(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-18
(54)【発明の名称】抗TIGIT抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240910BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240910BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240910BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240910BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240910BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240910BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240910BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240910BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240910BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240910BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240910BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240910BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20240910BHJP
A61P 33/00 20060101ALI20240910BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240910BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240910BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240910BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240910BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240910BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20240910BHJP
G01N 33/536 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12P21/08
A61P37/04
A61P43/00 107
A61P35/00
A61P31/00
A61P35/02
A61P31/12
A61P31/04
A61P31/10
A61P33/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K48/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K35/76
A61K35/12
G01N33/574 A
G01N33/536 B
G01N33/536 C
G01N33/536 D
G01N33/536 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508052
(86)(22)【出願日】2022-08-09
(85)【翻訳文提出日】2024-04-02
(86)【国際出願番号】 CN2022111145
(87)【国際公開番号】W WO2023016450
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】202110907583.6
(32)【優先日】2021-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521530738
【氏名又は名称】普米斯生物技術(珠海)有限公司
【氏名又は名称原語表記】BIOTHEUS INC.
【住所又は居所原語表記】10B, BUILDING 4, NO 1 KEJI 7TH ROAD, TANGJIAWAN TOWN, XIANGZHOU DISTRICT, ZHUHAI, GUANGDONG 519080, PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲ヂャイ▼ 天 航
(72)【発明者】
【氏名】黄 威 峰
(72)【発明者】
【氏名】戴 爽
(72)【発明者】
【氏名】許 英 達
(72)【発明者】
【氏名】ブコウスキー,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】シュッツ,ケビン
(72)【発明者】
【氏名】ヘンマーライン,メーガン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BC01
4B065BD14
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA13
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4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
TIGITに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントは、TIGITのそのリガンドへの結合を有効に遮断し得、TIGITの下流シグナルに対するTIGITのリガンドの阻害効果を解放し得る。本発明は、抗体またはその抗原結合フラグメントを含有する組成物、抗体またはその抗原結合フラグメントをコードする核酸、核酸を含有する宿主細胞、および関連する使用にさらに関する。加えて、本発明は、抗体またはその抗原結合フラグメントの治療および診断使用にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TIGITに特異的に結合し得る抗体またはその抗原結合フラグメントであって、前記抗体またはその抗原結合フラグメントは、
(a)配列番号4に記載される重鎖可変領域(VH)に含まれる、VH CDR1もしくはそのバリアント、VH CDR2もしくはそのバリアント、およびVH CDR3もしくはそのバリアント;ならびに/または配列番号8に記載される軽鎖可変領域(VL)に含まれる、VL CDR1もしくはそのバリアント、VL CDR2もしくはそのバリアント、およびVL CDR3もしくはそのバリアント;あるいは、
(b)配列番号12に記載される重鎖可変領域(VH)に含まれる、VH CDR1もしくはそのバリアント、VH CDR2もしくはそのバリアント、およびVH CDR3もしくはそのバリアント;ならびに/または配列番号16に記載される軽鎖可変領域(VL)に含まれる、VL CDR1もしくはそのバリアント、VL CDR2もしくはそのバリアント、およびVL CDR3もしくはそのバリアント
を含み;
前記バリアントは、それが由来する配列と比較して、1個または数個のアミノ酸の置換、欠失、または付加(例えば、1、2、または3個のアミノ酸の置換(保存的置換等)、欠失、または付加)を有し;好ましくは、前記置換は保存的置換であり;
好ましくは、前記抗体またはその抗原結合フラグメントは、
(a)配列番号4に記載される前記重鎖可変領域(VH)に含まれる3つのCDR;および/もしくは配列番号8に記載される前記軽鎖可変領域(VL)に含まれる3つのCDR;または
(b)配列番号12に記載される前記重鎖可変領域(VH)に含まれる3つのCDR;および/もしくは配列番号16に記載される前記軽鎖可変領域(VL)に含まれる3つのCDRを含み;
好ましくは、前記VHに含まれる前記3つのCDRおよび/または前記VLに含まれる前記3つのCDRは、Kabat、IMGT、またはChothia番号付けシステムによって規定される、
抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
(a)前記重鎖可変領域(VH)の以下の3つの相補性決定領域(CDR):配列番号1に記載される配列を有するVH CDR1、配列番号2に記載される配列を有するVH CDR2、および配列番号3に記載される配列を有するVH CDR3;ならびに/もしくは前記軽鎖可変領域(VL)の以下の3つの相補性決定領域(CDR):配列番号5に記載される配列を有するVL CDR1、配列番号6に記載される配列を有するVL CDR2、配列番号7に記載される配列を有するVL CDR3;または
(b)前記重鎖可変領域(VH)の以下の3つの相補性決定領域(CDR):配列番号9に記載される配列を有するVH CDR1、配列番号10に記載される配列を有するVH CDR2、および配列番号11に記載される配列を有するVH CDR3;ならびに/もしくは前記軽鎖可変領域(VL)の以下の3つの相補性決定領域(CDR):配列番号13に記載される配列を有するVL CDR1、配列番号14に記載される配列を有するVL CDR2、配列番号15に記載される配列を有するVL CDR3を含む抗体またはその抗原結合フラグメントであって、
前記CDRは前記IMGT番号付けシステムによって規定される、
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域をさらに含み;
例えば、ヒト抗体生殖細胞系列遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に含まれるフレームワーク領域を含み;例えば、ヒト重鎖生殖細胞系列遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に含まれる重鎖フレームワーク領域、および/またはヒト軽鎖生殖細胞系列遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に含まれる軽鎖フレームワーク領域を含む、
請求項1または2に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項4】
(a)配列番号4に記載される配列を含むVHもしくはそのバリアント、および/または配列番号8に記載される配列を含むVLもしくはそのバリアント;あるいは
(b)配列番号12に記載される配列を含むVHもしくはそのバリアント、および/または配列番号16に記載される配列を含むVLもしくはそのバリアントを含む抗体またはその抗原結合フラグメントであって、
前記バリアントは、それが由来する配列と比較して、1個もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、もしくは付加(例えば、1、2、3、4、または5個のアミノ酸の置換、欠失、または付加)を有し、または少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有し;好ましくは、前記置換は保存的置換であり;
例えば、前記抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号4に記載されるVH、および/または配列番号8に記載されるVLを含み;
例えば、前記抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号12に記載されるVH、および/または配列番号16に記載されるVLを含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項5】
ヒト免疫グロブリンに由来する定常領域をさらに含む抗体またはその抗原結合フラグメントであって、
好ましくは、前記抗体またはその抗原結合フラグメントの前記重鎖は、ヒト免疫グロブリン(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)に由来する重鎖定常領域を含み;好ましくは、前記抗体またはその抗原結合フラグメントはADCC活性を所有し;好ましくは、前記抗体またはその抗原結合フラグメントは、野生型Fc領域と比較して増加したADCC活性を提供する、変異したまたは化学修飾されたFc領域を含み;好ましくは、前記抗体またはその抗原結合フラグメントは、低いフコシル化を有しまたはフコシル化を有さず;
好ましくは、前記抗体またはその抗原結合フラグメントの前記軽鎖は、ヒト免疫グロブリンに由来する軽鎖定常領域(例えば、κまたはλ鎖の定常領域)を含む、
請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項6】
前記抗原結合フラグメントは、Fab、Fab’、(Fab’)
2、Fv、ジスルフィド連結Fv、scFv、ダイアボディ、および単一ドメイン抗体(sdAb)からなる群から選択され;かつ/または前記抗体は、キメラ抗体、二重特異性抗体、もしくは多重特異性抗体である、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメント、またはその重鎖可変領域および/もしくは軽鎖可変領域をコードする、単離された核酸分子。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸分子を含み;好ましくは、クローニングベクターまたは発現ベクターである、ベクター。
【請求項9】
請求項7に記載の核酸分子または請求項8に記載のベクターを含む宿主細胞であって、
好ましくは、低いフコシル化活性を有しまたはフコシル化活性を有さず、例えば、フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を欠如している哺乳類細胞(例えば、CHO細胞)である、
宿主細胞。
【請求項10】
前記抗体またはその抗原結合フラグメントの発現を可能にする条件下で、請求項9に記載の宿主細胞を培養すること、および前記宿主細胞の細胞培養物から前記抗体またはその抗原結合フラグメントを回収することを含む方法であって、
好ましくは、前記宿主細胞は、低いフコシル化活性を有しまたはフコシル化活性を有さず、例えば、フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を欠如している哺乳類細胞(例えば、CHO細胞)である、
請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントを調製するための方法。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメント、請求項7に記載の単離された核酸分子、請求項8に記載のベクター、または請求項9に記載の宿主細胞、ならびに医薬的に許容される担体および/または賦形剤を含み;
好ましくは、付加的な免疫チェックポイント阻害剤をさらに含み;
好ましくは、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体をさらに含む、
医薬組成物。
【請求項12】
医薬の製造における、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメント、請求項7に記載の単離された核酸分子、請求項8に記載のベクター、請求項9に記載の宿主細胞、または請求項11に記載の医薬組成物の使用であって、前記医薬は、
(1)インビトロにおけるもしくは対象(例えば、ヒト)における免疫細胞活性を増加させるために;
(2)対象(例えば、ヒト)における免疫応答を増強するために;
(3)対象(例えば、ヒト)における腫瘍を阻止しかつ/もしくは治療するために;または
(4)対象(例えば、ヒト)における感染症を阻止しかつ/もしくは治療するために使用され、
好ましくは、前記免疫細胞は、T細胞および/またはNK細胞であり;
好ましくは、前記免疫応答は、T細胞またはNK細胞媒介性免疫応答であり;
好ましくは、前記腫瘍は、TIGIT陽性浸潤T細胞および/もしくはNK細胞を伴い、かつ/またはTIGITリガンド(例えば、CD155および/またはCD112)陽性腫瘍細胞を伴い;
好ましくは、前記腫瘍は、固形腫瘍または血液学的腫瘍(例えば、白血病、リンパ腫、骨髄腫)から選択され;
好ましくは、前記腫瘍は、結腸直腸がん、結腸がん、膀胱がん、乳がん、子宮/子宮頸がん、卵巣がん、前立腺がん、精巣がん、食道がん、消化管がん、膵臓がん、腎臓がん、頭頸部がん、肺がん、胃がん、胚細胞がん、骨がん、肝臓がん、甲状腺がん、皮膚がん、中枢神経系腫瘍、リンパ腫、白血病、骨髄腫、肉腫、および黒色腫からなる群から選択され;
好ましくは、前記感染症は、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症、および寄生虫感染症からなる群から選択され;
好ましくは、前記対象は、ヒト、カニクイザル、またはマウス等の哺乳類であり;
好ましくは、前記抗体もしくはその抗原結合フラグメント、前記単離された核酸分子、前記ベクター、前記宿主細胞、または前記医薬組成物は、単独で、または付加的な医薬的活性剤との組み合わせで使用され;好ましくは、前記付加的な医薬的活性剤は、付加的な免疫チェックポイント阻害剤であり;
好ましくは、前記抗体もしくはその抗原結合フラグメント、前記単離された核酸分子、前記ベクター、前記宿主細胞、または前記医薬組成物は、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体との組み合わせで使用される、
使用。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または請求項11に記載の医薬組成物の有効量をそれを必要とする対象に投与することを含む、対象における免疫応答を増強する、または腫瘍もしくは感染症を阻止しかつ/もしくは治療するための方法であって、
好ましくは、前記腫瘍は、TIGIT陽性浸潤T細胞および/もしくはNK細胞を伴い、かつ/またはTIGITリガンド(例えば、CD155および/またはCD112)陽性腫瘍細胞を伴い;
好ましくは、前記腫瘍は、固形腫瘍または血液学的腫瘍(例えば、白血病、リンパ腫、骨髄腫)から選択され;
好ましくは、前記腫瘍は、結腸直腸がん、結腸がん、膀胱がん、乳がん、子宮/子宮頸がん、卵巣がん、前立腺がん、精巣がん、食道がん、消化管がん、膵臓がん、腎臓がん、頭頸部がん、肺がん、胃がん、胚細胞がん、骨がん、肝臓がん、甲状腺がん、皮膚がん、中枢神経系腫瘍、リンパ腫、白血病、骨髄腫、肉腫、および黒色腫からなる群から選択され;
好ましくは、前記感染症は、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症、および寄生虫感染症からなる群から選択され;
好ましくは、前記対象は、ヒト等の哺乳類である、
方法。
【請求項14】
請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント、および前記抗体またはその抗原結合フラグメントに接続された検出可能な標識を含むコンジュゲートであって、
好ましくは、前記検出可能な標識は、酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)、化学発光試薬(例えば、アクリジニウムエステル、ルミノールおよびその誘導体、またはルテニウム誘導体)、蛍光色素(例えば、フルオレセインまたは蛍光タンパク質)、放射性核種、またはビオチンから選択される、
コンジュゲート。
【請求項15】
請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または請求項14に記載のコンジュゲートを含むキットであって、
好ましくは、前記キットは、請求項14に記載のコンジュゲートを含み;
好ましくは、前記キットは、請求項1から6のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント、および前記抗体またはその抗原結合フラグメントを特異的に認識する第2の抗体を含み;任意選択で、前記第2の抗体は、酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)、化学発光試薬(例えば、アクリジニウムエステル、ルミノールおよびその誘導体、またはルテニウム誘導体)、蛍光色素(例えば、フルオレセインまたは蛍光タンパク質)、放射性核種、またはビオチン等、検出可能な標識をさらに含む、
キット。
【請求項16】
請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または請求項14に記載のコンジュゲートを使用することを含む、サンプルにおけるTIGITの存在またはレベルを検出するための方法であって、
好ましくは、イムノブロッティングアッセイ、酵素イムノアッセイ(例えば、ELISA)、化学発光イムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、またはラジオイムノアッセイ等のイムノアッセイであり;
好ましくは、請求項14に記載のコンジュゲートを使用することを含み;
好ましくは、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントを使用することを含み、前記抗体またはその抗原結合フラグメントを検出するために、検出可能な標識(例えば、酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)、化学発光試薬(例えば、アクリジニウムエステル、ルミノールおよびその誘導体、またはルテニウム誘導体)、蛍光色素(例えば、フルオレセインまたは蛍光タンパク質)、放射性核種、またはビオチン)を担持する第2の抗体を使用することをさらに含む、
方法。
【請求項17】
検出試薬の製造における、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または請求項14に記載のコンジュゲートの使用であって、前記検出試薬は、サンプルにおけるTIGITの存在またはレベルを検出するために使用され;
好ましくは、前記検出試薬は、請求項16に記載の方法によって、前記サンプルにおけるTIGITの前記存在またはレベルを検出し;
好ましくは、前記サンプルは、対象(例えば哺乳類、好ましくはヒト、カニクイザル、またはマウス)由来の細胞サンプル(例えば、免疫細胞)である、
使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、TIGITに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメント、および抗体またはその抗原結合フラグメントを含有する組成物に関する。さらに、本発明は、抗体またはその抗原結合フラグメントをコードする核酸分子、および核酸分子を含む宿主細胞、ならびにその関連する使用に関する。さらに、本発明は、抗体またはその抗原結合フラグメントの治療的および診断的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
IgおよびITIMドメインを有するT細胞免疫受容体(WUCAM、Vstm3、VSIG9としても公知の、TIGIT)は、活性化CD8+TおよびCD4+T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、調節性T細胞(Treg)、ならびに濾胞性ヘルパーT細胞によって発現される新たなタイプの免疫抑制性受容体である。
【0003】
TIGITは、複数の免疫抑制性受容体(例えば、CD96/TACTILE、CD112R/PVRIG)、競合共刺激性受容体(DNAM-1/CD226)、および複数のリガンド(例えば、CD155(PVR/NECL-5)、CD112(ネクチン-2/PVRL2))を伴う、腫瘍免疫における複雑な調節ネットワークに参加する。DNAM-1、TIGIT、およびCD96は、T細胞およびNK細胞上で発現され、リガンドとしてCD155を共有する。前臨床マウス腫瘍モデルにおいて、TIGIT欠損は、皮下B16F10およびMC38腫瘍の成長を遅延させた(Kurtulus S、Sakuishi K、Ngiow SFら、TIGIT predominantly regulates the immune response via regulatory T cells. J Clin Invest. 2015 Nov 2;125巻(11号):4053~62)。加えて、マウスに黒色腫B16細胞を接種した場合、TIGIT遺伝子の通常の発現を有するマウスと比較して、ごくわずかなTIGIT-/-マウスが肺転移を発症し、腫瘍を持つTIGIT-/-マウスの全生存期間は、有意に引き延ばされた(Zhang Q、Bi J、Zheng Xら、Blockade of the checkpoint receptor TIGIT prevents NK cell exhaustion and elicits potent anti-tumor immunity. Nat Immunol. 2018 Jul;19巻(7号):723~732)。これらの結果は、TIGITが、免疫抑制性受容体として腫瘍免疫において主要な役割を担うことを示す。
【0004】
腫瘍免疫抑制におけるTIGITの役割は、PD-1/PD-L1のものと同様である。TIGIT媒介性腫瘍免疫応答のメカニズムに基づき、研究者らは、TまたはNK細胞の活性を増強しかつ抗腫瘍効果を発揮するために、治療的介入のためのTIGIT遮断モノクローナル抗体を使用する(Guillerey C、Harjunpaa H、Carrie Nら、TIGIT immune checkpoint blockade restores CD8(+) T-cell immunity against multiple myeloma. Blood 2018、132巻、1689~1694)。別の調査は、抗TIGITモノクローナル抗体が、皮下CT26腫瘍およびメチルコラントレン(MCA)誘導性線維腫の成長を遅延させ得、また4T1またはB16腫瘍の実験的転移からマウスを守り得ることを報告した(Zhang Q、Bi J、Zheng Xら、Blockade of the checkpoint receptor TIGIT prevents NK cell exhaustion and elicits potent anti-tumor immunity. Nat Immunol. 2018 Jul;19巻(7号):723~732)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
免疫応答におけるTIGITの複数の役割を考えると、TIGITは、腫瘍免疫療法の魅力的な標的と見なされる。それゆえ、当技術分野において、疾患治療、とりわけがん治療のための新たなTIGIT抗体を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内容
広範囲の研究の後、本出願の発明者らは、TIGITに対する高い結合親和性を有し、TIGITのそのリガンドCD155/CD112への結合を有効に遮断し得、それによって、細胞に送られる阻害シグナルを低下させるまたは排除する、TIGITに対する一連の完全ヒト抗体をスクリーニングしかつ獲得し、本発明の抗体の投与は、動物モデルにおいて腫瘍成長を有意に阻害し得る。これに基づき、本出願は、該抗体またはその抗原結合フラグメントを含有する組成物、該抗体またはその抗原結合フラグメントをコードする核酸分子、それを含有する宿主細胞、およびその関連する使用も提供する。
【0007】
ADI-55796
それゆえ、第1の態様において、本出願は、TIGITに特異的に結合し得る抗体またはその抗原結合フラグメントであって、抗体またはその抗原結合フラグメントは、
配列番号4に記載される重鎖可変領域(VH)に含まれる、VH CDR1もしくはそのバリアント、VH CDR2もしくはそのバリアント、およびVH CDR3もしくはそのバリアント;ならびに/または配列番号8に記載される軽鎖可変領域(VL)に含まれる、VL CDR1もしくはそのバリアント、VL CDR2もしくはそのバリアント、およびVL CDR3もしくはそのバリアントを含み;
バリアントは、それが由来する配列と比較して、1個または数個のアミノ酸の置換、欠失、または付加(例えば、1、2、または3個のアミノ酸の置換(保存的置換等)、欠失、または付加)を有する、
抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。ある特定の実施形態において、置換は保存的置換である。
【0008】
ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号4に記載される重鎖可変領域(VH)に含まれる3つのCDR;および/または配列番号8に記載される軽鎖可変領域(VL)に含まれる3つのCDRを含む。
【0009】
ある特定の実施形態において、VHに含まれる3つのCDRおよび/またはVLに含まれる3つのCDRは、Kabat、IMGT、またはChothia番号付けシステムによって規定される。
【0010】
ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、
重鎖可変領域(VH)の以下の3つの相補性決定領域(CDR):配列番号1に記載される配列を有するVH CDR1、配列番号2に記載される配列を有するVH CDR2、および配列番号3に記載される配列を有するVH CDR3;ならびに/または軽鎖可変領域(VL)の以下の3つの相補性決定領域(CDR):配列番号5に記載される配列を有するVL CDR1、配列番号6に記載される配列を有するVL CDR2、配列番号7に記載される配列を有するVL CDR3を含み;
CDRは、IMGT番号付けシステムによって規定される。
【0011】
ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域をさらに含む。
【0012】
ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒト抗体生殖細胞系列遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に含まれるフレームワーク領域を含む。ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒト重鎖生殖細胞系列遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に含まれる重鎖フレームワーク領域、および/またはヒト軽鎖生殖細胞系列遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に含まれる軽鎖フレームワーク領域を含む。
【0013】
ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号4に記載される配列を含むVHもしくはそのバリアント、および/または配列番号8に記載される配列を含むVLもしくはそのバリアントを含み;
バリアントは、それが由来する配列と比較して、1個もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、もしくは付加(例えば、1、2、3、4、または5個のアミノ酸の置換、欠失、または付加)を有する、または少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有する。ある特定の実施形態において、置換は保存的置換である。
【0014】
ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号4に記載されるVH、および/または配列番号8に記載されるVLを含む。
【0015】
ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトTIGITに特異的に結合し得、かつ/またはヒトTIGITのそのリガンドへの結合を遮断し得、例えば、結合の活性および/または遮断の活性は、チラゴルマブのものよりも優れている。
【0016】
ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、マウスTIGITに特異的に結合し得、かつ/またはマウスTIGITのそのリガンドへの結合を遮断し得る。
【0017】
ある特定の好ましい実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒト、カニクイザル、および/またはマウスTIGITとの交差反応性を有し、例えばヒト、カニクイザル、およびマウスTIGITとの交差反応性を有する。
【0018】
ADI-55812
第2の態様において、本出願は、TIGITに特異的に結合し得る抗体またはその抗原結合フラグメントであって、抗体またはその抗原結合フラグメントは、
配列番号12に記載される重鎖可変領域(VH)に含まれる、VH CDR1もしくはそのバリアント、VH CDR2もしくはそのバリアント、およびVH CDR3もしくはそのバリアント;ならびに/または配列番号16に記載される軽鎖可変領域(VL)に含まれる、VL CDR1もしくはそのバリアント、VL CDR2もしくはそのバリアント、およびVL CDR3もしくはそのバリアントを含み;
バリアントは、それが由来する配列と比較して、1個または数個のアミノ酸の置換、欠失、または付加(例えば、1、2、または3個のアミノ酸の置換(保存的置換等)、欠失、または付加)を有する、
抗体またはその抗原結合フラグメントを提供する。ある特定の実施形態において、置換は保存的置換である。
【0019】
ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号12に記載される重鎖可変領域(VH)に含まれる3つのCDR;および/または配列番号16に記載される軽鎖可変領域(VL)に含まれる3つのCDRを含む。
【0020】
ある特定の実施形態において、VHに含まれる3つのCDRおよび/またはVLに含まれる3つのCDRは、Kabat、IMGT、またはChothia番号付けシステムによって規定される。
【0021】
ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、
重鎖可変領域(VH)の以下の3つの相補性決定領域(CDR):配列番号9に記載される配列を有するVH CDR1、配列番号10に記載される配列を有するVH CDR2、および配列番号11に記載される配列を有するVH CDR3;ならびに/または軽鎖可変領域(VL)の以下の3つの相補性決定領域(CDR):配列番号13に記載される配列を有するVL CDR1、配列番号14に記載される配列を有するVL CDR2、配列番号15に記載される配列を有するVL CDR3を含み;
CDRは、IMGT番号付けシステムによって規定される。
【0022】
ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域をさらに含む。
【0023】
ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒト抗体生殖細胞系列遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に含まれるフレームワーク領域を含む。ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒト重鎖生殖細胞系列遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に含まれる重鎖フレームワーク領域、および/またはヒト軽鎖生殖細胞系列遺伝子によってコードされるアミノ酸配列に含まれる軽鎖フレームワーク領域を含む。
【0024】
ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号12に記載される配列を含むVHもしくはそのバリアント、および/または配列番号16に記載される配列を含むVLもしくはそのバリアントを含み;
バリアントは、それが由来する配列と比較して、1個もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、もしくは付加(例えば、1、2、3、4、または5個のアミノ酸の置換、欠失、または付加)を有する、または少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、もしくは100%の配列同一性を有する。ある特定の実施形態において、置換は保存的置換である。
【0025】
ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号12に記載されるVH、および/または配列番号16に記載されるVLを含む。
【0026】
ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトTIGITに特異的に結合し得、かつ/またはヒトTIGITのそのリガンドへの結合を遮断し得、例えば、結合の活性および/または遮断の活性は、チラゴルマブのものよりも優れている。
【0027】
ある特定の好ましい実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトおよびカニクイザルTIGITとの交差反応性を有する。
【0028】
ある特定の実施形態において、本発明の第1または第2の態様の抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒト免疫グロブリンに由来する定常領域をさらに含む。
【0029】
ある特定の実施形態において、抗体もしくはその抗原結合フラグメントの重鎖は、ヒト免疫グロブリンの重鎖定常領域(CH)もしくはそのバリアントを含み、バリアントは、それが由来する配列と比較して、1個もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失、もしくは付加(例えば、最高20個、最高15個、最高10個、または最高5個のアミノ酸の置換、欠失、または付加;例えば、1、2、3、4、または5個のアミノ酸の置換、欠失、または付加)を有し;かつ/または
抗体もしくはその抗原結合フラグメントの軽鎖は、ヒト免疫グロブリンの軽鎖定常領域(CL)もしくはそのバリアントを含み、バリアントは、それが由来する配列と比較して、最高20個のアミノ酸の保存的置換(例えば、最高15個、最高10個、または最高5個のアミノ酸の保存的置換;例えば、1、2、3、4、または5個のアミノ酸の保存的置換等)を有する。
【0030】
一部の実施形態において、重鎖定常領域(CH)のバリアントは、それが由来する配列と比較して、1つまたは複数のアミノ酸の保存的置換を有し得る。そのような実施形態において、重鎖定常領域(CH)のバリアントは、それが由来する野生型配列と比較して、同じまたは実質的に同じエフェクター機能を有し得る。
【0031】
他の実施形態において、重鎖定常領域(CH)のバリアントは、本発明の抗体の以下の特性:Fc受容体結合、抗体グリコシル化、システイン残基の数、エフェクター細胞機能、または補体機能等のうちの1つまたは複数を変更する1つまたは複数のアミノ酸変異または化学修飾を含み得る。エフェクター機能は、抗体の定常領域における少なくとも1個のアミノ酸残基を、異なる残基でまたは化学修飾によって置き換えて機能的変化を生み出すことによって変更され得、例えばエフェクターリガンド(例えば、FcRまたは補体C1q)に対する抗体の親和性を変化させることは、エフェクター機能を変更し得る(例えば、低下させるまたは増強する)。抗体のFc領域は、ADCC、貪食、CDC等、いくつかの重要なエフェクター機能を媒介する。
【0032】
ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ADCC活性を所有する。ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、変異した(例えば、アミノ酸置換)または化学修飾されたFc領域を含み、変異したまたは化学修飾されたFc領域は、増強したADCC活性を提供する。ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、低いフコシル化活性を有するまたはフコシル化活性を有しない宿主細胞における発現によって産生され、産生された抗体は、低いフコシル化を有しまたはフコシル化を有さず、それがそのADCC活性を増強する。そのような宿主細胞は、フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子(例えば、FUT8)を欠如しているCHO細胞等の哺乳類細胞であり得る。
【0033】
ある特定の実施形態において、重鎖定常領域は、IgG重鎖定常領域、例えばIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4重鎖定常領域等、例えばIgG1重鎖定常領域等である。ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントは、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4等のIgGから選択される。ある特定の例示的な実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントの重鎖は、配列番号17または配列番号18に記載される重鎖定常領域を含む。
【0034】
ある特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントの軽鎖は、ヒト免疫グロブリンに由来する軽鎖定常領域(例えば、κまたはλ鎖の定常領域)を含む。ある特定の例示的な実施形態において、抗体またはその抗原結合フラグメントの軽鎖は、配列番号22に記載される軽鎖定常領域を含む。
【0035】
ある特定の実施形態において、抗原結合フラグメントは、Fab、Fab’、(Fab’)2、Fv、ジスルフィド連結Fv、scFv、ダイアボディ、および単一ドメイン抗体(sdAb)からなる群から選択され;かつ/または抗体は、キメラ抗体、二重特異性抗体、もしくは多重特異性抗体である。
【0036】
本発明の抗体は、遺伝子操作および組み換え技術等、当技術分野において公知の様々な方法によって調製され得る。例えば、本発明の抗体の重鎖および軽鎖をコードするDNA分子を、化学合成またはPCR増幅によって獲得する。結果として生じたDNA分子を発現ベクターに挿入し、次いで宿主細胞にトランスフェクトする。次いで、トランスフェクトされた宿主細胞を、本発明の抗体を発現する特異的条件下で培養する。
【0037】
本発明の抗原結合フラグメントは、無傷抗体分子を加水分解することによって獲得され得る(Morimotoら、J. Biochem. Biophys. Methods 24巻:107~117 (1992)、およびBrennanら、Science 229:81巻(1985)参照)。その上、これらの抗原結合フラグメントは、組み換え宿主細胞から直接産生もされ得る(Hudson、Curr. Opin. Immunol. 11巻: 548~557 (1999);Littleら、Immunol. Today、21巻: 364~370 (2000)に概説される)。例えば、Fab’フラグメントは、宿主細胞から直接獲得され得;Fab’フラグメントを化学的に共役させてF(ab’)2フラグメントを形成し得る(Carterら、Bio/Technology、10巻: 163~167 (1992))。加えて、Fv、Fab、またはF(ab’)2フラグメントは、組み換え宿主細胞の細胞培養物から直接単離もされ得る。当業者であれば、そのような抗原結合フラグメントを調製するための他の技法を十分承知している。
【0038】
核酸分子
別の態様において、本出願は、上で記載される抗体もしくはその抗原結合フラグメント、またはその重鎖可変領域および/もしくは軽鎖可変領域をコードする、単離された核酸分子を提供する。
【0039】
ある特定の実施形態において、単離された核酸分子は、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントの重鎖または重鎖可変領域をコードする第1のヌクレオチド配列、および抗体またはその抗原結合フラグメントの軽鎖または軽鎖可変領域をコードする第2のヌクレオチド配列を含み、第1のヌクレオチド配列および第2のヌクレオチド配列は、同じまたは異なる単離された核酸分子に存在する。第1のヌクレオチド配列および第2のヌクレオチド配列が、異なる単離された核酸分子に存在する場合、本発明の単離された核酸分子は、第1のヌクレオチド配列を含む第1の核酸分子、および第2のヌクレオチド配列を含む第2の核酸分子を含む。
【0040】
ベクター
別の態様において、本出願は、上で記載される核酸分子を含むベクターを提供する。ある特定の実施形態において、ベクターは、クローニングベクターまたは発現ベクターである。
【0041】
ある特定の実施形態において、ベクターは、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントの重鎖または重鎖可変領域をコードする第1のヌクレオチド配列、および抗体またはその抗原結合フラグメントの軽鎖または軽鎖可変領域をコードする第2のヌクレオチド配列を含み、第1のヌクレオチド配列および第2のヌクレオチド配列は、同じまたは異なるベクターに存在する。第1のヌクレオチド配列および第2のヌクレオチド配列が、異なるベクターに存在する場合、本発明のベクターは、第1のヌクレオチド配列を含む第1のベクター、および第2のヌクレオチド配列を含む第2のベクターを含む。
【0042】
宿主細胞
別の態様において、本出願は、上で記載される核酸分子またはベクターを含む宿主細胞も提供する。そのような宿主細胞は、細菌細胞(例えば、E.coli細胞)等の原核細胞、ならびに真菌細胞(例えば、酵母細胞)、昆虫細胞、植物細胞、および動物細胞(例えば哺乳類細胞、例えばマウス細胞、ヒト細胞等)等の真核細胞を含むが、それらに限定されるわけではない。
【0043】
ある特定の実施形態において、宿主細胞は、低いフコシル化活性を有するまたはフコシル化活性を有しない。ある特定の実施形態において、宿主細胞は、フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子(例えば、FUT8)を欠如しているCHO細胞等の哺乳類細胞であり得る。
【0044】
調製法
別の態様において、本出願は、抗体またはその抗原結合フラグメントの発現を可能にする条件下で、上で記載される宿主細胞を培養すること、および宿主細胞の細胞培養物から抗体またはその抗原結合フラグメントを回収することを含む、上で記載される抗体またはその抗原結合フラグメントを調製するための方法を提供する。
【0045】
ある特定の実施形態において、宿主細胞は、低いフコシル化活性を有しまたはフコシル化活性を有さず、それによって、低いフコシル化を有するまたはフコシル化を有しない抗体を産生し、これが、その中で産生された抗体のADCC活性を増強する。ある特定の実施形態において、宿主細胞は、フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子(例えば、FUT8)を欠如しているCHO細胞等の哺乳類細胞であり得る。
【0046】
医薬組成物
別の態様において、本出願は、上で記載される抗体もしくはその抗原結合フラグメント、単離された核酸分子、ベクター、または宿主細胞、ならびに医薬的に許容される担体および/または賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0047】
ある特定の実施形態において、医薬組成物は、付加的な免疫チェックポイント阻害剤をさらに含む。
【0048】
ある特定の実施形態において、医薬組成物は、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体をさらに含む。
【0049】
ある特定の例示的な実施形態において、医薬的に許容される担体および/または賦形剤は、無菌の注射可能な液体(例えば、水性または非水性の懸濁液または溶液)を含む。ある特定の例示的な実施形態において、そのような無菌の注射可能な液体は、注射用水(WFI)、注射用静菌水(BWFI)、塩化ナトリウム溶液(例えば、0.9%(w/v)NaCl)、デキストロース溶液(例えば、5%グルコース)、界面活性剤含有溶液(例えば、0.01%ポリソルベート20を含有する溶液)、pH緩衝溶液(例えば、リン酸塩緩衝溶液)、リンゲル溶液、およびその任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0050】
使用
別の態様において、本出願は、医薬の製造における、上で記載される抗体もしくはその抗原結合フラグメント、単離された核酸分子、ベクター、宿主細胞、または医薬組成物の使用を提供し、医薬は、
(1)インビトロにおけるもしくは対象(例えば、ヒト)における免疫細胞活性を増加させるために;
(2)対象(例えば、ヒト)における免疫応答を増強するために;
(3)対象(例えば、ヒト)における腫瘍を阻止しかつ/もしくは治療するために;または
(4)対象(例えば、ヒト)における感染症を阻止しかつ/もしくは治療するために
使用される。
【0051】
ある特定の実施形態において、免疫細胞は、T細胞および/またはNK細胞である。
ある特定の実施形態において、免疫応答は、T細胞またはNK細胞媒介性免疫応答である。
【0052】
ある特定の実施形態において、腫瘍は、TIGIT陽性浸潤T細胞および/もしくはNK細胞を伴い、かつ/またはTIGITリガンド(例えば、CD155および/またはCD112)陽性腫瘍細胞を伴う。
【0053】
ある特定の実施形態において、腫瘍は、固形腫瘍または血液学的腫瘍(例えば、白血病、リンパ腫、骨髄腫)から選択される。
【0054】
ある特定の実施形態において、腫瘍は、結腸直腸がん、結腸がん、膀胱がん、乳がん、子宮/子宮頸がん、卵巣がん、前立腺がん、精巣がん、食道がん、消化管がん、膵臓がん、腎がん、頭頸部がん、肺がん、胃腸がん、胚細胞がん、骨がん、肝臓がん、甲状腺がん、皮膚がん、中枢神経系がん、リンパ腫、白血病、骨髄腫、肉腫、および黒色腫からなる群から選択される。
【0055】
ある特定の実施形態において、感染症は、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症、および寄生虫感染症からなる群から選択される。
【0056】
ある特定の実施形態において、対象は、ヒト、カニクイザル、またはマウス等の哺乳類である。
【0057】
ある特定の実施形態において、抗体もしくはその抗原結合フラグメント、単離された核酸分子、ベクター、宿主細胞、または医薬組成物は、単独で、または付加的な医薬的活性剤との組み合わせで使用される。ある特定の実施形態において、付加的な医薬的活性剤は、付加的な免疫チェックポイント阻害剤である。
【0058】
ある特定の実施形態において、抗体もしくはその抗原結合フラグメント、単離された核酸分子、ベクター、宿主細胞、または医薬組成物は、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体との組み合わせで使用される。
【0059】
別の態様において、本出願は、上で記載される抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは医薬組成物の有効量をそれを必要とする対象に投与することを含む、対象における免疫応答を増強する、または腫瘍もしくは感染症を阻止しかつ/もしくは治療するための方法を提供する。
【0060】
ある特定の実施形態において、腫瘍は、TIGIT陽性浸潤T細胞および/もしくはNK細胞を伴い、かつ/またはTIGITリガンド(例えば、CD155および/またはCD112)陽性腫瘍細胞を伴う。
【0061】
ある特定の実施形態において、腫瘍は、固形腫瘍または血液学的腫瘍(例えば、白血病、リンパ腫、骨髄腫)から選択される。
【0062】
ある特定の実施形態において、腫瘍は、結腸直腸がん、結腸がん、膀胱がん、乳がん、子宮/子宮頸がん、卵巣がん、前立腺がん、精巣がん、食道がん、消化管がん、膵臓がん、腎がん、頭頸部がん、肺がん、胃腸がん、胚細胞がん、骨がん、肝臓がん、甲状腺がん、皮膚がん、中枢神経系がん、リンパ腫、白血病、骨髄腫、肉腫、および黒色腫からなる群から選択される。
【0063】
ある特定の実施形態において、感染症は、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症、および寄生虫感染症からなる群から選択される。
【0064】
ある特定の実施形態において、対象は、ヒト等の哺乳類である。
本出願の抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは医薬組成物は、医学の分野において公知の任意の剤形、例えば錠剤、丸薬、懸濁液、乳濁液、溶液、ゲル、カプセル、粉末、顆粒、エリキシル剤、錠剤、座薬、注射液(注射溶液、注射用無菌粉末、および注射用濃縮溶液を含む)、吸入剤、噴霧等に製剤化され得る。好ましい剤形は、投与の意図される様態、および治療的使用に依存する。本発明の抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは医薬組成物は、無菌であるべきであり、産生および保管の条件下で安定であるべきである。1種の好ましい剤形は注射液である。そのような注射液は、無菌の注射可能な溶液であり得る。例えば、無菌の注射可能な溶液は、適当な溶媒に、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントの必要な用量、および任意選択で他の所望の成分(pH調整剤、界面活性剤、アジュバント、イオン強度増強剤、等張剤、防腐剤、希釈剤、またはその任意の組み合わせを含むが、それらに限定されるわけではない)を組み入れ、その後に濾過滅菌が続くことによって調製され得る。付加的に、無菌の注射可能な溶液は、保管および使用を容易にするために、無菌の凍結乾燥粉末(例えば、真空乾燥またはフリーズドライによる)として調製され得る。そのような無菌の凍結乾燥粉末は、注射用水(WFI)、注射用静菌水(BWFI)、塩化ナトリウム溶液(例えば、0.9%(w/v)NaCl)、グルコース溶液(例えば、5%グルコース)、界面活性剤含有溶液(例えば、0.01%ポリソルベート20を含有する溶液)、pH緩衝溶液(例えば、リン酸塩緩衝溶液)、リンゲル溶液、およびその任意の組み合わせ等、使用前に適切な担体中に分散され得る。
【0065】
本出願の抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または本発明の医薬組成物は、経口、頬側、舌下、眼科、局所、非経口、直腸、髄腔内、大槽内、鼠径部、膀胱内、局部(例えば、粉末、軟膏、または液滴)、または経鼻経路を含むがそれらに限定されない、当技術分野において公知の任意の適切な方法によって投与され得る。しかしながら、多くの治療的使用に関して、投与の好ましい経路/様態は、非経口投与(例えば、静脈内またはボーラス注射、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射)である。当業者であれば、投与の経路および/または様態は、意図される目的に応じて変わるであろうことを理解するであろう。ある特定の実施形態において、本発明の抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは医薬組成物は、静脈内注射またはボーラス注射によって投与される。
【0066】
コンジュゲート
別の態様において、本出願は、上で記載される抗体またはその抗原結合フラグメント、および抗体またはその抗原結合フラグメントに連結された検出可能な標識を含むコンジュゲートを提供する。
【0067】
ある特定の実施形態において、検出可能な標識は、酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)、化学発光試薬(例えば、アクリジニウムエステル、ルミノールおよびその誘導体、またはルテニウム誘導体)、蛍光色素(例えば、フルオレセインまたは蛍光タンパク質)、放射性核種、およびビオチンからなる群から選択される。
【0068】
キット
別の態様において、本出願は、上で記載される抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたはコンジュゲートを含むキットを提供する。
【0069】
ある特定の実施形態において、キットは、上で記載されるコンジュゲートを含む。
ある特定の実施形態において、キットは、上で記載される抗体またはその抗原結合フラグメント、および抗体またはその抗原結合フラグメントを特異的に認識する第2の抗体を含む。ある特定の実施形態において、第2の抗体は、酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)、化学発光試薬(例えば、アクリジニウムエステル、ルミノールおよびその誘導体、またはルテニウム誘導体)、蛍光色素(例えば、フルオレセインまたは蛍光タンパク質)、放射性核種、またはビオチン等、検出可能な標識をさらに含む。
【0070】
別の態様において、本出願は、上で記載される抗体もしくはその抗原結合フラグメント、または上で記載されるコンジュゲートを使用することを含む、サンプルにおけるTIGITの存在またはレベルを検出するための方法を提供する。ある特定の実施形態において、方法は、治療目的、診断目的、または非治療非診断目的のために使用される。
【0071】
ある特定の実施形態において、方法は、ウェスタンブロット、酵素イムノアッセイ(例えば、ELISA)、化学発光イムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、またはラジオイムノアッセイ等の免疫学的アッセイである。
【0072】
ある特定の実施形態において、方法は、上で記載されるコンジュゲートを使用することを含む。
【0073】
ある特定の実施形態において、方法は、上で記載される抗体またはその抗原結合フラグメントを使用することを含み、方法は、抗体またはその抗原結合フラグメントを検出するために、検出可能な標識(例えば、酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)、化学発光試薬(例えば、アクリジニウムエステル、ルミノールおよびその誘導体、またはルテニウム誘導体)、蛍光色素(例えば、フルオレセインまたは蛍光タンパク質)、放射性核種、またはビオチン)を担持する第2の抗体を使用することをさらに含む。
【0074】
ある特定の実施形態において、方法は、(1)サンプルと、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントとを接触させること;(2)抗原-抗体免疫複合体の形成を検出すること、または免疫複合体の量を検出することを含む。免疫複合体の形成は、TIGITまたはTIGIT発現細胞の存在を示す。
【0075】
別の態様において、本出願は、サンプルにおけるTIGITの存在またはレベルを検出するための検出試薬の製造における、上で記載される抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたはコンジュゲートの使用も提供する。
【0076】
ある特定の実施形態において、検出試薬は、上で記載される方法によって、サンプルにおけるTIGITの存在またはレベルを検出する。
【0077】
ある特定の実施形態において、サンプルは、対象(例えば哺乳類、好ましくはヒト、カニクイザル、またはマウス)由来の細胞サンプル(例えば、免疫細胞)である。
【0078】
用語の定義
本発明において、別様に述べられない限り、本明細書において使用される科学的および技術的用語は、当業者によって共通して理解される意味を有する。さらに、本明細書において使用されるウイルス学、生化学、および免疫学検査手順は、対応する分野において広く使用されるルーチン的手順である。その一方で、本発明をよりよく理解するために、関連用語の定義および説明が下で提供される。
【0079】
「例えば(for example)」、「等」、「例えば(e.g.)」、「含む(comprising)」、「含む(including)」という用語またはその変形が本明細書において使用される場合、これらの用語は、限定的用語とは見なされず、その代わりに、「しかし限定されることなく」または「限定されることなく」を意味すると解釈されるであろう。
【0080】
本明細書において別様に示されないまたは文脈によってはっきりと否定されない限り、本発明を記載するための文脈における(とりわけ、以下の特許請求の範囲の文脈における)「a」および「an」、のみならず「the」という用語、ならびに同様の指示対象は、単数形および複数形を網羅すると捉えられるべきである。
【0081】
本明細書において使用するとき、「抗体」という用語は、各ペアが軽鎖(LC)および重鎖(HC)を有する、典型的にポリペプチド鎖の2組のペアから構成される免疫グロブリン分子を指す。抗体軽鎖は、κ(カッパ)およびλ(ラムダ)軽鎖に分類され得る。重鎖は、μ、δ、γ、α、またはεとして分類され得、抗体のアイソタイプをそれぞれIgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEとして規定する。軽鎖および重鎖内で、可変および定常領域は、およそ12個以上のアミノ酸の「J」領域によって接続され、重鎖は、およそ3個以上のアミノ酸の「D」領域も含有する。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)および重鎖定常領域(CH)からなる。重鎖定常領域は、3つのドメイン(CH1、CH2、およびCH3)からなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域(CL)からなる。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLからなる。定常ドメインは、抗原への抗体の結合に直接関らないが、免疫グロブリンと、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的補体系の第1の構成要素(C1q)を含めた、宿主組織または因子との結合を媒介すること等、多様なエフェクター機能を呈する。VHおよびVL領域も、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存的な領域が散在した、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる高い可変性の領域に細分され得る。各VHおよびVLは、以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシル末端に並べられた3つのCDRおよび4つのFRからなる。各重鎖/軽鎖ペアの可変領域(VHおよびVL)は、抗原結合部位をそれぞれ形成する。領域またはドメインへのアミノ酸の割り当ては、Kabat、Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health、Bethesda、Md. (1987および1991))、またはChothia & Lesk (1987) J. Mol. Biol. 196巻:901~917;Chothiaら(1989) Nature 342巻:878~883に記載される規定に従い得る。
【0082】
本明細書において使用するとき、「相補性決定領域」または「CDR」という用語は、抗原結合に関与する、抗体の可変領域におけるそうしたアミノ酸残基を指す。重鎖および軽鎖の可変領域はそれぞれ、CDR1、CDR2、およびCDR3と名付けられた3つのCDRを含有する。これらCDRの正確な境界は、Kabat番号付けシステム(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5編、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、Md.、1991)、Chothia番号付けシステム(Chothia & Lesk (1987) J. Mol. Biol. 196巻:901~917;Chothiaら(1989) Nature 342巻:878~883)、またはIMGT番号付けシステム(Lefrancら、Dev. Comparat. Immunol. 27巻:55~77、2003)等、当技術分野において公知の様々な番号付けシステムに従って規定され得る。所与の抗体に関して、当業者であれば、各番号付けシステムによって規定されたCDRを容易く識別するであろう。さらに、異なる番号付けシステム間の対応は、当業者に周知である(例えば、Lefrancら、Dev. Comparat. Immunol. 27巻:55~77、2003を参照されたい)。
【0083】
本発明において、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントに含有されるCDRは、当技術分野において公知の様々な番号付けシステムに従って決定され得る。ある特定の実施形態において、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントに含有されるCDRは、好ましくはKabat、Chothia、またはIMGT番号付けシステムによって決定される。ある特定の実施形態において、本発明の抗体またはその抗原結合フラグメントに含有されるCDRは、好ましくはIMGT番号付けシステムによって決定される。
【0084】
本明細書において使用するとき、「フレームワーク領域」または「FR」残基という用語は、上で定義されるCDR残基以外の、抗体可変領域におけるそうしたアミノ酸残基を指す。
【0085】
「抗体」という用語は、抗体を産生する任意の特定の方法に限定されるわけではない。それは、例えば組み換え抗体、モノクローナル抗体、およびポリクローナル抗体を含む。抗体は、異なるアイソタイプのもの、例えばIgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4サブタイプ)、IgA1、IgA2、IgD、IgE、またはIgM抗体であり得る。
【0086】
本明細書において使用するとき、抗体の「抗原結合フラグメント」という用語は、「抗原結合部分」とも呼ばれる、全長抗体が結合する同じ抗原に特異的に結合する能力を保持し、かつ/または抗原への特異的結合を全長抗体と競合する、全長抗体のフラグメントを含むポリペプチドを指す。一般的に、すべての目的のために参照によりその全体として本明細書に組み入れられる、Fundamental Immunology、第7章 (Paul, W.編、第2編、Raven Press、N.Y. (1989)を参照されたい。抗体の抗原結合フラグメントは、組み換えDNA技術によって、または無傷抗体の酵素的もしくは化学的切断によって獲得され得る。抗原結合フラグメントの非限定的な例は、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fd、Fv、相補性決定領域(CDR)フラグメント、scFv、ダイアボディ、単一ドメイン抗体、キメラ抗体、線状抗体、ナノボディ(Domantis発の技術)、プロボディ、および抗原結合能を有するポリペプチドに特異性を付与するのに十分である抗体の少なくとも一部分を含有するそのようなポリペプチドを含む。操作された抗体バリアントは、Holligerら、2005; Nat Biotechnol、23巻: 1126~1136に概説される。
【0087】
本明細書において使用するとき、「全長抗体」という用語は、2本の「全長重鎖」および2本の「全長軽鎖」からなる抗体を指す。それらの中で、「全長重鎖」とは、N末端からC末端の方向に、重鎖可変領域(VH)、重鎖定常領域CH1ドメイン、ヒンジ領域(HR)、重鎖定常領域CH2ドメイン、重鎖定常領域CH3ドメインからなるポリペプチド鎖を指し;全長抗体がIgEアイソタイプのものである場合、それは、任意選択で重鎖定常領域CH4ドメインも含む。好ましくは、「全長重鎖」は、N末端からC末端の方向に、VH、CH1、HR、CH2、およびCH3からなるポリペプチド鎖である。「全長軽鎖」とは、N末端からC末端の方向に、軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域(CL)からなるポリペプチド鎖である。全長抗体鎖の2組のペアは、CLとCH1との間、および2本の全長重鎖のHRの間でジスルフィド結合によって一緒に連結される。本発明の全長抗体は、ヒト等の単一種由来のものであり得;それは、キメラ抗体またはヒト化抗体でもあり得る。本発明の全長抗体は、それぞれVHおよびVLペアによって形成される2つの抗原結合部位を含有し、これら2つの抗原結合部位は、同じ抗原を特異的に認識する/結合する。
【0088】
本明細書において使用するとき、「Fd」という用語は、VHおよびCH1ドメインからなる抗体フラグメントを指し;「dAbフラグメント」という用語は、VHドメインからなる抗体フラグメントを指し(Wardら、Nature 341巻:544 546 (1989));「Fabフラグメント」という用語は、VL、VH、CL、およびCH1ドメインからなる抗体フラグメントを指し;「F(ab’)2フラグメント」という用語は、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって接続された2つのFabフラグメントからなる抗体フラグメントを指し;「Fab’フラグメント」という用語は、F(ab’)2フラグメントにおける2つの重鎖フラグメントを接続するジスルフィド結合を還元することによって獲得されるフラグメントを指し、完全軽鎖および重鎖Fdフラグメント(VHおよびCH1ドメインからなる)からなる。
【0089】
本明細書において使用するとき、「Fv」という用語は、抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなる抗体フラグメントを指す。Fvフラグメントは、一般的に、完全な抗原結合部位を形成し得る最小の抗体フラグメントであると見なされる。6つのCDRが抗体の抗原結合特異性を付与すると一般的に考えられる。しかしながら、可変領域(例えば、3つの抗原特異的CDRのみを含有するFdフラグメント)でさえ、抗原を認識し得かつ結合し得るが、とはいえ、その親和性は、無傷結合部位のものよりも低くあり得る。
【0090】
本明細書において使用するとき、「Fc」という用語は、ジスルフィド結合を介した、抗体の第2の重鎖の第2および第3の定常領域への、抗体の第1の重鎖の第2および第3の定常領域の結合によって形成される抗体フラグメントを指す。抗体のFcフラグメントは、多くの異なる機能を有するが、抗原結合には参加しない。
【0091】
本明細書において使用するとき、「scFv」という用語は、VLおよびVHがリンカーを介して接続されている、VLおよびVHドメインを含む単一ポリペプチド鎖を指す(例えば、Birdら、Science 242巻:423~426 (1988);Hustonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85巻:5879~5883 (1988);ならびにPluckthun、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、第113巻、RoseburgおよびMoore編、Springer-Verlag、New York、269~315頁 (1994)を参照されたい)。そのようなscFv分子は、一般構造:NH2-VL-リンカー-VH-COOHまたはNH2-VH-リンカー-VL-COOHを有し得る。適切な先行技術リンカーは、反復GGGGSアミノ酸配列またはそのバリアントからなる。例えば、アミノ酸配列(GGGGS)4を有するリンカーが使用され得るが、そのバリアントも使用され得る(Holligerら(1993)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90巻: 6444~6448)。本発明において有用な他のリンカーは、Alfthanら(1995)、Protein Eng. 8巻:725~731、Choiら(2001)、Eur. J. Immunol. 31巻:94~106、Huら(1996)、Cancer Res. 56巻:3055~3061、Kipriyanovら(1999)、J. Mol. Biol. 293巻:41~56、およびRooversら(2001)、Cancer Immunolに記載される。ある場合には、scFvのVHとVLとの間に、ジスルフィド結合も存在し得る。本発明のある特定の実施形態において、scFvはdi-scFvを形成し得、それは、直列に2つ以上の個々のscFvを接続することによって形成される抗体を指す。本発明のある特定の実施形態において、scFvは(scFv)2を形成し得、それは、並列に2つ以上の個々のscFvを接続することによって形成される抗体を指す。
【0092】
本明細書において使用するとき、「ダイアボディ」という用語は、VHおよびVLドメインが、単一ポリペプチド鎖上に発現されているが、使用されるリンカーが、同じ鎖上の2つのドメイン間の対合を可能にするには短すぎ、そのことが、ドメインに他の鎖の相補的ドメインと対合しかつ2つの抗原結合部位を生成することを強いる、抗体を指す(例えば、Holliger P.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90巻:6444~6448 (1993)、およびPoljak R. J.ら、Structure 2巻:1121~1123 (1994)を参照されたい)。
【0093】
本明細書において使用するとき、「単一ドメイン抗体(sdAb)」という用語は、当業者によって一般的に理解される共通の意味を有し、全長抗体が結合する同じ抗原に特異的に結合する能力を保持する、単一モノマー可変抗体ドメイン(例えば、単一重鎖可変領域)からなる抗体フラグメントを指す。単一ドメイン抗体は、ナノボディとも呼ばれる。
【0094】
上記の抗体フラグメントのそれぞれは、全長抗体が結合する同じ抗原に特異的に結合する能力を保持し、かつ/または抗原への特異的結合を全長抗体と競合する。
【0095】
抗体の抗原結合フラグメント(例えば、上で記載される抗体フラグメント)は、当業者に公知の従来的技法(例えば、組み換えDNA技術または酵素的もしくは化学的フラグメント化法)を使用して、所与の抗体(例えば、本発明によって提供される抗体)から獲得され得、抗体の抗原結合フラグメントは、無傷抗体に対するのと同じ様式で特異性についてスクリーニングされる。
【0096】
本明細書において使用するとき、「抗体」という用語に言及する場合、文脈が別様にはっきりと示さない限り、それは、無傷抗体だけでなく、抗体の抗原結合フラグメントも含む。
【0097】
本明細書において使用するとき、「キメラ抗体」という用語は、軽鎖および/または重鎖の一部が、抗体(特異的な種に由来し得る、または特異的な抗体クラスもしくはサブクラスに属し得る)に由来し、軽鎖または/および重鎖の他の部分が、別の抗体(同じもしくは異なる種に由来し得る、または同じもしくは異なる抗体クラスもしくはサブクラスに属し得る)に由来するが、それにもかかわらず、それは、依然として標的抗原への結合活性を保持する抗体を指す(Cabillyらに対するU.S.P4,816,567;Morrisonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、81巻:6851 6855 (1984))。ある特定の実施形態において、「キメラ抗体」という用語は、抗体の重鎖および軽鎖可変領域が第1の抗体に由来し、抗体の重鎖および軽鎖定常領域が第2の抗体に由来する、そのような抗体を含み得る。
【0098】
本明細書において使用するとき、「同一性」という用語は、2種のポリペプチドの間、または2種の核酸の間の配列の合致を指すために使用される。2種のアミノ酸配列または2種の核酸配列の同一性パーセントを判定するために、配列を最適な比較目的のためにアラインする(例えば、第2のアミノ酸または核酸配列との最高のアライメントのために、第1のアミノ酸配列または核酸配列にギャップが導入され得る)。対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置におけるアミノ酸残基またはヌクレオチドを、次いで比較する。第1の配列における位置が、第2の配列における対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドによって占有される場合、分子は同一である。2種の配列間の同一性パーセントは、配列によって共有される同一の位置の数の関数である(すなわち、同一性パーセント=同一の重複する位置の数/位置の総数×100%)。ある特定の実施形態において、両配列は、同じ長さのものである。
【0099】
2種の配列間の同一性パーセントの判定は、数学的アルゴリズムを使用しても遂行され得る。2種の配列の比較のための数学的アルゴリズムの1種の非限定的な例は、KarlinおよびAltschul、1993、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90巻:5873~5877によって改良された、KarlinおよびAltschul、1990、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 87巻:2264~2268のアルゴリズムである。そのようなアルゴリズムが、Altschulら、1990、J. Mol. Biol. 215巻:403のNBLASTおよびXBLASTプログラムに組み込まれた。
【0100】
本明細書において使用するとき、ポリペプチドの文脈における「バリアント」という用語(ポリペプチドを含む)は、アミノ酸残基の置換、欠失、または付加を導入することによって変更されているアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはペプチドも指す。ある場合には、「バリアント」という用語は、修飾されている(すなわち、ポリペプチドまたはペプチドに任意のタイプの分子を共有結合で連結することによって)ポリペプチドまたはペプチドも指す。例えば、限定されることなく、ポリペプチドは、例えばグリコシル化、アセチル化、PEG化、リン酸化、アミド化、公知の保護/ブロッキング基による誘導体化、タンパク質分解的切断、細胞リガンドまたは他のタンパク質への付着等によって修飾され得る。誘導体化されたポリペプチドまたはペプチドは、特異的な化学的切断、アセチル化、ホルミル化、ツニカマイシンの代謝合成等を含むがそれらに限定されない、当業者に公知の技法を使用した化学修飾によって産生され得る。さらに、バリアントは、それが由来するポリペプチドまたはペプチドと同様の、同一の、または向上した機能を有する。
【0101】
本明細書において使用するとき、「特異的結合」という用語は、抗体とそれが標的にする抗原との間の反応等、2種の分子間の無作為的でない結合反応を指す。特異的結合相互作用の強度または親和性は、相互作用の平衡解離定数(KD)によって表現され得る。本発明において、「KD」という用語は、特異的な抗体-抗原相互作用の解離平衡定数を指し、それは、抗体と抗原との間の結合親和性を記載するために使用される。平衡解離定数が小さければ小さいほど、抗体-抗原結合はより硬く、抗体と抗原との間の親和性はより高い。
【0102】
2種の分子間の特異的結合特性は、当技術分野において公知の方法を使用して判定され得る。1種の手法は、抗原結合部位/抗原複合体が形成されるおよび解離する速度を測定することを伴う。「会合速度定数」(kaまたはkon)および「解離速度定数」(kdisまたはkoff)の両方とも、濃度、ならびに会合および解離の実際の速度から算出され得る(Malmqvist M、Nature、1993、361巻:186~187を参照されたい)。kdis/kon比は解離定数KDに等しい(Daviesら、Annual Rev Biochem、1990; 59巻:439~473を参照されたい)。KD、kon、およびkdis値は、任意の妥当な方法によって測定され得る。ある特定の実施形態において、解離定数は、Biacore機器を用いた表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定され得る。その上、生物発光干渉法またはKinexaを使用して、解離定数を測定し得る。
【0103】
本明細書において使用するとき、本発明の検出可能な標識は、蛍光的、分光学的、光化学的、生化学的、免疫学的、電気的、光学的、または化学的手段によって検出可能な任意の物質であり得る。そのような標識は当技術分野において周知であり、例は、酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ等)、放射性核種(例えば、3H、125I、35S、14C、または32P)、蛍光色素(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フルオレセイン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)、フィコエリトリン(PE)、テキサスレッド、ローダミン、量子ドット、またはシアニン色素誘導体(例えば、Cy7、Alexa 750))、発光物質(例えば化学発光物質、例えばアクリジニウムエステル、ルミノールおよびその誘導体化合物、ルテニウムテルピリジル等のルテニウム誘導体等)、磁気ビーズ(例えば、Dynabeads(登録商標))、コロイド金または着色ガラスもしくはプラスチック(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックス等)ビーズ等の熱量測定マーカー、および上記の標識で修飾された、アビジン(例えば、ストレプトアビジン)への結合のためのビオチンを含むが、それらに限定されるわけではない。
【0104】
本明細書において使用するとき、「ベクター」という用語は、ポリヌクレオチドが挿入され得る核酸送達ビヒクルを指す。ベクターが、挿入されたポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を発現し得る場合、ベクターは発現ベクターと呼ばれる。ベクターは、形質転換、形質導入、またはトランスフェクションにより宿主細胞に導入され得、それにより、それが担持する遺伝材料要素は宿主細胞において発現され得る。プラスミド;ファージミド;コスミド;酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、またはP1由来人工染色体(PAC)等の人工染色体;λファージまたはM13ファージ等のファージ、および動物ウイルス等を含むがそれらに限定されない、ベクターが当業者に周知である。ベクターとして使用され得る動物ウイルスは、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、パポーバウイルス(例えば、SV40)を含むが、それらに限定されるわけではない。ベクターは、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列、選択エレメント、およびレポーター遺伝子を含むがそれらに限定されない、多様な発現制御エレメントを含有し得る。加えて、ベクターは、複製の起点も含有し得る。
【0105】
本明細書において使用するとき、「宿主細胞」という用語は、ベクターを導入するために使用され得る細胞を指し、それは、E.coliもしくはBacillus subtilis等の原核細胞、酵母細胞もしくはAspergillus等の真菌細胞、S2 Drosophila細胞もしくはSf9等の昆虫細胞、または線維芽細胞、CHO細胞、COS細胞、NSO細胞、HeLa細胞、BHK細胞、HEK293細胞、もしくはヒト細胞等の動物細胞を含むが、それらに限定されるわけではない。
【0106】
本明細書において使用するとき、「保存的置換」という用語は、アミノ酸配列を含むタンパク質/ポリペプチドの予想される特性に悪影響を与えないまたは変更しないアミノ酸置換を指す。例えば、保存的置換は、部位指向性変異導入およびPCR媒介性変異等、当技術分野において公知の標準的技法によって導入され得る。保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基が、同様の側鎖を有するアミノ酸残基、例えば対応するアミノ酸残基と物理的にまたは機能的に同様である(例えば、同様のサイズ、形状、電荷、共有結合または水素結合を形成する能力を含めた化学的特性等を有する)もので置き換えられているものを含む。同様の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野において規定されている。これらのファミリーは、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、およびヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β-分岐側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸を含む。それゆえ、対応するアミノ酸残基を、同じ側鎖ファミリー由来の別のアミノ酸残基で置き換えることが好ましい。アミノ酸の保存的置換を識別するための方法は、当技術分野において周知である(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Brummellら、Biochem. 32巻:1180~1187 (1993);Kobayashiら、Protein Eng. 12巻(10号):879~884 (1999);およびBurksら、Proc. Natl Acad. Set USA 94巻:412~417 (1997)を参照されたい)。
【0107】
本明細書において関わる20種の従来のアミノ酸は、従来の使用法に従って書かれている。例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Immunology-A Synthesis (第2編、E. S. GolubおよびD. R. Gren編、Sinauer Associates、Sunderland、Mass. (1991))を参照されたい。本発明において、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、同じ意味を有し、互換可能に使用される。および本発明において、アミノ酸は、概して、当技術分野において周知の1文字および3文字略語によって表される。例えば、アラニンは、AまたはAlaによって表され得る。
【0108】
本明細書において使用するとき、「医薬的に許容される担体および/または賦形剤」という用語は、対象および活性成分と薬理学的にかつ/または生理学的に適合する担体および/または賦形剤を指し、それらは、pH調整剤、界面活性剤、アジュバント、イオン強度増強剤、希釈剤、浸透圧を維持するための作用物質、吸収を遅延させるための作用物質、防腐剤を含みそれらに限定されず、当技術分野において周知である(例えば、Gennaro ARによって編集されたRemington's Pharmaceutical Sciences.、第19編、Pennsylvania: Mack Publishing Company、1995を参照されたい)。例えば、pH調整剤は、リン酸塩緩衝液を含むが、それに限定されるわけではない。界面活性剤は、Tween-80等、カチオン性、アニオン性、または非イオン性界面活性剤を含むが、それらに限定されるわけではない。イオン強度増強剤は、塩化ナトリウムを含むが、それに限定されるわけではない。防腐剤は、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸等、様々な抗細菌剤および抗真菌剤を含むが、それらに限定されるわけではない。浸透圧を維持するための作用物質は、糖類、NaCl等を含むが、それらに限定されるわけではない。吸収を遅延させるための作用物質は、モノステアレートおよびゼラチンを含むが、それらに限定されるわけではない。希釈剤は、水、水性緩衝液(例えば、緩衝生理食塩水)、アルコール、およびポリオール(例えば、グリセロール)等を含むが、それらに限定されるわけではない。防腐剤は、チメロサール、2-フェノキシエタノール、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸等、様々な抗細菌剤および抗真菌剤を含むが、それらに限定されるわけではない。安定剤は、当業者によって一般的に理解される意味を有し、それは、薬における活性成分の所望の活性を安定化させ得、グルタミン酸ナトリウム、ゼラチン、SPGA、サッカリド(例えば、ソルビトール、マンニトール、デンプン、スクロース、ラクトース、デキストラン、またはグルコース)、アミノ酸(例えば、グルタミン酸、グリシン)、タンパク質(例えば、乾燥ホエー、アルブミン、またはカゼイン)、またはその分解産物(例えば、ラクトアルブミン加水分解物)等を含むが、それらに限定されるわけではない。ある特定の例示的な実施形態において、医薬的に許容される担体または賦形剤は、無菌の注射可能な液体(例えば、水性または非水性の懸濁液または溶液)を含む。ある特定の例示的な実施形態において、そのような無菌の注射可能な液体は、注射用水(WFI)、注射用静菌水(BWFI)、塩化ナトリウム溶液(例えば、0.9%(w/v)NaCl)、デキストロース溶液(例えば、5%グルコース)、界面活性剤含有溶液(例えば、0.01%ポリソルベート20を含有する溶液)、pH緩衝溶液(例えば、リン酸塩緩衝溶液)、リンゲル溶液、およびその任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0109】
本明細書において使用するとき、「阻止」という用語は、対象における疾患または病態または症状の発生を阻止するまたは遅延させるために実施される方法を指す。本明細書において使用するとき、「治療」という用語は、有益なまたは所望の臨床転帰を獲得するために実施される方法を指す。本発明の目的上、有益なまたは所望の臨床転帰は、検出可能か検出不能かにかかわらず、症状の緩和、疾患の程度の低下、疾患の状態の安定化(すなわち、悪化なし)、疾患の進行を遅延させることまたは減速させること、疾患の状況を改善することまたは緩和すること、および症状の軽減(部分的か完全かにかかわらない)を含むが、それらに限定されるわけではない。加えて、「治療」とは、治療を受けない場合に予想される生存期間と比較して、生存期間を引き延ばすことも指し得る。
【0110】
本明細書において使用するとき、「対象」という用語は、ヒト、カニクイザル、マウス等の哺乳類を指す。ある特定の実施形態において、対象(例えば、ヒト、カニクイザル、マウス)は、TIGITと関連した疾患(例えば、TIGIT陽性浸潤T細胞および/もしくはNK細胞を伴い、かつ/またはTIGITリガンド(例えば、CD155および/またはCD112)陽性腫瘍細胞を伴う腫瘍)を有する、または前述の疾患に罹患するリスクがある。
【0111】
本明細書において使用するとき、「有効量」という用語は、所望の効果を達成するまたは少なくとも部分的に達成するのに十分な量を指す。例えば、疾患(例えば、TIGIT陽性浸潤T細胞および/もしくはNK細胞を伴い、かつ/またはTIGITリガンド(例えば、CD155および/またはCD112)陽性腫瘍細胞を伴う腫瘍)を阻止するための有効量とは、疾患の発生を阻止する、食い止める、または遅延させるのに十分である量を指し;疾患を治療するための有効量とは、疾患をすでに有する患者における疾患およびその合併症を治すまたは少なくとも部分的に阻止するのに十分である量を指す。そのような有効量を判定することは、当業者の能力の十分に範囲内にある。例えば、治療的使用に有効な量は、治療される対象となる疾患の重症度、患者自身の免疫系の全体的状況、年齢、重量、および性別等の患者の一般的条件、薬物が投与される様式、ならびに同時に投与される他の治療等に依存するであろう。
【0112】
本発明の有益な効果
本発明は、TIGITに対する高い結合親和性を有し、TIGITのそのリガンドCD155/CD112への結合を有効に遮断し得、それによって、細胞に送られる阻害シグナルを低下させるまたは排除する、TIGITに対する完全ヒト抗体を提供し、動物モデルにおける本発明の抗体の投与は、腫瘍成長を有意に阻害し得る。それゆえ、本発明の抗体は、免疫応答を増強すること、腫瘍成長を阻害すること、抗感染症、およびTIGITを検出することを含むがそれらに限定されない、多様な目的に使用され得る。さらに、本発明の完全ヒト抗体は、免疫学的応答を引き出すことなく、ヒト対象に安全に投与され得る。それゆえ、本発明の抗体は、相当な臨床的価値を有する。
【0113】
本発明の実施形態は、添付の図面および実施例を参照して、下で詳細に記載されるであろうが、当業者であれば、以下の図面および実施例は、本発明を例示するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するわけではないことを理解するであろう。本発明の様々な目的および有利な態様は、添付の図面、および好ましい実施形態についての以下の詳細な説明から当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【
図1】CHO細胞上に過剰発現されたヒトTIGITへの、本発明の抗TIGIT抗体の結合活性を示した図である。
【
図2】CHO細胞上に過剰発現されたカニクイザルTIGITへの、本発明の抗TIGIT抗体の結合活性を示した図である。
【
図3】CHO細胞上に過剰発現されたマウスTIGITへの、本発明の抗TIGIT抗体の結合活性を示した図である。
【
図4】ヒトCD155へのCHO細胞上に過剰発現されたヒトTIGITの結合を遮断することにおける、本発明の抗TIGIT抗体の遮断活性を示した図である。
【
図5】マウスCD155へのCHO細胞上に過剰発現されたマウスTIGITの結合を遮断することにおける、本発明の抗TIGIT抗体の遮断活性を示した図である。
【
図6】活性化ヒト初代T細胞上のTIGITへの、本発明の抗TIGIT抗体の結合活性を示した図である。
【
図7】TIGIT/CD155シグナル伝達を遮断することにおける、本発明の抗TIGITモノクローナル抗体の遮断活性を示した図である。
【
図8A】TIGIT/CD155/CD112およびPD-L1/PD-1シグナル伝達を相乗的に遮断することにおける、本発明の抗TIGIT抗体、および抗PD-L1/PD-1分子の遮断活性を示した図である。
【
図8B】TIGIT/CD155/CD112およびPD-L1/PD-1シグナル伝達を相乗的に遮断することにおける、本発明の抗TIGIT抗体、および抗PD-L1/PD-1分子の遮断活性を示した図である。
【
図9A】本発明の抗TIGIT抗体のインビトロADCC活性を示した図である。
【
図9B】本発明の抗TIGIT抗体のインビトロADCC活性を示した図である。
【
図9C】本発明の抗TIGIT抗体のインビトロADCC活性を示した図である。
【
図10A】CT-26腫瘍を持つ野生型マウスモデルにおける、本発明の抗TIGIT抗体の薬物効力を示した図である。
【
図10B】CT-26腫瘍を持つ野生型マウスモデルにおける、本発明の抗TIGIT抗体の薬物効力を示した図である。
【
図11】CT-26腫瘍を持つ野生型マウスモデルにおける、本発明の抗TIGIT抗体、および抗PD-L1抗体の相乗的薬物効力を示した図である。
【
図12A】CT-26腫瘍を持つhuTIGIT KIマウスモデルにおける、本発明の抗TIGIT抗体、および抗PD-L1抗体の相乗的薬物効力を示した図である。
【
図12B】CT-26腫瘍を持つhuTIGIT KIマウスモデルにおける、本発明の抗TIGIT抗体、および抗PD-L1抗体の相乗的薬物効力を示した図である。
【
図13】混合したA375およびヒトPBMCを接種されたB-NDGマウスモデルにおける、本発明の抗TIGIT抗体、および抗PD-L1抗体の相乗的薬物効力を示した図である。
【
図14A】マウスにおける本発明の抗TIGIT抗体の半減期を示した図である。
【
図14B】マウスにおける本発明の抗TIGIT抗体の半減期を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0115】
配列情報
本出願によって網羅される配列の説明が、下の表において提供される。
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
本発明を行うための特異的モデル
本発明は、ここで、本発明を例示するが限定することを意図されない、以下の実施例を参照して記載されるであろう。
【0120】
別様に指定されない限り、本発明において使用される分子生物学実験法およびイムノアッセイ方法は、J. Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2編、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989、およびF. M. Ausubelら、Compiled Laboratory Guide to Molecular Biology、第3編、John Wiley & Sons, Inc.、1995によって記載される方法を基本的には参照して行われ;制限酵素の使用は、製品メーカーによって推奨される条件に従った。当業者であれば、実施例は、例として本発明を記載し、特許請求される本発明の範囲を限定することを意図されないことを解するであろう。
【実施例】
【0121】
実施例1:抗体の調製
1.1 酵母ディスプレイ技術による完全ヒト抗TIGIT抗体のスクリーニング
酵母ディスプレイ抗体ライブラリー(Adimab)に基づき、既存の方法に従って増幅を実施し(特許出願WO2009036379、WO2010105256、およびWO2012009568を参照されたい)、各ライブラリーの多様性は1×109に達した。簡潔には、スクリーニングの最初の2ラウンドにおいて、Miltenyi製のMACSシステムを磁気ビーズ細胞選別に使用した。最初に、ライブラリーにおける酵母細胞(~1×1010個細胞/ライブラリー)を、FACS洗浄緩衝液(0.1%BSAを含有するリン酸塩緩衝液)中にて室温で15分間インキュベートし、緩衝液は、抗原として100nMビオチン標識ヒトTIGIT(Acroから購入した、カタログ番号:TIT-H5254)を含有した。洗浄を、50mLのあらかじめ冷却されたFACS洗浄緩衝液を用いて1回実施し、次いで細胞を40mLの緩衝液に懸濁し、500μLのストレプトアビジン磁気ビーズ(Miltenyi LS)を添加し、室温で15分間インキュベートした。1000rpmで5分間の遠心分離および上清を捨てた後、細胞を5mLのFACS洗浄緩衝液に再懸濁し、細胞懸濁液をMiltenyi LSカラムにロードした。サンプルのロードの完了後、カラムをFACS洗浄緩衝液、各回3mLで3回洗浄した。Miltenyi LSカラムを磁気エリアから取り出し、5mLの成長培地で溶出し、溶出された酵母細胞を収集し、37℃で一晩成長させた。
【0122】
フローサイトメトリーを、選別の次のラウンドに使用した:MACSシステムスクリーニングにより獲得されたおよそ1×108個の酵母細胞をFACS緩衝液で3回洗浄し、低濃度のビオチン標識TIGIT抗原(1nM、10nM、100nM)を含有する溶液中にて室温でインキュベートした。培養培地を捨て、細胞をFACS洗浄緩衝液で2回洗浄した。次いで、細胞をLC-FITC(Southern Biotechから購入した、FITC標識抗ヒト免疫グロブリンカッパ軽鎖抗体)(1:100希釈)と混合し、SA-633(Molecular Probesから購入した、ストレプトアビジン-633)(1:500希釈)またはSA-PE(Sigmaから購入した、ストレプトアビジン-PE)(1:50希釈)と混合し、40℃で15分間インキュベートした。溶出を、あらかじめ冷却されたFACS洗浄緩衝液を用いて2回実施し、細胞を0.4mLの緩衝液に再懸濁した。細胞を、フィルターを有する分離チューブに移した。細胞を、FACS ARIA(BD Biosciences)を使用して選別した。
【0123】
スクリーニングにより獲得された酵母細胞を振とうし、標的抗TIGIT抗体(全長IgG)を分泌しかつ発現するように30℃で48時間誘導した。誘導後、酵母細胞を1300rpmで10分間の遠心分離によって除去し、上清を収集した。プロテインAを使用して、上清における抗TIGIT抗体を精製し、pH2.0酢酸溶液を用いて溶出を実施し、抗TIGIT抗体を収穫した。
【0124】
1.2 抗ヒトTIGIT抗体の親和性の最適化
より高い親和性の抗ヒトTIGIT抗体を獲得するために、上記のスクリーニングにより獲得された抗体を、以下の方法により最適化したが、それに限定されるわけではない。
【0125】
1.2.1 CDRH1/CDRH2スクリーニング
親分子のCDRH3遺伝子を、1×108の多様性を有するCDRH1/CDRH2遺伝子ライブラリー内に構築し、3ラウンドのスクリーニングを実施した。MACS法を第1のラウンドにおいて使用し、FACSを第2および第3のラウンドにおいて使用した。抗体-抗原コンジュゲートを親和性ストレスに供して、高親和性抗体を選別して除いた。
【0126】
スクリーニングにより獲得された抗TIGIT抗体を発現する酵母細胞を、30℃で振とうしながら48時間培養して、TIGIT抗体を産生した。誘導性発現が完了した後、酵母細胞を1300rpmで10分間の遠心分離によって除去し、上清を収穫した。プロテインAを使用して、上清における抗TIGIT抗体を精製し、pH2.0酢酸溶液を用いて溶出を実施し、抗TIGIT抗体を収穫した。パパインおよびKappaSelect(GE Life Healthcare)を用いて精製を実施して、対応するFabフラグメントを獲得した。
【0127】
1.2.2 VHmutスクリーニング
この方法では、従来のエラープローンPCR法により、重鎖領域に変異を導入した。PCRプロセスの間、1μMの高変異原性塩基類似体dPTPおよび8-オキソ-dGTPを使用することによって、塩基ミスマッチ確率は、およそ0.01bpまで増加した。
【0128】
エラープローンPCRによって獲得された産物を、相同組み換えによって、重鎖定常領域を含有するベクター内に構築した。この方法を通して、TIGIT抗原力価、非標識抗原競合、および親抗体を使用した競合を含むスクリーニングストレス下で、1×107のライブラリー能を有する二次ライブラリーを獲得し、3ラウンドのスクリーニングをFACS法によって実施し、対応する抗体を発現する酵母細胞を獲得した。
【0129】
1.2.3 CDRL1/CDRL2/CDRL3スクリーニング
CDRL3多様性遺伝子を、相同組み換えによりCDRL1/CDRL2遺伝子ライブラリー内に構築し、1×107のライブラリー能を有する二次ライブラリーを獲得した。1ラウンドのMACSおよび2ラウンドのFACSによってスクリーニングを実施し、対応する抗体を発現する酵母細胞を獲得した。
【0130】
本実施例において、親和性成熟した抗体分子ADI-55796およびADI-55812を獲得した。ADI-55796およびADI-55812の配列および配列番号を表1に示し、CDRをIMGT番号付けシステムによって決定した。
【0131】
1.3 抗体の発現および精製
実施例において使用された以下の対照抗体を、HEK293細胞から発現させかつ精製した:Genentechからの、HEK293細胞によって発現された抗ヒトTIGIT抗体であるチラゴルマブ、ならびにその軽鎖および重鎖可変領域配列は、INNリスト177 NO1918185-84-8のものと一致していた。
【0132】
候補クローンADI-55796およびADI-55812に関しては、それらの重鎖可変領域を、それぞれ野生型ヒトIgG1の重鎖定常領域(アミノ酸配列は、配列番号17に記載される)、ならびに変異L234AおよびL235Aを有するヒトIgG1(G1LALA)の重鎖定常領域(アミノ酸配列は、配列番号18に記載される)に構築し;それらの軽鎖可変領域を、ヒト免疫グロブリンカッパ軽鎖定常領域(アミノ酸配列は、配列番号22に記載される)に構築した。抗体を、HEK293発現システムにより一過性に発現させ、精製し、具体的な作業は以下のとおりであった:抗体の重鎖および軽鎖を有するpcDNA3.1ベクターを、化学的トランスフェクション法によってHEK293細胞に移し、37℃、8%CO2で7日間培養した。細胞液を収集し、13,000rpmで20分間遠心分離した。上清を取り出し、プロテインAで精製し、抗体純度をSECによって検出し、一方で内毒素含有量を制御した。最後に、抗体ADI-55796-G1、ADI-55812-G1、ADI-55796-G1LALA、およびADI-55812-G1LALAを獲得した。
【0133】
実施例2:抗体親和性の検出
バイオフィルムレイヤー光干渉技術(ForteBio)を使用して、ヒト、カニクイザル、およびマウスに由来するTIGITに対する、実施例1において獲得された抗体ADI-55796-G1、ADI-55812-G1、ADI-55796-G1LALA、およびADI-55812-G1LALAの結合および解離速度定数(KD)値を判定した。Fortebio親和性測定を、既存の方法(Este, Pら、High throughput solution-based measurement of antibody-antigen affinity and epitope binning. Mabs、2013.5巻(2号):270~8頁)に従って実施し、ヒト、カニクイザル、およびマウスのTIGITの細胞外領域のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号19~21に記載した。
【0134】
ヒト、カニクイザル、およびマウスTIGIT-hisタンパク質に対する、無傷IgG抗体の1価の親和性を測定し、センサーを分析緩衝液中で20分間オフラインで平衡化し、次いでオンライン検出を120秒間行ってベースラインを確立し、無傷TIGIT抗体を、親和性検出のために1nmの厚みに達するまでAHQセンサー上にロードした。抗体がロードされたセンサーを、100nM TIGIT-his抗原においてプラトー相までインキュベートし、次いでセンサーを分析緩衝液に移し、解離速度を測定するために少なくとも2分間インキュベートした。1:1結合モデルを使用して、速度論的分析を実施した。
【0135】
上記の判定法において、分子のKD値を表2に示した:
【0136】
【0137】
(1)抗TIGITクローンADI-55796およびADI-55812の両方とも、ヒトTIGITおよびカニクイザルTIGITへの高い結合活性を有し、加えて、ADI-55796は、マウスTIGITへの交差結合活性も有することが、表2における結果から分かった。
【0138】
実施例3:ヒト/カニクイザル/マウスTIGIT過剰発現CHO細胞に対する、抗TIGIT抗体の結合活性および遮断活性
3.1 フローサイトメトリーに基づく、CHO細胞で過剰発現されたヒト/カニクイザル/マウスTIGITへの、抗TIGIT抗体の結合活性の検出
具体的には、ヒトTIGIT過剰発現CHO-S細胞(CHO-huTIGIT細胞)、カニクイザルTIGIT過剰発現CHO-S細胞(CHO-cynoTIGIT細胞)、およびマウスTIGIT過剰発現CHO-S細胞(CHO-muTIGIT細胞)を、それぞれ、マルチプルクローニングサイト(MCS)にクローニングされたヒトTIGIT、カニクイザルTIGIT、およびマウスTIGITをコードするcDNAを用いた、pCHO1.0ベクター(Invitrogenから購入した)のトランスフェクションによって、ならびに後続の圧力スクリーニングによって作出した。過剰発現細胞を増大させ、適切な細胞密度に調整し、96ウェルフローサイトメトリープレートに添加した。遠心分離の後、細胞に、試験される対象となる勾配希釈されたサンプルを添加し、4℃で30分間インキュベートした。細胞をPBSで2回洗浄し、適当な濃度にそれに応じて希釈された蛍光二次抗体を添加し、次いで4℃で30分間インキュベートし、PBSで2回洗浄した。細胞をPBSで再懸濁し、CytoFlexフローサイトメーターで検出し、対応するMFIを算出した。Graphpadソフトウェアをグラフ作成分析に使用して、EC50値を獲得した。結果を、表3および
図1~3に示した。
【0139】
3.2 ヒトCD155への、CHO細胞上で過剰発現されたヒトTIGITの結合を遮断することにおける、およびマウスCD155への、CHO細胞上で過剰発現されたマウスTIGITの結合を遮断することにおける、抗TIGIT抗体の遮断活性のフローサイトメトリー検出
具体的には、増大したCHO-huTIGIT細胞を、2×106個細胞/mLの細胞密度に調整し、100μL/ウェルで96ウェルフロープレートに添加し、後の使用のために遠心分離した。精製されたモノクローナル抗体を、400nMから始まる合計12種の濃度勾配を用いて、PBSで3倍希釈した。希釈されたサンプルを、60μL/ウェルで細胞担持96ウェルフロープレートに添加し、4℃で30分間インキュベートした。次いで、マウスIgG2a Fc Tagを有するヒトCD155タンパク質を、2μg/mLの最終濃度に達するように60μL/ウェルで添加し、4℃で30分間インキュベートし、PBSで2回洗浄した。PBSで100倍希釈されたAPC標識ヤギ抗マウスIgG抗体を100μL/ウェルで添加し、4℃で30分間インキュベートし、PBSで2回洗浄した。PBSを100μL/ウェルで添加して細胞を再懸濁し、検出をCytoFlexフローサイトメーターで実施し、対応するMFIを算出した。
【0140】
増大したCHO-muTIGIT細胞を、2×10
6個細胞/mLの細胞密度を有するように調整し、100μL/ウェルで96ウェルフロープレートに添加し、後の使用のために遠心分離した。精製されたモノクローナル抗体を、400nMから始まる合計12種の濃度勾配を用いて、PBSで3倍希釈した。希釈されたサンプルを、60μL/ウェルで細胞担持フロープレートに添加し、4℃で30分間インキュベートした。次いで、マウスIgG2a Fc Tagを有するマウスCD155タンパク質を、2μg/mLの最終濃度に達するように60μL/ウェルで添加し、4℃で30分間インキュベートし、PBSで2回洗浄した。PBSで100倍希釈されたAPC標識ヤギ抗マウスIgG抗体を100μL/ウェルで添加し、4℃で30分間インキュベートし、PBSで2回洗浄した。PBSを100μL/ウェルで添加して細胞を再懸濁し、検出をCytoFlexフローサイトメーターで実施し、対応するMFIを算出した。Graphpadソフトウェアをグラフ作成分析に使用して、IC50値を獲得した。結果を、表3および
図4~5に示した。
【0141】
【0142】
以下の結論を表3および
図1~3から導き出すことができた:(1)ヒトTIGITおよびカニクイザルTIGITへのADI-55796およびADI-55812の結合活性は、対照分子チラゴルマブのものよりも良好であった;ならびに(2)ADI-55796は、CHO細胞の表面で過剰発現されたマウスTIGITタンパク質への有意な結合を示した。
【0143】
以下の結論を表3および
図4~5から導き出すことができた:(1)ヒトCD155への、CHO細胞の表面の過剰発現されたヒトTIGITタンパク質の結合を遮断することにおけるADI-55796およびADI-55812の遮断活性は、対照分子チラゴルマブのものよりも良好であった;ならびに(2)CHO細胞の表面で過剰発現されたマウスTIGITタンパク質への結合を示した抗TIGIT抗体分子ADI-55796は、マウスCD155への、CHO細胞の表面で過剰発現されたマウスTIGITタンパク質の結合も有意に遮断し得た。
【0144】
実施例4:初代T細胞の表面のTIGITへの、抗TIGIT抗体の結合
活性化T細胞の表面のTIGITへの、本発明の抗TIGIT抗体の結合活性を、フローサイトメトリー検出法に基づいて検出した。
【0145】
具体的には、ヒトPBMCを、STEMCELL社によって提供される実験プロトコールに従って選別して(stemcell、カタログ番号:#17951C)、ヒト全T細胞を獲得した。1.0×10
6個細胞/mLの濃度を有するように、T細胞をX-VIVO15培地(lonzaから購入した、カタログ番号:04-418Q)を使用して調整し、1μLのIL-2ストック溶液(1,000,000IU)を添加し、同時にCD3/CD28 Dynabeads(gibcoから購入した、カタログ番号:11132D)を1:1(ビーズ対細胞)で添加し、37℃、5%CO
2インキュベーターにて48時間培養した。活性化T細胞を適切な細胞密度に調整し、96ウェルフローサイトメトリープレートに添加した。遠心分離の後、試験される対象となる勾配希釈されたサンプルを添加し、4℃で30分間インキュベートした。洗浄をPBSを用いて2回行い、適当な濃度にそれに応じて希釈された蛍光二次抗体を添加し、4℃で30分間インキュベートし、PBSで2回洗浄した。PBSを添加して細胞を再懸濁し、検出をCytoFlexフローサイトメーターで実施し、対応するMFIを算出した。結果を
図6に示した。結果は、本発明の抗TIGIT抗体ADI-55796-G1、ADI-55796-G1LALA、ADI-55812-G1、およびADI-55812-G1LALAが、活性化T細胞の表面のTIGIT分子に結合し得、対照分子チラゴルマブのものよりも良好な結合活性を有することを示した。
【0146】
実施例5:ルシフェラーゼレポーター遺伝子システムによる抗TIGIT抗体活性の検出
細胞レベルでのTIGIT抗体の遮断活性をさらに検出するために、ルシフェラーゼレポーター遺伝子システムを本実施例において構築した。簡潔には、レンチウイルスを使用して細胞をトランスフェクトして、ヒトCD155およびOKT-3 scFvを過剰発現するCHO-K1細胞系統(CHO-K1-CD155)を構築し、ヒトTIGITを過剰発現しかつNF-ATルシフェラーゼレポーター遺伝子を含むJurkat細胞系統(Jurkat-TIGIT-luc)を構築し、このレポーター遺伝子システムをその後使用して関連実験を行った。
【0147】
具体的には、CHO-K1-CD155機能的細胞を消化によって獲得し、所望の細胞密度を有するように調整し、100μL/ウェルで96ウェル白色底プレートに添加し、接着培養を一晩受けた。翌日、Jurkat-TIGIT-lucエフェクター細胞懸濁液を調製し、試験される対象となるサンプルを反応培地(RPMI1640+10%FBS)で勾配希釈した。白色底プレートを取り出し、培養上清をピペッティングによって捨て、上で希釈されたサンプルを40μL/ウェルで白色底プレートに添加し、Jurkat-TIGIT-lucエフェクター細胞懸濁液を40μL/ウェルで同時に添加し、培養を37℃、5%CO
2インキュベーターにて6時間行った。この期間中、Bio-Glo(商標)試薬(promegaから購入した、カタログ番号:G7940)を室温に戻した。培養が完了した後、細胞を取り出し、室温で5分間平衡化し、Bio-Glo(商標)試薬を80μL/ウェルで添加し、多機能マイクロプレートリーダーを使用して、発光シグナル値を読み取った。結果を
図7に示した。結果は、本発明の抗TIGIT抗体ADI-55796-G1、ADI-55796-G1LALA、ADI-55812-G1、およびADI-55812-G1LALAが、CD155媒介性TIGIT下流シグナル伝達を遮断することにおいて遮断活性を示し、レポーター遺伝子のルシフェラーゼ発現を上方調節し得ることを示した。
【0148】
実施例6:ルシフェラーゼレポーター遺伝子システムによる、抗TIGIT抗体および抗PD-L1/PD-1抗体の相乗効果の検出
細胞レベルでのTIGIT抗体および抗PD-1/PD-L1抗体の相乗的遮断活性をさらに検出するために、以下のルシフェラーゼレポーター遺伝子システムを本実施例において構築した。簡潔には、実施例5に基づき、レンチウイルスを使用してCHO-K1-CD155に感染させてCD122およびPD-L1を過剰発現させて、CHO-K1-CD155-CD112-PD-L1機能的細胞を獲得し、レンチウイルスを使用してJurkat-TIGIT-lucに感染させてPD-1を過剰発現させて、Jurkat-TIGIT-PD-1-lucエフェクター細胞懸濁液を獲得し、このレポーター遺伝子システムをその後の実験において使用した。
【0149】
具体的には、CHO-K1-CD155-CD112-PD-L1機能的細胞を消化によって獲得し、所望の細胞密度を有するように調整し、100μL/ウェルで96ウェル白色底プレートに添加し、接着培養を一晩受けた。翌日、Jurkat-TIGIT-PD-1-lucエフェクター細胞懸濁液を調製し、試験される対象となるサンプル(使用された抗PD-1/PD-L1抗体は、アテゾリズマブおよびペムブロリズマブである)を反応培地で勾配希釈した。白色底プレートを取り出し、培養上清をピペッティングによって捨て、上で希釈されたサンプルを40μL/ウェルで白色底プレートに添加し、Jurkat-TIGIT-PD-1-lucエフェクター細胞懸濁液を40μL/ウェルで添加し、培養を37℃、5%CO
2インキュベーターにて6時間行った。期間中、Bio-Glo(商標)試薬を室温に戻した。培養が完了した後、細胞を取り出し、室温で5分間平衡化し、Bio-Glo(商標)試薬を80μL/ウェルで添加し、多機能マイクロプレートリーダーを使用して、発光シグナル値を読み取った。結果を
図8A~8Bに示した。結果は、本発明の抗TIGIT抗体ADI-55796-G1、ADI-55796-G1LALA、ADI-55812-G1、およびADI-55812-G1LALA、ならびに抗PD-1/PD-L1抗体が、CD155媒介性TIGIT下流阻害性シグナル伝達およびPD-L1媒介性PD-1下流阻害性シグナル伝達を相乗的に軽減し得、それによって、レポーター遺伝子のルシフェラーゼ発現を上方調節することを示した。
【0150】
実施例7:抗TIGIT抗体のインビトロADCC活性検出
ルシフェラーゼレポーター遺伝子システムに基づき、本発明の抗TIGIT抗体のインビトロADCC活性を検出した。
【0151】
具体的には、Jurkat-NFAT-ルシフェラーゼ-CD16 ADCCエフェクター細胞(Promegaから購入した)を増大させ、細胞を、10%低IgG FBSを含有するRPMI1640培地に4×10
6個細胞/mLに再懸濁した。CHO-huTIGIT細胞、CHO-cynoTIGIT細胞、およびCHO-muTIGIT細胞を、10%低IgG FBSを含有するRPMI1640培地に再懸濁し、1.6×10
6個細胞/mLに希釈した。上記の3種の細胞懸濁液をJurkat-NFAT-ルシフェラーゼ-CD16細胞と1:1の比でそれぞれ混合し、50μL/ウェルで無菌96ウェル白色底プレートに添加し、10%低IgG FBSを含有するRPMI1640培地に勾配希釈された試験される対象となる抗体サンプルを添加した。共インキュベーションを37℃、5%CO
2で6時間行った。培養が完了した後、細胞を取り出し、室温で5分間平衡化し、Bio-Glo(商標)試薬を100μL/ウェルで添加し、多機能マイクロプレートリーダーを使用して、発光シグナル値を読み取った。結果を
図9A~9Cに示した。結果は、本発明の抗TIGIT抗体ADI-55796-G1およびADI-55812-G1が、ルシフェラーゼレポーター遺伝子システムによって、インビトロでCHO-huTIGIT細胞、CHO-cynoTIGIT細胞、およびCHO-muTIGIT細胞に対するADCC活性を媒介し得ることを示した。
【0152】
実施例8:野生型Balb/cマウスにおける抗TIGIT抗体に関するインビボ薬力学調査
この実験では、野生型Balb/cマウスにCT-26結腸がん細胞(Gempharmatech Co.,Ltd.から購入した)を接種して、本発明の抗TIGIT抗体の抗腫瘍効果を判定した。
【0153】
具体的には、CT-26腫瘍を持つマウスモデルを皮下接種によってまず確立した。平均腫瘍容積が100~200mm
3に達した時点で、動物を群に分けた。本発明の抗TIGIT抗体の種々の用量を、処理のために腹腔内に投与し、腫瘍容積および体重の変化を、2~3日あたり1回のモニタリング頻度で各群のマウスにおいて2~3週間モニターした。投薬量および投与の方法を表4~5に示した。結果を
図10A~10Bに示した。結果は、本発明の抗TIGIT抗体ADI-55796-G1が、用量依存的様式でマウスにおける腫瘍の成長を有意に阻害し得ることを示した。
【0154】
【0155】
【0156】
実施例9:野生型Balb/cマウスにおける抗TIGIT抗体および抗PD-L1抗体に関するインビボ相乗的薬力学調査
この実験では、CT-26腫瘍細胞を野生型Balb/cマウスに接種して、本発明の抗TIGIT抗体、および抗PD-L1抗体の相乗的抗腫瘍効果を判定した。
【0157】
具体的には、CT-26細胞腫瘍を持つマウスモデルを皮下接種によってまず確立した。平均腫瘍容積が100~200mm
3に達した時点で、動物を群に分け、本発明の抗TIGIT抗体および/または抗PD-L1抗体(アテゾリズマブ)を、処理のために腹腔内に投与した。各群におけるマウスの腫瘍容積および体重の変化を、2~3日あたり1回のモニタリング頻度で2~3週間モニターした。投薬量および投与の方法を表6に示した。結果を
図11に示した。結果は、抗PD-L1抗体アテゾリズマブとの組み合わせでの、本発明の抗TIGIT抗体ADI-55796-G1が、2種の対応するモノクローナル抗体よりも有意に良好な腫瘍阻害活性を示すことを示した。本発明の抗TIGIT抗体ADI-55796-G1は、CT-26腫瘍を持つ野生型マウスモデルにおいて、抗PD-L1抗体アテゾリズマブと相乗的抗腫瘍活性を発揮し得ることが示唆された。
【0158】
【0159】
実施例10:huTIGIT KIマウスにおける抗TIGIT抗体および抗PD-L1抗体に関するインビボ相乗的薬力学調査
この実験では、CT-26腫瘍細胞をヒトTIGITノックイントランスジェニックマウス(huTIGIT KIマウス)に移植して、本発明のTIGIT抗体、および抗PD-L1抗体の相乗的抗腫瘍効果を判定した。
【0160】
具体的には、CT-26腫瘍を持つマウスモデルを皮下接種によってまず確立した。平均腫瘍容積が80~120mm
3に達した時点で、動物を群に分けた。種々の用量で種々の抗体を腹腔内注射によって投与し、各群におけるマウスの腫瘍容積および体重の変化を、2~3日あたり1回のモニタリング頻度で2~3週間モニターした。投薬量および投与の方法を表7~8に示した。結果を
図12A~12Bに示した。結果は、本発明の抗TIGIT抗体ADI-55796-G1、ADI-55796-G1LALA、およびADI-55812-G1がすべて、CT-26腫瘍細胞を移植されたヒトTIGITノックイントランスジェニックマウスモデルにおいて、抗PD-L1抗体アテゾリズマブとの相乗的抗腫瘍活性を有することが観察されることを示した。
【0161】
【0162】
【0163】
実施例11:混合したA375およびヒトPBMCを接種されたB-NDGマウスにおける、抗TIGIT抗体および抗PD-L1抗体に関するインビボ相乗的薬力学調査
この実験では、B-NDGマウスに、混合したA375(Addexbioから購入した、カタログ番号:C0020004)およびヒトPBMC細胞(Milestone(登録商標)Biotechnologies、A10S033014/PB100C)を接種して、本発明のTIGIT抗体、および抗PD-L1抗体の相乗的抗腫瘍活性を判定した。
【0164】
具体的には、A375およびヒトPBMC腫瘍を持つマウスモデルを、混合したA375およびヒトPBMC細胞の皮下接種によってまず確立した。平均腫瘍容積が約200mm
3に達した時点で、動物を群に分けた。種々の用量で種々の抗体を腹腔内に投与し、各群におけるマウスの腫瘍容積および体重の変化を、2~3日あたり1回のモニタリング頻度で2~3週間モニターした。投薬量および投与の方法を表9に示した。結果を
図13に示した。結果は、本発明の抗TIGIT抗体ADI-55796-G1、および抗PD-L1モノクローナル抗体C-Ye-18-5(PCT特許出願:PCT/IB2020/058303を参照されたい)の組み合わせ投与が、有意な相乗効果を示すことを示した。
【0165】
【0166】
実施例12:マウスにおける抗TIGIT抗体のインビボ半減期に関する調査
マウスにおける本発明の抗TIGIT抗体のインビボ半減期を、単回尾静脈注射法によって検出した。
【0167】
具体的には、Balb/cマウスをこの実験において使用し、半分は雄であり他の半分は雌であり、12/12時間の明/暗調節を用いて、24±2℃の温度、40~70%の湿度、ならびに水および餌への自由なアクセスで飼育した。実験の当日、Balb/cマウスに、10mg/kgの用量のモノクローナル抗体分子の単回尾静脈注射を与えた。血液収集時点:投与後、5分間、0.5時間、2時間、6時間、24時間、48時間、96時間、168時間、336時間、および504時間、血液をマウス眼窩から収集した。全血サンプルを2~8℃で30分間静置させ、12,000rpmで5分間遠心分離して、血清を収集した。結果として生じた血清を、次いで2~8℃、12,000rpmで5分間遠心分離し、-80℃で保管した。血清におけるモノクローナル抗体分子の含有量をELISAによって検出した。結果を
図14A~14Bに示した。結果は、単回注射後のマウスにおける、本発明の抗TIGIT抗体ADI-55796-G1およびADI-55812-G1のインビボ半減期が、それぞれ257時間および249時間であることを示した。
【0168】
本発明の具体的な実施形態が詳細に記載されているものの、当業者であれば、様々な修正および変化が、公開されているすべての教示に基づき詳細へ加えられ得、これらの変化は、本発明の保護範囲内にあることを理解するであろう。本発明の全範囲は、添付の特許請求の範囲およびその任意の等価物によって与えられる。
【配列表】
【国際調査報告】