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特表2024-534102燃料電池システムのインテリジェントな加熱方法、および車両
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  • 特表-燃料電池システムのインテリジェントな加熱方法、および車両 図1
  • 特表-燃料電池システムのインテリジェントな加熱方法、および車両 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-18
(54)【発明の名称】燃料電池システムのインテリジェントな加熱方法、および車両
(51)【国際特許分類】
   B60L 58/34 20190101AFI20240910BHJP
   B60L 7/28 20060101ALI20240910BHJP
   B60L 7/22 20060101ALI20240910BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20240910BHJP
   H01M 8/04992 20160101ALI20240910BHJP
   H01M 8/04701 20160101ALI20240910BHJP
   H01M 8/043 20160101ALI20240910BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20240910BHJP
   H01M 8/04007 20160101ALI20240910BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240910BHJP
【FI】
B60L58/34
B60L7/28
B60L7/22 B
H01M8/00 Z
H01M8/04992
H01M8/04701
H01M8/043
H01M8/04 Z
H01M8/04007
H01M8/10 101
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510612
(86)(22)【出願日】2022-08-04
(85)【翻訳文提出日】2024-04-18
(86)【国際出願番号】 EP2022072031
(87)【国際公開番号】W WO2023025567
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】102021004310.3
(32)【優先日】2021-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】523285085
【氏名又は名称】ダイムラー トラック アーゲー
【氏名又は名称原語表記】DAIMLER TRUCK AG
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】ゲーリング, オットマー
(72)【発明者】
【氏名】ブンツ, クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ランゲンバッヒャー, ルイザ
【テーマコード(参考)】
5H125
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H125AA03
5H125AC07
5H125AC12
5H125AC24
5H125BC08
5H125BD04
5H125CB01
5H125CB02
5H125DD01
5H125EE37
5H126BB06
5H127AA06
5H127AB04
5H127AB29
5H127AC07
5H127AC15
5H127BA02
5H127BA22
5H127BB02
5H127CC15
5H127DA01
5H127DC74
5H127DC95
5H127DC96
5H127FF04
(57)【要約】
本発明は、車両(2)に組み込まれた燃料電池システム(1)を動作温度まで加熱するのに必要な熱が、少なくとも1つのリターダ(3.1)および/またはブレーキチョッパ(3.2)の形態による車両(2)の二次制動システム(3)によって供給される、燃料電池システム(1)のインテリジェントな加熱方法に関し、本発明は、計画された走行が車両(2)によって実行され、走行中、車両(2)が切替え時間において、バッテリ電気動作から、車両(2)を駆動するのに必要な駆動力が燃料電池システム(1)によって供給される燃料電池動作モードに切り替え、走行を開始する前に、走行の期間中に二次制動システム(3)から得ることができる熱量を決定するために、計画された走行が分析され、切替え時間が、得ることができる熱量に従って定義され、かつ/または、走行を開始する前に、切替え時間に到達したときに燃料電池システム(1)が動作温度に確実に到達しているようにするために、燃料電池システム(1)の加熱が開始されることを特徴とする。
【選択図】図1


































【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(2)に組み込まれた燃料電池システム(1)を動作温度まで加熱するのに必要な熱が、少なくとも1つのリターダ(3.1)および/またはブレーキチョッパ(3.2)の形態による前記車両(2)の二次制動システム(3)によって供給される、前記燃料電池システム(1)のインテリジェントな加熱方法であって、
計画された走行が前記車両(2)によって実行され、前記車両(2)が、前記走行中の切替え時間において、バッテリ電気動作から、前記車両(2)を駆動するのに必要な駆動エネルギーが前記燃料電池システム(1)によって供給される燃料電池動作モードに切り替え、前記走行の期間中に前記二次制動システム(3)から引き出され得る熱量を決定するために、前記計画された走行の分析が前記走行の開始前に実行され、前記切替え時間が、引き出され得る前記熱量の関数として決定され、かつ/または前記切替え時間に到達したときに前記燃料電池システム(1)が前記動作温度に確実に到達しているようにするために、前記燃料電池システム(1)の加熱が前記走行の開始前に開始されることを特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記走行が、車両内部(4.1)または前記車両の外部のコンピューティングユニット(4.2)で分析される
ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記車両(2)の制動動作中に前記ブレーキチョッパ(3.2)によって回収されるエネルギーの少なくとも一部が、前記車両(2)のトラクションバッテリ(5)を充電するのに使用される
ことを特徴とする、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記トラクションバッテリ(5)の現在または将来の充電レベルを考慮に入れて、前記車両(2)が静止しているときに前記燃料電池システム(2)が加熱される
ことを特徴とする、
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記走行の前記分析が、計画された経路および対応する経路プロファイルの評価に加えて、前記車両(2)の任意のアイドル時間も考慮に入れる
ことを特徴とする、
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記二次制動システム(3)によるエネルギー変換に必要なエネルギーが、前記車両の内部および/または外部のエネルギー源から得られる
ことを特徴とする、
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
燃料電池システム(1)と、二次制動システム(3)と、コンピューティングユニット(4.1)とを有する車両であって、
前記燃料電池システム(1)、前記二次制動システム(3)、および前記コンピューティングユニット(4.1)が、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法を実行するために配置されることを特徴とする、
車両(2)。
【請求項8】
商用車両としての設計を
特徴とする、
請求項7に記載の車両(2)。
【請求項9】
トラック、バン、または乗合バスとしての設計を
特徴とする、
請求項8に記載の車両(2)。
【請求項10】
少なくとも部分的に自動化された制御システムを
特徴とする、
請求項7から9のいずれか一項に記載の車両(2)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の一般的な用語でより詳細に定義されるタイプの燃料電池システムのインテリジェントな加熱方法、およびそのような燃料電池システムを有する車両に関する。
【背景技術】
【0002】
持続可能性および環境保護の理由から、車両はますます電動化されている。そのような車両は、典型的には、電気駆動エネルギーを供給するためのトラクションバッテリおよび/または燃料電池システムを有する。そのような燃料電池システムによって通常使用される10エネルギーキャリアは、酸素と反応して水を生成する水素である。化学エネルギーキャリアを貯蔵することにより、純粋な電池電気駆動よりも長距離を達成することができる。
【0003】
反応プロセスが燃料電池システム内で確実に起こり得るようにするために、燃料電池システムを使用する前に除霜するか動作温度まで温める必要がある。
【0004】
車両の燃料電池システムを動作温度まで加熱するために、そのような車両は、典型的には、比較的強力ゆえに高価な別個のヒータを有する。車両の高電圧電気システムにヒータを組み込むことは、追加のコストも伴う。そのようなヒータが生成し得る熱出力は10kW程度であり、これは、燃料電池システムが特に冬において温まるのに時間がかかることを意味する。したがって、対応する車両がその走行を開始できるようになるまでに数分かかる可能性がある。
【0005】
さらに、商用車両用の二次制動システムが従来技術において知られている。このタイプの二次制動システムには、例えば、摩擦ブレーキなどの一次制動システムの負荷を軽減するのに使用できる、いわゆるリターダまたはブレーキチョッパが含まれ得る。これは例えば、坂道の長時間走行において車両を一定速度に保たなければならない場合である。
【0006】
リターダは、流体ブレーキである。リターダが作動すると、車両のドライブトレインから軸動力が流体に囲まれたロータに伝達され、ロータと流体との間の摩擦により制動トルクをドライブトレインに伝える。制動効果を高めるために、そのようなロータは、通常、ブレードまたはベーンを有する。摩擦により、液体、例えば水または油が大幅に加熱される。
【0007】
ブレーキチョッパは、過剰な電気エネルギーを消散させるための電子システムである。電気モータによって駆動される車両を制動するために、電気モータは発電機モードで動作可能である。これにより、車両のドライブトレインに制動トルクを伝達するとともに電気を生成する。この電気エネルギーは、車両のトラクションバッテリを充電するのに使用できる。トラクションバッテリが完全に充電されるか、発電機によって生成された電力がトラクションバッテリを充電するのに使用できる電力を超える場合、過剰な電力はブレーキチョッパを用いて抵抗器で熱に変換される。
【0008】
リターダおよび/またはブレーキチョッパによって放散された熱エネルギーは、それぞれの構成要素が過熱するのを防止するために伝導により逃がさなければならない。この目的のために、リターダまたはブレーキチョッパは、通常、車両冷却システムに組み込まれる。
【0009】
リターダまたはブレーキチョッパによって放散された廃熱を使用して車両構成要素を加熱するための装置および方法は、従来技術において知られている。例えば、独国特許出願公開第43 92 959号明細書は、内燃機関とリターダとを有し、リターダが内燃機関を動作温度まで迅速に加熱するために使用される車両を開示している。この目的のために、内燃機関は、車両が静止しているときに始動され、リターダを駆動するのに使用される。一方では、内燃機関は、リターダが与える反トルクのために加熱がより速くなり、他方では、リターダが放散する熱出力が、内燃機関をさらに加熱するのに使用される。内燃機関を迅速に加熱する利点は、内燃機関がその動作温度により速く到達することであり、それにより排出量が低減される。内燃機関がその動作温度に到達すると、リターダは、車両のドライブトレインから自動的に切り離される。
【0010】
同様の方法または同様の装置は、国際公開第2007/064381号パンフレットにおいても知られている。ここでは、車両は、ハイブリッド電気式または純粋な電動式の大型商用車両として設計される。ブレーキチョッパによって放散される熱出力は、車両エンジンの予熱、または運転室の空調に使用される。抵抗器で散逸される電流は、例えば、車両の内燃機関によって駆動される発電機によって供給される。電気はまた、車両内のトラクションバッテリから、または電力ケーブルを介して車両に接続された充電ステーションなどの外部エネルギー源から引き込むこともできる。純粋なバッテリ駆動車両の場合、電気は、車両の駆動ユニットを発電機モードで動作させることによる回生制動によっても生成できる。本文献は、電気エネルギーを供給するのに燃料電池システムを使用することも開示している。
【0011】
車両構成要素を加熱するための同様の装置は、国際公開第2008/147305号パンフレットにおいても知られている。ここでは、ブレーキチョッパからの熱出力が燃料電池システムの予熱または温度調整に使用され、必要に応じて凝縮器に一時的に貯蔵され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】独国特許出願公開第43 92 959号明細書
【特許文献2】国際公開第2007/064381号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2008/147305号パンフレット
【発明の概要】
【0013】
本発明は、車両の二次制動システムによって供給される熱出力が燃料電池システムを動作温度まで加熱するのに使用される、燃料電池システムのインテリジェントな加熱方法を特定する目的に基づいており、この方法は、燃料電池システムの特に迅速で、エネルギー効率がよいゆえに持続可能な加熱を可能にする。
【0014】
本発明によれば、この目的は、請求項1の特徴を有する燃料電池システムのインテリジェントな加熱方法、および請求項7の特徴を有するそのような燃料電池システムを有する車両によって達成される。有利な実施形態およびさらなる発展形態は、それらに従属する特許請求の範囲から明らかである。
【0015】
冒頭で述べたタイプの燃料電池システムのインテリジェントな加熱方法では、計画された走行が本発明による車両を用いて実行され、車両は、走行中の切替え時間において、バッテリ電気動作から、車両を駆動するのに必要な駆動エネルギーが燃料電池システムによって供給される燃料電池動作モードに切り替え、走行の期間中に二次制動システムから引き出され得る熱量を決定するために、計画された走行の分析が走行の開始前に実行され、切替え時間が、引き出され得る熱量の関数として決定され、かつ/または切替え時間に到達したときに燃料電池システムが動作温度に確実に到達しているようにするために、燃料電池システムの加熱が走行の開始前に開始される。
【0016】
本発明による方法を使用して、一方では特に持続可能かつエネルギー効率がよい方法で燃料電池システムを加熱し、他方では特に早期に静止車両を始動させることが可能である。走行を分析することによって、二次制動システムをいつどの動力で作動させることができるか、および二次制動システムからどれほどの量の熱を引き出すことができるかを決定することが可能である。例えば、出発地から目的地までの経路を評価して、車両が制動する必要がある経路区間を決定する。これには、例えば、坂道、信号機、交差点、合流点などが含まれる。切替え時間において、システムは、電池電気動作から燃料電池動作モードに切り替える。これは、切替え時間に到達したときに燃料電池システムがその動作温度に到達していなければならないことを意味する。二次制動システムによって回収される熱量が、切替え時間において動作温度に到達するのに十分でない場合、燃料電池システムは、車両が走行を開始する前に加熱される。走行中に二次制動システムによって供給され得る熱量を分析することによって、走行を開始する前に燃料電池システムを予熱するのに必要な熱量を低減することが可能である。これは、一方では、燃料電池システムを加熱するために、車両を制動することによって生成される回生エネルギーを特に高い割合で使用できることを意味する。他方では、車両が静止しているときに燃料電池システムを予熱するのに必要な時間が短縮され、車両をより迅速に始動して出発できるようにする。それにより、車両が動いている間に燃料電池システムを加熱するのに二次制動システムが放散する熱をより多くまたは少なく使用するために、切替え時間を前後に動かすことも可能になる。
【0017】
例えば、車両がアルプス山脈の駐車場のような比較的高い出発位置から出発し、海の港のような低地の目的地まで走行する場合、燃料電池システムを動作温度まで加熱するのに必要なすべての熱を二次制動システムから得ることが可能であり、それにより、車両は静止している間に最初に燃料電池システムを加熱することなく、直ちに出発することが可能になる。
【0018】
すでに車両の一部である二次制動システムが燃料電池システムを加熱するのに使用されるため、追加の高価な加熱システムを必要としない。したがって、車両をより簡素に設計することができ、製造コストを低減できる。対応する二次制動システムは、車両の冷却回路に組み込まれた少なくとも1つのリターダおよび/または少なくとも1つのブレーキチョッパを備える。冷却回路はさらに、二次制動システムによって発生した熱を燃料電池システムの加熱用に供給するのに使用される管、ポンプ、弁、熱交換器などを含む。
【0019】
燃料電池システムは、二次制動システム、すなわち、リターダおよび/またはブレーキチョッパを介して静止時にも加熱される。このようにして、電気エネルギーが熱として抵抗器に散逸され、および/またはリターダを駆動するのに使用される軸動力の形態で、電気駆動機械によって機械的動力が生成され得る。そのようなリターダは典型的に数百キロワット程度の制動力を有するため、別個の電気ヒータを使用する場合よりもさらに速く燃料電池システムを加熱することも可能である。
【0020】
本方法の有利なさらなる発展形態は、車両の内部または外部のコンピューティングユニットで走行が分析されることである。例えば、車両は、車両を使用する人が計画された走行をプログラムするナビゲーションシステムを含み得る。その後、ナビゲーションシステムまたはナビゲーションシステムと通信するコンピュータは、走行を評価し、二次制動システムから引き出され得る熱量を決定することができる。走行は、車両の外部のコンピューティングユニット上で分析することも可能である。車両の外部のコンピューティングユニットは、例えば、サービスプロバイダからのクラウドサーバによって形成することができる。サービスプロバイダは、例えば、車両メーカである。この目的のために、車両と車両外部のコンピューティングユニットとの間には無線通信リンクがある。通信は、モバイル無線、WiFi、Bluetooth、NFCなどを介して行うことができる。
【0021】
車両の外部のコンピューティングユニット上で走行を分析することは、強力なハードウェア構成要素を使用して走行を非常に迅速に分析できるという利点を有する。さらに、大量の車両によって行われる走行を分析することができ、その結果、車両の外部のコンピューティングユニットは比較的大きなデータセットにアクセス可能となる。これにより、車両がセンサを使用して、走行中に二次制動システムが実際に生成した熱量を記録し、それを経路の対応する部分に割り当てることも一般に可能である。その結果、走行中に生成可能な熱量の推定精度を向上させることができる。
【0022】
本方法のさらなる有利な実施形態によれば、車両の制動プロセス中にブレーキチョッパによって回収されるエネルギーの少なくとも一部は、車両のトラクションバッテリを充電するのに使用される。これは、制動中に燃料電池システムを加熱することと、トラクションバッテリを充電するために電気エネルギーを供給することとの両方が可能であることを意味する。これにより、システムがバッテリ電気動作モードから燃料電池動作モードに切り替わる切替え時間を決定するための柔軟性が増す。
【0023】
本方法のさらなる有利な実施形態は、トラクションバッテリの現在または将来の充電レベルを考慮に入れて、車両が静止しているときに加熱される燃料電池システムも提供する。トラクションバッテリの充電レベルに応じて、車両は、純粋なバッテリ電気動作から燃料電池動作モードに切り替える時期を早くしたり遅くしたりしなければならないことがある。トラクションバッテリが消耗した場合、燃料電池システムは、車両の電気駆動ユニットに電力を供給するのに必要なエネルギーを供給できるように、その動作温度に到達していなければならない。例えば、走行の開始後にトラクションバッテリの利用可能な残存容量が比較的わずかしかない場合、切替え時間は比較的早くなるが、これは、燃料電池システムが、走行の開始後比較的すぐにその動作温度に到達していなければならないことも意味する。すなわち、燃料電池システムを動作温度まで加熱するのに必要な熱の大部分を車両が静止しているときに発生させる必要がある。これにより、燃料電池システムの加熱プロセスは、予定された出発時間に車両が出発地から出発することを可能にするか、または予定された出発時間を確実に守れるようにするのに十分早期に開始される。これは、特に確実にスケジュールに沿えることを意味する。
【0024】
特に、トラクションバッテリの充電レベルおよび燃料電池システムの加熱は、トラクションバッテリの充電レベルが消耗したとき、または臨界最小値に到達したときに、バッテリ電気動作から燃料電池動作モードへの切替え時間になるように調整される。その結果、充電ステーションでの車両の充電時間を停止期間中に短縮することができ、車両はさらに速く出発できるようになる。
【0025】
走行の開始前にトラクションバッテリが完全に充電されているか臨界値を超えて充電されている場合、リターダを使用して走行中に燃料電池システムを加熱し、さらにトラクションバッテリから電力を引き出してブレーキチョッパによって燃料電池システムを加熱することも考えられる。
【0026】
比較的長い道路の車両経路が制動を必要としない場合、二次制動システムを使用して回生源から熱を発生させ、燃料電池システムを加熱することができない。しかしながら、ブレーキチョッパは、トラクションバッテリからエネルギーを供給され得るため、制動せずに駆動しながら燃料電池システムを加熱することができる。これにより、走行を開始する前の燃料電池システムの加熱時間をさらに短縮することができ、すなわち、車両によるサイクルタイムがさらに時間効率よく順守され得る。さらに、これにより、例えば時間制約のために、車両が静止しているときに燃料電池システムを十分に予熱することができない場合に、制動が比較的少ししか必要とされない経路に沿って走行して燃料電池システムがその動作温度まで加熱されなくなる状況を防止する。
【0027】
本発明のさらなる有利な実施形態によれば、走行の分析は、計画された経路および対応する経路プロファイルの評価に加えて、車両の任意のアイドル時間も考慮に入れる。そのようなアイドル時間は、例えば、車両を運転する人による休憩、燃料補給のための停止、積み込みのための停止、さらには例えば経路上の倉庫での車両の積み込みおよび/または積み下ろしによって発生する。燃料電池システムは、車両が静止している時間の長さに応じて、動作温度未満まで冷却することがある。したがって、燃料電池システムが動作温度に到達するように、ある量の熱を燃料電池システムに再び供給しなければならない。アイドル時間を考慮に入れることによって、燃料電池システムが動作温度まで温めることができなくなるリスクを低減する。これによって、同様に、アイドル時間の終わりにトラクションバッテリの特定の充電レベルを達成することが可能となり、アイドル時間後の切替え時間を柔軟に前後に動かすことが可能となる。
【0028】
二次制動システムによるエネルギー変換に必要なエネルギーは、車両の内部および/または外部のエネルギー源から得ることが好ましい。車両の内部エネルギー源は、例えば、トラクションバッテリ、ソーラーモジュール、風力タービン、コンデンサ、発電機などであり得る。車両の外部エネルギー源は、例えば、公共または民間の電気ネットワークであり得る。エネルギーは、ブレーキチョッパによって熱を発生させるために電気エネルギーの形態で提供され、かつ/または、エネルギーは、リターダによって熱を発生させるために機械エネルギーであり得る。一般に、車両は、電気モータに加えて内燃機関も有しており、それを使用して、リターダを駆動するために軸動力が生成され得る。原則として、車両は、例えば充電ステーションを介して民間または公共の電気ネットワークから有線電気を引き込み、この電気を使用してトラクションバッテリを充電したり、ブレーキチョッパによって熱を発生させたりすることが可能である。車両の電気モータを駆動して機械的エネルギーを生成し、リターダを動作させることもできる。
【0029】
燃料電池システム、二次制動システム、およびコンピューティングユニットを有する車両の場合、燃料電池システム、二次制動システム、およびコンピューティングユニットが、上述の方法を実行するために本発明に従って配置される。車両は、任意の道路車両または鉄道車両であり得る。二次制動システムは、少なくとも1つのリターダおよび/または1つのブレーキチョッパを備える。コンピューティングユニットは、例えば、中央車載コンピュータ、車両サブシステムの制御ユニット、テレマティクスユニットなどであり得る。コンピューティングユニットは、車両による計画された走行を分析し、二次制動システムが発生する熱が燃料電池システムを加熱するのに使用されるように二次制動システムを制御することができる。この目的のために、燃料電池システムおよび二次制動システムは、車両の共通の冷却回路に組み込まれる。
【0030】
車両の有利なさらなる発展形態は、商用車両として設計されたものを提供する。商用車両は、典型的には、比較的大きな寸法および比較的高い許容ペイロードを有する。さらに、商用車両は、典型的には長距離をカバーしなければならない。これらの理由から、商用車両は、電気駆動エネルギーを供給するための燃料電池システムの搭載に特に適している。したがって、そのような燃料電池システムのインテリジェントな加熱のための上記のプロセスは、商用車両において特に有利に使用することができる。
【0031】
車両は、好ましくはトラック、バンまたはバスとして設計される。
【0032】
車両の特に有利な実施形態によれば、車両は少なくとも部分的に自動的に制御され得る。これによって、例えば、いわゆるハブ間モードで動作する完全自律型トラックに対して本発明による方法を使用することが可能になる。
【0033】
燃料電池システムをインテリジェントに加熱するための本発明による方法のさらなる有利な実施形態は、図面を参照して以下により詳細に説明される例示的な実施形態から生じる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明による車両の簡略化された概略表現である。
図2】本発明による方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、この場合はトラックの形態における、本発明による車両2の非常に簡略化された表現を示す。車両2は、2つの電気モータ6を有する電動ドライブトレイン11を有する。電気モータ6は、車両2を制動するために発電機モードで動作可能である。電気モータ6は、高電圧ネットワーク7に接続され、電気駆動エネルギーをそれらに供給するために、トラクションバッテリ5および/または特にPEM燃料電池の形態の燃料電池システム1から高電圧ネットワーク7を介してエネルギーを受け取ることができる。さらに、車両2は充電インターフェース8を有し、これを介して車両2は充電ステーション9からエネルギーを得ることができる。
【0036】
燃料電池システム1は、適正でエネルギー効率のよい動作のために、適正な動作温度まで加熱されなければならない。加熱に必要な熱量は、車両2の二次制動システム3によって提供される。二次制動システム3は、少なくとも1つのリターダ3.1および/または少なくとも1つのブレーキチョッパ3.2を備える。リターダ3.1およびブレーキチョッパ3.2は、共通の冷却回路10に組み込まれ、燃料電池システム1にも接続されている。同様に、トラクションバッテリ5および/または電気モータ6などの他の車両構成要素も冷却回路10(図示せず)に接続され得る。さらに、管、ポンプ、弁、熱交換器などの他の追加の構成要素は図示されていない。
【0037】
燃料電池システム1を加熱するために、電気はブレーキチョッパ3.2の抵抗器で散逸されて熱となり、熱は冷却回路10を流れる冷却液に伝達される。追加的または代替的に、冷却回路10、したがって燃料電池システム1は、リターダ3.1を介しても加熱され得る。この目的のために、リターダ3.1は、車両2のドライブトレイン11からの軸動力を利用して、流体に囲まれたインペラまたはブレードホイールを回転させる。流体は、インペラまたはブレードホイールとホイールを取り囲む流体との間の摩擦によって加熱される。このプロセスで発生した廃熱も、冷却回路10に伝達される。リターダ3.1は、車両2の移動中または静止中に動作可能である。静止しているとき、車両2の車輪12は、電気モータ6への動作可能な接続部から切り離され、電気モータ6によって生成されたトルクはリターダ3.1に供給される。対応するシフトプロセスは、例えばいわゆるE軸15の形態で変速機内で行われる。
【0038】
燃料電池システム1の暖機プロセスを制御するために、車両2はまた、個々の制御ユニット13を介して車両サブシステムに接続された中央の内部コンピューティングユニット4.1を備える。さらに、車両2は通信インターフェース14を有し、これを介して車両2は車両外部のコンピューティングユニット4.2、この場合はバックエンドまたはクラウドの形態のものとデータを交換する。
【0039】
本発明による方法のプロセス手順を図2に示す。方法ステップ201において、車両2による計画された走行の行程が、内部または外部のコンピューティングユニット4.1、4.2に入力される。行程には、経路に加えて、予定された出発、到着、および/または休憩時間、ならびに車両2の任意の他のアイドル時間が含まれる。
【0040】
行程は、方法ステップ202で評価される。予定された走行経路を分析することにより、車両2が制動しそうな経路区間を特定することができる。想定車速および制動距離などの他の運転パラメータを考慮に入れることによって、二次制動システム3によって生成され、燃料電池システム1を動作温度まで加熱するために使用され得る熱量を推定することができる。
【0041】
一般に、方法ステップ202と同時にまたはその前に実行することもできる方法ステップ203において、トラクションバッテリ5の充電レベル、充電インターフェース8に差し込まれた充電ステーション9の充電ケーブル、図示されていない水素タンクのタンク容量、冷却回路10および/または燃料電池システム1の現在の温度などのさらなる車両パラメータが分析される。
【0042】
方法ステップ204において、行われる走行中における、車両2の純粋なバッテリ電気動作モードから燃料電池動作モードに変更するための切替え時間が決定される。この切替え時間は、潜在的な遅延を最小限に抑えながら所定のスケジュールに可能な限り時間効率よく沿うことができるように、車両2が行程に従ってその走行を開始できるように選択される。これには、車両2がその出発地から可能な限り速く出発することも含まれる。また、切替え時間は、車両を駆動するためのエネルギー消費が可能な限り最小になるように選択される。この目的のために、純粋な駆動エネルギーに加えて、燃料電池システム1を加熱するのに必要なエネルギー量を考慮に入れなければならない。
【0043】
さらに、切替え時間は、走行を行うために発生するコストが最小になるように決定され得る。例えば、充電ステーション9を介して特に良好な料金で電気を得ることができる場合、トラクションバッテリ5は可能な限り完全に充電され、燃料電池システム1は、車両2が静止している間に、沿うべき予定に従って、二次制動システム3によって出発前に温められる。一方、充電ステーション9から供給可能な電気が比較的高価である場合、燃料電池システム1は、走行中に加熱されることが好ましい。走行中に燃料電池システム1を加熱することは、車両2が余裕を持って出発できるという利点も有する。
【0044】
方法ステップ205において、切替え時間に到達したときに燃料電池システム1を動作温度まで加熱するために、走行中に二次制動システム3によって十分な熱が供給され得るかどうかのチェックが行われる。十分な熱が供給されない場合、方法ステップ206において、燃料電池システム1の予熱が開始される。方法ステップ210において、車両2による走行が開始される。燃料電池システム1が温められる前に走行が開始される場合、方法ステップ211において燃料電池システム1の加熱が開始される。
【0045】
方法ステップ212において、燃料電池システム1はその動作温度に到達し、その後、方法ステップ213において、切替え時間に従って燃料電池動作モードに切り替えられる。
【0046】
計画された走行または行程、およびトラクションバッテリ5の現在の充電状態などの車両パラメータを分析することによって、燃料電池システム1を走行中に動作温度まで加熱することもできるために車両2を非常に早く出発させることが可能となる。切替え時間に到達したときにトラクションバッテリ5が空であるか、または臨界充電状態に到達する程度までのみトラクションバッテリ5を充電することによって、車両2のアイドル時間をさらに短縮することもできる。さらに、切替え時間は、燃料電池システム1を温めるのに必要な熱量が、特に持続可能であるゆえに環境に優しい方法で得られるように決定される。これは、コストを削減できることを意味する。既に設置されている二次制動システム3が熱を発生させるのに使用されるため、高価な別個の加熱システムの必要性がなくなる。

図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-04-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(2)に組み込まれた燃料電池システム(1)を動作温度まで加熱するのに必要な熱が、少なくとも1つのリターダ(3.1)および/またはブレーキチョッパ(3.2)の形態による前記車両(2)の二次制動システム(3)によって供給される、前記燃料電池システム(1)のインテリジェントな加熱方法であって、
計画された走行が前記車両(2)によって実行され、前記車両(2)が、前記走行中の切替え時間において、バッテリ電気動作から、前記車両(2)を駆動するのに必要な駆動エネルギーが前記燃料電池システム(1)によって供給される燃料電池動作モードに切り替え、前記走行の期間中に前記二次制動システム(3)から引き出され得る熱量を決定するために、前記計画された走行の分析が前記走行の開始前に実行され、前記切替え時間が、引き出され得る前記熱量の関数として決定され、かつ/または前記切替え時間に到達したときに前記燃料電池システム(1)が前記動作温度に確実に到達しているようにするために、前記燃料電池システム(1)の加熱が前記走行の開始前に開始されることを特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記走行が、車両内部(4.1)または前記車両の外部のコンピューティングユニット(4.2)で分析される
ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記車両(2)の制動動作中に前記ブレーキチョッパ(3.2)によって回収されるエネルギーの少なくとも一部が、前記車両(2)のトラクションバッテリ(5)を充電するのに使用される
ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記トラクションバッテリ(5)の現在または将来の充電レベルを考慮に入れて、前記車両(2)が静止しているときに前記燃料電池システム(2)が加熱される
ことを特徴とする、
請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記走行の前記分析が、計画された経路および対応する経路プロファイルの評価に加えて、前記車両(2)の任意のアイドル時間も考慮に入れる
ことを特徴とする、
請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記二次制動システム(3)によるエネルギー変換に必要なエネルギーが、前記車両の内部および/または外部のエネルギー源から得られる
ことを特徴とする、
請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
燃料電池システム(1)と、二次制動システム(3)と、コンピューティングユニット(4.1)とを有する車両であって、
前記燃料電池システム(1)、前記二次制動システム(3)、および前記コンピューティングユニット(4.1)が、請求項1からのいずれか一項に記載の方法を実行するために配置されることを特徴とする、
車両(2)。
【請求項8】
商用車両としての設計を
特徴とする、
請求項7に記載の車両(2)。
【請求項9】
トラック、バン、または乗合バスとしての設計を
特徴とする、
請求項8に記載の車両(2)。
【請求項10】
少なくとも部分的に自動化された制御システムを
特徴とする、
請求項7に記載の車両(2)。
【国際調査報告】