(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-18
(54)【発明の名称】プラズマ処理プロセスおよびその装置
(51)【国際特許分類】
C12N 7/00 20060101AFI20240910BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20240910BHJP
C12M 1/42 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C12N7/00
C08J7/00 306
C08J7/00 CEP
C08J7/00 CES
C12M1/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024510242
(86)(22)【出願日】2022-08-22
(85)【翻訳文提出日】2024-04-10
(86)【国際出願番号】 EP2022073345
(87)【国際公開番号】W WO2023021221
(87)【国際公開日】2023-02-23
(32)【優先日】2021-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】516236805
【氏名又は名称】ネクサバイオーム リミテッド
【氏名又は名称原語表記】NexaBiome Limited
【住所又は居所原語表記】West of Scotland Science Park,Block 2,Unit 1 & 2,Kelvin Campus,2317 Maryhill Road,Glasgow G20 0SP United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,ジェイソン リチャード
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4F073
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB13
4B029DG10
4B029FA15
4B029GA08
4B029GB10
4B029HA10
4B065AA98X
4B065AA98Y
4B065AC14
4B065BD50
4B065CA56
4F073AA01
4F073AA08
4F073BA03
4F073BA08
4F073CA01
4F073CA21
(57)【要約】
本発明は、分子または生体高分子を付着させた製品を製造するための方法、および当該方法を実施するための装置に関する。上記方法は、(a)基材から離れた位置においてプラズマを発生させる工程と、(b)プラズマに曝した基材を生体高分子に接触させる工程とを含む。好適には、高分子はバクテリオファージである。したがって、本発明の製品および方法は、当該製品または当該製品と接触している材料の細菌汚染を予防し改善するためのものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に生体高分子を共有結合によって付着させる方法であって、
(a)該基材から離れた位置にてプラズマを発生させる工程と、
(b)該プラズマに曝した該基材を該生体高分子に接触させる工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記プラズマを移動させて前記基材を該プラズマに曝す工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生体高分子が、減圧条件下または真空下で前記基材に接触する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記発生したプラズマを流体によって移動させて前記基材を該プラズマに曝す、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記生体高分子がクテリオファージであり、好ましくは、該バクテリオファージが感染性を保持している、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記曝露工程がチャンバ内で行われる、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記生体高分子が前記基材の実質的にすべての表面に付着している、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記基材が粉末である、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記粉末を回転ドラム内に配置する工程を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記基材が布である、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記基材が紙である、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記基材が医療機器である、請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
生体高分子を基材に共有結合によって付着させるための装置であって、
(a)処理エリアまたは処理チャンバと、
(b)該処理エリアまたは処理チャンバから離れた位置にてプラズマを発生させるための手段と、
(c)該処理エリアまたは処理チャンバ内の物体を該生体高分子に接触させるための手段と
を備える、装置。
【請求項14】
前記装置が前記プラズマを前記処理エリアまたは処理チャンバに移動させるための手段をさらに備える、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記処理エリアまたは処理チャンバが回転ドラムを備え、好ましくは、該回転ドラムが前記装置から取り外しが可能である、請求項13または14に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子または高分子、特に生体高分子を付着させた製品を製造するための方法および装置に関する。このような高分子としては、バクテリオファージが挙げられる。したがって、本発明の方法および製品は、当該製品と接触しているかあるいは関連付けられている材料の細菌汚染を予防し改善するためのものである。
【背景技術】
【0002】
バクテリオファージまたはファージは、細菌を特異的に感染および死滅させるウイルスであり、1915年に最初に特定された。その生活環の一部として、このウイルスは、細菌宿主を感染および死滅させ、それにより子孫を放出し、子孫は他の宿主を感染させ続けることができる。細菌を効率的に死滅させるこのような能力は、細菌感染を治療するために治療的に使用され得るという示唆をもたらした。ファージ療法として知られるこの手法については、人間および動物の両方において有効性を示す査読付き文献が長年にわたって公表されている。しかし、ファージは、生物学的実体であるため、温度、紫外(UV)光およびpHなどの一般的な環境ストレスによって不活性化されやすい。ファージ適合性配合物は、安定性を高めることができるので、ファージ製品の有用性を高めるために研究されており、例としては、ゲル、クリーム、カプセル化ファージなどが挙げられる。商用展開のためにファージを安定化させる技術として提案されている1つの方法は、固定化を用いることである。
【0003】
固定化とは、分子を直接、あるいはリンカーの使用を介して表面に化学結合、生理化学結合または静電結合させることを言う。固定化は、バクテリオファージをはじめとする様々な生体分子を表面に付着させるために使用されており、ファージ固定化の分野における研究は、そのほとんどが病原体バイオセンサの開発のために行われている。固定化により、ファージを特定の位置に局所化し保持することができるので、ファージは、いくつかのメカニズムによって様々な基材に付着されてきたが、この付着は、リンカーの使用を介して間接的に行われるのが通例である。尾部を有するファージの場合、細菌への結合およびDNA注入を促進するには、「尾部を上にした(tail-up)」姿勢が非常に好適である。すなわち、付着は、バクテリオファージのキャプシッドまたは頭部を介して行い、それにより、尾部(バクテリオファージのうち標的細菌に接触し結合する部分)を基材から遠ざかる方向に向け、細菌への結合およびDNA注入を促進してもよい。固定化ファージがその標的細菌に感染する能力に対して影響を及ぼす別の要因は、コーティングの密度および効率である。表面全体に均一な密度でファージを一様に塗工できることが望ましい。その理由は、再現性がもたらされるということと、ファージのクラスター化および不均一な固定化によって、効率的なバクテリオファージ機能が阻害されることが観察されているということである。
【0004】
出願人は、例えばコロナ放電の使用によって、通電させたプラズマを直接基材に照射することにより、ファージを基材に共有結合によって付着させることができることを以前に示している。コロナ放電とは、電場によって加速する荷電粒子(例えば電子およびイオン)の流れである。コロナ放電は、中性分子との高速粒子衝突を引き起こすのに十分高い電圧が空気または他のガスを充填した空間ギャップに印加されて、より多くのイオンが生成された場合に発生する。コロナ放電は、プラスチックの表面を処理して接着性を付与するとともに濡れ性を高めるために適用されている。コロナ放電は、大気圧で発生する。これは、低温(あるいはコールド)プラズマが真空を必要とするのとは対照的である。プラズマを発生させるエネルギーを表面に直接印加することは、一次プラズマとして知られている。これに対し、二次プラズマは、プラズマ発生に用いられる高エネルギー源からの通電粒子の拡散および連鎖から生じる。
【0005】
一次(すなわち直接)プラズマまたはコロナ放電によって表面を処理することで大量のエネルギーが表面に付与され、それによりフリーラジカルおよび他の高電荷部分が形成され、ファージまたは他の生体分子が共有結合することが可能となる。コロナは、化学反応体として表面処理に広く使用されている。処理対象材料および所望の表面特性によって、最適なコロナガス組成、放電パラメータおよび作業手順が非常に異なり得る。工業的に非常に重要な用途は、ポリマーの表面処理、特に、その濡れ性および接着性を高めて印刷、塗装、封止およびコーティングを容易にするための表面処理である。例えば、高電位電極と接地電極との間にプラスチックフィルムを通過させると、イオン化ガス粒子の一部がプラスチックの表面と化学反応し、それにより、当該表面に反応性基が導入され、表面粗さが増加する。
【0006】
コロナ放電は、プラズマを発生させるための手段であり、本出願人は、その直接印加によってファージが基材に効果的に固定化されることを示した。物質の第4の状態とも呼ばれる場合があるプラズマは、可視光線および紫外線を放射する、励起しかつ不安定なイオン化した原子および分子からなる、少なくとも部分的にイオン化したガス状媒体である。物質に連続的にエネルギーを供給すると、その温度は上昇し、物質は、通常固体から液体に、次いで気体へと変わる。エネルギーを供給し続けると、物質は、気体の中性原子または中性分子がエネルギー衝突により分解するさらなる状態変化を起こし、負に帯電した電子および正または負に帯電したイオンを生成する。プラズマ中で生成されるその他の化学種としては、励起状態のガス分子、準安定化合物、分子フラグメントやラジカルなどの高エネルギー非荷電粒子が挙げられる。プラズマは電気的に中性であるため、陽イオン、陰イオンおよび電子をこれらの電荷の合計がゼロとなる量で含有している。プラズマ相は、純ガスまたは混合ガスの外部励起(最も一般的には電気励起)を行うことによって実験室内で得られる。
【0007】
「プラズマ」という用語は、密度および温度が数桁異なる広範な系に用いられる。熱平衡プラズマとして一般に知られる一部のプラズマは、非常に高温であり、それらの微視的な化学種(イオン、電子等)は全て、ほぼ熱平衡状態にある。系に投入されるエネルギーは、原子/分子レベルの衝突によって広く分散される。例としては、火炎性(flame-based)プラズマが挙げられる。火炎性プラズマは、高温の気体温度で作用し、本来、酸化性である。これは、堆積プロセスに適用される場合、火炎性プラズマが大きな制限を有することを意味する。このような高温ガスにおいては、堆積したコーティングにおいて前駆体の化学構造および/または機能性を維持することは不可能である。さらに、使用される高いプロセス温度は、熱の影響を受けやすい基材と適合しない。
【0008】
しかし、他のプラズマ、具体的には、衝突の頻度が比較的低い低圧(例えば100Pa)のプラズマは、広範な種々の温度でその成分である化学種を有し、「非熱平衡」プラズマと呼ばれる。非熱平衡においては、自由電子が数千ケルビン(K)もの温度で非常に高温であるのに対し、中性化学種およびイオン化学種は低温のままである。自由電子の質量はほとんど無視できるので、系全体の熱容量は小さく、プラズマは室温付近で作用し、それにより、損傷を与えるような熱負荷をかけることなく、プラスチックまたポリマーといった温度の影響を受けやすい材料を処理することができる。
【0009】
表面の直接コロナ処理(すなわち一次プラズマ)は、十分理解されている効率的な処理手段であるが、いくつかの欠点がある。直接コロナ処理は高レベルのエネルギーを表面に付与するので、紙および細繊維などの不安定な表面は、当該処理によって破損しやすいため効果的に処理することが困難である。さらに、処理後の材料は、通常、電極と接地との間の隙間を通過させる必要があるため、基材の高さを数センチ低くしなければならず、形状が不規則な物体の処理が不均一となる。コロナ放電は効率的である一方、より大きな隙間を埋めるためには電力を指数関数的に増加させることが必要となるが、そのような電力の増加は、急激に実現不可能となってきている。
【0010】
プラズマを発生させるいくつかの手段が当該技術において示されている。1つのタイプのプラズマは、一般に、拡散誘電体バリヤ放電(diffuse dielectric barrier discharge)と呼ばれる(その一形態は、大気圧グロー放電と呼ぶことができる(Sherman, D. M.ら、J. Phys. D.; Appl. Phys. 2005, 38 547-554))この用語は、一般に、放電により、プロセスガスの破壊がプラズマギャップにわたって均一に起こり、プラズマチャンバの幅および長さにわたって均質なプラズマが発生される、グロー放電および誘電体バリヤ放電の両方を包含するように用いられる。(Kogelschatz, U. 2002 “Filamentary, patterned, and diffuse barrier discharges” IEEE Trans. Plasma Sci. 30, 1400-8)。これらは、真空および大気圧の両方で発生され得る。大気圧拡散誘電体バリヤ放電の場合、プラズマを発生させるプロセスガスとして、ヘリウム、アルゴンまたは窒素を含むガスが利用され、高周波数(例えば>1kHz)電源を用いて、大気圧で電極間に均質または均一なプラズマを発生させる。
【0011】
大気圧プラズマによって、開放ポート型または開放周縁型システムが産業界に提供され、それにより、例えばウェブ状基材をプラズマ領域から自由に出し入れすることができるようになり、ひいては、大面積ウェブもしくは小面積ウェブ(例えば材料のロール)、またはコンベヤ搬送される個別の被加工物を製造ラインで連続的に加工処理することが可能となる。高圧動作によって化学種の流量が高くなることにより、処理量は大きい。繊維製品、包装、紙、医療、自動車、航空宇宙等の多くの産業部門は、連続的な製造ライン処理にほぼ完全に依存しているので、大気圧での開放ポート/周縁構成のプラズマによって新たな産業処理の可能性が提供される。
【0012】
国際公開第02/28548号は、真空用途およびいくつかのパルス式用途に対する制限を解消するプロセスを記載している。拡散誘電体バリヤ放電などの大気圧プラズマ放電と噴霧前駆体とを組み合わせることによって、前駆体の機能性の大部分を維持する様々なコーティングを堆積させることができる。この技術を用いることにより、制御されたフリーラジカル重合が行われ、モノマー構造は有意に保持される。
【0013】
後放電プラズマシステムは、隣接しおよび/(または同軸の)電極間に速い流速でガスを通過させてプラズマを発生させるために開発された。これらのガスは、電極の形状によって規定されるプラズマ領域を通過し、大気圧付近で励起しおよび/または不安定な混合ガスの形態でシステムを出る。これらの混合ガスは、実質的に荷電化学種を含まないことを特徴とし、プラズマ領域、すなわち、プラズマが発生される隣接電極間の隙間から離れた下流での用途で利用され得る。この「大気圧後プラズマ放電」(APPPD)は、低圧グロー放電およびAPGDの物理的特徴のいくつか(例えば、グロー、活性な発光化学種の存在、および化学反応性)を有する。しかし、いくつかの明らかな特有の相違(例えば、APPPDがより高い熱エネルギーを有するということ、境界壁がないこと(例えば電極が無い)、荷電化学種が実質的に存在しないこと、ガスおよび混合ガスの広範な選択肢、ガスの高い流速)が存在する。この種のシステムは、米国特許第5807615号、米国特許第6262523号および国際公開第2005/039753号に記載されている。
【0014】
ホットフィラメント化学蒸着(HFCVD)は、ポリマーコーティングを基材に堆積させる代替的な方法であり、プラズマ促進化学蒸着(PECVD)とは異なり、フリーラジカルに基づくCVDプロセスの開始にプラズマを使用しないが、熱CVD反応の開始に加熱フィラメントを使用する。HFCVDを使用する近年の研究は、フリーラジカル開始剤を蒸気モノマーに添加することにより、得られる重合コーティングにおけるモノマーの機能性の保持が向上し得ることを示している(例えば、Gleasonら、Langmuir, 2002, 18, 6424)。
【0015】
フリーラジカル重合反応を開始させるために触媒を使用することは周知であり、一般的に使用される技術である。例えば、国際公開第0034341号は、オレフィン重合のための異種触媒を記載している。米国特許第5,064,802号、第5,198,401号および第5,324,800号もまた、オレフィン重合のための選択的な触媒を記載している。米国特許第2,961,245号は、ペルフルオロアルカンスルホン酸などの同種開始剤、および連鎖停止剤として用いられるトリオルガノシリル末端を有する直鎖オルガノシロキサンの存在下での、フッ素化炭化水素ラジカルを含有するシクロトリシロキサンの重合を記載している。したがって、脱揮後にフッ素化シリコーン油が得られる。触媒は、必要に応じて、蒸留または洗浄により除去される。欧州特許第0822240号は、アクリレート、オルガノシランおよび硬化触媒からなるコーティング樹脂組成物を開示している。
【0016】
さらに、米国特許第7,250,195号は、生体材料(アミノ酸およびタンパク質を含むがバクテリオファージを含まない)を基材に堆積させるための真空チャンバに導入されるコロナ放電を発生させることを開示している。国際公開第2014/134297号は、バクテリオファージが共有結合できる基材の表面にカルボン酸残基を形成することにより、当該表面にバクテリオファージを共有結合によって付着させる方法を開示している。
【0017】
上記のプラズマ発生方法の使用を含む、表面改質のための一次プラズマおよび二次プラズマの使用は、十分に確立されている。典型的には、被覆される基材は容器内に配置され、プラズマが発生される。次いで、このプラズマに被覆分子を導入することによりプラズマ重合反応が起こり、非共有結合によってポリマーが基材に堆積する。このような処理の多くの例が当該技術において公知である。例えば、米国特許第5,876,753号は、標的材料を固体表面に付着させるためのプロセスを開示しており、このプロセスは、低出力可変デューティサイクルパルスプラズマ蒸着(low power variable duty cycle pulsed plasma deposition)によって炭素質化合物を表面に固着させる工程を含む。また、欧州特許第0896035号は、基材およびコーティングを有するデバイスを開示しており、当該コーティングは、少なくとも1つの有機化合物または有機モノマーを含むガスのプラズマ重合によって基材に塗工される。同様に、国際公開第00/20130号は、適切に置換されたアルキンを含有するプラズマに固体基材を曝すことによって当該基材に疎水性コーティングを堆積させるためのプロセスを記載している。欧州特許第0095974号は、真空下でのプラズマの塗工前に、基材表面に塗工された予備調製済み支持フィルムを重合するためのプロセスを記載している。ラジカル開始剤を、予備調製済みフィルム中で増感剤として使用してもよい。同様に、国際公開第2003/089479号は、フリーラジカル重合性化合物と、フリーラジカル光開始剤であってよい光潜在性化合物との両方を含む組成物を液状形態で3次元基材表面に塗工し、その後、真空チャンバ内でプラズマ処理する方法を記載している。Charles W. Paul, Alexis T. Bell および David S. Soongは (Macromolecules 1985, 18, 2312 - 2318において)フリーラジカル開始剤を用いたメチルメタクリレートの重合の開始を記載している。フリーラジカル開始剤は、真空グロー放電プロセスで生成される。米国特許第3962486号は、衝撃を発生させかつ粒子を流動させて基材表面を被覆するのに十分な力および速度で、樹脂粒子を高温(例えば350°F)(175℃)にて基材に向かって駆動することにより、硬化済み熱硬化性コーティングをプラズマ噴霧する方法を記載している。
【0018】
国際公開第97/38801号は、表面の分子調整(molecular tailoring)方法を記載しており、当該方法は、反応性官能基(固体基材の表面において化学活性を実質的に保持する)を有するコーティングをパルス状プラズマおよび連続波プラズマを用いて堆積させるために使用されるプラズマ堆積工程を含む。国際公開第03/084682は、ソフトイオン化プロセスを用いて重合性有機酸もしくは重合性酸無水物および/または重合性有機塩基を活性化させ、その後、活性化されたモノマーを基材表面に堆積させることにより、保護コーティング組成物を生成する方法を記載している。
【0019】
米国特許第7250195号は、プラズマを用いて生物学的分子を基材に堆積させる方法を記載しているが、長期安定性を可能にするためにそれらの生体分子を迅速に塗工する必要性については記載していない。さらに、米国特許第7250195号は、プラズマを用いて処理される基材ではなく、プラズマを用いて処理される生物学的分子について記載している。
【0020】
真空プラズマを用いて粉末を処理する方法が当該技術において示されている。例えば、国際公開第2010142953号は、回転ドラムと、グロー放電によってプラズマを発生させる中心電極とを用いて、小粒子、具体的にはカーボンナノチューブを処理する方法を記載しているが、これは、これらの粒子の表面化学を改質するためのものに過ぎず、これらの粒子に分子または生体分子を付着させるメカニズムは提供しておらず、むしろ、カーボンナノチューブの分解方法を提供している。国際公開第2012076853号は、導電性接触体の存在下で小粒子を処理するための同様の方法を提供しているが、処理後の黒鉛粒子に分子を付着させる方法については同じく提供していない。
【0021】
プラズマ媒介固定化の使用の1つの用途は、様々な表面に対するバクテリオファージの固定化である。国際公開第03/093462号は、化学的方法または放電を用いて固定化バクテリオファージを基材に共有結合によって付着させることができ、当該バクテリオファージは、自由に拡散することが不可能となるが、細胞を感染させる能力を保持し、それにより、その後細菌溶解を引き起こして遊離バクテリオファージを放出させることを開示している。国際公開第2007/072049号では、パルスフィールドコロナ放電を使用するための方法が開発されており、放電によって活性化された粒子がバクテリオファージ溶液に浸漬される。同様に、国際公開第2012/175749号では、バクテリオファージ溶液を活性化種子と組み合わせている。バクテリオファージの治療用途は公知である。国際公開第03/093462号は、抗菌剤として使用するための生物学的活性を保持させながらウイルス(特にバクテリオファージ)を固定化するための方法を開示している。バクテリオファージの自然環境が水性であることから、国際公開第03/093462号に開示される脱水に対する安定性は、水性媒体中での自然安定に向かう傾向があると広く考えられている。国際公開第2012/175749号には、バクテリオファージを付着させた小粒子が記載されており、これらの小粒子は、開示されている当該粒子の細菌汚染を改善する食品との組合せに適している。国際公開第2014/049008号には、細菌感染の治療または予防に特に適した、バクテリオファージを付着させ小粒子が記載されている。Wangら(2016)1は、酸素雰囲気中での1分間の低圧プラズマ処理(放電処理の一形態)により、バクテリオファージの表面への付着が向上したことを示している。分子または高分子(ファージを含む)の安定な結合を可能にするこのような表面の処理は、「活性化」と呼ばれる。コロナ放電または他のプラズマ発生電気方法による表面活性化は周知である(例えば、Bartonら(2003)2;Canavanら(2006)3;Recekら4;Kerkeniら(2013)5等)を参照)。)工業的実施(例えば印刷)において、このような電気処理によって表面の親水性(濡れ性)が高まり、それによって接着性が向上することは周知である。水素結合の増加によって接着性をこのように増大させることは、共有結合を達成するために上記特許に記載される電気的に活性化された表面とバクテリオファージとの間の急速な接触を使用することとは異なる。
【0022】
なお、ファージを基材に共有結合によって付着させるためのこれまでに記載した方法は、一次プラズマ、すなわち、表面に対するプラズマの直接放射に依存している。プラズマの直接放射においては、通常、電極と接地との間に基材を通過させ、それによって、エネルギーの大部分が表面に付与される。これは、基材に対するファージの共有結合を可能にするために提案されている唯一の方法である。表面を十分に活性化するためには高レベルのエネルギーが必要とされるからである。共有結合による固定化は、最も永続的かつ非可逆的な付着形態であり、このことは、共有結合によって固定化されたファージが、長期間にわたって剪断力または超音波分解力(sonication)に曝された後も、基材に結合した状態を維持する能力を有していることから分かる。共有結合による手法によって結合効率を高めることができることは研究によっても判明している。1つの研究では、自発的な物理吸着と比較して結合効率が37倍高くなったことが報告されている(Hirschら,2010)6。処理後の材料の表面にファージを共有結合によって付着させるためには、表面の反応性は依然として高く、また、共有結合の形成が可能になるように、ファージは、当該表面に迅速に塗工されなければならない(<1分、ただし、理想的には可能な限り早く)。共有結合による付着は、固定化によってもたらされる安定化という利点を最大限にするために必要である。
【0023】
表面処理に様々な二次プラズマを利用することは当該技術において周知であるが、このような利用は、表面に対する表面改質(および基材の非共有結合)に限定されている。このようなコーティング方法は大部分の用途に充分であるが、バクテリオファージなどの大きな生体分子の共有結合による固定化に特有の要件には対応していない。この要件とは、基材およびその表面との間に共有結合を形成することによって、このような生体分子を安定化させるということである。従来、生体分子の共有結合による安定化が示された場合、これは、基材に対するプラズマ/コロナの直接放射(例えば、活性化中の基材を電極と接地との間に通すことによって一次プラズマに曝す)によるものであり、このような直接処理は、共有結合の形成を可能にするために必要な高エネルギー条件に必要であるとされていた。しかし、これには、処理できる物体の形状が制限され、また、熱の影響を受けやすい物体を処理するためにプロセスを慎重に調整する必要があるという制限があった。紙および一部の粉末は、いずれも、生体分子の共有結合による付着を可能にするように基材を活性化するために必要なエネルギーに直接曝された場合、燃焼による損傷を受けやすいことが示されている。
【0024】
したがって、間接的にプラズマを用いて材料を処理し、熱に不安定な基材、または通常のプラットフォームもしくはベルト搬送式装置を用いて再現性良く処理することが困難な基材へのバクテリオファージの固定化および安定化を可能にする方法の開発が必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の目的は、生体高分子(例えばバクテリオファージ)を基材に固定化することを可能にするために、粉末、粒子および固体基材を含む基材を処理するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
したがって、本発明は、基材に生体高分子を共有結合によって付着させる方法であって、
(a)基材から離れた位置においてプラズマを発生させる工程と、
(b)プラズマに曝した基材を生体高分子に接触させる工程と
を含む、方法を提供する。
【発明の効果】
【0027】
上記方法により、以下の利点が得られる。
活性化に使用されるプラズマは、処理中の物体から離れた場所で最初に発生させることができる;
液体または気体などのキャリア流体を塗工することによって生体高分子を基材に塗工することができる;
生体高分子は、プラズマ活性化後、迅速に(<1分)表面に塗工され、固定化(すなわち共有結合による付着)が可能となる。したがって、表面活性化のエネルギーは、生体高分子(例えばバクテリオファージ)をはじめとする生体分子の永続的な化学結合、好ましくは共有結合(固定化)を可能にするのに十分高くすることができ;および/または
生体高分子は、固定化後、完全活性または部分活性を保持することができる。
二次プラズマは、一次プラズマよりも高い拡散電位を有するため、複雑な微細構造組織(例えば細孔)または他の表面不規則性を有する基材は、より均一に処理される。
二次プラズマおよび/または真空プラズマにより、従来可能であったものと比較してより多様な基材を処理することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
物体は、当該物体に対して分子または高分子を付着させるための基材を提供する。したがって、物体および基材という用語は、本明細書において同義で用いられる。
【0029】
上記分子または高分子は、生体分子または生物学的実体であってもよい。生体分子あるいは生物学的分子は、1つまたはそれ以上の生物学的プロセス(例えば、バクテリオファージ感染、免疫反応、細胞分裂、形態形成、または成長)において活性である生物内に存在する分子である。生体分子としては、タンパク質、炭水化物、脂質および核酸などの大きな高分子(あるいはポリアニオン)ならびに一次代謝産物、二次代謝産物および天然産物などの小分子が挙げられる。この種の材料のより一般的な名称が、生体材料である。したがって、生体分子は、抗体、サイトカインまたは他のシグナル伝達分子であってもよい。これに代えて、あるいはこれに加えて、多量体タンパク質もしくは抗体、またはウイルスなどの生物学的実体であってもよい。好ましくは、高分子はウイルスであり、最も好ましくは、高分子はバクテリオファージである。
【0030】
したがって、本発明に係る基材に固定化されたバクテリオファージは、細胞溶解を介して細菌の選択的な殺滅を誘導することによって「殺菌剤」として、または菌体の増殖を阻害することによって「静菌剤」として、株特異的細菌感染と戦うために利用され得る。基材に固定化されたバクテリオファージは、細菌性汚染材料を「滅菌」するために抗菌剤/消毒剤として使用することもできる。したがって、バクテリオファージは、固定化の際に感染性を保持するのが好ましい。
【0031】
「基材」という用語は、適切な放電に基材を曝した後に分子または高分子が固定化され得る任意の固相材料を意味すると理解される。基材は多くの形態をとり得るが、例えば、治療/医学で一般的に使用される材料で形成されてもよい。例えば、手術で使用されるナイロン糸;開放創の手当てに使用されるプラスチック、リントまたはガーゼ材料;マイクロビーズ(摂取可能);接着剤(例えばシアノアクリレート);および/または生体物質(例えばコラーゲンまたはヒアルロン酸)などが挙げられる。当該材料は、タンパク質およびバルク材料(例えば、セルロースまたは他の植物由来ポリマー)を含有する食品または飼料粒子であってもよい。より好ましくは、当該材料は粉末であってもよく、当該粉末は、ナイロン、アミノ表面基もしくはカルボキシル表面基を有する任意の他のポリマー、セルロースまたは他のヒドロキシル含有ポリマー、ポリスチレンまたは他の類似ポリマー、磁性粒子を含有する種々のプラスチックまたはマイクロビーズ、カオリンなどの粘土、および生物学的物質を含み得る。
【0032】
基材は、布であってもよい。布としては、天然布および合成布が挙げられる。布は、織布であっても不織布であってもよい。布は、同じ布または異なる布の層で積層されてもよい。天然布としては、綿、絹、デニム、フランネル、麻、皮革、リネン、ビロードおよびウールが挙げられる。合成布としては、ナイロン、ポリエステル、アセテート、アクリルおよびレーヨンが挙げられる。
【0033】
本発明に係る「活性化された/活性化する/活性化」という用語は、基材を様々な化学基と反応させる(バクテリオファージ頭部またはキャプシド基に結合可能な表面化学を残して)ことによる当該基材の活性化を意味すると理解される。本発明において、基材の活性化は、二次プラズマによる間接処理によって行われる。すなわち、使用されるプラズマは、別のチャンバで発生される、基材は上記電極を直接通過しない。分子または高分子と活性化された基材とが接触することにより、当該分子または高分子と当該基材との間に共有結合が形成される。したがって、本発明の文脈における「付着させる」という用語の使用は、共有結合による付着を意味する。
【0034】
上記引用文献に記載されたものを含む様々な形態のプラズマ発生が本発明に適合しており、また、電気エネルギーまたは電磁波エネルギーによって発生されたプラズマも含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
流体とは、その分子が自由に互いにすれ違い移動する、連続した無定形物質であり、当該流体が収容されている物の形状をとる傾向を持つ。したがって、液体または気体は、流体物質である。
【0036】
本発明の方法による生成物は、本発明の方法に従って処理され得る。
【0037】
有利には、一部の二次プラズマ(例えば、周囲温度付近で存在する)を使用することにより、上記プロセスを用いて表面を処理することが可能となる。低温プラズマ(60℃以上)は、付着した分子の生物学的活性を維持するのに適合しているためである。
【0038】
生体高分子は、減圧条件または真空下で、典型的には1~100mbarの圧力で基材に接触してもよい。
【0039】
発生されるプラズマは、真空プラズマであってもよい。
【0040】
上記方法は、不活性ガス、好ましくは、アルゴンまたは窒素を導入することによって減圧状態または真空を解除する工程をさらに含んでもよい。
【0041】
プラズマは、プラズマを基材に曝すための流体によって移動させてもよく、好ましくは、流体はガスであり、好ましくは、基材をプラズマに曝すことによって基材の活性化が行われる。
【0042】
本発明の好適な使用において、バクテリオファージは感染性を保持している。
【0043】
プラズマは、空気をイオン化することによって発生されてもよい。あるいは、プラズマは、不活性ガス(例えば、窒素,ネオン、アルゴンまたはクリプトン)の雰囲気において最大1気圧で発生されてもよい。
【0044】
プラズマは、10kHz~50Mhzの周波数を有する高周波エネルギーにガスを曝すことによって発生されてもよい。
【0045】
プラズマは、10~10000ワット(W)の電力を使用する電極を用いて発生されてもよい。好ましくは、電極の電力は200Wまたは400Wであり、最も好ましくは、200Wである。
【0046】
基材は、1~100秒の範囲の時間にわたってプラズマに曝してもよい。
【0047】
基材は、曝露工程と接触工程との間、定位置のままとしてもよい。したがって、曝露工程はチャンバ内で行われるのが好ましく、チャンバは密閉可能であるのがより好ましく、チャンバは真空または大気圧よりも低い圧力を維持するのに適していることが最も好ましい。また、活性化された基材を当該基材に付着させる物質に接触させる工程は、同じチャンバ内で行われるのが好ましい。
【0048】
生体高分子は、本発明の方法を用いて、基材の実質的に全ての表面に付着させてもよい。
【0049】
基材のうち、バクテリオファージが未付着のままである面積は、1mm2以下である、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【0050】
基材は、直径100μm未満の表面特徴を有してもよい。基材は、100μm未満の表面凹部または表面窪みを有してもよい。
【0051】
基材は粉末であってもよい。好ましくは、粉末の粒子は、0.5~1000μmの直径を有してもよい。基材は、直径が1~500nmの大きさのナノ粒子であってもよい。粉末の粒子またはナノ粒子の直径は、レーザー回析によって測定してもよい。
【0052】
基材は粒子であってもよい。粒子は、直径50mm以下、好ましくは、直径20mm以下の大きさであってもよい。粒子は、実質的に球状であってもよい。好適には、粒子は食品ペレットであってもよい。食品ペレットは、人間および/または動物による摂取に適している。好ましくは、食品ペレットは、動物飼料としての使用に適している。ペレットは、好ましくは、当該ペレットが位置するかあるいは支持されている表面から測定して高さ1mm~50mmの範囲にあってもよい。ペレットは、実質的に球状、円筒状、または球円筒状であってもよい。
【0053】
粒子および/または粉末のレーザー回析測定に適した装置は、マルバーン・パナリティカル社(英国マルバーン)によって提供されている(例えば、マスターサイザー(商標)装置)。
【0054】
粉末の場合、連続的または断続的に回転するドラム内で基材を撹拌することにより、粒子またはペレット、有利には、さらにはプラズマによるコーティングを得ることができる。したがって、処理中の粉末または処理される粉末は、回転ドラム内に配置されてもよい。回転ドラムを連続的または断続的に回転させて、粉末の撹拌、混転または混合を行ってもよい。回転は、一方向であっても、往復運動であってもよい。
【0055】
好ましくは、ドラムは、プラズマに曝した基材を生体高分子に接触させる工程およびプラズマを基材が当該プラズマに曝されるように移動させる工程のうちのいずれかの工程または両方の工程の間、回転させる。
【0056】
また、物体は、種子(例えば植物種子)であってもよい。種子は、本発明によって有利に処理され得る。なぜなら、コロナ放電による種子の直接処理は、発芽時期に影響を及ぼし、標準散布/播種時期に支障をきたすからである。プラズマによって種子を間接処理することで、発芽時期に影響を与えることなく、生体分子を種子の表面に固定化することができる。本発明による処理に適した種子は、直径10mm以下、好ましくは0.2~5mmの範囲の大きさであってもよい。
【0057】
基材は布であってもよい。布は、織布であっても不織布であってもよい。
【0058】
基材は絹撚糸を含んでもよい。好ましくは、絹撚糸は、平均直径が0.1~100マイクロメートルである。
【0059】
基材は紙であってもよい。好ましくは、紙は、平均重量(グラム/平方メートル;gsm;g/m2)が300g/m2以下である。
【0060】
基材は、プラスチック材料であってもよい。プラスチック材料は、ポリプロピレン、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンコポリマー、ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリスチレン、発泡ポリスチレン;アクリル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン、ナイロン(ポリアミド)、アセタール、ポリカーボネート、アクリレート・スチレン・アクリロニトリル、スチレン・アクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、ポリフェニレンオキシド、エチレン酢酸ビニルから選択されてもよい。好ましくは、プラスチック材料はポリフェニレンサルファイドまたは発泡ポリスチレンである。
【0061】
基材は、インプラントまたはカテーテルなどの複雑な表面トポグラフィを有する物体であってもよく、この場合、二次プラズマがより浸透することにより、不均一な表面をより効率的に処理することが可能となる。さらに、物体は、二次プラズマ、および好ましくは真空プラズマの照射によってより容易に処理されるミクロンおよびサブミクロン範囲の表面特徴を含んでもよい。
【0062】
したがって、本明細書に記載される方法および装置は、標準的なコロナ放電機器に不適合であるかあるいは当該機器では処理不可能な材料を処理するのに特に有利である。このような不適合性は、おそらく、処理対象の物体の大きさおよび/または形状が公知の機器に適合していないことによるものである。これに対して、二次プラズマおよび/または真空プラズマによれば、より一層多様な基材を処理することができる。
【0063】
基材は医療機器であってもよい。医療機器は、整形外科用の関節置換物(joint replacement)またはその部品であってもよい。医療機器は、股関節または膝関節であってもよい。医療機器は、歯科インプラントであってもよい。医療機器は、ステント、好ましくは、血管内ステントであってもよい。
【0064】
医療機器は、本明細書に記載される基材材料のうち1つまたはそれ以上を備えるか包含してもよい。
【0065】
したがって、本明細書に記載される方法および装置は、医療機器を処理するのに特に有利である。このような機器としては、以下が挙げられ得る:
注射器、カニューレ、針;カテーテル;コイル、ガイドワイヤ;医療用のチューブまたはホース;喉頭鏡、腹腔鏡、肛門鏡、直腸、関節鏡、上顎洞内視鏡、皮膚鏡、検眼鏡、S状結腸鏡、耳鏡、網膜鏡、または膣鏡などの内視鏡検査機器;聴診器;検鏡;医療用はさみ;鉗子;医療処置用使い捨てトレーおよびキット;耳洗浄器;耳垢除去具;医療用消毒綿、アプリケーター、検体捕集具、スポンジ、パッド、綿ボール、または綿ロール;整形外科用サポーター、コルセット、ラップ、シューズ、ブーツ、またはパッド;外科用縫合糸およびステープル;ならびに抜糸キット;止血帯;コンドーム;心電図検査機;心臓アブレーション装置および付属品;心臓バルーン(抜取り器具、取外し器具);心臓ペースメーカー;心肺酸素療法機器;心臓ポジショナー、心臓弁;歯科用機器および補給品;骨移植マトリックス(matrix);義歯、歯冠、型、歯列矯正具;歯科医療器械;歯科および口腔インプラントおよびデバイス;血液透析用接続または管挿入キット(connection or tubing kit);植込み型神経刺激器;臍帯クランプ;人工呼吸器および/またはチューブおよび/または付属品;コンタクトレンズ;頸部融合キット;整形外科用プレート/ねじ、固定具、インプラント;外科手術用シャント;組織安定器(tissue stabilizers);外科手術用クリップ;外科手術用器具;外科手術用器具ケース、トレー、マットまたはトレーライナー、ラック、カバー、ラップ、スタンド、ホルダー、ストリンガー、またはプロテクター;外科手術用ステント;外科手術用リネン、ドレープ、またはカバー;胸腔ドレーン;輸血器具;外科手術用清掃キット;創傷ドレナージ器具;ストッキネット;外科手術用メッシュ;電気外科手術機器および/または支持用器具。
【0066】
したがって、本明細書に記載される方法および装置は、フィルタ材料および/またはフィルタ要素を処理するのに特に有利である。また、本明細書に記載される方法および装置は、その大きさおよび/または形状のため、標準的なコロナ放電機器を用いた処理に大きさおよび形状が適合しない水産養殖用のバイオフィルタまたはバイオフィルタ要素もしくはバイオフィルタユニットを処理するのに特に有利である。したがって、本発明に従って処理される物体は、非平面状であってもよい。
【0067】
基材は、製造に使用される繊維が一次プラズマ放射の高温の影響を受けやすいか、あるいは二次プラズマの使用によって処理がより効率的になり得る、洋服、靴、スカーフ、マスクおよび類似品といった着用可能な製品の製造に使用される材料であってもよい。
【0068】
このような製品としては、医療用ガウン、スクラブ、エプロン、制服、実験用白衣、およびつなぎ服、衛生帽子(integrated hoods)、ガウン、スリッパ、アンダーパッド(under pads)または下着、頭髪または髭用カバーおよびネットなどの患者用衣類、医療用シューズおよびブーツカバー、手術用スリーブプロテクター、通気性安全保護メガネおよびゴーグル、使い捨てラテックス手袋、ニトリル手袋、ポリエチレン手袋、ビニール手袋/指サックまたは他の医療用手袋、手術用フェースマスクまたは防塵マスクのいずれを含んでもよい。
【0069】
本発明はまた、生体高分子を基材に共有結合によって付着させるための装置であって、
(a)処理エリアまたは処理チャンバと、
(b)前記処理エリアまたは処理チャンバから離れた位置においてプラズマを発生させるための手段と、
(c)前記処理エリアまたは処理チャンバ内の物体を前記生体高分子に接触させるための手段と
を備える、装置も提供する。
【0070】
上記装置は、前記プラズマを前記処理エリアまたは処理チャンバに移動させるための手段を備えてもよい。
【0071】
処理エリアまたは処理チャンバは、回転ドラムを備えてもよい。好ましくは、回転ドラムは、上記装置から取り外し可能である。
【0072】
回転ドラムは、その内部に配置された粉末の撹拌、混転または混合を可能にする大きさに設定されてもよい。好ましくは、回転ドラムは、上記装置から取り外し可能である。
【0073】
上記装置は、本発明の方法を実行するのに適していてもよい。
【0074】
発生されたプラズマは、基材に吹き付けられてもよく、基材は、移動表面、好ましくはベルト、最も好ましくは連続ベルトなどの搬送機上で、吹き付けられたプラズマを通過して移動する。
【0075】
有利には、脱気可能なチャンバ内に処理対象の基材を入れることにより、真空を用いてプラズマをより効率的に基材に照射することができる。本発明のさらなる形態において、上記チャンバは、例えば、プラズマ添加時に撹拌される粉末および粒子の処理をより効率的に行うことを可能にするように回転するドラムを含む。基材に照射されるプラズマは、真空が形成されているときに照射されるか、あるいは真空が設定された目的圧力に達した時点で照射されてもよい。
【0076】
加えて、基材の周囲に真空が形成された時点で(ただし、生体高分子が基材に導入される前に)、チャンバに別のガスを注入して基材に対する高分子の効率的な結合を促進してもよい。このようなガスまたは混合ガスは、好ましくは、希ガスまたは不活性ガス、好ましくはアルゴンまたは窒素であることが好ましいが、特定の共有結合の形成を促進するためには、反応性ガス(例えば、空気または酸素)であってもよい。
【0077】
本発明のさらなる特徴は、生体分子を添加する前に材料を滅菌し、固定化プロセス全体を通じてその滅菌状態を保持することができることである。
【0078】
プラズマ処理が、プラズマが照射される基材を滅菌することは当該技術において周知である(例えば、Moisanら、(2002). Pure Appl. Chem., Vol. 74, No. 3, pp. 349-358)。基材のこのような滅菌は、例えば、基材を滅菌し、その滅菌状態が保持されるように当該基材に生体分子を塗工する能力が必要とされる、特定の医療機器の処理において適用され得る。1つの例は、人間が利用するためのインプラントの処理にあり、この場合、インプラントは、バクテリオファージが無菌添加される前に、当該インプラントの活性化および滅菌の両方を行うプラズマを用いてチャンバ内で処理されてもよい。これにより、直接埋込み、または流通用梱包の準備ができた無菌医療機器が得られる。
【0079】
次に、添付図面を参照し、本発明を以下の具体的な実施形態で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【
図1a】
図1は、間接プラズマによって処理された、バクテリオファージを塗付したセルロース粉末を示す。粉末の周囲の透明化(clearing)ゾーンは、バクテリオファージがその細菌標的宿主を死滅させた箇所を示している。
図1aは、シャーレ上の細菌叢における透明化の範囲を示す。
【
図1b】
図1bは、粉末粒子を包囲する細菌死滅ゾーンを含む細菌叢上の処理済みセルロース粉末の拡大図を示す。
【
図2a】
図2は、プラズマ発生電極への直接暴露を受けた後、視認可能な程度まで燃焼したセルロース粉末の写真を示す。
【
図2b】
図2は、プラズマ発生電極への直接暴露を受けた後、視認可能な程度まで燃焼したセルロース粉末の写真を示す。
【
図3】
図3は、コロナ放電電極によって発生した電場に曝されたペーパータオルの暴露による視認可能な損傷および燃焼の結果を示す。
【
図4】
図4は、室温(RT)および40℃で保存された、真空プラズマを用いてセルロース粉末に固定化したファージの計算された活性棒グラフを示す。このグラフは、固定化したファージ材料において、吸着コントロールよりも高いバクテリオファージ活性が観察されたことを示す。
【
図5a】
図5は、真空プラズマおよび標準的なコロナによるプラズマを用いたバイオフィルタ・カセット・ユニットの処理を示す。
図5aは、水産養殖システムで使用される、重さ0.2グラムのポリプロピレン製K1バイオフィルタカセットの写真である。
【
図5b】
図5bは、以下の異なる処理後のバイオフィルタカセット上での経時的なバクテリオファージ(ファージ)活性のレベルを示すグラフである。(i)プラズマ処理無しでのバクテリオファージ塗工(「吸着」);(ii)200wの標準的なコロナによるプラズマ(「EST-200w」);(iii)400wの標準的なコロナによるプラズマ(「EST-400w」);(iv)200wの真空プラズマ(「プラズマ-200w」)。
【
図6a】
図6は、真空プラズマを用いて基材を処理するための装置の概略図である。好ましくは、これらの装置は、固定化用の生体分子を単一のチャンバ内で塗工するためのものである。
図6aは、処理される基材を支持するためのプラットフォームを有する装置を示す。
【
図6b】
図6bは、処理される基材として粉末を処理するための装置であって、処理時に粉末を撹拌する回転ドラムを備える装置を示す。
【
図6c】
図6cは、プラズマ源が処理チャンバ内に配置されていることを示す以外は
図6bと同様である。
【
図6d】
図6dは、装置が処理チャンバに不活性ガスを注入するための部品をさらに備えること以外は
図6cと同様である。
【
図7a】
図7は、水産養殖用バイオフィルタ要素/ユニットを真空プラズマで処理した実験の結果を示す。真空プラズマを用いて処理してからファージを添加したバイオフィルタ要素を、未処理のフィルタにバクテリオファージ(ファージ)を添加した場合と比較した結果が示されている。
図7aは、初回処理後に残存していたバクテリオファージの合計の比較を示す。
【
図7b】
図7bは、処理済みのフィルタ要素を濯いだ後に残存していたバクテリオファージの割合の比較を示す。保持されたバクテリオファージの割合は、処理済み材料の方が著しく大きい。
【
図8】
図8は、真空プラズマまたは大気圧プラズマのいずれかを用いて処理し、洗浄して未結合バクテリオファージを除去したプラスチックシートに対するバクテリオファージT4の付着を比較した実験の結果を示す。バクテリオファージを基材に付着させる際、真空プラズマは、大気圧プラズマよりも著しく良好に機能する。
【実施例】
【0081】
(実施例1)
セルロース粉末を、VacuTEC 2020真空プラズマ装置内において200ワットで1分間処理した。活性化後のファージ固定化を可能にする高エネルギー状態を得るため、プラズマをチャンバから排出し、プラズマ除去から<30秒後にファージを粉末に吹き付けた。乾燥後、次いで、粉末を標的細菌叢上に広げるかあるいはまだらに施し、活性を判定した。処理済み材料の周囲にある標的細菌の透明化ゾーンによって
図1に示されるように、いずれの場合においても、処理済み粉末が標的細菌を効率的に死滅させたことが分かる。
【0082】
(実施例2)
セルロース粉末にコロナ放電を直接照射することで粉末が損傷(燃焼)し得ることを実証した(
図2aおよび
図2b)。間接真空プラズマを用いて処理された粉末は、活性化によって損傷していない。
【0083】
(実施例3)
直接コロナ放電(
図3、左)または間接真空プラズマ(
図3、右)のいずれかを用いて処理されたペーパータオルの例。直接処理については、ペーパータオルを7.5kWの直接コロナ放電を通過させ、真空プラズマについては、同一のタオルを200ワットのプラズマ放電中で1分間処理した。直接処理の結果、ペーパータオルは明らかに損傷し、表面に視認可能なスコーチ/燃焼が生じていた。直接処理の電圧を低くすることによって損傷は低減したが、ファージ結合効率も低下した。
【0084】
(実施例4)
セルロース粉末を、0.2mbarにて真空プラズマ処理(200ワット)に30秒間曝した。処理後、粉末にバクテリオファージを塗工し、試料を、プラズマを照射せずに表面にファージを付着させた粉末の試料と共に周囲室温(RT)および40℃(22℃)で保存した。各温度で18日間培養した後、ファージ活性を測定した。結果を
図4に示す。ファージ活性は、吸着試料よりも、真空プラズマを用いて調製した試料のほうが高かった。ファージ活性は、40℃で保存した吸着試料上では検出されなかった。
【0085】
(実施例5)
真空下でのファージの生存を試験するため、φT4の溶液、およびセルロース粉末に固定化したφT4の試料を2つの試料に分けた。ファージ溶液と固定化セルロース粉末とからなる試料を真空プラズマチャンバに添加し、プラズマ活性化を行わずに2ミリバールの大気に30秒間曝した。次いで、溶液および固定化ファージのファージ濃度を評価し、真空に曝さなかった試料のファージ濃度と比較した。下記の表1に結果を示す。真空状態に曝した後のファージ溶液またはファージ材料では、ファージ活性に有意な差異は観察されなかった。
【0086】
【0087】
(実施例6)
水産養殖システムに使用される、重さ0.2グラムのポリプロピレン性K1バイオフィルタカセット(
図5a)を、標準的なコロナによるプラズマまたは真空プラズマのいずれかを用いて処理して活性化した後、ファージを添加した。コロナによる処理については、標準的なベルト供給式装置を使用した。電極高さは、フィルタユニットが電極の下方を通過できるように11mmに設定し、ベルト速度は1m/分に設定した。フィルタユニットの外面全体において、フィルタユニットを2つの異なる電力設定200wおよび400wに供した。また、コントロール(「吸着」)として、コロナ処理を行わずにフィルタユニットを電極に通過させた。真空プラズマ照射については、真空プラズマ装置を200Wに設定し、フィルタを8分間処理した。濃度が3×10
9PFU/ml(プラーク形成ユニット/ml)である精製ファージT4を塗工した。処理から約1分後、1mLのファージ溶液にフィルタユニットを室温で30分間浸漬した。全てのフィルタユニットをバイオセーフティキャビネット内で室温にて16時間乾燥した。
【0088】
ファージ活性は、乾燥前(0日)、乾燥直後(1日)、および35℃で7日間の培養後に評価した。
図5bに示すように、7日目において、真空プラズマ処理済みフィルタは、コロナ処理済みフィルタと比較して活性が約10倍(10×)高く、未処理のフィルタと比較して活性が>100倍高かった
【0089】
(実施例7)
真空プラズマまたは大気圧プラズマのいずれかを用いて処理したプラスチックシートに対するバクテリオファージT4の付着の相対効率を比較するために実験を行った。実験は3部構成とした。要約すると、第1に、真空プラズマにより、T4バクテリオファージをナイロン製矩形片(nylon squares)上に固定した;第2に、未結合バクテリオファージを濯ぎ落した;それから、第3に、残存バクテリオファージを定量した。
【0090】
図8に結果を示す。図中、「コントロール」は、未処理プラスチックを指し、「大気」は、ファージを添加したプラズマ処理済みプラスチックを指し、「真空」は、真空条件下でファージを添加したプラズマ処理済みプラスチックを指す。この実験により、バクテリオファージを基材に固定化する際、真空プラズマは、大気圧プラズマよりも著しく良好に機能することが分かった。
【0091】
第1段階については、VacuLAB-X装置(Tantec A/S、Lunderskov、デンマーク)内で固定化を以下の通り行った。
1.1.5センチ×1.5センチの8個のナイロン製矩形片をシャーレに配置した。
2.シャーレをVacuLabのチャンバ内に配置した。
3.装置の圧力設定を2ミリバール(mBar)に設定し、プラズマタイマーを120秒に設定した。
4.ハッチを閉じ、プラズマサイクルを開始した。
5.サイクル終了後、チャンバのハッチバルブから10mLのT4ファージ溶菌液をシャーレにピペッティングした。
6.真空維持を必要とする試料(
図8の「真空」と表示されたカラム)の場合、パージ工程を回避するため、上記サイクルを終了2行前に停止し、その後、ハッチバルブからファージ溶菌液を添加した。
7.試料を定期的に静かに撹拌しながら室温で2時間放置し、その後、4℃にて保存した。
【0092】
第2段階については、第1段階で作製したナイロン製矩形片の濯ぎ工程を以下の通り行った:
1.滅菌鉗子を用いてナイロン製矩形片を溶液から取り出し、30mL汎用チューブに入れた10mLの0.5%Tween 20のPBS溶液に投入した。
2.汎用チューブを一度逆さにしてから、0.5%Tween 20のPBS溶液を10mL含む別のチューブにナイロン製矩形片を移した。
3.試料を5時間洗浄した後、等量のファージを用いて、残存するバクテリオファージ数を定量した。
【0093】
第3段階については、等量のファージを用いて、バクテリオファージの数を以下の通り定量した。
1.50mLファルコンチューブに入れた10mLの滅菌栄養寒天の液体培地に100μLの一晩培養物を添加することにより、宿主細胞のスターター培養物の培養を開始した。
2.10mLの滅菌液体培地を250mLファルコンチューブに添加した。
3.これらのチューブを最適な温度の振盪培養器に入れて放置し、培養した。
4.0.1gのレシチン顆粒を各チューブに入れた。
5.スターター培養物が0.4のOD600に達した時点で、100μLのスターター培養物を各試料チューブに入れて放置し、25分間培養した。
6.工程2~工程5は、少なくとも6つの対数の範囲をカバーする既知の濃度を有する6つのバクテリオファージ標準液についても並行して行った。
7.各試料を25分間培養した後、対照および標準液を0.2μmフィルタに通して濾過した。
8.各試料、対照および6つの標準液について、プラークアッセイを行った。
9.標準試料から得られた結果を用いて、初期ファージ濃度に対する25分でのファージ濃度の標準曲線をプロットし、それを用いて試験試料に含まれるバクテリオファージの数を定量した。
【0094】
(実施例8)
真空プラズマまたは未処理対照を用いて処理したバイオフィルタ要素に対するバクテリオファージの付着の相対効率を比較するための実験を行った。この実験は、上記実施例7に記載した方法に実質的に従って行った。
図7に結果を示す。この実験により、保持されるバクテリオファージの割合は、処理済み材料の方が著しく多いことが分かった。
【0095】
したがって、本発明は、基材に生体高分子を共有結合によって付着させる方法であって、(a)前記基材から離れた位置においてプラズマを発生させる工程と、(b)前記プラズマに曝した前記基材を前記生体高分子に接触させる工程とを含む、方法を提供する。本発明はまた、生体高分子を基材に共有結合によって付着させるための装置であって、(a)処理エリアまたは処理チャンバと、(b)前記処理エリアまたは処理チャンバから離れた位置においてプラズマを発生させるための手段と、(c)前記処理エリアまたは処理チャンバ内の物体を前記生体高分子に接触させるための手段とを備える、装置もを提供する。したがって、本発明の方法および装置により、以下の特徴のうち1つまたはそれ以上を適用することが可能となる:活性化に使用されるプラズマは、処理中の物体とは別の場所で最初に発生される;生体高分子は、液体または気体などのキャリア流体を塗工することによって基材に塗工される;生体高分子は、好ましくはバクテリオファージの固定化(すなわち、共有結合による付着)を可能にするように、プラズマ活性化後に迅速に(<1分)表面に塗工される;生体高分子は、固定化後に完全活性または部分活性を保持している。
【0096】
(参考文献)
[1]C. Wang, D. Sauvageau, A. Elias Immobilization of Active Bacteriophages on Polyhydroxyalkanoate Surfaces. ACS Appl. Mater. Interfaces 2016, 8, 1128-1138
[2]Barton, D.; Short, R. D.; Fraser, S.; Bradley, J. W. The Effect of Ion Energy upon Plasma Polymerization Deposition Rate for Acrylic Acid. Chem. Commun. (Cambridge, U. K) 2003, 7, 348-349.
[3]Canavan, H. E.; Cheng, X.; Graham, D. J.; Ratner, B. D.; Castner, D. G. A Plasma-Deposited Surface for Cell Sheet Engineering: Advantages over Mechanical Dissociation of Cells. Plasma Processes Polym. 2006, 3, 516-523.
[4]Recek, N.; Mozetic, M.; Jaganjac, M.; Milkovic, L.; Zarkovic, N.; Vesel, A. Adsorption of Proteins and Cell Adhesion to Plasma Treated Polymer Substrates. Int. J. Polym. Mater. 2014, 63, 685-691.
[5]Kerkeni, A.; Behary, N.; Dhulster, P.; Chihib, N.; Perwuelz, A. Study on the Effect of Plasma Treatment of Woven Polyester Fabrics with Respect to Nisin Adsorption and Antibacterial Activity. J. Appl. Polym. Sci. 2013, 129, 866-873.
[6]Hirsh, S. L., Bilek, M. M. M., Nosworthy, N. J., Kondyurin, A., Dos Remedios, C. G., & McKenzie, D. R. (2010). A comparison of covalent immobilization and physical adsorption of a cellulase enzyme mixture. Langmuir, 26 (17), 14380-14388.
【手続補正書】
【提出日】2023-06-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
プラズマ媒介固定化の使用の1つの用途は、様々な表面に対するバクテリオファージの固定化である。国際公開公報第03/093462号は、化学的方法または放電を用いて固定化バクテリオファージを基材に共有結合によって付着させることができ、当該バクテリオファージは、自由に拡散することが不可能となるが、細胞を感染させる能力を保持し、それにより、その後細菌溶解を引き起こして遊離バクテリオファージを放出させることを開示している。国際公開公報第2007/072049号では、パルスフィールドコロナ放電を使用するための方法が開発されており、放電によって活性化された粒子がバクテリオファージ溶液に浸漬される。同様に、国際公開公報第2012/175749号では、バクテリオファージ溶液を活性化種子と組み合わせている。バクテリオファージの治療用途は公知である。国際公開公報第03/093462号は、抗菌剤として使用するための生物学的活性を保持させながらウイルス(特にバクテリオファージ)を固定化するための方法を開示している。バクテリオファージの自然環境が水性であることから、国際公開公報第03/093462号に開示される脱水に対する安定性は、水性媒体中での自然安定に向かう傾向があると広く考えられている。国際公開公報第2012/175749号には、バクテリオファージを付着させた小粒子が記載されており、これらの小粒子は、開示されている当該粒子の細菌汚染を改善する食品との組合せに適している。国際公開公報第2014/049008号には、細菌感染の治療または予防に特に適した、バクテリオファージを付着させ小粒子が記載されている。国際公開第2020/104691号は、(i)基材を(ii)バクテリオファージと組み合わせることによってバクテリオファージを基材に共有結合によって付着させることを記載しており、当該組合せの前または組合せ中、(i)または(ii)、あるいは(i)と(ii)との両方が活性化され、かつ当該組合せ中、バクテリオファージは液滴内に含まれる。Wangら(2016)1は、酸素雰囲気中での1分間の低圧プラズマ処理(放電処理の一形態)により、バクテリオファージの表面への付着が向上したことを示している。分子または高分子(ファージを含む)の安定な結合を可能にするこのような表面の処理は、「活性化」と呼ばれる。コロナ放電または他のプラズマ発生電気方法による表面活性化は周知である(例えば、Bartonら(2003)2;Canavanら(2006)3;Recekら4;Kerkeniら(2013)5を参照)。)工業的実施(例えば印刷)において、このような電気処理によって表面の親水性(濡れ性)が高まり、それによって接着性が向上することは周知である。水素結合の増加によって接着性をこのように増大させることは、共有結合を達成するために上記特許に記載される電気的に活性化された表面とバクテリオファージとの間の急速な接触を使用することとは異なる。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に生体高分子を共有結合によって付着させる方法であって、
(a)該基材から離れた位置にてプラズマを発生させる工程と、
(b)
該基材を該プラズマに曝すことによって該基材を活性化する工程と、
(
c)
該基材が活性化状態にある間に該
活性化された基材を該生体高分子に接触させる
工程であって、該生体高分子が減圧条件下または真空下で該基材に接触する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記プラズマを移動させて前記基材を該プラズマに曝す工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記発生したプラズマを流体によって移動させて前記基材を該プラズマに曝す、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
前記生体高分子がバクテリオファージであり、好ましくは、該バクテリオファージが感染性を保持している、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記曝露工程がチャンバ内で行われる、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記生体高分子が前記基材の実質的にすべての表面に付着している、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記基材が粉末である、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記粉末を回転ドラム内に配置する工程を含む、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記基材が布である、請求項1から
8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記基材が紙である、請求項1から
8のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記基材が医療機器である、請求項1から
10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
生体高分子を基材に共有結合によって付着させるための装置であって、
(a)処理エリアまたは処理チャンバと、
(b)該処理エリアまたは処理チャンバから離れた位置にてプラズマを発生させるための手段と、
(c)
該基材を該プラズマに曝すことによって、該基材を活性化するための手段と、
(
d)
該基材が活性化状態にある間に、減圧条件下または真空下で該処理エリアまたは処理チャンバ内の
基材物体を該生体高分子に接触させるための手段と
を備える、装置。
【請求項13】
前記装置が前記プラズマを前記処理エリアまたは処理チャンバに移動させるための手段をさらに備える、請求項
12に記載の装置。
【請求項14】
前記処理エリアまたは処理チャンバが回転ドラムを備え、好ましくは、前記回転ドラムが前記装置から取り外しが可能である、請求項
12または請求項
13に記載の装置。
【国際調査報告】