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特表2024-534186副作用が低減された抗CECAM6抗体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-18
(54)【発明の名称】副作用が低減された抗CECAM6抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20240910BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240910BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240910BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240910BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240910BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240910BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240910BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240910BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240910BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
C07K16/46
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K39/395 U
A61P35/00
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513372
(86)(22)【出願日】2022-09-01
(85)【翻訳文提出日】2024-03-28
(86)【国際出願番号】 EP2022074394
(87)【国際公開番号】W WO2023031366
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】63/240,134
(32)【優先日】2021-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502227745
【氏名又は名称】ドイチェス クレブスフォルシュンクスツェントルム スチフトゥング デス エッフェントリヒェン レヒツ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トラオトヴァイン,マルク
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルダ,ヨルグ
(72)【発明者】
【氏名】デック,ヴォルフ-ディートリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ブーフマン,パスカル
(72)【発明者】
【氏名】カーレテロ,ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】エリンガー,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】オフリンガ,リエンク
(72)【発明者】
【氏名】ノガイ,フランツ ヘンドリック
(72)【発明者】
【氏名】パズ,ペドロ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA05
4B065AA01X
4B065AA57
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AA92Y
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB36
4C085BB42
4C085CC01
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、ヒトCEACAM6に結合し、CEACAM6媒介性免疫抑制を緩和することができる抗体であって、処置中の副作用が低減された抗体を提供する。本発明は、前記抗体をコードする単離された核酸及びそれを含むベクター、前記抗体を発現する単離された細胞、前記抗体を産生する方法、並びに前記抗体を含む医薬組成物及びキットをさらに提供する。本発明に係る抗体はがんの処置に使用することができ、CEACAM6の発現に関連する他の障害及び状態の処置に使用され得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fc領域のCH2ドメイン内の保存されたN結合部位に結合したグリカンを欠失するIgG1 Fc領域を含む抗CECAM6抗体であって、前記IgG1 Fc領域が、少なくとも、KabatのEUインデックスに従って番号付与されたアミノ酸置換L234A及びL235Aを含む、抗CECAM6抗体。
【請求項2】
IgG1 Fc領域が、KabatのEUインデックスに従って番号付与されたアミノ酸置換N297A、N297G又はN297Qを含む、請求項1に記載の抗CECAM6抗体。
【請求項3】
IgG1 Fc領域を含む抗CECAM6抗体であって、前記IgG1 Fc領域が、少なくとも、KabatのEUインデックスに従って番号付与されたアミノ酸置換N297A、L234A及びL235Aを含む、抗CECAM6抗体。
【請求項4】
配列番号63のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)及び配列番号67のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む抗体とCEACAM6結合について競合する、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗CECAM6抗体。
【請求項5】
a. 配列番号64のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域H-CDR1、
b. 配列番号65のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域H-CDR2、
c. 配列番号66のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域H-CDR3、
d. 配列番号68のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域L-CDR1、
e. 配列番号69のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域L-CDR2、及び
f. 配列番号70のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域L-CDR3
を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗CECAM6抗体。
【請求項6】
a. 配列番号64の重鎖可変領域H-CDR1アミノ酸配列、
b. 配列番号65の重鎖可変領域H-CDR2アミノ酸配列、
c. 配列番号66の重鎖可変領域H-CDR3アミノ酸配列、
d. 配列番号68の軽鎖可変領域L-CDR1アミノ酸配列、
e. 配列番号69の軽鎖可変領域L-CDR2アミノ酸配列、及び
f. 配列番号70の軽鎖可変領域L-CDR3アミノ酸配列
を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗CECAM6抗体。
【請求項7】
a. 配列番号63のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)、及び
b. 配列番号67のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)
を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗CECAM6抗体。
【請求項8】
a. 配列番号71のアミノ酸配列を含む重鎖(HC)、及び
b. 配列番号72のアミノ酸配列を含む軽鎖(LC)
を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗CECAM6抗体。
【請求項9】
a. 配列番号71のアミノ酸配列を含む重鎖(HC)、及び
b. 配列番号72のアミノ酸配列を含む軽鎖(LC)
を含む抗CECAM6抗体。
【請求項10】
a.配列番号71のアミノ酸配列を含む重鎖(HC)、及び
b.配列番号72のアミノ酸配列を含む軽鎖(LC)
からなる抗CECAM6抗体。
【請求項11】
単離されている、請求項1~10のいずれか一項に記載の抗CECAM6抗体。
【請求項12】
モノクローナル抗体である、請求項1~11のいずれか一項に記載の抗CECAM6抗体。
【請求項13】
ヒト抗体又はヒト化抗体である、請求項1~12のいずれか一項に記載の抗CECAM6抗体。
【請求項14】
配列番号75のアミノ酸配列を含むCEACAM6に特異的に結合する、請求項1~13のいずれか一項に記載の抗CECAM6抗体。
【請求項15】
配列番号75のアミノ酸35~142を含むCEACAM6ドメイン1に特異的に結合する、請求項1~14のいずれか一項に記載の抗CECAM6抗体。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の抗CECAM6抗体をコードする核酸。
【請求項17】
請求項16に記載の核酸を含むベクター。
【請求項18】
請求項1~15のいずれか一項に記載の抗CECAM6抗体を発現する、及び/又は請求項16に記載の核酸若しくは請求項17に記載のベクターを含む、単離された細胞。
【請求項19】
原核細胞又は真核細胞である、請求項18に記載の単離された細胞。
【請求項20】
請求項18に記載の細胞を培養すること、及び抗体を精製することを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の抗CECAM6抗体を産生する方法。
【請求項21】
医薬として使用するための、請求項1~15のいずれか一項に記載の抗CECAM6抗体。
【請求項22】
がんの処置のための医薬として使用するための、請求項1~15のいずれか一項に記載の抗CECAM6抗体。
【請求項23】
疾患の処置のための医薬の製造における、請求項1~15のいずれか一項に記載の抗CECAM6抗体の使用。
【請求項24】
がんの処置のための医薬の製造における、請求項1~15のいずれか一項に記載の抗CECAM6抗体の使用。
【請求項25】
CECAM6の望ましくない存在及び/又は膜局在性CEACAM6の高存在率に関連するがんを処置する方法であって、それを必要とする対象に有効量の請求項1~15のいずれか一項に記載の抗CECAM6抗体を投与することを含む方法。
【請求項26】
請求項1~15のいずれか一項に記載の抗CECAM6抗体を含む医薬組成物。
【請求項27】
がんの処置において抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体と同時に、個別に、又は逐次的に組み合わせて使用するための、請求項1~15のいずれか一項に記載の抗CEACAM6抗体。
【請求項28】
抗PD-1抗体がニボルマブ又はペムブロリズマブであり、抗PD-L1抗体がアテゾリズマブ、アベルマブ又はデュルバルマブである、請求項27に記載の使用のための抗CEACAM6抗体。
【請求項29】
がんを処置する方法であって、それを必要とする患者に、有効量の請求項1~15のいずれか一項に記載の抗CEACAM6抗体を、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体と同時に、個別に、又は逐次的に組み合わせて投与することを含む方法。
【請求項30】
抗PD-1抗体がニボルマブ又はペムブロリズマブであり、抗PD-L1抗体がアテゾリズマブ、アベルマブ又はデュルバルマブである、請求項29に記載のがんを処置する方法。
【請求項31】
がんの処置において抗TIM-3抗体と同時に、個別に、又は逐次的に組み合わせて使用するための請求項1~15のいずれか一項に記載の抗CEACAM6抗体。
【請求項32】
抗TIM-3抗体がコボリマブ、MBG-453、BMS-986258、Sym-023、LY-3321367又はINCAGN-2390である、請求項31に記載の使用のための抗CEACAM6抗体。
【請求項33】
がんを処置する方法であって、それを必要とする患者に、有効量の請求項1~15のいずれか一項に記載の抗CEACAM6抗体を、抗TIM-3抗体と同時に、個別に、又は逐次的に組み合わせて投与することを含む方法。
【請求項34】
抗TIM-3抗体がコボリマブ、MBG-453、BMS-986258、Sym-023、LY-3321367又はINCAGN-2390である、請求項32に記載のがんを処置する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトCEACAM6に結合し、CEACAM6媒介性免疫抑制を緩和することができる抗体であって、処置中の副作用が低減された抗体を提供する。本発明は、前記抗体をコードする単離された核酸及びそれを含むベクター、前記抗体を発現する単離された細胞、前記抗体を産生する方法、並びに前記抗体を含む医薬組成物及びキットをさらに提供する。本発明に係る抗体はがんの処置に使用することができ、CEACAM6の発現に関連する他の障害及び状態の処置に使用され得る。
【背景技術】
【0002】
従来技術
いくつかのがんのタイプはT細胞のエフェクター機能を遮断する能力を有しており、がん免疫療法の有効性を制限している。しかし、免疫チェックポイント分子の抗体遮断は、免疫細胞を再活性化する臨床的に検証されたアプローチである。最も著名な例は、プログラム細胞死タンパク質1/プログラム死リガンド1(PD-1/PD-L1)軸の遮断である。いくつかの薬剤がこの軸を標的として承認されているか目下臨床開発中であり、疾患、例えばメラノーマ、腎細胞がん、及び肺がんにおいて目覚ましい臨床応答が報告されている。これらのアプローチが成功しているにもかかわらず、患者のいくつかのグループは、PD-1/PD-L1阻害剤に応答しないか、又はそれらに対する耐性を生じるため、新規の免疫療法による解決が必要とされている。
【0003】
CEACAM6(がん胎児性抗原関連細胞接着分子6、CD66c、非特異的交差反応抗原、NCA、又はNCA 50/90としても公知である)は、がん免疫療法において治療介入するための魅力的な標的である。ヒトにおいて、CEACAM6はいくつかのがんのタイプの細胞で発現される。膜局在性CEACAM6発現の最も高い存在率は肺、結腸、膵臓、及び胃の腺癌において確認されており、腫瘍の進行及び有害な臨床転帰と相関することが判明した。さらに、腫瘍浸潤性骨髄細胞、特に顆粒球と、それほどではないがマクロファージは、高レベルのCEACAM6を発現する。正常な状態においては、CEACAM6は血液中の骨髄細胞で発現され、顆粒球、常在骨髄細胞、肺及び腸の上皮細胞で最高レベルが確認される。CEACAM6のオルソログはヒト及び非ヒト霊長類に存在するが、げっ歯類ではオルソログは知られていない。
【0004】
モノクローナル抗体(mAb)によるCEACAM6の遮断、又は低分子干渉リボ核酸(siRNA)によるサイレンシングにより、多発性骨髄腫並びに他の固形がん由来の悪性形質細胞に対するT細胞活性が回復することが証明されている(Witzens-Harigら、Blood 2013年5月30日;121(22):4493~503頁;WO 2016/150899 A2)。このことは、悪性細胞の表面で発現されるCEACAM6が、CD8陽性T細胞により媒介される抗腫瘍応答の制御に関与していることを示唆しており、これはCEACAM6が固形がんにおいて免疫抑制因子として作用するという事実と一致する。
【0005】
いくつかの抗CEACAM6抗体が存在する。そのほとんどは非ヒト試薬抗体であり、その多くはポリクローナル抗体である。ヒトCEACAM6に対する特異性及び選択性、並びにサルCEACAM6に対する交差反応性は、ほとんどの場合開示されていないか、又は知られていない。またCEACAM6に対する治療用抗体は当技術分野において公知である。一部はヒトCEACAM6に対して選択的ではない(例えば、Immunomedics社のMN-3、Neogenix社のNeo201/h16C3;両方ともヒトCEACAM5に加えて結合する)。単一ドメイン抗体2A3及びその融合バリアント(WO 2012/040824 A1及びNiuら、J Control Release. 2012年7月10日;161(1):18~24頁)は、サルCEACAM6に対する選択性及び交差反応性に関して特徴づけられてはいない。
【0006】
マウス抗体9A6(Genovac/Aldevron社)は、CEACAM6の免疫抑制活性をモジュレートすることができると説明された最初の抗体であった(Witzens-Harigら、Blood 2013年5月30日; 121(22):4493~503頁)。9A6はCEACAM6の免疫抑制活性を阻害し、in vitroでのT細胞によるサイトカイン分泌の増強とin vivoでの抗腫瘍効果をもたらす(Khandelwalら、Poster Abstract 61、22nd Annual International Cancer Immunotherapy Symposium 2014年10月6~8日、New York City、USA)。マウス抗体9A6は、サルCEACAM6に対して交差反応性を示さない(WO 2016/150899 A2)。さらに、そのマウスの性質からヒトにおける直接的な治療用途は困難である。
【0007】
WO 2016/150899 A2は、ヒトがん患者において治療的に適用され得るCEACAM6の免疫抑制活性を緩和する、治療用途において有用な一連のヒト抗CEACAM6抗体を開示している。これらの抗体は、ヒト及びカニクイザル(Macaca fascicularis)CEACAM6(がん胎児性抗原関連細胞接着分子6、CD66c、非特異的交差反応抗原、NCA、NCA-50/90)に特異的であり、密接に関係するヒトCEACAM1、ヒトCEACAM3、及びヒトCEACAM5とは有意に交差反応しない。WO 2016/150899 A2に開示されている抗CECAM6抗体TPP-3310は、これらの抗体の好ましい実施形態である。
【0008】
抗CEACAM6抗体と他の免疫療法アプローチとの併用療法は、WO 2020/099230 A1(抗PD1抗体及び抗PD-L1抗体との併用)並びにWO 2020/126808 A1(抗TIM3抗体との併用)に開示されている。
【0009】
多くの治療に適用される抗体の臨床効果は、現在、一部分の患者においてのみ達成されることが知られている。したがって、抗体アイソタイプフォーマットの選択は、患者の予後の改善に向けた重要なステップとなる(Vukovicら、Clin Exp Immunol. 2021年3月;203(3):351~365頁)。天然抗体アイソタイプのエフェクター機能又は半減期をモジュレートするために、多くのFc操作オプションが存在する(Wangら、Protein Cell. 2018年1月;9(1):63~73頁)。
【0010】
例えば、CDCエフェクター機能を増強する複数の変異バリアントが記載されている。同様に、ADCC及びADCPなどのFcγR依存性エフェクター機能を増強する複数の変異が知られている。これらの増強は、アミノ酸の変異によるだけでなく、糖鎖工学によってももたらされ得る。その著名な例は抗体の非フコシル化であり、これはFcγRIIIaへの強力な結合と相関しているため、NK細胞によるADCCが増強される。
【0011】
mAbが細胞表面受容体に結合し、受容体-リガンドの相互作用を阻止することを意図している場合(すなわちアンタゴニスト)、例えば標的を発現する正常細胞の細胞死を防ぐか、又は望ましくないサイトカイン分泌を防ぐように、エフェクター機能を低減又は排除することが望ましい場合がある。4つのヒトIgGサブクラスは、それぞれ免疫エフェクター機能を誘発する異なる能力を有することが認識されている。例えばIgG1及びIgG3は、IgG2及びIgG4よりもはるかに効果的に補体を動員することできるが、IgG2及びIgG4はADCCを誘発する能力が極めて限られている。Fc操作の例には、ヒトIgG4バリアントL235E又はF234A/L235A、及びヒトIgG1バリアントL234A/L235Aが含まれる(「LALA」;Xuら、Cell Immunol 2000年2月25日;200(1):16~26頁)。エフェクター機能を低下させることを意図した別の初期のアプローチは、N297A、N297Q、及びN297Gなどの変異でN297のグリコシル化部位を変異させることであった(「非グリコシル化(aglycosylation)」;Boltら、Eur J Immunol. 1993年2月; 23(2):403~11頁; Tao及びMorrison、J Immunol. 1989年10月15日; 143(8):2595~601頁;Walkerら、Biochem J. 1989年4月15日; 259(2):347~53頁;Leabmanら、MAbs 2013年11-12月;5(6):896~903頁)。別のバリエーションは、承認された抗C5治療薬エクリズマブによって例示されるように、エフェクター機能を低減するクロス・サブクラスアプローチであり、これはIgG2由来のCH1及びヒンガー(hinger)領域を有するが、IgG4由来のCH2及びCH3を有する。他の例には、ヒトIgG1のL234F/L235E/P331S(「FES」;Oganesyanら、Acta Crystallogr D Biol Crystallogr. 2008年6月; 64(Pt 6):700~4頁)、ヒトIgG1のP329G/L234A/L235A(「PG-LALA」;Schlothauerら、Protein Eng Des Sel 2016年10月; 29(10):457~466頁)、「IgG1sigma」(L234A/L235A/G237A/P238S/H268A/A330S/P331S、Tamら、Antibodies (Basel) 2017年9月1日; 6(3):12頁)、及び「IgG1-NNAS」(S298N/T299A/Y300S、Zhouら、MAbs 2020年1-12月; 12(1):1814583頁)が含まれる。
【0012】
さらに、例えばFcγRを保有する抗原陽性細胞上のFcγRIIb又はFcγRIIaへの結合を増強することによって、抗原とFcγRの共結合(co-engagement)を増加させる変異が報告されている。
【0013】
最後に、FcとFcRnの相互作用に取り組むことで、in vivoでの抗体の半減期をモジュレートすることができる。例えばH435Aにより相互作用が抑制されると、抗体がFcRnリサイクルによるリソソーム分解からもはや保護されなくなるので、半減期が極端に短くなる。対照的に「YTE」(M252Y/S254T/T256E)及び同等の変異は、前臨床種とヒトの両方において、エンドソームからのより効率的なリサイクルにより半減期を有意に延長することが明らかにされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
技術的問題
臨床試験でがん患者における抗CEACAM6抗体TPP-3310(WO 2016/150899 A2に開示)の治療可能性を研究するため、その良好な前臨床安全性プロファイルに基づいて、エフェクター機能が低下したヒトIgG2フォーマットが選択された。全く予期せぬことに、低用量のTPP-3310で処置したがん患者に副作用としての好中球減少症が生じた(実施例2を参照されたい)。
【0015】
そのため、ヒトCEACAM6に結合し、CEACAM6媒介性免疫抑制を軽減することができる治療用途に適した抗体であって、処置中の副作用が低減された抗体が強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
問題の解決
本出願で示すように、実に驚いたことに好中球は全血アッセイにおいてTPP-3310により活性化され、臨床所見を少なくとも部分的に再現することができる(実施例3を参照されたい)。しかし、この活性化には、予備刺激、エピトープ及び抗体アイソタイプの非常に細かく組み合わされた依存性が必要とされる。さらに、その効果はFc依存性であり、FcγRが関与している。Fc部分への厳密な依存性、並びにFcγRIIの関与すら、ヒトIgG1が非常に強力な分子であることをむしろ示唆するため、これは完全に予測することは不可能である。
【0017】
これまでの教示とは異なり、本発明者らは、TPP-3310(ヒトIgG2)について、実際にアイソタイプをヒトIgG1に変更すると、全血アッセイにおいて好中球の活性化が完全に阻止されることを見出した。よりサイレントであると考えられているヒトIgG2アイソタイプは、実際には好中球活性化効果を発揮することが可能な分子である(実施例3を参照されたい)。
【0018】
一方、ヒトIgG1フォーマットはFcγRとの相互作用が強いため、ADCC、ADCP、及びCDC活性などのエフェクターポテンシャルが強く望ましくないというだけの理由で、治療用抗体フォーマットにおける使用からは除外される。
【0019】
本発明の抗体は、FcγR相互作用がなく、したがってエフェクター機能がなく、同時に予備刺激条件下で血液中の好中球を活性化することもできないという要件を満たす、IgG1ベースの操作されたフォーマット(非グリコシル化と組み合わせたL234A L235A、好ましくはN297A)を含む。
【0020】
したがって、抗CEACAM6 IgG1ベースの操作された抗体(TPP-21518)によるがん患者での治療介入では、有害事象としての好中球減少症が回避され得る。
【0021】
発明の概要
上述の目的及び他の目的は、本発明の教示によって達成される。
【0022】
本発明の第1の態様:抗CECAM6抗体
第1の態様では、本発明は、Fc領域のCH2ドメイン内の保存されたN結合部位に結合したグリカンを欠失するIgG1 Fc領域を含む抗CECAM6抗体であって、前記IgG1 Fc領域が、少なくとも、KabatのEUインデックスに従って番号付与されたアミノ酸置換L234A及びL235Aを含む、抗CECAM6抗体に関する。
【0023】
第1の態様のある特定の実施形態では、本発明は、IgG1 Fc領域を含む抗CECAM6抗体であって、前記IgG1 Fc領域が、KabatのEUインデックスに従って番号付与されたアミノ酸置換N297A、N297G、又はN297Qを含む抗CECAM6抗体を提供する。
【0024】
第1の態様のある特定の実施形態では、本発明は、IgG1 Fc領域を含む抗CECAM6抗体であって、前記IgG1 Fc領域が、KabatのEUインデックスに従って番号付与されたアミノ酸置換N297A、N297G、又はN297Q、並びに少なくともアミノ酸置換L234A及びL235Aを含む、抗CECAM6抗体を提供する。
【0025】
第1の態様のある特定の実施形態では、本発明は、IgG1 Fc領域を含む抗CECAM6抗体であって、前記IgG1 Fc領域が、少なくとも、KabatのEUインデックスに従って番号付与されたアミノ酸置換N297A、L234A、及びL235Aを含む、抗CECAM6抗体を提供する。
【0026】
第1の態様のある特定の実施形態では、本発明は、IgG1 Fc領域を含む抗CECAM6抗体であって、前記IgG1 Fc領域が、KabatのEUインデックスに従って番号付与されたN297A、L234A、及びL235Aのアミノ酸置換を含む、抗CECAM6抗体を提供する。
【0027】
第1の態様のある特定の実施形態では、上記の抗CECAM6抗体は、配列番号63のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)及び配列番号67のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む抗体とCEACAM6結合について競合する。
【0028】
第1の態様のある特定の実施形態では、上記の抗CECAM6抗体は、配列番号64のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域H-CDR1、配列番号65のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域H-CDR2、配列番号66のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域H-CDR3、配列番号68のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域L-CDR1、配列番号69のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域L-CDR2、及び配列番号70のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域L-CDR3を含む。
【0029】
第1の態様のある特定の実施形態では、上記の抗CECAM6抗体は、配列番号63のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)、及び配列番号67のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む。
【0030】
第1の態様のある特定の実施形態では、上記の抗CECAM6抗体は、配列番号71のアミノ酸配列を含む重鎖(HC)、及び配列番号72のアミノ酸配列を含む軽鎖(LC)を含む。
【0031】
ある特定の実施形態では、本発明は、配列番号71のアミノ酸配列を含む重鎖(HC)及び配列番号72のアミノ酸配列を含む軽鎖(LC)を含む抗CECAM6抗体を提供する。
【0032】
本発明のさらなる態様:
さらなる態様では、本発明は、第1の態様の抗CECAM6抗体をコードする核酸、及び前記核酸を含むベクターを提供する。
【0033】
さらなる態様では、本発明は、第1の態様の抗CECAM6抗体を発現する単離された細胞を提供する。好ましい実施形態では、この細胞は原核細胞又は真核細胞である。
【0034】
さらなる態様では、本発明は、第1の態様の抗CECAM6抗体を産生する方法を提供する。
【0035】
さらなる態様では、本発明は、医薬として使用するための、特にがんの処置のための医薬として使用するための第1の態様の抗CECAM6抗体を提供する。この態様のある特定の実施形態では、CEACAM6の望ましくない存在に関連するがんを処置するための方法であって、それを必要とする対象に有効量の第1の態様の抗CECAM6抗体を投与することを含む方法が提供される。
【0036】
さらなる態様では、本発明は、がんの処置において抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体と同時に、個別に、又は逐次的に組み合わせて使用するための第1の態様の抗CEACAM6抗体を提供する。ある特定の実施形態では、抗PD-1抗体はニボルマブ又はペムブロリズマブであり、抗PD-L1抗体はアテゾリズマブ、アベルマブ又はデュルバルマブである。この態様のある特定の実施形態では、がんを処置する方法であって、それを必要とする患者に、有効量の第1の態様の抗CEACAM6抗体を、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体と同時に、個別に、又は逐次的に組み合わせて投与することを含み、好ましくは抗PD-1抗体がニボルマブ又はペムブロリズマブであり、抗PD-L1抗体がアテゾリズマブ、アベルマブ又はデュルバルマブである方法が提供される。
【0037】
さらなる態様では、本発明は、がんの処置において抗TIM-3抗体と同時に、個別に、又は逐次的に組み合わせて使用するための、第1の態様の抗CEACAM6抗体を提供する。ある特定の実施形態では、抗TIM-3抗体は、コボリマブ、MBG-453、BMS-986258、Sym-023、LY-3321367又はINCAGN-2390である。この態様のある特定の実施形態では、がんを処置する方法であって、それを必要とする患者に、有効量の第1の態様の抗CEACAM6抗体を、抗TIM-3抗体と同時に、個別に、又は逐次的に組み合わせて投与することを含み、好ましくは抗TIM-3抗体がコボリマブ、MBG-453、BMS-986258、Sym-023、LY-3321367、又はINCAGN-2390である、方法が提供される。
【0038】
さらなる態様では、本発明は、第1の態様の抗CECAM6抗体を含む医薬組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】がん患者に対する抗CEACAM6抗体TPP-3310の静脈内注入開始後の様々な時点におけるTNF-アルファ血漿レベルを示す図である。用量コホートあたり3名の患者を、臨床製剤のTPP-3310の2.5mg、5mg、10mg又は30mgのいずれかで1時間かけて処置した。平均値と標準偏差を示す。X軸:注入開始後の時間(単位は時間)、Y軸:血漿中のTNF-アルファ濃度[pg/mL]。
図2】がん患者に対する抗CEACAM6抗体TPP-3310の静脈内注入開始後の様々な時点におけるIL-6血漿レベルを示す図である。用量コホートあたり3名の患者に、臨床製剤のTPP-3310を2.5mg、5mg、10mg又は30mgのいずれかで1時間かけて注入した。平均値と標準偏差を示す。X軸:注入開始後の時間(単位は時間)、Y軸:血漿中のIL-6濃度[pg/mL]。
図3】がん患者に対する抗CEACAM6抗体TPP-3310の静脈内注入開始後の様々な時点におけるIL-10血漿レベルを示す図である。用量コホートあたり3名の患者に、臨床製剤のTPP-3310を2.5mg、5mg、10mg又は30mgのいずれかで1時間かけて注入した。平均値と標準偏差を示す。X軸:注入開始後の時間(単位は時間)、Y軸:血漿中のIL-10濃度[pg/mL]。
図4】がん患者に対する抗CEACAM6抗体TPP-3310の静脈内注入後の様々な時点におけるミエロペルオキシダーゼ(MPO)の血漿レベルを示す図である。用量コホートあたり3名の患者に、臨床製剤のTPP-3310を2.5mg、5mg、10mg又は30mgのいずれかで1時間かけて注入した。処置前と比較した相対値は平均値パーセンテージと標準偏差で示した。X軸:注入開始後の時間(単位は時間)、Y軸:血漿中MPO濃度[対0時間処置前レベルの%]。
図5】30mgのTPP-3310で処置された患者の選択時点における好中球数を示す図である。0.5/nL未満の値は、CTCAE基準に従い重度の好中球数減少症と考えられる。N/A:サンプル採取せず。X軸:注入後の時間。1:投与前;2:24時間;3:48時間;4:7日;5:14日;6:21日。Y軸:nL当たりの好中球数。
図6】最適以下のfMLP刺激あり(+fMLP)及びfMLP刺激なし(w/o fMLP)の場合の抗CEACAM6抗体TPP-3310(ヒトIgG2フォーマット)(黒色の縦棒)及び対応するアイソタイプの対照抗体(白色の縦棒)によるミエロペルオキシダーゼ(MPO)放出の図である。X軸:抗体の濃度[μM];Y軸:MPO pg/ml。
図7】最適以下のfMLP刺激あり(+fMLP)及びfMLP刺激なし(w/o fMLP)の場合の抗CEACAM6抗体TPP-5468(ヒトIgG1フォーマット)(黒色の縦棒)及び対応するアイソタイプの対照抗体(白色の縦棒)によるミエロペルオキシダーゼ(MPO)放出の図である。X軸:抗体の濃度[μM];Y軸:MPO pg/ml。
図8】最適以下のfMLP刺激あり(+fMLP)及びfMLP刺激なし(w/o fMLP)の場合の抗CEACAM6抗体9A6 TPP-3470(ヒトIgG2フォーマット)(黒色の縦棒)及び対応するアイソタイプの対照抗体(白色の縦棒)によるミエロペルオキシダーゼ(MPO)放出の図である。X軸:抗体の濃度[μM];Y軸:MPO pg/ml。
図9】最適以下のfMLP刺激あり(+fMLP)及びfMLP刺激なし(w/o fMLP)の場合の抗CEACAM6抗体Neo201 TPP-1173(ヒトIgG1フォーマット)(黒色の縦棒)及び対応するアイソタイプの対照抗体(白色の縦棒)によるミエロペルオキシダーゼ(MPO)放出の図である。X軸:抗体の濃度[μM];Y軸:MPO pg/ml。
図10】最適以下のfMLP刺激あり(+fMLP)及びfMLP刺激なし(w/o fMLP)の場合の抗CEACAM6抗体Neo201 TPP-3688(ヒトIgG2フォーマット)(黒色の縦棒)及び対応するアイソタイプの対照抗体(白色の縦棒)によるミエロペルオキシダーゼ(MPO)放出の図である。X軸:抗体の濃度[μM];Y軸:MPO pg/ml。
図11】最適以下のfMLP刺激あり(+fMLP)及びfMLP刺激なし(w/o fMLP)の場合の抗CEACAM6抗体Fab断片APP-1574(ヒトIgG1由来)(黒色の縦棒)及び対応するアイソタイプの対照抗体断片(白色の縦棒)によるミエロペルオキシダーゼ(MPO)放出の図である。X軸:抗体の濃度[μM];Y軸:MPO pg/ml。
図12】最適以下のfMLP刺激あり(+fMLP)及びfMLP刺激なし(w/o fMLP)の場合の抗CEACAM6抗体F(ab)2断片APP-6036(ヒトIgG1由来)(黒色の縦棒)及び対応するアイソタイプの対照抗体断片(白色の縦棒)によるミエロペルオキシダーゼ(MPO)放出の図である。X軸:抗体の濃度[μM];Y軸:MPO pg/ml。
図13】最適以下のfMLP刺激あり(+fMLP)及びfMLP刺激なし(w/o fMLP)の場合の抗CEACAM6抗体F(ab)2断片APP-60849(ヒトIgG2由来)(黒色の縦棒)及び対応するアイソタイプの対照抗体断片(白色の縦棒)によるミエロペルオキシダーゼ(MPO)放出の図である。X軸:抗体の濃度[μM];Y軸:MPO pg/ml。
図14】最適以下のfMLP刺激あり(+fMLP)及びfMLP刺激なし(w/o fMLP)の場合の抗CEACAM6抗体TPP-3310(黒色の縦棒)及び対応するアイソタイプの対照抗体TPP-1238(白色の縦棒)によるミエロペルオキシダーゼ(MPO)放出の図である。抗CEACAM6抗体TPP-3310又はそのアイソタイプ対照抗体TPP-1238を添加する前に、AT10に適合した非結合性F(ab)2断片を1.4μM濃度で添加した。
図15】最適以下のfMLP刺激あり(+fMLP)及びfMLP刺激なし(w/o fMLP)の場合の抗CEACAM6抗体TPP-3310(黒色の縦棒)及び対応するアイソタイプの対照抗体TPP-1238(白色の縦棒)によるミエロペルオキシダーゼ(MPO)放出の図である。抗CEACAM6抗体TPP-3310又はそのアイソタイプ対照抗体TPP-1238を添加する前に、遮断抗CD32抗体F(ab)2断片AT10を1.4μMの濃度で添加した。X軸:抗体の濃度[μM];Y軸:MPO pg/ml。
図16】最適以下のfMLP刺激あり(+fMLP)及びfMLP刺激なし(w/o fMLP)の場合の示した抗CEACAM6抗体TPP-21518(ヒトIgG1-LALAaglyco)(黒色の縦棒)及び対応するアイソタイプの対照抗体(白色の縦棒)によるミエロペルオキシダーゼ(MPO)放出の図である。X軸:抗体の濃度[μM];Y軸:MPO pg/ml。
図17】抗CEACAM6抗体[TPP-3310(ヒトIgG2);TPP-21518(ヒトIgG1-LALAaglyco);TPP-5468(ヒトIgG1);TPP-1745(9A6ヒトIgG1);TPP-1173(Neo201ヒトIgG1)]及び対応するアイソタイプ対照[TPP-1238(ヒトIgG2);TPP-21501(ヒトIgG1-LALAaglyco);TPP-754(ヒトIgG1)]の存在下で2時間の共培養した後、フローサイトメトリーで測定したM2cマクロファージによる標識好中球の食作用パーセントを示す図である。マウス抗huCD47は食作用に関する陽性対照として含まれる。X軸:1μM、100nM、10nM及び1nM濃度の各タンパク質識別子を持つ試験品。「-」=抗体添加なし。CD47=マウス抗huCD47;mIgG1=マウス抗huCD47に対する非結合アイソタイプ対照。Y軸:CFSE標識好中球の貪食からCFSE陽性となった生存CD206-APC陽性M2cマクロファージのパーセント。
【発明を実施するための形態】
【0040】
発明の詳細な説明
定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解される意味を有する。しかし、以下の参考文献は、本発明が属する技術分野における当業者に、本発明で使用される多くの用語の一般的な定義を提供することができ、そのような定義が当技術分野で一般的に理解される意味と一致する限り、参照され使用され得る。そのような参考文献には、限定するものではないが、Singletonら、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology (第2版 1994);The Cambridge Dictionary of Science and Technology (Walker編、1988);Hale & Marham、The Harper Collins Dictionary of Biology (1991);及びLackieら、The Dictionary of Cell & Molecular Biology (第3版 1999);及びCellular and Molecular Immunology、Abbas編、Lichtman及びPober、第2版、W.B. Saunders Companyが含まれる。当技術分野で一般的に理解される意味を有する本明細書で使用される用語の定義を提供する、当業者が利用可能なあらゆる追加の技術情報源を参照することができる。本発明の目的のために、以下の用語をさらに定義する。追加の用語は、本明細書の他の箇所で定義する。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形の「1つの(a)」及び「その(the)」は、文脈上明らかに別段の指示のない限り複数形の言及を含む。したがって、例えば「1つの遺伝子(a gene)」への言及は、1つ以上の遺伝子への言及であり、当業者に公知のその相当物などを含む。
【0041】
本発明の文脈において、「含む(comprises)」又は「含む(comprising)」という用語は、「含むが、これに限定されない」を意味する。この用語はオープンエンドであることを意図しており、記載された任意の特徴、要素、整数、ステップ又は構成要素の存在を特定するものであるが、1つ以上の他の特徴、要素、整数、ステップ、構成要素又はそれらの群の存在又は追加を排除するものではない。したがって「含む(comprising)」という用語には、より限定的な用語の「からなる(consisting of)」及び「本質的に~からなる(essentially consisting of)」が含まれる。一実施形態では、本出願全体にわたり、特に特許請求の範囲内で使用される場合の「含む」という用語は、「からなる」という用語に置き換えることができる。
【0042】
この文脈において、「約」又は「およそ」という用語は、所与の値又は範囲の、80%~120%以内、あるいは90%~110%以内、例えば95%~105%以内を意味する。
【0043】
「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指すように本明細書では交換可能に使用される。この用語は、1つ以上のアミノ酸残基が対応する天然に存在するアミノ酸の人工化学的模倣物であるアミノ酸ポリマー、並びに天然に存在するアミノ酸ポリマー及び天然に存在しないアミノ酸ポリマーに適用される。特段の指示のない限り、特定のポリペプチド配列はまた、その保存的に改変されたバリアントも暗黙のうちに包含する。
【0044】
本明細書で使用される場合の「ADCC」又は「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」とは、FcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞が標的細胞上の結合抗体を認識し、続いて標的細胞の溶解を引き起こす細胞媒介性反応を意味する。
【0045】
本明細書で使用される場合の「ADCP」又は抗体依存性細胞媒介性食作用とは、FcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞が標的細胞上の結合抗体を認識し、続いて標的細胞の食作用を引き起こす細胞媒介性反応を意味する。
【0046】
本明細書で使用される場合の「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子を意味するものとする。抗体は、典型的にはジスルフィド結合によって相互に連結されている4本のポリペプチド鎖、2本の重(H)鎖(約50~70kDa)及び2本の軽(L)鎖(約25kDa)を含み得る。特定の実施形態では、抗体は同一の2対のポリペプチド鎖から構成される。各鎖のアミノ末端部分には、主に抗原認識に関与する約100~110個以上のアミノ酸の「可変」領域が含まれる。重鎖可変領域は本明細書ではVHと略記され、軽鎖可変領域は本明細書ではVLと略記される。各鎖のカルボキシル末端部分は、主としてエフェクター機能を担う定常領域を定義している。重鎖定数領域は、例えば3つのドメインCH1、CH2及びCH3を含み得る。軽鎖定数領域は1つのドメイン(CL)から構成されている。VH領域及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに細分化される。各VH及びVLは、典型的には、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって、例えば以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配列されている3つのCDR及び最大4つのFRから構成される。
【0047】
免疫グロブリンのIgGサブクラスでは、重鎖にいくつかの免疫グロブリンドメインがある。本明細書における「免疫グロブリン(Ig)ドメイン」とは、特質的な三次構造を有する免疫グロブリンの領域を意味する。本発明において関心がもたれるのは、定常重鎖(CH)ドメイン及びヒンジドメインを含む重鎖ドメインである。IgG抗体の場合、IgGアイソタイプはそれぞれ3つのCH領域を有する。したがって、IgGの文脈における「CH」ドメインは以下の通りである:「CH1」はKabatにおけるEUインデックスに従った118~220位を指す。「CH2」は、KabatにおけるEUインデックスに従った237~340位を指し、「CH3」は、KabatにおけるEUインデックスに従った341~447位を指す。
【0048】
本明細書における「Fc領域」という用語は、定常領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。IgG1のFc領域は、IgG1重鎖のCH2及びCH3ドメインを含む。この用語は、天然配列のFc領域及びバリアントFc領域を含む。一実施形態では、ヒトIgG1重鎖Fc領域は、Cys226から又はPro230から重鎖のカルボキシル末端まで伸びる。しかし、Fc領域のC末端リジン(Lys447)は存在していても、存在していなくてもよい。本明細書で特段の明記のない限り、Fc領域又は定常領域のアミノ酸残基の番号付与は、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版 Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD、1991に記載されているように、EUインデックスとも呼ばれるEU番号付与システムに従っている。
【0049】
本明細書で使用される場合、「相補性決定領域」(CDR;例えばCDR1、CDR2、及びCDR3)という用語は、抗原結合にとってその存在が必要な抗体可変ドメインのアミノ酸残基を指す。各可変ドメインは、典型的にはCDR1、CDR2、及びCDR3として識別される3つのCDR領域を有する。各相補性決定領域は、Kabatによって定義される「相補性決定領域」からのアミノ酸残基(例えば軽鎖可変ドメインの残基23~36(L1)、52~58(L2)及び91~101(L3)、並びに重鎖可変ドメインの残基31~35(H1)、50~65(H2)及び98~110(H3)について(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版 Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD. (1991))、及び/又は「超可変ループ」からのそれらの残基(例えば軽鎖可変ドメインの残基26~32(L1)、50~52(L2)及び91~96(L3)、並びに重鎖可変ドメインの残基26~32(H1)、53~55(H2)及び96~101(H3)について(Chothia及びLesk; J Mol Biol 196: 901~917頁(1987))を含み得る。場合によっては、相補性決定領域は、Kabatに従って定義されるCDR領域及び超可変ループの両方からのアミノ酸を含むことができる。「フレームワーク」又はFR残基は、超可変領域残基以外のそれらの可変ドメイン残基である。
【0050】
免疫グロブリンは、その重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて異なるクラスに分類され得る。重鎖はミュー(μ)、デルタ(Δ)、ガンマ(γ)、アルファ(α)及びイプシロン(ε)として分類され、それぞれIgM、IgD、IgG、IgA及びIgEとして抗体のアイソタイプを定義する。特定の実施形態では、本発明に係る抗体はIgG抗体である。これらのいくつかは、さらにサブクラス又はアイソタイプ、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2などに分けることができる。特定の実施形態では、本発明に係る抗体はIgG1である。異なるアイソタイプは、異なるエフェクター機能を有し得る。ヒト軽鎖はカッパ(κ)軽鎖及びラムダ(λ)軽鎖に分類される。軽鎖及び重鎖内で、可変領域及び定常領域は約12個以上のアミノ酸の「J」領域によって結合され、重鎖にはさらに約10個のアミノ酸の「D」領域も含まれる。一般に、Fundamental Immunology、Ch. 7 (Paul, W.編、第2版 Raven Press、N.Y. (1989))を参照されたい。
【0051】
本明細書では、抗体/免疫グロブリンの「機能的断片」又は「抗原結合抗体断片」とは、抗原結合領域を保持する抗体/免疫グロブリンの断片(例えばIgGの可変領域)として定義される。抗体の「抗原結合領域」は、典型的には抗体の1つ以上の超可変領域、例えばCDR1領域、CDR2領域、及び/又はCDR3領域で確認される。しかし、可変「フレームワーク」領域はまた、抗原結合における重要な役割、例えばCDRの足場の提供などを果たし得る。好ましくは、「抗原結合領域」は、少なくとも可変軽鎖(VL)のアミノ酸残基4~103及び可変重鎖(VH)のアミノ酸残基5~109を含み、より好ましくはVLのアミノ酸残基3~107及びVHのアミノ酸残基4~111を含み、特に好ましくは完全なVL鎖及びVH鎖(VLのアミノ酸1~109位及びVHのアミノ酸1~113位;WO 97/08320による番号付与)である。
【0052】
「機能性断片」又は「抗原結合抗体断片」の非限定的な例には、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv断片、ドメイン抗体(dAb)、相補性決定領域(CDR)断片、単鎖抗体(scFv)、単鎖抗体断片、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、線状抗体(Zapataら、Protein Eng: 1057~1062頁(1995));キレート化組換え抗体、トリボディ若しくはビボディ、イントラボディ、ナノボディ、小モジュール免疫医薬品(small modular immunopharmaceuticals、SMIP)、抗原結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、VHH含有抗体、又はムテイン若しくはその誘導体、及び抗体が所望の生物学的活性を保持する限りポリペプチドに特異的抗原結合を付与するのに十分な免疫グロブリンの少なくとも一部、例えばCDR配列を含むポリペプチド;並びに抗体断片から形成される多特異性抗体、例えば二特異性抗体及び三特異性抗体(C. A. K Borrebaeck編(1995) Antibody Engineering (Breakthroughs in Molecular Biology)、Oxford University Press; R. Kontermann & S. Duebel編(2001) Antibody Engineering (Springer Laboratory Manual)、Springer Verlag)が含まれる。「二重特異性」又は「二機能性」抗体以外の抗体は、その結合部位のそれぞれが同一であると理解される。F(ab')2又はFabは、CH1ドメインとCLドメインの間で生じる分子間ジスルフィド相互作用を最小化するか又は完全に除去するように操作され得る。抗体のパパイン消化により、「Fab」断片と呼ばれる、それぞれが単一の抗原結合部位を持つ2つの同一の抗原結合断片、及び容易に結晶化する能力をその名前が反映する残りの「Fc」断片が生成される。ペプシン処理により、2つの「Fv」断片を有するF(ab')2断片が生じる。「Fv」断片は、完全な抗原認識及び結合部位を含有する最小抗体断片である。この領域は、緊密な非共有結合した1つの重鎖可変ドメイン及び1つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。各可変ドメインの3つのCDRが相互作用してVH-VL二量体の表面に抗原結合部位を定めるのはこの構造である。まとまって6つのCDRは抗体に抗原結合特異性を付与する。しかし、単一の可変ドメイン(又は抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)であっても、抗原を認識し結合する能力を有する。
【0053】
「単鎖Fv」又は「sFv」又は「scFv」抗体断片は抗体のVHドメイン及びVLドメインを含み、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖で存在する。
【0054】
好ましくは、Fvポリペプチドは、Fvが抗原結合に望ましい構造を形成することを可能にするVHドメインとVLドメインの間のポリペプチドリンカーをさらに含む。Fvの概説についてはPluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、vol. 113、Rosenburg及びMoore編、Springer-Verlag、New York、269~315頁(1994)を参照されたい。
【0055】
Fab断片はまた、軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第1定常ドメイン(CH1)を含有する。抗体ヒンジ領域からの1つ以上のシステイン残基を含む重鎖CH1ドメインのカルボキシル末端に数残基が付加されることにより、Fab断片はFab'断片と異なる。Fab'-SHは、本明細書ではFab'に対する呼称であり、定常ドメインのシステイン残基(複数可)は遊離チオール基を有する。F(ab')2抗体断片は元来それらの間でヒンジシステイン残基を有する一対のFab'断片として生成された。
【0056】
「ムテイン」又は「バリアント」という用語は交換可能に使用することができ、可変領域又は可変領域に相当する部分に少なくとも1つのアミノ酸置換、欠失、又は挿入を含有する抗体又は抗原結合断片を指すが、ただし、ムテイン又はバリアントが所望の結合親和性又は生物学的活性を保持する場合である。本発明において考えられる抗体又は抗原結合抗体断片のバリアントは、抗体又は抗原結合抗体断片の結合活性が維持される分子である。
【0057】
「キメラ抗体」又はその抗原結合断片は、本明細書では、可変ドメインが非ヒト起源由来であり、一部又は全部の定常ドメインがヒト起源由来であるものとして定義される。
【0058】
「ヒト化抗体」は、必要なフレームワーク逆突然変異とともにヒト配列由来のV領域に移植された非ヒト種、例えばマウスに由来するCDR領域を含有する。したがって、ほとんどの場合、ヒト化抗体はレシピエントの超可変領域からの残基が所望の特異性、親和性及び能力を有する非ヒト種(ドナー抗体)、例えばマウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類の超可変領域からの残基で置き換えられたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。例えば、それぞれ参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,225,539号、同第5,585,089号、同第5,693,761号、同第5,693,762号、同第5,859,205号を参照されたい。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク残基は、対応する非ヒト残基で置き換えられる(例えば、それぞれ参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,585,089号、同第5,693,761号、同第5,693,762号を参照されたい)。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体又はドナー抗体には確認されない残基を含み得る。これらの改変は、抗体の性能をさらに改良するために(例えば、所望の親和性を得るために)実施される。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、超可変領域のすべて又は実質的にすべてが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、フレームワーク領域のすべて又は実質的にすべてがヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体は、場合により免疫グロブリン定数領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンの定数領域の少なくとも一部を含む。さらなる詳述については、それぞれ参照により本明細書に組み込まれるJonesら、Nature 331:522~25頁(1986);Riechmannら、Nature 332:323~27頁(1988);及びPresta、Curr. Opin. Struct. Biol. 2:593~96頁(1992)を参照されたい。
【0059】
「ヒト抗体」又は「完全ヒト抗体」は、ヒト由来のCDR、すなわちヒト起源のCDRを含む。完全ヒト抗体は、IMGTデータベース(www.imgt.org)に基づいて決定された最も近いヒト生殖細胞系列参照と比較して数の少ない生殖細胞系列逸脱を含み得る。例えば、本発明に係る完全ヒト抗体は、最も近いヒト生殖細胞系列参照と比較して、CDRにおいて最大1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の生殖細胞系列逸脱(deviation)を含み得る。完全ヒト抗体は、細胞濃縮又は不死化ステップと組み合わせたクローニング技術により、ヒト由来のB細胞から開発することができる。しかし、完全ヒト抗体の大部分は、ヒトIgG遺伝子座をトランスジェニックした免疫マウスから、又はファージディスプレイにより高性能コンビナトリアルライブラリーから単離される(Bruggemann M.、Osborn M.J.、Ma B.、Hayre J.、Avis S.、Lundstrom B.及びBuelow R.、Human Antibody Production in Transgenic Animals、Arch Immunol Ther Exp (Warsz.) 63 (2015)、101~108頁;Carter P.J.、Potent antibody therapeutics by design、Nat Rev Immunol 6 (2006)、343~357頁;Frenzel A.、Schirrmann T.及びHust M.、Phage display-derived human antibodies in clinical development and therapy、MAbs 8 (2016)、1177~1194頁;Nelson A.L.、Dhimolea E.及びReichert J.M.、Development trends for human monoclonal antibody therapeutics, Nat Rev Drug Discov 9 (2010)、767~774頁)。
【0060】
完全ヒト抗体を作製するいくつかの技術が利用可能である(WO2008/112640 A3を参照されたい)。Cambridge Antibody Technologies(CAT)及びDyax社は、免疫したヒトから単離された末梢B細胞から抗体cDNA配列を取得し、特定の特異性のヒト可変領域配列を同定するためのファージディスプレイライブラリーを考案した。簡単に説明すると、抗体可変領域配列は、M13バクテリオファージの遺伝子III又は遺伝子VIII構造のいずれかと融合される。これらの抗体可変領域配列は、それぞれの配列を持つファージの先端でFab又は一本鎖Fv(scFv)構造のいずれかとして発現される。異なるレベルの抗原結合条件(ストリンジェンシー)を使用したパンニング方法を繰り返すことによって、目的の抗原に特異的なFab又はscFv構造を発現するファージを選択し単離することができる。次いで、選択されたファージの抗体可変領域cDNA配列は、標準的な配列決定手順を使用して解明することができる。次いで、これらの配列は、確立された抗体操作技術を使用して所望のアイソタイプを有する完全抗体を再構築するために使用することができる。この方法に従って構築された抗体は、完全ヒト抗体(CDRを含む)と考えられる。選択した抗体の免疫反応性(抗原結合親和性及び特異性)を改善するため、異なる重鎖及び軽鎖の組合せ、重鎖及び軽鎖のCDR3での欠失/付加/変異(V-J及びV-D-J組換えを模倣するため)、並びにランダム変異(体細胞超変異を模倣するため)を含むin vitro成熟方法を導入することができる。この方法によって作製される「完全ヒト」抗体の例は、抗腫瘍壊死因子α抗体のヒュミラ(Humira)(アダリムマブ)である。
【0061】
「Human Engineered(商標)」抗体は、Studnickaらの米国特許第5,766,886号に記載されている方法に従って親配列を改変することによって作製された。
【0062】
本発明の抗体は、組換え抗体遺伝子ライブラリーに由来し得る。組換えヒト抗体遺伝子のレパートリーを作製する技術及びコードされた抗体断片を糸状バクテリオファージの表面にディスプレイする技術の開発によって、ヒト抗体を直接作製及び選択する組換え手段が提供され、これはまたヒト化抗体、キメラ抗体、マウス抗体又はムテイン抗体にも適用することができる。ファージ技術によって産生される抗体は、細菌内で抗原結合断片、通常はFv断片又はFab断片として産生されるためエフェクター機能を欠いている。エフェクター機能は、次の2つの方策のいずれかによって導入することができる。断片は、哺乳類細胞で発現させるための完全な抗体か、又はエフェクター機能を誘発することが可能な第2の結合部位を持つ二重特異性抗体断片のいずれかになるように操作することができる。典型的には、抗体の重鎖断片(例えばVH-CH1)及び軽鎖断片(例えばVL-CL)は、PCRにより別々にクローニングされ、コンビナトリアルファージディスプレイライブラリーにおいてランダムに組み換えられ、次いで特定の抗原との結合について選択され得る。Fab断片はファージ表面で発現され、すなわちそれらをコードする遺伝子と物理的に結び付けられる。したがって、抗原結合によるFabの選択はFabをコードする配列を共選択し、これはその後増幅され得る。抗原結合及び再増幅の数回の繰り返すパンニングと呼ばれる手順によって、抗原に特異的なFabが濃縮され、最終的に単離される。
【0063】
ファージディスプレイライブラリーに由来するヒト抗体については、様々な手順が記載されている。このようなライブラリーは、単一のマスターフレームワーク上に構築することができ、その中にin vivo形成された(すなわちヒト由来の)多様なCDRを、Carlsson及びSoderlind Exp. Rev. Mol. Diagn. 1 (1)、102~108頁(2001)、Soderlinら、Nat. Biotech. 18、852~856頁(2000)及び米国特許第6,989,250号によって説明されているように再結合させることができる。あるいは、このような抗体ライブラリーはin silicoで設計され、合成的に作製された核酸によってコードされるアミノ酸配列に基づいてもよい。抗体配列のin silico設計は、例えばヒト配列のデータベースを解析し、そこから得られたデータを利用してポリペプチド配列を考案することにより達成される。in silicoで作製された配列を設計及び取得する方法については、例えば、Knappikら、J. Mol. Biol. (2000) 296:57頁;Krebsら、J. Immunol. Methods. (2001) 254:67頁;及び米国特許第6,300,064号に記載されている。ファージディスプレイスクリーニングの概説については(例えば、Hoet RMら、Nat Biotechnol 2005; 23(3):344~8頁を参照)、十分に確立されたハイブリドーマ技術については(例えば、Kohler及びMilstein Nature. 1975年8月7日;256(5517):495~7頁を参照)、又はマウスの免疫化、特にhMAbマウスの免疫化については(例えばVelocImmune mouse(登録商標))。
【0064】
本明細書で使用する場合の「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、微量に存在し得る可能性のある変異、例えば天然に存在する変異を除いて同一である。したがって、「モノクローナル」という用語は、別個の抗体の混合物ではないという抗体の特徴を示す。典型的には異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体製剤とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。その特異性に加えて、モノクローナル抗体製剤は、典型的には他の免疫グロブリンによって汚染されていないという点で有利である。「モノクローナル」という用語は、いずれかの特定の方法による抗体の産生を要求するものとして解釈されるべきではない。例えば、使用されるモノクローナル抗体は、Kohlerら、Nature、256: 495頁[1975]によって最初に記載されたハイブリドーマ法によって作製することができ、又は組換えDNA法によって作製することができる(例えば米国特許第4,816,567号を参照されたい)。「モノクローナル抗体」はまた、例えば組換え抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、Human Engineered(商標)抗体、又は抗体断片であってもよい。
【0065】
「単離された」抗体は、それを発現した細胞の成分から同定され分離されたものである。細胞の汚染成分は、抗体の診断での使用又は治療での使用を妨げる物質であり、酵素、ホルモン、他のタンパク質性又は非タンパク質性の溶質を含み得る。
【0066】
「単離された」核酸は、その自然環境の成分から同定され分離されたものである。単離された核酸は、通常核酸分子を含有する細胞に含まれる核酸分子を含むが、その核酸分子は染色体外に、又はその本来の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する。
【0067】
「抗抗原」抗体は、抗原に特異的に結合する抗体を意味する。例えば、抗PD-1抗体はPD-1に特異的に結合し、抗CECAM6抗体はCECAM6に特異的に結合する。
【0068】
本明細書で使用される場合、抗体は、目的の抗原、例えばCEACAM6「に特異的に結合し」、「に/に対して特異的であり」、又は「を特異的に認識し」、抗原を発現する細胞又は組織を標的とする治療薬として有用であり、前述の抗原標的のオルソログ及びバリアント(例えば変異体、スプライスバリアント、又はタンパク質分解的に切断された形態)以外のタンパク質と有意な交差反応を示さないような十分な親和性で抗原と結合するものである。本明細書で使用される場合の特定のポリペプチド又は特定のポリペプチド標的上のエピトープ「を特異的に認識する」又は「に特異的に結合する」又は「に/に対して特異的である」という用語は、例えば約10-4M未満、あるいは約10-5M未満、あるいは約10-6M未満、あるいは約10-7M未満、あるいは約10-8M未満、あるいは約10-9M未満、あるいは約10-10M未満、あるいは約10-11M未満、あるいは約10-12M未満、又はそれ未満である抗原に対する1価のKDを有する抗体又はその抗原結合断片が示すことができる。そのような抗体がそのような抗原と1つ以上の参照抗原を識別することができる場合、抗体は抗原「に特異的に結合する」、「に/に対して特異的である」、又は「を特異的に認識する」。その最も一般的な形態では、「特異的結合」、「に特異的に結合する」、「に/に対して特異的である」、又は「を特異的に認識する」は、例えば以下のいずれかの方法に従って決定される場合、目的の抗原と無関係な抗原とを識別する抗体の能力を指す。このような方法は、限定するものではないが、表面プラズモン共鳴(SPR)、ウェスタンブロット、ELISA試験、RIA試験、ECL試験、IRMA試験及びペプチドスキャンを含む。例えば、標準的なELISAアッセイが実施され得る。スコアリングは、標準的な発色により行うことができる(例えば、二次抗体と西洋ワサビペルオキシダーゼ、及びテトラメチルベンジジンと過酸化水素)。ある特定のウェルでの反応は、例えば450nmでの光学濃度によってスコア化される。典型的なバックグラウンド(=陰性反応)は0.1ODであり得る。典型的な陽性反応は1ODであり得る。これは、陽性/陰性の差が5倍、10倍、50倍を超え、好ましくは100倍を超えることを意味する。典型的には、結合特異性の決定は単一の参照抗原ではなく、関連性のない抗原、例えば粉乳、BSA、トランスフェリンなどを約3~5種類ほどの組合せで使用して実施される。
【0069】
「結合親和性」又は「親和性」とは、分子の単一結合部位とその結合パートナーとの間の非共有結合的相互作用の総和の強度を意味する。別段の指示のない限り、本明細書で使用される場合の「結合親和性」は、結合対(例えば抗体と抗原)のメンバー間の1:1の相互作用を反映する内因性結合親和性を意味する。解離定数「KD」は一般的に分子(例えば抗体)とその結合パートナー(例えば抗原)との間の親和性、すなわちリガンドが特定のタンパク質にどの程度強く結合するかを示すために使用される。リガンド-タンパク質の親和性は、2つの分子間の非共有結合的な分子間相互作用に影響される。親和性は、本明細書に記載のものを含む、当技術分野で公知の一般的な方法によって測定することができる。一実施形態では、本発明において「KD」又は「KD値」は、Biacore T200装置(GE Healthcare Biacore, Inc社)を使用した表面プラズモン共鳴アッセイを使用することによって測定される。他の適切な装置は、BIACORE T100、BIACORE(R)-2000、BIACORe 4000、BIACORE(R)-3000(BIAcore, Inc社、Piscataway、NJ)、又はProteOn XPR36装置(Bio-Rad Laboratories, Inc.社)である。
【0070】
本明細書で使用される場合、「エピトープ」という用語は、抗体、免疫グロブリン、T細胞受容体に特異的に結合することが可能なタンパク質決定基を含む。エピトープ決定基は、通常化学的に活性な分子の表面の基、例えばアミノ酸若しくは糖の側鎖又はそれらの組合せからなり、特異的な三次元構造特性並びに特異的な電荷特性を通常有する。
【0071】
参照抗体と「同じエピトープに結合する抗体」若しくは「結合について競合する抗体」という用語又は同じエピトープを競合する抗原結合タンパク質(例えば抗体)の文脈において使用される場合の「競合する」という用語は、試験される抗原結合タンパク質(例えば抗体又はその免疫学的な機能性断片)が、参照抗原結合タンパク質(例えばリガンド又は参照抗体)の共通抗原(例えばCEACAM6又はその断片)への特異的結合を阻害又は抑制(例えば低減)するアッセイによって決定される抗原結合タンパク質間の競合を意味する。ある抗原結合タンパク質が別の抗原結合タンパク質と競合するかどうかを決定するために数多くの種類の競合結合アッセイを使用することができ、例えば、固相直接又は間接ラジオイムノアッセイ(RIA)、固相直接又は間接酵素イムノアッセイ(EIA)、サンドイッチ競合アッセイ(例えばStahliら、1983、Methods in Enzymology 9:242~253頁を参照);固相直接ビオチン-アビジンEIA(例えばKirklandら、1986、J. Immunol. 137:3614~3619頁を参照)、固相直接標識アッセイ、固相直接標識サンドイッチアッセイ(例えばHarlow及びLane、1988、Antibodies, A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Pressを参照);I-125標識を使用する固相直接標識RIA(例えばMorelら、1988、Molec. Immunol. 25:7~15頁を参照);固相直接ビオチン-アビジンEIA(例えばCheungら、1990、Virology 176:546~552頁を参照);及び直接標識RIA (Moldenhauerら、1990、Scand. J. Immunol. 32:77~82頁を参照)がある。典型的には、このようなアッセイは、固体表面に結合した精製抗原又は非標識試験抗原結合タンパク質及び標識参照抗原結合タンパク質のいずれかを有する細胞の使用を含む。競合阻害は、試験抗原結合タンパク質の存在下で固体表面又は細胞に結合した標識の量を決定することにより測定される。通常、検査抗原結合タンパク質は過剰に存在する。競合アッセイにより同定される抗原結合タンパク質(競合抗原結合タンパク質)は、参照抗原結合タンパク質と同じエピトープに結合する抗原結合タンパク質、及び参照抗原結合タンパク質が結合するエピトープから立体障害が起こるほどに十分に近接した隣接エピトープに結合する抗原結合タンパク質を含む。通常、競合する抗原結合タンパク質が過剰に存在する場合、共通抗原に対する参照抗原結合タンパク質の特異的結合を少なくとも40~45%、45~50%、50~55%、55~60%、60~65%、65~70%、70~75%又は75%以上阻害する(例えば低減する)。場合によっては、結合は少なくとも80~85%、85~90%、90~95%、95~97%、又は97%以上阻害される。
【0072】
「成熟抗体」又は「成熟抗原結合断片」、例えば成熟Fabバリアント又は「最適化」バリアントという用語は、所定の抗原、例えば標的タンパク質の細胞外ドメインに対してより強い結合、すなわち親和性の高い結合を示す抗体又は抗体断片の誘導体を含む。成熟は、抗体又は抗体断片の6つのCDR内の少数の変異を特定するプロセスであり、この親和性の増加をもたらす。成熟プロセスは、抗体への変異の導入の分子生物学的手法と、改良されたバインダーを同定するスクリーニングの組合せである。
【0073】
参照ポリヌクレオチド配列又はポリペプチド配列それぞれに関する「配列同一性パーセント(%)」は、配列を整列させ、必要に応じてギャップを導入して最大の配列同一性パーセントを達成した後、それぞれ参照ポリヌクレオチド配列又はポリペプチド配列中の核酸残基又はアミノ酸残基とそれぞれ同一である候補配列中の核酸残基又はアミノ酸残基のそれぞれのパーセンテージとして定義される。保存的置換は配列同一性の一部とはみなされない。好ましいのはギャップなしのアラインメントである。アミノ酸配列同一性パーセントを決定する目的のアラインメントは、公的に入手可能なコンピューターソフトウェア、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアを使用して、当業者の技術範囲内である種々の方法で達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアライメントを達成するために必要とされる任意のアルゴリズムを含む、配列をアライメントする適切なパラメータを決定することができる。
【0074】
「配列の相同性」は同一であるか又は保存的アミノ酸置換を表すアミノ酸のパーセンテージを示す。
【0075】
「拮抗(アンタゴニスト)」抗体又は「遮断(ブロッキング)」抗体とは、それが結合する抗原の生物学的活性を(部分的又は完全に)有意に阻害するものである。特定の実施形態では、本発明に係る抗体又は抗原結合断片は、CEACAM6遮断抗体又は抗原結合断片である。
【0076】
「抗体コンジュゲート」という用語は、薬物(この場合抗体コンジュゲートは「抗体-薬物コンジュゲート」(「ADC」)と呼ばれる)を含む1つ以上の分子、及び高分子量分子、例えばペプチド又はタンパク質にコンジュゲートされる抗体を意味する。
【0077】
アミノ酸は、一般的に知られている3文字の記号又はIUPAC-IUB生化学命名法委員会(IUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commission)が推奨する1文字の記号によって本明細書では言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に承認されている1文字コードで言及され得る。
【0078】
本明細書で使用される場合の「ベクター」という用語は、それが連結されている別の核酸を増殖させることができる核酸分子を意味する。この用語は、自己複製核酸構造としてのベクター、並びにそれが導入された宿主細胞のゲノムに組み込まれたベクターを含む。ある特定のベクターは、それらが作動可能に連結されている核酸の発現を指示することが可能である。そのようなベクターは本明細書において「発現ベクター」と呼ばれる。
【0079】
「宿主細胞」、「宿主細胞株」及び「宿主細胞培養物」という用語は交換可能に使用され、少なくとも1つの外来性核酸が導入された細胞(そのような細胞の子孫を含む)を意味する。宿主細胞は、「形質転換体」及び「形質転換された細胞」、「トランスフェクタント」及び「トランスフェクトされた細胞」及び「形質導入された細胞」を含み、これには初代形質転換/トランスフェクト/形質導入細胞及び継代の回数に関わらずそれに由来する子孫が含まれる。子孫は、親細胞と核酸含量が完全に同一でなくてもよく、変異を含み得る。最初に形質転換された細胞でスクリーニング又は選択されたものと同じ機能又は生物学的活性を有する変異子孫は、本明細書に含まれる。
【0080】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」という語句は、所望の処置レジメンに従って投与した場合に、疾患のそのような症状の一部若しくは全部を緩和すること、又は疾患の素因を軽減することを含む、所望の治療又は予防効果又は応答を引き出すのに適切な治療抗体又は予防抗体の量を指すことを意味する。
【0081】
「医薬製剤」/「医薬組成物」という用語は、その中に含有される活性成分の生物学的活性が有効であることを可能にするような形態であり、その製剤が投与される対象にとって許容することができないほど有毒である追加成分を含有しない製剤を指す。
【0082】
本明細書で使用される場合、「CEACAM6」は「CD66c」(分化クラスター66c)又は非特異的交差反応抗原又はNCA又はNCA-50/90としても知られている「癌胎児性抗原関連細胞接着分子6」を示す。CEACAM6は細胞間接着に関与しているグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)結合型細胞表面タンパク質である。本明細書で使用される場合の「CEACAM6」という用語は、ヒトCEACAM6(hCEACAM6)、バリアント、アイソフォーム、及びhCEACAM6の種ホモログ(オルソログ)を含む。ヒトCEACAM6(hCEACAM6)の参照配列は、アクセッション番号P40199.3でUniProtKB/Swiss-Protデータベースから、及び参照配列:NP_002474.4でNCBIから入手することができる。ヒトCEACAM6の成熟細胞外領域は、配列番号75の35~320位のアミノ酸からなる。ヒトCEACAM6のドメイン1(Nドメインとしても知られ、N末端ドメイン1としても知られる)は、配列番号75の35~142位のアミノ酸からなる。
【0083】
「抗CEACAM6抗体」及び「CEACAM6に結合する抗体」という用語は、抗体がCEACAM6を標的とする診断薬及び/又は治療薬として有用であるように、ヒトCEACAM6と十分な親和性で結合することが可能な抗体を指す。一実施形態では、関連性のない非CEACAM6タンパク質に対する抗CEACAM6抗体の結合の程度は、例えば標準的なELISA手順によって測定した場合にCEACAM6に対する抗体の結合の約10%未満、約5%未満、又は約2%未満である。ある特定の実施形態では、CEACAM6に結合する抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、又は≦0.001nM(例えば10-8M以下、例えば10-8M~10-13M、例えば10-9M~10-13M)の結合活性(EC50)を有する。ある特定の実施形態では、抗CEACAM6抗体は、異なる種のCEACAM6間で保存されているCEACAM6のエピトープに結合する。
【0084】
「プログラム死(Programmed Death)-1(PD-1)」とは、CD28ファミリーに属する免疫抑制受容体を指す。PD-1はin vivoではすでに活性化されたT細胞上で主に発現され、PD-L1及びPD-L2の2つのリガンドに結合する。本明細書で使用される場合の「PD-1」という用語は、ヒトPD-1(hPD-1)、hPD-1のバリアント、アイソフォーム、及び種ホモログ、並びにhPD-1と少なくとも1つの共通エピトープを有する類似体を含む。完全hPD-1配列は、GenBankアクセッション番号U64863で確認することができる。
【0085】
「プログラム死リガンド-1(PD-L1)」は、PD-1に対する2つの細胞表面糖タンパク質リガンドのうちの1つであり(もう1つはPD-L2)、PD-1への結合の際にT細胞の活性化及びサイトカイン分泌をダウンレギュレートする。本明細書で使用される場合の「PD-L1」という用語は、ヒトPD-L1(hPDL1)、hPD-L1のバリアント、アイソフォーム、及び種ホモログ、並びにhPD-L1と少なくとも1つの共通エピトープを有する類似体を含む。完全hPD-L1配列は、GenBankアクセッション番号Q9NZQ7で確認することができる。
【0086】
本明細書で使用される場合、「TIM-3」はTIMファミリーのメンバーである「T細胞免疫グロブリンドメイン及びムチンドメイン3」(HAVCAR2としても知られている)を示す。TIM-3は細胞表面の膜貫通タンパク質である。これは寛容に関与する活性化誘導性阻害分子として記載されており、T細胞の枯渇を誘導することが示されている。本明細書で使用される場合の「TIM-3」という用語は、ヒトTIM-3(hTIM-3)、hTIM-3のバリアント、アイソフォーム、及び種ホモログ、並びにhTIM-3と少なくとも1つの共通エピトープを有する類似体を含む。ヒトTIM-3の参照配列は、アクセッション番号UniProtKB Q8TDQ0(HAVR2_HUMAN)でUniProtKB/Swiss-Protデータベースから、及びNCBI参照配列:NP_116171.3でNCBIデータベースから入手することができる。
【0087】
【0088】
本発明の第1の態様:抗CECAM6抗体
本発明は、ヒトCEACAM6に結合し、CEACAM6媒介性免疫抑制を緩和することができる抗体(抗CECAM6抗体)であって、処置中の副作用が低減された抗体に関する。
【0089】
本発明において特に興味深いのは、前記抗CEACAM6抗体のFc領域である。本明細書で使用される場合の「Fc」又は「Fc領域」とは、第1の定数領域免疫グロブリンドメインCH1及び場合によってはヒンジの一部を除いた抗体重鎖の定常領域を含むポリペプチドを意味する。したがってFcは最後の2つの定常領域免疫グロブリンドメインCH2及びCH3を指す。Fc領域の境界は様々であるが、ヒトIgG重鎖Fc領域は通常、残基C226又はP230をそのカルボキシル末端に含むと定義され、ここで番号付与はKabatなどのEUインデックスに従う。IgG1 Fc領域は、IgG1アイソタイプの抗体のFc領域である。
【0090】
第1の態様では、本発明は、Fc領域のCH2ドメイン内の保存されたN結合部位に結合したグリカンを欠失するIgG1 Fc領域を含む抗CECAM6抗体であって、前記IgG1 Fc領域が、少なくとも、KabatのEUインデックスに従って番号付与されたアミノ酸置換L234A及びL235Aを含む、抗CECAM6抗体に関する。CH2ドメインの保存されたN結合部位に結合したグリカンを欠いている抗体は、非グリコシル抗体又はアグリコ抗体(aglyco antibodies)とも呼ばれる。保存されたN-結合グリコシル化は、KabatのEUインデックスに従って番号付与されたN297で起こる。
【0091】
本発明の一実施形態では、改変は重鎖グリコシル化部位での変異を含み、その部位でのグリコシル化を防ぐ。したがって、本発明の好ましい一実施形態では、非グリコシル抗体又は抗体誘導体は、重鎖グリコシル化部位の変異、すなわちKabat EU番号付与を使用したN297の変異によって調製され、適切な宿主細胞で発現される。
【0092】
第1の態様のある特定の実施形態では、本発明は、IgG1 Fc領域を含む抗CECAM6抗体であって、前記IgG1 Fc領域が、KabatのEUインデックスに従って番号付与されたアミノ酸置換N297A、N297G、又はN297Qを含む、抗CECAM6抗体を提供する。IgG1 Fc領域を含む抗CECAM6抗体であって、前記IgG1 Fc領域がKabatのEUインデックス指数に従って番号付与されたアミノ酸置換N297A、N297G、又はN297Qを含む、抗CECAM6抗体は、グリカンが欠失していることがさらに言及されない、CH2ドメインの保存されたN-結合部位に結合されたグリカンを欠失する抗体である。
【0093】
本発明の別の実施形態では、非グリコシル抗体は、Asn残基にグリカンを結合させることが不可能な宿主細胞において、例えば原核宿主細胞を使用することによって、又は必要な酵素を欠損するように改変された真核宿主細胞を使用することによって抗体を発現させることを含む方法により産生される。
【0094】
本発明の別の実施形態では、非グリコシル抗体は、in vitro法でN-グリコシル化能力を有さない抗体を発現させることを含む方法で産生される。
【0095】
本発明の別の実施形態では、非グリコシル抗体は、CH2ドメイン結合グリカンの除去、すなわち脱グリコシル化(deglycosylation)を含む方法によって産生される。これらの非グリコシル抗体は従来の方法によって産生し、次いで酵素的に脱グリコシル化することができる。抗体の酵素的脱グリコシル化の方法は当技術分野において周知である(例えばWinkelhake & Nicolson (1976)、J Biol Chem. 251 (4): 1074~80頁)。
【0096】
本発明の別の実施形態では、脱グリコシル化は、グリコシル化阻害剤ツニカマイシンを使用して達成することができる(Nose & Wigzell (1983)、Proc Natl Acad Sci USA、80(21):6632~6頁)。つまり、この改変は、前記抗体のFc部分のCH2ドメインの保存されたN-結合部位でのグリコシル化の防止である。
【0097】
第1の態様のある特定の実施形態では、本発明は、IgG1 Fc領域を含む抗CECAM6抗体であって、前記IgG1 Fc領域が、KabatのEUインデックスに従って番号付与されたアミノ酸置換N297A、N297G、又はN297Q、並びに少なくともアミノ酸置換L234A及びL235Aを含む、抗CECAM6抗体を提供する。
【0098】
第1の態様のある特定の実施形態では、本発明は、IgG1 Fc領域を含む抗CECAM6抗体であって、前記IgG1 Fc領域が、少なくとも、KabatのEUインデックスに従って番号付与されたアミノ酸置換N297A、L234A、及びL235Aを含む、抗CECAM6抗体を提供する。
【0099】
第1の態様のある特定の実施形態では、本発明は、IgG1 Fc領域を含む抗CECAM6抗体であって、前記IgG1 Fc領域が、KabatのEUインデックスに従って番号付与されたN297A、L234A、及びL235Aのアミノ酸置換を含む、抗CECAM6抗体を提供する。
【0100】
第1の態様のある特定の実施形態では、上述の抗CECAM6抗体は、配列番号63のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)及び配列番号67のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む抗体とCEACAM6結合について競合する。
【0101】
第1の態様のある特定の実施形態では、上記の抗CECAM6抗体は、配列番号64のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域H-CDR1、配列番号65のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域H-CDR2、配列番号66のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域H-CDR3、配列番号68のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域L-CDR1、配列番号69のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域L-CDR2、及び配列番号70のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域L-CDR3を含む。
【0102】
第1の態様のある特定の実施形態では、上記の抗CECAM6抗体は、配列番号64の重鎖可変領域H-CDR1アミノ酸配列、配列番号65の重鎖可変領域H-CDR2アミノ酸配列、配列番号66の重鎖可変領域H-CDR3アミノ酸配列、配列番号68の軽鎖可変領域L-CDR1アミノ酸配列、配列番号69の軽鎖可変領域L-CDR2アミノ酸配列、及び配列番号70の軽鎖可変領域L-CDR3アミノ酸配列を含む。
【0103】
第1の態様のある特定の実施形態では、上記の抗CECAM6抗体は、配列番号63のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)、及び配列番号67のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む。
【0104】
第1の態様のある特定の実施形態では、上記の抗CECAM6抗体は、配列番号71のアミノ酸配列を含む重鎖(HC)、及び配列番号72のアミノ酸配列を含む軽鎖(LC)を含む。
【0105】
ある特定の実施形態では、抗CECAM6抗体は、配列番号71のアミノ酸配列を含む重鎖(HC)及び配列番号72のアミノ酸配列を含む軽鎖(LC)を含む。
【0106】
第1の態様のある特定の好ましい実施形態では、上記の抗CECAM6抗体は単離された抗体である。
【0107】
第1の態様のある特定の好ましい実施形態では、上記の抗CECAM6抗体はモノクローナル抗体である。
【0108】
第1の態様のある特定の好ましい実施形態では、上記の抗CECAM6抗体はヒト又はヒト化抗体である。
【0109】
第1の態様のある特定の好ましい実施形態では、上記の抗CECAM6抗体は配列番号75のアミノ酸配列を含むCEACAM6に結合する。
【0110】
第1の態様のある特定の好ましい実施形態では、上記の抗CECAM6抗体は配列番号75のアミノ酸35~142を含むCEACAM6ドメイン1に結合する。
【0111】
抗体の産生
本発明のさらなる態様は、第1の態様の抗体を産生する方法を提供することである。ある特定の結合特性を有する抗体を提供する方法の詳細な説明は、WO 2016/150899 A2に開示されている。
【0112】
本発明の抗体は、例えば完全ヒトCDRを新しい抗体分子に組換えるn-CoDeR(登録商標)技術(Carlson & Soderlind、Expert Rev Mol Diagn. 2001年5月; 1(1):102~8頁)を使用して、多数の健康なボランティアの抗体から単離されたアミノ酸配列に基づく組換え抗体ライブラリーから得ることができる。あるいは、例えばHoet RMら、Nat Biotechnol 2005; 23(3):344~8頁に記載の完全ヒト抗体ファージディスプレイライブラリーのような抗体ライブラリーを使用してCEACAM6特異的抗体を単離することができる。ヒト抗体ライブラリーから単離された抗体又は抗体断片は、本明細書ではヒト抗体又はヒト抗体断片と考える。
【0113】
ヒト抗体はさらに、抗原負荷に応答してインタクトなヒト抗体又はヒト可変領域を有するインタクトな抗体を産生するように改変されたトランスジェニック動物に免疫原を投与することによって調製することができる。このような動物は、典型的にはヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部又は一部を含んでおり、これらの遺伝子座は内在性の免疫グロブリン遺伝子座を置き換えるか、又は染色体外に存在するか、又は動物の染色体にランダムに組み込まれる。例えば、遺伝子操作されたマウスの免疫化、特にhMAbマウス(例えばVelocImmune mouse(登録商標)又はXENOMOUSE(登録商標))の免疫化が実施され得る。
【0114】
さらなる抗体はハイブリドーマ技術を使用して産生することができ(例えばKohler及びMilstein Nature. 1975年8月7日; 256(5517):495~7頁を参照されたい)、例えばキメラ抗体又はヒト化抗体に変換され得るマウス抗体、ラット抗体又はウサギ抗体が得られる。ヒト化抗体及びそれらの作製方法は、例えばAlmagro及びFransson、Front. Biosci. 13:1619~1633頁(2008)に概説されており、またさらに例えばRiechmannら、Nature 332:323~329頁(1988);Queenら、Proc. Natl Acad. Sci. USA 86:10029~10033頁(1989);米国特許第5,821,337号、同第7,527,791号、同第6,982,321号及び第同7,087,409号;Kashmiriら、Methods 36:25~34頁(2005)(特異性決定領域(SDR)移植について記述);Padlan、Mol. Immunol. 28:489~498頁(1991)(「リサーフェイシング(resurfacing)」について記述);Dall' Acquaら、Methods 36:43~60頁(2005)(「FRシャッフリング」について記述);並びにOsboumら、Methods 36:61~68頁(2005)、並びにKlimkaら、Br. J. Cancer, 83:252~260頁(2000)(FRシャッフリングの「ガイド下の選択」アプローチについて記述)に記載されている。
【0115】
ペプチドバリアント
本発明の抗体は、本明細書で提供される特定のペプチド配列に限定されない。むしろ、本発明はまた、これらのポリペプチドのバリアントも包含する。本開示及び従来利用可能な技術及び参考文献を参照することで、当業者は本明細書に開示の抗体の機能性バリアントを調製し、試験し、利用することができるが、CEACAM6に結合する能力を有するこれらのバリアントが本発明の範囲内にあることは当業者には理解されよう。
【0116】
バリアントは、例えば、本明細書に開示のペプチド配列に対して少なくとも1つの改変された相補的決定領域(CDR)(超可変)及び/又はフレームワーク(FR)(可変)ドメイン/位置を有する抗体を含み得る。
【0117】
CDR領域又はFR領域の1つ以上のアミノ酸残基を変更することにより、当業者は日常的に変異抗体配列又は多様化抗体配列を作製することができ、例えば新しい特性又は改良された特性について抗原に対してスクリーニングされ得る。
【0118】
本発明のさらに好ましい実施形態は、VH配列及びVL配列が提供される配列から選択される抗体又は抗原結合断片である。当業者は、これを使用して本発明の範囲内にあるペプチドバリアントを設計することができる。バリアントは、1つ以上のCDR領域内のアミノ酸を変化させることによって構築されることが好ましい。バリアントはまた、1つ以上の変更されたフレームワーク領域を有し得る。フレームワーク領域においてもまた変更することができる。例えば、ペプチドFRドメインは、生殖系列配列と比較して残基に偏差がある場合に変更され得る。
【0119】
あるいは当業者は、例えばKnappik A.ら、JMB 2000、296:57~86頁に記載された手順を使用して、本明細書に開示のアミノ酸配列をそのような抗体の同じクラスの公知の配列と比較することによって同様の分析を行うことができる。
【0120】
さらに、バリアントは抗体の1つ以上のアミノ酸残基、好ましくは1つ以上のCDRのアミノ酸残基を多様化することによってさらなる最適化の出発点として1つの抗体を使用し、得られた抗体バリアントのコレクションを特性が改善されたバリアントについてスクリーニングすることによって得ることができる。特に好ましいのは、VL及び/又はVHのCDR3における1つ以上のアミノ酸残基の多様化である。多様化は、例えばトリヌクレオチド変異誘発(TRIM)技術を使用してDNA分子のコレクションを合成することによって実施することができる(Virnekas B.ら、Nucl. Acids Res. 1994、22: 5600頁)。抗体又はその抗原結合断片は、限定するものではないが、例えば半減期の変更をもたらす改変(例えば、Fc部分の改変又はさらなる分子、例えばPEGの結合)、結合親和性の変化、又はADCC活性若しくはCDC活性の変化を含む改変/バリエーションを有する分子を含む。
【0121】
保存的アミノ酸バリアント
本明細書に記載の抗体ペプチド配列の全体的な分子構造を保存するポリペプチドバリアントを作製することができる。個々のアミノ酸の特性を考えると、いくつかの合理的な置換が当業者には理解されよう。アミノ酸置換、すなわち「保存的置換」は、例えば関与する残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、及び/又は両親媒性の類似性に基づいて行われ得る。
【0122】
例えば、(a)非極性(疎水性)アミノ酸は、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン及びメチオニンを含み、(b)極性中性アミノ酸は、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン及びグルタミンを含み、(c)正電荷を帯びた(塩基性)アミノ酸は、アルギニン、リジン及びヒスチジンを含み、(d)負電荷を帯びた(酸性)アミノ酸は、アスパラギン酸及びグルタミン酸を含む。置換は典型的には(a)群~(d)群内で行うことができる。さらに、グリシン及びプロリンは、α-ヘリックスを破壊するそれらの能力に基づいて互いに置換され得る。同様にある特定のアミノ酸、例えばアラニン、システイン、ロイシン、メチオニン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン、及びリジンはより一般的にはα-ヘリックスで確認され、一方バリン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン及びスレオニンはより一般的にはβ-プリーツシートで確認される。グリシン、セリン、アスパラギン酸、アスパラギン及びプロリンは一般的に順に確認される。いくつかの好ましい置換は、以下の群の間で行うことができる:(i)S及びT、(ii)P及びG、並びに(iii)A、V、L及びI。公知の遺伝コード並びに組換えDNA技術及び合成DNA技術により、当業者は保存的アミノ酸バリアントをコードするDNAを容易に構築することができる。
【0123】
抗体-薬物コンジュゲート(ADC)
本発明はまた、1つ以上の細胞傷害性薬、例えば化学療法剤若しくは薬物、成長阻害剤、毒素(例えばタンパク質毒素、細菌、真菌、植物、ヒト若しくは動物由来の酵素活性毒素、又はそれらの断片)、又は放射性同位体にコンジュゲートした第1の態様の抗CEACAM6抗体を含む抗体-薬物コンジュゲート(ADC、イムノコンジュゲート)を提供する。
【0124】
一実施形態では、イムノコンジュゲートは、限定するものではないが、メイタンシノイド(米国特許第5,208,020号、同第5,416,064号及び欧州特許EP0425235を参照);アウリスタチン、例えばモノメチルウリスタチン薬物部分DE及びDF(MMAE及びMMAF)(米国特許第5,635,483号及び同第5,780,588号及び同第7,498,298号を参照);ドラスタチン;カリケアマイシン又はその誘導体;アントラサイクリン、例えばダウノマイシン又はドキソルビシン;メトトレキサート;ビンデシンタキサン、例えばドセタキセル、パクリタキセル、ラロタキセル、テセタキセル及びオルタタキセル;トリコテセン;並びにCC1065を含む1つ以上の薬物に抗体がコンジュゲートされた抗体-薬物コンジュゲート(ADC)である。
【0125】
別の実施形態では、イムノコンジュゲートは、限定するものではないが、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、エキソトキシンA鎖(緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖(modeccin A chain)、アルファサルシン、アレウライト・フォルディ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチンタンパク質、フィトラカ・アメリカナ(Phytolaca americana)タンパク質(P API、P APII及びPAP-S)、モモルディカ・シャランティア(momordica charantia)阻害剤、クルチン、クロチン、サパオナリア・オフィシナリス(sapaonaria officinalis)阻害剤、ゲロニン、マイトジェリン、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン、及びトリコテセンを含む酵素的に活性な毒素又はその断片にコンジュゲートされた本明細書に記載の抗体を含む。
【0126】
別の実施形態では、イムノコンジュゲートは、放射性原子にコンジュゲートして放射性コンジュゲートを形成する本明細書に記載の抗体を含む。様々な放射性同位体が放射性コンジュゲートの生成に利用することができる。例としては、227Th、225Ac、211At、131I、125I、90Y、186Re、188Re、153Sm、212Bi、32P、212Pb及びLuの放射性同位元素が挙げられる。放射性コンジュゲートが検出に使用される場合、シンチグラフィー研究用の放射性原子、例えばTc99m、又は核磁気共鳴(NMR)イメージング用のスピン標識、例えばヨウ素-123、ヨウ素-131、インジウム-111、フッ素-19、炭素-13、窒素-15、酸素-17、ガドリニウム、マンガン又は鉄を含み得る。
【0127】
抗体と細胞傷害性薬のコンジュゲートは、様々な二官能性タンパク質カップリング剤、例えばN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えばジメチルアジピミデートHCl)、活性エステル(例えばスベリン酸ジスクシンイミジル)、アルデヒド(例えばグルタルアルデヒド)、ビスアジド化合物(例えばビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビスジアゾニウム誘導体(例えばビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えばトルエン2,6-ジイソシアネート)、及び二活性フッ素化合物(例えば1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)を使用して作製することができる。
【0128】
リンカーは、細胞内で細胞傷害性薬の放出を促進する「切断可能なリンカー」であり得る。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、光不安定性リンカー、ジメチルリンカー又はジスルフィド含有リンカー(Chariら、Cancer Res. 52: 12 7~131頁(1992)。
【0129】
本明細書におけるイムノコンジュゲート又はADCは、限定するものではないが、BMPS、EMCS、GMBS、HBVS、LC-SMCC、MBS、MPBH、SBAP、SIA、SIAB、SMCC、SMPB、SMPH、スルホEMCS、スルホGMBS、スルホKMUS、スルホMBS、スルホSIAB、スルホSMCC及びスルホSMPB、並びに(例えばPierce Biotechnology, Inc.社、Rockford、IL.、U.S.A.から)購入可能なSVSB(スクシンイミジル-(4-ビニルスルホン)ベンゾエート)を含む架橋試薬を用いて調製されるそのようなコンジュゲートを明示的に想定している。
【0130】
さらなる態様では、本発明は、ADCを形成するために上記の1つ以上の細胞傷害性薬にコンジュゲートした第1の態様の抗CEACAM6抗体を提供する。
【0131】
本発明のDNA分子
本発明はまた、本発明の抗体をコードするDNA分子に関する。発現される抗体に使用されるDNA配列は、例えばTPP-21518については表0及び配列表に示されている。これらの配列は、ある特定の場合には哺乳動物での発現に最適化される。本発明のDNA分子は、本明細書に開示した配列に限定されるものではなく、そのバリアントも含む。本発明内のDNAバリアントは、ハイブリダイゼーションにおける物理的特性を参照することにより説明することができる。当業者には、核酸ハイブリダイゼーション技術を用いて、DNAを使用してその相補体を同定し、DNAは二本鎖であるためにその相当物又はホモログを同定することができることは理解されよう。また、ハイブリダイゼーションが100%未満の相補性で起こり得ることも理解されよう。しかし、条件を適切に選べば、ハイブリダイゼーション技術を使用して、特定のプローブとの構造的な関連性に基づいてDNA配列を区別することが可能である。そのような条件に関する指針については、Sambrookら、1989前掲、及びAusubelら、1995 (Ausubel, F. M.、Brent, R.、Kingston, R. E.、Moore, D. D.、Sedman, J. G.、Smith, J. A.、 & Struhl, K.編(1995). Current Protocols in Molecular Biology. New York: John Wiley and Sons)を参照されたい。
【0132】
2つのポリヌクレオチド配列間の構造的類似性は、2つの配列が互いにハイブリダイズする条件の「ストリンジェンシー」の関数として表され得る。本明細書で使用される場合、「ストリンジェンシー」という用語は、条件がハイブリダイゼーションを妨げる程度を指す。ストリンジェントな条件はハイブリダイゼーションを極度に妨げ、そのような条件下では最も構造的に関連性のある分子のみが互いにハイブリダイズする。逆にストリンジェントでない条件は、構造的関連性の程度が低い分子のハイブリダイゼーションに有利である。したがって、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、2つの核酸配列の構造的関係に直接的に相関する。
【0133】
ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、全DNA濃度、イオン強度、温度、プローブのサイズ、水素結合を破壊する薬剤の存在を含む多数の要因の関数である。ハイブリダイゼーションを促進する要因としては、高いDNA濃度、高いイオン強度、低い温度、長いプローブサイズ、及び水素結合を破壊する薬剤が存在しないことが挙げられる。ハイブリダイゼーションは、典型的には「結合」段階及び「洗浄」段階の2つの段階で実施される。
【0134】
機能的に同等なDNAバリアント
本発明の範囲内にあるさらに別のクラスのDNAバリアントは、それらがコードする産物を参照して説明することができる。これらの機能的に同等なポリヌクレオチドは、遺伝コードの縮重により同じペプチド配列をコードしているという事実を特徴とする。
【0135】
本明細書で提供されるDNA分子のバリアントは、いくつかの異なる方法で構築され得ることが認識される。例えば、それらは完全に合成されたDNAとして構築され得る。オリゴヌクレオチドを効率的に合成する方法を広く利用することができる。Ausubelら、section 2.11、補遺21 (1993)を参照されたい。オーバーラップオリゴヌクレオチドは、Khoranaら、J. Mol. Biol. 72:209 217頁(1971)によって最初に報告された方法で合成され、構築され得る。またAusubelら、前掲、Section 8.2も参照されたい。合成DNAは、好ましくは適切なベクターへのクローニングを容易にするために遺伝子の5'末端及び3'末端に、操作により作製された制限部位用いて設計される。
【0136】
示したように、バリアントを産生する方法は、本明細書に開示のDNAの1つから始め、次いで、部位特異的変異誘発を行うことである。Ausubelら、前掲、chapter 8、補遺37 (1997)を参照されたい。典型的な方法では、標的DNAを一本鎖DNAバクテリオファージビヒクルにクローニングする。一本鎖DNAが単離され、所望のヌクレオチド変更(複数可)を含むオリゴヌクレオチドとハイブリダイズされる。相補鎖が合成され、二本鎖ファージが宿主に導入される。得られた子孫の一部は所望の変異体を含んでおり、これはDNA配列決定を使用して確認することができる。さらに、子孫ファージが所望の変異体である確率を高める様々な方法を利用することができる。これらの方法は当業者に周知であり、そのような変異体を生成するためのキットが市販されている。
【0137】
組換えDNA構築物及び抗CEACAM6抗体の発現
本発明は本発明の抗体をコードする組換えDNA構築物をさらに提供する。本発明のこれらの組換え構築物は、本発明の抗体又はその抗原結合断片又はそのバリアントをコードするDNA分子が挿入されるベクター、例えばプラスミド、ファージミド、ファージ又はウイルスベクターと組み合わせて使用することができる。
【0138】
本明細書で提供される抗体、抗原結合部分又はそのバリアントは、宿主細胞で軽鎖及び重鎖又はその一部をコードする核酸配列を組換え発現させることにより調製することができる。抗体、抗原結合部分、又はそのバリアントを組換え的に発現させるため、宿主細胞は、軽鎖及び重鎖又はその一部をコードするDNA断片を有する1つ以上の組換え発現ベクターをトランスフェクトされ、軽鎖及び重鎖が宿主細胞で発現されるようにすることができる。Sambrook、Fritsch及びManiatis(編)、Molecular Cloning; A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor、N.Y.、(1989)、Ausubel, F. M.ら(編) Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing Associates、(1989)及びBossらの米国特許第4,816,397号に述べられているように、標準的な組換えDNA手法を使用して、重鎖及び軽鎖をコードする核酸を調製及び/又は取得し、これらの核酸を組換え発現ベクターに組み込み、ベクターを宿主細胞に導入する。
【0139】
さらに、重鎖及び/又は軽鎖の可変領域をコードする核酸配列は、例えば完全長抗体鎖、Fab断片又はscFvをコードする核酸配列に変換することができる。VL又はVHをコードするDNA断片は、(2つのDNA断片によりコードされるアミノ酸配列がインフレームにあるように)例えば抗体定常領域又はフレキシブルリンカーをコードする別のDNA断片に作動可能に連結され得る。ヒト重鎖及び軽鎖定常領域の配列は当技術分野において公知であり(例えばKabat, E. A.ら、(1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、U.S. Department of Health and Human Services、NIH Publication No. 91-3242を参照されたい)、これらの領域を含むDNA断片は標準的なPCR増幅によって得ることができる。
【0140】
scFvをコードするポリヌクレオチド配列を作製するため、VH及びVLをコードする核酸はフレキシブルリンカーをコードする別の断片に作動可能に連結され、VH及びVL配列が、VL領域及びVH領域がフレキシブルリンカーによって結合された、連続した一本鎖タンパク質として発現され得る(例えばBirdら(1988) Science 242:423~426頁;Hustonら(1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879~5883頁;McCaffertyら、Nature (1990) 348:552~554頁を参照されたい)。
【0141】
抗体、その抗原結合断片又はそのバリアントを発現させるためには、標準的な組換えDNA発現法を使用することができる(例えばGoeddel; Gene Expression Technology. Methods in Enzymology 185、Academic Press、San Diego、Calif. (1990)を参照されたい)。例えば、所望のポリペプチドをコードするDNAを発現ベクターに挿入し、次いでこれを適切な宿主細胞にトランスフェクトすることができる。適切な宿主細胞は原核細胞及び真核細胞である。原核宿主細胞の例は、例えば細菌であり、真核生物宿主細胞の例は酵母、昆虫及び昆虫細胞、植物及び植物細胞、トランスジェニック動物、又は哺乳動物細胞である。一部の実施形態では、重鎖及び軽鎖をコードするDNAは別々のベクターに挿入される。他の実施形態では、重鎖及び軽鎖をコードするDNAは同じベクターに挿入される。制御配列の選択を含む発現ベクターの設計は、宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現レベル、及び発現が構成的か誘導的かなどの要因に影響されることは理解されよう。
【0142】
したがって、本発明の一実施形態はまた、ベクター又は核酸分子を含む宿主細胞であり、それによって宿主細胞は高等真核宿主細胞、例えば哺乳動物細胞、下等真核宿主細胞、例えば酵母細胞であり得、また原核細胞、例えば細菌細胞であってもよい。
【0143】
本発明の別の実施形態は、抗体及び抗原結合断片を産生するために宿主細胞を使用する方法であって、宿主細胞を適切な条件下で培養し、前記抗体を回収することを含む方法である。
【0144】
したがって、本発明の別の実施態様は、本発明の宿主細胞を用いた本発明に係る抗体の産生、及びこれらの抗体の少なくとも95重量%均質性までの精製である。
【0145】
細菌発現
細菌用の有用な発現ベクターは、所望のタンパク質をコードするDNA配列を、適切な翻訳開始シグナル及び翻訳終結シグナルと一緒に、機能性プロモーターによる作動可能な読み取り相で挿入することによって構築される。ベクターは、1つ以上の表現型選択可能マーカーと、ベクターの維持を確実にし、所望の場合には宿主内で増幅を提供するための複製起点を含む。形質転換に適した原核生物宿主には、限定するものではないが、大腸菌(E. coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、サルモネラ・チフィリウム(Salmonella typhimurium)、並びにシュードモナス(Pseudomonas)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属及びスタフィロコッカス(Staphylococcus)属に属する様々な種が含まれる。
【0146】
細菌ベクターは、例えばバクテリオファージベース、プラスミドベース又はファージミドベースであり得る。これらのベクターは、選択可能なマーカー、及び周知のクローニングベクターpBR322(ATCC 37017)のエレメントを典型的に含む市販のプラスミド由来の細菌複製起点を含み得る。適切な宿主株を形質転換し、宿主株を適切な細胞密度まで増殖させた後、選択されたプロモーターは適切な手段(例えば温度シフト又は化学的誘導)により抑制解除/誘導され、細胞は追加の期間培養される。細胞は、典型的には遠心分離によって収集され、物理的手段又は化学的手段によって破壊され、得られた粗抽出物はさらなる精製のために保持される。
【0147】
細菌系では、発現されるタンパク質の使用目的に応じて、多数の発現ベクターが有利に選択され得る。例えば、多量のこのようなタンパク質を生産する場合、抗体の産生又はペプチドライブラリーのスクリーニングについては、例えば、容易に精製される融合タンパク質の高レベルの発現を指示するベクターが望まれ得る。
【0148】
したがって、本発明の一実施形態は、本発明の新規抗体をコードする核酸配列を含む発現ベクターである。
【0149】
本発明の抗体又はその抗原結合断片若しくはそのバリアントは、天然精製産物、化学合成手順の産物、及び例えば大腸菌、枯草菌、サルモネラ・チフィリウム、並びにシュードモナス属、ストレプトミセス属及びスタフィロコッカス属に属する様々な種を含む原核宿主からの、好ましくは大腸菌細胞からの組換え技術により産生される産物を含む。
【0150】
哺乳動物発現
哺乳動物宿主細胞発現のための好ましい制御配列には、哺乳動物細胞において高レベルのタンパク質発現を指示するウイルスエレメント、例えばサイトメガロウイルス(CMV)由来のプロモーター及び/又はエンハンサー(例えばCMVプロモーター/エンハンサー)、シミアンウイルス40(SV40)由来のプロモーター及び/又はエンハンサー(例えばSV40プロモーター/エンハンサー)、アデノウイルス由来のプロモーター及び/又はエンハンサー(例えばアデノウイルス主要後期プロモーター(AdMLP))、並びにポリオーマが含まれる。抗体の発現は、構成的であってもよく、制御されていてもよい(例えばTet系と組み合わせた低分子誘導物質、例えばテトラサイクリンの添加又は除去により誘導可能)。ウイルス制御エレメント及びその配列のさらなる詳細については、例えば、Stinskiの米国特許第5,168,062号、Bellらの米国特許第4,510,245号及びSchaffnerらの米国特許第4,968,615号を参照されたい。組換え発現ベクターはまた、複製起点及び選択可能マーカーを含むことができる(例えば、米国特許第4,399,216号、同第4,634,665号及び米国特許第5,179,017号を参照されたい)。適切な選択可能マーカーには、ベクターが導入された宿主細胞に対して、薬剤、例えばG418、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、ブラストサイジン、ゼオシン/ブレオマイシン若しくはメトトレキサートに対する耐性を付与する遺伝子、又は栄養要求性を利用する選択可能マーカー、例えばグルタミンシンセターゼ(Bebbingtonら、Biotechnology(N Y).1992年2月; 10(2):169~75頁)が含まれる。例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子はメトトレキサートに対する耐性を付与し、neo遺伝子はG418に対する耐性を付与し、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)由来のbsd遺伝子はブラストサイジンに対する耐性を付与し、ピューロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼはピューロマイシンに対する耐性を付与し、Sh ble遺伝子産物はゼオシンに対する耐性を付与し、ハイグロマイシンに対する耐性は大腸菌ハイグロマイシン耐性遺伝子(hyg又はhph)によって付与される。DHFR又はグルタミン合成酵素のような選択可能なマーカーもまた、MTX及びMSXと組み合わせた増幅技術に有用である。
【0151】
宿主細胞への発現ベクターのトランスフェクションは、標準的な技術、例えばエレクトロポレーション、ヌクレオフェクション、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション、ポリカチオンベースのトランスフェクション、例えばポリエスチレンイミン(PEI)ベースのトランスフェクション及びDEAE-デキストラントランスフェクションを使用して実施することができる。
【0152】
本明細書で提供される抗体、その抗原結合断片又はそのバリアントを発現させるのに適切な哺乳動物宿主細胞には、チャイニーズハムスター卵巣(CHO細胞)、例えばCHO-K1、CHO-S、CHO-K1SV[例えばR. J. Kaufman及びP. A. Sharp (1982) Mol. Biol. 159:601~621頁に記載されているDHFR選択可能マーカーを用いて使用されるUrlaub及びChasin、(1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216~4220頁及びUrlaubら、Cell. 1983年6月; 33(2):405~12頁に記載のdhfr-CHO細胞;並びにFanら、Biotechnol Bioeng. 2012年4月; 109(4):1007~15頁に例示されている他のノックアウト細胞を含む]、NS0骨髄腫細胞、COS細胞、HEK293細胞、HKB11細胞、BHK21細胞、CAP細胞、EB66細胞、及びSP2細胞が含まれる。
【0153】
発現はまた、発現系、例えばHEK293、HEK293T、HEK293-EBNA、HEK293E、HEK293-6E、HEK293-Freestyle、HKB11、Expi293F、293EBNALT75、CHO Freestyle、CHO-S、CHO-K1、CHO-K1SV、CHOEBNALT85、CHOS-XE、CHO-3E7又はCAP-T細胞において一過性又は半安定性であり得る(例えば、Durocherら、Nucleic Acids Res. 2002年1月15日; 30(2): E9頁)。
【0154】
一部の実施形態では、発現ベクターは、発現されたタンパク質が宿主細胞を増殖させる培地中に分泌されるように設計される。抗体、その抗原結合断片又はそのバリアントは、標準的なタンパク質精製方法を使用して培養培地から回収することができる。
【0155】
精製
本発明の抗体又はその抗原結合断片又はそのバリアントは、限定するものではないが、硫酸アンモニウム又はエタノール沈殿、酸抽出、プロテインAクロマトグラフィー、プロテインGクロマトグラフィー、陰イオン又は陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー及びレクチンクロマトグラフィーを含む周知の方法より組換え細胞培養物から回収及び精製することができる。高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)もまた精製に使用することができる。例えば、それぞれ全体が参照により本明細書に組み込まれる、Colligan、Current Protocols in Immunology、又はCurrent Protocols in Protein Science、John Wiley & Sons, NY、N.Y.、(1997-2001)、例えば、Chapters 1、4、6、8、9、10を参照されたい。
【0156】
本発明の抗体又はその抗原結合断片又はそのバリアントには、天然精製産物、化学合成手順の産物、並びに例えば酵母、高等植物、昆虫及び哺乳動物細胞を含む真核宿主から組換え技術により産生される産物が含まれる。組換え生産手順において用いられる宿主に応じて、本発明の抗体はグリコシル化され得るか、又は非グリコシル化され得る。このような方法は、多数の標準的な実験室マニュアル、例えばSambrook、前掲、Sections 17.37-17.42; Ausubel、前掲、Chapters 10、12、13、16、18及び20に記載されている。好ましい実施形態では、抗体は、(1)例えばLowry法、UV-Vis分光法により、又はSDS-キャピラリーゲル電気泳動法(例えばCaliper LabChip GXII、GX 90、又はBiorad Bioanalyzer装置上で)により決定される抗体の95重量%超、さらに好ましい実施形態では99重量%超に精製されるか、(2)少なくとも15残基のN末端アミノ酸配列若しくは内部アミノ酸配列を得るのに十分な程度まで精製されるか、又は(3)還元条件若しくは非還元条件下でクマシーブルー、若しくは好ましくは銀染色を使用するSDS-PAGEによって均質化するよう精製される。抗体の自然環境の少なくとも1つの成分が存在しないことから、単離された天然由来抗体は、組換え細胞内のin situ抗体を含む。しかし通常は、単離された抗体は少なくとも1回の精製工程により調製される。
【0157】
治療方法
さらなる態様では、本発明は治療方法に関する。
【0158】
治療方法は、処置を必要とする対象に、本発明により意図される抗体又はその抗原結断片又はそのバリアントの治療有効量を投与することを含む。本明細書による「治療有効」量は、対象の処置される領域においてCEACAM6陽性細胞の増殖を低減するか、又はCEACAM6発現腫瘍のサイズを縮小させるのに十分な量である抗体又は抗原結合断片の量であって、単回投与として又は複数回投与レジメンに従って、単独で又は他の薬剤との併用で、有害な状態を緩和させるが毒性学的には許容される量として定義される。対象は、ヒト又は非ヒト動物(例えばウサギ、ラット、マウス、イヌ、サル又は他の下等霊長類)であり得る。
【0159】
がんの処置のための医薬として使用するための本抗体又はその抗原結合断片を提供することは、本発明の一実施形態である。好ましい実施形態では、がんは腫瘍であり、非常に好ましい実施形態では、がんは固形腫瘍である。
【0160】
疾患の処置のための医薬の製造において本抗体又はその抗原結合断片を使用することは、本発明の一実施形態である。
【0161】
がんの処置のための医薬の製造において本抗体又はその抗原結合断片を使用することは、本発明の実施形態である。好ましい実施形態では、がんは腫瘍であり、非常に好ましい実施形態では、がんは固形腫瘍である。
【0162】
本発明の抗体は、異常なCEACAM6シグナル伝達を伴う様々な状況で、例えば細胞増殖性疾患、例えばがん又は線維性疾患で治療ツール又は診断ツールとして使用することができる。本発明の抗体による処置において特に適した障害及び状態は、固形腫瘍、例えば乳房、呼吸器、脳、生殖器、消化器、尿路、眼、肝臓、皮膚、頭頸部、甲状腺、副甲状腺のがん、及びそれらの遠隔転移である。これらの障害には、リンパ腫、肉腫及び白血病も含まれる。
【0163】
消化管の腫瘍には、限定するものではないが、肛門がん、結腸がん、結腸直腸がん、食道がん、胆嚢がん、胃がん、膵臓がん、直腸がん、小腸がん、及び唾液腺がんが含まれる。
【0164】
食道がんの例には、限定するものではないが、食道細胞癌及び腺癌、並びに扁平上皮癌、平滑筋肉腫、悪性黒色腫、横紋筋肉腫及びリンパ腫が含まれる。
【0165】
胃がんの例には、限定するものではないが、腸型胃腺癌及びびまん型胃腺癌が含まれる。
【0166】
膵臓がんの例には、限定するものではないが、膵管腺癌、腺扁平上皮癌及び膵内分泌腫瘍が含まれる。
【0167】
乳がんの例には、限定するものではないが、トリプルネガティブ乳がん、浸潤性乳管癌、浸潤性小葉癌、非浸潤性乳管癌、及び非浸潤性小葉癌が含まれる。
【0168】
呼吸器のがんの例には、限定するものではないが、小細胞肺癌及び非小細胞肺癌、並びに気管支腺腫及び胸膜肺芽腫が含まれる。
【0169】
脳腫瘍の例には、限定するものではないが、脳幹及び下垂体神経膠腫、小脳及び大脳星状細胞腫、膠芽腫、髄芽腫、上衣腫、並びに神経外胚葉腫瘍及び松果体腫瘍が含まれる。
【0170】
男性生殖器の腫瘍には、限定するものではないが、前立腺がん及び精巣がんが含まれる。女性生殖器の腫瘍には、限定するものではないが、子宮内膜がん、子宮頸がん、卵巣がん、膣がん、外陰がん、並びに子宮肉腫が含まれる。
【0171】
卵巣がんの例には、限定するものではないが、漿液性腫瘍、類内膜腫瘍、粘液性嚢胞腺癌、顆粒膜細胞腫瘍、セルトリ・ライディッヒ細胞腫瘍及びアレヘンブラストーマが含まれる。
【0172】
子宮頸がんの例には、限定するものではないが、扁平上皮癌、腺癌、腺扁平上皮癌、小細胞癌、神経内分泌腫瘍、ガラス細胞癌及び絨毛腺癌が含まれる。
【0173】
尿路の腫瘍には、限定するものではないが、膀胱がん、陰茎がん、腎臓がん、腎盂がん、尿管がん、尿道がん、並びに遺伝性及び散発性乳頭状腎がんが含まれる。
【0174】
腎臓がんの例には、限定するものではないが、腎細胞癌、尿路上皮細胞癌、傍糸球体細胞腫瘍(レニノーマ)、血管筋脂肪腫、腎腫瘍細胞腫、ベリーニ管癌、腎臓の明細胞肉腫、中胚葉腎腫及びウィルムス腫瘍が含まれる。
【0175】
膀胱がんの例には、限定するものではないが、移行上皮癌、扁平上皮癌、腺癌、肉腫及び小細胞癌が含まれる。
【0176】
眼のがんには、限定するものではないが、眼内黒色腫及び網膜芽細胞腫が含まれる。
【0177】
肝臓がんの例には、限定するものではないが、肝細胞癌(線維層板型変異の有無を問わない肝細胞癌)、胆管癌(肝内胆管癌)、及び混合型肝細胞胆管癌が含まれる。
【0178】
皮膚がんには、限定するものではないが、扁平上皮癌、カポジ肉腫、悪性黒色腫、メルケル細胞皮膚がん、及び非黒色腫皮膚がんが含まれる。
【0179】
頭頸部がんには、限定するものではないが、頭頸部の扁平上皮がん、喉頭がん、下咽頭がん、上咽頭がん、中咽頭がん、唾液腺がん、口唇及び口腔がん、並びに扁平上皮がんが含まれる。
【0180】
リンパ腫には、限定するものではないが、AIDS関連リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、ホジキン病、及び中枢神経系のリンパ腫が含まれる。
【0181】
肉腫には、限定するものではないが、軟部組織の肉腫、骨肉腫、悪性線維性組織球腫、リンパ肉腫、及び横紋筋肉腫が含まれる。
【0182】
白血病には、限定するものではないが、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、及びヘアリー細胞白血病が含まれる。
【0183】
好ましい実施形態では、本発明の抗体又はその抗原結合断片は、結腸直腸がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、小細胞肺がん(SCLC)、膵臓がん、胃がん、乳がん及び多発性骨髄腫からなる群から選択されるがん疾患を処置又は診断する治療法又は診断法に適している。
【0184】
上記の障害は、ヒトにおいて十分に特徴づけられているが、哺乳動物を含む他の動物においても同様の病因が存在し、本発明の医薬組成物を投与することにより処置することができる。
【0185】
本発明の抗体は公知の医薬と同時投与されてもよく、場合によっては抗体自体が改変されていてもよい。例えば、抗体又はその抗原結合断片又はそのバリアントは、細胞傷害性薬又は放射性同位元素とコンジュゲートさせて有効性をさらに高めることができる場合がある。
【0186】
本発明の抗体又はその抗原結合断片又はそのバリアントは、単独で医薬品として投与することができるか、又は併用が許容できない副作用が起こらない場合には1つ以上の追加の治療薬と併用して投与することができる。この併用療法には、本発明の抗体又はその抗原結合断片又はそのバリアントと1つ以上の追加の治療薬を含む単一の医薬製剤の投与、並びに本発明の抗体及び追加のそれぞれの治療薬のそれ自体個別の医薬製剤での投与が含まれる。例えば、本発明の抗体又はその抗原結合断片又はそのバリアント及び治療薬は、単一の液体組成物として一緒に患者に投与してもよく、又は各薬剤を個別の剤形で投与してもよい。
【0187】
個別の剤形が使用される場合、本発明の抗体又はその抗原結合断片又はそのバリアント及び1つ以上の追加の治療薬は、本質的に同じ時に(例えば同時に)投与してもよく、又は別々に時間をずらして(例えば順次に)投与してもよい。
【0188】
特に、本発明の抗体又はその抗原結合断片又はそのバリアントは、他の二次薬剤の抗腫瘍剤、例えばアルキル化剤、代謝拮抗剤、植物由来の抗腫瘍剤、ホルモン療法剤、トポイソメラーゼ阻害剤、免疫製剤、抗体、抗体薬、生物学的応答調節物質、抗血管新生化合物、細胞療法剤、及び限定するものではないがカンプトテシン誘導体、キナーゼ阻害剤、標的薬を含む他の抗腫瘍薬と固定して又は別々に併用することができる。
【0189】
この点に関して、以下は本発明の抗体と併用して使用することができる二次薬剤の非限定的な例である:
131l-chTNT、アバレリックス、アベマシクリブ、アビラテロン、アカラブルチニブ、アクラルビシン、アダリムマブ、アドトラスツズマブ エムタンシン、アファチニブ、アフリベルセプト、アルデスロイキン、アレクチニブ、アレムツズマブ、アレンドロン酸、アリトレチノイン、アルファラジン、アルトレタミン、アミホスチン、アミノグルテチミド、アミノレブリン酸ヘキシル、アムルビシン、アムサクリン、アナストロゾール、アンセスチム、アネトールジチオレチオン、アネツマブラブタンシン、アンジオテンシンII、アンチトロンビンIII、アパルタミド、アプレピタント、アルシツモマブ、アルグラビン、三酸化ヒ素、アスパラギナーゼ、アテゾリズマブ、アベルマブ、アキシカブタゲンシロロイセル、アキシチニブ、アザシチジン、バシリキシマブ、ベロテカン、ベンダムスチン、ベシレソマブ、ベリノスタット、ベバシズマブ、ベキサロテン、ビカルタミド、ビサントレン、ブレオマイシン、ブリナツモマブ、ボルテゾミブ、ボスチニブ、ブセレリン、ブレンツキシマブベドチン、ブリガチニブ、ブスルファン、カバジタキセル、カボザンチニブ、カルシトニン、ホリナートカルシウム、レボホリナートカルシウム、カペシタビン、カプロマブ、カルバマゼピンカルボプラチン、カルボクオン、カルフィルゾミブ、カルモファー、カルムスチン、カトゥマキソマブ、セレコキシブ、セルモロイキン、セミプリマブ、セリチニブ、セツキシマブ、クロラムブシル、クロルマジノン、クロルメチン、シドフォビル、シナカルセット、シスプラチン、クラドリビン、クロドロン酸、クロファラビン、コビメチニブ、コパンリシブ、クリサンタスパーゼ、クリゾチニブ、シクロホスファミド、シプロテロン、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダラツムマブ、ダルベポエチンアルファ、ダブラフェニブ、ダサチニブ、ダウノルビシン、デシタビン、デガレリクス、デニロイキンジフチトクス、デノスマブ、デプレオチド、デスロレリン、ジアンヒドロガラクチトール、デクスラゾキサン、塩化ジブロスピジウム、ジアンヒドロガラクチトール、ジクロフェナク、ジヌツキシマブ、ドセタキセル、ドラセトロン、ドキシフルリジン、ドキソルビシン、ドキソルビシン+エストロン、ドロナビノール、デュルバルマブ、エクリズマブ、エドレコロマブ、酢酸エリプチニウム、エロツズマブ、エルトロンボパグ、エナシデニブ、エンドスタチン、エノシタビン、エンザルタミド、エピルビシン、エピチオスタノール、エポエチンアルファ、エポエチンベータ、エポエチンゼータ、エプタプラチン、エリブリン、エルロチニブ、エソメプラゾール、エストラジオール、エストラムスチン、エチニルエストラジオール、エトポシド、エベロリムス、エキセメスタン、ファドロゾール、フェンタニル、フィルグラスチム、フルオキシメステロン、フロクスウリジン、フルダラビン、フルオロウラシル、フルタミド、フォリン酸、ホルメスタン、ホスアプレピタント、フォテムスチン、フルベストラント、ガドブトロール、ガドテリドール、ガドテル酸メグルミン、ガドベルセタミド、ガドキセチン酸、硝酸ガリウム、ガニレリクス、ゲフィチニブ、ゲムシタビン、ゲムツズマブ、グルカルピダーゼ、グルトキシム、GM-CSF、ゴセレリン、グラニセトロン、顆粒球コロニー刺激因子、二塩酸ヒスタミン、ヒトレリン、ヒドロキシカルバミド、I-125シード、ランソプラゾール、イバンドロン酸、イブリツモマブチウキセタン、イブルチニブ、イダルビシン、イホスファミド、イマチニブ、イミキモド、インプロスルファン、インジセトロン、インカドロン酸、インゲノールメブテート、イノツズマブ オゾガマイシン、インターフェロンアルファ、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ、イオビトリドール、イオベングアン(123I)、イオメプロール、イピリムマブ、イリノテカン、イトラコナゾール、イクサベピロン、イキサゾミブ、ランレオチド、ランソプラゾール、ラパチニブ、イアソコリン(Iasocholine)、レナリドミド、レンバチニブ、レノグラスチム、レンチナン、レトロゾール、リュープロレリン、レバミゾール、レボノルゲストレル、レボチロキシンナトリウム、リスリド、ロバプラチン、ロムスチン、ロニダミン、ルテチウムLu177ドタテート、マソプロコール、メドロキシプロゲステロン、メゲストロール、メラルソプロール、メルファラン、メピチオスタン、メルカプトプリン、メスナ、メサドン、メトトレキサート、メトキサレン、メチルアミノレブリネート、メチルプレドニゾロン、メチルテストステロン、メチロシン、ミドスタウリン、ミファムルチド、ミルテホシン、ミリプラチン、ミトブロニトール、ミトグアゾン、ミトラクトール、マイトマイシン、ミトタン、ミトキサントロン、モガムリズマブ、モルグラモスチム、モピダモール、塩酸モルヒネ、硫酸モルヒネ、ムバシ、ナビロン、ナビキシモール、ナファレリン、ナロキソン+ペンタゾシン、ナルトレキソン、ナルトグラスチム、ネシツムマブ、ネダプラチン、ネララビン、ネラチニブ、ネリドロン酸、ネツピタント/パロノセトロン、ニボルマブ、ペンテトレオチド、ニロチニブ、ニルタミド、ニモラゾール、ニモツズマブ、ニムスチン、ニンテダニブ、ニラパリブ、ニトラクリン、ニボルマブ、オビヌツズマブ、オクトレオチド、オファツムマブ、オラパリブ、オララツマブ、オマセタキシンメペサクシネート、オメプラゾール、オンダンセトロン、オペルベキン、オルゴテイン、オリロチモド、オシメルチニブ、オキサリプラチン、オキシコドン、オキシメチオン、オゾガミシン、p53遺伝子治療、パクリタキセル、パルボシクリブ、パリフェルミン、パラジウム-103シード、パロノセトロン、パミドロン酸、パニツムマブ、パノビノスタット、パントプラゾール、パゾパニブ、ペガスパルガーゼ、PEG-エポエチンベータ(メトキシPEG-エポエチンベータ)、ペムブロリズマブ、ペグフィルグラスチム、ペグインターフェロンアルファ-2b、ペムブロリズマブ、ペメトレキセド、ペンタゾシン、ペントスタチン、ペプロマイシン、ペルフルブタン、ペルホスファミド、ペルツズマブ、ピシバニール、ピロカルピン、ピラルビシン、ピキサントロン、プレリキサホル、プリカマイシン、ポリグルサム、リン酸ポリエストラジオール、ポリビニルピロリドン+ヒアルロン酸ナトリウム、ポリサッカライド-K、ポマリドマイド、ポナチニブ、ポルフィマーナトリウム、プララトレキサート、プレドニムスチン、プレドニゾン、プロカルバジン、プロコダゾール、プロプラノロール、キナゴリド、ラベプラゾール、ラコツモマブ、塩化ラジウム-223、ラドチニブ、ラロキシフェン、ラルチトレキセド、ラモセトロン、ラムシルマブ、ラニムスチン、ラスブリカーゼ、ラゾキサン、レファメチニブ、レゴラフェニブ、リボシクリブ、リセドロン酸、レニウム-186エチドロネート、リツキシマブ、ロラピタント、ロミデプシン、ロミプロスチム、ロムルチド、ルカパリブ、サマリウム(153Sm) レキシドロナム、サルグラモスチム、サリルマブ、サツモマブ、セクレチン、シルツキシマブ、シプロイセル-T、シゾフィラン、ソブゾキサン、グリシジダゾールナトリウム、ソニデギブ、ソラフェニブ、スタノゾロール、ストレプトゾシン、スニチニブ、タラポルフィン、タリモジェンラヘルパレプベク、タミバロテン、タモキシフェン、タペンタドール、タソネルミン、テセレキン、テクネチウム(99mTc) ノフェツモマブメルペンタン、99mTc-HYNIC-[Tyr3]-オクトレオチド、テガフール、テガフール+ギメラシル+オテラシル、テモポルフィン、テモゾロミド、テムシロリムス、テニポシド、テストステロン、テトロホスミン、サリドマイド、チオテパ、チマルファシン、サイロトロピンアルファ、チオグアニン、チサゲンレクロイセル、ティスレリズマブ、トシリズマブ、トポテカン、トレミフェン、トシツモマブ、トラベクテジン、トラメチニブ、トラマドール、トラスツズマブ、トラスツズマブエムタンシン、トレオスルファン、トレチノイン、トリフルリジン+チピラシル、トリロスタン、トリプトレリン、トラメチニブ、トロホスファミド、トロンボポエチン、トリプトファン、ウベニメクス、バラチニブ、バルルビシン、バンデタニブ、バプレオチド、ベムラフェニブ、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンフルニン、ビノレルビン、ビスモデギブ、ボリノスタット、ボロゾール、イットリウム-90ガラス微小球、ジノスタチン、ジノスタチンスチマラマー、ゾレドロン酸、ゾルビシン。
【0190】
さらに、本発明の抗体は、限定するものではないが、紫外線、酸化処理、熱ショック、標的放射線療法及び非標的放射線療法、シコニン、高静水圧、腫瘍溶解性ウイルス、並びに光線力学的療法を含む免疫原性細胞死を引き起こす治療様式と組み合わせることができる。
【0191】
さらに、本発明の抗体は、限定するものではないが、スニチニブ、JAK2阻害剤、アントラサイクリン、ドキソルビシン、ミトキサントロン、オキサリプラチン及びシクロホスファミド、標的及び非標的微小管不安定化薬(例えばオーリスタチン及びメイタンシノイドなど)を含む免疫原性細胞死を引き起こす薬剤と組み合わせることができる。
【0192】
本発明の化合物はまた、放射線療法及び/又は外科的介入と併用してがん処置に使用することができる。
【0193】
さらに、本発明の抗体は、それ自体で、又は組成物中で、研究及び診断において、又は当該技術分野において周知である分析参照標準などとして利用することができる。
【0194】
さらなる態様では、本発明は、医薬として使用するための、特にがんの処置のための医薬として使用するための、第1の態様の抗CECAM6抗体を提供する。この態様のある特定の実施形態では、CEACAM6の望ましくない存在に関連するがんを処置する方法であって、それを必要とする対象に有効量の第1の態様の抗CECAM6抗体を投与することを含む方法が提供される。
【0195】
さらなる態様では、本発明は、がんの処置において抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体と同時に、個別に、又は逐次的に組み合わせて使用するための、第1の態様の抗CEACAM6抗体を提供する。
【0196】
ある特定の実施形態では、抗PD-1抗体はニボルマブ又はペムブロリズマブであり、抗PD-L1抗体はアテゾリズマブ、アベルマブ又はデュルバルマブである。この態様のある特定の実施形態では、がんを処置する方法であって、それを必要とする患者に、有効量の第1の態様の抗CEACAM6抗体を、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体と同時に、個別に、又は逐次的に組み合わせて投与することを含み、好ましくは抗PD-1抗体がニボルマブ又はペムブロリズマブであり、抗PD-L1抗体がアテゾリズマブ、アベルマブ又はデュルバルマブである、方法が提供される。
【0197】
ある特定の実施形態では、抗PD-1抗体又はその抗原結合部分はニボルマブであるか、又はニボルマブと同じCDR領域を有する。ニボルマブ(商品名「オプジーボ(OPDIVO)」、旧称は5C4、BMS-936558、MDX-1106、又はONO-4538)は、完全ヒトIgG4(S228P)PD-1免疫チェックポイント阻害抗体であり、PD-1リガンド(PD-L1及びPD-L2)との相互作用を選択的に阻害し、それにより抗腫瘍T細胞機能のダウンレギュレーションを阻害する(米国特許第8,008,449号)。別の実施形態では、抗PD-1抗体又はその断片はニボルマブと交差競合する。
【0198】
他の実施形態では、抗PD-1抗体又はその抗原結合部分はペムブロリズマブであるか、又はペムブロリズマブと同じCDR領域を有する。ペムブロリズマブ(商品名「キイトルーダ(KEYTRUDA)」、ラムブロリズマブ、MK-3475としても知られる)は、ヒト細胞表面受容体PD-1に対するヒト化モノクローナルIgG4抗体である。ペンブロリズマブは、例えば米国特許第8,900,587号に記載されている。
【0199】
他の実施形態では、抗PD-1抗体又はその抗原結合部分は、MEDI0608(旧称AMP-514)であるか、又はMEDI0608と同じCDR領域を有する。MEDI0608はPD-1受容体に対するモノクローナル抗体である。MEDI0608は、例えば米国特許第8,609,089,B2号に記載されている。
【0200】
他の実施形態では、抗PD-1抗体又はその抗原結合部分はBGB-A317であるか、又はBGB-A317と同じCDR領域を有する。BGB-A317は、米国特許出願公開第2015/0079109号に記載されているヒト化モノクローナル抗体である。
【0201】
ある特定の実施形態では、抗PD-L1抗体又はその抗原結合部分はアテゾリズマブであるか、又はアテゾリズマブと同じCDR領域を有する。アテゾリズマブ(商品名「テセントリク(TECENTRIQ)」)は、MPDL3280A、RG7446としても知られる)は、米国特許第8,217,149号に記載されている。
【0202】
他の実施形態では、抗PD-L1抗体又はその抗原結合部分はアベルマブであるか、又はアベルマブと同じCDR領域を有する。MSB0010718Cとしても知られるアベルマブ(商品名「バベンチオ(BAVENCIO)」)は、米国特許出願公開第2014/0341917号に記載されている。
【0203】
他の実施形態では、抗PD-L1抗体又はその抗原結合部分はデュルバルマブであるか、又はデュルバルマブと同じCDR領域を有する。デュルバルマブ(商品名「イミフィンジ(IMFINZI)」)、MEDI4736としても知られる)は、米国特許第8,779,108号又は米国特許出願公開第2014/0356353号に記載されている。
【0204】
他の実施形態では、抗PD-L1抗体又はその抗原結合部分はBMS-936559であるか、又はBMS-936559と同じCDR領域を有する。BMS-936559(旧称12A4又はMDX-1105)はPD-1リガンドPD-L1を標的とする完全ヒトIgG4モノクローナル抗体であり、米国特許第7,943,743号又はWO 2013/173223号に記載されている。
【0205】
さらなる態様では、本発明は、がんの処置において抗TIM-3抗体と同時に、個別に、又は逐次的に組み合わせて使用するための第1の態様の抗CEACAM6抗体を提供する。ある特定の実施形態では、抗TIM-3抗体はコボリマブ、MBG-453、BMS-986258、Sym-023、LY-3321367又はINCAGN-2390である。この態様のある特定の実施形態では、がんを処置する方法であって、それを必要とする患者に、有効量の第1の態様の抗CEACAM6抗体を、抗TIM-3抗体と同時に、個別に、又は逐次的に組み合わせて投与することを含み、好ましくは抗TIM-3抗体がコボリマブ、MBG-453、BMS-986258、Sym-023、LY-3321367又はINCAGN-2390である、方法が提供される。
【0206】
ある特定の実施形態では、抗TIM-3抗体又はその抗原結合部分はコボリマブ(TSR-022、Tesaro社)であるか、又はコボリマブと同じCDR領域を有する。コボリマブは、一部の公知のTIM-3リガンド(HMGB1、ガレクチン-9、ホスファチジルセリン(PS))との相互作用を選択的に阻害し、それにより抗腫瘍T細胞機能のダウンレギュレーションを阻止するTIM-3免疫チェックポイント阻害抗体である。コボリマブは、例えばWO 2016161270 A1及びWO 2018129553 A1に記載されている。コボリマブは現在臨床試験中である;ClinicalTrials.gov識別名:NCT02817633及びNCT03680508。
【0207】
他の実施形態では、抗TIM-3抗体又はその抗原結合部分はMBG-453(Novartis社)であるか、又はMBG-453と同じCDR領域を有する。MBG-453は、一部の公知のTIM-3リガンド(HMGB1、ガレクチン-9、ホスファチジルセリン(PS))との相互作用を選択的に阻害し、それにより抗腫瘍T細胞機能のダウンレギュレーションを阻止するTIM-3免疫チェックポイント阻害抗体である。MBG-453は、例えばWO 2015117002 A1に記載されている。MBG-453は、CAS No:2128742-61-8で登録されている。MBG-453は現在臨床試験中である;ClinicalTrials.gov識別番号:NCT02608268及びNCT03066648。
【0208】
他の実施形態では、抗TIM-3抗体又はその抗原結合部分はBMS-986258(Bristol-Myers Squibb社、Five Prime社)であるか、又はBMS-986258と同じCDR領域を有する。BMS-986258は、一部の公知のTIM-3リガンド(HMGB1、ガレクチン-9、ホスファチジルセリン(PS))の一部との相互作用を選択的に阻止し、それにより抗腫瘍T細胞機能のダウンレギュレートを阻止するTIM-3免疫チェックポイント阻害抗体である。BMS-986258は現在臨床試験中である;ClinicalTrials.gov識別番号:NCT03446040。BMS-986258は、例えばWO 2018013818 A2に記載されている。
【0209】
他の実施形態では、抗TIM-3抗体又はその抗原結合部分はSym-023(Symphogen社)であるか、又はSym-023と同じCDR領域を有する。Sym-023は、一部の公知のTIM-3リガンド(HMGB1、ガレクチン-9、ホスファチジルセリン(PS)との相互作用を選択的に阻止し、それにより抗腫瘍T細胞機能のダウンレギュレートを阻止するTIM-3免疫チェックポイント阻害抗体である。Sym-023は現在臨床試験中である;Clinical Trials.gov識別番号:NCT03489343。Sym-023は、例えばWO 2017178493 A1に記載されている。
【0210】
他の実施形態では、抗TIM-3抗体又はその抗原結合部分はLY-3321367(Eli Lilly社)であるか、又はLY-3321367と同じCDR領域を有する。LY-3321367は、一部の公知のTIM-3リガンド(HMGB1、ガレクチン-9、ホスファチジルセリン(PS)との相互作用を選択的に阻止し、それにより抗腫瘍T細胞機能のダウンレギュレートを阻止するTIM-3免疫チェックポイント阻害抗体である。LY-3321367は現在臨床試験中である;ClinicalTrials.gov識別番号:NCT03099109。LY-3321367は、例えばWO 2018039020 A1に記載されている。
【0211】
他の実施形態では、抗TIM-3抗体又はその抗原結合部分はINCAGN-2390(Agenus社)であるか、又はINCAGN-2390と同じCDR領域を有する。INCAGN-2390は、一部の公知のTIM-3リガンド(HMGB1、ガレクチン-9、ホスファチジルセリン(PS)との相互作用を選択的に阻止し、それにより抗腫瘍T細胞機能のダウンレギュレートを阻止するTIM-3免疫チェックポイント阻害抗体である。INCAGN-2390は現在臨床試験中である;ClinicalTrials.gov識別番号:NCT03652077。INCAGN-2390は、例えばWO 2017205721 A1に記載されている。
【0212】
他の実施形態では、抗TIM-3抗体又はその抗原結合部分はR&D Jackson Immunoresearch社のMAB2365であるか、又はMAB2365と同じCDR領域を有する。MAB2365はrIgG2抗体である。
【0213】
診断方法
さらなる態様では、本発明は診断方法に関する。抗CEACAM6抗体又はその抗原結合断片は、CEACAM6発現腫瘍の存在の検出に使用することができる。血清及び組織生検標本を含む様々な生物学的サンプル内のCEACAM6含有細胞又は排出されたCEACAM6の存在は、抗CEACAM6抗体を用いて検出することができる。さらに、抗CEACAM6抗体は、99Tc(又は他の同位体)コンジュゲート抗体を用いた様々なイメージング手法、例えば免疫シンチグラフィーにおいて使用することができる。例えば、111Inコンジュゲート抗PSMA抗体を使用して記載したものと同様のイメージングプロトコルを使用して、膵臓癌又は卵巣癌を検出することができる(Sodeeら、Clin. Nuc. Med. 21: 759~766頁、1997)。使用することができる別の検出方法は、本発明の抗体を適切な同位体とコンジュゲートさせることによる陽電子放射断層撮影法である(Herzogら、J. Nucl. Med. 34:2222~2226頁、1993を参照されたい)。
【0214】
医薬組成物及び投与
さらなる態様では、本発明は、第1の態様の抗CEACAM6抗体を含む医薬組成物、及び第1の態様の抗CEACAM6抗体の投与に関する。前述の障害のいずれかを処置するために、本発明に従って使用するための医薬組成物は、1つ以上の生理学的に許容される担体又は賦形剤を使用して従来の方法において製剤化することができる。本発明の抗体又はその抗原結合断片は任意の適切な手段によって投与することができるが、その手段は処置される障害の種類に応じて変わり得る。可能な投与経路には、非経口投与(例えば筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内又は皮下)、肺内投与及び鼻腔内投与が含まれ、局所的免疫抑制処置を希望する場合には病巣内投与も含まれる。さらに、本発明の抗体又はその抗原結合断片又はそのバリアントは、例えば抗体の用量を減らしながら、パルス注入によって投与することができる。好ましくは、投与は注射によって行われ、最も好ましくは、一部には投与が短時間的か長時間的かにも応じて、静脈内注射又は皮下注射により行われる。投与量は様々な要因、例えば臨床症状、個人の体重、他の薬物の投与の有無によって異なる。当業者には、投与経路は処置される障害又は状態に応じて変わることは認識されよう。
【0215】
本発明の一実施形態は、第1の態様の抗CEACAM6抗体又はその抗原結合断片又はそのバリアントを単独で、又は少なくとも1つの他の薬剤、例えば安定化化合物と組み合わせて含む医薬組成物であって、限定するものではないが、生理食塩水、緩衝生理食塩水、ブドウ糖及び水を含む任意の無菌の生体適合性医薬担体中で投与され得る医薬組成物である。さらなる実施形態は、CEACAM6結合抗体又はその抗原結合断片及びCEACAM6関連疾患、例えばがんを処置するのに適切なさらなる薬学的活性化合物を含む医薬組成物である。これらのいずれの分子も、単独で、又は賦形剤(複数可)若しくは薬学的に許容される担体と混合される医薬組成物中で他の薬剤、薬物若しくはホルモンと組み合わせて患者に投与することができる。本発明の一実施形態では、薬学的に許容される担体は薬学的に不活性である。
【0216】
本発明はまた、医薬組成物の投与に関する。このような投与は多くの場合、非経口的に行われる。非経口送達の方法には、局所投与、動脈内投与(腫瘍に直接)、筋肉内投与、皮下投与、髄内投与、髄腔内投与、脳室内投与、静脈内投与、腹腔内投与、又は鼻腔内投与が含まれる。活性成分に加えて、これらの医薬組成物は、薬学的に使用することができる製剤への活性化合物の加工を容易にする賦形剤及び補助剤を含む適切な薬学的に許容される担体を含み得る。製剤化及び投与に関する技術のさらなる詳細は、Remington's Pharmaceutical Sciencesの最新版(Maack Publishing Co編、Easton、Pa.)で確認することができる。
【0217】
非経口投与用の医薬製剤には活性化合物の水溶液が含まれる。注射については、本発明の医薬組成物は、水溶液、好ましくは生理学的に適合性のある緩衝液、例えばハンクス液、リンゲル液又は生理的緩衝食塩水中で製剤化することができる。水性注射懸濁液は、懸濁液の粘度を高める物質、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、デキストランを含み得る。さらに、活性化合物の懸濁液は適切な油性注射懸濁液として調製することができる。適切な親油性溶媒又はビヒクルには、ゴマ油などの脂肪油、又はオレイン酸エチル若しくはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、又はリポソームが含まれる。場合により、懸濁液はまた、高濃度溶液を調製できるように化合物の溶解度を高める適切な安定剤又は薬剤を含むことができる。
【0218】
医薬組成物は塩として提供することができ、限定するものではないが、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸などを含む酸で形成させることができる。塩は水性溶媒又は他のプロトン性溶媒に溶解しやすい傾向があり、それは対応する遊離塩基形態である。他の場合、好ましい製剤は、場合により使用前に緩衝液と組み合わせるポリソルベートのような追加の物質を含む、pHが4.5~7.5の範囲での、1mM~50mMのヒスチジン若しくはリン酸塩若しくはトリス、0.1%~2%のスクロース及び/又は2%~7%のマンニトール中の凍結乾燥粉末であり得る。
【0219】
許容される担体中で製剤化された本発明の化合物を含む医薬組成物が調製された後、それらは適切な容器に入れられ、示した状態を処置するためのラベルを貼ることができる。抗CEACAM6抗体又はその抗原結合断片の投与について、このようなラベル表示には投与の量、頻度及び方法が含まれる。
【0220】
キット
本発明はさらに、前述の本発明の組成物の成分の1つ以上が充填された1つ以上の容器を含む医薬パック及びキットに関する。このような容器(複数可)には、ヒトに投与するための製品の製造、使用又は販売に関する政府機関による承認を反映している医薬品又は生物学的製品の製造、使用又は販売を規制する政府機関により規定された形式での通知を添付することができる。
【0221】
本発明のさらに好ましい実施形態は次の通りである。
【0222】
1. Fc領域のCH2ドメイン内の保存されたN結合部位に結合したグリカンを欠失するIgG1 Fc領域を含む抗CECAM6抗体であって、前記IgG1 Fc領域が、少なくとも、KabatのEUインデックスに従って番号付与されたアミノ酸置換L234A及びL235Aを含む、抗CECAM6抗体。
【0223】
2. IgG1 Fc領域が、KabatのEUインデックスに従って番号付与されたアミノ酸置換N297A、N297G又はN297Qを含む、実施形態1に記載の抗CECAM6抗体。
【0224】
3. IgG1 Fc領域を含む抗CECAM6抗体であって、前記IgG1 Fc領域が、少なくとも、KabatのEUインデックスに従って番号付与されたアミノ酸置換N297A、L234A及びL235Aを含む、抗CECAM6抗体。
【0225】
4. 配列番号63のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)及び配列番号67のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む抗体とCEACAM6結合について競合する、実施形態1~3のいずれか1つに記載の抗CECAM6抗体。
【0226】
5. a. 配列番号64のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域H-CDR1、
b. 配列番号65のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域H-CDR2、
c. 配列番号66のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域H-CDR3、
d. 配列番号68のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域L-CDR1、
e. 配列番号69のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域L-CDR2、及び
f. 配列番号70のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域L-CDR3
を含む、実施形態1~4のいずれか1つに記載の抗CECAM6抗体。
【0227】
6. a. 配列番号64の重鎖可変領域H-CDR1アミノ酸配列、
b. 配列番号65の重鎖可変領域H-CDR2アミノ酸配列、
c. 配列番号66の重鎖可変領域H-CDR3アミノ酸配列、
d. 配列番号68の軽鎖可変領域L-CDR1アミノ酸配列、
e. 配列番号69の軽鎖可変領域L-CDR2アミノ酸配列、及び
f. 配列番号70の軽鎖可変領域L-CDR3アミノ酸配列
を含む、実施形態1~4のいずれか1つに記載の抗CECAM6抗体。
【0228】
7. a. 配列番号63のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)、及び
b. 配列番号67のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)
を含む、実施形態1~6のいずれか1つに記載の抗CECAM6抗体。
【0229】
8. a. 配列番号71のアミノ酸配列を含む重鎖(HC)、及び
b. 配列番号72のアミノ酸配列を含む軽鎖(LC)
を含む、実施形態1~7のいずれか1つに記載の抗CECAM6抗体。
【0230】
9. a. 配列番号71のアミノ酸配列を含む重鎖(HC)、及び
b. 配列番号72のアミノ酸配列を含む軽鎖(LC)
を含む抗CECAM6抗体。
【0231】
10. a. 配列番号71のアミノ酸配列を含む重鎖(HC)、及び
b. 配列番号72のアミノ酸配列を含む軽鎖(LC)
からなる抗CECAM6抗体。
【0232】
11. 単離されている、実施形態1~10のいずれか1つに記載の抗CECAM6抗体。
【0233】
12. モノクローナル抗体である、実施形態1~11のいずれか1つに記載の抗CECAM6抗体。
【0234】
13. ヒト抗体又はヒト化抗体である、実施形態1~12のいずれか1つに記載の抗CECAM6抗体。
【0235】
14. 配列番号75のアミノ酸配列を含むCECAM6に特異的に結合する、実施形態1~13のいずれか1つに記載の抗CECAM6抗体。
【0236】
15. 配列番号75のアミノ酸35~142を含むCECAM6ドメイン1に特異的に結合する、実施形態1~14のいずれか1つに記載の抗CECAM6抗体。
【0237】
16. 実施形態1~15のいずれか1つに記載の抗CECAM6抗体をコードする核酸。
【0238】
17. 実施形態16に記載の核酸を含むベクター。
【0239】
18. 実施形態1~15のいずれか1つに記載の抗CECAM6抗体を発現する、及び/又は実施形態16に記載の核酸若しくは実施形態17に記載のベクターを含む、単離された細胞。
【0240】
19. 原核細胞又は真核細胞である、実施形態18に記載の単離された細胞。
【0241】
20. 実施形態18に記載の細胞を培養すること、及び抗体を精製することを含む、実施形態1~15のいずれか1つに記載の抗CECAM6抗体を産生する方法。
【0242】
21. 医薬として使用するための、実施形態1~15のいずれか1つに記載の抗CECAM6抗体。
【0243】
22. がんの処置のための医薬として使用するための、実施形態1~15のいずれか1つに記載の抗CECAM6抗体。
【0244】
23. 疾患の処置のための医薬の製造における、実施形態1~15のいずれか1つに記載の抗CECAM6抗体の使用。
【0245】
24. がんの処置のための医薬の製造における、実施形態1~15のいずれか1つに記載の抗CECAM6抗体の使用。
【0246】
25. CECAM6の望ましくない存在及び/又は膜局在性CEACAM6の高存在率に関連するがんを処置する方法であって、それを必要とする対象に有効量の実施形態1~15のいずれか1つに記載の抗CECAM6抗体を投与することを含む方法。
【0247】
26. 実施形態1~15のいずれか1つに記載の抗CECAM6抗体を含む医薬組成物。
【0248】
27. がんの処置において抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体と同時に、個別に、又は逐次的に組み合わせて使用するための、実施形態1~15のいずれか1つに記載の抗CEACAM6抗体。
【0249】
28. 抗PD-1抗体がニボルマブ又はペムブロリズマブであり、抗PD-L1抗体がアテゾリズマブ、アベルマブ又はデュルバルマブである、実施形態27に記載の使用のための抗CEACAM6抗体。
【0250】
29. がんを処置する方法であって、それを必要とする患者に、有効量の実施形態1~15のいずれか1つに記載の抗CEACAM6抗体を、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体と同時に、個別に、又は逐次的に組み合わせて投与することを含む方法。
【0251】
30. 抗PD-1抗体がニボルマブ又はペムブロリズマブであり、抗PD-L1抗体がアテゾリズマブ、アベルマブ又はデュルバルマブである、実施形態29に記載のがんを処置する方法。
【0252】
31. がんの処置において抗TIM-3抗体と同時に、個別に、又は逐次的に組み合わせて使用するための実施形態1~15のいずれか1つに記載の抗CEACAM6抗体。
【0253】
32. 抗TIM-3抗体がコボリマブ、MBG-453、BMS-986258、Sym-023、LY-3321367又はINCAGN-2390である、実施形態31に記載の使用のための抗CEACAM6抗体。
【0254】
33. がんを処置する方法であって、それを必要とする患者に、有効量の実施形態1~15のいずれか1つに記載の抗CEACAM6抗体を、抗TIM-3抗体と同時に、個別に、又は逐次的に組み合わせて投与することを含む方法。
【0255】
34. 抗TIM-3抗体がコボリマブ、MBG-453、BMS-986258、Sym-023、LY-3321367又はINCAGN-2390である、実施形態32に記載のがんを処置する方法。
【0256】
[実施例]
本発明を以下の実施例によってさらに説明する。実施例は、特定の実施形態を参照することによって本発明を説明するためにのみ提供される。これらの例示は、本発明のある特定の態様を示すものであるが、開示した発明の範囲の限定又は制限を表現するものではない。
【0257】
すべての実施例は、特に詳細に記載されている場合を除き、当業者に周知であり日常的な標準技術を使用して実施した。以下の実施例の日常的な分子生物学技術は、標準的な実験マニュアル、例えばSambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版; Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1989に記載されているように実施することができる。
【0258】
[実施例1]
抗体及び抗体配列の生成
使用した抗体及び参照化合物のタンパク質配列の概要を表1に示す。
【0259】
【表1】
【0260】
9A6マウスIgG1抗体(GM-0509)はGenovac社から入手し、ヒトIgG2又はヒトIgG1にキメラ化した。ヒトIgG1又はヒトIgG2のいずれかのNeo201タンパク質配列の根拠は米国特許出願公開第2013/0189268号であった。TPP-3310 CEACAM6-ヒトIgG2タンパク質配列の根拠はWO 2016/150899 A2であった。すべての抗体は、標準的な一過性トランスフェクション手順を使用してHEK293細胞で発現させ、Protein-A及びサイズ排除クロマトグラフィーによって細胞培養上清から精製した。
【0261】
非グリコシル化バリアント(IgG1aglyco)は、アスパラギン297(番号付与はEu命名法に従う;Edelmanら、Proc Natl Acad Sci USA. 1969年5月; 63(1): 78~85頁;Kabatら、1991、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版 U.S. Department of Health and Human Services、Public Health Service、National Institutes of Health, NIH Publication 第91~3242頁)からアラニンへの変異により産生された。LALA変異はL234A/L235A変異を指し、LALAaglycoはL234A/L235A/N297Aの三重変異である。
【0262】
Fab及びF(ab)2タンパク質は、親IgGをパパイン及びファブリケーター(fabricator)切断によってそれぞれ酵素切断することにより生成された。簡単に説明すると、固定化パパイン(Thermo Fisher Scientific社 No.20341)を製造業者の推奨に従ってFab生成に使用した。切断後、MabSelectSuRe(GE-Healthcare社)及びSuperdex 200 16/60を用いるサイズ排除クロマトグラフィーを使用してFabを精製した。同様に、FabRICATOR(IdeS)(FragITkit Genovis社 No.A2-FR2-1000)をF(ab)2タンパク質の生成に使用した。切断後、Capture Select Fc樹脂(Thermo Scientific社)を使用してFcタンパク質を除去し、Superdex 200 16/60を使用したサイズ排除クロマトグラフィーによりF(ab)2タンパク質をさらに精製した。
【0263】
[実施例2]
副作用として好中球減少症の発症が認められたTPP-3310の臨床研究
抗CEACAM6抗体TPP-3310は、それぞれ2.5、5、10、又は30mg投与された4つの用量コホートの患者からEDTA抗凝固末梢静脈血が処置前及び注入開始後の様々な時点で採取した。インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン10(IL-10)及び腫瘍壊死因子アルファ(TNF-アルファ)の血漿レベルをMesoscale ELISAにより決定した。ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は従来のELISAにより決定した。
【0264】
図1図2及び図3に示すように、一過性の全身性混合炎症(TNF-アルファ、IL-6)/抗炎症(IL-10)反応は、すべての用量コホートにおいて1~2時間後に始まり、24時間後までに消失した。炎症反応は患者間で強いばらつきがみられた。用量依存性は確認されなかった。
【0265】
抗CEACAM6抗体TPP-3310のがん患者への静脈内注入開始後の様々な時点におけるミエロペルオキシダーゼの血漿レベルを図4に示す。
【0266】
低用量のTPP-3310で処置されたがん患者における副作用としての好中球減少症の発生(図5)は驚くべきことであり、予想外であった。
【0267】
図1図2及び図3に示すように、TNF-アルファ、IL-6及びIL-10の初期及び一過性の増加が観察され、炎症事象を示唆している。驚いたことに、好中球からのミエロペルオキシダーゼの放出は、最初の炎症事象の後に少し遅れて観察され得る(図4)。このことから、臨床試験における好中球減少症の所見を説明することが可能な好中球の活性化及び最終的な枯渇に対するTPP-3310の有害な影響を検出するために、(例えば炎症性サイトカインによる)予備刺激が必要であるか否かを精査することが必要であった(図5)。
【0268】
[実施例3]
全血におけるミエロペルオキシダーゼ放出アッセイによる好中球活性化の評価
CEACAM6はヒト好中球に発現していることが公知である。したがって、TPP-3310のヒト末梢全血に対する影響は臨床試験を実施する前にも分析された。これらのアッセイでは、活性化マーカーとして好中球から上清中に放出されるミエロペルオキシダーゼ(MPO)の量が決定される。試験抗体(TPP-3310)をアイソタイプが適合した非結合対照(TPP-1238)と比較した。この臨床試験の前には、これまでのところ様々なドナーにおいて影響は観察されていない。
【0269】
臨床試験における予期せぬ所見(特に好中球減少症及びMPO放出)を再現するため、全血アッセイにおける様々な刺激がin vitroでこれらの副作用を模倣するそれらの能力について試験した。好中球活性化物質fMLP(N-ホルミルメチオニン-ロイシル-フェニルアラニン)を使用した場合、この全血アッセイにおいて抗CEACAM6抗体TPP-3310の有害な活性化の影響を示すことができたので、特に有用であることが証明された。この影響は、こうしなければ、標準的なアッセイ条件下では検出されない。この普通でない影響は再現性が高く、様々な異なる血液ドナーで一貫していた。
【0270】
実験の詳細
抗凝固処理したヒト末梢全血を、事前のfMLP(N-ホルミルメチオニン-ロイシル-フェニルアラニン)処理の有無にかかわらず、数種類の異なる抗CEACAM6抗体フォーマット及び対応するアイソタイプ対照抗体と滴定濃度でインキュベートした。
【0271】
インキュベーション後、上清中に放出されたミエロペルオキシダーゼの量を決定することにより抗体の好中球活性化能力を評価した。
【0272】
簡単に説明すると、全血をマイクロタイタープレートのウェル中で、最適以下の濃度のfMLP(0.01μM;Sigma Aldrich社 #F3506)の存在下又は非存在下で15分間室温にてインキュベートした。この最適以下のfMLP濃度は、好中球によるMPOの測定可能な放出をまだもたらしてはいない。続いて、抗体を滴定濃度で添加した後、37℃で2時間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を遠心分離によってペレット化し、上清を2回目の遠心分離を行うために移した。次いで、上清を分析まで-20℃で保存した。分析は、ミエロペルオキシダーゼヒトインスタントELISAキット(eBiosciences社 #BMS2038INST)を使用して実施した。
【0273】
図6から明白であるように、抗CEACAM6抗体TPP-3310(ヒトIgG2フォーマット)の好中球活性化に対する影響は、標準的なアッセイ条件下(fMLPなし)では全血において検出することはできない。しかし、予備刺激(準活性化fMLP濃度の添加)を使用した場合、有意で用量依存的な好中球活性化が観察され、これは様々なヒトのドナーで再現され得る。したがって、これらのアッセイ条件を使用することにより、臨床研究で予期しなかった所見をin vitroアッセイに持ち込むことができる。
【0274】
これらの実験では対照、すなわち同じ可変配列を有するがヒトIgG1フォーマットに再フォーマットされた抗CECAM6抗体(TPP-5468)を使用した。驚いたことに、この抗CEACAM6ヒトIgG1フォーマットは、fMLPの有無に関係なく、好中球活性化を全くもたらさなかった(図7)。ヒトIgG1抗体はFcγ受容体と補体の結合を介して最も強力にエフェクター機能を媒介することが知られているため、さらに強力な活性化が予想されていたので、これは大きな驚きである。
【0275】
アイソタイプとエピトープの影響をさらに明らかにするため、本発明者らは、類似エピトープ及び異なるエピトープを持つ他の関連性のない抗CEACAM6抗体を試験した。抗CEACAM6抗体9A6(TPP-3470ヒトIgG2)は、TPP-3310と重複するエピトープを認識し、CEACAM6の膜遠位N末端D1ドメインへの結合を競合する(WO 2016/150899 A2を参照されたい)。対照的に、Neo201(TPP-1173ヒトIgG1又はTPP-3688ヒトIgG2)は、CEACAM6のD3ドメイン(Bドメインとしても知られる;WO 2016/150899 A2を参照されたい)上の異なる膜近位エピトープを認識する。
【0276】
図8図9及び図10から明白なように、TPP-3310と非常によく似たエピトープを認識するCEACAM6抗体9A6は、同じ好中球活性化効果を発揮することができた。対照的に、異なるエピトープを認識する抗CEACAM6抗体Neo201は、ヒトIgG1フォーマットでもヒトIgG2フォーマットでも活性化できなかった。
【0277】
これらの結果は、強いエピトープ依存性とアイソタイプ依存性の両方を示唆していた。前述のように、抗CEACAM6 TPP-3310(ヒトIgG2)とそのヒトIgG1対応物(TPP-5468)の効果の違いは予想外であった。したがって、本発明者らはまず、抗体のFc部分が関与しているかどうか、次にFcγ受領体も関与しているかどうかを分析しようと試みた。この目的のため、単量体Fab断片(APP-1574)を、IgG1(APP-6036)又はIgG2(APP-6849)から調製したF(ab)2二量体断片とともに試験した。別の一連の実験では、Fcγ受領体遮断抗体AT10を使用し、TPP-3310による好中球活性化に対するその影響を調べた。
【0278】
図11図12及び図13から明白なように、抗CEACAM6 Fab断片APP-1574も、F(ab)2断片APP-6036又はAPP-6849も、MPO放出を媒介することはできなかった。このことは、MPOの放出、ひいては好中球の活性化におけるヒトIgG2抗体TPP-3310のFc部分の関与を示唆している。
【0279】
次に、抗CEACAM6抗体TPP-3310を添加する前に、抗CD32 F(ab')2抗体AT10(Biozol社から入手)を1.4μM濃度で導入することにより、FcγR遮断(ブロッキング)実験を実施した。ここでも、アイソタイプ適合のF(ab)2断片を対照として用いた。
【0280】
図14及び図15から明白なように、抗CEACAM6抗体TPP-3310によって引き起こされるMPO放出は、CD32遮断抗体によって阻害され得る。このことは、MPO放出効果がFcγRIIの結合に依存していることを示唆している。
【0281】
要約すると、これらのMPO放出実験からは、膜遠位エピトープを認識するヒトIgG2アイソタイプフォーマットの抗CEACAM6抗体(TPP-3310及びTPP-3470)が好中球を活性化することができるが、fMLPで予備刺激したサンプルにおいてのみMPOを放出することができることが証明された。fMLPの予備刺激なしのサンプルは、TPP-3310又はTPP-3470とインキュベートした場合、MPO放出をもたらさなかった。最も注目すべきは、ヒトIgG1の同じ抗体(TPP-5468)が、TPP-3310又はTPP-3470と同じか又は類似のものとしてCEACAM6の膜遠位エピトープを認識しているにもかかわらず、なんの効果も発揮しなかったので、ヒトIgG2フォーマットが厳密に要求されたことである。
【0282】
予備刺激サンプルからのこのMPO放出は、アイソタイプにかかわらずCEACAM6分子のより膜近位エピトープを認識する抗CEACAM6抗体(Neo201 TPP-1173ヒトIgG1、TPP-3688ヒトIgG2)では得られなかった。
【0283】
予備刺激サンプルからのこのMPO放出は、Fab又は(Fab)2のような抗体のFc部分を欠損する抗CEACAM6フォーマット(APP-1574、APP-6036、APP-6849)では得られなかった。さらに、CD32遮断条件下(抗CEACAM6抗体TPP3310を添加する前に遮断抗CD32 F(ab')2抗体AT10を導入することによる)で行ったMPO放出実験では、MPO放出効果がFcγRIIの結合に依存することがさらに証明された。
【0284】
結論として、これらの知見は、全血における好中球の活性化に対して予備刺激、エピトープ、及びアイソタイプの要件が非常に細かく組み合わさって依存していることを示唆している。Fc部分への厳密な依存性、並びにFcγRIIの関与すら、ヒトIgG1がより強力な分子であることをむしろ示唆するため、これは完全に予測不可能であるが、実際には、ヒトIgG1はこのアッセイでは全く不活性である。対照的に、よりサイレントであると考えられるヒトIgG2アイソタイプが実際には好中球活性化効果を発揮することが可能な唯一の分子である。
【0285】
[実施例4]
表面プラズモン共鳴を使用した、様々な操作された抗CEACAM6抗体のヒトFcγ受容体に対する親和性の決定
Fc-Fcγ受容体相互作用の寄与を分析するために、相互作用の親和性(又はそれが存在しないこと)をそれぞれTPP-3310と同じ可変ドメインを有する様々な抗体フォーマットについて決定した。
【0286】
様々に操作された抗CEACAM6抗体の親和性を評価するため、表面プラズモン共鳴(SPR)を使用してヒトFcγ受容体への結合アッセイを行った。
【0287】
結合アッセイは、Biacore T200装置(Cytiva社)において500mMのNaClを補充したアッセイ緩衝液HBS EP+を使用して25℃で実施した。Fcγ受容体は、SシリーズCM5センサーチップ(Cytiva社)に共有結合でアミン結合した抗ペンタhisタグIgG(「His捕捉キット」、注文番号2895056、Cytiva社)を介して捕捉した。アミンカップリングは、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)及びエタノールアミンHCl、pH8.5(「アミンカップリングキット」BR-1000-50、Cytiva社)を使用し、製造業者の指示に従って行った。ヒトFcγ受容体I(R&D Systems社、注文番号1257-FC)、Fcγ受容体IIa(R&D Systems社、注文番号1330-CD/F)、Fcγ受容体IIb/c(R&D Systems社、注文番号1875-CD)、Fcγ受容体IIIa(R&D Systems社、注文番号4325-FC)及びFcγ受容体IIIb(R&D Systems社、注文番号1597-FC)は約30RUまで捕捉された。
【0288】
抗CEACAM6操作抗体を分析対象としてマルチサイクルキネティクスモードで0.04~25μMの濃度系列で使用した。センサー表面は、各分析物注入後にグリシンpH1.5で再生した。得られたセンサーグラムは二重参照され(参照フローセルのシグナルとバッファー注入の減算)、Biacore T200評価ソフトウェアを使用して定常状態の親和性データを導き出すために1:1ラングミュア結合モデルにフィットされた。
【0289】
抗CEACAM6抗体TPP-3310(ヒトIgG2)とヒトIgG1抗体としてのその対応物の比較を表2に示す。予想した通り、ヒトIgG1と様々なFcγRの間の相互作用は、よりサイレントと考えられるアイソタイプIgG2よりもはるかに強い。したがって、実施例3の全血MPO放出アッセイの結果はいっそう不可解である。
【0290】
【表2】
【0291】
たとえヒトIgG1フォーマット、例えばTPP-5468が実施例3で例示されたように全血中の好中球の活性化に関して安全であったとしても、IgG1フォーマットはFcγRとの相互作用が強いためADCC、ADCP、及びCDC活性などの強く望ましくないエフェクターの可能性があるので、治療用抗体における使用は除外される。
【0292】
したがって、FcγR相互作用がなく、それによりエフェクター機能のないIgG1ベースのフォーマットが必要であった。この目的のために、様々なFc操作バリアントである非グリコシル化抗体(TPP-10914)、「LALA」変異を持つ抗体(TPP-19919)、並びにLALAと非グリコシル化変異の組合せを持つ抗体(TPP-21518)を試験した。結果を表3に示す。
【0293】
【表3】
【0294】
驚いたことには、表3から明らかなように、TPP-10914(「aglyco」)及びTPP-19919(「LALA」)は両方とも依然としてFcγ受容体Iへの結合を示し、さらにTPP-19919の場合にはFcγ受容体IIIaへの結合反応も示した。「LALA」と「aglyco N297A」変異の組合せ(TPP-21518)のみが、SPRアッセイにおいてFcγ受容体へのいかなる結合も示さない完全サイレントのアイソタイプをもたらす。
【0295】
[実施例5]
全血におけるミエロペルオキシダーゼ放出アッセイによる好中球活性化の評価
次に、Fc操作したサイレントアイソタイプ抗CEACAM6抗体TPP-21518をMPOアッセイにおいて試験して、この改変されたフォーマットもまた、いずれの望ましくない好中球活性化も示さないことを確認した。実験のセットアップは実施例3と同じであった。
【0296】
図16から推測され得るように、TPP-21518は、fFMLP予備刺激の有無にかかわらず、MPOアッセイにおいて活性化を引き起こすことはできなかった。
【0297】
[実施例6]
様々な抗体バリアントのADCP効力の評価
次に、Fc操作したサイレントアイソタイプ抗CEACAM6抗体TPP-21518をADCPアッセイにおいて試験して、この改変された抗体もまた、いずれの望ましくないADCP活性を示さず、したがって臨床治療において安全に使用されることを確認した。
【0298】
フローサイトメトリーに基づく読み取りが初代マクロファージによるCFSE標識好中球の抗体依存性細胞食作用(ADCP)の追跡に用いられる。好中球は、StemCell EasySep(商標)Human Neutrophil Isolation Kit(#17957)を使用して健康なドナーの採血した新しい全血から単離し、直ちにADCPに使用する。初代マクロファージエフェクター細胞は、健康なドナーの末梢血単核球(PBMC)から生成される。簡単に説明すると、CD14+単球集団をMiltenyi社のPan Monocyte Isolation Kit(#130-096-537)を使用してPBMCから精製し、サイトカインとLPSの特定の組合せを使用して7~9日間培養において分化させ、M1、M2a又はM2cマクロファージを生成させる。
【0299】
実験の前に、好中球を10nMのfMLPで30分間予備処理する。約20,000個のCFSE標識好中球のADCPが、抗CEACAM6抗体の存在下で2時間37℃にてマクロファージ(約80,000個)と約1:4の割合で共培養した場合、達成される。アッセイは、10%の正常ヒト血清の存在下で行われる。ADCPのパーセントは、CFSE陽性生マクロファージ(PI陰性、CD206+、CFSE+)の全生マクロファージ(PI陰性、CD206+)に対するフローサイトメトリーカウントから決定する。
【0300】
図17は、非改変IgG1(TPP-5468)及びIgG2抗CEACAM6(TPP-3310)に対する抗CEACAM6のヒトIgG1-LALAaglycoバージョン(TPP-21518)のサイレント化ADCP活性の代表的データ(無関係の好中球及びマクロファージドナーを使用したN=4実験)である。非結合アイソタイプ対照抗体による食作用の欠如は、抗CEACAM6依存性食作用を示唆する。「私を食べないで(do not eat me)」シグナルを遮断する抗huCD47陽性対照マウス抗体(クローンB6H12)は、マクロファージプレップの食作用活性と好中球の食作用に対する感受性を確認する。
【0301】
[実施例7]
T細胞効力アッセイにおける様々な抗体バリアントの評価
次に、Fc操作したサイレントアイソタイプ抗CEACAM6抗体TPP-21518をT細胞効力アッセイで試験して、この改変フォーマットもまた望ましい薬理学的効果を媒介することがやはり可能であり、したがって臨床治療において使用するのに適していることを確認した。
【0302】
サバイビンペプチド特異的T細胞のIL2分泌に対する抗CEACAM6抗体のin vitro薬理学的効力
腫瘍抗原特異的T細胞は、Brackertzら(Brackertzら、Blood Cancer J. 2011年3月; 1(3):e1)に記載の手順により生成した。簡単に説明すると、サバイビン特異的CD8+ T細胞は、CD8特異的磁気活性化セルソーティングにより末梢単核球から単離した。単離したHLA-A2 CD8+ T細胞を、10gのサバイビンエピトープ(ELTLGEFLKL)を負荷したHLA-A2樹状細胞で刺激した。刺激後、増殖しているT細胞を、HLA-A2/サバイビン多量体(APC標識されたA*02:0 1 39 1 LMLGEFLKL サバイビン96-1 04、Prolmmune Limited社、#F391-4A-E)で染色し、FACSソーティングし、96ウェルプレートで限界希釈によりクローニングした。T細胞クローンの増殖は、Brackertzら、Blood Cancer J. 2011年3月; 1(3):e1に記載されているように、2×106個のT細胞クローン及び5×107個の照射PBMC(30Gy)及び1×107個の照射(100~150Gy)LCLから構成されるフィーダー細胞を、グルタミン(Sigma-Aldrich社)、10%ヒト血清(ヒトAB血清、Valley Biomedical, Inc社、#HP1 022)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Life Technologies社)を含むRPMI-1 640培地40ml中、37℃、5%CO2で培養することにより行った。増殖は50U/mlのIL-2(プロロイキン、Novartis社、#1003780)、2.5ng/mlのIL-1 5(rhlL-1 5-CF R&D #247_IL-025/CF)、及び30ng/mlの抗ヒトCD3抗体(OKT3 eBiosciences社 16-0037-85)の存在下で14日間行った。HCC2935ヒト肺腺癌株は、10%のFCS(FBS Superior、Biochrom社)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI-1640(Sigma-Aldrich社)中、37℃、5%CO2で培養した。
【0303】
in vitroでのCEACAM6の免疫抑制機能に対する抗CEACAM6抗体の調節活性を解析するため、サバイビン-ペプチド特異的CD8+ T細胞クローンをCEACAM6、肺腺癌細胞株HCC2935と共培養した。IFN-ガンマ分泌をT細胞活性の読み取り値として使用した。IFN-ガンマは上清IFN-ガンマELISAで測定した。共培養において、HCC2936腫瘍細胞をPBS-EDTAを使用して5分間非酵素的に剥離し、遠心分離し、洗浄し、カウントした。40,000個のHCC2936標的細胞をIFN-ガンマU-96ウェルELISAプレートに3連で直接播種した。その間に、サバイビン-ペプチド特異的T細胞を収集し、X-Vivo-20で洗浄し、1ウェルあたり80,000個の細胞で播種した。IgG1 LALAaglyco抗CEACAM6抗体は、EC50を算出するために最終濃度0.03~7.5μg/mlでウェルに添加した。腫瘍細胞、抗CEACAM6抗体及びT細胞の共培養物を37℃で24時間インキュベートした。IFN-ガンマ-ELISA(BDヒトIFN-ガンマELISAセット#5551 42)は、製造業者の指示に従って展開した。ELISAプレートの光学濃度は、Tecan Infinite M200プレートリーダーを用いて測定した。HCC2936腫瘍細胞とサバイビン-ペプチド特異的CD8+T細胞を抗CEACAM6抗体の存在下で共培養することによって、アイソタイプが適合した対照抗体で処理したサンプルと比較して、T細胞によるIFN-ガンマ産生が統計学的に有意に増加した。このアッセイにおけるIgG1 LALA aglyco抗CEACAM6抗体TPP-21518のEC50は0.55μg/mlであった。
【0304】
ポリクローナル腫瘍浸潤T細胞のIFNガンマ分泌に対する抗CEACAM6抗体のin vitro薬理効果
膵臓がん腫瘍浸潤リンパ球細胞株(TIL)は、手術から得た腫瘍組織の新鮮な初代培養物から単離した。簡単に説明すると、新鮮な初代組織材料を小片に切断し、2%ヒト血清アルブミン、2.5μg/mlのファンギゾン、20μg/mlのゲンタマイシン、1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むX-Vivo-15培地(Lonza社)の小皿で16000IU/IL-2と0~18日間培養した。その後、上清から細胞を収集し、凍結保存するか、又はそのまま「急速増殖プロトコル」(REP)に使用した。TILを急速増殖させるために、凍結TILを穏やかに解凍し、0.6×106細胞/mlで完全リンパ球培地CLM RPMI-1640(Life Technologies社 #21875034)、10%ヒトAB血清(MILAN Analytica社 #000083)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Life Technologies社 #15140122)、1%ml HEPES(Life Technolgies社 #15630056)、0.01%β-メルカプトエタノール[ストック50mM](Life Technologies社 #31350010))中で6000IU/ml IL-2と1日培養した。TILを収集し、G-REX-100フラスコ(Wilson Wolf社 #80500S)に入れた400mlのREP培地(3000IU/ml IL-2及び30ng/mlのOKT-3抗体(eBioscience社 #16-0037-85)を含む50%CLMと50%AIM-V無血清培地(Gibco #12055091)との混合)中で、3名の異なるドナーからの60Gy照射フィーダーPBMCと1:100の比で増殖させた。細胞は、Jinら、J Immunother. 2012年4月; 35(3):283~92頁に記載のようにして培養し、分割した。14日後に細胞を収集し、アリコートで凍結した。共培養細胞傷害性アッセイの前に、TILの個々のアリコートを穏やかに解凍し、0.6×106細胞/mlで、6000IU/ml IL-2を含むCLMで2日間、及びIL-2を含まないCLMで1日培養した。
【0305】
共培養については、HCC2935腫瘍細胞をPBS-EDTAを使用して5分間非酵素的に5分間剥離し、遠心分離し、洗浄し、カウントした。25,000個のHCC2936標的細胞をU-96ウェルELISAプレートに3連で直接播種した。その間に、TIL細胞を解凍し、X-Vivo-20で洗浄し、1ウェルあたり50,000個の細胞で播種した。IgG1 LALA aglyco抗CEACAM6抗体を腫瘍細胞とT細胞の共培養物に添加した。二重特異性抗体抗CD3x抗EPCAM IgG(0.25ng/ml)(Marmeら、Int J Cancer. 2002年9月10日;101 (2):183~9頁;Salnikovら、J Cell Mol Med. 2009年9月; 13(9B):4023~33頁)を共培養物に添加して、HLA非依存性T細胞媒介性腫瘍細胞死滅を可能にし、またTILによる腫瘍細胞の認識を増加させるために添加した。共培養物を37℃で24時間インキュベートした。IFN-ガンマ-ELISA(BDヒトIFN-ガンマELISAセット#5551 42)は、製造業者の指示に従って展開した。ELISAプレートの光学濃度は、Tecan Infinite M200プレートリーダーを用いて測定した。HCC2936腫瘍細胞とTIL CD8+ T細胞を抗CEACAM6抗体の存在下で共培養することにより、アイソタイプが適合した対照抗体で処理したサンプルと比較して、T細胞によるIFN-ガンマ産生が統計学的に有意に増加した。このアッセイにおけるIgG1 LALAaglyco抗CEACAM6抗体TPP-21518のEC50は0.5μg/mlであった。
【0306】
腫瘍浸潤CD8+ T細胞を使用した腫瘍細胞死滅アッセイに対する抗CEACAM6抗体のin vitro薬理学的効果。
HCC2935腫瘍細胞のT細胞媒介性細胞傷害性を、インピーダンスベースの細胞傷害性アッセイ(xCELLigence)システムで分析した。このシステムでは、細胞傷害性は約100時間(リアルタイム)の長時間にわたり直接的かつ連続的に測定される。付着性腫瘍細胞は、96ウェルEプレート(E-Plate VIEW 96 PET;ACEA Biosciences社 #ID:H000568)の底にある微小電極に付着し、これらの電極の電気インピーダンスを変化させる。これは、無次元の「細胞インデックス」の増加としてモニターされる。腫瘍細胞の接着後(24時間)、抗体及びT細胞をウェルに添加し、T細胞が細胞傷害活性を発揮すると、腫瘍細胞が溶解し、電極から剥離する。この剥離はウェルのインピーダンスを変化させ、「細胞インデックス」をT細胞添加の時点に対して正規化した「細胞インデックス」又は「正規化細胞インデックス」の減少として測定される。T細胞だけでは電極の電気インピーダンスに影響を及ぼさないため、腫瘍細胞の細胞溶解のみが測定される。(Peperら J Immunol Methods. 2014年3月:405: 192~8頁)。
【0307】
膵臓がんの患者由来TIL細胞の細胞溶解活性に対するCEACAM6抗体の効果を試験した。したがって、CEACAM6陽性肺がん細胞株HCC2935の10,000個の細胞を96ウェルプレートに添加し、24時間培養した。次いで、TILを様々な比で、CEACAM6抗体(0.03~7.5μg/ml)及び二重特異性抗体抗CD3x抗EPCAM IgG(0.25ng/ml)(Marmeら、Int J Cancer. 2002年9月10日;101 (2):183~9頁;Salnikovら、J Cell Mol Med. 2009年9月; 13(9B):4023~33頁)の存在下で添加し、HLA非依存性T細胞媒介性腫瘍細胞を死滅させた。抗CEACAM6抗体の存在下で、標的細胞株HCC2935の有意な細胞溶解性死滅が観察された。追加実験では、CEACAM6抗体TPP-21518の効果が用量依存的であることが証明され、100時間の時点で0.43μg/mlのEC50値が決定された。
【0308】
すべての実施例は、特段の詳細に記載されている場合を除き、当業者に周知であり日常的な標準技術を使用して実施された。
【0309】
結果を表4に示す。
【0310】
【表4】
【0311】
要約すると、これらの実験からは、本発明のCEACAM6抗体TPP-21518が免疫抑制性受容体CEACAM6を効果的に遮断し、CEACAM6陽性腫瘍細胞に対するモデルT細胞だけでなく、患者由来の腫瘍浸潤リンパ球の細胞傷害効力も改善する可能性を有することが明らかである。その意味で、TPP-21518はそのヒトIgG2対応物であるTPP-3310と同様の効力を有し、したがって臨床治療における使用に適している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
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【国際調査報告】