL、4.5mg/mLまたは5mg/mLである。
【0022】
さらに、前記界面活性剤、増粘剤、共溶媒およびオキシステロールの質量比は、(6.7~250):(11~50):(100~2500):1であり、好ましくは(25~200):(11~48):(200~2500):1であり、さらに好ましくは25:12:(200~600):1である。
【0023】
さらに、前記界面活性剤が非イオン性界面活性剤である。
【0024】
さらに、前記非イオン性界面活性剤がポリソルベート、ポロキサマーまたはアルキルグルコシドである。
【0025】
さらに、前記増粘剤が、高分子化合物であるヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポビドン、カルボマー、ポリエチレングリコール、ポロキサマー、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、ヒアルロン酸またはその塩、アルギン酸またはその塩、カルボキシメチルセルロースまたはその塩のうちの少なくとも2種の組み合わせである。
【0026】
さらに、前記増粘剤が前記高分子化合物のうちの2種の組み合わせであり、2種の高分子化合物の重量比が1:(0.1~10)であり、好ましくは1:(0.6~5)であり、
さらに、前記2種の高分子化合物の重量比が1:1である。
【0027】
さらに、前記増粘剤がポビドンとヒドロキシプロピルセルロースの組み合わせであって、ヒドロキシプロピルセルロースとポビドンの重量比は1:(1~2)であり、好ましくは1:(1~1.2)である、
または、前記増粘剤がポビドンとヒドロキシプロピルメチルセルロースの組み合わせであって、ポビドンとヒドロキシプロピルメチルセルロースの重量比が1:(1~3)であり、好ましくは1:(1~1.5)である、
または、前記増粘剤がポビドンとカルボマーの組み合わせであって、ポビドンとカルボマーの重量比が1:(0.5~2)であり、好ましくは1:1である、
または、前記増粘剤がポビドンとポリエチレングリコールの組み合わせであって、ポビドンとポリエチレングリコールの重量比が1:(1~8)であり、好ましくは1:5である。
【0028】
さらに、前記オキシステロールが25-ヒドロキシコレステロールであり、前記増粘剤が、高分子化合物であるヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポビドン、カルボマー、ポリエチレングリコール、ポロキサマー、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、ヒアルロン酸またはその塩、アルギン酸またはその塩、カルボキシメチルセルロースまたはその塩のうちの少なくとも2種の組み合わせである。
【0029】
さらに、前記オキシステロールが25-ヒドロキシコレステロールであり、前記増粘剤がポビドンとヒドロキシプロピルセルロースの組み合わせであって、ヒドロキシプロピルセルロースとポビドンの重量比は1:(1~2)であり、好ましくは1:(1~1.2)である、
または、前記増粘剤がポビドンとヒドロキシプロピルメチルセルロースの組み合わせであって、ポビドンとヒドロキシプロピルメチルセルロースの重量比が1:(1~3)であり、好ましくは1:(1~1.5)である。
【0030】
さらに、前記オキシステロールがラノステロールであり、前記増粘剤が、高分子化合物であるヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポビドン、カルボマー、ポリエチレングリコール、ポロキサマー、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロースのうちの少なくとも2種の組み合わせである。
【0031】
さらに、前記オキシステロールがラノステロールであり、前記増粘剤がポビドンとヒドロキシプロピルセルロースの組み合わせであって、ヒドロキシプロピルセルロースとポビドンの重量比は1:(1~2)であり、好ましくは1:(1~1.2)である、
または、前記増粘剤がポビドンとヒドロキシプロピルメチルセルロースの組み合わせであって、ポビドンとヒドロキシプロピルメチルセルロースの重量比が1:(1~3)であり、好ましくは1:(1~1.5)である、
または、前記増粘剤がポビドンとカルボマーの組み合わせであって、ポビドンとカルボマーの重量比が1:(0.5~2)であり、好ましくは1:1である、
または、前記増粘剤がポビドンとポリエチレングリコールの組み合わせであって、ポビドンとポリエチレングリコールの重量比が1:(1~8)であり、好ましくは1:5である。
【0032】
さらに、前記薬学的に許容可能な担体または補助材料における溶媒が極性溶媒であり、好ましくは水である。
【0033】
さらに、前記薬学的に許容可能な担体または補助材料における共溶媒が、液状ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ポリオキシエチレン水素添加ひまし油またはひまし油ポリオキシエチレンエーテルから選択される少なくとも1種であり、好ましくは液状ポリエチレングリコールである。
【0034】
さらに、前記製剤は、眼疾患を治療するための活性物質と、界面活性剤と、増粘剤と、共溶媒とを成分として含み、
前記眼疾患を治療するための活性物質がラノステロールであって、その含有量は0.01~0.2mg/mLであり、
前記界面活性剤がポリソルベートまたはポロキサマーであって、その含有量はラノステロールの6.7~250倍であり、
前記増粘剤の含有量はラノステロールの11~50倍であり、前記増粘剤がポビドンとヒドロキシプロピルセルロースの組み合わせであって、ヒドロキシプロピルセルロースとポビドンの重量比が1:(1~1.2)である、または、前記増粘剤がポビドンとヒドロキシプロピルメチルセルロースの組み合わせであって、ポビドンとヒドロキシプロピルメチルセルロースの重量比が1:(1~1.5)である、または、前記増粘剤がポビドンとカルボマーの組み合わせであって、ポビドンとカルボマーの重量比が1:1である、または、前記増粘剤がポビドンとポリエチレングリコールの組み合わせであって、ポリエチレングリコールとポビドンの重量比が1:5であり、
前記共溶媒が液状ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ポリオキシエチレン水素添加ひまし油またはひまし油ポリオキシエチレンエーテルであって、その含有量はラノステロールの100~2500倍であり、溶媒は水である。
【0035】
または、前記製剤は、眼疾患を治療するための活性物質と、界面活性剤と、増粘剤と、共溶媒とを成分として含み、
前記眼疾患を治療するための活性物質が25-ヒドロキシコレステロールであって、その含有量は0.1mg/mLであり、
前記界面活性剤がポリソルベートであって、その含有量は25-ヒドロキシコレステロールの25~250倍であり、
前記増粘剤の含有量は25-ヒドロキシコレステロールの12倍であり、前記増粘剤がポビドンとヒドロキシプロピルセルロースの組み合わせであって、ヒドロキシプロピルセルロースとポビドンの重量比が1:1である、または、前記増粘剤がポビドンとヒドロキシプロピルメチルセルロースの組み合わせであって、ポビドンとヒドロキシプロピルメチルセルロースの重量比が1:1であり、
前記共溶媒が液状ポリエチレングリコールまたはグリセロールであって、その含有量は25-ヒドロキシコレステロールの100~1750倍であり、溶媒は水である。
【0036】
さらに、前記製剤の薬学的に許容可能な担体または補助材料は、浸透圧調節剤、pH調整剤、防腐剤のうちの任意の1種または複数種をさらに含み、
前記浸透圧調節剤が、グルコース、塩化ナトリウム、塩化カリウム、マンニトール、ソルビトール、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウムおよびグリセリンのうちの任意の1種または複数種であり、
前記pH調整剤が、塩酸、水酸化ナトリウム、酢酸またはその塩、クエン酸またはその塩、フマル酸、コハク酸、ソルビン酸、リン酸、リン酸二水素二ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂、酒石酸またはその塩のうちの任意の1種または複数種であり、
前記防腐剤が、ソルビン酸、クロロブタノール、亜塩素酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、第四級アンモニウム塩類(塩化ベンザルコニウム、臭化ベンザルコニウム、ポリクオタニウム-1、臭化セチルトリメチルアンモニウムを含む)、ヒドロキシベンゼンエステル類(メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベンを含む)、硝酸フェニル水銀のうちの任意の1種または複数種であり、好ましくは、前記第四級アンモニウム塩類が塩化ベンザルコニウム、臭化ベンザルコニウム、ポリクオタニウム-1および/または臭化セチルトリメチルアンモニウムを含み、前記ヒドロキシベンゼンエステル類がメチルパラベン、エチルパラベンおよび/またはプロピルパラベンを含む。
【0037】
さらに、前記眼科用製剤は、眼科用製剤の担体または補助材料の成分が自己組織化して形成されたナノ粒子の構造を含み、前記ナノ粒子は、眼疾患を治療するための活性物質を含んでいる。
【0038】
さらに、前記ナノ粒子は球形であり、その粒径は5~900nmであり、好ましくは、5~50nmおよび/または200~700nmである。
【0039】
本発明はまた、上記製剤を調製する方法を提供し、該方法は、
溶媒に界面活性剤、増粘剤を加え、混合して混合液を得るステップ(1)と、
ステップ(1)で得られた混合液に、眼疾患を治療するための活性物質を加え、共溶媒を加えまたは加えずに、分散させ混合して初期懸濁液を得るステップ(2)と、
ステップ(2)で得られた初期懸濁液を撹拌して分散させる、および/またはホモジナイズして分散させるステップ(3)と、を含む。
【0040】
さらに、ステップ(2)における前記分散が、機械撹拌による分散、磁気撹拌による分散、ボルテックス振とうによる分散、剪断による分散、ホモジナイズによる分散、粉砕による分散、超音波による分散から選択される少なくとも1種である。
【0041】
本発明はさらに、前記製剤の、ヒトまたは動物の水晶体疾患を予防・治療するための薬物の調製における使用を提供する。
【0042】
さらに、前記薬物が白内障を予防・治療するための薬物であり、好ましくは、水晶体タンパク質の凝集を減少させ、水晶体の混濁を減少させるための薬物である。
【0043】
さらに、前記薬物が眼部投与用の薬物製剤であり、好ましくは眼部局所投与用の薬物である。
【0044】
オキシステロール類は、25-ヒドロキシコレステロール(25-HC)およびラノステロール(LAN)を含み、水晶体において水晶体タンパク質と相互に作用することができ、それによってクリスタリンの重合を阻害し、水晶体の形態を改善するとともに透明度を回復させるよう作用するため、既に発症した白内障を逆転させ、水晶体の透明度を回復させる効果を有し、白内障を治療、予防するという目的を達成する。経口、筋肉注射、静脈注射などによって全身に投与されたオキシステロールは、全身の生化学的プロセスに関与するため、水晶体において有効な治療濃度に達することができない。また、硝子体内に注射されたLAN、25-HCは、水晶体嚢を透過して水晶体に入ることができない。また、水晶体注射は、外傷性または後発白内障を引き起こす。
【0045】
点眼による投与経路は安全で、便利な投与方式であるが、眼底疾患を治療するためには薬物に眼のバリアを通過させ、安全且つ効果的に眼底病巣部位に薬物を送達する必要がある。
【0046】
本発明は、治療効果対リスクを最適に設計するという原則に基づき、治療効果の達成を前提として、製剤の濃度を極力低下させてリスクを最小化する。点眼液は、瞬き等の機械的な動作によって、眼表面には約10%しか留まらず、ほとんどは涙液と共に涙小管から排出され、ごく一部は鼻涙管を通って鼻腔に入り、さらには鼻腔を介して吸収され血液循環に入る。製剤の濃度が低いほど、組織器官が受けるリスクは小さくなり、全身の毒性副作用も少なくなる。本発明の製剤におけるラノステロールの濃度(4.68mMを超えない)は、他の特許が主張する濃度よりも低く、毒性副作用を可能な限り低減させることができる。それとともに、本製剤は、0.1μg/μLの濃度で20μLを眼瞼結膜嚢に滴下した場合、実際に約0.2μgが眼表面に留まり、ラット水晶体の体積0.03cm3に基づいて計算すると(直径=3.87mm)、点眼後の水晶体のLAN濃度は、元の含有量の2.3~2.5倍に達し、透過率は44~52%に達した。ウサギの例では、本発明の製剤を0.11μg/μLの濃度で50uL滴下し、眼表面に10%留まるとしてウサギの水晶体(直径=7.9mm、体積=0.258cm3)への進入を計算すると、水晶体に入るラノステロールの量は元の濃度の3.6倍に達し、透過率はほぼ100%に達した(A. B. Weir and M. Collins (eds.), Assessing Ocular Toxicology in Laboratory Animals, 1 Molecular and Integrative Toxicology, DOI 10.1007/978-1-62703-164-6_1, (copyright) Springer Science+Business Media, LLC 2013, 純正学監修『眼科薬物と製剤学』, 中国軽工業出版社, 2010, P6)。これから分かるように、本発明は使用するオキシステロールの濃度が低いにもかかわらず、利用率は非常に高く、全身の毒性副作用の潜在リスクを低下させるだけでなく、投与量および薬効を十分に確保することができる。
【0047】
本発明の製剤のもう1つの特徴は、処方の優位性である。白内障の治療は長期的な投薬であるため、処方において活性を有する補助材料を避けることは特に重要であり、例えば、抗感染活性を低濃度に有する処方は、眼表面および鼻涙管細菌叢の薬剤耐性を引き起こし、さらには感染を誘発する可能性がある。本発明は、一態様では低濃度であり、別の態様では、製剤は防腐剤の使用を必要とせず、長期使用における合併症の恐れがない。
【0048】
オキシステロールは水溶性が低く、オキシステロール類の注射液または点眼液を調製するために、一般にはエタノールやDMSOなどの溶媒が使用されることが文献で報告されている。アルコール系溶媒は眼を刺激するため、使用量を制御しなければならない。DMSOを共溶媒として使用した場合、活性物質の溶解度を高めることはできるが、より多量の活性物質が全身循環に進入する恐れがある。例えば、15%DMSOと20%エタノールまたはポリソルベート80溶液とで調製した0.5%LAN溶液をラットの硝子体に注射した場合、硝子体の混濁を引き起こすだけでなく、水晶体の混濁をも促進する危険性がある。
【0049】
水晶体タンパク質は、非常に規則正しく密に配列され、高い透明度を有するため、注射によってその構造が損傷し、外傷性白内障を引き起こす恐れがある。注射経路を用いてLANを水晶体に送達することは困難である(グエン, CN108472303 A, 2016; 鄭欽元, Jiapaer Zeyidan, 201610720166. X; Noriaki Nagai, et al: The Intravitreal Injection of Lanosterol Nanoparticles Rescues Lens Structure Collapse at an Early Stage in Shumiya Cataract Rats, Int. J. Mol. Sci. 2020, 21, 1048)。
【0050】
本願発明者は多くの実験の結果、本発明において、非イオン性界面活性剤を可溶化剤として採用し、または/および増粘剤、または/および共溶媒を組み合わせて使用するとともに、物理的撹拌による混合、高速剪断による分散および高圧ホモジナイズ等の技術手段を適用して加工処理を行い、必要な場合は加熱や超音波処理を行って、水を主な媒体とするオキシステロールLANまたは25-HCの溶液を調製するに至り、しかもこれは非常に良好な安定性を有する。調製された前記オキシステロール含有の水溶液をレーザー粒度測定器で測定したところ、主な粒径分布は5~50nmおよび/または200~700nmの範囲にあり、電子顕微鏡で観察したところ、球状の粒子が観察された。本発明により調製された水溶性溶媒は涙液と混ざり合い、次いでオキシステロールが角膜と水晶体嚢を通り抜けて水晶体に進入する。生きた動物に点眼投与する水晶体吸収試験において、本発明により調製されたオキシステロールを用いた、水を主媒体とした点眼液を実験動物に点眼したところ、水晶体内でこれらの濃度が有意に高まったことが検出されたが、房水および硝子体内ではオキシステロールの含有量は少ないか(ラットの実験)、または全く検出されなかった(ウサギの実験)。
【0051】
本願発明者は、亜セレン酸ナトリウム溶液を皮下注射したラットの白内障モデル試験において、本発明により調製された点眼液が、実験動物の白内障の発症および進行を遅延させ得ることを観察した。白内障を患う高齢の犬(15歳)に対し、本発明により調製化されたLAN点眼液を使用したところ、点眼の20日後に犬の水晶体の混濁が明らかに消失したことが観察された。
【0052】
本発明の眼科用製剤は、点眼後、活性物質を高効率かつ的確に実験動物の水晶体内に送達でき、水晶体タンパク質のシャペロンとして、クリスタリンの重合を阻害し、白内障を除去し、白内障を治療、予防する効果を発揮できることが、試験により証明された。
【0053】
本発明により調製されたオキシステロール点眼剤が、安全で効果的であるという利点を有することが、動物実験において期せずして見出され、特に、実験動物に点眼した後に、オキシステロールが水晶体に濃縮される(ニュージーランドウサギの点眼吸収試験でLANが水晶体に濃縮された)一方、房水および硝子体内の濃度は非常に低い、ということが予想外に発見され、これらは、本発明の点眼剤が高い標的組織選択性を有することを示している。
【0054】
本発明の点眼剤は、オキシステロール類活性物質を点眼によって選択的かつ高効率に水晶体に送達することができ、オキシステロール欠乏による白内障において補充を行い、また、広範な生理活性を有するコレステロール類によって体内で予測困難な病態生理学的反応が発生するのを回避することができる。
【0055】
水晶体内のオキシステロールは、クリスタリンの重合を阻害し、白内障を除去することができるが、オキシステロールは、体内では心血管系の合併症を引き起こし得るものであり、身体にとっては有害である。これまでのところ、オキシステロールを含む薬物を非侵襲的薬物送達の方式で水晶体に送達する技術は、製薬分野には存在しない。本発明の新たな低濃度点眼剤は、薬物を水晶体内に指向的に送達することを実現し、その最も明らかな臨床優位性は、オキシステロールを点眼によって水晶体に送達することであり、発明された白内障点眼剤において活性物質含有量を低くおさえ、点眼投与後の生体利用率を非常に高いものとし、水晶体内のオキシステロールの濃度を効果的に高めて、白内障を治療することができる。濃度が低く、眼部の局所的な生体利用率が高いことから、薬物が結膜や鼻腔などを経て体内に入り毒性副作用をもたらす可能性を大幅に低下させる。
【0056】
本発明で述べる眼疾患を治療するための活性物質とは、ヒトまたは動物の眼疾患を治療するための、生体内に存在するかまた存在しない活性物質のことである。
【0057】
本発明で述べるナノ粒子とは、薬物担体または補助材料の成分が溶媒中で自己組織化して形成されたナノレベルの球形の凝集体のことである。
【0058】
本発明で述べる溶媒とは、薬物担体または補助材料の成分を溶解させることができる液体のことである。
【0059】
本発明で述べる界面活性剤とは、液体の表面張力を著しく低下させることができる物質のことである。本発明で述べる非イオン性界面活性剤とは、水中で解離しない界面活性剤のことである。
【0060】
本発明で述べる点眼投与とは、薬液を眼に滴下する投与方法であり、粘膜投与経路に属するものである。
【0061】
本発明に記載の液状ポリエチレングリコール(液状PEG)は、常温常圧で液状のポリエチレングリコールであり、好ましくは、重量平均分子量が1000を超えないポリエチレングリコールである。
【0062】
当然ながら、本発明の上記内容に基づき、当分野の一般的な技術的知識や慣用的手段に照らし、本発明の上記基本的な技術的思想を逸脱しないという前提において、他の様々な形態の修正、置換または変更を行うことができる。
【0063】
以下、実施例という形の具体的な実施形態によって、本発明の上記内容を更に詳細に説明する。但し、これをもって、本発明の上記主題の範囲が以下の実施例に限定されると理解してはならない。本発明の上記内容に基づいて実現される技術は、いずれも本発明の範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】
図1は、実施例3で得られたサンプルの透過型電子顕微鏡画像である。
【
図2】
図2は、実施例3で得られたサンプルに染色剤を加えて染色した後の透過型電子顕微鏡画像である。
【
図3】
図3は、白内障の犬に本発明の眼科用製剤を点眼した前後の水晶体の混濁を示す写真である。
【
図4】
図4は、実施例5で得られたサンプル(0日)の粒径分布図である。
【
図5】
図5は、実施例5で得られたサンプル(室温で15日)の粒径分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
本発明で使用する試薬または機器は、市販の製品を購入して入手することができ、具体的な条件が明示されていない限り、従来の条件またはメーカーが推奨する条件に従って使用される。ラノステロール(CAS:79-63-0)、含有量:99.9%(HPLC、成都普菲徳生物技術有限公司、成都)。25-ヒドロキシコレステロール(Hydroxycholesterol、CAS:2140-46-7、含有量≧98%、上海麦克林生化科技有限公司、上海)。
【0066】
一部の機器および設備は以下のとおりである。
【0067】
ES225SM-DR(E)電子分析天秤、プレシーザ社(スイス)
DF-101S集熱式恒温加熱磁気撹拌機、鞏義市英峪高科儀器廠(河南、中国)
WH-2マイクロボルテックスミキサー、上海▲ろ▼西分析儀器廠有限公司(上海、中国)。
【0068】
分散機:T25 イージークリーンデジタル、IKA社(ドイツ)
KQ-500型超音波洗浄器、昆山市超声波儀器有限公司(昆山、中国)
AH-NANO Plus高圧ホモジナイザー、安拓思納米技術(蘇州)有限公司(中国)
メトラー・トレド FE20 pHメーター、メトラー・トレド社(スイス)
NS-90ナノ粒度分析計、珠海欧美儀器有限公司(珠海、中国)
アジレント1100HPLC高速液体クロマトグラフィ、アジレントテクノロジー社(米国)
API 4000トリプル四重極型質量分析計(米国アプライドバイオシステム社)
STY-1A浸透圧測定器、天津市天大天発科技有限公司(天津、中国)
ゼータサイザーナノZS、ナノ粒度およびゼータ電位分析計、マルバーン社(英国)。
【0069】
本発明の製剤の性質測定方法は以下のとおりである。
【0070】
粒径測定方法
実施例または比較例で調製したサンプル1mLをサンプルセルに移し、測定温度を40℃に設定し、サンプルセルをNS-90ナノ粒度分析計にセットして、測定を開始した。各サンプルは測定を3回繰り返し、3回の測定結果の平均値を取って、該サンプルの測定結果、粒度(光強度分布、および%)および多分散性指数(PdI、Polydispersity Index)として示した。
【0071】
浸透圧測定方法
溶液の凝固点降下を測定し、浸透圧モル濃度を測定した。操作:STY-1A浸透圧測定器のプローブの洗浄:蒸留水を100μLずつ3つのサンプル管に入れ、機器を予熱した後、100μLの蒸留水が入ったサンプル管を機器プローブに螺合取付し、3回洗浄を選択して、「洗浄」をクリックし、3回繰り返した。測定:機器情報テーブルにサンプル情報を入力して、「テスト」をクリックした。ピペットガンでサンプル100μLをサンプル管に移し、機器に軽く螺合取付し、測定の「起動」をクリックした。測定を3回繰り返し、3回の測定結果の平均値を測定結果とした。実際に動物実験を行う際に、浸透圧が等張に達していない場合は、上記浸透圧調節剤を用いて等張または等張に近い値に調整した。
【0072】
pH値の測定方法
FE20型pHメータを、それぞれpH緩衝溶液(pHはそれぞれ4.00、6.86、9.18)で校正し、電極を純水で洗浄した後、無繊維紙で余分な水分を吸い取って、測定対象の液体サンプルに浸漬し、読み取りボタンを押して測定を開始した。読み取りが安定した後に得られたデータをサンプルのpH値とした。
【0073】
実施例で得られた溶液を測定し、pHが<5、または>9であれば、酸またはアルカリでpH6~8に調整する必要があり、一般的なpH調整剤は、NaOHおよびHCl、リン酸およびリン酸塩(例えばリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム)、クエン酸およびクエン酸塩(例えばクエン酸ナトリウム)、ホウ酸およびホウ砂である。実際に動物実験を行う際には、測定で得られた液体のpH値が眼科用製剤としての要件を満たしていない場合は、上記で述べたpH調整剤で調整した。
【0074】
実施例1 本発明の眼科用製剤の調製
用いた材料と割合を表1に示し、製造過程は以下のとおりである。まず、ポリソルベート80、PVP K12、HPMCおよび液状PEG(PEG400)をそれぞれ秤量して100mLのポリプロピレン製遠心管に入れ、適量の注射用水を加えて30分間撹拌した後、ラノステロール6.0mgを入れ、60mlになるまで注射用水を加え、撹拌・混合を10min続けた後に混合液を得て、混合液を分散機を用いて回転速度12000~15000回転で3分間分散させた。機械を停止して泡が消えた後に、分散液を高圧ホモジナイザーに移し、温度を5±5℃に制御し、約400Barの圧力で2分間ホモジナイズを行い、その後圧力を1200~1400Barに上げて20分間ホモジナイズを行い、500Barに減圧して2分間ホモジナイズを行った後に排出し、泡が自然に消えた後に、透明なホモジナイズ液を得た。pH値および浸透圧を測定し、クエン酸ナトリウム(0.10g)および塩化ナトリウム(0.4g)を加え、0.1NのHClまたは0.1NのNaOHでpH7.0に調整し、浸透圧は302mOsmol/kgであった。この溶液を濾過膜を通して減圧濾過し、生成物を溶液として得た。
【0075】
HPLC生成物濃度測定:
測定機器:アジレント1100 高速液体クロマトグラフィ。
【0076】
クロマトグラフィ条件:Agilent ZORBAX Eclipse Plus C18、4.6×100mm 3.5μmカラム:流量 1.0mL/min、測定波長 205nm、移動相:MeOH(60%)-アセトニトリル(40%)イソクラティック溶離。移動相でサンプルを5倍に希釈した後に10μLを取って液体クロマトグラフに注入した。HPLC含有量測定結果:0.098mg/mL。
【0077】
粒径測定結果(主な粒径およびその分布比率):粒径67.7nm(46.2%)および75.8nm(38.9%)、PdI(Polydispersity Index、多分散指数):0.276。
【0078】
ゼータ電位測定の平均値:-5.03±4.33mV(25℃)。
【0079】
生成物を40℃で30日間光を避けて放置したところ、外観に有意な変化はなかった。粒径測定結果:40.68nm(88.8%)、PDI:0.249、HPLC含有量測定結果:0.093mg/mL。
【0080】
動物の点眼による吸収試験の結果:3匹のラット(6眼)を用意し、両眼に、1眼あたり20μLを点眼投与し、1.5時間後に安楽死させて速やかに硝子体と水晶体を取り出し、LANの含有量を測定した。測定結果:ラノステロール含有量は、水晶体中:5.16±1.90(μg/mL)、硝子体中:0.045±0.091(μg/mL)であった。
【0081】
実施例2 本発明の眼科用製剤の調製
用いた材料と割合を表1に示し、調製プロセスを実施例1と同じとして、溶液を得た。
【0082】
粒径測定結果:粒径441.8nm(100.0%)、PdI:0.190。
【0083】
HPLC含有量測定:
測定機器:アジレント1100 高速液体クロマトグラフィ。
【0084】
クロマトグラフィ条件:Agilent ZORBAX Eclipse Plus C18、4.6×100mm 3.5μm カラム:流量 0.8mL/min、測定波長 205nm、移動相:MeOH(85%)-0.1%H3PO4(15%)イソクラティック溶離。移動相でサンプルを5倍に希釈した後に10μLを取って液体クロマトグラフに注入した。HPLC含有量測定結果:0.095mg/mL。
【0085】
生成物を40℃で15日間光を避けて放置したところ、外観に有意な変化はなかった。粒径測定結果:413.2nm(94.5%)、PdI:0.214、HPLC含有量測定結果:0.090mg/mL。
【0086】
実施例3 本発明の眼科用製剤の調製
用いた材料と割合を表1に示し、調製プロセスおよび含有量測定を実施例1と同じとして、溶液を得た。
【0087】
粒径測定結果:粒径416.3nm(100.0%)、PdI:0.214、HPLC含有量:0.078mg/mL。
【0088】
生成物を2~8℃で30日間光を避けて放置したところ、外観に有意な変化はなかった。粒径測定結果:478.5nm(98.2%)、PdI:0.245、HPLC含有量測定結果:0.077mg/mL。
【0089】
動物の水晶体への点眼による吸収試験の結果:2羽のニュージーランドウサギ(4眼)を用意し、1眼あたり50μLを点眼投与し、1.5時間後に安楽死させて速やかに房水、硝子体および水晶体を取り出し、その中のLANの含有量を測定した。測定結果:房水および硝子体中にラノステロールは検出されなかった(検出限界未満、LCQ≦0.002μg/mL)。水晶体におけるラノステロールは2.72±0.16(μg/mL)であった。ブランクバックグラウンド対照動物(ニュージーランドウサギ1羽、2眼、薬剤投与なし)の場合、水晶体におけるラノステロールの含有量0.76±0.01(μg/mL)が検出された。
【0090】
実施例4 本発明の眼科用製剤の調製
用いた材料と割合を表1に示し、調製プロセスおよび含有量測定を実施例1と同じとして、溶液を得た。
【0091】
粒径測定結果:粒径531.6nm(100.0%)、PdI:0.165。HPLC含有量:0.077mg/mL。
【0092】
生成物を室温で15日間光を避けて放置したところ、外観に有意な変化はなかった。粒径測定結果:935.1nm(88.2%)、PdI:0.340、HPLC含有量測定結果:0.074mg/mL。
【0093】
実施例5 本発明の眼科用製剤の調製
用いた材料と割合を表1に示し、調製プロセスおよび含有量測定を実施例1と同じとして、溶液を得た。
【0094】
粒径測定結果:粒径401.3nm(98.8%)、PDI:0.221。HPLC含有量:0.063mg/mL。
【0095】
生成物を室温で15日間光を避けて放置したところ、外観に有意な変化はなかった。粒径測定結果:613.2nm(100.0%)、PdI:0.350、HPLC含有量測定結果:0.064mg/mL。
【0096】
動物の点眼による水晶体吸収試験の結果:3匹のラット(6眼)を用意して、1眼あたり20μLを点眼投与し、1.5時間後に安楽死させて速やかに水晶体を取り出し、その中のラノステロールの含有量を測定した。測定結果:水晶体におけるラノステロールの含有量は2.89±0.60(μg/mL)であった。
【0097】
実施例6 本発明の眼科用製剤の調製
用いた材料と割合を表1に示し、調製プロセスおよび含有量測定を実施例1と同じとして、溶液を得た。
【0098】
粒径測定結果:粒径10.7nm(99.1%)、PDI:0.224。HPLC含有量:0.070mg/mL。
【0099】
生成物を室温で15日間光を避けて放置したところ、外観に有意な変化はなかった。粒径測定結果:11.2nm(91.7%)、PdI:0.246、HPLC含有量測定結果:0.069mg/mL。
【0100】
動物の水晶体吸収試験の結果:3匹のラット(6眼)を用意して、1眼あたり20μLを点眼投与し、1.5時間後に安楽死させて速やかに水晶体を取り出し、その中のラノステロールの含有量を測定した。測定結果:水晶体におけるラノステロールの含有量は4.83±2.15(μg/mL)であった。
【0101】
実施例7 本発明の眼科用製剤の調製
用いた材料と割合を表1に示し、調製プロセスおよび含有量測定を実施例1と同じとして、溶液を得た。
【0102】
粒径測定結果:粒径472.5nm(99.4%)、PDI:0.205。HPLC含有量:0.072mg/mL。
【0103】
生成物を2~8℃で15日間光を避けて放置したところ、外観に有意な変化はなかった。粒径測定結果:513.2nm(97.1%)、PdI:0.235、HPLC含有量測定結果:0.070mg/mL。
【0104】
実施例8 本発明の眼科用製剤の調製
用いた材料と割合を表1に示し、調製プロセスおよび含有量測定を実施例1と同じとして、溶液を得た。
【0105】
粒径測定結果:粒径508.5nm(97.7%)、PDI:0.245。HPLC含有量:0.080mg/mL。
【0106】
生成物を40℃で15日間光を避けて放置したところ、外観に有意な変化はなかった。粒径測定結果:423.5nm(90.1%)、PdI:0.223、HPLC含有量測定結果:0.078mg/mL。
【0107】
動物の水晶体吸収試験の結果:3匹のラット(6眼)を用意して、1眼あたり20μLを点眼投与し、1.5時間後に安楽死させて速やかに水晶体を取り出し、その中のラノステロールの含有量を測定した。測定結果:水晶体におけるラノステロールの含有量は5.68±1.60(μg/mL)であった。
【0108】
実施例9 本発明の眼科用製剤の調製
用いた材料と割合を表1に示し、調製プロセスおよび含有量測定を実施例1と同じとして、溶液を得た。
【0109】
粒径測定結果:粒径572.2nm(85.3%)、PDI:0.529。HPLC含有量:0.085mg/mL。
【0110】
生成物を2~8℃で15日間光を避けて放置したところ、外観に有意な変化はなかった。粒径測定結果:583.8nm(80.2%)、PdI:0.545、HPLC含有量測定結果:0.083mg/mL。
【0111】
動物の水晶体吸収試験の結果:3匹のラット(6眼)を用意して、1眼あたり20μLを点眼投与し、1.5時間後に安楽死させて速やかに水晶体を取り出し、その中のラノステロールの含有量を測定した。測定結果:水晶体におけるラノステロールの含有量は4.01±1.65(μg/mL)であった。
【0112】
実施例10 本発明の眼科用製剤の調製
用いた材料と割合を表2に示し、調製プロセスおよび含有量測定を実施例1と同じとして、溶液を得た。
【0113】
粒径測定結果:粒径12.8nm(99.0%)、PDI:0.175。HPLC含有量:0.073mg/mL。
【0114】
生成物を40℃で15日間光を避けて放置したところ、外観に有意な変化はなかった。粒径測定結果:13.2nm(91.5%)、PdI:0.222、HPLC含有量測定結果:0.072mg/mL。
【0115】
実施例11 本発明の眼科用製剤の調製
用いた材料と割合を表1に示し、調製プロセスを実施例1、含有量測定を実施例2と同じとして、溶液を得た。
【0116】
粒径測定結果:粒径455.6nm(99.7%)、PdI:0.249。HPLC含有量:0.051mg/mL。
【0117】
生成物を40℃で15日間光を避けて放置したところ、外観に有意な変化はなかった。粒径測定結果:216.8nm(95.6%)、PdI:0.351、HPLC含有量測定結果:0.049mg/mL。
【0118】
実施例12 本発明の眼科用製剤の調製
用いた材料と割合を表1に示し、調製プロセスおよび含有量測定を実施例1と同じとして、溶液を得た。
【0119】
粒径測定結果:粒径420.0nm(100.0%)、PdI:0.205。HPLC含有量:0.037mg/mL。
【0120】
生成物を40℃で30日間光を避けて放置したところ、外観に有意な変化はなかった。粒径測定結果:452.0nm(94.0%)、PdI:0.256、HPLC含有量測定結果:0.033mg/mL。
【0121】
実施例13 本発明の眼科用製剤の調製
用いた材料と割合を表1に示し、調製プロセスを実施例1と、含有量測定を実施例2と同じとして、溶液を得た。
【0122】
粒径測定結果:粒径474.3nm(98.7%)、PdI:0.229。HPLC含有量:0.089mg/mL。
【0123】
生成物を40℃で15日間光を避けて放置したところ、外観に有意な変化はなかった。粒径測定結果:425.2nm(88.6%)、PdI:0.245、HPLC含有量測定結果:0.087mg/mL。
【0124】
実施例14 本発明の眼科用製剤の調製
用いた材料と割合を表1に示し、調製プロセスおよび含有量測定を実施例1と同じとして、溶液を得た。
【0125】
粒径測定結果:粒径136.6nm(86.3%)、PdI:0.542。HPLC含有量:0.009mg/mL。
【0126】
生成物を2~8℃で15日間光を避けて放置したところ、外観に有意な変化はなかった。粒径測定結果:214.2nm(98.6%)、PdI:0.232、HPLC含有量測定結果:0.008mg/mL。
【0127】
実施例15 本発明の眼科用製剤の調製
用いた材料と割合を表1に示し、調製プロセスを実施例1と、含有量測定を実施例2と同じとして、溶液を得た。
【0128】
粒径測定結果:粒径397.2nm(90.1%)、PdI:0.649。HPLC含有量:0.015mg/mL。
【0129】
生成物を40℃で15日間光を避けて放置したところ、外観に有意な変化はなかった。粒径測定結果:345.6nm(85.6%)、PdI:0.431、HPLC含有量測定結果:0.014mg/mL。
【0130】
実施例16 本発明の眼科用製剤の調製
用いた材料と割合を表1に示し、調製プロセスおよび含有量測定を実施例1と同じとして、溶液を得た。
【0131】
粒径測定結果:粒径13.2nm(98.3%)、PdI:0.235。HPLC含有量:0.071mg/mL。
【0132】
生成物を2~8℃で15日間光を避けて放置したところ、外観に有意な変化はなかった。粒径測定結果:13.8nm(93.6%)、PdI:0.316、HPLC含有量測定結果:0.069mg/mL。
【0133】
実施例17 本発明の眼科用製剤の調製
用いた材料と割合を表1に示し、調製プロセスおよび含有量測定を実施例1と同じとして、溶液を得た。
【0134】
粒径測定結果:粒径527.5nm(99.4%)、PdI:0.240。HPLC含有量:0.058mg/mL。
【0135】
生成物を40℃で15日間光を避けて放置したところ、外観に有意な変化はなかった。粒径測定結果:161.3nm(100.0%)、PdI:0.505、HPLC含有量測定結果:0.052mg/mL。
【0136】
比較例1
用いた材料と割合を表1に示し、調製プロセスおよび含有量測定を実施例1と同じとして、溶液を得た。
【0137】
粒径測定結果:粒径16.86nm(69.0%)、PdI:1.000。HPLC含有量:0.051mg/mL。
【0138】
室温で一晩静置したところ沈殿が生じた。この製剤は安定性が低い。
【0139】
比較例2
用いた材料と割合を表1に示し、調製プロセスおよび含有量測定を実施例1と同じとして、フロックス状の懸濁物質を含む溶液を得た。
【0140】
粒径測定結果:粒径369.8nm(82.8%)、PdI:0.554、実施例の上澄み液のHPLC含有量:0.025mg/mL。
【0141】
生成物を40℃で15日間光を避けて放置したところ、フロックス状の懸濁物質によって沈殿が発生した。粒径測定結果:462.1nm(80.2%)、PdI:0.979、実施例の上澄み液のHPLC含有量測定結果:0.027mg/mL。
【0142】
比較例3
用いた材料と割合を表1に示し、調製プロセスおよび含有量測定を実施例1と同じとして、フロックス状の懸濁物質を含む溶液を得た。
【0143】
粒径測定結果:粒径313.7nm(74.9%)、PdI:0.587、実施例の上澄み液のHPLC含有量:0.029mg/mL。
【0144】
生成物を40℃で15日間光を避けて放置したところ、フロックス状の懸濁物質によって沈殿が発生した。粒径測定結果:161.4nm(100.0%)、PdI:0.231、上澄み液のHPLC含有量測定結果:0.023mg/mL、活性物質の含有量は低い。
【0145】
比較例4
用いた材料と割合を表1に示し、調製プロセスおよび含有量測定を実施例1と同じとして、フロックス状の懸濁物質を含む溶液を得た。生成物を室温で15日間光を避けて放置したところ、フロックス状の懸濁物質が凝集して沈殿が生じた。
【0146】
比較例5
用いた材料と割合を表1に示し、調製プロセスおよび含有量測定を実施例1と同じとして、溶液を得た。
【0147】
粒径測定結果:粒径292.2nm(72.6%)、PdI:1.000、HPLC含有量:0.029mg/mL。
【0148】
生成物を40℃で15日間光を避けて放置したところ、外観に有意な変化はなかった。粒径測定結果:188.3nm(100.0%)、PdI:0.217、HPLC含有量測定結果:0.026mg/mLであり、活性物質の含有量が低下した。
【0149】
動物の水晶体吸収試験の結果:2匹のラット(4眼)を用意して、1眼あたり20μLを点眼投与し、1.5時間後に安楽死させて速やかに水晶体を取り出し、その中のLANの含有量を測定した。測定結果:水晶体におけるラノステロールの含有量は2.00±0.41(μg/mL)であった。これは、ブランク対照眼とほぼ同じレベルであり、本比較例のサンプルは動物の水晶体に効果的に進入できないことを示している。
【0150】
表1 実施例および比較例の使用量の情報
注釈:1.HPMC:ヒドロキシプロピルメチルセルロース。2.PVP:ポビドン。3.HPC:ヒドロキシプロピルセルロース。4.PEG:ポリエチレングリコールの平均分子量≦5000Da。5.CMC-Na:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩。6.PEG-60水素添加ひまし油:ポリオキシエチレン水素添加ひまし油。
【0151】
実施例および比較例の結果から、以下のことがわかる。本発明の点眼液システムは、少なくとも1種の界面活性剤、2種の増粘剤および適量の共溶媒を含有し、調製された生成物は安定しており、動物の水晶体による吸収率が高い。
【0152】
本発明の点眼液システムが界面活性剤1種を含有し、増粘剤はなし、または1種のみを含有する場合、あるいは界面活性剤を含有しない場合、調製された生成物はいずれも安定性が低い(比較例2、3および4を参照)。
【0153】
製剤の処方にイオン性高分子を添加した場合、調製された生成物は短期間の放置で沈殿が生じ、安定性が悪い(比較例1を参照)。
【0154】
界面活性剤の使用量が本発明の範囲外である場合、調製された生成物は動物の水晶体による吸収に大きな影響を及ぼし、活性物質が効果的に水晶体に進入できない可能性がある(比較例5)。
【0155】
以下、本発明の有益な効果を実験例によって証明する。
【0156】
実験例1.SDラットの眼吸収試験(LAN)
健康な成体のSDラット(SPFグレード、180~220g、すべて雄)6匹に、呼吸麻酔を施した後、各ラットの両眼にそれぞれ被験製剤(実施例1)20μL(濃度0.1mg/mL)を点眼投与し、点眼1.5時間後に安楽死させた後、直ちに水晶体および硝子体を採取し、測定まで-80℃で保存し、LC/MS/MS法により水晶体および硝子体の薬品内LANの含有量を測定した。
【0157】
動物サンプルは以下のように処理した。
【0158】
動物の硝子体サンプルをホモジナイズした後、10μLを取り、40μLの70%メタノールを加え、2min超音波処理し、1minボルテックスした後、175μLのメタノールを加え、2minボルテックス混合し、4℃で、回転数12000rpmで10min遠心分離し、上澄み液を液体クロマトグラフィ-タンデム質量分析(LC-MS/MS)の分析に用いた。
【0159】
動物の水晶体サンプルをホモジナイズ(生理食塩水を1:4で水晶体に加え、ホモジナイズ)した後、50μLを取り、メタノール175μLを加え、2minボルテックス混合し、4℃で、回転数12000rpmで10min遠心分離し、上澄み液を取ってLC-MS/MS分析に用いた。
【0160】
LC-MS/MSの測定条件は、LC-20AD高速液体クロマトグラフィシステム(SHIMADZU)-API4000トリプル四重極型質量分析計(アプライドバイオシステム社)、フォーティス ペース C18 5UM 2.1X30mmカラムを配置、カラム温度は40℃、移動相はメタノール:水(95:5)、流量は0.4mL/min、注入量は10μLとし、質量分析計は大気圧化学イオン化(Atomsperic Pressure Chemical Ionization,APCI)を選択した。質量分析条件を下表に示す。
【0161】
【0162】
表2 ラットの点眼後の水晶体および硝子体内ラノステロール含有量(Mean±SD)
【0163】
ラットのバックグラウンド値を測定し、2匹のSDラット(4眼)を取って、安楽死させるとともに、水晶体を速やかに取り出し、同様の方法でサンプル処理してLANの含有量を測定した。測定結果:ラノステロール含有量:2.23±0.86(μg/mL)。以上から分かるように、本発明の眼科用製剤は、点眼投与方式により、ラノステロールを効果的に輸送して水晶体バリアを透過させるとともに、水晶体において濃縮させることができる。
【0164】
上記の結果は、本発明の眼科用製剤が、点眼投与方式により、ラノステロールを効果的に輸送して水晶体バリアを透過させるとともに、水晶体において濃縮させ、硝子体内にはほぼ残留させない、ということを示している。
【0165】
実験例2.ニュージーランドウサギの眼吸収試験(LAN)
健康な成体のニュージーランドウサギ(SPFグレード、2~2.5kg、すべて雄)計7匹から6匹選び、被験品(実施例3)を50μLずつ単回で点眼投与し、残りの1匹は両眼への投与を行わず、バックグラウンド対照とした。投与して1.5時間後に安楽死させ、房水、水晶体および硝子体を採取するとともに、房水、水晶体および硝子体内の薬物含有量を測定した。サンプルの処理およびLC/MS/MS測定方法はラットの眼吸収試験と同じであり、測定結果を表3に示す。
【0166】
表3 ウサギの点眼後の水晶体、房水および硝子体内ラノステロール含有量(Mean±RSD)
注:BLOQ:検出限界未満(LOQ=0.001μg/mL)、検出されず。
【0167】
上記の結果は、さらに、本発明の眼科用製剤が、点眼投与方式により、ラノステロールを効果的に輸送して水晶体バリアを透過させるとともに、水晶体において濃縮させることができ、なおかつ硝子体や房水内には濃縮させない、ということを証明している。
【0168】
実験例3.SDラットの眼吸収試験(25-HC)
健康な成体のSDラット(SPFグレード、180~220g、すべて雄)6匹に、呼吸麻酔を施した後、各ラットの両眼にそれぞれ被験製剤(実施例15)20μL(濃度0.1mg/mL)を点眼投与し、各タイミングにおいて安楽死させた後、直ちに水晶体および硝子体を採取し、水晶体および硝子体内の薬物の含有量を測定した。動物の水晶体内には元々25-HCがほとんど含まれないため、対照眼は設けなかった。
【0169】
具体的には、ラットに呼吸麻酔を施した後、各群の動物の両眼にそれぞれ製剤の被験品(実施例15)20μL(濃度0.1mg/mL)を滴下し、投与の1.5h後に、二酸化炭素で3匹を安楽死させ、両眼の水晶体を速やかに採取し、測定まで-80℃で保存した。サンプルの処理では、等体積の0.10mMの酢酸銀メタノール溶液を加え、その他の処理と試験条件は実験例2と同じとした。
【0170】
【0171】
表4 ラットの点眼後の水晶体における25-ヒドロキシコレステロール(25-HC)の含有量
【0172】
房水および硝子体サンプルにおいて、25-ヒドロキシコレステロールは検出されなかった(検出限界未満、LCQ=0.001μg/mL)。上記の結果は、本発明の眼科用製剤が、点眼投与方式により、25-ヒドロキシコレステロールを効果的に輸送して水晶体バリアを透過させ、水晶体において濃縮させることができることを証明している。
【0173】
実験例4.本発明の一部の製剤の動物における吸収利用率
点眼剤の点眼後、眼の内側に進入する薬物は約10%にすぎず、残りの大部分は結膜と鼻腔を経て身体内に進入する(凌沛学監修『眼科薬物と製剤学』、中国軽工業出版社、2010、P6)ため、以下の基準に従って本発明の製剤の利用率を計算した。
【0174】
実験動物としてラットまたはウサギを用いた実施例では、全吸収率は、A%=[(C-C0)V水晶体/V投与]*100%、有効吸収率はA%/10%であった。
【0175】
ここで、Cは点眼投与後の水晶体における活性物質の濃度であり、C0は点眼投与していない眼の水晶体における活性物質の濃度(μg/mL)である。ラット水晶体:直径=3.87mm、V水晶体=0.03cm3。
【0176】
ウサギ眼水晶体:直径=7.9mm、V水晶体=0.258cm3。
【0177】
実施例1、3、8のLAN濃度は0.1mg/mL、すなわち0.1μg/μLであった。点眼剤投与量:ラット:V投与=20uL*0.1μg/μL=2μg。ウサギ:V投与=50μL*0.1μg/μL=5μg。
【0178】
これにより、実施例1、3、8の製剤について算出した全吸収率と有効吸収率の結果を表5に示す。
【0179】
【0180】
上記から分かるように、本発明の製剤は活性物質の濃度が低いことに加え、水晶体吸収率を非常に高くすることができ、ウサギの水晶体の有効吸収率は100%に達した。これは、本発明の製剤が非常に高い利用率を有し、白内障を治療するための活性物質を水晶体内を指向して届けることで、水晶体内のオキシステロールの濃度を効果的に高めて白内障を治療するものであり、また、全身での吸収を回避するとともに毒性副作用を避けるものであることを示している。
【0181】
実験例5 白内障犬の投与観察試験
トイプードル(15歳、雄、体重4.0kg)を用い、犬を室内の家庭環境に置き、餌と水を定時に定量与え、実験期間中は完全にペットとして扱った。実施例3の製剤を1日1回、毎回約30μL点眼した。点眼投与の20日後に、犬の自発動作の範囲が有意に拡大した。写真の比較により、20日後に白内障の部分的な消失が観察された(
図3)。
【0182】
実験例6 ラットの薬効試験
1.試験方法A
9日齢の新生仔SDラットを選択して、毎日開眼状況を観察し、わずかに開眼したところ(約13日齢)で、亜セレン酸ナトリウム溶液(Na2SeO3、20μmol/kg)を注入量2ml/kgで皮下注射し、同じ用量の亜セレン酸ナトリウム溶液を1日おきに1回注射した。1回目の亜セレン酸ナトリウム溶液を注射した後、動物を無作為に2つの群に分けて対照群と投与群とし、対照群は、各マウスの両眼を対照として生理食塩水(NS)を点眼し、投与群は、被験薬物(実施例3)を両眼に点眼した。投与スケジュールを表6に示す。
【0183】
【0184】
2.白内障の観察およびレベル分け
被験動物にイソフルランを吸入させて麻酔を施し、リドカインで表面麻酔した後、ラット眼内の水晶体の混濁度を観察して、白内障の形成時期を記録し、以下の基準に従ってレベル分けした。
レベル6:水晶体全体に影響を及ぼす成熟白内障として現れた。
レベル5:水晶体皮質に影響を及ぼさない核混濁として現れた。
レベル4:部分的な核の混濁として現れた。
レベル3:皮質散乱を伴うびまん性核混濁として現れた。
レベル2:軽微な核混濁として現れ、亜セレン酸塩を注射して2~3日後に、腫脹した線維または後肩甲により混濁が散乱を生じた。
レベル1:核混濁の初期症状である。
【0185】
3.試験観察結果を表7に示す。
【0186】
【0187】
試験の結果、点眼開始2日目に、モデル対照群(生理食塩水を点眼)では動物の18眼全てにレベル4の白内障(100%)が発症したのに対し、投与群(被験薬を点眼)では10/16眼(62.5%)にレベル4の白内障が発症した。6日目には、モデル群で66.7%の被験眼にレベル5の白内障が発症したが、試験群で被験眼にレベル5の白内障が発症した割合は50%であった。
【0188】
4.試験方法B
9日齢の新生仔SDラットを選択して、毎日開眼状況を観察し、わずかに開眼したところ(約13日齢)で、亜セレン酸ナトリウム溶液(Na2SeO3、20μmol/kg)を注入量2ml/kgで皮下注射した。動物をモデル群と投与群に無作為に分け、モデル群の動物の両眼にそれぞれ10μLの生理食塩水(NS)を1日3回点眼し、投与群の動物の両眼にそれぞれ10μLの被験薬物(実施例3)を1日3回点眼した。投与計画は表6を参照。試験結果を表8に示す。
【0189】
【0190】
被験ラットに点眼投与した15日目(D15)に、モデル群のラットの眼におけるレベル3の白内障の発症率は68.75%であり、1/16の眼ではレベル4の白内障が発症した。投与群のラットの眼におけるレベル3の白内障の発症率は28.57%であり、白内障のレベル4が発症した眼はなかった。
【0191】
以上の結果から、本発明の眼科用製剤は、点眼の方式で投与され、活性物質を水晶体内に効果的に濃縮することができ、白内障を予防し、進行を遅らせ、さらに改善する効果を有することが確認された。
【0192】
以上のように、本発明は点眼投与により白内障を予防・治療するための眼科用製剤を提供し、本発明の眼科用製剤は安定性に優れ、点眼投与後は、活性物質が被験動物の水晶体に濃縮され、白内障の治療、予防治療の効果を発揮する。さらに、水晶体周囲の房水と硝子体では活性物質は検出されず、システムの毒性副作用を回避し、眼科用薬物送達の分野において終始解決が望まれながら達成できなかった技術的難題を解決するものであり、臨床での応用価値は非常に高い。
【国際調査報告】