(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-18
(54)【発明の名称】溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240910BHJP
C22C 38/14 20060101ALI20240910BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C22C38/00 301B
C22C38/14
C21D8/02 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024512219
(86)(22)【出願日】2022-11-25
(85)【翻訳文提出日】2024-02-22
(86)【国際出願番号】 KR2022018814
(87)【国際公開番号】W WO2023096398
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】10-2021-0165471
(32)【優先日】2021-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ, ハク チョル
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA04
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032BA01
4K032CA02
4K032CB02
4K032CC03
4K032CC04
4K032CD03
(57)【要約】
【課題】高強度と高靭性を有する鋼材を一定以上の入熱量で溶接しても、溶接熱影響部で優れた靭性を確保することができる鋼材とこれを製造する方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、船舶などに用いられる鋼材に関するものであり、重量%で、炭素(C):0.04~0.07%、マンガン(Mn):1.5~1.7%、シリコン(Si):0.1~0.3%、アルミニウム(Al):0.01~0.04%、ニッケル(Ni):0.7~1.0%、モリブデン(Mo):0.05~0.30%、チタン(Ti):0.010~0.018%、ニオブ(Nb):0.01~0.03%、窒素(N):0.003~0.006%、リン(P):0.007%以下、硫黄(S):0.002%以下を含み、残りはFe及び不可避不純物からなり、
入熱量100~200KJ/cmで溶接した溶接熱影響部(HAZ)は、溶融線(Fusion Line、FL)~FL+3mm領域でベイナイト相を面積分率90%以上含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.04~0.07%、マンガン(Mn):1.5~1.7%、シリコン(Si):0.1~0.3%、アルミニウム(Al):0.01~0.04%、ニッケル(Ni):0.7~1.0%、モリブデン(Mo):0.05~0.30%、チタン(Ti):0.010~0.018%、ニオブ(Nb):0.01~0.03%、窒素(N):0.003~0.006%、リン(P):0.007%以下、硫黄(S):0.002%以下を含み、残りはFe及び不可避不純物からなり、
入熱量100~200KJ/cmで溶接した溶接熱影響部(HAZ)は、溶融線(Fusion Line、FL)~FL+3mm領域でベイナイト相を面積分率90%以上含むことを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
【請求項2】
前記溶融線(Fusion Line、FL)~FL+3mm領域の旧オーステナイト平均粒度が100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
【請求項3】
前記溶融線(Fusion Line、FL)~FL+3mm領域は、引張強度610MPa以上、-20℃で衝撃靭性が33J以上であることを特徴とする請求項1に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
【請求項4】
前記鋼材は、微細組織で面積分率90%以上(100%含む)のベイナイト(bainite)及び残部アシキュラーフェライトを含むことを特徴とする請求項1に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材
【請求項5】
重量%で、炭素(C):0.04~0.07%、マンガン(Mn):1.5~1.7%、シリコン(Si):0.1~0.3%、アルミニウム(Al):0.01~0.04%、ニッケル(Ni):0.7~1.0%、モリブデン(Mo):0.05~0.30%、チタン(Ti):0.010~0.018%、ニオブ(Nb):0.01~0.03%、窒素(N):0.003~0.006%、リン(P):0.007%以下、硫黄(S):0.002%以下を含み、残りはFe及び不可避不純物からなる鋼スラブを1100~1180℃で再加熱する段階、
前記加熱された鋼スラブを900℃以上の温度で粗圧延する段階、
前記粗圧延後に800℃以上の温度で仕上げ圧延して熱延鋼材を製造する段階及び
前記熱延鋼材の厚さ(t、単位mm)のt/4地点の温度が600℃以下まで10℃/s以上の冷却速度で冷却する段階を含むことを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材の製造方法。
【請求項6】
前記粗圧延する段階は、40%以上の圧下率で行うことを特徴とする請求項5に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材の製造方法。
【請求項7】
前記仕上げ圧延する段階は、累積圧下率50%以上で行うことを特徴とする請求項5に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材の製造方法。
【請求項8】
前記冷却後に熱延鋼材を溶接する段階をさらに含み、
前記溶接は、入熱量100~200KJ/cmで行うことを特徴とする請求項5に記載の溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材及びその製造方法に係り、より詳しくは、船舶などに用いられる鋼材に関し、溶接により形成された溶接熱影響部(Heat Affected Zone、HAZ)の靭性に優れた鋼材とこれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、地球温暖化による気温上昇により北極の海氷面積が急速に減少するにつれて、北極航路開設に対する関心が高まっている。過去50年間、北極地域の気温が3~4℃上昇したことが観測され、今後100年間で6~7℃のさらなる気温上昇が予想されている状況である。このような温度上昇により、1980年以降の夏の北極海氷は40%程度減少し、海氷の厚さも薄くなっており、北極航路の活用可能性はさらに高まっている。
【0003】
北極航路を開拓するための船舶または北極航路を運行するための船舶は、有事時に氷河を粉砕することができる砕氷船(icebreaker)として建造することが必要である。砕氷船は、水面の氷を粉砕して航路を切り開いて航海する船舶をいう。
【0004】
これまでの砕氷船は、ほとんどが軍用または探査船であるが、最近、北極航路に対する関心が高まり、一般商船や遊覧船(観光船)までその使用範囲が拡張している。一例として、ロシアは地域的特性上、砕氷船の建造に最も積極的な国であり、エルマク(Ermak)号をはじめアルクティカ、シビルなど2020年基準で世界的に40余隻の砕氷船が活動しており、砕氷船の建造は今後さらに増加すると予想される。
【0005】
一方、砕氷船の船体に用いられる鋼材は、北極航路の低い温度に耐えるために極低温でも優れた衝撃靭性を有する必要があり、同時に船体を保護するためには高い強度を要求する。
【0006】
造船会社では、砕氷船の建造時に生産性を向上させるために、鋼材の溶接時に入熱量を増加させることが有利である。しかし、溶接入熱量を増加させる場合、溶接熱影響部の引張強度と靭性が低下するという問題が発生するため、上記のように溶接時に入熱量を高めても溶接熱影響部の靭性が低下しない鋼材を要求している実情である。
【0007】
一般的に高い入熱量で製造された溶接熱影響部の靭性を確保するためには、窒素含有量を高めて微細なTiN析出物を生成させることにより溶接熱影響部の粒度を微細化する方式(特許文献1)を用いている。しかし、この場合、高い窒素含有量に伴う自由窒素(Free N)により母材の衝撃靭性の低下が発生しやすく、小さくなった粒度により硬化能が低下するにつれて溶接熱影響部の引張強度が低くなり、低温変態相が多量生成される場合には、靭性が低下するという問題点も発生するようになる。
【0008】
したがって、母材の強度と靭性を確保しつつ、溶接入熱量を高めて溶接を行った場合にも同時に溶接熱影響部でも優れた靭性を確保することができる鋼材の製造技術が求められている実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が目的とするところは、高強度と高靭性を有する鋼材を一定以上の入熱量で溶接しても、溶接熱影響部で優れた靭性を確保することができる鋼材とこれを製造する方法を提供することである。
【0011】
本発明の課題は、上述した事項に限定されない。本発明のさらなる課題は明細書の全体的な内容に記述されており、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、本発明の明細書に記載された内容から本発明のさらなる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、重量%で、炭素(C):0.04~0.07%、マンガン(Mn):1.5~1.7%、シリコン(Si):0.1~0.3%、アルミニウム(Al):0.01~0.04%、ニッケル(Ni):0.7~1.0%、モリブデン(Mo):0.05~0.30%、チタン(Ti):0.010~0.018%、ニオブ(Nb):0.01~0.03%、窒素(N):0.003~0.006%、リン(P):0.007%以下、硫黄(S):0.002%以下を含み、残りはFe及び不可避不純物からなり、
入熱量100~200KJ/cmで溶接した溶接熱影響部(HAZ)は、溶融線(Fusion Line、FL)~FL+3mm領域でベイナイト相を面積分率90%以上含む溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材を提供する。
【0013】
本発明は、上述した合金組成を有する鋼スラブを1100~1180℃で再加熱する段階、上記加熱された鋼スラブを900℃以上の温度で粗圧延する段階、上記粗圧延後に800℃以上の温度で仕上げ圧延して熱延鋼材を製造する段階、及び上記熱延鋼材の厚さ(t、単位mm)のt/4地点の温度が600℃以下まで10℃/s以上の冷却速度で冷却する段階を含む溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、母材の強度及び靭性に優れるだけでなく、溶接熱影響部にも優れた強度と靭性を確保することができる鋼材及びこの製造方法を提供することができる。上記のような鋼材は、砕氷船、極低温環境の構造物など様々な分野で適用されることができる。
【0015】
本発明の多様でありながらも有意義な利点及び効果は、上述した内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程でより容易に理解されることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で用いられる用語は本発明を説明するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。さらに、本明細書で用いられる単数形態は、関連する定義がこれと明らかに反対される意味を示さない限り、複数の形態も含む。
【0017】
明細書で用いられる「含む」の意味は、構成を具体化し、他の構成の存在や付加を除外するものではない。
【0018】
他に定義しない限り、本明細書で用いられる技術用語及び科学用語を含むすべての用語は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有するように解釈される。
【0019】
本発明の発明者は、高い強度と靭性を有する鋼材に対して溶接入熱量を高めて約100~200KJ/cmの中入熱溶接を行う場合、形成された溶接熱影響部の靭性、特に低温靭性を向上させるための技術について深く研究した。
【0020】
その結果、合金組成と製造条件を最適化して溶接熱影響部の溶融線(Fusion Line、FL)付近の組織を硬質相に確保しながら、粒度制御によって本発明の技術的目的を達成することができることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0022】
本発明に係る溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材は、合金組成が重量%で、炭素(C):0.04~0.07%、マンガン(Mn):1.5~1.7%、シリコン(Si):0.1~0.3%、アルミニウム(Al):0.01~0.04%、ニッケル(Ni):0.7~1.0%、モリブデン(Mo):0.05~0.30%、チタン(Ti):0.010~0.018%、ニオブ(Nb):0.01~0.03%、窒素(N):0.003~0.006%、リン(P):0.007%以下、硫黄(S):0.002%以下で構成されることができる。
【0023】
以下では、本発明で提供する鋼材の合金組成を上記のように制限する理由について詳細に説明する。
【0024】
一方、本発明で特に断りのない限り、各元素の含有量は重量を基準とし、組織の割合は面積を基準とする。
【0025】
炭素(C):0.04~0.07%
炭素(C)は、母材だけでなく溶接熱影響部の強度を確保するために最も重要な元素であるため、適切な範囲内で鋼中に含まれる必要がある。
【0026】
上記Cの含有量が0.07%を超過するようになると硬化能が向上して強度が過度に高くなり、微細硬質相の析出により溶接熱影響部の靭性が低下するという問題がある。一方、その含有量が0.04%未満であると強度低下を招くため、好ましくない。
【0027】
したがって、上記Cは0.04~0.07%含むことができる。より有利には0.045%以上、0.065%以下含むことができる。
【0028】
マンガン(Mn):1.5~1.7%
マンガン(Mn)は、固溶強化により強度を向上させ、低温変態相が形成されるように硬化能を高めるのに有用な元素である。
【0029】
本発明では、溶接熱影響部の強度を610MPa以上に確保することを目的とするため、1.5%以上でMnを含むことが好ましい。但し、その含有量が1.7%を超過するようになると硬化能が過度に高くなり、却って溶接熱影響部の靭性が大きく低下するおそれがある。
【0030】
したがって、本発明において、上記Mnは1.5~1.7%含むことができる。
【0031】
シリコン(Si):0.1~0.3%及びアルミニウム(Al):0.01~0.04%
シリコン(Si)とアルミニウム(Al)は、製鋼及び連鋳工程時に溶鋼内に溶存酸素をスラグ(slag)形態で析出させて脱酸作業に必須な元素である。電炉を用いた鋼材製造時には、Siは0.1%以上、Alは0.01%以上含有されることが好ましい。但し、これら元素の含有量が過度である場合、SiとAl複合酸化物が粗大に生成されたり、溶接熱影響部の微細組織内に微細硬質相が多量生成されるおそれがあるため、Siは0.3%以下、Alは0.04%以下含むことが好ましい。
【0032】
ニッケル(Ni):0.7~1.0%
ニッケル(Ni)は、低温で電位のクロススリップ(cross slip)を容易にして衝撃靭性を向上させ、硬化能を高めて強度を増加させるのに重要な元素である。
【0033】
本発明は、溶接熱影響部の溶融線付近で硬質相(好ましくはベイナイト相)を形成させ、このような硬質相組織における衝撃靭性を向上させるためには、Niを0.7%以上含むことが好ましい。但し、その含有量が1.0%を超過するようになると硬化能が過度になり、却って靭性が低下するという問題があり、製造原価も大きく上昇させる問題がある。
【0034】
したがって、本発明において、上記Niは0.7~1.0%含むことができる。
【0035】
モリブデン(Mo):0.05~0.30%
モリブデン(Mo)は、鋼の硬化能を向上させて強度を高めるのに有用な元素であり、本発明で目標とする強度を確保するために0.05%以上でMoを含むことが好ましい。しかし、その含有量が過度の場合、強度が過度に高くなって靭性が低下するおそれがあるため、0.30%を超えないことが好ましい。
【0036】
チタン(Ti):0.010~0.018%
チタン(Ti)は、再加熱時にTiNに析出して母材及び溶接熱影響部の結晶粒成長を抑制することで靭性を大きく向上させる効果がある。TiNを効果的に析出させるためには、上記Tiを0.010%以上含むことが好ましい。しかし、その含有量が0.018%を超過するようになると、連鋳ノズルの目詰まりまたは中心部の晶出により低温靭性が低下するという問題とともに、TiとNの含有量比(N/Ti)が低くなり、TiN析出物が粗大になるにつれて溶接熱影響部の靭性が低下するおそれがある。
【0037】
したがって、本発明において、上記Tiは0.010~0.018%含むことができる。
【0038】
ニオブ(Nb):0.01~0.03%
ニオブ(Nb)は、NbCまたはNbCNの形態で析出して母材強度を向上させる。また、高温で再加熱時に固溶されたNbは圧延時にNbCの形態で非常に微細に析出してオーステナイトの再結晶を抑制して組織を微細化させる効果がある。
【0039】
上述した効果を十分に得るためには、上記Nbを0.01%以上含有することが好ましいが、その含有量が0.03%を超過するようになると鋼材の角に脆性クラックが発生する可能性が高く、溶接熱影響部に多量の微細硬質相が生成して靭性が低下するおそれがある。
【0040】
したがって、本発明において、上記Nbは0.01~0.03%含むことができる。
【0041】
窒素(N):0.003~0.006%
窒素(N)は、上記Tiと結合してTiNに析出することにより旧オーステナイト結晶粒の成長を抑制することで、粒度微細化効果を示す。このように、微細なTiN析出物を形成するためには、上記Nを0.003%以上含むことが好ましい。但し、その含有量が0.006%を超過するようになると自由窒素(Free N)の生成により靭性が低下するだけでなく、AlNが析出してスラブクラックを誘発する問題がある。
【0042】
したがって、上記Nは0.003~0.006%含むことができ、より有利には0.004%以上、0.005%以下含むことができる。
【0043】
リン(P):0.007%以下及び硫黄(S):0.002%以下
リン(P)及び硫黄(S)は、結晶粒界脆性を誘発したり、粗大な介在物を形成させて脆性を誘発する元素であって、鋼材の脆性割れ伝播抵抗性を向上させるための目的で、上記Pは0.007%以下、上記Sは0.002%以下に制限することができる。
【0044】
これらの元素は0%であることが有利であるが、不可避に添加され得ることを考慮して0%は除外することができる。
【0045】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入される可能性があるため、これを排除することはできない。これらの不純物は通常の製造過程の技術者であれば誰でも分かることであるため、そのすべての内容を特に本明細書で言及しない。
【0046】
上述した合金組成を有する本発明の鋼材は、微細組織がベイナイト単相であるか、面積分率90%以上のベイナイトと、残部アシキュラーフェライト(Acicular Ferrite)から構成されることができ、これから上記鋼材は引張強度610~770MPa、-20℃で衝撃靭性が33J以上である。
【0047】
一方、本発明の鋼材を中入熱(約100~200KJ/cm)で溶接して形成された溶接熱影響部は、溶融線(Fusion line、FL)~FL+3mm領域で面積分率90%以上でベイナイト相を含むことが好ましい。
【0048】
上記溶融線領域のベイナイト相が90%未満であると目標レベルの強度を確保することができなくなる。
【0049】
上記溶融線領域はベイナイト単相であることもできるが、ベイナイト(Bainite)の他にアシキュラーフェライト(Acicular Ferrite)相を含むことができる。そして、上記ベイナイト相とアシキュラーフェライト組織内にMA相が微量含まれることもあり、このとき含有されるMA相は上記溶融線の物性を阻害しないレベルである。
【0050】
また、上記溶融線(Fusion Line、FL)~FL+3mm領域は、旧オーステナイト平均粒度が100μm以下であることが好ましい。このように、溶融線領域で結晶粒大きさを微細化させることにより、目標レベルの強度と靭性を有利に確保することができる。
【0051】
具体的には、上記溶融線(Fusion Line、FL)~FL+3mm領域は引張強度610MPa以上、-20℃で衝撃靭性が33J以上で強度及び低温靭性に優れる。
【0052】
以下、本発明の他の一側面に係る溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材を製造する方法について詳細に説明する。
【0053】
本発明の鋼材は、上述した組成を満たす鋼スラブを再加熱し、粗圧延及び仕上げ圧延した後、冷却する過程を経て製造されることができる。以下、各過程を詳細に説明する。
【0054】
スラブ再加熱:1100~1180℃
上述した合金組成を満たす鋼スラブを1100~1180℃の温度範囲で再加熱することが好ましい。上記再加熱温度を1100℃以上として鋳造中に形成されたTi及び/またはNbの炭窒化物を十分に固溶させることが好ましい。但し、過度に高い温度で再加熱する場合にはオーステナイトが粗大化するおそれがあるため、上記再加熱温度は1180℃以下であることが好ましい。
【0055】
粗圧延:900℃以上
上記再加熱された鋼スラブは、その形状を調整するために粗圧延を行う。上記粗圧延温度はオーステナイトの再結晶が止まる温度(Tnr)以上とすることが好ましく、これにより上記粗圧延は900℃以上の温度で行うことが好ましい。圧延により鋳造中に形成されたデンドライトなど鋳造組織の破壊とともに粗大なオーステナイトの再結晶を介して粒度を小さくする効果も得られる。
【0056】
上述した温度で粗圧延時に十分な再結晶を起こして組織を微細化するために、粗圧延の総累積圧下率は40%以上であることが好ましい。
【0057】
仕上げ圧延:800℃以上
上記粗圧延された鋼板のオーステナイト組織を不均一微細組織に導入するために仕上げ圧延を施して熱延鋼材を製造する。具体的には、組織内に最大限の変形を与えるために上記仕上げ圧延は800℃以上の温度で行うことが好ましい。上記仕上げ圧延温度が800℃未満の場合には、圧延終了後の冷却中にフェライトが析出し、強度が低下するため、800℃以上で行うことが好ましい。
【0058】
上述した温度で仕上げ圧延時に最大限微細な組織を生成させるために、上記仕上げ圧延の累積圧下率は50%以上であることが好ましい。
【0059】
圧延後の冷却:t/4地点の温度が600℃以下の温度まで10℃/s以上の冷却速度で冷却(t:熱延鋼材の厚さ(単位mm))
上記により製造された熱延鋼材の冷却時の冷却速度が10℃/s未満であるか、冷却終了温度が600℃を超える場合には、後続の溶接により形成される溶接熱影響部の微細組織に影響を及ぼす母材の微細組織が粗大化するおそれがある。上記冷却速度の上限を本発明において特に限定しないが、本発明が属する技術分野において上記冷却速度は100℃/s以上可能であるため、好ましい一例として上記冷却速度は200℃/s以下であることが好ましい。本発明において、上記冷却の終了温度について特に限定されず、常温まで行っても構わない。
【0060】
上記冷却が完了した熱延鋼材は溶接を行うことができ、上記溶接は中入熱、例えば、入熱量100~200KJ/cmで行うことができる。このとき、上記入熱量を適用することができる溶接方法であれば、どのような溶接方法でも構わない。非制限的な例としてEGWであることができる。
【0061】
本発明による熱延鋼材を中入熱で溶接する場合、形成された溶接熱影響部は、溶融線領域が主にベイナイト相からなる微細な組織を有するため、強度だけでなく低温靭性に優れる。
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、このような実施例の記載は、本発明の実施を例示するためのものにすぎず、このような実施例の記載によって本発明が制限されるものではない。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0063】
下記表1の組成(残りはFeと不可避不純物である)を有する厚さ300mmの鋼スラブを1140℃の温度で再加熱した後、連続して980℃で粗圧延を行い、880℃で仕上げ圧延を仕上げた。この後、16~35℃/sの冷却速度で1/4t地点の温度が470~580℃になるまで冷却して鋼材を製造した。このとき、上記粗圧延は圧下率40%以上で行い、上記仕上げ圧延は累積圧下率50%以上で行った。
【0064】
上記のように製造された鋼材について、微細組織を測定してその結果を表2に示した。
【0065】
また、上記によって製造された鋼材に対して100~200KJ/cmの間の入熱量で溶接を行い、ここで溶接熱影響部(HAZ)の溶融線(Fusion Line、FL)~FL+3mm部の微細組織と機械的物性(引張強度、低温衝撃靭性)を分析して、その結果を表2に示した。
【0066】
上記鋼材(母材)と溶融線の微細組織は光学顕微鏡を用いて観察した後、EBSD装備を用いて区分し、分率を測定した。
【0067】
そして、上記鋼材と溶融線の引張強度は万能引張機を用いて測定し、低温衝撃靭性はシャルピー衝撃試験機を用いて-20℃でシャルピー衝撃吸収エネルギー(CVN)値を測定した。
【0068】
【0069】
【0070】
上記表1~3に示したように、本発明で制限する合金組成及び製造条件の全てを満たす発明鋼1~4は、溶接熱影響部の強度及び低温靭性に優れることを確認することができる。特に、上記発明鋼の溶接熱影響部は、引張強度が610MPa以上であり、-20℃での衝撃靭性が33J以上を満足することが分かる。
【0071】
一方、本発明で制限する合金組成中のC及びMoの含有量が過度である比較例1は、溶接熱影響部の強度が発明鋼に対して過度に高くなることにより衝撃靭性が劣化した。
【0072】
比較例2は、Mn含有量が不十分な場合であり、溶接熱影響部でベイナイト相が十分に形成されないため、溶接熱影響部の強度が劣化した。
【0073】
比較例3は、Ni含有量が不十分であり、溶接熱影響部の低温靭性が大きく劣化し、具体的には-20℃で13Jであった。
【0074】
比較例4は、Ti含有量は過度である一方、N及びNb含有量が不十分である場合であり、これにより溶接部で粗大なTiNが析出し、NbCにより粒子微細化効果が不十分であるため、旧オーステナイト粒度が粗大であり、その結果、低温靭性が劣化した。
【国際調査報告】