(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-18
(54)【発明の名称】パーキンソン病の治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/275 20060101AFI20240910BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
A61K31/275 ZNA
A61P25/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024509029
(86)(22)【出願日】2022-08-19
(85)【翻訳文提出日】2024-04-11
(86)【国際出願番号】 US2022075219
(87)【国際公開番号】W WO2023023649
(87)【国際公開日】2023-02-23
(32)【優先日】2021-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508285271
【氏名又は名称】オラテック セラピューティクス, インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100225598
【氏名又は名称】桐島 拓也
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ エー.ディナレロ
(72)【発明者】
【氏名】ジーザス アモ アパリシオ
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206JA19
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206MA75
4C206NA14
4C206ZA02
(57)【要約】
本発明は、パーキンソン病を治療する方法に関する。この方法は、ダパンストリルを必要とする対象に有効量で投与することを含む。ダパンストリルは、炎症反応の調節、α-シヌクレインレベルの低下、ドーパミン作動性ニューロンの保護を通じて、運動機能障害などのPDの臨床的特徴を最小限に抑える。好ましい投与経路は経口投与である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーキンソン病を治療する方法であって、以下の工程:
パーキンソン病に罹患している対象に有効量のダパンストリル(dapansutrile)、又は医薬的に許容されるその溶媒和物を投与する工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記化合物が全身投与により投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化合物が経口投与により投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1つ又は複数の運動関連の症状を改善する、請求項1、2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記運動関連の症状が、震え、固縮、動きの遅さ、細かい運動能力の困難、歩行、及び歩き方からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効量のダパンストリル(dapansutrile)を投与することによるパーキンソン病の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病(PD)は、特発性又は原発性パーキンソニズムとしても知られ、中枢神経系の変性神経障害である。PDは、アルツハイマー病に次いで2番目に頻度の高い変性疾患である。PDの運動症状は、中脳の領域である黒質のドーパミン生成細胞の死によって引き起こされ;この細胞死の原因は不明である。病気の初期段階では、最も明らかな症状は運動に関連したものであり;これらには、震え、固縮、動きの遅さ、及び細かい運動能力、歩行、及び歩き方の困難が含まれる。その後、思考や行動に問題が生じる可能性があり、病気の進行段階では認知症が一般的に発生するが、鬱病が最も一般的な精神症状である。その他の症状には、感覚、睡眠、及び感情の問題がある。
【0003】
臨床的には、その主な特徴には、振戦、筋肉の固縮、随意運動の遅さ、及び姿勢の不安定性が含まれる。PD神経病理には多数の異なる神経伝達物質経路が含まれるが、上記で引用した生活に支障をきたす症状は、主にドーパミン作動性ニューロンの死による脳内のドーパミン欠乏に起因すると考えられている。
【0004】
PDの病理学的特徴は、黒質緻密部におけるドーパミン作動性ニューロンの喪失であり、その結果、線条体における神経伝達物質ドーパミン(DA)のレベルが低下する。DAは運動に関連する一部の脳回路の調節に役割を果たしているため、その減少は運動障害につながる。PDに対して承認された治療法は利用可能だが、そのほとんどはDAレベルの回復に重点を置いている。それにもかかわらず、脳内のDAレベルを増加させる現在の治療法では、欠損が持続し、治療法は病気の進行を効果的に遅らせたり止めたりすることができない。
【0005】
この疾患の進行を防ぐためにPDを治療する方法が必要である。この方法は効果的であり、そして重大な副作用がないことが必要である。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、ダパンストリルを使用してPDを治療する方法を提供する。
【0007】
本発明者らは、ダパンストリルが血液脳関門を通過して脳に侵入することを発見した。次に、ダパンストリルは、脳内の炎症細胞によるIL-1βのプロセシングを阻害し、脳内の炎症誘発性サイトカインIL-1β、IL-18、IL-6、IL-17Aの発現を減少させる。
【0008】
ダパンストリルは、炎症反応の調節、α-シヌクレインレベルの低下、及びドーパミン作動性ニューロンの保護を通じて、PDの臨床的特徴を最小限に抑える。
【0009】
図1は、PDを治療するためにダパンストリル(OLT1177(登録商標))を使用する治療アプローチを示す。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、PDを治療するためにダパンストリル(OLT1177(登録商標))を使用する治療アプローチを示す。
【
図2】
図2は、ダパンストリル(OLT1177(登録商標))が実験的PDモデル(MPTPモデル)を治療するためにどのように作用するかを示す。
【
図3】
図3は、MPTP注射後3日目のロータロッドの性能に対するダパンストリルの効果を示す。MPTP注射の30分前に、マウスをダパンストリルで強制経口投与して処置した。次に、各動物の全体的なロッド性能(ORP)を、回転速度に対するロッド上の時間のプロットにおける曲線の下の面積として計算した。生理食塩水の場合はN=4。MPTP+生理食塩水の場合はN=9。MPTP+ダパンストリルの場合はN=7。ダネットの事後補正を使用した一元配置分散分析。
**p<0.001。
【
図4】
図4は、MPTP注射1日後の脳におけるTNFRNA倍率変化を示す。MPTP注射の30分前に、マウスをダパンストリルで強制経口投与して処置した。MPTP+生理食塩水の場合はN=5。MPTP+ダパンストリルの場合はN=5。
**p<0.01。T検定とHolm-Sidakの事後補正との比較。
【
図5】
図5は、MPTP注射後3日目の脳内のIL-18のタンパク質レベルを示す。MPTP注射の30分前に、マウスをダパンストリルで強制経口投与して処置した。MPTP+生理食塩水の場合はN=4。MPTP+ダパンストリルの場合はN=3。
*p<0.05。T検定とHolm-Sidakの事後補正との比較。
【
図6】
図6は、注射後3日目のロータロッド性能に対するアナキンラの効果を示す。MPTPの30分前に、マウスを腹腔内注射によりアナキンラで治療した。生理食塩水の場合はN=4。MPTP+生理食塩水の場合はN=5。MPTP+アナキンラの場合はN=5。ダネットの事後補正を使用した一元配置分散分析。
*p<0.05。
【
図7】
図7は、外因性刺激がない場合のダパンストリルの脳レベルを示す。マウスにダパンストリル強化ペレット(OLT、ペレット1kg当たり7.5g)を3週間与えた。ダパンストリルを除いて同じ組成のペレットを標準飼料として使用した。データは平均±SEMとして表される。N=1グループ当たり5人。T検定比較を使用して、グループ間の差異を分析した。
***p<0.001。
【
図8】
図8A-8Bは、ダパンストリルがMPTP急性投与の3日後にマウスの運動能力を改善することを示す。
図8Aは、加速ロータロッド装置にかかる時間を示す。マウスには、MPTP投与の1時間前から開始して、1日1回、60mg/kg(OLT60)又は200mg/kg(OLT200)のダパンストリルを投与した。生理食塩水を媒体として使用した。MPTPを受けなかった偽マウスを対照として使用した。
図8Bは、加速ロータロッド装置上での異なる速度でのマウスの走行パターンを示す。データは3つの別々の実験からプールされ、
図8Aについては平均値±SEM、
図8Bについては平均値として表される。偽物+生理食塩水の場合はN=9、MPTP+生理食塩水の場合はN=12、MPTP+OLT60の場合はN=9、MPTP+OLT200の場合はN=14。Tukeyの事後補正を伴う一元配置分散分析を使用して、
図8Aのグループ間の差異を分析した(
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001)。カプラン・マイヤー検定を使用して、MPTP+生理食塩水に対するMPTP+OLT200について、
図8Bのグループ間の差異を分析した(
****p<0.0001)。
【
図9】
図9は、MPTP注射マウスにおける200mg/kgのダパンストリル(OLT)での処置後の血液中の異なる細胞型の数を示す。MPTP投与後7日目に末梢血から白血球(WBC)、リンパ球(LYM)、単球(MONO)、及び顆粒球(GRAN)を測定した。データは平均±SEMとして表される。偽物+生理食塩水の場合はN=5、MPTP+生理食塩水の場合はN=6、MPTP+OLTの場合はN=6。Tukeyの事後補正を伴う二元配置分散分析を使用して、グループ間の差異を分析した。
*p<0.05及び
**p<0.01。
【
図10】
図10A-10Bは、MPTPを注射したマウスからの脾細胞におけるサイトカインレベルを示す。刺激剤としてLPS(1μg/ml及び5μg/ml)を用いて2日間培養した後のIL-1+(
図10A)及びIL-6(
図10B)の産生。LPSを含まない培地を対照として使用した。IL-1αのレベルは溶解物細胞で測定され、IL-6は上清で測定された。MPTP投与後7時間で脾臓を摘出し、培養した。マウスを200mg/kgのダパンストリル(OLT)で7日間治療した。生理食塩水を媒体として使用した。データは平均±SEMとして表される。偽物+生理食塩水の場合はN=5、MPTP+生理食塩水及びMPTP+OLTの場合はN=6。Tukeyの事後補正を伴う一元配置分散分析を使用して、グループ間の差異を分析した。
*p<0.05及び
**p<0.01。
【
図11-1】
図11A-11Hは、ダパンストリルがMPTP急性投与後の様々な時点で脳内の炎症促進性サイトカインの動態を調節することを示す。
図11A-11Dは、MPTP投与4日後の線条体(St)及び腹側中脳(VM)におけるIL-1β(
図11A-11B)及びIL-18(
図11C-11D)の脳レベルを示す。
図11E-11Hは、MPTP投与の7日後のIL-6(
図11E-11F)及びIL-17A(
図11G-11H)の脳レベルを示す。マウスは、MPTP投与の1時間前に開始して、1日1回、200mg/kgのダパンストリル(OLT)で治療された。生理食塩水を媒体として使用した。データは平均±SEMとして表される。
図11A-11Dについてはグループ当たりN=4、
図11E-11Hについてはグループ当たりN=5である。Tukeyの事後補正を伴う一元配置分散分析を使用して、グループ間の差異を分析した。
*p<0.05、
**p<0.01、及び
***p<0.001。
【
図11-2】
図11A-11Hは、ダパンストリルがMPTP急性投与後の様々な時点で脳内の炎症促進性サイトカインの動態を調節することを示す。
図11A-11Dは、MPTP投与4日後の線条体(St)及び腹側中脳(VM)におけるIL-1β(
図11A-11B)及びIL-18(
図11C-11D)の脳レベルを示す。
図11E-11Hは、MPTP投与の7日後のIL-6(
図11E-11F)及びIL-17A(
図11G-11H)の脳レベルを示す。マウスは、MPTP投与の1時間前に開始して、1日1回、200mg/kgのダパンストリル(OLT)で治療された。生理食塩水を媒体として使用した。データは平均±SEMとして表される。
図11A-11Dについてはグループ当たりN=4、
図11E-11Hについてはグループ当たりN=5である。Tukeyの事後補正を伴う一元配置分散分析を使用して、グループ間の差異を分析した。
*p<0.05、
**p<0.01、及び
***p<0.001。
【
図12】
図12A-12Cは、ダパンストリルがMPTPの急性投与後にTREM2のレベルを増加させることを示す。
図12Aは、MPTP投与4日後の線条体におけるグリコシル化型(35kDa)及び非グリコシル化型(28kDa)のTREM2のレベルを示す代表的な免疫ブロットである。マウスは、MPTP投与の1時間前に開始して、1日1回、200mg/kgのダパンストリル(OLT)で治療された。Β-アクチンをローディングコントロールとして使用した。分子量(kDa)は右側にマークされている。
図12B-12Cは、TREM2の28kDa(
図12B)及び35kDa(
図12C)形態の定量化である。グループ当たりN=4。Tukeyの事後補正を伴う一元配置分散分析を使用して、グループ間の差異を分析した。
*p<0.05及び
**p<0.01。
【
図13】
図13A-13Cは、ダパンストリルが、MPTP-亜急性投与後の腹側中脳におけるα-シヌクレインのレベルを低下させることを示す。
図13Aは、異なるグループにおけるα-シヌクレインの単量体及びオリゴマー形態のレベルを示す代表的なイムノブロッティングである。マウスを200mg/kgのダパンストリル(OLT)で6日間治療した。生理食塩水を媒体として使用した。Β-アクチンをローディングコントロールとして使用した。分子量(kDa)は右側にマークされている。
図13B-13Cは、α-シヌクレインの単量体(
図13B)及びオリゴマー(
図13C)形態の定量化である。偽物+生理食塩水の場合はN=4、MPTP+生理食塩水及びMPTP+OLTの場合はN=5。Tukeyの事後補正を伴う一元配置分散分析を使用して、グループ間の差異を分ました。
*p<0.05及び
**p<0.01。
【
図14-1】
図14A-14Dは、ダパンストリルがMPTP媒介細胞死からドーパミン作動性ニューロンを保護することを示す。
図14A-14Bは、線条体(St、
図14A)及び黒質緻密部(SNpc、
図14B)における代表的なチロシンヒドロキシラーゼ(TH)免疫染色である。マウスを200mg/kgのダパンストリル(OLT)で7日間治療した。生理食塩水を媒体として使用した。陽性シグナルは茶色で表示されている。ボックス内で囲まれた領域は、挿入図の高倍率で示されている。
図14C-14Dは、StにおけるTH免疫反応性(
図14C)及びSNpcにおけるTH立体学的計数(
図14D)を示す。データは平均±SEMとして表される。偽物+生理食塩水の場合はN=5、MPTPグループの場合はN=7。Tukeyの事後補正を伴う一元配置分散分析を使用して、グループ間の差異を分析した。
*p<0.05、
**p<0.01、及び
***p<0.001。
【
図14-2】
図14A-14Dは、ダパンストリルがMPTP媒介細胞死からドーパミン作動性ニューロンを保護することを示す。
図14A-14Bは、線条体(St、
図14A)及び黒質緻密部(SNpc、
図14B)における代表的なチロシンヒドロキシラーゼ(TH)免疫染色である。マウスを200mg/kgのダパンストリル(OLT)で7日間治療した。生理食塩水を媒体として使用した。陽性シグナルは茶色で表示されている。ボックス内で囲まれた領域は、挿入図の高倍率で示されている。
図14C-14Dは、StにおけるTH免疫反応性(
図14C)及びSNpcにおけるTH立体学的計数(
図14D)を示す。データは平均±SEMとして表される。偽物+生理食塩水の場合はN=5、MPTPグループの場合はN=7。Tukeyの事後補正を伴う一元配置分散分析を使用して、グループ間の差異を分析した。
*p<0.05、
**p<0.01、及び
***p<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0011】
化合物
本発明は、以下のダパンストリル(3-メタンスルホニルプロピオニトリル)の精製化合物、又はその医薬的に許容される溶媒和物を使用する:
【化1】
【0012】
本明細書で使用される「溶媒和物」とは、化合物が許容される溶媒と一定の割合で組み合わされた付加錯体である。許容される溶媒としては、水、酢酸、エタノール、及びダパンストリルに適した他の有機溶媒が挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
本明細書で使用される「医薬的に許容される溶媒和物」とは、親化合物の所望の生物学的活性を保持し、望ましくない毒性効果を与えない溶媒和物である。
【0014】
医薬組成物
医薬組成物中の活性化合物ダパンストリル、又はその医薬的に許容される溶媒和物は、一般的に、注射用製剤の場合は約0.1~5%、パッチ製剤の場合は0.1~5%、錠剤製剤の場合は約1~90%の量であり、カプセル製剤の場合は1~100%、局所製剤の場合、約0.01~20%、又は0.05~20%、又は0.1~20%、又は0.2~15%、又は0.5~10%、又は1~5%(w/w)の量である。
【0015】
1つの実施形態によれば、医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、シロップ剤、坐剤、注射液、貼付剤などの剤形である。
【0016】
不活性成分である医薬的に許容される担体は、従来の基準を使用して当業者によって選択され得る。医薬的に許容される担体には、非水性ベースの溶液、懸濁液、乳濁液、マイクロエマルション、ミセル溶液、ゲル、及び軟膏が含まれるが、これらに限定されない。医薬的に許容される担体には、以下に限定されないが、生理食塩水及び電解質水溶液;塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセロール、及びデキストリンなどのイオン性及び非イオン性浸透圧剤;水酸化物、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、ホウ酸塩などのpH調整剤及び緩衝剤;及びトロラミン;抗酸化剤、バイサルファイト、サルファイト、メタビサルファイト、チオサルファイト、アスコルビン酸、アセチルシステイン、システイン、グルタチオン、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、トコフェロール、及びパルミチン酸アスコルビルの塩、酸及び/又は塩基;レシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジルイノシオールを含むがこれらに限定されないリン脂質のような界面活性剤;ポロキサマー及びプロキサミン(ploxamine)、ポリソルベート80、ポリソルベート60、及びポリソルベート20などのポリソルベート、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールなどのポリエーテル;ポリビニルアルコール、ポビドンなどのポリビニル;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体及びその塩;鉱物油、白色ワセリンなどの石油誘導体;ラノリン、ピーナッツ油、パーム油、大豆油などの脂肪;モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド;カルボキシポリメチレンゲル、疎水変性架橋アクリル酸共重合体などのアクリル酸のポリマー;デキストランなどの多糖類及びヒアルロン酸ナトリウムなどのグリコサミノグリカンを含む成分も含まれてよい。このような医薬的に許容される担体は、周知の防腐剤を使用して細菌汚染から保存することができ、これらには、塩化ベンザルコニウム、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、塩化ベンゼトニウム、クロルヘキシジン、クロロブタノール、メチルパラベン、チメロサール、及びフェニルエチルアルコールが含まれるが、これらに限定されず、又は、単回又は複数回の使用のために非保存製剤として製剤化することもできる。
【0017】
例えば、ダパンストリルの錠剤製剤又はカプセル製剤は、生物活性を有さず、活性化合物と反応しない他の賦形剤を含有する場合がある。錠剤の賦形剤には、充填剤、結合剤、滑沢剤及び流動促進剤、崩壊剤、湿潤剤、及び放出速度調節剤が含まれ得る。結合剤は製剤の粒子の接着を促進し、錠剤製剤にとって重要である。結合剤の例には、カルボキシメチルセルロース、セルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カラヤガム、デンプン、デンプン、及びトラガカントガム、ポリ(アクリル酸)、及びポリビニルピロリドンが含まれるが、これらに限定されない。
【0018】
例えば、ダパンストリルのパッチ製剤には、いくつかの不活性成分、例えば、3-ブチレングリコール、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、エデト酸二ナトリウム、D-ソルビトール、ゼラチン、カオリン、メチルパラベン、ポリソルベート80、ポビドン、プロピレングリコール、プロピルパラベン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、酒石酸、二酸化チタン、及び精製水を含むことができる。パッチ製剤はまた、乳酸エステル(例えば、乳酸ラウリル)又はジエチレングリコールモノエチルエーテルなどの皮膚透過性増強剤を含んでもよい。
【0019】
ダパンシトリルを含む局所製剤は、ゲル、クリーム、ローション、液体、乳濁液、軟膏、スプレー、溶液、及び懸濁液の形態であり得る。局所製剤中の不活性成分としては、例えば、乳酸ラウリル(皮膚軟化剤/浸透促進剤)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(皮膚軟化剤/浸透促進剤)、DMSO(溶解促進剤)、シリコーンエラストマー(レオロジー/質感調整剤)、カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド、(エモリエント)、オクチサレート、(エモリエント/UVフィルター)、シリコーン液(エモリエント/希釈剤)、スクアレン(エモリエント)、ヒマワリ油(エモリエント)、及び二酸化ケイ素(増粘剤)を含むが、これらに限定されない。1つの実施形態によれば、ジエチレングリコールモノエチルエーテルが局所用ゲル製剤に含まれる。
【0020】
使用方法
Liuら(MolNeurobiol54,7762-7776,2017)は、Th17細胞由来のIL-17Aが、これらの細胞の膜上に発現する2つの接着分子LFA-1/ICAM-1間の相互作用によってドーパミン作動性ニューロンを殺すことを報告している。Liuら(BrainBehavImmun81,630-645,2019)は、MPTPモデルにおいてIL-17A欠損又は遮断によりドーパミン作動性神経変性及び運動障害が回避され、PDマウスモデルにおいてIL-17Aが有害な影響と関連していることを報告している。
【0021】
ダパンストリルの投与は、脳内の炎症誘発性サイトカインのレベルを低下させる。NLRP3直接サイトカインとしてのIL-1β及びIL-18だけでなく、下流サイトカインとしてのIL-6及びIL-17Aにも変化が観察されており、ダパンストリルがPDにおける適応免疫応答の調節に有効であることが示されている。ダパンスルトリルは、情報伝達促進性サイトカインを減少させ、細胞死から保護することにより、体の免疫監視を維持する。
【0022】
細胞内α-シヌクレインの凝集は、ドーパミン作動性ニューロン死の主な病原性原因と考えられている。Wangら(Proc.Natl.Acad.Sci.113:9587-9592,2016)及びBassilら(Proc.Natl.Acad.Sci.113:9593-9598,2016)による報告は、カスパーゼ-1を介したα-シヌクレインの切断が、シヌクレイノパシーにおけるこの分子の凝集と毒性を引き起こす上流の出来事であることを示している。α-シヌクレインの蓄積により、脳内のドーパミン作動性ニューロンが死滅し、二次的な損傷につながる慢性炎症反応が開始される。
【0023】
ダパンストリルは、炎症反応を調節し、脳内のα-シヌクレインの凝集を減少させるのに効果的であり、その結果、ドーパミン作動性ニューロンが保護され、運動能力が向上する。
【0024】
本発明は、PD及び関連するイヌクレイン症、例えばレビー小体型認知症(DLB)、レビー小体病(LBD)、多系統萎縮症(MSA)を治療する方法に関する。この方法は、それを必要とする対象に有効量のダパンストリルを投与する工程を含む。本明細書で使用される「有効量」とは、病理学的状態を改善するか、又は疾患の症状を軽減することによって疾患を治療するのに有効な量である。ダパンストリルは、単独療法として、又は他の薬物治療との併用療法として使用できる。
【0025】
本発明は、カスパーゼ-1媒介α-シヌクレイン切断に起因するα-シヌクレイン凝集を標的とすることによる、シヌクレイン症、例えばPDに関連する神経炎症に対する治療的介入を提供する。ダパンストリル治療はまた、ニューロンから放出されたα-シヌクレインの下流の活性化ミクログリアによる、プロ-IL-1β及びプロ-IL-18の成熟と炎症性サイトカインへの放出を標的とする。ダパンストリルによる炎症反応の遮断により、脳上の免疫細胞サブセット(ミクログリア、マクロファージ、好中球)の活性化/浸潤が減少する可能性がある。ダパンストリルはドーパミン作動性ニューロンの死滅を減少させる。
【0026】
本方法は、PD患者の運動機能障害又は行動機能障害を低減又は軽減する。例えば、この方法は、震え、固縮、動きの遅さ、細かい運動能力の困難、歩行、歩行などの運動関連の症状を改善する。
【0027】
本発明者らは、ダパンストリルがPDの動物モデルに対して有益な効果を有することを実証した。本発明者らは、ダパンストリルがMPTP注射に関連する機能障害を回復させることを示した。
【0028】
本発明の医薬組成物は、全身投与又は局所投与により適用することができる。全身投与には、経口、非経口(静脈内、筋肉内、皮下又は直腸など)、及び吸入投与が含まれるが、これらに限定されない。全身投与では、活性化合物は最初に血漿に到達し、次に標的組織に分布する。経口投与は、本発明の好ましい投与経路である。局部投与には局所投与が含まれる。
【0029】
組成物の投与量は、損傷の程度及び各患者の個々の反応に基づいて変化し得る。全身投与の場合、送達される活性化合物の血漿濃度は変動する可能性があるがしかし、一般的には1×10-10~1×10-4モル/リットル、好ましくは1×10-8~1×10-5モル/リットルである。
【0030】
全身投与には、経口、非経口(静脈内、筋肉内、皮下又は直腸など)、及び他の全身投与経路が含まれる。全身投与では、活性化合物は最初に血漿に到達し、次に標的組織に分布する。
【0031】
1つの実施形態によれば、医薬組成物は対象に経口投与される。経口投与の用量は、一般に少なくとも0.1mg/kg/日、100mg/kg/日未満又は200mg/kg/日未満である。例えば、経口投与の用量は、ヒト対象に対して1~100、又は5~50、又は10~50mg/kg/日である。例えば、経口投与の場合の投与量は、ヒト対象に対して100~10,000mg/日であり、好ましくは500~2000、500~4000、500~4000、1000~5000、2000~5000、2000~6000、又は2000~8000mg/日である。この薬は、1日1回、2回、3回、又は4回経口摂取できる。
【0032】
1つの実施形態によれば、医薬組成物は対象に静脈内投与される。静脈内ボーラス注射又は静脈内注入の場合の投与量は、通常0.03~20mg/kg/日、好ましくは0.03~10mg/kg/日である。
【0033】
1つの実施形態によれば、医薬組成物は対象に皮下投与される。皮下投与の場合の投与量は、通常0.3~20mg/kg/日、好ましくは0.3~3mg/kg/日である。
【0034】
1つの実施形態によれば、組成物は局所的に適用される。組成物は、医学的問題及び疾患の病状に応じて、少なくとも1日に1~2回、又は1日に3~4回、局所的に適用される。一般的に、局所用組成物は、約0.01~20%、又は0.05~20%、又は0.1~20%、又は0.2~15%、0.5~10、又は1~5%(w/w)の活性化合物を含む。典型的には、1回の用量当たり0.2~10mLの局所組成物が個体に適用される。
【0035】
当業者は、多種多様な送達機構も本発明に適していることを認識するであろう。
【0036】
本発明は、ヒト、ウマ、イヌ及びネコなどの哺乳動物対象を治療するのに有用である。本発明は、ヒトの治療に特に有用である。
【0037】
以下の実施例は本発明をさらに説明するものである。これらの実施例は、単に本発明を説明することを意図しており、限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0038】
実施例1.MPTPモデル
PDのさまざまなモデルの中で、MPTP(1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン)モデルが最も一般的に使用されている。この毒素をマウスの腹腔内に注射すると、黒質線条体ドーパミン作動性経路の信頼性と再現性のある損傷が生じる。
【0039】
MPTP(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)は、急性及び亜急性の2つの用量レジメンで投与できる。急性レジメンでは、MPTPを1日に4回腹腔内(i.p.)投与した。投与は、8時間にわたって2時間ごとに実施された。亜急性レジメンでは、1日当たり1回のMPTP腹腔内注射を、5日間連続でマウスに投与した。両方のモデルのすべての用量に20mg/kgの遊離塩基MPTP用量を使用した。滅菌生理食塩水をビヒクルとして使用した。対照マウスには、同じ投与プロトコルを使用して生理食塩水を注射し、偽マウスと定義した。MPTPの最初の注射後、異なる日にマウスを屠殺した。C56BL/Jマウスでは急性プロトコルを使用してドーパミン神経変性、炎症、及び運動障害を研究し、次の実施例では亜急性モデルを使用してα-シヌクレイン凝集を評価した。
【0040】
実施例2.ダパンストリルは運動機能障害を改善する
図2は、ダパンストリル(OLT1177(登録商標))が実験的PDモデル(MPTPモデル)を治療するためにどのように作用するかを示す。
【0041】
本発明者らは、PDのMPTP注射マウスモデルにおける全体的な運動能力を評価するための全体的なロータロッド性能(ORP)試験を調査した。この手順では、マウスをロータロッド上で事前に訓練し、その後一連の速度を上げて試験し、動物が各速度でロッド上に留まっている時間を記録し;次に、各動物の全体的なロッド性能(ORP)を、回転速度に対するロッドオン時間のプロットにおける曲線の下の面積として計算した。
【0042】
加速ロータロッド(UgoBasile、イタリア、ジェモニオ)を使用して、MPTPを急性投与したマウスの運動機能を評価した。MPTPに関連する運動障害を検出するために加速プログラムが選択された(Keshetetal.,JCompNeurol504:690-701,2007;Ruietal.,IntJNeuropsychopharmacol.,2020)。直径3センチメートルのシリンダーロッドを備えたロータロッド装置を使用した。マウスは、MPTP投与前に連続3日間の訓練期間を受けた。各トレーニングセッションでは、マウスを4つの一定速度(10rpm、20rpm、30rpm、及び40rpm)で各速度で150秒間走行させた。その間マウスが落ちた場合は、すぐにロータロッドに戻された。試験当日は高速化プログラムを使用した。ウォームアップとして、マウスをロータロッド装置上に30rpmで150秒間置いた。150秒後すぐに加速セッションが開始され、500秒間で速度が30rpmから70rpmに増加した。落下までの時間を記録した。セッション間に5分間の休憩を挟んで、加速セッションを3回繰り返した。マウス当たりの落下までの平均時間を計算し、最終測定値として使用した。
【0043】
次に、ダパンストリルの効果を評価した。動物に水分を過剰に与えること(致命的な心不全を引き起こす可能性がある)を避けるために、ダパンストリルを水中溶解200mg/kgで強制経口投与した。ダパンストリルは、MPTPの最初の注射の30分前に投与された。生理食塩水で処理したマウスを対照として使用した。MPTPの代わりに腹腔内注射により生理食塩水を投与した偽グループも含めた。
【0044】
MPTP注射後3日目に、ダパンストリルで治療したマウスが転倒するまでの時間が増加したことを観察した。ダパンストリルで治療したマウスは、水で治療したマウスよりも約90秒長くロータロッドに留待った。さらに、ダパンストリル治療グループと偽グループの間に有意差はなかった。各動物の全体的なロッド性能(ORP)は、回転速度に対するロッド上の時間のプロットにおける曲線の下の面積として計算された(
図3)。
【0045】
実施例3.ダパンストリルは脳内のTNFαRNAレベルを低下させる
実施例2に記載したように、マウスをダパンストリル又は生理食塩水で処理し、MPTPを注射した。
【0046】
MPTPの最初の注射から24時間後、マウスを屠殺した。線条体を中心とした脳の一部を各マウスから採取し、液体窒素中で凍結させた。製造業者のプロトコールに従って、サンプルをTrizol溶解試薬(ThermoFisher)を用いて均質化した。各サンプルからのRNA1μgを、High-CapacityReverseTranscriptionキット(AppliedBioSystems)を使用して逆転写した。
【0047】
遺伝子発現測定は、SYBRGreenマスターミックス(AppliedBiosystems)と推奨される熱サイクルパラメーターを使用したqPCRによって実行された:95℃で10分間のポリメラーゼ活性化を1サイクル、及び95℃で15秒間の変性を40サイクル+60℃で1分間のアニーリング/伸長(捕獲)。TNFα(炎症誘発性サイトカイン)の遺伝子レベルは、ΔΔCT法に従ってGADPH遺伝子の発現の関係比に対して正規化された。プライマー配列については以下で詳しく説明する。最終的な倍率変化値は、ナイーブ条件で正規化することによって得られた。
TNF-F:CAGGCGGTGCCTATGTCTC(配列番号1)
TNF-R:CGATCACCCCGAAGTTCAGTAG(配列番号2)
GAPDH-F:TCAACAGCAACTCCCACTCTTCCA(配列番号3)
GAPDH-R:ACCCTGTTGCTGTAGCCGTATTCA(配列番号4)
【0048】
TNFαRNAの倍率変化を
図4に示す。結果は、ダパンストリルが脳内のTNFαRNAの発現を低下させることを示している。
【0049】
実施例4.ダパンストリルは脳内のIL-18レベルを低下させる
実施例2に記載のように、マウスをダパンストリル又は生理食塩水で処理し、MPTPを注射した。
【0050】
MPTPの3日後にマウスを屠殺し、脳内のIL-18レベルを測定した。簡単に言うと、マウスから脳を取り出し、線条体の一部を均質化した。タンパク質のレベルは2mg/mlに正規化し、RandDSystemsのマウスIL-18ELISAを使用してIL-18を測定した。本発明者らは、ダパンストリルでの処置により、水で処置されたマウスと比較して脳内のIL-18レベルが低下することを発見した(
図5)。
【0051】
実施例5.アナキンラは機能の改善をもたらさない
アナキンラは、インターロイキン1受容体アンタゴニスト(IL-1Ra)である。アナキンラ(17.3kDa)は、アミノ末端にメチオニンが付加されていることと、グリコシル化が存在しないことにより、天然のヒトIL-1Ra(23~25kDa)とは異なる。
【0052】
ダパンストリルが機能レベルで有益な効果を持っていることを実証した後、ロータロッドの性能に対するアナキンラの効果を研究した。MPTPの30分前に、マウスを20mg/kgの用量でアナキンラで治療した。アナキンラの投与がMPTPの機能的影響から脳を保護しないことを観察した。アナキンラで処置したマウスは、生理食塩水で処置した対照マウスと同じ転倒潜時を示した(
図6)。これらの結果は、アナキンラの脳への浸透度が低いためであると考えられる。ヒト以外の霊長類におけるアナキンラのCSF浸透はわずか0.2~0.3%であるため、アナキンラの用量を増やす価値はないと考えられる(Foxetal,J.Neuroimmunol.223:138-140,2010)。
【0053】
実施例6.ダパンストリルは血液脳関門を容易に通過する
本発明者らは、ダパンストリルが血液脳関門(BBB)を通過し、脳区画で治療レベルに達することを初めて実証した。ダパンストリル強化飼料ペレット(7.5g/kg)を自由に摂取することにより、マウスをダパンストリルで21日間治療した。対照マウスには、ダパンストリルを含まない対応する非強化食餌を与えた。研究中、マウスは、不規則な体重の増減や体温の変化など、生理学的パラメーターの変化がないか監視された。21日目にマウスを屠殺し、脳を単離した。
【0054】
全脳均質物におけるダパンストリルの測定は、SyneosHealth(ニュージャージー州プリンストン)で実施された。1グループあたり5匹のマウスを評価した。
図7に示すように、ダパンストリルは、21日間の経口投与後に脳内で47μg/gのレベルに達した。経口ダパンストリルはBBBを容易に通過し、NLRP3集合を阻害するのに必要な濃度よりも少なくとも30倍高い脳内レベルを維持する。ダパンストリルが経口投与された場合でもBBBを通過する能力は、PDのような慢性患者の治療に潜在的な進歩をもたらす。
【0055】
実施例7.ダパンストリルはMPTPに関連する運動機能障害を救済する
次に、MPTPの急性投与後のマウスの運動能力にその投与が影響するかどうかを試験した。この目的のために、マウスの運動能力を、実施例2に記載した加速ロータロッド試験を使用して評価した。9匹のマウスを偽物+生理食塩水グループに使用した。MPTP+生理食塩水グループには12匹のマウスを使用した。MPTP+ダパンストリルグループでは、60mg/kg及び200mg/kgの用量でそれぞれ9匹及び14匹のマウスを使用した。
【0056】
ダパンストリルは、最初のMPTP注射の1時間前に腹腔内投与された。ダパンストリルの2つの異なる用量、60mg/kgと200mg/kgを使用した。溶液は毎日新たに調製した。ダパンストリルの投与は、実験が終了するまで1日1回繰り返した。腹腔内注射の媒体として生理食塩水を使用した。急性MPTPレジメンは腹腔内注射の繰り返しにより体液過負荷を引き起こす可能性があるため、最初のダパンストリル投与は同じ濃度で強制経口投与によって行われた。経口強制経口投与の媒体として水を使用した。
【0057】
図8Bに示すように、MPTP+生理食塩水群のマウスの約50%は、速度が6cm/秒に増加する前であっても、回転円筒上で失敗し;7m/sに達したものはなかった。より低用量のダパンストリル(60mg/kg)で処置したマウスは、MPTP+生理食塩水グループと比較して有意な改善を示さなかったが、増加傾向が観察された(
図8A-8B)。しかし、より高用量のダパンストリル(200mg/kg)での治療は、転倒までの時間を2倍(p<0.001)にすることにより、MPTPに関連する運動能力を回復した(
図8A)。さらに、ロータロッド装置上に落ちるまでの時間は、偽マウスとほぼ同じであった(
図8A)。偽+生理食塩水群と同様に、200mg/kgの用量で処置したマウスの約50%が7cm/秒の速度に達し、そのうちの7%は8cm/秒にさえ達した(
図8B)。従って、行動レベルでは、ダパンストリルがMPTP神経毒性に関連する機能障害を防止することを、ロータロッド装置での運動パフォーマンスを通じて実証する。
【0058】
実施例8.ダパンストリルはMPTPの全身性炎症を調節する
運動活動に対するダパンストリルの保護効果を実証した後、全身性炎症に対するMPTPの効果を調べた。MPTPの急性投与の7日後、各マウスから末梢血と脾臓を分離し、末梢血の血液学的変化と脾臓でのサイトカイン産生を評価した。運動機能により、200mg/kgのダパンストリルの用量がMPTPの効果を回復することが実証されたため、残りの実験ではこの用量を投与した。HemaTrueセルカウンター(Heska、コロラド州ラブランド)を使用して、末梢血から白血球、リンパ球、単球、及び顆粒球を測定した。脾臓を単離し、PBS中で70μmのセルストレーナー(ThermoFisher)に機械的に通した。細胞を、10%FBSを含むRPMI培地(Coring、ニューヨーク州ニューヨーク州)中で200,000細胞/ウェルの濃度で96ウェルプレートに播種した。その後、細胞を1μg/ml及び5μg/mlのLPSで刺激した。RPMI培地を対照として使用した。72時間後、上清を単離してIL-6のレベルを測定した。プロテアーゼ阻害剤(ThermoFisher)を添加したRIPA緩衝液(ThermoFisher)で細胞を溶解し、IL-1αレベルを測定した。どちらの場合も、1グループあたり5~6匹のマウスを使用した。
【0059】
図9に示すように、MPTPは、末梢の循環白血球、特にリンパ球及び顆粒球の数を減少させた。しかし、ダパンストリルの投与後、これらの細胞の数はそれぞれ24%及び33%と有意に増加した(
図9)。MPTPに供したマウスの培養脾臓細胞において、細胞内IL-1αの発現増加が観察された(
図10A)。ダパンストリルで治療したマウスの脾細胞は、IL-1αレベルの40%の大幅な減少を示した。IL-6については、MPTPの効果を回復するダパンストリルで非常に類似した結果が得られた(
図10B)。
【0060】
実施例9.ダパンストリルの投与は脳内の炎症誘発性サイトカインのレベルを低下させる
MPTPの投与により、脳内でNLPR3インフラマソームの集合が誘導されることが報告されている。MPTP投与の4日後及び7日後に、マウスを頸椎脱臼により麻酔後に屠殺した。脳を収集し、両半球の線条体(St)及び腹側中脳(VM)領域を切除し、液体窒素で凍結した。サンプルを、TissueRuptor(Qiagen、メリーランド州ジャーマンタウン)を使用して、プロテアーゼ阻害剤(ThermoFisher)を補充したRIPA緩衝液(ThermoFisher、マサチューセッツ州ウォルサム)中で均質化した。タンパク質濃度は、BCAタンパク質アッセイキット(ThermoFisher)を製造元の指示に従って使用して測定した。サンプルを同じ抽出緩衝液で2mg/mlに希釈した。
【0061】
脳均質物からのIL-1β、IL-18、IL-6、及びIL-17AのレベルをELISADuoSetキット(R&DSystems、ミネアポリス、ミネソタ州)によって測定した。IL-1β用ELISAキットは、このサイトカインの17kDa型の92~95%を検出するが、前駆体型の8~5%のみを検出する。96ウェルプレート(ThermoFisherScientific)を捕捉抗体でコーティングした。サンプルを室温で2時間インキュベートした。検出抗体とストレプトアビジン-HRPを追加した。TMBELISA(eBioscience,カリフォルニア州サンディエゴ)を基質溶液として使用した。結果はマイクロプレートリーダー(Bio-Tek、カリフォルニア州サンタクララ)で測定された。最終値は、各サンプルのタンパク質濃度によって正規化された。各サイトカインに対して、1グループ当たり4~5匹のマウスを使用した。
【0062】
NLRP3阻害に対するダパンストリルの効果を評価するために、まずNLRP3インフラマソームの下流サイトカインであるIL-1β及びIL-18のレベルを測定した。IL-1β及びIL-18を、MPTPの急性投与の4日後にSt及びVMで測定した。IL-1βのレベルは、4日目にSt及びVMにおいて有意に増加し、NLRP3インフラマソームの活性化を確認した(
図11A~11B)。Stでは、ダパンストリルでの処置により、IL-1βのレベルが4日目で24%有意に減少し(
図11A)、基礎状態に達した。VMでは、ダパンストリルに関連する変化は検出されなかった(
図11B)。IL-18のレベルは、脳の両方の領域で有意に上昇した(
図11C~11D)。Stにおいて、ダパンストリルで処置したマウスは、生理食塩水で処置したMPTPマウスと比較して、IL-18レベルの15%の減少を示した(
図11C)。StにおけるIL-18レベルのダパンストリル依存性低下は、実施例4で以前に得られた結果と一致する。IL-1βで起こったように、VMではダパンストリルに関連する変化は観察されなかった(
図11D)。
【0063】
ダパンストリルがIL-1βとIL-18を減少させることを確認した後、IL-1βの影響を受ける他の炎症誘発性サイトカインを測定した。IL-1βの下流サイトカインとしてIL-6とIL-17Aに注目し、MPTPの急性投与から7日後にそれらのレベルを測定した。IL-6については、MPTPが脳の両方の領域のレベルを増加させることが観察された(
図11E~11F)。ダパンストリルはレベルを26%有意に低下させ、Stの基礎状態に達した(
図11E)。VMでは影響は検出されなかった(
図11F)。IL-17Aについては、StではMPTPによる変化は観察されなかったが(
図11G)、VMではレベルが30%有意に増加した(p<0.01)(
図11H)。これは、脳のこの領域におけるIL-17Aの同様の動態を示す以前の報告を裏付けるものである。処置後、ダパンストリルは、IL-17Aレベルを58pg/μgから46pg/μgに有意に(p<0.05)減少させ、これはシャムマウスとほぼ同じであった(
図11H)。まとめると、サイトカイン動態に関するデータは、MPTPが活性化NLRP3に特徴的な炎症反応を誘導し、ダパンストリルがこれらのサイトカインのレベルを効果的に低下させ、炎症反応を調節することを示している。NLRP3直接サイトカインであるIL-1β及びIL-18だけでなく、下流サイトカインであるIL-6及びIL-17にも変化が観察された。従って、ダパンストリルは、脳内のIL-1β及びIL-18のレベルを低下させることに加えて、IL-6及びIL-17Aのレベルも低下させた。これらのデータは、ダパンストリルがPDにおける適応免疫応答の調節に有効であることを示唆している。
【0064】
実施例10.ダパンストリルは線条体のTREM2レベルを維持する
この実施例では、ダパンストリル治療後の骨髄細胞誘発受容体II(TREM2)のレベルを測定した。TREM2はPD治療の潜在的な標的となる可能性がある。TREM2の場合、MPTPの急性投与後4日目にマウスを屠殺した。Stを切除し、実施例9に記載したようにタンパク質を抽出し、定量した。サンプル当たり30μgのタンパク質を、0.1%SDSランニング緩衝液(Bio-Rad)中のMini-PROTEANTGX4-20%勾配ゲル(Bio-Rad、Hercules、CA)で分離した。ゲルを0.1μMのニトロセルロース膜(GEHealthcare、イリノイ州シカゴ)に移した。膜を、TBS0.1%(v/v)Tween(登録商標)溶液中の5%ブロッキング緩衝液(Bio-Rad)を用いて室温で1時間ブロックした。サンプルをマウスTREM2に対する一次抗体(1:1000、CellSignaling、マサチューセッツ州ダンバーズ)と共に一晩インキュベートした。ペルオキシダーゼ結合二次抗体(JacksonImmunoResearch、ペンシルベニア州フィラデルフィア)及び化学発光を使用して、タンパク質濃度を検出した。β-アクチンに対する結合抗体(SantaCruzBiotechnology、テキサス州ダラス)を使用してタンパク質濃度を正規化した。NIHImageJソフトウェアを使用して、個々のマウスのモノマー及びオリゴマーのタンパク質バンドを定量化した。1グループ当たり4匹のマウスを使用した。
【0065】
TREM2のタンパク質レベルは、MPTPの急性投与後4日目に脳のSt領域で測定された。MPTPは、非グリコシル化形態のTREM2(28kDa)のレベルを25%減少させた(
図12A~12B)。ダパンストリルでの治療後、TREM2のレベルは有意に増加し、基礎状態に達した(
図12A~12B)。35kDaグリコシル化型のTREM2の場合、MPTPに関連する変化はなく、ダパンストリルも検出されなかった(
図12A、12C)。MPTP後に増加傾向が観察されるが、差は有意ではなかった。これらの結果は、ダパンストリルによるNLRP3阻害がMPTPマウスのStにおけるTREM2レベルを増加させ、ドーパミン作動性ニューロンの保存と相関することを示した。TREM2発現におけるこの変化は、そのグリコシル化パターンに影響を与えなかった。これらの発見は、NLRP3を標的とすることによってTREM2レベルを調節する新しいシステムを推測している。
【0066】
実施例11.ダパンストリルは腹側中脳におけるα-シヌクレインの凝集を防止する
MPTPは亜急性レジメン後のα-シヌクレイン凝集を促進するため、このタンパク質のレベルに対するダパンストリルの効果を評価した。MPTPの最後の注射から24時間後に、マウスを屠殺した。VMを切除し、実施例9に記載したようにタンパク質を分離した。以前の出版物に従って、α-シヌクレイン蓄積を評価するための領域としてVMを選択した。マウスα-シヌクレイン(1:1000、CellSignaling)及びペルオキシダーゼ結合二次抗体(JacksonImmunoResearch)を使用した。1グループ当たり4~5匹のマウスを使用した。α-シヌクレインのレベルをウェスタンブロットによって測定した。
図13A~13Bに示すように、2.5倍上昇したMPTPは、α-シヌクレインの単量体形態(17kDa)のレベルを変化させる。これは、異なるオリゴマー形態(150~30kDa)の増加(1.5倍の変化)によって反映されるα-シヌクレインのより高い凝集と相関する(
図13C)。ダパンストリルは、α-シヌクレインのモノマー及びオリゴマーの両方のレベルを有意に減少させた(
図13B~13C)。
【0067】
実施例12.ダパンストリルはドーパミン作動性ニューロンをMPTP誘発細胞死から保護する
ドーパミン作動性ニューロンに対するダパンストリルの効果を評価するために、マウスにMPTP急性投与を行った。ドーパミン作動性ニューロンのレベルが低下した7日後、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)免疫染色によって黒質線条体経路を評価し、ドーパミン作動性ニューロンの生存率を評価した。マウスをPBS中の4%パラホルムアルデヒド(Sigma-Aldrich)で灌流した。脳を取り出し、同じ灌流緩衝液に一晩浸漬し、その後、0.1MPBS中の30%スクロースで4℃で凍結保護した。脱水後、サンプルを切片作成のためにパラフィン型に埋め込んだ。St及びSNpcを含む冠状脳切片(厚さ4μm)を取得し、顕微鏡スライドガラスに移した。抗原回復後、スライドを一次抗TH抗体(1:2000、Abcam、ケンブリッジ、英国)と共に室温で30分間インキュベートした。TH抗体の結合は、抗ウサギHRP結合二次ポリマーを使用して検出され、続いてジアミノベンジジン(DAB、CellSignaling)を使用して発色視覚化された。ヘマトキシリン対比染色を使用して核を視覚化した。サンプルの処理は、InotivBoulder(コロラド州ボルダー)によって実行された。Stにおけるドーパミン作動性免疫反応性は、NIHImageJソフトウェアで積分密度を測定することによって計算された。SNpcにおける立体的な計数は、TH陽性ニューロンの手動定量化によって実行された。マウス当たり3つの切片を使用した。5匹のマウスを偽+生理食塩水グループに使用し、7匹のマウスをMPTPグループに使用した。
【0068】
予想通り、MPTPの投与は、偽マウスと比較してSt線維のレベルを45%減少させた(
図14A、14C)。SNpcでは、MPTPにより陽性ニューロンの数が4000から1000に減少した(
図14B、14D)。ダパンストリルによる治療は、MPTPの有害な影響からドーパミン作動性ニューロンを保護した。Stの場合、ダパンストリルで処置したマウスは、生理食塩水で処置したMPTPマウスと比較して、TH陽性線維密度の増加(p<0.05)を示した(
図14A、14C)。SNpcにおけるTH陽性ニューロンも、ダパンストリル処理後に3倍増加した(
図14B、14D)。さらに、ダパンスリルで処置したマウスでは、対照マウスに対して有意な変化は観察されなかった。ダパンストリルがMPTPによって引き起こされる毒性によってドーパミン作動性ニューロンを保護すると結論付けた。これらの所見は、実施例11に示されるα-シヌクレインレベルの減少と相関する。
【0069】
総合すると、これらのデータは、ダパンストリルが炎症反応の調節、α-シヌクレインレベルの低下、ドーパミン作動性ニューロンの保護を通じてPDの臨床的特徴を最小限に抑える治療として機能することを示している。
【0070】
本発明、及びその製造及び使用の方法及びプロセスを、本発明に関連する当業者が製造及び使用できるように完全、明確、簡潔かつ正確な用語で説明する。以上は本発明の好ましい実施形態について説明しており、特許請求の範囲に記載の本発明の範囲から逸脱することなく変更を加えることができることを理解されたい。発明とみなされる主題を特に指摘し、明確に請求するために、以下の特許請求の範囲によって明細書が締めくくられる。
【配列表】
【国際調査報告】