(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-18
(54)【発明の名称】油中歯付き伝動ベルト
(51)【国際特許分類】
F16G 1/28 20060101AFI20240910BHJP
【FI】
F16G1/28 G
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024509323
(86)(22)【出願日】2022-08-17
(85)【翻訳文提出日】2024-04-15
(86)【国際出願番号】 US2022040667
(87)【国際公開番号】W WO2023023203
(87)【国際公開日】2023-02-23
(32)【優先日】2021-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504005091
【氏名又は名称】ゲイツ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【氏名又は名称】神崎 真
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】ペザーブリッジ,カースティ
(72)【発明者】
【氏名】ピアソン,ポール
(57)【要約】
油と接触して使用するのに適した歯付き伝動ベルトであって、エラストマーベルト本体と、その中に埋め込まれた螺旋状に巻かれた抗張部材と、プーリ接触面に歯を有し、その歯を覆うジャケットとを有する。ジャケットは、少なくとも1つの助剤であるRFS接着促進剤を配合し、フルオロポリマーを含まないニトリル含有エラストマーから形成された滑らかで連続的な外側ゴム層を有する織布であり、生地には横糸にパラ系アラミド繊維、縦糸にメタ系アラミド繊維が含まれており、ナイロン繊維は含まれていない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状に巻かれた抗張部材が埋設されたエラストマーベルト本体と、
歯を覆うジャケットを有するプーリ接触面に設けられた歯とを備え、
前記ジャケットが、耐油・耐熱性ゴム組成物で外側をコーティングされた織布を含み、滑らかで連続した外側ゴム層を形成することを特徴とする歯付き伝動ベルト。
【請求項2】
前記耐油・耐熱性ゴム組成物が、前記ベルト本体と同じベースエラストマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の歯付き伝動ベルト。
【請求項3】
前記耐油・耐熱性ゴム組成物が、フルオロポリマーまたはフルオロエラストマー成分を含まないことを特徴とする請求項1に記載の歯付き伝動ベルト。
【請求項4】
前記外側ゴム層が、前記エラストマーベルト本体と同等以上の耐熱性を備えることを特徴とする請求項1に記載の歯付き伝動ベルト。
【請求項5】
前記耐油・耐熱性ゴム組成物は、グラファイトまたはモリブデン潤滑剤成分を含まないことを特徴とする請求項1に記載の歯付き伝動ベルト。
【請求項6】
前記ジャケットが、エポキシまたはエポキシゴムに基づく第1の布地処理を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の歯付き伝動ベルト。
【請求項7】
前記ジャケットの内側が、更に接着性ゴム組成物でコーティングされていることを特徴とする請求項1に記載の歯付き伝動ベルト。
【請求項8】
前記接着性ゴム組成物が、前記耐油・耐熱性ゴム組成物と同様の組成を有することを特徴とする請求項7に記載の歯付き伝動ベルト。
【請求項9】
前記ベルト本体、前記接着性ゴム組成物、前記耐油・耐熱性ゴム組成物が、耐油性ニトリルエラストマーを含むことを特徴とする請求項8に記載の歯付き伝動ベルト。
【請求項10】
前記耐油・耐熱性のゴム組成物が、HNBRエラストマーとRFS接着促進剤システムを含むことを特徴とする請求項9に記載の歯付き伝動ベルト。
【請求項11】
前記織布にはアラミド繊維が含まれ、ナイロン繊維は含まれないことを特徴とする請求項1に記載の歯付き伝動ベルト。
【請求項12】
前記織布が、縦糸にメタ系アラミド繊維、横糸にパラ系アラミド繊維を含むことを特徴とする請求項11に記載の歯付き伝動ベルト。
【請求項13】
前記織布が、更に横糸に弾性ヤーンを含むことを特徴とする請求項12に記載の歯付き伝動ベルト。
【請求項14】
前記外側ゴム層が、前記エラストマーベルト本体よりも低いデュロメータ硬度を示すことを特徴とする請求項1に記載の歯付き伝動ベルト。
【請求項15】
横糸にパラ系アラミドヤーンと弾性ヤーン、縦糸にメタ系アラミドヤーンを使用した織布と、
前記織布の繊維上に施されるエポキシまたはエポキシゴム処理と、
エポキシ処理された前記織布の片面に粘着性ゴムコーティングが施され、前記片面は歯付きベルトの本体と接触するように意図されており、
前記エポキシ処理された織布の反対側にある滑らかな連続ゴム層とを備え、
前記反対側はプーリとの接触を意図され、前記ゴム層は、フルオロポリマー成分を含まない耐熱性および耐油性のニトリルゴム組成物を含む
ことを特徴とする油に接して使用される歯付きベルトのジャケット。
【請求項16】
横糸にパラ系アラミドヤーンと弾性ヤーン、縦糸にメタ系アラミドヤーンからなる織布を用意し、
前記織布の繊維にエポキシまたはエポキシゴム処理を施し、
エポキシ処理した前記織布の片面に粘着性ゴムコーティングを塗布し、前記片面は歯付きベルトの本体と接触を意図され、
前記エポキシ処理した織布の反対側に、フルオロポリマー成分を含まない耐熱性、耐油性のニトリルゴム組成物を塗布してジャケットを形成し、
前記歯付きベルトの歯を覆う前記ジャケットを備えた前記ベルトを成形し、前記耐熱性および耐油性のニトリルゴム組成物が、光沢のある滑らかな連続したプーリとの接触が意図された歯表面上の外側ゴム層を形成する
ことを特徴とする油に接して使用される歯付きベルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広くは歯付き、あるいは同期ベルトに関し、より具体的には、油中での使用を改善するため接触面に特別なゴムコーティングを有する歯付きベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
タイミングベルト、あるいは同期ベルトとも呼ばれる無端歯付きベルトは、バルブの動きをクランクとピストンの動きに同期させ、あるいはタイミングをとるために内燃機関内でよく使用される。これらは、オイルポンプ、ウォータポンプ、燃料噴射ポンプ、バランスシャフトなどの補機を駆動させるためにも用いられる。乾式ベルト駆動における乾式歯付きベルトは、エンジンブロックの外側に搭載されオイルとの接触から保護されている。乾式ベルト駆動は、クランクシャフトとカムシャフトがエンジン壁を通過する必要があるため、一般に追加のシール、カバー、およびスペースが必要となる。湿式ベルト、あるいは「油中ベルト」(BIO)ベルトと伝動装置は、エンジンブロック内、あるいは類似のオイルに曝された環境に位置し、追加のシールやカバーを不要とし、潜在的にスペースの節約を提供する。タイミングベルトの幅とプーリの幅とテンショナの幅は、スペースの要件を規定する。ベルト幅を最小化するには、ベルトはとても高い耐久性を備える必要があり、これには負荷条件下における屈曲疲労と伝動装置における屈曲半径に対する耐性、摩滅、摩耗に対する耐性、熱とオイルに恒常的に晒される環境条件に対する耐性が含まれる。耐摩耗性は、摩耗屑が油中に残存し、深刻であればオイルフィルタを早期に詰まらせかねず、エンジン損傷を引き起こすことから特に重要である。
【0003】
ここで参照として組み入れられる米国特許出願公開第2020/0141283A1号公報は、BIOシステムを開示する。開示されたベルトは、歯を被覆する処理済み布地を含む従来の様々な耐油素材を開示する。
【0004】
米国特許出願公開第2014/0080647A1号公報は、選択的にRFL(レゾルシン・ホルマリン・ラテックス)処理が施された硬化エポキシあるいはエポキシゴム処理を含む布地処理を開示する。このような処理は、歯ジャケットの耐摩耗性、耐油および耐水性を向上させ、高温高負荷条件下や油中環境下または水雰囲気環境下で使用しても十分な耐久性を示す歯付ベルトを得ることを意図する。
【0005】
特開平06-101741A号公報は、カバー布の表面がゴムペーストから形成されたゴム層で覆われた歯付きベルトを開示する。このゴム層はベルト本体に比べて熱劣化しやすいため、使用開始初期の短時間で硬化し、摩擦係数が低下し摩耗が軽減される。
【0006】
米国特許第9,927、001B2号明細書には、乾燥時、特に油中において高温に耐え、高温のもと油と連続的に接触しているベルトの長い使用期間に亘って非常に有利に働くと言われている4つの布地処理が行われたカバー布を備える歯付きベルトが記載されている。第4の処理と外層は、減摩材料、好ましくはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素化ポリマーを含む。同様に、米国特許第8,568,260B2号明細書は、油とともに使用され、他のエラストマー材料よりも多量に存在するフッ素化プラストマーをベースとする外層を有する歯付きベルトを開示する。米国特許出願公開第2011/0111902A1号公報も、PTFE、PVF(ポリフッ化ビニル)、またはPVDF(ポリフッ化ビニリデン)から作られた耐油性のフッ素化保護層を備えた歯付きベルトを開示する。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、フッ素ポリマーや、グラファイトやモリブデンなどの潤滑剤を含まずに、ベルト本体と同じまたは類似の組成でベルト本体と同等以上の耐熱性を備える、滑らかで連続的なゴム製の歯面コーティングを提供するシステムおよび方法、あるいは、BIOアプリケーションや伝動装置において耐久性のある歯付きベルトを提供するシステムおよび方法を対象とする。
【0008】
本発明は、螺旋状に巻かれた抗張部材が埋設されたエラストマーベルト本体と、歯を覆うジャケットを有するプーリ接触面に設けられた歯とを備える歯付き伝動ベルトに関する。ジャケットは、一般的に滑らかで連続した外側ゴム層を形成する耐油・耐熱性ゴム組成物で外側がコーティングされた織布である。
【0009】
耐油・耐熱性ゴム組成物は、助剤、接着促進剤を含むニトリル含有エラストマーをベースとすることができるが、フルオロポリマー添加剤は含まない。外側ゴム層は、ベルト本体と比較して同等以上の耐熱性を有し、ゴム硬度試験で測定した場合、より柔らかいものであってもよい。耐油・耐熱性ゴム組成物は、グラファイト、モリブデン潤滑剤成分およびフルオロポリマーを含まないであろう。組成物は、1つ以上の架橋助剤およびレゾルシノール-メチレン供与体-シリカ(「RFS」)接着促進剤系を含んでもよい。
【0010】
布地にはエポキシまたはエポキシゴムをベースとした処理が施されている場合がある。ジャケットは、耐油・耐熱性ゴム組成物と同じ組成を有する接着性ゴム組成物で内側をコーティングされていてもよい。これらのゴム組成物は全て、水素化ニトリルゴム(「HNBR」)などの耐油性ニトリルエラストマーをベースとすることができる。
【0011】
布地にはアラミド繊維などの耐熱性、耐油性の繊維が織り込まれている場合があるが、ナイロン繊維は含まれていない。布地は横糸にパラ系アラミド、縦糸にメタ系アラミドを含む場合がある。横糸には、伸縮性を向上させるために弾性ヤーンが含まれていてもよい。
【0012】
本発明は、油と接触して使用する歯付きベルトを製造する方法にも関する。この方法は、上述のように織布を用意すること、上述のような1つ以上の処理を適用すること、そして最後に上述のように外側ゴム層を適用してジャケットを作製することを含む。次いで、ジャケットをベルト本体材料および抗張コードとともに成形して、プーリとの接触を意図した歯付き表面上にほぼ滑らかで連続した外側ゴム層を有する無端歯付きベルトを作製する。
【0013】
本発明は、油中で使用するベルトの歯面に使用するための上述のジャケットにも関する。
【0014】
外側ゴム層またはコーティングにより、油中でのベルトの耐久性が向上し、ベルト幅の縮小が可能になり、油を汚染する摩耗屑の発生が減少する。
【0015】
ここまで、以下の本発明の詳細な説明がよりよく理解され得るように、本発明の特徴および技術的利点をかなり広く概説した。本発明の特許請求の範囲の主題を形成する本発明の追加の特徴および利点を以下に説明する。開示された概念および特定の実施形態は、本発明の同じ目的を実行するための他の構造を修正または設計するための基礎として容易に利用できることを当業者は理解すべきである。そのような同等の構造は、添付の特許請求の範囲に記載されている本発明の趣旨および範囲から逸脱しないことも当業者によって認識されるべきである。本発明の特徴であると考えられる新規の特徴は、その構成および操作方法の両方に関して、更なる目的および利点とともに、添付の図とあわせて検討すると、以下の説明からよりよく理解されるであろう。しかしながら、各図は、例示および説明のみを目的として提示されており、本発明の限界を定義することを意図するものではないことを明確に理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本明細書に組み込まれてその一部を構成し、同じ番号が同様の部分を指し示し、詳細な説明とともに本発明の実施形態を説明する添付図面は、本発明の原理の説明に用いられる。
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態による歯付きベルトの部分破断斜視図である。
【0018】
【
図2】油中での本発明の実施形態の性能をテストするために使用されるHOL試験の概略図である。
【0019】
【
図3】ベルト性能をテストするために使用されるモータエンジンBIOドライブの概略図である。
【0020】
【0021】
【
図5】本発明の一実施形態である新しいベルトの一部の写真である。
【0022】
【
図6】しばらくテストを行った後の
図5のベルトの一部の写真である。
【0023】
【
図7】テストにさらに時間を費やした後の
図6のベルトの写真である。
【0024】
【
図8】しばらくテストした後の従来技術のベルトの一部の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の同期ベルト200の構造が
図1に示される。
図1には無端ベルトの一部のみが示されている。ベルト200は、一方の側に歯214を含み、溝付きスプロケットまたは溝付きプーリと係合する。歯214は、ランド215と交互になっている。歯214のフランクからランド215への湾曲した移行部は、ルートまたは歯元と呼ばれる。ベルト200は背面220に歯を有さないが、代替的な実施形態では両側に同様の歯を有してもよい。本体ゴムまたはエラストマーは、歯ゴム212および背ゴム222を備える。歯のある側は歯ジャケット216で覆われ、背面220は選択的に背面ジャケット224で覆われる。歯の反復長さは、ピッチ「P」と呼ばれる。抗張部材218はベルト本体のゴムに埋設されており、ベルトに高い張力弾性を与える。
【0026】
歯ジャケット216は、布地217、表面ゴム層219、および接着層213などの1つまたは複数の追加の布地処理を含む。ジャケット216は、タイミングエラーや耐久性などのシステムのパフォーマンス特性とともに、1つまたは複数のベルト特性、例えば、接着性、耐油性、耐摩耗性などを強化するように設計される。布地処理は、当技術分野で知られている任意の適切な処理であればよい。同様に、背面ジャケット224は、布地とともに歯ジャケットと同様または異なる処理のうち1つまたは複数を含み得る。したがって、「ジャケット」という用語は、1つまたは複数の処理が含まれた布地を表すために使用され、通常はベルトへの組み立てに備え予成型されている。「布地」とは一般に、処理される前の生機の織物、不織布、または編物の素材であるが、一部処理が含まれてもよい。
【0027】
本発明のベルトは、油浸伝動装置または部分油浸伝動装置で使用された場合に、優れた耐摩耗性および耐摩耗性を示す。この性能のカギとなる特徴は、表面ゴム層219と歯布217に使用される繊維材料である。効果は相乗的であり、個々の部分の総和よりも大きい。摩耗と摩滅によって発生する摩耗粉を減らすことにより、システムはそのような摩耗粉による悪影響から保護される。従来のBIOシステムでは、現実の使用において、ベルト摩耗粉によるオイルフィルタの詰まりを原因とした故障が発生している。摩耗を減らしたり耐久性を高めたりすることで、ベルトの寿命を延ばしたり、ベルトの幅を狭くしてエンジン内のスペースを節約したりできる。
【0028】
歯布217は、用途の必要に応じて、適切な伸縮性、強度、耐摩耗性、耐熱性、および耐環境性を有する任意の適切な織布、編布、または不織布であってもよい。フロースルーベルト製造プロセス(後で定義)で使用する場合、80%を超える、または100%を超える長手方向の伸縮をすることが好ましい。予成型プロセスにおいては、より低い伸縮が適している場合もあれば、顕著な伸縮がない方が適している場合もある。布帛は、アラミド、PPS、PEEK、ポリエステル、およびそれらの組み合わせなどの高強度、耐油性、耐摩耗性および耐熱性の繊維のみで作られることが好ましい。布地は、アラミド、PPS、PEEK、ポリエステル、およびそれらの組み合わせなどの高強度、耐油性、耐摩耗性および耐熱性の繊維のみで作られることが好ましい。布地はアラミド繊維のみで作られていることが好ましく、選択的に伸縮性のために弾性ヤーン成分を含む。アラミド繊維またはアラミドヤーンは、パラアラミド繊維またはパラアラミドヤーン、メタアラミド繊維またはメタアラミドヤーン、あるいはそれらの組み合わせであってもよい。
【0029】
布地の織り方の典型例は、2×2の綾織りや3×1の綾織りである。しかし、他の多くの織り方も可能である。
【0030】
織布の典型例は、メタアラミドヤーンの縦糸とパラアラミドヤーンの横糸を有する。パラアラミドヤーンには、コポリマーパラアラミドヤーンが含まれてもよい。パラアラミドヤーンは、横糸方向に伸縮性を与える弾性ヤーン成分を含んでもよい。弾性ヤーンはゴム弾性ヤーンでもポリウレタン弾性ヤーンでもよい。弾性とは、高度に伸縮性があることを意味し、例えば、高度な収縮状態で100~500%以上伸長できることを意味する。横糸方向はベルトになったときに長手方向であることが好ましい。これらの方向および材料は逆にしてもよく、その場合、伸長方向が縦糸方向となりベルトの長手方向に配向される。十分な伸縮性を有するヤーンは、テクスチャ加工、弾性コアの巻き付け、バイアス配向、およびそれらの組み合わせを含む選択された繊維に適した既知の方法によって得られる。アラミドの弾性コアへの巻き付けは、横糸ヤーンまたは伸長方向に好ましい。ナイロンやポリアミド繊維は、横糸、縦糸の何れにおいても本発明での使用には適していない。したがって、従来の自動車用タイミングベルトのジャケットの主な繊維であるナイロン6-6は、本発明での使用には適していない。
【0031】
適切なパラ系アラミド繊維としては、デュポンによりケブラーという商標で販売されているもの、帝人アラミドによりトワロンおよびテクノーラ(共重合体)という商標で販売されているもの、およびコーロン・インダストリーズによりヘラクロンという商標で販売されているものが挙げられる。適切なメタアラミド繊維としては、デュポンからノーメックスという商標で販売されているもの、および帝人からコーネックスという商標で販売されているものが挙げられる。
【0032】
表面ゴム層219は、耐油性、耐熱性を有するゴム組成物から形成されている。表面ゴム組成物は、任意の適切な高耐油性エラストマー、例えば、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)、カルボキシル化ニトリル(XNBRまたはHXNBR)などのニトリル基含有コポリマーエラストマーなどからなる。ニトリル基含有エラストマーは、ゴムのガラス転移を低下させる第3のモノマーを含んでもよい。異なるグレードのニトリル基含有エラストマーの混合物を使用してもよい。エラストマーの典型例には、ゼオンによって商標Zetpolで販売されている様々なグレードが含まれ、それにはいわゆるZSCと呼ばれる材料が含まれ、アランセオによりテルバンという商標で販売されている様々なグレードが含まれる。フルオロエラストマーおよびフルオロポリマーは本発明では使用されない。
【0033】
表面ゴム組成物は、ベースエラストマーに加えて、強化充填剤、可塑剤、劣化防止剤、接着促進剤、助剤、硬化剤などを含む多種多様な配合成分の何れを含んでもよい。強化用充填剤の典型例としては、カーボンブラック、シリカ、および短繊維が含まれる。ジアクリレート酸亜鉛またはジメタクリル酸亜鉛などの1つまたは複数の助剤を含めることが好ましく、これらは組成物の混合中に添加されてもよく、または組成物に使用されるHNBRの1つのグレード(例えば、ゼオンのZSCなど)に含まれてもよい。他のアクリレートまたはメタクリレート助剤は、単独でまたは組み合わせて使用できる。組成物中に接着促進剤を含むことも好ましい。好ましい接着促進剤は、レゾルシノールおよび/またはホルムアルデヒドベースの樹脂、例えば、ランクセスによって販売されている商標名Cohedurの製品である。ゴム組成物は、レゾルシノール、ホルムアルデヒドまたはメチレンドナーなどの反応性樹脂システムまたはレゾルシノールと同等物、およびその例が参照により本明細書に組み込まれるTh.Kempermannら、「Manual for the Rubber Industry」第2版、Bayer AG、Leverkusen、ドイツ、pp372&512~535(1991)に開示される一般に「RFS」接着システムと呼ばれるシリカを有利に含むことができる。この「RFS」システムの主な目的は、生地と外側のゴム層の間の接着を強化することである。シリカは強化充填剤でもある。高い表面領域のシリカが好ましい。耐熱性の点からは過酸化物硬化システムが好ましい。
【0034】
外側面のゴム組成物は、布地内に存在するあらゆる多孔性を封止するほぼ平滑な連続コーティングをもたらす任意の適切な方法によって歯布または処理済み歯布(下記参照)に塗布することができる。完成したベルトの外側のゴム層は、特に油に濡れている場合は光沢(glossyまたはshiny)があるであろうが、乾燥すると通常は滑らかでマットな仕上がりとなる。外側ゴム組成物は、液体のゴムセメントを作製し、そのセメントを布地に刷毛塗り、スプレー、コーティング、または浸漬することによって塗布することができる。あるいは、ゴム組成物は、摩擦やスキミングなどのカレンダー加工または積層プロセスを使用して固形ゴムとして貼付されてもよい。あるいは、外側ゴム層はベルト形成プロセスにおいて貼付することもできる。1ミル(25μm)~10ミル(0.25mm)のゴムの厚さがあればラミネート加工には十分である。
【0035】
外側ゴム層は、従来技術のベルト構造よりも優れた耐薬品性と耐摩耗性を提供すると考えられる。布地のテクスチャと細孔をゴムで埋めると、粒子や液体の取り込みや油の侵入が防止され、ナイロンを用いないことで耐薬品性が高まると考えられる。外側ゴム層は、複合体の一体性/堅牢性を向上させるとも考えられ、ゴムとジャケットの境界面での歯元クラックの発生を抑制するのに役立つことができ、層間剥離を抑制し、耐用年数を延ばす。本発明の歯ジャケットは、使用期間に亘って寸法の変化も最小限であると期待され、歯の噛み合いおよび発生する騒音に対して有益である。
【0036】
背面布は、用途に適した伸縮性、強度、耐摩耗性、耐熱性(高温または低温)、および耐環境性を有する任意の適切な織布、編布、または不織布であるだろう。一般に、背面布はベルトの背面に平らに置かれるだけなので、どの程度の伸縮性か必要かという特別な要求はない。ベルトの柔軟性を維持するには、ある程度の伸縮性があることが好ましいであろう。背面布は耐寒性を向上させ、繰り返される冷間始動による背面のクラックの発生を減らすことが分かっている。背面布にはRFL加工ガ施されていてもよい。背面布は、歯布のように平滑であること、または平滑な連続ゴム層でコーティングされる必要はないが、同様にコーティングされていてもよい。
【0037】
歯布213および/または背面布224の何れかまたは両方に対する好ましい布地処理には、ここで参照により本明細書に組み込まれるYamada等の米国特許出願公開第2014/0080647A1号公報に記載されているように、エポキシまたはエポキシゴム処理が含まれ、選択的にRFL処理が最初に適用される。このような処理により、歯ジャケットの耐摩耗性、耐油耐水性を向上させ、高温高負荷条件下、あるいは油中環境下や水雰囲気環境下で使用しても十分な耐久性を示す歯付ベルトを得ることができる。この処理はベルト本体および/または外側ゴム層に対する布の接着性も向上するであろう。エポキシゴム処理は、布地に対する最初の処理であろう。ゴム成分は、NBR、HNBR、またはXHNBRラテックスなどの耐油性ラテックスであってもよい。布地処理は、浸漬、スプレー、刷毛塗り、ロールコーティング、ナイフコーティング、または他の適切なプロセスによってなされる。
【0038】
したがって、処理された歯布、すなわち本発明のベルトの歯を覆うジャケットは、好ましくはナイロン繊維を含まないアラミド伸縮布であり、最初にエポキシゴムへの浸漬で処理され、続いて滑らかな連続する外側ゴム層219が適用される。前述のRFLなどの他の層が介在してもよく、または他の層はベルト本体材料や歯ゴムに接着するために内側面に含められてもよい。
【0039】
歯ゴム212または背面ゴム222には、任意の適切なゴム組成物を使用することができる。更に、必要に応じて、抗張コード218と接触する接着ゴム層、または他の層などの他のゴム層があってもよい。必要に応じて、同じまたは異なる化合物を、歯、抗張コード層、背面側やベルトの他の場所に使用することができる。ここで参照により本明細書に組み込まれるWhitfieldの米国特許第6,358,171B1号明細書は、歯ゴムまたはベルト本体ゴム用の典型的なゴム配合物を記載する。そこに記載されているように、ベルト本体ゴム組成物は、HNBRなどのニトリル基含有コポリマーエラストマーを含んでもよく、エラストマーは、エラストマーのガラス転移を低下させる第3のモノマーを含んでもよい。
ゴム組成物はまた、エラストマー100重量部当たり(「PHR」)約0.5~約50重量部の繊維強化材を含んでもよい。ここで参照により本明細書に組み込まれる米国特許第9,140,329B2号明細書は、歯ゴムまたはベルト本体ゴム用の他の典型的なゴム配合物を記載する。そこに記載されているように、ベルト本体ゴム組成物は、HNBRまたはHXNBRゴム、レゾルシノール、およびメラミン化合物を含み得る。
【0040】
ベルト本体のゴム組成物および外側ゴム層は、充填剤、可塑剤、劣化防止剤、加工助剤、硬化剤、助剤、相溶化剤などの当該技術分野で知られている追加の成分を更に含んでもよい。
【0041】
ベルトの抗張コード218は、当技術分野で知られている任意のものでよいが、ガラス繊維、PBO(すなわち、ポリp-フェニレン-2,6-ベンゾビスオキサゾール)、アラミド、炭素繊維、またはこれらの2つ以上のハイブリッドを含むことが好ましい。抗張コードは、油に濡れた環境で使用するために、耐油性の高い接着処理を含むことが好ましい。例えば、接着処理は、ニトリル含有ラテックスまたはゴム、または他の耐油性材料に基づいていてもよい。好ましい抗張コードは、Knutsonの米国特許第6,945,891号明細書に開示されているような炭素繊維を含み、あるいはAkiyama等の米国特許第7,682,274号明細書に記載されているようなガラス/カーボンハイブリッドコードを使用することができる。抗張コード用の好ましいガラス繊維は、Kガラス、Uガラス、Mガラス、またはSガラスなどの高強度ガラス繊維を含む。
【0042】
本発明の歯付きベルトは、既知のベルト製造方法に従って製造することができる。最も一般的なアプローチは、溝付きマンドレルに様々な材料を巻き付ける。歯のカバージャケットから始まり、次に螺旋状に巻かれた抗張コードまたは心線、そして本体ゴムまたは複数のゴム、最後に背面ジャケットを巻き付ける。次に、ベルトスラブが巻かれたマンドレルを、加熱および加圧して材料を圧縮一体化可能な加圧可能なシェルに挿入し、ゴムを歯の溝に流し込み、歯のジャケットを溝の形状に押し込む(「フロースルー」方式として知られている)。
これとは別に、歯ジャケットをマンドレル上に配置する前、または配置しているときに、歯ジャケットを大まかに溝形状に予成型することもでき(「予成型法」)、選択的に歯ゴムを歯に充填することもできる。これらの方法の他のバリエーションも可能である。背面布付きベルトを製造するための主な追加的な特徴は、背面ゴム付きベルトでよく行われるようにベルトの背面を所定の寸法まで研磨することができないため、要求される最終的なベルト厚さを得るためにゴム層を慎重に計測する必要がある。アラミド生地によっては予成型方法が好ましい場合があるが、どちらの方法も利用できる。
【0043】
ベルト本体のゴム合成物は、一般に、歯の剛性と、歯とタイミングベルトの許容荷重に最適化された弾性率レベルを有する。背ゴム合成物は、それが歯ゴムとは異なる場合、歯ゴムのように荷重を直接担わないので、ベルトの柔軟性を高めるために弾性率が幾分低く、すなわちより柔らかく設定される。歯カバージャケットは歯を補強し、歯の剛性とベルトの耐荷重性にも貢献する。一般に抗張コードは、弾性率(またはスパン剛性)や強度などのタイミングベルトの引張特性を決定する。これらの材料を選択することよりベルトのスパン剛性と歯の剛性の組み合わせを最適化すると、システム負荷を軽減し、ベルトに必要な強度を最小限に抑えながら、幅の狭いベルトでもシステムにおける同じタイミングエラーを実現できることが分かっている。例えば、その内容が参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2020/0141283A1公報を参照されたい。
【0044】
外側ゴム層の合成物は、歯または背ゴムよりも弾性率が低いと有利であろう。外側ゴム層は生地のクッション性を高め、油の浸透を防ぐと考えられている。歯ゴムよりも幾分柔らかい(例えば、Shore AまたはIRHDなどのゴム硬度試験機で測定して)配合、そして高温の油の存在する状況でベルトの寿命に亘ってその柔らかさを維持する配合が好ましい。
【0045】
実施例
【0046】
本発明がどのように見出されたかは意義深い話である。スペースを節約するためにベルト幅を狭くした場合、制御された構造におけるBIOテストで過度の摩耗が発生することが分かった。制御ベルトは、設計されたBIO条件下では非常に優れたベルトであった。制御ベルトは、横糸に高性能ナイロンとp-アラミドをブレンドし、縦糸にナイロンをブレンドした最先端の生地を備え、ヤマダ等の米国特許公開第2014/0080647号公報に記載されているように、生地上に幾つかの特殊なコーティングが施されている。特殊なコーティングは耐油性が非常に高いため、より厳しいBIO条件下でも同等の性能を発揮すると期待された。ところがBIOテストの厳しさを増大した最初の実験でのベルト寿命は非常に残念なものであり、歯のフランクと歯底領域の両方で過剰なジャケットの摩耗が観察された。興味深いことに、ジャケットをベルト本体の材料に接着するために使用されたゴムの層が磨耗していないことがさらに観察された。このゴム層は接着用に設計されており、非常に優れた耐熱性と耐油性を備えていたが、耐摩耗性や耐摩滅性を高めるための特別な機能はなかった。このゴム層には、PTFE、グラファイト潤滑剤、二硫化モリブデンやその他のよく知られた摩擦調整剤は含まれていなかった。
【0047】
ゴム層に関するこの観察は、同じゴム層をベルトの外側に適用するというアイデアにすぐにつながった。残念ながら、この2回目の実験を実行したとき、BIOテストではベルトの寿命や耐摩耗性の向上にプラスの効果は見られなかった。
【0048】
しばらくして、生地にナイロンが存在すると、過酷な条件下の油中でのベルトの寿命に悪影響を与える可能性があることが判明した。3回目の実験では、ナイロンをより多くのパラ系アラミド繊維またはメタ系アラミド繊維に置き換えると、ベルトの寿命が約2倍になることが判明した。ゴム層にはプラスの効果がないことが以前に判明していたが、ナイロンを含まない生地の外側で再度試してみることとした。驚くべきことに、4回目の実験では、外側のゴム層によりベルトの寿命が再び2倍以上になり、最初の2回の失敗した実験と比較して6倍以上の改善が得られることが分かった。したがって、ナイロンを除去してゴム層を追加すると、最初の3つの実験の個別の効果からは予測できない相乗効果が得られた。
【0049】
上記の観察は、以下の表1および表2のデータに反映されている。表1は、140℃、18kW、6200rpmで稼働させた高温オイル試験機(「HOL」)からのデータである。従動プーリは、カストロールモーターオイルの槽235に半分ほど浸けられた。HOL試験機のドライブレイアウト230を
図2に示す。プーリ231は20個の溝を備えた原動プーリであり、プーリ232は40個の溝を備えた従動スプロケットである。両方ともRPXプロファイル溝を備えている。アイドラ233の外径は61mmである。テストされたベルト200は常に10mm幅で、9.525mmピッチおよびRPP歯形の85歯を備えている。取り付け張力は160Nである。ベルトの比較例は「比較例」として示し、本発明のベルトの例は「実施例」として示す。
【0050】
表1は、HOL試験機において18kWでテストされた4つのベルトを比較している。時間で示されるベルト寿命は、試験機間のばらつきを考慮して、複数の試験機で複数回試験された制御ベルトの平均を使用して正規化されている。比較例1と比較例2を比較すると、生地中にナイロンが存在する場合、本発明の外側ゴム層を追加してもベルト寿命が改善されないことを示している。比較例3を比較例1、2と比較すると、生地からナイロンを排除してアラミドのみを使用すると、ベルトの寿命が2倍強になることを示している。しかし、アラミドのみの生地と外側のゴム層の両方を組み合わせた実施例4では、比較例1、2と比較してベルト寿命が7~8倍になり、比較例3のベルト寿命の略3倍となっている。言い換えれば、外側のゴム層は、驚くべきことに、アラミドからなる生地、つまりナイロンを含まない生地の場合にのみプラスの効果を生み出すようである。
【0051】
本発明のベルトの故障モードが改善されていることにも注目することは重要である。比較対象のベルトは全て、過剰なフランクの摩耗と歯底の摩耗、およびある時点での層間剥離により破損し、最終的には歯の切断につながっている。本発明のベルトは、重大な磨耗が見られる前に歯元の亀裂が発生するという、より一般的に許容可能な方法で破損する傾向がある。本発明のベルトの歯元の亀裂も歯の切断を引き起こすが、長い寿命は、致命的な故障が発生する前にユーザに亀裂を見つけてベルトを交換する機会を与えるはずであり、歯底やフランクの摩耗がないことは、摩耗屑はなくならなくとも摩耗屑の問題を大幅に改善する。
【表1】
【0052】
表2は、上記の高温オイル試験機(「HOL」)からのデータを示すが、より高い負荷である22kWで動作させている。このような高負荷では、ベルトの寿命が100時間未満に短縮される可能性があり、必要以上に加速された故障モードにより信頼性の低い数値比較や推定が行われる可能性があることに注意すべきである。それでも表2に見られる傾向は表1と合致しており、そのため本発明の長所を例証するものである。比較例1および6は、同一のベルト構造である。実施例4および11は、本発明の同一のベルト構造である。比較例5~8は、生地内のナイロンがベルト寿命を許容できないほど短くしていることを示している。実施例9は、ナイロンをアラミドに置き換えることにより寿命がいくらか改善されることを示している。実施例10と11は、2つの異なるアラミド生地の外側ゴム層によりベルト寿命が大幅に長くなる(最大9倍)ことを示している。これら2つの本発明のベルトは、生地の縦糸に使用されるアラミドの種類が異なる。前述したように、ベルトの故障モードは、比較例のベルトにおける深刻な磨耗および摩耗屑から、本発明のベルトにおける歯元の亀裂へと変わる。比較例7と8の比較は、フルオロエラストマーの使用が外側コーティングに非フッ素化ポリマーを使用することと同等であることを示している。比較例7のフルオロエラストマーは、更にPTFE粉末添加剤が含まれていたが、依然として深刻な摩耗を示した。
【表2】
【0053】
表3は、異なる外側ゴム層組成を有するが、それ以外は全て上記実施例4、11と同じ構造を有する4つの異なるベルトについて示している。これらのベルトは、米国特許出願公開第2020/0141283A1号公報に記載されているようなモータ駆動によるエンジンテストで走行させた。ベルトは等しく465時間稼働させ、その後、取り外して検査した。表3の各比較例、実施例において、試験レイアウトは
図3に示すようにクランクシャフトに連結された電気モータによって駆動される3気筒エンジン上のデュアルオーバーヘッドカムドライブであった。この3気筒エンジンは、フォードモーターカンパニーによって製造された1.0L Foxエンジンとして知られている。
標準のオイルウェットタイミング駆動装置は、様々なテストドライブに対応するために変更された。この比較では、全てのベルトは幅10mm、歯数116で、油温140℃でカストロールマグネテック 5W-20オイルを使用してオイルウェットの状態で走行された。テストレイアウト240には、アイドラ244と、RPP歯形を有するベルト200に適合するRPX溝断面形状および9.525mmピッチを有する19本の溝を有する原動プーリ、すなわちクランクプーリ243と、38本の溝を有する従動カムプーリ242、245を備える。原動プーリの速度は4750rpmであった。
【0054】
表3の結果は、ゴム層は変えられるが、全ての組成が同じではないことを示している。比較例12は、PTFEを添加したHNBRを含むゴム外層が、接着の問題と、問題となる耐摩耗性を有することを示している。互換性のあるプライマーを使用した場合でも、接着の問題はBIOテストの終了時には明らかとなる。実施例13は、フルオロポリマー添加剤を含まない典型的なHNBRゴム組成物が摩耗の問題を解決でき、BIO用途においてある程度の有用性を有する可能性があることを示しているが、同様に接着の問題もいくつかある可能性がある。実施例14は、より高いACNレベルを有する別のHNBR組成物であり、比較例12または実施例13よりも高い耐油性を提供すると予想される。実施例14もフルオロポリマー添加剤が含まれていない。実施例14は、比較例12の摩耗問題を大幅に回避するが、接着力の改善やプライマー利用の余地がまだあり得る。前述したように、実施例14は、接着プライマーの潜在的な有用性を示す。上記実施例14および11と同じ外側ゴム組成を有する実施例15は、RFS接着促進成分のおかげで接着の問題を示さない。耐摩耗性も問題ない。実施例8、10、11、15で使用された外側ゴム接合剤(セメント)は、全ての実施例における接着ゴム接合材(セメント)と同じである。
【0055】
表3における材料は、ドリルプレス試験と呼ばれる乾式摩耗試験でもテストされた。イチジク。
図4は、ここで使用されるドリルプレス試験400を示す。このテストでは、ジャケットが0.75インチ(内径19mm)の穴が設けられた1.1インチ(外径28mm)の円形に切り取られる。得られたジャケットリング410は、ゴム基板415に加硫される。ジャケット接触面420は、7kgの接触力の下、約200rpmで72時間、回転するアルミディスク425の対向面430によって摩滅される。失われた重量は、ジャケットの耐摩耗性とサンプルによって生成された摩耗屑の量を示す。
【0056】
当然のことながら、比較例12のPTFEは、この乾式テストで最も滑らかになる。しかし驚くべきことに、実施例13、15は、比較例12よりも僅かに重量が減少するだけで、ほぼ同等の性能を備えている。したがって、本発明のジャケットおよびベルトは、オイルウェットの用途だけでなく、ドライベルトの用途にも有用である可能性がある。
【表3】
【0057】
外側ゴム層の有用かつ好ましい組成範囲は、以下のように要約できる。特定用途における要求に応じて、多くの成分が置き換えられたり、他の成分が含まれたり、一部が省略されたりする可能性があるため、この説明は限定することを意図したものではない。ベースエラストマーは、例えば35~45重量%の範囲のACN量、0~10%の範囲、または好ましくは0~4%の範囲の不飽和レベルを有するHNBRである。アクリレートおよびメタクリレート助剤は、例えば、0または5~40PHR、好ましくは10~30PHRの範囲で存在する。
補強充填剤は、20~80PHR、好ましくは30~70PHRの範囲のカーボンブラックおよび/またはシリカであってもよく、好ましくは30~50PHRのシリカを含む。取り扱いおよび物理的特性の要望に応じて、酸化防止剤、加工助剤、過酸化物硬化剤およびコンパチブル可塑剤を添加してもよい。接着促進システムは、0.5、1または2から10PHRまでのレゾルシノールおよびメチレン供与体成分、同量の無水マレイン酸ベースの材料、または他の接着促進材料やシステムを含んでもよい。
【0058】
物理的特性に関しては、外側ゴム層は多くの点でタイミングベルト本体に使用される典型的なHNBRゴム配合と類似しているが、いくつかの顕著な違いがある。ベルト本体、外層ともに耐油性、耐熱性に優れている必要がある。ジャケットがプーリと接触したときのクッション効果を促進するために、外層が本体ゴムよりもいくらか柔らかいことが有利であると考えられている。表4は、実施例4、11および15のベルトに使用される歯ゴム、背ゴム、外側ゴム層の硬さを比較したものである。外側ゴム層は他のベルトゴム成分よりも柔らかい状態から始まり、150℃で168時間熱風加熱老化させた後でも柔らかいままである。歯ゴムまたは背ゴムに繊維が充填され、外層に繊維が存在しない場合、外層の剛性または弾性率は一般に低くなる。表3は、表において他の多くの因子も異なるものの、柔らかい外側ゴム層の方が硬い層よりも優れているという考えを裏付けている。
【表4】
【0059】
いかなる説明も束縛または限定されることを意図するものではないが、ナイロンはアラミドに比べて耐熱油耐性が低いため、ナイロンが布地に存在する限り、BIO用途におけるゴム層の恩恵は受けられないと考えられる。更に、油の多い環境では既に潤滑が行われているため、PTFEまたはその他の潤滑添加剤の存在は不要であると考えられる。したがって、このような潤滑添加剤は非常に優れた耐熱性を持ち、耐摩耗性を促進することが知られているが、BIO用途には想像されるほど役に立たず、実際に接着の問題を引き起こし、耐摩耗性を低下させる可能性がある。最後に、布地に対する従来の処理は、繊維をコーティングしたり織りの輪郭に沿ったりして、油が浸透できる細孔や油が残留するポケットが残るが、本発明のゴム層は布地を完全に密封し、滑らかな耐油性を備える仕上げをベルトの歯と歯底に提供する。
【0060】
図5は、テストまたは油にさらす前の実施例4、11および15のベルトの一部の写真である。
図6は、MERテストで107時間後の外側ゴム層によって提供される光沢のある滑らかな表面を示す同じベルトの写真である。テスト時のオイルのせいで、光沢のある表面が非常に明白である。未使用の新しいベルト表面、またはこのようにわずかに使用されたベルトには、下にある生地の織りの痕跡(多少の波打ちなど)が見られる場合があるが、通常は非常に滑らかで連続的である。
図7は、MERテストで465時間後の実施例15のテストベルトの一部を示す。ここでも、歯と歯底を含むプーリの接触面は非常に滑らかで光沢があり、生地が露出されている兆候はない。対照的に、
図8は、約152時間のMERテスト後の、プーリ接触面に外側ゴムコーティングのない従来技術のベルト(例えば比較例9)の一部を示す。この布地は、油中で試験したにもかかわらず光沢がなく、繊維コーティングは織物を埋めておらず、表面は本発明のベルトのように連続的で滑らかではない。
【0061】
本発明およびその利点を詳細に説明してきたが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書において様々な変更、置き換え、および修正を行うことができることを理解されたい。更に、本出願の範囲は、本明細書に記載されるプロセス、機械、製造、物質の組成、手段、方法、およびステップの特定の実施形態に限定されることを意図するものではない。当業者であれば、本明細書の説明で対応する実施形態と同等の機能を果たし、実質的に同等の結果をもたらす、現在の、または今後開発されるプロセス、機械、製造、物質の組成物、手段、方法、またはステップが、本発明に従って利用され得ることを本発明の開示から容易に理解でるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、そのようなプロセス、機械、製造、物質の組成、手段、方法、またはステップをその範囲内に含むことが意図されている。本明細書に開示される本発明は、ここで具体的に開示されていない要素がなくても適切に実施することができる。
【国際調査報告】