(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-18
(54)【発明の名称】同時確率分布を生成する量子コンピューティングのためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
G06N 10/20 20220101AFI20240910BHJP
G06N 10/40 20220101ALI20240910BHJP
【FI】
G06N10/20
G06N10/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508682
(86)(22)【出願日】2022-08-16
(85)【翻訳文提出日】2024-03-25
(86)【国際出願番号】 US2022040415
(87)【国際公開番号】W WO2023167707
(87)【国際公開日】2023-09-07
(32)【優先日】2021-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520132894
【氏名又は名称】イオンキュー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ジョホリ ソニカ
(72)【発明者】
【氏名】ベーコン デイヴィッド
(57)【要約】
本開示の態様は、概して、量子情報処理(QIP)システムの実装及び/又は動作に使用するためのシステム及び方法に関し、より詳細には、量子コンピュータを用いた同時確率分布の計算に関する。コピュラをモデル化するための量子機械学習アルゴリズムを設計することにより、同時確率分布の計算の改良が記載される。さらに、任意のコピュラが、多分割最大もつれ状態に自然にマッピングされることが示される。本明細書で「クォプラ」と呼ばれる変分アンザッツが、2つの変数についてのベルペアのセット、又は複数の変数についてのグリーンバーガー=ホーン=ツァイリンガー(GHZ)状態から出発して、コピュラ構造を維持しながら変数間の任意の相関を作成する。生成学習アルゴリズムが、量子コンピュータ、より詳細にはトラップ型イオン量子コンピュータで実証され得る。本明細書で説明するアプローチは、古典的モデルに比べて利点があることが示される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子回路を実装し、実行するように構成された量子情報処理(QIP)システムであって、
第一のコンポーネントであって、
量子機械学習アルゴリズムに関連する多変量同時累積分布関数についてのコピュラを表す最大もつれ状態を準備するように構成された前記量子回路を実装し、
前記量子回路を実行する
ための命令を生成するように構成された第一のコンポーネントと、
前記命令を受信し、前記命令に基づいて前記量子回路を実装し、実行するように構成された第二のコンポーネントと
を備える、QIPシステム。
【請求項2】
前記QIPシステムの前記量子回路が、原子ベースのキュービット又は超電導キュービットを使用して実装される、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項3】
前記量子回路が、相対位相までのコピュラを表す最大もつれ状態を準備するように構成される、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項4】
前記多変量同時累積分布関数が、2つ以上の確率変数に対するものである、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項5】
2つの確率変数について、
前記2つの確率変数が第一の確率変数と第二の確率変数とを含み、前記量子回路が上部及び下部を含み、
前記量子回路の前記上部が、前記第一の確率変数のサンプルを提供する第一のレジスタに関連するキュービットを含み、
前記量子回路の前記下部が、前記第二の確率変数のサンプルを提供する第二のレジスタに関連するキュービットを含む、請求項4に記載のQIPシステム。
【請求項6】
前記第一のレジスタ及び前記第二のレジスタに関連するキュービットの数が、前記多変量同時累積分布関数の離散化に対応する、請求項5に記載のQIPシステム。
【請求項7】
前記キュービットの前記数が制限されている場合、利用可能なキュービットの前記数が、前記多変量同時累積分布関数のポイントごとの相間の最上位ビットに使用され、ランダムビットが、ポイントごとの相間の最下位ビットに付加される、請求項6に記載のQIPシステム。
【請求項8】
前記量子回路の前記上部が、前記第一のレジスタと前記第二のレジスタとの間に分布しているN
q/2のベルペアを生成するように構成される、請求項5に記載のQIPシステム。
【請求項9】
前記第一のレジスタ及び前記第二のレジスタのそれぞれにおける状態の縮小密度行列が混合されている、請求項8に記載のQIPシステム。
【請求項10】
前記量子回路の前記上部が、前記第一のレジスタにおける状態の前記縮小密度行列に第一のユニタリ演算を適用するように構成され、
前記量子回路の前記下部が、前記第二のレジスタにおける状態の前記縮小密度行列に第二のユニタリ演算を適用するように構成される、請求項9に記載のQIPシステム。
【請求項11】
前記QIPシステムが、古典的オプティマイザに接続されるか、又は前記古典的オプティマイザを含むように構成され、
前記古典的オプティマイザが、前記第一のユニタリ演算についての前記第一の確率変数の前記サンプルを送信し、前記第一のユニタリ演算からの測定値を受信するように構成され、
前記古典的オプティマイザが、前記第二のユニタリ演算についての前記第二の確率変数の前記サンプルを送信し、前記第二のユニタリ演算からの測定値を受信するように構成され、
前記古典的オプティマイザが、前記第一のユニタリ演算及び前記第二のユニタリ演算から受信した前記測定値に基づいて次の反復を生成する、請求項10に記載のQIPシステム。
【請求項12】
前記第一の変数の前記サンプル及び前記第二の変数の前記サンプルが、アンザッツの角度の形式である、請求項11に記載のQIPシステム。
【請求項13】
前記次の反復が、前記第一の確率変数及び前記第二の確率変数についてのアンザッツの角度を含む、請求項11に記載のQIPシステム。
【請求項14】
2つより多くの確率変数について、前記量子回路が、グリーンバーガー=ホーン=ツァイリンガー(GHZ)状態を生成し、前記GHZ状態にユニタリ演算子を適用するように構成される、請求項4に記載のQIPシステム。
【請求項15】
前記量子回路が、ドライバ層とエンタングル層が交互に重なった層を含む、請求項14に記載のQIPシステム。
【請求項16】
前記ドライバ層が、パラメータ化された単一キュービット回転RZゲート及びRXゲートを含む、請求項15に記載のQIPシステム。
【請求項17】
前記エンタングル層が、2キュービットRXXゲートを含む、請求項15に記載のQIPシステム。
【請求項18】
前記第一のコンポーネントが、アルゴリズムコンポーネントを含む、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項19】
前記第二のコンポーネントが、原子ベースのキュービットの演算を制御するように構成された光学及びトラップコンポーネントを含む、請求項1に記載のQIPシステム。
【請求項20】
前記原子ベースのキュービットが、トラップされたイオンである、請求項19に記載のQIPシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権)
本出願は、2021年8月16日に出願され、「System and Method for Quantum Computing to Generate Joint Probability Distributions」と題する米国仮出願第63/233,537号、及び2022年8月15日に出願され、「Systems and Methods for Quantum Computing to Generate Joint Probability Distributions」と題する米国非仮出願第17/888,077号の優先権及びその利益を主張するものであり、これらの内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示の態様は、概して、量子情報処理(QIP)システムの実装、動作、及び/又は使用で用いるためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
トラップされた原子は、量子情報処理又は量子コンピューティングの主要な実施態様の1つである。原子ベースのキュービットは、量子コンピュータ及びシミュレータにおける量子メモリ、量子ゲートとして使用され得、量子通信ネットワークのためのノードとして機能し得る。トラップされた原子イオンに基づくキュービットは、稀有な属性の組み合わせを享受する。例えば、トラップされた原子イオンに基づくキュービットは、非常に優れたコヒーレンス特性を有し、ほぼ100%の効率で準備及び測定でき、光場又はマイクロ波場等の適切な外部制御場とのクーロン相互作用を変調することにより容易に相互にもつれる。これらの属性により、原子ベースのキュービットは、量子計算又は量子シミュレーション等の拡張量子演算にとって魅力的になる。
【0004】
したがって、量子コンピュータ又は量子シミュレータとして使用される様々なQIPシステムの設計、製造、実装、制御、機能、及び/又は使用を改良する新たな技術を開発することが重要であり、特に、原子ベースのキュービットに基づく演算を処理するQIPシステムにとって重要である。
【発明の概要】
【0005】
以下は、このような態様の基本的な理解を提供するために1つ以上の態様の簡略化された概要を提示する。この概要は、想定される全ての態様の広範な概説ではなく、全ての態様の主要又は重要な要素を特定することも、いずれか又は全ての態様の範囲を画定することも意図していない。その唯一の目的は、後に提示されるより詳細な説明の前段階として、簡略化された形態で1つ以上の態様のいくつかの概念を提示することである。
【0006】
本開示は、コピュラ(copula)をモデル化するための量子機械学習アルゴリズムを設計することにより、同時確率分布の計算の改良の様々な態様を説明する。さらに、本開示は、任意のコピュラが、多分割最大もつれ状態に自然にマッピングされ得ることを示す。本明細書で「クォプラ(qopula)」と呼ばれる変分アンザッツ(ansatz)が、2つの変数についてのベルペア(Bell pairs)のセット、又は複数の変数についてのグリーンバーガー=ホーン=ツァイリンガー(Greenberger-Horne-Zeilinger)(GHZ)状態から出発して、コピュラ構造を維持しながら変数間の任意の相関を作成する。生成学習アルゴリズムが、量子コンピュータ、より詳細にはトラップ型イオン量子コンピュータで実証され得る。本明細書で説明するアプローチは、古典的モデルに比べて利点があることが示される。
【0007】
前述の目的及び関連する目的を達成するために、1つ以上の態様は、本明細書以下に完全に記載され、特許請求の範囲において特に指摘される特徴を含む。以下の説明及び付属の図面は、1つ以上の態様の特定の例示的な特徴を詳細に示す。しかしながら、これらの特徴は、様々な態様の原理が利用され得る様々な方法のほんの一部を示すものであり、この説明は、そのような全ての態様及びそれらの等価物を含むことを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0008】
開示される態様は、添付の図面と併せて以下で説明するが、図面は開示される態様を例示するために提供され、限定するものではなく、図面において、同様の符号は、同様の要素を表す。
【0009】
【
図1】本開示の態様による原子イオン、線形結晶又は鎖の図を示す。
【
図2】本開示の態様による量子情報処理(QIP)システムの一例を示す。
【
図3】本開示の態様によるコンピュータデバイスの一例を示す。
【
図4】本開示の態様による2つの確率変数を有するクォプラ回路の一例を示す。
【
図5】本開示の態様による3つのキュービットに対応する、
図4のUについてのアンザッツの一例を示す。
【
図6】本開示の態様による量子学習と古典学習との比較の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付の図面又は図に関連して以下に記載される詳細な説明は、様々な構成又は実施態様の説明として意図されており、本明細書に記載される概念が実施され得る唯一の構成又は実施態様を表すことを意図するものではない。詳細な説明は、様々な概念の完全な理解を提供する目的のための具体的な詳細を含む。しかしながら、これらの概念が、これらの具体的な詳細を伴わず、又はこれらの具体的な詳細の変形を伴って実施され得ることは、当業者には明らかであろう。一部の場合、周知のコンポーネントがブロック図の形式で示されているが、いくつかのブロックは1つ以上の周知のコンポーネントを表す場合がある。
【0011】
複数の確率変数間の統計的関係は、データに基づく分析及び意思決定にとって極めて重要である。確率変数間の統計的関係が役割を果たし得る多くの応用の例として、いくつか挙げると、リスク管理、ポートフォリオ最適化、信頼性解析、レコメンダーシステム、気候研究、及び医療用画像がある。従来、異なる確率変数間の依存関係をモデル化するために、単一パラメータ量が使用されていた。しかしながら、このような尺度は単調依存性に適しているが、実際のデータには単純すぎることが多い。例えば、金融市場、工学信頼性研究、及び地球/大気科学等からのデータは、テール依存性(例えば、非単調依存性)を示す傾向があり、これは、確率変数はあまり相関がないように見えるが、極端な偏差で依存性を示すことを意味する。
【0012】
上記に提供した理由のために、確率変数間の関係は、「コピュラ」と呼ばれる一様分布変数間の依存関数を使用してモデル化するのが現在一般的になっている。スクラー(Sklar)の定理は、コピュラアプローチによって多変量(例えば、多数の独立変数を含む)確率モデルを構築する方法を提供し、したがってコピュラを使用するための理論的基礎を提供する。この定理は、あらゆる多変量の同時分布が、一変量の周辺分布及び変数間の依存構造を記述するコピュラの観点から記述又は表現できることを述べている。コピュラの使用により、例えば、定量的金融、工学、及び医学を含むが、これらに限定されない多くの応用への道が見出された。
【0013】
より最近では、例えば、機械学習の分野において、所与の訓練データセットと同じ統計値を有する新しいデータを生成するように学習し、訓練データセットの分布を効果的に学習する、生成モデルが統計モデリングのために提案されている。このように、これらのモデルは、元のデータセットに含まれていた可能性の高い新しいデータサンプルを生成又は出力するために使用され得る。これらのモデルの中で最も成功しているものの1つは、敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Network(GAN))であり、このモデルでは、2つのニューラルネットワークが、ミニマックスゲーム、すなわち、一方のエージェントの利得が他方のエージェントの損失となるゼロサムゲームの形式で互いに競い合う。GANが所与の分布を首尾よく学習できるかどうかについては、まだ議論がある。
【0014】
このような状況において、量子コンピュータが、所与のデータセットの複数の変数間の相互依存関係を再現するサンプルを生成するために、古典的モデルに対して何らかの利点を提供できるのかという疑問が生じる。量子波動関数は、古典的アルゴリズムではサンプリングすることが困難であり得る確率分布を自然に表現する。また、量子コンピュータは、古典的な方法では効率的に再現できない相関関係を生成するために使用され得る。したがって、複数の確率変数間の依存関係を学習することは、量子コンピュータが得意とするところであり得るように見える。古典データと量子データの両方を学習するための量子アルゴリズムとして、量子回路ボルンマシン(Quantum Circuit Born Machine)(QCBM)及び量子敵対的生成ネットワーク(Quantum Generative Adversarial Network)(QGAN)等の量子生成モデルが提案されている。QGANは、古典データ又は量子データのどちらの学習にも使用でき、一方、QCBMは、訓練目的が異なることを除いて、QGANの生成部のような量子生成モデルである。量子アルゴリズムは様々なタスクにおいて古典的アルゴリズムよりも高速化を達成することが知られているため、量子生成モデルは、表現度、訓練中の安定性、及び訓練時間の短縮という点で、古典生成モデルよりも優れた性能を有し得ると考えられている。
【0015】
生成的量子学習は、量子データ、一変量分布、又は周辺分布から相関構造を分離しない多変量分布の学習に限定されてきた。本開示では、もつれ(エンタングルメント)とコピュラ関数との間の自然なつながりを使用することによって生成的量子学習の概念を拡張する。この洞察に基づく変分アンザッツは、多変量相関を生成する古典的な方法よりも指数関数的な利点をもたらし得る。
【0016】
上記の問題に対する解決策は、
図1~
図6に関連してより詳細に説明され、
図1~
図3は、QIPシステム又は量子コンピュータ、より具体的には、原子ベースのQIPシステム又は量子コンピュータのバックグラウンドを提供する。
【0017】
図1は、トラップ(図示せず;トラップは、
図2に示すように真空チャンバ内にあり得る)を使用して線形結晶又は鎖110にトラップされた複数の原子イオン又はイオン106(例えば、イオン106a、106b、…、106c、及び106d)を有するダイアグラム100を示す。トラップは、イオントラップと呼ばれることもある。示したイオントラップは、半導体基板、誘電体基板、又はガラスダイ若しくはウェーハ(ガラス基板とも呼ばれる)上に構築又は製造することができる。イオン106は、イオン化及び鎖110への閉じ込めのために、原子種としてトラップに提供され得る。イオン106の一部又は全部は、QIPシステムにおけるキュービットとして動作するように構成され得る。
【0018】
図1に示す例では、トラップは、ほぼ静止状態になるようにレーザ冷却された鎖110内に複数のイオンをトラップ又は閉じ込めるための電極を含む。トラップされるイオンの数は、設定可能であり、イオンをより多く、又はより少なくトラップすることができる。イオンは、例えば、イッテルビウムイオン(例えば、
171Yb
+イオン)であってもよい。イオンは、
171Yb
+の共鳴に調整されたレーザ(光)放射で照射され、イオンの蛍光は、カメラ又は何らかの他のタイプの検出デバイス(例えば、光電子増倍管又はPMT)に結像される。この例では、イオンは互いに数ミクロン(μm)離れている場合があるが、分離は構造上の構成に基づいて異なる場合がある。イオンの分離は、外部閉じ込め力とクーロン反発力との間のバランスによって決定され、均一である必要はない。さらに、イッテルビウムイオンに加えて、バリウムイオン、中性原子、リュードベリ原子、又は他のタイプの原子ベースのキュービット技術を使用してもよい。さらに、同じ種のイオン、異なる種のイオン、及び/又は異なる同位体のイオンを使用してもよい。トラップは、線形RFポールトラップであってもよいが、光学的閉じ込めを含む他のタイプの閉じ込めデバイスを使用してもよい。したがって、閉じ込めデバイスは、異なる技術に基づいていてもよく、イオン、中性原子、又はリュードベリ原子を保持してもよく、例えば、イオントラップは、そのような閉じ込めデバイスの一例である。イオントラップは、例えば、表面トラップであってもよい。
【0019】
図1のダイアグラム100に記載されているように、トラップされた原子ベースのキュービットの鎖を使用するQIPシステム又は量子コンピュータは、コピュラをモデル化する量子機械学習アルゴリズムに基づいて同時確率分布の計算を改良する演算を実行するために使用することができる。
【0020】
図2は、QIPシステム200の例を示すブロック図を示す。QIPシステム200は、量子コンピューティングシステム、量子コンピュータ、コンピュータデバイス、トラップイオンシステム等と呼ばれることもある。QIPシステム200は、ハイブリッドコンピューティングシステムの一部であってもよく、ハイブリッドコンピューティングシステムでは、QIPシステム200は、量子計算及び演算を実行するために使用され、ハイブリッドコンピューティングシステムは、古典的計算及び演算を実行するための古典的コンピュータも含む。量子及び古典的計算及び演算は、このようなハイブリッドシステムで相互作用することもある。
【0021】
図2に示されているのは、QIPシステム200の様々な制御動作を実行するように構成された汎用コントローラ205である。これらの制御動作は、オペレータによって実行されてもよく、自動化されてもよく、又は両方の組み合わせであってもよい。制御動作の少なくとも一部についての命令は、汎用コントローラ205内のメモリ(図示せず)に記憶されてもよく、通信インターフェース(図示せず)を介して経時的に更新されてもよい。汎用コントローラ205は、QIPシステム200とは別個に示されているが、汎用コントローラ205は、QIPシステム200と統合されても、又はQIPシステム200の一部であってもよい。汎用コントローラ205は、QIPシステム200に関連する様々な較正、検査、及び自動化動作を実行するように構成された自動化及び較正コントローラ280を含んでもよい。これらの較正、検査、及び自動化動作は、例えば、アルゴリズムコンポーネント210の全部若しくは一部、光学及びトラップコントローラ220の全部若しくは一部、及び/又はチャンバ250の全部若しくは一部を含んでもよい。
【0022】
QIPシステム200は、上述のアルゴリズムコンポーネント210を含んでもよく、アルゴリズムコンポーネント210は、量子アルゴリズム、量子アプリケーション、又は量子演算を実行又は実装するために、QIPシステム200の他の部分と共に動作してもよい。アルゴリズムコンポーネント210は、単一キュービット演算及び/又はマルチキュービット演算(例えば、2キュービット演算)の組み合わせのスタック又はシーケンスも、拡張量子計算も実行又は実装するために使用してもよい。アルゴリズムコンポーネント210は、また、そのような性能又は実装を機能させるソフトウェアツール(例えば、コンパイラ)を含んでもよい。このように、アルゴリズムコンポーネント210は、量子アルゴリズム、量子アプリケーション、又は量子演算の実行又は実装を可能にするために、QIPシステム200の様々なコンポーネント(例えば、光学及びトラップコントローラ220)に命令を直接的又は間接的に提供してもよい。アルゴリズムコンポーネント210は、量子アルゴリズム、量子アプリケーション、又は量子演算の実行又は実装から得られる情報を受信してもよく、その情報を処理しても、及び/又はさらなる処理のためにその情報をQIPシステム200の別のコンポーネント若しくは別のデバイス(例えば、QIPシステム200に接続された外部デバイス)に転送してもよい。
【0023】
アルゴリズムコンポーネント210は、コピュラをモデル化する量子機械学習アルゴリズムに基づいて同時確率分布の計算を改良することに関連する動作の一部又は全部を実行するように構成され得る。したがって、本開示の態様は、関連する量子回路を実装するためのQIPシステム200のための命令又は信号の生成を含む、アルゴリズムコンポーネント210を少なくとも部分的に使用して実装されてもよい。
【0024】
QIPシステム200は、上述の光学及びトラップコントローラ220を含んでもよく、光学及びトラップコントローラ220は、トラップ270を制御するための信号の生成を含む、チャンバ250内のトラップ270の様々な態様を制御する。光学及びトラップコントローラ220は、トラップ内の原子又はイオンと相互作用する光ビームを提供するために使用されるレーザ、光学システム、及び光学コンポーネントの動作も制御することができる。複数のコンポーネントを含む光学システムは、光学アセンブリと呼ばれることもある。光ビームは、イオンのセットアップ、イオンによる量子アルゴリズム、量子アプリケーション、又は量子演算の実行又は実装、及びイオンからの結果の読み取りに使用される。レーザ、光学システム、及び光学コンポーネントの動作の制御は、電動マウント又はホルダを使用した位置決めを制御することを含む、動作パラメータ及び/又は構成を動的に変更することを含んでもよい。イオンを閉じ込める又はトラップするために使用される場合、トラップ270は、イオントラップと呼ばれることもある。しかしながら、トラップ270は、中性原子、リュードベリ原子、及び他のタイプの原子ベースのキュービットをトラップするために使用してもよい。レーザ、光学システム、及び光学コンポーネントは、光学及びトラップコントローラ220、イメージングシステム230、及び/又はチャンバ250に少なくとも部分的に配置されてもよい。
【0025】
QIPシステム200は、イメージングシステム230を含んでもよい。イメージングシステム230は、イオンがトラップ270に提供されている間、及び/又はイオンがトラップ270に提供された後(例えば、結果を読み取るため)に、イオンをモニタリングするための高解像度イメージャ(例えば、CCDカメラ)又は他のタイプの検出デバイス(例えば、PMT)を含んでもよい。一態様では、イメージングシステム230は、光学及びトラップコントローラ220とは別個に実装されてもよいが、画像処理アルゴリズムを使用してイオンを検出、特定、及び標識するために蛍光を使用する場合は、光学及びトラップコントローラ220と調和させる必要があり得る。
【0026】
上記のコンポーネントに加えて、QIPシステム200は、トラップ270を有するチャンバ250に原子種(例えば、中性原子のプルーム又はフラックス)を提供するソース260を含んでもよい。原子イオンが量子演算の基礎である場合、そのトラップ270は、一旦イオン化された(例えば、光イオン化された)原子種を閉じ込める。トラップ270は、QIPシステム200のプロセッサ又は処理部分と呼ばれることがあるものの一部であってもよい。すなわち、トラップ270は、量子演算又はシミュレーションを実行又は実装するのに使用される原子ベースのキュービットを保持するため、QIPシステム200の処理動作のコアにあるとみなしてもよい。ソース260の少なくとも一部は、チャンバ250とは別個に実装されてもよい。
【0027】
図2に記載されているQIPシステム200の様々なコンポーネントは、理解を容易にするために高レベルで記載されていることを理解されたい。このようなコンポーネントは、1つ以上のサブコンポーネントを含んでもよく、その詳細は、本開示の特定の態様をよりよく理解するために必要に応じて以下に提供され得る。
【0028】
ここで
図3を参照すると、コンピュータシステム又はデバイス300の一例が示されている。コンピュータデバイス300は、例えば、単一のコンピューティングデバイス、複数のコンピューティングデバイス、又は分散コンピューティングシステムを表してもよい。コンピュータデバイス300は、量子コンピュータ(例えば、QIPシステム)として、古典的コンピュータとして構成されても、あるいはハイブリッド機能又は動作と呼ばれることもある、量子コンピューティング機能と古典的コンピューティング機能の組み合わせを実行するように構成されてもよい。例えば、コンピュータデバイス300は、量子アルゴリズム、古典的コンピュータのデータ処理演算、又はその両方の組み合わせを使用して情報を処理するために使用してもよい。場合によっては、あるセットの演算(例えば、量子アルゴリズム)からの結果は、別のセットの演算(例えば、古典的コンピュータデータ処理)と共有される。量子計算及びシミュレーションを実行可能なQIPシステムとして実装されたコンピュータデバイス300の一般的な例は、例えば、
図2に示すQIPシステム200である。
【0029】
コンピュータデバイス300は、本明細書に記載される特徴のうちの1つ以上に関連する処理機能を実行するためのプロセッサ310を含んでもよい。プロセッサ310は、単一のプロセッサ、複数のプロセッサのセット、又は1つ以上のマルチコアプロセッサを含んでもよい。さらに、プロセッサ310は、統合処理システム及び/又は分散処理システムとして実装されてもよい。プロセッサ310は、1つ以上の中央処理装置(CPU)310a、1つ以上のグラフィックス処理装置(GPU)310b、1つ以上の量子処理装置(QPU)310c、1つ以上の知能処理装置(IPU)310d(例えば、人工知能又はAIプロセッサ)、あるいはそれらの一部又は全部のタイプのプロセッサの組み合わせを含んでもよい。一態様では、プロセッサ310は、コンピュータデバイス300の汎用プロセッサを指す場合があり、それは、また、より特定の機能(例えば、コンピュータデバイス300の動作を制御する機能を含む)を実行するために追加のプロセッサ310も含んでもよい。量子演算は、QPU310cによって実行されてもよい。QPU310cの一部又は全部は、原子ベースのキュービットを使用してもよいが、異なるQPUが異なるキュービット技術に基づくことも可能である。
【0030】
コンピュータデバイス300は、動作を実行するためにプロセッサ310によって実行可能な命令を記憶するためのメモリ320を含んでもよい。メモリ320は、またプロセッサ310による処理のためのデータ及び/又はプロセッサ310による処理から得られたデータを記憶してもよい。一実施態様では、例えば、メモリ320は、1つ以上の機能又は動作を実行するためのコード又は命令を記憶するコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に対応してもよい。プロセッサ310と同様に、メモリ320は、コンピュータデバイス300の一般的なメモリを指す場合があり、これは、また、より特定の機能のための命令及び/又はデータを記憶する追加のメモリ320も含んでもよい。
【0031】
プロセッサ310及びメモリ320は、異なる動作に関連して使用されてもよく、これらの動作には、計算、算出、シミュレーション、制御、較正、システム管理、及び本明細書に記載される任意の方法又はプロセスを含むコンピュータデバイス300の他の動作を含むが、これらに限定されないことを理解されたい。
【0032】
さらに、コンピュータデバイス300は、ハードウェア、ソフトウェア、及びサービスを利用する1つ以上の当事者との通信の確立及び維持を提供する通信コンポーネント330を含んでもよい。通信コンポーネント330は、またコンピュータデバイス300上のコンポーネント間の通信、及びコンピュータデバイス300と、通信ネットワークを介して配置されたデバイス及び/又はコンピュータデバイス300と連続的に又はローカルに接続されたデバイス等の外部デバイスとの間の通信を伝送するために使用されてもよい。例えば、通信コンポーネント330は、1つ以上のバスを含んでもよく、外部デバイスとインターフェースで接続するために動作可能な送信機及び受信機にそれぞれ関連付けられた送信チェーンコンポーネント及び受信チェーンコンポーネントをさらに含んでもよい。通信コンポーネント330は、コンピュータデバイス300の動作又は機能に関する更新情報を受信するために使用されてもよい。
【0033】
加えて、コンピュータデバイス300は、データストア340を含んでもよく、データストア340は、ハードウェア及び/又はソフトウェアの任意の適切な組み合わせであってもよく、コンピュータデバイス300の動作及び/又は本明細書に記載される任意の方法若しくはプロセスに関連して利用される情報、データベース、及びプログラムの大容量記憶を提供する。例えば、データストア340は、オペレーティングシステム360(例えば、古典的OS、又は量子OS、又はその両方)のためのデータリポジトリであってもよい。一実施態様では、データストア340は、メモリ320を含んでもよい。一実施態様では、プロセッサ310は、オペレーティングシステム360及び/又はアプリケーション若しくはプログラムを実行してもよく、メモリ320又はデータストア340は、それらを記憶してもよい。
【0034】
コンピュータデバイス300は、またコンピュータデバイス300のユーザから入力を受信するように構成され、ユーザに提示するため、又は異なるシステムに(直接的又は間接的に)提供するための出力を生成するようにさらに構成されたユーザインターフェースコンポーネント350を含んでもよい。ユーザインターフェースコンポーネント350は、1つ以上の入力デバイスを含んでもよく、入力デバイスには、キーボード、数字パッド、マウス、タッチセンサディスプレイ、デジタイザ、ナビゲーションキー、ファンクションキー、マイクロフォン、音声認識コンポーネント、ユーザから入力を受信することができる任意の他の機構、又はそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない。さらに、ユーザインターフェースコンポーネント350は、1つ以上の出力デバイスを含んでもよく、出力デバイスには、ディスプレイ、スピーカ、触覚フィードバック機構、プリンタ、ユーザに出力を提示することができる任意の他の機構、又はそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない。一実施態様では、ユーザインターフェースコンポーネント350は、オペレーティングシステム360の動作に対応するメッセージを送信及び/又は受信してもよい。コンピュータデバイス300がクラウドベースのインフラストラクチャソリューションの一部として実装される場合、ユーザインターフェースコンポーネント350は、クラウドベースのインフラストラクチャソリューションのユーザがコンピュータデバイス300とリモートで対話できるようにするために使用されてもよい。
【0035】
図1~3に記載されたシステムに関連して、QIPシステム又は量子コンピュータは、量子機械学習アルゴリズム、より具体的にはコピュラをモデル化した生成的量子学習アルゴリズムに基づいて同時確率分布の計算を改良するために使用され得る。上述したように、もつれ(エンタングルメント)とコピュラ関数との間の自然なつながりを使用することによって、生成的量子学習の概念を拡張することができる。この洞察に基づく変分アンザッツは、多変量相関を生成する古典的な方法よりも指数関数的な優位性をもたらす可能性がある。
【0036】
(コピュラ及び量子もつれ)
コピュラ及び量子もつれに関して、確率変数(χ
1、…、χ
d)が与えられると、確率積分変換は、F
i(x)=Pr[χ
i≦x]として定義される周辺累積分布がPr[F
i(χ
i)≦u]=uを満たすことを示す。したがって、確率変数
【数1】
は、[0,1]に均一に分布する限界を有する。
【0037】
(χ
1、…、χ
d)のコピュラCは、同時累積分布関数(u
1、…、u
d):
【数2】
として定義される。
【0038】
上記のステップを逆にすると、多変量分布からサンプルを生成する方法が得られる。コピュラ関数Cからサンプル(u
1、…、u
d)を生成する手順が与えられると、
【数3】
は、元の多変量分布からのサンプルとなる。
【0039】
スクラーの定理は、全ての多変量累積分布関数が、その限界及びコピュラ、すなわち、
【数4】
によって表現できることを示している。
【0040】
コピュラは相関変数をシミュレートするために使用される。なぜなら、コピュラは周辺分布の構造を取り除き、変数間のポイントごとの相関だけを捉えるからである。単純なコピュラの式は、金融、工学及び医学において広く使用されている。しかしながら、これらの単純な式は、多くの場合、変数間の関係を正確に捉えるには不十分である。その代わり、より洗練された又は経験的なコピュラを使用することができるが、それらは、変数の数が増えるにつれて、モデル化及びサンプリングすることが困難になる。生成モデルがコピュラをモデル化するために首尾よく使用されることが示されている。
【0041】
任意のコピュラは、最大もつれ量子状態によって表すことができる。本開示は、相対位相までのコピュラを表す最大もつれ状態を準備することができる量子回路の構成、実装、及び動作を提案し、これは、本明細書において「クォプラ」回路と呼ばれる。2つの確率変数についての量子回路は、
図4のダイアグラム400に示されている。
【0042】
ダイアグラム400の「クォプラ」回路は2つの確率変数のためのものであるが、回路を2つより多い確率変数に拡張することが可能である。回路の上半分/上部410は、第一の確率変数のサンプルを提供するレジスタに属するキュービットから構成される。回路の下半分/下部420は、第二の確率変数のサンプルを提供するレジスタに属するキュービットから構成される。
【0043】
回路の上部410は、2つのレジスタAとBとの間に分配されるN
q/2のベルペアの生成から構成される。Hと表示されたボックスは、アダマール演算子又はアダマールゲートと呼ばれる単一キュービット演算子である。この演算の結果、
【数5】
の形式の状態が生成される。
【0044】
この状態では、各レジスタの状態の縮小密度行列は完全に混合されている(例えば、ρA=I/|A|)。次のステップでは、ユニタリはレジスタA及びBに局所的に作用する。U†IU=Iであるので、ユニタリの作用は縮小密度行列を変化させないが、レジスタAとBとの間の相関を変化させる。各レジスタ上のユニタリは、互いに独立したパラメータによって設定できることに留意されたい。この例では、レジスタA及びBについてのユニタリは、ダイアグラム400においてそれぞれユニタリ演算子UA415及びUB425として表示されている。
【0045】
各レジスタが、出力x
1、…、x
n、y
1、…、y
nを用いて計算ベースで測定される場合、測定されたビット列は、以下の線形変換
【数6】
を通じてドメイン[0,1]内の各確率変数の離散化された値を表すことができる。したがって、このアンザッツは、一様確率変数間の相関をモデル化し、コピュラ依存構造を捉えることができる。
【0046】
各レジスタ内のキュービットの数によって、確率分布の離散化が決定する。キュービットの数が多いほど、ポイントごとの相関をより詳細に学習できる。キュービットの数が制限されている場合、実際の応用では、利用可能なキュービットを使用して有効ビットを学習し、次いで下位有効ビットの位置にランダムビットを追加することが可能である。
【0047】
上述したように、「クォプラ」回路は、演算子Uが作用する出発点として、ベルペアの代わりにグリーンバーガー=ホーン=ツァイリンガー(GHZ)状態を準備することによって2つより多い変数に拡張することができる。Uの正確な構造を制限する必要はない。パラメータ化された単一キュービット回転RZゲート515及びRXゲート520からなる「ドライバ」層510と、RXXゲート535からなる「エンタングラ(entangler)」層530とが交互に重なった層からなる構造が、
図5のダイアグラム500に示されている。ダイアグラム500では、Uについてのアンザッツは3つのキュービットに対応する。ゲートは学習プロセス中に最適化される角度によってパラメータ化される。この構造は、それぞれ異なるパラメータを有する複数の層に対して繰り返すことができる。この例では、2キュービットのRXXゲート535は、キュービットi及びjに作用するexp(iθX
iX
j)を表し、これはゲートモデルの量子コンピュータで利用可能な標準的なゲートを使用してCNOT(i,j)exp(iθX
i)CNOT(i,j)として実行することができる。RZゲート515及びRXゲート520は、Z軸及びX軸の周りの回転を表す。
【0048】
(量子計算の利点)
以下は、ニューラルネットワーク等の古典的機械学習アルゴリズムに対する、本明細書で説明される量子機械学習アルゴリズムにおける計算の利点の説明であり、これは、上記のタイプの量子回路を使用することによって達成され得る。
【0049】
学習中の利点の1つの源は、ベルの定理に由来する。例えば、2つのキュービットのベルペアを考慮する。一方のキュービットはあるエンティティ(例えば、アリス(Alice))に与えられ、他方のキュービットは異なるエンティティ(例えば、ボブ(Bob))に与えられる。この段階では、そのそれぞれは、任意の相関を共有する確率変数にもアクセスできる。次に、共有されていない変数x及びyが与えられ、キュービットの測定が行われ、それぞれa及びbの結果が得られると仮定する。次いで、量子力学により、固有の変数P(a,b|x,y)に条件付けられたa及びbの同時確率分布が、アリスとボブとの間の通信なしに古典的手段では再現できないことが示される。さらに、n個のベルペアがアリスとボブとの間で共有される場合、P(a,b|x,y)によって定量化される量子相関は、アリスとボブとの間でO(2n)個のビットが交換される場合にのみ古典的手段で再現できる。
【0050】
次は、古典的学習スキームと比較した、本明細書に説明される量子学習アルゴリズムに対するこの意味の分析である。量子学習スキームにおける通信フローは、
図6のダイアグラム500の左側に示されている。ダイアグラム600では、左側の量子学習と右側の古典学習との比較が示されている。どちらの学習においても、古典的オプティマイザ620が使用される。一方では、U
A625及びU
B630は、上述のようにもつれたベルペアに作用するユニタリである。他方では、C
A635及びC
B640は古典ビットに対する演算である。
【0051】
ベルペアが作成されると、最適化スキームを実行する古典的コンピュータ(例えば、古典的オプティマイザ620)は、変数x及びy(ここでは、アンザッツにおける角度に相当する)をそれぞれU
A625及びU
B630に個別に送信することができる。次いで測定値a及びbは、古典的オプティマイザ620によってまとめて処理されて、次の反復のための角度が生成される。次に、古典的なケースを考慮する。一般に、古典的生成器への入力は、ランダムビットのベクトル、例えば長さ2nである。ビットの半分をAに、残りをBに割り当てる。ビットの数によって、生成される固有の出力の数が決まる。任意の古典的演算は、A又はBのビットに個別にのみ作用する演算と、両方のビットのセットに作用する演算の組み合わせとして記述することができる。後者はさらに、Aに属するビットに対する演算としてモデル化することができ、その後、Bへの通信が行われ、次いでBに属するビットのみに対する演算が行われ(
図3の右部分)、その逆も同様である。次いで、古典的オプティマイザ620によって送信される任意のx及びyに対するP(a,b|x,y)をシミュレートするために、AとBとの間の通信量はO(2
n)としてスケールするために必要とされ、量子学習演算の方がはるかに魅力的になる。
【0052】
古典的オプティマイザ620を含むダイアグラム600の態様は、例えば、QIPシステム200内のアルゴリズムコンポーネント210及び/又はQIPシステム200に接続された古典的コンピュータを使用して実装されてもよい。古典的オプティマイザ620を含むダイアグラム600の態様は、例えば、コンピュータデバイス300内の1つ以上のコンポーネントを使用して実装されてもよい。
【0053】
本開示の上記の説明は、当業者が本開示を実施又は使用できるようにするために提供される。本開示の様々な変更は、当業者には容易に明らかであり、本明細書に定義される共通の原理は、本開示の範囲から逸脱することなく他の変形に適用されてもよい。さらに、記載された態様の要素は単数形で記載又は特許請求される場合があるが、単数形への限定が明示的に示されていない限り、複数形が企図される。さらに、別段の記載がない限り、いずれかの態様の全部又は一部は、いずれかの他の態様の全部又は一部と共に利用されてもよい。したがって、本開示は、本明細書に記載された例及び設計に限定されるものではなく、本明細書に開示された原理及び新規な特徴と一致する最も広い範囲が与えられるべきである。
【国際調査報告】