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特表2024-534083補体代替経路阻害剤を用いて鎌状赤血球症又はベータサラセミアを治療する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-18
(54)【発明の名称】補体代替経路阻害剤を用いて鎌状赤血球症又はベータサラセミアを治療する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240910BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240910BHJP
   A61K 31/712 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20240910BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240910BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20240910BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20240910BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20240910BHJP
   C12N 15/115 20100101ALI20240910BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61K39/395 N
A61K31/712
A61P7/06
A61P7/00
A61K31/7105
A61K38/17
C07K16/18
C12N15/113 Z
C12N15/115 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510313
(86)(22)【出願日】2022-08-18
(85)【翻訳文提出日】2024-03-29
(86)【国際出願番号】 US2022040710
(87)【国際公開番号】W WO2023023220
(87)【国際公開日】2023-02-23
(31)【優先権主張番号】63/235,383
(32)【優先日】2021-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/349,291
(32)【優先日】2022-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503102674
【氏名又は名称】アレクシオン ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】キム, ソンクォン
(72)【発明者】
【氏名】ベック, ステファニー エル.
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084BA44
4C084CA51
4C084DC50
4C084NA14
4C084ZA511
4C084ZA512
4C084ZA551
4C084ZA552
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086NA14
4C086ZA51
4C086ZA55
4C086ZC41
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA24
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、鎌状赤血球症(SCD)、ベータサラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTの治療のための方法、使用、及び組成物に関する。より具体的には、本開示は、補体C5阻害剤、例えば、抗C5抗体又はその断片、核酸分子、ぺプチド、小分子、又はアプタマーを用いるSCD、BT、又は鎌状赤血球BTを有する患者の治療に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象に、補体C5阻害剤を含む、有効量の組成物を投与することを含む、前記対象における鎌状赤血球症(SCD)を治療する方法。
【請求項2】
対象に、補体C5阻害剤を含む、有効量の組成物を投与することを含む、前記対象におけるβ-サラセミア(BT)を治療する方法。
【請求項3】
対象に、補体C5阻害剤を含む、有効量の組成物を投与することを含む、前記対象における鎌状赤血球BTを治療する方法。
【請求項4】
前記補体C5阻害剤が、抗体又はその抗原結合断片、ぺプチド、小分子、核酸分子、及びアプタマーからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記補体C5阻害剤が、抗C5抗体又はその抗原結合断片である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記抗C5抗体又はその抗原結合断片が、
(a)CDR-H1(配列番号5)、CDR-H2(配列番号6)、及びCDR-H3(配列番号7);
(b)CDR-H1(配列番号8)、CDR-H2(配列番号9)、CDR-H3(配列番号10)、CDR-L1(配列番号11)、CDR-L2(配列番号12)、及びCDR-L3(配列番号13);
(c)CDR-H1(配列番号14)、CDR-H2(配列番号15)、CDR-H3(配列番号16)、CDR-L1(配列番号17)、CDR-L2(配列番号18)、及びCDR-L3(配列番号19);
(d)CDR-H1(配列番号20)、CDR-H2(配列番号21)、CDR-H3(配列番号22)、CDR-L1(配列番号23)、CDR-L2(配列番号24)、及びCDR-L3(配列番号25);又は
(e)CDR-H1(配列番号26)、CDR-H2(配列番号27)、CDR-H3(配列番号28)、CDR-L1(配列番号29)、CDR-L2(配列番号30)、及びCDR-L3(配列番号31)
を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記抗C5抗体又はその抗原結合断片が、
(a)配列番号2のアミノ酸配列;
(b)配列番号46のアミノ酸配列;
(c)配列番号35のHCVR及び配列番号36のLCVR;
(d)配列番号37のHCVR及び配列番号36のLCVR;
(e)配列番号38のHCVR及び配列番号39のLCVR;
(f)配列番号40のHCVR及び配列番号41のLCVR;
(g)配列番号42のHCVR及び配列番号43のLCVR;又は
(h)配列番号44のHCVR及び配列番号45のLCVR
を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記C5阻害剤が、
エクリズマブ若しくはそのバイオシミラー、ノマコパン、ジルコプラン、セムジシラン、Zimura、ラブリズマブ、SOBI005、テシドルマブ、ポゼリマブ、又はクロバリマブ
を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記核酸分子が、小分子干渉RNA、ショートヘアピンRNA、マイクロRNA、及びアンチセンスオリゴヌクレオチドからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記核酸分子が、補体C5をコードする内因性核酸配列の一部に相補的である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アプタマーが、アバシンカプタドペゴルである、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物が、前記補体C5阻害剤及び薬学的に許容される担体を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記補体C5阻害剤が、抗C5抗体又はその抗原結合断片(例えば、可変重鎖相補性決定領域(VHCDR1-3)及び可変軽鎖相補性決定領域(VLCDR1-3)を含む断片)である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記対象における血管内溶血を低減する、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記SCDが、溶血性貧血又は急性血管閉塞(VOC)事象を含む、請求項1又は4~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記対象が、腹部鼓腸、右上腹部痛、又は急性有痛性肝腫脹を呈する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記VOC事象が、肺VOC及び/又は肝臓VOCである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
(a)前記肺VOCが、急性胸部症候群(ACS)及び/若しくは慢性肺疾患として発現し;並びに/又は
(b)前記肝臓VOCが、重度腹痛及び/若しくは肝機能不全として発現する、
請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記対象が、SCD、BT、又は鎌状赤血球BTを有すると診断されるヒト患者である、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記ヒト患者が、18歳未満である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
SCDを有する前記対象が、βグロビン遺伝子中の突然変異を有すると診断される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記βグロビン遺伝子中の前記突然変異が、前記βグロビン遺伝子中の単一ヌクレオチド突然変異である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記βグロビン遺伝子中の前記単一ヌクレオチド突然変異が、配列番号1と比較して6位でのバリンによるグルタミン酸置換をもたらす、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記SCDが、赤血球細胞(RBC)中の補体沈着を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記SCDが、RBC中のC5b9沈着を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記SCDが、血管内溶血(IVH)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
IVHが、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、ビリルビン、遊離ヘモグロビン、及び遊離ヘムを含む少なくとも1つのマーカーの増加により特徴付けられる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記対象への前記補体C5阻害剤の投与時、前記対象が、SCD、BT、又は鎌状赤血球BT表現型の低減を示す、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記SCD表現型が、血管組織損傷をもたらす炎症若しくは細胞毒性増加;VOC事象により誘発される疼痛増強;又はSCD患者の死亡若しくは合併症の増加を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記組成物が、静脈内投与される、請求項1~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
細胞を、補体阻害剤を含む、有効量の組成物と接触させることを含む、低酸素条件下の前記細胞の生存率を改善し、又は死滅を低減する方法。
【請求項32】
前記細胞が、インビボで接触される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記細胞が、鎌状赤血球である、請求項31又は32に記載の方法。
【請求項34】
前記補体C5阻害剤が、抗C5抗体又はその抗原結合断片、ぺプチド、小分子、核酸分子、及びアプタマーからなる群から選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
SCDが、
a.特に誘発因子(例えば、低酸素)下の病的細胞(例えば、RBC)中の補体C3及び/又はC5b9の沈着増加;
b.特に誘発因子(例えば、低酸素)下の新血管溶血増加であって、溶血増加は、血漿LDH活性/レベル、遊離ヘム及び/若しくは遊離ヘモグロビンレベル、並びに/又は総ビリルビンレベルの増加により特徴付けられる、溶血増加;或いは
c.特に誘発因子(例えば、低酸素)下のVOCの重症度増加
から選択される特徴により特徴付けられる、請求項1~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
補体C5阻害剤、例えば、抗C5抗体での治療が、
a.例えば、低酸素条件下のSCDの前記対象のRBC中のC3及びC5b9の補体断片沈着の阻害又は好転;
b.低酸素条件下の血管内溶血のレベル(血漿LDH活性/レベル、遊離ヘム及び/若しくは遊離ヘモグロビンレベル、並びに/又は総ビリルビンレベルの増加で測定される)の減衰又は好転;或いは
c.SCDの前記対象の重要器官、例えば、肺、腎臓、肝臓及び脾臓の血管中の血管閉塞の低減又は好転
から選択されるアウトカムをもたらす、請求項1~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
補体C5阻害剤、例えば、抗C5抗体での治療が、ヒドロキシウレアを含む標準的治療でのアウトカムと比較して(a)~(c)の少なくとも1つのアウトカムの同等の改善を提供し;好ましくは、前記補体C5阻害剤での前記治療は、ヒドロキシウレアでの治療と比較して(a)~(c)からの少なくとも1つのアウトカムの改善をもたらす、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
対象におけるSCD又はそれに関連する症状の治療における使用のための、特に血液細胞を低酸素又は低酸素圧に対して感受性にする1つ又は突然変異、例えば、正常ヘモグロビンA(α2β2)のヘモグロビンS(α2β6 Val2)への突然変異又はRBCのβ-グロビン遺伝子中の突然変異を有する前記血液細胞の生存率を改善するための、補体C5阻害剤を含む組成物。
【請求項39】
前記補体C5阻害剤が、抗C5抗体又はその抗原結合断片、ぺプチド、小分子、核酸分子、及びアプタマーからなる群から選択される、請求項38に記載の使用のための組成物。
【請求項40】
前記核酸分子が、小分子干渉RNA、ショートヘアピンRNA、マイクロRNA、及びアンチセンスオリゴヌクレオチドからなる群から選択される、請求項39に記載の使用のための組成物。
【請求項41】
低酸素条件下の細胞の生存率の改善又は死滅の低減における使用のための、補体阻害剤を含む組成物。
【請求項42】
前記補体C5阻害剤が、抗C5抗体又はその抗原結合断片、核酸分子、及びアプタマーからなる群から選択される、請求項41に記載の組成物。
【請求項43】
前記核酸分子が、小分子干渉RNA、ショートヘアピンRNA、マイクロRNA、及びアンチセンスオリゴヌクレオチドからなる群から選択される、請求項42に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
鎌状赤血球症(SCD)は、世界的に最も一般的な単一遺伝子疾患である。いくつかの形態では、この疾患は、βグロビン遺伝子中の突然変異、例えば、6位でのバリンによるグルタミン酸置換をもたらすβグロビン遺伝子中の単一ヌクレオチド突然変異により引き起こされ、この遺伝子は、ベータサラセミア(BT)の惹起にも関与する。この疾患の根本的原因の広範な認識にもかかわらず、SCD症状をコントロールする治療オプションはほとんど利用可能でない。SCDの2つの主な発現、貧血及び血管閉塞危機(VOC)は、SCD患者についての死亡、合併症及びクオリティ・オブ・ライフに影響を及ぼす。SCD患者のための2つの承認治療オプション、ヒドロキシウレア及びL-グルタミンが存在するが、それらは一般に疾患症状の減衰が最適以下とみなされる。それゆえ、新たな治療が当技術分野で必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
本明細書には、補体経路成分(例えば、補体C5)に特異的に又は実質的に特異的に結合し、代替補体経路活性化を選択的に遮断する組成物が記載される。補体C5の機能活性を阻害することにより、本明細書に記載の補体C5阻害剤(例えば、抗C5一価抗体又はその断片)は、代替補体経路により誘導される膜侵襲複合体のアセンブリを阻害する。さらに、単一補体C5分子と補体C5阻害剤との選択的結合は、凝集から生じる不所望な免疫複合体を低減し得る。従って、補体C5単量体又は多量体の選択的標的化は次に、患者鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BT(sickle cell BT)についての臨床的利益を改善し得る。
【0003】
本開示は、部分的には、代替補体経路の阻害剤、例えば、補体C5阻害剤などがSCDの症状を減衰させ、さらには停止させ得るという発見に基づく。確立されたSCDの実験室モデル(低酸素条件に供されるTownes SSマウス)を用いることにより、本開示は、C5阻害剤、例えば、抗C5抗体での動物の治療が(1)赤血球細胞(RBC)上の補体沈着の阻害;(2)血管内溶血の減衰;及び/又は血管閉塞危機(VOC)の重症度の低減に関してSCDの病態生理を阻害したことを最初に実証する。より具体的には、確立された細胞モデルを用いて、本開示は、低酸素条件下のSCDマウスのRBC中のC5b9及びC3の補体断片沈着増強が、抗C5モノクローナル抗体(MAb)での前治療を介して好転したことを示す。さらに、低酸素条件下の血管内溶血のレベル(血漿乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性、遊離ヘム及び遊離ヘモグロビンレベル、並びに/又は総ビリルビンレベルにより測定される)の増加は、抗C5MAbでの前治療により有効に減衰された。第3に、低酸素条件下のSCDマウスの重要器官、例えば、肺及び肝臓の血管中の血管閉塞増加は、抗C5MAbでの前治療により有効に低減され、その効果は緩衝液で前治療されたシャム(対照)SCDマウスにおいて観察されなかった。これらのデータは、抗補体抗体、例えば、抗C5抗体がSCD動物を細胞及び器官レベルの両方で損傷から保護することを確立する。本開示により提供される科学的証拠は、SCD及び関連病態、例えば、BT及び鎌状BT(sickle BT)の治療における補体阻害剤、特にC5アンタゴニスト、例えば、抗C5抗体の使用を支持する。さらに、比較評価は、SCDマウスモデルにおける血管閉塞の好転におけるヒドロキシウレア(HU)を用いる標準的治療方法と比較した抗C5抗体の驚くべき効果を示す。データは、抗C5抗体前治療が腎臓、肝臓、脾臓及び肺における低酸素誘発性血管閉塞の低減においてHUよりも有効であったことを示す。肺は、SCDの病態生理に関して主要標的組織であるため、本明細書のデータは、インビボ状況におけるSCD症状に対する抗C5抗体の有意な保護効果を指摘する。
【0004】
一態様では、本開示は、対象に、補体C5阻害剤を含む、有効量の組成物を投与することを含む、対象におけるSCDを治療する方法を特徴とする。
【0005】
別の態様では、本開示は、対象に、補体C5阻害剤を含む、有効量の組成物を投与することを含む、対象におけるBTを治療する方法を特徴とする。
【0006】
別の態様では、本開示は、対象に、補体C5阻害剤を含む、有効量の組成物を投与することを含む、対象における鎌状赤血球BTを治療する方法を特徴とする。
【0007】
上記態様のいずれかのいくつかの実施形態では、補体C5阻害剤が、抗体又はその抗原結合断片、ぺプチド、小分子、核酸分子、及びアプタマーからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、補体C5阻害剤が、抗C5抗体又はその抗原結合断片である。
【0008】
上記態様のいずれかのいくつかの実施形態では、抗C5抗体又はその抗原結合断片が、CDR-H1(配列番号5)、CDR-H2(配列番号6)、及びCDR-H3(配列番号7);又はCDR-H1(配列番号8)、CDR-H2(配列番号9)、CDR-H3(配列番号10)、CDR-L1(配列番号11)、CDR-L2(配列番号12)、及びCDR-L3(配列番号13);又はCDR-H1(配列番号14)、CDR-H2(配列番号15)、CDR-H3(配列番号16)、CDR-L1(配列番号17)、CDR-L2(配列番号18)、及びCDR-L3(配列番号19);又はCDR-H1(配列番号20)、CDR-H2(配列番号21)、CDR-H3(配列番号22)、CDR-L1(配列番号23)、CDR-L2(配列番号24)、及びCDR-L3(配列番号25);又はCDR-H1(配列番号26)、CDR-H2(配列番号27)、CDR-H3(配列番号28)、CDR-L1(配列番号29)、CDR-L2(配列番号30)、及びCDR-L3(配列番号31)を含む。
【0009】
上記態様のいずれかのいくつかの実施形態では、抗C5抗体又はその抗原結合断片が、配列番号2のアミノ酸配列;配列番号46のアミノ酸配列;配列番号35のHCVR及び配列番号36のLCVR;配列番号37のHCVR及び配列番号36のLCVR;配列番号38のHCVR及び配列番号39のLCVR;配列番号40のHCVR及び配列番号41のLCVR;配列番号42のHCVR及び配列番号43のLCVR;又は配列番号44のHCVR及び配列番号45のLCVRを含む。
【0010】
上記態様のいずれかのいくつかの実施形態では、C5阻害剤としては、エクリズマブ若しくはそのバイオシミラー、ノマコパン、ジルコプラン、セムジシラン、Zimura、ラブリズマブ、SOBI005、テシドルマブ、ポゼリマブ、又はクロバリマブが挙げられる。
【0011】
上記態様のいずれかのいくつかの実施形態では、アプタマーが、ARC-1905(アバシンカプタドペゴル;CAS#1491144-00-3及びFDA Drug#K86ENL12I5)である。
【0012】
上記態様のいずれかのいくつかの実施形態では、組成物が、補体C5阻害剤及び薬学的に許容される担体を含む。
【0013】
上記態様のいずれかのいくつかの実施形態では、補体C5阻害剤が、抗C5抗体又はその抗原結合断片(例えば、可変重鎖相補性決定領域(VHCDR1-3)及び可変軽鎖相補性決定領域(VLCDR1-3)を含む断片である。
【0014】
上記態様のいずれかのいくつかの実施形態では、本方法は、対象における血管内溶血を低減する。
【0015】
上記態様のいくつかの実施形態では、SCDが、溶血性貧血又は急性VOC事象を含む。例えば、いくつかの実施形態では、VOC事象が、肺VOC及び/又は肝臓VOCである。いくつかの実施形態では、肺VOCが、急性胸部症候群(ACS)及び/若しくは慢性肺疾患として発現し;並びに/又は肝臓VOCが、重度腹痛及び/若しくは肝機能不全として発現する。
【0016】
上記態様のいくつかの実施形態では、対象が、腹部鼓腸、右上腹部痛、又は急性有痛性肝腫脹を呈する。
【0017】
上記態様のいずれかのいくつかの実施形態では、対象が、SCD、BT、又は鎌状赤血球BTを有すると診断されるヒト患者である。
【0018】
上記態様のいずれかのいくつかの実施形態では、ヒト患者が、18歳未満である。
【0019】
上記態様のいくつかの実施形態では、SCDを有する対象が、βグロビン遺伝子中の突然変異を有すると診断される。例えば、いくつかの実施形態では、βグロビン遺伝子中の突然変異が、βグロビン遺伝子中の単一ヌクレオチド突然変異である。いくつかの実施形態では、βグロビン遺伝子中の単一ヌクレオチド突然変異が、配列番号1
【化1】

と比較して6位でのバリンによるグルタミン酸置換をもたらす。
【0020】
上記態様のいくつかの実施形態では、SCDが、赤血球細胞(RBC)中の補体沈着を含む。例えば、いくつかの実施形態では、SCDが、RBC中のC5b9沈着を含む。
【0021】
上記態様のいくつかの実施形態では、SCDが、血管内溶血(IVH)を含む。例えば、いくつかの実施形態では、IVHが、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、ビリルビン、遊離ヘモグロビン、及び遊離ヘムを含む少なくとも1つのマーカーの増加により特徴付けられる。
【0022】
上記態様のいずれかのいくつかの実施形態では、対象への補体C5阻害剤の投与時、対象が、SCD、BT、又は鎌状赤血球BT表現型の低減を示す。例えば、いくつかの実施形態では、SCD表現型が、血管組織損傷をもたらす炎症若しくは細胞毒性増加;VOC事象により誘発される疼痛増強;又はSCD患者の死亡若しくは合併症の増加を含む。
【0023】
上記態様のいずれかのいくつかの実施形態では、組成物が、静脈内投与される。
【0024】
別の態様では、本開示は、細胞を、補体阻害剤を含む、有効量の組成物と接触させることを含む、低酸素条件下の細胞の生存率を改善し、又は死滅を低減する方法を特徴とする。
【0025】
上記態様のいくつかの実施形態では、細胞が、インビボで接触される。
【0026】
上記態様のいくつかの実施形態では、細胞が、鎌状赤血球である。
【0027】
上記態様のいずれかのいくつかの実施形態では、SCDが、(a)特に誘発因子(例えば、低酸素)下の病的細胞(例えば、RBC)中の補体C3及び/又はC5b9の沈着増加;(b)特に誘発因子(例えば、低酸素)下の新血管溶血増加であって、溶血増加は、血漿乳酸LDH活性/レベル、遊離ヘム及び/若しくは遊離ヘモグロビンレベル、並びに/又は総ビリルビンレベルの増加により特徴付けられる、溶血増加;或いは(c)特に誘発因子(例えば、低酸素)下のVOCの重症度増加から選択される特徴により特徴付けられる。
【0028】
上記態様のいずれかのいくつかの実施形態では、補体C5阻害剤、例えば、抗C5抗体での治療が、(a)例えば、低酸素条件下のSCDの対象のRBC中のC3及びC5b9の補体断片沈着の阻害又は好転;(b)低酸素条件下の血管内溶血のレベル(血漿LDH活性/レベル、遊離ヘム及び/若しくは遊離ヘモグロビンレベル、並びに/又は総ビリルビンレベルの増加で測定される)の減衰又は好転;或いは(c)SCDの対象の重要器官、例えば、肺、腎臓、肝臓及び脾臓の血管中の血管閉塞の低減又は好転から選択されるアウトカムをもたらす。例えば、いくつかの実施形態では、補体C5阻害剤、例えば、抗C5抗体での治療が、ヒドロキシウレアを含む標準的治療でのアウトカムと比較して(a)~(c)の少なくとも1つのアウトカムの同等の改善を提供し;好ましくは、補体C5阻害剤での治療は、ヒドロキシウレアでの治療と比較して(a)~(c)からの少なくとも1つのアウトカムの改善をもたらす。
【0029】
別の態様では、本開示は、対象におけるSCD又はそれに関連する症状の治療における使用のための、特に血液細胞を低酸素又は低酸素圧に対して感受性にする1つ又は突然変異、例えば、正常ヘモグロビンA(α2β2)のヘモグロビンS(α2β6 Val2)への突然変異又はRBCのβ-グロビン遺伝子中の突然変異を有する血液細胞の生存率を改善するための、補体C5阻害剤を含む組成物を特徴とする。
【0030】
別の態様では、本開示は、低酸素条件下の細胞の生存率の改善又は死滅の低減における使用のための、補体阻害剤を含む組成物を特徴とする。
【0031】
上記態様のいくつかの実施形態では、補体C5阻害剤が、抗C5抗体又はその抗原結合断片、ぺプチド、小分子、核酸分子、及びアプタマーからなる群から選択される。
【0032】
上記態様のいずれかのいくつかの実施形態では、核酸分子が、小分子干渉RNA、ショートヘアピンRNA、マイクロRNA、及びアンチセンスオリゴヌクレオチドからなる群から選択される。
【0033】
上記態様のいずれかのいくつかの実施形態では、核酸分子が、補体C5をコードする内因性核酸配列の一部に相補的である。
【0034】
本開示は、少なくとも部分的には、補体阻害剤(例えば、補体C5阻害剤、例えば、抗C5抗体、核酸分子、ぺプチド、小分子、又はアプタマー)がSCD、BT、又は鎌状赤血球BTに関連する病理発生を減衰させる驚くべき能力を提供するという驚くべき発見に基づく。本明細書に記載の組成物及び方法を用いて、補体タンパク質(例えば、補体C5)をSCD、BT、又は鎌状赤血球BTの治療のために有効に阻害することができる。抗C5抗体での療法は、SSマウスのRBCにおける血管内溶血の低減においてHUと同等に有効であることも見出された。より具体的には、マウスを抗C5抗体で前治療した場合、LDH活性、遊離ヘム/ヘモグロビンレベル、及び総ビリルビンレベルの低酸素誘発性増加が全て減衰され、その効果は、公知の薬物、例えば、HUでのインビボ前治療と同等であった。低酸素条件下の鎌状赤血球マウスにおけるC5b9沈着に関して、本明細書で提供される実験的証拠は、膜侵襲複合体(MAC)の形成の阻害において抗C5抗体療法がHU治療よりも有効であったことを示す。抗C5抗体での前治療は、重要器官、例えば、肺、腎臓、肝臓及び脾臓における低酸素誘発性血管閉塞危機も阻害した。肺はSCDの病態生理の状況において主要標的組織であるため、本明細書のデータは、インビボ状況のSCD症状に対する保護における抗C5抗体の有意な保護効果を指摘する。
【0035】
本特許又は出願書類は、少なくとも1つの有色の図面を含有する。有色図面を有する本特許又は特許出願公開の複写物は、請求及び必要な費用の支払い時に官庁により提供される。
【0036】
本明細書に開示される原理、及びその利点のより完全な理解のため、目下、添付の図面と合わせて以下の説明が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】鎌状赤血球細胞(RBC)に対する補体代替経路(CAP)が鎌状赤血球の病理に寄与することを示す。鎌状RBCは、表面上のC3オプソニン化及び補体媒介性RBC溶血を誘発するCAP活性化の部位である。血管内溶血は、貧血を引き起こすだけでなく、RBCから遊離ヘムを放出することによりCAP活性化のさらなる増幅にも寄与する。
図2】SCDのインビボマウスモデルにおけるVOCにおける補体活性化の阻害の効果を試験するための実験アウトラインを示す。Townes SSマウスを、低酸素処置の10日前からPBS(ビヒクル)又は「BB5.1」(抗C5mAb)のいずれかで4回、予防的に治療し、低酸素処置とそれに続く正常酸素条件における1時間の休息後に屠殺した。ビヒクル治療下位群においては、動物を低酸素条件に曝露せず、正常酸素条件(ベースライン)中で継続して維持した。安楽死時、血液サンプル及び重要器官を動物から回収してRBC上の補体沈着のレベル、血管内溶血及びVOCの重症度を測定した。
図3】低酸素条件に曝露された鎌状赤血球RBC上の低酸素誘発性補体断片沈着及び補体沈着に対する抗C5モノクローナル抗体の効果のフローサイトメトリーに基づく分析を示す棒グラフを示す。左から右にかけて、正常、低酸素(対照)、低酸素+ヒドロキシウレア、及び低酸素+抗C5(BB5.1)前治療下の補体断片レベルの変化が示される。右側パネルはC5b9レベルを示し、左側パネルはC3/C3b/iC3bレベルを示す。
図4】SCD動物における低酸素誘発性血管内溶血に対するBB5.1モノクローナル抗体の効果を示す棒グラフを示す。左から右にかけて、正常、低酸素(対照)、低酸素+ヒドロキシウレア、及び低酸素+BB5.1前治療下の溶血マーカーレベルの変化が示される。以下の溶血マーカー:乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)(上段左側パネル);ビリルビン(下段右側パネル);遊離ヘモグロビン(下段左側パネル);及び遊離ヘム(上段右側パネル)を測定した。P値は、統計的有意水準を示す。
図5】肺中の低酸素誘発性血管閉塞及びBB5.1モノクローナル抗体治療の効果に関するデータを示す。左は、様々な条件(上段から下段にかけて):正常酸素、低酸素(対照)、低酸素+ヒドロキシウレア、及び低酸素+BB5.1前治療下のマウスの肺中の鎌状赤血球(SS)RBCの代表的な顕微鏡写真である。PE抗マウスTER-119及びDAPIを蛍光プローブとして使用した。右パネルは、標準的ソフトウェアを用いて画像の蛍光密度を定量する棒グラフを示す。
図6】腎臓中の低酸素誘発性血管閉塞及びBB5.1モノクローナル抗体治療の効果に関するデータを示す。左は、様々な条件(上段から下段にかけて):正常酸素、低酸素(対照)、低酸素+ヒドロキシウレア、及び低酸素+BB5.1前治療下のマウスの腎臓中のSS RBCの代表的な顕微鏡写真である。PE抗マウスTER-119及びDAPIを蛍光プローブとして使用した。右パネルは、標準的ソフトウェアを用いて画像の蛍光密度を定量する棒グラフを示す。
図7】肝臓中の低酸素誘導血管閉塞及びBB5.1モノクローナル抗体治療の効果に関するデータを示す。左は、様々な条件(上段から下段にかけて):正常酸素、低酸素(対照)、低酸素+ヒドロキシウレア、及び低酸素+BB5.1前治療下のマウスの肝臓中のSS RBCの代表的な顕微鏡写真である。PE抗マウスTER-119及びDAPIを蛍光プローブとして使用した。右パネルは、標準的ソフトウェアを用いて画像の蛍光密度を定量する棒グラフを示す。
図8】脾臓中の低酸素誘発性血管閉塞及びBB5.1モノクローナル抗体治療の効果に関するデータを示す。左は、様々な条件(上段から下段にかけて):正常酸素、低酸素(対照)、低酸素+ヒドロキシウレア、及び低酸素+BB5.1前治療下のマウスの脾臓中のSS RBCの代表的な顕微鏡写真である。PE抗マウスTER-119及びDAPIを蛍光プローブとして使用した。右パネルは、標準的ソフトウェアを用いて画像の蛍光密度を定量する棒グラフを示す。
図9】SCDのインビボマウスモデルにおけるVOCにおける補体活性化の阻害を試験するための実験アウトラインを示す。Townes SSマウスを5つの群に分け、ヘム処置の10日前からPBS(ビヒクル)、又はBB5.1モノクローナル抗体で4回、予防的に治療した。動物を50μmol/Kgのヘムに3時間曝露し、その後に動物を屠殺した。ビヒクル治療群の1つにおいて、動物をヘムに曝露せず、それはベースラインとして機能する。安楽死時、血液サンプル及び重要器官を動物から回収してRBC上の補体沈着のレベル、血管内溶血及び血管閉塞の重症度を測定した。
図10】SCD動物におけるヘム誘発性血管内溶血に対する抗C5抗体の効果を示す棒グラフを示す。左から右にかけて、正常(対照)、ヘム、ヘム+抗C5抗体前治療下の溶血マーカーレベルの変化が示される。以下の溶血マーカーを測定した:ビリルビン(左端);乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)(中央);及び遊離ヘモグロビン(右端)。****P<0.0001;P<0.05;ns:有意でない。
図11】SCD動物におけるヘム誘発性血管内溶血に対する抗C5抗体の効果を示す棒グラフを示す。左から右にかけて、正常、ヘム、及びヘム+抗C5抗体前治療の補体断片レベルの変化が示される。左側パネルはC3/C3b/iC3b沈着を示し、右側パネルはC5b9沈着を示す。***P<0.001;**P<0.01;P<0.05;ns:有意でない。
図12】肺中のヘム誘発性血管閉塞及び抗C5抗体治療の効果に関するデータを示す。左は、様々な条件(左から右にかけて):正常(対照)、ヘム、及びヘム+抗C5抗体前治療下のマウスの肺中の鎌状赤血球(SS)RBCの代表的な顕微鏡写真である。右パネルは、標準的ソフトウェアを用いて画像の蛍光密度を定量する棒グラフを示す。****P<0.0001;***P<0.001;P<0.05。
図13】肝臓中のヘム誘発性血管閉塞及びBB5.1抗C5抗体治療の効果に関するデータを示す。左は、様々な条件(左から右にかけて):正常(対照)、ヘム、及びヘム+抗C5抗体前治療下のマウスの肺中の鎌状赤血球(SS)RBCの代表的な顕微鏡写真である。右パネルは、標準的ソフトウェアを用いて画像の蛍光密度を定量する棒グラフを示す。****P<0.0001;P<0.05。
図14】鎌状RBC上のヘム誘発性補体沈着及び抗C5抗体治療の効果に関するフローサイトメトリーに基づくデータを示す。左は、正常、ヘム、及びヘム+抗C5抗体前治療を含む様々な条件下のiC3b沈着を示す散布図である。右は、iC3b沈着を定量する棒グラフである。****P<0.0001;**P<0.01。
図15】鎌状RBC上のヘム誘発性補体沈着及び抗C5抗体治療の効果に関するフローサイトメトリーに基づくデータを示す。左は、正常、ヘム、及びヘム+抗C5抗体前治療を含む様々な条件下のC5b9沈着を示す散布図である。右は、C5b9沈着を定量する棒グラフである。**P<0.01。
図16】ヘムに曝露された内皮細胞上のヘム誘発性補体断片沈着及び補体沈着に対する抗C5抗体の効果のフローサイトメトリーに基づく分析を示す棒グラフを示す。左から右にかけて、正常、ヘム、及びヘム+抗C5抗体前治療の補体断片レベルの変化が示される。左側パネルはC3/C3b/iC3b沈着を示し、右側パネルはC5b9沈着を示す。ns=有意でない。****P<0.0001。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本開示は、部分的には、患者の不十分なクオリティ・オブ・ライフを伴う生命を脅かす疾患である鎌状赤血球症(SCD)の発症及び/又は発現における補体タンパク質、補体C5の役割の所見に基づく。認識されている動物モデル(例えば、TowneのSCDマウスモデル、マウスヘモグロビンα及びβ遺伝子が、単一アミノ酸置換(Glu→Val)を有する鎌状赤血球突然変異(β)を含有する対応するヒト遺伝子で置き換えられている)を利用して、本開示は、SCD又はそれに関連する症状のインビボでの有効な改善についての、補体C5阻害剤(例えば、抗C5抗体、核酸分子、ぺプチド、小分子、又はアプタマー)のこれまで認識されなかった役割を最初に実証する。
【0039】
定義
本開示の詳述前、本開示は特定の組成物にも生物系にも限定されず、それらは無論変動し得ることが理解されるべきである。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を記載する目的のためのものにすぎず、限定を意図しないことも理解されるべきである。
【0040】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、内容が特に明示しない限り、複数の参照対象を含む。従って、例えば、「分子」への言及は、場合により、2つ以上のそのような分子の組み合わせを含む、などである。
【0041】
用語「及び/又は」は、関連する列挙項目の1つ以上の任意の及び全ての考えられる組み合わせ、並びに選択肢(「又は」)で解釈される場合、組み合わせの欠落を含む。
【0042】
本明細書に記載の本開示の態様及び実施形態は、態様及び実施形態「を含む」、「からなる」、及び「から本質的になる」を含むことが理解される。
【0043】
用語「約」は、その値のプラス又はマイナス10%の範囲を意味し、本開示の文脈が特に示さない限り、又はそのような解釈と矛盾しない限り、例えば、「約5」は4.5~5.5を意味する。例えば、数値の列挙、例えば、「約49、約50、約55」において、「約50」は、先行値と後続値との間隔の半分未満に及ぶ範囲、例えば、49.5超~52.5未満を意味する。
【0044】
用語「実質的に」は、意図される目的について機能するのに十分であることを意味する。従って、用語「実質的に」は、絶対的又は完全な状態、寸法、測定値、結果などからのわずかな非有意の変動、例えば、当業者により予測されるが全体的な性能にあまり影響を及ぼさない変動(例えば、+/-10%)を許容する。
【0045】
値の範囲が本開示で提供される場合、その範囲の上限と下限との間の各介在値、及びその記述範囲中の任意の他の記述又は介在値が本開示内に包含されることが意図される。例えば、1mM~8mMの範囲が記述される場合、2mM、3mM、4mM、5mM、6mM、及び7mMも明示的に開示されることが意図される。
【0046】
用語「対象」は、任意の動物、例えば、哺乳類であり得る。対象は、例えば、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、サル、ヒヒ、若しくはチンパンジー)、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、アレチネズミ、ハムスター、ラット、又はマウスであり得る。例えば、トランスジェニック動物又は遺伝子改変(例えば、ノックアウト若しくはノックイン)動物が含まれる。
【0047】
本明細書で使用される場合、「予防が必要とされる」、「治療が必要とされる」、又は「それが必要とされる」対象は、適切な医療施術者(例えば、ヒトの場合、医師、看護師、又は診療看護師;非ヒト哺乳類の場合、獣医)の判断により、所与の治療、例えば、補体媒介性疾患又は障害を治療するための特定の治療又は予防又は診断剤から合理的に利益を得るものを指す。
【0048】
本明細書で使用される場合、用語「治療する」又は「治療すること」は、介入を提供すること、例えば、対象の任意のタイプの医学的又は外科的管理を提供することを指す。治療は、障害若しくは病態の進行を好転させ、緩和し、阻害し、その可能性を防止若しくは低減するため、又は障害若しくは病態の1つ以上の症状若しくは発現(例えば病態生理)の進行を好転させ、緩和し、阻害若しくは防止し、その可能性を防止若しくは低減するために提供することができる。「予防する」は、少なくともいくつかの個体において、障害若しくは病態、又はそのようなものの症状若しくは発現が少なくとも一定期間起こらないようにすることを指す。治療することは、補体媒介性病態を示す1つ以上の症状又は発現の発症後に、例えば、病態の重症度を好転させ、緩和し、低減するため、及び/又はその進行を阻害若しくは防止するため、並びに/或いは病態の1つ以上の症状若しくは発現の重症度を好転させ、緩和し、低減するため、及び/又はその1つ以上の症状若しくは発現を阻害若しくはするために補体阻害剤(例えば、補体C5阻害剤)を対象に投与することを含むことができる。本明細書に記載の方法によれば、補体阻害剤(例えば、補体C5阻害剤)を、補体媒介性疾患を発症しているか、又は一般集団のメンバーと比較して増加した、そのような障害を発症するリスクがある対象に投与することができる。そのような阻害剤(例えば、補体C5阻害剤)は、予防的に、即ち、病態の任意の症状又は発現の発症前に投与することができる。典型的には、この場合、対象は、例えば、補体活性化条件、例えば、低酸素に曝露された場合、病態を発症するリスクがある。
【0049】
用語「症状」は、疾患、疾病、損傷、又は体内に何らかの異常がある兆候を指す。症状は、その症状を経験している個体により感じられ、又は気付かれるが、他者、例えば、非ヘルスケア専門家には容易に気付かれないことがある。用語「徴候」も、医師、看護師、又は他のヘルスケア専門家により確認され得る、体内に何らかの異常がある兆候を指す。
【0050】
用語「投与」又は「投与すること」は、薬剤、例えば、薬物と同時に使用される場合、薬剤を細胞若しくは標的組織中若しくは上に直接送達すること、又は薬剤を患者に提供し、それにより薬剤が標的化される組織に薬剤が影響を及ぼすことを意味する。
【0051】
用語「接触する」は、薬剤(例えば、抗C5抗体、核酸分子、ぺプチド、小分子、又はアプタマー)及び標的(例えば、補体C5)を、一方が他方に生物学的効果(例えば、標的の阻害)を発揮するように互いに十分に近接させることを指す。いくつかの実施形態では、接触という用語は、標的への薬剤の結合を意味する。
【0052】
用語「阻害剤」又は「アンタゴニスト」は、本明細書で使用される場合、別の物質(例えば、補体C5)の発現、活性、及び/又はレベルを抑制する物質、例えば、抗体、核酸、アプタマー、及び小分子を指す。機能的又は生理学的拮抗は、2つの物質が同じ生理学的機能に対して逆の効果を生じさせる場合に起こる。化学的拮抗又は不活性化は、2つの物質間の、それらの効果を中和する反応、例えば、抗原がその標的に作用するのを防止する抗原への抗体の結合である。体内動態拮抗は、標的に到達する作用物質がより少なくなり、又はそこでのその持続性が低減されるような、物質の体内動態(その吸収、生体内変化、分布、又は排泄)の改変である。用語「阻害する」若しくは「低減する」又はそれらの文法的変形は、標的の規定レベル又は活性の減少又は縮小、例えば、標的のレベル又は活性がほとんどないか又は本質的に検出不可能(多くとも非有意量)であることを指す。このタイプの阻害剤の例は、抗体、干渉RNA分子、例えば、siRNA、miRNA、及びshRNAである。補体C5の発現を阻害する物質の包含の他、補体C5阻害剤の追加の例としては、補体C5をコードする内因性遺伝子の転写を減衰させる物質、例えば、小分子が挙げられる。
【0053】
本明細書で使用される場合、遺伝子に関する用語「破壊する」は、機能的遺伝子産物の形成の防止を指す。遺伝子産物は、それがその正常な(野生型)機能を満たす場合、機能的である。遺伝子の破壊は、遺伝子によりコードされる機能的因子の発現を防止し、遺伝子によりコードされる配列及び/又は動物中の遺伝子の発現に必要なプロモーター及び/又はオペレーター中の1つ以上の塩基の挿入、欠失、又は置換を含有し得る。破壊される遺伝子は、例えば、動物のゲノムからの遺伝子の少なくとも一部の除去、遺伝子によりコードされる機能的因子の発現を防止するための遺伝子の改変、干渉RNA、又は外因性遺伝子によるドミナントネガティブ因子の発現により破壊することができる。内因性補体C5の破壊は、例えば、抗C5抗体、核酸分子、siRNA、shRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー及び遺伝子編集技術を用いることにより達成することができる。
【0054】
本明細書で使用される場合、用語「内因性」は、特定の生物(例えば、ヒト)中で又は生物内の特定の位置(例えば、器官、組織、若しくは細胞、例えば、ヒト細胞)中で天然に見出される分子(例えば、代謝産物、ポリペプチド、核酸、又は補因子)を説明する。
【0055】
本明細書で使用される場合、用語「抗体」は、抗原、例えば、補体タンパク質に対する高い結合親和性を有する抗体、又はその機能的部分若しくは断片を意味する。この用語は最も広い意味で使用され、一本鎖可変断片(scFv)、及び単一ドメイン抗体(例えば、sdAb、sdFv、ナノボディ)断片を含む断片抗原結合(Fab)断片、F(ab’)2断片、Fab’断片、Fv断片、組換えIgG(rIgG)断片、一本鎖抗体断片を含む、インタクト抗体及び機能的(抗原結合)抗体断片を含むポリクローナル及びモノクローナル抗体を含む。この用語は、IgG並びにそのサブクラス、IgM、IgE、IgA、及びIgDを含む、任意のクラス又はサブクラスの天然、遺伝子操作並びに/又はそうでなければ修飾抗体を包含する。
【0056】
用語「モノクローナル抗体」は、本明細書で使用される場合、特定のエピトープに対する単一結合特異性及び親和性を示す抗体を指す。それゆえ、用語「ヒトモノクローナル抗体」、又は「HuMab」は、単一結合特異性を示し、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変及び定常領域を有する抗体を指す。
【0057】
用語「単一ドメイン抗体」は、ドメイン抗体、VHH、VNAR又はsdAbとしても公知であり、単一単量体可変抗体ドメインからなり、慣用のFab領域中の軽鎖及び重鎖のCHドメインを欠く抗体の一種である。sdAbは、例えば、ラクダ科(例えば、ヒトコブラクダ、ラクダ、ラマ、及びアルパカ)重鎖抗体のVHHドメイン及び軟骨魚(例えば、サメ)重鎖抗体(免疫グロブリン新抗原受容体(IgNAR)としても公知)のVNARドメインから生成することができる。或いは、sdAbは、ヒト又はマウスの正常IgGからの二量体可変ドメインを、数個の重要な残基のラクダ化により単量体に分割することにより生成することができる。
【0058】
用語「抗原」は、抗体又はその抗原結合断片に特異的に結合し得る任意の分子、例えば、タンパク質又はその断片を指す。
【0059】
「抗体断片」は、インタクト抗体の一部、例えば、インタクト抗体の抗原結合又は可変領域を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab’,F(ab’)2、及びFv断片;ダイアボディ;直鎖抗体(Zapata et al.Protein Eng.8(10):1057-1062(1995));一本鎖抗体分子;並びに抗体断片から形成される多重特異的抗体が挙げられる。
【0060】
用語「抗原断片」は、抗原特異的抗体により認識され得る抗原の一部を指す。
【0061】
用語「抗原結合断片」は、抗体と抗原との特異的結合に関与するアミノ酸を含む抗体分子の一部を指す。抗原結合断片は、典型的には、可変重鎖(VH)相補性決定領域(CDR)1-3(VHCDR1-3)を、場合により可変軽鎖(VL)CDR1-3(VLCDR1-3)と一緒に含有する。特定の抗原について、抗原結合ドメイン又は抗原結合断片は、抗原の一部にのみ結合し得る。抗体により特異的に認識及び結合される抗原の一部は、「エピトープ」又は「抗原決定基」と称される。抗原結合ドメイン及び抗原結合断片としては、Fab(断片抗原結合);F(ab’)2断片、ヒンジ領域でジスルフィド架橋により結合している2つのFab断片を有する二価断片;Fv断片;一本鎖Fv断片(scFv)(例えば、Bird et al.Science 242:423-426,1988;及びHuston et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883,1988を参照されたい);2つのVH及びCH1ドメインを有するFd断片;dAb(Ward et al.,Nature 341:544-546,1989)が挙げられる。Fab断片は、定常領域間でジスルフィド結合により共有結合しているVH-CH1及びVL-CLドメインを有する。Fv断片はより小さく、非共有結合しているVH及びVLドメインを有する。非共有結合ドメインが解離する傾向を克服するため、scFvを構築することができる。scFvは、(1)VHのC末端をVLのN末端に結合させる、又は(2)VLのC末端をVHのN末端に結合させるフレキシブルポリペプチドを含有する。15量体(Gly4Ser)3ぺプチドをリンカーとして使用することができるが、他のリンカーが当技術分野において公知である。軽鎖を含有しないラクダ科抗体の場合、抗原結合断片は、VHHのCDRを含有する。抗原結合断片は、慣用の技術を用いて得ることができ、断片は、インタクト抗体と同じ様式で有用性についてスクリーニングされる。抗原結合断片は、組換えDNA技術により、又はインタクト免疫グロブリンの酵素的若しくは化学的切断により産生することができる。
【0062】
用語「二重特異的」は、2つの抗原に結合し得る本開示の融合タンパク質を指す。用語「多価融合タンパク質」は、2つ以上の抗原結合部位を含む融合タンパク質を意味する。
【0063】
本明細書で使用される場合、用語「結合ドメイン」は、抗原と相互作用するアミノ酸残基を含むタンパク質又は抗体の一部を指す。結合ドメインとしては、限定されないが、抗体(例えば、全長抗体)、及びその抗原結合部分が挙げられる。結合ドメインは、結合剤に抗原に対するその特異性及び親和性を付与する。この用語は、免疫グロブリン結合ドメインと相同又は大部分が相同である結合ドメインを有する任意のタンパク質も含める。
【0064】
用語「に融合している」は、本明細書で使用される場合、2つ以上の配列を組み合わせることにより、典型的には、2つ(以上)のコード配列が転写され、単一連続ポリペプチドに翻訳されるように、ある配列、例えば、コード配列を発現ベクター中に1つ以上の第2のコード配列とインフレームでクローニングすることにより作製されたポリペプチドを指す。組換え技術により作製される他、ポリペプチドの一部は、カスタムポリペプチドの作製について当技術分野で公知の化学反応、又は他の手段により互いに「融合している」ことがある。
【0065】
用語「超可変領域」又は「HVR」は、本明細書で使用される場合、配列が超可変的であり、及び/又は構造的に定義されたループ(「超可変ループ」)を形成する抗体可変ドメインの領域の各々を指す。一般に、天然四本鎖抗体は6つのHVRを含み;3つはHCVR中にあり(H1、H2、H3)、3つはLCVR中にある(L1、L2、L3)。HVRは、一般に、超可変ループからの及び/又は「相補性決定領域」(CDR)からのアミノ酸残基を含み、後者は配列変動が最大であり、及び/又は抗原認識に関与する。例示的な超可変ループは、アミノ酸残基26~32(L1)、50~52(L2)、91~96(L3)、26~32(H1)、53~55(H2)、及び96~101(H3)で起こる。(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987))。例示的なCDR(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3、CDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3)は、L1のアミノ酸残基24~34、L2の50~56、L3の89~97、H1の31~35B、H2の50~65、及びH3の95~102で起こる。(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991))。HCVR中のCDR1を除き、CDRは、一般に、超可変ループを形成するアミノ酸残基を含む。
【0066】
本明細書で使用される場合、用語「干渉RNA」は、例えば、(i)標的RNA転写産物にアリーリングし、それにより核酸二本鎖を形成すること;及び(ii)RNA転写産物のヌクレアーゼ媒介性分解を促進すること及び/又は(iii)RNA転写産物の翻訳を緩徐化し、阻害し、若しくは防止すること、例えば、機能的リボソーム-RNA転写産物複合体の形成を立体的に排除するか若しくはそうでなければ標的RNA転写産物からの機能的タンパク質産物の形成を減衰させることにより標的RNA転写産物の発現を抑制するRNA、例えば、siRNA、miRNA、又はshRNAを指す。本明細書に記載の干渉RNAは、SCD又は本明細書に記載の関連障害を有する患者、例えば、ヒト患者に、例えば、一本鎖若しくは二本鎖オリゴヌクレオチドの形態で、又は干渉RNAをコードするトランス遺伝子を含有するベクター(例えば、ウイルスベクター)の形態で提供することができる。例示的な干渉RNAプラットフォームは、例えば、Lam et al.,Mol.Ther.Nucleic Acids 4:e252(2015);Rao et al.,Adv.Drug Deliv.Rev.61:746-769(2009);及びBorel et al.,Mol.22:692-701(2014)に記載されており、それらの各々の開示は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【0067】
用語「小分子」は、約2500amu未満、約2000amu未満、約1500amu未満、約1000amu未満、又は約750amu未満の分子量を有する有機分子を指す。いくつかの実施形態では、小分子は、1つ以上のヘテロ原子を含有する。
【0068】
本明細書で使用される用語「アプタマー」は、特異的標的に結合されるオリゴヌクレオチド(一般に、RNA分子)を指す。「アプタマー」は、オリゴヌクレオチドアプタマー(例えば、RNAアプタマー)を指し得る。用語「アプタマー」は、本明細書で使用される場合、他の分子へのその結合能に基づいてランダムプールから選択されたDNA又はRNA分子を指す。核酸、タンパク質、小分子有機化合物、及びさらには生物全体に結合するアプタマーが選択されている。アプタマーのデータベースは、aptamer(dot)icmb(dot)utexas(dot)edu/のワールド・ワイド・ウェブで維持されている。
【0069】
本明細書で使用される場合、用語「補体C5」は、全長のプロセシングされていない補体C5、及び細胞中のプロセシングから生じる補体C5の任意の形態、及び補体C5の任意の天然に存在する変異体(例えば、スプライス変異体又はアレル変異体)を包含する。ヒト補体C5は、NCBI Gene ID番号727を有する。例示的な野生型ヒト補体C5核酸配列は、NCBI RefSeqアクセッション番号NM_001317163.1及びNM_001735.2に提供されており、それぞれの例示的な野生型補体C5アミノ酸配列は、NCBI RefSeqアクセッション番号NP_001304092.1及びNP_001726.2に提供されている。
【0070】
本明細書で使用される場合、用語「代替補体経路」は、補体活性化の3つの経路の1つ(他の経路は古典的経路及びレクチン経路である)を指す。代替補体経路は、典型的には、細菌、寄生虫、ウイルス又は真菌により活性化されるが、IgA Ab及び特定のIgL鎖もこの経路を活性化させることが報告されている。
【0071】
本明細書で使用される場合、用語「代替補体経路ディスレギュレーション」は、病原体に対する宿主防御を提供し、免疫複合体及び損傷細胞を除去し、並びに免疫調節についての代替補体経路の能力の任意の異常を指す。代替補体経路ディスレギュレーションは、液相中及び細胞表面の両方で起こり得、過剰の補体活性化又は不十分な調節をもたらし得、それらは両方とも組織損傷を引き起こす。
【0072】
本明細書で使用される場合、用語「代替補体経路ディスレギュレーションにより媒介される疾患」は、代替補体経路ディスレギュレーションにより引き起こされる身体機能、系又は器官の中断、休止又は障害を指す。そのような疾患は、本明細書に記載の組成物又は製剤での治療から利益を受ける。いくつかの実施形態では、疾患は、病原体に対する宿主防御を提供し、免疫複合体及び損傷細胞を除去し、並びに免疫調節についての代替補体経路の能力の任意の異常により引き起こされる。代替補体経路の1つ以上の成分、又は代替補体経路により生成される産物のディスレギュレーションにより直接的又は間接的に媒介される疾患も本明細書に包含される。
【0073】
本明細書で使用される場合、用語「代替補体経路依存的膜侵襲複合体アセンブリ」は、代替補体経路活性化の結果として形成される終末複合体を指し、補体成分C5、C6、C7、C8及びC9を含む。膜侵襲複合体(MAC)のアセンブリは、細胞溶解をもたらす。
【0074】
本明細書で使用される場合、用語「代替補体経路依存的溶血」は、赤血球細胞上の代替補体経路依存的MACアセンブリ増加及び/又は沈着により媒介される赤血球細胞の溶解を指す。
【0075】
用語「サンプル」又は「生物学的サンプル」は、対象から得られる任意の実体(例えば、細胞を含有する組成物、血液、血漿、血清又は他の血液分画、リンパ液、尿、脳脊髄液、腹水、唾液、母乳、涙液、膣分泌物、羊水、洗浄液、精液、腺分泌物、滲出液、嚢胞及び糞便の含有物)を意味することを意味する。
【0076】
活性剤、例えば、補体阻害剤(補体C5阻害剤)の「有効量」は、所望の生物学的応答を誘発するのに(換言すると、不所望な生物学的応答を阻害するのに)十分な活性剤の量を指す。有効である特定の薬剤の絶対量は、所望の生物学的エンドポイント、送達されるべき薬剤、標的組織などのような因子に応じて変動し得る。「有効量」は、単回用量で又は複数回用量の投与で投与され得る。治療剤の有効量は、例えば、障害の少なくとも1つの症状を軽減するのに十分な量であり得る。有効量は、慢性及び進行性障害の進行を緩徐化するのに、例えば、障害の1つ以上の症状若しくは徴候がそれ自体発現するまでの時間を増加させるのに、又は障害に罹患している個体が特定の損害レベルに到達するまでの時間を増加させるのに十分な量であり得る。有効量は、薬剤の非存在下で起こるよりも迅速な又は大きい疾患からの回復を可能とするのに十分な量であり得る。本開示の目的のため、薬物、化合物、又は医薬組成物の有効量は、予防的又は治療的治療を直接的又は間接的のいずれかで達成するのに十分な量である。臨床的状況で理解される通り、補体阻害剤(例えば、補体C5阻害剤)又はその医薬組成物の有効量は、別の薬物、化合物、又は医薬組成物と同時に達成されてもされなくてもよい。従って、「有効量」は、1つ以上の治療剤の投与に関して考慮することができ、1つ以上の他の薬剤と同時に所望の結果が達成され得、又は達成される場合、単一の補体阻害剤(例えば、補体C5阻害剤)が有効量で与えられるとみなすことができる。
【0077】
本明細書で使用される場合、「活性」は、天然又は天然に存在するポリペプチドの生物学的活性を保持するポリペプチドの形態を指し、「生物学的」活性は、天然又は天然に存在するポリペプチドにより引き起こされる生物学的機能(例えば、酵素的機能)を指す。
【0078】
「薬学的に許容される担体」は、生物学的にも他の点でも不所望でない材料から構成される担体を意味する。用語「担体」は、一般に、1つ又は複数の活性剤以外の医薬製剤中に存在する任意の成分を指すために本明細書で使用され、従って、希釈剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、増量剤、着色剤、湿潤又は乳化剤、pH緩衝剤、保存剤などを含む。同様に、本明細書で提供される分子の「薬学的に許容される」塩又は変異体(例えば、エステル)は、生物学的にも他の点でも不所望でないものである。
【0079】
本明細書で使用される場合、用語「塩」は、本開示の主題の化合物の比較的非毒性の無機及び有機酸付加塩を指す。これらの塩は、化合物の最終単離及び精製の間に現場で、又は遊離塩基形態の精製化合物を適切な有機若しくは無機酸と別個に反応させ、こうして形成された塩を単離することにより調製することができる。薬学的に許容される塩基付加塩は、金属又はアミン、例えば、アルカリ及びアルカリ土類金属水酸化物と、又は有機アミンから形成することができる。カチオンとして使用される金属の例としては、限定されないが、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどが挙げられる。適切なアミンの例としては、限定されないが、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、N-メチルグルカミン、及びプロカインが挙げられる。塩は、無機酸の硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、例えば、塩化水素、窒素、リン、硫黄、臭化水素、ヨウ化水素、リンなどから調製することができる。代表的な塩としては、臭化水素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、ホウ酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナフチル酸塩 メシル酸塩、グルコヘプトン酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリル硫酸塩及びイセチオン酸塩などが挙げられる。塩は、有機酸、例えば、脂肪族モノ及びジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、アルカン二酸、芳香族酸、脂肪族及び芳香族スルホン酸などから調製することもできる。代表的な塩としては、酢酸塩、プロピオン酸塩、カプリル酸塩、イソ酪酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、フタル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、フェニル酢酸、クエン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩などが挙げられる。
【0080】
用語「薬学的に許容される塩」又はその変種は、本明細書で使用される場合、妥当な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー応答などなしで対象(例えば、ヒト対象)と接触させる使用に適切であり、合理的なベネフィット/リスク比に見合い、意図される使用に有効である塩、可能な場合、本開示の化合物の双性イオン形態を指す。従って、薬学的に許容される塩としては、アルカリ及びアルカリ土類金属、例えば、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどに基づくカチオン、並びに非毒性アンモニウム、第四級アンモニウム、及び限定されないが、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミンなどを含むアミンカチオンを挙げることができる。アミノ酸の塩、例えば、アルギン酸塩、グルコン酸塩、ガラクツロン酸塩なども企図される。
【0081】
本明細書で使用される場合、用語「診断」は、対象が、限定されないが、SCD並びに関連疾患及び障害を含む所与の疾患又は病態に罹患している可能性が高いかどうかを決定することができる方法を指す。当業者は、しばしば1つ以上の診断指標、例えば、疾患又は病態の存在、重症度、又は非存在を示すマーカー、その存在、非存在、量、又は量の変化に基づいて診断を行う。他の診断指標としては、患者病歴;身体症状、例えば、バイタルの原因不明の変化、又は表現型、遺伝子型若しくは環境若しくは遺伝因子を挙げることができる。当業者は、用語「診断」が、特定の経過又はアウトカムが起こる確率の増加を指すこと;即ち、所与の特徴、例えば診断指標の存在又はレベルを示す患者において、その特徴を示さない個体と比較した場合、経過又はアウトカムが起こる可能性がより高いことを理解する。本開示の診断方法は、独立して、又は他の診断方法との組み合わせで使用して所与の形質を示す患者において経過又はアウトカムが起こる可能性がより高いかどうかを決定することができる。
【0082】
用語「細胞」は、組織の基礎的な構成単位、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、フェレット、ウシ、ヒツジ、ウマなどからの細胞を指す。細胞は、二倍性又は半数性(即ち、性細胞)であり得る。細胞は、倍数性、異数性、又は無核でもあり得る。細胞は、特定の組織又は器官、例えば、血液、心臓、肺、腎臓、肝臓、骨髄、膵臓、皮膚、骨、静脈、動脈、角膜、血液、小腸、大腸、脳、脊髄、平滑筋、骨格筋、卵巣、精巣、子宮、臍帯などからのものであり得る。細胞は、血小板、骨髄球、赤血球、リンパ球、脂肪細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、心筋、骨格筋細胞、内分泌細胞、グリア細胞、神経細胞、分泌細胞、バリア機能細胞、収縮性細胞、吸収細胞、粘膜細胞、周辺細胞、幹細胞(全能性、多能性又は多分化能性)、未授精又は受精卵母細胞、精子などでもあり得る。正常細胞及び形質転換細胞が含まれる。
【0083】
用語「鎌状赤血球症」又は「SCD」は、当技術分野におけるそれらの一般的な意味を有し、赤血球細胞が異常な硬い鎌状をなす遺伝性血液障害を指す。赤血球の鎌状化は、細胞のフレキシビリティを減少させ、様々な生命を脅かす合併症のリスクをもたらす。この用語は、鎌状赤血球貧血、ヘモグロビンSC疾患及び鎌状赤血球ベータ-サラセミアを含む。
【0084】
「ベータサラセミア」又は「βサラセミア」は、本明細書で使用される場合、ヘモグロビンのベータ鎖の合成の低減又は非存在に起因する遺伝性血液障害を意味する。これは、βグロビン遺伝子中又はその付近の1つ以上の突然変異の結果である。
【0085】
用語「血管閉塞」又は「VOC」は、当技術分野におけるそれらの一般的な意味を有し、例えば、血管機能不全、組織壊死、及び/又は器官損傷を伴う虚血をもたらす毛細血管の閉塞及び器官への血流の制限をもたらすSCDの一般的合併症に関する。VOCは、通常、血管閉塞危機の構成要素であるが、それらはより限定的であり、臨床的にサイレントであり、血管閉塞危機について入院を引き起こさなくてもよい。本明細書で使用される場合、用語「血管閉塞危機」は、虚血、激痛、壊死、及び器官損傷をもたらす毛細血管の閉塞及び器官への血流の制限に伴う、入院をもたらすSCDの有痛性合併症を指す。
【0086】
用語「急性胸部症候群」は、典型的には発熱、胸痛、及び胸部x線写真上の新たな浸潤の出現により特徴付けられる病態である。SCDに関する用語「慢性肺疾患」は、典型的には、x線写真の間質異常、肺機能損害として、及びその最も重度の形態で肺高血圧の証拠により発現する。
【0087】
用語「溶血性貧血」は、本明細書で使用される場合、1mm当たりの赤血球(RBC)数又は100mLの血液中のヘモグロビン量が正常未満であり、例えば、赤血球の破損から生じる任意の病態を指す。用語「血小板減少症」は、本明細書で使用される場合、血液中で循環する血小板数が血小板の正常範囲未満である病態を指す。
【0088】
用語「補体沈着」は、血液中の補体関連タンパク質群を含有する一連のカスケード(補体活性化経路)を誘発するような様式で標的細胞(例えば、RBC)上の補体、例えば、C5b9又はC3bの沈着をもたらす活性又は事象を指す。さらに、補体の活性化により生成されるタンパク質断片は、免疫細胞の移動、食作用及び活性化を誘導し得る。関連下流事象としては、例えば、(a)血液細胞中のヘム放出及び/又は貧血をもたらす標的細胞の溶血;又は(b)食作用及び血管外溶血(EVH)をもたらし得るC3オプソニン化;活性化内皮へのオプソニン化細胞の接着;並びに/又は好中球及び血小板の活性化が挙げられる。
【0089】
SCDに関する用語「誘発因子」は、疾患症状又は病理、例えば、血管閉塞危機を開始させ、伝播させ、又は悪化させる任意の事象又は現象を含む。代表的な例としては、例えば、アシドーシス、低酸素及び脱水が挙げられ、それらの全てはSSヘモグロビンの細胞内重合を増強する(J.H.Jandl,Blood:Textbook of Hematology,2ndEd.,Little,Brown and Company,Boston,1996,544-545頁)。
【0090】
「核酸のレベルを決定すること」は、当技術分野で公知の方法による直接的又は間接的のいずれかの核酸(例えば、mRNA)の検出を意味する。mRNAレベルを測定する方法としては、一般に、限定されないが、ノザンブロッティング、ヌクレアーゼ保護アッセイ(NPA)、インサイチュハイブリダイゼーション(ISH)、RT-PCR、及びRNAシーケンシング(RNA-Seq)が挙げられる。
【0091】
「タンパク質のレベルを決定すること」は、当技術分野で公知の方法による直接的又は間接的のいずれかのタンパク質の検出を意味する。タンパク質レベルを測定する方法としては、一般に、限定されないが、ウェスタンブロッティング、免疫ブロッティング、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、放射免疫測定法(RIA)、免疫沈降、免疫蛍光、表面プラズモン共鳴、化学発光、蛍光偏光、リン光、免疫組織化学的分析、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析、液体クロマトグラフィー(LC)-質量分析、マイクロサイトメトリー(microcytometry)、顕微鏡観察、蛍光活性化細胞選別(FACS)、及びフローサイトメトリー、並びに限定されないが、酵素的活性又は他のタンパク質パートナーとの相互作用を含むタンパク質の特性に基づくアッセイが挙げられる。
【0092】
用語「溶血性疾患」は、細胞溶解、細胞損傷及び炎症が疾患の病理における役割を担う任意の障害又は疾患を指す。溶血性疾患は、代替経路(AP)活性化が細胞溶解、細胞損傷、及び炎症を引き起こす炎症性障害又は疾患でもある。溶血性疾患としては、赤血球及び/又は血小板の病理的溶解により特徴付けられる疾患が挙げられる。無核細胞、例えば、赤血球及び血小板は、完全溶解に供される。赤血球の溶解は、多くのマーカー、例えば、ヘム、ヘモグロビン、LDH、ビリルビンを放出し、それらのいくつかは、血液及び器官についての病理学的アウトカムを有し得る。有核細胞、例えば、好中球、単球、Tリンパ球は、MACにより侵襲され得るが、完全溶解を受けない。用語「血管内溶血」は、AP活性化並びにC5b-9の付随産生及び細胞表面上のその沈着により引き起こされる無核及び有核細胞の溶解を指す。用語「血管外溶血」は、補体受容体を介するC3b沈着及び除去に起因する細胞の溶解を指す。C3bは、古典的及び代替経路の活性化を介して産生される。本開示は、代替補体経路を介して産生されるC3bに関する。
【0093】
用語「静脈内(intravenous)」は、一般に「静脈内(within a vein)」を意味し、対象の標的細胞又は組織に血管系を介してアクセスすることを指す。静脈内(IV)療法では、液体物質が静脈中に直接投与される。他の投与経路と比較して、静脈内経路は、薬剤を身体全体に送達するおそらく最速の方法である。いくつかの医薬、輸血、及び非経口(例えば、非食物)栄養素は、標準的な送達系を用いて静脈内投与される。
【0094】
用語「低酸素」は、酸素レベルが正常よりも低い、例えば、正常酸素レベルの21%、15%、12%、9%、6%、3%、又は2%未満である条件を指す。対照的に、「正常酸素」は、酸素レベルが実質的に正常に近い、例えば、正常レベルの+/-10%以内である条件を指す。
【0095】
本明細書で使用される場合、用語「検出すること」は、サンプル中の1つ以上のパラメータの測定によりサンプルに関連する値又は値のセットを決定するプロセスを指し、検査サンプルを参照サンプルと比較することをさらに含むことができる。本開示によれば、補体マーカーの検出としては、1つ以上のマーカーの同定、アッセイ、測定及び/又は定量が挙げられる。
【0096】
用語「可能性」は、本明細書で使用される場合、一般に、確率、相対的確率、存在若しくは非存在、又は程度を指す。
【0097】
本明細書で使用される場合、用語「マーカー」は、正常な生物学的プロセス、病原性プロセス、又は治療介入、例えば、補体阻害剤での治療に対する薬理学的応答の指標として客観的に測定することができる特徴を指す。代表的なタイプのマーカーとしては、例えば、マーカーのレベル、濃度、活性、又は特性の変化を含む、マーカーの構造(例えば、配列若しくは長さ)又は数の分子変化を含む。
【0098】
用語「対照」は、本明細書で使用される場合、検査サンプル、例えば、対照の健常対象又は非治療対象などについての参照を指す。「参照サンプル」は、本明細書で使用される場合、比較に使用される疾患を有しても有さなくてもよい組織又は細胞のサンプルを指す。従って、「参照」サンプルは、これにより、別のサンプル、例えば、SCD患者からの血液と比較することができる基準を提供する。対照的に、「検査サンプル」は、参照サンプルと比較されるサンプルを指す。参照及び検査サンプルが同じ患者から時間を空けて得られる場合など、参照サンプルは無疾患である必要はない。
【0099】
用語「レベル」は、特定の分子種の存在を示す二元的情報(例えば、非存在/存在)、定性的情報(例えば、非存在/低/中/高)、又は定量的情報(例えば、数、頻度、又は濃度に比例する値)を指し得る。タンパク質又は核酸(例えば、mRNA)の「レベル減少」又は「レベル増加」は、参照と比較したタンパク質又は核酸(例えば、mRNA)レベルの減少又は増加を意味する(例えば、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約100%、約150%、約200%、約300%、約400%、約500%、若しくはそれよりも大きい数の減少若しくは増加;参照と比較して約10%、約15%、約20%、約50%、約75%、約100%、又は約200%を超える減少若しくは増加;約0.01倍、約0.02倍、約0.1倍、約0.3倍、約0.5倍、約0.8倍、若しくはそれよりも小さい数未満の減少若しくは増加;又は約1.2倍、約1.4倍、約1.5倍、約1.8倍、約2.0倍、約3.0倍、約3.5倍、約4.5倍、約5.0倍、約10倍、約15倍、約20倍、約30倍、約40倍、約50倍、約100倍、約1000倍、若しくはそれよりも大きい数を超える増加)。タンパク質のレベルは、質量/容積(例えば、g/dL、mg/mL、μg/mL、ng/mL)又はサンプル中の総タンパク質若しくは核酸(例えば、mRNA)と比較した割合で表現することができる。
【0100】
本明細書で使用される場合、疾患又は障害についての用語「リスクがある」は、特定の疾患を経験しやすい素因を有する対象(例えば、ヒト)を指す。この素因は、遺伝的であり得る(例えば、又は他の因子(例えば、環境条件、高血圧、活性レベル、メタボリックシンドロームなどに起因し得る)。従って、本開示が任意の特定のリスクに限定されることは意図されず、本発明が補体に関する任意の特定のタイプの障害又は機能不全(例えば、鎌状赤血球症)に限定されることも意図されない。
【0101】
本明細書で使用される場合、「と同時に」は、ある治療モダリティの別の治療モダリティに加えた投与を指す。従って、「と同時に」は、ある治療モダリティの個体への他の治療モダリティの投与前、投与中、又は投与後の投与を指す。
【0102】
用語「医薬組成物」は、その中に含有される活性成分の生物学的活性が有効であることを許容するような形態であり、製剤が投与される対象に許容不可能に毒性である追加の成分を含有しない調製物を指す。
【0103】
本明細書で使用される場合、用語「特異的結合」、「選択的結合」、「選択的に結合する」、及び「特異的に結合する」は、所定の抗原上のエピトープへの抗体結合を指す。典型的には、抗体は、例えば、分析物としての組換えCDH11及びリガンドとしての抗体を用いて実施することができるBIACORE 3000装置で表面プラズモン共鳴(SPR)技術により決定された場合、およそ10-7M未満、例えば、およそ10-8M、10-9M若しくは10-10M又はそれよりもさらに小さい数未満の親和性(KD)で結合する。いくつかの実施形態では、所定の抗原への抗体による結合は、所定の抗原又は近縁抗原以外の非特異的抗原(例えば、BSA、カゼイン)への結合についてのその親和性よりも少なくとも2倍高い親和性での結合である。語句「抗原を認識する抗体」及び「抗原に特異的な抗体」は、用語「抗原に特異的に結合する抗体」と本明細書で互換的に使用される。
【0104】
本明細書で使用される場合、「疾患の進行を遅延させること」は、疾患(例えば、癌)の発症を延ばし、妨げ、緩徐化し、遅滞させ、安定させ、及び/又は延期させることを意味する。この遅延は、疾患歴及び/又は治療されている個体に応じて時間の長さを変えるものであり得る。当業者には明らかな通り、十分な又は顕著な遅延は、事実上、個体が疾患を発症しないという点で予防を包含し得る。例えば、末期癌、例えば、転移の発症を遅延させることができる。
【0105】
本明細書で使用される場合、用語「形質導入」及び「形質導入する」は、ウイルスベクター構築物又はその一部を細胞中に導入する方法及び細胞中のベクター構築物又はその一部によりコードされるトランス遺伝子の後続の発現を指す。
【0106】
本明細書で使用される場合、用語「トランスフェクション」は、原核又は真核宿主細胞中への外因性DNAの導入に一般に使用される広範な技術のいずれか、例えば、エレクトロポレーション、リポフェクション、リン酸カルシウム沈殿、ジエチルアミノエチル(DEAE)-デキストラントランスフェクション、NUCLEOFECTION(商標)、スクイズポレーション(squeeze-poration)、ソノポレーション、光トランスフェクション、MAGNETOFECTION(商標)、インペールフェクション(impalefection)などを指す。
【0107】
本明細書で使用される場合、用語「ベクター」は、限定されないが、目的の遺伝子又はコード配列、例えば、抗体をコードするコード配列を発現する核酸分子を含むことを意味する。それゆえ、あるタイプのベクターは、ウイルスベクターであり、追加のDNAセグメント(例えば、トランス遺伝子、例えば、本開示の補体C5阻害剤をコードするトランス遺伝子)をウイルスゲノム中にライゲートすることができ、次いでそのウイルスベクターを対象に(例えば、エレクトロポレーション、例えば、筋組織中へのエレクトロポレーションにより)投与して遺伝子療法と同様の様式でトランス遺伝子発現を可能とすることができる。
【0108】
別のタイプのベクターは、追加のDNAセグメントをライゲートすることができる環状二本鎖DNAループを指す「プラスミド」である。特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞中で自己複製し得る(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクター及びエピソーム哺乳類ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳類ベクター)は、宿主細胞中への導入時に宿主細胞のゲノム中に組み込まれ得、それにより宿主ゲノムと共に複製される。さらに、特定のベクターは、それらが作動的に結合している遺伝子の発現を指向し得る。そのようなベクターは、「組換え発現ベクター」(又は単に「発現ベクター」)と本明細書で称される。一般に、組換えDNA技術で有用な発現ベクターは、しばしばプラスミドの形態である。
【0109】
病理における補体系
補体系は、身体の他の免疫系と同時に作用して細胞及びウイルス病原体の侵入に対して防御する。適切に機能する補体系は感染微生物に対するロバストな防御を提供する一方、補体経路の不適切な調節及び活性化は、様々な障害の病理発生に関与するとされている。
【0110】
例えば、補体活性化がSCDに関与し得るという最初の報告は、1967年に最初に公開された(Francis and Womack.Am.J.Med.Technol.1967;33(2):77-86)。それ以降、研究はSCD患者の血液中の補体由来断片のレベル増加を報告しており、SCDにおいて補体が活性化されることを実証し、補体が疾患の病態生理における重要な役割を担い得ることを示唆する。
【0111】
SCD病理は、グロビン分子の外表面上のバリンのグルタミン酸に対する置換をもたらす、β-グロビン遺伝子内のミスセンス突然変異から生じることが公知である。このアミノ酸置換により鎌状赤血球ヘモグロビン(HbS)は溶解性が低くなり、脱酸素時に重合しやすくなる。従って、重合HbSを担持する赤血球(例えば、赤血球細胞;RBC)は変形性が低く、微小血管を閉塞し得る。この血管閉塞は、組織虚血及び梗塞を生じさせ、SCD患者間の合併症及び死亡の主因を表す。SCDの臨床的発現は、ホモ接合性グロビン突然変異をはるかに超えて拡大する。画期的な所見は、鎌状(SS)RBCが正常RBCと異なり、インビトロで刺激内皮に接着し得るという発見及びSS-RBC接着がSCDの臨床的重症度と相関するという発見であった。後続の研究は、内皮へのSS-RBC接着における血漿因子、例えば、補体タンパク質の重要性を認識している。SCDのモデル系では、低酸素/再酸素化の誘導後に補体タンパク質の1つ、C5aが活性化されることが示されており(例えば、Vercellotti et al.,Am.J.Hematol,94:3(2019),327-338を参照されたい)、補体タンパク質がこの障害の病理発生に直接関与し得ることをさらに示唆する。しかしながら、重要なことに、SCD又はそのモデルの病理発生における補体系の直接の因果的役割は依然として実証されるべきである。
【0112】
β-グロビン遺伝子中の突然変異は、例えば、ベータサラセミア(BT)を含む他の病理も引き起こす。BTメジャーは、ベータグロビン産生の完全な非存在をもたらす突然変異を含有するベータ-グロビン遺伝子の両アレルにより引き起こされる一方、BT中間型は、ベータグロビン鎖の産生低減及び/又は突然変異ベータグロビン鎖の産生に起因する。BTは、慢性貧血(例えば、RBCの不足)を引き起こす疾患であり、そのことは、補体タンパク質が遺伝子関連障害BTの病理発生における追加の役割を担うことを示唆し得る。
【0113】
本開示は、少なくとも部分的には、補体阻害剤(例えば、補体C5阻害剤、例えば、抗C5抗体、核酸分子、ぺプチド、小分子、又はアプタマー)がSCD、BT、又は鎌状赤血球BTに関連する病理発生を減衰させる驚くべき能力を提供するという驚くべき発見に基づく。本明細書に記載の通り、本開示は、少なくとも部分的には、補体阻害剤(例えば、補体C5阻害剤)での前治療が、低酸素誘発性C5b9沈着、血管内溶血(IVH)、及び重要器官、例えば、肺及び肝臓中の血管の閉塞の程度を含むSCD関連病理発生を有効に減衰させたという発見に基づく。これらの特性は、貧血、酸化ストレス、溶血、炎症及び血管閉塞を含むSCDの病態生理の蔓延に関して特に有益である。本明細書に記載の組成物及び方法を用いて、補体タンパク質(例えば、補体C5)をSCD、BT、又は鎌状赤血球BTの治療のために有効に阻害することができる。
【0114】
補体タンパク質
血漿タンパク質及び膜補因子の複雑な集合体である少なくとも25種の補体タンパク質が存在する。血漿タンパク質は、脊椎動物血清中のグロブリンの約10%を構成する。補体成分は、一連の複雑であるが正確な酵素的切断及び膜結合事象における相互作用によりそれらの免疫防御機能を達成する。生じた補体カスケードは、オプソニン性、免疫調節及び溶解機能を有する産物の産生をもたらす。
【0115】
補体カスケードは、古典的経路(CP)、レクチン経路、又は代替経路(AP)を介して進行し得る。CPは、典型的には、標的細胞上の抗原性部位の抗体認識、及びそれへの抗体結合により開始される。レクチン経路は、典型的には、高マンノース基質へのマンノース結合レクチン(MBL)の結合で開始される。APは、抗体非依存的であり、病原体表面上の特定の分子により開始され得る。これらの経路は、C3転換酵素に集中し、そこで補体成分C3は活性プロテアーゼにより切断されてC3a及びC3bを生じさせる。
【0116】
血液の血漿分画中に豊富である補体成分C3の自然加水分解は、AP C3転換酵素開始ももたらし得る。このプロセスは、「アイドリング」として公知であり、C3i又はC3(H0)を形成するためのC3中のチオエステル結合の自然切断を介して起こる。アイドリングは、活性化C3の結合を支持し、及び/又は中性若しくは陽性電荷特徴を有する表面(例えば、細菌細胞表面)の存在により容易にされる。C3(H0)の形成は、血漿タンパク質B因子の結合を可能とし、次いでそれはD因子がB因子をBa及びBbに切断するのを可能とする。Bb断片は、C3に結合し続けてC3(H0)Bb-「液相」又は「開始」C3転換酵素を含有する複合体を形成する。少量で産生されるにすぎないが、液相C3転換酵素は、複数のC3タンパク質をC3a及びC3bに切断し得、C3bの生成及び表面(例えば、細菌表面)へのその後続の共有結合をもたらす。表面結合C3bに結合しているB因子は、D因子により切断されてC3b、Bbを含有する表面結合AP C3転換酵素複合体を形成する。
【0117】
AP C5転換酵素((C3b)、Bb)は、AP C3転換酵素への第2のC3b単量体の付加時に形成される。第2のC3b分子の役割は、C5に結合し、Bbによる切断のためにそれを提示することである。AP C3及びC5転換酵素は、三量体タンパク質プロパージンの付加により安定化される。プロパージンは、C3bとB因子との会合を促進し、細胞の表面上のC3bBbのアセンブリのためのフォーカルポイントを提供する。プロパージンは、I因子によるC3bのH因子媒介性切断も阻害する。これは、事前形成された代替経路C3転換酵素に結合し;しかしながら、機能代替経路C3又はC5転換酵素を形成するためにプロパージン結合は要求されない。
【0118】
CP C3転換酵素は、C1q、C1r及びC1sの複合体である補体成分C1と、標的抗原(例えば、微生物抗原)に結合している抗体との相互作用時に形成される。抗体-抗原複合体へのC1のC1q部分の結合は、C1rを活性化させるC1の立体構造変化を引き起こす。次いで、活性C1rは、C1会合C1sを切断して活性セリンプロテアーゼを生成する。活性C1sは、補体成分C4をC4b及びC4aに切断する。C3bと同様に、新たに生成されるC4b断片は、標的表面(例えば、微生物細胞表面)上の適切な分子とのアミド又はエステル結合を容易に形成する高反応性チオールを含有する。C1sはまた、補体成分C2をC2b及びC2aに切断する。C4b及びC2aにより形成される複合体は、CP C3転換酵素であり、それはC3をC3a及びC3bにプロセシングし得る。CP C5転換酵素(C4b、C2a、C3b)は、CP C3転換酵素へのC3b単量体の付加時に形成される。
【0119】
C3及びC5転換酵素におけるその役割に加え、C3bは、抗原提示細胞、例えば、マクロファージ及び樹状細胞の表面上に存在する補体受容体とのその相互作用を介してオプソニンとしても機能する。C3bのオプソニン機能は、一般に、補体系の最も重要な抗感染機能の1つとみなされる。C3b機能を遮断する遺伝子病変の患者は、広範な病原性生物による感染を受けやすい一方、補体カスケード順序の後期の病変の患者、例えば、C5機能を遮断する病変の患者は、ナイセリア属(Neisseria)感染の感染のみをより受けやすく、この場合、少しだけより受けやすいことが見出される。
【0120】
AP及びCP C5転換酵素は、C5をC5a及びC5bに切断する。C5の切断はC5bを放出し、それは溶解終末補体複合体、C5b-9の形成を可能とする。C5bは、C6、C7及びC8と組み合わさって標的細胞の表面でC5b-8複合体を形成する。いくつかのC9分子の結合時、膜侵襲複合体(MAC、C5b-9、終末補体複合体(「TCC」))が形成される。十分な数のMACが標的細胞膜中に挿入される場合、それらが作出する開口部(MAC細孔)は、標的細胞の急速な浸透圧溶解を媒介する。
【0121】
C5の切断はC5aも放出し、それは強力なアナフィラトキシン及び化学走化性因子であることが示されている。
【0122】
補体経路阻害剤
本明細書には、補体経路の補体C5に結合し、それを阻害し、SCD、BT、又は鎌状赤血球BTの治療に有用である組成物が記載される。補体C5は、代替補体経路の正の調節因子である。本明細書には、補体C5に結合し、それを阻害し、SCD、BT、又は鎌状赤血球BTの治療に有用である組成物が記載される。
【0123】
化合物が補体経路成分の発現又は活性をモジュレートするかどうかを決定するための、例えば、化合物が補体C5阻害剤であるかどうかを決定するための多数のアプローチが当技術分野で公知である。補体成分活性アッセイは、細胞ベース、細胞抽出物ベース(例えば、ミクロソームアッセイ)、無細胞アッセイ(例えば、転写アッセイ)であり得、又は実質的に精製されたタンパク質を用い得る。例えば、補体C5阻害剤としての化合物の同定は、例えば、Shanklin et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:2510-2514,1991又はMiyazaki et al.J.Biol.Chem.275:30132-30138,2000に記載されている通り、補体C5肝ミクロソームアッセイを用いて実施することができる。いくつかの例では、例えば、Dillon et al.Anal.Chim.Acta.627(1):99-104,2008により記載されている通り、液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)に基づくアプローチを用いて補体C5活性を測定することができる。例えば、Soulard et al.Anal.Chim.Acta.627(1):105-111,2008により記載されている通り、ハイスループットアッセイを用いることができる。補体C5活性を測定するいっそうさらなるアプローチは、米国特許第7,790,408号明細書に記載されている。
【0124】
任意の適切な方法、例えば、質量分析、表面プラズモン共鳴、又は免疫測定法(例えば、免疫沈降若しくは酵素結合免疫吸着アッセイ)を用いて化合物が補体経路成分(例えば、補体C5)に結合するかどうかを決定することができる。
【0125】
任意の適切な方法、例えば、ノザンブロッティング、ウェスタンブロッティング、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、質量分析、又はRNAシーケンシングを用いて化合物が補体経路成分(例えば、補体C5)の発現をモジュレートするかどうかを決定することができる。
【0126】
補体C5阻害剤モダリティ
補体C5阻害剤は、多数の異なるモダリティから選択することができる。補体C5阻害剤は、抗C5抗体、核酸分子(例えば、DNA分子若しくはRNA分子、例えば、mRNA若しくは阻害性RNA分子(例えば、短鎖干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、若しくはショートヘアピンRNA(shRNA))、若しくはハイブリッドDNA-RNA分子)、ぺプチド、小分子(例えば、補体C5小分子阻害剤)、シグナリングカスケードの阻害剤、シグナリングカスケードの活性化因子、若しくはエピジェネティック調節因子)、又はアプタマーであり得る。これらのモダリティのいずれかは、補体C5機能;補体C5発現;補体C5結合;又は補体C5シグナリングを標的化するように(例えば、阻害するように)指向される補体C5阻害剤であり得る。核酸分子又は小分子。例えば、修飾は、化学的修飾、例えば、マーカー、例えば、蛍光マーカー又は放射性マーカーへのコンジュゲーションであり得る。修飾としては、薬剤を特定の細胞又は組織に標的化するための抗体へのコンジュゲーションを挙げることもできる。さらに、修飾は、化学的修飾、パッケージング修飾(例えば、ナノ粒子若しくはマイクロ粒子内のパッケージング)、又は標的化修飾であり得る。
【0127】
I.抗C5抗体
本明細書には、補体の代替経路の正の調節因子である補体C5を阻害し、続いてC3及びC5転換酵素の酵素複合体を脱安定化させる一価抗C5抗体、抗体誘導体(例えば、操作された抗体、humaneered抗体、キメラ抗体、置換抗体、ヒト化抗体など)及びそれらの抗体断片が記載される。本明細書に記載の阻害性抗体(例えば、中和、遮断、又は枯渇)は、例えば、C3b、C3Bb、及びC3bBbへの補体C5結合を阻害し得る。例えば、本明細書に記載の抗C5抗体又はその抗原結合断片は、補体C5への結合を介して補体C5の活性及び/又は機能を低減又は遮断する抗体である。そのようなポリペプチドは、本明細書に記載の阻害性補体C5抗体の相補性決定領域(CDR)(例えば、以下の表1参照)の1つ以上又は本明細書に記載の重鎖可変領域(HCVR)若しくは軽鎖可変領域(LCVR)(例えば、以下の表2参照)の1つ以上を有し得る。補体C5の阻害は、代替経路補体活性化低減をもたらし、代替経路が過剰活性化される代替経路ディスレギュレーションの疾患を患っている患者のための治療的利益を示す。例えば、抗C5抗体又はその抗原結合断片は、鎌状赤血球活性をモジュレートすることによりSCD、BT、又は鎌状赤血球BTの治療に利益を与え得る。
【0128】
【表1-1】
【0129】
【表1-2】
【0130】
【表2-1】
【0131】
【表2-2】
【0132】
【表2-3】
【0133】
いくつかの実施形態では、抗C5抗体は、二重特異的抗体、特にミニボディを含む。いくつかの実施形態では、二重特異的ミニボディは、第1の抗原(例えば、補体C5又はその抗原性断片)に特異的に結合する配列(例えば、CDR)及び第2の抗原に特異的に結合する配列(例えば、CDR)を含む。補体C5結合配列及び第2の抗原結合配列の配向は逆にすることができ、即ち、ミニボディのアミノ-カルボキシル末端に関して。補体C5結合配列は、第2の抗原結合配列の前又は後(好ましくは、後)にあり得る。いくつかの実施形態では、補体C5結合配列は、抗補体C5抗体の抗体重鎖CDR(CDRH1~3)、例えば、それぞれ配列番号5~7の配列のみを含む。いくつかの実施形態では、補体C5結合配列は、リンカー、例えば、配列番号4のアミノ酸配列を有するリンカーを介して第2の抗原結合配列に結合(例えば、コンジュゲート)している。特定の実施形態では、抗プロパージン抗体は、配列番号2のミニボディ配列を含む。
【0134】
いくつかの実施形態では、SCD治療において有用である本開示の抗C5抗体は、補体成分C5(例えば、ヒトC5)に結合し、C5の断片C5a及びC5bへの切断を阻害する。好ましくは、そのような抗体はまた、例えば、治療目的のために使用される他の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)と比較して改善された薬物動態特性を有する。抗C5抗体(又は例えば、VH/VLドメイン又は重(H)及び軽(L)抗体鎖を含む親抗C5抗体のVHCDR1-3及びVLCDR1-3を含む抗原認識に関与するCDRの補完物は、当技術分野で公知の方法を用いて生成することができる。
【0135】
例示的な抗C5抗体は、ラブリズマブ又はその抗原結合断片(例えば、ラブリズマブのVHCDR1-3及びVLCDR1-3を含む)である。ラブリズマブ(ULTOMIRIS(登録商標)、BNJ441及びALXN1210としても知られる)は、国際公開第2015134894号パンフレット及び米国特許第9,079,949号明細書に記載されており、それらの全教示は、参照により本明細書に組み込まれる。ラブリズマブは、ヒト補体タンパク質C5に選択的に結合し、補体活性化中のC5a及びC5bへのその切断を阻害する。この阻害は、炎症促進性メディエーターC5aの放出及び細胞溶解性細孔形成膜侵襲複合体(MAC)C5b-9の形成を防止する一方で、微生物のオプソニン化及び免疫複合体のクリアランスに必須の補体活性化の近位又は初期成分(例えば、C3及びC3b)を保存する。
【0136】
いくつかの実施形態では、抗C5抗体又はその抗原結合断片は、配列番号5、6、及び7を含むVHCDR1-3配列を含むことができる。
【0137】
いくつかの実施形態では、抗C5抗体は、エクリズマブ又はそのバイオシミラー抗体(例えば、ABP959;SB12又はElizaria)の重鎖及び軽鎖CDR又は重鎖及び軽鎖を含む。例えば、抗C5抗体又はその抗原結合断片は、それぞれ配列番号8、9、及び10を含むVHCDR1-3配列並びにそれぞれ配列番号11、12、及び13を含むVLCDR1-3配列を含むことができる。別の態様では、抗C5抗体又はその抗原結合断片は、限定されないが、配列番号32、33、及び/又は34の変異体を含む、上記CDRの1つの変異体を含むことができる。
【0138】
いくつかの実施形態では、抗体は、ラブリズマブ重鎖及び軽鎖CDR又は重鎖及び軽鎖可変領域(VH/VL)を、場合により重(FRH)鎖及び/又は軽(FRL)鎖についての抗体フレームワーク領域(例えば、FRH1~3及び/又はFRL1~3)と一緒に含む。いくつかの実施形態では、抗体は、ラブリズマブのVH及び/又はVL鎖を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、ラブリズマブの重鎖及び軽鎖を、場合によりFcドメインと一緒にさらに含む。
【0139】
別の例示的な抗C5抗体は、それらの全教示が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2015134894号パンフレット及び米国特許第9,079,949号明細書に開示されている配列を有する重鎖及び軽鎖を含む抗体BNJ421(ALXN1211)である。いくつかの実施形態では、抗体は、BNJ421の重鎖及び軽鎖CDR又は可変領域(即ち、VH及び/又はVL)を含む。
【0140】
さらに別の例示的な抗C5抗体は、それらの開示及びそれらの中の生物学的配列が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,241,628号明細書及び同第8,883,158号明細書に記載の7086抗体である。一実施形態では、抗体は、7086抗体の重鎖及び軽鎖CDR又は可変領域を含む(米国特許第8,241,628号明細書及び同第8,883,158号明細書を参照されたい)。例えば、抗C5抗体又はその抗原結合断片は、それぞれ配列番号14、15、及び16を含むVHCDR1-3配列並びにそれぞれ配列番号17、18、及び19を含むVLCDR1-3配列を含むことができる。
【0141】
別の例示的な抗C5抗体は、8110抗体(Creative Biolabs #HPAB-1796LY)である。例えば、いくつかの実施形態では、本開示は、8110抗C5抗体(例えば、Creative Biolabs # HPAB-1796LYを介して市販)の使用に関する。いくつかの実施形態では、抗C5抗体8110は、配列番号20、21、及び22に示されるVHCDR1-3配列並びに配列番号23、24、及び25に示されるVLCDR1-3配列を有する。抗C5抗体又はその抗原結合断片は、配列番号40を含むHCVR配列及び配列番号41を含むLCVR配列を含むことができる。
【0142】
別の例示的な抗C5抗体は、その開示及びその中の生物学的配列が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第9,765,135号明細書に記載されている305LO5抗体である。一実施形態では、抗体は、305LO5の重鎖及び軽鎖CDR又は可変領域を含む。例えば、抗C5抗体又はその抗原結合断片は、それぞれ配列番号26、27、及び28を含むVHCDR1-3配列並びにそれぞれ配列番号29、30、及び31を含むVLCDR1-3配列を含むことができる。
【0143】
別の例示的な抗C5抗体は、SKY59(クロバリマブ)である。その開示及びその中の生物学的配列が参照により本明細書に組み込まれるFukuzawa,T.et al.,Sci.Rep.,7:1080,2017を参照されたい。好ましくは、抗体は、クロバリマブの重鎖及び軽鎖CDR又は可変領域を含む。
【0144】
いくつかの実施形態では、抗C5抗体は、REGN3918抗体(ポゼリマブ)の重鎖及び軽鎖可変領域又は重鎖及び軽鎖を含む。その開示及びその中の生物学的配列が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第10,633,434号明細書を参照されたい。
【0145】
いくつかの実施形態では、抗C5抗体は、LFG316抗体(テシドルマブ)の重鎖及び軽鎖CDR又は重鎖及び軽鎖を含む。
【0146】
いくつかの実施形態では、抗体は、可変重CDR(VHCDR1-3)及び可変軽CDR(VLCDR1-3)を含む相補性決定領域(CDR)を含む。CDRの厳密境界は、異なる方法に従って異なって定義される。いくつかの実施形態では、軽鎖又は重鎖可変ドメイン内のCDR又はフレームワーク領域の位置は、Kabat et al.[(1991)“Sequences of Proteins of Immunological Interest.”NIH Publication No.91 3242,U.S.Department of Health and Human Services,Bethesda,MD]によって定義される通りである。そのような場合には、CDRは、「Kabat CDR」(例えば、「Kabat LCDR2」又は「Kabat HCDR1」)といわれ得る。いくつかの実施形態では、軽鎖又は重鎖可変領域のCDRの位置は、Chothia et al.(Nature,342:877-83,1989)によって定義される通りである。それゆえ、これらの領域は、「Chothia CDR」(例えば、「Chothia LCDR2」又は「Chothia HCDR3」)といわれ得る。いくつかの実施形態では、軽鎖及び重鎖可変領域のCDRの位置は、Kabat-Chothiaの組み合わせ定義によって定義することができる。そのような実施形態では、これらの領域は、「組み合わせKabat-Chothia CDR」といわれ得る。Thomas,C.et al.(Mol.Immunol.,33:1389-401,1996)は、Kabat及びChothia番号付けスキームに従ったCDR境界の同定を例証する。
【0147】
本明細書に記載の抗C5抗体は、いくつかの実施形態では、変異体ヒトFc定常領域が由来する天然ヒトFc定常領域の親和性よりも高い親和性でヒト新生児Fc受容体(FcRn)に結合する変異体ヒトFc定常領域を含むことができる。Fc定常領域は、例えば、変異体ヒトFc定常領域が由来する天然ヒトFc定常領域と比較して、1つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、又は8個以上)のアミノ酸置換を含むことができる。置換は、相互作用のpH依存性を維持しながら、変異体Fc定常領域を含むIgG抗体のpH6.0でのFcRnへの結合親和性を増加させることができる。抗体のFc定常領域における1つ以上の置換が、pH6.0でのFcRnに対するFc定常領域の親和性を増加させるかどうかを試験するための方法は、当技術分野で公知であり、実施例に例示されている。例えば、それぞれの開示全体が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2015134894号及び米国特許第9,079,949号を参照されたい。
【0148】
FcRnに対する抗体Fc定常領域の結合親和性を増強する置換は、当技術分野で公知であり、例えば、(1)M252Y/S254T/T256E三重置換(Dall’Acqua,W.et al.,J.Biol.Chem.,281:23514-24,2006);(2)M428L又はT250Q/M428L置換(Hinton,P.et al.,J.Biol.Chem.,279:6213-6,2004;Hinton,P.et al.,J.Immunol.,176:346-56,2006);及び(3)N434A又はT307/E380A/N434A置換(Petkova,S.et al.,Int.Immunol.,18:1759-69,2006)を含む。さらなる置換対:P257I/Q311I、P257I/N434H及びD376V/N434H(Datta-Mannan,A.et al.,J.Biol.Chem.,282:1709-17,2007)、これらの各開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。これらを用いて上記抗体の1つ以上の変異体を生成することができる。
【0149】
一実施態様において、抗C5抗体は、pH7.4及び25℃で(そうでなければ、生理学的条件下で)、少なくとも0.1(例えば、少なくとも0.15、0.175、0.2、0.25、0.275、0.3、0.325、0.35、0.375、0.4、0.425、0.45、0.475、0.5、0.525、0.55、0.575、0.6、0.625、0.65、0.675、0.7、0.725、0.75、0.775、0.8、0.825、0.85、0.875、0.9、0.925、0.95又は0.975)nMの親和性解離定数(K)でC5に結合する。一実施態様では、抗体は、pH7.4及び25℃で(そうでなければ、生理学的条件下で)、約0.5nMである親和性解離定数(K)でC5に結合する。いくつかの実施形態において、抗C5抗体又はその抗原結合断片のKは、1nM以下(例えば、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、又は0.2以下)である。いくつかの実施形態において、抗体は、pH6.0及び25℃で(そうでなければ、生理的条件下で)、約22nMであるKで、C5に結合する。
【0150】
他の実施形態では、[(25℃でのpH6.0でのC5に対する抗体のK)/(25CでのpH7.4でのC5に対する抗体のK)]が21を超える(例えば、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、7000、7500又は8000を超える)。
【0151】
抗体がタンパク質抗原に結合するかどうか、及び/又はタンパク質抗原に対する抗体の親和性を決定する方法は、当技術分野で公知である。タンパク質抗原に対する抗体の結合は、例えば、限定されないが、ウェスタンブロット、ドットブロット、表面プラズモン共鳴(SPR)検出(例えば、BIAcoreシステム;Pharmacia Biosensor AB、Uppsala、Sweden及びPiscataway、NJ)、又は酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA;Benny K.C.Lo(2004)「Antibody Engineering:Methods and Protocols,」Humana Press(ISBN:1588290921);Johne,B.et al.,J.Immunol.Meth.,160:191-8,1993;Jonsson,U.et al.,Ann.Biol.Clin.,51:19-26,1993;Jonsson,U.et al.,Biotechniques,11:620-7,1991)などの多様な技術を用いて検出及び/又は定量することができる。さらに、親和性(例えば、解離及び会合定数)を測定するための方法は、実施例に記載されている。
【0152】
本明細書で使用される場合、用語「k」は、抗原に対する抗体の会合の速度定数を指す。用語「k」は、抗体/抗原複合体からの抗体の解離の速度定数を指す。用語「K」は、抗体-抗原相互作用の平衡解離定数を指す。平衡解離定数は、速度定数の比、K=K/Kから導かれる。そのような決定は、例えば、25℃又は37℃で測定することができる(実施例を参照されたい)。ヒトC5への抗体結合の動態は、例えば、Fc捕捉法を用いて抗体を固定化して、BIAcore 3000機器上でSPRを介してpH8.0、7.4、7.0、6.5及び6.0で決定することができる。
【0153】
一実施形態では、抗C5抗体又はその抗原結合断片は、C5のC5a及びC5bへの切断を遮断する。この遮断効果により、例えば、C5aの炎症誘発効果、及び細胞表面でのC5b-9膜攻撃複合体(MAC)の生成が阻害される。本明細書に記載される特定の抗体がC5切断を阻害するかどうかを決定するための方法は、当技術分野で公知である。ヒト補体成分C5の阻害は、対象の体液中の補体の細胞溶解能力を低下させることができる。体液中に存在する補体の細胞溶解能のそのような低下は、当技術分野で公知の方法、例えば、溶血アッセイ(Kabat and Mayer(eds.),「Experimental Immunochemistry,2nd Edition,」135-240,Springfield,IL,CC Thomas(1961),135-139頁)などの従来の溶血アッセイ、又はニワトリ赤血球溶血法(Hillmen,P.et al.,N.Engl.J.Med.,350:552-9,2004)などのそのアッセイの従来の変形によって測定することができる。候補化合物がヒトC5の形態C5a及びC5bへの切断を阻害するかどうかを決定するための方法は、当技術分野で公知である(Evans,M.et al.,Mol.Immunol.,32:1183-95,1995)。体液中のC5a及びC5bの濃度及び/又は生理活性は、例えば、当技術分野で公知の方法によって測定することができる。C5bについては、溶血アッセイ又は本明細書で論じられる可溶性C5b-9についてのアッセイを使用することができる。当技術分野で公知の他のアッセイも使用することができる。これら又は他の適切なタイプのアッセイを用いて、ヒト補体成分C5を阻害することができる候補薬剤をスクリーニングすることができる。
【0154】
限定されないが、ELISAなどの免疫学的技術を用いて、C5及び/又はその分割生成物のタンパク質濃度を測定して、抗C5抗体又はその抗原結合断片の、C5の生物学的に活性な生成物への変換を阻害する能力を決定することができる。いくつかの実施形態では、C5a生成が測定される。いくつかの実施形態では、C5b-9ネオエピトープ特異的抗体を用いてMAC形成を検出する。
【0155】
補体活性化に対する抗C5抗体又はその抗原結合断片の阻害活性を決定するために、溶血アッセイを用いることができる。インビトロでの血清試験溶液中の古典的補体経路媒介溶血に対する抗C5抗体又はその抗原結合断片の効果を決定するために、例えば、溶血素でコーティングされたヒツジ赤血球又は抗ニワトリ赤血球抗体で感作されたニワトリ赤血球を標的細胞として使用する。100%溶解を阻害剤の非存在下で起こる溶解に等しいと考慮することによって、溶解のパーセンテージを正規化する。いくつかの実施形態では、古典的補体経路は、例えば、Wieslab(登録商標)古典的経路補体キット(Wieslab(登録商標)COMPL CP310、Euro‐Diagnostica、Sweden)において利用されるように、ヒトIgM抗体によって活性化される。簡潔には、試験血清を、抗C5抗体又はその抗原結合断片と共に、ヒトIgM抗体の存在下でインキュベートする。生成されたC5b-9の量は、混合物を酵素結合抗C5b-9抗体及び蛍光発生基質と接触させ、適切な波長で吸光度を測定することによって測定される。対照として、試験血清を、抗C5抗体又はその抗原結合断片の非存在下でインキュベートする。いくつかの実施形態では、試験血清はC5ポリペプチドで再構成されたC5欠損血清である。
【0156】
代替経路媒介溶血に対する抗C5抗体又はその抗原結合断片の効果を決定するために、非感作ウサギ又はモルモット赤血球を標的細胞として使用することができる。いくつかの実施形態では、血清試験溶液は、C5ポリペプチドで再構成されたC5欠損血清である。100%溶解を阻害剤の非存在下で起こる溶解に等しいと考慮することによって、溶解のパーセンテージを正規化する。いくつかの実施形態では、代替補体経路は、例えば、Wieslab(登録商標)代替経路補体キット(Wieslab(登録商標)COMPL AP330、Euro‐Diagnostica、Sweden)において利用されるように、っは、リポ多糖によって活性化される。簡潔には、試験血清を、リポ多糖の存在下で、抗C5抗体又はその抗原結合断片と共にインキュベートする。生成されたC5b-9の量は、混合物を酵素結合抗C5b-9抗体及び蛍光発生基質と接触させ、適切な波長で蛍光を測定することによって測定される。対照として、試験血清を、抗C5抗体又はその抗原結合断片の非存在下でインキュベートする。
【0157】
一実施形態では、抗体は、本明細書に記載の抗体と結合について競合し、及び/又はC5上の同じエピトープに結合する。2つ以上の抗体に関して、用語「同じエピトープに結合する」は、所与の方法によって決定して、抗体がアミノ酸残基の同じ区分に結合することを意味する。抗体が本明細書に記載の抗体と同じC5上のエピトープに結合するかどうかを決定するための技術としては、例えば、エピトープマッピング法、例えば、抗原:抗体複合体の結晶のx線分析、及び水素/重水素交換質量分析(HDX-MS)が挙げられる。他の方法は、ペプチド抗原断片又は抗原の突然変異体への抗体の結合をモニターし、ここで抗原配列内のアミノ酸残基の修飾による結合の喪失は、しばしばエピトープ成分の指標とみなされる。さらに、エピトープマッピングのためのコンビナトリアル計算法(computational combinatorial method)も使用することができる。これらの方法は、コンビナトリアルファージディスプレイペプチドライブラリーから特異的な短いペプチドを親和性単離する、目的の抗体の能力に依存する。同じVH及びVL又は同じCDR1、CDR2及びCDR3配列を有する抗体は、同じエピトープに結合すると予想される。
【0158】
「標的への結合について別の抗体と競合する」抗体は、標的への他の抗体の結合を(部分的に又は完全に)阻害する抗体を指す。2つの抗体が標的への結合について互いに競合するかどうか、即ち、一方の抗体が他方の抗体の標的への結合を阻害するかどうか、及びどの程度阻害するかは、公知の競合実験を用いて決定することができる。特定の実施形態では、抗体は、別の抗体と競合し、標的に対する別の抗体の結合を少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%阻害する。阻害又は競合のレベルは、どちらの抗体が「遮断抗体」(即ち、最初に標的と共にインキュベートされる抗体)であるかに応じて異なり得る。競合抗体は、例えば、同じエピトープ、重複エピトープ、又は隣接エピトープに結合することができる(例えば、立体障害によって証明されるように)。
【0159】
本明細書に記載される方法で使用される、本明細書に記載される抗C5抗体又はその抗原結合断片は、当技術分野で認められた多様な技術を用いて生成され得る。モノクローナル抗体は、当業者によく知られている様々な技術によって得ることができる。簡潔には、所望の抗原で免疫化された動物由来の脾臓細胞を、一般に骨髄腫細胞との融合によって不死化させる(Koehler,G.&Milstein,C.,Eur.J.Immunol.,6:511-9,1976)。不死化の方法には、エプスタインバーウイルス、癌遺伝子、若しくはレトロウイルスによる形質転換、又は当技術分野で公知の他の方法が含まれる。単一の不死化細胞から生じるコロニーを、抗原に対する所望の特異性及び親和性を有する抗体の産生についてスクリーニングし、それらの細胞によって産生されるモノクローナル抗体の収率を、脊椎動物宿主の腹腔への注射を含む様々な技術によって増強することができる。或いは、ヒトB細胞からDNAライブラリーをスクリーニングすることによって、モノクローナル抗体又はその結合断片をコードするDNA配列を単離してもよい(Huse,W.et al.,Science,246:1275-81,1989)。
【0160】
いくつかの実施形態において、抗C5抗体は、エクリズマブ(SOLIRIS(登録商標))又はその抗原結合断片(例えば、エクリズマブの重鎖及び軽鎖相補性決定領域(それぞれ、HCDR1-3及びLCDR1-3)を含む)を含まない。いくつかの実施形態では、抗C5抗体は、エクリズマブ(SOLIRIS(登録商標))のバイオシミラー、例えば、ABP 959抗体(Amgen Inc.、USA製)、ELIZARIA(登録商標)(Generium JNC、Russia製)、又はSB12(Samsung Bioepis、Incheon、韓国製)ではない。
【0161】
組成物
抗C5抗体又はその抗原結合断片を含む組成物も本明細書に提供される。組成物は、例えば、DMの治療のための対象への投与のための医薬溶液として処方することができる。医薬組成物は、一般に、薬学的に許容される担体を含む。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、生理学的に適合可能な任意の及び全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などを指し、それらを含む。組成物は、薬学的に許容される塩、例えば、酸付加塩又は塩基付加塩、糖、炭水化物、ポリオール及び/又は張度調整剤を含むことができる。
【0162】
組成物は、標準的な方法に従って処方することができる。医薬処方は、確立された技術である(例えば、Gennaro(2000)「Remington:The Science and Practice of Pharmacy,」20th Edition,Lippincott,Williams&Wilkins(ISBN:0683306472);Ansel et al.(1999)「Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems,」7th Edition,Lippincott Williams&Wilkins Publishers(ISBN:0683305727);及びKibbe(2000)「Handbook of Pharmaceutical Excipients American Pharmaceutical Association,」3
【0163】
好ましい実施形態では、SCDを治療する本開示の治療方法において有用であるC5阻害剤は、エクリズマブ又はそのバイオシミラー(例えば、ABP959(Amgen)、SB12(Samsung Bioepsis)、若しくはElizaria(Generium))を含む。エクリズマブは、国際公開第1995029697号パンフレット及び米国特許第6,355,245号明細書に記載されており、それらの開示及びそれらの中に開示される生物学的配列は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。エクリズマブの重鎖及び軽鎖は、国際公開第2007106585号パンフレット及び米国特許第9,718,880号明細書に提供されており、それらの開示及びそれらの中に開示される生物学的配列は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。第2の好ましい実施形態では、C5阻害剤は、ラブリズマブ又はラブリズマブのその抗原結合断片(例えば、VHCDR1-3及びVLCDR1-3を含む)を含む抗C5抗体を含む。
【0164】
好ましい実施形態では、C5の阻害剤は、テシドルマブ、ポゼリマブ、又はクロバリマブから選択される抗体を含む。
【0165】
いくつかの実施形態では、抗C5抗体は、BB5.1又はそのヒト化変異体若しくはその抗原結合断片を含む。モノクローナル抗体BB5.1(Frei Y.et al.,Mol.Cell.Probes,1:141 9,1987)、その一本鎖可変断片(scFV)及び抗BB5.1Fab(Peng et al.,J Clin Invest.,115(6):1590-1600,2005)は、全て既に特徴付けされている。これらは、マウスC5に結合し、マウスにおけるC5a及びC5bの形成を防止することが見出されている。
【0166】
特に、モノクローナル抗体、例えば、エクリズマブ、ラブリズマブ、テシドルマブ、ポゼリマブ、又はクロバリマブであるC5阻害剤が好ましい。
【0167】
本明細書に記載の抗C5抗体は、全長補体C5、補体C5ポリペプチドを用いることにより、及び/又は抗原性補体C5エピトープ担持ぺプチド、例えば、補体C5ポリペプチドの断片を用いることにより産生することができる。補体C5ぺプチド及びポリペプチドを単離し、それを用いて抗体を天然ポリペプチド、組換え又は合成組換えポリペプチドとして生成することができる。抗C5抗体の産生に有用な全ての抗原を用いて一価抗体を生成することができる。適切な一価抗体フォーマット、及びそれらを産生する方法は、当技術分野で公知である(例えば、それらの全内容が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2007/048037号パンフレット及び国際公開第2007/059782号パンフレット)。
【0168】
抗C5抗体は、モノクローナル抗体であり得、又はモノクローナル抗体に由来し得る。選択抗原に対する適切なモノクローナル抗体は、公知の技術(その全内容が参照により本明細書に組み込まれる「Monoclonal Antibodies:A manual of techniques,」Zola(CRC Press,1988);「Monoclonal Hybridoma Antibodies:Techniques and Applications,」Hurrell(CRC Press,1982))により調製することができる。
【0169】
他の実施形態では、抗体は、単一ドメイン抗体、例えば、VHHであり得る。そのような抗体は、例えば、ラクダ科及びサメ中に天然に存在する(Saerens,D.et al.,Curr.Opin.Pharmacol.,8:600-8,2008)。ラクダ科抗体は、例えば、米国特許第5,759,808号明細書;同第5,800,988号明細書;同第5,840,526号明細書;同第5,874,541号明細書;同第6,005,079号明細書;及び同第6,015,695号明細書に記載されており、それらの各々の全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。クローニング及び単離されたVHHドメインは、元の重鎖抗体の完全抗原結合能を特徴とする安定なポリペプチドである。VHHドメインは、それらのユニークな構造及び機能的特性を有し、慣用の抗体の利点(高い標的特異性、高い標的親和性及び低い固有毒性)と、小分子薬物の重要な特徴(酵素を阻害し、受容体裂溝にアクセスする能力)とを組み合わせる。さらに、これらは安定的であり、注射以外の手段により投与される潜在性を有し、製造が容易であり、ヒト化させることができる(それらの各々の全内容が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,840,526号明細書;米国特許第5,874,541号明細書;米国特許第6,005,079号明細書、米国特許第6,765,087号明細書;欧州特許第1589107号明細書;国際公開第97/34103号パンフレット;国際公開第97/49805号パンフレット;米国特許第5,800,988号明細書;米国特許第5,874,541号明細書及び米国特許第6,015,695号明細書)
【0170】
Ia.抗補体C5抗体断片及び誘導体
いくつかの天然に存在する抗体は、2つの抗原結合ドメインを含み、従って二価である。天然に存在する抗体の多数のより小さい抗原結合断片がプロテアーゼ消化後に同定されている。これらとしては、例えば、「Fab断片」(V-C-C1-V)、「Fab’断片」(重鎖ヒンジ領域を有するFab)、及び「F(ab’)断片」(重鎖ヒンジ領域により結合しているFab’断片の二量体)が挙げられる。そのような断片を生成するため、及びさらにより小さい抗体断片、例えば、「一本鎖Fv」(可変断片)又は合成ぺプチドリンカーにより結合しているV及びV(V-リンカー-V)からなる「scFv」と称されるものを生成するために組換え方法が使用されてきた。Fab断片、Fab’断片及びscFv断片は、それらが各々、1つのV/V二量体を含む1つの抗原結合ドメインのみを含むので、抗原結合について一価である。さらにより小さい一価抗体断片はdAbであり、それは、単独で抗原に特異的に結合する単一免疫グロブリン可変ドメイン、例えば、V又はVのみを含み、即ち、それぞれ相補的V又はVドメインを必要としない。dAbは、他のVドメインとは無関係に抗原に結合し;しかしながら、dAbは、他のV又はVドメインとのホモ又はヘテロ多量体で存在し得、他のドメインはdAbによる抗原結合に要求されず、即ち、dAbは追加のV又はVドメインとは無関係に抗原に結合する。
【0171】
Ib.二重特異的構築物
本開示はまた、2つの抗原結合ポリペプチドが結合している二重特異的構築物を特徴とする。そのような二重特異的構築物は、リンカーにより第2のポリペプチド(例えば、第2の一価抗体)に連結される抗C5結合ポリペプチド(例えば、一価抗体)を含むことができる。第2のポリペプチドは、二重特異的構築物のインビボ安定性を増強し得る。いくつかの実施形態では、第2のポリペプチドは、アルブミン結合分子、アルブミン結合ぺプチド、又は抗アルブミン抗体(例えば、一価抗体)、若しくはその修飾形態である。アルブミン結合ぺプチドは、当技術分野で公知であり、例えば、国際公開第2007/106120号パンフレット(表1~9を参照されたい)及びDennis et al.,2002,J Biol.Chem.277:35035-35043に記載されており、それらの開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0172】
いくつかの実施形態では、第2のポリペプチドは、構築物のインビボ安定性を増強するFcドメインである。
【0173】
いくつかの実施形態では、一価抗C5抗体は、一価抗アルブミン抗体に結合している(例えば、抗C5/抗アルブミン融合タンパク質)。一価抗C5抗体は、そのN末端又はC末端により一価抗アルブミン抗体のN末端又はC末端に結合させることができる。
【0174】
いくつかの実施形態では、融合タンパク質は、以下の表3に列挙される配列番号2のアミノ酸配列又はその断片を含む補体成分C5結合を含み;ヒト血清アルブミンに特異的に結合するポリペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列又はその断片を含むことができる。いくつかの実施形態では、第1のポリペプチドは、配列番号2のいずれかに示されるアミノ酸配列に由来し、第2のポリペプチドは、配列番号3のいずれかに示されるアミノ酸配列に由来する。ヒト補体成分C5結合ドメインは、例えば、配列番号2のアミノ酸配列を含むことができ、アルブミン結合ドメインは、例えば、配列番号3のアミノ酸配列を含むことができる。
【0175】
【表3】
【0176】
いくつかの実施形態では、二重特異的構築物の抗ヒト血清アルブミン成分は、CDR配列GRPVSNYA(配列番号48)、INWQKTAT(配列番号49)、及びAAVFRVVAPKTQYDYDY(配列番号50)を含む。
【0177】
いくつかの実施形態では、二重特異的構築物は、以下の核酸配列によりコードされる:
【化2】
【0178】
いくつかの実施形態では、二重特異的構築物は、以下のアミノ酸配列を有する:
【化3】
【0179】
Ic.リンカー
本開示では、リンカーを用いてポリペプチド又はタンパク質ドメイン及び/又は関連非タンパク質部分を結合させる。いくつかの実施形態では、リンカーは、例えば、少なくとも2つのポリペプチド構築物が互いにタンデム系列で結合するようなその2つのポリペプチド構築物(例えば、第2のポリペプチド又は一価抗体に結合している一価抗体)間の結合部又は連結部である。リンカーは、ある抗体構築物のN末端又はC末端を第2のポリペプチド構築物のN末端又はC末端に付着させ得る。
【0180】
リンカーは、単一共有結合、例えば、ぺプチド結合、合成ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)ポリマー、又は化学反応から作出される任意の種類の結合、例えば、化学コンジュゲーションであり得る。リンカーがぺプチド結合である場合、あるタンパク質ドメインのC末端におけるカルボン酸基は、別のタンパク質ドメインのN末端におけるアミノ基と縮合反応で反応してぺプチド結合を形成し得る。具体的には、ぺプチド結合は、当技術分野で周知の慣用の有機化学反応を介する合成手段から、又は宿主細胞からの天然産生により形成することができ、天然産生では、両方のタンパク質、例えば、2つの抗体構築物のDNA配列をタンデム系列でコードするポリヌクレオチド配列を宿主細胞中の必要な分子機構、例えば、DNAポリメラーゼ及びリボソームにより直接転写させ、両方のタンパク質をコードする連続ポリペプチドに翻訳させることができる。
【0181】
リンカーが合成ポリマー、例えば、PEGポリマーである場合、ポリマーは、2つのタンパク質の連結末端における末端アミノ酸と反応するように各末端で反応性化学官能基で官能化することができる。
【0182】
リンカー(上記ぺプチド結合を除く)が化学反応から作製される場合、当技術分野で一般に使用される化学官能基、例えば、アミン、カルボン酸、エステル、アジド、又は他の官能基を、あるタンパク質のC末端及び別のタンパク質のN末端にそれぞれ合成により付着させることができる。次いで、2つの官能基は、合成化学手段を介して反応して化学結合を形成し、こうして2つのタンパク質を一緒に連結する。そのような化学コンジュゲーション手順は、当業者には定型的である。
【0183】
2つのぺプチド構築物間のリンカーは、例えば、1~200(例えば、1~4、1~10、1~20、1~30、1~40、2~10、2~12、2~16、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200)個のアミノ酸を含むアミノ酸リンカーであり得る。適切なぺプチドリンカーは当技術分野で公知であり、それとしては、例えば、フレキシブルアミノ酸残基、例えば、グリシン及びセリンを含有するぺプチドリンカーが挙げられる。特定の実施形態では、リンカーは、単一モチーフ又は複数の異なる若しくは反復モチーフを含有し得る。
【0184】
いくつかの実施形態では、リンカーは、ポリ-グリシン含有リンカー、例えば、(GGGGA)2GGGGSリンカー(配列番号4)である。
【0185】
II.核酸
IIa.阻害性RNA
いくつかの実施形態では、補体C5阻害剤は、例えば、RNA干渉(RNAi)経路を経て作用する阻害性RNA分子である。阻害性RNA分子は、補体C5の発現レベル(例えば、タンパク質レベル又はmRNAレベル)を減少させ得る。例えば、阻害性RNA分子としては、全長補体C5を標的化するsiRNA、shRNA、及び/又はmiRNAが挙げられる。siRNAは、典型的には約19~25塩基対の長さを有する二本鎖RNA分子である。shRNAは、RNAiを介して標的遺伝子の発現を減少させるヘアピンターンを含有するRNA分子である。shRNAは、細胞にプラスミド(例えば、ウイルス又は細菌ベクター)の形態で、トランスフェクション、エレクトロポレーション、又は形質導入により送達することができる。マイクロRNAは、典型的には約22ヌクレオチドの長さを有する非コードRNA分子である。miRNAは、mRNA分子上の標的部位に結合し、例えばmRNAの切断、mRNAの不安定化、又はmRNAの翻訳の阻害を引き起こすことにより、mRNAをサイレンシングする。いくつかの実施形態では、阻害性RNA分子は、補体C5機能のレベル及び/又は活性を減少させる。他の実施形態では、阻害性RNA分子は、正の機能調節因子の阻害剤のレベル及び/又は活性を減少させる。
【0186】
阻害性RNA分子は、例えば、修飾ヌクレオチド、例えば2’-フルオロ、2’-o-メチル、2’-デオキシ、アンロック核酸(unlocked nucleic acid)、2’-ヒドロキシ、ホスホロチオエート、2’-チオウリジン、4’-チオウリジン、又は2’-デオキシウリジンを含有するように修飾することができる。特定の理論により拘束されるものではないが、特定の修飾は、ヌクレアーゼ耐性及び/若しくは血清安定性を増加させ得、又は免疫原性を減少させ得ると考えられる。
【0187】
いくつかの実施形態では、阻害性RNA分子は、補体C5のレベル及び/若しくは活性又は機能を減少させる。いくつかの実施形態では、阻害性RNA分子は、補体C5の発現を阻害する。他の実施形態では、阻害性RNA分子は、補体C5の分解を増加させる。阻害性RNA分子は、化学合成し、又はインビトロで転写させることができる。非コードRNA、例えば、リボザイム、RNアーゼP、siRNA、及びmiRNAに基づく阻害性治療剤の作製及び使用も、例えば、Sioud,RNA Therapeutics:Function,Design,and Delivery(Methods in Molecular Biology).Humana Press 2010に記載されている通り、当技術分野で公知である。
【0188】
好ましい実施形態では、C5の阻害剤は、ヒトC5を選択的に標的化するsiRNA、例えば、セムジシラン(CAS#1639264-46-2 UNII#S66Z65E10T)を含む。
【0189】
IIb.アンチセンス
あるアプローチでは、本開示は、補体C5標的核酸内の等長部分に相補的な少なくとも6つの連続ヌクレオ塩基を有するヌクレオ塩基配列を有する一本鎖オリゴヌクレオチドを提供する。このアプローチは、典型的には、アンチセンスアプローチと称される。理論により拘束されるものではないが、このアプローチは、標的核酸(例えば、補体C5プレmRNA、転写産物1、又は転写産物2)へのオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションと、それに続く標的核酸のリボヌクレアーゼH(RNアーゼH)媒介性切断を含む。或いは、理論により拘束されるものではないが、このアプローチは、標的核酸(例えば、補体C5プレmRNA、転写産物1、又は転写産物2)へのオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを含み、それにより標的核酸が細胞転写後修飾又は翻訳機構に結合するのを立体的に遮断し、そうして標的核酸の翻訳を防止する。いくつかの実施形態では、一本鎖オリゴヌクレオチドを患者に、そのオリゴヌクレオチドが別のオリゴヌクレオチドにハイブリダイズしている二本鎖オリゴヌクレオチドとして送達することができる。
【0190】
III.アプタマー
いくつかの実施形態では、補体経路成分(例えば、補体C5)阻害剤は、アプタマーであり得る。任意の適切なアプタマーを用いることができる。アプタマーの一般的説明は、Bock L C et al.,Nature 355(6360):564-6(1992);Hoppe-Seyler F,Butz K「Peptide aptamers:powerful new tools for molecular medicine」.J Mol Med.78(8):426-30(2000);Cohen B A,Colas P,Brent R.「An artificial cell-cycle inhibitor isolated from a combinatorial library」.Proc Natl Acad Sci USA.95(24):14272-7(1998)に記載されている。
【0191】
アプタマーは、ワトソン・クリック塩基対合以外の相互作用により高い特異性及び親和性でいくつかの標的、例えば、タンパク質(例えば、C5)に結合する単離核酸分子である。アプタマーは、核酸に基づく分子であるが、アプタマーと他の核酸分子、例えば、遺伝子及びmRNAとの間には根本的な差異が存在する。後者の場合、核酸構造はその直鎖塩基配列により情報をコードし、従ってこの配列は情報貯蔵機能に重要である。対照的に、アプタマー機能は、特異的標的分子の結合に基づいて、保存される直鎖塩基配列ではなく特異的な二次/三次構造に依存的である。即ち、アプタマーは非コード配列である。アプタマーが有し得る任意のコード可能性は完全に偶発的であり、アプタマーのその同種標的への結合における役割を担うものでない。従って、同じ標的に、及びさらにはその標的上の同じ部位に結合するアプタマーは、類似の直鎖塩基配列を共有し得るが、ほとんどのものは共有しない。
【0192】
いくつかの実施形態では、アプタマーは、プロパージンに特異的に結合し、プロパージンの活性を機能的にモジュレート、例えば、遮断する約15~約60ヌクレオチド長の一連の核酸アプタマーであり、それを含む。
【0193】
これらのアプタマーは、例えば、親油性又は高分子量化合物(例えば、PEG)へのコンジュゲーション、キャッピング部分の取り込み、修飾ヌクレオチドの取り込み、及びリン酸骨格の修飾を含む本明細書に記載の修飾を含むことができる。
【0194】
いくつかの実施形態では、C5の阻害剤は、ヒトC5を選択的に標的化するアプタマー、例えば、ZIMURA(アバシンカプタドペゴル(ARC1905)(CAS#1491144-00-3及びFDA Drug#K86ENL12I5)を含む。
【0195】
IV.小分子
いくつかの実施形態では、補体経路成分(例えば、補体C5阻害剤)は、小分子であり得る。小分子は、典型的には、約1000ダルトン未満、又はいくつかの実施形態では、約500ダルトン未満の分子量を有する分子であり、分子は、いくらか測定可能な程度で標的分子の活性をモジュレートし得る。例示的な小分子、例えば、ぺプチド及び小分子阻害剤。小分子、例えば、小分子阻害剤は、有効性及び特異性に基づいて選択することができる。
【0196】
V.ぺプチド
いくつかの実施形態では、補体経路成分(例えば、補体C5阻害剤)は、ぺプチドであり得る。例えば、好ましい実施形態では、C5の阻害剤は、C5に結合し、それを阻害するポリペプチドを含む融合タンパク質、例えば、SOBI005を含む。
【0197】
一実施形態では、C5の阻害剤は、ポリペプチド又はぺプチド、例えば、ノマコパン(CAS#875125-19-2;UNII#79V7Q9VIWQ)又はジルコプラン(CAS#1841136-73-9;UNII#YG391PK0CC)を含む。
【0198】
例示的な治療アプローチ
SCD、BT、又は鎌状赤血球BTの治療に対する例示的な治療アプローチが表4及び以下の段落に提供される:
【0199】
以下に、SCD、BT、又は鎌状赤血球BTの患者を治療する例示的なアプローチが含まれる。
【0200】
【表4】
【0201】
例として、本開示は、SCD(例えば、鎌状赤血球貧血、BT、又は鎌状BT)の療法の有効性をモニターする以下の方法に関する:
(A)対象におけるSCD、BT、又は鎌状赤血球BTを、抗C5モノクローナル抗体(例えば、エクリズマブ又はそのバイオシミラー、例えば、ABP959、Elizaria、若しくはSB12)で治療する方法。
(A)(1)対象におけるSCD、BT、又は鎌状赤血球BTを、ノマコパン(Coversin;rVA576)で治療する方法。
(A)(2)対象におけるSCD、BT、又は鎌状赤血球BTを、ジルコプラン(RA101495)を治療する方法。
(A)(3)対象におけるSCD、BT、又は鎌状赤血球BTを、抗C5siRNAセムジシラン(ALN-CC5)で治療する方法。
(A)(4)対象におけるSCD、BT、又は鎌状赤血球BTを、ZIMURA(ARC1905)を治療する方法。
(B)対象におけるSCD、BT、又は鎌状赤血球BTを、改善された抗C5モノクローナル抗体(例えば、ラブリズマブ)で治療する方法。
(B)(1)対象におけるSCD、BT、又は鎌状赤血球BTを、抗C5 affibody(例えば、SOBI005)を治療する方法。
(B)(2)対象におけるSCD、BT、又は鎌状赤血球BTを、抗C5抗体テシドルマブ(LFG316)で治療する方法。
(B)(3)対象におけるSCD、BT、又は鎌状赤血球BTを、ポゼリマブ又はクロバリマブ(SKY059)である抗C5抗体で治療する方法。
(C)対象におけるSCD、BT、又は鎌状赤血球BTを、二重特異的抗C5抗体、例えば、C5及びアルブミンに対する二重特異的抗体、例えば、ALXN1720で治療する方法。
D(1)対象におけるSCD、BT、又は鎌状赤血球BTを、アバコパン(CCX-168)で治療する方法。
(D)(2)対象におけるSCD、BT、又は鎌状赤血球BTを、抗C5aモノクローナル抗体(例えば、オレンダリズマブ(ALXN1007)、BDB-001、又はIFX2)で治療する方法。
【0202】
送達
I.治療補体C5阻害剤の発現用ウイルスベクター
ウイルスゲノムは、哺乳類細胞(例えば、鎌状赤血球)中への外因性遺伝子の効率的送達に使用することができるベクターの豊富な資源を提供する。ウイルスゲノムは、そのようなゲノム内に含有されるポリヌクレオチドが典型的には一般化又は特殊化形質導入により哺乳類細胞の核ゲノム中に取り込まれるので、遺伝子送達のための特に有用なベクターである。これらのプロセスは、天然ウイルス複製サイクルの一部として起こり、遺伝子組み込みを誘導するために添加されるタンパク質も試薬も要求しない。ウイルスベクターの例は、レトロウイルス(例えば、レトロウイルス科(Retroviridae)ファミリーウイルスベクター)、アデノウイルス(例えば、Ad5、Ad26、Ad34、Ad35、及びAd48)、パルボウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルス)、コロナウイルス、マイナス鎖RNAウイルス、例えば、オルトミクソウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)、ラブドウイルス(例えば、狂犬病及び水泡性口内炎ウイルス)、パラミクソウイルス(例えば、麻疹及びセンダイ)、プラス鎖RNAウイルス、例えば、ピコルナウイルス及びアルファウイルス、並びにアデノウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス1及び2型、エプスタインバーウイルス、サイトメガロウイルス)、及びポックスウイルス(例えば、ワクシニア、改変ワクシニアアンカラ(MVA)、鶏痘及びカナリア痘)を含む二本鎖DNAウイルスである。他のウイルスとしては、例えば、ノーウォークウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、レオウイルス、パポバウイルス、ヘパドナウイルス、ヒトパピローマウイルス、ヒトフォーミーウイルス、及び肝炎ウイルスが挙げられる。レトロウイルスの例は、トリ白血病肉腫、トリC型ウイルス、哺乳類C型、B型ウイルス、D型ウイルス、オンコレトロウイルス、HTLV-BLVグループ、レンチウイルス、アルファレトロウイルス、ガンマレトロウイルス、スプーマウイルスが挙げられる(Coffin,J.M.,Retroviridae:The viruses and their replication,Virology,Third Edition(Lippincott-Raven,Philadelphia,(1996))。他の例は、マウス白血病ウイルス、マウス肉腫ウイルス、マウス乳癌ウイルス、ウシ白血病ウイルス、ネコ白血病ウイルス、ネコ肉腫ウイルス、トリ白血病ウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒヒ内因性ウイルス、テナガザル白血病ウイルス、マソンファイザーサルウイルス、サル免疫不全ウイルス、サル肉腫ウイルス、ラウス肉腫ウイルス及びレンチウイルスである。ベクターの他の例は、例えば、McVey et al.,(米国特許第5,801,030号明細書)に記載されており、その教示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0203】
Ia.レトロウイルスベクター
本明細書に記載の方法及び組成物において使用される送達ベクターは、レトロウイルスベクターであり得る。本明細書に記載の方法及び組成物において使用することができるあるタイプのレトロウイルスベクターは、レンチウイルスベクターである。レトロウイルスのサブセットであるレンチウイルスベクター(LV)は、広範な分裂及び非分裂細胞タイプを高い効率で形質導入し、トランス遺伝子の安定的な長期発現を付与する。LVのパッケージング及び形質導入についての最適化方針の概説は、Delenda,The Journal of Gene Medicine 6:S125(2004)に提供されており、その開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0204】
レンチウイルスに基づく遺伝子導入技術の使用は、目的のトランス遺伝子が収容された高度に欠失したウイルスゲノムを担持する組換えレンチウイルス粒子のインビトロ産生に依存する。特に、組換えレンチウイルスは、(1)パッケージング構築物、即ち、Revと一緒に(或いはそれはトランスで発現される)Gag-Pol前駆体を発現するベクター;(2)一般に異種性のエンベロープ受容体を発現するベクター;並びに(3)全てのオープンリーディングフレームが除かれたウイルス相補的DNA(cDNA)からなるが、複製、カプシド化、及び発現に要求される配列を維持し、発現されるべき配列が挿入された導入ベクターの許容細胞系中のトランス同時発現を介して回収される。
【0205】
Ib.アデノ随伴ウイルスベクター
本明細書に記載の組成物及び方法の核酸は、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター及び/又はビリオン中に取り込んで細胞(例えば、鎌状赤血球)中へのそれらの導入を容易にすることができる。本明細書に記載の組成物及び方法において有用なrAAVベクターは、(1)発現されるべき異種配列並びに(2)異種遺伝子の組み込み及び発現を容易にするウイルス配列を含む組換え核酸構築物(例えば、鎌状赤血球中で発現し得る核酸)である。ウイルス配列は、ビリオン中へのDNAの複製及びパッケージングにシスで要求されるAAVの配列(例えば、機能的逆位末端反復配列(ITR))を含むことができる。そのようなrAAVベクターは、マーカー又はレポーター遺伝子も含有し得る。有用なrAAVベクターは、全部又は一部が欠失したが機能的フランキングITR配列を保持するAAT WT遺伝子の1つ以上を有する。AAV ITRは、特定の用途に適切な任意の血清型のものであり得る。rAAVベクターを用いる方法は、例えば、Tai et al.,J.Biomed.Sci.7:279(2000)、及びMonahan and Samulski,Gene Delivery 7:24(2000)に記載されており、それらの各々の開示は、それらが遺伝子送達用AAVベクターに関するので参照により本明細書に組み込まれる。
【0206】
rAAVビリオンの構築は、例えば、米国特許第5,173,414号明細書;米国特許第5,139,941号明細書;米国特許第5,863,541号明細書;米国特許第5,869,305号明細書;米国特許第6,057,152号明細書;及び米国特許第6,376,237号明細書;並びにRabinowitz et al.,J.Virol.76:791(2002)及びBowles et al.,J.Virol.77:423(2003)に記載されており、それらの各々の開示は、それらが遺伝子送達用AAVベクターに関するので参照により本明細書に組み込まれる。
【0207】
医薬組成物
本明細書に記載の補体C5阻害剤(例えば、抗体、小分子、及び核酸分子)は、例えば、インビボ投与に適切な生物学的に適合性の形態の、例えば、SCD、BT、又は鎌状赤血球BTを示し、又はその発症リスクがある患者、例えば、ヒト患者への投与のための医薬組成物中に処方することができる。例えば、本明細書に記載の補体C5阻害剤、例えば、干渉RNA分子を含有する医薬組成物は、典型的には、薬学的に許容される希釈剤又は担体を含む。医薬組成物は、例えば、無菌生理食塩水溶液及び核酸を含み(例えば、からなり)得る。無菌生理食塩水は、典型的には、医薬グレードの生理食塩水である。医薬組成物は、例えば、無菌水及び核酸を含み(例えば、からなり)得る。無菌水は、典型的には、医薬グレードの水である。医薬組成物は、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)及び核酸を含み(例えば、からなり)得る。無菌PBSは、典型的には、医薬グレードのPBSである。
【0208】
特定の実施形態では、医薬組成物は、1つ以上の補体C5阻害剤及び1つ以上の賦形剤を含む。特定の実施形態では、賦形剤は、水、塩溶液、アルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミラーゼ、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘性パラフィン、ヒドロキシメチルセルロース及びポリビニルピロリドンから選択される。
【0209】
特定の実施形態では、補体C5阻害剤は、医薬組成物又は製剤の調製のための薬学的に許容される活性及び/又は不活性物質と混合することができる。医薬組成物の処方のための組成物及び方法は、限定されないが、投与経路、疾患の程度、又は投与されるべき用量を含む多数の基準に依存する。
【0210】
特定の実施形態では、補体C5阻害剤を含む医薬組成物は、阻害剤の任意の薬学的に許容される塩、阻害剤のエステル、又はそのようなエステルの塩を包含する。特定の実施形態では、補体C5阻害剤を含む医薬組成物は、対象(例えば、ヒト)への投与時、生物学的に活性な代謝産物又はその残留物を(直接的又は間接的に)提供し得る。それゆえ、例えば、本開示はまた、阻害剤の薬学的に許容される塩、プロドラッグ、そのようなプロドラッグの薬学的に許容される塩、及び他の生物学的等価物を対象とする。適切な薬学的に許容される塩としては、限定されないが、ナトリウム及びカリウム塩が挙げられる。特定の実施形態では、プロドラッグは、補体C5阻害剤に付着している1つ以上のコンジュゲート基を含み、コンジュゲート基は、体内の内因性ヌクレアーゼにより切断される。
【0211】
様々な方法における核酸療法において脂質部分が使用されてきた。特定のそのような方法では、核酸は、カチオン性脂質及び中性脂質の混合物から作製された事前形成リポソーム又はリポプレックス中に導入される。特定の方法では、モノ又はポリカチオン性脂質とのDNA複合体が中性脂質の存在なしで形成される。特定の実施形態では、脂質部分は、特定の細胞又は組織への医薬剤の分布を増加させるように選択される。特定の実施形態では、脂質部分は、脂肪組織への医薬剤の分布を増加させるように選択される。特定の実施形態では、脂質部分は、筋組織への医薬剤の分布を増加させるように選択される。
【0212】
特定の実施形態では、医薬組成物は、送達系を含む。送達系の例としては、限定されないが、リポソーム及びエマルジョンが挙げられる。特定の送達系は、疎水性化合物を含む医薬組成物を含む特定の医薬組成物の調製に有用である。特定の実施形態では、特定の有機溶媒、例えば、ジメチルスルホキシドが使用される。
【0213】
特定の実施形態では、医薬組成物は、本開示の1つ以上の医薬剤に特異的組織又は細胞タイプに送達するように設計された1つ以上の組織特異的送達分子を含む。例えば、特定の実施形態では、医薬組成物は、組織特異的抗体でコーティングされたリポソームを含む。
【0214】
特定の実施形態では、医薬組成物は、共溶媒系を含む。そのような共溶媒系の特定のものとしては、例えば、ベンジルアルコール、非極性界面活性剤、水混和性有機ポリマー、及び水相が挙げられる。特定の実施形態では、そのような共溶媒系は、疎水性化合物に使用される。そのような共溶媒系の非限定的な例は、VPD共溶媒系であり、それは、3%w/vのベンジルアルコール、8%w/vの非極性界面活性剤Polysorbate 80(商標)及び65%w/vのポリエチレングリコール300を含む絶対エタノールの溶液である。そのような共溶媒系の割合は、それらの溶解度及び毒性特徴を顕著に変えずにかなり変えることができる。さらに、共溶媒成分の同一性を変えることができ:例えば、Polysorbate 80(商標)に代えて他の界面活性剤を用いることができ;ポリエチレングリコールの画分サイズを変えることができ;他の生体適合性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドンをポリエチレングリコールと置き換えることができ;他の糖又は多糖がデキストロースの代用になり得る。
【0215】
特定の実施形態では、医薬組成物は、注射による(例えば、静脈内)投与のために調製される。そのような実施形態の特定のものでは、医薬組成物は担体を含み、水溶液、例えば、水又は生理学的に適合性の緩衝液、例えば、ハンクス液、リンガー液、又は生理食塩水緩衝液中で処方される。特定の実施形態では、他の成分(例えば、溶解度を補助する又は保存剤として機能する成分)が含まれる。特定の実施形態では、注射懸濁液が適切な液体担体、懸濁化剤などを用いて調製される。特定の注射用医薬組成物は、単位剤形で、例えば、アンプル又は多回投与容器中で提供される。特定の注射用医薬組成物は、油性又は水性ビヒクル中の懸濁液、溶液又はエマルジョンであり、処方剤(formulatory agent)、例えば、懸濁化剤、安定剤及び/又は分散剤を含有し得る。注射用医薬組成物における使用に適切な特定の溶媒としては、限定されないが、親油性溶媒及び脂肪酸油、例えば、ゴマ油、合成脂肪酸エステル、例えば、オレイン酸エチル又はトリグリセリド、及びリポソームが挙げられる。
【0216】
キット
本明細書に記載の組成物は、SCD、BT、又は鎌状赤血球BTの治療において使用されるキット中で提供することができる。キットは、1つ以上の本明細書に記載の補体C5阻害剤を含むことができる。キットは、キットの使用者、例えば、医師に本明細書に記載の方法のいずれか1つを実施することを指示する添付文書を含むことができる。キットは、場合により、注射器又は組成物を投与するための他のデバイスを含むことができる。いくつかの実施形態では、キットは、1つ以上の追加の治療剤を含むことができる。
【実施例
【0217】
以下は、本開示の方法の実施例である。上記で提供される一般的説明を考慮して様々な他の実施形態を実施することができることが理解される。
【0218】
実施例1.低酸素誘発性血管閉塞危機における補体活性化の阻害の有効性
VOCにおける補体活性化の阻害の有効性(図1)を実証するため、Townes SSマウスを4つの群に分け、低酸素処置の10日前からPBS(ビヒクル)又は、BB5.1(抗C5mAb)のいずれかで4回、予防的に治療した。代表的な実験設定を図2に提供する。動物を低酸素処置とそれに続く正常酸素条件における1時間の休息後に屠殺した。ビヒクル治療群の1つにおいて、動物を低酸素条件に曝露せず、実験全体にわたり正常酸素条件で継続的に維持し、それらはベースラインとして機能する。安楽死時、血液サンプル及び重要器官を動物から回収してRBC上の補体沈着のレベル、血管内溶血及び血管閉塞の重症度を測定した。
【0219】
フローサイトメトリーに基づくRBC分析は、低酸素条件に曝露されたSS RBC中のC5b9及びC3の両方の補体断片沈着増加を明らかにした(図3)。しかしながら、抗C5モノクローナル抗体(BB5.1)での前治療は、C5b9沈着の増加を予防した。
【0220】
次に、血管内溶血のレベルの変化を、血漿乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性、遊離ヘム及び遊離ヘモグロビン及び総ビリルビンレベルを含む様々なアッセイにより決定した。低酸素条件へのSCD動物の曝露は血管内溶血(IVH)を誘発し、それは抗C5MAbでの前治療により有効に予防される(図4)。認識されているマーカー、例えば、LDH、ビリルビン、遊離ヘモグロビン及び遊離ヘムを用いてIVHをアッセイした。抗補体療法によるSCDマウスにおける血管内溶血の阻害のこれらのデータは、これらの溶血バイオマーカーがSCD患者において十分検証されているので、SCD患者における明確な関与を有する。LDH活性上昇は、定常状態における(Kato et al.2006)又は有痛性VOC事象中(Ballas and Marcolina 2006)のSCD患者の死亡及び合併症に関連する。さらに、LDH活性と疼痛の重症度との間の正の相関が、VOC中の幼児間で報告されている(Najim and Hassan 2011)。同様に、血管内溶血の間に放出される未結合ヘモグロビン及びヘムは、SCDにおいて高度に炎症性、細胞毒性であり、血管及び組織損傷の一因である(Merle et al.2019;Thomas et al.2019)。
【0221】
次に、現場血管閉塞のレベルを、RBCの免疫蛍光(IF)染色(Ter-119)により可視化及び定量した。重要器官、例えば、肺(図5)、腎臓(図6)、肝臓(図7)、及び脾臓(図8)中の血管の閉塞の程度を測定するためのアッセイを実施した。低酸素条件へのSCDマウスの曝露は、肺、腎臓、肝臓、及び脾臓中の血管閉塞の強度を顕著に増加させた。前治療は、対照(リン酸塩緩衝生理食塩水;PBSでの治療)と比較して血管閉塞のレベルを有効に低減した。代表的な実験からの結果を顕微鏡写真で提示し、さらに図5~8の棒グラフでまとめる。
【0222】
肺中の血管閉塞の改善は、肺中の血管閉塞が急性胸部症候群(ACS)の根本的な原因であるので、特に関連性がある(Jain,Bakshi,and Krishnamurti 2017)。ACSは、長期入院を含む、幼児における鎌状赤血球関連死亡及び合併症の高いリスクに関連する。ホモ接合性SCD(HbSS)の全ての幼児の半分超が、生涯の最初の10年間でACSの少なくとも1つのエピソードを経験する(Gill et al.1995)。再発エピソードは、消耗性慢性肺疾患の発症の発端となり得る(Powars et al.1988)。従って、抗C5による肺中の血管閉塞の有意な改善は、SCDの治療のための抗補体療法についての明確な合理的根拠を提供する。
【0223】
抗C5前治療は、腎臓中の血管閉塞の改善における大きい影響も有する(図6)。データは、インビボマウスモデルにおける低酸素誘発性肝臓VOCが、マウスを抗C5抗体で治療した場合、有意に低減されたことを示す。図6の左パネルに見られる通り、抗C5で治療された動物からの腎臓サンプルは、ビヒクル治療動物において明らかなより大きい血管VOCを欠く。
【0224】
これらのデータは、補体阻害剤、例えば、抗体が、鎌状赤血球症を患っている動物を肺、腎臓、肝臓、及び脾臓VOCに対して保護することを確立する。肝臓中の急性VOCは、重度腹痛及び肝機能不全の根本的な原因である(Ebert,Nagar,and Hagspiel 2010)。急性血管閉塞危機(胸部、腹部、及び関節中の激痛)で入院した患者において、肝臓は症例の約39%に関与する(Koskinas et al.2007)。これらの患者は、腹部鼓腸、右上腹部痛、又は急性有痛性肝腫脹を呈する(Koskinas et al.2007)。従って、本明細書で提示されるデータは、補体C5アンタゴニスト、例えば、抗C5抗体でのSCD、BT、及び鎌状BT患者の治療をさらに支持する。
【0225】
まとめると、データは、鎌状RBCが補体活性化を介する溶血及び血管閉塞を含むSCD病理を受けることを確立する。さらに、抗補体療法を用いて、特に補体C5アンタゴニストでの療法を介して、SCD疾患表現型を組織(例えば、肺、腎臓、肝臓、又は脾臓)及び細胞レベルの両方で実質的に改善する。
【0226】
実施例2.ヘム誘発性血管閉塞危機における補体活性化の阻害の有効性
この試験は、129/B6混合遺伝的背景上の雄Townes S/Sマウス(Wu et al.2006)を用いた。Townes S/Sマウスにおいて、マウスα-及びβ-グロビン遺伝子座は欠失され、ヒトα及びγβグロビンにより置き換えられている。2コピーのβアレル(hα/hα::β/β)を担持する場合、マウスは鎌状赤血球細胞(RBC)が血液スメア中に見られるヒト鎌状疾患表現型を発症する。雌雄をJackson Laboratoriesから入手した。動物をImagine InstituteのAnimal Care Facilityで慣用の条件下で収容した。
【0227】
VOCにおける補体活性化の阻害の有効性を実証するため、Townes SSマウスを5つの群に分け、ヘム処置の10日前からPBS(ビヒクル)、又はBB5.1(抗C5 mAb)で4回、予防的に治療した(図9)。動物を50μmol/Kgのヘムに3時間曝露し、その後に動物を屠殺した(図9)。ビヒクル治療群の1つにおいて、動物をヘムに曝露せず、それはベースラインとして機能する(図9)。安楽死時、血液サンプル及び重要器官を動物から回収してRBC上の補体沈着のレベル、血管内溶血及び血管閉塞の重症度を測定した(図10)。マウスをヘパリン/EDTA抗凝固剤で内部コーティングされた毛細管を用いて後眼窩採血により瀉血処理した。マウスを頸椎脱臼により安楽死させ、左心室を介して1mLの生理食塩水溶液を灌流させた。肺、肝臓、腎臓及び脾臓を回収し、秤量した。
【0228】
ヘミンアッセイキット(Sigma-Aldrich製品番号MAK036)を用いて血漿ヘムを測定し、それは、血漿中に存在するヘミンに比例する比色(570nm)産物をもたらす結合酵素反応により決定した。血漿をヘミンアッセイ緩衝液で1:4希釈して50μLの最終容量にした。反応混合物を以下の順序:3μLの酵素混合物、2μLのヘミン基質、43μLのヘミンアッセイ緩衝液及び2μLのヘミンプローブでデュプリケートで調製した。血漿中に存在するヘモタンパク質はバックグラウンドシグナルを生成し得、この変数を制御するため、反応混合物から酵素を除外することにより各サンプルについてブランクを調製した。反応混合物を96ウェルプレート中のサンプルに添加し、水平シェーカーを用いてホモジナイズし、光から保護して室温で30分間インキュベートした。キットに提供されるヘミンスタンダードを希釈することによりヘミン標準溶液を96ウェルプレート中で調製した。Infinite F200 Proマルチモードプレートリーダー(Tecan)を用いてキネティックモードで570nmで吸光度を測定した。各サンプル読取値からブランクサンプル値を差し引くことによりバックグラウンドシグナルを除去して補正測定値を得た。補正測定値を標準曲線にプロットすることによりヘミン濃度を決定した。
【0229】
血管内溶血のレベルは、総ビリルビン、血漿乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性、及び遊離ヘモグロビンを含む複数の尺度により決定した。ヘムへのSCD動物の曝露は、血管内溶血を誘発し、それは抗C5抗体での前治療により有効に予防される(図10)。
【0230】
血漿ビリルビンは、ジェンドラシック・グロフ法に基づくビリルビンアッセイキット(Sigma-Aldrich製品番号MAK126)を用いて測定した。この方法は、サンプル中に存在するビリルビンに比例する530mmで測定される比色産物をもたらすビリルビンとジアゾ化スルファニル酸との反応に基づくものであった。総ビリルビンは、ビリルビンを非コンジュゲートビリルビン-タンパク質複合体から分割する安息香酸カフェインを含有する試薬Cの添加により決定した。血漿をPBSで1:2希釈して50μLの最終容量にした。作業試薬を以下の順序:50μLの試薬A、20μLの試薬B及び130μLの試薬Cで調製した。反応混合物から試薬B及びCを除外する(生理食塩水溶液により置き換える)ことにより各サンプルについてブランクを調製した。反応混合物を96ウェルプレート中のサンプルに添加し、水平シェーカーを用いてホモジナイズし、光から保護して室温で10分間インキュベートした。Infinite F200 Proマルチモードプレートリーダー(Tecan)を用いて530mmで吸光度を測定した。各サンプル読取値からブランクサンプル値を差し引くことによりバックグラウンドを除去して補正測定値を得た。ビリルビン濃度は、以下の式:[(サンプル-ブランク)/(キャリブレーター-水)]×5mg/dLにより決定した。
【0231】
全血をK2EDTAチューブ(Melet Schloesing Laboratoires)上で回収した。細胞を、冷蔵遠心機を用いる2,000×gの15分間の遠心分離により血漿から除去した。このステップは、血漿サンプル中の血小板も枯渇させる。血漿を50μLのアリコートに分配し、-80℃で貯蔵した。
【0232】
血漿LDHは、Pierce LDH細胞毒性アッセイキット(Thermofisher Scientific製品番号88953)を用いて測定した。0.6mLのアッセイ緩衝液を11.4mLの基質混合物と15mLコニカルチューブ中で合わせることにより反応混合物を調製した。血漿をPBSで1:2希釈して50μLの最終容量にした。反応混合物を96ウェルプレート中のサンプルに添加し、水平シェーカーを用いてホモジナイズし、光から保護して室温で30分間インキュベートした。50μLの停止溶液を各サンプルに添加することにより反応を停止させた。Infinite F200 Proマルチモードプレートリーダー(Tecan)を用いて490nm及び680nmで吸光度を測定した。LDH活性を[(LDH 490nm)-(LDH 680nm)]として決定した。
【0233】
血漿ヘモグロビンは、Drabkin試薬(Sigma-Aldrich製品番号D5941)を用いて測定した。この手順は、アルカリフェリシアン化カリウムの存在下のヘモグロビン及びその誘導体(スルフヘモグロビンを除く)のメトヘモグロビンへの酸化に基づくものであった。メトヘモグロビンは、シアン化カリウムと反応してシアンメトヘモグロビンを形成し、それは540nmでの最大吸収を有した。540nmで測定される色強度は、総ヘモグロビン濃度に比例する。血漿を96ウェルプレートに移した(各サンプルについて20μL)。Drabkin試薬の1つのバイアルを1,000mLの水及び0.5mLの30%Brij(登録商標) L23溶液、(Sigmaカタログ番号B4184)で再構成することによりDrabkin溶液を調製した。Drabkin溶液(180μL)を96ウェルプレート中のサンプルに添加し、水平シェーカーを用いてホモジナイズし、光から保護して室温で15分間インキュベートした。ヘモグロビン検量線をDrabkin溶液において作成した。Infinite F200 Proマルチモードプレートリーダー(Tecan)を用いて540nmで吸光度を測定した。各サンプル読取値からブランクサンプル値を差し引くことによりバックグラウンドを除去して補正測定値を得た。補正測定値を検量線にプロットすることによりヘモグロビン濃度を決定した。
【0234】
結果は、抗C5抗体治療がヘムにより誘導されたビリルビン及びヘモグロビンレベルの上昇のかなりの低減をもたらすことを示した(図10)。
【0235】
血液(45μL)を5μLのマウスFcR遮断試薬(Miltenyi Biotec製品番号130-092-575)と10分間インキュベートし、50μLの細胞染色緩衝液(Biolegend製品番号420201)で1:2希釈した。次いで、サンプルをTer-119 Pacific Blue(Biolegend製品番号116232;1/100希釈)、マウスTfR1/CD71 PerCP/Cy5.5(Biolegend製品番号113816;1/100希釈)、C5b9-FITC(Santa Cruz Biotechnologies製品番号sc-66190 FITC;1/20希釈)又はC3-FITC(Cedarlane製品番号CL7631F;1/50希釈)に対する抗体で染色した。死細胞をLive-Dead(eBioscience)により除外した。
【0236】
細胞をFlowJoソフトウェア(Tree Star)を用いるフローサイトメトリー(Gallios Beckman Coulter)によりさらに分析した。フローサイトメトリーに基づくSS RBC分析は、ヘムへの曝露時にSS RBC上のC5b9及びC3沈着の両方の顕著な増加を明らかにした(図11)。BB5.1(抗C5)での前治療は、SS RBC上のC5b9沈着の増加をほぼ完全に予防した(図11)。C5b9染色は潜在的な膜侵襲複合体(MAC)形成を表すため、C5b9沈着の予防は、補体媒介性血管内溶血を低減することが予測される(図11)。次に、次いでC3沈着をSS RBC上で測定した。抗C5は、C3オプソニン化のレベルを低減しなかった(図11)。
【0237】
パラフィン包埋された肺、脾臓、肝臓又は腎臓切片(5μm)を脱パラフィン、再水和及び抗原賦活化のためにクエン酸塩緩衝液を用いて95℃で20分間処理した(Biolegend製品番号928502)。サンプルをPAPペンで区切り、高タンパク質(high protein)IHC/ICCブロッキング緩衝液(eBioscience製品番号00-4952-54)で15分間ブロッキングし、次いでalexa fluor-488にカップリングしている、血管捕捉RBCのマーカーであるTer-119に対する一次抗体(Biolegend製品番号116215;1/100希釈)と1時間インキュベートした。スライドをTBS Tween(登録商標)-20 0.05%で10分間3回、十分に洗浄し、DAPIを有するprolong diamond褐色防止用封入剤(ThermoFischer Scientifc製品番号P36962)で封入した。画像をEVOS M5000イメージングシステム(ThermoFisher Scientific)上で200倍の倍率で取得し、ImageJソフトウェアを用いて面積当たりの陽性ピクセルを分析した。血管閉塞の強度を、肺及び肝臓を含む重要器官中の血管を閉塞するRBCの免疫蛍光(IF)染色(Ter-119)により可視化及び定量した(それぞれ図12及び図13)。ヘムへのSCDマウスの曝露は、肺及び肝臓中の血管閉塞の強度を顕著に増加させた。抗C5抗体での前治療は、PBS治療と比較して統計的に有意に血管閉塞のレベルを有効に低減した。
【0238】
対照に対する治療効果の分析のために一元配置分散分析(ANOVA)検定とそれに続くテューキーの検定(多重比較検定)又はクラスカル・ウォリス検定(ノンパラメトリック)を用いて統計解析試験を実施した。全ての統計解析は、GraphPadソフトウェア(v6.00、San Diego、California、USA)を用いて導いた。帰無仮説を棄却するための統計的有意性は、P<0.05有意水準で同定した。説明目的のため、P<0.01及びP<0.005の有意水準も注釈表示した。
【0239】
実施例3:C3及びC5b-9についての補体誘導沈着アッセイ
ヘムによるSS RBC上の補体沈着の誘導及び抗C5の評価
ヘモグロビン遺伝子中の突然変異についてホモ接合性(SS)であるSCD患者からのRBC及び血清を、BioIVT(それぞれカタログHUMANRBCALSUZN及びHMRBC-SCA)及びSanguine Biosciences(Study #24348)から入手した。ゼラチンベロナール緩衝液(GVB)をBoston Bioproducts(カタログIBB-300X)から入手した。Mg-EGTA(カタログB106)、C8枯渇正常ヒト血清(カタログA325)及び正常ヒト血清(カタログNHS)をComplement Technologyから入手した。PBSをCorning、カタログ21-031-CVから入手した。ブタヘム(Sigma、カタログ51280)を様々な濃度(50~800uM)で使用して補体活性化を増幅させ、ヒト細胞上の沈着を誘導した。
【0240】
全ての遠心分離を4℃で440×gで5分間実施し、上清をマルチチャンネルピペットで吸引して緩いRBCペレットの妨害を回避した。
【0241】
補体阻害アッセイにおける使用のためのヘムの適切な濃度の同定
患者SS-RBCをPBS中で3回洗浄し、GVB、5mMのMg-EGTA中で再懸濁させ、無菌V底96ウェルプレートに2×10個の細胞/ウェルの濃度で再分布させた。自己血清を20%の最終濃度まで添加した。ヘムを0、100、200、400、及び800μMで使用した。37℃ 5%のCOでの20~30分間のインキュベーション後、10%EDTAを含有するPBS(Corning、カタログ46-030-CI)を添加して補体活性化を停止させた。RBCを洗浄し、以下に詳述される通りiC3bに対する抗体で染色した。
【0242】
ヘムにより誘導されたSS-RBC上の補体沈着のAP遮断
患者SS-RBCをPBS中で2回洗浄した。補体沈着を誘導するため、RBCをGVB、5mMのMg-EGTA(アッセイ緩衝液)中で5×10個の細胞/mLで再懸濁させ、30μLを無菌V-96ウェルに添加した。正常ヒト血清を20%の最終濃度まで添加した。補体阻害剤をアッセイ緩衝液中で3.125μMの5×作業原液に希釈し、細胞を含有するウェルに10μLを添加した。ブタヘムを400μMまで添加し、細胞を37℃、5%のCOで20~30分間インキュベートした。150μL/ウェルの10mMのEDTAを含有するPBSの添加により補体活性化を停止させた。細胞を遠心分離し、200μLのPBSで1回洗浄し、以下のiC3b及びC5b-9沈着について染色した。
【0243】
SS-RBCの表面上のiC3b及びC5b-9沈着のフローサイトメトリー分析
細胞をPBS中で4μg/mLまで希釈されたウェル当たり50μLのiC3b(Quidel、カタログA209)又はC5b-9抗体(Quidel、カタログA239)中で再懸濁させ、4℃で20~30分間インキュベートし、フローサイトメトリーのための染色をシース液中で実施した。細胞を150~200μLのPBSで2回洗浄し、PBS中で4μg/mLまで希釈された50μLのヤギ抗マウスIgG(H+L)-AF488(InvitrogenカタログA11029)中で再懸濁させ、4℃で20~30分間インキュベートした。いくつかの実験では、ヤギ抗マウスIgG2b AF488を4μg/mLで使用した(Invitrogen、カタログA21141)。細胞を150~200μLのPBSで2回洗浄し、フローサイトメトリー分析のためにLSR Fortessa上で取得した。
【0244】
結果
図14は、鎌状RBC上のヘム誘発性補体沈着及び抗C5抗体治療の効果に関するフローサイトメトリーに基づくデータを示す。SCD赤血球細胞を20%の正常ヒト血清(NHS)の存在下で400μMのヘムに曝露した。左は、正常、ヘム、及びヘム+抗C5抗体を含む様々な条件下のiC3b沈着を示す散布図である。右は、iC3b沈着を定量する棒グラフである。図14に示されるデータについて、****P<0.0001及び**P<0.01の有意水準を注釈表示した。
【0245】
図15は、鎌状RBC上のヘム誘発性補体沈着及び効果抗C5抗体治療に関するフローサイトメトリーに基づくデータを示す。SCD赤血球細胞を20%の正常ヒト血清(NHS)の存在下で400μMのヘムに曝露した。左は、正常、ヘム、及びヘム+抗C5抗体を含む様々な条件下のC5b9沈着を示す散布図である。右は、C5b9レベルを定量する棒グラフである。図15に示されるデータについて、**P<0.01の有意水準を注釈表示した。
【0246】
図14及び図15に示される通り、ヘムは、鎌状赤血球患者からの赤血球細胞上の有意水準のiC3b及びC5b-9沈着を誘発した。スチューデントのt検定により決定されたiC3b及びC5b-9それぞれについてのP<0.0001及び<0.01の有意水準を注釈表示した。C5阻害は、SCD RBC上のiC3b及びC5b-9沈着低減ももたらした(両方についてP<0.01の有意水準)。
【0247】
実施例4:AP阻害剤はHMEC-1細胞上のヘム誘発性補体沈着を遮断する
内皮細胞系HMEC-1をATCC(CRL3243)から購入し、AcCellerate(カタログCBA02、ロット92-190318FG01)で拡大培養及びバンク化した。これは、皮膚微小血管内皮細胞系である。細胞を<5の継代で実験において使用した。
【0248】
全ての遠心分離ステップを室温(RT)で300gで5~7分間実施した。HMEC-1細胞を6ウェルプレート中にウェル当たり1.5×10個の細胞で培地(内皮細胞成長培地MV2、Promocell、カタログ22022)中で播種し、コンフルエンシーに到達させた(72時間)。正常ヒト血清(Complement Technologies、カタログNHS)を1uMの阻害剤でスパイクし、5~10mMのMgEGTAを含有する生細胞イメージング溶液(LCIS)(Invitrogen、カタログA1429DJ)を用いて20%まで希釈し、培地に代えてHMEC-1培養物に添加した。或いは、MgEGTAを有さないLCISを検査緩衝液として試験した。ヘムを400μMまで添加し、混合し、37℃で20~30分間インキュベートした。細胞を2mLのPBS(Corning、カタログ21-031-CV)で2回リンスし、10mMのEDTAを含有するPBS(Corning、カタログ46-034-CI)で剥離した。細胞を遠心分離し、ペレットを400μLのシース液(BD Biosciences、カタログ342003)中で再懸濁させ、V底96ウェルプレートにデュプリケートで移した。遠心分離後、4μg/mLまで希釈されたiC3b又はC5b-9抗体のいずれかを含有するウェル当たり50μLのシース液中でペレットを再懸濁させた。数回の洗浄後、細胞をシース液中で4μg/mLまで希釈された50μLのヤギ抗マウスIgG(H+L)AF488と4℃で30分間インキュベートした。数回の洗浄後、細胞をフローサイトメトリー分析のためにLSR Fortessa上で取得した。
【0249】
結果
図16は、ヘムに曝露された内皮細胞上のヘム誘発性補体断片沈着及び補体沈着に対する抗C5抗体の効果のフローサイトメトリーに基づく分析を示す棒グラフを示す。左から右にかけて、正常、ヘム、及びヘム+抗C5前治療の補体断片レベルの変化が示される。左側パネルはC3/C3b/iC3bレベルを示し、右側パネルはC5b9レベルを示す。図16に示されるデータについて、****P<0.0001の有意水準を注釈表示した。
【0250】
図16に示される通り、ヘムは、HMEC-1細胞上のiC3b及びC5b-9の沈着を強力に誘発した(両方についてP<0.0001)。C5阻害は、MAC沈着を有効に遮断し(P<0.0001)、iC3bの沈着は影響を受けなかった。
【0251】
参照文献
以下の参照文献は、参照により全体として本明細書に組み込まれる:
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【0252】
他の実施形態
本明細書全体にわたり挙げられるあらゆる最大数値限定は、それよりも小さいあらゆる数値限定をそのような小さい数値限定が本明細書に明示的に記載されたものとして含むことが理解されるべきである。本明細書全体にわたり挙げられるあらゆる最小数値限定は、それよりも大きいあらゆる数値限定をそのような大きい数値限定が本明細書に明示的に記載されたものとして含む。本明細書全体にわたり挙げられるあらゆる数値範囲は、そのようなより広い数値範囲内に収まるより狭いあらゆる数値範囲をそのようなより狭い数値範囲が全て本明細書に明示的に記載されたものとして含む。
【0253】
特に定義されていない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者により一般に理解される意味と同じ意味を有する。方法及び材料は本開示における使用のために本明細書に記載され;当技術分野で公知の他の適切な方法及び材料を用いることもできる。材料、方法、及び実施例は説明にすぎず、限定を意図するものではない。本明細書に挙げられる全ての刊行物、特許出願、特許、配列、データベースエントリー(例えば、PUBMED、NCBI、FDA Drug又はUNIPROTアクセッション番号)、及び他の参照文献は、参照により全体として組み込まれる。矛盾する場合、定義を含め本明細書が優先される。
【0254】
本開示の特定の実施形態を説明及び記載してきた一方、本開示の主旨及び範囲を逸脱せずに様々な他の変更及び改変を行うことができることは当業者には明白である。従って、添付の特許請求の範囲において本開示の範囲内である全てのそのような変更及び改変を含めることが意図される。
図1
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図10
図11
図12
図13
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図15
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【配列表】
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【国際調査報告】