(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-18
(54)【発明の名称】両親媒性両性高分子電解質および関連する膜
(51)【国際特許分類】
C08F 220/16 20060101AFI20240910BHJP
C08F 220/02 20060101ALI20240910BHJP
C08F 212/04 20060101ALI20240910BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20240910BHJP
C09D 133/04 20060101ALI20240910BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240910BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240910BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240910BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240910BHJP
B01D 71/40 20060101ALI20240910BHJP
B01D 71/28 20060101ALI20240910BHJP
B01D 71/42 20060101ALI20240910BHJP
B01D 71/32 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C08F220/16
C08F220/02
C08F212/04
C09D5/16
C09D133/04
B01D69/10
B01D69/12
B01D69/00
B01D69/02
B01D71/40
B01D71/28
B01D71/42
B01D71/32
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510272
(86)(22)【出願日】2022-08-22
(85)【翻訳文提出日】2024-04-04
(86)【国際出願番号】 US2022041055
(87)【国際公開番号】W WO2023023395
(87)【国際公開日】2023-02-23
(32)【優先日】2021-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319009901
【氏名又は名称】トラスティーズ オブ タフツ カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】マッツァフェッロ,ルカ
(72)【発明者】
【氏名】アレクシーウ,アイシェ アサテキン
【テーマコード(参考)】
4D006
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006MA09
4D006MA11
4D006MA22
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4D006MC38
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4J100AB02P
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4J100CA05
4J100DA01
4J100JA15
4J100JA18
4J100JA21
(57)【要約】
疎水性繰り返し単位、アニオン性繰り返し単位、およびカチオン性繰り返し単位を含む一連のターポリマー;ならびに、抗ファウリングコーティング、およびポリマーの組成を調節することによって選択率を制御することができる高耐ファウリング性膜フィルターにおける、それらの使用を開示する。本発明はまた、本発明の膜フィルターを用いて、ペプチドおよびタンパク質などの組成物を精製する方法、または水から有機溶質を除染もしくは除去する方法も提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーであって、
(a)複数の疎水性繰り返し単位;
(b)複数のカチオン性繰り返し単位;および
(c)複数のアニオン性繰り返し単位
を含み、前記疎水性繰り返し単位、前記カチオン性繰り返し単位、および前記アニオン性繰り返し単位は、ランダム順序または統計的順序である、ポリマー。
【請求項2】
水に不溶である、請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
カチオン性繰り返し単位対アニオン性繰り返し単位のモル比は、約1.1:1~約1:1である、請求項1または2に記載のポリマー。
【請求項4】
カチオン性繰り返し単位対アニオン性繰り返し単位のモル比は約1である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項5】
ポリマーの正味電荷が-10~+10である、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項6】
カチオン性繰り返し単位対アニオン性繰り返し単位のモル比が、約1超:1、約1.5超:1、または約2超:1である、請求項1または2に記載のポリマー。
【請求項7】
ポリマーの正味電荷が正である、請求項6に記載のポリマー。
【請求項8】
カチオン性繰り返し単位対アニオン性繰り返し単位のモル比が、約1未満:1、約0.67未満:1、または約0.5未満:1である、請求項1または2に記載のポリマー。
【請求項9】
ポリマーの正味電荷が負である、請求項8に記載のポリマー。
【請求項10】
ポリマーの分子量が、約20,000g/mol超、約40,000g/mol超、約60,000g/mol超、約80,000g/mol超、約100,000g/mol超、または約120,000g/mol超である、請求項1~9のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項11】
ポリマーの分子量が約100,000g/mol超である、請求項10に記載のポリマー。
【請求項12】
前記複数の親水性繰り返し単位は、ポリマーの少なくとも約30重量%、少なくとも約35重量%、少なくとも約40重量%、少なくとも約45重量%、少なくとも約50重量%、少なくとも約60重量%、少なくとも約65重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約75重量%、少なくとも約80重量%、少なくとも約85重量%、または少なくとも約90重量%を構成する、請求項1~11のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項13】
前記複数の親水性繰り返し単位は、ポリマーの約30重量%~約99重量%、約30重量%~約90重量%、約40重量%~約90重量%、約40重量%~約80重量%、約40重量%~約75重量%、約40重量%~約70重量%、約45重量%~約75重量%、約45重量%~約70重量%、約50重量%~約80重量%、約50重量%~約75重量%、または約50重量%~約70重量%を構成する、請求項1~11のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項14】
前記複数の親水性繰り返し単位は、ポリマーの約40重量%~約90重量%を構成する、請求項13に記載のポリマー。
【請求項15】
前記複数の親水性繰り返し単位は、ポリマーの約40重量%~約75重量%、好ましくは約50重量%~約70重量%を構成する、請求項13に記載のポリマー。
【請求項16】
前記複数のカチオン性繰り返し単位および前記複数のアニオン性繰り返し単位はそれぞれ、ポリマーの少なくとも約0.5重量%、少なくとも約1重量%、少なくとも約2.5重量%、少なくとも約5重量%、少なくとも約10重量%、少なくとも約15重量%、少なくとも約20重量%、少なくとも約25重量%、少なくとも約30重量%、少なくとも約35重量%、または少なくとも約40重量%を構成する、請求項1~13のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項17】
前記複数のカチオン性繰り返し単位および前記複数のアニオン性繰り返し単位はそれぞれ、ポリマーの約0.5重量%~約30重量%、約0.5重量%~約25重量%、約1重量%~約30重量%、約1重量%~約25重量%、約2重量%~約30重量%、約2重量%~約25重量%、約2.5重量%~約30重量%、約2.5重量%~約25重量%、約5重量%~約30重量%、または約5重量%~約25重量%を構成する、請求項1~16のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項18】
各疎水性繰り返し単位は、2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA)、フッ素化アクリレート、メタクリレート、ペンタフルオロプロピルメタクリレート、ヘプタフルオロブチルメタクリレート、ペンタフルオロフェニルメタクリレート、スチレン、メタクリル酸メチル、およびアクリロニトリルからなる群から独立して選択される、請求項1~17のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項19】
各疎水性繰り返し単位は同じであり、2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA)、フッ素化アクリレート、メタクリレート、ペンタフルオロプロピルメタクリレート、ヘプタフルオロブチルメタクリレート、ペンタフルオロフェニルメタクリレート、スチレン、メタクリル酸メチル、およびアクリロニトリルからなる群から選択される、請求項1~18のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項20】
前記疎水性繰り返し単位は、2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA)である、請求項19に記載のポリマー。
【請求項21】
各アニオン性繰り返し単位は、カルボン酸、スルホネート、ホスフェート、または他のイオン化可能な基もしくは荷電基を含む、メタクリレート、アクリレート、メタクリルアミド、アクリルアミド、スチレンまたはビニル誘導体である、請求項1~20のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項22】
各アニオン性繰り返し単位は、メタクリル酸(MAA)、2-スルホエチルメタクリレート(SEMA)、L-トリプトファン-メタクリルアミド(L-Try-MA)、D-トリプトファン-メタクリルアミド、LまたはD-トリプトファン-アクリルアミド、LまたはD-アラニン-メタクリルアミド、LまたはD-アラニン-アクリルアミド、LまたはD-バリン-メタクリルアミド、LまたはD-バリン-アクリルアミド、LまたはD-イソロイシン-メタクリルアミド、LまたはD-イソロイシン-アクリルアミド、LまたはD-アロ-イソロイシン-メタクリルアミド、LまたはD-アロ-イソロイシン-アクリルアミド、LまたはD-メチオニン-メタクリルアミド、LまたはD-メチオニン-アクリルアミド、LまたはD-フェニルアラニン-メタクリルアミド、LまたはD-フェニルアラニン-アクリルアミド、LまたはD-チロシン-メタクリルアミド、LまたはD-チロシン-アクリルアミド、LまたはD-ヒスタジン-メタクリルアミド、LまたはD-ヒスタジン-アクリルアミド、LまたはD-グルタミン酸-メタクリルアミド、LまたはD-グルタミン酸-メタクリルアミド、LまたはD-アスパラギン酸-アクリルアミド、LまたはD-アスパラギン酸-メタクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸2-カルボキシエチル、コハク酸モノ-2-(メタクリロイルオキシ)エチル、マレイン酸モノ-2-(メタクリロイルオキシ)エチル、4-ビニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム塩、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、アクリル酸3-スルホプロピルカリウム塩、メタクリル酸3-スルホプロピルカリウム塩、3-ビニル安息香酸、4-ビニル安息香酸、2-ビニル安息香酸、4-(2-プロペニル)安息香酸、2-メチル-2-プロペン-1-スルホン酸ナトリウム塩、ビニルスルホン酸ナトリウム塩、ビニルホスホン酸、および(4-エテニルフェニル)メチルホスホン酸からなる群から独立して選択される、請求項1~20のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項23】
各アニオン性繰り返し単位は同じであり、メタクリル酸(MAA)、2-スルホエチルメタクリレート(SEMA)、L-トリプトファン-メタクリルアミド(L-Try-MA)、D-トリプトファン-メタクリルアミド、LまたはD-トリプトファン-アクリルアミド、LまたはD-アラニン-メタクリルアミド、LまたはD-アラニン-アクリルアミド、LまたはD-バリン-メタクリルアミド、LまたはD-バリン-アクリルアミド、LまたはD-イソロイシン-メタクリルアミド、LまたはD-イソロイシン-アクリルアミド、LまたはD-アロ-イソロイシン-メタクリルアミド、LまたはD-アロ-イソロイシン-アクリルアミド、LまたはD-メチオニン-メタクリルアミド、LまたはD-メチオニン-アクリルアミド、LまたはD-フェニルアラニン-メタクリルアミド、LまたはD-フェニルアラニン-アクリルアミド、LまたはD-チロシン-メタクリルアミド、LまたはD-チロシン-アクリルアミド、LまたはD-ヒスタジン-メタクリルアミド、LまたはD-ヒスタジン-アクリルアミド、LまたはD-グルタミン酸-メタクリルアミド、LまたはD-グルタミン酸-メタクリルアミド、LまたはD-アスパラギン酸-アクリルアミド、LまたはD-アスパラギン酸-メタクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸2-カルボキシエチル、コハク酸モノ-2-(メタクリロイルオキシ)エチル、マレイン酸モノ-2-(メタクリロイルオキシ)エチル、4-ビニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム塩、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、アクリル酸3-スルホプロピルカリウム塩、メタクリル酸3-スルホプロピルカリウム塩、3-ビニル安息香酸、4-ビニル安息香酸、2-ビニル安息香酸、4-(2-プロペニル)安息香酸、2-メチル-2-プロペン-1-スルホン酸ナトリウム塩、ビニルスルホン酸ナトリウム塩、ビニルホスホン酸、および(4-エテニルフェニル)メチルホスホン酸からなる群から選択される、請求項1~20のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項24】
前記アニオン性繰り返し単位は、メタクリル酸(MAA)、2-スルホエチルメタクリレート(SEMA)、およびL-トリプトファン-メタクリルアミド(L-Try-MA)からなる群から選択される、請求項23に記載のポリマー。
【請求項25】
前記アニオン性繰り返し単位はメタクリル酸(MAA)である、請求項23に記載のポリマー。
【請求項26】
前記アニオン性繰り返し単位は、2-スルホエチルメタクリレート(SEMA)である、請求項23に記載のポリマー。
【請求項27】
各カチオン性繰り返し単位は、アミン、アンモニウム、ピリジニウム、イミダゾリウム、ホスホニウム、ピロリジニウム、または他のイオン化可能な基もしくは荷電基を含む、メタクリレート、アクリレート、メタクリルアミド、アクリルアミド、スチレンまたはビニル誘導体である、請求項1~26のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項28】
各カチオン性繰り返し単位は、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(MAETA)、[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、4-ビニルベンジル(トリフェニル)ホスホニウムクロリド、(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリドメタクリレート、3-ビニルアニリン、4-ビニルアニリン、2-イソプロペニルアニリン、N-(3-アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩、N-ビニルイミダゾリウム塩、1-アリル-3-ビニルイミダゾリウム塩、l-アリル-2-メチル-5-ビニル-ピリジニウム塩、l-アリル-5-ビニル-ピリジニウム塩、および1-メチル-l-(l-ビニルシクロヘキシル)ピロリジニウムヨージドからなる群から独立して選択される、請求項1~26のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項29】
各カチオン性繰り返し単位は同じであり、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(MAETA)、[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、4-ビニルベンジル(トリフェニル)ホスホニウムクロリド、(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリドメタクリレート、3-ビニルアニリン、4-ビニルアニリン、2-イソプロペニルアニリン、N-(3-アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩、N-ビニルイミダゾリウム塩、1-アリル-3-ビニルイミダゾリウム塩、l-アリル-2-メチル-5-ビニル-ピリジニウム塩、l-アリル-5-ビニル-ピリジニウム塩、および1-メチル-l-(l-ビニルシクロヘキシル)ピロリジニウムヨージドからなる群から選択される、請求項1~26のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項30】
前記カチオン性繰り返し単位は、2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(MAETA)である、請求項29に記載のポリマー。
【請求項31】
前記カチオン性繰り返し単位は、第四級アンモニウム基を含む、請求項1~30のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項32】
(a)複数の疎水性繰り返し単位;
(b)複数のカチオン性繰り返し単位;および
(c)複数のアニオン性繰り返し単位;
から本質的になるかまたそれらからなり、
前記疎水性繰り返し単位、前記カチオン性繰り返し単位、および前記アニオン性繰り返し単位は、ランダム順序または統計的順序である、請求項1に記載のポリマー。
【請求項33】
多孔質基材と、請求項1~32のいずれか一項に記載のポリマーを含む選択層とを含む薄膜複合膜であって、前記多孔質基材の平均有効孔径は前記選択層の平均有効孔径よりも大きく、前記選択層が前記多孔質基材の表面上に配置される、薄膜複合膜。
【請求項34】
前記選択層は、約10nm~約10μmの厚さを有する、請求項33に記載の薄膜複合膜。
【請求項35】
前記選択層は、約10nm~約3μmの厚さを有する、請求項34に記載の薄膜複合膜。
【請求項36】
前記選択層は、約10nm~約1μmの厚さを有する、請求項35に記載の薄膜複合膜。
【請求項37】
前記選択層は、約0.1nm~約2.0nmの平均有効孔径を有する、請求項33~36のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項38】
前記選択層は、約0.1nm~約1.2nmの平均有効孔径を有する、請求項33~36のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項39】
前記選択層は、約0.7nm~約1.2nmの平均有効孔径を有する、請求項33~36のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項40】
前記ポリマーの正味電荷は正であり、薄膜複合膜は正に荷電した溶質および塩を阻止する、請求項33~39のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項41】
前記ポリマーの正味電荷は負であり、薄膜複合膜は負に荷電した溶質および塩を阻止する、請求項33~39のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項42】
前記ポリマーの正味電荷は-10~+10であり、前記選択層は、荷電していない有機分子間でサイズに基づく選択性を示す、請求項33~39のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項43】
前記選択層は、約1.5nm以上の水和直径を有する中性分子に対して約95%以上または約99%以上の阻止率を示す、請求項42に記載の薄膜複合膜。
【請求項44】
前記選択層は抗ファウリング特性を示す、請求項33~43のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項45】
前記選択層は、油エマルジョンによるファウリングに対する耐性を示す、請求項33~43のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項46】
前記選択層は、生体有機高分子(例えば、タンパク質、アルギン酸塩、有機物)の吸着によるファウリングに対する耐性を示す、請求項33~43のいずれか一項に記載の薄膜複合膜。
【請求項47】
固体基材と、請求項1~32のいずれか一項に記載のポリマーを含む層とを含み、前記層が前記固体基材の表面上に配置される、抗ファウリングコーティングを有する材料。
【請求項48】
前記層が約10nm~約10μmの厚さを有する、請求項47に記載の抗ファウリングコーティング。
【請求項49】
前記層が約10nm~約3μmの厚さを有する、請求項47に記載の抗ファウリングコーティング。
【請求項50】
前記層が、約10nm~約1μmの厚さを有する、請求項47に記載の抗ファウリングコーティング。
【請求項51】
ペプチドまたはタンパク質を精製する方法であって、第1の流速で、請求項33~46のいずれか一項に記載の薄膜複合膜を、1つまたは複数のペプチドまたはタンパク質を含む混合物と接触させることを含み、それによって、混合物の一部が前記薄膜複合膜によって保持される、方法。
【請求項52】
水から有機溶質を除去する方法であって、第1の流速で、請求項33~46のいずれか一項に記載の薄膜複合膜を、有機溶質を含む水溶液と接触させることを含み、それによって、有機溶質が薄膜複合膜によって保持される、方法。
【請求項53】
水を除染する方法であって、第1の流速で、請求項33~46のいずれか一項に記載の薄膜複合膜を、水および1つまたは複数の汚染物質を含む混合物と接触させることを含み、それによって、1つまたは複数の汚染物質が薄膜複合膜によって保持される、方法。
【請求項54】
サイズ選択的分離の方法であって、第1の流速で、請求項33~46のいずれか一項に記載の薄膜複合膜を、異なるサイズの1つまたは複数の粒子を含む混合物と接触させることを含み、それによって、特定のサイズの1つまたは複数の粒子が薄膜複合膜によって保持される、方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2021年8月20日出願の米国仮特許出願第63/235,454に対する優先権の利益を主張する。
【政府の支援】
【0002】
本発明は、米国エネルギー省(United States Department of Energy)によって授与された認可番号第DE-FE0031851、および米国国立科学財団(National Science Foundation)によって授与された認可番号第1553661および1904465の下で政府支援により行われた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
ファウリング、または表面への望ましくない材料の堆積は、表面が海水または表面水と接触する多くの用途において深刻な問題である。ファウリング現象は、海洋環境に曝される船体および他の表面1-4、深水油抽出に使用されるパイプおよび他の機器5-9、配管および熱伝達部品10-12、および水濾過膜13-17に影響を及ぼす。ファウリングは、生産性の低下、エネルギー使用の増加、ならびに影響を受ける機器の頻繁な保守およびダウンタイムにより、毎年、著しい経済的影響を引き起こす。したがって、生体高分子、油、および微生物を含有する様々な水溶液に曝露された場合にファウリングに抵抗する材料およびコーティングが必要とされている。
【0004】
ファウリング(または汚損)は、様々な用途、特に供給物が高い有機含有量を有する用途(例えば、水処理および廃水処理、食品および飲料産業、ならびにバイオセパレーション)のための膜の信頼性の高い使用に特に影響を及ぼす障害である。ファウリングによる膜透過性の著しい低下および膜選択性の変化がよく生じる。ファウリング管理は、膜システムに関連するコストの重要な要素であり、より多くのエネルギー使用、ダウンタイム、メインテナンスおよび化学薬品の使用を伴う定期的なクリーニング、並びにより複雑なプロセスを必要とする。
【0005】
加えて、改善された選択性またはより良好な精度で溶質を分離する能力を有する膜は、多くの用途のための膜プロセスの経済的実現可能性およびエネルギー効率の改善をもたらす。例えば、ナノメートルスケールで調整可能な孔径(pore size)および電荷を有する膜は、バイオセパレーション、複雑な廃水の処理、再利用のための電解質溶液からの有機物(例えば、染料)および他の汚染物質の選択的除去、水軟化、逆浸透(RO)による脱塩のための海水の前処理、ならびに二次および三次廃水流出物の最終処理において有用となる。これらの全ての場合において、選択性と耐ファウリング性(fouling resistance)を両立させることが重要である。
【0006】
研究者らは、広範囲の表面化学をスクリーニングして、耐ファウリング性官能基を同定し、耐ファウリング性のメカニズムの理解を得た。彼らは、タンパク質吸着に耐性のある表面が4つの分子レベルの特徴を共有することに注目した:それらは親水性であり、水素結合アクセプター(受容体)を含むが水素結合ドナー(供与体)を含まず、電荷が中性である18、19。PEOブラシ(PEO brush)18、19、マンニトール基20、キメラペプトイド21、22、双性イオン18、23、24、および両性高分子電解質25、26などのいくつかの有望な化学物質が、これらの特徴を共有する。
【0007】
これらのうち、双性イオンは、容易な合成および既存の膜への組み込み(しばしばグラフト化のような後処理方法による)のため、特に膜分野において広範な注目を集めている27、28。双性イオンの性能は、タンパク質吸着18、23、24、29、30および細胞接着23、24に抵抗するための最良の公知のシステムに匹敵する。生体適合性および耐ファウリング性は、ポリマー-水界面における非常に小さな摂動効果に起因する29,31。
【0008】
双性イオンは、同じモノマー単位中にアニオン性基とカチオン性基を有するが、両性高分子電解質(polyampholyte)は、異なるモノマー単位中にアニオン性基とカチオン性基を有する。双性イオンと同様に、両性高分子電解質は優れた耐ファウリング性を示すことができる25、26。先に述べたように、双性イオンは膜システムにおいて広範に研究されてきたが、これは両性高分子電解質には当てはまらない。膜システムにおいて両性高分子電解質が使用される少ない例は、ほとんどの場合、耐ファウリング性を改善するためにアニオン性モノマー単位およびカチオン性モノマー単位のグラフト共重合(UV光または酸化還元による開始)による一般的な限外濾過膜の表面改質を含む26、32。
【0009】
以前の研究は、ランダム双性イオン両親媒性コポリマー(r-ZAC)膜が、水透過のための有効なナノチャネルのネットワークとして作用する双性イオンナノドメインの自己組織化(self-assembly)を介して形成され得ることを実証した33。r-ZAC膜の主な特徴は、優れた耐ファウリング性、約1~1.5nmのサイズカットオフ、および低い塩イオン保持を含む33、34。しかしながら、様々な双性イオン性モノマーを合成することができるが、一握りしか市販されておらず、いくつかは1つの供給業者からしか市販されていない。さらに、ほとんどの双性イオン性モノマーは、多くの溶媒中で溶解度が低く、さらにはそれらの合成の難題が加わる。結果として、大規模に製造される膜に実現可能に変換することができるr-ZAC化学物質の範囲は限られている。一方、イオン性またはイオン化可能なモノマーは、広く入手可能であり、安価であり、典型的には可溶化および合成が容易である。
【0010】
したがって、容易に入手可能なイオン性またはイオン化可能なモノマーから合成することができ、かつ抗ファウリング(anti-fouling)コーティングならびに分離用途に有用な調整可能な膜に使用することができる耐ファウリング性ポリマー材料を開発する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
いくつかの態様において、本発明は、
(a)複数の疎水性繰り返し単位;
(b)複数のカチオン性繰り返し単位;および
(c)複数のアニオン性繰り返し単位;
を含むポリマーであって、疎水性繰り返し単位、カチオン性繰り返し単位、およびアニオン性繰り返し単位は、ランダム順序または統計的順序である、ポリマーを提供する。
【0012】
他の態様では、本発明は、多孔質基材と、本発明のポリマーを含む選択層とを含む薄膜複合膜(thin film composite membrane)であって、多孔質基材の平均有効孔径が選択層の平均有効孔径よりも大きく、選択層が多孔質基材の表面上に配置される、薄膜複合膜を提供する。
【0013】
他の態様では、本発明は、固体基材と、本発明のポリマーを含む層とを含み、層が固体基材の表面上に配置される、抗ファウリングコーティングを有する材料を提供する。
【0014】
さらなる態様では、本発明は、ペプチドまたはタンパク質を精製する方法であって、第1の流速で、本発明の薄膜複合膜を1つまたは複数のペプチドまたはタンパク質を含む混合物と接触させることを含み、それによって、混合物の一部が薄膜複合膜によって保持される方法を提供する。
【0015】
本発明はまた、水から有機溶質を除去する方法であって、第1の流速で、本発明の薄膜複合膜を、有機溶質を含む水溶液と接触させることを含み、それによって、有機溶質が薄膜複合膜によって保持される方法を提供する。
【0016】
本発明はまた、水を除染する方法であって、第1の流速で、本発明の薄膜複合膜を、水および1つまたは複数の汚染物質を含む混合物と接触させることを含み、それによって、1つまたは複数の汚染物質が薄膜複合膜によって保持される方法を提供する。
【0017】
他の態様では、本発明は、サイズ選択的分離の方法であって、第1の流速で、本発明の薄膜複合膜を、異なるサイズの1つまたは複数の粒子を含む混合物と接触させることを含み、それによって、特定のサイズの1つまたは複数の粒子が薄膜複合膜によって保持される方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】3つのモノマー単位の共重合を示すPTMSの化学構造のNMRスペクトルを示す。
【
図2A】PS35ベースの膜上にPTMSをキャストする概略図を示す。
【
図2B】PS35の上部にコーティングされたPTMS(左)およびコーティングされていないPS35(右)のSEM画像を示す。選択層は左に見える。
【
図3】3つのモノマー単位の共重合を示すPTMS-の化学構造のNMRスペクトルを示す。
【
図4】PS35の上部にコーティングされたPTMS-(左)およびコーティングされていないPS35(右)のSEM画像を示す。左に選択層が見える。
【
図5】3つのモノマー単位の共重合を示すPTMS+の化学構造のNMRスペクトルを示す。
【
図6】PS35の上部にコーティングされたPTMS+(左)およびコーティングされていないPS35(右)のSEM画像を示す。左に選択層が見える。
【
図7】3つのモノマー単位の共重合を示すPTMMの化学構造のNMRスペクトルを示す。
【
図8】PS35の上部にコーティングされたPTMM(左)およびコーティングされていないPS35(右)のSEM画像を示す。左に選択層が見える。
【
図9】3つのモノマー単位の共重合を示すPTMT-の化学構造のNMRスペクトルを示す。
【
図10】PS35の上部にコーティングされたPTMT-(左)およびコーティングされていないPS35(右)のSEM画像を示す。左に選択層が見える。
【
図11】PTMS、PTMS-およびPTMS+の水中油型25時間ファウリング試験の結果を示す。これらの膜の初期フラックスを7.75L/m
2.hに設定した。
【
図12】PTMM、ならびに対照として41mol%のTFEMAおよび59mol%のMAAを含むポリ(2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート)-ランダム-ポリ(メタクリル酸)(PTM-)の水中油型25時間ファウリング試験の結果を示す。これらの膜の初期フラックスを7.75L/m
2.hに設定した。
【
図13】3つのモノマー単位の共重合を示すPTMS2の化学構造のNMRスペクトルを示す。
【
図14】PS35の上部にコーティングされたPTMS2(左)およびコーティングされていないPS35(右)のSEM画像を示す。
【
図15】3つのモノマー単位の共重合を示すPTMS3の化学構造のNMRスペクトルを示す。
【
図16】PS35の上部にコーティングされたPTMS3(左)およびコーティングされていないPS35(右)のSEM画像を示す。
【
図17】PTMS、PTMS2、およびPTMS3の水中油型25時間ファウリング試験の結果を示す。これらの膜の初期フラックスを1.2L/m
2.hに設定した。NP030は、同様のサイズカットオフおよびパーミアンスの市販の膜である。
【
図18】PTMS2およびPTMS3の25時間タンパク質ファウリング試験の結果を示す;リゾチーム(左)およびBSA(右)。これらの膜の初期フラックスを1L/m
2.hに設定した。NP030は、同様のサイズカットオフおよびパーミアンスの市販の膜である。
【
図19】異なる-/+電荷比を有するが類似の疎水性モノマー含有量を有するr-PACの自己組織化形態のTEM明視野像を示し、疎水性相(明るい)によって囲まれたイオン性ナノチャネル(暗い)の共連続ネットワーク(bicontinuous network)を示す。(挿入図)イオンドメインの特性周期(characteristic period)に対応する矢印を有する画像のFFT。パネル(a)は、PTMSが約3.1nmの特性周期を示し、約1.55nmの乾燥イオンチャネルサイズをもたらすことを示す。パネル(b)は、PTMS-が約4.5nmの特性周期を示し、約2.25nmの乾燥イオンチャネルサイズをもたらすことを示す。
【
図20】PTMS、PTMS-およびPTMS+の変調DSC分析を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、疎水性繰り返し単位、アニオン性繰り返し単位、およびカチオン性繰り返し単位を組み合わせた新規ファミリーのターポリマー;ならびに調整可能な選択性を有する耐ファウリング性膜フィルターにおけるその使用の発見に基づく。疎水性繰り返し単位、アニオン性繰り返し単位、およびカチオン性繰り返し単位を組み合わせた本発明は、選択膜の形成に使用される最初の両性電解質を表す。本明細書において両親媒性両性高分子電解質(amphiphilic polyampholyte)と称される本発明のターポリマーは、それぞれ少なくとも1%の疎水性モノマー、アニオン性モノマーおよびカチオン性モノマーを含み、周知の重合反応(例えば、フリーラジカル重合)によって共重合される。得られたポリマーは水に不溶性である。
【0020】
次いで、これらのポリマーを使用して、一般的な方法(例えば、ドクターブレーディング、バーコーティング、スプレーコーティング)によってコーティングを形成することができる。これらのコーティングは、ファウリングを遅延または防止することができる。耐ファウリング性は、アニオン性基とカチオン性基が可能な限り1:1のモル比に近い場合、または表面が全体として中性に近い電荷の場合に、最も効果的であると予想される。ファウリングは、膜濾過、船体および橋梁のファウリングの防止、パイプの目詰まりの防止、生体材料などを含む、表面と接触する水溶液を伴う多くの用途における主要な問題である。
【0021】
大きな孔を有する膜にコーティングが適用される場合、得られる膜は、高い耐ファウリング性だけでなく、異なる繰り返し単位間の相互作用(例えば、アニオン性基とカチオン性基との間のクーロン相互作用)によるこのポリマーの自己組織化から生じる選択性も示す。ポリマーが1:1に近い比のアニオン性基とカチオン性基を含有する場合、膜は、他の系ではほとんど見られない優れた耐ファウリング性と共に、<3nmの範囲の有効孔径でほぼサイズに基づく選択性を示す。1つのモノマーが過剰に存在し、膜層に正味の電荷を生じる場合、膜は、良好なサイズに基づく選択性を維持しながら、静電相互作用/ドナン排除(Donnan exclusion)から生じる選択性も有する。これらの膜は、様々な塩の高い阻止率、ならびに電荷に基づく選択性(すなわち、一価のイオンと二価のイオンを分離し、異なる電荷を有する染料を分離する)を示すことが可能であり得る。これらの特性により、水処理および廃水処理、浄水、およびバイオセパレーション、ならびに他の水系分離(aqueous seqaration)における用途が期待される。
【0022】
これらの膜の合成およびコーティングプロセスは、高度にスケーラブルである。この事実は、列挙したいくつかの関連用途と合わせて、その有用性を実証する。
【0023】
ポリマー
特定の態様において、本発明は、
(a)複数の疎水性繰り返し単位;
(b)複数のカチオン性繰り返し単位;および
(c)複数のアニオン性繰り返し単位;
を含むポリマーであって、疎水性繰り返し単位、カチオン性繰り返し単位、およびアニオン性繰り返し単位が、ランダム順序または統計的順序である、ポリマーを提供する。
【0024】
特定の実施形態において、ポリマーは水に不溶性である。
【0025】
特定の実施形態では、カチオン性繰り返し単位対アニオン性繰り返し単位のモル比は、約1.1:1~約1:1.1、または約1.05:1~約1:1.05、または約1.01:1~約1:1.01である。特定の好ましい実施形態では、カチオン性繰り返し単位対アニオン性繰り返し単位のモル比は約1:1である。特定の実施形態では、約1:1であるカチオン性繰り返し単位対アニオン性繰り返し単位の比は、高い耐ファウリング性をもたらす。
【0026】
特定の実施形態において、ポリマーの正味電荷は、-10~+10である。さらなる実施形態において、ポリマーの正味電荷は、-9~+9、-8~+8、-7~+7、-6~+6、-5~+5、-4~+4、-3~+3、-2~+2、-1~+1、または0である(すなわち、ポリマーは中性である)。
【0027】
特定の実施形態では、カチオン性繰り返し単位対アニオン性繰り返し単位のモル比は、約1超:1、約1.25超:1、約1.5超:1、約1.75超:1、または約2超:1である。特定のこのような実施形態では、ポリマーの正味電荷は正である。ある種のこのような実施形態において、ポリマーの正味電荷は+10より大きい。
【0028】
特定の実施形態では、カチオン性繰り返し単位対アニオン性繰り返し単位のモル比は、約1未満:1、約0.8未満:1、約0.67未満:1、約0.57未満:1、または約0.5未満:1である。特定のこのような実施形態では、ポリマーの正味電荷は負である。ある種のこのような実施形態において、ポリマーの正味電荷は-10未満である。
【0029】
特定の実施形態において、ポリマーの分子量は、約20,000g/mol超、約40,000g/mol超、約60,000g/mol超、約80,000g/mol超、約100,000g/mol超、または約120,000g/mol超である。好ましい実施形態では、ポリマーの分子量は約100,000g/mol超である。
【0030】
疎水性繰り返し単位は、水中でのポリマーの膨潤を制限し、水性環境中でのポリマーの安定性を付与する。この疎水性繰り返し単位は、そのホモポリマーが水に不溶性であり、かつ使用温度(例えば、室温)より高いガラス転移温度を有するモノマーに由来し得る。
【0031】
本明細書に記載の用途(例えば、抗ファウリングコーティングおよび膜選択層)における使用のために、本発明のポリマーは、使用条件下で水に不溶性であるのに十分な量の疎水性繰り返し単位を含有する。
【0032】
特定の実施形態では、複数の親水性繰り返し単位は、ポリマーの少なくとも約30重量%、少なくとも約35重量%、少なくとも約40重量%、少なくとも約45重量%、少なくとも約50重量%、少なくとも約60重量%、少なくとも約65重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約75重量%、少なくとも約80重量%、少なくとも約85重量%、または少なくとも約90重量%を構成する。好ましい実施形態では、複数の親水性繰り返し単位は、水に不溶性であるポリマーをもたらすために、ポリマーの少なくとも約30重量%または少なくとも約45%を構成する。
【0033】
特定の実施形態では、複数の親水性繰り返し単位は、ポリマーの約30重量%~約99重量%、約30重量%~約90重量%、約40重量%~約90重量%、約40重量%~約80重量%、約40重量%~約75重量%、約40重量%~約70重量%、約45重量%~約75重量%、約45重量%~約70重量%、約50重量%~約80重量%、約50重量%~約75重量%、または約50重量%~約70重量%を構成する。
【0034】
特定の実施形態において、複数の親水性繰り返し単位は、ポリマーの約40重量%~約90重量%を構成する。特定のこのようなポリマーは、抗ファウリングコーティングにおいて使用され得る。
【0035】
特定の実施形態では、複数の親水性繰り返し単位は、ポリマーの約40重量%~約75重量%、好ましくは約50重量%~約70重量%を構成する。特定のこのようなポリマーは、選択膜層において使用され得る。
【0036】
抗ファウリングコーティングに有用なポリマーの特定の好ましい実施形態では、これら両親媒性両性高分子電解質は、約30~99重量%(好ましくは40~90重量%)の疎水性モノマーと、それぞれ0.5~40重量%(好ましくは2.5~25重量%)のアニオン性モノマーおよびカチオン性モノマーとを含み、アニオン性単位対カチオン性単位のモル比は、可能な限り1:1に近い。
【0037】
特定の実施形態では、複数のカチオン性繰り返し単位および複数のアニオン性繰り返し単位はそれぞれ、ポリマーの少なくとも約0.5重量%、少なくとも約1重量%、少なくとも約2.5重量%、少なくとも約5重量%、少なくとも約10重量%、少なくとも約15重量%、少なくとも約20重量%、少なくとも約25重量%、少なくとも約30重量%、少なくとも約35重量%、または少なくとも約40重量%を構成する。
【0038】
特定の実施形態では、複数のカチオン性繰り返し単位および複数のアニオン性繰り返し単位はそれぞれ、ポリマーの約0.5重量%~約30重量%、約0.5重量%~約25重量%、約1重量%~約30重量%、約1重量%~約25重量%、約2重量%~約30重量%、約2重量%~約25重量%、約2.5重量%~約30重量%、約2.5重量%~約25重量%、約5重量%~約30重量%、または約5重量%~約25重量%を構成する。
【0039】
特定の実施形態では、複数の疎水性繰り返し単位は、異なる疎水性モノマーの混合物を含む。
【0040】
例えば、いくつかの実施形態では、各疎水性繰り返し単位は、2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA)、フッ素化アクリレート、メタクリレート、ペンタフルオロプロピルメタクリレート、ヘプタフルオロブチルメタクリレート、ペンタフルオロフェニルメタクリレート、スチレン、メタクリル酸メチル、およびアクリロニトリルからなる群から独立して選択される。
【0041】
さらなる実施形態では、各疎水性繰り返し単位は同じであり、2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA)、フッ素化アクリレート、メタクリレート、ペンタフルオロプロピルメタクリレート、ヘプタフルオロブチルメタクリレート、ペンタフルオロフェニルメタクリレート、スチレン、メタクリル酸メチル、およびアクリロニトリルからなる群から選択される。特定の好ましい実施形態では、疎水性繰り返し単位は2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA)である。
【0042】
いくつかの実施形態では、アニオン性繰り返し単位は、使用条件下で負電荷を帯びる。すなわち、いくつかの実施形態において、アニオン性繰り返し単位は、約pH4.0、約pH4.5、約pH5.0、約pH5.5、約pH6.0、約pH6.5、約pH7.0、約pH7.5、約pH8.0、約pH8.5、約pH9.0、約pH9.5、約pH10.0、約pH10.5、約pH11.0、または約pH11.5、あるいはそれらより高いpHで、水溶液中において負電荷を帯びる。
【0043】
アニオン性繰り返し単位は、カルボン酸、スルホネート、ホスフェート、または使用条件下で負電荷を帯びる他のイオン化可能な基もしくは荷電基を含む、メタクリレート、アクリレート、メタクリルアミド、アクリルアミド、スチレンまたはビニル誘導体から選択され得る。
【0044】
特定の実施形態では、複数のアニオン性繰り返し単位は、異なるアニオン性モノマーの混合物を含む。
【0045】
例えば、いくつかの実施形態では、各アニオン性繰り返し単位は、メタクリル酸(MAA)、2-スルホエチルメタクリレート(またはメタクリル酸2-スルホエチル)(SEMA)、L-トリプトファン-メタクリルアミド(L-Try-MA)、D-トリプトファン-メタクリルアミド、LまたはD-トリプトファン-アクリルアミド、LまたはD-アラニン-メタクリルアミド、LまたはD-アラニン-アクリルアミド、LまたはD-バリン-メタクリルアミド、LまたはD-バリン-アクリルアミド、LまたはD-イソロイシン-メタクリルアミド、LまたはD-イソロイシン-アクリルアミド、LまたはD-アロ-イソロイシン-メタクリルアミド、LまたはD-アロ-イソロイシン-アクリルアミド、LまたはD-メチオニン-メタクリルアミド、LまたはD-メチオニン-アクリルアミド、LまたはD-フェニルアラニン-メタクリルアミド、LまたはD-フェニルアラニン-アクリルアミド、LまたはD-チロシン-メタクリルアミド、LまたはD-チロシン-アクリルアミド、LまたはD-ヒスタジン-メタクリルアミド、LまたはD-ヒスタジン-アクリルアミド、LまたはD-グルタミン酸-メタクリルアミド、LまたはD-グルタミン酸-メタクリルアミド、LまたはD-アスパラギン酸-アクリルアミド、LまたはD-アスパラギン酸-メタクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸2-カルボキシエチル、コハク酸モノ-2-(メタクリロイルオキシ)エチル、マレイン酸モノ-2-(メタクリロイルオキシ)エチル、4-ビニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム塩、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、アクリル酸3-スルホプロピルカリウム塩、メタクリル酸3-スルホプロピルカリウム塩、3-ビニル安息香酸、4-ビニル安息香酸、2-ビニル安息香酸、4-(2-プロペニル)安息香酸、2-メチル-2-プロペン-1-スルホン酸ナトリウム塩、ビニルスルホン酸ナトリウム塩、ビニルホスホン酸、および(4-エテニルフェニル)メチルホスホン酸からなる群から独立して選択される。
【0046】
さらなる実施形態では、各アニオン性繰り返し単位は同じであり、メタクリル酸(MAA)、2-スルホエチルメタクリレート(SEMA)、L-トリプトファン-メタクリルアミド(L-Try-MA)、D-トリプトファン-メタクリルアミド、LまたはD-トリプトファン-アクリルアミド、LまたはD-アラニン-メタクリルアミド、LまたはD-アラニン-アクリルアミド、LまたはD-バリン-メタクリルアミド、LまたはD-バリン-アクリルアミド、LまたはD-イソロイシン-メタクリルアミド、LまたはD-イソロイシン-アクリルアミド、LまたはD-アロ-イソロイシン-メタクリルアミド、LまたはD-アロ-イソロイシン-アクリルアミド、LまたはD-メチオニン-メタクリルアミド、LまたはD-メチオニン-アクリルアミド、LまたはD-フェニルアラニン-メタクリルアミド、LまたはD-フェニルアラニン-アクリルアミド、LまたはD-チロシン-メタクリルアミド、LまたはD-チロシン-アクリルアミド、LまたはD-ヒスタジン-メタクリルアミド、LまたはD-ヒスタジン-アクリルアミド、LまたはD-グルタミン酸-メタクリルアミド、LまたはD-グルタミン酸-メタクリルアミド、LまたはD-アスパラギン酸-アクリルアミド、LまたはD-アスパラギン酸-メタクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸2-カルボキシエチル、コハク酸モノ-2-(メタクリロイルオキシ)エチル、マレイン酸モノ-2-(メタクリロイルオキシ)エチル、4-ビニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム塩、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、アクリル酸3-スルホプロピルカリウム塩、メタクリル酸3-スルホプロピルカリウム塩、3-ビニル安息香酸、4-ビニル安息香酸、2-ビニル安息香酸、4-(2-プロペニル)安息香酸、2-メチル-2-プロペン-1-スルホン酸ナトリウム塩、ビニルスルホン酸ナトリウム塩、ビニルホスホン酸、および(4-エテニルフェニル)メチルホスホン酸からなる群から選択される。
【0047】
特定のこのような実施形態では、アニオン性繰り返し単位は、メタクリル酸(MAA)、2-スルホエチルメタクリレート(SEMA)、およびL-トリプトファン-メタクリルアミド(L-Try-MA)からなる群から選択される。好ましい実施形態では、アニオン性繰り返し単位はメタクリル酸(MAA)である。他の好ましい実施形態では、アニオン性繰り返し単位は2-スルホエチルメタクリレート(SEMA)である。
【0048】
いくつかの実施形態では、カチオン性繰り返し単位は、使用条件下で正電荷を帯びる。すなわち、いくつかの実施形態では、カチオン性繰り返し単位は、約pH1.0、約pH1.5、約pH2.0、約pH2.5、約pH3.0、約pH3.5、約pH4.0、約pH4.5、約pH5.0、約pH5.5、約pH6.0、約pH6.5、約pH7.0、約pH7.5、約pH8.0、約pH8.5、約pH9.0、または約pH9.5、あるいはそれら未満のpHで、水溶液中において正電荷を帯びる。
【0049】
カチオン性繰り返し単位は、アミン、アンモニウム、ピリジニウム、イミダゾリウム、ホスホニウム、ピロリジニウム、または使用条件下で正の電荷を帯びる他のイオン化可能な基もしくは荷電基を含む、メタクリレート、アクリレート、メタクリルアミド、アクリルアミド、スチレンまたはビニル誘導体から選択され得る。 好ましい実施形態では、カチオン性繰り返し単位は、第4級アンモニウム基のような強いカチオン電荷を帯びる。
【0050】
特定の実施形態では、複数のカチオン性繰り返し単位は、異なるカチオン性モノマーの混合物を含む。
【0051】
例えば、いくつかの実施形態では、各カチオン性繰り返し単位は、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(MAETA)、[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、4-ビニルベンジル(トリフェニル)ホスホニウムクロリド、(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリドメタクリレート、3-ビニルアニリン、4-ビニルアニリン、2-イソプロペニルアニリン、N-(3-アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩、N-ビニルイミダゾリウム塩、1-アリル-3-ビニルイミダゾリウム塩、l-アリル-2-メチル-5-ビニル-ピリジニウム塩、l-アリル-5-ビニル-ピリジニウム塩、および1-メチル-l-(l-ビニルシクロヘキシル)ピロリジニウムヨージドからなる群から独立して選択される。
【0052】
さらなる実施形態では、各カチオン性繰り返し単位は同じであり、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(MAETA)、[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、4-ビニルベンジル(トリフェニル)ホスホニウムクロリド、(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリドメタクリレート、3-ビニルアニリン、4-ビニルアニリン、2-イソプロペニルアニリン、N-(3-アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩、N-ビニルイミダゾリウム塩、1-アリル-3-ビニルイミダゾリウム塩、l-アリル-2-メチル-5-ビニル-ピリジニウム塩、l-アリル-5-ビニル-ピリジニウム塩、および1-メチル-l-(l-ビニルシクロヘキシル)ピロリジニウムヨージドからなる群から選択される。
【0053】
特定の実施形態では、カチオン性繰り返し単位は、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(MAETA)である。
【0054】
特定の好ましい実施形態では、カチオン性繰り返し単位は、第四級アンモニウム基を含む。
【0055】
ある実施形態では、ポリマーは、
(a)複数の疎水性繰り返し単位;
(b)複数のカチオン性繰り返し単位;および
(c)複数のアニオン性繰り返し単位;
から本質的になるか、またそれらからなり、
疎水性繰り返し単位、カチオン性繰り返し単位、およびアニオン性繰り返し単位は、ランダム順序または統計的順序である。
【0056】
本発明のポリマーは、本明細書に提供される実施例に従って作製され得る。ポリマーは、周知の重合方法(例えば、フリーラジカル重合)を用いて、ビニルモノマー(例えば、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、スチレン誘導体、アクリロニトリル)から合成され得る。
【0057】
本明細書に記載のポリマーは、以前に調製も研究もされていない。アニオン性モノマーとカチオン性モノマーとの組み合わせは抗ファウリングコーティングとして使用されてきたが、そのような既知の材料への疎水性基の組み込みは、耐ファウリング性を低下させると予測されていた;それにもかかわらず、得られた材料は、全親水性コーティング(all-hydrophilic coating)に匹敵するかまたはさらに超える耐ファウリング性を示す。
【0058】
追加の官能基を有する両親媒性両性高分子電解質はもちろんのこと、両性高分子電解質の自己組織化(self-assembly)は全くよく研究されていない。両親媒性両性高分子電解質の繰り返し単位間の相互作用は、双性イオン両親媒性コポリマー(ZAC)において観察されるものと同じである可能性は低い。
【0059】
さらに、イオン性モノマーまたはイオン化可能モノマーは、双性イオン性モノマーと比較して、より広く入手可能であり、より安価であり、典型的には可溶化が容易であるため、本発明は有利である。さらに、モノマーの選択肢が豊富であるため、キラルおよび他のバイオセパレーションのためのアミノ酸ベースのモノマーを含む、潜在的に異なる膜性能を有する、アニオン性単位およびカチオン性単位の多様な組み合わせが可能である。
【0060】
本明細書で使用される「両性高分子電解質(polyampholyte)」という用語は、アニオン性に荷電した繰り返し単位およびカチオン性に荷電した繰り返し単位の両方を含有するポリマーである。これらは、典型的には非常に親水性であり、非イオン性基の不在下で水溶性であることが多い。したがって、本発明に記載されるポリマーは、同じ骨格上に疎水性セグメントと両性セグメントの両方が存在するため、「両親媒性両性高分子電解質」と呼ばれる。
【0061】
本明細書で使用される「荷電した」という用語は、種の総価電子数に対して全体的に不足または過剰の電子を運ぶ種を説明するために使用される。
【0062】
本明細書で使用される「アニオン性」という用語は、種の総価電子数に対して全体的に過剰な電子を有する種を指す。
【0063】
本明細書で使用するとき、用語「カチオン性」は、種の総価電子数に対して全体的に不足する電子を有する種を指す。
【0064】
本明細書で使用される「正味電荷」という用語は、カチオン性部分およびアニオン性部分を含むポリマー上の全体的な総電荷を指す。正味電荷は、以下のように算出される:(正電荷の数)-(負電荷の数)。
【0065】
用語「統計的順序(statistical order)」は、構成繰り返し単位の配列が統計的規則に従うポリマーを指す。統計的順序は、化学的に異なるモノマー反応物(または繰り返し単位反応物)の反応速度論によって決定される。いくつかの実施形態では、統計的順序はランダム順序を包含する。
【0066】
「ランダム順序(random order)」を有するポリマー(あるいは「ランダムコポリマー」と称される)は、鎖中の特定の地点で所与のタイプの繰り返し単位を見出す確率がポリマー中のその繰り返し単位のモル分率に等しいポリマーである。
【0067】
膜
本発明の新規なポリマー材料は、表面電荷が制御された高い耐ファウリング性の表面を形成する。したがって、ポリマー材料は、抗ファウリング用途(防汚用途)に有用な膜の調製に有用である。膜は、これらのポリマー材料を多孔質支持体上にコーティングすることによって調製することができ、それは、耐ファウリング性、ならびにポリマーへの過剰電荷の組み込みによる調整可能な電荷に基づく選択性と組み合わせて、<4nmの有効孔径、好ましくは0.5~2nmの間の有効孔径に対応する制御された選択性を提供する。本発明は、ナノ濾過、限外濾過、および逆浸透の用途における用途を有する。
【0068】
抗ファウリングコーティングは、よく知られた方法(例えば、スプレーコーティング、ロールコーティング、塗装)を用いて、様々な表面(例えば、パイプ、船体、水中に浸漬される表面の外側、バイオメディカル材料(biomedical material)に塗布することができる。それらは、水中の表面上への生物有機高分子(例えば、タンパク質、アルギン酸塩、天然有機物)ならびに油の吸着を防止すると予想される。
【0069】
これらの両親媒性両性高分子電解質の別の用途は、選択的な耐ファウリング性膜の選択層としての用途である。膜選択層として使用するためには、ポリマーは、水に不溶性であるが、水に対して透過性である必要がある。したがって、好ましい組成物は、低い疎水性繰り返し単位の含量率(例えば、40~75重量%;好ましくは50~70重量%)を含み、残りはアニオン性繰り返し単位とカチオン性繰り返し単位の組み合わせである。これらの荷電基の比は、溶質の選択性に影響を及ぼす。
【0070】
いくつかの実施形態では、本発明は、多孔質基材と、本発明のポリマーを含む選択層とを含む薄膜複合膜(thin film composite membrane)であって、多孔質基材の平均有効孔径が選択層の平均有効孔径よりも大きく、選択層が多孔質基材の表面上に配置される、薄膜複合膜を提供する。
【0071】
いくつかの実施形態では、選択層は、約10nm~約10μm、または約10nm~約3μm、または約10nm~約1μmの厚さを有する。
【0072】
いくつかの実施形態では、選択層は、約4nm未満の平均有効孔径を有する。さらなる実施形態では、選択層は、約0.1nm~約2.0nm、約0.5nm~約2.0nm、約0.1nm~約1.2nm、約0.5nm~約1.2nm、または約0.7nm~約1.2nmの平均有効孔径を有する。
【0073】
いくつかの実施形態では、ポリマーの正味電荷は正であり、薄膜複合膜は正に荷電した溶質および塩を阻止する。あるいは、いくつかの実施形態では、ポリマーの正味電荷は負であり、薄膜複合膜は負に荷電した溶質および塩を阻止する。
【0074】
いくつかの実施形態において、ポリマーの正味電荷は-10~+10であり;選択層は、荷電していない有機分子間でサイズに基づく選択性を示す。特定のこのような実施形態では、ポリマーの正味電荷は、-9~+9、-8~+8、-7~+7、-6~+6、-5~+5、-4~+4、-3~+3、-2~+2、-1~+1、または0である(すなわち、ポリマーは中性である)。
【0075】
ある実施形態では、選択層は、約1.5nmまたはそれより大きい水和直径を有する中性分子に対して約95%以上または約99%以上の阻止率を示す。
【0076】
特定の実施形態では、選択層は抗ファウリング特性を示す。
【0077】
特定の実施形態では、選択層は、油エマルジョンによるファウリングに対する耐性を示す。
【0078】
特定の実施形態では、選択層は、生体有機高分子(bioorganic macromolecule)(例えば、タンパク質、アルギン酸塩、有機物)の吸着によるファウリングに対する耐性を示す。
【0079】
膜は、当該分野でよく確立されたコーティング方法によって調製される。例えば、ポリマーを適切な溶媒に溶解させる。確立された方法(例えば、ドクターブレーディング、バーコーティング、スプレーコーティング)を使用して、この溶液を多孔質支持体(例えば、精密濾過または限外濾過範囲の大きな細孔を有する膜)上にコーティングする。溶媒を蒸発させる。特定の好ましい実施形態において、コーティングされた膜を、沈殿を加速するために水または別の非溶媒に浸漬させる。生成物は、少なくとも2つの層:機械的完全性を提供する大きな細孔を有する多孔質支持体、および膜の「選択的層」として機能するポリマーの薄い層(好ましくは<10μm、より好ましくは<3μm、さらにより好ましくは<1μm):を含む薄膜複合(TFC)膜である。
【0080】
得られた膜は、中性有機分子のほぼサイズに基づく分離を示す。アニオン性基およびカチオン性基のモル比が約1:1である場合、膜はほぼサイズ選択的である。これらの膜はより耐ファウリング性でもある。
【0081】
異なるモル電荷比は、それらの電荷に基づく溶質の阻止をもたらし、同じサイズの中性溶質よりも荷電溶質の高い阻止率、ならびに塩阻止率の増加をもたらす。電荷比は、おそらく、膜形成中のクーロン相互作用によりポリマーがどのように自己組織化するかを変化させることによって、有効孔径にも影響を及ぼし得る。以下のデータは、過剰な1つの電荷を有するポリマーがより大きな有効孔径を有することを示す。
【0082】
これまでに試験した両親媒性両性高分子電解質TFC膜はすべて、双性イオン両親媒性コポリマー(ZAC)から製造されたものなど、当該分野での最良のものに匹敵する優れた耐ファウリング性を示す34-39。試験した全ての膜(下記の実施例を参照)は、測定可能な不可逆的ファウリングを示さなかった。
【0083】
これらの膜の孔径および正味電荷は、異なるモノマー、異なるモノマー比、および架橋性基を有するモノマー(例えば、1-アリル-3-ビニルイミダゾリウム塩;l-アリル-2-メチル-5-ビニル-ピリジニウム塩;l-アリル-5-ビニル-ピリジニウム塩)を利用することによって調整することができる。
【0084】
さらなる実施形態では、本発明は、固体基材と、本発明のポリマーを含む層とを含み、その層が固体基材の表面上に配置される、抗ファウリングコーティングを有する材料を提供する。
【0085】
ある実施形態では、層は、約10nm~約10μm、または約10nm~約3μm、または約10nm~約1μmの厚さを有する。
【0086】
使用方法
本明細書に記載の膜は、様々な用途、特に、水処理および廃水処理、バイオセパレーション、水の再利用、ならびに医薬品の精製および濃縮を含む、水系分離用途において有用である。廃水処理用途は、水軟化用途、ならびに複雑な高汚染水流、未架橋膜材料を損傷させるようないくつかの溶媒を含むおよび/または高温の水流、ならびに塩分濃度が高く高温である石油およびガス抽出からのフラック水(frac water)または随伴水(produced water)の処理を包含する。
【0087】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される膜は、水処理および廃水処理用途で使用され得る。特定のこのような実施形態において、汚染溶液は、薄膜複合(TFC)膜を通して濾過され、それにより、1つまたは複数の汚染物質がTFC膜によって保持され、溶液から除去される。特定のこのような実施形態では、膜の耐ファウリング性により、溶液が膜を通る安定したフラックスを保持することが可能となる。望ましくない汚染物質は、例えば、有機溶質であり得る。さらなる実施形態では、望ましくない汚染物質は、断片化抗体、凝集抗体、宿主細胞タンパク質、ポリヌクレオチド、エンドトキシン(内毒素)、またはウイルスであり得る。
【0088】
関連する使用において、本明細書に記載される膜は水の再利用用途に使用することができ、汚染水流がTFC膜を通して濾過され、それによって、1つまたは複数の汚染物質がTFC膜によって保持され、濾液は、任意選択で同じ施設内で、および任意選択でさらなる処理後に、再利用される。
【0089】
したがって、特定の実施形態では、本発明は、水から有機溶質を除去する方法であって、本明細書に記載の薄膜複合膜を、第1の流量で、有機溶質を含む水溶液と接触させることを含み、それによって、有機溶質が薄膜複合膜によって保持される方法を提供する。
【0090】
ある実施形態では、有機溶質の実質的に全てが、薄膜複合膜によって保持される。
【0091】
さらなる実施形態では、本発明は、水を除染する方法であって、本明細書に記載される薄膜複合膜を、第1の流速で、水および1つまたは複数の汚染物質を含む混合物と接触させることを含み、それによって、1つまたは複数の汚染物質が薄膜複合膜によって保持される方法を提供する。
【0092】
ある実施形態では、汚染物質の実質的に全てが、薄膜複合膜によって保持される。
【0093】
特定の実施形態では、水溶液または水を含む混合物の流路は、実質的に薄膜複合膜のマクロ細孔(macropore)を通る。
【0094】
ある特定の実施形態において、本発明は、
薄膜複合膜を洗浄するステップ;および
上述のステップを繰り返すステップ
をさらに含む、前述の方法のいずれか1つに関する。
【0095】
さらなる実施形態では、本明細書に記載される膜は、バイオセパレーション用途において使用され得る。そのような実施形態では、薄膜複合膜は、好ましくは、小分子溶質および/または塩の除去を可能にする一方で、ペプチド薬物および他の低モル質量のバイオ医薬品を保持するのに十分に小さい孔径を有する。
【0096】
したがって、特定の実施形態では、本発明は、ペプチドまたはタンパク質を精製する方法であって、本発明の薄膜複合膜を、第1の流速で、1つまたは複数のペプチドまたはタンパク質を含む混合物と接触させることを含み、それによって、混合物の一部が薄膜複合膜によって保持される方法を提供する。
【0097】
ある実施形態では、TFC膜によって保持される混合物の一部は、1つまたは複数のペプチドまたはタンパク質を含む。特定のこのような実施形態では、1つまたは複数のペプチドまたはタンパク質を含む最初の混合物中に存在する1つまたは複数の汚染物質は、TFC膜によって保持されず、むしろ膜を通って流れる。したがって、このプロセスは、所望のペプチドまたはタンパク質を望ましくない汚染物質から分離する。
【0098】
特定の実施形態では、1つまたは複数のペプチドまたはタンパク質の実質的に全てが、薄膜複合膜によって保持される。
【0099】
その方法は、保持されたペプチドまたはタンパク質をTFC膜から放出するステップをさらに含んでいてもよい。このような実施形態では、その方法は、TFC膜によって保持されたタンパク質またはペプチドを第2の流速で第2の流体と接触させ、それによって、保持されたペプチドまたはタンパク質の一部をTFC膜から放出することをさらに含む。
【0100】
第2の流体は緩衝液であり得る。第2の流体は塩を含んでいてもよい。
【0101】
本明細書に記載の膜は、サイズ選択的分離用途にも有用である。膜の孔径および正味電荷は、例えば、異なるモノマー、異なるモノマー比を選択することによって、あるいは構成モノマー上に異なる官能基を架橋することによって、TFC膜の所望の用途に応じて調整され得る。
【0102】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、サイズ選択的分離の方法であって、本明細書に記載の薄膜複合膜を、第1の流速で、異なるサイズの1つまたは複数の粒子を含む混合物と接触させることを含み、それによって、特定のサイズの1つまたは複数の粒子が薄膜複合膜によって保持される、方法を提供する。
【実施例】
【0103】
本開示は、以下の具体的な実施例を参照してさらに説明される。これらの実施例は、例示として与えられ、本開示または特許請求の範囲を限定するものではない。
【0104】
実施例1.ポリ(2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート)-ランダム-ポリ(2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド)-ランダム-ポリ(2-スルホエチルメタクリレート)(PTMS)の合成
この実施例では、以下の3つのモノマー単位を用いてランダムターポリマーを調製した:2-スルホエチルメタクリレート(SEMA、Polysciences)、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(MAETA、Sigma-Aldrich)、および2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA、ACROS Organics)。最初の2つのモノマーは中性活性アルミナ(Sigma-Aldrich)のカラムに通して阻害剤を除去し、最後のモノマーは塩基性活性アルミナ(Sigma-Aldrich)のカラムに通した。SEMA(2.42g、12.4mmol)、MAETA(2.58g、12.4mmol)および2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(5.00g、29.7mmol)をこの順序でジメチルスルホキシド(DMSO、40mL)に溶解した。アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、0.01g、Aldrich)をフラスコに添加した。フラスコをゴム隔膜で密封した。窒素を反応混合物に30分間バブリングして、溶存酸素をパージした。次いで、17時間、300rpmで撹拌しながらフラスコを60℃に保った。反応後、4-メトキシフェノール(MEHQ)1gを添加して合成を停止した。次いで、粘性であることが観察された反応混合物をアセトン中で沈殿させ、新鮮な2回分の体積比1:5のメタノール対アセトンを少なくとも5時間、および新鮮な2回分のアセトンを少なくとも5時間撹拌することによって精製した。最後に、ターポリマーを真空オーブンにおいて60℃で72時間乾燥させた。ターポリマーの組成は、3つの異なるモノマー単位からのプロトンの比率を用いて、
1H-NMRスペクトル(
図1)から算出した。算出された組成は、22mol%のSEMA、22mol%のMAETA、および56mol%のTFEMAであった。この反応の最終転化率は45%であった。
【0105】
実施例2.PTMSからの薄膜複合膜の形成
本実施例では、実施例1に記載のポリマーを用いて膜を作製した。
図2aに概略図を示す。ターポリマー(0.5g)を約25℃でトリフルオロエタノール(TFE、9.5g)に溶解した。ターポリマー溶液を0.45マイクロメートルシリンジフィルター(Whatman)に通し、さらに真空オーブン中で少なくとも1時間脱気した。フィルムアプリケーターロッドを使用して市販の限外濾過(UF)膜上にターポリマー溶液の薄層をコーティングすることによって膜を調製した。Solecta(カリフォルニア州オーシャンサイド)から購入したPS35限外濾過膜をベース膜として使用した。コーティング後、膜を水浴に浸漬した。
【0106】
膜の厚さおよび形態は、走査型電子顕微鏡(SEM、Phenom G2 Pure Tabletop SEM)を用いた膜の凍結破断面(freeze-fractured cross-section)の検査によって決定した。
図2bでは、コーティングされていないベース膜(右)およびコーティングされた膜(左)のSEM画像を同じ倍率で示す。コーティング層は、約0.7マイクロメートルの厚さで緻密である(すなわち、巨視的な細孔がない)ことが観察され得る。
【0107】
実施例3.ポリ(2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート)-ランダム-ポリ(2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド)-ランダム-ポリ(2-スルホエチルメタクリレート)(PTMS-)の合成
この実施例では、以下の3つのモノマー単位を用いてランダムターポリマーを調製した:2-スルホエチルメタクリレート(SEMA、Polysciences)、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(MAETA、Sigma-Aldrich)、および2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA、ACROS Organics)。最初の2つのモノマーは中性活性アルミナ(Sigma-Aldrich)のカラムに通して阻害剤を除去し、最後のモノマーは塩基性活性アルミナ(Sigma-Aldrich)のカラムに通した。SEMA(3.39g、17.5mmol)、MAETA(1.55g、7.5mmol)、および2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(4.94g、29.4mmol)をこの順序でジメチルスルホキシド(DMSO、40mL)に溶解した。アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、0.01g、Aldrich)をフラスコに添加した。フラスコをゴム隔膜で密封した。窒素を反応混合物に30分間バブリングして、溶存酸素をパージした。次いで、17時間、300rpmで撹拌しながらフラスコを60℃に保った。反応後、4-メトキシフェノール(MEHQ)1gを添加して合成を停止した。次いで、粘性であることが観察された反応混合物をアセトン中で沈殿させ、新鮮な2回分の体積比1:3のエタノール対ヘキサンを少なくとも8時間撹拌することによって精製した。最後に、ターポリマーを真空オーブンにおいて60℃で72時間乾燥させた。ターポリマーの組成は、3つの異なるモノマー単位からのプロトンの比率を用いて、
1H-NMRスペクトル(
図3)から算出した。算出された組成は、28モル%のSEMA、16モル%のMAETA、および56モル%のTFEMAであった。この反応の最終転化率は58%であった。
【0108】
実施例4.PTMS-からの薄膜複合膜の形成
本実施例では、実施例3に記載のポリマーを用いて膜を作製した。ターポリマー(0.5g)を約25℃でトリフルオロエタノール(TFE、9.5g)に溶解した。ターポリマー溶液を0.45マイクロメートルシリンジフィルター(Whatman)に通し、さらに真空オーブン中で少なくとも1時間脱気した。フィルムアプリケーターロッドを使用して市販の限外濾過(UF)膜上にターポリマー溶液の薄層をコーティングすることによって膜を調製した。Solecta(カリフォルニア州オーシャンサイド)から購入したPS35限外濾過膜をベース膜として使用した。コーティング後、膜を水浴に浸漬した。
【0109】
膜の厚さおよび形態は、走査型電子顕微鏡(SEM、Phenom G2 Pure Tabletop SEM)を用いた膜の凍結破断面の検査によって決定した。
図4において、コーティングされていないベース膜(右)およびコーティングされた膜(左)のSEM画像を同じ倍率で示す。コーティング層は、約0.7マイクロメートルの厚さで緻密である(すなわち、巨視的な細孔がない)ことが観察され得る。
【0110】
実施例5.ポリ(2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート)-ランダム-ポリ(2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド)-ランダム-ポリ(2-スルホエチルメタクリレート)(PTMS+)の合成
この実施例では、以下の3つのモノマー単位を用いてランダムターポリマーを調製した:2-スルホエチルメタクリレート(SEMA、Polysciences)、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(MAETA、Sigma-Aldrich)、および2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA、ACROS Organics)。最初の2つのモノマーは中性活性アルミナ(Sigma-Aldrich)のカラムに通して阻害剤を除去し、最後のモノマーは塩基性活性アルミナ(Sigma-Aldrich)のカラムに通した。SEMA(1.45g、7.5mmol)、MAETA(3.61g、17.4mmol)および2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(5.06g、30.1mmol)をこの順序でジメチルスルホキシド(DMSO、40ml)に溶解した。アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、0.01g、Aldrich)をフラスコに添加した。フラスコをゴム隔膜で密封した。窒素を反応混合物に30分間バブリングして、溶存酸素をパージした。次いで、17時間、300rpmで撹拌しながらフラスコを60℃に保った。反応後、4-メトキシフェノール(MEHQ)1gを添加して合成を停止した。次いで、粘性であることが観察された反応混合物を体積比1:1のヘキサン対アセトンで沈殿させ、新鮮な2回分の体積比1:3のエタノール対ヘキサンを少なくとも8時間撹拌することによって精製した。最後に、ターポリマーを真空オーブンにおいて60℃で72時間乾燥させた。ターポリマーの組成は、3つの異なるモノマー単位からのプロトンの比率を用いて、
1H-NMRスペクトル(
図5)から算出した。算出された組成は、15モル%のSEMA、29モル%のMAETA、および56モル%のTFEMAであった。この反応の最終転化率は66%であった。
【0111】
実施例6.PTMS+からの薄膜複合膜の形成
本実施例では、実施例5に記載のポリマーを用いて膜を作製した。ターポリマー(0.5g)を約25℃でトリフルオロエタノール(TFE、9.5g)に溶解した。ターポリマー溶液を0.45マイクロメートルシリンジフィルター(Whatman)に通し、さらに真空オーブン中で少なくとも1時間脱気した。フィルムアプリケーターロッドを使用して市販の限外濾過(UF)膜上にターポリマー溶液の薄層をコーティングすることによって膜を調製した。Solecta(カリフォルニア州オーシャンサイド)から購入したPS35限外濾過膜をベース膜として使用した。コーティング後、膜を水浴に浸漬した。
【0112】
膜の厚さおよび形態は、走査型電子顕微鏡(SEM、Phenom G2 Pure Tabletop SEM)を用いた膜の凍結破断面の検査によって決定した。
図6において、コーティングされていないベース膜(右)およびコーティングされた膜(左)のSEM画像を同じ倍率で示す。コーティング層は、約0.6マイクロメートルの厚さで緻密である(すなわち、巨視的な細孔がない)ことが観察され得る。
【0113】
実施例7.ポリ(2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート)-ランダム-ポリ(2-(メタクリロイルオキシ)エチル)トリメチルアンモニウムクロリド)-ランダム-ポリ(メタクリル酸)(PTMM)の合成
この実施例では、以下の3つのモノマー単位を用いてランダムターポリマーを調製した:メタクリル酸(MAA、Sigma-Aldrich)、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(MAETA、Sigma-Aldrich)、および2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA、ACROS Organics)。最初の2つのモノマーは中性活性アルミナ(Sigma-Aldrich)のカラムに通して阻害剤を除去し、最後のモノマーは塩基性活性アルミナ(VWR)のカラムに通した。MAA(1.46g、17.0mmol)、MAETA(3.54g、17.0mmol)、および2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(5.00g、29.7mmol)をこの順序でジメチルスルホキシド(DMSO、40mL)に溶解した。アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、0.01g、Aldrich)をフラスコに添加した。フラスコをゴム隔膜で密封した。窒素を反応混合物に30分間バブリングして、溶存酸素をパージした。次いで、17時間、300rpmで撹拌しながらフラスコを60℃に保った。反応後、4-メトキシフェノール(MEHQ)1gを添加して合成を停止した。次いで、粘性であることが観察された反応混合物をアセトン中で沈殿させ、新鮮な2回分の体積比1:3のエタノール対ヘキサンを少なくとも5時間、および新鮮な2回分のアセトンを少なくとも5時間撹拌することによって精製した。最後に、ターポリマーを真空オーブンにおいて60℃で72時間乾燥させた。ターポリマーの組成は、3つの異なるモノマー単位からのプロトンの比率を用いて、
1H-NMRスペクトル(
図7)から算出した。算出された組成は、25mol%のMAA、25mol%のMAETA、および50mol%のTFEMAであった。この反応の最終転化率は57%であった。
【0114】
実施例8.PTMMからの薄膜複合膜の形成
本実施例では、実施例7に記載のポリマーを用いて膜を作製した。ターポリマー(0.5g)を約25℃でメタノール(MeOH、9.5g)に溶解した。ターポリマー溶液を0.45マイクロメートルシリンジフィルター(Whatman)に通し、さらに真空オーブン中で少なくとも1時間脱気した。フィルムアプリケーターロッドを使用して市販の限外濾過(UF)膜上にターポリマー溶液の薄層をコーティングすることによって膜を調製した。Solecta(カリフォルニア州オーシャンサイド)から購入したPS35限外濾過膜をベース膜として使用した。コーティング後、膜を水浴に浸漬した。
【0115】
膜の厚さおよび形態は、走査型電子顕微鏡(SEM、Phenom G2 Pure Tabletop SEM)を用いた膜の凍結破断面の検査によって決定した。
図8において、コーティングされていないベース膜(右)およびコーティングされた膜(左)のSEM画像を同じ倍率で示す。コーティング層は、約0.4マイクロメートルの厚さで緻密である(すなわち、巨視的な細孔がない)ことが観察され得る。
【0116】
実施例9.ポリ(2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート)-ランダム-ポリ(2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド)-ランダム-ポリ(L-トリプトファン-メタクリルアミド)(PTMT-)の合成
この実施例では、以下の3つのモノマー単位を用いてランダムターポリマーを調製した:L-トリプトファン-メタクリルアミド(L-Try-MA、合成した)、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(MAETA、Sigma-Aldrich)、および2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA、ACROS Organics)。MAETAは中性活性アルミナ(Sigma-Aldrich)のカラムに通して阻害剤を除去し、TFEMAは塩基性活性アルミナ(Sigma-Aldrich)のカラムに通した。L-Try-MA(1.18g、4.2mmol)、MAETA(0.37g、1.8mmol)、および2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(1.55g、9.2mmol)をこの順序でジメチルスルホキシド(DMSO、11.3mL)に溶解した。アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、0.003g、Aldrich)をフラスコに添加した。フラスコをゴム隔膜で密封した。窒素を反応混合物に30分間バブリングして、溶存酸素をパージした。次いで、17時間、300rpmで撹拌しながらフラスコを60℃に保った。反応後、4-メトキシフェノール(MEHQ)0.3gを添加して合成を停止した。次いで、粘性であることが観察された反応混合物をアセトン中で沈殿させ、新鮮な4回分の体積比1:2のエタノール対ヘキサンを少なくとも5時間撹拌することによって精製した。最後に、ターポリマーを真空オーブンにおいて60℃で72時間乾燥させた。ターポリマーの組成は、3つの異なるモノマー単位からのプロトンの比率を用いて、
1H-NMRスペクトル(
図9)から算出した。算出された組成は、34mol%のL-Try-MA、15mol%のMAETA、および51mol%のTFEMAであった。この反応の最終転化率は30%であった。
【0117】
実施例10.PTMT-からの薄膜複合膜の形成
本実施例では、実施例9に記載のポリマーを用いて膜を作製した。ターポリマー(0.2g)を約25℃でDMSO(3.8g)に溶解した。ターポリマー溶液を0.45マイクロメートルシリンジフィルター(Whatman)に通し、さらに真空オーブン中で少なくとも1時間脱気した。フィルムアプリケーターロッドを使用して市販の限外濾過(UF)膜上にターポリマー溶液の薄層をコーティングすることによって膜を調製した。Solecta(カリフォルニア州オーシャンサイド)から購入したPS35限外濾過膜をベース膜として使用した。コーティング後、膜を水浴に浸漬した。
【0118】
膜の厚さおよび形態は、走査型電子顕微鏡(SEM、Phenom G2 Pure Tabletop SEM)を用いた膜の凍結破断面の検査によって決定した。
図10において、コーティングされていないベース膜(右)およびコーティングされた膜(左)のSEM画像を同じ倍率で示す。コーティング層は、約0.6マイクロメートルの厚さで緻密である(すなわち、巨視的な細孔がない)ことが観察され得る。
【0119】
実施例11.両性高分子電解質ターポリマー膜の耐ファウリング性
この実施例では、実施例2、4、6、および8に記載のように調製した膜を実験に使用して、それらの耐ファウリング性を決定した。保持実験は、10mLのセル容量および4.1cm2の有効濾過面積を有するAmicon 8010撹拌式デッドエンド濾過セル(Millipore)で実施した。セルを500rpmで撹拌した。供給溶液は、1500ppmの水中油型エマルジョン(9:1比のダイズ油:DC193界面活性剤(Dow-Corningから入手))からなり、ブレンダーを用いて高rpmで約3分間、油、水、および界面活性剤をブレンドすることによって調製した。
【0120】
実施例12.ポリ(2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート)-ランダム-ポリ(2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド)-ランダム-ポリ(2-スルホエチルメタクリレート)(PTMS2)の合成
この実施例では、以下の3つのモノマー単位を用いてランダムターポリマーを調製した:2-スルホエチルメタクリレート(SEMA、Polysciences)、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(MAETA、Sigma-Aldrich)、および2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA、ACROS Organics)。最初の2つのモノマーは中性活性アルミナ(Sigma-Aldrich)のカラムに通して阻害剤を除去し、最後のモノマーは塩基性活性アルミナ(Sigma-Aldrich)のカラムに通した。SEMA(1.93g、9.9mmol)、MAETA(2.07g、9.9mmol)、および2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(6.00g、35.7mmol)をこの順序でジメチルスルホキシド(DMSO、40mL)に溶解した。アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、0.01g、Aldrich)をフラスコに添加した。フラスコをゴム隔膜で密封した。窒素を反応混合物に30分間バブリングして、溶存酸素をパージした。次いで、17時間、300rpmで撹拌しながらフラスコを60℃に保った。反応後、4-メトキシフェノール(MEHQ)1gを添加して合成を停止した。次いで、粘性であることが観察された反応混合物を、体積比1:1のアセトン:ヘキサン混合物中で沈殿させ、新鮮な3回分の体積比1:1のアセトン:ヘキサン混合物を少なくとも5時間、新鮮な1回分のアセトンを少なくとも5時間、新鮮な3回分のDI水(脱イオン水)を少なくとも5時間攪拌することによって精製した。最後に、ターポリマーを真空オーブンにおいて60℃で48時間乾燥させた。ターポリマーの組成は、3つの異なるモノマー単位からのプロトンの比率を用いて、
1H-NMRスペクトル(
図13)から算出した。算出された組成は、15mol%のSEMA、15mol%のMAETA、および70mol%のTFEMAであった。この反応の最終転化率は40%であった。
【0121】
実施例13.PTMS2からの薄膜複合膜の形成
本実施例では、実施例12に記載のポリマーを用いて膜を調製した。ターポリマー(0.5g)を約25℃でトリフルオロエタノール(TFE、9.5g)に溶解した。ターポリマー溶液を0.45マイクロメートルシリンジフィルター(Whatman)に通し、さらに真空オーブン中で少なくとも1時間脱気した。フィルムアプリケーターロッドを使用して市販の限外濾過(UF)膜上にターポリマー溶液の薄層をコーティングすることによって膜を調製した。Solecta(カリフォルニア州オーシャンサイド)から購入したPS35限外濾過膜をベース膜として使用した。コーティング後、膜を水浴に浸漬した。
【0122】
膜の厚さおよび形態は、走査型電子顕微鏡(SEM、Phenom G2 Pure Tabletop SEM)を用いた膜の凍結破断面の検査によって決定した。
図14において、コーティングされていないベース膜(右)およびコーティングされた膜(左)のSEM画像を同じ倍率で示す。コーティング層は、約0.7マイクロメートルの厚さで緻密である(すなわち、巨視的な細孔がない)ことが観察され得る。
【0123】
実施例14.ポリ(2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート)-ランダム-ポリ(2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド)-ランダム-ポリ(2-スルホエチルメタクリレート)(PTMS3)の合成
この実施例では、以下の3つのモノマー単位を用いてランダムターポリマーを調整した:2-スルホエチルメタクリレート(SEMA、Polysciences)、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(MAETA、Sigma-Aldrich)、および2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA、ACROS Organics)。最初の2つのモノマーは中性活性アルミナ(Sigma-Aldrich)のカラムに通して阻害剤を除去し、最後のモノマーは塩基性活性アルミナ(Sigma-Aldrich)のカラムに通した。SEMA(1.59g、8.2mmol)、MAETA(1.71g、8.2mmol)、および2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(6.70g、39.9mmol)をこの順序でジメチルスルホキシド(DMSO、40mL)に溶解した。アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、0.01g、Aldrich)をフラスコに添加した。フラスコをゴム隔膜で密封した。窒素を反応混合物に30分間バブリングして、溶存酸素をパージした。次いで、17時間、300rpmで撹拌しながらフラスコを60℃に保った。反応後、4-メトキシフェノール(MEHQ)1gを添加して合成を停止した。次いで、粘性であることが観察された反応混合物をDI水中で沈殿させ、新鮮な2回分のDI水を少なくとも5時間、および新鮮な2回分のイソプロピルアルコールを少なくとも5時間撹拌することによって精製した。最後に、ターポリマーを真空オーブンにおいて60℃で48時間乾燥させた。ターポリマーの組成は、3つの異なるモノマー単位からのプロトンの比率を用いて、
1H-NMRスペクトル(
図15)から算出した。算出された組成は、11モル%のSEMA、11モル%のMAETA、および78モル%のTFEMAであった。この反応の最終転化率は70%であった。
【0124】
実施例15.PTMS3からの薄膜複合膜の形成
本実施例では、実施例14に記載のポリマーを用いて膜を調製した。ターポリマー(0.5g)を約25℃でトリフルオロエタノール(TFE、9.5g)に溶解した。ターポリマー溶液を0.45マイクロメートルシリンジフィルター(Whatman)に通し、さらに真空オーブン中で少なくとも1時間脱気した。フィルムアプリケーターロッドを使用して市販の限外濾過(UF)膜上にターポリマー溶液の薄層をコーティングすることによって膜を調製した。Solecta(カリフォルニア州オーシャンサイド)から購入したPS35限外濾過膜をベース膜として使用した。コーティング後、膜を水浴に浸漬した。
【0125】
膜の厚さおよび形態は、走査型電子顕微鏡(SEM、Phenom G2 Pure Tabletop SEM)を用いた膜の凍結破断面の検査によって決定した。
図16において、コーティングされていないベース膜(右)およびコーティングされた膜(左)のSEM画像を同じ倍率で示す。コーティング層は、約0.8マイクロメートルの厚さで緻密である(すなわち、巨視的な細孔がない)ことが観察され得る。
【0126】
実施例16.両性高分子電解質ターポリマー膜の水パーミアンス
この実施例では、実施例2、4、6、8、10、13、および15に記載の膜を通る純水フラックスを、10mLのセル容量および4.1cm2の有効濾過面積を有するAmicon 8010撹拌式デッドエンド濾過セル(Millipore)を使用して測定した。セルを500rpmで撹拌し、40psiで試験を行った。少なくとも1時間の安定化期間の後、透過液の試料を120分間にわたって収集し、計量した。得られた値を濾過面積および実験時間で割ってフラックス(または透過流束)を得た。フラックス値を圧力で正規化し、純水パーミアンスを得た(表1)。これらの膜は、ナノ濾過および限外濾過の市販の膜に匹敵するパーミアンスを有する。
【0127】
【0128】
実施例17.両性高分子電解質ターポリマー膜を用いた染料の阻止
本実施例では、実施例2、4、6、8、10、13、および15に記載されるように調製された膜を、それらの有効孔径またはサイズカットオフを同定することを目的とした実験において使用した。染料分子(dye molecule)は剛性であり、それらの濃度はUV-Vis分光法によって容易に測定されるため、この特性を調べるために染料分子を使用した。保持実験は、10mLのセル容量および4.1cm2の有効濾過面積を有するAmicon 8010撹拌式デッドエンド濾過セル(Millipore)で実施した。セルを500rpmで撹拌し、試験は40psiで行った。セルを500rpmで撹拌して、濃度分極効果を最小限に抑えた。純水を少なくとも1時間膜に通した後、セルを空にし、0.1mMのプローブ染料水溶液をセルに入れた。純水の混入を回避するために、最初の1mLを除去した後、UV-可視分光光度法による分析のために十分な量を収集し、溶質阻止率(%)を算出した(表2)。セルを水で数回すすいだ。新しい溶質に切り替える前に、透過液が完全に透明になるまで、膜を通して純水を濾過した。
【0129】
【0130】
実施例18.両性高分子電解質ターポリマー膜を用いた塩の阻止
本実施例では、実施例2、4、6、8、10、13、および15に記載されるように調製された膜を実験に使用して、それらの塩保持特性を決定した。本発明者らは、この特性を調べるために異なる濃度の異なる塩を使用し、それらの濃度は、標準的な導電率プローブによって容易に測定された。保持実験は、10mLのセル容量および4.1cm2の有効濾過面積を有するAmicon 8010撹拌式デッドエンド濾過セル(Millipore)で実施した。セルを500rpmで撹拌し、試験は40psiで行った。セルを500rpmで撹拌して、濃度分極効果を最小限に抑えた。純水を少なくとも1時間膜に通した後、セルを空にし、プローブ塩の水溶液をセルに入れた。純水の混入を回避するために、最初の1mLを除去した後、伝導度プローブによる分析のために十分な量を収集し、塩阻止率(%)を算出した(表3)。セルを水で数回すすいだ。新しい塩溶液に切り替える前に、透過液の体積が1mLに達するまで、膜を通して純水を濾過した。
【0131】
【0132】
実施例19.両性高分子電解質ターポリマー膜の耐ファウリング性
この実施例では、実施例2、13、および15に記載されるように調製された膜を実験に使用して、それらの耐ファウリング性を決定した。保持実験は、10mLのセル容量および4.1cm2の有効濾過面積を有するAmicon 8010撹拌式デッドエンド濾過セル(Millipore)で実施した。セルを500rpmで撹拌した。
【0133】
第1の試験では、供給溶液は1500ppmの水中油型エマルジョン(9:1比のダイズ油:DC193界面活性剤(Dow-Corningから入手))からなり、ブレンダーを用いて高rpmで約3分間、油、水および界面活性剤をブレンドすることによって調製した。
【0134】
第2のファウリング試験は、正に荷電したタンパク質であるリゾチームを使用し、供給溶液は、1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)緩衝液中の1g/Lのリゾチーム溶液からなるものであった。第3のファウリング試験は、負に荷電したタンパク質であるウシ血清アルブミン(BSA)を使用したが、供給溶液は、1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)緩衝液中の1g/LのBSA溶液からなるものであった。
【0135】
実施例20.両性高分子電解質ターポリマー膜の自己組織化
本発明者らは、透過型電子顕微鏡(TEM)画像、および示差走査熱量測定(DSC)分析を用いて、本発明者らのr-PACの自己組織化形態を記録する。
【0136】
TEMは、日立7800透過型電子顕微鏡を使用して、100keVの明視野モードで操作して実施した。良好なコントラストを得るために、2%CuCl
2水溶液に浸漬することによってイオンドメインを優先的に染色し、スルホネート-銅錯体を形成させた。
図19は、PTMSおよびPTMS-コポリマーの明視野TEM画像を示す。両方の組成物について疎水性相(明るい領域)によって囲まれたパーコレーションイオンナノチャネル(percolated ionic nanochannel)(暗い領域)の共連続ネットワーク(bicontinuous network)が観察された。TEM画像の高速フーリエ変換(FFT)は方向性特徴(directional feature)を欠いており(
図19の挿入図)、無秩序なネットワークを示している。FFTの外輪で示される特徴的な長さスケールは、PTMSおよびPTMS-についてそれぞれ3.1nmおよび4.5nmであり、それぞれ1.55nmおよび2.25nmのPTMSおよびPTMS-の乾燥状態の平均イオンドメインサイズに相当する。
【0137】
コポリマーの相分離を特徴付けるために、本発明者らは、異なるガラス転移温度が異なる相分離構造に関連付けられ得るDSCを利用した。DSCは、N2パージおよび冷却システムと連結したTAQ100シリーズ熱量計(TA Instruments)を利用して行った。3~5mgの各ポリマーをアルミニウムパン内に密封し、DSCチャンバー内でN2下において完全に乾燥させて、異なる含水量によるTgシフトを回避した。試料を完全に乾燥させた後、5℃/分の調節された加熱ランプを使用した。全ての試料のTgは、ベースラインシフトの中間点から得た。
【0138】
実施例21.両性高分子電解質ターポリマー膜を用いた中性小分子の阻止
本実施例では、実施例2、4、6、8、10、13、および15に記載されるように調製された膜を、それらの有効孔径またはサイズカットオフを同定することを目的とした実験において使用した。膜サイズに基づく選択性は、4,000ppmの濃度の一連の小さな中性有機溶質を濾過することによって決定した。保持実験は、10mLのセル容量および4.1cm2の有効濾過面積を有するAmicon 8010撹拌式デッドエンド濾過セル(Millipore)で実施した。セルを500rpmで撹拌し、試験は40psiで行った。セルを500rpmで撹拌して、濃度分極効果を最小限に抑えた。純水を少なくとも1時間膜に通した後、セルを空にし、4,000ppmのプローブ小分子の水溶液をセルに入れた。純水の混入を回避するために、最初の1mLを除去した後、CODキット(K-7365、CHEMetrics)を用いたUV-可視分光光度法による分析のために十分な量を収集し、このようにして溶質阻止率(%)を算出した(表4)。セルを水で数回すすいだ。新しい溶質に切り替える前に、透過液が完全に透明になるまで、膜を通して純水を濾過した。
【0139】
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40. Asatekin Alexiou, A.; Lounder, S. J. Charged Zwitterionic Copolymer Membranes. U.S. Patent Application 62/846,014, filed May 10, 2019; incorporated by reference.
【0141】
参照による組み込み
本明細書で言及される全ての米国特許、ならびに米国およびPCT特許出願公開は、参照により本明細書に組み込まれる。矛盾する場合、本明細書における定義を含めて本出願が優先する。
【0142】
均等物
前述の明細書は、当業者が本発明を実施するのに十分であると考えられる。実施例は、本発明の一態様の単なる例示として意図されており、他の機能的に等価な実施形態は本発明の範囲内にあるので、本発明は、提供される実施例によって範囲を限定されるものではない。本明細書に示され、記載されるものに加えて、本発明の様々な改変は、前述の説明から当業者に明らかとなり、添付の特許請求の範囲内に含まれる。本発明の利点および目的は、必ずしも本発明の各実施形態によって包含されるわけではない。
【国際調査報告】