(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-18
(54)【発明の名称】抗HER2抗体及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240910BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240910BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240910BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240910BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240910BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240910BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240910BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240910BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240910BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20240910BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240910BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20240910BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N1/21
C12N1/19
C12N1/15
A61P35/00
A61P35/04
A61K39/395 N
C12P21/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024511975
(86)(22)【出願日】2022-08-25
(85)【翻訳文提出日】2024-03-29
(86)【国際出願番号】 US2022075438
(87)【国際公開番号】W WO2023028543
(87)【国際公開日】2023-03-02
(32)【優先日】2021-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】518086619
【氏名又は名称】デナリ セラピューティクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Denali Therapeutics Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ボンドパッダエ アビラ
(72)【発明者】
【氏名】クレメンス アリサ ジェーン
(72)【発明者】
【氏名】キム ド ジン
(72)【発明者】
【氏名】ピゾ ミシェル イー.
(72)【発明者】
【氏名】シャン ルー
(72)【発明者】
【氏名】セオリス ジュニア リチャード
(72)【発明者】
【氏名】トン レイモンド カ ハン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE10
4B064CE12
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA14
4C085BB01
4C085BB11
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA09
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA22
4H045GA26
(57)【要約】
一態様では、ヒトHER2のサブドメインIIに結合する抗体が提供される。別の態様では、ヒトHER2のサブドメインIIに結合するための重鎖ポリペプチド及びヒトHER2のサブドメインIVに結合するための重鎖ポリペプチドの両方と対になる軽鎖ポリペプチドを含む抗体が提供される。さらなる態様では、共通の軽鎖ポリペプチドを含む、ヒトHER2のサブドメインII及びサブドメインIVの両方に結合する抗体が提供される。これらの抗体を使用した、がんを処置するまたはがんの脳転移を処置する方法も提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下:
(a)配列番号89のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号90のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号91のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR3
からなる群から選択される1つ以上の相補性決定領域(CDR)を含む、単離された抗体であって、
以下:
配列番号89のX
1は、Tではない;
配列番号89のX
2は、Fではない;
配列番号89のX
3は、Tではない;
配列番号90のX
1は、Nではない;
配列番号90のX
2は、Nではない;
配列番号90のX
3は、Sではない;
配列番号90のX
4は、Gではない;
配列番号90のX
5は、Gではない;
配列番号90のX
6は、Qではない;
配列番号91のX
1は、Lではない;
配列番号91のX
2は、Gではない;
配列番号91のX
3は、Pではない;及び
配列番号91のX
4は、Sではない、
のうちの少なくとも1つである、前記単離された抗体。
【請求項2】
前記重鎖CDR1が、配列番号89のアミノ酸配列を含み、X
1がN、K、M、またはHである、請求項1に記載の単離された抗体。
【請求項3】
前記重鎖CDR2が、配列番号90のアミノ酸配列を含み、X
5がQである、請求項1に記載の単離された抗体。
【請求項4】
前記重鎖CDR2が、配列番号90のアミノ酸配列を含み、X
6がR、H、またはTである、請求項1に記載の単離された抗体。
【請求項5】
前記重鎖CDR3が、配列番号91のアミノ酸配列を含み、X
4がW、F、D、L、またはYである、請求項1に記載の単離された抗体。
【請求項6】
前記重鎖CDR3が、配列番号91のアミノ酸配列を含み、X
4がLである、請求項1に記載の単離された抗体。
【請求項7】
以下:
(a)配列番号89のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号90のアミノ酸配列を含み、X
5はQである、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号91のアミノ酸配列を含み、X
4はLである、重鎖CDR3
からなる群から選択される1つ以上のCDRを含む、請求項1に記載の単離された抗体。
【請求項8】
以下:
(a)配列番号4及び49~52からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号4及び49~52からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR1;
(b)配列番号5~6及び53~55からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号5~6及び53~55からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号7~8及び56~59からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号7~8及び56~59からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR3
からなる群から選択される1つ以上のCDRを含む、請求項1に記載の単離された抗体。
【請求項9】
以下:
(a)配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号4のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR1;
(b)配列番号5もしくは配列番号6のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号5もしくは配列番号6のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR3
からなる群から選択される1つ以上のCDRを含む、請求項8に記載の単離された抗体。
【請求項10】
以下:
(a)配列番号4のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号5または配列番号6のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号7または配列番号8のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR3
からなる群から選択される1つ以上のCDRを含む、請求項9に記載の単離された抗体。
【請求項11】
以下:
(a)配列番号4のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号6のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号7のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR3
からなる群から選択される1つ以上のCDRを含む、請求項10に記載の単離された抗体。
【請求項12】
以下:
(a)配列番号4のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号5のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号8のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR3
からなる群から選択される1つ以上のCDRを含む、請求項10に記載の単離された抗体。
【請求項13】
以下:
(a)配列番号4のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号6のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号8のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR3
からなる群から選択される1つ以上のCDRを含む、請求項10に記載の単離された抗体。
【請求項14】
配列番号1~3のいずれか1つに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、請求項8に記載の単離された抗体。
【請求項15】
配列番号1~3のいずれか1つのアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、請求項8に記載の単離された抗体。
【請求項16】
以下:
(a)配列番号13または14のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR3
を含む、単離された抗体。
【請求項17】
以下:
(b)配列番号11のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号11のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR1;及び
(c)配列番号12のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR2
からなる群から選択される1つ以上のCDRをさらに含む、請求項16に記載の単離された抗体。
【請求項18】
以下:
(b)配列番号11のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR1;及び
(c)配列番号12のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR2
からなる群から選択される1つ以上のCDRをさらに含む、請求項16に記載の単離された抗体。
【請求項19】
前記軽鎖CDR3が、配列番号13のアミノ酸配列を含む、請求項16に記載の単離された抗体。
【請求項20】
前記軽鎖CDR3が、配列番号14のアミノ酸配列を含む、請求項16に記載の単離された抗体。
【請求項21】
配列番号9~10のいずれか1つに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、請求項17に記載の単離された抗体。
【請求項22】
配列番号9~10のいずれか1つのアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、請求項17に記載の単離された抗体。
【請求項23】
以下:
(a)配列番号4及び49~52からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号4及び49~52からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR1;
(b)配列番号5~6及び53~55からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号5~6及び53~55からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号7~8及び56~59からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号7~8及び56~59からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR3;
(d)配列番号11のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号11のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR1;
(e)配列番号12のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR2;及び
(f)配列番号13または14のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR3
を含む、抗原結合部位
を含む、単離された抗体。
【請求項24】
前記抗原結合部位が、以下:
(a)配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号4のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR1;
(b)配列番号5もしくは配列番号6のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号5もしくは配列番号6のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR2;
(c)配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR3;
(d)配列番号11のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号11のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR1;
(e)配列番号12のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR2;及び
(f)配列番号13または14のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR3
を含む、請求項23に記載の単離された抗体。
【請求項25】
前記抗原結合部位が、配列番号1~3のいずれか1つに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号9~10のいずれか1つに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、請求項24に記載の単離された抗体。
【請求項26】
前記抗原結合部位が、配列番号1~3のいずれか1つのアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号9~10のいずれか1つのアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、請求項24に記載の単離された抗体。
【請求項27】
以下:
(a)配列番号16のアミノ酸配列を含むか、または配列番号16のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR1;
(b)配列番号17のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号17のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号18のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号18のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR3
からなる群から選択される1つ以上のCDRを含む第2の抗原結合部位をさらに含む、請求項23に記載の単離された抗体。
【請求項28】
前記第2の抗原結合部位が、配列番号15に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、請求項27に記載の単離された抗体。
【請求項29】
前記第2の抗原結合部位が、以下:
(a)配列番号11のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号11のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR1;
(b)配列番号12のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR2;及び
(c)配列番号13または14のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR3
からなる群から選択される1つ以上のCDRをさらに含む、請求項27に記載の単離された抗体。
【請求項30】
前記第2の抗原結合部位が、配列番号9~10のいずれか1つに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、請求項29に記載の単離された抗体。
【請求項31】
第1の抗原結合部位と第2の抗原結合部位とが、同じ軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3配列を含む、請求項29に記載の単離された抗体。
【請求項32】
表1に列挙される組み合わせから選択される重鎖CDR及び軽鎖CDRを含む、請求項31に記載の単離された抗体。
【請求項33】
表2に列挙される組み合わせから選択される重鎖及び軽鎖を含む、単離された抗体。
【請求項34】
以下:
(a)ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)サブドメインIVに対する第1の抗原結合部位;
(b)ヒトHER2サブドメインIIに対する第2の抗原結合部位;及び
(c)TfR結合部位を作り出す修飾を含有する第1のFcポリペプチドを含む、修飾されたFcポリペプチド二量体
を含む、単離された抗体であって、
前記第1の抗原結合部位の軽鎖ポリペプチド配列が、前記第2の抗原結合部位の軽鎖ポリペプチド配列と同一である、
前記単離された抗体。
【請求項35】
前記第1のFcポリペプチドが、前記TfR結合部位を含む修飾されたCH3ドメインを含む、請求項34に記載の単離された抗体。
【請求項36】
前記修飾されたCH3ドメインが、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4の、CH3ドメインに由来する、請求項35に記載の単離された抗体。
【請求項37】
前記修飾されたCH3ドメインが、EUナンバリングに従って、380、384、386、387、388、389、390、413、415、416、及び421位を含むアミノ酸位置のセットにおいて、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または11個の置換を含む、請求項35に記載の単離された抗体。
【請求項38】
前記修飾されたCH3ドメインが、EUナンバリングに従って、380位にGlu、Leu、Ser、Val、Trp、Tyr、もしくはGln;384位にLeu、Tyr、Phe、Trp、Met、Pro、もしくはVal;386位にLeu、Thr、His、Pro、Asn、Val、もしくはPhe;387位にVal、Pro、Ile、もしくは酸性アミノ酸;388位にTrp;389位に脂肪族アミノ酸、Gly、Ser、Thr、もしくはAsn;390位にGly、His、Gln、Leu、Lys、Val、Phe、Ser、Ala、Asp、Glu、Asn、Arg、もしくはThr;413位に酸性アミノ酸、Ala、Ser、Leu、Thr、Pro、Ile、もしくはHis;415位にGlu、Ser、Asp、Gly、Thr、Pro、Gln、もしくはArg;416位にThr、Arg、Asn、もしくは酸性アミノ酸;及び/または421位に芳香族アミノ酸、His、もしくはLysを含む、請求項35に記載の単離された抗体。
【請求項39】
前記TfR結合部位を作り出す修飾を含有する前記第1のFcポリペプチドが、TfRの頂端ドメインに結合する、請求項34に記載の単離された抗体。
【請求項40】
前記第1のFcポリペプチド及び第2のFcポリペプチドが各々、ヘテロ二量体化を促進する修飾を含む、請求項34に記載の単離された抗体。
【請求項41】
EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、T366Wの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、T366S、L368A、及びY407Vの置換を含む、請求項40に記載の単離された抗体。
【請求項42】
EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、T366S、L368A、及びY407Vの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、T366Wの置換を含む、請求項40に記載の単離された抗体。
【請求項43】
前記第1のFcポリペプチド及び/または第2のFcポリペプチドが、独立して、TfR媒介エフェクター機能を低下させる修飾を含む、請求項34に記載の単離された抗体。
【請求項44】
エフェクター機能を低下させる前記修飾が、EUナンバリングに従ってL234A及びL235Aの置換である、請求項43に記載の単離された抗体。
【請求項45】
前記第1のFcポリペプチドが、TfRに特異的に結合し、かつL234A及びL235Aの置換を含む、請求項44に記載の単離された抗体。
【請求項46】
前記第1のFcポリペプチドが、EUナンバリングに従ってP329GまたはP329Sの置換をさらに含む、請求項45に記載の単離された抗体。
【請求項47】
前記第2のFcポリペプチドが、EUナンバリングに従って234位及び235位にLeuを含み、かつ329位にプロリンを含む、請求項46に記載の単離された抗体。
【請求項48】
前記第2のFcポリペプチドが、TfRに特異的に結合し、かつL234A及びL235Aの置換を含む、請求項44に記載の単離された抗体。
【請求項49】
前記第2のFcポリペプチドが、EUナンバリングに従ってP329GまたはP329Sの置換をさらに含む、請求項48に記載の単離された抗体。
【請求項50】
前記第1のFcポリペプチドが、EUナンバリングに従って234位及び235位にLeuを含み、かつ329位にプロリンを含む、請求項49に記載の単離された抗体。
【請求項51】
ヒンジ領域またはその一部分が、前記第1のFcポリペプチド及び/または第2のFcポリペプチドのN末端に連結されている、請求項34に記載の単離された抗体。
【請求項52】
前記第1のFcポリペプチド及び/または第2のFcポリペプチドが、独立して、配列番号71~86及び98~100からなる群から選択される配列に対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含む、請求項34に記載の単離された抗体。
【請求項53】
前記第1のFcポリペプチドまたは前記第2のFcポリペプチドが、配列番号71~73、85、及び99~100からなる群から選択される配列に対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含む、請求項52に記載の単離された抗体。
【請求項54】
前記第1のFcポリペプチドまたは前記第2のFcポリペプチドが、配列番号74~84、86及び98からなる群から選択される配列に対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含む、請求項52に記載の単離された抗体。
【請求項55】
前記第1の抗原結合部位が、配列番号15のアミノ酸配列を含み;
前記第2の抗原結合部位が、配列番号1~3及び60~70からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;
前記TfR結合部位を作り出す修飾を含有する前記第1のFcポリペプチドが、配列番号74~84、86、及び98からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;かつ
前記軽鎖ポリペプチド配列が、配列番号9または配列番号10のアミノ酸配列を含む、
請求項34に記載の単離された抗体。
【請求項56】
配列番号71~73、85、及び99~100からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む第2のFcポリペプチドをさらに含む、請求項55に記載の単離された抗体。
【請求項57】
前記第1のFcポリペプチド及び/または第2のFcポリペプチドが、独立して、EUナンバリングに従ってS239D及び/またはI332Eの置換を含む、請求項34に記載の単離された抗体。
【請求項58】
前記S239D及び/またはI332Eの置換を独立して含む前記第1のFcポリペプチド及び/または前記第2のFcポリペプチドが、HER2媒介エフェクター機能を増強することができる、請求項57に記載の単離された抗体。
【請求項59】
(a)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含む;
(b)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含む;
(c)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含む;
(d)EUナンバリングに従って、前記第2のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含む;
(e)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含む;
(f)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含む;
(g)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含む;
(h)EUナンバリングに従って、前記第2のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含む;
(i)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含む;
(j)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含む;
(k)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含む;
(l)EUナンバリングに従って、前記第2のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含む;
(m)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含む;
(n)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含む;または
(o)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含む、
請求項57に記載の単離された抗体。
【請求項60】
(a)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含む;
(b)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含む;
(c)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含む;
(d)EUナンバリングに従って、前記第2のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含む;
(e)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含む;または
(f)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含む、
請求項59に記載の単離された抗体。
【請求項61】
(a)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、I332Eの置換及び239位にセリンを含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239Dの置換及び332位にイソロイシンを含む;
(b)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239Dの置換及び332位にイソロイシンを含む;
(c)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239Dの置換及び332位にイソロイシンを含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、I332Eの置換及び239位にセリンを含む;
(d)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、239位にセリン及び332位にイソロイシンを含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、I332Eの置換及び239位にセリンを含む;
(e)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239Dの置換及び332位にイソロイシンを含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含む;または
(f)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、I332Eの置換及び239位にセリンを含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、239位にセリン及び332位にイソロイシンを含む、
請求項60に記載の単離された抗体。
【請求項62】
2つの重鎖及び2つの軽鎖を含む、請求項34に記載の単離された抗体。
【請求項63】
表2に列挙される組み合わせから選択される重鎖及び軽鎖を含む、請求項62に記載の単離された抗体。
【請求項64】
第1の重鎖が、表3の組み合わせから選択されるV
H及びFc配列を含み、かつ第2の重鎖が、表4の組み合わせから選択されるV
H及びFc配列を含む、請求項62に記載の単離された抗体。
【請求項65】
第1の重鎖が、表5の組み合わせから選択されるV
H及びFc配列を含み、かつ第2の重鎖が、表6の組み合わせから選択されるV
H及びFc配列を含む、請求項62に記載の単離された抗体。
【請求項66】
請求項1に記載の単離された抗体と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項67】
請求項1に記載の単離された抗体をコードするヌクレオチド配列を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項68】
請求項67に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項69】
請求項67に記載のポリヌクレオチドまたは請求項68に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項70】
対象におけるがんを処置するまたはがんの脳転移を処置するための方法であって、前記対象に対して、治療有効量の請求項1に記載の単離された抗体または請求項66に記載の医薬組成物を投与することを含む、前記方法。
【請求項71】
前記単離された抗体が、化学療法または放射線療法と組み合わせて投与される、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
前記がんが、転移性がんである、請求項70に記載の方法。
【請求項73】
前記がんが、乳がんである、請求項70に記載の方法。
【請求項74】
前記がんが、HER2陽性がんである、請求項70に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年8月25日に出願された米国仮出願第63/237,104号に対する優先権を主張し、この開示は、すべての目的のため、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
背景
乳がん等のがんの脳転移の処置は、現在のところ、大変な臨床的難題となっている。乳がん患者では、脳転移の発生率は、50%の高さである。臨床データにより、HER2陽性乳がんは、脳に転移する傾向があることが示されている。特に、抗HER2療法は、頭蓋外腫瘍の制御に有用であることが証明されているが、頭蓋内病変についてはそうではない。HER2陽性乳がんの脳転移等の転移性病変を制御するこれらの療法の失敗は、主に、治療薬が血液脳関門(BBB)を越えて脳実質にアクセスできないことに起因する。
【発明の概要】
【0003】
概要
一態様では、本開示は、以下:
(a)配列番号89のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号90のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR2、及び
(c)配列番号91のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR3
からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、または3つすべて)の相補性決定領域(CDR)を含む、単離された抗体であって、
以下:
配列番号89のX1は、Tではない;
配列番号89のX2は、Fではない;
配列番号89のX3は、Tではない;
配列番号90のX1は、Nではない;
配列番号90のX2は、Nではない;
配列番号90のX3は、Sではない;
配列番号90のX4は、Gではない;
配列番号90のX5は、Gではない;
配列番号90のX6は、Qではない;
配列番号91のX1は、Lではない;
配列番号91のX2は、Gではない;
配列番号91のX3は、Pではない;及び
配列番号91のX4は、Sではない
のうちの少なくとも1つである、単離された抗体を提供する。
【0004】
いくつかの実施形態では、重鎖CDR1は、配列番号89のアミノ酸配列を含み、X1は、N、K、M、またはHである。いくつかの実施形態では、重鎖CDR2は、配列番号90のアミノ酸配列を含み、X5はQである。いくつかの実施形態では、重鎖CDR2は、配列番号90のアミノ酸配列を含み、X6は、R、HまたはTである。いくつかの実施形態では、重鎖CDR3は、配列番号91のアミノ酸配列を含み、X4は、W、F、D、L、またはYである。いくつかの実施形態では、重鎖CDR3は、配列番号91のアミノ酸配列を含み、X4はLである。
【0005】
いくつかの実施形態では、この抗体は、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1、2、または3つすべて)のCDRを含む:
(a)配列番号89のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号90のアミノ酸配列を含み、X5はQである、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号91のアミノ酸配列を含み、X4はLである、重鎖CDR3。
【0006】
いくつかの実施形態では、この抗体は、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1、2、または3つすべて)のCDRを含む:
(a)配列番号4及び49~52からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号4及び49~52からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR1;
(b)配列番号5~6及び53~55からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号5~6及び53~55からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR2;ならびに
(c)配列番号7~8及び56~59からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号7~8及び56~59からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR3。
【0007】
いくつかの実施形態では、この抗体は、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1、2、または3つすべて)のCDRを含む:
(a)配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号4のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR1;
(b)配列番号5もしくは配列番号6のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号5もしくは配列番号6のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR3。
【0008】
いくつかの実施形態では、この抗体は、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1、2、または3つすべて)のCDRを含む:
(a)配列番号4のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号5または配列番号6のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号7または配列番号8のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR3。
【0009】
いくつかの実施形態では、この抗体は、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1、2、または3つすべて)のCDRを含む:
(a)配列番号4のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号6のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号7のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR3。
【0010】
いくつかの実施形態では、この抗体は、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1、2、または3つすべて)のCDRを含む:
(a)配列番号4のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号5のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号8のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR3。
【0011】
いくつかの実施形態では、この抗体は、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1、2、または3つすべて)のCDRを含む:
(a)配列番号4のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号6のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号8のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR3。
【0012】
いくつかの実施形態では、この抗体は、配列番号1~3のいずれか1つに対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、この抗体は、配列番号1~3のいずれか1つのアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。
【0013】
関連する態様では、本開示は、上記のCDRの1つ以上(例えば、1つ、2つ、または3つすべて)を含む単離された抗体重鎖を提供する。いくつかの実施形態では、この抗体重鎖は、配列番号1~3のいずれか1つに対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、この抗体重鎖は、配列番号1~3のいずれか1つのアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。
【0014】
別の態様では、本開示は、以下を含む単離された抗体を提供する:
(a)配列番号13または14のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR3。
【0015】
いくつかの実施形態では、この抗体はさらに、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つまたは両方)のCDRを含む:
(b)配列番号11のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号11のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR1;及び
(c)配列番号12のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR2。
【0016】
いくつかの実施形態では、この抗体はさらに、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つまたは両方)のCDRを含む:
(b)配列番号11のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR1;及び
(c)配列番号12のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR2。
【0017】
いくつかの実施形態において、軽鎖CDR3は、配列番号13のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、軽鎖CDR3は、配列番号14のアミノ酸配列を含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、この抗体は、配列番号9~10のいずれか1つに対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、この抗体は、配列番号9~10のいずれか1つのアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0019】
関連する態様では、本開示は、上記のCDRの1つ以上(例えば、1つ、2つ、または3つすべて)を含む単離された抗体軽鎖を提供する。いくつかの実施形態では、この抗体軽鎖は、配列番号9~10のいずれか1つに対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、この抗体軽鎖は、配列番号9~10のいずれか1つのアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0020】
さらに別の態様では、本開示は、以下を含む抗原結合部位を含む単離された抗体を提供する:
(a)配列番号4及び49~52からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号4及び49~52からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR1;
(b)配列番号5~6及び53~55からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号5~6及び53~55からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR2;
(c)配列番号7~8及び56~59からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号7~8及び56~59からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR3;
(d)配列番号11のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号11のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR1;
(e)配列番号12のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR2、及び
(f)配列番号13または14のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR3。
【0021】
いくつかの実施形態では、抗原結合部位は以下を含む:
(a)配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号4のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR1;
(b)配列番号5もしくは配列番号6のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号5もしくは配列番号6のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR2;
(c)配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR3;
(d)配列番号11のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号11のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR1;
(e)配列番号12のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR2;及び
(f)配列番号13または14のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR3。
【0022】
いくつかの実施形態では、この抗原結合部位は、配列番号1~3のいずれか1つに対して少なくとも90%(例えば、少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号9~10のいずれか1つに対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。いくつかの実施形態では、この抗原結合部位は、配列番号1~3のいずれか1つのアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号9~10のいずれか1つのアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、この抗体はさらに、以下からなる群から選択される1つ以上のCDRを含む第2の抗原結合部位を含む:
(a)配列番号16のアミノ酸配列を含むか、または配列番号16のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR1;
(b)配列番号17のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号17のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号18のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号18のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR3。
【0024】
いくつかの実施形態では、第2の抗原結合部位は、配列番号15に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、第2の抗原結合部位は、配列番号15の配列を含む重鎖可変領域を含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、第2の抗原結合部位はさらに、以下からなる群から選択される1つ以上のCDRを含む:
(a)配列番号11のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号11のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR1;
(b)配列番号12のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR2;及び
(c)配列番号13または14のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR3。
【0026】
いくつかの実施形態では、第2の抗原結合部位は、配列番号9~10のいずれか1つに対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、第2の抗原結合部位は、配列番号9~10のいずれか1つの配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、第1の抗原結合部位と第2の抗原結合部位とが、同じ軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3配列を含む。いくつかの実施形態では、この抗体は、表1に列挙される組み合わせから選択される重鎖CDR及び軽鎖CDRを含む。
【0028】
関連する態様では、本開示は、表2に列挙される組み合わせから選択される重鎖及び軽鎖を含む単離された抗体を提供する。
【0029】
さらなる態様では、本開示は、以下:
(a)ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)サブドメインIVに対する第1の抗原結合部位;
(b)ヒトHER2サブドメインIIに対する第2の抗原結合部位;及び
(c)TfR結合部位を作り出す修飾を含有する第1のFcポリペプチドを含む、修飾されたFcポリペプチド二量体
を含む、単離された抗体であって、
この第1の抗原結合部位の軽鎖ポリペプチド配列が、第2の抗原結合部位の軽鎖ポリペプチド配列と同一である、
単離された抗体を提供する。
【0030】
別の態様では、本開示は、以下:
(a)ヒトHER2サブドメインIIに対する第1の抗原結合部位;
(b)ヒトHER2サブドメインIVに対する第2の抗原結合部位;及び
(c)TfR結合部位を作り出す修飾を含有する第1のFcポリペプチドを含む、修飾されたFcポリペプチド二量体
を含む、単離された抗体であって、
第1の抗原結合部位の軽鎖ポリペプチド配列が、第2の抗原結合部位の軽鎖ポリペプチド配列と同一である、
単離された抗体を提供する。
【0031】
いくつかの実施形態では、第1のFcポリペプチドは、TfR結合部位を含む修飾されたCH3ドメインを含む。いくつかの実施形態では、修飾されたCH3ドメインは、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4の、CH3ドメインに由来する。
【0032】
いくつかの実施形態では、修飾されたCH3ドメインは、EUナンバリングに従って、380、384、386、387、388、389、390、413、415、416、及び421位を含むアミノ酸位置のセットにおいて、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または11個の置換を含む。いくつかの実施形態では、修飾されたCH3ドメインは、EUナンバリングに従って、380位にGlu、Leu、Ser、Val、Trp、Tyr、もしくはGlnを、384位にLeu、Tyr、Phe、Trp、Met、Pro、もしくはValを、386位にLeu、Thr、His、Pro、Asn、Val、もしくはPheを、387位にVal、Pro、Ile、もしくは酸性アミノ酸を、388位にTrpを、389位に脂肪族アミノ酸、Gly、Ser、Thr、もしくはAsnを、390位にGly、His、Gln、Leu、Lys、Val、Phe、Ser、Ala、Asp、Glu、Asn、Arg、もしくはThrを、413位に酸性アミノ酸、Ala、Ser、Leu、Thr、Pro、Ile、もしくはHisを、415位にGlu、Ser、Asp、Gly、Thr、Pro、Gln、もしくはArgを、416位にThr、Arg、Asn、もしくは酸性アミノ酸を、及び/または421位に芳香族アミノ酸、His、もしくはLysを含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、TfR結合部位を作り出す修飾を含有する第1のFcポリペプチドは、TfRの頂端ドメインに結合する。
【0034】
いくつかの実施形態では、第1のFcポリペプチド及び第2のFcポリペプチドは各々、ヘテロ二量体化を促進する修飾を含む。いくつかの実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、T366Wの置換を含み、第2のFcポリペプチドは、T366S、L368A、及びY407Vの置換を含む。他の実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、T366S、L368A、及びY407Vの置換を含み、第2のFcポリペプチドは、T366Wの置換を含む。
【0035】
いくつかの実施形態では、第1のFcポリペプチド及び/または第2のFcポリペプチドは、独立して、TfR媒介エフェクター機能を低下させる修飾を含む。いくつかの実施形態では、このエフェクター機能を低下させる修飾は、EUナンバリングに従って、L234A及びL235Aの置換である。特定の実施形態では、第1のFcポリペプチドはTfRに特異的に結合し、L234A及びL235Aの置換を含む。特定の実施形態では、第1のFcポリペプチドは、EUナンバリングに従って、P329GまたはP329Sの置換をさらに含む。特定の実施形態では、EUナンバリングに従って、第2のFcポリペプチドは、234位及び235位にLeuを含み、かつ329位にプロリンを含む。他の実施形態では、第2のFcポリペプチドはTfRに特異的に結合し、L234A及びL235Aの置換を含む。特定の実施形態では、第2のFcポリペプチドは、EUナンバリングに従って、P329GまたはP329Sの置換をさらに含む。特定の実施形態では、第1のFcポリペプチドは、EUナンバリングに従って、234位及び235位にLeuを含み、かつ329位にプロリンを含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、ヒンジ領域またはその一部分は、第1のFcポリペプチド及び/または第2のFcポリペプチドのN末端に連結される。
【0037】
いくつかの実施形態では、第1のFcポリペプチド及び/または第2のFcポリペプチドは、独立して、配列番号71~86及び98~100からなる群から選択される配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有する配列を含む。いくつかの実施形態では、第1のFcポリペプチドまたは第2のFcポリペプチドは、配列番号71~73、85及び99~100からなる群から選択される配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有する配列を含む。他の実施形態では、第1のFcポリペプチドまたは第2のFcポリペプチドは、配列番号74~84、86及び98からなる群から選択される配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有する配列を含む。
【0038】
この抗体のいくつかの実施形態では、第1の抗原結合部位は、配列番号15のアミノ酸配列を含み;第2の抗原結合部位は、配列番号1~3及び60~70からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;TfR結合部位を作り出す修飾を含有する第1のFcポリペプチドは、配列番号74~84、86、及び98からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;かつ、軽鎖ポリペプチド配列は、配列番号9または配列番号10のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、この抗体は、配列番号71~73、85及び99~100からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む第2のFcポリペプチドをさらに含む。
【0039】
この抗体の他の実施形態では、第1の抗原結合部位は、配列番号1~3及び60~70からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;第2の抗原結合部位は、配列番号15のアミノ酸配列を含み;TfR結合部位を作り出す修飾を含有する第1のFcポリペプチドは、配列番号74~84、86、及び98からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;かつ、軽鎖ポリペプチド配列は、配列番号9または配列番号10のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、この抗体は、配列番号71~73、85、及び99~100からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む第2のFcポリペプチドをさらに含む。
【0040】
いくつかの実施形態では、第1のFcポリペプチド及び/または第2のFcポリペプチドは、EUナンバリングに従って、独立してS239D及び/またはI332Eの置換を含む。いくつかの実施形態では、S239D及び/またはI332Eの置換を独立して含む第1のFcポリペプチド及び/または第2のFcポリペプチドは、HER2媒介エフェクター機能を増強することが可能である。
【0041】
この抗体のいくつかの実施形態では、
(a)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含み、かつ第2のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含む;
(b)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、I332Eの置換を含み、かつ第2のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含む;
(c)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含み、かつ第2のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含む;
(d)EUナンバリングに従って、第2のFcポリペプチドはS239Dの置換を含む;
(e)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含み、かつ第2のFcポリペプチドは、I332Eの置換を含む;
(f)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、I332Eの置換を含み、かつ第2のFcポリペプチドは、I332Eの置換を含む;
(g)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含み、かつ第2のFcポリペプチドは、I332Eの置換を含む;
(h)EUナンバリングに従って、第2のFcポリペプチドは、I332Eの置換を含む;
(i)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含み、かつ第2のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含む;
(j)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、I332Eの置換を含み、かつ第2のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含む;
(k)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含み、かつ第2のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含む;
(l)EUナンバリングに従って、第2のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含む;
(m)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含む;
(n)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドはI332Eの置換を含む;または
(o)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含む。
【0042】
この抗体の特定の実施形態では、
(a)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、I332Eの置換を含み、かつ第2のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含む;
(b)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含み、かつ第2のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含む;
(c)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含み、かつ第2のFcポリペプチドは、I332Eの置換を含む;
(d)EUナンバリングに従って、第2のFcポリペプチドは、I332Eの置換を含む;
(e)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含み、かつ第2のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含む;または
(f)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドはI332Eの置換を含む。
【0043】
この抗体の特定の実施形態では、
(a)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドはI332Eの置換及び239位にセリンを含み、かつ第2のFcポリペプチドはS239Dの置換及び332位にイソロイシンを含む;
(b)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含み、かつ第2のFcポリペプチドは、S239Dの置換及び332位にイソロイシンを含む;
(c)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドはS239Dの置換及び332位にイソロイシンを含み、かつ第2のFcポリペプチドはI332Eの置換及び239位にセリンを含む;
(d)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは239位にセリン及び332位にイソロイシンを含み、かつ第2のFcポリペプチドはI332Eの置換及び239位にセリンを含む;
(e)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239Dの置換及び332位にイソロイシンを含み、かつ第2のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含む;または
(f)EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドはI332Eの置換及び239位にセリンを含み、かつ第2のFcポリペプチドは239位にセリン及び332位にイソロイシンを含む。
【0044】
いくつかの実施形態では、抗体は2つの重鎖及び2つの軽鎖を含む。特定の実施形態では、抗体は、表2に列挙される組み合わせから選択される重鎖及び軽鎖を含む。特定の実施形態では、第1の重鎖は、表3の組み合わせから選択されるVH及びFc配列を含み、第2の重鎖は、表4の組み合わせから選択されるVH及びFc配列を含む。特定の実施形態では、第1の重鎖は、表5の組み合わせから選択されるVH及びFc配列を含み、第2の重鎖は、表6の組み合わせから選択されるVH及びFc配列を含む。
【0045】
別の態様では、本開示は、本明細書に記載の任意の抗体と、医薬的に許容される担体とを含む、医薬組成物を提供する。
【0046】
別の態様では、本開示は、本明細書に記載の抗体をコードするヌクレオチド配列を含む、単離されたポリヌクレオチドを提供する。
【0047】
別の態様では、本開示は、先行する態様のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0048】
別の態様では、本開示は、このポリヌクレオチドまたはベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0049】
別の態様では、本開示は、対象におけるがんを処置するまたはがんの脳転移を処置するための方法を提供し、この方法は、この対象に対して、治療有効量の本明細書に記載の抗体またはその医薬組成物を投与することを含む。
【0050】
いくつかの実施形態では、この抗体は、化学療法または放射線療法と組み合わせて投与される。いくつかの実施形態では、このがんは、転移性がんである。いくつかの実施形態では、このがんは、乳がんである。いくつかの実施形態では、このがんは、HER2陽性がんである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】ヒトHER2サブドメインIVに対する第1の抗原結合部位(「抗HER2_D4」)及びヒトHER2サブドメインIIに対する第2の抗原結合部位(「抗HER2_D2」)を有する例示的な二重特異性抗体を示す概略図であり、この第1及び第2の抗原結合部位には、同一の軽鎖ポリペプチド、ならびにTfR結合部位及びノブ変異を有する第1のFcポリペプチドと、ホール変異を有する第2のFcポリペプチドとを含むFcポリペプチド二量体が含まれる。
【
図2】ZR-75-30細胞に対する増殖阻害アッセイの結果、ならびに表12の異なる抗体のIC50及び最大%増殖阻害値を示す。
【
図3】A及びBは、2つのヒト細胞株由来異種移植片モデルにおけるATV:CLC二重特異性抗体を用いた単回用量研究におけるインビボ抗腫瘍活性腫瘍を示す。A:BT-474;B:OE19。
【
図4】A及びBは、2つのヒト細胞株由来異種移植片モデルにおけるATV:CLC二重特異性抗体を用いた単回用量研究におけるインビボ抗腫瘍活性腫瘍を示す。A:BT-474;B:OE19。
【
図5】A及びBは、2つのヒト細胞株由来異種移植片モデルにおけるATV:CLC二重特異性抗体を用いた多用量研究におけるインビボ抗腫瘍活性腫瘍を示す。A:BT-474;B:OE19。
【
図6】ATV:CLC二重特異性抗体の脳への取り込みを示す。
【
図7】A及びBは、CLC二重特異性抗体のIHC脳分布を示す。
【
図8】カニクイザルにおけるATV:CLC二重特異性抗体を用いた単回用量研究における血漿PKを示す。
【
図9】ATV:CLC二重特異性抗体のADCCを示す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
詳細な説明
I.序文
共通の軽鎖アプローチ、すなわち、同一の軽鎖と対を成すが依然として別個の特異性を保持する2つの抗原結合ドメインを利用する抗HER2二重特異性抗体が本明細書に記載される。共通の軽鎖を使用すると、軽鎖のミスペアリングが防止され、その結果、これらの二重特異性抗体の製造が容易になる。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体は、ヒトHER2サブドメインIVに対する第1の抗原結合部位と、ヒトHER2サブドメインIIに対する第2の抗原結合部位とを含み、第1の抗原結合部位の軽鎖ポリペプチド配列は、第2の抗原結合部位における軽鎖ポリペプチド配列と同一である。別の実施形態では、二重特異性抗体は、ヒトHER2サブドメインIIに対する第1の抗原結合部位と、ヒトHER2サブドメインIVに対する第2の抗原結合部位とを含み、この第1の抗原結合部位の軽鎖ポリペプチド配列は、第2の抗原結合部位における軽鎖ポリペプチド配列と同一である。
【0053】
さらに、主には治療薬が血液脳関門(BBB)を通過すること及び脳実質にアクセスすることができないせいで、先行する治療は、HER2陽性乳がんの脳転移の制御に失敗した。したがって、BBBを越え、脳実質においてHER2を標的とし得る新しい治療薬の必要性がある。本発明者らは、トランスフェリン受容体(TfR)の発現が脳内皮細胞で高度に発現され、受容体を介したトランスサイトーシスによってBBB送達を可能にすることができることから、BBB送達が脳内皮を通過することを可能にする方法として、TfR結合の使用は以前に記載した。興味深いことに、TfRは、HER2陽性乳がんを含めた様々ながんで高度に発現している。がん細胞が増大したTfR発現を獲得するメカニズムは、腫瘍細胞増殖、及び鉄の取り込み等の代謝要求の増大に関連する可能性がある。実際、公開されているマイクロアレイデータセットにより、TfRの発現と乳がんの予後の相関関係が実証された(Miller et al.,Cancer Res.71:6728,2011)。様々なタイプのがんの薬理学的標的としてのTfRの使用に関するいくつかの報告も存在する。
【0054】
いくつかの実施形態では、抗HER2二重特異性抗体は、BBB受容体、例えば、TfRに特異的に結合する1つ以上の修飾Fcポリペプチド(すなわち、TfR結合Fcポリペプチド)を含む。いくつかの実施形態では、抗HER2二重特異性抗体は、BBBを横断して輸送することが可能である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のHER2及びTfRの両方に結合する抗HER2二重特異性抗体は、高レベルのTfRも発現するHER2陽性腫瘍細胞に結合する際に、HER2のみに結合する他の治療薬と比較して、さらなる抗腫瘍効果をもたらし得る。具体的には、これらの抗体は、TfRとHER2の両方に同時に結合し得るので、その効力及び/または有効性を高めることができる。
【0055】
II.定義
本明細書で使用される、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、内容が別段明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「抗体」への言及は、2つ以上のかかる分子等の組み合わせを任意選択で含む。
【0056】
本明細書で使用する場合、「約」及び「およそ」という用語は、数値または範囲で既定された量を修飾するために使用される場合、その数値及び当業者に公知の値からの合理的な差、例えば、±20%、±10%、または±5%は、記載された値の意図する意味の範囲内であることを示す。
【0057】
「ヒト上皮成長因子受容体2」、「HER2」、「HER2/neu」、及び「ERBB2」(CD340、受容体チロシン-タンパク質キナーゼerbB-2、がん原遺伝子及びNeuとしても知られる)という用語は、ヒト上皮成長因子受容体(HER/EGFR/ERBB)ファミリーのメンバーであるヒトにおけるERBB2遺伝子によってコードされたチロシン受容体キナーゼタンパク質を指す。HER2の増幅または過剰発現は、乳がんを含むある特定の攻撃的な型のがんの発症及び進行において顕著な役割を果たす。ヒトHER2ヌクレオチド配列の非限定的な例は、GenBank参照番号NP_001005862、NP_001289936、NP_001289937、NP_001289938、及びNP_004448に定められる。ヒトHER2ペプチド配列の非限定的な例は、GenBank参照番号NP_001005862、NP_001276865、NP_001276866、NP_001276867、及びNP_004439に定められる。
【0058】
およそ600のアミノ酸を含むHER2の細胞外ドメインは、4つのサブドメイン(サブドメインI、II、III、及びIV)を含む。サブドメインI及びIIIは、リガンド結合部位を形成する。システインに富むサブドメインII及びIVは、受容体のホモ二量体化及びヘテロ二量体化に関わる。抗HER2抗体は、特定のサブドメイン(例えば、サブドメインII及び/またはサブドメインIV)に結合し得る。
【0059】
本明細書で使用される場合、「抗HER2_D2」、または「抗HER2_D4」という用語は、それぞれ、ヒトHER2のサブドメインII、またはIVに結合する抗体を指す。
【0060】
本明細書で使用される、「抗体」という用語は、免疫グロブリン折り畳みを有するタンパク質であって、その可変領域を介して抗原と特異的に結合するタンパク質を指す。この用語は、インタクトなポリクローナル抗体、インタクトなモノクローナル抗体、一本鎖抗体、二重特異性抗体等の多重特異性抗体、単一特異性抗体、一価抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、及びヒト抗体を包含する。本明細書で使用される、「抗体」という用語はまた、Fab、F(ab’)2、Fv、scFv、及び二価scFvが挙げられるがこれらに限定されない抗原結合特異性を保持する抗体断片も含む。抗体は、カッパまたはラムダのいずれかに分類される軽鎖を含み得る。抗体は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはイプシロンに分類される重鎖を含む場合があり、これらは同様に、それぞれ、IgG、IgM、IgA、IgD及びIgEという免疫グロブリンクラスを定義する。
【0061】
例示的な免疫グロブリン(抗体)構造単位は、四量体を含む。各四量体は、各対が1つの「軽」鎖(約25kD)及び1つの「重」鎖(約50~70kD)を有する、2つの同一の対のポリペプチド鎖から構成される。各鎖のN末端は、抗原認識を主に担う約100~110個またはそれを超えるアミノ酸の可変領域を画定する。「可変軽鎖」(VL)及び「可変重鎖」(VH)という用語は、それぞれ、これらの軽鎖及び重鎖を指す。
【0062】
「可変領域」または「可変ドメイン」という用語は、生殖系列可変(V)遺伝子、多様性(D)遺伝子、または結合(J)遺伝子に由来し(かつ定常(Cμ及びCδ)遺伝子セグメントには由来しない)、抗体に抗原と結合する特異性を与える、抗体重鎖または軽鎖中のドメインを指す。通常、抗体の可変領域は、3つの超可変「相補性決定領域」が散在する4つの保存された「フレームワーク」領域を含む。
【0063】
「相補性決定領域」または「CDR」という用語は、軽鎖及び重鎖可変領域によって確立された4つのフレームワーク領域を中断する各鎖における3つの超可変領域を指す。CDRは、抗原のエピトープへの抗体結合を主として担う。各鎖のCDRは、通常、N末端から開始して順番にナンバリングしてCDR1、CDR2及びCDR3と称され、通常、特定のCDRが位置する鎖によっても識別される。したがって、VH CDR3またはCDR-H3は、それが見出される抗体重鎖の可変領域に位置する一方、VL CDR1またはCDR-L1は、それが見出される抗体軽鎖の可変領域に由来するCDR1である。
【0064】
異なる軽鎖または重鎖の「フレームワーク領域」または「FR」は、種内で比較的保存されている。抗体のフレームワーク領域、すなわち、構成要素である軽鎖及び重鎖のフレームワーク領域を組み合わせたものは、CDRを3次元空間に配置し整列させるように機能する。フレームワーク配列は、生殖系列抗体の遺伝子配列を含む公共のDNAデータベースまたは公開されている参照文献から得ることができる。例えば、ヒト重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子の生殖系列DNA配列は、ヒト及びマウス配列に関する「VBASE2」生殖系列可変遺伝子配列データベースに見出すことができる。
【0065】
CDR及びフレームワーク領域のアミノ酸配列は、当技術分野で周知の様々な定義、例えば、Kabat、Chothia、国際ImMunoGeneTicsデータベース(IMGT)、AbM、及び観察された抗原接触(「Contact」)を使用して決定され得る。いくつかの実施形態では、CDRは、Contactの定義に従って決定される。MacCallum et al.,J.Mol.Biol.,262:732-745,1996を参照されたい。いくつかの実施形態では、CDRは、Kabat、Chothia、及び/またはContactのCDR定義の組み合わせによって決定される。
【0066】
「エピトープ」という用語は、分子、例えば、抗体のCDRが特異的に結合する抗原の領域(area)または領域(region)を指し、数個のアミノ酸、または数個のアミノ酸の部分、例えば、5個もしくは6個、もしくはそれより多く、例えば、20個以上のアミノ酸、またはそれらのアミノ酸の部分を含み得る。場合によっては、このエピトープは、例えば、炭水化物、核酸、または脂質に由来する非タンパク質成分を含む。場合によっては、このエピトープは、3次元部分である。したがって、例えば、この標的がタンパク質の場合、このエピトープは、連続するアミノ酸からなることもあれば(例えば、線状エピトープ)、タンパク質フォールディングによって近接した状態になるタンパク質の異なる部分のアミノ酸からなることもある(例えば、不連続または高次構造エピトープ)。
【0067】
本明細書で使用される、「エピトープを認識する」という表現は、抗体に関して使用する場合、抗体のCDRが、その抗原と、そのエピトープもしくはそのエピトープを含む抗原の一部分で相互作用するか、または特異的に結合することを意味する。
【0068】
「ヒト化抗体」は、CDR外の非ヒト免疫グロブリンに由来する最低限の配列を含む非ヒト供給源(例えば、マウス)に由来するキメラ免疫グロブリンである。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ(例えば、2つ)の可変ドメインを含み、そのCDR領域は、非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に実質的に相当し、そのフレームワーク領域は、ヒト免疫グロブリン配列のフレームワーク領域に実質的に相当する。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのある特定のフレームワーク領域の残基を、例えば、特異性、親和性、及び/または血清半減期を改善するために、非ヒト種由来の対応する残基に置き換えることができる。ヒト化抗体はまた、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部分、通常はヒト免疫グロブリン配列のものを含み得る。抗体のヒト化方法は、当技術分野で公知である。
【0069】
「ヒト抗体」または「完全ヒト抗体」は、ヒト重鎖配列及び軽鎖配列を有する抗体であり、通常は、ヒト生殖細胞系列遺伝子に由来する。いくつかの実施形態では、この抗体は、ヒト細胞によって、ヒト抗体レパートリーを利用した非ヒト動物(例えば、ヒト抗体配列を発現するように遺伝子操作されたトランスジェニックマウス)によって、またはファージディスプレイプラットフォームによって産生される。
【0070】
「特異的に結合する」という用語は、試料中のエピトープまたは標的に対して、別のエピトープまたは非標的化合物(例えば、構造的に異なる抗原)に結合するよりも、より高い親和性で、より高い結合力で、及び/またはより長い持続時間、エピトープまたは標的に結合する分子(例えば、本明細書に記載されるような抗体)を指す。いくつかの実施形態では、エピトープまたは標的に特異的に結合する分子とは、他のエピトープまたは非標的化合物よりも少なくとも5倍高い親和性、例えば、少なくとも6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、25倍、50倍、100倍、1,000倍、または10,000倍以上の親和性で、エピトープまたは標的に結合する分子である。本明細書で使用される、特定のエピトープまたは標的に対する「特異的結合」、「特異的に結合する」、または「特異的である」という用語は、例えば、それが結合するエピトープまたは標的に対する平衡解離定数KDが、例えば、10-4M以下、例えば、10-5M、10-6M、10-7M、10-8M、10-9M、10-10M、10-11M、または10-12Mである分子によって示され得る。当業者には、1つの種に由来する標的に特異的に結合する分子はまた、その標的のオルソログにも特異的に結合し得ることが認識されよう。
【0071】
「結合親和性」という用語は、本明細書では、2つの分子間、例えば、本明細書に記載の抗体と抗原との間の非共有結合相互作用の強度を指すものとして使用される。したがって、例えば、別途示さない限り、または文脈から明らかでない限り、この用語は、抗体と抗原との間の1:1の相互作用を指し得る。結合親和性は、平衡解離定数(KD)を測定することにより定量化してもよく、これは、結合速度定数(ka、時間-1M-1)で除した解離速度定数(kd、時間-1)を指す。KDは、複合体形成及び解離の反応速度を、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)法(例えば、Biacore(商標)システム);KinExA(登録商標)等の結合平衡除外法、及びBioLayer干渉法(例えば、ForteBio(登録商標)Octetプラットフォームを使用するもの)を使用して測定することにより決定され得る。本明細書で使用する場合、「結合親和性」は、抗体と抗原との間の1:1の相互作用を反映するような正式な結合親和性のみならず、強力な結合を反映し得るKDが算出される見かけの親和性をも含む。
【0072】
本明細書で使用される、「トランスフェリン受容体」または「TfR」とは、トランスフェリン受容体タンパク質1を指す。ヒトトランスフェリン受容体1ポリペプチド配列は、配列番号150で規定される。他の種に由来するトランスフェリン受容体タンパク質1の配列も公知である(例えば、チンパンジー、アクセッション番号XP_003310238.1、アカゲザル、NP_001244232.1、イヌ、NP_001003111.1、ウシ、NP_001193506.1、マウス、NP_035768.1、ラット、NP_073203.1、及びニワトリ、NP_990587.1)。「トランスフェリン受容体」という用語は、トランスフェリン受容体タンパク質1染色体遺伝子座にある遺伝子によってコードされる例示的な参照配列、例えば、ヒト配列のアレルバリアントも包含する。完全長トランスフェリン受容体タンパク質は、短いN末端細胞内領域、膜貫通領域、及び大きな細胞外ドメインを含む。この細胞外ドメインは、3つのドメイン、すなわち、プロテアーゼ様ドメイン、ヘリカルドメイン、及び頂端ドメインによって特徴づけられる。
【0073】
本明細書で使用される、「Fcポリペプチド」という用語は、構造ドメインとしてのIgフォールドを特徴とする天然に存在する免疫グロブリン重鎖ポリペプチドのC末端領域を指す。Fcポリペプチドは、少なくともCH2ドメイン及び/またはCH3ドメインを含む定常領域配列を含み、ヒンジ領域の少なくとも一部を含んでもよいが、可変領域は含まない。
【0074】
「修飾Fcポリペプチド」とは、野生型免疫グロブリン重鎖Fcポリペプチド配列に照らして、少なくとも1つの変異、例えば、置換、欠失、または挿入を有するが、天然のFcポリペプチドの全般的なIgフォールドまたは構造を保持するFcポリペプチドを指す。
【0075】
本明細書で使用される、「FcRn」とは、胎児性Fc受容体を指す。FcポリペプチドのFcRnへの結合は、Fcポリペプチドのクリアランスを低下させ、血清半減期を延長する。ヒトFcRnタンパク質は、主要組織適合(MHC)クラスIタンパク質と同様のサイズ約50kDaのタンパク質及びサイズ約15kDaのβ2-ミクログロブリンからなるヘテロ二量体である。
【0076】
本明細書で使用される、「FcRn結合部位」とは、FcRnに結合するFcポリペプチドの領域を指す。ヒトIgGでは、EUインデックスでナンバリングされるFcRn結合部位には、L251、M252、I253、S254、R255、T256、M428、H433、N434、H435、及びY436が含まれる。これらの位置は、配列番号95の21~26、198、及び203~206位に対応する。
【0077】
本明細書で使用される、「天然のFcRn結合部位」とは、FcRnに結合するFcポリペプチドの領域でありかつFcRnに結合する天然に存在するFcポリペプチドの領域と同じアミノ酸配列を有するFcポリペプチドの領域を指す。
【0078】
本明細書で使用する場合、「CH3ドメイン」及び「CH2ドメイン」という用語は、免疫グロブリン定常領域ドメインポリペプチドを指す。本出願の目的で、CH3ドメインのポリペプチドとは、EUナンバリングスキームに従ってナンバリングされるほぼ341位からほぼ447位のアミノ酸のセグメントを指し、CH2ドメインのポリペプチドとは、EUナンバリングスキームに従ってナンバリングされるほぼ231位からほぼ340位のアミノ酸のセグメントを指し、ヒンジ領域の配列を含まない。CH2及びCH3ドメインのポリペプチドはまた、IMGT(ImMunoGeneTics)ナンバリングスキームによってもナンバリングされる場合があり、この場合、IMGT Scientific chartのナンバリング(IMGTウェブサイト)によれば、CH2ドメインのナンバリングは1~110であり、CH3ドメインのナンバリングは1~107である。CH2及びCH3ドメインは、免疫グロブリンのFc領域の一部である。Fc領域とは、EUナンバリングスキームに従ってナンバリングされるほぼ231位からほぼ447位のアミノ酸のセグメントを指すが、本明細書で使用される場合、抗体のヒンジ領域の少なくとも一部を含んでもよい。例示的なヒンジ領域配列は、ヒトIgG1ヒンジ配列EPKSCDKTHTCPPCP(配列番号96)である。
【0079】
CH3またはCH2ドメインに関して使用される、「野生型」、「天然」、及び「天然に存在する」という用語は、天然に存在する配列を有するドメインを指す。
【0080】
本明細書で使用される、変異ポリペプチドまたは変異ポリヌクレオチドに関して使用される場合の「変異体」という用語は、「バリアント」と交換可能に使用される。所与の野生型CH3またはCH2ドメインの参照配列に関するバリアントは、天然に存在するアレルバリアントを含むことができる。「非天然」のCH3またはCH2ドメインは、天然の細胞には存在しないものであり、遺伝子修飾によって、例えば、遺伝子工学技術または変異導入技術を使用して作製された、天然のCH3ドメインまたはCH2ドメインのポリヌクレオチドまたはポリペプチドのバリアントまたは変異体ドメインを指す。「バリアント」には、野生型に関して少なくとも1つのアミノ酸の変異を含む任意のドメインが含まれる。変異には、置換、挿入、及び欠失が含まれ得る。
【0081】
核酸またはタンパク質に関して使用される、「単離された」という用語は、この核酸またはタンパク質が、自然状態でそれが会合している他の細胞成分が本質的にないことを示す。それは均質状態であることが好ましい。純度及び均一性は、通常、分析化学技術、例えば、電気泳動(例えば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動)またはクロマトグラフィー(例えば、高速液体クロマトグラフィー)を用いて測定される。いくつかの実施形態では、単離された核酸またはタンパク質は、少なくとも85%の純度、少なくとも90%の純度、少なくとも95%の純度、または少なくとも99%の純度である。
【0082】
「アミノ酸」という用語は、天然に存在するアミノ酸及び合成アミノ酸、ならびに天然に存在するアミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体及びアミノ酸模倣体を指す。天然に存在するのは、遺伝暗号によってコードされるもの、ならびに後に修飾されるアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、及びO-ホスホセリンである。天然に存在するα-アミノ酸としては、アラニン(Ala)、システイン(Cys)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、フェニルアラニン(Phe)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、アルギニン(Arg)、リジン(Lys)、ロイシン(Leu)、メチオニン(Met)、アスパラギン(Asn)、プロリン(Pro)、グルタミン(Gln)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、バリン(Val)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、及びそれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない。天然に存在するα-アミノ酸の立体異性体としては、D-アラニン(D-Ala)、D-システイン(D-Cys)、D-アスパラギン酸(D-Asp)、D-グルタミン酸(D-Glu)、D-フェニルアラニン(D-Phe)、D-ヒスチジン(D-His)、D-イソロイシン(D-Ile)、D-アルギニン(D-Arg)、D-リジン(D-Lys)、D-ロイシン(D-Leu)、D-メチオニン(D-Met)、D-アスパラギン(D-Asn)、D-プロリン(D-Pro)、D-グルタミン(D-Gln)、D-セリン(D-Ser)、D-トレオニン(D-Thr)、D-バリン(D-Val)、D-トリプトファン(D-Trp)、D-チロシン(D-Tyr)、及びそれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない。「アミノ酸類似体」とは、天然に存在するアミノ酸と同じ基本化学構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基、及びR基に結合したα炭素を有する化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを指す。かかる類似体は、修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)または修飾されたペプチド骨格を有するが、天然に存在するアミノ酸と同じ基本化学構造を保持する。「アミノ酸模倣体」とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様に機能する化合物を指す。アミノ酸は、本明細書では、一般に知られている3文字記号またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionが推奨する1文字記号のいずれかで言及され得る。
【0083】
「ポリペプチド」及び「ペプチド」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、一本の鎖におけるアミノ酸残基のポリマーを指す。この用語は、1つ以上のアミノ酸残基が対応する天然に存在するアミノ酸の人工的な化学的模倣体であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然に存在するアミノ酸ポリマー及び非天然に生じるアミノ酸ポリマーに適用される。アミノ酸ポリマーは、完全にL-アミノ酸、完全にD-アミノ酸、またはLアミノ酸及びDアミノ酸の混合物を含み得る。
【0084】
本明細書で使用する「タンパク質」という用語は、一本鎖ポリペプチドのポリペプチドまたは二量体(すなわち、2つ)または多量体(すなわち、3つ以上)のいずれかを指す。タンパク質の一本鎖ポリペプチドは、共有結合、例えば、ジスルフィド結合によって、または非共有相互作用によって結合され得る。
【0085】
「ポリヌクレオチド」及び「核酸」という用語は、任意の長さのヌクレオチドの鎖を互換的に指し、DNA及びRNAを含む。このヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾ヌクレオチドもしくは塩基、及び/またはそれらの類似体、あるいは、DNAまたはRNAポリメラーゼによって鎖の中に組み込むことができる任意の基質であり得る。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチド及びそれらの類似体などの修飾ヌクレオチドを含み得る。本明細書で企図されるポリヌクレオチドの例としては、一本鎖及び二本鎖DNA、一本鎖及び二本鎖RNA、ならびに一本鎖ならびに二本鎖DNA及びRNAの混合物を有するハイブリッド分子が挙げられる。
【0086】
「保存的置換」または「保存的変異」という用語は、あるアミノ酸を、同様の特徴を有するとして分類され得る別のアミノ酸で置換することになる変更を指す。このようにして定義される保存的アミノ酸群の分類の例としては、Glu(グルタミン酸またはE)、Asp(アスパラギン酸またはD)、Asn(アスパラギンまたはN)、Gln(グルタミンまたはQ)、Lys(リジンまたはK)、Arg(アルギニンまたはR)、及びHis(ヒスチジンまたはH)を含めた「荷電/極性群」、Phe(フェニルアラニンまたはF)、Tyr(チロシンまたはY)、Trp(トリプトファンまたはW)、及び(ヒスチジンまたはH)を含めた「芳香族群」、ならびにGly(グリシンまたはG)、Ala(アラニンまたはA)、Val(バリンまたはV)、Leu(ロイシンまたはL)、Ile(イソロイシンまたはI)、Met(メチオニンまたはM)、Ser(セリンまたはS)、Thr(トレオニンまたはT)、及びCys(システインまたはC)を含めた「脂肪族群」を挙げることができる。各群内で、下位群もまた識別され得る。例えば、荷電または極性アミノ酸の群は、Lys、Arg及びHisで構成される「正に荷電した下位群」、Glu及びAspで構成される「負に荷電した下位群」、ならびにAsn及びGlnで構成される「極性下位群」を含む下位群に細分することができる。別の例では、芳香族または環状の群は、Pro、His及びTrpから構成される「窒素環下位群」、ならびにPhe及びTyrから構成される「フェニル下位群」を含む下位群に細分することができる。さらなる別の例では、脂肪族群は、下位群、例えば、Val、Leu、Gly及びAlaから構成される「脂肪族非極性下位群」、ならびにMet、Ser、Thr及びCysから構成される「脂肪族微極性下位群」に細分することができる。保存的突然変異の分類の例としては、前述の下位群内のアミノ酸のアミノ酸置換、例えば、限定されないが、正電荷を維持することができるような、Argの代わりにLysまたはその逆;負電荷を維持することができるような、Aspの代わりにGluまたはその逆;遊離-OHを維持することができるような、Thrの代わりにSerまたはその逆;及び遊離-NH2を維持することができるような、Asnの代わりにGlnまたはその逆、が挙げられる。いくつかの実施形態では、疎水性アミノ酸は、天然に存在する疎水性アミノ酸と、例えば、活性部位で置き換わり、疎水性を保存する。
【0087】
2つ以上のポリペプチド配列との関連で「同一」または「同一性」パーセントという用語は、同じであるか、または特定のパーセンテージのアミノ酸残基を有する、例えば、比較ウィンドウ上で最大の一致が得られるように比較及び整列させた場合に特定の領域にわたって、または指定された領域にわたって、配列比較アルゴリズムを用いて、または手作業でのアラインメントと目視検査によって測定して、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、もしくは少なくとも95%、またはそれ以上同一である、2つ以上の配列または部分列を指す。
【0088】
ポリペプチドの配列比較では、通常、1つのアミノ酸配列が参照配列として機能し、これを候補配列と比較する。アラインメントは、当業者に利用可能な様々な方法、例えば、視覚によるアラインメントを用いて、または公知のアルゴリズムを用いた公開されているソフトウェアを用いて行い、最大のアラインメントを達成することができる。そのようなプログラムとしては、BLASTプログラム、ALIGN、ALIGN-2(Genentech,South San Francisco,Calif.)またはMegalign(DNASTAR)が挙げられる。最大のアラインメントを達成するためにアラインメントに使用されるパラメータは、当業者によって決定され得る。本出願の目的で、ポリペプチド配列の配列比較に関しては、2種のタンパク質配列をデフォルトのパラメータで整列させるためのBLASTPアルゴリズム標準タンパク質BLASTが使用される。
【0089】
ポリペプチド配列における所与のアミノ酸残基の特定との関連で使用される場合の「~に対応する」、「~に準拠して決められる」、または「~に準拠してナンバリングされる」という表現は、所与のアミノ酸配列が最大に整列され、当該参照配列と比較される場合の特定の参照配列の残基の位置を指す。したがって、例えば、修飾Fcポリペプチドにおけるアミノ酸残基は、この残基が、配列番号95に対して最適に整列された際に配列番号95のアミノ酸と一致した場合に、配列番号95のアミノ酸「に対応する」。参照配列に整列されるポリペプチドは、この参照配列と同じ長さである必要はない。
【0090】
本明細書において交換可能に使用される、「対象」、「個体」、及び「患者」という用語は、哺乳類を指し、これに含まれるのは、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類(例えば、ラット、マウス、及びモルモット)、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ、及び他の哺乳類種であるが、これらに限定されない。1つの実施形態では、この患者はヒトである。
【0091】
「処置」、「処置する」などの用語は、一般に、所望の薬理学的及び/または生理学的効果を得ることを意味するために本明細書で使用される。「処置すること」または「処置」は、軽減、寛解、患者生存の改善、生存時間もしくは率の増大、症状の減衰または疾患を患者にとってより耐えられるようにすること、変性もしくは衰退の率における減速、または患者の肉体的もしくは精神的健康を改善することなどの、任意の客観的または主観的パラメータを含む、がん(例えば、HER2陽性及び/または転移性がん)の処置または改善の成功の任意の兆候を指す場合がある。症状の処置または改善は、客観的または主観的パラメータに基づくことができる。処置の効果は、その処置を受けていない個体もしくは個体のプールと、または、処置前もしくは処置中の異なる時点での同じ患者と比較することができる。
【0092】
「医薬的に許容される賦形剤」という用語は、ヒトまたは動物での使用に対して生物学的に、または薬理学的に適合する非活性薬剤成分、例えば、限定されないが、緩衝剤、担体、または保存料を指す。
【0093】
本明細書で使用する場合、分子(例えば、本明細書に記載の抗体)の「治療量」または「治療有効量」は、対象における疾患の症状を処置するか、軽減させるか、緩和するか、またはその重症度を低減させる分子の量である。
【0094】
「投与する」という用語は、所望の生物作用点に分子、または組成物を送達する方法を指す。これらの方法としては、局所送達、非経口送達、静脈内送達、皮内送達、筋肉内送達、髄腔内送達、結腸送達、直腸送達、または腹腔内送達が挙げられるがこれらに限定されない。一実施形態では、本明細書に記載される抗体は、静脈内投与される。
【0095】
III.抗HER2抗体
一態様では、共通の軽鎖ポリペプチドを含む、ヒトHER2のサブドメインII及びサブドメインIVの両方に結合する抗体が提供される。いくつかの実施形態では、この抗体のFcポリペプチドの一方または両方は、修飾Fcポリペプチド(例えば、TfR結合を促進する及び/またはFcポリペプチドのヘテロ二量体化を向上するように修飾されたもの)である。このような二重特異性抗体の模式図を
図1に示す。
【0096】
いくつかの実施形態では、抗HER2抗体は、以下:
(a)ヒトHER2サブドメインIVに対する第1の抗原結合部位;
(b)ヒトHER2サブドメインIIに対する第2の抗原結合部位;及び
(c)TfR結合部位を作り出す修飾を含有する第1のFcポリペプチドを含む、修飾されたFcポリペプチド二量体
を含み、
第1の抗原結合部位の軽鎖ポリペプチド配列は、第2の抗原結合部位の軽鎖ポリペプチド配列と同一である。
【0097】
他の実施形態では、抗HER2抗体は、以下:
(a)ヒトHER2サブドメインIIに対する第1の抗原結合部位;
(b)ヒトHER2サブドメインIVに対する第2の抗原結合部位;及び
(c)TfR結合部位を作り出す修飾を含有する第1のFcポリペプチドを含む、修飾されたFcポリペプチド二量体
を含み、
この第1の抗原結合部位の軽鎖ポリペプチド配列は、第2の抗原結合部位の軽鎖ポリペプチド配列と同一である。
【0098】
いくつかの実施形態では、第1のFcポリペプチドは、TfR結合部位を含む修飾されたCH3ドメインを含む。特定の実施形態では、修飾されたCH3ドメインは、TfR結合部位を作り出す本明細書に記載のアミノ酸位置のセットにおける置換を含む。
【0099】
いくつかの実施形態では、第1のFcポリペプチド及び第2のFcポリペプチドは各々、ヘテロ二量体化を促進する修飾を含む。例えば、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、T366Wの置換を含んでもよく、第2のFcポリペプチドは、T366S、L368A、及びY407Vの置換を含んでもよい。別の例では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、T366S、L368A、及びY407Vの置換を含んでもよく、第2のFcポリペプチドは、T366Wの置換を含んでもよい。さらに、第1のFcポリペプチド及び/または第2のFcポリペプチドは、独立して、TfR媒介性のエフェクター機能を低下させる修飾、すなわち、TfR結合の際にエフェクター機能を低下させる修飾を含み得る。例えば、TfR媒介エフェクター機能を低下させる修飾は、EUナンバリングに従って、(i)L234A及びL235Aの置換、または(ii)L234A及びL235Aの置換、ならびにP329GまたはP329Sの置換である。
【0100】
いくつかの実施形態では、第1のFcポリペプチド及び/または第2のFcポリペプチドは、EUナンバリングに従って、独立してS239D及び/またはI332Eの置換を含む。特定の実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドまたは第2のFcポリペプチドは、S239D及び/またはI332Eの置換を含む。特定の他の実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239D及び/またはI332Eの置換を含み、第2のFcポリペプチドは、S239D及び/またはI332Eの置換を含む。特定の実施形態では、S239D及び/またはI332Eの置換を独立して含む第1のFcポリペプチド及び/または第2のFcポリペプチドは、HER2媒介エフェクター機能を増強することが可能であり、すなわち、HER2結合時のエフェクター機能を増強することが可能である。
【0101】
いくつかの実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含み、第2のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含む。いくつかの実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、I332Eの置換を含み、第2のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含む。いくつかの実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含み、第2のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含む。いくつかの実施形態では、EUナンバリングに従って、第2のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含む。いくつかの実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含み、第2のFcポリペプチドは、I332Eの置換を含む。いくつかの実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、I332Eの置換を含み、第2のFcポリペプチドは、I332Eの置換を含む。いくつかの実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含み、第2のFcポリペプチドは、I332Eの置換を含む。いくつかの実施形態では、EUナンバリングに従って、第2のFcポリペプチドは、I332Eの置換を含む。いくつかの実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含み、第2のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含む。いくつかの実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、I332Eの置換を含み、第2のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含む。いくつかの実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含み、第2のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含む。いくつかの実施形態では、EUナンバリングに従って、第2のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含む。いくつかの実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含む。いくつかの実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、I332Eの置換を含む。いくつかの実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含む。
【0102】
特定の実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、I332Eの置換を含み、第2のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含む。特定の実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、I332Eの置換及び239位にセリンを含み、第2のFcポリペプチドは、S239Dの置換及び332位にイソロイシンを含む。
【0103】
特定の実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含み、第2のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含む。特定の実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含み、第2のFcポリペプチドは、S239Dの置換及び332位にイソロイシンを含む。
【0104】
特定の実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含み、第2のFcポリペプチドは、I332Eの置換を含む。特定の実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239Dの置換及び332位にイソロイシンを含み、第2のFcポリペプチドは、I332Eの置換及び239位にセリンを含む。
【0105】
特定の実施形態では、EUナンバリングに従って、第2のFcポリペプチドは、I332Eの置換を含む。特定の実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、239位にセリン及び332位にイソロイシンを含み、第2のFcポリペプチドは、I332Eの置換及び239位にセリンを含む。
【0106】
特定の実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239Dの置換を含み、第2のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含む。特定の実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、S239Dの置換及び332位にイソロイシンを含み、第2のFcポリペプチドは、S239D及びI332Eの置換を含む。
【0107】
特定の実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、I332Eの置換を含む。特定の実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、I332Eの置換及び239位にセリンを含み、第2のFcポリペプチドは、239位にセリン及び332位にイソロイシンを含む。
【0108】
いくつかの実施形態では、第1のFcポリペプチドは、EUナンバリングに従い、TfR結合部位、T366Wの置換、L234A及びL235Aの置換(必要に応じてP329GまたはP329Sの置換を含む)、ならびに必要に応じてS239D及び/またはI332Eの置換を含み、かつ第2のFcポリペプチドは、EUナンバリングに従って、T366S、L368A、及びY407Vの置換、ならびに任意選択でS239D及び/またはI332Eの置換を含む。例えば、第1のFcポリペプチドは、配列番号74~84、86及び98のいずれか1つの配列に対する少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有する配列を含んでもよく、かつ第2のFcポリペプチドは、配列番号71~73、85、及び99~100のいずれか1つの配列に対する少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有する配列を含み得る。
【0109】
特定の実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、TfR結合部位を含み、かつL234A及びL235Aの置換を含み(任意選択で、P329GまたはP329Sの置換を含む)、かつ第2のFcポリペプチドは、L234A及びL235Aの置換(または第1のFcポリペプチドに存在する場合、P329GまたはP329Sの置換)を含まない。特定の他の実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチドは、TfR結合部位を含み、かつL234AまたはL325Aの置換(または第2のFcポリペプチドに存在する場合、P329GまたはP329Sの置換)を含まず、かつ第2のFcポリペプチドは、L234A及びL235Aの置換を含む(任意選択で、P329GまたはP329Sの置換を含む)。
【0110】
いくつかの実施形態では、このFcポリペプチドの一方または両方は、そのC末端のリジン(例えば、EUナンバリングに従って、このFcポリペプチドの447位のLys残基)が除去されていてもよい。いくつかの実施形態では、このFcポリペプチドのC末端のリジンの除去により、抗体の安定性が改善され得る。
【0111】
いくつかの実施形態では、抗HER2抗体における、ヒトHER2サブドメインIIに対する抗原結合部位は、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、または3つすべて)のCDRを含む:
(a)配列番号89のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号90のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号91のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR3。
【0112】
特定の実施形態では、以下のうちの少なくとも1つである:配列番号89のX1は、Tではない;配列番号89のX2は、Fではない;配列番号89のX3は、Tではない;配列番号90のX1は、Nではない;配列番号90のX2は、Nではない;配列番号90のX3は、Sではない;配列番号90のX4は、Gではない;配列番号90のX5は、Gではない;配列番号90のX6は、Qではない;配列番号91のX1は、Lではない;配列番号91のX2は、Gではない;配列番号91のX3は、Pではない;及び配列番号91のX4は、Sではない。
【0113】
いくつかの実施形態では、重鎖CDR1は、配列番号89のアミノ酸配列を含み、X1は、N、K、M、またはHである。いくつかの実施形態では、重鎖CDR2は、配列番号90のアミノ酸配列を含み、X5はQである。いくつかの実施形態では、重鎖CDR2は、配列番号90のアミノ酸配列を含み、X6は、R、HまたはTである。いくつかの実施形態では、重鎖CDR3は、配列番号91のアミノ酸配列を含み、X4は、W、F、D、L、またはYである。いくつかの実施形態では、重鎖CDR3は、配列番号91のアミノ酸配列を含み、X4はLである。
【0114】
いくつかの実施形態では、抗HER2抗体における、ヒトHER2サブドメインIIに対する抗原結合部位は、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、または3つすべて)のCDRを含む:
(a)配列番号89のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号90のアミノ酸配列を含み、X5はQである、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号91のアミノ酸配列を含み、X4はLである、重鎖CDR3。
【0115】
いくつかの実施形態では、抗HER2抗体における、ヒトHER2サブドメインIIに対する抗原結合部位は、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、または3つすべて)のCDRを含む:
(a)配列番号4及び49~52からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号4及び49~52からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR1;
(b)配列番号5~6及び53~55からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号5~6及び53~55からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR2;
(c)配列番号7~8及び56~59からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号7~8及び56~59からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR3。
【0116】
いくつかの実施形態では、抗HER2抗体における、ヒトHER2サブドメインIIに対する抗原結合部位は、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、または3つすべて)のCDRを含む:
(a)配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号4のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR1;
(b)配列番号5もしくは配列番号6のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号5もしくは配列番号6のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR3。
【0117】
いくつかの実施形態では、抗HER2抗体における、ヒトHER2サブドメインIIに対する抗原結合部位は、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、または3つすべて)のCDRを含む:
(a)配列番号4のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号5または配列番号6のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号7または配列番号8のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR3。
【0118】
いくつかの実施形態では、抗HER2抗体における、ヒトHER2サブドメインIIに対する抗原結合部位は、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、または3つすべて)のCDRを含む:
(a)配列番号4のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号6のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号7のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR3。
【0119】
いくつかの実施形態では、抗HER2抗体における、ヒトHER2サブドメインIIに対する抗原結合部位は、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、または3つすべて)のCDRを含む:
(a)配列番号4のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号5のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号8のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR3。
【0120】
いくつかの実施形態では、抗HER2抗体における、ヒトHER2サブドメインIIに対する抗原結合部位は、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、または3つすべて)のCDRを含む:
(a)配列番号4のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号6のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号8のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR3。
【0121】
いくつかの実施形態では、抗HER2抗体における、ヒトHER2サブドメインIIに対する抗原結合部位は、配列番号1~3及び60~70のいずれか1つに対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、抗HER2抗体における、ヒトHER2サブドメインIIに対する抗原結合部位は、配列番号1~3及び60~70のいずれか1つのアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。
【0122】
いくつかの実施形態では、抗HER2抗体における、ヒトHER2サブドメインIVに対する抗原結合部位は、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、または3つすべて)のCDRを含む:
(a)配列番号16のアミノ酸配列を含むか、または配列番号16のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR1;
(b)配列番号17のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号17のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号18のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号18のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR3。
【0123】
いくつかの実施形態では、抗HER2抗体における、ヒトHER2サブドメインIVに対する抗原結合部位は、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、または3つすべて)のCDRを含む:
(a)配列番号16のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号17のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号18のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR3。
【0124】
いくつかの実施形態では、抗HER2抗体における、ヒトHER2サブドメインIVに対する抗原結合部位は、配列番号15に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、抗HER2抗体における、ヒトHER2サブドメインIVに対する抗原結合部位は、配列番号15のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。
【0125】
いくつかの実施形態では、抗HER2抗体における、第1及び第2の抗原結合部位における軽鎖ポリペプチド配列、すなわち、一方はHER2サブドメインII用であり、他方はHER2サブドメインIV用の軽鎖ポリペプチド配列は、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、または3つすべて)のCDRを含む:
(a)配列番号11のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号11のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR1;
(b)配列番号12のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR2;及び
(c)配列番号13または14のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR3。
【0126】
いくつかの実施形態では、軽鎖ポリペプチド配列は、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、または3つすべて)のCDRを含む:
(a)配列番号11のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR1;
(b)配列番号12のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR2;及び
(c)配列番号13または14のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR3。
【0127】
いくつかの実施形態では、軽鎖ポリペプチド配列は、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、または3つすべて)のCDRを含む:
(a)配列番号11のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR1;
(b)配列番号12のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR2;及び
(c)配列番号13のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR3。
【0128】
いくつかの実施形態では、軽鎖ポリペプチド配列は、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つ、2つ、または3つすべて)のCDRを含む:
(a)配列番号11のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR1;
(b)配列番号12のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR2;及び
(c)配列番号14のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR3。
【0129】
特定の実施形態では、軽鎖ポリペプチド配列は、配列番号13または14のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含み、任意選択でさらに、以下からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つまたは両方)のCDRを含む:配列番号11のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するか、または配列番号11のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR1;ならびに配列番号12のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR2。特定の実施形態では、軽鎖ポリペプチド配列は、配列番号13または14のアミノ酸配列を含み、かつ任意選択でさらに、配列番号11のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1;及び配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2からなる群から選択される1つ以上(例えば、1つまたは両方)のCDRを含む。
【0130】
いくつかの実施形態では、軽鎖ポリペプチド配列は、配列番号9~10のいずれか1つに対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、軽鎖ポリペプチド配列は、配列番号9~10のいずれか1つのアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0131】
いくつかの実施形態では、抗HER2抗体は、表1に列挙される組み合わせ、すなわち、組み合わせ(Combo)#A~ACのいずれか1つから選択される重鎖及び軽鎖CDRを含む。
【0132】
この抗体の特定の実施形態では、
(a)第1の重鎖は、配列番号16のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1、配列番号17のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR2、及び配列番号18のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR3を含み;
(b)第2の重鎖は、配列番号4及び49~52のいずれか1つのアミノ酸配列を含む重鎖CDR1と、配列番号5~6及び53~55のいずれか1つのアミノ酸配列を含む重鎖CDR2と、配列番号7~8及び56~59のいずれか1つのアミノ酸配列を含む重鎖CDR3とを含み;かつ
(c)軽鎖は、配列番号11のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び配列番号13~14のいずれか1つのアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む。
【0133】
この抗HER2抗体の特定の実施形態では、第1の抗原結合部位は、配列番号15からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;第2の抗原結合部位は、配列番号1~3及び60~70のアミノ酸配列を含み;第1のFcポリペプチドは、配列番号74~84、86、及び98からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;かつ、軽鎖ポリペプチド配列は、配列番号9~10及び19からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、この抗体は、配列番号71~73、85、及び99~100からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む第2のFcポリペプチドをさらに含む。
【0134】
抗HER2抗体の特定の他の実施形態では、第1の抗原結合部位は、配列番号1~3及び60~70からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;第2の抗原結合部位は、配列番号15のアミノ酸配列を含み;第1のFcポリペプチドは、配列番号74~84、86、及び98からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;かつ、軽鎖ポリペプチド配列は、配列番号9~10及び19からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、この抗体は、配列番号71~73、85及び99~100からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む第2のFcポリペプチドをさらに含む。
【0135】
いくつかの実施形態では、抗HER2抗体は、ヒトHER2サブドメインIIまたはIVに結合するための第1の重鎖、他のHER2サブドメインに結合するための第2の重鎖、及び2つの同一の軽鎖を含む。
【0136】
特定の実施形態では、抗HER2抗体は、表2に列挙される組み合わせ、すなわち、組み合わせ(Combo)#A-ATのいずれか1つから選択されるアミノ酸配列に対してそれぞれ少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有する重鎖及び軽鎖を含む。
【0137】
この抗体の特定の実施形態では、
(a)第1の重鎖は配列番号37を含み、第2の重鎖は配列番号25を含み、かつ軽鎖は配列番号9を含む;
(b)第1の重鎖は配列番号31を含み、第2の重鎖は配列番号30を含み、かつ軽鎖は配列番号9を含む;
(c)第1の重鎖は配列番号31を含み、第2の重鎖は配列番号29を含み、かつ軽鎖は配列番号9を含む;
(d)第1の重鎖は配列番号38を含み、第2の重鎖は配列番号30を含み、かつ軽鎖は配列番号9を含む;
(e)第1の重鎖は配列番号32を含み、第2の重鎖は配列番号30を含み、かつ軽鎖は配列番号9を含む;
(f)第1の重鎖は配列番号32を含み、第2の重鎖は配列番号29を含み、かつ軽鎖は配列番号9を含む;
(g)第1の重鎖は配列番号39を含み、第2の重鎖は配列番号30を含み、かつ軽鎖は配列番号9を含む;
(h)第1の重鎖は配列番号37を含み、第2の重鎖は配列番号26を含み、かつ軽鎖は配列番号9を含む;
(i)第1の重鎖は配列番号31を含み、第2の重鎖は配列番号34を含み、かつ軽鎖は配列番号9を含む;
(j)第1の重鎖は配列番号31を含み、第2の重鎖は配列番号33を含み、かつ軽鎖は配列番号9を含む;
(k)第1の重鎖は配列番号38を含み、第2の重鎖は配列番号34を含み、かつ軽鎖は配列番号9を含む;
(l)第1の重鎖は配列番号32を含み、第2の重鎖は配列番号34を含み、かつ軽鎖は配列番号9を含む;
(m)第1の重鎖は配列番号32を含み、第2の重鎖は配列番号33を含み、かつ軽鎖は配列番号9を含む;
(n)第1の重鎖は配列番号39を含み、第2の重鎖は配列番号34を含み、かつ軽鎖は配列番号9を含む;
(o)第1の重鎖は配列番号37を含み、第2の重鎖は配列番号27を含み、かつ軽鎖は配列番号9を含む;
(p)第1の重鎖は配列番号31を含み、第2の重鎖は配列番号36を含み、かつ軽鎖は配列番号9を含む;
(q)第1の重鎖は配列番号31を含み、第2の重鎖は配列番号35を含み、かつ軽鎖は配列番号9を含む;
(r)第1の重鎖は配列番号38を含み、第2の重鎖は配列番号36を含み、かつ軽鎖は配列番号9を含む;
(s)第1の重鎖は配列番号32を含み、第2の重鎖は配列番号36を含み、かつ軽鎖は配列番号9を含む;
(t)第1の重鎖は配列番号32を含み、第2の重鎖は配列番号35を含み、かつ軽鎖は配列番号9を含む;
(u)第1の重鎖は配列番号39を含み、第2の重鎖は配列番号46を含み、かつ軽鎖は配列番号9を含む;
(v)第1の重鎖は配列番号37を含み、第2の重鎖は配列番号25を含み、かつ軽鎖は配列番号10を含む;
(w)第1の重鎖は配列番号31を含み、第2の重鎖は配列番号30を含み、かつ軽鎖は配列番号10を含む;
(x)第1の重鎖は配列番号31を含み、第2の重鎖は配列番号29を含み、かつ軽鎖は配列番号10を含む;
(y)第1の重鎖は配列番号38を含み、第2の重鎖は配列番号30を含み、かつ軽鎖は配列番号10を含む;
(z)第1の重鎖は配列番号32を含み、第2の重鎖は配列番号30を含み、かつ軽鎖は配列番号10を含む;
(aa)第1の重鎖は配列番号32を含み、第2の重鎖は配列番号29を含み、かつ軽鎖は配列番号10を含む;
(ab)第1の重鎖は配列番号39を含み、第2の重鎖は配列番号30を含み、かつ軽鎖は配列番号10を含む;
(ac)第1の重鎖は配列番号37を含み、第2の重鎖は配列番号26を含み、かつ軽鎖は配列番号10を含む;
(ad)第1の重鎖は配列番号31を含み、第2の重鎖は配列番号34を含み、かつ軽鎖は配列番号10を含む;
(ae)第1の重鎖は配列番号31を含み、第2の重鎖は配列番号33を含み、かつ軽鎖は配列番号10を含む;
(af)第1の重鎖は配列番号38を含み、第2の重鎖は配列番号34を含み、かつ軽鎖は配列番号10を含む;
(ag)第1の重鎖は配列番号32を含み、第2の重鎖は配列番号34を含み、かつ軽鎖は配列番号10を含む;
(ah)第1の重鎖は配列番号32を含み、第2の重鎖は配列番号33を含み、かつ軽鎖は配列番号10を含む;
(ai)第1の重鎖は配列番号39を含み、第2の重鎖は配列番号34を含み、かつ軽鎖は配列番号10を含む;
(aj)第1の重鎖は配列番号37を含み、第2の重鎖は配列番号27を含み、かつ軽鎖は配列番号10を含む;
(ak)第1の重鎖は配列番号31を含み、第2の重鎖は配列番号36を含み、かつ軽鎖は配列番号10を含む;
(al)第1の重鎖は配列番号31を含み、第2の重鎖は配列番号35を含み、かつ軽鎖は配列番号10を含む;
(am)第1の重鎖は配列番号38を含み、第2の重鎖は配列番号36を含み、かつ軽鎖は配列番号10を含む;
(an)第1の重鎖は配列番号32を含み、第2の重鎖は配列番号36を含み、かつ軽鎖は配列番号10を含む;
(ao)第1の重鎖は配列番号32を含み、第2の重鎖は配列番号35を含み、かつ軽鎖は配列番号10を含む;
(ap)第1の重鎖は配列番号39を含み、第2の重鎖は配列番号46を含み、かつ軽鎖は配列番号10を含む;
(aq)第1の重鎖は配列番号20を含み、第2の重鎖は配列番号24を含み、かつ軽鎖は配列番号19を含む;
(ar)第1の重鎖は配列番号21を含み、第2の重鎖は配列番号24を含み、かつ軽鎖は配列番号19を含む;
(as)第1の重鎖は配列番号22を含み、第2の重鎖は配列番号24を含み、かつ軽鎖は配列番号19を含む;または
(at)第1の重鎖は配列番号23を含み、第2の重鎖は配列番号24を含み、かつ軽鎖は配列番号19を含む。
【0138】
特定の実施形態では、抗HER2抗体は、それぞれ少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を、表3の組み合わせ、すなわち、組み合わせ(Combo)#A-Lのいずれか1つから選択されるアミノ酸配列に対して有するVH及びFc配列を含む第1の重鎖と、それぞれ少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を、表4の組み合わせ、すなわち、組み合わせ(Combo)#A-Lのいずれか1つから選択されるアミノ酸配列に対して有するVH及びFc配列を含む第2の重鎖とを含む。これらの重鎖の組み合わせのいずれにおいても、軽鎖ポリペプチド配列は、配列番号9~10及び19からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有する。
【0139】
この抗体の特定の実施形態では、
(a)第1の重鎖は配列番号1及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び86を含む;
(b)第1の重鎖は配列番号1及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び74を含む;
(c)第1の重鎖は配列番号1及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び75を含む;
(d)第1の重鎖は配列番号1及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び76を含む;
(e)第1の重鎖は配列番号1及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び77を含む;
(f)第1の重鎖は配列番号1及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び78を含む;
(g)第1の重鎖は配列番号1及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び79を含む;
(h)第1の重鎖は配列番号1及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び80を含む;
(i)第1の重鎖は配列番号1及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び81を含む;
(j)第1の重鎖は配列番号1及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び82を含む;
(k)第1の重鎖は配列番号1及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び83を含む;または
(l)第1の重鎖は配列番号1及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び84を含む。
【0140】
この抗体の特定の実施形態では、
(a)第1の重鎖は配列番号2及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び86を含む;
(b)第1の重鎖は配列番号2及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び74を含む;
(c)第1の重鎖は配列番号2及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び75を含む;
(d)第1の重鎖は配列番号2及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び76を含む;
(e)第1の重鎖は配列番号2及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び77を含む;
(f)第1の重鎖は配列番号2及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び78を含む;
(g)第1の重鎖は配列番号2及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び79を含む;
(h)第1の重鎖は配列番号2及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び80を含む;
(i)第1の重鎖は配列番号2及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び81を含む;
(j)第1の重鎖は配列番号2及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び82を含む;
(k)第1の重鎖は配列番号2及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び83を含む;または
(l)第1の重鎖は配列番号2及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び84を含む。
【0141】
この抗体の特定の実施形態では、
(a)第1の重鎖は配列番号3及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び86を含む;
(b)第1の重鎖は配列番号3及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び74を含む;
(c)第1の重鎖は配列番号3及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び75を含む;
(d)第1の重鎖は配列番号3及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び76を含む;
(e)第1の重鎖は配列番号3及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び77を含む;
(f)第1の重鎖は配列番号3及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び78を含む;
(g)第1の重鎖は配列番号3及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び79を含む;
(h)第1の重鎖は配列番号3及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び80を含む;
(i)第1の重鎖は配列番号3及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び81を含む;
(j)第1の重鎖は配列番号3及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び82を含む;
(k)第1の重鎖は配列番号3及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び83を含む;または
(l)第1の重鎖は配列番号3及び71を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び84を含む。
【0142】
この抗体の特定の実施形態では、
(a)第1の重鎖は配列番号1及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び86を含む;
(b)第1の重鎖は配列番号1及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び74を含む;
(c)第1の重鎖は配列番号1及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び75を含む;
(d)第1の重鎖は配列番号1及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び76を含む;
(e)第1の重鎖は配列番号1及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び77を含む;
(f)第1の重鎖は配列番号1及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び78を含む;
(g)第1の重鎖は配列番号1及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び79を含む;
(h)第1の重鎖は配列番号1及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び80を含む;
(i)第1の重鎖は配列番号1及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び81を含む;
(j)第1の重鎖は配列番号1及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び82を含む;
(k)第1の重鎖は配列番号1及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び83を含む;または
(l)第1の重鎖は配列番号1及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び84を含む。
【0143】
この抗体の特定の実施形態では、
(a)第1の重鎖は配列番号2及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び86を含む;
(b)第1の重鎖は配列番号2及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び74を含む;
(c)第1の重鎖は配列番号2及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び75を含む;
(d)第1の重鎖は配列番号2及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び76を含む;
(e)第1の重鎖は配列番号2及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び77を含む;
(f)第1の重鎖は配列番号2及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び78を含む;
(g)第1の重鎖は配列番号2及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び79を含む;
(h)第1の重鎖は配列番号2及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び80を含む;
(i)第1の重鎖は配列番号2及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び81を含む;
(j)第1の重鎖は配列番号2及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び82を含む;
(k)第1の重鎖は配列番号2及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び83を含む;または
(l)第1の重鎖は配列番号2及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び84を含む。
【0144】
この抗体の特定の実施形態では、
(a)第1の重鎖は配列番号3及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び86を含む;
(b)第1の重鎖は配列番号3及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び74を含む;
(c)第1の重鎖は配列番号3及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び75を含む;
(d)第1の重鎖は配列番号3及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び76を含む;
(e)第1の重鎖は配列番号3及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び77を含む;
(f)第1の重鎖は配列番号3及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び78を含む;
(g)第1の重鎖は配列番号3及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び79を含む;
(h)第1の重鎖は配列番号3及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び80を含む;
(i)第1の重鎖は配列番号3及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び81を含む;
(j)第1の重鎖は配列番号3及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び82を含む;
(k)第1の重鎖は配列番号3及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び83を含む;または
(l)第1の重鎖は配列番号3及び72を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び84を含む。
【0145】
この抗体の特定の実施形態では、
(a)第1の重鎖は配列番号1及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び86を含む;
(b)第1の重鎖は配列番号1及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び74を含む;
(c)第1の重鎖は配列番号1及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び75を含む;
(d)第1の重鎖は配列番号1及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び76を含む;
(e)第1の重鎖は配列番号1及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び77を含む;
(f)第1の重鎖は配列番号1及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び78を含む;
(g)第1の重鎖は配列番号1及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び79を含む;
(h)第1の重鎖は配列番号1及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び80を含む;
(i)第1の重鎖は配列番号1及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び81を含む;
(j)第1の重鎖は配列番号1及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び82を含む;
(k)第1の重鎖は配列番号1及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び83を含む;または
(l)第1の重鎖は配列番号1及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び84を含む。
【0146】
この抗体の特定の実施形態では、
(a)第1の重鎖は配列番号2及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び86を含む;
(b)第1の重鎖は配列番号2及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び74を含む;
(c)第1の重鎖は配列番号2及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び75を含む;
(d)第1の重鎖は配列番号2及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び76を含む;
(e)第1の重鎖は配列番号2及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び77を含む;
(f)第1の重鎖は配列番号2及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び78を含む;
(g)第1の重鎖は配列番号2及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び79を含む;
(h)第1の重鎖は配列番号2及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び80を含む;
(i)第1の重鎖は配列番号2及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び81を含む;
(j)第1の重鎖は配列番号2及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び82を含む;
(k)第1の重鎖は配列番号2及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び83を含む;または
(l)第1の重鎖は配列番号2及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び84を含む。
【0147】
この抗体の特定の実施形態では、
(a)第1の重鎖は配列番号3及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び86を含む;
(b)第1の重鎖は配列番号3及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び74を含む;
(c)第1の重鎖は配列番号3及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び75を含む;
(d)第1の重鎖は配列番号3及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び76を含む;
(e)第1の重鎖は配列番号3及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び77を含む;
(f)第1の重鎖は配列番号3及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び78を含む;
(g)第1の重鎖は配列番号3及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び79を含む;
(h)第1の重鎖は配列番号3及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び80を含む;
(i)第1の重鎖は配列番号3及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び81を含む;
(j)第1の重鎖は配列番号3及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び82を含む;
(k)第1の重鎖は配列番号3及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び83を含む;または
(l)第1の重鎖は配列番号3及び73を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び84を含む。
【0148】
この抗体の特定の実施形態では、
(a)第1の重鎖は配列番号1及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び86を含む;
(b)第1の重鎖は配列番号1及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び74を含む;
(c)第1の重鎖は配列番号1及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び75を含む;
(d)第1の重鎖は配列番号1及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び76を含む;
(e)第1の重鎖は配列番号1及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び77を含む;
(f)第1の重鎖は配列番号1及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び78を含む;
(g)第1の重鎖は配列番号1及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び79を含む;
(h)第1の重鎖は配列番号1及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び80を含む;
(i)第1の重鎖は配列番号1及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び81を含む;
(j)第1の重鎖は配列番号1及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び82を含む;
(k)第1の重鎖は配列番号1及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び83を含む;または
(l)第1の重鎖は配列番号1及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び84を含む。
【0149】
この抗体の特定の実施形態では、
(a)第1の重鎖は配列番号2及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び86を含む;
(b)第1の重鎖は配列番号2及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び74を含む;
(c)第1の重鎖は配列番号2及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び75を含む;
(d)第1の重鎖は配列番号2及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び76を含む;
(e)第1の重鎖は配列番号2及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び77を含む;
(f)第1の重鎖は配列番号2及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び78を含む;
(g)第1の重鎖は配列番号2及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び79を含む;
(h)第1の重鎖は配列番号2及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び80を含む;
(i)第1の重鎖は配列番号2及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び81を含む;
(j)第1の重鎖は配列番号2及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び82を含む;
(k)第1の重鎖は配列番号2及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び83を含む;または
(l)第1の重鎖は配列番号2及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び84を含む。
【0150】
この抗体の特定の実施形態では、
(a)第1の重鎖は配列番号3及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び86を含む;
(b)第1の重鎖は配列番号3及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び74を含む;
(c)第1の重鎖は配列番号3及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び75を含む;
(d)第1の重鎖は配列番号3及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び76を含む;
(e)第1の重鎖は配列番号3及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び77を含む;
(f)第1の重鎖は配列番号3及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び78を含む;
(g)第1の重鎖は配列番号3及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び79を含む;
(h)第1の重鎖は配列番号3及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び80を含む;
(i)第1の重鎖は配列番号3及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び81を含む;
(j)第1の重鎖は配列番号3及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び82を含む;
(k)第1の重鎖は配列番号3及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び83を含む;または
(l)第1の重鎖は配列番号3及び85を含み、かつ第2の重鎖は配列番号15及び84を含む。
【0151】
特定の実施形態では、抗HER2抗体は、それぞれ少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を、表5の組み合わせ、すなわち、組み合わせ(Combo)#A-AJのいずれか1つから選択されるアミノ酸配列に対して有するVH及びFc配列を含む第1の重鎖と、それぞれ少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を、表6の組み合わせ、すなわち、組み合わせ(Combo)#A-Dのいずれか1つから選択されるアミノ酸配列に対して有するVH及びFc配列を含む第2の重鎖とを含む。これらの重鎖の組み合わせのいずれにおいても、軽鎖ポリペプチド配列は、配列番号9~10及び19からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の配列同一性を有する。
【0152】
IV.Fcポリペプチド及びその修飾
いくつかの態様では、本明細書に記載の抗体のいずれかは、Fcポリペプチド二量体を含み、この二量体の一方または両方のFcポリペプチドは、野生型Fcポリペプチドと比較してアミノ酸修飾を含む。いくつかの実施形態では、Fcポリペプチド(例えば、修飾Fcポリペプチド)におけるアミノ酸修飾により、Fcポリペプチド二量体のBBB受容体(例えば、TfR)への結合をもたらすこと、この二量体の2つのFcポリペプチドのヘテロ二量体化を促進すること、エフェクター機能を調節すること、血清半減期を延長すること、グリコシル化に影響を与えること、及び/またはヒトにおける免疫原性を低下させることができる。いくつかの実施形態では、この抗体に存在するFcポリペプチドは、独立して、対応する野生型Fcポリペプチド(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のFcポリペプチド)に対して少なくとも約85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%のアミノ酸配列同一性を有する。修飾Fcポリペプチド(例えば、TfR結合Fcポリペプチド)の例及び説明は、例えば、参照により全体として本明細書に組み込まれる国際特許公開第WO2018/152326号に見出すことができる。
【0153】
BBB受容体結合のためのFcポリペプチド修飾
本明細書に提供するのは、BBBを横断して輸送することが可能な抗HER2抗体である。かかるタンパク質は、BBB受容体に結合する、修飾Fcポリペプチドを含む。BBB受容体は、BBB内皮、ならびに他の細胞型及び組織型で発現される。いくつかの実施形態では、このBBB受容体は、TfRである。TfRに結合する修飾Fcポリペプチドは、TfR結合部位を有するとも表現される。
【0154】
様々なFc修飾において指定されるアミノ酸残基は、BBB受容体、例えば、TfRに結合する修飾Fcポリペプチド中に導入されるものを含め、本明細書において、EUインデックスナンバリングを使用してナンバリングされる。任意のFcポリペプチド、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のFcポリペプチドは、本明細書に記載の1つ以上の位置に、修飾、例えば、アミノ酸置換を有し得る。いくつかの実施形態では、BBB(例えば、TfR)受容体結合活性のために修飾されるドメインは、ヒトIgのCH3ドメイン、例えば、IgG1のCH3ドメインである。このCH3ドメインは、任意のIgGサブタイプ、すなわちIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4由来のものであってもよい。IgG1抗体との関連において、CH3ドメインとは、EUナンバリングスキームに従ってナンバリングして、ほぼ341位~ほぼ447位のアミノ酸のセグメントを指す。
【0155】
いくつかの実施形態では、TfRに特異的に結合する修飾Fcポリペプチドは、TfRの頂端ドメインに結合し、かつトランスフェリンのTfRへの結合を遮断することも阻害することもなく、TfRに結合し得る。いくつかの実施形態では、トランスフェリンのTfRへの結合は、実質的に阻害されない。いくつかの実施形態では、トランスフェリンのTfRへの結合は、約50%未満(例えば、約45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、または5%未満)阻害される。
【0156】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体に存在するBBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドは、1つ以上の、少なくとも1つ、2つ、または3つの置換を含み、いくつかの実施形態では、EUナンバリングスキームに従って、266、267、268、269、270、271、295、297、298及び299位を含むアミノ酸位置で、少なくとも4、5、6、7、8、9、または10個の置換を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体に存在するBBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドは、少なくとも1つ、2つ、または3つの置換を含み;いくつかの実施形態では、EUナンバリングスキームに従って、274、276、283、285、286、287、288、289、及び290位を含むアミノ酸位置で、少なくとも4、5、6、7、8、または9個の置換を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体に存在するBBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドは、少なくとも1つ、2つ、または3つの置換を含み、いくつかの実施形態では、EUナンバリングスキームに従って、268、269、270、271、272、292、293、294、296、及び300位を含むアミノ酸位置で、少なくとも4、5、6、7、8、9、または10個の置換を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体に存在するBBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドは、少なくとも1つ、2つ、または3つの置換を含み、いくつかの実施形態では、EUナンバリングスキームに従って、272、274、276、322、324、326、329、330、及び331位を含むアミノ酸位置で、少なくとも4、5、6、7、8、または9個の置換を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体に存在するBBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドは、少なくとも1つ、2つ、または3つの置換を含み、いくつかの実施形態では、EUナンバリングスキームに従って、345、346、347、349、437、438、439、及び440位を含むアミノ酸位置で、少なくとも4、5、6、または7個の置換を含む。
【0157】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体に存在するBBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドは、少なくとも1つ、2つ、または3つの置換を含み、いくつかの実施形態では、EUナンバリングスキームに従って、アミノ酸位置384、386、387、388、389、390、413、416、及び421位に、少なくとも4、5、6、7、8、または9個の置換を含む。
【0158】
いくつかの実施形態では、BBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドは、以下の通り、配列番号95と比較して置換を有する位置を少なくとも1つ含む:384位でのLeu、Tyr、Met、もしくはVal、386位でのLeu、Thr、His、もしくはPro、387位でのVal、Pro、もしくは酸性アミノ酸、388位での芳香族アミノ酸、例えば、TrpもしくはGly(例えば、Trp)、389位でのVal、Ser、もしくはAla、413位での酸性アミノ酸、Ala、Ser、Leu、Thr、もしくはPro、416位でのThrもしくは酸性アミノ酸、または421位でのTrp、Tyr、His、もしくはPhe。いくつかの実施形態では、BBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドは、このセットの1つ以上の位置における特定のアミノ酸の保存的置換、例えば、同じ荷電分類、疎水性分類、側鎖環構造分類(例えば、芳香族アミノ酸)、もしくはサイズ分類、及び/または極性もしくは非極性分類のアミノ酸を含み得る。したがって、例えば、Ileは、384位、386位、及び/または413位に存在し得る。いくつかの実施形態では、387、413、及び416位の1つ、2つまたは各々の位置における酸性アミノ酸は、Gluである。他の実施形態では、387、413、及び416位の1つ、2つまたは各々の酸性アミノ酸は、Aspである。いくつかの実施形態では、384、386、387、388、389、413、416、及び421位の2、3、4、5、6、7、または8個すべては、本段落に規定されるアミノ酸置換を有する。
【0159】
いくつかの実施形態では、アミノ酸位置384、386、387、388、389、390、413、416、及び/または421位に修飾を有するFcポリペプチドは、390位に天然のAsnを含む。いくつかの実施形態では、このFcポリペプチドは、390位にGly、His、Gln、Leu、Lys、Val、Phe、Ser、Ala、またはAspを含む。いくつかの実施形態では、このFcポリペプチドは、さらに、380、391、392、及び415位を含む位置に、1つ、2つ、3つ、または4つの置換を含む。いくつかの実施形態では、Trp、Tyr、Leu、またはGlnが380位に存在し得る。いくつかの実施形態では、Ser、Thr、Gln、またはPheが391位に存在し得る。いくつかの実施形態では、Gln、Phe、またはHisが392位に存在し得る。いくつかの実施形態では、Gluが415位に存在し得る。
【0160】
特定の実施形態では、このFcポリペプチドは、以下から選択される2、3、4、5、6、7、8、9、または10個の位置を含む:380位のTrp、LeuもしくはGlu、384位のTyrもしくはPhe、386位のThr、387位のGlu、388位のTrp、389位のSer、Ala、ValもしくはAsn、390位のSerもしくはAsn、413位のThrもしくはSer、415位のGluもしくはSer、416位のGlu、及び/または421位のPhe。いくつかの実施形態では、このFcポリペプチドは、以下の11個の位置すべてを含む:380位のTrp、LeuもしくはGlu、384位のTyrもしくはPhe、386位のThr、387位のGlu、388位のTrp、389位のSer、Ala、ValもしくはAsn、390位のSerもしくはAsn、413位のThrもしくはSer、415位のGluもしくはSer、416位のGlu、及び/または421位のPhe。
【0161】
特定の実施形態では、このBBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドは、384位にLeuもしくはMet;386位にLeu、His、もしくはPro;387位にVal;388位にTrp;389位にValもしくはAla;413位にPro;416位にThr;及び/または421位にTrpを含む。いくつかの実施形態では、このFcポリペプチドは、さらに、391位にSer、Thr、Gln、またはPheを含む。いくつかの実施形態では、このFcポリペプチドは、さらに、380位にTrp、Tyr、Leu、もしくはGln及び/または392位にGln、Phe、もしくはHisを含む。いくつかの実施形態では、Trpが380位に存在し、及び/またはGlnが392位に存在する。いくつかの実施形態では、BBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドは、380位にTrpを有さない。
【0162】
他の実施形態では、BBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドは、384位にTyr、386位にThr、387位にGluもしくはVal、388位にTrp、389位にSer、413位にSerもしくはThr、416位にGlu、及び/または421位にPheを含む。いくつかの実施形態では、このBBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドは、390位に天然のAsnを含む。特定の実施形態では、このFcポリペプチドは、さらに、380位にTrp、Tyr、Leu、もしくはGlnを及び/または415位にGluを含む。いくつかの実施形態では、このFcポリペプチドは、さらに、380位にTrpを及び/または415位にGluを含む。
【0163】
いくつかの実施形態では、このBBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドは、以下の置換の1つ以上を含む:380位にTrp、386位にThr、388位にTrp、389位にVal、413位にSerもしくはThr、415位にGlu、及び/または421位にPhe。
【0164】
さらなる実施形態では、このBBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドは、さらに、以下から選択される1、2、または3つの位置を含む:414位がLys、Arg、Gly、またはProであり、424位がSer、Thr、Glu、またはLysであり、426位がSer、Trp、またはGlyである。
【0165】
いくつかの実施形態では、このBBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドは、配列番号97の配列を有する。本明細書に記載の抗体のいくつかの実施形態では、このFcポリペプチド二量体の2つのFcポリペプチドの一方は、配列番号97の配列を有するBBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドであり得ると同時に、このFcポリペプチド二量体の他方のFcポリペプチドは、野生型Fcポリペプチド(例えば、配列番号95)の配列を有し得る。本明細書に記載の抗体の他の実施形態では、このFcポリペプチド二量体のFcポリペプチドは両方とも、配列番号97の配列を有するBBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドであってもよい。
【0166】
本明細書に記載の抗体のいくつかの実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチド及び/または第2のFcポリペプチドは、独立して、384位にTyr、386位にThr、387位にGlu、388位にTrp、389位にSer、413位にSer、415位にGlu、416位にGlu、及び421位にPheを含み、かつ配列番号74~84、86、及び97~101から選択される配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有する配列を含む。
【0167】
本明細書に記載の抗体のいくつかの実施形態では、EUナンバリングに従って、このFcポリペプチド二量体の2つのFcポリペプチドの一方は、384位にTyr、386位にThr、387位にGlu、388位にTrp、389位にSer、413位にSer、415位にGlu、416位にGlu、及び421位にPheを含みかつ配列番号97の配列に対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含むBBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドであり得ると同時に、このFcポリペプチド二量体の他方のFcポリペプチドは、野生型Fcポリペプチド(例えば、配列番号95)の配列を有し得る。
【0168】
本明細書に記載の抗体のいくつかの実施形態では、EUナンバリングに従って、第1のFcポリペプチド及び/または第2のFcポリペプチドは、独立して、384位にTyr、386位にThr、387位にGlu、388位にTrp、389位にAla、413位にThr、415位にGlu、416位にGlu、及び421位にPheを含み、かつ配列番号101~105から選択される配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有する配列を含む。
【0169】
本明細書に記載の抗体のいくつかの実施形態では、EUナンバリングに従って、このFcポリペプチド二量体の2つのFcポリペプチドの一方は、384位にTyr、386位にThr、387位にGlu、388位にTrp、389位にAla、413位にThr、415位にGlu、416位にGlu、及び421位にPheを含みかつ配列番号101の配列に対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含むBBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドであり得ると同時に、このFcポリペプチド二量体の他方のFcポリペプチドは、野生型Fcポリペプチド(例えば、配列番号95)の配列を有し得る。
【0170】
いくつかの実施形態では、このBBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドは、配列番号101の配列を有する。本明細書に記載の抗体のいくつかの実施形態では、このFcポリペプチド二量体の2つのFcポリペプチドの一方は、配列番号101の配列を有するBBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドであり得ると同時に、このFcポリペプチド二量体の他方のFcポリペプチドは、野生型Fcポリペプチド(例えば、配列番号95)の配列を有し得る。本明細書に記載の抗体の他の実施形態では、このFcポリペプチド二量体のFcポリペプチドは両方とも、配列番号101の配列を有するBBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドであってもよい。
【0171】
いくつかの実施形態では、BBB(例えば、TfR)受容体結合Fcポリペプチドは、以下の表Aに列挙される以下の置換(EUナンバリングによる)を含む。
【0172】
【0173】
ヘテロ二量体化のためのFcポリペプチド修飾
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の任意の抗体に存在するFcポリペプチドは、ノブ及びホールの変異を含んで、ヘテロ二量体形成を促進し、ホモ二量体形成を妨げる。一般に、この修飾は、突起が空洞内に配置されてヘテロ二量体形成を促進し、ひいてはホモ二量体形成を妨げることができるように、第1のポリペプチドの界面で突起(「ノブ」)を導入し、第2のポリペプチドの界面で対応する空洞(「ホール」)を導入する。突起は、第1のポリペプチドの界面の小さいアミノ酸側鎖をより大きな側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)で置き換えることによって構築される。この突起と等しいまたは同様のサイズの埋め合わせとなる空洞は、第2のポリペプチドの界面に、大きなアミノ酸側鎖をより小さいもの(例えば、アラニンまたはトレオニン)と置き換えることによって形成される。いくつかの実施形態では、かかるさらなる変異は、BBB受容体、例えば、TfRへのこのポリペプチドの結合に悪影響を与えないFcポリペプチドの位置である。
【0174】
二量体化のためのノブ・アンド・ホールアプローチの例示的な一実施形態では、抗体に存在するFcポリペプチドのうちの一方の366位(EUナンバリングスキームに従ってナンバリングした)は、天然のトレオニンの代わりにトリプトファンを含む。この二量体の他方のFcポリペプチドは、407位(EUナンバリングスキームに従ってナンバリングされる)に天然のチロシンの代わりにバリンを有する。他方のFcポリペプチドはさらに置換を含んでよく、この場合、366位(EUナンバリングスキームに従ってナンバリングされる)の天然のトレオニンがセリンで置換され、368位(EUナンバリングスキームに従ってナンバリングされる)の天然のロイシンがアラニンで置換される。したがって、本明細書に記載の抗体のFcポリペプチドのうちの一方は、T366Wノブ変異を有し、他方のFcポリペプチドは、Y407V変異を有しており、これは通常、T366S及びL368Aホール変異を伴う。
【0175】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体に存在するFcポリペプチドの一方または両方はまた、ヘテロ二量体化のための他の修飾、例えば、天然に荷電したCH3-CH3界面内の接触残基の静電的操作または疎水性パッチ修飾を含むように操作されてもよい。
【0176】
例えば、いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体は、Fcポリペプチド二量体を含む場合があり、これは、T366Wのノブの変異及び配列番号107の配列に対して少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%)の同一性を有する1つのFcポリペプチドならびにT366S、L368A、及びY407Vのホールの変異ならびに配列番号85の配列に対して少なくとも90%の同一性を有する他のFcポリペプチドを有する。特定の実施形態では、このFcポリペプチド二量体の一方または両方のFcポリペプチドは、TfR結合Fcポリペプチドであり得る。特定の実施形態では、本明細書に記載の抗体は、Fcポリペプチド二量体を含む場合があり、これは、(i)配列番号85の配列を有する第1のFcポリペプチド、及び(ii)配列番号98の配列を有する第2のFcポリペプチド、を有する。特定の実施形態では、本明細書に記載の抗体は、Fcポリペプチド二量体を含む場合があり、これは、(i)配列番号85の配列を有する第1のFcポリペプチド、及び(ii)配列番号102の配列を有する第2のFcポリペプチドを有する。
【0177】
エフェクター機能を調節するためのFcポリペプチド修飾
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の任意の抗体に存在するFcポリペプチドの一方または両方は、TfR結合の際にTfR媒介エフェクター機能を低下させる、すなわち、エフェクター機能を媒介するエフェクター細胞で発現するFc受容体に結合した後、特定の生物学的機能を誘導する能力を低下させる修飾を含み得る。抗体のエフェクター機能の例としては、C1q結合及び補体依存性細胞傷害(CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御、及びB細胞活性化が挙げられるがこれらに限定されない。エフェクター機能は、抗体のクラスによって異なる場合がある。例えば、天然のヒトIgG1及びIgG3抗体は、免疫系細胞に存在する適切なFc受容体に結合するとADCC及びCDC活性を誘発することができ、天然のヒトIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4は、免疫細胞に存在する適切なFc受容体に結合すると、ADCP機能を誘発し得る。
【0178】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体に存在する一方または両方のFcポリペプチドは、TfR媒介エフェクター機能を低下させるか、または除去する修飾を含み得る。TfR媒介エフェクター機能を低下させる例示的なFcポリペプチド変異としては、CH2ドメインにおける、例えば、EUナンバリングスキームに従う234位及び235位での置換が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、いくつかの実施形態では、一方または両方のFcポリペプチドは、234位及び235位にアラニン残基を含んでもよい。したがって、一方または両方のFcポリペプチドは、L234A及びL235A(本明細書では「LALA」とも呼ばれる)置換を有し得る。
【0179】
エフェクター機能を調節するさらなるFcポリペプチドの変異としては、以下が挙げられるがこれに限定されない:329位は、プロリンがグリシン、アラニン、セリン、もしくはアルギニン、または、Fcのプロリン329と、FcγRIIIのトリプトファン残基Trp87及びTrp110との間に形成されるFc/Fcγ受容体界面を破壊するのに十分な大きさのアミノ酸残基で置換される変異を有し得る。さらなる例示的な置換としては、EUナンバリングスキームに従うS228P、E233P、L235E、N297A、N297D、及びP331Sが挙げられる。複数の置換もまた存在する場合がある。例えば、EUナンバリングスキームに従って、ヒトIgG1のFc領域のL234A及びL235A、ヒトIgG1のFc領域のL234A、L235A、及びP329G、ヒトIgG4のFc領域のS228P及びL235E、ヒトIgG1のFc領域のL234A及びG237A、ヒトIgG1のFc領域のL234A、L235A、及びG237A、ヒトIgG2のFc領域のV234A及びG237A、ヒトIgG4のFc領域のL235A、G237A、及びE318A、ならびにヒトIgG4のFc領域のS228P及びL236E。いくつかの実施形態では、一方または両方のFcポリペプチドは、ADCCを調節する1つ以上のアミノ酸置換、例えば、EUナンバリングスキームに従う298、333、及び/または334位での置換を有し得る。いくつかの実施形態では、一方または両方のFcポリペプチドは、EUナンバリングスキームに従って、L234A、L235A、及びP329GまたはP329Sの置換を有し得る。
【0180】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体に存在するFcポリペプチドの一方または両方は、HER2結合の際にHER2媒介エフェクター機能を増強することができる、すなわち、エフェクター機能を媒介するエフェクター細胞で発現するFc受容体に結合した後、特定の生物学的機能を誘導する能力を増強することができる修飾を含んでもよい。抗体エフェクター機能の例は、上記である。HER2媒介エフェクター機能を増強することができる例示的なFcポリペプチド変異としては、CH2ドメインにおける、EUナンバリングスキームに従う、例えば、239位及び/または332位での置換が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、いくつかの実施形態では、一方または両方のFcポリペプチドは、239位にアスパラギン酸及び/または332位にグルタミン酸を含んでもよい。したがって、一方または両方のFcポリペプチドは、EUナンバリングに従って、S239D及び/またはI332Eの置換を有し得る。
【0181】
「cis-LALA」コンフィギュレーション
本明細書に記載の任意の抗体のいくつかの実施形態では、この抗体の2つのFcポリペプチドの一方のみ(Fcポリペプチドの両方ではない)が、TfR結合の際に、TfR媒介エフェクター機能を低下させるように修飾される。他方のFcポリペプチドは、TfR結合部位もエフェクター機能を低下させる修飾も含まない。この2つのFcポリペプチドのうちの一方のみが、TfR結合部位及びTfRに結合する際にFcγR結合を低下させる修飾(例えば、LALA置換)の両方を含み、他方のFcポリペプチドがTfR結合部位もFcγR結合を低下させるいかなる修飾も含まない抗体におけるFcポリペプチド二量体は、cis-LALAコンフィギュレーションを有すると表現される。
【0182】
例えば、いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体は、このcis-LALAコンフィギュレーションを有するFcポリペプチド二量体を含む場合があり、これは、(i)TfR結合部位及びLALA置換の両方、ならびにノブの修飾を有する配列番号86の配列を有する第1のFcポリペプチド、ならびに(ii)配列番号85の配列に対して少なくとも90%の同一性を有する、ホールの修飾のみを有する第2のFcポリペプチド、を有する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体は、このcis-LALAコンフィギュレーションを有するFcポリペプチド二量体を含む場合があり、これは、(i)TfR結合部位及びLALA置換の両方、ならびにノブの修飾を有する配列番号103の配列を有する第1のFcポリペプチド、ならびに(ii)配列番号85の配列に対して少なくとも90%の同一性を有する、ホールの修飾のみを有する第2のFcポリペプチド、を有する。
【0183】
特定の実施形態では、本明細書に記載の抗体は、このcis-LALAコンフィギュレーションを有するFcポリペプチド二量体を含む場合があり、これは、(i)EUナンバリングに従って、234位にAla、235位にAla、366位にTrp、384位にTyr、386位にThr、387位にGlu、388位にTrp、389位にSer、413位にSer、415位にGlu、416位にGlu、及び421位にPheを含み、かつ配列番号86の配列に対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含む、第1のFcポリペプチド、ならびに(ii)EUナンバリングに従って、366位にSer、368位にAla、及び407位にValを含み、かつ配列番号85の配列に対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含む、第2のFcポリペプチドを有する。
【0184】
特定の実施形態では、本明細書に記載の抗体は、このcis-LALAコンフィギュレーションを有するFcポリペプチド二量体を含む場合があり、これは、(i)EUナンバリングに従って、366位にSer、368位にAla、及び407位にValを含み、かつ配列番号85の配列に対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含む、第1のFcポリペプチド、ならびに(ii)EUナンバリングに従って、234位にAla、235位にAla、366位にTrp、384位にTyr、386位にThr、387位にGlu、388位にTrp、389位にSer、413位にSer、415位にGlu、416位にGlu、及び421位にPheを含み、かつ配列番号86の配列に対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含む、第2のFcポリペプチドを有する。
【0185】
特定の実施形態では、本明細書に記載の抗体は、このcis-LALAコンフィギュレーションを有するFcポリペプチド二量体を含む場合があり、これは、(i)EUナンバリングに従って、234位にAla、235位にAla、366位にTrp、384位にTyr、386位にThr、387位にGlu、388位にTrp、389位にAla、413位にThr、415位にGlu、416位にGlu、及び421位にPheを含み、かつ配列番号103の配列に対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含む、第1のFcポリペプチド、ならびに(ii)EUナンバリングに従って、366位にSer、368位にAla、及び407位にValを含み、かつ配列番号85の配列に対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含む、第2のFcポリペプチドを有する。
【0186】
特定の実施形態では、本明細書に記載の抗体は、このcis-LALAコンフィギュレーションを有するFcポリペプチド二量体を含む場合があり、これは、(i)EUナンバリングに従って、366位にSer、368位にAla、及び407位にValを含み、かつ配列番号85の配列に対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含む、第1のFcポリペプチド、ならびに(ii)EUナンバリングに従って、234位にAla、235位にAla、366位にTrp、384位にTyr、386位にThr、387位にGlu、388位にTrp、389位にAla、413位にThr、415位にGlu、416位にGlu、及び421位にPheを含み、かつ配列番号103の配列に対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含む、第2のFcポリペプチドを有する。
【0187】
血清半減期を延長するためのFcポリペプチド修飾
いくつかの実施形態では、血清半減期を延長するための修飾が、本明細書に記載の任意の抗体に導入され得る。例えば、いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体に存在する一方または両方のFcポリペプチドは、EUナンバリングスキームに従ってナンバリングした252位にチロシン、254位にトレオニン及び256位にグルタミン酸を含んでもよい。したがって、一方または両方のFcポリペプチドは、M252Y、S254T、及びT256Eの置換を有し得る。あるいは、一方または両方のFcポリペプチドは、EUナンバリングスキームに従ってナンバリングしたM428L及びN434Sの置換を有し得る。代替的に、一方または両方のFcポリペプチドは、N434SまたはN434Aの置換を有し得る。
【0188】
C末端リジン残基が除去されたFcポリペプチド
本明細書に記載の抗体のいくつかの実施形態では、このFcポリペプチドの一方または両方は、そのC末端のリジン(例えば、EUナンバリングに従って、このFcポリペプチドの447位のLys残基)が除去されてもよい。このC末端のリジン残基は多くの種にわたる免疫グロブリンで高度に保存されており、タンパク質産生の過程で細胞機構によって完全にまたは部分的に除去される場合がある。いくつかの実施形態では、このFcポリペプチドのC末端のリジンの除去により、この抗体の安定性が改善され得る。
【0189】
V.抗体の調製
本明細書に記載の抗体の調製については、当技術分野で公知の多くの技術を使用し得る。いくつかの実施形態では、目的の抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子は、細胞、例えば、ハイブリドーマからクローニングし得る。モノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子ライブラリも、ハイブリドーマまたは形質細胞から作成することができる。別の方法として、ファージまたは酵母提示技術を用いて、選択された抗原に特異的に結合する抗体及びFab断片を特定し得る。
【0190】
抗体は、原核生物発現系及び真核生物発現系を含む、任意数の発現系を使用して産生され得る。いくつかの実施形態では、この発現系は、哺乳類細胞の発現系、例えば、ハイブリドーマ、またはCHO細胞の発現系である。多くのかかる系が商業的な業者から広く入手可能である。いくつかの実施形態では、この抗体を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、単一のベクターを用いて、例えば、ジシストロニックな発現単位で、または、異なるプロモーターの制御下で発現され得る。他の実施形態では、この抗体を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、別々のベクターを用いて発現され得る。
【0191】
いくつかの態様では、本開示は、本明細書に記載の抗体を含むポリペプチドのいずれかをコードする核酸配列を含む単離された核酸、かかる核酸を含むベクター、ならびに核酸の複製及び/または抗体の発現に使用される核酸が導入された宿主細胞を提供する。
【0192】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチド(例えば、単離されたポリヌクレオチド)は、本明細書に開示する抗体(例えば、上記セクションIIIに記載されているもの)を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、このポリヌクレオチドは、以下の非公式配列表に開示する1つ以上のアミノ酸配列(例えば、重鎖配列、軽鎖配列及び/またはFcポリペプチド配列)をコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、このポリヌクレオチドは、以下の非公式配列表に開示する配列に対して少なくとも85%の配列同一性(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性)を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリヌクレオチドは、異種核酸、例えば、異種プロモーターに作動可能に連結される。
【0193】
本開示の抗体、またはその断片をコードするポリヌクレオチドを含む適切なベクターとしては、クローニングベクター及び発現ベクターが挙げられる。選択されるクローニングベクターは、使用される予定の宿主細胞によって異なり得るが、有用なクローニングベクターは一般に、自己複製する能力を有し、特定の制限エンドヌクレアーゼに対する単一の標的を有することがあり、及び/またはこのベクターを含むクローンの選択に使用することができるマーカーの遺伝子を有することがある。例としては、プラスミド及び細菌ウイルス、例えば、pUC18、pUC19、Bluescript(例えば、pBS SK+)及びその誘導体、mpl8、mpl9、pBR322、pMB9、ColE1、pCR1、RP4、ファージDNA、ならびにシャトルベクター、例えば、pSA3及びpAT28が挙げられる。これら及び他の多くのクローニングベクターは、BioRad、Strategene、及びInvitrogen等の商業的業者から入手可能である。
【0194】
発現ベクターは一般に、本開示の核酸を含む複製可能なポリヌクレオチド構築物である。この発現ベクターは、宿主細胞において、エピソームとして、または染色体DNAの不可欠な部分として複製し得る。適切な発現ベクターとしては、限定されないが、プラスミド、ウイルスベクターが挙げられ、これにはアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、及び任意の他のベクターが含まれる。
【0195】
本明細書に記載のポリヌクレオチドまたはベクターをクローニングまたは発現するために適切な宿主細胞としては、原核細胞または真核細胞が挙げられる。いくつかの実施形態では、この宿主細胞は、原核細胞である。いくつかの実施形態では、この宿主細胞は、真核細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはリンパ系細胞である。いくつかの実施形態では、この宿主細胞は、ヒト細胞、例えば、ヒト胎児腎臓(HEK)細胞である。
【0196】
別の態様では、本明細書に記載の抗体を作製する方法が提供される。いくつかの実施形態では、本方法は、抗体の発現に適した条件下で本明細書に記載の宿主細胞(例えば、本明細書に記載のポリヌクレオチドまたはベクターを発現する宿主細胞)を培養することを含む。いくつかの実施形態では、抗体は、その後宿主細胞(または宿主細胞培養培地)から回収される。いくつかの実施形態では、この抗体は、例えば、クロマトグラフィーによって精製される。
【0197】
VI.治療方法
いくつかの態様では、本明細書に提供するのは、対象に対して、治療有効量の本明細書に記載の任意の抗体またはその医薬組成物を投与することによる、対象におけるがん(例えば、HER2陽性がん)を処置するまたはがん(例えば、HER2陽性がん)の脳転移を処置するための方法である。同様に本明細書に提供するのは、内皮を横切ってHER2(例えば、ヒトHER2)またはその抗原結合断片に結合することができる抗体可変領域のトランスサイトーシスの方法である。いくつかの実施形態では、この方法は、この内皮を、本明細書に記載の抗体を含む組成物と接触させることを含む。いくつかの実施形態では、この内皮は、血液脳関門(BBB)である。
【0198】
本明細書に提供する方法に従って処置され得るHER2陽性がんの非限定的な例としては、HER2陽性乳がん、卵巣がん、膀胱がん、唾液腺がん、子宮内膜がん、膵臓がん、及び非小細胞肺がん(NSCLC)、ならびにHER2陽性胃腺癌及び/またはHER2陽性食道胃接合部腺癌が挙げられる。いくつかの実施形態では、このHER2陽性がんは、HER2陽性乳がんである。いくつかの実施形態では、このHER2陽性がんは、HER2陽性胃腺癌及び/またはHER2陽性食道胃接合部腺癌である。いくつかの実施形態では、このHER2陽性がんは、転移性がんである。
【0199】
さらに他の態様では、本明細書に提供するのは、がん(例えば、HER2陽性がん)の転移を処置するための方法である。いくつかの実施形態では、この方法は、本明細書に記載の治療有効量の抗体をこの対象に投与することを含む。いくつかの実施形態では、この転移は、上記のHER2陽性がんの脳転移である。いくつかの実施形態では、この転移は、HER2陽性乳がんの脳転移である。いくつかの実施形態では、この転移は、HER2陽性胃腺癌及び/またはHER2陽性食道胃接合部腺癌の脳転移である。
【0200】
いくつかの実施形態では、その治療的有用性は、腫瘍増殖の減少もしくは減速、腫瘍サイズ(例えば、体積)の減少、腫瘍細胞生存率の減少、転移性病変の数の減少、がん(例えば、HER2陽性がん)の1つ以上の徴候もしくは症状の改善、及び/または患者の生存率の増大を含み得る。いくつかの実施形態では、腫瘍細胞生存率、腫瘍増殖、腫瘍サイズ、及び/または転移性病変の数は、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、またはそれ以上減少する。
【0201】
いくつかの実施形態では、この抗体は、HER2活性に拮抗する。いくつかの実施形態では、HER2活性は阻害される(例えば、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、またはそれ以上)。
【0202】
本明細書に記載の抗体の投与経路は、経口、腹腔内、経皮、皮下、静脈内、筋肉内、髄腔内、吸入、局所、病巣内、直腸、気管支内、経鼻、経粘膜、腸内、眼もしくは耳への送達、または当該技術分野で公知の他の任意の方法であり得る。いくつかの実施形態では、抗体は、経口投与、静脈内投与、または腹腔内投与される。
【0203】
VII.医薬組成物及びキット
他の態様では、本開示による抗体を含む医薬組成物及びキットが提供される。
【0204】
医薬組成物
本開示に使用するための製剤を調製するための指針は、当業者に公知の医薬品及び製剤についての多くのハンドブックに見出だすことができる。
【0205】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、本明細書に記載の抗体を含み、1つ以上の薬学的に許容可能な担体及び/または賦形剤をさらに含む。医薬的に許容される担体としては、任意の溶媒、分散媒、またはコーティングが挙げられ、これらは、当該活性薬剤と生理学的に適合し、該活性薬剤の活性を妨害しないか、または阻害しない。
【0206】
いくつかの実施形態では、この抗体は、注射による非経口投与用に製剤化され得る。通常、インビボ投与に使用する医薬組成物は、例えば、加熱滅菌、蒸気滅菌、滅菌濾過、または照射滅菌等の無菌である。
【0207】
本明細書に記載の医薬組成物の用量及び所望の薬物濃度は、想定される特定の使用に応じて異なり得る。
【0208】
キット
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体を含む、がん(例えば、HER2陽性がん)の処置に使用するためのキットを提供する。いくつかの実施形態では、このキットはさらに、1つ以上のさらなる治療薬を含む。例えば、いくつかの実施形態では、このキットは、本明細書に記載の抗体を含み、さらに、がんの処置に使用するための1つ以上のさらなる治療剤を含む。いくつかの実施形態では、このキットはさらに、本明細書に記載の方法を実施するための指示(すなわち、プロトコル)を含む説明資料(例えば、抗体を投与するためのキットの使用説明書)を備える。この説明資料は通常、書かれた資料または印刷物を含むが、それに限定されない。そのような説明書を保管することができ、それらをエンドユーザーに伝達することができる任意の媒体が、本開示により企図される。そのような媒体としては、電子記憶媒体(例えば、磁気ディスク、磁気テープ、磁気カートリッジ、磁気チップ)、光学媒体(例えば、CD-ROM)などが挙げられるが、これらに限定されない。かかる媒体は、かかる説明資料を提供するインターネットサイトのアドレスを含む場合がある。
【実施例】
【0209】
VIII.実施例
本発明を、具体例を通してより詳細に説明する。以下の実施例は、例示の目的で提供するに過ぎず、いかなる方法によっても本発明を限定することを意図するものではない。
【0210】
実施例1.抗HER2二重特異性抗体の生成
組換え二重特異性抗体バリアントの発現及び精製
(i)TfR結合部位及びノブ(T366W)変異を含む重鎖ポリペプチド、(ii)ホール(T366S/L368A/Y407V)変異を含む重鎖ポリペプチド、及び(iii)表2の組み合わせによる軽鎖、からなる発現プラスミドは、Expi293細胞またはExpiCHO細胞に同時トランスフェクトされる。続いて、上清をプロテインAカラム(GE Mab Select SuRe)にロードすることにより、組換え二重特異性抗体バリアントを馴化培地から精製する。そのカラムを、10カラム容量のPBS、pH7.4で洗浄する。そのタンパク質を、150mMのNaClを含む50mMのクエン酸ナトリウム、pH3.0で溶出し、直ちに200mMのアルギニン、137mMのコハク酸、pH5.0で中和した。このタンパク質を、サイズ排除クロマトグラフィー(GE Superdex200)により、200mMのアルギニン、137mMのコハク酸、pH5.0をランニング緩衝液として使用してさらに精製する。精製したタンパク質を、インタクトマスLC/MSで確認し、95%を超える純度を、SDS-PAGE及び分析用HPLC-SECで確認する。
【0211】
重鎖ポリペプチドは、C末端リジン残基が除去されるように、細胞培養生産中にさらに処理され得る。したがって、表2に列挙される二重特異性抗体は、プロセシングされていない(すなわち、C末端リジン残基を含む)重鎖を含むタンパク質分子;プロセシングされた(すなわち、C末端のリジン残基が存在しない)1つ以上の重鎖を含むタンパク質分子;または、プロセシングされた重鎖及び/またはプロセシングされてない重鎖を有するタンパク質分子の混合物、を指し得る。
【0212】
実施例2.Biacoreによる抗HER2抗体の評価
操作された抗HER2抗体のHER2細胞外ドメイン(ECD)結合親和性を、Biacore 8K機器を使用するSPRによって測定した。マウス抗ヒト Fab(GE HealthcareのヒトFab捕捉キット)で固定化されたBiacore(商標)シリーズS CM5センサーチップ上に抗体を捕捉し、続いて組換えHER2 ECDの3倍連続希釈液を30μL/分の流量で注入した。各サンプルは、3分間の結合とそれに続く10分間の解離を使用して分析された。各注入後、50mMグリシン(pH2.0)再生緩衝液を使用してセンサーチップを再生した。kon及びkoffの同時フィッティングの1:1Languirモデルを、反応速度分析に用いた。
【0213】
抗HER2_D4軽鎖対照(配列番号87)及び抗HER2_D2軽鎖対照(配列番号94)のコンセンサス配列を分析した。構造解析により、91位のY残基は、効率的なHER2 D4結合のためのCDRループの構造構成に関与しているが、同じ位置のH残基は、HER2 D2結合にはあまり関与していないことが示唆された。91位の単一アミノ酸置換をスクリーニングした後、この位置のY及びF残基をさらなる試験のために選択した。
【0214】
親和性成熟抗HER2軽鎖配列(配列番号9及び10)を、HER2結合KD測定のために、抗HER2_D2重鎖対照(配列番号92)及び抗HER2_D4重鎖対照(配列番号93)と対にした。結果を表7に示す。
【0215】
【0216】
配列番号9及び10の軽鎖は、抗HER2_D2及びD4重鎖対照の両方と対にした場合、HER2結合を示した。配列番号9及び10の軽鎖は、抗HER2_D2重鎖対照と対にした場合、抗HER2_D2軽鎖対照(2.9KD)と比較して、より低いHER2結合親和性(それぞれ13KD及び14KD)を示した。対照的に、配列番号9及び10の軽鎖は、抗HER2_D4重鎖対照と対にした場合、抗HER2_D4軽鎖対照(3KD)と比較して、より高いHER2結合親和性(それぞれ1.5KD及び1.7KD)を示した。
【0217】
抗HER2_D2重鎖対照(配列番号92)のCDR H1、H2、またはH3における13個のアミノ酸位置は、構造分析に基づいて選択された。選択された残基をランダム化し、HER2 ECDドメインII結合が改善された単一アミノ酸置換バリアントを見出した。これらの単一点変異を有する抗体を、抗HER2_D4軽鎖対照(配列番号87)と組み合わせてExpi293細胞で発現させ、細胞培養上清中の抗体を、SPRを使用して組換えHER2 ECD結合についてスクリーニングした。改良されたHER2 ECDドメインIIを有するバリアントを選択し、Expi293細胞において配列番号10の軽鎖とともに発現させ、さらなるSPR結合評価のために精製した。
【0218】
配列番号1~2及び60~70のVH領域を含む親和性成熟抗HER2_D2重鎖配列を、HER2結合KD測定のために抗HER2_D4軽鎖対照(配列番号87)と対にした。結果を表8に示す。
【0219】
【0220】
抗HER2_D4軽鎖対照(配列番号87)と対になった配列番号1~2及び60~70のVH領域を含む親和性成熟抗HER2_D2重鎖配列は、HER2結合を示し、すべてが抗HER2_D2重鎖対照と比較してHER2結合の向上を示した。
【0221】
親和性成熟抗HER2軽鎖配列(配列番号10)を、HER2結合KD測定のために、配列番号1~3のVH領域を含む親和性成熟抗HER2_D2重鎖配列と対にした。結果を表9に示す。
【0222】
【0223】
配列番号1~3のVH領域を含む親和性成熟抗HER2_D2重鎖配列と対になった配列番号10の軽鎖は、改善されたHER2結合親和性(それぞれ4.2、6.2、2.1KD)を示した。上記で考察し、表7に示すように、抗HER2_D2重鎖対照と対になった抗HER2_D2軽鎖対照軽鎖は、2.9KDのHER2結合親和性を有した。したがって、配列番号3のVH領域を含む親和性成熟抗HER2_D2重鎖配列と対になった配列番号10の軽鎖は、対照よりも高い親和性でHER2に結合する。
【0224】
実施例3.抗HER2二重特異性抗体のインビトロADCC/ADCP
ヒトADCCレポーターバイオアッセイ、Vバリアントキット(Promega G7018)を使用して、ヒトFcγRIIIaの活性化を評価し、一方でヒトFcgRIIa ADCPレポーターバイオアッセイキット(Promega G9995)を使用して表10の組み合わせによる二重特異性抗体のヒトFcγRIIaレポーターの活性化を測定した。キットには、以下に説明するすべての構成要素が含まれている。HER2及びTfRの発現レベルが異なるいくつかの細胞株を試験した。細胞SKBR3(ATCC HTB-30)、ZR-75-30(ATCC CRL-1504)、BT-474(ATCC HTB-20)、OE-19(Sigma 96071721)、CHO-KI+HumanTfR(ChemPartner CRO agreement)を、10%FBS(Hycloneウシ血清SH30080.03)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Life Technologies 15140-122)を補充したRPMI(Liffe Technologies 61870-036)中で対数期まで培養し、PBSで2回洗浄し、10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したRPMI中1.0×106細胞/mLで再懸濁した。白色の96ウェル高結合Nuncプレート(ThermoFisher)を、50,000細胞/ウェルを含む培地25μLでコーティングした。
【0225】
抗体のタイトレーションは、4%低IgG血清を含むRPMI中で調製し、細胞をオプソニン化するためにウェル当たり25μlをプレートに添加し、次いでカバーして、37℃、5%CO2で30分間インキュベートした。抗体オプソニン化中、3.5mLの培地を37℃に予熱し、FcγRレポーター細胞を反転せずに37℃のウォーターバスで素早く解凍し、15mLコニカルチューブ内の予熱した培地に穏やかに混合しながら加えた。30分間のオプソニン化後、FcγRレポーター細胞株を各プレートにウェル当たり25μlで添加し、6時間(SKBR3、ZR-75-30、BT-474のhFcγRIIIa及びhFcγRIIaの活性化)または16時間(CHO-KI+huTfRのhFcγRIIIa及びhFcγRIIa)を37℃、5%CO2でインキュベートした。インキュベーション後、プレートを室温に順応させ、ウェル当たり75μLのBio-Gloルシフェラーゼ基質懸濁液(Promega)を添加し、Perkin Elmer Envisionリーダーで発光を測定した。結果を表11に示す。
【0226】
【0227】
【0228】
目的は、対照及び/またはFc1と比較してTfR媒介ADCCを増大させず、また対照と同等のレベルのHER2媒介ADCC及び/またはFc1と比較して改善されたHER2媒介ADCCレベルを有するFcバリアントを開発することであった。上記の表11に示すように、Fc1、Fc41、Fc5、Fc45、Fc42、Fc52、Fc44、Fc50、Fc68、Fc7、Fc8、Fc2、Fc34、及びFc4はすべて、TfR過剰発現CHO細胞において対照と同等のレベルのTfR媒介ADCCを有していた。Fc50及びFc52は、TfR媒介ADCC活性化を増大させることなく、試験したすべてのHER2過剰発現細胞株にわたって最高レベルのHER2媒介ADCCを示した。
【0229】
HER2過剰発現細胞株、すなわち、OE19、ZR-75-30、及びSKBR3にわたる対照と比較した、Fc1、Fc41、Fc5、Fc45、Fc42、Fc52、Fc44、及びFc50バリアントのADCPレベルも表11に示す。
【0230】
実施例4.抗HER2二重特異性抗体のインビトロ増殖阻害
増殖阻害アッセイを使用して、異なる抗体で異なる期間処置した後の細胞の生存率を測定した。HER2及びTfRの発現レベルが異なるいくつかの細胞株を試験した。細胞SKBR3(ATCC HTB-30)、ZR-75-30(ATCC CRL-1504)、BT-474(ATCC HTB-20)、OE-19(Sigma 96071721)、CHO-KI+HumanTfR(ChemPartner CRO agreement)を、10%FBS(Hyclone Bovine血清SH30080.03)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Life Technologies 15140-122)を補充したRPMI(Life Technologies 61870-036)中で対数期まで培養した。PBSで洗浄した後、細胞を10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したRPMI中に1.0×105細胞/mLで再懸濁した。黒色ポリ-D-リジンプレート(Corning 354640)を、10,000細胞/ウェルを含む100μlの細胞培養培地でコーティングした。プレートを37℃、5%CO2インキュベーター内で24時間インキュベートした。
【0231】
抗体のタイトレーションは、10%FBS血清及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI中で調製した。抗体を、各プレートにウェル当たり65μlで添加し、次いでカバーして37℃、5%CO2で72時間(OE-19細胞株のみ)インキュベートした。BT-474及びZR-75-30細胞株の場合、72時間後にさらに65μlの抗体を添加し、37℃、5%CO2でさらに72時間インキュベートした。
【0232】
7日目に、細胞増殖を、50μLの増殖培地において5μLのWST-1試薬(Sigma Aldrich)を使用して測定した。このプレートをWST-1試薬の存在下で4時間インキュベートし、440nmの吸光度を測定した。増殖阻害/増殖のパーセントを、A440nMに基づいて算出し、未処置の対照に対して正規化した。
【0233】
表12の異なる抗体についてのZR-75-30細胞に対する増殖阻害アッセイの結果、ならびにIC50及び最大%増殖阻害値を、
図2に示す。二重特異性抗体#2、#3、#4、及び#5のそれぞれは、対照と比較してEC50値/有効性の向上を示した。二重特異性抗体#4及び5は、対照と同等の最大%の増殖阻害/有効性を示した。
【0234】
【0235】
実施例5.ATV:CLC二重特異性抗体を用いたインビボ異種移植片研究
2つのヒトHER2+細胞株を使用して、免疫不全(NOD/SCID)マウスの皮下異種移植モデルにおけるATV:CLC二重特異性抗体#1の応答を評価した。購入及び説明書に従って調製するか、及び/またはさらにPBSもしくは生理食塩水で希釈したトラスツズマブ(Clinical Herceptin)及びペルツズマブ(Clinical Perjeta)を除き、すべての分子は同じ配合緩衝液(10mM酢酸ナトリウム、6%スクロース、pH5.5)またはPBS/生理食塩水で調製した。
【0236】
【0237】
BT-474乳がん細胞株由来異種移植片(CDX)モデルについては、雌性NSG(NOD scidガンマ)マウス(6~7週齢)の腋窩にBT-474細胞を皮下注射し、腫瘍の体積が100~200mm3のとき、接種6日後で処置を開始した。マウスは、平均腫瘍体積に基づいて処置群に無作為に割り当てられ、1群当たりn=11匹のマウスであった。40+40mg/kgのトラスツズマブとペルツズマブの併用処置、または80mg/kgのATV:CLC二重特異性抗体#1を腹腔内(IP)注射によって投与した。腫瘍体積は、キャリパーを使用して週に3回測定した。
【0238】
比較的トラスツズマブ感受性のBT-474異種移植片モデルにおいて、ATV:CLC二重特異性抗体#1は、単回投与後にトラスツズマブ及びペルツズマブと比較して同等の腫瘍増殖阻害を示し、21日後の処置群全体で腫瘍が完全に退縮した(
図3A)。
【0239】
OE19胃食道接合部CDXモデルについては、雌性NOD/SCIDマウス(6~8週齢)の右上脇腹領域にOE19細胞を皮下注射し、接種後1週間、腫瘍が100~200mm3の間の体積にあるときに処置を開始した。マウスは、対応する分布/階層化方法に基づいて、1群当たりn=11匹のマウスで処置群に無作為に割り当てた。50+50mg/kgのATV:トラスツズマブ及びATV:ペルツズマブの併用処置または100mg/kgのATV:CLC二重特異性抗体#1をIP注射により投与した。腫瘍体積は、キャリパーを使用して週に3回測定した。
【0240】
トラスツズマブ及びペルツズマブの併用処置に対して相対的な耐性を示すOE19異種移植モデルでは、ATV:CLC二重特異性抗体#1及びATVcis-LALA:トラスツズマブとATVcis-LALA:ペルツズマブの併用は両方とも、対照群と比較して有意な腫瘍増殖遅延を示した(
図3B)。すべての群は、1群当たりn=11匹のマウスから開始する。グラフ上の数字は、動物のサブセットが人道的エンドポイントに到達した後に対照群に残った動物の数を表す。17日目に、ATV組み合わせ(combo)群で1頭の動物が明らかな原因なく死亡しているのが発見された。ATV:トラスツズマブ及びATV:ペルツズマブは、TfR(「TV」)及びcis-LALA変異に結合するFc修飾を含むトラスツズマブ及びペルツズマブ抗体である。これらのin vivo結果は、TfR結合Fc修飾を欠く抗HER2分子と比較して、OE19細胞株におけるATV:HER2(TVを含む抗HER2分子)の効力の増大と最大効果の増大を実証したin vitro増殖阻害データと一致している。
【0241】
フォローアップの低用量研究では、TfR結合の効果を研究するために、ATV:CLC二重特異性抗体#1を、ATV:CLC二重特異性抗体#1と同一のFabを有するが、TfR結合Fc修飾を欠くCLC二重特異性抗体対照と比較した。BT-474乳がんCDXモデルでは、腫瘍接種の1日前に雌性NOD/SCIDマウス(6~8週齢)にエストロゲンペレット(0.36mg、17B-エストラジオール、60日ペレット)を移植した。次いで、BT-474細胞を乳房脂肪体に皮下注射し、接種8日後、腫瘍の体積が100~200mm3になったときに処置を開始した。マウスは、対応する分布/階層化方法に基づいて、1群当たりn=11匹のマウスで処置群に無作為に割り当てた。腫瘍体積は、キャリパーを使用して週に2回測定した。
【0242】
単回20mg/kg用量のATV:CLC二重特異性抗体#1を腹腔内投与すると、感受性BT-474異種移植モデルにおいて、CLC二重特異性抗体対照(TfR結合なし)と同様の腫瘍増殖遅延が示された(
図4A)。ATV:CLC二重特異性抗体#1は、CLC二重特異性抗体対照と比較して、20mg/kgの等用量でより耐性の高いOE19異種移植モデルにおいて応答の改善を示し、4倍低い用量(5mg/kg)で同等の抗腫瘍応答を示した(
図4B)。
【0243】
さらなる架橋研究において、ATV:CLC二重特異性抗体#1及び#2を複数用量異種移植研究において比較した。BT-474モデルでは、マウス(各群n=11)にIP経由でQ1W投与した、すなわち、マウスに1週間に1回の用量を3週間投与した。ATV:CLC二重特異性抗体#1及びATV:CLC二重特異性抗体#2は、腫瘍増殖の同等の阻害及び遅延を示した(
図5A)。さらに、同じ群に毎日50mg/kgのツカチニブを組み合わせて21日間経口投与したが、ATV:CLC二重特異性抗体#1または#2ではさらなる改善は見られなかった。
【0244】
最後に、ATV:CLC二重特異性抗体#2、ATV:CLC二重特異性抗体#3(追加のFc修飾、例えば、P329S、I332E、及びS239Dを含む)のFc改変バリアントをまた、複数回投与OE19異種移植片研究においてTfR結合を欠く抗HER2分子とも比較した。マウスにIP経由でQ2W投与した、すなわち、マウスに2週間ごとに1回の投与を6週間投与した。ATV:CLC二重特異性抗体#3は、トラスツズマブとペルツズマブの組み合わせ、またはCLC二重特異性抗体対照と比較して、腫瘍増殖遅延の増大及び生存の増大を示した(
図5B)。すべての群は、1群当たりn=11匹のマウスから開始する。グラフ上の数字は、動物のサブセットが人道的エンドポイントに到達した後に群に残った動物の数を表す。
【0245】
実施例6.ATV:CLC二重特異性抗体の脳への取り込み及び分布
TfRmu/huKIマウス(例えば、国際公開第WO2018/152285号を参照)に、CLC二重特異性抗体対照またはATV:CLC二重特異性抗体#3の単回25mg/kgのIV用量を投与した(n=4/群)。生前血液を30分及び6時間で採取し、終末期血液及び新鮮凍結脳を投与後1、4、7、及び10日目に採取して、血漿及び脳溶解物中のhuIgG濃度をELISAによって評価した。
【0246】
TfR
mu/huKIマウスにおける二重特異性CLC二重特異性抗体対照またはATV:CLC二重特異性抗体#3の単回投与後に血漿及び脳濃度を測定した。ATV:CLC二重特異性抗体#3の脳濃度は、CLC二重特異性抗体対照と比較して、投与後24時間で約6.5倍高かった(
図6)。これは、TfRを介したATV分子の脳送達を示している。同様に、経時的研究では、ATV:CLC二重特異性抗体#2、#3、及び#7は、IV投与後24時間で約4~5倍高い脳内濃度を示し、4日後には最大約2倍高い脳内濃度を示した。
【0247】
さらに、脳内に投与された分子の免疫組織化学を行った。動物当たり1つの新鮮な脳半球を免疫組織化学のために4℃で約24時間浸漬固定し、その後スクロース中で凍結保護し、凍結ミクロトームで切片にした。各動物の冠状脳切片(40μm)を選択し、ブロッキング緩衝液(PBS中に1%のBSA+1×魚ゼラチン+0.5%Triton X-100+0.01%アジ化ナトリウム)中で、室温で3時間インキュベートすることによって染色した。次いで、一次/二次抗体(NeuN、Abcam、ab177487及びロバ抗huIgG、Jackson、709-606-149)を含む希釈緩衝液(1%BSA+0.3%Triton X-100+0.01%アジ化ナトリウムを含むPBS)中で切片を4℃で一晩インキュベートし、0.3%Triton X-100を含むPBSで各15分間3回洗浄し、二次抗体(ロバ抗ウサギ、Invitrogen、A21206)及びDAPI(5μg/mL、Invitrogen、D1306)を含む希釈緩衝液中で3時間インキュベートし、0.3%Triton X-100を含むPBSで各15分間3回洗浄し、その後、Prolong Glass(Invitrogen、P36984)でマウント及びカバースリッピングを行った。Leica SP8共焦点顕微鏡を使用して20倍の倍率でスライドを画像化し、Imarisを使用してセグメント化と視覚化を実行した。
【0248】
投与された分子のhuIgG骨格の免疫組織化学により、ATV:CLC二重特異性抗体#3が正常脳全体に広範囲に分布し、実質内の拡散シグナルとともに血管及びNeuN+ニューロン内に局在していることが明らかになった(
図7A)。対照的に、CLC二重特異性抗体対照は、脳組織内への限られた侵入または分布を示した(
図7B)。これは、非TV抗HER2分子、すなわち、TfR結合を持たない分子で観察された有意に低い脳内濃度と一致している。同様の結果、すなわち、血管及び神経/実質局在が、ATV:CLC二重特異性抗体#2及びATV:CLC二重特異性抗体#7で観察された。
【0249】
実施例7.カニクイザルにおけるATV:CLC二重特異性抗体の血漿PK
全身クリアランスに対するFc修飾の影響を評価するために、Fc修飾バリアントを比較した。TV35.23.4(すなわち、CH3C.35.23.4)は、カニクイザル交差反応性を持たない、すなわち、カニクイザルTfRに結合しないので、TV35.23.4の代わりにTV35.21を含む二重特異性HER2 ATV(上記の表AのCH3C.35.21を参照)を使用した。以下の表14に示すように、これらの分子は、上記のマウス研究で使用したATV:CLC二重特異性抗体#2、#3、及び#7と同じFabを使用する。
【0250】
ATV:CLC二重特異性抗体#4、#5、及び#6をClinical Herceptin(臨床ハーセプチン)(トラスツズマブ)と比較し、雌性カニクイザルにおける単回50mg/kg静脈内投与後の様々な時点でhuIgGの血清濃度を測定した(n=3/群)。
【0251】
【0252】
すべてのATV:HER2分子は、TfR媒介クリアランスに起因して予想されるように、ハーセプチン(トラスツズマブ)と比較して、体循環からのより迅速なクリアランスを示した(
図8)。
【0253】
実施例8.NK細胞における抗HER2二重特異性抗体のインビトロADCC/ADCP
細胞ベースの抗体依存性細胞傷害性(ADCC)アッセイを使用して、異なるFc変異体に対するFcガンマ受容体結合親和性の差異が、単離されたヒトNK細胞を使用したHER2媒介腫瘍細胞またはTfR媒介細胞死滅に影響を与えるか否かを評価した。
【0254】
NK細胞を全血から単離し、ヒトFcγRIIIaの活性化を評価するために使用した。Trizmaで採血した。細胞は、RosetteSepヒトNK細胞濃縮プロトコル(Stemcell 15065)に従って単離した。RosetteSep CocktailをSepMateチューブ内の血液サンプルに加え、室温で15分間放置した。インキュベーション後、サンプルを等量のPBS(Gibco 10010-0310)及び10% FBS(Hyclone Bovine血清SH30080.03)で希釈した。次に、希釈したサンプルを、密度勾配培地 Lymphoprep(Stemcell 07801)に加え、10分間遠心分離する。次いで、濃縮された細胞を収集し、PBSで2回洗浄する。最後に、20ng/mlのIL-21を細胞に添加し、次いで翌日使用するために一晩放置する。
【0255】
HER2及びTfRの発現レベルが異なるいくつかの細胞株を試験した。細胞SKBR3(ATCC HTB-30)及びCHO-KI+HumanTfR(ChemPartner CRO agreement)を、10%FBS(Hycloneウシ血清SH30080.03)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Life Technologies 15140-122)を補充したRPMI(Life Technologies 61870-036)中で対数期まで培養し、PBSで2回洗浄し、10% FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したRPMI中1.0×106細胞/mLで再懸濁した。
【0256】
透明な96ウェル未処置V底プレート(Costar 3897)を、50,000細胞/ウェルを含む25μLの培地でコーティングした。抗体のタイトレーションは、10%FBS血清を含むRPMI中で調製し、細胞をオプソニン化するために1ウェル当たり25μlをプレートに添加し、次いでカバーして、37℃、5%CO2で30分間インキュベートした。抗体のオプソニン化中に、RPMI及び10%FBSを含む培地でNK細胞を1回洗浄した。細胞を計数し、細胞密度として25:1のE:T比を使用した。30分間のオプソニン化後、NK細胞を各プレートに1ウェル当たり25μlで添加し、4時間インキュベートした。インキュベーション後、プレートを室温に順応させ、300xgで5分間遠心沈降させた。50μLの上清を、白色96ウェル透明底プレート(Thermo 165306)に移した。50μlのCytoTox 96(登録商標)アッセイ試薬を、上清を含むプレートの各ウェルに添加した。プレートを光から保護するためにカバーし、室温で30分間インキュベートした。停止液を添加し、プレートリーダーで、490nmで吸光度シグナルを測定する。培養上清中に放出されたLDHを30分間の共役酵素アッセイで測定すると、テトラゾリウム塩(ヨードニトロテトラゾリウムバイオレット;INT)が赤色のホルマザン生成物に変換される。形成される色の量は、溶解した細胞の数に比例する。
【0257】
興味深いことに、HER2を発現する腫瘍細胞に対するこのアッセイにおいて、cis-LALA修飾は、効力のわずかな減少を示す曲線のわずかな右方向へのシフトのみをもたらしたが、非TV抗HER2二重特異性、すなわち、CLC二重特異性抗体対照#2及びトラスツズマブと比較して、細胞殺滅の同等の最大効果が観察された(
図9)。
【0258】
cis-LALAまたはさらなるFc変異を有するTfR発現(HER2-)細胞については、細胞死滅は観察されず、これらの分子がTfR発現細胞に悪影響を及ぼさないことが示唆された。
【0259】
FcgRIIa活性化を測定するためのADCPレポーターアッセイはまた、ATV:CLC二重特異性#2及びFcバリアント(ATV:CLC二重特異性#3及び#7)が互いに同様の受容体活性化を示し、これはトラスツズマブよりも大きく、CLC二重特異性抗体対照#2よりわずかに低いことを示した。
【0260】
実施例9.ATV:CLC二重特異性抗体のFcgR結合アッセイ
操作された抗HER2抗体のFcガンマ受容体結合親和性を、Biacore 8K機器を使用するSPRによって測定した。ビオチン化組換えFcガンマ受容体をBiacore(商標)シリーズSAセンサーチップ上に捕捉し、続いてFc操作抗Her2抗体の3倍連続希釈液を30μL/分の流速で注入した。各サンプルは、抗体濃度を増大させながら60秒間の注入を5回行い、その後5分間の解離を行って分析した。k on及びk offの同時フィッティングの1:1Languirモデルを反応速度分析に用いた。
【0261】
【0262】
FcgR親和性の増大は、ATV:CLC二重特異性抗体#4及びトラスツズマブと比較して、S239D及びI332Eで操作されたFcバリアント、すなわち、ATV:CLC二重特異性抗体#5及び#6において観察される。しかし、上記のADCCアッセイの結果と併せて考えると、この親和性の増大は、抗体がFab標的、すなわち、HER2に結合している場合にのみ適用され得る。
【0263】
IX.例示的な実施形態
本開示の主題に従って提供される例示的な実施形態としては、限定するものではないが、特許請求の範囲及び以下の実施形態が挙げられる。
【0264】
1.以下:
(a)配列番号89のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号90のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号91のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR3
からなる群から選択される1つ以上の相補性決定領域(CDR)を含む、単離された抗体であって、
以下:
配列番号89のX1は、Tではない;
配列番号89のX2は、Fではない;
配列番号89のX3は、Tではない;
配列番号90のX1は、Nではない;
配列番号90のX2は、Nではない;
配列番号90のX3は、Sではない;
配列番号90のX4は、Gではない;
配列番号90のX5は、Gではない;
配列番号90のX6は、Qではない;
配列番号91のX1は、Lではない;
配列番号91のX2は、Gではない;
配列番号91のX3は、Pではない;及び
配列番号91のX4は、Sではない、
のうちの少なくとも1つである、前記単離された抗体。
【0265】
2.前記重鎖CDR1が、配列番号89のアミノ酸配列を含み、X1がN、K、M、またはHである、実施形態1に記載の単離された抗体。
【0266】
3.前記重鎖CDR2が、配列番号90のアミノ酸配列を含み、X5がQである、実施形態1に記載の単離された抗体。
【0267】
4.前記重鎖CDR2が、配列番号90のアミノ酸配列を含み、X6がR、H、またはTである、実施形態1に記載の単離された抗体。
【0268】
5.前記重鎖CDR3が、配列番号91のアミノ酸配列を含み、X4がW、F、D、L、またはYである、実施形態1に記載の単離された抗体。
【0269】
6.前記重鎖CDR3が、配列番号91のアミノ酸配列を含み、X4がLである、実施形態1に記載の単離された抗体。
【0270】
7.以下:
(a)配列番号89のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号90のアミノ酸配列を含み、X5はQである、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号91のアミノ酸配列を含み、X4はLである、重鎖CDR3
からなる群から選択される1つ以上のCDRを含む、実施形態1に記載の単離された抗体。
【0271】
8.以下:
(a)配列番号4及び49~52からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号4、及び49~52からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR1;
(b)配列番号5~6及び53~55からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号5~6及び53~55からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号7~8及び56~59からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号7~8及び56~59からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR3
からなる群から選択される1つ以上のCDRを含む、実施形態1に記載の単離された抗体。
【0272】
9.以下:
(a)配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号4のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR1;
(b)配列番号5もしくは配列番号6のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号5もしくは配列番号6のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR3
からなる群から選択される1つ以上のCDRを含む、実施形態8に記載の単離された抗体。
【0273】
10.以下:
(a)配列番号4のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号5または配列番号6のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号7または配列番号8のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR3
からなる群から選択される1つ以上のCDRを含む、実施形態9に記載の単離された抗体。
【0274】
11.以下:
(a)配列番号4のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号6のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号7のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR3
からなる群から選択される1つ以上のCDRを含む、実施形態10に記載の単離された抗体。
【0275】
12.以下:
(a)配列番号4のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号5のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号8のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR3
からなる群から選択される1つ以上のCDRを含む、実施形態10に記載の単離された抗体。
【0276】
13.以下:
(a)配列番号4のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR1;
(b)配列番号6のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号8のアミノ酸配列を含む、重鎖CDR3
からなる群から選択される1つ以上のCDRを含む、実施形態10に記載の単離された抗体。
【0277】
14.配列番号1~3のいずれか1つに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、実施形態8に記載の単離された抗体。
【0278】
15.配列番号1~3のいずれか1つのアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、実施形態8に記載の単離された抗体。
【0279】
16.以下:
(a)配列番号13または14のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR3
を含む、単離された抗体。
【0280】
17.以下:
(b)配列番号11のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号11のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR1;及び
(c)配列番号12のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR2
からなる群から選択される1つ以上のCDRをさらに含む、実施形態16に記載の単離された抗体。
【0281】
18.以下:
(b)配列番号11のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR1;及び
(c)配列番号12のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR2
からなる群から選択される1つ以上のCDRをさらに含む、実施形態16に記載の単離された抗体。
【0282】
19.前記軽鎖CDR3が、配列番号13のアミノ酸配列を含む、実施形態16~18のいずれか1つに記載の単離された抗体。
【0283】
20.前記軽鎖CDR3が、配列番号14のアミノ酸配列を含む、実施形態16~18のいずれか1つに記載の単離された抗体。
【0284】
21.配列番号9~10のいずれか1つに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、実施形態17に記載の単離された抗体。
【0285】
22.配列番号9~10のいずれか1つのアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、実施形態17に記載の単離された抗体。
【0286】
23.以下:
(a)配列番号4及び49~52からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号4及び49~52からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR1;
(b)配列番号5~6及び53~55からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号5~6及び53~55からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号7~8及び56~59からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号7~8及び56~59からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR3;
(d)配列番号11のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号11のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR1;
(e)配列番号12のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR2;及び
(f)配列番号13または14のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR3
を含む、抗原結合部位
を含む、単離された抗体。
【0287】
24.前記抗原結合部位が、以下:
(a)配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号4のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR1;
(b)配列番号5もしくは配列番号6のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号5もしくは配列番号6のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR2;
(c)配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号7もしくは配列番号8のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR3;
(d)配列番号11のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号11のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR1;
(e)配列番号12のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR2;及び
(f)配列番号13または14のアミノ酸配列を含む、軽鎖CDR3
を含む、実施形態23に記載の単離された抗体。
【0288】
25.前記抗原結合部位が、配列番号1~3のいずれか1つに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号9~10のいずれか1つに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、実施形態24に記載の単離された抗体。
【0289】
26.前記抗原結合部位が、配列番号1~3のいずれか1つのアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号9~10のいずれか1つのアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、実施形態24に記載の単離された抗体。
【0290】
27.以下:
(a)配列番号16のアミノ酸配列を含むか、または配列番号16のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR1;
(b)配列番号17のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号17のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR2;及び
(c)配列番号18のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号18のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、重鎖CDR3
からなる群から選択される1つ以上のCDRを含む第2の抗原結合部位をさらに含む、実施形態23~26のいずれか1つに記載の単離された抗体。
【0291】
28.前記第2の抗原結合部位が、配列番号15に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、実施形態27に記載の単離された抗体。
【0292】
29.前記第2の抗原結合部位が、以下:
(a)配列番号11のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するか、または配列番号11のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR1;
(b)配列番号12のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR2;及び
(c)配列番号13または14のアミノ酸配列に対して最大2つのアミノ酸置換を有する、軽鎖CDR3
からなる群から選択される1つ以上のCDRをさらに含む、実施形態27または28に記載の単離された抗体。
【0293】
30.前記第2の抗原結合部位が、配列番号9~10のいずれか1つに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、実施形態29に記載の単離された抗体。
【0294】
31.第1の抗原結合部位と第2の抗原結合部位とが、同じ軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3配列を含む、実施形態29または30に記載の単離された抗体。
【0295】
32.表1に列挙される組み合わせから選択される重鎖CDR及び軽鎖CDRを含む、実施形態31に記載の単離された抗体。
【0296】
33.表2に列挙される組み合わせから選択される重鎖及び軽鎖を含む、単離された抗体。
【0297】
34.以下:
(a)ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)サブドメインIVに対する第1の抗原結合部位;
(b)ヒトHER2サブドメインIIに対する第2の抗原結合部位;及び
(c)TfR結合部位を作り出す修飾を含有する第1のFcポリペプチドを含む、修飾されたFcポリペプチド二量体
を含む、単離された抗体であって、
前記第1の抗原結合部位の軽鎖ポリペプチド配列が、前記第2の抗原結合部位の軽鎖ポリペプチド配列と同一である、
前記単離された抗体。
【0298】
35.前記第1のFcポリペプチドが、前記TfR結合部位を含む修飾されたCH3ドメインを含む、実施形態34に記載の単離された抗体。
【0299】
36.前記修飾されたCH3ドメインが、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4の、CH3ドメインに由来する、実施形態35に記載の単離された抗体。
【0300】
37.前記修飾されたCH3ドメインが、EUナンバリングに従って、380、384、386、387、388、389、390、413、415、416、及び421位を含むアミノ酸位置のセットにおいて、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または11個の置換を含む、実施形態35または36に記載の単離された抗体。
【0301】
38.前記修飾されたCH3ドメインが、EUナンバリングに従って、380位にGlu、Leu、Ser、Val、Trp、Tyr、もしくはGln;384位にLeu、Tyr、Phe、Trp、Met、Pro、もしくはVal;386位にLeu、Thr、His、Pro、Asn、Val、もしくはPhe;387位にVal、Pro、Ile、もしくは酸性アミノ酸;388位にTrp;389位に脂肪族アミノ酸、Gly、Ser、Thr、もしくはAsn;390位にGly、His、Gln、Leu、Lys、Val、Phe、Ser、Ala、Asp、Glu、Asn、Arg、もしくはThr;413位に酸性アミノ酸、Ala、Ser、Leu、Thr、Pro、Ile、もしくはHis;415位にGlu、Ser、Asp、Gly、Thr、Pro、Gln、もしくはArg;416位にThr、Arg、Asn、もしくは酸性アミノ酸;及び/または421位に芳香族アミノ酸、His、もしくはLysを含む、実施形態35~37のいずれか1つに記載の単離された抗体。
【0302】
39.前記TfR結合部位を作り出す修飾を含有する前記第1のFcポリペプチドが、TfRの頂端ドメインに結合する、実施形態34~38のいずれか1つに記載の単離された抗体。
【0303】
40.前記第1のFcポリペプチド及び第2のFcポリペプチドが各々、ヘテロ二量体化を促進する修飾を含む、実施形態34~39のいずれか1つに記載の単離された抗体。
【0304】
41.EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、T366Wの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、T366S、L368A、及びY407Vの置換を含む、実施形態40に記載の単離された抗体。
【0305】
42.EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、T366S、L368A、及びY407Vの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、T366Wの置換を含む、実施形態40に記載の単離された抗体。
【0306】
43.前記第1のFcポリペプチド及び/または第2のFcポリペプチドが、独立して、TfR媒介エフェクター機能を低下させる修飾を含む、実施形態34~42のいずれか1つに記載の単離された抗体。
【0307】
44.エフェクター機能を低下させる前記修飾が、EUナンバリングに従ってL234A及びL235Aの置換である、実施形態43に記載の単離された抗体。
【0308】
45.前記第1のFcポリペプチドが、TfRに特異的に結合し、かつL234A及びL235Aの置換を含む、実施形態44に記載の単離された抗体。
【0309】
46.前記第1のFcポリペプチドが、EUナンバリングに従ってP329GまたはP329Sの置換をさらに含む、実施形態45に記載の単離された抗体。
【0310】
47.前記第2のFcポリペプチドが、EUナンバリングに従って234位及び235位にLeuを含み、かつ329位にプロリンを含む、実施形態46に記載の単離された抗体。
【0311】
48.前記第2のFcポリペプチドが、TfRに特異的に結合し、かつL234A及びL235Aの置換を含む、実施形態44に記載の単離された抗体。
【0312】
49.前記第2のFcポリペプチドが、EUナンバリングに従ってP329GまたはP329Sの置換をさらに含む、実施形態48に記載の単離された抗体。
【0313】
50.前記第1のFcポリペプチドが、EUナンバリングに従って234位及び235位にLeuを含み、かつ329位にプロリンを含む、実施形態49に記載の単離された抗体。
【0314】
51.ヒンジ領域またはその一部分が、前記第1のFcポリペプチド及び/または第2のFcポリペプチドのN末端に連結されている、実施形態34~50のいずれか1つに記載の単離された抗体。
【0315】
52.前記第1のFcポリペプチド及び/または第2のFcポリペプチドが、独立して、配列番号71~86及び98~100からなる群から選択される配列に対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含む、実施形態34~51のいずれか1つに記載の単離された抗体。
【0316】
53.前記第1のFcポリペプチドまたは前記第2のFcポリペプチドが、配列番号71~73、85、及び99~100からなる群から選択される配列に対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含む、実施形態52に記載の単離された抗体。
【0317】
54.前記第1のFcポリペプチドまたは前記第2のFcポリペプチドが、配列番号74~84、86及び98からなる群から選択される配列に対して少なくとも90%の同一性を有する配列を含む、実施形態52に記載の単離された抗体。
【0318】
55.前記第1の抗原結合部位が、配列番号15のアミノ酸配列を含み;
前記第2の抗原結合部位が、配列番号1~3及び60~70からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;
前記TfR結合部位を作り出す修飾を含有する前記第1のFcポリペプチドが、配列番号74~84、86、及び98からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;かつ
前記軽鎖ポリペプチド配列が、配列番号9または配列番号10のアミノ酸配列を含む、
実施形態34に記載の単離された抗体。
【0319】
56.配列番号71~73、85、及び99~100からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む第2のFcポリペプチドをさらに含む、実施形態55に記載の単離された抗体。
【0320】
57.前記第1のFcポリペプチド及び/または第2のFcポリペプチドが、独立して、EUナンバリングに従ってS239D及び/またはI332Eの置換を含む、実施形態34~56のいずれか1つに記載の単離された抗体。
【0321】
58.前記S239D及び/またはI332Eの置換を独立して含む前記第1のFcポリペプチド及び/または前記第2のFcポリペプチドが、HER2媒介エフェクター機能を増強することができる、実施形態57に記載の単離された抗体。
【0322】
59.(a)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含む;
(b)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含む;
(c)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含む;
(d)EUナンバリングに従って、前記第2のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含む;
(e)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含む;
(f)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含む;
(g)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含む;
(h)EUナンバリングに従って、前記第2のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含む;
(i)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含む;
(j)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含む;
(k)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含む;
(l)EUナンバリングに従って、前記第2のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含む;
(m)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含む;
(n)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含む;または
(o)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含む、
実施形態57または58に記載の単離された抗体。
【0323】
60.(a)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含む;
(b)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含む;
(c)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含む;
(d)EUナンバリングに従って、前記第2のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含む;
(e)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239Dの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含む;または
(f)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、I332Eの置換を含む、
実施形態59に記載の単離された抗体。
【0324】
61.(a)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、I332Eの置換及び239位にセリンを含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239Dの置換及び332位にイソロイシンを含む;
(b)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239Dの置換及び332位にイソロイシンを含む;
(c)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239Dの置換及び332位にイソロイシンを含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、I332Eの置換及び239位にセリンを含む;
(d)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、239位にセリン及び332位にイソロイシンを含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、I332Eの置換及び239位にセリンを含む;
(e)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、S239Dの置換及び332位にイソロイシンを含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、S239D及びI332Eの置換を含む;または
(f)EUナンバリングに従って、前記第1のFcポリペプチドが、I332Eの置換及び239位にセリンを含み、かつ前記第2のFcポリペプチドが、239位にセリン及び332位にイソロイシンを含む、
実施形態60に記載の単離された抗体。
【0325】
62.2つの重鎖及び2つの軽鎖を含む、実施形態34~61のいずれか1つの実施形態に記載の単離された抗体。
【0326】
63.表2に列挙される組み合わせから選択される重鎖及び軽鎖を含む、実施形態62に記載の単離された抗体。
【0327】
64.第1の重鎖が、表3の組み合わせから選択されるVH及びFc配列を含み、かつ第2の重鎖が、表4の組み合わせから選択されるVH及びFc配列を含む、実施形態62に記載の単離された抗体。
【0328】
65.第1の重鎖が、表5の組み合わせから選択されるVH及びFc配列を含み、かつ第2の重鎖が、表6の組み合わせから選択されるVH及びFc配列を含む、実施形態62に記載の単離された抗体。
【0329】
66.実施形態1~65のいずれか1つに記載の単離された抗体と、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【0330】
67.実施形態1~65のいずれか1つに記載の単離された抗体をコードするヌクレオチド配列を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【0331】
68.実施形態67に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【0332】
69.実施形態67に記載のポリヌクレオチドまたは実施形態68に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【0333】
70.対象におけるがんを処置するまたはがんの脳転移を処置するための方法であって、前記対象に対して、治療有効量の実施形態1~65のいずれか1つに記載の単離された抗体または実施形態66に記載の医薬組成物を投与することを含む、前記方法。
【0334】
71.前記単離された抗体が、化学療法または放射線療法と組み合わせて投与される、実施形態70に記載の方法。
【0335】
72.前記がんが、転移性がんである、実施形態70または71に記載の方法。
【0336】
73.前記がんが、乳がんである、実施形態70~72のいずれか1つに記載の方法。
【0337】
74.前記がんが、HER2陽性がんである、実施形態70~73のいずれか1つに記載の方法。
【0338】
本明細書に記載の実施例及び実施形態は、例示目的のためのみであり、それらを考慮した様々な修正または変更が当業者に提案され、本出願の趣旨及び範囲ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれるべきであることが理解される。本明細書に引用される配列アクセッション番号の配列は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0339】
【0340】
【0341】
【0342】
【0343】
【0344】
【0345】
【配列表】
【国際調査報告】