IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マーケット ユニバーシティーの特許一覧 ▶ コンコーディア ユニバーシティー ウィスコンシンの特許一覧

特表2024-534126強力かつ選択的なエストロゲン受容体βアゴニストとしての(4-ヒドロキシフェニル)置換炭素環の合成および評価
<>
  • 特表-強力かつ選択的なエストロゲン受容体βアゴニストとしての(4-ヒドロキシフェニル)置換炭素環の合成および評価 図1
  • 特表-強力かつ選択的なエストロゲン受容体βアゴニストとしての(4-ヒドロキシフェニル)置換炭素環の合成および評価 図2
  • 特表-強力かつ選択的なエストロゲン受容体βアゴニストとしての(4-ヒドロキシフェニル)置換炭素環の合成および評価 図3a
  • 特表-強力かつ選択的なエストロゲン受容体βアゴニストとしての(4-ヒドロキシフェニル)置換炭素環の合成および評価 図3b
  • 特表-強力かつ選択的なエストロゲン受容体βアゴニストとしての(4-ヒドロキシフェニル)置換炭素環の合成および評価 図4
  • 特表-強力かつ選択的なエストロゲン受容体βアゴニストとしての(4-ヒドロキシフェニル)置換炭素環の合成および評価 図5a
  • 特表-強力かつ選択的なエストロゲン受容体βアゴニストとしての(4-ヒドロキシフェニル)置換炭素環の合成および評価 図5b
  • 特表-強力かつ選択的なエストロゲン受容体βアゴニストとしての(4-ヒドロキシフェニル)置換炭素環の合成および評価 図5c
  • 特表-強力かつ選択的なエストロゲン受容体βアゴニストとしての(4-ヒドロキシフェニル)置換炭素環の合成および評価 図5d
  • 特表-強力かつ選択的なエストロゲン受容体βアゴニストとしての(4-ヒドロキシフェニル)置換炭素環の合成および評価 図5e
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-18
(54)【発明の名称】強力かつ選択的なエストロゲン受容体βアゴニストとしての(4-ヒドロキシフェニル)置換炭素環の合成および評価
(51)【国際特許分類】
   C07C 49/743 20060101AFI20240910BHJP
   C07C 49/753 20060101ALI20240910BHJP
   C07C 39/17 20060101ALI20240910BHJP
   C07C 43/253 20060101ALI20240910BHJP
   C07C 43/247 20060101ALI20240910BHJP
   C07C 39/42 20060101ALI20240910BHJP
   C07C 39/23 20060101ALI20240910BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240910BHJP
   C07F 7/18 20060101ALN20240910BHJP
【FI】
C07C49/743 A CSP
C07C49/753 C
C07C39/17
C07C43/253
C07C43/247
C07C39/42
C07C39/23
A61K31/05
A61P35/00
A61P25/00
A61P9/00
C07F7/18 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024512026
(86)(22)【出願日】2022-08-23
(85)【翻訳文提出日】2024-04-12
(86)【国際出願番号】 US2022041253
(87)【国際公開番号】W WO2023028074
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】63/236,145
(32)【優先日】2021-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】511293629
【氏名又は名称】マーケット ユニバーシティー
(71)【出願人】
【識別番号】316015822
【氏名又は名称】コンコーディア ユニバーシティー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ドナルドソン ウィリアム エイ.
(72)【発明者】
【氏名】セム ダニエル エス.
(72)【発明者】
【氏名】ウェッツェル エドワード エイ.
【テーマコード(参考)】
4C206
4H006
4H049
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206CA03
4C206CA13
4C206CA17
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZA36
4C206ZB26
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB21
4H006AB23
4H006AB28
4H006FC22
4H006FC26
4H006FC28
4H006FC52
4H006FE11
4H006FE13
4H006FE71
4H006FE74
4H006GP03
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ20
4H049VR23
4H049VR41
4H049VW01
(57)【要約】
4-ヒドロキシフェニル置換炭素環、およびエストロゲン受容体βアイソフォーム(ERβ)の選択的アゴニストとしてのその使用が開示される。開示される化合物は薬学的組成物として製剤化されてもよく、ER活性に関連する疾患、例えば、増殖性疾患および増殖性障害ならびに/または精神医学的疾患もしくは精神医学的障害を処置するために投与されてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
を有する化合物であって、
式中、
X1、X2、Y1、およびY2が、独立して、水素、ハロゲン、およびヒドロキシルからなる群より選択され、
任意で、X1およびX2がハロゲンである時に、Y1およびY2が水素であるという条件であり、任意で、Y1およびY2がハロゲンである時に、X1およびX2が水素であるという条件であり、
Wが、水素、ヒドロキシル、およびオキソからなる群より選択され、
R2、R3、R5、およびR6が、独立して、水素、ジュウテリウム、およびハロゲンより選択され、
R4が水素またはヒドロキシル保護基である、
該化合物。
【請求項2】
ハロゲンがクロロである、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
ヒドロキシル保護基がtert-ブチルジメチルシリル基である、請求項1または2記載の化合物。
【請求項4】
Wがオキソであり、R4がヒドロキシル保護基であり、R2、R3、R5、R6が水素である、請求項1~3のいずれか一項記載の化合物であって、式I(a):
を有する、該化合物。
【請求項5】
X1およびX2がクロロであり、Y1およびY2が水素である、請求項4記載の化合物。
【請求項6】
Y1およびY2がクロロであり、X1およびX2が水素である、請求項4記載の化合物。
【請求項7】
X1、X2、Y1、およびY2が水素である、請求項4記載の化合物。
【請求項8】
X1、X2、Y1、Y2、R2、R4、およびR6が水素である、請求項1~3のいずれか一項記載の化合物であって、式I(b):
を有する、該化合物。
【請求項9】
R3およびR5が水素であり、Wがオキソである、請求項8記載の化合物。
【請求項10】
R3およびR5が水素であり、Wがヒドロキシルである、請求項8記載の化合物。
【請求項11】
R3およびR5がジュウテリウムであり、Wがヒドロキシルである、請求項8記載の化合物。
【請求項12】
WおよびR4が水素である、請求項1~3のいずれか一項記載の化合物であって、式I(c):
を有する、該化合物。
【請求項13】
X1、X2、およびY1が水素であり、Y2がヒドロキシルである、請求項12記載の化合物。
【請求項14】
Y1、Y2、およびX1が水素であり、X2がヒドロキシルである、請求項12記載の化合物。
【請求項15】
有効量の請求項1~14のいずれか一項記載の化合物またはその薬学的に許容される塩を、薬学的な賦形剤、担体、または希釈剤と一緒に含む、薬学的組成物。
【請求項16】
患者の、エストロゲン受容体β(ERβ)活性に関連する疾患または障害を処置するための方法であって、請求項15記載の薬学的組成物を投与する工程を含む、該方法。
【請求項17】
前記疾患または障害が細胞増殖性疾患または細胞増殖性障害である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記疾患または障害が精神医学的疾患または精神医学的障害である、請求項16記載の方法。
【請求項19】
前記疾患または障害が血管運動性疾患または血管運動性障害である、請求項16記載の方法。
【請求項20】
式II:
を有する化合物であって、
式中、
R1aおよびR1bが、独立して、水素、ヒドロキシル、カルボキシアルキルエステル、およびヒドロキシアルキルより選択され、任意で、R1aおよびR1bが同じでないという条件であり、
R1cが水素およびヒドロキシルより選択され、
R2、R3、R5、およびR6が、独立して、水素、ジュウテリウム、およびハロゲンより選択され、
R4が水素またはヒドロキシル保護基である、
該化合物。
【請求項21】
カルボキシアルキルエステルがカルボキシメチルエステルである、請求項20記載の化合物。
【請求項22】
ヒドロキシアルキルがヒドロキシメチルである、請求項20または21記載の化合物。
【請求項23】
ヒドロキシル保護基がベンジル基である、請求項20~22のいずれか一項記載の化合物。
【請求項24】
R1cがヒドロキシルであり、R4がヒドロキシル保護基であり、R2、R3、R5、およびR6が水素である、請求項20~23のいずれか一項記載の化合物であって、式II(a):
を有する、該化合物。
【請求項25】
R1bがカルボキシメチルエステルであり、R1aが水素である、請求項24記載の化合物。
【請求項26】
R1aがカルボキシメチルエステルであり、R1bが水素である、請求項24記載の化合物。
【請求項27】
R1bがヒドロキシメチルであり、R1aが水素である、請求項24記載の化合物。
【請求項28】
R1aがヒドロキシメチルであり、R1bが水素である、請求項24記載の化合物。
【請求項29】
R1cが水素であり、R4がヒドロキシル保護基であり、R2、R3、R5、およびR6が水素である、請求項20~23のいずれか一項記載の化合物であって、式II(b):
を有する、該化合物。
【請求項30】
R1bがヒドロキシメチルであり、R1aが水素である、請求項29記載の化合物。
【請求項31】
R1aがヒドロキシメチルであり、R1bが水素である、請求項29記載の化合物。
【請求項32】
R1c、R2、R3、R4、R5、およびR6が水素である、請求項20~23のいずれか一項記載の化合物であって、式II(c):
を有する、該化合物。
【請求項33】
R1bがヒドロキシメチルであり、R1aが水素である、請求項32記載の化合物。
【請求項34】
R1aがヒドロキシメチルであり、R1bが水素である、請求項32記載の化合物。
【請求項35】
有効量の請求項20~34のいずれか一項記載の化合物またはその薬学的に許容される塩を、薬学的な賦形剤、担体、または希釈剤と一緒に含む、薬学的組成物。
【請求項36】
患者の、エストロゲン受容体β(ERβ)活性に関連する疾患または障害を処置するための方法であって、請求項35記載の薬学的組成物を投与する工程を含む、該方法。
【請求項37】
前記疾患または障害が細胞増殖性疾患または細胞増殖性障害である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
前記疾患または障害が精神医学的疾患または精神医学的障害である、請求項36記載の方法。
【請求項39】
前記疾患または障害が血管運動性疾患または血管運動性障害である、請求項36記載の方法。
【請求項40】
式III:
を有する化合物であって、
式中、
R1が、水素、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシアルキル、およびハロアルキルより選択され、
R2、R3、R5、およびR6が、独立して、水素、ジュウテリウム、およびハロゲンより選択され、但し、R3、R5、およびR6が水素であれば、R1がハロアルキルであり、
R4が、水素またはヒドロキシル保護基である、
該化合物。
【請求項41】
R2、R4、およびR6が水素であり、R1が、ヒドロキシアルキル、ハロアルキル、およびヒドロキシルより選択される、請求項40記載の化合物。
【請求項42】
式III(a):
を有する、請求項41記載の化合物。
【請求項43】
R1がモノフルオロメチルであり、R3およびR5が水素である、請求項40~42のいずれか一項記載の化合物。
【請求項44】
R1がトリフルオロメチルであり、R3およびR5が水素である、請求項40~42のいずれか一項記載の化合物。
【請求項45】
R1がヒドロキシルであり、R3がフルオロであり、R5が水素である、請求項40~42のいずれか一項記載の化合物。
【請求項46】
R1がヒドロキシメチルであり、R3およびR5がジュウテリウムである、請求項40~42のいずれか一項記載の化合物。
【請求項47】
R2、R4、およびR6が水素であり、R1がヒドロキシアルキルである、請求項40記載の化合物であって、式III(b):
を有する、該化合物。
【請求項48】
R3がフルオロであり、R5が水素であり、R1がヒドロキシメチルである、請求項47記載の化合物。
【請求項49】
R3およびR5がフルオロであり、R1がヒドロキシメチルである、請求項48記載の化合物。
【請求項50】
有効量の請求項40~49のいずれか一項記載の化合物またはその薬学的に許容される塩を、薬学的な賦形剤、担体、または希釈剤と一緒に含む、薬学的組成物。
【請求項51】
患者の、エストロゲン受容体β(ERβ)活性に関連する疾患または障害を処置するための方法であって、請求項50記載の薬学的組成物を投与する工程を含む、該方法。
【請求項52】
前記疾患または障害が細胞増殖性疾患または細胞増殖性障害である、請求項51記載の方法。
【請求項53】
前記疾患または障害が精神医学的疾患または精神医学的障害である、請求項51記載の方法。
【請求項54】
前記疾患または障害が血管運動性疾患または血管運動性障害である、請求項51記載の方法。
【請求項55】
式IV:
有する化合物であって、
式中、
R2、R3、R5、およびR6が、独立して、水素、ジュウテリウム、およびハロゲンより選択され、
R7が水素またはアルキルであり、
R8およびR9が、独立して、水素、ヒドロキシル、およびヒドロキシアルキルからなる群より選択され、
aが0または1であり、
bが0または1であり、
nが0または1である、
該化合物。
【請求項56】
nが0であり、aおよびbが1であり、R7が水素またはメチルである、請求項55記載の化合物であって、式IV(a):
を有する、該化合物。
【請求項57】
R8がヒドロキシルまたはヒドロキシメチルであり、R9が水素である、請求項56記載の化合物。
【請求項58】
構造:
を有する、請求項56または57記載の化合物。
【請求項59】
a、b、およびnが1であり、R7が水素である、請求項55記載の化合物であって、式IV(b):
を有する、該化合物。
【請求項60】
R8がヒドロキシルまたはヒドロキシメチルであり、R9が水素である、請求項59記載の化合物。
【請求項61】
a、b、およびnが0であり、R7およびR8が水素であり、R9がヒドロキシメチルである、請求項55記載の化合物であって、式IV(c):
を有する、該化合物。
【請求項62】
有効量の請求項55~61のいずれか一項記載の化合物またはその薬学的に許容される塩を、薬学的な賦形剤、担体、または希釈剤と一緒に含む、薬学的組成物。
【請求項63】
患者の、エストロゲン受容体β(ERβ)活性に関連する疾患または障害を処置するための方法であって、請求項62記載の薬学的組成物を投与する工程を含む、該方法。
【請求項64】
前記疾患または障害が細胞増殖性疾患または細胞増殖性障害である、請求項63記載の方法。
【請求項65】
前記疾患または障害が精神医学的疾患または精神医学的障害である、請求項63記載の方法。
【請求項66】
前記疾患または障害が血管運動性疾患または血管運動性障害である、請求項63記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府による資金提供を受けた研究または開発の記載
本発明は、米国立総合医科学研究所(National Institutes of General Medical Sciences)によって付与された助成金番号R15GM118304に基づいて政府の支援を受けてなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
関連特許出願の相互参照
本願は、2021年8月23日に出願された米国仮出願第63/236,145号に係る優先権の恩典を主張する。米国仮出願第63/236,145号の内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
背景
発明の分野は、エストロゲン受容体(ER)のアゴニストとして機能する化合物に関する。特に、発明の分野は、エストロゲン受容体β(ERβ)に対する特異的なアゴニストである(4-ヒドロキシフェニル)置換炭素環、ならびにER活性に関連する疾患および障害を処置するための薬学的組成物における、このような化合物の使用に関する。
【0004】
エストロゲンは、生殖、認知、心血管の健康、および骨代謝を含む多くの生理学的プロセスの重要な制御因子である(例えば、Deroo et al., 「Estrogen Receptors and Human Disease」, J. Clin. Invest. 116:561-570(2006)(非特許文献1)を参照されたい)。エストロゲンは多数の生理学的プロセスにおける広範な役割に基づいて、少し例を挙げると、細胞増殖性疾患および細胞増殖性障害(例えば、乳癌、卵巣癌、子宮内膜癌、結腸直腸癌、および前立腺癌)、神経変性疾患および神経変性障害、心血管疾患、ならびに骨粗鬆症を含む多数の疾患および障害に結び付けられてきた(同書を参照されたい)。これらの疾患および障害の多くにおいて、エストロゲンは、その効果をエストロゲン受容体(ER)を介して伝える。
【0005】
ERは2つの主要な形態であるERαおよびERβで存在し、これらは異なる組織発現パターンを有する(Mueller et al. (2001), 「Estrogen receptors and endocrine diseases: lessons from estrogen receptor knockout mice」, Curr. Opin. Pharmacol. 1: 613-619(非特許文献2)を参照されたい)。ERαおよびERβは、それぞれ、異なる染色体位置に見出される別々の遺伝子であるESR1およびESR2によってコードされ、ERαとERβには両方とも非常に多くのmRNAスプライスバリアントが存在する(例えば、Hernyk et al., 「Estrogen receptor mutations in human disease」, (2004) Endocr. Rev. 25:869-898(非特許文献3)を参照されたい)。ERαおよびERβはエストロゲン関連疾患における役割のために、それらの活性を調整する特異的リガンドの開発の標的とされてきた。ERαおよびERβのリガンド特異性は異なり、ERαのアゴニストまたはアンタゴニストとして結合および機能するリガンドはERβのアゴニストまたはアンタゴニストとして結合および機能することがあり、そうでないこともある。
【0006】
開発されてきたERリガンドの1つのグループは、いわゆる、タモキシフェンおよびラロキシフェンを含む「選択的エストロゲン受容体モジュレーター」すなわち「SERM」である。タモキシフェンおよびラロキシフェンは組織特異的なエストロゲン活性を示すことが観察されている。例えば、タモキシフェンは乳房ではアンタゴニストであり、ほぼ20年にわたって乳癌に対する安全かつ効果的なアジュバント内分泌療法であったが、タモキシフェンは骨および子宮ではERアゴニストである(例えば、Deroo et al.,「Estrogen Receptors and Human Disease」, J. Clin. Invest. 116:561-570 (2006)(非特許文献1)を参照されたい)。ラロキシフェンは骨ではより大きなアゴニスト活性を示し、子宮ではより小さなアゴニスト活性を示す(Fabian et al., 「Selective estrogen-receptor modulators for primary prevention of breast cancer」, J. Clin. Oncol. 23:1644-1655 (2005)(非特許文献4)を参照されたい)。リガンドが特定の組織においてERアゴニストになるか、またはERアンタゴニストになるかどうかは、特定の組織において優勢なエストロゲン受容体の種類、言い換えるとERαもしくはERβ、リガンドが異なる結合親和性を示し得る場所、ならびに/またはERβに対するERαのアゴニスト/アンタゴニスト活性を含む、いくつかの要因に左右される。
【0007】
ERαアゴニストおよびERβアゴニストは、中枢神経系(CNS)の癌および障害などの疾患に影響を及ぼす広範囲の生物学的効果を有する。臨床研究から、閉経後ホルモン補充療法(HRT)においてエストラジオール(E2)を投与すると乳癌および子宮内膜癌の発生率が増加する可能性があることが分かっている(Beral et al., 「Breast cancer and hormone-replacement therapy in the Million Women Study」, Lancet. 2003;362(9382:419-27. Epub 2003/08/21. PubMed PMID: 12927427(非特許文献5); Gann et al., 「Combined hormone therapy and breast cancer: a single-edged sword」, JAMA : the journal of the American Medical Association. United States 2003. p. 3304-6(非特許文献6); Li et al., 「Relationship between long durations and different regimens of hormone therapy and risk of breast cancer」, JAMA : the Journal of the American Medical Association. 2003;289(24):3254-63. Epub 2003/06/26. doi: 10.1001/jama.289.24.3254. PubMed PMID: 12824206(非特許文献7);およびAnderson et al., 「Effects of conjugated equine estrogen in postmenopausal women with hysterectomy: the Women's Health Initiative randomized controlled trial」, JAMA : the journal of the American Medical Association. 2004;291(14):1701-12. Epub 2004/04/15. doi: 10.1001/jama.291.14.1701. PubMed PMID: 15082697(非特許文献8)を参照されたい)。この効果は、主に、乳腺 および 子宮に存在する優勢なアイソフォームであるERαによって媒介される(Song et al., 「Estrogen receptor-beta agonist diarylpropionitrile counteracts the estrogenic activity of estrogen receptor-alpha agonist propylpyrazole-triol in the mammary gland of ovariectomized Sprague Dawley rats. The Journal of steroid biochemistry and molecular biology. 2012;130(1-2):26-35. Epub 2012/01/24. doi: 10.1016/j.jsbmb.2011.12.018. PubMed PMID: 22266284(非特許文献9)を参照されたい)。
【0008】
癌リスクの増加は閉経後女性におけるHRT使用量の減少につながってきた。だが、研究から、HRTは、閉経後女性における認知症リスクの減少という、主にERβによって媒介されるプラスの効果を提供できることも示されている(Leblanc et al., 「U.S. Preventive Services Task Force Evidence Syntheses, formerly Systematic Evidence Reviews. Hormone Replacement Therapy and Cognition. Rockville (MD): Agency for Healthcare Research and Quality (US); 2002(非特許文献10)を参照されたい)。従って、特異的なERβアゴニストは最小限の副作用でE2のCNS利益を提供することができる。しかしながら、タモキシフェンおよびラロキシフェンなどの現行のSERMはERβに特異的でなく、発癌性の副作用を有し、ほとんど記憶強化をもたらさない(Yaffe et al., 「Cognitive function in postmenopausal women treated with raloxifene. New England Journal of Medicine. 2001;344:1207-13(非特許文献11);およびPaganini-Hill et al., 「Preliminary assessment of cognitive function in breast cancer patients treated with tamoxifen. Breast Cancer Research and Treatment. 2000;64:165-76(非特許文献12)を参照されたい)。ERβを選択的に標的化することで、もっと安全かつ効果的な処置を開発することができる。
【0009】
従って、新たなエストロゲン受容体リガンドが望まれる。特に、ERαと比べてERβに選択的なアゴニスト活性またはアンタゴニスト活性を示す新たなリガンドが望まれる。これらの新たなリガンドは、ER活性に関連する疾患および障害、例えば、細胞増殖性疾患および細胞増殖性障害、精神医学的疾患および精神医学的障害、または血管運動性疾患および血管運動性障害を処置するのに適しているはずである。このような新たなリガンドは(4-ヒドロキシフェニル)置換炭素環の形で本明細書において開示される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Deroo et al., 「Estrogen Receptors and Human Disease」, J. Clin. Invest. 116:561-570(2006)
【非特許文献2】(Mueller et al. (2001), 「Estrogen receptors and endocrine diseases: lessons from estrogen receptor knockout mice」, Curr. Opin. Pharmacol. 1: 613-619
【非特許文献3】Hernyk et al., 「Estrogen receptor mutations in human disease」, (2004) Endocr. Rev. 25:869-898
【非特許文献4】Fabian et al., 「Selective estrogen-receptor modulators for primary prevention of breast cancer」, J. Clin. Oncol. 23:1644-1655 (2005)
【非特許文献5】Beral et al., 「Breast cancer and hormone-replacement therapy in the Million Women Study」, Lancet. 2003;362(9382:419-27. Epub 2003/08/21. PubMed PMID: 12927427
【非特許文献6】Gann et al., 「Combined hormone therapy and breast cancer: a single-edged sword」, JAMA : the journal of the American Medical Association. United States 2003. p. 3304-6
【非特許文献7】Li et al., 「Relationship between long durations and different regimens of hormone therapy and risk of breast cancer」, JAMA : the Journal of the American Medical Association. 2003;289(24):3254-63. Epub 2003/06/26. doi: 10.1001/jama.289.24.3254. PubMed PMID: 12824206
【非特許文献8】Anderson et al., 「Effects of conjugated equine estrogen in postmenopausal women with hysterectomy: the Women's Health Initiative randomized controlled trial」, JAMA : the journal of the American Medical Association. 2004;291(14):1701-12. Epub 2004/04/15. doi: 10.1001/jama.291.14.1701. PubMed PMID: 15082697
【非特許文献9】Song et al., 「Estrogen receptor-beta agonist diarylpropionitrile counteracts the estrogenic activity of estrogen receptor-alpha agonist propylpyrazole-triol in the mammary gland of ovariectomized Sprague Dawley rats. The Journal of steroid biochemistry and molecular biology. 2012;130(1-2):26-35. Epub 2012/01/24. doi: 10.1016/j.jsbmb.2011.12.018. PubMed PMID: 22266284
【非特許文献10】Leblanc et al., 「U.S. Preventive Services Task Force Evidence Syntheses, formerly Systematic Evidence Reviews. Hormone Replacement Therapy and Cognition. Rockville (MD): Agency for Healthcare Research and Quality (US); 2002
【非特許文献11】Yaffe et al., 「Cognitive function in postmenopausal women treated with raloxifene. New England Journal of Medicine. 2001;344:1207-13
【非特許文献12】Paganini-Hill et al., 「Preliminary assessment of cognitive function in breast cancer patients treated with tamoxifen. Breast Cancer Research and Treatment. 2000;64:165-76
【発明の概要】
【0011】
概要
4-ヒドロキシフェニル置換炭素環およびエストロゲン受容体β(ERβ)の選択的アゴニストとしてのその使用が開示される。開示される化合物は薬学的組成物として製剤化されてもよく、ER活性に関連する疾患を処置するのに投与されてもよい。
【0012】
開示される化合物は、フェノール基が任意でヒドロキシル保護されている、置換されてもよいフェノール基に(例えば、置換されてもよいフェノール基のパラ位置(4位)に)結合した、置換されてもよい環式環構造、スピロ環環構造、縮合環構造、または架橋環構造を含んでもよい。スピロ環環構造は、置換されてもよいスピロ[5.3]ノナン基:
を含んでもよい。縮合環構造は、置換されてもよいビシクロ[3.3.0]オクタン基、置換されてもよいビシクロ[3.3.0]オクテン基、置換されてもよいビシクロ[3.1.0]ヘキサン基:
を含んでもよい。架橋環構造は、置換されてもよいアダマンチル基、置換されてもよいビシクロ[3.3.1]ノナン基、または置換されてもよいビシクロ[3.3.1]ノネン基
を含んでもよい。環式環構造は、置換されてもよいシクロヘキシル基を含んでもよい。
【0013】
一部の態様において、開示される化合物は、式I:
を有してもよく、
式中、
X1、X2、Y1、およびY2は、独立して、水素、ハロゲン、およびヒドロキシルからなる群より選択され、
任意で、X1およびX2がハロゲンである時に、Y1およびY2は水素であるという条件であり、任意で、Y1およびY2がハロゲンである時に、X1およびX2は水素であるという条件であり、
Wは、水素、ヒドロキシル、およびオキソからなる群より選択され、
R2、R3、R5、およびR6は、独立して、水素、ジュウテリウム、およびハロゲンより選択され、
R4は水素またはヒドロキシル保護基である。
【0014】
一部の態様において、式Iを有する化合物にあるWはオキソであり、R4はヒドロキシル保護基であり、R2、R3、R5、R6は水素であり、前記化合物は、式I(a):
を有する。
【0015】
一部の態様において、式Iを有する化合物にあるX1、X2、Y1、Y2、R2、R4、およびR6は水素であり、前記化合物は、式I(b):
を有する。
【0016】
一部の態様において、式Iを有する化合物にあるWおよびR4は水素であり、前記化合物は、式I(c):
を有する。
【0017】
他の態様において、開示される化合物は、フェノール基が任意でヒドロキシル保護されている、置換されてもよいフェノール基に(例えば、置換されてもよいフェノール基のパラ位置(4位)に)結合した、置換されてもよいアダマンチル基を含んでもよい。一部の態様において、開示された化合物は、式II:
を有してもよく、
式中、
R1aおよびR1bは、独立して、水素、ヒドロキシル、カルボキシアルキルエステル、およびヒドロキシアルキルより選択され、任意で、R1aおよびR1bは同じでないという条件であり、
R1cは、水素およびヒドロキシルより選択され、
R2、R3、R5、およびR6は、独立して、水素、ジュウテリウム、およびハロゲンより選択され、
R4は水素またはヒドロキシル保護基である。
【0018】
一部の態様において、式IIを有する化合物にあるR1cはヒドロキシルであり、R4はヒドロキシル保護基であり、R2、R3、R5、およびR6は水素であり、前記化合物は、式II(a):
を有する。
【0019】
一部の態様において、式IIを有する化合物にあるR1cは水素であり、R4はヒドロキシル保護基であり、R2、R3、R5、およびR6は水素であり、前記化合物は、式II(b):
を有する。
【0020】
一部の態様において、式IIを有する化合物にあるR1c、R2、R3、R4、R5、およびR6は水素であり、前記化合物は、式II(c):
を有する。
【0021】
他の態様において、開示される化合物は、フェノール基が任意でヒドロキシル保護されている、置換されてもよいフェノール基に(例えば、置換されてもよいフェノール基のパラ位置(4位)に)結合した置換されてもよいシクロヘキシル基を含んでもよい。一部の態様において、開示される化合物は、式III:
を有してもよく、
式中、
R1は、水素、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシアルキル、およびハロアルキルより選択され、
R2、R3、R5、およびR6は、独立して、水素、ジュウテリウム、およびハロゲンより選択され、但し、R3、R5、およびR6が水素であれば、R1はハロアルキルであり、
R4は、水素またはヒドロキシル保護基である。
【0022】
一部の態様において、式IIIを有する化合物にあるR2、R4、およびR6は水素であり、R1は、ヒドロキシアルキル、ハロアルキル、およびヒドロキシルより選択され、前記化合物は、式III(a):
を有する。
【0023】
一部の態様において、式IIIを有する化合物にあるR2、R4、およびR6は水素であり、R1はヒドロキシアルキルであり、前記化合物は、式III(b):
を有する。
【0024】
他の態様において、開示される化合物は、フェノール基が任意でヒドロキシル保護されている、置換されてもよいフェノール基に(例えば、置換されてもよいフェノール基のパラ位置(4位)に)結合した置換されてもよい架橋環構造または縮合環構造を含んでもよい。一部の態様において、開示される化合物は、式IV:
を有してもよく、
式中、
R2、R3、R5、およびR6は、独立して、水素、ジュウテリウム、およびハロゲンより選択され、
R7は水素またはアルキルであり、
R8およびR9は、独立して、水素、ヒドロキシル、およびヒドロキシアルキルからなる群より選択され、
aは0または1であり、
bは0または1であり、
nは0または1である。
【0025】
一部の態様において、式IVを有する化合物において、nは0であり、aおよびbは1であり、R7は水素またはメチルであり、前記化合物は、式IV(a):
を有する。
【0026】
一部の態様において、式IVを有する化合物において、a、b、およびnは1であり、R7は水素であり、前記化合物は、式IV(b):
を有する。
【0027】
一部の態様において、式IVを有する化合物において、a、b、およびnは0であり、R7およびR8は水素であり、R9はヒドロキシメチルであり、前記化合物は、式IV(c):
を有する。
【0028】
開示される化合物は、薬学的組成物を調製および製剤化するのに用いられてもよい。従って、有効量の本明細書において開示される任意の化合物、または本明細書において開示される任意の化合物の薬学的に許容される塩を、薬学的に許容される賦形剤、担体、または希釈剤と一緒に含む薬学的組成物も本明細書において開示される。
【0029】
一部の態様において、開示される化合物は、エストロゲン受容体β(ERβ)活性に関連する疾患または障害、特に、ERβアゴニストを用いて処置され得る疾患または障害を処置するための医用薬剤を調製するのに用いられてもよい。従って、開示される化合物はERβアゴニスト活性を示してもよく、好ましくは、この化合物は、ERβアンタゴニストとしての活性と比べて、ならびに/またはエストロゲン受容体α(ERα)アゴニストとしての活性および/もしくはERαアンタゴニストとしての活性と比べてERβアゴニストとしての特異性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】アキラルなエストロゲン受容体β選択的リガンドおよび光学活性なエストロゲン受容体β選択的リガンド。
図2】7-(4-ヒドロキシフェニル)スピロ[3.5]-ノナン-2-オール(±)-11のORTEP。
図3a】(a)5b(グライド(Glide)スコア-10.676)または(b)(S)-11(グライドスコア-10.001)のヒトERβリガンドポケット内での誘導適合(induced-fit)ドッキングポーズ。フェノールヒドロキシルとGlu305およびArg346との水素結合相互作用ならびに脂肪族ヒドロキシルとHis475との水素結合相互作用を黄色の破線で示した。Phe356とのπ-π相互作用(青色の破線)およびLeu298とのファン・デル・ワールス相互作用は両リガンドによって維持される。
図3b図3aの説明を参照のこと。
図4】CYP450酵素阻害アッセイ。5a/bによるCYP2C9阻害(赤色の四角、10±0.5μMのIC50)および(±)-11によるCYP2C9阻害(青色の丸)。CYP2D6の有意な阻害もCYP3A4の有意な阻害も62.5±0.5μMまで観察されなかった。
図5a】予測されたCYP450代謝。(a)5bおよび(b)11における炭素原子のCYP450ヒドロキシル化に対する内因反応性。(c)5bのCYP2C9代謝予測のための全データの模式図および(d)11のCYP2C9代謝予測のための全データの模式図。緑色の線は、ドッキングされた複合体におけるFe接近性と関連付けられる。これより大きく暗い色の丸は、さらに大きな予測代謝部位(SOM)スコア、CYP450ヘム鉄の近傍、およびさらに大きな内因反応性スコアを示す。(e)ヘムFeに最も近いフェノール水素を示した、CYP2C9における5bのドッキングポーズ。
図5b図5aの説明を参照のこと。
図5c図5aの説明を参照のこと。
図5d図5aの説明を参照のこと。
図5e図5aの説明を参照のこと。
【発明を実施するための形態】
【0031】
詳細な説明
本発明は、下記で示されるように、および本願全体を通して、本明細書中では、いくつかの定義を用いて説明される。
【0032】
他で特定しない限り、または文脈によって示されない限り「1つの(a)」「1つの(an)」、および「(the)」という用語は「1つまたは複数の」を意味する。例えば「1つの置換」は「1つまたは複数の置換」を意味すると解釈しなければならない。同様に、「1つの置換基」は「1つまたは複数の置換基」を意味すると解釈しなければならない。
【0033】
本明細書で使用する「約(about)」、「約(approximately)」、「実質的に」、および「有意に」は当業者によって理解され、ある程度、これらの用語が用いられている文脈によって変化する。当業者にはっきり分からない、これらの用語の使用がある場合、これらの用語が用いられている文脈を考えれば、「約(about)」および「約(approximately)」は特定の用語のプラスまたはマイナス≦10%を意味し、「実質的に」および「有意に」は特定の用語のプラスまたはマイナス>10%を意味する。
【0034】
本明細書で使用する「含む(include)」および「含む(including)」という用語は、「含む(comprise)」および「含む(comprising)」という用語と同じ意味を有する。「含む(comprise)」および「含む(comprising)」という用語は、追加要素を、特許請求の範囲に列挙された要素にさらに含めることができる「オープンな(open)」移行用語だと解釈しなければならない。「なる(consist)」および「からなる(consisting of)」という用語は、特許請求の範囲に列挙された要素以外の追加要素を含めることができない「クローズド(closed)な」移行用語だと解釈しなければならない。「から本質的になる」という用語は、部分的にクローズドであり、クレームされた保護対象(subject matter)の内容を根本的に変えない追加要素しか含めることができないと解釈しなければならない。
【0035】
(4-ヒドロキシフェニル)置換炭素環およびエストロゲン受容体βアイソフォーム(ERβ)の選択的アゴニストとしてのその使用が開示される。開示される化合物の好ましい態様は、(4-ヒドロキシフェニル)置換スピロ[5.3]ノナン、(4-ヒドロキシフェニル)置換アドマンタン、(4-ヒドロキシフェニル)置換シクロヘキサン、(4-ヒドロキシフェニル)置換ビシクロ[3.3.0]オクタン、(4-ヒドロキシフェニル)置換ビシクロ[3.3.0]オクテン、(4-ヒドロキシフェニル)置換ビシクロ[3.3.1]ノナン、(4-ヒドロキシフェニル)置換ビシクロ[3.3.1]ノネン、および(4-ヒドロキシフェニル)置換ビシクロ[3.1.0]ヘキサンを含む。代わりに、開示される化合物は、炭素環置換基上に1つまたは複数の置換を含む(4-ヒドロキシフェニル)置換炭素環と呼ばれることがあり、炭素環置換基は、好ましくは、スピロ[5.3]ノナン置換基、アドマンチル置換基、シクロヘキシル置換基、ビシクロ[3.3.0]オクタニル置換基、ビシクロ[3.3.0]オクテニル置換基、ビシクロ[3.3.1]ノナニル置換基、ビシクロ[3.3.1]ノネニル置換基、またはビシクロ[3.1.0]ヘキサニル置換基である。
【0036】
開示される化合物は、置換されてもよいスピロ環置換基を含んでもよく、置換されてもよいスピロ環置換基はスピロ[5.3]ノナン置換基を含んでもよい。一部の態様において、開示される化合物は、式I:
を有し、
式中、
X1、X2、Y1、およびY2は、独立して、水素、ハロゲン、およびヒドロキシルからなる群より選択され、
任意で、X1およびX2がハロゲンである時に、Y1およびY2は水素であるという条件であり、任意で、Y1およびY2がハロゲンである時に、X1およびX2は水素であるという条件であり、
Wは、水素、ヒドロキシル、およびオキソからなる群より選択され、
R2、R3、R5、およびR6は、独立して、水素、ジュウテリウム、およびハロゲンより選択され、
R4は水素またはヒドロキシル保護基である。
【0037】
一部の態様において、式Iの化合物にあるハロゲンはクロロである。
【0038】
一部の態様において、式Iの化合物にあるヒドロキシル保護基はtert-ブチルジメチルシリル基である。
【0039】
一部の態様において、式Iの化合物にあるWはオキソであり、R4はヒドロキシル保護基であり、R2、R3、R5、R6は水素であり、前記化合物は式I(a)を有する(式中、XおよびYは式Iについて定義された通りである):
【0040】
一部の態様において、式I(a)の化合物にあるX1およびX2はクロロであり、Y1およびY2は水素である。
【0041】
一部の態様において、式I(a)の化合物にあるY1およびY2はクロロであり、X1およびX2は水素である。
【0042】
一部の態様において、式I(a)の化合物にあるX1、X2、Y1、およびY2は水素である。
【0043】
一部の態様において、式Iの化合物にあるX1、X2、Y1、Y2、R2、R4、およびR6は水素であり、前記化合物は式I(b)を有する(式中、W、R3、およびR5は式Iについて定義された通りである):
【0044】
一部の態様において、式I(b)の化合物にあるR3およびR5は水素であり、Wはオキソである。
【0045】
一部の態様において、式I(b)の化合物にあるR3およびR5は水素であり、Wはヒドロキシルである。
【0046】
一部の態様において、式I(b)の化合物にあるR3およびR5はジュウテリウムであり、Wはヒドロキシルである。
【0047】
一部の態様において、式Iの化合物にあるWおよびR4は水素であり、前記化合物は式I(c)を有する(式中、R2、R3、R5、R6、X1、X2、Y1、およびY2は式Iについて定義された通りである):
【0048】
一部の態様において、式I(c)の化合物にあるX1、X2、およびY1は水素であり、Y2はヒドロキシルである。
【0049】
一部の態様において、式I(c)の化合物にあるY1、Y2、およびX1は水素であり、X2はヒドロキシルである。
【0050】
開示される化合物は、置換されてもよいアダマンチル置換基を含んでもよい。一部の態様において、前記化合物は、式II:
を有し、
式中、
R1aおよびR1bは、独立して、水素、ヒドロキシル、カルボキシアルキルエステル、およびヒドロキシアルキルより選択され、任意で、R1aおよびR1bは同じでないという条件であり、
R1cは、水素およびヒドロキシルより選択され、
R2、R3、R5、およびR6は、独立して、水素、ジュウテリウム、およびハロゲンより選択され、
R4は水素またはヒドロキシル保護基である。
【0051】
一部の態様において、式IIの開示される化合物にあるカルボキシアルキルエステルはカルボキシメチルエステル(-C(O)OCH3)である。
【0052】
一部の態様において、式IIの開示される化合物にあるヒドロキシアルキルはヒドロキシメチル(-CH2OH)である。
【0053】
一部の態様において、式IIの開示される化合物にあるヒドロキシル保護基はベンジル基(-CH2-Ph)である。
【0054】
一部の態様において、式IIを有する開示される化合物にあるR1cはヒドロキシルであり、R4はヒドロキシル保護基であり、R2、R3、R5、およびR6は水素であり、前記化合物は式II(a)を有する(式中、R1aおよびR1bは式IIについて定義された通りである):
【0055】
一部の態様において、式II(a)の化合物にあるR1bはカルボキシメチルエステル(-C(O)OCH3)であり、R1aは水素である。
【0056】
一部の態様において、式II(a)の化合物にあるR1aはカルボキシメチルエステル(-C(O)OCH3)であり、R1bは水素である。
【0057】
一部の態様において、式II(a)の化合物にあるR1bはヒドロキシメチル(-CH2OH)であり、R1aは水素である。
【0058】
一部の態様において、式II(a)の化合物にあるR1aはヒドロキシメチル(-CH2OH)であり、R1bは水素である。
【0059】
一部の態様において、式IIを有する開示される化合物にあるR1cは水素であり、R4はヒドロキシル保護基であり、R2、R3、R5、およびR6は水素であり、前記化合物は式II(b)を有する(式中、R1aおよびR1bは式IIについて定義された通りである):
【0060】
一部の態様において、式II(b)の化合物にあるR1bはヒドロキシメチル(-CH2OH)であり、R1aは水素である。
【0061】
一部の態様において、式II(b)の化合物にあるR1aはヒドロキシメチル(-CH2OH)であり、R1bは水素である。
【0062】
一部の態様において、式IIを有する開示される化合物にあるR1c、R2、R3、R4、R5、およびR6は水素であり、前記化合物は式II(c)を有する(式中、R1aおよびR1bは式IIについて定義された通りである):
【0063】
一部の態様において、式II(c)の化合物にあるR1bはヒドロキシメチル(-CH2OH)であり、R1aは水素である。
【0064】
一部の態様において、式II(c)の化合物にあるR1aはヒドロキシメチル(-CH2OH)であり、R1bは水素である。
【0065】
開示される化合物は、置換されてもよいシクロヘキシル置換基を含んでもよい。一部の態様において、前記化合物は、式III:
を有し、
式中、
R1は、水素、ヒドロキシル、アルキル、ヒドロキシアルキル、およびハロアルキルより選択され、
R2、R3、R5、およびR6は、独立して、水素、ジュウテリウム、およびハロゲンより選択され、但し、R3、R5、およびR6が水素であれば、R1はハロアルキルであり、
R4は、水素またはヒドロキシル保護基である。
【0066】
一部の態様において、式IIIを有する開示される化合物にあるR2、R4、およびR6は水素であり、R1は、ヒドロキシアルキル、ハロアルキル、およびヒドロキシルより選択される。
【0067】
一部の態様において、式IIIを有する開示される化合物にあるR2、R4、およびR6は水素であり、R1は、ヒドロキシアルキル、ハロアルキル、およびヒドロキシルより選択され、前記化合物は式III(a)を有する(式中、R3およびR5は式IIIについて定義された通りである):
【0068】
一部の態様において、式III(a)の化合物にあるR1はモノフルオロメチル(-CH2F)であり、R3およびR5は水素である。
【0069】
一部の態様において、式III(a)の化合物にあるR1はトリフルオロメチル(-CF3)であり、R3およびR5は水素である。
【0070】
一部の態様において、式III(a)の化合物にあるR1はヒドロキシルであり、R3はフルオロであり、R5は水素である。
【0071】
一部の態様において、式III(a)の化合物にあるR1はヒドロキシメチルであり、R3およびR5はジュウテリウムである。
【0072】
一部の態様において、式IIIを有する開示される化合物にあるR2、R4、およびR6は水素であり、R1はヒドロキシアルキルであり、前記化合物は式III(b)を有する(式中、R3およびR5は式IIIについて定義された通りである):
【0073】
一部の態様において、式III(b)の化合物にあるR3はフルオロであり、R5は水素であり、R1はヒドロキシメチルである。
【0074】
一部の態様において、式III(b)の化合物にあるR3およびR5はフルオロであり、R1はヒドロキシメチルである。
【0075】
開示される化合物は、置換されてもよい縮合環構造または架橋環構造を含んでもよい。一部の態様において、前記化合物は、式IV:
を有し、
式中、
R2、R3、R5、およびR6は、独立して、水素、ジュウテリウム、およびハロゲンより選択され、
R7は水素またはアルキルであり、
R8およびR9は、独立して、水素、ヒドロキシル、およびヒドロキシアルキルからなる群より選択され、
aは0または1であり、
bは0または1であり、
nは0または1である。
【0076】
一部の態様において、式IVを有する開示される化合物において、nは0であり、aおよびbは1であり、R7は水素またはメチルであり、前記化合物は式IV(a)を有する(式中、R2、R3、R5、R6、R7、R8、およびR9は式IVについて定義された通りである):
【0077】
一部の態様において、式IV(a)の化合物にあるR8はヒドロキシルまたはヒドロキシメチルであり、R9は水素である。
【0078】
一部の態様において、式IV(a)の化合物は、構造:
を有する。
【0079】
一部の態様において、式IVを有する開示される化合物において、a、b、およびnは1であり、R7は水素であり、前記化合物は式IV(b)を有する(式中、R2、R3、R5、R6、R8、およびR9は式IVについて定義された通りである):
【0080】
一部の態様において、式IV(b)の化合物にあるR8はヒドロキシルまたはヒドロキシメチルであり、R9は水素である。
【0081】
一部の態様において、式IVを有する開示される化合物において、a、b、およびnは0であり、R7およびR8は水素であり、R9はヒドロキシメチルであり、前記化合物は式IV(c)を有する(式中、R2、R3、R5、およびR6は式IVについて定義された通りである):
【0082】
本明細書において開示される化合物(例えば、式I、I(a)、I(b)、I(c)、II、II(a)、II(b)、II(c)、III、III(a)、III(b)、IV、IV(a)、IV(b)、またはIV(c)のいずれかを有する化合物)は、いくつかのキラル中心を有してもよく、開示される化合物の立体異性体、エピマー、および鏡像異性体が意図される。前記化合物は、1つまたは複数のキラル中心について光学的に純粋でもよい(例えば、キラル中心の一部もしくは全てが完全にS立体配置にあってもよい;および/またはキラル中心の一部もしくは全てが完全にR立体配置にあってもよいなど)。さらに、または代わりに、キラル中心の1つまたは複数は立体配置の混合物(例えば、R立体配置およびS立体配置のラセミ混合物または別の混合物)として存在してもよい。式IまたはIIのいずれかを有する化合物の実質的に精製された立体異性体、エピマー、または鏡像異性体を含む組成物(例えば、少なくとも約90%、95%、または99%純粋な立体異性体、エピマー、または鏡像異性体を含む組成物)が本明細書において意図される。
【0083】
本明細書において開示される化合物のヒドロキシ保護誘導体も本明細書において開示される。例えば、本明細書において開示される化合物(例えば、式I、I(a)、I(b)、I(c)、II、II(a)、II(b)、II(c)、III、III(a)、III(b)、IV、IV(a)、IV(b)、またはIV(c)のいずれかを有する化合物)は、任意のヒドロキシ基においてヒドロキシ保護基を含んでもよい。本明細書において意図される「保護ヒドロキシ」基は、一時的または恒久的なヒドロキシ官能基保護に一般的に用いられる任意の基(例えば、アルコキシカルボニル、アシル、シリル、またはアルコキシアルキル基)によって誘導体化または保護されたヒドロキシ基である。「ヒドロキシ保護基」は、例えば、アルコキシカルボニル、アシル、アルキルシリル、またはアルキルアリールシリル基(以下、単に「シリル」基と呼ぶ)、およびアルコキシアルキル基などの一時的なヒドロキシ官能基保護に一般的に用いられる任意の基を表す。アルコキシカルボニル保護基は、アルキル-O-CO-グループ、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、tert-ブトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、またはアリルオキシカルボニルである。
【0084】
本明細書において意図されるように、説明または特許請求の範囲において用いられる「アルキル」という言葉は、全ての異性体型において1~6個の炭素の直鎖アルキルラジカルまたは分枝アルキルラジカルを示す。
【0085】
「アルコキシ」とは、酸素によって取り付けられた任意のアルキルラジカル(すなわち、「アルキル-O-」で表される基)を指す。アルコキシアルキル保護基は、メトキシメチル、エトキシメチル、メトキシエトキシメチル、またはテトラヒドロフラニルおよびテトラヒドロピラニルなどのグループである。好ましいシリル保護基は、トリメチルシリル、トリエチルシリル、t-ブチルジメチルシリル、ジブチルメチルシリル、ジフェニルメチルシリル、フェニルジメチルシリル、ジフェニル-t-ブチルシリル、および類似のアルキル化シリルラジカルである。
【0086】
「アリール」という用語は、フェニル基、またはアルキル置換フェニル基、ニトロ置換フェニル基、もしくはハロ置換フェニル基を表す。
【0087】
「ヒドロキシアルキル」、「ジュウテロアルキル(deuteroalkyl)」、および「フルオロアルキル」という用語は、それぞれ、1つまたは複数のヒドロキシ基、ジュウテリウム基、またはフルオロ基によって置換されたアルキルラジカルを指す。
【0088】
「アルキリデン」とは一般式CkH2k-を有するラジカルを指し、式中、Kは整数(例えば、1~6)である。
【0089】
「アシル」という用語は、その異性体型の全てにおける1~6個の炭素のアルカノイル基、あるいは1~6個の炭素のカルボキシアルカノイル基、例えば、オキサリル基、マロニル基、スクシニル基、グルタリル基、あるいは芳香族アシル基、例えば、ベンゾイル、またはハロゲン置換ベンゾイル基、ニトロ置換ベンゾイル基、もしくはアルキル置換ベンゾイル基を表す。
【0090】
「カルボキシアルキルエステル」という用語は、-C(O)O-アルキルグループ、例えば、カルボキシメチルエステル、カルボキシエチルエステル、カルボキシプロピルエステルなどである。「ハロゲン」という用語は、フルオロ、クロロ、ブロモ、およびヨードを指す。
【0091】
本明細書で使用する、本明細書に記載の化合物の中にある記号
は単結合または二重結合を示す。
【0092】
本明細書において開示される化合物は、エストロゲン受容体に対する結合ならびにエストロゲン受容体に対するアゴニスト活性および/またはアンタゴニスト活性を示し得る。本明細書で使用する「ERα」とはエストロゲン受容体-α、特に、ヒトエストロゲン受容体-αを指す。本明細書で使用する「ERβ」はエストロゲン受容体β、特に、ヒトエストロゲン受容体βを指す。ERαおよびERβのアゴニストおよびアンタゴニストは、ERαおよびERβに対する化合物の結合親和性を確かめるためのアッセイならびに結合した化合物がERαおよびERβのアゴニストまたはアンタゴニストかどうか確かめるためのアッセイのように当技術分野において公知である(例えば、McCullough et al.,「Probing the human estrogen receptor-α binding requirements for phenolic mono- and di-hydroxyl compounds: a combined synthesis, binding and docking study」, Biorg. & Med. Chem. (2014) Jan 1;22(1):303-10. doi: 10.1016/j.bmc.2013.11.024. Epub (2013) Nov 21と、対応する補足情報を参照されたい。これらの内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。ERαおよびERβに対する化合物の結合親和性を確かめるのに適したアッセイならびに結合した化合物がERαおよびERβのアゴニストまたはアンタゴニストかどうか確かめるのに適したアッセイには蛍光偏光置換アッセイ(fluorescence polarization displacement assay)ならびに細胞ベースERαルミネセンス活性アッセイおよびERβルミネセンス活性アッセイが含まれ得る。
【0093】
本明細書で使用する「選択的アゴニスト」という用語は、別のエストロゲン受容体、特に、ERαと比べてエストロゲン受容体、特に、ERβに選択的に結合する化合物を指すのに用いられる場合がある。例えば、ERβの選択的アゴニストである化合物は、(例えば、Kd(nM)で測定された時に)ERαに対する結合親和性よりも少なくとも3倍(または少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、または少なくとも1000倍)のERβ受容体に対する結合親和性を有してもよい。好ましくは、ERβの選択的アゴニストは、100nM未満、より好ましくは10nM未満、またはさらにより好ましくは1nM未満のERβに対するKd(nM)を有する。好ましくは、ERβの選択的アゴニストは、500nM超、より好ましくは1000nM超、またはさらにより好ましくは2000nM超のERαに対するKd(nM)を有する。
【0094】
本明細書で使用する「選択的アゴニスト」という用語は、別のエストロゲン受容体、特に、ERαと比べて、エストロゲン受容体、特に、ERβに選択的に結合し、これを刺激する(agonize)化合物を指すのに用いられる場合がある。例えば、ERβの選択的アゴニストである化合物は、ERβ受容体アゴニスト活性アッセイにおいて、100nM未満、好ましくは10nM未満、さらにより好ましくは1nM未満のIC50 (nM)を有してもよく、ERβの選択的アゴニストである化合物は、ERα受容体アゴニスト活性アッセイにおいて、100nM超、好ましくは500nM超、さらにより好ましくは1000nM超のIC50(nM)を有してもよい。
【0095】
本明細書で使用する「選択的アゴニスト」という用語は、エストロゲン受容体、特に、ERβに拮抗するのではなく、エストロゲン受容体、特に、ERβに選択的に結合し、これを刺激する化合物を指すのに用いられる場合がある。例えば、ERβの選択的アゴニストである化合物は、ERβ受容体アゴニスト活性アッセイにおいて、100nM未満、好ましくは10nM未満、さらにより好ましくは1nM未満のIC50 (nM)を有してもよい。ERβの選択的アゴニストである化合物は、ERβ受容体アゴニスト活性アッセイにおいて、100nM超、好ましくは500nM超、さらにより好ましくは1000nM超のIC50(nM)を有してもよい。
【0096】
開示される化合物の薬学的に許容される塩も本明細書において意図され、開示される処置方法において利用されてもよい。例えば、開示される化合物の置換基はプロトン化または脱プロトン化されてもよく、前記化合物の薬学的に許容される塩として、それぞれ、アニオンまたはカチオンと一緒に存在してもよい。本明細書で使用する「薬学的に許容される塩」という用語は、生物にとって実質的に無毒の化合物の塩を指す。代表的な薬学的に許容される塩は、本明細書において開示される化合物を薬学的に許容される鉱酸もしくは有機酸または有機塩基もしくは無機塩基と反応させることによって調製された塩を含む。このような塩は酸添加塩および塩基添加塩として知られる。本明細書において開示される化合物のほとんど、または全てが塩を形成することができ、この薬の塩形態が一般的に用いられることが技術のある読者に理解される。なぜなら、多くの場合、この塩形態は、遊離酸または遊離塩基よりも容易に結晶化および精製されるからである。
【0097】
酸添加塩を形成するのに一般的に用いられる酸には、無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、リン酸などと有機酸、例えば、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p-ブロモフェニルスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、酢酸などが含まれ得る。適切な薬学的に許容される塩の例には、硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、ギ酸、塩酸塩、二塩酸塩、イソ酪酸塩、カプロン酸塩、ヘプタン酸塩、プロピオレート、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ブチン-1,4二酸塩(butyne-.1,4-dioate)、ヘキシン-l,6-二酸塩(hexyne-l,6-dioate)、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、フタル酸塩、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニル酪酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、α-ヒドロキシ酪酸塩、グリコール酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン-1-スルホン酸塩、ナフタレン-2-スルホン酸塩、マンデル酸塩などが含まれ得る。
【0098】
塩基添加塩には、無機塩基に由来する塩基添加塩、例えば、アンモニウムまたはアルカリまたはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩などが含まれる。このような塩の調製において有用な塩基には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムなどが含まれる。
【0099】
本明細書において開示される化合物の任意の塩の一部を形成する特定の対イオンは、通常、この塩全体が薬理学的に許容可能である限り、そして、対イオンが望ましくない品質を、この塩全体に与えない限り、絶対に欠かせない性質のものではないと認識されるはずである。望ましくない品質には、望ましくない溶解度または毒性が含まれ得る。
【0100】
開示される化合物は様々な分子内塩と平衡状態にあり得るとさらに理解される。例えば、分子内塩には、前記化合物が脱プロトン化置換基およびプロトン化置換基を含む塩が含まれる。
【0101】
開示される化合物は薬学的組成物を調製および製剤化するのに用いられる場合がある。従って、有効量の本明細書において開示される任意の化合物または本明細書において開示される任意の化合物の薬学的に許容される塩を薬学的賦形剤と一緒に含む薬学的組成物も本明細書において開示される。一部の態様において、開示される化合物は、エストロゲン受容体β(ERβ)活性に関連する疾患または障害、特に、特定のERβアゴニストを用いて処置され得る疾患または障害を処置するための医用薬剤を調製するのに用いられる場合がある。従って、開示される化合物はERβアゴニスト活性を示してもよく、好ましくは、前記化合物は、ERβアンタゴニスト、ERαアゴニスト、および/またはERαアンタゴニストに対してERβアゴニストとしての特異性を示す。
【0102】
開示される化合物は、エストロゲンERβ活性に関連する疾患を処置するための薬学的組成物を調製および製剤化するのに用いられる場合がある。ERβ活性に関連する疾患および障害には、細胞増殖性疾患および細胞増殖性障害(例えば、乳癌、卵巣癌、および子宮内膜癌)、精神医学的疾患および精神医学的障害(例えば、うつ病または不安)、血管運動性疾患および血管運動性障害(例えば、のぼせ)、神経変性疾患または神経変性障害、骨代謝疾患または骨代謝障害(例えば、骨粗鬆症)、代謝疾患または代謝障害(例えば、肥満またはインスリン抵抗性)、ならびに心血管疾患または心血管障害が含まれ得るが、これに限定されない。開示された薬学的組成物は、ERβ活性に関連する疾患および障害を処置するための方法において、必要とする患者に投与されてもよい。
【0103】
本明細書において開示される化合物および薬学的組成物は、疾患または障害を処置するために、必要とする対象に投与されてもよい。一部の態様において、ERβ活性に関連する疾患または障害を処置するために、本明細書において開示される化合物は、この化合物がERβアゴニストとして機能するような有効濃度で投与されてもよい。一部の態様において、前記化合物がERβアゴニストとして機能するのに有効な開示される化合物の量は約0.05~50μM(または約0.05~10μMもしくは約0.05~1μM)である。
【0104】
本明細書で使用する「患者」は「対象」または「個体」と交換可能な場合があり、処置を必要とする、ヒトまたは非ヒト動物でもよい動物を意味する。開示される方法に適した患者には、例えば、哺乳動物、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウマ、ラット、およびマウスが含まれ得る。適切なヒト患者には、例えば、ERβ活性に関連する疾患もしくは障害があるヒト患者またはERβ活性に関連する疾患もしくは障害を発症するリスクがあると確かめられているヒト患者が含まれる。
【0105】
本明細書で使用する「処置を必要とする患者」は、ERβアゴニストによる療法に対して反応性の疾患、障害、または状態を有する患者を含む場合がある。例えば、「処置を必要とする患者」は、細胞増殖性の疾患、障害、または状態、例えば、癌(例えば、乳癌などの癌)を有する患者を含む場合がある。さらに、「処置を必要とする患者」は、精神医学的疾患または精神医学的障害(例えば、うつ病または不安)を有する患者を含む場合がある。さらに、「処置を必要とする患者」は、血管運動性疾患または血管運動性障害(例えば、のぼせ)を有する患者を含む場合がある。
【0106】
本明細書で使用する「処置する」または「処置するために」という用語はそれぞれ、症状を軽減する、結果として生じた症状の原因を一時的もしくは恒久的に無くす、および/あるいは言及された障害の、結果として生じた症状の出現を阻止するか、もしくは遅らせるか、またはその進行もしくは重篤度を逆転させることを意味する。従って、本明細書において開示される方法は治療的投与および予防的投与を含む。
【0107】
本明細書で使用する「有効量」という用語は、診断中または治療中の対象において望ましい効果をもたらす、対象への単一用量投与時または複数用量投与時の前記化合物の量または用量を指す。開示される方法は、患者における、ERβ活性に関連する疾患または障害を処置するために、(例えば、薬学的組成物に存在するような)有効量の開示される化合物を投与する工程を含んでもよく、それによって、有効量は患者においてERβアゴニスト活性を誘導するか、促進するか、または引き起こす。
【0108】
有効量は、当業者である担当診断医によって、既知の技法を用いることによって、および類似の状況で得られた結果を観察することによって容易に決定することができる。投与される化合物の有効な量または用量を決定する際に、担当診断医によって多くの要因、例えば、対象の種;その大きさ、年齢、および身体全体の健康;関与する疾患または障害の関与または重篤度の程度;患者一人一人の応答;投与される特定の化合物;投与方法;投与される調製物のバイオアベイラビリティ特徴;選択された投与計画;併用薬の使用;ならびに他の関連する状況が考慮されることがある。
【0109】
一部の態様において、開示される化合物の一日量は、約0.01mg/kg~約100mg/kg(例えば、約0.05mg/kg~約50mg/kgおよび/または約0.1mg/kg~約25mg/kg)の本発明の処置方法において用いられる各化合物を含有してもよい。この用量は任意の適切なレジメン(例えば、毎週、毎日、1日2回)の下で投与することができる。
【0110】
本明細書において開示される方法に従う使用のための薬学的組成物は活性成分として1種類の化合物を含んでもよく、活性成分として化合物の組み合わせを含んでもよい。例えば、本明細書において開示される方法は、ERβアゴニストである1種類の化合物を含有する組成物を用いて実施されてもよい。または、開示される方法は、ERβアゴニストである2種類以上の化合物を含有する組成物、またはERβアゴニストである1種類の化合物を、ERαアンタゴニストである1種類の化合物と一緒に含有する組成物を用いて実施されてもよい。
【0111】
ERαアンタゴニストである化合物と一緒に、ERβアゴニストである化合物を含む薬学的組成物を投与する代わりに、開示される方法は、第1の薬学的組成物(例えば、ERβアゴニストを含む薬学的組成物)を投与し、第2の薬学的組成物(例えば、ERαアンタゴニストを含む薬学的組成物)を投与することによって実施されてもよく、ここで、第1の薬学的組成物は第2の組成物の前に、第2の組成物と同時に、または第2の組成物の後に投与されてもよい。従って、第1の薬学的組成物および第2の薬学的組成物は、これらの名前に関係なく同時に投与されてもよく、任意の順番で投与されてもよい。
【0112】
当業者も理解するように、開示される薬学的組成物は、製剤をヒトへの投与に適したものにする特性(例えば、純度)を有する材料(例えば、活性のある賦形剤、担体、および希釈剤など)を用いて調製することができる。または、製剤は、製剤を非ヒト対象への投与に適したものにするが、ヒトへの投与に適したものにしない純度および/または他の特性を有する材料を用いて調製することができる。
【0113】
本明細書において開示される方法において利用される化合物は、固体剤形の薬学的組成物として製剤化されてもよいが、任意の薬学的に許容される剤形を利用することができる。例示的な固体剤形には、錠剤、カプセル、サシェ、ロゼンジ、散剤、丸剤、または顆粒剤が含まれるが、これに限定されず、固体剤形は、例えば、速溶性剤形、徐放剤形、凍結乾燥剤形、遅延放出剤形、長期放出剤形、パルス放出(pulsatile release)剤形、混合即時放出(mixed immediate release)および徐放剤形、またはその組み合わせでもよい。または、本明細書において開示される方法において利用される化合物は液体型の薬学的組成物(例えば、注射液またはゲル)として製剤化されてもよい。
【0114】
本明細書において開示される方法において利用される化合物は、賦形剤、担体、または希釈剤を含む薬学的組成物として製剤化されてもよい。例えば、賦形剤、担体、または希釈剤は、タンパク質、炭水化物、糖、タルク、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、炭酸カルシウム、およびデンプン-ゼラチンペーストからなる群より選択されてもよい。
【0115】
本明細書において開示される方法において利用される化合物はまた、1種類または複数種の結合剤、充填剤、潤滑剤、懸濁剤、甘味料、着香剤、防腐剤、緩衝液、湿潤剤、崩壊剤、および発泡剤を含む薬学的組成物としても製剤化されてよい。充填剤にはラクトース一水和物、無水ラクトース、および様々なデンプンが含まれ得る。結合剤の例は、様々なセルロースおよび架橋ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、例えば、Avicel(登録商標)PH101およびAvicel(登録商標)PH102、結晶セルロース、ならびにケイ化結晶セルロース(ProSolv SMCC(商標))である。圧縮しようとする粉末の流動性に作用する薬剤を含む適切な潤滑剤には、コロイド状二酸化ケイ素、例えば、Aerosil(登録商標)200、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、およびシリカゲルが含まれ得る。甘味料の例には、任意の天然甘味料または人工甘味料、例えば、スクロース、キシリトール、サッカリンナトリウム、シクラメート、アスパルテーム、およびアクサルファム(acsulfame)が含まれ得る。着香剤の例は、Magnasweet(登録商標)(MAFCOの登録商標)、風船ガム着香剤、および果実着香剤などである。防腐剤の例には、ソルビン酸カリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸およびその塩、他のパラヒドロキシ安息香酸エステル、例えば、ブチルパラベン、アルコール、例えば、エチルアルコールもしくはベンジルアルコール、フェノール化合物、例えば、フェノール、または四級化合物、例えば、塩化ベンザルコニウムが含まれ得る。
【0116】
薬学的組成物に適した希釈剤には、薬学的に許容される不活性な増量剤、例えば、結晶セルロース、ラクトース、リン酸水素カルシウム、糖類、および前述のいずれかの混合物が含まれ得る。希釈剤の例には、結晶セルロース、例えば、Avicel(登録商標)PH101およびAvicel(登録商標)PH102;ラクトース、例えば、ラクトース一水和物、無水ラクトース、およびPharmatose(登録商標)DCL21;リン酸水素カルシウム、例えば、Emcompress(登録商標);マンニトール;デンプン;ソルビトール;スクロース;ならびにグルコースが含まれる。
【0117】
開示される薬学的組成物はまた崩壊剤も含んでよい。適切な崩壊剤には、わずかに架橋したポリビニルピロリドン、コーンスターチ、バレイショデンプン、トウモロコシデンプン、および加工デンプン、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、デンプングリコール酸ナトリウム、ならびにその混合物が含まれる。
【0118】
開示される薬学的組成物はまた発泡剤も含んでよい。発泡剤の例は、発泡性カップル(effervescent couple)、例えば、有機酸および炭酸塩または重炭酸塩である。適切な有機酸には、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、アジピン酸、コハク酸、およびアルギン酸、ならびに無水物および酸塩が含まれる。適切な炭酸塩および重炭酸塩には、例えば、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、グリシン炭酸ナトリウム(sodium glycine carbonate)、炭酸L-リジン、および炭酸アルギニンが含まれる。または、発泡性カップルの重炭酸ナトリウム成分しか存在しなくてもよい。
【0119】
前記化合物を含む薬学的組成物は、任意の適切な経路による、例えば、経口(頬もしくは舌下を含む)経路、直腸経路、鼻経路、局部経路(頬、舌下、もしくは経皮を含む)、腟経路または非経口経路(皮下、筋肉内、静脈内、もしくは皮内を含む)による投与に適合されてもよい。このような製剤は、薬学の技術分野において公知の任意の方法によって、例えば、活性成分を担体または賦形剤と会合させることによって調製することができる。
【0120】
経口投与に適合された薬学的組成物は、別々の単位、例えば、カプセルもしくは錠剤;散剤もしくは顆粒剤;水性液体もしくは非水性液体に溶解した溶液もしくは懸濁液;食用の発泡体もしくはホイップ;または水中油型液体エマルジョンもしくは油中水型液体エマルジョンとして提示されてもよい。
【0121】
経皮投与に適合された薬学的組成物は、レシピエントの表皮と長期間、密着したままになることを目的とした別々のパッチとして提示されてもよい。例えば、前記活性成分はイオン導入によってパッチから送達されてもよい。
【0122】
局部投与に適合された薬学的組成物は軟膏、クリーム、懸濁液、ローション剤、粉末、溶液、ペースト、ゲル、含浸包帯(impregnated dressing)、スプレー、エアロゾル、または油として製剤化されてもよく、適切な従来の添加物、例えば、防腐剤、薬物浸透を助ける溶媒、ならびに軟膏およびクリームの中にある軟化薬を含有してもよい。
【0123】
眼または他の外側組織、例えば、口および皮膚に適用する場合、薬学的組成物は好ましくは局部軟膏またはクリームとして適用される。軟膏に製剤化された時に、前記化合物はパラフィン性または水混和性の軟膏基剤と共に用いられる場合がある。または、前記化合物は、水中油型クリーム基剤または油中水型基剤を含むクリームの中に入れて製剤化されてもよい。眼への局部投与に適合された薬学的組成物には、活性成分が適切な担体、特に、水性溶媒に溶解または懸濁されている点眼薬が含まれる。
【0124】
口内の局部投与に適合された薬学的組成物にはロゼンジ、香錠、および口腔洗浄薬が含まれる。
【0125】
直腸投与に適合された薬学的組成物は坐剤または浣腸として提示されてもよい。
【0126】
担体が固体であり、嗅ぎタバコを吸うように(すなわち、鼻の近くに保たれた粉末容器から鼻腔を通って迅速に吸入することによって)投与される粒径(例えば、20~500ミクロンの範囲)を有する粗い粉末を含む、鼻腔投与に適合された薬学的組成物。点鼻薬(nasal spray)または「点鼻液(nasal drop)」として投与する場合、担体が液体である適切な製剤は活性成分の水性溶液または油性溶液を含む。
【0127】
吸入による投与に適合された薬学的組成物には、様々なタイプの定量加圧エアロゾル、ネブライザ、または注入器によって生成され得る微粒子粉末または噴霧が含まれる。
【0128】
腟投与に適合された薬学的組成物は、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、発泡体、またはスプレー製剤として提示されてもよい。
【0129】
非経口投与に適合された薬学的組成物には、酸化防止剤、緩衝液、静菌剤、および製剤を、意図されたレシピエントの血液と等張にする溶質を含有し得る水性および非水性の滅菌注射溶液、ならびに懸濁剤および増粘剤を含み得る水性および非水性の滅菌懸濁液が含まれる。前記製剤は、ユニットドーズ容器またはマルチドーズ容器、例えば、密封したアンプルおよびバイアルに入れて提示されてもよく、使用直前に滅菌液体担体、例えば、注射用水を添加することしか必要としないフリーズドライ(凍結乾燥)の状態で保管されてもよい。即時注射溶液および即時注射懸濁液は、滅菌した散剤、顆粒剤、および錠剤から調製されてもよい。
【実施例
【0130】
以下の実施例は例示であり、クレームされた保護対象を限定すると解釈してはならない。
【0131】
実施例1.強力かつ選択的なエストロゲン受容体βアゴニストとしての2つの新規の(4-ヒドロキシフェニル)置換多環式炭素環の発見
Wetzel et al., Discovery of Two Novel (4-Hydroxyphenyl) Substituted Polycyclic Carbocycles as Potent and Selective Estrogen Receptor Beta Agonists, Bioorg. Med. Chem. Lett., 73(2022) 128906も参照されたい。この内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0132】
要約
2つの(4-ヒドロキシフェニル)置換多環式炭素環を調製し、エストロゲン受容体活性についてアッセイした。4-(4-ヒドロキシフェニル)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン-1-メタノール(5a/b)および7-(4-ヒドロキシフェニル)スピロ[3.5]ノナン-2-オール((±)-11)は細胞ベース機能アッセイにおいて強力なERbアゴニスト(それぞれ、1.9±0.4nMおよび6.2±1.4nM)であることが見出された。さらに、5a/bと11は両方ともERaと比べてERbに対して高度に選択的であった(それぞれ、377倍および1,100倍の選択性)。どちらの化合物も62.5mMまでCYP2D6もCYP3A4も阻害しなかったが、5a/bは10±0.5mMのIC50でCYP2C9に対して弱い結合を有した。5a/bおよび11の計算評価によって、最もありそうな代謝部位はフェノールヒドロキシル基に対してオルト位であると予測された。
【0133】
1.序論
エストロゲン受容体αおよびβ(ERαおよびERβ)は、17β-エストラジオール(E2、図1)が内因性リガンドである細胞内受容体の核ホルモンファミリーに属する。2種類の受容体は、重複するが別個の組織分布パターンならびに異なるタイプの転写調節を示す1。閉経はエストロゲン産生を著しく減少させ、従って、のぼせ、および記憶低下などの有害な症状と関連する。これらの症状を軽減するために、ならびに骨密度の喪失に対処するために、エストラジオールまたは結合型エストロゲンからなるホルモン補充療法(HRT)が利用されきてきた2。しかしながら、HRTは乳癌および脳卒中につながる血餅のリスク増加と関連する3。ERβではなく、ERαの活性化がHRTの健康リスク増加の原因である4
【0134】
E2とヒトERαおよびERβの結晶構造から、フェノールヒドロキシル基と、結合した水分子および2つのアミノ酸残基(ERαではGlu353およびArg394、ERβではGlu305およびArg346)、脂肪族ヒドロキシルとヒスチジン残基(ERαではHis524、ERβではHis475)が水素結合により相互作用することが明らかになった5。これらの相互作用の間隔は約11Åである。これらの水素結合による相互作用の他に、リガンド結合ポケットの残りは、他のアゴニストが結合できる親油性の空洞からなる。
【0135】
選択的エストロゲン受容体βアゴニスト(SERBA)の探索によって多数のこのような化合物が発見された。2つのこのような非ステロイド性SERBAが、LY-500307(エルテベレル,EC50=0.66nM、32倍の選択性) 6およびDPN(EC50=66.0nM、78倍の選択性) 7である。最近、本発明者らは、2つの非ステロイド性SERBA、ISP163(EC50=33±5nM、318倍の選択性) 8およびISP358-2/EGX358(EC50=27±4nM、750倍の選択性) 9を報告した。EGX358(0.5mg/Kg)の長期経口投薬は記憶固定について効力を示しており、閉経の卵巣切除マウスモデルにおいて薬物誘発性血管拡張を緩和する10。フェノールとヒドロキシメチレン基との間に大きな親油性リンカーを含有する二置換1,12-ジカルバ-クロソ(closo)-ドデカボランBE120はE2より約100倍強力であるが、低い選択性(ERβ:ERα=1.4)を示す11a-c。つい最近、BartunekとCoss11dは、アルキル基をBE120構造に付加すると(例えば、A、図1)、効能は犠牲になったが(EC50約20~30nM)、ERβ選択性(約200倍の選択性)が改善することを証明した。ジカルバドデカボランと同様に、アダマンタン部分は、単に、既知のファーマコフォアに対して重要な親油性を提供するとみなされている12。これらの特徴からのインスピレーションを得て、本発明者らは2つの新たな強力かつ選択的なERβアゴニストの合成および評価を本明細書において報告する。
【0136】
2. 結果および考察
2.1 化学
2-アダマンタノン-5-カルボン酸をメタノール/塩化チオニルでエステル化して、既知の13メチルエステル1を得た(スキーム1)。わずかに過剰量の4-ベンジルオキシフェニルグリニャール試薬(1.04当量)を1に添加して、立体異性の第3級アルコール2a/bを得た。これは、メチルエステルシングレット(δ3.67および3.54ppm)の積分により約1:1混合物であることが確かめられた。混合物2a/bをLiAlH4で還元して第1級アルコール3a/bの混合物を得た。この混合物のイオン還元によって4a/bの混合物を得た。最後に、H2および10%Pd/C触媒を用いた4a/bのベンジルエーテル切断によって5a/bを得た。これは、アルコールメチレンシングレット(δ3.18および2.99ppm)の積分に基づいて1.8:1混合物であることが明らかになった。
【0137】
スキーム1.
4-(4-ヒドロキシフェニル)トリシクロ-[3.3.1.13,7]デカン-1-メタノールの調製[試薬:a, MeOH/SOCl2 (66%);b, 4-ベンジルオキシフェニルマグネシウムブロミド/THF(72%、2a:2b 約1:1);c, LiAlH4/THF(74%、3a:3b 約1:1);d, NaBH3CN/BF3-Et2O(52%、4a:4b 約1.8:1);e, H2, Pd/C, MeOH (83%、5a:5b 約1.8:1)]
【0138】
5a/bに存在する第1級アルコール官能基が潜在的な代謝傾向を示すことを認めたので、本発明者らは、シクロブタノール官能基を含有する類似体は酸化する傾向が少ないと考えた。この目標に向かって、亜鉛による塩化トリクロロアセチルの還元によって生じた、ジクロロケテン15と反応させた4-[4-(t-ブチルジメチルシリル(butyldimethysilyl)-オキシ)フェニル]メチレンシクロヘキサン9(6、スキーム2)は、エキソ付加およびエンド付加に起因するスピロ環ジクロロシクロブタノン7および8の分離不可能な混合物となった。この混合物を酢酸中でZnによって還元するとシクロブタノン9が生じ、これをHF-ピリジンと反応させることで脱保護して10を得た。10の構造は、メチレンシクロヘキサン16aへのジクロロケテン付加環化に対する既知の位置選択性ならびにその1H NMRスペクトルデータに暫定的に基づいた。特に、10のシクロブタノンメチレンプロトンのシグナルは2つのシングレット(δ2.81および2.77ppm)として現れる。各シグナルについて、この3JH-H欠如は、メチレンプロトンが2つのトリプレット(J約8Hz)として現れる2,2-二置換シクロブタノンについて予想されたものとは対照的である16b。ルーシェ(Luche)条件下で10を還元するとシクロブタノール(±)-11が生じた。11の構造を、そのNMRスペクトルデータに基づいて暫定的に割り当てた。特に、2oアルコールCHプロトンのシグナルは狭いペンテット(pentet)(J=7.3Hz)としてδ4.21で現れる。この暫定的な構造割り付けは結晶X線回折によって確認された(図2)。これによりO-O距離は11.4Åであることが分かった14
【0139】
スキーム2.
7-(4-ヒドロキシフェニル)スピロ[3.5]-ノナン-2-オールの調製[試薬:a, TBSCl/イミダゾール(83%);b, Ph3PCH3 +I-/n-BuLi(84%);c, Cl3CCOCl/Zn/Cu(OAc)2(52%);d, Zn/HOAc(87%);e, HF-pyr/MeOH(73%);f, NaBH4/CeCl3-7H2O/MeOH(86%)]
【0140】
スキーム3.
(3aR,6aR)-5-(4-ヒドロキシフェニル)-3a,6a-ジメチル-1,2,3,3a,4,6a-ヘキサヒドロペンタレン-2-オールの調製[試薬:a, (4-ブロモフェノキシ)-tert-ブチルジメチルシラン/n-ブチルリチウム/THF/-78℃、次いで12;b, p-トルエンスルホン酸/ベンゼン/還流;c, HF-ピリジン/THF/ピリジン;d, LiAlH4/THF]
【0141】
スキーム4.
7-(4-ヒドロキシフェニル)スピロ[3.5]-ノナン-1-オールの提唱された合成[試薬:a, シクロプロピルフェニルスルフィド/n-ブチルリチウム;b, テトラフルオロホウ酸トリメチルオキソニウムの後にNaOH;c, NaBH4;d, H2, Pd/C, MeOH]
【0142】
スキーム5.
2-(4-ヒドロキシフェニル)-6-ヒドロキシジシクロ[3.3.1]ノン-2-エンの提唱された合成[試薬:a, (4-ブロモフェノキシ)-tert-ブチルジメチルシラン/n-ブチルリチウム/THF/-78℃、次いで、ビシクロ[3.3.1]-ノナン-2,6-ジオン;b, メタンスルホニルクロリド/トリエチルアミン;c, SiO2;d, TBAF;e, NaBH4]
【0143】
スキーム6.
6-ヒドロキシメチレン-3-(4-ヒドロキシフェニル)ビシクロ[3.1.0]ヘキサンの提唱された合成[試薬:a, アリルマグネシウムブロミド(2当量);b, グラブズ(Grubbs)の第二世代触媒;c, NaBH3CN/BF3-Et2O;d, N2CHCO2R/Rh2 (OAc) 4;(e)LiAlH4;(f)H2, Pd/C, MeOH]
【0144】
2.2 生物学的活性評価
2.2.1. 結合および細胞ベースアッセイ
5a/bの親和性(IC50=1.3nM)は、以前に報告されたリード分子であるEGX358,9の18倍であり、(±)-11は、さらに6倍強力である(表1、補足図S1)。TR-FRET結合アッセイは、リガンド結合ドメインから蛍光標識E2アゴニストを移動させる能力を測定し、そのため、コアクチベーターの存在下で結合する能力も、アゴニストとして転写を活性化する能力も反映しない。TR-FRET LBDアッセイのコアクチベーター型を行った時に、5a/bおよび11はERとの結合およびPPARγコアクチベーターペプチドの動員についてEGX358よりも9.5倍および2.3倍強力であった(表1、補足図S2)。このアッセイは、単にアゴニストと受容体との結合ではなく、コアクチベーターペプチドの結合およびアゴニスト誘発性動員を測定する点でER LBD活性化を測定する。最後に、5a/bおよび(±)-11のアゴニスト活性およびアンタゴニスト活性を細胞ベース転写活性化アッセイにおいて測定した(表1、補足図S3)。このアッセイでは、インビボ状況を最も良く模倣するように(LBDのみとは対照的に)完全長および天然のERを使用する。アダマンチルフェノール5a/bは1.9±0.4nMのERβ EC50で3種類の化合物のうち最大の効能を示した。5a/bはERα活性化と比較してERβに対して377倍の選択性を示した(図4a)。スピロ環ブタノール(±)-11は5a/bよりも強力でなかったが、6.2±1.6nMのERβ EC50で、かつERαと比べてERβに対して1,100倍の選択性で5a/bよりも選択的である(図4b)。両化合物ともEGX358より強力であるが、5a/bはEGX358と比べて選択性を失っている。
【0145】
(表1)TR-FRET結合および細胞ベース転写アッセイにおける生物学的評価
IC50/EC50値はnM単位である。
aref.8からのEGX358のデータ
【0146】
2.2.2 エストロゲン受容体ドッキング結果
細胞ベース機能アッセイにおける5a/bおよび(±)-11のERβ対ERα選択性はTR-FRETコアクチベーター結合アッセイよりもかなり大きい。ERβまたはERαに対するTR-FRETコアクチベーター結合アッセイはリガンド結合ドメインしか使用せず、従って、このアッセイは、コアクチベーター結合によって誘導される結合相乗作用しか測定しない。比較して、より生物学的に関連する細胞ベースアッセイは、エストロゲン受容体とアゴニストとの結合によって誘導されるコンホメーション変化、すなわち、活性化された転写開始複合体の一部であるコアクチベーターの結合を可能にするヘリックス-12の回転に起因する核内での転写活性化に基づいた用量反応効果を測定する。言い換えると、これは、単に受容体に対する単純な親和性でなく多段階プロセスである細胞内での実際のアゴニスト活性を測定している。
【0147】
アダマンチルフェノール5aおよび5bならびにスピロシクロブタノール(S)-11および(R)-11について、ERβ(PDB ID: 2JJ3)のリガンド結合ポケット内への、Schrodinger Suitesにあるグライド誘導適合ドッキング(Glide Induced Fit Docking)を行った(図3、補足図S4a~d)。全ての構造がERβリガンドポケット内で高い親和性(-9.885~-10.823kcal/mol)でドッキングした。エストロゲンおよびSERBAによく見られるように、フェノールヒドロキシル基がGlu305-Arg346-水トライアド(triad)と水素結合している9。11Å離れているポケットの反対側では5bの脂肪族ヒドロキシルがHis475δ1窒素と水素結合している。この水素結合は立体異性体5aの脂肪族ヒドロキシルには無く、このことが、この立体異性体の弱いドッキングに寄与しているのかもしれない。全てのものに、Phe356との重要なπ-π相互作用がある。
【0148】
(S)-11および(R)-11のスピロシクロブチル環はHis475に水素結合するように脂肪族ヒドロキシルをうまく配置するように見える。驚いたことに、ERα(PDB ID: 1ere)のリガンド結合ポケット内への5a、5b、(S)-11および(R)-11の誘導適合ドッキングによって、ERβ内にドッキングするためのドッキングエネルギーと同様のドッキングエネルギーが生じた。これらの類似するドッキングエネルギーは、細胞ベース機能アッセイよりもTR-FRETコアクチベーター結合において観察されるERβ:ERα選択性と合致している。本発明者らは、このことを、EGX358とERβおよびERαとのドッキングにおいて以前に観察したことがある9
【0149】
2.2.3 CYP450代謝
CYP450酵素キネティック阻害アッセイにおけるCYP450結合の実験測定から、5a/bは、試験した3種類のCYP450(CYP3A4、CYP2D6、CYP2C9)のうちCYP2C9にのみ10±0.5μMのIC50で弱く結合することが分かる(図4、補足図S5a~b)。対照的に、スピロシクロブタノール(±)-11は、これらのどのCYP450酵素にも有意な活性で結合しない。このため、11は潜在的な代謝傾向の点から好ましい薬物リード分子である。
【0150】
Schrodinger計算に基づいた5bおよび11の予測された代謝を図5に示した。このことから、両分子の最もありそうな代謝部位はフェノール環、特に、フェノールヒドロキシル基に対してオルト位であるが分かる(図5a~d)。これは、この位置の内因反応性と、CYP450活性部位ポケットへのドッキングに基づいている(図5e)。脂肪族ヒドロキシルも潜在的に酸化される可能性があるが、5bの第1級アルコール(図5a)は、予想通り、11の第2級アルコール(図5b)よりもかなり不安定であると予測される。
【0151】
バイオアベイラビリティ予測をSchrodinger QikPropを用いて行った。Caco-2透過性としての、予測された腸粘膜横断輸送は5b(1126nm/sec)が最大であり、これにEGX358(1005nm/sec)、次に11(935nm/sec)が続いた。MDCK透過性としての、予測された血液脳関門(BBB)横断輸送は5b(562nm/sec)が最大であり、これにEGX358(497nm/sec)、次に11(460nm/sec)が続いた。だが全ての場合において、比較的好ましい輸送特性が予測され、これは、マウスモデル研究における経口送達EGX358を用いた、本発明者らの以前に報告した9,10効力研究と一致する。
【0152】
結論
要約すると、2種類の新たな多環式4置換フェノール5a/bおよび(±)-11を調製した。それぞれが細胞ベース機能アッセイにおいて1桁ナノモル濃度ERβアゴニストであることが見出された(それぞれ、EC50=1.9±0.4および6.2±1.4nM)。スピロシクロブタノール類似体11は顕著なERβ:ERα選択性(1,100倍の選択性)を示した。さらに、11はP450酵素であるCYP2C9もCYP2D6もCYP3A4も62.5μMまで阻害しなかった。5a/bの予測された代謝部位の1つは第1級アルコール官能基であったが、計算予測から11のシクロブタノール官能基は反応する傾向がかなり少ないことが分かった。将来の研究は立体異性体5a/bの分離と鏡像異性体(S)-11および(R)-11の分離、それらの個別のERβ活性化およびERα活性化の評価、卵巣切除マウスモデルにおける、のぼせ緩和および記憶固定における効力についてのインビボ試験、ならびにミクロソーム安定性、PK、および安全性毒物学を伴うだろう。これらの結果は、しかるべき時がくれば報告されるだろう。
【0153】
4.実験
4.1化学
4.1.1一般的な実験
水分または空気の影響を受けやすい試薬を伴う全ての反応を窒素雰囲気下で、無水溶媒が入っている、オーブン乾燥させたガラス製品の中で行った。THFおよびエーテルをナトリウム/ベンゾフェノンから蒸留した。クロマトグラフィーによる精製を、フラッシュシリカゲル(32~63μ)を用いて行った。NMRスペクトルをVarian Mercury+ 300 MHzまたはVarian UnityInova 400 MHz機器によって記録した。CDCl3、CD3OD、およびd6-DMSOをCambridge Isotope Laboratoriesから購入した。1H NMRスペクトルを残留CHCl3については7.27ppmに、CD2HODについては3.31ppmに較正した。13C NMRスペクトルをCDCl3については77.23ppmにある中心ピークから、CD3ODについては49.15ppmにある中心ピークからから較正した。結合定数をHzで報告した。高分解能質量スペクトルをウィスコンシン大学ミルウォーキー校(University of Wisconsin-Milwaukee)にある質量分析施設から入手した。
【0154】
4.1.2メチル4-オキソアダマンタン-1-カルボキシレート(1)
メタノール(50mL)に溶解した2-アダマンタノン-5-カルボン酸(5.00g、25.7mmol)の溶液にSOCl2(4.67mL、64.4mmol)を滴下した。溶液を還流で6時間加熱した。溶液を室温まで冷却し、水(20mL)でクエンチした。メタノールを減圧下で蒸発させた後、飽和重炭酸ナトリウム水溶液(10mL)を添加した。結果として生じた混合物を酢酸エチルで数回抽出し、組み合わせた有機層をブラインで洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、減圧下で濃縮して、1(3.520g、66%)を無色の固体として得た。
この化合物のスペクトルデータは文献スペクトルデータ13と一致した。
【0155】
4-(4-ベンジルオキシフェニル)-4-ヒドロキシトリシクロ[3.3.1.13,7]-デカン-1-カルボン酸メチルエステル(2a/b)
0℃で、乾燥THF(30mL)に溶解した1(1.20g、5.76mmol)の溶液に、4-ベンジルオキシフェニル-マグネシウムブロミド(THFに溶解して1.0M、6.0mL、6.0mmol)の溶液を滴下した。反応物を室温まで温め、4時間撹拌した。反応を飽和NH4Cl(20mL)でクエンチし、エーテル(30mL)と水(20mL)の間で分配した。水層をエーテルで数回抽出し、組み合わせたエーテル層をブラインで洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘキサン-酢酸エチル=4:1)によって精製して、2a/b(1.620g、72%)を暗い黄色のペーストとして得た。NMR分光法によって、これは2種類の立体異性体の混合物(積分により約1:1比)であることが明らかになった。
【0156】
4-(4-ベンジルオキシフェニル)-4-ヒドロキシトリシクロ[3.3.1.13,7]-デカン-1-メタノール(3a/b)
0℃で、乾燥THF(20mL)に溶解した2a/b(1.50g、4.96mmol)の溶液に固体LiAlH4 (753mg、19.8mmol)を添加した。反応物を室温まで温め、2時間撹拌した。反応を慎重に水(15mL)でクエンチし、酢酸エチルで数回抽出した。組み合わせた有機層を乾燥させ(MgSO4)、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘキサン-酢酸エチル=7:3)によって精製して、3a/b(1.330g、74%)を無色の固体として得た。NMR分光法によって、これは2種類の立体異性体の混合物(積分により1:1比)であることが明らかになった。
【0157】
4-(4-ベンジルオキシフェニル)トリシクロ[3.3.1.13,7]-デカン-1-メタノール(4a/b)
-78℃で、乾燥THF(20mL)に溶解した3a/b(1.27g、3.50mmol)の溶液にNaCNBH3 (1.100g、17.5mmol)を添加した。反応物を30分間撹拌し、次いで、BF3-Et2O(2.5mL、17.5mmol)を滴下した。溶液を室温まで温め、溶液を室温まで温め、一晩撹拌した。反応を慎重に水(10mL)でクエンチし、結果として得られた混合物を酢酸エチルで数回抽出した。組み合わせた有機層を飽和重炭酸ナトリウム水溶液、水、およびブラインで連続して洗浄した。組み合わせた有機層を乾燥させ(MgSO4)、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘキサン-酢酸エチル=4:1)によって精製して、4a/b(630mg、52%)を無色の油として得た。静置させると、これは固化した。NMR分光法によって、これは2種類の立体異性体の混合物(積分により1:1.2比)であることが明らかになった。mp112~114℃;
【0158】
4-(4-ヒドロキシフェニル)トリシクロ[3.3.1.13,7]-デカン-1-メタノール(5a/b)
メタノール(15mL)に溶解した4a/b(570mg、1.64mmol)の溶液に10%Pd/C(349mg、3.28mmol)を添加した。H2で満たしたバルーンの下で混合物を室温で12時間攪拌した。反応混合物を一枚のセライトで濾過し、乾燥させ(MgSO4)、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘキサン-酢酸エチル4:1)によって精製して、5a/b(350mg、83%)を無色の固体として得た。NMR分光法によって、これは2種類の立体異性体の混合物(積分により約1:1.8比)であることが明らかになった。mp148~150℃;
【0159】
エキソ-7-[4-(t-ブチルジメチルシリルオキシ)フェニル]-1,1-ジクロロ-スピロ[3.5]ノナン-2-オン(7)およびエンド-7-[4-(t-ブチルジメチル-シリルオキシ)フェニル]-1,1-ジクロロ-スピロ[3.5]ノナン-2-オン(8)
無水エーテル(15mL)に溶解した6(1.0g、3.3mmol)の溶液にN2下で顆粒化Zn(0.648g、9.92mmol)を添加した。溶液に注射器で塩化トリクロロアセチル(0.6mL、0.901g、9.92mmol)をゆっくりと添加した。混合物を超音波浴に入れて1時間撹拌し、次いで、45℃で3時間撹拌しながら加熱した。室温まで冷却した後、混合物を一枚のセライトで濾過し、濾液をエーテルで希釈した。次いで、エーテル層を飽和NH4C水溶液で洗浄し、その後に飽和NaHCO3水溶液で洗浄し、最後にブラインで洗浄した。組み合わせた有機層を乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘキサン-酢酸エチル=10:1)によって精製して、立体異性体7および8(0.712g、52%)の混合物を無色の油として得た。
混合物を、これ以上特徴付けることなく以下の反応で使用した。
【0160】
7-[4-(t-ブチルジメチルシリルオキシ)フェニル]スピロ[3.5]ノナン-2-オン(9)
N2下で、氷酢酸(10mL)に溶解した7/8(0.300mg、0.726mmol)の溶液に顆粒化Zn(0.648g、9.92mmol)を一度に添加し、混合物を70℃まで16時間加熱した。室温まで冷却した後、混合物を一枚のセライトで濾過してZn残渣を除去した。濾液を水(30mL)で処理し、酢酸エチルで数回抽出した。組み合わせた有機層を1M NaOH水溶液で洗浄し、その後、ブラインで洗浄し、乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘキサン-酢酸エチル=20:1)によって精製して、少量のTBS脱保護フェノールと一緒に9(0.200g、80%)を無色の油として得た。
材料を、これ以上特徴付けることなく次の工程で使用した。
【0161】
7-(4-ヒドロキシフェニル)スピロ[3.5]ノナン-2-オン(10)
室温で、メタノール(10mL)に溶解した9(0.200g、0.580mmol)の溶液に注射器でHF-ピリジン複合体(65%HF、0.2mL、5.8mmol)を滴下した。反応混合物を室温で16時間撹拌した。混合物を水でクエンチし、メタノールを減圧下で蒸発させた。結果として得られた混合物を酢酸エチルで数回抽出した。組み合わせた有機層を乾燥させ(Na2SO4)、濃縮して、10(0.098g、73%)を白色固体として得た。mp150~154℃。mp150~154℃;
【0162】
7-(4-ヒドロキシフェニル)スピロ[3.5]ノナン-2-オール(11)
0℃で、メタノール(10mL)に溶解した10(98mg、0.426mmol)の溶液に固体CeCl3-7H2O(167mg、0.449mmol)を添加した。10分間撹拌した後、固体NaBH4 (18mg、0.468)を添加した。混合物を室温まで温め、3時間撹拌した。氷冷水(20mL)を添加して、反応をクエンチし、次いで、メタノールを減圧下で蒸発させた。残渣を酢酸エチルで数回抽出し、組み合わせた有機層をブラインで洗浄し、乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘキサン-酢酸エチル=4:1)によって精製して、11(0.085g、86%)を無色の固体として得た。mp194~195℃;
【0163】
7-[4-(t-ブチルジメチルシリルオキシ)フェニル)-1,5-ジメチルビシクロ[3.3.0]オクト-6-エン-3-オン(13)
-78℃、N2下で、乾燥THF(20mL)に溶解した1-ブロモ-4-(t-ブチルジメチルシリルオキシ)ベンゼン(569mg、1.98mmol)の溶液にn-ブチルリチウム(1.1mL、2.0M、2.2mmol)の溶液を添加した。混合物を1時間撹拌した。反応混合物に、-78℃で、乾燥THF(15mL)に溶解したモノケタール12(500mg、1.98mmol)の溶液を添加し、混合物を3時間撹拌した。混合物を室温まで温め、水でクエンチし(25mL)、混合物をCH2Cl2によって分配した。組み合わせた有機層を乾燥させ(MgSO4)、濃縮した。粗生成物を、ベンゼン(15mL)とアセトン(10mL)の混合物に溶解し、p-トルエンスルホン酸(101mg、0.586mmol)を添加した。混合物を70℃まで16時間加熱し、室温まで冷却し、酢酸エチルで希釈した。混合物を飽和NaHCO3水溶液で洗浄した後に、ブラインで洗浄し、組み合わせた水層を酢酸エチルで抽出した。組み合わせた酢酸エチル層を乾燥させ(MgSO4)、濃縮した。残渣をフラッシュクロマトグラフィー(SiO2、ヘキサン-酢酸エチル=4:1)で精製して(±)-13(160mg、23%)を無色の油として得た。
【0164】
7-(4-ヒドロキシフェニル)-1,5-ジメチルビシクロ[3.3.0]オクト-6-エン-3-オン(14)
テフロン反応容器の中にある、乾燥THF(10mL)およびピリジン(1mL)に溶解した(±)-13(155mg、mmol)の溶液に65%HF-ピリジン(0.1mL)を添加した。反応混合物を室温で20時間撹拌した。この時に、TLC(ヘキサン-酢酸エチル=3:1)は出発物質の消失を示した。混合物を酢酸エチルで希釈し、10%HCl水溶液(5mL)でクエンチし、層を分離した。有機層をブラインで洗浄し、組み合わせた水層を酢酸エチルでさらに抽出した。組み合わせた酢酸エチル層を乾燥させ(MgSO4)、濃縮して(±)-14(87mg、83%)を無色の固体として得た。
【0165】
(±)-エンド-7-(4-ヒドロキシフェニル)-1,5-ジメチルビシクロ[3.3.0]オクト-6-エン-3-オールおよび(±)-エキソ-7-(4-ヒドロキシフェニル)-1,5-ジメチルビシクロ[3.3.0]オクト-6-エン-3-オール(15)
0℃、N2下で、無水THF(10mL)に溶解した(±)-14(74mg、0.31mmol)の溶液に固体LiAlH4 (55mg、1.4mmol)を少しずつ添加した。混合物を0℃で2時間撹拌し、次いで、泡立ちが止まるまでH2O(1mL)を非常にゆっくりと滴下した。NaOH希釈水溶液(1mL)を添加し、その後にH2O(50mL)を添加した。混合物を酢酸エチルで数回抽出し、組み合わせた抽出物を乾燥させ(MgSO4)、溶媒を蒸発させて無色の固体(65mg、86%)を得た。この1H NMRスペクトルによって、これはエンド-アルコール立体異性体およびエキソ-アルコール立体異性体の混合物であることが分かった。
【0166】
4.2 生物学的評価
4.2.1 TR-FRETリガンド結合置換アッセイ
競合的リガンド結合分析を、Thermo Fisher Scientific LanthaScreen(商標)アッセイを用いて行った。GST結合ドメインに対する「ドナー」テルビウム標識抗体を、リガンド結合ドメイン(LBD)を含有するGST-ERβ構築物と結合させた。17-β-エストラジオールを含有する蛍光標識トレーサー分子(Fluoromone E2)をGST-ERβ-LBDと結合させた。「ドナー」抗体が励起すると「アクセプター」トレーサー分子へのエネルギー転移が起こった。トレーサー分子の置換を化合物の導入後に測定し、次いで、フルオレセイン標識「アクセプター」(520nm)とテルビウム「ドナー」(495nm)発光値の比を用いて計算した。10点滴定を、1000nMから始まる化合物の1:2段階希釈液を用いて行い、分析を、1%の最終の、かつ決まったDMSO濃度で行った。発光比を、0.497nMのIC50を有する17-β-エストラジオールのアッセイ対照に対して正規化した。データを、GraphPad Prism(登録商標)6 for Windows, ver. 6.07 (June 12, 2015)を用いて分析した。各化合物のIC50を、式1の非線形最小二乗フィット(正規化された可変勾配分析)を用いて計算した。標準偏差の値は、このフィッティングプロセスに由来する。
y=100/(1+10 (logIC50-x)*Hillslope)) (1)
GraphPad Prism(登録商標)6ではLog(IC50)の標準偏差(SD)が得られるので、標準偏差を得るために、以下の補正:
IC50のSD=(((LogIC50のSD)/0.434) *IC50) (2)
が必要とされることに留意のこと。
【0167】
4.2.2 細胞ベースのアゴニストアッセイおよびアンタゴニストアッセイ
アゴニスト活性およびアンタゴニスト活性を、Indigo Biosciencesにより供給されたERαベースアッセイキットおよびERβ細胞ベースアッセイキットを用いて測定した。このキットでは、完全長ヒトエストロゲン受容体(ER)1(NR3A1)を発現するように操作された非ヒト細胞を利用する。細胞は、受容体の活性変化を定量できるERα反応性プロモーターまたはERβ反応性プロモーターと連結されたルシフェラーゼレポーター遺伝子を含有する。ER活性の変化は、添加された化合物のアゴニスト特性またはアンタゴニスト特性に依存する。ルシフェラーゼ検出薬剤を用いて、ERによって誘導されたルシフェラーゼ発現のルミネセンス強度を定量する。ルミネセンス強度はSpectraMax M5プレートリーダーを用いて測定する。リガンド原液をDMSOに溶解して調製し、キットと共に供給される化合物スクリーニング培地(Compound Screening Medium)(CSM)を用いて最終濃度まで希釈した。それぞれの原液のDMSO濃度を0.4%のアッセイ限界より低く保った。アッセイを、キット説明書に従って、アゴニストアッセイおよびアンタゴニストアッセイのビヒクル対照を加えて行った。簡単に述べると、細胞を冷凍庫から直接取り出し、キットと共に供給される細胞回収培地(Cell Recovery Media)(CRM)で希釈した。すぐに細胞を37℃で5分間、ウォーミングバス(warming bath)に入れた。細胞懸濁液を半分に分け、アンタゴニストアッセイ用に細胞の半分にエストラジオール(E2)を添加し、アゴニストアッセイには、E2を含有しない、もう半分の細胞を使用した。アッセイを2回繰り返して行い、5a/bおよび(±)-11についてERβを用いた2回の試験を行った。細胞をプレートし、関心対象の化合物を添加した。次いで、プレートを5%CO2で、37℃で24時間インキュベートした。細胞培地を取り出し、ルシフェリン検出試薬を添加してルミネセンスを測定した。データを、GraphPad Prismを用いてE2に対して正規化し、式3:
y=YL+(YH-YL)(1+10((logEC50-x)*Hillslope)) (3)
にフィットさせた。
式中、YLおよびYHは、それぞれ、低いプラトー値および高いプラトー値であった。フィッティングのために、YLを0に制約した。標準偏差を式2に従って計算した。
【0168】
4.2.3 チトクロムP450結合測定
チトクロムp450阻害のスクリーニングを、Promega P450-Glo(商標)スクリーニングシステムを用いて行った。CYP2C9、CYP2D6、またはCYP3A4酵素について、それぞれ、基質としてルシフェリン-H、ルシフェリン-ME EGE、またはルシフェリン-PPXEを用いてスクリーニングシステムの説明書に従った。キットの成分、すなわち、膜酵素、対照酵素、基質、ならびにリン酸カリウム緩衝液およびまたはTRIS緩衝液を、Systemマニュアルの推奨された最終濃度に従って組み合わせた。反応物を白色96ウェル平底プレート中で37℃で10分間プレインキュベートした後に、2xNADPH再生緩衝液を用いて反応を開始した。96ウェルプレートを、それぞれの酵素/基質反応の直線範囲内で、推奨される時間に従ってインキュベートした。2xルシフェリン検出試薬を用いて反応を止めた。20分後に、ルシフェラーゼ生成物を、SpectraMax M5 Molecular Devicesプレートリーダーを用いてエンドポイントルミネセンス設定で検出した。CYP2C9、CYP2D6、およびCYP3A4酵素の正の対照阻害剤を、それぞれ、最終濃度10μMのスルファフェナゾール、1μMのキニジン、および5μMのケトコナゾールでアッセイした。5a/bおよび(±)-11の段階希釈液を、最終濃度62.5μM、31.25μM、15.125μM、7.812μM、3.906μM、1.953μM、0.977μM、0.488μMでアッセイした。阻害データを、GraphPad Prism(登録商標)6 for Windows, ver. 6.07 (June 12, 2015)ソフトウェアを用いて分析した。生データを対照酵素および未処理CYP酵素手段に対して正規化し、次いで、非線形回帰によってlog(阻害剤) 対 正規化された用量反応曲線を用いて分析してIC50sを評価した。標準偏差をベストフィット(Best-fit)値から計算した。データを、ビヒクルおよび正の対照(CYP2C9についてはスルファフェナゾール、CYP2D6についてはキニジン、およびCYP3A4についてはケトコナゾール)に対して正規化し、データの非線形二乗フィットをPrism 6(GraphPad)を用いて行った。
【0169】
4.3.5 ERβドッキング研究
ヒトERβ(PDB ID: 2JJ3)の結合ポケット内への5bおよび11のドッキングを、Schrodinger Maestro 12.5.16 Preprocessのグライド(Glide)機能を用いて行い、レビューアンドモディファイ(review and modify)およびリファイン(refine)工程を行った。プレプロセス用に設定した条件は、CCDデータベースを用いて結合次数を割り当てる(assign bond orders through the use of the CCD database)、水素を加える(add hydrogens)、金属に対して0次結合を作り出す(create zero-order bonds to metals)、ジスルフィド結合を作り出す(create disulfide bonds)、および7.0+/-2.0の間のpHでエピックを用いて「ヘット」状態を生じさせる(generate “het” states using Epik with a pH between 7.0 +/-2.0)、であった。ER-βのローブ(lobe)が同じであるという事実のために、レビューアンドモディファイでは鎖Bを欠失させた。プレプロセスされたタンパク質を精密にするために、水素結合の割り当て、試料の水の配向、および水素を最小化した。最小化工程は重原子を0.30ÅのRMSDに集中させた。最小化に使用した力場はOPLS3eであった。LigPrep17を用いて、ドッキングするように5bおよび11の構造を適切に整えた。これらの分子はOPLSe力場によって整えられ、イオナイザー機能を用いて7.0+/-2.0のpHで起こり得る状態を生じさせた。さらに、脱塩特徴(desalt feature)ならびに互変異性体オプションを生じさせる(generate tautomer option)を選択した。残りの設定をデフォルトに設定した。標準的な精密ドッキング(precision docking)と可動性リガンドサンプリング(flexible ligand sampling)を使用した。結果として生じた図(図3)は、重要な残基との相互作用と、活性部位における分子の方向を示す。
【0170】
4.3.6 チトクロムP450代謝予測
SchrodingerソフトウェアのP450 Perform Calculationsを用いて、以前に調製したリガンド(5a/b;11)を分析して、CYP450代謝に対する感受性を予測した。選択されたCYP450アイソフォームは3A4、2C9、または2D6であり、これらを計算することで内因反応性を予測した。正の数が大きいほど、その原子の反応性は大きくなる。2C9および2D6計算は誘導適合ドッキングと、その後のFe接近性測定も含む。これは反応性ヘムFe原子の5オングストローム以内にある原子のポーズ数の自然対数である。
【0171】
参考文献および注釈
【0172】
前述の説明において、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、本明細書において開示される発明に様々な置換および変更が加えられ得ることは当業者に容易に明らかである。本明細書において例示的に説明された発明は、適宜、本明細書において具体的に開示されない要素が無くても、制限が無くても実施され得る。使用されてきた用語および表現は説明の用語として用いられ、限定の用語として用いられず、このような用語および表現を使用する際に、示された、および説明された特徴またはその一部の、あらゆる均等物を除外することは意図されず、様々な変更が本発明の範囲内で可能であると認識される。従って、本発明は特定の態様および任意の特徴によって例示されたが、本明細書において開示される概念の変更および/または変化は当業者によって用いられてもよく、このような変更および変化は本発明の範囲内であるとみなされると理解されるはずである。
【0173】
多数の特許および非特許参考文献が本明細書において引用された。引用された参考文献はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。万一、引用された参考文献中の用語の定義と比較して、本明細書中の用語の定義に矛盾があったら、この用語は本明細書中の定義に基づいて解釈しなければならない。
【0174】
実施例2
トランス-4-(4-(フルオロメチル)シクロヘキシル)フェノール
CH2Cl2(12mL)に溶解した化合物トランス-4-(4-(ヒドロキシメチル)シクロヘキシル)フェノール1(0.065g、0.315mmol)の撹拌溶液に、-78℃で、CH2Cl2(3mL)に溶解したbis(2-メトキシエチル)アミノ硫黄トリフルオリド(0.09mL、0.473mmol)を添加した。混合物をN2下で撹拌し、室温まで徐々に温めた。完了したら、飽和NaHCO3(10mL)を混合物に注いだ。CO2放出が終わった後に、混合物をCH2Cl2で数回抽出し、組み合わせた抽出物を乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘキサン-酢酸エチル=4:1)によって精製して、トランス-4-(4-(フルオロメチル)シクロヘキシル)フェノール(0.037g、56%)を無色の固体として得た。mp103~109℃;
【0175】
1-(4-(ベンジルオキシ)フェニル)-4-(トリフルオロメチル)シクロヘキサン-1-オール
0℃、N2下で、無水THF(15mL)に溶解した4-リフルオロメチルシクロヘキサノン(0.200mg、1.20mmol)の溶液に(4-(ベンジルオキシ)フェニル)マグネシウムブロミド(THFに溶解して0.8M、2.3mL、1.81mmol)の溶液をゆっくりと添加した。混合物を0℃で30分間撹拌し、次いで室温で16時間撹拌した。溶液を0℃まで冷却し、水(30mL)でクエンチし、その後に1M HCl水溶液(30mL)でクエンチした。混合物を酢酸エチルで数回抽出し、組み合わせた有機層をブラインで洗浄し、乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。粗残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘキサン-酢酸エチル=4:1)で精製して、1-(4-(ベンジルオキシ)フェニル)-4-(トリフルオロメチル)シクロヘキサン-1-オール(0.260g、62%)をシスジアステレオマーおよびトランスジアステレオマーの混合物として黄色の蝋様の固体として得た。この材料を、これ以上精製することなく次の工程に進めた。
【0176】
トランス-1-(ベンジルオキシ)-4-(4-トリフルオロメチルシクロヘキシル)ベンゼン
N2下、0℃で、乾燥CH2Cl2(30mL)に溶解した1-(4-(ベンジルオキシ)フェニル)-4-(トリフルオロメチル)シクロヘキサン-1-オール(0.260g、0.742mmol)およびトリエチルシラン(0.20mL、1.5mmol)の溶液に注射器でBF3-Et2O(0.20mL、1.5mmol)をゆっくりと添加した。添加が完了した後に、反応混合物を室温にし、3時間撹拌した。飽和NaHCO3水溶液(20mL)を添加し、層を分離し、水層をCH2Cl2で数回抽出した。組み合わせた有機層をブラインで洗浄し、乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘキサン-酢酸エチル=20:1)によって精製して、トランス-1-(ベンジルオキシ)-4-(4-トリフルオロメチルシクロヘキシル)ベンゼン(0.150g、60%)をオフホワイトの固体として得た。mp=100~105℃。
【0177】
トランス-4-(4-(トリフルオロメチル)シクロヘキシル)フェノール
メタノール(10mL)に溶解したトランス-1-(ベンジルオキシ)-4-(4-トリフルオロメチルシクロヘキシル)ベンゼン(0.140g、0.419mmol)の溶液に10%Pd/C(45mg、0.042mmol、10mol%)を添加した。H2で満たしたバルーンの下で混合物を室温で12時間攪拌した。反応混合物を一枚のセライトで濾過し、濃縮して、トランス-4-(4-(トリフルオロメチル)シクロヘキシル)フェノール(0.090g、88%)を茶色の固体として得た。mp=95~100℃;
【0178】
2-フルオロ-4-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)フェノール
無水メタノール(10mL)に溶解した4-(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン-1-オン2(0.033g、0.159mmol)の溶液にNaBH4 (0.090g、2.38mmol)を添加した。反応物を室温で2時間撹拌し、次いで、水で希釈した。結果として生じた混合物を酢酸エチル(2×15mL)で抽出し、組み合わせた抽出物を濃縮した。カラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘキサン-酢酸エチル=13:7)によって残渣を精製して、2-フルオロ-4-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)フェノール(0.020g、61%)を無色の固体として得た。mp179~186℃。
【0179】
4-(4-(ベンジルオキシ)-3-フルオロフェニル)シクロヘキサン-1-オン
N,N-ジメチルホルムアミド(10mL)に溶解した4-(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン-1-オン(0.205g、0.984mmol)の溶液にベンジルブロミド(0.219g、0.15mL、1.28mmol)を添加し、その後に炭酸カリウム(0.177g、1.28mmol)を添加した。混合物を還流で6時間加熱した。室温まで冷却した後、混合物を氷冷水に注ぎ、酢酸エチル(2x15mL)で抽出した。組み合わせた有機抽出物をブライン(3x15mL)で洗浄し、乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘキサン-酢酸エチル=9:1)によって精製して、4-(4-(ベンジルオキシ)-3-フルオロフェニル)シクロヘキサン-1-オン(0.232g、79%)を無色の固体として得た。mp 55~60℃。
【0180】
1-(ベンジルオキシ)-2-フルオロ-4-(4-メチレンシクロヘキシル)ベンゼン
ヘキサンに溶解したn-ブチルリチウムの溶液(2.5M、0.47mL、1.17mmol)を、-10℃で、乾燥THF(20mL)に溶解したメチルトリフェニル-ホスホニウムブロミド(0.556g、1.56mmol)の撹拌溶液にゆっくりと添加した。20分後に、乾燥THF(10mL)に溶解した4-(4-(ベンジルオキシ)-3-フルオロフェニル)シクロヘキサン-1-オン(0.232g、0.778mmol)の溶液を滴下した。反応混合物をゆっくりと室温まで温め、一晩撹拌した。混合物を水(10mL)で希釈し、酢酸エチル(2×25mL)で抽出し、乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘキサン-酢酸エチル=9:1)によって精製して、1-(ベンジルオキシ)-2-フルオロ-4-(4-メチレン-シクロヘキシル)ベンゼン(0.165g、72%)を無色の固体として得た。
【0181】
(4-(4-(ベンジルオキシ)-3-フルオロフェニル)シクロヘキシル)メタノール
0℃で、THFに溶解した9-BBNの溶液(0.5M、1.46mL、0.729mmol)を、THF(15mL)に溶解した1-(ベンジルオキシ)-2-フルオロ-4-(4-メチレン-シクロヘキシル)ベンゼン(0.108g、0.364mmol)の溶液に添加した。反応混合物をゆっくりと室温まで温め、20時間撹拌した。混合物を0℃まで再冷却した後に、過酸化水素溶液(水に溶解して30%、0.20mL)および1N NaOH溶液(0.50mL)を連続添加した。結果として生じた混合物を室温まで温め、15分間撹拌し、酢酸エチル(2×20mL)で抽出した。組み合わせた有機抽出物を乾燥させ(Na2SO4)、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘキサン-酢酸エチル=6:4)によって精製して、(4-(4-(ベンジルオキシ)-3-フルオロフェニル)シクロヘキシル)メタノール(0.025g、22%)を無色の固体として得た。これは、ヒドロキシメチレンダブレットの1H NMR積分によってシス立体異性体とトランス立体異性体(それぞれ、δ3.67および3.50ppm)の1:2混合物だと確かめられた。
【0182】
2-フルオロ-4-(4-(ヒドロキシメチル)シクロヘキシル)フェノール
酢酸エチル(10mL)に溶解した(4-(4-(ベンジルオキシ)-3-フルオロフェニル)シクロヘキシル)メタノール(0.050g、0.159mmol)の溶液に10%Pd/C(0.017g、10mol%)を添加し、H2で満たしたバルーンの下で混合物を室温で12時間攪拌した。反応混合物を一枚のセライトで濾過し、濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘキサン-酢酸エチル=3:2)によって精製して、2-フルオロ-4-(4-(ヒドロキシメチル)シクロヘキシル)フェノール82(0.018g、51%)を無色の固体として得た。これは、ヒドロキシメチレンダブレットの1H NMR積分によってシス立体異性体とトランス立体異性体(それぞれ、δ3.60および3.39ppm)の1:2混合物だと確かめられた。
【0183】
実施例2の参考文献
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5a
図5b
図5c
図5d
図5e
【国際調査報告】